日本の安全保障に直結! モンゴルの「デジタル行政」、人口の約6割がすでに使用

ビッグデータやAIといった最先端のデジタル技術を活用して業務プロセスや組織を改革するデジタルトランスフォーメーション(DX)。世界各国の政府が行政サービスにDXを導入していますが、その中でもモンゴルが大きな注目を集めています。中国やロシアという大国に隣接する同国のDXによる経済発展は、日本の安全保障にも直結。モンゴルで何が起きているのでしょうか?

デジタル化に猛進するモンゴルの首都・ウランバートル

 

2020年、モンゴル政府は「デジタル国家」構築のための5年計画を発表。テクノロジーとデータを活用して、公共サービスの合理化やイノベーションの促進などに取り組むことを明らかにしました。個人情報保護、サイバーセキュリティ、電子署名、仮想通貨など、デジタル変革を進めるうえで避けて通れない各種の法的整備が必要ですが、いずれも2020年に承認されており、2022年5月より施行が始まっています。

 

モンゴルというと、広い草原と遊牧民というイメージとは裏腹に、モンゴルの都市部は携帯電話の普及率が100%を超えるほどデジタル化が普及。そんなモンゴルのDXで目玉の一つとなっているのが、「E-Mongolia」と呼ばれる電子サービスです。

 

これは、パスポートや住民票の申請、企業の登録やビジネスライセンスの申請などを全てデジタルで行えるというもの。役所に出向いて並ぶことなく、オンライン上で手続きを完結できるシステムです。2022年3月時点で利用できる公共サービスの数は630。人口約341万人のモンゴルで、利用する登録ユーザーは200万人とおよそ6割近くに達しているとのこと。同国の成人の75%以上が「E-Mongolia」を日常的に使用しているそうです。

 

さらに、このサービスは決済面でも完全デジタル化し、オンライン決済で行えるとのこと。ちょうどコロナ禍での制度スタートであったことも、同サービスの普及を後押しする一因となったのでしょう。

 

モンゴル国立大学とモンゴル国立科学技術大学の調査によると、「E-Mongolia」は少ない人員で多くのサービスを効率的に行えることから、2021年には約570億モンゴル・トゥグルグ(約24.6億円※1)の経費を節約。2022年には、紙代、輸送費、燃料費、人件費の削減で3000万ドル(約44億円※2)の節約が見込まれているそう。削減した経費は余裕資金として、さらなるデジタル技術革新に投資することができます。

※1: 1モンゴル・トゥグルグ=約23円で換算(2022年11月4日現在)

※2: 1ドル=約147.6円で換算(2022年11月4日現在)

 

次世代リーダーのビジョンと日本の位置付け

この「E-Mongolia」をはじめ、モンゴルのDX推進の立役者となっているのが、2022年に設立されたデジタル開発・通信省。その副大臣には、アメリカのTIME誌による「次世代のリーダー」にも選ばれたことのあるBolor-Erdene Battsengel氏が就任しました。同国での最年少閣僚(29歳で入閣)で、しかも女性であることから、大きな注目を集めています。

 

母語(モンゴル語)の他に英語とロシア語を操り、国連や世界銀行にも勤務していたBattsengel氏は、「遊牧民という文化を持つモンゴルでは、遠方に暮らす人々も行政サービスを受けられるようにすることが重要」と話しています。また「E-Mongolia」にはAIを導入し、国民がどのような行政サービスが必要なのかを的確に把握するなどして、さらなるサービスの改善を図っているそう。

 

さらに、同氏はモンゴルを経済とテクノロジーのハブにするというミッションを掲げています。そのためには国全体のDXとともに、ITスタートアップの育成や若い人材の教育が必要。10代の女子学生にSTEM教育プログラムを提供したり、遠隔地や恵まれない家庭の女子学生に3か月間のブートキャンプを開催したり、さまざまなサポートを行っているようです。

 

国際関係の観点から見ると、モンゴルは中露に過度に依存しない、バランスの取れた外交を目指しており、その中で日本は重要な「戦略的パートナー」となっています。モンゴルとの経済協力について外務省の説明を引用しましょう(以下)。

 

モンゴルは、中国とロシアに挟まれ、地政学的に重要な位置を占める。同国の民主主義国家としての成長は、我が国の安全保障及び経済的繁栄と深く関連している北東アジア地域の平和と安定に資する。また、同国は石炭、銅、ウラン、レアメタル、レアアース等の豊富な地下資源に恵まれており、我が国への資源やエネルギーの安定的供給確保の観点からも重要。

出典:外務省「モンゴル 基礎データ」

 

このような理由で、日本はモンゴルをさまざまな分野で協力しています。例えば、JICA(国際協力機構)では、スタートアップを支援するプログラムを実施し、遠隔医療やデジタル教育、中小企業向けのクラウドファンディングプラットフォームの整備などに取り組む起業家をサポート。モンゴル政府は2024年までにDX化の90%を達成する計画ですが、同国の発展は日本にも良い影響を与えるでしょう。

 

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145兆円経済を狙え! ナイジェリアが仮想通貨に特化した「バーチャル経済特区」を設立

アフリカで最大の人口を誇るナイジェリア。同国はデジタル経済への大転換を進めていますが、9月3日(現地時間)、同国の輸出加工区庁(Nigeria Export Processing Zones Authority、略NEPZA)が西アフリカ初の仮想通貨に特化した経済特区「バーチャル・フリー・ゾーン(Virtual Free Zone)」を設立すると発表しました。

デジタル経済大国へまっしぐら?

 

同庁はこの経済特区計画で、大手暗号通貨取引所のバイナンス(Binance)と、テクノロジーを活用した都市革新に取り組むタレント・シティ(Talent City)と提携する予定。これら3者はまだ協議中の模様ですが、この計画によってナイジェリアではどのようなビジネス展開が可能となるのでしょうか?

 

NEPZAでマネージング・ディレクターを務めるアデソジ・アデスグバ(Adesoji Adesugba)氏は、「バーチャル・フリー・ゾーンを生み出すことで、1兆ドル(約145兆円※)近くのお金が動くブロックチェーンやデジタル経済を活用したい」と述べています。また、この計画の枠組みはドバイのバーチャル・フリー・ゾーンと似たものになるそうですが、現時点で詳細は明かされていません。

※1ドル=約144.7円で換算(2022年9月28日現在)

 

アフリカのメディア・Techpoint Africa(TA)によれば、バーチャル・フリー・ゾーンは、関税を撤廃し、製造業や輸出入を促進する自由貿易地域(FTZ)のデジタル版となる可能性があるとのこと。FTZを仮想通貨に適応すれば、メタバースやモバイルアプリ、ウェブサービスなどのデジタル製品を、規制を受けずに取引することができるデジタル経済空間となるかもしれません。

 

しかしその一方、TAは、今回の発表がただの注目集めだった可能性があるとも指摘。TAが調べたところ、バイナンスはドバイと協定を結んでいるものの、これはバーチャル・フリー・ゾーンと関係がなかったそうです。バイナンスとDubai World Trade Centre Authorityの協定の目的は「グローバルな仮想資産の産業ハブを設立する」というもの。同社とナイジェリアの間でも同様の協定が結ばれた可能性は考えられますが……。

 

謎に包まれたナイジェリアのバーチャル・フリー・ゾーン計画。同国は2021年10月にデジタル通貨の「eナイラ」を導入するなど、暗号通貨の普及が急速に進んでいますが、この経済特区は果たして実現するのでしょうか? 今後の展開に期待です。

 

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