もう外国語の勉強はいらない!? LINEのNAVERが「リアルタイム翻訳機能」を備えたAIイヤホンを発表

米国・ラスベガスでは現地時間1月8日から、毎年開催される大規模なエレクトロニクスショー「CES」が開幕されています。CESには全世界からあらゆるエレクトロニクスが集結し、今後のトレンドとなる技術や製品にいち早く触れることができます。今回は、開催前日の7日に行われたプレイベントで、注目のAIアシスタントを搭載した面白い完全ワイヤレスイヤホンの新製品を見つけたので、早速レポートしたいと思います。

 

複数のAIアシスタントに対応したマルチAIイヤホン

CES Unveiledと呼ばれるプレイベントに出展したJabraは、日本国内でも発売されている完全ワイヤレスイヤホン「Jabra Elite Sport」に続くラインナップを広げてきました。今度の新しいモデル「Jabra Elite 65t」はアマゾンのAlexa、グーグルのGoogleアシスタント、そしてアップルのSiriにマルチ対応した“AIイヤホン”です。本体に4つの高精度マイクを内蔵して、音声による操作でAmazon Music Unlimitedの音楽ストリーミングを再生したり、天気やWeb情報の検索ができるようになるそうです。

↑Jabraが発売するAlexa/Googleアシスタント/Siriに対応する完全ワイヤレスイヤホン「Jabra Elite 65t」↑Jabraが発売するAlexa/Googleアシスタント/Siriに対応する完全ワイヤレスイヤホン「Jabra Elite 65t」

 

↑3つのAIアシスタントに対応するとパッケージにも魅力をうたっている↑4つのAIアシスタントに対応するとパッケージでもうたっている

 

心拍センサーを省略したことで、価格がよりリーズナブルになっています。防水性能を高めた「Jabra Elite 65t Active」が189ドル、通常版の65tが169ドル。本体単体で5時間の連続音楽再生を楽しむことができて、充電器兼用のケースを合わせて使えば最長15時間も連続して音楽リスニングを楽しむことができます。左右イヤホンの間は安定した接続性能を実現するNFMIをJabra Elite Sportと同様に採用しました。

↑IP65相当の防滴・防塵性能を実現した「Jabra Elite 65t Active」↑IP65相当の防滴・防塵性能を実現した「Jabra Elite 65t Active」

 

↑左右の本体に合わせて4基のマイクを乗せて音声コマンドを正確に認識する↑左右の本体に合わせて4基のマイクを乗せて音声コマンドを正確に認識する

 

アメリカでの発売時期は1月。日本でも3月の導入を予定しているそうなので期待したいですね。

 

LINEのNAVERからは翻訳機能を搭載したAIイヤホンが登場

もうひとつのAIイヤホンは、韓国のNAVERが出展した「MARS」。こちらは日本でも発売されているスマートスピーカー「WAVE」「Clova Friends」が採用するAIアシスタント「Clova」の搭載を予定しています。

↑NAVERが完全ワイヤレスイヤホン「MARS」を発表↑NAVERが完全ワイヤレスイヤホン「MARS」を発表

 

20180109-i01 (6)↑丸みのあるデザイン

 

イヤホンとして音楽を聴くことは勿論できるのですが、本機がウリに掲げているのは「リアルタイム外国語翻訳」の機能です。左のイヤホンでユーザーの声をピックアップして、右のイヤホンを会話の相手に着けてもらうと指定した言語に素速く翻訳された音声が伝わるという夢のような機能を実装する予定です。ノズルにマイクユニットを乗せて、ユーザーが話した声を正確にピックアップする「InnerMicテクノロジー」を搭載しています。

↑見た目には普通の完全ワイヤレスイヤホンだが、リアルタイム処理ができる外国語翻訳機能を搭載した。アプリには翻訳の履歴が表示される↑見た目には普通の完全ワイヤレスイヤホンだが、リアルタイム処理ができる外国語翻訳機能を搭載した。アプリには翻訳の履歴が表示される

 

デモンストレーションでは英語から日本語へのリアルタイム翻訳も披露していました。「Hello>こんにちは」程度の短い単語によるデモだったので、長文はできるようになるのでしょうか? とスタッフに訊ねたところ、発売時には問題なくできるようになりますという力強い答えが返ってきました。

 

発売時期は今のところ今年の第三四半期(=秋以降)が見込まれているそうです。Clovaに対応するということは韓国だけでなく、日本も発売地域に含まれていることを示唆しているのでしょう。正式発表に期待です。NAVERのスタッフはアメリカやヨーロッパなど、LINEやClovaがメジャーでない地域にはAlexaやGoogleアシスタントで同様のことを実現できるAIイヤホンを発売したいとコメントしていました。

 

12月には日本でもボーズがGoogleアシスタントを内蔵する「QuietComfort 35 II」を発売し、ドイツのヒアラブル製品のスタートアップであるBragiが商品化したAlexa搭載の完全ワイヤレスイヤホン「The Dash Pro」も上陸しました。AIアシスタントを搭載するエレクトロニクス機器といえばいまのところスマートスピーカーが真っ先に思い浮かびますが、本来カレンダーの予定を確かめたり、自分だけが好きなアーティストの曲などプライベートな情報は他人に知られることなく扱いたいものです。音が外に漏れないイヤホンとAIアシスタントの相性は本来スピーカーよりも良さそうにも思います。今年は色んな家電機器が「AI対応」を競い合うようになるのか楽しみです。

 

【西田宗千佳連載】同じEPGから「操作ログ」で差別化を図る家電メーカー

「週刊GetNavi」Vol.60-3

↑シャープ「AQUOS LC-55US5」 ↑シャープ「AQUOS LC-55US5」

 

テレビの番組情報を見るものとして、我々はまず「電子番組表(EPG)」を使っている。テレビの情報化とデジタル化は、まずEPGからスタートしたといっていい。このEPG、特に日本の場合、ほとんど1社から提供されていることはご存知だろうか。現在使われているEPGは、ほとんどが「Gガイド」である。これはアメリカのTiVo(昨年、合併により「Rovi」から社名を変更。そのさらに前は「マクロビジョン」といった)が提供しているもので、EPGに関する特許を同社が多数保持していることなどから参入障壁があった。そのうえ、同社がEPGに関する技術を積極的に開発し、各社が利用しやすい環境を整えていったこともあり、結局同社がデファクトスタンダードになったという経緯がある。

 

そしてTiVoは、EPGを使った高度なレコメンデーションに力を入れている企業でもある。テレビ局から提供される番組情報に加え、出演者や製作者の情報を加味し、シンプルな番組情報だけでは不足している「レコメンドに必要な属性」を追加するといった、レコメンドに必要なサービスを提供するソリューションビジネスも展開している。各社のテレビのなかにも、TiVoから提供を受けた情報を使ったものが少なくない。

 

一方で、TiVoからの情報だけでは差別化ができないのも事実。そこで、各社が情報の扱い方や見せ方、切り口を変えることで、独自の持ち味や機能を実現している。

 

例えば東芝のREGZAに搭載されている全録機能である「タイムシフトマシン」は、EPGとしてはシンプルな情報を使っているが、ジャンル情報の使い方を工夫したり、機器の操作の履歴を記録した「操作ログ」を生かしたりすることで、「人気のある番組」や「利用者が見たいであろう番組」を発見しやすくしている。

 

シャープも、昔からTiVoのEPGを使っており、今回、4Kテレビを刷新する際にも、やはりTiVoをパートナーに選んでいる。ただし、レコメンデーションには、TiVoのソリューションをそのまま使うのではなく、自社でUIや機能を変えて独自色を強めている。そこでは、やはり「ユーザーがどのようにテレビを視聴しているか」を示す操作ログを重視している。テレビが毎日使われていくなかで蓄積される、「何時にテレビをつけたか」「どのチャンネルを多く見ているか」といった視聴習慣の情報を生かすことで、番組情報以外の「情報量」を増やしていき、レコメンデーションの精度をあげようというアプローチをとっているのが同社の特徴だ。

 

家電メーカーは、機器の中で得られる情報を最大限に使う。だが、その情報はプライバシーや利用許諾の問題もあり、外の企業には簡単には渡せない。だからこそ、自社内で「製品の差別化」に使おうとしているのだ。

 

では特にシャープは、どのような観点で操作ログを使おうとしているのだろうか? それはなにも、テレビ番組のレコメンデーションだけで終わるものではない。その構想については、次回のVol.60-4で解説したい。

【西田宗千佳連載】シャープは「AIレコメンド」を軸にテレビを変える

「週刊GetNavi」Vol.60-1

20171030-i02↑シャープ「AQUOS LC-55US5」

 

「選ぶ」ことの負担を軽減するためのレコメンド

シャープは11月11日より発売する「AQUOS 4K」シリーズにて、ネット連携を拡充する。その中核が、「COCORO VISION」という機能だ。「COCORO VISION」は、簡単にいえばテレビ番組の「レコメンド」機能。家族が見たテレビ番組、録画したテレビ番組、視聴したネット動画などを学習し、視聴時間帯などに応じて、好みの番組を教えてくれるものだ。シャープは2018年度までに、同社製4Kテレビの8割に「COCORO VISION」を搭載するとしている。

 

テレビにおいて「レコメンド」は大きなテーマである。なぜなら、この10年でテレビの見方は大きく変わっており、そこに対応するため、新しいテクノロジーが必要とされているからだ。

 

40年前、地上波(しかもアナログ)しかなかった頃は、番組の選択肢もそんなになかった。各家庭では必ず新聞をとっており、ラジオ・テレビ欄(ラテ欄)を見れば、その日に見たい番組がわかった。だが、ビデオデッキが登場して「録画」するようになってから、人々は今日より先の番組表を必要とし始めた。これに合わせて需要が伸びたのが「テレビ情報誌」だ。その後、多チャンネル化とレコーダーのデジタル化に伴い、電子番組表(EPG)が登場し、録画はさらに容易になった。新聞をとる人も減り、テレビの視聴行動はラテ欄からは産まれなくなっている。

 

一方で、人々が見る映像の出口は増え続けている。放送は健在で、もっとも大きなソースであることに変わりはないが、ネット配信やYouTubeもある。ゲームや音楽まで含めることもできる。テレビは「放送だけを見るもの」ではなく、様々な映像の出口となっている。

 

だが、自分が意思をもって「見たいもの」を選び続けるのは難しい。「選ぶ」という行為はそれなりに気を使うもので、リラックスしてテレビを見る、という行為には合わない部分もある。

 

そこで出てくるのが「レコメンド」。レコメンドによって「これからあなたが見たいであろうもの」を、多数の選択肢から示すことで、「選ぶ」という行為の負荷を軽減することが目的だ。

 

ただし問題は、「機械からの指示が適切とは限らない」ことである。過去のレコメンド機能に完璧なものはなかったし、「COCORO VISION」のものも、まだ完璧ではない。とはいえ、これからのテレビにレコメンドが必要であることは疑いがなく、いかに使いやすいレコメンド機能を搭載するか、その改善を進めやすい仕組みを導入するかが、テレビの開発において大きな価値になっていく。シャープは、レコメンドの精度を上げるため、動画配信やゲーム配信なども自社で「COCOROブランド」のサービスとして用意し、連携させていく戦略だ。

 

シャープは、自社家電で使うネットサービスを「COCORO+」ブランドに統一し、利用者の嗜好や行動を集約。同社の家電を持つ人がより高い価値を得られるようにしていく。現状はまだ価値が見えづらいが、より「人間くさい」「親しみを持てる」AIを作り、それを差別化要因にしたい、と考えているわけだ。

 

では、シャープ以外のメーカーは「テレビとレコメンド」の関係をどう考えているのか? そのあたりは次回のVol.60-2以降で解説する。

 

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サムスンの新AIアシスタント「Bixby 2.0」はSiriやCortana、Alexaとどこが違うのか?

じわじわと日本にも入りつつある音声アシスタントデバイス。Siriの登場から6年ほど経った今、もはやAIアシスタントは「音声で操れる便利なインターフェース」以上の存在へと進化しつつあります。AmazonのAlexa、GoogleのGoogleホームはスマートホーム関連の様々なIoTデバイスをつなげることで、消費者のインフラストラクチャの座を虎視眈々と狙っています。

 

サムスンもこの市場に食い込もうとしています。10月中旬、同社は、今年3月に発表したAIアシスタント「Bixby」を大幅にアップデートした「Bixby 2.0」を発表しました。当然ながら、狙いはただの音声アシスタントではありません。

20171026_kubo19Photo: Samsung

 

家電メーカーの強みを活かした戦略

サムスンの発表によるとBixby 2.0は家電を含めた多くのIoTデバイスをつなげ、簡単に操作、管理するためのハブとして位置づけられているとのこと。

上記の初期Bixbyのデモ動画でもよく分かるように、Bixbyは写真の送信やアラームの設定、予定の入力とあくまでも「スマートフォン用のインターフェース」という位置づけでした。

 

それが自宅の空調や照明、コーヒーメーカーや音響システム、テレビといった様々なデバイスをコントロールしてくれるスマートホームのAIアシスタントと進化するわけですね。これはまさにAmazonやGoogleがエコーやGoogleホームでやろうとしていることです。

 

2.0になり自然言語の認識も向上され、サムスンが今後発売する家電もどんどんとBixby 2.0に対応していくとのこと。先日の発表でも来年から発売されるテレビはBixby2.0対応のものが登場すると述べられています。サムスンは多くの家電を提供しているので、AmazonやGoogleと比べてこの点が同社の強みですね。

 

そう考えると、家電メーカーでもあるサムスンがスマートホームをまとめるAIアシスタントに取り組むのは理に適っています。現状、最も近いライバルは、SiriやCortanaといったアシスタントというより、巨大なエコシステムを作るべく奮闘しているAmazonのAlexaになりますね。

 

サムスンはディベロッパーのためのアプリ開発キットも公開する予定とのこと。サードパーティによるアプリも取り込んで「Bixbyエコシステム」を拡大させていきたいという狙いが見えます。

20171026_kubo20Photo: Samsung

 

AmazonとGoogleは各アシスタントを独立したスピーカーとして普及させようとしているのに対して、サムソンは既にユーザーが持っているスマートフォンを活用しようとしています。この違いも興味深いのですが、今後Bixby専用のスピーカーが登場するのか注目です。

 

立ちはだかるネットの巨人

狙いは野心的なBixby2.0ですが、海外メディアは割と冷めた目で見ているようです。Bixby誕生の際も、Galaxy S8の発売時点では英語に対応しておらず、わざわざボタンが存在しているのに使えないという状況が生まれてしまっています。

 

また、サムスンのスマートフォンユーザーの多くは既にGoogleアシスタントの利用者であるので、英語に対応したとしても、わざわざBixbyに乗り換えるほどの利便性があるのかどうか疑問が残ります。「データという面ではGoogleの方が有利だ」とBBCは指摘しています。

(出典:”Take two for Samsung’s troubled Bixby assistant”, BBC, October 19 2017, http://www.bbc.com/news/technology-41677366

 

The Vergeも「誰もサムソンに提供して欲しいとは思っていないサービスが、使えない状態で装着された状態である」と酷評。もちろん、ユーザー数が増え、対応デバイスが増え、ディベロッパーたちが参加するにつれて利便性が大幅に改善される可能性はありますが、今すぐユーザーたちの興奮を呼ぶプラットフォームにはなっていないというのが現状のようです。

(出典:“Samsung announces Bixby 2.0 six months after launching Bixby 1.0”, The Verge, October 18 2017, https://www.theverge.com/2017/10/18/16498120/samsung-bixby-digital-voice-assistant-second-generation-release )

 

IoTやショッピングなど、あらゆる場面のエコシステムの中心になっていくと見られている音声アシスタント。Bixby2.0からは、長期的な視野でインフラ側に回りたいというサムスンの野心が見えてきます。強力なライバルを前にして課題は多そうですが、家電メーカーとしての強みを活かせるのか今後に期待です。