間取りは定番でも使いにくい部屋の傾向と、かしこいレイアウト方法をインテリアのプロが実例で解説

一見よさそうと思って借りた部屋でも、いざ引っ越してみると手持ちの家具家電が入らなかったり、生活動線が確保しにくかったり。引っ越し後に困らないためにも、部屋を契約する前にきちんと間取りの確認をしておくことが大切です。

 

インテリアコーディネーターの広島知範さんに実例を挙げながら解説いただきました。「“暮らしにくい間取り”を見抜くコツと解決策」をまとめた前編に続き、この後編では、間取りに問題はなくとも、暮らすうえでよくある部屋の悩みと解決策を教えていただきます。

 

 

意外にあるある?“失敗した間取り”の見分け方と解決策をインテリアのプロが実例で解説

 

1.1人暮らしだけど6畳だと狭い! 広く使うポイントは?

1人暮らしの場合、6畳1Kの部屋を選ぶことは多いと思います。ですが、キッチンスペースが狭かったり、置きたい家具を置くと部屋が狭くなったりするのは1人暮らしでよくある悩みです。

 

→冷蔵庫や洗濯機ラックを活用する

写真中央にある冷蔵庫の上がデッドスペースに。ですが、ラックを使うことで電子レンジや小物を置く場所がつくれました。

 

「1人暮らしの間取りの場合、キッチン周りが狭くて困るケースがとても多いと思います。キッチンは作業スペース件通路になることがよくあるため、棚や作業台などが置けないんですよね。作業スペースを増やすことは難しいですが、収納に関しては、冷蔵庫や洗濯機の上のスペースを使うためにラックを取り付けることで改善します。収納スペースがかなり確保されますよ」

 

→インテリアに合わせた家電を選ぶ

キッチン家電と他の家具の色合いが統一されていることで、部屋に違和感がなくなります。

 

「キッチンがとても狭い場合、冷蔵庫や電子レンジがキッチンに収まらず、やむを得ず玄関近くや部屋に置く場合もあると思います。その際に、マットな質感の家電にしておくと部屋と馴染みやすくなります。反対に光が反射する質感のものだと台所感が出てしまうんですよね。色もブラックやレッドなどおしゃれな色も増えているので、インテリアの1つと考えて家電の色を選んでみるのもおすすめです」

 

→コンパクト&兼用家具で部屋を広く使う

「1人暮らし用のベッドだとシングルサイズが一般的かと思います。ですが、シングルよりも小さいセミシングルというサイズがあるので、なるべく部屋のスペースを確保したい場合はセミシングルを使うのもいいと思います」

 

小柄な方であればセミシングルを検討してみるといいかもしれません。また、ベッドの下に物を入れられる収納ベッドを使うことも部屋を広く使う方法のひとつです。

 

2.趣味の異なる相手と2人暮らし。共有スペースに統一感を出すには?

夫婦やパートナー同士で暮らす2人暮らしをする際、リビングやダイニングなどはインテリアを統一させたいところです。ですが、それぞれ趣味が異なる場合、どうすれば統一感が出せるでしょうか?

 

→“木の色”を揃える

置きたい物が多かったりテイストがバラバラでも、木の色を合わせたり、植物を多めに置くことで統一感が出せます。

 

「テーブルや棚など、木目調の家具を置く際は木の色を揃えておくことで、インテリアの趣味が異なっていてもある程度統一感を出すことができます」

 

→照明や植物を置いてバランスを整える

「照明や植物などを多めに置くことでインテリアのバランスが整えられます。大型の家具がそれぞれの趣味のものになってしまっても、多少のばらつき感をカバーしてくれるのでおすすめです」

 

お互いに寄り添いながらインテリアを決めるのがベストですが、ゆずれない部分が多い場合は木目の色を揃えたり植物を置いたりしてバランスを整えてみましょう。

 

3.3人家族で10畳のリビングダイニング。広く使う工夫は?

小さな子どもがいる3人家族の場合、2LDKなどの間取りが多いと思います。「食事をするスペースもリラックスできるスペースも、子どもが遊ぶスペースも確保したい。だけど10畳程しかない」となると、かなり手狭に感じるはず。共有スペースを広く使うにはどうしたらいいのでしょうか?

 

→ソファーダイニングを使う

ソファーダイニングにすることで、リビングとダイニングを兼用した空間がつくれます。ソファーは硬めの物を選ぶと食事しやすくなります。

 

「ソファーダイニングとは、ダイニングテーブルを置き、イスをソファーにしたものです。食事をするダイニングと、リラックスできるリビングの要素を一緒にしているので、スペースを有効活用できます」

 

テーブルは昇降できるタイプのものであれば、子どもの成長に合わせたサイズにできます。在宅ワークの際にはパソコンを使用する高さに調整することもできるので、とてもフレキシブルに使えるようになります。

 

→隣接する部屋が引き戸の場合、片面の戸は潰して家具を置く

リビングの隣の部屋が引き戸の和室の場合。片側のふすまをソファーに被せていますが、出入りする動線は確保されています。

 

リビングダイニングの隣の部屋が引き戸の場合、引き戸部分には家具を置きにくいですよね。ですが、家具を置くスペースが少ない場合は、思い切って戸を潰すのもひとつだといいます。

 

「引き戸の場合は、人が通る戸の方は開けておき、通らない方は出入りしないと決めて家具を置くとよいでしょう」

 

 

部屋を借りる際に間取り選びに気をつけることは大切。また現在住んでいる部屋なら、家具やインテリアを工夫することでより住みやすい部屋にすることができます。すべてにおいて完璧な部屋を見つけるのは大変ですが、気になるところは工夫をしながら住み心地のいい部屋づくりにチャレンジしていきたいですね。

 

 

Profile

インテリアコーディネーター / 広島知範

札幌で活躍するフリーのインテリアコーディネーター、照明コンサルタント。YouTubeチャンネルでは「快適な住まいづくりをサポートする」をコンセプトに、週2回動画を更新。インテリアのポイントや工夫する方法を、3D画像などを使いながら視覚的に分かりやすく解説している。
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意外にあるある?“失敗した間取り”の見分け方と解決策をインテリアのプロが実例で解説

一見よさそうと思って借りた部屋でも、いざ引っ越してみると手持ちの家具家電が入らなかったり、生活動線が確保しにくかったり。引っ越し後に困らないためにも、部屋を契約する前にきちんと間取りの確認をしておくことが大切です。

この、よくある間取りの意外な落とし穴を、インテリアコーディネーターの広島知範さんに実例を挙げながら解説いただきました。この前編では、間取りを選ぶ時の注意点と、使いやすくする解決方法について紹介します。また、後編では、間取りに問題はなくとも、暮らすうえでよくある部屋の悩みと解決策を教えていただきます。

 

 

間取りは定番でも使いにくい部屋の傾向と、かしこいレイアウト方法をインテリアのプロが実例で解説

実例1.
ダイニングキッチンが通路化…
廊下がなく長細い1LDKの間取り

賃貸マンションにありがちな細長い間取りですが、よく見ると動線の確保が難しい配置になっています。

 

まず1つ目は、廊下が設けられていない長細い1LDKの間取りです。

 

「リビングと洋室の間に小さめのダイニングキッチンが挟まっている間取りです。賃貸マンションによくありがちな間取りだと思います。なぜ生活しにくいかというと、ダイニング部分がほぼ通路になってしまうからです。洋室の扉が部屋の真ん中あたりにあるので、洋室に行くためにはダイニングを横切らなければなりません」(インテリアコーディネーター・広島さん、以下同)

 

上図の場合だと、キッチンの近くに洋室に行くための扉が設けられているため、キッチン近くに作業台やダイニングテーブルを置いてしまうと、通りにくくなってしまいます。

 

【間取り選びの注意点】

「廊下がなくても、通路になる動線が確保されているだけで生活しやすくなります。先ほどの間取り図の例でいうと、洋室の扉が中央ではなく壁側に付いているだけで変わります。玄関とバスルーム周りの位置が逆なら、より動線が確保しやすいですね」

 

【使いやすくする解決方法】

では、間取りを変えずに解決する方法はあるのでしょうか?

 

「大切なのは、家具を動線上に置かないことです。比較的狭いダイニングの場合、ボリュームの少ないダイニングテーブルやイスを選ぶといいと思います。特にイスはコンパクトなものを選ぶだけで変わるはずです。都度イスを引く手間を省くために、回転式のものを選ぶのもいいでしょう」

 

ダイニングスペースが狭い場合、コンパクトなテーブルやイスを使用して、動線を確保するようにしましょう。

 

「テレビボードをスタンドタイプにしたり、プロジェクターに変えたりするなど、省スペースの家具を置くことでも部屋にゆとりが生まれます。ほかにはドレッサーやパソコン用デスクなど、何かと兼用できるダイニングテーブルを選ぶことも、狭いスペースを有効活用する方法の1つです」

 

実例2.
明るい部屋にはデメリットも!
大きな窓が複数ある間取り

「掃き出し窓といって、ベランダへ出入りできるような大きな窓が複数あることで家具を置く場所が少なくなります。なぜなら、本棚や机、ベッドなどの家具は壁がある方が置きやすいからです。窓を潰して家具を置くのは気が引けますので、家具の配置に困ってしまいます」

 

また、気温が高い地域であれば、夏は窓から日差しがたくさん入ってきて部屋に熱がこもります。窓が多い部屋は明るくてポジティブなイメージがありますが、窓が多いことでのデメリットもあるので注意が必要です。

 

【間取り選びの注意点】

「窓が多くても、腰窓であれば問題ありません。腰窓というのは、人の腰くらいの位置から上にある窓のこと。腰窓なら背の低い家具を置くようにすれば窓を潰すこともないので、明るさや風通しのよさを維持できます」

 

【使いやすくする解決方法】

では、掃き出し窓が多い場合の解決方法は?

 

「ベランダに出られない窓をつくることが解決策になります。腰窓の時と同様に背の低い家具を置くことで、出入りはできなくなりますが、採光と風を通すという窓の役割は維持できます」

 

掃き出し窓の前にテレビを置く時の例。完全に窓を防いでいないので、明るさや風通しなど窓の機能は保つことができています。

 

「1人暮らしの部屋で掃き出し窓が1つしかない場合でも、家具を置くスペースが少なければ窓の片側に家具を置いてしまう方法もあります。家具を置いていない側から出入りできるので不便はないはずです。ベランダを使わないのであれば、窓を塞ぐようにして家具を置く方法も。この時も、明かりや風通しを保つために背の低い家具を置くようにしましょう」

 

実例3.
光が部屋全体に届かない!
窓が1つにしかない間取り

洋室の奥(図の下側)は窓になっていますが、それ以外は壁で囲まれた間取りです。

 

3つ目は窓が部屋に1つしかない間取りです。こちらもマンションによくある間取りですが、どのように使いづらいのでしょうか?

 

「長細い間取りの場合、部屋の奥にベランダ付きの大きな窓が付いていることがよくあると思います。その場合、窓側の部屋には光が当たりますが、窓から離れれば離れるほど光が届かなくなります。たいていの場合はリビングに窓があり、その奥にあるダイニングが薄暗くなってしまうことが多いようです」

 

【間取り選びの注意点】

「角部屋が空いていたらベストですよね。角部屋であれば2面に窓が付いていることが多いので、部屋が明るくなるはずです」

 

ただ、部屋を選ぶ際は家賃や立地などほかに重点を置きたい点が多く、角部屋を必須条件にはなかなかできないはず。「角部屋を探すのは難しいですが、次にお伝えする照明を使った解決方法ならどんな部屋でも試せると思います」と広島さん。

 

【使いやすくする解決方法】

「窓からの光が入らない暗い場所に間接照明を置いてみてください。日本では間接照明を置く習慣が少ないのですが、照明の使い方によって明るい空間がつくれます。何個置いても問題ないですし、今はおしゃれな間接照明もたくさんありますよ」

 

間接照明をいくつか置くことで、部屋は明るくなり、見た目もおしゃれに。

 

照明を使い分けた部屋づくりのコツ

ここで、照明コンサルタントでもある広島さんに、明るくおしゃれな部屋づくりのための照明の使い方を教わりました。

 

・1カ所を照らすタイプのライトは複数取り付ける

スポットライトは1カ所に集中して明かりが当たるので、1つだけだと案外暗くなります。改善策として、複数取り付けることで光量が増します。ダイニングテーブルの上に取り付けるペンダントライトも同様で、1つだけよりも複数取り付けることで明るくなります」

 

ペンダントライトを3つ付けることで、大きなダイニングテーブル全体を照らすことができます。

 

広範囲で明るく照らしたい場合は、ボール型のランプのように360度明かりが広がる照明を使うのも手です。「ただし、スポットライトやペンダントライトよりもふんわりと明るくなります。テーブルやデスクなどより光量が必要な場合はペンダントライトなどを複数使う方がいいでしょう」

 

・天井や足元を照らすことで部屋全体が明るくなる

「電球の側面に傘が付いたシェードランプは、シェードの上も下も空いていることで、上下に光が漏れて明るさが増します。また、アッパーライトと呼ばれる上だけを照らす照明は、壁や天井にわざと明かりをぶつけることで光が拡散します。特に白い壁の場合は、光が反射して壁自体が光源のようになり、部屋全体が明るくなるんです」

 

テレビ横にシェードランプ、その左横にボールランプ、右側のソファー横にアッパーライトを設置。夜も明るい雰囲気に。

 

部屋をもっと明るくしたいなら、ぜひ間接照明を使ったインテリアコーディネートにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 

実例4.
意外と多い!
冷蔵庫置き場がない間取り

1ルームの場合、キッチンの近くに冷蔵庫置き場が明確にされていないことも。

 

4つ目はキッチンに冷蔵庫置き場が示されていない間取りです。

 

「冷蔵庫置き場が明確に決められていない場合もレイアウトが難しいですね。間取り図に冷蔵庫置き場が示されてるか、コンセントが上に付いているスペースがある場合はわかりやすいと思います。ですが冷蔵庫置き場が示されておらず、スペースがない場合はどこに置けばいいか困ってしまいます」

 

【間取り選びの注意点】

「冷蔵庫置き場が確保できるかは、内見の際に確認しておきましょう。築年数が古い賃貸の場合だと、キッチンのスペースがある程度確保されている部屋が多いようです。ですが、コンセントがいい位置になくて冷蔵庫を置きにくいこともあるので、あらかじめ冷蔵庫置き場をイメージしておくことが大切ですね」

 

【使いやすくする解決方法】

「冷蔵庫置き場が確保できたとしても、冷蔵庫のドアが右開きか左開きかで使い勝手がかなり変わってきます。キッチンに立った位置から冷蔵庫が開けられないと非常に使いづらいので買い替えをおすすめします。両開きの冷蔵庫であれば問題ないですね」

 

引っ越しを機に冷蔵庫を購入する場合は、冷蔵庫をどこに置くか想定してから選ぶのがベストでしょう。

 

「今は、容量を変えずにサイズがコンパクトになった冷蔵庫も増えていますので、スペースが狭い場合はコンパクトサイズの物を選ぶといいと思います。また、コンロ側に冷蔵庫を置くスペースが設けられていない場合は、コンロの近くよりもシンク側に置く方がいいですね。火を使っている時に冷蔵庫を開けたら髪の毛が燃えてしまった、という事故も防げます」

 

実例5.
収納力の高さが仇に!
クローゼットが大きくて家具が置けない

5つ目は大きなクローゼットがある間取りです。一見収納力があって便利に感じますが、かえってデメリットになることもあるといいます。

 

「幅が大きくて高さも天井近くまであるクローゼットが付いている場合、掃き出し窓と同様に、家具を置くスペースが少なくなるというデメリットが生まれます。収納はたっぷりできたとしても、自分が置きたい家具が置けるかどうかは事前に確認が必要ですね」

 

【間取り選びの注意点】

「クローゼットの前は、ドアの開閉や物の出し入れをするスペースが必要になります。このスペースが、人が通る動線と重なるのであれば問題ありません。動線上には家具を置けませんので、かえってクローゼットがあることでスペースを有効活用することができます。逆に動線にはならない部屋の奥などにクローゼットがある場合は、家具を置くことができずデメリットになってしまいます」

 

右側に大きなクローゼットがありますが、扉の前が動線上になっているのでストレスなく使えます。

 

【使いやすくする解決方法】

「クローゼットの前に物を置かないという方法しかないので、使いやすさの改善は難しいですね。ただし、視覚的にクローゼットの圧迫感を軽減することは可能です。白壁の部屋だとしても、クローゼットの色は濃い目のブラウンになっている、ということも多いと思います。この場合、DIY用のシートをクローゼットに貼り、壁の色と同化させることで、圧迫感は少なくなり、視覚的に広く見えるようになります。クローゼットの圧迫感が気になる方は試してみてください」

 

 

部屋を借りる際に間取り選びに気をつけることは大切。また現在住んでいる部屋なら、家具やインテリアを工夫することでより住みやすい部屋にすることができます。すべてにおいて完璧な部屋を見つけるのは大変ですが、気になるところは工夫をしながら住み心地のいい部屋づくりにチャレンジしていきたいですね。

 

後編では、間取りに問題はなくとも、暮らすうえでよくある部屋の悩みと解決策を教えていただきます。

 

 

Profile


インテリアコーディネーター / 広島知範

札幌で活躍するフリーのインテリアコーディネーター、照明コンサルタント。YouTubeチャンネルでは「快適な住まいづくりをサポートする」をコンセプトに、週2回動画を更新。インテリアのポイントや工夫する方法を、3D画像などを使いながら視覚的に分かりやすく解説している。
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「土間収納」の注意点と効果的な使い方は?一級建築士が間取り図で解説

スーツケースやスポーツ用品、自転車といった大きな物やかさばる物を置ける収納スペースが、家の中にあると便利です。“収納”が充実した物件が増えるなかでも昨今トレンドになっているのが「土間収納」。

 

この土間収納のメリット・デメリットと効果的な使い方、土間収納の思わぬ落とし穴などを、一級建築士のしかまのりこさんに教えていただきました。

 

“土間収納”が人気上昇中!
その理由は?

 

そもそも「土間」とは、外と室内をつなぐ屋内空間のこと。玄関の靴を脱ぐスペースが土間にあたります。昔の日本家屋では土間を広く設け、台所や作業場、農具などの土汚れがつくものの保管場として使われていました。

 

伝統的な日本家屋は、外と地続きになった広い土間に、竈(かまど)などキッチンの機能をもたせていた。

 

「玄関のコンクリートやタイル張りの部分と地続きにつくられた収納スペースを『土間収納』と呼んでいます。玄関に少し大きめの収納をつくる土間収納は、15~20年程前から人気の間取りです。使い方としては、サーフィンボードやゴルフ道具などのスポーツ用品、ベビーカー、高級な競技用の自転車、靴など、室内に持ち込みたくないけれど屋外には置きたくない、よく使うものや大切なものを収納するスペースとして使われています」(一級建築士・しかまのりこさん、以下同)

 

 

近年、土間収納のある家が増えていると聞きますが、その背景には何があるのでしょうか? しかまさんは、いくつかの背景が重なって土間収納の需要が高まったといいます。

 

理由1.共働きの増加

「一番は、共働き世帯の増加です。一昔前であれば、専業主婦が家事の一貫として、平日でも食材や備品の買い出しに行くことができたと思います。ですが、現在は共働きが増えたことで、一週間に必要なものを週末にまとめ買いする家庭が増えています。水やトイレットペーパーなどをしばらく買いに行かなくて済むように多めに買ってストックしておくのです。そのため、ストック分の収納スペースが必要となり、土間収納を活用したいという方が増えました」

 

ストックの収納に関しては、ふるさと納税の利用や、通販サイトでケースごと買うなど、消耗品を多めに購入する機会が増えたことも要因に挙げられるでしょう。

 

理由2.アウトドアやスポーツなど趣味の充実

「近年流行したキャンプなどのアウトドア用品や、スポーツで使う大型の道具を持たれる方が増えたように思います。外の物置だと汚れてしまうので、屋内に置きたいという方が土間収納を利用されていますね。また、防犯意識の向上から、盗難対策のために土間収納に置くという方も増えました。自転車も高級なロードバイクなどの高価なものは、防犯対策のために土間収納を設け、屋内に保管される方が多いですね」

 

理由3.花粉症やウイルスなど健康への配慮

「コートや帽子などを着用したまま部屋のなかに入ることで、花粉やウイルス、黄砂などの有害物質を室内に持ち込んでしまいます。そうした健康被害を懸念して、外で着用したものを土間収納に置いておくという需要が高まりました」

 

理由4.防災意識の向上

「以前であれば、地震が起きたら市役所や区役所に頼ろうという感覚があったかと思います。ですが、昨今さまざまな災害が起こり、個々の防犯意識が高まったことから、自分の身は自分で守るという意識に変化しています。防犯グッズやヘルメット、災害時用の備蓄などを土間収納に置きたいという方が増えていますね」

 

理由5.ゴミの分別

「ゴミの分別についても、最近は厳しくなりましたよね。その分、ゴミの保管も場所を取るようになりました。ゴミはキッチンに置く家庭が多かったと思いますが、最近はウォーターサーバーや調理家電の数も増えたので、ゴミを置くスペースがなくなり、土間収納にゴミを保管される方も。キッチンの臭い対策にもなるので、ゴミ置き場としての利用も需要があります」

 

また、土間収納の面積はここ数年で大きくなったといいます。

 

「土間収納が出てきた当初は、1畳程度のスペースでつくることがほとんどでした。ですが今は、さまざまな物を置く需要の高まりから、広い場合だと3畳ほどスペースを取るケースも見られます」

 

土間収納の代表的な4タイプ

土間収納にもさまざまなタイプがあります。間取りや面積など条件によって異なりますが、大きく4つのタイプに分けられるそう。

 

「まずは一般的な個室タイプの土間収納を2パターン紹介します。広さは2.5畳ほどで、どちらも一軒家の間取りでご説明します」

 

1.ウォークインタイプ

画像提供=COLLINO一級建築士事務所

 

「玄関からのみ出入りできる個室タイプの土間収納です。玄関部分以外はすべて壁になっているので、収納スペースをつくりやすくなります。広めの賃貸マンションだと『シューズインクローゼット』という名前で設けられていることがあります」

 

2.ウォークスルータイプ

画像提供=COLLINO一級建築士事務所

 

「玄関から入り、土間収納を通ってそのまま玄関ホールに抜けられるタイプです。土間収納で靴を脱いでそのまま室内に入ることができます。土間収納に靴棚をつくることで、玄関で靴を脱ぎっぱなしにすることを防げるので、玄関をきれいな状態に保てます。玄関が散らからないので、急な来客時も安心です。ウォークインタイプと比較すると壁が少なくなるので、その分収納量は減ります」

 

ウォークインタイプよりも、ウォークスルータイプの方が玄関と室内の両方から出入りできるため利便性がよく、人気が高いそうです。次に、スペースが0.7畳ほどの狭いタイプも紹介いただきました。こちらは一軒家、マンションいずれでも設置できるタイプです。

 

3.オープンタイプ

画像提供=COLLINO一級建築士事務所

 

「こちらは人が入れないほどの狭さですが、棚を設けてものを収納できるタイプです。扉はつけず、収納がオープンになっています」

 

4.クローゼットタイプ

画像提供=COLLINO一級建築士事務所

 

「収納前面に扉をつけたタイプです。オープンタイプと比べると扉がある分狭く感じると思いますが、収納部分を隠すことができます」

 

最近は靴をたくさん持つ方が増えており、個室タイプほど面積が取れない場合は、オープンタイプやクローゼットタイプをつくられるそうです。

 

土間を設ける際の間取りの実例

タイプがわかったところで、次にどのような間取りで土間収納がつくられるのかをうかがいました。しかまさんが実際に設計された実例を用いて紹介します。

 

・キッチンと接続させる

一軒家での実例。画像提供=COLLINO一級建築士事務所

 

「土間収納からそのままキッチンに行ける間取りです。一昔前ですと、キッチンには『勝手口』という出入口をつける場合が一般的でした。勝手口からゴミ出しができたので、リビングなど室内を通らずにゴミ捨てができたのです。ですが最近は防犯意識の観点から、勝手口をつくらない間取りが増えています。キッチンと土間収納を接続させることで、勝手口をつくらなくても直接玄関に行けますし、キッチンのゴミを土間収納に置いておくこともできるので非常に便利です。また、キッチン用品の収納にも使えます。上記図面の土間収納の場合は2.5畳ほどあり、敷地面積を十分確保する必要はありますが、人気のある間取りです」

 

・階段下と組み合わせる

画像提供=COLLINO一級建築士事務所

 

「玄関に入ってすぐ階段がある場合、階段下のデッドスペースを土間収納にした事例もあります。階段下なので天井は低くなりますが、改めて土間収納のスペースを設けなくていいので、敷地面積が狭い場合はこうした間取りが有効です」

 

・リビングに接続させる

一軒家での実例。画像提供=COLLINO一級建築士事務所

 

こちらも省スペースで土間収納をつくった事例です。

 

「30坪ほどの狭い家の場合、収納をつくる際に行うのが『廊下を減らすこと』です。事例では、玄関ホールや廊下をなくし、玄関から一段上がるとリビング空間につながる間取りにしています。土間部分には断熱材を入れて、土間のコンクリート部分から入ってくる冷気を遮断しました。工夫をすることで敷地面積が狭くても土間収納をつくることができます」

 

ほかにも、仕事や趣味で工房やアトリエ、DIY、ワークスペースなどを設ける場合は、土間収納を隣接させることで汚れを気にせず出入りができるといいます。用途や面積に応じ、その家の最適な土間収納を考えることがポイントです。

 

知っておきたい、
土間収納のデメリットとは?

新築物件として土間収納をつくる際のデメリットを紹介します。まず、土間収納をつくるためにはある程度の面積が必要になってきます。また、建築費が高くなることも抑えておかなくてはなりません。

 

「土間収納分の面積を確保するためにも、敷地面積が限られている場合は、何かを削ってつくらなくてはなりません。その際、最初に削ろうとするのが玄関です。ですが、玄関は家の顔となる部分。玄関の面積を削ることで、貧弱な印象を与えてしまいます」

 

画像提供=COLLINO一級建築士事務所

 

「画像の左側は玄関を1.5畳にし、隣に土間収納をつくる例です。土間収納と玄関の間に扉つきの壁を設けています。図面を見た時にはそこまで狭いと思われない方でも、実際に家ができてきた時に『狭い!』とショックを受けられる方が結構いらっしゃいます。工事段階でやはり必要なかったと、外される方もいるほどです。玄関は面積を削りやすい部分ではありますが、設計者としては、玄関は一番お金をかけてほしい部分だと思っています。家のグレードを落とさないためにも、玄関を削ってまで土間収納をつくる必要があるか、あらかじめ検討しておくことが大切です」

 

玄関を広く取れない場合は、土間収納ではなく戸外に物置を設置するなども併せて検討するといいでしょう。

 

土間収納を選ぶ際に役立つ“+α”

土間収納にあると便利なものも教えていただきました。

 

・換気扇や換気窓を設ける

「家のなかは24時間自動的に空気が流れる設計にすることが、建築基準法で定められています。ですが、玄関や土間収納は“空気の通り道“のなかに含まれてないのです。空気が流れないと、結露やカビが生える原因になりますし、臭いもこもります。そのため、土間収納に換気扇や換気窓を設けることをおすすめしています。換気窓の場合は、防犯の観点から有効開口25cm以内の防犯窓など、人が入れない小さなサイズの窓を設けると、開けっ放しにできるのでよいと思います。窓を設けられない場合は換気扇でもよいです」

 

賃貸で選ぶ場合も、換気ができるかどうかをチェックしてみましょう。

 

・消臭および脱臭効果のある建材を使う

「珪藻土といって、湿度が高いときに湿気を吸収し、乾燥する場合は湿気を吐き出してくれる便利な壁材があるので、つくる際はそうした建材を使うのもよいですね。コストはかかるので安く抑えたい場合は、クロスや壁紙で消臭効果のあるものを貼るのも手です」

 

特に靴をたくさん置く際は臭いが溜まってしまい、消臭剤を置くだけでは効き目がないのだとか。あらかじめ消臭対策や、換気ができるようにしておくことが大切です。

 

・コンセントを設置する

「コンセントが一つあることで、電動自転車の充電や掃除機を使うことができるので便利です。湿気が多くなる時期は除湿器を置くこともできます」

 

・スロップシンクなどの洗い場の設置

 

「土間収納を広く設ける場合、小さな洗い場であるスロップシンクをつけることもあります。深さがあるシンクなのでペットを洗う用途で使えますし、靴や汚れたスポーツ用品も洗うことができます。帰宅時の手洗い場としても使えるのでこちらもあると便利です」

 

・自動照明(人感センサー)の設置

「ウォークインタイプのような土間収納の場合だと、電気の光が漏れてこないため消し忘れに気づかないことがあります。自動でついたり消したりできる人感センサーの照明があることで、電気の消し忘れ防止につながります」

 

土間収納を上手に活用するアイデア

 

土間収納を無駄なく上手に活用するためには、どのような工夫をするといいでしょうか? そのアイデアをいくつか教えていただきました。

 

・収納する物の種類や量を想定してサイズを決める

「土間収納をつくる前の段階で、何を収納するのかあらかじめ決めておいたほうがよいですね。つくったあとで『こんなに収納は必要なかった』とか『これも入れたかったのに入らなかった』とならないように、最初から収納するものを想定して、土間収納のサイズを決めることが大事です」

 

・可動式の棚をつける

「棚を取りつける際は、収納物の変化に合わせて段数や高さを調整できる可動式の棚にするのが便利です。固定棚ですとあとから変更できませんが、可動式であれば同居する家族の増減など、ライフスタイルの変化に応じて変更できるのでおすすめです」

 

・ロールスクリーンやストリングカーテンをつける

「扉をつけない場合は、ロールスクリーンを下げたり、ストリングカーテンを使ったりすることで、土間収納のなかを見せずにおしゃれに演出できます。扉は安くても1枚8~10万円します。費用がかかり、扉の開け閉めの手間がかかるからという理由でつけない方も多いのです。扉の設置を省略する場合、ロールスクリーンなどで間仕切りすることで、扉ほどストレスなく、来客時もなかを見せないようにできますよ。こちらは賃貸物件で扉のない土間収納の場合もおすすめです」

 

 

あると便利な土間収納。ただ、デメリットや注意点もあるので、設ける際は設計士と相談しながらつくりましょう。賃貸物件で探す場合も、換気ができるかどうかや、置きたいものが収納できるかを念頭に置いて検討するのがおすすめ。ぜひ、自分に合った快適な生活ができるよう、土間収納を有効活用してみてください。

 

 

Profile

一級建築士・模様替えアドバイザー / しかまのりこ

COLLINO一級建築士事務所代表。「地球にやさしい 家族にやさしい」をコンセプトに、狭い・片づかない・不快などの住まいの問題を「家具配置・模様替え」によって解決する模様替えのスペシャリスト。現在まで、設計・検査・審査した住戸数は延べ5,000件以上にのぼる。著書に『狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール』(彩図社刊)がある。
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一級建築士が教える部屋を広く見せる家具選びとレイアウト方法………ビフォアアフターで解説する5つのテクニック

新年度を前に、部屋の模様替えや引っ越しを計画している人も多いのでは? 家具は選び方や配置を間違えると、部屋が狭く見えたり圧迫感を感じたりすることもあります。いったい何を根拠に選び、レイアウトするのが正解なのでしょうか? そこで、住まいの悩みとして多い「部屋が狭い」問題を解決するための、家具選びとレイアウトのテクニックを、模様替えのスペシャリストである一級建築士のしかまのりこさんに解説いただきました。

 

基本ルールは「動線」「空間分け」で
「家具が置ける広さ」を見極める

家具のレイアウトで部屋が狭くなってしまう原因は、どんなところにあるのでしょうか?

 

「失敗例の多くは、“部屋のサイズ”と“家具が置ける広さ”をイコールにしてしまうことです。
例えば、リビングダイニングが12畳あるとします。しかし、12畳すべてが“家具のおける広さ”ではありません。“家具が置ける広さ”とは、12畳から、部屋から部屋へ移動するための“動線”を引いた広さのこと。そして、前回の記事『家具レイアウトのルール』でも解説しましたが、その部屋をどういった部屋にしたいかという“部屋の役割”を考えたうえで“空間分け”をすることが大切です。失敗の多くは、そのまま“部屋のサイズ12畳=家具が置ける広さ”として、12畳に合うダイニングテーブルを購入してしまうことにあります。でも、実際に置いてみると、なんだか圧迫感を感じ、使いにくい……と、ストレスを感じてしまうのです。まずは、動線を考えてみましょう」(一級建築士のしかまのりこさん、以下同)

 

部屋を広く、片付けやすく! 家具レイアウトのルールとNGを一級建築士が解説

 

では、「動線」「空間分け」から「家具が置ける広さ」を割り出すための具体的な方法とは?

 

動線を無視したレイアウト

 

動線を考えたレイアウト

 

「上の2枚の画像を比べてみましょう。いずれも同じ間取りの10.7畳のLDKです。LDKなので、10.7畳の中には、リビングとダイニング、キッチンの機能が必要です。
動線を無視したレイアウトでは、キッチンのすぐ横に、ダイニングテーブルを置いていますが、扉から扉へ移動する“動線”の妨げになっています。これでは、生活していて不便さを感じます。実際には移動するための動線が必要なのに、その動線を考慮していません。まずは、動線を考えたレイアウトのように、家具が置けないスペースを確認する必要があります」

 

家具を置ける広さを割り出すためのステップを見てみましょう。

 

家具を置ける広さを割り出すための3ステップ

1.部屋の役割を洗い出す

「10.7畳のLDKを使って、部屋の役割を具体的に考えてみましょう。例えば、この部屋の基本的な役割を『ご飯を作る、食べる、くつろぐ』とします。そこに、『ピアノを弾きたい、勉強をしたい』などの希望をプラスします。まずは部屋でやりたいことを整理するのです」

 

2.動線の確保と空間分け

「次に、主な動線を確保します。主な動線とは、扉から扉、扉から階段など、部屋を移動する際に、必要な道のこと。上記の10.7畳でいうと、扉から扉へ移動する青文字で囲った2.4畳の部分です。動線の妨げになるので、ここに家具は置きません。となると、実際に家具を置けるスペースは、『10.7畳−2.4畳=7.3畳』なのです。
そして次に、部屋を役割ごとに分けます。空間を分けると物の移動が減るので、散らかり防止にもなります。『くつろぐスペース+ピアノスペース=3畳』『キッチンスペース=2.6畳』『食事スペース=2.7畳』としました。ここまで考えただけでも、3畳のスペースには、それほど大きなソファが置けないことに気づくことでしょう。10.7畳にあわせたソファでは、大きすぎるのです」

 

3.動線に合わせて家具を配置する

「部屋の役割のための空間が決まれば、そこに必要な家具のサイズもイメージしやすくなります。次に、部屋の中を移動するための動線を考えながら、家具を選びましょう。ダイニングテーブルからリビングテーブル、テーブルから収納へなどの“部屋の中を移動する”動線です。移動に必要な動線の幅は、最低でも60cm。2人がすれ違うためには、幅100〜120cmは必要です。レストランをイメージしてみてください。ホテルのゆったりしたレストランのような空間と、ぎちぎちにつまった居酒屋のような空間。どちらが、ストレスなく動けそうでしょうか。家の中は、座ってごはんを食べるだけではなく、料理したり洗濯したりトイレに行ったりと、移動が多いものです。居心地の良い動線は、生活するうえで大切な要素です」

 

とはいえ、そもそも部屋が狭すぎて、家具を置いただけで窮屈になってしまうなど、スペースに余裕がない住まいも多くあります。次は、部屋を広く見せるテクニックについて教えていただきました。

 

Before→Afterで一目瞭然!
「部屋を広く見せる」テクニック

部屋を広く見せるうえで、どういったポイントを意識すべきでしょうか?

 

「家具の『色』『高さ・大きさ』『統一感』を意識して選びましょう。そうすることで視覚効果を利用して、スッキリ広い部屋を演出できます。狭く見える部屋を例に、家具選びやレイアウトを変更することで、どのぐらい広く見えるのかをBefore、Afterとともに見てみましょう」

 

1.
【Before】黒やブラウンなどのダーク系の家具で窮屈に見える
【After】ホワイトやベージュなどの膨張色で広くスッキリ

Before

 

After

 

「2つの画像を比べてみましょう。どちらの画像も家具の形とサイズは一緒です。しかし、Beforeでは、黒やブラウンなどダーク系の収縮色を家具に使用しています。収縮色は、空間が引き締まる反面、面積が小さく見えるため、部屋が狭く見えてしまいます。一方のAfter画像では白やベージュなどの明るい膨張色を使っているため、空間が明るく膨らみ、全体の面積が広く見えます。色の視覚効果でこんなにも部屋に違いが出るのです。部屋を広く見せるためには、膨張色を利用することがポイントです」

 

■ まずは、面積の大きなインテリアアイテムから
「面積の大きいアイテムを膨張色にするだけで、グッと部屋が広く感じられます。まずは、カーテンやラグ、テーブルなどから変更するといいでしょう。ソファやテーブルなど、すぐにチェンジできない物は、ソファカバーやテーブルランナーなどの布を掛け、収縮色を使ったインテリアの面積を減らす工夫をしてみるだけでも効果があります」

 

2.
【Before】色も形もバラバラな収納家具でごちゃつく
【After】色、形を統一させてスッキリ見せる

Before

 

After

 

「Beforeは、収納の種類が不揃いなうえにオープン収納のため、収納の中に納められたすべての物が見えてしまっています。たくさんの色が見えていることでごちゃつき、部屋が狭く見える原因に。一方、Afterの収納家具は、形が統一され、かつ扉がついているため、Beforeにくらべ、収納家具のサイズは大きいですが、スッキリとして見えます」

 

■ カラーボックスなどの安価なアイテムに注意!
「カラーボックスなどの安価な収納は、物が入りきらなくなったら“とりあえず買い足す”などと、増ええてしまいがちなアイテムです。徐々に買い足すために縮尺もバラバラになる場合や、中が見えるため雑多感が出てしまうことも。また、奥行きは30cmの物が多いため、すべての物がおさまり切らず、はみ出してしまい、ごちゃつきに拍車をかけます。
収納家具を新調するならば、奥行きが40cmの物がおすすめ。40cmあれば、中を分けるための収納ボックスをたくさん入れることも可能ですし、収納できる物の幅も広いです。“部屋を広くみせる”ためには扉付き収納がマストですが、扉付きには注意が必要です。扉が付いているということは、物を片づけるまでにアクションが一つ増えるということ。“片付けにくさ”につながります。物が多かったり、片付けに不慣れなお子さんが使用したりする場合は、片付けやすさと部屋の広さ、どちらを優先するかを考えてから購入すると良いでしょう」

 

■ おしゃれに見える? 実はむずかしいオープン収納
「収納家具選びで失敗してしまう原因には、おしゃれを優先してしまう、というものもあります。例えば、壁に取り付けるタイプの扉のついていないオープン家具。家具店に行けば、花瓶や洋書、観葉植物などが置いてあり、一見たくさんの物を飾りながらスタイリッシュに収納できるように見えます。しかし、実際私たちがしまいたい多くの物は色で溢れていて、おしゃれな見た目の物ばかりではありません。飾るように収納するテクニックが必要になり、実はハードルが高い収納家具なのです」

 

■ 色についてさらにくわしく!

 

色が多くあると、部屋が狭く見えてしまうことがわかりました。部屋全体をスッキリと広く見せるためには、最低でも5色以内に収めるのがよいと、しかまさんは言います。

 

「5色の中にも配色の方程式があります。まず、壁や床や大きな家具に使う“ベースカラー”を1〜2色、次にカーテンやラグなどの大きい家具に使われる“メインカラー”を1色、絵画やクッションなどに使う“アクセントカラー”を1〜2色で考えましょう。日本の配色では、ベースカラーにホワイトとグレー、メインカラーに木製家具のベージュ、アクセントカラーに好きな色を取り入れる方が多いようです。狭い部屋で広くみせたい場合には、全ての家具を白で統一すると良いでしょう」

 

3.
【Before】テーブルやイスの背もたれが高く圧迫感を感じる
【After】家具の高さは70cmを基準にする

Before

 

After

 

「色の次は、家具の高さに注目しましょう。Beforeのダイニングセットでは、収縮色なうえにテーブルもチェアの背もたれも、高さがあるため圧迫感を感じます。Afterのダイニングセットは、膨張色で低く、ダイニングチェアの背もたれも、テーブルほどの高さです。
多くの家具は、このテーブルの高さを基準にそろえると圧迫感がなく済みます。日本人の身長に合わせたテーブルの一般的な高さは、70cm。この70cmを基準に、プラス10〜15cm以内の高さの家具をそろえるとよいでしょう。ただし、背の高い家具でも、先ほどのキッチンでの収納家具のように壁ぎわに配置するのであれば影響ありません。膨張色の家具を選べば、よりスッキリ見えるでしょう」

 

4.
【Before】中央の大きなソファに圧迫感を感じる
【After】ソファを移動し、“抜け感”のある空間に

Before

 

After

 

「Beforeでは、部屋の丁度真ん中に大きなソファが置いてあります。部屋の真ん中は、視線が集まる場所なので、大きな家具があると視線が遮られ、圧迫感を感じます。Afterでは、ソファを壁ぎわに寄せることで、視線の先が抜け、開放的な空間になっています。大きな家具は壁ぎわに寄せることで、空間の“抜け”を演出し、広さを感じることができます」

 

5.
【Before】狭い空間にたくさんの家具を置く

【After】テーブルとチェアを兼用し、1セットにする

Before

 

After

 

「Beforeでは、約6畳ほどの空間に“くつろぐ”ためのソファとリビングテーブル、“食べる”ための、ダイニングテーブルとチェアがぎゅっと押し込まれています。Afterでは、各テーブルとチェアの機能を兼用し、1セットに減らすことでゆったりとした空間に。そもそも部屋が狭く、多くの家具を置けない場合には、家具を兼用することもおすすめです」

 

■「1台2役の2WAY家具」も、家具を減らす手助けに
「リビングテーブルとダイニングテーブルを兼用する意外にも、省スペースを叶える方法があります。それは、1台2役の2WAY家具を使うことです。例えば、ベットの下に収納が付いている収納付きベッド、引き出し付きのダイニングテーブルなどです。中には、マガジンラック付きのテーブルなんてものもあり、別途マガジンラックを購入する必要もありません。部屋が狭い場合には、家具を兼用したり、2WAY家具を利用したりと、家具を減らすことを考えてみるのも一つの手です」

 

 

家具はインテリアの要。このため、機能性よりも見た目を重視してしまいがちです。しかし、部屋を広く見せるには、おしゃれの前に「何の目的で使い、どのぐらいのスペースに置けるのか?」と、機能とサイズを考えることが重要です。まずは動線を意識しながら、実際に家具が置ける広さを確認してみることからはじめてみましょう。

 

 

Profile

一級建築士・模様替えアドバイザー / しかまのりこ

COLLINO一級建築士事務所代表。「地球にやさしい 家族にやさしい」をコンセプトに、狭い・片づかない・不快などの住まいの問題を「家具配置・模様替え」によって解決する模様替えのスペシャリスト。現在まで、設計・検査・審査した住戸数は延べ5,000件以上にのぼる。著書に『狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール』(彩図社刊)がある。
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クランクイン玄関とは? 一級建築士が解説するメリット・デメリットとクランクインではない間取りでのプライバシー対策

ECサイトでオンラインショッピングすることが当たり前になりました。便利な反面、見知らぬ不特定の人が家を訪れることに、不安を感じることも多いのではないでしょうか。また、近年続発している広域強盗事件では、強盗犯はあらかじめターゲットを決めて犯行に及ぶといい、犯行前のリサーチは、宅配業者などを装って玄関先で行うという話も。

 

防犯意識が高まるなかで、玄関先の訪問者からプライバシーを確保できると、「クランクイン」の間取りに注目が集まっています。そのメリットと意外なデメリット、そしてクランクインのメリットを取り入れた、自宅のプライバシーを守る方法を、一級建築士のしかまのりこさんに教えていただきました。

 

「クランクイン」「クランクイン玄関」とは? 間取りの歴史

クランクとはそもそも、直角に右折と左折が配置され見通しがきかない狭路のことをいいます。では間取りにおける、「クランクイン」「クランクイン玄関」とは?

 

「入ったら正面に壁がある折れ曲がった廊下があり、直接リビングなどのプライベートスペースが見えない間取りを指します。この間取りが採用され始めたのは、ちょうど1980年代のバブル時期と重なります。これまでの住宅の間取りの歴史とともにお話ししましょう」(COLLINO一級建築士事務所 代表・しかまのりこさん、以下同)

↑玄関から直線上にリビングがある間取り。(画像提供=COLLINO一級建築士事務所)

 

↑玄関を入ると正面に壁のあるクランクイン玄関。(画像提供=COLLINO一級建築士事務所)

 

・ダイニングキッチンが生まれた1950年代

「戦後、焼け野原になった日本をとにかく整備しようと、日本住宅公団など国が主体となり住宅を早く普及させるために、広さ35m2(平方メートル)ほどの部屋で構成された団地を作り始めました。戦前の日本の住宅では、朝起きたら布団をたたみ、そこでちゃぶ台を出し、食事をする暮らし方が主流でしたが、新しい住宅を作るにあたって欧米の文化を取り入れられ、寝る部屋と食事をする部屋を分けた、いわゆる『食寝分離』の間取りが採用されるようになりました。これが、『DK(ダイニングキッチン)』の始まりです」

 

・間取りの効率化を重視する1970年代

「住宅をさらに普及させる『量の時代』です。団地よりももう少し広い60m2から70m2くらいの間取りの住宅が出現します。『DK』から『LDK(リビングダイニングキッチン)』へと発展させながら、引き続き限られたスペースに効率よく部屋を配置するかを模索した結果、玄関を入った直線状にリビングを設け、その両脇に個室を配置するプランが主流となりました。当時の3LDKの間取りは今のそれとほぼ変わりはありません。効率重視のレイアウトは現代もなお取り入れられています」

 

・クランクイン玄関の前身が登場。量から質へとシフトする1980年代

「住宅に暮らしの豊かさを求め始めた『質の時代』です。住宅の普及がある程度整い、高度経済成長を経た日本は好景気のバブル時代に入ると、人びとの価値観が量から質へと変換していきました。各ディベロッパー(不動産の開発会社)や不動産会社がさまざまなプランを作り、差別化を図るようになります。この時代は、戸建てのようなゆったりとした贅沢感を演出したい、プライバシーを確保したいとの要望から、クランクイン玄関の前身が生まれ始めました。当初は、『クランクイン』『クランクイン玄関』という言葉はなく、のちにそのように呼ばれるようになりました。住宅の面積も60m2から80m2とゆったりとした広さです」

 

・高級マンションでクラインクイン玄関を採用。邸宅感を演出する1990年代

「面積100m2を超えるタワーマンションが登場します。さらに高級仕様の住宅が求められるようになると、いっそうパブリックスペースとプライベートスペースを分ける間取りが評価されるようになり、ほとんどの高級マンションではクランクイン玄関を採用するようになりました。そして、現在のマンションでは、プラニングの棲み分けがうまくなされているように思います。70m2くらいまでのお部屋であれば玄関からリビングまでが一直線のプラン、80m2以上のお部屋ではクランクイン玄関を配置したプランと、おおまかに二極化しています」

 

【関連記事】部屋を広く、片付けやすく! 家具レイアウトのルールとNGを一級建築士が解説

 

暮らしにゆとりを演出する、クランクイン玄関のメリット

クランクイン玄関にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

 

1.プライバシーを確保できる

「近所の工事の挨拶や新聞の勧誘員、配達業者の来訪など、自宅にはいつどなたが来るかわかりません。そんなときに室内の様子が確認できないクランクイン玄関であれば、むやみに情報を与えることなく対応することができます」

 

2.高級感がある

「玄関を入った正面に壁がくる設計がクランクイン玄関の特徴です。このため、突き当たりのスペースに観葉植物やアート、クリスマスツリーなどの季節の飾りものを配置することによって、空間にゆとりを持たせることができます」

 

3.玄関から間取りが把握できない

「直線上にリビングがある間取りでは、廊下にある扉の数でだいたいの間取りが把握されてしまいます。これによって大まかな家族構成も想定されてしまうことに。玄関からは部屋数がわからない点もメリットです」

 

意外な落とし穴! クランクイン玄関のデメリットと対処法

では、クランクイン玄関にデメリットはあるのでしょうか?

 

「クランクイン玄関ならではのデメリットはあります。とはいえ、すでにクランクイン玄関の間取りにお住まいでも、工夫次第では改善することができます」

 

1.空間効率が悪い

「廊下面積が広くなるクランクイン玄関は、ゆとりのある空間と言える反面、デッドスペースができやすい間取りでもあります。各部屋の面積を広く取りたいか、邸宅感を演出することを重視するか、部屋を決める際には優先順位をつけることが大切です」

 

2.大型家具を搬入できない

「一体で納品されるソファやカウチは約2mを超える大きさの場合、部屋に入らない可能性があります。とくに海外製の家具は海外の広々とした住宅仕様で設計されているものも多く、注意が必要です。海外製のキッチンもシンクとコンロが一体となった台として納品されるので、玄関を通過できない可能性も。家具を購入する場合は、以下の点に注意しましょう」

【対策】
・納品後に組み立てを行えるよう細分化されたものを選ぶ
・搬入するときに必要な有効寸法を必ず確認する

 

3.窓がない場合は暗い、風通しが悪い

「リビングまで直線上につながる廊下の場合、だいたいはリビングに入る手前に扉があり、採光が取れるようにガラスがはめ込まれています。そこからの光によって真っ暗になることはありませんが、クランクイン玄関の場合は光が直線的に入って来ないので、照明をつけない限り、明るさを確保することが難しくなります」

【対策】
・鏡を設置し、照明の明かりを反射させ明るさを確保する
・白やベージュなど明るい色の壁紙や床材を使用する

 

「また同様にリビングから直接、風を通すことができないため、どうしてもニオイがこもりがちです」

【対策】
・消臭効果のある壁用タイルを設置する

 

「消臭効果のある壁紙もありますが、それほど効果が期待できるものではありません。消臭効果がないよりはあったほうがマシ程度に据えておくほうがいいでしょう」

4.掃除しにくい

「折れ曲がった廊下は角になるところが多くなり、掃除機がかけにくいです。先ほどお伝えしたように、風の抜けも少ないためホコリが溜まりやすくなります。コードレススティック掃除機などの小回りのきく掃除機で、こまめに掃除するように意識することが必要です」

 

5.車椅子の移動がしにくい

「車椅子を使う場合は、曲がり角を曲がるときある程度の空間にゆとりが必要となります。クランクイン玄関の場合、車椅子の使用が難しくなります」

 

「このように曲がり角を作ることによって生じるリスクもあります。建物の躯体を動かすことは極めて難しいため、入居前であれば、あらかじめ確認しておくと安心ですね」

 

【関連記事】暗い・寒い・じめじめ…を解決!北向きの部屋が快適になるインテリア術

 

一般的な玄関に “クランクイン玄関の発想” を取り入れる! 誰でもできるプライバシー確保の方法は?

今住んでいる部屋がクランクイン玄関の間取りではない場合、どのようにプライバシーを守れば良いのでしょうか?

 

「クランクイン玄関の大きな利点は『視線を遮れる』ことです。この利点を応用して、私たちが暮らしの中でできることをご紹介します」

 

・のれん・カーテンを廊下につける

「視線を遮るための簡単な方法として、のれんやカーテンがあります。のれんは、突っ張り棒に通して設置するだけですので、もっとも簡単です。訪問者がいないときには開けておきたいのであれば、布の位置を移動できる、突っ張り式のカーテンレールがおすすめです」

↑玄関廊下にのれんを設置したイメージ。(画像提供=COLLINO一級建築士事務所)

 

・ストリングカーテンを廊下につける

「ストリングカーテンとは、規則正しく直線上に並ぶ糸によって構成されたカーテンです。美容室の席と席との間の空間を柔らかく仕切るのに使用されたりします。のれんやカーテンほど視線を遮ることはないまでも、よくよく注視しないと中の様子を確認することができません。ほどよく視線を遮り、開放感も大切にしたい場合には有効です」

↑玄関廊下にストリングカーテンを設置したイメージ。(画像提供=COLLINO一級建築士事務所)

 

・突っ張り収納をつける

「下図のように玄関を入ってすぐにDKにつながる間取りには、突っ張り収納を設置すれば簡単に視線を遮れます。幅の短いものであれば、45cmくらいから展開しています。玄関先に、上着やバックなどちょっとした荷物をかける場所としても活用できます」

↑玄関とDKの間に突っ張り収納を設置するイメージ。(画像提供=COLLINO一級建築士事務所)

 

【関連記事】突っ張り棒で部屋中どこでも「見せる収納」に!「突っ張り棚」の取り入れ方

 

賃貸物件でも、間取りに合わせて視線を遮る工夫をすることによって、プライバシーを守ることができます。来訪者の立場に立ってみて、自分の部屋は玄関に入ったときに、どのようなことを把握されてしまうのか、それを防ぐためにはどうしたら良いのか、一度チェックしてみることをおすすめします。ぜひ、クランクイン玄関の良さを取り入れたレイアウトを考えるきっかけにしてみてください。

 

プロフィール

一級建築士・模様替えアドバイザー / しかまのりこ

COLLINO一級建築士事務所代表。「地球にやさしい 家族にやさしい」をコンセプトに、狭い・片づかない・不快などの住まいの問題を「家具配置・模様替え」によって解決する模様替えのスペシャリスト。近著に『狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール』(彩図社刊)がある。
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