「魔女術はペイガニズム、アニミズムの世界です。自然崇拝であり、多神教の世界観。自然に対する敬意、そしてその自然の力と一体となるための儀式でもあります。
サーウィンは伝統的には火の祭りであり、先祖を祈り、豊穣を祈ります。今回は著名な魔女たちが行っていた魔術の基本に沿いながら、私が実践してきた上で、とてもパワフルだと感じた呪文や祈りの歌を儀式に取り入れています。
ウィッチクラフトや魔術というものは、伝統を重んじながらも自分自身に問いかけることがとても大切なのです」
祭壇に並べられた術具。
儀式の前に魔女から、「サークル」の開き方と閉じ方、呼び出した精霊や霊とアクセスするやり方などを説明された。
自分の中に湧き上がる感情・感覚に耳を澄ませることも重要らしい。
魔女に促され、宴の始めに各々が選んだカードの封印を解いた。
中には“Thank you for coming today.”と更に”ナンバー”の記されたカードが……。
他の参加者のカードには、“Thank you for coming. Your special.”や“merry meet marry part merry meet again.”などとも書かれていた。
同じ数字でペアになる。
それから、自分と同数のナンバーを持つ参加者とペアになり、「0」「1」「2」「3」…「99」「00」と、魔女が指定する数字の順にひとつの列を作っていく。参加者の作った列は、やがて円、サークルとなった。
カードは参加者自身が無作為に選んだものであったが、不思議なことに、サークルの1組目の0番の方は、この魔女のハロウィン会への参加表明がもっとも早い方で、最後に参加を表明し、会場入りがもっとも遅くなった方がサークルの最後に配されていた。
さらに、サークルにおいて火のエレメントを意味する場所にキャンドルアーティストの方が並ぶなど、それぞれがいるべき位置へと誘われたようでもあった。これは、偶然なのだろうか……。
チリンッチリンッ。
魔女の鈴の音が響き渡り、風の精霊を呼びだす呪文を唱えた。
続いて蝋燭に火を灯し、火の精霊を。
ひとりひとりに聖水をふりかけ、水の精霊を。
大きなラピスラズリを持って、大地の精霊を。
東南西北の四方に対応する精霊が招かれた。
精霊を召喚する魔女。
魔女の唄が聴こえる。
すると、ひとり、またひとり。
自重に耐えられないように、うずくまり、または気絶するように倒れ込む参加者が現れはじめた。
「みなさん、自分自身のご先祖様を、今の自分の骨や血を創ってくださっているご先祖様を、ご自分の後ろに連なる、たくさんの祖先の姿を思い描いてください」
魔女の唄で会場中が包まれて行く。
しばらくすると、火のエネルギーを感じるときが訪れた(私もそう感じたのだが、このタイミングで体が熱く感じた人も多いそうだ)。
「今宵、この場に集ったみなさんに。供物に。総てに感謝をしましょう」
火への祈り、
豊穣への祈り、
祖先への祈り。
一通りの祈りを終え、呼びだした四つの精霊に感謝と別れを告げると、魔女はサークルを解いた。
この場で何が起きたのか、何が現れたのか。現象面で伝えることは難しい。
ただ、今回、ハロウィンの歴史、文化や習慣に触れ、心を同じくした方々とともにそれを感じ、深めていく交流の場は、稀有であった。
帰り道、時空を超え、帰ってきたという気持ちが不思議と湧いてきた。
やはりわれわれは、サーウィンの時期、見えざる世界に足を踏み込んでいたのかもしれない。
文=松本祐介
写真=住谷勇幸
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