GWのお出かけに!スタイリストが教える!うつわ探しのアイデアと理想の一枚に出会える行きつけショップ

長かった冬を超え春本番。ゴールデンウィークも近づきお出かけしたくなる季節の到来です。この春は、おうち時間をより豊かにするアイテムを探しに出かけるのはいかがでしょうか。 いつもの料理が特別に感じられたり、静かなティータイムが贅沢なものに変わったり、暮らしを豊かに彩るアイテムのひとつが“食器”です。

 

そこで今回は、「うつわ検定」の創設者でもあり、テレビや雑誌の撮影で器などをスタイリングするプロップスタイリストとしても活躍する二本柳志津香(にほんやなぎ・しずか)さんに、食器のトレンドやおすすめのショップなどをうかがいました。プロ直伝の“うつわ選び”のコツをお届けします。

 

今の時代のうつわ選びは“多様性”
お気に入りの作家を“推し活”するトレンドも

↑写真提供:二本柳さん。

 

ファッションや美容と同じように、うつわにもその時々のトレンドがあります。二本柳さんは、今の時代のうつわ選びのトレンドキーワードは「多様性」だと言います。

 

「少し前までは、いわゆる“トレンド”の流行り廃りがありました。たとえば、『ドイツのガラスウェアブランド「Nachtmann」がおしゃれ!』となれば、世代を問わずみんなが『Nachtmann』を買い、1年経って今度は「◎◎◎◎◎◎がいいらしいよ!」となって、みんながそれを買うという時代が続いていました。
大きなジャンルの方向性としては、ヨーロッパのテラコッタブームの影響により、日本でも土物が人気を集めているという印象はあります。しかしそれよりも強く感じるのは、生活環境やライフスタイルが多様化し、それぞれが自分に合うものを選んで楽しむ時代になってきているということです」(プロップスタイリスト・二本柳志津香さん、以下同)

↑写真提供:二本柳さん。

 

右にならえで人気の有名ブランドを買う時代は終わり、自分の目で見て触って、自分だけのお気に入りを探し出す。そんなスタイルが今の時代らしいうつわ選びのようです。

 

「ECショップが豊富な時代ですが、忘れないでいただきたいのは、うつわは実店舗で選ぶのが楽しいアイテムだということ。雑貨店や商業施設の店頭には、その地域の暮らしに合ううつわが提案されているので、ぜひ家の近くのお店に足を運んでみてください。実際に見て触って、テイストや質感、重さなど、『私の家に合うかな?』と考えながら、目利きすることも“うつわ選び”の醍醐味です
また、お店の方とのコミュニケーションを楽しみながら、お買い物をするのもおすすめ。普段の食卓や食器棚の写真を見せながら、『こういう食器を集めています』、『こういう暮らしをしているのですが、我が家に合いそうなものはありますか?』とお話しながら探すのも楽しみ方のひとつです」

↑写真提供:二本柳さん。

 

お気に入りの一枚に出会えると、作家の“推し活”へ発展することもあるのだとか。

 

「うつわ好きの方のなかには、好きな作家の個展へ行くのを楽しみにしている方がたくさんいます。なかでも豆皿を集めるのがちょっとしたブームになっているのを感じますね。大きいお皿だと高価で気軽には買えませんが、豆皿であれば比較的低価格で集めやすい。これが人気の理由かと思います。
お店で出会った一枚から作家を知り好きになったり、Instagramで推しの作家を見つけたり。流行り廃りよりも自分のお気に入りの作家のうつわを集めることが、トレンドのひとつとも言えるでしょう」

 

二本柳さんの元で活動する、うつわライターの粟村千晶さんもInstagramやnoteなどでも推しの作家を紹介しているそうです。

↑粟村千晶さんのInstagram。

 

自分だけのお気に入りに出会う。そんな今の時代に合ったうつわ選びを叶えるヒントとして、二本柳さんにうつわ探しのアイデアと、注目のお店を教えていただいたので、次の章からご紹介していきます。

 

[うつわ探しのアイデア1]
ゴールデンウィークは陶器市へ

「散歩がてらに近所のショップを見て回るほか、時間が許すならば春の陶器市へ訪れてみるのはいかがでしょうか」と二本柳さん。

 

ゴールデンウィークは、多くの窯元や作家が参加する日本の2大陶器市と言われる『有田陶器市』と『益子陶器市』が開かれるタイミング。作家さんと直接お話をしながらうつわ選びができるのも魅力です。もちろんこの2つ以外にも、日本各地で陶器市は開かれています。訪れたいエリアで行われていないか調べて、旅行プランに取り込んでみるのもおすすめです」

 

日本最大級の陶磁器まつり「有田陶器市」

「有田陶器市」は、佐賀県有田町で毎年ゴールデンウィークに開催される日本最大級の陶器市。1905年(明治38年)に、有田焼の販路拡大を目的に始まりました。有田焼は日本最古の磁器として知られ、17世紀初頭に朝鮮半島から渡来した陶工によって生み出されたと言われています。

 

町中が会場となる陶器市。メインとなる有田駅~上有田駅までの道のりは約4km、約400の店舗が軒を連ねます。人気の西 隆行をはじめとする多くの作家が出店し、作家と直接話しながら買い物ができる機会です。デザイナーズコラボのモダンな有田焼・2016/1616アリタポーセリンラボから、老舗の源右衛門窯まで。新旧問わず多くの窯元が出展し、初日から賑わいます。

 

また、朝早く訪れる人のために毎年用意される“朝がゆ”も人気。有田館前の皿山商店会にて朝6時から、毎日限定300杯、1杯600円で提供されます。干支入り碗に入ったおいしい朝がゆをいただいたら、うつわをそのまま持ち帰れるのも魅力。“朝がゆ碗”のみの販売も行われています。

 

町全体が賑わい、地元のグルメや体験イベントも充実。100年以上続く伝統を誇る有田陶器市は、全国から焼き物好きが集まるイベントで、掘り出し物や自分だけの理想のうつわに出会えるはず。

有田陶器市
日付:4月29日(火・祝)〜 5月5日(月・祝)
時間:9:00頃〜17:00頃 ※店舗により異なります
場所:佐賀県有田町
HP

 

手作りの温もり・益子焼が堪能できる「益子陶器市」

栃木県益子町で開催される「益子陶器市」は、毎年春と秋に開催され、今回で111回目を迎えます。町内の約50店舗が参加し、会場には600以上のテントを設置。伝統的な益子焼によるうつわから美術品まで、さまざまな作品を楽しむことができます

 

益子焼には、日常使いしやすいシンプルなデザインが多く、誰でも取り入れやすいのが魅力。各テントでは、新進気鋭の作家や著名なアーティスト、窯元の職人たちと直接会話ができ、陶器市で作品を選ぶ醍醐味を味わえます。会場には、陶芸体験や絵付け体験ができるワークショップも開かれていて、益子焼の魅力を自ら体験することも可能。

 

他にも、地元グルメやクラフト雑貨のマーケット、陶器市の会場各所や店舗で販売される、陶器市の公式オリジナルグッズも人気です。今回は、第111回を記念し、「碗3(ワンワンワン)ボールペン」が発売されます。イラストを手掛けたのは、益子在住の作家・かとうゆみのさん。陶器だけでなく、旅の思い出になるアイテムに出会えるのも魅力です。

 

毎年春と秋を合わせて約60万人が訪れる、地域をあげた一大イベント。参加する作家や窯元の情報を事前にチェックして、お目当てを探しておくのもひとつの楽しみ方。事前の準備をしておけば、より満喫できるでしょう。

益子陶器市
日付:4月29日(火・祝)〜 5月6日(火・祝)
時間:9:00〜17:00(最終日は16:00まで)※各店舗・テントにより異なります
場所:栃木県益子町
HP
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陶器市を120%楽しむための心得3つ

陶器市に行ったことがないという人も多いでしょう。初めて訪れる人に向けて、事前に用意しておきたいものや会場で気をつけたいことなど、陶器市を最後まで楽しむための心得を3つ教えていただきました。

心得1.エコバッグを持参

「購入したうつわを持ち帰るためのエコバッグを持参しましょう。割れやすいものを持ち帰ることになるので、薄めの生地よりもしっかりした生地のバッグがおすすめです。私はいつもエコバッグの底に気泡緩衝材を敷いてからうつわを入れ、割れないようにしています

 

心得2.撮影の際には必ず許可をとる

「写真や動画撮影については、作家によりNGの場合もあるので、撮影前にお店の方に許可をもらうようにしましょう。撮影NGの方の作品を無断で撮っていて注意された、なんていうことがあれば、せっかくの陶器市も楽しさが半減。そうならないためにも、ひと声かけるようにしてくださいね」

 

心得3.体調管理に気をつけ

「会期中はみなさんが予想している以上に混み合っています。とくに子ども連れの方は十分な水分を持参するなど、準備をして行くと安全に楽しめるでしょう。ご紹介した有田や益子の陶器市のように、町全体が会場となる陶器市の場合、想定以上に歩き回ることになるので、スニーカーなどの歩きやすい靴で行くと安心です」

 

[うつわ探しのアイデア2]
ふるさと納税の返礼品で探す

ふるさと納税というと、お米やご当地グルメのイメージが普及していますが、実は、各地の窯元や作家のうつわも返礼品として登場しています。

 

「有田や益子はもちろん、日本各地のうつわが返礼品として取り扱われています。作家もののうつわの場合、まとまった数を取り扱っているお店は少ないのですが、ふるさと納税は自治体の活動ということもあり在庫の数も潤沢。「ふるさとチョイス」や「さとふる」でも特集ページがあるので、ぜひのぞいてみてください。よく見る有名なうつわも多数登場していますよ」

 

うつわのプロもお気に入り!
理想の一皿に出会える注目ショップ3選

最後に、二本柳さんが実際に利用している、お気に入りのショップを3つ教えていただきました。

1.エディターならではのセレクションと発信力が光る!「IEGNIM」

編集プロダクションが運営しているお店。編集者ならではの取材⼒を活かし、全国の窯元へ直接出向き取材を重ね、現代のライフスタイルに合うものをセレクトしているそう。別注のオリジナルアイテムを含め、マグカップや植⽊鉢、カレーに使いやすい深⽫など、今の暮らしに馴染みやすいものが豊富に揃います。

 

古伊万⾥⾵の絵やポップな⾊遣いが⼈気の陶芸ユニット「studio wani」や、九州を代表する⼩代焼の窯元・ふもと窯の若手・井上亮我、1688年の開窯以来続く窯元「⿓⾨司焼企業組合」など、全国から厳選されたうつわが並び、ストーリーを感じ取ることもできます。

↑左列が「studio wani」、中央の列が井上亮我、右列が「龍門司焼企業組合」の作品。

 

⻑い年⽉を重ね、多くの⽅に愛されている⺠藝品の魅⼒を発信するプロジェクトとしてスタートしたIEGNIM。名前の由来は、⺠藝のアルファベット“MINGEI”を逆から読んだもの。これまでの⺠藝の歴史をリスペクトしながらも、新しい価値観やスタイルを現代の⽣活様式に合わせて提案していきたいという想いが込められています。

 

ウェブサイトで配信される職⼈たちの世界観やストーリーを描いた記事も、編集プロダクションならでは。オンラインショップもあるので、遠方の人も買い物を楽しめます。不定期で開催される個展やイベントも人気です。

IEGNIM
住所:東京都渋谷区西原3-11-5 1F
営業:12:30〜18:00
休日:月・火
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【現在開催中の個展】
「Bloomtone」
Bloomtone ーAYAMI YAMANOBE EXHIBITIONー
日付:4月19日(土)〜 4月27日(日)
作家:山野邉彩美
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2.店主がフランスをめぐり見つけたアンティークが揃う「BROCANTE」

店名のBROCANTEは、フランス語で“美しいガラクタ”や“愛すべき想いの詰まった古道具”を意味する言葉。店主がフランス全土を巡り心に響いたアンティークを、有名無名問わず紹介しています。

 

​家具をはじめ、ヴィンテージの食器やオリジナルのリネン小物、ファブリックなど、生活に彩りを添える雑貨が豊富で、うつわとのコーディネートも楽しめます。長年大切に扱われてきたことがわかるシャビーな風合いと素敵な佇まいのアイテムに出会えるはず。

BROCANTE
住所:東京都目黒区自由が丘3-7-7
営業:13:00〜18:00
休日:火・水・木
TEL:03-3725-5584
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オンラインショップ

3.“つくる、たべる、もてなす”を特別に。和洋のうつわが揃う「TODAY’S SPECIAL」

東京都内と京都、神戸に8店舗を展開する「TODAY‘S SPECIAL」。今日が特別になるような発見ができる、食と暮らしのお店です。マーケットのようなにぎやかな店内には、生活道具や食材、植物や本、衣類などが並び、テーブルを飾る食器は和洋さまざまなものが揃っています。

 

日本各地の窯元で作られるTODAY‘S SPECIALのうつわは、土や釉薬、カタチ、技法など、細部まで相談を重ねて作られているそう。和洋各種のうつわのほか、調理道具や調味料など、世界中から集めた“つくる、たべる、もてなす”ことにまつわる商品が並びます。季節や旬を感じられる、フェアやワークショップなども行われているので、お近くのお店をチェックしてみてはいかがでしょうか。

TODAY’S SPECIAL
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お気に入りのうつわがあれば、食卓が華やかになり食事の時間もより豊かに。うららかな春の日差しが心地よい日は、理想のうつわ探しに出かけてみませんか。

 

Profile

プロップスタイリスト・うつわ検定創設者 / 二本柳志津香

広告・CMをはじめ、ホテルや商業施設、展示会等のプロップ、テーブルスタイリスト。代表を務める空間スタイリング社では、フードからフラワーまでさまざまな空間スタイリストが在籍。日本で最初にできた食器のスタイリング資格を取り扱う、一般社団法人テーブルウェアスタイリスト連合会(TWSA)の代表理事も務める。著書『スタイリストが実践! 好きなものと上手につき合うインテリア』(主婦と生活社)、『うつわ検定公式テキスト 今の時代のうつわ選び』(主婦と生活社)がある。
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漁港に放置されたガラス製“浮玉”を100%再利用した酒器が見た目もストーリーもエモい

北洋硝子が作り上げる青森県伝統工芸品「津軽びいどろ」から、不要になった漁業用のガラス製浮玉を回収しアップサイクルしたグラスウェアシリー「DOUBLE F -UKIDAMA EDITION-」の第二弾となる酒器アイテム4種が、8月2日から発売。

 

「DOUBLE F -UKIDAMA EDITION-」シリーズ開発のキッカケは、地元青森の漁業協同組合漁師が高齢化や後継者問題に伴う廃業、廃棄が困難である理由で放置された浮玉について同社に相談したことが始まりだそうです。かつて浮玉製造を担ってきたガラス工場として「今ある資源を無駄にしたくない」「青森の美しい景色を守りたい」との思いから、ガラス製の浮玉を回収し第一弾となる「DOUBLE F -UKIDAMA EDITION-」の製品化が実現。

↑漁港に積み上げられた浮玉

 

その第二弾となる本商品は、薄づくりに仕上げた口当たりの良いロックグラスや、伝統工芸士が仕上げる“宙吹き”製法の台付きグラスなど、暮らしの中で日々使える酒器。浮玉を100%再利用した深みのある青緑色、曲線的でありながらシンプルな形状、そして海を想起させる波模様が特徴です。

津軽びいどろ
DOUBLE F -UKIDAMA EDITION-
8800円〜2万2000円

UKIDAMA ロックグラス(8800円)
UKIDAMA 台付きグラス(1万9800円)
UKIDAMA ロックグラスペア(1万7600円)
UKIDAMA 酒器セット(2万2000円)
いずれも税込

 

毎週5分で完売する「陶器の街のクッキー」が地域課題解決の理想形であるワケ

わずか1日足らずで100個を完売した、ふるさと納税の返礼品があります。それは、長崎県のほぼ中央に位置する波佐見町の「HASAMI TOBAKO COOKIE」。波佐見産の米粉が原料のクッキーを、名産品である波佐見焼の陶器箱に入れた商品で、実は、波佐見焼の廃石膏型を再利用した地域内循環モデルとしても注目されています。

 

年間約700tもの廃石膏型の処分が町の課題に

有田焼で有名な佐賀県有田町と隣接する長崎県波佐見町は、江戸時代から陶磁器の生産地として知られ、現在も日用食器の生産が非常に盛ん。全国シェア約17%ともいわれ、陶磁器の醤油差しや、「セーフティわん」に代表される強化陶磁器が一世を風靡しました。そんな陶磁器の町で以前から問題になっているのが、波佐見焼を作る際に使用される石膏型の処分です。

↑「くわらんか碗」として江戸時代に普及し、現在も日用陶器として知られる波佐見焼。デザイン性にも優れ、「G型しょうゆ」はグッドデザイン賞を受賞した

 

「日用陶磁器の生産が多い波佐見焼は、大量生産する関係もあり、石膏型が多く使われます。石膏型は100回ぐらい使うと劣化し、廃棄されるのですが、年間推定約700tもの廃石膏型が排出されてきました。これまでは町が設置した産業廃棄物処理施設内の専用廃棄場に埋めていたものの、1999年に廃棄場が満杯に。新たな処理場を作るか、中間処理してリサイクルするか検討され、多額の費用が必要なことと、環境に対する時代背景などもあり、リサイクルを選択しました。ところが、リサイクルを始めて半年後、埋め立てを専門とする業者が進出してきたことでリサイクルの機運はいったんしぼんでしまったのです。しばらくは業者による処理が行われましたが、5~6年前、県内の埋め立て処理場から波佐見の石膏の受け取りが拒否されて利用できなくなり、廃石膏型の処理問題が再浮上。専門家を招き、本格的にリサイクルに取り組むことになったのです」と語るのは波佐見町役場の澤田健一さん。

↑波佐見町役場 商工振興課  課長 澤田健一さん

 

「まずコンプライアンスについて話し合いを行い、その後どういう形でリサイクルするのが賢明か専門家を交えて議論しました。他県ではコンクリートの材料に使われているケースもあり、土木や建築資材への活用も検討しましたが、調査研究を経て、波佐見町は県内有数の米の産地であること、農地活用が全国各地で実証されていて有効性が確認できたこと、そして廃石膏型を砕くだけなので生産コストも抑えられるという理由から、田畑への土壌改良剤としての再利用が決定しました」

 

地域内循環モデルを確立しコラボ商品を開発

しかし、土壌改良剤への再利用だけでは終わらなかったのが波佐見町。

 

「波佐見町は農業もかなり盛んで、半農半陶の町とも言われています。観光イベントの時も、農業と陶器を併せた企画を行うほどで、この2つの結びつきが重要だという強い想いが町にはありました。そこで、廃石膏型から作られた土壌改良剤を使用し、米粉専用米のミズホチカラという品種を生産。その米粉を材料とした食品と波佐見焼とのコラボ商品を開発すれば、“波佐見の食の地域内循環モデル”ができるのではないかと考えたのです」

↑波佐見町の食の地域内循環のモデル。地域の中で資源を循環させることで新たな特産品が生まれた

 

2019年から30アールの田んぼを使って実証実験を開始。専門家による長年にわたる石膏型の再利用研究から、石膏に含まれる硫酸カリウムに、根の張りをよくしたり、初期生育をサポートする効果があることがわかっていました。こうして育った米を米粉にして、町内にある鬼木加工センターで、地元のお母さんたちの手によるクッキーを製作。波佐見焼の陶箱に入れて「HASAMI TOBAKO COOKIE」として販売しました。

↑「HASAMI TOBAKO COOKIE」。クッキーを食べた後、容器は食器やアクセサリー入れとして使用可能

 

「観光協会のオンラインサイト『STORES』で毎週土曜日に48個限定で販売しました。すると今年度はじめには、開始5分で完売するほどの大人気商品に。その後、ふるさと納税の返礼品にしたところ、こちらも100個が1日で完売。すぐに完売するので生産量を増やしたかったのですが、陶器の生産が追いつかず……。結婚式の引き出物に使いたいと依頼があっても、残念ながら対応できませんでした。そこで、生産力がある窯元とタイアップしてクッキーの新シリーズを追加。来年度のふるさと納税分も含め、少しずつ販売数を増やしていく予定です」

 

環境への意識や作る責任を根付かせる

かくして、波佐見町のチャレンジは、予想以上の好結果となりましたが、当初は、廃石膏型の排出元である窯元は「面倒くさい」と非協力的。農家からも「焼き物のゴミを田んぼにまくなんてどういうつもりだ」と反発も多かったそうです。

 

「今でこそ廃石膏型や商品として売れないB級品、陶器の欠片などの廃棄処分を問題視し、個人でリサイクル活動をする方もいますが、当時は窯元や農家の方たちの理解を得られず、2~3歩進んでも5歩後退するような感じでした。でも地道に環境に対する意識やコンプライアンス、そして作る責任について説き、納得していただいたのです。最も強く反発していた農家の方も、実証実験に協力的となり、今では多くの田んぼを使わせていただいています。その方の分も含め、2022年は、ミズホチカラの栽培に1ヘクタール、食用米用に1ヘクタールと、合計2ヘクタールの田んぼで実証実験を行っています。

↑米粉に加工するのに適したミズホチカラ

 

↑廃石膏型から作った土壌改良剤

 

↑土壌改良剤の散布風景

 

実は石膏型に含まれる硫酸カルシウムは、稲よりもジャガイモの育成に効果的だそうで、2021年から、長崎県の農業技術開発センターとジャガイモでの実証実験もスタートするなど、いろいろな可能性を探っているところです」

 

地域内循環モデルの第2弾も登場

土壌改良剤を使った実証実験は順調で、陶箱入りクッキーの生産体制も整ってきた今、次のステップをどう考えているのでしょうか。

 

「現在、肥料登録の申請を行っています。2021年12月に肥料取締法が改正され、産業廃棄物をベースとした肥料を登録できるようになりました。農作物の生産者は、育成の段階で、使用した肥料を細かく記録しなければなりません。販売ルートの確保という課題はありますが、波佐見町の土壌改良剤が正式に登録されれば、肥料として全国に販売できます。価格についても、元々、お金を払って廃棄していたものですので、安価で提供できるのではないかと思います。また併行して、建築素材への再利用も進めています。こちらはJIS規格が取れるように準備をしている段階です」

 

さらに町では、クッキーに続く地域内循環モデル第2弾の販売を11月から開始。土壌改良剤でオリジナルブランド米『八三三(はさみ)米』を育て収穫した米と、波佐見焼のご飯茶碗をセットにした『八三三米くらわんかセット』です。茶碗は、プロジェクトに賛同した14の窯元がデザイン。“どろんこ”“内外十草”“波佐見ドット”など、個性溢れるデザインになっていると言います。

↑14の窯元が賛同。八三三米2合、ご飯茶碗、箸置き、波佐見町の郷土料理のレシピがセットになっている

 

「今でこそSDGsという言葉をよく耳にしますが、これまで町の人たちに“廃石膏型”“SDGs”と言っても、あまりピンときていませんでした。しかし今回、窯元や農家、そして町を挙げて取り組んだことで、多くの人たちに “作る責任をしっかり果たすクリーンな産地”という意識づけができたと実感しています。以前から、波佐見町には“もったいない”という精神が根付いていました。これはSDGsに通じる部分が多々あります。これからも、そうした意識を持って取り組みたいと思います」

 

課題解決に地元の特性を活かし、地域内循環を成功させた波佐見町のモデルケースは、多くの自治体にとっても参考になるのではないでしょうか。