巨大化するグリーン市場の形勢に変化。途上国でリープフロッグの可能性がじわり高まる

二酸化炭素の排出量を減少させたりすることで持続可能な社会を実現するための技術を指すグリーンテクノロジー。その市場規模は世界で1.5兆ドル(約200兆円※)と大きいものの、この分野では先進国が発展しているのに対して、途上国にはかなりの遅れが見られます。両者の間で差が広がりつつありますが、途上国の中にはポテンシャルの高い国もあり、先進国や国際社会の支援によっては先進国に一気に追い付く可能性もあります。

※1ドル=約133.8円で換算(2023年4月21日現在)

途上国がギャップを飛び越えるためには先進国の手助けが必要

 

先進国との差が開く

先日、UNCTAD(国連貿易開発会議)が発表した「テクノロジーとイノベーション報告2023」によると、2020年における世界のグリーンテクノロジーの市場規模は1.5兆ドルでしたが、2030年には9.5兆ドル(約1271兆円)に拡大することが見込まれています。

 

しかし、その中で重要課題として指摘されているのが、先進国と途上国の間で急速に拡大するギャップ。例えば、再生可能エネルギーや電気自動車に関連する技術の輸出では、先進国は2018年の約600億ドル(約8兆円)から2021年にはその2.6倍の1560億ドル(約20兆円)超に急増したのに対して、途上国では570億ドル(約7.6兆円)から3割増の約750億ドル(約10兆円)にとどまり、この3年間で世界の輸出に占める途上国の割合は48%から33%に15%減少しました。

 

UNCTADはグリーンテクノロジーにおけるギャップを、最先端技術への準備状況を評価するフロンティアテクノロジー準備指数で捉えています。この指数は情報技術インフラへの投資や関連スキルの向上、これらの分野を発展させるビジネス環境などによって変化。フロンティアテクノロジーには人工知能をはじめ、ブロックチェーンやドローン、遺伝子編集、ナノテクノロジーなどがあります。

 

フロンティアテクノロジー準備指数が示すランキングを見る限り、上位5か国は米国、スウェーデン、シンガポール、スイス、オランダという高所得国で占められていて、日本は19位。対照的に、ラテンアメリカやカリブ海、サハラ以南のアフリカの国々などは、まだ最先端技術に適応する準備が整っていないとのこと。

 

このような差を途上国が単独で埋めることは難しく、先進国や国際社会の支援とグローバルな枠組みがどうしても必要です。同報告書は、急速に発展するグリーンテクノロジー分野から発展途上国を除外しないように、国際社会が協調しながら迅速に行動すべきだと主張。今後数年間で急拡大するグリーンテクノロジーの波に途上国が現段階で乗り遅れると、技術的・経済的に成長する機会を逃してしまうと警鐘を鳴らしています。

 

リープフロッグを起こすためには…

しかし、そういった中でも一部の途上国は大きく進歩しています。例えば、アジアではインド、フィリピン、ベトナムといった国々のフロンティアテクノロジー準備指数が予想よりも高いことが判明。46位のインド、54位のフィリピン、62位のベトナムでは現地の政策が奏功した結果、順位が高くなりました。

 

インドは比較的低コストで利用できる高スキル人材の供給が豊富なことから、R&D(研究開発)とICT(情報通信技術)が好成績を収めています。その一方、フィリピンとベトナムは、電子機器を中心とするハイテク製造産業の水準が高いことが反映されました。

 

途上国のフロンティアテクノロジーが発展すると、リープフロッグが起きる可能性が高まります。基礎的なインフラが未整備である途上国が、先進国が歩んできた発展段階を飛び越えて、最先端技術に一気に辿り着いて普及させるこの現象は近年、アフリカやインドなどで起こっています。

 

とはいえ、多くの途上国はグリーンイノベーションの推進に向けて、先進国や国際社会の支援がまだ必要。途上国がリープフロッグを実現するためにも、先進国からの技術支援や投資が不可欠です。

 

UNCTADの報告書が述べているように、気候変動は待ったなしの問題とされているため、グリーンイノベーションには時間の制限があります。この取り組みを迅速に進めるためには、各国の政府主導による関連法律の整備やインフラ構築などが必須。途上国が波に乗り遅れないように、先進国が積極的に各国の政府に働きかけていくことが重要といえるでしょう。

 

 

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輸入禁止が功を奏す! ナイジェリアが半年で1億枚のSIMカードを生産

契約者の電話番号などの情報が記録されているSIMカード。スマートフォンに必ず装着されているもので、スマホの契約台数が延びれば、当然SIMカードの生産も増えることになります。そんなSIMカードをわずか半年で1億枚も生産したのが、ナイジェリア。デジタル経済を推進する同国政府のローカライズ計画が成果を上げてきたことが表れています。

アフリカのSIMカードはナイジェリアが作る

 

ナイジェリア政府の情報通信機関であるナイジェリア通信機関委員会(NCC)は2023年2月、過去半年間にナイジェリアで生産されたSIMカードが1億枚以上に達したことを発表しました。SIMカードの国内生産の増加は、「ナイジェリア国家ブロードバンド計画」や「NCC戦略管理計画」の一環。ナイジェリア政府は国全体のデジタル経済と国内でのSIMカード生産を推進するため、2022年8月から外国製SIMカードの使用を禁止しました。これにより、SIMカードを生産する国内の新興企業をバックアップ。もともと外国製のSIMカードに頼っていた生産システムを大きく変換させたのです。

 

ナイジェリアでSIMカードを生産する企業の一つが、CCNL(Card Center Nigeria Limited)。2004年に創業した同社は、ナイジェリアやアフリカの通信会社にSIMカードの生産と販売を行っており、アフリカのSIMカード生産のパイオニア的存在です。もともとIDカードの生産も行っており、ナイジェリア警察や同国の銀行などのIDカードも生産してきました。

 

現在、SIMカード生産などを手掛けるアフリカのスタートアップは7社あり、そのうちの5社はナイジェリアに拠点を持っているとのこと。しかし、同国には技術革新や投資を保護する法律がないことから、スタートアップの中にはナイジェリア以外の国で登記する企業もありました。

 

それを防ぐために、ナイジェリア政府は2022年8月からのSIMカード輸入禁止法を制定したのです。この法律について、ナイジェリアのパンタミ通信・デジタル経済大臣は、その重要性を度々アピールしてきました。スマホ利用者が急増するナイジェリアでSIMカードを100%国内生産すれば、雇用創出につながります。国内企業の売り上げが伸びれば、ナイジェリア経済への貢献度は増すでしょう。

 

SIMカード国内生産が活発化していくことで、ナイジェリアはアフリカにおけるSIMカード生産のハブとして存在感を増すでしょう。2022年におけるアフリカ54か国の人口はおよそ14億人。2030年には16億人、2050年には24億人を上回る見込みです。加えて、スマホやインターネット利用率は、先進国と比べると低いものの、利用者はますます増えて行くと見られています。Twitterが2021年にガーナにアフリカ初の拠点を置くことを明らかにしたように、ビッグテックはアフリカに熱い視線を注いでおり、GDP(国内総生産)や人口、デジタル人材の多さなどを考慮すれば、ナイジェリアはアフリカのデジタル化を牽引する国の一つ。これまで石油やガスに依存していたナイジェリア経済は着実に多角化しているようです。

 

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ビッグテック並みのデジタル人材大国へ! ナイジェリアがオフショア開発の委託先になる可能性

50以上の国々からなるアフリカでGDP第1位を誇るナイジェリア。およそ2億人の人口を抱え、アフリカ経済を牽引する国の一つと言える存在です。そんな同国は、テクノロジー分野で100万人の技術開発者を育成させる取り組みを進めています。ナイジェリアは近い将来、デジタル分野に関連するオフショア開発(※)で委託先の選択肢になるかもしれません。

アプリケーションやウェブページの開発といったIT(情報技術)関連の業務の一部を海外の会社に委託すること

デジタル人材の宝庫になるか

 

ナイジェリアは、近年はサービス産業の成長が目覚ましく、GDPが4323億ドル(約57兆円※)とアフリカでトップを走っています。そんなナイジェリアの国家情報技術開発庁(NITDA)のKashifu Abdullahi氏が先日、第16回アレックス年次会議にパネリストとして登壇し、デジタル分野における技術者の育成について触れました。

※1ドル=約132円で換算(2023年1月10日現在)

 

日本でも、あらゆる企業が労働人口の減少や働き方改革の推進を背景にデジタル化を進めています。それに伴い顕著になっているのが、企業が求めるデジタル技術を持った人材の不足で、その数は約1800万人にのぼるそう。これは日本に限った話ではなく、他国でも同じような傾向が見られ、世界の技術開発者の人材不足は8500万人と予測されています。

 

そんな世界の人材不足にナイジェリアは着目。100万人のナイジェリア人の技術開発者を世界中のバリューチェーンに組み込むことを目的としたプログラムを開始しました。Abdullahi氏は「ナイジェリアでは、他の先進国に製造業で敵わないものの、人材の分野では躍進できる可能性がある」と指摘しているのです。

 

同氏がこの会議で言及した、PwCコンサルティングのレポートによると、技術開発者やプログラマーの年収は概ね3万〜15万ドル(約396万〜1980万円)。仮に200万人のナイジェリアの開発者が、ナイジェリア国内からリモートで働き、一人2万ドル(約264万円)の収入を得ることができれば、ナイジェリアで年間400億ドル(約5.2兆円)以上の収入が生まれると試算されています。

 

また、Abdullahi氏は、世界の技術開発者不足を金額で表した場合、8.5兆ドル(約1123兆円)に達する見込みとも発言。アップル、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット(グーグルの親会社)、メタの5大IT企業の評価額は合計で9兆ドル(約1189兆円)になります。つまり、もしナイジェリアだけで世界が求める技術開発者を補うことができたら、同国はアフリカどころか、世界有数の経済大国のような存在になれるかもしれないと同氏は考えているようなのです。

 

現在、ナイジェリアは同プログラムでAI、ブロックチェーン、ロボット工学、データ解析などの技術部門の人材育成を推進。同時にデジタル経済が発展するための政策を実施したり法的な枠組みを見直したりしています。

 

Abdullahi氏は「デジタル経済はイノベーションであり、それは人である」と述べ、デジタル経済を推進するためには技術開発者の存在が必要不可欠であると話しています。それは世界各国の共通の課題であり、ナイジェリアがその解決策の一つになる可能性があります。

 

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インドが「Web3.0」 で世界をリードする3つの理由

最近、耳にすることが増えた「Web3.0」。1990年代から普及が始まったインターネットの新時代を指す用語で、ブロックチェーン技術を活用したデータの分散化(脱中央集権化)を概念としていますが、このWeb3.0を巡ってインドが野心を燃やしています。

インドの時代へ?

 

まず、Web3.0について簡単に見ておきましょう。インターネットの発展の歴史は大きく3つに分けることができ、それぞれ大まかに以下の特徴があります。

 

Web1.0(概ね1991年〜2004年):ユーザーは消費者。コンテンツは静的(テキスト中心)

Web2.0(概ね2004年〜今日):ユーザーはコンテンツの消費者だけでなく生産者。コンテンツは動的(動画や画像が中心)。巨大IT企業がプラットフォームを構築し、ユーザーのデータを所有

Web3.0(これから):ユーザーは消費者であり生産者。ブロックチェーンに基づく脱中央集権化

 

現在、インターネットはWeb3.0に移行しているところですが、これまでのように米国の巨大IT企業がユーザーのデータを独占的に所有してきた時代とは異なり、これからはユーザーがデータを所有すると言われています。

 

では、どうしてインドがWeb3.0の世界をリードすると期待されているのでしょうか? インドの関係者は3つの根拠を挙げています。

 

1: Web3.0人材が豊富

インドの主要IT関連企業が加盟する団体「NASSCOM」は、インドはWeb3.0で豊富な人材を持っているので、この分野をリードする力を十分に持っていると述べています。毎年、200万人以上がSTEM分野で学位を修めており、ブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)関連での雇用は2018年から138%増加したようです。分散型IDプラットフォームのEarth ID社でリサーチ&ストラテジー担当の副社長を務めるSharat Chandra(シャラット・チャンドラ)氏によれば、世界におけるWeb3.0関連の開発者の11%をインドが占めており、その数は世界で3番目に多いそう。さらに今後12〜18か月の間に、同国でのWeb3.0開発者が120%以上増えるとの見通しも伝えています。

 

2: インドにおけるWeb3.0の市場規模

NASSCOMによれば、インドには450社のWeb3.0スタートアップが存在し、そのうちの4社はユニコーン企業(評価額が10億ドル〔約1400億円〕を超える、設立10年以内の未上場ベンチャー企業)。2022年4月までにインドのWeb3.0エコシステムは13億ドル(約1810億円※)を調達しており、今後10年でインド経済に1兆1000億ドル(約153兆円)をもたらすと期待されているのです。

※1ドル=約139.3円で換算(2022年11月14日現在。以下同様)

 

3: 関連製品の開発

CoinDCXやポリゴン(Polygon)、コインスイッチ(CoinSwitch)などのスタートアップを含め、インドのWeb3.0関連企業は、分散型金融(特定の仲介者や管理者を必要とせずに金銭のやり取りを可能とする制度)やゲーム用NFT(非代替性トークン)、マーケットプレイス、メタバース、分散型コミュニティ(企業や組織ではなく、ユーザーが所有する共同体)、オンチェーン調整メカニズム(ブロックチェーン上で暗号資産の取引などを処理する仕組み)などに関する製品を国内だけでなくグローバル向けに開発しています。

 

一方、NASSCOMはインドが克服しなければならない問題も指摘。同国では暗号資産業界と政府、金融当局は必ずしも一枚岩ではなく、暗号資産の利益に対する高い税率や、曖昧な規制などによって、人材と資金が流出していると言われています。

 

このような課題があるものの、インドのWeb3.0業界は世界をリードしようと意欲満々。アメリカの大手IT企業がリードしてきたWeb 2.0の時代とは異なり、Web3.0では「インドの時代」がやって来るかもしれません。

 

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日本の安全保障に直結! モンゴルの「デジタル行政」、人口の約6割がすでに使用

ビッグデータやAIといった最先端のデジタル技術を活用して業務プロセスや組織を改革するデジタルトランスフォーメーション(DX)。世界各国の政府が行政サービスにDXを導入していますが、その中でもモンゴルが大きな注目を集めています。中国やロシアという大国に隣接する同国のDXによる経済発展は、日本の安全保障にも直結。モンゴルで何が起きているのでしょうか?

デジタル化に猛進するモンゴルの首都・ウランバートル

 

2020年、モンゴル政府は「デジタル国家」構築のための5年計画を発表。テクノロジーとデータを活用して、公共サービスの合理化やイノベーションの促進などに取り組むことを明らかにしました。個人情報保護、サイバーセキュリティ、電子署名、仮想通貨など、デジタル変革を進めるうえで避けて通れない各種の法的整備が必要ですが、いずれも2020年に承認されており、2022年5月より施行が始まっています。

 

モンゴルというと、広い草原と遊牧民というイメージとは裏腹に、モンゴルの都市部は携帯電話の普及率が100%を超えるほどデジタル化が普及。そんなモンゴルのDXで目玉の一つとなっているのが、「E-Mongolia」と呼ばれる電子サービスです。

 

これは、パスポートや住民票の申請、企業の登録やビジネスライセンスの申請などを全てデジタルで行えるというもの。役所に出向いて並ぶことなく、オンライン上で手続きを完結できるシステムです。2022年3月時点で利用できる公共サービスの数は630。人口約341万人のモンゴルで、利用する登録ユーザーは200万人とおよそ6割近くに達しているとのこと。同国の成人の75%以上が「E-Mongolia」を日常的に使用しているそうです。

 

さらに、このサービスは決済面でも完全デジタル化し、オンライン決済で行えるとのこと。ちょうどコロナ禍での制度スタートであったことも、同サービスの普及を後押しする一因となったのでしょう。

 

モンゴル国立大学とモンゴル国立科学技術大学の調査によると、「E-Mongolia」は少ない人員で多くのサービスを効率的に行えることから、2021年には約570億モンゴル・トゥグルグ(約24.6億円※1)の経費を節約。2022年には、紙代、輸送費、燃料費、人件費の削減で3000万ドル(約44億円※2)の節約が見込まれているそう。削減した経費は余裕資金として、さらなるデジタル技術革新に投資することができます。

※1: 1モンゴル・トゥグルグ=約23円で換算(2022年11月4日現在)

※2: 1ドル=約147.6円で換算(2022年11月4日現在)

 

次世代リーダーのビジョンと日本の位置付け

この「E-Mongolia」をはじめ、モンゴルのDX推進の立役者となっているのが、2022年に設立されたデジタル開発・通信省。その副大臣には、アメリカのTIME誌による「次世代のリーダー」にも選ばれたことのあるBolor-Erdene Battsengel氏が就任しました。同国での最年少閣僚(29歳で入閣)で、しかも女性であることから、大きな注目を集めています。

 

母語(モンゴル語)の他に英語とロシア語を操り、国連や世界銀行にも勤務していたBattsengel氏は、「遊牧民という文化を持つモンゴルでは、遠方に暮らす人々も行政サービスを受けられるようにすることが重要」と話しています。また「E-Mongolia」にはAIを導入し、国民がどのような行政サービスが必要なのかを的確に把握するなどして、さらなるサービスの改善を図っているそう。

 

さらに、同氏はモンゴルを経済とテクノロジーのハブにするというミッションを掲げています。そのためには国全体のDXとともに、ITスタートアップの育成や若い人材の教育が必要。10代の女子学生にSTEM教育プログラムを提供したり、遠隔地や恵まれない家庭の女子学生に3か月間のブートキャンプを開催したり、さまざまなサポートを行っているようです。

 

国際関係の観点から見ると、モンゴルは中露に過度に依存しない、バランスの取れた外交を目指しており、その中で日本は重要な「戦略的パートナー」となっています。モンゴルとの経済協力について外務省の説明を引用しましょう(以下)。

 

モンゴルは、中国とロシアに挟まれ、地政学的に重要な位置を占める。同国の民主主義国家としての成長は、我が国の安全保障及び経済的繁栄と深く関連している北東アジア地域の平和と安定に資する。また、同国は石炭、銅、ウラン、レアメタル、レアアース等の豊富な地下資源に恵まれており、我が国への資源やエネルギーの安定的供給確保の観点からも重要。

出典:外務省「モンゴル 基礎データ」

 

このような理由で、日本はモンゴルをさまざまな分野で協力しています。例えば、JICA(国際協力機構)では、スタートアップを支援するプログラムを実施し、遠隔医療やデジタル教育、中小企業向けのクラウドファンディングプラットフォームの整備などに取り組む起業家をサポート。モンゴル政府は2024年までにDX化の90%を達成する計画ですが、同国の発展は日本にも良い影響を与えるでしょう。

 

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石油はGDPの1割未満! 石油からICTに大転換するナイジェリア経済

1956年に初めて油田の存在が確認されたナイジェリア。これまで石油の生産は同国の主要産業でした。しかし近年、ナイジェリアの産業に大きな変化が生まれており、石油の役割が縮小している模様。代わりに、これから同国の経済を牽引するのは、情報通信技術(ICT)になる可能性が高まっています。

デジタル化が進むナイジェリアの経済

 

アフリカのテクノロジー系メディア・TechCabalは9月1日、2022年第2四半期におけるナイジェリアの国内総生産(GDP)で、ICTの占める割合が18.44%になったと報道。一方、石油産業のGDP構成比率は6.33%に低下し、非石油部門が93.67%を占めるようになりました。

 

ナイジェリアは、2021年のGDPが約4408億ドル(世界銀行。約63.4 兆円※)とアフリカ最大の経済国です。原油の発見は同国に新しい富をもたらした反面、天然資源が見つかったことによって、国の産業が弱体化するという「オランダ病」も引き起こし、ナイジェリアは多くの消費財を輸入に頼るようになりました。そのような経済構造からの脱却を図るため、ナイジェリア政府が進めているのが、ICTを中心とした経済の多角化。例えば、2017年に同国は、2020年までにICT関連産業を成長させることで、250万人の雇用創出とGDPの20%増加を目指す「Nigerian ICT Roadmap 2017-2020」プロジェクトを打ち立てました。また、国連が定める「世界開発情報の日」にあたる10月24日を「デジタル・ナイジェリア・デー」と制定していることからも、ナイジェリアのデジタル経済への強い意志が感じられるでしょう。

※1ドル=約144円で換算(2022年9月26日現在)

 

デジタル経済への原動力の1つが人口。ナイジェリアの人口は2億1000万人で、そのうちの23%が、教養と経済力を持つ中間層。同国の人口は2050年には4億人を超える見通しです。同国の通信デジタル経済省は『NATIONAL DIGITAL ECONOMY POLICY AND STRATEGY (2020-30): For A DIGITAL NIGERIA』で、人口が多く、デジタル経済が発展している国の例として中国、インド、アメリカを挙げており、人口の多さはナイジェリアがデジタル経済の発展を持続するうえで強みになると論じています。

 

また、ナイジェリアのICT産業では、スタートアップの存在も見落とせません。大企業や大学の研究機関、公的機関など、産官学が連携しながら、同国最大の都市・ラゴスを中心にスタートアップエコシステムを形成しています。ナイジェリアには現在、750を超えるスタートアップがあり、2021年に調達した資金の合計額は3億700万ドルに到達。スタートアップエコシステムについて調査するStartupBlinkによると、同国のスタートアップエコシステムの評価は世界で61位となっていますが、西アフリカ地域では1位。アフリカ大陸においてナイジェリアのエコシステムは高水準に達していると評価されています。

 

世界的に注目を集めるナイジェリアのスタートアップの中には、例えばOrda社があります。2022年1月に11万ドルを調達した同社は、レストラン向けの注文管理・決済などを管理するプラットフォームを展開。他にも、外食産業事業者と農家をマッチングさせるサービスを提供するVendease社など、フードテック関連企業は目覚ましい発展を遂げるようになりました。このようなスタートアップがロールモデルになりながら、ナイジェリアのICT産業を引っ張っているように見えます。

 

ナイジェリアのデジタル経済の成長には、このような背景がありますが、GDPの構成比でICTが石油を上回ったことについて、イサ・パンタミ通信・デジタル経済大臣は「今回の結果は、デジタル経済を推進してきた政府の取り組みと一致している」とコメント。ナイジェリアのデジタル経済推進の成果は、目に見える形で表れてきているのかもしれません。

 

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日本とは違うバングラデシュの「薬局」。ヘルスケア市場の課題解決の一手「リスクアセスメントシステム」について

南アジアの親日国としても知られているバングラデシュ。人口1億6千万人以上、経済成長率は近年7%台をキープし、首都ダッカは人口2000万人を超える巨大都市へと成長しています。年々上昇する都市人口率が50%を超えるのは2040年頃と推定され、ますます注目が高まる開発途上国のひとつです。(※)

※医療国際展開カントリーレポート(経済産業省:2021年)

 

そんなバングラデシュですが、医療体制や保険制度については未整備な部分があります。経済成長と人口拡大に比して、医療分野の開発不足が目立っています。なかでも「薬局」の存在感は重要で、国民のプライマリーケアの担い手となっており、日本での「薬局」とは異なる機能を担っているそうです。

 

本記事では、ICTを活用した疾患の早期発見システムを開発し、バングラデシュの薬局への導入を目指す医療系スタートアップの取り組みをご紹介します。今回の取り組みではビジネス発案者兼事業責任者として、バングラデシュにおける臨床検査センター・クリニック運営やAI・ICTに基づく医療システム開発等を行うmiup社の横川祐太郎氏が参画しています。そんなmiup社とともに調査を担当したアイ・シー・ネット株式会社の小泉太樹さんから、最新バングラデシュの薬局事情と、新しい試みによるビジネス分野での可能性について伺いました。

 

お話を聞いた人

小泉太樹氏

バーミンガム大学大学院にて国際開発学修士号を取得後、2017年にアイ・シー・ネット株式会社に入社。現在はビジネスコンサルティング事業部で、保健医療分野における日本企業の新興国進出の支援やJICAプロジェクトに従事している。

 

●バングラデシュ人民共和国/主要産業は衣料品・縫製産業で、輸出額は世界3位(2020年時点)を誇る。1971年にパキスタンから独立した際、日本が諸外国に先駆けて国家承認をしたことから、親日国としても知られている。現在でも友好関係は続いており、「日本企業で働きたい」と考えている若者も多い。

データ出典:JETRO、経済産業省、アイ・シー・ネット調査報告などから編集部が独自集計したものになります

 

バングラデシュの薬局の様子

 

バングラデシュ薬局の現状と市場調査の背景

――まずは、バングラディジュの医療体制の現状と「薬局」の役割について教えていただけますか?

バングラデシュの医師の数は、日本の4分の1以下、薬剤師も40分の1以下のため、全体的な人員不足は大きな課題として挙げられます。また住んでいる地域によって所得の差があるため、全国民が平等に医療を受けられていません。ももちろん日本のような公的保険制度はないため、医療費負担が著しい重荷になっています。気軽に病院に行くことができないというのが、日本との大きな違いといえるでしょう。

 

日本の場合「ちょっと具合が悪い」と思えば、どこに住んでいても比較的簡単に医療機関を受診できます。また保険制度によって、治療費も抑えられているので「何かあれば病院に行く」という習慣もついていますよね。

 

バングラデシュの場合「ちょっと具合が悪い」と思えば、伝統的な療法や、薬局で薬を購入して治す選択が一般的です。とくに農村エリアでは、病院に行くまでの交通費や時間もかかるので、近所の薬局に頼る傾向があります。病院が近くにない、医療を受けるお金がないなど、いくつかの課題が重なり合っているのがバングラデシュの医療体制の現状です。

 

農村エリアの薬局

 

――人員や施設の不足、貧富の差、医療機関までの物理的距離、インフラ整備と一筋縄では解決できない状況なんですね。日本の場合、処方箋をもらってから薬局に行く流れが一般的ですが、バングラデシュの人々は「まずは、薬局」という考え方なのでしょうか?

 

もちろん医療機関からの処方箋で薬を購入している人もいます。ただ、農村エリアになると、処方箋を持っている人はわずか2割程度で、残りの8割は自分で薬を決めて購入したり、薬剤師や薬局スタッフに医療相談に来ている状況です。「まずは、薬局」という考え方が浸透しているのだと思います。

 

バングラデシュは医療機関・人材が不足している一方で、薬局の数は約14万と日本の2倍以上です。薬局は容易にアクセスでき、コミュニティに深く根差していることから、人々に広く受け入れられています。ただしここにちょっと課題がありまして……。正確な割合や数値に関する統計データは存在しませんが、薬局の中には国の認可(DGDA※)を受けていない薬局も多く存在しているのです。

※ DGDA:医薬品管理総局(Directorate. General of Drug Administration)

 

基本的にはDGDAが認可した薬局のみが営業できるのですが、無許可で営業している薬局もありまして……。患者さん側からは、許可の有無を見分けることが難しいので、いつも利用している薬局がじつは無許可だったなんてこともありますね。一応、ウェブサイトなどではDGDAの許可を受けた薬局一覧は掲載されているのですが、わざわざ調べている人はごくわずかでしょう。

 

 

――無許可ってことは、そこにいる薬剤師さんも資格を所有していない可能性があると……。

薬局の中には資格を持った薬剤師がいないことや、本来処方箋が必要な薬が販売されていることもあります。このような背景もあり、バングラデシュでは、抗生物質の過剰使用や多剤併用などの問題が頻繁に報告されています。患者さんの立場で考えれば、安心して薬を購入できる薬局を選びたいですよね。

 

例えば、体調が悪くて薬局に医療相談をしても不適切な薬を処方されてしまうケースもあります。また早めに医療機関を受診していれば治せていた病気も、薬局で見逃されているケースも。なんとかこれらの課題を解決できないかと開発したのが、「リスクアセスメントシステム」です。

 

薬局から医療機関へ繋ぐ「リスクアセスメントシステム」

――リスクアセスメントシステムについて、詳しく教えていただけますか?

このサービスはスマートフォンを使った、健康状態を判別するシステムです。

 

非医療従事者でも、疾患の疑われる患者さんのパーソナルデータを用いて簡潔かつ安価にリスクレベルを判定できます。具体的には、薬局スタッフが患者から体調を聞き取り、スマートフォンのアプリ上で入力すると、症状から関連性のある病名の表示や病気のリスクが高い患者さんに対して近隣の医療機関を紹介できる仕組みになっています。

 

「この病気です」と断定することは医療行為なので薬局ではできません。あくまで参考として活用いただくシステムですが、患者さんは無料で使っていただくことができるモデルとなっています。

 

――患者さんが無料というのは安心ですね。病気のリスクも知れるので、薬局中心のバングラデシュにとってはありがたい仕組みだと感じました。ビジネスモデルはどのように考えているのでしょうか?

 

薬局と紹介先である医療機関から利用料をもらう形を想定しています。将来的にはバングラデシュ全土に展開できればいいですね。2021年7月から現地調査を開始したのですが、薬局や医療機関に向けたリスクアセスメントシステムの説明会も実施しました。そこでは、今までにない良い仕組みだと好評をいただけています。思っていた以上に高い期待値を実感でき、私たちにとっても実りの多い調査となりました。

 

――システム自体は、誰でも簡単に使えるようなものなのでしょうか?

はい、医師など専門知識を持っていない方でも使えるようなシステムです。

 

薬局スタッフが端末操作してシステムに入力している様子

 

リスクアセスメントシステムの入力画面

 

調査期間中に農村エリアの薬局で、テスト版を使っていただきました。実際に使っていただいた方の中には、受診するまでに至ったNCDs(※)患者さんもいます。これまで見逃されていた病気の早期発見にもつなげることができ、サービスの本格スタートへのモチベーションも上がりましたね。

※NCDs (Noncommunicable diseases)非感染性疾患:循環器疾患、がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病などの「感染性ではない」疾患に対する総称。開発途上国において経済成長にともない増加していくことが多い。

 

薬局向けの教育と、利用率の向上が課題

――実際に使ってもらうだけでなく、受診につながったとは! 素晴らしいですね。今回の調査で課題になった部分はどんなところでしょうか?

利用率の向上は課題だと感じました。今回のテスト版の利用率は、来店患者全体の4%未満でした。増加するNCDsに対応するためにはより多くの患者さんに利用していただくことが重要となります。

 

リスクアセスメントシステムが今までにないサービスなので、使い方がわからないことが大きな要因かもしれません。薬局を訪れる患者の約8割は処方箋を持っていない人たちなので、システムを使うメリットを理解してもらうことで、まだまだ利用者を伸ばすことができると考えています。

 

薬局への周知・教育の必要性も実感しました。「〇〇な患者さんが来たら、〇〇とご案内してください」など簡単なマニュアルがあると良いかも知れませんね。また、利用率の向上のためには、紹介できる医療機関を増やす、薬局の業務効率化や利益向上に結び付ける等、薬局が自ら使いたくなるシステムにしていくことも重要です。調査結果をふまえて、さらに使いやすいサービスになるよう継続的な取り組みを行っています。

 

――計画では、2022年度中の導入を予定されているとのことですが、進捗状況はいかがですか?

2022年度中は実証調査の拡大や販売体制の準備を進め、2023年前期にはシステムの販売を開始し、後期には全国展開を予定しています。

 

将来的には、他の途上国への横展開も検討しています。まだまだ世界に目を向ければ、解決しなければいけない医療課題はたくさんあります。普及が期待できるバングラデシュで実績を残し、他の国でも活かせればと考えています。

 

今回は薬局を中心としたシステムの提供ですが、日本の医療・ヘルスケア企業さんと連携して事業拡大することもできると考えています。バングラデシュでの実績を共有し、日系企業の海外展開をお手伝いできるとさらに可能性は広がっていくと感じました。

 

薬局での血圧測定の様子。薬局では血圧・血糖値測定など簡単な健康チェックが行われている

 

--日本国内のヘルスケア事業も盛り上がっているところなので、アイデアを掛け合わせて途上国医療を支えるサービスが提供できそうですね。ちなみに、今回の調査では農村エリアでテスト版が実施されていましたが、都市部での導入も予定していますか?

都市部の場合、病院内や隣接した場所にも薬局があります。そのため、来店患者はすぐに医師に診断してもらうことが可能です。農村エリアと同じ仕組みでシステムを導入するのではなく、都市部には都市部のニーズにマッチしたシステムが必要だと実感しています。

 

バングラデシュの薬局は、医療機関まで距離がある「農村型」・病院と薬局が密接している「都市型」・農村と都市の間にある「郊外型」の3つに分けられます。全国展開に向けて、それぞれの特徴に合わせて調整されたリスクアセスメントシステムを提供していく予定です。

 

予防対策に貢献し、バングラデシュの医療体制を支えたい

――最後に、プロジェクトの展望・目標を教えてください。

一昔前のバングラデシュでは感染症が多かったのですが、近年の経済成長にともなって糖尿病などの生活習慣病が増えています。まだまだ医師の数や医療施設が少ないため、医療やヘルスケアのニーズ拡大が予想されています。

 

政府としても公的セクターだけではまかないきれない部分を民間セクターと協業したいと考えています。薬局へのリスクアセスメントシステム導入を通じてNCDs予防対策に貢献していきたいですね。私自身もこのプロジェクトへのやりがいを感じながら、miup社横川氏と一緒に目標に向かって伴走していきたいと思っています。

 

――リスクアセスメントシステムをきっかけに、途上国の医療体制の拡大や充実に期待したいですね。

そうですね。バングラデシュは10代が多い若い国で、まだまだポテンシャルを秘めた国です。ビジネスチャンスの観点から見ても魅力が十分にあると思います。まずはバングラデシュで実績をつくり、将来的には開発途上国全体の医療体制をサポートできるように努めていきたいです。

 

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取材・執筆/つるたちかこ

研修時間が大幅にダウン! 途上国のリカレント教育におけるメタバースの可能性

人間は社会人になっても、さまざまな形で学ぶことができる。そのような意味を広義に持つリカレント教育は、国際開発でも重要な概念の1つです。近年では、企業内教育を含めたリカレント教育にメタバースを導入する動きが活発になっていますが、このトレンドは途上国で急速に発展するかもしれません。

没入すれば、可能性は無限大

 

昨今、世界中で注目を集めているメタバース。この用語は「超〜」や「〜より包括的な」を意味する接頭辞の「メタ(meta-)」と、「宇宙」を表す「ユニバース(universe)」を組み合わせた造語で、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などを含めたXR(クロスリアリティ)と現実が融合した世界を指します。カナダのリサーチ企業・Emergen Researchによると、2021年における世界のメタバースの市場規模は約630億ドル(9兆円以上※)で、2030年までに毎年43.3%のスピードで急成長していくとのこと。あらゆる業界が熱い視線を注いでいる分野ですが、別の資料によれば、VR教育の市場規模は2026年までに約1300万ドル(約18億7000万円)に達する見込み。

※1ドル=約143.6円で換算(2022年9月8日現在)

 

メタバースのような没入型テクノロジーの最も魅力的な用途は、教育やトレーニングにあると言われています。

 

メリーランド大学によると、ユーザーはコンピュータ画面上よりも仮想現実(VR)で提示されたほうが、より効果的に情報を保持することができるそうです。また、プライスウォーターハウスクーパースのレポートによると、従来の対面式教室やオンライントレーニングに比べ、VRを使用したソフトスキルのトレーニングは4倍の速さで従業員を訓練することができたと言います。

 

VRの中で被験者は対象物を、位置や自分との距離、周りのものとの関係を認識しながら、視覚的に覚えることができるようになります。例えば、「自分が立っている場所から15メートル程離れた所に建物があり、その2階の窓際に人の姿が見える。それは〇〇さんだった」という具合に、より細かく多くの情報を視覚から得られるのです。そのため、メリーランド大学の実験では、VRを使った被験者の記憶合致の率は8.8%上昇という結果が得られたそうです。

 

ビジネスの研修にもメタバースは良い効果を与えている様子。米国の小売大手・ウォルマートが2017年に、従業員の教育プログラム用に1万7000個のVRヘッドセットを導入した事例からも分かる通り、大規模な従業員を抱える企業の導入事例が増えています。世界最大の会計事務所の1つPWCが、企業研修におけるVRの機能について調べた結果、研修の参加者からは「VRに没入するため集中力が増すほか、学んだことをVRの中で気軽に練習することができるため、自信がつく」といった意見が多数挙がったそうです。さらに同社は、VRの研修は規模の経済性によって、参加者が増えれば増えるほど費用が下がるとも述べています。

 

インフラが十分でないからこそ

そんなメタバースは、まだ証拠は少ないものの、先進国以上に途上国で活用される可能性があります。

 

メタバースへの期待は途上国で最も高いことが調査で判明しており、教育への活用についても大きな需要がありそうです。JICAが行った調査によると、フィジーでは、デジタル技術を活用して業務プロセスを改革するデジタルトランスフォーメーション(DX)施策の中で、デジタル技術を有する人材の不足が課題の1つになっているという事例もあるそう。

 

デジタル技術に限らず、途上国では技術をもった人材の育成ニーズが大きいのですが、教育の品質における問題や、交通のインフラ整備が不十分であったり、教育機会にアクセスが難しいといった別の課題も存在します。そこで、時間・場所を問わずアクセスを可能とし、より高い習熟度が期待できるメタバースが活躍するのではないでしょうか。

 

つまり、教育分野の制度やインフラが十分に整っていない途上国だからこそ、メタバースを試しやすいと考えられるのです。もちろん課題がないわけではありません。途上国で「メタバース教育」を実現するためには、通信環境の整備が必要。フィジーの例では、DXの有用性が明らかになる一方、通信環境の整っている地域とそうでない地域での格差が浮き彫りになっています。しかし、途上国が企業の投資や国際機関の支援を受けて、通信環境を整えた場合、その他の教育インフラの発展が遅れていたとしても、メタバースの活用が、先進国が通ってきた段階的プロセスを飛び越えて進む「リープフロッグ現象」さえ起こり得るかもしれません。

 

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「XR・メタバース」への期待値、日本の22%に対し途上国は倍以上

AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などを含めたXR(クロスリアリティ)と現実世界が融合した世界を指す「メタバース」。2021年10月にFacebookが社名をMetaに変更したことで、世界中でメタバースの注目度が上がりましたが、2022年5月に発表された調査『How the World Sees the Metaverse and Extended Reality』で、メタバースへの関心は途上国・新興国で最も高いことがわかりました。

新興国・途上国で期待大

 

フランスの大手市場調査企業・イプソスは、世界経済フォーラムの依頼を受け、2022年4月〜5月に29か国で計2万1000人以上の成人を対象にXRとメタバースに対する意識を調査。XRを前向きに捉えている人の割合は中国で78%、インドで75%、ペルーで74%、サウジアラビアで71%となりました。対照的に先進国ではXRへの期待が低く、肯定的な意見を持っている人の割合は、日本が先進国で最低の22%、イギリスは26%、カナダは30%、ドイツとフランスは31%、アメリカは42%となり、新興国や途上国と顕著な差が見られます(下記のグラフ〔英語〕を参照。カーソルを合わせると各国の割合が表示される)。

 

 

メタバースへの関心についても同じような傾向が見られます。トルコやインド、中国、韓国といった新興国では3分の2以上の人がメタバースについてよく知っていると回答したのに対して、フランスやドイツ、ベルギー、オランダといった先進国では、その割合が3分の1以下になりました。

 

このような違いが現れた理由には、デジタル通貨が関係している模様。XRやメタバースはブロックチェーン技術によって支えられています。ブロックチェーンやフィンテックなどを専門とするメディアのCointelegraphによると、ブロックチェーンは、インフレーションや通貨価値の下落といった問題を抱える新興国・途上国で人気を高めており、このような国々では暗号通貨を購入する人が先進国より多いとのこと。この視点から考えれば、「経済的に苦しい生活をどうにかしたい」と願う人たちがXRやメタバースに大きな期待を寄せていると理解することができるでしょう。

 

教育やビジネス、エンタメ・ゲーム、ヘルスケア、デジタル資産の取引など、幅広い分野を劇的に変えるとされるXRやメタバース。世界の大手IT企業がこの分野で切磋琢磨しており、今後も市場規模は拡大していく見込みです。日本国内においても多くの企業が同分野に進出していますが、海外市場に目を向ける際は、XRやメタバースへの期待が高い新興国・途上国に注目すると良いかもしれません。

 

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途上国の「5G」導入費用は先進国の3倍。「スマート農業」に対する農家の期待と不安

途上国を中心に世界の人口が増加する中、ビッグデータやAI、ドローンなどの最先端テクノロジーを活用して、農家の経営をデジタル化し、農作物の管理をより精密にする「スマート農業」の動きが活発化しています。近年、この分野では「5G」が大きな注目を集めており、最新の移動通信システムを導入することでスマート農業はさらに飛躍すると言われていますが、その一方で課題も浮き彫りになっています。

5Gの導入は期待半分、不安半分

 

世界中の農家は、スマート農業に積極的な理由を見出しています。2022年7月、スマート農業に対する農家の姿勢や課題などについて調べた『DEMETER』レポートが発表されました。DEMETERは主に欧州諸国がスマート農業を推進するためのプロジェクトですが、同レポートは南アフリカやジャマイカといった新興国・途上国を含む、世界46か国から484名の農家の回答を収集しています。この中で、農家がスマート農業を取り入れる大きな理由として、「農業経営に必要な、より良い情報を得ることができる」「仕事をシンプルにする」「生産性を上げる」という3つの要因が存在することがわかりました。

 

そこで5Gが役に立ちます。数年前に国連開発計画は、このテクノロジーが先進国だけでなく途上国にもさまざまな恩恵をもたらすと論じました。例えば、ドローンやセンサー、データ通信などの幅広い技術との連携。フィリピンの農村・カウアヤン市は、数年前に地元政府が同国最大の通信事業者と提携して5Gを導入し、「デジタル・ファーマーズ・プログラム」を通して農家に最新テクノロジーに関する研修や指導を行いました。

 

また、5Gによって迅速かつ効率的にデータを共有することが可能になります。イギリスのある事例では、酪農家が牛の首や脚にIoTセンサーを装着。健康状態や日常の行動をモニターし、異変があれば、獣医師や栄養士にデータを送り、牛の健康上の問題にいち早く対処できる体制が構築されたとのこと。このことは最新テクノロジーがさまざまな場面で迅速な意思決定を促すことも意味しており、だからこそ5Gが効率や生産性を上げると期待されているのです。

 

その他のメリットとして、5Gには気候変動への対策としての側面があることも見逃せないでしょう。2017年に米国科学アカデミー紀要に掲載された論文によると、世界の平均気温が1度上がるごとに、大豆の収穫量は3%、小麦は6%、トウモロコシは7%減少するとのこと。気候変動がもたらす害虫や動物の病気が農作物に悪影響を及ぼしますが、スマート農業では、気候や土壌の状態などに関するデータをIoTセンサーから収集するほか、人工知能や機械学習が農作物の害虫や病気に対する感染のしやすさを予測して農家に伝えることが可能。このような機能の速度や効率性、精度が5Gによって向上すると見られています。

 

最大のネックは費用

しかし、農業に5Gやスマート技術を導入するうえで最大の障壁となっているのが費用の問題。5Gの導入には既存の4Gネットワークをアップグレードする必要があり、通信事業者が負担する費用は2倍近くになると言われています。コンサルティング会社のマッキンゼーによれば、2030年までに想定される範囲をすべて5Gにするためには、最大で9000億ドル(約121兆円※)もかかるとのこと。さらに途上国の場合、3Gや4Gのネットワーク自体が存在しないか不足している地域が少なくないため、5Gの導入費用は先進国の3倍近くなると言われています。つまるところ、先述したDEMETERのレポートでも、53%の農家がスマート農業における最大の課題は「費用」と回答していました。

※1ドル=約134.7円で換算(2022年8月9日現在)

 

このような理由で、5Gの導入には国や自治体の支援が不可欠。カウアヤン市の取り組みが参考になるかもしれませんが、農家の心配は費用だけではありません。「リソース不足」や「データのプライバシー」を懸念する声もあり、これらは農家が自力で解決できる問題ではないでしょう。農家が人手不足に陥っている日本では、2020年にNTTグループや北海道大学が共同で、ロボットトラクターを田んぼに導入し、5Gとスマート農業の実証実験を行いました。少子高齢化が進む先進国と人口が増加している途上国では、直面する課題が異なるかもしれませんが、経営の効率化や生産性の向上など、農家がスマート農業に期待していることは同じ。できるだけ費用を抑えた、広く通用するビジネスメソッドが求められています。

 

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世界の「フードテック」市場で存在感を高める、ナイジェリアのスタートアップ

【掲載日】2022年7月13日

最新テクノロジーを活用して食品分野の新たな可能性を追求するフードテック。デリバリーから流通ネットワークの構築、食品関連事業者への融資まで、幅広いイノベーションが生み出されています。しかし、この動きが活発なのは先進国だけではありません。近年、一際大きな注目を集めているのがナイジェリアです。

フードテック系スタートアップが次々に生まれているナイジェリアのラゴス

 

ナイジェリアのフードテックを多く生み出しているのは、同国最大の都市・ラゴス。世界中のスタートアップに関するデータを提供するStartupBlink(SB)社の世界エコシステム・ランキングで、同都市は2022年に81位へ浮上し、前年から41位も順位を上げました。さらに、同社のフードテック企業エコシステムの都市別ランキングでは、米国の主要都市が上位を占める中、ラゴスが24位にランクインしています。

 

ラゴスを中心にナイジェリアのフードテックが台頭している背景には、人口増加に伴う食のニーズの高まりがあります。また、中間層が増えているため、食の多様化が進むと同時に、外食産業も成長しています。

 

SB社によれば、同都市にはフードテックのスタートアップが46社ありますが、その中には著名なベンチャーキャピタルから巨額な出資を受けて事業を急拡大している企業が数多く存在しています。例えば、2020年に創業したOrda社は、レストラン向けの注文管理や決済、商品在庫、物流システム等を管理できるプラットフォームをクラウドで提供しており、2022年1月に110万ドル(約1億5000万円※)を調達しました。

※1ドル=約136円で換算(2022年7月8日現在。以下同様)

 

ほかにも、Agricorp International社は、独自開発した「Farmbase」と呼ばれるテクノロジーを活用し、スパイスや養鶏農家を対象に詳細なプロフィールや財務フローを作成することで、農家の生産能力を高めており、2021年にはシリーズAの資金調達ステージで1750万ドル(約23億7000万円)もの巨額な資金調達に成功しました。同年には、レストランなどの食品サービス提供事業者と農家などを直接マッチングさせる仕組みを提供するVendease社も320万ドル(約4億3000万円)の資金を調達しています。

 

このように、多くの機関投資家や個人投資家、ベンチャーキャピタルが、ラゴスを中心にナイジェリアのフードテックに熱視線を送り続けています。同国の食に関する産業は今後も成長していくことが見込まれており、日本企業にとっても、その存在感はますます大きくなるでしょう。

 

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偽薬が30%を超える国も。製薬業界がブロックチェーンで対抗

【掲載日】2022年6月2日

フィンテックや物流をはじめ、さまざま分野で活用されているブロックチェーン。その存在感が製薬業界でも高まってきました。大手企業やスタートアップ、国際機関がブロックチェーンの活用を通して、医薬品のサプライチェーンや安全性を向上させようとしています。

↑ヘルスケア分野でも重要性を増すブロックチェーン

 

市場調査を行うMarket Satsville社によると、ヘルスケア分野でブロックチェーン技術を導入するスタートアップ企業への投資が右肩上がりで成長中。その市場規模は2021年で約4億9000万ドル(約627億円※)、2027年には約36億6190万ドル(約4686億円)に達すると予測されています。

※1ドル=約100円で換算(2022年5月31日現在)

 

医療記録の管理や医薬品におけるサプライチェーンの管理、偽造医薬品の防止など、ブロックチェーンが製薬業界にもたらすメリットはさまざま。例えば、医薬品のサプライチェーンの管理において、ブロックチェーンが薬の製造元や原材料の調達、輸送などに関する情報を追跡することで、透明性のある物流手段を確保することが可能。結果的に医薬品の安全性の向上につながります。

 

ブロックチェーンの価値はそれだけではありません。この技術は偽造医薬品対策としても注目されています。世界保健機関(WHO)によると、先進国で入手可能な医薬品の約1%が偽造品であるうえ、途上国の中には30%を超える規模で偽造品が蔓延している国々もあるとのこと。ここでも、ブロックチェーンのトレーサビリティが役に立つと言われているのです。

 

製薬業界へのブロックチェーンの導入を巡り、世界中の民間企業でさまざまな動きが見られます。アメリカやイギリス、中国、エストニアなどのブロックチェーン先進国では、すでに数多くのプロジェクトが進行しており、例えば、アメリカでは2020年にIBMやKPMG LLPなどのテクノロジー関連企業が、アメリカ国内の医薬品の検証と追跡を目的とした実証プログラムを実施しました。また、同国では大手製薬企業25社のコンソーシアム「MediLedger Pilot Project」が発足しており、製薬業界向けのブロックチェーンの構築が進められています。

 

ヘルスケア分野のスタートアップへの投資も活発。アメリカでは2018年に、医療データ向けのネットワークを構築するスタートアップのAkiriが約1000万ドル(約12億8000万円)の資金を調達しました。一方、中国では政府がヘルスケア分野へのブロックチェーンの導入を積極的に支援。同国のさまざまな都市がブロックチェーンのスタートアップに投資しています。

 

日本やオーストラリア、シンガポールなどもブロックチェーン先進国に続こうとしていますが、偽造品の流通といった製薬業界が抱える課題はグローバルな問題であるため、途上国の動向からも目が離せません。アフリカ諸国はIT技術を駆使して医療の問題を解決しようとしています。世界各国がこの分野で研究開発や投資を加速させてくることでしょう。

 

「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

●アイ・シー・ネット株式会社「海外進出に役立つ資料集」