世界で最も影響力のあるデザイナーが語る「仕事の流儀」

フェラーリ、マクラーレン、マセラティ、BMWなど、さまざまな高級自動車メーカーでデザイナーとして活躍してきたフランク・ステファンソン氏。現在、世界で最も影響力のあるデザイナーと言われる同氏は、自動車業界やデザイン業界でレジェンド的存在ですが、30年以上にわたるキャリアのなかで、テクノロジーの進化は彼自身の仕事にもさまざまな影響を及ぼしてきたそうです。そんななかでステファンソン氏は何を大切にしてきたのか? ダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE WORLD 2021」で行った講演から3つのポイントを取り上げます。

↑テクノロジーでデザインの可能性はもっと広がる

 

1: 製造期間の短縮化の加速

ステファンソン氏は「デザインやエンジニアにおける、現在のそして今後の製造期間を短縮するニーズが高まっている」と述べます。デザイン業界では3Dのデザインにシフトし、特にここ数十年の変化はめざましいと言います。「完全にマニュアル作業だった時代は、ハンドスケッチでデザインするところから始まり、エンジニアとプロトタイプの制作を何度も重ね、最終的に商品販売に至るまで4~5年かかっていました。それが現在では半分の期間になっている」(ステファンソン氏)

 

製造にかかる時間が短くなると、質が落ちてしまうのではないかと思いがちですが、不利とも思える条件を逆手に取って「奇抜なアイデアが本当に実現できるかどうか」を早い段階で余計なコストをかけずに見極めることができます。「期間が短縮するほど、我々のデザインの可能性を広げることになる」と、ステファンソン氏は語っています。

 

2: 新しいツールの活用

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、私たちの働き方が変化していますが、ステファンソン氏も例外ではありません。例えば「世界一安全なチャイルドシート」のうたい文句で2020年に発表されたBabyArkのチャイルドシートを、ステファンソン氏がデザインしました。この仕事で、彼は「3Dソフトウェアのソリッドワークスを使い、エンジニアと一度も対面することなく、自宅のスタジオからすべての仕事を行った」と言います。完全にデジタル化されたプロセスで製品を世に出したということは驚くべきことでしょう。

 

また2021年10月には、スペースXが月面でのカーレースを計画しており、その2台のクルマのデザインをステファンソン氏が担当しています。実際に月でテスト走行を行うことはできませんから、このデザインでもデジタル上でのシミュレーションが大切。「起こり得る極限のコンディションを想定し、それにあわせてデザインを行っている」とのことです。このように、制作プロセスをサポートするツールは重要な役割を果たしているわけですね。

 

3: デザイナー・クライアント・製品の温かいつながり

「テクノロジーの発達とともに懸念されるのは、人間的な温かみが失われやすいということ」と、ステファンソン氏は語っています。これまでは人と人とのやりとりのなかで生まれていた様々な製品が、デジタル化の波にのまれることで人間性を欠いたものになっていくことが危惧されます。

 

人と人とが対面で議論を重ねアイデアを出していたプロセスが、今日ではデジタル上のやりとりだけで簡潔するようになってきました。「私たちが考える温かみの定義も変わり、よりパーソナライズされたものになっていくでしょう。そしてデザイナー・エンジニア・製品の間でいかに人間らしさを盛り込むか、デジタル上で製品にいかに愛・感情・情熱を注ぐかが重要になっていきます」とステファンソン氏。温かみのある製品には、デジタルにはない人間の五感が大切になってくると言います。

↑人間性を重要性を説くステファンソン氏(出典:ダッソー・システムズ)

 

ステファンソン氏のモットーは「if everything seems to be under control, you’re not going fast enough(万事が順調に見えるようでは、まだまだ遅い)」。現状に満足せず、自分をより高めたいのなら、ブレーキから足を離し、アクセルを踏み込んで、新しいことに挑戦すべきである。安定ばかりを求めていては時代に置いてかれるだけだ——。

 

時代に順応しながら冒険を止めないステファンソン氏のそんな姿勢は、これからも私たちに多くの刺激をもたらしてくれそうです。

イケアの「組立説明書」に隠された3つの知恵

スウェーデンの家具メーカーIKEA(イケア)の商品組立説明書を初めて見た人は、「えっ?」と驚くかもしれません。従来の説明書のような文章による説明はほとんどなく、シンプルなイラストだけで構成されているからです。これは説明書を数十ヵ国語分作らなければならないイケアだからこそ、編み出された手法と言えるかもしれません。その秘密は何なのか? イケアの社員がダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE WORLD 2021」で明かしてくれました。

 

年間3500の取説を38か国語で

↑言葉は(ほとんど)いらない

 

世界50か国以上で展開するイケア。ベッドやダイニングテーブルなどの家具は組み立てや自宅までの配送に時間とお金がかかりますが、イケアはそのプロセスをすべて省略。代わりにお客さんが自分で自宅まで持ち帰り、自分で組み立てるというスタイルを導入し、「おしゃれな家具が低価格で購入できる」ということで世界的に人気を博しました。

 

しかし、いくら店頭に素敵な商品が飾ってあっても、自宅に持ち帰って実際に顧客自身が組み立てることができなければ意味がありません。そこでポイントとなるのが組立説明書。「イケアでは年間3500の新しい組立説明書を38か国語分作ります」と、パッケージ&ストア コミュニケーションマネージャーのAnne Mansfeldt氏は言います。

 

それだけ膨大な説明書を用意するためには、文章による説明を極力省き、言語や文化が違っても理解できる普遍的なイラストが重要な役割を担います。だからイケアの組立説明書には文章がほとんどなく、組み立てのプロセスがシンプルなイラストで示されているのです。

↑プレゼンしたイケアのコミュニケーションのエキスパートたち(出典:ダッソー・システムズ)

 

グラフィックコミュニケーターとして組立説明書チームに12年間所属しているDavid Andersson氏によると、組立説明書を作る際のポイントとして、イケアでは次のようことを心掛けているそうです。

 

1: 最初の工程は簡単にして、自信を持たせる

家具の組み立てに慣れている人ならいいのですが、イケアで扱うような大型家具を初めて組み立てる場合は「本当に自分でできるかな?」と不安がよぎるもの。なので「最初は簡単な工程にして、顧客に自信を持たせて、組み立てを続けるように励ましています」とAndersson氏は言います。説明書の通りに工程を進められると、「大丈夫、作れそうだ!」という気持ちが生まれるため、これでをやる気にさせるようです。

 

2: 大きなパーツを最初に組み立て、完成品をイメージさせる

小さなパーツを組み立てていても、それが完成品のどの部分に使われるかイメージしにくいもの。でも「初期段階に大きなパーツを組み立てれば、でき上がりがわかりやすくなる」とAndersson氏は言います。完成したときのイメージがわかれば、途中で気持ちが萎えることも少なくなりますよね。

 

3: 1つの工程に1つの作業だけ

文章で説明しない分だけ、1つの工程には1つの作業しか記載しません。人間が物理的にできる作業だけを表示しているそうです。

 

組立説明書を作成するチームでは、実際のサンプルを組み立ててみて、上記のようなポイントに注意しながら、3DのCADソフトウェア「SOLIDWORKS(ソリッドワークス)」を使って組立説明書を作っているとのこと。組立説明書のほかにも、顧客とのコミュニケーションツールとして、ウェブサイトやアプリ、パンフレットなどがあります。これらのツールのために、「年間3万点の商品画像と、70本以上の動画が作られている」と開発およびIT運用マネージャーのTaco Van der Maden氏は言います。

 

今後はオンラインショッピングがますます盛んになり、イケアのコミュニケーションツールもさらに進化していくことが求められるでしょう。しかし、もしイケアが文字中心の取説を作っていたら、同社は現在ほどグローバルに成功していなかったかもしれませんね。

AIは地球外でもコスパよし!? 「宇宙開発」はロボットに任せてしまえ

月や火星で大量のロボットが自律的に活動してインフラを構築する。そんなSF映画のようなビジョンを実際に実現させようとしているスタートアップ企業があります。それがアメリカのOffWorld(オフワールド)。同社の共同創業者でCEOを勤めるJim Keravala氏が、ダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE WORLD 2021」に登壇し、未来の宇宙開発の形について話しました。ワイルドなビジョンの裏には一体どんな考えがあるのでしょうか?

↑宇宙開発もロボットにはもってこい?(出典: オフワールド公式サイト)

 

OffWorldが描く未来の野望は、月や火星などの惑星にAIを搭載したロボットを何百台も大量に送り込み、人間の監視下のもとで採掘などの作業を行い、そこにインフラを構築すること。これによって地球以外の惑星まで文明を拡張し、地球の生態系のバランスをとることにも役立つと考えているのです。

 

ロボットは元来、危険な場所での作業や人間が近づけない場所での作業を行うために開発された一面があります。それと同じように、同社では「人間がまだ訪れたことのない未知の場所にロボットを送り、そこで何百万台ものロボットのプラットフォームを構築し、採掘・飲み水の生成、電気エネルギーの生産などを行うことをビジョンとしている」とKeravala氏は語り、その舞台となるのが月や火星などの惑星なのです。

 

これまでにも月や火星の調査にはロボットが活用されていますが、OffWorldが目指すロボット編隊によるインフラ構築がなぜ必要なのか? 同社ウェブサイトにはその理由が3つ挙げられています。

 

1つ目は人類が拠点とする地球を守るため。昨今、注目が高まっている地球環境問題をはじめ、宇宙で発生し得るさまざまなリスクなど、地球での暮らしが絶対的に安全と言えるわけではありません。なので、地球外でも私たちを守るための準備をする必要があると同社は考えています。

 

2つ目は地球上の環境負荷を軽減すること(同社はこれをサステナブルな発展と言っています)。宇宙でエネルギーインフラを構築できれば、そのエネルギー源を地球に届けることが可能になるかもしれません。そして3つ目は探求心。かつて人類は、山を超え、海を超え、知られざる地を開拓してきました。そして次なる未知の場所(ニューフロンティア)が宇宙になるのです。人類が宇宙に惹かれるのは「未知なる場所や物事を知りたい」という私たちの知的好奇心が背中を押しているからでしょう。

 

同社が開発を進めているロボットは、大きさは30×60×20cmで、重さは53㎏の小型サイズ。地球上はもちろん、月や火星などで自律式で活動できるよう設計され、ソーラーシステムを標準装備し活動します。そんなロボットを活用する最大のメリットは「宇宙に行くことのコストを下げられることだ」とKeravala氏は言います。「ロボットによって、従来なら人を介して行っていた組み立てなどの複雑な作業を宇宙で行えるようになり、インフラ構築に必要な生産コストを大幅に下げることができる」

↑オフワールドのJim Keravala氏(出典:ダッソー・システムズ)

 

そしてAIが搭載されており、ロボット同士の共同作業や現在開発中のマシンインテリジェンスによって、「将来的には人間がほとんど介入しなくてもロボット自身が学習して、次にどんな作業をすべきか判断し活動できるようになる」とKeravala氏は述べています。

 

世界の人口問題の究極の解決策?

映画のワンシーンのようで突飛に思えるKeravala氏の構想は、10代のときに読んだトーマス・ロバート・マルサス著の人口論がきっかけなんだとか。この本は、過剰人口によって食糧不足は避けられなくなり、その結果、飢饉や貧困などが起き、人口の増加は道徳的な観点から抑制すべきであると論じていますが、Keravala氏はそれを自分なりに解釈し、人類を地球外に連れていけば、この問題は解決できるのではないかと考えたのかもしれません。

 

そんなKeravala氏は、あるインタビューによると、近い将来の目標として2024年のNASAのアルテミス計画への参画に期待を寄せているそう。壮大かつ明確なビジョンを持つOffWorldが、どこまで計画を実現できるのか注目です。

ディズニー流「Think Different」が教える創造力のヒント。型破りな発想のために脳の87%を解放せよ!

まるで物語の世界に迷い込んだように、予想もしないような体験や感動があるディズニーランド。1955年に米カリフォルニア州で最初のディズニーランドが開園したことをきっかけに、ディズニーはそれまでのホスピタリティの常識を覆し、新しいホスピタリティの概念を生み出したと言われています。

↑パパ、遊び心が足りてないんじゃない?

 

そんなディズニーで大切にされているのが、「Think Different(ほかと違う考えを持つこと)」。決まりきった枠組みに固執せず、クリエイティブな考えを生み出すことには、どんな意味や可能性があるのでしょうか? ダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE WORLD 2021」に登壇した、ディズニーのイノベーションとクリエイティビティの元責任者Duncan Wardle氏の言葉から、その重要性を探ってみましょう。

 

「Think Different」ができると、どんなメリットが生まれるのでしょうか? その一例として、Wardle氏は自身のウェブサイトでデジタルカメラを取り上げています。アメリカを拠点とする写真用品の大手コダックが、1975年にデジタルカメラの開発に挑み、試作機を制作しました。しかし同社は当時主流だったフィルムカメラ市場に競合する懸念から、これを市場に出すことはしませんでした。

 

数十年後にはカメラの世界がフィルムからデジタルに移行するなど、この時点で予測できた人はほとんどいなかったかもしれません。「でも写真を簡単に共有する目的を明確にして、それに何よりも重点を置いていたとしたら……」と、Wardle氏は疑問を投げかけます。もしそうしていたら、コダックは現在のデジタルカメラ市場で優位にシェアを伸ばし、2012年の倒産さえ免れたかもしれません。

 

ディズニー流「Think Different 」の方法

ほかとは違う考えを持つためには、どうしたらいいのでしょうか? Wardle氏が提案する1つ目の方法は、多様性を大切にすること。Wardle氏が香港のディズニーランドに作る商業スペースについて検討していたとき、50歳以上の白人男性ばかりが集まって議論しているなか、Wardle氏はあえて、若い中国人女性シェフをそこに呼んだそう。

 

その理由は「彼女は、その場にいる人と正反対の人物で、違う考えをもたらすだろうと思ったから」とWardle氏は言います。私たちは無意識のうちに、自分たちの経験や知識に基づいて、物事を判断したり想像したりしがちですが、違う考えを持つ人がいれば、その人が予想もしない考えをもたらすかもしれないわけです。

 

また、課題についてシンプルに見つめ直すことも必要で、これはディズニーの創業者であるウォルト・ディズニーが大切にしていたことと通じるとWardle氏は言います。「1955年に最初のディズニーランドがオープンしたとき、ウォルト・ディズニーは『園内にいるのはお客様とキャストだけで、従業員はいない』とキャストに伝え、我々の仕事について改めて考え、ホスピタリティ業について深く見つめ直すよう諭しました」(Wardle氏)。こうして、それまでにはなかったホスピタリティの考えを構築していき、それによってディズニーが唯一無二の存在となり、世界中の人々を魅了していったのです。

 

さらに、Wardle氏は遊び心を持つことも大切だと語ります。偉人や凡人に関係なく、人間は入浴中やウォーキング中、通勤途中、寝る直前などに閃くことがよくあり、職場で最高のアイデアを思いつくことは、あまり多くないかもしれません。

 

一説によると、その理由は私たちが仕事をしているとき、脳は忙しく仕事をこなす「ビジーベータ(Busy Beta)」の状態にあるから。「私たちは脳全体のわずか13%しか使っていません。残りの87%は無意識下の脳で、ストレスを感じたり多忙だったりするとその脳は閉ざされてしまうのです。この閉ざされた脳を開かなければ、素晴らしいアイデアでは生まれません」とWardle氏は述べます。

↑遊び心の大切さを説くWardle氏(出典:ダッソー・システムズ)

 

無意識下の脳を解放した状態は「アメージングアルファ(Amazing Alpha)」と呼ばれています。遊び心は閉ざされた脳をオープンにするときに重要な役割を果たすのですが、遊び心は誰もが産まれたときから持ち合わせているものだとWardle氏は言います。私たちは幼いときには周囲のあらゆることに「なぜ」と疑問を持ちましたよね? そんな既成概念や経験則に捉われることのない素朴な心がクリエイティブな思考につながるのです。会社や業界、社会のルールが思考の邪魔をしていたら、「ルールを無視できたら何が可能になるか?」と考えてみましょう。

 

確かにクリエイティブな思考は考える時間がないとなかなかできませんが、時間を言い訳にしてはいけません。時間がないとき、Wardle氏は子どものように笑う時間を作っているそうです。心から笑えるということは、日々のストレスを忘れ、心身がリラックスしているということ。そうすることで閉ざされていた脳が開放され、クリエイティブな思考になっていくようです。

 

議論の余地はありますが、一般的に日本人は集団主義的であり、周囲の人と同調する傾向があると言われています。しかも性格は真面目。それ自体には良い面も悪い面もありますが、Think Differentは日本人のそのような弱点を補うのに役立つかもしれません。