どう思う? 賛否両論の「脳を冷凍保存して意識をアップロードする」プロジェクト

シード投資とビジネス育成で大胆なスタートアップを世に出してきたシリコンバレーのベンチャー・キャピタル「Yコンビネータ−」。これまでの投資先にはDropboxやAirbnbと現代のテック・スタートアップの最先端を走る大ビジネスが並んでいます。

 

そんなYコンビネーターがサポートする「Nectome」がいま大きな話題を呼んでいます。なんと生きた状態の脳に特別な薬品を流し込み、冷凍保存することでニューロンのつながりを何百年も保存してしまうというもの。テクノロジーが発展した未来で、この状態からコンピューターに脳の持ち主の意識をアップロードできることを想定したサービスです。

公式サイトでは「意識をアーカイブするというゴールに取り組みます」と大宣言しています。現時点で開発を進めているのは上記の「脳の神経細胞の接続を保存したまま冷凍保存する」という技術。しかし、そこからコンピューターに意識をアップロードするという技術の開発はまだまだ遠い未来の話のようです。

 

公式ウェブサイトのタイムラインでは2021年までにはネズミの保存された脳から、ハイレベルの記憶を抽出に成功する予定とのこと。

 

「そんなSFみたいな話は、どうせすぐに消えてしまうでしょ」と思ってしまいそうになりますが、Nectomeにはトップレベルの神経科学者であるMITのEdward Boyden氏も参加し、政府からの助成金も獲得しているのです。

 

既に豚の脳では、電子顕微鏡ですべてシナプスが見ることができるほど良い状態で保存するということに成功しているとのこと。さらにMIT Reviewのレポートによると、今年2月には人間の女性の死後2.5時間経った後の脳を「アルデヒド安定化冷凍保存(ASC)」と呼ばれる方法で保存したとのこと。女性の死因、年齢、彼女が支払った金額については公開されていませんが、この研究はもうそこまで進んでいるのです。

 

こちらはNectomeが紹介する、ASCによって保存されたウサギの神経細胞を電子顕微鏡で捉えた様子です。

まだ技術は完成はしていないものの、1万ドルを払えば、ウェイティングリストに登録することができるそうです。既に希望者は25人。そのなかにはYコンビネーターのプログラムを創始した投資家の一人である32歳のSam Altman氏も含まれており、彼は自分が生きている間に「意識のデジタル化はきっと実現するだろう」とMIT Reviewの取材に答えています。

この方法で脳の神経接続を保存するためには脳が”新鮮な状態”であることが重要だとのこと。メインのユーザーとして想定しているのは何らかの疾患が末期に達した患者となっています。患者を人工心肺につなぎ、全身麻酔をし、防腐処理のための薬品を頸動脈から脳へと流し込む。もちろんこの処置をすることで患者の身体は死んでしまいますが、この少し恐ろしいプロセスによって、もしかしたら将来的に自分の意識が生き返るかもしれません。

 

MIT Reviewを含め、海外メディアでは「既に終末期を迎えた患者にとっては希望を与えるサービスかもしれない」「もし自分が末期の病気に苦しんでいれば、この方法で安楽死を選ぶ可能性は高い」といった声を紹介しています。

 

ちなみにカリフォルニア州では終末期の患者に対する安楽死は合法のため、Nectomeは「このビジネスも問題がないはずだ」と弁護士の見解を述べています。

 

これまではSF映画やアニメーションの世界の話だった「意識のデジタル化」ですが、「この技術がいずれ実現する」ことを前提として、こうして現実社会に登場してきたわけです。しかし、「実現しない可能性の高いものに対して誤った期待を持たせている」「自殺を促してしまう危険性がある」といった専門家たちから批判の声も多く上がってきているようです。

 

それでも、「この世界にいつか戻って来れるかもしれない」という希望が持つパワーは非常に大きいもの。今後も希望者の数は増えることが予想されます。はたしてこれが「生きることの意味」を変えてしまうのか、大きな議論の幕が開けられたのではないでしょうか。