脳波グッズから最新シェアリングまで――欧州の最新スタートアップから学ぶ日本の「ネクスト・トレンド」

今年も世界最大級のエレクトロニクスショー「IFA」がドイツの首都・ベルリンで開催されました。筆者にとっては今年が15回目になるIFA取材。今回は2~3年前から段々と増えてきた欧州のスタートアップ(ベンチャー企業)の面白い製品とサービスを振り返りたいと思います。

 

スタートアップを集めた「IFA NEXT」

IFAでは昨年から欧州のスタートアップを集めた特別展示「IFA NEXT」を開始。初回から好評につき、今年は展示会場の規模を約2倍に勢いよく拡大しました。出展社・来場者の数も昨年からまた一段と増えた印象。いま欧州でも最先端のITテクノロジーを活かしたスタートアップに期待が向けられています。

↑欧州のスタートアップが集結した「IFA NEXT」の会場

 

今年もIFA NEXTにはヨーロッパ人ならではの自由な発想を活かした、一見してワクワクとさせられるような製品・サービスが集まっていました。出展しているスタートアップの各社に「日本で発売する予定は?」と訊ねてみると、すでに取り扱いが決まっていたり、IFAの期間中に日本から足を運んだバイヤーとの商談がまとまりつつあるという前向きな返事もかえってきます。クラウドファンディングなどを使って日本やアジアへの進出を狙う元気なスタートアップにも数多く出会いました。

 

IFA NEXTを主催するメッセ・ベルリンの担当者、ヴォルフガング・トゥンツェ氏によれば「IFAはエレクトロニクスのイベントですが、IFA NEXTは特に出展希望者のカテゴリや製品に縛りを設けているわけではありません」とコメントしています。

↑メッセ・ベルリンでIFA NEXTを担当するヴォルフガング・トゥンツェ氏

 

世界のほかのスタートアップを集めたイベントに比べると、IFA NEXTは通電させて使うエレクトロニクス製品、ハードウェアを展示するスタートアップの割合が多めに見えますが、例えばベルリンがホームグラウンドのスタートアップ「mitte(ミッテ)」のように、沸騰させた水を独自のミネラルカートリッジに通して、「自宅でミネラルウォーターが簡単に作れるサーバー」のようにシンプルなアイデアを活かした製品もあります。デバイスをスマホにBluetoothでペアリングすると、アプリからカートリッジの交換時期がわかる簡単なIoTっぽい機能も搭載しています。欧州ではいま「きれいな水と空気」に関連する家電製品がとても流行っているようで、mitteのブースにも大勢のジャーナリストや一般来場者、バイヤーがひっきりなしに訪れていました。

↑ベルリンのスタートアップ、mitteが開発中のミネラルウォーターが作れるウォーターサーバー

 

“脳波”が次のトレンドに!?

今年のIFA NEXTに集まるスタートアップのブースは、どれもが足を止めると軽く30分ぐらいは話し込んでしまうほど内容の濃いものばかりでしたが、なかでも筆者はふたつの出展に注目しました。それぞれが共通するところは「脳波と連動するデバイス」であるという点です。

 

ひとつはイギリス・ロンドンからやってきたスタートアップ、KOKOON(コクーン)。ブランドと同じ名前の製品「KOKOON」は睡眠をサポートするヘッドバンドです。

↑イギリスのKOKOONが開発する睡眠サポート用のヘッドギア「KOKOON」

 

見た目には思い切りヘッドホンしているのですが、実は音楽を聴くためだけの製品にあらず。ブースのスタッフいわく「KOKOONは音によって入眠の段階から深い眠りを維持するところまで積極的にサポートする製品」であるといいます。イギリスでは眠りの質の改善に人々の期待が高まっているのだとか。

 

ユーザーが心地よく眠れるように、スマホアプリ「Kokoon Audio」にはCognitive Behaviour Therapy(CBT)の理論に基づいて開発されたリラグゼーション効果のある音源が多数収録されています。音楽を聴きながら次第に深い眠り(ディープスリープ)に就くと、ヘッドバンドに搭載されている脳波を測定するための電極、心拍センサーとモーションセンサーがこれを検知。ディープスリープの状態を音楽を聴きながら維持。さらに外の雑音が聞こえにくなるように自動でベストな音源をセレクトしてくれます。

↑イヤーカップの内側に電極を配置。脳波を測定する

 

KOKOONのサイトでは直販がすでにスタートしていて、価格は399ドル(約4.3万円)。売れ行きは好調とのことでした。筆者も展示されていた実機を装着してみましたが、課題はヘッドバンドのサイズがそこそこ大きいこと。これを装着したままベッドや布団で横になるのは少しつらそうです。

 

脳波系のアイテムではもうひとつ、フランスのパリに拠点を置くDREEM(ドリーム)の、こちらも睡眠の質を改善するためのヘッドギア「DREEM」にも注目しました。

↑DREEMの睡眠サポート用ヘッドギア「DREEM」

 

こちらは先ほどのKOKOONよりもぐんとダウンサイジングされていて、着け心地も快適。神経科学のノウハウをベースにして、音を活用しながらユーザーの眠りの質を入眠からディープスリープの状態を維持するところまでサポートするというデバイスです。

 

額と後頭部の箇所に密着するバンドに電極と加速度センサーを搭載して、ユーザーの眠りの状態を解析する仕組みもKOKOONによく似ていますが、音はヘッドバンドに搭載する骨伝導センサーで聴くところがDREEMならでは。スマホアプリには目覚ましのほか、睡眠の状態を改善するためのコーチング機能なども搭載しています。

↑本機は心地よく眠るための音源を骨伝導素子で鳴らして伝えるので、耳を覆わなくても音が聞こえるのが特徴

 

フランスで次世代シェアリングサービスを体験

フランスは欧州の中でも特にスタートアップが盛んな地域です。今年のIFA NEXTにはフランス貿易投資庁 ビジネスフランスが主催するプロジェクト「La French Tech」や、ハードウェア系スタートアップの立ち上げを支援するベンチャーキャピタル「HARDWARE CLUB」などフランスの団体が強い存在感を放っていました。La French Techの代表、マキシム・サバヘック氏によると「今年はIFA NEXTに19のスタートアップが参加しました。CES、MWC、IFAとスタートアップが集まるイベントにLa French Techとして旗を掲げて参加することで、先端テクノロジーに積極的な姿勢で取り組むフランスのポジションをアピールできていることも収穫のひとつ」なのだとか。

↑IFA NEXTに出展した数多くのフランス発スタートアップを組織するビジネス・フランスのマキシム・サバヘック氏

 

スタートアップに積極的なフランスといえば、実は筆者は今回、ベルリンでのIFA取材の帰り道にパリに暮らす友人宅に立ち寄って、いま地元のパリジャン&パリジェンヌたちの間で流行っているという「電動キックボード」のシェアリングサービスを体験してきました。

 

パリは言わずと知れた世界有数の大都市。自動車の排気ガスによる大気汚染、騒音など環境にダメージを与える問題への取り組みとして自動車や自転車のシェアリングサービスが定着しつつあります。

 

そして今年、ついに登場したのがスケートボードにハンドルを取り付けて、電動モーターを合体させたような電動キックボードのシェアリングサービス。友人の進言によると、LIME(ライム)とBIRD(バード)のふたつが特に脚光を浴びているということだったので、それぞれを体験してみました。

 

サービスの仕組みはとてもシンプル。iOS/Android対応のアプリをスマホにインストールして、街中でフリーになっているキックボードをアプリ上に表示されるマップで探して、見つけたらバーコードをスキャンして解錠。利用料金はロックの解錠に1ドル、レンタル料金は1分0.15ドル(約16円)。なぜか指標はユーロではなくドル換算ですが、10分乗ると1.5ドル(約166円)を目安と考えて利用することにしました。解錠して、利用を終えて返却するまでは時間課金制で乗り放題ですが、1度のフル充電から乗れる範囲は20マイル前後(=約32キロ)の圏内とされています。支払いはアプリに登録したクレジットカードで決済できます。

↑今年パリでブレイクしそうな電動キックボードのシェアリングサービス「LIME」を体験してみた

 

↑電動キックボードのハンドルにあるQRコードをアプリのカメラでスキャンして解錠する

 

キックで弾みを付けて、右のハンドルにあるレバーを押し込むと電動モーターが起動。こがなくても前に進みます。左側のハンドルにはブレーキが付いています。電動タイプのキックボードなので、脚で地面を蹴ってこがなくても、スクーターよりも少し遅いぐらいのスピードでパリの市内を気持ち良く滑走できます。250ワットのモーターを積んでいて、最高速度で23キロぐらい出ます。体感は自転車ぐらいでした。運転免許証は不要。車道、または自転車専用レーンを走るのが基本ですが、速度を落として歩道を走っている人もみかけました。

↑モンパルナス墓地からサンジェルマン・デ・プレ地区にある老舗百貨店「ボン・マルシェ」まで、約2.8kmの道のりを15分半かけて移動した。パリ観光が楽しくて仕方なくなることうけあいだ

 

目的地まで辿り着いたら“乗り捨て”ができるのがLIMEとBIRDの特徴。特に専用ステーションもないので、例えばルーブル美術館前で見つけたキックボードを拾って、セーヌ川のほとりのカフェまで移動して乗り捨てることも自由にできて便利です。外国人の私もアプリと支払い用のカードを登録してすぐに使えたので、パリの市内観光がとても快適でした。

 

LIMEとBIRDはどちらも基本的なサービスの利用方法は一緒です。そして、同じ問題を抱えていました。まず電動式なので充電が必要な乗り物ですが、週末にもなると皆がひっきりなしに使うため、メンテナンスの速度が追いつかずにバッテリー切れで乗れないキックボードが街中に転がっています。そして解錠しようとすると「故障しているから使えない」というアラートが表示されることもありました。そのため、実は急いでいるときにはあまり頼りにならないサービスです。

 

それぞれの会社ともに街中で稼働しているキックボードのメンテナンスにあたるスタッフを雇っているそうなのですが、好評すぎるのか、あるいはスタッフがのんびりしているのか、とにかくメンテナンスの速度が追いついていないようでした。

 

また乗り捨てが自由なので、キックボードが道の真ん中、店の玄関の真正面に放置されていることもよくあり、ユーザーのマナーやモラルも問われるサービスです。乗り物自体が劣化するスピードも速いのではないでしょうか。来年もしパリを訪れた時に、LIMEもBIRDもより使いやすくなっているのか、あるいは消滅しているのか気がかりです。

↑返却場所が決まっていないことがLIME/BIRDの良いところであり、悪いところでもある。交通量の多いパリの街を走る時も安全運転を心がけるなど、利用者のマナーが問われるサービスだ

 

「こういったスタートアップの実験的なサービスがスクラップ&ビルドを繰り返しながら次々と生まれているところがパリの魅力」と、筆者を案内してくれたパリ在住4年目の友人が話していました。マクロン大統領の政権になってから、スタートアップの勢いはますます加速しているようです。確かに、日本も2020年の東京オリンピック開催に向けて、観光客でも手軽に利用できる交通手段の拡充にもっと真剣に取り組むべきではないかと感じた次第です。

 

 

ソニー・オーテク・ゼンハイザーなど注目オーディオ製品がズラリ揃ったIFA2018レポート

IFAには毎年秋冬に発売されるポータブルオーディオの注目製品が勢揃いします。ヨーロッパや日本の人気ブランドが発表した新製品を振り返ってみましょう。

 

ソニーはフラグシップイヤホン「IER-Z1R」など多彩な製品を発表

ソニーは日本で発売が決まった1000Xシリーズの第3世代機「WH-1000XM3」のほか、プールや海で泳ぎながらでも使える完全ワイヤレスイヤホン「WF-SP900」、エントリークラスのウォークマン「NW-A50」シリーズが注目されました。ウォークマンのほかにヨーロッパでは参考展示として紹介されていた“ステージモニター”「IER-M9」「IER-M7」は日本でも特に注目されそうな、音楽クリエーターの声を開発に採り入れたプロフェッショナル志向のイヤホンです。

↑ソニーの高い防水機能と音楽プレーヤーを搭載した完全ワイヤレスイヤホン「WF-SP900」

 

プレミアムクラスの“Signature Series”から登場するフラグシップイヤホン「IER-Z1R」は日本で未発表の製品ですが、ダイナミックとBAによるユニークなハイブリッドドライバー仕様。3Hzから100kHzまでのワイドレンジ再生にも要注目です。

↑Signature Seriesとしてくわわるフラグシップイヤホンの「IER-Z1R」

 

新しいヘッドホン、WH-1000XM3についてはヨーロッパではソフトウェアのアップデートによりGoogleアシスタントの機能を内蔵することも明らかにされています。またAmazon Alexaとの連携にも対応するプロトタイプがIFAには出展されていました。それぞれのAIアシスタントへの対応が日本国内でどうなるのか、発売後も要チェックです。

↑WH-1000XM3はアマゾンのAIアシスタント「Alexa」対応も検討中。会場に試作機が展示されていた

 

人気のブランドから完全ワイヤレスイヤホンがそろい踏み

ほかにも人気・実力ともに日本でもトップクラスの3つのブランドが完全ワイヤレスイヤホンを発表しました。

 

オーディオテクニカは音質重視の“Sound Reality”シリーズに加わる「ATH-CKR7TW」と、スポーツタイプの「ATH-SPORT7TW」を発表しました。欧州での発売時期は11月頃。価格は前者が249ユーロ(約3万2000円)、後者が199ユーロ(約2万5000円)になることが明らかにされています。

 

去る7月中旬に発売を予定していた「ATH-CKS7TW」の展開が中止になったため、改めて今回発表された2機種がオーディオテクニカにとって、初めての完全ワイヤレスイヤホンということになります。「ATH-CKR7TW」は、内蔵するBluetoothレシーバーで受けた音楽信号をチップと一体型になっているDACとアンプを使わずに、音質を重視した外付けのDAC/アンプに送り込む設計としています。クリアで歯切れが良く、Bluetooth再生とは思えないほど情報量にも富んだサウンドが実現できた理由がここにあります。BluetoothのオーディオコーデックはaptXにも対応。カラバリはブラックとグレーの2色です。

↑オーディオテクニカの「ATH-CKS7TW」

 

「ATH-SPORT7TW」は本体をIPX5相当の防滴設計とした、雨や汗濡れにも強いスポーツイヤホンです。明瞭度の高い中低域の鮮やかな押し出し、引き締まったサウンドが特徴的なだけでなく、外字のくぼみに広くフィットするような専用のイヤーフィンが、頭や体を激しく動かしてもビクともしない安定した装着感を実現してくれます。

↑スポーツタイプの「ATH-SPORT7TW」も2色展開

 

なお、オーディオテクニカからは2014年に発売されたハイレゾ対応ポータブルヘッドホン「ATH-MSR7」を改良した後継機「ATH-MSR7b」や、Sound Realityシリーズの高音質ワイヤレスヘッドホン「ATH-SR50BT」、軽くて内蔵バッテリーのスタミナが約70時間というロングライフ設計を実現した「ATH-SR30BT」など魅力的な製品が目白押し。日本での発売に関する正式なアナウンスがとても待ち遠しいですね。

↑ハイレゾ対応ポータブルヘッドホンの「ATH-MSR7b」

 

ゼンハイザーもブランド初の完全ワイヤレスイヤホン「MOMENTUM Ture Wireless」を発表しました。ヨーロッパでは11月の中旬に299ユーロ(約3万8700円)で販売を予定しています。

↑ゼンハイザーの完全ワイヤレスイヤホン「MOMENTUM True Wireless」

 

音質は「MOMENTUM Wireless」や「MOMENTUM Free」とはまたひと味ちがう、インパクトのある力強さが感じられました。BluetoothのオーディオコーデックはaptX classicのほか、低遅延性能を特徴とするaptX Low Latencyにも対応しています。左右間の接続はNFMI。両サイドパネルがタッチセンサーリモコンになっていて、音量のアップダウンもイヤホン単体で操作ができます。本体はIPX4相当の防滴仕様。ファブリック素材の外装を採用するスタイリッシュな充電ケースも魅力です。

↑充電ケースもスタイリッシュなファブリック仕様

 

そしてJBLからも完全ワイヤレスイヤホンの第2弾が登場。「JBL Endurance PEAK」はIPX7というハイレベルな防水対策を施した、スポーツシーンにも安心して活用できるタフネスを特徴としています。ヨーロッパでは11月に149ユーロで発売を予定しています。日本円だと2万円を切る価格帯になるところも気になります。

↑JBLの完全ワイヤレスイヤホン「JBL Endurance PEAK」

 

耳に掛けるイヤーハンガータイプのイヤホンで、変わったデザインに見えるかもしれませんが、試作機でためした装着感は思いのほか心地よく、イヤーハンガーと組み合わせた安定感は抜群に良かったです。サウンドも過度に低域にバランスをシフトさせずに、切れ味で勝負したチューニングに好感が持てました。本体側のマグネットで吸着するイヤーハンガーを外すと電源がオンになるギミックもJBLらしいところ。

 

ベイヤーがブランドロゴを一新

日本でも人気の海外ブランドは、ほかにもドイツのベイヤーダイナミックが今年もIFAに出展していました。同社のヘッドホンやイヤホンには「beyerdynamic」というアルファベットとタテの4本線のロゴが入っていました。今年の秋以降に発売される製品から、既存の現行製品までブランドロゴがアルファベットの「Y」をデザインした新しいロゴに変更されます。

↑創立90年を超える老舗、ベイヤーダイナミックがブランドロゴを一新した

 

ベイヤーダイナミックのスタッフによると、新しいロゴは「Your beyerdynamic(あなたのベイヤーダイナミック)」という、新しいブランドスローガンから生まれたもの、あるいは「beyer」の真ん中に「Y」があることからインスパイアされたものなのだそうです。ベイヤーダイナミックは昨年のIFAで、ドイツのスタートアップであるMimi(ミミ)が開発した、ユーザーの音の“聴こえ方”を測定してリスニング感を向上させるアルゴリズムを搭載する「MIY(Make It Yours)」アプリに対応する「AVENTHO Wireless」を発表しました。このアプリを中心とした、ベイヤーダイナミック独自のプラットフォームを「MOSAIC(モザイク)」としてブランド化して、新たに発売するワイヤレスヘッドホン&イヤホンに対応させます。今後は「ユーザーの耳に最適なポータブルオーディオ」を強化していくという思いが、「Your beyerdynamic」というスローガン、あるいはブランドロゴの「Y」の文字に込められています。

 

以上の新しいブランド戦略を踏まえて、“生まれ変わったベイヤーダイナミック”が初めて発売する製品がアクティブNC+Bluetoothリスニング機能を搭載する「LAGOON ANC」、ネックバンドタイプのノイズキャンセリングイヤホン「BLUE BYRD ANC」に、Bluetoothの入門機「BLUE BYRD」、エントリークラスのワイヤードイヤホン「BEAT BYRD」「SOUL BYRD」などになります。ノイズキャンセリングの消音効果がとても高く、音楽への深い没入感が得られます。MIMIアプリを使った聴こえ方のカスタマイズ機能も健在。ヨーロッパでは早いモデルから秋以降に順次発売を予定しています。LAGOON ANCについてはアマゾンAlexa対応も有り得るかもしれないとベイヤーダイナミックの担当者が語っていました。どれも気合いの入った新ラインナップの登場に期待が膨らんできます。

↑ノイズキャンセリング機能を搭載するBluetoothヘッドホン「LAGOON ANC」は399ユーロ

 

↑イヤーカップの内側に搭載するLEDランプが点灯する

 

↑ネックバンドタイプのノイズキャンセリングイヤホン「BLUE BYRD ANC」

 

最後にスコットランドのブランド、RHAが発表した平面駆動型ドライバーを搭載するイヤホン「CL2 Planar」もIFAでお披露目されました。イギリスでは9月12日から出荷を開始。日本にも秋以降に登場が期待されるブランドのフラグシップイヤホンです。

↑RHAの平面駆動型ドライバーを搭載する「CL2」

 

名前の由来はハウジングに硬度の高いセラミックを使っているから。平面駆動型ドライバーを力強くドライブできる素材であることからもセラミックが選ばれています。OFC銅線に銀コートをかけた2.5mm/4極端子のバランスケーブルと、PFC銅線の3.5mmステレオミニ端子のアンバランスケーブルが付属。イヤホン側のコネクタがCL1に採用されている独自のsMMCXから、より汎用性の高いMMCXに変更されています。またインピーダンスもCL1の150Ωから、本機は15Ωになったのでスマホでも軽々と鳴らせます。

↑コネクター部分に付け替えてaptX対応のBluetoothイヤホンに変更することも可能

 

会場で試聴したサウンドはRHAのイヤホンらしい高域の解像感と鮮やかさを保ちながら、中低域をより透明かつ滑らかに仕上げているように感じられました。価格は799.95ポンド(約11万5000円)となかなか高価なイヤホンですが、自社開発による平面駆動型ドライバーを搭載した現状とてもレアなモデルとして、日本に上陸した際にはぜひ聴いておきたい製品です。

 

ほかにも、マスター&ダイナミックからあのマイケル・ジャクソンをモチーフにした限定ヘッドホンが展示されるなど、注目製品が盛りだくさんのオーディオ関連ブースとなっていました。いずれも日本での発売が楽しみな製品ばかり。国内での正式発表が待ち遠しいですね。

↑マスター&ダイナミックはワイヤレスヘッドホン「MW50+」のマイケル・ジャクソンモデルを発表。限定6000台

 

8K・有機EL・AI化――これからのテレビの進化を占う「IFA2018」レポート

世界最大級のエレクトロニクスショー「IFA2018」がドイツ・ベルリンで開催されています。今年、ソニーやパナソニック、シャープをはじめとするメーカーが展示した最新のテレビを、サムスン、LGエレクトロニクスなど海外勢の動向と合わせてご紹介したいと思います。

↑毎年ドイツの首都ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」に今年も最新の多くの新製品が集まりました

 

テレビのトピックスは4K/HDR映像の正常進化以外にも、「8K」の製品、または技術展示を積極的に行うメーカーがありました。Googleアシスタント、アマゾンAlexaなどAIアシスタントへの対応はヨーロッパでも話題になっています。

 

ソニーはフラグシップの有機EL&液晶“4K/HDRブラビア”を同時発表

ソニーは日本でも2018年後半に発売が期待される4K/HDR対応のブラビアを発表しました。それぞれに新しく開発された映像プロセッサー「X1 Ultimate」を搭載したことで、画質がまた大きく飛躍したところに注目が集まります。映像クリエーターの意図をそのまま過程に届けられる高画質を、新たに「Master Series」というフラグシップモデルだけが冠することのできる名前を設けてアピールしています。

 

ヨーロッパでも人気の有機ELテレビは「AF9」として65型と55型の2サイズ展開。液晶テレビ「ZF9」は75型と65型の2モデルが展示されました。

 

AF9シリーズは有機ELの特性を活かしながら、より“深い黒”から高輝度の映像まで自然、かつ忠実に再現する「Pixel Contrast Booster」を新搭載。現行モデルのA1で初めて実現した、フロントパネルから音が鳴るような体験が味わえる「Acoustic Surface Audio+」は、アクチュエーターの数を追加して、サブウーファーも背面に横向きに開口部を付けて搭載するなど、より臨場感あふれるサウンドに仕上げていました。

↑ソニーの4K/HDR対応フラグシップ有機ELテレビ「AF9」シリーズ

 

液晶テレビのZF9シリーズは、広視野角の液晶パネルの上にソニー独自の光学設計技術により開発した特殊なフィルムを配置して、横から画面をのぞき込んだ時にも鮮やかな色彩やコントラスト感が失われない新技術「X-Wide Angle」が見どころです。

↑液晶のフラグシップは「ZF9」シリーズ。ともにMaster Seriesとして高画質をアピールしています

 

両シリーズともに、ヨーロッパでは本体にGoogleアシスタントをビルトインして発売されます。リモコンのGoogleアシスタントボタンを押すだけで、「OK グーグル」の発声が省略できるところがテレビならではのポイントですが、AF9とZF9は本体にマイクを搭載します。画面が消えているスタンバイ状態の時にもトリガーワードに反応して、スマートスピーカーのようにスマート機能を音声で操作できるようになります。

↑Googleアシスタントをリモコンなしで起動できるところも特徴

 

パナソニックはHDR10+をアピール

パナソニックはテレビのビエラシリーズに新製品の発表はなかったものの、画質の進化に関連する大きなアップデートのアナウンスがありました。

↑パナソニックの展示テーマは“Hollywood to your home”。各家庭で映画館の臨場感を再現できる4K/HDR有機ELテレビが一堂に揃いました

 

昨年夏に20世紀フォックス、サムスンと3社共同で起ち上げた新しい映像の高画質化技術の規格「HDR10+」に対応したテレビを2018年度に発売。ヨーロッパで展開しているFZ950/FZ800/FX780/FX740/FX700の各シリーズにもアップデートで提供することが明らかになりました。

↑パナソニックは「HDR10+」の高画質化技術をアピールしています

 

HDR10+に対応する映像コンテンツには、映像の各フレームに「ダイナミック・メタデータ」と呼ばれる情報が収録されます。対応する映像機器は、このメタデータ情報を読み込むことで作り手の意図を忠実に再現する色彩、明るさとコントラストを再現できるようになります。メーカーはダイナミック・メタデータをもとにHDR映像を忠実に再現するアルゴリズムをテレビに搭載するだけで、高度な映像処理エンジンを開発・搭載するために必要な開発の負担を軽減できることが大きなメリットになります。引いてはHDR10+に対応する「お手頃な価格のHDR対応・高画質テレビ」も作りやすくなって、HDRの普及を後押しする期待があります。

 

パナソニックではヨーロッパ向けのモデルにソフトウェアのアップデートにより、Chromecast built-in/Works with Google Assistantへの対応を進めていくことも発表されました。Googleアシスタントを搭載するスマートスピーカーなどから、テレビの起動や音楽コンテンツのキャスト再生などが手軽に楽しめるようになります。海外ではAmazon Alexaを使ってUltra HDブルーレイプレーヤーのディスク再生を音声でコントロールする機能もスタートしていますので、新しいインターフェースまわりの機能が日本のビエラにも近く乗ることを期待したいところです。

↑パナソニックのテレビもGoogleアシスタントによる音声コントロールに対応予定

 

シャープはAQUOS 8Kの第2世代機を展示

シャープは昨年からまたIFAの出展を復活。今年もAQUOSのテレビとモニター、サウンドバーにスマホなどを積極的に紹介していました。

↑シャープは8Kテレビの第2世代モデルをIFAで初めて披露しました

 

日本国内では昨年末から70型の“AQUOS 8K”テレビ「LC-70X500」を発売していますが、今年は第2世代へのアップデートを予定。サイズ展開も80型と60型を上下に加えた3サイズに広がります。

↑60型の8Kテレビが今年は日本でも発売予定

 

ヨーロッパ市場向けとして、チューナーを搭載しないモニター仕様の第2世代機がIFAで展示されました。このうちヨーロッパでは80型のモデルのみが来春ごろを目処に商品化が予定されているそうです。シャープの広報担当者は「日本向けには3サイズともにチューナーや録画機能を内蔵するモデルを投入したい。Dolby Atmos対応のサウンドバーも用意する予定」と説明していました。コンテンツについてはユーザーがデジタルカメラで撮影した静止画の再生などを含めた高画質訴求を行っていくそうです。

 

シャープはヨーロッパで一時テレビの販売を撤退していたので、ブランドイメージを再構築するための取り組みにも力を入れています。AQUOSのテレビも、イタリアでフェラーリなど高級自動車のデザインやエンジニアリングを手がける会社として有名なピニンファリーナと組んで、デザインを一新したプロトタイプを出展。プレミアムブランドとしてのイメージ戦略に力を入れています。

↑ピニンファリーナによるAQUOSのプレミアムデザインモデルのプロトタイプ

 

LGエレクトロニクスは88型・8K・OLED

LGエレクトロニクスも8Kへの一歩踏み込んだ提案をしていました。ブースには88型の8K解像度を持つ有機ELを展示。パネルの技術をただ見せるのではなく、チューナーに独自の映像処理プロセッサー「α9」、その他の制御ソフトを組み込んだ「8Kテレビ」が作れる技術力をアピールしています。

↑LGエレクトロニクスは8Kテレビとして88型の大画面OLEDを検討中

 

ただ、8Kテレビとしての導入計画については「世界各地の市場性を見ながら、少し時間をかけて判断したい」(同社広報担当)ということで、すぐに新製品として発売する予定はいまのところないそうです。

 

現行の有機ELテレビはAI搭載もLGがアピールしている大きなポイントのひとつです。Googleアシスタントをビルトインしただけでなく、独自のAIアシスタントであるThinQ(シンキュー)も共存。音声操作でテレビのセッティングまで変えることができたり、LGが韓国にヨーロッパ、アメリカなどで展開するスマート家電のコントロールを、テレビを軸に置いて快適に音声で操作できるところにもスポットを当てて紹介していました。

↑LGのテレビはGoogleアシスタントとThinQの両AIアシスタントを搭載しています

 

サムスンも8Kテレビを展示

サムスンとLGはいつもテレビの最先端技術をIFAでお披露目して競い合っています。サムスンもQLED(液晶)の8K対応テレビを“QLED 8K”「Q900R」として、88/82/75/65型の4サイズで展開していくことを発表しました。こちらはヨーロッパでは秋頃に商品として販売をスタートする計画があるようです。コンテンツについてはアップスケーリングの技術を駆使してカバーする戦略を打ち出しています。

↑サムスンも8Kの液晶テレビを多数発表

 

また次世代のディスプレイ技術として、自発光型の映像素子であるマイクロLEDを使ったパネルを試作して展示も行っていました。こちらは家庭用というよりは、いまのところデジタルサイネージ用途などを検討しているようです。パネルモジュールを組み合わせることで大画面化にも対応。色鮮やかな映像が来場者を釘付けにしていました。

↑次世代のディスプレイ技術として注目されるマイクロLEDの試作機も展示されていました