ヨーロッパで急成長中の医療×IoT「e-Health」、日本も注目すべき最先端を追う

【掲載日】2022年7月19日

新型コロナウイルス感染症の世界的流行も受けて、IoT技術を医療に取り入れるグローバルな潮流が加速されました。オンラインビデオ通話などによる遠隔診療をはじめとした、IoTを通じて個々の健康を増進する「e-Health」の取り組みが、世界各地で行われています。

 

EU理事会議長国であるフランスの取り組みの一環として、2022年5月にパリで開催された展示会「SANTEXPO 2022」では、最先端の取り組みを行う企業、研究・教育機関、NGOがヨーロッパ各地、さらにはそれ以外の地域からも出展。3日間開催された同展示会の出展社数は約600社、参加者は約2万人にのぼりました。この記事では、ヘルスケア・介護×IoTの最新トレンドをアイ・シー・ネット株式会社のグジス香苗がフランス在住の強みを活かし、実際に「SANTEXPO 2022」へ参加したレポートからお届けします。

パリ15区のポルト・ド・ベルサイユ見本市会場で開催

 

およそ600もの企業や団体がブースを出展した

 

薬局、市庁舎でも受けられる遠隔診療キャビンの導入

展示会場でまず目を引いたのが、遠隔診療用キャビン。日本でも普及が期待されているオンライン診療ですが、欧州では薬局を中心に、市庁舎、スーパーマーケットなど、公共の場所に遠隔診療用キャビンの設置が進んでいます。

 

キャビンにはオトスコープ(耳用の内視鏡)、デマトスコープ(皮膚の拡大鏡)、聴診器、パルスオキシメーター、体温計、血圧計といった検査機器が標準装備されており、簡易な検査に対応しています。また、薬が必要な場合は、キャビン内で処方箋をプリントアウト。薬局に設置されているキャビンを利用すれば、刷り出された処方箋で、薬を購入することができるので便利です。

ウェルネス、フィットネスサービスを展開するH4D社の遠隔診療用キャビン。人間工学に基づいて作られた椅子に座り、自ら検診器を使用する

 

キャビン上部に設置された画面に映る医師から問診を受ける

 

患者の情報が詰まった電子カルテは、暗号化されたうえで、EUの一般データ保護規則(General Data Protection Regulation、以下、GDPR)に基づいた高い安全性のもと、保管・管理されています。個人情報保護を目的に、2018年に適用が開始されたGDPRは、個人データを扱う機関・施設にデータ保護オフィサーの配置を義務付けるなど、高い基準が設定されているのが特徴。

遠隔診療サービスを提供するMEDADOM社の独立スタンド型診療用システム

 

保険証(緑色カード)を差し込み遠隔診療を開始。診療費は国民健康保険からMEDADOM社に払い戻される

 

遠隔診療用キャビンのリーディングカンパニーのひとつ、TESSAN社のスタッフによれば、同社製のキャビンは2018年から設置がスタートし、いまやフランス全土で450台が稼働しているとのこと。キャビンに訪れた患者に対応する医師・専門医は100人おり、患者数はなんと10万人におよびます。同社では、キャビン内の機器をさらに充実させる取り組みも行っており、眼科関連や心電図の検査機器を現在開発しているそうです。

TESSAN社の遠隔診療用キャビンの内部

 

そのビジネスモデルを見ていくと、キャビンの販売自体から得られる収益がない、という点が特徴的。というのも、これらのキャビンは5年間のリース契約で設置されており、リース終了後には契約者の所有物になるのです。一方、TESSAN社は、フランスの国民健康保険から払い戻される診察料から、管理費などの必要経費を除いた額を収益としています。

 

フランスでは、コロナ禍がはじまる以前の2018年時点で、遠隔診療に関する法整備が進んでおり、遠隔診療の医療費が国民健康保険の補償対象になっています。さらに、2020年以降のコロナ禍でその需要が爆発的に増えたことから、2022年7月31日まで遠隔診療の自己負担額が無料になる措置まで取られています。また、同国の健康保険証はデジタルスキャンに対応しており、日本とは異なるこういった土壌も、遠隔診療用キャビンの急速な普及に一役買っているといえるでしょう。

 

コロナ禍の感染対策や非接触に対する国民の意識向上の他に、このキャビンが普及した背景には、フランスの医療事情もあります。というのも、日本の街中に多く見られるような個人開業医によるクリニック数の減少と都市部に偏在していることから、医療へのアクセスが難しい「医療のデザートエリア(砂漠地帯)」と呼ばれる地域が存在します。こうした医療格差を埋める存在として、遠隔診療キャビンは大きな注目を集めているのです。

 

こうした背景は、日本でも決して、無縁ではありません。過疎化が進んでいる日本の地方では、医師不足の問題が深刻化しています。遠隔診療キャビンは、我が国における問題を解決するひとつのツールになる可能性も。また、医療レベルが低い発展途上国もこれに注目しています。アフリカ西部に位置し、フランス語を公用語とするマリでは、国家レベルのプロジェクトとして「マリ遠隔医療プロジェクト」が進行中。ヘルス分野のDX推進を進めるための省庁として、国家遠隔ヘルス・医療情報庁が設置されているほどです。

マリ「国家遠隔ヘルス・医療情報庁」の紹介パンフレット

 

パンフレットの裏面。遠隔医療をはじめ、庁内の取り組みについて解説

 

ブロックチェーン技術を活用した、患者の個人情報保護

「SANTEXPO 2022」には多くのスタートアップ企業も出展しました。そのなかでも特に目立っていたのが、ブロックチェーン技術を活用したプロダクトサービスを提供している企業。遠隔診療用キャビンの普及により、電子カルテ情報などを暗号化し安全に管理・共有するシステムの需要が高まっていることも、そんな企業を後押ししています。

 

本エクスポに出展していたうちの一社であるDr Data社は、フランスの法医学博士号を有する女性社長が起業したスタートアップ。同社の事業は、ブロックチェーンの暗号化技術を用いた保健医療データの保護や電子患者データの管理です。さらに、GDPRに基づいた、データ保護オフィサーの派遣も行っています。

 

また、救命医・麻酔科医によるスタートアップであるGALEON社は、患者や治験のデータを病院間・医療関係者間で安全に共有できる仕組みを開発しています。当然ながら、このシステムもブロックチェーン技術を活用したものです。同社の試みは、データを安全に保管するだけでなく、医療関係者がそれを共有できるようにした点がユニークですが、患者が自分のデータを管理できるようにするシステム構築が進められています。

 

そして、GALEON社の独自性は、事業内容にとどまりません。医療従事者だけでなく患者にも資する会社にするというコンセプトで運営されている同社は「分散型自立組織」という形式を採用しています。同社の組織はプロジェクトに貢献した人による投票によって運営されており、たとえば自身のデータを治験に利用することに同意した患者にも、その投票権が与えられるそう。従来の株式会社とは違う、トップダウンの性質が非常に薄い組織体系です。多くの医師・患者から高い評価を得ているGALEON社のプロジェクトは、2021年末から2022年初頭にかけて、1500万ドル相当の資金調達にも成功しています。

 

仏・郵政公社がe-Healthに進出し、高齢者の見守りに注力

遠隔医療、ブロックチェーンのほかにも「SANTEXPO 2022」で目立っていた要素が、高齢者や慢性疾患患者の見守りサービスです。

 

たとえば、フランスの郵政公社La Posteは、家庭・医療・デジタル技術関連の企業買収を進めており、イノベーションの支援やヘルスケア領域へ事業範囲を拡大。高齢者の自立生活支援や見守り、医療補助機器の販売、さらには保健医療サービス提供事業者への物流・金融などのBtoBサービスまで幅広く手掛けています。

 

La Posteの強みは、郵便配達員という“インフラ”を全国に有していること。実は同社、そのインフラを活かし、下水管の詰まりなど日常生活上のトラブルが起きてしまった住宅を郵便配達員が訪ねた際に、工事業者を紹介するといった事業をすでに行っています。昨今の事例は、高齢者の見守りにその領域を広げたものと考えることができるでしょう。

早期退院した患者が体調を遠隔モニタリングできるよう、RDS社が開発した遠隔サーベイランス機器のパンフレット

 

また、早期退院した患者の体調を遠隔モニタリングできる、小型パッチタイプの遠隔サーベイランス機器を開発したRhythm Diagnostic Systems社の出展もありました。このパッチは1週間の使い切りタイプ。患者がこれを貼り付けて生活することで、退院後であってもそのバイタルサインを一定期間遠隔モニタリングできるというわけです。日本でも、病院の病床不足が問題になることはありますから、こういった機器が海を渡って来れば、医療従事者の負荷軽減に一役買いそうです。

退院患者のバイタルサインを1週間ほどモニタリング可能

 

日本でも待たれるe-Healthイノベーション

e-Healthの最先端が結集した今回の「SANTEXPO 2022」。その展示を通してとくに強く感じたのは、官民両面での「日本との違い」でした。“官”の面では、フランス政府が遠隔診療の医療費を無料にするなどの強力な政策を進めており、e-Health推進に向けた強力なリーダーシップを発揮しています。

 

また、“民”の面でも、乱立するデジタルシステムの相互補完性を各社が担保するなど、医療の改善に向けた問題解決意識が競合各社の間で共有されています。e-Health勃興期といえる今、多様な製品・サービスが乱立しており、それらひとつひとつの互換性に懸念が持たれるところですが、多くのケースにおいて杞憂というわけです。

 

一方で、勃興期ゆえの問題もあります。それは、e-Health導入による改善効果のエビデンスがまだ集まっていないということです。しかし、この記事で紹介してきたように、e-Health導入による社会問題の解決事例が集まり始めているのもまた事実。あとは、それにどれくらいの費用対効果があるのかなど、トライアンドエラーを繰り返しながら改善を続けていくフェーズに入ることでしょう。

 

一方で日本に目を移すと……高い医療レベルを誇り、平均寿命世界一の国でもある我が国ですが、e-Healthの面でいえば後れをとっているといわざるをえません。この記事で紹介したものが海を渡って日本にやってくる未来があるかもしれませんが、国内でそれらに負けないイノベーションが生まれることも大いに期待ができます。

 

グジス香苗(写真右端)●米国大学院で公衆衛生修士号(MPH)を取得後、国際NGO、国連機関に勤務。アイ・シー・ネット入社後は、2011年から足掛け10年、セネガル保健省と保健システム強化のODA事業を実施。並行して女性の起業・ビジネス支援、経済的エンパワーメント、ジェンダーに基づく暴力などに関する研修事業や調査業務に従事した経験を持つ。現在は、アイ・シー・ネット保健戦略タスクチームの技術コンサルタントとして、保健医療分野の事業運営や戦略立案を支援しながら、フランス在住の地の利を活かしてフランス・欧州での調査業務を実施している。 

セネガル中央保健省の計画局課長、市長連合の代表、州医務局の担当官、プロジェクト総括のグジスの4人でチームを組んで、保健ポストを巡回指導(スーパービジョン)に訪れた時の様子。人材・保健情報・医薬品マネジメントと保健サービス提供の現状・課題を把握し、その対応策を一緒に検討した

 

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執筆/畑野壮太

世界の「フードテック」市場で存在感を高める、ナイジェリアのスタートアップ

【掲載日】2022年7月13日

最新テクノロジーを活用して食品分野の新たな可能性を追求するフードテック。デリバリーから流通ネットワークの構築、食品関連事業者への融資まで、幅広いイノベーションが生み出されています。しかし、この動きが活発なのは先進国だけではありません。近年、一際大きな注目を集めているのがナイジェリアです。

フードテック系スタートアップが次々に生まれているナイジェリアのラゴス

 

ナイジェリアのフードテックを多く生み出しているのは、同国最大の都市・ラゴス。世界中のスタートアップに関するデータを提供するStartupBlink(SB)社の世界エコシステム・ランキングで、同都市は2022年に81位へ浮上し、前年から41位も順位を上げました。さらに、同社のフードテック企業エコシステムの都市別ランキングでは、米国の主要都市が上位を占める中、ラゴスが24位にランクインしています。

 

ラゴスを中心にナイジェリアのフードテックが台頭している背景には、人口増加に伴う食のニーズの高まりがあります。また、中間層が増えているため、食の多様化が進むと同時に、外食産業も成長しています。

 

SB社によれば、同都市にはフードテックのスタートアップが46社ありますが、その中には著名なベンチャーキャピタルから巨額な出資を受けて事業を急拡大している企業が数多く存在しています。例えば、2020年に創業したOrda社は、レストラン向けの注文管理や決済、商品在庫、物流システム等を管理できるプラットフォームをクラウドで提供しており、2022年1月に110万ドル(約1億5000万円※)を調達しました。

※1ドル=約136円で換算(2022年7月8日現在。以下同様)

 

ほかにも、Agricorp International社は、独自開発した「Farmbase」と呼ばれるテクノロジーを活用し、スパイスや養鶏農家を対象に詳細なプロフィールや財務フローを作成することで、農家の生産能力を高めており、2021年にはシリーズAの資金調達ステージで1750万ドル(約23億7000万円)もの巨額な資金調達に成功しました。同年には、レストランなどの食品サービス提供事業者と農家などを直接マッチングさせる仕組みを提供するVendease社も320万ドル(約4億3000万円)の資金を調達しています。

 

このように、多くの機関投資家や個人投資家、ベンチャーキャピタルが、ラゴスを中心にナイジェリアのフードテックに熱視線を送り続けています。同国の食に関する産業は今後も成長していくことが見込まれており、日本企業にとっても、その存在感はますます大きくなるでしょう。

 

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神戸とアフリカの国・ルワンダの「ICT」で繋がる縁と新たな挑戦

【掲載日】2022年7月11日

2040年には人口が世界の4分の1を占めるという予測があり、魅力的な市場として世界各国の企業や投資家から注目されているアフリカ。著しい経済成長が期待されるアフリカの中でも、とりわけICT立国として注目されているのがルワンダです。

 

そんなルワンダと、ビジネス機会の発掘と人材育成を目的に、日本の自治体でいち早く経済交流を図っているのが神戸市。神戸はかつて世界有数の貿易港を持ち、国際都市としても発展してきた街でもありましたが、1995年の阪神淡路大震災を機に、従来の重厚長大産業(重化学工業など)に次ぐ新しい産業の柱として、医療分野やICT(情報通信技術)分野の産業育成に注力しています。

 

今回は、神戸市 医療・新産業本部の大前幸司さんと織田 尭さんに、ルワンダと経済交流を推し進める理由や、ルワンダとのさまざまなプロジェクトの中でもとくにユニークな起業支援プログラム「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda」についてお聞きました。

●大前幸司氏/神戸市 医療・新産業本部新産業部企業立地課 外国・外資系企業誘致担当係長。神戸市への外国・外資系企業の誘致を担当する傍ら、ルワンダとの経済交流も担当。コロナ禍以前の2019年にはルワンダで開催されたトランスフォーム・アフリカ・サミットに市内企業などと共同でブース出展。アフリカにビジネス進出する企業の誘致にも取り組む。

 

●織田 尭氏/神戸市 医療・新産業本部 新産業部 新産業課 イノベーション専門官。神戸市で若年層の起業家向けプログラムや交流機会、各支援者や施設同士の連携などを行なう。2017年から起業支援施設・スタートアップカフェ大阪のコーディネーターとして勤務した後、2021年7月に神戸市に民間出身人材としてジョイン。

 

ルワンダ共和国●人口約1200万人、面積は四国の1.5倍ほどのアフリカ東部に位置する国。首都はキガリ。1962年にベルギーから独立後、共和制に移行。1994年にはジェノサイド(大虐殺)が勃発。現在はポール・カガメ大統領の下、経済も急速に発展を遂げ、近年では“アフリカのICT立国”として注目されている。

 

ルワンダと神戸市を繋ぐキーワードは「ICT」

――ICTの観点で神戸市とルワンダの接点は始まったそうですが、なぜルワンダをパートナーに選んだのか詳細な経緯を教えてください。

 

大前 背景として、神戸市が次世代を担う優秀な起業家を輩出できるスタートアップエコシステムの形成に力を入れていたことがあります。2016年には米国シリコンバレーのアクセラレーションプログラムを日本で初開催するなど、海外との連携を進めていました。ちょうどその頃にルワンダの学生が市内の大学に多く留学していたことがきっかけで、ICT立国を目指して成長を続けているルワンダに着目しました。その後、ICT分野の産業育成、人材育成の面で、2016年に首都・キガリ市とパートナーシップを締結。2018年には、ルワンダICT省とのパートナーシップも締結しました。

 

あと、ジェノサイドと震災という、お互い異なる苦難からともに復興を遂げてきたという共通点も、神戸とルワンダがつながった理由の一つなのかもしれません。

 

――自治体が一国家と経済的なパートナーシップを結ぶのは珍しいケースですね。 

 

大前 国家間の大きな方向性を決めるのはもちろん国ですが、自治体は普段から実際の経済活動を行う企業と身近な関係を築いているため、ビジネスの状況をよりリアルに把握できています。このため、具体的な事業を行うという点では、自治体の方が企業のニーズを的確に捉えたきめ細かな施策が打ち出せると思います。

 

――具体的に、ルワンダとはどんな取り組みを行ってきたのでしょうか?

 

大前  神戸市関係の企業とともに、2017年から3年連続で 「トランスフォーム・アフリカ・サミット」にブースを出展しました。ブースでは神戸市の取り組みを紹介するとともに、避雷器を製造販売する音羽電機工業株式会社やオフショア開発に取り組む株式会社ブレインワークスなど、ルワンダの課題解決に役立ちつつ、ビジネスとして成り立つ可能性のある企業の取り組みを紹介しました。また、 サミットでは、ルワンダの若者たちがICTを駆使した高い水準のビジネスプランを披露する機会もあり、世界中の投資家が注目。市としても、そこに市場としての将来性を感じました。

2018年にルワンダで開催された「トランスフォーム・アフリカサミット」日本ブースの様子

 

アフリカ人留学生と企業とのマッチングイベント

 

起業家マインドを育てる独自の支援プログラム

――神戸市の数ある海外とのビジネス支援の中でもユニークだと感じたのが、起業支援プログラムである「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda」です。

 

織田 実は2015年から、学生や若手の起業関心者に、日本以外の環境にいる起業家や挑戦者に会い、起業に向けてのモチベーションを挙げていただくため、アメリカのシリコンバレーへ派遣するというプロジェクトを行っていました。その後2018年に神戸市がルワンダとパートナーシップを締結した際、成長性の高い市場である一方で課題の多いアフリカ、特にICTが急速に発達しているルワンダに学生を派遣することで、社会課題解決に向けて取り組む若手が増えてほしいという想いを込め、「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda」プログラムの実施が決まりました。

 

――どのようなプログラムなのでしょうか? 

 

織田 2018年度と19年度は実際にルワンダへ渡航。約2週間の滞在中に、ルワンダという国を知るために、歴史をはじめ文化や慣習などを学んだり、現地起業家と体験談を交えながらディスカッションを行ったりしました。一部すでに事業を開始している方がいたり、参加メンバー同士でチームを組んだ人もいますが、それぞれで解決したい課題を見つけ、課題解決のためのビジネスプランを考えて最終日に発表。そのプレゼンテーションをルワンダの現地の起業家たちが審査するという内容でした。18年度は19名、19年度は13名の学生が参加。20年度からはコロナ禍のため、オンラインで実施しています。

↑「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda」プログラムで2018年に現地へ訪れた参加者の皆さん

 

参加者が考案したビジネスプランの一例として、ルワンダの現地での仕事不足などの課題をテーマにしたものがありました。ルワンダはシングルマザーが多く、彼女たちの多くは職に就くことができません。その課題に対して、イミゴンゴという伝統工芸品を活用したアクセサリーを製造販売することで雇用を生みだせないかというプランです。しかも帰国後、参加者同士でチームを組んでクラウドファンディングを行ったり、さらに、オンラインツールを使いコミュニティを作ることで、参加者同士がそれをサポートし合ったりするなど、渡航の後もそれぞれで動きがありました。日本にはない課題に向き合うことで、独創的なアイデアが生まれると思っています。

 

――まさにプログラムへの参加がきっかけですね。ほかにも起業事例はありますか? 

 

織田 オンラインプログラムになってからですが、廃棄コーヒーを画材として活用した「廃棄コーヒーアートプロジェクト」を立ち上げ、絵画展や子ども向けのワークショップを展開している女子大生がいます。ほかにも、アフリカ布で高校生向けの通学バッグを制作した方も。バッグのデザインはアフリカ人デザイナーに依頼していました。

 

また先述のイミゴンゴのプランを考えた、山田さんという方は渡航時、プログラムとは別に、単独でコーヒー農園の方にヒアリングもしていました。そしてルワンダ産のコーヒーを提供する「Tobira Café」を2020年9月に沖縄県読谷村波平に、2号店を昨年12月に神戸市東灘区にオープン。売上の5%を現地ローカルNPO団体へ寄付しているそうです。

↑参加者の山田さんがプログラム参加後に沖縄でオープンした「tobira cafe」。ルワンダ産の豆を使ったコーヒーがいただける

 

↑今年2月には神戸市東灘区に「tobira cafe」2号店をオープン

 

――神戸市としては、本プログラムは期待通りの成果を得られていますか? 

 

織田 プログラムの目的は創造的な人材の育成であり、起業家マインドを身につけ、行動を後押しするきっかけを作ることです。そこから起業家が生まれるかは正直わからないところがあります。

 

プログラム参加者から起業家が生まれるのは喜ばしいことですが、参加者が神戸市の事業を介して多くを経験し、それを持っていろいろなところで活躍し、それが地域に還元されたり、若者が活発に活動している神戸に繋がれば、と思っています。もちろん、神戸に移住したり、会社を設立、移転するなど、長い目で見た時の関係性に期待するところはありますが、これまでは市民だけに限定するのではなく、より広い発想と多様性から起きる化学変化に期待し、地域も国籍も関係なく参加者を募集していました。

 

――プログラム参加後のサポート体制はどうなっていますか? 

 

織田 過去の参加者にも声がけをし、交流の機会を提供したりしています。グループチャットで参加者同士がつながっているため、参加者に何か進捗があった時は情報がアップされます。またその後も有機的に、参加者同士や一部運営メンバーとオンラインでの個別相談をしていたりもしています。

 

ルワンダはじめアフリカでのビジネスには「スピード感」が不可欠

――ビジネスセミナーでの成果など、企業とのマッチングという点ではいかがでしょうか?  

 

大前 横浜で開催されたイベントに、市内の企業と共同出展したことがありました。その際、フードロスの削減を模索していたルワンダのICT関係の方が、神戸市ブースに出展していたコールドストレージ・ジャパン株式会社という企業が展開する「冷凍物流」事業に興味を持ったのです。その後、他の国内企業とともにルワンダの企業と手を組み、合弁会社を作るに至りました。現在は、冷凍物流システムの温度管理を遠隔で行うなどの実証事業をルワンダで行っています。 このように企業とルワンダとのマッチングに関しても確かな手応えを感じています。

 

――アフリカは魅力ある市場なので、今後も興味を示す企業は増えそうですね。 

 

大前 現在はコロナ禍で中止していますが、以前は神戸市内でも、アフリカで実際にビジネスを展開されている方に登壇いただくビジネスセミナーを開催していました。参加者が100人近くにのぼるなど盛況でした。まだ具体的な事業になってはいませんが、アフリカ市場に魅力を感じる企業は増えていると感じます。一例を挙げますと、ルワンダではありませんが、ダイキン工業株式会社とWASSHA株式会社というベンチャー企業が合弁会社を設立し、タンザニアでエアコンをサブスクリプション方式で提供するビジネスを展開しています。アフリカでは外国製の安価なエアコンが流通しているのですが、メンテナンスサービスもなく、壊れたらそのままのことが多いそうです。このビジネスモデルが普及すれば、廃棄されるエアコンがなくなるとともに、人々が手軽にエアコンを利用することができます。このように、アフリカには多くの課題があり、その解決のための新たなビジネスのチャンスも多いのではないでしょうか。

 

――今後、ルワンダやアフリカ全体でのビジネスを考える場合、留意すべき点などありますか? 

 

大前 地域によって文化、言語も異なるので、アフリカを一括りにはできないですが、ルワンダの例で言うと、先ほどのコールドストレージ・ジャパンの例もそうですが、ICT技術は日々進化しますので、そのスピードに対応しつつ、ビジネスを展開していく、フットワークの軽さが必要です。このため、アフリカへのビジネス進出はスタートアップが中心です。

 

また、日本とアフリカでは距離がありますし、商習慣も異なります。当然、アフリカのマーケットや商習慣をよく知る人は必要です。そんな時は、日本に留学経験のあるルワンダをはじめアフリカの方はキーパーソンになり得るでしょう。

 

現地で話を聞くと、他国のアフリカへの進出は日本よりもスピードが速いです。日本の企業も積極的にアフリカでのビジネスに挑戦してもらいたいと思います。今年7月20日にはコロナ禍で中止していたアフリカビジネスセミナーをオンラインで再開します。まずはこうしたセミナーに参加してアフリカでのビジネスについて知って頂きたいです。

 

――神戸市のように、今後、アフリカ諸国と連携して事業展開をする自治体も増えそうですね。 

 

大前 各自治体には姉妹都市がありますし、オリンピックの時に各国の選手団を受け入れるなど、さまざまな交流関係があります。ルワンダに関しても、神戸市だけでなく、岩手県の八幡平市が交流を続けています。八幡平市はリンドウの生産地ですが、交流のあるルワンダでの育成栽培に協力し、その花はヨーロッパに輸出されているそうです。また横浜市は、神戸市が取り組む以前からアフリカ地域との経済、文化交流に力を入れています。他にも色々な例があると思いますが、こうした自治体の取り組みが増えていくことで、少しでも日本企業のアフリカへのビジネス進出につながればと思います。

 

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「3Dプリンター」で劇変するナイジェリアの製造業と医療業界

【掲載日】2022年7月6日

3Dプリンターがアフリカの製造業に変革を起こしています。学校建設や義手の制作など、高い汎用性を持つこの技術には、過去の産業革命のように、国や地域の経済を一変させる可能性がありますが、ナイジェリアでは特に若い世代の間で大きなビジネスチャンスを生み出しています。

アフリカ経済を変える3Dプリンター

 

長年、ナイジェリアにとって機械部品は悩みの種の一つでした。同国は機械製品の輸入依存度が高く、特に中小規模の製造業者にとって機械部品を調達することは簡単ではありません。製造ラインが故障した場合、粗悪な部品を代用して製造を再開せざるを得ないケースが多く、それが商品の品質低下や機械の再故障を招くという悪循環を生み出すことに。全体として、この問題はナイジェリアの製造業の発展を大きく阻害してきた要因の一つでした。

 

3Dプリンターはそれを変えています。現在のナイジェリアでは、機械部品を3Dプリンターで製造する新興企業が続々と生まれており、需要が急増している模様。これまで中小の製造業者に対して主導権を握っていた部品輸入業者などから見れば、混乱した状況かもしれませんが、3Dプリンターによって今後のナイジェリアの製造業は大きく飛躍していくことが見込まれます。

 

実際、機械工学を専攻している大学生が、研究の一環で導入した3Dプリンターが仕事につながるなど、この技術は、学生やアーティストを含めた同国の若い世代に、雇用や起業の機会をもたらしています。ナイジェリアでは医療分野においても3Dプリンターの導入が始まっており、例えば、手術を予定している患者の情報にもとづいて、手術器具の一つであるカッティングガイドをこの方法で作った結果、手術時間が短縮されるということが起きています。

 

このように、3Dプリンターに代表される最先端テクノロジーは、新興国にとって大きなビジネスチャンスを生み出す爆発力を秘めています。この「産業革命」は始まったばかりで、ニッチな分野を含めて広範囲に需要が生み出されていく見込み。外国企業にとっても進出チャンスが大いにあるでしょう。

 

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かなり画期的! インドのデジタル戦略「NDAP」公開の衝撃

【掲載日】2022年7月1日

近年、民間セクターでは、ビッグデータやAIによる分析に基づいて経営やマーケティングを行うデータドリブン企業が多数存在していますが、同じような傾向は途上国の政府でも見られます。インドでは最近、政府が大胆な情報公開戦略を実施。インド政府の透明性と業務の効率化が高まると同時に、同国への進出を検討している企業の意思決定にも良い効果を与えそうです。

インドのパブリックデータを調査せよ(画像提供/NDAP公式サイト)

 

2022年5月、インドの政府系シンクタンク「NITI Aayog」は、政府所有のデータを閲覧し分析することができるプラットフォーム「National Data and Analytics Platform(NDAP)」を公開しました。統計学の回帰分析やデータマイニング、AIが組み込まれているNDAPは、農業やエネルギー、資源、財政、ヘルスケア、交通などの幅広い分野の基礎的なオープンデータを提供。それらは相互運用ができるため、ユーザーは異なる分野を横断的に分析することができます。

 

NDAPの導入によって、インドのデータエコシステムが強化され、データドリブンの意思決定がさらに促進される見込み。例えば、NDAPには治安を保つ機能があります。インドでは警察関連機関がデータ管理能力の向上に取り組んでおり、2022年3月には、インド工科大学カンプール校のベンチャー企業が警察活動を支援するために、高度なAIが搭載された検索エンジンを開発していると報じられました。これにより犯罪捜査はもちろん、監視や犯罪マッピング、分析などにおいて、警察のリソース配分が改善されると見られていますが、政府や警察などの執行機関はさまざまな形で犯罪関連のデータを利用することができ、NDAPでは、それらが金融関連データなどと紐づけられているようです。

 

他国と同様に、インドは政府のデジタル化に取り組んできました。2015年にナレンドラ・モディ首相が公共サービスの電子化を進めるキャンペーン「Digital India」を開始。それ以降さまざまな取り組みが行われ、2021年にNDAPのベータ版が一部のユーザーだけを対象に試験的に導入されました。NDAPの一般公開について、情報通信技術に関するプラットフォームを運営するOpenGov Asiaは「かなり画期的な出来事だ」と述べています。

 

このようなインド政府のデジタル化は、民間企業や海外からの進出企業にとっても有益でしょう。インド進出を目指している日本企業は、自社が所有するデータと政府の公開データを掛け合わせていくことで、より実現可能性の高い戦略やビジネスモデルを構築することができます。NDAPで公開されている情報が、勝敗を分けるかもしれません。

 

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インドでシェア拡大を目指す「ジャパニーズ・ウイスキー」、しかし国内市場に変化が…?

【掲載日】2022年6月29日

近年、日本産酒類の輸出が目覚ましいペースで増加しています。2021年の輸出金額は過去最高額の1000億円を超え、2022年は前年を上回る勢いで推移。主な輸出先である米国や中国で高級品として受け入れられているジャパニーズ・ウイスキーや日本酒は、途上国でも市場の拡大を目指しています。しかし、ターゲット市場の1つであるインドではウイスキー市場に大きな変化が起きており、競争がさらに激しくなりそうです。

インド市場を攻略するためには……

 

日本が輸出する酒類の中で最も多いのは日本酒と思われるかもしれませんが、実際には輸出額の第一位はウイスキー。2021年の清酒輸出額の対前年比は約66%増でしたが、ウイスキーはそれを上回る約70%増という驚異的な伸長を示しました(国税庁『最近の日本産酒類の輸出動向について〔2021年12月時点〕』)。国際市場では、スコッチ、アイリッシュ、アメリカン、カナディアンに加えて、ジャパニーズが世界的に有名なウイスキーの産地として認識されています。これは、日本のウイスキーメーカーが品質に徹底的にこだわり、国際品評会などで激戦を勝ち抜いてきた結果と言えるでしょう。

 

今後、ウイスキーの市場規模が爆発的に拡大すると見られるのは新興国ですが、その中でも一際大きな注目を集めているのがインド。国際物流網の混乱によって、インド国内のウイスキーメーカーが2020年頃から急成長しています。巨大な人口を抱えるインド国内のウイスキー市場は約188億ドル(約2兆5000億円※)規模と言われており、現在では、さまざまなフルーツの香りや黒コショウなどの新感覚で楽しめるシングルモルトウイスキーの人気が高まっている模様。プレミアム感の高い輸入品に依存していたインド人の嗜好を変えるために、国内メーカーが奮闘していますが、それが国産や輸入品を問わず、ウイスキー人気に拍車をかけるでしょう。

※1ドル=約134.6円で換算(2022年6月24日現在)

 

現在のインドのウイスキー輸入関税は約150%であるうえ、高温多湿の気候条件が海外メーカーのハードルになってはいますが、自由貿易の枠組みが進展すれば、そのハードルは下がります。ウイスキーだけでなく、日本酒を含めて考えると、日本にはかなり多くの銘柄が存在しており、そのどれもが国内競争で勝ち残ってきた逸品。日本産酒類が本当に世界を席巻するのは、これからが本番ですが、インドを含めた新興国で成功するためには早めの戦略策定が必要。日本での功績に陶酔している時間はありません。

 

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SDGs達成に暗雲。格差が阻むアフリカの「安全な水」の普及

【掲載日】2022年6月22日

持続可能な開発目標(SDGs)の目標6は「安全な水とトイレを世界に」。その中のターゲットの1つに「2030年までに、だれもが安全な水を、安い値段で利用できるようにする」がありますが、この計画が難航しています。

安全な水はまだ?

 

2021年7月、WHO(世界保健機関)とユニセフ(国際連合児童基金)は、2000年〜2020年までにおける家庭用飲水や下水設備、公衆衛生に関する進歩について報告(レポート名は『Progress on household drinking water, sanitation and hygiene 2000‒2020』)。SDGsの目標6は、進捗速度が4倍以上にならなければ、2030年までに達成することはできないと警告しています。

 

2020年当時では世界中で約4人に1人が自宅で安全な水を飲むことができず、約半数が衛生基準を満たさないトイレなどの施設を利用しているとのこと。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック発生時には、10人中3人が自宅で石鹸と水を使って手を洗うことができなかったと報告しています。

 

この問題に潜んでいるのは格差。安全な水のサービスを享受することができないのは都市部より地方が多く、特に世界の中でもサブサハラ(サハラ砂漠より南のアフリカ地域)は最も進捗が遅れています。安全な飲料水を利用できる人は同地域の人口の約半分で、脆弱な地域では25%以下にまで低下。例えば、ウガンダでは人口の32%が安全な水を得るために30分以上も歩かなければならず、これが仕事や家計、ひいては経済に影響を及ぼしています。きちんと管理されていない井戸などは人間の排泄物や土壌の堆積物、肥料、泥などが水源に流れ込んでいるため、育児や日常生活に適していませんが、それでも安全な水は遠くにあるうえ、高価で手が届かないため、貧しい人たちは比較的近場にある不衛生な水を使わざるを得ないのが現実です。

 

このような状況にある国・地域では、国際機関や民間企業、地元のパートナーがタッグを組んで、この問題の解決に取り組んでいます。日本でも数多くの研究や事業が推進されており、その一例として株式会社Sunda Technology Global(京都市)が挙げられます。同社は、水の衛生状況が脆弱なウガンダの農村部で安全な飲料水の提供を目的として、IoTを活用した従量課金型の自動井戸料金回収システム(SUNDAシステム)を展開。2021年には、中小企業の途上国への事業展開を援助する経済産業省の補助事業「飛び出せJapan!」(運営:アイ・シー・ネット株式会社)で採択されました。

 

WHOとユニセフのレポートでは前向きな兆候もあったと述べられています。2016年から2020年の間に、自宅で安全な水を飲むことができる人口が世界で4%増えたり、安全な下水処理施設が7%増加したりするなど、いくつかの進歩が見られたとのこと。しかし、これらは決して十分ではなく、数十億人の子どもや家族を救うためには、さらなる投資が緊急に必要であると主張しています。Sundaのように、独自の手法を持つ日本企業の挑戦が今こそ求められています。

 

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「遺品整理サービス」に活路! 遺品整理品のリユースビジネスを開拓する「リリーフ」インタビュー

【掲載日】2022年6月17日

 

少子高齢化社会が進むいま、終活にまつわるサービスを展開する企業が増えています。そのなかでも参入企業が増えているのが、「遺品整理サービス」です。引き取り手のない故人の遺品を整理するというニーズだけでなく、介護施設への入居前に生前整理を考える人にとっても関心の高いサービスとなっています。

 

そんな数ある片付けサービスを扱う企業のなかでも、兵庫県西宮市に本社を置く「株式会社リリーフ」は業界でも存在感を強めています。東名阪だけで年間4000件もの片付け実績を誇るだけでなく、引き取った中古品を自社で海外に輸出するという試みをしているのも、他社とは一線を画する理由です。今回はリリーフ社長の赤澤氏に、海外における中古品の海外輸出事業や、これからの片付けサービスの課題について聞いてみました。

 

●赤澤 知宣/株式会社リリーフ代表取締役社長。1987年兵庫県生まれ、関西学院大学卒。大学卒業後、機械部品メーカーにて営業職で勤務し、2014年(株)リリーフ入社。お片付けサービスから出てくる家財を活用するため、海外リユース事業を立ち上げ。2020年よりお片付け事業と海外リユース事業を統括し、リユースを強みとした整理会社としてゴミ削減に貢献。大手法人や、行政との連携など積極的に取り組む。2022年4月より現職。

 

市民の声を受けて遺品整理事業をスタート

 

――まずは株式会社リリーフの成り立ちをお聞かせください。

 

赤澤 弊社は1953年に創業されたグッドホールディングス株式会社のグループ企業となっています。グループ内には株式会社大栄という西宮市のゴミ収集を行う企業があり、市民のゴミ回収事業をメインとしていました。

 

この大栄で、2010年頃から遺品整理や孤独死に関する片付けの相談が寄せられるようになったのがリリーフ創業のきっかけです。ゴミ収集事業の延長としてももちろんできますが、今後社会問題になってくるというのは予測できたので、2011年に遺品整理専門の会社として設立するに至りました。

 

――遺品整理と一般的なゴミ収集では何か違いがあるのですか?

 

赤澤 大掃除は増えすぎたものを減らすという視点ですが、遺品整理は遺族の方がその家に住んでいた場合もあるので、思い出に区切りをつけるといったことが必要です。そうなると、我々が「じゃあ捨てますね」と単純に処分するわけにはいきません。

 

業務としては引っ越しとほぼ同じで、相談の連絡が来て、見積もりのために訪問し、後日作業をするといった流れです。ただし、引っ越し業者と違うのは、弊社は見積もりと作業を同じスタッフがする点ですね。遺品の整理はお客様から細かいリクエストがあったり、デリケートな内容だったりするので、できるだけミスが起きないよう注意しています。

 

 

お客様からは全部処分してほしいと言われるものの、押し入れから思い出の品が出てくることがほとんどです。こちらが察して「残しますか?」と確認するなどの気配りが必要なので、ノウハウだけではどうにもならない部分があるのも確か。スタッフが少しでも経験を積めるように、長く雇用することは意識していますね。

 

――経験がものを言うというのはなかなか大変ですね。

 

赤澤 そうですね。ただ、スタッフの経験が役立つことは多々あります。遺品整理はご家族が離れて住んでいて実際に立ち会えないこともあるので、あらかじめリクエストいただいた遺品を後日まとめてお渡しするのですが、スタッフが指示のなかったカバンを遺品のなかに入れたことがあったんです。受け取ったお客様が、「実は妹がプレゼントしたカバンがあったのですが、残してほしいと伝え忘れていたんです」とおっしゃっていて、まさにこれは経験のおかげだと思っています。

 

――遺品整理サービスを展開するうえでの難しさはありますか?

 

赤澤 業界時代が新しく、業界のモデルとなる会社をイチから作り上げていく必要があるので、何もかもが手探りでやっている状況です。サービス開始当初は、「遺品整理」という言葉も一般的ではなかったですし、まずは自分たちがどんなことをしているのかといった説明が必要でした。

 

とはいえ、設立当初に比べると弊社の認知度は上がっています。いまは東名阪メインで年間4000件の依頼があり、ありがたいことに依頼は年々増えています。

 

株式会社リリーフ 年度別依頼件数 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 2021年度 2022年度
1600件 2000件 2500件 2700件 3600件 5500件

 

弊社のサービスにご満足いただけているのはもちろん、大前提として、死亡者数が年々増えているのに高齢化率が上がっていることも依頼が増えている大きな理由だと思っています。高齢化率が低ければ、故人の片付けは身内でできていましたが、高齢化が進むことで片付けできる人がいないといった事態が起きているんです。ご家族が亡くなられて何をしていいかわからないというときに、適切なアドバイスを適切な価格で受けたいというニーズは年々高まっているでしょうね。

 

環境的な負荷とコストを下げるために遺品を輸出

――遺品の海外輸出を始められたきっかけを教えてください。

 

赤澤 ご遺族はすでに別の所帯を持たれているので、遺品は大部分を処分することになります。しかし、家のものを丸ごと処分するには物が多く、環境的な負荷もかかりますし、処分するためのコストもかかるのが課題でした。

 

どうすれば再利用できるのかを考えていたときに、知人から海外でのリユース事業について教えてもらったんです。実際に海外視察をして2011年に事業を明文化し、2014年には本格的に海外輸出をスタートしました。

 

――海外輸出事業の内容を具体的にお聞かせください。

 

赤澤 現在はフィリピン、タイ、カンボジアといった東南アジアをメインに輸出しています。仏教徒だからか、価値観が近いので受け入れられているのだと思います。また、日本から近いので輸送コストを押さえられるのも強みです。弊社は輸出までを自社で請け負っており、現地のリサイクルショップなどの雑貨店に卸させていただいています。10トン弱積めるコンテナを月に10〜15本送るので、年間にすると1200〜1500トンを輸出している計算です。

 

衣類や紙は国内でリサイクルに回すのですが、それ以外の家具や食器、文房具などあらゆるものを輸出しています。日本のものはクオリティが高いので、いずれの国でもよろこばれているようです。とくにキッチン用品やおもちゃ、工具などは需要が高いですね。

 

現地での販売の様子(提供:リリーフ)

 

数多くの食器類を輸出している(提供:リリーフ)

 

人形などのおもちゃもニーズが高い(提供:リリーフ)

 

――ほかにもこうした海外輸出事業を展開されている企業はあるのでしょうか?

 

赤澤 あるにはあるのですが、貿易会社と組んでやっているところが多いようです。弊社が自社だけでやっているのは、この事業を伸ばすことが「社会貢献」になるという意識があるからです。自社でやるとコントロールはしやすいぶん、リスクも大きくなるのですが、そこにあえて挑戦しています。

 

海外輸出事業を始めたことで、ゴミを処分するだけの会社ではないというイメージがついたのは良かったと思っていますね。思い出のあるものをリユースしてもらえるならと手放す方が思いのほか多いんです。家族が大切にしていたものが「捨てられるのではない」というのがわかるとよろこんでいただけます。

 

社会貢献を意識した遺品整理サービスとは?

――今後の遺品整理サービスにはどんな課題があるとお考えですか?

 

赤澤 もともとグッドホールディングスは、ゴミ回収業者というよりも、環境系ビジネスとして事業を展開していました。ゴミを減らそうという考えだったのです。「ゴミを減らすなんて仕事を減らすのでは?」という声もありましたが、結果的に賛同者が増え、仕事も増えました。

 

ゴミの量を減らすには、リユースやリサイクルが必要です。これが進むことで片付けにかかる費用も減らせるので、そうなると日本の「空き家問題」も解決できるのではと思っています。

 

 

空き家は物が片付けられていない状態なので、行政がなかなか取り壊せないんです。取り壊すとゴミが増え、その処分に費用もかかります。あらかじめ空き家の整理を弊社が請け負えれば、スムーズに取り壊しができる。そうすれば空き家も減るはずです。

 

ただ、そうなるには、リユースをさらに進める必要があります。片付けが増えれば、海外でリユースできる商品も増えます。そうなると、それを卸す先も増やさなければなりません。出荷量や出荷先を増やすというのはこれからの課題のひとつです。

 

弊社では収益の一部を「チャイルドドリーム」というNGO団体に寄付しています。これは、海外にものを売ってリユースできているという側面があるからこその社会貢献活動だと考えています。さらに、海外の支援をすることで、その子どもたちが育ったときにリユース品を手にしてくれる機会が増えるといいなとも思っています。

 

 

――現状、リユースできていないものはこれからもゴミにするしかないのでしょうか?

 

赤澤 いえいえ、これも仕組みづくりが必要なんです。遺品のなかには少し修理すれば再利用できる家具や家電がたくさんあります。現状はこういったものは処分するしかないのですが、今後は修理してリユースできないかなと模索しているところです。

 

――今後の展望をお聞かせください。

 

赤澤 片付けをすることで社会貢献につながるという仕組みを確立したいですね。社会課題をビジネスで解決することをホールディングスとしても掲げているので、リリーフとしても目指したいところです。

 

国内でもなかなか遺品整理サービスのイメージを確立できていないので難しいところではありますが、日本だけでなく海外でも高齢化が進んでいくと予想されています。諸外国でも同じような社会問題が出てくることを考えると、海外でも遺品整理サービスをフランチャイズ展開する可能性はあるのかなと思っています。そのニーズが出てくるまでは、国内での認知度を高めていきたいです。

 

また、海外を視察して感じるのが、日本のゴミ処理技術の高さです。海外は道路はきれいでも、そのゴミを郊外の処理場に投げ捨てており、そこで暮らすような子どもがいます。弊社はJICAと提携していて、海外から事業視察に来ることがあるのですが、ゴミ処理に関しても海外で事業を展開できるといいですね。

 

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低所得者層の農家向け「農機シェア」が話題! アグリテックがナイジェリアの農業を変える

【掲載日】2022年6月15日

最先端テクノロジーを導入することで農業の方法を変える「アグリテック」。AIやドローン、ビッグデータなどが話題を集めがちですが、実は資金の提供スキームも進歩を遂げています。途上国では「BOP(Base of the Pyramid)」と呼ばれる低所得者層の農家を対象にしたビジネスモデルが次々に登場しており、世界の投資家から熱視線を浴びているのです。この仕組みは途上国が人口増加と食料の問題を解決するうえで大きな役割を果たすかもしれません。

所得の低い農家が希望を持てるビジネスモデルが生まれた

 

2021年、貧困と飢餓の撲滅を目指して国際開発を行う「ヘイファーインターナショナル」は、アフリカ全土の有望なアグリテックイノベーターに賞金を提供する「AYuTe Africa Challenge」を創設。その第1回大会で賞金150万ドル(約2億2500万円※)を獲得したのが、農機具を持たない農民に対して携帯アプリでトラクターなどのレンタルサービスを提供するナイジェリアの「ハロー・トラクター(Hello Tractor)」でした。

※1ドル=約135円で換算(2022年6月13日現在)

 

ハロー・トラクターのサービスはソフトウエアとトラッキング・デバイスからなり、ユーザーがトラクターの所有者にアプリ上で連絡して利用日を予約するというもの。「Uberのトラクター版」とも呼ばれる本サービスは、ペイ・アズ・ユー・ゴー(Pay-as-you-go)の仕組みを活用しており、課金方式は従量制。最大のメリットは、低所得者層の農家がトラクターを使って生産性を向上させることができる点です。借りる側の担保ではなく、トラクターが生み出す収益に着目したこのビジネスモデルは、日本を含めた世界各国においても大いに参考になるビジネスモデルとなりえるでしょう。

 

石油大国として知られるナイジェリアですが、農業も最重要分野の1つ。同国の農業は、自給自足を主とする小規模農家が多く収穫高は天候に大きく左右されます。また、近年は高いインフレ率にも苦しんでおり、2022年3月は17.2%の食料インフレ率を記録しました。さらに、人口は現在2億人を超えており、2050年には4億人に倍増する見通し。そのため、食料の安定した供給は重要な問題なのです。

 

日本においては人口減少や跡継ぎの不在など、ナイジェリアの農業事情とは異なる部分も多いですが、アグリテックによる農業の進化が未来の重要な鍵である点は同様。また、食料の安全保障はどの国においても必須課題であると同時に、大きなビジネスチャンスを秘めています。途上国で生まれるハロー・トラクターのようなイノベーションから今後も目が離せません。

 

「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

●アイ・シー・ネット株式会社「海外進出に役立つ資料集」

アフリカでもっとも有名な日本企業ビィ・フォア―ド社長が語る、アフリカビジネスの最前線

【掲載日】2022年6月13日

人口増加などによって市場が急拡大し、さまざまなビジネスチャンスがあると考えられているアフリカ。しかし治安や文化の問題など、アフリカに進出するためにはクリアすべきハードルが多いのも現状です。その中で、2004年に設立された株式会社ビィ・フォアードは、越境ECサイトによる中古車輸出事業をアフリカで広く行い、2020年度の業績は売上高562億円、中古車輸出台数約12万5759台を達成し、業績を伸ばし続けています。アフリカでもっとも有名な日本企業ともいわれるビィ・フォアードの代表取締役社長・山川博功氏に、アフリカに注目した経緯や、現在の事業、途上国ビジネスの魅力などについてお聞きしました。

 

山川博功●大学卒業後、東京日産自動車販売株式会社に入社。退社後、中古自動車買取業の株式会社カーワイズに入社し、グループ内で独立、1999年に株式会社ワイズ山川を設立。その後中古自動車輸出業を開始し、2004年に中古自動車輸出部門を分社化、株式会社ビィ・フォアードを設立した。著書に「グーグルを驚愕させた日本人の知らないニッポン企業」(講談社+α新書)、「アフリカで超人気の日本企業」(東洋経済新報社)がある。

 

日本の中古車に対するニーズを実感し、アフリカで事業を拡大することに

井上  2004年から中古車輸出事業を行っているビィ・フォアードですが、当初はニュージーランドなどで事業を展開されていました。その後は次第に、アフリカを中心に事業を拡大していくことになりますが、なぜアフリカに注目されたのでしょうか。

 

山川 日本の中古車に対するアフリカの反応が、他国と全く異なっていたからです。例えばニュージーランドから「中古車を購入したい」という問い合わせが1日に5件程度だとすると、アフリカからはその100倍以上、500件どころではない問い合わせがありました。アフリカの人たちはこんなにも日本の中古車を欲しがっているんだと、そこに大きなビジネスチャンスを感じたんです。

 

井上 弊社では途上国ビジネスに関するお話を伺うことが多いのですが、ビジネスチャンスだと感じても、日本ではまだアフリカでビジネスを展開することに二の足を踏む企業は多いと感じます。山川社長が決断されたのはどういった理由だったのでしょうか。

 

山川 決断ってほどのことではなくて、問い合わせを受けるなかで「こんなに欲しい人がいる、ならば買ってもらいたい」と思っていました。

 

井上 山川社長はそこに怖さはありませんでしたか。アフリカだとどういった支払い方法にするかがネックになっているとも伺います。

 

山川 怖さはなかったですね。支払いに関しては、トラブルなどが起こらないよう、「お金を100%もらわないと商品を売らない」ということは、最初から徹底していました。もちろんお客さんたちも最初は、あまりよく知らない会社にお金を先払いして車を買うことを、不安に思ったはずです。しかし購入した人たちが「ビィ・フォアードから買えばちゃんと商品が届く」「ビィ・フォアードはいいよ」と、口コミで少しずつ広げていってくれた。その積み重ねが、現地で知名度を上げていくことにもつながりました。

 

井上 口コミで広めてもらうことは、最初から意図していたことなのでしょうか?

 

山川 いえ、それは自然にお客さんたちがやってくれたことなんです。私たちがブランディングするためにやっていたのは、車に大きいステッカーを貼ったり、Tシャツを配ったり、キャップを配ったりと、ベタな方法ばかりです。

ただ、ブランディングをする上で会社のロゴデザインにはこだわりました。このブラックとオレンジのロゴ、かっこよくないですか?(笑)最初からアフリカの人たちに受けるものをつくろうとしていたわけではないのですが、競合他社とは一線を画すようなデザインにしたいと思っていました。結果的にはこのロゴも、現地でのブランディングが成功した要因の一つになったのではと考えています。

 

井上 途上国ビジネスでは口コミが効果的だといわれていますが、お客さんが勝手に広めてくれるというのは理想的な形ですね。ロゴのデザインもそうですが、サービス内容なども他の人に紹介したいと思わせる要素があったということだと思います。このあたりは、アフリカ展開したい企業にとって非常に有益な情報だと思いました。

山川社長との対談はビィ・フォア―ド社で行なわれた。こだわったというロゴが見える

 

アフリカで独自の物流ルートを構築し、ラストワンマイルの課題を解消

井上 知名度を上げ、事業を拡大させていったビィ・フォアードは、その後アフリカで独自の物流ルートを構築しました。これは他の会社にはなかなかできないことだと思うのですが、そもそもなぜ物流ルートをつくろうと思われたのでしょうか?

 

山川 もともと私たちの事業では、中古車を港まで運び、そこからはお客さんに引き取ってもらうというシステムが基本でした。しかし引き渡しまでにトラブルが起こることも多々あったんです。例えばあるとき、タンザニアのダルエスサラーム港に到着した車を、そこから2000キロ離れたザンビア共和国の首都・ルサカまで運ぼうとしたお客さんがいました。しかしその車のエンジンが壊れてしまい……。私たちで補償しようと思ったのですが、現地では手に入らず、日本から取り寄せることになりました。

その後、エンジンを日本からダルエスサラーム港まで船で運びましたが、かかった船賃は約9万円。これは想定内の金額でした。しかしダルエスサラーム港からルサカまで陸地で運ぶのに、なんと約85万円もかかることが分かったんです。2000キロ走るとなるとドライバーが2、3人必要でしょうし、帰り道は空荷になるので、コストが高くなることは理解できます。それでも日本で2000キロと言うと、せいぜい札幌から博多くらいまでの距離。4、5万程度で運べるはずです。アフリカではエンジン一基を運ぶのにとんでもないコストがかかると痛感し、アフリカで物流ルートがつくれたらと考えるようになりました。

 

井上 そこにビジネスチャンスがあると思われたのですね。

 

山川 はい。そしてもう一つ、南アフリカのエージェントからアフリカの物流網について話を聞いたこともきっかけになりました。その彼から、南アフリカの中ではキャリアカーで車を運べるけれど、国を出た瞬間から道が整備されていないため自走させなくてはならないという話を聞いたんです。同じ大陸でも国によってインフラの整備状況は異なり、アフリカ全体の物流網はまだまだ弱いとあらためて感じました。例えば南アフリカ、ケニアはいろいろなモノが手に入ったり、生活していく上でのサービスも充実している、だけど、ちょっと隣の国に行ってモノを運ぶだけでも不便でしょうがない。こうした背景もあって、物流ルートを構築していこうと決意しました。

 

井上 アフリカは貿易港がない内陸国も多いですし、そういった国に陸送するルートは当時整備されていなかったと思います。インフラだけでなく、ドライバーの質や、通関の煩雑さといった課題もあると思うので、1つひとつ物流ルートを開拓していくのは苦労の連続だったんじゃないでしょうか。

 

山川 苦労に鈍感みたいであまり感じませんでした。ただ毎日何かしらトラブルは起きました。それもあって慣れっこになっています(笑)。

 

井上 アフリカでは事業拡大に苦戦している会社も多いイメージがあります。ビィ・フォア―ドのように事業をスケールする上で、成功のポイントはあったのでしょうか。

 

山川 やっぱりお客さんが欲しているかどうかじゃないですかね。それぞれの会社も需要があると思って起業していると思いますので。リスクを取ってというような経営をしているつもりはありません。ただ事業計画を立ててからとやっているうちに他社に取られてしまいますからスピード重視ではあります。

雇用につながるビジネスという考えに大きく同意

 

信用できる現地エージェントと共に、さらなる事業拡大を目指す

井上 途上国ビジネスにおいては、現地のパートナー選びも非常に重要なことだと思います。信頼できる会社をエージェントとして選ぶために、山川社長が意識されていることを教えてください。

 

山川 私たちの場合は、通関業務ができる会社、つまり国から許可をもらっている会社を基本的にはエージェントにしているため、その時点である程度は信用できる会社が集まります。もちろん、トラブルになることが全くないわけではありませんが……。その上で、私が大切だと考えているのは、その会社がお金を持っているかどうか。ビジネスの世界でお金は、信用度をはかる重要な判断基準です。さらに、ビジネスに対する真面目さも必要だと感じています。

 

井上 途中でエージェントを変えることもあるのでしょうか?

 

山川 もちろんありますよ。ビジネスですから、私たちもシビアに判断しています。例えばタンザニアには数社のエージェントがいるのですが、タンザニアにあるダルエスサラーム港には毎月5000~6000台の車を輸出しています。大手のエージェントには1000~2000台の通関をやってもらうのですが、1台につきいくらかの日銭が入るんです。現地の人たちにとってはそれが大きな収入になります。しかし例えば、ある会社に毎月500台の通関をお願いしていたとしても、その会社のサービスが悪く、お客さんからクレームなどを受けたりすると、「サービスを向上させないと、300台に減らします」などと交渉することもあります。

 

井上 「ビィ・フォアードがいないと経営が成り立たない」という状況だからこそ、そのような交渉をすることができるんですね。現地で雇用を生んでいるところも、ビィ・フォアードのすごいところです。途上国での雇用創出は、社会貢献としてとても大きなことだと思います。

 

山川 彼らに給料をきちんと払えるか、彼らの家族をちゃんと養えるかというのは重要だと思います。それによってタンザニアでもビィ・フォア―ドへの就職がかなり人気だと聞きます。

 

井上  SDGsでは17の目標が設定されていますが、現金がないことが原因となっている課題は多いです。給料を支払えば、貧困削減につながるだけでなく、そのお金が教育や医療などにも使われるでしょうし、国の発展に大きく寄与していると思います。

雇用を生み出すといえば、現在は事業として「車のパーツ」の越境ECをされていますね。

 

山川 これまでとは違うビジネスモデルをつくれたこともあり、パーツ販売事業は今、売り上げが毎月10パーセントずつ伸びる勢いです。なぜ日本の中古車とそのパーツが人気かというと、とても高品質なうえ、日本は国土が狭い上に鉄道なども発達しているので、そこまでの長距離を走っている車は少なく、道路も整備されているので傷みにくい。さらに車検制度もあるため、修理や整備もきちんとなされています。

高品質な日本の中古車パーツはアフリカでも人気があり、これまでにも日本からパーツを輸出するビジネスは行われていました。その一つが、日本に住む外国人などが、日本の中古車パーツをコンテナに雑多に詰めてアフリカへ輸出するというBtoBのビジネスです。そうしたパーツは現地の小売商が仕入れますが、実際に販売されるのは小規模な店舗がほとんど。どこにどのような部品が置いてあるのかが分からず、なかなか目当ての部品を探すことができませんでした。それに対して私たちは、お客さんたちが欲しい商品を自分で探して購入することができる、300万点以上の部品を扱うECサイトになります。しかも商品は、私たちがこれまで自社で築いてきた輸送ルートを使うことで、低コストでお客さんの元に届けることが可能です。さらにタンザニアでは、書類などをお客さんの家やオフィスに配達する「BE FORWARD EXPRESS」という事業も行っています。

2016年4月1日からタンザニアのダルエスサラームで「BE FORWARD EXPRESS」の運用を開始

 

井上 アフリカも都市部は渋滞がひどいですし、バイク便のようなサービスはニーズがありそうですね。今後、「物流」の強さや、アフリカとのネットワークをさらに活かして、新たに展開したいと考えている事業はありますか?

 

山川 2022年4月に、ケニアで中古車ファイナンス事業を手掛けているHAKKI AFRICA(ハッキアフリカ)と業務提携を行いました。これにより、車両価格の40%を頭金として支払えばビィ・フォアードから車が発送され、車を保有しながら返済を行うことが可能になりました。今後はケニアだけでなく、私たちが得意とするアフリカの他の地域でも取り組んでいきたいと思っています。

 

井上 消費意欲が高いアフリカですが、まとまったお金が用意できない人も多いので、ローン返済ができるようになると顧客はさらに増えそうですね。

「BE FORWARD EXPRESS」や「HAKKI AFRICAと業務提携」といった新規事業も積極的に進めている

 

市場が拡大するアフリカで、ビジネスをしないのはもったいない!

井上 ビィ・フォアードがアフリカで事業を始められてから15年ほどになりますが、その間にアフリカの市場が変化している実感はありますか?

 

山川 もうぜんぜん違いますね。アフリカで事業を始めた当初から「これからミドル層が増える」と言われていましたが、予想をはるかに超えています。車を買うことができる人、購買意欲の高い人がどんどん増えていると実感しています。

 

井上 私もアフリカに行くたびに、スーパーなどで売られている商品などが増えていくのを見ていて、購買意欲の高まりを感じています。その中で今後、日本企業にとって特にチャンスがあるのはどのような分野でしょうか。

 

山川 私は、日本人は「仕組みづくり」が上手だと思っています。例えば、ビィ・フォアードにはたくさんのエージェントがいますが、どんな人でも作業ができるシステムを提供しています。一つの作業を終えないと次の作業ができない仕組みや、荷物のトラッキングシステムなどを、全てコンピューターシステムで管理しているんです。システムをつくるまでには2年半ほどかかりましたが、結果的にはスタッフたちのミスも減らすことができて、業務を効率化することにつながりました。このような仕組みづくりは日本人の得意分野で、今後も活かしていくことができるのではないでしょうか。

 

井上 最後に、山川社長が考えるアフリカビジネス面白さや魅力を教えてください。

 

山川 例えばアフリカの奥地にいる友人から「車の部品を送ってほしい」と言われたら、どうやって送りますか? 普通ならどこにどう頼めばいいのか、途方にくれてしまうと思います。しかし今、ビィ・フォアードのECサイトを使えば、現地にはない車の部品を探して、その友人がいる所まで届けることができます。このように、誰もどうしていいか分からないようなことをできるようにしていくのが、途上国・新興国のビジネスです。私たちも最初は手探りでしたが、現地で付き合いのある会社や人に相談しながらトライ&エラーを繰り返し、なんとか突破口を見いだしてきました。

 

井上 私たちは途上国への進出支援を行っていますが、途上国のビジネスチャンスに気づいていない企業や、心理的なハードルを感じている企業がまだまだ多いのが現状だと思います。今回のようにアフリカに進出している日本企業のリアルな話や、現地のビジネスに関する情報を広く知ってもらうことで、途上国ビジネスに挑戦する企業が増えていけばと考えています。

 

山川 私も同意見です。日本にいると、生活に必要なものはだいたい何でもそろっていて「モノがない」と感じることは少ないかもしれません。しかしアフリカなどの途上国や新興国では、日本で普通に手に入るモノが、自分たちの国でつくれなかったり、そもそも売られていなかったりすることもいまだに多い。このように「モノが十分にない」地域には、まだまだたくさんのニーズがあると考えられます。こんなにもチャンスがあるアフリカでビジネスしないのは、本当にもったいないこと。ぜひチャレンジしてほしいと思います。

 

【取材を終えて~井上編集長の編集後記】

今回取材をしてみて、一番印象的だったのが皆さんの顔です。社長はもちろんのこと、社員の方々も楽しそうな顔をされていました。会社が常に新しいことにチャレンジをしているからこそ、楽しんで仕事をしているのではないかと感じました。今の日本ではリスクをすぐ考えてしまいがちですが、高度経済成長期の日本企業は、ビィ・フォア―ドのようにリスクを恐れずチャレンジしている会社が多かったと聞きます。あれこれ考えるよりも、まずはスピーディに事業を始め、走りながら1つひとつハードルを越えていくことが、途上国でのビジネスには必要なのかもしれません。

 

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「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

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撮影/干川 修 構成/土居りさ子(Playce)

世界初の「3Dプリンター学校」、アフリカの教育を変える驚きの手法

【掲載日】2022年6月13日

アフリカの南東部に位置するマラウイでは現在、学校と教員が不足しています。ユニセフ(国際連合児童基金)によれば、同国では約3万6000の教室が必要であるうえ、教員1人当たりの生徒数は99人であるとのこと。この状況は生徒の習熟度に大きく影響します。そこで、マラウイは学校不足を解消するために、意外な手法を用いました。

マラウイで開校した世界初の3Dプリンター学校(画像提供/14Trees)

 

2021年6月、3Dプリンターを使って建設した学校が世界で初めてマラウイで開校しました。この学校を建設したのは、スイスの建築資材企業ホルシムと英国政府系の開発金融機関ブリティッシュ・インターナショナル・インベストメントの共同事業である14Trees。建設に要した時間はわずか18時間で、この学校は70人の生徒を収容することができます。マラウイの多くの児童は、自宅から数キロ以上離れた、かなり遠い学校に通学することを余儀なくされており、この学校はアクセスの改善においても強く期待されています。

 

また、従来の工法では約3万6000の学校を建設するために約70年を要するとユニセフは試算していますが、14Treesは3Dプリンター工法を活用することで、それを約10年に短縮することができると推計しています。

 

3Dプリンター工法は建設時間に加えて、コストと環境負荷の軽減にも有効。従来工法と比較すると建設コストは約25%減、二酸化炭素排出に関しては約86%も軽減することが判明しています。その反面、課題も存在しており、現在の建設用大型3Dプリンターのコストは約10万ドル(約1330万円※)以上と高価なもので初期の資金調達をクリアすることが必要です。投資家や寄付者を募る国々も多いとは思いますが、将来性の観点からすると非常に高い興味を持たれる事業であると想定できます。

※1ドル=約133円で換算(2022年6月8日現在)

 

3Dプリンターを使った学校建設プロジェクトは、マラウイ以外にもケニアや南アフリカ、マダガスカルなどで進行中。アフリカは爆発的な人口増加の渦中におり、子どもの数は増える一方ですが、多くのアフリカ諸国がマラウイと同様の問題を抱えています。また、今後アフリカ全土に広まる可能性を持つ本事業は、ほかの大陸の新興国にも注目されています。教員不足は別の問題ですが、学校が増えることはアフリカの教育にとって重要な進展となるでしょう。

 

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トゥクトゥクもEV化! カンボジアの電気自動車への本気度

【掲載日】2022年6月8日

世界各国でモビリティ革命が進行するなか、カンボジアが持続可能な電気自動車(EV)国家への躍進を目指して、広範囲にわたる普及政策を展開しています。

トゥクトゥクもEVの時代に突入

 

カンボジア政府は2021年12月、長期的なカーボンニュートラル政策の一環として、2050年までに自動車と都市バスの40%、電動バイクの70%をEVにすることをUNFCCC(国連気候変動枠組条約)に盛り込みました。すでにカンボジアでは、2021年よりEVの輸入関税を従来のエンジン車より50%軽減させる措置が取られていると同時に、EV組立工場への投資が強く奨励されています。さらに政府は、EV普及の鍵を握る充電ステーションの設置を既存の給油所に働きかけるなど、積極的な動きを見せています。

 

実際、カンボジアの首都・プノンペンでは、二輪EVや電動モペットのシェアライド事業が行われるようになりました。三輪タクシーのトゥクトゥクやバスなどの公共交通機関もこれからEV化される予定。また、同国では海外の自動車や二輪車メーカーがEVのショールームを開設しています。

 

この背景には、世界中でEVの普及が急速に進んでいることが挙げられます。2021年11月に英国で開催されたCOP26サミット(第26回気候変動枠組条約締約国会議)では、2040年までに全世界で、2035年までには主要国の市場で環境に負荷のないゼロ・エミッションに対応する普通自動車や商用バンなどの新車販売100%を目指す誓約などが締結されました。また、近年の自動車市場においてEVの販売比率が飛躍的に伸長しており、国際エネルギー機関(IEA)によると、2020年時点で普及している世界のEVは1000万台を超え、前年比では43%もの増加。さらに、EVはコロナ禍でも前年比で70%もの販売増加を記録したのです。世界最大のEV大国とされる中国では、EV購入の補助金を制限した結果、価格がやや下がったため、販売数が伸びた可能性があるとのこと。

 

当然ながらEVの普及には数多くのハードルが存在しています。カンボジアは、車道や送電網を含めたインフラの整備、EVバッテリーの廃棄、人材育成などの課題を抱えています。これらを解決するためには、政府や諸外国、国際機関の支援に加えて、民間企業の連携が不可欠。カンボジアは、中国がリードする世界の自動車市場のEV化について行く意思を示しているだけに、日本企業はカンボジアの動向にもっと注意を払うべきでしょう。

 

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偽薬が30%を超える国も。製薬業界がブロックチェーンで対抗

【掲載日】2022年6月2日

フィンテックや物流をはじめ、さまざま分野で活用されているブロックチェーン。その存在感が製薬業界でも高まってきました。大手企業やスタートアップ、国際機関がブロックチェーンの活用を通して、医薬品のサプライチェーンや安全性を向上させようとしています。

↑ヘルスケア分野でも重要性を増すブロックチェーン

 

市場調査を行うMarket Satsville社によると、ヘルスケア分野でブロックチェーン技術を導入するスタートアップ企業への投資が右肩上がりで成長中。その市場規模は2021年で約4億9000万ドル(約627億円※)、2027年には約36億6190万ドル(約4686億円)に達すると予測されています。

※1ドル=約100円で換算(2022年5月31日現在)

 

医療記録の管理や医薬品におけるサプライチェーンの管理、偽造医薬品の防止など、ブロックチェーンが製薬業界にもたらすメリットはさまざま。例えば、医薬品のサプライチェーンの管理において、ブロックチェーンが薬の製造元や原材料の調達、輸送などに関する情報を追跡することで、透明性のある物流手段を確保することが可能。結果的に医薬品の安全性の向上につながります。

 

ブロックチェーンの価値はそれだけではありません。この技術は偽造医薬品対策としても注目されています。世界保健機関(WHO)によると、先進国で入手可能な医薬品の約1%が偽造品であるうえ、途上国の中には30%を超える規模で偽造品が蔓延している国々もあるとのこと。ここでも、ブロックチェーンのトレーサビリティが役に立つと言われているのです。

 

製薬業界へのブロックチェーンの導入を巡り、世界中の民間企業でさまざまな動きが見られます。アメリカやイギリス、中国、エストニアなどのブロックチェーン先進国では、すでに数多くのプロジェクトが進行しており、例えば、アメリカでは2020年にIBMやKPMG LLPなどのテクノロジー関連企業が、アメリカ国内の医薬品の検証と追跡を目的とした実証プログラムを実施しました。また、同国では大手製薬企業25社のコンソーシアム「MediLedger Pilot Project」が発足しており、製薬業界向けのブロックチェーンの構築が進められています。

 

ヘルスケア分野のスタートアップへの投資も活発。アメリカでは2018年に、医療データ向けのネットワークを構築するスタートアップのAkiriが約1000万ドル(約12億8000万円)の資金を調達しました。一方、中国では政府がヘルスケア分野へのブロックチェーンの導入を積極的に支援。同国のさまざまな都市がブロックチェーンのスタートアップに投資しています。

 

日本やオーストラリア、シンガポールなどもブロックチェーン先進国に続こうとしていますが、偽造品の流通といった製薬業界が抱える課題はグローバルな問題であるため、途上国の動向からも目が離せません。アフリカ諸国はIT技術を駆使して医療の問題を解決しようとしています。世界各国がこの分野で研究開発や投資を加速させてくることでしょう。

 

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世界を襲う「砂クライシス」。危機の回避に向けて国連環境計画が解決策を提言

【掲載日】2022年6月1日

世界各地で発生している急激な都市化と人口の増加は、砂の消費量を激増させており、その価格は年々上昇しています。主にさまざまな建築物で活用される砂は、価格高騰による不正採取が跋扈しており、日本もその例外ではありません。環境保全や気候変動への適応という観点からも砂は重要であり、適切な管理方法の確立が今まで以上に求められています。

途上国の都市化により、ますます需要が高まっている砂

 

2022年4月、国際連合環境計画(UNEP)は「Sand and Sustainability: 10 Strategic Recommendations to Avert a Crisis」というレポートを発表し、砂資源の危機を回避するための戦略を提言しました。現在、世界で必要とされている砂は年間約500億トン程度で、その量は地球全体を高さ27メートルの砂壁で覆うことができる量に匹敵すると言われています。2019年に経済協力開発機構(OECD)が行った調査では、2060年までに世界人口が100億人を超えた場合、建築における砂や砂利、砕石の使用量が調査時と比較して2倍以上になるだろうと予測されています。「砂漠の砂を代用すればいいのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、残念ながら風食による細かい粒子の砂は建築資材には活用することができません。

 

新興国では近年、急激な都市化が進行しており、需要が増加したために砂の価格が過去数十年で高騰。例えば、1991年における米国の砂1トンあたりの平均価格は3.96ドル(約503円※)でしたが、2021年には9.9ドル(1257円)を記録しています。

※1ドル=約127円で換算(2022年5月25日現在)

 

砂はコンクリートの製造や住宅、道路、インフラ整備などのさまざまな用途で必要とされており、経済発展には不可欠な資源の1つ。その反面、海岸や河川などから砂を掘り出すことは、海岸などの浸食や塩害、高潮対策の喪失を引き起こす可能性があるほか、生物多様性への影響も危惧されています。さらに、海岸に砂があれば、高潮や海水面の上昇から人類を守ることができるため、UNEPは、砂の保護は「気候変動に適応するうえで最も費用対効果が高い戦略である」と述べています。

 

そこで、同レポートは、循環型経済の枠組みの中で砂を管理するべきだと主張。砂を建設資材だけの問題として片付けるのではなく、環境への影響やロジスティクス、国際公開入札に向けた新しい基準の必要性など、幅広い視点からこの問題を捉えると同時に、政府や産業界、消費者を含めた、すべての利害関係者に考慮しながら適正価格をつけるべきだと論じています。また、循環型経済の構築に向けて、公共調達案件における砂の再利用の奨励や、代替品としての砕石、解体資材のリサイクル、鉱砂など、さまざまなアプローチが提唱されています。

 

砂を適切に管理するために、UNEPは砂資源のマッピングや監視、報告体制の構築などについても言及していますが、これらに向けて、世界各国で官民挙げての取り組みが今後増えていくでしょう。各国ともに最善の対策を模索しているのが現状ですが、「戦略資源としての砂」という認識はどこも揺るぎません。砂は水に次いで世界で2番目に活用されている資源なのですから——。

 

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外国人材雇用の「見えない抵抗」とは? 在留外国人支援の実態を聞いた

【掲載日】2022年5月31日

現在、日本に住む在留外国人の数は288万人以上。しかしその中には、在留資格や日本語能力などの問題から仕事に就けず、なかなか支援を受けられていない人が多くいます。この課題に対してシャンティ国際ボランティア会では、2020年5月から国内で在留外国人や外国にルーツを持つ人々を支援する事業を開始しました。今回は同会の村松清玄氏に、事業の内容や、在留外国人が抱えている課題、そして外国人材を活用したいと考えている企業と連携していくためのアイデアなどをお聞きしました。

 

村松清玄氏●シャンティ国際ボランティア会職員。同会が2020年5月から始めた、在留外国人支援事業では計画立案、ファンドレイズなどを担当し、現在も事業全体の管理・運営を行っている。

 

さまざまな課題を抱える在留外国人一人一人に寄り添い、解決の道を探す

――シャンティ国際ボランティア会が在留外国人支援事業を始めたきっかけと、現在の取り組みについて教えてください。

 

村松 私たちはもともとアジアの国々を中心に、教育文化支援や緊急人道支援を行ってきました。しかし途上国で国際協力に取り組む中で、足元を見てみると、日本国内にいる外国人もさまざまな課題を抱えていることに気が付いたんです。そこで、私たちがこれまで培ってきた経験を活かし、国内の問題にも向き合っていこうと、2020年5月から在留外国人支援事業に取り組むことになりました。

まずは私たちが以前から注力していた「教育」「子ども」に焦点を当てた活動から始めようと、外国ルーツを持つ子どもたちの居場所づくり事業を始めました。具体的には、認定NPO法人「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」と連携し、日本でマイノリティとして暮らす外国ルーツの子どもたちが、肩肘張らずに過ごせる場をつくろうと取り組んでいます。事業を始めた時期がちょうどコロナ禍と重なってしまったこともあり、対面での実施はできていませんが、オンラインツールを使ってスタッフが考案したゲームをするなど、楽しみながら現在も交流を続けています。

そして2021年5月からは、豊島区に住む在留外国人を対象に、コロナ禍での緊急支援として休眠預金を活用し「包括的生活安定支援」も始めました。この取り組みでは、弁護士法人東京パブリック法律事務所、社会福祉法人豊島区民社会福祉協議会と連携しながら、食料配布や生活相談などを実施。日常の小さな困りごとから法的解決が必要な課題まで相談できる場をつくり、その後の支援につなげることで、在留外国人の生活基盤の底上げを図っています。

在留外国人の包括的生活安定支援事業の様子(c)Shanti Volunteer Association

――相談に来られる在留外国人の方は、具体的にどのような課題を抱えているのでしょうか?

 

村松 さまざまな相談を受けますが、最終的には仕事とお金に関する問題に集約されるという印象です。外国人労働者は「最後に雇われて最初に解雇される」ことが多く、仕事をなかなか得られないのが現状だと思います。そして、仕事が得られない理由は、日本語ができない、在留資格的にできる仕事が限られているなど、人によってさまざまです。また職に就いている人でも、非正規雇用や低賃金労働などの課題を抱えています。

こうした一人一人の課題に対応するべく、相談会では最初に弁護士や社会福祉協議会などの専門家が在留外国人に対してヒアリングを実施します。そこでまずは支援が必要かどうかを判断し、その後、取りまとめたヒアリング内容を確認しながら、どこでどのような支援が必要なのかをあらためて運営側で議論します。話し合いの後、法的解決が必要であれば弁護士、地域の生活相談的なことであれば社会福祉協議会が対応し、私たちで解決できない問題であれば相談先を探すなどして、個別支援を行っています。

 

――事業を実施してみて、在留外国人の方からはどのようなリアクションがありましたか?

 

村松 私たちの相談会に来る人は、そもそも「助けて」と言えない環境にいる人がとても多いんです。なかなか相談できる相手もいないし、誰に何を相談したらいいのかもわからない。そのため、「話を聞いてもらえる人がいる」ということに涙を流される方もいて、心の支えにもなっているのではと感じています。

(c)Shanti Volunteer Association

村松 そして私たちの支援の特徴の一つは、こちらからリーチアウトしていくということ。社会福祉協議会が持っている名簿を活用して案内を発送するなど、さまざまな方法で主体的に在留外国人にアプローチをしています。今後もただ機会を設定するだけでなく、こちらから手を差し伸べることを意識しながら、継続的に支援を行っていきたいと考えています。

 

さまざまな団体と連携するためには、事業を発信・継続することが大切

――在留外国人支援事業では、さまざまな団体と連携して取り組んでいますが、仲間を集めて巻き込んでいくために工夫されていることはありますか?

 

村松 実は今回の支援事業は、弁護士の方々や豊島区内の団体から声をかけていただいて始まったものなので、私たちは「巻き込まれた側」です。豊島区では民間の支援がかなり充実していて、地域の中で声を掛け合ったりしながら、取り組みの輪をどんどん広げようという雰囲気があるんですよね。専門性の高い団体同士が手を取り合って、“点”が“面”になっていくことで、支援の力が最大化できる仕組みができていると感じています。

その中でも、輪を広げていくために私が大切だと感じているのは、自分たちの取り組みを知ってもらうために積極的に発信していくこと。そして、事業を継続することも重要だと考えています。例えば在留外国人支援事業で相談会を単発で開催したとしても、すぐには行きづらかったり、最初は話しづらかったりすることもあると思うんです。しかし、回数を重ねていけば、相談に来る外国人の方々と関係性を築き、信頼を得ることができます。そうなれば事業自体も次第に大きくなっていき、さまざまな団体と連携することにもつながっていくと考えています。

 

――今後、在留外国人への支援を進めていく中で新たに取り組んでいきたいことや、連携したいと考えているところなどを教えてください。

 

村松 これまでも何度か実施したのですが、「在留資格」をテーマにしたイベントなどは、今後さらに力を入れていきたいと考えています。というのも、私たちのもとに相談に来る人の多くは、安定した在留資格を持っていません。新型コロナウイルスや母国のクーデターの影響で帰国困難者になり、何とか日本に居続けているという人がとても多いんです。そのため、安定した在留資格を取ってもらうために、サポートをする取り組みを始めています。

特定技能セミナーの様子(c)Shanti Volunteer Association

村松 例えば以前、在留資格に関連したイベントの一つとして実施したのが、「特定技能セミナー」です。このイベントではまず、在留資格の一つである「特定技能」についてあらためて説明し、資格を取得するための方法や、就職できる仕事の種類についてレクチャーしました。さらに、日本語試験の受け方や申請書の書き方などもコーディネーターたちが個々でサポートしました。今後は、資格取得のためのより実践的な支援を行っていく予定です。しかし、せっかく資格を取ることができても仕事に就けなければ意味がありません。そのため現在、企業と連携して就職につなげられるような取り組みができないか、模索をしているところです。

 

「根拠のない抵抗」を持つ人たちが、外国人と関わり、活動できる機会をつくっていきたい

――現在、日本では外国人を雇用したいと考えている企業も多いと思います。そのような企業と働きたい外国人材をうまく結び付けるためにはどうすれば良いでしょうか。

 

村松 例えば多くの企業が集まる場で、私たちの活動を紹介したり、現場の声を伝えたりする機会があればいいなと考えています。しかし実際にそのような場は前にもあったのですが、参加した企業の中にはあまり熱意が感じられないところもあって……。本気で外国人材を雇いたいと考える企業が集まる場、率直な意見を言い合える場が必要だと感じています。また、最近はCSRやSDGsの活動で、国際協力や社会課題に取り組む企業も多いため、そこが一つの入り口となればいいなとも感じています。

もちろん企業側も、自分たちに何らかのメリットがなければ外国人の雇用や活用を続けていくことはできません。そのため私たち支援団体側も、企業が本当に必要としているのは何かを考えていかなければと感じています。私たちの強みは、これまでの活動の中で多くの外国人と関わり、さまざまな情報を得てきたこと。この強みを、企業のニーズとうまくつなげていくような仕組みをつくっていきたいと思います。

 

――企業側が外国人を雇用する際に、どのようなことがハードルになっているのでしょうか?

 

村松 日本企業の中には、外国人に対して一歩身を引いてしまうような、根拠のない抵抗を抱いているところが多いと感じています。心理的な部分ですが、これが意外と馬鹿にできない大きな壁になっているのではないでしょうか。そのためまずは、モデルケースとして1人、2人雇ってみることが大切だと考えています。1人、2人と雇って、その人たちと実際に一緒に仕事をしていくことで、企業の中でも少しずつ理解が深まっていくはずです。

いずれにしても、これから日本の労働人口が減ることは目に見えています。そのため企業にとっても、早めに社内の文化をグローバルに変えていくことは、非常に重要です。外国人を雇用することをただ負担だと考えるのではなく、自分たちの働き方をより良くしたり、視野が広がったりするチャンスだと、ぜひポジティブに捉えてほしいと思います。

外国人に対する心理的なハードルを下げるためには、とにかく「知り合うこと」に尽きます。例えばネガティブな印象を抱いている国でも、実際に行ってみて現地の人と話すことで、イメージが変わることはよくありますよね。そのため私たちはこれからも、外国人と関われたり、一緒に活動できたりするような機会をつくっていきたいと考えています。そして、コロナ禍では難しいところもありますが、地域住民たちが対面で参加できるような活動も増やしていきたいです。外国人と知り合う機会を得て、まずは挨拶や雑談といった些細なコミュニケーションから始める。これがお互いを理解していくための第一歩になると思います。

 

 

シャンティは、子どもたちが厳しい環境の中でも安心して学べる機会をつくる活動を行っています。より多くの方に活動にご参加いただけるよう、さまざまな支援方法をご用意しています。シャンティと一緒に子どもたちの学びを支えてください。

「シャンティ国際ボランティア会」HP https://sva.or.jp/personal-donation/

【この記事の写真】

「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

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もう1つの恐るべき感染症。コロナ禍の裏で増加に転じる「マラリア」

【掲載日】2022年5月25日

2008年から毎年4月25日は「世界マラリアデー」になりました。この日はマラリア撲滅に向けた世界的な取り組みや進歩を確認する機会として設けられています。それに先立つ4月21日に、WHO(世界保健機関)はアフリカ3か国で計100万人以上の子どもたちがRTS, Sマラリアワクチンを接種したことを発表しました。しかし、マラリアのない世界はまだ訪れていません。

マラリアはまだまだ終わらない

 

マラリアとは蚊によって媒介される感染症で、語源はイタリア語の「mal(悪い)」と「aria(空気)」。人間に感染するマラリア原虫は5種類(熱帯熱、三日熱、卵形、四日熱、サルマラリア)あり、なかでも特に重症化を引き起こし、致死率の高い熱帯熱マラリア原虫は、世界のマラリア感染者の多数を占めます。感染すると悪寒や発熱だけでなく、脳症、腎不全、肝機能障害、出血などの合併症を発症するマラリアは、古代から人類を悩ませてきました。マラリアの病原体が発見された19世紀後半以降、ワクチンを含めた治療法の開発は目覚ましい進展を遂げてきましたが、宇宙を開発するまでの科学技術を生み出している現代においても、人類はいまだにこの感染症を克服することができていません。

 

近年では、新型コロナウイルスのパンデミックが、途上国のマラリア撲滅に向けた取り組みに影響を及ぼしました。WHOの「ワールド・マラリア・レポート2021」では、2020年には世界で約2億4100万人がマラリアに感染し、約62万7000人が死亡したと推計されています。前年と比べると、感染者数は1400万人、死亡者数は6万9000人増加。世界各国の政府や医療機関などが新型コロナウイルスの対策に追われた結果、それまで減少傾向にあったマラリアの感染が再び増加に転じるという異常事態が発生しているのです。

 

例えば、ブータンや東ティモールは、2025年までにマラリアの撲滅を目指すWHOの「E-2025」と呼ばれる取り組みの対象国に含まれていますが、両国ではその計画に黄信号が灯っています。一国だけの対策でマラリアの蔓延を抑えることはできず、隣国からの国境を越えた感染拡大を止めることが急務。政府機関および国際機関の協力体制の強化に加えて、現場の医療従事者が国境を越えて情報を交換できるアプリが開発されています。

 

日本にとっても現在進行形の課題

公衆衛生が高いレベルで維持されている日本にとって、マラリアの蔓延は遠く離れた途上国の話、もしくは過去の出来事と考えがちですが、様相は変わるかもしれません。温暖化の進行によって日本でマラリアの感染が再び広がるのではないかという説が以前にありましたが、現在、地球規模で気候変動が起きており、マラリアを媒介する蚊の生息地域も変化しています。熱帯熱マラリアを媒介するコガタハマダラカは、日本では沖縄地方の宮古・八重山諸島でのみ存在が確認されていますが、その生息地域が温暖化によって拡大する可能性はまったくないというわけではないでしょう。

 

一方、日本は世界各国の政府機関や民間機関などと協力しながら、途上国のマラリア対策を支援してきました。民間企業に目を移せば、住友化学による防虫蚊帳の配布や、九州メディカルによるボウフラ殺虫剤の展開など、途上国の現地住民の命と健康を守るための基本的な蚊媒介感染症対策製品が導入されています。マラリア撲滅という国際的な課題において、今後も日本にはあらゆる面で世界各国から大きな期待が寄せられていくでしょう。

 

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資本投資が168%増加! 勢いづくエジプトの「デジタル人材育成」

【掲載日】2022年5月23日

エジプト発のスタートアップ企業の台頭が際立ってきました。エジプトはデジタル人材の育成を国家的に強化しており、中東・アフリカ地域におけるエコシステムの勢力図を塗り替えそうな模様です。

中東・アフリカ地域のデジタル勢力争いに加わったエジプト

 

スタートアップ・エコシステムに関する政策の助言や調査を行うStartup Genomeが2021年に発表したレポートによれば、2020年度におけるエジプトのスタートアップ企業に対する投資額が前年度比で30%増加し、そのうちの約3割は海外からの投資でした。また、途上国のスタートアップ企業に関するデータを提供するMAGNiTTは、同国のエコシステムへの資本投資が2021年に前年比で168%増加し、5億万ドル(約645億円※)に近づいたと報告。これらはエジプトが持つ可能性の高さを如実に表しています。

※1ドル=約129円で換算(2022年5月16日現在)

 

エジプトは2016年に、経済やエネルギーなど幅広い分野を包括した国家戦略「ビジョン2030」を発表しました。この中で同国は2030年に実質GDPの成長率を発表時の前年比で12%増を目指すなど、野心的な目標を掲げましたが、その実現に向けた施策の中で特に注力しているのがデジタル化の振興。そこで不可欠になる人材育成にエジプトは国家レベルで取り組んでいます。

 

例えば、エジプトの通信情報技術省は、オンライン教育を提供する米国のUdacityと組み、デジタル技術を無償で学べる「Future Work is Digital(FWD)」と呼ばれるイニシアティブを2020年に開始。これは18か月間のプログラムで、学生は専門家による実践的なプロジェクトやウェビナーを受講できるうえ、メンターによるサポートや卒業時の就業サポートなどを受けることが可能。20万人以上の若者のITスキル向上を目指しており、ここでフリーランスとして活躍できる知識や技術、能力を身に着けることができた若者はすでに約7万3000人に上るとのこと。

 

また、国内企業のみならず海外企業のアウトソーシングに対応する人材の育成も包括しているFWDでは、情報技術産業開発局の支援により、学生を含めた1万人の若者に英語・フランス語・ドイツ語を教えるプログラムも2021年末からスタート。つまり、エジプトはデジタル業界を中心としたグローバル人材の育成において手厚いサポートを実施しているのです。

 

このような「デジタル・エジプト」の取り組みは、すでに海外で評価され始めています。米国の経営コンサルティング企業のA.T.カーニーが発行する2021年版グローバルサービス拠点インデックス(GSLI)では、中東・アフリカ地域からエジプトだけが上位20位にランクイン。同国の世界経済全体に与えるインパクトが、これから強まっていくと見られています。

 

アフリカにおけるスタートアップ企業の発展は、これまでナイジェリアやケニア、南アフリカで顕著でしたが、現在ではそこにエジプトが加わっています。デジタル戦略を推進する同国は勢いづいており、日本企業が中東・アフリカ地域への進出を検討する際にも、エジプトの人材は貴重な戦力になるかもしれません。

 

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データとトレンドで見るICT産業大国「インド」の全て

【掲載日】2022年5月19日

 

NEXT BUISINESS INSIGHTSでは、世界で注目される発展途上国の現在を様々な視点で紐解いています。本記事では、そんな豊富な記事をより深く理解するために、国別に知っておきたい基本情報をまとめました。今回は、2030年には世界トップの人口数になると予想されている「インド共和国」。世界的大企業がいま率先して投資を始めている、インド市場の現在を知っていきましょう。

 

 

データで見るインドの概況

 

●人口…13.5億人

●2050年の人口予想…15.3億人

●平均年齢…28.5歳

●インターネット普及率…34%

●携帯電話普及率…87%

●スマートフォン普及率…24%

●一人当たりのGDP(円換算)…2300円

●総GDP…2719億ドル

●その他…地域ごとに大きく異なる気候特性、連邦法・州法の採用、英語の他にヒンディー語・マラティー語・タミル語など地域ごとに様々な現地言語が残る

 

インドは、この先10年足らずでGDPは日本を超えて世界3位の経済大国になると言われています。その大きな要因として挙げられるのは、ボーナス期で伸び続けている人口数です。現在の平均年齢が30歳未満と今後の経済担う若年層人材が潤沢であることから、市場としての将来性に注目が集まっているのです。

 

いまだインターネット普及率、スマートフォン普及率ともに30%前後ではあるものの、インドのICT産業や人材の持つ能力には多くの国が注目し続け今や「IT大国」と世界的に呼ばれる位置にいます。約300万km2もの広大な面積の土地には、29州で構成されており、最高40℃~最低10℃までと寒暖差の激しい地域もあれば、雨季にはモンスーンが発生するような地域もあったりと環境特性に様々な違いがあり主要産業も地域別に異なっています。

 

世界的に将来性の高い国であるインドの特性を、さらに4つのパートに分けて見ていきたいと思います。

 

【パート1】農林・水産

(概況・特徴)

・総人口に対する農林水産業の従事者比率…約50%

・農地面積…17,972万ha(2016年時点)

・主な農産物…さとうきび、コメ、小麦、馬鈴薯、バナナ、マンゴー、グアバ、トマト、パパイア、オクラ、チャ、ショウガ、牛乳など(農水省ホームページ、2019年)

(課題)

・人口増加に反して農業人口が減少

・フードロスの増加

(新たな動き)

・スマート農業、先端技術を持つベンチャー企業の活発化

・加工食品へのニーズが増加

・都会的で向けのコーヒーショップや、ベーカリーが増加

 

インドの農産物で生産量1位を誇る品目シェアと単収。3段目のマンゴスチンの生産は、実態としては稀となる

 

前述の通り人口が増加し続けているインドではありますが、一方で農業従事者の人口が減少傾向にあることが課題として挙げられています。また、その生産・加工技術は体系化されているものではなく小規模農家が多いため、フードロスが増加していることも大きな課題。

 

インドの農林水産では、近年新たなアグリテックが多く生まれていることも特徴です。その内容は、衛星画像やセンサーを活用したデータ分析(営農情報提供サービス)から、新たな農業資材に関する情報、農機レンタルあるいはシェアリング、ファイナンスなど多岐に渡ります。

 

近年都市部では洗練されたスターバックスのようなコーヒーショップが若者を中心に人気を集めており、おしゃれなパッケージのフィルターコーヒーなども販売されています。

 

雰囲気のいいベーカリーも増えており、中には日本式のカレーパンやチーズケーキが販売されていたり、日本のようにトングとトレーで店内で買い物をするタイプの店も出てきています。また中間層や働く女性も増加しているため、キノコや乳製品などを中心に食の安全・安心や保存のきく加工食品へのニーズが増加していることも、今後日本企業でも進出可能性が高く見られるポイントでしょう。

 

インドで展開されているコーヒーショップ「Third Wave Coffee」のフィルターコーヒー

 

【パート2】保健医療

(概況・特徴)

・平均寿命…68.5歳(男性67歳/女性70歳 2016年時点)

・妊産婦の死亡率…10万人あたり145人(2017年時点)

・乳幼児の死亡率…1000人あたり37人(2018年時点)

・疾病構造や死亡要因…循環器疾患27%、感染症・周産期・栄養不全26%、その他非感染症疾患13%、呼吸器疾患11%、傷害11%、がん9%

・医療費支出額…800億ドル

(課題)

・医療従事者が数、質ともに不足している

・医療教育への十分な投資がされていない

・全人口の保険加入率が25%程度に留まっている

・老年看護や高齢者ケアの概念が浸透していない

(近年の新たな動き)

・POC機器市場の伸長

・民間企業による高齢者ケアのための医療サービス提供

・健康志向が高まり、ジムや健康食品への関心が高まっている

 

 

 

医療と衛生状況も向上しているインドではありますが、国全体の課題としては医療機関・従事者の体制が万全でないことに加え、医療教育もまだまだ十分に追いついているとは言えない状況です。医療機関も都市部には集中していますが、地方ではまだまだ環境が整っていません。しかし、そういった状況が近年、求めやすい価格で簡易検査を可能とする「POC機器」市場を伸長させている一因でもあります。2020年時点ではインド国内で約700もの医療機器メーカーがあり、インドの医療機器市場はアジアでも4番目、世界でも20位内に入る規模となりました。

 

機器とともに知識不足がゆえに課題となっていることには、糖尿病も挙げられるでしょう。インドの糖尿病患者数は世界で最も多く、2025年には1億5000万人にも達すると言われています。生活習慣病である糖尿病にとっては、日常的な検査と適切な治療が求められそれらの体制が万全でないことが問題点として挙げられているのです。しかし、その反動として社会的に健康志向意識が高まり、近年トレーニングジムや健康食品に注目が集中する現象が起きています。

 

環境が整っていないという意味では、医療教育が普及していないことと老人介護・高齢者ケアの概念が浸透していないことも大きな課題です。インドでは伝統的に家庭内での高齢者ケアが一般的で外部にケアを依頼することが浸透していません。しかし、調査では約45%が「重荷である」と回答しているのです。そういった声をもとに、病院・NGO・民間企業によって、検査・診察・看護・理学療法・緊急対応・健康モニタリングといった医療サービスの提供がスタートしています。

 

【パート3】教育・人材

(概況・特徴)

・学校制度…5・3・2・2制

・義務教育期間…8年生まで(6歳~14歳まで)

・学校年度…4月1日~3月31日

・学期制…3学期制(1学期:4月~8月/2学期:9月~12月/3学期:1月~3月)

・15-24歳までの識字率(2018年時点)…91.66%

・15歳以上全体の識字率(2018年時点)…74.37%

・総就学率(2017年時点)…就学前13.7%/初等113%/中等73.5%/高等27.4%

・初等教育の純就学率(2013年時点)…92.3%

・就学人口(2011年-2012年度)…幼稚園/保育園333万6365人/初等学校9131万5240人/上級初等学校6254万2529人/中等学校3777万6868人/上級中等学校4266万8238人

(課題)

・児童・生徒数に対して教員人材が足りていない

・教員人材訓練の環境が万全ではなく、訓練未履修の教員が存在している

(新たな動き)

・海外への留学が増加。留学先はアメリカを中心に各国へ分岐している

・EduTech産業が急伸している。新型コロナウィルス感染症流行後、オンラインでの遠隔教育を中心に様々なEduTechソリューションが発展している

 

 

人口ボーナス期であるインドは、約40%の人口が5~24歳の若年層です。今後数十年に渡り目覚ましい成長を見せることが予想されますが、若年層の数に対して教育環境が整っていないことが現在の大きな課題です。

 

初等教育の就学率は92%と高いものの、15歳以上になると識字率の男女格差が生まれ始めて一定の年代以上における教育格差が見受けられます。最大の課題は、増加する就学児に対してしっかりとした訓練を受けた教員が足りていないことでしょう。インドではいまだ地域、身分にとどまらず部族や宗教間など様々な視点での格差が根差しており、その格差を埋めて国内で均等で十分な教育環境を整えることが必要とされています。

 

反面、ICT産業で世界的注目を集めているインドでは、教育とテクノロジーを掛け合わせた「EduTech」産業が凄まじい成長を遂げています。国内では4400もの新興企業が稼働しており、その数は世界でアメリカに次いで2位にランクされました。新型コロナウィルス感染症流行してからは、その技術をもって遠隔教育が盛んに採用。EduTechソリューションのユーザーは2倍になり、利用者のオンラインで過ごす時間は50%増加したと言われています。

 

【パート4】IT・インフラ・環境

(概況・特徴)

・主要港数…13

・港湾処理能力(1TEU…20フィートコンテナ1個 2018年時点)…1638万TEU

・鉄道網(2019年時点)…6万7368km

・道路網…560万km以上 国道(2019年度)…13万2500km 州道(2017年度)…17万6166km

・輸出製品構成…石油製品14%/宝石類11%/機械製品7%/その他68%

・輸入製品構成…原油・石油製品32%/機械製品13%/宝石類11%/その他45%

(課題)

・製造分野の零細企業制が多い

・石炭中心の電気構成や車両増加による都市部の大気汚染が深刻化

・道路網への依存が高いなど、物流サービスが非効率

(近年の新たな動き)

・再生可能エネルギーが最も安価な国であるため、太陽光電池の開発などが盛ん

・2030年までに新車のEV化を国家目標に掲げるなど、電気自動車産業への積極的な取り組み

・Eコマースの需要拡大に伴い、数多くのブランドや店舗が参画

・製造業振興の国策「Make In India」の推進

・90億ドルもの資金調達を達成した、FinTech市場の伸長

 

 

インドが世界で最も注目されるITや、インフラ、環境を見てみましょう。まず2014年にモディ政権下で提唱された製造業振興策「Make In India」からも見てとれる通り、インドの目下の課題は製造業のテコ入れにあります。当初はインドが抱える様々な課題から政策はうまく実行できずにいましたが、第2次モディ政権では法人税の引き下げや労働法改革、電気自動車産業など新産業の推進を掲げて今後の展望が期待されています。電気自動車の新産業とともに、太陽光産業など再生可能エネルギーをローコストで運用できることもインドの強みです。

 

IT産業においては、新型コロナウィルス感染症流行を皮切りにEコマースの積極導入が図られるばかりでなく、FinTech市場において世界でも記録的な額である90億ドルの資金調達を達成するなど、先進技術によるIT成長率には目を見張るものがあります。

 

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投資額が210億円を突破! 世界で急成長する「海藻」産業

【掲載日】2022年5月17日

昆布やワカメ、海苔など、古代から日本人にとって馴染み深い存在である海藻。それが近年、世界中で熱視線を浴びています。環境や食料、途上国の経済発展など、さまざまな課題を解決するために、海藻が重要な役割を担いつつあるのです。

海藻が世界を救う

 

海藻の重要な側面の1つが養殖。ニューブランズウィック大学(カナダ)の海洋生物学教授のティエリー・ショパン氏によると、海藻は世界の養殖生産の約51%を占める生産量の高さを誇り、そのうちの99.5%が東〜東南アジアに集中しているとのこと。しかし、2012年に太平洋島嶼(とうしょ)国が国連で提唱した「ブルーエコノミー(循環型経済の概念を取り入れつつ、海洋生態系を維持しながら経済的繁栄と貧困撲滅を目指す経済モデル)」の提唱もあり、海藻の養殖はアジアを超えて拡大しつつあります。国際連合食料農業機関(FAO)の統計によると、世界の海藻養殖生産量が2000年では約1060万トンでしたが、2018年には約3240万トンと約3倍に増加し、現在でも生産量が落ちることなく推移。

 

海藻のさまざまな特徴が、生産量を上げています。現代社会で二酸化炭素の排出量削減は最重要課題の1つですが、海藻の養殖は1ヘクタールあたり熱帯林の約3倍の炭素を吸収することができ、さらに地球上の光合成の約50%は海藻で行われています。また、海藻は栄養価の高い食料としてのみならず、医薬品や有機肥料、燃料など幅広い用途に活用する可能性を有しており、国連をはじめ世界各国の研究機関が海藻に関する施策を打ち出すようになりました。

 

例えば、2022年4月13日から2日間にかけてパラオで開催された「Our Ocean Conference」において、米国国際開発庁(USAID)が24の取り組みを発表し、その中でも630万ドル(約8億1220万円※)の拠出を決めた「NOSY MANGA」プログラムは、海藻とナマコの養殖を通じた持続可能なブルーエコノミーの創出を目指しています。

※1ドル=約128.9円で換算(2022年5月13日現在)

 

海藻養殖への投資は世界的に拡大しており、海藻産業のニュースやデータを提供する「Phyconomy」によれば、2021年の取引件数は前年の17件から34件に倍増し、投資総額は前年比36%増の1億6800万ドル(約216億円)に到達したとのこと。また、同年の取引額の中央値は230万ドル(約2億9600万円)で、同年最大規模の投資案件はノルウェーの海洋バイオテクノロジー企業Alginorに対する協調融資。その規模は約3300万ドル(約42億5000万円)でした。

 

海藻は今後ますます世界で注目されていく模様ですが、その中でも日本は海藻の食文化において長い歴史を持ち、全国各地で養殖を展開しています。海藻を通じた持続可能な社会の実現に向けて、日本企業は大きく貢献することができるでしょう。

 

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次なるフロンティア! 急成長するインドの「メンタルヘルス」市場

【掲載日】2022年5月12日

近年、世界各国でメンタルヘルス(精神衛生)の重要性が認知されている中、特に注目を集めている国の1つがインドです。同国では多くの人々が心のケアを求めており、国全体でメンタルヘルスの問題に取り組んでいますが、精神科医が圧倒的に不足。この状況を打破するために、インドのスタートアップ企業がAIやロボットを活用しようとしています。

↑心の苦しみを誰に打ち明けたらいいのか?

 

2022年2月、世界経済フォーラムは、インドでメンタルヘルスの認知度が高まっているものの、人材不足の問題が深刻であると述べた記事を掲載しました。同国は2016年に、メンタルヘルスに関する国民的な議論を喚起するため「Live Love Laugh」というフォーラムを立ち上げ、啓蒙活動を行なっています。メンタルヘルスを前向きに捉える人の割合が2018年の54%から2021年には92%に増えるなど、国民の意識は大きく変化した模様。しかし、人材不足は解消されておらず、同国では10万人の患者に対して精神科医がわずか0.75人しか存在していません。

 

メンタルヘルスケアへの需要は増えています。新型コロナウイルスのパンデミックが宣言された2020年、アメリカの大手ソフトウェア企業のORACLEが、11か国で約1万2300人を対象にメンタルヘルスに関するアンケート調査を行いました。その結果、メンタルヘルスで最も苦しんでいる国はインドであることが判明。例えば、同国の従業員の89%がコロナ禍で精神の健康を損ない、さらに93%がその影響は家庭にも及んでいると述べています。

 

また、インドでは96%がリモートワークに伴うストレスを指摘していますが(比較すると日本人は71%)、それと同時に91%がメンタルヘルスの問題について職場のマネージャーではなくロボットセラピストに相談したいと回答。上司よりもロボットを好む傾向の高さは中国と同じですが、この問題におけるインドの取り組み方を考察するうえで、その事実は示唆的です。

 

すでにインドはロボットセラピストやメンタルヘルス向けのAIの開発に注力し始めています。近年、同国ではメンタルヘルス分野のスタートアップ企業に対する投資額が増加中。アメリカと比べると圧倒的に小さいものの、インドのメンタルヘルス産業は過去5年間で2000万ドル(約26億円※)の規模に拡大しており、コロナ禍における需要の爆発的な高まりから、同市場はこれから急拡大していくと見られます。

※1ドル=約130円で換算(2022年5月10日現在)

 

上述した世界経済フォーラムの記事の見出しは「Better access to treatment is the next frontier(より良い治療の提供が次なるフロンティア)」。メンタルヘルスケアを提供する日本企業も、巨大市場に成長する可能性を秘めたインド市場の動向に注目すべきかもしれません。

 

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日本の知見が必要だ!「有機農業」への道を模索するインド

【掲載日】2022年5月9日

2022年4月、インドのカルナータカ州政府は、化学肥料や殺虫剤を使用しない農作物の栽培に注力することを発表しました。同州政府は約4000エーカーの土地で野菜や果物の有機栽培に取り組む計画。今後の収穫結果の動向にも左右されますが、多くの地元農家が成功を期待しています。

有機農業へのシフトは言うは易く行うは難し

 

先進国と同様に、インドでも健康意識の高まりから、有機栽培による農産物を求める消費者の声が強くなっていますが、同国の農業がここまで発展するまでの道のりは平坦ではありませんでした。1960年代半ばに大飢饉がインドを襲いましたが、この危機から同国を救ったのは、1970年代にノーベル平和賞を受賞した故ノーマン・ボーローグ博士による「緑の革命」。これにより、高収量を目指すことができる品種が導入されたり、化学肥料などを活用して生産性が向上したりしました。この取り組みは飢饉を抑える原動力になった一方で、人体や生物への影響、所得格差の拡大といった問題点も浮き彫りになりました。そして、現在のインドは有機栽培による品質向上だけでなく、アグリテックの活用による農作物の大量生産を目指しているのです。

 

しかし、有機農業へのシフトを図るインドの前には、厳しい現実が待ち構えています。インド農家の多くは、成長促進や商品としての見栄えを考慮して、ホルモン剤や硫酸銅などを注入していると報じられています。また、工業施設近辺の農家では、有害金属が含まれる工業排水を農作物に与えることがあるため、汚染濃度の高い農産品も少なくありません。インド食品安全基準局は多くのガイドラインを定めていますが、まだ目標としている段階まで到達していないのが現状。

 

一方、高品質で安全な農産物を消費者が享受できるように、インドの州政府もさまざまな取り組みを行なっています。生産者が共同使用できる冷蔵室や熟成室、衛生機器、廃棄物処理施設などを提供したり、研修プログラムや能力開発支援を定期的に開催したり。しかし、州政府の戦略策定と現場への導入との間にはギャップが存在しており、有機農業へのシフトは難航しています。

 

有機栽培において日本は深い知見を持っています。例えば、農林水産省の認証制度やJICAと民間企業による連携事業など、インドの参考になる事例が数多くあるでしょう。また、環境負荷が少ない生産方法や流通網で農作物を提供することは、インドの販売企業にとっても多大なメリットが見込まれます。それだけでなく、高品質な農産物を生産してきた日本の民間企業にとっても、これは大きなビジネスチャンスと言えるでしょう。

 

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日本式に大きな期待!途上国へ拡大する「STEAM教育」

【掲載日】2022年4月27日

最近、STEM/STEAM教育が途上国で盛り上がりを見せています。それぞれの国の問題を解決したり、現代の産業や経済のグローバル化などに対応したりするために、途上国が国家レベルで、この教育モデルの構築に取り組むケースが見られるようになってきました。

日本式STEAM教育を世界へ

 

2022年3月、ナイジェリアでSTEAMを専門とする高等教育機関(ポリテクニック)をリバーズ州トンビアに設立する法案が可決しました。同校はソフトウェア工学や人口知能分野、さらに困難なビジネス状況に陥った場合においても創造的な解決手法を見つけ、世界に羽ばたく人材を育成することを目指していくための先駆的な機関です。

 

また、ジャマイカもSTEAM教育を国家で推進しており、4月1日の同国西インド諸島大学におけるSTEMキャリアフォーラムにおいては、初等教育段階からSTEM学習を推進しプロジェクトベースで問題解決型の能力評価を重視していく旨が大臣から発表されました。

 

そもそもSTEM/STEAM教育とは、Science(科学)Technology(技術)Engineering(工学)Arts(芸術)、Mathematics(数学)の頭文字を並べたもので、国によって定義は異なりますが、「問題解決的な学習」をコンセプトにしています。当初は「科学(S)・技術(T)・工学(E)・数学(M)」という4つの学問分野を統合的に学ぶためのモデルでしたが、その後「A(芸術)」を加えたモデルへと発展。日本の文部科学省は「芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲でAを定義し、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な学習を推進することが重要」と述べています。

 

芸術が加えられたように、数学や科学をベースにしながら「創造力」や「感性」を重視する教育は、評価方法はもちろん、実際にそれらの分野を包括的に指導する側にも、既存の教育システムや価値観に捉われずに、新たな基準を作り出していくことが求められます。また、学習したことをビジネスに昇華させる過程では、さらに高度なレベルが求められるため、教育機関だけでなく産業界をも巻き込んだ国家的な取り組みになっていると言えます。

 

時代に適した感性や一見何事にも活用が難しいと思われる技術を掘り出して、ビジネス——つまり「商品」——としてマネタイズできる先進的なプロデューサーやプロジェクトマネージャーもSTEAM教育の先に求められてきます。

 

STEAM教育において日本は世界各国での評価が高く、資源の多くを輸入に頼っている島国を世界的に飛躍させた高品質な工業製品を生み出す原動力の1つであったと言えるでしょう。すでに掃除や日直、学級会といった特別活動を中心とする「日本式教育」は海外に輸出されていますが、これからは「日本式STEAM教育」の確立と途上国への伝達もより大切になりそうです。

 

【参考】

文部科学省『STEAM教育等の教科等横断的な学習の推進について:文部科学省初等中等教育局教育課程課』2022年4月25日閲覧)https://www.mext.go.jp/content/20210714-mxt_new-cs01-000016477_003.pdf

 

杉山雅俊・江草遼平・手塚千尋・辻 宏子(2021)『日本型STEM/STEAM教育の構築に向けた学習指導要領解説の比較分析』日本科学教育学会研究会研究報告、36 巻 2 号 p. 177-180 https://doi.org/10.14935/jsser.36.2_177

 

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人口爆発でサブサハラが台頭! 2050年の「メガシティー」予測

【掲載日】2022年4月22日

現在の日本では、高齢化や人口減少がすでに大きな社会問題に発展していますが、その一方で爆発的な人口増加の状況下にある国々も数多く存在しています。ビジネスの世界においては、人口増加率や平均年齢の若さなどが将来の市場の成長性を見出す大きな要素の1つであり、グローバル展開を検討している企業にとって、将来の大きなリターンが見込まれるチャンスになり得るでしょう。では、将来のメガシティー(巨大都市)はどこで生まれているのでしょうか?

メガシティーに向かって走れ!

 

国際連合の経済社会局人口部は2021年に『Global Population Growth and Sustainable Development(世界の人口増加と持続可能な開発)』を発表しています。このレポートによると、2020〜50年の間に高い人口増加率が見込まれる上位10か国はインド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア連合共和国、エジプト、インドネシア、アメリカ合衆国、アンゴラ(人口増加数が高く見込まれる順)。

 

サブサハラ(サハラ砂漠以南のアフリカ)地域だけで約半分の5か国を占めています。この上位10か国は、下位グループでも約5000万人以上の人口増加が見込まれ、上位のインドとナイジェリアに関しては約2億人以上も増加するとのこと。これらの国々では人口爆発と経済発展に伴い、都市化が進むと見られます。

2020年〜50年の世界各国の人口変動予測(出典: 国連『Global Population Growth and Sustainable Development』2021年

 

サブサハラに着目すれば、この地域では今後のビジネスにおいて高い成長性が見込まれる国が多数存在しており、デジタル経済の発達や国の経済力をはかる指標の1つである名目GDP(国内総生産)の上昇が顕著である国も多く、それゆえにGoogleやMetaに代表されるような巨大IT企業が続々と巨額投資を行い、将来のグローバルビジネスで覇権を得るべく近年顕著に事業を展開しています。

 

このような人口動態や開発は日本から想像しにくいかもしれませんが、上記のグラフの下位に目を移せば、2050年までに最も人口が減少するのは中国で、日本とロシアがそれに続きます。数十年前、関西のある著名経営者は日本の人口減少について「顧客候補になる人間が1人減るということは、目、鼻、口、耳、触感など五感にまつわるビジネスがいくつも減るということ。それが広がっていくことの恐ろしさを本当に理解していますか?」と警鐘を鳴らしていたそう。いまこそ日本の経営者は近くではなく、もっと遠くを見るべきかもしれません。

 

【出典】United Nations Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2021). Global Population Growth and Sustainable Development. UN DESA/POP/2021/TR/NO. 2. https://www.un.org/development/desa/pd/sites/www.un.org.development.desa.pd/files/undesa_pd_2022_global_population_growth.pdf

 

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トーゴに来た! アフリカに巨大なデジタル経済圏を生む「Google海底ケーブル」

【掲載日】2022年4月18日

20223月、西アフリカ地域に向けたGoogleの海底ケーブル「Equiano」が西アフリカのトーゴに陸揚げされたと報じられました。近年、巨大IT企業によるアフリカへの投資がヒートアップしていますが、Equianoの進展によりアフリカにおけるデジタル経済がまた一歩前進した格好です。

国際海底ケーブル「Equiano」の地図(画像提供/Google)

 

2019年に始まったEquianoプロジェクトは、欧州のポルトガルから西アフリカ各地を経由して南アフリカのケープタウンへの陸揚げを目指しています。18世紀後半にベニン王国(現ナイジェリア南部)で生まれ、奴隷解放運動を行った作家のOlaudah Equiano(オラウダ・イクイアーノ)にちなんで名付けられたこの国際海底ケーブルは、これからナイジェリアとナミビアにも陸揚げされる予定。同プロジェクトは西アフリカのインターネット環境を劇的に改善させ、その結果、巨大なデジタル経済圏が生まれると言われています。

世界の移動通信事業者等から成る国際業界団体GSM(GSM Association)の調査によれば、トーゴは人口(約828万人)の7割以上が携帯電話を所有する一方、世界銀行によるビジネス環境ランキングではアフリカで第6位。しかし、モバイル人口の高さに比較すると、インターネット環境が整っていないことがデジタル経済の推進における大きな課題の1つでした。モバイルのインターネット接続率は36%で、3G通信のカバー率は全人口の66%と、先進国の通信環境とは雲泥の差であります。

 

Googleの海底ケーブルの到達により、世界の潮流である5G通信環境の展開が視野に入るようになるため、トーゴを皮切りとして西アフリカ地域のデジタル経済が飛躍的に改善されることになるでしょう。急激な人口増加で若年層比率が非常に高い西アフリカは、今後の経済成長に伴う巨大市場の出現を狙った各国企業の進出が今後ますます増加すると思われます。

 

Meta(旧Facebook)主導の「2Africa」プロジェクトも進んでおり、アフリカのデジタル経済市場は想像を超えるスピードで発達していきそうです。

 

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途上国・新興国でビジネスに挑戦する日本企業が登壇「第7回 飛びだせJapan! 成果報告会」レポート

【掲載日】2022年4月15

2022年3月22日、経済産業省主催の「途上国ビジネスに挑戦した日本企業のリアルに迫る~第7回飛びだせJapan!成果報告会~」が、オンラインにて開催されました。「飛びだせJapan!」は、途上国や新興国の社会課題をビジネスで解決する企業を支援する補助金事業です。本事業は、経済産業省の補助事業者として、アイ・シー・ネットが実施運営を行っています。本記事では、2021年度に採択された10社のうち8社が登壇した今回の報告会の様子をレポートします。

 

「飛びだせJapan!」の概要と背景

報告会の最初に、本事業の事務局を担当するアイ・シー・ネットの下山氏から「飛びだせJapan!」の概要と背景について説明がありました。下山氏は「少子高齢化が進み、国内マーケットの縮小が懸念される日本では今後、『海外進出』がビジネスにおける大きな成長エンジンになるはずです。中でも途上国や新興国は解決すべき社会課題を多く抱えており、それらはビジネスチャンスと捉えることができます。本事業では、途上国や新興国の人々にも、事業者たちにも、長きにわたって利益をもたらすビジネスを実践する日本企業を支援したいと考えています」と述べました。

 

オンラインコミュニケーションの質を高めるAIサービスを提供「株式会社I’mbesideyou」

概要説明後は、各企業がそれぞれ成果を報告。最初に株式会社I’mbesideyouが登壇しました。同社では、オンラインコミュニケーションの質を高めるための動画解析AIサービスを提供しています。同社の神谷氏はアプリケーションについて、「ビデオツール上で一人一人の表情や音声などの情報をリアルタイムで解析し、メンタルヘルスの状態を見える化することが可能です」と説明。アプリケーションを通じて、オンライン教育の質向上やメンタルヘルスの環境改善などを目指しています。

 

同社はインドでもサービスを展開しており、今回の事業ではオンライン教育とメンタルヘルスの2領域のアプリケーションを、それぞれインド向けにローカライズしました。神谷氏は「オンライン教育で活用できるアプリケーションは、インド工科大学と協業し、学生たちのニーズを反映しながらプロトタイプの仕様を決定しました」と述べました。

オンライン教育で活用できるアプリケーションは、授業を受ける生徒の様子や出席状況など、日々の授業データが集約され表示されるようになっている

メンタルヘルスをサポートするアプリケーションでも、毎日の感情の状態や変化などを見える化できるプロトタイプを開発。神谷氏は「これからも日本とインドの役に立つサービスを提供し、広くグローバル展開していきたい」と展望を述べました。

 

ウガンダ産カカオの品質向上に取り組む「株式会社立花商店」

2社目に登壇したのは、カカオの専門商社である株式会社立花商店。世界30か国以上との取引実績を持つ同社は、今回の事業でウガンダ産カカオの品質向上に取り組みました。ウガンダのカカオに着目した理由について同社の野呂氏は、「ウガンダのカカオは品質が良いとは言い難く、国際取引価格も低いのが現状。もっと価値を向上させ、カカオ産業の底上げができないかと考えました」と話しました。

 

今回の事業では、カカオの栽培・加工・輸出などを行う日本人が経営する現地企業と協業。現地パートナーが所有する自社農園で、高品質なカカオ生産に欠かせない工程である発酵乾燥ができる施設の建設や運営、カカオ豆の加工・殺菌設備の導入などを行いました。これらを通して、ウガンダ国内で高品質なカカオをつくる際のモデルケースとなることを目指しています。

さらに現在、ウガンダ国内で新たな品種の導入にも取り組んでいる同社。「ウガンダ国内はもちろん、国外にもウガンダ産カカオをアピールしていきたいと考えています」と今後の目標も語りました。

 

独自の信用スコアリングでケニアタクシー業界の課題を解決「株式会社HAKKI AFRICA」

3社目に成果報告を行ったのは、株式会社HAKKI AFRICAです。同社では、独自のクレジットスコアリングを活用し、信用情報が不足するアフリカの事業者に対して、中古車の購入代金を融資しています。

 

今回の「飛びだせJapan!」では、ケニアのタクシードライバー向けに中古車ファイナンスの実証事業を実施。同社の小林氏は「信用情報の不足により、車を購入したくてもローンの審査がなかなか通らず、レンタカーを活用するドライバーが多いのが現状です」とケニアのタクシードライバーが抱える課題について説明しました。

今回の事業で同社が行ったのは、信用スコアリングのローカライズ、GPSトラッキングシステムや、国内普及率が高い電子マネーに接続した会計ソフトの開発など。これらにより、ドライバーの収入や支払いの安定性評価、不正防止、返済管理の効率化などが可能になりました。小林氏は「今後も現地パートナーと協業しながら、ケニア及びアフリカへの事業展開を目指していきます」と話しました。

 

東アフリカで中古車販売プラットフォームを運営「株式会社Cordia Directions」

4社目は、株式会社Cordia Directionsが成果を報告しました。同社はケニアに子会社を持ち、オンラインの中古車社販売プラットフォームの運営などを行っています。同社の加賀野井氏は、現在のケニアの課題として、中古車検査・査定方法が確立されていないこと、高品質で安全安心な中古車購入方法が欠如していること、検査・査定できる人材が不足していることなどを指摘しました。

同社が運営する、品質検査済みの優良中古車を販売するウェブサイト

今回の事業で同社は、信頼できる検査・査定方法の確立、優良中古車のみを扱ったマーケットプレースの構築、検査士や査定士の育成などに取り組みました。さらに今後のビジネスモデルについて、「車検制度がないケニアにおいて、ビジネスをする上でいいエントリーポイントになるのが、車の売買のタイミング」と加賀野井氏。売主に対しては、集客力の強いマーケットプレースの提供や、検査・査定の実施。買主に対しては、適正価格で高品質な車を販売したり、安心できる支払サービスを提供したりするなどして、双方にアプローチしていきたいと話しました。

続いては、株式会社アルムが登壇。同社では、急性期医療から慢性期医療までを包括的にケアするITソリューションを提供しています。今回の事業ではガーナを対象に、同社が提供するソリューションの1つ「Join」を使った医療連携体制の構築とその有用性の検証を行いました。「Join」は、医療関係者用のコミュニケーションアプリで、メッセージはもちろん、細部まで確認できるCTやMRI画像などを送り合うことが可能です。同社の清瀬氏は「『Join』を活用した医療連携基盤を構築することで、ガーナが抱える医師不足や地域格差などの課題解決を目指しています」と話しました。

今回の事業は2地域で実証し、転院搬送時における専門医への事前情報共有、院内での多職種連携、地方医療の支援などを行いました。清瀬氏は「現在14施設にシステム導入が完了し、100名以上のユーザー登録を達成しています。引き続き情報収集などを続け、導入効果のさらなる明確化に努めたいと思っています」と今後の展望を述べました。

 

南アフリカでスマートロッカーやPUDOサービスを提供「アンドアフリカ株式会社」

次に成果報告を行ったのは、アンドアフリカ株式会社です。同社は南アフリカで、スマートロッカーや店舗を活用して荷物の受け渡しができるPUDOプラットフォームなどを提供しています。Eコマースの拡大などにより物流市場が伸びているアフリカですが、同社の室伏氏は「事業拡大の一方、配送への支出が大きいことなどが要因で黒字化できていない企業も多いのが現状です」と、急拡大の歪みも指摘しました。

 

この課題に対してスマートロッカーなどの包括的なラストマイルデリバリーサービスを提供している同社。今回の事業では、スマートロッカーやPUDOサービスを実施する店舗を増やし、デリバリーインフラの構築を行いました。さらに店舗に活用してもらうためのアプリケーションやその管理システムも開発しました。

アプリケーションでは、配送時のステータスを4項目に分けて表示。それぞれのシーンをクリックしてQRコードを読み取ると、ステータスが更新される仕組みになっている

さらに構築したデリバリーインフラを活用して、小売業にも進出。日本のお菓子や化粧品などを扱うオンラインマーケットプレースを開発しました。室伏氏は今後の目標として「一気通貫で物流サービスを提供していきたいと考えており、南アフリカのみならず、エジプト、ケニア、ナイジェリアなどへの展開も目指しています」と述べました。

 

タンザニアの妊産婦向けアプリケーションを開発「キャスタリア株式会社」

続いて登壇したのは、キャスタリア株式会社です。同社ではオンライン教育のプラットフォームを開発していますが、今回の「飛びだせJapan!」ではタンザニアの妊産婦向けアプリケーションを開発し、初のデジタルヘルス事業に取り組みました。

 

同社の鈴木氏はタンザニアの妊産婦の現状について「人口が急増しているタンザニアでは、医療提供の機会が足りておらず、妊娠出産を契機に亡くなる女性もいます」と説明。アプリは、助産師がモバイルカルテとして利用できるほか、妊産婦が自身の妊娠ステータスや健診内容を確認することも可能です。両者がアプリを活用することで、保健指導の継続や妊産婦の健診受診回数増加を目指しています。

今回の「飛びだせJapan!」では、アプリの事業化に向けた地盤づくりとして、パイロット運用を実施。ダルエスサラーム市内の総合病院で、アプリを使った妊婦健診を行い、実用化に向けた改善点などを抽出しました。鈴木氏は「3か月間で600人近くのユーザーを獲得し、現在はアプリ内のメッセージボードに集まったユーザーのコメント分析を進めています」と説明。さらに採択期間で収益化に向けた具体的なビジネスモデルの検討も進めました。鈴木氏は「今年度の事業化を目指して、法人の設立なども含めた調整を行っています」と話しました。

 

ウガンダ農村部で安全な水へのアクセス向上を「株式会社Sunda Technology Global」

最後は株式会社Sunda Technology Globalが成果を報告。同社では、ウガンダ農村部で安全な水を得るために欠かせないハンドポンプ井戸の料金回収システム「SUNDA」を開発しています。現在ウガンダ国内には、約6万基のハンドポンプ井戸が設置されており、村の住民たちによって管理されています。同社の田中氏は「村の代表者が各世帯から修理費などを毎月定額で徴収していますが、支払いの不正などが起こることも。こうしたトラブルで村の人々に不信感が生まれ、料金徴収がうまくいかなくなるケースもあります」と課題を指摘しました。この課題の解決策として同社が考案したのが、従量課金型でモバイルマネーを用いた自動料金回収システムSUNDAです。

オレンジのボックスにあるカードリーダーにIDタグをかざすと水が出る仕組み。IDタグは各世帯に配布され、モバイルマネーでチャージが可能

現在ウガンダ国内に約30台設置されているSUNDA。今後は政府と連携しながらさらなる設置台数の増加や、水道向け事業の立ち上げも検討しています。今回の事業では、SUNDAの量産モデルをつくるために現行モデルの課題抽出や、改善案の検討などを実施。故障しやすい制御部品の見直しなどを行い、「量産モデルの開発に向けて前進できました」と田中氏。さらに「今後も村の人々が自分たちで村を運営維持していけるような仕組みを考えていきたいです」と述べ、発表を終えました。

2021年度の「飛びだせJapan!」に採択された企業が、一年間の成果を発表した今回の報告会。それぞれの企業から課題や展望についても具体的に語られ、今後、取り組みはますます加速、拡大していくことが期待されます。アイ・シー・ネットのウェブサイトからは、2021年度に採択された10社すべての取り組みをまとめた、採択企業活動事例紹介冊子もダウンロードができます。そちらもぜひ併せてご一読ください。

「令和3年度 第7回飛びだせJapan! 支援実績」

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製薬産業に革新を!「医薬品」の輸入依存から脱却を進めるアフリカ

【掲載日】2022年4月14日

新型コロナウイルスのパンデミックは全世界のサプライチェーンにダメージを及ぼし、各国経済に多大なダメージを引き起こしました。先進国はもちろん、新興国も景気の回復に向けて戦略を模索していますが、昨今アフリカで喫緊の課題となっているのが医薬品不足。この問題は住民の健康に悪影響を及ぼすだけではなく、経済成長も鈍化させ、貧困を拡大させるリスクを併せ持っています。

もはや輸入に頼ってばかりではいられない

 

10億人以上の人口を持つアフリカ大陸には、その膨大な需要に対応するだけの医薬品メーカーが存在しません。コンサルタント企業のマッキンゼーによると、その数は同大陸全体で約375社で、同程度の人口を有する中国やインドと比較すると圧倒的に少なく(中国は約5000社、インドは約1万500社)、医薬品の多くは輸入品に頼らざるを得ない状況です。さらに、コロナ禍における輸出制限やサプライチェーンの混乱などのため、大陸全域で医薬品の入手が困難になりました。

 

今回のパンデミックで、慢性疾患の治療や経口避妊薬、精神安定剤など、すべての医薬品がアフリカ全土で不足状況に陥っています。また、アフリカは世界人口の約17%の人口を占めているにも関わらず、新型コロナウイルスのワクチンにおいては、全世界で生産された約90億回分のワクチンのうち6%程度しか供給されていません。

 

そんな状況を変えるために、アフリカも動き出しています。例えば、新型コロナウイルスパンデミック初期の2020年4月、日本のJICAとアフリカ連合開発庁はアフリカの保健医療分野に関わる企業の支援策「Home Grown Solutions(HGS)アクセラレータープログラム」をスタートさせました。本プログラムは、選出された対象企業に対して、個々の企業のニーズに応える形で約6か月間サポートするもの。例えば、2021年にサポート対象になった注射器等の基礎医療用品メーカーのリバイタル社(ケニア)においては、複数の投資家から約7億円の資金調達に成功、製造ラインの拡大と共に注射器の生産量が約3.5倍に拡大、製品輸出も増加させるなど目覚ましい結果を残しています。

 

医薬品の自国生産能力が乏しいアフリカでは、元来低所得者が多く、医療保険制度も未発達な状況にあり、これからどこまで自前で医薬品を製造できるのかが大きなチャレンジ。アフリカ連合開発庁は同大陸の55の国と地域からなるアフリカ連合のグローバルパートナーシップ調整機関で、JICAを含めた他国のサポートだけでなく、先進国の民間企業の進出も望まれています。東アフリカ地域からスタートしたJICAのHGSプログラムは、今後アフリカ全土に波及していくことが見込まれており、ヘルスケア市場の成長および医薬品生産能力向上に大きく貢献していくことが期待されます。

 

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「遊びを通した学び」で、社会で成功するスキルを身に付ける~ これからの子どもたちに必要な環境「Playful Learning」と「6Cs」スキル ~

多様化するこれからの社会で、世界共通の重要なトピックである「教育」。新たな教育システムなどが模索される中、世界各地で実施されているのが、米国テンプル大学心理学部教授のキャシー・ハーシュ=パセック教授らが推進する「Playful Learning(遊びを通した学び)」です。日本でも、玉川大学教育学部の大豆生田啓友教授らが推進する「子ども主体の保育」など、“遊び”が重視された教育は注目されています。そこで今回はキャシー教授に、“遊び”の重要性や「Playful Learning」、これからの社会で欠かせないスキル「6Cs」などについて、さまざまな事例を交えながら教えてもらいました。

 

キャシー・ハーシュ=パセック氏●テンプル大学心理学部教授。ブルッキングス研究所上級研究員。幼児期の言語発達・リテラシー、学びにおける遊びの役割を研究し、16冊の本と数百の論文を発表。著者である『Einstein Never Used Flash Cards』は世界中で翻訳され、2003年に最も優れた心理学書に贈られるBooks for BetterLife Awardを受賞した。

 

子どもたちの発達を促進する「Playful Learning」

――キャシー教授が推進されている「Playful Learning(遊びを通した学び)」について教えてください。

 

キャシー 最近の研究から、教育に遊びを取り入れることは、幼児教育における豊かな学習アプローチにつながることが明らかになっています。そもそも遊びとは、子どもたちが主体的に行って楽しいと感じたり、繰り返し行うことで新たな気づきが得られたりする活動のこと。子どもたちの遊びを大人が始めて、大人が主導権を握って進めるものは、もはや遊びとは呼べません。

遊びには、子どもから始めて子どもが進める「Free Play(自由な遊び)」や、大人が遊びの目的や環境を設定し、子どもが進める「Guided Play(大人にガイドされた遊び)」といったさまざまな種類があります。その中でも特に「Guided Play」は子どもたちの効果的な学びにつながるとされていて、私たちが推進している「Playful Learning」でも、「Guided Play」を実践することを重要視しています。

 

――「Guided Play」を行うとき、大人は子どもに対してどのように「ガイド」すれば良いのでしょうか。

 

キャシー 「Guided Play」での大人たちの役割は、子どもが主体的に学ぶための環境を整えたり、質問や会話といった声掛けを通して子どもが自分で考えるよう促したりすることです。

例えば公園の中に登り棒があったとします。そのままではただ登って遊ぶことしかできませんが、登り棒に目盛りを付けるという「ガイド」を行い、どの高さまで登ったかをわかるようにするとどうなるでしょうか。子どもたちが「あなたは2フィートまでだったけど、私は3フィートまで登れたよ」と話せば、その瞬間から登り棒で遊びながら長さ比べをして算数も学ぶことができる「Guided Play」になりますよね。このように、「遊び」と「学び」の要素をどのように組み合わせるかを考えることが大切です。また子どもたちが「Free Play」を楽しんでいるときでも、そこから学びにフォーカスしたガイドを行えば、簡単に「Guided Play」に切り替えることもできるのです。

 

これからの社会に必要なスキル「6Cs」とは?

――「Playful Learning」を実践することで、どのような効果があるのでしょうか?

 

キャシー 「Playful Learning」は、子どもたちがこれからの社会で“成功”するために必要な6つのCのスキル「6Cs」を身に付けるために重要です。ここでの“成功”とは、よくイメージされるような、良い成績をおさめて優秀な学校に進学したり、年収の高い企業に就職したりすることだけではなく、子どもたちが将来成長するために必要なさまざまなスキルを育てることも意味します。これには知力の発達が含まれていますが、幸せで健康で、思いやりがあり、考える力のある子どもたちが、協調性が高く批判的な思考を持ち、イノベーションを実現する創造性があり、社会のことが考えられる世界市民として育つこと。これが、私たちが考えるこれからの“成功”です。多様化するこれからの社会では、これまでの古い価値観をアップデートして「教育」と向き合っていく必要があると考えています。

 

――「6Cs」について詳しく教えてください。

 

キャシー 6Csとは、コラボレーション(Collaboration)、コミュニケーション(Communication)、コンテンツ(Content)、クリティカルシンキング(Critical thinking)、クリエイティブイノベーション(Creative innovation)、コンフィデンス(Confidence)のこと。この順番も重要で、子どもたちは一つずつステップアップしながらこれらの力をつけていきます。それぞれのスキルについて、もう少し詳しく解説しましょう。

 

キャシー教授らが提唱する6Csをまとめた図。6つのCそれぞれにも、4段階のレベルがある

 

キャシー 6Csのモデルを見ながら「次はコラボレーションに関する取り組みを、次はコミュニケーションを」と考えてしまうことがありますが、それは私たちの考え方とは異なります。6つのスキルは相互に関連し、円を作っています。その中から一つだけを取り出すことはできないのです。多くの人が挑戦してきましたが、科学的にも、それはうまくいかないことがわかっています。コラボレーションにだけに、コミュニケーションだけに、コンテンツだけに焦点を充てることはできないのです。

 

1つめのC.「コラボレーション」(Collaboration)

「コラボレーション」は、1対1やチームで他者と共同作業などを行う力。大人たちには、子どもたちが他の子と「一緒に取り組む」ための環境を設定することが求められます。このプロセスは幼いほど重要になってきます。ですから、「コラボレーション」は、私たちが重要だと考える核となるものなのです。

 

2つめのC.「コミュニケーション」(Communication)

「コミュニケーション」は、話したり書いたりして伝える能力はもちろん、話を聞いたり相手の立場を理解する力も含まれます。コラボレーションとコミュニケーションは6つのCの中でも土台となる重要なスキルです。

 

3つめのC.「コンテンツ」(Content)

「コンテンツ」には語彙や算数・数学などの知識に加え、これらを学ぶために必要な問題解決力、記憶力、衝動を制御する力なども含まれます。コンテンツのスキルを習得するためには他人とうまく付き合うためのコミュニケーションのスキルがとても重要です。

 

4つめのC.「クリティカルシンキング」(Critical thinking)

「クリティカルシンキング」は、問題解決のための方法を考えたり、問題解決のためにエビデンスを構築して行動したりする力です。難しいようにも思えますが、適切な環境を整えた「Guided Play」を実践すれば、3歳児でも優れたクリティカルシンキングの力が身に付くことが明らかになっています。

 

5つめのC.「クリエイティブイノベーション」(Creative innovation)

「クリエイティブイノベーション」は、ただ問題解決の方法を考えるだけでなく、これまでにない新しい解決策を見出したり、従来のパターンやルールを変えたりする力。大人たちには、子どもたちのクリエイティブな発想が生まれやすくなるようなガイドが求められます。

 

6つめのC.「コンフィデンス」(Confidence)

「コンフィデンス」は、失敗を恐れないこと、そしてたとえ失敗したとしても、そこから学ぼうとする力です。ここまでの5つのCを子どもたちが自信をもって試していくことが重要です。

 

さらに「6Cs」は学びの環境をつくるときのチェック指標にもなり、「6Cs」に準じて「何を学ぶか」を設定することで、より効果的な環境を生み出すことが可能になります。

 

――6Csを教育に取り入れた事例を教えてください。

 

キャシー 子どもたちの教育に「6Cs」を効果的に取り入れているのが、東京都にある「クランテテ」※です。ここでは、2歳から小学6年生までの子どもを対象にモンテッソーリ教育をもとにした幼児保育と学童保育が行われています。

※ クランテテ(東京都港区三田)…2歳から小学6年生までを対象とした幼小一貫教育託児施設。「みずから育つちから」を育むモンテッソーリ教育を基盤とした活動を行っている。https://clantete.com/

キャシー クランテテでは、子どもたちの活動を記録・共有・分析する「教育的ドキュメーション」を行うことで、子どもたち一人一人の現在地を可視化しています。その際に子どもたちの評価に用いるのが、「6Cs」です。現在どの段階の姿まで到達しているのか。どのように指導すればひとつ上の姿にたどりつけるか。共通認識の評価基準として「6Cs」があることで、子どもたちはよりよい学びの環境で成長していくことができます。

 

文字のパズルで「Playful Learning」を行うクランテテの子どもたち。一人の男の子から始まった「コンテンツ」の活動は、教具を通じた対話により「コミュニケーション」が生まれる環境につながっていく

キャシー 私は科学的な観点から「Playful Learning」は、アメリカよりも日本のほうが随分進んでいるのではないかと感じています。なぜなら日本のように集団を重んじる社会では、個人で成し遂げることよりも、皆で協力し合いながら一緒に成し遂げることの重要性をよく理解できる傾向にあるからです。また、「6Cs」は子どもだけでなく、ビジネスリーダーが採用したい人材に求められるスキルとも共通しています。そのため「6Cs」は、大人たちにとっても欠かせないものなのです。

 

いつでもどこでも実践できる「Playful Learning」

――実際に行われている、「6Cs」を身に付けるための「Playful Learning」の事例を教えてください。

 

キャシー 「Playful Learning」は、園や学校などの教育機関だけではなく、いつでもどこでも実践することができます。例えば、私たちの研究チームでは過去に、スーパーマーケットに子供同士での言語や算数の学び合いのきっかけになるようなポスターを設置しました。その一つが牛のイラストとともに「牛はどんな鳴き声?」という問いが描かれたものです。これを設置した結果、スーパーで学びにつながる会話が増えたことがわかりました。そのほか、カリフォルニア州サンタアナに住むメキシコ人に向けて、街中にそろばんやメキシコ文化に沿ったゲームを設置しました。このように街のいたるところを「Playful Learning」の実践の場にすることが可能です。

 

アメリカのスーパーマーケットに貼られた牛のポスター
メキシコのバス停に設置されたそろばんのイラスト。待ち時間に遊びながら学ぶことができる

――「Playful Learning」をさらに広めていくためにはどうすれば良いでしょうか。

 

キャシー 「Playful Learning」は、アメリカや日本だけでなく、難民センターや途上国でも実践することできます。さまざまな国で実践するときに大切なのが、その国の文化に適応して現地のコミュニティと協力すること。地域の人たちやコニュニティのリーダーに「Playful Learning」や「6Cs」についてきちんと説明し、彼らの価値観や「Playful Learning」によってもたらしたいことをヒアリングすることが必要です。さらにプロトタイプから一緒に作成していくことで、現地の人たちは自分たちの手で自分たちの環境が豊かになっていくことを実感できるはずです。

過去には中南米の地域で、ラテン文化に適応したそろばんやメキシコのゲームをバス停に設置したことがありました。またそのほかにも、治安のあまりよくない地域で、路地に大きなボードゲームやジャンプの距離を測る目盛りを設置して安全な場所にできないかと考えました。スーパーマーケットやコインランドリーを利用する際に長時間待たなくてはならないという地域では、その待ち時間に何かできないかと考えたりしたこともあります。このようにさまざまな国や地域が抱える課題を解決しながら「Playful Learning」を実践するためのアイデアも次々に生まれています。

 

――最後に今後の展望を教えてください。

 

キャシー 私たちは今、園・学校や教育関係者に「Playful Learning」や「6Cs」の考え方を広めていくために、園・学校をはじめさまざまなコミュニティと協力しながらウェビナーやセミナーを実施しています。今後もこれらの教育システムを世界に広く展開し、「子どもたちが21世紀の社会で“成功”するための教育」について考えるきっかけをつくっていきたいです。

 

『Playful Learning』を実践できる、日本の保育絵本を紹介

「絵本も有効なツールの一つ」とキャシー教授。学研が開発中の保育絵本の英語版プロトタイプについて、基本的なコンセプトをとらえていて、6Csのすべてが含まれていると評価する一方で、一冊の本としてのストーリー性などにはまだ課題があるので、たとえば、子どもたちが小麦粉がどこから来るのかを学ぶために、園庭などで共同作業をする機会をこの本は提供できる可能性があると指摘する。

 

 

 

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インドでは約6200億円規模に! 途上国で急成長する「EdTech」市場

【掲載日】2022年4月8日

インターネットなどの最先端テクノロジーを活用して、教育分野でイノベーションを起こしている「EdTech」。この産業の成長は途上国において顕著に見られます。新型コロナウイルスのパンデミックによる対面学習の制限やデジタルインフラの拡大が成長を牽引する一因となっており、EdTech市場は、多くの人口を抱える途上国において今後さらに成長していく模様です。

EdTech市場は途上国でますます広がる

 

EdTechは、幼児教育から大学等の高等教育機関まで、さらに専門分野の職業訓練における社会人をも対象にしており、生涯学習の観点も考慮すれば、ほぼ全ての世代が顧客対象になる爆発力を秘めています。また、パソコンや学習関連機器などのハードウェア、教育コンテンツとしてのソフトウェア、通信環境としてのインフラ関連、教師に向けたトレーニングなどビジネスとしての裾野が広いこともあり、さまざまな分野、業種の企業が大きな盛り上がりを見せています。

 

例えば、インドのコンサルティング企業「RedSeer社」が発表した2022年3月のレポートでは、同国のEdTech市場における高等教育や生涯学習の分野は、2025年までに50億ドル(約6190億円※)の市場まで急成長すると予測されています。各大学と企業の提携によりオンラインでの学位取得が広まったことや、コロナ禍の不安定な経済情勢が引き起こした生涯学習の必要性に対する認知向上などが大きく影響しており、ビジネスチャンスの到来と判断した新興企業が続々と設立されています。

※1ドル=約123.7円で換算(2022年4月6日付)

 

一方、フィリピンでは現地の教育関連テクノロジー企業である「CloudSwyft」が同国の教育省と連携し、デ・ラ・サール大学などの大学に向けて、オンライン環境におけるバーチャルラボ設置ソリューションの試験運用を開始しています。同社のプロダクトは、クラウドベースのソリューションによってハイブリッド学習への移行を可能にするものですが、インフラ整備が未成熟なフィリピンにおいて、デスクトップパソコンを持っていない学生でもモバイル端末があれば、同システムを活用することが可能。このようなユーザー視点の設計が、ハードウェアと設備投資の問題を大きく軽減させることができるものとして高い評価を受けています。

 

また、CloudSwyftはエンジニアリングや建築、工業デザインなど広範囲な学習内容に適合できるように設計されており、マレーシアやインドネシア、シンガポールなど各国の高等教育機関に採用されています。新興国から教育関連のテクノロジー分野でグローバル展開を果たした同社は、まさに途上国におけるEdTechの成功例と言えます。

 

現時点で世界をリードしている先進国を人口規模で勝る後進国の人々は、学習や職業において人生を変革できる大きなチャンスと捉えているでしょう。未来を担う世代に向けたトレーニングツールとして今後も右肩上がりの成長が見込まれるEdTech市場は、かなり有望なビジネスチャンスでもあるのです。

「モバイル革命」に新展開! 携帯電話と機械学習が人道支援を改善する

【掲載日】2022年4月7日

コロナ禍において、各国政府や人道支援団体などは、さまざまな支援を行っています。しかし、そこには「誰を支援の対象とするか?」「対象基準はどのように設定するか?」という2つの問題があり、やり方を間違えれば、本当に支援を必要とする人に現金や援助物資が届きません。そんな中、機械学習と携帯電話を使って人道支援のターゲティングを改善するという研究が発表され、専門家の間で注目を集めています。

ケータイが人道支援をより良くする

 

西アフリカのトーゴ共和国は、新型コロナウイルスの流行が自国で表面化してきた2020年4月に、パンデミックの影響を最も受けた貧困層を対象とした現金配布プログラム『Novissi(同国で話されているエヴェ語で「団結」を意味する)』を始めました。トーゴの主要産業は農業で、アフリカの経済成長に伴い近年の国家経済は上昇傾向にありますが、国連の名目GDP国別ランキング(2020年)で213か国中157位となっているように、貧困は深刻な問題。そこで、本プログラムを実施するに当たって、トーゴ政府や支援団体は、貧困層の中から最貧困層を選別して、給付対象者として特定しようとしました。

 

大きな問題の1つは、支給対象者になる最貧困層を何の基準で特定するのか? トーゴでは自給自足で生活している人々が多いうえ、日本のように全国で統一されている住民基本台帳制度や世帯収入の特定なども存在しません。そんな条件を考慮して本プログラムでは、携帯電話を活用した機械学習プログラムをメインの判断基準として導入されました。

 

今回のプログラムをサポートしたのは、米国・カリフォルニア大学バークレー校情報学部の研究チーム。給付はデジタル通貨を対象者の携帯電話に送ることが前提条件で、支援が必要な人たちは、携帯電話とSIMカードを持っている必要があります。この時点で給付から除外されてしまう人も存在するかもしれませんが、成人の約65%、世帯の約85%が携帯電話を保持しているトーゴでは、戸籍や収入が特定できる仕組みが未整備であることも考慮すれば、携帯電話の使用は実現可能な範囲で最善の選択であると考えられます。

 

ターゲティングの主な基準は以下の通り3つ。

(1)携帯電話からNovissiのプラットフォームにダイヤルして基本情報を入力する

(2)特定の地域で投票をしている

(3)投票者登録の職業欄が非正規職業である

 

本プログラムでは、トーゴの主な携帯電話事業者2社が提供するメタデータに機械学習のアルゴリズムを適用し、加入者の財産や消費を測定することも行われています。メタデータに関しては、データの送受信量や通話日時などの記録、電子マネーの消費量、位置データなど、さまざまな情報が含まれており、個人情報やプライバシーの問題を併せ持っています。

 

ビッグデータがもたらす新たな商機

今回の試みは、人道支援だけでなくビジネスの観点からも示唆的です。これまで貧困層はあまり統計データがなかったため、ビジネスの対象になりづらかったのですが、これから彼らの行動などに関するビッグデータが蓄積されていけば、データドリブンによって貧困層向けビジネスのヒントが見えてくる可能性があります。モバイル革命に新展開が生まれるかもしれません。

 

【出典】Aiken, E., Bellue, S., Karlan, D. et al. Machine learning and phone data can improve targeting of humanitarian aid. Nature 603, 864–870 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04484-9

 

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途上国で新型コロナウイルスに感染したら? 現地スタッフの体験から見える渡航の際の留意点

【掲載日】2022年4月5日

いまだ収束したとは言い難い状況が続いている新型コロナウイルス。世界各地で感染者が出ていますが、感染状況や対策は国によって大きく異なります。そこで今回は、海外で事業に従事するアイ・シー・ネット社員のうち、現地で新型コロナウイルスに感染した社員3名にインタビューしました。バングラデシュ、カンボジア、セネガルの3か国それぞれの、現地でのリアルな体験談とともに、渡航の際に注意すべきことや備えておくべきことなどをお伝えします。

 

●バングラデシュ

感染者数が195万人超のバングラデシュ。2022年1月下旬頃から急激に感染者が増加し、新規感染者数が1日1万人を超える日もありましたが、2月下旬以降は感染状況が落ち着きつつあります。今回インタビューしたのは、感染者が急増した1月下旬に現地で新型コロナウイルスに感染した社員。自身の症状や療養施設の対応、国の政策などについて聞きました。

――陽性と診断されてから療養先が決まるまでの経緯を教えてください。

「のどに微かな違和感を覚えた翌日から次第に痛みがひどくなり、その後37.5度の熱が出ました。滞在していたホテルでPCR検査を受けたところ、翌朝に陽性と判明。医師に電話で相談したところ、軽症のため医療診察を受ける必要はないと言われ、そのままホテルで療養することになりました。旅行サポートサービスを利用し、日本語で日本の医師に相談できたことはとても安心できました」

 

――医療機関とのやりとりや発症してからの症状について教えてください。

「陽性と診断されて医師に電話した際に、日本から持参した解熱剤の成分などを伝え、服用して問題ないかを念のため確認しました。また、酸素飽和度や、息切れなどの症状で気を付けるべき点について説明を受けました。それ以降は発症してから6日目に経過確認の連絡があったくらいでした。

症状は、軽症とはいえ発熱してから3日間は熱が下がらず、最高で38.2度まで上がりました。4日目以降は平熱に戻りましたが、以降も倦怠感は続きました。咳もかなり出て辛かったです。解熱剤を十分に持っていたので、なんとか凌ぐことができましたが、額に貼る冷却のジェルシートや咳止めの薬などもあればもう少し早く楽になれていたかもしれません」

 

――療養していたホテルの対応について教えてください。

「ホテルのスタッフとは基本的に直接接触することはありませんでした。食事は朝と夜、タオル、シーツ、水、トイレットペーパーといった必要なものは必要なタイミングで連絡し、毎回、部屋の前に置いてもらっていました。食器や利用済みのタオル、シーツなどは部屋で保管するように言われ、ゴミも含めて隔離期間中は一切回収してもらえず……。洗濯サービスも停止されました。

バングラデシュでは陽性者への隔離や療養に関する明確な基準がないようで、私が滞在していたホテルではPCR検査で陰性と診断されることが、隔離対応解除の条件でした。私は発症してから10日後に再びPCR検査を受診しましたが、症状が出ていないにも関わらず結果は陽性。結局、陰性の結果が出たのは発症から19日後でした。他の利用客や従業員に感染させないようにというホテル側の対応はもちろん理解できるのですが、部屋から出られない期間が長く、なかなか辛かったです。ちなみに私が滞在していたホテルと同地区のホテルも隔離解除の条件は同じだったようです」

隔離期間中は外からサービスを受け取れるが、外に物を出せなかったためコップが25個、皿は30枚以上たまっていったという

 

――国の政策や方針について教えてください。

「国の政策としては、2022年1月13日から、マスク着用義務、公共交通機関定員半数制限、集会・行事の開催禁止、ホテル・レストラン利用時のワクチン接種証明書の提示などの行動規制がスタート。同月21日からは、学校・大学閉鎖(2月6日まで)、政府や民間のオフィス、工場の従業員は、ワクチン接種証明書を取得しなければならないなど、新たな行動規制が追加されました。これらの行動規制措置の期限は2月22日までで、それ以降の延長発表などは特にありませんでした。

行動規制があった時期は、オフィスへの出勤を控える人が増えたのか、いつもより朝夕の交通渋滞が少なくなったとも聞いています。その一方で新聞の1面では、市場などの不特定多数の人が集まる場所でマスクをしていない人がいることが連日のように報じられていました。

隔離や療養に関する明確な基準がないバングラデシュでは、感染しても国からの指示やサポートを受けることがなかなかできません。今回の経験を通して、いざというときのために薬など必要なものを一通り用意しておくことが大切だと痛感しました」

 

●カンボジア

続いて、感染者数13万人を超えるカンボジアで、2022年1月に新型コロナウイルスに感染した社員にインタビューしました。1日の新規感染者が500人を超える日もあった2月下旬をピークに、現在は減少傾向にあるというカンボジア。国の政策や、現地の人々の様子などもあわせてお聞きしました。

 

――陽性と診断されるまでの経緯や、その後の療養先について教えてください。

「症状は特にありませんでしたが、帰国前検査を受診したところ陽性と診断されました。自宅に戻って待機していると、その日のうちに保健省が手配したと思われる救急車が迎えに来て、7~10日分の衣服などを準備するように言われました。その後、保健省指定の隔離施設へ移動。詳しい説明はありませんでしたが、主に空港検査で陽性となった外国人と国外から帰国したカンボジア人を収容している施設だったと思われます」

隔離施設の中庭。右奥が職員滞在施設。左手前のテーブルに食事と水が置かれる

 

――隔離施設の対応や、医療機関とのやりとりについて教えてください。

「施設に来た翌日に、パスポートや保険証の提示を求められました。また同日に体調に関する簡単な問診があり、血液採取、体重や血圧の測定なども行いました。施設に来た翌日から出所する前日まで、3、4種類の飲み薬を渡され、朝と夜に服用していましたが、陽性と診断されてからも症状は特にありませんでした。

施設に来て5日目くらいのタイミングで、保健省関連の組織から過去の滞在履歴に関する確認の電話がありました。確認の対象となる期間は、陽性と診断された日から数えて14日前から4日前まで。あわせて私が現地で関わっている事業の担当者についても聞かれました。その際に、仕事で訪問していたところにも自身が陽性になったことを報告。しかし今思えば施設に収容された時点で報告しておくべきだったと反省しています。

出所できたのは、施設に入っておよそ10日後。陽性の診断を受けてから7日目に1回目のPCR検査、さらにその48時間後に2回目の検査を受け、両方とも陰性であったことが分かると、施設から“出所して良い”と言われました」

 

――隔離施設での生活はいかがでしたか? 

「私が療養していたのは8名分の病床がある部屋で、同室者には中国系の男性1名と、私と同じタイミングで入所したパキスタン人の男性2名がいました。同室になった人たちとコミュニケーションを取ったり、英語が話せる施設の職員たちと会話したりすることで、精神的に少し楽になりましたね」

「療養していた大部屋。カーテンで仕切られていて、半個室になっていました」

 

「ただ個室ではなく共同生活になるため、衛生面などでは気になるところもありました。例えば、石鹸が洗面台とユニットバスに1個ずつしかなく……。タオルや歯磨きセットなども支給がなかったため、こうした衛生用品は事前に準備しておいたほうがいいと思いました。さらに貴重品の管理なども注意が必要です。私は持って行きませんでしたが、トイレやお風呂場に持ち込めないPCなどは、鍵付きの小さなスーツケースなどで保管すると安心だと思います。またパスポートや保険証は原本ではなく、スクリーンショットの提示でも問題ありませんでした」

「半個室には扇風機とエアコンが各1台設置されていました。緑色のブランケット1枚は貸与されたもの。私はシーツ代わりに使用していました。オレンジのタオルは職員に貸してほしいと伝えたところ、借りることができました」

 

「食事は、朝・昼・夜、毎食クメール料理でした。毎回メニューが違ったので飽きることはありませんでしたが、外部からの持ち込みが自由だったので、カップ麺やスナック菓子などがあると、より快適に過ごせたかもしれません」

「昼食の一例。白米と炒め物とスープが、昼も夜も定番でした。左上に映っている小袋が、朝7時過ぎに支給される朝と夜の飲み薬です」

 

――カンボジアの人々や街の様子、国の対策や方針について教えてください。

「現在カンボジアでは、小さなスーパーマーケットや飲食店でもアルコール消毒と体温計が設置されています。また、屋外では基本的にマスクを着用している人がほとんどで、感染対策に対する意識は比較的高いと思います。しかし現在進められている3、4回目のワクチン接種は、1、2回目と比べると接種率はまだ低く、政府は追加接種を頻繁に奨励しているところです」

 

●セネガル

最後は、オミクロン株によりピーク時の感染者数が8万5000人を超えるセネガルで、2022年1月に新型コロナウイルスに感染した社員にインタビューしました。昨年の4月から6月まで、緊急事態宣言および夜間外出禁止発令が出されて空港も閉鎖され、1日の新規感染者数が500人を超える日もあったセネガルですが、現在は減少傾向にあります。感染した当時の現地の様子や、療養時の過ごし方などを聞きました。

 

――陽性と診断されるまでの経緯や、当時の病院の様子を教えてください。

「セネガルへの出張中に体調を崩し、次第に自力で立つのがやっとという状態まで悪化しました。直近まで海外出張が続いていたこともあって、最初は時差の関係で疲れているのかなと思っていたのですが、熱も出始めて38度まで上がったため病院へ。簡易検査では陰性と判断されましたが、PCR検査では陽性と診断されました。

病院は新型コロナウイルスに感染したと思われる患者たちで混み合っていました。そのため人手が足りておらず、往診などはできていないようでした。また、診察を受けてビタミン剤と頭痛薬を処方されたのですが、処方薬は自分で薬局まで買いに行かなければなりませんでした」

 

――療養先や陽性と診断されてからの症状について教えてください。

「療養していたのは、現地で滞在していたアパートです。医者からは“スーパーなどであれば出歩いてもいい”と言われていましたが、政府の方針に従って外出は控えていました。同じアパートに同僚が滞在していたため、買い物のついでに私の分の食材も買ってきてもらえたのはありがたかったです。アパートにはキッチンや洗濯機もあったので、身の回りのことは全て自分で行っていました」

「療養中は食欲がない日が続きましたが、同僚が果物や野菜を買ってきてくれてドアの前まで届けてくれました。その中でもスイカは良く食べていました」

 

「熱は1日で下がりましたが、その後も激しい頭痛と吐き気、食欲不振がしばらく続きました。特に頭痛がひどかったため、頭痛薬は日本から持参しておくべきだったと思います。療養中は、このまま症状が悪化したらどうなってしまうんだろうと不安と孤独でいっぱいでしたが、2週間ほどで無事に回復することができました」

 

――国の政策や街の様子などを教えてください。

「現地セネガルの水産局や現地JICA事務所からは、テレワークの推進や、集会・イベント開催の制限などが行われており、マスク着用・消毒・体温チェックなどを行うように説明を受けました。しかし店はほぼ通常通りに営業しており、ホテルやレストランを利用する際にワクチン接種証明書の提示を求められることはありませんでした。現在の新規感染者数は平均1日5人程度で、感染状況は落ち着きつつあると言えると思います」

 

今回お伝えしたバングラデシュ、カンボジア、セネガルの3か国それぞれの体験談からも、新型コロナウイルスの感染状況や政府の対応は、国によって異なっていることがうかがえます。さらに各国の状況は日々変化しているため、渡航する際には情報収集や備えをすることが非常に重要だと言えるでしょう。特に日本国内で報道されることの少ない途上国などの状況は、渡航前に外務省のホームページなどで必ず最新の情報を確認するようにしてください。

※感染状況は3月17日までのものです。

 

「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

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寄付型クラウドファンディングで事業を拡大! アフリカの女性起業家、その実情を知る

【掲載日】2022年4月2日

世界的に女性の起業家が増えている昨今、日本でも女性が新たなビジネスに参入しやすい世の中、仕組みを作るための施策が行われています。その中の一つに、「日アフリカ・ビジネスウーマン交流セミナー」という2013年から続くセミナーがあります。これまでにアフリカ22か国から計120名の女性起業家と行政官が参加し、アフリカにおける女性のビジネスや起業を推進することを目標としてきたものです。

 

今年で9回目を迎えるセミナーは2022年1月25日から3月1日にかけて開催され、13名がオンラインで参加。アフリカ諸国及び日本での女性起業家の現状や政府としての取り組み、アフリカと日本の女性起業家の経験などを聞き、今後の事業計画を作成しました。

 

セミナーは、講義・発表・ワークショップ・オンデマンド教材などを使った15コマのセッションで構成されています。今回のセミナーで特筆すべきは、「寄付型クラウドファンディング・ワークショップ」の実施をとおして、女性起業家が直面するファイナンスの壁を乗り越えるための方策が検討されたことです。日本でも広がり始めたクラウドファンディングをどのように事業に役立てたのか、また、本セミナーを通して見るアフリカの女性起業家にとっての今後の課題などに触れていきしょう。

 

アフリカ8か国から13人の女性が参加した今年度のオンラインセミナー

 

アフリカ8か国からオンラインで参加

日アフリカ・ビジネスウーマン交流セミナーが始まったきっかけは、2013年6月に横浜市で開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD V)にさかのぼります。アフリカの経済開発の重要な要素として、女性の役割について議論され、同会議で採択された「横浜宣言 2013」には、「ジェンダーの主流化」*が掲げられました。

*ジェンダー平等を実現するための基本として、社会政策や立案・運営すべての領域でジェンダーの視点を入れていく考え方

 

これを受けて「日アフリカ・ビジネスウーマン交流プログラム」が立ち上げられ、JICA(国際協力機構)と横浜市が連携する形で、2013年度から英語圏・仏語圏のアフリカ諸国から女性企業家と行政官が日本に招へいされるようになったのです。そして2015年度からはJICAの課題別研修として、アフリカと日本の女性起業家や行政官による交流セミナーが実施されるようになりました。

 

行政官と女性起業家がペアで参加するのが本セミナーのユニークなところ。写真は、女性起業支援に積極的な横浜市の行政関係者との研修会(2018年撮影)

 

横浜市が女性起業家を支援するためにつくった女性専用シェアオフィス(F-SUSよこはま)を視察するアフリカの女性起業家と行政官たち(2018年撮影)

 

今年のセミナー参加者は、英語圏アフリカ諸国のエチオピア、ガーナ、モーリシャス、ソマリア、南スーダン、スーダン、ウガンダ、ザンビアの8か国から計13名で、この内、ガーナ、ソマリア、南スーダン、スーダン、ウガンダは各国2名ずつ参加しました。このセミナーのユニークさは、先述のとおり、女性起業家と行政官がペアになって参加する点です。

 

セミナーに参加するのは、女性起業家とともに母国に戻ってすぐに女性の起業やビジネス支援策を実行できる要職につく政府高官の人たちです。セミナーに参加するまでは面識のないペアが大半ですが、参加を通じて知り合いになるので、帰国後の活動におけるマッチングの場としての機能も果たしています。

 

セミナーの受託実施機関であるアイ・シー・ネット株式会社のグジス香苗さんによると、今年のセミナーで特徴的だったのが、行政官の所属する省庁がバラエティに富んでいたことだそう。例年は経済産業省など関係部署からの参加者が多かったのに対し、今年はウガンダから保健省の行政官が参加するなど、女性起業家の支援とは一見縁遠いような参加者もいました。

 

しかし、今回ペアを組んだウガンダの女性起業家が母子保健分野での事業を展開していたこともあり、良い繋がりが生まれました。2人はウガンダ国内の離れた町に暮らしていますが、いまではメッセンジャーアプリで気軽に繋がれる関係性にまでなったそうです。

 

セミナーでは、日本の経産省担当者による日本の女性起業支援についての講演や、民間による起業家支援の状況についての講義、横浜市の女性起業支援のサービスを利用した女性起業家との交流などが実施されています。コロナ禍の昨年度と本年度はオンライン開催となりましたが、それまではアフリカから一行が来日して地方自治体の視察や日本の女性起業家との交流なども行っていました。

 

セミナーの内容は毎年工夫を重ね、年度ごとに少し異なります。過去には来日した研修員がメンターになり、日本の女性起業家の悩みにアドバイスするといった面白い取り組みも実施されました。アフリカの女性起業家は5年以上事業を展開している人を中心に参加しているので、日本とアフリカ双方に学びがある場になっているのです。

 

女性起業家の最大障壁はファイナンスと情報へのアクセス

アフリカの女性の起業や事業拡大に際して大きな障壁となっている課題はいくつもあります。たとえば、「女性は家に居て、外で働くのは男性」といった日本社会にも似た固定概念が根付いている点や、宗教上の理由で社会との関わりを持つことが困難な点。さらに、起業や事業拡大に必要な資金調達のハードルが高いことも大きな課題です。

 

なんと、アフリカでは女性が銀行口座を開設しづらいといった現実があるのです。ひと昔前までは銀行口座の開設にパートナーの同意が必要だったり、最初に銀行口座に預けるお金が用意できなかったり、銀行口座を維持するための手数料が払えなかったりといった障壁がありました。そうしたことから、心理的なハードルを感じていた女性起業家も多くいるのです。

 

その一方で、いまのアフリカはモバイルファイナンスの波が押し寄せており、モバイルマネーの使いやすさなど日本の数歩先を行くほどになっています。高齢の女性や若い主婦層などの多くの女性もモバイルの口座を持てるようになり、金融アクセスは少しずつ改善されているようです。

 

また、どうやって起業すればいいのか、どこに行けばそうした情報が得られるのかがわからないという、起業に関する情報アクセスがしづらいことも問題となっています。さらに、アフリカでは女性の起業に特化した施策が少ないのも現実です。ほかにも、信頼できる仲間を見つけることや人材育成に手間がかかるといった点も女性の起業を妨げる要因となっています。

 

前出のグジスさんは、「アフリカの女性起業家の声を聞くと、アフリカ独自の課題がある反面、日本の女性起業家と共通の悩みも多くあるように感じます」と話します。子育てで自由な時間が作れないといった悩みや、パートナーや周囲の支援を得づらいという声は日本と同じ。さらに、女性起業家同士のネットワークがなかったり、見つかっても関係性を続けにくかったりという現実もあるそうです。

 

今回のセミナーに参加することで、「こうした悩みをほかの人と共有できるのがいい」という意見もあります。しかし、本セミナーの研修が実施される横浜市は、待機児童対策やワークライフバランスと男性の家事・育児参画施策といった女性活躍支援の施策があります。加えて、女性起業家への支援事業が手厚く、起業家予備軍から起業・事業拡大まで、起業のフェーズごとにきめ細やかな支援が用意されていたり、毎年新たな支援が打ち出されたりするので、「女性の起業なんて日本だからできるんだ」という意見もあります。その一方で、いっしょに参加するアフリカの行政官にとっては良いインスピレーションを受けるきっかけになっているのも事実です。

 

横浜市男女共同参画センターの起業UPルームナビゲーター吉枝氏のセミナー受講の様子(2014年撮影)

 

NPO農スクール(株)えと菜園の小島希世子氏の農園を訪問し、意見交換を実施(2018年撮影)

 

クラウドファンディングをきっかけに事業を見つめ直す

今回のセミナーでは、初めて「クラウドファンディング・ワークショップ」が取り入れられました。セミナー期間中に実際のプロジェクトをローンチするという実践型のワークショップは、過去の反省を活かして考えられたプログラムでした。

 

グジスさんによると、ファイナンスへのアクセスをどうするかというのは大きな課題だったそうです。今回のセミナーでクラウドファンディング実習を取り上げたことで、研修を受けて帰国後にアフリカの人たちがすぐに使えるようになったのは大きな成果となりました。

 

クラウドファンディングを学ぶオンラインワークショップの様子

 

セミナーで利用したのは、株式会社奇兵隊が運営する寄付型クラウドファンディングの「Airfunding」。300ドルや500ドルといった少額を資金調達の目標額に設定でき、少額の寄付をリクエストできることや、セミナー参加国で既に資金調達に成功した事例があったことなどから、参加者のニーズに合うと考えられ、今回コラボが実現することになったそうです。

 

ほとんどの参加者がクラウドファンディングをするのは初めてですが、唯一、ソマリアの起業家女性がクラウドファンディングで起業資金を集めた経験があったそうです。彼女は今回、事業拡大のためのクラウドファンディングを行いましたが、そうしたアフリカの同胞起業家の体験ストーリーは他の参加者への刺激にもなっています。

 

セミナーで実際にファンディングを立ち上げ、資金調達に成功したウガンダの女性起業家のサイト

 

少額の資金集めに成功したスタートアップ起業を支援するスーダンの女性起業家のサイト

 

ソーシャルビジネスに寄付型ファンディング結びつけたザンビア女性起業家のサイト

 

クラウドファンディング・ワークショップに参加した11名のうち8名が実際にプロジェクトをローンチし、ウガンダの女性起業家はすでに資金を獲得し始めています。彼女は安全で清潔なお産をサポートするプロジェクトとしてマタニティグッズを販売しており、獲得した資金は製造費用に使うそうです。ほかにも、スーダンの女性起業家が女性のスタートアップ起業を支援する事業を展開しており、少しずつ資金を集め始めています。ザンビアでリサイクル事業を行う女性は、不用品を使ってカゴやバッグを作るという事業を行っており、製造現場に女性を雇い、売上を学校に通えない子ども達に寄付するといった活動をしています。

 

今回立ち上げた多くのプロジェクトに共通するのが、「ソーシャルビジネス」というキーワードです。本セミナーの重点項目のひとつに“ソーシャルビジネス(ビジネスを通して社会課題の解決に取り組む企業)”があります。経済的利益を出しながら、持続的開発目標(SDGs)への取り組みや社会的インパクトを出す持続的な企業経営やその重要性について学びました。

 

アフリカの多くの起業家は、起業時に社会貢献を目標に始めたわけではなく、利益を挙げることで手一杯。今回のセミナーでは、私たちを取り巻く社会課題をSDGsの17のゴールを参照しつつ、参加者のビジネスの「社会的ミッション」を考えるという学習を行い、参加者が改めて自分の事業が社会貢献に繋がり、社会課題の解決こそがビジネスに繋がるということに気付いてもらえたようです。

 

オンライン参加という従来とは異なる参加方式だったため、雑談のなかでヒアリングできる生の声はなかなか聞けなかったと話すグジスさんですが、そのなかで南スーダンの女性起業家からの声が嬉しかったと言います。

 

彼女はセミナーの開始日が有給休暇と重なったので、集中してセミナーを受講できたそうです。受講で得た情報をすぐに女性起業家のネットワークやご近所の女性と共有したと話しており、「この研修を修了し、私は非常に変わったと思います。今はもう以前と同じような考え方はしません。以前は自分のビジネスを大きくしてより多くの子どもが学校で学ぶことができるよう手助けをすることだけ考えていましたが、今は、もっと有能な経営者になりたいと思うようになりました」といったコメントを最後にくれたのだとか。また、「事業を進めるなかで限界を感じていたが、男性と競い合うという意味ではなく、これからも負けずにやっていく勇気をもらえた。会社でより重要なポストに昇進したいと考えるようになった。それが他の女性の道も開くだろうと思う」とも言ってくれたのが印象的だったそうです。

 

初めての試みだったクラウドファンディングのワークショップは大きな成果を生むきっかけとなったのは間違いありません。これまで研修後の成果物として帰国後の事業プランを作成してきましたが、プランを実行に移すための資金を調達する術がないのが現実でした。しかし、今回、Airfundingを知ったことで、帰国してからの資金を得るための方法を学べたのは大きな進歩だといえるでしょう。

 

課題は受講後も繋がれる仕組みの構築

すでに多くの卒業生を輩出してきた日アフリカ・ビジネスウーマン交流セミナーですが、今後の課題は「卒業生達と繋がり続けること」。今回のセミナーには以前研修に参加した2名の女性起業家が講師として招かれましたが、彼女達も今年の参加者から学んだことが多くあり、こうしたネットワークを維持することの重要性をグジスさんは感じたそうです。

 

これまで組織として数名をフォローアップしていくことはあったものの、多くの場合は日本のスタッフとは個人的な繋がりしかなかったのが現状です。しかし、そのなかでも事業が拡大した成功例はいくつかあります。

 

たとえば、ブルキナファソ、ガーナ、カメルーンの女性起業家が好事例。ブルキナファソの女性は農産品の加工・販売、マーケットを西アフリカからヨーロッパに拡大しました。カメルーンの女性は、農産品の加工をする機械を製造する事業を展開しており、JICA事業へのKAIZENコンサルタントとしても活躍しています。ガーナの女性は農産品加工をしていて、コロナ渦でジンジャーティーやハーブティーなどの健康食品の売上が伸びたそうです。その背景には、日本のセミナーに参加したことで、日本のコンサルタントとの繋がりができたからということもあり、こうした関係を維持していく重要性が伺われます。

 

過去に受講者として参加し、今回は講師として登壇してくれたガーナの女性起業家。2017年にセミナー参加後、日本の梱包技術を自社の農産品加工・販売に活用している

 

2016年に参加した南アフリカ女性起業家。今回は講師として、セミナー参加後のアフリカ各国への事業展開の共有に加えて、セミナー参加者の同窓会ネットワークの活性化に関する提案も行ってくれた

 

日アフリカ・ビジネスウーマン交流セミナーが目指すのは、アフリカの女性起業家が直面する障壁を乗り越えるための方法を伝えることです。その際、自身の事業がどのように社会課題の解決に働きかけているのか、社会貢献としての一面をいかにアピールできるかが、事業にとってもプラスなのは確か。いまや、世界中で社会貢献なくして事業は続けられないものになっていることを、私たちも忘れてはいけません。

 

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構成/小倉 忍 画像提供/アイ・シー・ネット株式会社

 

「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

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日本に特別な期待! バングラデシュで世界基準の「経済特区」が開発中

【掲載日】2022年3月31日

2022年2月、バングラデシュの首都ダッカ市内で日本・バングラデシュ外交関係樹立50周年の式典が開催されました。同国は日本を世界銀行およびアジア開発銀行に次ぐ最大の援助国と認識しており、駐バングラデシュ日本大使をはじめ、JICAや総合商社の住友商事などの現地担当者も式典に招かれました。

活気あふれるバングラデシュの首都ダッカ

 

現在、日本はバングラデシュで経済特区および工業団地の開発を手がけており、2022年度中の稼働を目指しています。これは住友商事が主導している巨大プロジェクトで、第一期開発エリアだけでも190ヘクタール(東京ドーム約40個分)を開発する予定。本プロジェクトではバングラデシュも国を代表する経済特区の開発を目指しており、バングラデシュ経済特区庁が円借款を使って、洪水対策などのインフラ整備を進めています。

 

本プロジェクトで注目されているのは、同国初の国際水準インフラ整備が展開されていること。洪水対策をはじめ、浄水場や配電、通信環境の充実など進出企業がストレスフリーで事業を開始できる環境が構築されています。もちろん経済特区なので、税制面での優遇や各種許可申請など、バングラデシュ政府による手厚いサポートがあります。

 

バングラデシュは将来の高い経済成長が見込まれる南アジアの国の1つで、世界銀行の2022年経済成長予測によると、南アジア全体の経済成長率が7.6%と見込まれるなか、バングラデシュだけで6.9%と報じられており、特にサービス産業の活性化に伴う国内消費が非常に好調です。また、人口は約1億7000万人、うち労働人口は約6000万人で、さらに国民の平均年齢が24歳(日本バングラデシュ協会)と、非常に高い将来性とポテンシャルを有しています。

 

企業、特に製造業がバングラデシュへの進出を検討する場合、現地で作業員を雇用する人件費が課題の1つになりますが、同国の工員の平均月額基本給はベトナムやフィリピンの約半分程度で推移しています。経済特区の開発や人口、人件費を考慮すると、バングラデシュへの進出は検討する価値があるかもしれません。

 

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ウクライナ危機で忘れがちな途上国に迫る最悪の事態

【掲載日】2022年3月24日

2022年2月下旬に起きたロシアのウクライナ侵攻は、第二次世界大戦以後、最大の国際紛争の1つに発展しています。世界秩序の変化が確実視されていますが、今回のウクライナ危機は同2国のみならず、世界経済全体に多大な影響を与えるのはもちろん、中低所得国に分類される開発途上国には甚大かつ長期的な影響が及ぶと見られています。

ロシアのウクライナ侵攻で忘れてはならない途上国への影響

 

現在の世界経済は、新型コロナウイルスのパンデミックによる影響で疲弊しています。その中で起きたウクライナ危機は、回復過程にある各国の経済に冷や水を浴びせるものであり、世界的なインフレ傾向の高まりと共に中低所得国の国民生活に長期的な脅威となる恐れがあるため、国連をはじめ、さまざまな国際機関が警鐘を鳴らし始めています。

 

ロシアのウクライナ侵攻によって大きな影響を受けているのが、第一にエネルギー問題。ロシアの石油生産量は米国、サウジアラビアに次いで世界第3位であり、天然ガスは米国に次いで世界第2位です。エネルギー資源の有無や政策によって程度は異なりますが、製造品原価の高騰や輸送費の増大、電気代の高騰など、ウクライナ危機の影響は広範囲に及んでいます。専門家の中には、開発途上国がウクライナ情勢から受ける打撃を少しでも抑えるために、各国の新型コロナウイルスへの対応を参考にしながら、すぐに行動を起こすべきだと主張する人もいますが、経済的な基盤が脆弱な開発途上国が、例えば先進国と類似した措置を展開できるかどうかは疑問です。

 

エネルギー問題と同様に深刻なのは食糧。ウクライナとロシアは小麦産業をはじめ、大麦やトウモロコシなどの主要輸出国です。国際食糧政策研究所によると、小麦においてロシアは世界全体の約24%、ウクライナは約10%を占めていますが、最近、アントニオ・グレーテス国連事務総長は、アフリカおよび後発開発途上国の同2国に対する小麦輸入依存度が全体の3分の1以上を占めていると発言しました。国連食糧農業機関の世界食料価格指数は、ウクライナ危機の前から既に過去最高を記録しています。

 

ロシアのウクライナ侵攻によって、エネルギー資源の輸出国の一部は資源価格の高騰の恩恵を受けるという見方もありますが、途上国の多くは迅速な対応に迫られています。世界銀行や国際通貨基金などの国際機関の支援をはじめ、外貨準備高のさらなる増強やインフレ対処策など、膨大で広範囲な対策をできる限り実施する必要があるでしょう。ウクライナ危機で忘れがちな途上国にも危機が差し迫っています。

 

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拡大するインドの「高齢者ケア」のニーズ! 日本参入のカギを探る

昨今、人口増加がますます加速するインドでは、経済と医療の発展によりここ数十年で平均寿命も大幅に延びています。そのため、高齢者の人口も徐々に増えつつありこのままのペースで推移すると、2030年にはインドの総人口の約20%にあたる約3億人が高齢者になると予測されています。しかし、まだ若年層の人口比率が多いインドでは、高齢者の介護という概念も低く高齢者ケアに対する医療や福祉制度も整備されていないのが現状です。そこで、まだ発展途上の段階であるインドの高齢者ケアサービスの課題やニーズを紐解きながら、高齢化社会の先行国である日本のインド市場参入への可能性を探ります。

 

【参考資料】

IC Net ニュースレター

 

インドの高齢者ケアにおける状況と潜在的な課題

 ここ数年でインドの高齢者ケアを取り巻く環境は大きな変化を見せています。そこで注目すべきは、高齢者の増加や可処分所得の増加に伴う高齢者ケア市場の急激な拡大です。

 

高齢者ケアサービスは、在宅ケア、施設ケア、日帰りで通うデイケアの3つに大別されます。なかでも、インドでは在宅ケアの市場規模が最も大きく、今後もさらなる拡大が見込まれています。

 

 

なぜインドでは在宅ケアの需要が高く、市場規模も大きいのでしょうか。これは、インドの社会的背景や環境の変化が大きく関係しているといわれています。家族の結びつきが密接なインドでは、家庭内で高齢者ケアを行うことが伝統的に良しとされており、施設などの外部に介護を依頼することはあまり一般的ではありません。

 

しかしその一方、自宅で介護にあたる家族には大きな負担となっているのも事実です。実際に家族介護者に高齢者ケアがどれくらいの負担になっているかを聞いた調査では、下記の表で示した通り中等度~重度の負担または重度の負担と答えた方が全国で見ると約45%に上っています。また、女性の社会進出のほか都市部や海外への出稼ぎの増加により、家族間における介護の担い手が減少していることも負担増幅の大きな要因となっています。

 

 

民間企業の参入により、高品質な高齢者ケアサービスが増加

これまでインドの医療業界では、ボランティアをベースとしたNGOや高齢者施設が中心となり高齢者ケアを担ってきましたが、安価な分サービスの質の低さが指摘されていました。そんななか、多様なニーズが求められる高齢者ケア市場に新たな動きがはじまっています。とくに顕著なのは、民間企業による高齢者向けの在宅ケアサービスへの参入です。インドでは専門的な医療サービスを自宅で受けたいというニーズが根強く、民間企業は富裕層に向けた高品質な在宅ケアサービスを展開し、ここ数年で業績を伸ばしています。また経済の発展により、インドの富裕層と上流中産階級の人口比率は増加傾向にあり、さらなる高齢者ケア市場の拡大や需要の高まりが期待されています。

 

 

高齢者ケアサービスを定着させるために必要なインドの課題

民間企業の参入により高齢者ケアサービスの提供が進む中、さまざまな課題も明らかとなっています。一般的に高齢者ケアには、診察や検査、看護などをメインとした医療サービスと日常生活のサポートや学びの場の提供などを行う非医療サービスがあります。インドの病院や民間企業では高齢者に対する医療サービスの提供は増加傾向にありますが、非医療サービスの提供に重きを置く病院や企業が少ないのが現状です。これは、インドの医学部や看護学部では「老年介護教育」を行っていないため、介護という概念が希薄であり、非医療サービスに関する知識やノウハウが浸透していないことも要因のひとつとなっています。

 

しかし、時代の変化とともに高齢者ケアを担える家族介護者が減少しているインドでは、入浴や食事の手伝い、排せつなどの日常的なサポートを行う非医療サービスこそ潜在的なニーズがあるのではないかと考えられています。そのため、非医療介護者の能力開発や国家制度、ガイドラインの整備などは急務の課題となっています。

 

また、高齢者人口の増加に伴いインドでは今後さらに医療機関のインフラ整備の強化が求められるでしょう。そんな中、インドの医療機器の市場規模は、日本、中国、韓国に次いでアジアで4番目に位置し、世界でも20位以内に入っています。なかでも注目すべきは診断機器の市場です。2033年には、約22億ドルに達する見込みとなっており、とくにPOC(Point of Care)機器*の市場は、大きな成長率を見せています。インドでは質の高い医療機器や医療人材が都市部へ集中していることと貧富の差が激しいことから、求めやすい価格のPOC機器の需要が高い傾向にあるのです。また、第一次医療、第二次医療施設の整備や医療機器の配備の遅れが指摘されており、今後さらなる需要拡大が見込まれます。さらにインド国内で販売している医療機器の約70%は海外から輸入しており、海外製品への依存度が高いことも注目すべきポイントです。

*POC機器……病院の検査室またはそれ以外の場所でリアルタイム検査を行うための小型分析器や迅速診断キット

 

 

日本の高齢者ケアサービスのノウハウがインド市場参入へのカギ

現在日本では、人口の約30%が65歳以上となり、超高齢化社会に突入しています。そのため、他国に比べ高齢者ケアへの理解や人材育成、制度の整備が急速に進み、日本の高齢者ケア市場はさまざまな広がりを見せています。

 

なかでも介護職の需要は高く、国家資格を持つ介護福祉士や認定資格のホームヘルパー(訪問介護員)など、専門知識と技能を持つ非医療介護者の能力構築は率先して行われています。さらに介護福祉士からケアマネージャー(介護支援専門員)の資格取得を目指すなど、キャリアアップをサポートする仕組みも整えられています。

 

こうした日本の高齢化対策の実績は、介護という概念があまりなく人材育成や医療、福祉制度の整備が遅れているインドにおいて大いに参考になるでしょう。そのため日本の高齢者ケアサービスのノウハウを伝えるコンサルティングや非医療介護者の人材育成は、インド市場への参入の足掛かりになるかもしれません。また、日本のホスピタリティを生かした介護施設や高品質な在宅サービスは、高所得者が増えているインドで新たなニーズとなる可能性もあります。

 

さらに、インドの高齢者人口の増加に伴い、高齢者ケアサービスを提供する機関や施設が増えることで、介護用品や医療機器の需要が高まることも予想されます。とくに高品質な日本の高齢者ケア用機器は、まだ発展途上の段階にあるインドの高齢者ケア市場において注目を集めるビジネスアイテムとして大きな期待が寄せられています。

 

【参考資料】

IC Net ニュースレター

 

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答えは「OMO学習」にあり! コロナ時代に求められる教育方法とは?

【掲載日】2022年3月16日

経済援助や技術供与など、新興国が先進国に求める支援は多岐にわたりますが、国家繁栄の礎となるのは教育の充実にほかなりません。しかし、そこには教育環境の未整備や家父長制による女児教育機会の損失など、自力では超え難い壁が存在します。しかも、コロナ禍ではドロップアウトのリスクが増加したり、教育格差が拡大したりするなど、子供たちの学びが危ぶまれており、解決策が求められています。

フィリピンでは地域によってオンライン授業を受けることができない子供たちがいるため、オフライン教育は重要だ

 

2022年2月のロイター通信の報道によると、フィリピンの初等教育では約2700万人の子供たちが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う学級閉鎖によって、約2年間もきちんとした教育を受けることができていないとのこと。そんな中、同国のケソン州タグカワヤンでは、貧困と通信インフラの不足から、教師がトロッコを活用して各地を巡る移動式教室をボランティアで行っています。

 

昨今の日本でもGIGAスクール構想によるICT教育環境の充実など、官民挙げての教育改革に取り組んでいますが、新興国においては、通信インフラの未整備地域が多いことやデジタル・デバイドによってオンライン教育を受けられない家庭が多く、先進国の政策や論理をそのまま移行できない問題に直面。そこで、前述したフィリピンのように、オフライン教育が再評価されているのです。

 

日本のラジオ講座のように

例えば、2020年11月中旬から2021年7月中旬までの期間にネパールで実施された「ラジオ学校プロジェクト」は、デジタル・デバイド格差を解消するためのラジオ番組の活用や、休校中の児童、特にジェンダー問題を抱える同国女児に向けた教育コンテンツの充実化など、インフラ面およびコンテンツ面においても現地に合わせた内容で展開されました。ネパールといった途上国では、先進国と異なる意識で教育に関する課題に取り組む必要があることを、この事例は示しています。

 

つまり、日本のみならず世界各国で現在求められているのは、オンライン教育とオフライン教育の融合「OMO (Online Merges with Offline)」。途上国の教育を支援するためには、現地の条件を第一に考慮することが必須でしょう。解決策はオンラインだけにあるわけではありません。

 

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石油を紅茶で支払う苦肉の策!「再生可能エネルギー」に食い下がるスリランカ

【掲載日】2022年3月14日

現在、原油や石油、天然ガスの価格が高騰し、世界各国でエネルギー問題が浮上していますが、ロシアのウクライナ侵攻の前からエネルギー危機に直面しているのがスリランカ。苦しい状況を打開しようと、日本の支援を受けながら再生可能エネルギーの導入に粘り強く取り組んでいます。

スリランカ西部の町カルピティヤにある風力発電の風車

 

2021年12月、スリランカは、イラン石油公社に対して、過去に輸入した石油の代金を紅茶で支払うという大胆な施策を講じたことが国内外のメディアで報じられました。新型コロナウイルスのパンデミックによる観光業の不振はスリランカの経済に大きなダメージを与え、政府債務の返済危機、さらには自国通貨のスリランカ・ルピー安も引き起こしています。

 

スリランカは、新型コロナウイルスによる経済的なダメージを受ける前から、経済成長に伴いエネルギー需要が増加傾向にありました。JICAの省エネルギー普及促進プロジェクト(2008〜2011年)や2023年まで継続する電力セクターへの技術協力など、日本もスリランカのエネルギー問題の解決に向けて大きなサポートを講じています。2021年7月からは日本気象協会が太陽光、風力の発電予測データを提供するなど、スリランカの再生可能エネルギーへの熱意は非常に高いものがあります。

 

エネルギー問題は一国の存亡に関わりますが、現在のスリランカは他国の支援を受けながら、エネルギー政策や化石燃料の輸入などに関する困難な問題に取り組む段階にいます。再生可能エネルギーの民間企業プロジェクトは300件近く稼働しており、将来は国内プロジェクトや外国企業の参入が増える可能性があります。同国における日本の長年のサポートは、日本の民間事業者がビジネス展開を検討する際にもプラスに働くかもしれません。

 

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世界の食文化3強の一角! 途上国の中間層が「日本食」をもっと人気にする

2022年2月、米国の著名な料理専門メディア「Eat This, Not That!」において、世界で最も人気のある料理(国別)ランキングで日本食が堂々の3位になりました。日本料理——特に和食——は1位のイタリア料理、2位の地中海料理と肩を並べる三強の一角です。

2019年、ケニアのナイロビで開かれた日本食のイベントの様子

 

日本食は美味しさもさることながら、見た目の芸術性や素材の生かし方、健康的な要素など、さまざま理由で世界各国の人々に愛されています。日本に住んでいると当たり前のように感じる日本食は、私たちの想像を超える強さで世界中の人々に支持されており、それが米国メディアのランキング結果にも表れていると言えるでしょう。

 

近年、成長著しい新興国においては、経済成長に伴う中間層の増加により、外食を楽しむ人や海外の食材を購入して自宅で調理を楽しむ人が増えていくと考えられます。例えば、2019年にケニアのナイロビで開催された「Nairobi Japan Food Festival(NJFF)」には現地の人々が多数来場し、ポン酢などの調味料が高い評価を受けました。その一方、アジアではラオスなどで青汁やわかめなどが好調に売れており、完成された日本食以外にも飲料や食材、調味料の分野まで広範囲な輸出の拡大に期待が持てます。

 

和食に無限の可能性

しかし、味の好みを含めた食文化は多様であるため、「日本人に好まれる味がそのまま海外で通用することはない」と事前に認識しておくことが賢明です。特にインドやバングラディッシュなどのスパイス食文化圏で日本食は苦戦していることもあり、現地の人たちの感覚に合わせる「ローカライゼーション」の意識を持つことが重要でしょう。

日本食に高い関心を示したナイロビの人々

 

例えば、NJFFでは「日本食」ではなく、「日本の味(フレーバー)」を現地の食文化と掛け合わせて紹介することに重点を置き、結果的にそれが功を奏しました。実際、ある参加者は、最初に同フェスティバルの宣伝を見たとき、「『日本食=寿司=生魚』を食べさせられる」と思って嫌がったそうですが、同イベントで初めて日本の味に触れて、「ビックリするほど美味しかった」と言っていました。

 

また、NJFFでのアンケート結果では、回答者がそれまで日本の食品を購入したことがなかった理由として、「どこで購入できるのか分からない」および「調理法が分からない」との回答がアンケート結果の6割を占めています。しかし見方を変えれば、これはまだまだビジネスチャンスが残されていることを示しているので、グローバル展開を検討している食品関連企業は、現地の情報を把握している専門企業に相談する価値があるでしょう。完成された日本食はもちろん、現地の料理と組み合わせて新たなレシピを生み出せる食材には、無限の可能性が秘められているのです。

 

画像提供/アイ・シー・ネット株式会社

 

混迷を深めるウクライナ情勢を受けてーー日本・グローバル企業それぞれの支援活動まとめ

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって2週間が過ぎようとしていますが、いまだ解決の糸口を見出せていない状況です。ロシア軍とウクライナ軍の戦闘はこの瞬間も続いており、現地の惨状や避難民の様子などが連日日本でも報道されています。そんな中、西側諸国を中心にロシアに対する制裁も拡大。それに伴い原油価格や物価の高騰、航空制限による輸送遅延、株価の下落など、世界経済はもちろん、私たちの生活にも深刻な影響を及ぼしています。

 

 

情勢は刻一刻と変化していますが、国際機関をはじめ各国の反応はロシアに対してシビアです。国際的な金融決済ネットワーク「SWIFT」からのロシアの排除や、ロシア政府関係者の資産凍結をはじめとするさまざまな経済制裁のほか、スポーツではロシアでの競技の延期や中止、スポンサー契約の解除、選手の出場取り消しという動きもみられます。さらにNETFLIXやTikTokがロシアでのサービスの提供を停止したり、ロシア映画の上映を差し替えたりするなど、幅広い分野でロシアへの風当たりが強くなっています。

 

活発化するウクライナへの支援

その一方で、国や民間を問わず活発化しているのがウクライナを支援する動きです。現地では多くの民間人が被害を受け、200万人以上(2022年3月8日時点)の人々が避難民として近隣諸国へ脱出。EU加盟国では、難民申請なしに滞在許可証を発行し、就労や住居の支援も行うことで合意するなど、さまざまな国が避難民の支援に乗り出しています。日本でも、政府がウクライナの難民受け入れを開始したほか、群馬県が避難民に対して住宅や物資の提供を表明、横浜市も市営住宅約80戸を避難民向けに確保するなど、自治体レベルでも支援の輪が着実に広がっています。

 

日本企業も続々とさまざまな支援を表明

こうした状況にいち早く対応したのが民間企業です。その多くは人道支援を目的とした募金活動で、各社が基金を設立し、赤十字やUNHCR(国連難民高等弁事務所)など、ウクライナからの避難民や現地の人たちへの人道支援を行っている組織・団体への寄付が中心ですが、事業を活かした取り組みなど、独自の支援策を打ち出している企業もあります。

 

●株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)

2006年から世界各地の難民に衣料を支援し、2011年にはアジアの企業としては初めてUNHCRとグローバルパートナーシップを締結した同社。今回も、保温性の高い「ヒートテック」素材の毛布やインナー、エアリズムマスクなど約10万点と、ユニクロ国内店舗で回収したリサイクル衣料の中から、防寒着を中心に約10万点をポーランドなどに避難してきた難民に提供。また、避難所の設置や救援物資の配布に充てる目的で、約11億5000万円をUNHCRへ寄付すると発表しました。

 

●株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(ドン・キホーテ)

ウクライナの避難民100世帯の受け入れを決定。さらに、経済的支援、生活面のサポート、就業機会の提供にも取り組む方針です。

 

●楽天グループ株式会社

三木谷浩史会長兼社長がウクライナ政府へ10億円の個人寄付をした同社は、ウクライナ国内のスマートフォンの97%にインストールされている、コミュニケーションアプリ「Viber」において、通常は有料オプションである固定電話や携帯電話への通話料を無料にするクーポンを提供。また、飲料水など物資支援、保険サービス提供、子どもの保護などに活用するための緊急支援募金を行っています。

 

●株式会社ZOZO

「ZOZOTOWN ウクライナ人道支援チャリティーTシャツプロジェクト」を展開。3月1日~14日までチャリティーTシャツを販売し、その売り上げを全額寄付すると発表。

 

●APAMAN株式会社

日本への避難してきた人たちへ、同グループが管理している空室物件を短期的に無償提供。反戦を求めるポスターを趣旨に賛同するアパマンショップ店舗に設置するほか、停戦後は復興に向けた住宅や資材提供等の支援を予定しています。

 

●ワールドポテンシャル株式会社

同社で運営するマンスリーマンション、ホテル、民泊施設の一部を、避難民受け入れ施設として提供。また、沖縄、宮古島、長野、函館で運営するホテルで、社宅の提供を含めた避難民の就労受け入れを積極的に行うそうです。

 

●株式会社ネクストエージ

日本からウクライナ避難民に自立の選択肢を提供するための「PC1台から勇者プロジェクトforU」を実施。WEB制作、メタバース企画などIT事業において、ウクライナ避難民クリエイターやエンジニアへの発注を企業から募っています。「寄り添われる側と寄り添う側の両方の想いを具現化したもの」として注目されています。

 

●クックパッド株式会社

紛争により影響を受けた人たちを支援することを目的に、調理環境が十分でない中でもできる料理のレシピを募集するプロジェクト「#powerofcooking」を開始。寄せられたレシピの一部をウクライナ語に翻訳し、ウクライナ版クックパッドの利用ユーザーに提供します。

 

●株式会社グローバルトラストネットワークス(GTN)

ウクライナ本国の家族や友人と連絡ができる状態を維持できるよう、海外のプリペイドSIMに通話・通話料のクレジットを送ることができるサービス「TOP UP(トップアップ)」を在日ウクライナ人GTNユーザーへ無償提供(2022年3月31日まで)。また、政府の認定を受けたウクライナの避難民を対象に、モバイルSIMを1年間無償で提供します。

 

●キーン・ジャパン合同会社

米国・ポートランド発のアウトドア・フットウェアブランド「KEEN」は、ウクライナ国内、近隣諸国に避難してきた人へ2500足のKEENシューズを提供。また、人道的な支援のために5万ユーロの寄付を決定しました。

 

多くのグローバル企業も人道支援を約束

もちろん、海外の企業も支援活動に名乗りを上げています。取り組みの多くは、ユニセフやUNHCR、国際赤十字、セーブ・ザ・チルドレンなど、避難民を支援する組織への資金や製品の寄付が中心となっているようですが、その一部を紹介しましょう。

 

●Google

2500万ドルを人道支援のために寄付し、さらに1000万ドルをポーランドで人道支援・長期支援を行う団体に寄付。また、人道支援組織・政府間組織が支援情報を届けられるよう広告クレジットを提供するなど支援を強化。主にウクライナの人々をサイバーセキュリティの脅威から守るための対応策も打ち出しています。

 

●Amazon

ユニセフ、世界食糧計画、赤十字、ポルスカ・アクチャ人道、セーブ・ザ・チルドレンなどの組織に500万ドルを寄付。また、社内からの追加で最大500万ドルを寄付するほか、顧客の支払い処理手数料を免除する寄付リンクをホームページに設定。

 

●Apple

ティム・クックCEOが従業員による寄付プログラムをスタート。2対1の割合で従業員からの寄付額に上乗せするマッチング方式で実施されます。また、ウェブサイトの上部に寄付用のバナーを追加し、ウクライナ人避難民へのサポートを容易にしました。

 

●Wells Fargo

アメリカの金融機関である同社は、アメリカ赤十字、ワールドセントラルキッチン、USO(米国慰問協会)を含むウクライナの避難民を支援する非営利団体に100万ドルの寄付を約束。

 

●Starbucks

ロシア内の全事業を停止した同社。スターバックス財団が、ワールドセントラルキッチンと赤十字に50万ドルを寄付しました。

 

●Ford Motor Company

 グローバル・ギビング・ウクライナ救援基金に10万ドルを寄付する計画を発表。

 

●Volkswagen

ドイツの国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に100万ユーロを寄付。

 

●J.P. Morgan

同行のリッチ・ハンドラー最高経営責任者(CEO)がInstagram上で100万ドルの寄付を表明。

 

●SpaceX

ウクライナにおいて衛星によるネット接続サービスを提供。

 

●FedEx

避難民のいる地域に物資を輸送している組織へ、現物出荷で100万ドル以上、ヨーロッパの非政府機関に55万ドルの寄付を行っています。

 

●Booking.com

ブッキング・ホールディングスは、赤十字国際委員会に100万ドルを寄付し、さらに従業員の寄付総額と同額を寄付する方針。

 

●Airbnb

ウクライナからの避難民、最大10万人の無料仮設住宅を利用可能にすると発表。宿泊は同社と、利用者によるAirbnb.org難民基金への寄付、宿泊先ホストの善意によって賄われるそうです。

 

●BASF

ドイツ赤十字に100万ユーロを寄付。近隣諸国に到着した避難民への生活必需品(食料、衣類、衛生キット、通信機器など)の提供に使用されるそうです。

 

●IKEA

イケア財団が国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に2000万ユーロを寄付。また、グループ企業としても製品を提供をはじめ、現地で活動するUNHCRやセーブ・ザ・チルドレンに2000万ユーロを支援します。

 

●Kering

UNHCRに多額の寄付を行うことを表明。傘下であるGUCCIは、グローバルキャンペーン「Chime for Change」を通じてUNHCRに50万ドルを寄付します。

 

●CHANEL

200万ユーロをCAREとUNHCRなどに支援すると発表。また財団としても女性や子どもへの中長期的な支援を行う計画です。

 

●NIKE

ユニセフ(国連児童基金)とIRC(国際救済委員会)に100万ドルを寄付します。

 

●L’Oreal

避難民やウクライナの現地の人々を支援するために、地域のNGOや国際NG(HCR、赤十字、ユニセフなど)に 100万ユーロを寄付。さらにウクライナ、ポーランド、チェコ、ルーマニアのNGOに衛生用品を届けています。

 

●Samsung

100万ドル相当の家電製品を含む計600万ドルを人道支援に寄付する方針。

 

他人事ではなく、“自分事”として関心を持ち続けることが大事

テレビやインターネットで連日流れる映像などを観て心を痛めている人も多いと思います。募金やデモへの参加など、ウクライナの平和のために私たちが個人レベルでできることは残念ながら限られますが、何より、問題意識を持って関心を持ち続けることが大切だと思います。1日でも早くこの事態が解決し、ウクライナの人たちに笑顔が戻ることを切に願います。

 

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デジタルノマドを大歓迎! スリランカが「デジタルノマドビザ」の発行を検討

【掲載日】2022年3月◯日

新型コロナウイルスのパンデミックにより、ITを活用して旅行しながら働く「デジタルノマド」が世界中で急増しています。最近では、そのような人たちを対象にした「デジタルノマドビザ」が欧州諸国で発行されるようになりましたが、アジアでもスリランカがこの動きに乗りつつあります。

スリランカはデジタルノマドを大歓迎!

 

世界中の人々を引きつける観光資産を多数有しているスリランカは現在、デジタルノマドビザの発行を検討しています。遺跡やビーチがある同国最大都市のコロンボ、美しい海岸線を有する南西海岸エリア、紅茶で有名なキャンディ丘陵地帯など、島国特有の豊富な自然に囲まれ、さらにカレーや果物、世界的に有名な紅茶やコーヒーなどに代表される食文化は、世界中のデジタルノマドから注目されています。

 

コロナ禍においても、スリランカを訪問する観光客は多く2021年12月には8万5506人の観光客を受け入れており、過去20か月間で最高記録を更新しました。さらに旅行者の滞在日数もコロナ禍以前の平均3〜4日間から10日間以上に増加しており、滞在長期化の傾向が顕著に表れています。

 

現在スリランカが検討しているデジタルノマドビザについては、約1年間の長期滞在が可能になるという見方があります。このような長期ビザは、現在の業務に携わりながら滞在国のメリットを発見できる可能性も高まるために、海外進出や現地での起業を検討する際にも有効に活用できることでしょう。デジタルノマドがスリランカの経済的な発展にどのような影響を与えるのか注目です。

“オールインクルーシブ”なファッションを通してよりよい社会の実現へ

【掲載日】2022年3月4日

SDGs達成に向けた取り組みが加速する中、注目が集まっている分野の一つがファッション産業です。大量生産と大量廃棄の問題、作り手の人権問題など、あらゆる課題が浮き彫りになった今、課題解決のためのアクションが世界各地で起こり始めています。その中で、多様な人々や地球環境に配慮した「オールインクルーシブ」なファッションを通して、よりよい社会の実現を目指しているのが、SOLIT株式会社です。今回は代表の田中美咲さんに、会社設立の経緯や同社が運営するブランド「SOLIT!」に込めた想い、今後の展望などについてお聞きしました。

 

田中美咲/大学卒業後、株式会社サイバーエージェントに入社。東日本大震災をきっかけに、福島県で情報による復興支援を行う公益社団法人(現一般社団法人)助けあいジャパンに転職し、被災者向けの情報支援事業に従事。その後2013年8月に「防災をアップデートする」をモットーに一般社団法人防災ガールを設立。2018年の第32回人間力大賞経済大臣奨励賞受賞。同年フランスSparknewsが選ぶ世界の女性社会起業家22名に日本人唯一選出され、世界一位となった。2018年2月には社会課題解決に特化したPR会社、株式会社morning after cutting my hair創設。さらに2020年9月には「オールインクルーシブ」な社会の実現を目指してSOLIT株式会社を創設し、代表取締役を務めている。

 

根底にあるのは「弱い立場の人に寄り添いたい」という想い

 

――まずはSOLIT株式会社を立ち上げた経緯について教えてください。

 

田中 私が大学を卒業して社会人になったのは、東日本大震災が発生した2011年のこと。私にとって震災や災害について考えずに社会人生活を送ることはあり得ませんでした。社会人になって最初の1年は週末に被災地で支援活動を行っていましたが、目の前で助けを求める被災者と向き合ううちにいてもたってもいられなくなり、仕事を辞めて福島県に移住することを決意しました。移住後は、福島県庁の広報課のようなところで被災者への情報発信事業を行っていました。しかし現地に深く入れば入るほど、国、政府、自治体などと地域住民たちが意思疎通できていないことを痛感。そこで、自分で非営利団体を立ち上げようと考え、人にも環境にも配慮した課題解決のための事業を始めました。その3社目として立ち上げたのが、SOLIT株式会社です。東日本大震災が一つの大きなきっかけでしたが、自分の根底にある「全ての人が自律的に選択でき、生きやすい世の中になってほしい」という想いに従って選択を繰り返してきた結果、今があると感じています。

 

――SOLIT株式会社ではどのような事業を展開しているのでしょうか?

 

田中 SOLIT株式会社では多様な人々や地球環境に配慮した「オールインクルーシブ」な社会の実現を目指し、現在は大きく2つの事業を展開しています。1つは、ファッションブランド「SOLIT!」の運営です。障がいの有無、セクシュアリティー、体形などに関係なく、どんな人でもファッションを楽しむことができる服を提供しています。もう1つはSOLIT!の運営を通して蓄積した、ダイバーシティー&インクルージョンの考え方や、インクルーシブデザインの手法といった知見を活かして、他の企業とコラボレーションしたり伴走支援をしたりする事業を行っています。

 

またSOLIT株式会社では、働く人々も多様であることが大きな特徴の一つ。会社が提示する契約形態に合う人を探すのではなく、“素敵な人”を探して、その人に合う契約形態をつくるようにしています。現在、正社員は私を含めて2人で、そのほか業務委託やインターンシップ、プロフェッショナルボランティアのスタッフなど約40人で運営しています。

 

服が大量廃棄される裏側で、「選択肢がない人」の存在を知った

 

――そもそもなぜファッションブランドを立ち上げようと考えたのでしょうか?

 

田中 防災や気候変動など環境問題のフィールドで8年間活動をしていて、ファッション産業と言えば大量に生産して大量に廃棄しているというイメージしかありませんでした。そんな中で、指を麻痺している友人は、ジャケットやボタンの付いた服が着られないと「服の選択肢がない」と話している。このギャップに違和感を覚え、自分に何かできることがあるのではないかと考えたことがファッションブランド立ち上げの出発点となりました。

 

その後立ち上げたブランド「SOLIT!」では、多様な人と地球環境への配慮をできる限り「純度100%」で実現することを目指しています。例えばSOLIT!で販売している服は、すべてが受注生産品。依頼を受けてから生産するため、そもそも服が廃棄を前提としない仕組みになっています。つくる服に関しても、もともとある服に人が合わせるのではなく、「人に対して服が合わせる」という考え方をしていて、服のサイズ・仕様・丈を自分好みに選ぶことができます。例えば、脊柱側湾症(※)と呼ばれる障がいのある方の中には、左右の腕の長さが大きく異なる方がいます。そのため既存の服では片袖だけ引きずってしまったり、ブカブカで着づらかったりすることもあります。しかしSOLIT!の服は、左右の袖の長さを変えたり、余裕を持って着られるよう胴体のみを大きめサイズにしたりと、自由にカスタマイズすることが可能です。またSOLIT!では12サイズで商品を展開しているため、体形を選ばず着られますし、年齢や性別に関係なく着られるデザインも意識しています。

※脊柱側弯症…脊柱を正面から見た場合に、左右に曲がっている状態。

 

 

――商品はどのように企画してつくっていったのでしょうか。工夫した点などを教えてください。

 

田中 商品を企画するときには、まずチームのメンバーたちそれぞれが普段感じている服の課題を挙げ、その課題の背景にあるファッション産業の構造やデザインの文化、歴史について考える時間を設けました。さらに企画段階から、そもそも服の選択肢が少ないとされる障がいのある方、セクシュアルマイノリティーの方、高齢者の方も巻き込みながら、「インクルーシブデザイン」という手法を用いて、さまざまな意見を取り入れて一緒に考えていきました。

 

その中で特に着づらい服が多いと感じていたのが、身体に障害のある方たち。彼らにとって、服を着脱するときに腕を通したり肩を後ろに引いたりすることや、ボタンをとめたりすることはとても困難な動作です。そのため頭からすっぽりとかぶるようなパーカーやセーターしか服の選択肢がないという方が多くいました。そこで、身体に障がいのある方たちが「今まで着たくても着られなかった服」を作ろうとヒアリングを実施。結果的にはジャケット、パンツ、ボタン付きのシャツをSOLIT!の第一弾の商品として販売することが決まりました。

 

 

――実際にSOLIT!の服を着た方からはどのような反響がありましたか?

 

田中 今までパーカーなど頭からかぶる形状の衣服しか着ることができなかった方が、SOLIT!の服を着れば気兼ねなくデートに誘える!」と喜んでくれました。これを聞いてチームの皆で「最高じゃん!」と盛り上がりましたね。そのほかにも「このジャケットを着れば娘の結婚式に行ける」と話してくださった年配の男性もいました。健常者にとっては“one of them”でしかないボタン付きのジャケットやシャツですが、これらを着ることによってできることが増える人たちがいる。ファッションは社会参加の部分にまで関わるということを実感しました。

 

医療・福祉従事者と連携しながら“本当に着たかった病院服”を企画

 

――SOLIT株式会社のもう一つの事業では現在どのようなことを行っているのでしょうか。

 

田中 現在、大阪の岸和田リハビリテーション病院と、同病院が所属する生和会グループのSDX研究所と協業して、服の可動域に関する研究や病院服を開発するプロジェクトを行っています。

 

病院服を開発することになったのは、患者さんや医療従事者へのアンケートを通して、現在の病院服があまり快適なものではないとわかったことがきっかけでした。従来の病院服と言えば、甚平のような形をしたものが一般的。しかし患者さんにとって着たくなるデザインとは言い難く、また胸元がはだけやすかったり、腕が通しにくかったり、お腹の辺りで紐をくくらなければならなかったりと、さまざまな課題があることもわかりました。そこで今回私たちが企画したのが、“みんなが本当に着たかった”病院服です。患者さんや医療・福祉従事者へヒアリングをしながら課題を一つ一つ解決し、最終的には、デニムやカーキベージュのような色味にしたり、ボタンをマグネット式にしたり、肩からわき下にかけてのアームホールを広げて着やすくするなど、さまざまな工夫を凝らした病院服が出来上がりました。

 

現在は、クラウドファンディングで開発費などの資金を集めたり、プロジェクトを運営するための仕組みを整えたりしているところ。22年4月からは岸和田リハビリテーション病院で実際に患者さんたちに着てもらう予定です。すでに途中段階の病院服を試着した患者さんからは、「この病院服を着て家族に会いたい」「外に出かけたい」といった感想をいただきました。患者さんたちがこの病院服を通して少しでも前向きな気持ちになれるよう、今後もチーム全員でプロジェクトを進めていきます。

 

アジア展開も視野に入れ、さらに幅広くアプローチしていきたい

 

――SOLIT株式会社がこれからつくりたいと考えているプロダクトや新たに企画していることを教えてください。

 

田中 ファッションの分野では、より幅広いプロダクトを考案していきたいと考えています。例えばアレルギー性皮膚炎の方でも着やすい素材を使った服や、精神疾患により首回りがきつい服を着られない方にもやさしいデザインの服など、身体に障がいのある方だけでなく、さまざまな方が抱える課題を解決するような服を作っていきたいです。さらに文具、家具、家電といったものにも、多様な人々が使いやすいように改善できるところがまだまだあるはず。今後はファッションだけにとどまらず、衣食住に関わるあらゆるプロダクトを展開することも目標としています。

 

また国内だけではなく、アジアへの進出も視野に入れていて、障がいのある方が着やすい服、着たくなるような服を各地にローカライズしながら作れないかと考えています。しかし実現するためには、まだまだ乗り越えなければならない課題が多くあるのが現状です。例えばSOLIT!では現在、生地の調達や縫製を中国で行っていますが、同じ価格帯で他のアジアの国にも展開しようとすると、かなりの輸送コストと環境負荷がかかってしまいます。そのため、生産地を変えたり、カスタマイズ性を少なくしてコストを下げたりするなど、あらゆる調整が必要になってくると考えています。

 

そのほか、アジアの新興国や途上国の中には、アメリカナイズされたファッション文化が拡大し、地元のファッション産業が衰退しつつあることが問題視されている国もあります。こうした課題に対しては、例えば伝統衣装にマグネットやマジックテープを付けるなどして、障がいのある方をはじめ、より多くの方に着てもらいやすくなるようSOLIT!のインクルーシブデザインの手法を伝えていくこともできるはずです。しかしこれを事業として成り立たせる方法を考えたり、「文化の継承」という側面から考えて問題がないかを検証したりするなど、こちらもクリアすべき課題が多くあると感じています。現在はまだ、さまざまなことをリサーチしている段階ですが、協業できるパートナーを探したり、現地と連携をしたりしながらアジア展開の実現を目指していきたいです。

 

 

――最後に、SOLIT株式会社の今後の展望を教えてください。

 

田中 SOLIT株式会社では今後も「多様な人と環境に配慮した服を作っているブランド」として、多くの人から選んでもらえたり、思い出してもらえたりする存在でありたいと考えています。さらにほかのアパレル企業に対して環境問題や人権問題を解決するための提案やコラボレーションを行ったりして、双方にとってメリットになることも考えていきたいです。これからも自社事業と協業の両軸でアプローチをしながら、そしてファッション分野だけにとどまることなく、オールインクルーシブな社会の実現に向けて力を尽くしていきます。

 

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NFTを活用した地域支援! Fintechで変わる新興国支援ビジネス

【掲載日】2022年2月28日

近年、NFTを活用した芸術作品の売買が世界中で注目されていますが、このテクノロジーは、ビジネスモデル次第で新興国の支援に役立つ可能性を持っています。その一例として、最近始まった新しいプロジェクトを簡単に見てみましょう。

NFTを活用した途上国の地域づくりって良いアイデアかも

 

2022年2月、寄付型クラウドファンディング事業をグローバルに展開している株式会社奇兵隊の子会社「KiHeiTai Estonia」は、NFT(※1)を活用したオープンタウンプロジェクト「Savanna Kidz NFT」を開始しました。

 

本プロジェクトは、生活環境を改善したい新興国のコミュニティーをサポートすることを目的としており、子どもを描いたデジタルアートを「コレクティブルNFT」として世界に向けて販売することで資金を調達。作品の購入者はコミュニティーの一員として街づくりに参加することができます。

 

すでに試験的な運用が行われているウガンダでは、飲料水や生活用水の確保、医療サービス、児童の教育環境などが不十分であり、政府の支援が行き届かない地域が多数存在しています。また「ラストワンマイル(※2)」の問題も存在しますが、本プロジェクトは「DAO」と呼ばれる自律分散型組織(※3)を取り入れることで、透明性を維持しながらコミュニティーを発展させるのが特徴。ウガンダ政府から独立して、住民とNFT購入者が民主的に運営する設計になっているため、本プロジェクトには「オープンタウン」という言葉が付けられています。

 

このように、新興国のコミュニティー支援では、NFTやクラウドファンディングを活用した新しいビジネスモデルが次々に生まれています。国際協力の新潮流として、フィンテックの導入はますます重要性を増していきそうです。

 

【脚注】

※1:NFT(Non-Fungible Token)はブロックチェーン上で発行されたオリジナルのデータ「非代替性トークン」を指し、デジタル空間における所有証明書や資産の鑑定書などとして機能する。また、「コレクティブルNFT」は概ね「コレクション可能なNFT」という意味。

※2:サービス提供者の最後の拠点から顧客・ユーザーまでの「最後の区間」のことを指す。もともとは通信業界での用語だったが、昨今では国際支援のキーワードの1つである。

※3:DAO(Decentralized Autonomous Organization)は自律分散型組織を意味し、ブロックチェーンに基づき、組織内の構成員一人ひとりによって自律的に運営される特徴を持つ。

「海外と日本をつなぐ仕事がしたい」夢を追いかけタイへ! 経済成長が加速する国でリユースビジネスと海外進出支援業

【掲載日】2022年2月23日

経済成長が目覚ましく、勢いに乗っている東南アジア諸国。現在、日本の中古リサイクル品が、タイをはじめ東南アジアで人気になっています。自社でもリサイクルショップを運営し、かつ、現地の店にも商品を卸すリユースビジネスを展開するほか、企業の海外進出支援もするASE GROUPのCEOである出口皓太さんにインタビューをしました。

出口皓太/大学卒業後、輸入機械商社に営業職で3年間勤務。その後退職し、ワーキングホリデービザでオーストラリアに渡った後、シンガポールへ。日系電機メーカーで約3年間勤務したのち、縁がありカンボジアへ。その後ASE GROUPを立ち上げCEOに就任。主にタイでのリユースビジネスと、東南アジアでの海外進出支援を担う。

 

「今後、成長していく」そう思わせてくれる国の勢いが魅力

 

――まずはASE GROUPを立ち上げた経緯を教えてください。もともと海外で働くことに関心があったのでしょうか?

 

出口 もともと関心があったわけではないのですが、一つの転機になったのが、19歳の夏休みに「何か思い切ったことをしてみたい」と、1カ月ほどニュージーランドにひとりで行ったことです。当時は英語を話せなかったのですが、それでも身振り手振りで伝えて笑顔でいれば、「面白い日本人がいる」と仲良くしてくれる人や、困ったときに助けてくれる人がいました。しかしこのときに強く感じたのは「言葉がわからない」ことの悔しさ。この経験をきっかけに、帰国後すぐに英会話スクールに通い始め、「いつか日本と海外をつなぐ仕事がしたい」と考えるようになりました。

 

大学卒業後に勤めた輸入機械商社では、営業職をしていました。先輩方にも恵まれ結果も出せていましたが、「長期で海外に行ってみたい」という気持ちが抑えきれなくなり、思い切って退職してオーストラリアにワーキングホリデービザを使って行きました。

 

その後、「アジアのハブであるシンガポールで仕事をしてみたい」と思いシンガポールへ渡ります。3年ほど会社に勤めた後、「そういえば東南アジアのほかの国をまわったことがないな」と思い、日本に帰国する前に1か月ほど東南アジアを旅することにしました。

 

カンボジアにふらりと行き、トゥクトゥクで田舎の砂利道を走っていたときのことです。学校があったのでトゥクトゥクを止めたら、子どもたちがわ~っと寄ってきて、あれよあれよという間に手を握られ教室に連れて行かれたんです。そしてあっという間に子どもたちは席に座って期待に満ちた目でこちらを見ている。だから「こんにちは」とか「ありがとう」とか簡単な日本語を教えてみたんです。そのときの子どもたちのキラキラした目を見ていたら、カンボジアの魅力にハマってしまいました。

 

カンボジアの学校での出来事がASE GROUP誕生のきっかけに

 

そんなときにちょうど、カンボジアでコンサルティング会社立ち上げの依頼があったので、1年間限定で担当しました。そうこうしているうちに、「タイで何か事業をしてはどうか」というお話をいただいたんです。私に何ができるかなと考えてみたところ、「日本の会社に代わってタイで営業や買い付けなど、手となり足となる事業を創り出そう」と思い立ったのが、ASE GROUP誕生のきっかけです。

 

人気は日本の仏壇! ゼロから10年で成長産業となったリユースビジネス

 

――現在の主な仕事内容を教えてください。

 

出口 日本からの進出支援、リユース品(家具や日用品など)の輸入、中古衣類輸入、サイクル店経営、飲食店経営、タイ人パートナーとタイでのリユース品輸入通関、カンボジアでカシューナッツの栽培など、幅広く事業をしています。

 

――リユースビジネスにおける現状を教えてください。

 

出口 現在、雑貨や家具などリユース品のコンテナは、タイとフィリピンなどに日本から毎月300コンテナ以上が輸出されていますが、私としてはコンテナがまだまだ足りていないと感じています。

 

現に、コンテナをおろしているタイ人のオーナーからは「もっと欲しい」と言われているような状況で、かなりの成長産業だと感じています。タイ人の顧客は「価格が安い」「安心できる」「変わった商品を手に入れられる」といったさまざまな理由で日本のリユース品を好んでくれていますし、特にタイやカンボジアは親日の国であることも、受け入れられやすい要因だと考えられます。

 

――日本の製品では特に何が人気ですか?

 

出口 家具やキャンプ用品、ぬいぐるみ、楽器などはもとより、タイは仏教徒が多いので仏壇といった仏具も人気です。そもそもタイには日本のように「仏壇」がなく、なじみがなかったのですが、日本人の先輩がゼロから勝機となるマーケットを作り、それがタイで根付いてくれました。

 

リユースショップの店内の様子

 

――リユースビジネスの成長に伴い、リサイクルに対する意識もタイでは高まっているのでしょうか?

 

出口 最近では一部のスーパーマーケットで、日用品や使い終わった衣類のリサイクルボックスが出来始めるなど、少しずつですが変化の兆しを感じています。まだまだではありますが、日常生活に少しずつ浸透してきているなというのが現状です。しかし、ごみの分別などに関しては、分別が当たり前の日本と比べると、タイではそれほど広まっていません。これを一般市民に浸透させることが、課題の一つであると感じています。

 

タイのリサイクルボックス

 

――タイでのSDGsの浸透について教えてください。

 

出口 持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)の2021年6月の発表によると、タイのSDGs達成状況の総合スコアは ASEAN10カ国の中でもっとも高い74.2でした。この数値は、165カ国(国連に加盟する192カ国のSDGsの進捗状況を評価、そのうちデータがそろっている国)中43位でした。

 

私自身、現在JCI BANGKOK(国際青年会議所)のメンバーとして活動をしていますが、周りのタイ人の若い経営者たちもSDGsに対しての意識は高いように見えます。彼らはSDGsに関するセミナーをオンラインで自主的に受けたりもしています。

 

コンサルタント事業では企業に寄り添いながら企業の海外進出をサポート

 

海外進出リスクに対応するには信頼できるパートナーを見つけることが大事

 

――ASE GROUPではリユース事業だけでなく、企業の海外進出支援も行っています。なかでもASEAN諸国への進出支援を数多く行っていますが、現在のASEAN諸国の市場にはどのような特徴がありますか?

 

出口 今ASEAN諸国の市場は、購買力を持った中間層・富裕層が拡大しつつあるため、成長が著しい消費市場として注目されています。リユース品もアンティークや高級ブランドなどの依頼が多くなってきたのも今の特徴です。

 

――ASEAN諸国をはじめ、東南アジアに進出する際に一番大事なことを教えてください。

 

出口 信頼できる企業や取引先、パートナーを見つけることです。テナントを所有する大家さんから登記簿が出てこなかったり、ライセンス契約が出来なかったりするなど、思ってもいないことも次々と起きます。また例えばタイでは、人前で叱ることはタブー視されているなど、国によって文化や習慣も異なります。そういったことからも、進出のサポートはもちろんのこと、スタッフの方々との付き合い方もサポートしてくれるパートナーがいれば、より安心です。

 

――企業などが海外進出する場合、リスクは少なくないということですが、どういったリスクがありますか?

 

出口 海外進出時には、文化や商習慣の違い、詐欺被害、言語による壁などさまざまなリスクがあります。例えば市場調査をあまりせずに飲食店を出店し失敗した企業や、会社を設立したが従業員に裏切られビジネスごともっていかれてしまった事例もあります。また、日本人から詐欺に遭ってしまった方、タイ人の株主に会社を追い出された方など、いろいろなトラブルが起こっています。

 

私たちも事業を運営する中で、失敗もたくさんしてきています。例えば、カンボジアで出したラーメン店が人気だからということでタイのバンコクでも店を出したのですが、3年で店を閉めることになりました。カンボジアでは行列が出来ているのになぜだろうと考えてみると、バンコクにはすでに日本食レストランがたくさんあり、その中での出店だったという市場調査の甘さなど、いくつかの原因が上がりました。しかし、成功している企業が多いのも事実です。私たちはこういった自分たちの失敗経験も含め、他社の進出をサポートする際にはより具体的なリスクマネージメントをし、トラブルや失敗を予防、成功に導くのが仕事です。

 

――コロナ禍の影響について現地での様子を教えてください。

 

出口 私たちの仕事においては、コロナ禍によって海外進出される企業の件数はかなり減少しており、今は会社や店の閉鎖のお手伝いをしているような状況です。飲食業や観光業はもちろんタイでもダメージは受けています。しかしコロナ禍によって賃貸物件やテナントに空きがたくさん出ていて、そこに出店される方もいますので、捉え方次第ではチャンスと言えるかもしれません。

 

――ASE GROUPの今後の展望を教えてください。

 

出口 私たちASE GROUPでは、「Not Take and Give, Let’s GIVE AND TAKE」(人の成功に貢献して自分たちも成功していこう)という経営理念を掲げています。志を持ち、事業を通じて「挑戦」するお客様と一緒にお仕事をすることが、私たちの喜びであり、それが事業となっています。その気持ちを大切にしながら、その輪が広がるよう、今後も力を尽くして支援をしていきたいと考えています。

 

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中国とインドが激突! 熾烈な覇権争いが繰り広げられる「中央アジア」とは?

【掲載日】2022年2月22日

2022年1月、中国とインドが別々に中央アジア諸国とサミットを開催しました。これは中央アジアの重要性が増していることを示していますが、どのような背景があるのでしょうか? 中央アジアの特徴を概説しましょう。

カザフスタンのステップ(草原)。同国を含む中央アジアを巡り、熾烈な覇権争いが行われている

 

中央アジアはユーラシア大陸の中央部に位置し、概ね5か国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)からなるとされています。かつてのシルクロードにおいて東西貿易の中枢に位置しているこの地域は、乾燥地帯や山岳地帯、砂漠などの厳しい自然環境と常に向き合ってきた一方、中央アジアの覇権を巡るイギリスとロシアの戦い「グレート・ゲーム」の舞台となり、諸民族による絶え間ない争いの歴史も有しています。

 

中央アジアは多民族で構成されており、キルギスのように日本人に似ていると言われている民族も存在します。また、中央アジアは「トルコ人の土地」を意味する「トルキスタン」とも呼ばれており、トルコ系住民が多く、キルギス語やカザフ語、ウズベク語などのトルコ系諸語が話されている一方、ロシア語も広く使われています。

 

中央アジア5か国は、宗主国であった旧ソビエト連邦が1991年に崩壊した時点から、それぞれに主権国家として独立の道を歩んできました。各国共にイスラム教の強い影響を受けており、カザフスタンやトルクメニスタンに代表される石油や天然ガスなどの地下資源および農業、畜産業、綿繊維などが主要産業です。外務省によると、各国のGDPは、カザフスタン1712億ドル(約20兆円※)、キルギス77.5億ドル(約9000億円)、タジキスタン80億ドル(約9200億円)、トルクメニスタン473.5億ドル(約5.5兆円)、ウズベキスタン599.3億ドル(約6.9兆円)と、カザフスタンの経済力が抜きんでています。

※1ドル=115円換算(2022年2月17日時点)

 

中央アジア5か国の人口とGDP

カザフスタン キルギス タジキスタン トルクメニスタン ウズベキスタン
人口(万人) 1900 650 970 610 3390
GDP(億ドル) 1712 77.5 80 473.5 599.3

出典:外務省

 

この5か国の経済は貿易、特に輸入に支えられています。総人口7500万人を超える将来的な巨大市場の獲得を目指して、中国、インド、ロシアを中心に、さまざまな国がアプローチしています。特に、インドはアフガニスタンでタリバン政権が復活し、敵対している隣国・パキスタンとの外交問題もあるため、輸送ルートを見直しており、その中で中央アジアとの関係強化が重要視されています。

 

アメリカの影響力が低下する中で……

2022年1月にはインドのナレンドラ・モディ首相による同国初の中央アジア5か国との首脳会議が開催されました。タリバン暫定政権のアフガニスタンの安全保障に関する問題がメインの議題とされています。また、中央アジア開発へ無償の協力金を提供するなど他国(特に中国)に後れをとるまいとの強い意気込みが感じられます。一方、中国は「一帯一路」構想の重要エリアとして中央アジアに今後ますます接近することでしょう。なお、トルクメニスタン以外の4か国が、既に上海協力機構に加盟しています。

 

もちろん日本も外交を展開しており、2015年には安倍晋三総理大臣(当時)が中央アジア5か国を訪問しました。さらにJICAによるODAや人材育成支援など、数多くのサポートが実施されています。アメリカのアフガニスタン撤退の影響もあり、中央アジアを巡る覇権争いは激しさを増していますが、この地域では日本も重要なプレーヤーなのです。

 

 

EdTechが待ち遠しい…。タンザニアの「女性の教育」に必要なもの

【掲載日】2022年2月15日

タンザニアでは、2021年3月にジョン・マグフリ大統領(当時)が死去した後、副大統領だったサミア・スルフ・ハッサン氏が政府のトップに就きました。ハッサン氏は同国初の女性大統領として国民から大きな期待を集めていますが、彼女のリーダーシップのもとで改善の歩みを続けているのが、女性の教育を受ける権利です。

保育園に預けられないなら、EdTechで勉強したい

 

タンザニアの教育課程は、初等教育(小学校)の7年間のみが義務教育であり、その次の中等教育以降は就学率が極端に下がります。特に約7割の女性が結婚と出産のため、中等教育課程で中退すると言われています。同国では2000年代初めに「妊娠した女子生徒は退学させられ、二度と学校に戻れない」という法律が制定されました。また、マグフリ前大統領は「妊娠した女性の出産後における学業継続を認めない」とする姿勢を公に示し続けてきたこともあり、女性の出産後の学業復帰は絶望的なものでした。

 

この法律は2021年12月に廃止され、女性は出産後に学校に戻ることができるようになりましたが、まだ多くの問題が残されています。保育園や両親などに子どもを預けることができない母親は、子どもを学校に連れて行かざるを得ないのですが、先日、タンザニアのアドルフ・ムケンダ(Adolf Mkenda)教育相が「出産後の女性の教育を認める政府の決定は、赤ちゃんを授業に連れてくることを意味するものではない」と発言。育児中の女性がクラスに戻れるようにするだけでなく、ほかの生徒が集中して勉強できる環境を整えることも必要なのです。そのため、タンザニア政府は代替教育プログラムの推進や保育園や託児所などの設立を検討しています。

 

女性のエンパワーメントのためには、育児や教育支援が不可欠。アフリカでは、ケニアやナイジェリアなどテクノロジーの恩恵によるオンライン教育が爆発的に普及し始めている地域も存在しています。出産後さまざまな理由で登校できないタンザニアの女性の中には、認可教育以外の場所でも教育を受けることができる「EdTech(エドテック)」に希望の光を見出している人もいるかもしれません。

 

 

世界の投資家が興奮する「アフリカ外食産業」のSaaSプラットフォーム

【掲載日】2022年2月8日

各分野でテクノロジーによる変革が猛スピードで進行しているアフリカですが、外食産業では、まだ非常に多くの中小飲食店がペンと紙を使ったオフラインの作業に頼っています。しかし、効率化やデジタル化への需要は増しており、変革の機運が高まっています。その一例としてナイジェリアのOrda社を見てみましょう。

アフリカの外食産業のデジタル化を加速させるOrda(画像提供/Orda)

 

2020年に創業したOrda社は、レストランを主な対象に、注文管理や決済、商品在庫管理、物流までを網羅した外食産業の管理プラットフォームをクラウドで提供しています。同社はSaaS(Software as a Service)型のビジネスモデルを取り入れており、ユーザーはこのソフトウェアから自分が必要とする部分だけを契約することが可能。

 

また、このプラットフォームは、店舗での注文はもちろんのこと、さまざまなフードデリバリー・サービスやウェブサイトに加え、WhatsAppなどのソーシャルメディアからの注文にも対応しています。

 

このようなプラットフォームを生み出したOrda社は、先日110万ドル(約1億2700万円※)の資金を世界各国の投資家から獲得しました。グローバル展開しているLofty Inc Capitalをはじめ、10を超えるエンジェル投資家がOrda社に出資を決めており、ビジネスの将来性が高く評価されています。

※1ドル=約115円換算(2021年2月7日時点)

 

Orda社のCEOを務めるGuy Futi氏は、レストラン向けSaaS型管理システムで既にグローバル展開をしている米国のToast社を目指していると述べており、アフリカ全土をはじめとした広範囲なビジネスの拡大を計画しています。

 

近年、アフリカでは日本食への認知度が増加傾向にあり、現地に進出する日本食レストランも増えています。Orda社のようなサービスを活用しながら現地でビジネスを展開する可能性もあるでしょう。アフリカの外食産業にOrda社がどのような影響を与えるのか注目です。

日本初の外国人向け進学塾の経営者が説く、「外国人材」にまつわる課題

【掲載日】2022年2月7日

少子高齢化や人口減少、入管法改正などを背景に、企業や自治体を中心に「外国人材」の起用に注目が集まっています。しかし、実際は「異文化理解の方法がよく分からない」「本当にうまくいくのか不安」といった悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか? そこで今回は、外国にルーツに持つ子どもたちへの日本語教育を行う株式会社NIHONGOの永野将司さんにインタビュー。在日外国人をめぐる現状の課題や、異文化理解のために大切なことをお聞きしました。

 

永野将司株式会社NIHONGO代表取締役。大学在学中にダブルスクールで日本語教師資格を取得。これまでに国内外の大学・日本語学校などで1,000人以上の外国人に日本語を教えてきた。東京都主催のビジネスコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY 2017」ファイナリストに選出されたのを機に、2018年にNIHONGOを創業。日本初となる外国にルーツを持つ子ども向けの進学塾をスタートし、現在は4校にまで拡大。

 

日本語教育の不足が、日本に多くの「言語難民」を生み出している

 

――はじめに、NIHONGOを立ち上げた経緯を教えていただけますか?

 

永野 もともと言語教育自体に興味があったというよりは、ずっと海外に住みたいと思っていて、どの国でも生きていけるように日本語教師の資格を取ったんです。大学在学中から日本語学校の講師として働き始めたのですが、当時はこんなに長く続けることになるとは思ってもいませんでした(笑)。

 

2011年以降、徐々に在日外国人の犯罪や不法滞在がニュースで話題になることが増え、実際に私が勤めていた日本語学校でも失踪者が出たり、頻繁に警察に呼ばれたりする状況が続いていました。体力・メンタルともにキツかったのですが、同時に「本当に彼らだけが悪いのだろうか?」「もっと日本語教育にできることがあるんじゃないだろうか?」と考えるようになりました。

 

大きな転機となったのは、電車の広告でたまたま見つけた、東京都主催のビジネスコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY 2017」です。「日本に住む全ての外国人に、安価で良質な日本語教育を提供することで、言語難民のいない社会を実現する」という思いを込めて応募したところ、応募総数1360名の中からファイナリスト10名に選んでいただきました。「これはもう逃げられないな」と覚悟を決めて(笑)、NIHONGOを起業しました。

 

――「言語難民」という言葉が印象的なのですが、実際に教育現場では何が起きているのでしょうか?

 

永野 外国にルーツを持つ子どもたちの大半が公立学校に行くのですが、端的にいえば1時間目から5時間目まで何も分からず、何もできずにただ座っている状態が毎日続いているのです。圧倒的にサポートが足りておらず、中には日本語が読めないことで知能テストのスコアが悪く、結果として特別支援学級で授業を受けさせる学校もあります。日本人の高校進学率は90%以上ですが、外国にルーツを持つ子どもたちは半分以下だと言われています(正式な統計はない)。さらに、進学できても留年してしまったり、退学してしまったりするケースも少なくありません。すると、日本では低賃金労働をせざるを得ない場合が多いので、負のサイクルから抜け出せなくなってしまいます。

 

――なぜ、日本語教育がうまくいかないのでしょうか?

 

永野 学校の先生などにお話を伺うと、外国人がゼロから日本語を習得するのに1年半〜2年かかると言われているのですが、私の経験からすると3カ月くらい集中的にトレーニングすれば日常生活に困らないくらいの日本語は習得できます。そこまで時間がかかってしまう背景には教育現場における日本語教育のノウハウの欠如や、公平性の観点などさまざまな要因があります。外国にルーツを持つ子どもたちの1〜2学年分の貴重な時間は、日本語を習得できていないことが原因で失われてしまっている現実があります。

 

――お話しいただいた教育現場の課題に対して、NIHONGOではどのような取り組みをしているのでしょうか?

 

永野 私は「トレボルNIHONGO教室」という学習教室を運営しているのですが、2020年に横浜市の公立中学校と協定を結び、生徒がトレボルで学んだ時間を学校の出席時間として扱うことができるようにしました。実際にベトナムから来日した中3の生徒がほとんど日本語を理解できない状態から1年間トレボルで学び、最終的には第一志望の高校に進学することができました。全国でも前例のない取り組みだったので、実現まで数々の壁を乗り越えなくてはならなかったのですが、笑顔で巣立っていく生徒の姿を見て、やって良かったと心から思いましたし、やはり言葉は武器になるのだと改めて認識させられました。

 

「日本は外国人に選ばれなくなる」という危機感を持つべき

 

――近年、「外国人材」への期待が高まっている一方で、異文化理解やコミュニケーションに対する不安を感じている方も多いと言われています。日本語教育の充実が、そういった課題の解決策の一つになりそうですね。

 

永野 そもそも、私は「外国人材」と括ること自体が間違いだと思っています。「外国人材はこう活用しよう」「○○人はこう対処すれば大丈夫です」みたいなノウハウをそのまま実践しても絶対にうまくいきません。なぜなら、一人ひとりのパーソナリティと向き合っていないからです。逆の立場で考えてみてください。海外で「日本人はこうだから」と決めつけられて、自分の個性や内面を無視されたら嫌ですよね?

 

――確かに。一括りにすること自体が外国人への理解を妨げているのかもしれません。

 

永野 それから、このままでは日本を選んでもらえなくなるという危機感もあります。実際、韓国や中国をはじめとするアジア諸国の平均賃金は上がってきていますし、例えばエンジニアでもアメリカと日本では給料に大きな差がありますよね。治安の良さなど日本が誇れる部分もありますが、外国人から見た待遇面のメリットは徐々に失われつつあります。「外国人は安く雇える」というような認識は、グローバル水準で考えるともう通用しなくなっていると思います。

 

――なるほど、では外国人を雇いたい企業はどのようなことを心掛けるべきでしょうか?

 

永野 あまり深く考える必要はないと思うんです。日本人が働きやすい職場は外国人も働きやすいし、日本人が辞めていく職場は外国人だって辞めていきます。同じ人間ですから、外国人だからといって何かを疎かにしたり、少し待遇を悪くしても大丈夫と考えているなら、その認識から改めるべきです。

 

――日本人にとっても外国人にとっても働きたくなる環境や福利厚生を充実させることが大事なのですね。

 

永野 私の知り合いがいる会社に、給料自体は高くないのですが、社長の奥さんがご飯を作ってくれることが好評で、多くの外国人が働いている会社もあります。福利厚生という言葉が分かりやすいと思うのですが、イメージとしてはもう少し温かいコミュニケーションが求められているのかなと感じます。ただ、それも人それぞれなので、やっぱり一番大切なのはフィードバックの機会を作ることだと思います。外国人にとって働きやすい環境を作りたいなら、今働いている外国人に話を聞くべきですよね。教育現場でも起きていることなのですが、相手からのフィードバックをもらわないので、取り組みが合っているのか合っていないのかも分からない。良かれと思ってやっていることでも、もしかするとすれ違いやエラーが積み重なっている可能性もあるので、もったいないですよね。

 

海外の人材だけでなく、今日本にいる日系人にも目を向けてみる

 

――ここまで、「外国人材」をめぐる課題をいろいろとお話しいただきましたが、外国人が日本で活躍することのメリットについても教えていただけますでしょうか?

 

永野 公式な統計はないので個人的な感覚ですが、低賃金労働や生活保護を受けている方の中に、実は日系人が多いと感じます。僕はそこに日本にとっての大きなチャンスがあると思っています。なぜなら、日系人にはビザの期限がない場合が多いですし、ある程度は共通の文化を持っていることが多いです。今の時代、英語を話せる人は少なくありませんが、日系人の場合はスペイン語やポルトガル語などが母語なので、スタッフとして迎えることができれば新しいビジネスチャンスが広がるはずです。その人たちが、日本語を話せないという理由だけで社会から孤立しているのです。それこそ数カ月間の先行投資で日本語を学習させて雇用し、「いい会社だね」と思ってもらえたら、その子どもやコミュニティの人たちも働いてくれるかもしれません。

 

今は海外から人材をどう呼び込むか? にばかりフォーカスが当たっていますが、今日本にいる外国人にももっと目を向ける企業が増えると良いなと思っています。例えば、日系人の親を雇用し、その子どもの教育を福利厚生で支援する企業があったら、人手不足は一気に解消するのではないかと思うんです。

 

――ありがとうございます。今回、永野さんの話をお聞きして、私たちには「外国人材」に対して多くの思い込みがあるのだと気づかされました。こうした思い込みを少しずつ解消していくことが大切だと思うのですが、すぐに始められることがあれば教えていただけますか?

 

永野 そうですね、日本人が行かないような在日外国人が通うディープなレストランに行ってみるのはどうでしょう? 特に都内であればさまざまな国の店がありますし、店員さんが片言の日本語しか話せないような場所もたくさんあります。そこで店員さんやお客さんのことを観察したり、コミュニケーションを取ったりすると、「実態」に近づくことができると思います。料理も美味しいですし、思い込みを捨てる第一歩としておすすめですよ。

 

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創業初期で巨額の資金調達! 世界が注目するアフリカのテック企業2社

【掲載日】2022年2月2日

アフリカのテック企業の成長と資金調達が加速しています。同大陸では近年、数多くの新興企業が出現し、世界各国の企業や投資家から注目を集めています。本稿では、その代表例として2社をピックアップ。両者は新しいビジネスモデルを構築し、2021年にプレシード段階(創業初期のコンセプト段階)で大規模な資金調達を実施しました。

 

電子カルテを患者自身が管理

エジプトの先進的なヘルスケアサービス「HealthTag」(画像提供/Bypa-ss)

 

まずは、ヘルステック分野で急成長を遂げているBypa-ss社。2019年にエジプトで設立した同社は、患者の病歴やデータ、いわゆる電子カルテと呼ばれる情報を各医療機関で共有できるサービスを展開しています。プレシード段階で国内外の投資家から約100万ドル(約1億1500万円※)の資金調達を成功させて一躍有名になりました。

※1ドル=約115円で換算(2021年2月1日時点)。以下同様。

 

Bypa-ss社は、創業者であるAndrew Saad氏が医学生時代に、医者が病歴を知らないために薬を投与できない女性に出会ったことがきっかけで、電子カルテの研究を行い、起業に至りました。同社は「HealthTag」というモバイルアプリとカードで患者自身が健康状況を管理できるサービスを提供しており、オンライン決済やエジプト国内医療機関における割引サービスも展開しています。患者が自分でカルテを持ち、医療費も節約できることは、患者本人のみならず医療従事者においても革新的なサービスであり、さらなる成長が期待されるでしょう。

 

国の教育制度に一石を投じるプラットフォーム

Edukoyaはナイジェリアの教育を変えるか? (画像提供/Edukoya)

 

一方、エドテック分野で前途を嘱望されているのが、オンライン教育プラットフォームを提供するナイジェリアのEdukoya社。同社は2021年12月のプレシード段階で350万ドル(約4億円)の資金調達目標を発表して、大きな注目を集めました。Honey Ogundeyi氏が同年5月に設立した同社は、現在ベータ版をリリースしており、2022年の本格稼働を目指しています。

 

ナイジェリアの最大都市ラゴスと英国のロンドンを拠点とする同社は、ナイジェリア国内の高等教育機関への進学を目指すユーザーをターゲットに、オンライン家庭教師をはじめ、試験準備や与えられた課題についての勉強法、問題集の提供、成績管理まで含めたサービスを現在無料で提供しています。将来は、有料サービスへのアップグレードを含めたフリーミアムモデルを展開する計画で、既存の教育機関や制度に満足できていなかったナイジェリアの学生や保護者から大きな期待が寄せられています。

 

創業者のOgundeyi氏は、数十年間変化のないナイジェリアの教育制度や多くの人々が失望している既存のシステムに一石を投じるために本サービスの展開を志しました。保護者と生徒に対して満足のいくサービスを目指して100%オンラインで提供しています。

 

プレシード期から多額の資金調達を実現しているアフリカのテック企業の中には、創業1年に満たない企業が多いのですが、同大陸は飛躍的な成長が見込まれているだけに、世界中の企業や投資家が投資やパートナーシップを狙っています。アフリカからますます目が離せません。

団結せよ! 復活に向けて弾みをつける「スリランカコーヒー」

【掲載日】2022年1月26日

セイロンティーの栽培地として世界的に有名なスリランカ(旧称セイロン)。しかし、この国はかつて世界第3位のコーヒー生産地でした。最近では、この歴史的遺産を復活させる取り組みが日本の協力を得つつ、スリランカ国内で活発化しています。

スリランカコーヒーは復活するか?

 

19世紀初頭にイギリスの植民地になったセイロン島では、1840年代にコーヒーの生産が最盛期を迎えますが、1880年代に「サビ病」と呼ばれる植物の病気によって同島のコーヒー農園は壊滅的な打撃を受けます。その後、イギリス人のトーマス・リプトンらによる紅茶の栽培が大成功すると、「セイロンコーヒー」は世界から忘れ去られました。

 

そんなスリランカのコーヒー産業が再び世界で脚光を浴びるようになったのは、2000年代に入ってからのこと。元来有していたコーヒー栽培に適した環境に加えて、フェアトレード(発展途上国の人々の社会的・経済的自立を支援するために、それらの生産品を公正な価格で取り引きする貿易の形)や、日本をはじめとする先進国のサポートが実を結び始めたのです。

 

現在、スリランカコーヒーの生産は、オーガニック栽培のセイロンコーヒーとしてスリランカ国内で盛り上がりを見せているのはもちろん、日本でも商品展開が拡大しています。スリランカでは、適度な酸味とフルーティーな香りに包まれるアラビカ種のコーヒーが栽培されていますが、日本からは2007年から約3年間、特定非営利活動法人の日本フェアトレード委員会が、同種のコーヒー栽培のコミュニティ開発をJICAの草の根協力支援としてサポート。さらにその後、同協会の代表がキヨタコーヒーカンパニーを創業し、現地の生産者と共に日本での商品展開を推進しています。

 

また、スリランカではコーヒー事業者の組織化が活発化しています。2021年には同国初の全国的な「ランカ・コーヒー協会(Lanka Coffee Association)」や、コーヒー関連事業者や生産者の連携や支援を図る「セイロン・コーヒーフェデレーション(Ceylon Coffee Federation)」が設立されました。従来ばらばらだった業界のルールや規制を統一することで、スリランカのコーヒー産業は足並みを揃えて復活に挑んでいる模様です。

 

スリランカの町中では新しいカフェが続々とオープンしており、コーヒー産業復活の機運が高まっています。

インドで取得数2位!「就労ビザ」から読み解く日本とインドの親密な関係

【掲載日】2022年1月25日

現在、インドでは就労ビザを有するアジア人が高い比率を有しています。2021年12月にインド外務省が公表した資料によると、同国で就労ビザを有する外国人の総数は2万607人。そのうちの約51%がアジア3か国で占められており、韓国(4748人)、日本(4038人)、中国(1783人)となっています。2位であるものの、日本の数字は親密な日印関係を象徴しているでしょう。

就労ビザの取得数が示す良好な日印関係

 

インドは13億人を超える世界2位の人口を誇り、生産年齢人口(15~64歳)の比率が多い人口ボーナス期に加えて、欧州や中東、アフリカ、アジア各国などとの地理的近接性や言語的優位性(英語)も持っています。しかし、これらのインドの強みは日本以外の国から見ても同様であるため、インドの中で日本独自のアドバンテージを見つけることが大切です。

 

日印両国においては、2015年に安倍晋三元首相とナレンドラ・モディ首相によって調印された「日印ヴィジョン2025特別戦略的グローバル・パートナーシップ(日印共同声明)」が、二国間の信頼関係を強力に後押ししており、インド太平洋地域における投資や安全保障、人的交流などの分野で強い影響力を持っています。

 

製造業にチャンスあり

また、2014年からモディ首相が推進しているインド製造業振興策「メイク・イン・インディア」も日本企業は考慮したほうが良いかもしれません。日本のインド進出企業においては製造業の比率が高く、外務省の海外進出日系企業拠点数調査によれば、2020年において日系企業のインド拠点総数4948の中で、製造業の割合は1731と約35%を占めており、最も比率が高い業種になっています。IT大国として知られるインドですが、日本との関係性においてはインド国内製造業の強力な振興策が、さらに深淵なパートナーシップを推進していることになるでしょう。

 

一方、インドにおける欧米諸国の就労ビザ取得数がアジア諸国より少ない要因については、インドをどのようなビジネスパートナーとして見るのかによるでしょう。筆者が外資系企業の日本支社で勤務した経験から述べると、例えば、欧米の巨大IT系企業におけるマネジメント層の就労を中心とした展開と、日本の製造業のような各部品の品質管理を行う現地担当者を要するビジネスでは、就労ビザの数が大きく変わると思われます。

 

さらに、インドでは雇用ビザを有していなくとも国内に配偶者等を有する人物に付与される永住権ビザ「OCI(Overseas Citizen of India)カード」が存在しており、欧米の就労者がこのビザを活用する傾向が高いため、就労ビザの取得数が少ないとも言われています。二国間のビザの取り扱いについては国ごとにルールや状況が異なるため、自国に付与されている詳細内容を確認する必要があります。

 

就労ビザの発行数だけで単純に比較することはできませんが、日本のプレゼンスが高まっていることは間違いありません。インドの将来的な経済成長力を見込んで、ビジネス展開を検討する日本企業は今後も増えていくでしょう。

 

途上国・新興国支援の新たな一手! 寄付型クラウドファンディングの可能性

【掲載日】2022年1月17日

国際協力やSDGs達成に貢献できる手段として現在注目され始めている、寄付型クラウドファンディング。株式会社奇兵隊が新興国を中心にグローバルに展開する、「Airfunding」「Airfunding for NGO」もそのサービスの一つです。そこで今回は、同社の代表取締役・阿部遼介氏にインタビュー。会社設立の経緯やサービスの内容、寄付型クラウドファンディングの今後の可能性などについてお聞きしました。

 

阿部遼介/大学卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。3年間、日本企業の新規事業立ち上げ支援、業務改革、BPO立ち上げ支援などのプロジェクトに従事した。その後2011年に株式会社奇兵隊の代表取締役に就任。以来、会社全体の事業戦略の策定、資金調達、採用及びサービスのマーケティング全般を担当している。

 

「海外の人々にあっと言わせるサービス」の提供を目指して、会社を設立

 

――株式会社奇兵隊を立ち上げた経緯について教えてください。

 

阿部 私は大学卒業後、3年にわたり日本企業のコンサルタントの仕事をしていました。その際に感じていたのが、海外で大きな売り上げを立てる日本の企業は、製造業以外ではまだまだ少ないということ。当時私と同じように考えていたのが、ベンチャーキャピタルで仕事をしていた和田(圭介/現・取締役会長)でした。もともと仕事仲間だった私たちは、2人で食事をした際に「海外で売り上げを立て、海外で使ってもらえるサービスをつくろう」と意気投合。最終的には、和田と同じ会社にいた村田(裕介/現・取締役)もメンバーに加わり、3人の共同創業という形で奇兵隊を立ち上げることになりました。

 

奇兵隊という社名は、幕末に長州藩士の高杉晋作が創設した「奇兵隊」からきています。身分を問わずに有志が集まって結成された軍隊「奇兵隊」は、当時の日本では“奇想天外”な組織だったはず。そこで「海外の人々をあっと言わせるようなサービスをつくりたい」という私たちの思いにも通ずるところがあると考え名付けました。

 

――創業当初はどのような事業を展開していたのでしょうか?

 

阿部 最初は海外向けのサービスをつくることしか決まっておらず、3人で話し合いながら具体的な事業内容を決めていきました。その結果スタートしたのが、海外向けのSNSアプリ「Airtripp」です。これは、写真や動画を通して世界の人々とつながったり、バーチャルギフトを贈り合ったりできるというもの。ユーザーの多くは東南アジアや南米の若者で、主に日本を含む東アジアやヨーロッパの人々とコミュニケーションを取ることを目的に利用されていました。

 

その中でユーザーからは、オンライン上でコミュニケーションを取るだけでなく、憧れている国に留学や旅行をしたいという声も上がっていました。そこで、そうしたユーザーの夢を応援するためのサービスとしてクラウドファンディング機能を導入したところ、予想以上に「Airtripp」内で資金が集まることがわかったんです。そこで、2018年からクラウドファンディング機能に特化したサービス「Airfunding」をスタートさせることになりました。現在の奇兵隊では「Airfunding」がメインの事業になっています。

――「Airtripp」や「Airfunding」など、グローバルなサービスを提供するにあたり、意識したことはありますか?

 

阿部 創業当初から「グローバルに耐えうる組織づくり」を意識していました。現在、32人ほどいるメンバーのうち3分の1は日本に、そのほかのメンバーは海外に住んでいます。その中には日本に住んでいる外国籍の人もいますし、海外に住んでいる日本人もいます。また、サービスのローカライズも意識していて、「Airtripp」「Airfunding」では17言語に対応しています。さらにさまざまな国から問い合わせがきても対応できるよう、英語だけではなく、中国語やヒンディー語、インドネシア語など、話者数が1億人以上いる言語については社内でカバーできるようにしています。

 

新興国向けの寄付型クラウドファンディングサービス「Airfunding」

 

――現在、奇兵隊が提供しているサービス「Airfunding」について、詳しく教えてください。

 

阿部 「Airfunding」は、一般の個人が、主に自身の身近な人たちから支援を集めることができる寄付型のクラウドファンディングサービスです。団体向けのサービスとは異なり個人が対象のため、プロジェクト数が非常に多く、一件当たりの支援額が少ないのが特徴です。2018年にサービスを開始して以来、約38万件のプロジェクトが立ち上げられてきました。

 

現在「Airfunding」のプロジェクトオーナーのうち約70%が、インドネシアやフィリピンなどの東南アジア、メキシコやコロンビアなどの中南米といった新興国の人々です。新興国ではいまだ健康保険などの制度が整っていない国も多く、ちょっとした病気でも年収と同じくらいの費用がかかってしまうケースも少なくありません。そのためプロジェクトの内容は、病気の治療費を集めることを目的としたものが半数ほどを占めています。そのほか、留学や災害支援を目的に資金を集めている人もいます。

 

また最近少しずつ増えているのが、「養鶏農場を拡大して雇用を創出したい」「孤児院の子どもたちにクリスマスプレゼントをあげたい」といった、SDGsに関連するようなプロジェクトです。新興国でも、自身の生活に余裕が生まれ、人のためになることをやろうと考える人が徐々に出てきていると感じています。個人的な目標ではない、社会貢献性の高いプロジェクトは、これからも増えていくと考えています。

――「Airfunding」のような個人の寄付型クラウドファンディングサービスのメリットや魅力はどのようなところにあるのでしょうか?

 

阿部「Airfunding」のようなサービスを利用することで、一般の個人であっても資金調達がしやすくなることはメリットの一つだと思います。何か困ったことがあってお金が必要なときに、周囲に直接支援をお願いするのはなかなかハードルが高いことですよね。実際、私たちのサービスを利用した人からも、「自然に支援をお願いできてありがたい」という声をよくいただいています。

 

「Airfunding」で資金を支援する90%以上の人は、そのプロジェクトオーナーの身近な人です。しかしその「身近な人」とは、単に仲の良い友人や毎日会うような人だけではありません。今は海外で働いている高校時代の友人や、2つ前の職場の人など、SNSでつながっているさまざまな人たちから支援してもらったという話を聞くことが多くあります。

 

また以前、心臓移植が必要な台湾の男の子が300人以上の支援者から200万円ほどの資金を集めたことがありました。それだけ資金を集められたのは、男の子の主治医がメディアに多数出演するインフルエンサーで、クラウドファンディングのことを知った彼が、自身のFacebookで支援を呼びかけたからでした。このようにSNSなどを通してより多くの人に声が届き、支援の輪が広がっていく。これは「Airfunding」のようなインターネットを使ったクラウドファンディングサービスならではの魅力だと感じています。

 

 海外NGOを応援するプログラムもスタート

 

――2021年4月からスタートした「Airfunding for NGO」についても教えてください。

 

阿部「Airfunding for NGO」は、世界各地で教育、医療、雇用など自国の課題のために活動する団体を支援する取り組みです。自国以外の人にも活動を知ってもらい、海外からの支援を獲得することを目指していて、私たち奇兵隊も一緒に寄付集めをサポートしています。

この取り組みを始めたのは、国連の関連組織IOM(国際移住機関)から話をいただいたことがきっかけでした。IOMでは、若者の60%以上が失業しているシエラレオネ共和国で、2000人の若者に対して職業訓練を行い、200人の起業支援を行おうと取り組んでいます。その起業家たちの資金調達の手段として、私たちのサービスが選ばれました。これを機にあらためて「Airfunding」で立ち上がっているプロジェクトを調べてみたところ、個人向けのサービスである「Airfunding」を利用して資金集めをしているNGOがほかにもあることがわかりました。そこで、海外NGO応援プログラムとして「Airfunding for NGO」を立ち上げることになったのです。

 

「Airfunding for NGO」の対象は、途上国や、新興国の農村部など貧しい地域で活動するNGOで、現在はシエラレオネのほか、ナイジェリア、コロンビア、ウガンダ、インドネシアの5つの団体をサポートしています。

今のところ「Airfunding for NGO」で寄付をしているのは主に日本の人々ですが、今後は日本でさらに認知度を高めながら、アメリカなどのドナーにもアプローチしていきたいと考えています。また、インターネットの会社である私たちならではの価値を創出しながら寄付金を集める方法も、今まさに模索しているところです。例えば、集まった資金で設立した学校に定点カメラを置いてライブ配信するなど、支援した寄付者と支援される側がインタラクティブに交流できるような体験づくりを考えていて、今後も試行錯誤を続けていくつもりです。

 

日本に適した寄付型クラウドファンディングサービスを考えていくことが大切

 

――今後、日本でも寄付型クラウドファンディングを広めていくためにはどうすればよいでしょうか

 

阿部 そもそも「寄付」に対する考え方は、宗教や文化によって大きく異なり、特にカトリックやイスラム教の信者が多い地域は他の国よりも寄付が集まりやすい傾向にあります。それに比べると日本、中国、韓国などの東アジアでは寄付文化がまだまだ育っていないのが現状です。しかし最近は日本でも少しずつ変わってきていて、特にこのコロナ禍では支援を求める人も増え、寄付型クラウドファンディングはかなり広まったのではないかと感じています。

 

そして今後日本でさらに広めていくためには、サービスのプロモーションや見せ方にも工夫が必要だと考えています。例えば日本では、個人が病気で困っているときに「クラウドファンディング」よりも「お見舞い」という表現を使って支援を募った方が、伝わりやすいかもしれません。また現在、日本ではライブ配信サービスが伸びていますが、そこでの「投げ銭」も寄付の一種です。そのため「バーチャルギフト」のような寄付の形は、日本でももっと広まる可能性があると感じています。このように、それぞれの国にローカライズしてコミュニケーションの方法を考えていくことが大切です。

 

また、オンラインで簡単に決済できたり、スピーディーに送金できたりすることも、サービスを提供するときにはとても重要なこと。日本に限らず、それぞれの国で利用率の高い決済方法や送金方法を整えていくことは必要不可欠だと感じています。

 

――奇兵隊としてのこれからの目標を教えてください。

 

今後も「Airfunding」の知名度を高め、より多くの人に使ってもらえるサービスへと育てていきたいです。そのために今試みていることの一つが、病院や大学との提携です。「Airfunding」はSNSのように毎日使うわけではなく、必要なときに思い出して使ってもらうサービス。そのため人々とサービスとの接点や動線をもっと増やしていきたいと考えています。奇兵隊ではこれからも、インターネットの力を使って世界を変えるような尖ったチャレンジを続けていきます。

 

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大事なことは‟使命感”と‟国を好きになる”こと! 多数の国で活躍してきたコンサルタントが学んだ「国際協力の本質」

【掲載日】2022年1月7日

国際協力に従事するプロフェッショナルに、開発途上国の現状やビジネスチャンスについてインタビューする本企画。今回は、幼少期からの20年を南米で過ごし、現在は主に教育分野で途上国の支援を行っている伊藤拓次郎さんにインタビュー。教育分野に興味を持つようになった経緯や、国際協力に取り組むときに大切なマインドなどをお聞きしました。

 

●伊藤拓次郎氏/1998年から10年以上にわたって、トルコ保健省、教育省、家族省などでODA事業を実施。トルコ以外でもこれまで約40か国でODA事業のさまざまなプロジェクトに携わった経験を持つ。専門は、インストラクショナルシステムデザイン、教育・教材開発、トレーナー育成、国際開発におけるプロジェクトマネジメントなど。現在はアイ・シー・ネットのグローバル事業部でトルコSTEAM教育事業の立ち上げに従事している。

 

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途上国の人々と同じ目線に立てることが、誰にも負けない強みになった

――まずは、伊藤さんが今のように国際協力の仕事に携わるようになった経緯を教えてください。

 

伊藤 私は5歳からの20年間を、主にパラグアイで過ごしました。そもそもパラグアイに移住した理由は、私の父親が「現地に学校をつくりたい」という夢を実現させるためでした。しかし父親は、私が小学5年生のときに他界。その後、兄から事あるごとに「父親の夢を引き継いで、一緒に学校づくりをしよう」と言われていたこともあり、私も将来は教育に関わる仕事をするものだと自然と考えていました。

 

しかし当時の私は、ジャングルのような場所に住んでいて、自宅の近くに学校がなく、自宅の隣町に下宿をしながら通学していました。先生の数も不足していて、まだ資格を持っていない学生の授業を受けることもあり、教育の環境はあまり良いとは言えない状況だったのです。こうした背景もあって私は小中学生の頃、勉強が好きではありませんでした。意識が変わったきっかけは、兄が通っていたアルゼンチンの高校に自分も通い始めたこと。アルゼンチンはパラグアイに比べると教育制度や評価システムが整っていて教育の質が良かったのですが、それだけではなく、先生たちが使命感を持って指導してくれることに、感銘を受けました。そのときに初めて学ぶことの面白さを実感して、大学では教育分野を学ぼうと決めたのです。

 

その後、パラグアイの大学に入学することはできたのですが、ちょうどその頃に友人から紹介されたのが、JICAのパラグアイ事務所での仕事でした。ここでローカルスタッフとして働くことになり、初めて国際協力に携わることになったのです。

 

――偶然の流れで国際協力に携わったのですね。その後も国際協力に臨むようになるのですか?

 

伊藤 いえ、ローカルスタッフとして通訳や翻訳などの仕事を4年間経験したあと、JICAの制度を利用して日本に留学したのです。2年間、日本の大学院で教育工学と視聴覚教育について学びました。そのとき、日本の教育環境がとても恵まれていることを実感し、自分がこれまで受けてきた教育との差にショックを受けました。また私はそれまで、南米で「外国人」として育ってきましたが、日本に戻ってきても、地理や歴史がわからなかったり、会話の内容が理解できなかったりして、母国であるはずなのに外国にいるような違和感を覚えました。自分が孤立しているように思えて、最初はとても寂しい思いをしましたね。

 

しかし、日本に来て自分の「ディスアドバンテージ」を実感したことが、私にとって頑張る理由にもなりました。レベルの高い教育を受けてきた人たちと対等に仕事をしていくためにはどうしたら良いのか。誰にも負けない自分の強みは何か。そうしたことを真剣に考えるようになったんです。そのときに、これまで南米で生活してきた経験が一つの強みになると気が付きました。生きていくだけで精一杯の過酷な途上国での生活や、外国人材や難民たちが抱える孤独感を、私自身とてもよく理解できる。いくら勉強しても身に付けることができないこの経験は、国際協力の仕事において誰にも負けないアドバンテージになると当時考えたものです。そこから、途上国の人々と同じ視点に立てるコンサルタントを目指すようになりました。その後、日本の大学院でJICAの沖縄国際センターのインストラクターと知り合ったことをきっかけに、私もそこで働けることになり、本格的に国際協力の仕事を始めました。

 

伊藤さんは過去にエルサルバドルの零細漁業開発計画調査といった活動にも従事している。沿岸資源管理の参加型普及、水産加工品流通プロモーションといった多岐に渡る活動の幅は、現在の活動にも通じる

 

大学院で培った「専門性」と「学び方」が、その後の指針に

――これまで仕事をした中で印象に残っていることを教えてください。

JICAの沖縄国際センターにいたときに、初めて長期派遣でトルコの技術協力プロジェクトに行った時のことです。トルコでは、保健省職員の能力強化を行いながら、家族計画や母子保健の普及啓発に関するプロジェクトに携わりました。ずっと南米で暮らしていた自分にとって中東の国での生活は、すべてが新鮮に感じたものです。

 

例えば、私はそれまで、南米で白人たちと接するときには、東洋人の自分が「下」に見られていると感じることがよくありました。逆に仕事で東南アジアに行ったときには、日本は豊かな国だから丁寧に接していれば何かいいことがあるのではと「上」に見られた経験もあります。常に下か上の存在として接されてきた中で、トルコでは初めて対等に付き合ってくれる人たちがいたんですよね。蔑まれることも見返りを求められることもない、相手と対等な関係を築くことができて、とてもうれしく思いました。だからこそ、私自身が持つ専門性や強みがより試されるような感覚もあり、さらに仕事を頑張りたいと思うきっかけにもなったのです。

 

伊藤さんは、教育・人材育成関連でも多くの活動に従事してきた。ミャンマーでは、児童中心型教育強化プロジェクトに参画し、人材育成や教材開発を行っていた。写真では、ミャンマー教育大臣にプロジェクト活動を説明している

 

しかしトルコで4年間仕事をした後、新たなインプットを求めて大学院で学ぼうと考え始めました。そのきっかけは、アメリカで調査の仕事を手伝っていた際に、アメリカの大学の先生たちとの懇親会。そのときに隣に座っていた先生から、ふと「あなたの専門分野は何ですか?」と質問されたんです。私は今までやってきた国際協力の仕事については、いくらでも話すことができたのですが、この単純な質問には答えることができませんでした。私自身の本質を問われたようにも感じ、自分は35歳にもなって「これが専門です」と言えるものがないことにとてもショックを受けました。この経験をきっかけに何か一つ極めたいという気持ちがより強くなり、大学院に通う決意を固めました。

 

その後、日本の大学院に進学して、インストラクショナルデザインについて学び、自分の専門性を磨いていきました。仕事をしながら通っていたこともあって、卒業には9年かかりましたが、この9年間の中で得た一番の学びは、「学び方」を学べたこと。大学院では基本的に自分で研究を進めなければならず、最初は「もう少し教えてほしい」と思ったこともありました。しかし結果的には自分で主体的に学んだからこそ、その大切さや楽しさを知ることができたのだと思います。そして同時に、「自分で学ぶことの楽しさ」を一度味わうことができれば、どんなに教育環境が悪いところでも、子どもたちの学力は伸びていくはずだと確信しました。子どもたちが自分で学ぶ方法を身に付けられる環境をつくり、学ぶことの楽しさを伝えたい。この気持ちが、今の私が国際協力に取り組む原動力になっています。

 

現在、伊藤氏が取り組むSTEAM教育事業の一環である、「科学実験教室」デモンストレーション

 

――現在はどのような仕事をされているのでしょうか?

現在は、アイ・シー・ネットのグローバル事業部で民間ビジネスの分野にチャレンジしています。今はちょうど、トルコでSTEAM教育の事業を立ち上げようとしているところです。これから経済成長が期待されるトルコのような新興国では、国を支える新たな産業をつくっていく必要があり、その担い手として「産業人材」の育成が急務になっています。私たちは、技術研修などを行いながら、初等教育からSTEAM教育を取り入れていくためのお手伝いをしています。将来の国を支える、新しい価値を創造できる人材を育てていくために、これからも力を尽くしていきたいと思っています。

 

「与える」のではなく「お返しする」気持ちを持って支援する

――伊藤さんがお仕事の中で大切にしていることを教えてください。

 最初から自分のやりたいことができなかったとしても、まずは今、自分が与えられた環境の中でベストを尽くすことを意識しています。私は以前から、教育の分野に携わりたいと思っていたものの最初はチャンスがなく、違う分野で仕事をしていました。しかし、経験を積んだことでチャンスが訪れてやりたいことができましたし、自分の力が活かせる場所もさらに広がったと思います。自分の中に揺るがない軸を持って、今いる場所でできることに真摯に取り組んでいく。そうすれば自ずと道は開けてくると考えています。

 

また国際協力の仕事では、その国と人を「好きになること」が一番大切。好きになることで「この国の、この人たちのために何かをしたい」という気持ちが自然と生まれてくるはずです。私の経験上、「一緒に何かをしたい」という素朴な気持ちがあることで、現地の人たちもより協力してくれますし、仲間に入れてくれるように感じます。そしてもう一つ大切だと考えているのが「使命感を持つこと」です。国際協力の仕事をするには、学歴や語学力だけでなく、「自分は何のためにこの仕事をやるのか」という自分なりの使命感を持つことも欠かせないと考えています。

 

――最後に、国際協力の仕事をしたいと考えている人たちに向けて、メッセージをお願いします。

国際協力の仕事では、「してあげる」のではなく、支援する国のおかげで私たちも生きていくことができる、という意識を持って取り組んでほしいと思います。

 

私自身がこれを特に実感したのは、東日本大震災のときでした。この震災で私の生まれ故郷である岩手県も大きな影響を受け、大勢の人が亡くなりました。私はこのときミャンマーで教育プロジェクトに関わっていたのですが、震災のことを知ったミャンマーの学校の先生たちが、お金を集めてJICAの事務所に届けてくれたのです。当時の先生たちの給料は日本円にして1000円ほどですが、彼らが集めてくれたお金は30万円。余裕があるわけではないのに、必死にかき集めて「少しでも役立ててほしい」と用意してくれたのです。

 

これはあくまでも一例ですが、私たち日本人は自分たちの力だけで生きているわけではなく、多くの国から支えられています。そのため国際協力は、私たちが共存して生きていくために当たり前のことであり、欠かせないこと。この考えを常に忘れないことが大切だと考えています。

夢を実現するため海外ビジネスコンサルティング業界へ。異業種からの転職はやりがいのある毎日に

【掲載日】2021年12月27日

海外での業務やコンサルティング業務に興味はあるものの、転職にハードルを感じている人は少なくありません。しかし、たとえ経験がなくとも、自身の経験や知識を活かすことで、その力を発揮できる場はたくさんあります。今回はかねてからの夢を叶えるため、まさしく他業種から現在のコンサル業務へと転職した渕上雄貴さんにお話をうかがいました。

 

渕上雄貴/大学・大学院で資源工学を学び、在学中にはガーナでマイクロファイナンスボランティアにも参加。卒業後、2015年から石油精製プラントやLNGプラント建設プロジェクトを請け負う企業に入社。2019年10月にアイ・シー・ネットへ転職。現在、コンサルティング事業本部スタッフとして、予算管理、財務経済分析、人材育成などのプロジェクト管理、調査・研究、評価などに関する開発コンサルティング業務を担当している。

 

 夢だったアフリカでの仕事の機会を得るために転職

 

――はじめに、現職にいたるまでの経緯を教えてください。

 

渕上 私は、10代の頃から海外で働きたいという強い思いを持っていました。高校時代にOBの講演会があり、そこで、NPO法人をスーダンで立ち上げ、医療活動をされている方の話を聞いたのがきっかけでした。その方は元ラグビー部のOBでもあり、仲間たちを通じて資金を集め、知恵とお金でいくつもの難しい課題を解決していったという姿に感銘を受けたんです。また、そのお話を聞いた時、同時に、私もアフリカや途上国で仕事がしたいという思いが湧きました。

 

そうした夢を抱いたまま、大学では資源工学を学びました。いわゆる、ガスや石油、鉱物といった天然資源に関する学科で、その頃は環境にも興味を持っていたこともあり、石炭や石油の発電所の隣に二酸化炭素を地下に埋める施設を作ることでトータル的にクリーンなエネルギーを生み出す研究もしていました。

 

また、私が通っていた大学ではインドネシアなどでフィールドワークをする機会も多く、それが大学を選ぶ決め手にもなったのですが、実際に在学中には海外留学をし、インドネシアの金鉱山を訪れて金を採集する経験をしたり、反対に、大学にやって来るさまざまな国の留学生とも交流を深めていきました。卒業後も大学で学んだことを活かし、海外で石油・ガスプラントを建設する企業に入社。そこで約4年半働いたのち、現職のアイ・シー・ネットに転職しました。

 

――前職では具体的にどのようなお仕事をされていたのでしょう?

 

渕上 主にスケジュール管理です。プロジェクトマネジメント部という部署で、取引企業を相手にプロジェクトのスケジュール管理やプラント建設の進捗状況を毎週、毎月報告。さらには、設計部や調達部、工事下請け会社の督促などもおこなっていました。直接現場に赴くことも多く、新入社員の頃に3ヵ月ほどフィリピンに、カタールには半年ほど行き、現地の方と建設を進めていく経験もしました。

 

ただ、当初はフィリピンやインドネシア、モザンビークなどに積極的に進出していくという企業方針に惹かれて入社したのですが、2018〜19年頃にアメリカでガスが出はじめたんですね。そのことで会社の軸がアメリカに向いてしまい、私が望んでいた途上国での仕事はもう少し先延ばしになるとのことでしたので、2019年の秋に思い切って転職を決めました。

 

建設業からコンサルティング業務への転職でしたが、かねてより興味があったアフリカで働くことができそうだというのが、アイ・シー・ネットを選んだ大きな理由でした。また、アイ・シー・ネットがJICA(独立行政法人国際協力機構)のパートナーだったこともあり、途上国支援に関われる機会が多いこともアイ・シー・ネットを選んだ要因のひとつです。もともと、“まずはやってみないと分からない!”という性格なので(笑)、他業種への転職にハードルを感じることもありませんでしたね。

調査で訪れたルワンダ首都・キガリの街

 

 戦略的なアドバイスだけでなく、一緒に夢に向かって伴走していくこともやりがいに

 

――今は主にどのようなお仕事をされているのですか?

 

渕上 民間企業支援とJICAに関連した業務がちょうど半分ずつという感じです。民間企業支援は「飛びだせJapan!」のプロジェクトがメイン。これは、アフリカをはじめとする途上国でビジネスをしたいと考えている企業を支援していくというもので、業務内容は募集広告から書類選考、採択後の支援まで多岐にわたり、トータル的に企業とお付き合いをしながら、二人三脚で事業の実現に向けて活動しています。

 

また、私が現在担当しているのは南アフリカとウガンダになります。採用された企業の中から、どの企業を支援したいかは自分で決めることができたため、それだけにとても強いやりがいあります。ウガンダでは、どのようにビジネスを実施しているのかを、実際に現地に行って見たり、関係者へのヒアリングしたりして、ビジネスの今後の展望や、現地政府職員のそのビジネスへの期待の声などを聞くことができましたので、“まさしく自分がやりたいことがここにある”と感じました。

 

――一番の楽しさはどんなところでしょう?

 

渕上 やはり、アフリカでビジネスを立ち上げた方は熱意を持っていらっしゃる方が多いので、先ほどもお話ししたように、一緒に夢に向かって伴走している気持ちになれるところです。一般的にコンサルティングというと、データなどを元に戦略的なアドバイスを伝えていくような印象をお持ちの方が多いかと思います。でも、私がやっているのは、皆さんと常に同じ目線に立ち、可能な限り希望に叶う道をともに模索していくこと。人対人のコミュニケーションがとても重要になってくる。そこにいつもやりがいと楽しさを感じます。思えば、大学時代も前職でも、私は防火服を着て、ヘルメットを被り、図面を持って現場を歩き回る経験をよくしていたので、そうした作業が自分には合っているのかもしれません(笑)。それに、実現までの提案書や報告書をまとめるようなモノを書く作業も、前職の経験が強く活かされているように思いますね。

 

――JICAの業務についても教えていただけますか。

 

渕上 日本に来る外国人が年々増えていく中、JICAではビジネス人材の育成をはじめ、日本の自治体や企業と高度人材を連携させていくことを目的とした「日本人材開発センター(通称:日本センター)」を世界各国に設置しています。この日本センターをどう活かしていくかを調査するのが私の役割であり、2021年の春頃から携わっています。こちらは比較的新しいプロジェクトであることから、JICAにも、企業や自治体にもあまり知見がなく、そのため、ひとつひとつ湧き上がる問題に対応しながら、活動を進めています。また、近年のコロナ禍で、直接、海外の日本センターに状況を見に行くことができず、反対に今は海外からの人材の受け入れもストップしていますので、この環境下でできることも模索しているところです。

飛びだせJapan!ウガンダでのモバイルマネーを用いた自動井戸料金回収サービスの現地視察(株式会社 Sunda Technology Global:https://www.sundaglobal.com/

 

 大切なのはコミュニケーションとコネクション

 

――現職に就いて2年が経ち、ご自身の中にどのような変化があったと感じていますか?

 

渕上 一番大きいのは、誰かをサポートする仕事が自分に向いていると気づけたことです。実は、自分もアフリカで起業してみたいと考えたことがありました。でも、企業を支援する側に立ち、皆さんの熱量を感じているうちに、どんどんとその思いが薄れていったんです。正直な話、お金儲けをしようと思うのなら、成長の度合いをみても東南アジアに目を向けたほうが収益は見込めます。しかし、あえてアフリカを選択している以上、そこには確固たる思いが皆さんの中にあるんですよね。それを近くで感じ、支援という形で携われていることが、自分にとって今は大きな喜びになっています。

 

また、そのために大事にしなければいけないのがコミュニケーションとコネクションだと感じています。相手が何を求めているのかを、会話をする中でしっかりと感じ取る。そうやって信頼関係を築き、それを積み重ねていけば、やがては大きなコネクションとなり、将来的に新たにアフリカでビジネスをしたいと考える方のための架け橋にもなれる。その意味でも、人との繋がりは大切にしていかなければいけないと、改めて強く思うようになりました。

 

――渕上さんのように他業種からコンサルティング業務に転職しようと思われている方は多いと思います。ご自身の経験から、どのような人が向いていると感じますか?

 

渕上 コンサルティングの仕事には論理的思考や戦略に長けた力も必要だと思いますが、今の私の業務でいえば、自ら動き回れるフットワークの軽さが求められているように思います。また、担当する企業もさまざまですので、広い視野でいろんなことを楽しめる方も向いているのではないでしょうか。とはいえ、コンサルの仕事に興味があれば、職種はあまり関係ないように感じます。私自身は学生時代に環境やエネルギーを学んできた人間ですので、担当する企業もその分野が多くなります。でも、なかには同じアフリカでも食品や保健医療、それに教育の知識や知恵を必要としている企業もたくさんあります。それに、バックグラウンドがさまざまな人材がアイ・シー・ネットに集まってくれれば、お互いに協力しあいながら、途上国の発展を早められるアイデアが生まれるかもしれません。実際に、私のまわりにも航空業界や法律事務所など、さまざまな業種の経歴を持つ方がたくさんいらっしゃいますので、まずは飛び込んできていただければと思います。

 

 アフリカと日本企業との長期的なマッチングを目指す

 

――最後に、渕上さんの今後の展望を教えてください。

 

渕上 今、私が担当しているのはスタートアップ企業が多いんです。皆さんが求めているのは、戦略的なアドバイスというよりは、同じ目線でサポートをしてくれるコンサルだと感じています。私自身、一緒に現地に行って、ともに汗を流し、ともに喜びを得ることに幸せを感じていますので、そのスタンスは変わらず持ち続けていきたいですね。また、現在のJICAの業務をまっとうしつつ、アフリカ企業のクライアントの比率をもっと増やしていきたいと思っています。自分の興味関心の深い分野である環境やエネルギーを軸に、IoTを使ったソリューションにフォーカスしていけたらと考えています。そして、人との繋がりで得たコネクションで新しいビジネス展開を模索し、長期的にアフリカと日本の企業のマッチングしていく。それが今の私の目標ですね。

 

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日本とミャンマーを繋ぐ「食」の可能性! 発酵食品や食品加工技術などミャンマーの特性と現状を探る

ミャンマーは2011年以降、政治や経済の改革によって国が大きく発展し、現在「アジア最後のフロンティア」とも呼ばれています。それに伴い、人々の生活にもさまざまな変化が。食に対する考え方もその一つです。

 

そこで今回は、食品の生産、加工、マーケティングなどを自身で実践し、その経験を国際協力の場でも活かしている小山敦史氏に話を伺いました。変化するミャンマーの食生活や、日本への展開が期待できる食品、日本が支援できる食品加工技術などを解説しつつ、これからのミャンマーの「食」について考えます。

 

お話を聞いた人

小山敦史氏

通信社で勤務したのち、開発コンサルティング会社に転職。国際開発の仕事を続けながら、アメリカの大学院で熱帯農業を学び、帰国後に沖縄で農業を開始。4年間ほど野菜を生産したのちに畜産業も始め、現在は食肉の加工や販売、市場調査など、幅広く行っている。自身が実践してきたビジネス経験をコンサルティングの仕事でも常に活かしており、現在はバングラデシュで食品安全に関する仕事に取り組んでいる。

 

中間層が増え、人々のライフスタイルや食事が変化

2011年にそれまで30年以上続いていた軍政が終わり、民主化されたミャンマー。現在は再び不安定な政況になっていますが、この10年間でミャンマーの国内には、さまざまな情報やものが一気に入ってきました。経済が成長したことで、人々の所得が増え、中間層の割合も増加しています。

 

 

これに伴い、人々の生活も大きく変化しました。例えば食の分野では、欧米化が進んでいたり、それまでは贅沢だった食品が日常的に食べられるようになったりしています。2020年の食品分野における市場規模のランキングを見ると、1位がケーキやスナックなどのお菓子類で33億5600万ドル、2位がパン・シリアルで26億2900万ドル、3位が水産物で22億3100万ドルです。また2013年から2020年の間で市場の伸び率が最も高かったのはベビーフードで、140.1%も伸びたことが分かっています。

 

 

こういった傾向について、小山氏は以下のようにコメントしています。

 

「ミャンマーの人たちは、これまであまり触れてこなかった食品に対する素朴な好奇心や憧れを持っていて、それが市場規模の数字にも表れているのだと思います。水産物やベビーフードのように決して安くはない食品の市場が伸びていることからも、人々の生活が豊かになってきていることがうかがえます。さらにヤンゴンなどの都市部では現在、寿司などの日本食レストランが出てきていて、日本の食べ物に対する興味関心が強くなっていることも実感しました」

 

ミャンマー独自の「お茶の漬物」は、日本での展開も期待できる食品

さまざまな食べ物が海外から入ってきているミャンマーですが、今後、日本への展開が期待できる現地の食品もあります。その一つが、お茶の漬物「ラペッソー」。ラペッソーは、生のお茶の葉を蒸して揉みこみ、ビニール袋などに詰めて、上から重石をのせた状態で1~2カ月、長ければ1年ほどの間、漬け込んでつくられます。ミャンマーをはじめASEAN各国では漬物がよく食べられていますが、お茶の漬物はミャンマー独自のもの。ミャンマーではピーナッツや油と混ぜ合わせてお茶請けとして食べることが多く、特に地方では毎日のように食べられています。「ラペッソーは日本でも好まれるのでは」と考える小山氏に、その理由や魅力を聞きました。

ミャンマーで日常的に食べられているお茶の漬物「ラペッソー」

 

「ラペッソーは、日本の漬物と同じように乳酸発酵でつくられています。そのため私たちが普段から親しんでいる漬物に近い味わい。日本人の口にも合うはずです。日本の『柴漬け』とよく似た風味です。製造時には塩を使わず、食べる際に塩加減をするものなので、塩分が気になる健康志向の人にも手に取ってもらいやすい。さらにラペッソーには発酵のうま味があるので、調味料的に使うことも可能です。キムチのようにチャーハンと混ぜたり肉と一緒に炒めたりしてもおいしく食べることができて、その汎用性の高さも魅力だと考えています」

 

ミャンマーのお茶は多くが北東部のシャン州山間部で生産されていて、ラペッソーもそのエリアでつくられています。そこからミャンマー全土に流通しており、ヤンゴンなどの都市部ではコンビニなどでも購入することが可能です。また、常温で持ち運びができるびん入り製品なども販売されていて、海外旅行客のお土産としての需要もあります。

レモン風味のペースト状ラペッソー

 

「私が支援した現地の企業の中には、ラペッソーを欧米のレストランなどに業務用として輸出しているところもありました。日本でも販売することは可能だと思いますが、ミャンマーで食べられているものを最初からそのまま販売するのは、少しハードルが高いかもしれません。マーケティングには工夫が必要です。

 

マーケティング方法の一つとして考えられるのは、日本国内で人気のあるシェフや料理家にラペッソーを使ってメニューを考えてもらい、新たな食べ方を提案していくこと。例えばミャンマーでは現在、お茶の葉をすりつぶしてペースト状にした商品が販売されています。パンに塗ったりパスタと絡めたりして使用することを想定した商品ですが、これはミャンマー人たちにとってもかなり新しいもの。しかし日本に輸出する場合はむしろ、このような調味料に使える商品から展開したほうが、幅広い使い方をイメージしやすいのではないでしょうか」

 

「ニーズだらけ」のミャンマー市場 日本の技術が活かせるところが多くある

現在ミャンマーでは、日本への関心が高まっていることを受け、そこに新たなビジネスチャンスを見出す現地企業も出てきています。例えば今、小山氏がJICAのプロジェクトで技術支援を行っているのが、日本式しょうゆの製造にチャレンジしている企業です。ここはもともと酢をつくっている企業ですが、これから人口が極端に増えない限り、酢の市場を大きく伸ばすことは難しいと考えた社長が、何か新しいものをつくろうと、日本式しょうゆに目をつけたそう。最初は自分たちで研究開発をしていましたが、なかなかうまくいかず、JICAで技術支援を行うことになったのだと言います。

 

「ミャンマーでは一般的にとろみと甘みが強い中国式しょうゆが使われることはありますが、さらっとした日本式しょうゆはまだほとんど出回っていません。現在、日本の食品に対する関心が高まっているので、ミャンマー国内でもヒットするのではと社長は期待しているようです。日本と同じように一から醸造してつくることができれば、おそらくミャンマーで初となる、日本式しょうゆの現地生産の成功例になると思います」

 

 

発酵食品をつくる技術以外にも、食の分野で「日本から技術支援投資できることはいくらでもある」と小山氏。その一つが、衛生管理を含めた食品加工技術です。小山氏自身、食肉の加工を行っている現地企業に訪問した際、製造現場に菌などの混入を防ぐための囲いがなかったり、雑菌の繫殖を抑えるための低い室温が保たれていなかったりと、衛生管理がきちんとなされていない状況をいくつも目の当たりにしたと言います。

 

そのほかにも、例えば牛乳をつくるとき、乳を搾る段階からパッケージして店頭に並べるまでの一連の過程の中で「菌の管理」は非常に大切です。どこかの工程で菌が入ってしまえば、賞味期限が短くなったり、店頭に並んだ商品のうちいくつかの中身が腐っていたりすることにもなりかねません。小山氏は「ミャンマーでは、まだこのようなサプライチェーン全体で菌の管理をする技術が発達していないため、日本の衛生管理技術を活かして支援することができるのでは」と話します。

 

「衛生管理を含む食品加工技術はもちろん、クオリティの高い日本の食品や日本食レストランなど、ニーズはたくさんあると思います。課題の一つになるのが、外国企業に対する『投資規制』です。これはミャンマー以外の国にもあるものですが、現在、政況が不安定なミャンマーでは特に事前によく調べる必要があります。しかし経済は今後も確実に伸びていくので、日本企業が進出するチャンスは十分にあるのではないかと考えています」

 

強い起業家精神を持つ若い経営者たちが増加し、進出のチャンスも拡大

現在ミャンマーでは、祖父や父親が創業世代である、第2世代・第3世代の若手経営者たちの活躍が目立つようになってきています。彼らの強みは、「軍政時代に苦労してきた創業世代とは違って、自由な発想でビジネスができることではないか」と小山氏。さらに金銭的なゆとりがでてきたことで留学する人も増え、語学力やグローバルな視点を身に付けている人が多いことも特徴の一つだと言います。

 

 

「私はこれまで30社ほどの現地の有力企業を回りましたが、印象としてはその3分の1ほどの企業に、情報感度やグローバルへの意識が非常に高い若手経営者たちがいたように思います。例えば、欧米にお茶を出荷している企業では、事前に欧米のマーケットのあり様や食の好みなどを入念に調査して、ミャンマー国内とは異なる市場でどう展開していくのか、試行錯誤を重ねていました。また、世界的に健康志向が高まっていることを受け、お茶をすべてオーガニックでつくり、国際認証を取って海外へ輸出をしている企業もありましたね」

 

さらに小山氏は、ミャンマーにいる2世・3世の若手経営者たちには強い「起業家精神」があり、熱量を持って新しいことをやっていこうとする気持ちが感じられると言います。

 

「例えば私が出会った中で印象的だったのは、パッケージ米を売り始めた、精米所の2代目社長です。きれいにパッケージされた海外の米を見た30代の彼女は、米の量り売りが普通のミャンマーでもパッケージ米を販売したいと考え、チャレンジを始めました。パッケージ米を置くディスプレイ台を作成してお店に置いてもらえるよう頼んでまわるなど、地道なマーケティング方法ではありますが、付加価値がとれ、衛生管理レベルや輸送効率の向上も期待できるパッケージ米を広めるべく、熱心に取り組んでいます。このようにグローバルな視点を持ち、新しいことに積極的にチャレンジする経営者たちが増えてきているように感じています」

 

これからミャンマー進出を考えている日本企業は、「起業家精神が強く、情報感度の高い『新しい感覚』を持つ経営者がいる企業を、パートナーとして探すのがいいのではないでしょうか。ミャンマーへの投資は、今の政治状況では『逆張り』と言えるかもしれませんが、市場が大きく伸びる中で、魅力的な若い企業経営者が育ちつつあるのは確かです」と小山氏。経済発展が期待されるミャンマーへの進出において、「パートナー探し」も一つの大きなポイントと言えそうです。

 

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日本企業の技術とノウハウに活路あり! タイの「循環型経済」とは?

【掲載日】2021年12月22日

近年、先進国は環境に配慮した持続可能な経済モデルの構築に取り組んでいます。ASEAN諸国もこの潮流に乗っていますが、なかでもタイが展開しているBCG経済モデルは、日本企業の海外ビジネスにとってチャンスの一つかもしれません。

「バイオ」と「グリーン」を加えた「循環型経済モデル」を構築しているタイ

 

バイオ(Bio)、循環型(Circular)、グリーン(Green)の頭文字から成る「BCG」は、文字通りタイが環境への配慮や持続可能な経済モデル、同国の強みの一つである農業に結びつくバイオ産業を推進していくことを意味しています。2021年1月、タイのプラユット・ジャンオーチャー首相は、2010年代から取り組んでいた経済ビジョン「タイランド4.0」から方向転換をして、BCGを国家戦略にすることを表明。この政策は今後5年間にわたり実行される計画です。

 

BCG政策は、(1)食品・農業(2)バイオエネルギー・バイオケミカル・バイオマテリアル(3)医療・健康(4)観光・クリエイティブ経済の4カテゴリーに注力するもので、開発資金や減税措置、技術的・教育的な支援などが提供される国家プロジェクトです。

 

BCG経済を実現するためには、上記の分野に関する高度な知識や能力を有する人材の育成が不可欠。タイは、BCG戦略の手本としている日本から技術やノウハウを学ぼうとしています。日本側はそれに呼応する形でさまざまな動きを見せており、日本貿易振興機構(ジェトロ)がタイのエネルギー省とワークショップを開催したり、バンコク日本人商工会議所がBCGについて会合を開いたりしています。

 

大企業からスタートアップまでタイに投資

また、数多くの日本企業がタイでビジネス展開を始めており、2021年には三菱自動車工業がタイの生産工場で太陽光発電設備を稼働しています。豊田通商は通勤バスのスマートモビリティ化を目指して現地企業に投資したほか、バイオベンチャーのスパイバーは、同社が開発した新素材の量産工場をタイに建設しました。医療分野においても富士フィルムの現地法人が新型コロナウイルス抗原検査キットをタイ国内で販売しており、技術や研究開発において優位性がある日本企業にとって追い風が吹いているでしょう。

 

BCG政策は4つの分野に注力されていますが、タイ政府による支援プログラムは多岐にわたり、税金優遇策や技術、インフラ支援などに加えて、研究開発や製品化などに向けた基金も準備されています。加えて、投資においても優遇策がありますので、日本からタイへの展開を検討する際には専門知識を有する機関や企業に意見を聞きながら、タイムリーで効果的な計画を策定し、実行することが大切です。

日本とアフリカにおけるビジネス活動を促進する「第2回日アフリカ官民経済フォーラム」開催報告

2021年12月7日から9日までの3日間「第2回日アフリカ官民経済フォーラム」が開催されました。経済産業省、ケニア政府、日本貿易振興機構(JETRO)の共同開催による同フォーラムは、日本とアメリカ双方の官民ハイレベルが集まり、貿易・投資、インフラ、エネルギー等の各分野において、具体的なビジネス成果につなげていくための工夫の在り方を議論する場です。さまざまな分野で経験を積んだ専門家による洞察に富んだプレゼンテーション、パネルディスカッションが行われました。

 

<プログラム[各75〜120分]>

【DAY 1】
Panel 1:COVID-19 でも加速するアフリカビジネスのスタートアップ企業の可能性
Panel 2:AfCFTAの最新動向と、ビジネスからの期待
Panel 3:アフリカの産業化への日本の貢献と日本への期待

【DAY 2】
Panel 4:アフリカの電化とクリーンエネルギー導入、通信デジタルインフラ整備への貢献
Panel 5:民間投資の拡大に向けた官民連携の取り組み
MOU(了解覚書)セレモニー

【DAY 3】
Panel discussion:日アフリカビジネスリーダーズフォーラム

 

[1日目]Panel 1:スタートアップ企業の可能性を探る

 

初日の7日は、最初にJETRO理事・中條一哉氏、ケニア投資庁のOlivia RACHIER氏の開会挨拶から始まりました。Panel 1のセッションは、「COVID-19でも加速するアフリカビジネスのスタートアップ企業の可能性」がテーマです。前半は、起業家の視点でアフリカでのビジネスの可能性が語られました。

 

まず、JICAの発展途上国の起業家支援活動「Project NINJA」が取り上げられ、そこで実施されたアフリカでのビジネスコンテストへ寄せられたアイデアからトレンドを分析。応募案件は、食品農業分野が30%、保険医療分野が16%と多く、フィンテック分野に資金が集まるアフリカのスタートアップ企業向け投資と、起業家のアプローチの違いが浮き彫りとなりました。

 

開会挨拶を行なったケニア投資庁のOlivia RACHIER氏

 

スタートアップ企業が注目するのは、農業と保険医療セクター

 

続いてその農業と保険医療分野のスタートアップ企業3社がプレゼンテーション。1社目は、ケニアの農業物流に変革をもたらしたTwiga foodsです。アフリカでは多くの小規模小売業者が分散しており、消費者に届くまでに何層もの仲介業者が挟まっています。Twiga foodsは、このフードサプライチェーンの非効率をICTの技術で解決し、より廉価な商品を消費者に届けることに成功しました。成長の要因の一つには、ケニアで携帯電話の通信回線とM-Pesaと呼ばれる電子決済サービスが普及していた点が挙げられましたが、CEOのPeter NJONJO氏は、「通信会社はアフリカ大陸全体で事業の多角化を進めており、他のアフリカ諸国でも向こう2、3年のうちにモバイルマネーをはじめとする多様なサービスが提供されるだろう」と予測しています。

フードサプライチェーンの非効率を解決したTwiga foodsのソリューション

 

2社目には、前日6日に経済産業省とアイ・シー・ネットの共催で行われたサイドイベントで成果普及セミナーが行われた「技術協力活用型・新興国市場開拓事業(通称:飛びだせJapan!)」に採択された日本の企業キャスタリアが登壇。タンザニアで事業を展開しています。キャスタリアが開発したのは、妊婦の電子カルテと情報提供機能が一体化したスマートフォンアプリ。アプリ上で助産婦が入力する診察カルテをクラウド上に保管でき、妊婦に対しても妊娠周期ごとに必要となる知識や注意点などを配信できるサービスです。

 

「タンザニアは、急速に増える人口に対し医療の提供機会が足りていません。妊娠出産を契機に亡くなる女性の数はいまだ非常に高い。病院での妊婦検診に時間がかかるため病院を訪れず、必要な知識が得られないので自身や胎児の健康を害してしまいます」とキャスタリアの鈴木南美氏。こうした状況を改善するため2022年夏のアプリ運用開始に向け準備中です。鈴木氏は「アフリカにおけるスマートフォンの普及率は確実に広がっています。我々のような小さな会社でもメディカルの領域に進出できる、それこそがアフリカで事業を行う最大の可能性であり魅力だと実感しています」と力を込めました。

 

3社目に登壇した日本植物燃料は、先の2社が行う物流改善やヘルステックといったものを包括する「農村のコミュニティ開発」にまで視野を広げています。日本植物燃料は、アフリカの農村部でバイオ燃料事業に参入したことを皮切りに、農民の組合を立ち上げ、フードバリューチェーンの改善を進めました。さらに電子マネーを導入し、日本や現地の企業と現地農家グループをつなぐ、作物、資材、金融、技術の売買マッチングサイト「電子農協プラットフォーム」のサービスを開始。今後は、こうしてできた電子マネー経済圏を用いて、農民の暮らし全体を向上させるマルチソリューションの実現を目指しています。

 

日本植物燃料が進めるマルチソリューション「Small Smart Community」。Smallは、小型分散型のファシリティやエネルギー、Smartはデジタライゼーションを表している

 

コロナ禍で加速するデジタル化が、全ての分野でトレンドに

 

後半のパネルディスカッションでは、投資家の視点からアフリカ市場の可能性が語られました。技術イノベーションに対する投資が急増するアフリカでは、ナイジェリア、ケニア、南アフリカ、エジプトがBIG4と呼ばれ市場を支配しています。特にナイジェリアは、スタートアップ企業のエコシステムが機能する最大の市場です。

 

「特にフィンテック分野は、全体の50%を占めます。次にヘルスケア、eコマース分野が続きます。コロナ禍で世界的にデジタル化が加速しましたが、ケニアやアフリカも例外ではありません。ケニアでは遠隔医療も可能になりました。取引のデジタル化というトレンドは全ての分野で起こっています」と新興国での投資育成事業を行うAAICの石田氏。

 

アフリカの投資会社からは、「40億ドルがアフリカのベンチャーキャピタル向けに資金調達されていますが、60〜70%が欧米からの資金。日本の投資家や企業も本格的に参入すれば、アフリカのマーケットについて学習できます」と日本への期待を述べました。

 

最後に、モデレーターを務めたアフリカビジネス協議会事務局長の羽田裕氏が「道路がつながる前に通信網がつながり、歴史上経験のない全く新しいパターンの経済発展が生まれるだろう」と話しセッションは終了しました。

 

[1日目]Panel 2&3:アフリカ大陸の統合は不可欠。巨大市場が寄せる日本への期待

 

続く2つのセッションでは、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の最新動向やアフリカ産業化に向けた日本への期待がテーマとなりました。AfCFTAには、アフリカ連合(AU)55カ国中54カ国が署名、39カ国が加盟し、インフラの連結や人々の自由な移動も進んでいます。特に製造業の成長にとっては、生産拠点から人口の多い市場に製品を提供できることは大きな利点です。より活発に投資や貿易を行うためにアフリカ大陸の統合は不可欠であり、自由貿易協定が重要な役割を果たすことが述べられました。

 

また、アフリカの産業化を進める上での人材開発と技術移転の重要性も、多くのスピーカーから語られました。電力供給などのインフラ整備や物流強化、生産性を高めるための機械化を進めると同時に、途上国の能力構築のための教育や職業訓練が、日本の官民とアフリカ各国政府との協力によって進められることが求められています。「アフリカ大陸の統合により投資環境を整え、産業化を進めるためにも日本から学ぶ必要がある」とPanel 3のモデレーターを務めた京都精華大学学長ウスビ・サコ氏が語りセッションが締めくくられました。

 

【左上】Panel2のモデレーターを務めたBinoy R. V. MEGHRAJ氏(Meghrej Group投資銀行会長)、【左上】隈元隆宏氏(日本たばこ産業株式会社 渉外企画室国際担当部長)、【右上】Anish JAIN氏(ETG最高財務責任者)、【右下】 Vijay GIDOOMAL氏(Car & General (Kenya) Plc CEO)

 

[2日目]Panel 4:アフリカのデジタルインフラ整備は、電化無くして実現しない

 

2日目の最初のセッションPanel 4では、前半にアフリカの電化とグリーンエネルギー導入について、後半では通信デジタルインフラ整備をテーマにプレゼンテーションが行われました。アフリカでは人口の56%にあたる6億人の人々が電力にアクセスできず、インターネットにも6割の人々がまだ接続されていません。デジタルインフラの整備だけでなく、経済成長を遂げて人々の生活の質を高めるためには安定的な電力供給が必須です。

 

オフグリッドで電力を地産地消。分散化が電化の鍵に

 

まず国の電力系統が弱いという課題を解決する取り組みとして「オフグリッドによる電力開発」をテーマにプレゼンテーションが行われました。ポイントは小規模発電です。アフリカの水力発電企業「Virunga Power」は小規模の水力発電所の運用により、電力が行き届かない地域の電力需要を満たすとともに電力を国や企業に販売しています。

 

「エネルギー分野において最も大事なことは分散化、多角化である」というCEOのBrian Kelly氏は、電力供給を国に依存しすぎることなく、かつ国の電力公社と協調して事業を進めることが必要であり、電力網を分散化させていくことで堅牢な電力系統をアフリカで持つことができると語ります。

 

また、関西電力は、セネガルのスタートアップ企業と組んで小型太陽電池と携帯通信を組み合わせて提供する事業について説明しました。防災などの視点から日本で拡大する自立型自給自足の小規模電源を応用したものです。さらに、現地の学校にソーラーパネルを設置し分散電源を届けることで、教育コンテンツを遠隔配信していきたいと考えています。

 

技術力の提供だけでなく、教育により持続可能な仕組みに

 

ケニアの発電会社KenGenは、パートナーシップが一番必要な分野として「技術スタッフの能力構築」を挙げました。発電所の設計技能、また発電所の運営技能を持つ人材を育てていきたいと語ります。1985年から日本の地熱用タービンを導入したことに始まり、地熱発電所設備の供給を全て日本企業から受けていることに触れ、日本企業による現地スタッフの研修訓練に期待を寄せ、大学などの教育機関との連携も視野に入れたいと話しました。

 

三井物産はCO2の発生量が少なく発電効率の高い「超々臨界石炭火力プロジェクト」をアフリカで初めて実施したり、豊田通商は日本の風力発電事業国内シェア1位を誇るユーラスエナジーと再生可能エネルギーの開発を進めるなど本セッションでも日本の技術を活かしたグリーンエネルギーによるインフラ整備への貢献が語られました。それらの取り組みを持続可能なものにするためにも教育による技術移転が望まれています。

 

ブロードバンドで平等な接続性を全ての人に

 

セッションの後半は、アフリカ地域のデジタル化推進を目指す官民連合「Smart Africa」の取り組みが紹介されました。アフリカ 32 カ国等から構成され、廉価なデジタルインフラを構築することで2025年までにアフリカのブロードバンドの普及率を、現在の2倍となる51%にする目標です。さらに全ての学校をインターネット接続し、スマートデバイスを提供します。

 

「Smart Africa」のマニフェスト

 

この取り組みには、ソフトバンクの技術が活用されています。アフリカでのインターネットの平等な接続性を実現するためには、光ファイバーが、量、質の面から考えて適したソリューションだと言いますが、ソフトバンクはさらに光ファイバーの敷設までの一時的な課題解決手段として衛星通信を活用した「空からの接続性」というものも提案しています。これにより、サービスが提供されていない地域もカバーできるからです。

 

ソフトバンクが提案する「空からの接続性」

 

NTTも同様に、光ファイバーは設置コストを下げられるためモバイルネットワーク構築の重要な要素であると述べました。しかし地域ごとに技術格差があるため、技術の標準化を進める必要性を示唆。配線や建設技術の研究開発にも力を入れ、無線のアクセスポイントのカバー率を広げようとしています。

 

モデレーターを務めた神戸情報大学院大学特任教授・山中敦之氏は、本セッションを振り返り「目先の利益を追い求めるのではなくアフリカのデジタルインフラにどう貢献できるのかが大切」と述べたスピーカーの姿勢に賛同しセッションを終えました。

 

[2日目]Panel 5:両国の関係強化とリスクの軽減で優良な投資環境を作る

 

ここまでに伝えられたようなアフリカでのビジネスを促進するためには、多くの資金が必要です。民間投資への期待も高まりますが、民間企業がアフリカのようにカントリーリスクの高い国に参入するには障壁が多くあります。この課題を解決するため、最後のセッションでは、両国の金融機関や企業、公的資金提供機関や国際機関の代表者により「民間投資の拡大に向けた官民連携の取り組み」についてセッションが行われました。最後は、15のMOU(了解覚書)の調印セレモニーが行われ、出席者への感謝の意が述べられこの日のプログラムが終了しました。

 

[3日目]Panel discussion:世界有数の投資国・日本とアフリカの可能性

 

12月9日に予定されていた全体会合は延期となり、スペシャルセッションとして「日本アフリカビジネスリーダーズフォーラム」が開催されました。世界有数の投資国となった日本。国連の2018年、2019年の調査では投資額が世界No.1となる一方、アフリカへの投資はその全体の0.5%にとどまっています。アフリカへの投資をどう上げていくのか。最後に、課題を含めたその可能性を話し合い、第2回日アフリカ官民経済フォーラムが幕を閉じました。

 

「第2回日アフリカ官民経済フォーラム」を振り返って

 

アフリカは日本から地理的、心理的な距離感があるためか、日本語で入手できる現地情報は非常に限られています。一般的な日本人が持つアフリカのイメージが30年前からほとんど変わっていない中、アフリカでは急速な変化が起こっており、ビジネスで解決できる社会課題が沢山あります。本フォーラムやサイドイベントでは貴重な現地情報が紹介されており、日本企業にとってアフリカが有望な市場であることが再確認できました。

 

また、フォーラムやサイドイベントでは、アフリカでビジネス展開されている日本企業も紹介されていました。こうした企業に共通していたものが、ローカライズです。機能や品質を現地に合わせるようなローカライズはもちろんのこと、ビジネスモデルそのものをローカライズしているケースもあります。ビジネス環境が整備された中で事業ができる日本と異なり、環境そのものを自分たちで作っていったり、現地の購買力に合わせてサブスクリプションで料金回収するなど、革新的な取り組みをしている企業がありますが、こうしたチャレンジをするには、会社の体質やメンタリティも変える必要があるでしょう。

 

12月6日に開催されたサイドイベント「日本×アフリカで挑む、加速するアフリカビジネスの現在地」で、立命館大学の白戸教授が言っていた言葉が印象的だったので、最後に記します。「アフリカビジネスは日本企業にとってのリトマス試験紙」。アフリカビジネスに適応していくことが、日本企業がグローバル企業に変わっていく最初の一歩になるのかもしれません。

 

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「電気自動車」の“覇権”をかけたグローバル競争に挑むインドの課題と可能性

【掲載日】2021年12月17日

最近のインドでは、「充電スタンドに投資しませんか?」という広告が増えています。これは、同国が官民一体となってEV(電気自動車)により一層力を入れていることを示していますが、この広告の裏にはどのような背景があるのでしょうか?

インドの首都ニューデリーに設置されている充電スタンド。EV環境を整えるためには、もっと必要だ

 

今日、EVは世界各国で国家戦略の一つとして位置付けられています。EV分野におけるイニシアティブを早めに握ってしまえば、企業のみならず国家の隆盛を決定づけてしまうほど、EVは経済的にも政治的にも重要な分野なのです。しかし、現実では車両開発技術以外にも、インフラ整備や車両価格など数多くのハードルが存在しており、各国で掲げられている長期目標が絵に描いた餅になってしまう可能性も十分にはらんでいます。

 

自動車販売台数と生産台数の面で世界第5位の自動車市場を有するインドは、温室効果ガスの排出量削減や再生可能エネルギーへの移行を目指したe-モビリティの推進による構造転換を急ピッチで進めています。エコカー普及政策のFAMEや国内製造業に向けた生産連動型のインセンティブ制度(PLI)など、消費者と生産者の双方に向けた施策で国家としてのエコシステムを構築する戦略を実施しています。

 

問題点はあらゆる分野に及んでいますが、最大の問題の一つがインフラ。EVの普及には充電設備の充実と莫大な電力をまかなう電力設備の強化が伴います。現在インドの家庭用充電インフラ設備は国内に約1800か所ありますが、普及に向けた試算では290万か所の公共充電ステーションが必要になるとされており、現時点では全然足りていません。このような課題を乗り越えるためには、政府の膨大な追加支出が必要です。

 

また、EVの知見を有する技術者の数も大幅に不足しています。熟練労働者に至るまでにはさまざま訓練が必要であり、民間企業の努力だけでは達成困難でしょう。また、日本と比較すると道路の質が悪い地域が多く、悪天候による崩落も日常茶飯事です。中央政府、州、市など全ての政府系機関が互いに協力し、ガバナンスと財政の両立を目指す施策の展開が必須であると思われます。

 

消費者の視点から見れば、購入価格も普及に向けた大きな課題でしょう。一回の充電による走行距離や速度の問題は時間の経過と共に解消されていくはずですが、従来の自動車と比較してはるかに高価なものであると感じられる状況のなかでは、気持ちのうえでは環境保護のためにEVを購入したいが、経済的事情のためにあきらめざるを得ないと考える人々が多いのも容易に理解できます。

 

公共の充電スタンドの設置は認可不要

数多くのハードルが存在し、政策によるEV普及の達成まで長い道のりのように感じられるかもしれませんが、インドでは公共の充電スタンドの設置に関しては現時点で認可が不要で、電力省(MOP)や中央電力庁(CEA)が定める基準や仕様に準じている限り、個人や団体でも設置することができます。トラブルが発生する可能性もありますが、新たな時代に向けた社会構造の転換タイミングでは、このような方針が有効かもしれません。それが爆発的な普及に向けた礎になるかどうかは、今後の動向を見守っていくことでおのずと判明することでしょう。

 

世界各国の自動車メーカーは、新たなEVの開発に向けた資材調達のプラットフォームを構築しており、さまざまな国の最先端技術を有するメーカーの参加を促しています。すでに多数の日本企業が外国自動車メーカーの調達プラットフォームに参加を表明していますが、インフラ事情やEV展開を支える技術者育成の問題のように、視点を変えることで大きなビジネスチャンスが潜んでいるかもしれません。可能性のあるマーケットは世界中に広がっています。

 

【参考】EXPRESS mobility. Do Indian EV policies provide enough assistance for charging infrastructure to help the country’s mobility transition? 2021 November 17. https://www.financialexpress.com/express-mobility/do-indian-ev-policies-provide-enough-assistance-for-charging-infrastructure-to-help-the-countrys-mobility-transition/2371112/

「電気自動車」の“覇権”をかけたグローバル競争に挑むインドの課題と可能性

【掲載日】2021年12月17日

最近のインドでは、「充電スタンドに投資しませんか?」という広告が増えています。これは、同国が官民一体となってEV(電気自動車)により一層力を入れていることを示していますが、この広告の裏にはどのような背景があるのでしょうか?

インドの首都ニューデリーに設置されている充電スタンド。EV環境を整えるためには、もっと必要だ

 

今日、EVは世界各国で国家戦略の一つとして位置付けられています。EV分野におけるイニシアティブを早めに握ってしまえば、企業のみならず国家の隆盛を決定づけてしまうほど、EVは経済的にも政治的にも重要な分野なのです。しかし、現実では車両開発技術以外にも、インフラ整備や車両価格など数多くのハードルが存在しており、各国で掲げられている長期目標が絵に描いた餅になってしまう可能性も十分にはらんでいます。

 

自動車販売台数と生産台数の面で世界第5位の自動車市場を有するインドは、温室効果ガスの排出量削減や再生可能エネルギーへの移行を目指したe-モビリティの推進による構造転換を急ピッチで進めています。エコカー普及政策のFAMEや国内製造業に向けた生産連動型のインセンティブ制度(PLI)など、消費者と生産者の双方に向けた施策で国家としてのエコシステムを構築する戦略を実施しています。

 

問題点はあらゆる分野に及んでいますが、最大の問題の一つがインフラ。EVの普及には充電設備の充実と莫大な電力をまかなう電力設備の強化が伴います。現在インドの家庭用充電インフラ設備は国内に約1800か所ありますが、普及に向けた試算では290万か所の公共充電ステーションが必要になるとされており、現時点では全然足りていません。このような課題を乗り越えるためには、政府の膨大な追加支出が必要です。

 

また、EVの知見を有する技術者の数も大幅に不足しています。熟練労働者に至るまでにはさまざま訓練が必要であり、民間企業の努力だけでは達成困難でしょう。また、日本と比較すると道路の質が悪い地域が多く、悪天候による崩落も日常茶飯事です。中央政府、州、市など全ての政府系機関が互いに協力し、ガバナンスと財政の両立を目指す施策の展開が必須であると思われます。

 

消費者の視点から見れば、購入価格も普及に向けた大きな課題でしょう。一回の充電による走行距離や速度の問題は時間の経過と共に解消されていくはずですが、従来の自動車と比較してはるかに高価なものであると感じられる状況のなかでは、気持ちのうえでは環境保護のためにEVを購入したいが、経済的事情のためにあきらめざるを得ないと考える人々が多いのも容易に理解できます。

 

公共の充電スタンドの設置は認可不要

数多くのハードルが存在し、政策によるEV普及の達成まで長い道のりのように感じられるかもしれませんが、インドでは公共の充電スタンドの設置に関しては現時点で認可が不要で、電力省(MOP)や中央電力庁(CEA)が定める基準や仕様に準じている限り、個人や団体でも設置することができます。トラブルが発生する可能性もありますが、新たな時代に向けた社会構造の転換タイミングでは、このような方針が有効かもしれません。それが爆発的な普及に向けた礎になるかどうかは、今後の動向を見守っていくことでおのずと判明することでしょう。

 

世界各国の自動車メーカーは、新たなEVの開発に向けた資材調達のプラットフォームを構築しており、さまざまな国の最先端技術を有するメーカーの参加を促しています。すでに多数の日本企業が外国自動車メーカーの調達プラットフォームに参加を表明していますが、インフラ事情やEV展開を支える技術者育成の問題のように、視点を変えることで大きなビジネスチャンスが潜んでいるかもしれません。可能性のあるマーケットは世界中に広がっています。

 

【参考】EXPRESS mobility. Do Indian EV policies provide enough assistance for charging infrastructure to help the country’s mobility transition? 2021 November 17. https://www.financialexpress.com/express-mobility/do-indian-ev-policies-provide-enough-assistance-for-charging-infrastructure-to-help-the-countrys-mobility-transition/2371112/

インドの美容市場が熱い!「女性起業家」が率いるコスメ企業がIPO

【掲載日】2021年12月16

2021年10月、インドのユニコーン企業FSN E-Commerce Ventures Limited(Nykaa)がインド国立証券取引所に上場しました。Nykaaはコスメやパーソナルケア商品を中心としたビジネスをオムニチャネルで展開しており、オンラインではECサイトを運営する一方、オフラインではインド国内38都市で73店舗を構えています(2021年12月時点)。

IPOを果たしたNykaaの創業CEO、Falguni Nayar氏(左から4人目)(画像提供/Nykaa公式ウェブサイト)

 

2012年に投資銀行出身の女性起業家Falguni Nayar氏が創業したNykaaは、同氏が59歳の誕生日を迎える年にIPO(新規株式公開)の偉業を達成しました。50歳で起業の決断をしたこともさることながら、現時点で世界にわずか24人程度しか存在していないと言われる女性起業家のIPOは、世界中の起業家マインドを有する女性に勇気と刺激を与えることでしょう。

 

Nayar氏はすでに65億ドル(約7380億円※)の純資産を有し、インド国内では2番目に裕福な女性となっています。IPOに至るまでのハードルは想像に難くありませんが、世界各国からスター経営者として賞賛された喜びが彼女のマインドをさらに高めたことで、今後の事業展開が大いに期待できるものとなるはずです。

※1ドル=約113.5円換算(2021年12月13日時点)

 

日本においても今後Nayar氏のような女性経営者が増加すれば、ビジネス界における多様性が強化されていくことと思われますが、それは今後の日本企業を取り巻く状況や意識の向上によっても大きく左右されることでしょう。また、女性の社会進出においては、それぞれの国や地域における文化や信仰、教育、社会規範、価値観の違いなどが高いハードルになる場合が多いのです。

 

女性のエンパワーメントにつながる可能性

インドにおける化粧品市場は成長を続けており、Statistaによると2016年に75億米ドル(約8530億円)だった市場規模が、2022年には111億5000万米ドル(約1兆2680億円)に達すると予想されています(2016年比で約149%)。インド以外の途上国でも化粧品市場は成長しており、携帯電話の普及で、YouTubeやInstagramなどのソーシャルメディアでメークの方法などを知ることができるようになってきたことで、農村部でも美容への関心が高まっています。

 

美容には私たちの見た目だけでなく、気分や自尊心といった内面を高める働きがあるでしょう。これまで化粧品などを入手しづらかった農村などの地域において、現地に適した価格で良質な化粧品を提供することができれば、女性のエンパワーメントというSDGsの目標5の達成にもつながります。日本の化粧品メーカーが自社のみで途上国の農村部に展開することは簡単ではありませんが、Nykaaのような現地企業と連携することは一つのオプションになるでしょう。

アフリカ女性のエンパワーメントを加速させる“フェムテック”の可能性を探る

テクノロジーを用いて女性特有の悩みを解決する商品やサービスが“フェムテック”と呼ばれて世界で注目を集めています。アメリカのリサーチファームFrost & Sullivanは、2018年の調査で、その市場は2025年までに5兆円の市場規模になると予測。しかし、その一方で、アフリカ諸国では、女性の生理用品でさえ満足に普及していません。だからこそエチオピアの現状に詳しい太田みなみ氏は、現地女性の初歩的な悩みに応えられる月経カップや布ナプキン、吸水ショーツに注目しています。政府開発援助(ODA)をはじめとするジェンダー支援にも関わる太田氏に、エチオピアにおける生理の問題を伺いながら、アフリカ市場での“フェムテック”の可能性について探ります。

 

お話を聞いた人

太田みなみ

グランドスタッフとして勤務していた航空会社を、出産を機に退職。兼ねてから関心を持っていた国際協力の世界で仕事をしたいと、大学院にて国際協力学を専攻し、エチオピアをフィールドに「初等教育中退後の学習機会の検討」をテーマに研究。修士号を取得後、アイ・シー・ネットに入社。現在は、ビジネスコンサルティング事業部に所属し、民間企業の海外進出支援業務に従事しながら、ODAをはじめとするジェンダー支援にも関わる。

サブサハラ・アフリカの女性人口は約5.5億人、今後はさらに増加

 

開発途上国の中でも、特に開発が遅れているとされる後発開発途上国(LDC)は、2021年8月現在、全世界に46か国あります。そのうちの33か国が、アフリカのサハラ砂漠以南のサブサハラ・アフリカ地域の国々です。世界の面積の18%を占めるにも関わらず、サブサハラ・アフリカ全体のGDPは、世界の2%程度。紛争も絶えず、貧困や飢餓に苦しめられ、保険医療や教育などさまざまな分野で課題を抱えています。国連の世界人口推計(2019年版)によれば、今後、十数年間の人口増加の大部分は、サブサハラ・アフリカ地域で生じ、2019〜2050年の間に、人口が11億人増加し、世界人口の増加の約半分は、この地域が占めるようになると予測されています。

 

アフリカの人口増加のグラフ(国際連合経済社会局:世界人口統計2019版)

 

一方で、2017〜2019年には、GDP成長率が3%前後の安定した成長を見せるようになり、2020年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けたものの、2021年には、3.3%に回復する見込みです。人口増加や経済成長の点から見て有望な市場であることは言うまでもありません。新興国でスマートフォンが急速に普及したように、一気に最先端技術を活用する社会に進化する「リープフロッグ現象」が起こる潜在力の高さも指摘されています。多くの課題を抱えながらも市場としての可能性を秘めるアフリカ市場で、太田氏が今、注目しているのが、先進国を中心に世界で広がりを見せる“フェムテック”関連製品です。

 

「フェムテックとは、FemaleとTechnologyを組み合わせた造語です。月経、不妊、妊娠産後ケア、更年期など、女性の健康に関わる課題をテクノロジーを用いて解決する製品やサービスが総じて“フェムテック”と呼ばれています。その中でも生理に関する製品のニーズが、アフリカにあると考えています。使い捨てナプキンの使用が一般的ではないアフリカなどの途上国では、生理中の女性の多くが、自作の布ナプキンやボロ布などを利用して対処しています。その点で、布ナプキンや、吸水ショーツ、月経カップといった、きちんと洗浄すれば何度も使える製品は、現地の生活との親和性も高いはずです」

 

使い捨ての生理用品に慣れた日本人にとっては、毎回洗浄する手間を面倒に感じますが、生理用品が流通せず、経済力も乏しいアフリカでは、生理のたびに購入する必要がないサスティナブルな製品の方が、需要があると太田氏は言います。生理は、基本的には初潮を迎えて閉経するまで、ほとんどの女性に毎月訪れるものです。再利用可能な生理用品は、ゴミ処理システムも整備されていないアフリカで取り入れやすい。その上、サブサハラ・アフリカの女性人口は約5.5億人です。その65%が生理期間にあたる10〜55歳であることから、潜在市場の大きさは、容易に理解できるでしょう。

 

さまざまな課題を抱えるエチオピアの生理事情

 

ここからは、太田氏が大学院時代から研究フィールドにしていたエチオピアを例に、より具体的に女性の生理を取り巻く現状について紹介します。アフリカでは、生理用品へのアクセスが限られていますが、エチオピアでも生理用ナプキンを購入できる女性は36%程度です。しかも人口の84%が農村部に住んでいるにもかかわらず、生理用品の流通は、約80%が都市部にとどまっています。そのため、やはりボロ布を当てて、洗浄して使い回していますが、適切に洗わなかったり、乾かさなかったりして、衛生状態が悪く、感染症のリスクにさらされている女性も多いのが現状。しかし、不便を感じているはずの女性に、生理用品を供給すればいいという単純な問題ではないようです。

 

エチオピアの都市部の風景

 

伝統的な文化・慣習が、生理を“語れない”タブーに

 

「生理が“不浄なもの”“けがれたもの”という認識が強いので、生理中は宗教行事に参加できず、一部の地域では、食事を準備したり、水を汲むことさえ許されません。初潮を迎えた女性は、結婚する準備ができているという解釈があり、それが児童婚につながってしまう恐れもあります。若い女性の場合は、生理が訪れれば、妊娠できると思われてしまうので、“隠したい”“知られたくない”という気持ちが大きいんです」

 

機能性の高い生理用品が普及していないため、経血が漏れて、周囲に知られてしまうことも多く、性交渉をしたのではないか、妊娠や中絶をしたのではないかと疑われる場合もあります。学校でからかわれて、生理中に学校を休みがちになり、就学の妨げになることも多くあります。文化や慣習の影響で誤った解釈が今も根強く残り、自分たちが生理に関して、どんなことに困っていて、どんな商品があれば、快適に過ごせるのかというようなことを、オープンに語り合ったり発信したりできるような段階ではないのです。

 

エチオピアの農村部の風景

 

制度化されない性教育も影響し、深刻な知識不足に

 

こうした誤解が、いまだに根強い背景には、性教育が全く行われていないという教育の問題も大きいと言います。エチオピアでは、8年間の初等教育が義務教育になっていますが、保健教育のようなものはなく、算数・理科・社会・英語・アムハラ語に、エステティックと呼ばれる美術・音楽・体育の科目があるのみ。性教育が制度化されていません。

 

「そもそも生理について何も聞かされたことがない、何の情報も受け取ったことがない。どうして出血しているのかもわからない、という女性が5割以上います。経血があるので、布を当てるという対処法は知っていますが、体にどういう変化が起こって出血しているのか、どこまでが正常で、どんな異常が発生したら通院しなければならないのかということは、ほとんど理解されていません」

 

 

小学校で学ぶ女子生徒

 

初潮が訪れて初めて生理という現象の存在を知る女性が7割もおり、布などで作った再利用可能な生理用品を、水と石鹸で洗う必要があると理解している女性も4割程度です。せめて、母親などから正しい知識が伝えられればいいのですが、母親も同様の教育しか受けていないため、家庭内での知識伝達にも限界があります。「性教育は、掘り下げていくと自分を大事にすることにつながる」と太田氏は言いますが、生理に対する正しい理解を浸透させ適切に対処できるようにすることは、自分の体を大切にする第一歩になるのではないでしょうか。

 

 

データからは見えない、エチオピアのジェンダー課題

 

生理に関する状況を見ただけでも課題が多いエチオピアですが、世界経済フォーラムの出しているジェンダーギャップ指数は、156か国中97位(2021年)。日本が120位であることを考えれば、さほど低いわけではありません。エチオピアでは比較的女性の政治参画が進んでいることが順位を押し上げているのですが、政治の世界で活躍しているような女性の多くはアメリカに留学できるような富裕層の女性。貧困層の女性が抱える生理などの課題を実感しているわけではありません。エチオピアでは、都市部と農村部の経済格差が大きく、州ごとに民族と言語、文化が異なるので、さまざまな違いや格差と、ジェンダー課題が複雑に絡み合っています。制度面の整理は重要ですが、それだけではアプローチをしにくい課題も多いのです。

 

「エチオピアの教育は、初等教育8年、前期中等教育が2年、後期中等教育が2年です。初等教育の就学率は、男女での差はほとんどありません。しかし、中等教育以降、段々と差が広がっていきます。日本のように自動進級ではなくて、進級テストを実施することもあり、進級テストに落ちたら、男子生徒は、もう一度チャレンジしますが、女子生徒は辞めてしまいます。女の子が高学歴になったところで、就ける職がないと周囲から言われてしまうこともあります。また、経済成長率は、GDPベースで9%程度の伸び率。失業率も2%と低く、男女差も女性が若干高い程度であまりないのですが、女性が賃金を得て働ける場が国内に多くないため、女性は、中東にハウスメイドとして出稼ぎに行くのも比較的よくある進路です。国内で働くよりも収入が見込めるので、初等教育を離脱する理由にもなっています」

 

水汲みに向かう女性

 

女性特有の課題が未解決だからこそ大きい“フェムテック”の可能性

 

エチオピアの例からもわかるように、生理の問題一つ取っても、さまざまな問題が絡み合っています。当然、先進国の女性を中心に広がっているような“フェムテック”製品の全てが、アフリカ女性のニーズに適したものではないでしょう。しかし、これまでタブー視されてきた女性の「性」の課題に、正面から取り組んでいくという“フェムテック”の本質は、アフリカ女性の現状を変えるきっかけになるのではないかと太田氏は期待を寄せています。“フェムテック”は、単にテクノロジーを用いた便利な製品を流通させるためのカテゴリーというだけではなく、製品を通じて、女性特有の悩みや課題を可視化し、市場を拡大している側面があるからです。

 

「当然、アフリカ諸国に生理関連の商品が、現地の女性の手に届く価格帯で、十分に供給されれば、衛生的に過ごせますし、生理中、学校に行けず、勉強についていけなくなってドロップアウトしてしまうこともなくなります。就学や就業の機会を確保できるというダイレクトな恩恵はもちろんありますが、それ以外にも、生理用品などを通して、女性が自分たちの身体や悩みについて語りやすい状況が生まれたり、製造や流通、販売の各過程で、女性のエンパワーメントになるような能力強化、生計向上などにもつながればいいと思っています」

 

育児をしながら縫製業で働く女性

 

サスティナブルな月経カップや布ナプキンを参入の足がかりに

 

企業が参入する際に、「現地で製造して日本で売る」場合は、縫製業が盛んなエチオピアなら縫製技術などの現地のスキルを活用し、布ナプキンや吸水ショーツの製造が検討できます。製品が女性向けのものになれば、製造現場で女性が雇用されるチャンスが増え、縫製技術を学ぶ機会にもなるでしょう。「日本や他の国で製造し、現地で売る」場合には、シリコーン製の月経カップがコストを下げやすいため、現地女性が購入できる価格で提供できる可能性があります。しかし、それだけでなく、販売流通の面でも女性を関与させれば、生理用品を衛生的に使う方法や、生理に対する知識を、売る側、買う側の両面から補い合うことができるはずです。だからこそ、「製造、流通、販売と全て現地で行う」ことも視野に、製造だけでなく、販売や流通の一部でもいいから、現地女性を関与させてほしいと太田氏は言います。

 

「“フェムテック”製品を購入する女性たちは、SDGsなどの取り組みにも関心がある層だと思うので、製品を通じて、現地女性に貢献できるという面をうまくPRに使ってもらえれば、企業にとってもメリットのある進め方ができます。民間企業の利益を生み出しながら、これまで支援する以外の方法がなかったジェンダーや人権などの分野にアプローチし、現地の女性にも、日本の女性にも裨益できる取り組みになれば理想的です」

 

“フェムテック”は、製品の製造から販売に至る一連の過程に女性たちを巻き込み、利益をあげながら、女性の「性」に関する健康課題だけでなく、ジェンダーや教育などの様々な課題にアプローチできる、新しい市場です。アフリカ市場での“フェムテック”の可能性は、女性特有の課題が未解決のまま、山積されているからこそ大きいと言えるのではないでしょうか。

バングラデシュの大規模学生運動、交通ルールの向上とシステムの改善を要求

2021年11月にバングラデシュのノートルダム・カレッジ(NDC)の学生が市営ゴミ収集車の誤運転による衝突事故で死亡しました。これをきっかけに現在同国では、多くの学生を中心とした抗議活動が展開されています。バングラデシュ、特に首都のダッカは深刻な交通渋滞が発生する都市として知られており、多くの危険が隣り合わせです。さらに今回の事故は、実際の運転手とは異なる代理の運転手が引き起こした事故であり、法と秩序の遵守を求めて数千人の学生がダッカの主要交差点を封鎖しました。

大規模な抗議運動を展開するバングラデシュの学生たち

 

バングラデシュでは、日本のように交通ルールやマナーが国民の間に浸透しておらず、交通インフラが未整備の地域も多くあります。今回のような交通事故が引き起こす大規模な学生運動は2018年にも発生しており、頻繁に発生する交通事故の多さは尋常ではありません。例えば、今回の抗議活動の最中にも別の市営ゴミ収集車による衝突事故でオートバイの運転手が死亡しています。

 

今回のデモ参加者による市長や政府への要求は、負傷者への補償や加害者への迅速な裁定、交通安全の意識向上などに加えて、交通管理システムの再設計やバス停留所、駐車場の適切な配置などインフラ部分にまで及んでいます。

 

社会規範を熟成させるには非常に長い年月を要し、通常は幼少時からの教育が必要であるため、この問題をすぐに解決することは難しいでしょう。しかし交通インフラにおいては、他国の状況を検証し、同様のシステムを導入していくことで改善に向かった歩みを進められる可能性があります。

 

日本に問題解決のヒント

日本はクルマ社会の形成において他国より一歩進んでいます。社会規範や補償、責任の概念に加えて、全国に張り巡らされている交通管制システムなどは他国から模範とされるような部分も多いでしょう。また、ドライバーの安全意識を向上させるようなサービスや、AIを活用して交通事故を防ぐ自動運転のような製品を提供している民間企業もあり、このような仕組みを輸出できる可能性も十分にあります。

 

渋谷のスクランブル交差点で通行者がぶつからないことは、海外の旅行者から賞賛される日本の名物の一つですが、それは普段あまり意識することがない高い社会規範と高度な交通システムから成り立っているのです。

グアテマラとのご縁に導かれて、保健系開発コンサルタントの道へ

新型コロナウイルス感染拡大以前から、医療従事者の不足は世界中の国々で問題になっていました。特に、開発途上国での人材不足は深刻です。そこで、今回は、国際協力の現場経験と看護師資格を持ち、保健系開発コンサルタントとして活躍する宇田川珠美さんにインタビュー。国際協力業界における保健医療支援の現状や求められる人材像についてお伺いします。

 

宇田川珠美/大学・大学院で農学を学んだ後、青年海外協力隊、JICA、国連ボランティアなどの国際協力機関で、農業隊員や業務調整員として主に農業系のプロジェクトに従事。その後、看護師免許を取得し、救急病院の看護師として勤務するものの、国際協力の現場への強い思いから2017年アイ・シー・ネットに入社。保健系開発コンサルタントとして、中米やアフリカで保健医療サービス強化や栄養改善のための活動を行っている。

 

背水の陣で挑んだ国際協力の世界。それが人生の軸に

 

――もともと、国際協力の仕事に関心があったのでしょうか?

 

宇田川 農学部出身で、大学院にも進み、卒業後は、研究職に就きたいと考えていました。子どもの頃によく流れていたエチオピアの飢餓救済のためのCMで、栄養不足でお腹に水が溜まり、ぽっこりと膨らんでいる子どもの映像を見て、「砂漠でも育つような麦が開発できたら」とバイオテクノロジーの研究をしていたんです。

 

しかし、大学院卒業の頃にバブルが崩壊。男子学生ですら就職先が見つからず、大学院卒の女性など全く相手にされないような時代です。学歴がかえってネックになってしまい、アルバイトの採用も苦戦する絶望的な状況でした。そんな時、目にしたのが、青年海外協力隊のポスター。同じ大学にも参加している人がいましたし、当時は、自分に日本で生きて行く道があるとは思えなくて、新天地を求めるような気持ちで応募しました。

 

――青年海外協力隊ではどのような活動をされていたのですか?

 

宇田川 青年海外協力隊では、中米のグアテマラで農業隊員として2年間活動しました。帰国後は、JICAの国際協力推進員のお誘いをいただき、出身地でもある群馬デスクに勤務。その後も、青年海外協力協会(JOCA)、国連ボランティア、JICA農村開発部のジュニア専門員として、スリランカ、エクアドル、アルゼンチンなどに赴任し、10年以上国際協力の現場で働いてきました。

 

現地では、「二度とこんな国に戻ってくるか」と思ったこともあります。さまざまなトラブルがありすぎてここでは言い尽くせないぐらいです。でも、不思議なことに、いざ飛行機に乗って帰国となると、無意識のうちに涙があふれてきて。その時にはじめて「この国が大好きだったんだな」と気づく。普段自分が意識している以上に、深いところで、取り憑かれるような魅力を国際協力の仕事に感じていたのだと思います。

 

――アイ・シー・ネットにはどのような経緯で入社したのですか?

 

宇田川 大学院を卒業してから、長く海外で仕事をしてきて、ジュニア専門員の任期を終えた時は、すでに38歳。自分が関わってきた農業系のプロジェクトが各国の方針や日本政府の援助方針、ニーズの変化などによって援助の潮流が変わったことにより減り始めていたこともあり、この先、何年この仕事を続けられるだろうかと漠然とした不安を感じていました。国際協力の仕事ができなくなっても困らないように、日本で生きていける基盤を作ろうと、長期的な視点で自分の人生を考えはじめたのもこの頃です。

 

日本社会で働いた経験もなく、日本で仕事に就くのは容易ではないと自覚していたので、長く生活の糧になるスキルを身につけようと、3年間学校に通い看護師の資格を取得しました。国際協力の現場で、医療系の方々と仕事をした時に、チームワークの良さや人柄に惹きつけられた経験も大きかったです。

 

病院で働きはじめて3年目でしょうか、以前アイ・シー・ネットで働いていた方が私の勤める病院に研修医として赴任してきまして、「今、アイ・シー・ネットでグアテマラのプロジェクトに参画できる人を探しているのだけど、宇田川さんは、国際協力の仕事に戻りたい気持ちはないの?」と声をかけてくださったんです。グアテマラは、初めて海外協力の仕事をした大好きな国です。国際協力の仕事への情熱が再び湧き上がり、迷うことなくアイ・シー・ネットに履歴書を送りました。そして現在、保健系開発コンサルタントとして働いています。

 

現地住民の意識を変えて、健康・栄養改善を目指す

 

――アイ・シー・ネット入社後のお仕事について教えてください。

 

宇田川 JICAの「グアテマラ国妊産婦と子どもの健康・栄養改善プロジェクト」に参加しました。グアテマラは、中米諸国の中でも特に母子保健の改善が遅れており、周辺国と比べても妊産婦死亡率や乳幼児死亡率などが高い国です。プロジェクトでは、現地の保健医療従事者の能力向上を支援するとともに、妊産婦と子どもの栄養改善のために、住民の健康意識を高めるための啓蒙活動も行いました。

 

最初は、以前にも経験のあった業務調整員という立場で現地に入りました。プロジェクト全体のコーディネートを行う役割で、各専門家の渡航支援や業務のサポート、現地傭人の労務管理から経理、広報までを担当する何でも屋さんです。その後、高血圧、糖尿病、太り過ぎ、痩せすぎといった健康問題のある妊婦に栄養指導を行う継続看護というポストで、自分の専門性を活かす機会もいただきました。

 

――プロジェクトでは、どのような成果が得られましたか?

 

宇田川 継続看護では妊産婦健診を利用して栄養指導を行っていたのですが、現地の看護師は、妊婦の体温や血圧、身長体重などを測ってデータを記録するものの、そのデータを何か問題が起こったときに、過去にさかのぼって活用するという認識がありませんでした。看護師が担う役割は大きくなっても、教育がそれに追いついていないという印象。それでも継続的に指導して行く中で、嬉しい変化がありました。

 

データを記録するだけになっていたカルテの中から、ある現地の看護師が、健康に問題があり出産リスクの高い妊婦をリストアップして継続的に気を配るようになりました。その中に非常に痩せている妊婦がいたため、生活の状況を確認。すると家が貧しくて、十分な食事を取れていないことがわかったのです。しかし、私たちは、医療機関なので、食料を提供できません。その時、その看護師は、食料を寄付してくれる機関を見つけて、連携しながら、彼女が出産をするまで、食料支援をしながら健診を続けたのです。今までは、何かと言い訳をして、イニシアティブを発揮することがなかったのに、主体的に動き始める様子を目の当たりにして、「これは何かが変わったな」と実感しました。

 

その後、無事に元気な赤ちゃんが生まれて、「リスクのある妊婦をリストアップするのは、いい方法だから、これからもやっていきたい。経済的な事情で栄養が取れない妊婦さんに対しては、今後も支援方法を模索しなければならないけれど、今回はいい経験だった」と言ってくれたんです。現地の看護師も、プロジェクトを通じて覚えた栄養の知識を、もっと現場で活用したいという気持ちがあるんでしょうね。でもその具体的な方法がわからない。だから、最初はレールを引いてあげて、意欲のある看護師が主体性を発揮できる環境を整えていきたいです。実際に成果が出てくると、現地の看護師も仕事の面白さに気づいていくと思うんです。

 

プロジェクトで作成した栄養カレンダーで指導を受ける母親

 

専門性を活かすことより、相手を思いやることが大切

 

――国際協力の仕事に向いているのは、どんな人でしょうか?

 

宇田川 専門性や語学能力が高いに越したことはないと思いますが、現地の状況に合わせて、柔軟に対応できることが、それ以上に重要だと思います。例えば、日本の価値観で、詳細な指示をしたり、仕事量を増やしたりすると、現地の人にとっては重荷になることもあります。目標を少し下げたり、目標に到達するまでのステップを小さくしたり、一人一人の状況に合わせた対応が求められます。

 

特に、私が活動していたグアテマラのキチェ県は、マヤの伝統文化が色濃く残る先住民の多い地域です。彼らは、西洋医学を信用しておらず、出産も助産師を呼んで、家で産むのがスタンダード。妊産婦健診を受けたがりませんし、看護師が予防注射のために訪問しても追い返されてしまいます。何百年と続いてきた自分たちの知識や文化を変えるというのは、一筋縄ではいきません。いくら高度な専門性があっても、それだけでは難しいのです。

 

栄養指導をしていても感じるのですが、日本のような先進国では、医療サービスも細分化されていて、自分の専門分野からの視点でしか患者を見ていないように感じます。特に日本人の専門家は、そこがネックになっているのではないでしょうか。栄養指導においても、栄養の専門家は、肥満傾向の人には、一律に体重管理を求めますが、看護の専門家は、臨床データに基づいて、本当に体重管理は必要なのか、無理に体重を管理することで、もっと重大なリスクを招かないかも考えるのです。半面、看護の専門家も栄養面の深い知識はないので、「私のやっている栄養指導はこれでいいのかな?」という疑問は常に感じています。メンバーに各分野の専門家を揃えればいいというものでもなくて、プロジェクト全体を俯瞰し、自分の専門性以外のことにも、知識を広げる意識が必要です。

 

出産時緊急対応研修の様子

 

――そのほか、現地で大切だなと感じることはありますか?

 

宇田川 日本の妊産婦検診では一般的に行われる、触診による逆子診断などの手技も、現地の看護師には身についていません。今回のプロジェクトでは、超音波診断装置を購入したのですが、この装置を使えば、逆子かどうかも簡単にわかるし、触診ではわからない疾患も発見できます。装置により命を救えた妊婦もいます。保健医療従事者の能力向上ももちろん重要ですが、テクノロジーの力に頼れるところは、割り切って活用することも大切です。

 

私は、仕事以外での現地の人との関わりも大切にしています。その国の人と分かり合えて、深い間柄が築けると、その国の国民性を知ることができますし、何としてでも改善したいという気持ちが湧いてきて、一生懸命になってしまいます。現地では、さまざまな課題がありますが、結局は、仕事をする国やその国の人のことが好きになれないと頑張れないですね。

 

超音波診断装置で異常が見つかり病院で出産に至った母親と赤ちゃん

 

躊躇していたら前に進めない。目の前のチャンスを逃さないで

 

――国際協力の世界に興味がある方へ、メッセージをお願いします。

 

宇田川 私もアイ・シー・ネットに入らないかと声をかけられた時に、「コンサルタント会社なんて自分には無理」と思っていました。英語能力も高くありませんでしたし、入社すると案の定、TOEICのスコアが900点台の人ばかりで、最初は萎縮していました。しかし、キャリアの初期から中米で活動していたこともあって、スペイン語ができて、看護の勉強もしてきたので、仕事のチャンスを得ることができました。現在、関わっているアフリカ・ブルキナファソでの農業を通じた栄養改善プロジェクトでは、家庭の農業収穫量・収益を上げることで、学校給食の質を改善し、子ども達の栄養改善を目指しています。ここでは、学生時代に学んだ農学の知識が活きて、農業の専門家との連携が非常にスムーズです。

 

さまざまな経験が活かせる国際協力の現場ですが、自分の専門性を活かせるプロジェクトが常にあるわけではありません。ご縁や運というのもキャリアには、大きな影響を与えます。だからこそ、悩んでいる人がいたら、とりあえず飛び込んでみたらいいと思います。躊躇していると前に進めないですよ。

 

私も、わらしべ長者のように、目の前のチャンスをつかんで、今に至ります。若い時は、周囲がチャンスをくれるんです。ジュニア専門員や国連ボランティアも年齢制限がありますし、歳を取ってくると、自分の都合だけでは行動できないことも増えます。国際協力の仕事に関心があるなら、チャンスの多いうちに、ぜひチャレンジしてほしいですね。

タンザニアをはじめアフリカ各国が注目! 医療課題を解決する「E-Health」とは?

現在、急激に人口が増加しているアフリカ。国連の世界人口推計によると、サハラ以南のアフリカの人口は、2050年までに倍増すると言われています。人口増加によって経済成長や市場の拡大が期待される一方、いまだ多くの課題があるのも事実。中でも、保健医療の体制を整えることはアフリカ全体で急務となっています。

 

そこで注目されているのが、IT技術を活用して医療課題を解決する「E-Health」です。今回は、長年保健医療の分野に携わり、現在はアフリカの医療支援団体でも活動している三津間氏に話を聞きました。アフリカの中でも「ブルーオーシャン」として注目が集まるタンザニアにフォーカスし、保健医療分野の現状や具体的なニーズを解説。「E-Health」の可能性を探ります。

 

お話を聞いた人

三津間 香織

日本の医療機器製造販売メーカーに10年以上勤務し、医療機器の商品開発から生産販売、事業開発、アライアンスに関する業務などを広く経験。その後、大学院で経営学を学び、アフリカに置き薬を広めるNPO法人「AfriMedico」での活動を始める。本団体での活動をきっかけに、アイ・シー・ネットに入社。ビジネスコンサルタントとしてアフリカへ進出する日本企業の支援をしながら、現在も「AfriMedico」での活動を続けている。

 

急速な人口増加を迎え、課題を抱えるタンザニアの保健医療分野

タンザニアは、世界の中でも、今後大幅な人口増加が起こると予測されている国の一つ。現在約5800万人の人口は、2050年には1億人以上になると言われています。しかしながら、増加する人口を支えるだけのインフラは、まだ十分に整っているとは言えません。特に保健医療の分野においては、さまざまな課題を抱えているのが現状です。

 

例えばタンザニアでは、妊産婦の死亡率が高く、10万人あたりの死亡者数は524人にものぼります。死亡要因を見ても、1990年と比べると大幅に減少していますが、いまだ死亡要因の50パーセント以上を占めているのが、感染症疾患及び母子・栄養疾患です。三津間氏は、「特に農村部では、マラリアやエイズなどの感染症にかかって亡くなる子どもが多い」と話します。

 

 

ダルエスサラームなど都市部では、概ね道路も舗装されていて、30分ほど車を走らせればどこかの病院に行くことができます。しかし、ダルエスサラーム以外の州には、まだ舗装されていない道も多くあり、公共交通機関で病院まで行こうとすると片道1、2時間はかかってしまいます。さらに農村部の病院では待ち時間が長く、受診するまでに早くても3時間、ときには5時間ほど待たされることも少なくありません。そして受診後に薬を処方されたとしても、病院が薬の在庫を持っていないケースもあって、その場合は処方箋だけもらって次の日にまた薬局まで取りに行かなければならないんです。

 

農村部に住んでいる人たちにとっては、『一日がかりで病院に行くこと』が普通で、軽い症状だと我慢をしてしまう人も多いのが現状。そのため、病院に行く頃には症状が悪化していたり、特に子どもは手遅れで亡くなったりするケースもあります。ただ病院の数が少ないことだけではなく、道路や物流といったインフラにも、都市部と農村部では大きな差があると言えます

 

村にあるクリニック

 

政府の力だけでなく、民間の手も借りながら人口増加に備える

医療従事者の数が全体的に大きく不足していることも深刻な課題の一つ。特に一般医は、人口1万人あたり0.25人しかおらず、これは日本の100分の1であることから、不足傾向が顕著です。今後、人口が増えることを考えると早急に対処する必要がありますが、三津間氏は、「人口増加にあわせて医療従事者を増やしていくことは難しい」と語ります。

 

 

日本でも実感できることですが、高齢者が増えているからと言って、その需要を満たすだけの介護士が増えるわけではありませんよね。私たちは職業を自由に選択することができますし、同じ職種でも待遇が良ければ、海外で働くことを選ぶ人もいます。特に医療従事者は大学を卒業しても現場での経験を積む必要があり、育成までに数年かかります。そのためタンザニアに限らず、アフリカ全土で急激な人口増加に併せて医療従事者をいっきに増やすことは不可能に近いことだと感じています。

 

しかしそもそもタンザニアでは、『医療従事者になることができる人』がとても少ないのが現状です。現在のタンザニアの義務教育は小学校のみ。中学高校に進学できる子どもは国民全体の2割ほどで、さらに大学に進学できる子どもは1割ほどしかいません。今後は、医療従事者を目指すことができる母数を増やすため、ボトムアップしていくことも課題の一つになると考えられます。その一方で、都市部に出てきて進学する優秀な若者たちの多くは、保健医療分野に対して、すでに強い課題意識を持っています。それはやはりほとんどの若者が、自分の家族や友達を感染症で亡くした経験を持っているから。今の国の政策だけでは解決し得ないこともわかっていて、多くの人たちが『この状況をなんとかしたい』と思っています。このような背景もあってタンザニアでは今、政府だけではなく、官民の連携や民間企業の介入によって、保健医療サービスなどの提供を進めていくことが、ますます求められるようになっているのです

 

IT技術を用いて医療を提供する「E-Health」

保健医療分野の課題を解決するために、近年アフリカ全体で注目されているのが、「E-Health」です。「E-Health」とは、IT技術を用いて、より効率的・効果的な医療サービスを提供しようという取り組みのこと。現在アフリカで実際にスタートしているサービスや、タンザニアでの導入状況について、三津間氏に聞きました。

 

日本で近年よく耳にするオンライン診療も、『E-Health』の一例です。すでにアフリカのいくつかの国では、イギリスがつくったオンライン診療のサービスが導入されています。また、ナイジェリアでは『偽薬』を防ぐためのIT技術が導入され始めているところ。アフリカでは薬の物流形態が複雑で、途中で偽物の薬が混じってしまい、そのまま販売されてしまうことがあります。偽薬のせいで命を落としてしまう人もいるため、アフリカではかなり深刻な問題として考えられているのです。しかしIT技術を用いることで、サプライチェーンの流通を管理して混じった偽薬を検知することが可能になります。このような技術が今後さらに広まれば、アフリカのさまざまな国で、安心安全な薬の流通を実現させることができるはずです。

 

このようにアフリカ各国で『E-Health』のサービスがスタートしていますが、実はタンザニアでは、まだあまり大規模な導入は進んでいません。その背景には、農村部で通信が不安定な地域が多かったり、キャリア会社が5~6社もあったりして、サービスを始めても一気に拡大しにくい現状があります。しかし、数年前までタンザニアと同じようにキャリア会社が複数あった隣国のケニアは、今ではほぼ1社に絞られており、タンザニアも同様の道をたどると言われています。そのためタンザニアでも、今後キャリア会社が絞られてインフラが整備されることで、E-Healthの導入が本格的に加速するのではと考えています

 

「医療を効率よく提供すること」は日本とも共通の課題

これからE-Healthの導入が期待されるタンザニア。中でもニーズがあると考えられているのが、妊産婦や小児向けのサービスです。三津間氏は今後ニーズが見込めるサービスとして、オンライン診療や、妊産婦が正しい知識を得られるようなコンテンツ配信などを例に挙げました。

 

「タンザニアでは、保健省の政策で妊娠期間中に合計5回はクリニックに行って診察を受けることが決まりとなっています。周産期を確認して出産のタイミングを予測したり、赤ちゃんの状態はもちろん、母体の健康状態をチェックしたりする必要があるためです。しかしながら現地で出産した人からは『2~3回しかクリニックへ行っていない』という話を聞くことも。農村部に住む人々は、一日がかりで病院に行かなければならず、特に妊産婦や小児にとって大きな負担となっているのが現状です。そのため、何らかの症状が出ていても我慢してしまい、重症化してから病院へ行くというケースも少なくありません。

 

この課題を解決するために考えられるのが、オンライン診療・問診などのサービスです。例えば、オンライン上で問診をすることで、初期症状での対応が可能となり、医療サービスへのアクセス向上が期待できます。さらに、現在紙で運用されている母子手帳を電子化して、妊産婦の過去の診療データや経過などを一括管理することも、より効率的な医療サービスの提供につながります。

 

また、妊産婦たちや患者へ正しい対処法が伝わっていないことも課題の一つです。タンザニアでは、赤ちゃんを育てるときに必要な対処法などをコミュニティの中で教わることが多いのですが、それが必ずしも医学的に正しいとは言い切れません。そのため、妊産婦たちが安心して子育てできるよう正しい情報を提供することも、今後求められるようになると思います。例えば、赤ちゃんに起こりやすいトラブルの対処法を、ラーニング用の動画や漫画のようなテキストを用いて楽しく学んでもらえるコンテンツなどは、ニーズが見込めるのではと考えています」

 

村の中心部の様子

 

タンザニアでは今、若者たちを中心にインスタグラムやFacebookなどSNSを利用することも増えていて、外から来た新しいものに対してオープンに受け入れる土壌ができつつあると感じています。そのためこれから若い世代をボリューム層として『E-Health』が波及していくのではと期待が高まっているところです。高齢化が進む日本とは一見、状況が異なるようにも思えますが、日本の医療体制においても過疎地や離島など、医療へのアクセスが困難な地域へ『医療をいかに効率的に提供していくか』は、課題の一つ。そのため、『人口密度の低い地域へ効率的に医療サービスや情報を提供する』という課題は、タンザニアの農村部も日本の過疎地も共通しています。日本が高齢化社会に対応していくためにつくったヘルステック系のサービスが、タンザニアのニーズにも応えられる可能性は、大いにあるのではないでしょうか」

 

市場が成長し始めている今が、参入のチャンス

さらにタンザニアでは、「E-Health」以外にも、ニーズが見込まれている製品やサービスが多くあります。例えば、心疾患、脳卒中、糖尿病といった感染症以外を早期発見するための画像診断機器や、増加する糖尿病患者のための血液透析装置などです。そのほか、慢性疾患にあわせた薬やサプリメントなどもニーズが高まっています。このように「人口増加や経済成長にあわせた製品やサービスには、大きなチャンスがある」と三津間氏は語ります。

 

現在、隣国のケニアには、アメリカで優秀な大学を出た若者たちがスタートアップを立ち上げようと集まってきています。これほど競争力があって成長しきった市場に入ることは、コストがかかる上にかなり難しいです。しかしタンザニアは、今まさに市場が伸び始めているところ。このタイミングで製品やサービスのシェアを獲得できれば、たとえ一顧客あたりの単価が安かったとしても、人口増加とあわせて、将来的に売り上げは自ずと伸びていきます。商品特性と市場成長のタイミングを見極め、投資をするタイミングを見誤らなければ、かなり面白い市場だと思います。

 

さらに、タンザニアの政策が海外企業に対してオープンな方向になりつつあることも、今がチャンスだと言える理由の一つ。タンザニアでは、昨年、新たな大統領が就任したことで、グローバルに足並みをそろえようとする発言や政策が増えるなど、少しずつ変化の兆しが見えてきています。まだ就任して間もないですが、これから国のルールや規制が本格的に変わっていけば、今までより海外企業が進出しやすくなると考えられます

 

「今のうちに、現地で起業している日本人や開発コンサルタントに相談しながら、現地の感覚をつかんだり手続きを先んじて進めたりしてもいいのでは」と三津間氏。タンザニア市場を狙う企業にとって、すでに進出準備を始めるフェーズが来ていると言えます。

ESG経営の一つの形:住民理解を得ながらイラクの発展に貢献する

世界有数の原油生産量を誇るイラク。しかし現在、度重なる紛争などの影響で製油所の稼働率が低下しており、国の経済は大きなダメージを受けています。イラクにとってこの基幹産業を立て直すことは急務である一方、脱石油や持続可能なエネルギー開発への動きが加速しているのも事実。それに伴い、今後産業人材のニーズもますます高まっていくと考えられています。今回は、イラクでプラント建設を行う企業と共同でCSR事業に取り組む、アイ・シー・ネットのグローバル事業部署長・徳良 淳氏に話を聞きました。イラクの“今”と“これから”の課題をどのように解決していけばよいのか、今回のプラント建設プロジェクトやCSR事業について解説しつつ、これからの途上国開発事業やCSRの在り方について探ります。

 

お話を聞いた人

徳良 淳氏

2001年、アイ・シー・ネットに入社。ODA事業のコンサルタントとして、行政機関の組織強化や役人の能力開発といったガバメント分野を中心に、アフリカやアジア各国で業務に従事してきた。現在は、親会社である学研ホールディングスのグローバル戦略室に在籍しながら、2020年に新たに設立されたグローバル事業部の署長も務めている。

イラクの復興・経済発展に貢献する「バスラ製油所近代化プロジェクト」

 

イラクにとって石油産業は、国を支える重要な産業であり、ほぼ唯一の外貨獲得源となっています。しかし現在、長年にわたる紛争の影響で国内各地の製油所は稼働率が低下。中でも北部や西部では操業停止状態となっていて、石油の精製量に大きな打撃を与えています。そのため国内の石油製品の需要を賄うこともできておらず、ガソリンなどの石油製品を他国から輸入せざるを得なくなっているのが現状です。

 

これらの課題を解決するために、2020年からイラク南東にあるバスラ地域で「バスラ製油所近代化プロジェクト」がスタートしました。このプロジェクトは、JICAの円借款融資によって調達された4000億円を資金に、日揮グローバル株式会社が実施するもの。戦災や老朽化の影響で生産能力が低下しているバスラ地域の2つの製油所の近くに、流動接触分解装置、減圧蒸留装置、軽油脱硫装置などの新たな装置を建設します。これにより環境への負担を軽減しながら、ガソリンや軽油を増産することが可能になり、石油製品の需要ギャップを減少させることができます。さらに装置の建設だけにとどまらず、プロジェクトでは、トレーニングセンターも新設し、1000人以上に対する技能研修の実施や、約7000人に対する技能労働者の雇用も行う予定。2025年のプロジェクト完工後には、2000人以上の雇用創出が見込まれていて、イラクの失業問題の解決も目指しています。徳良氏は、企業がこのような大規模なプラント建設などを行う際には、「地域社会への貢献」が重視されていることの一つだと話します。

 

「日本でも、例えば新しい道路や電車の線路をつくるときに、地域住民の理解を得ることは不可欠ですよね。途上国で大規模な開発事業を行うときも同じで、事業を円滑に進めたり、より意義のある事業にしたりするためにも、地域住民と良い関係を築くことや長期的に貢献することは、とても大切だと考えられているんです。最近では国際的にも、借款事業において少なくない金額が地域の人々の技術支援や新たな雇用を創出するために使われるようになってきています。実際、今回のプロジェクトでも、バスラ地域の人々から『プラント建設以外にも、何かをもたらしてもらえるのではないか』と期待されていることを実感しています」

 

産業人材の育成につなげる「バスラ地区小学校の科学教育強化事業」

 

今回の「バスラ製油所近代化プロジェクト」では、「バスラ地区小学校の科学教育強化事業」と称したCSR事業が並行して実施されます。この事業は、日揮グローバルとアイ・シー・ネットが共同で取り組むものです。現在は、2022年5月頃からのスタートを目指して準備が進められているところ。今回教育に関する事業が行われることになった背景には、イラクで産業人材のニーズが高まってきていることがあると言います。

 

「現在のイラクを支えている石油産業を立て直すことは、喫緊の課題であり、とても重要なことです。しかしその一方で、イラクをはじめとする産油国では、近い将来枯渇してしまう石油に代わる、持続可能なエネルギーの開発にも積極的。特に風力発電や太陽光発電などには大きな注目が集まっています。そのため今後イラクで、新たな産業の担い手を育てることがますます求められるようになってくるはずです。このような背景があって、今回の事業では、将来のイラクの産業を支える『産業人材』の育成につながるものにしようと、『教育』というアプローチで取り組むことになりました」

 

事業では、これまでアイ・シー・ネットがトルコなど他の国でも行ってきた「科学実験教室」を、バスラ地域の小学校10校で実施します。空気や電気といったテーマで科学実験を行い、まずは子どもたちに理科や科学の基礎を楽しみながら学んでもらうことが目的です。また、小学校を巡回して授業を実施する前に、地域の市民センターを借りて「サイエンスショー」のようなイベントも開催予定。このイベントについて徳良氏は、「理科や科学に対して、より多くの地域の子どもたちに興味関心を持ってもらえる機会になれば」と話します。さらに事業では、子どもたちだけでなく、「教員の能力強化」も大きな目的となっています。実験の仕方や子どもたちへの教え方についてレクチャーしたり、授業後にはフォローアップのセミナーを行ったりして、今回の事業が終わったあとも、継続的に授業を続けていけるような支援が計画されています。

 

「イラクでは現在、度重なる戦争の影響で、教育分野でも課題が山積しています。例えば、教育への予算が不足していることもその一つ。国の予算の使い道は、どうしても経済や産業が優先されてしまいます。そのため、教室、教員、教材などが足りておらず、教育の質を向上させることもなかなか難しいのが現状です。だからこそ今回のような科学実験教材を使った取り組みは、イラクにとってかなり画期的なものではないかと考えています。現地の教育省もすでに『私たちが準備すべきことがあれば教えてほしい』と、とても協力的。今回のCSR事業に期待してくれていると実感しています。これから現地で本格的に準備を進めていくことになりますが、イラクは今も治安があまり良いとは言えず、日本からの渡航も基本的には禁止されている状態です。現地での私たちの移動には警備がつきますし、自由に行動することはできません。そのため、これまで事業を行ってきた国と同じようにいかないこともあると思いますが、まずは計画しているプログラムを一つずつ確実に実施していきたいと考えています」

 

マレーシアで行った科学実験の様子

 

一企業のCSR事業から、国を動かす

 

「バスラ地区小学校の科学教育強化事業」では、事業の成果をエビデンスとして残すことも意識しています。その背景にあるのは、現在、企業投資の際の判断基準として『ESG』の重要性が高まっていることがあります。徳良氏は、「現在どの企業にとっても、既存の事業はもちろん、新しい事業を始めるときにはESGは必ず意識しなければならないところ。さらに、投資家たちが正しく判断できるよう、その事業が実際にどのような成果を生み出したのかをきちんと示すことも求められています。そのため今回のCSR事業でも、私たちがこれまでODAで培ってきた事業評価のノウハウを活かしながら、成果を目に見える形で残したいと考えているんです」と話します。

 

「例えば、現地で実施した活動をドキュメンタリーのような形で映像に残してテレビなどで配信してもらったり、事業前と後の意識調査を行ったりするような形で評価をしようと計画中です。まずは今回の事業のことを広く知ってもらい、教育の重要性を伝えていく必要があると感じています。その上で、成果をきちんと示すことができれば、イラク教育省をはじめ、政府も力を貸してくれるはず。今回はバスラ地域の一部を対象に、CSR事業として行いますが、今後は、例えばODAのプロジェクトとして、バスラ中心部や、バグダッド、さらにはイラク全土で、『科学実験教室』のような教育事業を広く展開できればと思っています。そして最終的には、カリキュラムの改定や産業人材の育成に関する政策など、イラクの教育を良い方向に動かすことが大きな目標。一つのCSR事業をきっかけに、将来的に大きなインパクトを生み出していきたいと考えています」

 

上海で行った科学実験の様子

 

これからは、国の将来を見据えた中長期的な貢献も大切

 

今回のCSR事業を実施することによって、バスラ地域の産業人材の育成に貢献することができれば、「将来的には、パートナーである日揮グローバルが建設した工場で働く人材の質が高まるほか、アイ・シー・ネットにとっても『科学実験教室』をさらに広い地域で実施することにもつながるはずです」と徳良氏。このように、支援される途上国側だけではなく、支援を行う企業にとってもポジティブな成果をもたらすようなCSR事業が、これからますます求められるようになると考えられます。

 

北京で行った科学実験の様子

 

「今回私たちは、プラント建設プロジェクトが実施されるバスラ地域に貢献するために、CSR事業としてどのようなことができるのかを、一から考えていかなければなりませんでした。これは、あらかじめ内容や達成目標がある程度決まっている業務委託サービスの提供とは異なる、チャレンジングなところ。今後、途上国の開発事業を行う企業などで、『Win-Winの関係になれるようなCSR事業は何か』を考えることは、大きな課題の一つになると感じています」

 

「教育のような支援は成果が見えにくく、すぐに何かが良い方向へと変わるわけではありません。それでも、支援する国の将来を見据えて中長期的に貢献していくことは、今後ますます重要になってくるのではないでしょうか」と徳良氏。途上国の開発事業にESG経営をいかに取り入れるか、これからも模索が続きそうです。

コートジボワール発のイノベーションがアフリカの農家を救う

世界一の人口増加率と高い経済成長率を有するアフリカ大陸へのビジネス展開は、日本のみならず世界各国の企業が検討しています。最先端のテクノロジーを駆使した医療や通信、金融などのサービスが同大陸で続々と展開されていますが、それは農業分野においても同じです。

英国王立工学アカデミーのAfrica Prize for Engineering Innovationを初受賞した『KubeKo』(画像提供/LONOのFacebook)

 

2021年7月に英国王立工学アカデミーから「Africa Prize for Engineering Innovation」を初受賞した化学エンジニアのノエル・ヌグッサン(Noel N’guessan)氏は、コートジボワールを拠点とする化学エンジニアで、スタートアップ企業「LONO」の共同創業者です。同アカデミーは毎年、英国で最も優れたエンジニアを表彰している権威ある団体で、最終選考に残るまでに数多くの厳しい審査を通過しなければなりませんが、今年この栄誉に輝いたのは、ヌグッサン氏が開発した、有機性廃棄物や生物学的廃棄物を堆肥や調理用ガスに変える「KubeKo」でした。

※1ポンド=約154円換算(2021年11月25日時点)

 

アフリカの農業廃棄物は、販売される農作物の約2~5倍の量になると言われており、コートジボワールでは年間約3000万トンの廃棄物が生み出されます。KubeKoによる廃棄物の再利用は、副収入をもたらすことで農家の生活を劇的に改善する力を秘めているうえ、地域の持続可能性を高め、地球環境に貢献するなど数多くのメリットを有していると評価されています。

 

LONO社で販売されているKubeKoコンポストは、有機性廃棄物を約4週間で堆肥に変え、400kgの有機廃棄物から約150㎏の堆肥を得ることが可能。また、KubeKoバイオガスは、生物学的廃棄物から調理用ガスと液体堆肥を生み出します。1日あたり5kgの廃棄物が約2時間の調理を可能にし、さらに液体堆肥も得ることができます。

 

現地の人々を苦しめていた大量の廃棄物が、生活の向上や収益に貢献するものに変化したことで、大きな感動と喜びを生み出したことは想像に難くありません。

 

グローバル展開に不可欠なサステナビリティ

KubeKoの受賞が示しているように、グローバルに評価されるビジネスモデルを生み出すためには、現地ニーズに即した商品やサービス展開を実施するだけではなく、地域環境や持続可能性を考慮することが必須といえるでしょう。

 

現在でも日本のものづくりは世界中から高い評価を得ており、製造業に携わる人であれば、現地ニーズを詳細に把握することで新たな商機を得られる可能性が高まります。幸い日本には、開発途上国に向けた調査やビジネス支援を専門的に展開している民間企業が存在しており、場合によっては政府系機関のバックアップを見込めることもあるでしょう。高い技術力を持つ企業が、現地のニーズを知る企業と手を組めば、暗闇を照らすサーチライトを手に入れたも同然。日本企業もKubeKoのようなイノベーションを生み出せるはずです。

「デジタル通貨」で先陣を切るナイジェリア

ナイジェリアのムハンマド・ブハリ大統領は、2021年10月25日、ナイジェリア中央銀行のデジタル通貨(CBDC)「eナイラ」の導入を発表しました。中央銀行の信用裏付けがあるデジタル決裁は、単純に既存の紙や硬貨を使わないことだけでも国民生活に大きな変革をもたらすはずです。ビットコインに代表される仮想通貨は法定通貨を基準としていないので混同される読者も多いかもしれませんが、現在、世界各国が政府主導で続々に実証実験を行なっているデジタル通貨は、ナイジェリアと同様に法定通貨に裏付けられているものです。

ナイジェリアが導入した「eナイラ」

 

決済の利便性が向上

すでに世界初の中央銀行デジタル通貨「サンドダラー」が2020年10月にバハマで発行されていますが、欧州中央銀行(ECB)の「デジタルユーロ」や中国の「デジタル人民元」、そして日本の「デジタル円」なども数年内の発行を目指して実証実験を進めています。

 

デジタル通貨は、紙幣や硬貨と異なり、デジタル上ですべてを管理する通貨であるため、決済における利便性は飛躍的に上がることが見込まれます。信用度やセキュリティ、決済端末の普及など、さまざまな問題点が指摘されていますが、当局がそれらを運用しながら解決していくのであれば、国民の理解を得て普及に向けた歩みを強く推し進めていくことが当面の課題でしょう。

 

各国の中央銀行が発行するデジタル通貨は、基本的に自国発行通貨と価値を連動させています。ビジネスにおける決済においては、通貨価値の変動幅が大きいものは不向きですが、それでもデジタル通貨の導入は利便性だけの視点でいえばプラスの要素でしょう。

 

通貨は国家の威信そのものであり、過去の長い歴史の中で通貨発行権における攻防は凄まじいものがありました。現代においては、それがビットコインであり、Meta(旧Facebook)主導による「Libra」でしょう。

 

グローバル展開を検討している企業で、さらにデジタル通貨関連事業を検討しているのであれば、今回のナイジェリアのケースは参考になるでしょう。2億人以上の人口を有するアフリカ最大の国におけるデジタル通貨の取り組みは、世界各国の政府や大手企業、中央銀行も注目しているに違いありません。リサーチを早めに開始して、大きなビジネスチャンスに向けた準備を始めてみてはいかがでしょうか?

巨大IT企業が次々に巨額投資! ハードルが下がる「アフリカ進出」

2021年10月、GoogleおよびAlphabetのCEOサンダー・ピチャイ氏が、アフリカに10億ドル(約1137億円※)を投資することを発表しました。自身を「テクノロジー・オプティミスト」と称するピチャイ氏は「テクノロジーがアフリカの未来を大きく変革できる」という力強いメッセージを発しており、Google for Africaでアフリカ投資に向けた施策を数多く展開しています。

※1ドル=約113円で換算(2021年11月5日時点)

よっしゃ! ネットにつながった!

 

今回の投資における主要な4つの分野は「安価なアクセスおよびアフリカのユーザー向けの製品開発」「企業のデジタルトランスフォーメーション支援」「次世代技術促進に向けた起業家への投資」「アフリカの人々の生活向上に貢献する非営利団体の支援」とされています。

 

以前からGoogleはアフリカの人々にデジタルスキルをサポートしており、2017年に表明したアフリカ人に向けたデジタルスキル支援においては、600万人を超える人々にトレーニングを実施。さらに、8万人を超える開発者の訓練や80社以上のスタートアップ企業の資金調達支援などを通じて、数千人規模の雇用を創出してきました。

 

テクノロジーを活用した医療支援やオンライン学習、モバイルマネーなどは、すでにアフリカで巨大なビジネスに成長していますが、Googleは今後5年間でさらに3億人以上のアフリカ人がインターネットに接続できるようになると予測しており、幅広い分野でデジタルイノベーションの準備を進めています。

 

当然ながら、巨大市場アフリカに向けて、ほかの企業も大規模プロジェクトを予定しており、Meta(旧Facebook)を中心としたコンソーシアムによる海底ケーブル拡張プロジェクト「2Africa」はその一例です。同社のほかに、2Africaにはチャイナ・モバイル・インターナショナル、MTNグローバルコネクト、オレンジ、サウジ・テレコム、テレコム・エジプト、ボーダフォン、WIOCCが参加。本プロジェクトは、アフリカ、アジア、ヨーロッパを直接結ぶものであり、2021年9月には上陸地に9つの新拠点を追加し、ケーブルの長さが4万5000km以上に及ぶことが発表されました。

 

当初はアフリカの約12億人にネット接続を提供する予定でしたが、今回の発表では世界人口の約36%に相当する33か国、約30億人にインターネット接続を提供することが可能になると報じられています。インフラが整えば、情報格差を埋めたり、何十億人ものライフスタイルやビジネスの手段が変わったりするでしょう。

 

巨大IT企業が主導するインフラ開発やデジタルスキルの普及によって、先進国における既存のビジネスルールを適用できる環境が整えられる可能性があり、アフリカ進出のハードルが低くなるかもしれません。このようなアフリカの変革は、日本企業においても大きなビジネスチャンスであり、成長著しいマーケットに向けたサービスを展開するには追い風です。

 

アフリカでモバイルマネーが急速に普及したことは世界的に知られていますが、今後はビジネスのキャッシュレス決裁もさらに広がる見通しで、海外企業のアフリカ進出はさらに拡大することが予測されます。日本からアフリカに向けたビジネス展開もさらに容易になっていくことでしょう。

「第2回日アフリカ官民経済フォーラム」が2021年12月オンライン開催へ

第2回日アフリカ官民経済フォーラムが、2021年12月に開催されます。3年毎に開催される本フォーラムは、経済産業省、日本貿易振興機構(JETRO)、ケニア政府の共同開催で、貿易や投資、インフラ、エネルギーなどの各分野において、日本とアフリカの民間企業の協力およびアフリカにおける日本企業のビジネス活動の促進を目的としています。前回では日アフリカ双方の官民が多数参加し、テーマ別に大きな成果を上げました。今回は一般向けの分科会がオンラインで、全体会合がケニアの首都ナイロビで行われる予定です。

ナイロビ市街の様子

 

本フォーラムは、2016年の第6回アフリカ開発会議(TICAD6)で安倍晋三元首相が開催を表明。第1回目は2018年5月に南アフリカで開催され、日本企業約100社、アフリカ企業約400社に加えて、欧州や中東などの第三国企業や国際機関を含む約2000人が参加しました。さらにJETRO主催の展示会では中小企業21社を含む約70社・団体が出展。このフォーラムの結果、民間企業、政府機関、アフリカ政府との間で16件の覚書が締結され、アフリカへの投資拡大と日アフリカの経済協力関係強化に大きく貢献しました。

 

「日本から遠く離れたアフリカ諸国との座組みである日アフリカ官民経済フォーラムが、広範囲な分野におけるビジネスチャンスを強く秘めている」と多くの日本企業に認識されるようになったのは、2019年に横浜で開催されたTICAD7の影響が大きいでしょう。TICAD7の開催期間はわずか3日間でしたが、首脳級を含む数十か国および数百を超える企業や団体の参加による規模の大きさや、アフリカ諸国の成長に向けた巨大なパワーが日本の各メディアで大々的に報道されたため、記憶に新しい人も多いはずです。

 

第2回目のフォーラムは、各分科会においてヘルスケアや農業分野におけるスタートアップ企業の紹介、アフリカ統合に向けた動向、デジタルインフラなどのテーマで、日本とアフリカの民間企業や公的機関、国際機関の登壇が予定されています。同時に複数のサイドイベントも開催される予定で、アフリカへの事業展開を考える企業にとっては最新情報の収集や現地パートナーを探す絶好の機会となるでしょう。

 

世界経済全体に大きなダメージを与えたコロナ禍で初となる日アフリカ官民ハイレベルのビジネスフォーラムは、日本およびアフリカ各国のみならず他国からも注目されています。一般の参加者にはオンラインでの配信を予定しており、参加登録受付サイトは11月上旬にJETROおよび経済産業省のウェブサイトで告知される予定。ぜひ本フォーラムでグローバルビジネス展開における大きなチャンスをつかんでください。

 

第2回日アフリカ官民経済フォーラム

【開催期間】2021年12月7日(火)~12月9日(木)

【予定】

・12月7日〜8日:分科会(オンライン)

・12月9日:全体会合(ナイロビ

【サイト】経済産業省「日アフリカ官民経済フォーラム」

 

インドで築いたネットワークを活かし、 ODA事業・ビジネスコンサルティング事業に取り組む

国際協力に従事するプロフェッショナルに、開発途上国の現状やビジネスチャンスについてインタビューする本企画。初回に登場するのは、10年以上インドに駐在し、ODA事業やビジネスコンサルティング事業に携わる大西さん。異なる業務に取り組む中で大切にしていることや、インド市場の特徴、ビジネスチャンスが期待できる分野などをお聞きしました。

 

●大西由美子/2004年からアイ・シー・ネットで勤務。南アフリカの農村開発に1年半従事したのち、インドへ異動。2006年から4年間は旧JBIC・JICAのインド事務所でODA事業に携わる。2011年頃からはODA事業のモニタリングや評価の業務をメインで担当。ビジネスコンサルティング事業部でインド進出を目指す日本企業の支援も行っている。

 

幼少期にタイで過ごした経験が、国際協力の仕事に興味を持つきっかけに

――まずは、大西さんがインドでお仕事をされるようになった経緯を教えてください。

 

もともと国際協力の仕事に関心があり、発展途上国で働きたいと考えていました。興味を持つきっかけになったのが、幼い頃にタイで過ごした経験です。私自身、生まれは日本なのですが、日本に住んでいたのは合計7年ほど。子どもの頃はタイで6年半、アメリカで9年間を過ごしました。中でもタイでの暮らしは日本の生活とは異なるところが多く、「タイはまだまだ発展途上だ」と子どもながらに感じていました。このような国のために何かできないかと思い、国際協力の仕事をしたいと考えるようになっていったんです。

 

インドに来ることになったのは、インド人の夫と結婚したことが大きな理由です。数年後に、アイ・シー・ネットで正社員として働き始めてからはずっとインドで仕事をしていて、現在デリーに住んで15年ほどになります。気が付いたらデリーが人生で一番長く過ごしている場所になりました。

 

――長年インドに住まれていて、変化を感じたことを教えてください。

 

最初のインド生活は地方でした。地方都市に住んでいたときには周りに外国人がとても少なく、外を歩くだけでかなり目立つような状況でした。そして日本のものはおろか、海外製品もほとんど出回っておらず、インドのものしか手に入らなかったので生活は少し大変でしたね。数年後にデリーに移り住んだときには、外国人も多くいて、比較的便利な生活を送れたので、地方都市に比べると遥かに都会だと感じました。

 

しかし現在のデリーはさらに状況が変わっていて、例えばレストランもインド料理だけではなく、中華や本格的なイタリアンが味わえるようなお店が増えていたり、富裕層向けではありますが、輸入品を取り扱うスーパーマーケットなどもオープンしたりしています。外国人が増えて、海外のものが手に入りやすくなったことは、この15年間で大きく変化したことだと実感しています。

 

 

政府機関と民間企業を相手に、毛色の異なる業務に取り組む

 

成果をまとめることで“将来の事業”を成功に導く、「事後評価」の仕事

――大西さんが現在インドで取り組まれているお仕事について、具体的に教えてください。

これまで多かったのは、ODAの「事後評価」の仕事です。事後評価では例えば、政府機関が大規模なインフラ整備事業などを行った後、その事業で資金がどのように使われたのか、どのような成果をもたらしたのかなどを調査して、報告書にまとめたりしています。

 

今は、JICAがインドのバンガロールで行った上下水道事業の事後評価を進めています。この事業はJICAが継続的に取り組んでいるもので3つのフェーズに分かれており、現在は2006~2018年に行われていたフェーズ2の事後評価をしているところです。

 

フェーズ2では、浄水場を1か所建設することや下水処理場を11か所建設することなどがあらかじめ計画されていました。評価では、これらの施設が計画通りに建設され、きちんと運営されているか実際に足を運んで確認したり、下水処理場から提出してもらったデータの数値に異常がないかをチェックしたりします。例えば今回、もらったデータを確認すると、水の処理容量が規定値から外れていた時期がありました。このように何かしら問題を見つけたときには、水道局の職員と直接話をして原因のヒアリングを行うこともあります。

 

――事後評価の仕事で特に苦労するのはどのようなところでしょうか?

事後評価のために必要な膨大な情報を集めるのには、毎回苦労しています。そして、ただデータをもらって終わりではなく、そのデータが本当に正しいのかを確認したり、数値に問題があったときにはその原因を追究したり、細かく地道に進めていく作業が多いのも大変なところ。さらに作業は基本的には私一人で、一年以内に終わらせなければなりません。しかし、事後評価を通して成果や課題をまとめた報告書は、将来、別の発展途上国で同じような事業に取り組むときの指針にもなります。事業で得た学びを少しでも未来に活かすべく、責任を持って日々仕事に取り組んでいます。

 

インド進出を目指す日本企業をサポートする、ビジネスコンサルティングの仕事

――ODA事業以外で取り組まれているお仕事についても教えてください。

ビジネスコンサルティング事業部でもさまざまな業務を担当しています。例えば今行っているのは、仙台のベンチャー企業が開発した、太陽光パネルに使われる資材の品質をチェックする機械を、インド企業に売り込むサポートです。現在インドでは、太陽光発電の普及にとても力を入れています。そこに注目した日本のベンチャー企業が、「機械の導入によってインドで製造されている太陽光パネルの品質向上が見込める」と、インドへの営業を始めているんです。

 

しかしコロナ禍の影響で大企業が投資するのを控えていることもあり、なかなか思うように進んでいないのが現状です。また、機械自体も新しい技術を使って開発されたものなので、高額であることも課題の一つ。現地からも「もう少し安くできないか」という声を聞いています。そうしたフィードバックを受けて現在は、もう少し価格を抑えた機械を開発したり、性能を理解してもらうためにサンプル試験をお願いしたりして、試行錯誤をしているところ。どうしたら製品の良さを伝えられるのか、納得して購入してもらえるのかを考えながら、今後もサポートを続けていきたいと思っています。

 

積極的なコミュニケーションを図り、人間関係を築いてきた

――ODAとビジネスコンサルティングという異なる業務に取り組む中で、大西さんが大切にされていることを教えてください。

 

私が仕事でずっと大切にしているのは、「人間関係の構築」です。例えば、ODA事業で築いた政府機関とのネットワークは、企業が求める情報を集めたり、つないでほしいところを紹介したりする際にも役立っていて、ビジネスコンサルティング事業にも活かすことができていると感じています。

 

人との関係を築いていくためには、やはり直接会ってコミュニケーションを取ることがとても大事だと考えています。インドでもコロナ禍で、これまでよっぽどのことがなければ使用しなかったオンラインツールが、急速に普及しました。それでも私は、チャンスがあればできるだけ直接会いに行くことを心掛けています。そのほうが相手に顔や名前を覚えてもらいやすいですし、何かを頼んだときにも対応してもらいやすい印象があるんです。インド人からも、特に年配の方からは「直接会いに来て話してほしい」と言われることが多いように思います。また、以前、ある人から情報をもらおうとオフィスまで会いに行ったときには、「隣の部屋にいる○○さんのほうが詳しいから紹介するよ」と言ってもらえて、新たな出会いにつながったこともありました。これはオンラインではなかなかできないこと。私としても直接会って話をすることで、一緒に仕事がしやすい相手かどうかを、より見極めることができると感じています。

 

長年インドでさまざまな人との関係を築いてきたおかげで、今では、仕事で何か頼まれたときに、インドで「この人に聞けばわかる」「ここに行けば情報が手に入る」ということを、常に伝えられるようになりました。今後も積極的なコミュニケーションを図りながら、さらにネットワークを広げていきたいと考えています。

 

多様な市場を持つインドには、ビジネスチャンスも多くある

――インドの市場の特徴や、日本企業が今後進出できそうな分野について教えてください。

 

インド市場の特徴は、とにかく多様であるということです。インドと言えばどうしても、首都・デリーがある北インドの印象が強いのですが、地域によって、言語や食文化など、あらゆる面で大きな違いあります。そのため、例えばデリーで上手くいかなかったビジネスも、他の地域ではチャンスがあるかもしれません。インドを一つの市場として捉えるのではなく、たくさんの可能性がある市場として、日本企業にも知ってもらえたらと思っています。

 

今後、日本企業にとって可能性がある分野の一つは、食品加工産業です。インドは農業大国ですが、食品加工の技術があまり進んでいないため食品の貯蔵や保存ができず、フードロスが多いことが課題になっています。日本の食品加工技術や温度管理の技術によって、それらの課題を解決できるのではと期待が高まっているところです。また、インドにはレトルトなどの加工食品がまだまだ少なく、今後ニーズが高まっていくと考えられています。例えば、日本はカレーやパスタソースなどのレトルトパウチ食品が豊富で、品質も良いので、このような加工食品は今後インドに進出するチャンスがあるのではないでしょうか。

 

さらに、高齢者ケアも注目されている分野と言えます。私も今まさに、日本の高齢者ケアのサービスをインドに持ってくることができないかと、調査しているところ。さらに高齢者ケアのサービスだけでなく、日本が製造している介護器具にも可能性があると感じています。

 

日本だけでなく、世界のさまざまな国とインドの架け橋になりたい

――大西さん自身が今後取り組みたいことは何ですか?

今後もインド進出に関心のある日本企業をサポートしていきたいと考えています。そして逆に、インドから日本というベクトルでも何かお手伝いできることがあるのではと思っていますね。例えば近年インドでは、お酒に対する抵抗感も地域によってはだいぶ減ってきて、「インドワイン」などが出回るようになっています。また、インドと言えば紅茶のイメージが強いのですが、実はコーヒーも多く生産していて、最近ではスタートアップ企業がおしゃれなコーヒーショップを出店したりもしているんです。日本人はワインもコーヒーも好きな人が多いので、チャンスがあるのではと思っています。

 

私はこれまで、特定のジャンルを自分の得意分野にして仕事をしたいと考えていましたが、最近になって、自分の強みはとにかく「インドを知っていること」だと思うようになりました。今後も長年築いてきたインドでのネットワークを活かして、日本はもちろん、世界のさまざまな国とインドをつないでいきたいと考えています。

 

――最後に海外で働きたいと考えている人へ、メッセージをお願いします。

「インドで一度仕事をすれば、きっと世界のどこでも仕事ができる」ということを伝えたいです。インドは、同じ国内でも場所ごとに言語や宗教や食などの文化が大きく異なっていて、本当にさまざまな人がいる国。だからこそ大変なことも多く、日本では考えられないような問題に直面することも日常茶飯事です。しかし、その多様さこそがインドの魅力であり、面白いところでもあります。ビジネスの分野でも国際協力の分野でもきっと役に立つ学びがあるはずなので、短期間でもぜひ、インドでの仕事を経験してみてほしいです。

国の発展に欠かせない「高度産業人材」ーートルコで期待される「これからの教育」とは?

中東地域トップクラスの産業大国・トルコ。ヨーロッパ、東欧、ロシア、中央アジア、中近東、北アフリカの中心に位置しているトルコは、その地理的利点も活かしながら、世界各国との外交や関税同盟も積極的に推進しています。

 

さらに2019年には、年間2億人のハブとなる世界有数の巨大空港が開港。今後さらなる経済成長が期待されています。その中で現在ニーズが高まっているのが「高度産業人材」です。産業の発展のために不可欠な課題解決能力や思考力を持った人材を育成していくために、今後トルコではどのような教育が必要なのでしょうか。今回はトルコで20年以上にわたって、教育省などに技術指導を行ってきた伊藤拓次郎氏に話を聞きました。過去にODA事業として実施された産業人材育成プロジェクトや、現在トルコが求めている人材について解説しつつ、「トルコにおける高度産業人材育成のこれから」を紐解きます。

 

お話を聞いた人

伊藤拓次郎氏

1996年から20年以上にわたって、トルコ保健省、教育省、家族省などでODA事業を実施。トルコ以外でもこれまで約40か国でODA事業のさまざまなプロジェクトに携わった経験を持つ。専門は、インストラクショナルシステムデザイン、教育・教材開発、トレーナー育成、国際開発におけるプロジェクトマネジメントなど。現在はアイ・シー・ネットのグローバル事業部でトルコを中心に中東STEAM教育事業の立ち上げに従事している。

 

2001年から日本も支援してきた、トルコの製造業技術者の人材育成

トルコでは1990年以降、製造業が急速に拡大しました。それによって製造業技術者の人材育成が急務となり、国の開発計画の重点課題として取り組まれてきました。日本も2001年からトルコ国民教育省をODAにより支援。2001~2006年にかけて、工場での生産性向上のために必要な「自動制御技術」を持つ人材を育成するための技術協力プロジェクト「自動制御技術教育改善計画」が実施されました。

 

自動制御技術は、工場などのロボットや製造ラインを制御することによって生産を自動化していくための技術。産業の品質向上や効率化を図るために欠かせないものです。この自動制御技術は、電気、電子、機械など、あらゆる分野の技術で構成されていて、トルコの職業高校でも2001年以前からこれら一つ一つの技術を学ぶ授業が実施されていました。しかしこれらの技術を、ITを使って複合的に制御することを学ぶカリキュラムは、ニーズはあったものの、実施には至っていませんでした。そこで日本が自国の技術を活かし、トルコの2つの職業高校に自動制御技術(Industrial Automation Technology:IAT)学科設立のための支援を行ったのです。

 

この成果を受けて、国内各地の職業高校20校にIAT学科を新設し、IATトレーナーを養成するための教員研修センターも設立しました。その後も教員研修センターにトルコ独自のシステムを導入したり、民間企業の従業員を対象に実務者研修を行ったりするなど、教員研修の実施・運営体制の強化が進められました。現在はトルコ全国70校以上で自動制御技術が学べるようになり、製造業技術者の人材育成が行われています。

 

トルコ周辺国にも技術を展開「自動制御技術普及プロジェクト」

トルコ国内への普及がひと段落すると、中央アジアや中近東への技術展開を目指して、新たな取り組みが始まりました。それが2012年から3年間かけて行われた「自動制御技術普及プロジェクト」です。本プロジェクトには伊藤氏も参加していました。

 

「『自動制御技術普及プロジェクト』は、途上国間で支援や援助を行う『南南協力』と呼ばれる形の取り組みで、私たちはその支援を行うためにプロジェクトに携わりました。このプロジェクトでは、イズミールにある教員研修センターに、中央アジア・中近東の9か国(アゼルバイジャン、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、トルクメニスタン、タジキスタン、パキスタン、パレスチナ、アフガニスタン)のポリテクカレッジや職業訓練校の教員たちを受け入れ、トルコのマスタートレーナーたちが産業ロボット制御の技術指導を実施。産業自動化教材を用いながら、メカニズムや使用する機材についてレクチャーしたり、プログラミングの仕方などを指導したりしました」

 

自動制御技術普及プロジェクトでパキスタン教師に技術指導をする様子

 

本プログラムでは、トルコ周辺国の自動制御技術普及をさらに推進するために、トルコに進出している日系企業と9か国のマッチングイベントも実施されました。イベントでは、日系企業がそれぞれ自社の商品を展示したり、カンファレンスを行ったりして技術を紹介。その中で、カザフスタンから「日本企業の産業自動化機材を導入したい」と相談がありました。最終的にODAの普及実証事業を通して、カザフスタンのトップ大学であるナザルバエフ大学に「産業自動化ラボ」を設立。日本の自動制御技術の教育機材を導入し、教員たちのトレーニングも行われました。

 

9か国の技術教育高官と日系企業のマッチングイベントでの集合写真

 

「人材育成と聞くとどうしても、『高校を出てすぐに働ける現場作業員を育てること』だとイメージされがちです。しかし自動制御技術普及プロジェクトは、ものごとの仕組み全体を理解したり、自分で仮説検証をしながら考えたりできるような人材、つまり『高度産業人材』の輩出を目指した取り組みでもありました。実際、企業や工場などを訪問して産業調査を実施したときには、現場から『マネジメント能力や課題解決力、知識を実際の現場で応用して使うことができるような人材が不足している』という声を直接聞くこともあり、高度産業人材のニーズが高まっていることを実感しています。トルコにとって高度産業人材の育成は、今後の重要な課題の一つになってくるのではないでしょうか」

 

高度産業人材の活躍が期待される、再生可能エネルギーの分野

今後のトルコで高度産業人材が特に求められる分野として、伊藤氏は、トルコや中近東でトレンドになっている「再生可能エネルギー分野」を例に挙げました。現在イズミールでは、風力発電の設備が多く見られ、新たなベンチャー企業もどんどん誕生しています。また、トルコはもともと自動車産業が盛んな国。長年EUへの加盟を目指しているトルコでは、ヨーロッパの市場を特に意識していることもあり、現在は電気自動車やバイブリッドカーなどの開発にも積極的です。伊藤氏は「トルコの大学では、授業の中で電気自動車をつくらせるところも出てきていますし、中学校においても風力発電のしくみを教えています」と語ります。

 

イズミール郊外の村の電力を補う風力発電の風車

 

再生可能エネルギーは世界各国が取り組みを進めている、まだ発展途上の分野。そのため、新しい発想や考える力、さらにはチームで仕事をする力が求められます。

 

「まだ答えが見つかっていないからこそ、課題を見つけたり、分析をしたり、仮説検証を繰り返したりする能力が必要。さらに複数人でアイデアを出し合って新しいものをつくるなど、チームで取り組むことも求められるはずです。個性豊かで個人プレーが得意なトルコ人にとって、『チームビルディングをして仕事をする』こと自体も大事なチャレンジだと思っています」

 

子どもたち、そして教員たちへの教育も不可欠

高度産業人材の育成には、小中学生の頃から「自分で考える力」を養っていくことが大切。そのために重要な役割を果たすのが、STEAM教育です。「自分たちで課題を見つけて解決しながら、付加価値をつけることができるよう、プロジェクトワークや課題解決型学習を取り入れていく必要があります」と伊藤氏。さらに「子どもたちの教育だけでなく、教員たちの教育も大切」だと語ります。

 

「私が感じるのは、トルコの教育にはとても進んでいるところがある一方で、極端に遅れている面もあるということ。例えば私が以前プロジェクトで携わっていた高校は、EUや日本の民間企業の支援によって、立派なラボを持っていました。このように学びの環境は整っているのですが、まだまだ課題もあります。

 

その一つが『評価』に対する認識。トルコの現在の教育の特徴として、ほとんどの高校教員たちが、卒業後の生徒たちの進路を全く知らないということが挙げられます。卒業後のことではなく『卒業すること』がゴールだと考えられていて、授業の質や評価よりも『卒業できるようテストで点数を取らせること』に終始しがち。そのため教員たちの『授業を良くしよう』『授業後の評価をきちんと行おう』という意識が低いように感じます。また、暗記暗唱型の授業が多いことも課題。教員たちが一方的に講義をして、子どもたちがその内容を覚えるというような授業スタイルがまだ多いのが現状です。現在、トルコでも科学実験の教材やプログラミングが学べる教材などが出回ってはいるのですが、教員たちからは、教材の使い方や子どもたちへの教え方がわからないと言われることも。子どもたちの教育と同時に、教員たちへの研修なども同時並行で行っていく必要があると感じています。

 

教育に限らず、トルコではEUなどから最新の技術や新しい情報が数多く入ってきます。しかしトルコの人々には、まだそれらを扱うだけの能力が伴っていないという側面もあるのです。そのため、トルコにすでにあるリソースをつないだり、情報を整理したり、使い方を教えることも、この国にとっての助けになると私は考えています」

 

現在進行中のSTEAM教育事業 授業のデモンストレーションもスタート

現在、トルコSTEAM教育事業の立ち上げに向けて準備を行っている伊藤氏。その事業の内容と今後の展望について聞きました。

 

「小学校から大学までを縦軸で考え、STEAM教育を土台にしながら高度産業人材を育成していこうというのが今回の事業。政府や行政も巻き込みながら、民間のビジネスとして展開できればと考えています。その中で構想しているアイデアの一つが、STEAMに関するプラットフォームづくりです。これは、ユーザーがプラットフォームにアクセスすることで、STEAM関連の教育サービスが受けられたり、コミュニティに参加できたり、資金・資格を取得できたりするようなもの。さらに企業とも提携して、教材の販売を行ったり、インターンシップやジョブマッチングのようなサービスを提供したりすることも想定しています。日本の企業は、トルコを含めて中央アジアや中近東に進出するのが難しい現状があり、日本企業にとって、このプラットフォームがトルコ進出のための一つの突破口になればとも考えています。

 

現在は、現地での事業立ち上げに関わる情報を集めたり、パートナー候補企業との協議をしたりして、着々と準備を進めています。最近ではトルコの学校で、私たちが日本で展開しているSTEAM教育の講座『科学実験教室』『もののしくみ研究室』を紹介したり、デモンストレーションを行ったりもしました。小学生の子どもたちに対して科学実験教室を実施し、空気砲や静電気の実験をしたときには、みんな興味津々。楽しみながら学ぶ様子を見て、手ごたえを感じています。同時に教員たちには、この講座をトルコの学校のカリキュラムにどう落とし込むか、どう評価するか、などを考える研修も実施しました。今後も実現に向けて歩みを進めていきます」

 

21年10月に行われた「科学実験教室」デモンストレーションの様子

 

「トルコのような新興国では、どうしても経済が優先され、教育は後回しにされてしまいます。しかし幼少期からSTEAM教育などを行って自分で考える力を養うことで、広く活躍できる高度産業人材が育ち、結果的には経済の成長や国の発展にもつながるのではないでしょうか」と伊藤氏。トルコの教育分野に、今後ますます注目が集まりそうです。

ラオスのライフスタイルの変化はFMCG市場参入の商機! SNSの活用で未来の顧客を啓蒙

ASEAN加盟国の中でも、3番目に人口の少ないラオス。直接投資では、中国やタイ、ベトナムなどの周辺国の存在感が大きく、日本ではビジネス対象としての認識が低い現状がありますが、近年じわじわと経済発展を遂げています。都市部から会社勤めをする人々が増加し、ライフスタイルも大きく変わり始めています。そんなラオスで、今、日本の日用消費財を提供するスーパーマーケットが盛況です。日本企業の進出が進んでおらず、在留邦人が700人程度のこの国で、なぜ日本の商品が人気を集めているのか? ラオスで日本の商品を輸入販売している守野氏に話を聞きました。今回は、その中でも「食」に焦点をあて、その背景について考えます。

 

Phin Tokyo Plaza店内(https://www.facebook.com/PHINTOKYOPLAZA/

 

お話を聞いた人

守野雄揮氏

PTP Company Limited 代表取締役社長。2010年より2年間、JICAの地域開発プロジェクトに従事するためラオスに赴任。その後2012年にPTP Company Limitedを立ち上げ、ホテル業、ツアー業、コンサルティング業を中心に事業を開始した。2012〜2015年にはJICAの「南部ラオスにおける地域モデルによる⼀村⼀品推進プロジェクト」にも参画。2015年には日本の日用消費財を輸入販売する小売業にも参入し、店舗拡大を続けている。

 

6~8%の安定した経済成長率が変えるラオスのライフスタイル

 

ラオスに来た多くの日本人が、「ゆっくりとした時間の流れ」をまず感じると言います。国土は、日本の本州と同程度ながら、その人口はおよそ700万人と日本の人口の1割にも満たないラオス。街を走る車やバイクの数も日本とは比較にならないほど少ないことがその一因です。さらにラオス人の国民性として、時間を厳密に守ることに重きを置かないという点も影響しているようです。

 

「おおらかな国民性は旅行者にとって魅力的ですが、ビジネスを始めるには、難しい面もあります。期限通りに仕事は進まず、雨が降れば、遅刻や欠勤も当たり前。仕事よりも自分の生活を大切にしながら暮らすのがラオスの風土です。だからこそ、衣食住に関する関心も高く、特に食事は、時間をかけて自分で調理し、しっかりと食べる価値観が根づいています。しかし、都市部から、その傾向に変化が見られるようになりました」

 

コロナウイルスの感染拡大以前は、工業やサービス業の拡大もあり、概ね6~8%の経済成長が10年以上続いていました。産業分野別の就業人口構成比では、いまだ農業が7割近く、国民の多くが自給自足的な農業に従事する貧しい国というイメージもありましたが、2019年の産業構造は、サービス業(GDPの約42%)、工業(約32%)、農業(約15%)。農業の比率は年々減少しています。

 

「最近では、残業することが増え、都市部では渋滞も発生しています。仕事や通勤に時間を取られ、ゆっくりと市場へ食材を買いに行く時間はなくなりました。共働き家庭が多いので、子どもの送り迎えなどでも忙しく、食事を作る時間が取れず、外食やテイクアウトを利用する方が多くなっています。私がラオスに赴任した10年前と比べ、会社勤めをする方が増えているので、ラオス経済の発展という視点では良いことなのですが、それによって都市部から徐々に仕事を優先する、仕事を中心としたライフスタイルに変化しています」

 

IMF – World Economic Outlook Databases (2021年10月版)より

 

Parkson(パクサン)ショッピングモール

 

富裕層の増加とライフスタイルの都市化が日本食ニーズの追い風に

 

現在、守野氏は、変化するラオス人のライフスタイルに対応すべく、日本の食材や日用品を扱う「Phin Tokyo Plaza」というスーパーを国内に4店舗展開しています。

 

「現地法人を設立した当初は、ホテルやツアーなどの観光業がメインでしたが、並行してJICAの事業にも参画していました。地域住⺠の⽣計向上と産業振興を目的に、地方の手工芸品や農産加工品などの特産品を開発し、都市部で販売するプロジェクトです。その一環としてラオスで日本米を作ったのですが、それがすごく人気で。これなら日本の食材のニーズがあるかもしれないと思ったのが小売業立ち上げのきっかけです。年々富裕層が増えていると感じていましたし、当時はまだ、直接日本から商品を輸入して販売している会社がなかったのでビジネスチャンスだと思いました」その読み通り、「Phin Tokyo Plaza」は順調に売り上げを伸ばしています。

 

忙しくなったラオス人の食卓に、手軽に取り入れられる日本食

 

ラオスの食文化は、米とスープを食べるという特徴があります。ご飯と味噌汁を基本とする日本食に近く、出汁を取る料理が基本なので日本食との相性もいい。近年のライフスタイルの変化も相まって、忙しい中でも手軽で美味しく、栄養価の高い日本の食材のニーズが発生したと考えられます。こうした食材は、レストランとは違い、毎日の食卓で使われるもの。ですから、「ラオスの食生活と親和性が高く、日常的に取り入れやすい商品の人気が高い」と守野氏。特に「わさび」「乾燥わかめ」「ふりかけ」は、日本食材のスーパーだけでなく、コンビニでも人気の3商品です。

 

「隣国タイでサーモンが人気だということも影響して、ラオスでもサーモンの刺身を好む方が多く、少し高級なスーパーマーケットに行けば、普通にサーモンを購入できます。当社も冷凍サーモンを販売していますし、サーモンと一緒に、わさびを選んで購入する方が多いんです。乾燥わかめに関しては、スープの中に入れるだけという手軽さが受けています。商品のインパクトも重要ですね。乾燥わかめは、水に浸すことで、かなり量が増えるので、お得感もある。その点も人気の理由だろうと感じています」

 

ラオス人は、基本的にタイの影響を大きく受けています。タイ語とラオス語がかなり似通った言語ということもあり、タイ語を理解できる人が多く、タイの YouTubeやテレビを普段から視聴しているからです。日本食が流行したタイのトレンドを追い風にラオスで日本食市場が拡大したことも、日本の食材を受け入れる土壌になっているのかもしれません。今では、日本食レストランの数も増え、日本レストランをオープンするラオス人の経営者も現れてきました。富裕層のための高級店から庶民的なレストランまでお店の幅も広がっています。

 

ふりかけは、売れ筋ランキングTOP10に3種類もランクインする人気商品。野菜が嫌いなラオス人は少なく、日本の青汁は簡単に栄養が取れて美味しい上に飲みやすいと好評だ

 

医療体制の脆弱さから健康志向に。栄養価の高さも人気のポイント

 

ラオスの平均寿命は68.5歳(2019年時点)。周辺のタイ(77.7歳)、ベトナム(73.7歳)と比べても低い傾向です。食生活や経済的な要因もありますが、ラオスの医療体制の脆弱さの影響は小さくない。その事実が、ラオス人の健康に対する意識を高めていると言えます。

 

「ラオスの医療レベルは決して高いとは言えず、ラオス人もそれを実感しています。コロナウイルスの拡大前であれば、経済的に余裕があるラオス人は、出産や緊急時にタイの病院を利用していました。健康にまで気を配れる方が増えるぐらい豊かになっているともいえると思います。コロナ前は、エアロビやランニング、ジムに行くなど運動によって健康を保っていた方も、今年の4月から再び厳しいロックダウンが続いているため、外出せずに健康的な生活を送りたいと考えているという印象です」

 

国内の医療に頼れないからこそ、自助努力で健康を維持しようとするラオス人にとって、手軽で質の高い栄養素を提供してくれる日本の食材は魅力的に感じるのでしょう。特にラオスは、海に接していない内陸国という地理的な特徴により、海鮮系の商品が手に入りにくいためヨウ素と言われるワカメや昆布に含まれるミネラルが不足しがち。こうした点も日本の食材が求められる要因となっています。

 

さらに、食の楽しみを大切にするラオス人は、美味しいものを我慢するという考えはなく、足りない栄養をサプリメントで補うということにも抵抗がありません。以前から薬局で処方されるようなビタミン剤などはありましたが、より手軽に栄養を補いたいというニーズが日本食材の普及で顕在化し、最近では、サプリメントや日本の機能性表示食品などにも注目が集まっています。

 

 

ラオスの食市場参入を成功させるポイントは、商品認知とSNS

 

ラオス人の食生活に手軽に取り入れやすい商品が人気になりやすいことは、お伝えした通りですが、それ以上に、「商品をどう使い、どう食べればいいのか」が一目でわかるようなパッケージが、売れる商品の必須条件です。中身が美味しそうに見えることも重要。日本から入ってきた商品は、ラオス人には、馴染みのないものも多いですが、仕事で忙しさを増す中、商品の詳細をテキスト情報で確認するほどの時間的余裕はありません。

 

「写真もなく、中身も見えず、文字だけのパッケージは、すごく売りにくい商品です。ラオスではスルーされてしまいますから、パッケージは参入の際の大事なポイントですね。タイからの情報が入ってきますので、タイのSNSでバズったものが、ラオスでも人気になるというようなことも多々ありますが、それでもまだ、“いい商品がない”というより、“いい商品が何かわからない”というのが実状」と守野氏。商品を見る目が養われておらず消費者としても発展途上の国。だからこそ「Phin Tokyo Plaza」では、商品情報を伝える手段としてSNSを活用しています。

 

「ラオスでは、Facebook がSNSの主流。当社の Facebookは4万人のフォロワーがいます。そこで美容部員や現地のスタッフが新しい商品や商品のポイントを伝えています。多くのお客様とは Facebook上でつながっているので、気軽に質問を受けられる環境です。Facebookライブの配信により、お客様がこちらに親近感を抱いてくれて、使い方や商品の問い合わせを頻繁にいただくようになりました」。さらにSNSの活用により、インフルエンサー的な影響力を持つ美容部員が生まれ、彼女が紹介すれば売れるという現象も起きています。とはいえ、日本でイメージするインフルエンサーとは違い店舗のオフィスに座っている一従業員。店舗を訪れれば、いつでも会えるインフルエンサーです。

 

「Phin Tokyo Plaza」は、スーパーマーケットの中にオフィスを構え、お客様からも全従業員が見えるように店舗を設計。「現地のラオス人が知識のない外国商品を購入する場合、誰かが説明してあげなければ売れるはずがない」という考えの元、お客様の質問にも対応しやすくしています。特に日用消費財のような商品は、お客様との距離を近くして、商品の良さや使い方を説明することが重要です。お客様との距離が近い昔ながらの商店のような良さとSNSを活用した現代的なコミュニケーションを両立させた手法が、日本食材の普及に一役買っています。マーケティング活動において、新規顧客を獲得するだけでなく、既存のお客様との関係づくりの必要が高まっている今、注目すべきポイントが多い事例です。

 

お客様とのコミュニケーションにすぐ対応できるよう店内にオフィスを構える

 

Facebookライブ配信の様子(人気の美容部員ピンさん)

 

市場規模だけでは測れない、優良顧客としてのラオスの可能性

 

「多くの日本企業にとって、ラオスは、人口やGDPの面からも直接投資をする対象としては小さすぎる面はあると思います。しかし、実際に投資する価値が低いかというと、私はそうは思っていません」タイなどの周辺国と嗜好性の近いラオスでなら、東南アジアで売れた商品を小規模、省コストでテストマーケティングすることも可能です。

 

「企業単体で直接投資する段階には、もう少し時間がかかるかもしれませんが、ラオスに支社や営業拠点を構えるのではなく、我々が商品を購入し、販路を広げていくことができるので、リスクを取る必要はありません。都市で流行した商品は、いずれ地方へと需要が拡大しますし、ラオスという国に商品を根づかせることが、次第に売上増加につながっていくと考えています」

 

日本の地方都市などでも、シャッター通りと呼ばれる地域の商店街の衰退により、買い物難民が問題になりましたが、市場規模の小ささから、多様な食品が手に入りにくい状況となれば、ラオスは東南アジアのフードデザートにもなりかねません。地域を問わず、すべての人に安全・安心で健康的な食品を届けることは、社会的な意義もあるはずです。

 

「所得が伸びているということもあり、最近では、オーガニック野菜や各国の食材を集めた高級スーパーマーケットが賑わっています。東南アジアでよく見かけるような市場とは一線を画し、ここはラオスなのかと目を疑うほどです」

 

今後さらに経済発展を遂げていくなか、さらに多様なニーズが生まれるでしょう。どんな商品がラオスに根づくかの予測がつかないからこそテストマーケティングの意味があります。市場規模は小さいとはいえ、今後、経済が伸びていく一方のラオス。食に対する関心もこだわりも非常に高い国民性です。早い段階からそうした国に参入し、商品の認知度を高めてアドバンテージを得ることで、将来、需要が爆発する可能性も充分期待できるのではないでしょうか。

経済成長やコロナ禍で変化するインドの「食」ーー 食品加工分野の新たな可能性とは?

現在インドでは、人口増加による経済成長を理由に、人々の生活が変化しています。食生活の変化もその一つ。デリーやムンバイなどではインド料理以外のレストランや輸入食品を扱うスーパーマーケットなどが増え、女性の社会進出などによって調理に時間がかけられない家庭も出てきました。そんな変化の中で注目されているのが、インドの「食品加工」の分野です。

 

本記事では、インドに長年在住する大西由美子氏から、現地で実感しているインド人の食生活の変化や具体的なニーズを聞きながら、インドの農業や食品産業の現状を解説。「インドにおける食の変化」を探ります。

 

 

お話を聞いた人

大西由美子氏

2004年からアイ・シー・ネットで勤務。南アフリカの農村開発に1年半従事したのち、インドへ異動。2006年から4年間は旧 JBIC/JICAのインド事務所でODA事業に携わる。2011年頃からはODA事業のモニタリングや評価の業務をメインで担当。ビジネスコンサルティング事業部でインド進出を目指す日本企業の支援も行っている。

 

世界有数の農業大国・インド。生産性を高め、「産業化」することが課題

まずはインドの農業と食品産業について解説しましょう。インドは、農地面積が世界第一位で、世界の農地面積全体の11%を占めています。主な生産物は、さとうきび、コメ、小麦、ばれいしょ、バナナ、マンゴーなど。しかし、単位面積当たりの収穫量が世界平均から見てそれほど高くない作物もあります。世界有数の農業大国であるインドですが、その多くは小規模農家で、生産性や加工技術、物流網の脆弱さなどが課題となっており、フードロスが多いのが現状です。

 

 

しかし近年のインドでは、大規模な農家などが中心となり、農作物を扱うビジネスや企業との協働による流通システムへの関与などの新しい動きが出てきています。この背景の一つとして、現在インドでは人口が増加している一方、農業人口が減少し始めている状況があります。人口増加分の食糧をこれまでよりも少ない担い手で支えていかなければならず、より効率を重視した生産性の高い「産業」にしていくことが、喫緊の課題です。

 

そのためインド政府は現在、農産物の生産性や品質の向上、食品加工、コールドチェーン整備などに関する海外からの技術に大きな期待を寄せているところ。また、AIやIoT、データ分析といった先進的な技術に関連するベンチャー企業も活発化していて、それらの企業とのパートナーシップも見込まれています。

 

注目が集まっている「食品加工」の分野

近年、インドの食品産業で注目されているのが「食品加工」の分野です。なかでもレトルト食品などの加工食品のニーズは徐々に高まってきています。その理由の一つは、人口増加に伴う経済成長によって、富裕層・中間層や働く女性が増加し、人々の生活が変化したこと。大西氏も現地で、加工食品への需要の高まりを実感していると語ります。

 

 

 

「インドの家庭ではもともと、フレッシュな食材を調理して食べることが一般的で、出来合いのものより、作り立ての料理を好む傾向があります。そのため今も、長期保存ができる加工食品などはあまり多く販売されていないのが現状です。しかし、特に都市部で働く女性が増えたことで調理時間の確保が難しくなったり、若い世帯が自炊をしなくなったりと、ライフスタイルが変化していることによって、加工食品のニーズが徐々に増えてきています」

 

「私がこれから特に需要が増えると考えているのは、海外旅行や海外出張をするインド人をターゲットにした加工食品。現在インドでは、富裕層・中間層の拡大によって海外に行く人がとても増えています。しかしインドにはベジタリアンが多いこともあって、海外に行ったときでも肉を含む現地の食事ではなく、できるだけ普段の食事をしたいと考える人が多くいます」

 

「例えばインドの旅行会社では、インド料理やベジタリアン向けのレストランでの食事がツアーに組まれていることもよくあるほど。数日間の旅行であればなんとかなりますが、出張で長い期間海外に行く人のなかには、食事に苦労する人も多いようです。海外出張の際にレトルトのインド料理と一緒に、自宅で作ったロティ(全粒粉を使ったパンの一種)を持っていく人もいる、という話を現地で聞いたこともあります。家庭での使用はもちろん、海外に行く際に持っていくことができるような加工食品が、今まさに求められていると感じています」

 

「日常食」のレトルト食品にニーズがある

インドでは、市場に出回っている数がまだまだ少ないレトルトなどの加工食品。この市場に対して、日本企業が強みを活かせるビジネスチャンスはどこにあるのでしょうか。大西氏は、日本でも市場規模の大きいレトルトカレーやアルファ米の技術などは、インドのニーズともマッチするのではないかと分析しています。

 

日本では、レトルト食品総生産量の約4割をカレーが占めています。2017年度にはレトルトカレーがカレールウの売り上げを追い越し、その売上高は461億円にものぼりました。コロナ禍でも需要が増え、現在も市場規模が拡大しています。

 

そのほか、日本では備蓄食品としても重宝されているアルファ米についても、「インドへの流入が期待できるのでは」と大西氏。炊飯後に乾燥させて作られるアルファ米は、パックの中にお湯を入れると15分ほどで炊き立てのようなごはんに戻すことができます。さらにパッケージには酸素を通しにくい高性能フィルムなどが使用されているため、品質を保ったまま長期保存が可能。日本では現在、白米だけでなく、ドライカレーや炊き込みご飯など、豊富なバリエーションの商品が展開されています。これらを踏まえ、現地で感じた具体的な商品のニーズについて大西氏に聞きました。

 

 

日常の食卓に並ぶ、ヘルシーなインド料理

「現在もレトルトのインド料理はスーパーなどで手に入れることができますが、その種類はあまり多くありません。しかも販売されているのは、バターチキンなど、北インドのレストランで出されるようなカレーが中心です。油を多く使ったバターチキンのようなカレーは、インドの家庭で普段から頻繁に食べられているものではありません。庶民的な家庭で食卓に並ぶことが多いのは、豆などを使用し、脂分も少ないカレー類。このように日常的に食べる料理のレトルト食品がインドにはまだないため、求めている人は多いと考えられます」

 

ロティや米などの主食

「インドでは地域によって主食が異なっていて、例えば北インドではロティやナンなどのパンが主食、南インドではお米が主食です。現在、すでにレトルトのお米は販売されているのですが、温めてもお米の食感が固いものが多く、個人的にはまだまだ品質改善が必要だと感じています。日本とインドではお米の種類が違いますが、アルファ米のような技術はインドでもおおいに活かすことができると考えています。

 

パンに関しては、常温で長期保存できるロティなどがまだ販売されておらず、求めている人が多いと感じています。日本には缶詰や袋に入った長期保存できるパンがあり、その保存技術やパッケージ技術を活用すれば、いつでも出来立てのようなロティが食べられるようになるのではと期待しています」

 

インドの主食は地域によって異なり、北部では小麦、東部・南部では米、西部では米と小麦の両方が主に食べられているという

 

レトルトパウチのパスタソース

日本でも市場規模が拡大しているパスタやパスタソース。保存性の高さや調理の簡便さなどが人気の理由です。パスタソースは種類も豊富で、トマト系、クリーム系、オイル系、和風など、さまざまなものが販売されています。そのためイタリアン好きが多いインドで流入が見込める製品の一つではないかと大西氏は語ります。

 

「インドの都市部では、インド料理だけではなく、中華やイタリアンなど、さまざまな国の料理が味わえるレストランが増えてきています。なかでもイタリアンが好きなインド人は多いのですが、自宅で作ることにはあまり慣れていません。そのため、温めるだけで食べられるレトルトパウチに入ったパスタソースは需要があるのではないかと考えています。現在、スーパーなどで手に入るのはガラス瓶に入ったアメリカの輸入品くらい。日本のように様々な種類のパスタソースがあれば、インドでも購入する人がいるはずです」

 

大西氏は、「現在のインドでは、『誰でも知っているインド料理』しか、加工食品として販売されていない印象がある」と話します。インドの食文化が地域によって異なることや、日常的に家庭で食べられている料理がどのようなものなのかを、調査してニーズを正確に把握することで、インド人の生活に寄り添うような加工食品が生まれるのではないでしょうか。

 

「そのほか、日本の技術が活かせる可能性があるのは食品加工機械。例えば北インドでは、おやつとして『モモ』(餃子)がとても人気です。デリーやムンバイなどの都会では、夕方の6時頃になると街でおやつを買って食べる人が多くいて、私も度々買いに行くことがあります。モモは道端の屋台のようなお店で販売されていて、大量の皮は全て手作業で作られています。インドは人件費が安いため、小規模なお店ではなかなか機械を導入することが難しいと思いますが、今後、大規模なラインで作られるようになっていけば、餃子を包むような機械にもニーズが出てくるかもしれません」

 

コロナ禍は「食」を考え直すきっかけに

日本はコロナ禍で、長期保存食のニーズが高まったり、家庭で調理をする人が増えたり、食生活におけるさまざまな変化が見られました。インドでも、日本以上に厳しい外出制限が強いられ、食生活をはじめ生活のあらゆる面で変化があったと言います。

 

「インドでも日本と同じように家にいる時間が増え、自宅で食事を作ることに時間をかける人が多くいました。そのためか、さまざまな産業が打撃を受ける中、食品産業にはそれほど大きな影響は出ていないようです」

 

「コロナ禍でこれまで全く料理をしなかった人が、ケーキやクッキーといったお菓子を作るようになったという話も聞きました。その背景には、コロナ禍で『他人の手に触れたものを食べたくないから自分で作ろう』と考える人が出てきたこともあるのではと感じています。しかしインドでは日本のように、お菓子を作るときに使う調理器具や材料などがあまり販売されておらず、パティシエが利用するような専門店でないとなかなか手に入れることができません。そのため、材料があらかじめ全て入っているお菓子のキットなど、新たな需要も生まれました」

 

 

「またインドでは1回目のロックダウン中、飛行機の運航が全てストップしていました。そのため地方からデリーなどに働きに来ている若者の中には、田舎に帰ることができなかった人もいました。普段は自炊をせず3食外食をしているような若者たちは、レストランなどに行くことができず、相当困ったと聞きました。そんなときに長期保存できる加工食品の便利さを実感した人も多いはず。コロナ禍は、インドの人々が『食』についてあらためて考えるきっかけになったと思っています」

 

人口増加による経済発展やコロナ禍で変化しているインドの食。中でも食品加工産業で求められている「長期保存性」や「安心・安全性」などは、日本が得意とする技術をおおいに活かすことができるところです。今後、ここに新たなビジネスチャンスを見出し、インドに進出する企業が増えることが期待されます。

コロナ禍でも資金調達件数が44%も増加! 勢いが止まらないアフリカの「スタートアップ」

13億人を超える巨大市場、アフリカ大陸のスタートアップ企業が世界中の企業や投資家から注目されています。世界平均の約2倍の速さで人口が増加している莫大な可能性を秘めたフロンティアは、2050年には25億人を突破すると予測されており、その人口規模は世界の4分の1以上を占めると分析されています。

世界中から熱視線を浴びるアフリカ

 

アフリカ各国は長年、開発途上国として世界経済や最先端技術における分野で後塵を拝していました。しかし、情報通信技術の発達によるブロードバンドの普及とインターネットユーザーの増加によって、スタートアップとテクノロジー系企業の勃興が起こり、世界各国の企業が提携や投資、出資などで競い合っています。

 

日本においては、この状況を察知した一部の企業や投資家がすでに進出している事例もありますが、現地の言語や文化の壁に加えて、距離的な障壁から正確な情報を有している企業が少ないのが現状です。アフリカには、日本よりも進んだ技術を使ってビジネスを展開している分野も存在する一方、欧米の企業や投資家は歴史的背景や言語的な強みを生かして、アフリカ諸国に情報網を張り巡らせており、情報収集や分析、アクションにおいて数歩先を行っています。

 

アフリカでは、フィンテック、アグリテック、ヘルステック分野において、現地の社会問題を解決することを目指すスタートアップが多く、世界の最先端技術を取り入れて展開しています。また、道路や電気などの基礎インフラが未整備である開発途上国が、先進国が歩んできた発展段階を飛び越えて、最先端技術に一気に辿り着いて普及させる「リープフロッグ現象」が起きています。

 

世界各国に拠点を置くベンチャーキャピタルのPartech Partners社によると、2020年にアフリカのハイテクベンチャー企業347社が、前年比44%増となる359回のラウンドで約14.3億米ドルの資金を調達したとのこと。この資金調達額は前年比29%減でしたが、世界経済を凍りつかせたコロナ禍の状況においても僅かな減少に留まっており、アフリカのエコシステムや、最先端技術を導入した複数企業の連携事業は、上昇の機運を維持しています。さらに、2021年は2019年を上回る調達額になると予測されており、50億ドル規模で推移している日本のVC調達額を超えることも射程圏内に入ってきました。

 

日本企業のダイキンが展開しているWASSHAとの合弁会社、Baridi Baridi(タンザニア)は、リープフロッグを活かしながら現地に進出している好事例です。高性能でニーズに合うエアコンを、現地の購買力を考慮したサブスクリプション型のビジネスモデルで展開。製品販売が厳しい経済環境下において、モバイルマネー経由で料金回収ができるこの仕組みは、最先端技術を導入した現地に合わせたモデルとして好評を得ています。

 

海外での事業展開において、現地での情報収集や調査という観点からスタートアップ企業は重要な事業パートナー候補の一つであり、提携や合弁会社設立はもちろん、出資や投資対象などさまざまな連携方法があります。欧米の企業や投資家は、アフリカのエコシステムの回復や主要産業分野のデジタル化の加速度が上がっていることで、「アフリカは大きな潜在能力を秘めた市場である」という見方をさらに強めています。

 

経済成長率の鈍化により成熟ステージにある日本を含めた先進各国の企業にとって、アフリカのスタートアップとのパートナー展開は大きなチャンスです。市場や人口拡大の予測を考慮して、できる限り早めに現地に進出したいと考える企業も多いでしょう。その際には、事前の正確な情報収集や現地スタイルに合わせたビジネスモデルの検証が成功のカギです。未来の世界経済を牽引するであろうアフリカ大陸は、日本企業の今後のグローバル展開における重要な候補地の一つになっているのです。

全農産物を「有機栽培」にシフトしたばかりのスリランカに暗雲が……

全農産物の有機栽培へのシフトを進めているスリランカ。2021年4月、同国政府は化学肥料の輸入規制を明らかにし、翌月に化学肥料輸入規制の政府公報を発表。オーガニックな農産物を世界に広める第一歩を踏み出しましたが、先日、一時的な方針転換を発表。暗雲が立ち込めています。

有機農業にシフトしたスリランカだったが……

 

スリランカの農業では、化学肥料に対する長年の政府補助金で農業を推進していた背景もあり、地下水や土壌汚染など生態系の破壊や化学肥料の輸入量の増加が大きな問題になっていました。これらを解決するために、スリランカは世界で初めて国内の全農業を有機栽培に変える「有機革命」に取り組んでいます。有機農産物は消費者が安心感を持って受け入れることができるので、品質を重視した農産物の推進に全国民で立ち向かうことになりました。

 

しかし10月下旬、スリランカ政府は一時的にこの方針を撤回し、農薬の輸入を再開すると発表しました。農薬を使わなくなったことで、有機質肥料の需要が増えましたが、その供給が追いついていない模様。その結果、セイロン茶の品質が落ち、生産量も減少しかねないと農家から怒りの声が上がっていました。このような現状を受けて、同政府は有機質肥料が農家に十分に供給できるようになるまで農薬を輸入すると述べています。

 

日本は、農林水産省の認証制度やJICA民間連携事業などを使って、有機農業の生産や管理に関する知見や経験を海外に伝えることができます。数多くの民間企業も有機農業に向けたサービスを提供しており、安全で高品質な農産品を提供する制度が充実しています。

 

化学肥料に依存しすぎていた国は「農業政策において有機農業をどのように推進していくか?」「効率的な収穫を目指すにはどのような手法を用いたらよいか?」などの問題に関する知見を他国に頼らざるを得ません。このような理由で、日本においても研修制度の提供などを進めている自治体も存在します。

 

世界では既にブータンやキルギスなど100%有機農業の政策を推進している国もあり、今後ますます有機農業へシフトする国が増大することが見込まれます。「安心・安全」の理念に基づいた日本の有機農業に対する経験は今後世界に向けてますます求められていくことでしょう。環境保全強化を目指す各国のスタンスが今後より一層強まることも見込まれるため、ビジネスの市場規模拡大に向けて日本の有機農業関連企業のグローバル展開に拡大の兆しが見え始めています。

 

 

スリランカ拠点を立ち上げ、途上国を「ビジネス」で継続的に支援

国際協力に従事するプロフェッショナルに、開発途上国の現状やビジネスチャンスについてインタビューする本企画。今回は、スリランカに現地法人を立ち上げ、企業の進出支援などに取り組んでいる高野友理さんにインタビュー。拠点立ち上げまでの経緯や、現地でビジネスチャンスが期待できる分野などをお聞きしました。

 

●高野友理/大学卒業後、青年海外協力隊として2年間スリランカに赴任。その後、民間企業でベトナム拠点の立ち上げに尽力したのち、アイ・シー・ネットに転職。民間企業の進出コンサルティングや、スリランカ拠点の立ち上げに携わり、2021年2月にはIC NET LANKA (PVT) LTD.を設立。現在は同社で代表を務めている。

 

スリランカでの事業展開を目指して、経験を積んできた

 

――高野さんがスリランカで起業したいと思われた経緯を教えてください。

 

高野 私は大学卒業後、青年海外協力隊として2年間スリランカに赴任し、低所得者地域の生活改善に取り組んでいました。帰国後に考えたのは、継続的に途上国を支援するためには「国際協力」という形だけではなく、もっとほかの形で支援をする方法があるのではないかということ。私はもともと大学で、「スリランカの参加型開発」をテーマにした卒業論文を書いていて、住民たちが自ら力をつけながら自分たちの国を開発するという方法やその考え方に関心を持っていました。そのような背景もあって「ビジネス」という形でより現地の自立につながるような継続的な支援をしたいと思うようになり、スリランカでの事業展開がその後の目標となりました。

 

――実際にスリランカで事業を展開するまでに、どのような経験を積まれたのでしょうか?

 

高野 スリランカから帰国後、まずは日本の民間企業でビジネスを学ぼうと考え、廃棄物処理やリサイクルを行う中小企業に入社しました。実際に民間企業に入ってみると、階層などの会社のルールや、他社との関係構築など、国際協力の世界にはあまりなかった文化を体験し、学ぶことが多くありました。そして私がその会社を選んだのは、海外展開を目指している会社であったことが大きな理由の一つ。入社して2、3年後にはベトナムへの事業立ち上げに向けて動き出し、業務に携われることになりました。

 

まずはベトナムに駐在員事務所を立ち上げるべく、私も現地に赴き、現地スタッフの採用などから始めました。その後は主に合弁会社設立のための準備を行い、合弁会社でパートナーとなるところと事業計画をつくったり、会社を設立するにあたっての役割分担や出資比率を検討したりしながら進めていきました。そして無事に会社を設立したあとは、5年10年かけてベトナムでの事業を安定させていくというのが会社の方針でした。しかし私はベトナム以外の国でも、日本企業の海外進出をもっと支援していきたいと考えていたため、転職を決意し、アイ・シー・ネットに入社。入社後はビジネスコンサルティング事業部で、民間企業の海外進出のサポートなどを行いました。その後、アイ・シー・ネットが現地拠点を広げようという方針になったタイミングで私に声がかかり、スリランカでの現地法人立ち上げに至りました。

 

コロナ禍で設立したスリランカ拠点。海外展開支援やパートナー探しに取り組む

 

――現地法人を立ち上げるときに特に大変だったことや、設立した会社について教えてください。

 

高野 現地側での会社の登録には苦労をしました。例えば現地での登録に際して、現地企業を守るための規制があったり、定款の事業内容に「コンサルティング」と書くだけではなく、詳細な内容を書く必要があったり……。現地の登録コンサルタントからアドバイスを受けながら、何度もやりとりをして進めていきました。

 

そして2021年2月に、スリランカの拠点として「I C NET LANKA (PVT) LTD.」を設立することができました。現在は、企業の海外展開支援や、輸出支援におけるパートナー探しなどをメインの業務として行っています。

 

――ベトナムでの事業立ち上げの経験などが、現在の業務で活かされていると感じるところはありますか?

 

高野 私自身が「中小企業」で事業を立ち上げた経験は、コンサルティングの仕事でも役に立っています。例えば以前、JICAの案件で中小企業の海外展開支援に携わったことがありました。そこでは外部人材として、海外展開を検討するための調査を行ったり、企業に対してアドバイスをしたりしていました。その際、中小企業の中でスムーズに進めるのが難しいことや会社のルールなどを理解していることが、大きな強みになると実感。企業側の事情がわかっているからこそ、より的確な助言や寄り添った支援ができるのではないかと感じています。

 

――現在のお仕事の内容を具体的に教えてください。

 

高野 例えば今取り組んでいるのは、日本の農業技術を使ったモデルファームづくりのサポートです。これは以前、農林水産省がインドで「J-Methods Farming」という実証事業として行っていたもので、スリランカでも有志で取り組もうと動き始めています。モデルファームは3社合同で作ろうとしていて、「排水処理」「土壌改良」「食品の鮮度保持」の役割をそれぞれの会社が担う予定です。現在はこの3社のパートナー探しを行っているところ。スリランカ側の引き合いが強く、さまざまな会社から声がかかっています。スリランカでは現在、農業が主要産業の一つである化学肥料を禁止しようという動きが広がっていることから、日本の農業技術の中でも有機栽培に強く興味を持っています。

 

この案件の窓口は私が一人で担当しているので、興味を持った会社からの問い合わせが同時期にたくさんあるととても大変です。しかしタイミングを逃さないよう、相手が熱を失わないうちに、なるべく迅速に対応することを心掛けています。パートナー探しでは、日本企業の意向に沿うことはもちろん、シェアが高い、政治的コネクションを持っている、スムーズに進められる体制がある、などそれぞれの企業の強みや特徴をさまざまな角度から調査することを大切にしています。

 

そのほか昨年は、「飛びだせJapan!」という事業も行いました。「飛びだせJapan!」とは、経済産業省が補助している事業で、新興国・途上国市場に参入するために必要な現地企業や政府とのネットワーク構築を支援して、世界の課題解決を目指すというもの。アイ・シー・ネットは補助事業者として関わっています。現地コンサルタントがスリランカの求める日本の技術などを調査し、私はそのニーズに応えられるような日本企業を紹介して、両者をつなげようと働きかけていました。スリランカ側が日本の技術で関心を持った例として、「魚の保存技術」があります。漁船などで獲った魚の鮮度を保つためには、氷などで冷やすことが一般的ですが、その方法では魚の表面に傷がついてしまうことがあります。日本には電界を用いた鮮度保持技術を利用して食品をきれいな状態のまま鮮度を維持する保存方法があり、そこに興味を持つ漁業関連の企業からの問い合わせがありました。しかし同時期に、スリランカ沖でコンテナ船の火災事故が発生し、漁業業界がダメージを受けたこともあって、結局両者を結び付けることはできず……。この件に限らず、現在コロナなどが原因で多くの企業が新しい技術に投資することを控えており、どの事業もなかなか前に進んでいないのが現状です。しかし、農業資材などの消耗品の分野ではあまり影響が出ていないため、今はできる範囲でパートナー探しなどを少しずつ進めています。

 

――高野さんがスリランカでビジネスをする際に大切にしていることを教えてください。

 

高野 積極的なコミュニケーションを取ることをとても大切にしています。モデルファームづくりや「飛びだせJapan!」などを経験し、スリランカ側とビジネスをするときには、こちらからかなりプッシュしていかなければ、事業を前に進めることができないと実感しました。国民性なのか、スリランカではのんびりとした人が多い印象があります。例えば、伝えたいことをメールでまとめて送ってもなかなか返信が返って来ないということはよくあって……。そのため、なるべく電話を使って連絡を取ったり、早く進めたいときでも一気にいろいろ伝えるのではなく、一つ一つブレイクダウンしながら説明したりすることを心掛けています。一方、お金のことは口約束ではなく書面でやりとりすることも意識していて、「お金がかかる場合は先に見積もりを出してね」といったことは、必ず先に伝えるようにしています。こちらの話を相手がきちんと理解してくれているか、認識に相違がないかなどを確認しながら進めていくことは、常に注意しているところです。

 

まずは日本企業にスリランカ市場を知ってもらうことが課題

 

――スリランカの特徴や、現在力を入れて取り組んでいる分野についても教えてください。

 

高野 スリランカは観光で成り立っている側面が大きく、性格的にも穏やかな人が多いことから、ホスピタリティ産業が向いていると思います。しかし現在、コロナの影響で通常のように観光客が来られず、外貨が入ってこないため、外貨の流出を防ぐために、車や携帯電話、家電など海外から来るものを厳しく制限している状態。コロナは、ここ最近はようやく落ち着いてきて、ワクチン接種をした人は隔離期間なしで入国できるなど、観光客の受け入れに積極的です。それほど観光業はスリランカにとって大事な産業だと言えます。

 

近隣の国と比較すると、識字率が高かったり、進学できる人は一部ではあるのですが公立大学までの教育が無償だったりと、ベースの教育がしっかりしていると言われています。さらに縫製業も得意で、手作業が必要な高レベルな製品を作れることは、国としての強みになっています。

 

スリランカで現在力を入れているのは、薬品や自動車部品の分野。港を拠点にして、インドやアフリカ、ヨーロッパなどへ輸出していこうと考えています。またインドとの間に無関税条約があるため、例えばスリランカで作った自動車の部品をインドの車の工場に持っていくなど、物流拠点を活かした事業を展開しようとしているところです。自動車の分野では、インドに進出している日本企業も多くあるので、日本にとってもビジネスチャンスがあると言えるのではないでしょうか。しかしそもそも日本企業にとって、スリランカはまだかなりマイナーな市場。まずは知ってもらうことが課題だと感じています。

 

やりたいことを周囲に話すことで、目標の実現に近づく

 

――高野さん自身が今後取り組みたいことは何ですか?

 

高野 当初から考えているのは、日本のコンビニやスーパーマーケットで買えるような食材・日用品を販売する店を、スリランカにつくることです。ラオスではすでにアイ・シー・ネットのグループ会社がそのような店を展開しているのですが、スリランカには日本のものを専門に扱う店がまだほとんどありません。スリランカには、日本に留学したり働きに来たりしていた人が結構いて、現地で「日本の食べものが好き」などと言ってもらえることもよくあるんです。そのためニーズがあるのではと期待しています。

 

そして日本のなかでスリランカの知名度を上げていくことも目標です。近年日本でも、スリランカ料理の店などが増えている印象があって、少しずつ認知度は上がっていると思うのですが、私としてはまだまだ。スリランカに来る人を案内したり、紅茶以外の名産品やお土産をつくったりするなど、スリランカの魅力を発信していくことも今後の個人的なミッションとして掲げています。

 

――最後に海外で働きたいと考えている人へ、メッセージをお願いします。

 

高野 やりたいことや目標があれば、ぜひ「周囲に話す」ことから始めてみてください。私自身、「スリランカで事業を展開したい」と社内で話していたから、現地拠点を拡大する際に声をかけてもらうことができました。話すことで、欲しい情報が集まってきたり、関連する人を紹介してもらえたり、自分の中のアイデアがまとまっていったりして、どんどん実現へと歩みを進めていくことができるはず。そして自分のやりたいことに少しでも関係のある仕事があれば、ぜひ積極的にトライしてみてほしいと思います。

在宅ケア関連の製品や健康長寿事業にビジネスチャンス?タイで急速に進む「高齢化の今とこれから」

今、タイで、急速に高齢化が進んでいます。既に2005年に「高齢化社会」に突入しており、2022年には「高齢社会」入りする見込み。さらに、経済産業省の調査などによって、2040年には2018年の日本と同程度の「超高齢社会」になることが予測されています。なぜタイでここまで急速に高齢化が進むこととなったのか。現在、どのような高齢化対策が行われているのか? タイならではの課題や伸びているサービスとは一体どのようなものなのか……? アイ・シー・ネットのタイ拠点(タイIC Net Asia Co.,Ltd.)代表者として長年、タイの社会経済開発に関わってきた岩城岳央氏に話を聞きつつ、「タイの高齢化に関する今とこれから」について紐解きます。

 

タマサート大学電子・コンピューター技術学部が開発した音声によるアルツハイマー病及び軽度認知障害のスクリーニング用アプリケーション(https://siamscope.com/thammasat-university-came-accurate-application-screen-alzheimers-disease-using-voice/

 

お話を聞いた人

岩城岳央氏

金沢大学にて経済学を専攻。民間の電機メーカーに2年間勤務したのち、アジア経済研究所開発スクールを経て、イギリスにてRural Developmentの修士号を取得する。大学院修了後は、ネパール及びタイ東北部の日系NGOプロジェクトに参加。2002年にIC Net Asiaに入社。2009年からは同社の代表を務めている。

タイは2022年に、人口の14%が65歳以上になる「高齢社会」に突入する

タイは、2005年に、人口の7%に当たる人が65歳を超えた状態になる「高齢化社会」に入りました。2022年には、人口の14%以上に当たる人が65歳を超えた状態になる「高齢社会」に到達する見込み。たった17年で、急速に高齢化が進んでいるのです。

 

急速な高齢化の背景にあるのが、日本と同じく少子化の問題です。経済が発展して社会が大きく成熟し、これに伴って出生率が下がり子どもが少なくなりました。また、医療が発達し、平均寿命が延びたことも大きく影響していると考えられています。

 

こうしたことが、開発途上国や新興国では、「一気に起きる」というところも特徴です。日本の場合は時間をかけて比較的緩やかに高齢化が進んできましたが、開発途上国や新興国の場合は、急速な経済成長や医療の充実により、人口の高齢化がより速いペースで進みます。

 

2019年に野村総合研究所の調査によって、「タイの人口はASEANの中で4位に位置するが、高齢化率ではシンガポールとタイが抜け出る」「タイでは高齢化率が11.8%になっている」ことが示された(「平成30年度国際ヘルスケア拠点構築促進事業(国際展開体制整備支援事業)アウトバウンド編(介護分野)報告書」より抜粋)

 

2015年頃から高齢化対策の機運が高まるが、追いつかない状態が続く

 

そこで問題になるのが、「対策が追いつかない」という点です。タイで20年以上暮らし、タイの社会経済の変化を体感してきたIC Net Asia Co.,Ltd.の岩城岳央氏は、「タイのような開発途上国や新興国の場合、高齢化社会の他にも注力すべき社会経済課題が山積していることが多くあります。経済対策にも力を入れなければならないし、インフラも作らなければならない。社会福祉制度や健康保険制度もまだまだ。教育や産業育成の仕組みも整えなければいけません。様々な開発課題があり、先進国に比べて財政基盤や社会的基盤が弱い中で、同時に人口の高齢化にも対応しなければならない。社会経済対策をしながら急激に進む高齢化対策をしなければならないという、難しい舵取りが求められています」とその現状や難しさについて話します。

 

「タイの高齢化対策は、今から約5年前、2015年頃から、やっとその機運が高まってきたように思います。最近では行政機関が介護士や介護施設の資格登録制度の整備や、年金制度の強化に乗り出したりしています。高齢者支援分野に投資する民間企業を税制面で優遇する動きも出てきました。これに伴い、高齢者向け施設建設に加えて、例えば、ユニバーサルデザインを用いた高齢者向けのコンドミニアムや、IT機器を使って遠隔で在宅高齢者を見守るネットワーク、高齢者向けの柔らかく食べやすい食品、などの高齢者を対象にしたサービスが見られるようになってきています。ほかに、高齢者のための認知機能のトレーニング施設などを作る医療機関も出てきました」

 

とはいえ、高齢者向けの施設やサービスはまだまだ充足している状態とは言えません。人口の高齢化に伴い行政機関による政策的な支援や、民間企業によるサービス・商品開発が進み、徐々に状況は変わってきていますが、「高齢化が進んでいるけれど、まだ元気なお年寄りも多く、興味は引くが購買にはつながっていない段階ではないか」と岩城氏。5年後、10年後、例えば寝たきりの方など要介護の高齢者が増えたときに社会が対応できるような技術、ノウハウ、アイデアが求められているのです。

 

チュラロンコン王記念病院のなかに設立された認知機能フィットネスセンター。月曜~金曜日の9:00~15:00、気功、音楽療法、ニューロビクス、栄養指導などの認知症予防プログラムが提供されている。(https://www.facebook.com/cognitivefitnesscenter/photos/?ref=page_internal

 

今、タイの高齢化対策を支えているのは、地域の「保健ボランティア」たち

 

現在、タイにある高齢者向け施設は、富裕層向けのものが大多数を占めています。比較的リッチなコンドミニアムや介護サービスが多く、ここに関しては現時点で既にオーバーサプライ気味になっています。一方で、低・中所得者層向けの施設やサービスは不足しており、受け皿がないという状況になっています。

 

そもそも、タイでは日本のような年金制度や介護保険制度がなく、高齢者のケアは本人または家族の負担になり、なかなかサービスを受けられません。財政的な制約から大規模な公的負担による高齢者向けサービスの提供も難しく、タイ政府は地域コミュニティでの高齢者のケアを推進しています。タイには以前から地域の末端で保健医療サービスを提供する「保健ボランティア」制度があり、こうした地域でのネットワークやリソースを使い、家族とコミュニティが支え合って高齢者をケアしていくことが推進されています。保健ボランティアは地域で生活する女性が中心で、地方自治体や医療機関と協力しながら感染症の予防活動をしたり、公衆衛生や健康増進に関する啓蒙活動を行ったり、ケアが必要な人のご家庭を訪ねてサポートをしたりしてきました。高齢化が進む中で、保健ボランティアの役割が再認識され、こうした地域の人材を活用しながら、家族とコミュニティが連携して高齢者をケアする新しいモデル作りが進められています。

 

こうしたボランティア制度が根付き、地域の強さが機能しているのは、一体なぜなのでしょうか? その背景には、「タイ特有の母系社会の影響もあるのではないか」と岩城氏は話します。

 

「タイには伝統的に女性が家を継いで両親の面倒を見るという習慣があります。末の娘が継いだ家に男性が婿入りするという形で家を継いでいくケースが多く、女性が、慣れ親しんだ土地で、子供のころから知っている人々と、ずっと子育てや自分の両親の世話をするという文化があるんです。地域にしっかりと根を下ろした女性たちを核に、子育て、健康、介護など暮らしの強固なネットワーク基盤が出来上がっており、地方にいるとこれが非常にうまく機能していると感じます」

 

今後も、地域のボランティアを中心とした在宅コミュニティケアが推進されていく見通しです。これに伴い、「在宅でのケアをサポートするような製品の需要が見込めるのではないか」と岩城氏。「冒頭で述べたIPシステムを用いた見守りソリューションや高齢者向けの食品の他に、例えば、床ずれを防ぐマットなども出てきています。在宅ケアそのものに外国企業が参入するのは文化・習慣の違いにより難しい面もあるかもしれませんが、その周辺のサービスや製品については、ビジネスチャンスがあるのではないかと思います」と、その可能性について示唆しました。

 

労働者の6割を占める自営業者の社会保障制度が危機的に薄いという課題も

 

次に、タイの社会保障制度について見て行きましょう。公務員や国営企業の従業員に関しては、公務員医療保険制度、政府年金など、比較的手厚い保障制度が整えられています。公務員医療保障制度は、公立病院での医療サービスが無償で受けられ、家族にも適用が認められます。

 

民間企業の従業員の場合は、雇用者と被雇用者が負担する社会保険制度があり、登録医療機関で一定の医療サービスを無料で受けることができます。また、最近、企業の被雇用者を対象にした国民年金基金がスタートしました。まだ加入者は少ないですが、将来的には定年退職者の生活を支える上での役割が大きくなっていく可能性もあります。

 

もっとも手薄で課題が多いのが、インフォーマルセクターで働く方や農家の方をはじめとする自営業者向けの社会保障制度です。タイでは、全労働者の6割を自営業者などが占めているといわれていますが、彼らへの年金制度は整備されていません。65歳以上の高齢者に支給される高齢者福祉手当がありますが、支給額は年齢により1カ月に600~1000バーツ程度で、日本円にすると、2240円~3400円ぐらいの金額です。「例えばタイの物価が日本の1/5だとして、日本円に換算すると、1万~1万7000円ぐらいの金額ということになります。これでは到底、生活できません」と岩城氏は話します。

 

「さすがにまずいだろうということで政府が始めたのが、任意加入の国民貯蓄基金です。国民と政府がお金を出し合って貯蓄をする国民年金に近いシステムなのですが、加入者が少なく、全体をカバーすることはできていないというのが実情です。自営業者や農家向けの社会保障制度は、まだまだこれからといったところです」

 

さらに介護保険に至っては、公務員や自営業者などの別なく「いっさいなし」という状態です。民間の保険会社がようやく介護保険を販売し始めましたが、まだまだ普及はしていません。

 

タイのおもな社会保障制度についてまとめた一覧表。日本と同様に公務員の保障が手厚く、自営業者の年金部分が手薄であることが見て取れる

 

マーサーCFA協会が発表した調査によると、タイの年金指数は39カ国中最下位。すべての数値が平均を大きく下回り、改善が必要なことが明示された

 

在宅ケア、健康長寿支援、退職者ケアなどに商機あり。現地パートナーとのコラボも鍵に

2021年8月、タイのカシコーン研究センターが、「高齢者向け医療機器・施設の市場が2021年中に80~90億バーツ(272億~306億円)に達する見込みである」という予測を発表しました。あわせて、「市場は高齢化に伴い年平均7.8%で伸びている」「電動式車いす、電動式ベッド、センサー製品などの製品の需要も伸びている」「その一方で、こうした製品の多くは輸入に頼っており、質の高く安全な製品を供給する国内生産者に商機がある」ということも報告しています。

 

こうした情報や、ここまでで紹介した現状や文化的背景などを勘案すると、やはり直近では、在宅ケアのサポート領域にビジネスや支援の可能性があると言えそうです。

 

また、そのほかにも、「『健康寿命の延伸』と、今後大量に発生する『企業退職者の退職後の生活』にも潜在的な需要や商機がある」と岩城氏は分析します。

 

「経産省と野村総合研究所の調査によると、タイは2040年に、日本の2018年頃と同程度の高齢化率になると予測されています。『日本から20年遅れで高齢化が進んでいる』とも言われており、まさにこれから、健康ではない、要介護の高齢者が増えてくる段階です。そのため、健康体を維持して要介護にならないように、健康寿命を延伸するための取り組みも注目されています。例えば、地方自治体でのエクササイズ教室や健康相談、認知症予防アプリの開発と予防プログラムの実施などで、冒頭のほうでも少し触れた医療機関での認知機能トレーニングプログラムなどの提供です。こうした分野はまだまだ実験段階で、アイデア次第でいろいろな取り組みが出てくると見ています。タイはアプリ開発が意外に進んでおり、また、言語の問題もあるため、この分野では参入が容易ではないかもしれませんが、高齢社会の先進国である日系企業のノウハウがかなり活かせる取り組みは多いと思います」

 

地方自治体での高齢者向けエクササイズの様子(タイラット紙)(https://www.thairath.co.th/news/local/bangkok/2035389

 

もうひとつの「企業退職者の退職後の生活」とは、定年退職を迎えるセカンドキャリアの支援や、ソーシャルネット、セーフティネットなどのこと。岩城氏は「もともと農業国だったタイに、会社・工場勤めという働き方が広がり約40年が経過しました。これから、大量に、国として経験したことのない『大量の定年退職者』が発生します。そういう人たちにどんな活躍の場を作ればよいか、セーフティネットを整えればよいか。これは急いで考えなければいけない大きな課題です」と話します。

 

介護福祉施設の拡充、コミュニティケアをサポートする先端機器の導入、社会保障の整備や、退職者のセカンドライフ支援まで……。タイが、政府、民間の力を集めてやらなければならないことは、枚挙にいとまがありません。「タイでも高齢者向けのいろいろな取り組みが始められていますが、ノウハウに乏しく、日本が培ってきた技術やノウハウへの関心は高い。参入できる機会ではないか」と岩城氏。

 

「ただし、文化や言葉の壁もあり、日系企業が単体で参入しようとしても、なかなかうまくいきません。例えばタイの国立病院と組んで調査を行う、タイの民間企業とコラボレーションして実証実験を行うなど、現地のパートナーと一緒にプロジェクトに取り組むというのが、タイで成功するための大きな鍵だと思います。また、JICAの『中小企業・SDGsビジネス支援事業』などのスキームを活用して進出するというのも有効な手段です。経産省やジェトロにも類する支援制度がありますので、いろいろ調べて、周囲のサポートを受けつつ現地と信頼関係を築く道を探ることをお勧めおすすめします」

 

このように話す岩城氏。最後に、「今、現地で足りないのは、高齢者ケアの技術、情報、経験です。大雑把なアイデアやイメージはあるけれど、具体的なビジネスプランに落とし込めずに、なかなか進めない現地企業は多いと思います。日系企業の皆さんには、ぜひよい現地パートナーと出会って、タイの高齢化に寄与するビジネスを展開していただきたいと思います」と力強いメッセージを述べました。