母国を愛しているからーーオリンピックを駆け抜けた南スーダン陸上選手・アブラハムが走る理由 特別マンガ連載「Running for peace and love」第4回

多くのアスリートが難しい状況の中、懸命に力を振り絞った「東京2020オリンピック・パラリンピック」。2020年から一年、未曽有の危機に遭いながら世界中の人々と選手たちが様々な思いを抱えながら開催されました。

 

GetNavi webでは、2019年11月から群馬県・前橋市でトレーニングを積み、東京2020オリンピックに挑んだ南スーダン代表選手「グエム・アブラハム」選手の半生を追ったマンガ連載「Running for peace and love」を掲載しています。

 

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東京2020オリンピック代表に選出されたアブラハム選手。母の理解も得て、日本のJICA(国際協力機構)のサポートのもと、日本の群馬県・前橋市へと飛び立ちました。そして日本に着いた2019年11月、その時には予想もつかなかった「未曾有の危機」が訪れます。アブラハム選手の半生を追ってきた本連載も今回で最終回。どんな思いで彼が日本での日々を過ごし、オリンピックに挑んでいったか――最後までお楽しみください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アブラハム選手と日本の暮らし、そして東京2020オリンピックを終えて

↑アブラハム選手(写真右)と、作中にも登場した元オリンピアン・横田真人コーチ(写真左)。写真中央は、同じく事前合宿に参加したマイケル選手(パラリンピック・陸上100m候補選手)

 

新型コロナウイルス感染症による世界的パンデミック、そして世界中の人が様々な思いを抱えながら開催された東京2020オリンピック・パラリンピック。多くの人の暮らしや価値観を変え続けてきた1年半以上もの時間ですが、アブラハム選手たち南スーダンの選手団にとっても大変困難な壁が起こっていました。

 

2020年4月にオリンピック開催延期となるも、ホストタウンである前橋市は7月に受け入れ延長を決定。作中で描かれていた通り、この1年半に渡って前橋市は、全面的に南スーダン選手団の暮らしをサポートし続けてきました。選手達がスポーツに専念できる機会を作るだけでなく、日本語学校での学びの機会や地域の住民・子ども達との交流など、暮らしと文化の面でのサポートを行ってきたのです。

 

そうした暮らしの中で練習を続けてきたアブラハム選手でしたが、トレーニング過程においては一人でのトレーニングに壁を感じていたとも発言しています。そんな課題も、横田コーチや楠 康成選手との出会いによってまた前身することに。日本人選手との交流・トレーニングを経験したのち、アブラハム選手は自己新記録を更新。そしてオリンピックへと挑んでいきました。

 

【参考記事】

自らの走りで母国の未来を拓く――南スーダンの未来と希望を背負った選手たちを元オリンピアン横田真人さんが激励

南スーダン・アブラハム選手が自己ベスト更新で新記録達成!:「前橋市、横田真人コーチ…スポーツを通じた絆、互いを思いやる心を記録と共に母国へ」

 

トレーニングを積み重ねて迎えた8月3日--東京2020オリンピック、男子陸上1500m予選。力強い走りを見せてくれたアブラハム選手は、なんと本番で自己ベストを更新! 残念ながら決勝には進めませんでしたが、大きな舞台で3分40秒86という、自身にとって大事な記録を生み出しました。

 

そして、8月26日に南スーダンへと選手団は帰国しました。アブラハム選手が語った「母国を愛する」という思いは、これからも南スーダンに希望を与え続けるものでしょう。大会を終えてアブラハム選手は、帰国後もトレーニングを改めて見直して戦略を立てていくというコメントを残していました。きっとアブラハム選手は、これからも世界で活躍するアスリートとして走り続け、南スーダン共和国を変えていく選手であり続けるでしょう。

 

本連載を読んでくださった皆様にも、南スーダン共和国という国で生まれたアブラハム選手の力強い思いが届いたら幸いです。

 

母に届けるオリンピックへの思いーー南スーダン陸上選手・アブラハムの決意 特別マンガ連載「Running for peace and love」第3回

現在開催中の「東京2020オリンピック・パラリンピック」。2020年から一年、未曽有の危機に遭いながら世界中の人々と選手たちが様々な思いを抱えながら、この日へとたどり着きました。

 

世界各国の選手たちがここ日本の地で熱い競技に挑んでいます。GetNavi webでは、2019年11月から群馬県・前橋市でトレーニングを積んできた南スーダン代表選手「グエム・アブラハム」選手の半生を追ったマンガ連載「Running for peace and love」を掲載しています。

 

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南スーダンで「平和と結束」をテーマとした全国スポーツ大会、「ナショナル・ユニティ・デイ」が開催。アブラハム選手はナショナル・ユニティ・デイを通して、民族の壁を越えた平和への一歩を体感しました。同時に、自身のアスリートとしての力に自覚を持ち、さらに大きなステージを駆け上がっていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京2020オリンピック代表に選出されたアブラハム選手。今回の物語を補足する情報を追っていきましょう。

 

アブラハム選手とオリンピック

 

第1回、第2回ナショナル・ユニティ・デイ(NUD)と好成績を残したアブラハム選手は、おのずとオリンピック出場を目指すようになりました。第1回・2回NUDの結果を踏まえ、オリンピックチームが形成されてアブラハム選手以外の候補選手も集められたそうです。その後、アブラハム選手含む3名のオリンピック候補選手と1名のパラリンピック候補選手が、事前合宿で日本入りすることとなりました。その先のお話はまた次回描いていきたいと思います。

 

南スーダンとオリンピック

映画「戦火のランナー」場面写真より (C)Bill Gallagher

 

南スーダン共和国が、オリンピックに初参加したのは2016年開催のリオ・デ・ジャネイロオリンピックになります。2015年6月に南スーダン五輪委員会が設立、同年8月に国際オリンピック委員会に加盟承認されました。

 

しかし出場までの道は険しく、開催まで3か月を控えている時点で候補選手の多くがオリンピック出場資格を得ていませんでした。そのため、オリンピック出場資格を得るための国際試合への選手派遣を至急行っていくことに。そして、2016年6月の南アフリカの陸上競技会が最後のチャンスであることがわかり、選出選手たちが参加することとなったのです。結果的には、特別枠で男女1名ずつの選手参加が陸上競技で認められることになり、さらに、マラソンで国際大会に出場していた南スーダン選手の参加が認められ、計3名の出場が認められることになりました。

 

そのような経緯でリオオリンピックにて初参加となったわけですが、実は2012年のロンドンオリンピックでも「南スーダン出身」の選手が参加していたのです。2021年6月に日本でも上映されたドキュメンタリー映画『戦火のランナー』では、スーダン共和国時代に戦火の中で苦難から脱出してアメリカへ移民した「グオル・マリアル」選手が、ロンドンオリンピックに出場するまでの顛末が描かれています。

 

南スーダンの独立が2011年7月、ロンドンオリンピック開催が2012年7月と、独立して間もない1年の中で国内オリンピック委員会を設立することが叶わず、グオル選手は「南スーダン共和国代表選手」としては出場できないことになってしまったのです。しかし「スーダン共和国代表」としての出場なら叶うという状況。国を背負って走るオリンピック大会において、とても重要な決断をグオル選手はしていくわけですが、そのような背景の中で、南スーダン出身の選手がロンドンオリンピックにも出場していました。

 

そのロンドンオリンピックからリオオリンピック、そして今年の東京2020オリンピックと、南スーダンはNUDなどのスポーツ施策に注力することで着実に世界的な選手を輩出する環境を整えていっていることがわかります。

 

次回は、日本にやってきたアブラハム選手たち南スーダン代表選手団が、どのような暮らしをして、どんな思いを抱えながらオリンピックへと挑んでいくのかご期待ください。

 

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●映画『戦火のランナー』クレジット

監督・プロデューサー:ビル・ギャラガー

脚本・編集:ビル・ギャラガー、エリック・ダニエル・メッツガー

配給:ユナイテッドピープル 宣伝:スリーピン

2020年/アメリカ/英語/88分/カラー/16:9

この国は変われるかもしれないーー南スーダン陸上選手・アブラハムの大きな転機「国民結束の日」 特別マンガ連載「Running for peace and love」第2回

現在開催中の「東京2020オリンピック・パラリンピック」。2020年から一年、未曽有の危機に遭いながら世界中の人々と選手たちが様々な思いを抱えつつ、この日へとたどり着きました。

 

世界各国の選手たちがここ日本の地で熱い競技に挑んでいます。GetNavi webでは、2019年11月から群馬県・前橋市でトレーニングを積んできた南スーダン代表選手「グエム・アブラハム」選手の半生を追ったマンガ連載「Running for peace and love」を掲載しています。

 

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少年時代のアブラハム、そして南スーダン共和国に訪れた新たな転機--「ナショナル・ユニティ・デイ」。今回は、初めてのスポーツ交流とアスリートとしての自分の才能に向き合う、アブラハム選手の様子を描いていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

民族の壁を越えて「平和と結束」を体感したアブラハム選手。ここからは、よりマンガを楽しむための情報をご紹介します。

 

アブラハム選手とナショナル・ユニティ・デイ

JICAウェブサイト『南スーダン・アブラハム選手が自己ベスト更新で新記録達成!:「前橋市、横田真人コーチ…スポーツを通じた絆、互いを思いやる心を記録と共に母国へ」』より転載

 

作中で描かれた通り、アブラハム選手にとってナショナル・ユニティ・デイは大きな意味を持つ出来事です。第1回ナショナル・ユニティ・デイでアブラハム選手は、1500mで4分8秒33という記録で2位、800mにも出場して2分1秒49で1位と好成績を獲得。その成績をもって自身の才能を実感できたことはもちろんですが、それ以上にナショナル・ユニティ・デイ本来の目的である「民族間の交流」をアブラハム選手もその身で体感したことが、彼がアスリートへの道を進む大きな要因となっていくのです。

 

第1回ナショナル・ユニティ・デイ開催に至るまで

写真提供:久野真一/JICA

 

第1回ナショナル・ユニティ・デイ(以下、NUD)は、日本のJICA協力のもと2016年1月に開催に至りましたが、その道は決して楽なものではありませんでした。当時の南スーダンは、IGAD(政府間開発機構)による和平交渉の結果、2015年8月に和平合意が締結されることになりますが、この合意はキール大統領側が一度署名を拒否するなど、まだまだ本当の意味での和平には遠い状況でした。このような混迷が深まる中で、第1回NUDが開催されることになったのです。

 

スーダン共和国時代に、NUDのモデルとなる全国スポーツ大会が存在していましたがそれも数十年前の話。あらためて、ほぼ一から南スーダンの「文化・青年・スポーツ省(現青年・スポーツ省)」とJICAで全国規模の国体開催を目指すことになります。しかし、各地で戦闘が繰り返されている中で、全国から選手団を派遣できるのか、各州は選手たちの渡航費をねん出できるのかなどの様々な課題がありました。

 

作中でも描かれている通り、会期中の競技場の整備など環境を整えるのにも尽力しています。選手の宿泊所として使われた「ロンブール教員養成校訓練所」も、当初は水回りや電気の修理が必要であったり、隣接するグラウンドが雑草に覆われており整備が必要であったりという状況だったようです。会期中、宿泊所では州や民族に関係なく、人と人とのつながりが持てるように、部屋割りや食事場所なども、否応なく話せる空間としています。その取り組みは、現在でも継続しているそうです。

写真提供:久野真一/JICA

 

アブラハム選手がアスリートを自覚する大きな一歩となったNUDは、南スーダンにとっても多くの課題をクリアして現在も続く大事なステップなのです。次回、アスリートとしての才能とも向き合った彼のもとにまた一つ大きなチャンスが舞い降ります。そう、オリンピックです。南スーダンから世界へ、アブラハム選手がどのように羽ばたいていくのかお楽しみに。