コロナ禍でも日本は世界3位! 日本が20兆を注ぐ「FDI」、アジア向けは過去最高額に到達

【掲載日】2022年7月29日

2022年6月、UNCTAD(国際連合貿易開発会議)が、世界の投資に関する動向を調べた「World Investment Report 2022」を公開しました。アジアのレジリエンス(回復力)が特筆されています。

アジアのレジリエンスに世界の投資家が期待

 

途上国への海外直接投資(FDI※)は緩やかに増加しています。2019年から2020年にかけては新型コロナウイルスのパンデミックにより世界各国で投資が減退しましたが、2021年は復調の兆しが見られました。なかでも大きく注目されるのは、3年連続でFDIが増加したアジア。2021年のアジア全体に対するFDIは6190億ドル(約83兆円*)で、過去最高を記録しています。

※海外直接投資とは…海外で経営参加や技術提携を目的に行う投資のこと。現地法人の設立や外国法人への資本参加、不動産取得などを通じて行う。当該国では雇用の創出、技術移転などが期待できることから、特に開発途上国などで積極的な受け入れを行っている。英語表記はForeign Direct Investmentを略してFDIと称される。

*1ドル=約134.5円で換算(2022年7月29日現在。以下同様)

 

アジアの中でFDIが最も多く増加したエリアは東南アジア。その増加率は驚異の44%と、アジアのみならず世界のFDIを牽引するエンジンとなりました。例えば、この地域では、マレーシアが半導体分野で世界中から投資を受けています。

 

東南アジア以外のエリアに目を向けると、インドが注目されるでしょう。2021年のFDIは対前年比でマイナスであったものの、国際的なプロジェクトの投資契約は例年をはるかに上回るペースで増加。最近では日本製鉄やスズキ自動車などの大手日本企業がインドへの投資を発表しています。

 

アジア諸国へのFDIの増加の背景には、SDGs(持続可能な開発目標)があります。途上国では、全体的にSDGsに関連する分野への海外からの民間投資が2021年に70%増加。なかでも再生可能エネルギーと教育分野では、パンデミック前と比較して、前者への投資が2%、後者では17%増えました。2022年でもこの傾向は続いている模様で、先述したスズキはインドで電気自動車の工場を新設するために、約3500億円を投資しています。一方、教育分野におけるプロジェクト数は2019年の37件から2021年には60件に増えました。

 

このように、アジアの途上国は、コロナ禍のような状況下においても、安定した投資を世界中から受けており、回復力の高さを示しています。また、上述のインドにおける事例が示唆しているように、日本は2021年の海外直接投資額ランキングで前年の5位(投資額は960億ドル〔約13兆円〕)から3位(1470億ドル〔約20兆円〕)に順位を上げました。2019年は1位(2270億ドル〔約30兆円〕)で、コロナ禍で著しく減少したものの、再び増加に転じました。FDIがアジアを中心に立ち直る中、日本も盛り返しつつあります。

 

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「黒字経営なのに廃業」という不合理に「M&A × IT」で立ち向かう「M&Aクラウド」が目指すもの

五反田スタートアップ第14回「M&Aクラウド」

 

“廃業”と聞くと、どのようなイメージをもつだろうか。「財政状況が悪かったのだろう」「資金繰りが悪化したかな」と考えるかもしれない。ところが、債務超過がないどころか、毎年黒字の優良企業であっても廃業に追い込まれてしまうことがある。それは、事業を継ぐ人がいない場合だ。

 

五反田スタートアップ第14回は、そのような問題に真っ向から立ち向かうべく起業した、M&Aクラウドの代表取締役CEO・前川拓也氏と代表取締役COO・及川厚博氏に話をうかがった。

 

「他人事」ではなくM&Aという解決策を知ってもらいたい

――:御社名に含む「M&A」というのは、経済ニュースで取り上げられる、企業買収のM&Aのことでしょうか?

代表取締役CEO・前川拓也氏(以下、前川):そうです。企業の買収と売却、会社を買ったり売ったりということですね。弊社の事業は、通常であれば直接出向かなければならないM&Aの売り手と買い手のマッチングを、できる限りウェブ上で行なう、というサービスになっています。

20171201_y-koba8_02_R↑代表取締役CEO前川拓也氏

 

――:具体的なサービス内容を教えてください。

前川:「事業を売却したい」と売り主が考えても、ほとんどの場合そんなことは一生に一度、あるかないかのこと。なので、まずどこにアドバイスを求めればいいか、どこに売却を依頼すればいいのかがわからない。しかし、買い手側は経験値を積んでいますから、安く買い叩こうとする。つまり買い手が強い世界なのです。

 

そこで、我々は、売りたい事業の企業価値をAIなどを使って無料で算定し、匿名でアドバイザーに紹介。M&Aのマッチングがすべてクラウド上で完結できるプラットフォームを提供しています。

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また、M&Aを身近なものと感じていただいたり、企業買収の相場を過去データから知っていただいたりという啓蒙のために、オウンドメディアで情報を発信しています。

 

――:このサービスをはじめられた理由というのは何でしょうか?

前川:それには及川とぼくのバックグラウンドが大きく関係しています。

 

ぼくの父は、北海道 洞爺湖町で建築業をしていました。祖父の代からのものだったので4、50年という歴史がありましたが、ぼくが跡を継がなかったために廃業し、従業員も解雇となってしまいました。当時、父はM&Aという言葉すら知らなかったんです。もし、M&Aがもっと身近だったら、会社を売却することにより、事業も、従業員の雇用も継続できていたんじゃないのかな、と感じたんです。

 

代表取締役COO・及川厚博氏(以下、及川):ぼくは学生で起業して、アプリの受託開発を主軸に置いた事業をやっていました。それなりの規模に成長し、事業譲渡を考えたところ、不動産や転職サイトのように、自分の事業の価値を知るための相場のデータベースやシステムがM&A業界にはない。テクノロジーが入っていないことに気づきました。学生時代に取っていた簿記一級の知識を生かして、M&AにITを取り入れた何かができるんじゃないか、と感じました。

20171201_y-koba8_04_R↑代表取締役COO・及川厚博氏

 

前川:彼(及川氏)がやっていた会社「マクロパス」が南青山のシェアオフィス内にあって、そこのオーナーとぼくに付き合いがあったことから、知り合うことになりました。そして、M&Aという共通のワードから、M&A業界にソリューションを何かしら提供できないか、ということではじめたのがM&Aクラウド、というわけです。

 

――:事業承継問題は社会的にどれほど重要な問題なのでしょうか?

前川:廃業は、年に7万社。そのなかで黒字経営をずっと続けていて、さらに債務超過でもないという会社は3万社ほどあります。潰す必要がないのに子どもが継がないから潰しちゃう。規模の大小はあれども、黒字経営だから売ろうと思えば売れるのに、です。でも、M&Aっていうと、新聞報道での金額が大きいからか、みんな他人事だと捉えている。実際は数千万円規模の会社を買いたい、と考えている企業は多いんですけどね。

 

知っているか知らないかで、事業譲渡するか廃業するかという分かれ目になってしまうわけです。廃業したら当然、従業員も解雇されますからおおごとですよね。

 

及川:実際、年間35万人の雇用が失われています。経済産業省の試算によれば、事業承継失敗によるGDP(国内総生産)の損失額は2025年までに約22兆円、失われる雇用は650万に膨れ上がるだろうとのことで、国を挙げて取り組むべき課題となっています。

 

とはいえ、M&A自体の担い手が少ない。それに、いくつもの仲介業者に相談に行くにつれ、「どうもうちのオーナーが売却を検討しているみたいだ」という噂が従業員たちの間で広がって退職されたり、取引先が取引を継続してくれなくなったり、銀行が融資してくれなくなったり、とデメリットが多くなります。匿名性を保ちつつ、ふさわしい仲介業者を探す、という点で、ネットを使うメリットを感じています。

20171201_y-koba8_05_R↑「これまでの足を使った方法では、デメリットが多い」と前川氏

 

――:正直なところ、これまでM&Aの「敵対的買収」という側面しか知らなかったこともあり、良いイメージをもっていませんでした。でも実は、事業承継問題の解決策であり、従業員たちの雇用や生活を守る、という点で大きな意義がある、ということをおふたりの話から知ることができました。

 

無料で登録、匿名で事業価値を公開――事業売却時に抱える課題を解決

――:創業が2015年、サービスリリースが2017年6月とのことですが、苦労されたところはありますか?

前川:売主さんがなかなかここを見つけてくれない、というところですね。事業を売却しようとする際、まず買主の企業を探そうとするんですが、限界がある。そこで仲介業者に依頼するんですが、相性の善し悪しがわからず1軒目で契約を結んでしまうことがあります。相性っていうのは、例えばアパートを探しているのに、高級デザイナーズマンションを扱っている不動産業に依頼してしまうようなもので、ミスマッチなわけです。そういうところで疲弊して、ようやくうちにたどり着く、といったことが結構多いですね。

 

業者選びは重要なんですが、最初にお伝えしたように、一生に一度あるかないかなので、経験も知識も少ないですし、そもそもそれまでM&Aが他人事だったから情報も十分ではない。まずその重要性に気づいていただくというのが、うちとしては苦労しているところです。

 

――:そういうこともあって、オウンドメディアで情報を発信されているわけですね。登録件数やこれまでの事例をお聞きしてもよろしいですか?

前川:10月22日の段階で、売却したいという売主が150件、アドバイザーが35社となっています。アドバイザーとして登録していただく際には、書類での審査のほか、2回以上の面談を行っています。売主からいただいた3期分の財務データは、その名前を伏せ、特定できない状態にして、登録済みアドバイザー、仲介業者に紹介。事業売却を考えていることがよそに漏れることはありませんし、仲介業者も折り紙つきなので、安心してご登録いただけるかと思います。

 

実績としては、事業売却には約半年かかるのが相場といわれていますが、サービス立ち上げから5か月未満で3件のM&Aが成立しています。

 

――:マネタイズはどのようになっているのでしょうか?

前川:M&Aが成立すると、仲介業者が売主と買主から5%ずつの手数料を取るのが、この業界では一般的です。そして、ぼくたちは仲介業者が得た合計10%の手数料のうち30%、つまり、買収金の3%を成功報酬としていただいており、それが唯一の収入です。例えば、買収額が1億円なら、そのうち1000万円が仲介業者の手数料。さらにその30%が弊社の報酬金なので、300万円が収益になります。プラットフォームへの登録自体は、売主もM&A仲介業者も無料です。

 

及川:売主から直接お金をいただく、ということがないのが特徴です。むしろ、売却成功の「お祝い金」を売主にお支払しているぐらいなので、売主にとっては、うちを使っていただくことでメリットしか生じません。

 

前川:M&Aが成立したときもそうですが、業者選びで迷われている売主にうまくアドバイスできたときも、「この事業をはじめて良かった」と感じますね。

 

【五反田編】「売主さんが訪問するときに路上キャッチに遭わないかが心配だった」

――:事務所を五反田にした理由はなんでしょうか?

前川:創業時は南青山のシェアオフィスを使っていましたが、センシティブな情報を取り扱うのにシェアオフィスは良くないよね、ということで単独のオフィス探しがはじまりました。坪単価が1万円〜1万2500円でITベンチャーの多い渋谷にアクセスしやすい場所、しかもITベンチャーが多い場所、ということでここに。

 

ただ、五反田というと夜の街のイメージがあって、お客さんがこのビルに来るまでの間に路上キャッチに遭ってしまったらどうしよう!? という心配はありましたね。

 

及川:「大丈夫かな、この会社」って思われないか、ってね(笑)。

20171201_y-koba8_07_R↑「路上キャッチが心配だったけど、大丈夫だったね」と目を見合わせる

 

――:実際、五反田に事務所を構えてみてよかったと感じることはありますか?

及川:ランチ代が安く済むのがありがたいですね。南青山だとランチの平均が1000円ぐらい。雇った学生インターンやアルバイトさんたちが、ランチ代のために疲弊してしまうんですよね(笑)。でも、ここならその心配はないかなぁと。

 

――:お昼や夜の食事でお気に入りのお店はありますか?

前川:基本的に安いところを選んでいるので、立正大学の学食をよく利用しますね。

 

及川:外部の人とランチするときには、予約すれば絶対に入れて、しかもオシャレで量が多い、ということでロマーノ五反田を。

 

前川:夜は基本的に、すぐそばにガストがあるので、ガストのお弁当を買ってきてここで食べていますね。圧倒的に安いですし、すぐに食べられておすすめです。ほかには、お寿司の好きなメンバーがいるので、魚がし日本一もよく利用しますね。

 

――:五反田にはベンチャー企業が多く集まっていますが、コラボしてみたい企業はありますか?

前川:まだお会いしたことはないですが、クラスターさんと組んで、バーチャルM&A相談会やM&Aセミナーといったものをやれたらおもしろそうですね。

 

――:最後に、将来的なビジョンをお聞かせください。

前川:いまのところ、このプラットフォームに登録していただいているのは売主とM&A業者で、その両者をマッチングさせるサービスとなっていますが、買主も登録したい、というニーズが出てきています。将来的にはそのマッチングもできるかな、と考えています。とはいえ、絶対に必要なM&A業者を排除する、ということはありませんけどね。

 

及川:M&Aマッチングをクラウド上で行うサービスは未開拓領域なので、エンジニアのみなさんにはぜひ来ていただきたいですね。きっと面白いと思いますよ。そして、事業主の方で、興味があるならぜひ相談しに来てください。これは決して他人事などではないのですから。

 

――:ありがとうございました。