遠野物語と河童の街から国産ホップの聖地へ。ビール好きが注目すべき現代“遠野”に加わったもうひとつの“伝説”

岩手県の遠野といえば、柳田国男の「遠野物語」でも知られるように民間伝承の聖地として有名。しかしいま、民話同様に盛り上がっているのが、ホップを中心としたまちおこしです。なぜ、東北の山里でこのようなムーブメントが起きているのでしょうか? ビールがおいしい季節に、その最前線に迫ります。

↑2016年開催時の遠野ビアツーリズムにて。左端はホップ博士として有名な村上敦司さん。(現、キリンホールディングス飲料未来研究所の技術アドバイザー)

 

雨にも風にも負けず、遠野とホップが歩んだ60余年

そもそもホップとはハーブの一種で、“ビールの魂”といわれるほど重要な素材。ビールの香り、苦み、泡立ちなどを左右するとともに、殺菌効果で腐敗から守る役目もあります。加えてホップは、近年のクラフトビール人気でいっそう注目が集まっており、新品種の開発も盛ん。ホップがなければ、あの多様的で個性あふれる味わいは生まれないともいえるでしょう。

↑収穫時季は晩夏。ちなみに岩手県はホップの生産量で日本一を誇ります。(シェア47.8%。2位は秋田県で28.6%/2022年)

 

そして、そのホップに長年心血を注いでいる企業がキリンビールです。日本産ホップに関しては、100年以上前から試験栽培に従事。購入量に関しても、日本産ホップの約7割は同社が仕入れています。

↑遠野市には随所に、キリングループが参画するホップ圃場(ほじょう)が点在しています。

 

他方、遠野とホップの歴史は約60年前までさかのぼります。とはいえ遠野はもともと雨風など冷災害が多く、農業をするにも作物を選ぶ地域。そのなかで目を付けたのが、隣の江刺(現・奥州市)で栽培されていたホップでした。その動きに賛同し、遠野がホップ栽培を開始した1963年に栽培契約を締結したのがキリンビール。互いに協力し合いながら、遠野で初めてとなる挑戦を推し進めていきました。

↑60周年を迎えた2023年には、地元のクラフトブルワリーである遠野麦酒ZUMONAが記念銘柄「IBUKI HOP IPA」を発売。遠野駅から徒歩数分のブルーパブ「遠野醸造タップルーム」にて。

 

しかし、世界的な品種の開発合戦とグローバル化のなかで日本産ホップは国際競争力を失っていくことに。高度経済成長期を迎えると、次第に広大な圃場をもつ外国産の安価なホップに押され、徐々に日本産は需要が減少。1983年をピークに、遠野のホップ農家も減少していきます。

↑近年の減少はよりダイナミックで、2008年に446tだった生産量は2022年には167tへと激減。

 

それでも受難のなか、キリンは2002年に遠野のフレッシュホップ(通常は乾燥ペレットにするところ、生のホップを凍結させて新鮮な香りをビールに凝縮させる)を使った「キリン 毱花一番搾り」を商品化。2004年にはいまも続く「一番搾り とれたてホップ生ビール」へと進化させ、秋冬の定番ビールへと成長させました。

↑発売20年目を迎えた、2023年版の「一番搾り とれたてホップ生ビール」。遠野で収穫したばかりの生ホップを収穫後24時間以内に凍結して使用した、フローラルな香りが魅力です。2024年はどんな味・香りになるでしょうか? 期待が高まります。

 

その後2007年には「ビールの里構想」を打ち立て、「TK(遠野×キリン)プロジェクト」を発足。遠野産ホップ使用ビールの推進、クラフトブルワリーの応援、ビールに合う遠野産食材の開発とPR、ホップ畑見学などビアツーリズムの展開、遠野ホップ収穫祭の開催など、ホップを中心にすえた企画を次々と打ち出していまに至ります。

↑遠野市で活動している、キリンビール社員の髙間陽佑さん。ホップ栽培のほか、ビアツーリズムや収穫祭のサポートなども行っています。

 

遠野が抱えるホップ生産の課題と対策

ホップ生産量の数値としては、遠野をはじめ全国的に低下していますが、近年のクラフトビール人気とともに日本産ホップの注目度はむしろ上昇中。土地の気候環境などを生かしたテロワール型ホップ作りに励む動きも盛んで、岩手以外の各地でも地元産ホップのクラフトビールが造られるようになっています。

↑キリンビールが品質向上を目的に、全国のクラフトブルワーを巻き込んで行う官能評価会にて。京都・与謝野産ホップで造られる、かけはしブルーイングの「ASOBI」(右端)など、テロワール型ホップのビールも。

 

また、遠野でも「ビールの里構想」を「ホップの里からビールの里へ」という新スローガンとともに広げ、クラフトブルワリーも誕生。前述の遠野麦酒ZUMONAは1999年に地元の老舗である上閉伊(かみへい)酒造が立ち上げたブルワリーですが、2017年には3人の移住者によって遠野醸造が設立されています。

↑遠野醸造の設立メンバーのひとりであり、ホップとビールによるまちづくりの推進など様々な企画をしている田村淳一さん。

 

田村さんは日本産ホップの盛り上がりを感じつつも、遠野の要でもあるホップ栽培は課題も山積みだと言います。特に大きいハードルが収益構造。ホップにおける新規就農を希望する人はいても、土地も農機具もない状態から経験を積みホップ栽培だけで生計を立てるのは簡単ではありません。

 

そこで、観光を起点とした地域経済の活性化と応援者の増加をはかり、ふるさと納税による寄付などによってホップ生産者の補助制度や収益構造の改善に取り組んでいます。

↑遠野におけるホップ収穫の重要拠点、遠野市農協ホップ加工処理センター。2023年には遠野市が中心となって大規模改修が始まり、施設利用料を下げることで収益構造を変えるべく計画が進行しています。

 

遠野へ行ったら妖怪はもちろん人と羊でもホッピングを!

遠野が「ホップの里からビールの里へ」を掲げたのが2015年。翌年には、ビールの里構想における地域おこし協力隊制度の導入が開始し、そのなかで移住したメンバーにはユニークに活躍している人も。そのひとりが、怪談師やライターなど多才に活動する小田切大輝(オダギリダイキ)さんです。

↑怪談師のときはオダギリダイキとして活動する小田切大輝さん。地元の人から現在約150話もの遠野怪談を集め、その他含め300ほどの噺(はなし)をもっているとか。

 

山梨県出身の小田切さんは大学卒業後、国立劇場・新国立劇場での広報宣伝・舞台制作業務を経て2020年に遠野へ移住。地域おこし協力隊から「ビールの里プロジェクト」のメンバーとして着任し、上記田村さんの下で寄付金の制度設計や取り組みなどを担当していました。

 

小田切さんが遠野にやってきた理由は、もともとビールが大好きで、民俗芸能や怪談にも興味があったから。その3つが揃っている遠野に惹かれて移住し、現在は様々な手法でこの地の魅力を発信しています。

↑小田切さんへのインタビューを行った「遠野ふるさと村」。この日は施設のイベントで舞踊を披露していたとのこと。

 

冒頭で述べたように、遠野は民間伝承の里として有名です。妖怪奇譚も数多いほか日本有数といえるカッパ伝説の地でもあり、最後の目撃情報は半世紀前の1974年。有名スポット「カッパ淵」を訪れる人は年間6万人を超えるそうで、観光地としても人気です。

↑遠野には民話を語る「語り部」も多く存在し、カッパのエキスパートといえば“カッパおじさん”として有名な運萬治男さん。運よく「カッパ淵」で会うことができました。

 

そんな遠野はホップとビールでも盛り上がっていますが、グルメも見逃せません。特に、昔から有名なのがジンギスカンです。ジンギスカンは北海道のイメージが強いかもしれませんが、実は遠野でも古くからソウルフードとして親しまれており、ここならではの特徴も。

↑遠野ジンギスカンの元祖といわれる「ジンギスカンのあんべ」と人気を二分する名店「遠野食肉センター」。写真は遠野本店。

 

ひとつは、ブリキのバケツに固形燃料を入れてジンギスカン鍋を熱するスタイル。これは、昔から盛んに行われてきた地域の祭事などで、屋外でも気軽に食べられるよう考案されたのだとか。

↑「遠野食肉センター 遠野本店」にて。店内は無煙ロースターで焼くスタイルが基本ですが、屋外の席ではバケツジンギスカンも楽しめ、売店で肉を買うとバケツや鍋を貸し出すサービスも。

 

そしてもうひとつの特徴が、肉を漬け込んだ味付けジンギスカンではなく、焼き上げた肉を各店自家製のタレにつける食べ方。昨今首都圏で人気のジンギスカン店はこのスタイルが主流ですが、当初からこの手法で食べていたのが遠野なのです。

↑冷凍ではなくチルドで仕入れたラム(仔羊)肉は厚切りでジューシー。タレも絶品で、白米やビールとの相性も抜群です。

 

遠野でジンギスカンが親しまれるようになった背景には、かつて軍需羊毛自給のため、めん羊が農家で飼育されていたという歴史も関係しています。しかし現在、遠野における羊飼いはいなくなってしまい、そもそも日本における羊飼い自体が希少な存在となっています。

↑日本の羊飼いを応援している、都内の超人気ジンギスカン店といえば「羊SUNRISE」。写真は同店オーナーの関澤波留人さん。

 

日本で羊飼いが少なくなった理由はいくつかありますが、高度経済成長期に羊肉、羊毛ともに輸入自由化の品目に指定され、外国産が増えたことが一大要因に挙げられます。この話、何かの悲劇に似ていませんか? そう、ホップです。

 

国内の羊生産者に目を向けると、少ないなかで飼育を始めようとする動きも。岩手では遠野にこそいない(試験羊畜の取り組みはあり)ものの、近年では江刺や滝沢市などで羊畜産農家が誕生しています。そこには食のグローバル化のほか、羊肉の美味しさに気付く日本人が増えていること、そこから転じて羊飼いを志す人も増えているという背景があります。遠野もいつか、“妖怪の里から羊(よう)飼いの里へ”と願ってなりません。

↑遠野麦酒ZUMONAは「ひつじとホップ」という銘柄も発売。遠野ジンギスカンとのベストペアリングを目指した、爽やかな白ビールです。

 

失われかけた里の恵みに光を当て、酒と食のイーハトーブ(岩手県出身の偉人・宮沢賢治が思い描いた理想郷)を目指そうとするエネルギッシュな息吹にあふれる遠野。妖怪好きはもちろんのこと、ビールや羊肉ラヴァーの人も、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?

一番搾りとどう違う? キリンビール「晴れ風」の“飲みやすい”“新しい”味は…中華そばとかけて“塩ラーメン”と解く!

2024年4月2日に新発売の「キリンビール 晴れ風」が、発売直後は一時品薄になったほど売れています。味の特徴は、プレスリリースによると“「ビールとしてのうまみや飲みごたえ」がありながら「飲みやすい」、新しいおいしさ”とのこと。

 

とはいえ、「キリン一番搾り生ビール」をはじめとする国民的ビールはどれも、飲みやすいから万人受けしているはずでは? それにぶっちゃけ、同社の「一番搾り」がライバルになってしまうのでは……?

 

↑実に17年ぶりの、キリンのスタンダードビール「キリンビール 晴れ風」はコンビニで税込224円(350ml缶/筆者調べ)。500ml缶も用意されている。

 

そこで、より具体的な味の特徴を開発者にインタビュー。独特な商品名やデザインの秘密なども聞きました。

 

トレンドの逆を狙った“引き算”の繊細なビール

スタンダードビールのなかで新しさを出すことがゴールのひとつで、究極の飲みやすさに振り切ったビールをつくりたいという狙いが開発当初からありました」

 

と語るのは、キリンビールのマーケティング部商品開発研究所、中味開発グループの東橋鴻介(とうはしこうすけ)さん。コンセプトはスタート地点から大きく変わることなく、どのように味を具現化していくかに苦心したと話します。

 

↑東橋さんは2018年入社。過去に「スプリングバレー豊潤<496>」や「のどごし<生>」などビール類を担当。ソムリエ資格も持つ。

 

そう、特に今回聞きたかったのは、その“新しさ”や飲みやすさ”について。具体的には、どんな味わいを指すのでしょうか?

 

「例えば、飲み疲れないとか飲み飽きないといった、おかわりしたくなる味わい。また、単体はもちろん、食事と合わせても寄り添ってくれるおいしさ。様々な飲みやすさがあると思いますが、それらをとことん追求したのが晴れ風です」(東橋さん)

 

そのうえで着目したのが消費者の声。同社が「ビールを家庭で飲まない理由」を調査したところ、「味が好きではない」「苦味がありそう」といった味覚面が上位だったそう。そこで、雑味や不快な苦みを打ち消す製法を確立し、クリアな旨みや心地良い爽快感を付与。また、仕込みと発酵工程の工夫により、過度な酸味を抑えたスムースな口当たりを実現したといいます。

 

↑特徴的な素材が、ホップの半分以上に使っている日本産(具体的には秋田、岩手、山形)品種「IBUKI」。もともとキリンが開発したホップであり、同社でなければできない量を使っているとか。

 

「麦芽の甘みやホップの苦みと香り、余韻の刺激といったビールの代表的な魅力をあえて目立たせず、それでいて、各味覚のバランスを調和させているのがポイントですね。これはある種ビールのトレンドと逆行した引き算の中味設計であり、つまり新しいといえるのではないかと思います」(東橋さん)

 

1stサンプルは、「昔のビールのコピーでダメだ!」と無念の却下

なるほど。例えば一番搾りは麦汁の甘みや旨みを感じさせてくれるビールですが、そういったわかりやすい魅力をあえて打ち出さないのが晴れ風ということですね。でも、飲んでみると味が薄いわけではなく、むしろ満足感は高く、すごくビールらしい正統派のおいしさだと実感します。

 

↑晴れ風と一番搾りは、ともに麦芽100%でアルコール度数も同じ5%。ただ、味の方向性が異なるため、完全なライバルにはならないといえるかもしれない。

 

晴れ風は味の骨格がしっかりしていながら、全体的には繊細でやさしい味わい。でも正直、わかりやすい特徴を打ち消しているぶん、魅力を表現しにくいおいしさだとも思います。苦労もたくさんあったのではないでしょうか?

 

「はい。ひとつは、新しさの表現が難しかったです。弊社には数多くの知見がありますから、開発途中のサンプルは飲みやすい味わいになったとしても、どこか過去の製品と似通った味になってしまうというフェーズがありました」(東橋さん)

 

その味はキリンビールの“味の番人”である、マスターブリュワーの田山智広さん曰く「開発初期の試作品を初めて試飲した際には『あぁ、昔のビールのコピーだな。これはダメだ』と思ったこともありました」とのこと。

 

↑晴れ風のお披露目イベントに登壇した、田山さん(左)と東橋さん(右)。

 

中華そばで例えるなら「塩ラーメン」のようなビール

しかし、トライアンドエラーを繰り返すなかで、目指す味へのヒントを発見。例えば、ホップを使うタイミングや組み合わせを考えるなど、過去には採用しなかった製法にトライできたと言います。

 

「ほかに苦労したのは、工場におけるレシピの正確な再現ですね。研究室レベルの少量でつくるのと、工場で量産化するのでは、難しさが全然違います。晴れ風の繊細なバランスは少しでもズレが出ると本来のおいしさが生かされないので、工場とのチームワークにおいても綿密なディスカッションを重ねました」(東橋さん)

 

この話を聞いたとき、筆者の脳裏に浮かんだのは、塩ラーメンの味作りを語る職人さんの熱弁です。塩は、発酵によって旨みが豊かになる醤油や味噌よりも繊細な調味料。だからダシの素材選びや作り方がより重要であり、ごまかしが利かない。ヘタな人が作るとすぐバレる。そのぶん、腕の見せ所でもあるという旨です。

 

↑塩ラーメンの例え話に、「近しい部分はあるかもしれませんね」と笑う東橋さん。

 

では、味以外のブランディングについて。まず「キリンビール 晴れ風」という、ある種ポエティックな名称はどのような意図で決めたのでしょうか?

 

「まず、お客様にも世の中的にも、いい風を吹かせたいという思いがありました。また、事前の消費者アンケートでも『新規性が高く興味を持つ大きなフックになる』ですとか、『明るく爽やかなイメージがあり、気分よく飲めそう』など評価いただける声が多く、最終的に決めたという流れですね」(東橋さん)

 

田山さんは「晴れ風を手に取ったお客様に一番伝えたいことは、『考えなくていい、感じてほしい』ということです。このビールののどごしや香りだけでなく、音色や佇まいや口触り、あらゆる感覚を開放して楽しんでほしいです」とも語っていました。

 

↑筆者が過去の取材で田山さんからたびたび聞いたのが、「ビールづくりはメイキングではなくブリューイング。工業製品ではなく芸術品。アートなんです!」というアツい話だ。

 

晴れ風をあえて「一番搾り」「淡麗」「のどごし」のように味や製法をイメージするネーミングにしなかったのは、『考えなくていい、感じてほしい』という思いがあるからではないか、と筆者は考えました。世界的にも有名なブルース・リーの「Don’t think. Feel!(考えるな。感じろ!)」にも通じるわけですが、東橋さん、いかがでしょうか?

 

「そうですね。田山だけで決めるわけではありませんが、キリンの醸造哲学には『生への畏敬』『Brewingの精神』『五感の重視』の3原則がありますから、その理念が晴れ風にもしっかり反映されていると思います。それに味わい的にも晴れ風は、飲んでいただくことで魅力を実感できるビールですから」(東橋さん)

 

青緑色は缶ビールの最新トレンドカラー!

そしてもうひとつ、ブランディングで気になるのが、印象的な青緑色のパッケージ。近年、メジャーなビール類ブランドでは青や緑を積極的に使ったパッケージデザインが増えているといえるでしょう。

 

↑パッケージのQRコードも特徴。こちらは、売り上げの一部を活用して、桜や花火といった日本の風物詩を支援する「晴れ風アクション」専用サイトの入口となっている。

 

キリンの商品では、ノンアルコールの「キリン グリーンズフリー」が2022年に全面が緑系のカラーリングに刷新したことでも話題になりましたし、クラフトビールの「SPRING VALLEY JAPAN ALE<香>」でも、鮮やかな青緑系の色が採用されています。晴れ風にはどういった意図があるのでしょうか?

 

↑東橋さんの後ろの棚には「キリン グリーンズフリー」や「SPRING VALLEY JAPAN ALE<香>」も。

 

「ひとつはやはり、新しさですね。特に晴れ風はビッグネームが並ぶスタンダードビールのカテゴリーですから、お店などの売り場で並んだ際に目立つ存在でありたいという狙いがあります。なお、採用している色はターコイズブルーで、私たちとしては『晴れ風ブルー』と呼んでいます」(東橋さん)

 

ビールのパッケージカラーが青緑系というパブリックイメージは、ある意味新定番として認識されているともいえます。というのも、先日筆者が渋谷駅構内を歩いていたときに見た「渋谷スクランブルスクエア」の広告で、青緑色の缶ビールを持つイラストが描かれていたから。

 

↑渋谷駅の通路にて。缶ビールの色に注目!

 

冒頭で「一時品薄になったほど売れています」と触れましたが、事実晴れ風は発売約1か月で、キリンの過去15年のビール類新商品で最大の売り上げを達成。また、年間販売目標の4割を超える200万ケースを突破したとか。

 

ロケットスタートを切った晴れ風ですが、この旋風はどこまで強く吹くのでしょうか。夏はこれから、ますます目が離せません!

“生ホップ”の商品化で世界を驚かせた! 日本ビールの立役者“ホップ博士”が語るビールとホップと遠野の物語

キリンのクラフトビール「SPRING VALLEY(スプリングバレー)」から、ブランド3本目の柱となる「SPRING VALLEY JAPAN ALE<香>」が、10月24日に全国発売されました。特徴のひとつは、同社が品種開発した2種の日本産ホップ「MURAKAMI SEVEN(ムラカミセブン)」と「IBUKI(イブキ)」を一部使用していること。

 

GetNavi webは今回、この立役者となる重要人物にインタビューする機会に恵まれました。

↑「SPRING VALLEY JAPAN ALE<香>」。希望小売価格は、350ml缶が242円、500ml缶が321円(ともに税抜)

 

長年、この2種をはじめとするホップの研究に心血を注ぎ、日本を代表するホップ博士として有名な、同社OBの村上敦司(むらかみあつし)さんです。第一線は退いたものの、村上さんはいまもキリンホールディングス飲料未来研究所の技術アドバイザーとしてホップ業界に携わり、週末はジャズ喫茶「BrewNote遠野」のマスターとして充実した日々を過ごしています。

↑村上敦司さん。手にしているのは、2000年に「ホップの品質改良と品種分化に関する育種学的基礎研究」で農学博士号を取得した際の論文

 

ビールにおけるホップの存在感が年々高まるなか、今回は「BrewNote遠野」を訪れ、村上さんにインタビュー。なぜ近年ホップが注目されているのか、村上さんの名を冠した「ムラカミセブン」や「イブキ」はどのように生まれたのか、日本におけるホップの歴史などについて伺いました。

 

ビールの多様化がホップへの熱狂を生み出した

村上さんは、岩手県紫波郡紫波町出身。岩手大学農学部農学研究科修了後、1988年にキリンビールに入社し、1996年までは植物開発研究所(当時)でホップの品質改良に従事。その後、酒類技術研究所に異動し、ホップに焦点を当てた商品開発にも携わるようになります。

↑2016年に行われた、第1回フレッシュホップフェスト発表会時のプロフィール

 

そんな村上さんにまず聞きたかったのは、なぜホップなのか? ということ。そもそも、ビールには麦も欠かせない主原料です。なぜビールに関しては、ホップがやたらとクローズアップされるのでしょうか?

 

「もちろん麦も大事です。でも、ホップは苦みや香りを大きく左右しますし、味の多様性に関しては麦以上に振り幅が大きいんですよ。そのうえホップは麦より種類が多く、新品種がどんどん生み出されています。種類が多ければ多いほど組み合わせも増え、未知なる味の可能性も広がりますよね。だからホップのほうが注目されやすいのだと思います」(村上さん)

↑ホップ。生の状態はデリケートなため、左上の毬花(まりばな)を乾燥、加工し右上のようなペレット状にするのが一般的な使い方です

 

期待されて入社したと思っていたのに空回り

では、村上さんはどのような経緯でキリンビールに入社したのでしょうか?

 

「のちに私の師匠にあたる方が、残り4年でキリンビールを定年退職することになっていたんですね。同時に後継者候補を探しているということで、私が通っていた岩手大学に声がかかり、その縁で採用してもらったのがきっかけです」(村上さん)

1995年、32歳のときの村上さん(右後方)。「江刺ホップ農協40年史」より

 

大学では植物育種学を専攻していた村上さん。「ホップはまだ誰もやったことがない領域もあるし、これは品種研究の余地があるぞ!」と、ワクワクしながら取り組み始めたものの、入社した1988年は、やっと海の向こうでブルックリン・ブルワリー(米国NYを代表するクラフトブルワリーで、ブームの火付け役に数えられる一社)が産声を上げた時期。

 

35年前の日本におけるホップは、風味付け以前に「苦味の付与に必要なもの」といった認識しかされていなかったそうです。加えて、ホップを取り巻く環境は受難の時代を迎えていました。村上さんは、その歴史を次のように話します。

 

「日本では昭和30(1955)年代から国産ホップが急激に普及していきました。一番の理由は為替ですね。輸入ホップが高額だったため、大手ビール各社が日本産ホップを作り始めたんです。加えて高度経済成長とともにビールの消費量も伸びて好循環だったんですけど、昭和40年代からは為替が変わり始めちゃって。さらに昭和50年代になると、むしろ国産が高価になって減反政策に転じていきました

 

期待されて入社したと思っていたんですが、実はそうでもなかったんです。輸入ホップのほうが安くて品質も変わらなければ、それに越したことはないですから。私も、より香り高くて生産者さんが収穫しやすいホップに、と品種改良を重ねたんですけど、海外からも良質な品種が続々出てくるんですよ。国際競争力ではなかなか勝機が見出せず、シビアでしたね」(村上さん)

↑1953年から1954年にかけて、キリンビールが伝統的な日本原産ホップ「信州早生」から品種改良して生み出したのが「キリン2号」。その後2015年に名称を変え「IBUKI」となりました

 

フレッシュホップがもたらしたパラダイムシフト

1996年には、研究対象を農作物(植物開発研究所)から醸造(酒類技術研究所)へと移した村上さん。転機となったのは1999年、実験で造った“生ホップ”のビールが放つ香りでした

 

「それはまさに、フレッシュなホップの芳醇な香り。生で使う手法は海外のビールマニアが自家栽培で試していたという噂は聞いていましたが、決して美味しいという話ではなかったと思います。また、ビール醸造の最高学府のひとつである、ドイツ・ミュンヘン工科大学の研究でもフレッシュホップビールのレポートがありましたが、美味しくないという結論だったようなんですね。でも、私が造ったビールは手前味噌ながら美味しくて、香りの善し悪しは品種によるんだなと実感しました」(村上さん)

 

一方、社内では「ホップ臭が強すぎるのでは?」「いや、このホップ香は魅力だ!」と賛否両論。それでも「村上が面白いビールを造ったらしい」という噂は賛同者を増やすことに。そして、当社は難しいと思われていた大量生産のハードルも、仲間の協力でどんどん下がっていったとか。

 

「たとえば、原料調達部がホップ収穫用の巨大なカゴを一生懸命探してくれたり、ホップを凍結粉砕してくれるパートナーを見つけてきてくれたり。工場のメンバーもやる気満々でしたね。特に通常のホップ添加は機械で行うのですが、生のホップは水分が多いので、手作業で巨大な煮沸釜の麦汁に投入しなきゃならないんです。そこは手作業の経験が豊富なベテラン勢が『任せろ!』と中心になって、好意的に取り組んでくれました。とにかく関係者が一丸になって、商品化を阻む課題を一つひとつクリアしてくれて。そうして2002年に発売されたのが『キリン 毱花一番搾り』です」(村上さん)

↑「一番搾り とれたてホップ生ビール」の前身にあたる「キリン 毱花一番搾り」

 

「キリン 毱花一番搾り」のときから、フレッシュホップには遠野産が用いられています。その理由は設備的な環境にあります。東北では秋田の横手などもホップの一大産地ですが、一か所に集めて処理できる大型施設があるのは遠野だけ。フレッシュホップは鮮度が命なだけに、収穫や配送の拠点が点在していては非効率なため、遠野が最も適していたのです。

↑大量のホップを扱うことができる、遠野市農協ホップ加工処理センター

 

収穫時の鮮烈な香りを閉じ込めた「キリン 毱花一番搾り」は大ヒット。2004年からは「一番搾り とれたてホップ生ビール」と名称を変えて、毎年期間限定発売されるように。同時に、この成功事例は社内外に日本産ホップの可能性を知らしめていくきっかけとなりました

 

「たとえば、麦芽をたっぷり使った『キリン秋味』とはまた違う価値ですよね。しかも、それまで主役になることがなかった日本産ホップの、さらには生という新奇性。なおかつ遠野という地域性を前面に出すという。いまでは珍しくありませんが、ホップで稀少性とテロワールをうたう、新しい価値の打ち出し方だったんです。また、生のホップを使う手法は海外でも面白がってもらえました」(村上さん)

 

フレッシュホップを使ったビールが商品化された噂は、やがて海外に伝播。あるとき村上さんは、ドイツの醸造家から「少量のホームブリューイングならまだしも、大量に造って販売するなんて、キリンはクレイジーだね!」と言われたとか。

 

「キリンのなかでも『とれたてホップ』の取り組みがひとつの転換点になったと思いますし、ホップ研究が見直されたきっかけともいえるでしょう。そのあと日本でも少しずつクラフトビールが浸透していって、ホップの重要性も徐々に知られるようになりましたよね。一方で、アメリカをはじめとする海外ではホップ栽培がどんどん盛んになって、品種の数も増えていきました。いまや世界に300種以上もありますから」(村上さん)

 

博士の秘蔵っ子「ムラカミセブン」のデビュー秘話

村上さんが「とれたてホップ」の可能性に気付いてから「キリン 毱花一番搾り」が誕生するまでの間には、もうひとつ大きなティッピングポイントがありました。それが2000年、農学博士号を取得した論文「ホップの品質改良と品種分化に関する育種学的基礎研究」です。そしてこの研究成果が、のちの「ムラカミセブン」誕生へとつながっていくことになるのです。

↑「ホップの品質改良と品種分化に関する育種学的基礎研究」の、最重要ページ

 

「1991年から基礎研究の材料として交配させ、保存していた品種があったんですけど、2000年ごろになると、ホップを管理していた方が高齢のため引退すると。危うく廃棄寸前だったんですけど、ならばと約900あった個体から20種類だけ選別しました。学術的におかしくならないようランダムに抜き取って、それを遠野の隣町にある、キリンが管轄する岩手ホップ管理センターの裏庭に移し替えてね。そしたら、1本目の畝(うね)の7番目にすごく個性的な子がいたんです!」(村上さん)

 

村上さんがその個体を見つけたのは2006年のこと。放つ香りはいちじくやみかんのような、和のニュアンスを漂わせる印象的な果実感。ただ、日本産ホップの生産者が年々減ってくなか、新品種を積極的に開発することは難しいと思い、商品化までは考えていませんでした。

↑「ムラカミセブン」の毬花

 

しかし、2011年に起きた東日本大震災を期に、村上さんが考えた故郷への恩返しが、「とれたてホップ」に続く新品種の商品化でした。当時、醸造研究所の副所長であり、現在はマスターブリュワーとして活躍する田山智広さんに相談したところ「ぜひやろう!」と即決。増産が始まりました。

↑田山智広さん

 

「ムラカミセブン」の「ムラカミ」は、村上さんの苗字から。「セブン」は7番目の個体だったことから、スプリングバレーブルワリー初代社長の和田 徹さんが命名しました。村上さんは「恥ずかしいから別の名前にしません?」と言ったそうですが、「みんなリスペクトしてるんだからさ」となだめられてしぶしぶ納得したそうです。ホップの株はすぐに増えないため約5年の歳月がかかりましたが、2016年に実を結び「MURAKAMI SEVEN Fresh Hop 2016」としてデビューとなりました。

↑「MURAKAMI SEVEN Fresh Hop 2016」。第1回フレッシュホップフェストの店舗限定で提供されました

 

独自の香りが魅力の「ムラカミセブン」ですが、優位性はほかにもあります。それは、少しでも生産者さんの負担を減らしたいという想いから村上さんが研究を重ねていた、収穫のしやすさ。「蔓下げ(つるさげ)」の必要がなく、省労力で単位面積当たりの収穫量が多いという利点があり、日本産ホップのスター品種としても期待されています。

↑2019年には「MURAKAMI SEVEN IPA」が製品化。現在は生産終了していますが、このDNAは「SPRING VALLEY JAPAN ALE<香>」をはじめ多くの銘柄に受け継がれていくでしょう

 

ホップ、ステップ、スウィンギング!

キリン時代は勤務地だった横浜に長年住んでいた村上さんでしたが、定年退職を機に地元の岩手へ戻りジャズ喫茶を開業。学生時代はジャズ系のサークルではなく岩手大学合唱団で活躍していたそうですが、音楽はジャズに傾倒。じつは、岩手県は知る人ぞ知るジャズ喫茶の聖地。一関の「ベイシー」を知らないジャズファンはいないでしょう。

 

「『ベイシー』はいまちょっとお休み中ですけど、最初に行ったときの感動は忘れられません。やっぱり憧れですね。私自身も若いころからジャズのレコードやCDを少しずつ集めていって、気が付いたら数千枚の量になっていました。アンプやスピーカーも、元々持っていたサウンドシステムをこの店に設置しましたから、自分の部屋が引っ越してきたような感じです」(村上さん)

↑ジャズのなかでも好きなジャンルはビッグバンド。特にカウント・ベイシー・オーケストラがお気に入り

 

昔から、「たくさんのレコードや貴重な機材は、浪費じゃなく投資だから」と周囲によく言っていたと村上さんは振り返ります。

 

「でもこの前後輩から『村上さんはいつかジャズが流れるお店をやりたいって話してましたもんね』って言われました。『ああそうだったっけ? じゃあ夢が叶ったんだなぁ』としみじみ思いましたね」(村上さん)

↑「BrewNote遠野」では、もちろんビールも提供。写真は遠野におけるホップ栽培60周年を記念した限定銘柄、遠野麦酒ZUMONAの「IBUKI HOP IPA」800円

 

ホップ研究者として名を残し、ジャズ喫茶のマスターとしての夢を叶えた村上さんですが、まだまだやりたいことは尽きないと笑います。そのひとつが、ホップの名産地である遠野をいっそう盛り上げていくこと。

 

キリンは2015年から「ホップの里からビールの里へ」をスローガンとした遠野活性化の取り組みをスタートしましたが、村上さんはこの活動に協力しています。また、遠野ではさらなるホップの新品種が誕生しており、その開発にももちろん携わっています。地元のブルワリーでは試験醸造も始まっており、商品化もそう遠い話ではないでしょう。

 

遠野は有名観光地や郷土料理が多彩で旅行も楽しく、ふるさと納税の返礼品もビールを筆頭に充実しています。村上マスターに会いに行くもよし。ぜひ今度、訪れてみませんか?

↑「BrewNote遠野」は2020年6月に開業。文化施設「とおの物語の館」の敷地の一角にあり、蔵を改築した風情ある空間となっています

 

【SHOP DATA】

BREW NOTE 遠野

住所:岩手県遠野市中央通り2-11
営業時間:11:00~18:00
休業日:月~金曜
アクセス:JR「遠野駅」徒歩6分

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

酒税法改正でビールがお手頃になるって知ってた? 主役級の注目銘柄をチェック!

麦の酒といえば、価格が手頃になったビールもいまアツい! 背景には2023年10月1日に改正となった酒税法が関係している。では、何がどのようになったのか。概要解説とともに、主役的な銘柄を紹介しよう。

※この記事は「GetNavi」 2023年12月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

海外の成長分野に着目した度数3.5%の冷涼ドライ

アサヒビール
アサヒ スーパードライ ドライクリスタル
実売価格225円

海外市場で成長中のアルコール度数0〜3.5%の飲料に着目し、主力商品「アサヒスーパードライ」の3.5%版を新開発。一部に使用した冷涼感に優れたドイツ産ホップ「ポラリス」が、クリアな味わいを生み出している。

 

糖質とプリン体を70%オフした日本初のWオフビール

サッポロビール
サッポロ生ビール ナナマル
実売価格225円

酒税法改正に加え、コロナ禍を経た健康意識の高まりにも着目して開発。ビールらしい味わいはそのままに、糖質(※1)とプリン体(※2)の70%オフを実現している。糖質とプリン体の2つをオフにした日本初(※3)のビールだ。

※1:日本食品標準成分表2020年版(八訂)による ※2:通年販売している同社缶ビールブランド平均値比(2023年4月時点) ※3:糖質・プリン体2つのオフを訴求する日本初のビール(Mintel GNPDを用いた同社調べ)

 

果実のような香りと豊かに広がる余韻

サントリー
ザ・プレミアム・モルツ〈ジャパニーズエール〉ゴールデンエール
実売価格264円

日本人の嗜好に合う、フルーティな味わいと爽やかな香りが特徴の「ジャパニーズエール」シリーズの新作。「磨きダイヤモンド麦芽」を一部に使うことで、数種類のアロマホップによる果実のようなやわらかな香りが鮮やかに。

 

2つの日本産ホップが香る柑橘感の爽やかなクラフト

キリンビール
スプリングバレーJAPAN ALE<香>
実売価格266円

キリンが注力するクラフトビールブランドの新商品。自社で品種開発した2つの日本産ホップ「MURAKAMI SEVEN」と「IBUKI」を一部に使用し、柑橘を思わせる爽やかな香りが広がるおいしさに仕上げている。

 

初採用のオレンジピールが斬新な酸味と斬新柑橘感を演出

サッポロビール
ヱビス オランジェ
実売価格284円

2023年2月に誕生したヱビスブランドの新ライン「CREATIVE BREW」の新商品。醸造家が徹底的に吟味したオレンジピールに、柑橘のような香りのホップを一部掛け合わせ、オレンジが香る濃厚な味わいに仕上げている。

 

厳選されたホップを採用! その香りはまるで白ワイン

サントリー
ザ・プレミアム・モルツ
ホップセレクト華やぐハラタウブランホップ
実売価格264円

ホップに着目したザ・プレミアム・モルツの限定品「ホップセレクト」シリーズの第2弾。白ワインのような上品な香りが特徴のハラタウブランホップが、華やかな香りと豊かなコクを生み出している。11月14日発売。

 

小麦麦芽のソフトな甘味と軽やかな後口が心地良い

キリンビール
キリン一番搾りやわらか仕立て(期間限定)
実売価格225円

一番搾り製法はそのままに、一部に小麦麦芽を使用。やわらかな甘味と旨味が感じられ、後口は軽やかで爽やかなのが特徴。バランスに優れた、飲みやすい味わいだ。

 

【PICK UP!】 見逃し厳禁! 毎年恒例の季節限定ビール

■11月7日発売

キリンビール
一番搾り とれたてホップ生ビール(期間限定)
実売価格225円

ホップの名産地・岩手県遠野で、今年収穫した生ホップを急速凍結して使用した旬な一本。ビール通が毎年注目する人気商品で、今年で発売20年目。

 

■11月21日発売

サッポロビール
琥珀ヱビスプレミアムアンバー
実売価格265円

通常は飲食店でしか飲めない味を家庭用商品にした特別なヱビス。今作は、麦芽比率を微調整し、より宝石のような琥珀色に仕上げている。

 

価格差という呪縛から解かれてビールに明るい未来が到来する

このムーブメントを大げさにいえば、ビール類における王政復古である。なぜなら、ビール類の中で高価であるがために買い控えられていたビールと、安価でフレンドリーだった発泡酒や新ジャンル(第3のビール)との価格差が狭まってビールが値ごろになるからだ。このビールの低価格化に合わせ、メーカー各社も続々と新商品を投入している。

 

もともと、ビール類のヒエラルキー誕生は約30年前にさかのぼる。1994年にサントリーが発売した「ホップス〈生〉」は、麦芽使用率の割合によって酒税が変わるという法上区分に注目した発泡酒で、安価にビールテイストを楽しめる革命的飲料だった。そこから次々とビール類の発泡酒がデビュー。ただ、2003年に行われた酒税法改正により、発泡酒の税率が引き上げに。そこで新たに生み出された安価なカテゴリーが、新ジャンルだ。第1号商品は同年発売の「サッポロ ドラフトワン」。同商品は麦芽の代わりにえんどう豆由来の素材を使った独自の味わいで、一世を風靡。その後、開発競争が激化し、麦由来のスピリッツで味を整えたリキュールタイプの新ジャンルも登場し、いまに至る。

 

こうした3大区分で価格差があったビール類だが、社会や消費の変化で税収も変わる。そこで新たに酒税法が改正されることとなり、2017年に、2026年の税率一本化をゴールに、段階的な増減税の施行が公布された。ちなみに今回の酒税法改正は段階的措置の2回目となり、初回は2020年10月に行われている。

 

今回の改正で酒税がどう変化したかは左の表のとおりだが、いくつか例を挙げてみよう。350mlのビールであれば1本あたり7円程度安価に。同量の新ジャンルであれば1本10円前後高価になったので、モノによっては約15円ぶんも価格差が狭まったことになる。なお、今回発泡酒の税率は据え置きだが、2026年には酒税が一本化され実質価格差はなくなる。そのときがビール王政の完全復古といえるだろう。今後も新銘柄が続々デビューすることは必至。引き続きビールには注目だ!

 

 

「エール」「ピルスナー」をブレンドした『アサヒ ザ・ダブル』全国のファミマで数量限定発売

アサヒビールはファミリーマートと共同開発したビール『アサヒ ザ・ダブル』を、全国のファミリーマートの酒類取扱店で10月24日から数量限定で発売。

 

 

『アサヒ ザ・ダブル』は、“華やかな香りが際立つエールタイプ”と“コク・キレのバランスが良いピルスナータイプ”の2種類のビールをブレンドした商品。コクと香りが調和したブレンドならではの味わいが楽しめます。

 

『アサヒ ザ・ダブル』は、アサヒビールとファミリーマートの共同開発商品として2018年から数量限定で発売。2023年10月の酒税税率改正で減税となり需要が高まっているビール市場において、“期待を超えるおいしさ、楽しい生活文化の創造”を目指しています。

 

・メーカー:アサヒビール

・商品名:アサヒ ザ・ダブル

・価格:350ml 204円(税別)/500ml 266円(税別)

 

国産ホップを100%使用した「サッポロNIPPON HOP 奇跡のホップ フラノマジカル」 数量限定発売

サッポロビールは、「サッポロ NIPPON HOP 奇跡のホップ フラノマジカル」を11月28日に全国で数量限定発売。

 

 

 

「サッポロ NIPPON HOP 奇跡のホップ フラノマジカル」は、北海道上富良野でホップの試験栽培を開始してから2023年で100周年を迎えることを記念して展開している、国産ホップを100%使用したサッポロNIPPON HOP(ニッポンホップ)シリーズの第4弾。

 

「フラノマジカル」はその名の通り、魔法のような鮮烈なトロピカルな香りが特長で、フルーティーな香りをもたらす成分の一つが世界最高レベル(注1)で含まれており、これまでの国産ホップの中でも極めて特長的な香りを持つ希少ホップ品種です。1990年代に選別の過程で一度落選していましたが、時代の移り変わりとともに、ホップの苦みだけでなく香りも重視されるようになり、その魅力的な香りとともに再発見されたストーリーを持つ奇跡のホップです。

 

「サッポロ NIPPON HOP 奇跡のホップ フラノマジカル」は国産ホップ100%のうち、香りづけに上富良野産フラノマジカルを一部使用しており、魔法のように華やかさあふれる香りを感じられる味わいが特長です。

(注1)文献「Development of a flavor hop (Humulus lupulus L.) cultivar,‘Furano Magical’,with cones rich in 4‐methyl‐4‐sulfunylpentan‐2‐one」において(2023年6月現在)

 

・メーカー:サッポロビール
・商品名:サッポロ NIPPON HOP 奇跡のホップ フラノマジカル
・参考小売価格:オープン価格

 

香りを楽しむ大人向けビール『アサヒ ザ・アロマイスト』「ASAHI Happy Project」にて11月20日まで限定発売

アサヒビールは、華やかな香りが特長のビール『アサヒ ザ・アロマイスト』(缶350ml×6本)を新商品のテスト販売サイト「ASAHI Happy Project」において1000セット限定で発売。

 

『アサヒ ザ・アロマイスト』は、上面発酵酵母と欧州産希少ホップ「カリスタ」を使用することで、華やかな香りが特長のビール。コリアンダーシード由来のスパイスを加えることで、すっきりとした爽やかな味わいに仕上げている。

 

「ASAHI Happy Project」は新商品を数量限定でテスト販売し、魅力的に思える商品の開発を目指すためのWEBサイト。購入者が商品の味やパッケージに関するアンケートに答えることで、顧客のニーズを把握し、今後の商品開発に生かしていく。

 

・メーカー:アサヒビール
・商品名:アサヒ ザ・アロマイスト
・発売品種:缶350ml×6本
・販売数量:1000セット(1セットあたり缶350ml×6本)
・販売期間:2023年10月2日(月)10:00〜2023年11月20日(月)17:00
・価格:2310円(税込・送料込)

ビールにおける“ホップ”の重要性は増しているのに…生産量半減の危機に瀕する国産ホップの今と解決への道筋は?

2023年10月に施行された酒税法改正からの値下げで盛り上がるビールの市場。そのビールの味を左右する原材料のひとつが、ホップです。ただ、このホップについてはよく知らない人も多いでしょう。そこで、今回はホップの種類や生産方法、日本の主な産地、国内ビールメーカー各社の取り組み、最新トレンドなどを解説していきます。

↑ホップはアサ科カラハナソウ属の多年草で、ハーブの一種。殺菌効果があるため、日本ではのど飴などにも活用されています。また、ユニークな例では今秋マクドナルドが限定発売した「N.Y.バーガーズ」のバンズにも

 

香りや苦みを生み、腐敗から守るハーブがホップ

ホップの原産地は西アジアだとされますが、ヨーロッパに伝来したのは8世紀半ば。ただ、この時点では栽培だけだったようで、ビールに使用したという正確な記録は残っていません。

↑毬花と、それをむいた根本。黄色い粒状の樹脂が、ビールの苦味や香りの元になる成分を含む「ルプリン」です

 

ビールの誕生は紀元前数千年までさかのぼるといわれ、ホップの登場前からビールには、「グルート」と呼ばれる調合したハーブが香り付けに使われていました。ホップを使ったビールの記録として有名なのは、12世紀初頭の修道院における書物。少なくともこの時代には、ホップがビールに使われるようになっていたといえるでしょう。

↑より有名な文献が、1516年にドイツで制定された『ビール純粋令』。「ビールは、麦芽、ホップ、水、酵母のみを原料とする」という法律で、日本でこの純粋令に則った代表的な銘柄がヱビスビールです

ホップを使う理由は、果実や香草を思わせる芳香や爽快な苦みをまとわせるため。また、泡立ちを良くしたり、菌の繁殖を抑える防腐剤としても重宝されます。

 

後者の“腐敗を防ぐ”目的に起因して生まれた有名なビアスタイルが、苦みの強い「IPA(インディア・ペールエール)」。18世紀にイギリスからインドまでペールエールを運ぶ際、腐らないようホップを大量に使って仕込んだことから生まれたとか。

↑イギリスで生まれた進化型IPAの代表格が、ブリュードッグ「パンクIPA」。日本で紹介された当初は、一般的なIPAで使うホップの40倍以上の量を使うことが謳い文句でした

 

代表的なホップ品種や日本の取り組みを解説

個性的な香りや苦みを放つIPAは、やがてアメリカで大ブレイク。これが近年のクラフトビールムーブメントのきっかけになり、アメリカを中心に世界中でホップの品種開発も盛んになります。

↑米国NY発のカリスマ、ブルックリンブルワリーのIPAといえば「ブルックリンディフェンダーIPA」。ホップには「Cascade(カスケード)」や「Simcoe(シムコー)」「Amarillo(アマリロ)」などが使われています

そのため、クラフトビール界におけるスターホップもアメリカ産が多め。特に有名なのは、「3C」と呼ばれる「Cascade」「Centennial(センテニアル)」「Columbus(コロンブス)」(あるいは「Chinook・チヌーク)」と頭文字に「C」が付く3品種。グレープフルーツを思わせる柑橘系のアロマとビターな刺激が特徴です。

 

一方で、日本におけるホップ生産は後継者不足などによって栽培面積や収穫量が減少しています(2008年→2022年の14年間でおよそ半数以下に)。ただ、ビールメーカーのCSV活動や、近年のクラフトビール人気にともない、造り手が地元産にこだわった「テロワール型ホップ」(筆者による造語)の需要増によって巻き返しがはかられている側面も。

↑キリンビールは2007年から、ホップ名産地である岩手県遠野市を支援。生産者をはじめ、国産ホップを盛り上げる取り組みに力を入れています。加えて、遠野産ホップを使った「一番搾り とれたてホップ生ビール」は2004年から毎年期間限定で販売

また、近年はフレッシュホップ(乾燥させ固めたペレットホップではなく、毬花<きゅうか・まりばな>を生もしくは冷凍させたホップ)を使ったビール造りが年々盛んになっているうえ、「フレッシュホップフェスト」という祭典も開催されています。

↑「フレッシュホップフェスト 2019」のキックオフイベントにて。ホップは8月末~9月が収穫期となるため、イベントはそこから仕込みなどを経て例年秋に開催されます

同イベントは2023年から「クラフトビール ジャパンホップフェスト」に改称され、メインイベントは代官山の「スプリングバレーブルワリー東京」で10月21日、22日に開催されます。

↑「クラフトビール ジャパンホップフェスト 2023」は9月1日~11月30日で開催しており、イベントは代官山で開催(写真は提供されるビールと料理の一例)

 

世界に存在するホップは300品種超

なお、世界中のホップ品種は300を超えるといわれており、日本原産のホップも存在します。伝統的な品種には「信州早生(しんしゅうわせ)」や「かいこがね(甲斐黄金)」があり、遠野では「信州早生」から派生した2種を組み合わせた「IBUKI」や、キリンビールOBのホップ博士・村上敦司さんが育種した「MURAKAMI SEVEN」が多く作られています。そして、世界的にも有名で個性的な日本原産ホップといえば「ソラチエース」。

↑前述のブルックリンブルワリーが惚れ込み商品化した「ブルックリンソラチエース」と、「ソラチエース」の生みの親である、サッポロビールの「SORACHI 1984」

 

日本産ホップに共通する香りの特性は、上品でどこかオリエンタルなニュアンスをもっていること。米国産を代表するホップのような派手さは控えつつも、いぶし銀的な香りを放ち、例えば「MURAKAMI SEVEN」には温州みかんのように和やかな柑橘香が、「ソラチエース」には、ひのきやレモングラスを思わせる個性があります。

 

トレンドは「日本産」や「フレッシュホップ」だが……

ビール大手メーカーでは前述したキリンビールとサッポロビールのほか、アサヒビール、サントリー、オリオンビールもホップ生産や支援を行っており、規模の大小はあるものの北海道から沖縄まで栽培自体は行われています。ホップ栽培は雨の少ない冷涼な気候が適しているといわれますが、沖縄での初収穫は2022年のことであり、多方面での可能性が期待されているといえるでしょう。

 

また、東京では武蔵野市や三鷹市、神奈川では横浜、川崎、湘南など首都圏の都市部でも、小規模ながらホップ栽培は拡大中。これらは主に、マイクロクラフトブルワリーの「テロワール型ホップ」にかける情熱から取り組まれているものですが、ホップは身近な存在になってきているのです。

↑ビアジャーナリスト協会代表であり、現在は京都府与謝野町に移住しホップ栽培にも尽力する藤原ヒロユキさん。西日本でテロワール型ホップ文化を牽引するひとりです

 

日本におけるクラフトブルワリーは年々増えており、その数はこの10年で約3.5倍の700か所以上に。付随してホップ栽培の熱も高まっており、「クラフトビール ジャパンホップフェスト」のイベントにおいても、参加ブルワリーは初回(2015年に開催された「第0回フレッシュホップフェスト」)の12ブルワリーから、2023年は20ブルワリーに増えています。

↑「クラフトビール ジャパンホップフェスト 2023」の代官山会場で提供されるビール一例。ブルワリーもビアスタイルも様々です

 

このように、ホップの主要なトレンドは「日本産」や「フレッシュホップ」であるといえるでしょう。とはいえ、まだまだ国産ホップの未来が明るいとは言い切れません。飲み手である私たちができることのひとつは、日本のホップを知って愛してビールを飲んだり、生産者を応援したりすることだと思います。

↑こちらは2022年版の「一番搾り とれたてホップ生ビール」。2023年版は11月7日から期間限定発売されます

 

何はともあれ、フレッシュホップを使ったビールはいまが旬! 缶ビール以外にも、瓶やクラフトビアバーにおける樽生で味わえる場合もあるので、ぜひこの機会にチェックしてみてください。

 

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プレモルの”ホップセレクト”第二弾「華やぐハラタウブランホップ」数量限定新発売

サントリーは、「ザ・プレミアム・モルツ ホップセレクト 華やぐハラタウブランホップ」を11月14日から数量限定新発売。

 

「ザ・プレミアム・モルツ」は、高品質で香り高い欧州産ファインアロマホップの使用や天然水醸造など、素材・製法に徹底的にこだわっています。2023年2月には時代に合わせた“新プレミアム創造”を目指し、中味・パッケージを刷新。「磨きダイヤモンド麦芽※」を一部使用することで、“華やかな香り”“深いコク”がより上質に、一層鮮やかに進化しました。

※穀皮を除去し、コクに寄与するたんぱく質を多く含むダイヤモンド麦芽

 

今回の「ザ・プレミアム・モルツ ホップセレクト 華やぐハラタウブランホップ」は、9月に発売した「ザ・プレミアム・モルツ ホップセレクト 清らかダイヤモンドホップ」に続き、香りに注目。白ワインのような香りが特長の“ハラタウブランホップ”を使用することで、気品のある華やかな香りと豊かなコクを楽しめる中味に仕上がっています。

 

■メーカー:サントリー
■商品名:ザ・プレミアム・モルツ ホップセレクト 華やぐハラタウブランホップ
■商品価格:オープン価格

【特集】この秋はビールに大注目! 酒税法改正の解説から各社の新商品をピックアップ

2023年で最も注目度の高いお酒カテゴリーは、断然ビール。なぜなら、10月に酒税法が改正され、ビールが実質安くなるから。では何がどう変わるのか? また、各社最新商品の味わいと飲みごたえにも迫っていきます。

 

【特集】酒税法改正で注目度アップ。今こそ、ビールが飲みたい!

 

酒税法改正でなにが変わるの?

2023年9月30日までは、ビールが70円、発泡酒は46.99円、新ジャンルは37.8円(すべて350mlの場合)の酒税がかかりました。それが2023年10月1日からビールは63.35円と減税、発泡酒は46.99円で据え置き、新ジャンルは46.99円と増税に。発泡酒と新ジャンルは同一の酒税になるとともに、ビールとの価格差が狭まるのです。

 

これによって店頭における各社ビール(プレミアムではないタイプ)の想定価格は、350ml缶が225円前後、500ml缶は293円前後になるとみられています。コンビニでは現状、350ml缶が230円前後、500ml缶が300円前後なので、たしかにビールの減税分(70円→63.35円)程度は安くなるといえるでしょう。

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10月以降のビールは酒税法改正でこうなる! 大手の全新作と戦略を解説

 

新発売6商品を一挙に飲み比べ!

大手ビールメーカー各社が同タイミングで新発売する旬な6銘柄を、フードアナリストが一挙にテイスティング。ぜひ、購入する際の参考にしてください。

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酒税法改正後の新作ビールはここに注目!フードアナリストが6商品をレビュー

 

ここからは、各社が注力する10月以降の新商品を紹介してきます!

 

アサヒ「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」

10月11日、アサヒビールは、「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」を発売。価格はオープン。

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キリン「キリン一番搾り やわらか仕立て」

10月10日、キリンビールは「キリン一番搾り生ビール」ブランドから、「キリン一番搾り やわらか仕立て(期間限定)」を期間限定で全国発売。価格はオープン。

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サントリー「パーフェクトサントリービール〈黒〉」

サントリーは、糖質ゼロ黒ビール「パーフェクトサントリービール〈黒〉」を10月3日から数量限定で新発売します。価格はオープン。

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「糖質ゼロの黒ビール」が数量限定で登場! サントリー「パーフェクトサントリービール〈黒〉」

 

サッポロ「サッポロ生ビール ナナマル」

10月17日、サッポロビールは、糖質・プリン体70%オフの生ビール「サッポロ生ビール ナナマル」を発売。価格はオープン。

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糖質・プリン体70%オフの「生ビール」ついに登場! ビールならではの飲みごたえが楽しめる「サッポロ生ビール ナナマル」

 

キリン「SPRING VALLEY JAPAN ALE<香>」

10月24日に、クラフトビールブランドである「SPRING VALLEY(スプリングバレー)」から、「SPRING VALLEY JAPAN ALE<香>」缶商品(350ml缶、500ml缶)が新発売。価格は350ml缶が242円(税別)、500ml缶が321円(税別)。

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サッポロビール「サッポロ NIPPON HOP 奇跡のホップ フラノマジカル」

サッポロビールは、「サッポロ NIPPON HOP 奇跡のホップ フラノマジカル」を11月28日に全国で数量限定発売。価格はオープン。

 

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アサヒビール「アサヒ ザ・アロマイスト」

アサヒビールは、華やかな香りが特長のビール『アサヒ ザ・アロマイスト』(缶350ml×6本)を新商品のテスト販売サイト「ASAHI Happy Project」において11月20日まで1000セット限定で発売。価格:2310円(税込・送料込)。

 

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サントリー「ザ・プレミアム・モルツ ホップセレクト 華やぐハラタウブランホップ」

サントリーは、「ザ・プレミアム・モルツ ホップセレクト 華やぐハラタウブランホップ」を11月14日から数量限定新発売。価格はオープン。

 

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「ヱビス オランジェ」

10月11日に期間限定で、ヱビスブランドの新ライン「CREATIVE BREW」第2弾商品である「ヱビス オランジェ」の缶商品を期間限定で、びん・樽商品を同日に数量限定で発売。価格は350ml缶が258円(税抜)、500mlびんが355円(税抜)。

 

サントリー「ザ・プレミアム・モルツ 〈ジャパニーズエール〉ゴールデンエール」

10月17日、サントリーは、「ザ・プレミアム・モルツ 〈ジャパニーズエール〉ゴールデンエール」を数量限定で新発売。価格はオープン。

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酒税法改正後の新作ビールはここに注目!フードアナリストが6商品をレビュー

2023年10月1日、3年ぶりの酒税法改正でビール飲料、「ビール」「発泡酒」「新ジャンル(第三のビール)」の価格差がいっそう小さくなりました。何がどうなったのかという詳細は先日公開した記事を読んでいただきたいところですが、この記事では大手ビールメーカー各社が同タイミングで新発売する旬な6銘柄を、一挙にテイスティング。ぜひ、購入する際の参考にしてください。

 

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10月以降のビールは酒税法改正でこうなる! 大手の全新作と戦略を解説

↑アサヒ、キリン、サッポロ、サントリーの新作6商品。特徴を解説しながら1本ずつテイスティング、レビューしていきます

 

サントリーの「PSB黒」は香りもコクも十分なウマさ

発売日順に紹介していきましょう。まずは10月3日発売の、サントリー「パーフェクトサントリービール〈黒〉」から。こちらは、2021年4月にデビューした「パーフェクトサントリービール」(しばしばPSBと略されます)の黒ビール版。“日本初の糖質ゼロ黒ビール”をうたう限定品で、黒ビールに期待される飲みごたえを叶えるべく、麦芽とホップの配合や醸造条件にこだわったそうです。

↑サントリー「パーフェクトサントリービール〈黒〉」は10月3日発売。アルコール度数は5%で、コンビニ実勢価格は税込211円(ライター調べ/以下同)

 

香りは糖質ありの黒ビールそのもの。ロースト麦芽の香ばしさとコク、甘みも十分にあって、糖質ゼロの違和感はありません。ライトテイストではありますが、軽快な味はキレや爽快感につながっていて、PSBのファンなら大歓迎なおいしさだと思います。

↑泡のボリュームは糖質ありのビールよりもおとなしめですが、許容範囲でしょう

 

なお、通常のPSBはアルコール度数5.5%で黒は5%ですが、同ブランドらしい飲みごたえは共通。黒ビールが好きな人の、新たな選択肢といえるでしょう。

 

キリン一番搾りの「やわらか仕立て」は麦汁の甘みが豊か

キリンビールの新作は2銘柄あり、まず紹介するのは「キリン一番搾り やわらか仕立て」。おなじみ「キリン一番搾り」のエクステンションとなり、数年前に発売された「一番搾り 小麦のうまみ」を進化させた商品です。

↑「キリン一番搾り やわらか仕立て」は10月10日より限定発売。アルコール度数は5%で、想定価格は225円前後

 

特徴は、原材料の一部に小麦麦芽を使っていること。小麦麦芽は「白ビール」といわれるビアスタイルに頻用されますが、その特徴はやわらかな飲み口や甘み。「キリン一番搾り やわらか仕立て」では一部使用に留まりますが、まろやかさや甘やかなうまみは確かに豊かで、泡もクリーミー。それでいて一番搾りらしさも感じるハイクオリティな仕上がりです。

↑苦味は控えめな印象で、そのぶんいっそう甘みが豊か。ほんのり酸味も感じ、ちょっとユニークな表現をするなら、ファンタジックな味わいです

 

特に小麦の甘みが相まって、「キリン一番搾り」ブランド最大のウリである麦汁のうまみがたっぷり。それでいて後口は軽やかで、好バランスな飲みやすいビールだといえるでしょう。

 

アサヒの「ドライクリスタル」は繊細ながら芯のある爽快感

アサヒもビッグネームのエクステンションで真っ向勝負。海外の酒類市場で伸長しているアルコール度数0~3.5%のカテゴリーに着目した、「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」を発売します。

↑「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」は10月11日発売。アルコール度数は3.5%で、想定価格は225円前後

 

その特徴は、アルコール度数3.5%のライトなボディと、冷涼感に優れたドイツ産ホップ「ポラリス」の一部使用。飲んだ第一印象は、「ゴクゴクッ……プハァッ」がよく似合うシャキシャキの爽快感。繊細な味わいながら、麦のうまみや苦みといった味の芯はあり、欧米やアジア圏の低アルライトビールとの違いも、この“大和魂”にあると感じました。

↑パッケージ下部には赤く「MID ALCOHOL」のアイコンが。上部のプルタブが赤いのも特徴です

 

「アサヒスーパードライ」ブランド特有の辛口な味わいやシャープなキレもあり、食事とも幅広く合いそう。ドライ党の人はぜひお試しを。

 

「ヱビスオランジェ」は明るい甘みとソフトな酸味が上品

ヱビスはサッポロビールが手掛けるブランドですが、その新しいラインが「CREATIVE BREW」。2023年2月に発売された第1弾の「ヱビス ニューオリジン」に続く「ヱビス オランジェ」が、今秋デビューします。

↑「ヱビス オランジェ」は10月11日発売。アルコール度数は6%で、参考小売価格は税別258円

 

一番の特徴は、オレンジピールを使っていること。ヱビスはドイツのビール純粋令にある「麦芽、ホップ、水、酵母のみを原料とする」に則るブランドですが、「CREATIVE BREW」では純粋令にとらわれず冒険していくということでしょう。小麦麦芽も使っており、明るい甘みとやわらかな酸味が上品に華やぎます。

↑白ビール系の淡いカラーかと思いきや、やや赤みのあるアンバー。このクリエイティブな独創性、好きです!

 

オレンジピールはベルギーで有名な白ビールに欠かせない素材ですが、「ヱビス オランジェ」は白ビールとはかなり違う方向性。味わいにもどっしりとしたうまみとコクがふくよかに感じられ、ヱビスらしさもしっかり。この個性は、クラフトビールファンにもオススメです。

 

サッポロの「ナナマル」はたくましさがある“細マッチョ”な味

次もサッポロの冒険心あふれる新作、「サッポロ生ビール ナナマル」です。特徴は、糖質とプリン体の70%オフ。こういった機能系は発泡酒や新ジャンルでは珍しくなかったのですが、実はビールでは存在しませんでした。ということで本商品は、糖質とプリン体の2つのオフを訴求する日本初のビールです。

↑「サッポロ生ビール ナナマル」は10月17日発売。アルコール度数は5%で、想定価格は225円前後

 

味を表現するなら細マッチョ、といったところ。すっきりしていながらもたくましく、うまみやコクもガリガリにそぎ落とされてはいません。苦味、キレ、爽快感もしっかり主張し、飲みごたえも十分です。

↑健康も意識しつつ、ビールのおいしさも楽しみたいというオフ系ユーザーのニーズを想定した「サッポロ生ビール ナナマル」。決してニッチではないでしょう

 

ありそうでなかった、オフで提案するビール。選択肢の幅が広がって、消費者にとってはうれしいところです。ぜひ、糖質ゼロのビールとも飲み比べてみてください。

 

キリンのクラフトビールは絶妙なビター感と温かみのある柑橘感

ラストはキリンが手掛けるクラフトビールブランド「スプリングバレー」の新作「SPRING VALLEY JAPAN ALE<香>」。自社で品種開発した2つの日本産ホップ「MURAKAMI SEVEN」と「IBUKI」を一部使い、柑橘を思わせる爽やかな香りが広がる味に仕上げています。

↑「SPRING VALLEY JAPAN ALE<香>」は10月24日発売。アルコール度数は6%で、参考小売価格は税別242円

 

どっしりとしたコクの先に広がる、甘さを含んだ酸味とやわらかい口当たり。ホップの苦味は爽やかな余韻を生み、柑橘のニュアンスはみかんやオレンジといった温かみのある方向性です。

↑<香>とあるように、ぜひグラスに注いで香りを楽しみましょう

 

ホップの生かし方はさすがにクラフトビール。アロマティックな香りに加え、ビターなエッジがしっかりありつつ、やりすぎない絶妙な苦さもいいですね。クラフトビールとしては価格も値ごろであり、入門にもオススメです。

 

食の秋だからこそ旬なビールを楽しもう

6本の新作ビールを紹介しましたが、どれも似たような味のビールではなく個性がバラバラなのも面白いところです。グルメの秋、ぜひ晩酌やパーティーでご馳走と一緒に、旬のビールを楽しんでください!

 


【特集】酒税法改正で注目度アップ。今こそ、ビールが飲みたい!

「J-CRAFT HOPPING」限定醸造のセッションIPA新発売!白ぶどうのような香りが特徴

三菱食品は、華やかなホップの香りと苦味のバランスが魅力のIPAスタイルを専門に展開する「J-CRAFT HOPPINGシリーズ」より、限定醸造として「J-CRAFT HOPPING セッションIPA」を10月17日(火)から全国発売します。

希少ホップ“ネルソンソーヴィン”を使用した軽やかなビール!

「J-CRAFT HOPPING」は、コーディネーターの田嶋伸浩氏と、ソムリエと利き酒師の資格を持つ三菱食品社員がデザインしプロデュースした、個性的なビールを創るブランドです。クラフトビールのおいしさをもっと身近にしたいと、味のイノベーションが盛んに行われているIPAに注目。ホップの香りを重視し、口から鼻に抜ける、“鼻ごし”の心地よい香りを表現しました。

 

10月17日(火)に発売する「セッションIPA」は、ニュージーランド生まれの希少ホップ、ネルソンソーヴィンを使用し、アルコール度数4.5%に仕上げた軽やかでドリンカブルな限定醸造のIPAです。HOPPINGらしく個性がありながらも、フルーティで飲み続けられる味が魅力です。

 

■IPAスタイル
India Pale Aleの略。18世紀末、インドがイギリスの植民地だったころ、インドにペールエールを送るためにつくられたレシピ。海上輸送中に傷まないよう、防腐剤でもあるホップを大量に投入したため香りと苦みが非常に強いですが、その味と香りが評判になり確立されたスタイルです。現在はさらに進化中。

 

■セッションIPA 
爽やかな香りのホップを使用しアルコール度数を抑えて飲みやすくしたIPAとして近年、セッションIPAがアメリカで着目されています。“drinking session=飲み会”から名付けられたビアスタイルで、飲み会中、飲み飽きることなくずっと飲んでいられるビールが由来とされています。

 

■メーカー:三菱食品
■商品名 :「J-CRAFT HOPPING セッションIPA」
■希望小売価格 :330円(税抜)

サッポロビールがオレンジ香る濃厚な「ヱビス オランジェ」期間限定で発売

サッポロビールは、ヱビスブランドの新ライン「CREATIVE BREW」第2弾商品である「ヱビス オランジェ」の缶商品を10月11日に期間限定で、びん・樽商品を同日に数量限定で発売します。

 

「CREATIVE BREW」は、「つくろう、驚きを、何度でも。」を合言葉に掲げ、ヱビスで100年培ってきた技術と知見を活かしながらこれまでのビールの概念にとらわれない新たなビールのおいしさや楽しさに挑戦していくヱビスブランドの新ラインです。「CREATIVE BREW」の商品開発を担うのは、2024年4月開業予定の「YEBISU BREWERY TOKYO」で醸造を担当するChief Experience Brewerの有友 亮太(ありとも りょうた)です。若手醸造家ならではの感性や現代の製法や技術を取り入れながら、お客様に驚きを届け、新たな幸せ時間を創造していくことを目指し、ヱビスならではの上質なおいしさ、そして、独創的な商品をご提案していきます。

 

「CREATIVE BREW」の第2弾となる本商品は、ヱビスブランド130年以上の歴史の中で初めて「オレンジピール」に着目しました。徹底的に吟味したオレンジピールに、柑橘のような香りのホップを一部掛け合わせて実現した、これまでにない、オレンジ香る濃厚な味わいのヱビスです。ヱビスの香りとコクをより一層増幅させた、新たなおいしさのヱビスで、幸せなひとときを彩ります。

 

■メーカー:サッポロビール
■商品名:ヱビス オランジェ
■参考小売価格
・350ml缶:258円/本(税抜)
・500mlびん:355円/本(税抜)

 

10月以降のビールは酒税法改正でこうなる! 大手の全新作と戦略を解説

2023年で最も注目度の高いお酒カテゴリーは、断然ビール。なぜなら、10月に酒税法が改正され、ビールが実質安くなるから。では何がどう変わるのか? その解説に加え、大手メーカーの新作と各社の動向をレポート。また、話題を呼んだアサヒビールの「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」ほか、大手ビールメーカー4社の新作も紹介します。

 

ビールは安く、新ジャンルは高くなる……その価格差を解説

まずは酒税法改正について。ビール飲料は麦芽比率や原材料などの違いで「ビール」「発泡酒」「新ジャンル(第三のビール)」と分けられているのは周知の通り。

 

おさらいしましょう。麦芽比率に関しては、概要として50%以上ならビール、50%未満であれば発泡酒。新ジャンルには「その他の醸造酒(発泡性)」と「リキュール(発泡性)」があり、前者は麦芽を使わずホップや穀類を発酵させたビールテイスト飲料、後者は発泡酒に麦由来のスピリッツを加えたビールテイスト飲料のことを指します。

 

それぞれに価格差もありますが、その差を生む要因のひとつが酒税です。

↑2023年9月、都内のコンビニにて

 

2023年9月30日までは、ビールが70円、発泡酒は46.99円、新ジャンルは37.8円(すべて350mlの場合)の酒税がかかります。それが2023年10月1日からビールは63.35円と減税、発泡酒は46.99円で据え置き、新ジャンルは46.99円と増税に。発泡酒と新ジャンルは同一の酒税になるとともに、ビールとの価格差が狭まるのです。

 

なお、最終的に2026年10月には全ビール類の税率が54.25円に一本化され、RTD(チューハイなど)は現状28円ですが2026年10月には35円となる予定です。

 

↑アサヒビールの資料より

 

これによって店頭における各社ビール(プレミアムではないタイプ)の想定価格は、350ml缶が225円前後、500ml缶は293円前後になるとみられています。コンビニでは現状、350ml缶が230円前後、500ml缶が300円前後なので、たしかにビールの減税分(70円→63.35円)程度は安くなるといえるでしょう。

 

↑酒税改正は段階的に行われており今回は2回目。前回は2020年10月で、そのタイミングで世に出た斬新なビールが「キリン一番搾り 糖質0」です

 

一方で、逆風にさらされるのが新ジャンル。こちらはコンビニで現状、350ml缶が170円前後、500ml缶は240円前後ですが、10月以降はそれぞれ10円近く値上がるとみられています、この点を踏まえて先手を打ったのがイオングループです。

↑イオングループが3月に新発売した発泡酒「トップバリュベストプライス バーリアルグラン」。製造はキリンビールが継続して手掛けています

 

同社では今春、PB(プライベートブランド)だった新ジャンル(第三のビール)の「トップバリュ バーリアル」を終売し、原材料を大きく変えて、発泡酒の「トップバリュベストプライス バーリアルグラン」を発売しました。この刷新に伴い売価も30円近く上がりましたが、なんと発売3か月で5000万本を突破し、「バーリアル」の2倍近く売れているとか。

↑都内のまいばすけっとにて(2023年9月)

 

刷新にあたって、原材料としては「大麦スピリッツ」を使わなくなったことで新ジャンル(第三のビール)から発泡酒になったのだと推測できます。新ジャンル(第三のビール)のままでは10月に少なからず値上げせざるを得ない状況になりますから、30円値上がりしたとはいえ、イオングループの先手は功を奏したといえるかもしれません。

 

ここからは、ビール大手4社の秋冬動向を、最も早く会見を行ったサントリーから順に紹介していきましょう。

 

■ サントリーからは日本初の“糖質ゼロ黒ビール”がデビュー

サントリーは、10月の酒税に先んじて4月4日新発売の「サントリー生ビール」を積極展開し、スタンダードビールの存在感を高めていました。なお、同商品の販売へ集中するために終売となったのが「ザ・モルツ」です。

↑缶が終売となった「ザ・モルツ」(左)と「サントリー生ビール」(右)。「サントリー生ビール」は発売3か月で200万ケースを突破し、2023年の販売計画を400万ケースに上方修正しています

 

そのうえで注力するのが、限定品によるトライアルの最大化と、業務用での飲用接点強化。特に注目の新商品は、“日本初の糖質ゼロ黒ビール”をうたう限定発売の「パーフェクトサントリービール〈黒〉」です。黒ビールに期待される飲みごたえを叶えるべく、麦芽とホップの配合や醸造条件にこだわったとのこと。

サントリー
パーフェクトサントリービール〈黒〉
10月3日より限定発売

 

なお、業務用の戦略については、来春「サントリー生ビール」を瓶と樽で発売することが発表されました。また、ここまで述べたように10月の酒税改正でビールに追い風が吹きますが、見逃せないのが直前に起こるであろう新ジャンル(第三のビール)の駆け込み需要。

↑サントリーの新ジャンルといえば「金麦」。四季に合わせた味わいに整えている定番(左から2番目)があったり、季節限定のエクステンション(右端)を発売したり、独自のブランディングも特徴です

 

同社では、新ジャンル(第三のビール)のなかでは「金麦」は好調(2023年1~7月で101%)であることから、10月以降も継続して「金麦」の販促をしっかり行っていくとのことです。

 

サッポロは70%オフと大胆なヱビス戦略がアツい!

サッポロビールは、酒税改正に加えてコロナ禍を経た健康意識の高まりにも着目。そこで新たに開発したのが、糖質とプリン体70%オフを実現した「サッポロ生ビール ナナマル」です。これは、日本初の糖質とプリン体、2つのオフを訴求するビール。

サッポロビール
サッポロ生ビール ナナマル
10月17日発売

 

ゼロではなく70%オフで開発した理由は、消費者のニーズに差があるとみているから。ゼロ系ユーザーは、味わいと同等かそれ以上に健康や数値的なものを重視する一方、オフ系ユーザーは健康も意識しつつ、ビールのおいしさも楽しみたいというニーズをもっていると推測。「サッポロ生ビール ナナマル」は、後者のオフ系ユーザーを狙った商品であるとのことです。

 

また同社の注目新作ビールにはもうひとつ、10月11日発売の「ヱビス オランジェ」があります。こちらは2023年2月に発売された「ヱビス ニューオリジン」に続く、ヱビスブランドの新ライン「CREATIVE BREW」の第2弾となります。

サッポロビール
ヱビス オランジェ
350ml:258円/500ml:355円(税別)
10月11日発売

 

「CREATIVE BREW」は、長年ヱビスで培ってきた技術と知見を活かしながらも、これまでのビールの概念にとらわれない新たなビールのおいしさや楽しさに挑戦していくことがテーマ。「ヱビス オランジェ」では初めてオレンジピールに着目してホップと掛け合わせ、オレンジが香る濃厚な味わいに。ある意味、クラフトビール的なポジションともいえるでしょう。

 

ヱビスなのでプレミアムカテゴリーとなり、こちらは参考小売価格も発表。350ml缶は258円、500ml瓶が355円(ともに税別)です。

今後のブランド展開としては、2024年4月開業となる「ヱビス ブルワリー トウキョウ」にも注目。「ヱビス ブルワリー トウキョウ」では35年ぶりに恵比寿の地でビール造りが再開され、醸造設備やミュージアムの見学に加え、タップルームでここだけのビール「ヱビス インフィニティ」を飲むことも。ヱビスブランドの動向からも目が離せません!

↑2024年4月開業となる「ヱビス ブルワリー トウキョウ」。場所は現在のヱビスビール記念館

 

アサヒはアルコール3.5%の“逆輸入ドライ”でトライ!

アサヒビールが新たに着目したのは、グローバル市場の成長分野であるアルコール度数0~3.5%の飲料。同社ではこれを「ミドルレンジアルコール」とし、10月11日にアルコール度数3.5%の「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」を発売します。

アサヒビール
アサヒスーパードライ ドライクリスタル
10月11日発売

 

「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」の味わい特徴は、冷涼感に優れたドイツ産ホップ「ポラリス」を一部使用するとともに、通常の「スーパードライ」よりも発酵度を上げることで実現した、透明感と本格的な飲みごたえ。

 

2020年からアルコール度数4%のビール「アサヒスーパードライ ザ・クール」も発売されており、他社では2018年に「サントリー ザ・モルツ 麦香る3.5%」がコンビニ限定で発売されています。今回の3.5%が消費者にどう響くのか、注目といえるでしょう。

↑「アサヒスーパードライ ザ・クール」は2019年にアルコール度数5%でデビュー(左端)し、2020年に4%でリニューアル。2021年には缶でも発売されました

 

アサヒビールは、数年前からオーストラリア限定で3.5%のビールを販売しており、グローバルのトレンドについては、こういった自社展開を含めた海外事例を参考にしているはず。

↑オセアニア事業を統括するアサヒ・ビバレッジズ社は、オーストラリアで「Asahi Super Dry 3.5%」を昨夏発売しましたし、2015年には同じくオーストラリアで「アサヒ爽快」を発売しています(公式サイトより)

 

加えて、オーストラリアで最も売れているビール「グレートノーザン スーパー クリスプ」はアルコール度数3.5%であり、日本においても3.5%前後のビールに潜在的ニーズがあるのではないかと予想しているとのこと。

↑こちらはグローバルの市場。さすがにコロナ禍においては鈍化したものの、2022年はコロナ前の2019年を上回り過去最高値に

 

また、アサヒビールは2022年6月にノンアル/ローアルコールに特化した「スマドリバー シブヤ」をオープンしています。アルコール度数が低めの「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」は、同社らしい新商品であるともいえるでしょう。

 

キリンは一番搾りとクラフトビールが二大テーマ

キリンビールの戦略は、強固なブランド体系の構築と新たな成長エンジンの育成。前者の主力ブランドが「キリン一番搾り」、後者が「スプリングバレー」です。それぞれの新作と今後の具体的な取り組みが発表されました。

キリンビール
キリン一番搾り やわらか仕立て
10月10日より期間限定発売

 

新作の「キリン一番搾り やわらか仕立て(期間限定)」は、数年前に発売された「一番搾り 小麦のうまみ」を進化させた商品。一部に小麦麦芽を使うことでやわらかな甘みとうまみを感じられ、後口は軽やかな飲みやすいおいしさになっています。

 

開発背景には、肩ひじ張らずに楽しめる飲みやすい味わいへのニーズが高まっていることが挙げられます。この点については「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」に近い考察を感じました。なお「キリン一番搾り」は、11月7日には毎年恒例となっている「一番搾り とれたてホップ生ビール(期間限定)」も発売されます。

↑こちらは2022年版の「一番搾り とれたてホップ生ビール(期間限定)」。同社のホップ施策については、後日詳報します

 

そしてもうひとつの柱「スプリングバレー」は、クラフトビール創造への取り組みの要となるブランド。新作は、第4弾銘柄となる「SPRING VALLEY JAPAN ALE<香>」。自社で品種開発した2つの日本産ホップ「MURAKAMI SEVEN」と「IBUKI」を一部使い、柑橘を思わせる爽やかな香りが広がる味に仕上げました。

キリンビール
SPRING VALLEY JAPAN ALE<香>
350ml:242円/500ml:321円(税別)
10月24日発売

 

同社によると、ビール類市場におけるクラフトビール構成比は2022年時点で約1.6%。爆発的ではないながらも着々とシェアは拡大しており、新たな成長エンジンとして今後もクラフトビールならではの多様なおいしさと新しい楽しみ方を提案していくとのこと。ビール全体に追い風が吹く10月以降の伸長にも注目です。

 

なお、今回取り上げた各社の新作銘柄は、後日あらためてテイスティングのうえレビュー記事を掲載する予定です。ぜひ詳報をお待ちください。

 

取材・文=中山秀明 撮影=鈴木謙介