作業効率爆上がり! 使わないともったいない生成AI「Copilot」の基本と使いこなし術をプロが伝授

ChatGPTを筆頭に、さまざまな企業が開発し、急速に普及している生成AI。無料で使える製品も多く、仕事やプライベートで使う機会が増えているのではないでしょうか。今回は、WordやExcelなどMicrosoft365アプリと連動できる生成AI「Copilot(コパイロット)」についてご紹介します。

 

Copilotの基本と、仕事を効率化させるための“使いこなし術”を、生成AIについての研修・顧問・講演を行っている杉田海地(すぎた・かいち)さんに教えていただきました。

 

Copilotって何ができるの?

WordやExel、Power Pointなどのホームタブにある「Copilot」のアイコン。何ができるか分からず、これまで押さないようにしていた人も多いのではないでしょうか。そもそも「Copilot」とはどのような生成AIなのでしょうか。

 

Copilotとは、Microsoft社が開発した人工知能チャットボットです。『ChatGPTなら使ったことがある』という人も多いと思いますが、CopilotもChatGPTと同様に、ユーザーと会話することができる生成AIです。『文章を作ってほしい』、『記事を要約してほしい』といったメッセージを入力すると、その通りにタスクを実行してくれます」(法人研修講師・杉田海地さん、以下同)

 

Copilotには、複数のプランが用意されています。それぞれのプランの特徴や違いを見ていきましょう。

 

Microsoft Copilot(個人用無料版)

「ChatGPTと同様に、チャットでの対話画像生成ができます。画像生成は、1日15回ほどと制限があります(今後のバージョンアップで変更の可能性あり)。デメリットは、一度にたくさんのユーザーがアクセスした場合、一時的に精度や速度が落ちる可能性がある点です」

 

Microsoft Copilot Pro(個人用有料版)

「無料版でできるチャットでの対話に加え、画像生成機能が1日100回までに拡張されます(今後のバージョンアップで変更の可能性あり)。なかでも一番の違いは、Microsoft365アプリ(Teams以外)と連携できること。WordやExcelでCopilotの機能が使えるようになるので、日常的にMicrosoft365アプリを使っている人はとても便利になるでしょう。また、回線の混雑時も優先的に速度が保たれるので、1日に何度もCopilotを使う方は有料版がおすすめです」

費用は、月額3200円(2025年5月現在)。1カ月間無料で使える体験版もあるので、お試しで使ってみるのもいいかもしれません。

 

Copilot for Microsoft(法人向け)

「法人向けプランは、Microsoft Copilot Proの機能に加え、Microsoft365アプリのTeamsでもCopilotが使えるようになり、また、組織内のデータに対してもCopilotを使うことができます。これにより、例えば組織のドキュメントにアクセスし、データを横断して検索するといったことが可能に。その際、ユーザーの入力内容や社内データを学習して利用しないと明言されているので、データが外部に漏れる心配がなく、セキュリティ面でも安心して使うことができますよ」

費用は、1ユーザーに付き月額4,497円(2025年5月現在)。集団で導入する場合はこちらのプランを検討するといいでしょう。

 

「ほかにも開発者向けのプランなどがありますが、まずはこの3つのプランからどれを使うか検討してみるといいでしょう」

 

無料で使える!
チャット機能&画像生成機能の使い方

それでは、Copilotを実際に使ってみましょう。まずは無料版でもできるチャット機能についてです。

 

1.ブラウザで「Copilot」と検索、またはWindowsの場合はタスクバーのCopilotボタンをクリックし、Copilotを立ち上げる。

 

2.Copilotに聞きたいことを入力する。

 

3.聞きたい答えが出てくるまで、会話を繰り返す。

「ログインせずに使うこともできますが、Microsoftのアカウントがある場合は、ログインするとこれまでのチャット履歴が左側に残ります。ちなみに、同じチャット内の会話は学習されますが、新規で立ち上げたチャットには過去の会話の内容が引き継がれません。ですから、過去に会話した内容についてあらためて聞きたい場合は、履歴から該当するチャットを開いて会話を続けるといいでしょう

 

Copilotとチャットをする際に、知っておくと便利な機能も教えていただきました。

 

・音声検索

「『マイクの形のアイコン』(上記画像①)を押すと、Copilotに音声で質問することができ、Copilotも音声で返答してくれます

 

・ファイル添付機能で長文の翻訳&要約

「『+マーク』(上記画像①)を押してファイルをアップロードすると、文章なども読み込めます。たとえば英語のPDF書類を翻訳したいときは、PDFをアップロードしてCopilotに『翻訳して』と頼むとあっという間に訳してくれます。さらに『日本語で要約して』と頼めば、翻訳したうえで要約もしてくれます

 

・精度の調整

「通常は『クイック応答』(上記画像②)になっていますが、複雑な質問をしたいときは『Think Deeper』に変更するとより精度の高い回答が返ってきます。私は事業のアイデアや企画出しの壁打ちをしたいときにThink Deeperモードをよく使います。ただし、Think Deeperモードは30秒掛けてゆっくり思考するため、通常はクイック応答にしておいて、必要なときだけ使うといいでしょう」

 

画像生成に関しても、「○○の画像を作って」とメッセージを送るだけで簡単に生成してくれます。

↑Copilotが生成した画像。こちらは10~20秒で作成してくれました。

 

「画像生成もチャットと同様に、作成したものに対しさらに注文を重ねると、よりイメージに近い画像が出てくるようになります。何度か会話をしながらCopilotと一緒に希望の画像を作成してみてください」

 

有料版を使って
Microsoft365アプリをより便利に

次は、Microsoft Copilot Pro(個人用有料版)やCopilot for Microsoft(法人向け)で使えるMicrosoft365アプリとの連動について紹介します。アプリごとに使い方を教えていただきました。

 

Word

「Wordと連動させる使い方は、大きく分けて『生成タスク』『変換タスク』『確認タスク』の3つに分けられます」

1.生成タスク

文章を作るときの構成案の作成アイデアやキーワードからの下書き作成タイトルの提案といった使い方ができます。また、長文の要約も可能です。

「提示したアイデアやキーワードから文章の大枠を作成してもらうという使い方は非常に便利。さまざまなジャンルの文章作成に使えると思います。Copilotで文章自体を作成することもできますが、書かれている情報が正しいかどうかは確認が必要です」

 

2.変換タスク

既存のテンプレートに合わせた文章作成や、文章のリライト、トンマナ(トーン&マナー)の調整ができます。

「変換タスクは、Copilotを初めて使う方にとくにおすすめしたい使い方です。どういう場面で文章を使いたいかを指定すると、それに合わせてリライトをしてくれます。たとえば、医療品や化粧品などに関する文章を作成する際に、薬事法や薬機法などの表現に気をつけて表現を調整するといった使い方ができます」

 

そのほか、テキストを羅列したものを表に変換してくれる機能も便利です。

↑Copilotに頼めば、打ち込んだ文章をあっという間に表に変換することができます。

 

3.確認タスク

契約書など、内容をよく確認したい文章のチェックに使うこともできます。

「契約書のなかに不利な条件がないかを聞くと、よく確認したほうがいい項目を教えてくれます。反対にこちらが契約書を作成する場合も、相手に不利な条件を押し付ける内容になっていないかどうか、確認できます」

 

Excel

「Excelもさまざまな使い方ができますが、とくに便利なのは表作成です。表の書式統一や一括置き換え、重複検出などのデータ整形をしてくれるので、打ち込んだだけの表をきれいに整えてくれます。サンプルデータやダミーデータの作成、指定した部分の色分け機能なども便利です」

↑画像はCopilotで作ったサンプルデータの表。指定した部分の色分けも、指示を出すだけでできました。

 

表だけでなく、グラフ作成もCopilotに頼めばあっという間に仕上がります。

↑先ほど作成したサンプルデータの表をもとにグラフを作成。棒グラフや円グラフなど、グラフの形式も指定できます。

 

「表の並べ替えや抽出といった関数を使う機能も、Copilotに『こんなことがしたい』と指示を出すだけ。関数の知識がなくても簡単に使うことができます。また、ほかの人からエクセルデータが送られてきた際にCopilotに聞くと、どういった関数が使われているのか、数値をどのシートから持ってきているのかといったことも教えてもらえます」

 

ExcelでCopilotを使う方法は、杉田さんのYouTubeチャンネル『かいちのAI大学』でもわかりやすく解説されています。もっと詳しく知りたい人は、ぜひこちらも参考にしてみてください。

 

PowerPoint

「PowerPointでは、プレゼン用のスライドのたたき台を作るときに使うのが便利です。Copilotに、簡単なテーマを入れるだけで内容を提案してくれます。このとき、生成AIで作られた画像が使われるので、自分で画像を探す手間も省けます」

↑「おいしいコーヒーの淹れ方、産地にこだわるコーヒーを日常に取り入れる方法」というテーマを入力したところ、Copilotが約20枚のプレゼン資料を作成してくれました。プレゼンの内容もテーマに合ったものを提案してくれます。

 

「Word、Excel、PowerPointはもちろん、OutlookやOneNoteなどでもCopilotを使うことができます。OutlookではWordと同様に、長文メールを要約したり、メールのトンマナを整える方法などが使えます。ぜひさまざまなソフトを触りながら、自分の仕事に合った使い方を探してみてください」

 

業務の時短を叶える!
プロイチオシの使いこなし術3選

ここまで紹介したように、調べ物や画像の調達、文章の要約など、Copilotを使うことであらゆる業務の時短が叶います。なかでも特に時短になる方法をランキング形式で紹介いただきました。

 

【第3位】必要なファイルをすぐに見つけてくれる

「こちらは法人版のCopilot for Microsoftの機能になりますが、組織内のデータを横断して必要な書類や画像ファイルなどのデータを探してくれます。大量にデータが保存されている場合、探す手間が省けます」

 

【第2位】オンライン会議の要約

「オンライン会議の内容を簡単な議事録にまとめたい場合、OneNoteやWord、法人版はTeamsを使うことで会議録を要約することができます。重要なポイントを強調したり、見やすい形式に整えたりすることも簡単にできるので、音声を聞き直して議事録を作成するという時間が大幅に短縮されます」

 

【第1位】Excelで表やグラフの作成

「Excelでの表やグラフの作成は、慣れていないと時間が掛かる作業です。方法がわからずネットや本でやり方を検索していた人も多いでしょう。ですが、Copilotを使えば一言指示を出すだけで作成できるので、かなりの時短になるはずです」

 

Copilotを使ううえで気をつけるべきこととは?

日々進化を続けるCopilotですが、何でもできる完璧なツールとは言えません。使ううえでの注意点も教えていただきました。

 

無料版であればChatGPTの方が精度は高い

「Copilotは、ChatGPTと同じ仕組みを使って作られた生成AIですが、ChatGPTよりも多少精度が劣ります。というのもCopilotは後追いのツールだから。ChatGPTに新しい機能が搭載されたからと言ってCopilotで同様の機能が使えるわけではないんです。無料版であればCopilotよりもChatGPTを使ったほうが高い精度で活用できると思います。
ですが、CopilotはMicrosoft365ソフトと連動させると真価を発揮するので、ご紹介してきたようなWordやExcelを使って業務の幅を広げたり、業務時間を短縮したいのであれば、Copilotを活用していただきたいですね」

 

情報漏えいに注意する

「法人向けのMicrosoft for Copilotであれば、組織内のセキュリティが担保された環境でCopilotを使うことができます。ですが個人向けのMicrosoft CopilotやCopilot Proは、ユーザーの入力データがサービス改善のための学習で使われる可能性があります。個人向けのCopilotを使って企業の業務を行うのは、情報漏えいの危険性があるので、連動させないように注意しましょう。
また、個人向けCopilotを使う際は、住所やクレジットカード番号といった個人情報のような、外に漏らしてはいけない情報は絶対に入力しないようにしてください」

 

情報の最終判断は人間が行う

「Copilotとは、『副操縦士(『Co』は副、『Pitot』は操縦士)』を意味します。つまり、操縦はユーザー自身が担う必要があるということ。ですので、提示された情報を参考程度に使うくらいのスタンスで活用してください。
この先どんなにAIが賢くなり、情報の信頼性が上がったとしてもAIが100%の情報を出力することはないと思うので、最後は人間がしっかり情報を確認し、判断するようにしてもらえたらと思います」

 

Profile

法人研修講師 / 杉田海地

同志社大学在学中、株式会社メルカリ主催の「Mercari AI/LLM Hackathon」優勝。翌年、生成AIプロンプトプランナーとして株式会社オルツに参画。同年4月に株式会社リクルートに入社。個人では、YouTubeチャンネルでAIの最新情報や活用ノウハウを発信しながら、企業向けにChatGPTのカスタマイズ研修、経営者向けのAI活用顧問、LLMプロンプト改善支援を行う。
YouTube

 

エプソンダイレクト初のCopilot+PC! AIで業務効率化を支援する16型ノートPC

エプソンダイレクトは、同社初の「Copilot+ PC」を2025年6月頃に発売すると発表しました。A4サイズの16型ノートPCです。

↑エプソンダイレクト初のCopilot+PC

 

記事のポイント

Copilot+ PCは、AIによる業務効率化と生産性向上を支援するPC。タスクの自動化・最適化を推し進めたい人は注目です。発売はまだ先ですが、メール配信サービスに登録すれば、販売開始のお知らせをいち早く受け取れますよ。

 

AI活用により、企業の業務効率化をサポートし、課題解決を推進することを目指す一台です。Microsoft 365 Copilotとの連携により、ドキュメント作成やスケジュール管理、メールの整理、画像生成など、日常的なタスクを効率的に行える環境を提供するとのこと。

 

搭載CPUは、インテル Core Ultra プロセッサー (シリーズ 2)です。

 

エプソンダイレクト
Copilot+ PC
発売時期:2025年6月頃

レッツノート「FV5」シリーズ新モデルはAI PC。Copilotキーを搭載

パナソニック コネクトは、モバイルパソコン「カスタマイズレッツノート」の「FV5」シリーズの新モデルを 、10月5日に発売します(9月18日11時より受注開始)。Webショッピングサイト「Panasonic Store Plus(パナソニック ストア プラス)」で購入できます。

 

記事のポイント

「Copilot in Windows」を呼び出せるCopilotキーが搭載。文章や画像、動画生成などが簡単にできるので、AIをより便利に使って効率的に作業したい人に便利な一台です。

 

「FV5」シリーズは、高速で省電力な CPU を搭載しているほか、レッツノート独自技術により、「従来シリーズに比べてパフォーマンスが向上し、電池駆動時間も延長されている点」に特徴があります。さらに、独立した NPU(AI処理を高速化するために設計されたプロセッサー)「インテル AI ブースト」により、生成 AI など NPU を利用できるアプリの処理速度が向上するのも強みです。

 

新モデルでは、「Copilot in Windows」を呼び出せるCopilotキーを搭載し、AI 技術をスムーズに使えるようにしています。これにより、⽂章の要約/生成、画像や動画の生成などが簡単でき、業務の大幅な効率化をサポートしてくれます。

 

■使用イメージ

また、カスタマイズで、Microsoft 365 Basic(1年間は無料で試用可、2年目から有料となる自動継続サービス)+ Office Home & Business 2024 を選択できます。

 

従来の、Microsoft Office Home & Business 2021 から機能が強化された、Microsoft365 Basic + Office Home & Business 2024 が本体購入時のカスタマイズで選べるようになったことで、Excel、PowerPoint などがより使いやすくなり、作業がよりスムーズに進むように助けてくれます。

 

パナソニック コネクト
Let’s note(レッツノート)
価格(税込):29万7,000 円~
発売日:2024年10月5日(予約受付開始日 2024年9月18 日)

【西田宗千佳連載】Copilot+ PCで「AMD・インテル・クアルコム」の競争が激化

Vol.141-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフト が進めるAI 向けに強化された機構を持つPC の普及。「Copilot+PC」と銘打ったモデルの狙いと普及に向けた課題を探る。

 

今月の注目アイテム

ASUS

Vivobook S 15 S5507QA

直販価格24万4820円~

↑ASUS初となる次世代AI機能搭載のCPU「クアルコム Snapdragon X Eliteプロセッサー」を採用。ASUSをはじめレノボ、HP、エイサーやマイクロソフトなど、大手PCメーカーから「Copilot+PC」が続々と登場している

 

マイクロソフトとプロセッサーメーカーが共同で仕掛ける「Copilot+ PC」には、これまでにない特徴がある。

 

それは「x86系とARM系が並列に扱われる」「x86系よりもARM系が先に出た」ことだ。CPUが違えばソフトウェアの互換性は失われる。しかし現在はエミュレーション技術の進化により、「x86系CPU用アプリをARM系で使う」ことも可能になった。Appleは「Appleシリコン」をMacに導入する際、CPUアーキテクチャの切り替えに成功した。マイクロソフトも以前よりARM系とx86系の共存を試み、今回はさらにアクセルを踏んだ。はっきりとMacを意識し、「Appleシリコン採用Mac」並みにパフォーマンスとバッテリー動作時間の両立を目指したのである。

 

今回、Copilot+ PCではAMD・インテル・クアルコムのプロセッサー開発タイミングもあり、クアルコムが先行することでCopilot+ PC=ARM系というところからスタートしている。マイクロソフトとしても「本番は3社が揃ってから」という感覚はあったようだが、やはり「Snapdragon Xシリーズ」のパフォーマンスに期待するイメージを受けた人もいるだろう。

 

実際、Snapdragon X+Windows 11のパフォーマンスはかなり良い。筆者も搭載PCを評価中だが、バッテリー動作時間は圧倒的に長くなったし、性能もビジネス向けには十分以上だ。x86系との差を感じることは少ない。ARM版のソフトも増えており、それらを使う場合、はっきり言って想像以上に速く快適だ。

 

ただもちろん、日本語入力ソフトやドライバーソフト、ビデオゲームなど、すべてのソフトが動くわけではない。特にゲームについてはまだARM版がほとんどなく、オススメできる状況にない。そのことを認識せずに使える製品ではなく、“要注意”の製品ではあると言える。

 

だが、ここから出てくるAMDやインテルのCopilot+ PC準拠プロセッサーは、さらに性能が高く、もちろん互換性の問題を気にする必要はない。発熱やバッテリー動作時間を厳密に評価するとSnapdragon Xに劣る部分はあるかもしれないが、「互換性問題がほとんどない」ことと天秤にかけると、安心できるx86系を選びたい……という人も多いだろう。

 

Copilot+ PCがもっと“AI価値がすぐわかる”形で提供されていたら、6月段階からRecallが提供されていたら、イメージはもっと違ったかもしれない。だが、実際問題として“Copilot+ PCの価値はこれから高まってくる”段階なので、AMDやインテルの製品が搭載されたPCを待ってもいい、というのが実情だ。逆に言えば、ここからのPC市場では大手が三つ巴で「PCプロセッサー競争」を進めていくことになるので、競争がプラスに働き、商品性はどんどん上がっていくと期待できる。そこはうれしいところだ。

 

課題は、AMD(Ryzen AI 300)・インテル(Lunar Lake・原稿執筆時には製品名未公開)・クアルコム(Snapdragon X)がそれぞれ別の特徴を持っており、どれを選ぶべきかを判断するための情報が少ない点だ。搭載製品とその情報が出揃うまで、選択は控えた方がいいかもしれない。その頃には、Recallを含めたCopilot+ PCを構成する機能も揃い始めるだろう。

 

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【西田宗千佳連載】「Copilot+ PC」提供を急ぎすぎたマイクロソフト

Vol.141-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフト が進めるAI 向けに強化された機構を持つPC の普及。「Copilot+PC」と銘打ったモデルの狙いと普及に向けた課題を探る。

 

今月の注目アイテム

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↑ASUS初となる次世代AI機能搭載のCPU「クアルコム Snapdragon X Eliteプロセッサー」を採用。ASUSをはじめレノボ、HP、エイサーやマイクロソフトなど、大手PCメーカーから「Copilot+PC」が続々と登場している

 

マイクロソフトは、AIをPC内で活用することを前提に策定した新規格である「Copilot+ PC」をアピール中だ。発売自体は今年6月にスタートしているが、売れ行きはさほど良くない。悪いわけではないようだが、「新機種が出たら売れる」いつもの水準に近く、「まったく新しいPCの誕生」で期待される量には達していない。

 

理由は複数あるが、そのひとつは「マイクロソフトが急ぎすぎた」からだろう。

 

この2年に起きたAIに関する大きなうねりから考えると、その変化がクラウドだけにとどまると考えるのは難しい。そうすると、「個人が使うデバイス」でいつ、どのくらい有用なものとして扱えるようになるかに注目が集まるのも、また必然である。AI活用をリードするマイクロソフトとしては、他社よりも早く、インパクトのある形でWindows PCにAIを持ち込みたいと考えていた。PC自体の需要を伸ばすにも必須のものだ。

 

その結果として、まず2023年末から「AI PC」という緩やかなマーケティングキャンペーンをうち、各社が開発中の新プロセッサーを使う形で2024年中に「新世代のPC=Copilot+ PC」をアピールする……という計画になったのは想像に難くない。

 

ただ問題は、6月の発表の時点では、Windows 11に組み込むべき「AIがないと実現できないこと」がそこまで突き詰められていなかった、ということだ。画像生成などはすでにクラウド型AIにもあり、それだけでPCの購入動機にはなりづらい。

 

画期的な機能として用意されたのが「Recall(リコール)」だ。AIがPC内での行動履歴を「検索可能な情報」としてまとめ直すことで、PCを使う際の物忘れを防止する機能である。要は「あれ、どうだったっけ?」をなくすことを目指したのだ。

 

だが、「行動履歴をスクリーンショットの形で記録し続ける」ことそのものが、重大なプライバシー侵害につながる懸念を持たれた。プライバシー侵害を防ぐためのオンデバイスAI利用であり、記録データの暗号化ではあるのだが、PCがハッキングされたときの対策や、そもそもの不安感の払拭といった点で、特に欧米の人々の期待に応えられなかった。

 

そのため、テスト版の提供開始は6月から10月に遅れている。正式版を多くの人が使えるのは、さらに先のことになるだろう。

 

最も特徴的な機能がないことは、やはりアピールする上でマイナス要因に違いない。6月に予定されていた公開もテスト版であるし、Copilot+ PC自体の企業への販売は今年後半からだったので、そもそも起爆剤に欠けていた部分はある。しかし、マイクロソフトとしては「いち早く」という強い思いがあったのだろう。結果的には裏目に出てしまったが。

 

同じようなことはどのメーカーも考えている。Googleは8月末から販売を開始した「Pixel 9」に「Pixel Screenshots」という機能を搭載した。現在は英語での提供のみだが、利用者が撮影したスクリーンショットをAIが解析し、「スマホの中での行動のデータベース」にして物忘れを防止するものだ。

 

趣旨としてはRecallとほぼ同じであり、違いは「自動記録ではなく、自分でスクショを撮る」こと。自分のアクションで覚えておきたいことを記録するので、Recallのようなプライバシーに対する懸念は出にくい……という立て付けなのである。

 

発想としてはどの企業も似たものを持っているが、それをいつどのような形で提供するかが重要になってくる。マイクロソフトは少し急ぎすぎ、Googleは状況を見ながら「ブレーキを踏んだ機能」を提供した、と考えることができる。

 

そして、Copilot+ PCにはもうひとつの懸念がある。「ARMなのかx86なのか」という点だ。ここは次回のウェブ版で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】機能提供の遅れでつまずく「Copilot+ PC」

Vol.141-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフト が進めるAI 向けに強化された機構を持つPC の普及。「Copilot+PC」と銘打ったモデルの狙いと普及に向けた課題を探る。

 

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ASUS

Vivobook S 15 S5507QA

直販価格24万4820円~

↑ASUS初となる次世代AI機能搭載のCPU「クアルコム Snapdragon X Eliteプロセッサー」を採用。ASUSをはじめレノボ、HP、エイサーやマイクロソフトなど、大手PCメーカーから「Copilot+PC」が続々と登場している

 

マイクロソフトとプロセッサーメーカーは、2023年末から「AI PC」というブランドでのマーケティングキャンペーンを展開してきた。そして現在は、マイクロソフトがさらに積極的に旗を振る形で「Copilot+ PC」を展開し始めている。

 

どちらもAIを使えるのがポイントだが、定義の「ゆるさ」が違いと言える。AI PCは、メインプロセッサーにAI推論用のNPUが搭載されている、もしくは比較的性能の高いGPUを搭載していることが条件だが、厳密に性能を定義したものではない。一定価格以上の最新のPCならみな条件を満たしている、といってもいいだろう。

 

それに対してCopilot+ PCは、より厳密な定義がある。ハードウェアとしては現状、メインプロセッサー搭載のNPUが「40TOPS以上」の性能を備えていること、とされている。それ以上に大きいのが、「Windows 11でのAI関連機能に対応していること」でもある。2024年後半(おそらくは近々)に正式アップデートが予定されている「Windows 11 24H2」ではNPUを使う機能が複数追加され、それを使えるのがCopilot+ PC……ということになる。OS自体の動作条件は変わらないが、新機能の一部がCopilot+ PCでないと使えない、ということだ。

 

あくまで「AI関連の新機能を使える条件」と考えるべきなので、今後は位置付けが変わる可能性がある。現状はAMD・インテル・クアルコムが提供する最新のNPU搭載プロセッサー向けとなっているが、強力なGPUを搭載したPCではそちらを使って対応することも十分に可能だ。新プロセッサーを使ったPCの拡販、という側面が大きいので現在は「NPU」推しだが、条件が変わってくるとの噂は根強い。

 

一方で、Copilot+ PC向けの機能の価値については、少なくとも8月末現在、さほど大きなものにはなっていない。絵を描く機能などがあるが、クラウドで行なえることと大差ないからだ。

 

課題は、最大のウリである「Recall(リコール)」が、テスト公開すら頓挫した状況にあることだ。

 

Recallは、PCの中での作業を全て自動的に「スクリーンショットを撮る」という形で記録し、そのスクリーンショットをAIが解析、検索可能にすることで、「PCで対応した作業のすべてを思い出して活用する」ことを狙ったもの。当初は6月の発表後すぐに、Windows Insiderを経由してテスト公開……との話だったのだが、それが「数週間のうちに」と変わり、さらに現在は「10月にWindows Insiderでテスト公開を開始」と、徐々に後ろへズレている。

 

せっかくのCopilot+ PCだが、コアで従来のPCとの差別化を狙う機能の提供が遅れたことは、認知に大きな影響を与えている。急いで買う必然性を奪い、マーケティングキャンペーンとしての効果が疑問視される結果になっているわけだ。

 

これに限らず、今回マイクロソフトはちょっと慌てて展開しすぎたのではないか、と思える部分が多々ある。Recallの提供が延期された理由も含め、マイクロソフトが慌てた理由などについては次回のウェブ版で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】「Copilot+PC」でPCを刷新するマイクロソフト

Vol.141-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフト が進めるAI 向けに強化された機構を持つPC の普及。「Copilot+PC」と銘打ったモデルの狙いと普及に向けた課題を探る。

 

今月の注目アイテム

ASUS

Vivobook S 15 S5507QA

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↑ASUS初となる次世代AI機能搭載のCPU「クアルコム Snapdragon X Eliteプロセッサー」を採用。ASUSをはじめレノボ、HP、エイサーやマイクロソフトなど、大手PCメーカーから「Copilot+PC」が続々と登場している

 

AI機能の強化はこれからのPCに必須

Windows PCに、大きな変化が訪れている。AIを効率的に処理する仕組みがプロセッサーに搭載された「Copilot+PC」の登場だ。

 

マイクロソフトは今年5月からの1年間で5000万台のCopilot+PCが販売される、と予測している。PCは年間に2億5000万台以上が出荷されるため、全体の5分の1が“AI向けに強化された機構を持つPCになる”としているわけだ。

 

今年5月、マイクロソフトは同社の開発者会議「Build2024」に合わせてCopilot+PCを発表し、同社製PCである「Surface」シリーズもリニューアルして発売した。それに合わせるように、PC大手も続々とCopilot+PCを発売している。

 

Copilot+PCとは、マイクロソフトがスペックを規定し、Windows 11でAIを活用するフレームワークに沿ったPCを指す。AIの使われ方が変化していくという予測に基づいた規格と言っていい。

 

OpenAIの「ChatGPT」にしろGoogleの「Gemini」にしろ、処理はクラウドの中で行われている。マイクロソフトの「Copilot」もそうだ。最新の生成AIを使うには、クラウドにある強力なサーバーにより処理する方が有利なので、多くの生成AIサービスはクラウドで動作する。

 

PCだけである程度のAI処理完結を目指す

しかし、PCの中にあるプライベートな情報を扱う「個人のためのアシスタント」を目指すには、それらのセンシティブな情報をアップロードせず、PC内で処理するのが望ましい。そのために、AIによる推論処理を高速に実行するための「NPU」を高度化し、PC単体である程度のAI処理を完結させられる必要が出てきた。十分に高性能なNPUを搭載したPCと、NPUの存在を前提としたWindows 11の組み合わせを「Copilot+PC」と呼ぶ。

 

本記事は8月上旬に執筆している。発表から2か月が経過したが、Copilot+PCが好調に売れているか……というとそうではないように思う。

 

理由は主に3つある。

 

ひとつは、「まだ高価であること」。Copilot+PCの中心価格帯は20万円前後で、数が売れる安価なPCの領域ではない。

 

次に「ARM版が先行していること」。高性能なNPUを備え、Copilot+PC準拠のプロセッサーはまずクアルコムから発売された。PCとして一般的な「x86系」ではない。動作速度やx86系ソフトを動かす機構も進化し、過去に比べ不利は減った。だが、まだ購入に二の足を踏む人は多い。AMDやインテルのプロセッサーを使った製品は、今夏から秋にかけて登場する予定だ。

 

最後が「コア機能が欠けていること」。Copilot+PCでないと価値が出ない機能がまだ少なく、あえて選ぶ人が少ないのだ。計画よりも機能搭載が遅れ気味で、すぐにCopilot+PCを選ぶ必然性は薄い。

 

だが、こうした部分は当然解決に向かう。なぜ遅れていて、どう解決されていくのか? 結果としてCopilot+PCは普及するのか? そうした部分は次回以降で解説していく。

 

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