【西田宗千佳連載】ゼロから作り直して「生成AI世代らしく」なった次世代Alexa

Vol.148-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonが発表した新たな音声アシスタント「Alexa+」の話題。生成AI時代に生まれ変わるサービスにはどんな変化があるのかを探る。

 

今月の注目アイテム

Amazon

Echo Show 15(第2世代)

実売価格4万7980円

↑音声での対話による情報の提供には欠かせない、ディスプレイ付きのスマートスピーカー。Echo Show 15は15インチの画面で文字などの視覚情報により、スムーズな対話が可能になるデバイスと期待されている。

 

Amazonが2月に発表した「Alexa+」は、同社の音声アシスタント「Alexa」を、生成AI技術を使ってゼロから作り直したものだ。

 

その結果としてAlexa+は、「自然な対話」「対話の中での複数の作業」といった、人間になにかをお願いした時と同じような挙動を実現している。現時点では英語デモの様子しか確認できていないため、どこまで人間に近い、理想的な挙動になっているかは判然としない部分もある。しかし、いままでのAlexaに比べ、自然で“会話しながらなにかをする”イメージに近いサービスへと近づいているのは間違いない。

 

Alexa+の特性は、生成AIを使ったAIエージェントそのものだ。

 

ご存じのように、生成AIは文章での問いかけに対し、自然な文章で応対する。音声認識を軸にしたAIから生成AIに切り換えたことで、Alexa+の応対は、当然自然なものになる。

 

また、現在生成AIの世界では、複数の作業を連続して行う機能が注目されている。人間の代わりに色々なことを行う……という要素から、そうしたシステムを「AIエージェント」と呼ぶことが多い。

 

声や文書など、言語でコンピュータに命令を与えることには利点と欠点がある。利点はいうまでもなく「簡単」であること。欠点は「ボタンをクリックするのに比べるとまどろっこしいこと」だ。ボタンを1つ押せば済むことではなく、もっと複雑なことをお願いするか、対話すること自体を楽しめるようにするなどの副次的要素を加えるかといった形にしないと、生成AIによるアシスタントは便利な存在にならない。単純に生成AIとチャットしても便利なサービスと言えないのは、もう皆さんも体験しているのではないだろうか。

 

だからこそ各社は、生成AIを“複数のことを人間の代わりに行う”“多少曖昧だったり複雑だったりする命令も読み解いて、結果的に目的を果たす”ものにすることを目指している。それがすなわち「AIエージェント」だ。

 

実はAmazonは、Alexaで複数の命令を自然な会話の中で聴き取り、作業を進める仕組みをずっと開発していた。筆者が最初にデモを見たのは2019年のことだが、結局オリジナルのAlexaでは、正式に実装されることは無かった。作っていたのはいまでいうAIエージェントそのものだが、他のサービスとの連携などに課題があったため……と言われている。

 

しかし、生成AIをベースとして全体を作り直した結果として、音声アシスタントに求められる「AIエージェント的挙動」を実現できたことになる。処理はすべてクラウドで行われるため、すでにあるAlexaデバイスでそのまま使えるのも重要な点だ。

 

Amazonは生成AIへの取り組みで遅れている……と言われていたのだが、ここに来て他社を一気に追い越してきた印象も強い。では、それはなぜできたのか? 他のプラットフォーマーはどう対抗してくると考えられルのか? その点は次回解説する。

 

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【西田宗千佳連載】音楽からセキュリティに移った「スマートホーム」。そろそろ「音声の価値」を見直す時期に

Vol.148-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonが発表した新たな音声アシスタント「Alexa+」の話題。生成AI時代に生まれ変わるサービスにはどんな変化があるのかを探る。

 

今月の注目アイテム

Amazon

Echo Show 15(第2世代)

実売価格4万7980円

↑音声での対話による情報の提供には欠かせない、ディスプレイ付きのスマートスピーカー。Echo Show 15は15インチの画面で文字などの視覚情報により、スムーズな対話が可能になるデバイスと期待されている。

 

音声アシスタントの草分けであるAmazonの「Alexa」は、2014年にアメリカで生まれた。同時に登場した「Amazon Echo」の存在もあり、そこから数年間、スマートスピーカーのブームが起きたことを記憶している方も多いだろう。Googleは「Google Home(現 Google Nest)」、Appleは「HomePod」を製品化し、日本ではLINEが「Clova」を販売した。

 

そのブームも3年ほどで落ち着いたが、その後に市場で存在感がある形を残せたのは、AmazonのEchoシリーズとGoogleのNestくらいではないだろうか。製品供給という意味ではAmazonはいまだ積極的だが、Googleは鈍く、スマートスピーカーというジャンル自体が停滞しているのは間違いない。

 

音声アシスタント自体は、そのままスマホの中に定着した。現在はテレビでも、スマホ由来の技術を使って「音声検索」するのがあたりまえになっている。

 

スマートスピーカーの登場時期は、音楽でストリーミング・サービスが定着し始めた時期と重なる。日本ではまだまだだったが、アメリカではまさに普及期。しかし、家庭にはすでにCDプレーヤーやホームオーディオが減っており、「部屋で気軽に音楽を聴く方法」が求められていた。スマートスピーカーの存在感もそこにあった。

 

だが、その需要が一回りすると、そこからは別の要素が必要になる。そこで重視されたのが「スマートホーム」だ。日本では「家電を声で操作する」要素が注目されがちだが、アメリカで中心となった要素は、監視カメラと組み合わせた「セキュリティ」である。アメリカでは切実なニーズがあり、監視カメラをハードと管理サービスのセットで販売できるため、収益性も高まる。

 

音声アシスタント自体では大きな収益は生まれていないものの、セキュリティを軸にしたスマートホームは収益につながっている。結果として、自宅内に置くスマートスピーカーも、スピーカーだけを備えたものからディスプレイ付きの「スマートディスプレイ」が増えてきている印象だ。

 

ただし、その流れは「音声アシスタント自体の価値を高める」ものではない。Amazonが目指していたのは、「スタートレック」などのSFの中に出てくる、「話しかけると作業をしてくれるコンピュータ」を実現することだったからだ。音声認識ができるサービスを作ることはできたが、理想には遠い完成度だったと言える。

 

だからこそAmazonは、Alexaをゼロから作り直し「Alexa+」をスタートすることになったのだ。

 

では、その作り直しにはどのような流れがあったのか? その点は次回のウェブ版で解説しよう。

 

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【西田宗千佳連載】生成AI時代の「Alexa+」が登場

Vol.148-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonが発表した新たな音声アシスタント「Alexa+」の話題。生成AI時代に生まれ変わるサービスにはどんな変化があるのかを探る。

 

今月の注目アイテム

Amazon

Echo Show 15(第2世代)

実売価格4万7980円

↑音声での対話による情報の提供には欠かせない、ディスプレイ付きのスマートスピーカー。Echo Show 15は15インチの画面で文字などの視覚情報により、スムーズな対話が可能になるデバイスと期待されている。

 

Alexaにより“音声で命令”が定着

2月26日、米Amazonは音声アシスタント「Alexa」を刷新すると発表した。ゼロから作り直した「Alexa+」の導入だ。3月からアメリカ市場のユーザー向けに提供が開始された。時期は公開されていないが他の言語・地域への提供も予定されており、その中には日本語も含まれる。

 

Alexaは2014年にアメリカでスタートした。精度の高い音声認識を組み込んだ「スマートスピーカー」を実現し、部屋のどこにいても、好きな音楽をかけることができるようになった。その後、Alexaと連携するスマートホーム機器は増加し、GoogleやAppleもその市場を追いかけた。音声アシスタントはスマホにも搭載され、“音声で命令”することは珍しいものではなくなっている。

 

一方、“音声で命令すること”が便利なものとして定着したかというと、そうでもないのが難しいところだ。AIによって音声認識は可能になったが、AIがユーザーのしたいことをきちんと理解してくれるには至らなかったからだ。結局、Alexaをはじめとした音声アシスタントは、“声を使ったリモコン”的な使い方に落ち着き、ある種の停滞感があった。

 

そこで登場したのが「Alexa+」だ。名前こそ似ているが、背後にあるソフトウエアはまったく異なる。Amazonは生成AI技術をベースに、Alexaを新たに作り直した。その結果生まれたのがAlexa+、ということになる。

 

より自然で複雑な会話を生成AIで実現する

いちばんの違いは「対話性の向上」だ。従来のAlexaは“定まったことに答える”という性質が強かったが、生成AIをベースとするAlexa+は人間と自然な会話ができる。しかも、会話しながらレシピを見つけたり買い物をしたり、野球のチケットを予約したりと、複数の作業ができる。

 

例えば、野球の話題でAlexa+と盛り上がりつつ、試合のチケットが1人200ドルに値下がりしたタイミングで教えてもらうことも可能になるという。これは以前のAlexaではかなり難しかったことだ。レシピにしても、教えてもらったものから“調味料が足りないので別のソースのものにカスタマイズしてもらう”ことだってできる。この辺はいかにも生成AIらしい機能だ。

 

Amazonは以前から、Alexaに高度な対話機能を搭載しようとしてきた。技術的には、現在生成AIで行っていることにつながるものだが、既存のAlexaにそれを実装することは、結局成功しなかった。2023年には生成AIを使ったチャット機能を搭載する計画が公開されていたが、消費者が望んだのは単なるチャットではない。代わりに買い物をしてくれることであり、家電と便利に連携してくれることだ。

 

生成AIでAlexaを根幹から作り直す、というAmazonの決断は大胆なものだ。だが筆者がデモから判断する限りでは、それだけの価値があったように思える。

 

生成AIはAlexaになにをもたらそうとしているのだろうか? そして他社はどうするのか? そこは次回以降で解説していきたい。

 

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なぜ日本は“スマートホーム化”に出遅れたのか? 家電王が語る世界との違い、普及へのカギ

家電や設備をネットワークに接続して操作できるようにすることで、暮らしがより豊かになり、ホームセキュリティの向上にもつながるのがスマートホームの魅力です。スマートホームは海外や日本でどのように普及し、今後はどのように進化していくのでしょうか? 今回は、“家電王”として知られ、国内外の最新スマートホーム事情にも詳しい中村 剛氏に話を聞きました。

【お話をうかがったのはこの方!】
家電王 中村 剛さん

東京電力エナジーパートナー株式会社 勤務。2002年に『TVチャンピオン』スーパー家電通選手権で優勝し、銀座にて体験型ショールーム「くらしのラボ」の開設と運営に従事。現在は“家電王”として動画マガジン『くらしのラボ』をYouTubeとFacebookで毎週配信している他、テレビや雑誌、新聞などの様々なメディアで暮らしに役立つ情報発信をしている。無類のネコ好き!

 

日本はまだ遅れているものの、スマートホームの普及は右肩上がり

スマートホームの普及状況について中村氏は、「世界で右肩上がりに伸びています」と語ります。

 

「ロボット掃除機などのスマート家電や、セキュリティ、制御などの分野の比率が高く、近年はカーボンニュートラルに向けた取り組みが進むなかでエネルギー管理も重要なセグメントになっています。日本ではまだスマートホームをスマートデバイス単体で語られることが多いと思うのですが、世界ではトータルでエネルギー管理をする方向に向かっています」(中村氏)

資料提供:Statista

 

資料提供:Statista

 

世界ではスマートホーム化が進むなかで、中村氏は「日本は少し出遅れている印象がある」とのこと。

 

「Statista(※)の調査によると、日本のロボット掃除機などのスマート家電の保有率は10%と、中国、韓国、米国に比べて低いです。エンターテインメント関連(Bluetoothスピーカー、スマートTV、ストリーミング関連など)でも先述の3か国は70%以上なのに日本は26%。また、『スマートホームデバイスは保有していない』との設問に対しても65%とずば抜けて高いため、そもそもスマートホームデバイスとは何なのかを理解していないのかもしれません。遠隔操作ができるエアコン等は製品としてはかなり増えているのですが、その機能をちゃんと使えていない場合も多々ありますね」(中村氏)

資料提供:Statista

※Statistaは100万点以上のデータを扱うビジネスインテリジェンスのポータルとして、170以上の業界、150の国と地域を対象とした、統計、業界レポート、市場予測、消費者サーベイなどを提供しています。(statista.com)各調査会社や公的機関含む22,500以上のデータソースから収集したデータに直接アクセスができ、ビジネスにおけるファクトに基づいた意思決定を支援しています。2007年にドイツで設立され、現在、世界14カ所に約1,400人の従業員を擁しています。調査に関するご相談やお問い合わせはsales.japan@statista.comまで

 

日本でスマートホームが普及しないのは「安全性や規制が強いことも理由にあるのではないか」と中村氏は語ります。

 

「たとえば2012年、パナソニックが遠隔でオンオフ制御できるエアコンを発表した後、遠隔ではオフ制御だけになったことがありました。電気用品安全法の観点から、外出先から、オンにすると火事等の原因になるのではないかと“物言い”が付いたんですね。電気用品安全法では今もこたつなどヒーターを搭載する機器の遠隔操作はダメなのですが、そういう制約が日本は諸外国よりも多いのだと思います。そういった点が、スマートホーム普及のハードルの一つかもしれないですね」(中村氏)

 

さらに、日本の文化的な背景も理由にあるのではないか、と中村氏は語ります。

 

「私は2017年に初めてラスベガスで開催されている『CES』(世界的最大級のテクノロジー見本市)に行き、そこでスマートスピーカーを体験しました。しかし、自分も含めて、日本人は音声で命令するのが恥ずかしいんですよね。欧米ではベビーシッターやお手伝いさんが家にいることも多く、音声での指示に抵抗がないのですが、そういった文化的背景が日本にはない、という違いもあると思います」(中村氏)

そこで、今後スマートホームの普及のカギを握るのはデジタルネイティブな若い世代だといいます。

 

「古くはご飯を炊く炊飯器も『主婦にラクをさせるな』なんて話もあったそうですし、私もかつて東京電力のショールーム『くらしのラボ』にいた際には、『食洗機を買いたいから夫を説得してほしい』なんて言われたことも頻繁にありました。でも時代が変わって、女性が働くのは当たり前になりましたし、みんなが結婚しなければいけない時代でもない。デジタルネイティブの若者も当たり前に増えてきました。パリ五輪で日本の若者が活躍しているように、新しい世代が『便利なものはどんどん使おうよ』という形で盛り上げてくれるのがブレイクスルーにつながる気がします」(中村氏)

 

「プロダクトアウト」ではなく、便利な「ユースケース」が重要

さらに、スマートホームが普及していくためには、「メーカーの都合で生み出された『プロダクトアウト』ではなく、便利な『ユースケース』が普及のためには重要」と中村氏は語ります。

 

「たとえば、ペットを飼っている家庭で、ペットを大事に思うなら、不在時に遠隔で見守れるカメラや自動給餌機、体重管理、エアコンのコントロールをするニーズが生まれてきます。そうすると、必要に迫られてそれらの機器を導入して活用し始めるでしょう。さらに、『高齢者を見守りたい』『手ぶらで解錠したい』など、ユーザー視点でのユースケースを提示していくことがブレイクスルーにつながると考えます」(中村氏)

↑手ぶらで開錠できるスマートロックの例。SwitchBotの「SwitchBot ロック Pro」(左)と「SwitchBot 指紋認証パッド」(右)

 

スマートホーム機器を簡単に使えるようにするためには、AIの活用も重要になります。

 

「見守りカメラで24時間撮影し続けても、すべてをチェックしきれないですよね。ですから、『AIでの画像認識』もセットで絶対に必要になります。必要な映像だけをAIで切り取ることで、初めて人間の見守りにも使えるようになるわけです。また、『カメラはプライバシーの侵害がイヤ』という人には、ミリ波レーダーやWi-Fiの揺らぎなどで見守るサービスなどもあります。先にニーズがあり、それに対してユーザー視点でのサービスが提供されていけば、スマートホーム機器はさらに普及するはず。ですが、ただ単にガジェットを提供して『後はDIYで何とかしてね』では、一部のアーリーアダプターの人しか反応してくれないでしょう。スマートホームが提供出来る価値をユーザーのベネフィット(便益)として伝えなくてはならないのです!」(中村氏)

↑MS LifeConnect「AIスマートカメラ 屋外用カメラ/屋内用カメラ」は、高度なAI検知能力により人間や動物、車などを識別。指定した対象物が写り込んだときだけを「クリップ動画」として切り出し、スマホに通知を送ることが可能です

 

↑Aqaraの「人感センサー FP2」はミリ波レーダーセンサーによって最大5人までの多人数検知に加えて転倒検知も可能

 

「スマートホームのメリットは、利便性の先にある暮らしの豊かさ。便利さだけを追求していくのでは窮屈だし疲れてしまいます。カメラで見ることも含めて、全てをデジタルで制御するといった話だと、良いことばかりではないのだと考えます。結果的にその先にある暮らしが豊かになる、楽しくなるのが重要。今で言うと『ウェルビーイング』につながる『スマートなホーム』というのが本来のあるべき姿だと思います」(中村氏)

 

本当の意味で家がスマートホームになるためには、スマートデバイスを導入するだけでなく、AIで意味付けしてサービス化していくことも重要。

 

「日本は超高齢化に突き進んでおり、見守る側の人も足りなくなるので、データにAIで意味付けすることがまさしく必須です。『こんなアラームが出たら、誰かが自宅に訪問します』といったサービスとの連携が必要になるでしょう。最終的には、家自体が人格のようなものを持ち、住人の最適で豊かな暮らしを提供していく。さらに、クルマの自動運転が普及すると、おそらく『家』のカテゴリ中にクルマも入ってくるでしょう。移動している間に勝手に進んでくれるとなると、家の部屋にいるのと変わらない状態になりますから。そういったことも含めて、その人の周りにあるものすべてを含め、スマートホームのメリットを享受するが私のイメージです」(中村氏)

 

スマートホームプラットフォームの“一元化”が進む

当初、グーグルは「Google Home」、アマゾンは「Amazon Alexa」、アップルは「HomeKit」という独自のスマートホームプラットフォームを展開してきました。各メーカーの製品がそれぞれに対応するには、手間もコストもかかるため、2022年、それらを統合する規格として、無線通信規格の標準化機関であるCSA(Connectivity Standards Alliance)が「Matter」(マター)を立ち上げました。これにより、スマートホーム規格の標準化が進められていますが、まだまだ課題があるといいますす。

 

「日本の家電メーカーと話をすると、共通規格である『Matter(マター)』に対してあまり積極ではないと感じます。統一するといっても、電源のオン・オフやエアコンの温度を1℃上げるといった基本機能を統一するのは簡単ですが、メーカーだけのオプション機能まではなかなか統一できません。そこで、エアコンはこうしましょう、ロボット掃除機はこういう風にしましょうと、カテゴリごとに取りまとめが進んでいるわけですが、先述のCSAでの議論に積極的に入っていかないと、蚊帳の外でプロトコルが決まってしまいます」(中村氏)

 

続いて住宅設備に目を向けてみましょう。日本では住宅設備やエアコンなどの家電を接続してエネルギー管理を行うための共通規格である「ECHONET Lite(エコーネットライト)」が普及し、「HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)」によって空調や給湯、エネルギー管理などが行われています。

 

「住宅設備系はECHONET Liteで接続しつつ、スマート家電はMatterで連携し、それらを統合するシステムを組んでいく。今後は、このような流れで進んでいくと思います。例えば三菱地所の『HOMETACT(ホームタクト)』の場合、ECHONET Lite系はLIXILの仕組みをベースに、スマートデバイスと組み合わせてサービスを展開中です。また、マンションのエントランスの顔認証などの仕組みは自社だけではできないので、DXYZ(ディクシーズ)と連携してスマートホーム化の実績をたくさん積み上げているところです」(中村氏)

↑HOMETACTで制御できる機器の例

 

↑HOMETACTとDXYZの顔認証プラットフォーム「FreeiD」が連携した例

 

社会課題の解決に向けて住宅設備メーカーと不動産会社などが取り組んでいる事例もあると中村氏は紹介しました。

 

「社会問題化している宅配便の人手不足対策として、インターホンと玄関錠を含めてスマート化し、フリマアプリの『メルカリ』の荷物を自宅の宅配ボックスから発送できるサービスなども始まりました。オートロックがあっても、認証された宅配業者であれば各戸の宅配ボックスのある場所まで入れるようになりました」(中村氏)

↑自宅からEC商品・レンタル商品などが発送できる「Smari(スマリ)サービス」に対応した宅配ボックスも登場

 

「さらに、家のカギがスマート化していれば、次は顔認証で入れるとか、近づいたらカギが開くというのが当たり前になっていくと思います。たとえば、スマホのGPSで自宅近くに入ったことが分かってから数分間以内にBluetooth圏内に入ると、解錠するスマートロックもある。極めて便利ですから、『便利なら使おう』という形で導入が進みます。このスマートロックのハンズフリー解錠にしても、CSAの中でMatterとは別のAliroの規格として検討が進んでいるところです。そうやってどんどん外堀が埋まっているので、日本でも、ぜひ便利な現実を存分に享受してほしいと思います」(中村氏)

↑ハンズフリーでの解錠やオートロックが可能なQrio Lock

 

まずはスマートリモコンから始めてみては

では最後に、スマートホームに興味がある人に対して、どこから始めればいいのかアドバイスをいただきました。

 

「エアコンが一番分かりやすいですね。既存のエアコンを含めると、赤外線対応の『スマートリモコン』を使うのが汎用的なスマートホームの第一歩ではないでしょうか。近年は夏の暑さがひどいので、エアコンで冷房しがなければ熱中症の危険性があります。ペットがいたり、小さい子どもや老人がいたりする家庭では室内の温度管理が特に重要ですが、スマートリモコンの機能を使えば、外出先でもエアコンのオンオフや設定温度調整が可能になりますし、一定の室温になったら冷房をオンにする設定も容易にできます。自宅にいるときでもスマートスピーカーと連携して『エアコンを消して』『エアコンの温度を1℃下げて」といった音声操作は意外と便利です。カーテンを自動で開け閉めできるデバイスもあって、快適な目覚めにつながります。まずは興味を持ったそのあたりから使ってみてください」(中村氏)

↑+Styleのスマートリモコン「マルチリモコン PS-IRC-W02」。500種類以上の赤外線リモコンデータがプリセットされているため、セットアップも簡単です

 

↑アプリ操作や音声操作、リモートボタン、照度センサーなどで自動操作ができる「SwitchBotカーテン3」

 

「アレクサ、えかきうたをスタート!」と話しかけると「こたえのないえかきうた」が遊べる!?

絵描き歌は、その名のとおり歌にあわせながらパーツを順に描いていくと、特定の絵が仕上がるというもの。小さな子どもでも簡単に絵が描けるほか、何を描いているのか当てるといった楽しみ方もできますよね。

 

ところで、何を描いているのわからない・・・どころかそもそも答えがない絵描き歌をご存知でしょうか? それは、サントリー食品インターナショナルの「GREEN DA・KA・RA」ブランドが提供する「こたえのないえかきうた」です。

「こたえのないえかきうた」は、「Amazon Echoシリーズ」をはじめとした、Alexaを搭載したデバイスで利用できる新感覚のお絵描きアプリ。Alexaを搭載したデバイスの管理用アプリ「Alexaアプリ(iOS/Android)」内のスキルメニューから本スキルを選択し有効化したあと、スピーカーに向かって「アレクサ、えかきうたをスタート!」と話しかけることで「GREEN DA・KA・RA」ブランドのテレビCMでおなじみのメロディにのせて絵描き歌が流れ、その歌に合わせて子どもと一緒にお絵描きを楽しめます。

この絵描き歌の最大の特徴は「正解がない」ということ。一般的な絵描き歌が、特定の絵を描くためのガイドの役目を果たすのに対し、「こたえのないえかきうた」は特定の“正解の絵”はなく、描く子どもの発想次第でどのような絵にもなりえます。また、絵描き歌は毎回異なる歌詞がランダムに生成され、各小節に設定された複数の歌詞をランダムに組み合わせることで、1万通り以上の絵描き歌を自動で生成できます。

 

歌が終わった後も、「もう1回!」と話しかけると同じ曲がリピートされ、「またね」と言うと、「また遊ぼうね」と言ってスキルが終了します。ちなみに、Alexa対応のスマートスピーカーを持っていなくても、スマホに「Amazon Alexa」アプリをインストールすればアプリ上からスキルを使うことができます。

 

「こたえのないえかきうた」 一例
♪〜
まるが ひとつ あったとさ
しかくを ひとつ かきましょう
めだまを ふたつ つけまして
たまごを ひとつ おきましょう
くもが もくもく でてきたよ
ぼうを よんほん かきましょう
さんかく ふたつ かきますと
(ドラムロール) できたのは何ですか?

 

【上記の絵描き歌でお絵描きをした作品例】

↑グリーンダカラちゃんの作品
↑ムギちゃんの作品

 

↑10歳・男の子の作品

 

↑7歳・女の子の作品

 

このように、同じ歌を聞いていても人によって全く違う絵が完成するのが「こたえのないえかきうた」。正解のない絵描き歌で「何ができあがるんだろう?」という想像力を膨らませながら絵を描くことにより、楽しみながら子どもの想像力を育むことができます。正解がない、しかも1万通り以上の絵描き歌が自動で生成されるということなので、飽きることなく親子で遊べそうですね。

 

スマートじゃない家電を声で操作するためのスマートスピーカー用周辺機器「スマート家電コントローラ RS-WFIREX3」レビュー

スマートスピーカーの売りのひとつが家電製品をコントロールできること。しかし、現在家庭にある家電製品の多くは無線LANなどによる通信機能を備えていないので、スマートスピーカーから操作できません。そこで数社から販売されているのが「スマート赤外線リモコン」。これをスマートスピーカーと連携させることで、声で従来の赤外線リモコン対応家電製品をコントロールできるようになります。今回はラトックシステムから発売された「スマート家電コントローラ RS-WFIREX3」のレビューをお届けします。

 

↑ラトックシステム「スマート家電コントローラ RS-WFIREX3」。実勢価格は7560円↑ラトックシステム「スマート家電コントローラ RS-WFIREX3」。実勢価格は7560円

 

RS-WFIREX3は、赤外線リモコン機能を備えたワイヤレスコントローラーです。スマートスピーカーと連携利用するために開発された製品ですが、スマートフォンだけでも利用可能。RS-WFIREX3を家庭内に設置していれば、外出先からでもテレビ、照明、エアコンなどの家電を遠隔操作できます。

 

↑天面の丸いパーツは照度センサー。左側面にはWPSボタンとmicroUSB端子が並んでいます↑天面の丸いパーツは照度センサー。左側面にはWPSボタンとmicroUSB端子が並んでいます

 

現在はAmazon Alexaにのみ対応していますが、今後のファームウェアアップデートでGoogle Homeもサポートする予定です。

 

↑冬の寒い日に屋外から暖房をつけて、帰宅前に部屋を暖めておくことも可能↑冬の寒い日に屋外から暖房をつけて、帰宅前に部屋を暖めておくことも可能

 

製品の内容物は非常にシンプル。製品本体以外には、USBケーブル、クイックスタートガイド、保証書しか入っていません。いまどき分厚いマニュアルが入っていないのには納得ですが、USB-ACアダプターぐらいは同梱してほしかったところです。

 

↑USBケーブルの長さは実測約150cm。USB-ACアダプターは同梱されておらず、別途5V1A以上のUSB-ACアダプターを用意する必要がある↑USBケーブルの長さは実測約150cm。USB-ACアダプターは同梱されておらず、別途5V1A以上のUSB-ACアダプターを用意する必要がある

 

RS-WFIREX3のセットアップは、(1)スマートフォンにアプリ「スマート家電コントローラ」をインストール、(2) RS-WFIREX3を無線LANルーターに接続、(3)家電製品のリモコンを登録、Amazon Alexaにスキル「スマート家電コントローラ」を登録……という流れになります。

 

↑まず専用アプリ「スマート家電コントローラ」をスマートフォンにインストール。今回はiPhoneで試したが、Androidスマートフォンにも対応している↑まず専用アプリ「スマート家電コントローラ」をスマートフォンにインストール。今回はiPhoneで試したが、Androidスマートフォンにも対応している

 

↑再接続のために、USB端子の左横にある「WPSボタン」を押すようにと画面に指示が出たが、説明どおり約10秒間押してもファクトリーリセットは実行されなかった↑製品底面にはQRコードが印刷されている。アプリで「カンタンWi-Fi接続」を選べば、MACアドレスなどを入力しなくても、無線LANルーターのパスワードを打ち込むだけで、無線LANへの接続は完了する

 

セットアップは非常にカンタン! ……と言いたいところですが、筆者が今回試したときにはちょっとトラブルが起きました。原因は不明ですが無線LANルーターへの接続が完了せず、アプリからRS-WFIREX3の初期化(ファクトリーリセット)を指示されたのです。さらに初期化もなぜかできなかったので、いったんUSBケーブルを抜いてしまいました。USBケーブルを挿し直したら初期化できましたが、完全にフリーズしてしまっていたようですね。

 

↑再接続のために、USB端子の左横にある「WPSボタン」を押すようにと画面に指示が出たが、説明どおり約10秒間押してもファクトリーリセットは実行されなかった↑再接続のために、USB端子の左横にある「WPSボタン」を押すようにと画面に指示が出たが、説明どおり約10秒間押してもファクトリーリセットは実行されなかった

 

家電製品のリモコン登録は多少の試行錯誤が必要です。というのもメーカーや製品によりますが、必ずしも自分が所有している家電製品のリモコンのプリセットが登録されているとは限らないからです。ちなみに今回、東芝製テレビ、パナソニック製照明、ダイキン製エアコンを登録しましたが、製品名、シリーズ名がピッタリ合うものはありませんでした。とは言え型番が違うプリセットをいくつか試せば使えるものは見つかりますし、いざとなれば学習機能も利用可能です。

 

↑リモコンのプリセットは、TV/セットトップボックス、ブルーレイ/DVDレコーダー、エアコン、照明、AV機器/ホームシアター、扇風機、掃除機、電源スイッチ、ディスプレイ分配器、加湿器、おもちゃ、その他の機器(加湿空気清浄機、NASなど)など多くの製品向けが用意されている↑リモコンのプリセットは、TV/セットトップボックス、ブルーレイ/DVDレコーダー、エアコン、照明、AV機器/ホームシアター、扇風機、掃除機、電源スイッチ、ディスプレイ分配器、加湿器、おもちゃ、その他の機器(加湿空気清浄機、NASなど)など多くの製品向けが用意されている

 

Amazon Alexaと連携するための設定はわかりやすいですね。もちろん事前に「Amazon Alexa」アプリをセットアップしている必要がありますが、Amazon Alexaの登録、変更はRS-WFIREX3のアプリから呼び出されます。Amazon AlexaアプリでRS-WFIREX3用のスキルを探す必要はなく、ほぼシームレスにセットアップが完了します。

 

↑まずは右上のメニューアイコンから「Amazon Alexaの登録/変更」を選択↑まずは右上のメニューアイコンから「Amazon Alexaの登録/変更」を選択

 

↑次に、利用する家電リモコンのアイコンをタップすると、この画面が開かれる。ここで「スキルの登録ページを開く」をタップすると、リモコンIDがクリップボードにコピーされたのち、「スマート家電コントローラ」のスキル登録ページに移行↑次に、利用する家電リモコンのアイコンをタップすると、この画面が開かれる。ここで「スキルの登録ページを開く」をタップすると、リモコンIDがクリップボードにコピーされたのち、「スマート家電コントローラ」のスキル登録ページに移行

 

↑初回設定時はこのまま「有効にする」をタップ。もし利用するリモコンが変わったり、増えたりして、改めて設定する際には「再登録(無効化&有効化)」を行う↑初回設定時はこのまま「有効にする」をタップ。もし利用するリモコンが変わったり、増えたりして、改めて設定する際には「再登録(無効化&有効化)」を行う

 

↑自動的にコピーされたリモコンIDをペーストして「登録」ボタンを押せばスキルの登録は完了↑自動的にコピーされたリモコンIDをペーストして「登録」ボタンを押せばスキルの登録は完了

 

↑Amazon Alexaアプリで「スマート家電コントローラが正常にリンクされました」と表示されたら、手動でRS-WFIREX3のアプリに戻り、Amazon Alexaと連携するリモコンを選択し、「登録」ボタンをタップ。これですべての設定は完了となる↑Amazon Alexaアプリで「スマート家電コントローラが正常にリンクされました」と表示されたら、手動でRS-WFIREX3のアプリに戻り、Amazon Alexaと連携するリモコンを選択し、「登録」ボタンをタップ。これですべての設定は完了となる

 

さて肝心の音声指示の使い勝手ですが、RS-WFIREX3にはひとつ大事な決まりごとがあります。それは、Amazon Alexaに呼びかける際には「家電リモコンで」または「家電リモコンを使って」という前置きが必要ということ。つまり、テレビをつける場合には「アレクサ、家電リモコンでテレビを8チャンネルに切り替えて」などと命令が少し長くなります。

 

これはRS-WFIREX3が、Amazon標準のスマートホームスキルではなく、メーカー独自開発のカスタムスキルを使っているためです。そのぶんRS-WFIREX3は単純な電源オン/オフだけでなく、テレビのオン/オフ、チャンネルの切り替え、ボリュームの変更、エアコンのオン/オフ、冷房/暖房/除湿/自動のモード切り替えと温度設定、照明のオン/オフ、明るさの変更などきめ細かな音声指示が可能です。

 

なお、「アレクサ、家電リモコンを実行して」と話しかけると、対話形式で操作することが可能です。対話形式のぶん即座にコマンドを実行できませんが、音声コマンドを覚えていないうちは重宝する機能ですね。

 

↑便利なスマート赤外線リモコンだが、スマートスピーカーと別に設置しなければならないのが難点。個人的には多少値上がりしたとしても、「Clova WAVE」のようにAmazon AlexaにもGoogle Homeにも赤外線リモコンを内蔵してほしいところ↑便利なスマート赤外線リモコンだが、スマートスピーカーと別に設置しなければならないのが難点。個人的には多少値上がりしたとしても、「Clova WAVE」のようにAmazon AlexaにもGoogle Homeにも赤外線リモコンを内蔵してほしいところ

 

「家電リモコンで」という前置きが少々億劫ですが、RS-WFIREX3はそのぶん細かな音声指示が可能。セットアップも他社製スマート赤外線リモコンより容易です。まだAmazon Alexaもスマート赤外線リモコンも発展途上の感は否めませんが、現時点でも家電コントロールを快適にしてくれることは間違いありません。どちらもファームウェアアップデートに対応しているので、より自然な会話でのコントロールは将来のアップデートに期待しましょう。