無電化地域にあかりを届け、貧困を解消ーーパナソニックグループの「LIGHT UP THE FUTURE」が生む“正のスパイラル”

パナソニックグループは、1918年の創業以来、事業を通じて社会生活の改善と向上と世界文化の進展に寄与してきました。さらに、事業とは異なる方法で社会課題を解決するために、企業市民活動担当室を設置し、世界各地で活動を続けています。

 

そのひとつが、アフリカやアジアの無電化地域にあかりを届けるプロジェクト「LIGHT UP THE FUTURE」です。CSR・企業市民活動担当室 企業市民活動企画課主幹 多田 直之さんにプロジェクト発足の経緯、この活動がもたらす社会的インパクトについて伺いました。

 

パナソニック株式会社 CSR・企業市民活動担当室 企業市民活動企画課主幹 多田 直之さん/松下電器産業(現パナソニック)に入社後、電池事業の国内営業に配属され、市販営業部門で家電量販店ルート中心に担当。その後マーケティング本部に異動し、商品企画、販促企画等を担当。2008年ドラッグストアやコンビニエンスストア等を担当する日用品ルートの営業部長。2011年海外マーケティング本部に異動後、2015年インドネシアに赴任し、現地販売会社のマーケティング取締役に就任。帰国後2021年よりCSR・企業市民活動の仕事に従事

 

「貧困の解消」「環境活動」「学びの支援」をテーマに企業市民活動を展開

 

井上 パナソニックグループの活動方針を教えてください。

 

多田 私たちが目指しているのは、誰もが自分らしく活き活きと暮らす「サステナブルな共生社会」の実現です。この目標に向けて、貧困の解消、環境活動、学びの支援という3つの軸で活動を行っています。

 

井上 その3つを軸にしたのはなぜでしょうか。それぞれの領域で、どんな活動を行っていますか?

 

多田 創業者である松下幸之助は、「貧困は罪悪だ」と考えていました。「われわれ産業人の使命は貧乏を克服し、富を増大することであり、そのためにのみ、企業は繁栄していくことを許される」との言葉も残しています。そこで、貧困の解消に向けて、今回紹介するプロジェクト「LIGHT UP THE FUTURE」やNGO/NPOの組織基盤強化支援などを行っています。

 

環境活動は、次世代のために地球規模で取り組むべき課題です。世界各地で従業員が植樹や清掃などのボランティア活動をする「パナソニック エコリレー」をはじめ、さまざまな取り組みを行っています。

 

学びの支援も、「ものをつくる前に、人をつくる」という松下幸之助の理念に基づく活動です。人材育成の一環として、映像制作活動を通して創造性やチームワークを育むプログラム「キッド・ウィットネス・ニュース」、中学生を対象にしたキャリア教育などを運営しています。

 

無電化地域にあかりを届け、貧困の連鎖を食い止める

井上 今回取り上げる「LIGHT UP THE FUTURE」について、概要を教えてください。

 

多田 簡単に申し上げると、無電化地域にソーラーランタンをお届けする活動です。世界には、1日2.15ドル以下で暮らす絶対貧困層が約7億人近くいます。一方、電気のない地域で暮らす人々は6億人以上。アフリカやアジアの農村部などの無電化地域と絶対貧困層が暮らすエリアは重なるところが多いため、活動のターゲットを無電化地域に定めました。

 

無電化地域で暮らす人々は、灯油ランプをあかりにしています。安価で導入できますが、煙がひどく呼吸器を傷めて亡くなる方も。火事の原因にもなりますし、エネルギーコストもかかります。しかも、明るさもろうそく程度です。

 

こうした無電化地域に暮らす人々は、夜間の学習時間が取りにくく、学力向上が困難です。その結果、良い仕事に就けず、収入が上がりません。また、夜間の医療対応も難しいため、健康が維持できず、こちらも低収入の要因になっています。このように貧困の連鎖から抜け出せない、負のスパイラルが起きているのが最大の問題です。そこで、パナソニックグループのあかりをお届けできないかと考えたのが、このプロジェクトのスタートでした。

 

「LIGHT UP THE FUTURE」の概要

 

井上 いつ頃から始めた活動でしょうか。

 

多田 2006年に、ウガンダの大臣から「無電化地域で暮らす人々のために力を貸してください」という手紙をいただいたんです。ウガンダから来日した政府関係者が、たまたまパナソニックの太陽電池をご覧になったようでした。そこでソーラーランタンを開発し、2013年から18年までアジアやアフリカなどの30ヵ国に合計10万台を寄贈するプロジェクトを行ないました。「LIGHT UP THE FUTURE」は、当時の取り組みを受け継いだプロジェクトです。

 

井上 ビジネスとしてソーラーランタンの開発・販売に取り組んでいる企業もあります。事業化は考えなかったのでしょうか。

 

多田 確かにソーラーランタン市場は大きく、中国の大手企業はNGOとともに無電化地域に参入し、事業化しています。実は私も約10年前に、ソーラーランタンの事業化を視野に世界各国におけるマーケティング施策を検討したことがあります。社会課題解決を目指すソーシャルエンタープライズの中には、行商人に融資をして村に商品をお届けするといった取り組みを行う企業も。日本の衣料品や生活用品も販売されており、そこにパナソニックグループのソーラーランタンも加えられないかと考えたこともありました。ですが、残念ながら価格が折り合わず断念しました。

 

井上 このプロジェクトで目指すゴールについて教えてください。

 

多田 ゴールは、教育、健康、収入向上という3つのテーマでの機会を創出することです。無電化地域で暮らす方々が均等に与えられていない機会、つまり夜間学習や夜間医療、夜間の内職などの機会を得ることで、コミュニティの持続可能な発展につなげたいと考えています。あかりがあることで夜間でも勉強でき、学力が上がって、仕事に就けて収入が上がる。もしくは、夜間医療を受けられるので健康を維持でき、仕事を続けることで収入が向上する。つまり、先ほどの負のスパイラルを逆転させる社会構造を作ることを目指しています。

 

そこで、現地で活動する国連機関や開発機構、NGOとともに支援プログラムを展開しながら、社会的インパクトを測り、プロジェクトの拡大を進めています。

 

井上 パナソニックグループでインパクトの評価を行っているのでしょうか。

 

多田 かつては、第三者機関やNGO/NPOにお願いしてデータを取らせていただいていました。近年はベースラインを設計し、協働パートナーに「ソーラーランタンを導入したことで、子どもたちが夜に何時間勉強できているのか」「収入はどれくらい向上したのか」という変化値を取っていただいています。我々が担っているのは、現地のNGOや国連機関がハンドリングしている取り組みの一部分であるため、共通のゴールを設定し、定期的に情報共有しながら活動を進めています。

 

井上 となると、理念を共有できるパートナーをいかに探し、どのようにコミュニケーションを深めるかが活動の鍵になりそうですね。

 

多田 おっしゃる通りです。我々が2013年から18年まで「ソーラーランタン10万台プロジェクト」を行なった際、30ヵ国131の団体とお付き合いをさせていただきました。そのリソースがあるので、引き続き連携を深め、情報交換をしています。双方の思いが合致し、ゴールを共有できるパートナーと組むことが大変重要だと感じています。

 

 

あかりによって夜間も就労でき、収入が向上

井上 「LIGHT UP THE FUTURE」では、現在までに何ヵ国にソーラーランタンを寄贈してきたのでしょうか。

 

多田 33ヵ国です。パナソニックグループ創業100周年を記念して、ケニア、インドネシア、ミャンマーには太陽光発電システムを提供し、それ以外の国ではソーラーランタンを寄贈しています。

 

井上 国や地域によって、活動テーマも異なるのでしょうか。

 

多田 そうですね。もっともわかりやすいのが、ケニアに太陽光発電システムを導入した国際NGOワールド・ビジョンとの事例です。コミュニティの活動力強化を目指し、夜間学習や夜間診療に加えてワクチンの冷蔵保存、農園栽培など、より具体的な改善テーマを設定しました。

 

例えば、無電化地域に電気を通すと、ワクチンの冷蔵保存が可能になります。これまではワクチンが日持ちしないため少人数にしか接種できませんでしたが、冷蔵設備があると多くのワクチンを購入し、大勢の人々に接種できます。また、電気が通ることで灌漑事業や農園での作物栽培が可能になります。学校菜園を作れば、子どもたちが給食を食べに学校に来るようになるという効果も。従来は「子どもは労働力だから、学校には行かせず働かせたほうがいい」と考える親が多かったのですが、学校給食が出て子どもたちが喜べば、親も学校に通わせるようになります。その結果、学力が向上し、進級・進学率も急激に上がりました。学力がつけば良い仕事に就くことができ、収入向上にもつながります。

 

もうひとつ、ケニアにおける顕著な例が国連人口基金(UNFPA)と取り組んでいる女性の自立支援プロジェクトです。アフリカでは、法律で禁止されているにも関わらず、今なお児童婚や女性器切除の風習が依然として残っています。最大の問題は、自分の意思ではなく、子どもたちの自由が奪われていること。その根底にあるのは、やはり貧困です。貧しいがゆえに子どもを結婚させて、代わりに家畜などをもらう。そして、操を保証するために女性器切除を行う。そういう有害な慣行が今も残っているのです。そこでUNFPAでは、現地の女性にビーズの首飾りの作り方、売り方を提案し、収入向上につなげていました。私たちもその活動をサポートするため、ソーラーランタンを提供して夜間でも作業ができるようにしました。また、あかりを届けることで、子どもたちも夜間学習できるようになりました。

 

 

井上 いろいろな課題を解決する、もっとも有効なアプローチが現金収入源を増やすことだと思います。ソーラーランタンによって夜間の就労も可能になり、収入源を増やせる可能性があるというのは目から鱗でした。

 

多田 ケニアのビーズ制作だけでなく、かつてはカンボジアでの機織りも支援していました。貧困の根本的な課題は、負のスパイラルから抜け出せないことです。現地のパートナーと協働し、社会構造を変えることがもっとも重要だと思います。

 

無電化地域に電線を通したことで、コミュニティが自走し始めた例もあります。朝早くから夜遅くまで暗い時間も店を開けられるようになりましたし、電気バリカンや街頭テレビを使ったビジネスも始まり、持続可能な発展につながりました。協働パートナーとのディスカッションにより、継続性が生まれたのは大きな成果だと思います。

 

井上 社会的インパクトが数値化されたデータはありますか?

 

多田 ミャンマーのあるコミュニティでは、呼吸器にダメージを与える灯油ランプの使用率が37.7%減りました。また、推計ではありますが、夜間分娩により生まれた子どもが2434人。進級テストの合格率は57%から100%に伸びました。インドのコミュニティでは、あかりの下での年収が約40%増えたとの調査結果も出ています。こうした貧困解消へのインパクトだけでなく、環境面のインパクトも測っています。灯油ランプを使い続けていた場合、排出されていたであろうCO2は約81,000トン。それがソーラーランタンの使用により0になりました。また、ソーラーランタンによって創出されたクリーンエネルギーは約1,070MWhとされています。

 

世界にあかりを届ける参加型プログラムを実施

 

井上 数値的にも大きな成果を上げていますね。企業市民活動としての取り組みではありますが、企業の社会的価値が高まることでさまざまな好影響を及ぼしているのではないでしょうか。

 

多田 そうですね。我々がもっとも大きいと感じているのがコレクティブインパクト、つまりひとつのゴールに向けて、企業やNGO/NPOなどのパートナーが協働し、インパクトを最大化することです。社会課題の解決においては非常に大切なアプローチですが、実はあまり成功例がありません。

 

そんな中、パナソニックグループでは塩野義製薬と連携し、取り組みを進めています。塩野義製薬が力を入れているのは、母子の健康を守ること。ケニアでは、衛生環境や医療といったインフラ整備が十分でなく、5歳未満で亡くなってしまう子どもが非常に多いんです。それに対し、塩野義製薬は医療施設の提供などを行い、支援していました。こうしたエリアは無電化地域ですので、塩野義製薬からお声がけいただき、一緒に活動させていただくことになりました。パートナーが増えるのはとても重要なことですし、我々にとっても非常に大きな成果でした。

 

井上 無電化地域の支援において、今後どのような展開を考えていますか?

 

多田 最終的なゴールは、電気の通っていないエリアを減らすことです。とはいえ、国や行政が関わるお話ですので、まずは私たちができることとしてソーラーランタン以外にもアプローチを増やしていきたいと考えています。

 

それと同時に、一般の方にも参加していただける応援プログラム「みんなで“AKARI”アクション」も始めています。これは、読み終えた本、聴かなくなったCDを回収して再販売し、その寄付金をソーラーランタンに替えて無電化地域にお届けするプロジェクトです。リサイクルによる環境保全、そして募金による貧困の解消、ふたつの課題を解決する取り組みとなっています。

 

ソーシャルアクションにおける最大の課題は「無関心」です。多くの方に社会課題に関心を持っていただき、小さなアクションでも世界の誰かの笑顔につながることを実感していただきたい。そんな思いから、このリサイクル募金を始めました。現在、大学や商業施設、パナソニックグループ本社のある門真市の施設などに回収ボックスを置いていただいています。

 

井上 素晴らしい活動ですね。誰もがわかりやすい形で参加できますし、何に貢献しているのかも明確です。子どもに対する啓発にもつながる、教育効果の高い取り組みだと感じました。社員の皆さんもこうした活動に参加されているのでしょうか。

 

多田 もちろんリサイクル募金にも参加していますし、それ以外にも福利厚生として従業員に付与されるカフェテリアポイントを寄付する仕組みがあります。自分のために使った端数を寄付する社員も多く、毎年かなりの額が集まります。

 

井上 創業者である松下幸之助さんは、社会貢献を理念として掲げていました。だからこそ、パナソニックグループの社員にもそういった考えが自然に根付いているのでしょうか。

 

多田 そうあって欲しいですね。そもそもパナソニックグループは、CSRという言葉が聞かれるようになる前から、企業市民活動を行ってきました。1960年代には浅草寺の雷門や大提灯を建設寄贈したり、交通事故の多発を受けて大阪駅前に梅田新歩道橋を寄贈したりしています。

 

新入社員も、2週間の導入教育で経営理念や松下幸之助の思想を教え込まれます。普段の業務においても松下幸之助の言葉を引用することが多いので、知らず知らずのうちに考え方が身につくのかもしれません。

 

井上 これまでさまざまな企業のCSR活動を取材しましたが、アウトプットがあかりというのがわかりやすくて素晴らしいですね。一連の活動にも透明性があり、ダイレクトに社会課題の解決につながっていると感じました。理念がしっかりしていますし、パナソニックグループの事業とも結びつき、国や地域によってさまざまな工夫をされている。こうした積み重ねが、パナソニックグループならではの企業市民活動につながっているのではないかと思いました。

 

多田 ありがとうございます。今後も活動を継続しつつ、さらなる拡大を図っていきたいと考えています。「みんなで“AKARI”アクション」のような一般参加型プログラムは、「私の本やCDはどうなったんだろう」と関心を持つ方も多いと思われます。弊社サイトで成果を紹介することで、「世界に笑顔が広がるなら、もう一度本やCDをリサイクルしよう」という継続性にもつなげていきたいと思います。

 

 

執筆/野本由起 撮影/鈴木謙介

より社会に貢献したいから、CSRよりCSV。NECの担当者に聞く、途上国事業支援の未来

CSV(Creating Shared Value)は、企業が自社の事業や製品を通じて社会課題の解決に取り組むこと。社会課題の解決を目指すという視点ではCSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)と似ているCSVですが、取り組みを“ビジネスを通して”行うという点で異なっています。ビジネスによる利益を産むことで、事業として継続性を担保しながら社会へ貢献していくのが、CSVの特徴です。

 

そのCSVにいま注力しているのが、大手IT企業のNEC。開発途上国の支援を行いながら、現地のニーズを吸い上げてビジネスを構築し、継続性を生み出すための試行錯誤を重ねています。同社でCSVを担当する野田 眞さんに、大手IT企業ならではの、CSVの現在地を聞きました。

 

野田 眞/NEC グローバル事業推進統括部 ディレクター。国内印刷会社勤務を経て2008年NEC入社。海外キャリア営業本部にて東南アジア地域における携帯電話インフラ事業に従事。2013年よりNECマレーシアに出向、政府向けITシステムの導入を行う。2016年からはインドにおける政府向けITシステム導入を担当。2019年より国連開発計画本部に出向し、民間セクター連携アドバイザーとして国連と民間企業との連携事業を推進。2021年よりグローバル事業推進統括部にて国際機関との連携を通じた事業開発に従事。米コロンビア大学国際公共政策大学院公共政策修士課程卒。

 

総合力を武器に、開発途上国でのCSV事業を展開

現在NECでは、開発途上国支援のための取り組みを複数行っています。代表的なものが、以下の3案件になります。

 

・ブロックチェーン技術を活用した、インドスパイス産業トレーサビリティ向上プロジェクト

世界最大のスパイス生産国及び消費国であるインドでは、品質の担保やトレーサビリティが課題となっており、また中間業者が大きな利益を上げている反面、小規模農家への利益配分が低く、貧困にあえぐ農家が絶えない状況となっています。この原因の一つに農家がアクセスできる情報量が少ないという現状があり、バリューチェーン内の情報格差も解決すべき課題となっています。

 

この課題解決に挑むプロジェクトに参画したNECは、ブロックチェーン技術を活用してスパイスの生産、処理、加工、流通、販売といったバリューチェーンの各段階での情報を追跡し、スパイス製品の透明性を高めフェアトレードを後押しする仕組みを作りました。現在、3000人の農家の生産データをプラットフォームに登録し、今後さらに10万人規模に拡張を行うべくプロジェクトを進めています。

 

・ガーナ共和国での母子保健および栄養改善

味の素ファンデーション、シスメックスとの共創プロジェクト。味の素ファンデーションが2019年から現地で行っていた母子栄養改善の取り組みを発展させる形でスタートしました。

 

このプロジェクトでNECは、健康診断や栄養指導を通じて母子の行動変容を促進するアプリの開発を担当。同社が開発したアプリを使って現地の保健師が母子の診断や栄養指導を行い、味の素ファンデーションが提供する栄養補助食品の摂取や、シスメックス製の検査機器がある病院での精密検査に繋げるという取り組みです。

 

・開発途上国での予防接種率向上に向けた、生体認証活用

世界の子どもたちを救うための予防接種を推進する世界同盟「Gaviワクチンアライアンス」、英国の非営利企業「シムプリンツ」と覚書を締結、開発途上国におけるワクチン接種状況の管理を目的とした、1〜5歳の幼児の指紋認証の実用化を目指しています。予防接種ワクチンを適切に接種するため、指紋によって個人を識別、接種データを記録するという5000人規模の実証実験をバングラデシュで実施。他国からのニーズも出ており、2024年以降の実用化を目標にしています。

 

社会により貢献したいからこそ、ビジネスの視点が必要

井上 NECがCSV…とりわけ開発途上国での事業に積極的なのには、どのような理由があるのでしょうか?

 

野田 はい。以前からNECでは開発途上国向けのビジネスを多く手がけていまして、技術で世界をよりよいものにしようという考え方は、会社内に根付いていました。当社は、2015年に国連でSDGsが採択される前から「社会価値創造型企業」を目指しており、現在のCSVにつながる機運も社内にはありました。実際に現場の声が事業につながっている例もあります。例えばインドで行っているスパイス産業トレーサビリティ向上プロジェクトでは、NECのインド拠点からの現場の声やプロジェクト参画可能性を検討した上で、公募に応募し採択に至りました。

 

井上 なるほど。インド拠点の規模はどの程度なのでしょうか。

 

野田 グループ全体で約6000人です。

 

井上 かなりの規模ですね。インドでは多くのビジネスを展開されているのでしょうか。

 

野田 NECのインド拠点の歴史はかなり長く、携帯電話の通信システムや物流システム、生体認証を使った国民ID「アドハー」などの開発を手がけてきました。同国内の海底ケーブルや公共交通バスの到着予測や料金決済のシステムにも、NECのシステムが採用されています。

 

井上 インドは世界の人口1位にもなりましたし、これから注目の国ですよね。

 

野田 おっしゃる通りです。しかも現地エンジニアの技術力が高いです。同スパイストレーサビリティプロジェクトのために開発したプラットフォームも、インドのチームだけで開発を行っており、日本国内メンバーはあまり関与していません。

 

井上 すごい技術力ですね。そのプラットフォームについて、ぜひ詳しく教えてください。

 

野田 まず開発の背景ですが、インドは世界最大のスパイスの生産・消費国家です。しかし、品質の担保やトレーサビリティに課題があるため、世界市場での競争力強化に向け改善が必要な分野となっています。インドのスパイス農家の85%は小規模農家です。公設市場の仲介業者は競争がないために取引を支配しており、農産物を持ち寄った農家は提示された価格を受け入れるしかないという不当な扱いを受けてきており、多くの農家が貧困に苦しんでいました。

 

井上 農作物が仲介業者に安く買い叩かれてしまうというのは、開発途上国でよくあることですね。

 

野田 そこで我々が行ったのが、生産者と農作物の品質のデータ化です。スパイスの大袋にQRコードを貼り、それをスキャンすると生産者や農作物の種類や品質、収穫量が表示されるシステムを作りました。データの管理は、セキュリティに優れ、改ざんを防ぎやすくデータの透明性が高いブロックチェーン技術を活用し、現地の農業組合やNGOに協力してもらいデータの入力を進めています。

 

香辛料を仕分ける

 

作業場の風景

 

井上 システムを導入するのに、仲介業者からの反発はなかったのですか。

 

野田 ありましたね。でもこのプラットフォームが普及すれば、スパイスの品質が担保されるようになって、より高付加価値な商品が生まれやすくなります。つまり仲介業者にもメリットがあるのです。その点を訴求して協力を促しています。

 

井上 そういった利害関係者との調整は簡単ではなさそうですが、事業はどの程度進んでいるのでしょうか?

 

野田 実際、インド政府関係者の方からも「染みついた商習慣だから、変えるのはなかなか難しい」と言われました。しかし幸いなことにプロジェクトは着々と前に進んでいます。現在、3000人の農家の生産データが登録されていますが、今後2年間で10万人の生産データを登録していく予定です。

 

井上 10万人にもなると、かなり大きなデータになりますね。ところでこのプラットフォームは、ほかの開発途上国の作物でも使えるのではないかと思いました。

 

野田 その通りです。高付加価値の製品とは特に相性がいいと考えています。たとえばカカオやコーヒー、ハチミツなどですね。いまのところ、インドで運用しているデータの規模がまだまだ小さいので、これから拡張していって、それができた段階で他国へ展開できればと考えています。

 

 

横展開や他社との協力で、エコシステムを構築する

井上 横展開の事例や展望は、ほかの事業でもありますか?

 

野田 ガーナで行っている母子保健や栄養改善のプログラムについてですが、ここで使用しているアプリは、他のプロジェクトで開発したものをベースにしています。以前インド向けに、糖尿病予防に向けた訪問型健康診断アプリを開発したことがあったのですが、ガーナでの取り組みの案を事業部と練っているときに「このアプリが使えるのではないか」という声が出ました。結果として、ガーナ向けのアプリのUIはインド向けのものを活用して、測定・記録する数値などをガーナの母子向けにカスタマイズしたものになっています。

 

ガーナの母子保健アプリ

 

井上 プロジェクトを横断して過去の実績を活かせるのは、大手ICT企業ならではの強みですね。ガーナでのプログラムの目的に「行動変容」というものがありますが、現地の母子の行動を変えていくための仕組みには興味があります。

 

野田 我々が参画する前に、ガーナですでに活動していた味の素ファンデーションの知見やコンテンツを活かしています。味の素ファンデーションが現地で行っていた、栄養教育のためのコンテンツをムービー化して、アプリから見られるようにした、というのはその一例です。

 

井上 現地の保健師さんによる診断にも、アプリを活用しているそうですね。

 

野田 アプリを使うのは保健師さんなので、彼らにとって便利なものでなくては使ってもらえません。そこで、母子の診療情報をアプリに入力することで、データを一括管理できるようにしました。アプリのおかげで保健師さんのデータ管理の手間が減りますし、確実性も上がります。

 

パートナーのシスメックスの機器運用の様子

 

井上 複数の企業で連携して行うプロジェクトゆえのメリットもあるのでしょうか。

 

野田 自分たちでエコシステムを構築できているところですね。NECのアプリで栄養教育の啓発を行い、味の素ファンデーションの栄養補助食品摂取につなげる。もし診断で貧血傾向が見られたらシスメックスの医療機器で追加検査を行うといったように、役割分担をしながら、プロジェクト内でシステムを完結できています。

 

井上 開発途上国での予防接種率向上のための生体認証活用でも、外部の企業と連携されていますよね。

 

野田 こちらのプロジェクトは、英国の非営利企業シムプリンツと組んで行っています。ただし、シムプリンツも生体認証のシステムを開発しているので、NECの事業と競合する部分があります。そこで当社は、1〜5歳の幼児向け指紋認証技術を提供するという形で参画しました。

 

井上 幼児向けの指紋認証技術は、成人向けのものよりも、難しい技術なのですよね。

 

野田 はい。幼児は指先が柔らかく指紋が変形しやすい為、指紋認証が難しいのです。生体認証を活用した国民IDの付与はインドなど複数の国で事例がありますが、技術的な問題から幼児は対象外になりました。しかし、幼児の指紋認証が可能になれば、子どもの誘拐対策などにも応用できる可能性があります。今回の実証実験を通して技術の精度をより高め、実用化に漕ぎつけたいと思っています。

 

井上 幼児向け指紋認証を実用化するとなると、顧客像はどのようなものになりますか?

 

野田 ひとつ考えられるのは保険会社です。指紋認証で、予防接種はもちろん、診療データなどの情報を管理できるようになれば、提供する保険を考える上での参考になります。あるいは現地政府にビッグデータを提供して、予防接種などの施策の効果検証を、より効率的に行えるようにもなると考えています。

 

井上 政府規模の機関が顧客になれば事業化も進みそうです。

 

野田 実際その展望は持っています。しかし、開発途上国の政府は資金が潤沢でないケースも多いので、日本政府や国際機関などからの出資によって事業を行っているのが現状です。各国政府の自己資金獲得に働きかけていくのは次のフェーズだと思っています。

 

課題はあるが、CSV事業の将来性は大きい

井上 いま御社のCSVが抱えている課題には、どのようなものがあるのでしょうか。

 

 

野田 まずは物事の決定に時間がかかることですね。国際機関を通した事業では、支払いトラブルが起きるリスクが低い反面、多数のステークホルダーがからみます。インドのスパイスプロジェクトの件で言えば、2022年8月に3000人の農家の生産データを入力完了し、システムを納品しましたが、これをさらに拡張するというプロジェクトの動き出しは、2024年にようやく始められそうといった感触です。

 

井上 私の会社もODAの現場で事業を行っていますが、スピード感の課題はいつも実感しています。

 

野田 あとは社内の説得も難しいですね。いくら社会貢献になるといっても、ビジネスとして成立しなければダメですから。公募に応募するための社内承認を得るには、事業規模を拡大する方策や他国への横展開の展望などをしっかり描く必要があります。CSVをより推進していくにあたって、精度の高いビジネスプランの作成に特に注力しています。

 

井上 課題がある一方で、手応えもあるのでしょうか。

 

野田 手応えはかなりあります。インドのプロジェクトは現地メディアからも注目を集めて、プレスリリースを出した時には50社ほどから記事が掲載されました。これをきっかけに我々の知名度が上がり、現地の財団から小規模農家向けの投資プラットフォームを開発してほしいという話も頂きましたし、将来性は大きいと考えています。

 

井上 農業関連ではカゴメとスマート農業の推進で協業されているとも聞きました。

 

野田 はい。気象や灌漑などのデータを組み合わせて活用した農業の最適化を推進していて、現在アジアやアフリカの各国で提案活動を行っています。農業は近年加速する気候変動とも関連性が強いですし、国際機関などからの資金提供を得やすい分野となっています。

 

井上 開発途上国で展開するCSVのポテンシャルはやはり大きいですね。

 

野田 国際機関においてもデジタライゼーションによる事業の効率化は大きなテーマになっていますし、DXを活用したCSVは大きな可能性を秘めていると認識しています。現地のスタートアップが参入する傾向が主にアフリカでは顕著なので、彼らに負けないような事業を展開していきたいですね。

 

 

執筆/畑野壮太 撮影/鈴木謙介

外国人材市場における日本の課題とは? PERSOL Global Workforce・多田盛弘社長が語る真のグローバル化

人口削減が加速する日本社会で、外国人材は日本の重要な働き手となっています。 法制度のもとでは、外国人材を受け入れる体制が整わず、技能実習制度が実質的な労働力の2019年、この状況に変化が生じました。新たな在留資格「特定技能」制度が開始されたことにより、日本は労働力として外国人材を受け入れる方針に踏み切りました。

2021年度には100社以上の日本企業への採用支援を実施し、400名以上の外国人材の採用を支援している、PERSOL Global Workforceの代表取締役社長・多田盛弘氏に変革期にある日本の外国人材採用の最前線について、前後編にわたりお話を伺いました。日本の外国人材市場の変化をお話いただいた前半に続き、後編では多田社長が考える「受け入れる側の課題」などをうかがいました。

 

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PERSOL Global Workforce・多田盛弘社長に聞く「日本の将来を担う外国人材の最前線」

外国人材を受け入れるために必要なこと

井上 特定技能制度では新たに、外国人材の転職が認められるようになりました。外国人材にとって職場を変える選択肢ができたことになりますが、受け入れ側の企業にとっては採用した人材が他社に取られてしまうというリスクと受け取れられるかもしれません。

 

多田 確かにそういった側面もありますが、転職できることが企業にとって難点となるかというと、必ずしもそうとはいえません。外国人材が転職を望む状況を見ると、職場の人間関係や、職場の環境に不満がある場合が多いことに気づきます。

こう説明すると、外国人材の離職を防ぐために、何か特別な対策が必要と思われるかもしれません。しかし、実際には外国人材が離職を考える理由の多くは、日本人の若手が離職する理由と共通しています。つまり、まずは従業員全体の満足度を高めるための工夫をするべきで、それが外国人材にとっても定着を促す工夫となります。外国人材が働きやすい職場なら、そこは日本人にとっても働きやすい職場だということです。

 

PERSOL Global Workforceの代表取締役社長・多田盛弘

 

地域社会で受け入れるポイント

井上 ここからは、地域社会で外国人材を受け入れる上での課題についてうかがいます。現状では、地域や自治体によって、外国人材の受け入れ態勢に差があるのでしょうか。

 

多田 はい。全国各地の自治体とお話しする中で、熱意や真剣度に差があると感じています。受け入れに積極的なのは、人口減少が進んでいる地域です。そうした地域の方々は、日本人だけで地域社会を担っていくという現状は、持続的では無いという危機意識が強く、外国人材を地域社会の担い手として受け入れるべく、真剣に取り組まれています。

一方で、地域によっては外国人材に対する受け入れ準備が整っておらず、予算も専任の担当部署が存在しないという自治体もあります。当社としては、より幅広い地域において、地域社会の存続ためにも、外国人材と共生する必要性があると訴えていきたいと考えています。

 

井上 外国人材が働き手として増えていく中で、地域社会や自治体はどのような心がけが必要となるのでしょうか。

 

多田 考え方としては企業が外国人材を受け入れるのと変わりません。日本人が住み続けたいと思われる地域なら、外国人の受け入れもスムーズに進みやすいでしょう。ここで重要なのは、外国人材と地域住民の方と交流を持つことです。地域住民の方の中には、外国人が怖いとか、警戒されているという方もいらっしゃいます。

日本で生活するためのさまざまな手続きもサポートする

 

井上 外国人に馴染みがないし、彼らの考え方もよく知らないから怖いと。

 

多田 そうですね。未知のものに対する恐れには、知っていただくことが一番だと考えています。特定技能制度では外国人材が日本での生活を始める時に、市役所での手続きをサポートする機会があります。当社ではそのタイミングで、外国人材の方と一緒にご近所の方へご挨拶にうかがい、地域の方に知っていただく取り組みをしています。この他にも、地域のお祭りへ参加したり、小さな交流パーティーを開いたりといった取り組みを通して、外国人材と地域の方との交流を促しています。

 

井上 外国人と地域の人が顔見知りの中になることで、地域社会での共生がスムーズに進むということですね。宗教や生活習慣の違いから困難を抱えることはありますか。

 

多田 宗教が原因でトラブルになることは、実際にはほとんどありません。例えばイスラームでは豚肉食が禁じられているといった食文化の違いはありますが、生活圏に大きなスーパーがあれば食文化は問題になることはありません。

生活習慣の違いから生じるトラブルは、多くはありませんが存在します。例えば、外国人材の男性が上半身裸で道を出歩いていてしまったり、駅前のロータリーで複数人でしゃがんでしゃべっていたりといったように、母国と同じ感覚で行ってしまったことが、クレームとなったこともあります。

これらは彼らの母国では当たり前の習慣なので、悪気があってやっている訳ではないのですが、当人に対しては「そうした習慣は日本の文化では良くないことだよ」と説明して、理解してもらうことが重要です。

そしてまた、地域でトラブルがあったときには本人と一緒にご近所の方に謝罪にうかがうことも重要と考えています。これも小さな行いかもしれませんが、文化の違いから行ってしまったことだと、地域の方に知っていただくことが大事だと考えています。

文化の違いから生じる誤解は、大きな分断を生む可能性があります。そして、そうした誤解を解くためには、小さな交流を重ねていくことが重要です。多文化共生というと難しく聞こえますが、こうした小さな心がけから実っていくものなのではないかと思います。

 

井上編集長が日本の重要なキーワードと考える「外国人材」

 

井上 ありがとうございます。今回の対談を通して、日本がグローバル化する社会の中で、外国人材をどう受け入れて、持続的な成長に繋げていくかのヒントを得たように感じます。

日本人は「外国人だから特別な対応をしなくちゃ」を考えがちですが、実際には日本人と外国人で差を付ける意味はなく、真に重要なのは「人として真っ当に接する」ことであるように考えさせられました。

 

多田 そうですね。同意します。働くのがフィリピンの方だからフィリピンの方向けのマネジメントをやったとか、アフリカの方を考えてアフリカ人に向けたチーム形成をしたということはありません。人が働きやすく、モチベーションがわく環境は、万国共通のものですので。

「グローバル感覚がある」と聞いて、皆さん、英語が話せるとか、海外経験があるというのを思い浮かべると思います。ですが、そうではなく、諸外国の方たちと人間としてフラットに接することができるようになった時こそ、真にグローバル化したと言えるのではないでしょうか。

 

 

取材・文/石井 徹 撮影/ 映美

PERSOL Global Workforce・多田盛弘社長に聞く「日本の将来を担う外国人材の最前線」

人口削減が加速する日本社会で、外国人材は日本の重要な働き手となっています。 法制度のもとでは、外国人材を受け入れる体制が整わず、技能実習制度が実質的な労働力の2019年、この状況に変化が生じました。新たな在留資格「特定技能」制度が開始されたことにより、日本は労働力として外国人材を受け入れる方針に踏み切りました。

この大きな方向転換の中で、パーソルグループは外国人材に特化した新会社PERSOL Global Workforceを設立。 2021年度には100社以上の日本企業・400名以上の外国人材の採用を支援するなど、外国人材と日本をつなぐ架け橋として、事業を拡大しつつあります。PERSOL Global Workforceの代表取締役社長・多田盛弘氏に、変革期にある日本の外国人材採用の最前線について聞きました。前後編でお送りします。

 

技能実習開始から30年、日本の外国人材市場の変化

井上 PERSOL Global Workforceの活動内容と、事業内容と特徴をお聞かせください。

 

多田 当社は2019年の特定技能認定の開始に合わせて、外国人材紹介と定着支援に特化した事業会社として活動をスタートしました。透明性が高く、クリーンな外国人材外国人材の育成から、採用、日本での就労、そして帰国後のキャリア形成まで、一気通貫での支援を行っています。

 

井上 日本の外国人材市場の現状について教えてください。

 

多田 外国人材は、日本社会を支える貴重な働き手となっています。 特に介護や農業などの業種では、外国人材なしでは立ち行かないとは過言ではないでしょう。そして今、 日本の外国人材市場は、大きな転換点を迎えています。

歴史を遡ると、約30年前の入管法改正により、日本で働く外国人労働者数が本格的に増え始めました。ただし、その時は技術・人文知識・国際業務などの高度人材を受け入れる労働目的として在留資格以外で来日する人材が3割以上を占めます。例えば日本への職能を学ぶための「技能実習」制度や留学生として来日し、在留資格「留学」の資格外活動という形で働いています外国人材がそれにあたります。日本でコンビニエンスストアで働くことを目的として在留資格は存在せず、よく見かける外国籍のスタッフの多くは留学生の立場で来日してアルバイトとして働いています。

これに対して、2018年に成立した改正入管法では、新たな在留資格「特定技能」が定められました。2019年4月からスタートしたこの在留資格は、介護や農業などの国内人材を確保することが困難な状況にある産業において、一定の専門性・技能を有する外国人材を労働者として受け入れる制度です。

 

井上 これまでの制度の課題とは何だったのでしょうか。

 

多田 技能実習生も留学生も、これらの在留資格は、「働くため」ではなく、「学ぶため」という前提がありました。こうした前提があるために、人材紹介ビジネスモデルを成立させることが難しく、さまざまな課題が生じていました。

その1つが、報道でよく知られるところとなった「送り出し機関」の課題ですね。従来の技能実習制度は、技能実習生の母国に所在する「送り出し機関」と、日本にある「監理機関」が連携して、外国人材を日本の企業に紹介する仕組みとなっています。多くの送り出し機関や監理機関は真っ当な仲介を行っていますが、中には送り出し機関の中には働き手の外国人材から搾取を行うような機関も存在します。技能実習生の中には、日本で働くための100万円~200万円の借金を背負っている人も存在するのです。

さらに、技能実習生の失踪問題もあります。技能実習生を受け入れている職場の一部では、適切な労働環境が用意されておらず、技能実習生が耐え切れずに失踪してしまうケースもあります。送り出し機関は日本国外に存在しており、日本から管理・監督が難しいという問題、また労働環境に関しては、受け入れ企業を管理・監督すべき監理団体が機能していないという構造的な問題があります。

 

特定技能・外国人材の来日の様子

 

井上 技能実習制度の仕組みでは、適切な労働環境を確保するのが難しく、悪質な事業者の介在を許してしまう、ということですね。

 

多田 はい。外国人材にとっては、日本の市場で働きたいというニーズがあり、日本企業にとっては労働力を受け入れたいというニーズがありました。双方に需給がある一方で、特定技能資格の創設前は、それに相応しい在留資格が存在しませんでした。制度の不在が技能実習の悪用に繋がり、さまざまな問題を引き起こすことになったという訳です。

特定技能制度は、こうした技能実習の反省を踏まえて創設されました。看護、建設、製造など12の分野を対象とした在留資格で、2019年〜2023年度までの5年間で最大34.5万人を受け入れ上限としています。これまで労働力として外国人を受け入れることに及び腰だった日本にとって、特定技能の開始により、ようやく門戸を開いたことになります。

 

井上 日本で働きたいと思う外国人材にとって、大きな変化と言えますね。特定技能制度には、どのような特徴がありますか。

 

多田 特定技能制度は、「働く」ことを前提とした在留資格ですので、原則として外国人材と企業側が直接雇用契約を結ぶことになります。そのため、この制度において人材紹介を行う事業者は、職業安定法に基づく職業紹介事業者としての許可が求められるようになりました。つまり日本人が日本企業で求職する場合と、より近い制度設計となっています。

技能実習で認められていなかった「転職」が可能になったこともポイントです。特定技能で働く外国人労働者は、技能を有する業種であれば、別の企業へ転職することが認められています。また、農業と漁業の分野では派遣労働が可能となっており、繁忙期に合わせて柔軟に雇用先を変える働き方も可能となりました。

特定技能には1号と2号という、2つの分類があります。1号は介護、ビルクリーニング、自動車整備、農業、食品製造、外食業など12分野の14業種が指定されています。2号は特に習熟した技能を有する外国人に付与される在留資格で就労期間の上限がなく、配偶者や子どもの帯同も可能となっています。現在、2号は建設業と造船業のみに限定されていることから対象者が少なく、現在は特定技能1号を利用されている方がほとんどですが、政府は特定技能2号の対象業種を拡大する閣議決定を2023年6月にしています。

 

井上 外国人にとって、より健全な制度設計になっていますね。

 

多田 はい。外国人材市場の形成という観点からも、特定技能制度よりも透明性の高い市場形成が可能になったと考えています。一方で、解決されるべき課題が残されていると当社は考えています。

 

PERSOL Global Workforceの代表取締役社長・多田盛弘

 

5年上限は妥当?

井上 特定技能制度のどのような点が課題と考えていますか。

 

多田 実際の運用において課題となるのは、5年という在留期間の上限です。閣議決定で2号への適用業種の拡大を決めて5年以上働ける可能性も出てきましたが、狭き門にする議論もされており、せっかく外国人材を受け入れても、5年働いてもらったら母国へ帰らざるを得ない人たちも多くなる可能性があります。

 

井上 日本で働き続けたいと希望する人に、キャリアが用意されていないということですね。

 

多田 その通りです。特定技能1号の期間を修了した外国人材は、日本で5年も働いて、日本語もペラペラになり、各分野でスキルや経験を積んだ人たちです。日本で活躍できる即戦力といえます。そうした方々に日本での適切なキャリアパスが提供されないという状況は、改善されるべきだと私たちは考えています。

日本は少子高齢化が続いており、労働力不足は今後ますます深刻になるでしょう。そして、外国人材の市場は変化し続けており、日本の労働市場は魅力的ではなくなりつつあります。そのような状況下で日本を選び、一定のスキルを積んだ人材を帰国させてしまうというのは、長期的に見て日本社会の損失ではないでしょうか。

 

「給与の高い国」ではなくなった日本

井上 外国人材市場の動向についてうかがいます。外国人材市場において、日本はどのような国として見られているのでしょうか。

 

多田 技能実習制度が始まった頃の日本はバブル崩壊直後で経済的にも余裕があり、海外に働きたいと志す新興国の人にとって、魅力的な国の1つでした。しかし、今はそうではありません。日本は残念なことに、少なくとも外国人材にとって給与面での魅力はなくなっているのです。

介護業界を例に上げて説明しましょう。フィリピンは、看護師、介護士を育成して世界各国へ送り出しています。フィリピン人にとって、外国で介護の仕事をするというのは身近な選択肢です。

そんなフィリピンの方が海外で働こうと決めたシーンを想像してみてください。この人は次に、どの国で働こうかと比較することになります。日本の介護業界では、月給にして10万円台後半が一般的な水準です。一方でドイツの介護業界では、同じスキルの労働者を月給30万円〜50万円台で受け入れています。

待遇面で比較すると、ドイツで働く人は、日本で働く人の3倍近い給与をもらえる可能性があるわけです。この給与水準は2022年に円安時期にドイツの介護事業の経営者から聞いたものですが、円安を考慮しても、給与面での他国と日本の乖離は非常に大きくなっています。

 

井上 日本は給与水準で海外との競争に遅れをとりつつある、ということですね。

 

多田 おっしゃる通りです。特にスキルの高い人材は、日本市場を選ばなくなっている傾向があります。待遇面で見るなら、日本は消極的な選択肢になっています。「欧米で働きたかったけれど、行けなかったから日本に行く」というような選ばれ方をしています。

 

井上 日本市場を選ぶ人は、どのような理由で選んでいるのでしょうか。

 

多田 やはり、日本の経済力が伸びていた時代のブランド力がまだ持続しており、治安の良さなどを評価されて、日本を選ばれる方が多いようです。

また、アニメや漫画が好きという方も、一定数は日本を選択される方もいらっしゃいます。「日本が好きだから、給与は高くないけれど、日本で働きたい」という方ですね。

先ほど申し上げた通り、特定技能では、現状は上限5年、2号拡大後も多くの人材が帰国する可能性があります。ポジティブな理由で日本を選んで、5年間働いて日本語も慣れた外国人材を母国へ帰してしまう。これは非常にもったいないことだと思います。

 

井上 示唆に富むお話ですね。外国人材にとって、日本が選ばれにくくなっている現状を、働き手を必要とする日本企業は、どのように捉えているのでしょうか。

 

多田 企業によって様々ではあるのですが、「東南アジアの人材なら、日本人の最低賃金を出せば集まるんじゃないの?」と考えている方もいらっしゃいます。人材市場の現状を知る立場としては、その考え方で外国人材を集めるのは難しいということをお伝えしなければなりません。

当社も、これまで、フィリピン、インドネシア、ベトナムといった東南アジアの国々の人材を中心に受け入れを行ってきていますが、今後は、バングラデシュやスリランカのような南アジアの新興国にも展開を広げ、外国人材と日本の企業を繋いでいきたいと考えています。

また、受け入れ先となる企業へ外国人材市場の現状を正しくお伝えすることも、私たちの重要な役割です。PERSOL Global Workforceでは、外国人材を受け入れたい企業に向けたセミナーを実施しており、私自身も北海道から沖縄まで、全国各地で講演しています。

 

外国人材についての講演は年間100回を超えるという

 

外国人材と企業、受け入れ前の悩みと受け入れ後の実感

井上 受け入れる側の企業は、外国人材をどのように考えているのでしょうか。

 

多田 外国人を雇用していない企業の皆さんに悩みごとをうかがうと、具体的に課題があるというよりも「外国人を雇ったことがないため、対応が分からない」というような、漠然とした懸念をお持ちになられていることが多いようです。「文化や慣習が違うから、揉め事を起こすのではないか」と懸念される方も多くいらっしゃいます。

ただ、ここは強調しておきたいことなのですが、実際に外国人を受け入れている企業の方々に率直な感想をうかがうと、ほとんどの方が「働きぶりが想定以上でした」とおっしゃいます。文化や慣習の違いが大きな問題になることもほとんどありません。

 

井上 雇用する前の不安と、実際に雇用してみての感想が対照的ですね。

 

多田 そうですね。実際に受け入れた企業の方からは「日本人よりも熱心に働く」というお声をいただくことも多くあります。

これは当然といえば当然の話です。海外で働こうと志して、外国語と資格取得のための勉強をわざわざ行うような人材は、業務に当たる時のモチベーションも責任感も高い水準になるのは、ご想像に難くないでしょう。

 

井上 なるほど。そうなると、最初の一歩が課題となるわけですね。

 

多田 そうですね。そのハードルを下げていくためにも、外国人材市場の現状をご紹介するのは、私たちの重要な役割だと考えています。

 

 

研修は日本語能力を重視

井上 特定技能1号で働く外国人材は、入国前に日本語能力と技能を確認することとされています。入国前の研修は、どのような形で行われているのでしょうか。

 

多田 当社では、入国前の資格取得の段階から支援を行っています。研修期間は約3か月で、研修の大部分は日本語でコミュニケーションを取るための教育に充てています。

 

井上 日本語を重視したプログラムなのですね。

 

多田 はい。アプリを活用して、まずは特定技能を取得するために必要な、専門知識を身につけるための学習プログラムを提供しています。当社の日本語教育んも大きな特徴は短期間で実践的な語学力を身につけることができることです。講義を聞くのではなく、生徒自身が会話する、文章を作るというアウトプットを重視した内容です。

また実際、外国人材が日本で働く上で、最も重要なのはその分野のスキルよりも日本語でのコミュニケーション能力です。

 

日本への就業を目指し、日本語学習

 

井上 なぜ、日本語のコミュニケーションが重要でしょうか?

 

多田 日本語での情報伝達ができれば、業務知識自体はOJTなどの入社後研修で身につけることができるからです。建設、農業、製造業など特定技能の対象産業の現場で、日本人を採用する際に資格が義務付けられているケースは少ないです。例えば介護業界なら、介護福祉士の資格を取得して転職活動をされる方もいらっしゃいますが、業界未経験で、職務を通してスキルを身につけられている方も多くいます。

要するに、業務における情報伝達さえしっかりと行えれば、実践的なスキルは業務を通じて獲得することができるということです。これは外国人材でも同じです。

 

井上 短期集中で日本語をしっかりと身につけてもらって、スキル形成は就職後、現場での研修と業務経験でということですね。

 

多田 はい。研修にも費用はかかりますし、外国人材にとっても研修で長期間拘束されることは負担となります。研修期間を圧縮して、短期集中で行うことには、受け入れ企業と外国人材の双方にメリットがあるのです。

 

【後半記事】
外国人材市場における日本の課題とは? PERSOL Global Workforce・多田盛弘社長が語る真のグローバル化

 

取材・文/石井 徹 撮影/ 映美

「非感染性疾患対策」へ舵を切る途上国の医療支援。把握すべき3つの課題【IC Net Report】パキスタン・池田高治

開発途上国にはビジネスチャンスがたくさんある…とは言え、途上国について知られていないことはたくさんあります。そんな途上国にまつわる疑問に、アイ・シー・ネット株式会社のプロたちが答える「IC Net Report」。今回ご登場いただくのは、ホンジュラスやパキスタンなどで保健医療分野などの支援に長年携わってきた池田高治さんです。

 

生活習慣病予防が途上国喫緊の課題に

途上国への医療支援に関しては、従来から母子保健と感染症対策を中心に実施されていましたが、近年は非感染性疾患(non-communicable diseases)への対策へと、大きく舵が切られています。

 

「背景として先進国同様、生活習慣病を起因とする死亡者数が急激に増えていることなどが挙げられます。生活習慣病予防で重要になってくるのが健康診断ですが、途上国では病院や診療所が遠い、あるいは文化的・経済的な理由で診断を受けられない、さらに医療サービス提供側も医療スタッフや医療器具の不足などの要因によって、満足に健康診断を受けられない、一度も受けたことがないという人が多くいます」と池田さん。そこで、日本では全く知られていない現地の医療事情、その課題について伺いました。

 

●池田高治/1995年からアイ・シー・ネットで勤務。入社前はホンジュラスやグアテマラでJICAの保健改善プロジェクトに従事していた。入社後はケニアの地方保健システム開発、ベトナム水資源開発、カンボジアの港湾開発などのプロジェクトで、保健分野の調査を担当した。2006年から2015年にガーナの地域保健と母子保健強化プロジェクトに総括・保健行政として従事した。現在はパキスタンとホンジュラスのプライマリヘルスケア・生活習慣病対策プロジェクトに保健行政団員として従事する傍ら、ビジネスコンサルティング事業部で保健分野で海外進出を目指す日本企業の支援も行っている。

 

【課題1】地域独自のローカルルールが強い

パキスタンの女性医療従事者への研修の様子

 

とくにパキスタンなどのイスラム圏では、宗教指導者や長老などの了解を得ないと健康診断関連のビジネスをしにくい状況が常に起こり得ると池田さん。

 

「まずは意思決定者にアプローチして、健康診断の重要性を理解してもらうことが近道。また、イスラム圏では、女性が外部の男性と会うことが制限されていることも多く、保健教育を行うためには、女性だけの話し合いの場を設ける必要などもあります。このような独自のルールがある地域では、何より慎重に取り組むことが重要。文化的な壁を乗り越え、現地で既に活動しているパートナーを見つけることも近道です」

 

一方、ホンジュラスなど中南米では家族を大切にする文化があると言います。

ホンジュラスの家庭保健調査を監督する池田さん

 

「例えば、適切な診断をして早期にリスクを発見することが、家族にとってどれだけ重要かを説明します。家族ぐるみの付き合いに重きを置くこちらでは、親交のある家族・友人からの口コミが重要な情報源。健康祭りなど家族総出で参加できるイベントを主催する、コミュニティボランティアの人たちと連携する、といった取り組みが効果的です。私の場合、地元の食材を使い、どれだけ美味しくて健康的な料理を作れるかを実践するような試みも行っています」

 

行動変容を促すキーパーソンや広報媒体など、事前の情報収集が不可欠で、地域によっては長期的なスパンで参入を進める必要がありそうです。

 

【課題2】圧倒的な医療機材と医療体制の不足

「パキスタンの山岳地帯などでは近くに診療所がないため、簡単な健康診断すら一度も受けたことがない人が多い。仮に診療所に行ったとしても、体重計や血圧計など日本では家庭にもある機器すらないケースも。今後、生活習慣病への関心が高くなれば、こうした医療機器や検査キット、消耗品の需要が高まると見込めますが、これらの分野においては、今や品質や価格面で他国と差別化が難しい状況があります」

パキスタンの保健医療施設での活動

 

医薬品不足も深刻で、池田さんが携わったプロジェクトでは、国が定めている基礎的医薬品を揃えただけで、多くの糖尿病や高血圧の患者が来院するようになったケースもあったと言います。同様に医療体制も貧弱。

 

「途上国では超音波診断を行える機会が少ないため、最後の生理をもとに出産予定日をアバウトに計算しますが、最後の生理日を正確に覚えていないこともしばしば。ひどい時には出産予定日が2ヶ月ほどずれて母子カードに書かれているケースもあります。新生児死亡の4割近くが、早期出産に起因する呼吸困難などで死亡していますが、そのうちの多くは妊娠37週以降の出産で、正確な出産予定日が事前にわかっていれば救えた命もあったと思います」

 

先進国で一般的な医療機器や機材の導入が急務ですが、機材や技術をそのまま流用するだけではなく、現地のインフラ事情や医療従事者のレベルに合ったローカライズを行うなどの工夫が必要だと強調します。

 

「例えば、電気がなくとも新生児の保育ができる、呼吸困難な新生児への人口呼吸が簡単にできる、超音波診断装置の触診器が患者の体にちゃんと当てられているかを自動的に教えてくれる、画像診断を遠隔で行いタイムリーに返答できる、さらには日本のお薬手帳と処方箋の機能を持った手帳・アプリにより、どこでも持病の薬を割安で購入できるなどの仕組みです」

 

途上国ではインターネットが普及していない地域がいまだ多く存在しますが、将来的に遠隔診断の活用が一般化すれば、IT分野などで参入の可能性も広がりそうです。

 

【課題3】ヘルスプロモーションができる人材不足

パキスタン山岳地帯でのヘルスプロモーション活動

 

「生活習慣病の改善には、意識と生活習慣の改善、予防・早期の発見、適切な治療の継続、必要に応じた高次の医療機関の紹介とリハビリテーションが必要ですが、それらヘルスプロモーションの取り組みが総じて途上国では遅れています。日本ではこうした住民に近い場でのケアをかかりつけ医が担っていますが、その役割を果たすための技術・人材育成には大きな需要があると思います」

 

日本のソフト面の経験と技術を活かし、長期的な視野に立ったビジネスにはチャンスがあると池田さん。

パキスタンの県保健局職員とワークショップをする池田さん

 

「健康や運動状況のモニタリングはかなりの部分、スマホアプリなどで対応可能。状況や結果を相手にわかりやすく伝えるための、診療所の看護師や助産師、コミュニティのボランティアなどを対象としたコミュニケーション能力の育成などに、日本のノウハウの活用が大いに期待できるのではないでしょうか」

 

このように、生活習慣病の予防へとシフトする途上国への支援。健康への人々の意識が高まっていけば、健康ヘルス関連ビジネスなど、今後さらなる可能性が広がりそうです。

家電ジャーナリストに訊く、ダイキンがナイジェリアにエアコン組み立て工場を設立する狙い

現在はもちろん将来的にも有望な市場として、世界的な注目を集めているアフリカ。日本企業も例外ではなく、大手からスタートアップまで、さまざまな形でのビジネス参入を模索しています。そんな中、空調機器のトップメーカーであるダイキン工業株式会社が、昨年、ナイジェリア現地で空調機器の組み立てをスタートすると発表しました。一方で東アフリカのタンザニアでは、現地企業との合弁会社を立ち上げ、空調機器のサブスクリプションサービスを行うなど、アフリカでの存在感を強めている同社。今回は、ダイキンのアフリカ・ナイジェリアでの取り組みを中心に、その狙いや取り組みについて、IT・家電ジャーナリストの安蔵靖志さんに見解を伺いました。

 

安蔵靖志さん●IT・家電ジャーナリスト。家電製品総合アドバイザー(プラチナグレード)。AllAbout 家電ガイド。ビジネス・IT系出版社を経てフリーに。デジタル家電や生活家電に関連する記事を執筆するほか、家電のスペシャリストとしてテレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。ラジオ番組の家電製品リサーチや構成などにも携わっている。

 

ナイジェリアに生産拠点を置く理由

家電メーカーに限った話ではありませんが、中国や韓国などの企業にくらべ、日本企業のアフリカ進出はかなり遅れていると言われてきました。その要因の一つに、「日本メーカーならではの高い技術力がある」と安蔵さん。

 

「実はアフリカで普及しているエアコンの約95%が、インバーターなしという統計があります。つまり、これまで高性能で高額なエアコンは売れなかった。優れた省エネ性能など日本得意の技術力の高さを現地ではなかなか発揮できなかったのだと思います」

 

ただ近年の経済成長や、世界規模でのカーボンニュートラル実現に向けた、家電をはじめとする電力消費抑制への動きなどで風向きが変わってきたと指摘します。

 

「アフリカの中でもナイジェリアは最大の人口を誇り、GDPも高い。つまりアフリカの拠点とするのに最も条件が揃った魅力的な市場だと考えたのではないでしょうか。現地に組み立て工場を設立する理由としては、ナイジェリアなどの西アフリカ地域は、海外の生産拠点があるインドから地理的に遠いことや、価格競争力、さらに製品のローカライズなどが挙げられます。まずはナイジェリアでしっかり地盤を固めてから、周辺諸国に進出する予定なのでしょう」

 

技術者育成で現地の販路拡大とブランディングを推進

また、ほぼ時を同じくして、ナイジェリア最大の都市ラゴスに拠点を置く職業訓練校・エティワ・テックに、空調機器関連の技術者を養成するためのトレーニングセンターを開設すると発表。据え付けやメンテンス方法などを学ぶための空調機器の供与や、同校の講師陣に対する取り扱い研修プログラムの提供をスタートするそうです。

 

「ご存じの通り、空調機器の取り付けには専門の技術者による工事が必要です。日本でも夏場になると取り付けに数週間かかることはざら。要はエアコンの販売を拡大させるには、技術者の育成が不可欠なのです。また、トレーニングセンターでは当然、ダイキンの空調機器を使って学ぶわけですから、それだけ技術者たちのダイキンに対する知名度や理解も深まるし、ファンも増える。そこから巣立った技術者たちが、実際に各エアコンを取り付けるために各家庭や企業などを訪れるわけですから。ダイキンのブランディングという意味合いも強いのではないでしょうか」

 

とくにアフリカなどの途上国では、派手な広告を打つより、口コミなどが効果的と言われています。トレーニングセンターの開設はブランドイメージを高めるのにも一役買いそうです。

 

「IEA(国際エネルギー機関)の発表によると、世界的に冷房などで消費される電力が2050年には、2015年の約3倍になると見込まれています。カーボンニュートラルの流れの中、エアコンの省エネ性能がより一層重要になってくるのは明らか」

 

ビジネス的にはもちろん、社会貢献という意味でも、今後、ダイキンはじめ、技術力に長けた日本メーカーの活躍には大いに期待したいところです。

ASEANの食で注目される5つの日本技術【IC Net Report】東南アジア・小山敦史

開発途上国にはビジネスチャンスがたくさんある…とは言え、途上国について知られていないことはたくさんあります。そんな途上国にまつわる疑問に、アイ・シー・ネット株式会社のプロたちが答える「IC Net Report」。今回ご登場いただくのは、東南アジアや南アジアなどで食の開発コンサルタントを務めている小山敦史さんです。

●小山敦史/通信社勤務ののち、1992年、開発コンサルティング業界に転職。アイ・シー・ネットでの業務を中心に国際開発の仕事を続けながら、アメリカの大学院で熱帯農業を学び、帰国後に沖縄で農業を開始。野菜を生産した後に畜産業や食品加工業も手がける。現在は、グローバルサウス諸国での食品加工・食品安全、マーケティング、市場調査などについて、自身が実践してきたビジネス経験を活かし、企業や行政機関へのコンサルティングを行なっている。

 

 食視点でみる「日本クオリティ」5つのポイント

「近年の経済成長により、東南アジア諸国では、購買力を持った新しい富裕層や中間層が増えてきています。現地ビジネスの場合、どちらかというと、従来は現地で生産した野菜などを加工し、日本へ輸出するといったビジネスモデルが中心でした。しかし、現在では、果物をはじめ日本などの農産物が現地で高額で取り引きされるなど、日本への輸出一辺倒だった従来の構図が変わりつつあるのです」

ベトナム・ホーチミンで輸入高級果実を通販で売るトップ企業の幹部。ASEANはビジネスで20代、30代の女性が多数活躍

 

そこに新たなビジネスの可能性があると小山さんは指摘します。

 

「とくに農業技術や加工技術などにおける日本クオリティに対する現地の信頼度は、依然として高い。今後はこうした日本の技術を活かし、現地で生産・販売するビジネスモデルにも大いに可能性があると思います」

 

今回は、日本のブランド力を活用した現地での食ビジネスについて、カギとなる5つのポイントを解説します。

 

ASEANに多い高原地帯での温帯性農作物に商機

現地で栽培されている農作物の多くは、熱帯野菜や熱帯果実など。これらの熱帯性農作物を日本の栽培技術を活かし、ビジネスとして成立させるのは難しいと言います。一方で、温帯性農作物には商機があると小山さん。

 

「意外と知られていませんが、ベトナムのダラット高原や北西部各省、インドネシアの西ジャワ州南部、フィリピンのベンゲット州、ラオスのボロベン高原や北部各県、タイ北部、マレーシアのキャメロン高原、ミャンマーのシャン高原などの高地では、キャベツやニンジン、ジャガイモをはじめ、日本でもおなじみの温帯性野菜・果実が栽培されています。温帯性農産物であれば、国内で培ってきた日本のノウハウで、より高品質な農産物を生産することができるのではないでしょうか」

 

高地での施設栽培技術が未発達

現在、高地での栽培は露地が中心で、施設での栽培は一部を除いて現地ではまだまだ浸透していないのが現状。

フィリピン・ベンゲット州のキャベツ畑。欠株が多く、優良品種や圃場管理技術に改善の余地が大きい

 

「とくにハウスなどを活用した日本の高度な管理技術には可能性があります。トマトなどの長期どり品種をハウス栽培すれば、季節に関係なく、何ヶ月も連続して収穫できます。収穫量が増えれば、その分、電気代などの固定費の割合を相対的に小さくすることができるため、ビジネスとして成立するチャンスは十分あると思います」

 

温帯性農作物の加工販売も有望で、日本向けとしてはもちろん、現地でのニーズも見込めると言います。

 

「例えば、カップ麺用の乾燥野菜に使用するキャベツやニンジンなどを効率よく生産する圃場管理技術や、ポテトチップス用ジャガイモの生産管理技術などの加工技術を持った企業であれば、さらにチャンスは広がります」

 

今後、需要が拡大する温帯性果実の可能性

ラオスの果実専門卸売市場を調査した際の写真。左が小山氏

 

一方で、小山さんは高原地帯での果樹栽培も選択肢となると指摘。

 

「イチゴやリンゴをはじめとした温帯性果実に関しては、欧米や日本、韓国などから現地に輸入され、驚くほどの高価格で販売されています。苗木づくりから、接ぎ木、剪定、摘果、防除といった、日本が得意とする一連の果樹栽培技術を活かし応用することで、これらの果実をASEAN各国の高原地帯で生産・販売する。現地で生産することで、価格を抑えることが期待できます。ベトナムのダラット高原などでは、すでに一部でこうした取り組みが見られます」

 

肥満問題対策としての健康食品ニーズの高まり

現在、途上国共通の課題として肥満問題が取り沙汰されています。それを受け、中間所得層や富裕層を中心に広がりを見せている健康志向。

 

「例えば、こんにゃく麺やこんにゃくゼリーなどのダイエット食品、豆腐バーや大豆エナジーバーなどの機能性食品は、ASEAN諸国の都市部でも販売が始まっています。またバングラデシュのダッカなど南アジアの都市部でもダイエット食品への関心が芽生え始めています。これらの加工技術は日本のお家芸。今後、大いに期待できるジャンルだと言えるでしょう」

 

時短にもなる中間加工品に一日の長

バングラデシュ・チッタゴンの食品加工工場。機械化、自動化、衛生管理改善などのニーズが高く、ビジネスチャンスが見込める

 

「いまやASEANの都市部では、女性の社会進出が日本以上に顕著。炒め玉ねぎや揚げ玉ねぎ、揚げニンニク、トマトソースなどは、ふだん忙しい家庭で調理する上で時短になりますし、業務用・家庭用を問わず、現地での需要が大いに見込めるのではないでしょうか」

 

家庭向けの加工食品というジャンル自体、まだまだ現地では普及していないだけに、日本の加工技術を使い、さらなる付加価値を付けた加工食品は、先進国への輸出はもちろん、現地での需要も大いに見込めそうです。

 

「日本クオリティ」の落とし穴に注意が必要

現地ビジネスでの成否を握るのが日本の「技術」になりそうですが、小山さんは一方で、日本クオリティにこだわりすぎるのも逆効果だと警鐘を鳴らします。

 

「ASEANにおいて日本ブランドはまだまだ健在で、それを打ち出せば有利になることは確か。ただ日本企業の課題として、細部にこだわりすぎて、オーバースペックになる傾向が強い点が挙げられます。商品価格が上がってしまえば、結果、現地での価格競争力が低くなり、市場が大きく縮んでしまう。とくにASEAN諸国でのビジネスを考えた場合、価格を抑えつつも、ブランド価値を十分に高めていけるような事業戦略を考える必要があると思います」

 

今後さらなる需要が見込まれるASEANの食市場。そんな中、現地ビジネスを成功させるには、栽培技術や食品加工技術などで日本クオリティを打ち出しつつも、臨機応変に対応できるバランス感覚が重要だと言えそうです。

 

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ケニアで建設ラッシュ! 低価格住宅の需要は年間25万戸、日本企業に商機も

いまケニアの不動産業界が熱いことをご存知でしょうか? 同国の大統領が低価格の住宅建設を公約に掲げて就任したことからもわかるとおり、住宅不足が大きな課題となっているのです。ケニアで進行中の数多くの住宅プロジェクトについて紹介しましょう。

ケニアで住宅建設ラッシュ

 

人口が増え続けているアフリカでは、特に都市部での人口増加が顕著で、それにより住宅不足の問題が持ち上がっています。これはケニアでも同様で、世界銀行の報告書によると、ケニアの低価格住宅の需要は年間25万戸であるのに、実際の供給数はわずか20%の5万戸にとどまっています。

 

そんな背景があり、ウィリアム・サモエイ・ルト氏は低価格住宅の建設を公約に掲げ、2022年9月に大統領に就任しました。ルト大統領はすぐに「レガシープロジェクト」と名付けられた計画を進め、首都ナイロビにおける6000戸の住宅計画を発表するなどしています。

 

すでに建設が進められている計画としては、例えば、ケニアのルアカに450戸の住宅が完成する「ミラン・レジデンス」があります。このプロジェクトを手掛けるSafaricom Investment Co-operative社は、過去数年間にケニア各地で同様の住宅プロジェクトを進めてきました。第1期として2040年に完成予定の200戸は、スタジオ(ワンルーム)、ロフト付きスタジオ、1ベッドルーム(1LDK)、2ベッドルーム(2LDK)の間取り。すでに50%が契約済みと販売状況は好調で、ショールームが完成したことによって、今後さらに良い売れ行きが期待できると言われています。

 

また、Stima Investments Sacco社は、ナイロビ市内で12億ケニア・シリング(約12億円※)の住宅プロジェクトを進行中です。2022年11月から販売を開始し、20階建て全449戸のうち、すでにおよそ半数が契約済み。同社はこのプロジェクトで3億8000万ケニア・シリング(約3.8億円)の利益を得る見込みと報じられています。

※1ケニア・シリング=約1円で換算(2023年5月2日現在)

 

その一方で住宅建設と共に求められるのが、ケニアの人々が住宅ローンをより利用しやすくするための制度やサービスの整備。いくら低価格住宅とはいえ、全額を現金で購入できる人は一部に限られ、大半が住宅ローンを利用することになるでしょう。

 

例えば、上述のStima Investments Sacco社は、物件を人に貸して住宅を所有できるプランを設定。所有者は物件購入価格の25%だけを支払い、残りの75%はテナントからの賃料で支払うという内容です。そのほかにも、高額所得者ではなく低所得者に焦点をあわせた住宅ローンのプランが求められています。

 

日本を含めた海外のハウスメーカーに商機がありますが、日本の住宅と同じような価格での参入は難しく、大幅にコストダウンするための工法などに工夫が必要です。そのようにして途上国向けに低価格住宅を開発できれば、ケニア以外にも展開できるため、市場としては大きくなると見られます。

 

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フードロスは環境にどれほど悪い? 温室効果ガスの排出量が判明

気候変動の原因の一つとされているのが、世界で生まれている食品廃棄物です。国連はSDGsの目標の中でも「つくる責任 つかう責任」として、2030年までに食品廃棄物を半減させることを目指していますが、そこには気候変動が関わっています。最新の研究では、食品廃棄物から排出される温室効果ガスは、世界中の食料システム(※)に由来する温室効果ガス排出量の半分程度を占めることが判明。「食品ロス」を減らす声がますます広がっています。

※食料システムは食料の生産、加工、輸送及び消費に関わる一連の活動のことを指す(参考:農林水産省

もったいないうえにCO2も排出

 

先日、オンラインジャーナルの「Nature Food」で発表された南京林業大学の研究では、2001年から2017年までの期間に、穀物や豆類、肉類、動物性食品、果物、野菜など54種類の食べ物の廃棄物から排出された温室効果ガスの量を164の国と地域で調査しました。

 

収穫、保管、輸送、取引、加工、小売りなど、食べ物が収穫されてから消費者の手にわたり廃棄されるまでのサプライチェーンの各工程で温室効果ガスの排出量を調べた結果、2017年に93億トンに上ったことが判明。これは同年のアメリカとEUで排出された温室効果ガスとほぼ同量に匹敵するといいます。

 

また、中国、インド、米国、ブラジルの4か国では、食品廃棄物によって排出された温室効果ガスは、世界全体の食品廃棄物関連の排出量の44%を占めていることも明らかになりました。

 

世界の食料システムが温室効果ガス排出量に占める割合は約3分の1とされており、さらに、そのうちの半分程度が食品廃棄物に由来していると同研究は言います。気候変動に与えるフードロスの影響がわかりやすく表されているでしょう。

 

この研究では、食品廃棄物が半分に減れば、世界の食料システムで排出される温室効果ガスの総量が約4分の1にまで減少すると見ています。今日では多くの国で食品廃棄物などの生ごみは焼却処分または埋立てされていますが、生ごみは腐敗すると温室効果ガスの一種であるメタンを発生させます。それを防ぐための方法の一つとして、生ごみを堆肥化するコンポストの使用が勧められています。

 

日本で出ている食品廃棄物の量は年間522万トン。国民1人あたり、お茶碗一杯分のご飯を毎日捨てているのと同じと言われています。私たちの身近な行動が気候変動に直結しているのだと改めて考えてみる必要があるのではないでしょうか?

 

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海外で働く「ベトナム人労働者」が15倍に急増! 需要が旺盛な日本企業は2400人を要請

日本で働く外国人労働者を国籍別に見た場合、最も多い国はどこでしょう? 答えはベトナムです。2023年、同国はさらに多くの人材を海外に送り出しており、その数は前年同期比の15倍。世界各国でベトナム人の労働者が増える見込みです。

↑ベトナム人労働者への需要が増す日本だが、世界各国で争奪戦になる可能性も

 

厚生労働省によると、日本で働く外国人労働者の総数は172.7万人(2021年10月末時点)。国籍別に見ると、3位フィリピンの19.1万人、2位中国の39.7万人を上回っているのがベトナムの45.3万人。日本で働く外国人労働者の約26%を占めています。

 

それほど日本に多くの労働者を送り出しているベトナムですが、2023年はさらに多くの人材を海外へ派遣しています。2023年1月から3月までの第1四半期で、海外に送り出した人材は3万7923人。同国の年間計画の34.5%を占め、前年同時期と比べると15倍以上にも増えているのです。

 

ベトナム国内で日本向け人材の育成と派遣を行う機関のESUHAIの副所長によると、2023年初頭に日本企業から2400人の労働者の派遣の要請を受けたとのこと。需要が高い分野は食品や食品加工業、機械工学、製造、自動車関連業など。最近は医療業界からの要請も多いといいます。新型コロナウイルスのパンデミックが落ち着きを見せ、多くの業界で労働需要が急増していることから、人員不足に陥る日本でベトナムに白羽の矢が立ったのでしょう。

 

日本企業がベトナム人を欲しがる理由は、ベトナムが親日国であることや、儒教の国ということもあり、礼儀正しく、温厚で勤勉な人が多く、日本人と価値観が似ていることが挙げられます。多くの企業がすでにベトナム人労働者を受け入れている実績があるので、初めて外国人労働者を受け入れる企業にとっても安心感があるでしょう。

 

一方、ベトナム側にも「日本で働けば稼げる」というイメージがまだあるようです。人口が東南アジアの中でもそれなりに多く(2022年は約9946万人)、送り出し機関も他の国よりたくさん存在しているので、供給量が多いと見られます。

 

しかし、労働力不足にあえぐ国は日本だけに限りません。ベトナム労働省海外労働局によると、2023年3月の単月だけで9494人を海外に送り出し、前年同期比で8.66倍となっているそうです。送り出し先は日本のほか、台湾、韓国など。海外に労働者を派遣できるライセンスを所有する現地の約500社では、人材の研修を行って、海外からの要請に応じて適正なスキルを持った労働者を派遣しているそうです。

 

ベトナム労働省海外労働局は2023年に欧州諸国とも労働協定を結びたいと考えており、その協定が締結されれば、アジアのみならず世界各国にベトナムから労働者が派遣されることになります。

 

2023年に予定されているベトナムから海外に行く人材の数は約11万人。アフターコロナで人材不足に直面する多くの国を支えることになりそうですが、各国で優秀なベトナム人の奪い合いになることも予想されます。

 

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巨大化するグリーン市場の形勢に変化。途上国でリープフロッグの可能性がじわり高まる

二酸化炭素の排出量を減少させたりすることで持続可能な社会を実現するための技術を指すグリーンテクノロジー。その市場規模は世界で1.5兆ドル(約200兆円※)と大きいものの、この分野では先進国が発展しているのに対して、途上国にはかなりの遅れが見られます。両者の間で差が広がりつつありますが、途上国の中にはポテンシャルの高い国もあり、先進国や国際社会の支援によっては先進国に一気に追い付く可能性もあります。

※1ドル=約133.8円で換算(2023年4月21日現在)

途上国がギャップを飛び越えるためには先進国の手助けが必要

 

先進国との差が開く

先日、UNCTAD(国連貿易開発会議)が発表した「テクノロジーとイノベーション報告2023」によると、2020年における世界のグリーンテクノロジーの市場規模は1.5兆ドルでしたが、2030年には9.5兆ドル(約1271兆円)に拡大することが見込まれています。

 

しかし、その中で重要課題として指摘されているのが、先進国と途上国の間で急速に拡大するギャップ。例えば、再生可能エネルギーや電気自動車に関連する技術の輸出では、先進国は2018年の約600億ドル(約8兆円)から2021年にはその2.6倍の1560億ドル(約20兆円)超に急増したのに対して、途上国では570億ドル(約7.6兆円)から3割増の約750億ドル(約10兆円)にとどまり、この3年間で世界の輸出に占める途上国の割合は48%から33%に15%減少しました。

 

UNCTADはグリーンテクノロジーにおけるギャップを、最先端技術への準備状況を評価するフロンティアテクノロジー準備指数で捉えています。この指数は情報技術インフラへの投資や関連スキルの向上、これらの分野を発展させるビジネス環境などによって変化。フロンティアテクノロジーには人工知能をはじめ、ブロックチェーンやドローン、遺伝子編集、ナノテクノロジーなどがあります。

 

フロンティアテクノロジー準備指数が示すランキングを見る限り、上位5か国は米国、スウェーデン、シンガポール、スイス、オランダという高所得国で占められていて、日本は19位。対照的に、ラテンアメリカやカリブ海、サハラ以南のアフリカの国々などは、まだ最先端技術に適応する準備が整っていないとのこと。

 

このような差を途上国が単独で埋めることは難しく、先進国や国際社会の支援とグローバルな枠組みがどうしても必要です。同報告書は、急速に発展するグリーンテクノロジー分野から発展途上国を除外しないように、国際社会が協調しながら迅速に行動すべきだと主張。今後数年間で急拡大するグリーンテクノロジーの波に途上国が現段階で乗り遅れると、技術的・経済的に成長する機会を逃してしまうと警鐘を鳴らしています。

 

リープフロッグを起こすためには…

しかし、そういった中でも一部の途上国は大きく進歩しています。例えば、アジアではインド、フィリピン、ベトナムといった国々のフロンティアテクノロジー準備指数が予想よりも高いことが判明。46位のインド、54位のフィリピン、62位のベトナムでは現地の政策が奏功した結果、順位が高くなりました。

 

インドは比較的低コストで利用できる高スキル人材の供給が豊富なことから、R&D(研究開発)とICT(情報通信技術)が好成績を収めています。その一方、フィリピンとベトナムは、電子機器を中心とするハイテク製造産業の水準が高いことが反映されました。

 

途上国のフロンティアテクノロジーが発展すると、リープフロッグが起きる可能性が高まります。基礎的なインフラが未整備である途上国が、先進国が歩んできた発展段階を飛び越えて、最先端技術に一気に辿り着いて普及させるこの現象は近年、アフリカやインドなどで起こっています。

 

とはいえ、多くの途上国はグリーンイノベーションの推進に向けて、先進国や国際社会の支援がまだ必要。途上国がリープフロッグを実現するためにも、先進国からの技術支援や投資が不可欠です。

 

UNCTADの報告書が述べているように、気候変動は待ったなしの問題とされているため、グリーンイノベーションには時間の制限があります。この取り組みを迅速に進めるためには、各国の政府主導による関連法律の整備やインフラ構築などが必須。途上国が波に乗り遅れないように、先進国が積極的に各国の政府に働きかけていくことが重要といえるでしょう。

 

 

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空気から水を作る「空水」に高い期待! エジプトの水不足に立ち向かう日本のMIZUHA社

水資源が豊富にある日本にいるとあまりピンと来ないかもしれませんが、世界には水不足に悩む地域が少なくありません。その一つが、国土の9割以上を砂漠が占めるエジプト。同国では現在、空気から水を生み出す日本企業の技術を活用し、水資源を確保して効率的に利用しようとする試みが始まっています。

水の危機が起きているエジプトが日本の技術に寄せる期待は高い

 

雨がほとんど降らないエジプトでは、飲み水や農業用の水源にナイル川が利用されています。しかしエジプトはナイル川の下流にあり、上流は他の国々が使用。さらに、ナイル川には住血吸虫や雑菌が混在しており、川に入ることは危険で、ミネラルウォーターを飲むことが推奨されています。そのためエジプトは、水資源を確保することが国の生存と繁栄のために不可欠と考えているのです。

 

そこで、同国が着目したのが、空気から水をつくる日本の技術。エジプトの軍事生産省は先日、日本のMIZUHA社と提携し、空気から水を生成する装置「空水(くうすい)」のプロトタイプを開発していることを発表しました。空水は、空気中に含まれる水分を結露させ、独自のイオン交換装置で殺菌し、カーボンフィルターで水質を調整して水を作り出すシステム。湿度さえあれば、地球のあらゆる場所で、安全な飲み水を作り出すことができるのです。

 

MIZUHA社では、エジプト国内の複数の場所で空水機の実証実験を実施。いずれの場所でも水の製造が確認され、飲み水に適する水質検査も通過したことから、2022年8月と11月にエジプト政府と空水の製造と開発に関して協定を締結。現在はエジプト国内向けに改良を重ねています。

 

同社のウェブサイトによると、空水が生産できる水は、気温25℃、湿度60%の条件で、1日16リットル。エジプトの水資源灌漑省によると、同国の水需要は1200億立方メートルで、そのうち最大55%(660億立方メートル)が不足していると言われており、空水だけで需要を全て満たすことができないのが現実です。しかし、水不足が深刻化するエジプトは、これまでの5か年計画で100億ドル(約1.3兆円※)以上を投資しており、空水に対する期待は高いと考えられます。

※1ドル=約134.7円で換算(2023年4月20日現在)

 

また、空気という豊かな資源をもとに飲料水を確保することができる空水は、土壌汚染などで井戸を使えないような途上国でも導入されている実績があります。そんな空水の導入は、エジプトにとって水の安全保障を強化し、持続可能な社会への移行を見据えた水利用の効率化を目指す計画の一環となっているのです。

 

エジプトの先には中東諸国での販売も検討していると見られる空水。空気から水を作るという画期的なシステムが、水不足に直面する国々を救う存在になっていく可能性を秘めています。

 

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「安全な水とトイレ」の普及で企業の役割が拡大! 1600億円規模の市場に投資を促進

世界では子どもの約30%がトイレや水道のない学校に通っていると言われています。このような学校の衛生環境を改善するためには、どうすればよいのでしょうか? 近年、発展途上国では企業が現地の政府と組んで、学校のトイレや水道の整備に乗り出す動きが広がりつつあります。この取り組みは社会的なインパクトが大きいだけでなく、新たなビジネスチャンスとしても注目されています。

学校にトイレを普及するうえで企業が果たす役割が大きくなっている

 

発展途上国の多くの学校ではトイレや水道といった設備が整っておらず、子どもたちに深刻な影響を及ぼしています。ユニセフの調査によれば、学校でトイレが利用できないために、身体の不調や集中力の欠如が見られる子どもの割合は、ほぼ5人に1人に上るとのこと。10人に1人以上は排泄を避けるために意図的に食べ物や飲み物を取らないほか、女子の場合は生理中に学校に通わず自宅で過ごすことも多く、学校中退の増加につながるとされています。

 

また、トイレの不足や汚れは、下痢性疾患や寄生虫の増加といった健康上のリスクを増大させるだけでなく、水質汚染を引き起こすなど広範囲に悪影響を及ぼします。

 

このような状況を変えるために、地元の企業が政府と協力しながら学校にトイレや水道を提供し、衛生施設を管理する取り組みが広がっています。トイレが設置されると、学校側にはトイレットペーパーや石鹸をはじめ、生理用品や掃除用品などを揃える必要がある一方、これらの製品を取り扱う地元の企業にとってはビジネスチャンスとなります。

 

トイレから出る汚物や汚水の再利用にも企業が参入するようになりました。トイレから出る汚物は回収された後、農産物の肥料やバイオガスとして活用されています。バイオガスは家庭における料理や暖房などでも使われるほか、電気に変換することも可能。この取り組みは、経済活動のなかで廃棄されていた製品や原材料などを資源として再利用するサーキュラーエコノミー(循環型経済)の典型的な例と言えるでしょう。

 

そのほかにも、回収したトイレの汚物を分析して子どもたちの健康状態を管理する技術を企業が開発しており、学校の水質や衛生状態をモニタリングするための指標として活用されることが期待されています。

 

1ドルの投資で4.3ドルのリターン

学校のトイレや水道の整備には、どれほどの市場規模があるのでしょうか? 世界の水や衛生問題の解決を目指す企業が集まる「Toilet Board Coalition」がフィリピン、ナイジェリア、メキシコを対象に行った調査によれば、フィリピンの市場規模は年間9億4800万ドル(約1261億円)、ナイジェリアで6億6500万ドル(約884億円)、メキシコで12億ドル(約1600億円)とのこと。

 

このように、水や衛生への投資は世界中で年間数十億ドル相当の利益を生み出す可能性があります。学校のトイレや水道を整備するためには、従来の3倍以上の支援が必要と言われていますが、WHO(世界保健機関)は「水・衛生分野に1ドル(約133円※)投資すると、生産性が向上して4.3ドル(約570円)のリターンが期待できる」と試算しており、企業に投資を促しています。

※1ドル=約133円で換算(2023年4月13日現在)

 

発展途上国における学校のトイレや水道整備への投資は社会的意義が高い事業であり、大きなビジネスチャンスがあると言えるでしょう。販路拡大にとどまらず、企業のブランド価値向上につながる広報効果や、現地企業や政府など新たなパートナーの開拓も期待できます。こういったメリットを鑑み、関連事業を手がける日本企業は途上国の学校への投資を積極的に検討してみる価値があるのではないしょうか?

 

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知っておかないと乗り遅れる! 途上国人材雇用の「最新トピック」【IC Net Report】バングラデシュ・池田悦子

開発途上国にはビジネスチャンスがたくさんある…とは言え、途上国について知られていないことはたくさんあります。そんな途上国にまつわる疑問に、海外事業開発コンサルティングを行っている、アイ・シー・ネット株式会社所属のプロたちが答える「IC Net Report」。今回ご登場いただくのは、バングラデシュや南アフリカなどで現地人材の育成事業に携わっている池田悦子さんです。

 

慢性的な労働力不足に悩む日本。世界的にもその傾向は顕著で、現在、いかに途上国の優秀な人材を確保するかに注目が集まっています。日本でもJICA主導で、産業人材育成やTVET(Technical and Vocational Education and Training)支援のプロジェクトを複数の途上国で実施するといった取り組みを行っていますが、企業レベルでは、トヨタ自動車など一部のグローバル企業を除けば、他の先進国に後れを取っているのが現状です。今後、さらに激化するであろう、途上国の人材確保競争に日本(企業)が勝ち残るためには!?  南アフリカやバングラデシュはじめ、アジア・アフリカ各地のポリテクや技術教育短大、職業訓練センターなどで人材育成事業に携わっている池田さんに、グローバルにおける人材育成の最新状況を伺いました。

●池田悦子/九州大学卒業。英国のイーストアングリア大学にて開発学修士を修める。タイのNGO勤務を経て、2000年より開発コンサルタントとして、主にJICAの様々な技術協力プロジェクトの運営に関わり、2018年にアイ・シー・ネットに入社。TVET分野では、パキスタン、バングラデシュ、スーダン、南アフリカ、ナイジェリア、フィリピン、キルギスタン、ウズベキスタン、ブータン他にて現地業務に。

 

日本が取り組む人材育成で優秀な人材が続々輩出

現在、バングラデシュをはじめとするアジアやアフリカ諸国では、日本の高専(エンジニアを養成する高等専門学校)や短大に相当する学校で、日本ならではの人材育成モデルを取り入れた支援が行われています。こうして育った多くの優秀な人材の中には、日本で活躍している人も。

 

「バングラデシュを例に挙げると、クルナ工学技術大学・機械工学科を卒業後に佐賀大学大学院へ留学、工学博士を修得した、現大阪産業大学工学部教授のアシュラフル・アラム氏がいます。彼は大学院を卒業後、松江高専でも教鞭を執っていました」(池田さん)

機械学科や土木学科の教員に教えているアラム教授(右端)

 

卒業後、そのまま日本で就職した後、企業を立ち上げ、順調に事業を拡大している人材もいるそうです。

 

「日本の明石高専の情報工学学科を卒業し、電気通信大学で学んだあと、NTTドコモ社に就職しムハマド・ハディ氏は、その後、自国に戻ってメガ・コーポレーションなど2つの会社を設立。ダッカと横浜を拠点に、ITコンサルティング事業、日本語通訳・翻訳などを行っています」

東京の電気通信大学で学んでいた時のハディ氏

 

日本語-ベンガル語(バングラデシュ)通訳の仕事中のハディ氏

 

「アフリカの若者のための人材イニシアティブ、通称ABEイニシアティブで来日したケニアのエリウッド・キップロップ氏は、足利工業大学(現・足利大学)で自然エネルギーについて学んだあと、筑波大学で博士号を取得。日本に留まり大学の講師を務めながら、日本とアフリカを結ぶビジネスコンサルタントとして活躍しています」

足利工業大学で風洞実験に取り組んだキップロップ氏

 

他にも、日本の大手企業に就職したり、日本で会社を立ち上げたりと、さまざまな人材が育っているそうです。しかし、日本ではまだ外国人材が普及したとは言いづらい状況。その背景にはどういった課題があるのでしょうか? グローバルの最新トピックと合わせて解説します。

 

[TOPIC.1]人材受け入れ環境が整っていない日本の現状

ただ一方で、優秀な人材は現地や他国の企業に就職するケースが多く、来日したり、日本の企業に就職したりする人は全国的に見るとほんの一握り。それには、現地と日本、それぞれの事情があると池田さん。

 

「日本企業に就職したい、日本文化を学びたい、日本へ行きたい、など若者たちの“日本への憧れ”はまだまだ健在だと感じます。ただし、地域によって差はあるのですが、まず政府が人材の送り出しに熱心でないケースが見られます」

 

また、受け入れる日本側にも環境が整っていないなどの課題が。

 

「高度人材が日本で就職する場合、日本語の習得が不可欠なのもネックとなります。現地の優秀な若者は英語が話せるので、英語で仕事ができる他国へ行くケースが多いのです。また、日本企業は採用にあたって、『日本人のような外国人』(ホーレンソー、和、しつけなど)を求める傾向にあり、ハードルが大変高いのですが、彼らの持っている人脈や言語能力、国際感覚、おおらかさを日本の会社が受け入れ活用し、多様性を学ぶことも大切ではないでしょうか」(池田さん)

 

日本人の英語習熟度が低いゆえ、現地での日本語教育の普及が必要となる点や、現地政府の理解をいかに得るかなど、解決すべき課題が山積していると言います。また、受け入れる日本企業側としてもインターンシップの拡充や意識の変革などの対応が急がれます。

 

[TOPIC.2]官民学一体となった人材育成事業が誕生

このような状況下で、池田さんが注目しているのが、「宮崎-バングラデシュ・モデル」(宮崎における産学官連携高度ICT人材地域導入事業)です。これは、自治体、企業、大学、およびバングラデシュなどのステークホルダー間で互いの課題解決に向けて協力した「高度外国人 ICT 人材育成導入事業」。

 

「まず現地で日本への就職を希望する優秀なICT技術者に、日本語、 ICT スキル、ビジネスマナーなどを学んでいただき、その後、宮崎へ留学生として派遣。宮崎では、宮崎大学が日本語学習と生活支援、ICT企業がインターンや就職相談などを行い、宮崎市がその研修費用を助成するという仕組みです」(池田さん)

 

この事業により、多くのICT技術者が日本で就職できたと言います。官民学の連携によるこうした事業が、優秀な途上国人材を獲得する近道なのかもしれません。

 

「同じく国立大学では、群馬大学が外国人留学生の群馬の企業での就職を見据えた教育と訓練を行っています。地元の製造業やサービス業とも連携した取り組みが進んでいるようです」(池田さん)

 

[TOPIC.3]大手グローバル企業の人材育成戦略

一部の大手日本企業は、現地人材雇用のため、個別に職業訓練センターなどを立ち上げているケースはあるとしつつも、戦略面で他国の企業に大きく水を開けられていると指摘します。

 

「グローバルでは、大手ICT企業が現地人材を育成する段階から、自社のソリューションや機器を提供し、人材を自社へと囲い込む施策を行っています。例えばサムスンの場合、バングラデシュ、パキスタン、中央アジアなどにある多くのTVET校に『サムスンラボ』を設置し、機材の供与やその機材に特化した短期訓練が行われています。自社に必要な即戦力となる人材が、いわば自動的に雇用できる仕組み。ヒュンダイもスーダンで似たような取り組みを実施しています。こうした具体的な就職に結びついた職業訓練は、学生に希望を与え、結果的に企業イメージアップに繋がります」

バングラデシュ/ダッカ工科女子短大の「サムスンラボ」

 

さらに、HPやAcerは世界銀行などの国際機関を通して、全世界の学校にPCを無償供与。こうした取り組みもその企業のファンをつくるためには効果的ですが、日本のメーカーでは、まだほとんど見られないと池田さん。

 

日本企業に就職したい人材を増やすためのイメージ戦略と、そうした人材をいかに日本に来てもらうか、官民学が一体となってサポートする出口戦略。優秀な途上国の人材を安定して獲得するには、これらの戦略を改めて見直す必要がありそうです。

 

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食料の約8割を生産!「女性が活躍する農業」を途上国が模索

発展途上国では食料生産をほぼ女性が担っているにも関わらず、女性の社会的・経済的地位は男性に比べて依然として低いまま——。このようなジェンダーギャップは途上国の農村で顕著であり、生産性にも影響を及ぼしていると近年では言われています。農家の女性へのエンパワメントが急務となる中、現状を変えようとする取り組みが少しずつ現れています。

女性が途上国の農業を支えている

 

農業は、途上国におけるジェンダーギャップの典型的な例と言えます。FAO(国連食糧農業機関)によれば、ほとんどの発展途上国において食料のおよそ80%を女性が生産しています。ところが、日々の農作業や食料生産に欠かせない存在であるにもかかわらず、女性は土地の所有や農産物の販売などの権利において差別に直面しています。

 

例えば、ケニアでは慣習法が女性の土地の所有権と財産権を制限しており、同国の65%の土地はその慣習法によって管理されています。つまり、農家の女性は夫か息子を通してしか土地を持つことができません。農家の男性が都市部に移住してしまった場合、残された女性は、男性の同意なしで土地の手入れをしたり、担保にしたり、生産物を売ったりする権利がないこともあるようです。

 

農産物の生産と供給における女性の役割の重要性を考えると、持続的に食料を確保するためには女性が土地などの生産資源を活用できるような取り組みが必要でしょう。

 

世界経済フォーラムによると、女性が男性と同じように土地などの生産資源を使用できれば収穫量が20%~30%増加し、飢餓が最大で17%減少するとのこと。また、女性は利益を家計に還元するため、貧困を根本から緩和することが可能になると言われています。

 

ケニアでの成功例

このように、農業における女性のエンパワメントが喫緊の課題となっていますが、それを実現するための施策はあるのでしょうか?

 

同じくケニアの事例を見てみましょう。ライキピア北部の女性農業グループであるライキピアパーマカルチャーセンターは、持続可能な農業システムを目指すケニアパーマカルチャー研究所と共に、コミュニティの長老たちに協力を要請し、女性の農業従事者25人に数エーカーの土地を割り当てました。

 

この女性たちは、それまで不毛だった土地に水を流す仕組みを構築すると、土壌を回復させ、農業ができるようにしました。その結果、アロエベラの栽培とミツバチの飼育から収入が得られるようになり、家族を養うことができているそう。女性が中心となって農業を建て直すとともに、地域コミュニティを支える仕組みが生まれたのです。

 

一方、日本政府も東南アジアの途上国などに対し、農業分野における女性のエンパワメント支援を手がけています。政府はカンボジア政府からの要請により、カンボジア女性省・州女性局の能力強化をはじめ、農業分野におけるジェンダー主流化に関する技術協力を提供。JICA(独立行政法人国際協力機構)もこのプロジェクトにおいて、現地関係省庁のジェンダー視点に立った政策策定や取り組みをサポートするなど、農業に携わる女性の経済的エンパワメントの促進を図っています。

 

農業を底上げするためにも女性はもっと経済活動や意思決定にかかわるべきであり、ジェンダーギャップの解消は途上国における農業全体の発展につながるでしょう。そのためには、女性が自立して経済活動に参加できるような仕組みを国や企業、協力団体が率先して進めていくことが求められます。

 

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「JICA 女性起業家セミナー」2023年4月15日開催

2023年4月15日(土)に、JICA横浜主催・アイ・シー・ネット運営のセミナー「JICA 女性起業家セミナー」を開催いたします。
JICA事業で来日したアフリカ5カ国の女性起業家・政府関係者と、日本のフェムテック市場をけん引するfermata株式会社 CEO 杉本亜美奈氏と共に、日本とアフリカのビジネス環境の違い、女性をとりまく社会課題の違い、ポストコロナの今期待されるソーシャルビジネスについて学び合うセミナーです。
「SDGs目標5. ジェンダー平等を実現しよう」に向け、ビジネスがジェンダー課題の解決に向けてどのように貢献できるか、日本とアフリカの女性起業家と共に考えます。
参加申し込みはこちら:https://forms.gle/zyH5yyPRnWzERpDr5
【開催概要】
日時:4/15(土)15:00~17:00
参加方法:対面 or Zoom参加
開催地:神奈川県 横浜市中区新港2-3-1 JICA横浜 4F「かもめ」

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「ハラルフード」の市場価値は最大19兆円! アジア諸国で和食のハラル需要が拡大

現在、世界人口のおよそ4分の1を占めるイスラム教徒(ムスリム)。イスラム教の食べ物は、神によって食べることが禁じられている食べ物の「ハラム」(代表例は豚肉とアルコール)と、許されている「ハラル」(例:野菜、果物、穀物、魚介類)に大きく分けられますが、最近ムスリムの間で注目を集めているハラルフードといえば、和食・日本食です。ムスリムが多いアジア諸国などで、ハラルの焼き肉や寿司のニーズが少しずつ高まっています。

 

市場が拡大するハラルフード

ムスリム人口の増加でハラルフード市場も拡大

 

ここ数年、ハラルフードは国際機関のOIC(イスラム協力機構)加盟国を中心に市場価値が上がってきました。統計プラットフォームのStatistaによれば、2021年におけるインドネシアのハラルフードの市場価値は1467億ドル(約19兆円※)で、バングラデシュは1251億ドル(約16兆円)相当とのこと。また、OIC諸国のハラルフードの輸入総額は2000億ドル(約26兆円)と推定されています。

※1ドル=約131円で換算(2023年3月27日現在)

 

インドネシアはムスリムが世界で最も多い国で、その数はおよそ2億3000万人。その後にインド、パキスタン、バングラデシュが続いており、ムスリム人口が多い国ではその分ハラルフードの需要もあるようです。

 

大人気の国内ハラル和食店

ムスリム客の行列ができる「寳龍総本店」

 

和食は世界中で認知度が高く、ムスリムからも好まれています。一般的に外国人の間で人気が高い和食・日本食といえば、ラーメンや焼き肉、寿司などがありますが、日本にはそれらのハラル版を提供しているレストランが既に存在しており、長蛇の列になっていることがよくあります。

 

例えば、北海道の札幌にあるラーメン店「寳龍(ほうりゅう)総本店」は、豚肉やアルコール不使用のハラル対応味噌ラーメンを提供。札幌ラーメンを食べたいムスリム客でほぼいつも満員です。

 

一方、大阪の難波にはハラル焼き肉が食べ放題の「ぜろはち難波OCAT本店」があり、ハラルの焼き肉店は他にもあるものの、同店は珍しく食べ放題であるため、ムスリムの間でとても人気です。

 

海外にも少しずつ広がる

海外に再び目を転じると、ハラルの和食レストランは現在のところ海外諸国にそれほど多く存在していません。しかし貴重な存在だからこそ、ハラルの和食レストランはムスリムから重宝されています。

 

2021年から2022年にかけてアラブ首長国連邦で行われたドバイ国際博覧会(万博)では、回転寿司チェーンの「スシロー」が6か月間の期間限定で初出店しました。初となるハラル対応メニューを開発したこともあって、平日でも3時間待ちの列ができるほど繁盛し、合計17万5000人を超えるお客が来店したそうです。

 

同店は、アルコールが含まれている通常の醤油やうなぎのタレを使用せず、代わりにそれらを現地調達するなどしてハラルの回転寿司を実現させました。この万博での盛況ぶりを見て、今後はアジア圏を中心に海外の店舗を増やしていく計画のようです。

 

アジア圏の中では、既にハラル和食が広がりを見せている国もあります。

 

シンガポールのボートキーにある「Ronin(以前の店名は「Gaijin」)」というハラル和食レストランは、2022年4月にオープン。Facebookなどのソーシャルメディアで絶賛され、予約枠がすぐに埋まってしまうほど人気があります。ハラル対応の焼き鳥や焼き肉を提供するほか、ビーツとひよこ豆のペーストを添えたタコ焼きや、塩漬溶き卵の汁を添えた餃子など、和食とそれ以外の料理を融合させたものもあります。本格的な和食体験をしてもらうために、店内には伝統的な障子や座敷なども取り入れられました。

 

また、同じくシンガポールで屋台2店舗を展開している「Abang Curry」は、比較的手ごろな価格で提供するハラルの和風カレー店。日本のカレーをシンガポール風にアレンジし、米の代わりに麺を選ぶことも可能。メインに付くソースも3種類から選べ、カレーパンなどのスナックも販売しています。

Abang Curryのハラル和食カレー

 

このように、ハラル対応の和食の人気は今後さらに伸びていく可能性があります。イスラム教徒が多いアジア諸国などには、まだ本格的なハラル和食レストランが少ないため、メニューなどの工夫次第で、高いニーズが見込めるかもしれません。

 

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バングラデシュ、2071年までに「耐震基準」を抜本的改革。不可欠な日本の支援

東日本大震災を上回る犠牲者を出しているトルコ・シリア地震。これだけ多くの被害をもたらした一因として建物の耐震性能が挙げられていますが、この問題はトルコやシリアに限りません。最近では、地震活動が活発な地域にあるバングラデシュが建物の耐震基準を抜本的に改革することを発表。この計画はこれから約50年間にわたって行われ、日本が支援していくことも明らかにされました。

ダッカでは建物が危険なほど密集している(ドローンで撮影)

 

バングラデシュの震災への取り組みについては、以前から国際協力機関などの間で議論されていましたが、トルコ・シリア地震を受け再び注目が集まっています。特に、首都ダッカは建物が無秩序に連立し、高密度化しているうえ、建物の設計や建設技術が劣ることから、災害リスクの高い都市の一つとなっているのです。

 

そこで先日、バングラデシュのエナミュール・ラーマン災害管理大臣は建築基準法の改正が必要だと述べ、2071年までに同国を地震に強い国にすると発表しました。同国では政府の建物も含め、耐震性が劣るものが多く、ダッカ市内のおよそ7万2000以上の建物が脆弱で、大地震が発生した場合、数百万人が死亡する恐れがあるとされています。

 

最近、同大臣が出席したDebate for Democracy主催のイベントでも、参加者たちは地震のリスクに対処するためには、脆弱な建物を特定して耐震性を高めることが必要であると議論していました。道路、地下鉄、高速道路などの交通網やガス、電気などのインフラについても同様の認識がされています。

 

防災への取り組みを強化するために、バングラデシュが支援を求めたのは日本。エナミュール・ラーマン災害管理大臣は、「日本は地震に強い国。マグニチュード10の地震があった場合、80階建てのビルは揺れることはあっても倒壊はしない」と日本の耐震技術について説明。その一方で、バングラデシュは耐震性の高い建物を建てる際に必要となるエンジニアが足りていないことから、同国は財政面だけでなく技術面でも日本に支援を求めています。

 

バングラデシュのように、都市部の急速な人口増加に伴い、建築基準法などの法整備が追い付かないまま、建物が次々に建設されている途上国は他にもあるでしょう。限られた時間の中で無数の建物の耐震性を高めていくのは、当然ながら時間も資金もかかります。しかし、日本はこれまでに多くの大地震に見舞われながら、建物の建設や都市計画、防災体制などについて知見を蓄えてきました。途上国の震災対策に貢献できることがたくさんあるはずです。

 

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次世代観光ビジネスの最重要ワード! 「観光デスティネーション」とは【IC Net Report】ドミニカ共和国・青木孝

開発途上国にはビジネスチャンスがたくさんある…とは言え、途上国について知られていないことはたくさんあります。そんな途上国にまつわる疑問に、海外事業開発コンサルティングを行っている、アイ・シー・ネット株式会社所属のプロたちが答える「IC Net Report」。今回ご登場いただくのは、ドミニカ共和国をはじめ中南米での観光ビジネスに造詣が深い青木 孝さんです。

 

中南米でも、コロナ禍で観光に関わる状況が一変。多くの観光地が危機的な状況に直面し、従来の「消費型観光」から「持続可能な体験型観光」への変革が迫られています。例えばドミニカ共和国の場合、いまだ多くは従来型のリゾート観光が目的ですが、一方でアドベンチャーツーリズムやエコツーリズムなど、地域の環境・経済・文化にも配慮した観光への意識が広がりつつあり、「脱」消費型観光への動きが高まっていると言います。いわば新たな「観光デスティネーション(観光地)」づくりともいえるこの動き。そこで青木さんに、こうした地域全体を巻き込んだ持続可能な観光開発について伺いました。

●青木 孝/シニア向け旅行会社でのツアー企画や、青年海外協力隊でカリブの国・セントルシアのエコツーリズム開発支援、ドミニカ共和国のJICA事務所で観光分野の企画調査員などを務めた後、アイ・シー・ネットに入社。シニアコンサルタントとして、15年以上南米カリブ地域でJICAの地域観光開発のプロジェクトに従事。現在はアルゼンチンで日本の一村一品運動を模範にした地域開発プロジェクトを総括している。

 

観光デスティネーションの創造には「官民学」の連携が重要

そもそも外国資本によるリゾート観光開発や利便性が主役だった従来型の観光モデルは、アクセスの良さなど利便性、快適性に主眼を置き、リゾート地でほぼ完結するものでした。

 

「それだと周辺地域に観光客が訪れず、置き去りにされてしまいます。リゾート施設による、オールインクルーシブと呼ばれる囲い込み型スタイルや、ビーチの独占なども課題となっていて、これらがリゾート地と周辺地域を隔離する現状に拍車をかける要因になっています。そこで今、急務となっているのが、より持続可能な観光への転換。つまり、地域とより関わりのある観光、より地域へポジティブな影響を与える観光、そして地域にある魅力的な土地・文化・人を巻き込んだ観光が求められているのです」(青木さん)

 

こうした課題の解決のため、現在進んでいるのが、民間だけでなく官民学が協力して観光開発を主導し、地域資源を活用した、地域主体の観光デスティネーションを創造していこうとする動き。

 

「地域と観光客の関係性を継続して作るマーケティングを徹底して行った上で、地域内のリソースを有機的につなげ、アクター間の関係性を緊密にすることで競争力を高めていこうというものです。それには、地域のコミュニティレベルでの観光ビジネスも不可欠となります。

 

私が取り組んだ事例で挙げると、女性グループによる、地元で採れるカカオを使った手作りチョコレート体験などの農園観光や、地元の若者が楽しんでいた川下りをカヤックツアーとして商品化した取り組みなどです。集客面においても、これまで仲介業者に頼っていたのを直接マーケットに発信できるSNSを活用することで、大きく躍進しています。

 

本来、観光はすそ野の広い産業です。観光施設やホテル・飲食業から、お土産、地元産品、さらに交通機関など、観光客はさまざまな消費を観光地で行い、その結果、地域経済が潤うというビジネスモデル。とりわけ途上国では、観光に大きく依存していく傾向があります。だからこそ、観光と地域・地域産品・地元の人がうまく結びついて、より深みのある観光デスティネーションにしていく努力が重要だと思います」(青木さん)

 

テクノロジーを活用した「観光デスティネーション」の再構築が急務

一方、日本国内に目を向けると、コロナ禍への対応と短期的なリカバリーに向けた支援が優先されている感があります。今こそ、より長期的な視点に立ち、今後、観光とどのように付き合っていくか、観光デスティネーションを明確にし、進むべき方向を整理しておく必要があると青木さん。

 

「ドミニカ共和国では、改めて観光産業の重要性の認識が広がり、国家経済のけん引役としての役割を以前にも増して担っています。それには地域社会の巻き込みも欠かせないということで、地域社会の側からも観光開発に積極的に関わっていこう、モノ申していこうという流れが出てきました。また、地域の多様な関係者がこれまでの関係を超えてつながり、従来とは異なるレベルでマーケットとも直接結びつくなど、さらに広域での取り組みも生まれています。

 

SNSをはじめ、新たなテクノロジーの活用はこうした地域・レベルを超えた関係性の構築に親和性が高いので、単に観光客と観光地だけでなく、住む場所と行く場所の双方で多様な関係が生まれる可能性があります。これまで障害となっていた言葉の壁や時間の壁、距離の壁など様々な障壁もテクノロジーによって乗り越えられるようになってきました」(青木さん)

 

最近は日本でも観光を含めた「関係人口」の増加に力を入れ、地域振興とも関連させることで、リピーターの獲得だけでなく、訪問後もその地の産品を消費したり、将来的には移住をも視野に入れた取り組みを進めている地域もあります。

 

「観光の本質である“人とのつながり”と“新たなテクノロジーによる持続的なつながり”こそが新たな観光デスティネーションの創造に重要」との青木さんの言葉からも窺えるように、多様な“繋がり”の構築こそが、持続的な観光をつくる上で不可欠なのかもしれません。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

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アフリカ宇宙局が誕生! 途上国が挑む「宇宙開発」の狙いは?

スペースXやテスラ、ツイッターなどのCEOを務めるイーロン・マスク氏が火星移住計画を打ち立て、実業家の前澤友作氏が民間人として宇宙旅行を楽しむなど、昨今の宇宙開発は目覚ましいものがあります。しかし、そんな宇宙開発は先進国に限ったものではありません。ナイジェリア、ルワンダ、パキスタンなどの途上国も宇宙開発事業に取り組んでいることをご存知でしょうか?

途上国も宇宙開発に挑む

 

アフリカ諸国

アフリカ連合加盟国は2023年1月、同大陸における宇宙開発のハブとしてアフリカ宇宙庁を設立し、本格的に宇宙事業に乗り出しました。マスク氏が率いるスペースXも、南アフリカでの衛星の打ち上げを支援しています。その一方、現在、世界の多くの国々や民間企業が宇宙事業に参入しているなか、国際協調による平和的な宇宙探査を目的とした「アルテミス協定」に日本をはじめ、アメリカ、カナダ、イギリスなどが署名していますが、アフリカの国として初めて署名したのがナイジェリアとルワンダでした。

 

カザフスタン

旧ソビエト連邦を構成していたカザフスタン、アゼルバイジャン、トルクメニスタンには、独自の宇宙機関や宇宙関連の民間企業があり、合計11の衛星を飛ばしています。なかでも技術的に優れているのが、カザフスタン。超小型衛星の開発に成功し、他国へのサービス提供も間もなく始まるとみられており、宇宙開発分野での国際協力も積極的に行っています。

 

トルコ

トルコでは、同国の宇宙庁が宇宙開発市場に参入するための目標を掲げた10年戦略を策定。トルコ人を宇宙に送り込むことや、同国で初となる観測用衛星を確立することなどが盛り込まれています。トルコは二国間協定や民間企業との協力を積極的に進めていることが特徴。例えば、パキスタンと衛星や宇宙プロジェクトに関する協定を結び、エルサルバドルと衛星システムに関する覚書を締結したほか、スペースXの協力のもと衛星の打ち上げも行っています。さらに、世界初の商用宇宙ステーションの開発を進めるアメリカのアクシオム・スペースとも協定を結んでいます。

 

パキスタン

パキスタンは1962年にアジアのイスラム圏で初めて宇宙開発事業に参入しました。インドとの長期にわたる国境紛争などの影響もあり、その計画は必ずしも順調に行かなかったようですが、同国が掲げる現在の「宇宙ビジョン2040」では、国産の衛星の開発と配備が主な目標とされています。パキスタンは、トルコ、タイ、UAE、中国などと協定を結び、近年はパキスタン人の宇宙飛行士の派遣に意欲を燃やしているそうです。

 

鍵は国際協力

宇宙開発は最先端の技術はもちろん、莫大な資金が必要なため、アメリカのような大国を除いて、途上国や新興国の一国だけで始めるには限界があります。そこで鍵となるのが二国間協定のような国際協力。例えば、インドは60の国と5つの国際機関の間で230以上の協定を結んでいます。2月下旬には、インドの宇宙研究機関(ISRO)とアルゼンチンの宇宙機関(CONAE)が宇宙開発の協力について会談を行ったニュースが報じられました。また、中国を抜いて人口が世界一多くなったインドは、アメリカや中国のように宇宙開発に関する長期的な目標の達成に向けて、民間企業を巻き込んで宇宙開発事業に乗り出しています。

 

このように、先進国だけでなく途上国や新興国も宇宙開発に積極的に取り組んでいますが、その目的の一つに自国の衛星システムの確立があります。日本では当たり前に利用されている衛星ですが、途上国や新興国はそうではありません。そこで、このような国々は自国の衛星を飛ばして、インターネットの普及を促進するだけでなく、そこから得た情報を活用して、国内の災害対策や森林管理、農業支援、安全保障などに活用しようとしているようです。そこでは先進国の知見が役に立つでしょう。

 

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民間企業だからこそ出来る支援を探す。アイ・シー・ネットが挑む新たな「ウクライナ難民支援プラットフォーム」に込めた想い

2023年2月24日で、ロシアによる全面侵攻開始から1年が経過したウクライナ戦争。いまだ収まる兆しの見えないこの戦争により発生した多くの難民は、他国で避難生活を送っています。

 

その難民たちのために、新たな支援プラットフォームを立ち上げた日本企業があります。それは、「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の運営元であるアイ・シー・ネット。政府機関や民間企業に向けて海外進出のための開発コンサルティング行っている同社社長の百田顕児氏によれば、そのプラットフォームは「20年間国際支援の現場に立ってきた自分たちが、その場で感じていた問題意識の解決策を形にしたもの」だといいます。プラットフォームの内容と革新性、込めた想いについて取材しました。

 

●百田顕児/アイ・シー・ネット株式会社 代表取締役社長、株式会社学研ホールディングス 取締役。早稲田大学法学部を卒業後、シンクタンクでODA事業に従事。2004年にアイ・シー・ネットに入社。2019年にアイ・シー・ネット代表取締役就任(現任)、2020年8月より親会社学研ホールディングス執行役員、同12月取締役(グローバル戦略担当)に就任。

 

民間企業だからこそ作れる、効果的なプラットフォーム

「ウクライナ難民支援プラットフォーム」は、ウクライナ難民を支援したいという意志を持つ日本企業を募集し、アイ・シー・ネットが構築したルートを使って、各社が提供した支援を難民たちに素早く届けるというものです。その最大の特徴は、アイ・シー・ネットという“民間企業”が主体となっている点にあります。これまでの難民支援は、政府や国連などの公的機関を通して行われるケースが主流でした。しかしその支援には、どうしても解決できない課題があったと百田氏は言います。

 

 

「公的援助のスキームだと、支援が難民たちにとどくまでに、長い時間がかかるんです。必要なものを必要なときに届けられないケースを、私たちはこれまで多く目にしてきました。また、現地政府と連携して行われる公的機関による支援には、支援内容もその政府の要望や制約が反映されます。一方で難民たちが求めている助けは多種多様なので、そういった支援だけでは彼らのニーズを満たすことが難しいのです。だから国際開発のノウハウがある弊社が、現地での調査やネットワーク構築を行い、必要な支援を迅速に行えるプラットフォームを作りました」(百田氏)

 

ウクライナ難民支援プラットフォームは、その支援の対象をウクライナの隣国であるルーマニアの3地区へ避難した人々に絞っています。最も多くの難民が流入している国はポーランドですが、アイ・シー・ネットはなぜルーマニアを選んだのでしょうか。その理由は、支援の偏りにありました。

 

ウクライナ近隣国の現況 ※参照:UNHCR Data Portal(2023 年1 月時点)及びアイ・シー・ネット独自のヒアリングにより作成

 

「ウクライナと国境を接している国のなかで、最多の難民が流入したポーランドには、国際機関による大型支援が集中しています。しかしその他の国にはそういった支援が行き届かない傾向があり、支援の緊急度が高かったのです」(百田氏)

 

アイ・シー・ネットでは、2022年の6〜7月にわたって現地調査を実施。日本からの支援が受け入れ可能なブカレスト、ヤシ、クルージュの3地区を支援対象に選出しました。これらの地区では合計1万人以上の難民が暮らしており、そのうち3000人が子どもです。

 

いま緊急性が高まっている支援ニーズとは?

難民からの多種多様な要望のなかでも、教育支援のニーズがいま特に高まっています。というのも、彼らの母国語であるウクライナ語による教育を、避難先で受けることができないのです。

 

「ルーマニアで教育支援が行われていないわけではありません。しかしそれは、難民たちが今後もある程度ルーマニアに定住することを前提とした、ルーマニア語による教育です。ラテン系であるルーマニア語は、スラヴ系のウクライナ語を母国語としている子どもたちにとっては理解が難しいうえ、そもそもルーマニアでの恒久的定住を望む難民は少数。彼らのニーズが満たされているとはいえないのが現状です」(百田氏)

 

アイ・シー・ネットが所属する学研グループでは、ウクライナ語の幼児向けワークブックをすでに寄贈しているほか、母国語による対面型授業を支援するプロジェクトも進行中だといいます。戦後直後に創業された学研は、「戦後の復興は教育をおいてほかにない」という理念のもとに生まれた企業です。学研グループによる難民支援は、その理念に根ざしたものとなっています。

 

 

学研グループによる支援の一方で、授業を行うための備品や文具、プリンターのような機材など、教育のために必要な多くのものが不足しているのが現状です。また教育以外にも、衛生・栄養や医療・介護の支援ニーズが増しています。アイ・シー・ネットの調査によれば、「新鮮な野菜や果実が手に入らず、食事量が減ってしまった」「栄養不足になり、下痢や便秘で困っている」「快適な寝具、運動器具など、ストレスを軽減させるツールがない」「風邪薬、抗うつ剤、不眠解消のためのマグネシウム・ビタミン剤が欲しい」といった声が寄せられているそうです。さらに、言語が通じない他国に避難したことによる、「人と話す機会が少ない」「道に迷ってしまったときも、言葉が通じないから周囲の人にも聞けない。外出が怖い」というような、コミュニケーション上の悩みも増加しています。

 

ウクライナ難民支援プラットフォームでは、難民たちがいままさに抱えている、これらの悩みを解決するための製品・サービスの提供を日本企業に呼びかけています。その例は多岐にわたっており、百田さんも「協力してくれる企業が増えさえすれば、できることは多い」と語ります。

 

「この挑戦をしないのは、無責任だと思った」

アイ・シー・ネットが作り上げた「ウクライナ難民支援プラットフォーム」。このプラットフォームが力を発揮できるかは、その想いに賛同する企業が多く集まるかにかかっており、まさに挑戦的な取り組みといえます。百田氏ならびにアイ・シー・ネットはなぜ、この一歩を踏み出したのでしょうか。

 

「ここ数年で、SDGsやサステナビリティをはじめとした、CSR(企業が果たすべき社会的責任)への注目が高まってきました。特に海外の機関投資家はCSRへの関心が高く、それに力を入れている企業の価値を高く評価する傾向があります。いまやCSRは、企業にとって、自身の価値を高めるためのパスポートのような存在です。さらにウクライナ戦争は大きな注目を集めている事象ですから、難民支援を行うことによる企業価値向上効果はより高まっています。そんないまだからこそ、このプラットフォームを立ち上げました」(百田氏)

 

またこのプラットフォーム作りは、同社の社会的ミッションを果たすための試みでもあります。

 

「私たちの会社は、“現地の人々の困りごとを解決する”ことにフォーカスして、これまで事業を行ってきました。そんな弊社が、ウクライナ戦争という危機にあたって、挑戦をしないのは無責任だと考えました。弊社には、国際開発の現場で培ってきたノウハウがありますし、スリランカの紛争復興支援、ロヒンギャの難民支援などに携わってきた経験も持っています。そのなかで、公的支援が抱える、スピード感の欠如などの課題を肌で感じてきました。それを解決するという挑戦は、私たちがずっとやりたかったことでもあります。そのときが、やっと来たのです」(百田氏)

 

取材の最初から最後まで、百田さんは情熱を込めて、ウクライナ難民支援プラットフォームに込めた想いを熱く語っていました。筆者としても、ウクライナ戦争が一刻も早く終わること、そして多くの企業がこのプラットフォームに集い、百田さんたちの熱意が結実することを願ってやみません。

新興国で最大の市場規模! アフリカの農業に打って出るべき4つの理由

現在、アフリカでは史上最悪の食料危機が起きており、多くの人たちが飢饉に苦しんでいます。専門家の間ではアフリカの農業をもっと発展させなければならないという危機感が募るとともに、国際的な支援の重要性もますます高まっています。日本企業がアフリカの農業に目を向けるべき理由はどこにあるのでしょうか? 大きく4つの可能性が考えられます。

伸び代が大きいアフリカの農業

 

1: 衰えない農業の市場規模

一つ目の理由は、アフリカにおける農業の市場規模が高いまま維持されているから。アフリカで農業がGDP(国内総生産)に占める割合は約35%で、世界銀行によると、この割合は数十年間変化がありません。他の新興国に目を向けてみると、農業の規模は縮小している所が多くあります。例えば、1970年の東南アジア諸国では農業がGDPの30~35%程度を占めていましたが、2019年には10~15%までに低下しました。アフリカでは今後も農業の市場規模が維持されていくと見られており、日本の企業が参入できる可能性は大きいと言えそうです。

 

2: 工業化に転じない可能性

経済は、農業のような一次産業から工業や製造業といった二次産業に発展することが一般的ですが、アフリカは必ずしもそれに当てはまりません。国際ビジネスを専門とするニューヨーク市立大学バルーク校のライラック・ナフーム教授は農業がアフリカ経済を牽引すると主張しており、その理由の一つとして「製造業を中心とした成長にはインフラが必要だが、アフリカのインフラは整っていない」と指摘しています。実際、エチオピアやモロッコなどの一部の例外を除いて、アフリカの多くの国で製造業を確立することが実現できていないので、他の新興国が辿ってきた発展のプロセスを踏む可能性は低いと考えられます。それゆえに、アフリカは持続可能な農業の形を模索することができるのかもしれません。

 

3: 栽培に適した広大な土地

アフリカには豊かな土地があることも、日本企業がアフリカ進出を検討すべき理由の一つに挙げられます。アフリカの国土は、中国、インド、アメリカ、ヨーロッパなどの国々の合計よりも広く、その半分以上は耕作が可能な土地と言われています。そこで栽培されたカカオやコーヒー、紅茶などはアフリカを代表する作物であり、最高級品質のものが世界中の市場に輸出されています。

 

近年、アフリカでは気候変動によって水不足や洪水などが起きることが多くなり、農業への影響が懸念されるようになりました。農業を守るためには、例えば、水が不足する時期の灌漑用水の確保や、効率的な栽培技術の発展などの技術革新が必要でしょう。また、きび、ひえ、あわなどの雑穀は、比較的過酷な環境下でも栽培しやすく栄養価も高いことから、国連を中心に注目が高まっています。作物を育てるのに適した気候と十分な土地があるアフリカに適しているかもしれません。

 

4: 求められる生産性の改善

アフリカの農業は、使用している機械の量が世界で最も少なく、生産性が世界最低のレベルであると指摘されています。その一因は、アフリカの農家の大半が、自分や家族が生活する分だけの作物を栽培する小規模農家であること。国際農業開発基金によれば、サハラ以南のアフリカの平均農地面積は1.3ヘクタールで、中米の22ヘクタール、南米の51ヘクタール、北米の186ヘクタールと比べると数十倍から百倍以上の差があります。また、小規模農家の多くは貧しく、機械を購入できるほどの資金がないことも生産性が低い原因と考えられますが、経済的な自立を支援していくためには、生産性を上げることが欠かせないでしょう。だからこそ、人口の半数以上が農業に従事しているとされるアフリカでは、日本のように人手不足を補う効率化ではなく、農業の作業を効率化して生産性を上げる技術やサービスが求められると考えられます。

 

国連食糧農業機関(FAO)が2021年に発表したデータによると、アフリカでは5人に1人にあたる2億7800万人が飢餓に直面していたとのこと。アフリカの農業はカカオやコーヒーといった作物を他国に輸出している反面、多くの国が輸入に依存しており、食料自給率が低いことも課題となっています。従来の「自分たちが食べる作物だけを育てる」という小規模農業から、生産性の高い農業にシフトすることは、このような状況を改善し、より多くの人々の利益につながっていくことが期待されます。しかし、この変化を起こすためには、日本などの政府による支援と、技術や知見を持った企業の関わりが必要不可欠でしょう。

 

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インドが巨大決済ネットワークをVisaやMastercardへと開放するワケ

 

インドで大きなシェアを占める小口決済インフラ「UPI(United Payments Interface)」が、Visa(ビザ)やMastercard(マスターカード)にも開放する準備が進められていると、現地紙のThe Morning Contextが伝えています。UPIの国際クレジットカードブランドへの開放は、同国の決済市場にどのようなインパクトを与えることになるのでしょうか。

 

インドで急成長する巨大決済ネットワーク

2016年4月にスタートしたUPIは、スマートフォンを利用し、24時間365日、リアルタイムで銀行口座間の送金を行う決済システム。利用者の決済手数料は少額であれば基本的に無料。手数料が発生した場合でも従来より少額で済むのが特徴、インドではショッピングモールから道端の屋台にまで、約2億3千万個のUPIのQRコードが設置され、さまざまな送金手段として利用されています。2022年12月には、約13兆ルピー(約1600億円)の決済を処理しました。うち個人間の送金が約10兆ルピー、残り約3兆ルピーが商店での買い物などQRコードを利用した決済となっています。

 

UPIの普及を後押ししているのが、インドにおけるフィンテックのパイオニアであるPaytmです。商店などは、月額2ドルでレンタルできるハードウェア「Soundbox」を使うことで、手軽にUPIでの決済が可能になりました。

 

UPIへの国際カードブランド参入を後押しする現地銀行

ただ、銀行預金から即時決済するシステムであるUPIは、少額であれば利用者の手数料が不要なため、預金口座からATMで現金を引き出しているのと変わりません。一方で銀行は口座保有者に預金額の金利を支払う必要があります。しかしこれらの一部をクレジット決済に移行できれば、加盟店舗から得られる決済手数料を銀行とUPI、カード発行会社と分け合うことができるのです。

 

The Morning Contextによれば、インド準備銀行(RBI)はVisaとMastercardに、UPIのオンライン決済プロトコルへのアクセスを認めることを計画しているそうです。これにより消費者は物理的なカードを利用することなく、クレジットの限度額まで買い物が楽しめるようになります。同国で発行されるクレジットカードはVisaとMastercardが9割を占めるなど、寡占状態が問題視されていることもあり、UPIの国際クレジットカードブランドへの開放は、現地のカード会社など既存業者からの反発も予想されていますが、上記の理由で現地銀行がこれを後押ししていると報じられています。

 

巨大な決済市場を国際カードブランドへと開放しようとしているインド。同国の決済シーンは、今後大きな変革期を向かえることになりそうです。

 

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食料危機と気候変動対策に「きび」が急浮上! その理由は?

「2023年は国際雑穀(ミレット)年」。国連が2023年をそう定めているのをご存知でしょうか? ミレットとは、きび、あわ、ひえなどの雑穀類の総称で、米・ニューヨークにある国連本部では先日、雑穀をテーマにした展示会が開催されました。きびなどの雑穀に国連がそれほど熱い視線を注いでいるのは一体なぜなのでしょうか?

きびはいかが?

 

きびなどの雑穀が注目されている背景には、世界人口の増加と食料不足への懸念があります。国連の「世界人口推計2022年版」によると、世界人口は2022年に80億人を突破し、2030年に約85億人、2050年には約97億人になる見込み。それに伴い食料が不足していくことが以前から危惧されています。

 

そこで注目されているのが、きびなどの雑穀。きびはイネ科キビ属に分類される作物で、推測されている原産地は中央アジアや東アジアの温帯地域。今日の日本ではほとんど栽培されなくなりましたが、アジアやアフリカ諸国の中にはきびを主食として食べてきた所があります。特にインドでは、きび、ひえ、あわなどの雑穀それぞれの品種に現地語名があり、人々に長いこと親しまれてきました。

 

栄養面については、たんぱく質や食物繊維を多く含むほか、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラルも豊富。栄養価がとても高いのに安価なことが大きな特徴です。

 

今日の世界情勢を見てみると、パンデミックに加えて、ロシアのウクライナ侵攻で、日本を含め多くの国々がインフレに見舞われています。特に食料のインフレが激しいのが、ジンバブエ、ベネズエラ、レバノンといった国。ジンバブエでは、食料の価格が例年に比べて285%も上昇し、日常生活に大きな打撃を与えているのです。きびなどの雑穀に待望論が持ち上がっても不思議ではないでしょう。

 

また、きびなどの雑穀のメリットとして、厳しい環境でも栽培しやすいことが挙げられます。年々深刻化している気候変動により、世界では水不足で干ばつが起きたり、逆に暴風雨に見舞われたりする地域が増えているのが現状。そこで多くの作物が被害を受けていますが、きびなどの雑穀類は、痩せた土壌や干ばつが起きるような環境でも、肥料や農薬などに頼らず育てることができるとされているのです。

 

桃太郎の精神

このように、栄養価が高く栽培しやすいきびなどの雑穀は、世界中の農民や人々を救う光になりつつありますが、普及を考えるうえで問題になるのは味。

 

きびはくせがなく、味は淡泊です。米に混ぜて食べる以外に、ピザ、パスタ、クッキー、ケーキなどの小麦粉を使った食べ物に加えたり、シリアルやスムージーに混ぜたり、さまざまな使い方が可能。そのため、多様な食文化や人々の好みに合わせて柔軟に取り入れることができると言われています。

 

SDGsの目標2の「飢餓をゼロに」や、目標13の「気候変動に具体的な対策を」など、SDGsの数多くの目標達成にも役立つと考えられる雑穀。アミーナ・J・モハメッド 国連副事務総長は「雑穀は豊かな歴史と可能性に満ちている」と述べています。きびは現代の日本でマイナーな存在かもしれませんが、昔話の『桃太郎』できびだんごが出てくるのを誰もが知っているように、私たちにとって必ずしも遠い存在ではありません。しかも、この物語に登場する鬼は人々に「飢餓をもたらす気象現象の主」であったかもしれないという見方があり(日本大百科全書)、現代社会に通じる部分があるでしょう。きびの力に目を向けるときが再びやって来ているようです。

 

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輸入禁止が功を奏す! ナイジェリアが半年で1億枚のSIMカードを生産

契約者の電話番号などの情報が記録されているSIMカード。スマートフォンに必ず装着されているもので、スマホの契約台数が延びれば、当然SIMカードの生産も増えることになります。そんなSIMカードをわずか半年で1億枚も生産したのが、ナイジェリア。デジタル経済を推進する同国政府のローカライズ計画が成果を上げてきたことが表れています。

アフリカのSIMカードはナイジェリアが作る

 

ナイジェリア政府の情報通信機関であるナイジェリア通信機関委員会(NCC)は2023年2月、過去半年間にナイジェリアで生産されたSIMカードが1億枚以上に達したことを発表しました。SIMカードの国内生産の増加は、「ナイジェリア国家ブロードバンド計画」や「NCC戦略管理計画」の一環。ナイジェリア政府は国全体のデジタル経済と国内でのSIMカード生産を推進するため、2022年8月から外国製SIMカードの使用を禁止しました。これにより、SIMカードを生産する国内の新興企業をバックアップ。もともと外国製のSIMカードに頼っていた生産システムを大きく変換させたのです。

 

ナイジェリアでSIMカードを生産する企業の一つが、CCNL(Card Center Nigeria Limited)。2004年に創業した同社は、ナイジェリアやアフリカの通信会社にSIMカードの生産と販売を行っており、アフリカのSIMカード生産のパイオニア的存在です。もともとIDカードの生産も行っており、ナイジェリア警察や同国の銀行などのIDカードも生産してきました。

 

現在、SIMカード生産などを手掛けるアフリカのスタートアップは7社あり、そのうちの5社はナイジェリアに拠点を持っているとのこと。しかし、同国には技術革新や投資を保護する法律がないことから、スタートアップの中にはナイジェリア以外の国で登記する企業もありました。

 

それを防ぐために、ナイジェリア政府は2022年8月からのSIMカード輸入禁止法を制定したのです。この法律について、ナイジェリアのパンタミ通信・デジタル経済大臣は、その重要性を度々アピールしてきました。スマホ利用者が急増するナイジェリアでSIMカードを100%国内生産すれば、雇用創出につながります。国内企業の売り上げが伸びれば、ナイジェリア経済への貢献度は増すでしょう。

 

SIMカード国内生産が活発化していくことで、ナイジェリアはアフリカにおけるSIMカード生産のハブとして存在感を増すでしょう。2022年におけるアフリカ54か国の人口はおよそ14億人。2030年には16億人、2050年には24億人を上回る見込みです。加えて、スマホやインターネット利用率は、先進国と比べると低いものの、利用者はますます増えて行くと見られています。Twitterが2021年にガーナにアフリカ初の拠点を置くことを明らかにしたように、ビッグテックはアフリカに熱い視線を注いでおり、GDP(国内総生産)や人口、デジタル人材の多さなどを考慮すれば、ナイジェリアはアフリカのデジタル化を牽引する国の一つ。これまで石油やガスに依存していたナイジェリア経済は着実に多角化しているようです。

 

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「リモート指導」でより安全な帝王切開を目指すケニア。医師不足を補うか?

帝王切開での出産は、正しい知識と経験を持った医師がいなければ、危険を伴うこともあります。発展途上国でそんな帝王切開手術を支える産婦人科医を、遠隔で育成していこうという試みがケニアで進められています。

テクノロジーで手術や医師の育成が変わる

 

ケニアのマクニエ県では、妊産婦の死亡率が10万人当たり452人と、同国全体の死亡率(10万人当たり355人)よりはるかに高いのが現状です。その理由の一つとして考えられるのが、帝王切開手術を行える産婦人科医が、毎月900件ほど行われる帝王切開に対してわずか3人しかいないこと。通常の出産に比べて複雑で難しい帝王切開には、それを支える技術を持った医師の存在が欠かせません。しかし、ケニアでは必要な設備が整った病院も、十分な技術を持った医師も不足していることが指摘されているのです。

 

そこで、米ジョンズ・ホプキンス大学と提携する非営利医療団のJhpiegoでは、医療向けプラットフォームを展開するProximieと提携して、遠隔で医師のメンターシップ(※)を行うプログラムを2021年12月に立ち上げました。これはケニアで帝王切開の手術が行われる際、経験豊富な産婦人科医とバーチャルでつなぎ、問題があればそこで相談しながら手術を進め、死亡率を減らそうという試み。手術室には4つのカメラを設置し、妊産婦、赤ちゃん、手術室全体などを映し、異なる場所にいる医師とバーチャルでつながり会話できるのです。手術の記録を録画して、後日それを閲覧することもできるとのこと。帝王切開の手術はもちろん、合併症のケア、処置後の赤ちゃんのケアなど、プログラムを通して、若手医師や看護師に適切なスキルを身につけていってもらうことを狙いとしています。

※メンターシップ(またはメンタリング)とは、企業などの組織において先輩が上司の指示に頼らず、自律的に後輩を指導すること

 

このプログラムに参加した5つの病院のいずれの手術チームも、バーチャルでのサポートがあることで、緊急事態が起きてもそれに的確に対応できるようになったとのこと。また録画した動画をケニアの手術チームとともに閲覧しながら、手術の対応について議論して、医師や看護師全体の知識や対応力を底上げしていくこともできます。Jhpiegoによると、プロジェクト開始当初は手術安全のためのチェックリストを守っている病院はほぼなかったのに、2022年3月時点で遵守率が100%になったそうです。

 

このプロジェクトは22か月に渡り行われていますが、「若手医師や看護師の6か月のインターン期間では、帝王切開の緊急事態に対応できるような十分な経験と自信をつけることは難しい」とケニアの産婦人科医師が語っているように、このようなプログラムを継続する必要性が認識されています。

 

デジタル技術を駆使した医師のメンターシップは、指導する側(メンター)にとっても指導を受ける側(メンティー)にとっても、有効な育成手法と言えるでしょう。発展途上国ではインターネットの接続やカメラなどの必要設備を整えることが必要にはなりますが、このような取り組みは産婦人科医に限らず、医療に関する他の分野にも広がっていきそうです。

 

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早い成長、低いコスト、高いCO2吸収量。「竹」の可能性に世界が注目

2021年に起きたウッドショック。コロナ禍で伐採労働者が減少した影響もあり、住宅建設に必要な木材が不足し、木材の価格が高騰しました。このような現象が起きた後で、建築材料として俄然注目を集めているのが竹です。現在、世界中で約44億人が都市部に住んでおり、その数は2050年に2倍になると見られていますが、それに伴い増えることが予想される住宅需要を満たすためには、竹の活用が不可欠と言われています。日本人が昔から馴染んできた竹には、一体どのような可能性が秘められているのでしょうか?

世界を救う可能性を持つ竹

 

まず、竹の特徴として成長がとても早いことが挙げられます。一般的な木材の場合、苗木を植えてから木材として使用できるまでに40~50年かかるのに対して、竹は多くの品種で根本を切っても再び芽が伸び、わずか3年で収穫できるほど早く成長するのです。

 

また、竹は成長するときに大気中の二酸化炭素を吸収することも特徴。1ヘクタールの竹林は1年間で約17トンの炭素を吸収するうえ、竹は建物や家具などになった後でも大気中の炭素を吸収して蓄えることが可能。そのため、竹は深刻化する地球温暖化の対策にもなり得るのです。

 

さらに、竹は耐久性があって安価、しかも軽量なので運搬しやすいと言われているほか、水分を多く含んでいるため耐火性があり、加工すれば400℃の高温にも耐えられるようになるそうです。このような理由で、竹はとても魅力的な建築資材であり、気候変動に対応した住宅の建築に役立つ可能性を秘めているのです。

 

世界経済フォーラムや世界資源研究所などの共同イニシアチブによる「気候スマート・フォレスト・エコノミー・プログラム(CSFEP)」は、持続可能な建築資材として竹を活用した住宅建築の取り組みを進めています。その一例が、グアテマラの竹製住宅。2022年10月に熱帯低気圧ジュリアに襲われた際、この住宅は強い風に耐え、しかも高床式の住居だったため浸水も防ぎ、被害を受けずに済んだ建物が多かったのです。

 

他国もこのような竹のポテンシャルに注目し、竹の産業化を推進しています。中国は2012年に竹産業を国家的な優先課題と決定した一方、ケニアは竹の商業化を促進するべく、2020年には竹を植物ではなく「作物」に分類しています。また、エチオピアでは、2030年までにアフリカで主要な竹生産国になることを目指し、竹の植林を進めていると同時に、人工竹材に関する実験も行っている模様。さらに、インドの建築業界でも竹を活用することで建築資材を多角化する動きが見られるなど、竹を利用した試みは世界各国に広がっているのです。

 

日本も負けられない

日本人にとって竹は昔から身近にある植物で、縄文時代から建築素材として使われてきたとされています。しかし、家具やインテリアなどには竹が使われているものの、より安価な資材が生まれたことなどから、日本では竹の消費量自体が減り、管理されないまま放置された竹林が増えているのが現状。

 

それでも、国産の竹100%を原料とした「竹紙」を製造したり、竹から「セルロースナノファイバー」と呼ばれる極小繊維を作る技術を開発したり、日本でも竹を資源として活用する研究が進められています。これらは建築資材ではありませんが、他国と同様に日本でも竹を再評価する機運が高まっているのかもしれません。世界各国がサステナブルな竹を巡り競い合っている中、日本の奮起が期待されます。

 

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日本でじわじわと増えるバングラデシュ人の採用、2022年には過去最高を記録

日本では人口減少と超高齢化を背景に、多くの業界で人材不足が起きています。そんな日本の労働市場に約20年前から労働者を派遣してきたのがバングラデシュ。同国は介護、農業、建設業などの分野で今まで以上に多くの技能実習生を日本に送り込もうと意気込んでいます。

バングラデシュの働く人々

 

内閣府によると、15歳以上の就業者と完全失業者を合わせた日本の「労働力人口」は、2014年は6587万人だったのが、2030年には5683万人、2060年には3795万人まで減少すると予測されており、経済成長にブレーキがかかると言われている中、外国人労働者の供給国として期待される国の一つがバングラデシュ。我慢強く、真面目な国民性だと言われている同国では、86の民間機関が日本への労働者派遣を許可されており、1999年から2022年までの間に日本へ働きに来た人々の数は2740人になります。バングラデシュ労働者雇用訓練局によれば、2022年には年間で過去最高となる508人が派遣されたとのこと。

 

バングラデシュ労働者雇用訓練局長は、「労働者を必要としてきた日本は、これまで中国や韓国、ベトナム、フィリピン、インドネシアなどから人材を雇ってきたが、現在はその動きを拡大している」と現状を認識しています。

 

労働者雇用訓練局では、介護、農業、ビル清掃管理、建設などの分野で、特定技能労働者を採用する試験を行い、さらに半年をかけて日本語や日本の文化に関して学ぶ訓練を国内約30か所にある技術訓練センターで実施。日本の労働市場に即してより実践的な労働者を派遣できるように、国として施策を行っているのです。

 

これに対して、海外からの技能実習生を日本に受け入れる、国内最大の監理団体の国際人材育成機構(アイム・ジャパン)は、定期的にバングラデシュを訪れ、労働者の選定を行っています。しかし、日本で働くために必要な技能を有していることはもちろん、言葉も食事も異なる慣れない海外での生活を送るためには、労働ビザをもらえれば済むだけの話ではありません。バングラデシュ側は研修や教育方法について改善する必要があると認識しており、訓練期間を1年まで延ばすことを検討しているようです。

 

日本は、バングラデシュが1971年に独立して初めて外交関係を樹立した国。それ以来、青年海外協力隊の派遣をはじめ、50年以上にわたり外交関係を築いてきた歴史があります。バングラデシュは親日家が多いと言われていますが、かつては世界で最も貧しい国の一つと言われた国が、2041年には先進国入りを目指すまでになったのは日本の支援によるところも少なくないでしょう。

 

バングラデシュ人から見れば、日本で働くと母国より高い収入を得て、家族に送金することができるという側面があります。2023年2月から9月には、介護、農業、ビル清掃管理、建設などの分野で特定技能労働者の採用試験が始まりますが、この先、日本企業の採用担当者がバングラデシュの人材を検討することが増えるかもしれません。

 

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【4大リスク】紛争、債務危機、温室効果ガス、SDGs…2023年の途上国が危ない!

新型コロナウイルスのパンデミックから回復基調にあるなか、インフレやエネルギー危機に見舞われている世界の国々。2023年は世界全体で経済成長があまり見込めない年になると予測されています。そんな中、財政面での余力がない途上国は、さらなる逆風を受けることになりかねません。非営利団体である「センター・オブ・サステナブル・ディベロップメント」のアナリストが指摘する、2023年に注目するべき途上国の4つのリスクとはどのようなものなのでしょうか。

 

[1]SDGs:折り返し地点で目標から後退している途上国も

2030年までに達成すべき目標が示されたSDGs。2015年の国連サミットで採択されてから、2023年はちょうど折り返し地点にあたり、9月には各国の首脳が集まり進捗について確認するSDGsサミットが開催されます。しかし17の持続可能な目標のうち、ゴールに向けて進むどころか、後退しているものもあると指摘されています。例えば、極度の貧困状態にある人々は世界で約6億人。食料、教育、医療などを十分に得られない環境下にいる人々は数百万人にものぼります。そのようなリスクを抱えている国には、タンザニア、ウガンダ、マダガスカル、ナイジェリア、バングラデシュなどが挙げられます。途上国がSDGsの目標を達成するためには、「誰一人取り残さない」というSDGsの原則にもとづき、世界各国が資金面での支援をさらに強化する必要性があると言えるでしょう。

 

[2]気候:資金不足により、温室効果ガス削減に黄色信号

中国を除く途上国が排出する温室効果ガスは、世界全体の38%を占めており、2030年には約半分を占めるまでになると予測されています。多くの途上国で、先端技術を活かして地球環境問題の解決を目指す「グリーン・トランスフォーメーション」が進められていますが、資金面の不足などでその動きは鈍りが見られているのです。例えば、途上国(中国を除く)は日照時間が長く恵まれた気候条件の国が多いのに、資金調達に苦労していることから、太陽光発電設備の容量は世界の20%以下。もし十分な資金を確保できてグリーン・トランスフォーメーションを推進できれば、温室効果ガスの排出量をより抑えられるでしょう。このような気候問題に関するリスクがある主要な国として、ブラジル、メキシコ、南アフリカなどの名前が挙げられます。

 

[3]債務:利上げと世界経済の鈍化による債務危機の可能性

途上国が2023年に中長期で負う対外債務は、推定3810億ドルにものぼると見られています。実際、世界銀行は2022年12月、途上国では輸出入収入の10分の1以上を公的機関などの長期対外債務の返済に充てており、2000年以降で最高水準であると指摘。しかも利上げが進み、グローバル経済が鈍化することで、さらに多くの国が債務危機に見舞われるリスクがあると言われているのです。そのようなリスクを抱えている途上国は、アルゼンチン、アンゴラ、スリランカ、エクアドルなど。債務の透明性を高め、債務情報の提供を通じて、途上国の債務リスク管理能力を上げていくことも必要と言われています。

 

[4]紛争・暴力:必要数の半分しか追いついていない人道的支援

2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻のように、世界では武力紛争が起きている地域がまだ少なくありません。また、不安定な政治情勢によって、暴力や貧困に苦しんでいる人々もいます。国際救済委員会(IRC)が発表した「緊急ウォッチリスト2023」で、注視するべき国として挙げられたのは、ソマリア、アフガニスタン、イエメン、シリア、南スーダンなど。いずれも紛争、暴力、災害などに見舞われている国々で、国連人道問題調整事務所(OCHA)によれば、そのうち人道的な問題のおよそ半分しか支援が追い付いていないそうです。世界がそのような人道支援に手を差し伸べ、支援を行きわたらせることが求められています。

 

これらのリスクを抱える途上国として挙げられた30か国は、必要とする資金が、合計で9030億ドルも不足していると指摘されています。その差分は他国から調達する必要があることは間違いありません。世界全体で経済成長が鈍化するとみられる2023年。先進国からの資金面での援助が減少する可能性が高く、途上国はさらなるリスクを抱えることになそうです。

 

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早期教育とSTEAMに転換したインドの教育政策、700万人以上の教師の確保が課題

インドでは2020年7月から、新たな「国際教育政策(NEP2020)」が施行されています。教育政策の見直しは30年ぶりのことでしたが、その主眼は個人の能力を伸ばし、IT発展後も世界で活躍できる人材を育てること。「公平でインクルーシブな教育」を重要視しながら、誰もが質の高い教育を受けられることを目指します。今後の課題についても触れながら、インドの教育現場がどのように変化しつつあるのかを説明します。

インド農村部の学校に通う子どもたち

 

3歳からの早期教育を重視

まず大きく変わったのは、早期教育に重点を当てる教育制度になったこと。従来の教育システムでは6歳から始まる「10・2年制度」でした。今回の改訂では「6歳以前から脳の発達が育まれる」という考えに基づきながら3歳からの早期教育を導入し、「5・3・3・4年制」を採用。新しい教育システムによると、子どもたちは基礎段階で5年間、準備段階で3年間、中期段階で3年間、中等教育段階で4年間を過ごします。

 

現在、幼児はまず近くのプレスクールで日中を過ごし、4歳ごろになると幼稚園で2年間を過ごします。そして、就学開始時の6歳になると小学校に入学するのが一般的です。経済的な理由から、幼稚園には通わずに就学する子どもも多くいます。

 

インド政府は言語習得をはじめ、数字に関する感覚の基盤がないとその後の学習に大きく影響すると考え、言葉が発達する幼児期の教育が大切だと判断。政策の見直しにより、3歳から教育を受け始めて8歳まで同じ学校で学び続けることができるようになりました。新しい教育政策によって、基礎段階である幼稚園から小学校低学年まで一貫した教育を5年間受け、その後中等教育への準備段階にあたる小学校高学年の学習を3年間受けるという形になったのです。

 

3歳からの義務教育化によって有料の幼稚園やプレスクールに通わせる必要もなくなり、教科書代などを除けば基本的に教育費用は無料。さらに、統一されたカリキュラムに沿って授業が行われるようになり、どの子も公平に教育を受けることが可能となりました。

図工の時間に絵を描く子どもたち

 

暗記学習からSTEAMへ

また、新たな教育政策では個人の能力を伸ばす方向へと舵を切ったことも特徴。そのために、これまで暗記学習主導だったカリキュラムを体験学習や応用学習、分析・探求学習、STEAM教育を意識した学習へと移行しています。

 

これまでインドの教育は暗記中心型で、20段まである掛け算の九九も言えるなど九九や数式などの暗記を重視してきました。暗記ができた生徒から黒板の前に立って全員の前で暗唱し、できなければ覚えるまで続けるなどの手法で、他の科目も同様でした。

 

しかし今後は、新たな教育政策のもとで、暗記中心の教育から、個人の能力を伸ばす教育に転換していくことになります。具体的には、個人が抱く関心や興味を大切にし、批判的思考も養いながら、ディスカッションを通して学んでいく手法を導入。例えば、地球温暖化など自分が興味を抱いた一つのテーマについて自由に調べたうえで意見を発表し、さらにクラス内で意見交換するなど、従来の受け身から自らが進んで学ぶといった学習に変化します。

 

また、職業学習、数学的思考、データサイエンスやコーディングなど最新のデジタル技術を用いた体験学習を導入すると同時に、新たに科目選択制ができるようになり、芸術や体育など副教科とされるものについて自分の興味のある科目を選択できるようになりました。

 

教員側には、生徒の教育的、肉体的、精神的な満足度や幸せを対象に含めた新たな評価モデルが取り入れられていますが、これら全ては、将来に備えて子どもたちを真のグローバル市民に育て上げることを目標に設計されているのです。

休み時間には鬼ごっこに似た遊び「カバディ」を楽しむ

 

質の高い教員の確保が課題

新しい教育政策を進めていくうえで重要になるのが、教師の存在です。「NEP2020」を背景に、2022年1月から国内45の教育機関が新たな「統合教師教育プログラム(ITEP)」を開始しました。質の高い教師の育成に向けたもので、「ITEP」のコースは全国共通入学試験や教育技術評議会のスコアに基づいています。

 

これまで教師を目指す人は卒業と学士号取得まで5年間かかるなど、日本の大学の教職課程よりも長かったのですが、ITEPの学士号プログラムでは4年間に短縮。才能のある若者などにとって大きなメリットになると言われており、2030年以降はITEPが教師採用の基準になるようです。

 

しかし、インドでは教師の給与は高いとはいえず、むしろ低賃金の職業とされています。NEP2020によって700万人以上の教師が必要になると推定されていますが、どのように優秀な人材を確保していくのかが今後の重要課題です。

 

新たな政策のもと、大きく変わりつつあるインドの教育。筆者が知る学校では3歳からの早期教育プログラムが始まっており、子どもたちは自然の中で学習したり、造形活動をしたりと五感を使って楽しそうに学んでいます。社会的・経済的階級や背景に関係なく、全ての子どもが公平に質の高い教育を受けられるようになることは、格差社会を改善する第一歩となるでしょう。

 

執筆/流田 久美子

 

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途上国のGDP、コロナ前の予測から6%低下と世界銀行が警鐘。先手必勝が鍵

2023年の世界の経済成長は1.7%。わずか6か月前に予測されたのは3%だったのに、そこから大きく減速し、2023年の経済成長は1.7%にとどまると、世界銀行が先日報告書をまとめました。過去30年間で3番目に低い成長率となり、特に途上国に大きな影響を及ぼすと考えられています。

途上国の経済はかなり停滞しそう

 

2023年1月に世界銀行が発表した『世界経済見通し(Global Economic Prospects)』によると、世界の経済成長率は2021年が5.9%、2022年は2.9%でしたが、2023年は1.7%と大きく減速すると見られるのです。

 

この大きな要因は、予測を超えるインフレの進行と、それを抑制するための急激な金利の上昇。さらに新型コロナウイルスの再流行や、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した世界各国との緊張状態なども関係しています。

 

これらの影響を受けて、先進国の約95%、新興国・発展途上国の約70%で経済成長率が下方修正されたのです。これは、2009年のリーマンショック、世界に新型コロナウイルスが蔓延した2020年のマイナス成長に次いで、過去30年間で3番目に低いとのこと。

 

中国を除く新興国と発展途上国の経済成長率は、2023年は2.7%。2022年の3.8%からこちらも大きく減速すると予測されています。GDPレベルは、新型コロナウイルスが感染拡大するパンデミック前に予測されていた水準より約6%も低下するとのこと。

 

先進国の景気が減速すると、貿易などを通じてその影響が東アジア、太平洋、ヨーロッパ、中央アジアなど世界各地に波及します。先進国だけに限ってみると、経済成長率の鈍化はさらに顕著。例えばアメリカは、前回の予測を1.9%も下回り、2023年の経済成長率は0.5%。ユーロ圏は1.9%マイナスの0%。中国は4.3%(0.9ポイント下方修正)。先進国全体の2023年の経済成長率は、2022年の2.5%から0.5%に減速するとされているのです。さらに長引くエネルギー価格の上昇や、紛争、気候変動による自然災害なども重なり、新興国や発展途上国に逆風が押し寄せると見られています。

 

投資なしではSDGsは不可能

さらに、世界銀行が指摘したのは、新興国や発展途上国への投資額の減少。2022年から2024年にかけて、これらの国々への投資額の総額は、平均で約3.5%増加したものの、過去20年間の投資額と比べると半分以下になるといいます。世界銀行の見通し局長を務めるアイハン・コーゼは「強力で持続的な投資が増えなければ、開発や気候関連の目標達成に向けた前進は不可能だ」と述べています。

 

また、この報告書では、人口が150万人に満たない37の小規模国にも着目。これらの国ではコロナ禍による景気後退が顕著で、観光業が長期にわたり不況となったことで経済成長が遅れていると言います。

 

世界銀行のデイビッド・マルパス総裁は、「世界の経済成長の見通しが悪化するにつれ、国際開発が直面する危機はますます深刻化するだろう。政府財務の高止まりや金利上昇に直面する先進国にグローバル資本が吸収され、新興国と発展途上国は数年にわたる低い成長に遭遇する。これにより、教育、健康、貧困、気候変動などにおける取り組みはさらに悪化するだろう」と危機感を募らせています。

 

このようにネガティブな状況では途上国への投資に躊躇する企業が多いと思われますが、こうした状況下だからこそ他社に先駆けて行動することがビジネスの成功につながります。また、マクロな視点では成長率が鈍化しているとしても、ミクロな視点で見れば成長著しい分野もあります。マクロ経済だけで判断すると悲観的になりますが、現地に行くと勢いを感じる国も多い途上国。まずは現地の情報を詳細につかみ、いち早く行動してみてはいかがでしょうか?

 

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教育DXに注力するタイ、背景にある3つの大きな教育制度の課題

2036年までに先進国になることを目指しているタイ政府は、2016年に策定した「タイランド4.0(20年間長期国家戦略)」に取り組んでいます。達成に向けた急務は先進技術に対応できる人材を育成するための教育制度を確立すること。そのための方法としてEdTechに注目が集まっています。

「タイランド4.0」で2036年の先進国入りを目指す

 

タイランド4.0は次世代の農業やバイオテクノロジー、ロボット産業、自動車産業など10種類の先進技術産業を基盤にしながら経済を成長させる計画。この計画を達成するためには、デジタルを中心とした先進技術に対応できる人材を育成する教育制度の確立が急務となっています。

 

そんな中、国内の民間企業は「タイランド4.0」を大きなビジネスチャンスと捉え、デジタル人材育成の場としてEdTechに力を入れ始めました。EdTechは「Education(教育)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語で、テクノロジーを用いた教育を支援する仕組みやサービスを指しますが、民間企業がEdTechに注力し始めた裏には、現在の公教育制度に多くの問題点が存在します。

 

タイの教育制度は、社会の所得格差と地域格差が是正されていないことが原因で、大きな問題を3つ抱えています。

 

1: 慢性的な教員不足

現役教員が高齢化して退職者が増加しましたが、教員の給与は民間と比べて低いので、なり手が少ないという問題があります。タイの公立校の教員は公務員となり、給与は棒級表に従います。初任給は、民間企業の大卒一般職の初任給が1万8000バーツ(約7万1000円※1)程度に対して、1万5000バーツ(約5万9000円)。ただし私立校の教員は民間扱いとなり、給与も民間企業に近い額をもらっている場合が多いです。教員不足の他の理由としては、定時後の事務作業や、生徒にトラブルが発生した場合の対応など、拘束時間が長くなることも挙げられます。

※1: 1バーツ=約3.95円で換算(2023年1月27日現在)

 

2: 国際的に低いタイの学力

生徒の基礎学力(読解力、数学的応用力、科学的応用力)が国際平均を下回り国際的な水準を満たさない。15才を対象に実施される国際学習到達度調査(PISA)のほかに、国際教育到達度評価学会(IEA)が1995年から4年に1度、「TIMSS(Trends in International Mathematics and Science Study)」と呼ばれる算数・数学および理科の到達度に関する国際テストを小学校4年生時と中学校2年生時に実施しており、タイは2011年に実施された第5回まで参加していました。しかし同年度の結果は、以下の通り全ての調査で中央値を下回る結果となっています。

参加国数 順位 得点 中央値
小学4年生 算数 50か国・地域 34位 458点 507点
小学4年生 理科 50か国・地域 29位 472点 516点
中学2年生 数学 42か国・地域 28位 427点 467点
中学2年生 理科 42か国・地域 25位 451点 483点

 

3: 少ないデジタル予算

デジタル関連の予算が少な過ぎるため、農村部などでICT(情報通信技術)の整備や教育が大きく遅れていることも問題です。デジタル関連はデジタル経済社会省が担当しており、2022年度は国家予算3兆1000 億バーツ(約12兆円)に対して、デジタル関連の予算は69億7900万バーツ(約275億円)と、予算比0.2%になっています。日本の場合、2022年度のデジタル関連の予算は1兆2800億円と予算比1.2%で、デジタル化に力を入れているシンガポールの場合は、2021年度国家予算の240億シンガポールドル(約2兆3800億円※2)に対し、デジタル関連予算は38億シンガポールドル(約3760億円)と予算比15.8%を費やしています。一概には言えませんが、最低でも国家予算の1%は配分する必要があるのではないかと思われます。

※2: 1シンガポールドル=約99円で換算(2023年1月27日現在)

 

これらの問題がデジタル人材を公教育で育成することを困難にしているのですが、だからこそ民間企業はこの状況をビジネスチャンスとして認識し、タイランド4.0が求める人材育成の場として、また、ICTなど公教育が抱える問題の解決策としてEdTechに乗り出す民間企業が増えているのです。

 

例えば、タイの教育関連企業のOpenDurianは390万人のユーザー数を誇り、小学校レベルから大学入試に加え、公務員試験対策やTOEIC、IETLSなど英語資格試験対策のオンラインコースを提供しています。

 

また、School Bright社は、教師や学校事務員の作業軽減を図る業務支援アプリや、保護者が学校とスムーズにコミュニケーションが取れるような学校運営支援アプリを開発。現在、タイ全土412校で採用されています。

 

海外のEdTech企業もタイに進出しており、英国のNisai Groupがタイに「WeLearn Academy Thailand」を設立しました。中学校・高校レベルのオンライン学習支援を行うとともに、所定のカリキュラムを修了した生徒には米国の高校修了認定証明書を取得できるコースを提供しています。

 

政府もスタートアップを支援

タイのICT教育の様子

 

2021年3月に JETRO(日本貿易振興機構)が発表した「タイ教育(EdTech)産業調査」によると、タイのEdTech市場は、6.5億ドル(約845億円※3)~16億ドル(約2080億円)と見込まれています。また、タイの教育産業に属する企業の平均純利益率は6.3%で、成長率も8.7%と有望な市場と言えます。

※3: 1ドル=約130円で換算(2023年1月27日現在)

 

タイ政府も、既存産業の活性化や教育システムの質の改善が見込めると期待。国内外のEdTechスタートアップに対して多額の投資資金を投じると表明しています。

 

このように、タイランド4.0を背景に伸びているEdTechは有望市場ですが、海外からの投資規模はまだ小さく参入の余地があります。タイのスタートアップも海外企業との連携に意欲的なため、日本企業にとっては途上国ビジネスの選択肢の一つとして検討に値するのではないでしょうか?

 

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世界の「高齢化」が史上最速で進行。途上国にも広がる「高齢社会」ならではのビジネス

日本は世界で最も高齢化が進んでいる国として知られています。しかし高齢化の波は、日本のみならず世界全体に及び、史上最速の速さで進んでいることが国連の最新の発表で明らかとなりました。高齢化先進国である日本の企業は海外をも視野に入れたビジネスモデルを構築したほうが良いかもしれません。

先進国だけでなく途上国も高齢化

 

まず、2023年1月に国連経済社会局(UNDESA)が発表した「世界社会情勢報告書2023」の結果を述べましょう。

 

2021年時点で世界にいる65歳以上の高齢者の人数は約7億6100万人。およそ10人に1人が高齢者に当てはまります。しかし2050年には、この数が2倍以上の16億人に達し、6人に1人の割合になると見込まれています。この傾向を後押ししている要因として、出生率が低下していること、教育を受ける人が増え、健康に関する知識を身に付け、長寿化が進んでいることなどが考えられます。例えば、1950年に生まれた人は平均で46歳までしか生きられなかったのに対し、2021年生まれの人は、それよりも平均で25年も長い71歳まで生き、しかも女性は男性よりも平均で5年も長生きしているのです。

 

特に高齢者が多くなるのは、東アジアと東南アジア。高齢者の増加の6割以上がこの地域に集中すると見られています。日本は高齢者の割合が最も高い国で、2020年時点で29%が高齢者。2040年には人口の36%が高齢者になると予測されていますが、2050年までに中国や韓国がこの高齢化率を上回る可能性が指摘されています。

 

また、先進国よりも途上国における高齢化が進むことも予測されており、北アフリカ、西アジア、サハラ以南のアフリカなどは、今後30年間で高齢者の数が最も速く増加するとのこと。

 

さらに、65歳以上の高齢者の中でも80歳以上の割合が急速に増加していると同報告書は伝えています。

 

高齢化社会で生まれるビジネスの可能性

健康で経済的な不安もなく暮らせる高齢者がいる一方で、病気になったり貧困で苦しんでいたりする高齢者もいます。世界で進む高齢化は、保健や医療を平等に受けられる制度を整えるなど、不平等をなくす政策がなければ、高齢化社会でも格差が広がると報告書では指摘されています。

 

他方、高齢化の世界で、新しいビジネスチャンスが生まれる可能性もあるでしょう。特に日本は50年以上も前の1970年に高齢化社会に突入した、いわば高齢化社会の先進国。これまでの社会の実情と経験から、あらゆるシニア向けビジネスを率先して進めていく存在になるかもしれません。例えば、インドでは2030年に約3億人が高齢者になると予測されており、高齢者ケアのニーズが拡大すれば、日本企業がインド市場へ参入する可能性もあり、日本で培った介護ビジネスのノウハウが生きてくるという見方もできます。

 

高齢化でニーズが生まれるのは介護だけではありません。例えば、日本ではリタイア前後の60代前半の男性と、子育てが落ち着いてきた50代後半の女性が多く利用するという「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)」というコミュニティサイトが存在します。アクティブなシニア世代を中心に会員数は35万人まで増えており、こうした世代は消費意欲が高く、金銭的余裕もあるため、市場としても十分な大きさがあります。

 

逆に、高齢者がサービスを供給することも考えられるでしょう。イギリスの格安航空会社・イージージェットでは、45歳以上のミドル・シニア層のキャビンアテンダントの採用を積極的に実施。パンデミックによって労働力不足が顕著となっている航空業界では、人生経験を積んだミドルやシニア層に着目しているそうです。

 

シニア層の人材を活用するビジネスや、配偶者を亡くして一人で暮らす「おひとりさま」に向けたサービスなど、先進国で生まれたビジネスが途上国にも広がることが考えられます。世界で急速に進む高齢化を見据えたビジネスモデルを検討するときかもしれません。

 

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過去数十年で最悪の「食料危機」に陥るアフリカ、「小魚」が希望の光

近年、アフリカの食料危機が深刻化していることをご存知でしょうか? そのレベルは過去数十年で最も悪いと言われ、日本の人口を超える1億4600万人もの人が食料不足に陥り、死のリスクに直面する子どもが増加しています。そんな中、このような現状を解決する一助になるかもしれない、ある研究結果が報告されました。

食料危機における希望の光

 

国際赤十字・赤新月社連盟の2022年11月の報告によると、サハラ以南のアフリカで現在、食料不足に直面している人の数は1億4600万人。日本の人口よりも多い人々が、日々生きていくために必要な食料を得られていないことになります。これは昨今の気候変動(干ばつ)で、作物の収穫量が減少したこと、さらにロシアのウクライナ侵攻で世界全体の食料供給が不安定になっていることなどが関連しています。これだけの人々が食料危機に陥っているのは、過去数十年で最もひどいそう。

 

この影響は、幼い子どもにも及んでいます。十分な栄養を摂取できないことから、ひどく痩せ細り、死のリスクすらあるという消耗症(症状の重い乳児栄養失調症で、体組織が破壊され、食事量を増やしても体重は減り、ひどく痩せてしまう)に陥る子どもの数が増加していると言います。このような食料危機は2023年も続くと予測されており、ユニセフや国際赤十字をはじめ、さまざまな組織や団体が支援を呼び掛けているのです。

 

安くて栄養価が高い小魚

そこで注目したいのが、小魚の存在。英国・ランカスター大学の研究者らが、先日「ネイチャー」に発表した論文で、食料不足に苦しむ国において小魚が新しい食料供給源として有効であるとまとめたのです。

 

この研究では2348種の漁獲量と栄養データ、さらに低・中所得の39か国のデータなどを分析し、小魚は栄養価が高いのに価格が手ごろであると主張しています。例えば、ニシン、イワシ、カタクチイワシなどは栄養価も高く、72%の国で最も価格が安い魚でした。その価格は1日分の食費のわずか1~3割ほどで済むと同研究者らは述べています。

 

日本で小魚は手頃に入手でき、頭からしっぽまで丸ごと食べられて、栄養価が高い食材だと知られています。しかし、日本のように伝統的に魚を食べる習慣がある国とは違い、途上国の中には魚を頻繁に口にしない国もあります。例えば、サハラ以南のアフリカで5歳以下の子どもの魚介類摂取量は、推奨される量の38%にとどまっているそう。

 

また、現在の漁獲量だけでも、人々に供給するだけの十分な量があるとされており、ニシンなどの小さい遠海魚の漁獲量のわずか20%ほどで、アフリカの沿岸部に住む5歳未満のすべての子どもの推奨摂取量を満たせることが同論文で指摘されています。

 

日本の加工・品質管理技術が求められる

水産物を高い品質で管理し加工する日本の技術は、世界でもトップ水準。栄養価をできるだけ損なわずに、新鮮でおいしい状態を維持して長期間管理する技術があれば、より多くの人に高い栄養価の状態で魚を供給できるでしょう(例えば、コールドチェーン技術。原材料の調達から生産、加工、物流、販売、消費までのサプライチェーンの全工程において、冷凍や冷蔵などの適切な温度管理を行うこと)。日本が技術面で支援を行うことで、アフリカの食料不足や栄養失調の問題解決に役立つことが考えられます。

 

食料不足を解決する可能性を持っていることが明らかとなった小魚。アフリカなどで新たな食料源として活用するのに、コールドチェーンなど日本の技術が役立つでしょう。

 

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二子玉川 蔦屋家電イベント「ウクライナ難民の暮らしの今」開催

2023年1月23~29日、二子玉川 蔦屋家電2階 E-room 2にて、アイ・シー・ネット主催「ウクライナ難民の暮らしの今」を開催中です。

 

 

同イベントは「‟知る”写真パネル展」と、週末に開催される「‟関わる”ポップアップイベント」の2つのイベントで構成。

 

‟知る”写真パネル展では、隣国モルドバとルーマニアでの、ウクライナ難民の暮らしの状況や難民の子どもたちの教育環境について知ることができるパネルと、UNHCRの写真を展示。ドキュメンタリー写真家の森 佑一氏がウクライナ国内で撮影した写真もインタビュー内容と合わせて紹介します。イベントブース来場者にはオリジナルロゴシールをプレゼント。

 

オリジナルロゴシール

 

1月28日と29日限定の‟関わる”週末ポップアップイベントは、ワインという身近なものを通じて、難民たちと“関わり”を持つことができます。イベントでは、東京・自由が丘にあるモルドバ産のワインや食品を販売している店舗が2日間限定で出店。売上の10%はウクライナ難民子ども支援プロジェクトに寄付されます。

 

また、5000年の歴史を持つモルドバワインの世界を楽しめるワインテイスティング会も開催。難民支援を行なっているワイナリーのワインを試飲できます。講師(ソムリエ)の遠藤エレナ氏よる、モルドバ国内の様子と、日本では珍しいモルドバ産のワインについての解説もあります。イベント参加は事前申し込みが必要で、参加費は1200円。所要時間は30分で、各日3回開催します。申し込みフォームは下記概要から。

 

【イベント概要】

開催内容:‟知る”写真パネル展(期間中、常時開催)/‟関わる”週末ポップアップイベント(1/28、29のみ開催、一部イベントは事前予約制)

会場:二子玉川 蔦屋家電2階 E-room 2

開催期間:2023年1月23日(月)~1月29日(日) 11時~19時 ※週末ポップアップイベントは1月28日、29日限定

参加費:‟知る”写真パネル展 無料/‟関わる”週末ポップアップイベント 一部1200円

ワインテイスティング会申し込みフォーム:Peatix

主催:アイ・シー・ネット株式会社

共催:株式会社学研ホールディングス、二子玉川 蔦屋家電

協力:株式会社奇兵隊モルドバマーケット

後援:在日ウクライナ大使館

人口増加のインドで「スーパーリッチ層」が増加。コロナ禍で貧困が拡大との指摘も…

最近、インドで中産階級と「スーパーリッチ」と呼ばれる層が増えています。主に生産年齢人口の増加が経済成長を押し上げており、所得が増加しているのです。しかしその一方、コロナ禍により貧富の格差が拡大したとの指摘もあり、国内で議論が続いています。インドで拡大する中間層や所得格差の現状について説明しましょう。

幅広い中間層が集まり、活気が溢れる南ムンバイ

 

近年、インドで中産階級は増加しています。ニューデリーの経済調査会社PRICEによると、年間世帯収入が50万~300万ルピー(約79万円~470万円※)の中産階級の割合は、2004~2005年の14%から2021年に31%に倍増し、2047年までに63%になると予測されています。

※1ルピー=約1.58円で換算(2023年1月19日現在)

 

しかし中産階級といっても、この層は幅広いため、一般的には2種類に分類されます。50万~100万ルピー(158万円)未満までの所得がある層を「アッパーミドル層」、それ以上の100万以上~300万ルピーまでの層を「リッチ層」と呼びます。アッパーミドル層にはテレビやエアコン、冷蔵庫を所有し、家を保有している人もいる一方、リッチ層は飛行機で家族旅行に出かけ、高級車や自宅を所有するといった暮らしを送ります。さらに収入が中産階級以上のスーパーリッチ層になると、持ち家は大きく、何人ものメイドを雇うなど、とても裕福な暮らしをしています。

 

中産階級に届かない下層階級の人たちの暮らしと比べると、大きな差があることがわかります。

 

生産年齢人口の増加

インドで中産階級や、後述するようにスーパーリッチが増加している背景には、人口が大きく関わっています。同国の人口(約14億756万人)は中国に次いで多く、2027年には中国を抜いて世界一の人口になると予測されています。それに伴い15歳以上〜65歳未満の生産年齢人口の割合も増加しており、現在は全人口の67%と3分の2以上を占めるようになりました。それにより経済成長が続き、年々GDPの値も上昇。2018年から2020年まではかなり低下したものの、2022年から2023年の成長率は7%の見込みであるとの予測が出されています。

 

このような経済成長を背景に労働者の収入が増加。保険分野のコンサルティング企業・Aon plc社がインドの1300社を対象に調査したところ、2022年の給与上昇率は10.6%で、2023年には10.4%上昇の見込みとされています。2022年の給与上昇率は米国が4.5%、日本が3.0%だったため、インドの成長率の高さが如実に表れているでしょう。

 

経済成長の別の理由としては、生産年齢人口の増加だけではなく、消費活動が活発化したことも挙げられます。インドにおける個人消費額は2008年から2018年の10年間で約3.5倍増加。さらに、次の10年間である2028年までには、約3倍増加する見込みです。

 

特にコロナ禍をきっかけに公共交通機関の利用に抵抗感を持つ人が増え、自家用車を購入する動きが加速しました。2回目のロックダウンが起きた2021年4月から5月の車両販売数は、2020年同時期と比べて19.1%も増加したとの報告があります。

 

このように中産階級が増加した結果、インド全体の不平等は少しだけ緩和されたとの報告もあります。数値が高いほど経済面の不平等が大きいことを示すジニ係数は、2021年のインドでは82.3となりました。インドの不平等は引き続き高い水準ですが、2015年には83.3だったため、1ポイントとわずかですが改善した傾向にあります。

 

コロナ禍の影響により、スーパーリッチ層はさらに増加したといわれています。最近発表されたIIFL Wealth 社のリッチリストによれば、2012年には100人のインド人が100億ルピー(約157億円)以上の資産を所有していましたが、2022年にその人数は1103人に増加。2019年から2022年のパンデミック期間に353人がリストに追加されたそうです。

 

その要因の一つとして、コロナ禍をきっかけにワクチンの製造を含め製薬業界が潤ったことが挙げられます。インドのスーパーリッチ層1103人のうち約11%にあたる126人が製薬業に携わっています。その後には、化学および石油化学産業とソフトウエア産業、サービス業が続きますが、コロナ禍をきっかけに在宅ワークやオンライン授業が増加し、ソフトウエア産業やサービス業に関わる層も資産を増やすことができたと見られます。コロナ禍でお金持ちがさらにお金持ちになったとも言えるでしょう。

 

格差は拡大、それとも縮小?

スラム街と高級住宅が存在するムンバイ

 

しかし、先述したジニ係数の改善とは反対に、格差は広がったとの指摘もあります。低所得層はパンデミックの間に職を失い、家計が苦しくなりました。休職や解雇で所得ゼロの月が続き、その日に食べるものを確保するのに必死だった人たちが続出したと言われています。

 

また、インド政府の公的医療への支出は世界で最も低いレベルなので、民間機関のヘルスケアを受けるためには高額のお金が必要となります。そのため、低所得者層の中にはコロナ禍で医療費のために借金をする人が増加するなど、多くの人が貧困に追いやられました。

 

インドの貧困層は1億7000万人以上に達し、その割合は世界の貧困層のほぼ4分の1に当たります。インド政府は子どもの無償義務教育や若年層の技能開発教育など貧富の格差改善につなげる取り組みに着手しているものの、早期の改善を期待するのは厳しい模様です。

 

経済発展を遂げることで中産階級やスーパーリッチが増えているインドは、確かに国全体が少しずつ豊かになっているようです。ジニ係数が微減し、貧困は徐々に減りつつあるとも言えますが、コロナ禍をきっかけに超富裕層と低所得者層の格差が大きくなったのも事実でしょう。この点に関する国内の議論はまだ続いていますが、インドの主要援助国である日本もこの問題から目を離さず、経済協力を続けていくことが期待されます。

 

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アフリカがEU化する「AfCFTA」って何? 鍵を握るデジタル決済の重要性とあわせて解説

近年、世界中で普及するデジタル決済。この市場は2027年までに毎年12.31%のペースで成長すると言われています。アフリカでは、Interswitch(インタースイッチ)がデジタル決済サービスを牽引する存在の一つですが、このフィンテック企業は同大陸の自由貿易を推進するうえで重要な役割を担っています。

デジタル決済が自由貿易の障壁を低くする

 

2002年にナイジェリアで創業したインタースイッチは、デジタル決済のプラットフォームを構築し、アフリカを中心にさまざまなサービスを提供しています。例えば、同社はアフリカだけでなく欧米諸国の一部でも使用できるクレジットカードの「Verve」を発行しており、このカードに対応したATM数は1万1000台に上るそう。現在では、オンライン決済プラットフォームの「Quickteller」、モバイルビジネス管理プラットフォームの「Retailpay」、フィンテックカードの発行のほか、ナイジェリア初となる国内銀行間の取引サービスや州政府向けの電子決済インフラも展開しています。

 

2019年には、大手決済企業のVISAがインタースイッチの株式の一部を買収したことからも、アフリカで最も勢いのある企業の一つであることが伺えるでしょう。もともとナイジェリアでは現金主義の人が大半だったそうですが、同社はそんな国でキャッシュレス化を推進してきたと言える存在です。

 

アフリカ版EUの命運を左右

インタースイッチが重要視しているのが、アフリカ55か国間での自由貿易。先日、シエラレオネ共和国で開催され、インタースイッチも参加したセッションでは、この自由貿易がテーマとなり、同国を含めたアフリカ諸国におけるデジタル決済の問題やトレンドが議論されました。

 

アフリカには「アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)」協定があります。「アフリカ版EU」と呼ばれているように、貿易のルールをアフリカ国内で共通化して、関税を撤廃し、貿易を活発化させていくもので、2021年1月から運用が開始されています。

 

AfCFTAの成功の鍵となるのが、諸外国との取引をよりシームレスにするデジタル決済でしょう。その反面、デジタル決済サービスにはサイバー関連の脅威が伴いますが、その点、インタースイッチは州政府にも利用されるなど、セキュリティ面でも定評があることから、アフリカ各国の地方銀行などにも導入される可能性があると見られています。創業以来、インタースイッチはアフリカで「決済がシームレスで目に見えない物として日常生活の一部になること」を目指しており、そのビジョンの実現に向けて現在も邁進しているのです。

 

世界銀行のデイビッド・マルパス総裁が「デジタル革命は、金融サービスへのアクセスと利用を拡大し、決済、ローン、貯蓄の方法を一変させた」と述べているように、デジタル決済は人々の暮らしに大きな変化をもたらしました。同行のGlobal Findex Databaseによると、デジタル決済における途上国のシェアは2014年は35%でしたが、2021年には57%に拡大。アフリカ諸国の自由貿易を支える立役者としてインタースイッチには今後も注目が集まりそうですが、途上国におけるデジタル決済の普及が進めば、日本企業にとってもビジネスがしやすくなるでしょう。

 

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日本の「寿司文化」が食糧危機を救う? いま‟コールドチェーン”が世界で求められるワケ

生鮮食品や冷凍食品などを低温のまま流通させる「コールドチェーン」。世界経済フォーラムは、その技術によって発展途上国における食料供給や世界の食料危機改善につながる可能性について言及しています。寿司文化のおかげでコールドチェーンの技術が発展してきた日本は、どのようなことができるのでしょうか?

 

 

世界が抱える食料不安

2021年に飢餓に見舞われた人の数は、8億2800万人。前年比で4600万人も増えています。しかも新型コロナのパンデミックによって、2020年には健康的な食生活を贈れなかった人が約31億人にも上りました。2022年はロシアのウクライナ侵攻による穀物価格の急騰で、さらに多くの人々が安全に食料を入手できなくなっている可能性があります。

 

この食料不安に追い打ちをかけるのが、気候変動です。猛暑や洪水、干ばつなどによって、作物の収穫量が減ったり、家畜がストレスを抱えたり、漁獲量が減少したりすることが考えられます。

 

だからこそ、今生じている食品ロスをできる限り減らして、生産される食料を品質の良いまま人々に届けることが大切なのです。世界で生産された食料のうちおよそ14%が、さまざまな理由で、私たちの手元に届く前に廃棄されていると推測されています。

 

コールドチェーン技術で食品ロスの減少と住民の収入増へ

そこで期待されるのが、コールドチェーン技術。原材料の調達から生産、加工、物流、販売、消費までのサプライチェーンの全工程において、冷凍や冷蔵などの適切な温度管理を行うことをコールドチェーンといいます。

 

例えばレタスなどの野菜が低温で保管・輸送されれば、収穫後のフレッシュな状態が保たれ、流通の工程で鮮度が失われたり腐敗したりして廃棄されることも少なくなり、栄養価も維持されやすくなるでしょう。また、ワクチンなどの医薬品の物流でも正しく温度管理されることができれば、品質が保持されます。

 

国連環境計画(UNEP)と国連食糧農業機関(FAO)は、先日発表した報告書のなかでコールドチェーンの重要性について指摘。発展途上国で、先進国と同等のコールドチェーンのインフラが整えば、年間で1億4400万トンの食品ロスを防げると推測しています。しかも食品ロスは小規模農家の収入の減少にもつながるため、コールドチェーンでロスが減れば、そのような農家の貧困の解決につながる可能性もあります。

 

実際、ナイジェリアでは54のコールドチェーンのハブ施設を建設するプロジェクトが行われ、4万2024トンの食品ロスを防ぎ、小規模農家や小売業者など5240世帯の所得を約50%増やすことにつながったそうです。

 

コールドチェーン技術が発達する日本

日本はコールドチェーンの技術革新を進めてきた国のひとつ。その背景には、寿司文化があります。例えば、遠洋漁船では漁獲した直後に船上で前処理を行い急速冷凍。スピーディかつ適切に温度管理して流通させることで、鮮度の高い魚を消費者に提供できるようになっているのです。回転寿司チェーンなどで、一昔前に比べてずっと品質の高い魚介類を提供できているのは、そのような技術の飛躍的な進歩と努力があったからに他ならないのでしょう。さらに、回転寿司店ではタッチパネルが導入されるなどして、大手チェーンでは食品ロス率は1%台まで低く抑えられていると言われています。

 

そんな世界でも最先端の技術を有する日本は、発展途上国への技術支援などに貢献できるかもしれません。先に紹介したナイジェリアの例は、まだごく一部であり、多くの発展途上国ではコールドチェーン技術も、そのためのインフラも整っていないのが現状です。

 

国連は、気候変動への影響に配慮して、エネルギー効率が高く再生可能エネルギーを使用した持続可能な食料コールドチェーンに投資するべきだと述べています。世界でその技術をシェアしていくことが、今求められているのかもしれません。

 

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インドの「家電市場」が成長。女性の社会進出に期待が膨らむが…

近年、インドで家事を軽減するために家電を導入する家庭が増えてきました。このトレンドにはどのような背景があるのでしょうか? 調べてみると、中産階級の拡大や女性の社会進出に向けた動きなどが関係していることがわかりました。女性の働く機会の増加は家電市場の成長を促す一方、そこには複雑な問題も存在しています。

 

家電の普及と女性の負担軽減

家電は女性のエンパワメントを助ける

 

インドでは冷蔵庫や洗濯機がないという家庭が多く、家事の大変さや時間がかかることに驚きます。家電の普及率はまだまだ低く、統計市場調査プラットフォームstatistaの2018年調査によれば、冷蔵庫は33%、洗濯機は13%とのこと。

 

それでも、近年は冷蔵庫や洗濯機を購入する家庭が次第に増え、市場は成長しています。グローバルジャパン社によると、2018年〜2019年のインドの家電市場の規模は約1兆1680億円でしたが、2025年には2倍に達すると言われています。さらにインドのリサーチ企業・Mordor Intelligence(MI)が、2022年〜2027年における同国の家電市場の動向を予測しており、そのレポートによると、年平均成長率は5%になるとのこと。都市部で急成長している中産階級と農村部の需要が中心であると述べられており、可処分所得の増加やオンライン販売の拡大、より快適な生活への願望が、インド人の購買力を高めているようです。また、地方における電力アクセスの改善や配電網の整備が、テレビやクーラーなどの需要を増やす可能性があるそう。

 

筆者がインド人に話を伺うと、LGやサムスンなど韓国製の家電が人気ということ。インドで見られる家電は、日本製と比べて必ずしも機能性が高いわけではありませんが、インド人はどちらかといえば、機能性よりもカスタマーケアが迅速に行われる点を重視する傾向が見られます。

 

MIのレポートに付け加えるとすれば、家電市場の成長の背景には、女性が働く機会が少しずつ増えて所得水準が上昇したのに加え、時短への意識が進んでいることも考えられます。家電の普及は家事軽減につながるとともに、女性の社会進出を後押し、世帯収入を増やしていると言えるかもしれません。

 

女性の社会進出の現状と課題

以前からインド政府は「女性の社会参画を進めよう」と唱えており、2013年の会社法では一定規模の会社に対し、1名以上の女性取締役会の選任が義務づけられました。労働法でも女性の産休取得期間が12週間から26週間に拡大され、約180万人の女性に利益をもたらすことにつながりました。妊娠・出産後も仕事を続けることができるような環境作りが、少しずつ整ってきています。

 

社会の男女平等指数を示す「グローバルジェンダーレポート2022」で、インドは146か国中135位になりました。2021年は140位だったので、確かに少しだけ上昇したとは言えます。しかし、先進諸国や他の南アジアの国と比べると、男女の格差が依然として大きいことが伺えます。

 

非営利団体Catalystが2022年に実施した調査によれば、インドの大多数の人が男女平等を肯定的にとらえると公言しているものの、その多くが「仕事が少ない時は男性が優先的に扱われるべき」と回答していました。

 

さらに、就労機会が増えているにもかかわらず、多くの女性が職場でのハラスメントや嫌がらせを受けているという問題もあります。女性が外で仕事をしても見下された態度を取られることも少なくないとの理由から、家事・育児に専念する人もいる模様。表面には出にくいこういった事象が、女性が社会に出ることを妨げる要因になっています。

 

識字率の問題も見落とせません。義務教育制度のため5歳から13歳までの子どもの就学率は高い水準を保っているものの、なかには家庭の事情で中退せざるを得ない女児が一定数いることも事実。また、子どもの頃は学校に通うことができても、義務教育が終わると教育の機会に恵まれないという女性も数多く存在しています。15歳から29歳の女性のうち45%は高等教育を与えられておらず、この数値は男性の6.5%と比較すると大きな差があります。

スラム街で読み書きの練習をする子どもたち

 

インドの女性就業率はまだ20%程度とされていますが、社会参画への動きが進むにつれ、拡大していく可能性があります。2022年7月にはドラウパディ・ムルム氏がインド史上2人目となる女性大統領に就任し、女性がいきいきと活躍できる社会の実現に向けて機運が高まっています。しかしその一方、男女差別の温床となる風習も依然として存在しており、女性の社会進出は一筋縄では行かないのが現実と言えるでしょう。家電市場の発展が、少しずつでもその動向を後押ししていけるか今後に期待です。

 

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ビッグテック並みのデジタル人材大国へ! ナイジェリアがオフショア開発の委託先になる可能性

50以上の国々からなるアフリカでGDP第1位を誇るナイジェリア。およそ2億人の人口を抱え、アフリカ経済を牽引する国の一つと言える存在です。そんな同国は、テクノロジー分野で100万人の技術開発者を育成させる取り組みを進めています。ナイジェリアは近い将来、デジタル分野に関連するオフショア開発(※)で委託先の選択肢になるかもしれません。

アプリケーションやウェブページの開発といったIT(情報技術)関連の業務の一部を海外の会社に委託すること

デジタル人材の宝庫になるか

 

ナイジェリアは、近年はサービス産業の成長が目覚ましく、GDPが4323億ドル(約57兆円※)とアフリカでトップを走っています。そんなナイジェリアの国家情報技術開発庁(NITDA)のKashifu Abdullahi氏が先日、第16回アレックス年次会議にパネリストとして登壇し、デジタル分野における技術者の育成について触れました。

※1ドル=約132円で換算(2023年1月10日現在)

 

日本でも、あらゆる企業が労働人口の減少や働き方改革の推進を背景にデジタル化を進めています。それに伴い顕著になっているのが、企業が求めるデジタル技術を持った人材の不足で、その数は約1800万人にのぼるそう。これは日本に限った話ではなく、他国でも同じような傾向が見られ、世界の技術開発者の人材不足は8500万人と予測されています。

 

そんな世界の人材不足にナイジェリアは着目。100万人のナイジェリア人の技術開発者を世界中のバリューチェーンに組み込むことを目的としたプログラムを開始しました。Abdullahi氏は「ナイジェリアでは、他の先進国に製造業で敵わないものの、人材の分野では躍進できる可能性がある」と指摘しているのです。

 

同氏がこの会議で言及した、PwCコンサルティングのレポートによると、技術開発者やプログラマーの年収は概ね3万〜15万ドル(約396万〜1980万円)。仮に200万人のナイジェリアの開発者が、ナイジェリア国内からリモートで働き、一人2万ドル(約264万円)の収入を得ることができれば、ナイジェリアで年間400億ドル(約5.2兆円)以上の収入が生まれると試算されています。

 

また、Abdullahi氏は、世界の技術開発者不足を金額で表した場合、8.5兆ドル(約1123兆円)に達する見込みとも発言。アップル、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット(グーグルの親会社)、メタの5大IT企業の評価額は合計で9兆ドル(約1189兆円)になります。つまり、もしナイジェリアだけで世界が求める技術開発者を補うことができたら、同国はアフリカどころか、世界有数の経済大国のような存在になれるかもしれないと同氏は考えているようなのです。

 

現在、ナイジェリアは同プログラムでAI、ブロックチェーン、ロボット工学、データ解析などの技術部門の人材育成を推進。同時にデジタル経済が発展するための政策を実施したり法的な枠組みを見直したりしています。

 

Abdullahi氏は「デジタル経済はイノベーションであり、それは人である」と述べ、デジタル経済を推進するためには技術開発者の存在が必要不可欠であると話しています。それは世界各国の共通の課題であり、ナイジェリアがその解決策の一つになる可能性があります。

 

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PM2.5が基準値の150%超え。バングラデシュの大気汚染が深刻化

経済成長の目覚ましい国として注目されるバングラデシュ。2021〜2022年度の実質GDP成長率が6.4%、2023年度も6.1%と、安定的に成長しています。しかし、そんな同国で現在、大気汚染が悪化中。人々の健康や経済成長にまで悪影響を及ぼしつつあるのです。

首都ダッカの交通渋滞の様子

 

世界銀行は先日、バングラデシュにおける大気汚染に関する報告書(※)を発表しました。その内容によると、大規模な建設が行われ、交通量の多い首都ダッカ市内で最も大気汚染が進んでおり、微小粒子状物質(PM2.5)はWHOのガイドラインを平均で150%も上回っているとのこと。これだけ大気が汚染されている状態は、毎日1.7本のたばこを吸うのに相当するそうです。大気汚染は同国全土に広がり、全ての地域でWHOのガイドラインの推奨レベルを超えるPM2.5が観測され、バングラデシュ国内で最も空気がきれいと言われるシレット管区でさえもガイドラインを80%上回るPM2.5が観測されています。

 

大気汚染によって最も懸念されるのが健康被害。同報告書によると、大気汚染は、ぜんそく、肺炎、肺機能の低下といった下気道感染症の原因になるとされています。PM2.5の量がWHOのガイドラインのレベルを1%上回ると、呼吸困難を感じる割合が12.8%、湿った咳(痰の出る咳)が出る割合は12.5%、下気道感染症にかかるリスクは8.1%高くなるとのこと。また、交通渋滞が頻繁に起きたり大規模な建築工事が行われたりする場所では、住民の精神衛生にも悪影響が及び、鬱になる可能性が20%高くなると指摘されています。

 

実際、バングラデシュにおける死亡と障がいの原因で2番目に多いのが大気汚染。2019年には大気汚染が原因で8万人前後が亡くなったと言われています。また、バングラデシュの大気汚染がひどい地域に暮らす子どもたちの間で、下気道感染症の発症率が著しく高くなっていることが明らかとなりました。

 

世界銀行の報告書をまとめたWameq Azfar Raza氏は、「バングラデシュの都市化と気候変動によって、大気汚染はさらに悪化する」と指摘。大気汚染と気候変動による健康への被害に対処しなければならないと述べ、大気汚染状況の監視システムや、公衆衛生の各種サービスの充実・改善など、早急な対応を勧めています。

 

その一方、大気汚染は経済成長にも影を落としかねません。2019年のバングラデシュの国内総生産(GDP)は、公害によって3.9~4.4%下がったと世界銀行の報告書ではまとめられています。世界銀行のバングラデシュ・ブータン担当のDandan Chen氏が「大気汚染は子どもから高齢者まで、あらゆる人を危険にさらす」と述べているように、すべての世代の健康状態を悪化させ、それによって労働人口が減るなど経済成長にも影響を及ぼしていく可能性があるでしょう。

 

「バングラデシュの持続可能で環境にやさしい経済の成長と発展のためには、大気汚染への対応が非常に重要」と、Chen氏は述べています。

 

高度経済成長期(1955〜1970年代初め)に各地で公害が発生した日本を含めて、先進国は経済の生産性が大きく向上していく過程で大気汚染のような公害を起こしてきました。日本では住民の声を背景に自治体が努力して、公害の原因とされる企業と公害防止協定を結んだと言われていますが、そのような経験をバングラデシュにも生かすときかもしれません。

 

※【出典】Raza,Wameq Azfar; Mahmud,Iffat; Rabie,Tamer SamahBreathing Heavy : New Evidence on Air Pollution and Health in Bangladesh (English). International Development In Focus Washington, D.C. : World Bank Group. http://documents.worldbank.org/curated/en/099440011162223258/P16890102a72ac03b0bcb00ad18c4acbb10

 

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「超学歴社会」のインドネシア、ゆとり化するも「オンライン学習」で市場はますます活況に?

人口が世界4位のインドネシアは、日本よりも学歴主義が強いといわれています。平均年齢が約29歳の同国では、将来を背負う子どもたちの教育に政府も力を入れており、国家予算の20%を教育関連に配分。一方、「教育は将来への投資」と考える親が多く、できるだけ良い学校に進学することが競争社会を生き抜く術と考えているのです。教育熱心なインドネシアの政策や子育て事情を紹介しましょう。

 

インドネシア版ゆとり教育?

楽しく自由に勉強中?

 

インドネシアの学校制度は日本と同じで、義務教育である9年間の小学校と中学校を修了後、高校、大学といった高等教育へ進みます。しかし日本との大きな違いは、2019年まで小学校でも国による「全国統一試験」が卒業前に行われていたことで、各教科の基準点を下回ると卒業できないケースがありました。

 

ところが、インドネシア教育文化省は2020年2月、中期戦略計画の新ビジョンである「ムルデカ・ブラジャール」を発表。インドネシア語で「ムルデカ」は「自立」や「解放」、「ブラジャール」は「勉強」を意味しており、自由で自立した学びの実現に向けて教育制度を変えていくことを目指すとしました。

 

その柱の1つが、1981年から長期間にわたり実施されていた「全国統一試験」の廃止。1回の試験で卒業の可否を決めることについては以前から批判が多く、「子どもたちが卒業試験の合否を心配せずに楽しく学ぶ」「学校も独立性を保ちながら授業や学校運営を行う」という狙いからこの試験は撤廃されました。

 

「全国統一試験」は廃止されたものの、現在も多くの学校は小学1年生から学期ごとの定期試験を実施。そのため、就学前には読み書きや簡単な計算、英会話などの幼児教室に通わせ、就学後には学習塾や家庭教師を利用する家庭が目立ちます。

 

「学校外学習サービス」を積極利用

このような学校外の学習サービスには、インドネシア国内の企業だけでなく、公文教育研究会やベネッセコーポレーション、サカモトセミナー、立志舘ゼミナールなどの日本企業も参入しています。

 

費用については、例えば、公文は地域により価格が異なりますが、ジャワ島中部のジョグジャカルタ特別州では登録費が25万ルピア(約2125円※)です。一教科あたりの月謝が幼稚園生と小学生は36万ルピア(約3060円)、中学生と高校生は41万ルピア(約3485円)かかります。

※1ルピア=約0.0085円で換算(2022年12月23日現在)

 

ジョグジャカルタ特別州の平均月収は240万ルピア(約2万400円)なので、一般的な家庭にとって決して安い金額ではありません。それでも学校外学習サービスを利用する理由は、経済成長と人口増加が続く競争社会のインドネシアにおいて、「教育こそが我が子のより良い将来への一番の投資」と考えているからです。

 

コロナ禍以降はオンライン学習の需要が高まり、新たなサービスが次々と展開されています。2020年3月には学校が休校となり、子どもたちは自宅でオンライン学習や家庭学習をすることになりました。それに伴い、学校外学習についても自宅でオンラインを通じて受ける需要が増大したのです。

 

また、オンライン学習の浸透によって、それまで通えなかった遠くの教室の授業にも参加できるようになるなど、新たな選択肢が増加。オンライン学習はスタンダードな学習スタイルとして定着し、事業者にとっても大きな商機となりました。

 

地域間における経済格差と教育格差

教育の機会均等が課題

 

インドネシアは日本の約5倍の国土に、2億7000万もの人々が暮らしています。ただ、人口の半数以上が首都ジャカルタのあるジャワ島に集中しているため、以前から地域間での経済格差や教育格差が課題として指摘されていました。そして、こういった格差は、コロナ禍を背景にさらに広がったのです。

 

オンライン学習を実施する学校に通い、インターネットに接続できるデバイスを保有する子どもと、そうでない子どもの間で、受けられる教育の機会と質の差が拡大。この格差を是正するために、政府も国営テレビ局と協力して学習番組を放送したり、自宅学習向けにスマホの学習アプリを無料利用できるようにしたりしました。スマホのデータ通信料についても、補助金を支給しています。

 

政府主導の「ムルデカ・ブラジャール」により「全国統一試験」はなくなりましたが、現在も小学1年生から学期末定期試験が実施されるなど、競争はいまだに厳しいと言えるでしょう。従来型の塾や家庭教師に加え、オンライン授業といったサービスは今後も増加すると思われ、インドネシアの教育熱はこれからも下がることはなさそうです。

 

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ECサイトのフェイクレビューを一掃! インドで「オンライン消費者レビュー」の新基準が制定

 

オンラインショッピングやホテルを予約する際、購入者や利用者のレビューを参考にしている人も多いのではないでしょうか。しかし最近は、レビューが信頼できないケースも増えてきました。こうした問題に対処すべく、インドで世界初となる「ECサイトからフェイクレビューを排除する基準」が導入されました。

 

ECサイトレビューの自主的な開示を義務化

The Times of Indiaの報道によると、2022年11月25日以降、インドにおけるすべてのEC業者や旅行・チケット販売ポータル、オンライン食品販売サイトは、スポンサーのレビューなどを自主的に開示しなければならなくなったと言います。これは、インド基準局(BIS)が作成した「オンライン消費者レビュー」に関する新基準に則ったもの。

 

それにともない、ユーザーなどから購入したレビューや、人を雇って書かせたレビューなどが公開できなくなりました。独立した第三者機関がオンライン上にレビューを投稿する場合にも、この基準が適応されることになります。

 

今回の基準は、製品やサービスに関する偽りや、消費者を騙す目的のレビューを排除するのが目的。違反した場合は不公正な取引とみなされ、事業者は消費者保護法に従って処分されることになります。

 

GoogleやMetaなどのグローバル企業も協力

オンラインレビューにおける新たな基準の策定には、GoogleやMetaといった大手企業も委員会の一員として参加しています。外国資本の意見を取り入れることで、高いコンプライアンスの実現を目指しているのです。

 

BISはレビューの適合性に関する評価方法を策定し、それにのっとったウェブサイトの認証に着手。認証されたウェブサイトは、BISからの証明書を表示することが可能になりました。

 

中央消費者保護局のNidhi Khare(ニディ・カレ)氏は、「オンラインレビューの新基準の焦点は、適切な情報開示。オンラインサイトは消費者が誤解しないように、レビューが収集された期間を明示しなければならない」と語っています。さらに、購入されたレビューは「詐欺以外のなにものでもない」と強調しました。カレ氏によれば、トルコやモルドバでは偽レビューに関するビジネスが横行しているとのこと。

 

日本国内のECサイトなどでも、同様のフェイクレビューが後を絶たない現在、レビューの信頼性を高めようとするインドの取り組みは、その実効性も含めて大いに注目したいところです。

 

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うどん、焼き鳥、蒸し餃子に近い!? ウズベキスタンの食文化を探る

ウズベキスタン料理をご存知でしょうか? 国土が5か国に隣接し古くから栄えたシルクロードの中継地エリアにあるウズベキスタンは、中国やヨーロッパ、ロシア、インドなどの周辺国からさまざまな食文化の影響を受けてきました。しかし、実は日本食と類似性があるのです。ウズベキスタンの料理や食文化、外食事情について紹介しましょう。

ウズベキスタンのパロフ

 

ウズベキスタンには日本と似ている料理がたくさんあります。代表的な伝統料理は「パロフ」と呼ばれる米料理。各地で作り方や具材が異なりますが、日本のチャーハンやピラフに似ています。「ラグマン」という麺料理は、スープはトマトベースなものの、日本のうどんのようなイメージ。さらに、日本の蒸し餃子のような「マンティ」や、焼き鳥に似た肉の串焼き「シャシリク」もあります。これらは一例ですが、ウズベキスタン料理は見た目や調理方法が日本食と似ているため、日本人にも好まれやすいと言われています。

 

豚肉は食べないが……

ノンはタンドールと呼ばれる窯で焼く

 

ウズベキスタンの主食は「ノン(ナン)」と呼ばれるパンで、現地の人たちは米料理のパロフも麺料理のラグマンもノンと一緒に食べます。そのため日本人よりも大柄な人が多く、健康に関心が高い日本人からすると「炭水化物の摂りすぎでは?」と思うかもしれません。

 

ただ、イスラム教信者が約90%以上を占めているため、豚肉を摂取しない人が多く見られます。その一方で、同じようにイスラム教を信仰する他国ほど厳格とはいえず、国内ではアルコール類も販売され、結婚式などのお祝いにお酒を飲む人もいます。

 

ウズベキスタンの人たちが好むのは緑茶で、軽食時だけでなく毎回の食事時にもよく飲んでいます。国内では緑茶が生産されていないので、中国やインドからの輸入品になります。

 

首都に本格的な日本料理店がオープン

ウズベキスタンには昼食や夕食を家族と一緒に食べる慣習があり、外食する金銭的余裕がない人も多いことから、以前は外食需要が高くありませんでした。しかし、ウズベキスタンの外食産業市場規模についてジェトロ(日本貿易振興機構)が2015年に実施した調査では「新たに設立された中小企業26900社のうち30.4%が外食産業」という結果が出ていて、外食の市場規模が広がっていることがわかります。また、2020年のウズベキスタン税務国家委員会の発表によれば、国内には13858の飲食店があるとのこと

 

首都タシケントには日本料理をはじめ、韓国料理、中華料理、イタリア料理、ロシア料理など他国料理の店も多いのですが、ウズベキスタン料理の店と比べると価格は高め。そのため、利用客は高収入の人たちや外資関係者など、一部の客層に限られています。

 

タシケントにいくつかある日本料理店のシェフは、一般的にウズベキスタン人や韓国人などです。さらに地方においては、店名は日本にまつわる名称なものの、本格的な日本食を提供する料理店はありません。

 

しかし2022年6月、タシケントに初めて本格的な日本料理店が開店しました。和食が専門で、日本人シェフが常駐し日本人スタッフがサービスや調理管理を行っているそうです。国際機関や各国の外交関係者に利用されてきた隣国のキルギス店舗に続く2号店で、経済成長が著しいウズベキスタンでも人気店になりそうです。

 

日本の食材は韓国人向け市場で入手

ウズベキスタンのバザールの香辛料売り場

 

タシケントでも日本の食材を入手することはできませんが、日本人御用達ともいえるのが韓国食材なら何でもそろうミラバットスキー・バザールという市場です。昔から朝鮮系移民が多く住んでいたタシケントには現在も多くの韓国人が在住しているため、韓国の食材には事欠きません。

 

ミラバットスキー・バザール周辺では豚肉や豆腐、韓国海苔、韓国味噌、韓国醤油、麵つゆ、酢、干し椎茸、昆布、蕎麦など何でも購入できます。ウズベキスタンには日本米はありませんが、ほぼ同じレベルといえる韓国米も売っています。

 

日本ではウズベキスタン料理店が少ないため、ウズベキスタン料理についての知名度はまだ低いのが現状です。ただ、日本が2019年からウズベキスタン労働者の受け入れを開始したこともあって、両国の交流を通じて日本にもウズベキスタン料理が少しずつ浸透していくかもしれません。

 

また、現在のウズベキスタンは日本におけるかつての高度経済成長期にあたり、各国の企業進出が目立ち観光客も増えています。タシケントに本格的な日本料理店ができたことなども追い風となり、日本食への関心が高まる可能性もありそうです。

 

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高齢化進むインドの介護、日本に期待される3つのノウハウ【IC Net Report】インド:大西由美子

開発途上国にはビジネスチャンスがたくさんある…とは言え、途上国について知られていないことはたくさんあります。そんな途上国にまつわる疑問に、海外事業開発コンサルティングを行っている、アイ・シー・ネット株式会社所属のプロたちが答える「IC Net Report」。初回に登場するのは、10年以上インドに駐在し、ODA事業やビジネスコンサルティング事業に携わる大西由美子さん。大西さんは、今インドの介護ビジネスに、日本企業にとってのビジネスチャンスがあるのではないかと考えています。日本のノウハウがインドの介護ビジネスにどう必要と感じるのか、特長的な3点を挙げてもらいました。

 

 

●大西由美子/2004年からアイ・シー・ネットで勤務。南アフリカの農村開発に1年半従事したのち、インドへ異動。2006年から4年間は旧JBIC・JICAのインド事務所でODA事業に携わる。2011年頃からはODA事業のモニタリングや評価の業務をメインで担当。ビジネスコンサルティング事業部でインド進出を目指す日本企業の支援も行っている。

 

インドの介護事情について

本題に入る前に、インドの介護事情に関連した近況についてご紹介しましょう。

 

若い世代を中心に核家族世帯、欧米や中東に働きに行く人が増加。インドに高齢の世代だけが残っているケースが近年増えている

もともとインドの人口の多くは地方や農村部で生活しており、大家族で生活している人が多いのですが、近年では仕事や勉強のため、都市部への人口流出が続いています。このような人の動きやライフスタイル、マインドセットの変化により、今までのように3世代といった大家族ではなく、核家族で生活する世帯が増加。また、欧米や中東に働きに行く人が多いこともあり、近年では高齢の世代だけで暮らしている世帯が増えています。

インド政府が、高齢者ケアに関する専門委員会を設置

高齢者ケアは、インドでは市場自体はまだ未熟で、関連法が社会の変化に追いついておらず、市場を取り巻く様々な環境整備がされていません。インド政府もやっと法整備の必要性を認識し動き始めたところで、在宅ケアとホスピスのサービス基準・規制にかかる省令や、老後施設の最低基準を設定すべく専門家委員会が設置されて日が浅い状況です。

 

このようなインドの状況で、日本が提供できるノウハウとはどんなものなのでしょうか? ここからは大西さんに回答頂きます。

 

【日本のノウハウ1】充実した在宅介護サービス

「核家族化や女性の社会進出が進んでいますが、インドの方々には、大切な両親や祖父母のケアは“できるだけ自分たちでしたい”、“信頼のおける人に頼みたい”という気持ちが強くあります。インドでは家族の繋がりがとても大切にされていて、両親や祖父母を敬う文化なので、老人ホームや介護施設に家族を送るのには抵抗があるでしょう。そのため、個々のライフスタイルやニーズにあった柔軟なサービスが施せる在宅ケアのニーズが高まっているのです。すでに在宅や施設での介護サービスが充実している日本には、インドの高齢者ケア市場を切り開いていく上でたくさんの知見があるはず」(大西)

 

【日本のノウハウ2】介護従事者の資格制度やキャリアパス

「インドの介護市場は未成熟で、政府による法整備も始まったばかり。まだサービス・プロバイダーの数も少なく介護従事者のスキルもまちまちな上に、介護従事者がキャリアップできる制度になっていないので、離職率が高いのです。また、介護従事者の資格が制度化されていないという課題もあります。日本とインドでは社会文化的に異なる部分がありますが、日本の介護従事者への資格制度やキャリアパスは参考になると思います」(大西)

 

【日本のノウハウ3】介護機器や用品を駆使した高レベルなケア

日本の介護レベルの高さは、介護機器や用品を駆使したケアにあると思います。インドでは市場に出回っている介護機器や用品は限定的で入手しづらく、人の力に頼って介護している場面が多いので、介護ベッドや移乗補助機の導入がされれば大きな機会がありそうです。日本からそういった機器を輸出できれば発展に繋がると思いますし、さらに現地で生産ができるようになれば、日本企業にとってもビジネスの広がりが出てくると思います。また最近では、高齢者用の住宅施設が少しずつ設立され始めています。こういった施設で日本の技術や介護機器・用品が導入されれば、市場に広がるきっかけになり得そうです」(大西)

 

以上が、インドの開発コンサルタント・大西さんが挙げてくれたインドの介護に求められる、3つのノウハウでした。先んじて高齢化社会に突入した日本だからこそ、高度な高齢者ケアの知見・技術があり、これからのインドではそのノウハウがとても有効になりそうです。

 

反面、大西さんは「インドの社会文化を踏まえ、現地の状況とニーズにあった介護サービスの提供が必要」とも言っています。人と人の触れ合いが大切なインドの文化では、例えばテクノロジーを使った見守りセンサーやロボットによる一部ケアの代行は、馴染みにくい可能性があることにも言及していました。インドならではの文化を理解しながら、日本から知見と技術を提供していくことが大事になるでしょう。

 

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大統領交代で開かれた国「タンザニア」、いま日本が経済参入できる領域は?

大陸部のタンガニーカ共和国と島しょ部のザンジバルで構成される東アフリカの国、タンザニア連合共和国。日本は同国から貴金属鉱やコーヒー、魚介類などを輸入していますが、周辺国であるケニアなどと比べて日本企業の進出もまだ少なく、タンザニアの実情を知る人は多くないのではないでしょうか。

 

かつてはアフリカ社会主義を採用し、閉鎖的な印象のあったタンザニアですが、市場経済への移行にともなう民主化や2021年の大統領交代などを契機に開放路線へと舵を切り、国民の生活にも変化が現れています。そんな知る人ぞ知る同国の現在を、タンザニアに在住しているアイ・シー・ネットの三津間香織氏に聞きました。さらに同国の経済事情や日本企業にとってのビジネスチャンスについても考察していきます。

三津間 香織

日系医療機器メーカーにて商品開発から生産販売、事業開発、アライアンスに関する業務などを広く経験。その後、大学院で経営学を学び、アフリカの農村部に置き薬を広めるNPO法人AfriMedicoでの活動を開始。本団体での活動をきっかけに、アイ・シー・ネットに転職し、ビジネスコンサルタントとして農業、教育、ヘルスケア分野の日本企業のアフリカ進出を支援。市場調査、現地での事業実証検証、パートナー調査、法人設立支援等を行う。現在タンザニア在住。

 

データで見るタンザニアの概況

[基礎情報]

首都:ドドマ

言語:スワヒリ語(国語)、英語(公用語)

民族:スクマ族、ニャキューサ族、ハヤ族、チャガ族、ザラモ族等

宗教:イスラム教(約40%)、キリスト教(約40%)、土着宗教(約20%)

面積:94.5万km2(日本の約2.5倍)

人口:6,100万人(2021年:世銀)

 

GDP:678億米ドル(2021年:世銀)

 

主な産業:農林水産(GDPの26.9%)、鉱業・製造・建設等(GDPの30.3%)、サービス(GDPの37.2%)(2020年:タンザニア中央銀行)

対日輸出貿易額:100.75億円(2021年:財務省貿易統計)

対日輸出主要品目:金属鉱、コーヒー、ゴマ、タバコ、魚介類(2021年:財務省貿易統計)

 

タンザニアの面積は、日本の約2.5倍にあたる94.5万平方キロメートル。赤道直下に位置する熱帯圏で、沿岸部は高温多湿な熱帯気候、中央部の平原はサバナ気候、キリマンジャロなどの山岳地帯は寒暖の差が激しい半温帯です。

商都として発展しているダルエスサラームの風景

 

新大統領就任により外資の参入が促進

アフリカに置き薬を広めるNPO法人活動や、アフリカでのビジネスコンサルティングを通じて、タンザニアを知悉する三津間香織さん。同国に在住し、もっとも魅力を感じたのは国民性や人柄でした。

 

「タンザニア人は人懐っこく、良くも悪くも大らか。昔の日本のように支え合って生きています。ビジネス面でもガツガツしたところがなく、接していると優しい気持ちになります」

 

民族間の紛争はなく、政情が比較的安定しているのもタンザニアの特徴です。途上国ならではのカントリーリスクはありますが、経済も堅調な動きを見せています。

 

「タンザニアは与党が圧倒的に優勢なので、与野党が拮抗するケニアのように大統領選のたびに経済がストップしたり、治安が悪くなったりするようなことはありません。とはいえ、政権交代すると同時にこれまでとは真逆の方針が出されることもあります。例えば、先代大統領はタンザニア国内の経済基盤強化を掲げていたため、就任後は徐々に外資への規制が厳しくなりました。ただ、2021年に女性であるサミア大統領が就任してからは、外資にオープンな経済政策に。次期も再選が予想されているため、彼女の在任中は外資企業にとっては良い環境だと思われます」

 

一方で、市場経済の移行にともない、都市部と地方の格差が広がっていると三津間さん。

 

「国民の70%を占める農家のうち、ほとんどが家族経営の小規模農家です。事業を拡大しようにも借り入れができず、除草剤などの農業資材や農機を購入する資金も十分ではありません。かたや都市部のダルエスサラームは豊かになりつつあるため、残念ながら貧富の差は拡大しています。経済発展にともない今後も都市化は進むと想定されますが、それに対応するような政策方針も示されているため、そうした対策が奏効すれば、治安が悪化するなどのリスクは(タンザニアの国民性を鑑みても)低いと考えられます」

 

堅調な中古車輸入販売業、電力サービス事業はじめ、さまざまな分野で可能性が

タンザニアは人口増加率が高く、堅調な経済成長を遂げています。GDPも年々成長しており、国民の生活水準も上昇傾向にあります。

 

「これまでダルエスサラームには小規模な小売店が立ち並んでいましたが、最近はスーパーマーケットも増えています。また、若者の一定数はスマートフォンを所有しています。タンザニアではiPhoneの価格が日本よりも高いのですが、購入できるだけの経済力があるのでしょう。マニキュアをしたり、ウィッグをつけたりする女性も増え、経済水準が徐々に上がっていると肌で感じます。前大統領の経済政策が功を奏したからか、以前は低所得者層が多くの割合を占めていましたが、現在は低中所得者が増えつつあります」

ダルエスサラームのスーパー

 

薬局に並ぶサプリメント

 

「近年、ダルエスサラームを中心に成長著しい業種は、フードデリバリーサービスや若者向けのSNSプロモーション代行業。上述の通り中間層の増加やスマホの保有者が増えたことや、コロナ等の影響を受け、新たなサービス産業も成長してきています。」

フードデリバリーサービス用のバイク

 

「日本企業も約20社進出しており、大手商社からベンチャーまで、規模も業種も異なる企業がタンザニアに拠点を置いています。アフリカでは日本の中古車がよく売れるので、中古車や自動車部品の輸入販売会社も目立ちます。ベンチャーでは、日本のスタートアップ企業・WASSHAが太陽光充電式のランタンを、一般消費者にレンタルするサービスを提供し、多額の資金調達で事業を拡大しています。タンザニアは電化率が50%未満。地方には未電化地域も多く、都市部でも夜いきなり停電することがあるので、ランタンのような照明器具は多くの需要があります。また、ダイキン工業とWASSHAが新会社『Baridi Baridi』を立ち上げ、エアコンのサブスクリプションサービスを展開。ほかにも、個人で起業している方々もいます」

 

ビジネスの世界には、アメリカなどで成功した事業やサービスを日本で展開する「タイムマシン経営」という手法があります。タンザニアでタイムマシン経営を行う場合は、ケニアがベンチマークになります。

 

「タンザニアのGDPは、ケニアの約5年前の水準です。近年ケニアではショッピングモールが急増していますが、タンザニアもスーパーマーケットからモールにステップアップしている段階。ケニアをベンチマークにしておけば、2、3年後にタンザニアで同じような状況が起きると言えます。ケニアで堅調なビジネスをされている方は、今がタンザニアに進出するタイミングではないかと思います」

 

マーケットニーズに合った製品カスタマイズがカギ

他のアフリカ諸国と同じように、近年はタンザニアでも中国企業の進出が目立っています。

 

「一帯一路構想にアフリカ大陸が含まれているうえ、ODAでインフラ事業を推進しています。中国人が増えれば、彼らをターゲットにした小売業、飲食業が生まれ、さらには輸入業、製造業も増えていきます。これまでタンザニアのバイクはインド製が大半を占めていましたが、最近は中国製を見かけることも増えています」

 

日本企業の事業と、バッティングする可能性ももちろんあります。

 

「途上国の人々は収入が安定しないため、価格が安いものを好みます。質が悪くて安価なものを頻繁に買い替えるという消費行動を取るため、中国製の製品がフィットしているのです。一方、日本製品は質が良くて長持ちし、メンテナンスもしっかりしているものの価格が高い傾向があります。とはいえ、中国製を使用して壊れやすいことが気になるタンザニア人は、クオリティの高い商品を検討するようになるはず。質の良い商品への関心が高まりつつあるタイミングで日本製が選択肢に入り、所得が上がれば長持ちするものを好み、中国製品とのバッティングも解消されるのではないでしょうか」

 

ただ、日本企業がポジションを確保するためには、課題もあります。一般的にアフリカは保守的な人が多く、一度気に入ったブランドを使い続ける傾向があります。そのため、早期から日本企業が進出し、ブランドを認知してもらい、中国企業に先行してマーケットを築く必要があるのです。

 

「多くのタンザニアの人たちの購入の決め手とする要素は、まだまだ価格です。日本企業は、中国製から日本製へのシフトをただ期待して待つだけでなく、必要最低限の機能に絞ったシンプルかつコスパのよい商品を投入するなどの施策が重要だと感じます。こうした商品で認知度を高めたうえで、徐々に高付加価値のものにシフトしていくという戦略も考えられるのではないでしょうか。

 

例えば消費材であれば、容量を少なくする、パッケージの素材を安いものに変える、デザインを簡素化するなどの工夫により、単価を下げられるでしょう。また、1回あたりの支払い金額を抑えるために、サブスクリプションサービスを導入するといった施策も考えられます。こうした手法で他社に先行してマーケットを押さえるという、発想の転換が必要です。良いものだとわかってもらえれば使い続けてもらえるので、その商品の価値がどこにあるか、わかりやすく伝えることも大切です」

 

成長領域はモビリティ、農業、教育、医療

成長著しいタンザニアですが、経済面での課題はまだまだあります。三津間さんが感じる課題は、以下の2点です。

活況を呈するダルエスサラーム・カリアコーマーケット。個人店など小規模な商店が中心

 

「ひとつは収入が安定しないこと。農業以外の就職先が少ないため、結局、商店などの個人事業を始めるしかありません。その結果、同じようなビジネスが競合することになってしまいます。

 

もうひとつは、教育問題です。タンザニアでは小学校は無償ですが、日本の中学高校にあたるセカンダリースクールには富裕層しか通えず、進学できるのは20~30%程度。英語が話せるのも、その若者たちだけです。そのため、一部の富裕層の若者は海外を視野に入れたビジネスができますが、そうでない人々は富裕層に雇われるか、地元の小企業で働くか、実家の農業を手伝うかという選択肢しかありません。また、どこの国もそうですが、算数が弱く計算が苦手です。経済基盤を強化するなら、中間レイヤーの教育を高めていく必要があるでしょう」

 

今後成長が見込める分野、日本企業が進出の可能性がある分野としては、モビリティ、農業、教育、医療が挙げられます。

 

「どの業界にも進出の余地はありますが、中でも将来性があるのはモビリティ。現在は中古車輸入販売業がさかんですが、今後さらに所得が上がれば、車を購入する人はもっと増えるでしょう。すでに割賦払いのビジネスモデルも始まっています。おそらくバイク市場もこれから伸びるでしょうし、自転車にも根強いニーズがあります。人口増加にともない、人の移動やモノの輸送も増えるので、成長産業のひとつと言えるでしょう。

 

タンザニアの主力産業である、農業もまだ伸びしろがあります。現在タンザニアで扱っている品種は、収穫量も品質も優れているとは言えないため、種子や農業資材を扱う事業は可能性を秘めているはず。また、日本が長年支援をしてきたため、一部地域には中規模な稲作農家も存在します。田植えや収穫などの繁忙期にはみんなで声を掛け合って人手を集めますが、同じタイミングに作業が集中するため、時機を逃してしまうことも。中古の田植え機やコンバインなども、導入の余地があります。

 

また、タンザニアは人口増加率も高いため、先ほど話に挙がった教育分野のほか、赤ちゃんに関わる医療のニーズはさらに高まると思われます。かたや都市部では、糖尿病など生活習慣病も増加。タンザニア人は炭水化物を多く食べる習慣があるため、健康管理やスポーツジムのようなヘルス&フィットネス産業もニーズがあるのではないでしょうか」

 

日本企業のタンザニア進出にあたっては、事前の情報収集がカギを握ると三津間さん。タンザニア人はもちろん、すでに現地で事業を行う企業から情報を得ることの重要性を強調します。

現地の関係者と撮影(中央が三津間さん)

 

「タンザニア人は人的ネットワークを大事にするので、物事をはっきり断ったり、表立って反対意見を言ったりすることはあまりありません。そのため、商品やサービスのリサーチを行っても、好意的な反応が返ってくることが多いのです。それを真に受けず、真意を聞き出すために踏み込んだ質問をしたり、彼らに同行してじっくり反応を見たりする必要があります。また、タンザニアで事業を行う日本人もいるので、彼らから苦労した点などをヒアリングするのもいいでしょう。参入前に、多角的に情報収集しておくことが重要です」

 

タンザニアに限らず、その国の商習慣やバックグラウンドを理解する必要があることは、海外でビジネスを行う上で基本中の基本。製品やサービスをローカライズする部分と、あえて変えない部分のバランスを見出すためにも、現地に明るいコンサルタントに相談したり、現地企業などとの橋渡しをしてくれる人材を活用するなど、情報にアクセスできるさまざまな手段を持つことが大事だと言えそうです。

 

また、三津間さんの所感では、ケニアでのトレンドが5年ほど遅れてタンザニアに到来する傾向があるそうです。このような点からも、すでにケニアなどアフリカで進出し、さまざまなノウハウを得ている日本企業などにとって、いまだブルー・オーシャンとも言えるタンザニアへのビジネス参入は、大いなるチャンスと捉えることができるかもしれません。

 

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国際的な基準値の30倍。深刻化するインドの大気汚染

インドの大気汚染は、日本でも頻繁に報道されるほど深刻化しています。ひどい時期には、白っぽいモヤが空いっぱいに広がっていることが確認できます。現在、世界規模で温室効果ガスの削減が進められていますが、インドも2070年までに二酸化炭素排出量をゼロにする目標を掲げました。インドの大気汚染の現状と二酸化炭素を減らす取り組みについて説明します。

青天時でもモヤがかかっているインドの都市

 

インドにおける大気汚染物質PM2.5の値は普段でもとても高いのですが、最近は平均150~300とWHOが掲げる基準数値の30倍にもなってしまいました。特にインドのお正月(ディワリ)の時期がピークで、PM2.5の値は首都デリーを中心に最高値の300に達します。原因としては、お祝いの花火や爆竹、小麦を収穫した後のわら焼きが大きく関係しています。さらに、クルマの排気ガスを合わせると、非常に多くの有害物質が大気中に存在することになります。

 

雨が降ると大気中の汚染物質は落ち着きますが、ディワリの時期は乾季のため雨はめったに降りません。よって、汚染された空気はしばらく大気中に残り続けます。首都デリー周辺の学校は外出できるレベルではないとして、2022年11月初旬には学校を当面休校にしました。その他の地域の学校でも空気清浄機をつけたり、マスクを配布したりと対策をとっています。

 

さらに、心筋梗塞や肺の疾患、頭痛といった身体の不調も、大気汚染が原因で発症することが多いとされています。

 

インドの約束

2021年11月にはイギリスで、持続可能な社会を目指した「国連気候変動枠組条約第26回締約会議(COP26)」が開催されました。地球温暖化の問題が取り上げられ、各国の代表がさまざまな誓約をする中、インドのナレンドラ・モディ首相も5つの誓約をしました。

 

  • 2030年までに非化石燃料の発電容量を500GWにする
  • 2030年までにエネルギー需要の50%を再生可能エネルギーにする
  • 2030年までに予測されるGHG排出量を10億トン削減する
  • 2030年までに経済活動によってもたらされる二酸化炭素の量を45%削減する
  • 2070年までに二酸化炭素の排出をゼロにする

 

その後、インドでは本格的に二酸化炭素削減に向けての取り組みが始まりました。さらに、身近にある具体的な取り組みとして下記のことが行われています。

 

  • 交通を抑制し、車両数を減らす
  • 各都市にスモッグ計測装置を設置する
  • 爆竹の販売と購入を非合法化する

 

交通量規制については、以前はナンバープレートが偶数か奇数かによって通行できる曜日を決めるという施策もありました。ただ、一部の地域だけで実施されていたので徹底されておらず、交通量はいまだに減りません。

 

また、爆竹の販売が非合法化されているにもかかわらず、2022年のディワリもたくさんの花火や爆竹を目にしました。インド人からは「去年はコロナでできなかったからみんな待ち望んでいた。店に行けば爆竹は売っている」との声が聞かれました。

 

ゼロエミッション事業を推進

完成に向けて建設が進む高速道路

 

排出量ゼロに向け、政府規模で実施している取り組みもあります。その一つはグリーンテクノロジーの導入に向けた動きで、グリーンエネルギーの容量を2027年までに275GWにする施策です。

 

さらに、電気自動車の導入も進んでおり、インド政府は、2030年までに自動車の30%を電気自動車にすると公約しています。

 

2022年には日本政府主導のもと、UNDP(国際連合開発計画)とインドの気象庁が共同でネットゼロエミッション(※)事業を開始しました。脱二酸化炭素や持続可能な研究開発を行うためには気候変動や気象学の知識が欠かせないとして、気象庁が中心となって取り組んでいます。全予算のうち約12%の資金がインドに割り当てられました。この資金を原資とし、電気自動車の充電ステーション設置やソーラー電池を導入した診療所の拡大、中小企業へのグリーン技術の導入促進などが行われます。

※ネットゼロエミッション:正味の人為起源の二酸化炭素排出量をゼロにすること(参考:一般財団法人環境イノベーション情報機構

 

さらに、車両数を削減する取り組みとして、高速鉄道の設立が始まりました。ムンバイからアーメダバードまでの約500キロメートルを結ぶラインをつくることが決まり、現在工事が着々と進んでいます。高速鉄道ができることで、都市部の渋滞が緩和し、クルマの流れがスムーズになるとの期待が高まっています。

 

このようにインドは二酸化炭素の排出ゼロに向けて、少しずつではありますが確実にプロジェクトを進めています。ただ日常生活においては、大気状態が改善されなかったり、交通渋滞が収まらなかったりと、まだ実感することはできません。世界規模で地球温暖化がクローズアップされている現在、なかなか浸透しないこれら取り組みを徹底させるためには、政府だけでなく社会全体も一丸となり、継続的に訴えていく根気強さが必要なのかと思われます。

 

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ウズベキスタン人が日本に最適なヒューマンリソースになる3つの理由

ウズベキスタンという国をご存知でしょうか? 中央アジアに位置し、古くからシルクロードの中継地として栄えてきたエリアにあります。日本政府は海外から労働力を呼び込むプログラムの一環として、2019年にウズベキスタンと協定を結びました。日本へ労働力を送り出すためのウズベキスタンの取り組みや、ウズベキスタン人が日本の労働市場に向くと思われる理由などについて説明します。

 

150人の技能実習生が日本で働く

日本語を学習しているウズベキスタン人たち

 

ウズベキスタンは3500万人と中央アジアで最も多い人口を有する国で、約60%が若者で構成されています。ただ、働きたくても働く場所がないのが現状で、毎年約60万人が海外の労働市場に流出。現在は200万人以上の労働者がロシア、カザフスタン、韓国、トルコ、アラブ首長国連邦、アジアやヨーロッパの諸国で短期労働に従事しています。

 

日本も2019年に、技能実習と特定技能の人材を迎える協定をウズベキスタンと結びました。協定が結ばれたあと、ウズベキスタンの各州には無料で日本語や農業、介護について学習できる環境が整えられています。

 

こういった教室で1日3時間半、週に5日、合計6か月の間無料で学習し、試験に合格すれば日本語能力試験のN4(基本的な日本語を理解することができるレベル)を取得することが可能。試験の受験費用も国が負担しています。

 

2022年現在、ウズベキスタンで取得できる特定技能の資格はまだ農業と介護の2分野だけですが、2022年6月の在留外国人統計によれば、在留資格の「技能実習(1号・2号)」と「特定技能(1号)」を持つウズベキスタン人の数は現在、日本に147人、「技術・人文知識・国際業務」を持つ人は709人。ウズベキスタン政府はこの取り組みを拡大していく方針です。

 

ウズベキスタンの日本人への印象

タシケントにあるナヴォイ劇場

 

ウズベキスタンの首都タシケントにあるナヴォイ劇場は、第二次世界大戦後に抑留された日本人兵などの強制労働によって建てられました。1966年に起きた大きな地震でもこの建物だけが無傷だったことから、ウズベキスタン人は日本人の技術力をとても尊敬しています。

 

また、タシケントには日本庭園や日本人墓地など、日本に関わる場所もいくつかあります。国内では日本のドラマや映画も放送されているため、ウズベキスタンの人たちの多くは日本の技術や風習、文化に大きな関心や興味を抱いているのです。

 

そんなウズベキスタン人が日本の労働市場に向く理由は3つ考えられます。

 

1: 日本語の習得が速い

ウズベキスタンは130以上もの民族が住んでいる多民族国家でさまざまな言語が使われていますが、公用語であるウズベク語は、日本語と文法が似ています。そのため日本語が習得しやすいようで、とても早く上達します。日本人にとっても、ウズベク語は習得しやすい言語といえるかもしれません。

 

2: 日々の生活の中で介護に従事

ウズベキスタンには昔の日本のように家族と同居するという文化があるので、常に高齢者を敬い、優しくて思いやりのある人たちが多いのです。日々の生活の中で高齢者とかかわっているため、介護も自然と身についています。

 

3: 農業に従事している人が多い

ウズベキスタンは世界第6位の綿花生産国であり、世界第2位の綿花輸出国。近年はアラル海の面積と水量が縮小するなど環境の変化により綿花栽培は縮小していますが、穀物や野菜、果物といった農業が盛んです。農業に従事している人やある程度の農業知識を持っている人が多く、日本でも農業に関する仕事に向くといえます。

ウズベキスタンの農場

 

日本とウズベキスタンが協定を結んでからまだ2年程度のため、日本で本格的な労働力となるのはこれから。特定技能分野はいまのところ農業と介護だけですが、今後は他の分野にも拡大していく可能性があります。日本でたくさんのウズベキスタン人たちが労働市場を支える日も、そう遠くないかもしれません。

 

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日本車が競争力で劣る、ラオスで中国車・韓国車が人気である裏事情

ラオス人が所有する乗り物は、他の東南アジア諸国と同様に小型バイクが主流。便利な足として「トゥクトゥク」が大活躍しています。ラオスは国土の多くが山岳で占められ、“東南アジア最後の秘境”とも呼ばれますが、近年では高速道路などの交通インフラが整い始め、都市部では舗装道路や信号も十分に整備されるようになりました。しかし、ラオスには独特なクルマの文化があり、図らずもサステナビリティーを体現していたのです。

ラオスの首都・ビエンチャンの風景

 

国民の自動車所有率は低い

ラオスの自動車所有率はとても低く、まだ国民の1~2割程度。そこには、いくつかの原因があります。

 

まず、国民の収入に見合った価格で製造・販売されている自動車がありません。ラオスは自国で自動車を生産していないため、人々は外国から輸入した外車を購入するしかありません。国内で販売する際には当然ながら関税がかかってくるので、どうしても高価になっています。

 

しかも、ラオスでは2012年からトラック、バス、建設機械以外の中古車は輸入禁止になっています。輸入車は全て新車になるためかなり高価であり、一般庶民にとってはとてもハードルが高いのです。

 

すでに国内で流通している中古車の販売は認められていますが、台数も少なく本格的な中古車販売店もないため、販売方法は主にインターネットによる個人売買。通りでは「For Sale」のボードを貼ったクルマを見かけますが、個人売買ということに変わりありません。

 

ミニマムな修理

ラオスの自動車修理工場

 

これらの理由から国内流通の自動車台数は増えず、結果的に一台の車を大切に乗り続けるというスタイルになるのです。

 

ただし、一台の自動車を使用し続けるにはこまめな修理が不可欠です。ラオスの自動車修理事情は、どのようになっているのでしょうか?

 

例えば、パワーウィンドウスイッチの故障が起きたとしましょう。一般的には、日本のディーラーであれば、スイッチパネルごと新品に交換すると思います。顧客を待たせることなく確実に修理が完了できる方法ですが、どうしても修理費用が高くついてしまいます。

 

一方、ラオスではスイッチを分解しピンポイントで故障個所を特定。そして、問題となっている電気的接点を磨くなどの手直しを施すのです。こういった修理方法を行うことで修理代が格段に安く済み、新しい部品を使わずに済みます。

 

ちなみに、パワーウィンドウスイッチの分解修理代は、20万キープ(約1570円※)程度で、もし部品交換が必要になったとしても最低限の交換で完了します。デメリットとしては、故障が再発する可能性があることや、修理の待ち時間が長いことです。

※1キープ=約0.0079円で換算(2022年12月15日現在)

 

日本の顧客サービスではなかなか見られない修理方法かもしれませんが、そこは価値観の違いということもあるのでしょう。

 

故障しにくい日本車のデメリット

エンジンも分解して修理する

 

実は、中古車として購入しても修理費用が高価になるとラオスでいわれているのが日本車なのです。

 

ラオスで利用されている自動車は韓国車、中国車、日本車が中心ですが、その中でも存在感が大きいのは韓国車と中国車。日本車の利用が韓国車や中国車に及ばないのは、現地で日本車を修理する人たちのスキルが低いということや、日本製のリペアパーツが高価であることなどが理由とされています。

 

クルマの購入を自動車修理工場に相談すると、「日本車は故障しにくいが、壊れた場合はお金がかかる」「韓国車は故障しやすいが、修理代は安く済む」といわれます。日本車に関しては、メーカーなどが修理スキルの向上やパーツ価格の見直しなどビジネス面の問題点を改善することにより、存在感をさらに高めていく可能性が生まれると思います。

 

ひと昔前までは日本でもラオススタイルの修理が行われていましたが、最近は大きい単位の部品を丸ごと交換する手法が主流となっています。一方で、必要に迫られてのこととはいえ、一台の車を修理しながら長く使うというラオスのスタイルは、大量消費は減らせるのだということを再確認させてくれます。

 

古い部品を無駄に交換することなく、磨いたり手直ししたりして、自動車を大切に使い切るという精神は、サステナビリティーにも通じるところがありますが、日本人も学ぶべきであるように思います。

 

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EVで先進国入りを目指すインドネシアの戦い

世界の自動車産業がガソリン車からEV(電気自動車)へシフトする中、最近、大きな注目を集めているのがインドネシアです。同国はEV産業の鍵を握る資源・ニッケルの世界最大の生産国であり、それを生かして多くの雇用を作り、先進国になろうとしています。しかし、そこには課題も含まれており、世界各国がインドネシアの動向を注視している状況です。

EVに賭けるインドネシア

 

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(通称ジョコウィ)は、2019年にEVを推進する大統領令に署名しました。その内容は、2025年までにEVの利用者を250万人まで引き上げるというもの。その実現を目指し、インドネシア国内におけるEV産業の促進、充電ステーションの整備、電気料金の規制、EV購入に際する税金の軽減や財政支援などが盛り込まれています。

 

この施策の象徴的な存在が「グリーン・インダストリアル・パーク(グリーン工業団地)」。3万ヘクタールに及ぶ敷地内は主に水力発電でまかなわれ、交通手段としてEVが整備されるという、環境に配慮した住宅地になる予定です。

 

インドネシアがEVを推進する大きな理由は、EVのリチウムイオン電池の原料となるニッケルの生産量が世界で最も多く、約22%を占めているから。ジョコウィ大統領は国内でニッケルの原料を加工するために、2019年から鉱物の輸出を規制し始めましたが、最近では2022年内にはニッケルの輸出を課税する可能性があるとも報じられています。ニッケルの需要が急増している中、インドネシアは輸出税を導入し、バリューチェーン(価値連鎖。企画や生産など企業の一連のビジネスプロセスにおいて付加価値がいかに生み出されているかを示すフレームワーク)で価値を高めたい意向。このような背景を考慮すれば、2022年4月にヒュンダイ・モーターズ・インドネシアが初の国産EVを発売したことは、同国のEV産業にとって画期的な出来事であると理解できるでしょう。

 

EVは経済成長にとってプラス。インドネシアの人口は約2億7000万人ですが、オランダを拠点とするING銀行によると、インドネシアの自動車生産量はASEAN(東南アジア諸国連合)でタイに次いで第2位である一方、販売台数は年間約65万8000台と第1位です。パンデミックの影響で直近では販売台数が落ち込んだものの、2022年には前年比8.7%増、2023年には1.8%増になる見込み。そんな中でEVの生産が盛り上がれば、販売や修理などの関連産業も活発化し、経済成長率が高まる可能性があるとINGは述べています。

 

EV促進の犠牲は環境?

その一方、懸念されるのが環境への影響。環境保護団体の間では、グリーン・インダストリアル・パークは環境アセスメント(環境影響評価)が杜撰に行われており、ニッケルを採掘しているのは許可を得ていない業者が多いという見方があります。もしテスラといったEVメーカーが「インドネシアのサプライチェーン(供給連鎖)は環境への配慮が足りない」と思えば、彼らは環境意識の高い投資家や消費者を考慮して、インドネシア産の資源を使わないかもしれません。その他にも、「これからEVを所有する人が増えれば、大気汚染は改善されるかもしれないが、交通量や渋滞は減らないのではないか?」や「ニッケルを生産するために森林伐採が続き、住民の土地が脅かされるのではないか?」という懸念があります。

 

このような課題を抱えつつ、国内のEV産業に賭けているジョコウィ大統領。ニッケル輸出の規制を巡り、EUやWTO(世界貿易機構)はインドネシアを「国際貿易のルールに反する」と非難しています。しかしジョコウィ大統領は、輸出を規制することで、外国の企業がインドネシア国内により多く投資し、雇用が創出されることを狙っているので、「われわれは閉鎖するのではなく開かれるのだ」と金融メディア・Bloombergのインタビューで主張し、日本や韓国などに投資や技術支援を求めているのです。豊富な資源を自国の経済発展につなげることができるのかどうか、インドネシアから今後も目が離せません。

 

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ウクライナ侵攻の影響大。世界の食料輸入額が過去最高に

国連食糧農業機関(FAO)は2022年11月11日、世界の食料輸入額が過去最高を記録する勢いだと報告しました。国連の広報機関であるUN Newsが掲載したFAOの報告書によれば、世界の食料輸入コストは今年に1兆9400億ドル(約270兆円)に到達する見込みとのこと。これは、2021年と比較しておよそ10%の増加となります。

 

食料の輸入額が上昇した原因として、ロシアによるウクライナの侵攻が挙げられています。両国はあわせて世界における全小麦輸出量の約30%を占めており、その輸出が制限されていることで、食料価格を押し上げているのです。ただし食料価格の上昇と米ドルに対する通貨安を受け、今後、増加ペースは鈍化することが予想されています。

 

深刻化する富裕国と低所得国の格差

食料価格の上昇で現在懸念されているのが、低所得国に与える影響です。世界の食料輸入の増加分の多くを富裕国が占める一方で、低所得国の食料輸入量は10%も縮小。にもかかわらず、輸入総額は横ばいとなることが予測されています。つまり、低所得国による食料の入手が難しくなっているのです。

 

FAOはこのような現象について、「これは食料安全保障の観点から憂慮すべき兆候であり、コストの上昇を補填することが困難なことを示している。低所得国は食料価格の上昇に対する抵抗力を失っている可能性がある」と分析しています。

 

低所得国への国際的な支援が必須

食料価格の上昇を受けて、国際通貨基金(IMF)は、低所得国に緊急融資を行うための「フードショック対策窓口(Food Shock Window)」を新たに承認しました。FAOはこの動きを歓迎し、食料輸入コストを低減するための重要なステップだとしています。

 

一方で食料だけでなく、燃料や肥料などのコストも上昇しています。FAOによれば今年のエネルギーと肥料の世界的なコストは4240億ドル(約59兆円)となり、前年比で50%も上昇しているのです。さらに同機関は、「世界の農業生産と食料安全保障への悪影響は2023年まで続くだろう」と分析しています。

 

食料やエネルギーなどの価格上昇が、とりわけ低所得国に与える影響は決して小さなものではありません。日本をはじめとする各国からの国際的な支援が不可欠ではありますが、農業生産性の向上や、肥料の現地生産化などは、支援だけでなくビジネスによって貢献できる分野でもあります。課題が大きいからこそビジネスニーズも高いとも言える途上国。日本企業の海外展開が期待されます。

 

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「モバイルファイナンス」が貧困を2.6%減らす。UNDPらの共同調査で判明

無線通信企業のボーダフォングループが、国連開発計画(UNDP)、ケニアを代表する通信企業のサファリコムなどと共同で、アフリカ諸国を含めた途上国49か国を対象に、モバイルファイナンスと経済成長の関係を調査し、10月下旬にレポート(『Digital Finance Platforms to empower all』)を公表しました。モバイルファイナンスの経済的な効果が明らかにされています。

アフリカのモバイルファイナンスの代表例「M-PESA」

 

モバイルファイナンスとは、JICAによれば「一般の銀行のような支店網やATMといったインフラを必要とせず、顧客のもつ携帯電話とその通信ネットワークを利用し、代理店を通して預金の引き出し、送金などの金融サービスを提供するサービス」を指します(※1)。モバイルファイナンスがGDP(国内総生産)に与える影響を分析した本レポートでは、「もしモバイルファイナンスが普及していなかったら、GDPはどうなっていたか?」ということがわかります。

※1: JICAバングラデシュ事務所(2015年2月12日付)「モバイル・ファイナンスの台頭 第1回」https://www.jica.go.jp/bangladesh/bangland/reports/report11.html 

 

レポートを読むと、モバイルファイナンスが普及している国(成人1000人あたり300以上のモバイルマネー口座が登録されている国)では、それが普及しなかった(または導入されなかった)場合と比べて、国民1人あたりのGDP成長率が高くなることが示されていますが、その差は最大で1ポイントになりました。

 

例えば、モバイル決済サービス「M-PESA(エムペサ)」が広く利用されているケニアは、国民1人あたりのGDPが現在、約1600ドル(約21万8000円※2)で、2019年の同国のGDPは840億ドル(約11兆4600億円)でした。しかし、M-PESAのようなモバイルファイナンスが普及していなければ、ガーナの国民1人あたりのGDPは1450ドル(約19万8000円)、ケニア全体では760億ドル程度(約10兆3700億円)にとどまっていたと予測されるとのこと。その差はおよそ10%近くになるそうです。

※2: 1ドル=約136.4円で換算(2022年12月1日現在)

 

ボーダフォンとケニアのサファリコムが立ち上げたM-PESAは、2007年にケニアで始まりました。それから15年が経ち、現在このサービスはタンザニアやモザンビーク、ガーナなど7カ国に拡大。アクティブユーザーは5100万人以上で、一日の取引件数は6100万件を超えるそうです。

 

モバイル決済や送金をスマホ一台で行うことができるM-PESAの台頭により、金融包摂(経済活動に必要な金融サービスを全ての人たちが利用できるようにするための取り組み)は強力に推進されました。ケニアを含む4か国のユーザーのうち、1760万人のユーザーは、それまでに金融サービスを利用したことがなかったとのこと。そのような人たちが、地元の銀行と連携してローンを組んだり、送金したり、貯蓄したり、さまざまなことができるようになったのです。

 

モバイル決済ができるM-PESAは、オンラインショッピングなどのサービスを利用して、消費者の生活水準を向上することにも貢献している一方、企業側にとってもメリットがあります。例えば、本レポートに回答した企業の98%は、M-PESAによって支払いがより迅速かつ安全に行えるようになったり、商品やサービスをオンラインで販売できるようになったりしており、事業の運営に役立っていると回答していました。

 

このような理由により、このレポートは「モバイルファイナンスの導入成功で、貧困をおよそ2.6%減らすことができる」と述べています。

 

課題はあるのでしょうか? M-PESAアフリカのSitoyo Lopokoiyit CEOは「モバイルファナインスのプラットフォームにアクセスする側面では、デジタルリテラシーやスマホの所有といった課題があります。また、モバイルファイナンスの発展という側面では、多くの国々で金融サービス業に新規参入するための規制や条件が公平でないという障壁も存在しています」と指摘しています。

 

このような問題がありますが、アフリカなどの途上国で金融包摂を推進することは、UNDPの最重要課題の一つであり続けます。その中でモバイルファイナンスは重要な役割を担っており、今後も途上国の取り組みから目が離せません。

 

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セネガルで取り組む「日本式水産資源管理メソッド」の可能性

首都ダカールの北部、カヤールの水揚げ場の風景

 

1年を通して北から南へ流れるカナリア海流(寒流)の影響により湧昇流が発達することから、世界有数の漁場となるアフリカ西岸に位置するセネガル。かつてはイワシやマハタ、タコなど豊富な漁獲量を誇っていましたが1990年代以降、乱獲などの影響で水産資源が次第に減少しつつあるといいます。こうした背景で始まったのが、持続的な水産資源の維持管理を目的とするJICAの「広域水産資源共同管理能力強化プロジェクト(COPAO)」です。

 

セネガルという国名には馴染みがなくても、かつてパリ-ダカール・ラリーのゴールであったダカールが首都というと、だいたいアフリカのどの辺りに位置するか、イメージできる人もいるかもしれません。ダカールは水産業をはじめ、大西洋貿易の拠点として栄えています。

 

「水産物流通の拠点となるダカール中央卸売魚市場は、日本の支援で1989年に建設されました」と語るのは、アイ・シー・ネットのシニアコンサルタントとしてセネガルで漁村振興のための社会調査や資源調査を手掛け、これまでJICAの多くのプロジェクトに関わってきた北窓時男さんです。

現地の人々と。写真右中央が北窓さん

 

北窓時男さん●2001年アイ・シー・ネット入社。専門は海洋社会学、海民研究、零細漁村振興。1996年からセネガルの沿岸地域を幾度となく訪れ、現地の漁村社会・水産資源に係る調査やプロジェクト管理などを行う。

 

「セネガル沿岸部の漁業は、漁家単位でのいわゆる零細漁業が中心です。ピログと呼ばれる小型の木造船が用いられ、日本はピログ用の船外機を供与するなど、1970年代から水産分野の支援が行われています」

沿岸部での漁業に使用される小型船「ピログ」

 

ほかにも訓練船や漁法近代化のための漁具なども供与。1980年代には沿岸部の零細漁業振興のため、ファティック州のミシラに漁業センターを建設し、漁具漁法や水産物加工、養殖、医療など、さまざまな専門家や協力隊員が沿岸部の零細漁村開発と生活改善のために派遣されました。

 

「現地ではアジ、サバ、イワシ類など小型の浮魚のほか、タイやシタビラメなど単価の高い底魚も獲れます。カナリア海流という寒流が流れているので脂がのっているものが多いんです。獲れた魚は、仲買人が買い取って保冷車で運び、冷却したまま出荷できるコールドチェーンが確立されており、ヨーロッパ向けにも輸出されています」

 

コールドチェーン開発の端緒を開いたのも日本の支援でした。1978年に北部内陸地域に小型製氷機と冷蔵設備を供与。ダカール中央卸売魚市場もこの流れで建設されました。

 

その一方、1970年代以降、内陸部では降雨量の減少による干ばつが頻発し、農業生産が大きく減退。砂漠化のため、農地を放棄した多くの人々が都市部や海岸部へ流入。船を持つ漁民と一緒に漁に出れば、その日のうちに歩合給による現金収入が得られる漁業は、農業を放棄した人たちがその日の生活費を得るためのセーフティネットとして機能しました。

 

「1980年代ころまで、日本の支援は漁獲生産力向上の支援が中心でしたが、零細漁業従事者が急増するなどさまざまな要因から、水産資源の減少が危惧されるように。次第に水産資源管理に目が向けられるようになりました。1980年代に15万トンだった小規模漁業セクターの漁獲量は、2000年代には30万トンへ倍増。日本からは漁業海洋調査船が供与され、2003~06年には漁業資源の評価や管理計画調査も行っています」

 

もちろん、漁業資源の減少と、コールドチェーンが繋がったことで海外向けの輸出が増えたことは無縁ではありません。逆に言えば、水産資源の持続可能性を確保することで、今はまだ限られている日本向けの輸出を拡大するなどビジネスチャンスも生まれるでしょう。

 

日本独自の「ボトムアップ型資源管理」を活用

セネガルでの漁業資源の管理には、日本型の「ボトムアップ型資源管理」が向いていると北窓さんは話します。日本の沿岸漁業もセネガルと同様に、小規模の零細漁業が中心。地域の漁業協同組合単位で対象となる資源を管理し、乱獲を防いで持続的に利用する方式が採用されてきました。これは日本が海に囲まれ、政府が一元的に管理することが難しいという歴史的な背景のなかで生まれてきたものです。

 

一方で、ヨーロッパなどでは企業規模での漁業活動が多く、政府が総漁獲量(TAC:Total Allowable Catch)を定め、その漁獲枠を水産企業/漁業者に配分するクォータシステムがとられてきました。セネガルの漁業を取り巻く状況を考えると、日本型のボトムアップ型資源管理が適していると言うのです。

 

「セネガルで実施しているのは、漁業者がイニシアチブをとって対象資源の管理活動を計画・実施し、行政がその活動に法的な枠組みを整備する形で支援する方法です。もちろん、日本でも近年はボトムアップ型の限界から、TAC制度が導入されてきていますので、セネガルでも将来的にはボトムアップ型とヨーロッパ型資源管理方法との融合が必要になってくると考えられます」

 

セネガルではタコ漁について、コミュニティベースの資源管理システムを導入。地域の漁民コミュニティがタコの禁漁期を主体的に決めて、それに県などの行政が法的な枠組みを与える方式で成功を収めています。また、タコの輸出企業から協賛金を得て、漁民が産卵用のたこ壺を毎年海に沈め、資源を増やすといった広域での取り組みも行われています。

 

現在、進めているJICAのプロジェクトでは、シンビウムと呼ばれる大型巻貝の稚貝放流キャンペーンや、大西洋アワビの適正な資源管理手法を策定するための支援活動などを実施。移動漁民との紛争を回避するための夜間操業禁止キャンペーンの支援や、PCを活用して資源管理組織間の連携を強化するための支援活動も行っています。

シンビウムの稚貝を放流

 

「かつてセネガルのプティコートではシンビウムの水揚げ量が多く、シンビウムはセネガルの主要な水産資源の1つでした。ただ、近年は水揚げ量も落ち、サイズも小ぶりになっています。そこで、漁獲したシンビウムのお腹の中で成長した稚貝を沖合に戻して、資源の再生産を促進することに取り組んでいます。スタンプカードを発行し、稚貝を一定数回収・放流するごとに、貝加工作業に必要な手袋やバケツなどの道具を提供することでモチベーションを高め、キャンペーン期間中に40万貝の放流をめざしています」

 

過去にタコでは成功したものの、シンビウムは漁家経営にとって不可欠な水産資源であったことから、広域での禁漁期間を設定することが難しかったとのこと。かつて2000年代に禁漁期間の設定と稚貝放流の取り組みは行われましたが、上記の理由と稚貝放流に燃料費を要するなどの理由から、プロジェクト終了後にこれらの活動は停滞しました。地域コミュニティの特性に合わせた持続的な方法を探る必要があると北窓さんも強調します。

 

求められる水産資源の高付加価値化

零細漁民の持続的な生活水準向上を目指すには、水産資源に高い付加価値を与えることが必要であり、そのためには海外への輸出を視野に入れる必要があります。それは、日本企業から見ればセネガルでの新たなビジネスチャンスにもつながる話です。

 

日本への輸出が期待できる水産資源として、北窓さんはタコ、大西洋アワビ、そしてシンビウムの3つを挙げます。タコは同じ西アフリカに位置するモロッコやモーリタニアからは日本向け輸出が多く行われていますが、セネガル産のものはまだ限られているのが現状。その理由について、北窓さんは漁法と水揚げ後処理の違いによる品質の差にあると分析します。

 

「モーリタニアでは日本が紹介したタコ壺で獲っているのに対して、セネガルでは釣りで獲っている。釣り上げたタコを甲板にたたきつけて殺し、船底の溜水に浸かった状態で放置されていたので品質が良くありませんでした。過去のJICAプロジェクトによって、漁獲後に船上でプラスチック袋に入れ、氷蔵にして持ち帰る方法が導入され、現在は品質の改善が進みました。。資源の回復も徐々に進んでいる一方で、日本向けにはまだあまり輸出されていないので、参入の好機といえるかもしれません」

 

そしてまさに今、資源管理に取り組んでいるのが大西洋アワビです。現地では直径5cmくらいのミニサイズで漁獲され、串焼きなどにして食べられており、価格も安いとのこと。資源管理を通して大型化や高品質化を進めることで、将来的に日本向けの需要につなげることができれば、付加価値化により、プロジェクトの狙いである水産資源の持続的利用と零細漁民の生活向上の両立に結びつけることができるでしょう。

ダカール市内のアルマディ岬で採集されたアワビ

 

「アワビの刺身の美味しさを知っている日本人からすれば、もったいない話です。サイズも徐々に小さくなっていて、地元でもこのままだと獲れなくなるという危機感があります。大きくなってから獲れば日本向けに高く売れる、というルートが確立すれば、資源管理にも積極的に取り組むようになりますし、漁民の現金収入も上がるというポジティブな連鎖につなげていけると考えています」

 

一方、大型巻貝のシンビウムの中でも「シンビウム・シンビウム」と呼ばれる種類は、味も良く、すでに韓国向けなどに輸出されているとのことです。今は資源的に減少していますが、その資源管理を通して資源増加が可能になるなら、日本向けの商材として可能性は高いと北窓さんも期待を寄せています。

 

現地の仲買人システムを尊重したビジネスを

シンビウムの刺し網漁

 

日本企業がセネガルの水産ビジネスへの参入を考えるとき、重要な意味を持つのが現地の仲買人との関係だと北窓さんは指摘します。いわゆる仲買人には、買い叩きなど搾取のイメージもありますが、セネガルではその限りではない関係が成立しているとのこと。

 

「漁民が網などの資材の購入や家族の病気などで現金が必要な際に、仲買人がお金を貸し、助けてもらったことで漁民は優先的にその仲買人に魚を売る、いわゆる“パトロン・クライアント”の関係が成り立っています。もちろん、行き過ぎれば仲買人に対する依存が大きくなるという問題もありますが、セネガルでは比較的対等な関係が構築されています。仲買人の存在が地域に埋め込まれた社会システムになっていると言うこともできるでしょう」

 

現地での水産ビジネスを進めるには、漁民・仲買人・企業がそれぞれウィン・ウィンな関係を築けるようにすること、そして持続的な水産資源の管理方法を確立することが鍵を握ると言えそうです。

 

また、水産資源の持続可能性を考えるとき、漁業だけにフォーカスするのではなく、俯瞰的な視点を持つことの重要性を北窓さんは指摘します。

 

「これまで、水産物の付加価値化やバリューチェーン構築の分野で、JICAの支援はそれなりの成果を上げてきたと思います。それに付け加えるとすれば、水産分野だけにこだわらない、生業の多様性を進めるための選択肢を増やすような施策が必要だと考えます。内陸部の砂漠化によって、農業や牧畜ができなくなったことで、漁業の専業化が進み、それが沿岸漁業資源の減少に拍車をかけました。生業の選択肢を増やすような施策によって、水産資源も守られますし、魚が獲れなくても生計が維持できるような仕掛けづくりが可能になるのではないでしょうか」

 

持続可能なビジネスを展開するには、現地の水産資源はもちろん、漁業従事者だけでなく社会そのものの持続可能性が確保されていることが不可欠。水産資源の管理と高付加価値化を進めることによって、企業はビジネスチャンスを拡大でき、現地の人々は生活水準の向上、そして持続可能な社会を構築することができる”三方良し”のビジネスを展開することが可能になるといえるでしょう。

 

 

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東京メトロの5倍以上の路線延長へ! インドの地下鉄が「日本と韓国を追い抜く」勢いで発展

網目のように地下鉄の路線が張り巡らされた東京は、世界有数の交通ネットワークを誇る都市。アジアの中では中国の北京や上海、韓国のソウルも、地下鉄の路線延長や利用客数において大きな規模を持っていますが、現在、日本や韓国を上回る勢いで地下鉄を発展させているのが、アジアのもう一つの大国・インドです。

インドの首都・ニューデリーの地下鉄の様子

 

2023年には、中国を抜いて人口が世界1位になると予測されているインド。人口爆発に伴い、急速に経済発展を遂げている同国では、公共交通機関の整備が喫緊の課題です。インドの政府系シンクタンク・NITI Aayogによると、同国で登録された自動車の台数は急増しており、1981年ではわずか540万台でしたが、2019年には2億9500万台まで増加。この影響により渋滞や大気汚染、交通事故などの問題が顕在化してきました。

 

長年、インドを支援してきた日本もこの問題を深刻に捉えており、外務省は2016年の「対インド国別援助方針」の重点分野として、主要産業都市の鉄道や国道などの輸送インフラの整備を挙げました。

 

そこで進められてきたのが、地下鉄の建設です。例えば、同国首都・ニューデリーの地下鉄「デリーメトロ」は2002年に開通し、総延長は390kmになります(12路線)。東京メトロは9路線、総延長は約195kmなので、デリーメトロの規模の大きさがわかります。

 

それまで市民の足となっていたバスは治安面で不安がありましたが、地下鉄の完成によって女性でも安全に移動できるようになり、インドの人々の生活が大きく変わっていきました。

 

ニューデリーの地下鉄の影響は他の都市にも及び、いまではインドの20の都市に地下鉄網が張り巡らされ、総延長は810kmにまで拡大。巨大な交通ネットワークが構築されていますが、さらに今後は地下鉄を有する都市を27まで増やし、総延長が980kmにまで伸びる予定です。

 

ハーディープ・シン・プリ石油天然ガス大臣は、インドのケララ州の都市コーチで11月4日から開かれた「第15回アーバンモビリティ・インディア(UMI)会議&エキスポ2022」で、この新しい建設計画について言及し、「インドの地下鉄網は近いうちに日本や韓国を抜く」と述べました。この発言の裏には、このような計画があったのです。

 

人口爆発と経済発展を支える

交通網が発展する一方、課題もあります。それは公共交通機関の料金とラストマイル交通(Last-mile connectivity)。前者については、公共交通機関の利用料金が収入の20~30%を占めている家庭が、人口全体の半数近くになるそう。人々の移動をより利便にする存在とはいえ、地下鉄などがそれほど家計を圧迫するのは好ましい状態とは言えません。

 

他方、ラストマイル交通とは、最寄りの駅から最終目的地までの近距離の交通手段のこと。例えば、最寄りの地下鉄の駅から自宅までをどのように移動するか? その際の交通手段として、インドは電気自動車やライドシェアなど、より安価で利用できるテクノロジーの導入を積極的に推進。この取り組みは「スマートモビリティ計画」として知られています。

 

東京や大阪などの都市に人口が集中する日本と同じように、インドでは2050年に人口の7割が都市部に居住する見込み。交通網の整備はこれからもっと必要になりそうです。

 

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東南アジアマーケットの要「タイ」をデータとトレンドで紹介

NEXT BUISINESS INSIGHTSでは、世界で注目される発展途上国の現在をさまざまな視点で紐解いています。本記事では、そんな豊富な記事をより深く理解するために、国別に知っておきたい基本情報をまとめました。

 

東南アジアの中央に位置し、マレーシア、カンボジア、ラオス、ミャンマーと隣接するタイは、首都バンコクを中心に既に多くの日本企業が進出しています。東南アジアマーケットのハブ機能の役割を担い、周辺国の経済成長も後押しているタイの現状を紹介します。

 

データで見るタイの概況

 

●人口…6617万人(2021年)

●2050年の人口予想…6594万人

●インターネット普及率…77.8%(2020年)

●携帯電話普及率…190%(2019年)

●スマートフォン普及率…99%

●一人当たりのGDP…7217USドル(2020年、IMF統計)

●総GDP…5064億USドル(2021年、IMF統計)

●その他…立憲民主制。元首はマハー・ワチラロンコン・プラワチラクラ・オチャオユーフア国王陛下(ラーマ10世王)。首都・バンコク。言語はタイ語。

タイの名目GDPは、2014以降は2%前後を安定的に成長させ、2020年は新型コロナウイルスの影響でマイナスを記録しましたが、2021年はプラスが見込まれるなど、周辺国とともに東南アジアの成長を続けていく上での拠点となっています。一方、日本と同じように少子高齢化が大きな社会問題にもなっています。人口は2028年がピークと考えられ、そこからは減少に転じていくだろうと予想されています。労働力不足や消費者ターゲットが減っていく中で、どういった経済対策や高齢社会対策を取るのかが急務となっています。

 

そんなタイの特性を、4つのパートから紹介します。

 

【パート1】農林・水産

(概況・特徴)
・総人口に対する農林水産業の従事者比率…約25%
・農用地面積…2211万ha
・主な農産物…さとうきび、コメ、キャッサバ、オイルパーム、とうもろこし、果実(パイナップル、バナナ、マンゴーなど)など(農水省ホームページ、2019年)

(課題)
・農業生産性がASEAN諸国と比較して低い
・農業従事者の所得が不安定(競争力の低下、干ばつや洪水による供給不安)
・農業従事者の高齢化、人材不足
・伝統的農法や自然環境への依存

(新たな動き)
・スマート農業
・BCG(バイオ・循環型・グリーン)経済
・グリーンハウスや農地を使わない植物工場での果物・野菜栽培

コメの生産量世界8位、サトウキビ生産量3位、キャッサバ生産量3位(2019年度)など、世界有数の生産量を誇る農業大国のタイは、第一次産業従事者の割合が人口の30%を超えています。その一方で農業従事者の高齢化、少子化による若年労働力の減少、不安定な所得、伝統的な農法や気象条件を含む自然環境への依存、単位当たりの生産性の低さなど課題が山積しています。

 

そうした課題に対し、産学官による取り組みが進められています。例えば、タイの情報技術通信省はタイ国立電子コンピューター技術研究センター(NECTEC)との連携で、農家向けサイバーブレインプロジェクトを立ち上げ、農作物の栽培方法の効率化や、農家へのリアルタイムでの市場価格情報の提供などを通じた農業のスマート化を進めています。また、グリーンハウスを使用した付加価値の高い果物の栽培が広がり、農地を使わない植物工場での野菜の栽培を始める企業が出てくるなど、今後さらなる農業の高度化が期待されます。

 

グリーンハウスで栽培されているメロン

 

【パート2】保健医療

(概況・特徴)
・平均寿命…77.3歳(男性73.7歳/女性81.1歳 2017年時点)
・妊産婦の死亡率…10万人あたり37人(2017年時点)
・乳幼児の死亡率…1000人あたり7.4人(2020年時点)
・疾病構造や死亡要因…非感染症73.7% 感染症16.0% 事故など10.3% 非感染症の主な死亡原因…がん22.0% 心血管疾患22.2%、糖尿病、腎臓疾患…7.9%(2017年時点)
・医療費支出額…149億USドル(2015年時点)
・医療機関数…1448施設(2019年時点)
・1万人あたりの医療従事者数…医師5人、看護師27人(2019年時点)

(課題)
・急速に進む高齢化に対する制度構築やサービス提供の遅れ
・生活水準の向上により生活習慣病が増加
・都市部と農村部の医療格差

(近年の新たな動き)
・公的医療機関による医療サービスの整備と国民皆保険の定着
・介護士や介護施設の資格登録制度の整備、年金制度の強化
・高齢者介護や医療機器産業を担う人材の育成

バンコク首都圏における医療サービスの提供は充実しており、日本人を含む外国人が多く利用するサミティベート病院やバルムンラード病院などの国際的な私立病院も多くあります。一方で、地方部では医療施設数やサービスの面でバンコク首都圏に比べて制約があり、地方の住民が質の高い医療サービスを受けるためにバンコクに行くケースも多く見られます。医療従事者の確保を含めて、医療サービスの中央と地方の格差、および地方内での格差の是正が医療保健分野での課題になっています。

 

タイでは、2002年に国民医療保障制度が施行され、農業従事者や自営業者が任意加入ができるようになり、公務員/国営企業職員向けの公務員医療保険制度、民間企業被雇用者向けの社会保障制度と併せて、全国民をカバーする国民皆保険制度が整備されました。タイの国民皆保険制度は中進国や開発途上国でのモデルとして外国からも注目されています。

 

また、タイでは人口の高齢化が進んでおり、タイ政府は限られた財源で高齢者へのサービスを提供することを目指し、タムボン(郡の下部行政組織)健康増進病院や保健ボランティアなどの社会資本を活用した地域コミュニティによる高齢者ケアを推進しています。

 

官民を問わず、タイの医療関係者による日本の医療制度・技術や高齢者ケアの知見への関心は高く、日系企業への期待も高くなっています。タイ政府はタイを地域の医療ハブにする戦略を持っており、今後の人口の高齢化や医療サービスへのニーズの高まりと併せて、日系企業にとっても医療文化での魅力的な市場として成長していくことが予想されます。

 

タムボン健康増進病院

 

【パート3】教育・人材

(概況・特徴)
・学校制度…6・3・3・4制
・義務教育期間…9年(無償教育は12年)
・学校年度…5月~翌年3月まで
・学期制…前期・後期の2学期制(前期は5月~10月、後期は11月~3月)
・15-24歳までの識字率(2015年時点)…98.6%
・15歳以上全体の識字率(2015年時点)…93.9%
・純就学率(2020年時点)…就学前78.7%/初等101.2%/中等87.9%(前期中等95.25%、後期中等80.6%/高等45.1%

(課題)
・経済格差による教育へのアクセスの不平等
・教育の地域格差
・ICT活用の遅れ
・コロナ禍でのオンライン授業による教育格差の拡大

(新たな動き)
・高等教育分野で科学・技術・工学・数学(STEM)教育導入
・学習塾の拡大
・産業界のニーズに則した人材育成

タイの教育は2017年に施行された20年間の国家教育計画に則り、すべての国民に質の高い教育と生涯学習と機会を提供することを目的としています。大きな課題としては、学習塾への参加機会を含めた経済格差による教育へのアクセスの不平等さや、バンコク首都圏と地方部、および地方部の中央部と遠隔地での教育機会や質の格差の拡大が挙げられます。

 

タイ政府は産業界のニーズに則した人材の育成を重視しており、日本政府の協力で、日本の高等専門学校(高専)の教育制度に基づいてエンジニアを育てる高専事業が実施されています。また、日系企業による関数電卓を使用した探求型教育の導入による数学力向上のパイロット事業も行われています。

【パート4】IT・インフラ・環境

(概況・特徴)
・主要港数…11(空港7、港湾4)
・港湾取扱量(1TEU…20フィートコンテナ1個)…764万TEU(レムチャバン港/2020年)
・タイ国有鉄道総延長(2006年時点)…4041km
・道路網(2020年時点)…道路延長70万2000km
・輸出製品構成…自動車/部品、コンピューター/部品、宝石・貴石、一次形態のエチレンのポリマー、精製燃料、電子集積回路、化学製品、米、魚製品、ゴム製品、砂糖、キャッサバ、家禽、機械/部品、鉄・鋼とその製品
・輸入製品構成…機械/部品、原油、電気機械/部品、化学薬品、鉄鋼製品、電子集積回路、自動車部品、銀/金を含む宝石類、コンピューター/部品、家電製品、大豆、大豆ミール、小麦、綿、 乳製品
・日本との貿易(2020年時点)…日本からの輸入総額:2兆7226億円/日本への輸出総額:2兆5401億円

(課題)
・バンコクなど大都市や幹線道路の渋滞
・鉄道遅延(8割が単線、地方では整備不十分などによる)

(近年の新たな動き)
・鉄道開発の加速(鉄道を高速・複線化)
・タイランド4.0
・スマートシティ構想

タイでは一極集中が進むバンコクなど大都市や、主要都市間を結ぶ幹線道路の渋滞が社会問題になっています。また道路網に比べて鉄道網の開発が遅れており、物流の課題になっています。現在、鉄道の高速&複線化が進められ、今後鉄道の利用者が従来の3500万人から8000万人に増加すると試算されています。

 

生産年齢人口(15歳~64歳)の比率がピークを迎え、高齢化が加速的に進む中で、タイでは成長率が鈍化し、高所得国への移行が難しくなる「中進国の罠」に陥ることへの懸念があります。

 

そこで、タイ政府はイノベーションやデジタル技術などによる産業の高度化を通じて長期的な経済成長を推進する20年間の経済施策「タイランド4.0」を打ち出し、2036年までに先進国入りすることを目指しています。「タイランド4.0」の対象事業には短・中期的に成長を期待する「次世代自動車」「スマート・エレクトロニクス」「ウェルネス・医療・健康ツーリズム」「農業・バイオテクノロジー」(Sカーブ産業)と、長期的に成長を期待する「未来食品」「ロボット産業」「航空・ロジスティック」「バイオ燃料とバイオ化学」「デジタル産業」「医療ハブ」(新Sカーブ産業)が挙げられています。「タイランド4.0」の旗艦事業として「東部経済回廊(EEC)事業」があり、東部3県の産業育成を支えるインフラ整備、企業誘致のための投資優遇などが積極的に行われています。また、タイ政府はデジタル「タイランド4.0」に合わせて、「タイ・デジタル経済社会開発20か年計画」を策定し、デジタル技術を通じた、生産性の向上、所得格差の是正、雇用の拡大、産業構造の高度化、ASEAN経済共同体でのハブ的役割、政府のガバナンスの強化が目指しています。

 

タイは今、「中進国の罠」から脱し、また東南アジアでのハブとして機能していくために、官民の協力による様々な取り組みが進めらえています。生産/サービス拠点および市場としての魅力は今後さらに固まっていくことが予想され、タイ政府の政策的な後押しを受けて日系企業によっても新たな商機が生まれることが期待されます。

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インドが「Web3.0」 で世界をリードする3つの理由

最近、耳にすることが増えた「Web3.0」。1990年代から普及が始まったインターネットの新時代を指す用語で、ブロックチェーン技術を活用したデータの分散化(脱中央集権化)を概念としていますが、このWeb3.0を巡ってインドが野心を燃やしています。

インドの時代へ?

 

まず、Web3.0について簡単に見ておきましょう。インターネットの発展の歴史は大きく3つに分けることができ、それぞれ大まかに以下の特徴があります。

 

Web1.0(概ね1991年〜2004年):ユーザーは消費者。コンテンツは静的(テキスト中心)

Web2.0(概ね2004年〜今日):ユーザーはコンテンツの消費者だけでなく生産者。コンテンツは動的(動画や画像が中心)。巨大IT企業がプラットフォームを構築し、ユーザーのデータを所有

Web3.0(これから):ユーザーは消費者であり生産者。ブロックチェーンに基づく脱中央集権化

 

現在、インターネットはWeb3.0に移行しているところですが、これまでのように米国の巨大IT企業がユーザーのデータを独占的に所有してきた時代とは異なり、これからはユーザーがデータを所有すると言われています。

 

では、どうしてインドがWeb3.0の世界をリードすると期待されているのでしょうか? インドの関係者は3つの根拠を挙げています。

 

1: Web3.0人材が豊富

インドの主要IT関連企業が加盟する団体「NASSCOM」は、インドはWeb3.0で豊富な人材を持っているので、この分野をリードする力を十分に持っていると述べています。毎年、200万人以上がSTEM分野で学位を修めており、ブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)関連での雇用は2018年から138%増加したようです。分散型IDプラットフォームのEarth ID社でリサーチ&ストラテジー担当の副社長を務めるSharat Chandra(シャラット・チャンドラ)氏によれば、世界におけるWeb3.0関連の開発者の11%をインドが占めており、その数は世界で3番目に多いそう。さらに今後12〜18か月の間に、同国でのWeb3.0開発者が120%以上増えるとの見通しも伝えています。

 

2: インドにおけるWeb3.0の市場規模

NASSCOMによれば、インドには450社のWeb3.0スタートアップが存在し、そのうちの4社はユニコーン企業(評価額が10億ドル〔約1400億円〕を超える、設立10年以内の未上場ベンチャー企業)。2022年4月までにインドのWeb3.0エコシステムは13億ドル(約1810億円※)を調達しており、今後10年でインド経済に1兆1000億ドル(約153兆円)をもたらすと期待されているのです。

※1ドル=約139.3円で換算(2022年11月14日現在。以下同様)

 

3: 関連製品の開発

CoinDCXやポリゴン(Polygon)、コインスイッチ(CoinSwitch)などのスタートアップを含め、インドのWeb3.0関連企業は、分散型金融(特定の仲介者や管理者を必要とせずに金銭のやり取りを可能とする制度)やゲーム用NFT(非代替性トークン)、マーケットプレイス、メタバース、分散型コミュニティ(企業や組織ではなく、ユーザーが所有する共同体)、オンチェーン調整メカニズム(ブロックチェーン上で暗号資産の取引などを処理する仕組み)などに関する製品を国内だけでなくグローバル向けに開発しています。

 

一方、NASSCOMはインドが克服しなければならない問題も指摘。同国では暗号資産業界と政府、金融当局は必ずしも一枚岩ではなく、暗号資産の利益に対する高い税率や、曖昧な規制などによって、人材と資金が流出していると言われています。

 

このような課題があるものの、インドのWeb3.0業界は世界をリードしようと意欲満々。アメリカの大手IT企業がリードしてきたWeb 2.0の時代とは異なり、Web3.0では「インドの時代」がやって来るかもしれません。

 

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退職後、途上国で農場経営へ。ラオス×農業のポテンシャルと課題について

面積にして日本の本州ほどの国土に、約710万人が暮らすラオス。その南部に広がるボラベン高原は、ラオス有数の農業地帯として知られています。

 

そんなボラベン高原で、2012年より農園を経営しているのが山本農場の山本郁夫さんです。青年海外協力隊やJICAでの農業支援など、途上国での活動経験が豊富な山本さん。なぜラオスで農業を始めたのでしょうか。インタビューを通して、途上国における農業の可能性、農場経営のヒントを探ります。

山本郁夫さん●1955年生まれ。農業機械メーカー勤務を経て、青年海外協力隊隊員としてケニアへ。その後、JICAの農業専門家として東南アジアや南米などの途上国で活動する。帰国後は、アイ・シー・ネット株式会社のコンサルティング部に勤務しつつ、国内で8年間農業に取り組む。その後、同社代表取締役に就任。退職後、2012年よりラオス・ボラベン高原で農場を経営する。

 

ラオス有数の農業地帯・ボラベン高原

標高1000mを超えるラオス南部・ボラベン高原は、熱帯地方に属しながら年間を通して気温が25度前後と冷涼なため、温帯性作物をはじめ、さまざまな農作物の栽培に適した地。タイ、ベトナムなどの大消費地に近いという地の利にも恵まれています。

 

中でも盛んなのが、コーヒーの栽培です。国内9割のコーヒーがボラベン高原で生産され、海外企業の投資による1000ha規模の大農園や加工工場が点在。ほとんどの農家がコーヒー栽培に従事する、この地域を代表する一大産業になっています。他にも、白菜やキャベツなど高原野菜の産地として知られています。

海外資本によるコーヒー農園

 

それにもかかわらず、ボラベン高原には未開発の農地や農業資源も多く、ポテンシャルを十分に引き出せているとは言えません。多くの企業や農家がさまざまな農産物の生産に取り組んでいますが、農業技術、流通ルートの確立、労働者の確保などの課題に直面し、頓挫するケースも。一方で、近隣地域にパクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区の開発が進められるなど、日本企業・日系企業からも注目を集めています。それだけ伸びしろの大きいエリアであることが窺えます。

 

日系企業と連携し、タマネギのシェアNo.1を目指す

山本さんがボラベン高原で農場を始めたのは、2012年のこと。開発コンサルタントとして世界各国で農業支援を行ってきた山本さんは、40代の頃に国内で農業を始めたものの、道半ばにして諦めた過去がありました。やがて定年退職が間近に迫り、かつて果たせなかった夢を叶えるため、ラオスで農業を始めようと決意。

 

「開発コンサルタントをしていた頃、JICAの依頼を受けてカンボジア、ラオス、ベトナムの貧困地帯を調査しました。3カ国を巡ったところ、もっとも魅力を感じたのがラオスのボラベン高原。農業の発展可能性、ラオスの人々の親しみやすくて大らかな人柄に惹かれました。そこで、これまでの知識と経験を生かし、ボラベン高原でもう一度自分が目指す農業に挑戦しようと考えました」

 

こうしてラオスに渡り、42haの農地を借り受け、ひとりで農場経営を始めた山本さん。この地で目指したのは、環境に優しい循環型農業でした。

循環型農業実施のため、現在でも牛の放牧を行っている

 

「肉牛を放牧し、牛糞でたい肥を作り、作物に還元する“耕畜連携”の農業を始めました。当初はコーヒーの栽培から始めましたが、やがて日本企業と業務提携し、イチゴの試験栽培を始めることに。日本から来た技術者とともにイチゴを生産し、ラオスでも大きな評判を呼びました。ただ、貿易協定や検疫の問題に阻まれ、タイやベトナムへの輸出は叶いませんでした。その後、新型コロナウイルスの影響により、残念ながら提携企業が撤退を余儀なくされたのです」

 

そして現在、力を入れているのはタマネギとタバコ。どちらも日系企業と連携しながら、取り組みを進めています。

タマネギの苗づくりはビニールハウス内で実施

 

2021年から試験栽培を始めたタマネギは、日系企業であるラオディー社の依頼がきっかけ。今後の主力作物になると山本さんは期待しています。ラオディー社は、ラオスで高品位なラム酒の生産に成功し、ヨーロッパの展覧会で金賞を受賞するなど実績のある企業。ビエンチャン近郊に農場と醸造所を持っています。日本の大手食品会社の依頼を受けた同社が乾燥タマネギの仕入れ元を探していたところ、山本さんに行き着いたそうです。

 

「ラオスではタマネギの生産量が少なく、国内で消費するタマネギの多くはベトナムや中国から輸入しています。そこで、まずは周辺の農家を巻き込んで規模を拡大し、ラオス国内のマーケットを見据えた生産を考えています。日本に輸出するのは乾燥タマネギですから、形や大きさが不揃いなB品を加工しても問題ないので、将来的にはラオディー社と協力して国内マーケットの余剰分やB品を加工輸出するようにしたいと考えています」

 

昨年、初挑戦した試験栽培は、病害により失敗。しかし、提携しているラオディー社の士気は下がることなく、今年、山本農場は2haのタマネギ畑を開墾しました。今後は、10haまで拡大することも検討しています。

 

一方、タバコの生産を依頼したのは、パイプなどの喫煙具やタバコを輸入・製造・販売する浅草の柘製作所。現在の作付面積は1haですが、長い目で生産量を増やしていく考えです。

 

生産したタマネギとタバコは、どちらも提携する日系企業が買い上げてくれるため、物流ルートを開拓する必要はないと山本さん。

 

「個人で物流ルートを開拓するのは大変ですが、日系企業と組めばその苦労はありません。日本でも個人で小規模な農業を始めると、農協に農作物を収めて生活できるようになるまで3年はかかります。農協のような組織ができあがっていないラオスのような国では、現地の市場で販売するのが関の山。日系企業と手を組むのは、販売ルートを確保するうえで大きなメリットです」

 

日系企業と連携するメリットは、他にもあると言います。

 

「農業は、人材・物・資金の3つが不可欠。私も当初はひとりで農場を運営していましたが、徐々に現地の日系企業の方々との人間関係が構築され、そこからイチゴの栽培が始まり、現在のラオディー社や柘製作所との取り組みに広がりました。日系企業と連携し、お互いにできること・できないことを補完しながら農業に取り組むほうが、最終的な成功に結び付きやすいと実感しています」

 

途上国人材とともに働くことの課題

現在は、住み込みの家族を含む4名を雇用している山本農場。農繁期にはその都度、労働者を確保し、日本で技能研修を受けたサブマネージャーがハブとなって労働者を仕切っています。しかし、労働力はまだまだ不足しているとのことです。

山本農場にて住み込みで働いているラオス人家族と山本さん

 

「人材・物・資金の中でも、特に重要なのは人材です。ラオス人はどちらかというと労働意識があまり高くなく、1日来て、翌日からはもう来なくなり……の連続。もちろん勤勉な方もいますが、コーヒーの収穫時期になると『来週から来ないよ』と言われることも。今はコーヒーの価格が高く、その分労働者の待遇も良いため、そちらに移ってしまうのです。

 

都市部の工場などではFacebookなどのSNSを活用した求人を行ったりしているようですが、ボラベン高原は都市部から離れたところにあるので、それも難しいのが現状。収穫時期などの繁忙期には、サブマネージャーが友人や親戚に声をかけることで人を集めていますが、親戚や知人ばかり集めると、いざ冠婚葬祭や行事があるたびに揃って村に帰ってしまうなど弊害も大きい。安定的な人材の確保は大きな課題なのです」

 

山本さんが頭を悩ませる安定した労働力の課題。そこで今後、農場の拡大に必要となってくると考えているのが、しっかりとした技術を身に着け、現地の人たちを上手にマネジメントしてくれる日本人の雇用や育成です。では、どんな人がラオスでの農場運営に向いているのでしょうか。

 

「チャレンジや苦労を楽しめる、フロンティアスピリットに溢れた人ですね。のんびりした国なので、腹の中にしたたかなものを持ちつつ、人と鷹揚に接することができるタイプが望ましいでしょう。農業経験があるに越したことはありませんが、もし一から始めるなら強い意志が必要だと思います」

 

核となる農産物を見出し、現地に根差した農場経営を

現在、山本農場では事業拡大のため、農業技術者やマネジメント能力に長けた人材を募集中。

(問い合わせ先:山本ファーム メールアドレス:yamamotoikuojp3@gmail.com)

 

「農業の経験があり、途上国開発や農業開発に熱意を持つ人、ビジネスを成功させようという起業家精神のある人に来ていただけたらと思います。ラオディー社の社長と日頃から話しているのは、『高い報酬を払えば、日本から技術者を送り込んでもらえるかもしれない。でもそういう人では失敗するだろう』ということ。ああでもない、こうでもないと現地で試行錯誤しながら農業を行い、利益を出すための施策を考えることができる人が、成功するのでは」

 

持続可能な地域農業を実現するには、まだまだ課題の多い途上国。ラオスをはじめとする途上国で日本人が農場経営を行う場合、必要だと考えられる条件を山本さんに伺いました。

 

「大切なのは、中核となる農産物を見出し、現地に定着して農場経営を行うことです。日本の商社が何億円もの資金をつぎ込んだものの、撤退を余儀なくされたケースは少なくありません。現地を時々訪れる出張ベースではなく、その地に定住し、責任者として気概を持ってビジネスに取り組まなければ成功は難しいでしょう。中南米では日本人が移住し、苦労しながら農業にいそしんだ結果、現地の農業発展に寄与しました。日本政府も官民連携の支援策を出していますが、現地に根差して農業を行う人を増やし、成功事例を積み重ねていかなければならないと思います」

 

ラオスに腰を据えて約10年、トライエンドエラーを繰り返しながらも、地道に農業経営を続ける山本さん。そんなあきらめずに前を見続ける姿勢にこそ、成功のヒントが隠されていると言えそうです。

 

【この記事の写真】

 

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日本のウォシュレットが欲しい! 先進国入りを目指すタイのトイレ事情

11月19日は「世界トイレの日」。2013年に国連が世界各国の衛生状況を改善するために設けました。タイでは19世紀のコレラの蔓延を契機にトイレの普及に力を入れ始め、1980年代の経済発展を経て、今日ではほぼ全世帯にトイレが設置されました。タイ政府は2036年の先進国入りを国家目標とし、公衆衛生の向上に力を入れています。タイのトイレ事情について、その歴史から現在の動向までを説明しましょう。

トイレは先進国入りを目指すタイの象徴

 

タイのトイレ史

18世紀末までのタイでは王族や貴族、僧侶のみがトイレを使用し、庶民は川や森、野原などで用を足していました。昔の俗語で「森に行く」や「畑に行く」は排泄を意味しています。

 

ところが、1817年にインドのガンジス川流域でコレラが大発生し、ラーマ2世統治下のタイ(サイアム)にも被害が及び、バンコクを中心に多くの人が犠牲となりました。その後もコレラはたびたび発生したため、1897年にラーマ5世が「バンコク都公衆衛生法令」を発し、バンコク市民はトイレで排泄するように義務付けられ、トイレの普及に乗り出します。

 

20世紀に入り、米国のロックフェラー財団から援助を受けたタイ政府は、地方でのトイレ建設を進め、設置数を増やしましたが、本格的な普及にはまだまだ及ばない状況でした。1930年代からはトイレ使用と入浴に関する児童用教材を製作し、国民の衛生意識育成を強化。その結果、第二次世界大戦後よりトイレが本格的に普及し始めたのです。タイ国家統計局のデータによれば、全世帯におけるトイレの普及率は2000年に約98%に達したとのこと。

 

日本とかなり異なるタイのトイレ

このような歴史を持つタイのトイレには日本と異なる点が多く見られます。主な違いを3つ挙げましょう。

 

1: トイレットペーパーを流せない

タイのトイレはトイレットペーパーを流せません。タイは水不足に悩まされることも多いので、水不足に備えて下水は配管が細く、水の勢いも弱く設定されています。トイレットペーパーを流すとすぐ詰まるので、トイレットペーパーは使用後に備え付けのゴミ箱に捨てています。

「紙をトイレに流すな」と注意を呼びかけるステッカー

 

2: ハンドシャワーで流す

日本では自動でお尻を洗い流すシャワートイレが普及していますが、タイでは空港や高級ホテル、高級大型商業施設にしか設置されていません。普通の商業施設や一般家庭トイレでは、設置されたハンドシャワーでお尻を流します。下水道の流れは弱くても、商業施設のハンドシャワーの中には水の勢いがとても強いものも。そのため、下着やズボン・スカートが濡れてしまうこともあるので注意が必要です。

 

3: タイ式トイレ

近年は便座式トイレが普及してきましたが、公衆トイレや古い商業施設、地場レストランでは旧来のタイ式トイレが残っています。和式トイレのデザインと似ているものの、和式とは逆にドアに向かってしゃがんで用を足します。水洗式ではない場合、トイレ内にある水槽の水をバケツに汲んで汚物を流します。

タイ式トイレで奥に見えるのが汚物流し用水槽とトイレットペーパーを捨てるゴミ箱

 

このように日本とは異なる点が多いタイのトイレ事情ですが、先進国入りを果たすには公衆衛生意識のさらなる向上が不可欠。そのために、官民挙げたさまざまな動きが見られます。

 

タイ政府は2010年代以降、世界トイレの日に合わせて公衆衛生のキャンペーンを実施してきました。さらに近年では学校教育にSDGsカリキュラムを取り入れ、トイレを中心とした公衆衛生の向上に取り組んでいます。

 

2018年には「20年間国家戦略」に沿い、保健省主導で「2019-2030年 安全衛生管理のためのマスタープラン」が以下のように策定されました。

 

1: 社会的弱者のための衛生的な家庭用トイレの増加

2: 衛生的な公衆トイレ、特に学校のトイレの増加

3: 安全なし尿管理システムの増加

 

各施策の予算配分を厚くし、すべての人の健康増進と伝染病の予防、健全な環境と生態系維持への貢献を目指しています。

 

日本企業もしのぎを削るトイレビジネス

1980年代におけるタイの経済発展に伴い、トイレは旧来のタイ式トイレから便座式に変わってきました。タイ王室系の最大財閥・サイアムセメントは1984年に日本のTOTOと合弁会社「COTTO」を設立し、便座式トイレの展開に着手。その後、アメリカン・スタンダード社が参入し、現在でもタイのトイレはCOTTOとアメリカン・スタンダード社の2社がシェア1位と2位を占めています。

 

TOTOは2013年にサイアムセメントとの合弁を解消し、以降はTOTOブランドでシャワートイレを販売。大型商業施設や高級ホテル、高級コンドミニアムを主な販売先として事業を展開しています。

 

近年、タイ人の日本へのビザなし渡航が解禁されたことで多くの人が日本のシャワートイレの良さに気づき、家庭用シャワートイレ(ウォシュレット)を望む声が高まりました。現在は一般家庭向け低価格モデルのシェア争いで、各社はしのぎを削っている状態です。

 

先進国入り目標に向けてトイレに関しても公衆衛生プロジェクトを推進するタイでは、10年後にはハンドシャワーやタイ式トイレがなくなってしまうかもしれません。タイらしさが薄れる一方で、誰でも利用できる衛生的かつ現代的なトイレが国中に普及するでしょう。

 

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混沌を深めるミャンマー経済。ドル高と輸入規制で国中が火の車!

2021年2月のクーデターによる軍事政権の復活、大規模民主化運動、民族・宗教紛争と政治的な混乱が続くミャンマー。日本の岸田文雄首相は東アジアサミットに出席した際、同国の情勢について深刻な憂慮を表明しましたが、ミャンマーの経済はどうなっているのでしょうか? 2022年10月中旬に同国を視察し、異様な景色を目の当たりにした、ミャンマーに詳しいシニアコンサルタントの小山敦史氏(株式会社アイ・シー・ネット)がレポートします。

 

著者紹介

小山敦史氏

通信社で勤務したのち、開発コンサルティング会社に転職。国際開発の仕事を続けながら、アメリカの大学院で熱帯農業を学び、帰国後に沖縄で農業を開始。4年間ほど野菜を生産したのちに畜産業も始め、現在は食肉の加工や販売、市場調査など、幅広く行っている。自身が実践してきたビジネス経験をコンサルティングの仕事でも常に活かしており、現在はバングラデシュで食品安全に関する仕事に取り組んでいる。

 

建設作業が止まったままの高層ビル(撮影/株式会社アイ・シー・ネット)

 

ミャンマーの首都・ヤンゴンの市民生活は、驚くほど静かに営まれていました。実際、街頭での市民の抗議行動や軍の鎮圧活動といったような「騒乱」めいた動きには1週間(10月10日〜16日)の滞在中、一つも遭遇しなかったほど。日中行き交うクルマの数はかつてより減り、夕暮れ時のダウンタウンの街の灯も寂しくなっていましたが、ASEAN(東南アジア諸国連合)でも有数の景色を誇るヤンゴンの緑は、よく手入れされており、美しさを保っています。バス乗り場には、雨季(4月〜10月)の終わりのにわか雨をよけようとするバス待ちの人々が、停留所の小さな屋根の下で身を寄せ合って佇む一方、外資駐在員御用達の高級スーパーの品揃えも意外なほど豊富です。 

 

しかし、街のところどころに、ただならぬ事態が起きていました。建設途中の高層ビルが、完全に作業が止まったまま、足場やクレーンもそのままに、いくつも放置されているのです。「輸入建設資材が入ってこなくなって、にっちもさっちもいかないらしいですよ」と現地の人が解説してくれました。これで何人の建設労働者が職を失ったことでしょう。

 

平穏に見えるヤンゴンの人々ですが、実は台所は火の車。軍事政権の信用失墜にドル高が加わり、ミャンマーの通貨チャットは下落。同国政府は1ドル2100チャット(約138円※)を公定レートとしましたが、市中価格は1ドル2800 チャット(約184円)以上でした。また、ヤンゴン市民によると、米や野菜などの生活物資の価格は、騒乱による作付不能や不作が重なったこともあり、以前に比べて2 倍以上になっているとのこと。

1チャット=約0.066円で換算(2022年11月15日現在)

 

外貨は流出傾向にあります。JETRO ヤンゴン事務所の専門家は、観光収入と出稼ぎ収入が落ち込み、外国直接投資(FDI)や援助も厳しい状況が続いているため、ミャンマーの外貨準備高は相当減少しているはずと見ています。

 

同政府は外貨流出を防ぐために、輸入を露骨に規制し始めました。例えば、原材料を輸入に依存している外資系食品メーカーA社は、これまで経験したことのない「難癖」を当局からつけられ、原材料の輸入が認められなかったと言います。前述の建設途中の高層ビルにまつわる輸入建材の話も同じ文脈で理解できるでしょう。国の台所も火の車なのです。 

 

一方、ミャンマー企業の多くはドル高のデメリットに苦しんでいるようでした。ミャンマーの場合、チャット安で輸入コストが上昇しますが、A社の場合、仮に原材料を輸入できたとしても、支払いはドル決済を迫られる一方、製品の売り上げは国内市場のみ。つまり、稼いだお金は100%チャットです。チャットはドルに転換すると目減りしますが、その分を売価にきっちり転嫁したら、国内での売り上げを大きく減らすことになります。「国産原料に置き換えられないか、真剣に検討を始めました」と同社の社長は話します。3年前にA 社を訪問したとき、国産原材料の可能性は話題にもなりませんでした。

 

このように、ミャンマー経済は苦境に立たされており、一般市民の生活への影響が心配されます。国民の軍事政権への信頼は低いようで、「反国軍の市民感覚はいまだに強いと思う」と、ある日本人駐在員は語っていました。軍の弾圧によって2000人以上の人々が犠牲になっているのだから、それは当然かもしれません。しかし、経済が悪化する中で時間が経てば経つほど、ますます生活が苦しくなるのは、武力も資力もない一般市民にほかなりません。 

 

五里霧中の企業

灯りが少なく、寂しいヤンゴン

 

民間企業に勝機はあるのでしょうか? A社とは逆に、食品メーカーのB社は全て国産の原材料を使い、作った製品の一部を欧州に輸出しています。訪問時、社長はパリの国際展示会に出張中で、部長が対応してくれましたが、業績はそこそこ伸びているとのこと。チャット安の効果(製品を海外に売りやすい)があると思われます。

 

ただし、ミャンマー全体で見た場合、B社のようなビジネスをできる企業は多くはないでしょう。少なくとも3つの問題が挙げられます。まず、一定以上の品質の原材料が適切な価格で国内供給できるか? 次に、それを欧米などの市場で売れる品質の製品に加工できる技術と資金があるか? さらに、国際市場にマーケティングしていけるだけのノウハウや資金があるか? このような問題を自力で解決できるミャンマーの地場企業はまだ限られており、だからこそ、政変前はFDI が一定の役割を果たしていました。しかし、「果たしていました」と過去形で書かざるを得なくなりつつある現状こそが、ミャンマーにとって最も苦しい所です。

 

政変前に訪問した数多くの現地企業では、20 代や30代の若い経営者に何人も出会いました。 彼らは自分たちの夢を早口の英語で語っていましたが、いまはこの難局をどう切り開こうとしているのだろうか——。ミャンマー経済は今まで以上に、日本を含めた外国からの支援が必要なのかもしれません。

 

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肥料価格高騰のピンチを救うか!? リン輸出が急増する「モロッコ」に世界が注目

ロシアのウクライナ侵攻による世界への影響は、エネルギーを筆頭に、小麦、トウモロコシなどの食料を含めて多岐に及んでいます。しかし、実は農業に欠かせない肥料についても重大な変化が進行中。世界一の肥料輸出国・ロシアが制裁により供給を制限されている中、注目を集めているのがモロッコです。

世界の商人がモロッコのリンを狙う(写真は同国中部の都市・マラケシュの市場)

 

肥料には窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)の3つの要素が不可欠であり、それらに沿って肥料は窒素肥料、リン酸肥料、カリ肥料の3つに大別できます。モロッコが注目されているのは、世界のリン鉱石埋蔵量の7割以上を保有し、そこからリン酸肥料の原料となるリンを得られるから。成分の中にリン酸を含む肥料の例としては、家庭園芸用複合肥料のハイポネックス液があります。

 

世界の肥料市場で、モロッコはロシア、中国、カナダに次ぐ世界4位の輸出国。2021年における世界のリン酸肥料の市場規模は約590億ドル(約8.7兆円※)ですが、モロッコのリン酸肥料の収入は2020年で59億4000万ドル(約8740億円)。世界のリン酸肥料のうち1割程度が同国で生産されていることがわかります。

※1ドル=約147円で換算(2022年11月7日現在)

 

モロッコの輸出肥料の売上高のうち約2割を占めている、モロッコ国営リン鉱石公社(OCPグループ)は、2022年6月末に発表した決算報告で、2022年の純利益が前年比で2倍近くになったことを発表。その理由の一つには、ロシアのウクライナ侵攻による肥料価格の高騰があります。しかし、ロシアでの肥料生産量が落ちている中、2022年の第一四半期におけるモロッコのリン輸出は前年同期比で77%増加しました。この勢いに乗って、モロッコは2023年から2026年にリン酸肥料の生産を増加していく計画です。

 

モロッコは1921年からリン鉱石の採掘を開始し、OCPグループが世界最大の肥料生産拠点を建設するなど、肥料生産は同国の経済成長にも大きく貢献してきました。ロシアのウクライナ侵攻が始まる前は、OCPグループが抱える取引先は、インド、ブラジル、ヨーロッパなど、世界各国350社を超えていたそう。

 

また、広大な耕作地を有するアフリカ各国へも肥料を輸出しています。2022年にはOCPグループは、零細農家に無料や割引価格で肥料を提供するなどして、アフリカの農業を支援すると同時に、同国の影響力を高めています。

 

その一方、今後のモロッコにおけるリン酸肥料の生産には課題も。専門家が指摘するのは、水とエネルギーの問題です。リン酸肥料を生産するには、大量の水と天然ガスを使用しますが、モロッコは乾燥しやすい気候で水不足に悩まされているうえ、天然ガス資源も乏しい国。そのため世界の多くと同じように、高騰するエネルギー価格が生産コストに大きく影響します。

 

この課題を克服するために、モロッコ政府は「国家水計画」を立ち上げ、ダムや海水淡水化プラントを建設するほか、再生可能エネルギーに目を向けているようです。

 

世界の肥料業界で注目度を高めるモロッコ。肥料を輸入に依存する日本の政府も、原料の安定調達のため、2022年5月に農林水産省の武部新副大臣を同国に派遣しました。日本国内では肥料価格の高騰をきっかけに、農業のあり方を見直す動きも出てきていますが、モロッコとの関係は今後より一層強化されていく模様です。

 

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日本の安全保障に直結! モンゴルの「デジタル行政」、人口の約6割がすでに使用

ビッグデータやAIといった最先端のデジタル技術を活用して業務プロセスや組織を改革するデジタルトランスフォーメーション(DX)。世界各国の政府が行政サービスにDXを導入していますが、その中でもモンゴルが大きな注目を集めています。中国やロシアという大国に隣接する同国のDXによる経済発展は、日本の安全保障にも直結。モンゴルで何が起きているのでしょうか?

デジタル化に猛進するモンゴルの首都・ウランバートル

 

2020年、モンゴル政府は「デジタル国家」構築のための5年計画を発表。テクノロジーとデータを活用して、公共サービスの合理化やイノベーションの促進などに取り組むことを明らかにしました。個人情報保護、サイバーセキュリティ、電子署名、仮想通貨など、デジタル変革を進めるうえで避けて通れない各種の法的整備が必要ですが、いずれも2020年に承認されており、2022年5月より施行が始まっています。

 

モンゴルというと、広い草原と遊牧民というイメージとは裏腹に、モンゴルの都市部は携帯電話の普及率が100%を超えるほどデジタル化が普及。そんなモンゴルのDXで目玉の一つとなっているのが、「E-Mongolia」と呼ばれる電子サービスです。

 

これは、パスポートや住民票の申請、企業の登録やビジネスライセンスの申請などを全てデジタルで行えるというもの。役所に出向いて並ぶことなく、オンライン上で手続きを完結できるシステムです。2022年3月時点で利用できる公共サービスの数は630。人口約341万人のモンゴルで、利用する登録ユーザーは200万人とおよそ6割近くに達しているとのこと。同国の成人の75%以上が「E-Mongolia」を日常的に使用しているそうです。

 

さらに、このサービスは決済面でも完全デジタル化し、オンライン決済で行えるとのこと。ちょうどコロナ禍での制度スタートであったことも、同サービスの普及を後押しする一因となったのでしょう。

 

モンゴル国立大学とモンゴル国立科学技術大学の調査によると、「E-Mongolia」は少ない人員で多くのサービスを効率的に行えることから、2021年には約570億モンゴル・トゥグルグ(約24.6億円※1)の経費を節約。2022年には、紙代、輸送費、燃料費、人件費の削減で3000万ドル(約44億円※2)の節約が見込まれているそう。削減した経費は余裕資金として、さらなるデジタル技術革新に投資することができます。

※1: 1モンゴル・トゥグルグ=約23円で換算(2022年11月4日現在)

※2: 1ドル=約147.6円で換算(2022年11月4日現在)

 

次世代リーダーのビジョンと日本の位置付け

この「E-Mongolia」をはじめ、モンゴルのDX推進の立役者となっているのが、2022年に設立されたデジタル開発・通信省。その副大臣には、アメリカのTIME誌による「次世代のリーダー」にも選ばれたことのあるBolor-Erdene Battsengel氏が就任しました。同国での最年少閣僚(29歳で入閣)で、しかも女性であることから、大きな注目を集めています。

 

母語(モンゴル語)の他に英語とロシア語を操り、国連や世界銀行にも勤務していたBattsengel氏は、「遊牧民という文化を持つモンゴルでは、遠方に暮らす人々も行政サービスを受けられるようにすることが重要」と話しています。また「E-Mongolia」にはAIを導入し、国民がどのような行政サービスが必要なのかを的確に把握するなどして、さらなるサービスの改善を図っているそう。

 

さらに、同氏はモンゴルを経済とテクノロジーのハブにするというミッションを掲げています。そのためには国全体のDXとともに、ITスタートアップの育成や若い人材の教育が必要。10代の女子学生にSTEM教育プログラムを提供したり、遠隔地や恵まれない家庭の女子学生に3か月間のブートキャンプを開催したり、さまざまなサポートを行っているようです。

 

国際関係の観点から見ると、モンゴルは中露に過度に依存しない、バランスの取れた外交を目指しており、その中で日本は重要な「戦略的パートナー」となっています。モンゴルとの経済協力について外務省の説明を引用しましょう(以下)。

 

モンゴルは、中国とロシアに挟まれ、地政学的に重要な位置を占める。同国の民主主義国家としての成長は、我が国の安全保障及び経済的繁栄と深く関連している北東アジア地域の平和と安定に資する。また、同国は石炭、銅、ウラン、レアメタル、レアアース等の豊富な地下資源に恵まれており、我が国への資源やエネルギーの安定的供給確保の観点からも重要。

出典:外務省「モンゴル 基礎データ」

 

このような理由で、日本はモンゴルをさまざまな分野で協力しています。例えば、JICA(国際協力機構)では、スタートアップを支援するプログラムを実施し、遠隔医療やデジタル教育、中小企業向けのクラウドファンディングプラットフォームの整備などに取り組む起業家をサポート。モンゴル政府は2024年までにDX化の90%を達成する計画ですが、同国の発展は日本にも良い影響を与えるでしょう。

 

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アウトソーシングの好条件が揃うフィジーのコールセンター事業

 

オセアニア東部の島しょ国であるフィジー共和国(以下、フィジー)でコールセンタービジネスが広まっています。さらに、それにとどまらないアウトソーシングビジネスへの展開も始まっているとか。美しい自然で知られるフィジーで、今なにが起きているのでしょうか?

 

四国とほぼ同じ面積であるフィジーの人口は約90万人。公用語は英語で、フィジー系の住人とイギリス統治時代に移住してきたインド系住民で構成されています。以前はオーストラリアやニュージーランドとの関係が深かったのですが、最近は中国からの投資も増えています。

 

フィジーの主な産業は農業や観光。しかし新型コロナによる影響で、観光業は大きな打撃を受けました。また地域最高峰といわれる南太平洋大学があるにもかかわらず、国内の雇用先が少ないことから、学生が卒業後に他国に出ていってしまうという課題も。そのため、新たな産業への転換はもちろん、学生に向けた新たな雇用を創出するためにも、テクノロジーなど新たな分野への投資が急務でした。

 

コールセンターの設置に適した環境

そんな状況下で急速に広がりつつあるのが、コールセンタービジネスです。フィジーは、地理的にオーストラリアやニュージーランドだけでなく、アジアや北米にもアクセスしやすいのが特徴。また、海底ケーブルが整備されており、インターネットへの接続環境も整っています。しかも公用語が英語であることから、グローバルなビジネスを展開しやすいというメリットがあるからです。

 

このようなフィジーの動きに、早くも各国から熱い視線が向けられています。BBC Newsの報道によれば、オーストラリアの多国籍銀行グループであるANZは、クレジットカード処理や融資業務、支払い、口座サポートのために、フィジーのコールセンターを利用しているといいます。

 

一方、フィジーの地元メディアであるFiji Villageは、世界的な信用調査会社であるPepper Advantageが、同国で大規模なアウトソーシングビジネスを開始すると報じました。これにより、今後5年間で800人から1000人の新しい雇用の創出が期待されるそう。

 

これを受けて「Pepper Advantageによるハブの設立が、フィジーへのアウトソーシングを計画している国際企業の進出を促進するだろう」とフィジーのアウトソーシング事務局長のSagufta Janif(サグフタ・ジャニフ)氏がコメント。さらに、フィジーでさまざまな事業を展開するTruman Bradley(トルーマン・ブラッドリー)氏も、同国におけるテクノロジー産業の構築により、より多くの卒業生がフィジーにとどまり働くことになるだろうとの期待を寄せています。

 

農業や観光業から、コールセンターなどのテクノロジーを活用したアウトソーシングビジネスへと転換を図ろうとしているフィジー。この流れは、雇用の創出はもちろん、フィジー経済の発展にひと役買いそうです。

 

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ジャンプ漫画が人気のインドでも! 世界中で『北斎漫画』が絶賛されている

江戸時代中後期の浮世絵師、葛飾北斎(1760-1849)。力強い荒波の向こうに富士山を描いた『神奈川沖浪裏』は、レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナリザ』に並ぶ名画として、世界でも高い評価を受けています。そんな葛飾北斎の作品と現代の漫画がコラボレーションした展示会「Manga Hokusai Manga」が2022年10月、インド東部のチェンナイにおいて、日印国交樹立70周年を記念したイベントの一つとして、在チェンナイ日本国総領事館などの主催で開かれました。

葛飾北斎の影響は世界中に時代を超えて広がる

 

葛飾北斎といえば、『神奈川沖浪裏』を含めた浮世絵『富獄三十六景』で有名ですが、これまでに残したコレクションは4000点に及び、その中には現代の漫画の原点ともいえる絵が数多くあるのです。それが、全15編からなる絵手本(指導書)『北斎漫画』。魚の種類を図鑑のように描いたものから、庶民が稲作にはげむ様子や米俵をかつぐ姿を表したもの、桃太郎や妖怪が出てくる物語風のスケッチなど、実にさまざまな絵が描かれています。

 

今や世界的に広まった、日本の漫画文化。インドでもその人気は絶大で、書店の漫画コーナーには、日本の『DEATH NOTE(デスノート)』『僕のヒーローアカデミア』『東京喰種 トーキョーグール』などの作品が数多く並んでいるそう。インドでも漫画やアニメが人々の間で根付いてきているようですが、そんな現代の漫画に無意識的に影響を与えてきたのではないかと考えられるのが、葛飾北斎というわけです。そこで、『北斎漫画』と現代の漫画の接点を探ろうと今回の企画展が行われました。

 

本展示会では、『北斎漫画』の一部を展示。さらに、市川春子、五十嵐大介、今日マチ子、西島大介、岡田屋鉄蔵、しりあがり寿、横山裕一の7名の漫画家が今回のために作った作品を展示。また、日本の漫画の特徴でもある、オノマトペ(擬態語や擬音語)の一つひとつに複雑なデザインを施している様子を紹介していました。

 

今回の展示に際し、在チェンナイ日本国総領事館の総領事は、「葛飾北斎は美人画のほか、山や川などの自然を描いた山水画で有名ですが、現代の漫画に通じるスケッチもたくさん描いていました。過去と現代の漫画家たちの間には対話があるはずです」と話していました。そのような視点から葛飾北斎の作品を改めてみると、漫画の魅力がより一層深まるかもしれません。

 

今回の展示に関するコメントではありませんが、『北斎漫画』を紹介したSNSの投稿には「すばらしい!」「傑作だ」「19世紀の漫画を初めて見た」などのメッセージが世界から寄せられています。きっとManga Hokusai Manga展も、日本の文化に興味を持つ人たちの感性に響いたことでしょう。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

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【1周年特別企画】2022年最注目の「SDGs×ビジネス」人気記事ベスト5!

10/29でNEXT BUISINESS INSIGHTSは、サイトローンチから1周年を迎えます。「ポストSDGs時代を見据えた途上国ビジネスサイト」として様々な途上国の情報を発信し続けたこの一年、どんな記事に注目が集まったのか? ランキングの形で振り返りたいと思います。

 

【トピック&ニュース】世界での日本の影響力がわかる記事がランクイン!

トピック&ニュースのカテゴリーでは、途上国で動きのあったビジネスの最新情報から、新型コロナウイルス、ウクライナ情勢などの世界的トレンド情報まで幅広い情報を発信してきました。ランキングでは、世界における日本の存在感がわかる記事がランクイン。日本からは見えにくい世界や途上国の情報はもちろん、そういった遠く離れた国で日本がどんな影響を持っているのか。そういった視点での興味関心が高いことがわかりました。

 

(1位)5年連続で世界1位!「日本のパスポート」が世界最強であることの意味

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IATA(国際航空運送協会)のデータをもとに作成されている、世界パスポートランキングの2022年3Q版の発表によると、日本は史上最高の193点を獲得し、5年連続で1位に。日本のパスポートがなぜそれほどまでに高順位なのか? また、高順位であることの意味について記事で解説しています。

テーマ:観光

 

(2位)中国とインドが激突! 熾烈な覇権争いが繰り広げられる「中央アジア」とは?

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カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5か国からなる一帯を指す「中央アジア」。近年では、現代版のシルクロードとも言える「一帯一路」構想を立てている中国や、インド、ロシア、そして日本を中心に世界各国がその市場の成長性に注目している地域です。本記事ではその概要と近年の動きをまとめました。

テーマ:アジア、地域解説

 

(3位)インドネシア初の「高速鉄道」9割完成ーーその背景には、日本と中国の熾烈な対決が…。

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インドネシア初となる高速鉄道の建設がついに完成へ。その背景には、2位の記事でも存在感が垣間見える中国とインドの影響が強く見られます。建設に向けて中国、インド、そして日本はどう関係していったのか? 高速鉄道建設による影響と、各国の関係を記事では紹介しました。

テーマ:インフラ、モビリティ

 

(4位)コロナ禍でも日本は世界3位! 日本が20兆を注ぐ「FDI」、アジア向けは過去最高額に到達

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2022年6月、UNCTAD(国際連合貿易開発会議)が、世界の投資に関する動向を調べた「World Investment Report 2022」を公開。海外で経営参加や技術提携を目的に行う海外直接投資(FDI)の途上国への実績が、2021年より緩やかに増加しています。特にアジアへの投資が増加しているその背景を分析しました。

テーマ:アジア、投資、M&A

 

(5位)憧れの日本のライフスタイルを体現! 「日本式コンドミニアム」がフィリピン・マニラに誕生

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フィリピンの首都マニラで発展著しい地域「BGC」(ボニファシオ・グローバル・シティ)。同地域で誕生した、日本の技術と文化を取り入れた複合開発タワーコンドミニアムの「ザ・シーズンズ・レジデンス」の詳細についてまとめた記事です。

テーマ:建設

 

【国で知るSDGs×ビジネス】途上国での流行病体験記事がトップに。医療関連の記事も人気!

「国で知るSDGs×ビジネス」カテゴリーは、その名の通り各国のトレンドや概要を知ることでSDGs×ビジネスの視点を学べるカテゴリーです。この一年では、アフリカからインド、タイ、ミャンマー、トルコなどの途上国のトレンドにアプローチしつつ、ヨーロッパで盛り上がるヘルステックなど世界的に注目されている情報も注目を集めました。

 

(1位)途上国で新型コロナウイルスに感染したら? 現地スタッフの体験から見える渡航の際の留意点

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2019年末より世界で猛威を振るう新型コロナウイルス。本記事では、海外で事業に従事するアイ・シー・ネット社員のうち、現地で新型コロナウイルスに感染した社員3名にインタビューを行いました。バングラデシュ、カンボジア、セネガルの3か国それぞれの、現地でのリアルな体験談をお届けしています。

テーマ:新型コロナウイルス

 

(2位)日本とミャンマーを繋ぐ「食」の可能性! 発酵食品や食品加工技術などミャンマーの特性と現状を探る

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ミャンマーの「食」に着目した記事。2011年以降、政治や経済の改革によって国が大きく発展し「アジア最後のフロンティア」とも呼ばれているミャンマーの概要と暮らしを「食」にフォーカスして、アイ・シー・ネットの小山氏にインタビューを行いました。サイト全体でも食品や食品加工のトピックは強い人気を持つテーマです。

テーマ:食、食品加工

 

(3位)アフリカ女性のエンパワーメントを加速させる“フェムテック”の可能性を探る

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現在、アフリカ諸国では、女性の生理用品でさえ満足に普及していない状況と言います。エチオピアの事情に詳しくジェンダー支援にも関わる、アイ・シー・ネットの太田みなみ氏のインタビューを通じて、世界的に注目される「フェムテック」のアフリカ市場での可能性について追いました。

テーマ:ジェンダー、フェムテック

 

(4位)日本とは違うバングラデシュの「薬局」。ヘルスケア市場の課題解決の一手「リスクアセスメントシステム」について

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南アジアの親日国としても知られているバングラデシュ。ますます注目が高まる開発途上国の一つですが、医療体制や保険制度については未整備な部分もあるそうです。本記事では、ICTを活用した疾患の早期発見システムを開発し、バングラデシュの薬局への導入を目指す医療系スタートアップの取り組みを紹介しています。

テーマ;医療、e-Health

 

(5位)ヨーロッパで急成長中の医療×IoT「e-Health」、日本も注目すべき最先端を追う

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IoTを通じて個々の健康を増進する「e-Health」の取り組みが、世界各地で行われています。2022年5月にパリで開催された展示会「SANTEXPO 2022」では、最先端の取り組みを行う企業、研究・教育機関、NGOがヨーロッパ各地、さらにはそれ以外の地域からも出展。この記事では、ヘルスケア・介護×IoTの最新トレンドを通じて、e-Healthの最新事情をお届けしています。

テーマ;医療、e-Health

 

【人で知るSDGs×ビジネス】リユースビジネス、中古車輸出、遺品整理…日本から途上国へ多彩なアプローチを行う企業を紹介

「人で知るSDGs×ビジネス」カテゴリーでは、日本から途上国へ途上国ビジネスを展開する企業や、アイ・シー・ネットの現地スタッフが行っている活動・施策を通して、途上国ビジネスの可能性を探る記事を展開。ランキングでも、多彩なビジネスアプローチをする企業の記事が数多くランクインする結果となりました。人材開発、教育関連の記事が上位に入ったのも特徴です。

 

(1位)「海外と日本をつなぐ仕事がしたい」夢を追いかけタイへ! 経済成長が加速する国でリユースビジネスと海外進出支援業

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現在、日本の中古リサイクル品が、タイをはじめ東南アジアで人気になっています。本記事では、自社でもリサイクルショップを運営し、かつ、現地の店にも商品を卸すリユースビジネスを展開するほか、企業の海外進出支援もするASE GROUPのCEOである出口皓太さんにインタビューをしました。

テーマ:リサイクル

 

(2位)アフリカでもっとも有名な日本企業ビィ・フォア―ド社長が語る、アフリカビジネスの最前線

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2004年に設立された株式会社ビィ・フォアードは、越境ECサイトによる中古車輸出事業をアフリカで広く行い、2020年度の業績は売上高562億円、中古車輸出台数約12万5759台を達成し、業績を伸ばし続けています。アフリカでもっとも有名な日本企業ともいわれるビィ・フォアードの代表取締役社長・山川博功氏に、アフリカに注目した経緯や、現在の事業、途上国ビジネスの魅力などについてお聞きしました。

テーマ:アフリカビジネス、モビリティ

 

(3位)アフリカビジネスの大きなきっかけに!「ABEイニシアティブ」卒業生がこれからの日本企業に欠かせない理由とは?

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日本の大学での修士号取得と日本企業でのインターンシップの機会を提供するプログラム「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(African Business Education Initiative for Youth)」、通称:ABEイニシアティブ。2014年から現在までで、ABEイニシアティブを通じて1286人ものアフリカ出身の留学生が来日。留学生のなかには、プログラム終了後の進路として、日本企業へ就職する人がいます。本記事では、2019年より仙台を拠点とするラネックス社で活躍するセネガル出身のABEイニシアティブ卒業生、ブバカール ソウさんにABEイニシアティブでどのようなことが学んだのか、また日本企業で3年以上働いてみてどんな感想を抱いているのかを聞きました。

テーマ:教育

 

(4位)これからの子どもたちの学びに必要な「Playful Learning」と「6Cs」スキルーー「遊びを通した学び」で、社会で成功するスキルを身に付ける

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多様化するこれからの社会で、世界共通の重要なトピックである「教育」。新たな教育システムなどが模索される中、世界各地で実施されているのが、米国テンプル大学心理学部教授のキャシー・ハーシュ=パセック教授らが推進する「Playful Learning(遊びを通した学び)」です。キャシー教授に、“遊び”の重要性や「Playful Learning」、これからの社会で欠かせないスキル「6Cs」などについて、さまざまな事例を交えながら教えてもらいました。

テーマ:教育

 

(5位)「遺品整理サービス」に活路! 遺品整理品のリユースビジネスを開拓する「リリーフ」インタビュー

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少子高齢化社会が進むいま、終活にまつわるサービスを展開する企業が増えています。そのなかでも参入企業が増えているのが、「遺品整理サービス」です。そんな数ある片付けサービスを扱う企業のなかでも、存在感を強めている「株式会社リリーフ」の赤澤氏に、海外における中古品の海外輸出事業や、これからの片付けサービスの課題について聞いてみました。

テーマ:遺品整理、リサイクル

 

以上が、ローンチ1年間における各カテゴリーでの人気記事ランキングでした。途上国ビジネスと言っても数えきれないほどの課題やトピックが存在します。その数だけビジネスチャンスは存在するわけで、編集部では2年目も読者の皆様が取り組む事業のヒントになる情報や、皆様ひとりひとりが途上国と日本を含む世界全体の社会課題解決を考える一助になるコンテンツをお届けしていきます。

 

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アパレル輸出額が今後10倍予想! バングラデシュと日本の自由貿易協定、締結間近か。

 

インドとミャンマーの間に位置するバングラデシュは、1億6000万人以上の人口を抱える、世界で最も人口密度が高い国。もともと稲作やジュート(黄麻)の生産など、農業が盛んでしたが、近年は労働力の豊富さと人件費の安さから、日本をはじめ海外資本による製造業の進出が目立っています。これにより、同国は成長が期待される新興国「NEXT11」にも数えられています。

 

現在、日本はバングラデシュにおいて、マタルバリ港やダッカの地下鉄やハズラト・シャジャラル国際空港の第3ターミナルなど、今後数年以内に完成予定の大規模プロジェクトに関わっています。

 

そんな同国と日本との間で、自由貿易協定(FTA)または経済連携協定(EPA)締結の動きがあることを、地元紙のThe Daily Starが報じています。バングラデシュとのFTAの締結によって、とくにビジネス面で日本にどのようなチャンスが生まれるのでしょうか。

 

衣料品を中心に対日輸出が急増中

実は、バングラディッシュは国連開発計画委員会(CDP)により、後発開発途上国(LDC)に位置づけられています。この「LDCの特恵貿易」の恩恵により、同国の対日輸出はアパレル製品を中心に急成長。今年度の対日輸出額は13億5000万ドル(約2000億円)となり、前年比で14.4%増となりました。そのうち11億ドル(約1600億円)は衣料品が占めています。

 

バングラデシュから日本への衣料品の出荷量は、日本がLDCの国々におけるニットウェア分野の原産地規制を緩和した2011年4月から急増しました。それ以前は、日本は自国産業を保護するため、ニット製品に関税を設けていたのです。

 

バングラデシュにとって日本は、衣料品輸出が10億ドル(約1500億円)を超えた唯一のアジア諸国です。駐バングラデシュ日本大使である伊藤直樹氏は、アパレル製品の出荷額は2030年までに10倍の100億ドル(約1兆5000億円)に達するだろうと予測しています。

 

11月にもFTA締結に向けた交渉がスタートする!?

また伊藤大使は、バングラデシュと日本がFTAやEPAに署名し、より多くの日本への投資を誘致するためには、さらなる投資やビジネス環境を改善する必要があるとも述べています。氏によれば、バングラデシュの日本企業の数は過去10年間で3倍に、そして2022年には338社に達するのだとか。さらに、首都ダッカ近くのナヤランガンジにある日本の経済特区は、施設やインフラ、労使関係、ビジネス環境の面でアジア随一になるだろう、との発言もありました。

 

一方で、バングラデシュのTapan Kanti Ghosh(タパン・カンティ・ゴッシュ)商務上級秘書官はThe Daily Starに対し、「バングラデシュと日本は今年11月に協力覚書(MoC)に署名する予定です」とコメント。同国のハシナ首相が11月にも日本を訪れ、FTAの交渉が始まる可能性があるそうです。急速に接近しつつあるバングラデシュと日本。FTAないし、EPAが締結されれば、衣料品分野のみならず、さまざまな分野でのビジネスが期待できそうです。

 

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インドが中国を抜いてトップへ!「世界人口」がもうすぐ80億人に到達

国連経済社会局人口部の『世界人口推計2022年版』によると、2022年11月15日に世界人口は80億人に到達します。その約6割はアジアに集中する一方、サハラ以南のアフリカ諸国などでは人口が著しく増加していく模様。ヒトへの投資がますます重視されています。

人口はあっという間に80億人へ

 

世界人口はわずか100年の間に爆発的に増加してきました。初めて10億人に達したのは1804年。その後、1927年には20億人となり、それから100年も経たないうちに、その数は4倍増えることになります。

 

ただし、多くの国で出生率が低下しているなどの理由で、増加率は鈍化。2030年には約85億人、2050年には約97億人、2080年には約104億人になると見られていますが、人口はその頃にピークに達し、2100年まで104億人の数字でとどまると国連は予測。

 

大陸別に見ると、アジアの人口が際立っています。世界人口推計で人口が最も多い国は中国(14億4850万人)で、次がインド(14億660万人)。そのため、米ポータルサイト・Big Thinkの概算によれば、アジアだけで世界人口の58%を占める模様で、アフリカでさえも2割にもなりません。対照的に人口が最も少ないのはオセアニアで、わずか4400万人。これは日本の首都圏の人口(2020年に4434万人)とほぼ同じレベルにあたります。

 

【大陸別の人口と割合(概算)】

1位 アジア(約47億人、58%)

2位 アフリカ(約14億人、17.5%)

3位 ヨーロッパ(約7.5億人、9%)

4位 北米(約6億人、7.5%)

5位 南米(約4.4億人、5.5%)

6位 オセアニア(約4400万人、0.5%)

(出典:Big Think)

 

現在、世界人口ランキングのトップを争うのが中国とインド。これまで人口が爆発的に増えてきた前者ですが、2022年7月時点で人口は14億2589万人となり、若干の減少が見られるようになりました。日本と同様に、中国でも少子高齢化が進み、労働人口が減少していることから、これから人口がどんどん減少していくと見られています。

 

それに対して、インドは2023年に中国を抜いて世界トップになる見込み。2063年頃に16億9698万人に達すると、その後は減少していくと予測されており、結果的に2100年時点での人口は中国が約5億人、インドは約10億人になるそうです。

 

また、中国やインドと共にBRICS(近年、著しい経済成長を遂げたブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5か国を指す)を構成するロシアは、世界で最も面積の大きい国であるものの、人口は1億4580万人と世界第9位。インドの東側にあるバングラデシュの人口(1億6700万人)よりも少ないのです。バングラデシュでは人口が増加傾向にあるのに対し、ロシアは少子化が進み、両国の差は今後さらに開くものと考えられます。

 

もっとヒトに投資を

一方、国連は、2050年までに増加が見込まれる世界人口の半数超が8か国――コンゴ、エジプト、エチオピア、インド、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、タンザニア――に集中すると見ており、その過半数をサハラ以南のアフリカ諸国が占めると予想しています。

 

とはいえ、サハラ以南アフリカの大半の国々とアジア、南米、カリブ諸国の一部では最近、出生率が減少したようで、それによって生産年齢人口(25歳から64歳の間)の割合が増加。この変化は一人当たりの経済成長を加速する機会(専門用語で「人口ボーナス」と呼ばれる)をもたらすそうですが、その利益を最大化するためには「人的資本のさらなる開発に投資すべき」と国連は説き、ヘルスケアや質の高い教育へのアクセス、雇用を促進することが必要だと述べています。

 

日本は世界一の高齢化社会であるものの、世界人口の増加はアジアに集中。サハラ以南のアフリカを含めて、両大陸の人口の動向から目が離せません。

 

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インドネシア初の「高速鉄道」9割完成ーーその背景には、日本と中国の熾烈な対決が…。

もうすぐインドネシアで、同国初となる高速鉄道の建設が完成を迎えます。首都ジャカルタの混雑を緩和することが期待されていますが、インドネシアがここまで至るまでには、日本が中国に出し抜かれるという波乱がありました。さまざまな思惑が交錯する中、この高速鉄道はインドネシアのインフラを変えようとしています。

↑開業に向けてラストスパート!

 

この高速鉄道は、インドネシアの首都ジャカルタと西ジャワ州の州都・バンドン間の約142㎞を結ぶもの。これまで3時間かかっていた2都市間の移動を約40分に短縮するもので、2016年から建設が開始され、およそ6年を経て、9割が完成する状態にまでなったそうです(2023年6月に開業予定)。先日、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(通称ジョコウィ)がバンドン駅を視察し、車両などを確認したことが国内外で大きく報じられました。しかし、このニュースに一番安堵しているのは中国かもしれません。


もともと、この高速鉄道プロジェクトは日本が働きかけていました。安全性が高く、しかも定時に運行する日本の新幹線は、世界でも高く評価されています。その技術は海外でも活用され、日本政府も日本の新幹線や鉄道の輸出に力を入れてきました。2019年にインドネシアで初めて誕生した地下鉄は、日本が全面的に支援していたのです。この高速鉄道プロジェクトでも当初は日本が有利とされていました。

 

一方、日本に劣らない技術と経済力を持っていると主張しているのが中国。2015年に中国はこの高速鉄道建設プロジェクトの入札に参加しました。インドネシア政府による債務保証を伴う円借款を提案していた日本と違って、中国は債務保証を求めませんでした。インドネシアは財政負担を避けたかったのです。

 

熾烈な駆け引きがあったと報じられるなか、結局、インドネシア政府は中国を選び、中国の国家開発銀行が総工費の75%を融資することになりました(残りの25%はインドネシアと中国の企業からなる合弁企業の資金で賄う)。

 

中国の落札の裏には、2013年に習近平国家主席が打ち出した「一帯一路」戦略があります。これはアジア各国やヨーロッパに陸路と海上航路の物流ルートを作り、巨大な経済圏を構築する構想。かつて中国とヨーロッパの間にあった交易路「シルクロード」の現代版と言えるでしょう。インドネシアの高速鉄道建設を一帯一路の一環と捉えた中国は、積極的な支援に乗り出すようになり、日本に勝ちました。

 

このように、この高速鉄道プロジェクトには中国の威信がかかっているとも言えます。車両の設計と製造は中国中車青島四方機車車両が行いました。最高速度は時速350kmに達するとのこと(日本の新幹線の最高速度は現時点で時速320km)。この列車は、インドネシアのような熱帯気候に適応するよう改良されているそうです。

 

とはいえ、この計画は落札後も順調に進んでいたわけではありません。土地の購入が計画した通りに進まないうえ、新型コロナウイルスが発生。そのため、当初は2019年に開業予定でしたが、度重なる延期に見舞われました。最終的には750kmの距離まで延伸される予定ですが、ひとまず第一段階としてジャカルタ—バンドン間の開通にこぎつけるまでに至ったのです。

 

紆余曲折を経て高速鉄道が完成すれば、インドネシア国内の物流が良くなることは確か。2014年の大統領就任からインフラの改善を掲げてきたジョコウィ氏は「この高速鉄道がモノとヒトの移動をより速く、より良くし、インドネシアの競争力を高めることを祈っている」と述べています。中国のプレゼンスは高まっていますが、日本のまき返しにも期待したいですね。

 

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電気代ゼロも可能! インド初「100%太陽光発電の村」が誕生

世界中でエネルギー価格が高騰する一方、化石燃料に頼らない、再生可能エネルギー確保の重要性が叫ばれています。そんななか、インドのナレンドラ・モディ首相は先日、グジャラート州にあるモデラで「太陽光発電100%の村」が誕生したと高らかに宣言しました。インド初となる太陽光で成り立つ村は、どのようになっているのでしょうか?

太陽光発電で希望の光を灯す

 

モデラは、グジャラート州の州都であるガンジナガールから約100㎞離れた場所にある小さな村。ここに中央政府と州政府が80.66億ルピー(約145億円※)を投じて、1300台以上のソーラーパネルを住宅の屋根に設置しました。さらに近くのサジャンプラ村には12ヘクタール分の土地を確保し、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)を導入。このBESSは、ソーラーパネルで発電した電力を貯蔵できるシステムで、太陽光発電には欠かせない存在です。これらの設備により、日中はソーラーパネルから、夜間や曇りの日にはBESSから電力が供給され、住民はそれを利用することができるのです。

※1ルピー=約1.8円で換算(2022年10月17日現在)

 

また、村の中にはソーラーエネルギーによる電気自動車の充電ステーションも設けられたそう。村の住民は正真正銘、太陽光から得たエネルギーだけで生活できるようになるのです。従来、この村には政府が電力を供給していたそうですが、今後、住民は電気代を60%〜100%減らすことができるとされているうえ、さらにソーラーパネルで得た電力を売って収入を得ることも可能。モディ首相は「モデラ村の住民は、電力を消費する立場であると同時に、電力を生産する立場でもある。ぜひ電気を売って、収入を得てほしい」と呼びかけました。

 

モデラ村があるグジャラート州は、年間を通して雨が少なく、冬の間はほとんどの日が晴れているそう。夏はモンスーンの季節ですが、日差しは強く、気温が40度以上になる猛暑日が多くなります。そんな気候は太陽光発電に適していると言えるのでしょう。

 

インドでは、2030年までに太陽光発電などの再生可能エネルギーを500ギガワットまで導入し、2070年までには温室効果ガスの排出をネットゼロ(正味ゼロ)にする目標を掲げています。その中でインド初の太陽光発電の村の存在は、モデルケースとして今後ますます注目を集めていくことでしょう。

 

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「ドローン配送」の普及へアフリカが猛進! ジップラインと大手EC企業が提携

2022年9月、ドローン配送のスタートアップとして知られるジップラインが、アフリカの大手EC(電子商取引)企業・ジュミアと提携したことが発表されました。これにより、アフリカでドローン配送の普及が進むことが期待されていますが、その影響は日本を含めた先進国に及ぶかもしれません。

アフリカから先進国に向かって飛んでいくか?

 

ヘルスケアや小売分野でドローン配送に取り組むジップラインは、アメリカやアフリカなどで事業を展開しており、過疎地への医療機器やワクチンなどの配送で注目を集めています。例えば、ルワンダやガーナでは、病院から依頼を受けるとドローンが輸血用の血液パックを積んで離陸し、病院に届けています。このサービスは、コロナ禍ではワクチンや日用品の配送を可能にする手段として世界から熱い視線を集めてきました。これまで配送したワクチンは500万ユニット以上。日本では豊田通商と提携しており、長崎県五島列島の医療機関への医療用医薬品のドローン配送の試験を2022年から始めています。

 

一方、ジュミアはアフリカを代表するマーケットプレイスを運営するほか、デジタル決済のプラットフォームや物流事業を展開。現在ではアフリカの11か国で30以上の倉庫を有し、ドロップオフ&ピックアップの拠点は3000以上になります。2019年にはニューヨーク証券取引所に上場しており、金融情報を提供するリフィニティブによると、時価総額は7億4100万ドル(約1091億円※1)です。

※1: 1ドル=約147.2円で換算(2022年10月14日現在)

 

今回、この二社が提携したのは、ジュミアが構築してきた流通・物流ネットワークの圏外のエリアへ配送することを可能にするため。アフリカにおけるECの利用が拡大している中、ジュミアでは流通網が十分に整っていない農村部からの注文が配達件数のおよそ27%を占めるようになりました。そこで、従来の配送サービスでは難しかったラストワンマイル(※2)への配送にドローンで対応しようと乗り出したのです。

※2: サービス提供者の最後の拠点から顧客・ユーザーまでの「最後の区間」のこと

 

ガーナで行われた最初の試験では、1時間未満で85㎞離れた場所までの配送に成功。大きさや重さが異なるさまざまな商品を組み合わせながら、実験を繰り返してきたそうです。将来的にはコートジボワールやナイジェリアにも本サービスを拡大するとのこと。

 

リバース・イノベーションの可能性

ドローン配送は、アマゾンや中国大手の京東集団(JD.com)といった大手ECはもちろん、フェデックス、UPSなどの物流企業も取り組みを初めている分野です。また、自動車と比較すると排出する温室効果ガスが98%も少なく、環境にもやさしい点もメリットの一つと言われています。

 

ドローン配送は先進国でも有用ですが、交通網や流通網が発展していない途上国や過疎地で真価を発揮することは間違いありません。そのため、今回の提携をきっかけに、アフリカのような新興国でドローン配送が一気に普及し、それが先進国に波及して革新を起こす「リバース・イノベーション」が起こることも考えられるでしょう。

 

世界各地で広がるドローン配送。まだ日本は実用化に向けて試験を行なっている段階ですが、これまで以上に当たり前に利用される日は確実に近づいているのではないでしょうか?

 

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日本の漫画はアフリカでも人気!「コミコン・アフリカ」が3年ぶりにリアル開催

2022年9月下旬、南アフリカのヨハネスブルグで、アフリカ大陸最大のマンガイベント「コミコン・アフリカ(Comic Con Africa)」が開催。大勢のマンガ好き、ゲーマー、コスプレーヤーが集まり、新型コロナウイルスのパンデミック以降、3年ぶりとなる同イベントは大盛況で幕を閉じました。マンガやアニメはアフリカでも巨大なポップカルチャーになりつつあります。

大盛況!(画像提供/Comic Con Africa)

 

「コミコン・アフリカ」が初めてアフリカで開催されたのは2018年のこと。米国・ニューヨーク最大のポップカルチャーイベント「NYコミコン」やシアトルで開催される「エメラルドシティ・コミコン」などを手掛ける企業リードポップが主催し、コミックやマンガのコンテンツを制作する企業、出版社、インフルエンサーなどを招き、地元のマンガファンとの交流を楽しむイベントとして始まりました。

 

もともとアフリカでは、日本の漫画とアメコミ(アメリカのマンガ)が高い人気を集めており、アフリカと世界を結ぶ場所として南アフリカが開催地に選ばれたのです。2018年の初回は、イベント開幕前にチケットが完売。その成功から、翌年の2019年には大手スポンサーがついて会場も大きくなり、アフリカ各国や世界中から多くの来場者を集めるイベントに成長しました。

 

その後、2020年はパンデミックでオンラインイベントに移行。翌年は中止になりましたが、2022年は3年ぶりのリアルイベントの開催とあって、これまでよりもさらに大きな会場が選ばれました。7万5000人を収容できるヨハネスブルグ・エクスポセンターを舞台に、4日間にわたり、マンガ、映画、ゲーム、コスプレなどのファンが集い、アフリカで過去最大のイベントとなったのです。参加したコスプレーヤーの中には、マーベルやセーラームーン、ハリー・ポッター、鬼滅の刃のキャラクターの装いをしている人たちがいました。

 

【コミコン・アフリカ2022の初日の様子】

 

アフリカ人にとってのマンガ・アニメ・コスプレは何を意味するのでしょうか? ヨハネスブルグに暮らし、今回のコミコン・アフリカに参加した女性のコスプレーヤーは、SF映画『アバター』に登場する、神秘の星パンドラの先住民ナヴィ族のネイティリを装い、「私にとってネイティリは、とてもパワフルで自分の村や部族のために戦うアフリカの女性です」と自分に重ねながら話しています。

 

また、12年間、映画のコスチュームデザイナーとして働いてきた人が自身もコスプレを楽しむようになり、今回のイベントに参加したというケースも見られました。アフリカでもマンガやアニメ、コスプレといったポップカルチャーの人気はとても高く、日本やアメリカが生み出す作品を見て育ったクリエイターたちが業界を引っ張りながら、着実にその文化が人々の間に根付いていっているようです。

 

2022年の開催では、ファン同士や業界関係者のコミュニケーションに満足感を覚えた参加者が多かったようです。実際、現地のコミックアーティストからは「オンラインでの開催となった2年間を取り戻したような感じだった」「とても楽しんだ」という声がありました。

 

締め切り前の停電は痛すぎる

一方、コミコン・アフリカに参加したコミックアーティストの中には、マンガやコミック、アニメがアフリカでさらに発展するうえでの課題を指摘する人もいます。ヨハネスブルク在住でマーベルなどのコミック作品を描くジェイソン・マスターズさんは「私たちはデジタルで仕事をしています。タブレットも持っているから、停電になっても数時間程度なら仕事を続けられます。でも、締め切り前に停電になったときはつらかった!」と、テクノロジー系メディア・Glitchedのインタビューに回答。安定的な電力供給を可能にするインフラの整備が求められているようです。

 

インターネットが発達してSNSが身近になった今日、個人が自分の作品をSNSに投稿するなどして広く世界に紹介することが簡単にできるようになっています。それをきっかけに新しいコミュニティが生まれたり、新しいアーティストの発掘につながったりする可能性が増えているのです。コミコン・アフリカでは、現地のアーティストが自分の作品を紹介できるプラットフォームの構築も検討しているそうで、コミコンの盛り上がりの後押しを受けて、この業界の新しい発展が期待されています。

 

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話題の「エシカルファッション」とは? 鎌田安里紗さんに聞く‟服自給率1%の日本”と途上国の現状

近年、「エシカルファッション」や「サステナブルファッション」といった言葉も聞くようになり、手に取った洋服の「どんな過程で作られているのか」「作られている人たちの労働環境は?」といった背景までを意識していこうという消費スタイルが、暮らしの中に増えてきました。誰もが手頃な価格で洋服を購入できるようになった今、私たちが未来に向けて考えるべきこととは?

高校生の頃、アパレルの販売員やモデルの仕事を通じてファッションと関わり、そこから「エシカルファッション」に興味を持つようになったという鎌田安里紗さん。2020年には一般社団法人unistepsを設立。共同代表としてアパレルメーカー・デザイナー・消費者をつなぐ活動を行なっています。今回は、エシカルファッションプランナーである鎌田安里紗さんにエシカルファッションのこと、そして途上国の現状について教えていただきました。

 

鎌田安里紗/1992年徳島市生まれ。「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unistepsの共同代表を務め、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から綿を育てて服をつくる「服のたね」など。環境省「森里川海プロジェクト」アンバサダー。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。TwitterInstagram

 

「この服はどうやって作られている?」疑問を解決すべく世界中の縫製工場へ

──現在は、エシカルファッションプランナーとして幅広く活動されていますが、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

 

鎌田 高校1年生の頃、高校に通いながら週末はアパレル販売員のアルバイトと、雑誌モデルのお仕事をしていました。ちょうど日本にH&Mの1号店がやってきた頃で、まさにファストファッション全盛期。販売員の仕事をしていても「可愛いけど、似ている服がもっと安く別のお店で売っていたね」と、デザインよりも価格で洋服が選ばれている現場を何度も目の当たりにしてきました。

高校は国際系学科の学校に進学していました。授業でも“フェアトレード(※1)”の話は出ていたので、ファッションのフェアトレードってないのかな? と調べ始めたことがきっかけです。

※1…生産者が人間らしく暮らし、より良い暮らしを目指すため、正当な値段で作られたものを売り買いすること。途上国と先進国、または企業間での取引がフェアじゃないことが起因とされている。「フェアトレード」には、労働者に適正な賃金が支払われることや、労働環境の改善、自然環境への配慮、地域の社会・福祉への貢献などが含まれ、「子どもの権利の保護」および「児童労働の撤廃」も盛り込まれている。

 

──当時、ファッションのフェアトレードについて詳しい情報は見つかったのでしょうか?

 

鎌田 ほとんどありませんでしたが、ピープルツリー(※2)さんが当時から情報発信をしてくれていました。ピープルツリーさんが主催するイベントに参加したり、国内外の縫製工場へ見学に行ったりしました。1本の糸から生地ができて、洋服ができる工程を見ているのが、とっても楽しかったんです。洋服のことをもっと知りたくて、コットン農家さんにお邪魔したり、たくさんの現場に足を運ばせてもらいました。

※2…「ピープルツリー」はフェアトレードカンパニー株式会社のフェアトレード専門ブランド。フェアトレード・ファッションの世界的パイオニアであり、エシカルで地球環境にやさしく、サステナブル(持続的可能)なファッションを、約30年に渡ってつくり続けている。アジア、アフリカ、中南米などの18カ国約145団体と共に、オーガニックコットンをはじめとする衣料品やアクセサリー、食品、雑貨など、できるだけその地方で採れる自然素材を用いた手仕事による商品を企画開発・販売。手仕事を活かすことで、途上国の経済的・社会的に立場の弱い人びとに収入の機会を提供し、公正な価格の支払いやデザイン・技術研修の支援、継続的な注文を通じて、環境にやさしい持続可能な生産を支えている。

紡績工場を訪れた際の鎌田さん

──そういった海外への視察はどれぐらい行かれたのでしょうか?

 

鎌田 バングラディシュ、ネパール、カンボジア、インド、スリランカ、モンゴル……など視察や、生産現場を消費者(生活者)の方と共に巡るスタディーツアーを主宰することで、様々な場所に足を運んでいました。そんななかで次第に繋がりも増え、その体験や経験などの取材や講演依頼を頂くようになり、エシカルファッションプランナーとして活動するようになったんです。

紡績工場ツアーの様子

──とってもフットワークが軽い! 現地に行くモチベーションはどこから湧いてきたのでしょうか?

 

鎌田 店頭や雑誌を通して、服を届け、ファッションの楽しみを発信する立場でしたが、コーディネートを組んで装うことだけではなく、生産背景も含めて一着を着ることを味わう楽しさも知ってほしいと思ったことです。わたし自身がそういう情報をもっと早く知りたかったなと感じていたので、共有できることは共有したいと感じていました。

日本は服自給率1%!? エシカルファッションについて考える

 

──今着ている洋服が、どこでどのように作られているか詳しくわからない人がほとんどだと思います。改めてどのように洋服が作られているのか教えてください。

 

鎌田 コットンのTシャツを例にご紹介すると、素材となるコットン栽培から始まります。広大な農地でコットンを栽培し、収穫。コットンから糸を紡いで、生地を作ります。栽培には、Tシャツ1枚で約2900リットルの水が必要とも言われています。地域によっては、周辺の湖の水が枯れてしまった……なんてこともあるんです。

生地にする過程で染色するものもありますよね。デザインに合わせて生地を断裁、縫製し、やっと1枚のTシャツが完成します。みなさんがよく目にする「MADE IN 〇〇〇〇」は、縫製した国名が記されています。MADE IN JAPANと書いてある洋服でも、コットン栽培はインド、生地を織るのは中国などいろんな国を経由し、日本で縫製しているものも含まれているんです。

収穫したコットン

──素材から日本で作られたものがMADE IN JAPANなわけではないのですね。

 

鎌田 日本で販売されている洋服の99%は海外で作られています。日本における服の自給率はたった1%ほど。さまざまな国、人の手を渡ってTシャツが作られていることを知らない人がほとんどでしょう。この件については、日本国内の業界関係者も課題に感じている部分です。素材から縫製まで工程が細分化され、サプライチェーンをトレースするのが本当に大変で……。洋服のブランド一社だけが頑張ってなんとかなる問題ではないので、仕組み作りから取り組む必要があると考えています。

 

──最近よく耳にする「エシカルファッション」も、そうしたサプライチェーンが明確になっていることが求められているように感じます。改めてエシカルファッションとは何か教えてください。

 

鎌田 エシカルファッションとは、直訳すると「倫理的なファッション」のこと。服が店頭に並ぶまでの過程で、洋服を作る人、素材となる植物や動物、またそれを栽培・飼育する人たちや環境に過剰な負担がかかっていないかを考えて、洋服を選ぶ行為や態度を指します。難しく思われがちなのですが、「買いすぎてない?」「どうしてこんなに安く服が作れるの?」「手放す時はどうする?」など、洋服が届くまで、そして手放した後のことまで考えてファッションを楽しむことと言えるでしょう。

──買う時だけでなく、手放した後も大切なのですね。着古した服は捨てる以外にどんな手放し方がありますか?

 

鎌田 破棄以外には、リユース、リサイクル、寄付などの方法があります。環境省の調査(2020年度)だと、日本の衣類品リサイクル率は約15%(年間12.3万トン)。回収された洋服は、細かく裁断され自動車の内装材などに使われたり、繊維に戻して新しく服を生み出したりします。世界的にみると、ドイツのリサイクル率は60%ほどと高いですが、それ以外の先進国では20%前後とあまり日本とは状況が変わりません。

リユースについては、衣類の回収BOXの設置や、古着屋さんやメルカリで「売る」ことを前提に洋服を購入する人が増えています。洋服を作る技術は発展しましたが、手放す技術についてはまだまだこれからですね。

寄付については、アフリカなど古着の輸入を禁止した国もあるんです。日本のように冬がある寒い地域の衣料品を、常に気温が高いアフリカやアジアに届けても結局ゴミになっていることもあります。もちろんきちんと仕分けして、欲しい人に欲しい洋服を届けている団体もありますが、砂漠に洋服が捨てられていたり、アフリカの海が古着だらけになっていたり、本末転倒なことが起こっているのも事実です。

児童労働、厳しいノルマ……急成長するファッション業界と途上国が抱える課題とは?

──全体的に作りすぎな気が……。なんとか循環できないのでしょうか?

 

鎌田 ファッション産業が急成長したのはここ20年ほどのことです。2000年から2015年の間に、全世界で生産される洋服の量が2倍になったとも言われています。

北九州にある株式会社JEPLAN(旧・日本環境設計)さんは、服から服の水平リサイクルを実施しています。ポリエステル素材100%の洋服から成分を分解し、もう一度ポリエステルの素材にして、洋服を作る技術を持っています。これは世界的にも重要な技術です。

 

──ペットボトルから作られた衣類は見たことがありますが、服から服を作れるとは!

 

鎌田 何度でもリサイクルできるので、資源の枯渇や生産過程でのCO2排出も抑えることができます。ただ、この世の中にある洋服の多くが「混合素材」。例えば、ポリエステル50%、ナイロン30%、コットン20%など複数の素材を使っていることが多いです。今後それらを分けて、それぞれをリサイクルできる技術が発明されれば、「服から服」の水平リサイクルがさらに加速するでしょう。

──これまで洋服を購入するときに「素材」を意識していませんでした。

 

鎌田「都市鉱山」があるように、ご家庭のタンスには「都市コットン」「都市ポリエステル」もいっぱいあるはず! 国内で今まで廃棄されていた服を素材として集められれば、素材調達から製造販売、リサイクルまで国内にある素材だけでグルグル洋服の循環ができるかもしれません。

 

──実現したら素晴らしい取り組みになりますね。手放した後のことも考えるとよりエシカルファッションを楽しめる気がしてきました。しかし現状、日本は99%が海外生産された洋服に頼らざるを得ません。そんななかで日本の洋服のサプライチェーンとして繋がっている途上国が抱える課題について教えていただけますか?

 

鎌田 児童労働や強制労働の課題があります。ファッションだけではないですが、農業で生計を立てるために、家族総出で働かないと利益を得ることができない国もあります。

また裁縫工場の労働環境も改善されていく必要があります。パーツごとに担当が決められていることもあり、「襟担当」になったら毎日襟のミシンがけのみ行うことになり、服全体を作る技術を身につけることができません。時間内に何枚とノルマがあったり、終わるまでは外から鍵をかけられて、トイレに行くことも禁止されている工場があったという報告もあります。バングラデシュの「ラナプラザ」の事故では違法に増築された工場が倒壊し、多くの作業員が命を落としてしまいました。さらに、不当解雇や賃金未払いなどもあるので、発注元の企業と工場が連携して、立場の弱い労働者が声を届けられる仕組みも必要だと感じています。

生産現場を訪問した際の様子

──なんと……。ブランドの方たちは、その現状をご存知なのですか?

 

鎌田 サプライチェーンが明確になっていない場合もあるので、一概には言えません。でも、ブランドが設定した納期に無理があり、立場の弱い従業員たちにしわ寄せがかかってしまったこともあるでしょう。

また日本では、1990年以降、服の価格が下がっています。消費者である私たちが、安さを求めた結果、市場では価格競争が激しくなり、生産工程に無理が生じているとも言えますよね。

小さい違和感を受け流さずに、知ろうとするのが大きな一歩に

──消費者である私たちは、何から始めたらいいのでしょうか?

 

鎌田 今回は「エシカルファッション」がテーマですが、服に興味がなければ自分が普段使っている家電や家具、食事、なんでもいいので好きなものが「どう作られているのか」を知ることからだと思います。

私もベランダでキュウリを育てたのですが、めちゃくちゃ味が薄くて(笑)、美味しくなかったんです。1本作るまでの苦労がわかるからスーパーで安く販売されていると「1本48円でいいんですか?」って感じます(笑)。ちょっとでも作り手を経験すれば、価格の価値も変わります。

──興味のあるものから作り方を知るのは大事ですね。

 

鎌田 洋服に興味のある方が簡単にできるのは、今持っている服をきれいに着続けること。同じ服を2年着るだけで温室効果ガスを24%減少させることもできます。靴を磨いたり、洋服にアイロンをかけたり、手洗いしたり、洋服を丁寧に扱うだけでもなんとなく気持ちが良くて肯定感が上がりますし、環境への負荷も減らすことができます。

また「この服ってどうやって作られているんだろう?」と疑問に感じたらショップに聞いてみるのがおすすめです。小さい違和感を受け流さず、知ろうと行動することが大きな一歩に繋がることもありますから。

鎌田さんが手掛ける「服のたね」での発芽の様子

──鎌田さんが描くファッション業界の未来についても教えてください。

 

鎌田 低価格にデザイン性のある服を購入できるようになってファッションの楽しみが広がったと捉えることもできますが、それによって生まれてしまった課題もあると思います。これからはその課題をブランド・商社・繊維メーカー・販売店・そして消費者が一緒になって向き合って良くしていけるような仕組みが必要だと思っています。

あとは、新品屋さん・古着屋さん・お直し屋さんがブランドごとに同じ価値で提供されるようになると理想的ですよね。作って売るところまでではなく、お直ししたりアップサイクルしたりするところがブランドに求められる仕事の範囲になっていくのではないかと感じています。

 

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撮影/映美

145兆円経済を狙え! ナイジェリアが仮想通貨に特化した「バーチャル経済特区」を設立

アフリカで最大の人口を誇るナイジェリア。同国はデジタル経済への大転換を進めていますが、9月3日(現地時間)、同国の輸出加工区庁(Nigeria Export Processing Zones Authority、略NEPZA)が西アフリカ初の仮想通貨に特化した経済特区「バーチャル・フリー・ゾーン(Virtual Free Zone)」を設立すると発表しました。

デジタル経済大国へまっしぐら?

 

同庁はこの経済特区計画で、大手暗号通貨取引所のバイナンス(Binance)と、テクノロジーを活用した都市革新に取り組むタレント・シティ(Talent City)と提携する予定。これら3者はまだ協議中の模様ですが、この計画によってナイジェリアではどのようなビジネス展開が可能となるのでしょうか?

 

NEPZAでマネージング・ディレクターを務めるアデソジ・アデスグバ(Adesoji Adesugba)氏は、「バーチャル・フリー・ゾーンを生み出すことで、1兆ドル(約145兆円※)近くのお金が動くブロックチェーンやデジタル経済を活用したい」と述べています。また、この計画の枠組みはドバイのバーチャル・フリー・ゾーンと似たものになるそうですが、現時点で詳細は明かされていません。

※1ドル=約144.7円で換算(2022年9月28日現在)

 

アフリカのメディア・Techpoint Africa(TA)によれば、バーチャル・フリー・ゾーンは、関税を撤廃し、製造業や輸出入を促進する自由貿易地域(FTZ)のデジタル版となる可能性があるとのこと。FTZを仮想通貨に適応すれば、メタバースやモバイルアプリ、ウェブサービスなどのデジタル製品を、規制を受けずに取引することができるデジタル経済空間となるかもしれません。

 

しかしその一方、TAは、今回の発表がただの注目集めだった可能性があるとも指摘。TAが調べたところ、バイナンスはドバイと協定を結んでいるものの、これはバーチャル・フリー・ゾーンと関係がなかったそうです。バイナンスとDubai World Trade Centre Authorityの協定の目的は「グローバルな仮想資産の産業ハブを設立する」というもの。同社とナイジェリアの間でも同様の協定が結ばれた可能性は考えられますが……。

 

謎に包まれたナイジェリアのバーチャル・フリー・ゾーン計画。同国は2021年10月にデジタル通貨の「eナイラ」を導入するなど、暗号通貨の普及が急速に進んでいますが、この経済特区は果たして実現するのでしょうか? 今後の展開に期待です。

 

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インドが「ソバの生産」に注力! 不透明感が増す日本のそば事情を変えるか?

2022年9月、インド東部のメーガーラヤ州にソバの実を生産する農家が集い、そば粉から作ったパンやスイーツなどが披露されるなど、そばをテーマにした一大イベント「メーガーラヤ・ソバ・グローバルショーケース2022(Meghalaya Buckwheat Global Showcase 2022)」が開かれ、日本の関係者も招かれました。一体なぜメーガーラヤ州は、ソバの実の生産に注力しているのでしょうか?

日本とインドの間で”細くて長い”貿易になる?

 

そば粉の原料になるソバの実の生産にメーガーラヤ州の農家が注力している理由の1つは、そばの高い健康効果。食後の血糖値の上昇度を示すグリセミック指数(GI)というものがあり、糖質が多くて食物繊維の少ない食品はGI値が高く、血糖値を一気に上昇させて、糖尿病や肥満を起こす原因になると考えられています。GI値が70以上は高GI食品に、56〜69の値だと中GI食品になりますが、そばのGI値は55前後。糖分を穏やかに吸収しながら、糖尿病や肥満などを防ぐ低GI食品なのです。また、そばは繊維質が豊富で、良質なタンパク質を含んでいるため、栄養価が高く、栄養バランスに優れた「スーパーフード」の1つとされています。

 

インドは、都市部の約28%の人が糖尿病または糖尿病予備軍と言われるほどの糖尿病大国。そこで、小麦や米をソバに切り替えて、健康的な生活を送ろうという動きが出てきているのです。

 

もう1つの理由として、ソバの実の需要が世界的に増加していることが挙げられるでしょう。インドのMarket Data Forecastによると、2022年における世界のソバの実市場規模は14億ドル(約2040億円※)。2027年までの今後5年間で、年平均成長率2.9%で伸びていくと見られています。2020年の国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、世界のソバの実の生産量は約181万t。生産量の多い上位国はロシア(89.2万t)、 中国(50.4万t)、ウクライナ(9.7万t)です。生産量で世界第6位の日本も7~8割程度を輸入に頼っており、ロシアや中国、アメリカから多くを輸入している状況。最近では、米中摩擦の影響で中国が減産するなどしたため、ソバの実の価格は高騰していますが、上述した健康的な側面から、そばの需要は世界的に伸びていくと予測されているのです。

※1ドル=約145.7円で換算(2022年9月22日現在)

 

インドのソバ輸出に日本も期待

比較的栽培しやすいと言われるソバ。メーガーラヤ州ではここ3年間で、理想的な植え付け時期を把握するために、何度もソバ栽培を試みるなどして、地域での最適な農法を探ってきました。同州はようやくその農法を確立しつつあるようで、少しずつ栽培面積を拡大していく段階に至っていると見られています。

 

それに加えて、メーガーラヤ州では日本が道路建設プロジェクトを支援するなどしてきた歴史があり、昔から日本とつながりのある地域。そのため、そばの輸出先の1つとして日本に熱い視線を送っているようです。今回のイベントに出席した在インド日本国大使館の北郷恭子公使は「そばは日本文化の1つであり、日本のソバ栽培の専門家たちは技術移転という形で、ソバ栽培技術の普及に取り組んでいます」とコメント。日本もインドに期待を寄せているようです。

 

最近の日本では、2021年に中国産のそば粉が値上げしたうえ、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻によって、ロシア産のソバの実の供給が止まる可能性も取り沙汰されており、そばを巡る状況は不透明感を増しています。今後インドは、日本にとって重要なソバの実の生産国になるかもしれません。

 

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石油はGDPの1割未満! 石油からICTに大転換するナイジェリア経済

1956年に初めて油田の存在が確認されたナイジェリア。これまで石油の生産は同国の主要産業でした。しかし近年、ナイジェリアの産業に大きな変化が生まれており、石油の役割が縮小している模様。代わりに、これから同国の経済を牽引するのは、情報通信技術(ICT)になる可能性が高まっています。

デジタル化が進むナイジェリアの経済

 

アフリカのテクノロジー系メディア・TechCabalは9月1日、2022年第2四半期におけるナイジェリアの国内総生産(GDP)で、ICTの占める割合が18.44%になったと報道。一方、石油産業のGDP構成比率は6.33%に低下し、非石油部門が93.67%を占めるようになりました。

 

ナイジェリアは、2021年のGDPが約4408億ドル(世界銀行。約63.4 兆円※)とアフリカ最大の経済国です。原油の発見は同国に新しい富をもたらした反面、天然資源が見つかったことによって、国の産業が弱体化するという「オランダ病」も引き起こし、ナイジェリアは多くの消費財を輸入に頼るようになりました。そのような経済構造からの脱却を図るため、ナイジェリア政府が進めているのが、ICTを中心とした経済の多角化。例えば、2017年に同国は、2020年までにICT関連産業を成長させることで、250万人の雇用創出とGDPの20%増加を目指す「Nigerian ICT Roadmap 2017-2020」プロジェクトを打ち立てました。また、国連が定める「世界開発情報の日」にあたる10月24日を「デジタル・ナイジェリア・デー」と制定していることからも、ナイジェリアのデジタル経済への強い意志が感じられるでしょう。

※1ドル=約144円で換算(2022年9月26日現在)

 

デジタル経済への原動力の1つが人口。ナイジェリアの人口は2億1000万人で、そのうちの23%が、教養と経済力を持つ中間層。同国の人口は2050年には4億人を超える見通しです。同国の通信デジタル経済省は『NATIONAL DIGITAL ECONOMY POLICY AND STRATEGY (2020-30): For A DIGITAL NIGERIA』で、人口が多く、デジタル経済が発展している国の例として中国、インド、アメリカを挙げており、人口の多さはナイジェリアがデジタル経済の発展を持続するうえで強みになると論じています。

 

また、ナイジェリアのICT産業では、スタートアップの存在も見落とせません。大企業や大学の研究機関、公的機関など、産官学が連携しながら、同国最大の都市・ラゴスを中心にスタートアップエコシステムを形成しています。ナイジェリアには現在、750を超えるスタートアップがあり、2021年に調達した資金の合計額は3億700万ドルに到達。スタートアップエコシステムについて調査するStartupBlinkによると、同国のスタートアップエコシステムの評価は世界で61位となっていますが、西アフリカ地域では1位。アフリカ大陸においてナイジェリアのエコシステムは高水準に達していると評価されています。

 

世界的に注目を集めるナイジェリアのスタートアップの中には、例えばOrda社があります。2022年1月に11万ドルを調達した同社は、レストラン向けの注文管理・決済などを管理するプラットフォームを展開。他にも、外食産業事業者と農家をマッチングさせるサービスを提供するVendease社など、フードテック関連企業は目覚ましい発展を遂げるようになりました。このようなスタートアップがロールモデルになりながら、ナイジェリアのICT産業を引っ張っているように見えます。

 

ナイジェリアのデジタル経済の成長には、このような背景がありますが、GDPの構成比でICTが石油を上回ったことについて、イサ・パンタミ通信・デジタル経済大臣は「今回の結果は、デジタル経済を推進してきた政府の取り組みと一致している」とコメント。ナイジェリアのデジタル経済推進の成果は、目に見える形で表れてきているのかもしれません。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

ガーナにアグリテックの拠点が誕生! アフリカ全体を巻き込む「timbuktoo」とは!?

 

UNDP(国連開発計画)が主導して進めている「timbuktoo(ティンブクトゥ)」というプロジェクトをご存じでしょうか。これは、さまざまな産業でICTを活用することにより、アフリカ大陸の成長と貧困からの脱却を目指す目的で2021年に発足したイノベーションイニシアチブ。

 

具体的には、アクラ、ナイロビ、ケープタウン、ラゴス、ダカール、キガリ、カサブランカ、カイロなど、スタートアップの拠点なりうるアフリカの都市8ヵ所に、民間主導となるハブ(施設)を設立。ベンチャービルダーやベンチャーファンドへの投資を通して、若手起業家の育成・支援を実施します。各ハブは、フィンテック、ヘルステック、グリーンテック、クリエイティブ、トレードテック、ロジスティック、スマートシティとモビリティ、ツーリズムテックなど、さまざまな分野に特化すると言います。

 

投資される資金は、官民あわせて今後10年間で約10億ドル(約1400億円)。1000社以上のスタートアップの育成や、1億人以上の人々の生活改善、環境改善などを目標に掲げており、投資額の10倍となる100億ドル(約1兆4000億円)以上の経済効果を目指しています。

 

ガーナ・アクラに設置されるハブでは「アグリテック」に注力

そしてこのたび、ガーナのラバディビーチホテルで開催されたイベントで、アグリテックに特化したイノベーションハブを首都アクラに設置することが発表されました。

 

「私たちは雇用を創出する必要があります。そのためには、まず起業家を育てることが重要。DXを活用してイノベーションと雇用創出を実現したい」とガーナ共和国副大統領のMahamudu Bawumia氏は期待を寄せます。

 

一方、UNDPガーナ常駐代表のAngela Lusigi氏もこうコメントしました。

 

「timbuktooは “未来志向のスマートなアフリカ”というUNDPのビジョンに沿った新しいアプローチ。民間と協力し、テクノロジーとイノベーションを活用して駆使して未来を拓くという、大胆で新しい取り組みを誇りに思います」

 

またtimbuktooでは、アフリカの低所得国10カ国にある大学に、学生たちのイノベーションとデザイン思考を促進するための研究施設(UniPods)の設立を予定。2022年末までに運用が開始され、さらに2023年までには18カ国にまで拡大する予定だといいます。

 

官民学が連携することで、ガーナをはじめアフリカのさまざまな国で、ICTによる経済成長を図ろうとしているtimbuktoo。今後、アフリカ地域全体のさらなる成長を促すことが大いに期待されています。

 

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日本とは違うバングラデシュの「薬局」。ヘルスケア市場の課題解決の一手「リスクアセスメントシステム」について

南アジアの親日国としても知られているバングラデシュ。人口1億6千万人以上、経済成長率は近年7%台をキープし、首都ダッカは人口2000万人を超える巨大都市へと成長しています。年々上昇する都市人口率が50%を超えるのは2040年頃と推定され、ますます注目が高まる開発途上国のひとつです。(※)

※医療国際展開カントリーレポート(経済産業省:2021年)

 

そんなバングラデシュですが、医療体制や保険制度については未整備な部分があります。経済成長と人口拡大に比して、医療分野の開発不足が目立っています。なかでも「薬局」の存在感は重要で、国民のプライマリーケアの担い手となっており、日本での「薬局」とは異なる機能を担っているそうです。

 

本記事では、ICTを活用した疾患の早期発見システムを開発し、バングラデシュの薬局への導入を目指す医療系スタートアップの取り組みをご紹介します。今回の取り組みではビジネス発案者兼事業責任者として、バングラデシュにおける臨床検査センター・クリニック運営やAI・ICTに基づく医療システム開発等を行うmiup社の横川祐太郎氏が参画しています。そんなmiup社とともに調査を担当したアイ・シー・ネット株式会社の小泉太樹さんから、最新バングラデシュの薬局事情と、新しい試みによるビジネス分野での可能性について伺いました。

 

お話を聞いた人

小泉太樹氏

バーミンガム大学大学院にて国際開発学修士号を取得後、2017年にアイ・シー・ネット株式会社に入社。現在はビジネスコンサルティング事業部で、保健医療分野における日本企業の新興国進出の支援やJICAプロジェクトに従事している。

 

●バングラデシュ人民共和国/主要産業は衣料品・縫製産業で、輸出額は世界3位(2020年時点)を誇る。1971年にパキスタンから独立した際、日本が諸外国に先駆けて国家承認をしたことから、親日国としても知られている。現在でも友好関係は続いており、「日本企業で働きたい」と考えている若者も多い。

データ出典:JETRO、経済産業省、アイ・シー・ネット調査報告などから編集部が独自集計したものになります

 

バングラデシュの薬局の様子

 

バングラデシュ薬局の現状と市場調査の背景

――まずは、バングラディジュの医療体制の現状と「薬局」の役割について教えていただけますか?

バングラデシュの医師の数は、日本の4分の1以下、薬剤師も40分の1以下のため、全体的な人員不足は大きな課題として挙げられます。また住んでいる地域によって所得の差があるため、全国民が平等に医療を受けられていません。ももちろん日本のような公的保険制度はないため、医療費負担が著しい重荷になっています。気軽に病院に行くことができないというのが、日本との大きな違いといえるでしょう。

 

日本の場合「ちょっと具合が悪い」と思えば、どこに住んでいても比較的簡単に医療機関を受診できます。また保険制度によって、治療費も抑えられているので「何かあれば病院に行く」という習慣もついていますよね。

 

バングラデシュの場合「ちょっと具合が悪い」と思えば、伝統的な療法や、薬局で薬を購入して治す選択が一般的です。とくに農村エリアでは、病院に行くまでの交通費や時間もかかるので、近所の薬局に頼る傾向があります。病院が近くにない、医療を受けるお金がないなど、いくつかの課題が重なり合っているのがバングラデシュの医療体制の現状です。

 

農村エリアの薬局

 

――人員や施設の不足、貧富の差、医療機関までの物理的距離、インフラ整備と一筋縄では解決できない状況なんですね。日本の場合、処方箋をもらってから薬局に行く流れが一般的ですが、バングラデシュの人々は「まずは、薬局」という考え方なのでしょうか?

 

もちろん医療機関からの処方箋で薬を購入している人もいます。ただ、農村エリアになると、処方箋を持っている人はわずか2割程度で、残りの8割は自分で薬を決めて購入したり、薬剤師や薬局スタッフに医療相談に来ている状況です。「まずは、薬局」という考え方が浸透しているのだと思います。

 

バングラデシュは医療機関・人材が不足している一方で、薬局の数は約14万と日本の2倍以上です。薬局は容易にアクセスでき、コミュニティに深く根差していることから、人々に広く受け入れられています。ただしここにちょっと課題がありまして……。正確な割合や数値に関する統計データは存在しませんが、薬局の中には国の認可(DGDA※)を受けていない薬局も多く存在しているのです。

※ DGDA:医薬品管理総局(Directorate. General of Drug Administration)

 

基本的にはDGDAが認可した薬局のみが営業できるのですが、無許可で営業している薬局もありまして……。患者さん側からは、許可の有無を見分けることが難しいので、いつも利用している薬局がじつは無許可だったなんてこともありますね。一応、ウェブサイトなどではDGDAの許可を受けた薬局一覧は掲載されているのですが、わざわざ調べている人はごくわずかでしょう。

 

 

――無許可ってことは、そこにいる薬剤師さんも資格を所有していない可能性があると……。

薬局の中には資格を持った薬剤師がいないことや、本来処方箋が必要な薬が販売されていることもあります。このような背景もあり、バングラデシュでは、抗生物質の過剰使用や多剤併用などの問題が頻繁に報告されています。患者さんの立場で考えれば、安心して薬を購入できる薬局を選びたいですよね。

 

例えば、体調が悪くて薬局に医療相談をしても不適切な薬を処方されてしまうケースもあります。また早めに医療機関を受診していれば治せていた病気も、薬局で見逃されているケースも。なんとかこれらの課題を解決できないかと開発したのが、「リスクアセスメントシステム」です。

 

薬局から医療機関へ繋ぐ「リスクアセスメントシステム」

――リスクアセスメントシステムについて、詳しく教えていただけますか?

このサービスはスマートフォンを使った、健康状態を判別するシステムです。

 

非医療従事者でも、疾患の疑われる患者さんのパーソナルデータを用いて簡潔かつ安価にリスクレベルを判定できます。具体的には、薬局スタッフが患者から体調を聞き取り、スマートフォンのアプリ上で入力すると、症状から関連性のある病名の表示や病気のリスクが高い患者さんに対して近隣の医療機関を紹介できる仕組みになっています。

 

「この病気です」と断定することは医療行為なので薬局ではできません。あくまで参考として活用いただくシステムですが、患者さんは無料で使っていただくことができるモデルとなっています。

 

――患者さんが無料というのは安心ですね。病気のリスクも知れるので、薬局中心のバングラデシュにとってはありがたい仕組みだと感じました。ビジネスモデルはどのように考えているのでしょうか?

 

薬局と紹介先である医療機関から利用料をもらう形を想定しています。将来的にはバングラデシュ全土に展開できればいいですね。2021年7月から現地調査を開始したのですが、薬局や医療機関に向けたリスクアセスメントシステムの説明会も実施しました。そこでは、今までにない良い仕組みだと好評をいただけています。思っていた以上に高い期待値を実感でき、私たちにとっても実りの多い調査となりました。

 

――システム自体は、誰でも簡単に使えるようなものなのでしょうか?

はい、医師など専門知識を持っていない方でも使えるようなシステムです。

 

薬局スタッフが端末操作してシステムに入力している様子

 

リスクアセスメントシステムの入力画面

 

調査期間中に農村エリアの薬局で、テスト版を使っていただきました。実際に使っていただいた方の中には、受診するまでに至ったNCDs(※)患者さんもいます。これまで見逃されていた病気の早期発見にもつなげることができ、サービスの本格スタートへのモチベーションも上がりましたね。

※NCDs (Noncommunicable diseases)非感染性疾患:循環器疾患、がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病などの「感染性ではない」疾患に対する総称。開発途上国において経済成長にともない増加していくことが多い。

 

薬局向けの教育と、利用率の向上が課題

――実際に使ってもらうだけでなく、受診につながったとは! 素晴らしいですね。今回の調査で課題になった部分はどんなところでしょうか?

利用率の向上は課題だと感じました。今回のテスト版の利用率は、来店患者全体の4%未満でした。増加するNCDsに対応するためにはより多くの患者さんに利用していただくことが重要となります。

 

リスクアセスメントシステムが今までにないサービスなので、使い方がわからないことが大きな要因かもしれません。薬局を訪れる患者の約8割は処方箋を持っていない人たちなので、システムを使うメリットを理解してもらうことで、まだまだ利用者を伸ばすことができると考えています。

 

薬局への周知・教育の必要性も実感しました。「〇〇な患者さんが来たら、〇〇とご案内してください」など簡単なマニュアルがあると良いかも知れませんね。また、利用率の向上のためには、紹介できる医療機関を増やす、薬局の業務効率化や利益向上に結び付ける等、薬局が自ら使いたくなるシステムにしていくことも重要です。調査結果をふまえて、さらに使いやすいサービスになるよう継続的な取り組みを行っています。

 

――計画では、2022年度中の導入を予定されているとのことですが、進捗状況はいかがですか?

2022年度中は実証調査の拡大や販売体制の準備を進め、2023年前期にはシステムの販売を開始し、後期には全国展開を予定しています。

 

将来的には、他の途上国への横展開も検討しています。まだまだ世界に目を向ければ、解決しなければいけない医療課題はたくさんあります。普及が期待できるバングラデシュで実績を残し、他の国でも活かせればと考えています。

 

今回は薬局を中心としたシステムの提供ですが、日本の医療・ヘルスケア企業さんと連携して事業拡大することもできると考えています。バングラデシュでの実績を共有し、日系企業の海外展開をお手伝いできるとさらに可能性は広がっていくと感じました。

 

薬局での血圧測定の様子。薬局では血圧・血糖値測定など簡単な健康チェックが行われている

 

--日本国内のヘルスケア事業も盛り上がっているところなので、アイデアを掛け合わせて途上国医療を支えるサービスが提供できそうですね。ちなみに、今回の調査では農村エリアでテスト版が実施されていましたが、都市部での導入も予定していますか?

都市部の場合、病院内や隣接した場所にも薬局があります。そのため、来店患者はすぐに医師に診断してもらうことが可能です。農村エリアと同じ仕組みでシステムを導入するのではなく、都市部には都市部のニーズにマッチしたシステムが必要だと実感しています。

 

バングラデシュの薬局は、医療機関まで距離がある「農村型」・病院と薬局が密接している「都市型」・農村と都市の間にある「郊外型」の3つに分けられます。全国展開に向けて、それぞれの特徴に合わせて調整されたリスクアセスメントシステムを提供していく予定です。

 

予防対策に貢献し、バングラデシュの医療体制を支えたい

――最後に、プロジェクトの展望・目標を教えてください。

一昔前のバングラデシュでは感染症が多かったのですが、近年の経済成長にともなって糖尿病などの生活習慣病が増えています。まだまだ医師の数や医療施設が少ないため、医療やヘルスケアのニーズ拡大が予想されています。

 

政府としても公的セクターだけではまかないきれない部分を民間セクターと協業したいと考えています。薬局へのリスクアセスメントシステム導入を通じてNCDs予防対策に貢献していきたいですね。私自身もこのプロジェクトへのやりがいを感じながら、miup社横川氏と一緒に目標に向かって伴走していきたいと思っています。

 

――リスクアセスメントシステムをきっかけに、途上国の医療体制の拡大や充実に期待したいですね。

そうですね。バングラデシュは10代が多い若い国で、まだまだポテンシャルを秘めた国です。ビジネスチャンスの観点から見ても魅力が十分にあると思います。まずはバングラデシュで実績をつくり、将来的には開発途上国全体の医療体制をサポートできるように努めていきたいです。

 

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取材・執筆/つるたちかこ

日本のゴマ消費40%がナイジェリア産! 日・ナイジェリア貿易額が年1400億円に

2022年8月にナイジェリアの首都アブジャで開催された第2回日本・ナイジェリアビジネス促進協議会において、松永一義駐ナイジェリア日本大使が、両国間の年間貿易額が10億ドル(約1430億円※)に達したことを発表しました。

※1ドル=約143.3円で換算(2022年9月16日現在)

↑ホットになりつつある日本とナイジェリアの貿易

 

ナイジェリアの対日輸出品の代表的なものは石油やLNG(液化天然ガス)ですが、あまり知られていない物としてゴマがあります。ナイジェリアの金融情報サイト・Nairametricsによれば、日本で消費されるゴマの40%はナイジェリア産だ、と松永大使が話したとのこと。近年ナイジェリアのゴマの輸出量は増加しており、同国の輸出の22.4%を占めるようになりました。

 

視野を少し広げると、この傾向は同国の農作物の輸出でも見られ、その額は2020年の3215億ナイラ(約1075億円※)から、2021年には5049億ナイラ(約1690億円)に拡大。全体的に見れば、同国の対外貿易は2021年第1四半期(1月〜3月)の11.7兆ナイラ(約3.9兆円)から2022年の同期には13兆ナイラ(約4.3兆円)に成長しています。しかし、その主な要因は農作物というより、原油の輸出の増加にある模様。

※1ナイラ=約0.33円で換算(2022年9月16日現在)

 

一方、日本の対ナイジェリアの輸出品目としては、機械や自動車が挙げられます。松永大使によると、同国には現在47社の日本企業が進出しているとのこと。ナイジェリア投資促進委員会(NIPC)のSaratu Umar事務局長兼CEOは、「私たちは日本大使館と良好な関係を維持しており、今後も協力しながら、ナイジェリアでビジネスを行う全ての日本企業を援助するつもりだ」と話しています。

 

ナイジェリアは現在、海外の投資家が政府機関と協力しながら、同国への投資に関する問題を解決できる環境を構築しつつあり、この取り組みは日本・ナイジェリア間のビジネスをより一層促進するかもしれません。

 

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36億人に安全なトイレを! ゲイツ財団とサムスンが新しいトイレの試作品を発表

世界最大の慈善基金団体であるビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団(以下、ゲイツ財団)は、途上国の衛生問題に取り組むために「Reinvent the Toilet Challenge」と呼ばれるプロジェクトを2011年に立ち上げました。その使命は、排泄物を媒介とした病原体から人々を守ること。このプロジェクトではトイレの再発明に取り組んでおり、先日、その試作品が誕生しました。

世界を救うトイレを作ろう

 

2022年8月、このプログラムに協力している韓国のテクノロジー企業・サムスン電子が、新しいトイレの試作品を開発したと発表しました。サムスン電子の研究開発部門にあたるサムスン電子総合技術院は、2019年に新しいトイレの開発においてゲイツ財団と協力することに合意し、3年間の開発期間を経て、今回の試作品発表にこぎつけたのです。

 

このプロジェクトで公開されたトイレは、熱処理技術やバイオプロセスの技術を搭載し、人の尿や便に含まれる病原体を死滅させ、排水や排出される固形物を安全な状態にできます。トイレを使った後に出る排水は安全で再利用が可能になり、便などの固形物は脱水・乾燥後に焼却して処分できるとのこと。試作品で実際にテストも行われ、その試験も成功しています。

↑サムスン電子が開発した新しいトイレの試作品

 

サムスン電子は、この新しいトイレがエネルギー効率に優れ、排水処理機能もあり、途上国や先進国の家庭向けに商品化するためにゲイツ財団が設定した条件を満たしていると述べています。ゲイツ財団は、上下水道が整備されていない環境下でも、電力をほとんど使用しないで衛生的に使うことができるトイレを求めており、そのために、世界中の研究者に助成金を与え、さまざまなプロジェクトを支援してきました。

 

世界保健機関(WHO)とユニセフによると、安全ではないトイレ設備の使用を余儀なくされている人は世界で約36億人いるとのこと。トイレの衛生問題や安全な水を利用することができないために、多くの幼い子どもたちが下痢にかかり、5歳未満の子どもが毎年50万人も命を落としているのです。

 

サムスン電子は、このトイレに関する特許を途上国に提供する予定であると同時に、量産化に向けた技術革新を進めるそう。途上国への普及に向けて、同社の踏ん張りどころは続きそうですが、「トイレ先進国」と言われる日本のメーカーが貢献できることも大いにありそうです。

 

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研修時間が大幅にダウン! 途上国のリカレント教育におけるメタバースの可能性

人間は社会人になっても、さまざまな形で学ぶことができる。そのような意味を広義に持つリカレント教育は、国際開発でも重要な概念の1つです。近年では、企業内教育を含めたリカレント教育にメタバースを導入する動きが活発になっていますが、このトレンドは途上国で急速に発展するかもしれません。

没入すれば、可能性は無限大

 

昨今、世界中で注目を集めているメタバース。この用語は「超〜」や「〜より包括的な」を意味する接頭辞の「メタ(meta-)」と、「宇宙」を表す「ユニバース(universe)」を組み合わせた造語で、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などを含めたXR(クロスリアリティ)と現実が融合した世界を指します。カナダのリサーチ企業・Emergen Researchによると、2021年における世界のメタバースの市場規模は約630億ドル(9兆円以上※)で、2030年までに毎年43.3%のスピードで急成長していくとのこと。あらゆる業界が熱い視線を注いでいる分野ですが、別の資料によれば、VR教育の市場規模は2026年までに約1300万ドル(約18億7000万円)に達する見込み。

※1ドル=約143.6円で換算(2022年9月8日現在)

 

メタバースのような没入型テクノロジーの最も魅力的な用途は、教育やトレーニングにあると言われています。

 

メリーランド大学によると、ユーザーはコンピュータ画面上よりも仮想現実(VR)で提示されたほうが、より効果的に情報を保持することができるそうです。また、プライスウォーターハウスクーパースのレポートによると、従来の対面式教室やオンライントレーニングに比べ、VRを使用したソフトスキルのトレーニングは4倍の速さで従業員を訓練することができたと言います。

 

VRの中で被験者は対象物を、位置や自分との距離、周りのものとの関係を認識しながら、視覚的に覚えることができるようになります。例えば、「自分が立っている場所から15メートル程離れた所に建物があり、その2階の窓際に人の姿が見える。それは〇〇さんだった」という具合に、より細かく多くの情報を視覚から得られるのです。そのため、メリーランド大学の実験では、VRを使った被験者の記憶合致の率は8.8%上昇という結果が得られたそうです。

 

ビジネスの研修にもメタバースは良い効果を与えている様子。米国の小売大手・ウォルマートが2017年に、従業員の教育プログラム用に1万7000個のVRヘッドセットを導入した事例からも分かる通り、大規模な従業員を抱える企業の導入事例が増えています。世界最大の会計事務所の1つPWCが、企業研修におけるVRの機能について調べた結果、研修の参加者からは「VRに没入するため集中力が増すほか、学んだことをVRの中で気軽に練習することができるため、自信がつく」といった意見が多数挙がったそうです。さらに同社は、VRの研修は規模の経済性によって、参加者が増えれば増えるほど費用が下がるとも述べています。

 

インフラが十分でないからこそ

そんなメタバースは、まだ証拠は少ないものの、先進国以上に途上国で活用される可能性があります。

 

メタバースへの期待は途上国で最も高いことが調査で判明しており、教育への活用についても大きな需要がありそうです。JICAが行った調査によると、フィジーでは、デジタル技術を活用して業務プロセスを改革するデジタルトランスフォーメーション(DX)施策の中で、デジタル技術を有する人材の不足が課題の1つになっているという事例もあるそう。

 

デジタル技術に限らず、途上国では技術をもった人材の育成ニーズが大きいのですが、教育の品質における問題や、交通のインフラ整備が不十分であったり、教育機会にアクセスが難しいといった別の課題も存在します。そこで、時間・場所を問わずアクセスを可能とし、より高い習熟度が期待できるメタバースが活躍するのではないでしょうか。

 

つまり、教育分野の制度やインフラが十分に整っていない途上国だからこそ、メタバースを試しやすいと考えられるのです。もちろん課題がないわけではありません。途上国で「メタバース教育」を実現するためには、通信環境の整備が必要。フィジーの例では、DXの有用性が明らかになる一方、通信環境の整っている地域とそうでない地域での格差が浮き彫りになっています。しかし、途上国が企業の投資や国際機関の支援を受けて、通信環境を整えた場合、その他の教育インフラの発展が遅れていたとしても、メタバースの活用が、先進国が通ってきた段階的プロセスを飛び越えて進む「リープフロッグ現象」さえ起こり得るかもしれません。

 

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蚊に刺される=感染…途上国への「虫ケア」でアース製薬が示すSDGsのカタチ

アジア、中南米、アフリカなどで流行している、デング熱やマラリアといった「蚊媒介感染症」(病原体を持つ蚊に刺されることで発生する感染症)。重症型のデング熱は、アジアやラテンアメリカの一部で子どもの死亡の主原因に挙げられるほど深刻な問題となっています。

吸血中のヒトスジシマカ

 

こうした蚊媒介感染症についてグローバルな取り組みを行っているのがアース製薬です。そのひとつが、蚊媒介感染症の発生率を低減する「ワールド・モスキート・プログラム(WMP)」でのベトナムにおける活動支援。2021年に新設された同社の「CSR(Corporate Social Responsibility )/サステナビリティ推進室」の皆さんに、推進室新設の経緯やASEAN諸国における感染症対策ソリューションなどについてお話をお聞きしました。

 

アース製薬だからできるユニークなCSR/サステナビリティ活動

同社では、事業を通じて社会課題の解決を目指す「CSV(Creative Shared Value)経営」を推進。「CSR/サステナビリティ推進室」では、室長の桜井克明さんを筆頭に、都市害虫学の専門家である角野智紀さん、国際NGO団体職員としてミャンマー国境にある移民・難民のための診療所で働いていた田畑彩生さん、グローバルでマーケティング企業に従事していたライアン・グィン・フィンさんという多様性あふれるメンバーが、アース製薬ならではのサステナビリティを日々追求しています。

右から、桜井克明さん、角野智紀さん、田畑彩生さん、ライアン・グィン・フィンさん、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集長・井上

 

特にユニークな取り組みが、以下の3点です。

 

ASEANでは民間企業初となる虫媒介感染症への取り組み:ワールド・モスキート・プログラム(WMP)

オーストラリアの研究者らが立ち上げたWMPは、世界の人々を蚊媒介感染症から守るための非営利型イニシアティブ。主な活動は、蚊に共生細菌ボルバキアを感染させることで、デング熱媒介能の著しく低い蚊を作り、デング熱感染症率を低下させる取り組み。生態系を崩さずにデング熱などの感染を防げるとあって、大きな注目を集めています。同社では、2021年からベトナムにおけるWMPの支援活動をスタート。民間企業によるWMP参画は、ASEANでは初の試みです。

 

事業を通じた社会課題への取り組み:感染症トータルケアに役立つ先端的テクノロジーの活用

革新的な酸化制御技術「MA-Tシステム」を活用した製品開発・販売を推進。「MA-T」は、亜塩素酸イオンから必要な時に必要な量の活性種(水性ラジカル)を生成させることで、ウイルスの不活化や除菌を可能にするシステムです。既存の除菌剤より安全性が高く、長期保存できるため、避難所などで使用する除菌・消臭剤、感染症予防に役立つマウスウォッシュにも活用されています。さらに、農薬・医薬品、牛の糞尿から出るメタンガスからメタノールを製造する技術などへの応用も見込まれています。

「MA-Tシステム」を採用した肌用ミスト

 

自然環境を持続させる取り組み:環境・生物多様性の保全

自然環境を保全するため、外来生物対策、動植物の分布に関する調査・モニタリングなどを実施。例えば、兵庫県赤穂市生島では、国指定天然記念物の照葉樹林を保護すべく、つる植物ムベの伐採を実施。兵庫県姫路市「自然観察の森」では土壌動物の調査、小笠原諸島ではツヤオオズアリの防除を行うなど、自治体と連携しながら生物多様性の保全に取り組んでいます。

赤穂市生島での活動風景

 

グローバルで経験豊富、エッジの効いたメンバーが集結

井上 アース製薬は、2021年に「CSR/サステナビリティ推進室」を新設し、ユニークな取り組みを進めています。なぜこのタイミングで推進室を立ち上げたのでしょう。

 

桜井 一つは昨今のめまぐるしい社会情勢の変化です。また、当社はプライム市場へ移行することとなりました。それに伴い、私たちは「感染症トータルケアカンパニー」として世界の人々の安全で快適な暮らしを実現するするとともに、社会の持続可能性や価値向上の取り組みをさらに推進する必要があると考えました。

「CSR/サステナビリティ推進室」発足の経緯を語る桜井室長

 

井上 なるほど。とはいえ、アース製薬では創業以来、虫ケア用品を提供し続けてきましたよね。専門部署こそありませんでしたが、事業を通じて社会貢献をしてきたのではないでしょうか。

 

桜井 おっしゃる通り、虫ケア用品は、販売すること自体が感染症対策になります。事業と社会課題の解決がここまで直結した企業は、珍しいのではないかと思います。

 

井上 私が勤めるアイ・シー・ネット株式会社もODA事業に関わっていますが、当たり前にSDGsに取り組んでいたからこそ、ことさら「SDGsへの取り組み」をアピールすることには少しためらいがありました。貴社も、これまではあえてアピールする必要がなかったのかもしれませんね。

 

田畑 そうですね。確かに「SDGsに取り組んでいる」自覚は薄いかもしれませんが、どの社員も「自分たちはお客様のお困りごとを解決する製品を販売している」という認識を強く持っています。

 

井上 推進室の皆さんは、昆虫学や公衆衛生、マーケティングなどそれぞれの専門領域を極めた方々です。バックグラウンドも多様で、ユニークな顔ぶれですね。

 

桜井 ここまで経験値が高くてエッジの効いたメンバーは、珍しいと思います。例えば田畑さんは、公衆衛生を海外で学び、タイで感染症対策に取り組んできた経験があります。WHOや国連ならこうした経歴のスタッフもいるかもしれませんが、事業会社では希少。角野さんは、虫防除に関する国家資格の講師を務める害虫のスペシャリストです。

 

井上 ライアンさんは、どのような事業に携わっているのでしょう。

 

ライアン ベトナムの貧困地域に家を建てたり、衛生環境を改善したりといった海外事業を担当しています。ESG関連のデータ分析、英語によるレポートの作成なども行っています。

ライアン・グィン・フィンさんは、グローバルマーケティング企業や海外営業に携わっていた

 

井上 これだけエッジの効いた方々が揃っていると、面白い活動が生まれそうです。

 

生態系を崩さず、蚊媒介感染症を防ぐ

井上 さまざまな取り組みの中でも、ASEANなどの途上国に向けた蚊媒介感染症対策はアース製薬ならではだと感じました。蚊を駆除するのではなく、ボルバキアという共生細菌に感染させることで、蚊の個体数を下げることなく蚊媒介感染症罹患率を下げるという手法がユニークです。

井上自身も途上国での活動経験がある

 

田畑 蚊に接種したボルバキアは親から子へ受け継がれます。そのため、ボルバキアに感染した蚊の卵を公園などの木に吊るし、蚊媒介感染症を引き起こさない蚊を増やすという地道な活動を行っています。熱帯医学研究を行う、ホーチミン・パスツール研究所とも協働し、蚊の卵や幼虫を育てる設備も設けました。こうした活動により、生態系を崩さず、蚊媒介感染症の発生率を抑えることができる体制が整ってきました。

 

井上 感染症と言えば、近年では新型コロナウイルス感染症がまず頭に浮かびますが、ASEAN諸国では新型コロナよりもデング熱が喫緊の課題なのでしょうか。

 

田畑 デング熱などの感染症は、アフリカやアジアの途上国で大きな問題になっていますが、なかなか注目されることがありません。そのため、こうした病気は「顧みられない熱帯病」と呼ばれています。新型コロナウイルス感染症のワクチンはすぐに完成しましたが、デング熱のワクチンがなかなか開発されなかったのは、こうした理由もあります。もちろん創薬の難しさの違いもあると思いますが、根深い問題が横たわっているのも事実です。

 

「蚊に刺される=感染」という、日本にはない危機意識

井上 蚊媒介感染症対策を行う上で、現在もっとも注力している国はベトナムですか?

 

桜井 現在はベトナム、タイが中心ですが、今後はフィリピン、マレーシアなど現地法人がある国を起点に取り組みを拡大していきたい考えです。

 

田畑 世界では、この6カ月で約10万人ものデング熱患者が発生しています。アース製薬がWMPを通じて支援しているのは、当社工場があり、なおかつデング熱の罹患率が高い地域です。

アースコーポレーションベトナムの工場

 

ライアン 今後取り組みを拡大する際には、先ほど挙げた4カ国の現地法人が同じビジョンを持ち、同じアクションを起こしていくことが必要です。そのため、CSR報告書の英語版も作成しています。

 

井上 私はパプアニューギニアでマラリアに罹ったことがあるので、蚊には強い恐怖を感じます。日本と海外では、蚊に対する意識も大きく違いますよね。

 

田畑  タイなどでは「蚊に刺される=感染」という認識です。以前は、デング熱が蚊媒介感染症であるという認識が地方では低かったのですが、啓発活動を進めれば、意識が高まっていきます。

 

井上 そういえば、先ごろアース製薬のタイ現地法人が販売する蚊とり線香を、「アース虫よけ線香モンスーン」として日本でも販売開始されたそうですね。今後も、途上国向けの製品を日本に“逆輸入”することはあり得るのでしょうか。

タイの現地工場での生産風景

 

角野 あり得ます。海外のヒット商品を日本仕様に変更して発売することもありますし、「アース虫よけ線香モンスーン」のように販売するケースも増えるのではないでしょうか。グローバルの研究部と日本国内の研究部が互いに刺激し合い、切磋琢磨しながらより良い商品を開発できたらと考えています。

 

井上 近年、アース製薬では虫よけ線香や液体蚊とりを「殺虫剤」ではなく「虫ケア用品」と称していますね。

 

桜井 やはり“殺”という言葉には、ネガティブなイメージが付きまといます。私たちが目指すのは、虫を殺すことではなく人間を虫から守ること。人間と虫の住空間を分け、人間の生活をケアするという意味合いで、「虫ケア用品」と呼ぶようになりました。

 

角野 生態系を構成している生物は、必ず何かしらの役割を担っています。例えばボウフラは、汚泥を餌にしているので水を浄化してくれますし、他の生物の餌になります。オスの蚊は花の蜜を吸うため、受粉の手助けもしています。人間から見れば蚊は鬱陶しいだけの生き物かもしれませんが、ウイルスからすれば自分たちを拡散してくれるありがたい存在。そういった視点を忘れてはならないと思います。

角野さんの虫に対する造詣の深さに、推進室のメンバーも驚かされることがしばしば

 

海外でのSDGsビジネスは時間がかかる。大切なのは、長期的な視野を持つこと

井上 ASEANにおける虫媒介感染症対策は、現地の政府やNGOなどと連携して取り組みを行うケースも多いのでしょうか。

 

田畑 そうですね。現地大学と帝人フロンティアとの3者共同プロジェクト、JICAのSDGsビジネス支援事業など、さまざまな形で現地機関と連携しています。また、日本の技術を紹介すると、現地の方から「ぜひ一緒に製品開発を」とお声がけされることも多々あります。そういう時には、ローカルの方々との協働がポイント。開発する製品も現地に根づいたものになり、事業が継続的に広がっていきますから。

JICAの支援事業で活動する田畑さん(写真右)

 

角野 逆に、日本の技術をそのまま持ち出し、「これを使ってくれ」と言ってもまったく広まりません。日本とは習慣や文化が違うので、現地にアジャストさせる必要があるんです。手っ取り早いのは、現地の方々と一緒に取り組むことですね。

 

井上 国内にとどまらず、現地の人も巻き込んだグローバルなオープンイノベーションを促進しているんですね。

 

田畑 以前、国際協力、人道支援を行っていた時に学んだことですが、主役は現地の方々。彼らに「自国の人々の役に立ちたい」という思いがあると、現地に根差したものが生まれると思います。

 

井上 その考え方は、人道支援に限らずビジネスでも有効なんですね。

 

田畑 そう信じています。長年ODAに携わっていると、支援がどのように始まり、どのように終わるのか見えてきます。長く継続するのは、現地の方々が主体になって推進するプロジェクト。ビジネスにおいても、確実に同じことが言えます。モノや技術だけポンと渡すだけではダメ。丁寧にキャパシティ・ビルディング(目標を達成するために、その組織が必要な能力を構築・向上させること)を進めることが重要です。

 

角野 プロジェクトが終わってからも、定期的にモニタリングし、フォローする。それくらいやらなければ継続は難しいと思います。

 

井上 そうなると、事業化までかなりの時間がかかるケースも多くなると思います。最初から長期スパンで事業計画を立てるべきということでしょうか。

 

田畑 確かに時間はかかるので、企業が新規事業として継続するのはなかなか難しいかもしれません。本当にその国の社会課題を解決したいのであれば、長いスパンで考えるべき。と言っても、余裕のある企業でなければできないわけではありません。大切なのは、長期的な視野を持つことだと思います。

 

井上 プロジェクトを長く続ける熱意も必要。推進室には、情熱と突破力を併せ持つメンバーが揃っているんですね。現地でプロジェクトを進めるうえで、障壁になること、課題を感じていることはありますか?

 

田畑 文化や感覚の違いは、大きな課題です。例えば、日本では手を洗うことが当たり前ですが、「清潔」に対する意識が違うと、手洗いの習慣もなかなか根づきません。こうした単純な違いのほかに、宗教に基づく思想、長年にわたって培われてきた価値観、心情なども障壁となることがあります。

 

角野 現地でプロジェクトを進める際には、まず我々の常識を取り払うところから始まります。わからないことは現地の人に聞く。製品開発においても、現地でのモニタリングやアンケートは非常に重要。例えば、虫ケア用品には香りをつけることが多いのですが、「絶対にこの香りが好きだろう」と日本人が満場一致で選んでも、現地でリサーチすると全然違う結果になることも。日本の常識は持ち込まないというのが、大前提です。

 

井上 それだけ価値観が違うと、「手を洗いましょう」と啓発しても根づかせるのは難しそうです。

 

角野 そうなんです。ですから、「なぜ手を洗う必要があるのか」という前提から説明する必要があります。大人は今までに身についた習慣があるので、なかなか浸透しません。そこで、幼稚園や学校など小さなお子さんに指導し、自宅でも実践してもらうようにしています。そのうえで「だから石鹸が必要なんだ」と理解してもらう。こうした啓発活動が重要です。

 

田畑 大事なのは、衛生状況をいかに改善し、感染症の発生率をいかに抑えるか。理由がわかれば納得し、行動変容につながる。もちろんその結果、当社の商品が売れればWin-Winですが、人道支援的な立場から言えば、感染症が抑えられるなら、どこの製品を使っていただいてもいい。ちなみに私自身がNGO団体からタイに派遣された時は、アース製薬の製品を国境地域で使っていました。当社の製品は、現地のラストワンマイル(顧客に製品が届く物流における最後の接点)で、消費者の方々に選んでもらえる商品力があると思います。

NGO団体での活動経験を現職にも活かしているという田畑さん

 

井上 長年培ってきた土台があるのは強みですよね。ローカルでも戦える商品力、価格競争力があるからこそ、現地の方々に選ばれる。その土台があるから、今求められる社会課題の解決にも貢献できているのでしょう。

 

地球との共生を考える、アース製薬の未来像

井上 最後に、皆さんの今後の展望や、推進室で挑戦したい事業についてお聞かせください。

 

ライアン どの国でサステナビリティ活動を展開するにしても、まず優先すべきはその地域の方々です。現地の方々とともに成長し、次のステップとして、ともに経済的に発展していく。これまでは製品を売ることが最優先でしたが、推進室では現地の方々の思いを大切にしています。そこに魅力を感じますし、今後もその地域の方々のことを第一に考え、事業を展開していきたいと思っています。

ベトナムで活動するライアンさん

 

田畑 今回は虫媒介感染症の話をさせていただきましたが、私個人としては「MA-T」の事業展開に注目しています。「MA-T」は、感染症予防だけでなくメタンからメタノールを製造するなど、気候変動、地球温暖化の問題にもリーチできる可能性を秘めています。「MA-T」の除菌剤が国連調達品となり、難民キャンプや紛争地、災害発生地で活用されることが私の願い。地球規模の課題を解決する際には、経済、教育などの格差が障壁となりますが、「MA-T」はこうした格差を埋める一助にもなると確信しています。

 

角野 まずは、当社のサステナビリティ活動の基盤づくりをしっかり進めていきたいと思っています。また、ESG評価機関などへの情報開示も推進室の重要な使命。個人的な展望としては、生物を殺すのではなく生かす取り組みに、さらに力を入れたいと思っています。昨今は気候変動、資源循環、生物多様性といった地球環境問題への対応が求められていますし、アース製薬もその流れに乗り遅れるわけにいきません。実はアース製薬は、飼育昆虫の数や種類が日本一。その経験や技術を生かし、希少な在来種の保護・保全に貢献できたらと思っています。

 

【取材を終えて~井上編集長の編集後記】

どんな会社でも創業時には熱い想いをもって事業を展開していると思いますが、時間がたつとその想いが薄れるケースも多いと思います。アース製薬は創業から130年たった今でも、全ての社員が「お客様のお困りごとを解決する製品を販売する」という認識をもっているそうですが、これは並大抵のことではなく、ビジョンをしっかり社内に浸透させ続けてきた、これまでの会社の努力があったのだと思います。明確なビジョンを持ち、そして魅力的な人材が集まっているアース製薬が、どういう活動を展開されていくのか、今後が非常に楽しみです。

 

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取材・文/野本由起   撮影/干川 修

住宅設備に商機あり! パナソニックがベトナム市場に注力するワケ

現在、日本国内の配線器具分野などで大きなシェアを占めているパナソニック エレクトリックワークス社(以下、EW社)。その好調ぶりは国内だけでなく、ASEAN諸国をはじめとする海外にも波及しています。

 

EW社が注力している国のひとつがベトナムです。同国では、コロナ禍のなかでも人口増加が続いているため、国民の平均年齢が30歳程度と若く、ASEAN諸国のなかでも、継続的かつ大きな経済成長が見込まれています。それにあわせて、都市部では戸建て住宅やビルなどの新築着工件数が着々と増加しており、配線器具や換気送風機器、照明といった、建築に紐づく電材のニーズが急速に拡大中です。

 

ベトナムの住宅着工数(1000戸)

出所:IHS Markit 2022年4月

 

そんなベトナムにおいてEW社は、新工場建設などの大胆な展開を行うことをこの夏に発表。現地での展示会「Panasonic SMART LIFE SOLUTIONS 2022」も開催し、ベトナム国内のデベロッパーや工務店など、パートナーとなりうる企業を探っています。

 

EW社が着々と開拓を進めるベトナムの電材市場。ベトナムという国の独自性や、マーケットの現在と今後の可能性、そのなかでEW社がとっていく戦略について、現地法人であるパナソニック エレクトリックワークス ベトナム有限会社の社長・竹宇治一浩さんにお話を伺いました。

竹宇治一浩さん●2012年にパナソニック株式会社 エコソリューションズ社(現:エレクトリックワークス社)に配属。インドでの海外赴任経験後、20194月より現職(当時社名はパナソニック エコソリューションズ ベトナム社)。

 

ブレーカー、シーリングファンなどの商材で、ベトナム国内シェア1位を達成

EW社がベトナムに注力する最大の理由は、その高い経済成長の余地です。IMFが予測する同国のGDP成長率は、2022年で前年比6.0%、23年には7.2%、24年は7.0%と高い水準で安定。新型コロナウイルスが猛威を振るった2020年から2021年にかけては前年比2%台に成長が落ち込みましたが、その後はしっかり持ち直すという予測が出ています。ベトナム市場には成長国らしいニーズが溢れていると竹宇治さんは言います。

 

ベトナムの実質GDP成長率

出所:IMF統計 2022年4月

 

「急速な都市化の進行、コロナ禍の影響などにより、ベトナム国内の建築市場にも多彩なニーズが発生してきました。具体的には、電化率の高まりを支えるより安心安全・高品質な配線器具、排気ガスによる大気汚染やウイルスへの対策をした快適で安全な空間を作る換気送風機器といったものです。EW社では、ブレーカーやコンセントなどの配線器具、換気扇などの換気送風機器、照明機材の3点の商材を通して、そういったニーズを満たし、ベトナム社会に貢献できるような事業を展開しています」(竹宇治さん)

空気清浄機や換気扇など、現地で販売している換気送風機器

 

ブレーカーやコンセントなどの配線器具

 

EW社とベトナムの関係は古く、その歴史は1994年にまで遡ります。最初に扱った分野は配線器具で、その後2000年代にかけて、ポンプ、シーリングファン、換気扇、扇風機などの水・換気送風機器でもベトナム市場に進出。これらの分野ではすでに大きな成功を収めており、配線器具、ブレーカー、シーリングファン、換気扇、ポンプといった商材で、同国内シェアトップを達成しています。同社のベトナム国内での売上は、2007年から2020年にかけて約10倍に伸長しており、それらの商材が成長を牽引してきました。

 

一方で、2019年に遅れて参入したジャンルが照明機材。EW社では、参入したのが最近であることに加え、都市部の建築ラッシュなど急速に需要が高まっていることから市場開拓の余地が大きいと考え、この照明機材分野を今後最も成長が見込めるジャンルとして注力しています。

住宅用の照明機材

 

開発拠点をベトナムに置き、ローカライズを徹底

すでにベトナム市場で成功を収め、今後さらに勢いを拡大していこうとするEW社。成功の秘訣には、徹底したローカライズへのこだわりがありました。

 

「実は、ベトナムよりも先に、同じ東南アジアのタイに進出していて、ある程度、ASEANの方々の嗜好やニーズは掴めていました。そのため、配線器具の分野でベトナムに進出した際は、タイ市場からの水平展開を最初に行い、その後ローカライズを推進。とはいえ、これは進出当初の話で、現在はニーズをベトナム国内で吸い上げ、それを開発・生産に反映していくことに力を入れています。特に、配線器具・換気送風機器の分野では、ベトナム南部のビンズオン省で新工場を建設している最中です。2023年の生産開始を予定しているこの工場には開発部隊も配置する予定で、ベトナム市場オリジナルの製品を作れる体制を整えようとしています」(竹宇治さん)

ベトナム・ビンズオン省に建設予定の工場の完成予想3Dイラスト

 

このビンズオン新工場の特徴は、日本国内の工場と同様の生産ラインを導入しているという点です。これは、パナソニックグループの最大の強みである、高品質と高い供給力をベトナム市場でも活かすため。先述した通り、急速な発展が進むベトナムの都市部では、安全性の高い電材が大量に求められており、EW社が国内で培ってきた地力が、東南アジアの地でも活かされていることになります。

 

また竹宇治さんによれば、IAQの新工場では、中東など、その他アジアの国に輸出する製品の開発・製造も行うとのこと。ベトナムだけでなく、アジア・中東にシェアを広げるための拠点がまもなく誕生します。

 

一方で、これからの新規開拓が急がれる照明機材の分野では、現地メーカーとのOEM(委託生産)契約によって生産を行うとしています。これは、EW社がこれまで蓄積した製造技術やノウハウをパートナーとなるベトナム国内のサプライヤーに提供して、現地で自社生産のものと同品質の商品を製造するという方式です。

 

「配線器具・換気送風機器の分野は、いままさに多くの需要が発生しており、これを満たせるだけの供給体制を構築することが、メーカーとして最も大切なことだと考えています。新工場の建設に踏み切ったのは、それが理由です。一方で、照明機材はこれから成長していく・させていく分野なので、OEMで体制を整え、いずれは地産地消を目指していく、ということになります」(竹宇治さん)

 

OEMだと、ローカライズの質が落ちることはないのかと思われる読者もいるでしょう。EW社では、その質をしっかり担保するため、ベトナム現地に照明機材の研究開発を担うエンジニアリングセンターを開設。商品の生産こそOEMですが、その開発はしっかり自社の手で行っています。EW社の照明機材は、日本国内なら阪神甲子園球場や新国立競技場、ASEAN地域ではインドネシアの世界遺産・プランバナン寺院、マレーシアのイオンモール Nilaiなど、有名・大型施設への導入事例が多くあります。ベトナムでも、スポーツや景観、あるいはインフラなど、現場のニーズに沿った提案と商品開発をしていくため、開発拠点を現地に置くことにこだわっているというわけです。

インドネシア・プランバナン寺院のライトアップ風景

 

困難も多いが、魅力あふれる市場

ベトナムという異国の地でビジネスを展開するのは、簡単なことばかりではないといいます。新工場の建設にあたっても、予測のできない苦労があったそうです。

 

「工場建設に関して、現地の政府の規制があるのですが、それがしょっちゅう、しかも急に変わるんです。なので、計画の練り直しを複数回行うことになり、工場の建設認可もなかなか取得できず、とても大変でした。そういった苦労はありますが、ベトナムという市場は魅力にあふれていると私は思います。単純に成長市場だというのはありますが、現地の人々はとても勤勉で、仕事熱心。それに、コロナ禍があって競合の海外企業にも撤退するところが出たため、いまはシェアを拡大するチャンスなんです」(竹宇治さん)

展示会でのお客様会議風景

 

また、竹宇治さんの元で働くスタッフの安田 竜さんはこう語ります。

 

「私はインドネシアからの転勤でベトナムにきたのですが、この地には、日系企業がビジネスを展開しやすい土壌があると肌で感じています。まずは、食品、医療、リテールなどの分野で、多くの日系企業がすでに進出しているため、日本の製品に対する信頼感が元から高いということ。また、親日的な人が多く、現地の企業とパートナーシップを結ぶ際にも、信頼関係を構築しやすいように思います。ベトナム人の社員は、日本人に似て真面目で勤勉な人多く、その点でもやりやすいですね」(安田さん)

 

今後も継続した成長が見込まれる市場であるとともに、日本に対する信頼感の高さや勤勉な国民性など、日本企業が事業を展開する上でも非常に魅力あるベトナム。住宅設備関連事業はもちろん、さまざまな業種において、同国の経済発展をビジネス面でサポートするチャンスが今後も増えそうです。

 

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「XR・メタバース」への期待値、日本の22%に対し途上国は倍以上

AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などを含めたXR(クロスリアリティ)と現実世界が融合した世界を指す「メタバース」。2021年10月にFacebookが社名をMetaに変更したことで、世界中でメタバースの注目度が上がりましたが、2022年5月に発表された調査『How the World Sees the Metaverse and Extended Reality』で、メタバースへの関心は途上国・新興国で最も高いことがわかりました。

新興国・途上国で期待大

 

フランスの大手市場調査企業・イプソスは、世界経済フォーラムの依頼を受け、2022年4月〜5月に29か国で計2万1000人以上の成人を対象にXRとメタバースに対する意識を調査。XRを前向きに捉えている人の割合は中国で78%、インドで75%、ペルーで74%、サウジアラビアで71%となりました。対照的に先進国ではXRへの期待が低く、肯定的な意見を持っている人の割合は、日本が先進国で最低の22%、イギリスは26%、カナダは30%、ドイツとフランスは31%、アメリカは42%となり、新興国や途上国と顕著な差が見られます(下記のグラフ〔英語〕を参照。カーソルを合わせると各国の割合が表示される)。

 

 

メタバースへの関心についても同じような傾向が見られます。トルコやインド、中国、韓国といった新興国では3分の2以上の人がメタバースについてよく知っていると回答したのに対して、フランスやドイツ、ベルギー、オランダといった先進国では、その割合が3分の1以下になりました。

 

このような違いが現れた理由には、デジタル通貨が関係している模様。XRやメタバースはブロックチェーン技術によって支えられています。ブロックチェーンやフィンテックなどを専門とするメディアのCointelegraphによると、ブロックチェーンは、インフレーションや通貨価値の下落といった問題を抱える新興国・途上国で人気を高めており、このような国々では暗号通貨を購入する人が先進国より多いとのこと。この視点から考えれば、「経済的に苦しい生活をどうにかしたい」と願う人たちがXRやメタバースに大きな期待を寄せていると理解することができるでしょう。

 

教育やビジネス、エンタメ・ゲーム、ヘルスケア、デジタル資産の取引など、幅広い分野を劇的に変えるとされるXRやメタバース。世界の大手IT企業がこの分野で切磋琢磨しており、今後も市場規模は拡大していく見込みです。日本国内においても多くの企業が同分野に進出していますが、海外市場に目を向ける際は、XRやメタバースへの期待が高い新興国・途上国に注目すると良いかもしれません。

 

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世界2位の4億2000万人もの利用者を抱える「インドのオンラインゲーム市場」

インドのオンラインゲーム市場が目覚ましい発展を遂げています。スマートフォンユーザーの増加やモバイルゲームの拡大などによって、同国のゲーム人口は急増。この動向はインド企業だけでなく日本のゲーム関連企業にも大きなチャンスかもしれません。

もっと盛り上がろうぜ!

 

まずは、インドのオンラインゲーム市場について見てみましょう。同国のThe Economic Times紙によれば、インドのオンラインゲーム市場は成長率38%を記録し、世界のモバイルゲーム市場の上位5位に位置しているとのこと。また、インドには400社以上のゲーム会社があり、世界で2番目に多い約4億2000万人のオンライン利用者を抱えていると言われています。

 

インド国内に目を向けると、同国のゲーム市場は過去5年間、安定的に成長しており、2025年には3倍の39億ドル(約5400億円※1)に到達する見通し。オンライン利用者数も2020年の3億6000万人から、2021年には3億9000万人に増え、ゲーム人口は2023年に4億5000万人を超えると予測されています。

※1: 1ドル=約138.4円で換算(2022年8月31日現在)

 

このような成長の主な要因として、同紙は「若年層の増加」「可処分所得の増加」「新しいゲームジャンルの導入」「スマートフォンやタブレットのユーザー数の増加」「インターネットの高い普及率」が挙げられると分析。加えて、新型コロナウイルスのパンデミックによる「巣ごもり」も、インドのオンラインゲーム市場の拡大を加速させたと見られています。例えば、2020年9月に同国ではオンラインゲームのダウンロード数が73億回になりましたが、その数は世界で最も多く、全世界のダウンロード数の約17%を占めたとのこと。

 

それでは、インドではどのようなオンラインゲームが注目されているのでしょうか? 同国のスポーツ専門サイト・Twelfth Man Times(TMT)によれば、パズルやファーストパーソンシューティング(FPS※2)、バトルロイヤルゲーム(※3)などが人気を集めているそう。例えば、バトルロイヤルゲームの1つ『PUBG』の場合、インド市場は全ダウンロード数の25%を占め、月間5000万人のアクティブユーザーが登録しています。

※2: ゲームを操作する本人が主人公になり、銃などの武器を使って標的を倒すゲーム

※3: 多数の個人または複数のチームがゲームに参加し、他のプレイヤーもしくはチームを全て倒すゲーム。最後の1人もしくは1チームになると勝ち

 

一方、ゲーム機を利用する「コンソールゲーム市場」も高い人気を集めるようになりました。この分野では2022年から2026年にかけて年間10%の成長が見込まれています。さらに、インドオリンピック委員会が公式スポーツに指定した「eスポーツ」が盛り上がりを見せており、そのプレイヤー数は2022年に100万人に達する見込み。

 

ゲームパブリッシャーへの投資は不足

TMTによれば、インドのゲーム業界におけるゲームスタジオの数は、2009年の15社から2021年には275社へと大幅に増加したとされています。また、世界的に著名なスタジオもインドに事務所を開設し、インド市場におけるブランド確立を目指している模様。しかしその反面、インドのゲームパブリッシャーはまだまだ開発の余地があるとされており、同国のオンラインゲーム市場の成長には、ゲームパブリッシング業界へのさらなる投資が不可欠と指摘されています。

 

日本にはゲーム機やソフト、オンライン/スマホゲームを作る企業が多数存在しており、海外の企業と資本・業務提携をするなどしてグローバルに競争しています。次の戦いの舞台は、インドのオンラインゲーム市場かもしれません。

 

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実は日本とも深い繋がりあり! 島しょ国「トンガ」をデータとビジネス視点で紐解く

日本に暮らしていると「トンガ」と聞いても“南太平洋に浮かぶ島国”という認識ぐらいで、あまり具体的なイメージが沸かない人も多いのではないでしょうか。南太平洋に浮かぶ約170の島群からなる国家であるトンガは、過去に一度も植民地化されたことがなく、現在まで王制が残るポリネシアで唯一の国です。

 

データで見るトンガの概況

  • インターネット普及率…59%(2020年) ※1
  • 携帯電話普及率…62.10%(2019年) ※1
  • 一人当たりのGNI…5190ドル(2020年) ※2
  • 総GDP…4.9億ドル(2020年) ※2
  • その他…日付変更線のすぐ西に位置し、経済水域約362,000㎢に大小170余の島々が4つの諸島を構成している ※3
  • 主要言語はトンガ語・英語で、キリスト教徒が大部分を占める ※3
※1 出所:国際電気通信連合(ITU) ※2 出所:外務省 ※3 出所:国際機関 太平洋諸島センター(PIC)

 

トンガの人口は約10万人で面積は20平方キロメートル。これは日本の北海道石狩市や山口県下関市と同じくらいの大きさです。亜熱帯性気候に属し、年間を通じて温暖な地域です。気温は19℃から29℃まで変化しますが、16℃を下回ったり31℃を超えたりすることはめったにありません。年間降雨量は、首都・ヌクアロファのあるトンガタプ島の約1700mmからババウ島の約2790mmまで、ひとつの国のなかでも大きな差があります。

首都であるヌクアロファの夕景

 

海外からの送金が国を支える現実

トンガの産業構成をGDPから紐解くと、農林水産業19.9%、鉱工業11.1%、サービス業69.1%(出典:2013年国連統計)となっています。主要な輸出品はかぼちゃ、魚類、バニラ、カヴァ。輸入品は飲食料、家畜、機械・機器、燃料です。海外からの送金に依存する経済と、近代化による伝統的な生活の変化が顕著になっており、とくに貿易は著しい入超傾向が見られます。

ヌクアロファ市内にある市場

 

※四捨五入の関係上、合計が一致しないことがある。

 

トンガを含む数多くの太平洋島しょ国の人々は、オーストラリアやニュージーランドなどで季節労働者として働いています。彼らが自国に残っている家族に送るお金が、生活を支え、さらには小規模ビジネスの開業資金にもなっているのが現実です。2019年の低・中所得国への送金額は、過去最高の5540億ドルに上り、送金は太平洋島しょ国で暮らす人々にとって重要なものとなっています。

 

なかでもトンガは海外労働者からの送金額が世界で最も多く、2019年の送金総額は対GDP比で約37%に達しました。トンガでは5世帯中、4世帯が海外からの送金を受け取っており、その規模は家計消費の約30%に相当するほどです。

 

そんな中、将来、「観光」が農業および漁業の合計外貨収入額よりも約5倍の外貨を稼ぐ、トンガ最大の産業になると2017年に世界銀行が発表。雇用の面からも労働人口の25%を抱える最大の産業にもなると予測しています。トンガの経済成長を妨げる要因と言われてきた「分散した少ない人口」、「狭い土地」、「世界市場からの隔絶」、「限定された天然資源」といった諸条件が、観光資源としてユニークな売り物にできるというのが大きな理由です。

現地の土産物店

 

中国をはじめとする海外旅行客の積極的な誘致やクルーズ船の誘致、高級リゾートの拡張、先進国の高齢退職者向け長期滞在施設の整備などを積極的に推進することで、2040年までに約100万人の中国人を含む約370万人の観光客を呼び込むことを目標としてきました。ただ、新型コロナウイルスの世界的流行や、2022年1月のフンガ・トンガ噴火により、その先行きは不透明となっています。

 

トンガと日本の交流は30年以上

トンガと日本との関係は30年以上に渡ります。2015年には現在の天皇陛下ご夫妻がトンガへ訪問し、トゥポウ6世国王の戴冠式に参列されました。日本からのODAによる援助は、2016年6月時点で、トンガの近隣国であるオーストラリア、ニュージーランドに続き第3位。無償の資金協力や技術協力など、日本とトンガの関わりは深いものとなっています。

 

●我が国の対トンガ援助形態実績(年度別)単位:億円

年度 円借款 無償資金協力 技術協力
2015年度 17.37 2.15
2016年度 15.94 3.52
2017年度 24.80 2.31
2018年度 29.14 2.34
2019年度 0.62 1.73
(出所)外務省国際協力局編「政府開発援助(ODA) 国別データ集 2020」 ※1. 年度の区分及び金額は原則、円借款及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力は予算年度の経費実績ベースによる。※ 2. 四捨五入の関係上、合計が一致しないことがある。

 

トンガではかぼちゃの栽培が盛んですが、これには日本が大きく関係しています。トンガで収穫されるかぼちゃは、日本の種を使って作られ、そのほとんどが日本に輸出されてきました。トンガ産かぼちゃは毎年10月から11月に出荷され、日本ではかぼちゃが採れない冬から春にかけて市場に出回ります。トンガの人々がかぼちゃを作るのは、他の換金作物を作るより短期間で収穫でき、キロ当たりの値段がいいからです。

 

しかし、かぼちゃも津波やサイクロンといった自然災害があっては出荷できません。そこでJICAは、環境・気候変動対策や防災事業を重点分野とし、島嶼型地域循環型社会の形成、再生可能エネルギーの導入促進、観測・予警報能力の強化などを支援しているのです。

 

年々拡大するトンガでのODA事業

日本がトンガに対して行っている無償資金協力や技術協力などの協力金額は年々増加傾向にあります。その理由は、大洋州地域の持続可能な発展を確保することは、日本と大洋州島しょ国の関係強化に資するだけでなく、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を支え、地域環境の維持・促進にもつながると考えているからです。また、コロナ禍の影響により、各国で保健システムの脆弱性が改めて認識され、協力ニーズが高まっています。

 

このように重要性を増しているトンガへのODAの実情について、明治時代から南洋州との貿易を行ってきた老舗の商社・南洋貿易株式会社の常務取締役・太宰雅一氏にお話を伺いました。

太宰雅一さん●南洋貿易株式会社・常務取締役。1992年入社。2004年から現在までの約20年近くの間、トンガでのODA事業を担当し、現在は全国早期警報システム導入案件を統括している。トンガへの訪問歴も多数。

 

同社は1977年にトンガでのODA事業の受託を開始し、現在に至ります。太宰さんは2004年から現在まで長年トンガでのODA事業を担当してきました。

 

「弊社のトンガでのODA事業のきっかけとなったのは、水産研究センターの建築事業でした。過去には醤油やビールといった食料品や車両も輸出していましたが、市場規模の小ささや輸送コストの面など、さまざまな要因から中断し、いまはODA関連事業が主体になっています。弊社のODA事業は2010年以降には年間平均5〜6億円規模に拡大し、会社全体の売上の1割を占めるほどになりました」

 

同社は、文化・教育・エネルギーといったインフラ事業だけでなく、建設機材や海水淡水化装置の販売なども手掛けてきました。なかでも、トンガ唯一の高度医療サービス機関であるヴァイオラ病院の建設では2004年から2013年まで3期に渡って、医療機材を含めた設備拡充などで関わっています。そんな太宰氏が、トンガでのビジネスチャンスは「インフラ」にあると言います。

ヴァイオラ病院の施工風景

 

ヴァイオラ病院はトンガにおける高度医療サービスの中核的存在

 

「大洋州の新規ビジネスといえば、パラオの国際空港が挙げられます。こちらは空港利用税で運営されていますが、トンガなら空港会社を作るのもひとつの選択肢かもしれません。また、離島が多いトンガなら、客船ビジネスもありえるでしょう。市場規模が小さなトンガは物の売買だと大きなビジネスが成立しにくいですが、インフラサービスであれば可能性を感じています」

 

また、南洋貿易ではこれまでODA事業として、トンガにおける防災事業にも関わっています。たとえば、津波発生リスクの高いトンガにおいて、防災無線システムや音響警報システム、トンガ放送局の機材・施設の整備を行うことで、防災体制の強化を図るといった事業です。ほかにも一般財団法人 日本国際協力システム(JICS)の「トンガ王国向け防災機材ノン・プロジェクト無償 (FY 2014)」では、2019年に日本の優れた防災機材を自然災害に弱いトンガ王国へ調達しています。

 

「弊社は貿易商社なので“物を動かす”事業が主体です。ただ、インフラ投資には興味があって、これまでのODA事業で培ったノウハウを生かして、防災に強い国である日本の技術を持っていくというのも選択肢の一つかなと思っています」

 

SDGs関連事業やフェアトレードに商機が!?

トンガは石油燃料に大きく依存しており、原油価格の変動に対して非常に脆弱です。電力生成のために約1300万リットルのディーゼル燃料が消費されており、そのコストは同国国内総生産の約10%及び輸入総額の約15%にまで及んでいます。そこでトンガでは、化石燃料を燃焼させる既存の発電方法を、環境に優しく信頼性の高い、より持続可能な発電方法へ移行していくことを目的に、2030年までに再生可能エネルギーを50%にするという目標を掲げました。再生可能エネルギーの導入比率は年々高くなっており、実際に南洋貿易もODA事業で太陽光発電所、風力発電所の建築を手掛けたそうです。

ODA事業として建設された風車と電気室

 

ODAにより風力発電施設をはじめとする再生可能エネルギー設備の導入が進められている

 

「トンガの電力会社であるトンガパワーリミテッドは、メンテナンス体制がしっかりした政府100%所有の公社。再生可能エネルギーを導入しようとすると、基本となる電力の供給が安定している必要があるので、既存の発電設備がしっかりしているのは大きな強みでしょう。国を挙げて再エネ事業を推進しているので、ODAだけでなく、独立系発電事業などにも新規参入のチャンスがありそうです」

 

また昨今、途上国との貿易でキーワードにもなっているフェアトレードについても太宰さんは言及。トンガでの可能性については、日本にフェアトレードという考えがなかなか根付いていないことなどから、ビジネスとして成立しにくいと言います。

 

「弊社では、キリバス共和国のクリスマスの島の海洋深層水を汲み上げ、天日干しして作った塩を輸入販売しています。コスト面でいえば、おそらく世界一高い塩です。輸送コストを考えると、フェアトレードとはいえ、このようによほど高付加価値のある商材でないと日本に輸入するのは難しいのが現状です。例えばトンガに高品質のココナッツがあったとしても、インドネシアやフィリピンから輸入したほうが安いため、日本の商社はそちらに流れてしまいます。まずは、生産国と消費国が対等な立場で行うフェアトレードに対する重要性など、日本国内の意識を変える必要があると感じています」

 

20年近く現地のODA事業に関わってきた太宰氏から見たトンガは、市場規模が小さいことや、輸送コストがかかりすぎる点など、ビジネスとして成立させるには課題が多いと言います。しかし、日本からはるか8000km離れたこの国には、新たなビジネスが誕生する可能性に満ち溢れています。

 

トンガには、他の開発途上国と同様、解決すべき社会課題が多く存在します。例えば、気候変動や自然災害に対して脆弱性、生活習慣病のリスク低減など健康課題への解決策などが挙げられますが、これらすべての課題は、新しいビジネスの種となります。とりわけ、SDGsの目標③「すべての人に健康と福祉を」、目標⑦「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」といった側面を意識したビジネスなどには、チャンスがあると言えそうです。

 

一方、気候変動をはじめとする課題は、世界が国際協調により取り組むべき国際的な社会課題。課題解決のための援助機関の協力金額は増加傾向にあり、ODAとしても伸びしろがあります。日本には、これらの分野における課題を解決できる魅力的な技術やノウハウを持った民間企業が多く存在しています。ビジネスを展開する舞台として、市場規模が大きい国や地域に目が向けられがちですが、南洋貿易のように現地での知識・経験が豊富な企業と協業することで、社会的なインパクトの大きい新たなビジネスを生み出せる可能性があるのではないでしょうか。

 

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世界の期待集まる途上国の「再生可能エネルギー」。各国で起きている「リープフロッグ現象」とは?

ロシアによるウクライナ侵攻、それにともなう各国の経済制裁などにより、さらに深刻さを増している世界的なエネルギー危機。一般的に途上国は予算などの問題などからエネルギーの確保が難しく、このような状況ではさらに不利な立場におかれるとみられがちです。しかし一方で途上国の中には、民間投資を募り積極的にエネルギー危機を乗り越えようとしている国もいくつかあります。少し耳慣れないキーワード「リープフロッグ現象」とともに、世界のエネルギー分野の「今」を俯瞰してみましょう。

 

「リープフロッグ現象」とは?

リープフロッグ(Leapfrog)とは跳躍、つまり大きなジャンプのこと。新しい技術やサービスが誕生した場合、通常、先進国では段階的に発展・普及していきますが、道路や電気などの社会インフラが未整備の途上国では、ひと足飛びに普及する場合があります。これがビジネス用語における「リープフロッグ現象」です。

 

既存のインフラや法律などが足かせとなり、社会への導入がスピーディーに進まないことが多い先進国に対し、こうしたしがらみが少ない途上国では、一気に新技術が社会に受け入れられることがあるのです。道路の整備もままならないアフリカやアジアの一部地域でも、スマートフォンや通信インフラなどが普及しているのは、わかりやすい例でしょう。

 

再生可能エネルギーでリードする途上国

そしてこのリープフロッグ現象は、再生可能エネルギー分野でも報告されています。世界銀行(The World Bank)がまとめたレポートによると、モロッコでは再生可能エネルギーが設備容量(発電能力)の約5分の2を占めているそう。またインドは主要経済国の中で、再生可能エネルギーの電力増加率が最も高い国となっています。このような目覚ましい進展は、政府による野心的なクリーンエネルギー目標の設定と、投資家への優遇政策の結果です。

 

さらにバングラデシュの例をみてみましょう。同国では2022年6月、900万人がクリーンエネルギーに移行。 電力供給を受けられるようにするため、政府が5億1500万ドル(約700億円)の融資に署名しました。この融資により、首都ダッカと北部のマイメンシンにて、地方電気協同組合(BREB)のデジタル化と近代化が支援されます。結果、電力システムの損失が2%以上削減され、電力供給量が向上するのです。

 

バングラデシュのプログラムでは、100以上の顧客にソーラー発電システムが提供。蓄電システムと分散型再生可能エネルギーの強化により、年間4万1400トンの二酸化炭素排出量の削減が期待されています。

 

先進国との共同での取り組み

一部の途上国にて大胆に進められている再生可能エネルギーへの取り組みに対して、日本を含めた先進国からの投資も行われています。米英の政府機関と米ブルームバーグが年1回発行する、途上国の再生可能エネルギー状況をまとめた「Climatescope」によると、日本からの投資は中東や北アフリカに集中しているそうです。

 

またJETRO(日本貿易振興機構)がまとめたレポートには、バングラデシュでは太陽光発電において、日本のノウハウと技術、さらには合弁事業を期待する声も掲載されています。

 

世界的なエネルギー危機と再生可能エネルギーへの転換は、途上国・先進国にかかわらず、まさに可及的速やかに対策を取る必要があります。安価な化石燃料に頼ってきた先進国の場合、コストの高いクリーンエネルギーへの投資はリスキーとみなされる場合もあることでしょう。こうした点からも、途上国における再生可能エネルギー分野は、今後が大いに期待されるところです。

 

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2032年までに約7.3兆円の成長!「アニメ・マンガ市場」の商機は途上国にあり

加速度的に拡大する世界のアニメ市場。コロナ禍の影響による「巣ごもり需要」は出版や動画配信業界にとって追い風となりましたが、アニメ関連業界は今後さらに成長すると予測されています。コンテンツ配信におけるプラットフォームの多様化がアニメの人気を世界中で高めると同時に、発展途上国でも市場が拡大する見込み。この波に乗るために、新たなビジネス機会を狙う企業が現れています。

世界中で成長するアニメ産業

 

2022年7月に米国のマーケットリサーチ企業Future Market Insights(FMI)が発表したデータによれば、世界のアニメ市場は2032年までに約530億ドル(約7.3兆円※)の成長が見込まれているとのこと。その中でも大きく注目されているのが、音楽コンサートやステージ上でのパフォーマンスといったライブ・エンタテイメント部門。新型コロナウイルスのパンデミックによる影響で同部門は停滞していましたが、コロナ禍が収束するにつれて回復し、長期的には同業界を牽引していくであろうと予測されています。

※1ドル=約137円で換算(2022年7月23日現在)

 

また、スマートフォンやタブレットなどユーザーのデバイスが多様化する一方、テレビやケーブルではなく、インターネットを通して視聴者に直接コンテンツを配信する「OTTプラットフォーム」志向が世界各地で拡大。NetflixやDisney+、Amazon Prime Videoなどの動画ストリーミングサービスの普及が、アニメの人気を押し上げるようになりました。同様にオンラインゲームの発展もアニメやマンガのファンを増やすと見られています。

 

そんなアニメ市場で日本は不動の地位を築いてきました。FMIによると日本のマーケットシェアは43%以上で、今後も日本の優位は続くとされています。以前から日本が生み出すマンガやアニメは国境を超えて数多く流通しており、レベルの高さに衝撃を受けた世界中の子どもや若者が日本への憧れを抱いてきました。

 

可処分所得が増えている発展途上国では、アニメ・マンガ市場がさらに成長する可能性があります。最近では、日本の専門学校がアニメやマンガを専門的に教える学校をマレーシアで開校。熱心な若者が勉強に励んでいますが、この動きは日本の教育業界における少子化の影響を反映しているだけではなく、アニメ・マンガ業界で外国人材の活用が加速していく可能性を示唆しているかもしれません。昨今では日本の制作会社は慢性的な人材不足に陥っているため、どうしても外国人材を育成することが必要。すでに作品のローカライゼーション(現地化)では、多くの現地人材が活用されるようになりました。

 

このように、世界のアニメ・マンガ市場には、出版社やテレビ局といったメディア企業だけでなく、テクノロジーやゲーム、教育など、幅広い産業から多くの企業が参戦しており、経済発展が著しい発展途上国にも商機がありそうです。

 

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途上国の「児童労働」をなくすために。ブロックチェーン活用事例と「サステイナブル・カカオ・プラットフォーム」から紐解く。

皆さんは、「児童労働」という言葉にどのような状況を思い浮かべるでしょうか。

 

国際連合が定める「世界人権宣言」には、子どもが教育を受ける権利が明記されていますが、発展途上国では、子どもが十分に教育を受けられない状況が現代に至るまで続いています。世界一のカカオの生産国・コートジボワールもそうした国のひとつ。カカオ農家を家業とする家庭が多く、労働を余儀なくされている子どもたちが珍しくありません。

 

そんなコートジボワールで、ブロックチェーン技術を活用することで児童労働撤廃に向けたモニタリングシステムの実証実験が行われました。ブロックチェーン技術はどのように児童労働の撤廃につながるのでしょうか。今回の実証実験に携わったJICA(国際協力機構)の若林基治氏(JICAアフリカ部次長)と、持続可能なカカオ産業への懇話会「サステイナブル・カカオ・プラットフォーム」を担当する山下契氏(JICAガバナンス・平和構築部 法・司法チーム企画役)にお話をうかがいました。

 

今回の実証実験の協力者に、入力端末による情報の登録方法をレクチャーする日本人スタッフ(写真左)と実際に入力操作を確かめる現地の協力スタッフ(写真右)。写真提供:国際協力機構(JICA)

 

すこし、コートジボワールのカカオ農家の現状を整理しましょう。シカゴ大学の調査データによると、コートジボワールでは、2〜3人に1人の割合で、5~17歳の子どもがカカオの生産に携わっているとされています(出典リンク)。大人の労働力だけでは、家族が暮らしていけるだけの収入を確保できなかったり、農家に大人を雇用する経済力がなかったり、そもそも、教育機関の整備が不十分であったりすることが、その主な理由です。

 

同じ問題を抱える、世界第二位のカカオ生産国・ガーナの児童労働に関する調査担当の山下氏は「現地で関係者のお話を聞くと、親は、自分の子どもを学校に通わせて、良い教育を受けさせたいと思っている。でも、さまざまな理由から、それができない。どうせ学校に通えないのなら、家の仕事を手伝わせたり、外で働かせたりした方がいいと考えてしまう親もいるようです」と語ります。

 

2〜3人に1人というコートジボワールのカカオ農家の児童労働の割合は、ショッキングな数字です。しかし、その状況はコートジボワールのカカオ農業の長い歴史が醸成してきたものであり、簡単に変えられるものではありません。では、ここにブロックチェーン技術を応用すると、どのような変化が期待できるのでしょうか。

 

若林氏は、カカオの生産過程にブロックチェーン技術を組み込む意義について「確実にトレーサビリティーを担保し、サプライチェーンを透明化することが可能です。ウナギなどの農林水産物の産地の偽装が日本でも事件として報道されていますが、ブロックチェーン技術を用いることでこのような問題が発生しにくくなります。システムの違いよって情報の内容、信頼度が変わりますが、ブロックチェーン技術を用いればシステムに関係なくカカオの由来が生産者から消費者まで同じように明らかになり、誰もが確実に児童労働の有無を確認することができるようになります。特に今回の実証実験では子供の学校の出席データを利用することで、子供の就学を促す効果が期待できます」と話します。

 

JICAとデロイトトーマツが共同で実施した今回の実証実験では、カカオ農家の代表グループが登録した「農家ごとの児童労働の状況」と、教育機関が登録した「子どもの出席状況」とを監査人が照合し、児童労働を行わなかった農家のカカオを、プレミアム価格で買い取ることで正しい情報が持続的に記録され、確認できる仕組みを構築しました。

図版は、実証実験されたモニタリングフローを図解したもの。農園(事業者)、家庭(農家)、学校の三方からの登録情報をモニタリングチームが確認し、ブロックチェーンデータベース内で情報を保全。児童労働をしない農家のカカオをプレミアム価格で買い取る仕組み。図表提供:国際協力機構(JICA)

 

それぞれの代表者は専用の端末から情報を登録します。情報は相互に突き合わせて確認されます(モニタリング)。単に情報をデータベースに登録するだけでは、“本当は働いていたのに働いていなかったことに”してしまったり、“本当は出席していなかったのに、出席したことに”してしまったりといった不正入力ができてしまいますが、生産者の現場で複数の情報を突合させることで正しい情報がブロックチェーン上に記録され、それ以降は情報の信憑性は相互に担保され、改ざんもできません。もしも情報が整合しない場合は、モニタリングチームがヒアリングし、現地調査に訪れ、事実確認をするという仕組みも取り入れました。

 

2021年の11月から12月までの1か月の実験期間で、農家グループからの申請率は100%に達し、学校の申請率も95.6%に達しました。また、双方の情報が一致しないケースは、入力や申請の誤りがほとんどであると確認されました。児童労働が明らかになったのは、2366件の申請中、学校の通信環境や業務過多を原因とした未申請の103件を除くと、わずか3件という結果になったのです。

 

つまり、信憑性・透明性の高いブロックチェーン情報をもとに、プレミアム価格のカカオ買い取りというインセンティブをつけることで、親も事業者も子供たちに児童労働を強いる必要がなくなる可能性が確認できたわけです。

 

ブロックチェーンの導入が生む新たなブランド価値と商習慣

現在のカカオの流通過程をごくシンプルに説明してみましょう。まず、カカオ農家から出荷されたカカオが、コートジボワール国内の運搬業者によって運ばれ、輸出され、各国のチョコレート工場に運ばれます。工場で加工されたチョコレートをはじめとした加工品は、小売店に並び、消費者はそれを楽しみます。

 

ごく当たり前の、長年続いている商習慣ですが、問題は、供給側にどのような問題があったとしても、私たちはチョコレートを美味しく“楽しめてしまう”という点にあります。チョコレートを食べるときに、生産者の顔を思い浮かべる人がどれほどいるでしょうか。もしかすると、コンビニエンスストアで何気なく買ったチョコレートの原料を生産するために、遠く離れた地で、子どもたちが危険な児童労働に従事しているかもしれません。ですが、私たちは、チョコレートのパッケージからその有無を知る術がありません。

 

ここに、ブロックチェーン技術を使えば、消費者側からのチョコレートの背景情報の追跡が可能になります。今回の実証実験には小売店や消費者は参加していませんが、商品が出荷されるまでの各過程を正確に追跡できるということは、消費者がデータベースにアクセスすることで、どの農園で生まれたカカオを使って、どの工場で加工されたチョコレートなのか、また、生産過程で違法な児童労働はなかったのかも知ることができるということを意味します。

 

カカオサプライチェーンの「現状(左)」と「目指す未来像(右)」。現状は、生産者側と購入者側の情報経路が相互に繋がっていないため、情報追跡ができず生産地の問題を把握することができない。目指す未来は、生産者側と購入者側が情報をリアルタイムで共有する環状のサプライチェーン。ブロックチェーン技術で情報を保全しながらトレーサビリティ(流通の追跡可能性)を確保できる。図表提供:国際協力機構(JICA)

 

若林氏は「コバルトなどのレアメタルや、ダイヤモンドなどの希少な鉱石、綿花などの農産物も、児童労働が問題視される生産物の一例です。ブロックチェーンの仕組みを取り入れることで、こうした状況も改善できる可能性があるでしょう」と話します。

 

ブロックチェーンの産業への適用は、経済的に強い立場にある先進国の消費者が、弱い立場にある発展途上国と対等で公正な取引を行うことで、生産者のウェルビーイングを目指すという「フェアトレード」にもつながっていくと言えるでしょう。

 

人権意識の強い欧米の社会では、製品がフェアトレードに基づいて生産されているかどうかが商品選択や購買意欲に結びつく状況が生まれつつありますが、日本では、まだまだ認知度が高いとは言えません。

 

●サステイナブルチョコレートの認知者の購入意向

 

 

●サステイナブルチョコレート非認知者の購入意向

 

●調査全体としての購入意向

 

日本国内でのサステイナブルチョコレートの認知度ままだ低いものの、全体の65%が購入意向ありと回答しており、サステナブルチョコレートを認知している人の89%が購入する意向を示している(15歳以上の男女1400人webアンケート:デロイトトーマツ2021)。資料提供:デロイトトーマツ

 

例えば、生産・流通の各過程をブロックチェーンのデータベースに記録した上で流通する商品には、データベースを参照できるQRコードを付与したとします。それは今回の実証実験結果のように、生産側の持続可能な労働環境の醸成に結びつくだけでなく、それを製造・販売する企業にとっては、フェアトレード製品という“付加価値”を商品に持たせ、さらに、フェアトレードに対する社会の認識を強めるきっかけを作れるかもしれません。

 

「ブロックチェーンの技術を使ってデータを記録するということは、分散型でデータ管理されるため、利害が対立している当事者でもデータを信頼することができます。従来の内部でのデータ改ざんが可能な中央集権型のデータベースとの違いはここにあります。ブロックチェーン技術で農家と直接契約を結ぶこともできますし、新たな要素を加えることもできます。発想や捉え方によって、さまざまな付加要素を後から与え、新たな価値創造が可能だと思いますね(若林氏)」

 

持続可能なカカオ産業を作るために集う「サステイナブル・カカオ・プラットフォーム」

JICAでは、2020年1月に持続可能なカカオ産業の実現を目的とした「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム(以下、サステイナブル・カカオ・プラットフォーム)」を立ち上げています。今回の実証実験はプラットフォーム会員が関わる取り組みのひとつです。

 

JICAで開催されたサステイナブル・カカオ・プラットフォームの イベント。写真提供:国際協力機構(JICA)

 

会員に名を連ねるのは、大手・中小の菓子メーカーや商社、広告代理店、弁護士法人、フェアトレードに関する社団法人や非営利活動法人などさまざま。それぞれの業種や業界が、それぞれの立場から、持続可能なカカオ産業を実現するべく、知見やリソースを持ち寄って共創、協働する場としての役割を果たしています。

 

JICA 開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム 概要。図表提供:国際協力機構(JICA)

 

「例えば、メーカーは、自社製品の原料がどのように生産されているか、高い関心を持っています。持続可能な方法で生産されていることを確認したい、持続可能な方法で生産できるよう生産者を支援したい、と考えているメーカーは多い。一方で、カカオ生産国で児童労働といった生産者の問題の解決に長年取り組んでいて、そのようなメーカーのパートナーになれるNGOもいますし、フェアトレード製品の流通拡大に取り組んでいる認証機関もいます。企業のサプライチェーン上の人権問題のリスクや対応事例について発信し、企業やNGOに助言を行っているコンサルティング企業もいる状況です。皆さん、それぞれの立場から持続可能なカカオ産業の実現に取り組んでいるとともに、この“場”を利用して協働する可能性を探っています。現在、メーカー、NGO、コンサルティング企業などの会員有志で、カカオ産業における児童労働撤廃に貢献するために、関係者それぞれに期待される具体的な行動を取りまとめたガイダンス資料を作成しています。(山下氏)」

 

また山下氏は、今後のサステイナブル・カカオ・プラットフォームの展開について「現在はメーカーや商社が多いですが、ほかの分野にも会員が広がっていくと、活動の幅も広げられると思っています。より消費者に近い流通業界、大手の百貨店さんやスーパーマーケットチェーンなどを巻き込んでいきたいですね」とも話します。

 

多彩なプレーヤーの増加が児童労働の撤廃につながる

「児童労働の撤廃」「持続可能なカカオ産業の実現」と聞くと、ごく限られた企業のみが関係しているようにも思えます。ですが、このテーマを追求し、発展途上国の状況や、社会構造を変革させるような大きな動きにするためには、より多くの業種の参画が必要だと私は考えています。というのも、児童労働の撤廃のためには、将来にわたって大きな収益を生み続けていくことが不可欠だからです。

 

多様な関係者間での意見交換の場となっているサステイナブル・カカオプラットフォーム。写真提供:国際協力機構(JICA)

 

今回の実証実験では、児童労働をさせないことを条件に、事業者がプレミアム価格でカカオを買い取るという仕組みで農家の収益を向上させています。ですが、上乗せ分のコストは、さまざまな方法で確保できるのではないでしょうか。

 

例えば、ブロックチェーンの技術を用いて、フェアトレード製品であることが担保されているチョコレートを、メーカーはこれまでの120%の価格で販売するとします。いわば、フェアトレード製品であることをブランド化し、付加価値を作ることで、利益率を向上させるのです。メーカーから農家に利益を還元する仕組みを作れば、消費者がその商品を買えば買うほど、農家にマージンが入るようになります。

 

あるいは、他のサービスや製品を巻き込んでプロジェクト化し、フェアトレード製品を組み込むという考え方も適用できる可能性があります。例えばエンタメ産業なら、特定のアーティストの楽曲をダウンロード購入した消費者は、フェアトレード製品を無料で受け取ることができ、音楽出版社は、楽曲の販売利益の一部を、フェアトレード製品の製造に関わった農家に還元するといったお金の還流方法です。この方法なら、協力するアーティストのファン層という、それまでとはまったく別の層にもアプローチすることになり、フェアトレードや児童労働撤廃という社会ムーブメーントの意識拡大にも期待が持てます。

 

これらはあくまでも一例ですが、私がお伝えしたいのは、一見、関わりが薄いように思える企業でも、児童労働を撤廃させるための仕組み作りに参加できる可能性を持っているということです。そしてプレーヤーが増えれば増えるほど、発展途上国の農家にインセンティブを提供できる機会も増加し、持続可能なカカオ産業の醸成に大きく近づいていくのではないでしょうか。そんな近未来を感じさせてくれる、ブロックチェーン技術とカカオと児童労働撤廃の話題です。

 

幼稚園に通う子どもたち(ガーナ)。写真提供:国際協力機構(JICA)

 

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憧れの日本のライフスタイルを体現! 「日本式コンドミニアム」がフィリピン・マニラに誕生

親日国と言えば、まず名前があがるのが台湾やタイでしょう。しかし電通が発表した「ジャパンブランド調査2019年」によれば、フィリピンの親日度は4位と、これらの国に決して劣ってはいません。自動車や家電、さらにはコスメティックといった「Made in Japan」への信頼が高いのはもちろん、若い世代にはアニメや漫画といった日本のサブカルチャーが大人気。また、フィリピンにはたくさんの日本食レストランがあり、現地の人々の舌を楽しませています。

高層ビルが立ち並ぶBGC地区の夜景

 

そんなフィリピンの首都マニラでも、発展著しい地域が「BGC」(ボニファシオ・グローバル・シティ)。同地域では、近年、外資系企業のオフィスや高級ホテル、デパートなどが入る高層ビルやレジデンスなどが次々と建設されています。そこに、日本の技術と文化を取り入れた複合開発タワーコンドミニアムの「ザ・シーズンズ・レジデンス」が誕生。商業施設「MITSUKOSHI」と直結したこのコンドミニアムには、随所に日本の伝統文化があしらわれ、日本流の「おもてなし」が感じられることでも注目が集まっています。

ザ・シーズンズ・レジデンス「アキ」の室内。画像:野村不動産ソリューションズ

 

野村不動産と三越伊勢丹ホールディングス、そしてフィリピンの大手ディベロッパーであるフェデラルランドが共同で開発する、ザ・シーズンズ・レジデンス。日本の四季をモチーフにした同コンドミニアムでは、すでに「HARU(ハル)」と「NATSU(ナツ)」が公開されていますが、今回、新たに3棟目となる「AKI(アキ)」が発表されました。

 

ザ・シーズンズ・レジデンスの特徴は、こだわりの日本風の住宅に厳選されたアメニティ、そして同国初である三越の店舗がテナントとして入っている点。今回の「アキ」では、その名のとおり、日本の秋を連想させる意匠が各所に取り入れられています。室内にはシューキャビネットやキッチン収納、床下収納、ウォッシュレットトイレ、オイルフィルター付レンジフードなどを用意。キッチンに水切りやまな板付きの省スペース型キッチンシンクを採用するなど、まるで日本の住居にいるかのような住み心地が体験できます。

 

棟内にはヨガスタジオやジムプールを設置するなどアメニティも充実。「禅」をコンセプトにした庭園や、日本の冬をイメージしたスパ&ウェルネスルーム、さらにカラオケルームまで設置されているそうです。

 

一方でセキュリティ面でも抜かりはなく、強風に耐えるための耐震ダンパーや二段階セキュリティ(エレベータ及び玄関ドア)、火災警報器を装備。また、沈床スラブや床下排水システムを採用し、配管のメンテナンスが容易になっています。

 

アニメや食をきっかけに、本格的な日本文化への関心が高まっているフィリピン。建築や住宅分野をはじめさまざまな分野で、こうした日本の様式や伝統的な文化を採り入れようとする動きが拡大すれば、日本企業にとっても大いなるビジネスチャンスになりそうです。

 

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5年連続で世界1位!「日本のパスポート」が世界最強であることの意味

7月、イギリスのコンサルティング企業であるヘンリー・アンド・パートナーズ(H&P)が、世界パスポートランキングの最新版(正式名は「The Henley Passport Index: Q3 2022 Global Ranking」)を発表。日本は史上最高の193点を獲得し、5年連続で1位になりました。日本のパスポートが“世界最強”であることは何を意味するのでしょうか?

もはやパスポートは単なる身分証明ではない

 

2006年から四半期ごとに発表されている同パスポートランキングは、IATA(国際航空運送協会)のデータをもとに、ビザなしで渡航できる国の数を調査しています。2022年第3四半期のランキングの結果は以下の通りでした。

 

1位: 日本(193)

2位: シンガポール、韓国(192)

3位: ドイツ、スペイン(190)

4位: フィンランド、イタリア、ルクセンブルグ(189)

5位: オーストリア、デンマーク、オランダ、スウェーデン(188)

6位: フランス、アイルランド、ポルトガル、イギリス(187)

7位: ベルギー、ニュージーランド、ノルウェー、スイス、アメリカ(186)

8位: オーストラリア、カナダ、チェコ、ギリシャ、マルタ(185)

9位: ハンガリー(183)

10位: リトアニア、ポーランド、スロバキア(182)

※( )はスコア。出典:The Henley Passport Index: Q3 2022 Global Ranking

 

評価方法は、ある国・地域に入国するとき、ビザが必要なら0点、ビザの取得は必要はなく、パスポートのみで入国できる場合(到着した空港で取得できるアライバルビザを含む)は1点とカウントし、総合スコアで順位を付けています。例として日本のスコア(193)を見てみると、日本のパスポートを持っている人は、ビザなしで入国できる国と地域が世界に193あるということ。このパスポートランキングで日本が1位になったのは5年連続で、シンガポールや韓国もトップ3の常連です。

 

では、このランキングで上位に入ることは何を意味するのでしょうか? ここで注目したいのは、世界の平和や安全保障などに関するデータを提供するVision of Humanityがまとめた「グローバル・ピース・インデックス(世界平和指数)」との関係。この指数は、殺人率や政治テロ、内戦などの死者数などをもとに、世界各国の平和レベルを評価するものです。H&Pが、パスポートランキングの結果と世界平和指数を比較したところ、前者の上位10か国は後者でも上位10位にランキングしていることが判明。例えば、日本は世界平和指数で10位である一方、ヨーロッパ諸国はパスポートランキングと世界平和指数で上位を占めています。それに対して、パスポートランキングで順位が低い国は、世界平和指数でも下位。この2つのデータの間に相関関係があることがわかります。

 

最新版のパスポートランキングについて、オックスフォード大学サイードビジネススクールのフェローであるスティーブン・クリムチュック・マシオン氏は、「新型コロナウイルスのパンデミックやインフレーション、政治不安、戦争など、私たちは激動の時代を生きています。そんな中でパスポートは、これまで以上に『名刺』の役割を果たすようになってきており、渡航先での待遇や安全に影響を与えます」と述べています。

 

最近、日本はコロナ禍の「鎖国」政策を徐々に緩和し始めました。訪日外国人観光客の受け入れが再開した一方、海外直接投資も回復傾向にあります。これから日本企業が海外に進出したり、ビジネスパーソンが外国でリモートワークをしたりする際、日本のパスポートは平和と安全の象徴として重宝するかもしれません。もちろん、パスポートだけで身の安全が保証されるわけではありませんが、日本のパスポートは少しの安心感と自信を与えてくれることでしょう。世界が歓迎してくれるはずです。

 

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アフリカビジネスの大きなきっかけに!「ABEイニシアティブ」卒業生がこれからの日本企業に欠かせない理由とは?

アフリカにおける産業人材育成と日本企業のアフリカビジネスをサポートする「水先案内人」の育成を目的として、日本の大学での修士号取得と日本企業でのインターンシップの機会を提供するプログラム「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(African Business Education Initiative for Youth)」、通称:ABEイニシアティブをご存知でしょうか? 2014年から現在までで、ABEイニシアティブを通じて1286人ものアフリカ出身の留学生が来日。留学生のなかには、プログラム終了後の進路として、日本企業へ就職する人がいます。

 

本記事では、2019年より仙台を拠点とするラネックス社で活躍するセネガル出身のABEイニシアティブ卒業生、ブバカール ソウさんにABEイニシアティブでどのようなことが学んだのか、また日本企業で3年以上働いてみてどんな感想を抱いているのかを聞きました。

 

●ブバカール ソウ/セネガル出身。2012年には、JICA横浜で開催された短期研修に参加するために訪日した経験がある。日本の支援で設立されたセネガル日本職業訓練センター(Technical and Vocational Training Center Senegal-Japan)を卒業後、職業訓練・手工業省職員となり職業訓練センター・ジガンショール校にてコンピューター科学の教師をしていた。在職中にABEイニシアティブの選考を受け、宮城大学の事業構想学研究科の修士号を取得。卒業後2019年3月~10月のインターンを経て同年11月より仙台に本社のあるラネックス社に勤めている。

 

「ABEイニシアティブ」で学べることとは?

まずは「ABEイニシアティブ」がどういったプロジェクトなのか、その背景を紹介しましょう。

 

2013年6月に横浜市で開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD Ⅴ)で発表されたABEイニシアティブ。当初の計画は、2014年からの5年間で、1000人のアフリカの青年を招聘し、日本各地の大学院で専門教育と、日本企業でのインターン研修の機会を設け、日本とアフリカの架け橋となる産業人材の育成を目的としていました。そのインターンでは、日本の企業文化、勤労精神まで学んでもらおうという狙いもあります。

 

2016年の第6回アフリカ開発会議(TICAD Ⅵ)で、2019年以降も継続して取り組んでいくことが表明されています。

 

2014年9月に初めてABEイニシアティブの研修員156人が8か国から来日し、2019年4月までにアフリカ54か国すべての国から1219人が来日しました。そのうち775人がプログラムを終えて帰国し、さまざまな分野で活躍しています。

 

ABEイニシアティブでは、JICAと、日本の大学がおよそ半年間かけて留学生の選考を行います。来日後は1年〜2年6か月間、大学院の修士課程で専門知識を習得し、夏季休暇や春季休暇で日本企業でのインターンが行われます。プログラム終了後は帰国する人もいれば、日本企業でインターンや就職をする人もいるといった感じです。

 

 

留学生が学ぶのは工学や農学、経済・経営、ICTなど多岐にわたります。彼らが学んだ後のインターン受入登録企業数は、2015年は217社だったのに対し、2019年には584社にまで増えました。しかし、帰国後の進路として日本企業に就職する人は前途多難となっており、全体の17%に留まっています。

 

【参考資料】

アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)「修士課程およびインターンシップ」プログラム

 

超難関の試験をクリアして来日できる狭き門

今回、お話を聞いたソウさんは、もともとはジガンショール州の職業訓練センターでコンピューター科学の教師として働いていました。2012年には、JICA横浜で開催された短期研修に参加するために訪日し、日本の魅力に気付いたといいます。

 

ABEイニシアティブ当時、東京でインターンシップをしたときの送別会でのソウさん

 

「初めて来日したとき、日本はなんてきれいで安全な国なんだろうと思いました。JICAの研修では製造プロセスについて学んだのですが、そのときは日本ならではの“ものづくり”や“カイゼン”活動を知りました。また、私自身は大学でもITの勉強をしていたので、日本はIT化が進んでいて興味が湧きました」(ソウさん)

 

ABEイニシアティブの存在を知ったのは、セネガルで日本大使館のイベントに参加した際だといいます。このとき、セネガルにおける応募者は200〜300名ほどで、最終合格者はわずか15名ほどでした。それだけ狭き門を突破した人だけが、ABEイニシアティブのプログラムで日本に来ることが許されるのです。

 

「私はセネガルの現地語と母国語であるフランス語に加え、英語を勉強していました。日本語は来日してから覚えたので、まだまだうまくありません。今は仙台のラネックスという会社でシステムエンジニアとして働いています。働き始めて3年が経つので、既に5年半日本で暮らしていることになりますが、日本は差別も少ないので他の国よりも暮らしやすいと感じています。来日当初は大学の先生に買い物をする場所を教えてもらうなど、日常生活でも分からないことだらけでしたが、2か月ほどで日本の暮らしには慣れましたね」(ソウさん)

 

国際会議で発表するソウさん

 

ソウさん自身はすっかり日本での生活にも慣れ、あまり困った経験はないと話します。しかし、ABEイニシアティブの研修を経て、日本で就職をして長く定着する人はまだまだ少ない印象だとか。大きな壁となるのは言語の問題だけでなく、日本ならではの文化やルールの違いも大きいようです。

 

「一番大切なのは、日本語を勉強することです。あと日本の文化を理解して、ルールを守ることも日本での就職を目指す人にとっては欠かせません。日本で働きたいのであれば、日本の働き方に合わせるべきだというのが私の考えです。これは難しいことではありますが、決して不可能ではありません。私は他のどの国で働くよりも、日本で働くことが最も経験値が上がることだと思っています」(ソウさん)

 

日本で働く上で重要なのは「チームワーク」です。これはアフリカの企業にはなかなかない文化で、海外では個人主義な側面が多くなっています。もちろん、海外でもチームワークが求められる場面はありますが、日本のほうが求められることをソウさんは実感しているそうです。

 

「日本はチームワークを重視しながらも、1人ひとりを尊重している印象があります。また、問題が起こると“報連相”をする文化があり、これは私にとってプラスの経験になっています。イスラム教徒のため、豚肉を食べないので、同僚との飲み会の店選びのときには、異文化で生活していることを実感することもありますが(笑)、私は今の会社で働けていることにすごく満足しています」(ソウさん)

 

アフリカとの関係性を築きたい企業に有利

ソウさんはアプリやウェブシステムの開発をするのが主な仕事で、開発チームとの打ち合わせなどでは英語を話すそうです。日本語でなくて不便はないのかと気になりましたが、最近は日本語のシステムだけでなく、英語のシステムを構築してほしいという依頼も多く、ECサイトがその代表例なのだとか。

 

「私の勤め先には海外から来た人が私以外にも2人います。仙台の本社オフィスには18名のスタッフがいます。フィリピンにも支社があり、会社全体としては、アメリカ、オーストラリア、セネガルなど多様な国の出身者が働いています」(ソウさん)

 

そんなグローバルな企業で働くソウさんですが、日本だけでなくセネガルとの架け橋になるような仕事も手掛けているといいます。それは、セネガルにおける電子母子手帳アプリです。

 

「セネガルの病院では、産前・産後の検診でお母さんが長く待たされます。そこで、診察の予約、医師によるデータ入力、チャットによるオンライン診療のできる電子母子手帳アプリを開発しました。そのときに、セネガルの保健省の人に向けて私がプレゼンをしたんです。このアプリはJICAの民間連携事業を通じて1年間のトライアル期間を経て、今後リリースされる予定です」(ソウさん)

 

アストラゼネカで母子保健申請に関するスピーチをするソウさん

 

ソウさんはいずれはセネガルに帰国したいと考えており、帰国後は日本企業とアフリカをつなぐお手伝いがしたいと考えているそうです。まさにABEイニシアティブが目標に掲げる「アフリカの産業人材育成と日本企業のアフリカビジネスをサポートする水先案内人の育成」が成功していると言えるでしょう。

 

「ケニア、ルワンダなどの南アフリカには既にいろいろな日本企業が進出していますが、セネガルのある西アフリカにはまだ少ないのが現状です。その問題は言語だと思います。南アフリカは公用語が英語ですが、西アフリカの多くはフランス語。フランス語圏への進出は日本企業にとっては難しいのかもしれません。私はフランス語も得意なので、日本企業とセネガルの架け橋になれるといいなと思います」(ソウさん)

 

海外の人材を雇うことにハードルを感じる日本企業はまだまだ多いですが、現地とのコネクションがある人材を採用するのは大きなメリットになることを、今回ソウさんを取材して強く感じました。また、ABEイニシアティブというプロジェクトが言語能力の高さだけでなく、社会人としても優秀な人材を日本に多く送り込んでいるというのは心強い話題。また、JICAではABEイニシアティブだけでなく、開発途上国の人材を日本に招聘する本邦研修という事業で多くの開発途上国の人材を日本に招聘しています。本邦研修では毎年約1万人の研修員を受け入れており、研修が始まった1954年から2019年までで、38万8406人もの受け入れ実績があります。

 

ソウさんのように日本の組織文化を理解している人材は、世界中に多く存在し、それらの人材の中には日本での就職を希望する人もいます。このような人材の活用と、日本の企業で安心して働ける環境づくりがこれからの日本企業の課題になりそうです。

 

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SDGsの遥か昔から取り組むキーコーヒーの「再生事業」

本記事は、2022年2月21日にGetNavi webで掲載された記事を再編集したものです

 

目覚めの時やちょっとした休息の際など、コーヒーは欠かせない飲み物のひとつ。いまやスペシャルティコーヒーをはじめ、さまざまな個性豊かなコーヒー豆が日本でも楽しめますが、そんななか、フローラルな香りと柑橘系の果実のような酸味で高い評価を受け続けているコーヒーが、キーコーヒー株式会社の「トアルコ トラジャ」です。そのトラジャコーヒーですが、かつては絶滅の危機に陥ったこともあるそう。それを救ったのが同社の再生事業でした。

 

“幻のコーヒー”を見事に再生

トラジャコーヒーとは、インドネシア・スラウェシ島のトラジャ地方で栽培されるアラビカ種のコーヒーのことです。18世紀には希少性と上品な風味がヨーロッパの王侯貴族の間で珍重され、「セレベス(スラウェシ)の名品」と謳われていました。しかし第二次世界大戦の混乱で農園は荒れ果て、トラジャコーヒーも市場から姿を消すことに。そんな幻のコーヒーに着目し、サステナブルな要素を踏まえた取り組みにより、約40年の時を経て復活させたのがキーコーヒーでした。

 

「トラジャコーヒーは、スラウェシ島のトラジャ県で栽培されるアラビカコーヒーを指します。その中から独自の基準により、品質の高い豆として認定したものが『トアルコ トラジャ』という当社のブランドです」と話すのは、2015年~2019年まで現地で『トアルコ トラジャ』の生産に携わっていた同社広域営業本部の吉原聡さんです。

広域営業本部 販売推進部 担当課長 吉原聡さん

 

「トラジャコーヒー再生の発端は、1973年に当社(旧・木村コーヒー店)の役員がスラウェシ島に現地調査に行ったことでした。トラジャ地区(県)の産地は島中部の標高1000~1800mの山岳地帯にあり、当時はジープと馬を乗り継ぎ、さらに徒歩でようやくたどりつけるような難所だったそうです。たどり着いた先で彼が目にしたものは、無残に荒れ果てたコーヒー農園。しかしそんな中でも生産者(農民)たちは細々とコーヒーの木を育て続けていました。そこで当社は再生を決断したのですが、そこには“この事業の目的は一企業の利益にとどまらず、地元生産者の生活向上、地域社会の経済発展に寄与し、さらにはトラジャコーヒーをインドネシアの貴重な農産物資源として国際舞台によみがえらせることが重要”という強い意志があったと聞きます」

 

さっそく同社は、翌1974年にトラジャコーヒー再生プロジェクトの事業会社を設立。1976年にはインドネシア現地法人「トアルコ・ジャヤ社」を設立し、“トラジャ事業”を展開していきました。さらに1978年には日本で『トアルコ トラジャ』として全国一斉発売。そして1983年には直営のパダマラン農園での本格的な運営も始まったのです。

「トアルコ トラジャ」を使用した商品。簡易抽出型や缶などいろいろなタイプで販売されている

 

地域一体型事業における“3つのP

「トラジャコーヒーの再生は、トラジャの人たちと共に築き上げてきた地域一体型事業そのものです。それを踏まえた上で、「Production」「People」「Partnership」という3の“P”を事業の根幹に据え、取り組んできました。

 

まずProduction」は、自然との共生と循環農法です。環境保護に努めることがコーヒーの品質維持や現地の人たちの生活の保護にも寄与します。自然との共生という部分では、農園の約40%を森林に戻したり、水洗時の排水のチェックを徹底したりしています。また土壌を守るため、コーヒーの木の周りにマメ科やイネ科の植物を植え(カバークロップ:土壌侵食防止目的に作付けされる)、さらに直射日光を遮るための樹木も植えています。そして脱肉後の果肉を堆肥として利用したり、脱殻後のパーチメント(種子を包んでいる周りのベージュ色の薄皮)を乾燥機の燃料にするなど循環農法を実施。持続可能な農業を地道に行っています。直営パダマラン農園は、これらの取り組みを認められ、熱帯雨林を保護する目的の「レインフォレスト・アライアンス認証」を受けています。

直営パダマラン農園

 

「People」は言葉通り、人を意味します。生産者、仲買人、そして現地社員の協力の元でトラジャ事業は成り立っています。『トアルコ トラジャ』で使用するコーヒー豆の全生産量のうち、直営のパダマラン農園で作られるのは約20%で、残り80%は周辺の生産者や仲買人から購入しています。生産者には当社からコーヒーの苗木や脱肉機を無償提供し、オフシーズンには生産者講習会を開き、剪定や肥料のやり方、脱肉機の操作方法を指導。年に1回、『KEY COFFEE AWARD』を開催し、その年に優良なコーヒー豆を育てた生産者を表彰して労うことも行っています。また、現地の人たちの負担を軽減させるために、片道2時間ぐらいかけて標高の高い地域まで出向き、その場で豆の品質をチェックし買い付けする出張集買を行っています。現地の人たちとの二人三脚、協力体制を大切にし続けているのです。

出張集買は日時を決めて数カ所で開催される

 

そしてPartnership」は地元政府や地域との連携です。道路のインフラ整備や架橋への協力、生産者の子どもたちが通う学校へのパソコンの寄附も行っています。またインドネシアでは、コーヒーの粉を直接カップに入れて上澄みをすすったり、砂糖をたっぷり入れたりして飲むのが一般的です。そこで『トアルコ トラジャ』の美味しさをこの島の人たちにも伝えたいと、コーヒーショップのオープンをはじめ、ドリップコーヒーの普及にも努めています」

スラウェシ島の中心都市マカッサルにあるキーコーヒーのコーヒーショップ

 

同社の取り組みは、幻のコーヒーを再生しただけにとどまりません。

 

「トアルコで働くことで4人の子どもを大学に進学させることができた」「トアルコ社に良質なコーヒー豆を買ってもらい、ワンシーズン働いただけでバイクが買えた」など、現地の人たちの生活向上にも大きく貢献していると言います。

 

コーヒー豆の生産量が半減する!?「2050年問題」

このように順調とも思える同事業ですが、一方で近年、コーヒーの生産について世界規模での懸念があるそうです。

 

「2050年問題といいますが、地球温暖化によりコーヒーの優良品質といわれるアラビカ種の栽培適地が、将来的に現在の半分に減少すると予測されています。このまま何も対策を取らないと、コーヒー豆の生産量の減少や品質の低下、そして生産者の生活を奪うことになります。そこで、アメリカに本部を置く“World Coffee Research(WCR)”という機関と協業で、病害虫や気候変動に負けない品種開発の実験(IMLVT:国際品種栽培試験)を直営パダマラン農園で行っています。Partnershipともリンクしますが、世界的なトライアルに参画し、共にこの問題を解決していきたいと考えています。このほかにも、当社は様々な研究を行っており、生産国や品質の多様性を守る活動にも力を入れています」

2017年のIMLVT開始時の様子

 

SDGsを念頭に入れた事業展開

社会貢献に対する意識は、創業当時から高かったという同社。例えば、環境保護や生産者の支援につながる「サステナブルコーヒー」という考えを元に、「レインフォレスト・アライアンス認証」を受けたコーヒー農園の商品の取り扱いや、国際フェアトレード認証制度に基づき、経済的、社会的に立場の弱い発展途上国の生産者や労働者の生活改善、自立を支援する取り組みなども早くから行っています。また、環境に配慮したパッケージの切り替え、食品ロスの削減にも取り組んできました。

 

「東日本大震災以降は、10月1日のコーヒーの日にチャリティブレンドを販売。日本赤十字社を通して売上金の一部と基金を被災地や世界の貧しいコーヒー生産国の子どもたちへ寄付し続けています。また100周年の創業記念日(2020年8月24日)には、コーヒーの未来と持続可能な社会の実現に貢献していくために、従業員からの募金を主とする『キーコーヒー クレルージュ基金』を設立しました。募金を通じて、コーヒー生産国の社会福祉や自然環境の保護をはじめ、災害支援についても機動的な支援を行っています。

「キーコーヒー クレルージュ基金」でコーヒー生産国を支援

 

近年SDGsという言葉がよく使われるようになりましたが、最近はお客様の意識はもちろん、取引先様がSDGsを踏まえての事業を展開することが増えています。我々としてももう一度様々な事業を整理し、当社として何をどう提案でき、どんな課題にどう対応できるのか、改めて考えていきたいと思っています」

 

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途上国の「5G」導入費用は先進国の3倍。「スマート農業」に対する農家の期待と不安

途上国を中心に世界の人口が増加する中、ビッグデータやAI、ドローンなどの最先端テクノロジーを活用して、農家の経営をデジタル化し、農作物の管理をより精密にする「スマート農業」の動きが活発化しています。近年、この分野では「5G」が大きな注目を集めており、最新の移動通信システムを導入することでスマート農業はさらに飛躍すると言われていますが、その一方で課題も浮き彫りになっています。

5Gの導入は期待半分、不安半分

 

世界中の農家は、スマート農業に積極的な理由を見出しています。2022年7月、スマート農業に対する農家の姿勢や課題などについて調べた『DEMETER』レポートが発表されました。DEMETERは主に欧州諸国がスマート農業を推進するためのプロジェクトですが、同レポートは南アフリカやジャマイカといった新興国・途上国を含む、世界46か国から484名の農家の回答を収集しています。この中で、農家がスマート農業を取り入れる大きな理由として、「農業経営に必要な、より良い情報を得ることができる」「仕事をシンプルにする」「生産性を上げる」という3つの要因が存在することがわかりました。

 

そこで5Gが役に立ちます。数年前に国連開発計画は、このテクノロジーが先進国だけでなく途上国にもさまざまな恩恵をもたらすと論じました。例えば、ドローンやセンサー、データ通信などの幅広い技術との連携。フィリピンの農村・カウアヤン市は、数年前に地元政府が同国最大の通信事業者と提携して5Gを導入し、「デジタル・ファーマーズ・プログラム」を通して農家に最新テクノロジーに関する研修や指導を行いました。

 

また、5Gによって迅速かつ効率的にデータを共有することが可能になります。イギリスのある事例では、酪農家が牛の首や脚にIoTセンサーを装着。健康状態や日常の行動をモニターし、異変があれば、獣医師や栄養士にデータを送り、牛の健康上の問題にいち早く対処できる体制が構築されたとのこと。このことは最新テクノロジーがさまざまな場面で迅速な意思決定を促すことも意味しており、だからこそ5Gが効率や生産性を上げると期待されているのです。

 

その他のメリットとして、5Gには気候変動への対策としての側面があることも見逃せないでしょう。2017年に米国科学アカデミー紀要に掲載された論文によると、世界の平均気温が1度上がるごとに、大豆の収穫量は3%、小麦は6%、トウモロコシは7%減少するとのこと。気候変動がもたらす害虫や動物の病気が農作物に悪影響を及ぼしますが、スマート農業では、気候や土壌の状態などに関するデータをIoTセンサーから収集するほか、人工知能や機械学習が農作物の害虫や病気に対する感染のしやすさを予測して農家に伝えることが可能。このような機能の速度や効率性、精度が5Gによって向上すると見られています。

 

最大のネックは費用

しかし、農業に5Gやスマート技術を導入するうえで最大の障壁となっているのが費用の問題。5Gの導入には既存の4Gネットワークをアップグレードする必要があり、通信事業者が負担する費用は2倍近くになると言われています。コンサルティング会社のマッキンゼーによれば、2030年までに想定される範囲をすべて5Gにするためには、最大で9000億ドル(約121兆円※)もかかるとのこと。さらに途上国の場合、3Gや4Gのネットワーク自体が存在しないか不足している地域が少なくないため、5Gの導入費用は先進国の3倍近くなると言われています。つまるところ、先述したDEMETERのレポートでも、53%の農家がスマート農業における最大の課題は「費用」と回答していました。

※1ドル=約134.7円で換算(2022年8月9日現在)

 

このような理由で、5Gの導入には国や自治体の支援が不可欠。カウアヤン市の取り組みが参考になるかもしれませんが、農家の心配は費用だけではありません。「リソース不足」や「データのプライバシー」を懸念する声もあり、これらは農家が自力で解決できる問題ではないでしょう。農家が人手不足に陥っている日本では、2020年にNTTグループや北海道大学が共同で、ロボットトラクターを田んぼに導入し、5Gとスマート農業の実証実験を行いました。少子高齢化が進む先進国と人口が増加している途上国では、直面する課題が異なるかもしれませんが、経営の効率化や生産性の向上など、農家がスマート農業に期待していることは同じ。できるだけ費用を抑えた、広く通用するビジネスメソッドが求められています。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

SDGsの「目標4:教育」に警鐘! 活路はアフリカへの「オンライン教育」の技術提供か

9月19日、米国・ニューヨークの国連本部で「トランスフォーミング・エデュケーション・サミット(TES)」が開催されます。このサミットは、「質の高い教育をみんなに」という目標を掲げる持続可能な開発目標(SDG)4の実現に向けて、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が国際社会の協力を強化するために構築した「グローバル・エデュケーション・コーポレーション・メカニズム」の一環。SDG4は2030年までに「教育への普遍的なアクセス」の実現を目指していますが、実はいま、この計画が危機的な状況に陥っているのです。

どうすれば世界は結束するのか?

 

TESに先行して、ユネスコは7月に『2022 SETTING COMMITMENTS』というレポートを発表しました。SDG4には、退学率やジェンダーギャップなど7つの指標があり、それぞれの目標が達成されるために、世界各国がどれだけ貢献するかを決めています。ユネスコは各国の取り組み状況を調べ、以前よりも多くの国がSDG4の実現に向けて取り組むことを約束した、と同レポートで述べています。しかし、前向きな材料はそれ以外にほとんどなかった模様。

 

現状は厳しいようです。同レポートの主な論点は、2030年までにSDG4を達成するのが難しいということ。たとえ各国の取り組みが順調に進んだとしても、未就学の児童や青少年の数は2030年までに約8400万人に上る見込みと言われています。また、同年までに初等教育(日本では小学校に当たる)を修了することができる子どもの数は世界中で3分の2以下とされる一方、ほぼ全ての子どもが中等教育(中学校と高校)を終えることができそうな国の割合は、6か国中わずか1つ。「普遍的なアクセス」と呼ぶには程遠い状況です。

 

これを受けて、国連は警鐘を鳴らし始めました。ECOSOC(国際連合経済社会理事会)のコレン・ヴィクセン・ケラピ議長は、途上国と先進国の間で教育格差が拡大しており、その中でもアフリカの教育環境が最も脆弱であると述べています。新型コロナウイルスのパンデミックがこの傾向に拍車をかけていることは明白ですが、「仮にいまアフリカ諸国がオンライン教育に舵を切っても、オンライン教育を行うための技術的な方法がない」とケラピ議長は指摘。持てる国が持たざる国と技術や方法を共有する必要があると論じています。

 

SDG4を達成するためには、先進国と途上国の結束が重要。これからも国連の機関は従来の指標を使って各国の取り組みを測定します。危機的な状況下にある国を支援するためには先進国の指導的役割が不可欠ですが、オンライン教育や回線接続環境などにおいては、民間企業を含めた国際協調体制の構築が強く求められるでしょう。

 

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ベトナムで挑戦するミズノのSDGs―― 子どもの肥満率40%の国に「ミズノヘキサスロン」と笑顔を

【掲載日】2022年7月5日

 

本記事は、2020年9月9日にGetNavi webで掲載された記事を再編集したものです

 

「なんてつまらなそうに体育をしているのだろう」。総合スポーツメーカーであるミズノ株式会社の一社員が6年前に抱いたこの違和感が、ベトナム社会主義共和国の教育訓練省とともに同社が進めている「対ベトナム社会主義共和国『初等義務教育・ミズノヘキサスロン運動プログラム導入普及促進事業』」のきっかけでした。

 

ベトナムでは子どもの肥満率が40%以上

同事業は、ミズノが開発した子ども向け運動遊びプログラム「ミズノヘキサスロン」を、ベトナムの初等義務教育に採用・導入する取り組みです。ミズノヘキサスロンとは、ミズノ独自に開発した安全性に配慮した用具を使用し、運動発達に必要な36の基本動作を楽しみながら身につけることのできる“運動遊びプログラム”のこと。スポーツを経験したことがなく、運動が苦手な子どもでも、楽しく遊び感覚で走る、跳ぶ、投げるなどの運動発達に必要な基本動作を身につけられます。日本国内向けに2012年1月から開始、これまで多くの小学校や幼稚園、スポーツ教室、スポーツイベントなどで導入され、運動量や運動強度の改善といった効果も示されています。

「ミズノヘキサスロン」のホームページ

 

そもそもベトナムでは、子どもの肥満率が社会課題となっていました。同社の法務部 法務・CSR課 課長補佐 SDGs推進担当(2020年取材当時)の柴田智香さんによると、「ベトナムの義務教育は小学校が6歳から始まり5年間、中学校が4年間。授業は1コマ30分と短く、国語や算数に力が入れられていて、体育はあまり重きを置かれていない状態です。また体育といっても、日本のように球技や陸上があるわけではありません。校庭も狭く、体操レベルの授業しか行われていないそうです。子ども時代に運動をする習慣が少ないためか、生涯で運動する時間が先進国の10分の1ほど。WHOによると、ベトナムの子どもの肥満率は40%を超え、同国教育訓練省も社会課題として認識していました」ということです。

法務部 法務・CSR課 課長補佐 SDGs推進担当(2020年取材当時) 柴田智香さん

 

ベトナム教育訓練省公認のもと約200校で活用

ベトナムの抱える課題を目の当たりにした担当者は、「ミズノヘキサスロンというプログラムなら、ビジネスとして成立し、校庭が狭くても効果を発揮できるのではないだろうか」と思いつき、2015年にベトナムに提案を開始しました。しかし話は簡単には進みませんでした。

 

「ベトナムの学習指導要領に関係するので、一企業のセールスマンが政府にプレゼンをしても相手にされません。ちょうどタイミングよく、文部科学省が日本型教育を海外に輸出するための『日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)』というプログラムを行っていたのですが、弊社もそのスキームに応募し、2016年に採択されたのです。日本政府のお墨付きをいただいての交渉とはいえ、ビジネスの進め方も慣習も異なるため、一進一退の攻防が繰り広げられたようです。そこでまず、約2年間かけて子どもたちの身体機能の変化に関するデータを収集しました。その結果、運動量は4倍、運動強度は1.2倍だったことを同国教育行政に報告しました。その後、在ベトナム・日本大使館やジェトロ(日本貿易振興機構)様などの協力を得ながら、2018年9月に、『ベトナム初等義務教育への導入と定着』に関する協力覚書締結に向けた式典が行われ(場所:ハノイ 教育訓練省)、翌10月に覚書締結に(場所:日本 首相官邸)まで至ったのです」(柴田さん)

 

ミズノヘキサスロン導入普及促進活動は、ベトナム全63省を対象に行われました。農村部など経済的に厳しい家庭の子どもたちなども分け隔てなく実施しています。また、小学校の教師を対象とした、指導員養成のためのワークショップには、現在までに約1700人の教師が参加。ワークショップに参加した教師が自身の担当する小学校で指導に当たり、多くの小学生がミズノヘキサスロンを活用した体育授業を受けています(2020年6月現在)。

ワークショップに参加した小学校の教師たち。ベトナムは女性教師が約70%を占めている

 

「ミズノヘキサスロン」で子どもたちに笑顔を

「本事業は、“誰ひとり取り残さない”というSDGsの理念に立っており、ベトナムの小学生全720万人全員が対象です。現在、ベトナムの学習指導要領附則ガイドラインにミズノヘキサスロンを採用いただき、教育訓練省公認のもと、モデル校に導入されていますが、学習指導要領の本格的な運用には時間がかかっています。しかしながら、ベトナムの関係各所からは『狭い場所でやるのにも適している』『安全に配慮しているし、いいプログラムだ』と評価いただいていますし、何よりも、子どもたち自身が楽しそうに体育の授業を受けていることが写真から伝わってきます。

楽しそうに体育の授業を受けるベトナムの子どもたち

 

子どもの時に運動をする習慣ができると、大人になってからも運動を続けると思います。ミズノヘキサスロンによって運動の楽しさを知り、習慣づけられることで、将来的にも健康を保てるのではないかという期待が持てます。また、弊社の用具を使ってもらうことで、今後、ミズノという会社に興味をもっていただけたり、子どもたちがプロサッカーやオリンピックの選手になるなど、そんな未来につなげられたら素敵ですね」(柴田さん)

エアロケットを使って「投動作」を学ぶプログラム

 

今後の展開について、「現時点ではベトナムに注力しているという状態ですが、例えば、ミャンマーやカンボジアなど、他のアジア諸国でもビジネスチャンスはあると思います。ですが、まずはベトナムで事業として成功しないことには、他の国にアプローチするのはやや難しいと感じています。逆にベトナムでモデルケースができれば、他の国にも売り込みやすくなるのではないでしょうか」と柴田さん。ベトナム初等義務教育への本格的な導入が待たれるところです。

 

さまざまな課題への重点的な取り組み

来年で創業115年の節目を迎える同社。今回の対ベトナム事業もそうですが、さまざまな取り組みのベースとなっているのが、「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」という経営理念です。その理念のもと、社会、経済、環境への影響について把握し、効果的な活動につなげるため、自社に関するサステナビリティ課題の整理をし、重要課題の特定を2015年度に行いました。

 

「CSR・サステナビリティ上の重要課題として“スポーツの振興”“CSR調達”“環境”“公正な事業慣行”“製品責任”“雇用・人材活用”という6つの柱を掲げています。そのなかでも“環境”については1991年から地球環境保全活動『Crew21プロジェクト』に取り組み、資源の有効活用や環境負荷低減に向けた活動を行っています。また、CSR調達に関しては、他社様から参考にしたいというお話をよくいただいております。

サプライヤー先でのCSR監査の様子

 

商品が安全・安心で高品質であることはもちろんですが、“良いモノづくり”を実現するために生産工程において、人権、労働、環境面などが国際的な基準からみて適切であることが重要と考え、CSR調達に取り組んでいます。そのため本社だけでなく、海外支店や子会社、ライセンス契約をしている販売代理店の調達先までを対象範囲とし、取引開始前は、『ミズノCSR調達規程』に基づき、人権、労働慣行、環境面から評価。取引後は3年に1度、現場を訪問し、調査項目と照らし合わせながらCSR監査を実施しています」(柴田さん)

 

また、総合スポーツメーカーらしい取り組みも多くあります。その1つが、「ミズノビクトリークリニック」です。これは、同社と契約をしている現役のトップアスリートや、かつて活躍をしたOB・OG選手による実技指導や講演会。全国各地で開催し、スポーツの楽しさを伝えると共に、地域スポーツの振興に貢献しています。

水泳の寺川綾さんを招き、熊本市で開催されたミズノビクトリークリニック

 

「2007年からスタートしたのですが、昨年度は全国で89回開催しました。“誰ひとり取り残さない”という部分では、気軽にスポーツをする場、楽しさを伝える場所に。選手の方たちにとっては、これまでの経験で得た技術や精神を子どもたちに伝える場になっています。技術や経験は選手にとっていわば財産。それを伝えることに使命感を持っている方も多く、有意義な活動となっています」(柴田さん)

 

スポーツによる社会イノベーションの創出

また、SDGsの理解と促進を深めるために、社員向けの啓発活動も実施。2019年度には3回勉強会が実施され、子会社を含め、のべ約7700人が受講したそうです。

 

「社員一人ひとりが取り組んでいくことは、企業価値の創造でもあると思います。SDGsを起点に物を考え、長期的、継続的かつ計画的に様々な課題に取り組んでいく。これからも引き続き、持続可能な社会の実現に貢献し、地球や子孫のことを思い、ミズノの強みを持って、新しいビジネスにも挑戦していきます。それにより企業価値やブランド価値の向上を目指していきたいと思います。CSRは責任や義務というイメージがありますが、SDGsは未来に向けて行動を変えるというか、アクションを起こすということ。2030年の未来に向けて、今まで弊社が行ってきたことにプラスして、全社員が一丸となって取り組んでいきます」(柴田さん)

 

さらに2022年度中に、スポーツの価値を活用した製品やサービスを開発するための新研究開発拠点が、大阪本社の敷地内に完成予定です。

新研究開発拠点のイメージ ※実際の建物とは異なることがあります

 

「スポーツ分野で培ってきた開発力と高い品質のモノづくりを実現する技術力。そんなミズノの強みを生かし、SDGsに貢献できるような新しい製品であったり、人であったり、どんどんつくっていけたらと思います。競技シーンだけでなく、日常生活における身体活動にも注力し、スポーツの力で社会課題を解決する社会イノベーション創出を目指します。新しい開発の拠点となる施設。SDGsの取り組みとともに、弊社にとって新しい幹になると考えています」(柴田さん)

 

創業者である水野利八さんは、「利益の利より道理の理」という言葉を残しました。スポーツの振興に力を尽くし、その結果としてスポーツの市場が育ち、それがめぐり巡って、事業収益につながるという考え方です。その想いは、創業から今に至るまで変わらず、ミズノグループの全社員に受け継がれているそうです。スポーツの持つ力を活かして世界全体の持続可能な社会の実現にさらに貢献していくに違いありません。

 

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世界最高の送金コストを減らせ! アフリカで「デジタル通貨」導入の動きが加速

【掲載日】2022年8月2日

世界各国で進展している自国通貨のデジタル化は、アフリカ大陸において急激な進展を見せています。すでにナイジェリアは、中央銀行発行のデジタル通貨「eナイラ」を2021年にローンチした一方、南アフリカとガーナはパイロット運用を実施中。さらにケニア、タンザニア、ナミビアなど約8か国が、将来の本格的な導入に向けて詳細なリサーチを開始しており、安定した金融制度を確立するために奔走しています。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)がアフリカ諸国に広がる

 

各国政府の中央銀行によるデジタル通貨は「CBDC(Central Bank Digital Currency)」の略称で呼ばれており、自国の法定通貨建てで、中央銀行の債務として発行されて流通している自国通貨のデジタル版となっています。価格変動の激しい暗号通貨と異なり、政府の規制で介入されるので、安定度の高さが見込まれるのが特徴。

 

アフリカ諸国は、政情不安やインフレなどによる通貨の激しい値動きに長年悩まされ続けてきました。さらに銀行口座を持っていない国民も多く、個人に向けた給付金などが想定通りに配布されないなど、多くの問題が存在しています。また、海外からの送金においてもサブサハラ(サハラ砂漠以南の国々)地域の平均手数料は約8%と、送金コストが世界で最も高いグループに属しています(世界銀行によると、2021年第1四半期における世界の送金コストの平均は6.4%で、南アジアが最低の4.6%。持続可能な開発目標では2030年までに3%に抑えることを目指している)。CBDCはこのような問題を解決できる可能性を持っており、それゆえに本格的な導入に向けた取り組みが熱を帯びているのです。

 

当然ながらデジタル通貨の導入には、解決すべき問題も多数存在しています。前提条件として、国民がデジタル通貨を活用するためのデバイスの所有や、広範囲な接続網などのインフラ整備が不可欠。また、デジタルゆえに、サイバー攻撃による資産や情報の流出リスクを常に警戒する必要があります。アフリカだけでなく他国でも、CBDCの導入を巡る議論においては自国の状況を踏まえながらメリット・デメリットを検証するため、リスクが大きい場合は慎重にならざるを得ません。

 

しかし、デジタル通貨の流通には大きな利点があります。それは金融包摂で、貧困や差別により既存の金融システムから除外されてしまった人々に対して手を差し伸べることが期待できるのです。デジタル通貨やブロックチェーン、NFTといった「フィンテック」は、すべての人々に対して経済的に平等な権利を与える意味でも革新的な技術。より多くの人たちが金融サービスにアクセスできるようにすることは、途上国だけでなく先進国の課題でもあるので、アフリカの先駆的な取り組みは世界が見守っています。

 

デジタル通貨の到来に向けたビジネスでは、アプリやセキュリティ、スマートカードの提供など大きなチャンスが存在しています。途上国ではフィンテックを活用した新しいビジネスモデルが続々と生まれていますが、デジタル通貨の導入に向けた動きが加速する中、アフリカの動向から今後も目が離せません。

 

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世界最高の送金コストを減らせ! アフリカで「デジタル通貨」導入の動きが加速

【掲載日】2022年8月2日

世界各国で進展している自国通貨のデジタル化は、アフリカ大陸において急激な進展を見せています。すでにナイジェリアは、中央銀行発行のデジタル通貨「eナイラ」を2021年にローンチした一方、南アフリカとガーナはパイロット運用を実施中。さらにケニア、タンザニア、ナミビアなど約8か国が、将来の本格的な導入に向けて詳細なリサーチを開始しており、安定した金融制度を確立するために奔走しています。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)がアフリカ諸国に広がる

 

各国政府の中央銀行によるデジタル通貨は「CBDC(Central Bank Digital Currency)」の略称で呼ばれており、自国の法定通貨建てで、中央銀行の債務として発行されて流通している自国通貨のデジタル版となっています。価格変動の激しい暗号通貨と異なり、政府の規制で介入されるので、安定度の高さが見込まれるのが特徴。

 

アフリカ諸国は、政情不安やインフレなどによる通貨の激しい値動きに長年悩まされ続けてきました。さらに銀行口座を持っていない国民も多く、個人に向けた給付金などが想定通りに配布されないなど、多くの問題が存在しています。また、海外からの送金においてもサブサハラ(サハラ砂漠以南の国々)地域の平均手数料は約8%と、送金コストが世界で最も高いグループに属しています(世界銀行によると、2021年第1四半期における世界の送金コストの平均は6.4%で、南アジアが最低の4.6%。持続可能な開発目標では2030年までに3%に抑えることを目指している)。CBDCはこのような問題を解決できる可能性を持っており、それゆえに本格的な導入に向けた取り組みが熱を帯びているのです。

 

当然ながらデジタル通貨の導入には、解決すべき問題も多数存在しています。前提条件として、国民がデジタル通貨を活用するためのデバイスの所有や、広範囲な接続網などのインフラ整備が不可欠。また、デジタルゆえに、サイバー攻撃による資産や情報の流出リスクを常に警戒する必要があります。アフリカだけでなく他国でも、CBDCの導入を巡る議論においては自国の状況を踏まえながらメリット・デメリットを検証するため、リスクが大きい場合は慎重にならざるを得ません。

 

しかし、デジタル通貨の流通には大きな利点があります。それは金融包摂で、貧困や差別により既存の金融システムから除外されてしまった人々に対して手を差し伸べることが期待できるのです。デジタル通貨やブロックチェーン、NFTといった「フィンテック」は、すべての人々に対して経済的に平等な権利を与える意味でも革新的な技術。より多くの人たちが金融サービスにアクセスできるようにすることは、途上国だけでなく先進国の課題でもあるので、アフリカの先駆的な取り組みは世界が見守っています。

 

デジタル通貨の到来に向けたビジネスでは、アプリやセキュリティ、スマートカードの提供など大きなチャンスが存在しています。途上国ではフィンテックを活用した新しいビジネスモデルが続々と生まれていますが、デジタル通貨の導入に向けた動きが加速する中、アフリカの動向から今後も目が離せません。

 

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コロナ禍でも日本は世界3位! 日本が20兆を注ぐ「FDI」、アジア向けは過去最高額に到達

【掲載日】2022年7月29日

2022年6月、UNCTAD(国際連合貿易開発会議)が、世界の投資に関する動向を調べた「World Investment Report 2022」を公開しました。アジアのレジリエンス(回復力)が特筆されています。

アジアのレジリエンスに世界の投資家が期待

 

途上国への海外直接投資(FDI※)は緩やかに増加しています。2019年から2020年にかけては新型コロナウイルスのパンデミックにより世界各国で投資が減退しましたが、2021年は復調の兆しが見られました。なかでも大きく注目されるのは、3年連続でFDIが増加したアジア。2021年のアジア全体に対するFDIは6190億ドル(約83兆円*)で、過去最高を記録しています。

※海外直接投資とは…海外で経営参加や技術提携を目的に行う投資のこと。現地法人の設立や外国法人への資本参加、不動産取得などを通じて行う。当該国では雇用の創出、技術移転などが期待できることから、特に開発途上国などで積極的な受け入れを行っている。英語表記はForeign Direct Investmentを略してFDIと称される。

*1ドル=約134.5円で換算(2022年7月29日現在。以下同様)

 

アジアの中でFDIが最も多く増加したエリアは東南アジア。その増加率は驚異の44%と、アジアのみならず世界のFDIを牽引するエンジンとなりました。例えば、この地域では、マレーシアが半導体分野で世界中から投資を受けています。

 

東南アジア以外のエリアに目を向けると、インドが注目されるでしょう。2021年のFDIは対前年比でマイナスであったものの、国際的なプロジェクトの投資契約は例年をはるかに上回るペースで増加。最近では日本製鉄やスズキ自動車などの大手日本企業がインドへの投資を発表しています。

 

アジア諸国へのFDIの増加の背景には、SDGs(持続可能な開発目標)があります。途上国では、全体的にSDGsに関連する分野への海外からの民間投資が2021年に70%増加。なかでも再生可能エネルギーと教育分野では、パンデミック前と比較して、前者への投資が2%、後者では17%増えました。2022年でもこの傾向は続いている模様で、先述したスズキはインドで電気自動車の工場を新設するために、約3500億円を投資しています。一方、教育分野におけるプロジェクト数は2019年の37件から2021年には60件に増えました。

 

このように、アジアの途上国は、コロナ禍のような状況下においても、安定した投資を世界中から受けており、回復力の高さを示しています。また、上述のインドにおける事例が示唆しているように、日本は2021年の海外直接投資額ランキングで前年の5位(投資額は960億ドル〔約13兆円〕)から3位(1470億ドル〔約20兆円〕)に順位を上げました。2019年は1位(2270億ドル〔約30兆円〕)で、コロナ禍で著しく減少したものの、再び増加に転じました。FDIがアジアを中心に立ち直る中、日本も盛り返しつつあります。

 

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6億人に「きれいな水」を! ーーノウハウと総合力でスピーディーに成し得たケニア・水供給プロジェクト

【掲載日】2022年7月27日

 

本記事は、2022年6月10日にGetNavi webで掲載された記事を再編集したものです

 

国連の「世界人口予測」で、2100年の人口が43~44億人になると言われているアフリカは、魅力あるマーケットとして世界中から注目されています。ポンプやコンプレッサ・タービンなどの機械製造を軸に、さまざまな事業を展開する荏原製作所も、アフリカ・ケニアで自社の製品と技術を活かし、水の供給支援を実施。

 

開発途上国でインフラを構築するという点では決して珍しいものではありませんが、そこには、技術力はもちろん、海外企業との連携力、現地の人々のコミュニケーション力、これまでの経験値、そしてスタッフの熱き思いなど、総合力があったからこそ、スムーズに実現し得た事業だと言います。

 

あるドイツ企業からの提案

「きっかけは、再生可能エネルギーを利用した水処理設備のソリューション提供を専門とするBoreal Light GmbH(ドイツ)というスタートアップ企業からの提案でした」と話すのは、同プロジェクトを担当する乗富大輔さん。ケニアの事業に立ち上げから携わってきた1人です。

 

「当社は、2020年に『E-Vision2030』という長期ビジョンを策定しました。その重要課題の一つとして『持続可能な社会づくりへの貢献』を掲げ、具体的な成果として『6億人に水を届ける』ことを目指しています。サブサハラアフリカでは、水道など基礎的な給水サービスを利用できない人が人口の4割ほどいます。

 

ポンプメーカーとしては、一歩踏み込んだビジネスモデルを創出し、課題解決に取り組まなければいけないという認識を持っていました。そんな背景があり、イタリアのEBARA Pumps Europe S.p.A.(EPE社)の顧客でもあるBoreal Light GmbHから提案を受け、2021年4月にスポンサーシップ契約を締結しました」(乗富さん)

右から3人目がEbara Pumps East Africa ケニアプロジェクトジェネラルマネジャーの乗富大輔さん

 

学校の子どもたちに飲料水を無償提供

プロジェクトの舞台はマチャコスという街。ケニア南部に位置し、首都ナイロビから車で約2時間の場所にあります。

 

「マチャコスの水道供給は限られており、住民は井戸水を利用したり、タンクに詰めた水を販売する業者から購入したりしていました。安全性の高い水の入手が難しい当地にて、当社は、特別支援学校の敷地内に4台のポンプを含む浄化装置を設置。

 

これにより、深井戸から水を汲み上げ、1時間に2000リットルの清潔な飲料水を製造することが可能となりました。それを学校の生徒たち約160人に無償で提供。余った飲料水は日本の駅のキオスクのようなスタンド『Waterkiosk』で地域コミュニティーの方たちに販売し、収益をWaterkioskの運営費用に充てています。

 

浄水装置に必要な電力はソーラーパネルで発電されたクリーンエネルギーを活用しており、また、浄水装置から出る排水は、施設内の農場や魚の養殖池で有効活用するなど、持続可能なモデルとして運営できる点も重要であると考えています。

飲料水の販売スタンド「Waterkiosk」

 

このWaterkioskの運営は2021年7月中旬から始まりました。今回のケースでは、EPE社のポンプを含むBoreal Light GmbHの標準化された浄化装置を活用したため、着工から完成まで約3か月という短期間で実現することが出来たのです。

 

その間に、学校関係者や保護者をはじめ、水を利用する方たちに集まっていただき、プロジェクトの概要や運営システム、水の販売価格をいくらに設定するかなど議論し、現地のニーズを収集しました。

 

また、学校には寮もあるため、飲料水だけでなく、シャワーや手洗いなどの生活用水も供給しています。最初に学校を訪問した際は、不純物のせいか、寮のシャワーが詰まっていて水が出ませんでした。

 

当初の計画にはなかったのですが、寮で暮らす子どもたちの生活全体を改善したいという想いも強かったので、限られた予算の中で調整し、安全な水を生活用水としても提供できるようにしました。結果として、子どもたちの更なるQOL向上に貢献できたと思います。また、このような取り組みを評価頂き、「荏原グループが目指す『6億人に水を届ける』に関わる途上国向け浄水・給水ビジネスモデルの創出」として、第5回ジャパンSDGsアワード特別賞を受賞することが出来ました」(乗富さん)

Waterkiosk設立の式典。子どもたちを前にスピーチをする乗富さん

 

 

6億人に水を届けることで生活の改善を目指す

ケニアでの水供給のビジネスモデルは 、あくまで“6億人に水を届ける”という目標に向けての取り組みの1つです。「6億人の対象者はアフリカに限らず世界中すべて」と話すのは、マーケティング統括部の崎濱大さん。

 

「世界の人口は、現在の78億人から2030年には85億人に増加するといわれており、増加分のほとんどが新興国です。当社は、世界シェアを現在よりも5%拡大させることによって、6億人の人に水を供給することを目標としています。

 

ケニアでの新規事業プロジェクトに限らず、既存事業も含めた長期的なビジョンですので、ケニアのビジネスモデルをそのまま他の国や地域で展開するのではなく、それぞれの課題やニーズに応じて柔軟にアプローチをしていきたいと考えています。

荏原製作所 マーケティング統括部 マーケティング推進部 第一課・崎濱 大さん

 

新興国の中には、所得や水道事業の運営そのものに課題があったり、そもそも水にお金を払うという認識すらない地域もあります。さまざまな課題に対応し、衛生的で安全、そして安定的な供給をするためには、単にポンプや浄水装置を販売するだけではなく、その国の社会や生活環境への理解を深めることが大切。

 

そのためにも、今回のように現地パートナーと組んで、ニーズに応じた持続可能なシステムを構築、創出していく必要があると考えています」(崎濱さん)

 

水が変われば、生活全体が次々と変わる

“水”というと飲料水だけをイメージしがちですが、もちろんそれだけではありません。

 

「アフリカでは人口増加に伴い、農業生産性の向上と食料の安定供給が大きな課題です。小規模農家向けに当社の技術を活かした灌漑設備を提供し、農業分野においても貢献していきたいと考えています。顧客農家の生産量と所得が増えることで、生活の質向上にも繋げられたらと思います」(乗富さん)

マチャコスの学校内では浄水装置の排水を利用して野菜を育てている

 

「食料問題以外にも、水汲み労働による子どもの教育問題、衛生環境問題など、課題は多岐にわたります。こうした安心安全な水にアクセスできる仕組みを作ることにより、課題を解決し、生活基盤の改善が期待できると考えています。

 

今後も飲料水の供給に限らず、当社の技術的な強みと知見を活かせる領域を見定め、現地のニーズに合わせた商品やサービスを創出することで、アフリカをはじめとする新興国の人たちの生活が、社会的かつ経済的に改善されていくように取り組んでいきたいと思います」(崎濱さん)

 

SDGsという言葉が生まれる遥か昔から実施

今回紹介した事例以外にも、荏原製作所では、新興国を対象に、その国や地域の社会基盤の整備や改善に役立てるよう、社員や技術者によるセミナーやワークショップを1989年から開催。2019年までにアジアを中心に20か国で279回実施しています。

 

社会課題に向き合う同社の姿勢について、経営企画部 IR・広報課の粒良ゆかりさんは「創業当時から社会の役に立ちたいという想いを持って事業を継続してきました」と話します。

荏原製作所 グループ経営戦略・経理財務統括部 経営企画部 IR・広報課 粒良ゆかりさん

 

「現在は、『E-Vision2030』(前出)で掲げた5つのマテリアリティの解決を目指した、新規事業の開拓、創出を行っています。例えば世界的な食糧不足、たんぱく質不足という課題解決のために、陸上養殖システムの開発を行ったり、水素社会に向けて極低温の液体水素を運ぶための技術実証も予定しています。今後も、当社の技術や知見を活かし、持続可能な社会、豊かな社会づくりに貢献できればと思います」(粒良さん)

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

「混迷するスリランカ」に襲い掛かる、4つの大きなリスク

【掲載日】2022年7月22日

現在スリランカでは、財政破綻およびインフレの高騰が、国民生活に甚大な影響を与えています。長年、ラジャパクサ一族が支配してきた政治や経済状況の悪化に国民は怒り、大規模デモや大統領公邸の占拠などが発生。国外に逃亡していたゴタバヤ・ラジャパクサ氏は大統領を辞任し、数日前に暫定政権が誕生しましたが、同国の情勢は混迷しています。スリランカにはビジネス上どのようなリスクがあるのでしょうか?

スリランカの大規模デモの様子

 

スリランカは、対外債務の膨張および外貨準備高の不足によりデフォルト(債務不履行)に陥りました。原因はいくつかあります。まず、スリランカは2009年に内戦が終結した後、主に中国からの融資を受けて、港や空港などのインフラを整備しました。しかし、同国はそれらの運営に失敗し、外貨を獲得することができず、対外債務の返済が滞ります。これにより、スリランカの信用格付けが下がり、同国は海外の資本市場で資金を調達することができなくなりました。

 

また、新型コロナウイルスのパンデミックによって、スリランカの主要産業である観光業が不振になり、外貨が減ったことも大きな要因です。同国は有機農業へのシフトを図ると同時に、保有する外貨(ドル)の流出を防ぐため、農薬や化学肥料の輸入を禁止しましたが、この措置はかえって農家を苦しめ、食料生産に悪影響を与える結果となりました。そんな中、ウクライナ危機が起こり、物価が世界的に上昇しますが、スリランカは外貨不足のために石油や食料などの必需品を輸入することができず、国民生活は苦しくなり、その怒りが大規模デモという形で噴出しました。

 

海外進出のリスク

スリランカ危機が起きているいま、同国または他の新興国・途上国への進出を検討している企業にとって、リスク管理が以前にも増して重要になっているでしょう。リスク管理とは「企業が事業活動を遂行するにあたって直面するであろう損失、または不利益を被る危険、あるいは、想定していた収益または利益を上げることができない危険の発生の可能性を適正な範囲内に収めるための一連の活動」を指します(日経ビジネス経済・経営用語辞典)。リスクにはさまざまな種類がありますが、海外ビジネスを検討するうえで重要な要因が少なくとも4つあります。

 

1: 物流

海外事業に必要なアイテムや素材を購入しても、業者がそれらを予定通りに届けなかったり、予算を超えたりするという不確実性が存在します。現在、スリランカでは石油が不足しており、食品がスーパーに届かないなど、サプライチェーンが混乱しています。

 

2: 規制

国によって法律や規制が異なるため、それらに精通した弁護士が必要。近年では特に環境規制が厳しい国が多く、それらの規制に合わせることが求められています。

 

3: 金融

為替や金利、物価などが将来変動するリスク。途上国の場合、為替が不安定なことが多く、現地通貨で得た売り上げをどのように日本の本社に環流させるかという課題もあります。上述したように、金融リスクはスリランカで最も大きな不確実性です。

 

4: 政治

資産の国有化や戦争、テロ、政権交代といった不確実性。世界有数の金融グループであるアリアンツは、2022年2月に発表したカントリーリスクの調査で、スリランカは政治体制が分裂しており、連立政権が概して弱いことを指摘していました。

 

受け入れることができるリスクの量や損失の許容額は企業によって異なりますが、それらを決める前に、企業はこのようなリスクを特定することが必要です。そのためには、商習慣や文化を含めて現地のことを把握しているパートナー企業と組むことが役に立つでしょう。リスク管理を踏まえて進出する国を安全に検討したい方向けに、下記に海外進出に役立つ多くの資料を揃えていますので、ぜひ参考にしてください。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

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