BYDの最上級クロスオーバーSUV「シーライオン 7」に試乗。味わえたのは意外にもスポーツカー並みの加速感だった

長澤まさみ出演の「ありかも、BYD!」CMをはじめ、店舗数の増加に伴い、中国の自動車メーカー「BYD(比亜迪・ビーワイディー)」が着実に知名度を上げています。そのBYDが4月15日、新たなBEV(Battery Electric Vehicle)として新型クロスオーバーSUV「SEALION 7(シーライオン 7)」の販売を開始。それを前に報道関係者向けにプロトタイプの試乗会が実施されました。今回はその試乗レポートをお届けします。

◾今回紹介するクルマ
BYD/シーライオン 7
495万円、572万円(税込)
※試乗グレード:RWD、AWD

 

後輪駆動なら500万円を下回る! “お買い得”な理由は?

BYDは小型SUV「ATTO 3」を2023年1月に日本市場に投入して以来、コンパクト・ハッチバックの「ドルフィン」、4ドアセダンの「シール」を立て続けに発売。そしてSEALION 7は、2025年4月15日にその第4弾として発売されたモデルで、シールをベースにSUVならではの実用性を高めたモデルとして登場しました。

 

そのラインナップはすべてバッテリーEVで、駆動方式にRWD(後輪駆動)とAWD(4輪駆動)があるものの、グレードはシンプルに1種類だけ。基本的な装備はRWD/4AWDともに同じで、駆動用バッテリーも共にリン酸鉄のブレードバッテリーで容量は82.56kWhとなっています。ただ、一充電走行距離はRWDが590kmとなっているのに対し、AWDは少し短く540kmとなります。これは4輪駆動としたことで、走行時の負荷が増えることが影響しているからです。

↑シーライオン7のグレードは基本的に一つで、駆動方式でAWD(手前)とRWDの2タイプを用意した。

 

また、タイヤサイズもRWDがフロントが235/50R19とリア255/45R19を組み合わせますが、AWDは前後共に245/45/R20を採用しました。両タイプはホイール径が違うため、見た目にはホイール径が大きいAWDの方が格好良く見えると思います。それと最低地上高もRWDが150mmですが、AWDは160mmと少し高くなり、これはサスペンションの取り付け位置の違いに要因があるようでした。

↑AWDとRWDではホイールサイズが異なる。AWD(写真上)は20インチであるのに対し、RWD(写真下)は19インチと少し小さくなる。

 

興味深いのはその価格です。ベースとしたシールは、日本で展開されているBYDのラインナップでは最上位に位置するモデル。それにも関わらずSEALION 7は、AWDが572万円、RWDが495万円とかなりお安い。装備面でシールと比べてもそれほど見劣る印象はないのに、です。

 

実は、BYDは4月1日に、既発売車種の値下げを実行しています。ATTO 3では32万円の値下げを実施し、コンパクト・ハッチバックのドルフィンでは新たに299.2万円の新グレードを追加するなどして、お買い得感なラインナップとしていたのです。

 

背景にはCEV補助金の大幅な減額がありました。BYDはこれまでこの補助金額が最大85万円でしたが、24年度は35万円にとどまり、これによるユーザー負担の軽減を図ろうと価格引き下げを実施しました。シーライオン 7はそうした状況を鑑み、シールに比べてもお買い得感のある設定となったようです。

 

車内も広々! BEVならではのロングホイールベース

ボディサイズは全長4830×全幅1925×全高1620mmで、ホイールベースは2930mm。気になるのは2m近い横幅かもしれませんが、これが運転席に座るとSUVらしくやや高めであるのと、スランとしたボンネットの見切りが良いためにそれほどサイズ感は感じないで済みます。シートポジションも合わせやすく、自然なポジショニングが可能でした。

 

シートはたっぷりとしたサイズで、運転席はもちろん電動パワーシートが備わります。シートヒーターとベンチレーションが組み込まれ、シートヒーターはリアシートにも装備されます。これなら冬でも夏でもながら快適に過ごすことができそうです。また、後席の広さは十分で、つま先が前席シート下に入れられることもあって自然なスタイルで座ることができるのは良いと思いました。

↑ベンチレーション機能まで備えたヒーター付ナッパレザー採用スポーツシート。サイズもたっぷりとしていて乗り心地は良好。

 

↑リアシートは標準的な体型の大人3人が乗車してもそれほど窮屈な感じはしない。ヒーター機能付きがうれしい。

 

SUVだけにカーゴスペースの広さが確保されており、バックシートは6:4で分割して倒せるほか、すべて倒せば広大な面積のカーゴスペースが誕生します。加えてボンネットを開けばボストンバッグが楽に入るほどのスペースも用意されています。まさにBEVならではの装備といえるでしょう。

↑カーゴルームは通常時でも500LとSUVらしい広さを確保。フロアボードは深さを2段階に調整できる。写真は深い状態。

 

ダッシュボードの中央には15.6インチの大型モニターが備わり、これはシールやATTO 3と共通のサイズでタテ表示にも切り替えられます。ここでは様々な車両設定が行え、その動作もサクサクとして気持ちよさを感じさせるものです。カーナビゲーションはゼンリン製地図データを導入しており、このモニター上でフル表示してルート案内を行うこともあって見やすさは抜群です。また、BYD共通の対応として、輸入車ながらウインカー位置を日本車と同じ右側にしているのはありがたいですね。

↑シーライオン7専用のダッシュボードは質感が高く、すっきりとしたデザイン。中央のマルチタッチスクリーンは15.6インチ。

 

↑センターのマルチタッチスクリーンはBYDの他車種と同様、タテ表示が可能。好みに応じて切り替えて利用できる。

 

↑マルチタッチスクリーン上では専用カーナビ(地図データはストリーミングによってダウンロード)以外に、スマートフォン側のアプリも展開できる。

 

↑多彩な機能をマルチタッチスクリーン上で設定できるシーライオン 7だが、中でもチャイルドロックのON/OFFができるのは便利だ。

 

思わず笑ってしまいそうになったのがカラオケ機能の搭載です。中国ではこの機能が人気だそうで、BYDの車両にはベーシックなドルフィンにも装備されているほど。きっと中国では、車内で口パクしながらドライブしている光景が多く見られるんでしょうね。

↑運転席回りの操作スイッチは他のBYD車と同様、表示が小さめで確認しにくい。写真はACCやアラウンドビューなどのスイッチ。

 

↑ドライバーモニタリングシステム(DMS)のセンサー。ドライバーの注意力散漫を赤外線カメラで監視して、必要に応じて警告する。

 

2tを超えるボディで、時速100キロまでわずか4.5秒!

さて、その走りではシール譲りのスポーツカー並みの加速感を味わえます。それもそのはず、出力はRWDでも230kW/380Nm、AWDでは前後モーター合計で390kW/690Nmという圧倒的パワーを備えているからです。それだけに0→100km/hのタイムはRWDで6.7秒、AWDにおいてはわずか4.5秒! SUVとなったことによる重量増による影響でシールの3.8秒には及びませんが、実際に体験するとその加速感には圧倒されてしまいます。AWDを体験しなければ、RWDでも充分なパワーを感じるでしょう。

 

それと素晴らしいと感じたのは、AWDに採用されている「iTAC」による制御です。これはシールにも搭載されている制御機能で、相応状況に応じて前後のモーターを制御し、最適なトルク配分を自動的に調整するというもの。そのため、グリップ力が高く、コーナリングにおいて安心感のある走りが楽しめるのです。ハンドリングも素直で、太いトルクによる立ち上がりの加速力とも相まって、峠道などのコーナーではより楽しい走りが楽しめるはずです。

 

一方のRWDはAWDのような安定感で及ばないにしても、フロントが軽い分、軽快さがあって応答性も素直。2tを超える車重の効果もあってRWDとは思えない踏ん張り感を示してくれたのは確かです。一般的な走りの範囲内なら、これでも十分なパフォーマンスを実感できると思います。

 

乗り心地では、シールよりも路面からの応答がマイルドになっており、路面の段差もかなり快適になって進化した印象を受けました。荒れた路面でもフラット感があり、特に重量のあるAWDではその印象を強く持ちました。遮音性が高いサイドガラスを使ったことで、少なくとも運転席での静粛性は抜群。これらを総合すると、かなり快適なSUVに仕上がっていることを実感しました。

↑中央にあるのがクリスタル素材を用いたシフトノブ。ドライブモードはコンフォート、エコ、スポーツ、スノーの4モード。

 

この日は確認はできませんでしたが、通信によるアップデートができるOTA(Over the Air)にも対応したことで、購入後も最新バージョンに進化させることも可能となっています。BYDでは車両内の機能操作には音声で対応できていましたが、カーナビゲーションでの目的地設定ができないことが課題となっていました。しかし、それもOTAでのアップデートで対応可能となったそうです。これは今まさに注目されている先進テクノロジー「SDV(Software Defined Vehicle)」の一環。この対応により今後の進化がますます楽しみになってきました。

 

SPEC【シーライオン 7】●全長×全幅×全高:4830×1925×1620mm●車両重量:2230kg●パワーユニット:永久磁石同期モーター(リア)●最高出力:312PS[システム総合312PS]●最大トルク:380Nm[システム総合380Nm]●WLTCモード燃費:590km

SPEC【シーライオン 7 AWD】●全長×全幅×全高:4830×1925×1620mm●車両重量:2340kg●パワーユニット:かご形三相誘導モーター(フロント)+永久磁石同期モーター(リア)●最高出力:フロント217PS・リア312PS[システム総合529PS]●最大トルク:フロント310Nm・リア380Nm[システム総合690Nm]●WLTCモード燃費:540km

 

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撮影/宮越孝政

アジア圏メーカーの勢いがすごい! 中国のBYDと韓国のヒョンデおすすめEV5選

環境に優しい乗りものとして真っ先に挙げられるのが電気自動車(EV)です。それは走行中の排出ガスがまったく出ないからです。そんな中で日本メーカーはハイブリッド車を主体として販売し、EVの販売はどちらかといえば積極的ではありませんでした。そうした中、日本国内で勢いを増しているのが中国のBYDと韓国のヒョンデです。ここでは、この両社が日本で販売しているおすすめのEVをご紹介したいと思います。

 

販売台数は世界第3位のHYUNDAI

ヒョンデは韓国の自動車メーカーで、キアを傘下に持つことで、その販売台数は日本のトヨタグループ、ドイツのフォルクスワーゲングループに次ぐ世界第3位となっています。それだけに北米や欧州に行けば、ヒョンデのマークを付けたクルマが数多く走っており、その数はもはや日本車と引けを取らないほど。それなのに日本で知名度が低いのは、2001年に一度日本市場に参入したものの、2009年に乗用車部門が撤退していることが影響しているのかもしれません。

 

そんなヒョンデが再参入を果たしたのが2022年。その際、同社は日本市場への戦略を大幅に変更しました。それは日本車が手薄となっているEVに的を絞ったことです。2022年当時、世界的にEVは追い風となっており、ヒョンデはその時流に乗るべくEVの開発を積極的に行い、その実力は欧米でも高く評価されました。

 

そうした中で、ハイブリッド車(HEV)が中心となっている日本市場には、このEVであればブランドを浸透させるチャンスがあるとの判断があったようです。その先兵として燃料電池車(FCEV)の『NEXO(ネッソ)』と共に送り込まれたのが、100%バッテリーEVの『アイオニック5』でした。その後、韓国ではガソリン車もラインナップする『コナ』をEVとして追加し、アイオニック5をマイナーチェンジしてバッテリー容量をアップ。さらにすでに予約販売を開始している小型EV『インスター』が登場する予定です(後半に解説記事)。

 

中国のEV市場ではトップシェアを獲得するBYD

一方のBYDは、中国・深圳市に本社を置くメーカーで、創業は1995年。最初はパソコンや携帯電話などに搭載するバッテリーの製造を中心としてスタートしていますが、そこで使った独自のバッテリー技術を活かし、2003年にBYD Autoを設立。ここから自動車メーカーとしてスタートしました。会社としては今年で設立30周年を迎え、自動車メーカーとしても今年で22年という若い会社です。

 

しかし、設立後はめざましい発展を遂げ、すでに中国のEV市場ではトップシェアを獲得し、日本だけでなく東南アジアや欧州など海外にも輸出することでその存在は広く知られるようになりました。日本市場にはまず2015年にEVバスなどの商用車で参入し、すでに累計350台のEVバスが走っている状況にあります。そして、2022年、満を持してEV乗用車での日本市場を果たしたのです。

 

BYDが日本市場において大きな特長としているのが、ディーラー網の充実にあります。テスラやヒョンデはEVの販売にあたり、オンラインでの販売を基本としていますが、BYDは「2025年末までにショールーム完備の店舗を100店舗以上作る」ことで、ディーラーによる対面販売を基本としたのです。2024年12月で誕生した正規ディーラーはすでに33店舗を数え、今年もその勢いは止まりそうにありません。

 

BYDが現時点でラインナップする車種は『ATTO3(アットスリー)』『DOLPHIN(ドルフィン)』『SEAL(シール)』で、今年4月には新たに『SEALION(シーライオン)7』が追加されます。また、2025年中にはEVだけでなくプラグインハイブリッド車(PHEV)の追加することも発表されました。

 

【その1】欧州チームが開発したEV

ヒョンデ

アイオニック 5

523万6000円(税込)〜

「アイオニック 5」は、デザインから足回りに至るまで同社の欧州チームが開発した、いわば生粋の欧州生まれのEVです。それだけに、外観は走りを意識した欧州車を彷彿させるデザインとなっています。

 

特にアイオニック 5 の個性をしっかりと表現しているのが「パラメトリックピクセル」と呼ばれる、デジタルピクセルをイメージしたユニークなデザインです。加えて、逆Z型のプレスラインを持ったサイドビューは、一度見たら忘れられない独創性を発揮しています。極端に短いオーバーハングは、バッテリーをフロアに置いたEV専用プラットフォーム(E-GMP)だからこそ実現できたもので、これがクラスを超える圧倒的に広い車内空間を実現。それだけに、運転席に座ると前後左右とも実に広々としていることを実感できます。

 

コックピットは大型で見やすい12.3インチのナビゲーション+12.3インチのフル液晶デジタルメーターを2つ並べて設置。そのデザインは素材からして高品質で、スイッチの感触も適度な重みがある心地よさを実感します。

↑音声認識機能付きの12.3インチナビゲーションシステムを搭載。ステアリング中央の4つのピクセルライトは、音声コントロールの際、運転手の声に反応して点灯します。

 

搭載されるバッテリーは、2024年11月の仕様変更で84kWhにまで容量をアップ。一充電走行距離をRWD車で703kmの実現することとなりました。このほか、ドライブモードに各種設定を任意で調整できる「MY DRIVE」の追加や、最上位グレードのラウンジにはドライブレコーダー、ARナビ、デジタルキー(スマートフォンやスマートウォッチで施錠・解錠・始動が可能)を装備して機能を充実させています。その走りは軽くアクセルを踏んだだけで素直に速度が上がっていき、アクセルを少し強めに踏み込むとBEVらしい強烈な加速が味わえ、これはガソリン車では絶対に得られない感覚です。回生ブレーキを使ったワンペダルも自然で、峠道でのドライブも楽にこなすことができました。

 

また、2024年2月、ラインナップに“EVスポーツカー”とも呼ぶべき『アイオニック5N』を追加。前後両軸にアイオニック5とは別のモーターを備え、最高出力は合計で609PS、最大トルクは740Nmを発生するなど、強烈なパフォーマンスを発揮してくれます。

 

【その2】未来的なスタイリングとユニークなキャラクターライン

ヒョンデ

コナ

399万3000円(税込)〜

韓国ではガソリン車も用意される『コナ』ですが、日本市場向けにはEVの第2弾として2023年9月に導入されました。ボディ形状はクロスオーバーSUVとしており、グレードは他の車種と同様、「カジュアル」「ヴォイヤージ」「ラウンジ」の3グレードを用意します。

 

そのデザインは、「アイオニック5」で採用された水平基調のピクセルを使ったラインが際立ち、その上で柔らかい曲面を組み合わせたユニークさを感じさせるものとなっています。一方で好き嫌いがハッキリ分かれるのもコナのデザインです。テールランプはがリアのホイールアーチのエンドに配置する独特のデザインで、ここに好き嫌いが分かれるのもコナらしさなのかもしれません。ボディサイズは全長4335×全幅1825×全高1590mmと十分に大きく、車内や荷室は余裕のあるスペースが確保されています。しかも、このサイズながら、その大きさをほとんど感じさせず、住宅街でも取り回しは想像以上に良い印象です。

 

低速から十分なトルクを発生するEVは走りもかなり軽快で、発進から中低速の速度域まで力強く加速していきます。走行モードは、エコ、ノーマル、スポーツ、スノーの4種類に切り替えが可能で、回生ブレーキはステアリングのパドルスイッチによって、最弱から最強まで4段階の調整ができます。“最強”に設定すれば、完全停止までワンペダルで走行することも可能です。

 

市街地走行で安心度を高めてくれたのがウインカーを操作すると、操作した側の斜め後方をメーター内に映し出す機能。要はドアミラーとカメラ&モニターの両方で確認できるもので、必要な時だけ表示されることで周囲の状況確認に貢献してくれるというわけです。また、ARナビゲーションと呼ばれる、カメラで撮影した映像に進行方向などを重ねて表示して案内するのも重宝するかもしれません。

↑開放的な水平基調のダッシュボード、12.3インチクラスターとナビゲーションディスプレイが統合した12.3インチパノラマディスプレイを採用。

 

また、2024年8月、スポーティな装備を加えた新グレード「N Line」をラインナップ。ファミリーカーテイストが強かったコナに“走り”を強く意識したデザインのグレードが追加されました。

 

【その3】海洋生物の自由さや美しさから着想を得たデザイン

BYD

ドルフィン

363万円(税込)〜

2023年9月、BYDが日本市場向け第二弾として発売したのが、コンパクトハッチバックのEV『DOLPHIN(ドルフィン)』です。実車を前にして実感するのは、思ったよりも存在感があるということです。全長4290×全幅1770×全高1550mmで、クラスとしてはBセグメントとCセグメントの中間に位置するサイズ。これは日産「ノート」や「フィット」よりも一回り大きいサイズに相当します。

 

徹底した日本市場向けのローカライズも大きなポイントです。高さを回転式駐車場制限に合わせて1550mmとしたほか、「ATTO 3」と同様、ウインカーレバーを中国本国の左側から右側に変更し、急速充電についても日本で一般的なチャデモ方式を採用。日本では装着が義務づけられている誤発進抑制システムや、各種機能の日本語による音声認識機能までも追加しているのです。

 

グレードはスタンダードな「ドルフィン(車両価格:363万円)」と、より上級な装備を搭載した「ドルフィン・ロングレンジ(車両価格:407万円)」の2種類。その違いで最も大きいのはバッテリー容量とモーターの出力で、ロングレンジはバッテリー容量を58.56kWhとし、一充電での航続距離は476㎞。一方のスタンダードはバッテリー容量が44.9kWhとなり、一充電当たりの走行距離は400kmとなります。

↑「ドルフィン ロングレンジ」。

 

駆動方式はどちらも前輪駆動のみ。サスペンションは、フロントはどちらもストラットですが、リアはロングレンジがマルチリンクで、スタンダードはトーションビームを組み合わせます。外観上は、ロングレンジにはルーフとボンネットをブラックとした2トーンカラーを組み合わせましたが、スタンダードは単色のみの選択となります。

 

その走りは、モーター出力が小さいスタンダードでも、もたつく印象は一切なく、決して速さは感じませんが、軽くアクセルを踏むだけで交通の流れに乗れるので、運転はとてもラクに感じました。一方のロングレンジは、モーターの出力の違いもあって、その力強さは絶大。走行モードを「スポーツ」に切り替えてアクセルを踏み込むと、車重が1680kgもあるクルマとは思えない圧倒的な加速力を見せてくれます。

 

【その4】ファミリーユースで使えるSUV

BYD

ATTO 3

450万円(税込)〜

『ATTO3(アットスリー)』は2023年に、ファミリーユースで使えるSUVとして日本市場に導入されたEVです。WLTCモードで470kmの航続距離を実現しつつ、リン酸鉄バッテリーを縦長に並べた独自のブレードバッテリーで高い安全性をアピールしてきました。そのATTO 3が2024年3月にアップデートされています。

 

ボディカラーに「コスモブラック」を追加し、窓枠とクオーターピラーのガーニッシュにグロスブラックを採用。リアにあった説明っぽい「BUILD YOUR DREAMS」から「BYD」へと変更されてもいます。インテリアは大きな変更はありません。個性的なデザインのダッシュボードやドアパネルはそのまま。しかし、ダッシュボードをはじめとして、全体の質感は極めて高いものとなっています。ボタン類の表面処理や手触り感、操作時の触感に至るまでとても質感が高いのです。

 

強いて難を言えば、操作スイッチの表示や、ディスプレイ上の文字が小さくて読みにくいこと。一方で中央の巨大なディスプレイは、従来の12.8インチから15.6インチへと大幅に拡大。画面いっぱいに展開されるカーナビゲーションは、ここまで必要かとも思う反面、大画面の魅力に取り憑かれた人にとっては大きな魅力となることは間違いないでしょう。さらにアップデートにより、インフォテイメントとしての機能も進化しており、専用のアプリストアを介してウェブブラウザーや「Amazon Music」が楽しめ、さらにカラオケの導入も可能となったのです。

↑流線的なデザインが特徴の室内。15.6インチの大型ディスプレイはインパクト大!

 

その走りにもアップデートは図られています。最初のバージョンに比べて、中高速域での路面追従性が進化し、フラット感が高まったようにも感じました。中でも好印象だったのが低速~停止時のブレーキタッチで、これまでよりも効き方がリニア。操舵フィールの中央が曖昧なのは同じですが、全体としては走りの質感が明らかに向上しているのがわかります。この辺りは、クルマとしてより自然なフィールを感じられるクルマに仕上がってといえそうです。

 

【その5】狭い路地や住宅地の道でも扱いやすいスモールEV

ヒョンデ

インスター

284万9000円(税込)〜

ヒョンデが2025年春以降に日本での納車を予定している新型EVが「INSTER(インスター)」です。インスターは2024年6月に韓国・釜山モビリティショーで世界初公開されたモデルで、日本で販売されるラインナップで最も小さなモデルとなります。まだ、日本仕様の正式なスペックは確定していませんが、明らかになっているデータからご紹介したいと思います。

 

インスターが持つ最大のポイントは、全長3830mm×全幅1610mmというコンパクトなサイズながら、全高は1615mmと少し高めのSUVっぽいフォルムを備えていることにあります。実はインスターは、韓国内で軽自動車規格「軽車=キョンチャ」として販売されている「キャスパー」をベースとしています。それを、全長で230mm、ホイールベースで180mm長くし、後席と荷室を広げて実用性を高めたEVとして登場しているのです。

 

驚くのはその価格です。グレードは「カジュアル」、「ラウンジ」、「ヴォイヤージ」と3グレードあり、ベース車である「カジュアル」はなんと284万9000円! まだ、補助金額が決まっていませんが、仮に55万円が認められれば、実質223万円を下回る可能性が高いのです。しかもEVで重要なスペックとなるバッテリー容量はカジュアルで42kWhと、日本の軽EV「SAKURA」の2倍以上! 航続距離も間違いなく300kmを超えてくるでしょう。

 

充実した装備も大きなポイントです。緊急時SOSコールやセントラルドアロック、タイヤ空気圧モニターなどは全車に標準装備。上位グレードのヴォイヤージ(車両価格:335万5000円)、ラウンジ(車両価格:357万5000円)ではバッテリー容量が49.0kWhに増えるのと共に、ACCやブラインドスポットモニターなどが装備され、最上位のラウンジにはシートヒーター&ベンチレーション機能、スマホ用ワイヤレスチャージ、デジタルキーまで備えているのです。

↑大画面の10.25インチナビゲーションとベンチタイプのフロントシート。助手席フルフォールディングやリヤシートスライド機構で、使いやすい室内となっている。

 

ただ、インスターは韓国で軽自動車規格をベースにしていることもあり、定員は4名。しかし、そのサイズから日本では登録車のカテゴリーに入ってしまいます。それでも補助金を考慮すれば300万円前後で手に入れられるわけで、300kmを超える航続距離を達成できるEVは現状ありません。その意味でも日本での期待度はかなり高いEVといえるでしょう。

 

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ピュアEV「BYD アットスリー」はコスパ高と思わせる充実の完成度!

今回の「NEW VEHICLE REPORT」は中国から上陸したBYDのアットスリーをピックアップ。ピュアEVとなるアットスリーで、最新の電気駆動モデルらしさを存分に堪能する。

 

※こちらは「GetNavi」 2023年4月号に掲載された記事を再編集したものです

 

新興勢力のクルマとは思えない完成度!

【EV】

BYD
アットスリー

SPEC●全長×全幅×全高:4455×1875×1615㎜●車両重量:1750㎏●パワーユニット:電気モーター●バッテリー総電力量:58.56kWh●最高出力:204PS/5000〜80
00rpm●最大トルク:31.6㎏-m/0〜4620rpm●一充電最大航続距離(WLTCモード):485㎞

最新のピュアEVとしてソツのない仕立てが魅力

本国の中国では、9年連続で電気駆動モデルの販売がトップというBYD。日本でも昨年に上陸が発表され、本年から販売がスタートしているが、第1弾となったアットスリーはミドル級SUVのピュアEVという位置付けになる。

 

その外観はご覧のとおり、プレーンなデザインでさりげなく電気駆動モデルらしさを演出しつつもSUVとしてソツのない仕上がり。細部の質感も既存メーカーの最新モデルと比較しても遜色なく、新興メーカーのクルマにありがちな一種の危うさとは無縁だ。

 

一方、インテリアには随所に斬新な手法が取り入れられているのが興味深い。インパネ中央にあるタブレット風ディスプレイは縦横どちらでも使えるようになっているほか、ドアポケットの伸縮性コードでは音が奏でられるなど、その発想には既存メーカーにはない独自の持ち味がある。

 

ルーツがバッテリーメーカーというBYDだけに、ピュアEVとしての出来映えも最新モデルに相応しい水準だ。フロントに搭載する電気モーターは204PSと31・6㎏-mを発揮するが、動力性能は1・7t半ばの車重に対して不足のないレベル。アクセル操作に対する反応の自然な味付けとあって、特に日常域では快適なライド感が楽しめる。装備品が充実していることまで考慮に入れれば、440万円という価格はかなりコスパ高だ。

 

[Point 1]モチーフはフィットネスジム&音楽

フィットネスジム&音楽がモチーフだというインテリアは外観以上に個性的。インパネ中央のタブレット風ディスプレイはスイッチひとつで縦横どちらでも使用できる。

 

[Point 2]ミドル級SUVとして余裕の容量を確保

荷室容量は、後席を使用する通常時でも440Lを確保。ミドル級SUVとしての使い勝手は、内燃機関のモデルと比較しても遜色がない。

 

[Point 3]スポーティな風情も演出する作り

前後席の絶対的な広さは、サイズ相応で実用上の不満を感じることはない。前席はスポーティな形状を採用しているが、たっぷりとしたサイズで座り心地も良好だ。

 

[Point 4]日常域での扱いやすさが好印象

日本仕様は前輪を駆動する2WDのモノグレードとシンプル。運転支援システムは最新レベルで、価格は440万円とコスパの高さも光る。走りは日常域の扱いやすさが魅力。

 

[Point 5]動力性能は必要にして十分

BYD独自のリン酸鉄リチウムイオン電池と組み合わせる電気モーターはフロントに搭載。自然なアクセルレスポンスが印象的だ。

 

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構成・文/小野泰治 撮影/神村 聖

中韓EVが日本の道路を席巻する日は来るか? 世界10傑に入るアジアメーカー「ヒョンデ」「BYD」のEV車を本音レビュー

EVを武器に日本市場に再参入する韓国のヒョンデと、日本でもバスやタクシーでEVの実績がある中国のBYD。両社の自信作の出来栄えについて、試乗した自動車ITジャーナリストが本音で語る。

※こちらは「GetNavi」 2022年12月号に掲載された記事を再編集したものです

 

KEY TREND ≪アジアンEV≫

EVへのシフトチェンジが加速するなか、日本でも国産や欧米のEVが続々と登場している。その流れに割って入るのがアジアのEVメーカー。日本の道路を席巻する存在となるのだろうか。

 

私が試乗しました!

自動車ITジャーナリスト

会田 肇さん

自動車雑誌編集者を経てフリーランスに。電動車や自動運転にも詳しい。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

ヒョンデとBYDの参入は日本車にとって大きな刺激に

世界的に「脱炭素」への流れがあるなかで、そのシンボリックな存在となっているのが電気自動車(EV)だ。ロシアのウクライナ侵攻後に発生したエネルギー問題への不安を抱えつつも、全体的なその流れはいまも大きく変わっていない。

 

そのカギを握るのが中国だ。中国はいまや世界最大の自動車大国となり、国の戦略としてその大半をEVで賄おうとしている。これをいち早く追いかけたのが欧州勢で、それが欧州でのEV化の流れを後押しした。さらにアジア勢もこれに続き、韓国・ヒョンデはデジタルテイストにアナログの感性を加えた「パラメトリックピクセル」のデザインが印象的な、「アイオニック 5」を世に送り出した。

 

BYDはアジアやオセアニアですでに実績を積んできたが、車両デザイナーに欧州人を据え、グローバルで戦えるデザインとした。つまり、ヒョンデ、BYDとも、日本人が好む“欧州っぽさ”を備えたことが参入のきっかけとなったとも言えるだろう。

 

アイオニック 5はさすがに手慣れたクルマ作りをしており、走りも内装の仕上がりも日本人にとって十分満足できるレベルにある。一方でBYDはインターフェースなどで作り慣れていない部分が感じられた。とはいえ、両ブランドのEV参入が日本車にとって新たな刺激となるのは間違いない。

 

【その1】インターフェースに難はあるがデザインや個性には満足できる

BYD

ATTO 3

価格未定 2023年1月日本発売予定

BYDの日本導入EV第一弾となるATTO 3(アットスリー)。2022年2月に中国で販売を開始して以降、シンガポールやオーストラリアでも発売。独自開発のEV専用プラットフォーム「e-Platform3.0」を採用し、広い車内空間と440Lの荷室を実現している。

 

↑熱安定性が高く長寿命のリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを採用。エネルギー密度の低さは、細長い電池セル「ブレードバッテリー」を122枚効率良く敷き詰めて対策した

 

↑インテリアはアスレチックジムをモチーフにしたもの。中音域スピーカーを内蔵したドアハンドルや、ベースの弦をイメージしたゴム製ワイヤーもユニークなデザインと言える

 

↑ダッシュボード中央には12.8インチのディスプレイを備える一方、運転席前の液晶パネルは小さめ。操作レバーも含め、アイコンや文字表示が小さくインターフェースに難がある

 

【会田の結論】ハンドリングは軽快でトルクフルな走りも秀逸! 操作系の改善が求められる

アスレチックジムの雰囲気を演出したインテリアは、ギミックに富んでいて楽しい。一方でディスプレイの情報表示は全体に小さく、操作スイッチの視認性も含め、要改善だ。ハンドリングは全体に軽めで、市街地での操作はかなりラク。EVらしいトルクフルな走りも実感できた。

 

【その2】走りもインテリアも欧州車そのもので日本人が満足できる仕上がり

ヒョンデ 

IONIQ 5

479万円〜(税込)

ヒョンデの代表車種であった「ポニー クーペ」をオマージュしたデザインが印象的。EV専用プラットフォームを生かした広い室内が特徴。ベースのIONIQ 5のほかにVoyage、Lounge、Lounge AWDと全4モデルが揃う。

 

↑電動ブラインド付きのガラスルーフは面積が大きく、光が燦々と降り注ぐほど。ただしガラスは固定式なので開くことはできない。「Lounge」以上のグレードに標準装備となる

 

↑V2Lは「Vehicle to Load」の略で、EVから外部機器へ給電できる機能のことを指す。リアリート下にもコンセントを備え、車内外合わせて最大1600Wまでの機器に対応できる

 

↑インフォテインメント系にはコネクテッドカーサービス「Bluelink」を採用。5年間無償提供され、スマホ連携だけでなく、通信によるカーナビ地図データの更新にも対応する

 

【会田の結論】乗り心地はやや硬いが圧倒的な加速と操作性で走りの充実度は高い

運転席に座るとまず気付くのがインテリアの上質さ。手触り感さえも上々だ。コラムから突き出たシフトチェンジレバーのクリック感も精緻さがある。走り出すと若干硬めの乗り心地が気になるが、圧倒的な加速感とハンドリングの正確さがそれを凌駕。満足度の高い走りを楽しめる。

 

■2021年  世界のEV販売台数ランキング

圧倒的に強いのはテスラだが、中韓メーカーが10位以内に4社も入っているのは驚き。特に中国はEVの普及に向けて政府が強力な支援策を展開していることもあり、これまでクルマ作りには無縁だったメーカーもEVに参入している。

 

■日本&欧米EVとのスペック比較

価格はいずれもEV購入補助金適用前のもの。総電力量は60kWh近辺、カタログ値ではあるが一充電最大走行距離は500km近くにまで達する。ATTO 3、IONIQ 5ともにスペック的には日本や欧州のEVと肩を並べていることがわかる。

 

 

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ダイムラーと中国BYDによる「DENZA」の最新作、その実力は?

3月26日、ダイムラーと中国BYDの合弁会社「シンセンデンザニューエナジーオートモーティブ(DENZAオート)」は、中国市場向けに新しい電気自動車「DENZA 500」を発売した。

DENZAブランドはダイムラーの車両アーキテクチャーとBYDの最先端バッテリーテクノロジーを融合させ、地元シンセンで生産される。

DENZA500は、従来型となるDENZA400の後継にあたる5ドアハッチバックモデル。新しいバッテリーを採用したほか、ボディの軽量化によって約500kmの航続距離を誇る。車両の開発にあたっては、マイナス40度の厳しい環境を含むテストも含まれたとのことで、高い信頼性が期待できる。

また、インテリアには9インチのタッチスクリーンを組み合わせ、スマートフォンのアプリケーションや接続サービスが提供されることによって中国国内11万2000カ所の充電スポットを簡単に探し出せるという。

 

車両の詳細スペックは未発表だが、中国においてもEV市場が活発化していることがうかがえる。