勝麟太郎は「ホラ吹きおじさん」? それとも「幕末の英雄」? 学習まんが『人物日本史 勝海舟』を読めばわかる!

勝海舟といえば、「世渡り上手」「口八丁」という印象があります。

 

なぜなら、徳川政権の末期において「軍艦奉行」「陸軍総裁」を務めた上級官僚であったにもかかわらず、明治維新後には、かつては敵対していたはずの新政府で要職(元老院議官・枢密顧問官)に就いているからです。

 

勝海舟は、厚顔無恥で節操のない人物だったのでしょうか? 『人物日本史 勝海舟』(樋口清之・監修、ムロタニツネ象・漫画/学研プラス・刊)という本でおさらいしてみましょう。
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勝海舟はインチキ野郎なのか?

もちろん違います。新政府に迎え入れられたのは、勝海舟のすぐれた手腕や知見が必要とされたからです。

 

貧乏御家人から有力幕臣への大出世、近代的な海軍の立ち上げ、坂本龍馬の抜擢、江戸城の無血開城など。歴史的偉業を成しとげる原動力を培ったのは、勝海舟が「麟太郎(りんたろう)」を名乗っていた青年時代のことでした。

 

 

出世の秘訣は…立ち読み!?

勝麟太郎 は、外国語を自由に読み書きできる幕臣のひとりでした。実家は「小普請」という役職を代々受け継いでいましたが、無役(むやく)だったので何もすることがありませんでした。砲術に興味をもった青年時代の麟太郎は、オランダ語を学び始めます。

 

外国語がわかるということは、海外情勢について「伝聞」ではなく、外国語で報じられた一次情報を理解できるということです。低い身分の出身でありながら、時流を察知して、頭角をあらわすことができた理由のひとつです。

 

海外の最新技術を学ぶためには、原語で書かれた専門書が必要です。当時の蘭書(オランダ語の技術書)はとても高価でした。貧乏な麟太郎は、本屋でよく立ち読みをしていたそうです。この「立ち読み」が、麟太郎にとって人生の転機になりました。

 

 

転機は「翻訳のアルバイト」だった!

あるとき、麟太郎の立ち読みっぷりを見かけたお金持ちが、麟太郎に翻訳の仕事を持ちかけました。渋谷利右衛門という人物です。商人にとっては、海外情勢に通じることは将来を見通すことにつながり、利益を得ることに役立つからです。

 

洋書をタダで読めて、しかも翻訳料までもらえる。「芸は身を助ける」の格言どおり、暇をもてあまして好奇心ではじめた蘭学研究は、麟太郎の立身出世を大いに助けました。

 

この時期に、麟太郎は「ある大物」と知り合いになります。この人物との出会いが、のちに「江戸城の無血開城」を成功させたといっても過言ではありません。その人物とは……

 

 

運命の出会い

翻訳を注文していたのは、のちの薩摩藩主・島津斉彬(しまづ・なりあきら)です。低い身分だった西郷隆盛や大久保利通などの資質を見抜いて重用した人物です。

 

当時の斉彬は、藩主を継がせてもらえず、世子という身分に甘んじていましたが、将来のことを見据えて海外情報の収集をおこなっていました。

 

海舟研究の決定版である『勝海舟』(松浦玲・著/筑摩書房・刊)という本によれば、はじめは匿名注文だったので、麟太郎は気づかなかったそうです。斉彬は江戸住まいだったので、若き日の麟太郎と面会しています。このときの印象を、斉彬は「なかかなの人物である」と評しており、そのことを西郷隆盛はよく覚えていたそうです。

 

ご存じのとおり、勝海舟と西郷隆盛は、新政府軍による徳川慶喜追討をめぐる交渉の当事者です。西郷の独断によって江戸総攻撃は回避されました。まさに「信頼は一日して成らず」です。

 

 

結論:勝海舟は偉人である

斉彬が「汝のことは伊勢に頼み置けり」と何度も言う、その「伊勢」が初めのうちは誰のことか解らなかったというのがリアリティーがあって面白い。

権力中枢に近ければ「伊勢殿」「伊勢守様」が常用されており「伊勢」は筆頭老中阿部伊勢守正弘以外ではありえない。

しかし四十俵の無役小普請では雲の上のことだからピンとこない。また斉彬が阿部正弘を「伊勢」と呼捨てにする仲だとは想像もつかなかった。

(松浦玲・著『勝海舟』から引用)

阿部正弘は、大久保忠寛(一翁)という人物を重用していました。その大久保忠寛が、小普請組にすぎなかった青年時代の勝麟太郎を抜擢します。長崎海軍伝習所で操船技術を学んだあと、麟太郎みずからも軍艦奉行として、日本の近代海軍の立ち上げに関わっていきます。

 

脱藩浪人だった坂本龍馬を見出して、神戸海軍操練所(勝塾)に加えたのは勝海舟です。龍馬が操船技術を身に着けていなければ、薩長同盟は成立しなかったかもしれません。敵対していた長州藩のために、どの藩にも属しない中立の立場だった龍馬が、薩摩藩の船で薩摩藩が購入した武器弾薬を運んだからこそ、不倶戴天の敵同士が手を結ぶことができました。

 

日記の記述ミスが多いこと、座談における記憶違いにもとづいたリップサービスなどから「ホラ吹きおじさん」とも言われる勝海舟ですが、先述した学習まんが『人物日本史 勝海舟』や『勝海舟』(松浦玲・著/筑摩書房・刊)を読むかぎりでは、私心を捨てて公共のことを考え尽くした偉人だったことが理解できます。お試しください。

 

【著書紹介】

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人物日本史 勝海舟

著者:樋口清之(監修)、ムロタニツネ象(漫画)
出版社:学研プラス

江戸幕府重臣・勝海舟は、咸臨丸を指揮してアメリカに行き、進んだ文明にふれた。そして新しい日本をきずくため、新政府軍と話し合って江戸城の明けわたしを実現させた。まんがで楽しく学べる一冊。

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「幕末」には改元が8回もありました。江戸時代末期の元号を学ぶついでに『西郷どん』のおさらいをしませんか?

「元号」について注目が集まっています。今上天皇の生前退位にともない、約30年ぶりの「改元」が閣議決定されました。2019年5月1日に元号が改められます。

 

ことし2018年のNHK大河ドラマは『西郷どん』です。西郷隆盛といえば幕末(江戸時代末期)の英雄です。幕末といえば「孝明天皇」在位の時代ですが、じつは8回も改元がおこなわれました。
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8つの元号

明治から現代は、天皇一代に元号ひとつという『一世一元制』ですが、江戸時代はそれとは異なり、国の安泰を願って、何かといえばすぐ元号が変わりました。

のちの幕末史を彩る「英雄」たちが生まれた《天保》から、江戸時代最後の元号《慶応》まで、実に8つの元号が存在します(そのうち7つが孝明天皇在位に重なります)。

(『決定版 幕末のすべて』から引用)

 

決定版 幕末のすべて』(脇坂昌宏・著/学研プラス・刊)という本があります。天保、弘化、嘉永、安政、万延、文久、元治、慶応、という「元号」に着目することで、混迷をきわめた幕末期をスッキリ!と理解できる歴史ガイドブックです。

 

2018年1月からスタートする『NHK大河ドラマ 西郷どん』をより深く楽しむために、激動の30年間をおさらいしましょう!
 

天保(てんぽう)

天保年間は、有名な維新志士たちが世に生を受けた時代です。

天保2年  孝明天皇
天保3年  芹沢鴨
天保4年  桂小五郎、山南敬助
天保5年  近藤勇、岩崎弥太郎
天保6年  坂本龍馬、土方歳三、篤姫
天保7年  榎本武揚
天保8年  徳川慶喜、三条実美
天保9年  中岡慎太郎、後藤象二郎、グラバー
天保10年 高杉晋作
天保11年 久坂玄瑞
天保12年 伊藤博文

 

天保のひとつ前は「文政」という元号です。『西郷どん』の主役、西郷隆盛は「文政10年」生まれです。

 

文政6年  勝海舟
文政7年  徳川家定
文政8年  岩倉具視
文政10年 西郷隆盛、山内容堂、ジョン万次郎
文政11年 松平春嶽
文政12年 武市半平太
文政13年 吉田松陰、大久保利通

天保元年

2010年のNHK大河ドラマ『龍馬伝』では、近藤正臣さんが「怪物・容堂」を熱演していました。松平春嶽は夏八木勲さんが演じていました。すばらしい演技でした。実際は、ふたりとも大政奉還の頃でさえ40代前半です。

 

文政と天保は、まさに「幕末」のはじまりと言える元号です。
 

弘化(こうか)

ペリー提督による黒船来航は、つぎの元号である「嘉永」です。しかし、その約7年前である「弘化3年」に、アメリカのビッドル司令官率いる軍艦が、通商をもとめて浦賀にやってきた事件がありました。

 

この事件によって、水戸藩や薩摩藩など一部の大名たちは、外国の先端技術にもとづく軍事力に強い危機感をおぼえます。
 

嘉永(かえい)

嘉永6年。アメリカ合衆国大統領の親書をたずさえたペリー提督が、軍艦4隻(そのうち蒸気船2隻)を率いて浦賀沖にあらわれます。通商のために開国をせまる内容でした。

 

この嘉永年間が、江戸幕府(徳川将軍家)にとってのターニングポイントです。なぜなら、幕府首脳は「開国」あるいは「拒絶」を決めかねて、旗本や全国の外様大名たちに意見を求めてしまったからです。財政面や人材面において、すでに独断できるほどのリーダーシップを失っていたということが理解できます。
 

安政(あんせい)

日米和親条約が締結されます。開港、水や食糧や燃料の提供、関税自主権の不在、居留地の治外法権、最恵国待遇などの不平等条約でした。アメリカだけでなく、イギリスやフランスやロシアとも和親条約を締結せざるを得なくなります。

 

幕府がよりにもよって不利な条件で「開国」を受け入れてしまったことで、尊王(反幕府)・攘夷(外国人の排斥)運動が盛んになります。

 

安政5年。大老・井伊直弼が「安政の大獄」を断行します。有力大名から浪士にいたるまで、幕府に逆らう尊皇攘夷派をぎびしく処罰するものでした。思想弾圧です。
 

万延(まんえん)

万延元年3月3日。大老・井伊直弼が、尊皇攘夷浪士に襲撃されて命を奪われます。いわゆる「桜田門外の変」です。危機感をおぼえた幕府は、国内情勢の安定をはかるために「公武合体」を提案します。
 

文久(ぶんきゅう)

公武合体とは、孝明天皇の妹である和宮内親王を、第十四代将軍・徳川家茂の正室に迎えようというものでした。公家と武家の関係を深める、いわゆる「政略結婚」です。尊皇攘夷派の急進的な動きには朝廷もビビっていたので、双方の利害が一致しました。

 

和宮降嫁(かずのみや・こうか)は、2008年のNHK大河ドラマ『篤姫』でも描かれています。堀北真希さんが演じる和宮内親王が江戸城の大奥にやって来るくだりは、血なまぐさい幕末史に「一服の清涼剤」を添えるイベントでした。
 

元治(げんじ)

倒幕派である長州藩士・高杉晋作が、品川御殿山に建設中だった「イギリス公使館」を焼き討ちします。さらに長州藩は、朝廷から幕府勢力を排除するために京都市内で挙兵しますが、薩摩藩や会津藩によって阻止されてしまい、頼みの朝廷からも「朝敵」扱いを受けてしまいます。

 

文久から元治年間にかけて、過激な尊皇攘夷派による天誅(てんちゅう)が横行しました。幕府要人の暗殺です。過激な倒幕派に対抗するため、新撰組が結成されました。暗殺には暗殺で対抗する、というわけです。幕末の血なまぐさいイメージは、この時代にもとづきます。

 

 

慶応(けいおう)

慶應2年。不倶戴天の敵同士だった「長州藩」と「薩摩藩」による秘密盟約が成立します。薩長同盟です。弱体化した幕府に見切りをつけた薩摩藩は、裏でこっそり長州藩を支援します。そのおかげで、幕府の威信をかけた「第二次長州征討」は長州藩の圧勝に終わりました。そのあとは、大政奉還まで一直線です。

 

今回のおさらいでは、幕末を題材にしているNHK大河ドラマを引き合いに出しました。

 

『篤姫』では、江戸幕府を「紋切り型の悪者」として描かずに、為政者としての重責に苦しむ幕閣(阿部正弘や井伊直弼)、徳川将軍家に寄り添った描写が新鮮でした。

 

『龍馬伝』では、勤王(尊王)を標榜しながらも、「藩あってこその武士」という旧来の発想から抜け出せなかった土佐勤王党の武市半平太の描きかたが見事でした。いわゆる「薩長土肥」以外の二百数十藩は、どうすれば正しいのかを決めかねて、大森南朋さんが演じた武市半平太のような苦悩を抱えながら幕末を過ごしていたからです。

 

今度は、どのような切り口で「幕末」を楽しませてくれるのでしょうか。2018年のNHK大河ドラマ『西郷どん』には期待しています。

 

 

【著書紹介】

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決定版 幕末のすべて

著者:脇坂昌宏
出版社:学研プラス

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期待度さらにアップ!19年大河『いだてん』ビートたけし、森山未來、神木隆之介ら7人の出演を発表

中村勘九郎・阿部サダヲがW主演を務める、2019年NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』の第2弾出演者発表会見が11月29日、東京・渋谷のNHK放送センターで行われ、ビートたけし、森山未來、神木隆之介ら7人が出演することが発表された。

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宮藤官九郎が脚本を手掛ける本作は、オリンピックをテーマに大河ドラマとしては33年ぶりとなる近現代史を描く物語。日本が初参加した1912年のストックホルム大会から、1964年の東京オリンピック実現までの激動の52年間を、中村勘九郎と阿部サダヲがリレー形式で主演を務める。

 

今回、新たに発表されたキャストは、ビートたけし、森山未來、神木隆之介、橋本愛、峯田和伸、川栄李奈、松尾スズキの7人。たけしは“落語の神様”として知られる古今亭志ん生役、森山は若き日の志ん生・美濃部孝蔵役、神木は志ん生の弟子・五りん役、橋本は浅草の遊女・小梅役、峯田は浅草の人力車夫・清さん役、川栄は五りんの彼女・知恵役、松尾は伝説の落語家・橘家圓喬役を演じる。

 

制作統括を務める訓覇圭チーフ・プロデューサーは本作の流れについて「サブタイトルに“東京オリムピック噺”とつけておりまして、1964年の東京オリンピックを間近に控えて、昭和の大名人・古今亭志ん生さんがオリンピックの歴史を振り返り、落語で語っていくというスタイルで描いていきます。“落語の神様”と言われた志ん生さんが、金栗さん(中村)と田畑(阿部)さんを主人公にしたオリンピックの物語をしゃべりつつ、ちょいちょい自分の人生を挟み込んでいって、全47話観終わると志ん生さんの自伝を観たような仕掛けを考えています」と説明。

 

志ん生を落語家で一番尊敬しているというたけしは「全盛期の落語の音源も持っていまして、その役がきたことがうれしくてしょうがないんです。ほとんどの仕事にプレッシャーがかかるってことはないんですが、今ひさびさ夜中に落語を聞いたりして、一応頑張っています。(志ん生の)雰囲気が出ればいいと思うんですが、とにかく国宝みたいな人だったから、少しでもそんな感じが出ればいいなと。あとは宮藤官九郎さんが書いた台本のせいです」とコメント。

 

たけしが演じる志ん生の若き日を演じる森山は「志ん生さんの若い頃を知っている方は今ほとんど生きていらっしゃらないなかで、どういうふうに美濃部孝蔵を考えればいいかなと今考えているところです。撮影期間の1年半楽しませてもらえればなと思います」と。

 

さらに、自身が演じる役が後にたけしが演じることについて「一体誰を参考にしたらいいのか、物まねするわけにもいかないので…」と言葉に詰まっていると、たけしから「俺になるんだから『何だ、バカヤロー!』『ダンカン、バカヤロー!』って言っていればいい」とアドバイス。

 

脚本家の宮藤とは映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(16)以来のタッグとなる神木は「宮藤さんの作るリズムとか、一言一言の言葉だったり、ボケとかツッコミとかそういうのが大好きですし、観ているのも好きです。自分で実際に演じているのも楽しいので、今回もただひたすらに楽しむことができたらいいなと思っています」とにっこり。

 

また、東京オリンピックの思い出を聞かれた、たけしは「ちょうど都立の学校に入ったばかりで、都立の学校の生徒は誰も来ない競技場に穴埋めとして行くことになった。国立競技場の陸上ホッケーのインド対パキスタンの決勝戦で、どっちがどっちだか全然分からない」と。さらに、「ヒゲ生やして、ターバン巻いて骨みたいなのを持って走り回っている姿が映って、それをたばこ吸いながら見てたら先生に思いっきり殴られて、『これが世界に放送されるんだバカ』と言われて、家に帰された思い出しかありません」と当時を振り返り、会場を笑わせた。

 

2019年大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』は、2019年1月放送予定。