これぞ”粋” 春の屋形船でお酒と江戸の情緒を堪能する噺

提供:宝酒造株式会社

「せんべろnet」管理人・ひろみんさんのナビゲートで“ひとり飲み”の魅力を体験しているタレントの中村優さん。ある日、隅田川沿いをランニング中に川を眺めると、そこには屋形船でお花見を楽しむ光景が。お酒を片手に船で和む姿に興味を持った彼女は、後日知人を誘って屋形船「晴海屋」の乗り合いコースを予約し、屋形船を楽しむことに。

 

今回は“ひとり飲み”シリーズ番外編。中村優さんが、春の屋形船でお酒と料理と江戸の粋を堪能します!

 

 

屋形船の歴史

屋形船といえば、川を下る船の中で天ぷらなどのご馳走とお酒を楽しみながら、観光名所を遊覧する伝統文化。その歴史はいつごろ始まって、どのように親しまれてきたのでしょうか。

 

ルーツを紐解くと、それは古墳時代の「舟遊び」にまでさかのぼります。402年に、仁徳天皇の子にあたる履中天皇が、両枝船(ふたまたふね)で遊宴を楽しんだという記述が『日本書紀』に残っています。

 

やがて平安時代になると、貴族の間で定着。「龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)」と呼ばれた船で、音楽や詩歌、舞楽などが親しまれていたそうです。

 

以後も、江戸時代初頭までの「舟遊び」は将軍や大名といった上流階級の道楽でしたが、世が平和になり河川の整備が進むと、裕福な商人なども楽しむようになりました。特に、水上交通が発達していた江戸では、船による遊覧が盛んになります。

 

そして、江戸の大川(隅田川)では夏の風物詩として人気に。船も大型化し、内外装も競うように豪華になっていきました。いまと同じ意味での「屋形船」という言葉も、このころには一般層に浸透していきます。

↑「吾妻橋夕涼景」(国立国会図書館デジタルアーカイブ)

 

17世紀後半以降「舟遊び」は大衆化が進み、町人たちは船宿や料理屋が所有する「屋根舟(やねぶね)」で遊ぶようになります。これは小型の船に柱と屋根だけというシンプルな設計で、18世紀後半には50~60艘だった屋根舟が、19世紀初頭には500~600艘にもなったとか。

 

こうして幅広い層の人たちが楽しむようになった江戸(東京)の屋形船ですが、質素倹約が求められた太平洋戦争を機に衰退していきます。さらに、戦後から高度成長期にかけては、水質汚染やコンクリート護岸化によって水辺で遊ぶことは難しくなり、屋形船はそのまま鳴りを潜めることとなりました。

 

息を吹き返し始めたのは、1970年代後半。一軒の老舗船宿が屋形船を復活させました。1980年代に入るとバブル期となり、屋形船は豪華な遊びとして注目され、界隈の船宿は釣り船を改装する形で新規参入。さらに、東京湾には東京ディズニーランド、レインボーブリッジ、お台場といった新名所もでき、屋形船は宴会、デート、観光など様々なシーンで不動の人気を誇るようになりました。訪日外客数が過去最高を更新し続けている現在では、訪日外国人観光客からも注目のスポットとなっています。

 

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屋形船の楽しみ方

↑両国乗船場で船の到着を待ちます。

 

本日、中村さんが乗船するのは、「晴海屋」の屋形船「かちどき」。両国乗船場から隅田川を南下してお台場方面へ向かい、帰路は東京スカイツリーまで北上して両国に戻る「乗合屋形船スペシャルコース」です。

↑お花見コースの一例(今回の記事のコースとは異なります)。

 

「晴海屋」は1901(明治34)年に月島で開業し、1954(昭和29)年に江東区東砂町へ移転。その後1988(昭和63年)に釣り船業と併行して屋形船を始めました。

 

まずは出船前に、船頭のひとりである折本祐介さんから屋形船の楽しみ方を伺いました。

↑船頭の折本さん。佃(東京都中央区)生まれの江戸っ子。

 

中村 今日は久々の屋形船で、楽しみにしてきました! これまで何回も乗っているわけではないんですけど、屋形船には定義というか、決まった形があるんですか?

 

折本 ご乗船ありがとうございます! 特に「これがないと屋形船ではない」みたいなものはないと思いますが、基本的な設えや料理が和風であることが屋形船の特徴ですね。

↑今回乗船した屋形船「かちどき」。

 

中村 確かに、今日の船は畳敷きで掘りごたつの座敷ですもんね。ちなみに、洋式のクルーズ船も営業しているんですか?

↑船内は掘りごたつ式の座敷になっている。

 

折本 「晴海屋」にはありませんが、リバークルーズと呼ばれる比較的小型なタイプが運航されていますね。クルーザーは座敷ではなく洋式のテーブルとイス席で、メニューもオードブルとスパークリングワインという欧風スタイルが多いと思います。

 

中村 「晴海屋」さんは“浮かぶ料亭”をウリにしていますし、料理は和食だと思うのですが、洋食を出される屋形船もあるんですか?

 

折本 うちでも以前、洋食のプランはあったので、他社でやっている屋形船はあるかもしれません。ユニークなタイプですと、鉄板を用意してもんじゃ焼きを提供している屋形船があると聞いたことがあります。

 

 

なぜ、屋形船といえば“天ぷら”なのか?

中村 屋形船といえば天ぷらのイメージが強いんですけど、なぜ天ぷらなんですか?

 

折本 屋形船はもともと貴族や上流階級の遊びだったそうです。それが江戸時代に入り、大衆文化として一般化していったようですが、屋形船は高嶺の花であり、天ぷらも当初は高級品でした。釣り合った組み合わせとして屋形船で天ぷらがふるまわれたという説があります。

もうひとつは、もともと釣り船屋だったからという説もあります。良漁場を熟知していて釣りも得意ですから、船上で釣った魚をさばいて揚げて提供したという背景ですね。

 

中村 どちらの説にも真実味がありますね。「晴海屋」さんの名物料理も天ぷらですが、お店のこだわりはどんなところですか?

 

折本 ネタで一番力を入れているのは穴子と海老です。穴子は冷凍ものを使うのが主流ですが、うちでは香り高くて食感がやわらかい生の穴子を仕入れます。海老に関しては冷凍ものですが、一般流通しやすいバナメイ海老ではない、より大粒でおいしい海老を天然ものにこだわって使っています。

また、衣は軽めでサクッとした食感に仕上げ、そのぶん穴子ならふわふわ、海老ならしっとりプリプリとした身の弾力が楽しめるよう揚げています。

↑船内の調理場で天ぷらを揚げる。

 

中村 船内揚げたてですし、おいしそう! 楽しみです。

 

折本 ご期待ください! 専属の職人による揚げたてのおいしさも自慢なので。あとは、水上移動で流れていく借景を楽しみながらお召し上がりいただけるのも、屋形船ならではですよ。

 

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海外からの観光客には日本酒が人気

中村 お酒は、どんな種類が人気ですか?

 

折本 日本のお客様はビール、酎ハイ、ハイボールが主流ですが、寒い時期は熱燗の日本酒が好評です。そして海外の方には圧倒的に日本酒が人気。でも、飲み方は年間を通して冷やが多いですね。

 

中村 天ぷらに日本酒というペアリングは相性ぴったりですよね。

 

折本 はい。海外の方は慣れていないからか冷酒が多いのですが、肌寒い日は燗酒もオススメしたいですね。一方で夏場にオススメなお酒はやはり、炭酸が効いた酎ハイやビールです。

 

中村 あと、船上でお酒を飲む際の注意事項はありますか?

 

折本 船酔いと、お酒の酔いとの相関性はわかりませんが、船酔いしやすい方やお酒が強くない方は、ふだんよりも体調に気を使われたほうがいいかもしれません。お酒の合間に水を飲んでいただいたり、船上のデッキに出て風に当たったりしていただくことをオススメします。

 

 

いざ、出船!

他のお客様も乗船したところで、いよいよ出船です。中村さんも着席してさっそくドリンクを注文。一杯目はレモンハイで乾杯です。

 

中村 今日は天気もいいし、まずはレモンハイで気分も爽快に。うん、キリッとしていて今日もおいしい!

 

↑酎ハイは「宝焼酎」がベース。

 

テーブルの上にずらっと並んだ前菜や刺身など数種のおつまみについて折本さんが解説してくれました。

 

折本 先ほどお話しした天ぷらはもちろん、それ以外の料理にもこだわりが満載です。特に大切にしているのは旬であること。例えば春は山菜やアサリ、冬は根菜やカニといった内容で用意します。

 

中村 景色ともリンクするから、料理の季節感も大事ですよね。では、お刺身からいただきますっ!

 

お造りの内容は、マグロ、マダイ、カンパチ、甘海老。そのおいしさに、中村さんも舌鼓を打ちます。

 

中村 マグロやカンパチは想像以上に脂がのっていて、マダイはハリがよくて超新鮮! 甘エビもとろける甘みで絶品です。

 

船内では折本さんが、お客さんへの挨拶やコース紹介などのマイクパフォーマンス。佃島のルーツは徳川家康が江戸入府する際に摂津国(現在の大阪市西淀川区佃)佃村の漁民を移住させたことに由来するなど、通りがかった場所や名所について、様々な解説で楽しませてくれます。

 

中村 佃島って佃煮の佃島ですよね。そのルーツは初めて知りました。屋形船は観光の側面もあるから、こういう知識は勉強になって面白いです!

↑勝鬨橋(かちどきばし)を通過する「かちどき」。

 

 

料理と景色を堪能する

そして船はレインボーブリッジ付近へ。ここで数分間停止し、その間はしばしの自由時間。中村さんは外のデッキへ出て、お台場エリアの景色を満喫します。

↑川からレインボーブリッジを眺める中村さん。

 

中村 春風が心地いい! タイミングよく桜も咲いてるし、昼間の屋形船もいいですね。

 

15分ほど停止して、船は東京スカイツリーに向けて再始動。船内では揚げたて天ぷらの提供がはじまりました。

 

折本 穴子と海老のほかは季節によって変わりますが、今日はノドグロ、オナガダイ、タチウオ、蓮根、カボチャを揚げていきます。天つゆと大根おろし、塩をお好みでお使いください。

↑揚げたてのアナゴ・タチウオ・オナガダイ。

 

中村 揚げたてなのがまずうれしいし、本当にサクサク軽く、身はしっとりしていておいしい! これはもう、日本酒でキュッといきたい気分です。

 

すかさずオーダーしたのが、松竹梅「豪快」の熱燗。その味わい、天ぷらとのペアリングはいかが?

 

中村 キレのある辛口ですけど、燗によるほっこりしたうまみとふんわり甘い香りも心地いいです。ホクホクの天ぷらとも好相性で、これは進みますね~。

 

その後も「和牛の陶板ステーキ」や「筍と桜海老の炊き込み御飯 香の物」などの美食とお酒を合わせ、悦に入る中村さん。そうしてしばらく和んでいると、船は東京スカイツリーに到着し、向かいの隅田公園では早春の桜もお出迎え。再びデッキへ出て記念撮影を楽しみました。

 

中村 乗ってみると、あっという間の150分間でした。お酒も料理も、そして折本さんのトークや景色も最高でした! 屋形船って敷居が高そうだけど、料金を考えたら、少人数の仲間と一緒に居酒屋でおいしい料理を食べたり、ちょっとしたイベントで宴会場を貸し切って盛り上がるのとそんなに変わらないですよね。次はまた、夜景を楽しむ屋形船にも行きたいです。

 

 

屋形船と聞くと貸し切りで大人数の宴会をイメージしている方も多いと思いますが、近年は2人組(基本的に屋形船の乗船予約は2人から)での乗り合い乗船も人気で、少人数だからといって肩身の狭い思いをすることはありません。

 

春はお花見、夏は花火や納涼。秋は紅葉、冬は脂がのった味覚と、どの季節でもそのときならではの楽しみ方がある屋形船。皆さんも、今度友人を誘って屋形船で一杯やりませんか?

 

撮影/我妻慶一

 

<取材協力>

屋形船晴海屋

東京都江東区東砂6-17-12
https://www.harumiya.co.jp/

乗船の予約や料理のコースなど詳細はHPまで。

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

・松竹梅「豪快」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/gokair/

関西の酒と食の面白さを、酒場を愛するライターが探る噺

提供:宝酒造株式会社

 

関西で甲類焼酎を使ったチューハイを独自の工夫で美味しく飲ませてくれるお店に伺って、その味わいを堪能するシリーズ関西チューハイ事情。日本酒を主役に、関西独自の食文化を深掘りした関西食文化研究。今回は、東京生まれ、大阪在住のライター・スズキナオさんが、独自の視点で関西のお店を巡った両シリーズを振り返っていきます。

 

 

最高の相性「純ハイ」と「串カツ」

【関西チューハイ事情】シリーズでまず訪れたのは、大阪生まれの「純ハイ」が定番酒となっている「ヨネヤ」の梅田本店です。

スズキナオ/東京出身、大阪在住の酒場ライター。酒噺で「関西食文化研究」や「関西チューハイ事情」連載を担当。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』などがあるが、テクノラップユニット「チミドロ」のリーダーとしても活動する

 

「純ハイ」とは、宝焼酎「純」をベースにした「酎ハイ」のこと。「純」は宝酒造が誇る11種類の樽貯蔵熟成酒を13%ブレンドした、まろやかで口当たりのよいワンランク上の甲類焼酎です。

 

「ヨネヤ 梅田本店」ではアルコール度数35%の「純」を使用することで、飲みごたえがあり、割ってもお酒の風味が薄れないおいしさに仕上がっています。また、ガス圧を強めに設定した専用ディスペンサーから注ぐことで、キレと爽快感も抜群です。

↑「純ハイ」を安定した品質で提供するためだけに作られた専用のディスペンサー(「純スペ」と呼ばれるそう)

 

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どんな料理にも合う「純ハイ」ですが、大阪名物「串カツ」との相性は抜群です。【関西チューハイ事情】も第3回では「串カツ」の人気店「串かつだるま」を紹介。大阪・浪速の繁華街、新世界で1929(昭和4)年に創業された「串かつだるま」は、「串カツ」を大阪名物へと押し上げた立役者。大阪市内と京都に10数店舗を展開し、その魅力を発信してきました。

 

その老舗で、新名物として親しまれているお酒が「だるまハイボール純」。こちらは同社の常務取締役・藪口征平さんが、ミナミの有名焼肉店で「純ハイ」を飲んで感銘を受けて誕生しました。35度の「純」と強炭酸水、レモン風味のオリジナルエキス、そしてカットレモンがおいしさの決め手です。

 

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京都ローカルの「赤い」お酒

「純ハイ」以外に個性を放っている「酎ハイ」があります。それが「あか」や「ばくだん」と呼ばれる甘酸っぱくて赤いお酒。こちらは関西というか京都のローカル酒で、京都市下京区のお好み焼き店「やすい」発祥といわれています。

 

そんな酎ハイを紹介したのが第4回の「お好み焼 吉野」。「あか」も「ばくだん」も、赤ワインを加える「酎ハイ」。作り方には店ごとに細かな違いがあり、ワインの種類も違えば、甲類焼酎を炭酸水ではなくサイダーで割って甘くするスタイルも。「お好み焼 吉野」では35度の宝焼酎「純」に、強炭酸と絶妙な量の赤ワインを注ぎ入れることがおいしさのこだわりです。

↑35度の宝焼酎「純」に、強炭酸と絶妙な量の赤ワインをいれて作る「お好み焼き 吉野」の「あか」

 

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「レモンサワー用焼酎」で、ひと味違う「酎ハイ」を楽しむ

京都では「夢処 漁師めし 雑魚や」も紹介しました。こちらは現地で人気の飲食企業「雑魚やグループ」が展開する一軒。どの業態もとびきり新鮮な海の幸を主体としており、同店では鮮魚に合う「生レモン酎ハイ」が人気。

 

この「生レモン酎ハイ」のベースとなっているのが、アルコール度数35%の宝焼酎「レモンサワー用焼酎」です。レモンの爽やかな成分との相性を追求した、レモン系の香り成分を持つハーブを原材料の一部に使用しており、その香り高さと爽快感が、多くの食通酒好きをトリコにしています。

↑アルコール度数35%の宝焼酎「レモンサワー用焼酎」を使った「生レモン酎ハイ」が料理にマッチ!

 

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第5回で紹介した「焼肉ホルモン おときち 堺駅南口店」も「レモンサワー」には宝焼酎「レモンサワー用焼酎」35度を使用していました。2021年にオープンした同店では、各席に強炭酸の卓上サーバーが設えられていることが特徴。お客さんは飲み放題をオーダーすることで、このサーバーを使って自由に注ぐことが可能になります。

 

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関西でも浸透しつつある関東流の飲み方

【関西チューハイ事情】シリーズでは、東京から関西に進出した「立呑み晩杯屋」にも訪問。同店は2009年に東京・武蔵小山で1号店が開業し、2022年に大阪の十三(じゅうそう)に関西1号店がオープンしました。

 

創業者は、東京・赤羽の老舗立飲み店「いこい」出身で、「立呑み晩杯屋」にもそのおいしくて安いDNAが色濃く継承。甲類焼酎を「バイス」「ホッピー」「ハイサワー」など東京生まれの割り材で割って飲む「酎ハイ」や、「甲類焼酎=ナカ」と「割り材=ソト」で個別に提供し、好みの濃度で楽しむ東京流の飲み方を関西でも貫き、そのカルチャー浸透に一役買っています。

↑東京生まれの「バイス」が関西で飲めるのもうれしい

 

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日本酒を主役に関西の食文化を巡る

日本酒を主役に、関西独自の食文化を深掘りした【関西食文化研究】シリーズ。初回に訪れたのは、京都市東山区のうなぎ料理店「うぞふすい わらじや」です。

 

まずは、「鰻の白焼き」とスパークリング日本酒の先駆けである松竹梅白壁蔵「澪」で一献。そして同店の名物である、やさしい出汁と筒切りにしたうなぎが主体の鍋「うなべ」を松竹梅「豪快」の熱燗でペアリング。料理と酒のうまみ同士が引き立て合ううえ、鍋の隠し味にはタカラ料理清酒のほかに「豪快」も使われているとのこと。温かいもの同士でもあり、ますますお酒が進むご馳走だったことでしょう。

 

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斬新な日本酒の提供方法

第2回では、大阪・京橋を代表する立ち飲み店「酒房まつい」へ。こちらの特徴的な日本酒の提供法が、一升(1.8L)強入るという巨大な錫製の徳利から、同じく錫のコップに注ぐスタイル。これは、大の日本酒通だった創業者が発案したそうです。

↑一升(1.8ℓ)ちょっと入るという大きな錫製の徳利

 

取材では、この店の定番酒である松竹梅「豪快」をお燗に。錫のお猪口や盃などは味わいをまろやかにする特徴があるといわれますが、徳利まで錫製という同店の味はよりふわっとやわらかに。名物の串カツにおでん、どて焼きとも好相性で、日本酒好きにはぜひ訪れていただきたい関西の名店です。

 

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神戸牛と日本酒のマリアージュを楽しむ

第3回では兵庫県の神戸へ。「京都・伏見」と並ぶ酒都の「灘」があるうえ、同県は“酒米の王様”と称される山田錦や、ブランド黒毛和牛のルーツとも呼ばれる但馬牛のふるさとであるなど、優れた食材の宝庫。

 

そんな兵庫で、神戸牛と日本酒とのペアリングを探ったのが「神戸牛 八坐和 阪急三宮店」。コース序盤の肉寿司にはスパークリング日本酒「澪」、赤身ステーキには「松竹梅白壁蔵」<生酛純米>、霜降り肉には「松竹梅白壁蔵」<純米大吟醸>をペアリング。日本酒がお肉それぞれのおいしさをより高めてくれるお酒であることを、スズキナオさんも実感したようです。

↑贅沢に前菜感覚で味わう神戸牛肉寿司とスパークリング日本酒「澪」

 

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京都の焼肉カルチャーを堪能する

兵庫にはステーキの名店がひしめく「神戸」、大阪にはコリアンタウンの「鶴橋」など、関西には各地に個性的な肉食文化圏がありますが、京都にもこの地ならではの特色が。第4回にうかがったのは、2021年に東京へ進出して話題にもなった「焼肉・塩ホルモン アジェ」の松原本店です。

 

京都の焼肉店でよく見られる特徴のひとつが「洗いダレ」。出汁や酸味を感じるあっさりした味わいで、「アジェ」でも欠かせないタレとなっています。同店名物の「ホソ(牛の小腸) 塩」にはスパークリング日本酒「澪」、「上ハラミ 塩」には松竹梅「豪快」を。脂の甘み豊かな部位には甘口、肉汁とうまみがあふれる部位には辛口がよく合います。関東の人は、ぜひ東京・有楽町店へ。

↑ホソ塩専用に作られた“洗いダレ”

 

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いかがでしたか? 東京まれ・大阪在住のスズキナオさんの独自の視点で選ばれたお店の数々。あなたはどのお店に通いたくなりましたか?

 

 

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焼酎を飲むならこんな店【東京・大衆酒場の名店】を振り返る噺

提供:宝酒造株式会社

【前編】【後編】にわたって、パリッコさんとスズキナオさんのおふたりに「関東と関西の酒場事情」について語っていただきました。読めば読むほど、酒場に行きたくなる記事でしたが「では、どんなお店に行こうか?」という悩みも増えてしまったかもしれません。

 

そこで今回は、東京・下町の酒場を様々な切り口で紹介してきた【東京・大衆酒場の名店】シリーズを振り返ります。この記事を読んでおけば、東京の酒場選びで迷うことはなくなるはず!

 

 

江戸の水路が下町の大衆酒場を生んだ

「酒噺」では【東京・大衆酒場の名店】と題して、味わい深い東京・下町の酒場カルチャーを紹介してきました。まずは、大衆酒場のルーツに触れる記事として注目したいのが第2回。江戸川区・篠崎の「大林(おおばやし)」で、なぜ、東京の下町には大衆酒場が多いのかという理由を、大衆酒場に詳しい藤原法仁(のりひと)さんに教えてもらいました。

↑右が大衆酒場に詳しい藤原法仁さん。左は【東京・大衆酒場の名店】シリーズのナビゲーターを務めた中村優さん

 

藤原さんによると、東京はもともと入江や川が多く、江戸時代から水路と船を活用した物流が盛んでした。そのため川沿いを中心に産業が栄えて人が集まり、街が発展してきたとのこと。

 

その後、水運の利点を生かして工業地帯や企業城下町として発展する街が増加。加えて工場では多くの労働者が働いていますから、その憩いの場として下町に大衆酒場が栄えたのです。

 

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東京の酒場を代表する「酎ハイ」

そんな東京の下町で生まれた大衆酒場文化のひとつに「酎ハイ」があります。関東の大衆酒場文化を語るにあたって「酎ハイ」は欠かせないお酒です。そのルーツともいわれているお店が、第3回に登場した墨田区の「三祐酒場(さんゆうさかば) 八広(やひろ)店」です。

 

三代目である現店主の伯父が、かつて京成曳舟駅近くで「三祐酒場 本店」を営んでいた1951(昭和26)年、アメリカ進駐軍の駐屯地で飲んだ「ウイスキーハイボール」の味に感銘を受けて発明したお酒が「焼酎ハイボール」。これが省略され、「酎ハイ」と呼ばれるようになりました。

 

当時、ウイスキーは希少で高価なお酒でした。その一方、焼酎は安価でしたが精製技術が現代のように優れてはおらず、香りが強くて飲みにくい銘柄も少なくなかったとか。そこで、炭酸水で割るとともに独自のエキス(シロップ)をブレンドすることで、飲みやすい「焼酎ハイボール」が誕生したのです。

↑薄く琥珀色に色づいた「三祐酒場 八広店」の「元祖焼酎ハイボール」

 

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名店が連なる「酎ハイ街道」を往く

墨田区で生まれたとされる「酎ハイ」は、やがて周辺地域の大衆酒場へ広がり、定着していきました。そして現在も、昔ながらの「焼酎ハイボール」を提供する店が30軒以上残っているのが「酎ハイ街道」です。正式名称は、鐘ヶ淵通り。「鐘ケ淵陸橋」交差点から南東方面の東武スカイツリーライン「鐘ケ淵駅」前を抜け、「四ツ木橋南」交差点まで全長2km強の道路です。

↑現在の鐘ヶ淵通り。都市開発による道路の拡張工事が進行し、移転や建て替えなどを余儀なくされた名酒場も少なくありません

 

この地にはかつて巨大企業、鐘淵紡績(かねがふちぼうせき・カネボウの前身)がありました。周辺や鐘ヶ淵通りにはその関連工場が多く、界隈の酒場はその労働者でにぎわっており、その名残がいまも「酎ハイ」とともに輝いているのです。

 

「酎ハイ街道」のなかでも特に有名なのが、第4回で紹介した「亀屋」。焼酎に加えるエキスは各店が独自に考案したものが多く、「亀屋」は現店主の父親にあたる二代目が、従来の「焼酎ハイボール」をブラッシュアップさせる形で1990年前後に新開発しました。

↑「亀屋」の創業は昭和7(1932)年。もともと「鐘ケ淵駅」の隣の停車場「東向島駅」の近くで立ち飲み酒場として始まったそう

 

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お店ごとで違う「酎ハイ」の飲み方

「酎ハイ」はお店ごとに提供方法が異なるのも特徴です。「三祐酒場 八広店」ではサーバーでブレンドした「元祖焼酎ハイボール」を、氷が入ったグラスに注いで半月スライスレモンを加えるスタイル。「亀屋」はグラス、オリジナルの焼酎ハイボールの素(もと)、炭酸水をあらかじめしっかり冷やす“3冷(さんれい)”スタイルで、氷を入れないこともポイントです。これは氷が希少だった昭和のオールドスタイル。「亀屋」はいわば、正統派の下町焼酎ハイボールなのです。

↑「亀屋」名物の「焼酎ハイボール」はグラス、オリジナルの焼酎ハイボールの素(もと)、炭酸水をあらかじめしっかり冷やす“3冷(さんれい)”スタイル

 

なお、篠崎「大林」は、オリジナルの焼酎ハイボールの素、炭酸水、アイスペール(氷ボックス)を個別に提供する三点セット式。贅沢な仕様に加え、好みの濃さで楽しめるのも特徴です。

↑「大林」の「タカラ焼酎ハイボール(赤)」。宝焼酎に独自のエキスを加えた“焼酎ハイボールの素”の入ったグラス、炭酸のボトル、アイスペール(および混ぜるためのジョッキ)の三点セットは珍しく、なおかつ焼酎を受け皿付きで提供する店は希少とか

 

“3冷”を語るうえで覚えておきたいのが、関東の大衆酒場でおなじみの割り材「ホッピー」の作法。“3冷”はメーカーのホッピービバレッジも推奨している飲み方です。【意外と知らない焼酎の噺】では、第8回で詳しく紹介しました。

 

東京生まれの「ホッピー」ですが、東京はもちろん神奈川にも聖地が多くあります。そのひとつが横須賀。“横須賀割り”という「ホッピー」や「酎ハイ」の飲み方が浸透しているこの地を、第9回の「酒蔵お太幸 中央店」で深掘りしました。

↑「酒蔵お太幸 中央店」は、2フロアで合計約200席という広い店内の設えも個性的。1階はコの字とL字を組み合わせた「H型」ともいえる変形カウンター、2階は桟敷(さじき)とテーブル席からなる団体用のレイアウトとなっており、この大箱ならではの開放感も魅力です

 

“横須賀割り”とは、焼酎濃いめで作ったお酒を飲む文化のこと。諸説ありますが、軍港や造船の街として栄えた横須賀では、濃いお酒を飲むことにより海風で冷えた体を温めたとか、酒に強い九州出身者が船で出稼ぎにやってきていたなどが、”横須賀割り”誕生の理由だといわれています。

↑「酒蔵お太幸」の焼酎は130ml〜140ml。「ホッピー」で割って飲む場合の一般的な目安は普通が70ml、濃いめが110mlなので、この量はかなり濃いです

 

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東京を代表する煮込みの名店といえば

東京の大衆酒場において、欠かせない料理が「煮込み」と「もつ焼き」です。【東京・大衆酒場の名店】の初回に登場した立石「宇ち多゛」は、行列店としても圧倒的に有名。同店の特徴は多岐にわたりますが、素材に関してはとにかく鮮度が抜群で、調理や味付けも秀逸です。

↑「宇ち多゛」は開店前から行列のできる人気店

 

「煮込み」はもつと味噌だけで煮込んだ凝縮感のあるおいしさで、「白いとこ(シロの周りの部位やハツモトなど、色が白い部分を中心)」「黒いとこ(フワやレバなどの黒い部位が中心)」と部位別のオーダーも可能。「もつ焼き」にもレバ(肝臓)、シロ(大腸)、ガツ(胃)、アブラ(頬)など部位が多彩にあるうえ、味付けも焼き方もバラエティ豊富です。

↑「宇ち多゛」人気メニューの煮込み

 

↑レバのタレ・普通焼き

 

どれも品切れごめんですが、おつまみもお酒も絶品できわめて良心的な価格設定。独自のルールがあるなどハードルは高いものの、ぜひ「酒噺」を参考に訪れていただきたい一軒です。

↑グラスに並々と宝焼酎を注ぎ、梅のシロップを足す「うめ割り」が有名

 

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東京五大煮込みを堪能する

第8回で紹介した門前仲町「大坂屋」も東京を代表する名酒場であり、なかでも代名詞となっているのが「牛にこみ」。「宇ち多゛」とともに、“東京五大煮込み”に数えられる名店でもあります。

 

「大坂屋」の名物はもちろん「煮込み」。串に刺したもつを煮込むのが特徴です。珍しい三日月形のカウンターには大鍋が設えられ、そこから目の前で提供してもらえるライブ感もたまりません。

↑三日月形のカウンターの中央に鎮座した「煮込み」の鍋が特徴

 

「煮込み」の部位はシロ(腸)、フワ(肺)、ナンコツ(喉)の3種で、味付けは味噌ベースとなっています。こちらも野菜などは入らない、甘じょっぱく濃厚な味が魅力。最後は半熟玉子に煮込みの汁をかけて味わう「玉子入りスープ」でシメるのがオススメです。

↑串に刺された「大坂屋」の煮込み。シロ(腸)、フワ(肺)、ナンコツ(喉)の3種。味は味噌ベース

 

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カウンターで楽しむ大衆酒場

【東京・大衆酒場の名店】では、門前仲町でもう一軒お店を紹介しました。それが第6回の「だるま」。横長のコの字型カウンターや、両親の遺志を継いだ二代目姉妹の連携プレーなど見どころは満載です。

↑奥から1席・9席・4席の横長タイプの「コの字」カウンター

 

看板メニューとなっているのが「牛モツ煮込み」。もつの部位は牛の大腸と小腸で、具材にはこんにゃくと玉ネギも使用。それらを米味噌とザラメで味付けた、パンチのある甘じょっぱさも魅力です。

↑「だるま」の「牛モツ煮込み」。秘伝の米みそとザラメで味付け

 

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大衆酒場の定番つまみである「煮込み」は、お通しで提供するお店も少なくありません。そのお通しを、しかもサービスで提供してくれるのが、第7回で紹介した船堀の「伊勢周」。

 

同店は、個性的なL字型カウンターであることも特徴。店内スペースにも卓上にもゆとりがあり、厨房側からも座れる対面式のカウンターは非常に珍しい設計といえるでしょう。

 

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いかがでしたか? 今回紹介したお店はどれもシリーズのタイトルどおりの「名店」ぞろい。気になったお店があればぜひ訪問してみてください! 次回は関西のお店を巡ったシリーズを振り返りますのでお楽しみに!

 

 

「東京・大衆酒場の名店」バックナンバーはこちら▼

・第1回 【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

・第2回 【東京・大衆酒場の名店】初心者女子と楽しく学ぶ! 篠崎「大林」の魅力と「下町酒場の成り立ち」の噺

・第3回 【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺

・第4回 【東京・大衆酒場の名店】酎ハイ街道をゆく。八広「亀屋」の“ボール” 受け継がれる秘伝レシピの噺

・第5回 【東京・大衆酒場の名店】四ツ木「ゑびす」で、自家製ロックアイスのお茶割りを味わう噺

・第6回 【東京・大衆酒場の名店】門前仲町「だるま」で、コの字カウンター劇場を堪能する噺

・第7回 【東京・大衆酒場の名店】船堀「伊勢周」で、L字カウンターの機能美を楽しむ噺

・第8回 【東京・大衆酒場の名店】門前仲町「大坂屋」の“牛にこみ”を三日月型カウンターで堪能する噺

・第9回 【東京・大衆酒場の名店】「お太幸」の変形カウンターで、横須賀の味わいを満喫する噺

・第10回【東京・大衆酒場の名店】渋谷に復活!「立呑 富士屋本店」のカウンターで伝説の立ち飲みを楽しむ噺

・番外編 大衆酒場の酎ハイに欠かせない「下町炭酸」を飲み比べる噺

・番外編 焼酎ハイボールに合う!「東京・大衆酒場の名店」のおつまみを、約5000円の調理家電で再現する噺

どう違う? 酒場ライターが「関東と関西の酒場事情」を語り合う噺【後編】

提供:宝酒造株式会社

 

飲み物、つまみ、店構えからお客さんの特徴まで、同じようで実は異なる「関東」と「関西」の酒場事情。その内実を、関東出身・関西在住のスズキナオさんと、酒の可能性を追求するユニット「酒の穴」のパートナーであるパリッコさんが、実体験を交えて語り合います。

 

後編となる今回は「お酒やおつまみの違い」について。東京・立石の「東邦酒場」にお邪魔し、東西の違いを議論していきます。

↑「東邦酒場」は60年以上続く老舗の酒場。2018年にお花茶屋(東京・葛飾区)から現在の立石に移転。

 

【前編はこちら

 

 

関西人は合理的? 酎ハイの飲み方の違い

●パリッコ(左)/東京出身の酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』などがあるが、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメーカーとしても活動し、多才な顔を持つ。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動し、共著に『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』などがある。
●スズキナオ(右)/東京出身、大阪在住の酒場ライター。酒噺で「関西食文化研究」や「関西チューハイ事情」連載を担当。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』などがあるが、テクノラップユニット「チミドロ」のリーダーとしても活動する。パリッコとは同い年であるほか、酒場や音楽などライフワークの共通点が多い。

 

お酒の違いに関しては、まずは焼酎の飲み方の違いから。よく「東日本は甲類で西日本は乙類(本格焼酎)」と言われますが、実際はどうなのでしょうか?

 

スズキナオ たしかに、関西では焼酎というと乙類(本格焼酎)を指すことが多いでしょうね。昔は酎ハイも「麦焼酎」など扱っている乙類ベースでつくっている店もあったと聞きます。それに、焼酎のボトルメニュ—はほとんどが乙類ですね。

 

パリッコ 関東だと「芋」や「麦」など乙類の焼酎だけでなく、甲類焼酎のボトルもよく見かけますよね。

 

スズキナオ あとは、飲み方やメニューにも違いはありますね。関東は酎ハイひとつとっても多彩じゃないですか。お店によっては提供時に割らず、三点セット(焼酎、炭酸水、氷)をそれぞれ個別に提供したり、どぶづけにしているところもあるようですね。でも関西は多くが、できあがった状態で提供されます。

↑「どぶづけ」とは氷と水の入った容器でお酒を冷やすこと。写真のようにカウンターの前にスペースを作ることもある

 

パリッコ 確かに、あらかじめ割った状態で出してもらうことが多いかも。

 

その理由はなぜでしょうか? スズキナオさんは「あくまで個人的な見解ですけど」と前置きしたうえで、次のように話します。

 

スズキナオ 関西の、特に大阪では合理的な人が多いような気がします。なので、自分で割って作ることをありがたがる人は少なくて、それより1秒でも早く飲みたいと。テーブルの上もすっきりしますし。

 

パリッコ 酎ハイの味に関しても、関東のほうがシャープな傾向があるかもしれません。東京・下町の大衆酒場でおなじみの「焼酎ハイボール」のエキスも、甘みはほとんどないんですよね。ところが関西で飲む酎ハイは、最初から甘酸っぱく仕上がっていることが多い気がします。

↑宝焼酎をベースにした東邦酒場の「元祖酎ハイ」(350円・税込)

 

スズキナオ あの味も、串カツのソースやどて焼きの甘じょっぱさにはベストマッチなんですけどね。

 

パリッコ ほかに関東で代表的な酒場のお酒というと、ホッピーですね。まだ関西では珍しい部類に入るのかもしれないけど、見かける機会は徐々に増えてきたような。

↑東京の酒場では定番の「ホッピー」も関西圏ではまだ限定的なようだ

 

スズキナオ でも関西式というか、ナカとソトを分けず、提供時にジョッキに1本まるごと入れて割って出す店もあります。

 

パリッコ 関東は、1杯目は「ナカ(甲類焼酎)」と「ソト(ホッピー)」のセットで提供し、途中で「ナカ」をおかわりするのが定番ですもんね。

 

スズキナオ 関東から関西に進出した有名チェーン「立呑み晩杯屋」では、関西の店でも関東式で提供してくれますけど、そういうお店はあまり多くないですね。

 

パリッコ びん入りの商品なので回収の問題や、そもそもメーカー自体が全国展開を想定していなかったなど理由はありそうですが、関東以外の地域でもどんどん、ホッピーバイスみたいな割り材も飲まれるようになってきている印象です。

 

スズキナオ そうかもしれないです。「立呑み晩杯屋」が関西に来たのは2022年。僕が関西に移住した2014年は、居酒屋でホッピーを見かけることは稀でした。

 

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ガリ酎、金魚、ばくだん……ローカル酎ハイの数々

パリッコ それでいうと、東京を中心としたもつ焼き酒場で愛される梅割りは、ホッピー以上にレアだったりしますか?

↑東京を代表する大衆酒場のひとつ「宇ち多゛」(葛飾区・立石仲見世商店街内)の「梅割り」。宝焼酎に梅シロップを足したもの

 

スズキナオ そうですね。梅割りに関しては、同じく東京から関西に進出した「四文屋」なら飲めますが、やっぱり珍しい存在です。

 

では逆に、関西発祥の焼酎割りや酎ハイといえば? そして、そのお酒の関東への浸透具合は?

 

パリッコ 例えば「ガリ酎」や「金魚」は関西発祥と聞いたことがありますけど、東京でも出合うことは多いです。

 

スズキナオ でも関西発祥だからといって、「ガリ酎」や「金魚」がどこの店にもあるという感じではないかな。酎ハイのバリエ―ションが多い酒場に行くと提供されている、という印象です。

↑「ガリ酎」は焼酎の炭酸割りに「ガリ(生姜の甘酢漬け)」を入れたもの

 

↑酎ハイに青じそと唐辛子を入れた「金魚」

 

パリッコ 関西でよく飲まれているけど、関東にはない飲み方や酎ハイとなると、あんまり思いつかないですね。例えば新大阪の「松葉」という老舗の串カツ酒場には「松葉ハイボール」という冷やしあめで割った鷹の爪入りの酎ハイがあるんですけど、あれはお店のオリジナルだし。

 

スズキナオ 局地的な酒の例でいうと、京都のお好み焼き店「やすい」発祥といわれる、「あか」という甘酸っぱくて赤いサワーみたいなお酒もかなりローカルですね。

↑宝焼酎「純」の35度とパワフルな強炭酸を混ぜ合わせ、その上から絶妙な量の赤ワインを注ぎ入れる京都「お好み焼き 吉野」の「あか」

 

パリッコ 「ばくだん」と呼ばれるお酒にも近い、京都のお好み焼き店の他にはあまりないというサワーですよね。

 

スズキナオ これはあくまで傾向ですけど、瀬戸内や九州産の和柑橘を使った生のサワーは関東よりも多いかな。旬を迎えた時季だけなんですけど、これは関西が関東より柑橘の名産地に近いからかもしれません。

 

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そしてテーマは日本酒に。東西における違いのひとつに、お店に置く銘柄の種類があるといいます。

 

パリッコ 酒蔵の観点でいうと、関西には灘・伏見の二大酒都があるので、関東よりも地元の日本酒が充実してるイメージがありますね。

 

スズキナオ 確かに。関東の場合は新潟や東北の銘柄などにも頼りがちだけど、関西は灘・伏見の酒が主役ですよね。それと、関西では、普通酒の「特選・上撰」をスタンダードなお酒として扱うのに対して、関東では圧倒的に「佳撰」市場ですね。

 

パリッコ なるほど。ただ、飲み方に関しては、東西でそれほど目立った違いはないと思います。

 

 

関西で肉といえば「牛」、関東では「豚」

 

続いては、おつまみについて。東西で食文化が違うことはよく知られていますが、酒場のメニューではどうなのでしょうか?

 

スズキナオ 肉でいえば、「牛」と「豚」の扱われ方が最も特徴的じゃないかな。関西で肉といえば「牛」だから、関東の肉じゃがは豚肉で関西だと牛肉を使うことが多いとか。まあ、家庭によるとは思いますけどね。関西では、関東以上に牛肉の地位が高いのかなと思います。

 

パリッコ 豚肉の中華まんが象徴的かも。関東では「肉まん」ですけど、関西は牛じゃない肉を使うから、あえて「豚まん」って呼ぶんじゃないかと思います。

 

スズキナオ その差は酒場の業態にも大きな影響を及ぼしていると思います。それが、関東でおなじみのもつ焼き屋。関西にも豚のホルモン焼きはあるんですけど、串焼きとなると少ないんです。東京出身の僕にとってはカルチャーショックで、いまでも恋しく思いますよ。

↑豚のもつを串にさして焼く「もつ焼き」。関西ではなかなかお目にかかれない

 

パリッコ 焼鳥屋に関しては、東西で大きな差はなさそうですけどね。そのぶん関西の串料理となると、大阪名物の串カツは圧倒的に多い。

↑関西の串料理といえば、やはり「串カツ」

 

スズキナオ そして串カツ屋でも、メニューの主役は「豚」より「牛」だと感じます。

 

パリッコ 煮込みのもつも、関東は「豚」で関西は「牛」が多いイメージがあります。すき焼きは、さすがに肉は牛肉で東西共通ですけど、それぞれ調理法が違いますね。関東は煮込むスタイルで、関西は焼いて作る。

↑「東邦酒場」の「もつ煮込み」(550円・税込)のもつは豚

 

スズキナオ 関東にはない関西の煮込み系つまみといえば、「どて焼き」や「すじこん(ぼっかけ)」がありますよね。

↑牛すじとこんにゃくを濃厚な味噌で煮た関西でチェーン展開する「串かつ だるま」の「どて焼き」

 

パリッコ あとは、大阪名物の「肉吸い」も、関西ならではです。

 

スズキナオ そしてこれらも、肉はやっぱり牛肉。おでんも関西では「関東煮(かんとだき)」と呼ぶことがありますけど、主役級の具材に牛すじやくじら肉があって、これがだしの重要な素材でもあります。

 

パリッコ うん。牛すじは、関東のおでんでは見ないこともあるけど、関西のおでんにはほぼマストで入ってますもんね。

 

スズキナオ 例外といえる豚肉料理があるとしたら、豚足ですね。関西には豚足をウリにする酒場がちらほらありますけど、関東ではあまり見かけないような気がします。

 

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東西の「魚」と「だし」の違い

次の食材テーマは「魚」。東西でそれぞれの特徴はいかがでしょうか?

 

パリッコ そこまで大きな違いはないと思いますけど、伝統的な料理の食材になると、わりとメジャーかどうかに違いが出ますよね。関東だと、うなぎ、どじょう、あなごとか。一方で関西だと、はも、くえ、ふぐが代表的かな。

↑「ふぐ」は関西を代表する魚

 

スズキナオ 同じような料理でも、呼び名が違う場合がありますよね。例えばさばの料理の場合、関東では「しめさば」だけど、関西では「きずし」と呼びますし、「さばの押し寿司」は大阪だと「バッテラ」といいますから。

 

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続いては、「だし」について。一般的に関東はかつお、関西は昆布がメインといわれますが、味や料理はどう違うのでしょうか。

 

パリッコ 関東のかつおだしは魚介の香りが豊かで、キリッとシャープな表情も。関西の昆布だしは、まろやかでやさしい風味を豊かに感じますね。

 

スズキナオ だしといえば、「だし巻き玉子」は味付けも違う。関東は甘くて硬めの仕上がりのものが多い印象ですが、関西はだし感が豊かで、食感もふんわり系のものが多いかな。

 

パリッコ 玉子でいえば「天津飯」! 関西は醤油ベースで、関東は甘酢ベースの傾向にあるというのがおもしろくて。「餃子の王将」の「天津飯」は、関東は甘酢、塩ダレ、京風ダレから選べるけど、関西だとしょうゆベースの京風ダレ一択の店舗が多いらしいですね。

 

スズキナオ でも、先ほど触れた関西の「関東煮」という名称は面白いですよね。諸説あるんですけど、関東から伝わったからこの名称になったと言われていて、それがだしの風味にも影響しているのかもしれないです。

 

パリッコ おでんは、その他の具材も東西でけっこう違います。関東で定番のちくわぶやはんぺんは関西にはあまりなく、「関東煮」では前述の牛すじやくじらのほかにタコの足も定番ですから。

 

ここまでを振り返って、ほかに関東、関西の大衆酒場ならではのおつまみにはどんなものがあるでしょうか。

 

スズキナオ 関西はやっぱり、粉もののバリエ―ションが豊富ですね。たこ焼きやお好み焼きは全国区だけど、「とん平焼き」「いか焼き」「キャベツ焼き」などは関東ではあまり見ないですもんね。逆に関東生まれの「もんじゃ焼き」は、関西には少ないです。

↑関西の粉ものはバリエーションが豊富

 

パリッコ 「もんじゃ焼き」を提供しているのはほとんど専門店で、酒場のつまみという感じではないですしね。ただ、最近は「もんじゃ焼き」が若者や海外から来た旅行者の方々の間ですごく流行ってるそうで。

 

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スズキナオ 粉ものといえば、ソースの扱いにも東西の差がありますね。関東は中濃ソースが主流で、関西はバリエ―ションがやたらと多彩です。調味料として使うのはウスターで、粉ものにはそれぞれ専用のソースを使うとか、みなさんこだわりが強いです。メーカー自体が多いので、店や家ごとにひいきのブランドがあるようです。

 

パリッコ さすがです。あとはなんだろ。関東の渋い居酒屋の定番おつまみ「たたみいわし」なんかは、関西にはあまりないのかな。

 

スズキナオ 関西は、冬のかす汁文化も見逃せません。これはきっと、酒蔵が近くて日常にとけこんでるからだと思うんですけど、「かす汁」を提供している酒場が多いんですよ。蔵ごとに酒かすの風味が違うから味も店ごとに千差万別。僕が関西に来て好きになった料理のひとつです。

 

そして最後に、おふたりそれぞれが印象に残っている、東西のつまみを教えてもらいました。

 

パリッコ やっぱり「もつ焼き」かな。

 

スズキナオ 僕は「かす汁」ですね。

 

みなさんも、東西酒場それぞれのご当地メニューに着目しながら宵を楽しんでください。加えて前編の「関東と関西の酒場事情」もぜひ一読を。

 

 

撮影/鈴木謙介

 

<取材協力>

東邦酒場

住所:東京都葛飾区立石1-1-9
営業時間:17:00~22:00(水〜金)、13:00〜22:30(土・日)
定休日:月曜、火曜

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

・宝焼酎「純」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

 

【酎ハイについて】

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どう違う? 酒場ライターが「関東と関西の酒場事情」を語り合う噺【前編】

提供:宝酒造株式会社

 

飲み物、つまみ、店構えからお客さんの特徴まで、同じようで実は異なる「関東」と「関西」の酒場事情。その内実を、関東出身・関西在住のスズキナオさんと、酒の可能性を追求するユニット「酒の穴」のパートナーであるパリッコさんが、実体験を交えて語り合います。

 

前編となる今回は「お店の違い」について。お邪魔したのは、東京・東向島の「丸福酒場」。以前は大阪で営業していた同店の店主・福永晴行さんも交え、「関東・関西のお店の違い」について探っていきます。

●パリッコ(左)/東京出身の酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』などがあるが、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメーカーとしても活動し、多才な顔を持つ。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動し、共著に『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』などがある。
●スズキナオ(右)/東京出身、大阪在住の酒場ライター。酒噺で「関西食文化研究」や「関西チューハイ事情」連載を担当。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』などがあるが、テクノラップユニット「チミドロ」のリーダーとしても活動する。パリッコとは同い年であるほか、酒場や音楽などライフワークの共通点が多い。

 

 

パリッコさんとスズキナオさんが出会ったのは、ライターになる前の会社員時代。「20年ぐらい前かも」というほど交流は長く、初対面は音楽関連のイベントだったとか。

 

ともにお酒好きであるなど意気投合したふたりは、以後個別に飲み交わすことも増え、一緒に酒場巡りにも行くように。そしてこれまた運命的にお互いライターとして独立し、ふたりでユニット「酒の穴」を結成。「チェアリング」を生み出し提唱するなど業界内でも存在感を示していきます。

 

スズキナオさんは2014年に奥様の実家がある大阪へ移住し、その後は関東と関西それぞれのカルチャーを知るライターとしても活躍。こうした経緯から、パリッコさんと東西の酒場の違いについて語ってもらいました。

 

そもそも酒場に東西の違いがあるのか?

まず伺ったのは、そもそも「東西で酒場に違いはあるのか?」ということ。

↑まずは、下町の焼酎ハイボールで乾杯!

 

スズキナオ 関西に住んで10年以上経ちましたけど、関東とはメニューも雰囲気にも違いがありますよね。

 

パリッコ わかりやすいところで例えると、関西は関東より串カツ屋が多くて、逆にもつ焼き屋はあまりない。ほかにも業態の違いはたくさんありますけど、要は食文化が違うんですよ。

↑東京を代表する大衆酒場のひとつ「宇ち多゛」(葛飾区・立石仲見世商店街内)。「宇ち多゛」のもつ焼きを求める行列が絶えることはない

 

スズキナオ お酒にも特徴がありますね。特にチューハイ。関西はあらかじめ甘酸っぱい味に調整されたものが主流ですが、関東は味も飲み方も多様的です。東京下町の秘伝のエキスで割る焼酎ハイボールがあったり、バイスのような個性派割り材が豊富だったり。東京には「酎ハイ街道」(※)と呼ばれる通りもありますよね。

※京成押上線「八広駅」と東武伊勢崎線「鐘ケ淵駅」を結ぶ鐘ヶ淵通りは、下町大衆酒場に欠かせない酎ハイの名店が多いことから名付けられた。

 

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そのほかに客層や雰囲気などの違いはあるのでしょうか(※)?

※お酒やおつまみの違いに関しては、後編でより深堀していきます

 

スズキナオ 関西のほうが、安価な大衆店と小料理屋的な居酒屋が明確に分かれていると思います。特に安さを売りにしているお店が多い印象です。

 

パリッコ 確かに。特に大衆酒場の存在感は関西のほうが大きいかも。お店の絶対数に対する割合でいえば、関西のほうが多いイメージがあります。

 

スズキナオ そうそう、角打ちとか立ち飲みも含めてね。関西のほうが短い時間でサッと酔いたい人が多いからという気がしますね。特に大阪は。

 

パリッコ 関東にもクイックに立ち寄って飲んで、足早に帰るか次の店に行く、というスタイルの人はいますけど、関西のほうがその割合は多いかもですね。

 

スズキナオ ええ、ゆっくり飲みたいときはもう少し高級なお店に行くというか。

 

パリッコ お客さんの性格も、関西はサラッとした感じの人が多い気がしますね。ただ、人懐こいというか距離感は近いんです。遠慮せず話しかけてくるし。

 

スズキナオ それも、大阪のおじさんたちに顕著な気がします。

 

パリッコ でも、深追いはしなくて。例えば標準語で話してると「お兄ちゃん、どっから来たの?」って声かけられて、「東京からです」って返すと、「じゃあ、あそことあそこに行ってみ? ほな楽しんでな」で会話が終わるみたいな。

 

スズキナオ わかるわかる!

 

パリッコ 偏見かもしれませんけど、関東はもうちょっと自分語りが多かったり、質問攻めになったり。そもそも、誰かと話したくて飲み屋に来てる人も一定数いる気がするんですよね。でも、大阪は相手に合わせるというか、人との距離感をつかむのがうまくて。僕はいまのところ、ちょっとめんどくさかったり、嫌な思いをしたようなことはないです。

 

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東西味付けの違いはペアリングにも差が出る?

ここで「丸福酒場」の店主・福永晴行さんにも、東西で酒場に違いはあるのかを聞きました。福永さんは宮崎で生まれ、高校卒業後に大阪で飲食業のキャリアをスタート。板前修業ののちに独立して約10年働き、2012年に上京してお店ごと移転し「丸福酒場」を東京・墨田区に開業しました。

↑「丸福酒場」の店主・福永晴行さん。大阪から移転したきっかけは、東京に遊びに来た際にいまの店がある下町の雰囲気が気に入ったから

 

福永 東西の違いで特に印象的だったのは味付けです。簡単に言うと全体的に東京は味が濃くて、大阪は東京ほど濃くない。しょうゆは、関西で主流の薄口のほうが塩分は強いんですけど、コクは濃口のほうが強いですし、関西ダシは昆布主体で関東ダシはかつおというのもあると思いますね。

 

福永さんは、ホッピーとペアリングしたときに、特に東西の違いを実感したと言います。

 

福永 東京で飲んだホッピーがおいしかったので、大阪の自分の店でも試したんです。でも、「あれ、なんかちゃうなぁ」って。いくつかの料理と合わせて気付いたのは、大阪の味付けとホッピーはビシッと合わないというか、ホッピーはやっぱり東京の味付けありきで生み出されたんだろうなということです。

↑「丸福酒場」には関西のご当地つまみもあり、こちらは「とん平焼」400円。ソースは福永さんが慣れ親しんだ味にするべく、独自にブレンド

 

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続く話題は昼飲みについて。スズキナオさんは、関西のほうが昼飲み文化が日常に馴染んでいると言います。

 

スズキナオ もちろん東京にも昼から飲める店はたくさんありますし、そういう酒場が多い街も点在しています。ただ、関西は昼から飲める店や街に対する特別感が薄く、いい意味で普通なんです。

 

パリッコ 後ろめたさがない感じですよね。定食屋とかファミレスぐらいの空気で当然のように、平日の昼間から老若男女が楽しそうに飲んでいる。僕はそれが心地いいなって思います。

 

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関西酒場のお客さんは団結力がある

関西だけ、関東だけで展開している代表的なチェーン店について語ってもらいました。

 

スズキナオ 僕がよく行く関西ローカルチェーンは「赤垣屋」「正宗屋」「丸一屋」「得一」ですね。東京にいたときは「酒蔵 駒忠」とかによく行ってました。

 

パリッコ 「駒忠」好きです。ほかに東京だと「加賀屋」「ニュー加賀屋」「加賀廣」「かぶら屋」「春田屋」とか。「かぶら屋」は池袋で働いてた当時、最初の1、2号店しかない草創期によく通ってましたね。それがいつの間にか数十店舗に増えて。

 

スズキナオ 多店舗展開だと一括仕入れなどのメリットを生かせるので、より価格帯が低めのチェーンが多い印象です。でも、近年は大阪から東京へ、東京から大阪へと進出するケースも増えてますよね。関西進出した有名店だと「立呑み晩杯屋」とか「四文屋」とか。

↑関西初となる「立呑み晩杯屋 十三店」。関西でも人気を集めている

 

パリッコ 関西から東京へというケースだと、2022年7月、有楽町(千代田区)に東京1号店を開業した「徳田酒店」は話題性が大きかったですね。でも東西の有名店が各地に進出することで、例えば東京のホッピーとかバイスとかも各地に広がっていくわけであって、重要な役割を担ってる気がします。

 

スズキナオ そうですね。ひと昔前だと「村さ来」が東京で人気だったカクテルスタイルのチューハイを全国に広めたと聞きますし。

 

「村さ来」のように全国展開されているチェーンの場合、東西で違いはあるのでしょうか?

 

パリッコ 企業ごとに違うと思いますが、例えば「餃子の王将」は店舗によって独自のメニューがあったり、地域によって価格を変えたりしてますよね。全国で統一しているチェーンもあるかもしれないですけど、やっぱり地域によって食文化が違うので、個々で変えているほうが多い気はします。

 

スズキナオ 企業ごとの方針や、直営店なのかフランチャイズなのかでも変わってくる気がしますね。自由度が高い企業なら各店独自のメニューもあっても不思議じゃないし、フランチャイズはもっと自由でしょうし。

 

では、立ち飲みや角打ちで東西の違いはありますか?

 

スズキナオ なんとなく角打ちに関しては、主役は完全にお酒で、おつまみはあくまで脇役というオールドスタイルのお店は関西のほうが多い気がします。大阪や兵庫の老舗は特に。

神戸御影・榊山商店。100年以上続く老舗の角打ち。おつまみは、缶詰や乾き物が中心

 

パリッコ そうですね。関東の角打ちは、本当に簡易的なテーブルしかない昔ながらのところもあれば、まるでバーのようにおしゃれなお店も増えているし、どんどん多様化している気がします。

 

スズキナオ 立ち飲みに関しては、関西のお客さんの間は連帯感のようなものがある気がします。例えばお店が混んで来たら詰め合って次のお客さんのための場所を空けるとか。

 

パリッコ ダーク(※)とか。

※ダークダックスとも。立ち飲み店で、テーブルに対して斜めに立ちスペースを詰めること。往年のコーラスグループ「ダークダックス」が斜め立ちして歌っていたことに由来

 

スズキナオ そう。「ダークしよか」という言葉はよく耳にしますね。ほかの人も嫌な顔せず協力的で、関西は団結力がスゴいなって思いました。

 

パリッコ その距離感に最初は躊躇してしまうかもしれませんが、とにかくみんな人がいいので、最後は居心地が良くて抜け出せなくなってしまうんですよね。

 

スズキナオ それに、関西に来る前は標準語を話したら嫌がられると思ってましたが、全然そんなことないです。

 

パリッコ むしろやさしいですよね。「ここあいてるで」とか「この店初めてならこれオススメや」とか、積極的に共有してくれるイメージ。

 

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「会館飲み」や「ビニシー」は他の地域ではどう?

関西独自の酒場文化として知られる、「会館飲み」の現状についてはどうでしょうか。まずは改めて、その特徴から解説してもらいました。

↑西院(右京区)の「折鶴会館」

 

スズキナオ 「会館飲み」が根付いている地域は、基本的に京都です。西院(右京区)の「折鶴会館」や中京区富小路の「四富会館」とかが有名で、これら会館と呼ばれる建物のなかで複数の飲食店が営業しているスタイルですね。

 

パリッコ 京町屋を再利用した商業形態がルーツといわれており、それもあって基本的には各店が狭く、小箱の飲み屋さんをハシゴする楽しさがありますよね。2010年以降ぐらいからの新世代大衆酒場ブームとともに、「会館飲み」も人気になってきた印象です。

 

【会館飲みについてはコチラ】
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同じような楽しみ方ができる施設やカルチャーは、関東にはないのでしょうか?

 

スズキナオ 似たような場所は関東だけじゃなく、全国的にあると思います。例えば大阪の「大阪駅前ビル(北区梅田)」、東京の「新橋駅前ビル(港区新橋)」なら「会館飲み」っぽい楽しみ方ができますよね。ただ、会館があるのは基本的に京都なので、「会館飲み」といえるのは京都だけかなと。

 

パリッコ 会館の成り立ちは戦後の風営法とかが関係してると言われていて、関東で近しい有名なスポットは「新宿ゴールデン街」ですかね。ほかには新宿西口の「思い出横丁」とか、横浜の「野毛都橋商店街ビル(中区・宮川町)」とかもありますけど。

↑新宿ゴールデン街。近年では観光スポットにもなっている。写真提供:PIXTA

 

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もうひとつ、関西独自の酒場文化「ビニシー」についても特徴から伺いました。

 

スズキナオ 出入口に、ビニールシートやビニールカーテンと呼ばれるものを設えた飲食店のことです。「ビニシー」と略されることが多いです。これも2010年以降ぐらいから、特に大阪の天満(北区)を中心に増え、いまでは「ビニシー通り」と呼ばれるスポットもあります。

↑大阪・裏天満ちょうちん通り。写真提供:PIXTA

 

パリッコ もともとは市場周りのちょっとした立ち飲みとか、簡素なつくりの飲み屋さんみたいなものだったんだと思うんですけど、その雑多な雰囲気が大衆酒場ブームとマッチして流行ったんじゃないかな。

 

スズキナオ 東京にも、寒さ対策で冬だけビニシー仕様にするお店は昔からありますけど、ビニシーとカテゴライズされるほど定着しているのは大阪特有かもしれませんね。

 

パリッコ ちなみに、多いのは居酒屋系ですけど、ワインバルみたいな洋業態もあります。最近だと中華、ベトナム、タイ、メキシカンなどもありますし、その辺は自由ですね。

 

最後に、東西における接客の違いについて教えてもらいました。

 

パリッコ つい先日、ふらりと入ってみた東京下町の居酒屋が、ものすごく素っ気ない感じの接客だったんですね。

 

スズキナオ 傾向として、大阪は積極的にコミュニケーションを取り合うような接客が多いかもしれないですね。お客さんも、そういう会話を楽しみに来ている節がありますし。もちろんそういうお店ばかりではないんですけど、割合的には多い印象ですね。

 

前編はここまで。後編では、「お酒やおつまみの違い」をテーマに東西の酒場を語っていただきます。

 

 

撮影/鈴木謙介

 

<取材協力>

丸福酒場

住所:東京都墨田区八広5-20-18
営業時間:17:00~23:00、日曜15:00~22:00
定休日:月曜

 

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冬に最適! 自宅でじっくり燗酒を楽しむ噺

提供:宝酒造株式会社

 

古くは奈良時代ごろから、日本酒の伝統的な嗜み方として知られる「お燗」。しかし、なぜ、温めることでおいしくなるのでしょうか? 本稿では、酒蔵に勤めた経験も持つ日本酒アドバイザー・関友美さんとともに、「お燗」に向く日本酒や、お燗の種類と温度など、燗酒について深掘りし、自宅で楽しむ方法を提案します。

関 友美/きき酒師。地元の札幌でOLとして働いたのちに上京。飲食店勤務、酒蔵での勤務などを経験し、現在はライター業のほか、日本酒をはじめとした製品造りのアドバイザー、酒蔵コンサルタントなど、日本酒事業に関わる数々の仕事を手がけている

 

 

なぜ、温度によって日本酒の味が変わるのか?

「この日本酒はお燗に向いている」とか「この日本酒は冷酒のほうがおいしい」など、温度によって日本酒の味わいは変化します。しかし、実は日本酒の味が変わるのではなく、温度の高低に応じて我々の舌の味覚が変わるため「味が変わった」と感じるのです。

 

温度によって変化するのは「アルコール」「酸」「香り」「甘み旨み」の4つ。アルコールは温めることで揮発しやすくなり、舌はやわらかさを感じるようになります。また、酸にはクエン酸や乳酸、コハク酸やリンゴ酸などがありますが、日本酒を温めるとこうした酸の感じ方に影響が出て、甘さや酸味などが変わったように感じます。

 

日本酒が温まると果実のようなエステル香(アルコールや酸とも関係する香気成分)を穏やかに感じる一方、お米本来の香りが際立つようになります。そして、味覚は温度が高くなると甘みや旨みを感じやすくなり、そのため塩味や苦みなどを含めたバランスも変化し、日本酒の味が変わったように感じるのです。

 

燗酒の種類(温度)と特徴

日本酒は精米歩合や醸造アルコールの有無などで分類されます。一般的に各酒質のポテンシャルを発揮しやすい温度帯があるといわれています。また、冷蔵庫の普及により、冷温に適した冷酒が登場。それと同時に飲み方の多様化も進み、飲みごろとされる温度には呼び名が付けられました。

 

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■日本酒の分類

 

↑普通酒の「上撰 松竹梅」。冷やではもちろん、燗につけることでさらに味わいが引き立つ軽快でなめらかな味わい

 

呼び名は、5度の「雪冷え」から55度以上の「飛びきり燗」までの10種類あり、そのうち“燗酒”と呼ばれるのは30度の「日向燗」から「飛びきり燗」。一方、“冷酒”と呼ばれるのは15度の「涼冷え」から「雪冷え」まで。そして、燗酒でも冷酒でもない温度帯は室温、いわゆる“常温”です。ちなみに、冷蔵庫がなかった時代の「冷や」は、常温のお酒のことを指しました。

 

■温度ごとの日本酒の呼び名

 

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ここでは関さんに、おおまかな分類である「本醸造酒」「吟醸酒」「純米酒」に合った「お燗」の温度とその理由を教えてもらいました。

 

「『本醸造酒』は温度帯によって左右されないというか、どの温度で飲んでもおいしいですね。冬は50度以上の熱燗にするなど、季節やその日の温度、気分などによって決めればいいと思います。

『吟醸酒』は華やかでフルーティな吟醸香が魅力ですが、温度が高いとお米の風味が増すぶん果実味がマスクされてしまいがち。ですから、お燗にあまり適さないという考えが一般的です。香りがさらに華やかな『大吟醸酒』は、なおのこと。温めたとしても、45度の上燗ぐらいまでといわれます。でも逆に、吟醸香は冷やすことで豊かになるので、『吟醸酒』や『大吟醸酒』は15度以下の冷酒に適した銘柄が多いともいえるでしょう」(関さん)

 

↑関さんが飲んでいるのは「特撰 松竹梅〈大吟醸〉磨き三割九分」。精米歩合39%まで磨き上げた、きれいな味わいと華やかな吟醸香の大吟醸

 

「『純米酒』には、『純米吟醸酒』や『純米大吟醸酒』も含まれるので、適した温度帯を提示するのは難しい部分もあります。ただ、普通の『純米酒』や『特別純米酒』などで、旨みやコクが豊かなタイプは燗に向いたものが多いといえますね。温度の見極めは、お燗をつけながら嗅いでみて“炊き立てご飯”の香りがしたら、最も美味しい温度です」(関さん)

松竹梅「白壁蔵」<生酛純米>。生酛ならではの、複雑味や凝縮感がありながら口あたりまろやかでやわらかい味わいが特徴

 

これらはあくまで一般論。例えば「純米大吟醸酒」でも、温めてはいけないということはありません。そもそも、感じ方やおいしさは人それぞれ。様々な温度帯で試し、好みの味を見つけることも日本酒の楽しみ方のひとつといえるでしょう。そして関さんは最適解を見つけるヒントとして、日本酒のラベルを確認することもオススメだといいます。

 

「記載がない銘柄もありますが、ラベルの裏に“飲みごろ温度”など、適した温度帯が表記されている日本酒は、それが目安になります。また、お店にもヒントはあります。もし居酒屋などに行った際に燗酒があれば、その銘柄は燗がオススメだということですよね。それを覚えておいて、ぜひご自宅で実践しするがよいかもしれません。日本酒は温度を変えて味わいの変化を楽しむ、世界で唯一のお酒なので、いろいろ楽しんでみてください」(関さん)

↑パッケージの裏には、お酒の「味わい」や「飲みごろ温度」などが表記されているので、飲むときの参考に

 

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自宅でおいしく「燗酒」を飲む方法

燗酒を提供する店の多くは酒燗器などで提供してくれますが、自宅に専用機器を持っている人は少ないはず。では、どんな方法で燗をつけるのがオススメなのでしょうか。

 

「簡単なのは家電タイプの酒燗器ですけど、そうでなければオーソドックスに、鍋にお湯を張って徳利やちろりを温めるやり方ですね。沸騰したら火を消して、ぬる燗なら2分30秒、熱燗なら3分湯煎が目安です」(関さん)

 

それでも鍋でお湯を沸かすのは手間、という人に関さんがオススメするのは電気ケトル。徳利などの容器が入る、口が広いタイプであることがポイントで、こちらも鍋を使った湯煎と同様の手順と時間で温めます。

↑お湯が沸いたところで電気ケトルに徳利を入れる

 

さらに手軽に「燗酒」を楽しむなら、やはり電子レンジ。500Wで1合を温める場合、時間の目安はぬる燗なら50秒、熱燗なら60秒が目安とのことですが、その他のコツや注意点を教えてもらいました。

 

「電子レンジは急に温度が上がるので、容器の上と下とで熱ムラができやすいんですね。そのため、徳利よりも片口のように背が低いタイプがオススメです。さらに、できれば加熱を20秒ごとなどに分け、途中でかき混ぜると馴染みやすくなりますよ。なお、お酒を温めると揮発で香りが飛びやすくなるので、ラップを被せましょう。もし、狙った温度より熱くなってしまったら、冷たい別の容器に移せばすぐに冷めますよ」(関さん)

↑電子レンジでお燗する場合は、徳利よりも片口のほうが、熱むらが出にくい

 

実はこんな飲み方も! 「お燗」以外の嗜み方

日本酒を温めて飲む楽しみ方は、「お燗」以外にも存在します。そのなかから、おでん居酒屋などで提供されることもある「出汁割り」と、氷を入れたグラスに燗酒を入れる「燗ロック」を紹介。関さんにテイスティングしてもらいました。

 

まずは「出汁割り」から。今回は、松竹梅「天」をおでんの出汁で割ってみました。

松竹梅「天」は、二段酵母仕込によって、 「まろやかな旨み」と「すっきりしたあと味」を 絶妙なバランスで実現した日本酒

 

 

「日本酒のやわらかな風味と出汁の旨みが引き立て合って、おいしいです。私自身、鰹や昆布、あごの出汁などを家で作って燗酒のアテにしたり、割ったりして飲むくらい好きなんです。出汁の素材によって日本酒の感じ方も変わるので、飲み比べるのも楽しいですよ。

 

また、これは割って飲む日本酒全般にいえますが、アルコール度数が下がるので、強いお酒が苦手な人にもオススメです。私は基本的に1対1の割合にしていますが、お好みで調整してもいいでしょう」(関さん)

 

次に「燗ロック」を試してもらいました。関さんもこのスタイルで飲むのは初めてとのこと。

 

「一見、普通の日本酒オンザロックと変わらないような気もしますが、熱燗の場合はアルコールが多少なりとも揮発して飛ぶため、より度数が下がって飲みやすくなるということですよね。確かに、軽快な味わいでサラッと飲める印象です」(関さん)

↑氷を入れたグラスに燗酒を注ぐ燗ロック

 

「伝統的な楽しみ方に、一度温めた日本酒を冷ます『燗冷まし』がありますが、これはアルコール度数を下げたり角のある雑味をとったりしてマイルドにする狙いがあるんですね。この『燗冷まし』をよりスピーディに、そしてさらにアルコール度数が下がるのが『燗ロック』なのかなという印象もあります。こちらも、強いお酒が苦手な人にはオススメかもしれません」(関さん)

 

ほかにも、カルダモンやシナモンなどを実のまま燗酒に入れて個性的な香りにする「スパイス燗」や、日本酒のお湯割り、ホットチョコレート割りなど「お燗」以外のユニークな嗜み方もあります。この冬、試してみてはいかがでしょうか。

 

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「燗酒」に合う簡単おつまみ

日本酒の醍醐味のひとつといえば、食中酒としての楽しみ方。「燗酒」にマッチする料理には、どんなものがあるのでしょうか。

 

「温度の観点からいうと、料理とお酒の温度帯を合わせる手法は、フードペアリングにおけるひとつの目安といえますね。また、酸に関しては、コハク酸や乳酸は温まることで旨みが増してまろやかになる特徴があるので、料理も出汁が効いた旨み豊かな料理や、まろやかな味わいのおつまみが合うと思います」(関さん)

↑出汁のきいた「おでん」は燗酒に合うベストなおつまみのひとつ。おでんの出汁で「出汁割り」も作れて一石二鳥

 

例えば、日向燗からぬる燗までの温かさなら、焼き魚や焼き鳥などがいいでしょう。熱さを感じる上燗以上なら、冬だと鍋料理がよく合いますね。特に、シンプルに出汁の効いたおでんはベストマッチな一皿だと思います」(関さん)

 

さらに、手軽に作れるオススメなおつまみを関さんに教えてもらいました。1品目は「クリームチーズと塩昆布の和え物」。クリームチーズを角切りにして塩昆布をのせるだけのカンタンおつまみ。

 

「混ぜて和え物にしたり、刻みトマトを加えたり、クラッカーにのせたり、ごま油を垂らしたりと、アレンジもオススメ。チーズは栄養価が高く、肝臓の働きを促進してアルコールを分解する期待もでき、おつまみにぴったりなんです。また、昆布は旨みが豊富なので日本酒の甘みとの相乗効果も楽しめます。温かい燗酒でとけていくクリームチーズも、また格別ですよ」(関さん)

↑クリームチーズと塩昆布の和え物

 

「2品目の『サラダチキンのユッケ風』は、割いて電子レンジで温めたサラダチキンに卵黄、ごま油、しょうゆ、コチュジャンを混ぜるだけ。しょうゆとコチュジャンは発酵調味料であり、この風味が燗酒の甘さや旨みとよく合います。また卵黄の濃厚でクリーミーな質感は、温かい日本酒のまろやかさと絶妙にマッチ。ヘルシーなお肉のつまみとしてもオススメです」(関さん)

↑サラダチキンのユッケ風

 

「最後は『アボカドと生ハムのオリーブオイル和え』です。アボカドをスライスして、生ハムを巻きます。オリーブを回しかけレモンを搾れば完成です。アボカドにはビタミン類や食物繊維が豊富に含まれています。とろりとした舌触りが燗酒によく合うのでオススメ。仕上げにレモンを少々搾ったり、クミンシードを加えたりすると個性的な風味になります。ただしレモンはお酒の余韻をリセットすることもあるので、日本酒の味わいを深く感じたいときにはかけなくてもいいです」(関さん)

↑アボカドと生ハムのオリーブオイル和え

 

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冬本番を迎え、「お燗」がますますおいしい季節。ぜひ様々な温度や飲み方で日本酒を楽しんでください。

 

撮影/我妻慶一

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・上撰 松竹梅
https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=3005

・特撰 松竹梅〈大吟醸〉磨き三割九分
https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=3569

・松竹梅「白壁蔵」<生酛純米>
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/shirakabegura/

・松竹梅「天」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/shochikubaiten/

 

「日本酒を知る」シリーズ
【日本酒を知る】白壁蔵①:今更聞けない、日本酒の基本の噺
【日本酒を知る】白壁蔵②:知っていたら自慢できる?日本酒造りの噺

日本酒を楽しめる噺
夏はひんやり“日本酒ロック”の噺
江戸時代のお酒事情の噺
秋に円熟する日本酒「秋あがり」と灘の名水の噺
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【東京・沿線ぶらり酒】松尾貴史さんと語る、下北沢の酒場とカルチャーとカレーの噺

提供:宝酒造株式会社

 

街を結ぶ沿線には、その地ならではの名酒場と酒文化がある――。本企画では、首都圏沿線の路線ごとに、奥深いカルチャーを探っていきます。ナビゲーターは『古典酒場』の倉嶋紀和子編集長。沿線に縁のあるゲストとともに、街と酒場の魅力を語り尽くします。

松尾貴史(右)/大阪芸術大学を卒業後、デビュー。TV、ラジオ、映画、舞台、イベント、エッセイ、イラスト、折り紙(折り顔)制作など幅広い分野で活躍。近著に『人は違和感が9割』(毎日新聞出版)がある
倉嶋紀和子(左)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任

 

第1~4回にお届けしたJR中央線に続いては、小田急線。前回の新宿では、作家や編集者、映画関係者などが集った「新宿ゴールデン街」にフォーカスしましたが、今回は同じ文化人でも役者やバンドマンの聖地として知られる下北沢(東京都世田谷区)を訪問。下北沢が職場であるとともに、飲み歩く街としても通い続ける俳優・松尾貴史さんをゲストに迎え、酒や食を中心としたカルチャーについても語ってもらいました。

 

演劇、音楽、古着、カレー。独自の文化が刺激的に香る下北沢

 

下北沢駅が誕生したのは1927(昭和2)年のこと。小田原急行鉄道(現在の小田急電鉄)小田原線の駅として開業し、1933年(昭和8)年には帝都電鉄(現在の京王電鉄)井の頭線も開通。

 

1923(大正12)年の関東大震災以降、現在の世田谷区をはじめとする界隈の農村地には移住者が増加しており、2路線が重なる新駅が誕生した下北沢は急速に発展していきました。そして戦後には駅前に闇市が誕生。なかでも「下北沢駅前食品市場」は2017年まで存在し、いまでも人々の記憶に強く刻まれています。

 

市場の消滅は、駅前を中心とした近年の再開発によるもの。2013年の駅地下化、それに伴う線路の跡地開発によって2020年に「下北線路街」、2022年に複合商業施設「ミカン下北」が開業。2025年には駅前広場にバスロータリーが完成予定です。

 

戦前から文士のサロン的な街であった下北沢ですが、ユースカルチャーが芽吹くのは、1970年代。特にティッピングポイントとなったのは、ジャズバー「LADY JANE(レディ・ジェーン)」と、ライブハウス「下北沢ロフト」が開業した1975年です。各店主は1979年に「下北沢音楽祭」を開催し、次第に若者の街というイメージが浸透していきました。

 

そして、「LADY JANE」のマスターは1980年になると、多目的劇場「スーパーマーケット」を開場します。また、翌1981年には現在の本多劇場グループが、最初の劇場となる「ザ・スズナリ」を、その翌年には「本多劇場」をオープンさせます。こうして、下北沢は演劇の街としても知られるようになります。また、劇団の関係者や役者たちが多く住むようにもなりました。

↑「ザ・スズナリ」のほかにも「本多劇場」「駅前劇場」など多くの劇場があり下北沢は「演劇の街」として広く知られている(写真提供:PIXTA)

 

ファッションの街としての顔は、1960年代から。当初はレディースの洋品店が多く、働き始めた若い女性がお洒落を楽しむ目的に訪れ、そのなかから「下北マンボ」という細身で派手な柄パンツが生まれたといわれています。やがて1970年代になると古着店も増え、ユースカルチャーとの親和性から徐々に台頭。いまや古着は、演劇や音楽と並ぶ下北沢のアイコンです。

 

そのなかに、比較的近年に加わったカルチャーがカレー。最古参といわれる1990年オープンの「茄子おやじ」、スープカレーを東京に広めた名店のひとつであり、2002年に開業(札幌本店は1993年創業)した「マジックスパイス 東京御殿」をレジェンドとし、大阪スパイスカレーの大家「旧ヤム邸」のシモキタ荘が2017年にオープンすると、より下北沢のカレー色が濃厚になっていきます。

 

少年時代からカレー好きだった松尾さんも、2009年に自身のカレー店「般゚若(パンニャ)」を下北沢にオープンします。まずは、「般゚若」でカレーとお酒の関係などについて伺いました。

 

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きっかけは、竹中直人に連れて行かれた老舗のバー

倉嶋 松尾さん、今日はありがとうございます! まずは再会を祝して。

 

二人 カンパーイ!

 

松尾 こちらこそ、「酒噺」の連載に呼んでいただけるとはうれしいです。しかも街のテーマが下北沢ということで、感激ですよ!

 

倉嶋 初めて松尾さんとお会いしたのは立石(東京都葛飾区)でしたもんね。

 

松尾 そうそう! 16時に集まって、いろんな店をハシゴして。

 

倉嶋 懐かしいです。今日は下北沢のこと、たくさん教えてください!

 

松尾 もちろんですけど、倉嶋さんって下北沢にはあまり来ないんでしたっけ?

 

倉嶋 演劇、音楽、古着など、ちょっと私にはハードルが高い街でして(笑)。もちろん名酒場もたくさんありますけど。

 

松尾 そっか、確かに倉嶋さんと下北沢で飲むのははじめてですよね。

 

倉嶋 そうなんです。プライベートでも、お仕事でも訪れる街ではあるんですけど。やっぱり詳しく教えてもらうなら松尾さんだなって。

 

松尾 光栄ですね!

 

倉嶋 ではまず、松尾さんが下北沢の酒場文化に惹かれたきっかけから教えてください。

 

松尾 劇場には出させていただいていたんですけど、お店で衝撃的だったのは竹中直人さんに連れて行ってもらった「LADY JANE」。40年ぐらい前です。竹中さんが、「松田優作がいたら嫌だなぁ……。松田優作がいたら帰ろうよ」なんてつぶやきながらお店に行って、「松田さん来てますか?」とマスターに聞いたら「今日はまだお見えじゃないですね」って。そしたら「じゃあ、また来ます」って寂しそうな顔してさ。なんだ、会いたかったんだってね(笑)。

 

倉嶋 めちゃめちゃ面白い(笑)!

 

松尾 でも、それがきっかけで僕も通うようになりました。するとミュージシャンやジャズマンのほか、役者さんとか舞台や演劇の関係者の人ともいっそう仲良くなって。

 

倉嶋 同業者のつながりもできていったってことですよね。

 

松尾 そう。いつ行っても迎え入れてくれるような感じのゆるい雰囲気があって、ほかのお店にも行くようになったんです。街全体が、なんかゆるい新宿ゴールデン街みたいな感じなんですよね。

 

倉嶋 表現するお仕事の方が多いと、やっぱりそういう雰囲気になるんですね。

 

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車が通れない道の狭さが下北沢のニッチな文化を育んだ

松尾 街として下北沢を好きになったのは、車が通りにくくて、人がそぞろ歩きできるからなんです。

 

倉嶋 確かに、道が狭くて車は入りにくいですよね。

 

松尾 それって、車社会になる前の区画が残ってるからなんです。この辺は東京大空襲のときも奇跡的に守られたので、焼け野原になりませんでしたし。それに、昔から水路がいっぱいあったので行き止まりの道が多いんです。たぶん駅の改札口から半径数百メートル以内に、信号はひとつもないんじゃないかな。

 

倉嶋 都心部の駅では、なかなか珍しいですよね。広めな道は茶沢通り(※)ぐらいでしょうか。

※三軒茶屋と下北沢、東北沢を結ぶ世田谷区道の通称

 

松尾 そんな区画だから、店舗も小さい物件が多いですよね。だから個人店も出しやすい。結果、個性的な店が多くなってサブカルチャーのムードが醸成される。もっとも、いまは道を広げてバスを引き入れようとしてますけどね。僕はどうかと思いますよ。

 

倉嶋 著名人の方と地域の方で協力して、署名活動や反対運動をされていましたよね。

 

松尾 諸外国の観光名所の多くは、駅前からどんどん車を排除してるんです。でも、日本は逆なんですよ。もちろん、踏切がなくなったり茶沢通りの渋滞が軽減したり、便利になった部分もあるんですけど。

 

倉嶋 お店はどうなっていくと思いますか?

 

松尾 なんとかまだ、新規開業は個人のお店が頑張っているので救いです。でも、変に人気が出すぎて家賃が高くなると危ないですね。そうなると、資本力のある企業の店舗しか出せなくなっちゃうので。

 

倉嶋 再開発という点では、それこそ私たちの大好きな立石と似たような課題を抱えているんですかね。

 

松尾 そうですね。それに、下北沢のこぢんまりとした雰囲気は、下町にも似た感じがあります。

 

倉嶋 私が下北沢で印象的に残っているのは、北口にあった市場(下北沢駅前食品市場)です。もう17~18年ぐらい前ですかね。あのなかに、年配の女将さんがやられていたおでん屋さんがあって、立ち退き閉店するまで何度か行きました。素敵なお店でしたねぇ。

 

松尾 「おでん屋 節子」かな。いまでも分店の「せっちゃん」は、お好み焼きとおでんを名物に営業してますよ。

 

倉嶋 今度行ってみます! でも、松尾さんは20代のころからこの街で飲んでいますよね。それから約40年が経ったいま、酒場の楽しみ方はどう変わりましたか?

 

松尾 お店の探し方はなんとなくわかってきたかもしれません。下北沢も若者向けからシニア向けまで多彩にあるなか、年配でも楽しめるお店を見分けるポイントがあって。これは地方で居酒屋を探すときにも、すごく使えるんです。

 

倉嶋 ぜひ教えてください!

 

松尾 歳をとると食の経験値が増えるぶん舌が肥える。それから、前頭葉が弱くなるので我慢が効かなくなる(笑)。そうすると、料理がうまくて居心地もいい店で飲みたいじゃないですか。ということは、人生の先輩方が機嫌よく飲んでいるお店は、間違いないということなんですよ。

 

倉嶋 ご年配の方がにこやかに飲んでいるお店はひとつの指針ですよね(笑)。やっぱり酒場は人ありき、あらためて勉強になります!

 

 

カレーにはチューハイや日本酒が合う!

松尾 うちの名物はカレーなので、ぜひ召し上がってください。こちらは一番人気の「マハーカツカレー」です。

↑般゜若の「マハーカツカレー」(1580円)

 

倉嶋 いただきます……。あぁ、スパイスの香りが抜群に効いていて、グラデ―ションのように変化していく感じもたまりません! 思わずガーッと一気に食べてしまいそうな魅惑の味わいです。

 

松尾 お口に合ってよかった。うちはワンパクなイメージがあるカツカレーでも男女ともに人気で、トータルで食べやすく仕上げているのもポイントなんです。

 

倉嶋 ええ、黒いカツは見た目のインパクトだけじゃないですね。イカ墨を使った衣は重すぎずサクサク、肉の甘みと調和した正統派のおいしさです。もち麦入りのターメリックライスと、さらりとしたカレーソースとのマッチも絶妙!

 

松尾 うれしいです。お酒だとどんなものが合いそうですか?

 

倉嶋 この焼酎ハイボールは、シュワッとした爽快感がカレーの辛みやカツとマッチして最高にイイですね! 宝焼酎の絶妙なコクがフックになって、スパイスとの調和もゴキゲン。あとは、カレーライスのライスはお米ですから、日本酒も当然のように合うと思います。

↑タカラ「焼酎ハイボール」の爽快感がカレーの辛みやカツとマッチ

 

松尾 僕も、当店ではハイサワーとのペアリングを推しているんですが、このカレーとチューハイはすごく合うんですよ。

 

倉嶋 お酒好きの松尾さんがペアリングも考えて作ったんですから、絶対間違いないですね。でも、松尾さんにとってカレーの魅力はどんなところにあるんですか?

 

松尾 そうですね。子どものころから変わらず大好きというノスタルジー。一方で、辛い大人の料理という魅力もあって、辛口を背伸びして食べたかった幼少期の思い出を、ずっと引きずってるんだろうなっていう気がします。

 

倉嶋 奥深い考察ですね!

 

松尾 とはいえ、辛さや味わいよりも大きな魅力を生み出しているのは香りなんです。香りが持つ情報量はすさまじく、カレーの場合はスパイスやハーブのエッセンスが情報となって、様々な方向から一瞬で脳に突き刺さる。それがクセになって、詳しく説明はできないけどハマッちゃうところがカレーの魅力だと思いますね。

 

倉嶋 香りが持つ情報量と、魅惑的なおいしさ。お酒にも当てはまりますね!

 

松尾 最初はただただ「カレーはおいしい」という感想でした。原体験は親父に連れて行ってもらっていた、神戸のオリエンタルホテルで提供されていたカレーです。やがて小学校になると、小遣いで食べに行くようになりました。当時「そごう神戸店」の向かい辺りにあった「神戸カレーショップ」です。

 

倉嶋 小学生が行くお店じゃない気もしますが(笑)、それだけカレー好きだったんですね!

 

松尾 中学に上がると、阪急西宮北口駅(兵庫県西宮市)付近にあった「サンボア」にどっぷり。最初はマズく感じて「もういいや」って思ったんですけど、その後いとこの友人だった3歳年上の兄ちゃんに連れていかれて、断れなくて食べたら「あれ? 悪くないな!」と思って。気になって3回目に行ったらハマッちゃいました。

 

倉嶋 そう考えると「般゜若」さんをオープンするのも必然だったんですかね。きっかけは何だったんですか?

 

松尾 昔、上馬(東京都世田谷区)の交差点付近に通ってるバーがあったんです。大きなガラス窓から国道246号をぼんやり見下ろしながら飲むのが好きでね。でもあるときマスターから、閉店してまっさらにしちゃうと聞いたんです。

 

倉嶋 なんだかもったいないですね。

 

松尾 でしょ。だから落語家さんとかコピーライターさんとか、友人8人に声かけてお金を出し合って、保存会みたいにして営業してたんです。数年やって、結局そこも閉めちゃったんですけど。

 

倉嶋 行ってみたかったです。

 

松尾 で、当時「シメになにか一品欲しいな」となってね。山梨県の富士吉田にある「糸力」という居酒屋の名物カレーがもたれなくておいしいという話があがったので、冷凍品を送ってもらい、湯煎で温めてカレーライスにして出してたんです。

 

倉嶋 そのカレーがモチーフなんですか?

 

松尾 最初はそうだったんですが、サラッとしたカレーを自分でも作ってみたいなと思って、当時のバーテンダーさんと試行錯誤してね。それが数年後に完成しまして、「これは単体でも店出せるぞ!」なんて盛り上がってるところに、知り合いから「下北沢に古着屋さんの空き物件が出るよ」とチャンスが。ここぞとばかりに入れ替わりでオープンしたのが2009年です。

 

倉嶋 今年で15周年。しかもカレー激戦区となった下北沢で、スゴいです!

 

松尾 ありがとうございます。最初はもう少し東北沢駅寄りの場所にあって、手狭になった関係でいまの場所に越してきたのが2017年。でも、それからすっかり7年が経ちました。ちなみに倉嶋さん。すっかりなんて言ってたら、そろそろ夜の営業時間が近づいてきまして……。

 

倉嶋 あら、あっという間に!

 

松尾 うちもお酒はあるんですけど、より本格的な居酒屋に移動しましょうか。

 

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「晩酌は最高のリラックス」食の伝道師・ラズウェル細木に聞くー酒と肴と酒場の噺
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飲むと楽しい人に付いていく

松尾 ということで、あずま通りからひとつ路地に入った「まぼねん」にやってきました。

↑若いお客さんで賑わう下北沢の晩酌屋「まぼねん」の店内

 

倉嶋 駅前は近代的になりましたけど、ちょっと路地を入れば昔と変わらない風景。イイですね! お店もこじんまりとして良い雰囲気。メニュ—も豊富だしリーズナブルで、若いお客さんが多いのも納得です。

 

二人 ではあらためて、カンパーイ!

↑まずは、チューハイで乾杯!

 

↑「まぼねん」はリーズナブルでオリジナリティのあるメニューが人気。写真は「厚焼き玉子」

 

倉嶋 松尾さんもお酒が潤滑剤となって交友関係が広がっていったと思うのですが、昔からお酒好きだったんですか?

 

松尾 家柄といいますか、父親がバーテンダーだったので、その影響は大きいですね。神戸という土地柄か、実家には日本酒もたくさんありました。

 

倉嶋 神戸といえば灘五郷。日本酒の聖地で生まれ育ち、しかもお酒に関するサラブレッドだったとは!

 

松尾 二十歳のときは大学生で、さっそく教授の部屋で飲んでましたね。当時は北新地のディスコにDJ見習いで入っていたのですが、クリスマスだ!年越しだ!なんつって、しじゅう飲んでは遊んでました。

 

倉嶋 好きなお酒の種類はオールジャンルですか?

 

松尾 倉嶋さんと一緒ですよ(笑)。焼酎、日本酒、バーボンにウイスキー、ビールなどなど。甘いカクテルとかは好んで飲まないですけど、お酒はなんでも好きです。

 

倉嶋 松尾さんが以前私の講座(倉嶋紀和子の古典酒場部)にご登壇いただいたときは、日本酒がテーマでしたよね。その際、利き酒をされる際の口に含む感じとか、お酒を利かれるときの姿がとても麗しくて。

 

松尾 本当ですか? なんか照れちゃいます。

 

倉嶋 でも松尾さんの交友関係の広さは、そういった場での素敵なふるまいにあるんじゃないかとも思います。

 

松尾 そうなんですかね? でも確かに、お酒のおかげで宝物のような出会いもたくさん得られました。

 

倉嶋 コミュニケーションの極意はあるんですか?

 

松尾 うーん、極意とはちょっと違うんですけど、飲みの場の性格って、本性に近いと思うんですね。

 

倉嶋 なるほど。よく、酔った勢いとか、酔うと性格変わるといいますが、そちらこそが本当の性格だと。

 

松尾 その通り。酔って変わった性格のほうが、隠された本性なんですよ。本音や愚痴なども、酔ったときのほうが言いやすいじゃないですか。だから僕は、酔って悪態つく人は信用しません。逆に、飲んでいるときに素敵だな、この人と飲むと楽しいなっていう人には付いていくようにしています。

 

倉嶋 勉強になります! そうやって飲み歩く機会もたくさんあると思いますし、なかでもやっぱり下北沢はお仕事柄でも多いのかなと。そんな下北沢の酒場は、ほかの街と比べてどんな特徴がありますか?

 

 

下北沢酒場ならではの特徴、いい店の条件とは?

松尾 おつまみの個性やお酒のバリエ―ション、また空間デザイン的な部分などは店主のセンスなので、下北沢に特化したものは見当たらないかな。ただし、やっぱり街柄なんですかね、なんとなく役者への気遣いがあるお店が多い気はします。

 

倉嶋 松尾さんならではの視点で興味深いです。それは下北沢のどのお店も役者さん慣れしているからなんでしょうか?

 

松尾 それも一理あるのかな。若手からベテランまで、それこそ俳優の卵みたいな駆け出しの若者にもやさしいお店が多いと思います。あとは、打ち上げにも寛容かもしれません。あくまで傾向ですけどね。

 

倉嶋 酒場自体が、夢を追う若者を応援している。素敵ですね!

 

松尾 あとは、小さい物件が多いので家賃が比較的まだ安く、個人店が多いぶんチェーン店は少なめというのも特徴ですね。

 

倉嶋 私も、下北沢は個人店主さんがすごく頑張ってらっしゃるイメージがあって、その点は中央線でいうと西荻窪によく似てると思います。フラッと入っても拒絶感がなくて、うまく馴染ませてもらえる居心地のよさがあって。

 

松尾 なるほど、確かにそうですね! 商業地と住宅街のバランスがよく、常連ばかりで閉鎖的な雰囲気という店は、下北沢には基本的にないですからね。

 

倉嶋 業態のバランスもいい気がします。そこまで大きな街ではないものの、居酒屋に和食、イタリアンやフレンチにバー、中華やエスニックなどもあって、価格帯もピンキリで。

 

松尾 その辺も、いい意味での多様性ですかね。舞台やライブハウスに関しても、新米から超大御所までが出演しますから。

 

倉嶋 勝手なイメージなんですけど、役者さん同士が演技論を巡ってケンカすることもあるんですか?

 

松尾 それはゴールデン街じゃないですか(笑)? まあ、いまは新宿でもケンカなんてないと思いますけど、あったとしても昭和の時代ですよ。平成と令和は、至って平和。

 

倉嶋 ええ、下北沢は“ラブ&ピース”がよく似合います! では、松尾さんが好きなお店もいくつか教えてください。

 

松尾 たくさんあるんですけど、この辺ですとすぐそこに「和みや 晃月」があって、ここはBUCK-TICKのヤガミトールさんに連れて行ってもらってから通い始めました。演劇関係者とよく行くのは「和楽互尊」や「ふるさと」ですね。「ふるさと」は広い座敷もあるので、打ち上げで行くこともありますよ。

 

倉嶋 それぞれ、オススメのメニューにはどんなおつまみがありますか?

 

松尾 「和楽互尊」は博多串焼きが名物ですけど、どのお店も何を食べてもおいしいです。ほかには中華でしたら「新雪園」、魚でしたら「にしんば」や「酒肴 みうら」とかね。太田和彦さんや角野卓造さんとの思い出の店で「両花」という銘酒酒場もあったんですけど、ここは閉店してしまいました。

 

倉嶋 一緒に行きたかったです。

 

松尾 そうなんですよ。そしたら、倉嶋さんイチオシのお店はどちらですか?

 

倉嶋 昔の北口側にある「あおもり」さんですね。末井 昭さんら哀愁の親爺バンド・ペーソスさんと番組でご一緒したときに、舐め達磨親方・島本慶さんが行きつけだということでご紹介いただきました。

 

松尾 名物はやっぱり、青森の?

 

倉嶋 そうですね、青森の郷土料理を中心に旬のオススメが黒板にびっしり書いてあって、青森の地酒とペアリングを楽しむお店ですね。

 

小田急線に住む人の特徴。中央線との違い

倉嶋 今回は小田急線のなかから下北沢にスポットを当てているのですが、例えば新宿から世田谷に絞ると、沿線ならではの魅力には何がありますか?

 

松尾 芸術家が多く住む沿線だなとは思います。より細分化すると、音楽系の人はなぜか代々木上原(東京都渋谷区)に多かったり。それが世田谷に入って下北沢になるとジャンルがさらにロックやジャズ寄りになって、演劇人も増えて。さらに西へ行くと画家やアート関係の色が濃くなり、千歳船橋辺りに行くと森繫久彌さんなど、また役者さんのイメージもあって、祖師谷大蔵からは映画関係者、成城学園前になるとクラシック関係の方が多くなる、みたいな。

 

倉嶋 駅ごとに職業などの特色が出てくるイメージですかね。面白い!

 

松尾 沿線の特色というよりは、それぞれの街に個性があって、住んでいると芸術的な感覚に触れやすいという面白さはあると思いますね。あくまで個人の感想ですけど。これが中央線になると作家さんや漫画家さんも多いですよね。

 

倉嶋 この連載の初回でお世話になった角田光代さんとは西荻窪でご一緒しましたし、確かに作家さんは多いと思います。

 

松尾 あとは芸人さんだと高円寺や阿佐ヶ谷も多いんですかね。高円寺はパンクロック、阿佐ヶ谷はジャズのイメージもありますけど。

 

倉嶋 あの辺の中央線はストリートというか。でも全体的に、なんとなく地べた感があるんですよね。私はそれが居心地よくて(笑)。

 

松尾 そんな話をしていたら、中央線沿線酒場でハシゴしたくなりました。また一緒に飲みましょうよ!

 

倉嶋 ぜひぜひ。また何軒でも付き合いますので!

 

下北沢のカルチャーと酒場文化について語り尽くした倉嶋さんと松尾さん。次回も街と魅力的な酒場について倉嶋さんがゲストと語り合います。お楽しみに!

 

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【せんべろnet監修】ひとり飲み初心者にオススメなお店の噺
女性ひとり(初心者)でもできる「酒場」の楽しみ方を、「せんべろnet」管理人のひろみんさんに教えてもらいながら体験していきます。

【せんべろnet 監修 】“ひとり飲み”初心者がはしご酒を楽しむ噺
女性ひとり(初心者)でもできる「酒場」の楽しみ方を、「せんべろnet」管理人のひろみんさんに教えてもらいながら体験していく第2回目。今回は横浜の“聖地”までやってきました!

 

撮影/鈴木謙介

 

<取材協力>

般゜若 PANNYA CAFE CURRY(パンニャ)

住所:東京都世田谷区北沢2-33-6
営業時間:11:30~16:00(L.O.15:30)、17:30~21:30(L.O.21:00)
定休日:水曜
https://pannya.jp/

 

まぼねん

住所:東京都世田谷区北沢2-9-3 三久ビル 1-C
営業時間:17:00~翌3:00(L.O.2:00)、日曜17:00~24:00(L.O.23:00)
定休日:なし
https://www.instagram.com/maboneng_tokyo/

 

※価格はすべて税込みです

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・タカラ「焼酎ハイボール」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/golden/

 

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いま話題の「日本酒ハイボール」を味わい、和食とのペアリングを楽しむ噺

提供:宝酒造株式会社

 

日本酒の飲み方といえば一般的に“冷や”か“燗”か、いわゆる温度の違いだけでしたが、最近は日本酒を炭酸水(炭酸)で割る「日本酒ハイボール=酒ハイ(SAKEハイ)」が話題になっています。そこで今回は「日本酒ハイボール」を中心に、若い女性に人気の「スパークリング日本酒」など新しい日本酒の飲み方について紹介していきます。

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

新しい日本酒の飲み方

日本酒は、昭和の時代から「サムライ」というカクテルや氷を浮かべたオンザロックなど、一部では多様な飲み方で親しまれてきました。なお、加水して飲みやすくする風習は、実は江戸時代から存在しています。魚のヒレや骨などを入れて飲む文化同様、昔から様々な手法で嗜まれてきたお酒でもあるのです。

 

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情報化社会となった近年ではSNSの進化や嗜好の多様化、またハイボールの浸透などもあり、日本酒ベースのレモンサワーが登場するなど、日本酒を炭酸水で割る飲み方も見かけるようになりました。本稿ではこの「日本酒ハイボール」を主役に、その特徴や楽しみ方などを、日本酒ライターの関 友美さんをガイドに招いて深掘りします。

関 友美/地元の札幌でOLとして働いたのちに上京。飲食店勤務、日本酒アドバイザー、酒蔵での勤務などを経験し、現在はライター業のほか、日本酒をはじめとした製品造りのアドバイザー、酒蔵コンサルタント、日本酒事業に精通した数々の仕事を手がけている。

 

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日本酒ハイボールとは

「日本酒ハイボール」は日本酒を炭酸水で割った飲み物のことであり、「酒ハイ(SAKEハイ)」とも呼ばれます。2024年に日本酒の魅力を伝えたいメーカーと流通業者の任意団体「日本酒需要創造会議」は、業務用市場を中心に需要喚起策として「日本酒ハイボール」の飲み方提案をスタートしました。

 

「日本酒ハイボール」のルーツのひとつには、スパークリング日本酒があるといえるでしょう。共通点は、炭酸ガス。チューハイやビールなど、日本には炭酸の効いたお酒を楽しむ文化が根付いており、その親和性からスパークリング日本酒が生み出されたといえます。

 

スパークリング日本酒の元祖といわれているのが、『月の桂』で知られる増田德兵衞商店(京都市伏見区)が1964(昭和39)年に発売した『月の桂 にごり酒』です。

 

以降、徐々にスパークリング日本酒が他の蔵元からも発売されていきました。エポックメイキングといえる商品が、宝酒造が2011年に発売した松竹梅白壁蔵「澪」です。

 

フルーティで華やかな香りと、ほんのり甘い味わいがほどよい酸味とともに調和し、20~30代の女性を中心に大ヒット。「澪」の華やかなおいしさはパーティーシーンでも重宝され、ワインにおけるシャンパーニュのような存在になりました。人気を集めている根本的な理由は「炭酸」と「低アルコール」にあります。

 

日本酒を炭酸水で割る「日本酒ハイボール」も、「炭酸」「低アルコール」という特徴をもっており、スパークリング日本酒のように、若い世代に人気になる可能性を秘めています。

 

若い世代は成人になった時点ですでにハイボールが定着していた層ですし、情報感度が高く好奇心も旺盛。日本酒を炭酸水で割るという新しい飲み方にも抵抗感がなく、飲みやすさという点ではむしろ好意的に受け入れる人も多いといえるでしょう」(関さん)

 

日本酒ハイボールの楽しみ方

そして先日、宝酒造から飲食店向けに先行発売されたのが、松竹梅「瑞音(みずおと)」。“炭酸割りで楽しむ日本酒”がコンセプトで、炭酸割り専用に酒質設計されています。

 

具体的な特徴は、炭酸割りにして高い香りを実現する酵母の育種技術による“吟醸酒並みの香り高さ(※)”、米の魅力を引き出す技術による“日本酒らしい甘み”、3種類の香りの最適な組み合わせを実現する技術による“ボリューム感のある味わい”。この3点がバランスよく共存する味わいです。

※宝酒造吟醸酒比。このお酒は吟醸酒ではありません。

 

ターゲットは、アルコール度数の高さから日本酒を敬遠しているものの、刺身など和食に合わせるなら日本酒で楽しみたいと考えているチューハイユーザーなど。「瑞音」のアルコール度数は14%ですが、炭酸水と1:1で割る飲み方をベストな味としており、推奨のとおりに割れば7%のアルコール度数で軽やかに楽しめます。

 

新たなコンセプトのもとに生まれた松竹梅「瑞音」。まずは、プロのご意見を聞きたいということで、協力頂いたのは、松竹梅「瑞音」を発売と同時に導入した「魚錠 池袋店」(東京都豊島区)。「魚錠」は明治40年に海産物の行商からスタートし、創業から110年以上にわたって、お寿司や海鮮丼、海鮮居酒屋などを通じて「美味しい食」を届けています。そんな「魚錠」の池袋店店長にお話を伺いました。

 

「炭酸の爽快感と低めのアルコール度数によって、飲みやすい味わいになっているのが魅力です。お酒を飲み始めた若い方や、これから日本酒を嗜みたいという方の入門としても、松竹梅『瑞音』の日本酒ハイボールは最適だと思います。実際、うちの若いスタッフにも大好評でしたし、気軽に試していただけたらうれしいですね」

 

関さんも「瑞音」を飲むのは初めて。さっそく飲んだ感想を伺いました。

 

「香りは、青りんごを思わせる果実味豊かな香り。シャキッとしたみずみずしいイメージで、すごく爽やかですね! 加水されて味わいが軽やかになり、炭酸ガスが弾けることで、より印象的に香る効果もあると思います」

 

そして味わいとしては、米の甘みと麹のニュアンスを豊かに感じるといいます。

 

「麹のやわらかい風味は、日本酒ならではですね。おだやかな米の甘みがふわっときて、そこからまたフルーティな香りが広がります。酸のタッチも絶妙で、余韻はすっきり。それに、炭酸水で割っても味が薄まった印象はありません」

 

これまで何度も日本酒ハイボールを飲んでいる関さんですが、どこか淡く、ぼやけた印象に感じることも少なくなかったとか。その点「瑞音」は炭酸水で割っても日本酒らしいおいしさをしっかり楽しめると大絶賛。

 

「飲んでみて、日本酒ハイボール専用という意味がすごくよくわかりました! 氷と炭酸とがとけあうことで、調和するように造られているんですね。クリアでバランスがよく、飲みごたえもちょうどいいです」

 

続いてはフードペアリングをレビュー。刺身の盛り合わせなど、いくつかの和食と合わせてもらいました。

↑「【名物】本気の刺盛り」(1099円)、秋さばと秋茄子の茸あんかけ(968円)、「あん肝」(858円)、「松竹梅「瑞音」ハイボール」(638円 ※お試し価格)

 

「過度な果実味や吟醸香は、ものによっては刺身と合わないですけど、瑞音は適度な香りでしっかりと寄り添いますね。お米のうまみがしっかりあるから、白身魚にも赤身にも貝類にもよく合います。また、あん肝も好相性! 炭酸が適度にこってり感をリセットするので、脂がのった魚介類にもマッチします」

 

続くペアリングは、「秋さばと秋茄子の茸あんかけ」。さばのフライとなすの素揚げに、ほんのり甘酸っぱい味付けの、きのこのあんを絡めた一皿です。

 

「和食としては濃厚な料理ですけど、こちらも『瑞音』のハイボールは合いますね。すっきりしたキレが脂や濃い塩味を打ち消しつつ、フルーティで甘やかな酒質は甘酸っぱいあんかけにマッチ。天ぷらや野菜の揚げ浸し、ほかには照り焼きや味噌煮込みといった甘じょっぱい料理とも相性がいいと思います」

 

先述の「魚錠 池袋店」店長にも日本酒ハイボールと料理の相性について伺ってみました。

 

「松竹梅『瑞音」は当店のほぼすべてのメニューに合うと思います。通常の日本酒にもベストマッチのお刺身はもちろん、てんぷらなどの揚げ物に関しては、日本酒ハイボールのほうが通常の日本酒よりも好相性ではないかなと。

決め手はやはり、炭酸の爽快感ですね。すっきりした後口が油を流す効果もありますので、また次のひと口へと箸が進みやすくなると思います。一方で、炭酸水で割ることによってアルコール度数が下がり軽快な口当たりになりますので、繊細な味付けの和食にもよく合いますね」

 

お刺身から揚げ物まで、幅広い料理との相性も抜群な「日本酒ハイボール」。自分なりのマリアージュを見つけるのも楽しいかもしれません。

 

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日本酒ハイボールの作り方

「瑞音」は飲食店向けの先行発売ということで、自宅などで「日本酒ハイボール」を楽しむにはほかにどんな日本酒が適しているのでしょうか。オススメの酒質については関さんに教えてもらいました。

 

「炭酸水で割ることを考えると、お米の甘味やコク、酸が豊かなしっかり系のほうが調和する気がします。また、生酒、生貯蔵酒、生詰め酒といった、ピュアな力強さをもったタイプも向いていると思います。生貯蔵酒で香り高い松竹梅「昴」は「日本酒ハイボール」にも合うのではないでしょうか」

 

ここからは、松竹梅「昴」をベースに「日本酒ハイボール」の作り方を実践します。まずは冷やしたグラスに氷を投入。次に、キンキンに冷やした日本酒と炭酸水を1:1で入れ、軽くステアして完成です。

↑キンキンに冷えたグラスに氷を入れて、日本酒を注ぐ

 

↑1:1になるように炭酸水を入れ、軽くステアをして完成!

 

コツは炭酸ガスが飛んで爽快感が失われないよう、注いだり混ぜたりする際はやさしく行うこと。味の濃淡は、日本酒と炭酸水の割合を変えて調整しましょう。

 

ではあらためて、「日本酒ハイボール」を身近なお店のおつまみと合わせるなら、どんなものがオススメなのでしょうか? 関さんに伺うと、牛すじ煮込み、豚汁、鉄火巻きを挙げてくれました。とはいえ、その日の気分や好みで選んでも構わないといいます。

 

「例えば仕事から疲れて帰ってきて、立ち寄ったお店でとりあえず惣菜を買ってきたとしましょう。となると、ペアリングを考える余裕もないですよね。そんな晩酌でも日本酒ハイボールならあまり料理を選ばないので、頼れる食中酒になってくれると思いますよ!」(関さん)

 

好みの味わいに調整できて、おつまみとの相性も幅広い、新たなスタイルの日本酒。それが「日本酒ハイボール」なのです。ぜひ本稿を参考に試してみてください。

 

 

撮影/我妻慶一

 

<取材協力>

魚屋の居酒屋 魚錠 池袋店

住所:東京都豊島区南池袋1-20-9 第一中野ビル 2F
営業時間:月~金曜11:30~14:30(L.O.14:00)/17:00~23:30(料理L.O.22:30/ドリンクL.O.23:00)、土・日曜・祝日16:00~23:00(料理L.O.22:30/ドリンクL.O.22:45)
定休日:不定休

※池袋店のほか、池袋東通店、芝大門店、金山店(名古屋)の3店舗を展開
※価格はすべて税込みです

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・松竹梅「瑞音」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/mizuoto/

・松竹梅白壁蔵「澪」
https://shirakabegura-mio.jp/

・松竹梅「昴」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/subaru/

【せんべろnet監修】“ひとり飲み”初心者が平日にサクッと「家飲み」する噺

提供:宝酒造株式会社

 

「酒噺:東京・大衆酒場の名店シリーズ」で一連の酒場知識を習得したお酒好きタレント・中村優さん。実践編に入って、女性一人(初心者)でも出来る「酒場」の楽しみ方を「せんべろnet」管理人のひろみんさんに教えてもらいながら体験していく第7回目。今回は趣向を変えて、平日に家でサクッと楽しめる「ひとり飲み」に挑戦します。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

せんべろの達人が説く家飲みの醍醐味

明日は早朝から仕事があるものの、軽くでもお酒を嗜みたい気分の中村さん。そこでこの日は、早めに帰宅してサクッと飲むことに。おつまみは「せんべろnet」管理人ひろみんさんの著書『せんべろnetの酔っても作れる宅飲みおつまみ』(ワン・パブリッシング・刊)からセレクトしました。

 

本書では名酒場に教わった絶品レシピをはじめ、冷蔵庫にある食材で簡単に作れる料理や、コンビニアレンジおつまみなどを写真付きで紹介しています。

↑右が今回参考にした、『せんべろnetの酔っても作れる宅飲みおつまみ』。左は大好評によって生まれた第2弾で、酒場紹介とレシピで構成された『せんべろnetのひとり酒場 家飲み手帖』

 

~家飲みの魅力~

・自分好みのお酒とおつまみを自由に楽しめる

・外出する手間や時間がかからない

・ラフな格好で飲める

・万が一酔い過ぎても安心で、とにかく気楽

 

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【せんべろnet監修】ひとり飲み初心者にオススメなお店の噺
女性ひとり(初心者)でもできる「酒場」の楽しみ方を、「せんべろnet」管理人のひろみんさんに教えてもらいながら体験していきます。

【せんべろnet 監修 】“ひとり飲み”初心者がはしご酒を楽しむ噺
女性ひとり(初心者)でもできる「酒場」の楽しみ方を、「せんべろnet」管理人のひろみんさんに教えてもらいながら体験していく第2回目。今回は横浜の“聖地”までやってきました!

 

お酒が進みまくる簡単おつまみ2品をクッキング

数あるレシピのなかから選んだのは、暑い日にぴったりとおすすめいただいた「さば缶ときゅうりのごま酢和え」と「やみつきみょうが肉巻き」の2品。さっそく調理といきましょう。

 

さば缶ときゅうりのごま酢和え

■材料

・さば水煮缶:1缶(150g)
・きゅうり:1本
・塩:少々
・ポン酢:大さじ2
・砂糖:小さじ1
・煎りごま(白):適量

 

■作り方

1)まずは、きゅうりをスライサーでスライスします。

 

2)塩もみして5分ほど置いたあと、塩を洗い流して水分を絞ります。

 

3)ポン酢大さじ2と砂糖小さじ1を合わせます。

 

4)そのなかにきゅうりと水気を切ったさば缶を入れて混ぜ合わせます。

 

5)器に移して、煎りごまをかければ完成!

 

ひろみんさんのアドバイスとしては、きゅうりには時短になるスライサーを使うのがオススメとのこと。

 

また、100円ショップなどで販売されているシリコン素材のざるもあると便利。柔らかくざるごと絞れるので、簡単に水切りがしっかりできるのだそうです。

↑シリコン素材のざるはそのまま水を切れるので便利

 

材料のさば水煮缶は、国内水揚げ・化学調味料無添加のものがおいしく仕上がるのでオススメ。

 

そして味つけのコツは、少量の砂糖でほんのり甘さを加えること。きゅうりやポン酢の爽快感のなかに甘みがあると、よりお酒が進む味わいになるとのこと。

↑味見をする中村さん。真剣な眼差し!

 

切って和えて混ぜるだけの気軽さ。それでいて、さっぱりした味わいでお酒も進むという絶品おつまみの完成です。続く2品目は「やみつきみょうが肉巻き」。

 

やみつきみょうが肉巻き

■材料

・みょうが:お好みの量
・豚バラスライス:お好みの量
・塩:適量
・こしょう:適量(スパイスソルトでもOK)
・サラダ油

 

■作り方

1)みょうがを好みのサイズで縦半分~縦4等分にカット。

 

2)これらを豚バラスライスで巻き、塩・こしょう、もしくはスパイスソルトを振ります。

 

3)サラダ油をひいたフライパンに上記の豚バラみょうがを入れ、こんがりと焼き目が付くまで中火でソテーすれば完成。フライパンは、ホットプレートで代用してもOKです。

 

こちらも簡単かつスピーディーで、10分程度ででき上がり。

 

ちなみに、塩・こしょうの代わりにスパイスをふったり、仕上げにポン酢や七味唐辛子をかけるのもアリとのこと。さらに、トッピングとして大葉やクリームチーズなどがあると、いろいろなバリエーションも作れるのでオススメです。

 

合わせるお酒は?

さて今回、合わせるお酒は、2024年9月10日発売の新商品、タカラ「発酵蒸留サワー」です。

↑タカラ「発酵蒸留サワー」。フレーバーは、<クリア><レモン><ぶどう>の3種類がラインアップされています

 

タカラ「発酵蒸留サワー」の特長は、アルコール分3%と軽やかでありながら、しっかりとしたお酒の満足感が楽しめること。口に含んだ瞬間から複雑な香りと厚みを持たせる“果皮発酵スピリッツ”と、口に含んだあとの厚みを持たせる専用の「宝焼酎」を新たに開発することで、低めのアルコール度数でもお酒好きな人が求めるしっかりとした飲みごたえを実現しています。

 

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作った2品にお酒を合わせて家飲み開始!

ということで、「さば缶ときゅうりのごま酢和え」「やみつきみょうが肉巻き」とお酒を前に、いざ晩酌スタート。まずはタカラ「発酵蒸留サワー」をプシュッと開け、1日を振り返りながら乾杯です。今日もお疲れ様でした。

 

 

氷を入れたグラスに注いで香りを満喫し、すぐさまゴクリ。味はどうでしょうか?

 

「とっても爽やか! 口当たりはライトですけど、大衆酒場で飲む本格チューハイのような飲みごたえがあっておいしいです。後味はスッキリしていて、どんな料理にも絶対合うに決まってますね! 私はお酒は好きですがそこまで強くはないので、まさに待ってましたって感じ。あまり酔いたくないとき用に常備したいちょうどよさです!」(中村さん)

そして、おつまみにも食指が動きます。まずは「さば缶ときゅうりのごま酢和え」から。

 

「シャキッとした瑞々しいきゅうりと、脂がのったさばはナイスコンビ! ほんのり甘いポン酢がさばのうまみと調和して、ごまのアクセントもイイ感じ。それになんといっても『発酵蒸留サワー』がスゴく合う!」(中村さん)

 

なお「さば缶ときゅうりのごま酢和え」は、お好みでラー油やごま油をかけるのもひろみんさんのオススメとか。実践する際はぜひお試しを。続いては、「やみつきみょうが肉巻き」もパクり。

 

「うんうん、これは新発見のおいしさ! みょうがは昔から好きなんですけど、薬味としてばっかり食べてました。でもこちらはみょうががメインで、ほんのりとした苦みや辛さに豚肉の甘い脂が染み込んで、超ジューシーでおいしい!」(中村さん)

 

では、こちらと「発酵蒸留サワー」の組み合わせはどうでしょう?

 

「ドンピシャです! みょうがの苦みや肉汁のこってり感・油を、『発酵蒸留サワー』がスカッと流してくれます。それでいてお酒のコクが余韻で広がり、至福な気分になれる。甘くないので料理の邪魔をせず、お刺身などの繊細な料理からこってりした揚げ物まで幅広く合うと思います。

それに、これなら翌日の仕事が気になったり、夕食後の家事が残っているので“夕食時に飲みたいけど酔いたくない”という時にいいですね!」(中村さん)

↑「発酵蒸留サワー」のアルコール度数3%というやさしさも、「私にはぴったり!」と中村さん

 

ちなみに、「やみつきみょうが肉巻き」は、みょうが以外にアスパラガス、ヤングコーン、ピーマン、なすなどを具材にしてバリエ―ションを増やしてもOK。こちらは「肉巻きパーティー」というレシピで『せんべろnetの酔っても作れる宅飲みおつまみ』に載っているので、ぜひ参考に。

 

アイテムを活用してワンランクアップの家飲みへ

最後は、家飲みがより充実する調味料やグッズを、ひろみんさんの解説とともに紹介します。まずは調味料や食材について。

 

「調味料は、ポン酢、スパイスソルト、粒生こしょう、昆布のダシ醤油がオススメです。特に、昆布のダシ醤油はどんなものにも合う万能な調味料。オイルも、ごま油とオリーブオイル、ラー油を常備しておくとなにかと便利です。それと、チーズ、大葉、かつお節を常備しておくとアレンジに重宝しますよ」(ひろみんさん)

 

そして、ひろみんさんが家飲みグッズとして愛用しているのが保冷缶ホルダー。

↑保冷缶ホルダー

 

「缶チューハイや缶ビールをホルダーに入れるだけで、冷たさが長持ちする優れモノ。家飲みはもちろん、BBQなどの外飲みでも大活躍してくれます」(ひろみんさん)

 

甲類焼酎やウイスキーなどの4リットルペットボトルに装着するワンプッシュ定量ディスペンサー。4リットルペットボトルはそのままでは重いため、こぼしてしまったり勢いよく注いでしまったりする問題をスマートに解決してくれます。

↑ワンプッシュ定量ディスペンサー

 

「押すだけで適量を注げるのでノンストレス! 日々の晩酌が超快適に。慣れればワンプッシュだったり、半分や2プッシュだったり、好みの分量がわかるようになりますよ」(ひろみんさん)

 

3つめは薫製シート。スモークフレーバーを浸透させた特殊シートで食材を包むだけで、煙を出さずとも薫製できる技アリのグッズです。

↑薫製シート

 

「チップを焚くスモークは、火加減が難しかったり、チーズを溶かしてしまったり、準備や後片付けが大変だったりと、何かと手間がかかります。でもこのシートなら巻いて冷蔵庫で寝かせるだけと簡単。私はお刺身やチーズ、スナックなどをよく薫製しています」
(ひろみんさん)

 

保冷缶ホルダーやワンプッシュ定量ディスペンサーは、一度買ってしまえば何回も使えます。そこまで高価でもないので、気になる人はぜひ手に入れてみてください!

 

~あると便利な家飲みお助けアイテム~

・調味料は、ポン酢、スパイスソルト、粒生こしょう、昆布のダシ醤油がオススメ

・オイル系は、ごま油、ラー油、オリーブオイルが使いやすい

・食材は、チーズ、大葉、かつお節を常備しておくとアレンジに重宝する

・保冷缶ホルダーやワンプッシュ定量ディスペンサーなどは、家飲みに便利

・食材を包んでおくだけで薫製になる「薫製シート」はあると重宝する

 

ひろみんさんが今回教えてくれたレシピの数々。これらの多くは、日ごろ飲み歩く絶品酒場がヒントになっており、中村さんもあらためて酒場へ行きたいと思ったのでした。次回はまた街へ繰り出し、外飲みの楽しみ方を学んでいきます。

 

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・タカラ「発酵蒸留サワー」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/hakkoujoryu/

 

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撮影/我妻慶一

「居酒屋」の歴史と大衆酒の変遷を深掘りする噺

提供:宝酒造株式会社

 

酒飲みを魅了してやまない「居酒屋」はいつ生まれ、どのように親しまれてきたのでしょうか。今回は『居酒屋の戦後史』(祥伝社新書・刊)の著者で、趣味と研究を兼ねて居酒屋巡りをフィールドワークとする早稲田大学人間科学学術院の橋本健二教授を講師に、大衆酒場にまつわる著書を数多く上梓している藤原法仁(のりひと)さんと浜田信郎(しんろう)さんとで鼎談。

 

3人は『酒噺』でもおなじみの倉嶋紀和子さんが創刊編集長を務める雑誌『古典酒場』で「居酒屋通ブログ三人衆よもやま話」の連載をしていた仲。十数年ぶりに一堂に会した3人が、お酒を片手に居酒屋の歴史と大衆に愛されてきた酒の変遷について語り合います。

●橋本健二(左)/早稲田大学人間科学学術院教授。専門は理論社会学および階級・階層論。主な著書に『居酒屋の戦後史』『居酒屋ほろ酔い考現学』(共に祥伝社)『階級社会』(講談社)『増補新版「格差」の戦後史』(河出書房新社)などがある。ブログは「橋本健二の居酒屋考現学
●浜田信郎(中央)/ブログ「居酒屋礼賛」の主宰。『酒場百選』(筑摩書房)『ひとり呑み』(WAVE出版)など、大衆酒場に関する著作を数多く上梓している。
●藤原法仁(右)/大衆酒場の聖地・葛飾区立石生まれ。居酒屋探訪をライフワークとし、浜田さんらとの共著に『東京居酒屋名店三昧』『東京「駅近」居酒屋名店探訪』(共に東京書籍)がある。「酎ハイ街道」の名付け親であり、「立ち飲みの日」制定の中心人物。

 

 

大衆居酒屋は江戸時代に発展した

いつ居酒屋が誕生したのかについて詳しいことはわかっていません。『続日本紀(しょくにほんぎ)』には、761(天平宝字5)年に平城京(現在の奈良県)の酒肆(しゅし)で起きた事件が記されています。これが、居酒屋について最古の記録ということになります。

 

酒肆とは酒を売る、飲ませる店のことであり、橋本教授は角打ち(酒屋の一角で飲むこと、または飲める酒屋のことなどを指す)のような店だったのではないかと推察します。つまり、奈良時代には酒場が存在していたということ。

 

ただ大衆文化として居酒屋が根付いたのは、もっと中世~近世になってからだと考えられています。1603(慶長8)年に江戸幕府が開かれ、町づくりのために全国から独身男性を中心に労働者が集まってきました。彼らの食事は外食が中心。仕事終わりには、いまのようにお酒を飲んで活力を養ったり、コミュニケーションを深めたりしていました。

 

お店の業態は角打ちだったり、江戸の四大名物食といわれる寿司、天ぷら、そば、うなぎの各店だったりもしますが、特に江戸っ子から重宝された飲める店が「煮売り酒屋(にうりざかや)」です。

 

「煮売り屋」とは、ご飯とともに魚や野菜の煮物を提供する業態のこと。やがて煮物をつまみに酒を提供する「煮売り酒屋」へ進化するケースが増加。角打ちをルーツとする居酒屋との区別があいまいになるとともに、現在の居酒屋へと進化していきました。そして江戸時代後期には、こうした飲食店が江戸には1800軒以上もあったといわれています。

↑江戸時代の煮売り酒屋の風景(『鶏声粟鳴子』より)。出典:国立国会図書館デジタルコレクション

 

明治時代になると、文明開化とともに日本人の飲食シーンにも変化がありました。料理でいえば肉食が解禁され、外食チェーンの先駆けといわれる牛鍋屋が誕生するなど、和洋折衷料理(洋食の原型)が徐々に一般化。お酒でも、ビールやワインなどが飲まれるようになり多様化が進んでいきます。

 

とはいえ、当時は舶来の料理やお酒はまだまだ高嶺の花でした。そんな居酒屋業態に大変革が起きたのは昭和の時代になってから。要因は太平洋戦争です。ここからは、橋本教授を中心に、藤原さんと浜田さんとで語ってもらいましょう。

 

居酒屋は戦後に大変革。闇市起源の横丁は3つに分かれる

藤原 私も下町の大衆酒場とか炭酸水とかいろいろ研究してるんですけど、あらためて今日はいろいろ教えてください!

 

浜田 先生とは長い付き合いですけど、しっかり話を聞く機会は珍しいですかね。楽しみです!

 

橋本 こちらこそよろしくお願いします。 居酒屋の転換点といえば、やはり終戦と闇市です。戦時中には1944(昭和19)年に贅沢禁止ということで、高級業態はもちろん、自営の飲食店は大幅に減少していきました。庶民的なおでん屋や居酒屋などは営業を認められていましたが、物資不足で実質は開店休業状態だったようです。

 

浜田 ただ、その代替として公営の“国民酒場”が開業したと聞きます。横浜にはいまでも、独自の“市民酒場”(※)が残っていますし。

※昭和初期に生まれた、横浜独自の大衆酒場の形態

 

橋本 終戦間際の1945(昭和20)年7月の新聞には、国民酒場に大行列ができている写真とともに記事が載っています。

 

浜田 そして、やがて終戦。都市部の駅前を中心に、焼け野原には闇市が誕生していきました。

 

橋本 そうですね。例外もありますけど、闇市をルーツとする横丁酒場は多いです。

 

藤原 この前、この『酒噺』で倉嶋さんが深掘りした、新宿の「思い出横丁」とか「ゴールデン街」とか。ほかには「西荻窪(東京都杉並区)」や、上野の「アメ横」。東京以外ですと、横浜の「野毛」などがありますね。

 

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橋本 なかでも私は3タイプに分類できると考えています。まずひとつは、当時の土地にそのまま残っているもの。「思い出横丁」や吉祥寺(東京都武蔵野市)の「ハモニカ横丁」ですね。ふたつめが移転させられたもの。これは「ゴールデン街」や池袋(東京都豊島区)の「美久仁小路」、三軒茶屋(東京都世田谷区)の「三角地帯」などです。

 

浜田 なるほど。そしてもうひとつは、闇市がビルや地下などに建て替えられたケースですね。新橋(東京都港区)の「駅前ビル」や、「ニュー新橋ビル」、荻窪の「タウンセブン」などでしょうか。

 

藤原 大井町(東京都品川区)や赤羽(東京都北区)にある飲み屋街も、闇市から建て替えられたパターンですよね。

↑大井町駅前の「東小路飲食街」(写真提供:PIXTA)

 

橋本 ちなみに、闇市には日用品や、農産物に魚介類、怪しげな加工食品などを扱う店などもありましたが、都心の新橋、渋谷、池袋などでは多くが飲み屋でした。また1947年以降、経済復興が始まって物資の流通が回復すると、一般の商店が営業を再開したため、闇市は一般的な商店街としての役割を終え、飲食街に特化していくようになります。これは1947(昭和22)年に、食糧事情のひっ迫を受けて約2年間発令された「飲食営業緊急措置令」が関係しているといえるでしょう。禁止されたがゆえに、裏口となる闇市では盛んになったという構図です。

 

藤原 あと、闇市をルーツとする酒場を語るうえで欠かせない業態に、もつ焼き屋がありますよね。

 

浜田 特に多い酒場街が、「思い出横丁」。戦後しばらく統制品だった正肉類は入手困難だったので、統制外だった豚のもつを串に刺し、“やきとり”と称して売り出したというエピソードも有名です。

 

橋本 そういった“ジェネリック焼き鳥”、いわゆるもつ焼きの店は、戦前からあったそうなんです。ただし場所は、労働者が多い下町や、繁華街の屋台。いまのように、駅前に“やきとり”をメインとした居酒屋が軒を連ねるようになった背景には、戦後の闇市抜きには語れないといえるでしょう。

 

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チェーン店の台頭と洋風化がさらなる多様化を進めた

↑藤原法仁さん

 

藤原 その後の居酒屋における大きなムーブメントは、チェーン店の台頭になりますかね。

 

橋本 有名な居酒屋御三家は、「養老乃瀧」(1956/昭和31年に1号店)、「村さ来」(1973/昭和48年創業)、「つぼ八」(1973/昭和48年創業)。ただ、ビアホールを含めた居酒屋チェーンをビジネスモデルとして確立した立役者の「ニュートーキョー」(1937/昭和12年創業)や、セントラルキッチンの全面導入や洋風居酒屋の先駆けとしては「天狗」(1969/昭和44年創業)も偉大です。「天狗」が洋風酒場に取り組んだ背景には、創業者のヨーロッパ視察があったとか。時代の先見性があったんでしょうね。

 

藤原 居酒屋の洋風化には、チェーン店の存在が大きいですよね。お酒でも、「村さ来」は多彩なシロップを使った、カクテルのような甘めのチューハイ(酎ハイ)のバリエーション展開が有名ですし。

 

浜田 洋風居酒屋の功績は、女性が来店しやすくなったことにあると思います。1982(昭和57)年には、デュエットソングの名曲『居酒屋』がリリースされていますよね。

 

橋本 懐かしいですね。やがてバブル終焉とともに御三家は受難の時代を迎えますが、平成以降の1990年代からは居酒屋新御三家の「コロワイド」(1977/昭和52年に「甘太郎」を開業)、「モンテローザ」(1983/昭和58年創業。「白木屋」など)、「ワタミ」(1992/平成4年に1号店。「和民」など)が躍進します。

↑橋本健二教授

 

浜田 「モンテローザ」と「ワタミ」のルーツは「つぼ八」ですから、後進に与えた影響は計り知れないです。

 

藤原 その後はインターネットの登場などもあったと思いますけど、居酒屋チェーンのトレンドはサイクルが早くなり、多様化している印象があります。1990年代後半からは個室居酒屋が増え、2000年代に入ると価格の均一業態も一世を風靡します。なかでも大ブレイクしたのが「鳥貴族」(1985/昭和60年創業)ですね。2005年には東京進出を果たしました。

 

浜田 2000年代後半からは幅広くメニューをそろえる総合居酒屋に代わって、ひとつの素材や料理に特化した専門業態の居酒屋も増えていったと思います。代表的なチェーンは「ダイヤモンドダイニング(DDグループ)」(2001/平成13年に飲食店を開業。「わらやき屋」など)や「串カツ田中」(2008/平成20年1号店)でしょう。

 

橋本 いまに続く大衆酒場ブームも2000年代以降ですね。こちらもやはり、インターネットによってお店の情報が開示されたことが大きいかと。それこそ、藤原さんや浜田さんの功績が大きいと思います。

 

藤原 うれしいです。でも、赤羽の名店「いこい」がルーツである立ち飲みチェーン「晩杯屋」(2009/平成21年1号店)や、ネオ大衆酒場の旗手「ビートル」(前身となる「お値段以上の大衆酒場 大鶴見食堂」が2013年開業)が誕生するなど、立ち飲みや大衆酒場にもチェーン店が出てくるとは思いませんでした。

 

橋本 一方で、1975(昭和50)年ごろから地酒ブームが起き、全国の日本酒とそれに合うアテを揃える“名酒居酒屋”が支持されてきたことも見逃せません。こちらは伝統的な様式を貫くオーセンティック居酒屋とでもいえるでしょう。

 

時代と地域による客層の変化

浜田 それぞれの時代で居酒屋の客層はどのように変化してきたんでしょうか?

↑浜田信郎さん

 

橋本 まず戦前からたどると、前述した“ジェネリック焼き鳥”、つまりもつ焼きの居酒屋は下町が中心で、労働者階級のお店でした。一方、中間層以上の人はビアホールや料理店、そして居酒屋などで飲んでいたと思います。有名な神田の「みますや」の創業は1905年、惜しまれつつ閉店した銀座の「樽平」の創業は1931年でした。

 

浜田 業態にも格差が反映されていたということですね。それが戦後になって変わったと。

 

橋本 はい。街に出てもお酒はないし、飲める店もない。そんな状況で出てきたのが闇市です。でもお酒好きは飲みたいから、貧富の差は関係なくここに集うわけですよ。なので私は闇市によって、飲み手の格差が関係ない居酒屋という業態も生まれたと考えています。

 

藤原 高度経済成長を迎えると、中間層も増えていきましたしね。

 

橋本 そうですね。一部のホワイトカラーはバーに行くなど選択肢が増えるのですが、だからといって居酒屋に行かなくなったとは考えにくいです。その後、居酒屋チェーンの台頭によって女性も足を運ぶようになり、やがて成人学生も利用する時代になると。

 

浜田 格差の話がありましたけど、東京の居酒屋のなかでも、下町と山の手でお店の地域差って感じますか?

 

橋本 ありますね。もつ焼き中心の居酒屋は下町の文化だし、山の手の居酒屋は刺身や天ぷらなど正統派の日本料理を、小盛りにして出すのが普通です。しかし下町の文化は、山の手でも受け入れられています。例えば下町のもつ焼き酒場の代表格である、立石の「宇ち多゛」みたいな店が山の手にできると、すごく人気になりますよね。

 

藤原 なるほど、尾山台(東京都世田谷区)の「もつ焼 たいじ」とか。

 

橋本 一方で、自由が丘(東京都目黒区)の「金田」や代々木上原(東京都渋谷区)の「笹吟」などは山の手を代表する名居酒屋ですけど、下町にはああいった洒脱な居酒屋は少ないと思います。客単価も高いですし、そこは少なからず各エリアの地価も関係してきますよね。

 

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戦後のチューハイなど各酒はこう飲まれてきた!

橋本 居酒屋の歴史を語るうえで、もうひとつの重要な側面はお酒の変遷です。闇市時代からたどると、戦時下の配給が継続されて日本酒やビールはありましたが、物資不足で希少品でした。

 

浜田 闇市には配給酒の転売品や米軍からの横流しもあったそうですが、当然高嶺の花ですよね。

 

橋本 そこで主流となったのが、「バクダン」「カストリ」と呼ばれる焼酎を模倣した密造酒です。「バクダン」は燃料用のアルコールを水で薄めた違法な粗悪品で、飲んで命を落とした人もいたそうです。

 

藤原 特にバクダンには、メチルアルコールを薄めて混ぜたものがあったという話も聞きます。

 

橋本 一方の「カストリ」は、穀物や芋類などを発酵させた醪(もろみ)を蒸留したもの。酒粕由来の「粕取り焼酎」とは違いますね。でも「カストリ」は焼酎のような酒ですから、中毒の心配はありませんこれらの粗悪品が横行したため、焼酎のイメージは低下しました。

 

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浜田 徐々にビールも市民権を得ていくんですよね。

 

橋本 家庭用のビールに配給制度が導入されたのは、戦前の1940(昭和15)年。この制度によって、中間層以上の嗜好品だったビールが全国の一般層に普及します。また、日本酒の主原料である米は食用に最優先されましたが、ビールの主原料である大麦は優先度合いが比較的低かった。そんな背景もあって、ビールが普及拡大する素地が広がっていったのです。

 

藤原 そして、特に下町大衆酒場の酒といえば、焼酎ハイボール(酎ハイ)は外せません。諸説ありますが、墨田区曳舟の「三祐酒場」の当時の店主が、1951(昭和26)年にアメリカ進駐軍の駐屯地で飲んだ「ウイスキーハイボール」の味に感銘を受け、焼酎で再現を試みたのが焼酎ハイボール(酎ハイ=チューハイ)誕生の有力な説です。

↑現在も「三祐酒場 八広店(墨田区)」で人気の「元祖焼酎ハイボール」

 

橋本 さすがにこの辺の話は、藤原さんのほうが詳しいですよね。特に東京の下町で愛されたのが、クリアな味わいの甲類焼酎。これはフランスで開発されたアロスパス式連続蒸留機によって、ネガティブなにおいを抑えたアルコールを精製できるようになったからです。

 

藤原 ちなみに、本格焼酎は1975(昭和50)年ごろにお湯割りブームで全国的にも広まるんですけどね。その後、今度は1977年に宝焼酎「純」が発売され、ピュアで飲み方に多様性のある甲類焼酎が新しいお酒として見直され大ヒットします。そして麦焼酎ブームを経て、1980年代のチューハイブームへ。チューハイを全国区にしたのが1980年代以降のチェーン居酒屋と、1984(昭和59)年に発売された日本初の缶入りチューハイ「タカラcanチューハイ」ですよね。

↑11種類の樽貯蔵熟成酒を13%の黄金比率でブレンドした、宝酒造「純」

 

浜田 私は愛媛生まれで大学時代は九州の福岡で過ごしたのですが、初めてチューハイに出会ったのは就職した上京後。確かに1980年代でしたね。当時の若者達にとってはセンセーショナルなお酒でした。九州では本格焼酎をお湯割りか、水割りで飲むのが主流でしたから。

↑発売当時(1984/昭和59年)のタカラcanチューハイ

 

藤原 それからしばらく経って、大衆酒場の人気到来とともに、2006年には缶でタカラ「焼酎ハイボール」も発売されます。

 

 

日本酒とウイスキーの栄枯盛衰

 

橋本 日本の酒でいえば、日本酒は戦後しばらく原料の米が食用へ優先されたためで希少な酒でした。そのため当初市場に出回った多くは、アルコールに糖類などを加えた合成清酒といわれる代物。合成ではない清酒(日本酒)の生産量が戦前を超えたのは1961(昭和36)年のことで、他のカテゴリーよりも回復が非常に遅れたのです。

 

浜田 酒蔵の数も、戦争によって激減したと聞きます。

 

橋本 その通りです。戦前に7000を超えていた酒蔵数は、終戦時で3178にまで減少。次第に回復しますが、戦後ピークの1956(昭和31)年でも4135蔵です。

 

藤原 なんと、そんなに減ったんですか!

 

橋本 これは、ビールが台頭したからという理由もあるでしょう。お酒全体の出荷量は次第に伸び、特に日本酒とビールがけん引します。一方で、代用品だった合成清酒と焼酎は伸び悩みました。そして、1959(昭和34)年にはビールの出荷量が日本酒を追い抜き、以降ビールは日本で最も飲まれるお酒となっています。

 

藤原 日本酒も1970年代中ごろには地酒ブーム、1980年代には淡麗辛口や吟醸酒のブームがあったんですけどね。

 

浜田 いまや、稼働している酒蔵の数は1200を切ったと言われています。近年は若手の蔵元が継いだり再興したり、新たなSAKEカルチャーをつくったり、高級路線でブランディングしたり、海外進出したりしていますが、応援したいですね。

 

橋本 そうですね。いま、受難を経て世界的に人気となったお酒にはジャパニーズウイスキーがありますが、ウイスキーもなかなか波乱万丈でした。

 

藤原 ジャパニーズウイスキーは2023年で100周年を迎えたんですよね。発売当時はすごく高かったと聞いています。

 

橋本 日本初の本格ウイスキー、サントリー「白札」の発売は1929(昭和4)年。当時の記録でも、お米10kgが2円30銭の時代に1本が4円50銭だったそうです。

 

浜田 お米が貴重だった当時でも、20kgぶんとほぼ一緒の価格とは。

 

橋本 高すぎたのもあって、売れなかったらしいんですよ。そんな反省から「角瓶」「トリス」など安価なブランドが発売され、1950(昭和25)年には50円の「トリス」ハイボールが登場し、生ビールが1杯135円の時代に爆発的にヒットしたそうです。

 

藤原 一方で、下町ではウイスキーハイボールではなく、焼酎ハイボールの人気が根強かったと聞きます。

 

橋本 それは、価格とアルコール量の問題だと思います。チューハイ(焼酎ハイボール)は当時30~50円と安く、アルコール量はウイスキーハイボールの2倍以上入っていました。そんなウイスキーですが、飲み方としては1970年代に入ると水割りに主役の座を奪われます。理由は、水は炭酸水よりも安価であり、家庭でも簡単に濃度を調整できるから。

 

藤原 1987年にリリースされたデュエット名曲『男と女のラブゲーム』でも、水割りの歌詞が登場します。

 

橋本 ウイスキーは普及とともに大衆化が進み、ビールや日本酒が大幅に値上げする一方でほとんど値上げはせず、相対価格が下がったんです。1975(昭和50)年での純アルコールあたりの価格では、なんと一番安いのがウイスキーでした。こうした背景もあって、どんどん伸長していきました。

 

浜田 1971(昭和46)年にはウイスキーの輸入自由化が始まり、バーボンやスコッチなどの舶来ウイスキーのブームも到来しますよね。

 

橋本 そう。ウイスキーは経済成長とともに右肩上がりを続けていきました。しかし1983(昭和58)年にピークを迎えて以降、価格の引き上げや酒税の増税などが重なり、次第にその勢いを失っていきます。やがて2007(平成19)年には、販売量ベースで最盛期の6分の1まで減少。しかし、翌年にはウイスキーハイボールブームが到来してV字回復していきます。

 

浜田 2014(平成26)年には朝ドラ(NHK連続テレビ小説)「マッサン」の影響もあり、近年ではジャパニーズウイスキーを筆頭に市場が盛り上がっていますよね。

 

分断されがちな社会をつなぐ存在が居酒屋だ

 

橋本 2025年は昭和100年であり、戦後80年を迎えます。飲み屋も嗜み方も時代に合わせて変わっていくなか、居酒屋やお酒の飲み方はどうなっていくと思いますか?

 

藤原 このままだと個人経営の居酒屋は衰退してしまうと思います。だから、この素晴らしい文化を未来にしっかり継承していくことが大切かなと。

 

橋本 そうですよね。チェーン店でも、もつ焼きやもつ煮込み、ホッピーなどを出すようになっていますよね。それは、戦後大衆酒場の文化が根強く愛されている証拠だと思うんです。だから気軽に行けるお店からでも、若い人には居酒屋の魅力を知ってほしいと思いますね。

 

浜田 先生の使命は大きいと思いますよ。

 

橋本 はい。私の生徒はそもそも酒好きが多いですけど、彼らを介して広がっていけばいいなと思います。

 

藤原 社会はどうあるべきなんですかね。

 

橋本 格差はあまり大きくならないほうがいいですね。もちろん、業態などによって大衆店や高級店とで分かれますけど、分断されがちな社会をつないでくれる存在が居酒屋だとも思うんです。だから、居酒屋の存在意義はきわめて大きいと。

 

藤原 ちなみに、先生の理想の居酒屋ってどんなお店ですか?

 

橋本 もつ焼きともつ煮込みに加えて、刺身もおいしい。そんな居酒屋が好きです。藤原さんは?

 

藤原 私は、古き良き居酒屋文化を継承してくれるのがネオ大衆酒場と呼ばれるお店だと思っていて、すごく期待しています。でも個人的に好きなのは、いまの気分だとどぶ漬けがあるカウンター酒場。東十条(東京都北区)の「よりみち」とか、渋谷の「酒呑気まるこ」とか最高ですね。浜田さんはどう?

 

浜田 例えば、温泉とかの湯舟のように、その酒場の雰囲気にどっぷりつかれる居酒屋かな。常連さんを中心にいい雰囲気ができあがっていて、そこに自然と一体化できるお店には癒されますね。そういう居酒屋を、これからも礼賛していきたいです!

 

橋本 浜田さんらしいコメントが出ましたね。今日は、ふだん飲み屋ではしない話をおふたりとできてよかったです。また集まりましょう!

 

藤原・浜田 ありがとうございました!

 

 

撮影/我妻慶一

 

<取材協力>

居酒屋 関所

住所:東京都台東区根岸1-7-3
営業時間:16:30~23:30
定休日:日曜

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝酒造「純」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

・タカラcanチューハイ
https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/regular/

【せんべろnet監修】“ひとり飲み”初心者が「せんべろセット」を堪能する噺

提供:宝酒造株式会社

 

「酒噺:東京・大衆酒場の名店シリーズ」で一連の酒場知識を習得したお酒好きタレント・中村優さん。実践編に入って、女性一人(初心者)でも出来る「酒場」の楽しみ方を「せんべろnet」管理人のひろみんさんに教えてもらいながら体験していく第6回目。今回は東京・上野の「かっちゃん」で「せんべろセット」に挑戦します。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

「せんべろセット」とは?

 

仕事が早く終わり、軽く飲もうと街へ繰り出した中村さん。飲み屋の名店も数多い上野・アメ横(アメヤ横丁)エリアを歩いていると、「せんべろセット」の文字が目に飛び込んできました。「せんべろセット」とは、1000円程度の決まった料金で、お酒数杯とおつまみ数品を楽しめるお得なセットメニューのこと。

 

気になった中村さんは「ひとり飲み」の師匠でもある「せんべろnet」のひろみんさんに、LINEでお店と「せんべろセット」について聞いてみることに。

 

ひろみんさんからの情報を得た中村さん。いざ「かっちゃん」に入店です!

 

お店の1階はカウンターだけの立ち飲みスタイル。カウンターの奥に進んだ中村さんはさっそく「せんべろセット」を注文。「かっちゃん」はキャッシュオン方式なので、1200円を支払うとマスに入った4つのサイコロが渡されました。

↑左は「かっちゃん」店主の小松活也さん

 

 

サイコロで交換できるお品書きのリストを見ると、種類が豊富で半数以上がサイコロ1個ぶん。サクッと飲もうと思った中村さんは、奮発して3個ぶんの「スパークリング清酒 澪150ml」をチョイス。料理は「おまかせ天ぷら盛合わせ」をオーダーしました。

 

近年、「せんべろセット」は都市圏や沖縄などさまざまな地域で見られるようになりました。提供しているのは立ち飲みや大衆酒場をはじめ、ホルモン焼き店や鉄板焼き店、イタリアンやカフェなど実施するお店のジャンルも多彩です。

 

価格帯は1000円~1200円程が多く、セット内容はドリンク2杯+おつまみ1品からドリンク最大7杯+おつまみ2品まで、お店によって個性があり、多種多様です。

 

システムは「かっちゃん」と同様にサイコロ(点棒)を購入し、好きなお酒・おつまみと引き換えられることもあれば、決まったセットを提供されている場合もあります。

 

なお「かっちゃん」の「せんべろセット」は終日楽しめますが、お店によっては「ハッピーアワー(※)」のように平日夕方などお客さんが少ない時間帯にのみ提供されていることも多いので、事前に確認しておきましょう。

※飲食店がお酒類の割引を行う時間帯

~「せんべろセット」とは?~

・1000円程度の決まった料金で楽しめるドリンク数杯+おつまみ数品のお得なセットメニュ—

・近年、せんべろセットは都市圏や沖縄など様々な地域で見られるようになった

・提供しているのは立ち飲みや大衆酒場をはじめ、ホルモン焼き店や鉄板焼き店、イタリアン、カフェなどお店のジャンルも多彩

・セット内容はお店によって個性があり、多種多様

・サイコロや点棒を購入し、好きなドリンクやおつまみと引き換えられるシステムを採用しているお店も

・ハッピーアワーのように平日の夕方限定などお客さんが少ない時間帯にのみ提供されている場合も多い

 

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最大4杯のお酒と職人仕立ての天盛りが1200円!

さっそく注文した「スパークリング清酒 澪150ml」が到着し、「せんべろセット」のひとり飲みがスタート! 初めてでキョロキョロしている中村さんに、店主の小松さんが声をかけてくれました。

↑「スパークリング清酒 澪150ml」はサイコロ3個、もしくは単品650円

 

小松 どうぞ、「澪」です!

 

中村 ありがとうございます! では、いただいちゃいまーす……うん!  私、「澪」が大好きなんです。香りからしてフルーティーで、シュワッとした飲み口が気持ちいい!

 

小松 素敵な飲みっぷりです! 今日はお仕事帰りですか?

 

中村 そうなんです。「せんべろセット」に惹かれて来ました! お店はいつからやってるんですか?

 

小松 ここは2010年オープンです。本店はJR品川駅の「常盤軒(ときわけん)」という立ち食いそば屋で、山手線と横須賀線のホームに計2店出してます。

 

中村 えっ、そのお店も気になります! でもそれなら、おそばの天ぷらのノウハウをこちらに生かしたってことですか?

 

小松 そうですね。あと、お酒に関しては同じ品川駅構内のエキュート品川で、「品川 ひおき」という居酒屋もやってるんです。僕はもともとそこの店長で、上野にはここの立ち上げの際に来ました。

 

中村 「かっちゃん」というのは店主さんのお名前ですか?

 

小松 そうですそうです(笑)。小松活也といいまして。

 

中村 やっぱり! ちなみに、開業当初から「せんべろセット」をやられてたんですか?

 

小松 「せんべろセット」は2018年ごろからですね。業態はずっと天ぷら酒場で、「せんべろセット」は1階の立ち飲みの限定です。

 

中村 さすがに種類も豊富だし、職人さんが揚げたてで提供してくれるので絶対おいしいですよね。

 

小松 もちろんです。ちょうどできましたのでどうぞ!

↑注文が入ってから職人さんが天ぷらをあげていく

 

中村 ありがとうございます。わっ、海老ものっててスゴい豪華!

 

小松 今日は海老、なす、かぼちゃ、れんこん、じゃがいも、にんじんの6種盛り。仕入れによって野菜の種類や品数が変わることはありますが、海老は必ず入りますね。

↑「おまかせ天ぷら盛合わせ」

 

中村 めっちゃお得じゃないですか! まずは手前のれんこんからいただきます……うん、サクサクしてて超おいしい!

 

小松 天つゆのほかに抹茶塩も用意してますが、「澪」なら天つゆのほうが合うかもしれませんね。

↑カウンターには抹茶塩と七味が用意されている

 

中村 確かに! お米の甘みが豊かな「澪」は、ほんのり甘めの天つゆのほうがいいかも。あと、さっぱりとした泡のキレは揚げ物と抜群に合います!

 

小松 お酒にも合ってよかったです。2杯目はどうします? サイコロはあと1個ですかね。

 

中村 迷っちゃうほどたくさんありますよね。どうしよっかな……、では「ISAINA炭酸割り」をお願いします!

 

小松 ありがとうございます! 少々お待ちくださいねー。

 

ちなみに、「かっちゃん」の「せんべろセット」で飲めるお酒は30種類以上。オススメは「タカラリッチ」(360m)で、サイコロ4個または1000円。なんと、炭酸水と氷は無料です。松竹梅「豪快」(150ml)もサイコロ2個、または550円とこちらもオススメです。

↑「タカラリッチ360ml」。サイコロ4個または1000円。炭酸水と氷は無料

 

↑松竹梅 「豪快 」(150ml)。サイコロ2個、または550円

 

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「せんべろセット」のマナーとポイント

 

小松 お待たせしました!「ISAINA炭酸割り」です。どうぞ~。

 

↑「ISAINA炭酸割り」はサイコロ1個、もしくは単品400円

 

中村 こちらもさっぱりしてておいしい!

 

小松 「ISAINA(イサイナ)」は若い女性にも人気の芋焼酎ですね。炭酸割りが飲みやすいと評判です。

 

中村 はい! りんごのような果実の香りと、シャープな爽快感が炭酸水とマッチしています。それにどんなおつまみにも合う味ですね。ということで、おつまみの追加オーダーをさせてください! 紙に書きますね。

 

小松 ありがとうございます! そう、うちの追加オーダーは紙ナプキンへの記入をお願いしてるんです。

 

中村 では変わり種天ぷらの「大根たいたん」をお願いします。ネーミングが気になっちゃって。

 

小松 お目が高いですね。こちらは隠れた人気メニューで、おでんの大根を天ぷらにしてるんです。少々お待ちくださいね~。

↑「大根たいたん」250円。単品メニューのみ

 

中村 あっ、こういうビジュアルなんだ。上にのってるのはゆずこしょうかな。いただきまーす!

 

小松 味もちょっと変わってないですか?

 

中村 だしが甘じょっぱい醤油べースなんですね。サクサクの衣と大根のジュワッとしたメリハリ。そこにゆずこしょうのピリ辛がいいアクセントになって、すごくおいしいです!

 

小松 よかった! おでんは、実はそばつゆベースのだしで炊いてるんです。「せんべろセット」の料理も、「おまかせ天ぷら盛り合わせ」ともうひとつは「おでんの盛り合わせ」で、2割ほどのお客様はおでんを選ばれますね。

 

中村 次は、おでんで「せんべろセット」楽しみたいです! では、最後のシメを。「ひとくちカレーライス」をお願いします!

 

小松 ありがとうございます! すぐ出ますので~。

↑「ひとくちカレーライス」(250円)。サイコロ1個でも交換可能

 

中村 シメにぴったりのサイズ感がうれしい! 味は割とスパイシーで、お酒に合う味わいのカレーですね。

 

小松 こちらは品川でも提供しているカレーで、あえてそばのだし感ではなくスパイシーさにこだわってるんです。

 

中村 品川のほうにも、こんど絶対行きますね!

 

最後に、ひろみんさんから聞いた「せんべろセット」を楽しむためのマナーやポイントを見ていきましょう。

 

1000円程度で気軽に楽しめる「せんべろセット」は、サクッと飲みたい時やスキマ時間などにおすすめ。平日夕方など「ハッピーアワー」のように開店直後の時間だけ提供するというお店も多いので、早い時間に飲む際にぴったりです。ただし時間制限を設けているお店もあり、その場合はだいたい60分程度とか。

 

また中には、別途お通しや席料がかかるお店もあるので、お得に楽しみたい場合には事前に確認しておくことをおすすめします。同時にキャッシュオンや支払いは現金のみというお店もあるので、千円札を用意しておきましょう。

 

そして、利用する側のマナーとして気を付けたいのが、長居は禁物ということ。セットのメニューを嗜んだ後、追加注文など飲み食いしない場合には、次のお客さんのために席を空けましょう。これは、一般的な立ち飲みや大衆酒場でも同様です。

↑「かっちゃん」の店内でも「せんべろセット」の注意書きが貼られている

 

~「せんべろセット」のマナーと楽しむポイント~

・時間制限を設けているお店もあり、その場合は大体が60分

・時間限定や別途お通し代がかかる場合もあるので予め確認しておくべし

・キャッシュオンや支払いは現金のみというお店もあるので、千円札を用意しておこう

・サービス価格で提供されていることがほとんどなので、長居するなら追加オーダーを

 

今回の訪問では「せんべろセット」が1200円、「大根たいたん」が250円、「ひとくちカレーライス」が250円。計1700円で有意義なひとり飲みを堪能できました。次回もまた別のテーマで、ひとり飲みの楽しみ方を追求します!

 

撮影/我妻慶一

 

<取材協力>

かっちゃん

住所:東京都台東区上野6-12-13
営業時間:11:00 – 21:45(L.O. 21:30)
定休日:なし

※価格はすべて税込みです

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・松竹梅 白壁蔵「澪」
https://shirakabegura-mio.jp/

・全量芋焼酎「ISAINA」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/isaina/

・松竹梅「豪快」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/gokair/

・宝焼酎「タカラリッチ」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takararich/

 

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【東京・沿線ぶらり酒】時代に翻弄された「新宿ゴールデン街」の歴史と文化に酔う噺

提供:宝酒造株式会社

 

街を結ぶ沿線には、その地ならではの名酒場と酒文化がある――。本企画では、首都圏沿線の路線ごとに、奥深いカルチャーを探っていきます。ナビゲーターは『古典酒場』の倉嶋紀和子編集長。各沿線に縁のあるゲストとともに、街と酒場の魅力を語り尽くします。

写真提供:PIXTA

 

JR中央線の第4回目は、前回に引き続き新宿。新宿駅は1日の平均乗降客数が世界一多いとギネス認定されている巨大ターミナルで、新宿区は大都市の東京で最も飲食店が多い(※)エリアでもあります。それだけに、酒場や飲み屋街の数もあまた。

※令和3年 総務省統計局・経済産業省「経済センサス-活動調査」より

 

今回は、前回の「新宿西口 思い出横丁(正式名称は新宿西口商店街。通称は思い出横丁)」と並ぶ酒場の聖地「新宿ゴールデン街(通称はゴールデン街)」が舞台。『盛り場で生きる 歓楽街の生存者たち』や『横丁の戦後史 東京五輪で消えゆく路地裏の記憶』などの著者であり、戦後から高度成長期の繁華街に詳しいフリート横田さんと、この街の今昔について語り合います。

倉嶋紀和子(右)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任
フリート横田(左)/1979年、東京生まれ茨城育ちの文筆家・路地徘徊家。出版社勤務を経て、タウン誌の編集長、街歩き系ムックや雑誌の企画・編集を多数経験。独立後は編集集団「フリート」の代表を務める。戦後~高度経済成長期の街並み、路地、酒場、古老の昔話を求め徘徊。昭和や酒場にまつわるコラムや連載記事などを雑誌、ウェブメディアなどに寄稿している。

 

 

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暗黒の昭和平成を乗り越えた“黄金色の花園”

今回もまずは街の成り立ちから解説。ゴールデン街の歴史を紐解いていきましょう。

 

ゴールデン街は住所でいえば歌舞伎町一丁目。ただし、ゴールデン街があるのはいわゆる歌舞伎町の中心街ではなく、東方の新宿区役所と花園神社に挟まれた約6500平方メートルのエリアにあります。

↑上空から見たゴールデン街。現在は約300もの飲食店が軒を連ねています(写真提供:PIXTA)

 

終戦直後の1945(昭和20)年8月20日。まだ焼け野原だった新宿駅の東側、現在の新宿通りの一部に戦後闇市の端緒とされる「新宿マーケット」が開かれます。同年12月にはその南側に「和田マーケット」が誕生。その後、中間地に野原組がマーケットを開きます。

 

闇市の一部は飲み屋街になるなど発展しますが、行政の都市計画にとっては目障りな存在に。1949(昭和24)年の8月には、連合国軍総司令部(GHQ)が都内公道上からの露店撤廃を指示し(露店整理事業)、東京都庁と警視庁は各店舗に対して翌年3月末までの退去を命じます。

 

しかし、建物をなくしたとしてもそこには商売人とその家族など、生活の拠り所とする人々がたくさんいました。そこで都は代替地のひとつとして、新宿区三光町(現在の歌舞伎町一丁目と新宿五丁目の一部)の一帯への移転をあっせん。こうして生まれた商店街が、のちに「新宿ゴールデン街」と呼ばれるようになります。

↑1974年ごろの新宿ゴールデン街(新宿区歴史博物館蔵)

 

なお、東口の闇市を追われた人々のほか、ここに集まってきたグループがもうひとつあります。それは、古くからの遊郭である新宿二丁目の赤線(政府が半ば公認していた風俗街)地域で露天商を営んでいた人々。彼らも移転命令により、行き場を失っていたのでした。

 

当時の三光町は開発がなかなか進まないススキ野原。人通りの少ないこの場所で、新天地の人々が生活のために始めた商売は、政府非公認の売春(青線)でした。表向きは飲食店として営業しながら、秘密裏に建物の3階で行為に及ぶケースが多かったといいます。ただし、こうした店舗も1958(昭和33)年の売春防止法施行によって消えていきます。

 

1960~70年代になると、文壇バーを中心に作家やジャーナリスト、編集者、映画関係者などが夜な夜な集う文化人の街として栄えました。常連の作家が芥川賞・直木賞を受賞したほか、花園神社を発信地とするアングラ演劇ブームなども影響し、この街が広く知られるようになります。

↑1974年ごろの新宿ゴールデン街(新宿区歴史博物館蔵)

 

しかし、1980年代を迎えバブル期になると、すでに一等地だったこの街でも地上げ騒動が勃発。法外なお金を積まれて出て行った店主も多く、空き家も目立ち始めました。そこで1986(昭和61)年に結成されたのが、有志による「新宿花園ゴールデン街を守ろう会」です。

 

「守ろう会」は弁護士を雇い、地上げ反対の署名運動を展開。餅つき大会や振る舞い酒イベントなどを路地で行って話題を作り、街の現状を発信しました。この取り組みには文化人が賛同してメディアにも取り上げられ、やがてバブル崩壊とともに地上げの動きも止まったのです。

 

1992(平成4)年に改正された新借地借家法により、大家が物件を貸すハードルが下がったことで、やる気にあふれた若い世代が集まり街は活性化していきました。ところが2007年、今度は地主の組合が大手ゼネコンと組んで再開発協議会を発足。ゴールデン街を含む靖国通り沿いのビルも一体的に開発し、高層ビルを建てる計画が進められていました。そこで再び「新宿花園ゴールデン街を守ろう会」は一丸となり、要望書を区に提出。開発の波を退けることに成功したのです。

↑ゴールデン街は、南側の「新宿ゴールデン街商店街」、北側の「新宿三光商店街」と組合がわかれており、対立するような関係でしたが、次第に融和が進み2020年には「新宿ゴールデン街」に統一されました

 

近年はグローバル化によりインバウンド客も多く訪れる観光スポットとなり、日本で最も“ゴールデン”な街に。お店の業態も多様化し、すっかり開かれた酒場通りとなったこの街は、これからも黄金色の光を放ち続けていくでしょう。

 

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色街とならざるを得なかったアナザーストーリー

倉嶋 来ましたねー、ゴールデン街!

 

横田 やっぱり独特ですよね。色っぽい昭和の残り香をいまだに感じさせるお店もあって。

 

倉嶋 今日のバー「十月」も、開業自体はそこまで昔じゃないですけど、昭和生まれの私にとってはすごくホッとする空間です。

 

横田 まずは乾杯しましょうか。ここはやはり、ゴールデンなお酒で!

 

倉嶋 宝焼酎「ゴールデン」! 最高ですね~。

 

二人 では、カンパーイ!

 

倉嶋 横田さんはゴールデン街についても、様々な生き字引の方々にお話を聞いてきたと思います。そのうえで、ここはどういう街なんでしょうか?

 

横田 大都会・新宿。ましてや歌舞伎町という、ある種“伏魔殿”のようなエリアの外れにあって、時代に翻弄され続けてきた街ですよね。

 

倉嶋 前回の思い出横丁もスゴい歴史がありますけど、成り立ちからして違いがありますもんね。

 

横田 どちらも戦後の焼け野原に誕生した闇市が始まりですが、ゴールデン街のルーツは思い出横丁とは駅の逆側。東側なんです。

 

倉嶋 いまよりもっと駅前にあったと聞きます。

 

横田 しかし戦災復興での区画整理で駅前一帯からの退去を強いられ、そこであてがわれた土地がこの場所です。

 

倉嶋 なるほど、戦後の浄化作戦ですか。

 

横田 でも西側は私鉄や地下鉄の施設が計画されており、戦前から駅前に広場ができていました。なので、闇市の整理は東側より10年近くあと。その間、思い出横丁の場所は各店主が組合を作って地主から土地を買い取っていたので開発を免れ、だから奇跡的に残ったんです。

 

倉嶋 前回のお話にもつながりますね。

 

横田 一方、東側のマーケットで営んでいた人々はこちらに来たものの、駅から遠くて人通りも少ないと。

 

倉嶋 いまみたいに、いろんなお店があちこちに広がっているわけじゃないですもんね。

 

横田 近くに都電は走ってたんですけどね。その名残が「四季の路」で。

 

倉嶋 あ、ゴールデン街入口の脇を通ってる遊歩道が跡地の。

↑四季の路(写真提供:PIXTA)

 

横田 もっとも、その路線は1948(昭和23)年に靖国通りから明治通りに左折するルートに軌道変更されてますし、結局この辺は殺風景だったと思いますけど。

 

倉嶋 だからこそ、普通の商売では成り立たないから、色街になっていったと。

 

横田 その背景にはもうひとつポイントがあって、それが新宿二丁目の遊郭周辺にあった露店商のグループです。

 

倉嶋 ゴールデン街が南北でわかれていたルーツですよね。二丁目の方々が南側に移り住んだとか。

 

横田 ええ。遊郭周辺の露天商は南側に「花園街」と称し、元々ノウハウがあった風俗営業をはじめたんです。ある程度は以前の常連客も付いていたでしょうし。一方で駅前露天商グループの多くは飲み屋でしたから、「三光町」と呼ばれる北側の一角に、おでん屋などを始めました。でも駅前とは勝手が違うので成り立たなかったと。

 

倉嶋 そこで南側のマネをしたんですね。

 

横田 あとは、北側の空いた物件を南側の店舗が買収した、みたいなケースもあったようですよ。ちなみに、南北で建物の設計が違うという話を聞いたことありません?

 

倉嶋 階数と、坪数のことですよね。話はもちろん、3階を見せてもらったこともあります!

 

横田 最初から青線商売を想定していた南側の「花園街」は、4.5坪の広さに3階建てのバラックを建て、こっそり3階で営業。北側「三光町」のほうは後から始めたので、3階部分は建て増しで広さも3.5坪という。

↑「十月」へと続く階段。ゴールデン街の店舗は、ほぼ同じ間取りとなっている

 

倉嶋 いまもこの設えって維持されてますよね。なんとも貴重です。

 

 

やがて文化人が夜な夜な集う密やかな盛り場へ

横田 でもやがて、青線営業は1958(昭和33)年の売春防止法施行によって廃業。こうした流れもあって大人の店というか、バーやスナックみたいな業態が増えていったんです。ぼったくりやゲイバーも多かったようですけど。

 

倉嶋 ゲイバーといえば、新宿二丁目とゴールデン街とでは成り立ちが違うんですか?

 

横田 変遷は似てます。でも二丁目にあった赤線の空き店舗は別業態の風俗になったり、連れ込み旅館になったりもして。それらと並行して徐々にゲイバーも増えていったんです。

 

倉嶋 二丁目の歴史にも詳しいとは、さすが! では、ゴールデン街に文壇バーが増えたのはなぜなんですか?

 

横田 もともと新宿には、戦後すぐにできた風月堂という伝説の名曲喫茶があり、ここは文化人が集まるサロンのような場所でした。また、文化の発信地として有名な紀伊國屋書店の本店があり、「紀伊國屋ビルディング」は1964(昭和39)年に開業します。

 

倉嶋 紀伊國屋書店のビルには劇場や飲食店もあって、多目的な書店の先駆けかもしれません。

 

横田 劇場といえば、花園神社の紅(あか)テントも有名ですね。アヴァンギャルドなアングラ演劇を象徴する移動劇場ですが、そのはじまりは1967(昭和42)年。こうした流れで、映画、演劇、音楽、文壇など、各業界の文化人が夜な夜な集まる場所として、ゴールデン街はうってつけだったんだと思います。

 

倉嶋 それら文化人の方々って、知的なのはもちろん、前衛的でサブカルチャーの匂いを感じさせますよね。その点でも、当時は近寄りがたかったゴールデン街がちょうどよかったとも思います。

 

横田 新宿三丁目駅周辺にも文化人に愛される老舗がありますけど、多くは店内が広めの居酒屋じゃないですか。この対比も面白いですよね。

 

倉嶋 確かに! 例えば「どん底」は1951(昭和26)年創業ですし、「鼎(かなえ)」は1972(昭和47)年創業。「どん底」の卒業生が1978(昭和53)年に開業した「池林房(ちりんぼう)」も有名ですけど、三丁目で食べたり飲んだりしたラストはゴールデン街でしっぽり、なんてハシゴもよくあったのかも。

 

ゴールデン街にまつわる“ボクらの時代”

横田 そういえば、倉嶋さんが初めてゴールデン街で飲んだのはいつごろですか?

 

倉嶋 私はかなり遅くて2007年です。『古典酒場』を創刊するということで、やはりゴールデン街は取り上げたくて。でも足を踏み入れたことがなかったので、当時会社にいたゴールデン街通の先輩にお願いして、一緒に3~4軒馴染みのお店を飲み歩かせてもらったのが最初です。

 

横田 そのときのお店って覚えてらっしゃいます?

 

倉嶋 「美沙」から飲み始めたのかな。御年92歳になられる女将さんがやってらっしゃって、そのあと老舗のお店を回らせてもらい楽しかったですね。

 

横田 そこから通うようになったんですね。

 

倉嶋 いえ、通うというほどは行かなかったんです。そのときのお店は先輩の城みたいなものなので、私は私で見つけようと。そのあと外波山文明(※)さんと親しくなり、たまに「クラクラ」には出入りさせていただくようになりました。3階を見せていただいたのも「クラクラ」です。

※外波山文明(とばやまぶんめい)。劇団「椿組」を主宰し、役者やプロデューサーとして活動するほか新宿ゴールデン街の「クラクラ」を経営し、新宿ゴールデン街商業組合の理事長も務めている

 

横田 僕も外波山さんには取材でもすごくお世話になりました。

 

倉嶋 横田さんはいつごろからゴールデン街に?

 

横田 僕は2005年前後ですね。友だちと「行ってみようぜ」って。最初は、去年閉店してしまった「シラムレン」という老舗です。アルバート・アイラーなどのフリージャズを爆音でかけたり、かと思いきや美空ひばりさんのジャズ曲を流してくれたり。

 

倉嶋 ゴールデン街の小さな空間で爆音のジャズ! いいですね~。

 

横田 それが朝までずっと続くんですよ。当時20代前半だったんですけど、「これがゴールデン街か!」ってカルチャーショックでしたね。あとは「FLAPPER」という、日替わりママさんの店にもよく行ってました。ここも前知識なしで、たまたま入ったお店です。

 

倉嶋 うらやましい! そこはどんな特徴なんですか?

 

横田 仲良かったママさんは辞めちゃったんですけど、昔堅気の濃厚なパッションを持ってる方でした。

 

倉嶋 いい出会いだな~。

 

横田 でも倉嶋さんも、最初にここに来たのは2000年代の中~後半じゃないですか。いまと結構違いましたよね?

 

倉嶋 ええ。若い方や外国人はほぼおらず、もっと静かでひっそりとした雰囲気だった記憶があります。

 

横田 ですよね。いまみたいに情報が出回ってないってのもありましたし、勇気が要りました。「こんな若輩者が行ってもいいのかな?」って。

 

倉嶋 確かに。私は当時30代前半でしたけど、「まだ早いかな」って思ってました。あの、どこか遠慮してしまう世界観は何だったんですかね?

 

横田 やっぱり、当時はまだまだ文壇バーのイメージが強かったからかなと思います。文化人が語るような高尚な作品論や、サブカルチャーの知識などがないとダメなんじゃないか、とか。

 

倉嶋 わかります。もし話題を振られたときに、返せなかったらどうしよう、みたいな怖さですよね。

 

横田 そうそう、メジャーな映画ばっかり観ている場合じゃないよなとか。それで人としての深さを量られているような印象を勝手に妄想して。でもそういうのって、思い出横丁とか下町にはないじゃないですか。

 

倉嶋 それぞれの良さがありますよね。ゴールデン街にたゆたう、昭和の文壇バー的な匂いは独自の魅力でもありますから。

 

横田 全然否定するものではないですけどね。

 

倉嶋 とはいえ、昭和の残り香が薄くなっているのも事実でしょう。この移り変わりに潮目ってあったんでしょうか?

 

横田 個人的に印象的だったのは2019年。ラグビーワールドカップの日本開催時ですね。欧米の方を中心にたくさんの外国人が遊びに来ていて、「ゴールデン街も変わったなぁ」って感じた記憶があります。

 

倉嶋 2019年はコロナ前ですけど、すでにインバウンドが盛り上がってましたからね。

 

横田 ただ、トラブルもあったみたいなんですよ。ハウスルールが理解できてなかったり、外で騒いじゃったり、吸っちゃいけない場所でタバコ吸ったり。でも、それだけ風通しがよくなったってことなんでしょうね。

 

倉嶋 そういえば、一部のメニューを貼り出したり、「foreigners(外国人)OK」と書いた看板を掲げたり、英語のホームページを作ったりするお店も増えましたよね。

 

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さっそく焼酎のボトルをキープ! “類は友を呼ぶ”バー「十月」

横田 このバー「十月」は、来年で20周年とか。

 

ママ はい、2005年の7月のオープンなんです。

 

倉嶋 店名の由来とは関係ないんですね。

 

ママ 由来は、私の誕生月なんです。ロシアの十月革命にもちなんでね。

↑ママのくぼたかずこさん

 

横田 オープンしたいきさつは、知り合いの紹介ですよね。もともとはお客さんとしてゴールデン街に来ていたんですか?

 

ママ 最初は、知り合いがゴールデン街で始めたお店に飲みに行ったのがきっかけです。私は会社勤めだったんだけど早期退職して。そんなある日、そこの常連さんから「うちの店を手伝ってほしい」ってお願いされてね。このお店はまた別のベテランの方からの紹介なんだけど、「ちょっとやってみようかな」って。そしたら20年近く経っちゃったの。

 

倉嶋 ママの人柄やセンスですよ! お店はギャラリーにもなってるし、やっぱり文化人の方もいらっしゃるんですか?

↑内装は引き継いだときのまま。昭和の歴史を感じる

 

ママ 一般の会社員さんもたくさんいらっしゃいますけど、映画監督に小説家や編集者、広告マンや大学教授もお見えになられますね。私、実は歌集(『とんとん月を抱いて帰ろう』)を出してるんですけど、装丁はその有名な広告マンの方が担当してくれました。

 

横田 ゴールデン街らしいエピソードですね。僕も、ここじゃなければ生まれなかったであろう出会いの話をたくさん聞いてきました。

 

倉嶋 「類は友を呼ぶ」ってやつですね。それこそ私も、今度あらためて類さん(吉田類さん)と一緒に来たいです!

 

横田 それはゴールデンコース決定ですね!

 

 

前回は思い出横丁、今回はゴールデン街と、新宿の二大飲み屋街について語り合った倉嶋さんとフリート横田さん。次回はまた別の沿線に舞台を移し、街と名酒場を深掘りします。お楽しみに!

 

 

撮影/鈴木謙介

 

<取材協力>

十月

住所:東京都新宿区歌舞伎町1-1-10 新宿ゴールデン街 G2通り
営業時間:17:00~23:00
定休日:水曜・日曜・祭日

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎「ゴールデン」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/golden/

 

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提供:宝酒造株式会社

 

街を結ぶ沿線には、その地ならではの名酒場と酒文化がある――。本企画では、首都圏沿線の路線ごとに、奥深いカルチャーを探っていきます。ナビゲーターは『古典酒場』の倉嶋紀和子編集長。各沿線に縁のあるゲストとともに、街と酒場の魅力を語り尽くします。

 

JR中央線の第3回目は新宿。新宿駅は1日の平均乗降客数が世界一多いとギネス認定されている巨大ターミナルで、新宿区は大都市の東京で最も飲食店が多い(※)エリアでもあります。それだけに、酒場や飲み屋街の数もあまた。そんな“眠らない街”の今昔を知るべく、今回は『盛り場で生きる 歓楽街の生存者たち』や『横丁の戦後史 東京五輪で消えゆく路地裏の記憶』などの著者であり、戦後から高度成長期の繁華街に詳しいフリート横田さんと対談。新宿駅から最も近い酒場通りである「新宿西口 思い出横丁」について語り尽くします。

※令和3年 総務省統計局・経済産業省「経済センサス-活動調査」より
●倉嶋紀和子(左)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任
●フリート横田(右)/1979年、東京生まれ茨城育ちの文筆家・路地徘徊家。出版社勤務を経て、タウン誌の編集長、街歩き系ムックや雑誌の企画・編集を多数経験。独立後は編集集団「フリート」の代表を務める。戦後~高度経済成長期の街並み、路地、酒場、古老の昔話を求め徘徊。昭和や酒場にまつわるコラムや連載記事などを雑誌、ウェブメディアなどに寄稿している。

 

 

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再開発を逃れて輝き続ける聖地「思い出横丁」

対談の前に、まずは「思い出横丁」の成り立ちについて解説していきましょう。

 

新宿駅西口を出て、駅前の通りを大久保方面へ1~2分歩いた場所にあるのが「新宿西口 思い出横丁(正式名称は新宿西口商店街。通称は思い出横丁)」。そのルーツは、終戦直後までさかのぼります。もともと、この近辺には日用雑貨を売る露天商のほか、おでんや天ぷら、ふかし芋、佃煮などの屋台が30~40軒並んでいましたが、戦中の空襲で焼け野原に。

 

やがて戦争は終わり、迎えた1946(昭和21)年ごろ。依然として続く統制経済とガレキのなかに出現した駅前の闇市が、戸板一枚で区切ったバラック小屋の露店商「安田組マーケット(「ラッキーストリート」とも)」。これが思い出横丁の前身です。

↑1971年ごろの思い出横丁(新宿区歴史博物館蔵)

 

現在は60を数える飲食店が軒を連ねていますが、その半数以上が串焼き業態であることがひとつの特徴。その背景は、統制品に対する取り締まりが厳しかったため、統制外だった牛や豚の内蔵(もつ)などを食材にしていたことが関係しています。

 

昭和30年代に入ると、“やきとり”という名のもつ焼きをアテに焼酎を楽しみつつ、接客はホステスがサービスする「やきとりキャバレー」なる業態もあったとか。

 

そして1959(昭和34)年ごろになると、営団地下鉄(帝都高速度交通営団。現在の東京メトロ)丸ノ内線の延長計画や、駅前の再開発による大型ビルの建設などで、当時甲州街道から青梅街道まで連なっていた約300軒の店舗は、不法占拠の対象となり立ち退くことに。

 

ただ、区画整理が本格化する前の1953(昭和28)年ごろ、当時の横丁で営業していた店主たちは結束して組合を組織していました。そして地主との交渉の末にこの土地を買い取っていたため開発を逃れ、いまも思い出横丁として輝きを放っているのです。

↑こちらも1971年ごろ。小滝橋通りの起点でもある、新宿大ガード西交差点側から新宿駅側に向けて撮った写真(新宿区歴史博物館蔵)

 

現在は昭和礼賛の風潮により、酒場好き以外の老若男女も訪れるようになっているうえ、異世界に迷い込んだような独特な雰囲気はインバウンドの旅行者にも大人気。とはいえ、この横丁が老朽化や世代交代といった課題を抱えているのも事実です。これからも楽しむためには、横丁の価値に多くの人が共感し、応援していくことが大切です。

 

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アクセス抜群で大衆的。新宿西口「思い出横丁」の独自性

倉嶋 横田さんはじめまして。以前から飲み屋街や横丁について書かれた本を読ませていただいていて、ずっとお会いしたかったんです。今日はよろしくお願いします!

 

横田 僕もお会いできてうれしいです。こちらこそ、よろしくお願いします!

 

倉嶋 まずは注文といきましょうか。お酒は全量芋焼酎「一刻者(いっこもん)」で。

 

二人 では、カンパーイ!

 

倉嶋 今回は、思い出横丁について語り合いたいと思います。ここならではの特徴としては、どう感じていますか?

 

横田 ひとことで言えば、キングオブ戦後横丁ですね。世界一のターミナル駅のすぐそばに、令和のいまでも昭和のたたずまいを残していることが、まずスゴい。

 

倉嶋 やっぱり、アクセスのよさはありますよね。だから知名度も高いですし。

 

横田 新宿でいえば、歌舞伎町にあるゴールデン街(新宿ゴールデン街)も世界的に有名ですけど、並ぶお店の業態が大きな違いかなと。

 

倉嶋 そうですね。ゴールデン街はバーやスナックのようなお店が多めですけど、思い出横丁はより大衆的というか。酒場のほかに食堂や喫茶店などもありますし、チェーン店も入っています。

 

横田 その点はやはり、成り立ちの違いが関係しているでしょうね。ゴールデン街は駅の東口にあった闇市と、新宿二丁目にあった赤線(政府が半ば公認していた風俗街)地域の露店商が、行政の浄化作戦によってあてがわれた代替地ですから。

 

倉嶋 当初、ゴールデン街はいわゆる色街だったとか。

 

横田 新宿駅からの距離も関係しているでしょうね。当時の歌舞伎町界隈は開発が進まないススキ野原で、人通りも少なかったそうですし。

 

倉嶋 一方の思い出横丁は、新宿駅前の開発とともに発展し、様々な人が日用品や食を求めて行き交うようになったと。

 

横田 そうですね。ただ、戦後しばらくは統制品である正肉類は入手困難だったので、統制外だった豚のもつを串に刺し、“やきとり”と称して売り出す店が多かったんです。

 

倉嶋 それが、いまでも思い出横丁にもつ焼き屋さんが多い理由のひとつだそうですよね。感慨深いなぁ。

 

横田 なんでも、横丁内には戦前から食肉処理場の関係者と懇意な店主がいて、その方が1947(昭和22)年ごろに始めたのが先駆けだそうですよ。

 

倉嶋 素晴らしい功績。そして界隈の名店に派生していったとは、ありがたや。想像するだけでお酒が進みます(笑)!

 

 

人と酒場に魅せられて。ここならではの“思い出”

横田 倉嶋さんのなかでは、思い出横丁の特徴やイメージってどうですか?

 

倉嶋 ゴールデン街や三丁目、二丁目などいくつかの飲み屋街がありますけど、思い出横丁はやっぱり気軽ですよね。一見(いちげん)でも気負わずに入れる店が多くて、若いころからお世話になってます。

 

横田 最初に行った店はどちらですか?

 

倉嶋 「つるかめ食堂」さんです。食事がメインなのでお客さんの層も幅広く、入りやすくて重宝していました。こういった食堂とか、“元祖天玉そば”で有名な「かめや」さんなどの食事業態があるというのは、思い出横丁の発展に欠かせないポイントだと思います。

 

横田 飲み屋ばかりですと、若い女性は入りづらいですもんね。

 

倉嶋 ええ。当時は余計にハードルも高かったですから。でも、思い出横丁は比較的、女性にもやさしい飲み屋街だと思います。扉が開けっ放しのお店がけっこうあるから、雰囲気もオープンで。

 

横田 確かに、その点もゴールデン街との違いかもしれないです。

 

倉嶋 だから、思い出横丁でよく飲むようになるまでに、そう時間もかからなかったですね(笑)。

 

横田 さすがです! 横丁内でハシゴする感じですか?

 

倉嶋 ハシゴもするんですけど、いろんな街で飲んで、新宿駅にたどり着いて最後に「ただいま」みたいな飲み方もよくしています。

 

横田 駅から近い、思い出横丁ならではの楽しみ方ですね。

 

倉嶋 昔よく行ってたのは、「みのる」という地下のバー。閉店しちゃったんですけど、マスターには本当にお世話になって。すごく酔ってお邪魔しても、「なに、全然酔っ払ってないじゃん」と歓待くださっておりました(笑)

 

横田 「みのる」って、横丁の老舗もつ焼酒場「きくや」の新業態が入ったところですか?

 

倉嶋 はい! 「牛肉 酒処 キクヤ」さんですね。「みのる」が閉店するってなったときに、本店きくやの三代目が手を挙げてくださって。基本的に居抜きだから「みのる」の雰囲気そのままで、それがとにかく大拍手!

 

 

三代目が70年以上の暖簾を守るうなぎの名酒場「カブト」

横田 今回訪れたのは横丁のなかでも老舗の「カブト」ですけど、倉嶋さんは何度も来てらっしゃいますよね。

 

倉嶋 はい。以前『古典酒場』の取材でお邪魔したこともあって、そのときは類さん(吉田類さん)と一緒ですごく楽しかったです。今日はコロナ禍が少し落ち着いて、でもまだ横丁が静かだったとき以来なので、ちょっと久々ですね。

 

横田 僕も「カブト」は2年ぶりぐらいです。いまや横丁全体も、すっかりにぎわいを取り戻しましたね!

 

倉嶋 ほんとに! そして、今日は「カブト」さん、三代目が焼いてくださってます。

↑「カブト」三代目の小野達也さん

 

横田 ですね。横丁草創期からのお店ですから、さすがに歴史も深い。

 

倉嶋 創業は1948(昭和23)年で、闇市時代に屋台からはじまった、横丁の生き証人的存在。味わい深い電球の傘は、類さんが「鍾乳洞」と表現していました。

↑電球の傘には、長年の油汚れが垂れ下がるようにこびりついています。その形は鍾乳洞の鍾乳石のよう

 

横田 迫力ありますよね。炭焼きの煙と、うなぎの脂がまとわりついて生み出された、自然の芸術といえそうな。

 

倉嶋 ではそろそろ、名物のうなぎも注文しましょうか。ここは「一通り」一択ですね。お願いします!

 

店主 はいよー。

↑「カブト」のうなぎは、「えり焼き(2本)」「ひれ焼き(2本)」「きも焼き(1本)」「蒲焼き(1本)」「れば焼き(1本)」の計7本を焼き上がった順に供する「一通り」(2150円)から注文するのがお決まり

 

横田 ここはカウンター15席ですけど、今日も昼間からたくさんお客さんが来ていて、相変わらず大人気ですね。

 

倉嶋 はい。でも特に常連さんは、長っ尻が禁物ってことをわかってらっしゃるのがとっても粋!

 

横田 「一通り」を食べて飲んで、混んでくればすぐに出るってのが作法ですよね。だから回転も早い。

 

倉嶋 この、お店とお客さんのあうんの呼吸もたまりません!

 

横田 それに今日のうなぎも抜群においしいです!

↑うなぎの首付近の部位「えり焼」(追加注文は2本で400円)

 

倉嶋 ええ。パリふわっとした身に、コリッとした骨の食感が好アクセント!

 

↑うなぎの「れば焼」(追加注文は1本で450円)。希少部位なので、早々に売り切れになってしまう

 

横田 また、「一刻者」の芋100%ならではの華やかな香りが、うなぎともマッチしますね!

 

横田 「一通り」を満喫したら、次のお店へ行きましょうか。

 

倉嶋 ええ、眠らない街の夜はこれからですから! ほかの横丁のお話も聞かせてください。

 

新宿屈指の盛り場である、思い出横丁について語り合った倉嶋さんとフリート横田さん。次回は「新宿ゴールデン街」のバーへ移動し、戦後から続く界隈のディープな魅力について語り合います。お楽しみに!

 

撮影/鈴木謙介

 

<取材協力>


カブト

住所:東京都新宿区西新宿1-2-11
営業時間:13:00~20:00
定休日:日曜、祝日

※価格はすべて税込みです

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・一刻者
https://www.ikkomon.jp/

 

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【せんべろnet監修】”ひとり飲み”初心者が焼酎のボトルキープに挑戦する噺

提供:宝酒造株式会社

 

「酒噺:東京・大衆酒場の名店シリーズ」で一連の酒場知識を習得したお酒好きタレント・中村優さん。実践編に入って、初心者でも出来る「酒場」の楽しみ方を「せんべろnet」管理人のひろみんさんに教えてもらいながら体験していく第5回目。今回は、前回レポートした東京・成増の「やきとん 泰希(たいき)」で焼酎のボトルキープを初体験します。

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

ボトルキープってなに?

「やきとん 泰希」で、もつ焼き酒場の魅力を満喫中の中村さん。2杯目を注文しようと思いドリンクリストを見ると、そこには「ボトル  ★キープ3ケ月」の文字が。気になったのでひろみんさんに「ボトルキープってなんですか?」とLINEを送ると、さっそく返信がありました。

 

 

さらに、ひろみんさんから「ボトルはオーダーする際に価格が高く感じるかもしれないですが、酎ハイなどドリンク単品で注文するよりも、お得に楽しむことができますよ。何度か通ってボトル1本を飲みきるイメージです」と返信がありました。

 

美味しいもつ焼きとチューハイが味わえる「やきとん 泰希」の大ファンになった中村さんは、次回は友人を連れての再訪を考えていました。その際、個別にドリンクを頼むよりはボトルが入っていたほうが得かもと、初めてのボトルキープにトライ。2杯目は「宝 600ml」(1800円)を注文しました。

 

〜ボトルキープとは〜

・お酒をボトルで購入して、残った分はボトルごと保管してもらえるシステム

・一般的に「1~3ヶ月」などキープ期限を設けられていることが多く、それまでに再訪するとキープしているボトルを飲むことができる

・ペンでボトルに書き込みを入れたり、名札付きのタグをボトルの首に掛けたりするのも特徴

 

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さっそく焼酎のボトルをキープ!

ここで簡単に、「やきとん 泰希」についておさらい。同店は東武東上線「成増駅」または東京メトロ「地下鉄成増駅」から徒歩15分弱の場所にある大衆酒場。もともと同じもつ焼きの有名店で働いていた田中さんと西川さんが意気投合して、2020年12月にオープンしました。

↑「やきとん 泰希」の西川さん(左)と田中さん(右)

 

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比較的新しいお店ながら、常連さんを中心にファンは多数。その理由は、1本70円から味わえる絶品のもつ焼きや、笑顔あふれる心地よい接客などにあり、お店はいつも楽しい雰囲気でにぎわっています。

↑キープされた宝焼酎のボトルが棚にずらっと!

 

そんな同店の西川さんが、宝焼酎のボトルをオーダーした中村さんに「割りもの(割り材)」をたずねます。

 

西川 飲み方はどうされますか?

 

中村 そうですね~。1杯目はレモンサワーだったので、次は緑茶で割ってみよっかな。この割り材の緑茶は、何杯ぶんくらいになりますか?

 

西川 このピッチャー(容器)には500ml入っているので、一般的な濃さで、氷を使う場合はおひとりさま4杯ぐらいですね。

 

中村 なるほど、十分な量ですね。では「緑茶」(450円)と、「氷」(200円)もください!

 

西川 ありがとうございます! まず、こちらが宝焼酎のボトルです。ペンもご自由に使ってお名前などを書いてください。そして割り材の緑茶と氷になります。マドラーもどうぞ。

↑中村さんが頼んだボトルセット。焼酎「宝 600ml」(1800円)「緑茶」(450円)と「氷」(200円)。

 

中村 やった! これで私も「やきとん 泰希」さんファンの仲間入りですね。仕事柄、サインは慣れてるけどこれはすごく新鮮! ちなみに、この「宝 600ml」だと、お店で出している「緑茶ハイ(420円)」の何杯ぶんの焼酎の量になりますか?

 

西川 うちの「緑茶ハイ」などのチューハイは1杯あたり焼酎を60ml入れているので、「宝 600ml」は10杯ぶんとなりますね。氷も、使う量によりますが10杯は飲めると思います。

 

中村 ということは、1800円のボトルと200円の氷を1杯換算すると2000円÷10で200円。で、450円の「緑茶」が約4杯分だから1杯112~113円。となると、ボトルキープで飲んだ場合は1杯310円ちょっとで、グラスの「緑茶ハイ」より1杯につき100円ほど安く飲める計算ですね!

 

↑ボトルに名前を書くのは初体験の中村さん

 

西川 割り方の分量の目安はわかりますか? この宝焼酎はアルコール度数が25%なので焼酎1に対して割り材の緑茶が2。この割合で作るとアルコール度数が約8%となります。これがスタンダードな分量ですね。

 

中村 ほうほう。私はそこまでアルコール度数は高くなくていいので、半分の4%にしようかな。そうなると割合も変わりますね。

 

西川 5%でしたら、アルコール度数25%の焼酎1に対して割り材が4ですね。

 

 

中村 なるほど! まずは宝焼酎と氷をしっかり混ぜて宝焼酎をよく冷やし……。

 

中村 焼酎1に対して緑茶を5くらい多めに注いで、こちらもよく混ぜて……完成(アルコール4%の宝焼酎の緑茶割り)。

 

↑マイボトルで作った緑茶割りが完成!

 

中村 それではいだきまーす! うん! 宝焼酎のコクと、緑茶のすがすがしい風味がマッチして超すっきり。これは料理に合わせたいですね! おつまみ、どうしよっかな?

 

西川 メニューはグランドのほか、黒板に日替わりもありますのでお好きなものをどうぞ。

↑「本日の日替わり」もバリエーション豊富!

 

中村 ほんとだ。では、お刺身の盛り合わせをください! 絶品もつ焼きだけでなく、鮮魚も提供しているなんて、スゴいですね!

 

田中 ありがとうございます! お客様に喜んでいただけるので、だいたい2~4種は魚の刺身を用意しています。「〆さば」も自家製で。

 

西川 お待たせいたしました! 今日は「天然ぶり」、「かつおタタキ」、「自家製〆さば刺し」の3種となります。

↑「刺身盛り合わせ」680円

 

中村 わーっ、これも美味しい!「ぶり」はハリツヤ抜群で、「かつおタタキ」は濃厚な旨みが最高!「 〆さば」は脂のり抜群でジューシーです。緑茶割りにもめっちゃ合いますね!

↑ぷりぷりの「ぶり」は緑茶割りにぴったり!

 

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ボトルキープの利点

ここで、ひろみんさんに聞いたボトルキープのポイントをまとめていきましょう。まず、大きなメリットは酎ハイなどのドリンク単品よりリーズナブルに飲めること。また、自分の好みの濃さでお酒をつくれることや、たとえばバイス(正式名称は「コダマバイスサワー」:しそ梅エキス入りの割り材)と梅干しを一緒に入れてオリジナル酎ハイを作るなど、自由な組み合わせを楽しめることもポイントです。宴会時などは、ドリンクオーダーの回数が減る点もメリットといえるでしょう。

 

ボトルに名前を書くなど、来店した証を残せることも魅力。キープボトルがある=自分の来店を待っているということであり、常連になりたい店にボトルキープのシステムがあるならば、ぜひ利用すべきといえるでしょう。

 

また、常連さんのように頻繁に行けずとも、好みのお店に自分がファンであるという気持ちを伝えるツールにもなります。このほか、知人を飲みに誘いたいときも、ボトルを入れているお店であればお酒を振る舞うこともできます。

 

なお、ボトルキープは、お店側としても「再訪確率が高まる」「お客さんとの距離が縮まる」などのメリットがあり、売り手と買い手の双方ともにうれしいシステムがボトルキープなのです。

 

一方、ボトルキープをする際の注意点は、期限と別途かかる料金について確認すること。何度か通うことで期限までにボトルを飲みきることを前提に、行動圏内にあるお店でボトルキープをするのがベターです。また、氷・割材などその都度別途料金がかかる場合がほとんどなので、価格を確認しておくと安心です。

 

〜ボトルキープの利点〜

・単品で注文するよりもリーズナブルに楽しめるので、何度か訪問する場合にはお得

・自分の好みの濃さや飲み方で楽しむことができる

・お店にまた来店したい(お店のファンになった)と気持ちを伝えるツールにもなり、自分の足跡を残せる

・知人にボトルのお酒を振る舞うこともできる

・お客さんの再訪率が高くなるなどお店側にもメリットがある

 

 

すぐに再訪したい店ならボトルキープがツウの技!

中村 あらためて、自分で割るのはお酒の濃さを調整できていいですね! ボトルキープなら残ったぶんは次回に楽しめるし、アルコールを抑えたくなったら薄めにつくればいいわけで。

 

西川 そうですね。割り材を多めにして、やさしい濃さで楽しんでいるお客さんもたくさんいますよ。

 

中村 やっぱり! 私も次は3杯目になるので、よりライトに楽しもうかな。あとはおつまみの追加オーダーも……ということで、「喉軟骨の唐揚」をお願いします!

 

西川 お目が高いですね。こちらはうちの揚げ物のなかでも人気メニューですよ!

 

田中 はい! お待たせいたしましたー。「喉軟骨の唐揚」です!

↑「喉軟骨の唐揚」450円

 

中村 私、喉(ノド)の軟骨は初めてかも。これも豚ですよね。鶏のヒザ軟骨やヤゲン軟骨とは違って、コリコリしてるけど薄めのスライスで独特な食感。サクっとした衣も美味しくて、お酒が進みます!

 

西川 軟骨は串でも「なんこつ」(120円)として提供してるんですけど、唐揚は揚げることでよりパンチのある味わいに仕上げています。

 

中村 うんうん!サッパリさせるならカットレモンで、よりガッツリいくならマヨネーズで。練り辛子やキャベツの千切りも添えてあって、いろいろ楽しめるのもイイですねー。

田中 うれしいです! お客さんが飽きないようにと、試行錯誤しているので励みになります!

 

中村 お酒もおつまみもバリエ―ションが豊富で、一度の来店じゃ全部を堪能しきれないですね。ボトルキープもしたことですし、近いうちに友達を連れてまた来ます。今日はありがとうございましたっ!

 

次回再訪の楽しみを込めてボトルをキープした中村さん。初体験となった今回の取材も、きっと彼女の記憶に強く残ることでしょう。次回もまた、別のテーマで、ひとり飲みの楽しみ方を追求していきます。お楽しみに!

 

撮影:我妻慶一

 

<取材協力>

やきとん 泰希

住所:東京都練馬区旭町3-11-22
営業時間:15:00~22:30、土曜、日曜、祝日13:00~22:30
定休日:不定休

※価格はすべて税込みです

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

 

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「せんべろnet」監修 ひとり飲み初心者が“もつ焼き”酒場を体験する噺

提供:宝酒造株式会社

 

「酒噺:東京・大衆酒場の名店シリーズ」で一連の酒場知識を習得したお酒好きタレント・中村優さん。実践編に入って、女性ひとり(初心者)でも出来る「酒場」の楽しみ方を「せんべろnet」管理人のひろみんさんに教えてもらいながら体験していく第4回目。今回は、東京・板橋の成増エリアで話題のもつ焼き酒場を訪れました。

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

ひとりで、もつ焼き

前回は「角打ち」を体験し、他に「もつ焼き」も気になっていた中村さん。ひろみんさんに、ひとりで行くならどんな店がいいのか聞いてみると、次のようなLINEが返ってきました。

 

「これは焼鳥店にも言えますが、ひとりで行くなら、1本から注文できる酒場がオススメですよ。同種2本というルールを設けているお店もあるので」

 

ひろみんさんは数ある推しの店のなかから、「成増の泰希(たいき)さんは、おいしくリーズナブルなことはもちろん、お店の皆さんが気さくで入門にもオススメですよ」とレコメンド。そこで今回は同店を舞台に、中村さんのもつ焼き酒場体験記をお届けします。

 

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もつ焼きとは?

もつ焼きは読んで字の如く、もつ(臓物/ホルモン)を焼いた料理。地域によって、網や鍋で調理するホルモン焼きと広義では同じですが、関東におけるもつ焼きの多くは豚のもつや正肉の串焼きを指し「やきとん」とも呼ばれます。

 

もつ焼きや、やきとんの店は、いわば豚肉のスペシャリスト。味の良し悪しを決めるのは肉の鮮度であるため仕入れ先には徹底的にこだわり、また部位のバリエ―ションが豊富なことも特徴。串焼きのほか、もつ煮込みや低温調理のもつ刺しなどが楽しめることも魅力です。

 

もうひとつ紹介しておきたいのが、鶏肉を使う「焼き鳥」ではなく豚肉の串焼きを「やきとり」として親しむ伝統食文化。北海道の「室蘭やきとり」や、埼玉の「東松山やきとり」が特に有名です。背景には、かつて鶏肉より豚肉のほうが安価だったという歴史や、その地に豚の食肉センターがあり手軽に入手できたという環境などが関係しています。

 

当時は贅沢だった鶏肉の代わりに豚肉を用いて串焼きを楽しんだ習慣が、そのまま食文化として根付いたことが「やきとり」の由来といえるでしょう。東京でも、西荻窪の「やきとり戎」のように、もつ焼きをやきとりとして提供する名店もあります(同店では現在、焼き鳥も提供)。

 

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〜もつ焼きとは?〜

・「もつ焼き」とは、もつ(臓物/ホルモン)を焼いた料理。関東における「もつ焼き」の多くは豚のもつや正肉の串焼きを指し「やきとん」とも呼ばれている。

・鶏肉を使う「焼き鳥」ではなく豚肉の串焼きを「やきとり」として親しむ伝統食文化もある。北海道の「室蘭やきとり」や、埼玉の「東松山やきとり」が特に有名。

 

 

いざ、ひとり「やきとん 泰希」へ!

今回訪れた「やきとん 泰希(たいき)」は、東武東上線の「成増駅」南口または東京メトロ「地下鉄成増駅」1番出口から徒歩15分弱。各駅からバスを利用すれば、停留所から徒歩1分ほどで到着します。

 

オープンは2020年12月と、比較的新しいお店ながらも貫禄は十分。木のぬくもりを感じる店内にはテーブル席のほかにカウンターもあり、ひとりでも気軽に楽しめます。中村さんが入店すると、「いらっしゃいませ~!」と元気な声が。にこやかに迎えてくれたのは、店主の田中さんと西川さんのコンビです。

↑店内は明るく、ひとり飲み初心者でも入りやすい雰囲気

 

↑「やきとん 泰希」の田中さん(右)と西川さん(左)。明るい笑顔で緊張感をほぐしてくれます

 

明るくやさしい笑顔に、中村さんの緊張も一気に解けたご様子。

 

ひろみんさんからの「泰希さんのドリンクは、チューハイのフレーバーと割り材の多彩さが特徴です」とのアドバイスをもとに、まずは西川さんに定番をたずねてみました。

 

中村 泰希さんのチューハイで、定番といえば何ですか?

 

西川 炭酸水とスライスレモンによるシンプルな「チューハイ」(380円)と、より柑橘の酸味が効いたすっきりした味の「レモンサワー」(430円)が二大定番ですね。

 

中村 では「レモンサワー」をお願いします!

 

西川 ありがとうございます! 当店の甲類焼酎は、樽貯蔵熟成酒が3%入った風味豊かな「極上〈宝焼酎〉」をベースにしているのもウリなんですよ。ということで、お待たせしました~。

↑「レモンサワー」(430円)

 

 

中村 おっ、ハイサワーレモンで割るんですね。乾杯ッ! ぷはぁ~、やっぱり焼酎の絶妙なコクと、レモンの冴えた爽快感がたまらないです!

 

西川 嬉しいです。レモンサワーはもつ焼きの油も流してくれるので相性抜群ですよ!

 

中村 ですよね~。それにお品書きを見たら1本70円からと、めちゃめちゃリーズナブルじゃないですか!

↑もつ焼きから肉刺し(もつ刺し)、揚げ物まで種類も豊富。星印がオススメ

 

田中 運よく前職の先輩が茨城の食肉市場と取引している会社の代表で、その方のおかげで抜群の鮮度と安さを実現できているんです。

 

中村 親しい方からということであれば、なおさら間違いないですね。では注文は、オススメ印のある「れば」と「はらみ」をお願いします!

 

田中 ありがとうございます! タレか塩かは、お任せでいいですか?

 

中村 はい、お任せでお願いしますー。

 

田中 まずは当店名物の「れば」から。お熱いうちにどうぞ~。

↑「れば(塩)」80円

 

中村 え!? この美味しさはなんなんですか! 焼き加減が絶妙で、頬張ったときのプリッとした弾力と、口のなかでジュワッと広がるとろけ具合が神! これが80円だなんて信じられません!

 

田中 お口に合ってよかった! 励みになります。続く「はらみ」もお待たせしました!

↑「はらみ(塩)」120円

 

中村 わーっ、こちらも美味しすぎる! より肉々しい弾力と、噛むたびにあふれるジューシーな肉汁がたまりませんっ。炭火の香ばしさも絶品です! おいしさの秘訣はやっぱり焼き方ですか?

 

田中 うちの特徴としては、串を炭火からあまり離さずに焼いていることですかね。

 

中村 熱源から近いということですよね。どう違うんですか?

 

田中 より火力が強くなるので、外はカリッと中はジューシーに仕上げやすいのですが、そのぶん焦げやすさも増すので目配り気配りが欠かせません。

 

中村 技術も要るということですよね!

 

田中 そうですね。あと、近火だと早く焼けるというメリットもあります。うちは焼き台が大きくないのですが、たくさん注文をいただいた際でもお待たせせず、スピーディーに提供したいんですね。それも近火にしている理由です。

 

中村 なるほど~、奥が深い! あと気になったのは、串の形です。「れば」は四角で「はらみ」は丸い串だったと思うのですが、その違いは?

 

田中 どの串焼きも、具材が回転しないよう芯を狙ってバランスよく刺すのですが、「れば」はやわらかいぶん動きやすい。そこで、「れば」はよりしっかり固定できる四角い串を採用してるんです。

 

中村 そういうことだったんですね!

 

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もつ焼き酒場の特徴

もつ焼き酒場の主役は、やはりもつ焼き。メニューリストの中から好みの串を選ぶのですが、「数量限定」などの記載がある部位は要チェックです。これらは希少部位であることが多く、早い時間で品切れしてしまうことも。

 

もつ焼き以外のメニューの定番は、「もつ煮込み」や低温調理の「もつ刺し」。煮込みはお店によって醤油、塩、味噌など味付けが異なり、具材がもつのみ、もつとこんにゃく、もつとこんにゃくと野菜など、それぞれに特徴があるのもポイントです。もつ刺しも部位によって食感や味が異なり、迷った際は盛り合わせを注文するといいでしょう。

 

ドリンクに関しては、甲類焼酎をベースとしたお酒が充実していることが特徴。飲み方のラインアップもお店ごとに多種多様で、「やきとん 泰希」は「ホッピー」や「ハイサワー」、「バイス」など豊富な割り材を用意していることが魅力です。

↑豊富な割り材

 

なかには立石の名店「宇ち多゛(うちだ)」のように甲類焼酎のストレートに梅やぶどうのシロップ(エキス)を少量加えて提供するツウ好みの一杯があったり、独自エキスを隠し味に使った下町スタイルの焼酎ハイボール(チューハイ)を提供するお店があったり。もつ焼きと、その店ならではの焼酎をペアリングできるのも、もつ焼き酒場の醍醐味です。

 

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〜もつ焼き酒場の特徴〜

・主役はもつ焼き。「数量限定」などの記載がある部位は要チェック

・そのほかの定番は「もつ煮込み」や低温調理の「もつ刺し」。煮込みはお店によって味付けや具材が異なるのもポイント

・もつ刺しは部位によって食感や味が異なり、迷った際は盛り合わせを注文するのがベター

・ドリンクは、甲類焼酎をベースとしたお酒が充実していることが特徴。飲み方のラインアップもお店ごとに多種多様

 

いろいろな部位を味わう

中村 私、焼肉屋さんで必ず頼む大好きなメニューが牛ハラミなんですけど、こちらの豚の「はらみ」もすごく美味しくてビックリしました!

 

西川 ハラミは牛も豚も横隔膜の部位を指し、実はもつの一種なんですよね。中村さんは、焼肉店ではほかにどんな部位をよく食べてらっしゃるんですか?

 

中村 タンですね。ということで、次は「たん」をお願いします!

 

田中 こちらも塩でどうぞ。焼き立てが美味しいですよ!

↑「たん(塩)」(120円)

 

中村 うん! 厚切りで食べごたえがあって、それでいて歯切れがよくサクっとした食感が絶品。ジューシーな肉汁もたっぷりで、でも後味はさっぱり。これも何本でもイケそう!

 

西川 「たん」は200円の「上たん」という、数量限定の人気部位もありますよ。

 

中村 ホントだ! どう違うんですか?

 

田中 「上たん」は、通常のたんよりも脂がのった付け根の部分です。よりやわらかい食感と、ジューシーさも魅力ですね。

 

中村 なるほど~。では、もうひとつの数量限定部位「あぶら」(200円)は?

 

西川 「あぶら」は、小腸の周りにあるキクアブラと呼ばれる部位で、字のごとく濃厚な脂の甘みを楽しめます。味付けはタレのほうがオススメですね。

↑主なもつの部位

 

中村 もつ焼きも、部位によっていろいろな味わいが楽しめるんですね。「上たん」も「あぶら」も美味しそうなんですけど、それ以上にいま見て気になったのは「タコさんウインナー」! こちらは串焼きで提供されるんですか?

 

田中 はい、見た目が可愛らしくて女性にも人気の一品です。

 

中村 ますます気になる! では「タコさんウインナー」をお願いします!

↑「タコさんウインナー」(240円)

 

中村 4匹のタコさんが並んで、確かにカワイイ! 子どものころのお弁当を思い出して懐かしい気分になりますけど、炭火で焼き立ての香ばしさがあってクオリティがケタ違い。家で焼くのとはさすがに別格の美味しさですね。

 

もつ焼き酒場をより楽しむポイント

冒頭でひろみんさんの解説にあったように、串焼きのお店には「注文は同種2本から」というルールを設けている場合もあるので、ひとりで楽しむ際は確認しておくとベター。

 

なお、見慣れない部位はお店の人に聞けば教えてくれますし、豚のイラストとともに説明書きが用意されているケースもよく見かけます。また、タレか塩かなどは、お任せで部位に適した味付けを基本としつつ、好みを指定できるというお店も多いです。

 

より美味しく食べるためには、提供されたらすぐに味わうこと。これは冷めないうちに、という意味と、時間経過とともに余熱が芯まで入りすぎて硬くなるからです。一度にたくさんではなく少量ずつ注文し、じっくり楽しむことがコツだといえるでしょう。

 

また、串から外さずに食べることも美味しく味わう秘訣。これは、串から肉を外すと穴からうまみや肉汁が出てしまうから。

 

老舗の中にはまれに、串から外してはいけないというお店や、注文は最初の一回のみという暗黙の独自ルールを設けているもつ焼き酒場もありますが、それはあくまでも例外。事前に「せんべろnet」をチェックするなど、予習しておけばより安心です。

 

もつ焼き酒場を楽しむポイント

・同種2本縛りのお店もあるので事前に確認しておこう

・串から外さない方が美味しく食べられる

・提供されたらできるだけすぐに食べる。硬くなる部位もあるので少量ずつの注文がオススメ

・ローカルルールがあったりもするが難しく考えず身をゆだねる

 

アットホームな雰囲気の源にある店主の絆

中村 そういえば、「泰希」という店名の由来はどこから来てるんですか?

 

田中 僕と西川が以前同じやきとん酒場で働いてまして、そこで意気投合して、ふたりでこの店を開業したんです。で、店名をどうしようかと考えた際、ふたりの子どもの名を使おうという話になったんですよ。

 

西川 そうなんです。うちの長男と田中の長女の名前を1文字ずつ採用して「泰希」。子どもの名前を付けたからには、絶対つぶすわけにはいかないって決意も込めています!

 

中村 スゴく素敵! おふたりの強い絆を感じますし、その仲のよさがお店のやさしく楽しい雰囲気を生み出してるんだと思います。と、話していたらまた「れば」が食べたくなったので、おかわりお願いします!

 

西川 かしこまりました!

 

もつ焼きとチューハイの美味しいペアリングを楽しんだ中村さん。2杯目を注文しようと思いドリンクメニュ—を見ると、そこに「ボトル キープ3か月」の文字を発見し、試してみたくなったのでした。ということで、次回のテーマは「ボトルキープ」。ひろみんさんのアドバイスを交えながら、そのメリットや仕組みなどを解説していきます。

 

撮影/我妻慶一

 

 

<取材協力>

やきとん 泰希

住所:東京都練馬区旭町3-11-22
営業時間:15:00~22:30、土曜、日曜、祝日13:00~22:30
定休日:不定休

※価格はすべて税込みです

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

・極上〈宝焼酎〉
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/gokujo/

 

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倉嶋紀和子オススメ「焼酎の美味しい飲み方」と“オリジナルチューハイ”の噺

提供:宝酒造株式会社

 

意外と知らない焼酎の噺15

2022年から始まった「意外と知らない焼酎の噺」では、「ホッピー」や「ホイス」といった割り材メーカーの代表者から歴史や美味しさの秘密を教えてもらったり、ディスペンサーメーカーにもお話を伺いました。今回も引き続き“総集編”として、荻窪(東京都杉並区)の「チューハイ倶楽部C」で、『古典酒場』編集長の倉嶋紀和子さんにチューハイの歴史や割材について振り返ってもらいつつ、「オリジナルチューハイ」を考案してもらいました。

【前回はコチラ

●倉嶋紀和子/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任

 

 

倉嶋紀和子の「オリジナルチューハイ」

「『宝焼酎』はどの銘柄も、樽貯蔵熟成酒とのブレンド具合が絶妙ですよね。樽香があるからコクやうまみのフックを感じさせてくれますし、でも逆に樽香が強すぎると甲類焼酎の良さが消えて飲みにくくなってしまうと思うんです」と、魅力を振りかえる倉嶋さん。ここからは、倉嶋さん考案のオリジナルチューハイを教えてもらいます。

 

●「NIPPON×ホッピー」

まず1品目は「NIPPON×ホッピー」。長年、親交があるホッピーミーナさん(ホッピービバレッジ代表取締役社長の石渡美奈さん)と対談をした第8回の『ホッピーミーナが語る! 焼酎のベストパートナー「ホッピー」の噺』を振り返りつつ、味の特徴を教えてもらいました。

 

私の場合『ホッピー』のベースアルコールは甲類焼酎。ちょっと気分を変えたい時にはフレーバード・ウォッカで割って呑んでいたのですが、、『NIPPON』と出会ってからは、甲類焼酎の桜樽熟成のものもいいなぁと。『NIPPON』がもつ、桜樽由来の甘やかな熟成香が、『ホッピー』の麦芽の風味に合うんです。そのうえ、桜ならではの上品なニュアンスがあって、贅沢な『ホッピー』になるんですよね」(倉嶋さん)

 

「ホッピーミーナさんと久々にゆっくりお話しができたのはよかったですね。もう10年以上親しくさせていただいてますが、ホッピーのルーツや、なぜ東京以外の横浜や横須賀にもホッピーの聖地があるのかなど、改めて勉強になりましたね」(倉嶋さん)

 

【関連記事】
【意外と知らない焼酎の噺08】ホッピーミーナが語る! 焼酎のベストパートナー「ホッピー」の噺

 

●「極上〈宝焼酎〉×炭酸水×フローズン葡萄」

2品目は、丸ごと凍らせた葡萄の実をアクセントにした「極上〈宝焼酎〉×炭酸水×フローズン葡萄」。まずは、味わいについて語ってもらいました。

 

「フローズン葡萄を入れるきっかけは、2022年の春に発売された『極上〈宝焼酎〉の炭酸割りタンチュー』なんです。そのままでも『極上〈宝焼酎〉』の豊かなコクがフックになって美味しいんですが、ちょっとアレンジしてみようと思いまして」(倉嶋さん)

 

「それで、氷代わりにもなるからと、凍った葡萄を入れたらドンピシャだったんです。使うのは黒葡萄のほうですね。果実そのままだから甘すぎず、葡萄の風味も自然でちょうどいいバランスだなと。以来、特に夏は愛飲しています!」(倉嶋さん)

↑「チューハイ倶楽部C」店主の山下さんにニットクのディスペンサーでつくられた強炭酸を入れてもらい完成!

 

本シリーズでは「チューハイ」についても深掘りしてきましたが、倉嶋さんが印象に残っている取材について伺いました。

 

第12回で、チューハイディスペンサーを製造するニットクさんにお邪魔しましたね。強炭酸を楽しむには、ガスが弾け飛ばないように、注ぎ口をグラスに付け、氷に当たらないように傾けながら静かに注ぐなど、島田昭専務のお話はとっても勉強になりました」(倉嶋さん)。

↑ニットクでは、炭酸の注ぎ方のコツなども教えてもらいました!

 

「ほかにもチューハイについては、それぞれいろいろな方にお話しを伺いましたが、どの回も印象的です。藤原法仁さん(大衆酒場の有識者)とは『村さ来 中野北口店』で対談させていただき(第7回)、同店のチューハイの豊富なバリエーションには驚かされました。濃いめに注文できるのも魅力で、すごく楽しかったです。

 

第9回の『レモンサワー発祥の店「もつ焼き ばん」で語る、焼酎「割り材」の噺』では、『居酒屋礼賛』主宰の浜田信郎さんと『もつ焼き ばん 中目黒本店』に行きました。とにかく同店発祥のレモンサワーが絶品で、もつ焼きや『激辛豚美(とんび)豆腐』といった名物にも合うんです。また、このレモンサワーをヒントに生まれた『ハイサワー(株式会社博水社)』の田中秀子社長にもお話を伺いました。米国への視察旅行で見たカクテルを飲む光景が、開発のきっかけだったというのは、なるほどと思いましたね」(倉嶋さん)

↑『もつ焼き ばん 中目黒本店』のレモンサワー

 

「『ハイサワー』の博水社もですが、『ホイス』(第10回)と『バイス』(第11回)も住宅街のなかにオフィスを構えていたのがなんとも下町的で素敵でした。『ホイス』の後藤竜馬社長(有限会社ジィ・ティ・ユー)は、創業者のおじいさまから受け継ぐ味をひとりでつくるという、まさに一子相伝だなと。それに、おじいさまが戦前にシベリア鉄道で欧州へ行った知見が『ホイス』の味につながっている、という話もロマンがありましたね」(倉嶋さん)

 

「『バイス(正式名称:コダマバイスサワー)』の池澤友博社長(株式会社コダマ飲料)は2代目で、初代で下戸のお父様と酒好きの2代目で一緒に開発したというお話が興味深かったです。また『コダマ』の由来が、池澤社長が幼少期に特急列車『こだま号』が大好きだったからというエピソードも、家族愛があってほほえましいですよね」(倉嶋さん)

 

ちなみに、倉嶋さんはレモンサワーもよくつくるとのことですが、その際はレモン系の香り成分を含むハーブなどを使った宝焼酎「レモンサワー専用」をベースにするのだとか。

 

【関連記事】
【意外と知らない焼酎の噺09】レモンサワー発祥の店「もつ焼き ばん」で語る、焼酎「割り材」の噺
【意外と知らない焼酎の噺10】一子相伝で受け継がれる“幻”の割り材「ホイス」の噺
【意外と知らない焼酎の噺11】東京生まれ、 大衆酒場で人気の個性派割り材「バイスサワー」の噺

 

●「レジェンド×豆乳」

3品目は「レジェンド×豆乳」。第13回『「お茶割り」のプロに聞く「焼酎×お茶」組み合わせの妙を楽しむ噺』の取材の感想を交えながら語ってもらいました。

 

『レジェンド×豆乳』は、かつて西巣鴨(東京都北区)にあった老舗のもつ焼き酒場『高木』に甲類焼酎の『牛乳割り』というドリンクがありまして。それが大好きだったので、自分でもやってみようと思ったのがきっかけです。ただ牛乳より豆乳のほうがヘルシーということで、私の場合は豆乳。

 

特に、樽貯蔵熟成酒が20%使われた『レジェンド』で割ると、バニラやはちみつのような甘香ばしさが豆乳の甘みとマッチして、デザート感覚で飲めるところが好きです。それでいて、濃厚なもつ焼きも食べたくなるんですよね。この点は甲類焼酎の素晴らしさかなと」(倉嶋さん)

 

「第13回では、松ちゃん(松木恵美さん。倉嶋さん主宰のカルチャースクール『古典酒場』の生徒)が営む『酒と茶と 襤褸(らんる)』に行きましたね。一番興味深かったのは、同じお茶を使っても、焼酎が変わると味だけでなく色にも違いが出るところ。アルコール度数も一緒なのに、樽貯蔵熟成酒の量でpH(水素イオン指数)の値が異なるからではないかというお話でしたよね。やっぱりアルコールって奥が深いなと、勉強になりました」(倉嶋さん)

 

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今回のテーマは「チューハイ」と並んで甲類焼酎の飲み方として定番の「ホッピー割り」。東京で生まれて昔から焼酎の割り材として人気の「ホッピー」の歴史と変遷を“ホッピーミーナ”に伺います。

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家でより美味しく飲むためのコツ

最後は、甲類焼酎を家で美味しく飲むためのワンポイントアドバイスを紹介します。まず、ベースとなる焼酎やグラスは冷蔵庫で冷やしておきましょう。なぜなら、冷たいほうが氷が解けづらく、味が薄まりにくいから。

 

なお、チューハイの場合はロックアイスも用意。もちろん、お湯割りで楽しむ場合は冷やす必要はありません。ただ、事前に焼酎と水を前割りしておき、湯煎で温めておくとまろやかな口当たりになってより美味しく楽しめます。

 

チューハイをつくるための炭酸水は、ガス圧が強い強炭酸タイプがオススメ。注ぐ際は、勢いよくではなく、氷に当てないようグラス内側に沿わせるようにやさしく入れ、マドラーで混ぜるのもゆっくり1回程度で十分です。

 

焼酎は容量や容器にも様々な種類がありますが、冷蔵庫で保存しやすいタイプは、牛乳パックと同型の「900ml紙パック」。冷蔵庫のドアポケットにも収納しやすい形状となっています。

 

レモンサワーが好きな方は、カットしたレモンをそのまま凍らせることで氷代わりとなり、味が薄まりにくいレモンサワーを楽しめます。味を薄めないという点では、氷代わりになるアイスキューブを別途購入するのもアリ。また、役立ちツールとしては炭酸ガスを抜けにくくする専用のキャップも売っているので、適宜使ってみてください。

 

割り方で無限に楽しめる酒が焼酎だ

 

最後に再び、これまでの「意外と知らない焼酎の噺」を振り返った感想を倉嶋さんに聞きました。

 

「甲類焼酎の面白さは割り材との組み合わせにあり、その味わいを支えているのが、絶妙なバランスでつくられた宝焼酎。樽貯蔵熟成酒のブレンド比率などによって様々なつくり分けがされていて、そこからの掛け合わせで無限の美味しさが楽しめるという。本当にスゴいお酒です!」(倉嶋さん)

 

本シリーズによって倉嶋さんの焼酎知識が一層深まるとともに、吞兵衛人生の転機になったとも。読者のみなさんもぜひ奥深い魅力に触れ、より豊かな焼酎ライフを楽しんでください。

 

 

<取材協力>

チューハイ倶楽部C

住所:東京都杉並区天沼3-6-22
営業時間:17:00~24:00
定休日:月曜

 

撮影/鈴木謙介

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

・極上<宝焼酎>
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/lineup/gokujo-takara-shochu.html

・宝焼酎「レジェンド」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/legend/

・宝焼酎「NIPPON」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/nippon/

・極上〈宝焼酎〉の炭酸割りタンチュー
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/gokujo/tanchu/

 

【意外と知らない焼酎の噺】バックナンバーはこちら▼
【意外と知らない焼酎の噺01】「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺
【意外と知らない焼酎の噺02】「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺
【意外と知らない焼酎の噺03】いろんな「甲類焼酎」を飲み比べて味わいの違いを実感する噺
【意外と知らない焼酎の噺04】芋焼酎のつくり方を知り、味わいを楽しむ噺
【意外と知らない焼酎の噺05】麦焼酎の歴史とつくりを知り、味わいを楽しむ噺
【意外と知らない焼酎の噺06】焼酎の味わいを決める「樽貯蔵熟成酒」について宮崎・高鍋で学ぶ噺
【意外と知らない焼酎の噺07】「チューハイ」ってどんなお酒? その歴史や魅力を深掘りする噺
【意外と知らない焼酎の噺08】ホッピーミーナが語る! 焼酎のベストパートナー「ホッピー」の噺
【意外と知らない焼酎の噺09】レモンサワー発祥の店「もつ焼き ばん」で語る、焼酎「割り材」の噺
【意外と知らない焼酎の噺10】一子相伝で受け継がれる“幻”の割り材「ホイス」の噺
【意外と知らない焼酎の噺11】東京生まれ、 大衆酒場で人気の個性派割り材「バイスサワー」の噺
【意外と知らない焼酎の噺12】「強炭酸チューハイ」をつくるディスペンサーの秘密に迫る噺
【意外と知らない焼酎の噺13】「お茶割り」のプロに聞く「焼酎×お茶」組み合わせの妙を楽しむ噺
コチラ

焼酎の奥深さを再確認! 倉嶋紀和子が改めて甲類焼酎を飲み比べる噺

提供:宝酒造株式会社

 

意外と知らない焼酎の噺14

『古典酒場』編集長の倉嶋紀和子さんがナビゲーターとなって探っていく「意外と知らない焼酎の噺」。今回は“総集編”(前編)として、荻窪(東京都杉並区)の「チューハイ倶楽部C」で、焼酎の基礎知識を振り返りつつ、改めて「甲類焼酎」の美味しい飲み方を紹介します。

●倉嶋紀和子/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任

 

 

焼酎の基礎知識を振り返る

2022年から始まった「意外と知らない焼酎の噺」。焼酎の歴史やつくり方、千葉県と宮崎県の焼酎工場で蒸留や樽貯蔵のいろはを伺ったり、様々な角度から焼酎の魅力を深掘りしてきましたが、倉嶋さんに改めて感想を聞きました。

 

「第1回の『「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺』では、『酒文化研究所』の狩野卓也さんから、勉強になる話をたくさん聞かせていただきましたね。例えば、連続式蒸留焼酎(甲類焼酎)が明治末期に日本に伝わったという話は印象に残っています。

 

第2回で伺った、松戸(千葉県松戸市)の工場見学も忘れられません。なかでも連続式蒸留機がものスゴい大きさでビックリ。本格焼酎をつくる単式蒸留機は見たことあったんですけど、連続式蒸留機は初めてで、国内最大級というサイズはとにかく圧倒されましたし、貴重な体験でした」(倉嶋さん)

↑十数本の蒸留塔を有する、宝酒造松戸工場の巨大な連続式蒸留機

 

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「松戸工場ではテイスティング(第3回『いろんな「甲類焼酎」を飲み比べて味わいの違いを実感する噺』)も楽しかったです。でも、商品の味以上に驚かされたのは、蒸留前の『粗留アルコール』と蒸留後の『アルコール』との違いですね。連続式蒸留機で磨くとこうなるんだ、クリアな風味ってこういうことなんだ、と深く理解できました。

 

工場見学といえば、やっぱり第6回で行った高鍋(宮崎県高鍋町)の黒壁蔵は一生モノの思い出です。樽貯蔵熟成酒の巨大な貯蔵庫が圧巻でしたし、樽の再生加工現場での樽内部の焼成工程もスゴい迫力で。樽熟成にかける手間ひまや、ブレンド技術の高さ、そして『樽貯蔵熟成酒』の香り高さとそれぞれの違いにも驚かされました。最高に楽しかったです!」(倉嶋さん)

↑火力を上げ、炎が燃えさかるように焼き上げる「チャー」の仕上げ工程。このあと水で消火し、樽の組み直しを行います

 

↑黒壁蔵のラック式自動樽貯蔵庫。最大4200本の樽を収納可能。スケールの大きさに倉嶋さんも息を飲むばかり

 

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■甲類焼酎の基礎知識

①焼酎(蒸留酒)の誕生は紀元前。日本に伝わったのは14〜15世紀。

②焼酎は芋や麦などを発酵させたもろみを蒸留し、原料の風味やアルコールを凝縮させた蒸留酒である。

③連続式蒸留機で蒸留したアルコール分36度未満の焼酎が「甲類焼酎」(単式蒸留機で蒸留したアルコール分45度以下の焼酎が「本格(乙類)焼酎」)。

④主な原料はさとうきび糖蜜などをベースにした粗留アルコールである。

⑤甲類焼酎は明治末期(1910年)に誕生。当初は、連続式蒸留で得られたアルコールに粕取焼酎をブレンドした『新式焼酎』と呼ばれていた。

⑥一般的にピュアでクセがないお酒なので、割り材の味を生かすなど楽しみ方も多種多様である。

⑦樽貯蔵熟成酒などのブレンドによって様々な味わいの甲類焼酎がある。

⑧糖質、脂質、プリン体がゼロなので適量を守って飲めば翌朝の酔い覚めが爽やかである。

⑨消費は東高西低。東日本でよく飲まれている。

 

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「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺
今回のテーマは「甲類焼酎のつくり方」。そこで、日本最大級の焼酎製造場である宝酒造の松戸工場(千葉県松戸市)を訪問。工場長へのインタビューと製造現場の見学を通して、甲類焼酎の魅力に迫ります。

焼酎の味わいを決める「樽貯蔵熟成酒」について宮崎・高鍋で学ぶ噺
樽貯蔵熟成酒のブレンドによって甲類焼酎の味が大きく変わることを知った倉嶋さん。今回はその「樽貯蔵熟成酒」ができるまでを、宮崎県の高鍋町にある宝酒造 黒壁蔵で実際に見学してきました。

 

倉嶋紀和子オススメの甲類焼酎の飲み方

ここからは上記で学んできた基礎知識も元に、改めて多彩な甲類焼酎を飲み比べて倉嶋さんが「宝焼酎」「極上〈宝焼酎〉」「」「レジェンド」「NIPPON」の5銘柄の魅力を解説。テイスティングコメントをいただきながら、オススメの飲み方を提案してもらいました。

 

●宝焼酎

 

「キリッとしていて飲み飽きしない、これぞ安定の美味しさ! ピュアでまろやかな味が最高ですね。こうしてストレートで飲むと、ちょっと梅シロップを足したくなりますね。

 

割り方は、シンプルに炭酸(炭酸水)で割ったチューハイも美味しいですし、レモンを搾ってレモンサワーにしたり烏龍茶や緑茶で割ったりと万能な酒質。ペアリングとしてはやっぱり、もつ焼きを食べたくなります」(倉嶋さん)

 

●極上〈宝焼酎〉

「樽貯蔵熟成酒を3%ブレンドしているので、ほんのりと香る樽のニュアンスが、豊かな気持ちにさせてくれますね。甘やかな樽の香りがありつつも後口はすっきりとドライで、この絶妙なキレは、さすがひとクラス上のプレミアム焼酎です。

 

割り材はこちらも、何でも合うと思います。リッチな風味が出ているので、特に濃い味の割り材がいいかもしれません。あとは梅シロップをはじめとする甘いエキスよりも、苦みや渋味があるお茶などのほうがより合う気がしますね」(倉嶋さん)

 

●純

 

「まろやかなタッチや、バニラを思わせる甘やかな余韻が印象的です。11種類の樽貯蔵熟成酒を13%使用しているからこその華やかな香りは、炭酸で割る飲み方が最も感じられるのかも。炭酸の刺激によって、上品な香りがふわっと広がっていくような。ですので、炭酸割りでもシンプルなプレーンチューハイがいい気がします」(倉嶋さん)

 

●レジェンド

「自宅に常備しているので、思わず『ただいま』って言いたくなる美味しさ(笑)。芳醇でウッディな香味が、よりバニラやはちみつのような甘みを感じさせてくれて、たまらないんです。ロックなど単体でも十分に美味しいんですけど、私がハマってるのは豆乳割り。クリーミーな割り材によって、甘みが絶妙に調和されるんです。ぜひ多くの方に試していただきたいです」(倉嶋さん)

 

●NIPPON

 

「やわらかい花の華やかな香味は、陽気な春の印象。桜餅が食べたくなりますね。炭酸で割れば桜餅のようなほのかな甘い香りが楽しめますが、私としては、実は『ホッピー』のベストパートナーが『NIPPON』。独自の香ばしい風味が桜の香りと調和して、ちょっと可憐な味わいになるのが大好きなんです。ちなみに、その際に割る『ホッピー』は白のほう。イチオシですよ!」(倉嶋さん)

 

 

甲類焼酎といっても、その味わいは様々。倉嶋さんの提案も参考に焼酎ライフを楽しんでください! 次回(後編)は「ホッピー」や「ホイス」「バイス」などの割材について振り返りつつ、倉嶋さんのオリジナルチューハイを紹介します。

 

<取材協力>

チューハイ倶楽部C

住所:東京都杉並区天沼3-6-22
営業時間:17:00~24:00
定休日:月曜

 

撮影/鈴木謙介

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

・極上<宝焼酎>
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/lineup/gokujo-takara-shochu.html

・宝焼酎「純」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

・宝焼酎「レジェンド」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/legend/

・宝焼酎「NIPPON」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/nippon/

 

【意外と知らない焼酎の噺】バックナンバーはこちら▼
【意外と知らない焼酎の噺01】「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺
【意外と知らない焼酎の噺02】「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺
【意外と知らない焼酎の噺03】いろんな「甲類焼酎」を飲み比べて味わいの違いを実感する噺
【意外と知らない焼酎の噺04】芋焼酎のつくり方を知り、味わいを楽しむ噺
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【せんべろnet監修 】“ひとり飲み”初心者が「角打ち」に挑戦する噺

提供:宝酒造株式会社

 

「酒噺:東京・大衆酒場の名店シリーズ」で一連の酒場知識を習得したお酒好きタレント・中村優さん。本企画は、実践編ということで、女性一人(初心者)でもできる「酒場」の楽しみ方を、「せんべろnet」管理人のひろみんさんに教えてもらいながら体験していく第3回目。今回は、神田(東京都千代田区)にある人気の酒屋さんで角打ち(かくうち)に挑戦します!

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

角打ちに挑戦してみたい……

これまでの体験で、それなりの経験値を積んだ中村さん。最近よく耳にする「角打ち」って何だろう? ぜひ一度行ってみたいと思い、ひろみんさんにLINEで「角打ち」について聞いてみることに。

 

すると、ひろみんさんから早速返信が!

 

「簡単にいえば、角打ちは酒屋さんの一角で飲むこと。または飲める酒屋さんのことなどを指します! 発祥は、製鉄業で栄えた時代の北九州らしいです。いまは多様化が進み、おつまみに凝ったりお酒に特色を出したり、お店のバリエーションも豊富ですよ」とのこと。

 

加えてひろみんさんは「角打ちは東京にもたくさんあって、初めて行くなら神田の藤田酒店さんがオススメです!」とも。

 

そこで中村さんは早速、「藤田酒店」で「角打ち」にチャレンジするために神田へ向かいました。

 

そもそも角打ちとは?

 

そもそも「角打ち」とは元来“升に酒を入れて飲むこと”を指しますが、時代とともに“酒屋さんでお酒を買い店内で嗜む”という意味が一般的になりました。その多くは立ち飲みスタイルですが、座席で飲めるお店もあります。発祥は、福岡県北九州市であるという説が有力。その背景には、官営八幡製鐵所に勤務していた労働者の文化が関係しているといわれています。

 

1901(明治34)年に操業を開始した官営八幡製鐵所は、24時間交代制で稼働していました。お酒好きの労働者にとって、仕事後の飲みは癒しの時間でしょう。ただし当時、夜勤明けの朝は居酒屋などお酒を飲める店が営業していません。そこで労働者たちは朝から営業している酒屋さんでお酒を買い、店頭で飲むようになった――。これが北九州における「角打ち」のルーツです。

 

「角打ち」の魅力のひとつは、酒屋さん自体が飲食店に卸す立場の業種でもあるためお酒が比較的に安価なこと。おつまみは、乾き物や缶詰などが主体のお店もあれば、なかには飲食店営業許可証を取得して、自家製の料理を提供する店も。いずれにせよ、気軽に一杯楽しめるのが醍醐味です。

 

また、「角打ち」は立ち飲みスタイルが多いため、お店の人やお客さん同士の距離が近く、自然と会話が生まれやすい業態です。加えて、お酒の種類やラインナップが豊富で、気に入った缶やびんのお酒があればその場で購入できるのも、酒屋さんならでは。近年は日本酒やワインに特化した店や、少量ずつの飲み比べセットを用意するお店も登場するなど、お酒好きにとってのパラダイスとなっています。

 

〜角打ちとは〜

・「角打ち(かくうち)」とは元来“升に酒を入れて飲むこと”を指すが、現在では“酒屋さんでお酒を買い店内で嗜む”という意味が一般的に。

・発祥は、福岡県北九州市であるという説が有力。その背景には、官営八幡製鐵所に勤務していた労働者の文化が関係しているといわれている。

・酒屋さん自体が飲食店に卸す立場の業種でもあるため、お酒が比較的に安価なこと。おつまみは、乾き物や缶詰などが主体のお店もあれば、自家製の料理を提供する店も。

・近年は日本酒やワインに特化した店や、少量ずつの飲み比べセットを用意するお店も登場するなど多様化。

 

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いざ!藤田酒店へ

 

「藤田酒店」に到着した中村さん。ひろみんさんによると、こちらは気軽な雰囲気なので初めてでも安心なのだとか。ということで「せんべろnet」の記事を参考に、いざ入店。

 

恐る恐る扉を開けると、すぐにご主人の坪田維修さんが「いらっしゃい!」と迎えてくれました。

 

中村 ひとりなんですけど大丈夫ですか?

 

坪田 もちろんですよ。お好きなところへどうぞ!

↑ご主人の坪田維修さん

 

中村 (まずは注文、どうしよっかな?)さすが、メニューが豊富ですね! お酒もズラリと並んでて。

 

坪田 ありがとうございます! うちは初めてですか?

 

中村 はい、実は「角打ち」自体が初めてで。

 

坪田 それはそれは、うちを選んでいただき光栄です! では一応、簡単にうちの注文方法をお伝えしますね。お酒は冷蔵庫から出していただいて構いませんし、冷蔵庫の外にあるものはお伝えください。

 

中村 わかりました! お会計はキャッシュオンですよね?

 

坪田 はい。その都度カウンターのレジでご精算となります。おつまみのオーダーもあればご一緒に。お品書きからでも、ぜひご覧になっていただけたら。

 

中村 そしたらまずは、このタカラ「焼酎ハイボール」をお願いします。

↑タカラ「焼酎ハイボール」5%〈特製グレープフルーツ割り〉350ml(300円)

 

坪田 5%の〈特製グレープフルーツ割り〉ですね。300円になります。ほかになにかわからないことがありましたら、なんでも聞いてくださいね。また、細かい点はそこに貼ってある「初めてのお客様へ」にも書いてありますので。

 

 

中村 ほんとだ! これはすごくありがたいです。では、まずは乾杯ッと……。うん、レモンとは違った柑橘の爽快感があって美味しい! アルコールが5%の絶妙な飲みごたえ!

 

坪田 甘くない缶チューハイの代名詞ですよね。タカラ「焼酎ハイボール」は、うちにもファンが多いです。アルコール7%の<ドライ>が一番人気ですけど、最近5%の<特製グレープフルーツ割り>がよく出るようになったので2列に増やしました。

 

中村 おつまみにも相性抜群ですよね。ということで、「うるめいわし」と「シマアジ」「干し甘エビ」をお願いします。あっ「シマアジ」は2つで。「炙ります」と書いてあって、気になっちゃいました。

 

坪田 お任せください! 炙るので、少々お待ちくださいね。こちらはあわせて250円になります。

 

中村 ヤッター! この、駄菓子屋さんっぽい入れ物に入ってるのもいいですよね。私、昔からこういった小魚が大好きなんです。いまでも、見つけるとすぐ買いますし。

 

坪田 そうなんですね。でも確かに、おやつでよく食べていた、とおっしゃるお客様は多いです。ではどうぞ。

↑「うるめいわし」「シマアジ」各1尾50円、「干し甘エビ」1尾100円

 

中村 炙ってあるから香ばしくて、より美味しい! それにお酒が進みますね。タカラ「焼酎ハイボール」とも相性抜群。

 

坪田 ありがとうございます。こちらは価格も駄菓子屋感覚で提供させていただいています。

 

中村 お酒もおつまみもサイコーに美味しくて、雰囲気も非日常感がありながらアットホームであったかい。「角打ち」、すごく楽しいです!

 

角打ちのルールとは?

「角打ち」は、独自のルールを設けているお店が多めです。もしもルールの掲示がなく、注文方法などがわからない場合には、お店の方にたずねてみましょう。

 

よくあるルールのひとつが、現金×キャッシュオンのシステム。最近はキャッシュレスに対応されている「角打ち」も見かけますが、千円札や小銭は用意しておいたほうがいいでしょう。

 

また、酒屋さんなので、基本的にはセルフサービスです。冷蔵庫から飲みたいお酒を選んで取り出したり、飲食後の食器やゴミを片付けたりといった部分は協力しましょう。

 

なかには「1グループ2名まで」など、来店人数にルールを設けている「角打ち」も。テーブルはカウンタ―のみというお店も少なくないので、グループで訪問したい場合は事前に調べておくことがオススメです。

 

なお、乾き物やお菓子などを手で食べるシーンが多いのですが、おしぼりは無いのでウェットティッシュを用意しておくと便利です。

 

そして、混んできたら詰めて譲り合い、長っ尻はせず飲み終わったら帰るのがマナー。お店にもよりますが、滞在時間は最大1時間ぐらいがベストです。酒屋さんの店頭であるためお手洗いがないことも多いので、その意味でも短時間で切り上げる意識をもって「角打ち」を楽しんでください。

↑藤田酒店にはトイレもあるので、いざという時も安心

 

〜角打ちのマナー〜

・「角打ち」は、独自のルールを設けているお店が多いので、注文方法などがわからない場合は、お店の方にたずねる。

・基本的にはセルフサービス。冷蔵庫から飲みたいお酒を選んで取り出したり、飲食後の食器やゴミを片付けたりといった部分は協力すること。

・乾き物やお菓子などを手で食べるシーンが多いが、おしぼりは無いのでウェットティッシュを用意しておくと便利。

・長っ尻はせず飲み終わったら帰るのがマナー。滞在時間は最大1時間ぐらいがベスト。

 

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意外な「おつまみ」でますますお酒が進む!

気さくな店主のおかげで、すっかり緊張もほぐれた中村さん。お酒も進んでトークにも花が咲きます。

 

中村 お店はいつから営業されてるんですか?

 

坪田 1928(昭和3)年です。私たち夫婦は三代目で、角打ちは2013年から始めました。そのあと2016年にちょっと改装して広くなりましたね。

 

中村 「角打ち」になったのは比較的最近なんですね。

 

坪田 当初は、乾きものが中心のおつまみだったんですけど、オープンから1年半ぐらいしてから徐々にバリエーションを増やしたんです。お客様の期待に応えたいなと思って。

 

中村 なるほど! 一番人気はどのメニューですか?

 

坪田 実は「焼ソバ」なんです。

 

中村 あっ、目の前にあるこちらのカップやきそばですか? 気になるので、お願いしてもいいですか?

 

坪田 かしこまりました! 400円になります。少々お待ちくださいね。

 

中村 はい! では一緒にお酒も。タカラ「焼酎ハイボール」をおかわりで。

 

坪田 「焼ソバ」もお待たせしました! どうぞ。

 

中村 わっ、この野菜は水菜ですよね。特別感があって、ますます美味しそう!

↑「焼ソバ」(400円)

 

坪田 水菜はちょっとしたアイデアなんですけど、おかげさまで好評です。箸休めにもなるかなと思って入れさせていただいているんですけどね。

 

中村 いただきますっ……やきそばと水菜って合いますね! 香ばしくて酸味の効いたソースと、シャキッとしてさっぱりした水菜がマッチ。これまたお酒が進みます!

 

坪田 ふだんはカップやきそばを食べないけど、うちに来ると必ず召し上がる、というお客様も結構いらっしゃるんですよ。

 

中村 その気持ち、わかります! 私、カップのインスタント麺って山頂で食べるのが世界一のロケーションだと思ってましたけど、「角打ち」で食べるのも最高。いい場所、見つけちゃいました!

 

坪田 また焼きそばをつまみながら飲みたくなったら、ぜひお立ち寄りください(笑)!

 

中村 絶対また来ます!

 

「角打ち」は“大人の駄菓子屋”だ

中村さんにとって、初めての「角打ち」は大満足の体験に。ひろみんさんにお礼のLINEを送ると、「気に入ってもらえてよかったです! 角打ちはお店ごとに作法が違ったりしますけど、それも魅力。名店は全国にあるので、いろいろ巡ってみてくださいね」と返信が。

 

酒屋さんならではのお酒とつまみが種類豊富に揃う「角打ち」は、いわば“大人の駄菓子屋”。童心に帰った気分で飲めるのも、また魅力といえるでしょう。次回もひろみんさんのアドバイスをもとに、せんべろ系の人気店と、その作法を紹介します。

 

撮影/鈴木謙介

 

<取材協力>

藤田酒店

住所:東京都千代田区内神田2-10-2
営業時間:17:00~21:00
定休日:土曜、日曜、祝日

※価格はすべて税込みです

記事に登場した商品の紹介はこちら▼
・タカラ「焼酎ハイボール」
https://shochu-hiball.jp/

 

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【東京・沿線ぶらり酒】「酒とつまみ」初代編集長が三鷹で故郷と酒場を語る噺

提供:宝酒造株式会社

 

街を結ぶ沿線には、その地ならではの名酒場と酒文化がある――。本企画では、首都圏沿線の路線ごとに、奥深いカルチャーを探っていきます。ナビゲーターは『古典酒場』の倉嶋紀和子編集長。各沿線に縁のあるゲストとともに、街と酒場の魅力を語り尽くします。

 

JR中央線の第2回目は三鷹(東京都三鷹市)。文士の街、ジブリ美術館、“住みたい街”吉祥寺(東京都武蔵野市)の隣、東京のベッドタウン……。それなりにトピックスはあるものの、いまいちイメージがつかめない街といえるかもしれません。今回はこの街で育った、雑誌『酒とつまみ』初代編集長でもある酒場通・大竹聡さんをゲストにお迎えして、三鷹とはどんな街なのか、そしてどんな酒場があるのかを伺っていきます。

●大竹聡(右)/1963年、東京三鷹市生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告会社、編集プロダクション勤務を経てライターとして独立。2002年、仲間とともにミニコミ誌『酒とつまみ』を創刊して初代編集長に。『中央線で行く東京横断ホッピーマラソン』や『五〇年酒場へ行こう』など、著書も多い。
●倉嶋紀和子(左)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任

 

 

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世界一に選ばれた街・「三鷹」の知られざる魅力

 

まずは、三鷹という街の概要から。歴史をたどると、1889年の全国的な市制町村制施行により、上連雀や新川、牟礼といった10か村が合併し三鷹村となったことがルーツ。名の由来は諸説あるものの、かつて徳川将軍家が鷹狩を行なった場所であり、それが当時の世田谷、府中、野方の3領にまたがっていた(=三領の鷹場)からという説が有力です。

 

JR中央・総武線の各駅停車(いわゆる、黄色い総武線と東京メトロ東西線の直通列車)の起点/終点となっており、加えて中央特快が停車し、新宿駅まで最速約14分で到着する好アクセスな立地です。なお、三鷹駅は武蔵野との市境である玉川上水の真上に開設されたため、駅の南側は三鷹市でありながら、北側は武蔵野市という、ある意味ユニークな位置関係も特徴です。

↑三鷹駅の有名スポットといえば、作家・太宰治ゆかりの地として知られる「三鷹跨線(こせん)人道橋」。電車庫の開設時、南北の在来ができるように建設されたものですが、老朽化などを理由に2023年12月10日をもって閉鎖され、今後撤去される予定となっています

 

「住みたい街ランキング」では上位の常連で隣駅の吉祥寺の陰に隠れた存在ですが、2005年にはWTA(米国NYに本部を置く国際機関)主宰の「インテリジェント・コミュニティ・オブ・ザ・イヤー(※)」では三鷹市が世界一に選出されています。

※:世界のITを活用して経済や文化、社会を発展させた優れた地域を表彰する取り組み

 

文化芸術的な特色も濃く、武者小路実篤、三木露風、山本有三、太宰治など、多くの文豪が暮らした文士の街としても有名。また、2001年には井の頭公園(正式名称は都立井の頭恩賜公園。武蔵野市と三鷹市にまたがっている)内に「三鷹の森ジブリ美術館」がオープンし、人気スポットとなっています。

 

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「元祖ハルピン」で大竹聡に「三鷹の青春」を聞く

倉嶋 大竹さん、今日は三鷹でよろしくお願いします! やっぱり素敵な街ですね~。

 

大竹 ようこそ三鷹へ! と言いたいところなんだけど、実はいまは住んでないのよ。でも、ここは生まれ育った街だし、もちろん古典酒場を中心にある程度、店のことも知ってるよ。

↑「元祖ハルピン」。三鷹駅南口より徒歩10分程度

 

倉嶋 頼もしい! ここ「元祖ハルピン」さんはずっと気になっていたお店で、餃子をアテに紹興酒をちびちびやりながら語らいたいなと。

 

大竹 いいね~。

 

二人 では、カンパーイ!

 

倉嶋 さっそくですが、大竹さんの少年時代の話から聞かせてください。

 

大竹 昭和38(1963)年、隣町の武蔵境(東京都武蔵野市)のほうにある武蔵野赤十字病院で生まれたんだけど、笑いながら出てきたそうで、そんな赤ちゃんは初めてだったと言われたよ。

 

倉嶋 出生からして豪快(笑)!

 

大竹 家は三鷹の新川という、調布(東京都調布市)の仙川に近い場所にあってね。小中学校は地元だったけど高校は国立(くにたち)高校(東京都立国立高等学校)に通って、ちょうどここ「元祖ハルピン」がオープンした1982年に卒業したね。

 

倉嶋 どんな高校生だったんですか?

 

大竹 国立高校は手前味噌ながらなかなかの進学校で。でも朝のホームルームがなく、出席も取らない自由な校風だったんだよ。そんなこともあり、単位さえ取ればいいんでしょってことで、けっこう遊んでた。

 

倉嶋 さすが(笑)! でも、部活とかはやってなかったんですか?

 

大竹 中学まではずっと野球をやってたんだけど、高校ではサッカー部で頑張ってたよ。でも3年の夏で終わるでしょ。

 

倉嶋 なるほど。じゃあ引退後に新たな青春が始まったんだ!

 

大竹 そういう感じかな。三鷹の駅前とか街なかで、よくブラブラしてたよ。当時は南口の駅前エリアに「三鷹オスカー」「三鷹文化劇場」と、2つの映画館があってね。あと、いま文化センター(三鷹市芸術文化センター)が建ってる場所に市立図書館があって、朝「行ってきまーす」なんて出かけるんだけど、まずは図書館で本読んで、駅前で昼飯食べたら午後から映画館で3本立てを観て、夜になったら「ただいまー」ってね。

倉嶋 学校行かないんですね!

 

大竹 そのくせ「今日もたくさん勉強したなぁ~」とか言って。で、親から「聡、大学はどこ志望なの?」って聞かれれば「うん、東大東大」って。でもこれは本気で言ってたね。まあ、生意気でやさぐれた高校生だったと思うよ。それに進学は結局、早稲田の第二文学部に行って、さらに水を得ちゃうし。倉嶋さんはどんな子だったの?

 

倉嶋 すごく真面目な女学生ですよ。朝から夜まできっちりと授業があって、課外授業も受けて、「源氏物語」が好きで。部活は中高ずっと吹奏楽部でフルートを吹いてました。

 

大竹 じゃあ、いまはその反動(笑)?

 

倉嶋 (笑)人生、やっぱりちょっとした息抜きが要りますでしょ。あ、おつまみが来ましたね。いただきましょっ!

↑「イカ餃子」(水餃子)630円

 

↑「ニラ餃子」(焼き餃子)580円

 

大竹 うん、こりゃいいね。隠し味に中華の甘やかな香辛料が効いてて、ジューシーな肉汁と調和してる。この味と、紹興酒の甘みや酸味がマッチして、酒が進むな~!

 

倉嶋 はいっ! 私イカが大好きなんですけど、イカ入り餃子は初めて食べました。プリッとしててボリュームもあって、すごく美味しいです!お酒は紹興酒にして大正解ですね。紹興酒のコクが餃子のあんに寄り添いつつ、爽やかなキレはオイル感を絶妙にウォッシュアウト。

↑「紹興酒 5年」中( 360ml)1050円。一人なら小(180ml )650円がオススメ

 

大竹 うん、さすがは百戦錬磨の倉嶋さん。チョイスがイケてるわ~。

 

倉嶋 なんのなんの。でも今日は常温ですけど、夏は冷やして、冬は温めてといった飲み方も美味しいに決まってますね!

 

大竹 この餃子は生地から手作りで、厚皮のもちもち食感がたまらんね。水餃子はチュルッと、焼き餃子は表面だけパリッとしてて、ジューシーな肉汁とのメリハリもイイ!

 

 

つつましい街「三鷹」

倉嶋 「元祖ハルピン」はもう40年以上も営業されていますけど、大竹さんは学生時代、どんなお店に行ってたんですか?

 

大竹 昔の三鷹駅にはあんな立派なデッキなんてなくてさ。駅前とか商店街の、喫茶店や中華屋さんとかによく行ったね。南口ロータリーのところにあった「三鷹飯店」のチャーハンとか、「第九書房」という本屋の2階にあった「第九茶房」でクラシック聴きながら飲むコーヒーとか、懐かしいな~。そういうの、倉嶋さんにもあったでしょ?

 

倉嶋 実家はけっこう厳しかったので、寄り道も買い食いも禁止。私も実直に守ってました。

 

大竹 やっぱり反動だ! 青春時代を取り戻すかのように、いま謳歌するという。

 

倉嶋 生活自体は昔と変わらず規則正しいはずですが、確かに寄り道や買い食いは否めないですね(笑)。ちなみに大竹さん、三鷹で現存するお店だとどちらに行かれてました?

 

大竹 いまの「中華そば みたか」が「中華そば 江ぐち」だったときとかね。あとはドリンクが+170円でモーニングセットになる「リスボン」もオススメ。

 

倉嶋 昔ながらのお店も、けっこう残ってますもんね。

 

大竹 まあまあかな。でも大きな通りの形とかはあまり変わってないし、スーパーやファミレス、100円ショップなどが入っている「三鷹ショッピングセンター第一ビル」みたいに、昔のまま変わってない建物もあったりするね。倉嶋さんにとって、三鷹はどんなイメージ?

 

倉嶋 都下のなかでは高級な印象です。あとは駅前の南北ともに高層マンションがけっこう建っていますし、住宅街のイメージですね。そのぶんお店の数は吉祥寺や西荻(西荻窪)ほど多くないので、私自身も三鷹に飲みに来ることは少なかったです。

 

大竹 まあそうなるよね。よく冗談で「吉祥寺から西は崖だ。なんもないよ」ってよく言ってるから。

 

倉嶋 崖(笑)。でも吉祥寺みたいな人混みがないので、居心地はいいんです。お店も、数が多くないぶん一軒一軒アットホームな気がしますし。

 

大竹 そうだね。それに地元出身の人がやってる店の割合は、吉祥寺より多いかも。

 

倉嶋 そう、土着的な雰囲気がありますよね。吉祥寺のような、文化の発信地だと胸を張る感じもない、そんなつつましいところに共感を覚えるから、私にとっても愛着があるんです。

 

大竹 隣の吉祥寺はいろんな地方から人が来て、自分が憧れる街の姿をそこに反映してさ、好きになって住んだり店を出したりするケースがけっこうあると思うんだ。でも三鷹はそこまでならないから、自然と地元出身者の割合が多くなるんじゃないかな。もっとも、吉祥寺は土地が高いしマンションも少ないから、近年は三鷹がその受け皿になって新しい人が増えている印象もあるね。

 

倉嶋 実は私も、よく来るようになったのは近年で、そのきっかけになったお店があるんですよ。北口にある「万歳パンダ」っていうおばんざいがメインの小料理屋のような酒場なんですけど。

 

大竹 三鷹に来るきっかけとは、気になるねぇ。どの辺にあるの?

 

倉嶋 「武蔵八丁特飲街」って呼ばれてる、昭和の情緒を感じさせる狭い路地にあるんですよ。行ってみません?

 

大竹 なんとなく場所はわかるよ。行ってみようか!

↑「元祖ハルピン」を出た二人は、三鷹跨線橋を渡って駅の北口に向かう

 

↑跨線橋から三鷹駅北口付近の「玉川上水緑道」を歩く二人。目指す「万歳パンダ」は三鷹駅北口から徒歩約10分ほど

 

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ホッピーミーナが語る! 焼酎のベストパートナー「ホッピー」の噺
今回のテーマは「チューハイ」と並んで甲類焼酎の飲み方として定番の「ホッピー割り」。東京で生まれて昔から焼酎の割り材として人気の「ホッピー」の歴史と変遷を“ホッピーミーナ”に伺います。

「チューハイ」ってどんなお酒? その歴史や魅力を深掘りする噺
これまで、焼酎の歴史や、造り方について深掘りしてきた本シリーズですが、ここからはその飲み方などの”実践編”。今回のテーマは「チューハイ」です。

 

「万歳パンダ」で『酒とつまみ』誕生秘話を聞く

 

倉嶋 大竹さん、ここが「万歳パンダ」です!

 

大竹 センスを感じるけど味もある空間で、いいね~。飲み物はチューハイがいいかな。

 

倉嶋 はい! じゃあ2つで。カウンターに出てるのが名物のおばんざいで、今日は8種類ありますね。いい感じに見繕ってもらいます。

 

二人 カンパーイ!

 

倉嶋 あらためて、より大竹さんとお酒の関係について深堀していきたいんですけど、どのようにしてお酒が好きになっていったんですか?

 

大竹 これは至って普通でさ、最初はちょっと飲んでみたいなっていう好奇心からよ。ハマッてったきっかけは、バイト後の一杯。僕は大学が二部だったから、昼間は印刷工場で働いていたのね。で、大人な気分に浸りたいと思って労働後に飲むんだけど、これがウマいのなんの。

 

倉嶋 ついに出合っちゃうんですね~。

 

大竹 そしたらもう、店でひとり飲みし始めるのも時間の問題でしょ。三鷹、新宿、西荻とかの駅前、または家の近所の仙川に繰り出して飲むようになっちゃったの。やっぱり学生だからチューハイが多いよね。でも例えば西荻の「戎(えびす)」は当時、焼酎はストレートしかなくてさ。ガラスのコップに入った宝焼酎が受け皿にあふれるぐらいに入って、150mlぐらいかな。

 

倉嶋 ええ、25度の。

 

大竹 それを3杯。ちびちびでも、450ml飲んでるから結構回るでしょ。で、つまみはタンの串2本と冷やしトマトとか、もろきゅうで、当時は1000円でもお釣りがくるぐらいだったんだから。最高だったよね。

 

倉嶋 私がそうなるのは上京してもっと大人になってからですから、早熟な学生ですね~。では、私の原点であり、いまでもバイブルにしている名雑誌『酒とつまみ』の誕生秘話も教えてください。

 

大竹 僕の事務所はフリーランス仲間の集まりでね。僕がライターで、もう1人は編集もできるライター。あとはカメラマンとデザイナーがいて、誰かが受注して仕事を分け合ってPR誌を作ったり、雑誌の特集を担当したりってやってたの。でも、一緒にやってるんだったら自分たちでも何か創りたいねとなって、このメンバーなら雑誌だろうと。

 

倉嶋 各々の職種的にはそうなりますよね。

 

大竹 で、テーマどうする? ってなったんだけど、みんなの趣味はバラバラだったの。でも唯一、みんな酒が好きだったから、これで行くしかないなとなったのよ。ただ、ふだんは酒に関する有益な情報を、発注元の方々とやりとりしながら作ってるんだけど、自分たちの好きなようにできるんだったら、むしろ役に立たないけど面白さを追求する誌面でもいいんじゃない? ってなったんだよね。

 

倉嶋 なるほど! そういった経緯で数々の伝説が生まれていったわけですね。

 

大竹 あとは、すでに酒に関する名著なんて世の中にたくさんあったからさ。僕らが目指したのは、日常的な飲みの場でよく出るような、涙流して笑うんだけど内容はしょーもない話。酔ってやらかした恥ずかしいこととかね。そういうバカ話って、飲みの場でゲラゲラ笑って、次の機会に同じメンバーでまた同じ話するんだけど、飽きずに同じだけ笑ってるんだから、これ相当面白いんだな、じゃあこれ形にしたらいいじゃんって。それがきっかけですよ。

 

倉嶋 大拍手(笑)!

 

大竹 あ、おつまみも来たからいただこうか。

 

倉嶋 はい! こちらが、私がいつも最初にオーダーしてる、おばんざいの盛り合わせです。

↑「おばんざい盛合せ」(3点)1300円。この日は「ひじき大葉つくねハンバーグ」「山形県の赤ネギの焼浸し」「カブのそぼろあん」。5点盛りは1800円で、好みの指定もできる

 

「三鷹」らしい酒場とは?

大竹 実際に目で見て、この距離感で「これとこれ」って頼めるのはいいよね。料理も素材の味が生かされててウマい。酒も進むね~。

 

倉嶋 そう。おつまみも美味しくて、お酒も会話も弾むお店なんですよ! 大竹さんが好きな酒場はどんなお店ですか?

 

大竹 好きな条件的なものは考えたことがないんだけど、通ってる店の共通点はぼんやりとあるね。親しいんだけど、ほっといて欲しいときには言わなくてもそうしてくれる。あと、僕はあまり量を食べないんだけど、特別ではない普通のおつまみでも美味しい店。そして、一人でも何人かで行っても、うまく相手をしてくれるご主人のお店に、結果的に通ってる感じかな。

 

倉嶋 私が『古典酒場』を創りたいって、大竹さんに相談したころを思い出します。このお店いいよとか、素敵なお店をたくさん教えていただいたんですけど、振り返ると、いまおっしゃった感じのお店なんですよね。店主さんがさりげない気遣いをしてくれたり、ときには人と人をつないでくれたり。私自身、大竹さんに紹介していただいたお店はいまでも長くお世話になっていて、本当に財産だなって思います。

 

大竹 通えるってのはいいお店の証拠なんだよね。そういうところはお客さんとの距離感というか、お店の方が自分たちのポジションをよく理解している。例えば僕らみたいな物書きが店を紹介すれば本を飾ってくれたり、店主さんがあいさつしてくれたりするんだけど、かといってベタベタしてるわけじゃなくて。それがすごく心地いいんだよね。

 

倉嶋 うんうん、わかります!

 

大竹 だからこっちも、常連さんの邪魔は絶対にしないっていう。そういう暗黙のわきまえをお互いわかってるのが楽しいんだよ。

 

倉嶋 初めて入る酒場の雰囲気に、どうやって溶け込むかっていう作法も大竹さんに教えていただきました。やっぱり場の雰囲気や、お客さんとのコミュニケーションが大切ですよね。特に営業中に取材で伺った場合は、どうしてもお客さんの邪魔になっちゃうじゃないですか。そのなかでも大竹さんはすごく上手で、うまく常連さんに話かけてくださったりして、にこやかな話から笑顔が伝播していくんです。本当に勉強させていただきました。

 

大竹 そう? 倉嶋さんはその辺、天才でしょ。どこ行ってもすぐに打ち解けちゃうんだから(笑)。

 

倉嶋 その基本を大竹さんに教わったんです!

 

大竹 じゃあこの「万歳パンダ」も、いつもの流れでフラッと入って仲良くなった感じ?

 

倉嶋 こちらは私の『古典酒場』の講座帰りに生徒さんに教えてもらって一緒に来て、それ以来大好きなお店です。最初に来たのは開業当時で初代女将のももちゃんのときだから、2015年かな。二代目はすぎちゃんで、いまは三代目のゆきちゃん。あったかくて心地よい雰囲気が、すごく三鷹らしい気がします。三鷹の酒場のひとつの特徴は、やっぱりこの居心地のよさなんですかね?

↑三代目・女将のゆきさん

 

大竹 一理あるかな。地元出身の店主って話をしたけど、お客さんも地元の人が中心になりがちなのね。それに住宅が多いから、お客さんはご近所さんとか、パパ友ママ友というケースもよくあると思う。だから自然と地元トークに花が咲いて、アットホームになるのかな。それこそ、同じ中学の同級生が同窓会の打ち合わせをしてたりね。

 

倉嶋 確かに。ここに来ると、地元トークが多めかも!

 

大竹 倉嶋さんは、ほかの中央線の駅と比べて三鷹の店はどう思う?

 

倉嶋 例えば前回行った西荻窪は、駅前の路地に個人経営の居酒屋や商店が密集していて、小さな村っぽい印象があるんですけど、三鷹の駅前はもっと開けてる感じで、地方都市に近いイメージですかね。でも名酒場には吞兵衛が集まって、いい雰囲気をつくりだしてるという。

 

 

2人がオススメの「三鷹酒場」とは?

 

大竹 倉嶋さんが「万歳パンダ」のほかに、三鷹でよく行くお店ってどこ?

 

倉嶋 ひとつは、このすぐ近くにある「おでん都」さん。「万歳パンダ」が満席だったときに見つけた、素敵なお店です。ダシからして美味しいおでんの盛り合わせと、その日の日本酒でペアリングを楽しんでます。北口だと「PIZZA-ISM(ピザイズム)」も好きですね。こちらは2022年オープンの比較的新しいお店で、1ピースからオーダーできる多彩なニューヨークピザを、ハイボールやワインと合わせています。

 

大竹 さすが、いろいろ開拓してるんだね。南口だとどう?

 

倉嶋 例えば、「おだしのだしお」さんは好きなお店のひとつです。こちらは貝ダシで味わうラムしゃぶが名物ですけど、とにかく羊の料理が種類豊富なことに驚きました。おつまみでも、貝と羊のポテトサラダに、なめろうに、炙りユッケなどなど。お酒はレモンサワーをはじめ、オリジナルのサワーが絶品ですね。では、こんどは大竹さんの番。お気に入りを教えてください!

 

大竹 昔っから行ってて、いまもあるのは「やきとり横堀」。最初は若かったから緊張したよね。バイト代が出た日の週末に恐る恐る入ってさ、チューハイとビールに、串焼き6本とおしんこ、煮込みとかで精一杯だったんだけど、3回目ぐらいで大将が声かけてくれてね。スポーツ新聞の競馬欄とか見てると、ニカッと笑って「いけない子だ~」なんつってさ。

 

倉嶋 なんというセリフ(笑)!

 

大竹 北口だと「婆娑羅(ばさら)」だね。山口瞳先生の『居酒屋兆治』のモデルになった国立・谷保の名店「文蔵」譲りのもつ焼きが名物なんだけど、僕は大将が作るぬか漬けが大好きで。あとは、毎日ちょっとずつ仕入れる魚。刺身のほか、干物だったり煮つけにしてくれたり。カウンターだけだから一人でも入りやすいし、意外に若いお客さんもいるんだよね。そういえば「婆娑羅」も、「元祖ハルピン」と同じ1982年創業だったかな。

 

倉嶋 あら! 奇しくも大竹さんが高校を卒業するタイミングで、名酒場が生まれてるとは。

 

大竹 もう40年以上前のことだけど、当時から故郷にある店はちょっと特別だよね。

 

倉嶋 同感です! 今日は三鷹のことをたくさん教えていただき、ありがとうございましたっ!

 

大竹さんの故郷・三鷹で、この街について学びいっそう好きになった倉嶋さん。次回は、違う沿線の街と魅力的な酒場について倉嶋さんがゲストと語り合います。お楽しみに!

 

 

<取材協力>


元祖ハルピン

住所:東京都三鷹市下連雀3-31-9
営業時間:11:30~14:00、17:00〜22:00
定休日:月曜、火曜

 


万歳パンダ

住所:東京都武蔵野市中町1-19-11
営業時間:水曜~金曜17:00~23:00、土曜、日曜15:00~22:30
定休日:月曜、火曜(祝日の場合は営業)

 

※価格はすべて税込みです

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・紹興酒「塔牌」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/touhai/

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

 

撮影/鈴木謙介

【せんべろnet 監修 】“ひとり飲み”初心者がはしご酒を楽しむ噺

提供:宝酒造株式会社

 

「東京・大衆酒場の名店シリーズ」で、一連の酒場知識を習得したお酒好きタレント・中村優さん。本企画は、前回から続く実践編ということで、女性ひとり(初心者)でもできる「酒場」の楽しみ方を、「せんべろnet」管理人のひろみんさんに教えてもらいながら体験していく第2回目。今回は横浜の“聖地”までやってきました!

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

ちょっと時間があいたので……

横浜での仕事が早く終わった中村さん。せっかくだから横浜で「ひとり飲み」にチャレンジしてみようと「せんべろnet」のひろみんさんに連絡。すると、ひろみんさんから「横浜にいるなら、野毛がオススメ。その玄関口にあるぴおシティ(桜木町ぴおシティ)も、いろいろなジャンルの店があるので楽しいですよ」と返信が。そこで、今回の中村優「ひとり飲みチャレンジ」は、「ぴおシティではしご酒」に決定!

 

 

~はしご酒のいいところ~

・お店ごとに違うお酒やお料理、雰囲気を楽しむことができる

・1軒ごとに気分を切り替えられる

 

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【せんべろnet監修】ひとり飲み初心者にオススメなお店の噺

 

ぴおシティって?

桜木町駅(JR・横浜市営地下鉄)の南西エリアにある野毛は、界隈に600軒近くもの飲食店があるといわれる横浜屈指の飲み屋街。現在のように発展した歴史には、この街が戦後に闇市として賑わったことや、海側にあった造船所の労働者などに大衆酒場が重宝されたことが関係しています。

 

そして今回訪れたぴおシティは、横浜市営地下鉄の桜木町駅に直結する建物の通称(正式名称は桜木町ゴールデンセンター)。1968年に開業した歴史のある複合施設で、様々なショップが営業しており、特に地下2階に広がる飲食店街のにぎわいは有名です。

 

この世界観に、中村さんのテンションも一気にアップ。「わーっ! まだ昼なのに、夜のような活気ですね。老若男女、スーツの人もいれば、常連さんっぽい方や観光客らしき方もいて、これぞ多様性。はしご酒には最適なスポットじゃないですか!」と、ノリノリに。

 

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まずは1軒目のお店を……

メインフロアに着いた中村さんは、昼でもにぎわう雰囲気にワクワク。とはいえ、様々な飲み屋が軒を連ねていて、1軒目にはどんなお店が適しているのか、よくわかりません。選び方をひろみんさんにLINEでたずねました。

 

 

 

ひろみんさんのLINEを参考にしつつ、中村さんが入ったのは「立ち呑み処 ふくふく」。お店の外に主要なメニューや料金がわかりやすいよう貼られており、客層が若めで入りやすかったことも理由です。

 

まず、オーダーしたのは「凍結丸ごとキウイサワー」(450円)。同店の名物ドリンク「凍結丸ごとレモンサワー」の季節限定キウイ版ということで、こちらを注文したのでした。そしておつまみに関しては、ひろみんさんに相談。

↑「凍結丸ごとキウイサワー」(450円 ※ナカ=酎ハイのおかわりは220円)

 

名物の凍結丸ごとサワーは、ひろみんさんもお気に入り。「ホッピー」のナカのように酎ハイのおかわりができるので、凍結果実を風味のアクセントにして数杯楽しめるお得さも魅力です。なお、このサワーはシロップの有無を選べ、ひろみんさんは「なし」が好みとのこと。

 

そうこうすると、おつまみも到着。ひろみんさんのアドバイスに従い、選んだおつまみは「生ハムとチーズのカプレーゼ ふくふくふう」。

↑「生ハムとチーズのカプレーゼ ふくふくふう」350円

 

「生ハムと薄切りのモッツァレラチーズが、さっぱりしたドレッシングとベストマッチ。甘酸っぱくてフルーティーなキウイサワーともスゴく合います。これは前菜に最高ですね!」と中村さん。

 

また、同店のひろみんさんの推しポイントは、初来店でもすぐに緊張がほぐれるアットホームな雰囲気にもあり。店内がコンパクトなぶん一体感があるのと、スタッフに女性が多く、気さくであることも女性客にオススメな点なのだとか。

 

さらには、個人店ならではの”手の込んだドリンク”と、”手作りの料理”のおいしさや、たっぷりのボリューム感も魅力。2~3人で訪れるなどして、いろいろなおつまみを楽しむのもオススメです。

 

また、ひろみんさからは「はしご酒を楽しむコツとしては、あらかじめ一軒ごとの滞在時間と予算を決めておくことが第一。あとはマナーとして、混んできたら詰めたり次の店へ移動したりと、ほかのお客さんとの譲り合い精神が大切です」とのアドバイスもありました。

 

〜はしご酒を楽しむポイント・気をつけていること①~

・予算と滞在時間を決めておく

・混んできたら譲り合いで詰めたり、さっと次のお店へ

・グラスが空いたらおかわりorお会計

 

それでは2軒目に……

いろいろはしごするために、中村さんは1杯飲んですぐ2軒目を物色することに。そのなかで選んだのは、「立ち呑み処 ふくふく」の10数メートル先にある「酒蔵 石松」。のれんが出ていないので店内の様子が見渡せるうえ、「吞みねえ! 食いねえ!」と書かれた赤ちょうちんに心をつかまれたのでした。

↑「酒蔵 石松」は開放感満点の立ち飲み店で、「立ち呑み処 ふくふく」同様に入りやすい雰囲気

 

また、以前ひろみんさんから「楽しそうに一人飲みされているおやじさんがいるお店は、味も間違いない傾向にある」という話を聞いており、「酒蔵 石松」はまさにその通りだったこともポイント。同店もキャッシュオンのため、小銭を握りしめてまずはドリンクを注文。

 

ここでオーダーしたのは日本酒。それは、同店のお品書きでは魚料理が目立っていたから。

↑日本酒(松竹梅「豪快」/コップ320円)に挑戦する中村さん。「年々日本酒が好きになってるんです。このお酒はキリッとした辛口でキレがあって、スゴく飲みやすいですね!」(中村さん)

 

そしてこのタイミングでひろみんさんにLINE。まずは2軒目の入店報告から。

 

日本酒とお魚は、ひろみんさんも「鉄板!」と太鼓判のオーダー。「おつまみをこれからオーダーするなら、ほかのお客さんが頼んでいる料理を見て決めてもいいと思いますよ」とのこと。周りをよく観察しつつ、中村さんの1皿目は、特にお店の推しに見える「上まぐろ中とろ」のお刺身に決定!

↑「上まぐろ中とろ」550円。「濃いうまみと、上品な脂のコクがたまりません! きれいな盛り付けにもこだわりを感じます。お酒も進みますね~」と中村さん

 

料理の2皿目は、常連らしき方々の多くが嗜(たしな)んでいた「もつ煮込み」を注文。こちらも到着するなり、大きなもつがゴロッと入ったインパクトに驚かされます。そしてひと口。具がもつとこんにゃくのみというストロングスタイルは、シンプルなぶんパンチも十分。

↑「もつ煮込み」450円。「もつがふわふわプリップリで、こんにゃくも大きめだからスゴい弾力! アツアツで頬張り、日本酒でキュッと合わせると超幸せ~♪ 味付けも、濃すぎず薄すぎずの絶妙な塩梅(あんばい)で美味しいです!」(中村さん)

 

この「もつ煮込み」をはじめ、同店は肉を使ったおつまみも美味。ひろみんさんも、同店の料理は絶品ばかりで迷ってしまうレベルなのだとか。

 

〜はしご酒を楽しむポイント・気をつけていること②~

・お店選びに迷ったら一人飲みのおやじさんが多いお店を選ぶ

・注文に迷ったら周りのお客さんが注文したメニューを真似する

・はしごの合間は、酔い覚ましも兼ねてその街を散策してみる

・水分補給をしっかりする

 

 

野毛の夜とはしご酒はいっそうディープに

横浜は、番組収録やマラソンなどで中村さんとも縁の深い街。打ち上げなどで飲んだことも多々あったそうですが、ひとりではしご酒をするのは初めてだったとか。これを機に、もっと飲み歩きたいと意気込む彼女は、このあとぴおシティを出て野毛の飲み屋街へ向かいました。次回もひろみんさんのアドバイスをもとに、せんべろ系の人気店と、その作法を紹介します。

撮影/鈴木謙介

 

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レモンサワー発祥の店「もつ焼き ばん」で語る、焼酎「割り材」の噺
『古典酒場』編集長の倉嶋紀和子さんが「割り材」の歴史や種類について、「居酒屋礼賛」主宰の浜田信郎さんとともに探ります。

11月11日は「立ち飲みの日」!——達人が語る立ち飲みの魅力の噺
11月11日は「立ち飲みの日」。今回は『古典酒場』創刊編集長の倉嶋紀和子さんら達人たちの立ち飲み愛を東京・新橋の名店で語ってもらいました。

 

<取材協力>

立ち呑み処 ふくふく

住所:神奈川県横浜市中区桜木町1-1 ぴおシティ B2
営業時間:13:30〜21:00
定休日:水曜

 

酒蔵 石松

住所:神奈川県横浜市中区桜木町1-1 ぴおシティ B2
営業時間:平日12:00〜21:00、土曜11:00〜21:00、日曜11:00〜20:00
定休日:月曜

※価格はすべて税込みです

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼
・松竹梅「豪快」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/gokair/

酒ジャーナリストに聞く!いつまでも楽しく美味しくお酒を飲む噺

自宅でひとりでも、酒場で大勢でも、「お酒」を飲むのはいつでも楽しいことです。ただ、それには元気でなければいけません。そこで、今回は『名医が教える飲酒の科学』や『酒好き医師が教える最高の飲み方』などの著書がある、酒ジャーナリストの葉石(はいし)かおりさんに、「どうすれば、いつまでも楽しく美味しくお酒を飲めるか」についてお話を伺います。

●葉石かおり(はいし・かおり)/酒ジャーナリスト、エッセイスト、一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション理事長。「酒と健康」「酒と食のペアリング」を主軸に各メディアにコラム、コメントを寄せる。現在、京都の大学で心理学を学ぶ現役女子大生でもある。代表作にシリーズ累計18万部を超える『名医が教える飲酒の科学』『酒好き医師が教える最高の飲み方』(ともに日経BP)があり、2023年10月13日には『生涯お酒を楽しむ「操酒」のすすめ』(主婦と生活社)を上梓した。

 

酒ジャーナリストの飲み方や行きつけとは?

まずは葉石さんの“お酒遍歴”から伺いました。好きなお酒や飲み方は? そして行きつけの酒場などはあるのでしょうか?

 

葉石「お酒は若いころから好きで、大学時代から飲んでいました。当時はいまと違って、学生コンパも盛んでしたから。好きなお酒は日本酒や本格焼酎、あとはスパークリングワインもよく嗜んでいます。外で飲むことのほうが多く、お店では週1、2回ぐらいですね。家飲みは週1回ぐらい。その時は『タカラ「焼酎ハイボール」』を飲みますね。辛口なので食事にも合うし気に入っています」

 

葉石さんは東京出身ですが、10年以上東京と京都の二拠点生活をしていることでも有名。京都に関しては『おひとりさまの京都』や『そうだ、裏京都行こう。』などの著書があり、なかでもよく行くお店が京都市左京区下鴨の「炭焼 きむら」です。

 

葉石「『きむら』さんはご家族で営まれている串焼きのお店で、月に1回は行ってますね。素材や火加減へのこだわりはもちろん、お肉の部位ごとに味付けを変える工夫も素晴らしいんです。お酒は1杯目が、宝焼酎『純』35%使用の酎ハイ『純スペシャル』。2杯目からは『松竹梅 「豪快」辛口』を、夏でも熱燗でいただくのが私のお決まりとなっています。でもそういえば、東京には『きむら』さんみたいな行きつけは特にないですね。お友達とだったり、お仕事関連の会食だったりが多く、相手の方に合わせるからかもしれません」

 

葉石さんが週刊誌の記者から酒ジャーナリストへと仕事の幅を広げた経緯は、たまたまだそう。とある健康系のサイトで、お酒に関する記事を執筆する担当となったことがきっかけだと言います。

 

葉石「最初は医学について無知だったので大変でしたが、医師の先生などから学ぶうちにのめり込んでいきました。また、私自身も当時は50歳に差し掛かっていた時期で、健康診断の数値が悪くなっていたんですね。それもあって、体の状態を見直したいと思ったのも大きいです」

 

悪酔いしない飲み方と「お酒」の適量とは?

2023年10月に『生涯お酒を楽しむ「操酒」のすすめ』を上梓した葉石さん。また、これまで数々の名医から飲酒についての話を聞いてきた経験から、まずはお酒(アルコール)を飲むとヒトはどうなるのかを教えてもらいました。

 

葉石「重要なのは血中アルコール濃度です。酔いの状態は爽快期から始まるのですが、飲む量が増すにつれて血中アルコール濃度も深まり、ほろ酔い期、酩酊初期、酩酊期、泥酔期、昏睡期となり、最後は気を失うような状態になってしまいます。知っているつもりでもお酒の飲み方は気を付けないといけませんし、血中アルコール濃度の急激上昇をいかに抑え、悪酔いしないように飲むことが大切です」

 

 

悪酔いを防ぐ方法として一般的に有名なのは、和らぎ水(またはチェイサー)など水を飲みながらお酒を楽しむ手法。また、空腹の状態で飲むことは避けるべきだという説も知られています。この話について、葉石さんが詳しく教えてくれました。

 

葉石「和らぎ水に関しては、水を飲むことで胃腸内のアルコール濃度を薄める効果があるんです。また『空腹の状態で飲むことは避けるべき』というのは、空腹時にいきなりお酒を飲むと、胃腸からのアルコール吸収が早くなり、急激に血中アルコール濃度が高くなるから。そのため、最初に何かを食べておくといいということなんです」

 

そのうえで葉石さんが推奨するのは「オイルファースト」という考え方。

 

葉石「オイルファースト』とはつまり、油分や脂質が含まれている料理を最初に食べるということです。特にオススメなのはチーズ。なぜなら、チーズに含まれるたんぱく質と脂質は消化吸収されにくく、胃に長時間留まるから。そのぶんアルコールの吸収を穏やかにしてくれるんです」

 

 

一方、葉石さんが一部誤解だと感じる悪酔い防止説が、チャンポン(短時間でいくつもの種類の酒を飲むこと)しないという方法。これは数種のお酒を飲むから深酔いするのではなく、結果的に摂取アルコールの総量が増えてしまいがちであることが問題だと言います。

 

葉石「ビールの次は日本酒、ウイスキーなど、アルコール度数が異なるお酒をあれこれと飲んでしまうと、どれだけの量を飲んだかがわからなくなりますよね。ましてや、酔うと記憶がおぼろげになりますから。ですので特にチャンポンで飲む際は、お酒の総量を意識することが大切です」

 

お酒の適量に関しては国から目安が提示されており、厚生労働省が推進する国民健康づくり運動「健康日本21」によると、「節度ある適度な飲酒量」は、1日の平均純アルコールで約20g程度とされています。具体的には、日本酒の場合1合(180ml)、ビールなら500mlですが、この目安に関しては「1日ではなく1週間の合計で捉えてもいいと思います」と葉石さん。

 

 

葉石「例えば1日おきに40gとか。やっぱり休肝日って大事だと思います。多目的コホート研究という、大勢の人を長期間追跡調査する調査があるのですが、その結果のひとつに、少量を毎日飲むグループと、休肝日を設けたうえで毎日飲むグループよりトータルの量を多く飲んだグループとを比べた場合、後者のほうが病気の罹患率が低いというレポートもありますから」

 

飲酒後にしてはいけないこと

適量で飲酒をしていれば問題ありませんが、ついついお酒が進んでしまい、深酒してしまうことも。飲んだ翌日までお酒が残っていると、入浴したりサウナに入ったりして「汗をかいてアルコールを抜く」という人がよくいます。しかし、これは危険な行為だと葉石さんは言います。

 

葉石「そもそも、飲酒により身体が脱水状態になっていて、そこから汗をかくことは逆効果で、二日酔いを助長してしまいます」

 

また、脱水状態である風呂上がりや、運動直後の飲酒も、血中アルコール濃度が急激に高くなるので、あまり良くないそうです。そして、葉石さんが特に危険だというのが飲酒後の入浴。

 

葉石飲酒後の入浴はとても危険性の高い行為です。アルコールによって一時的に血圧が下がった状態で入浴すると、血圧の変化の幅が大きくなり身体に負担がかかります。さらにアルコールによって意識が朦朧としているため、危機管理能力も低下しており、怪我などの危険度も高めてしまいます。飲酒後すぐの入浴はぜったいにやめましょう」

 

 

「あと、危険ということであれば、お酒と薬を一緒に飲むのは当然ながらNGです」と葉石さん。感覚的にダメだということはわかりますが、具体的になぜNGなのかを伺いました。

 

葉石「アルコールも薬も肝臓で代謝されます。その際、使われるのが代謝酵素。薬とアルコールを併用すると、この酵素を双方で奪い合う形になって、薬が効きすぎてしまう、もしくは薬が効きにくくなってしまうんです」

 

仮に代謝酵素によって、通常は 50%で代謝される薬があったとします。これがアルコールによって、代謝酵素を半分奪われてしまう形になると 25%しか代謝されなくなります。すると薬の成分の 75%が血中に入ってしまうことになります。当初、半分が代謝されるという前提で処方された薬の量なのに、実際には、より多くの量を飲んだのと同じことになってしまうわけです。これによって薬理効果が増える、つまり効きすぎてしまうのです。その一方で、日常的にアルコールを常飲している人は、普段から酵素活性が高いため、薬を代謝し過ぎてしまい、効きにくくなるといった弊害も出てくるのです。

 

 

生涯現役で「お酒」を飲むために

葉石さんの新著のテーマは「生涯お酒を楽しむ」。そのためには、飲酒をポジティブにとらえること、そしてメリハリが大切だと話します。

 

葉石「やっぱり、生涯現役で飲みたいですよね。いまや人生100年時代といわれますが、飲酒寿命というのがあるとして、毎日際限なく飲んでいて60歳でドクターストップですよとなったら、残り40年はもう飲めません。それはすごく悲しいことだと思うんです」

 

もちろん、葉石さんが考える飲酒寿命はあくまで一例。また、健康度合いは人それぞれですから、毎日飲んでいても大丈夫な人はいるかもしれません。とはいえ適度な飲酒量は国からも提示されていますし、やはり飲み過ぎはよくないと言えるでしょう。

 

葉石「であれば長期的な計画を立て、飲む日と休肝日とでメリハリをつけることを意識しようと。私の場合、“お酒は晴れの日の飲み物”という考え方にシフトすることで、自然と休肝日が取れるようになりました。お医者さんなどに言われて制限するのではなく、自らコントロールする。これが、ポジティブなお酒との向き合い方だと思います」

 

お酒は飲み方によっては効能を発揮します。例えばメンタル面。「適量の飲酒はストレスの緩和や、食欲増進につながる」という研究報告もあります。適量を守り、休肝日を設ければ、健康にプラスに働き、「飲酒寿命」を延ばすことが期待されます。

 

そのほか、心臓病をはじめとする血管系の疾患、老人性認知症などの発症や美肌を保つなど、様々な研究結果も報告されており、お酒は決してデメリットばかりではありません。常に「適量飲酒」を心がけて嗜むことが、葉石さんが提唱する「生涯お酒を楽しむ」にもつながるのです。

 

 

自分で自分をコントロールする「操酒」という考え方

葉石さんが新著『生涯お酒を楽しむ「操酒」のすすめ』の執筆に取り組もうと思った動機には、コロナ過における過ごし方も関係していると言います。それはいわば、実生活を経たうえでの成功体験ルポであるとも。

 

葉石「お酒と健康をテーマに執筆するようになってから、私自身も8kg痩せて元気に過ごしていたのですが、コロナ禍になって実は5kgもリバウンドしてしまいました。原因を振り返ると、ストレスや失職不安から来る食べ過ぎ、飲み過ぎだったと思います。当時は世間でも『コロナ太り』が叫ばれていましたが、私自身もそうなってしまい『まさか自分が』とショックを受けましたね」

 

いまはすっかり心身ともにコロナ前の健康状態に戻っていますが、そこで実感したのが意識改革の大切さ。加えて、どのようにすれば意識を変えられるのかをテーマに新著をつくりたいと思ったそうです。

 

葉石「その前に私が改めて取り組んだのが、自らの行動の可視化。アプリを活用して食事や飲酒について記録しました。すると、思っていた以上にカロリーやアルコールを摂取していたことが判明。そこから自分なりの対策を考え、高い目標を設定すると挫折してしまうと思ったので、休肝日をまずは週1回。そして週2、3回へと段階的に見直すようにして取り組んでいきました」

 

これぞ前述した、医師などに言われて制限するのではない自らのコントロール。ポジティブなお酒との向き合い方であり、著書のタイトルにも使われている「操酒」です。

 

葉石「自分自身で気づき、自ら正していくことが大切ですね。特に私の場合は、人から言われると従いたくなくなるという天邪鬼な部分がありましたし、そのぶん自分で決めたルールには負けたくない気持ちもありましたから。私と同じような性格でお酒が好きな方は、ぜひ実践していただきたいです」

 

行動的な部分としては、継続的に記録して可視化することが非常に大切だと葉石さんは力説。思いがけない数値を見ると気持ちが落ち込むことがあるものの、そのショックが意識を変え、行動に移すことから習慣化していくのだとか。

 

葉石「数値は逆もしかり。尿酸値や体重が減ればモチベーションもアップしますから。すると、次は筋トレだとか、ヨガをやってみようかなとか、さらなる行動変化にもつながります。身近なところでは体重計にのったり、血圧を測ったりすることから始めてもいいでしょう。そのうえでできれば、血液検査や健康診断にも行き、定期的に身体の状態を把握していただきたいですね」

 

 

日ごろの飲み方や食べ方は、具体的にどのように変えていけばいいのでしょうか。お酒に関しては、あらかじめその日に楽しむ量を決めておくのがコツだといいます。

 

葉石「お酒好きがよく言う『今日は何杯まで』ですね。早い時間から飲むときは、序盤はノンアルコールにしておくこともオススメです。『タカラ「辛口」ゼロボール』をはじめ、最近のノンアルコールは美味しいですからね。あとは基本的なことですが、前述したように適宜、和らぎ水を飲みましょう。胃腸内のアルコール濃度を薄める効果だけでなく、飲酒後はアルコールの利尿作用で脱水しやすいので、それを防ぐためにも水を飲むことは欠かせません」

↑早い時間から飲む場合は、1杯目をノンアルコール飲料にすることもオススメ。そんなときは、食事を引き立てるタカラ「辛口」ゼロボール

 

もし、お酒の種類で選ぶなら、芋焼酎がいいとのこと。というのも、血栓を溶解する物質が倍増するからだとか。

 

葉石「具体的に、血栓の溶解に関わる酵素『t-PA(組織プラスミノーゲン活性化因子)』や『ウロキナーゼ』といった物質があるのですが、芋焼酎にはこれらの分泌、活性を高める効果があることがわかっています」

↑焼酎はロックやお湯割り、ソーダ割りなど様々な飲み方ができるのでオススメ。全量芋焼酎の「一刻者」は、芋の香りや味わいを堪能できます

 

そして食べ方のコツに関しては前述の「オイルファースト」が挙げられますが、チーズ以外ではどんなおつまみがオススメなのでしょうか?

 

葉石「油を使った料理といっても、低カロリーなもので選ぶならフライ系の揚げ物よりも、ドレッシングをかけたサラダですとか、魚のカルパッチョ。そのほかでも、低カロリーで高タンパクな枝豆やお豆腐類、海藻類やお刺身などがいいですね。お店を選ぶ際は、居酒屋や大衆酒場は和食をベースとしたヘルシーなおつまみが比較的多いので、オススメです」

 

本稿で葉石さんがお話しした内容の詳細については、ぜひ各著書をご参考に。合わせて適正飲酒の知識を活用して、いつまでも美味しくお酒を楽しみましょう。

 

■お酒おつきあい読本
宝酒造の適正飲酒の取り組みをご紹介しています。

撮影/鈴木謙介

 

【書籍紹介】

生涯お酒を楽しむ「操酒」のすすめ

年を重ねることが、楽しくなってくる本! ベストセラー『酒好き名医が教える最高の飲み方』著者で、お酒と健康を軸に活動する酒ジャーナリストでありながら、お酒におぼれかけて体調を崩した著者が編み出した、人生を変える飲酒コントロール術「操酒」を初公開。

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・タカラ「焼酎ハイボール」
https://shochu-hiball.jp/

・宝焼酎「純」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

・一刻者
https://www.ikkomon.jp/

・松竹梅「豪快」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/gokair/

・タカラ「辛口」ゼロボール
https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/zeroball/

【東京・沿線ぶらり酒】西荻窪の「戎ストリート」半世紀の歴史の噺

街を結ぶ沿線には、その地ならではの名酒場と酒文化がある――。本企画では、首都圏沿線の路線ごとに、奥深いカルチャーを探っていきます。ナビゲーターは『古典酒場』の倉嶋紀和子編集長。各沿線に縁のあるゲストとともに、街と酒場の魅力を語り尽くします。

 

まずはサブカルチャーの聖地も多いJR中央線から。そして第1回は、呑兵衛からも愛される街・西荻窪(東京都杉並区)にスポットを当てます。お招きしたゲストは、西荻窪(略称「西荻」ニシオギ)住民としても有名であり、倉嶋さんとも親しい作家の角田光代さん。インタビューは、お二人が大好きな名店「やきとり戎(えびす)南口本店」で行いました。

●角田光代(左)/1990年に『幸福な遊戯』で海燕新人文学賞を受賞してデビュー。2005年に『対岸の彼女』で直木賞受賞。そのほか受賞作や著書は数多あり、夫でミュージシャンの河野丈洋さんとの共著『もう一杯だけ飲んで帰ろう。』など酒や食に関する作品も多数。近著は短篇集『ゆうべの食卓』
●倉嶋紀和子(右)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

「丁度いい村」西荻窪

二人 カンパーイ!

 

倉嶋 角田さん、今日は私たちが愛する西荻窪について、楽しくじっくり語っていきたいなと。よろしくお願いします!

 

角田 大好きな西荻(ニシオギ)と「戎」、最高の企画じゃないですか。しかも「戎」といえば、『古典酒場』で連載させていただいた『もう一杯だけ呑んで帰ろう。』第1回目の記念すべきお店!

 

倉嶋 懐かしいですよね。こちらこそ、その節はありがとうございました! ではさっそくですが西荻について。お住まいになられてから、結構経ってますよね?

 

角田 ええ。最初こっちに越してきたのが1993(平成5)年だから、ちょうど30年になります。

 

倉嶋 なんと、もう30年ですか! その前も中央線沿線住まいでしたっけ?

 

角田 中央線デビューは中野ですね。学生時代はアクセス的に便利な野方駅(西武新宿線)の近くに住んでいました。でも、卒業後はちょっと不便になったので中野駅方面に引っ越し、そこでディープな中央線の魅力に目覚めたんです。最初から中野駅近くでよかったなと。

 

倉嶋 そして徐々に西側へ引きずられていったと(笑)。

 

角田 まさに(笑)。中野から荻窪へ、あとは高円寺や南阿佐ヶ谷にも住みました。荻窪も好きで、その後また引っ越そうと思ったんですけどなかなか見つからず。それで西に来てみたらすごく気に入って、いまに至ります。

↑西荻窪は一般的に中央線の駅として親しまれていますが、土日祝日は停まらない(各駅停車のJR総武線は停まる)のでご注意を

 

倉嶋 私も杉並区在住ですからこの周辺は特に大好きなんですけど、西荻窪の魅力はどんなところですか?

 

角田 ひとことで言えば静かなところ。隣の吉祥寺や荻窪よりもこぢんまりとしていて、落ち着いた雰囲気があります。お店も、小さくても個性豊かな個人商店が多く、住民同士の距離感も近い。アットホームで、“村”のような街だと思いますね。

↑西荻南口仲通り会のアーケード

 

倉嶋 その感覚、よくわかります! 住んでいる方々が、地元の個人商店をすごく大切にする文化が根付いてますよね。では、ほかの中央線の街はどんな印象ですか?

 

角田 中野や荻窪も似た空気があって大好きですけど、西荻に来てからは、私にとっては賑やかすぎるかなと思うようになりました。高円寺は独特のカオスな空気がありますよね。阿佐ヶ谷は、いい意味でスノッブ。吉祥寺は都会なイメージですね。そういえば、倉嶋さんの中央線愛も強いですよね。杉並区は長いですか?

 

倉嶋 私もまあまあ長いですね。それこそ、中央線で最初に住んだのは西荻窪でした。学生時代は大学に近い護国寺(東京都文京区)に住んでいましたが、社会人となった1999(平成11)年に、当時の会社があった東中野の沿線ということで西荻にやってきたんです。

 

角田 どうしてこの街を選ばれたんですか?

 

倉嶋 特に理由はなく、ふと降り立った西荻窪駅で目の前の不動産屋さんに飛び込んで、紹介された1件目にそのまま住んだら大正解でした。その後も荻窪に引っ越したりと近場を転々としながら、杉並区内で行ったり来たりしています。

 

角田 他路線の選択肢はなかったですか?

 

倉嶋 興味はありましたけど、定住するまでには至らなかったです。角田さんはどうでした?

 

角田 実は、中野から引越すときの選択肢は荻窪か下北沢でした。結局家賃の都合で好物件が見つからず荻窪にしたんですけど、いま考えれば運命だったのかも。

 

倉嶋 私も、なんだかんだずっと中央線沿線で暮らしているのは運命だなって思います!

 

 

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ホッピーミーナが語る! 焼酎のベストパートナー「ホッピー」の噺
今回のテーマは「チューハイ」と並んで甲類焼酎の飲み方として定番の「ホッピー割り」。東京で生まれて昔から焼酎の割り材として人気の「ホッピー」の歴史と変遷を“ホッピーミーナ”に伺います。

「チューハイ」ってどんなお酒? その歴史や魅力を深掘りする噺
これまで、焼酎の歴史や、造り方について深掘りしてきた本シリーズですが、ここからはその飲み方などの”実践編”。今回のテーマは「チューハイ」です。

 

西荻窪飲みのランドマーク「戎」の歴史

↑駅の南側には闇市の残り香が漂う小路がいくつかある。「戎」の存在とインパクト抜群の看板から、ここは通称“戎通り(ストリート)”とも。同店は母屋隣の建物や路地の向かいにある店舗も含めて「やきとり戎 南口本店」となっています(厳密には、母屋以外は通称「別館」)

 

角田 「戎」は駅から近く、しかも南北両方にお店があって、西荻のランドマークといえる存在ですよね。

 

倉嶋 ええまさに! しかも創業が1973(昭和48)年9月で、ちょうど今年2023年は50周年のアニバーサリーイヤーなんですよね。確か、当初は女人禁制だったとか。ちょっと、注文しつつお店の方に聞いてみましょう。

↑「戎」にまつわるお話を聞かせてくれた、西荻南口本店の鈴木店長(右)

 

店長 はい。そうなんです。最初は女人禁制で、カウンター17席のもつ焼きの店だったんですよ。飲み物も創業当時は瓶ビールと日本酒、「宝焼酎」のストレートだけでした。

 

角田 なんと、ストロングスタイル!

 

店長 そのうち焼鳥が加わり、築地の魚と野菜の直接仕入れや、スペイン食材の輸入も行うようになり、海鮮や洋風メニューも提供するようになりました。やがて創業10年後くらいからは隣(別館)もできまして。

 

倉嶋 その後、北口店を開業されるんですよね。

 

鈴木 はい。本店の拡大と同時に「女性も入れる『戎』を作って」と多くの要望があり、それで1985(昭和60)年に西荻北口店を開業しました。もちろん、いまでは全店どなたもご利用いただけます。

 

角田 50年経った今では通りの両側に店舗を広げ、西荻のランドマークと呼ばれる存在になったんですね。ちなみに、ほかの街には書店やビアホールもありますよね。

 

店長 さすが、よくご存じですね! 阿佐ヶ谷にある「書楽 阿佐ヶ谷店」は、うちが経営している書店で、1980(昭和55)年にオープンしました。当時は配本が少なかったなど、苦労話を社長からよく聞いています。吉祥寺の「戎ビアホール吉祥寺」は1989(昭和64/平成元)年にオープンしました。

 

倉嶋 社長は戎井 力(えびすい・ちから)さんですよね。

 

店長 はい。「戎」という店名の由来でもあります。

 

 

「戎」の料理とお酒の魅力

倉嶋 先ほど女性も入れるお店というお話がありましたが、私にとって「戎」は大切なお店で、実は初めてひとり飲みを経験したのが「やきとり戎 西荻北口店」なんです。

 

角田 北口店は私も大好き。確かにあっちは本店みたいに外の店先にテーブルが出ているわけではないから、ひとり飲みもしやすいかも。

↑「やきとり戎 西荻北口店」

 

倉嶋 当時は20代の女性がひとり飲みするのが珍しく、最初は緊張しました。でも、「戎」の常連さんって素敵な方が多くて、何を頼んでいいかわからずキョロキョロしてると、隣のお客さんがスポーツ新聞を見ながらコソッと「ここはもつ焼きだよ」なんて教えてくれるんですよ。しかもそれ以上は深入りして来ずで。

 

角田 粋なエピソードですね!

 

倉嶋 その距離感が心地よくて。だから私はひとり飲みにも抵抗感なくハマれたんだと思います。

 

角田 倉嶋さんの原点といえるかもしれませんね。

 

倉嶋 当時の私は「F1(モータースポーツのフォーミュラ1)」の速報誌を担当していたんですけど、ヨーロッパの時間に合わせて働くので深夜早朝に仕事して昼帰るみたいな。で、職場から西荻窪に着くと、平日の昼間から「戎」で常連の方々がニコニコ飲んでるわけですよ。

 

角田 わかります。えびす顔でね(笑)。

 

倉嶋 それがすごく羨ましかったんですよ。でも、平日の昼間から飲むためにはどうしたらいいんだろうと思ったときに、「そうだ! 私は編集者だから、酒場の雑誌を作れば取材と称して飲めるじゃんっ」て。そんな邪念も、『古典酒場』を作った理由のひとつです。

 

角田 素敵な邪念じゃないですか! ある意味、夢を叶えたってことですよね。

 

倉嶋 はい、おかげさまで(笑)。でもほんと、私にとって「戎」は宝物のようなお店です。角田さんはひとり飲みデビューは遅めなんでしたっけ?

 

角田 そう、昔はひとりで飲むのが怖くて。特に大衆酒場には、男友だちと一緒に行ってました。初めて「戎」に来たのは20代半ばで、そのときも数人でしたね。ひとりで飲むようになったのは、40歳を過ぎてからです。

 

倉嶋 角田さんは「戎」のどんなところに惹かれますか?

 

角田 ひとつは、価格と量がちょうどいいっていうのがありますね。串も1本から注文できるし、いろんな種類のおつまみを食べられるので重宝しています。

↑「戎」の串焼きは1本100円~。「定番5本盛」は480円とお得な価格

 

倉嶋 ポーションのサイズ感は、特にひとり飲みのときは大事ですよね。

 

角田 あとは、お気に入りのメニューが多いんです。「水ギョーザ」に「ラム串」、あと「イワシコロッケ」は絶対頼みますね。

 

倉嶋 角田さん、羊好きですもんね。

↑「ラム串」290円

 

角田 ええ、もう目がなくって! そして「水ギョーザ」に関しては、ここの味が好きなんです。ほかの店ではあまり水餃子は食べません。

 

倉嶋 それって、本場中国の水餃子以上に好きってことですよね。

↑「水ギョーザ(3ケ)」290円

 

角田 そうなんですよ。ポン酢で味わうんですけど、この相性と、ちゅるんとした食感、あと小ぶりなサイズ感がたまらないんです!

 

倉嶋 なるほど、確かに本格中華はポン酢で食べないですもんね。私もこの味、チューハイも進むし大好きです! そして「イワシコロッケ」といえば「戎」の名物ですけど、今日も裏切らないおいしさですね!

 

角田 オンリーワンですよね。最初は北口店にしかなくて、その後、南北共通で食べられるようになって。ハーフで注文できるのも嬉しいんです。

↑「イワシコロッケ(ハーフサイズ)」330円。レギュラーサイズは550円

 

倉嶋 確かに! 私はあと、季節のオススメも好きなんですよ。「戎」は旬の食材も積極的に仕入れていらっしゃって、主役は焼鳥なんですけど、お魚も新鮮でとてもおいしいんです!

 

角田 ええ、今日の「ハモ湯引き」もふわっとやわらかく、包丁技も冴えわたってますね。おいしい!

↑「ハモ湯引き」480円

 

倉嶋 和洋中とメニューが豊富でレベルが高く、それでいて良心的な価格。チューハイも進むし、改めてサイコーなお店ですね。

 

角田 はい! お酒もおいしいですし。

 

倉嶋 特にチューハイは、サーバーから注がれたものではなく、店員さんが一杯ずつ丁寧に作っているところにこだわりを感じます。

 

角田 いわばカクテル。職人技ってことですよね。

 

倉嶋 はい! それも、冷蔵庫ではなく氷水でキンキンに冷やした「宝焼酎」の一升瓶を使っていて。“どぶづけ”を思わせる昔ながらのスタイルに、老舗の心意気を感じます。

↑“どぶづけ”には、瓶ビールや「宝焼酎」の一升瓶が氷水でキンキンに冷やされている

 

↑「酎ハイ」370円。「戎」の「酎ハイ」は焼酎たっぷりなので飲みごたえアリ

 

角田 半世紀変わらないおいしさも、愛される理由のひとつかもしれませんね!

 

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2人がオススメの「西荻窪」酒場とは?

倉嶋 角田さんが西荻でお気に入りのお店はどちらですか?

 

角田 比較的新しいお店だと、「コノコネコノコ」です。多国籍料理のお店で、和洋中と実に多彩で絶品。羊を使ったメニューもあって、よく注文するのは羊肉の麻婆豆腐。また、すべてのメニューをハーフサイズにしてくれるのもポイントです。

 

倉嶋 お店の名前からして気になりますね。

 

角田 そう! 営んでいるご夫婦が猫を4匹飼っていて、私はもちろんお客さんも猫好きが多いですね。猫に関するお話をしているシーンもよく見かけます。

 

倉嶋 やっぱり猫好きなんですね。それは私にとってもたまらんです!

 

角田 昔ながらのお店だと、おでんの「千鳥」は落ち着いた雰囲気で、すごく好きです。名物のおでんはもちろん、お刺身をよく頼んでいます。それから以前、倉嶋さんに教えてもらった「スタンドキッチン ルポン」。移転して、広くなりました。私はここのレモンサワーが大好きで。

 

倉嶋 「千鳥」は私、まだお邪魔できてないんです。「ルポン」も移転してからはまだですね!

 

角田 そう、倉嶋さんがまだ行ったことのないお店はどこかなと思って。あとは韓国料理の「Onggi(オンギ)」もお気に入りで、ここで食べてから私のなかで韓国料理の概念が変わりました。お一人でやられているので、お任せコースだけのときもありますが、何を食べてもおいしいです。

 

倉嶋 気になります!

 

角田 ぜひ今度行きましょうね。では、倉嶋さんが好きなお店はどちらですか?

 

倉嶋 私もたくさんあるんですけど、やっぱり今日の「」は外せませんね。ちょっと贅沢したいときは「しんぽ」です。特にお魚と旬の食材を使ったお料理がおいしくって、こちらも西荻の有名店ですよね。

 

角田 はい、口開け(開店)からすぐ満席になるような大人気店で、私も大好きです。

↑この日の“沿線ぶらりハシゴ酒”、2軒目は「しんぽ」へ

 

倉嶋 あとは「善知鳥(うとう)」。こちらは燗酒が飲みたいときに行きたくなるお店です。お水を山のほうまで汲みに行くほどこだわっていて、料理は熟成させたクリーム帆立のおつまみが大好きですね。

 

角田 ちびちびやりたいですね。別ジャンルのお店だといかがですか?

 

倉嶋 例えば、アジア系のお店だと「ラヒ パンジャービー・キッチン」はすごくお世話になってます。深酔いしても許していただけるお店で、とにかく気遣いがあってやさしくて。

 

角田 西荻は、お店の方がやさしいですよね。

 

倉嶋 ほんとに。しかも、すごく粋なんですよね。自分からアピールはせず、さりげない自然体なサービスが心地よくて、オススメしたくなるお店が多いです。

 

角田 うんうん。街全体に、信頼感がありますよね。

 

倉嶋 そうなんです。私もこの仕事上、「酒場に連れてって」と、ありがたいお話をいただくこともよくあるんですけど、初めての方なら西荻がいいなって思いますね。

 

角田 ほかに西荻で倉嶋さん行きつけのお店ですと「燻製ビストロ みつ志」とか?

 

倉嶋 はい、たくさんある中でも、「みつ志」は燻製卵のサンドイッチが好物で。毎回いただくんですけど、お土産用もご用意してくださるんです。こういうおもてなしがうれしいんですよ!

 

角田 やさしいお店が多いのは、街がコンパクトで個人商店が多いからですかね。

 

↑西荻窪のカルチャーに深く根付いている個人経営の書店も

 

倉嶋 そうですね。角田さんがおっしゃった、“村”という表現にあらわれているのかなって思います。閉鎖的ではなく、いい意味で繋がりがある。店主さん同士やお客さん同士が顔見知りっていうことも多いですし。

 

角田 仲良くなりやすいんですよね。

 

倉嶋 はい。例えば1軒目で離れた席に座っていて、会話も交わしてないけど、3軒目でまたその方に会うみたいなことがあるんですよね。そこで「さっき会いましたよね!」なんて話が弾んで仲良くなる、みたいな。

 

角田 ええ。「また次も会いましょうね」って健全に言い合える街だと思います。

 

倉嶋 ちなみに、角田さんが初めて西荻で飲む方をお連れするとき、ゴールデンコースみたいなのはあるんですか?

 

角田 初めての方なら、やっぱり有名な「戎」や「しんぽ」は定番ですよね。でも私の場合、お酒は夕方からって決めてるので、「しんぽ」に口開けで行って、そのあと「戎」かな。

 

倉嶋 なるほど。私も初めての方を案内するなら、その2軒は入れたいですね。それで3軒目は「ルポン」でレモンサワーとか、「みつ志」でワインとか

 

角田 まさにそうですね。そんな話をしていたら、「しんぽ」に行きたくなりました!

 

倉嶋 いいですね、では行きましょうか!

 

大好きな西荻窪の街と酒場を語り尽くした倉嶋さんと角田さん。次回もディープな中央線沿線の駅で降り、街と魅力的な酒場について倉嶋さんがゲストと語り合います。お楽しみに!

撮影/鈴木謙介

 

 

<取材協力>

やきとり戎 南口本店

住所:東京都杉並区西荻南3-11-5
営業時間:日曜~木曜12:00〜22:00(L.O.21:30)、金曜土曜12:00〜22:30(L.O.22:00)
定休日:無休

※価格はすべて税込みです

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

【せんべろnet監修】ひとり飲み初心者にオススメなお店の噺

全10回にわたってお届けした「東京・大衆酒場の名店シリーズ」で、一連の酒場知識を習得したお酒好きタレント・中村優さん。今回からは実践編ということで、女性ひとり(初心者)でもできる「酒場」の楽しみ方を、「せんべろnet」管理人のひろみんさんに教えてもらいながら体験していきます。

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

ひとりで飲みに行きたいけれど……

「酒噺」の東京・大衆酒場の名店巡りで一連の知識を習得した中村さん。ここからは自立してひとりで酒場へ出掛けてみようと意気込んでいたところ、同じ「酒噺」で「せんべろnet」に聞く! 1000円で楽しめる「せんべろ」の噺という記事を発見。

 

すぐに「せんべろnet」のTwitterをフォロー。DMを送って「せんべろnet」管理人のひろみんさんと繫がることに。ひとり飲みの師匠として心酔し、LINEも交換してもらい、最初にオススメしてもらったのが、錦糸町(東京都墨田区)にある「立呑み みつぼし村」。今回は同店のひとり飲み体験レポートをお届けします。

 

【関連記事】
「せんべろnet」に聞く! 1000円で楽しめる「せんべろ」の噺

 

初心者でもひとり飲みしやすいお店とは?

↑JR錦糸町駅に到着! ここから「立呑み みつぼし村」までは徒歩約3分

 

ひろみんさんが「立呑み みつぼし村」をオススメした理由は、ひとり飲みに最適なお店だから。「まず、大きな窓から店内の様子がわかりやすく、表の看板にはメニューや価格も書いてあるなど、気軽に入れます。また、キャッシュオン(商品を受け取る際、その場で代金を支払う方式)なので、最初から予算を決められて、好きなタイミングで帰れるのも◎です」。

 

さらに「チューハイ200円、おつまみも110円~と『1000円札を握りしめて気軽に楽しめる安さ』、系列にイタリアンのお店もあり『低価格なのにおつまみが美味しい』こともポイントです!」とのこと。

 

こうして、「せんべろnet」の「立呑み みつぼし村」の記事で予習をしつつお店に向かう中村さん。「行ってきます!」とひろみんさんに伝えたところ、「もしわからないことあったら、気軽にLINEしてくださいね! ではでは~」との頼もしいメッセージが。

 

迷うことなく「立呑み みつぼし村」に到着した中村さん。まず店構えを観察すると、ひろみんさんの言う通り、窓越しに店内の様子がわかり、外の看板にはメニューと価格が書かれています。

 

↑看板に書かれているのは、メニューと価格、キャッシュオン式の会計であること、営業時間などです

 

~外観に見る「ひとり飲みしやすいお店」の条件~

・「大きな窓がある」「フルオープン」など、外から店内の様子が見えて、入りやすい店構え

・カウンターがある

・外の看板などにメニューと価格が書いてあり、おおまかな費用が把握できる

・「ひとり飲み歓迎」などが書いてあればさらに◎

 

いざ入店! テーブルに置かれたお皿はなに?

入店した中村さんはさっそくお酒を注文するも、気になったことをLINEでひろみんさんに質問します。

↑お店に入ると「立呑み みつぼし村6ヶ条」が。ルールがあり、安心して飲める。まずは読んでおこう!

 

 

↑「立呑み みつぼし村」ではこのお皿を会計に活用するとスムーズ

 

ひろみんさん曰く、立ち飲み店はキャッシュオンのお店もよくあるとのこと。その場合、お札は崩しておいたほうがベター。基本的に1000円札であれば問題なし。ただ、閉店時間が近くなるとお店の1000円札も溜まってくるため、その場合はまれに5000円や1万円札がありがたがられることもあるといいます。

 

~キャッシュオンについて~

・キャッシュオンとは商品を受け取る際、その場で代金を支払う方式のこと

・立ち飲み店はキャッシュオンの店も少なくない

・キャッシュオンのいいところは「今日はいくらまで飲む」と金額設定しやすく、明朗会計なこと

・お札は1000円札がベター

・テーブルに小銭入れがある場合はそこに入れておくと会計がスムーズ

 

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まずは、一杯!

中村さんが一杯目にオーダーしたのは「ゴールデンハイボール」(250円)。同店には通常の「焼酎ハイボール」(200円)もあるものの、壁に貼ってあった「ゴールデンハイボール」のポスターに心を奪われ、注文してみました。

壁には「うまさ、ゴールデン!!」のポスターが

 

↑「ゴールデンハイボール」(250円)

 

香りが甘く爽快感もしっかりとした「ゴールデンハイボール」のおいしさに感動した中村さん。その正体を知るために、ひろみんさんにLINEで質問してみました。

 

ひろみんさん曰く「『ゴールデンハイボール』のベースは宝焼酎『ゴールデン』。炭酸割りがよりおいしくなるようにブレンドされていて、甘い香りと絶妙なコクがポイントです。揚げ物からお刺身まで、大衆酒場の定番メニューとも相性抜群ですよ!」

↑「絶妙なコクがサイコーです!」と、「ゴールデンハイボール」を堪能する中村さん

 

~ひとり飲み(立ち飲み)ドリンクのポイント~

・関東の立ち飲みではプレーンの「チューハイ」が最安値(相場は300円前後)ということが多く、お店によって味の違いが楽しめたりもするのでオススメ

・お得にたっぷり飲みたい時にはホッピーセットがオススメ。「ナカ(焼酎)/ソト(割材)」スタイルで安価にナカをおかわりできる

・瓶ビールを注文して、ちびちびコップに注いで飲むのも楽しい!

 

 

ひとり飲みのおつまみは何品注文すればいい?

 

お酒が届いたところで、おつまみも選ぶ中村さん。気になったメニューをいったん2品注文したものの、分量の正解がいまいちわからない。注文のペースや一度にオーダーする数などはこんな感じで良いのか、ひろみんさんにLINEで確認してみることに。

 

↑「トマトサラダ」210円。「マヨネーズではなく自家製ドレッシングというひねりが素敵。キャベツ付きで箸休めにもイイですね!」と中村さん

 

↑「なめろう」230円。「刻み大葉とゴマが好アクセントで超おいしいです!」と中村さんも大絶賛

 

ひろみんさんの嗜み方は1品ずつ。特に初めてのお店の場合は分量がわからないことも多いため、まずは1品頼んで、そのお店のボリューム感を知るのだとか。

 

おつまみの選び方は、お店の名物があればそちらを優先することが多いそう。「立呑み みつぼし村」の場合、充実した鮮魚は必食で、特に「なめろう」はオススメとのこと。中村さんは野菜と魚をオーダーしたため、次はバランスよくお肉系のメニュ—を注文したいところ。

 

ひろみんさんのオススメは「ハムカツ」。さらに、「『ゴールデンハイボール』とも相性抜群!  別売りで『カットレモン』があるので、そちらを『ゴールデンハイボール』に入れるのもオススメですよ!」とのLINEがきたので、こちらもあわせて注文です。

↑「ハムカツ」230円

 

「ハムカツ」は自家製。揚げたてでサクサクと食感よく、食べ応えもあります。ここで、中村さんはひろみんさんがオススメした「カットレモン」でチューハイの“味変”に挑戦。さらに余ったレモンを「ハムカツ」にかけるというテクニックも披露!「ソースをかけるのもいいけど、そのままでもすごくおいしい! レモンを搾って余韻をすっきりさせるのもアリですね~」と中村さん。

↑「カットレモン」は100円。別皿に4切れで提供されるため、揚げ物に搾るなど自由に使ってOK

 

↑「『ゴールデンハイボール』にカットレモンを入れるとスッキリして、お酒がすごく進みます!」と中村さん

 

ちなみに、ひろみんさんが今回「立呑み みつぼし村」をオススメしたのは、ほかにも理由がありました。それは、ここが酒場の聖地をルーツにもつお店だから。

 

実は同店、赤羽(東京都北区)にあるせんべろの聖地「立ち飲み いこい」で修業した方が営んでいるのです。もちろん「立ち飲み いこい」も最高なのですが、聖地なだけあって、初めて行くなら「立呑み みつぼし村」のほうが緊張しないだろうという理由で選んでくれたのです。

 

 

↑ひろみんさんの最新作『せんべろnetのひとり酒場 家飲み手帖』(ワン・パブリッシング・刊)は2023年7月27日に上梓されたばかり

 

↑今回のお会計。「ゴールデンハイボール」2杯、「トマトサラダ」「なめろう」「ハムカツ」「カットレモン」で合計1210円也

 

~ひとり飲み(立ち飲み)のおつまみについて~

・店員さんが忙しい場合があったり、スペースを占領しないよう、注文は1品、多くても2品がオススメ

・お店の名物があるならぜひ味わってみて&近くの常連さんが注文したメニューを真似するのもアリ

・立ち飲みのお店はチャージ(お通し)がないところも多いので、その場合、おつまみを1品以上注文するのがベター

 

酒場のひとり飲み歩きは始まったばかり

ひろみんさんから、ひとり飲みの入門に最適なお店ということで教えてもらい、錦糸町の「立呑み みつぼし村」を訪れた中村さん。1000円程度の予算で、自分のペースで楽しむことができて、酒場探訪の楽しさを改めて実感したのでした。次回もひろみんさんのアドバイスをもとに、ひとり飲みにぴったりな人気店を訪問する予定ですのでお楽しみに!

 

 

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「意外と知らない焼酎の噺」。どうしてお酒を『割る』のか?「割り材」の歴史や種類について、「居酒屋礼賛」主宰の浜田信郎(はまだ しんろう)さんとともに探ります。

 

<取材協力>

立呑み みつぼし村

住所:東京都墨田区錦糸4-7-2
営業時間:平日16:00〜22:00、土曜日曜14:00〜22:00
定休日:水曜

※価格はすべて税込みです

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎「ゴールデン」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/golden/

 

撮影/鈴木謙介

「お茶割り」のプロに聞く「焼酎×お茶」組み合わせの妙を楽しむ噺

意外と知らない焼酎の噺13


『古典酒場』編集長の倉嶋紀和子さんがナビゲーターとなって探っていく「意外と知らない焼酎の噺」。今回のテーマは「お茶割り」。いまや酒場の人気メニューとなった焼酎の「お茶割り」について深掘りしていきます。

 

今回お話しを伺うのは、京都・宇治の茶舗や長野の酒蔵などを経て、昨年7月、東京都墨田区向島に「酒と茶と 襤褸(らんる)」を開業した松木恵美さん。倉嶋さん主宰のカルチャースクール「倉嶋紀和子の古典酒場部」の門下生でもあります。そして、「焼酎」および焼酎の「お茶割り」開発のスペシャリスト・宝酒造 商品第一部 副部長兼技術課長の高橋悠典さん(「高」ははしごだか)と、商品第二部 技術課長の大崎学さんにも同席いただき、解説してもらいます。

●倉嶋紀和子(左)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)には「酒サムライ」に叙任された
●酒と茶と 襤褸(らんる)・松木恵美(右)/宇治の茶舗、クラフトビールで有名な長野の酒蔵、東京・門前仲町・酒肆一村(しゅしいっそん)など茶・酒・食に関するさまざまな職を経て2022年、墨田区向島に「酒と茶と 襤褸」を開業

 

「お茶割り」の歴史や定義とは?

実は「お茶割り」の成り立ちや、明確な歴史についてはよくわかっていません。静岡などのお茶どころでは、伝統的に焼酎の「緑茶割り」(「静岡割り」と呼ばれる)が飲まれている地域もありますが、全国的には1980年代に起きたチューハイブームを経て徐々に広まりました。また、この時期に缶入りの烏龍茶や緑茶飲料が誕生したことが、烏龍割り(ウーロンハイ)や緑茶割り(緑茶ハイ)など「お茶割り」の浸透に強く関係しているとも言われています。

 

近年は食文化とともにお酒の飲み方も多様化し、他方で抹茶は世界的な人気に。また、2016年にオープンした「茶割」(東京都・目黒区)が100種の「お茶割り」を提供する独自性で話題になるほか、2019年には「抹茶ハイフェスティバル」が開催されたり、2022年には「一般社団法人日本お茶割り協会」が設立されたり。すそ野はますます広がっています。

 

なお、「お茶割り」もチューハイやサワーと同様に明確な定義はありません。こちらについては本シリーズ「『チューハイ』ってどんなお酒? その歴史や魅力を深掘りする噺」で触れているので、ぜひ一読を。さて、以下から本題へ。松木さんに「緑茶」の基礎知識から教えてもらいました。

 

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『緑茶』は日光の浴び方で大きく2種に分類される

倉嶋 松ちゃんには「古典酒場部」の講座を受講してもらっていますが、今日は私が生徒ということで、よろしくお願いします。まずは『緑茶』の種類から教えてください。

 

松木 はい。倉嶋編集長に教えるなんて大変おこがましいのですが。まず、種類はたくさんあるんですけど、大きく分けると2つ。茶畑に覆いをする「覆下園(おおいしたえん)」と、覆いをしない「露天園(ろてんえん)」があります。「覆下園」は日光を遮断するので、渋みは少ない一方うまみ豊かでまろやかな味に。「露天園」は日光を十分に浴びるので、渋みや爽やかさが特徴です。

↑覆下園(左)と露天園(右)

 

倉嶋 なるほど! 覆いをするかどうかで味が変わってくるんですね。

 

松木 はい。茶葉に含まれるアミノ酸のテアニンが変化するんですね。アミノ酸はうまみ成分ですが、日光を浴びることで渋味成分であるカテキンになるんです。

 

倉嶋 カテキンって、健康茶によく含まれてるやつですね。確かポリフェノールの一種で。

 

松木 そうそう、それです。で、より具体的なお茶の分類としては、「覆下園」には『玉露』『碾(てん)茶(抹茶)』『かぶせ茶』などがあります。「露天園」は『煎茶』や、九州や伊豆で主流の『玉緑茶(ぐり茶)』、『ほうじ茶』『玄米茶』『番茶』などですね。

 

品質の善し悪しを決めるポイントとは?

倉嶋 こうしてあらためて聞くと、種類が豊富ですね。

 

松木 ただ「覆下園」は覆いをする手間もかかるので、生産量として圧倒的に多いのは「露天園」です。

 

倉嶋 それに、価格も「覆下園」のほうが高いでしょ?

 

松木 基本的にはそうですね。また、同じ茶葉でも摘み方や製法によって価格はさまざまです。見た目だけでもかなり差があって、今日は比較でわかりやすいように2種類の『煎茶』を用意しました。

↑左が安価な茶葉。右が高級な茶葉

 

倉嶋 ほんとだ、左右でまったく違う! 右の、色ムラがなく濃いほうが高級でしょ?

 

松木 ええ、右の茶葉は3倍ぐらい高価ですね。グレードのチェックポイントとしては5項目。①形状、②ツヤ、③香気、④水色(すいしょく)、⑤滋味です。この違いは何で生まれるかというと、ひとつは若さ。大前提として、若い芽のほうが小さくて細く、ツヤがあります。

 

倉嶋 確かに。それに高級なほうは色の濃さだけではなく、パリッとした感じもありますね。でも、茶葉は小さいほうがいいのですか?

 

松木 大きくなると雑味に通じる繊維質が増えますし、針のようにきれいな形にならないんです。

 

倉嶋 そういうことなんですね。あと、高級なほうが茶葉を丁寧に選別してるということでしょうか?

 

松木 それもあります。こちらはその年の最初に生育した若い新芽、つまり一番茶だけを摘んでさらに選別したものですね。一方の安いほうは茶葉の若さや大小はあまり気にしていないのでバラつきがありますし、色の淡い茎の部分も入っています。

 

倉嶋 なるほど、このちょっと太くて淡いのは茎なんですね。

 

 

茶葉の味を比べてみる

松木 淹れて比べるとまた面白いですよ。ちょっと待っててくださいね。

↑茶こしで淹れている状態。左が安価な茶葉。右が高級茶葉

 

↑安価な茶葉(左)は色が濃く沈殿物も多い。高級茶葉(右)は色味も鮮やかで沈殿物が少ない

 

倉嶋 わっ、見た目は高級なほうがクリアで鮮やか。あと、沈殿が少ないんですね。

 

松木 沈殿しているのは茶葉から出る粉です。高級なほうは茶葉を選別する際に粉も取り除くんですよ。粉が少ないぶん、雑味も出にくくなっています。ちなみに、今日は比較用にあえて熱湯で淹れました。

 

倉嶋 比較するには熱いほうがいいんですか?

 

松木 適温は茶葉によって様々なんですけど、『煎茶』でうまみを豊かに感じるには70~80℃が目安なんです。ただ今日の『煎茶』を70~80℃で淹れると、若い茶葉のほうが良さが引き立つので、フェアじゃないというか。一方、90℃近い熱湯で淹れると苦みに通じるカテキンやネガティブな味覚成分が出やすくなって、茶葉そのものの実力を感じやすいんです。

 

倉嶋 なるほど、そうなんですね! そして確かに、味も全然違いますね。高級なほうが香りが清々しく、苦みも凛々しくて美味しいです。

 

松木 味が鮮明で、フレッシュなニュアンスもありますよね。

 

倉嶋 でも、こうしてじっくり味わってみると、意外に『緑茶』って酸味は感じないんですね。

 

松木 それは、よく言われる発酵の違いによるものです。日本の『緑茶』は“不発酵茶”なので、比較的酸味は少ないんですよ。有名な分類ですと、『紅茶』は“発酵茶”で『烏龍茶』は“半発酵茶”。これらは発酵されているぶん酸味を感じる特徴があります。

 

お酒に茶葉を漬け込んだ自家製の「お茶割り」

倉嶋 お茶については良く分かってきたので、いよいよ「お茶割り」が飲みたくなってきました(笑)。ちなみに、「襤褸」ではどのような「お茶割り」を出しているんですか?

 

松木 うちのお店は炭酸水を使う「お茶ハイボール」がスタンダードなんですけど、ベースのお酒は、甲類焼酎やジンにあらかじめ茶葉を漬けこんだ自家製。いくつかのフレーバーを用意し、メニューに応じて炭酸水で割って提供しています。

倉嶋 お茶とお酒を別々に合わせるわけではないんですね。そのベースのお酒はどのように作ってるんですか?

 

松木 酒燗器を使い甲類焼酎などの温度を上げることで、茶葉から狙った量の味わいを抽出しています。でもネガティブな成分が出ないよう、浸出する目安は5分ですね。

 

同じお茶でも焼酎が違うと味がガラッと変わる!

ここからは講師をいったんバトンタッチ。「宝焼酎」など「蒸留酒」の開発担当者である宝酒造 商品第一部 副部長兼技術課長の高橋悠典さんと、「宝焼酎のお茶割りシリーズ」や「寶 抹茶ハイ」など焼酎ベースの「ソフトアルコール飲料」を手掛けている商品第二部 技術課長の大崎学さんのおふたりです。

 

倉嶋 次は「焼酎×緑茶」についてということで、よろしくお願いします。

 

高橋 説明する前に、まずは飲んで頂きましょうか? そのほうがわかりやすいと思うので。今日は焼酎の違いで「お茶割り」の味がどう変わるかを体験いただきたく、当社の「極上〈宝焼酎〉」と宝焼酎「タカラモダン」を用意させていただきました。

↑宝酒造 商品第一部 副部長兼技術課長の高橋悠典さん

 

倉嶋 待ってました!

 

大崎 松木さんには事前にお願いして、2種類の「宝焼酎」に先ほどの高級茶葉をつけ込んだものを本日のベースのお酒として準備してもらっています。

↑宝酒造 商品第二部 技術課長の大崎学さん

 

倉嶋 ありがとうございます!

 

松木 では、作っていきますね。

 

 

高橋 「極上〈宝焼酎〉」は樽貯蔵熟成酒を3%ブレンドしており、まろやかな口当たりとコク深い味わいが特徴。「タカラモダン」は当社の独自技術でやわらかな味わいを表現しており、ほのかな甘みやカドのないクリアなキレが魅力です。アルコール度数はどちらも25%ですね。

↑「極上〈宝焼酎〉」(左)、宝焼酎「タカラモダン」(右)

 

松木 「タカラモダン」はピンク色のかわいらしいラベルデザインも素敵ですよね。編集長、まずはこの「モダン」のほうから飲んでみてください。どうぞ。

 

倉嶋 うん! 『緑茶』の清々しい香りがフレッシュで、爽やかな味わいですね。キレも良くてすっきりしているから、これは暑い日に飲みたい!

 

松木 茶葉の爽やかな風味を感じる「お茶割り」ですよね。では次に、「極上〈宝焼酎〉」のほうを飲んでみてください。

 

倉嶋 あっ、これはよりお酒のまろやかなコクを感じる味わいで、余韻に多層的な香りが伸びてきます。より「お茶割り」としての膨らみが出て、お茶の甘い香りと極上な宝焼酎の持ち味を感じる美味しさですね。

 

高橋 先ほど松木さんがおっしゃっていたように、『緑茶』にはうまみの素であるアミノ酸をはじめ、さまざまな成分が含まれているんですね。これは樽貯蔵熟成酒も同様で、うまみや甘み、香りなどさまざまなものが含まれます。その成分が調和して引き立て合ったり、一方で欠けている味を補ったりすることで美味しさが生まれているのだと思います。

 

大崎 補うというのは、例えば渋味のカドをまろやかな甘みでおいしい苦味に変えていくようなイメージですね。

 

倉嶋 樽貯蔵熟成酒は以前に宮崎の黒壁蔵で勉強させていただき、それまで甲類焼酎は無色透明で味わいに違いはないと思っていた私の価値観がガラリと変わりました。約85種類あるという樽貯蔵熟成酒は、宝酒造の甲類焼酎の味の要ですよね。

 

【関連記事】
焼酎の味わいを決める「樽貯蔵熟成酒」について宮崎・高鍋で学ぶ噺

 

松木 並べて比べて見ると、同じお茶と透明な甲類焼酎の組み合わせなんですけど、「モダン」のほうが少し色が濃いんですよね。これも面白いと思いました。

 

倉嶋 ほんとだ! これは何でですか?

 

高橋 「極上〈宝焼酎〉」のほうは樽貯蔵熟成酒が3%入っているためpH(※)などの微妙な違いが関係しているのかもしれませんね。

※水素イオン指数。溶液の酸性・アルカリ性の程度を表す物理量。

 

松木 なるほどー! でも今回2種試してみて、「お茶割り」にすることで焼酎の味の違いがよりわかる気がしました。

 

倉嶋 うん、それぞれの焼酎の特徴がはっきり出てくる印象ですよね。お酒好きの人には、どっしりとした「極上」のほうなのかなぁ。

 

松木 はい。1杯目に爽やかな「タカラモダン」のほうを味わって、あとはじっくり「極上〈宝焼酎〉」の「お茶割り」で楽しむのはいい流れだと思います。

 

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美味しい「お茶割り」を作るコツ

倉嶋 今日は最後、松っちゃんに美味しい「お茶割り」の作り方も教えてほしいです。

 

松木 すべてのチューハイに共通するのは、よく冷やすことですね。焼酎も割り材も冷やし、氷は溶けにくいロックアイスがオススメです。冷たいお茶に関しては、市販されているもので構いません。

倉嶋 そっか、お茶を淹れて冷やしてとなると、手間がかかりますよね。

 

松木 もし淹れる場合は、『緑茶』の湯温はやっぱりアミノ酸が出やすい70~80℃がオススメです。ただ、『ほうじ茶』は高温でもOK。『ほうじ茶』の場合は高温抽出すると香りが立ってくるのと、渋味のもとになるカテキンがそこまで出ないんです。

 

倉嶋 『緑茶』は水出しでもいいのでしょうか?

 

松木 いいと思いますよ! 水出しはまろやかな口当たりになる特徴がありますからね。あと、もし『玉露』を使うなら、『玉露』ならではのまろやかさがいっそう際立つ水出しはオススメです。

 

倉嶋 まろやかな味わいかぁ。「極上〈宝焼酎〉」とかスゴく合いそう。つまみはおにぎりかなっ!

 

松木 いいですねぇ! 編集長もご自宅で、ぜひ試してくださいね。

 

「お茶割り」は夢のような飲み物

大崎 もっと気軽に「お茶割り」を楽しみたいときは、ぜひ、宝焼酎の「お茶割りシリーズ」もお試しください。

 

倉嶋 そうですね! これなら、なんの準備もなく「お茶割り」を楽しめますね(笑)

 

高橋 「宝焼酎のやわらかお茶割り」は、アルコール度数を4%に設定していますが、『緑茶』の美味しさを引き立て、お酒としての飲みごたえが感じられるように、バランスを調和させていくのが腕の見せ所ですね。

 

大崎 「茶葉」は、うまみや渋味といった味わいに層がある、『煎茶』の一番茶を一部使用しています。そのうえで意識していることは、飲み飽きないクリアなおいしさですね。『緑茶』の清々しい香りや味が焼酎のコクと響き合う、清涼感のある美味しさを目指しました。

↑宝焼酎の「お茶割り」シリーズ

 

倉嶋 お酒感があって飲み飽きないなんて、お酒好きにはうってつけってことかぁ。

 

松木 源実朝(みなもとのさねとも・鎌倉幕府の第三代将軍)が二日酔いで苦しんでいたとき、お茶を飲んだら収まったなんていう話が『吾妻鏡』に書かれていると聞いた事がありますけどね。

 

倉嶋 糖質ゼロのお酒だし、おまけに酔い覚め爽やかとは、「お茶割り」は夢のような飲み物ですね(笑)。

 

今回は、お茶の種類の違いから、品質の善し悪しを決めるポイントをはじめ、焼酎メーカーと飲食店、双方からプロのこだわりを学んできました。「お茶割り」は、ベースとなる焼酎を変えるだけでもガラリと味が変わりますし、「ほうじ茶」や「玉露」など、自分で淹れたお茶で違いを楽しむのもアリ。今回学んだことを参考に、ぜひ皆さんもいろいろと試してみてくださいね。次回の「意外と知らない焼酎の噺」もお楽しみに!

 

 

<取材協力>

酒と茶と 襤褸 (らんる)

住所:東京都墨田区向島2-10-11 南山ビル 1F
営業時間:17:00~22:00(L.O.21:00)
定休日:水曜

※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2023年6月7日)

 

撮影/我妻慶一

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・極上〈宝焼酎〉
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/lineup/gokujo-takara-shochu.html

・宝焼酎「タカラモダン」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takaramodern/

・宝焼酎のやわらかお茶割り
https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/ochawari/

・宝焼酎の濃いお茶割り〜カテキン2倍〜
https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/ochawari/

・宝焼酎の烏龍割り
https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/ochawari/

 

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【意外と知らない焼酎の噺02】「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺
【意外と知らない焼酎の噺03】いろんな「甲類焼酎」を飲み比べて味わいの違いを実感する噺
【意外と知らない焼酎の噺04】芋焼酎のつくり方を知り、味わいを楽しむ噺
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【東京・大衆酒場の名店】渋谷に復活!「立呑 富士屋本店」のカウンターで伝説の立ち飲みを楽しむ噺

東京にある大衆酒場の名店を巡る企画の第10回。今回は渋谷の「立呑 富士屋本店」を訪れ、立ち飲みスタイルと、そのカウンターの魅力を探っていきます。

 

大衆酒場は、その安さとウマさ、昔ながらの温かい雰囲気で、酒飲みの心をひきつけてやみません。なかでも東京では下町を中心に、根強い人気を誇る大衆酒場の名店が数多く存在します。そんな名店を巡り、お店の魅力と東京ならではの酒文化を深掘りしていくのが本連載。立石「宇ち多゛(うちだ)」篠崎「大林」京成曳舟「三祐酒場(さんゆうさかば) 八広(やひろ)店」八広「亀屋」四つ木「ゑびす」門前仲町「だるま」船堀「伊勢周」門前仲町「大坂屋」横須賀「お太幸」に続く第10回は、渋谷の「立呑 富士屋本店」にお邪魔します。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

定番の焼酎ボトルと割り材で自分好みのチューハイを楽しむ!

これまで数々の名カウンター酒場を紹介してきましたが、今回は本企画で初の立ち飲み店です。訪れた「立呑 富士屋本店(旧店名は「大衆立呑酒場 富士屋本店」)」は東京を代表する立ち飲み酒場で、渋谷の再開発により閉店していましたが2022年の11月に移転復活。

 

企画の講師はカウンター酒場に詳しい長谷川和之さんが担っていますが、今回は参加できず。代わりに酒場好きのフードアナリスト・中山秀明さんが長谷川さんから命を受け、生徒役のお酒好きタレント・中村 優さんに、同店の魅力や立ち飲みカウンターの楽しみ方をレクチャーします。

↑中村 優さん(左)は、タレントおよびマラソンランナーとして活躍。中山秀明さん(右)はフードアナリストの資格をもつライターで、食ジャンルを中心に取材執筆をしています

 

中村 中山さん、お久しぶりですね。今日は、師匠の長谷川さんが来られないので、ご指導よろしくお願いします! 「立呑 富士屋本店」は有名ですけど初めて来ました。渋谷の、しかもこんなに駅から近い場所にあったなんて!

↑店内には「L字型」と長めの「コの字型」の2つのカウンターがある。ハイテーブルも置かれ、すべてスタンディング(写真奥はコの字型カウンター)

 

中山 渋谷には系列店がこの桜丘町に3店舗あって、ほかに三軒茶屋や日本橋浜町にも展開していますね。なかでもこの「立呑 富士屋本店」はスタンディングの大衆酒場です。では、まずはお酒から注文しましょう。ちなみに、「立呑 富士屋本店」はボトル焼酎を好みの割り材で割って、多彩なチューハイを楽しめるスタイルなんですよ。

 

中村 あっ、好きな濃さで飲めるやつ! 確か連載初期に伺った「大林(篠崎)」もボトルではなかったですけど自分で割るスタイルでした。いいですね~!

 

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中山 それなら、まずは「立呑 富士屋本店」の定番「宝焼酎」360mlのボトルをお願いして、僕はホッピー割りでいきます。中村さんはどうします?

↑「宝焼酎25% 360ml」750円

 

中村 私は炭酸とレモンで「レモンサワー」にしようかな。では、注文しますね!

 

中山 「立呑 富士屋本店」は、焼酎のボトルは常温なので、冷えたグラスに氷と焼酎を入れマドラーでステアしてから炭酸を入れると、すべてが冷やされて(3冷)美味しく飲めますよ。

 

中村 なるほど!

↑マドラーでステアして焼酎を冷やす中村さん

 

↑「炭酸」150円、「カットレモン」150円

 

中村、中山 では、カンパーイ!

 

中村 おいしい! 私は酔いやすいので、自分好みの濃さ(薄め)に調節して飲めるのはうれしいです。

 

中山 そういえば、前回行った「お太幸(横須賀)」は焼酎が濃い“横須賀割り”の名店でしたね。あちらも力強くてメチャウマですけど。

 

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中村 はい、確かに横須賀まで行く価値がありました! では続いておつまみも注文しましょう。オススメはどれですか?

 

中山 外せないのは「ハムキャ別」。ほかに移転前から定番の人気メニューには「なすみそ」や「ねぎぬた」、「スパサラ」などがありますよ。

↑お品書きは黒板のほか、紙のメニューリストも。なお、QRコードを読み取ってオーダーすることも可能

 

中村 おいしそうなメニューがたくさんありますね! では、まずは「ハムキャ別」と「スパサラ」を。あとはどうしよっかな?

 

中山 復活後に新しく加わったメニューも豊富で、なかでも「鰯海苔巻き」はイチオシです!

 

中村 イイですね~。ではその「鰯海苔巻き」と、あとは「あさりの酒蒸し」もお願いします!

 

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立ち飲みカウンターの嗜み方と作法

中山 今回のテーマは立ち飲みカウンターなんですけど、中村さんは立ち飲みのお店にも行きます?

 

中村 たまに行きますよ! サクッと飲めるところがイイですよね。

 

中山 はい! それに、なんといっても手ごろな価格で飲めて楽しめるところが最大の魅力ですね。

 

中村 お店側としては、イスが不要だから小規模のスペースで効率よく運営できるという利点もありますね。

 

<カウンター酒場マニア・長谷川和之のひとくちメモ ①>

立ち飲みの最大の魅力は、少し時間が空いたとき、ちょっとだけ飲みたいとき、おつまみも1品2品でいいというとき−−どんなタイミングでも、気軽に入れること。

長っ尻せず、1日の中の「句読点」のように立ち飲み屋に立ち寄って呑む。疲れやストレスをさっと洗い流す。ダラダラと飲んで、酔っ払うようなことはせず、サクッと飲んでサクッと退店。それがいいですよね。

「ひとり飲み」初心者の方も、まず立ち飲みからであればハードルは低いでしょう。自分に合わない店だなと思ったら1杯で会計してもOKです(笑)。

 

 

中山 そうですね。そして楽しみ方の作法としては、座席数という概念がないので、賑わってきたらたくさんの人が飲めるよう、スペースを詰めたり、お会計して退店したりという譲り合いの気持ちが大切です。あまり注文せずに長居するのはご法度ですね。

 

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中村 立ち飲みのお店は、まさに大人の社交場ってことですね。では「立呑 富士屋本店」のカウンターの特徴はどんなところにありますか?

 

中山 カウンター酒場マニアの長谷川さんによると「L字型」と長めの「コの字型」の2つのカウンターがあるのが特徴とのこと。1店でふたつの異なるカウンターが楽しめるお店は貴重で、その日の気分に合わせて、カウンターを選ぶのも楽しそうですね。

ちなみに、移転前は「ロの字型」のカウンターで、こちらはライブ感や一体感がスゴかったです。その雰囲気は復活後のここでも感じますね。広さも同じぐらいだし、どんどんお客さんが入ってきてすぐ賑やかになりますから。

 

中村 お店の外にも席が設けられているぐらいですもんね。

 

中山 それと、店内の間取りが横長なのは、もともと1店舗ぶんのスペースだったところを、隣の店が空いたので、壁を取っ払ったからなんです。

 

中村 なるほど! そういうことなんですね。

 

立ち飲みはテーブルの高さが重要

中山 これまで中村さんが訪れた大衆酒場の名店は、カウンターの形やテーブルの奥行きにフォーカスが当たっていたと思うんですけど、立ち飲みの場合は高さも重要なんです。テーブルの位置で、くつろぎやすさが変わりますから。

 

中村 確かにそうかもしれません。高すぎても低すぎても疲れちゃいますもんね。

 

中山 ちょっと、長谷川さんに習って「立呑 富士屋本店」のカウンターを測ってみましょう。

 

中村 任せてください! 今日は私がメジャーを持ってきました。

 

中山 おっ、さすがカウンター酒場5回目ともなると頼もしい! しかもかわいいメジャーですね~。

↑羊のぬいぐるみをモチーフにしたメジャーで測る中村さん

 

中村 え~と、高さは110cmです。

 

中山 立ち飲み店にしては少し高めですね。長谷川さん曰く、110cmという高さだと自然に背筋が伸びて、かっこいい立ち姿になるそうです。猫背でジョッキやグラスを口に持っていくのは、あまりおしゃれな見た目とは言えませんからね。ちなみに、カウンターの奥行はどれくらいですか?

 

中村  奥行きは55cmで、コーナーになると65cmですね。

 

中山 奥行きの長さは45~65cmが適正なので、「立呑 富士屋本店」は正統派の広さといえるでしょう。

 

中村 十分に奥行きがあるから肘を置いてゆっくりできますし、居心地も抜群です。

 

 

渋谷の伝説「富士屋本店」復活までのストーリー

中村 あ、移転前のお店の写真が飾ってありました。これが「ロの字型カウンター」! 歴史も深そうな雰囲気ですね。

 

↑移転前の「ロの字型カウンター」(写真提供:立呑 富士屋本店)

 

中山 開業は昭和46(1971)年。もともと100年以上、この地で酒販店を営んでいた「富士屋本店」が、自社ビルの地下に出店した立ち飲み酒場です。酒販店は山手線の線路側にあったそうで、地下にあった「大衆立呑酒場 富士屋本店」は、この坂を下りて線路側に少し歩いた路地裏に入口がありました。確か楽器店の手前だったかな。

 

中村 いまは大きな複合施設が建設中になっている場所ですかね。

 

中山 そうです。2018年の10月末に立ち退き閉店となり、最終日は100人〜200人の行列ができたとか。“渋谷の名物大衆酒場が伝説に”といった見出しで、ニュース番組でも報道されていた記憶があります。

 

中村 酒場好きの聖地だったと。それが復活とあれば、ファンにはたまらなくうれしいですよね。

 

中山 ええ。聖地であり、秘密基地であり。で、今日の「立呑 富士屋本店」はもともと「富士屋本店 ダイニングバー」だったんです。こちらも立ち飲みで、洋食つまみとハイボールやワインがウリでしたね。こちらを業態転換する形で、「立呑 富士屋本店」へとフルリニューアル。スペースも広くなり、2022年11月24日に新たなスタートを切ったんです。

 

<カウンター酒場マニア・長谷川和之のひとくちメモ②>

“先代”の地下にあった富士屋本店は、どちらかと言えば、昭和の雰囲気を色濃く残した古き良き大衆酒場でした。毎日通ったとしても、安く安心して飲むことができるおじさんたちのオアシス的な存在でした。

リニューアル後は、“先代”時代の人気メニューだけでなく、本格的な割烹やイタリアン、フレンチを彷彿とさせる手の込んだ料理が多数メニューに並んでいます。その割に値段は“先代”の大衆酒場のままという、お客さんにとってはとてもうれしい形での復活でした。

前のお店では、カウンターしかなかったのですが、新店舗にはいくつかテーブルが用意されています。1人でも2人でもグループでも立ち飲みを楽しめるようになったのは、最大の変化ではないでしょうか。

 

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往年の名作「ハムキャ別」ほか、お酒が進むおつまみが満載

中村 おつまみが来ましたね。あっ、これが「ハムキャ別」か~。こうして別々にしてハムが乗っかってるから“別”っていうことなんですかね。面白いし、見た目のインパクトもスゴい!

↑「ハムキャ別」400円

 

中山 「ハムキャ別」は食べごたえのあるロースハムと、ほんのりマヨネーズの効いた千切りキャベツのコンビネーションが神! 名物女将・ヨシ江ママ直伝のレシピが受け継がれている傑作です。ハムの仕入れ先も昔と変わっていないそうで、創業当時そのままの味が楽しめますよ。

 

中村 すごくおいしい! ちょっと厚めでお肉のうまみもしっかりしたハムがインパクト大で、絶妙な幅の千切りキャベツがベストマッチですね。これはお酒が進むわ~。

↑「スパサラ」300円

 

中山 「スパサラ」はキュウリ、玉ネギ、ニンジンが好アクセントになっていて、辛子マヨネーズのパンチもたまらない一品です。こちらはオリーブオイルも使うなど、あえて今風の味に進化させたそうで、よりお酒が進むおいしさになりました。

 

中村 確かに、どこか懐かしい味わいの奥にある、ピリッとした辛子マヨがクセになりますね。野菜のシャキッとした食感や、黒胡椒の風味もいいです!

 

↑「鰯海苔巻き」850円

 

中山 「鰯海苔巻き」は酢じめしたイワシと、紅生姜、キュウリ、青ネギ、薄焼き卵を閉じ込めたアテ巻きです。しっかり味付けされているので、そのままイケますよ!

 

中村 これは発明だ! ビジュアルからして最高ですね~。うん、味も抜群! イワシの脂と酢じめの酸味が絶妙で、紅生姜も大活躍。爽やかな後味で、レモンサワーにめちゃめちゃ合います。

 

中山 そして中村さんが気になっていた「あさりの酒蒸し」。こちらはニンニクとオリーブオイルで香りを立て、日本酒で蒸し上げた味付けも秀逸ですが、そもそも旬を迎えた春のアサリは、プリッとしていて間違いないウマさですよ!

↑「あさりの酒蒸し」650円

 

中村 わー、香りからして最高! ほんとはチビチビと味わうおつまみなんでしょうけど、止まんないおいしさです。

 

中山 つい、お酒も進んじゃいますよね。もうちょっと飲みたいときなど、焼酎をおかわりしたいときは、小さいカップの220mlサイズもあるので便利です。あと、ひとり飲みにもこちらがオススメですよ。

↑「宝焼酎 220mlカップ」500円

 

中村 あっ、これはコンビニでもおなじみのかわいいサイズですね!

 

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これまでの名カウンター酒場を振り返って

中山 これまで、いろんなカウンター酒場を巡ってきたと思うんですけど、振り返ってみていかがですか?

 

中村 どのお店も印象的で、すごく記憶に残っています。「だるま(門前仲町)」は「コの字型カウンター」の醍醐味を存分に楽しめるお店で、姉妹店主の笑顔も素敵でした。「伊勢周(船堀)」は「L字型」に加え、向かい合って座れる席配置もユニークで。「大坂屋(門前仲町)」は大工さんの技術も見事な「三日月型カウンター」がスゴかったです。“東京五大煮込み”に挙げられる名物料理と、女将さんのあたたかさも忘れられません。

↑門前仲町の「大坂屋」にて師匠の長谷川さんと

 

そして前回の「お太幸(横須賀)」は「コの字」と「L字」を組み合わせた、独特の「H型カウンター」でした。“横須賀割り”のパワフルなチューハイと、2階の桟敷(さじき)も圧巻でしたね!

↑横須賀「お太幸」の「H型カウンター」

 

中山 どのお店も個性的! セレクトが素晴らしいですね~。

 

中村 もちろん、今日の「立呑 富士屋本店」も素晴らしい酒場です! 気軽に飲める自由で開放的な雰囲気が最高ですし、お酒も料理も絶品! そのうえで今日あらためて思ったのは、カウンターなど店内の設計や構造の部分は、メニューと同じぐらい重要なんだなということです。

 

中山 ええ。席のレイアウトが変わるだけでも、お店の雰囲気はガラッと変わりますからね。

 

中村 お客さんにとっては、座る位置や目線の高さで見える景色も違いますし、視界に何が入ってくるかで楽しみ方が変わることもわかりました。

カウンターのことだけでなく、「三祐酒場八広店(京成曳舟)」、「亀屋(八広)」、「ゑびす(四つ木)」など、東京・下町の名店にも伺って、「焼酎ハイボール」の歴史や大衆酒場の奥深さも学ばせてもらいました。おかげで、大衆酒場がもっともっと好きになれそうです。読者のみなさんもぜひ、大衆酒場を楽しんでみてください!

 

 

 

撮影/鈴木謙介

 

<取材協力>

立呑 富士屋本店

住所:東京都渋谷区桜丘町16-10
営業時間:平日17:00〜22:00(L.O.21:30)、土曜16:00〜22:00(L.O.21:30)、日曜祝日15:00〜20:00(L.O.19:00)
定休日:なし

※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2023年4月26日)

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

 

「東京・大衆酒場の名店」バックナンバーはこちら▼

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「強炭酸チューハイ」をつくるディスペンサーの秘密に迫る噺

意外と知らない焼酎の噺12

『古典酒場』編集長の倉嶋紀和子さんがナビゲーターとなって探っていく「意外と知らない焼酎の噺」。前回までは「ホッピー」「ハイサワー」「ホイス」「バイス」と「割り材」についてじっくり深掘りしてきました。

 

今回は、チューハイには欠かせない「炭酸水(以下は略して炭酸)」。しかも「強炭酸」を作り出す「チューハイディスペンサー」について、倉嶋さんがディスペンサーの製造販売を手がける株式会社ニットク(東京都小平市)にお邪魔してお話を伺います。

 

島田昭(左)/様々な飲料ディスペンサー(サーバー)の製造販売を行う株式会社ニットクの専務取締役
倉嶋紀和子(右)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任

 

 

「強炭酸チューハイ」が作れるディスペンサーとは

倉嶋 島田専務、今日はよろしくお願いします。まずは、ディスペンサーとはなんぞやというところから教えてください。

 

島田 はい。ディスペンスは「出す・配る」といった意味で、ドリンクを供給する機械。供給ですから、サーバーとも言いますよね。業界では冷・温とあるのですが、当社は冷やす方に特化したメーカーでして、コールドドリンクのディスペンサーはほとんど取り揃えております。

 

 

倉嶋 なるほど。ディスペンサーの基本的な仕組みはどうなっているんですか?

 

島田 チューハイのディスペンサーは、炭酸ガスと浄水器を接続し、機械の中で混合して炭酸を作ります。つまり、ディスペンサー内のタンクに給水しながら炭酸ガスと混ぜ、冷却装置を介した管に通して炭酸を注出する仕組みになっています。ノズル部分で焼酎と炭酸を混合してチューハイができあがります。

 

チューハイ用のディスペンサー。機械とは別に、炭酸ガス、浄水器、焼酎が必要

 

倉嶋 それでは、ニットクさんのこだわりである「強炭酸」にするためのディスペンサーにはどんなポイントがあるか教えてください?

 

島田 大前提として液体は冷たい方がガスも溶けやすく、逃げにくい性質をもっているので、できるだけ低温で炭酸を作るようにします。そのうえで私たちは、炭酸ガスが逃げないような工夫を随所に施しています。例えば冷却させるための管ですが、これは長ければより冷えるのかというとそうでもありません。

 

倉嶋 そうなんですね!

 

島田 ですから、ガス圧と長さのバランスが大切なんですよね。そして、もうひとつ重要なのがノズル。注出部の先端では、あえてゆっくり流れるように絞るためのパーツを組み込んでいます。

 

倉嶋 なるほど。出る勢いが強すぎると、炭酸ガスも逃げてしまうと。

 

島田 はい。見た目では強そうですけど、勢いよく出ていると同時に炭酸も抜けているんです。このノズル部分は、当社の命といってもいい特許技術が含まれています。名称としては、その形から「ドングリ」と呼んでいます。

独自技術がつまっているノズル部分(キャップを外しています)

 

倉嶋 おお、この注出先端部のパーツが「ドングリ」ですか!

 

島田 炭酸はきわめてデリケートで、ガス圧を効かせるとそのぶん逃げるのも早くなります。ですから強く効かせることはもちろん、ガスができるだけ逃げないような工夫をしているのが当社のディスペンサーというわけです。

 

倉嶋 ガス圧を強く効かせるということですが、製品の方で圧力の強弱を変えることはできるんですか?

 

島田 飲食店さんの方で調整する場合ですよね。残念ながら炭酸のガス圧は変更できません。ただ、炭酸をより効かせるための重要なポイントがあるので、実際にディスペンサーを操作して、炭酸の強弱の違いを確かめたり、チューハイを作ったりしてみましょう。

 

倉嶋 待ってました! お願いします。

 

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注ぎたての「強炭酸チューハイ」を飲んでパワーをチェック

島田 先ほど強炭酸を作る要領について説明いたしましたが、もうひとつガスが抜けないようにするための秘訣があるんです。まずはそれからご体験ください。

 

倉嶋 秘訣ですか?

 

島田 はい。ズバリ、注ぎ方です。ゆっくり出す方がガスも逃げないとお話ししましたが、注ぎ方も同様。やさしく注ぐことで、より圧力の強いダイナミックな炭酸が楽しめるんです。まずはやさしく注いだものからどうぞ。

注ぎ口をグラスに付け、氷に当たらないように傾けながら静かに注ぐと、強炭酸が維持される

 

倉嶋 ホントだ! 炭酸が踊っていて、ノドへの刺激もバチバチ来ます。これはおいしい!

 

島田 よかったです。では、次はドバッと落下させるように勢いよく出しますね。見た目はこちらの方がパワフルですが、飲んでいただくとどうでしょう?

 

倉嶋 あぁ確かに! 先ほどのより、キック(炭酸がよく効いている)がおとなしいです。

 

島田 ですよね。当社でもこうした形で飲食店さんにアドバイスをしておりまして、実際に飲み比べていただくと違いに驚かれます。では次は倉嶋さんご自身で、焼酎が混ざった状態のチューハイで試してみてください。

 

倉嶋 喜んで! レバーは前後左右に動くんですね。

 

島田 はい。左に動かして、レバーを後ろに倒すと「焼酎」だけが出ます。一方、右に引っ張って後ろに倒すと「炭酸」だけが出て、手前に引くと焼酎と炭酸が混ざった「チューハイ」が出る仕様です。

 

倉嶋 やってみます。チューハイを氷に当てないことも、ガスを逃がさないコツですよね。

 

島田 さすが、その通りです。氷に当てるとどうしても表面で泡になりやすく、その際にガスが抜けてしまうので、なるべく氷を避けてやさしく注いでください。

 

倉嶋 ではいただきます……あー、ノド越しが抜群! シュワッとして気持ちイイです。注ぎ方でここまで変わるとはビックリ。泡の見た目も爽快ですし、チューハイの味も抜群においしいです!

 

 

島田 実感いただけてよかったです。私も強炭酸が好きで、お店で飲むチューハイも強ければ強いほど嬉しいですね。試していただいた注ぎ方でガス圧がしっかり強くておいしい「強炭酸チューハイ」を、どんどん広げていきたいと思っています。

 

倉嶋 ちなみに、例えばチューハイのアルコール度数が8%だったとしましょう。ベースの焼酎の度数が高くて濃い方が、割る炭酸の量は多くなりますよね。ということは、度数の高い焼酎で作ったチューハイの方がオススメなんですか?

 

島田 鋭いですね、その通りです。例えばディスペンサーにつなぐ焼酎のアルコール度数が25%と35%とでは、その機械の調整にもよりますが、同じ8%で注出するのであれば35%の方が焼酎の量は少ない。そのぶん炭酸の量は多くなるので、ガス圧も強くなります。

 

日本におけるディスペンサーのパイオニアがニットク

倉嶋 それでは、あらためてニットクさんの歴史を教えてください。

 

島田 1955(昭和30)年に有限会社五月商会として営業を開始し、当時は飲料水製造機のメンテナンスが事業の柱でした。2年後の1957(昭和32)年に日本特殊鋼器株式会社へ組織変更。やがてドライアイスを使用して炭酸を作る製法特許を取得するなど、事業を展開してまいりました。

 

倉嶋 当初はドライアイスで作っていたんですね!

 

島田 高度経済成長期でもあった1957年当時は、サラリーマンを中心にウイスキーハイボールが流行していた時期。ただ、当時の炭酸はびん入りがほとんどで、課題もあったそうです。

 

倉嶋 びんの課題ですか?

 

島田 ひとつが価格の高さで、もうひとつは大量にびんを冷やさなければならないこと。そしてびんのフタ。開栓してしまったら、早めに使い切らないと無駄になっちゃいますよね。ガスが抜けておいしくなくなっちゃいますし。

 

倉嶋 なるほど!

 

島田 そこで、当社の前会長が現役時代にいろんなお店を回って各店の声を拾い上げ、大量に安く炭酸を供給するために発明したのがドライアイス式の炭酸製造装置でした。こちらになります。

ドライアイス式の炭酸製造装置

 

倉嶋 マシン自体はなんだか可愛いらしいですね!

 

島田 仕組みはシンプルで、まずは20リットルの水を入れてドライアイスは100グラム入れます。フタをしたら100回以上左右に振らないといけなかったのですが、当時はもう画期的で。ホースをつないで炭酸を出す手法で、バーや喫茶店などに測り売りで提供したという記録が残っています。

 

倉嶋 ディスペンサー型炭酸のはじまりですよね。そしてこの最初のヒットが、のちの名機へつながっていくと?

 

島田 そうですね。次第に機械的な手法で何か作れないかということで、新たな炭酸製造装置の「ソーダミル」や、ドリンクを素早く効率的に冷却できる「コールドプレート」を開発し、国内で最初に製造販売を開始しました。

 

工場にて。熟練の技術で部品を組み立て、現在はディスペンサーをひとりで1日平均4台ほど製造

 

倉嶋 そしてチューハイをはじめ、様々なディスペンサーを手掛けていくわけですね。

 

島田 はい。チューハイのディスペンサーを国内で最初に製造販売したのも当社となります。そして関西支社のほか各地に営業所も開設し、1984(昭和59)年に社名が現在の株式会社ニットクとなりました。

 

倉嶋 では、ディスペンサーを製造するうえで、注意するべきポイントとは?

 

島田 第一に衛生面、安全性です。お客様の口に入るものとなりますので、ここは絶対に譲れません。次に味ですが、私どもの場合、炭酸の強さや心地よさが譲れないポイントです。こうした部分は社内で抜き打ちテストも行い、お客様はもちろん飲食店さんの期待に応えられるよう努力しています。

 

倉嶋 なるほど、ありがとうございました。お話しを伺って、ディスペンサーと強炭酸について、とてもよくわかりました! ではこのあと実際に、リアルな「強炭酸チューハイ」を飲みにお店へ行ってきます!

 

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木場の「江戸っ子」で「強炭酸チューハイ」を楽しむ!

こうして「強炭酸チューハイ」を楽しむべく倉嶋さんが訪れたお店は、木場(東京都江東区)の老舗「江戸っ子」。山形県出身の初代が東京(江戸)に憧れ、1965(昭和40)年に創業。現在は生粋の“江戸っ子”であるお孫さん兄弟が二代目として継いだ大衆酒場です。

木場にある大衆酒場「江戸っ子」

 

ここで長年愛されているのが、アルコール度数35%の宝焼酎「純」をニットクの強炭酸ディスペンサーにつなげて作る「強炭酸チューハイ」。そのこだわりや人気メニューなどを、南 順也店主に伺いました。

店内の手描きのメニュ—でも、35%の宝焼酎「純」がイチオシ!

 

倉嶋 「江戸っ子」さんのチューハイはバキバキのガス圧と「純」ならではのコク深いうまみが効いていて、絶品です! まずは、この「強炭酸チューハイ」を提供している理由から教えてください。

 

 おいしいってのが大前提なんですけど、なによりおじいちゃん(先代)から受け継いだ宝物が35%の「純」を使ったチューハイなんです。2010年に僕ら兄弟が店を継いだのですが、それ以前からの常連さんにもたくさんのファンがいて、このチューハイなしでは考えられないですね。

 

倉嶋 ということは、ディスペンサーへのこだわりも相当ですよね。

 

 

 はい。あいつ(ディスペンサー)は僕らより先輩なんです。おじいちゃんの代からずっとあって、いつから使ってるかわからないくらい。でもすごく頑丈で、頼もしい存在です。こだわりかはわかりませんが、ポイントは掃除やメンテナンスを欠かさず行うことですかね。

 

倉嶋 では、チューハイを作る際のこだわりは何でしょうか。

 

 やっぱり味わいのキーとなる35%の「純」は欠かせません。あとは注ぐ際に泡が壊れないようにやさしく、氷に当てないように注ぐことですね。

左から「チューハイ」(400円)、「ミドルチューハイ」(550円)、「大チューハイ」(750円)

 

倉嶋 なるほど。たしかに『純』は11種類の樽貯蔵熟成酒を13%使用しているので、香り高く、芳醇で贅沢な味わいが際立ちますよね。私も宮崎県の高鍋(宝酒造「黒壁蔵」)に行って実際に体験してきたのでわかります。あと、3サイズあって、ミドルジョッキでも他店の大ぐらい入っていて、量も粋ですよね。

 

 何よりお客さんに喜んでほしいので、なみなみと注いでいます。ミドルとかのサイズは僕が増やしました。いろんなサイズでお客さんに飲んでほしいなと思って。「メガ純ハイ」って書かれたミドルジョッキは、渋いデザインも好評です。

 

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倉嶋 では、このチューハイに合うおつまみをお願いします!

 

 では、おじいちゃんの代から名物の「にこみ」や「焼き鳥」など、いくつかお出ししますね!

下から時計回りに、「にこみ」(480円)、「焼き鳥」(1本110円)、「のりチーズ」(250円)、「焼きそば」(550円)

 

倉嶋 「にこみ」は牛モツとこんにゃくだけのストロングスタイル。濃厚な味噌味のシンプルさも最高です。「焼き鳥」も白モツをはじめ、このチューハイにすごく合う味わいですね。

 

 うちの2大名物は、仕入れ先もレシピもずっと変えていません。「焼き鳥」のタレもずっと継ぎ足しで、古くからの常連さんも公認の味わいです。

 

倉嶋 ええ、タレは深みがあっておいしい!「 焼きそば」は水分少なめの表面カリッと香ばしい感じが、呑兵衛の心をくすぐります。「のりチーズ」は大葉が絶妙です!

 

 お口に合ってよかったです!

 

倉嶋 そして何よりチューハイが進む進む! ボリュームの大きなジョッキですけどスイスイ飲めちゃいます。「江戸っ子」さんで飲むなら、ミドルまたは大ジョッキで決まりですね。

 

お店で楽しむチューハイの知られざる一面、ディスペンサーにスポットを当てた本記事、いかがでしたでしょうか。次回の「意外と知らない焼酎の噺」もお楽しみに。

 

 

<取材協力>

江戸っ子

住所:東京都江東区東陽3-20-2 林ビル1階
営業時間:16:00~翌1:00、日曜16:00~22:00
定休日:月曜

※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2023年2月17日)

 

撮影/我妻慶一

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎「純」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

 

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東京生まれ、 大衆酒場で人気の個性派割り材「バイスサワー」の噺

【意外と知らない焼酎の噺11】

 

『古典酒場』編集長の倉嶋紀和子さんがナビゲーターとなって探っていく「意外と知らない焼酎の噺」。これまで「ホッピー」「ハイサワー」「ホイス」と紹介してきた焼酎割り材企画の最後として、「バイス(正式名称:コダマバイスサワー)」にスポットを当てます。伺ったのは、製造元であるコダマ飲料。代表取締役の池澤友博社長を訪ねました。

 

池澤友博(左)/「バイス」をはじめ、全8種の「コダマサワー」を手掛ける株式会社コダマ飲料の二代目代表取締役社長
倉嶋紀和子(右)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任

 

 

「バイス」の名称には“幻の割り材”が関係していた

倉嶋 今日は「バイス」を中心に、コダマ飲料さんの歴史や商品についてお話を伺いたいと思います。「コダマサワー」における「バイス」は、比較的後発のフレーバーですか?

 

「バイス」。しそエキスによる爽やかな酸味と、どこか懐かしい味わいが特徴

 

池澤 はい。「コダマサワー」自体は1981(昭和56)年に「レモン」からスタ-トしました。1984(昭和59)年に5番目のフレーバーとして誕生したのが「バイス」です。創業は1958(昭和33)年で、最初はラムネのメーカーだったんです。会社もいまの大森(東京都大田区)に移ったのは1975(昭和50)年で、隣の蒲田(大田区)が創業の地ですね。

 

コダマ飲料本社

 

倉嶋 「レモン」もよく見かけますもんね。ほかにも「青りんご」や「うめ」など、バリエーションが豊富な印象です。

 

池澤 順番で言うと、「レモン」「うめ」「青りんご」「ライム」「バイス」。ほかにもいくつかフレーバーはあったのですが、いまは「グレープフルーツ」「巨峰」「ざくろ」を含む全8種です。

 

倉嶋 「バイス」という名称の由来については諸説耳にするのですが、実際はどうなのでしょう。梅酢の梅を音読みにして「バイス」にしたわけではないんですよね?

 

池澤 勘違いされるのですが、梅は香り付けに使っているだけで関係ありません。名称は、「ホイス」にあやかったんです。

 

倉嶋 そうなんですね! 実は先ほど、後藤商店(有限会社ジィ・ティ・ユー)さんから「ホイス」のお話も伺ってきました。

 

池澤 でしたら話は早い! 「ホイス」もおいしいですよね。うちが「コダマサワー」を発売するずっと前からあって、すごく人気が高かったんです。当時から後藤商店さんに当社の炭酸水を卸しているなどお付き合いもありましてね、「ホイス」みたいに売れたらいいなという願いを込めて、新発売時に「バイス」と名付けさせてもらいました。

 

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「バイス」ヒットの舞台裏

倉嶋 1984年にデビューしたとのことですが、反響はどうだったんですか?

 

池澤 それが、しばらくは今ほど人気じゃなかったんですよ。注目されはじめたのは、本当にここ数年の話で。

 

倉嶋 近年の大衆酒場ブームで発掘された名作ってことなんですね。私は熊本出身なのですが、上京して初めて「バイス」と出合い「乙女っぽい割り材で嬉しい!」と思いました。ピンク色で、どこか駄菓子屋さんにあるような可愛い雰囲気じゃないですか。

 

 

池澤 ありがとうございます。狙っていたわけではないんですけどね。途中から女性をターゲットにしたイメージ戦略で売り込むようにしました。

 

倉嶋 お店のジャンルですと、「バイス」はもつ焼き屋さんでよく見かける印象です。

 

池澤 業態も狙ったわけではないのですが、手ごたえを感じたのは「亀戸ホルモン」(本店:東京都江東区)さんでよく飲まれているという話を知人に教えてもらったときですね。それも、やっぱり女性に選んでいただくことが多いと。

 

倉嶋 ええ。あの色は、女性の呑兵衛なら絶対気になっちゃいますから。

 

池澤 でも、ネーミングにしろ色にしろ、インパクトがあったんでしょうね。おかげさまで「バイス」はうちの看板商品となりました。

 

 

倉嶋 「バイス」は全国で飲むことが出来るんですか?

 

池澤 東京のメーカーなので首都圏がメインで、地元の大田区を中心として東京の西部や埼玉、神奈川では発売当初からお世話になっているお店がかなりあります。ただ、割り材メーカーとしては後発なので、東京でも最初は苦戦しました。おかげさまで、現在は北海道から沖縄まで飲めるお店はあると思います。

 

倉嶋 全国的に広まり始めたのはここ10年ぐらいですか?

 

池澤 そうかもしれません。大衆酒場ブームだったり、全国誌への掲載だったり。あとはSNSの影響もあり、東京ローカルだった割り材が、少しずつ皆様に知っていただけるようになりました。

 

倉嶋 飲めばわかる、唯一無二のおいしさですもんね! あのフレーバーを開発されたのは、池澤社長ですか?

 

池澤 私を含め、何人かで開発しました。当時の社長は父親だったんですけど、父は下戸でして。でも私はお酒が好きなので、チューハイとして試飲する最終的な官能検査は、私も参加して試行錯誤しましたね。

 

 

不変のおいしさを届けるための知られざるこだわり

倉嶋 来年、2024年で「バイス」誕生40周年になりますけど、味わいに関してはずっと変わってないですか?

 

池澤 変えてないですけど、実は同じ味を保つことって簡単じゃないんですよ。なぜなら、同じ原材料がずっと手に入るとは限らないからです。「バイス」でいえば、東日本大震災で危機を迎えました。

 

倉嶋 2011年の震災! そうだったんですね。

 

 

池澤 お世話になっていた、東北にあるしその加工工場が流されてしまい、どうしてもしその産地ごと変えざるを得なくなりました。北海道産に変えたのですが、見た目は一緒でも風味が違うんですよね。同じ味わいにはならないんです。

 

倉嶋 「バイス」のファンなら、少しの違いでも気づいちゃうかもしれません。

 

池澤 しそは加工したオイルを問屋さんに卸していただいてまして、担当の方は「こっちもおいしいよ」って言うんですけど、そういう問題じゃないんですよね。前と同じ風味で作ってくださいと、何度もやりとりしました。

 

倉嶋 知られざるご苦労があったんですね。そして、しそのオイルがあるとは初めて知りました。

 

池澤 意外に思われるかもしれませんが、しそから僅かにしか作れなくて、1キロ10万円以上する高級品なんです。

 

倉嶋 えっ! それってトリュフオイルよりも高いんじゃないですか?

 

池澤 一度に使う量は少しなんですけど、それがあるとないとではまったく比べものになりません。しそオイル頼りといってもいいぐらいです。

製造工程の一部。びんに充塡している

 

倉嶋 あとは梅などの香料と、りんご果汁も使われていますよね?

 

池澤 さすが詳しいですね。そうなんです、りんご果汁によって味わいに厚みやふくらみが出るんです。

 

倉嶋 しそオイルや、梅ではなくりんご果汁になったというのは、開発時に「何か違うな?」というのを繰り返して辿り着いたということですか?

 

池澤 はい。甘みが出ないとか、酸味が強すぎるとか、ジュースっぽくなっちゃうとか。そうして生まれたのがあの味なのですが、いま振り返ると梅ガムの味に近いのかなと思います。

 

倉嶋 なるほど! 駄菓子屋の梅ガムですよね。なんとなくイメージが湧きます。ちなみにコダマ飲料さんがオススメする「バイス」の飲み方はありますか?

 

池澤 当社としては甲類焼酎90mlに対して「バイス」1本200mlをオススメしていますが、いろいろ試してお好みの味で楽しんでいただければと思います。

 

倉嶋 はい。私もいろいろ試させてもらっているひとりです(笑)。では、合わせるお料理では何が一番オススメですか?

 

池澤 やっぱり焼きとんとか、ホルモンじゃないですかね。なかでも脂がのっている部位で。

 

倉嶋 ホルモン系とは抜群のコンビネーションですよね! 「バイス」の爽快感が脂をいい感じに流してくれて、それでいて酸味がうまみを足してくれるんですよ。

 

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モコモコした独特のボトルはもう残り僅か

倉嶋 いまのフレーバーのほか、過去の「コダマサワー」にはどんな味があったんですか?

 

池澤 ユニークなところですと、アロエにトマト、ウイスキー味もありましたね。

 

倉嶋 どれも個性的ですね! 私もどこかで飲んだことがあったかもしれませんが。

 

池澤 売れ行きを見ながら新フレーバーを開発するなどして、少しずつラインアップは入れ替わりますね。「バイス」や「レモン」といった定番人気の味は不動ですけど。

 

倉嶋 炭酸水も欠かせないと思いますが、こちらのこだわりも教えてください。

 

池澤 炭酸水はベースの「コダマ タンサン」と一緒ですね。ガス圧は既定のギリギリまで強くしています。これ以上強くしようと思えば簡単にできるんですけど、危ないですし、そもそもルール違反ですからね。

 

倉嶋 あとはボトルの形状やロゴもやさしいデザインで大好きなんですけど、ここにもこだわりはあるんですか?

 

池澤 ボトルは15年ぐらい前にお世話になっていたメーカーさんが廃業した際、新しく作りました。旧モデルはモコモコとしたあしらいが入っているもので、いまはシンプルなタイプです。

 

旧モデルのボトル。下半分が凹凸のあるモコモコした形状になっている

 

倉嶋 シンプルにしたのは、何か理由があったんですか?

 

池澤 検びん機でチェックする際、検査しやすいようにしたかったというだけですね。ロゴは変わっていませんが、長年変えていないからレトロな感じがするのかもしれませんね。

 

倉嶋 ロゴも最高です! あとは細かいところですと、王冠がそれぞれフレーバーごとにデザインが違うのは粋だなと思うのですが。

 

 

池澤 まあ、フレーバーごとに成分が違えば王冠に記載する情報を変える必要がありますから。あとは上から見たときにも、パッとわかったほうがいいというのもありますし。

 

倉嶋 でも、この業務用びんや王冠は首都圏だけになりますか?

 

池澤 はい。業務用は問屋さん経由で回収するリターナブルびんなので、これはトラックで行き来できる範囲の関東近郊だけですね。それ以外の地域は340mlのワンウェイのガラスびんとなります。

ワンウェイのガラスびん(340ml)

 

倉嶋 ワンウェイタイプは公式オンラインでも注文できると思うんですけど、御社のオンラインショップでは、販売促進グッズも売ってるじゃないですか。ほとんどが無料なんですけど太っ腹ですよね!

 

池澤 提灯とのぼり旗以外は無料としています。お店で使っていただければ宣伝になりますし、ご自宅でも飾っていただければありがたいので。

販売促進グッズの数々。左より「バイスサワーテーブルテント」「コダマサワー短冊(バイス)」「バイス提灯9号」(税・送料込み1000円)「バイスのぼり旗 レギュラーサイズ」(税・送料込み700円)

 

社名の「コダマ」には夢が凝縮されていた

倉嶋 そして、最後に伺いたかったのは社名です。先代から池澤社長の家業だと思うのですが、なぜ池澤を用いずにコダマ飲料となったんですか?

 

池澤 もともとは池澤商会という社名だったと聞いています。やがて私が生まれ、子どものころは電車が好きだったんですよ。なかでも「こだま」号という特急列車が大好きだったことから、創業者である父親がコダマ飲料と名付けました。

 

倉嶋 素敵なお話ですね。でも「こだま」って、いまでも新幹線に使われている名称の?

 

池澤 私が好きだったのは新幹線の前ですね。特急「こだま」の誕生が当社の創業と同じ1958(昭和33)年で、東海道新幹線開業が1964(昭和39)年ですから。東京~大阪間を6時間30分(当初は6時間50分)で移動できる、日帰りで往復可能な夢の特急だったんです。

 

倉嶋 なるほど! ところで、池澤社長はいまも電車がお好きなんですか?

 

池澤 いえ、もう昔ほどでは。でも、当時は車両を見れば一瞬で何線かを言えるほど夢中でした。

 

倉嶋 お子様の好きなものを社名にするとは、本当に素晴らしいです。特急の「こだま」が往復するように、リターナブルびんも送ったものが返ってくる「こだま」のようなものですよね。事業との親和性もあり素敵な社名だと思います。

 

池澤 そう言っていただけると嬉しいです。

 

倉嶋 お店で「バイス」をはじめ、「コダマサワー」を飲む楽しみがまたひとつ増えました。さっそく今夜は、「バイス」が飲める大衆酒場をパトロールしたいと思います!

 

 

バイスの魅力についてじっくり池澤社長から伺った倉嶋さん。宣言通り、中目黒の「もつ焼きばん」でバイスを堪能しました。

 

 

 

3回にわたってお送りした「割り材」の噺はいかがでしたか。次回の「意外と知らない焼酎の噺」もお楽しみに。

 

 

撮影/鈴木謙介

 

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これまで取材はほとんど受けてこなかったとのことで、ベールに包まれた部分が多い「ホイス」ですが、今回は代表自らお話を聞かせてくれることに。有限会社ジィ・ティ・ユー(後藤商店:東京都港区白金)の後藤竜馬社長を訪ねました。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。

 

●後藤竜馬(右)/「ホイス」「梅乃甘精(うめのかんせい)」製造・販売元である有限会社ジィ・ティ・ユー(後藤商店)の三代目代表取締役社長
●倉嶋紀和子
(左)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任

 

 

「ホイス」誕生前年に生まれた「梅乃甘精」

倉嶋 まず、「ホイス」とはどんな商品なのでしょうか。

 

後藤 多くは焼酎の割り材としてご愛顧いただいています。アルコール度数は0.2%で、分類上はノンアルコール(日本の酒税法では、アルコール度数1%以上の飲料が酒類とされる)の清涼飲料水ですね。味の表現は難しいのですが、クセがなくスッキリとしたテイストで、甘みと苦みをほのかに感じる爽やかな飲み口が特徴かなと思います。

 

倉嶋 販売先は飲食店さんですよね。酒屋さんでは見かけたことがなくて。

 

後藤 はい。創業当時から、“飲食店を元気にする為の手助けをする”を理念に掲げておりまして。また、生産できる量が多くないということもあり、申し訳ないのですが個人向けの販売は行っておりません。

 

倉嶋 幻たる所以ですよね。それに、「飲食店を手助けする」って素晴らしい企業理念です!

 

後藤 ありがとうございます。今回の取材も、コロナ禍で苦労されている飲食店のお役に立てればという思いで受けさせていただきました。何でも聞いてください。

倉嶋 こちらこそありがとうございます! では「ホイス」が生まれたストーリーを、御社の歴史などとともに教えてください。

 

後藤 「ホイス」が誕生したのは1949(昭和24)年。創業者である私の祖父・後藤武夫が商いを始めたのは、戦前の1930年代半ばですね。洋酒を扱う小売りの酒販店としてはじまり、途中から清涼飲料水の製造を行うようになりました。

 

倉嶋 洋酒販売ということは、インポーターですか?

 

後藤 もとをたどれば、祖父が1930年代に当時のソ連からシベリア鉄道でヨーロッパへ向かう旅をしたことが始まりです。その道中で様々なお酒を嗜みながら仕入れるノウハウなども学び、日本に送っていたそうで。

 

倉嶋 行動力がスゴいですね!

 

後藤 そして帰国後に洋酒店を創業しました。清涼飲料の事業を始めた時期は記録が残っていないのですが、その技術を生かして戦後に生まれたエキスが「ホイス」です。当時は東京都港区芝公園で事業を行っていまして、1984(昭和59)年に今の白金(しろかね)に移ってきました。

↑初代社長の後藤武夫氏

 

倉嶋 戦後ということは、「酎ハイ=焼酎ハイボール」の起源がそうであるように、やはり焼酎を楽しむためのアイデアから生まれたということですかね?

 

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後藤 そうだと思います。戦後の東京で大衆酒としてもてはやされたのが甲類焼酎だったそうですが、当時は香りが強く飲みにくいものが多かったとか。ならば、どうにかおいしく飲むための割り材があればと思いつき、開発を始めたと聞いています。ただ、第1号商品は「ホイス」ではないんですね。

 

倉嶋 なるほど、それが梅の……。

 

後藤 そう、「梅乃甘精」ですね。「ホイス」発売の前年、1948(昭和23)年に誕生しています。こちらは当社自身もあまり商品名を出さずに販売しておりましたので、「ホイス」以上に希少かもしれません。

↑左が「ホイス」で右が「梅乃甘精」。現在は輸送コストを下げるため、ペットボトルで販売。ただし飲食店でのディスプレイ用に、一升びん用ラベルも用意しています(数量限定)

 

倉嶋 ええ。私もこうしてしっかり目にするのは初めてかも。下町大衆酒場によくある、いわゆる「梅割り」のエキスとは違うんですか?

 

後藤 例えば甲類焼酎と「梅乃甘精」を6:4ぐらいで割れば、梅酒のような味わいになりますし、炭酸水で割れば梅のソーダ割りになります。うちが長年お世話になっている、恵比寿「田吾作」さんの「梅サワー」には「梅乃甘精」が使われていますし。まあでも、下町によくある、エキスを数滴垂らした「梅割り」のように使っていただくのが一番おいしいと思います。

 

倉嶋 「田吾作」さんの他にも使っている老舗はあるんですか?

 

後藤 名前は出していないでしょうけど、けっこうありますよ。

 

倉嶋 それなら、私も知らずに飲んでいる可能性は高いですね!

 

後藤 ええ。それこそ、「梅割り」として提供されているお店もありますから。

 

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時代ごとに進化する「ホイス」の味わい

倉嶋 そんな「梅乃甘精」の製造ノウハウをもとに、「ホイス」が生まれたということですか?

 

後藤 仕上がりの味はまったく異なるのですが、「ホイス」のベースには「梅乃甘精」がありますね。「梅乃甘精」の発売から1年の間に、祖父がヨーロッパの旅で得た知見などから薬草やリキュール、蒸留酒、香料などを調合して複雑な味わいや奥深さを出して造ったのが「ホイス」です。

 

倉嶋 そのレシピは、いまも変わらず受け継がれているんですか?

 

後藤 実は、記録としてのレシピは残されていません。見よう見まねといいますか、体で覚えていくような形で、私は二代目にあたる父親の後藤勲から教わりました。そして、当初と今では味がけっこう変わっていると思います。

 

倉嶋 そうなんですね!

 

後藤 なぜかというと、まず同じ原材料が入手できなくなるからです。原料メーカーの廃業だったり、輸入が禁止になったり、薬事法の改正だったり。そうなったらどうするかというと、代替となる原材料を探して研究を重ね、イメージの味わいになるように調合していきます。こうした再設計は、父の代から行うようになりました。

 

倉嶋 原材料が変わってしまうと、100%同じ味にはならないですもんね。そのうえで、目指す味に近づけていくと?

 

後藤 近づけもするのですが、私のほうで意図的に味わいを変えることもあります。気付かれないレベルでですけどね。その時々でテーマは異なるのですが、ベースの味がよりブレないようにリニューアルをすることが多いです。

 

倉嶋 味のブレですか? 私も飲み続けていますけど、変化には気付かなかったです。

 

後藤 例えばジントニックはわかりやすいって言われますけど、割って飲むお酒は作る人によって違いが出ますよね。でも「ホイス」の場合は、できるだけその差をなくしたい。そのため、配合や濃縮具合などを研究してベースの味がブレないようにしているんです。

 

倉嶋 なるほど。研究熱心ですね!

 

後藤 その辺は血を引いているのかなと思います。それに加え、私はパソコンを駆使してデータを残しながら設計していますので、後進にとっては多少楽になるのかなと。

 

倉嶋 そこまで緻密にやられているとは、想像をはるかに超えています。

 

後藤 「ホイス」の味覚設計は繊細で、そのバランスは非常に複雑です。味わいも、他のエキスに比べるとライトに感じるでしょう。そのぶん、どれかひとつの風味が少し前面に出ただけでもすごく突出してしまうんです。

 

倉嶋 ええ。確かに「ホイス」のキーフレーバーって、ちょっと思い当たりません。もう、「ホイス」としか表現できないです。

 

後藤 他に例えづらいといいますか、あえてわかりにくくしてるんですよ。多彩な味や香りを重ねて複雑化させつつも、飲みにくさにつながる違和感が出ないように調合し、余韻に心地よいフレーバーを感じられるように仕上げています。

 

倉嶋 私が初めて「ホイス」を飲んだ時は、ウイスキーっぽいニュアンスを感じたんですけど、生薬の香りやスパイシーさもあって。それはウイスキーとはまた違うし、なんて表現していいかわからないという印象でした。でもその複雑性がクセになって、またもう一杯飲みたくなるという感じがします。

 

後藤 ありがたいことに、お客様には飲みやすいと褒めていただくことが多いです。あとは、そのまま飲むよりも、もつ焼きや煮込みなどちょっと濃い味のおつまみに合うと言われますね。

 

倉嶋 そうそう、延々と飲み続けられるおいしさで。でもそういえば「ホイス」のネーミングって、ウイスキーと関係性があるというのは本当ですか?

 

後藤 直接祖父から由来を聞く機会はなかったのですが、ウイスキー説であってるようです。英語のWHISKYの頭4文字「WHIS」を文字って「ホイス」になったそうで。

 

倉嶋 「梅乃甘精」とは違い、ネーミングから味の想像がイメージできないところも含め、不思議な割り材だなと思います。飲めるお店もそこまで多くないですし、いい意味でミステリアスといいますか。

 

後藤 出荷量が限られているのは申し訳ないところですね。従業員は数名いるのですが、中身だけは私ひとりで製造しているもので。

 

 

「ホイス」は繊細な味の料理や甘いものにも合う

倉嶋 「ホイス」はなかなか生産量に限界があるとおっしゃっていましたが、新規のお取引も少ないですか?

 

後藤 多くはありませんが、微増はしています。生産量も、コロナ禍によって消費量が減ったぶん、今は多少の余裕がありますし。

 

倉嶋 取引先に関しては、地域や業態の特徴などはありますか?

 

後藤 地域はもちろん都内が多いですけど限定はしていませんし、北海道や沖縄にも取引先はあります。業態はやはり、焼きとんや焼鳥店、煮込みをウリとする大衆酒場が多いですね。20年ほど前は小料理屋さんでの取り扱いが、今よりはありましたけど。

 

倉嶋 小料理屋さんで「ホイス」、素敵ですね!

 

後藤 意外にお刺身にも合うんですよ。研究を兼ねていろいろな料理と合わせてみるんですけど、甘いものであればチョコレートなど、幅広くマッチすると思います。

 

倉嶋 そうなんですね。後藤さんが試飲する際は、どのように割られてるんですか?

 

後藤 当社として推奨しているのは「ホイス」2:「焼酎」3:「炭酸水」5ですが、この割合だと濃いめの酎ハイになるんですね。なので、私が家や会社で試飲する際は、まずホイスと焼酎を1:1の割合で合わせ、その量の1.5倍程度の炭酸水で割っています(※あくまで試飲用としての割合です)。これだと「ホイス」の風味が濃くなるうえに炭酸感も多少増えてアタックも強くなります。

 

倉嶋 「ホイス」と「焼酎」を同じ分量にするんですね。

 

後藤 アルコール度数は推奨よりも下がりますけど爽快感はしっかり楽しめます。いま、作りますのでぜひ飲んでみてください。

倉嶋 いいんですか! やったー!

 

後藤 どうぞ。グラスもしっかり冷やしたものを使っていますし、手前味噌ですがお店と遜色ない味わいだと思います。

 

倉嶋 はい。サイコーにおいしいですし、後藤さんがお酒好きだということが伝わってきます。でも、研究するなかではいろいろなお酒との相性も試されたんですか?

 

後藤 もちろんです。親和性がありそうなワインやウォッカをはじめ、珍しいリキュールに蒸留酒と、私が知る限りのありとあらゆるお酒の割り材として試しました。でもやっぱり「ホイス」には、甲類焼酎が一番合いますね。

 

倉嶋 まさにおじい様がイメージした酎ハイの味ですもんね。でもあの当時、シベリア鉄道でヨーロッパへ渡ったというのは本当にスゴい! しかも創業前に。

 

後藤 変わりものですけど勉強家でもあって、東京大学に入ったものの中退して、数年後に海外へ渡ったそうなんです。同級生には官僚になった友人も多かったので、そのツテを頼って出国審査もパスしたとか。

 

倉嶋 なんと、スゴすぎです! 外国語も堪能だったんでしょうね。

 

後藤 戦後に清涼飲料水を造れたのも、外国語が話せたからなんです。戦争で東京が焼け野原になりましたが、戦前に仕入れていた洋酒は地下に埋めていたから助かったそうで。そのうえ進駐軍のアメリカ兵とも交渉ができたので、洋酒を売ったお金で当時希少だった砂糖を入手できたと聞いてます。

 

倉嶋 そうして清涼飲料水を造っては売り、やがて「梅乃甘精」と「ホイス」につながるんですよね。

 

後藤 祖父は私以上に凝り性だったと思います。インターネットやパソコンはおろか、洋酒やハーブの文献もほとんどなかったでしょうから。海外で飲んだ記憶だけで、様々な原材料を入手してゼロから「ホイス」を造ったことに、心から尊敬しています。

 

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「ホイス」が飲めるお店を知る方法

倉嶋 そう聞くと、レシピやメモが残っていないのはますます残念ですね。門外不出の“一子相伝”だからこそ、情報が漏れないように記録しなかったのかも。

 

後藤 私は父から教わりましたが、先代はふたりとも味覚が優れていたんだと思います。あるとき、抽出した原材料のいくつかをはかってみたところ、毎回ズレはなくて。

 

倉嶋 舌や鼻の感覚だけで、正確な調合ができたということですよね。憧れます。

 

後藤 あと面白いのは、原材料を分析してみると、一つひとつがシベリア鉄道の線路上の地域のハーブやスパイスだったり、その先のヨーロッパのお酒だったりというのが見えてくるところです。

 

倉嶋 おじい様の旅路をお孫さんが「ホイス」で辿るというのはロマンチックですね。そんな後藤さんは、いつから働かれているんですか?

 

後藤 高校生のときからここでアルバイトをしていましたし、当時から継ぐ意識はありました。父の体調がよくなかったこともあり、2000年代には私が製造を手掛けていましたし。その後、私が三代目として正式に継いだのは2020年です。

 

倉嶋 比較的最近なんですね。ちなみに、後進の候補はいらっしゃるのでしょうか?

 

後藤 ありがたいことに、まだ小さいですが息子が2人おります。継ぐかどうかは彼ら次第ですけど、周りから四代目と言われることもありますね。

 

倉嶋 もし継ぐとなった場合は、秘伝のレシピを伝えることになるんですね。

 

後藤 まだその気は起きないですけどね。とにかく今はコロナ禍をどう乗り切って、飲食業界をどうやって盛り上げていくかということが優先ですから。

 

倉嶋 “飲食店を元気にする為の手助けをする”という企業理念ですよね。でも「ホイス」が飲めるお店を知るにはどうしたらいいのでしょう?

 

後藤 実はTwitterなどの公式SNSで、ホイスが飲めるお店情報をたまに投稿しています。また、「#ホイスが飲める店」で検索するという方法もありますので、ぜひご活用ください。

 

倉嶋 なるほど! さっそくチェックして、このあと立ち寄ってみます。今日はたくさん教えていただきありがとうございました!

 

撮影/鈴木謙介

 

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【東京・大衆酒場の名店】「お太幸」の変形カウンターで、横須賀の味わいを満喫する噺

東京にある大衆酒場の名店を巡る企画の第9回。今回は東京を離れて少し遠征。京浜急行「横須賀中央」駅から徒歩1分の「酒蔵お太幸 中央店」を訪れ、その魅力を探っていきます。

 

大衆酒場は、その安さとウマさ、昔ながらの温かい雰囲気で、酒飲みの心をひきつけてやみません。なかでも東京では下町を中心に、根強い人気を誇る大衆酒場の名店が数多く存在します。そんな名店を巡り、お店の魅力と東京ならではの酒文化を深掘りしていくのが本連載。立石「宇ち多゛(うちだ)」篠崎「大林」京成曳舟「三祐酒場(さんゆうさかば) 八広(やひろ)店」八広「亀屋」四つ木「ゑびす」門前仲町「だるま」船堀「伊勢周」門前仲町「大坂屋」に続く第9回は、横須賀の「酒蔵お太幸 中央店」にお邪魔します。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

焼酎の量が多い「横須賀割り」で乾杯

本企画の第6回で登場した門前仲町「だるま」は、コの字カウンターの名酒場として紹介しましたが、今回訪れた神奈川の横須賀にある「酒蔵お太幸 中央店」もカウンターが個性的。

 

そこでこれまで同様、カウンター酒場に詳しい長谷川和之さんを講師に、生徒役のお酒好きタレント・中村 優さんと「酒蔵お太幸 中央店」の魅力に迫ります。

↑中村 優さん(右)は、タレントおよびマラソンランナーとして活躍。長谷川和之さん(左)の本業は編集者で、酒場のほか旅や温泉、鉄道など様々なジャンルに精通しています

 

中村 横須賀は久しぶりに来ました。駅のすぐ近くにこんな素敵な老舗酒場があって、レベルの高さを感じます!

 

長谷川 この辺は「ホッピー」も“横須賀割り”と言われるように、焼酎を濃いめで飲む文化の街として知られているんですよ。

 

中村 飲み方に地名が付いちゃうってスゴいですね。じゃあ、私の乾杯ドリンクはその「ホッピー」にしようかな。

 

長谷川 ええ! そしたら中村さんには「ホッピー」を、私は「レモンハイ」を注文しますね。

↑レモンハイ(435円)。「酒蔵お太幸」では「宝焼酎」の飲食店専用商品を使用

 

↑「ホッピー」(495円)

 

中村、長谷川 カンパーイ!

 

中村 ク~ッ! おいしい! でも、確かに焼酎が濃いかも。

 

長谷川 横須賀の飲み屋さんで提供されるチューハイは、基本的に焼酎の量が多いんです。

↑「酒蔵お太幸」の焼酎は130ml〜140ml。「ホッピー」で割って飲む場合の一般的な目安は普通が70ml、濃いめが110mlなので、この量はかなり濃いです

 

中村 でも、なんで横須賀は焼酎が濃いんですか?

 

長谷川 真偽や出自は定かではないのですが、軍港や造船の街として栄えた歴史が関係していると聞いたことがあります。

 

中村 海の男たちが飲んだからってことですか?

 

長谷川 諸説あるんですけどね。海風で冷えた体を濃いお酒を飲んで温めたとか、酒に強い九州の人が船で出稼ぎにやってきていたからだとか。

 

中村 へぇ~。

↑ワンショットメジャーに据え付けられた「宝焼酎」のほか、各種焼酎の一升びん

 

長谷川 とはいえ、お酒が好きでも強い人ばかりじゃないですよね。だから「ホッピー」みたいな割り材で楽しむ場合、「中(なか:焼酎)」と「外(そと:割り材)」の量を調整して飲むのがセオリーです。

 

中村 なるほど。自分好みに調整できるってのはイイですね! 続いておつまみはどうしましょう? オススメを教えてください!

 

長谷川 では、コチラのお店の名物を中心にいくつか注文しますね。

 

中村 楽しみです! ではおつまみが来るまでの間に、この特徴的なカウンターについて教えてください。

 

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コの字とL字を組み合わせた「H型」ともいえる変形カウンター

長谷川 やっぱりこのカウンターは気になりましたか?

 

中村 ええ。お店に入った瞬間、圧倒されました! これも「コの字型」なんですね。

 

長谷川 かなり独特ですが、ベースはコの字で、その拡張版ともいえますね。ダブル「コの字型」の、さらにダブル版のようなレイアウト。コの字とL字を組み合わせた「H型」という見方もあります。

 

中村 奥の厨房がなければ、8の字みたいな感じでもありますね。こんなにユニークな席配置のカウンターは初めてです。

 

長谷川 ここは2フロア制なんですけど、これだけの広さで1階すべてをカウンターにしているケースは相当レア。普通はテーブル席も用意するんですよ。でもこちらの場合は、テーブルなどは2階に置きグループ向けに。一方で1階はカウンターのみにして、おひとり様や少人数向けの用途という風に分けているから、お互い気を使わずに飲めるのが最高なんです。

 

中村 お店側の接客もしやすそうですね。

 

長谷川 そう! オペレーション的にも秀逸なんです。細かいところでいえば、ほとんどのイスは床に固定されていますよね。イスが動かないということは、位置を直す必要がありません。

 

中村 あ、ほんとだ!

 

長谷川 それに加えて1階は全席カウンターだから、その場でオーダーを聞いたり、配膳したりという所作ができます。客席側へ行かずにカウンター内で接客が完結するから、動きのロスがなくてスピーディーですよね。お客にとってもお店にとっても良いことずくめのゾーニング。これが大胆なコの字カウンターで実現されているんです。

 

中村 なるほど、奥が深い! ちなみに1階は何席あるんですか?

 

長谷川 今は2席埋めていますが、MAXで48席。そもそも、空間が広いというのも魅力で、コの字カウンターながら背中がすぐ壁ってわけでもないですよね。

 

中村 はい。人がスムーズに通れるスペースが確保されてますね。それに、天井の高さにもゆとりがあって開放感も。

 

長谷川 「コの字型」は、狭い店内スペースを有効活用するために設けるケースが多いんですけど、ここはそうじゃない。心地いい雰囲気とかオペレーション効率を狙って、あえてこの形にしたという、開業当時の店主の美学を感じます。

 

中村 長谷川さんとしては、いま座っている場所がポールポジションですか?

 

長谷川 ええ。適度に目線が外せて、店内も広く見られるこの位置はふたりで飲む際のベストですね。

 

中村 シチュエーションで変わるんですね。ひとりの場合はどこですか?

 

長谷川 店内を最も俯瞰して見られる、手前の角にある席かなぁ。まあ角の席は目立つから、上級者向けかもしれませんけど。

 

中村 うん、確かに角の席は特徴的かも。

 

長谷川 でも、カウンターのすべての角をわざわざ斜めに切断して、そこに席を設けているのもこの店独自の工法だと思います。

 

中村 細かいところまで、手が込んでいますね!

 

長谷川 美学を感じるでしょ?

 

中村 はい! お店に入るとき、「創業65年」って書いてあったんですけど、歴史も気になります。

 

長谷川 そしたら、ちょうど現共同代表の上原公一社長と宮下栄一郎社長がいらっしゃるので聞いてみましょう。

 

長野出身の青年が横須賀で意気投合。理念は三代目へ

↑左が上原公一社長、右が宮下栄一郎社長

 

中村 はじめまして! 代表がふたりいらっしゃるんですね。

 

上原 もともとは、私と宮下の祖父が1957(昭和32)年に起業したのがはじまりなので創業65年です。代々長男に受け継がれており、私たちで三代目ですね。

 

宮下 ともに長野の出身なのですが、ふたりの創業者は長男ではなかったので実家を出る必要がありました。そういった背景から、私の祖父が最近までこの近所にあった「メガネ・時計・宝石のヤジマ」さんに丁稚に来て、そのあと上原の祖父も働くことになり出会ったと聞いています。

 

上原 ただ、やがて戦争となりふたりとも出征。でも生きて帰ってこれたので、復員後に「もらった命だし、せっかくの人生。日本に帰ったら好きなことやろう」とあらためて意気投合し、お金をためて1957年に創業したそうなんです。

 

長谷川 最初から飲食店だったんですか?

 

上原 いえ。仕入れ先の開拓などができていなかったため、飲食店ではありませんでした。上野のアメ横などへ仕入れに行き、当時珍しかったものや流行っていたものを仕入れて販売する小売業のようなビジネスをしていたそうです。

 

中村 ということは、スタートは「酒蔵お太幸」じゃなかったんですね。

 

上原 向かいの建物が自社ビルになっているのですが、ここで始めた寿司店がルーツです。この業態がヒットして、日本料理、居酒屋、中華、洋食などを展開していきました。いまの建物と「酒蔵お太幸 中央店」ができたのは、私たちが小学生のときなので1960年代後半~1970年代前半だと思います。

 

濃いめの「横須賀割り」が進む食の“幸”

長谷川 他業種を手掛けた経験があるから、お店のメニューもバラエティー豊かなんですね。

 

中村 勉強になるなぁ。ちょうどおつまみもそろったので、いただきましょう!

 

長谷川 じゃあまずは「湯豆腐」から。10月~ゴールデンウィークまでの季節限定で、横須賀特有の味わいになっているのも特徴です。

↑「湯豆腐」(475円)

 

中村 ”横須賀の湯豆腐”ですか?

 

長谷川 はい。豆腐に塗ってある辛子がポイントです。昆布やサバ節などのダシで炊き、生姜ではなく辛子と薬味で味わう湯豆腐なんですよ。

 

中村 おいしい! やさしいダシとふわっとした絹豆腐に、辛子がピリッとしたアクセントになってますね。ネギの爽やかさと、醤油を吸ったかつおぶしもいい一体感で。

 

長谷川 長年愛されているメニューで、少食になった常連さんのために「湯豆腐 半丁」(320円)も用意されているんです。では次に、中華料理店時代の技が活きた「シューマイ」をどうぞ!

↑「シューマイ(4個)」(315円)

 

 

中村 食感はプリッと、肉汁はジューシーでこれも絶品! やさしい甘みですね。爽快な「ホッピー」ともよく合います!

 

長谷川 「酒蔵お太幸」といえば、中華まんも必食です。横須賀にちなんだ「スカマン」の愛称で県外でも親しまれている「肉まん」をどうぞ。

↑「肉まん」(200円。テイクアウトは170円)

 

 

中村 うんうん! ふわっと甘い香りがあって、濃いお酒に合いそう。ホロッとしたなかにコリッとした食感がある餡(あん)もおいしいです!

 

長谷川 肉まんの皮は自家製で、酒まんじゅうのような香りもしますよね。具材はキャベツを甘めに炊いて、たけのこを生姜煮にして肉と混ぜているんだそうです。中華料理にここまでこだわる大衆酒場もそうはないですよね。中華まんは手土産にも人気なんですよ。そして最後は「うなぎの玉子とじ」。土鍋で提供する本格派ながら、リーズナブルな価格で大人気なんです。

↑「うなぎの玉子とじ」(695円)

 

 

中村 これもおダシが効いた、ほんのり甘めの味付けでお酒が進みます。うなぎと玉子はふっくらしていて、ごぼうのシャキシャキ感や三つ葉の爽やかさもイイ!

 

長谷川 どれも、「ホッピー」の横須賀割りや濃いめのチューハイに合うおいしさですよね。

 

中村 はい! 至福のフードペアリングです。横須賀で飲む際の一軒目は駅前で早くから営業している「酒蔵お太幸 中央店」で決まりですよ!

 

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1階カウンターと趣を異にする2階は200席の大フロア

長谷川 ひと通りお店の解説をしましたが、ここは2階席も見逃せないんですよ。ちょっと行ってみません?

 

中村 ぜひぜひ! あ、階段のところにやたら味のある案内板が。でも、テーブル席と「さじき」ですか?

 

長谷川 そう、漢字で「桟敷」と書きます。この桟敷も「酒蔵お太幸 中央店」の特徴。こちらも広いですよね。2フロア合計で200席ぐらいあるとか。

 

中村 200ですか! スゴい。そういえば、桟敷と座敷ってなにが違うんですか?

 

長谷川 お祭りの見物席や、日本式の劇場などの上等席などを桟敷といいます。よく居酒屋などの小上がりのことを座敷といいますが、本来の座敷は部屋のことを指すんです。先ほど社長に伺ったら、かつて営業していた日本料理店には床の間付きの客間や大広間など、個室があってこれらは座敷と呼んでいたそうです。日本料理店の座敷とも区別するために桟敷としたのではないかと。

 

中村 なるほど! 歴史があるからこその桟敷なのかもしれませんね。でもグループで宴会するにはこちらの席のほうが楽しめそう。さっき長谷川さんがおっしゃっていましたが、大小のニーズに合わせてそれぞれにメリットがあるのはイイですね。

 

長谷川 これだけ大箱なのに、おひとり様が押し寄せるのにはワケがあるってことなんですよ。

 

中村 そういえば、1階カウンターの奥行きはどんな感じですか?

 

長谷川 測ってませんでしたね。ではチェックしてみましょう。

 

中村 今日もメジャーが冴えますね!

 

長谷川 ほうほう、46.5cmか。45cm~50cmという造りが最も多いので、ここは標準サイズです。

 

中村 狭すぎず広すぎずってことかぁ。使い勝手がよさそうですね。

 

長谷川 今日は角度を測れるメジャーもあるので、角もチェックしてみますか。うん、こちらは140度ぐらいですね。他店のサンプルがあまりないのでよくわかりませんが、エッジは十分にとれてると思います。

 

中村 今日も勉強と驚きがあって、楽しかったです。カウンター酒場の魅力、またいろいろと教えてください!

 

変形コの字カウンターについても勉強した中村さん。次回はどんな大衆酒場の楽しみをみつけられるでしょうか?

 

 

<取材協力>

酒蔵お太幸 中央店

住所:神奈川県横須賀市若松町2-7
営業時間:15:00~22:00、金土祝前日15:00~22:30(日曜祝日は1階のみ13:00~22:00)
定休日:12/24、12/31~1/2

※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2022年12月5日)

 

撮影/鈴木謙介

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

 

「東京・大衆酒場の名店」バックナンバーはこちら▼

・第1回 【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

・第2回 【東京・大衆酒場の名店】初心者女子と楽しく学ぶ! 篠崎「大林」の魅力と「下町酒場の成り立ち」の噺

・第3回 【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺

・第4回 【東京・大衆酒場の名店】酎ハイ街道をゆく。八広「亀屋」の“ボール” 受け継がれる秘伝レシピの噺

・第5回 【東京・大衆酒場の名店】四ツ木「ゑびす」で、自家製ロックアイスのお茶割りを味わう噺

・第6回 【東京・大衆酒場の名店】門前仲町「だるま」で、コの字カウンター劇場を堪能する噺

・第7回 【東京・大衆酒場の名店】船堀「伊勢周」で、L字カウンターの機能美を楽しむ噺

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・番外編 大衆酒場の酎ハイに欠かせない「下町炭酸」を飲み比べる噺

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レモンサワー発祥の店「もつ焼き ばん」で語る、焼酎「割り材」の噺

【意外と知らない焼酎の噺09】

『古典酒場』編集長の倉嶋紀和子さんがナビゲーターとなって探っていく「意外と知らない焼酎の噺」。焼酎の「割り材」(※)として、前回は「ホッピー」を紹介しましたが、もちろんそれだけではありません。そもそも、どうしてお酒を『割る』のか?「割り材」の歴史や種類について、「居酒屋礼賛」主宰の浜田信郎(はまだ しんろう)さんとともに探ります。

 

※割り材:酒を割って飲むための炭酸や果汁などのこと

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。

 

●浜田信郎(右)/ブログ「居酒屋礼賛」の主宰。『酒場百選』(筑摩書房)『ひとり呑み』(WAVE出版)など大衆酒場に関する著作を数多く上梓
●倉嶋紀和子(左)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任

 

「割り材」は吞兵衛の欲望から生まれた?

対談場所に選ばれたのは、レモンサワー発祥の店として有名な東京・目黒区にある「もつ焼き ばん 中目黒本店」。かつて割り材商品のヒントにもなった伝説の一軒で、今回のテーマにもうってつけです。まずは様々な割り材について、起源や歴史などを語ってもらいました。

1958(昭和33)年創業の「もつ焼き ばん」。看板の左には「輩サワー」の提灯も

 

倉嶋「あらためて考えると、割り材っていろいろありますよね。水やお湯に炭酸、果汁(エキス/シロップ)、ジュースにお茶系などなど。でも私のなかでは、『フレーバーが付いているもの=割り材』というイメージが強いですね」

 

浜田「わかります。確かに『水割り』『お湯割り』っていいますから、水やお湯も割り材なんですけどね。でも倉嶋さんが『これは割り材なのかな?』という考えは、西日本の本格焼酎(乙類)文化と、東日本の甲類焼酎文化で見方が変わってくるのかなと思います」

 

倉嶋「そうですよね。原材料の風味が豊かな本格焼酎は、フレーバーが付いたタイプではあまり割りませんし、一方クリアな酒質の甲類焼酎は多用な飲み方で楽しむ人が多いお酒。ただそこに共通しているのは、より飲みやすく楽しみたい、おいしく飲みたいという人間の欲望なんだろうなって(笑)」

 

浜田「ええ。いまも昔も呑兵衛の想いはそれですよね(笑)。倉嶋さんは熊本出身で、私も大学時代は福岡で過ごしましたから、若いころは本格焼酎文化に囲まれていたと思うんです。そうして振り返ると前割り(あらかじめ焼酎と水を混ぜ合わせてなじませる)があったり、鹿児島には『ぢょか』(注ぎ口が付いた陶磁器の土瓶のこと。千代香や茶家、黒千代香とも)でお湯割りにする文化が根強かったり。

いつ、だれがそうやって飲み始めたかはわからないのですが、九州では伝統的に水割りやお湯割りが親しまれていますよね。蒸留することでアルコール度数が高くなった焼酎を、そのまま味わうのでは強すぎて飲みにくいという人もいる。だから、自然発生的に割って飲むようになったんじゃないかなと思います」

↑ぢょか

 

倉嶋「割ったほうがいろんな食事に合わせやすいという考え方もあるかもしれませんね。例外として、熊本県南部の人吉球磨(ひとよしくま)エリア(稲作が盛んで、米でつくる「球磨焼酎」が有名)では、米焼酎をストレートで飲む文化もあるそうですけど」

 

焼酎用エキスは大正時代から存在した

 

浜田「一方の甲類焼酎は明治末期に誕生し、大正初期には東日本を中心に広まっていったといわれています。そこで面白いのが、早い段階で割り材としてエキスが生まれていること」

 

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「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺

 

倉嶋「当時は甲類焼酎の精製技術がいまほど高くなく、香りも強かったといわれていますもんね。その味をうまくなじませるために、エキスや炭酸割りが生まれていったという話もよく聞きます」

 

浜田「市販のエキスで有名なのが、1923(大正12)年に開発された『ぶどう液』。こちらは当時高価だったポートワインの味を焼酎で再現するために作ったそうですけど。

あとは、戦後のアメリカ進駐軍の駐屯地で飲まれていたウイスキーのハイボールをヒントに、『三祐酒場』の主人が焼酎とエキスを使って生み出したといわれる東京・下町の焼酎ハイボールも有名ですね。由来には諸説あるものの、これが酎ハイ=チューハイとなって広がっていったわけですよ」

 

 

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【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺
東京にある大衆酒場の名店を巡る企画の第3回。今回は、墨田区の「三祐酒場(さんゆうさかば) 八広(やひろ)店」を訪れ、その魅力を探っていきます。

「チューハイ」ってどんなお酒? その歴史や魅力を深掘りする噺
これまで、焼酎の歴史や、造り方について深掘りしてきた本シリーズですが、ここからはその飲み方などの”実践編”。今回のテーマは「チューハイ」です。

 

倉嶋「甲類焼酎の割り材としては、やっぱり焼酎ハイボールを抜きにしては語れませんよね。その後チューハイ用のエキスが多様化し全国へ広がっていったことは、以前、藤原法仁さん(2010年に、浜田さんと11月11日を「立ち飲みの日」に登録した、大衆酒場通)とお話しした際に、深く語り合ったのですが、まず1970年代に起こった『ホワイトレボリューション(白色革命)』がありますよね」

 

浜田「アメリカで起きたクリアな蒸留酒のブームですね。この波が日本に到来することを予想して、1977(昭和52)年に誕生したのが宝焼酎『純』です。『純』はきわめてピュアな味でありながら、自然なうまみと心地よい香りをもつ斬新なおいしさが特徴。焼酎市場全体を盛り上げる、まさに革命的なヒットとなり、1980年代のチューハイブームへとつながったといわれています」

11種類の樽貯蔵熟成酒を13%の黄金比率でブレンドした、宝焼酎「純」

 

チューハイのカクテル化とともにお茶割りも全国へ

倉嶋「私のイメージでは、ウーロン茶割りや緑茶割りが広まっていったのも1980年代以降という感覚です。というのも、日本初の缶入りウーロン茶は1980年、緑茶は1985年に誕生していまして。そして同時に、チューハイのカクテル化も進んでいた。こうしたチューハイの多様化とともに、ウーロン茶割りや緑茶割りも全国へ浸透していったと考えています」

 

浜田「お茶割りに関しては私もそう思いますし、ジュースなどで割ったチューハイも同様ですよね。あとは本格焼酎の世界でも、特に西日本では炭酸割りなんてほぼ飲まれてなかった印象ですが、近年は無糖炭酸が一般家庭に広まっていったことで、いまでは定着していると思います」

 

倉嶋「全国区となるとそういう感じですよね。地方では、昔からその地域だけにあった飲み方や、ご当地チューハイみたいなものがあるかもしれませんけど。例えば、地元の炭酸を使ったレモンサワーとか。私の経験では、神戸には兵庫鉱泉所の「マスコット レモンサワー」があったんですけど、広島の尾道など鉱泉所がある地域の大衆酒場では、その土地ならではのチューハイが昔から飲まれているかもしれません。

また炭酸由来でなくても、京都の赤ワイン×焼酎カクテル『ばくだん』とか、同じく山梨で古くから親しまれているワインの焼酎割り『葡う酎(ぶうちゅう)』とか」

 

浜田「確かに。私も広島でいえば、呉の『くわだ食堂』にはご当地炭酸ではないですが牛乳割りがあることを思い出しました。あとは同じく、呉に昔あった『あわもり』というおでん酒場では、泡盛の梅エキス割りが提供されてましたね。この店だけのオリジナルかもしれませんけど」

 

倉嶋「やっぱり割り材って奥が深くて面白いですね。それに、各地で様々な割り材が生まれてるのも甲類焼酎の魅力だと思います」

 

 

元祖レモンサワーの「ばん」をヒントに生まれた「ハイサワー」

浜田「『もつ焼き ばん』はレモンサワー(462円)の元祖として有名ですね。その味も、まさにお手本といえるおいしさ。焼酎と炭酸とレモンのバランスが最高なんですよね」

「もつ焼き ばん」のレモンサワーは、焼酎、炭酸、レモン1個(スクイーザー付き)のセットで提供

 

倉嶋「私は、レモンが半分ではなく贅沢にも1個丸ごと提供いただける点がすごく嬉しいです。それに、手で搾るときに正気に戻れるというか(笑)。でも1個丸ごとですからそのぶん味も爽快で、クエン酸もたっぷり。おまけに宝焼酎もたっぷり濃いめ。これがおつまみにも合うんですよ」

「もつ焼き ばん 中目黒本店」では宝焼酎25%を使用

 

浜田「ほんとにそう! おつまみのメインはもつ焼き(121円)で、その前にまず食べたいのが、『レバカツ』(308円)と『激辛豚美(とんび)豆腐』(495円)と『ぬか漬け盛り合わせ』(308円)。この3点セットですね」

左上より時計回りで、『もつ焼き』(1本121円)『レバカツ』(308円)『ぬか漬け盛り合わせ』(308円)『激辛豚美(とんび)豆腐』(495円)

 

倉嶋「そして、レモンサワーとしての割り材といえば『ハイサワーレモン』が有名ですが、そのルーツが『もつ焼きばん』というのも、業界内では常識といえるでしょう。このエピソードをより詳しく知るべく、『ハイサワー』のつくり手である目黒区武蔵小山の飲料メーカー・株式会社 博水社の田中秀子社長にお話を伺ってきたんです」

 

浜田「それはそれは! 確か秀子社長は三代目で、博水社はもともと品川で創業したんでしたっけ?」

 

倉嶋「はい。創業は1928(昭和3)年で、その後1954(昭和29)年にいまの目黒に工場を移転したそうです。もともとはラムネやみかんジュースなどをつくっていたそうですが、戦後に外資系の飲料メーカーが上陸するなど、ソフトドリンク市場が激化していったとか。そこで新たなヒット商品を作ろうと、まず手掛けたのがハイボール用の炭酸。そして二代目を中心に、ビアテイスト飲料も開発したんだそうです」

 

株式会社 博水社・田中秀子社長

 

浜田「ビアテイスト飲料ということは、ホッピーみたいな割り材を目指していたんでしょうね」

 

倉嶋「試行錯誤を繰り返し、開発には約6年をかけたそうです。でも、時間をかけすぎたため当初の原材料を調達できず、とん挫してしまったと。ただ、それでめげることはなく、気晴らしと視察を兼ねて米国カリフォルニアの団体旅行に家族で行ったとか。そこで見た光景が、市民のだれもが気軽にカクテルを楽しむ姿。それが『ハイサワー』開発のきっかけになったとおっしゃっていました」

↑1980年に初登場した「ハイサワー」

 

浜田「なるほど。当時の日本におけるカクテルは高嶺の花だったでしょうし、街なかで気軽に提供しているお店も多くはなかった。その違いにカルチャーショックを受けるとともに、日本における商機を見出したんですね。そのうえで『もつ焼きばん』のレモンサワーがヒントになったと」

 

倉嶋「特に着目したのは季節を問わないという点。というのも、博水社は長年『もつ焼きばん』に炭酸を納品しているのですが、同店は寒い冬でもバンバン売れている――。なぜだろう?と。

そこで当時の営業さんが実地調査に行ったとき、いまではおなじみの、レモンを搾るスタイルで一緒に炭酸を提供されていた。つまり、レモンはチューハイをおいしくする果汁であり、そのエキスが入った割り材があればより手軽にレモンサワーが楽しめることに気付いたということですよね」

 

浜田「それで『ハイサワー』が誕生したと。フレーバーは最初がレモンで次がライムだったかな。6種ぐらいありましたっけ?」

 

倉嶋「基本はそうですね。レモン、ライム、青りんご、うめ、グレープフルーツ、ホップ&レモン(ほろにが)。あとは、40周年を記念して発売された『ハイサワースンチー杏仁檸檬(あんにんれもん)』とパクチー&レモン(業務用のみ)の8種類ですね。それにローカロリーの『ダイエットハイサワー』があったりと、バラエティー豊かですよね。

ちなみに、田中社長にハイサワーのオススメの割合を伺ったら『焼酎1:ハイサワー3』とのことでした。それと、最近はハイサワーをウイスキーや泡盛で割る人もいるようですが、やはりハイサワーには甲類焼酎がいちばん合うとおっしゃっていました」

 

業務用の地域限定のガラス瓶。左からレモン、グレープフルーツ、パクチー&レモン、青りんご、スンチー杏仁檸檬、うめ

 

浜田「いまでは家庭でもおなじみですし、『わ・る・な・ら・ハイサワー』のCMも有名ですけど、当初は飲食店を中心に展開していたんですよね。でも、けっこうなご苦労をされたと聞いています」

 

倉嶋「はい。まずは本社がある目黒区を中心に一軒一軒訪問して、地元のドリンクとして提供する飲食店が増えていったとか。それがやがて、まだインターネットのない時代にお客さんを通じて評判が広まり、口コミだけで全国展開へと拡大していったそうです」

 

浜田「いまでは武蔵小山と西小山近辺は“ハイサワー特区”と命名して盛り上げていますよね。コロナ禍で最近はお休みしているようですが、本社倉庫では名物イベントの『倉庫飲み』も開催されていますし。『ホッピー』もそうですけど、メジャー商品ながら地元を大切にするというのが東京出身の割り材の愛らしさでもありますよね」

↑コロナ禍で『倉庫飲み』は現在はお休み中ですが、田中社長もいずれ再開させたいとのこと

 

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ホッピーミーナが語る! 焼酎のベストパートナー「ホッピー」の噺
今回のテーマは「チューハイ」と並んで甲類焼酎の飲み方として定番の「ホッピー割り」。東京で生まれて昔から焼酎の割り材として人気の「ホッピー」の歴史と変遷を“ホッピーミーナ”に伺います。

焼酎の味わいを決める「樽貯蔵熟成酒」について宮崎・高鍋で学ぶ噺
樽貯蔵熟成酒のブレンドによって甲類焼酎の味が大きく変わることを知った倉嶋さん。今回はその「樽貯蔵熟成酒」ができるまでを、宮崎県の高鍋町にある宝酒造 黒壁蔵で実際に見学してきました。

 

東京独自の発展を遂げた「割り材」はほかにもある

倉嶋「東京発といえば、『ホッピー』や『ハイサワー』を筆頭に、ほかにも愛らしい割り材があります」

 

浜田「ええ。例えば“幻の割り材”ともいわれる『ホイス』や、コダマ飲料の『バイス』など。ブランドも味わいも個性的でおいしいです」

 

倉嶋「ちょうど『もつ焼きばん 中目黒本店』には両方ともメニュ—にあるので、飲んでみましょう!」

ホイス

 

 

浜田「あ~『ホイス』は久しぶりに飲みましたが、こちらもおいしいですね!」

 

倉嶋「私、あらためて考えてみたんです。なぜ東京にはこんなに独自の割り材が多いのだろうって。もちろん人口が多いマーケットなので、それだけ多様的な商品が生まれる土壌があったということなんですけど、それだけじゃないと思うんです。やっぱり大きなポイントは、先ほど浜田さんがおっしゃった、西日本の本格焼酎(乙類)文化と東日本の甲類焼酎文化の違いかなって」

 

浜田「はい。いまや本格焼酎は東日本にも浸透していますが、それでも割り方は水やお湯割りが王道でしょう。甲類みたいに、多様な割り材のベースとして本格焼酎を飲むことは少ないですもんね。これは、西と東の嗜好の違いも多少はあるかもしれませんが、そもそも焼酎の味わいの違いが関係しているのだとも思います」

 

倉嶋「あとは舶来文化の影響力が東日本は強かったという点。もちろん戦前にも「焼酎用のエキス」はありましたが、米軍駐屯地で提供されていたウイスキーハイボールの味に感銘を受けて、東京・下町の焼酎ハイボールが生まれたというエピソードは、まさにその例なのかなと思います」

 

浜田「東京は特にそうですよね。人口だけでなく米軍の施設も多く、昔は六本木に基地があり、代々木には住宅がありましたから。それだけ外国の文化に触れる機会も多かったでしょうね」

 

倉嶋「ええ。特に『ホイス』は洋酒っぽい味わいですし、『バイス』は甘めのテイストでまた独特のおいしさです」

バイスサワー

 

浜田「うん! 『バイス』の甘みは絶妙ですね。ちょっと濃いめのおつまみを食べたくなる、ちょうどいい塩梅で」

 

倉嶋「唯一無二なんですよね。イメージは梅しそのフレーバーなんでしょうけど、しそ割りとも、梅しそ割りとも違うし」

 

浜田「でも倉嶋さん、『ホッピー』と『ハイサワー』の社長に取材したのであれば、『ホイス』や『バイス』の会社にも行ったほうがいいんじゃないですか?」

 

倉嶋「実は、ここに来る前に取材してきたんです! どちらも面白いお話をたくさん伺えました!」

 

浜田「えー? さすが倉嶋さん! どんな話が聞けたのかとても興味深いですね」

 

ということで、次回は「ホイス」と「バイス」のメーカー本社に突撃したレポートをお送りします。各割り材の奥深い歴史や魅力を深掘りしていくのでお楽しみに!

 

<取材協力>

もつ焼きばん 中目黒本店

住所:東京都目黒区上目黒2-14-3
営業時間:11:30~翌4:00
定休日:正月

※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2022年11月8日)

 

撮影/鈴木謙介

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

・宝焼酎「純」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

 

【意外と知らない焼酎の噺】バックナンバーはこちら▼

【意外と知らない焼酎の噺01】「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺
【意外と知らない焼酎の噺02】「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺
【意外と知らない焼酎の噺03】いろんな「甲類焼酎」を飲み比べて味わいの違いを実感する噺
【意外と知らない焼酎の噺04】芋焼酎のつくり方を知り、味わいを楽しむ噺
【意外と知らない焼酎の噺05】麦焼酎の歴史とつくりを知り、味わいを楽しむ噺
【意外と知らない焼酎の噺06】焼酎の味わいを決める「樽貯蔵熟成酒」について宮崎・高鍋で学ぶ噺
【意外と知らない焼酎の噺07】「チューハイ」ってどんなお酒? その歴史や魅力を深掘りする噺
【意外と知らない焼酎の噺08】ホッピーミーナが語る! 焼酎のベストパートナー「ホッピー」の噺

ホッピーミーナが語る! 焼酎のベストパートナー「ホッピー」の噺

【意外と知らない焼酎の噺08】

 

『古典酒場』編集長の倉嶋紀和子さんがナビゲーターとなって探っていく「意外と知らない焼酎の噺」。今回のテーマは、前回の「チューハイ」と並んで甲類焼酎の飲み方として定番の「ホッピー割り」。東京で生まれて昔から焼酎の割り材として人気の「ホッピー」。その誕生から現在までの歴史と変遷、美味しい飲み方を、“ホッピーミーナ”(以降はミーナ)ことホッピービバレッジ株式会社(東京都港区)代表取締役社長の石渡美奈(いしわたり みな)さんに伺います。

 

●ホッピーミーナ(石渡美奈)・左/ホッピービバレッジ株式会社の三代目代表取締役社長。社長業の他、ラジオ番組『看板娘ホッピーミーナのHOPPY HAPPY BAR』(ニッポン放送)でパーソナリティーを務めるなど多岐にわたって活躍中。
●倉嶋紀和子・右/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任

 

そもそも「ホッピー」とは?

まずは、ミーナさんに「ホッピー」について詳しく聞くために、赤坂にあるホッピービバレッジ本社に伺いました。いったい「ホッピー」ってどんな飲料なのでしょうか?

↑ミーナさんとは10年以上の付き合いがあり、雑誌『古典酒場』の企画で全国津々浦々を一緒に回った倉嶋さん。和気あいあいとインタビューが進みます

 

ミーナ「『ホッピー』とは、ビールと同じ原材料と醸造発酵技術で造られたドリンクです。アルコール度数が1%未満の0.8%であるため酒税法上のお酒ではなく清涼飲料水となり、ビアテイスト飲料の先駆けでもあります」

 

倉嶋「0.8%というのが『ホッピー』のおいしさを司る特徴であり、魅力でもありますよね!」

 

ミーナ「そう! アルコールはコンマ数%でもうまみですから。0.8%といえどもしっかり発酵させて造っているところがこだわりの1つです」

 

原材料と醸造への徹底したこだわりがあり、現在の麦芽はカナダおよびドイツ産の二条大麦、ホップは世界最高級のドイツ・ハラタウ産のアロマタイプとビタータイプを使用。さらに酵母はドイツ・ミュンヘンの酵母バンクでホッピー醸造のために厳選された下面発酵酵母を用い、水は清らかな秩父山系の天然水を使っているそうです

 

ミーナ「製法も一般的なビールと同じですが、0.8%のアルコール度数でベストなおいしさを追求。麦汁濃度、使用酵母、発酵時間など、すべてが当社秘伝のノウハウで造っています」

 

↑ホッピービバレッジ調布工場の内部。ここでホッピーが造られている

 

倉嶋「低カロリーで低糖質、プリン体ゼロというのも嬉しいポイントですよね。焼酎も同様に糖質ゼロ、プリン体ゼロですから、おいしく酔えて罪悪感もないという(笑)。やっぱり焼酎のホッピー割りは最高のお酒です!」

 

親しみやすい名称の由来は、当初は本物のホップを使ったノンビアで「ホッビー」と創業者が考えましたが、語呂が良くないので「ホッピー」にして販売したそうです。

 

ミーナ「ホッピーのロゴにも秘密があって、この『ピー』の字は、夜空を仰いで笛を吹く少年の姿をイメージして父(二代目・石渡光一氏)が考えたんです」

 

↑ロゴの「ピー」の字にも二代目社長のこだわりが

 

「ホッピー」誕生秘話

「ホッピー」が商品として発売されたのは、1948(昭和23)年のこと。そこに至るまでには妥協しないものづくりへの探求と挑戦がありました。

 

ミーナ「当社は1905(明治38)年に祖父(石渡秀氏)が五個連隊の御用商人を拝命して、餅菓子を納めていた『石渡五郎吉(ごろきち)商店』がルーツです。いまの『東京ミッドタウン』あたりですね。その後、海軍伝いにラムネの伝来をいち早く聞きつけ、ラムネの製造を始め『秀水舎(しゅうすいしゃ)』を設立しました」

 

やがて大正時代末期になると、本物のビールは手に入りにくい時勢だったのでビールの代用品としてノンビアがブームとなり、「秀水舎」にもノンビアの製造依頼が舞い込みます。ただ、当時は中小企業にとって良質な原材料が入手困難な時代でした。創業者は「まがいもので作ることはまかりならん」と、製造を断固拒否。引き続き清涼飲料水を手掛けつつ、長野に「千曲(ちくま)飲料合資会社」を設立してホップ農家の方々とご縁をいただき、本物の原材料にこだわったノンビアの製造開発着手に至りました。

 

倉嶋「長野といえば、有名な国産ホップ『信州早生(しんしゅうわせ)』のふるさとですし、ホップ開拓の光を長野に見出したんですかね」

 

ミーナ「直接祖父に聞いた事はないんです。でも、なぜ長野だったんだろうと考えると、ホップの名産地だったからとしか考えられません。祖父も父も『酒造りは男の浪漫(ロマン)』と言っていました。だから、本物のホップが入手できるなら理想とするノンビアも造れると。そこで長野に研究拠点を作る、ということは祖父ならあり得ると思います」

 

倉嶋「そうして昭和になり、戦争を経て『ホッピー』が発売されるわけですよね。でも1948年って、戦後すぐじゃないですか。当時の時代背景からすると、すごいスピードの早さですね」

 

ミーナ「長野にあり戦火を逃れた製造設備をいち早く赤坂へ移設し製造を再開できたことも一つの要因ですが、何よりも復興への情熱ですよね。それに、戦時中は思うように造れなかったというジレンマもあったでしょうし。私自身あらためて、すごい人だなと思います」

 

倉嶋「でも終戦後すぐだったからこそ、『ホッピー』のおいしさがいっそう際立ったとも思うんです。当時は食糧難で、ビールは高嶺の花。焼酎も粗悪なものが少なくなかったと聞いていますから、『ホッピー』が焼酎をおいしく飲む割り材として礼賛されたんじゃないかなって気がします」

 

ミーナ「ありがたいことです。ビールより安くておいしく早く酔えるということで、市民権を獲得していったと聞いています」

 

倉嶋「でも、当時の販路はどうやって広がったんですかね? 『ホッピー』の聖地っていくつかあるじゃないですか。浅草には『ホッピー通り』があり、神奈川にも横浜には名店『ホッピー仙人』さん、横須賀には『ホッピー』の『横須賀割り(後述)』がありますよね」

 

ミーナ「これも祖父の人脈ですね。当時の『ホッピー』ファンが、祖父との信頼関係で各地にプッシュしてくれたと聞いています。あとは、浅草には祖父の弟が住んでおり、横須賀も熱心に販売してくれる方がいらっしゃったと。そうしたご縁のなかでホッピー文化が根付き、育てていただいたんです」

 

2000年代以降に「ホッピー」が飛躍した背景

首都圏の大衆酒場を中心に支持されていった「ホッピー」は、赤坂から調布に工場を移転したり、ドイツ産のホップや酵母に切り替えたりと徐々に品質が向上していきました。また、2000年代以降は健康志向の高まりによって「ホッピー」のヘルシーさが注目されたり、焼酎人気や昭和レトロブーム、せんべろ文化が追い風になったりと、様々なトレンドによって「ホッピー」の認知が広まっていきました。

 

ミーナ「女性の社会進出や、インターネットによる情報拡散も大きかったと思います。雑誌『古典酒場』や倉嶋さんの影響力もありがたかったです」

 

 

倉嶋「そんなそんな。ミーナさんの発信力もすごかったですよ。ミーナさんのファンがネット上でつながって、イベントに集まったこともありましたよね。若い女性が大衆酒場で『ホッピー』をおいしく飲み始めたのがまさに2000年代。時代が変わるターニングポイントを、リアルタイムで実感したことを昨日のように思い出します!」

 

ミーナ「全国的に知っていただけるようになったことは非常にありがたいと思っています。ただ、『ホッピー』のふるさとは東京であり首都圏。あくまで東京のご当地ドリンクとして、全国へ発信していきたいですね」

 

「ホッピー」の種類

ひとことで「ホッピー」といっても、そのバリエーションは豊富。代表的な3種と、飲食店限定の希少な「樽ホッピー」の各詳細をミーナさんに教えてもらいました。

 

●ホッピー(360ml)

俗称で「白」とも呼ばれる定番。淡色麦芽を使って醸造発酵させているのが特徴。すっきりとした味わいで、飲み飽きない逸品。

 

●黒ホッピー(360ml)

約10年の研究開発を経て「ホッピー」誕生から44年後の1992年に誕生。日本人の口に合う黒タイプビアテイスト飲料として、4種類の麦芽がブレンドされている。

ミーナ「重すぎず飲みやすいうえ、飽きのこない深みも持ち合わせた美味しさの秘密は、醸造マイスターによる絶妙なブレンディング技術とセンスがカギ。香ばしさと苦味の程よいバランス、まろやかな甘みが特徴です」

 

●55ホッピー(330ml)

「ホッピー」誕生55周年を記念して作られた。俗称「赤」。プレミアムタイプの「ホッピー」で、麦芽使用率100%かつ、海洋深層水を一部使用し醸造時間も通常の倍をかけてじっくり丁寧に熟成している。

ミーナ「ビールに一番近いビアテイスト飲料の味に仕上げており、麦芽のコクとホップの爽やかな香りは、のどの渇きを癒すのに最適です」

 

●樽ホッピー

限られた飲食店で提供されている「樽ホッピー」。殺菌方法が瓶と異なり、よりフレッシュな味わいの特別な「ホッピー」。

ミーナ「生ビールと同じくサーバーから注がれるため、きめ細かくやわらかい泡が魅力的。非常に繊細な商品なのでお取り扱い店舗が限定されているのですが、ファンの方々の間では、『樽ホッピーを探せ!』運動があるとかないとか言われてるんですよ(笑)」

 

なお、市販の商品では「ホッピー」が「ホッピー330」、「黒ホッピー」が「ホッピーブラック」という330mlボトルで販売。ガラスびんを採用しているのは、外光から美味しさを守るためという理由に加えてもう1つあります。それは、ガラスびんは天然素材のため何度もリサイクルでき、地球環境の保護にも応えるエコな容器だから。

 

倉嶋「ちなみに、『ホッピー』と『黒ホッピー』が360mlとなっているのは、専用の500mlジョッキでおいしく飲むためですよね。ということで、次は実践編。場所をお店に代えて、ホッピー割りを存分に楽しみましょう!」

 

「ホッピー」の飲み方

お伺いしたのはホッピービバレッジ本社から近い「煮込み居酒屋 寅 赤坂店」。2022年の6月にオープンしたばかりですが、早くも人気を集めているお店です。

↑まずはキンキンに冷えた3冷ホッピーで乾杯!

 

ミーナ「まずは『ホッピー』の基本スタイル、『3冷(さんれい)』をご紹介させてください。これは『ホッピー』、焼酎、ジョッキの3つをよく冷やしていただく飲み方がネーミングの由来です。

ずっとおいしく飲んでいただきたいので、『ホッピー』と焼酎をよく冷やし、ジョッキは凍らせることをオススメしています」

↑ホッピー、焼酎、ジョッキの3つをよく冷やしておくのが「3冷」スタイル

 

↑「煮こみ居酒屋 寅 赤坂店」では、冷えたジョッキに冷えた宝焼酎とホッピーを注ぐ「3冷」スタイル!

 

倉嶋「『3冷』は1970年代前半ごろに発案された飲み方なんでしたっけ?」

 

ミーナ「そう聞いています。しかしながら、いつしか氷を入れて飲むスタイルが定着しているとも感じていました。そこで当社では1990年代後半から、あらためてこの飲み方を『3冷』と命名。飲食店様などを中心に『3冷』のおいしさを知っていただくなど、『3冷』を広めていく活動を推進していきました」

↑しっかり冷やされているホッピー専用の500mlのジョッキ

 

倉嶋「そして『3冷』で飲むのに適したグラスが専用の500mlジョッキですよね。★印が焼酎を入れる目盛り代わりになっていて、割りやすいという」

 

 

ミーナ「はい。下から1つめが70ml。2つめが110mlの目安となっていて、こちらに360mlの『ホッピー』を注ぐと、泡も含めてきれいに収まります。『横須賀割り』は140mlベースの焼酎濃いめなタイプで、泡が立たないように注ぐ、または泡があふれないように継ぎ足すなどして調整する飲み方ですね。ちなみにこの★は、父が北斗七星をモチーフにしてデザインしたものなんです」

 

倉嶋「笛を吹く少年のモチーフ以外にもあったんですね。しかも北斗七星とは、なんとロマンチックな先代社長!」

↑ホッピービバレッジの本社には、歴代の製品、オリジナルラベル製品とともに先代社長・石渡光一氏の写真が飾られています

 

3つの公式レシピでますます美味しい「ホッピー」

倉嶋「そういえば、『中(なか:焼酎)』と『外(そと:ホッピー)』ってあるじゃないですか。あちらはどなたが発案したものなんでしょう?」

 

ミーナ「『中』と『外』に関してはわからないですが、お酒が好きな方が考えたのではないかと思います。私たちとしては『3冷』で1杯飲み切っていただくことをオススメしているので、途中で焼酎や『ホッピー』を追加することは提案していません。とはいえ、お客様が自分で自由に割って作る楽しさも『ホッピー』の魅力だと自負しています。焼酎で割らずに飲む『ホッピー』も美味しいですし」

 

倉嶋「はい! 私は『ホッピー』の遊び心というか、この余白も大好きなんです。『3冷』を基本に、3つの公式アレンジレシピもありますよね」

ミーナ「ありがとうございます。ではそのレシピも1つずつ解説しますね。まずは『ハーフ&ハーフ』。こちらは『ホッピー』と『黒ホッピー』を、名前の通り半分ずつ注げばでき上がり。和洋中、どんな料理とも相性ぴったりのドリンクです。

次は『ウルトラD』。アルコール度数25%の甲類焼酎を専用グラスの★2つめまで注いだ、アルコール度数が約7%の飲み方です。醸造による『ホッピー』のコクと蒸留酒である焼酎のスッキリした飲み口が絶妙で、『ウルトラドライ』から『ウルトラD』と名付けられました。なお、★1つめまで注いだ場合のアルコール度数は約5%となります。

3つめは『プレミアムライト』。まずはシャーベット状に凍らせたアルコール度数20%の甲類焼酎を、ジョッキ1つめの★半分(35ml)まで入れます。そこによく冷やしたアルコール度数25%の甲類焼酎を1つめの★上(35cc)まで注入。あとはよく冷やしたホッピーを勢いよく注げばでき上がり。アルコール度数が約4.8%の、ライトな口当たりが楽しめます」

 

倉嶋「あらためてお話を伺うと、『ホッピー』は本当に面白いドリンクですね。ミーナさんは『ホッピー』に合う甲類焼酎の良さとは何だとお考えですか?」

 

ミーナ「『ホッピー』の美味しさを際立たせつつ、アルコールのうまみをちゃんと伝えてくれるのが甲類焼酎。立ち位置が『ホッピー』と似ているとも思います。どちらも主役のようで、脇役のようなバイプレイヤーでもある。でもだからこそ味があるし、どんな食事にも合うベストパートナーだと思います」

 

倉嶋「蒸留酒の甲類焼酎を醸造酒テイストの『ホッピー』で割るという、この組み合わせはかなり珍しく、それでいてベストマッチな美味しさ。私はこの絶妙なバランスも大好きです!」

 

オススメの飲み方とおつまみはこれだ!

最後はおふたりにオススメの「ホッピー」の飲み方と、フードペアリングを聞きました。飲み方に関しては、ともに「3冷」が大前提。ミーナさんは、前述の「ウルトラD」がオススメだといいます。

 

ミーナ「個人的には、アルコール度数25%の甲類焼酎を専用グラスの★2つめまで注いだ『ウルトラD』がベスト。でも、何をおいしく感じるかは人それぞれですから、お好きな飲み方で楽しんでいただければ幸いです」

 

倉嶋「私はカスタマイズできるのが魅力だと思っており、ちょっとお酒を控えたいなと思う時は、薄めで割って美味しいし、ガッツリ飲もうという日は『横須賀割り』で飲むのもよし。カクテルとしては『ホッピー』と焼酎とトマトジュースでレッドアイ風にするのがオススメです。ジョッキの縁に塩を付けたスノースタイルにすれば、もうどんどん進んじゃいますね(笑)」

 

フードペアリングに、ふたりとも「何にでも合う」という意見で一致。特に「ホッピー」はオールラウンドで、「黒ホッピー」はコクが豊かな料理に合うといいます。

 

ミーナ「おつまみは何でも合いますね。今日のお店(煮込み居酒屋 寅 赤坂店)なら、繊細な味わいの『豆腐の浅漬け』に、甘み豊かな『とうもろこしの天ぷら』、名物の『自家製八丁みその牛もつ煮込み』のような濃厚なものまで。ちなみに、意外な組み合わせでいえば『黒ホッピー』にティラミスを合わせる楽しみ方はぜひ試していただきたいです」

 

↑「煮込み居酒屋 寅 赤坂店」の名物「自家製八丁みその牛もつ煮込み」800円

 

倉嶋「ティラミス、いいですねー! 確かに、お刺身からスイーツまで何にでも合うのが『ホッピー』です。私は東京に来てから、もつ焼きと『ホッピー』のマッチングを覚えましたが、もちろんもつ煮も最高。特にこちらの『牛もつ煮込み』はコク深い八丁味噌ベースなので、『黒ホッピー』がいっそう合いますね!」

 

甲類焼酎のベストパートナーであり、アレンジも自由自在で料理との相性も幅広い「ホッピー」。あらためてお店やご自宅で楽しんでみてください。その際は「3冷」で飲むこともお忘れなく!

 

 

【取材協力】

煮込み居酒屋 寅 赤坂店

住所:東京都港区赤坂3-15-6 B1
営業時間:11:00~14:00、17:00~23:00(フードL.O.22:30/ドリンクL.O.22:45)
定休日:日祝

※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2022年9月15日)

 

撮影/我妻慶一

 

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・宝焼酎
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「チューハイ」ってどんなお酒? その歴史や魅力を深掘りする噺【意外と知らない焼酎の噺07】

「チューハイ」ってどんなお酒? その歴史や魅力を深掘りする噺

【意外と知らない焼酎の噺07】

これまで、焼酎の歴史や、造り方について深掘りしてきた本シリーズですが、ここからはその飲み方などの”実践編”。今回のテーマは「チューハイ」です。おそらくお酒好きなら誰もが一度は飲んだことがある「チューハイ」の誕生から、現在に至るまでの歴史やおいしい飲み方などを、大衆酒場にまつわる著書を数多く上梓している藤原法仁(のりひと)さんと、雑誌『古典酒場』創刊編集長の倉嶋紀和子さんにアツく語ってもらいました。様々な角度から「チューハイ」について紐解いていきます。

 

本サイトで連載中の【東京・大衆酒場の名店】ナビゲーターとしてもおなじみの藤原法仁さん(左)。倉嶋紀和子さん(右)は雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名

 

そもそも「チューハイ」とは?

甲類焼酎の飲み方には、ストレートやロック、あるいは飲みやすくするためにエキス(シロップ)を足して飲む梅割り、ぶどう割りなどがあります。ただ、どれもアルコール度数は20度〜25度(35度もある)と高め。ですから、割り材(※)で割って飲むのが一般的と言えます。その代表的なものが「チューハイ」。語源は焼酎の炭酸割り「焼酎ハイボール」であり、焼酎の”酎”とハイボールの”ハイ”で「酎ハイ=チューハイ」と言われています。

 

※割り材:酒を割って飲むための炭酸水や果汁などのこと

 

もともとは焼酎の炭酸割りから派生した「チューハイ」ですが、現在は焼酎だけでなく、ウォッカやジンなどの蒸留酒を、炭酸水などで割ったアルコール飲料を総称して「チューハイ」と呼ばれているようです。

 

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それでは、まずは「チューハイ」の定義から考察していきましょう。「チューハイ」はビールや清酒と違い、酒税法上の品目ではありません。また現在、業界団体など民間の統一基準がないため厳格な定義もなく、何をもって「チューハイ」とするかの明確な規定はありませんが、藤原さんはどのようにお考えなのでしょうか?

藤原「この自由さが、ある意味『チューハイ』の面白さかもしれませんが、『チューハイ』と銘打たれた酒類に共通する特徴は2点あります。ひとつは、蒸留酒をベースとしていること。もうひとつは、アルコール含有率が低い(おおむね10度未満)ことです。

ちなみに、『チューハイ』は酒税法上ではリキュール(エキス分が2度以上)あるいはスピリッツ(エキス分が2度未満)に分類されます」

 

倉嶋「『チューハイ』は下町の『焼酎ハイボール』がルーツと言われますもんね。以前に藤原さんが紹介した『三祐酒場 八広店』の回で詳しく触れていました」

 

藤原「はいはい。今はなき『三祐酒場 本店』のご主人(奥野木祐治さん)が1951(昭和26)年にアメリカ進駐軍の駐屯地で飲んだ『ウイスキーハイボール』に感銘を受けて生まれたのが『元祖焼酎ハイボール』だったという話ね」

現在も「三祐酒場 八広店(墨田区)」で人気の「元祖焼酎ハイボール」

 

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倉嶋「『ウイスキーハイボール』はつまり、ウイスキーの炭酸割り。諸説ある『ウイスキーハイボール』の由来のひとつにも、炭酸の泡(泡の玉=ボールが上昇する様)説がありますもんね」

 

「ハイ」と「サワー」の違い

「チューハイ」と似たものに「サワー」がありますが、実際はほとんど同じ意味で扱われています。居酒屋などの店舗によっては無糖の炭酸水で割ったもののみを「チューハイ」と呼び、香料や甘味を含む割り材を用いたものは「サワー」と区別する例もあるようです。

 

そして「サワー」といえば、レモンサワーを思い浮かべる人が多いでしょう。確かに「サワー」は英語(SOUR)で酸っぱいという意味ですから、味のイメージとしてもリンクします。では、実際の起源はどこにあるのでしょうか。

倉嶋「ルーツは中目黒(目黒区)に本店がある『もつ焼きばん』(1958/昭和33年創業。2004年に立ち退きで閉店するも、2014年に中目黒で復活)だといわれています。

昭和30年代には焼酎を炭酸水で割ったものを『タンチュー(炭酎)』などと呼んでいたそうです。一方、ジンを炭酸水などで割ったカクテル『ジンサワー』も知られるようになっていて、ならば焼酎をベースにした『チューサワー』があってもいいのではないかと。でも、当時の焼酎は安い格下の酒というイメージが強かった。そこで『チュー』も省いて『サワー』と名付けてしまおうということになったのだとか。

加えて、1958(昭和33)年といえば映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の時代。東京タワーが建設されるなど経済成長期にさしかかっていたため、生レモンも入手しやすくなっていました。そうして、生のレモンを入れたサワーを名物ドリンクとして発案。これがレモンサワーのルーツだと聞いています」

今や、すっかり酒場の定番メニュ—となったレモンサワー(写真はイメージです)

 

倉嶋さんのおっしゃったレモンサワー誕生の由来には、実は諸説あります。例えば「もつ焼きばん」の公式サイトには、「名前のなかった『タンチュー』にレモンを加えたさわやかな飲み物。その飲み心地を伝えるため創業者である小杉正さんが“爽やか=サワー”と命名し『レモンサワー』が誕生した」とありますが、どちらも正しいのでしょう。

 

そして、レモンサワーを世に広めた立役者が、目黒区武蔵小山の飲料メーカー、博水社のロングセラー割り材「ハイサワー」。こちらのストーリーは藤原さんが教えてくれました。

 

藤原「定番であり、『ハイサワー』シリーズの第1号である『ハイサワー レモン』は1980年の発売。そのヒントになったのは、同じ目黒区にあった『もつ焼きばん』のレモンサワーなんです。やがて割り材として『ハイサワー レモン』は大ヒット。『わ・る・な・ら・ハイサワー』のCM効果もあって『サワー』も広く知られるようになりました」

また、ウーロンハイや緑茶ハイなど炭酸が入っていないものに「ハイ」がよく使われるという声もあります。ただ、本来は「ハイボール」の「ハイ」なので、炭酸は入っているはず。そのあたりについて藤原さんに伺いました。

 

藤原「『炭酸水を使わないなら“緑茶ハイ”ではなく“緑茶割り”が正しい』と言う人もいますね。それと『炭酸水ナシはチューハイじゃない』とか『緑茶ハイはチューハイじゃない』という人もいるかもしれません。僕も気持ちはわかるんです。でも、ウーロンハイや緑茶ハイなどの『お茶割り』も、広義では『チューハイ』に含まれると思います。緑茶割りではなく、緑茶ハイとして売り出しているお店もたくさんありますし、ほとんどのお酒好きは『どっちでもいい』と思っているのではないですかね。そこに関しては目くじらを立てるほどではないかなと思いますよ」

 

倉嶋「そうなんですよね。私も緑茶割りやウーロン茶割りは雑誌『古典酒場』を制作する上でも表記が難しかったなって、今でもよく覚えています」

 

藤原「ええ。定義がないですから、それがひとつの答えなのかなと。できれば、それぞれの由来は諸説を含めて知っておいたほうがいいのかなとは思いますけどね。よくないのは、根拠がない情報で理解したつもりになって、そこから『チューハイとは○○であり、○○は違う』とか発信したり断定しちゃったりすること。うーん、あらためて『チューハイ』って奥が深いですね」

 

エキスを使う「チューハイ」の酒場が東京東部に多い理由

では、1951(昭和26)年に「三祐酒場 本店」で生まれたとされる「焼酎ハイボール(チューハイ)」は、どのようにして広まり定着していったのでしょうか。人気となった背景には、戦後のウイスキー(ハイボール)人気の一方で、ビールやウイスキーの値段の高さ(代替としてのチューハイ)が関係しているとか。

 

 

藤原「これも諸説あるのですが、共通点は当時ネガティブな香りが強かった焼酎をおいしく飲むための工夫。風味づけのために梅やぶどうのエキスを焼酎に入れたり、口当たりを爽快にするために炭酸水で割ったり。当時としては一見風変りに見えたレシピが酒文化となり、大衆酒場を中心に花開いたのです。

トレンドの発信地となったのが、東京の下町。その理由は、かつては界隈に高度経済成長期を支えた町工場が多く、大衆酒場は労働者の社交場として栄えたから。また、さらに歴史をさかのぼると、もともと江戸は水路の街で、川を使って船で物流を行っていたから。川沿いを中心に産業が栄えて人が集まり、街が発展。大きな河川のそばにあった古い街のなかには、船が使えるという利点を生かし、工業地帯として発展していったケースも多いのです」

 

倉嶋「特に下町の『チューハイ』として根付いているのは、焼酎+炭酸水+エキスのタイプです。このエキス文化は東京の大衆酒場でも、都心部には下町ほど多くは見られないと思います。都心部のホワイトカラー労働者は、ビールやウイスキーハイボールを好んだからという背景もあると考えられます」

 

「チューハイ」はこうして全国区になった

東京のローカルな飲み方として発展した「チューハイ」ですが、1980年代になると全国に拡大していきます。このトレンドをより深掘りすると、1970年代に起こった「ホワイトレボリューション(白色革命)」が深く関係していると倉嶋さんは言います。

 

 

倉嶋「全国的な傾向でいうと、高度成長期には洋酒人気に火が付いたため焼酎の消費量は落ちていました。しかし、アメリカでは1974(昭和49)年に、バーボン人気をウォッカが上回るムーブメント『ホワイトレボリューション』が起こります。この流れを受け、クリアな蒸留酒のブームが日本にも到来すると予想され、1977(昭和52)年に宝焼酎「純」が誕生。やがて狙い通り、1980年代にはチューハイブームへとつながったのです」

 

宝焼酎「純」の新発売前(1977/昭和52年)の新聞広告

 

11種類の樽貯蔵熟成酒を13%の黄金比率でブレンドした、宝焼酎「純」

 

藤原「もうひとつチューハイブームの一翼を担ったのが、居酒屋チェーンの台頭ですよね。今日お伺いしている『村さ来(むらさき)』はその代表格。1号店は1973(昭和48)年開業の世田谷・経堂店です。当時、『村さ来』は『養老乃瀧』『つぼ八』と並び“居酒屋御三家”と呼ばれ、1980年代には全国規模へ拡大していきました」

 

倉嶋「特に『村さ来』は果汁や甘くて色の鮮やかなシロップを使って、カクテルのような『チューハイ』をバリエーション豊かに展開したことで有名ですよね。このカジュアルさが当時の若者に受けると予想したんでしょうね。今日久々に飲みましたけど、懐かしいです! 若返った気分になりました」

 

昔を懐かしながらチューハイのメニュ—を見る二人

 

圧倒的な種類を誇る「村さ来」のチューハイ(酎ハイ)メニュ—

 

藤原「ええ、懐かしいですね! 僕らみたいな呑兵衛は、濃いめで注文するのがいいのかも。ちなみに、氷やシロップを入れることでアルコール度数が低くなって飲みやすく、さらに原価率が抑えられて儲かることもポイントだったと思います。他の居酒屋チェーンも取り入れたことで一気に『チューハイ』が親しまれていくことになるんですね。

そして、1980年代のチューハイブームの火付け役として忘れてはいけないのが、さっき話した『ハイサワー』と、『缶チューハイ』の誕生です」

 

倉嶋「そう、日本初の缶入りチューハイ『タカラcanチューハイ』。1984(昭和59)年に発売されるやいなや大ヒットし、いまも続くロングセラーですよね」

 

藤原「その通り! まとめると、偉大な焼酎『純』の大ヒットによるチューハイブーム、カクテルのように甘くてバリエーション豊かな『チューハイ』を提供する居酒屋チェーンの拡大、『ハイサワー』のヒット、『缶チューハイ』の誕生。これらが、『チューハイ』が全国区になった要因といえるでしょう」

発売当時(1984/昭和59年)のタカラcanチューハイ

 

酒場通のふたりが好きな「チューハイ」と居酒屋

最後はおふたりに、お気に入りの「チューハイ」について伺いました。まずは、好きな「チューハイ」と、おいしい「チューハイ」を作るコツから。

 

藤原「僕はやっぱり、エキスと炭酸水の黄色い『チューハイ』が一番好き。僕の中では『チューハイ』といえば下町の『焼酎ハイボール』ですから。甲類焼酎とエキスを先に混ぜた“焼酎ハイボールの素”を作って冷やしておいて、さらにキンキンに冷やした炭酸水を先にグラスに入れてから“焼酎ハイボールの素”を入れるレシピがベスト。できれば氷はナシ。レモンスライスを入れるのもアリで、その場合も炭酸水を入れる前。こうすると、炭酸水とともにレモンがピーッと上がって美的にも素晴らしいんです」

 

藤原さんお気に入り、八広(墨田区)「亀屋」の名物「焼酎ハイボール」

 

【関連記事】
【東京・大衆酒場の名店】酎ハイ街道をゆく。八広・亀屋の“ボール” 受け継がれる秘伝レシピの噺

 

倉嶋「さすが藤原さん。先に炭酸を入れるのは、墨田区あたりに多いスタイルですね。私は特にコツというほど実践していることはなく、甲類・本格(乙類)焼酎両方とも使いますし、レモンも使ったり使わなかったりなんですが、最近のお気に入りは宝焼酎『レモンサワー専用』です。やさしいコクと、ほんのりハーブ系なニュアンスがあってレモンの香りが立つし、炭酸水で割るだけでもおいしい。あと、タイ系などスパイス料理との相性がピカイチでオススメです」

 

レモンの風味を引き立てる、レモンサワーのために開発された宝焼酎「レモンサワー専用」

 

次はオススメの「チューハイ」に合うおつまみ、そして「チューハイ」を提供するオススメのお店を聞きました。

 

藤原「最近のマイブームおつまみはハムエッグ。卵はよく焼いてあるのが好きです。そしてお店は、東向島(墨田区)にある大衆酒場『岩金』。両手に炭酸水の小瓶をもって、一気に2杯ぶんの『チューハイ』を作る技があって衝撃を受けたんです。僕はあれを“炭酸二本差し”と名付けました」

 

一気に2杯ぶんの『チューハイ』を作る”炭酸二本差し”(※写真は堀切菖蒲園(葛飾区)「きよし」)

 

倉嶋「炭酸水とは、目の付け所がさすが藤原さんですね! 私の好きなお店は東十条(北区)の『埼玉屋』さんです。グラスのふちに塩を付けるソルティドッグ風のレモンハイが絶品で。『チューハイ』って、ひとつのカクテルなんだなぁと感銘を受けました。名物の焼きとんとの相性も抜群ですし」

 

あらためて、「チューハイ」の歴史や魅力を存分に語り合った藤原さんと倉嶋さん。ぜひ本稿を参考に、多彩な「チューハイ」を飲み比べてみてください。

 

【取材協力】

村さ来 中野北口店

住所:東京都中野区中野5-64-5 サンピオーネビル 4F
営業時間:17:00~24:00(L.O.23:30)
定休日:なし

※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2022年9月2日)

 

撮影/鈴木謙介

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

・宝焼酎「純」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

・宝焼酎「レモンサワー専用」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/lemonsour/

・タカラcanチューハイ
https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/regular/

 

【意外と知らない焼酎の噺】バックナンバーはこちら▼

「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺【意外と知らない焼酎の噺01】
「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺 【意外と知らない焼酎の噺02】
いろんな「甲類焼酎」を飲み比べて味わいの違いを実感する噺【意外と知らない焼酎の噺03】
芋焼酎のつくり方を知り、味わいを楽しむ噺【意外と知らない焼酎の噺04】
麦焼酎の歴史とつくりを知り、味わいを楽しむ噺【意外と知らない焼酎の噺05】
焼酎の味わいを決める「樽貯蔵熟成酒」について宮崎・高鍋で学ぶ噺【意外と知らない焼酎の噺06】

「せんべろnet」に聞く! 1000円で楽しめる「せんべろ」の噺

「せんべろ」とは“1000円でべろべろに酔える”ような酒場の俗称ですが、今回話を聞いたのは、立ち飲みや大衆酒場など「せんべろ」飲み歩き情報を配信中の「せんべろnet」管理人のひろみんさん。年間800軒飲み歩く彼女に、大塚にある「ドラム缶大塚店」で、知っているようであまり知られていない「せんべろ」の世界を教えてもらいました。

 

 

●せんべろnet ひろみん/都内在住のせんべろ放浪人。飲むこと、食べること、一人飲みや立ち飲みが好き。運営サイト「せんべろnet」では、都内を中心とした立ち飲みや大衆酒場など気軽にちょっと一杯できる飲み歩き情報や宅飲み情報を配信中。2022年6月『せんべろnetの酔っても作れる宅飲みおつまみ』(ワン・パブリッシング・刊)を上梓。

 

原点はかつて新橋にあった立ち飲み店

せんべろnet」は、都内を中心とした立ち飲み店や大衆酒場などの飲み歩きレポートに加え、家飲みを楽しむためのおつまみやお酒情報が満載のサイトです。スタートしたのは2015年のこと。始めようと思ったきっかけは、あるお店と出合って立ち飲みにハマッたことだったとか。まずはそのいきさつなど、サイト開設に至るまでの歩みを伺いました。

 

ひろみん「もともと新橋のIT企業で働いていたのですが、終業後に一人で食事をすることも多く、となるとそこは酒場天国の新橋。ちょっと一杯飲みたいなってなるじゃないですか。そんなある日、たまたま入った立ち飲み店がめちゃめちゃ衝撃的だったんです。ジャンルは鳥皮焼きが名物の九州料理のお店でしたね。それまであまり立ち飲みには行ったことがなかったのですが、そこには見たことのないおつまみがたくさんあったり、価格帯も100円台~300円台とお財布に優しくてスゴくワクワクしたんです。味も絶品で一人飲みにピッタリな量、店員さんも笑顔で気持ちがいいし、立ち飲みだから一杯だけで帰る人もいて気軽。しかも会計は1000円ぐらい。『こんなに素敵な世界があるんだーっ!』と感激して、そこから立ち飲みにハマりました」

 

↑東京・新橋は数多くの酒場が軒を連ねる酒飲みにはたまらない街だ

 

ひろみんさんはその立ち飲み店の常連になったものの、その後、残念ながら閉店。とはいえ飲み屋が多い新橋には、立ち飲み店や安価な大衆酒場もあまた。自然と様々なせんべろの店をはしごするようになり、その記録を兼ねたレポートをグルメサイトへ投稿するようになりました。

 

ひろみん「2012年ぐらいから3年程グルメサイトに投稿していました。ただ投稿するにつれ、もっと自分の色を出せるブログみたいなものをやりたいと思うようになり、『せんべろnet』を立ち上げました。一人飲みや立ち飲みに慣れていないころ、入店してみたいけど情報がなくて不安ということもあったので、一人飲みにチャレンジしたいけど『初めてのお店はちょっと不安』という方の背中を少しでも押せたらいいなぁというコンセプトで、更新するようになりました」

 

↑「せんべろnet」の記事は現在1700本以上。お店の情報から、レシピや飲み比べなど情報が満載

 

スタートから8年ほど経った「せんべろnet」には、現在1700本以上の記事がアップされています。投稿は予算1000円ほどのせんべろのほかに1500円~や2000円~も少々あり、そういったいくつかのテーマをエリアと掛け合わせて検索できます。ジャンルもバラエティ豊かですが、お店の情報はどのように仕入れているのでしょうか?

 

ひろみん「足で探すこともよくありますし、お酒好きの知人のほか、お店の方や、そこで飲んでいる人から聞くこともあります。あとはネット検索で見つけることもありますし、はたまた読者の方から情報をいただくこともあり、まちまちですね。歩くことが好きなので、お店を探すためだけに探索をすることもよくあるんですよ」

 

家飲みに関する記事は、2020年以降より充実。レシピや飲み比べ、テイクアウト、お取り寄せ、コンビニのおすすめおつまみなど、こちらも多彩な記事が継続的にアップされ、現在に至ります。

 

「せんべろ」は金額以上に満足度が大切

 

冒頭で述べたように「せんべろ」とは“1000円でべろべろに酔える”ような酒場の俗称で、『せんべろ探偵が行く』(中島らも、小堀 純・著/集英社・刊)が発祥と言われています。同書を読むと、1980年代ごろに著者の中島らもさんらの身内言葉から全国に広まったとの記述もあります。では、ひろみんさんが考える「せんべろ」とは?

 

ひろみん「せんべろは、1000円でべろべろに酔えるという言葉ではありますが、発祥と言われている『せんべろ探偵が行く』を読むと、気の利いたつまみとお酒2~3杯ほどという意味合いが強く、そういった酒場が多く紹介されています。そもそもせんべろには、1000円で何杯以上飲めるとか、1000円を超えてはいけないといった明確な定義はありません。ですので、私は1000円ぐらいでちょっと一杯、イイ気分になれたらせんべろ、と解釈してこの言葉を使っています。本当にべろべろになったら危ないですし、1000円を超えてしまうことも日常茶飯事です。ただ、『せんべろnet』では予算の目安で、1軒あたりお酒2杯+つまみ1品=1000円以内をせんべろとしており、自身がほろ酔いになれる量を設定しています」

 

 

では、せんべろや立ち飲みを楽しむためのマナーみたいなものはあるのでしょうか?

 

ひろみん「業態としての特徴は、特に立ち飲みではキャッシュオンのお店があったりもします。最近ではキャッシュレス決済を導入しているお店もありますが、現金のみのお店もあるので、できれば1000円札や小銭を用意しておきましょう。キャッシュオンの立ち飲みなどでの1万円札の利用は、できるだけ避けたいところです。また、小さなお店には大人数では押しかけず、1~2名がベター。なかには、3名以上のグループは入店NGと言う立ち飲みもあります。そしてダラダラと長居はせずに、混んできたらサッと次のお店へ。あとは、お店の方やお客さんに迷惑がかかるような絡み方はしない、騒がないといった一般的なマナーも当然ながら大切。セクハラ発言などは絶対にNGですし、楽しくなって、ワーキャーと声が大きくなったりするのも迷惑行為になってしまいます。とはいえ、難しく考えず、迷惑をかけずに楽しく飲めば何ら問題ないと思います。」

 

↑「ドラム缶 大塚店」はカウンターで注文と会計をするセルフサービス

 

一人飲みしやすいお店とは?

メニューの価格がわかることは、お店選びにも関わるとか。特に、せんべろ初心者が入りやすいお店、一人飲みしやすいお店には、わかりやすさが欠かせないとひろみんさん。

 

ひろみん「外から店内の様子が見えたり、入口に『お一人様歓迎』とか書いてあったり。あとは、メニューと価格が張り出されていて料金の目安がわかるお店は入りやすいですよね。カウンターがあることもポイント。座り飲みでカウンターがないお店だとハードルが上がってしまう気がします。居心地の良さも重要ですね。店員さんにある程度注文しやすい雰囲気だったり、酔って絡んでくるお客さんを取り締まってくれたり、リラックスして飲めたりとかそういったところです。さらに、一人用のおつまみがあったら最高ですね!」

 

↑「ドラム缶 大塚店」のように、外からどんなお店かわかると、一人飲み初心者にも入りやすい

『せんべろnet』流のペアリング術

では、ひろみんさんは普段どんなメニューを注文しているのでしょうか?

 

ひろみん「おつまみに関しては、基本的にお店の名物をオーダーします。でもそれを含め、自分が食べたいもの、気になるものになりますね。せんべろの場合1~2品をつまむ程度ですからそこまでの数を注文しませんし、はしごもするのでお腹がいっぱいになってしまうと回れません。ですので、メニュー選びはかなり吟味します」

 

ドリンクも同様の理由で、お腹にたまりがちなビールよりはチューハイ。加えて、甘くないタイプがお気に入り。量も飲むため、焼酎ベースのハイボールやホッピー割りなどをオーダーすることが多いと言います。

 

具体的にはどのような組み合わせになるのでしょうか。今回訪れている「立ち飲み居酒屋ドラム缶 大塚店」を例に、お酒とのペアリングを踏まえたせんべろセットを教えてもらいました。

 

ひろみん「例えば私が好きな『ぽん酢サワー』は、コクとキレのある焼酎にぽん酢の酸味がしっかり効いており、抜群の爽快感が肉や揚げ物といったこってり系のおつまみに合うんです。なので、カレー風味の『おつまみパイコー(※)』や、しっとりジューシーなお肉をハニーマスタードで味わう『ヒレ ローストポーク』がオススメ。スパイスの風味にも、すっきりとしたサワーの味がちょうど良く合うんです」

 

※パイコー(拝骨):中国語で豚などのスペアリブ。豚のあばら肉に卵と小麦粉の衣をつけて油で揚げた中華の肉料理を指す。

 

↑「ぽん酢サワー」(300円)、『おつまみパイコー』(350円)、『ヒレ ローストポーク』(400円)。この3品で1050円!

 

ひろみん「本格焼酎なら、ソーダ割りとロックで味の装いが変わる全量芋焼酎『ISAINA(イサイナ)』がお気に入りで、りんごのような風味のソーダ割りには酸味の効いた『油淋鶏』や『チキン南蛮』、あとは『よだれ豆腐』や『えびまよ』もオススメです。

↑ひろみんさんオススメの『ISAINAのソーダ割り』セット。『ISAINAのソーダ割り』(350円)、『よだれ豆腐』(300円)、『チキン南蛮』(350円)と合わせた3品で、1000円

 

ひろみん「『ISAINA』はロックで飲むと、焼き芋のような甘い香りがキリッとした味とともに華やぎ、『お刺身5点盛』(500円)がよく合うと思います」

 

メニューを見てワクワクできるお店が好き

今回訪れた「立ち飲み居酒屋ドラム缶 大塚店」は、2022年6月30日に上梓した『せんべろnetの酔っても作れる宅飲みおつまみ』(ワン・パブリッシング・刊)でも紹介されるほど、ひろみんさんお気に入りの一軒。同書には同店を含めた珠玉の12軒が紹介(大好きな酒場に教わるおつまみレシピとして)されていますが、ひろみんさんが考える“良い酒場”とはどんなお店なのでしょうか?

↑『せんべろnetの酔っても作れる宅飲みおつまみ』には、ひろみんさんオススメの店のレシピが掲載されている

 

ひろみん「ひとつは、メニューを見てワクワクするお店です。例えば種類の豊富さだったり、リーズナブルな価格とか。そのうえで、注文した料理がスゴくおいしそうだったりしたら、ワクワク感はMAXですね。あとは、私は基本的に1軒で2杯までと決めているんですけど、つい3杯目を注文しちゃうようなお店は、あとから振り返って『いいお店だなぁ』って実感します」

 

もちろん、著書で紹介しているお店はすべてがワクワクするところばかり。つい長居してしまったり、なかには立ち飲みではないお店もあります。例えば篠崎の「大林」や、八王子の「独楽寿司」などはインパクト抜群のつまみが豊富な名店。

↑本サイトの連載【東京・大衆酒場の名店】シリーズでも登場した「大林」。料理メニューは全部で約160もあり、北陸の旬の馳走や絶品創作メニューが満載

 

ひろみん「せんべろということで、毎日通えるようなお財布に優しいプライスが大前提ではあります。でも、ただ安いだけではなく、そこに驚きや感動がないとワクワクはしないですね。逆に、少しぐらい値が張ってもビックリするぐらいおいしいとか、お店の方が素敵だったり、雰囲気に引き込まれたりとか、そこにしかない特別な価値がある場合はいいお店だなと思いますし、行きたくなります」

 

せんべろ飲みから得たお店レシピ紹介本の発刊へ

『せんべろnetの酔っても作れる宅飲みおつまみ』(ワン・パブリッシング・刊/税込価格:1210円)

 

あらためて、『せんべろnetの酔っても作れる宅飲みおつまみ』の読みどころについても聞きました。

 

ひろみん「第一章の『大好きな酒場に教わるおつまみレシピ』は、何度かお邪魔している酒場から自宅でも再現できるおつまみレシピを教わって紹介しています。この本を参考に作ってみるもよし、本家の味を食べに飲みに行くもよし。二度楽しむことができて面白いかなと。コラムでは『一人飲みのススメ』といった小ネタやおすすめのお酒や宅飲みグッズなども挟んでおり、『せんべろnet』らしさのある一冊になっています」

 

6月30日に発売された同書は、なんと1週間で重版決定するほど大ヒット。のせるだけ、混ぜるだけ、漬けるだけ、などなど、ほろ酔いでも作れる簡単なレシピが70以上も掲載。ぜひ晩酌に活用してみてはいかがでしょうか。そして、ひろみんさんもおっしゃるように、本書をきっかけに実際に「せんべろ」のお店へ足を運べば、新しい発見もあるはずです。

 

楽しみ方は千差万別。無限に広がる「せんべろ」の世界に、あなたもたっぷり浸ってみませんか?

 

<取材協力>

立ち飲み居酒屋ドラム缶 大塚店

住所:東京都豊島区南大塚3-38-8 山上ビル 1F
営業時間:火~金曜日16:30~22:30(L.O22:00)、土曜、祝日15:00〜21:00(L.O20:30)
定休日:月曜日

※価格はすべて税込みです
※詳細な営業時間や定休日等に関しましては、公式インスタグラム等の営業カレンダーを確認ください(取材日:2022年7月28日)

 

撮影/我妻慶一

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・ISAINA
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/isaina/

「町中華で飲ろうぜ」の玉ちゃんが“カッテぇ緑ハイ”を飲る噺

「町中華で飲ろうぜ」(BS-TBS 毎週火曜日22:00~23:00放映)でもおなじみの玉袋筋太郎さん(以降は玉ちゃん)に、今回は「町中華飲み」の楽しみ方を伺うべく、谷中(東京・台東区)の「一寸亭(ちょっとてい)」でお話を聞きました!

 

玉袋筋太郎(たまぶくろ・すじたろう)/1967年西新宿生まれ。1987年にお笑いコンビ「浅草キッド」を結成し、TVやラジオなどのメディアで活躍する傍ら、演劇の監修や「一般社団法人全日本スナック連盟」の設立、「スナック玉ちゃん」の運営など活動の幅を広げている。出演や連載はBS-TBS「町中華で飲ろうぜ」、TBSラジオ「たまむすび」、TOKYO MX「バラいろダンディ」、夕刊フジ「スナック酔虎伝」、GetNavi web「玉袋筋太郎の万事往来」など多数。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。

 

もともとはお酒が嫌いだった

玉ちゃんといえば、町中華以外にも「一般社団法人全日本スナック連盟」の会長を務めるなど、飲み歩きの伝道師でもあります。まずは「町中華で飲ろうぜ」でおなじみの“気道確保”からの“大人の義務教育(ビール大瓶)”でのどを潤しつつ、お酒との出合いやエピソードを聞きました。

↑この日も「気道確保でパイプを洗浄!」とまずは、 ビールの大瓶(633ml)をオーダー。小中高の6・3・3(ロク・サン・サン)=「大人の義務教育」というわけです

 

「うちは両親がスナックやってたのよ。その前は雀荘でね。当時は中学生で思春期だったから嫌な思い出ばっかりでさ、店で酔っぱらう客もいたし。だから未成年のときは『絶対に酒は飲まねえ』って思ってた。

でも昔は芸人の世界といったら、飲むのも仕事なわけよ。それに最初はうちらも劇場とかで営業しつつ、浅草ビューホテルの脇にあったスナックでも働いててね。で、社長から『お客さんの横について一緒に飲んで来い』なんて言われて飲まされてさ。お客さんから可愛がられてチップをもらえることもあったんだけど、それはしっかり没収されて(笑)」

 

アルバイト先ではウイスキーや焼酎の水割り、チューハイをよく飲んでいたと言います。

 

「そりゃあ下町・浅草だから、焼酎っつったら甲類ですよ! まあでも貧乏だったから、自分のお金で飲むことはなかったね。ただバブルの時は、たまにお金持ちのお客さんとかに連れてってもらって、いい酒飲んだこともあったよ。そんなこんなで、本来は酒に強くないし嫌いだったんだけど、皆と飲むようになってだんだん好きになっていったの」

 

思い返せば、お酒は嫌いだったものの大人への憧れはあったのだとか。それは、青春時代を過ごした地元の「新宿西口・思い出横丁」などを楽しそうに闊歩する大人を見て育ったからかもしれないと、玉ちゃん。「ガキのころに見た、完成形のおじさんたちからしたら俺なんてまだまだ。今も目指してるよ」と、はにかみます。

 

身内で助け合いながら営む町中華にシビレる

いまや玉ちゃんのライフワークともいえる町中華。では、「町中華飲み」に目覚めたきっかけは?

 

「親父だね。子どものころ、二日酔いの親父が千駄ヶ谷のプールによく連れてってくれてさ。親父は酒を抜くための水風呂感覚で行ってたんだろうけど、泳ぎ方はちゃんと教えてくれたの。で、帰りに大久保にあった『日の出』って店に寄るのがお決まりのコース。それが原体験だよね」

↑2016年に出版された『サニーデイ・サービス 田中 貴 プロデュース ラーメン本 Ra:』の対談で玉ちゃんが登場しているシーン。このロケ地が往年の「日の出」です

 

当時の玉ちゃんがよく食べたのはチャーハン。お父さんはビールとつまみで楽しんでいたのだとか。その「日の出」に通うなかで、自然と町中華の魅力が染みついていったと言います。

↑「一寸亭」の「チャーハン」(750円)

 

「『日の出』は近所だったから、そこの家族のことも知ってるよ。お店は夫婦ふたりで切り盛りしててさ、当時は忙しいのに出前もやってたんだよね。今みたいなプラ容器じゃなく陶磁器を使ってたから、重いし回収もあるしで大変だったと思うけど。でもそうやって身内で助け合いながらやってるってところにシビれちゃうっていうか。だから町中華が好きなんだよね」

 

「町中華で飲ろうぜ」ではしばしば、玉ちゃんが“黒帯”と呼ぶ各店の常連さんが顔を出します。そこには、前述した憧れの大人への敬意が込められているそうで。

 

「一応、スナックのほうでは俺も黒帯を作ってもらったんだけどね。でも自分としてはまだまだ修行中だから、いつか“黒帯”みたいになりたいって常々思ってるわけ」

 

↑番組では「町中華の黒帯」と呼ばれる玉ちゃんも本人的にはまだまだ修行中のとのこと。ちなみにこの黒帯は「スナック」のものだとか

 

そんな玉ちゃんが普段、町中華で飲む際のルーティーンを聞くと、最初は気道確保でビールの大瓶。メンマやザーサイなどをアテにしつつ、次は点心に食指が動くそう。そして2杯目以降は焼酎の緑茶割り(緑茶ハイ・通称:緑ハイ)やチューハイ、紹興酒や日本酒を楽しむのだとか。

 

「メンマやザーサイは、お通しで出てきたら最高だよね。次は餃子なんだけど、歳とってきたから割りと重くてさ。だから最近はシューマイを頼むことも増えてきたかな。で、その次はレバニラとか、もやし炒めとかね。前の日のダメージが残ってるときは、もやし炒めが沁み渡るわけよ」

↑「シューマイ」(680円)

 

↑「レバニラ炒め」は850円

 

そして、シメの定番はワンタン。番組では収録後にスタッフと一緒に食べるため麺類を注文することもありますが、プライベートのひとり飲みの際はワンタンの量がちょうどいいのだと言います。

 

「たまにラーメンが恋しくなることもあるんだけど、食べるならシンプルなラーメンだね。あの味がその店のグリニッジ天文台だから。標準時ってやつよ。まあ、ここの『モヤシソバ』みたいに名物の麺メニューがある場合は、話は別だけどさ」

 

「カッテぇ」のルーツとは?

「町中華で飲ろうぜ」でもおなじみの「カッテぇ!」というパワーワード。これは、アルコールが濃いことを「硬い(カタい)」と言う玉ちゃん独自の表現。番組では緑ハイやチューハイを飲んだときに「硬い=カテぇorカッテぇ」などキメ台詞として使われます。その謂れはどこから来たのでしょうか?

 

「あれは内山くん(内山信二さん)と柴又で飲んだときに彼が言っててさ。それ聞いて『カテぇ』ってイイなと思ったの。でも、この前『町中華で飲ろうぜ』のスペシャルに松岡くん(TOKIOの松岡昌宏さん)が出てくれたとき、衝撃の事実が判明したのよ。実は松岡くんが『カテぇ』と言ったのを、内山くんがマネしたんだって。だから俺は孫だったんだよ(笑) 」

 

そして玉ちゃんは、満を持して「焼酎緑茶割り」をオーダー。

 

↑「焼酎緑茶割り」(500円)

 

「来ましたよ! でもこれはそこまでカタくないんじゃないかな。ほら、色がいい感じに濁ってて“沼(ぬま)”みたいでしょ? これは緑茶が多めだからなの。うん、ならこの沼の水は俺が全部抜いてやろうじゃねぇかっ……お、でもまあまあカテぇ~!」

 

聞けば、玉ちゃんが緑ハイをはじめとするチューハイ類を飲むときは、氷抜きでオーダーするのがポイント。そこにはふたつの理由がありました。

 

「まあひとつは俺も歳だからさ、あんまり体を冷やしたくないのよ。あとはやっぱり濃さだよね。このウマさが薄くなったらもったいないじゃん。だって甲類焼酎といえば宝でしょ。ここの緑ハイもクリアながらコクのある宝焼酎だから、安定で安心のウマさなんだよね……っつうわけで、緑ハイおかわりください。もちろん氷抜きで。あと、もう少し濃いめでもいいよ!」

 

そうして到着した緑ハイは、玉ちゃんのお望み通りにいっそうカタくなっている模様。

 

「うぉ! おいおいこりゃあ〜手加減なしじゃねーか! 見てくれよこの色! 焼酎が多いからクリアになって沼がキレイに浄化されたねぇ。でも味はめっちゃくちゃカッテぇー!」

 

 

「これこそまさに“カタい”緑ハイ! この世にダイヤモンドより硬いものはないなんて言われてるけど、あったわ。それがまさに焼酎の“宝”よ! じゃあその宝石はなに? って聞かれたら、そりゃもうこのキレイな色はエメラルドだよね~」

 

いい飲み屋とは、いい人が集まる店のことである

番組は2019年4月にスタートし、4年目を迎えました。これまで様々な町中華の名店を訪れた玉ちゃん。思い出に残っているお店はどちらでしょうか?

 

「いや~、ありすぎて絞れないよ。やっぱりどこ行ってもウマい酒とつまみと、面白いストーリーがあってさ。なかには閉店しちゃったお店もあるわけで、それは悲しいよね。でも、人と人との心の触れ合いがあるから儚(はかな)さもあって。それも町中華の魅力なんだよね」

 

町中華は昭和の遺産であり、それはスナックも同様だと玉ちゃんは熱弁します。

 

「俺が連盟を立ち上げた2014年時点でも、スナックは全国に10万軒ぐらいあったのよ。だから昭和の時代はもっと多かっただろうね。ただ、高齢化とか後継者不足に加えてコロナもあったから、今は6万軒ぐらいにどんどん減っちゃってさ。でもだからこそもっと頑張ろうって思うわけ。町中華も、もっともっと盛り上げるよ!」

 

町中華にスナックにと、飲み屋を愛する玉ちゃんは、ほかにどんなお店に行くことが多いのでしょうか?

 

「やっぱり居酒屋とか焼き鳥屋が多いかな。ホルモン酒場も好きだよ。街は中野や荻窪、あとは『スナック玉ちゃん』がある赤坂も多いよね。ひとりで飲むときは、意外かもしれないけど静かなもんよ。でも仲がいいとこなら、店主や女将さんとはしゃべるかな」

↑「一寸亭」の二代目、大塚真也さんと

 

持ち前のユーモアや人間力で、すぐにお店の人と打ち解ける玉ちゃん。ただしそれは勢いやノリに任せるのではなく、店内の雰囲気や相手の表情を推し量りながら馴染ませるように距離を縮めていくのがコツなのだとか。

 

「なんとな~くプロファイリングしていくのよ。で、徐々に俺の要素を溶かして最後は飽和水溶液にしていくってわけ。そのためにはじっくり観察することが大切。“ファスト映画”みたいなのじゃなくて、『ゴッドファーザー』だったらパート1からしっかり観ないとね。まあ、そうはいっても今はファストな時代だから、俺はそこをわかりやすいように伝えていきたいと思ってるの」

 

最後に、「玉ちゃんにとってのいい飲み屋とはどんなお店なのでしょうか?」と聞くと「一寸亭」を例に挙げて教えてくれました。

 

「一番は人だよね。ここは初代のパパと二代目の坊ちゃんが仲よくてさ、従業員さんも来店するお客さんも素晴らしい。もちろん腕がいいからどんな料理もウマいし、『モヤシソバ』なんて名物もある。おまけにカッテぇ緑ハイもそろっててさ、ここは理想的だよね」

↑一寸亭の名物「もやしそば」(850円)

 

谷中は、本郷台地と上野の台地に挟まれた谷合の低地。この町に1973(昭和48)年、今も現役の初代・大塚貞夫さんが「一寸亭」を創業しました。玉ちゃんは、この地にどっしり構えた同店は魚礁(ぎょしょう)であり、魚を獲る船でもあるといいます。

 

「お腹をすかせた、いろんな種類の魚が集まってくるわけよ。で、それをちょっと捕まえる“ちょっと艇”。最初は一寸法師みたいに小さな存在だったのかもしれないけど、もうお椀じゃないよね。それはそれは立派ですよ」

 

町中華の多くは老舗であり、つまりは愛され続けた名店である証拠。おいしいお酒におつまみと、素敵な人が集まる地域の社交場・町中華で、今日は一杯飲りませんか!?

 

 

<取材協力>

一寸亭

住所:東京都台東区谷中3-11-7
営業時間:11:30~20:00
定休日:火曜日

※価格はすべて税込みです

※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2022年6月11日)

 

撮影/鈴木謙介

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

 

<INFORMATION>

町中華で飲ろうぜ

どの町にもある、メシがあり、ツマミもあり、酒も飲める、昭和な町中華……。そんな一人でも大勢でも気楽な店「各町の中華料理店」に、町飲み大好きな玉袋筋太郎がブラリと訪れます。また後半は、女性版「町中華で飲ろうぜ」!ゆったり楽しめる、メシ&飲み&おしゃべり番組です!

毎週火曜日よる10時〜
BS-TBSで放送中

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ラズウェル細木が指南!「めくるめく家飲み一人酒」の噺

今年4月にリニューアルした「酒噺」サイトのキャラクター制作を手掛けていただいた”食の伝道師”ラズウェル細木先生。今回は、練馬にある先生行きつけのお店「旬味 ふじよし」で、3月に刊行された『酒は思考の源でR(あーる)』について伺うとともに、ラズウェル流「家飲み一人酒の楽しみ方」についてもお聞きします。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。

 

【関連記事】
「晩酌は最高のリラックス」食の伝道師・ラズウェル細木に聞くー酒と肴と酒場の噺

 

●ラズウェル細木 山形県米沢市出身。酒と肴と旅とジャズをこよなく愛する漫画家。料理も得意で家飲みも好き。代表作『酒のほそ道』をはじめ、『美味い話にゃ肴あり』『う』など多数の「のんべえマンガ」を連載し、今春は『酒は思考の源でR』も上梓。

 

一人酒はいろんなことを思考できる時間

『酒は思考の源でR』は、ラズウェル先生の日々の晩酌ぶりとともに、飲んでいるときの頭の中をのぞき見する新感覚グルメエッセイ漫画。テーマやタイトルには、どういった想いが込められているのでしょうか。

 

「大枠のテーマは一人飲み。なので、特に話し相手がいるわけじゃないですよね。すると、ものすごくいいアイデアが浮かぶこともあれば、しょうもないことを考えるときもある。でもそうやって、いろんなことを思考できる時間でもあるんです。そこから『酒は思考の源でR』と名付けました」

 

本書の執筆中にコロナ禍を迎えましたが、描く内容に変化はあったのでしょうか?

 

「僕はもともと家での晩酌が基本なんです。たまに外で飲んだときのエピソードや、新幹線飲みの話をマンガにすることもありますけど、普段の晩酌をそのままエッセイにしたのが本書なので、特別に何か変わったことはなかったと思います。特にネタにも困りませんでした」

 

 

本書には様々なおつまみが紹介されていますが、なかでもオススメの品をいくつか教えてください。

 

「例えば『夏晩酌』の回で紹介した『白身魚の洗い』。本書では刺身のサクを切っていましたが、切り身の刺身でもいいんです。ポイントは氷のディスプレイですから。市販の氷をたっぷり贅沢に敷き詰めた器に、氷水で締めた刺身を乗せると、それだけで豪華になるんですよね。非日常感が楽しめますし、オススメです。

 

『酒は思考の源でR』第4話「夏晩酌」より/(C)ラズウェル細木・KADOKAWA

 

ほかには『サザエさん晩酌』の後半で登場する『トマトとキュウリと卵炒め』。『トマ玉(トマトと卵)炒めは定番の中華で、本書のプロローグでも紹介しています。ここに豚肉やキクラゲを入れることもあるんですけど、ここではキュウリを使っているのがポイント。中国などで、キュウリを加熱するのは珍しくないんですけど、日本では珍しいですよね。で、この卵炒めにキュウリを使うことですごく清涼感が出ておいしいんです。暑い時季にはぜひ試してみてください」

 

『酒は思考の源でR』第6話「サザエさん晩酌」より/(C)ラズウェル細木・KADOKAWA

 

「酒器育て」の回で『※土井善晴先生のレシピをパクりました』として登場する「ちくわのソース炒め」も気になりました。

 

『酒は思考の源でR』第2話「酒器育て」より/(C)ラズウェル細木・KADOKAWA

 

「あのおつまみは秀逸。切ったちくわを油で炒め、ソースとみりんを回しかけ、青海苔をかければ完成ですからね。料理が苦手な人でも作ろうかなという気にさせてくれるハードルの低さと、想像以上のおいしさ。土井先生はさすがですよ」

 

「できあいアレンジ晩酌」の回では、ポテサラや唐揚げなど、スーパーの「お惣菜」にひと手間加えたおつまみが登場しますが、それ以外のひと手間メニューがあれば教えてください。

 

「よく、スーパーとかでナムル4種盛りって売ってるじゃないですか。あれに焼き海苔を刻んで振りかけると、香りが立っていっそうおいしくなります。僕が使うのは韓国海苔ではなく、普通の海苔です。海苔は僕自身がお気に入りで、スライスチーズを海苔で挟むだけでもすごくおいしいですよ。チーズの片面にコチュジャンを塗るのもオススメ。

ちなみに海苔は湿気が天敵なので、僕は冷凍庫に入れてます。振りかけるときは刻み海苔とか加工してあるタイプのほうが使いやすいですけど、いろいろな料理に活用するなら普通の四角い海苔がいいですかね」

 

酒器は形だけでなく薄さも大切

「酒器育て」ではお気に入りの徳利(とっくり)が出てきますが、酒器についてのこだわりを教えてください。

 

『酒は思考の源でR』第2話「酒器育て」より/(C)ラズウェル細木・KADOKAWA

 

「専門店やデパートなど、いろんなところで買うんですけど、選ぶ基準はパッと見て気に入るかどうか。一番好きな形は、徳利だと白くてストンと長い磁器のタイプ。飲む器は広がっている盃(さかずき)が好きで、特にふちがなるべく薄いやつが好みです。厚みがあると酒の味が変わるので、薄さも大事だと思います」

 

 

調理器具に関しても教えてください。本書の「休眠調理器具活用晩酌」では様々なアイテムが登場しますが、今ハマっている調理器具はありますか?

 

「最近ミキサーを新調したんです。なぜかというと、南インドの定食『ミールス(※)』を作るコミュニティの会に顔を出した際に、ミキサーが必要だとレクチャーをされまして。とはいえまだミールスは作ってないんですけど、この前試しにと思って作ったのがパプリカのポタージュ。先日の『酒のほそ道』に登場させました。

実は今まで、ミキサーやフードプロセッサーが出てくるレシピはなんとなく避けていたんですけど、そろそろ使っていこうかなと。ですので、この夏にはミールスも作ってみようと考えています」

※ミールスは、主に南インドで食べられている、菜食料理を中心とした定食のこと

 

本書のコラム「一寸ひと息、生活の知恵」では器を洗う前のひと手間や、野菜クズ(※)の活用法が紹介されています。そのほかにも何か普段行っている生活の知恵があれば教えてください。

 

※野菜のヘタや芯、皮や固い外葉、きのこの石突きなど、通常は食べずに捨てるような部分

 

「割と知られた話かもしれませんが、牛乳パックをまな板代わりにするというアイデアですかね。あとはガスコンロの魚焼きグリルとかで、アルミホイルを敷いて焼く際のコツもありまして、焼くときアルミホイルはそのままの状態よりも、軽くクシャッとさせたほうが効率よく焼けるんです。なぜなら食材とアルミホイルの間に隙間ができるから。これもぜひ試してみてください」

 

家飲みの良さは“帰宅”がないこと

『酒は思考の源でR』の主軸となっている、「家飲み」の良さを教えてください。

 

「やっぱり第一は、家に帰る必要がないということです。飲んだあと電車に乗って、家まで歩いてというのは、なかなかつらいときもありますよね。しかも、なんとなくラーメン屋で食べちゃったり、コンビニに寄ってお酒を1缶買っちゃったりして。それで帰宅すると、ひと口飲んですぐ寝ちゃうみたいな。翌朝、ぬるくなった酒を見てもったいないと思うんですよね。あとは、自分の好きなおつまみを揃えられるというのも家飲みの良さだと思います」

 

ありがとうございます。では一方で、先生が考える「外飲み」の良さを教えてください。

 

「家とは逆に、自分の知らないお酒や知らない料理との出合いがあることです。やっぱり、お店で学べることはたくさんありますから。あとはお店なら“雰囲気”が楽しめることも素敵です。“みんなで好きなお酒を飲んでるぞ”という全体の一体感みたいな。知らない人同士でも、同じ場で飲んでる仲間という感じがして楽しいなと思います。

あとは僕の場合、職業柄飲んでいる方々の生態を観察することもあります。面白いオヤジさんがいたとかね。勉強になりますよ」

 

では、ラズウェル先生が考える「理想の酒場」とはどのようなものでしょうか。

 

「わがままを言わせてもらうと、大勢入っても声が響かないお店が好きかな。一緒にいる人との会話が普通に聞こえるぐらいの静けさはあってほしいです。あとは季節が限定されるんですけど、暑くも寒くもない季節に入口が開いていて、表を通る人の会話や足音が聞こえてくると、それだけでつまみになるというか、いい気分で飲めますね」

 

今回訪れている「旬味 ふじよし」さんの魅力も教えてください。

 

「いちばんはマスターの人柄。そして料理の腕前ですね。全国各地から素材の走り(季節の初物)、旬、名残りを見極め、最高の状態で楽しませてくれるんです。とにかく、何を頼んでもおいしい。雰囲気も温かく、素晴らしいお店ですよ」

 

↑この日は「焼姫竹」(1100円)、「牛肉たたき」(1300円)、「はた刺」(1300円)などがズラリ

 

おいしく飲んでいる雰囲気を伝えたい

酒噺」サイトに描いていただいたキャラクターに込めた想いを聞かせてください。

 

「心がけたのは、お酒をおいしそうに飲んでいる雰囲気を伝えるということ。イラストとともに『ク~ッ』っていう“たまらなくうまい”感じを表現したフレーズを添えているんですけど、あれも大事なんですよね。ああいうシーンは昔から描いていて、自分ではちょっとマンネリかな?って思う部分もあるんです。でも読者の方からは『それが楽しみなんです』といったご意見もいただきまして。それからは、マンガの中でもいっそう心を込めて描いています」

↑ラズウェル先生に描いていただいた、「「酒噺」」サイトのキャラクター

 

本書のプロローグ「酒飲みの頭の中」では、先生自身が「キュビビビビビ」とおいしそうに350ml缶の発泡酒を飲んでいる姿が描かれていますよね。そのあとに自家製のコーヒー焼酎が紹介されているのも印象的です。お酒のアレンジについても探求心がすごいなと。

 

「ああ、甲類焼酎にコーヒー豆を漬けて造ったやつですね。あれおいしくて、家以外でも飲むんですよ。例えば新幹線内でホットコーヒーを買って、そこに持参した焼酎を割って飲むとか。あれを片手に車両の窓際で飲むと、景色も相まって至福のひとときなんです」

 

いつでも飲めるように焼酎を忍ばせているとは、さすがです!

 

「隙あらば飲みたい。それが酒飲みなんでしょうね。長年培ってきたお酒との付き合い方みたいなものが、マンガにもあらわれているのかな。とはいえ常に背徳感(後ろめたさ)はあるんです。『酒ばっかり飲んでちゃダメでしょ』みたいな。でも、その背徳感が逆にお酒をおいしくさせるんじゃないかな。もちろん飲み過ぎはダメですけどね」

 

最後に、読者の方々に向けてのメッセージをお願いします。

 

「読者の方はお会いしたことがなかったりするわけなんですけど、自分のマンガを読んでいただけるということは、お酒にシンパシーを感じてくださっているということだと思うんです。それは作品を通じて、一緒に飲み交わしているようなものですよね。だから僕にとっての読者の方は、みな“飲み仲間”だと思っています」

 

ラズウェル先生のお酒哲学は、『酒は思考の源でR』にもたっぷりと凝縮されています。ぜひ本書を読みながら至福の一人酒を楽しみましょう!

 

<取材協力>

旬味 ふじよし

住所:東京都練馬区練馬1-22-1
営業時間:月、火、木~土曜日17:00~22:00、日曜、祝日17:00~21:00
定休日:水曜日

※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2022年6月13日)

 

撮影/我妻慶一

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

【東京・大衆酒場の名店】門前仲町「大坂屋」の“牛にこみ”を三日月型カウンターで堪能する噺

東京にある大衆酒場の名店を巡る企画の第8回。今回は門前仲町の「大坂屋」を訪れ、その魅力を探っていきます。

 

大衆酒場は、その安さとウマさ、昔ながらの温かい雰囲気で、酒飲みの心をひきつけてやみません。なかでも東京では下町を中心に、根強い人気を誇る大衆酒場の名店が数多く存在します。そんな名店を巡り、お店の魅力と東京ならではの酒文化を深掘りしていくのが本連載。立石「宇ち多゛(うちだ)」篠崎「大林」京成曳舟「三祐酒場(さんゆうさかば) 八広(やひろ)店」八広「亀屋」四つ木「ゑびす」門前仲町「だるま」船堀の「伊勢周」に続く第8回は、門前仲町「大坂屋」にお邪魔します。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

約100年続く老舗はヒノキの「三日月型カウンター」が独創的

本企画の第6回で登場した門前仲町「だるま」と同じ通りにあるのが今回紹介する「大坂屋」。創業は、なんと大正13(1924)年という老舗で、2024年には100周年を迎えます。

 

これまで紹介した名店同様に様々な個性があり、独特な設(しつら)えのカウンターはひときわ印象的。今回もカウンター酒場について詳しい長谷川和之さんを講師に迎え、生徒役のお酒好きタレント・中村 優さんと「大坂屋」の魅力に迫ります。

↑中村 優さん(左)は、タレントおよびマラソンランナーとして活躍。長谷川和之さん(右)の本業は編集者で、酒場のほか旅や温泉、鉄道など様々なジャンルに精通しています

 

中村 久々の門前仲町。こちらの「大坂屋」さんも素敵ですね!

 

長谷川 「大坂屋」は“東京五大煮込み”に数えられる名店で、カウンターについても語れる要素が満載ですよ。

 

中村 楽しみ! 今日もお酒が進みそうです。注文はどうしましょう?

 

長谷川 お酒は「焼酎」からいきましょう。中村さんにはチェイサーも用意してもらいましょうか。女将さんを紹介しますね、実川(じつかわ)佳子さんです。

 

女将 今日はありがとうございます。ゆっくりしていってくださいね。

↑宝焼酎の一升びんを注ぐ女将の実川佳子さん

 

中村 はい! よろしくお願いします。ところで、乾杯からチェイサーをいただけるんですか?

 

長谷川 この焼酎は、宝焼酎のストレートに、梅エキスを足す「うめ割り」スタイル。アルコール度数が25%とかなり強いので、中村さんはチェイサーでやわらげながら飲むのがオススメです。

↑焼酎に特製の“梅エキス”を加える

 

中村 お気遣いありがとうございます。そうですね。「うめ割り」は話に聞いていたので楽しみです!

 

長谷川 お、いいですねー。あと、今日は天気がいいので、氷もいただきオンザロックで飲みましょう。

↑「焼酎」(450円)

 

中村 わ、これが「焼酎」の「うめ割り」ですね!

 

長谷川 はい。ではカンパーイ! 無理せず、少しずつ味わってくださいね。

 

中村 そうですね。まずはそのまま一口……。あっ、パワフルなコクがあって、ドライななかに甘みもありますね。キレも強くて、スゴく大人な味わい。でも、お酒がそこまで強くない私でもいけるおいしさです。

 

長谷川 よかった。ガツンとくるんだけど、飲みやすいんですよ。だからこそ、飲み過ぎないように注意が必要なんですけどね。では次に、ロックでどうぞ。

 

中村 あ、氷で冷たくなるとまた味わいが変わりますね。すっきりした感じが強くなりました!

 

長谷川 お客さんのなかには、ストレートで飲む方も多いと思うんです。でもここは氷やチェイサーを用意してくれるので、お酒に強くなくても「うめ割り」を楽しめるんです。うれしい気遣いですね。

 

中村 では乾杯したところで、この素敵なカウンターについて教えてください!

 

長谷川 やっぱり、なんといっても独創的な“三日月型”の形に尽きます。しかも煮込みの釜と鍋が設えられているということでしょう。

↑上から見ると良くわかる“三日月型カウンター”

 

中村 ものスゴいインパクトですよね。

 

長谷川 普通はL字型にしがちなんですよ。二辺だから造りやすくて、施工費も安価だからだと思います。あるいは、店にスペースがあればコの字型。

 

中村 L字やコの字は、これまで訪れたお店で勉強させてもらいましたね。

 

長谷川 でもここはそのどちらにもにも属さない三日月型で、きわめて珍しいんです。

 

中村 三日月型になることで、お店やお客さんにとってはどんなメリットがあるんですか?

 

長谷川 お店としては接客がしやすいでしょうね。お客さんの顔がすぐ近くに見えるから。一方で、常に見られてるという緊張感もあると思いますけど。

 

中村 ふむふむ、なるほど!

 

長谷川 皆さんの視線が煮込み鍋の方向に集中するので、お客さんにとってみれば、近くに座ってる人の表情がすぐわかるから、常連さんとかほかの方と仲良くなりやすいですよね。L字やコの字だと、こうはならないんですよ。

 

中村 確かに。体をひねったりのぞき込んだりしなくても、自然に近くの方の表情がわかりますね。

 

長谷川 そう、自然なんです。だから、なんとなく隣の席の会話に入りやすくて、溶け込みやすい。カウンターだけじゃなく、このお店の規模や雰囲気によるところもありますけどね。

 

中村 こぢんまりとした空間があっての三日月型カウンターだから、秘密基地みたいな雰囲気っていうんですかね。一体感があって、私は初めて来たとは思えない居心地の良さを感じます。

 

長谷川 広い店だと視線がいろんなところに行きますが、ここは釘付けになりますよね。目の前に名物の煮込み鍋が鎮座してるし。

 

中村 そうなんです。あと、カウンター奥の座敷も気になりますね。あちらも客席なんですか?

 

長谷川 客席ですよ。ただ僕は、何度も「大坂屋」に来ていますけど、あの小あがり席には行ったことないです。団体用でしょうね。とはいえ、詰めても3人ほどの席だと思いますが。

↑女将さんの後ろにチラッと見えているのが奥の小あがり席

 

中村 カウンターも座敷も、アットホームですよね。満席でも10人ちょっとぐらいですか?

 

長谷川 三日月型カウンターが6席で、壁側のカウンターが4席。座敷が3人だから全13席ですね。でも、回転がすごく早いから満席でもちょっと待てば入れることもあるんです。

 

中村 そういえば、このカウンターは席によって奥行きが違いますかね。鍋のところの奥行きは広いような。

 

長谷川 そう。いつもみたいに計らせてもらいましょう。
なるほど! 鍋が38cmで、そこの奥行きは62cm。一方で、狭いところは53cm。鍋のところは手前にゆとりがないとお客さんが座ってもスペースがないから広げてある、特殊な設計になってるんですね。

 

中村 よく考えられてるなー。あと、重厚感があるから板の厚さも相当ありますよね。

 

長谷川 うん、厚さは5.5cm。しかもこの素材はヒノキだから実に贅沢な造りです。高級寿司店とかのレベルでしょう。

 

中村 それに縁の部分も丸くなめらかに加工されていて、手触りが心地良く、落ち着きます。

 

長谷川 ヒノキの白木が醸し出す、凛とした佇まい。加えて、設えや世界観が全体的にやわらかいから、この店独特の和やかさが生まれるんでしょうね。

 

中村 女将さんの所作や醸し出す雰囲気も一役買ってると思います。華があって品もあるから、すごく落ち着くんですよね。

 

長谷川 そう。だから女将さんのファンも多いんですよ。

 

重厚なカウンターは二代目が設計

中村 お店の歴史はすごく長いと思うんですけど、このカウンターはまったく古さを感じさせませんね。創業時からあるんですか?

 

長谷川 僕が最初に来たのは20年ほど前ですが、そのときにはもうありましたね。昭和のころからあると思いますが、詳しいことは女将さんに聞いてみましょう。

 

女将 カウンターは、二代目である私の祖父が設計しました。みなさんの席の上に飾ってある写真が祖父です。

 

長谷川 いい写真ですよね。僕が初めて来た時は、もう大女将(女将さんのお母さん)の時代だったから、二代目に会ったことはないんですけど。

 

中村 ということは、女将さんは四代目? 初代はひいお祖父さんですか?

 

女将 はい。屋号の「大坂屋」も、初代店主が名付けました。創業時の相方が大阪出身だったと聞いています。「阪」ではなく「坂」な理由まではわかりかねるのですが。

 

長谷川 へえ~これは貴重なお話ですね。

 

中村 お店は創業時からずっとここにあるんですか?

 

女将 大正13年に、この近くで屋台の煮込み屋さんを開いたのが始まりだと聞いています。その後、戦時中は満州鉄道にいたため一時休業していたとか。そして終戦後にまた門前仲町で「大坂屋」を再開したそうですよ。

 

長谷川 それで屋台から店舗をこの地に構えて、二代目がヒノキのカウンターなどを設計して現在に至ると。そういえば、僕がここに通い始めた当初は、カウンターの隅に黒電話があったかな。今は電話をなくして、そのぶん1席増えましたよね。

 

女将 はい、長い歴史のなかで変わらない部分もあれば、そうでないところもありますね。お品書きは基本的にずっと変わっていません。お店には、今は基本的に私が立っていて、母が元気な時はふたりでやってます。

 

串タイプの名物「牛にこみ」は3種の部位が楽しめる

中村 すっかりお話に聞き入っていたら、お腹がすいてきちゃいました! おつまみも注文していいですか?

 

長谷川 そうですね。では、まずは名物の「牛にこみ」を1本ずつひと通りお願いします!

 

女将 はい、では準備しますね。

 

中村 こちらの煮込みは串タイプですけど、私初めてかも!

 

長谷川 そう、串になっているのはかなり珍しいですよ。部位はシロ(腸)、フワ(肺)、ナンコツ(喉)の3種で、味は味噌ベース。これがまたウマいんだ!

 

女将 ではどうぞ。お通しも召し上がってくださいね。

↑「牛にこみ」(1串180円)とお通し

 

中村 わあっ、間違いなく味が染みてるやつですね。シロからいただきます!

 

中村 はー! プルッとやわらかくて脂に甘みがあって、おいしい!

 

女将 シロは一番人気ですね。

 

長谷川 うん、今日も安定のおいしさ! シロはおかわりする方も多い部位ですよ。

 

中村 次はフワ。あ、これはムチムチッと押し返すような弾力で、お酒に合う味と食感ですね。初めて食べたかも。

 

長谷川 フワは、部位がランダムに入った煮込みにもよく使われるので、ほかのお店で無意識のうちに食べてるかもしれません。

 

中村 そうなんだ! でも単品で食べると独特な食感がクセになりますね。
では、最後はナンコツを。おおっ、これまたパワフルなコリコリ感で、鶏のナンコツとはまた違いますね。

 

長谷川 けっこう硬めの部位なんですけど、丁寧に包丁が入れられてるので食べやすくなっているんです。このひと手間もおいしさの秘訣です。

 

中村 それぞれの部位に個性があって、味付けも最高においしかったです! 煮込み時間は長いんですか?

 

女将 意外にそこまで長くはないんですよ。2時間ぐらいですね。

 

長谷川 この煮込みのスープがまた絶品なんですよね。「うめ割り」にもベストマッチな味で。

 

中村 はい! 甘塩っぱい味噌の味が、ほんのり甘い焼酎にドンピシャです。あと、このお通しもさっぱりしていておいしいです。私が一番好きなぬか漬けの味!

 

長谷川 さっぱり系だと、オニオンスライスもオススメです。女将さん、注文よろしいですか?

 

女将 ありがとうございます。いまの時期は新玉ねぎでおいしいですよ。どうぞ。

↑「オニオンスライス」(300円)

 

中村 これもすごくおいしい! 辛みがなくて、シャキシャキで。おかかとポン酢醤油の味付けも、うまみと爽やかさが加わっていいですねー! これは止まらないです!

 

長谷川 ヘルシーなオニオンスライスは、いわば呑兵衛の免罪符。これがおいしい店は本当にありがたい!

 

女将 うれしいです。そういえば、祖父が好きで飲んでいたことから置くようになった缶チューハイがあるのですが、飲まれますか?

 

中村 あ、定番缶チューハイのかわいいサイズ! ぜひいただきたいです。

↑二代目が愛飲していた「タカラcanチューハイ」(450円)を注いでもらう中村さん

 

長谷川 「タカラcanチューハイ」の250ml缶ですね。じゃあ僕もいただこうかな。

 

中村 うん、レモンの酸味と炭酸の刺激が心地いいです。すっきり爽快でおいしい!

 

「大坂屋」が東京五大煮込みである噺

長谷川 ではそろそろシメですかね。「玉子入りスープ」をお願いします!

 

女将 かしこまりました。では5分ほどお待ちくださいね。

↑「玉子入りスープ」は生の卵を直接鍋に入れる

 

中村 へぇ~、卵はこうやって温めるんですね。面白い!

 

長谷川 そう、こちらも「大坂屋」独自の逸品。ほかのお店では食べられないんじゃないかな。

 

中村 そういえば、「大坂屋」さんが“東京五大煮込み”の一軒だという話、詳しく教えてください。

 

長谷川 “東京五大煮込み”は、グラフィックデザイナーで居酒屋探訪家としても有名な太田和彦さんが、著書『居酒屋大全』で提唱して広まりました。もう30年ぐらい前の本で、酒場好きのバイブル的な一冊ですね。

 

中村 『居酒屋大全』とはすごい! 興味深いです。

 

長谷川 そこで書かれているのが、東京三大煮込みは北千住「大はし」、森下「山利喜(やまりき)」、月島「岸田屋」を指し、さらに立石「宇ち多゛」と門前仲町「大坂屋」を加えて、東京五大煮込みと呼ぶということ。

 

中村 あ、確か「宇ち多゛」は、以前このシリーズの名店として紹介されてましたよね。

 

【関連記事】
【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

 

長谷川 はい、基本的に取材を受けない「宇ち多゛」のあの記事は貴重ですよ。あと、五大名店のなかで串煮込みなのは「大坂屋」だけですね。いずれにせよ、これらレジェンド店が健在していることも酒場ファンにとっての魅力なんです。

 

中村 私もいつか全店行ってみたいです!

 

長谷川 お、そんな話をしていたら、そろそろ「玉子入りスープ」が出てきますよ。

 

中村 わっ、半熟玉子に煮込みのお汁をかけて味わうんですね。これは確かに珍しいです!

 

長谷川 ですよね! 玉子に十字の切れ込みが入っているので、お好みで混ぜながら食べてみてください。

 

↑「玉子入りスープ」(350円)

 

中村 わー、絶妙なとろとろ具合。これはたまんない。いただきますっ!

 

中村 ……見た目は濃い味なのかなと思ったけど、まろやかでスゴくやさしい! スイッと飲めちゃうおいしさで、これまた止まらないです!

 

長谷川 お品書きがシンプルで明朗だからこそ、絶品煮込みのおいしさがより研ぎ澄まされる。そこに焼酎を合わせて、サクッと粋に楽しめるのが「大坂屋」の魅力なんです。

 

中村 はい!「牛にこみ」のモツも、「玉子入りスープ」も最高のおいしさでした。“東京五大煮込み”というのも納得です!

 

長谷川 煮込みは東京の酒場を代表するアテで、焼酎との相性も抜群なんですよね。五大名店はもちろん、ほかの酒場でも独自に趣向を凝らした煮込みがあるので、いろいろ巡ってみるといいですよ。

 

中村 はい、今日も楽しかったです。カウンター酒場に煮込みの魅力と、またいろいろ教えてください!

 

 

「三日月型カウンター」についても勉強した中村さん、次回はどんなカウンターと出合うのか? ご期待ください。

 

<取材協力>

大坂屋

住所:東京都江東区門前仲町2-9-12
営業時間:16:00~20:00 (L.O.19:30)
定休日:月、木、日曜日

※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2022年5月11日)

 

撮影/我妻慶一

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

・タカラcanチューハイ
https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/regular/

 

「東京・大衆酒場の名店」バックナンバーはこちら▼

・第1回 【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

・第2回 【東京・大衆酒場の名店】初心者女子と楽しく学ぶ! 篠崎「大林」の魅力と「下町酒場の成り立ち」の噺

・第3回 【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺

・第4回 【東京・大衆酒場の名店】酎ハイ街道をゆく。八広・亀屋の“ボール” 受け継がれる秘伝レシピの噺

・第5回 【東京・大衆酒場の名店】四ツ木「ゑびす」で、自家製ロックアイスのお茶割りを味わう噺

・第6回 【東京・大衆酒場の名店】門前仲町「だるま」で、コの字カウンター劇場を堪能する噺

・第7回 【東京・大衆酒場の名店】船堀「伊勢周」で、L字カウンターの機能美を楽しむ噺

・番外編 大衆酒場の酎ハイに欠かせない「下町炭酸」を飲み比べる噺

・番外編 焼酎ハイボールに合う!「東京・大衆酒場の名店」のおつまみを、約5000円の調理家電で再現する噺

焼酎の味わいを決める「樽貯蔵熟成酒」について宮崎・高鍋で学ぶ噺

【意外と知らない焼酎の噺06】

 

第3回「いろんな「甲類焼酎」を飲み比べて味わいの違いを実感する噺」で、樽貯蔵熟成酒のブレンドによって甲類焼酎の味が大きく変わることを知った倉嶋さん。今回はその「樽貯蔵熟成酒」ができるまでを、宮崎県の高鍋町にある宝酒造 黒壁蔵で実際に見学してきました。

倉嶋紀和子:雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名

 

【意外と知らない焼酎の噺】バックナンバーはこちら▼

「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺【意外と知らない焼酎の噺01】
「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺 【意外と知らない焼酎の噺02】
いろんな「甲類焼酎」を飲み比べて味わいの違いを実感する噺【意外と知らない焼酎の噺03】
芋焼酎のつくり方を知り、味わいを楽しむ噺【意外と知らない焼酎の噺04】
麦焼酎の歴史とつくりを知り、味わいを楽しむ噺【意外と知らない焼酎の噺05】

 

黒壁蔵のある宮崎県高鍋町とは

宮崎県児湯郡(こゆぐん)高鍋町は、日向灘に面した宮崎県のほぼ中央に位置する町。江戸時代には秋月家3万石の城下町として栄え、明治以降は児湯地方の中心地として発展しました。町の東部には、宝酒造の焼酎工場「黒壁蔵」があります。

 

東に日向灘を臨む高鍋は、海の町としても人気。特にビーチスポットとして知られるのが、高鍋駅からも近い場所にある「蚊口浜(かぐちはま)」です。南北に長い海岸は海水浴向けとサーフィン向けにエリアがわかれ、さらにキャンプ場を併設しているなど多彩な遊びができます。

 

宮崎が誇る最近の大きな話題といえば、県庁所在地の宮崎市における2021年の餃子購入額(1世帯あたり)が初めて日本一になったこと。そんな宮崎のご当地餃子といえば、何を隠そう高鍋町の「高鍋餃子」です。

 

こちらは、同県屈指の名店として知られる「餃子の馬渡(まわたり)」と「たかなべギョーザ」が人口2万の高鍋町にあることが背景にあります。特徴は、高鍋名産のキャベツの他に玉ねぎ、にらなど野菜が多めであること。

 

↑こちらは「餃子の馬渡」の餃子。何度も足踏みした厚い皮の、もっちりとした弾力と強いコシが魅力。一方の「たかなべギョーザ」はサクッとした薄めの皮で、二大名店の食感が対照的なことも「高鍋餃子」の特徴です

 

宝酒造「黒壁蔵」とは

高鍋町にある宝酒造の「黒壁蔵」は、同社における焼酎製造の主要拠点。シックな黒い建物やタンクが広大な敷地内に立ち並ぶ、圧巻のスケールです。黒いルックスは、日向灘から吹く風のミネラル分を栄養源とする黒い微生物が外壁に繁殖し、工場全体が黒く見えるのだと言われています。

↑黒壁蔵に到着した倉嶋さん。念願の訪問ということでテンションも最高潮に

 

倉嶋さんを案内してくれたのは、工場長の岡 博和さん。まずは黒壁蔵の成り立ちから教えていただきました。

↑岡工場長と倉嶋さん

 

 倉嶋さん、ようこそ黒壁蔵へ! 今日はよろしくお願いします。

 

倉嶋 こちらこそ、よろしくお願いします。楽しみにしていました! 黒壁蔵、スゴいですね。風格と歴史を感じます!

 

 ここはもともと1938年に、アルコールを製造する官営の工場として設立しています。やがて戦後に民間払い下げが実施され、1952年に当社、宝酒造に移管されました。その後、2004年に現在の黒壁蔵へと名称変更して現在に至ります。

 

倉嶋 今の名称になったのは比較的最近なんですね。黒壁蔵、かっこいい響きです!

 

 ありがとうございます。当社は全国に6つの工場があり、以前倉嶋さんにお越しいただいた松戸工場は東日本の主幹工場です。そして黒壁蔵は芋焼酎や麦焼酎などの製造を行うとともに、当社が保有する樽貯蔵熟成酒の重要拠点でもあります。

 

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↑九州には、長崎の島原にも工場があります

 

倉嶋 6つの工場それぞれに役割があるんですね。神戸・灘や京都・伏見の工場は、“灘・伏見”で知られる日本酒の聖地ですから、日本酒の拠点ですよね。

 

 はい。そして灘は「白壁蔵」という名称でして、焼酎工場であるここ「黒壁蔵」と対をなす大切な製造拠点ですね。

↑岡工場長は長年日本酒の製造に携わった経歴をもつ、酒づくりのスペシャリストでもあります

 

倉嶋 高鍋という町も自然がいっぱいで素晴らしいです。おいしい焼酎ができるに決まってますね!

 

 宮崎の温暖な気候はさつまいもの栽培や樽貯蔵の熟成に適していることはもちろん、高鍋は東に日向灘、北に尾鈴山を望む自然豊かな環境にあることも魅力です。

 

倉嶋 樽貯蔵熟成酒について、今日はしっかり学ばせていただきます!

 

いざ、樽熟成の現場へ

 では、これより着替えていただき、工場内の見学へとまいりましょう。まずは連続蒸留室へご案内します。

 

倉嶋 ということは、連続式蒸留機がある場所。甲類(こうるい)焼酎の製造現場ですね。

 

 そうです。甲類焼酎の造り方はこれまでの回で触れていたと思いますけど、あらためて簡単におさらいしましょう。蒸留機には、「単式蒸留機」と「連続式蒸留機」があります。単式蒸留機は1回のみ蒸留を行う仕組みですね。単式蒸留機によって造られた、原料の風味が残る焼酎が乙類(おつるい)焼酎で、「本格焼酎」とも呼ばれます。

 

倉嶋 今回は甲類焼酎がメインですけど、黒壁蔵では本格焼酎も造ってるんですよね?

 

 はい。全量芋焼酎の「一刻者(いっこもん)」や、芋・麦・米など様々なバリエーションがある「よかいち」などの本格焼酎も、ここで造っています。では、甲類焼酎をつくる連続式蒸留機とはどういうものか。これは単式蒸留機の仕組みを連ねた複雑な構造です。連続的にもろみを投入することができ、機械のなかで何度も蒸留できるのが特徴。この連続式蒸留機で造られた焼酎は甲類焼酎と呼ばれ、蒸留を繰り返すことでピュアな味わいの焼酎になります。ということで、ここからは製造担当で次長の一上(いちかみ)と一緒に、連続蒸留室へまいりましょう。

↑生産現場は、衛生管理を徹底するため白衣に着替えて入室。右が一上将輝さん

 

一上 一上です。よろしくお願いします! ここは樽貯蔵する前の個性の異なる様々なタイプのアルコールを造っている施設です。

 

倉嶋 松戸工場もスケールが大きかったですけど、こちらもスゴいですね。

 

 サイズでいえば、松戸工場はさらに巨大で黒壁蔵の8倍はあります。また、松戸工場の甲類焼酎づくりではピュアなアルコールの蒸留が主目的ですが、黒壁蔵の場合は狙った味の成分を残したアルコールづくりがメインとなり、そこからブレンドなどを経て約85種類の樽貯蔵熟成酒を造り分けしています。

 

倉嶋 そうでしたね。以前の取材で約85種類あるとお聞きしました! ちなみに、この上はどうなっているんですか?

 

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一上 この連続式蒸留機には階段とフロアを設けて全6階の設計となっています。高さでいえば、30mほどありますね。試しに2階へ上がってみましょうか。

 

倉嶋 連続式蒸留機の内部はこのようになっているんですね! 驚きです。

↑連続式蒸留機の「棚」と呼ばれる部分。突起の部分は泡鐘(ほうしょう)と呼び、このパーツをアルコールの蒸気が通過することで効率良く不純物を分離し、狙った品質のアルコールになる。泡鐘は約10cmで、蒸留塔の直径は約3m

 

 泡鐘の機能により、ブレンドに必要な味を造り分け、それぞれの棚から狙ったアルコールを取り出しています。そして蒸留したばかりの透明なアルコールを樽に詰めて何年も寝かせ、まろやかな味や深み、甘い香りなどをもたらせていくというわけです。

 

倉嶋 寝かせることで、奥行きのある味わいの樽貯蔵熟成酒になっていくんですね。

 

 おっしゃる通りです。では、次はいよいよ樽貯蔵熟成酒の本丸。貯蔵庫へご案内します。

↑黒壁蔵には手動式と自動式の2つの樽貯蔵庫があり、こちらは前者

 

倉嶋 わっスゴい! 入った瞬間からおいしそうな香りがしてきます。

 

一上 ここはラック式の手動樽貯蔵庫です。文字通り、クレーンで樽を縛ってラックに積み上げていくのですが、津波対策や安全性などを考慮して、いまは自動式のほうが主流です。自動式はこのあとご案内しますね。

 

倉嶋 ラックは最高で7段までありますけど、以前はこの手動式で積み上げていたんですか?

 

 はい。ただ、今はもう手動で7段まで積み上げることはないですね。昔は手動式の貯蔵庫が7棟ありましたが、現在は2棟。一方で、巨大な自動式が4棟あります。樽の数は合計で約2万樽ですね。

 

倉嶋 2万! これまたスゴい数ですね。ちなみに、ここにある樽の材質や熟成期間は?

 

一上 樽の材質は、基本的にウイスキー用のアメリカンホワイトオークですね。一部、シェリー酒などに使われるフレンチオーク樽、ほかに桜樽や栗樽などもあります。熟成期間は、古いものですと30年以上の樽もありますね。目の前にある樽は2002年から熟成している、ちょうど20年ものです。香りだけですが、テイスティングしてみますか?

 

倉嶋 20年ものなんて、きわめて稀少ですよね。うれしいです!

↑「サーベル」という、スポイトの役目を果たす銅製の道具でグラスに樽貯蔵熟成酒をサーブ

 

一上 お、これは実に見事な色づきですよ。20年ものなので、天使の分け前(熟成過程でアルコールが蒸発し、樽の中身が減ること)もかなりあります。では、どうぞ。

 

倉嶋 きれいな琥珀色! あぁ、洋酒を思わせるキャラメルやバニラのような甘い香りがします。アルコール度数が高いからか、力強い香りもしますね。これは絶対おいしいやつです。

↑うん、香りだけでも心地よく酔えそう(笑)。と倉嶋さん

 

 喜んでいただけてよかったです。では、次は自動ラック式の貯蔵庫へご案内しましょう。自動式は、機械が積み上げなどをやってくれるので安全性や効率がよく、また手動式より数多く積み上げられることもメリットです。

↑このラック式自動樽貯蔵庫には、最大4200本の樽を収納可能。スケールの大きさに倉嶋さんも息を飲むばかり

 

 

一上 この貯蔵庫は、1986年に建てられました。自動式といってもなかなか歴史があって、実は昭和のころには既にあったんです。

 

倉嶋 こちらは手動式に比べてぎっしり積まれている印象です。こちらは機械で操作して、それぞれの樽を積んだり降ろしたりするわけですよね?

 

 その通りです。用途は多岐にわたり、ただ貯蔵するだけではありません。例えば上部のほうが高温になり、熟成スピードも速くなるため定期的に樽の入れ替えを行っています。また、樽の新旧によっても熟成速度は異なるので、中身の入れ替えをするためにも積み降ろしを行います。

↑自動樽貯蔵庫の樽のサイズは400リットルを超えるような大きい樽が中心。比較的軽くて取り回しがしやすい200~250リットル程度の樽は、手動式の貯蔵庫に収納されます

 

樽の再生加工も行う

 黒壁蔵では樽の再生加工も行っていますので、次はそちらにご案内します。

 

倉嶋 再生ということは、組み直したり焼き直したりするんですか?

 

一上 はい。長年熟成すると、熟成効果が薄れたりするのですが、再生することで、最長で30~40年ほど使用することができるんですよ。樽も貴重な資源ですから、地球環境のためにも、うまく活用していきたいという考えです。再生工程にはいくつかの手順があり、樽の内部を削った後、熟成効果を高めるためにバーナーで焦がす作業を行います。

↑再生工程のなかで、こちらは樽の底部の隙間を埋めているところ

 

倉嶋 バーナーの熱は何度ぐらいになるんですか?

 

一上 遠火でじっくり加熱する「トースト」と、直火で加熱する「チャー」があるのですが、目安は約300℃。焼く時間は20~30分が一般的で、樽によっては60分近く行うこともあります。

↑火力を上げ、炎が燃えさかるように焼き上げる「チャー」の仕上げ工程。このあと水で消化し、樽の組み直しを行います

 

【チャーの仕上げ工程の動画】

 

 

倉嶋 最後はここまで豪快に焼き上げるんですね。想像以上でした! あと、樽の内側から漂ってくる香りがまたたまりませんね。

 

 この樽はまだ熱をもっているのですが、その間に締め直しとフタの装着を行います。

 

倉嶋 そうなんですね。熱い方がいい理由はあるんですか?

 

一上 焦がした熱によって、締め付けられた樽の張りが緩くなるので、熱いうちにタガを外し、隙間ができないよう整えながら入念に締め直すんです。

↑樽の組み直しは、実は繊細な作業。液体は針の穴のように小さい隙間でも漏れてしまうので、熟練の技が必要です

 

樽貯蔵熟成酒の味は?

↑試験室にずらっと並べられた様々な樽貯蔵熟成酒

 

 本日最後にご案内するのは試験室です。ここはサンプルのチェックや製品の最終検査を行う場所で、物質の香気成分を検査したり分析したりすることが主な役割。そして今回は、そのなかにある官能検査室をお見せしますね。ここでは主に香りや味をテイスティングして、適正な品質になっているかをチェックします。

↑樽貯蔵熟成酒を専用グラスに注ぐ一上さん。検査の方法を見せてくれました

 

一上 今回用意したのは11種類。多くはアルコール度数が60%を超えますので、検査する際には25%に加水調整してチェックします。

 

倉嶋 なかには熟成前の透明なものもありますよね。これらはそれぞれ、どんなアルコールなんですか?

 

一上 ひとつは大麦原料の甲類焼酎で未貯蔵タイプ、1年熟成、3年熟成と熟成年別に。他にもコーン原料の甲類焼酎の1年熟成、3年熟成ものなど原材料別でも用意しています。

 

倉嶋 同じ原材料でも、熟成の深さで味わいがどう変わっているかをチェックするんですね。面白そう!

 

 倉嶋さんも、ぜひテイスティングしてみてください。

 

倉嶋 やった! では大麦の焼酎を熟成の若いタイプからかぎ分けます……。あっ、やっぱり年を重ねていくと甘い香りやまろやかさが強くなりますね。同時に、複雑味も増していくような気がします。

 

一上 原材料の違いでも、感じ方が異なりますよね。

 

倉嶋 はい。特に、熟成酒になると違いがはっきり出てきますね。大麦はウッディで奥行きのある甘さ、コーンはもう少しストレートな甘みですけど、バニラのニュアンスを豊かに感じます。これらをブレンダーの方が調合して製品に仕上げていくんですよね?

 

 その通りです。基本的なレシピは決まっているのですが、樽貯蔵熟成酒が約85種類ありますから、それぞれの個性をどうブレンドし、統一されたおいしさに仕上げていくかは腕の見せ所です。

 

倉嶋 その組み合わせは天文学的な数字になりますよね。すごいなぁ。

 

一上 倉嶋さんにそう言っていただけるとうれしいです。今回テイスティングいただいたのは一部ですが、これらの樽貯蔵熟成酒がブレンドされることで、当社の製品にそれぞれの個性をもたらし、「宝焼酎」をはじめとした様々な製品のおいしさに寄与しているんです。

 

倉嶋 例えばブレンド比率が13%なら「純」、20%なら「レジェンド」ですよね。奥が深いです!

 

 さすが、よくご存じですね! もちろんお店で飲むチューハイのベースとなる焼酎や、「タカラcanチューハイ」「焼酎ハイボール」「極上レモンサワー」などの製品も、絶妙なバランスでブレンドした樽貯蔵熟成酒がおいしさの要となっています。ぜひ今度飲まれるときに感じていただけたらうれしいです。

 

倉嶋 はい。今回の工場見学も勉強になりましたし、なにより樽貯蔵熟成酒の魅力をいっそう知ることができてよかったです!

 

↑取材後に訪れた高鍋町北部の丘陵に位置する高鍋大師で、タカラ「焼酎ハイボール」をかたむける倉嶋さん。町を一望できるうえ、四国八十八か所を模した仏像をはじめとする大小様々な石像が並ぶパワースポットで、名所として知られています

 

樽貯蔵熟成酒を現地で体感し、宝酒造が誇る甲類焼酎の神髄に近づいた倉嶋さん。次回の「意外と知らない焼酎の噺」もご期待ください。

 

↑タカラ「焼酎ハイボール」を片手に蚊口浜でたそがれる倉嶋さん。「潮風がいいつまみになりますね!」と、さすがのコメント!

 

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【東京・大衆酒場の名店】船堀「伊勢周」で、L字カウンターの機能美を楽しむ噺

東京にある大衆酒場の名店を巡る企画の第7回。今回は船堀の「伊勢周」を訪れ、その魅力を探っていきます。

 

大衆酒場は、その安さとウマさ、昔ながらの温かい雰囲気で、酒飲みの心をひきつけてやみません。なかでも東京では下町を中心に、根強い人気を誇る大衆酒場の名店が数多く存在します。そんな名店を巡り、お店の魅力と東京ならではの酒文化を深掘りしていくのが本連載。立石「宇ち多゛(うちだ)」篠崎「大林」京成曳舟「三祐酒場(さんゆうさかば) 八広(やひろ)店」八広「亀屋」四つ木「ゑびす」門前仲町「だるま」に続く第7回は、船堀の「伊勢周」にお邪魔します。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

家族で営む創業70周年の老舗は「L字」が極めて個性的

今回訪れた「伊勢周」は、都営新宿線「船堀駅」から15分ほど歩いた、船堀街道沿いにある老舗。創業は昭和27(1952)年とちょうど70周年を迎え、店内には開店時の写真が飾られています。

 

前回の「だるま」は「コの字型」カウンターの名酒場として紹介しましたが、「伊勢周」は、「L字型」カウンターを語るうえで欠かせないお店。これまで同様に、カウンター酒場について詳しい長谷川和之さんを講師に、生徒役のお酒好きタレント・中村 優さんと「伊勢周」の魅力に迫ります。

↑中村 優さん(左)は、タレントおよびマラソンランナーとして活躍。長谷川和之さん(右)の本業は編集者で、酒場のほか旅や温泉、鉄道など様々なジャンルに精通しています

 

中村 長谷川さん、今日もよろしくお願いします。まずは乾杯ですね!

 

長谷川 はい。ここは「伊勢周ハイボール」が名物なので、それを飲みましょう!

 

中村 へえ~、お店の名前が付いた酎ハイなんですね。

 

長谷川 宝焼酎をベースに、下町酒場御用達のエキスと強炭酸水が決め手の酎ハイです。

 

中村 何杯もイケるやつだ! さっそく来ましたね、カンパーイ!

 

長谷川 お通しの煮込みもどうぞ。

 

中村 おいしそう!このお店は煮込みがお通しなんですね?

 

長谷川 しかも0円なんですよ! ありがたいですよねー。

 

中村 えースゴい、お通しが無料! そして想像以上においしいです! モツはやわらかくて、味付けは濃すぎず薄すぎずの味噌味。ちょうどいい塩梅で酎ハイも進みます!

↑「伊勢周ハイボール」(450円)

 

↑お通しの煮込み(0円!)を手にする中村さん

 

長谷川 でしょ? ここはお酒も料理も抜群においしいんですけど、まずはカウンターのことからお話しさせてください。

 

中村 L字型ですよね。ほかのカウンターに比べて、どんな特徴があるんですか?

 

長谷川 ひとつは、最も一般的な形だということですね。L字型はほかの形状に比べて少スペースでも設置できますから、採用しているお店も多いです。

 

中村 確かに、L字型のお店はよく見かけるかもしれません。

 

長谷川 あとは、厨房に沿ってカウンターが造られていることが多いです。カウンターの中に厨房があるお店もありますし。「伊勢周」の厨房はカウンターの奥ですけど、お通しやドリンクは目の前で作って提供していますね。

 

中村 そういえば以前訪れた「三祐酒場 八広店」、「亀屋」、「ゑびす」も厨房は奥でしたけど、L字型でしたよね。カウンター越しにお酒を作ったり、配膳したりしていたことを覚えています。

 

長谷川 そうそう。「ゑびす」は一緒に行きましたよね。あそこはカウンターと厨房の間にちょっとした設えがあるだけで、ほぼオープンキッチンといっていいでしょう。

 

中村 でも、「伊勢周」ってかなり個性的なL字型ですよね! 私、内側に座れるタイプは初めてかもしれません。

 

長谷川 やっぱりそうでしたか。内側に席があるL字型のお店はほかにもあることはありますけど、極めて珍しいんですよ。スペースがないと内側に席を設けられませんし、そもそも内側ってある意味“聖域”ですから。

 

中村 カウンター上のスペースの広さも関係してますよね。ここは奥行きにゆとりがあるから、対面になっても圧迫感がないし。

 

長谷川 ちょっと測ってみましょうか。おお~、65cmもある。そしてコーナーは89cm! 商店建築の教科書的な書籍によれば適性の奥行きは45~65cmなので、ここはかなり広いですよ。

 

中村 長谷川さんお得意のメジャー、今日も冴えてますね! でも、なんで両側から座れるようにしたんですかね?

 

長谷川 以前の「伊勢周」はコの字型だったんですけど、このL字型にした理由は僕も気になってるんです。女将さんに聞いてみましょうか!

↑「伊勢周」の女将、尾崎貞子さん。二代目にあたる尾崎成春さんの奥さまです

 

女将 2011年に建て替えた際、店内も大きく改装したんです。そのとき、お兄ちゃん(三代目の浩之さん)のアイデアを反映してL字型カウンターにしました。当時は、回転寿司店のようにお皿やボトルの数で勘定計算をしていたんです。だから、ゆとりがあったほうがお客さんも使いやすいと思って広く設計したんですよ。

 

長谷川 いまは逐一お皿を片付けて普通にチェックされてますけど、確かに改装前の会計はそうでしたね。

 

女将 女性のお客さんのためにテーブルの高さを少し低くしたり、ボトルキープ用の棚を造るためにカウンター内の鍋台をひとつにしたり。ほかにもいろいろ変えました。

 

長谷川 そうそう、懐かしい! 改装前はコの字型カウンターの中に鍋台がふたつ並んでて、ひとつが煮込み、もうひとつはお通しの湯豆腐でした。台がひとつになって、煮込みがお通しを兼ねるようになったんですね。

 

中村 ということは、煮込みの鍋台は変わらず残っているものなんですね。歴史を感じます! 三代目がお店に立つようになったのはいつからなんですか?

 

女将 1995年です。お兄ちゃんは和食だけでなく洋食や中華も作れたから、お品書きのバリエーションも増えていったんですよ。でもお父さん(旦那さんで二代目店主の成春さん)も作るの好きだから、いまや料理の数が120種類以上にもなりました。

 

中村 確かに、そそられるおつまみがいっぱいあります! じゃあ天ぷらと、ポテトサラダと……。

 

長谷川 そしたらあとは、スパグラをお願いします!

 

中村 スパグラ? あ、壁に貼ってある「スパグラタン」のことですね!

 

長谷川 はい。スパゲッティ入りのグラタンで、こんがりとオーブンで焼くからちょっと時間がかかるんですけど、そのぶん絶品ですよ。Instagramでも大人気で、若い人もコレ目当てに訪れているみたいです。

 

中村 映えるってことですか。楽しみです!

 

創業時の70年前は酎ハイも刺身も30円だった

長谷川 女将さん、「伊勢周」という店名の由来って何から来てるんですか?

 

女将 お店を創業したおじいちゃん(初代の尾崎周平さん)が、亀戸の福神橋あたりにある「伊勢元」というお店で働いてたからです。修業先の「伊勢」に、自分の名前の「周」を付けて「伊勢周」にしたんですって。

 

長谷川 なるほど、やっぱり「伊勢元」が関係してたんだ! 江東区や江戸川区だけでも「伊勢元酒場」とか「大衆酒場 伊勢元」とか、何軒かありますからね。

 

女将 お父さんは高校生のころからこの「伊勢周」で働いていて、そのあと私がお見合いで新潟から昭和35(1960)年に嫁いできました。入口のところに、もう一枚写真がありますでしょ? あれは創業のころだからそれより前。左からおじいちゃん、お手伝いさん、おばあちゃんと並んでて、座ってるのがお父さんです。若いでしょ!

 

中村 きれいに撮れてますし、スゴくいい写真。あ、焼酎も刺身も煮込みも30円だったんだ!

 

長谷川 これは資料としても貴重ですよ。

 

女将 料理、お待たせしました。どうぞ召し上がってください。

 

中村 うわー! このポテサラ、スゴく豪華でボリュームもたっぷり!

 

長谷川 来ましたねー。これがまたウマいんですよ。

↑「ポテトサラダ」(450円)

 

中村 具材が盛りだくさんですね。珍しいところだと、かにかまに、シェル型のマカロニ。いろんな味が楽しめます。

 

長谷川 お次は天ぷらですね。こちらも人気メニューです。

↑「天ぷら盛り合わせ」(850円)

 

中村 わお! えびが2尾入ってて、豪華ですね~。これで850円はうれしい!

 

女将 ありがとうございます。お魚はお兄ちゃんが豊洲に行ったり、お付き合いのある魚屋さんで仕入れたりしているんですよ。

 

中村 ほかにはイワシ、いか、ししとう、まいたけですね。うん! お魚はふわふわで、いかはプリプリ。感激!

 

長谷川 お待ちかねのスパグラもやってきましたよ! フォークを入れてみてください。

 

中村 わっ、スゴ! チーズがたっぷりで伸びる伸びる! これは確かにフォトジェニックです。スパゲッティは、ナポリタンですか?

↑「スパグラタン」(700円)

 

長谷川 そうです。しかも作り置きじゃなくて、一から作ってくれるんですよ。それもおいしさのポイントです。

 

中村 こちらも具だくさんですね。ベーコン、玉ねぎ、えび、ソーセージが入っていて。でも、どうしてこのメニューができたんですか?

 

女将 あるとき常連さんに、スパゲッティとグラタンの両方を食べたいから一緒にしてってお願いされたんです。それでお兄ちゃんが作ってみたら、大好評で。

 

中村 うん、このメニューは洋食レストランでもあまりない組み合わせじゃないかな。それに、ホワイトソースがナポリタンとひとつになって、ヤミツキになるおいしさ! 天ぷらもそうでしたけど、専門店顔負けのクオリティです。

 

長谷川 質も量もハイレベルで価格もお手ごろ。長年愛されている理由のひとつなんでしょう。

 

中村 女将さん、創業時からのメニューで人気なのはどれですか?

 

女将 お酒はやっぱり「伊勢周ハイボール」。おつまみなら、煮込みや天ぷらですね。酎ハイの味はずっと変わってないです。炭酸も、根岸・宮岡商店の「ヤングホープ」を特注で強炭酸にしてもらってますし。煮込みのモツも変わらず、大腸と小腸とガツを亀戸の肉問屋さんから仕入れています。

 

中村 お酒も料理も多彩で絶品。お仕事中に飲みたくなってしまいませんか?

 

女将 ああ、うちはみんな下戸なんです。だからそこまで飲みたい気分にはならないんですよ。

 

長谷川 えっ、そうなんですか! 初めて知りました。

 

中村 意外ですけど、かえって話題性がありますね。

 

女将 私は接客が好きで、お父さんやお兄ちゃんは料理を作るのが好きだから、飲めない分それぞれの仕事に集中できていいんじゃないかしら。

 

長谷川 お酒のつくり手のなかにも、下戸ながら銘酒を生み出すプロフェッショナルはたくさんいますもんね。

 

中村 それに、お店の方が下戸であれば、お酒が弱い人でも安心して飲めますよね。お酒のことがよくわからない、二十歳になりたての人にもオススメの名酒場ってことだ!

 

L字型カウンターの作法と楽しみ方

中村 長谷川さん、今日は私が内側に座らせていただきましたが、普通は何度か通ってから座るべきなんですよね?

 

長谷川 内側はそうでしょうね。初めてでそっち側に行ける人は、かなりの度胸の持ち主でしょう。作法としては、最初はやっぱりお店の人に「どこの席なら大丈夫ですか?」と聞くといいと思います。ほかの席が空いていても、常連さんの定位置があったりしますから。おっ、そんな話をしていたら、常連さんがいらっしゃいましたね。

 

中村 ちょっとあいさつに行ってきます! ……初めまして、中村 優と申します。今日は取材を兼ねてお邪魔していまして。

 

常連さん そうなんだ! ゆっくりしてってね。まあ乾杯でもしましょうよ。

 

中村 ありがとうございます。ではカンパーイ! そういえば、いつもこの席に座ってらっしゃるんですか?

 

常連さん うん、基本的には厨房に近いカウンターの席が多いかな。内側に座ることもあるよ。

 

中村 そうなんですね。じゃあ次来た時にいらっしゃったら、また声かけさせてください!

 

常連さん うん! 待ってるよ。

 

中村 この雰囲気が大衆酒場の醍醐味ですね! そういえば、長谷川さんは何度か来られていると思うんですけど、ふだんはどの辺に座るんですか?

 

長谷川 いま座ってる角の席か、L字の長いほうの真ん中が僕は好きです。入口付近も全体が見渡せるので好きですよ。

 

中村 「伊勢周」さんは壁のお品書きが豊富だから、これが“借景”になりますよね。

↑お店の至るところにメニューが!

 

長谷川 まさにそう! 僕の場合、「伊勢周」ならお品書きを眺めているだけで20分は楽しめます。

 

中村 ここは内側があって個性的ですけど、L字型カウンターのお店は多いので、長谷川さんのアドバイスをもとに今度実践してみます。今日もいろいろ教えていただきありがとうございました!

 

長谷川 今日も楽しかったですね! 次の個性派カウンターの大衆酒場、どこに行くか考えておきます。

↑左から、二代目店主の尾崎成春さん、女将の貞子さん、中村さん、三代目の浩之さん

 

コの字カウンターに続きL字カウンターについても勉強した中村さん、次回はどんなカウンターと出合うのか? ご期待ください。

 

撮影/我妻慶一

 

<取材協力>

伊勢周

住所:東京都江戸川区松江3-3-4
営業時間:16:00~23:00
定休日:木曜日

※価格はすべて税込みです。

※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2022年2月22日)

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

 

 

「東京・大衆酒場の名店」バックナンバーはこちら▼

・第1回 【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

・第2回 【東京・大衆酒場の名店】初心者女子と楽しく学ぶ! 篠崎「大林」の魅力と「下町酒場の成り立ち」の噺

・第3回 【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺

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麦焼酎の歴史とつくりを知り、味わいを楽しむ噺

【意外と知らない焼酎の噺05】

日本酒と並ぶ日本の伝統的なお酒・焼酎。ただ、その製造方法などは、あまり詳しく知られていないかも。そこで、焼酎のいろはから専門的なコトまで、『古典酒場』の倉嶋紀和子編集長がナビゲーターとなって探っていきます。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。

 

第5回のテーマは、「本格焼酎とは何か<麦焼酎編>」。前回紹介した「芋焼酎」と肩を並べる人気の「麦焼酎」。その歴史や製造方法、味の特徴などについて深掘りしていきます。

 

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芋焼酎のつくり方を知り、味わいを楽しむ噺【意外と知らない焼酎の噺04】

 

●狩野卓也(右):酒文化研究所・代表取締役。洋酒メーカー勤務などを経て、1991年に同研究所を設立。1996年より現職。酒文化及び酒類ビジネスに関する調査研究や執筆、講演活動を行っている。著書に『酒と水の話-マザーウォーター』(紀伊国屋書店、同研究所編・共著)など。
●倉嶋紀和子(左):雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名

 

「麦焼酎」はどこで生まれた?

倉嶋 今回のテーマは麦焼酎ということで、まずはその歴史から教えてください。確か、長崎の壱岐島が発祥だと思うのですが、芋焼酎より歴史は古いんですよね。

 

狩野 はい。この企画の第1回「焼酎って何」で、いま私たちが目にしている焼酎が生まれたのは戦国時代(室町時代後半)という話をしましたよね。壱岐は大陸からの焼酎伝来ルートでもあり、壱岐焼酎の歴史は16世紀まで遡ります。芋焼酎は、原料であるさつまいもの伝来が17世紀ごろで、焼酎作りに使われるのはその後ですから、麦焼酎のほうが芋焼酎より歴史が古いと言えますね。

 

倉嶋 なるほど。焼酎の原料は大昔から栽培されていた麦や米が主流だったということですか。

 

狩野 そもそもは、米や麦をはじめ雑穀や酒粕などいろんなものから作られていました。米は年貢で納める高価な作物でしたから大変貴重です。そのため庶民が食べていたのは、米の裏作で作る麦や雑穀が中心でした。そして、壱岐は島ながら平野が広く米や麦といった穀物の一大産地でした。こういうバックボーンが麦焼酎のルーツの理由と考えられます。

 

倉島 なるほど。年貢の対象である米をお酒にするのは難しかったけど、麦なら可能だったと。それで、穀倉地帯の壱岐では麦焼酎が生まれたということですね。ちなみに、きび・あわ・ひえといった雑穀でも焼酎はつくれると思いますが、なぜ麦だったのでしょうか。

 

狩野 大きな理由として、雑穀は麦、芋、米などに比べてでんぷんが少ないからでしょう。でんぷんが少ないと発酵の効率が悪く、たくさんの量をつくりづらいですから。

 

 

倉島 なるほど、前回の芋焼酎の話にも通じますね。芋焼酎のさつまいもは、でんぷん含有量の多い品種が選ばれやすく、それが「黄金千貫(こがねせんがん)」だったと。麦と雑穀では、より効率的に焼酎をつくれる麦が選ばれたということですね。

 

狩野 最初は、農家が余った麦を持ち寄ったりして、自家醸造に近い状態でつくっていたのだと思います。「あそこの家はおいしい焼酎をつくれるらしいよ」といった感じで、各地に焼酎づくりの名人がいたんでしょうね。

 

倉島 自家醸造というと、どぶろく(米・麹・水が原料の濾過していない酒)に近いイメージです。

 

狩野 そういう牧歌的なつくり方が最後まで残っていたのは、東京都の島しょ部である青ヶ島の焼酎。ここでは芋や麦焼酎が作られていますが、昭和中期まではそんな形式でした。同島に法人化された酒蔵ができたのは1984年です。

 

倉島 平成になる数年前まで寄合で焼酎をつくっていたのですね。

 

狩野 いずれにせよ、焼酎の製法などが確立されていくなかで、九州を中心に焼酎蔵が誕生しました。明治末期には連続式蒸留が伝来して新式焼酎(現在の甲類焼酎の原型)が登場しますから、本格(乙類)焼酎である麦焼酎も、ひとつのカテゴリーとして確立されていったのです。

 

麦焼酎はどのようにつくられるのか

倉嶋 では、麦焼酎はどのようにつくられるのかを教えてください。

 

狩野 基本的には前回お話しした芋焼酎と大きな違いはありません。芋は水分が多いので傷みやすく、収穫後にすぐ下処理をしないといけませんが、麦は長期保存が利くため、比較的時季を問わずにつくれる点は特徴だと思います。これは米焼酎にも同じことがいえますね。

 

倉嶋 麦焼酎も、麹と水、酵母を混ぜて発酵させた一次もろみに、原料の麦を加えて発酵させた二次もろみを単式蒸留機で蒸留後、貯蔵、割水するという工程でつくられるわけですね。

 

●本格(乙類)焼酎の製造工程

 

狩野 ほかに麦焼酎の特徴を挙げるとすれば、「麦麹」がありますね。多くの芋焼酎には米麹が使われており、高度な技術が必要な芋麹を使用しているものは少数です。米焼酎や黒糖焼酎などにも米麹を使うのですが、麦焼酎には米麹のほかに麦麹を使うことがあるんです。

↑自動製麹機。麹菌を加えて麦麹をつくる

 

倉嶋 麦麹は、麦焼酎に使われる麹なんですね。

 

狩野 そうなんです。しかも興味深いのが、もうひとつの麦焼酎の名産地である大分では、多くの銘柄で麦麹を使うのですが、壱岐焼酎では使いません。壱岐では米麹を使うことが定義されているんです。

 

倉嶋 確かに、思い返してみるとそうだった気がします! でも、なぜ麦麹は大分の麦焼酎以外にあまり使われないのですか?

 

狩野 これは私の推測ですが、ひとつは技術的に麦麹をつくること、活用することが難しいということではないかなと。かたや米麹は日本酒で太古から全国で使われているので、ノウハウも文献もたくさんある。もうひとつは、でき上がりの味や香りが関係しているのだと思います。ちなみに、後述しますが、大分ではもともと麦麹を使う文化が発達していたので、焼酎にも麦麹が使われたのでしょう。

 

倉嶋 麦麹を使ったほうが、より麦らしい味わいになるということですか?

 

狩野 それが面白いところで、麦らしさという点では米麹の麦焼酎も負けてないと思います。ただ、麦麹を使うことで、米麹とはまた違った味や香りを生み出せるということでしょう。麦麹の麦焼酎も米麹の麦焼酎も、それぞれに麦らしい風味があるのですが、甘みや香ばしさに違いがある気がします。あと、麦100%の全量麦焼酎は、その響きだけでもおいしそうですよね。

 

倉嶋 はい。二大名産地の壱岐と大分との違いのひとつが麹というのも、より個性が際立って面白いと思います。

 

狩野 それぞれのストーリーがブランディングにもつながりますしね。

 

倉嶋 大分が焼酎の名産地になったのも、壱岐のように穀倉地域だからですか?

 

狩野 穀倉地域でもありますが、それ以上に前述の麦麹文化が大きいです。それに、大分が麦焼酎大国になるのは近年のこと。昭和26(1951)年に麦の統制撤廃が実施されて麦が自由に購入できるようになると、もともと麦麹で味噌や醤油をつくる文化があった大分では、焼酎用の麦麹の開発が始まったんです。

 

倉嶋 そうか! それで麦麹による100%麦焼酎が生まれ、大分の麦焼酎の特徴が先鋭化されていったということですね。

 

狩野 そして最初の100%麦焼酎は、昭和48(1973)年に誕生しました。焼酎の長い歴史の中でいうと、比較的最近ですよね。あとは「減圧蒸留」による軽快な味の麦焼酎がヒットしたことも、大分の麦焼酎を語る上で欠かせません。

 

倉嶋 なるほど。その軽快な味も1980年代の麦焼酎ブームに関係してるんですよね。

狩野 「常圧蒸留」と「減圧蒸留」についても、あらためておさらいしましょう。「常圧蒸留」は通常の気圧で行われる伝統的な蒸留法。100℃近い温度でもろみを蒸留するため、高温で生成される風味を豊かに引き出すことができ、しっかりした味わいの焼酎になります。
一方の「減圧蒸留」は、気圧が低い場所では低い温度で水が沸騰する原理と同じ原理を生かした蒸留法。蒸留機内の気圧を下げることにより40℃~ 50℃で蒸留できるため、常圧蒸留よりも高温で生成する成分が抑えられ、口当たりの軽やかな焼酎がつくれるんです。

 

 

倉嶋 減圧蒸留の技術はいつごろ開発されたんですか?

 

狩野 焼酎に応用されたのは1970年代だと思います。もともと減圧蒸留は、アルコール精製の技術として生まれたもの。お酒をつくるために開発された技術ではないんです。科学が進歩した結果、気圧を下げても爆発せず液体も焦げない高性能な蒸留機が生まれ、それですっきりとしたアルコールを取り出せるようになったということなんです。

 

倉嶋 そうやって軽やかな味わいの本格(乙類)焼酎が生まれたことで、東京などの都市圏でも本格焼酎が飲まれるようになったんですね。

 

狩野 だと思います。本格焼酎に飲み慣れていない東日本では、本格焼酎は風味がきつくて飲みにくいイメージがありました。でもライトな味わいの本格焼酎は飲みやすいということで、東京をはじめ全国でヒットしたのでしょう。

 

倉嶋 飲みやすさですか。飲み慣れてくると、風味の強さがむしろおいしいともいえますけどね。

 

狩野 飲みやすさやおいしさという点では、貯蔵・熟成した焼酎の再評価もエポックメイキングな出来事です。甕貯蔵や熟成は時間をかける製法なので、贅沢なつくり方ですよね。焼酎は手軽に飲める大衆のお酒として親しまれてきましたから、熟成焼酎は一般的にはポピュラーではなかったんです。

 

倉嶋 社会が豊かになったことで貯蔵・熟成焼酎を商品化する余裕が生まれ、消費者に浸透していったということですね。

 

狩野 おっしゃる通りです。味わいとしては甕や樽で寝かせると、まろやかになって飲みやすくなったり、コクや香りに深みが出て風味豊かになったりしますよね。

 

倉嶋 つくり手のほうも、意欲的に味の進化へ取り組んでいったと。

 

狩野 甲類焼酎に定期的なブームが起こっているように、本格(乙類)焼酎にも何回かブーム繰り返しながら飲まれるエリアを広げていったことも焼酎文化の継承や発展には欠かせません。伝統がいまでも残っているのは、飲み手がしっかり支持しているということでもありますね。

 

倉嶋 焼酎ブームについては本企画の第3回「甲類焼酎の飲み比べ」でも学びましたね。本格(乙類)焼酎ですと、1970年代のお湯割りブーム、1980年代の麦焼酎ブーム、2000年代の芋焼酎ブームがありますよね。

 

狩野 それぞれのブームが起こった時代に、そのブームをけん引するヒット商品があったというのも焼酎の特徴ですよね。そしてブームがあったからこそ、焼酎の味わいもどんどん進化・多様化していったのです。

 

麦焼酎を飲み比べてみる

倉嶋 こうして歴史やつくり方を振り返ると、やっぱり焼酎は面白いです。焼酎王国の九州のなかでも県によって特色が違いますし。

 

狩野 多くはその土地の風土が関係してるんですよね。鹿児島や宮崎南部はシラス台地で、さつまいもが名産だから「芋焼酎」。宮崎でも北部になると、「そばや雑穀の焼酎」もあって、米どころの熊本・球磨人吉は「米焼酎」。長崎・壱岐と大分は「麦焼酎」。ということで、今回のテーマである麦焼酎の飲み比べに移りましょう。

 

倉嶋 はい! ぜひぜひ。

 

狩野 まずは、麦焼酎発祥の地である、長崎・壱岐の麦焼酎です。

 

倉嶋 これは、麦の香ばしさと、ふくよかな甘みが感じられますね!

 

狩野 米麹由来の甘い香りと麦の香ばしい香りが同時にかぎ取れて濃厚な焼酎に感じられますね。壱岐焼酎は米麹1/3、大麦2/3という原料構成がルールづけられているためか、減圧蒸留ではあるものの、すっきりさわやかというより濃厚でしっかりという印象をうけます。

 

 

倉嶋 甘味がある濃醇な味だから、水割りや炭酸割りの方がより特徴が活かされておいしいかもしれないですね。炭酸割りは、意外にチョコレートケーキとの相性もよさそうです。

 

狩野 続いて、大分の麦焼酎「知心剣(しらしんけん)」。国産二条大麦を100%使用した、全量麦麹仕込の麦焼酎です。しかも麹づくりに使われる麹菌はコクや香り豊かな酒質になる黒麹で、独自の低温蒸留を用いていること、3年以上貯蔵熟成していることも特長です。

倉嶋 「しらしんけん」は大分の方言で「一生懸命」のことですよね。うん、甘みが印象的で、酸味やボディもしっかり感じますけど、バランスがよくて飲みやすいです。

 

狩野 香りからしてインパクトがありますね。壱岐焼酎のやわらかな甘みとはまた違う、香ばしい甘みを感じます。バランスのよさは、独自の低温蒸留や長期熟成も関係しているのかな。風味はしっかりしてますけど、スイスイ飲めます。

 

倉嶋 おいしいです! この麦チョコのような甘香ばしさが、大分の麦焼酎のひとつの魅力なのかもしれません。

↑本格麦焼酎「知心剣」

 

 

狩野 次はスタンダードな麦焼酎である「よかいち<麦>白麹仕込」。やさしくまろやかな酒質に仕上がる白麹菌を使用することに加え、コクの強いタイプやすっきりしたタイプなど数種の焼酎をブレンドした、調和のとれた味わいとなっています。

 

 

倉嶋 ああ、同じ麦焼酎でも「知心剣」とは香りから違ってこれまたイイ! 味もすっきりしていて、余韻には鋭いキレを感じます。

 

↑本格焼酎「よかいち」<麦>

 

狩野 いわゆる麦焼酎の定番ですよね。甘香ばしい麦のインパクトは「知心剣」より控えめで、でもコクやキレのバランスがよく、飲み飽きないおいしさです。

 

倉嶋 確かに、万人受けしそうな味ですね。

 

狩野 最後は「琥珀のよかいち」。樫(かし)樽でじっくり寝かせた樽熟成酒を100%使用し、豊かな香りとまろやかな口あたりに仕上げられています。使っている麹は淡麗な白麹(麦麹)で、減圧蒸留によるすっきりとした余韻も特長ですね。

 

↑本格焼酎「琥珀のよかいち」<麦>

 

倉嶋 おお、これは色からして熟成の貫禄を感じます。

 

狩野 うん。まろやかな口当たりと、樽香由来のリッチな風味。洋風な食事にも合いそうです。

 

倉嶋 先ほどのふたつの麦の甘みとは違う、大人な甘みが魅力ですね。

 

狩野 そう、ウイスキーのようなニュアンスがあって。とはいってもウイスキーとは明らかに違うんですよね。アルコール度数が低いというだけでなく、どこか繊細でまろやかで。

 

倉嶋 麹で仕込むと、このなんともいえない焼酎の和のニュアンスが出るんでしょうね。それに、料理に合わせてみると、相性の広さも感じます。飲み方を変えればその幅はより広がりますし。

 

狩野 こってりした味には特に合うと思います。九州の醤油を使った甘じょっぱい料理、たとえば豚の角煮などでしょうか。脂がのっていて味付けも濃厚ですが、麦焼酎ならしっかりマッチして油っこさも切ってくれます。

 

倉嶋 お湯割りなら温度帯でも調和しますから、理にかなった組み合わせですよね。馬刺しや魚の刺身ならロックでキリッと合わせたり、チキン南蛮や鶏天には炭酸割りを合わせてさっぱり楽しんだり。

 

狩野 蒸留酒である焼酎は糖質ゼロですから、食中酒にも最適ですよね。

 

倉嶋 うれしい限りですよね。でもだからといって飲み過ぎには気を付けないと。これからもお酒とはいい付き合いをしていきます!

 

 

前回の芋焼酎編と合わせ、本格焼酎の二大原料についてじっくり学んだ倉嶋さん。次回の「意外と知らない焼酎の噺」も、ぜひご期待ください。

 

<取材協力>

薩摩おごじょ

住所:東京都新宿区新宿3-10-3 B1F
営業時間:月〜土曜日17:00〜24:00
定休日:祝・日曜日

※営業時間等に関しましては、店舗にご確認ください(取材日:2022年2月18日)

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・知心剣
https://shirashinken.jp/

・本格焼酎「よかいち」麦
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/yokaichi/mugi/

・本格焼酎「琥珀のよかいち」麦
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/yokaichi/kohaku/

 

【意外と知らない焼酎の噺】バックナンバーはこちら▼

「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺【意外と知らない焼酎の噺01】
「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺 【意外と知らない焼酎の噺02】
いろんな「甲類焼酎」を飲み比べて味わいの違いを実感する噺【意外と知らない焼酎の噺03】
芋焼酎のつくり方を知り、味わいを楽しむ噺【意外と知らない焼酎の噺04】

 

 

 

芋焼酎のつくり方を知り、味わいを楽しむ噺

【意外と知らない焼酎の噺04】

日本酒と並ぶ日本の伝統的なお酒・焼酎。ただ、その製造方法などは、あまり詳しく知られていないかも。そこで、焼酎のいろはから専門的なコトまで、『古典酒場』の倉嶋紀和子編集長がナビゲーターとなって探っていきます。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。

 

甲類焼酎の味わいの違いを学んだ前回に続く第4回のテーマは、「本格焼酎とは何か<芋焼酎編>」。第1回「焼酎って何?」で講師を務めていただいた「酒文化研究所」の狩野卓也さんから、甲類焼酎との違いや芋焼酎のつくり方、原材料、味わいなどについて伺いました。

 

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●狩野卓也(左):酒文化研究所・代表取締役。洋酒メーカー勤務などを経て、1991年に同研究所を設立。1996年より現職。酒文化及び酒類ビジネスに関する調査研究や執筆、講演活動を行っている。著書に『酒と水の話-マザーウォーター』(紀伊国屋書店、同研究所編・共著)など。
●倉嶋紀和子(右):雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名

 

「本格(乙類)焼酎」とは?

倉嶋 今回もよろしくお願いします。テーマは「本格(乙類)焼酎」の芋焼酎ということで、おさらいも兼ねてまずは「甲類焼酎」と「本格(乙類)焼酎」の違いから。連続式蒸留機で蒸留したアルコール分36度未満の焼酎が「甲類焼酎」、単式蒸留機で蒸留したアルコール分45度以下の焼酎が「本格(乙類)焼酎」ですよね。

 

 

↑単式蒸留機

 

狩野 はい。大きく分けるとその2つで、両者を混ぜた「混和焼酎」もあります。歴史をたどると、昔から日本で伝統的につくられていたのが現在の本格(乙類)焼酎。やがて明治末期に、ヨーロッパから連続式蒸留機が渡来したことで新しいタイプの焼酎、つまり新式焼酎(現在の甲類焼酎の原型)がつくられるようになりました。

 

倉嶋 甲類焼酎と本格(乙類)焼酎の原料について、規定はあるのでしょうか?

 

狩野 酒税法では、「連続式蒸留焼酎(甲類焼酎)」と「単式蒸留焼酎(乙類焼酎)」それぞれについて、使用可能な原料が定められています。実は甲類焼酎でも本格(乙類)焼酎に使用される芋や麦などの原料を使用することはできるのですが、甲類焼酎は連続式蒸留によって純度を高めていくお酒なので、クリアな味わいになるサトウキビ糖蜜をベースに用いることがほとんど。そのうえで豊かな風味を付けるために、トウモロコシや麦などを原料に樽などで貯蔵した熟成酒をブレンドしたものもあります。

 

倉嶋 本格(乙類)焼酎で使用できる原料についてはどうですか?

 

狩野 本格(乙類)焼酎の主原料は、芋や麦、米、そば、黒糖、ごまなど、数が多いことは周知の通りですが、すべて酒税法で定められています。また本格(乙類)焼酎は、麹の原料に穀類か芋類を使わなければなりません。

 

●主な本格(乙類)焼酎

 

●本格(乙類)焼酎 原料別構成比

 

倉嶋 主原料については、それぞれ地域と密接につながっていますよね。沖縄の「泡盛」がタイ米ですし、奄美なら「黒糖焼酎」と、その土地ごとの特色があります。ちなみに、黒糖だけは奄美産のみ「焼酎」と認められ、それ以外の地域でつくった黒糖の蒸留酒はラムなど「スピリッツ」の扱いになるのはなぜですか。

 

狩野 そうですね。奄美群島は戦後数年間アメリカの統治下に置かれ、その際に特産品のサトウキビが本土へ輸出できず黒糖焼酎づくりが盛んになりました。しかし、日本に返還されると、黒糖原料ではスピリッツ扱いで、当時は税率が高くなるという酒税法の壁にぶつかりました。そこで、麹を使うことで奄美だけ特別に黒糖焼酎が認められたのです。

 

「芋焼酎」とはどんな焼酎なのか?

倉嶋 では、今回の本題である「芋焼酎」についてお願いします。芋焼酎はいつ頃からつくられるようになったのでしょうか?

 

狩野 ポイントはさつまいもの伝来です。諸説ありますが、日本に伝わったのは17世紀頃で、中国から琉球経由で現在の鹿児島に渡ったとか、薩摩藩の漁師が種芋を持ち帰ったと言われています。

 

倉嶋 それが薩摩の芋、つまり「さつまいも」と呼ばれるようになった由縁なんですね。鹿児島でさつまいも栽培が盛んになった理由には、地理的な条件も関係していますよね。

 

狩野 はい。火山灰などで形成されたシラス台地が多く分布する鹿児島は、稲作には不向きなのですが、さつまいもはやせた土地でも栽培できるのでうってつけでした。昔は飢饉も多かったでしょうから、重宝された食材だったと思います。加えて、アルコールは飲用される以前に軍需物資や薬品として欠かせませんでしたから、薩摩藩では芋を蒸留したアルコールの生産が行われるようになったのです。

 

↑シラス台地を作っている地層。シラスは噴火のときの火砕流や火山灰などが堆積したもの。 保水性に乏しく、やせた土壌のため農業生産性は低い

 

倉嶋 なるほど。それに、焼酎づくりはすでに九州で行われていたこともあって、鹿児島では自然と芋焼酎がつくられるようになったということですね。

 

狩野 でも、芋焼酎づくりは大変だったと思います。というのも、芋焼酎は製造がシビアなんです。

 

倉嶋 そうか! 芋は米や麦より水分や糖分が多いから腐りやすく、長期保存ができませんもんね。

 

狩野 そうなんです。では、あらためて芋焼酎の製造工程をおさらいしましょう。芋焼酎の原材料となる芋の選別と洗浄を行ったら下処理をして蒸し、細かく砕きます。次に麹と水、酵母を合わせて発酵させた「一次もろみ」に、原材料の芋と水を混ぜてさらに発酵させます。これが「二次もろみ」ですね。

次はいよいよ蒸留。本格(乙類)焼酎の場合は単式蒸留機で1回だけ蒸留し、この段階でアルコールは40度程度になります。次は雑味などを取るためのろ過を行いますが、なかには元の風味を生かすためにあえて無ろ過の焼酎もありますね。その後はタンクや甕で貯蔵をし、25度や20度といった各商品に適したアルコール度数に調整するために割り水をしてびん詰、出荷となります。

 

●本格(乙類)焼酎の製造工程

 

倉嶋 やっぱり芋は鮮度が重要ですから、基本的に収穫したらすぐに下処理してお酒にしないといけないですよね。芋の栽培時季の関係で、焼酎をつくれる期間も限られていますね。

 

↑原料芋の選別の様子

 

狩野 そうですね。栽培できる期間が短ければ生産量も少なくなり、希少品種を生むのかもしれません。芋焼酎は希少品種による限定銘柄も多いですから。

 

倉嶋 品種といえば、日本酒に酒造好適米があるように、芋焼酎には「黄金千貫(こがねせんがん)」を筆頭とした焼酎向けの品種のさつまいもがありますよね。それら品種は、焼酎にしたときにおいしくなる芋ということなのでしょうか?

 

↑黄金千貫

 

狩野 焼酎用の芋は、味だけでなく、生産効率が優れているという点でも選ばれているんです。例えば「黄金千貫」は、アルコール発酵に必要なでんぷんの含有量が豊富な品種です。ほかの品種と同じ量で仕込んだとしても、黄金千貫ならより多くの焼酎がつくれるんです。

 

倉嶋 「黄金千貫」以外ですと、「ジョイホワイト」や「シロユタカ」という品種のさつまいもを使われることが多いですか?

 

狩野 白芋の代表を挙げるとそうですね。また先ほど「焼酎にしたときにおいしくなる芋」とおっしゃいましたが、品種で味や香りの違いを出せるという点も見逃せません。そういった狙いもあって、食用でスーパーにも並ぶような「赤芋」や「紫芋」なども使われます。

 

↑赤芋

 

↑紫芋

 

倉嶋 「赤芋」や「紫芋」は限定品で多いイメージです。これらの芋で作られた焼酎は希少性も高いということでしょうか?

 

狩野 はい。最近は品種の違いによる差別化や多様化も進んでいますし、希少性を求める飲み手もいますから、いいことだと思います。

 

麹や製法の違いで生まれる様々な芋焼酎

倉嶋 では次に、麹のことを教えてください。もともと芋焼酎は「米麹」を使っていたんですよね?

 

狩野 そう、先ほど芋はデリケートという話をしましたが、麹に関しても同様で、芋はその硬さや水分量の多さから麹菌が根付きにくく麹づくりが極めて困難なため、芋焼酎に「芋麹」を使うという発想はなかったと思います。

麹をつくる麹菌にも歴史があって、明治時代頃まで、焼酎には日本酒や醤油などによく使われている「黄麹」が用いられていました。当時の南九州の芋焼酎は不味いうえ、暑い時期に腐りやすかったのですが、そこにイノベーションが起こり、より九州の気候に適した「黒麹」がつくられたんです。

 

倉嶋 なんと、九州の気候に適した麹菌ですか!?

 

狩野 「麹の神様」「近代焼酎の父」とも呼ばれる研究者・河内源一郎(※)の功績です。ヒントは、より南方の沖縄産の焼酎である泡盛にあって、その麹菌から胞子を採取して「黒麹」の分離に成功。「黒麹」は南九州の夏でも自らつくり出すクエン酸のおかげで腐敗しにくいうえ、コクや香りが豊かで、焼酎文化の飛躍に大きく貢献したんです。

 

※河内源一郎:1883年〜1948年。日本の官僚、科学者、実業家。 代々続く広島の醤油屋に生まれ、1910年に黒麹菌の培養に成功。14年後の24年に白麹菌の培養に成功し、焼酎の品質を飛躍的に向上させた。

 

倉嶋 なるほど! その後に登場したのが「白麹」ですね。

 

狩野 「白麹」も河内源一郎の研究の賜物でした。「黒麹」の突然変異で生まれ、雑菌の繁殖に強いうえ、「黒麹」より味はやさしくまろやか。こうして、「黒麹」と「白麹」が焼酎の主流となっていきました。まあ、「黒麹」の誕生は100年以上前なのでだいぶ昔ですけど。

 

倉嶋 焼酎づくりに使用される麹菌や麹には長い歴史があるんですね。麹について言えば、「米麹」はかなり昔から使われていたと思うのですが、「芋麹」はまだ新しいんですよね。

 

狩野 はい。「米麹」は奈良時代の記録にも登場しますが、1997年に誕生した「芋麹」の歴史はまだ浅く、できた当初は品質も思わしくありませんでした。以降、少しずつ技術は向上していますが、現在も「芋麹」の製造は非常に難しいとされています。事実、現在市場に出回っている芋焼酎の大半に、「芋麹」ではなく「米麹」が使われているんですよ。あまり知られてないのですが、麹まで芋の全量芋焼酎は希少なんですよね。

↑芋麹

 

倉嶋 2003年ごろには芋焼酎ブームがありましたし、そこでいっそう全量芋焼酎もクローズアップされましたよね。

 

狩野 そうですね。全量芋焼酎もそうですが、ブームによって様々なタイプの芋焼酎が日の目を見る好機となりました。例えば「甕(かめ)貯蔵」の芋焼酎とか。

 

↑芋焼酎を貯蔵する甕(かめ)

 

倉嶋 甕貯蔵焼酎もおいしいですよね! 甕の呼吸作用によって、よりまろやかな味わいになると聞いたことがあります。

 

狩野 甕貯蔵は昔ながらの製法ですが、芋焼酎のブームによって息を吹き返した印象があります。同じく甕を使う製法としては、甕で麹を仕込み、さつまいもと合わせて発酵させる「甕仕込み」もあります。

 

↑甕仕込み

 

倉嶋 甕仕込みは、甕を地中に埋めて仕込むので広い平屋のスペースが要りますし、手間もかかりますよね。

 

狩野 微生物の影響などを上手にコントロールする高い技術も必要ですしね。でもだからこそ、甕仕込みでしか出せない複雑味のあるおいしさが珍重されるのでしょう。

 

芋焼酎を飲み比べてみる

 

狩野 芋焼酎といっても、原料芋の品種や製法の違いで様々な種類があることをお話しましたが、それぞれ味の特徴は実際に飲み比べるとよりわかると思います。

 

倉嶋 はい! お待ちかねの飲み比べですね。よろしくお願いします!

 

狩野 まずは「黒甕」を飲んでみましょう。その名の通り、黒麹菌でつくった米麹を使用し、甕仕込みした芋焼酎です。

 

 

倉嶋 おいしい! さすがの香り高さで、力強い印象です。

 

狩野 これぞ黒麹といえる、ふくよかなボディとコク。わかりやすい芋焼酎のおいしさですね。

 

倉嶋 私は熊本出身ですけど、九州人にとってはどこか落ち着くというか。これぞ芋焼酎という堂々とした味わいだと思います。

 

狩野 良い意味での芋らしいクセがあって、この風味が芋焼酎の魅力ですよね。

 

倉嶋 おっしゃる通り! 味は洗練されているけど、懐かしさを覚える味。料理はそう…甘いお醤油を使った料理が欲しくなるおいしさで。

 

狩野 ああ、九州の甘い醤油ね! なるほど、確かに合うと思います。

次は全量芋焼酎の「一刻者(いっこもん)」です。技術的に難しい芋麹を使用している珍しさだけでなく、味わいの面でも芋100%ならではのおいしさを実現した名作です。

 

 

倉嶋 居酒屋でもおなじみの銘柄ですよね。うん、華やかな香りが素晴らしい!

 

狩野 ええ。すごくフルーティーな香り高さです。

 

 

倉嶋 風味とコクのバランスもよく、飲み口はすっきりでキレ味が抜群。上品な芋焼酎ですね。

 

狩野 全量芋焼酎といっても、芋らしさが伝わらないとまた飲みたいとは思わないですよね。その点「一刻者」はすごく納得できる、説得力のある豊かな芋の味と香り。では、同じ銘柄でも芋の品種が違うとどう変わるか比べてみましょう。次は「一刻者」〈赤〉です。

 

倉嶋 通常の「一刻者」の原料は白芋である黄金千貫で、「一刻者」〈赤〉は赤芋ですよね。

 

 

狩野 芋は南九州産の赤芋を使っています。違いはどうでしょう?

 

倉嶋 うわー! 香りに甘味があって、濃厚な感じです。先ほどの「一刻者」にも甘みを感じましたが、こちらはよりボリューミー。それでいて口当たりはまろやかで、やさしさも感じます。

 

狩野 うん。香りのよさはさすがですね。甘みとともにうまさの厚みを感じます。

 

倉嶋 どこか紅茶のようなニュアンスを感じます。茶葉の甘みのような。

 

狩野 なるほど、茶葉とはいい表現ですね。上品な甘みは紅茶に通じるかもしれないですね。

 

倉嶋 お湯割りにすると、より味がふくらむかも。焼酎を飲み慣れていない人にも、すごくなじみやすいと思います。

 

狩野 そうですね。「一刻者」〈赤〉はお湯割りにすると、甘みの個性がいっそう広がる気がします。

 

倉嶋 同じ芋焼酎でも、品種や麹でここまで味や香りが変わるのはすごく面白いです。最近ですと、ライチのような香りがする芋焼酎もありますし。どうやってあんなフルーティーな香味ができあがるんでしょうね?

 

狩野 特徴的な品種を使ったり、芋を熟成させたりと、意欲的な試みで新しい技術を採用していると思うのですが、工夫は様々でしょう。

 

倉嶋 フルーティー焼酎みたいな、新たな香りのトレンドが生まれているのかなぁ。かなり期待しています。

 

狩野 焼酎もここまで来たか!ってね。では、まさにそのフルーティーな焼酎としてうってつけの最新の芋焼酎を飲んでみましょう。発売されたばかりの銘柄で、その名は「ISAINA(イサイナ)」。“異才な”芋焼酎らしいですよ。まずはロックでいただきましょう。

 

 

倉嶋 ネーミングやデザインからして横文字のイメージで、新時代の到来を予感させますね。どれどれ…あっ!香りがすごく面白い。焼き芋のような感じがしますね。

 

狩野 嗅いだ瞬間はなんだか不思議ですよね? 芋だといわれればなるほどとも思いますが、果実のニュアンスも豊かですし。

 

倉嶋 味はどこか甘酸っぱさを思わせるフルーティーさを感じます。

 

狩野 炭酸で割ると、もっと果実のような香りが開きますよ。

 

倉嶋 ほんとだ! 炭酸割りだとまさにリンゴの香りですね。不思議と味がしまるうえ、凝縮感も出てきます。ロックで飲んだ時と全然ちがう!

 

狩野 飲み方でキャラクターがガラッと変わるのも面白いですよね。炭酸割りにも非常に適した味わいだと思います。

 

倉嶋 これは驚きです。私の知ってる芋焼酎ではないですね。新鮮!

 

狩野 そう。今までにない味だから、芋焼酎が好きな人でもインパクトのあるおいしさ。でも、だからこそ新しくて面白いんです。しかもこちら、麹まで芋で「芋100%」なんですよ。

 

倉嶋 へえ~「一刻者」と同じ、全量芋焼酎なんですね! でも同じ芋麹でも「一刻者」とは異なるフルーティー感で、「ISAINA」には、また新しいおいしさがあります。

 

 

狩野 ただ個性的な味わいというだけではなく、ちゃんとおいしさを追求している点はさすが。僕が「ISAINA」を飲むなら、食中は炭酸割りで、食後はロックやストレートかな。

 

倉嶋 私もそうですね。スパークリングワインのような華やかさと果実味があるけど、後口がすっきりでクイッといけて。飲み方を変えれば、より爽やかなジューシー感が楽しめます。

 

狩野 「ISAINA」は先日発売されたばかりですし、今年の芋焼酎業界における期待のルーキーですね。

 

倉嶋 はい、大注目の銘柄です!

 

本格(乙類)焼酎ブームの火付け役である芋焼酎。その大きな魅力は、原料芋の品種や製法などでキャラクターが多彩に広がる味と香りのバリエーションだといえるでしょう。次回は芋焼酎同様に、人気が高い本格焼酎<麦焼酎編>をお送りします。

 

 

<取材協力>

薩摩おごじょ

住所:東京都新宿区新宿3-10-3 B1F
営業時間:月〜土曜日17:00〜24:00
定休日:祝・日曜日

※営業時間等に関しましては、店舗にご確認ください(取材日:2022年2月18日)

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・全量芋焼酎「一刻者」・「一刻者」<赤>
https://www.ikkomon.jp/

・黒麹かめ仕込 本格芋焼酎「黒甕」
https://www.takarashuzo.co.jp/kodawarigura/kurokame/

・全量芋焼酎「ISAINA(イサイナ)」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/isaina/

 

【意外と知らない焼酎の噺】バックナンバーはこちら▼

「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺【意外と知らない焼酎の噺01】
「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺 【意外と知らない焼酎の噺02】
いろんな「甲類焼酎」を飲み比べて味わいの違いを実感する噺【意外と知らない焼酎の噺03】

いろんな「甲類焼酎」を飲み比べて味わいの違いを実感する噺

【意外と知らない焼酎の噺03】

日本酒と並ぶ日本の伝統的なお酒・焼酎。ただ、その製造方法などは、あまり詳しく知られていないかも。そこで、焼酎のいろはから専門的なコトまで、『古典酒場』の倉嶋紀和子編集長がナビゲーターとなって探っていきます。

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。

 

宝酒造の松戸工場で「甲類焼酎の製造方法」を学んだ前回に続く第3回のテーマは、「甲類焼酎の味わいの違い」。宝焼酎の商品開発担当者へのインタビューや飲み比べを行い、その奥深い世界に迫ります。

 

【酒噺のオススメ記事はコチラ】
「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺【意外と知らない焼酎の噺01】

「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺 【意外と知らない焼酎の噺02】

 

●倉嶋紀和子:雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名

 

「焼酎ブーム」はワインや洋酒ブーム後に起きている

倉嶋 今回のテーマは甲類焼酎の味わいということで、まずはどのようにして誕生し、幾多の焼酎ブームを経ていまに至るのかを教えてください。

 

高井 よろしくお願いします。倉嶋さんは以前、甲類焼酎(連続式蒸留焼酎)と乙類焼酎(単式蒸留焼酎/本格焼酎)の成り立ちなどについて触れられたと思いますが、改めて甲類焼酎の歴史からお話しますね。

↑高井晋理 宝酒造(株)商品第一部蒸留酒課長

 

倉嶋 はい。おさらいを兼ねて、よろしくお願いします。

 

高井 甲類焼酎の起源は明治末期の1910年。甲類焼酎の製造に欠かせない、連続式蒸留が1826年にスコットランドで発明されたのですが、やがてヨーロッパから日本へ伝わりました。そして連続式蒸留機によってつくられたアルコールに、酒粕を原料に蒸留した焼酎(粕取焼酎)をブレンドして風味を付けたのが、現在の甲類焼酎の原型である「日の本焼酎」です

 

倉嶋 確か、「日の本焼酎」は宝酒造の前身にあたる会社が販売してヒットさせたんですよね。

 

高井 そうです。1910年に愛媛県宇和島の日本酒精(株)が「日の本焼酎」を開発し、1912年に当社の前身である四方(よも)合名会社が関東における販売権を取得。そして「寶」の商標で発売して大ヒットしました。いまも宝焼酎のラベルが、その歴史を物語っています。

 

↑当時の「寶焼酎」のラベル

 

倉嶋 1912年といえば明治45年であり、大正元年。この焼酎は旧来の焼酎に対し「新式焼酎」とも呼ばれていたそうですが、実際に新時代の焼酎だったというわけですね。

 

高井 おっしゃる通りです。そして、1916年には四方合名会社が、その「新式焼酎」開発の功労者である大宮庫吉(おおみやくらきち)を招へいし、自社製造による新式焼酎「寶焼酎」を誕生させました。特に売れ行きがよかったエリアは東京です。くせの少ない軽快な味わいが、関東圏を中心とした都市生活者や旧来の焼酎の味に馴染めなかった人々に支持されたのではないかと言われています。寶焼酎は大正~昭和にかけて東京を中心に大ヒットし、戦後復興期の物資や食料不足が続くなかでは、大衆のお酒として重宝されました。

 

倉嶋 チューハイ(酎ハイ)の語源でもある、焼酎ハイボールが誕生するのもこの戦後復興期の東京の下町ですよね。

 

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【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺

 

高井 はい。焼酎ハイボールの誕生と普及は、当時の焼酎トレンドにおいても色濃く関係していますね。そして高度経済成長期を経て、以降の焼酎ブームには、ある法則がみられるようになります。

 

倉嶋 何でしょう、気になります!

 

高井 それは洋酒のブームが定期的に起こり、そのあとに「焼酎ブーム」が来ているということです。例えば1981年、1998年ごろにワインブームが起こったあと、それぞれチューハイブーム、本格(芋)焼酎ブームとなりました。

 

●近年のお酒のブーム

 

倉嶋 なるほど! 確かに近年でもハイボールやウイスキーのブームのあとに、レモンサワーブームで焼酎が脚光を浴びてますもんね。

 

高井 はい。もともとの健康志向の高まりに加えて、最近ではステイホームで外出も減っているので、糖質ゼロ・プリン体ゼロの焼酎を使ったレモンサワーが、家飲みでも重宝されています。

 

超高純度アルコールと樽貯蔵熟成酒がおいしさの要

倉嶋 歴史とブームの変遷を学んだところで、次は甲類焼酎の味わいについて詳しく教えてください。特に宝酒造の焼酎はラインアップが豊富で、それぞれ個性的な味わいですから興味深いです。

 

高井 当社は、ピュアなアルコールをつくれる設備と技術を持っていることが大前提としてあります。

 

倉嶋 ピュアなアルコールが、おいしさの絶対条件であると。

 

高井 そうですね。松戸工場の連続式蒸留機をご見学いただきましたが、十数本の蒸留塔を備え、最も高い塔は約35m、直径約2.5m、最多で60段もの棚段というスケールは日本最大級です。

↑松戸工場の連続式蒸留機

 

倉嶋 巨大な蒸留機のなかに、緻密な構造がいくつも設けられていると伺いました。

 

高井 はい。設計については独自の意向を細かく反映させており、どう運転させるか、組み合わせるかなど、ノウハウを含めていくつもの独自技術が採用されています。業界屈指の蒸留設備と技術があるからこそ、10億分の1レベルで不純物濃度をコントロールできるのです。

 

倉嶋 10億分の1ですか!

 

 

高井 蒸留されるアルコールの純度は99.99%以上(水を除くエタノールの純度)。不純物は渋味や辛さといった雑味につながり、この成分の濃度が低いことがデータでも明らかになっています。これが独自技術によるものであり、ベースのアルコールがピュアだからこそ、味にブレのない宝焼酎を開発できるのです。

 

倉嶋 ピュアでクリアだから、狙った味づくりがしやすいということですね。

 

高井 はい。この超高純度アルコールがあるからこそ、当社が長年培ってきたブレンド技術がより活きるのです。

 

倉嶋 なるほど。ブレンドによって商品ごとに品質の設計をしているんですね。

 

高井 先ほど「新式焼酎」のお話をしましたが、100年以上前は連続式蒸留機で蒸留したアルコールに加水し、酒粕を原料にした粕取焼酎をブレンドして製品化していました。クセのない軽快な口当たりやまろやかな芳香は、それまでの焼酎よりケタ違いにおいしいと大好評だったそうです。

 

 

倉嶋 今も昔も、おいしさと人気は比例しますよね。

 

高井 現在、当社ではサトウキビ糖蜜を原材料とするピュアなアルコールに、粕取焼酎ではなくトウモロコシや大麦などを原料に使用した熟成酒をブレンドしています。原材料はラベルにも明記されていますが、この樽貯蔵熟成酒も宝焼酎にとって欠かせません。

 

 

倉嶋 超高純度のアルコールと樽貯蔵熟成酒。それぞれをつくり、ブレンドする技術が宝焼酎のおいしさの要ということですね。この樽貯蔵熟成酒というものはどちらに貯蔵されているのですか。

 

高井 はい、宮崎の高鍋町に「黒壁蔵」という当社の工場があるのですが、そこの樽庫で貯蔵しています。現在、約85種類、約2万樽を保有しています。

 

倉嶋 宮崎・高鍋の蔵に2万樽も!

 

高井 今回、特別にベースのアルコールと樽貯蔵熟成酒を数種用意しました。香りや味わいを比べていただくと、個性や違いがよくわかると思います。どうぞ!

 

倉嶋 貴重な体験ですね! うれしいです。

 

テイスティングで甲類焼酎の多彩な味わいを実感

高井 まずはベースの違いから。蒸留前の「粗留アルコール」(※)と蒸留後の「高純度アルコール」とで、雑味がどうカットされているかを感じていただけたらと思い用意しました。飲用ではありませんので、香りを嗅いでチェックしてください。

 

※粗留アルコール:穀物、サトウキビ等を発酵させて蒸留したアルコール。現在は主に海外(ブラジル等)で生産されたものを輸入している。

 

倉嶋 あ、粗留アルコールのほうは、どこかエキゾチックな香りがしますね。想像したほどネガティブではないですが、パンチのある香りです。それに比べて蒸留後の高純度なアルコールは、元は同じアルコールなのに、ここまでクリアになるとは驚きです。

 

高井 蒸留の設備や技術が確かでないと高純度アルコールになりません。そして純度が高くないと、製品化した際に求める味わいになりません。品質を高め維持していくためにも、最高水準の蒸留設備と技術にこだわっていくことは欠かせないのです。

 

倉嶋 なるほど、先ほど高井さんがおっしゃった、ピュアなアルコールづくりの大切さがよくわかりました!

 

高井 では、次に樽貯蔵熟成酒を。一方はトウモロコシを原料にした、樽で1年貯蔵した熟成酒。もう一方はトウモロコシ、大麦などを原料に3年樽貯蔵した熟成酒です。こちらは口に含んでいただいて大丈夫ですので、ぜひ飲み比べてみてください。

↑トウモロコシ、大麦などを原料に3年樽貯蔵した熟成酒(左)。トウモロコシを原料にした、貯蔵1年の貯蔵熟成酒(右)

 

倉嶋 どちらも微かに、樽熟成による色が付いてますね。トウモロコシの方は、熟成期間が1年ですけど十分な厚みを感じます。これだけでもおいしく飲めますね。そして3年熟成の方は、いくつかの味が重なり合ったような印象。その中でもやっぱり麦感が豊かで、この膨らみがカギなんでしょうね。おいしいし、飲み続けたくなる味わいです!

 

高井 次に、樽貯蔵熟成酒がブレンドされると甲類焼酎の味にどう違いが出るかを飲み比べしてください。ご用意した焼酎のアルコール度数は25度なので、水で1:1に割って約12.5度に調整してあります。まずは何もブレンドしていない甲類焼酎からどうぞ。

↑ずらっと並んだ宝酒造の「甲類焼酎」。一番右のものが何もブレンドしていない甲類焼酎

 

倉嶋 待ってました! うん、ブレンド無しでもクリアでトゲがなく、すっきりした味わいですね!

 

高井 お次は定番の「宝焼酎」です。おいしさや飲みやすさを感じていただけるかと。

宝焼酎

 

 

倉嶋 おなじみの宝焼酎ですね。あ、でもこうして飲み比べるとより違いがわかります! さっきはしっかりしたボディをストレートに感じましたが、こちらはカドがまろやかになって、よりスムース。

 

高井 飲み慣れている味でも、比較するとわかりやすいですよね。では次に、樽貯蔵熟成酒を3%ブレンドした「極上<宝焼酎>」もお試しください。

↑樽貯蔵熟成酒を3%使用したひとクラス上の「極上<宝焼酎>」

 

倉嶋 わっ、リッチな香りをダイレクトに感じます。味もいっそうなめらかで、水で割るだけでもスイスイいけますね。

 

高井 ありがとうございます。こちらはひとクラス上の芳醇な味わいが好評です。ブレンド比率の違いによる奥深さを実感いただけたと思いますが、次はよりリッチな「純」をご賞味ください。こちらは11種類の樽貯蔵熟成酒を13%使用しています。

↑11種類の樽貯蔵熟成酒を13%の黄金比率でブレンドした、宝焼酎「純」

 

倉嶋 うん、舌の上をトゥルンとすべるようなまろやかさが印象的。余韻にバニラを思わせる甘みもありますかね。「純」も馴染み深いブランドですけど、じっくり味わうと改めて品質の高さを実感します。

 

高井 「純」をチューハイのベースにされるお店もありますから、倉嶋さんならよく召し上がってらっしゃるかもしれませんね。なお、ほのかな甘みの心地よさはまさに樽のニュアンスです。そして次は樽貯蔵熟成酒を20%使用した「レジェンド」。液体の琥珀色は焼酎の規格内の色度(しきど)になっています。

 

↑色付きの焼酎として代表的な銘柄が宝焼酎「レジェンド」。樽貯蔵熟成酒を20%使った深いコクと豊かな香りが魅力です

 

倉嶋 確かに「レジェンド」は色も特徴的です。「純」も13%使用でコク深いですが、色はクリアですよね。

 

高井 「純」の開発には、1974年にアメリカで起こったバーボンとウオッカの消費量の逆転現象である「ホワイトレボリューション」が関係しています。透明な蒸留酒のトレンドが日本に到来することを見据えて、1977年にデビューし大ヒットしました。そのため、「純」にブレンドする樽貯蔵熟成酒は、色をクリアにして、透明だけどコク深いおいしさをつくり上げたのです。一方、「レジェンド」は樽熟成による魅力と高級感をお届けすべく、1988年に誕生したブランドです。

 

倉嶋 背景を聞くと、それぞれのおいしさもいっそう染みわたりますね。では「レジェンド」もいただきます。おぉ~、これはウッディな樽香がふくよか。はちみつ的な甘い香りもあって、華やかなテイストです。どっしりとしていながらも、まろやかで飲みやすいですね。

 

高井 ありがとうございます。「レジェンド」は炭酸割り(ハイボール)もおいしいですし、ロックでじっくりとその味わいを楽しまれるお客様も多いと思います。

 

倉嶋 私はロックやストレートで飲むなら「レジェンド」ですね。「純」はいつものチューハイだけでなく、レモンサワーでも飲んでみたいと思いました。

 

高井 レモンサワーといえば宝焼酎「レモンサワー専用」もありますので、最後にこちらをどうぞ。樽貯蔵熟成酒を3%使っているほか、レモン系の香り成分を含むハーブを一部使用し、レモンの風味を引き立てる設計になっています。

↑レモンの風味を引き立てる、レモンサワーのために開発された宝焼酎「レモンサワー専用」

 

倉嶋 あ、これはまた清々しい香り。ストレートで飲んだだけですけど、どこか酸味を感じ、エスニック料理が食べたくなります。

 

高井 さすがですね。原料の一部にレモンマートルという柑橘系の香りを感じるハーブや、エスニック料理で多用されるコリアンダーシードも使用しているんです。

 

倉嶋 いろいろ飲み比べもさせていただきましたが、どれも個性があっておいしいです。このまま置いてあったらついどんどん飲んじゃいそう(笑)。割り方でも味が変わるので、改めて家でも試そうと思います。

 

高井 お酒好きの倉嶋さんにそう言っていただき、光栄です。甲類焼酎は本来、ピュアでクセがないからこそお茶などで割ったり、自分好みの度数に調整して楽しめるのが特長ですが、こういった味わいの違いによって様々な楽しみ方ができることも実感していただけて良かったです。

 

倉嶋 今日はすごく勉強になりました。ありがとうございました!

 

 

【意外と知らない焼酎の噺】第3回はここまで。宝焼酎のおいしさを左右する「樽貯蔵熟成酒」についても気になるところですが、次回の第4回は「甲類焼酎」から「本格焼酎」に切り替えてその魅力を探ります。

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

・極上<宝焼酎>
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/lineup/gokujo-takara-shochu.html

・宝焼酎「純」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

・宝焼酎「レジェンド」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/legend/

・宝焼酎「レモンサワー専用」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/lemonsour/

 

【意外と知らない焼酎の噺】バックナンバーはこちら▼

「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺【意外と知らない焼酎の噺01】

「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺 【意外と知らない焼酎の噺02】

 

「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺 

【意外と知らない焼酎の噺02】

日本酒と並ぶ日本の伝統的なお酒・焼酎。ただ、その製造方法などは、あまり詳しく知られていないかも。そこで、焼酎のいろはから専門的なコトまで、『古典酒場』の倉嶋紀和子編集長がナビゲーターとなって探っていきます。

 

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。

 

焼酎の定義や歴史を学んだ前回に続く第2回のテーマは「甲類焼酎のつくり方」。そこで、日本最大級の焼酎製造場である宝酒造の松戸工場(千葉県松戸市)を訪問。工場長へのインタビューと製造現場の見学を通して、甲類焼酎の魅力に迫ります。

 

【酒噺のオススメ記事はコチラ】
「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺【意外と知らない焼酎の噺01】

 

●倉嶋紀和子:雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名

 

↑宝酒造・松戸工場。全国に6か所ある宝酒造の製造拠点のうち最東の基幹工場で、主に東日本全域の商品供給を担っています

 

「醸造酒」と「蒸留酒」の違いとは?

倉嶋 本日はよろしくお願いします。今回は甲類焼酎のつくり方がテーマですが、まずは基本的なところで、醸造酒と蒸留酒の違いから教えてください。

 

森山 はい。「醸造酒」は、穀物や果実などの原料を酵母によりアルコール発酵させたお酒のことです。そして、この醸造酒を蒸留してつくるお酒が「蒸留酒」です。

↑森山龍士工場長

 

倉嶋 分類すると、日本酒、紹興酒、ビール、ワインなどが「醸造酒」。焼酎、ウイスキー、ブランデー、ウォッカなどが「蒸留酒」ですよね。

 

 

森山 はい。具体的なところは醸造酒からお話ししましょう。醸造酒のなかでも原始的なのはワインです。ぶどうを搾った液体を放置して、ぶどうの皮の酵母がぶどうの糖分を食べてアルコールに変えることで、ワインができ上がります。

ワインはぶどうの糖分が豊富なのでそのまま醸造できるのですが、日本酒やビールの場合は原料の米や麦が糖分が少ないので、そう単純にはいきません。そこで麹菌や麦芽を使ってでんぷんを糖に変え、その後酵母を加えて発酵させアルコールを含んだもろみ(発酵液)へと変えていきます

 

倉嶋 焼酎の場合も、まずは芋や麦などを発酵させてもろみをつくり、そのあと蒸留させるという工程ですよね。麹は米、麦、芋などが原料ですか。

 

森山 そうですね。原料と麹と水で液体をつくって、発酵させたもろみを蒸留機で沸騰させ、蒸発した気体を冷却することによってアルコール度数の高い液体ができあがります。こうして原料の風味やアルコールを凝縮させた蒸留酒が焼酎です。

 

●単式蒸留の仕組み

↑水とエタノール(アルコール)の沸点の差を利用する。水より沸点の低いエタノールが先に気化し、その気体を凝縮することでアルコール度数が高い液体が抽出できる

 

倉嶋 蒸留の際に、連続式蒸留機を使えば「甲類焼酎」に。単式蒸留機を使えば「本格(乙類)焼酎」になると。

 

森山 「連続式蒸留機」は蒸留塔にもろみを連続投入し、十数本の蒸留塔で蒸留を何度も繰り返すことで純度の高いいクリアな味になるのが特徴です。もろみには穀物のほか、さとうきびもよく用いられ、甲類焼酎はさとうきびの糖蜜が主原料となります。

一方の「単式蒸留機」は複数回蒸留する連続式蒸留機と違い、1工程における蒸留は1回。そのため、蒸留後の液体のアルコール度数もそこまで高くなりません。その分、素材の風味が生きた、個性的な焼酎がつくれるのも特徴で、もろみには米・麦などの穀類やさつまいものほか、そば、黒糖、ごまなど様々な原料が使われます。

 

●連続式蒸留機の仕組み

↑単式蒸留を繰り返すのと同じ効果が得られ、下段の蒸気が上段の液体を温め、またその液体が蒸気になってさらに上段の液体を温めていく。中央部から入れられた原料は、蒸気の熱によって低沸点成分であるエタノール(アルコール)と高沸点成分(水)に分離。気化した低沸点成分(エタノール)は上段にいき、液体のままの高沸点成分(水)は下段にいく。上段にいくほどエタノールが濃縮され純度が高くなる

 

倉嶋 そして、松戸工場のシンボルともいえるのが、あの大きな連続式蒸留機ですよね。改めて、甲類焼酎のつくり方も教えてください。

 

森山 主原料となるのは、さとうきび糖蜜等がベースの粗留アルコール(※)。こちらを連続式蒸留機の蒸留塔に供給し、蒸発、分縮、還流という作用によって純度の高い原料用アルコールを生成します。そしてこの高純度アルコールに割水(加水してアルコール度数を調整)し、精製することで一般的な甲類焼酎が完成となります。

 

※粗留アルコール:穀物、サトウキビ等を発酵させて蒸留したアルコール。現在は主に海外(ブラジル等)で生産されたものを輸入している。

 

倉嶋 このあと、蒸留塔も見学させていただけるとのことで、ワクワクしています。

 

国内最大級の蒸留塔は最大約35mの高さ!

↑十数本の蒸留塔を有する、松戸工場の巨大な連続式蒸留機

 

倉嶋 近くに来ると、いっそうすごい迫力ですね。

 

森山 最も高い塔は約35m、直径約2.5mあり、内部は最多で60段もの棚段に分かれています。日本最大級の連続式蒸留機だと思いますよ。内部をお見せするので、ついてきてください。

 

↑蒸留塔の中で森山工場長の説明を受ける倉嶋さん

 

 

倉嶋 管がひしめき合っていて、バルブの数も多いですね。先ほどおっしゃっていた、連続式の蒸留がこの塔の中で行われているんですか?

 

森山 はい。下段の蒸気が上段の液体を温め、またその液体が蒸気になってさらに上段の液体を温めます。こうして蒸留を繰り返すことで不純物を除きながら、最終的に純度99.99%以上(水を除くエタノールの純度)のピュアなアルコールをつくります

 

倉嶋 純度99.99%以上! 雑味がほぼ皆無だから、苦みや辛さといったトゲのないクリアなおいしさが生まれるんですね。

 

森山 そうなんです。では中身の製造工程の次は、詰口(充填)のエリアへ行きましょう。まずは「壜(びん)詰場」へ案内します。

 

↑広大な松戸工場内を徒歩で移動。工場内を縦横無尽にパイプが走っています

 

 

甲類焼酎の製造現場最前線へ!

倉嶋 こちらも広いですね!

 

森山 液体の種類や容器ごとにラインが分かれていて、焼酎のほかにもみりんと料理清酒のライン、ウイスキーのライン、一升びんのライン、紙パックのラインなどもあります。焼酎は360mlびんから4Lペットボトルまでがここで詰められています。

 

↑この日は大定番商品である「宝焼酎」の4Lペットボトルの詰口が行われていました

 

倉嶋 回転している機械がフィラー(容器に中身を詰める機械)ですか?

 

森山 そうです。いまご覧になっているフィラーは4Lのペットボトルに焼酎の中身を詰め、キャッピングしたら検査。その後ラベルを貼って、段ボールの箱に梱包する流れです。

 

 

↑「宝焼酎」4Lのペットボトルを持つ倉嶋さん

 

森山 次は缶の詰口ラインをお見せしましょう。

 

倉嶋 缶チューハイですか! 楽しみです!

 

人気のタカラ「焼酎ハイボール」の詰口ラインに潜入!

森山 缶の工程も、基本的にはびんと一緒。充填したら「巻締(まきじめ)」という手法で封をして、殺菌と検査、そして箱詰めします。いまは350mlの缶に充填しているのですが、500mlより容量が少ない分、満充填されるのが早いので、全体の動きもよりスピーディですね。

 

倉嶋 たしかに、ものすごいスピードですね!

↑高速で回転しているフィラー

 

森山 スピードが速いので、ずっと見ていると目が回るから気をつけてください(笑)。

 

倉嶋 ホントですね、いま流れているのはどの商品ですか?

 

森山 タカラ「焼酎ハイボール」のレモンですね。缶チューハイの場合は3~4倍の濃縮液と水と混ぜ、同時に炭酸ガスも充填します。

↑こちらは500mlの缶胴と缶ブタのサンプル。中身の充填後に「シーマ」という巻締機で密封します

 

倉嶋 その工程を、缶チューハイ用のフィラーで行っているんですね。

 

森山 はい。フィラーで充填したら巻締し、次は検査です。X線検査機で中身がしっかり入っているかをチェックしたら、パストライザーという装置で殺菌。その後、X線で再検査します。

 

倉嶋 X線検査は2回行うんですね。

 

森山 2回目は缶を上下逆さまにしたり、水を噴射して缶が通る空間を洗ったりしながら、異常や漏れなどがないかを隅々までチェックします。

 

倉嶋 そして最後は箱詰めですね。

 

森山 はい。詰めたら施設の隣にある物流センターへ運び、そこで保管します。蒸留とボトル・缶それぞれの詰口説明は以上となります。

 

倉嶋 製造現場を見学させていただいたことで、より焼酎をおいしく楽しめそうです。貴重な体験をありがとうございました!

 

松戸工場からお届けした【意外と知らない焼酎の噺】第2回はここまで。第3回は、焼酎の開発担当者から甲類焼酎の歴史や味の特徴を伺います。

 

※宝酒造・松戸工場では通常、工場見学は行っておりません。

 

【酒噺のオススメ記事はコチラ】
「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺【意外と知らない焼酎の噺01】

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

・タカラ「焼酎ハイボール」
https://shochu-hiball.jp/

 

【意外と知らない焼酎の噺】そもそも「焼酎」とは何なのか?

日本酒と並ぶ日本の伝統的なお酒・焼酎。ただ、その歴史やつくり方などは、あまり詳しく知られていないかも。そこで、焼酎のいろはから専門的なコトまで、『古典酒場』の倉嶋紀和子編集長がナビゲーターとなって探っていきます。

第1回のテーマは、ズバリ「焼酎とは?」。焼酎がカテゴライズされる蒸留酒の奥深い歴史にも触れながら、ルーツや定義などをご紹介していきます。講師は、あらゆるお酒に詳しい「酒文化研究所」の狩野卓也所長。倉嶋さんとの対談で、焼酎というお酒がどのようにして誕生し広まっていったのかを深掘りしました。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。

 

狩野卓也(左):酒文化研究所・代表取締役。洋酒メーカー勤務などを経て、1991年に同研究所を設立。1996年より現職。酒文化及び酒類ビジネスに関する調査研究や執筆、講演活動を行っている。著書に『酒と水の話-マザーウォーター』(紀伊国屋書店、同研究所編・共著)など。
倉嶋紀和子(右):雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名

 

「焼酎」とは基本的には「洋酒以外の蒸留酒」である

倉嶋 お久しぶりですね。本日はよろしくお願いします! 今日は焼酎の基本的なことをお伺いしたいのですが、そもそも焼酎とはどういうお酒のことを指すのでしょうか?

 

狩野 今回は歴史のこともお話しますが、大前提として、誕生当初の焼酎と、現在私たちが目にしている焼酎とでは少々違っている部分があります。「焼酎とは何ですか」という定義に関しては日本の酒税法による定めです。非常に幅広いですね。ざっくり言えば、アルコール含有物を蒸留したものがすべて焼酎。ただし、ウイスキーやラム、ジンなど、一般的に「洋酒」と呼ばれる蒸留酒は除きますし、使ってよい原材料をはじめ、アルコール度数や色にも規定があります。

 

●焼酎の定義

 

倉嶋 製法や飲み方というより、税率を区分するための定義であると。それもあるからか、原料でカテゴリーがわかれる洋酒と違って、焼酎は芋、米、麦、黒糖、そばなど種類が多彩ですよね。

 

狩野 洋酒と焼酎の違いを、「ウイスキー」と「麦焼酎」を例にして挙げるとすれば、一番は「の有無です。焼酎はまず、原料を発酵させて醸造酒のようなものをつくり、そこから蒸留を経て完成させますよね。この醸造酒が大麦ならビールのような液体からウイスキーへと蒸留されるのですが、発酵前の糖化に麦芽を使用すればウイスキー、麹を使用すれば麦焼酎へと分類されるのです。

 

倉嶋 ウイスキーなどの洋酒はその昔、税率が高かったんですよね。

 

狩野 はい。海外から入ってきたビールやウイスキーなどは贅沢品とみなされて、高い酒税がかけられていました。一方で、もともと広く飲まれていた焼酎は大衆のお酒。酒税が低いため、庶民でも買いやすかったので、飲み手と造り手の関係性も守られていたのです。ただし、そのぶん、アルコールの度数帯や色の濃さなど細かいルールが定められました。

 

倉嶋 なるほど、そういう過程があっていろいろと規定されているんですね。

 

↑色付きの焼酎として代表的な銘柄が宝焼酎「レジェンド」。樽貯蔵熟成酒を20%使った深いコクと豊かな香りが魅力です

 

ルーツはメソポタミア文明にあり、焼酎は戦国時代に生まれた!

狩野 焼酎におけるアルコール度数の規定は、連続式蒸留機による焼酎なら36度未満、単式蒸留機なら45度以下というものですが、蒸留機の違いも重要です。

 

●蒸留機の違いとアルコール度数の規定

 

倉嶋 焼酎は大きく分けると「連続式蒸留焼酎(甲類焼酎)」と「単式蒸留焼酎(乙類焼酎または本格焼酎)」の2つ。あとは両者を混ぜた「混和焼酎」ですよね。では改めて、焼酎の成り立ちから教えてください。

 

狩野 蒸留という技術でお酒がつくられ、焼酎をはじめとする広義の蒸留酒が誕生したのは紀元前。メソポタミア文明下で生まれ、やがて大陸を渡って日本にやってきたのは14~15世紀。伝来はシャム(タイ)~沖縄説(図表①)、ラオスから中国に伝わり倭寇(わこう。日本の海賊)が壱岐対馬に持ち帰った説(図表②)、そしてラオス、中国を経て朝鮮半島から壱岐対馬に伝わった説(図表③)と、時系列ははっきりしていませんが、これらのルートで伝来したと言われています。

 

●焼酎の日本への伝来ルート

 

倉嶋 なるほど。泡盛の主原料はタイ米ですもんね。一方、九州は中国経由で焼酎になったと。

 

狩野 はい。そこから、いま私たちが目にしている焼酎が生まれたのは戦国時代(室町時代後半)だと言われています。農民が庭先で作っていたようなお酒が原型ですね。「焼酎」という記述の最古は、永禄2年(1559年)のもの。織田信長と今川義元が戦った、桶狭間の戦いの前年です。

その記録があるのは、鹿児島県伊佐市の郡山八幡神社。大工の棟梁だと思われる人物が書いた落書きに「ここの施主は、ケチだから焼酎をふるまって(飲ませて)くれない」といった内容が記されているのです。これはつまり、庶民が焼酎を飲む文化がこの時代にあったということ。まさか、悪口が歴史的記録になるとは夢にも思わなかったでしょう。

 

倉嶋 素敵な落書きですね(笑)。ちなみに鹿児島とはいえ、この時代はまだ芋焼酎ではないですよね?

 

狩野 そうですね。さつまいもの伝来は1600年ごろですし、米も当時は貴重でしたから、この焼酎の主な原料は、きびやあわなどの雑穀ではないかと言われています。そしてもうひとつ、当時すでに存在していたのが「粕取り焼酎」。

 

倉嶋 あっ、酒粕由来の「粕取り焼酎」。俗にいう、戦後の貧しい時代に闇市などで売られていた「カストリ(焼酎)」とは違うんですよね?

 

狩野 ええ。そこはかなり重要な部分です。もともと「粕取り焼酎」は、酒粕からアルコール分を除去して、良質な肥料を作る過程でできた焼酎と考えられていて、九州でも南部に比べて稲作が盛んな北部の農村地では田植え期に肥料を作るため、酒粕の蒸留が行われるようになりました。一方で「カストリ(焼酎)」のカスは、それこそ「残りカス」という意味です。

 

倉嶋 「カストリ(焼酎)」は密造酒と言われてますもんね。「酒になるものならなんでもいいからつくっちゃえ」的な。味も粗悪だったことから、この時代「(粕取り)焼酎」にネガティブなイメージが付いてしまったと。

 

狩野 呼び方が一緒なのでイメージを大きく傷つけられてしまったのです。正しくつくられた「粕取り焼酎」は酒粕由来の香りが特徴で、いまも九州北部を中心に根強いファンがいるんですよ。

 

連続式蒸留焼酎(甲類焼酎)は明治末期に誕生した

倉嶋 では、先ほどおっしゃっていた「連続式蒸留焼酎(甲類焼酎)」と「単式蒸留焼酎(乙類焼酎または本格焼酎)」、それぞれの歴史を詳しく知りたいです。

 

狩野 製法でお話しすると、伝統的なのは単式蒸留。単式とはいわば単発型の蒸留方式ということですから蒸留は1回で、アルコール度数もそこまで高くはなりません。

一方の連続式蒸留は、1826年にスコットランドで連続式蒸留機とともに発明された製法。1回で連続的に(連続して多段階の)蒸留が行えるため、アルコール度数の高い蒸留酒がつくりやすいことも特徴です。

 

倉嶋 「単式蒸留焼酎」は原材料の風味が香る個性豊かなテイストで、乙類焼酎本格焼酎と言われるもの(以降は本格焼酎と呼ぶ)。そして「連続式蒸留焼酎」は、雑味がなくピュアで炭酸水や果汁などで割って飲むことにも適した甲類焼酎(以降は甲類焼酎と呼ぶ)。その昔は、「新式焼酎」とも呼ばれていたものですよね。

 

狩野 はい。連続式蒸留はヨーロッパから日本へ伝わり、国内初の新式焼酎は明治末期の1910年に愛媛県宇和島の日本酒精(株)が開発した「日の本焼酎」が最初の商品ですね。1912年には宝酒造の前身である四方合名会社が、この「日の本焼酎」の関東における販売権を取得し、「寶」の商標で発売して大ヒットさせました。

 

↑日の本焼酎の看板

 

倉嶋 「日の本焼酎」は「宝焼酎」の原型ってことですよね。

 

狩野 そうです。四方合名会社はその後、「日の本焼酎」の開発者を招へいして大正初期の1916年に自社製造を始めています。また、連続式蒸留焼酎は関東で人気となったことも関係してか、地域で分けると概ね東日本で多く飲まれているのは甲類焼酎、西日本では本格(乙類)焼酎です。

 

倉嶋 特に九州や沖縄では、今でも本格焼酎が主流ですもんね。老舗の焼酎蔵も多いですし。

 

狩野 酒税も、既存の蔵元を守るために本格(乙類)焼酎のほうが安かった時代(2000年10月より甲類・乙類同額になる)もありますね。

 

飲み方はお湯割りや水割りが主流。酎ハイは戦後に生まれ広がった

倉嶋 では、焼酎はどのように飲まれ、どのようにして今のようなスタイルへと広がっていったのでしょうか?

 

狩野 確かな記録が残っているわけではないのですが、昔から九州で最も主流な飲み方はお湯割りや水割りだという説が濃厚です。九州の方はお酒に強いイメージがありますけど、それでも25%や30%など、アルコール度数が高いお酒をそのままで飲み続けるのはつらいですよね。私の長年のフィールドワークによる感覚値でも、焼酎と水を5対5や6対4で割って飲む方のほうが多い印象です。

 

倉嶋 九州では前割り(あらかじめ焼酎と水を混ぜ合わせてなじませる)文化も日常的ですもんね。

 

狩野 そういえば、倉嶋さんは熊本出身ですよね。ただ例外として、アメリカ人民俗学者の調査によると、熊本県南部の人吉球磨(ひとよしくま)エリア(稲作が盛んで、米でつくる「球磨焼酎」が有名)では、米焼酎をストレートで飲む文化もあるそうです。

 

倉嶋 人吉球磨ですか! あそこは熊本屈指の酒処。さすがです。

 

狩野 私も実際に現地へ行って、よく見たのは米焼酎のストレートを燗にしてコップで飲むスタイルです。それにならって飲んでみると、アルコール度数は高くても案外飲めちゃうんですよ。米由来で味がすっきりしているから、というのも関係している気がします。

 

倉嶋 球磨焼酎は飲みやすさも魅力ですからね。

 

狩野 まあ、人吉球磨は例外として、昔から主流なのはやはりお湯割りや水割り。その後、戦後に流通の発達や冷凍庫の普及によってオンザロックや炭酸割りが広まっていきました。なかでも、炭酸割りから生まれた「焼酎ハイボール」は革命的。つまり「酎ハイ」の誕生ですね。

 

倉嶋 以前、東京墨田区の「三祐酒場」さんの記事で紹介されていました。戦後間もない1951年に「ウイスキーハイボール」の味に感銘を受けて「焼酎ハイボール」を開発したと。

 

狩野 はい。そして今では多くの酎ハイにレモンが入っていると思うのですが、これはレモンの関税が戦後徐々に安くなっていったからだと思います。

 

倉嶋 当時はまだまだ贅沢品だったレモンを酎ハイに浮かべることで、高級なイメージを狙ったというわけですね。

 

【酒噺のオススメ記事はコチラ】
【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺

 

狩野 そして焼酎ハイボールに欠かせないのが、連続式蒸留機でつくられる「甲類焼酎」。これも昔は無色透明でピュアなタイプが多かったと思います。ただその後、メーカーの技術進化があり、ピュアで味わいのある甲類焼酎も出現してきました。

 

倉嶋 1974年にアメリカで起こったバーボンとウオッカの消費量逆転現象「ホワイトレボリューション」がひとつのきっかけですよね。日本では宝焼酎「純」をはじめとする、ボトルも洗練された新しいタイプの甲類焼酎がヒットした時代です。

 

↑11種類の樽貯蔵熟成酒を13%の黄金比率でブレンドした、宝焼酎「純」は1977年にデビューして大ヒット。その後、1988年には宝焼酎「レジェンド」が誕生します

 

狩野 そう。「純」のヒットなどをきっかけに、ニュータイプの甲類焼酎が若い世代に人気になったのは同時期の昭和50年代でしょう。その後、昭和から平成にかけてカクテルのブームや居酒屋チェーンの台頭などによって酎ハイなど飲み方も多様化し、ウーロン茶割りや梅干しを入れる飲み方も広まったのです。

 

倉嶋 そして2003年には本格焼酎がブームとなり、また時を同じくして大衆酒場に脚光が当たるとともに、再び酎ハイも人気に。近年ではレモンサワーのブームで甲類焼酎が好調ですし、やっぱり焼酎の歴史は奥が深いですね。改めて勉強させていただき、今日はありがとうございました!

 

今回はここまで。次回は甲類焼酎の製造現場を訪れ、「焼酎ができるまで」をテーマに倉嶋さんが工場長に話を伺います。

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎「レジェンド」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/legend/

・宝焼酎「純」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

作家・坂井希久子に聞く「時代小説」と「酒」のうまい噺——今も昔も変わらない、人情を輝かせるお酒の魅力とは?

「おいでなさいまし」。

作家・坂井希久子さんが描く、時代小説『居酒屋ぜんや』シリーズ(角川春樹事務所・刊)の主人公・お妙は、こんな風に私たちを出迎えてくれます。今回は、神田にある老舗の居酒屋「みますや」で江戸時代に思いを馳せながら、ほろ酔い気分で時代小説と酒のうまい噺に耳を傾けます。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。

 

●坂井希久子(さかい・きくこ)/1977年、和歌山県生まれ。 2008年「虫のいどころ」でオール讀物新人賞を受賞。 17年『ほかほか蕗(ふき)ご飯 居酒屋ぜんや』で歴史時代作家クラブ賞新人賞を受賞

 

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江戸時代のお酒事情の噺

 

美人女将が切り盛りする江戸の酒場『居酒屋ぜんや』シリーズとは?

↑『居酒屋ぜんや』シリーズ。「さくさく」「ふうふう」「ほろほろ」などの擬音語がどれも素敵で、読めばお酒と料理が欲しくなる

 

江戸時代の神田を舞台に、旦那が遺した居酒屋ぜんやを継ぐ美人女将・お妙と、家督を継げない武家の次男坊で鶯(うぐいす)の鳴きつけ(鶯に鳴き方を教えること)を生業にする林只次郎が織りなす時代小説『居酒屋ぜんや』シリーズ。

 

本作は、角川春樹社長から直々に「美人女将が出てくる時代小説を、10作品のシリーズで書いてほしい」と依頼され、2016年6月に『ほかほか蕗ごはん』を発売。2021年4月の『さらさら鮭茶漬け』でシリーズ10作品が完結。 現在は新シリーズ『花暦 居酒屋ぜんや』がスタートしています。

 

シリーズのタイトルは全て料理の名前で統一。表紙にはお妙が作る旬の食材を使った料理の数々が色鮮やかに描かれています。

 

坂井さんはどんな思いで『居酒屋ぜんや』シリーズを執筆されたのでしょうか?

 

「初めての時代小説、初めてのシリーズ本だったので、急いで江戸時代の資料をかき集めて、もう必死でした。1冊書き終えた時には、全身にじん麻疹を発症して3日間寝込んでしまったんです(笑)。江戸後期の風俗誌『守貞漫稿』や江戸時代の料理本を読んだり、深川江戸資料館(2022年7月まで改修工事中)にも足を運んだりしながら、お妙さんならどんな料理を作るのかしら? と、考え書き進めていきました。主人公のお妙さんも、最初は癒し系の美人女将でしたが、癒してばかりの女もなぁ……と少しずつ、我の強さが出てくるようになりましたね」。

 

個性豊かな『居酒屋ぜんや』の登場人物たちは、構想中の坂井さんの頭の中で勝手に動き始めるそうで、物語に誰を出すか迷っていると、キャラクターたちから「私はどうです?」と寄ってきてくれるのだとか。そういうキャラクターだからこそ、坂井さんも「お妙さんならこの食材をこうアレンジするはず」というように、次々と料理のアイデアが湧いてくるそうです。

 

料理はもちろん、恋模様や物語を覆う大きな謎と、いろいろな読み方が楽しめる『居酒屋ぜんや』シリーズ。多くのファンを獲得していますが、ひとくちにファンといってもいろんな方たちがいるようです。

 

↑坂井さんの独特な優しいトーンの関西弁は、わたしたちをほっこりした気持ちにしてくれます

 

「お陰様でたくさんのファンの方に支えられていまして、『もっと料理のシーンを増やして!』『はやく二人の恋愛を進展させて!』『恋愛はいいから、謎を解いてくれ〜』と読む人によっていただく感想が様々で、書いている私としても面白かったです。新しいシリーズでは、若い世代のお花ちゃん、そして熊吉を中心に話が展開されると思うので、登場人物たちがどんな動きを見せてくれるのか私自身も楽しみなんです」。

 

「時代小説」と「酒」の今も昔も変わらぬ、おいしい関係

シリーズ第1作から居酒屋ぜんやでは、「置き徳利」という今でいうところのボトルキープのような制度が登場します。

 

只次郎の頭についに妙案がひらめいた。
「そうだ、お妙さん。置き徳利という制度を作ってみませんか」
「はぁ。なんでしょうか、それは」
酒屋の通い徳利*を元に考えついた案である。客は一升なり五合なりの徳利で、先に酒を買ってしまうのだ。まとめ買いをするぶん、値は少し下げてやるといいだろう。その徳利を、店で預かっておくのである。

(『ほかほか蕗ごはん 「冬の蝶」 』より引用)

*通い徳利:酒屋が貸し出していた陶磁製の小売用容器

 

これは当時「日本初のボトルキープをぜんやでやりませんか?」という編集者の提案から実現されたものだとか。

 

↑「みますや」に来たらぜひ食べてほしい、あつあつの「柳川なべ」(1000円)

 

↑「こんにゃく田楽」(500円)

 

坂井さんは「お酒はそんなに強くない」とおっしゃっていましたが、みますやの料理に促されどんどんお酒が進みます。普段はどんなお酒を楽しんでいるのでしょうか?

 

「好きなのは日本酒。辛口や甘口など何を飲んでも美味しいんですよね。昔は、甘いカクテルとかを飲んでいたんですけど、秋刀魚の肝を食べられるようになったあたりから日本酒が美味しいなぁと感じるようになりました。そこからは、居酒屋でもお家でも、晩酌程度ですがお酒を楽しんでいます」。

 

 

「もうなくなってしまった居酒屋なのですが、 お店で厚揚げを揚げているところがあって。揚げたての厚揚げに、葱と鰹節に生姜、醤油をちょっとかけるだけで絶品でした。和洋中どれがいい、このお酒がないとダメなんて自分の中にルールはなくて、看板メニューじゃなくても。ちょっとした料理を美味しく楽しめるそんな居酒屋が好きですね」。

 

『居酒屋ぜんや』シリーズでお妙さんが作る料理も、坂井さんが好む“ちょっとしたもの”が続々と登場します。

 

冬だからこそ、青菜は欠かしたくないところ。沸騰した湯に小松菜と春菊をサッと放つ。
茹で上がってから、これだけでは口当たりが物足りないと、葱を細く切って軽く湯通ししたものを加えてみた。
少量の醤油で醤油洗いをし、生姜汁と味醂を回しかければーー。
「うん、美味しい」
味見をして、満足げに頷いた。

(『ほかほか蕗ご飯 「六花」』より引用)

 

ご自宅でも晩酌を楽しまれるという坂井さん。どんな肴とお酒を楽しんでいるのでしょうか?

 

「春菊が大好物なので、この時期は生の春菊とカリカリに炒めたベーコンをオリーブオイルと塩胡椒で合わせたものをつまみに、日本酒をいただきます。あとは柿のマリネと合わせたサラダや、白和えもいいですよね。寒い日には、お鍋をつまみに、夫と少量の日本酒を1本空けるくらいの程度ですが、晩酌していますよ」。

 

↑『居酒屋ぜんや』のお妙さんのように、ちろりで燗した日本酒を坂井さんがお酌してくれました

 

お話を伺っていると、和服を着た坂井さんが『居酒屋ぜんや』のお妙に見えてきました。お酌をしてもらって、少しずつ空気も温かく感じられるようになったところで、おすすめの時代小説をご紹介いただきました。

 

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蕎麦屋で粋に一献“蕎麦屋飲み”の噺

 

坂井希久子が厳選!
今読みたい、お酒と共に楽しむ時代小説3選

時代小説と聞くと、侍同士の切った張ったや大名家の陰謀を暴くなど、渋いイメージがありました。しかし、最近は女性の書き手も増えて、小説ビギナーや読書好きな若い女性たちが気軽に手に取れる作品も多く出てきています。

 

今回は、坂井さんが厳選した、今読んでおきたい時代小説を3冊と、その時代小説に合うお酒をご紹介いただきました。

 

『かすてぼうろ〜越前台所衆 於くらの覚書〜』武川 佑・著

関ヶ原前夜、田舎育ちの主人公・於(お)くら(13歳)は、越前府中城の台所衆として働くことに。出会いと別れを繰り返し、乱世の中成長していく主人公。おいしそうな料理と真っ直ぐな於くらの思いが心を揺るがす時代グルメ絵巻。

戦国時代が終わって、江戸時代になったくらいのまだまだ料理方法が少ない時代の料理が描かれています。この時代で料理ものが来たか! と驚きましたが、最終的には家康公まで出てきます。江戸時代初期なので、日本酒の「にごり酒」などが合うかなと思いセレクトしました

 

『よろず屋お市 深川事件帖』誉田 龍一・著

幼いころに両親を亡くし、腕利きの岡っ引きだった万七に引き取られた主人公のお市。万七はよろず屋に身を転じるが、ある日、不審な死を遂げ、お市が稼業を継ぐことに。江戸の私立探偵お市が活躍する『よろず屋お市』シリーズだったが、2020年3月、著者の誉田 龍一さんがこの世を去られたため、物語が完結しないまま終了となってしまった。

このシリーズ本当に良くて……もっと続きが読みたかったです。寡黙なお市ちゃんが本当に恰好よくて、ハードボイルドな時代小説になっています。この粋な恰好よさには、辛口の日本酒もいいけれど、ウイスキーやハイボールも似合うと思いますよ

 

『大江戸少女カゲキ団』中島 要・著

江戸・両国を舞台に、身分を隠しながら仲間と共に娘一座「少女カゲキ団」を結成した主人公の芹(せり)。身分制度が厳しい江戸時代に、必死に夢を追いかけ芝居に情熱を注ぐ少女たちを描いた時代小説。夢に向かうひたむきさは、昔も今も変わらないのだと、主人公たちと同世代の女性たちはもちろん、夢を忘れかけた大人も心揺さぶられるシリーズだ。

江戸時代に宝塚のようなカゲキ団があったらという想定で描かれた時代小説です。登場人物の女の子たちがすごく可愛くて楽しい。まだ時代小説を読んだことのない女性が初めて読むのにもおすすめですね。お酒も「澪」のような少し甘めのスパークリングの日本酒でほんのり酔えば、そんな雰囲気を楽しめると思います

 

『居酒屋ぜんや』も時代小説界に明るい光を取り入れ、読者層を広げたシリーズのひとつ。これから時代小説を読んでみたい、新しい読書体験を楽しみたいという方にもおすすめです。小説片手に一杯やれば、『居酒屋ぜんや』の常連客のひとりになった気分を味わえるはず。今も昔も変わらない人情に触れ、心から温まることができるでしょう。

 

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「落語」と「酒」の美味しい関係の噺—お酒大好き! 料理も得意! 実力派・橘家文蔵が選ぶお酒が楽しくなる落語4選

 

<取材協力>

みますや

住所:東京都千代田区神田司町2-15-2
営業時間:月〜土曜日11:30〜13:30/17:00〜22:30(ラストオーダー22:20)
定休日:祝・日曜日

※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にご確認ください(取材日:2021年11月30日)

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・松竹梅白壁蔵「澪」スパークリング清酒

http://shirakabegura-mio.jp/

【東京・大衆酒場の名店】門前仲町「だるま」で、コの字カウンター劇場を堪能する噺

東京にある大衆酒場の名店を巡る企画の第6回。今回は門前仲町の「だるま」を訪れ、その魅力を探っていきます。

大衆酒場は、その安さとウマさ、昔ながらの温かい雰囲気で、酒飲みの心をひきつけてやみません。なかでも東京では下町を中心に、根強い人気を誇る大衆酒場の名店が数多く存在します。そんな名店を巡り、お店の魅力と東京ならではの酒文化を深掘りしていくのが本連載。立石「宇ち多゛(うちだ)」篠崎「大林」京成曳舟「三祐酒場(さんゆうさかば) 八広(やひろ)店」八広「亀屋」四つ木「ゑびす」に続く第6回は、門前仲町の「だるま」にお邪魔します。

 

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

 

チューハイを注文すると「いっぱ〜つ」の掛け声が!

地下鉄東西線・都営大江戸線「門前仲町駅」から徒歩約3分の場所にあるのが、今回訪れる「だるま」です。創業は昭和46(1971)年とのことで、ちょうど50周年を迎えました。同店の魅力のひとつに二代目の美人姉妹が生み出す居心地のよさがあり、その雰囲気作りに一役買っているのがコの字型のカウンターです。

 

そこでナビゲーターにお招きしたのが、前回カウンターの賢人として登場した長谷川和之さん。生徒役にはこれまで同様、お酒好きのタレント・中村 優さんとのコンビで「だるま」とカウンター酒場の魅力を掘り下げていきます。

↑中村 優さん(左)は、タレントおよびマラソンランナーとして活躍。長谷川和之さん(右)の本業は編集者で、酒場のほか旅や温泉、鉄道など様々なジャンルに精通しています

 

長谷川 いやあ中村さん、なかなか一緒に酒場に行けず、お久しぶりですねー。まずは注文しましょう!!

 

中村 はい! 今日も楽しみにしていました。よろしくお願いします! お酒はどうしましょうか?

 

長谷川 やっぱりチューハイです。ここはね、注文すると店員さんがちょっとユニークな受け答えをしてくれるんですよ。試しにオーダーしてみますね。「すみませーん、チューハイひとつお願いします!」

 

店員 「はーい、チューハイいっぱ〜つ!」

 

中村 え? 「いっぱつ」って言いましたよね。面白い!

 

長谷川 この「いっぱつ(一発)」というかけ声は先代のときからの伝統で、「だるま」の名物とも言えるもの。当時ここで働いていたアルバイトの方々は東京商船大学(現在の東京海洋大学)の学生が多かったみたいで、先代がコミュニケーションの一環として「いっぱつ」という呼びかけで、仕事に対する気持ちやお客さんとの一体感を盛り上げたんだそうです。

 

中村 へえー! じゃあ私も、「チューハイいっぱつ!」

 

店員 「ありがとうございまーす! チューハイもういっぱ〜つ!」

 

長谷川 ということでお酒が揃いましたね。

 

中村 はい! 改めて、カンパーイ!

 

 

長谷川 それとね、「だるま」のチューハイは2種類のシロップを好きなだけ入れられる点も特徴なんです。ところどころに置いてあるでしょ?

 

中村 気になってました。これは自由に使っていいんですね! レモンとライムかぁ、じゃあレモンを入れてみまーす。

 

長谷川 では僕はライムを。こうやって自分好みの甘酸っぱさにカスタムできるのは、なかなか珍しいですよ。

 

中村 甘酸っぱい味が好きなら濃いめとか、調整できるのがうれしいですよね。

 

長谷川 味のほうはどうです?

 

中村 うん! ちょっとシロップを多めに入れてみたんですが、焼酎がコク深いからボディもしっかり。私には濃い目のチューハイだけど、爽快感も抜群で、おいしいです!

 

長谷川 よかった! ではおつまみも注文しましょう。超定番の「牛モツ煮込み」と「手作りつくね焼」と……。

 

中村 いいですね! 私は「ニラ玉」と「ハムカツ」も気になります。

 

長谷川 では合わせて4つを注文しましょう。

 

名物店主の美人姉妹、“宝ジェンヌ”が登場!

中村 テーマはカウンターということで、「だるま」の特徴を教えてください。

 

長谷川 お任せください。まず形から説明すると、ここは「コの字型」。カウンターの形は店によって様々で、多いのは「直線型」や「L字型」ですね。で、「コの字型」というのは最も理想的なカウンターの形だと思います。この企画の第2回(篠崎・大林)で、中村さんが藤原さん(藤原法仁さん。大衆酒場にまつわる著書を数多く上梓しているこの道のツウ)と行った「大林」ってあるじゃないですか。あそこはもう、「コの字型」の最高峰ですよ。

 

中村 行きましたねー。確かにコの字型カウンターで、最高のお店でした! でも、「コの字型」だと何がそんなにいいんですか?

↑コの字型のカウンター

 

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【東京・大衆酒場の名店】初心者女子と楽しく学ぶ! 篠崎「大林」の魅力と「下町酒場の成り立ち」の噺

 

長谷川 まず、カウンターの良さはお店の人の仕事ぶりを見られること。同時に、ほかのお客さんの姿を眺められることにあります。例えば、僕なんかは孤独に酒と向き合う時間が好きなので、ひとり飲みが多いんですね。でも、カウンターなら様々な人間模様を観察できるので、飽きないんですよ。

 

中村 あっ、そうか。三辺に席があるコの字型は、ほかの形のカウンターよりも視界のなかに様々な風景が飛び込んでくるということですね。

 

長谷川 はい。その点は非常に大きな魅力です。機能的にも優れていて、お店の人は効率的な導線で配膳や調理ができますから、どの席でもオーダーや提供が早いしコミュニケーションも取りやすいんです。

 

中村 勉強になります! では、ほかのカウンターにはどんな形があるんですか?

 

長谷川 「ニの字型」とか、「コの字型」が変形した「舟型」や「馬蹄(ばてい)型」。広めの「吉野家」に見られる、コの字がダブルやトリプルになった「テトリス型」とかね。分類が難しい、パズルのようなカウンターに巡り合うと、どんな名称が合うだろうかと考えるだけでも面白いですよ。

 

中村 改めて「だるま」ならではの、コの字型カウンターの魅力を教えてください。

 

長谷川 前回「酒場のカウンターは劇場と同じ」と言いましたけど、「だるま」の場合は特に内側。つまり、店員さんの立つ厨房が劇場となっているのがこの店なんです。そして主役はやっぱり美人姉妹のおふたり。

↑先代、江家 脩(こうけ おさむ)さんの長女の理(あや)さん(左)、次女の真(まさ)さん(右)。腰に「宝焼酎」の前掛けを巻く姿は、まさに“宝ジェンヌ”!

 

中村 華がありますよね。外観や内装は古典的な大衆酒場なんですけど、店内はどこか艶やかで独自の世界観。それは、おふたりが醸し出す雰囲気がそうさせているのかなって思います。

 

長谷川 そうそう、つい見とれちゃったりしてね。一見ギャップがありますけど、味や設えはもちろん人情的な接客や和やかな雰囲気も正統派の大衆酒場。こんな素敵なお店はなかなかありません。

 

中村 貴重な存在ってことですね。機能面でいうと、「だるま」のカウンターにはどんな特徴がありますか?

 

長谷川 そしたら、ちょっと計ってみましょう。

 

中村 出た! 長谷川さんの秘密兵器、メジャー!

 

長谷川 うん。カウンターテーブルの奥行きは50cm、高さは90cmですね。確か商店建築の教科書的な書籍に、奥行きは45~65cm、高さは90~100cmが適正と書いてあるので、ここはまさにお手本といえるでしょう。

 

中村 やっぱり、基準みたいなものがあるんですね。でも確かに、私が座った感じでは違和感なく肘をつける位置にテーブルがありますし、イスともちょうどいいバランスの高さになっていると思います。

 

長谷川 あと、「だるま」はコの字の形がなかなか特徴的です。ここは三辺それぞれのイスが、1席・9席、4席と配置されていますよね。このフォーメーションを「1・9・4(イチ・キュウ・ヨン)」と呼ぶんですけど、正面にあたる真ん中の座席がほかの辺の2倍以上も多い9席というのは珍しいです。

 

↑奥から1席・9席・4席の横長タイプの「コの字」カウンター

 

中村 横長タイプの「コの字」ってことですよね。

 

長谷川 そうです。店にとっては狭い空間を有効活用できるというのもカウンターの利点ですが、コの字は直線やL字よりも店内に広いスペースが必要になるんですね。それが、コの字のお店が比較的少ない理由でもあるんですが、「だるま」はある程度の広さがあるので、これだけ横長のコの字にできるんです。

 

中村 なるほど。そう言われてみると、広さがありますね。さらに奥にはテーブル席もありますし。

 

昔はさらに横長のコの字カウンターだった

中村 「だるま」は創業50周年ということですが、お店の歴史も気になります。

 

長谷川 僕が初めてここに来たのは25年ぐらい前で、そのときは先代や奥様もいらっしゃいました。詳しい話は、姉妹のおふたりに聞いてみましょう。理(あや)さんと真(まさ)さんは、いつごろからこの店に入られたのですか?

 

 手伝うようになったのは、私が高校生のときです。そのあと真も高校生になってからお店に立つようになりました。私たちに代替わりしたのは、父が亡くなった平成21(2009)年。母は今でこそお店には出てないですけど、うちの人気メニューの多くは母が考案したんですよ。

 

中村 「だるま」という名称の由来は何から来ているんですか?

 

 最初は父が脱サラしてひとりで始めたんですけど、由来は母も私たちも聞いたことがなくてわからないんです。でも、法人名は七八商事なので、七転び八起きとかそういう想いが「だるま」に関係してるのかなって。

↑手前の写真は、在りし日の先代 江家 脩さん(左)と真さん(右)。左奥の写真には理さんも

 

中村 だるまは必勝祈願のシンボルでもありますもんね。門前仲町にあるのは、おうちのご近所だからとか?

 

 家はもともと埼玉の所沢にあったんですけど、私たちがここで働くようになってから江東区に引っ越してきました。なぜ門前仲町を選んだのかも父には聞けずじまいでしたが、所沢に住んでいたときは遠くて大変でしたね。

 

長谷川 カウンターなど、店内は50年前から変わらずですか?

 

 9人席の部分がもっと奥まで伸びた、長いコの字型だったと思います。それを短くして今のカウンターになったのは、もう30年以上前になるかしら。私たちが手伝いに入ったときにはこの設えでした。改装した理由もわからないのですが、テーブル席を増やしたかったのかな~と。

 

新旧の家庭的な手作りつまみにチューハイが進む!

長谷川 中村さん、おつまみもいただきましょう。まずは定番の煮込みから。

↑「牛モツ煮込み」(700円 表記価格はすべて税込・以下同)

 

中村 おいし〜いっ! 脂身も入ったとろとろのプルプルなんですけど、あっさりしていてやさしいお味。素材の甘みが豊かで、チューハイが進みます!

 

 ありがとうございます! モツは父の代から同じ業者さんと取引していたんですけど、その業者さんがやめてしまったので、いまは大元の食肉卸さんから新鮮なものを仕入れてます。使う部位は大腸と小腸。2回湯こぼしをして余分な脂をカットし、味付けは秘伝の米みそとザラメだけですね。

 

長谷川 2回湯こぼしをしているから重くないんですね。具材にはこんにゃくも入っていてヘルシーだし、玉ねぎ入りってのも珍しいんですよ。

 

中村 甘みを感じるのは、この玉ねぎによるところもありますよね。そしたら次はつくねをいただきます!

↑「手作りつくね焼」(600円)

 

 こちらは母直伝のレシピです。具材は鶏もも肉に、刻みしょうがとねぎ。味付けはダシ入りのみそと塩こしょうですね。つなぎとして全卵も入れてます。タレも母のタレを継ぎ足しで、しょうゆとザラメとお酒を煮詰めて作っています。

 

長谷川 このつくねは人気メニューのひとつですよね。ボリュームがあって、こちらもすごくお酒が進みます。

 

中村 ウマーッ! しょうがの風味が豊かで、お肉もねぎもたっぷり。それでいて食感は柔らかく、すごく好きな味です!

 

 よかった! ではニラ玉もどうぞ。こちらも父の時代からあるメニューで、そのレシピに私がアレンジを加えたものです。

↑「ニラ玉」(800円)

 

長谷川 これは僕も食べるのが初めてかな。ニラがたっぷりですね! こちらも素材を生かした味付けで、ごま油とこしょうの香りもイイ!

 

中村 はい! ニラはしっとりしたなかにシャキシャキ感もあって、味には甘みを感じます。それに玉子がふわっとしてて、全体的にはやさしい味。黒こしょうがたっぷりですけど、辛さよりも香り高さが効いていて、やっぱり抜群においしいです!

 

 最後はハムカツです。こちらは私たちの代になってから加えたメニューですね。レシピはシンプルですが、よく出るメニューのひとつです。

↑「ハムカツ」(600円)

 

中村 素朴な味わいのハムと、何よりカリカリの衣がイイ! おつまみにサイコーなやつです。そして見逃せないのが絶品のマカロニサラダ! 上にのってるのはタルタルソースですか?

 

 はい。付け合わせは、日によってマカロニサラダやポテトサラダをお出ししています。具材はゆで卵とにんじんですね。塩こしょうとマヨネーズで味付けするのですが、冷蔵中に味が薄まってしまうので、提供時にタルタルソースをおかけしてるんです。

 

長谷川 このハムカツだけで、ひとり飲みにうれしい3点セットになってる。日替わりのサラダは単品でもあって、こっちをオーダーする人も多いんじゃないかな。

↑「マカロニサラダ」(500円)

 

多様なニーズに応えられるカウンターはいいことずくめ

中村 理さんと真さんは、カウンターのいいところってどんなところだと思います?

 

 私たちにとっては、お客さんとの距離感の近さが一番ですかね。お店のなかに一体感が生まれるようなところもカウンターならではだと思います。

 

 カウンターは導線がいいですよね。目の前がお客さんですから、お酒やおつまみをすぐ提供できてお互いにスムーズだと思います。

 

長谷川 お店側からすると、接客しやすいというメリットもありますかね。ひとりで飲みたい人もいれば、お店の人やほかのお客さんと仲良くなりたい人など、飲みたいスタイルは様々ですから。

 

中村 カウンターなら多様なニーズに応えられると。いいことずくめなんですね。奥が深いです!

 

長谷川 そうだ、ちょうど僕らがいる席のパターン。今、お互いテーブルの角地に座ってるじゃないですか。コの字やL字などは、このように角になる席がありますよね。僕はここで飲むことを「コーナリング」って呼んでいて、サシ(ふたり)飲みのときはこの席がポールポジションなんですよ!

 

中村 コーナリングにポールポジション? まるでレースのようですね!

 

長谷川 サシ飲みのなかでも、特に初めて会う人や、出会って間もない関係のとき。例えば商談相手やカップルなどです。イスとイスとの快適な距離感は、一説によると60cmが適正なんですけど、そこまで親しくなければ隣同士だと緊張しますよね。

 

中村 はい。もし初対面であればなおさらですね。

 

長谷川 そう、緊張するんですけど、角の席ならその距離感をコントロールできるんです。あと、目線を自然と外すこともできますし、食べているところを直視されることもありません。

 

中村 ちょうどいい距離感で楽しく飲めるのがカウンターのコーナーってことですね!

 

長谷川 あと、コーナリングは攻めることもできます。例えば、商談を兼ねた飲み会だとしましょう。心地よく飲んで親睦が深まるなか、イスの間の距離をちょっと縮めて「では当社の○○のご検討はいかがでしょう?」と、クロージングに持ち込めるんです。

 

中村 面白い!

 

大衆酒場を初訪問する際のマナーとは?

常連さん お嬢さん、ここ初めてなんだって? じゃあこれどうぞ。おいしいから食べてみて!

 

中村 え? あ、はい! これってもしや、おすそ分けですか? うれしい!

 

長谷川 ラッキーですね。こういうのも、カウンター酒場のいいところ! テーブル席だと、なかなかこういう展開にはならないですから。

 

中村 それに、これめっちゃおいしそう!

 

 そちらはナス味噌炒めです。濃い目の味付けで、チューハイにもよく合いますよ!

↑「ナス味噌炒め」(800円) ※写真は取り分けたサイズ

 

長谷川 ああ、これは絶対ウマいやつだ。

 

中村 うん、ナスはとろとろ! 味も染みててすごくおいしい!

 

長谷川 ナス以外の野菜もたっぷりで、こういうところもうれしいですね。

 

中村 はい。お客さんとのコミュニケーションも大衆酒場の魅力ですし、おすそ分けなんてカウンターならではですよね。今日の取材で、大衆酒場がますます身近になりました。

 

長谷川 そうか、中村さんはまだビギナーなんですもんね。じゃあ、初めて行く店を訪れる際のちょっとしたマナーも伝えておきますね。

 

中村 ぜひお願いします!

 

長谷川 やっぱり、歴史のある大衆酒場にはそのお店を愛する常連さんがいるので、その方々に気を遣いましょう。常連さんの定位置には座らないとかね。

 

中村 その特等席はどうやって見分けるんですか?

 

長谷川 店によりますけど、カウンターの奥とか、串焼きの台があるならそこから近い席とか。ほら、串って大将が焼くケースが多いでしょ。その間大将としゃべれるから焼き台の前の席は人気だったりするんですよ。

 

中村 座席のことなんて考えたことなかったです。でも、今の話を聞いてよりハードルが下がりました。

 

長谷川 場の空気を読むことが大切なんです。でもすぐに慣れますよ。それこそいろんなカウンターのお店に行けば、それぞれの特徴や個性がよりわかってくるはず。なので、こんどはまた別の形のカウンター酒場に行きましょう!

 

中村 はい! 今日もおいしかったし、たくさん勉強になりました!

 

 

中村さんのカウンター酒場探訪は始まったばかり。次回は「L字」か「直線」か、はたまた「ニの字」か「舟型」か。何はともあれ、長谷川さんのナビゲートでとっておきの一軒をご紹介します。

 

 

撮影/我妻慶一

 

<取材協力>

だるま

住所:東京都江東区門前仲町2-7-3

営業時間:平日16:30~23:00、土日16:30~22:00

定休日:不定休

※価格はすべて税込みです

※営業時間等に関しましては、店舗にご確認ください(取材日:20211122日)

 

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎25度
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

 

 

「東京・大衆酒場の名店」バックナンバーはこちら▼

・第1回 【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

・第2回 【東京・大衆酒場の名店】初心者女子と楽しく学ぶ! 篠崎「大林」の魅力と「下町酒場の成り立ち」の噺

・第3回 【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺

・第4回 【東京・大衆酒場の名店】酎ハイ街道をゆく。八広・亀屋の“ボール” 受け継がれる秘伝レシピの噺

・第5回 【東京・大衆酒場の名店】四ツ木「ゑびす」で、自家製ロックアイスのお茶割りを味わう噺

・番外編 大衆酒場の酎ハイに欠かせない「下町炭酸」を飲み比べる噺

・番外編 焼酎ハイボールに合う!「東京・大衆酒場の名店」のおつまみを、約5000円の調理家電で再現する噺

11月11日は「立ち飲みの日」!——達人が語る立ち飲みの魅力の噺

11月11日が「立ち飲みの日」であることをご存知でしょうか。こちらを記念日として発案申請したのが、大衆酒場にまつわる著書を数多く上梓している藤原法仁(のりひと)さんと浜田信郎(しんろう)さん。今回はこのおふたりに雑誌『古典酒場』創刊編集長の倉嶋紀和子さんを交え、それぞれの立ち飲み愛を東京・新橋の名店で語ってもらいました。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

そもそも「立ち飲みの日」って?

訪れたのは、JR新橋駅に直結している「新橋駅前ビル」の2号館、その地下1階にある「立ち呑 こひなた」です。魅力は1杯250円(表示価格は全て税込・以下同)の「酎ハイ」をはじめとするおいしくて激安なお酒と、同様に破格な一皿200円の絶品おつまみ。味のある縄のれんのエントランスや、女将さんとスタッフの心地いい接客も酒飲みの心をつかみます。

 

↑左から、藤原法仁さん、倉嶋紀和子さん、浜田信郎さん

 

まずは藤原さんと浜田さんに、2010年に登録された「立ち飲みの日」申請の経緯を聞きました。

 

「『立ち飲みの日』を申請した理由は、はっきり言って酒の勢いです(笑)。2009年の末ぐらいだったかなと。でも、その数年前からずっと心のなかではくすぶっていて、浜田さんたちと飲むたびに『記念日があるといいよね』みたいな話はしていたんです」(藤原さん)

 

「そうそう! あのときはいつになく真面目な顔で、藤原さんが『マジで立ち飲みの日を申請しようと思うんだよね』って。前からそんな話は聞いていたんですけど、本当にやるんだ!って驚きましたよ」(浜田さん)

 

「社交辞令のような感じで『やろうやろう』みたいなことってよくありますけど、僕はそういうところが変に真面目なんです。まあ、普通なら冗談半分で『だったらやってよ』みたいになる話を、僕が真に受けたってことなんですけどね」(藤原さん)

 

↑本サイトで連載中の【東京・大衆酒場の名店】ナビゲーターとしてもおなじみの藤原法仁さん(左)。倉嶋紀和子さん(右)は雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名

 

おふたり曰く、当時有名な11月11日といえば「ポッキー&プリッツの日」ぐらいだったそう。そもそも、なぜ記念日として申請しようと思ったのでしょうか?

 

「本当になんとなくの勢いで、使命感とか美談になるような理由ではないです。でも、当時は今みたいに『○○の日』がそこまで多くなかったですし、面白そうだなって思ったんです。ただ、いざ調べてみたら登録に費用がかかることがわかって。年会費みたいのはいらないんですけどね」(藤原さん)

 

日本記念日協会に申請をして、審査に合格すると記念日として登録される

 

「『金は俺が出すから、連名で浜田さんも一緒にお願い』って言ってね」(浜田さん)

 

「さすが藤原さん、男気ありますね!」(倉嶋さん)

 

「誰かが登録しないと記念日はできない訳です。それなりに費用もかかりましたが、使い道としてはかなり効果的で、たまに立ち飲み屋さんから『藤原さんのおかげですよ』みたいに言われて、一杯おごってもらえることもあるんです。結果的に登録費用は生涯残る先行投資みたいなもんで、喜んでくれるお店や人がいるなら本望ですよ」(藤原さん)

 

↑藤原さんと共に「立ち飲みの日」を申請した浜田信郎さん(右)は、ブログ「居酒屋礼賛」の主宰。『酒場百選』(筑摩書房)『ひとり呑み』(WAVE出版)など大衆酒場に関する著作を数多く出されています

 

2009年の末から本格的に動き出し、登録された後2010年の11月11日に初回を迎えた「立ち飲みの日」。翌2011年の11月11日は100年に一度の「111111」が並ぶ日としても盛り上がり、さらにこの日は金曜日だったことでも注目を浴びたとか。1月1日ではなく11月11日にしたのは、元旦は営業していないお店が多いからでしょうか?

 

「いや、1は人が集って立ち飲みをしているイメージで、2つより4つ並んだほうがにぎやかでしょ。だから11月11日にしたんです。でも11月11日はすごく人気で、そのあと『うまい棒の日』や『たくあんの日』でもあることがわかって」(藤原さん)

 

「ポッキー、プリッツ、うまい棒、たくあん。立ち飲みのお店にもありそうなラインナップでいいですね!」(倉嶋さん)

 

ところで、なぜ「チューハイの日」や「大衆酒場の日」などではなく「立ち飲みの日」にしたのでしょうか。その理由は、日付のマッチングとして11月11日が最適だったということと、当時は特に立ち飲みが脚光を浴びていたからだと藤原さんは言います。

 

立って飲めるスペースがあれば、そこは立ち飲みの店

近年の立ち飲みブームは、「酒場詩人」の肩書で知られる吉田類さんが『立ち呑み詩人のすすめ』を出版した2000年が第1次。当時はいわゆる古典的な立ち飲み店がメインだったそう。その後、インターネットの普及とともに勝どきの「かねます」、北千住の「徳多和良(とくだわら)」、新小岩の「しげきん」といった割烹スタイルの高級店やハイコスパ店が話題になり始めたのが2006~2008年ごろ。これが第2次ブームだと3人の達人は言います。

 

次第に、イタリアンやスペインバルスタイルの立ち飲み店も増えていったのだとか。その極めつけとなったのが、「立ち飲みの日」がスタートした翌年の2011年。いまも続く「俺の」シリーズの1号店「俺のイタリアン 新橋本店」がオープンして大行列に。模倣店が出るほど人気になるとともに、「おいしくて安い立ち飲みは最高!」ということが世に知れ渡りました。この頃が第3次ブームといえるでしょう。

 

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こうした第1~3次ブームを経て、立ち飲みは完全に市民権を獲得したのです。では、さらに歴史をさかのぼると、立ち飲みはいつ頃から始まったのでしょうか?

 

「飲食ができるお店、いわゆる居酒屋は江戸時代にはあったそうなので、当時も立って飲めるお店はあったのではないかと考えられますが、立ち飲みの歴史を語るうえでポイントとなるのは角打ちだと思います」(倉嶋さん)

 

角打ちは「かくうち」と読み、これは酒屋の店頭で升酒を直接飲むこと。転じて、店の一角を仕切って立ち飲み用にすること。またはそこで飲むことです。江戸時代には一般的に行われていたことが文献にも残っていて、倉嶋さんが一例を教えてくれました。

 

「『忠臣蔵』の赤穂浪士四十七士のひとりとして知られる、堀部安兵衛のエピソードですね。堀部安兵衛が高田馬場の決闘に行く前に、早稲田に現存する今の『リカーショップ小倉屋』さんで、角打ちをしたという話が有名です」(倉嶋さん)

 

高田馬場の決闘があったのは、江戸時代中頃の元禄7(1694)年。当時すでに立ち食いのそばや寿司の店もあったといいますから、立ち飲みが一般的だったことも想像に難くないといえるでしょう。

 

「江戸となると東京が話題の中心ですけど、今も続く角打ちが多い地域は、実は北九州なんです。時代は近代以降になりますが、北九州市は八幡製鉄所や筑豊炭田をはじめとした工場・炭鉱・港湾の都市として栄えました。そして、そこで働く労働者が安価で楽しむ憩いの場として角打ちがもてはやされたのだと思います」(倉嶋さん)

 

↑北九州の立ち飲みについて熱く語る藤原さんと倉嶋さん

 

「確かに、北九州は各駅で降りてはしごできるぐらい、素敵な角打ちの店がたくさんありますよね。小倉にある旦過(たんが)市場の名店『赤壁(あかかべ)酒店』とか!」(藤原さん)

 

「九州は全体的に『○○酒店』という名称の飲み屋が多いのも特徴です。角打ちができる酒屋として続いているお店もあれば、屋号は『○○酒店』でも飲食店営業許可書をとって居酒屋にしているお店もありますし。でも北九州は特に、角打ち文化が伝統的に愛されているんだと思います。東京近辺にも労働者の街はありますけど、角打ちのほかにも大衆酒場に大衆食堂、町中華など、地方に比べて飲める店が多く、種類も多様ですからね」(浜田さん)

 

浜田さんの「飲食店営業許可書をとって居酒屋に」という話は、営業形態のこと。酒販店はあくまでも小売店なので、お酒の販売はできても調理した料理を提供したり椅子を出して飲食をさせたりしてはいけないことになっています。その意味では「角打ちとは立ち飲みのことである」とは言えません。では、立ち飲みの定義とは?

 

「そうですね。飲みに行く側の立場からしたら、定義などは気になりません。スタンディングのスペースと、テーブル・イス席の両方があるお店ってたまにありますけど、それはそれで利便性がいいですよね。一部に座れる席があるから立ち飲みの店じゃないとは思いませんし」(倉嶋さん)

 

「例えば、名古屋駅って面白いんです。ホームできしめんなどを提供していた立ち食いうどん店が、おでんをつまみに酒も飲めるということでいつのまにか立ち飲み好きの憩いの場になっていて。そういうお店も、立って飲めるなら立ち飲みってことでいいと私は思います」(浜田さん)

 

「ひじをついて、リラックスできるぐらいのカウンターの高さがあることは重要だと思います。でもまあ、おふたりが言うように、立って飲めるスペースがあるなら、そこは立ち飲みのお店ってことでいいんじゃないですかね」(藤原さん)

 

立ち飲みの魅力はウマくて安くて1杯でもOKなところ

立ち飲みといってもさまざま。前述したように「立ち呑 こひなた」は1杯250円の「酎ハイ」と一皿200円の絶品おつまみがメニューの名物です。

 

↑「酎ハイ」(250円)。コクのある宝焼酎がベースで、強めのアルコール度数によるボディとキレ、爽快感も魅力です

 

↑「オムソバ」(200円)。シメだけではなく、1杯目のアテとして注文する人も多い一番人気のおつまみです。注文ごとに卵を焼いてくれるのもうれしい

 

女将さんにお店の話を聞くと、「立ち呑 こひなた」の開業は1986~1987年ごろ。ご主人がオープンした当時はお店に関与していなくて、正確な時期は覚えていないと言います。驚くべきは価格で、おつまみの値段は25年以上ずっとそのまま。お酒は消費税が10%になった2019年に10円値上げしただけとのこと。

 

↑おつまみは左から、「砂肝」「ポテトサラダ」「鳥皮」(各200円)。どれも「オムソバ」に並ぶ人気メニューです

 

↑一部、320円のおつまみも。こちらは玉ねぎ、しょうがなどと一緒に醤油ダレで味付けされた「鯨刺し」(320円)

 

そのうえで、立ち飲みの魅力はどんなところにあるのか。3人に聞きました。

 

「安くておいしいのはもちろんのこと、短時間でもOKなところがありがたいですね。座ってくつろぐタイプのお店だと『何品か注文しないと申し訳ないな』って思うんですけど、立ち飲みなら1杯飲みたいときにサッと寄って帰っても罪悪感がないですから」(藤原さん)

 

「確かに! 私は“隙あらば飲む”が座右の銘なので、用事の合間の10分とかで飲みたいときに寄るのは立ち飲みになりますね。その一方、ゆっくり飲むこともできますし。使い勝手のよさが素晴らしいです」(倉嶋さん)

 

「私は安全な酒場であることも魅力だと思います。というのもスタンディングってことは、立っていられない人は飲めないってことですよね。なので、立ち飲みには酔っぱらって絡んでくる人や、くだを巻いている人がいないんです」(浜田さん)

 

↑大衆酒場の達人が揃えば、酒噺が尽きることはありません

 

「立ち呑 こひなた」の客層については、女将さんもひとこと。

 

「うちはやっぱり、サラリーマンのみなさんに支えられています。多い年代は40~60代ですけど、ここ2~3年で20~30代の若い方や女性にも来ていただけるようになりました。この駅ビルは警備員さんが巡回してくれるから、危なくないんです。もちろん立ち飲みだから変に酔っぱらう方もいないですし、女性でも安心して飲めるお店ですよ」(女将さん)

 

そのほか酒場通の3人は、狭い店内のスペースを譲り合って飲む大人の社交場であること、狭い空間ならではの一体感も魅力だと言います。コロナが終息したらまたにぎやかに乾杯したいという想いは、立ち飲み好き共通の願いだといえるでしょう。

 

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譲り合って気持ちよく飲むことが大切

酒場の初心者には、少々敷居が高い立ち飲み店。そこで、達人3人による立ち飲み店での注意点をうかがいました。

 

「どのお店でも基本ですけど、まずは注文の仕方です。1杯飲んですぐ帰るならいいんですけど、ゆっくりするなら2杯、3杯とオーダーしましょう。もちろんおつまみもご一緒に。あとはさっきの浜田さんの話にありましたけど、足がふらついてきたら帰りましょう」(藤原さん)

 

「これは立ち飲みでも、イスの席がある店でも共通ですが、初めての場合はお邪魔させてもらっているというような気持ちを心掛けるといいと思います。注文に迷ったら、まずは酎ハイやレモンサワーなど、定番のお酒で。おつまみは、ほかのお客さんが食べているメニューを見て、『おいしそう』と思ったら同じものを注文するといいのかなと」(倉嶋さん)

 

「足のふらつきはもちろん、お腹いっぱいになって注文できなくなったら帰るというのも作法です。立ち飲みのお店は、次のお客さんに譲る気持ちが大切ですから。カウンターのスペースも同様で、あまり自分の前を占拠しないよう、お酒1杯とおつまみ1~2品置けるくらいがいいと思います」(浜田さん)

 

↑「立ち呑 こひなた」には、ほかにも立ち飲みの達人に間違いないお客さんが!

 

お店と周囲のお客さんに配慮をして譲り合いの精神で楽しむ。もし混んできてまだ飲みたいと思ったら、サッとお会計をして次の立ち飲み店にはしごする。これが立ち飲みの基本的なマナーです。少しずつにぎわいを取り戻し始めた街と飲食店。奥深い立ち飲みの世界に足を踏み入れて、大人の文化を堪能してみませんか?

 

<取材協力>

立ち呑 こひなた

住所:東京都港区新橋2-21-1 新橋駅前ビル2号館 B1

営業時間:12:00~23:00(L.O.22:45)

定休日:日曜、祝日

※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2021年10月18日)

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎25度

https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

【東京・大衆酒場の名店】四ツ木「ゑびす」で、自家製ロックアイスのお茶割りを味わう噺

東京にある大衆酒場の名店を巡る企画の第5回。今回は、葛飾区の四ツ木駅近くにある「ゑびす(えびす)」を訪れ、その魅力を探っていきます。

大衆酒場は、その安さとウマさ、昔ながらの温かい雰囲気で、酒飲みの心をひきつけてやみません。なかでも東京では下町を中心に、根強い人気を誇る大衆酒場の名店が数多く存在します。そんな名店を巡り、お店の魅力と東京ならではの酒文化を深掘りしていくのが本連載。立石「宇ち多゛(うちだ)」篠崎「大林」京成曳舟「三祐酒場(さんゆうさかば) 八広(やひろ)店」八広「亀屋」に続く第5回は、四ツ木の「ゑびす」にお邪魔します。

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

歴史ある四ツ木の名店「ゑびす」を2人のナビゲーターがガイド

京成押上線「四ツ木駅」から徒歩約5分の場所にあるのが、今回訪れる「ゑびす」です。創業は昭和26(1951)年。その後平成26(2014)年に、区画整理によって現在の地へ移転しました。歴史ある「ゑびす」を案内するナビゲーターは、下町大衆酒場に詳しい藤原法仁(のりひと)さん。同店には移転前から足しげく通っています。生徒役は、大衆酒場に興味津々のタレント・中村 優さんです。

↑大衆酒場にまつわる著書を数多く上梓している藤原法仁さん(左)。中村 優さん(右)はタレントおよびマラソンランナーとして活躍しています

 

中村 藤原さん、今回もよろしくお願いします!

 

藤原 実は、今日は助っ人というか、私の飲み仲間を呼んでいるんです。私にはない知識を持っているから、今後の「大衆酒場の名店」のナビゲーターとして推薦しようと思って。お、来た来た。

長谷川 藤原さん、お久しぶりです! 中村さん、初めまして!

 

藤原 長谷川さんはすごいよ。旅関連の雑誌を手掛けているから全国の酒場に詳しいし。

 

中村 長谷川さん、よろしくお願いします! 「ゑびす」には何度も来ていらっしゃるんですか?

藤原 来ているどころの話じゃないよね。長谷川さんは一時期、ここが好きすぎて四ツ木に住んでたぐらいですから。

 

中村 え! 「ゑびす」に来るために住んでたんですか。それはスゴイ!

 

藤原 あと、彼は「カウンター」に関してはだれよりも詳しいんじゃないかな。

 

中村 「カウンター」……ですか?

 

長谷川 はい、酒場のカウンター席のことですね。僕は基本的にひとり飲みが好きなので、カウンターの有無は重要なんです。そのうち自然とハマッちゃって、研究するようになったんですよ。それについては、のちほどお話ししますね。

 

自家製ロックアイスをアイスピックで砕いて提供

中村 では、さっそくお二人に伺いたいんですが、この「ゑびす」の魅力って何ですか?

 

長谷川 まず、この品数に驚きますよね。何を頼めばいいか迷うほどで、ワクワクしませんか? それに味の良さも感動的で、僕は特に魚のおいしさに魅了されたんです。もちろん、お酒にもすごくこだわっていらっしゃいますし。

藤原 そう、「おいしいお酒を飲ませたい」という気持ちが伝わってきますよね。僕がまず「ゑびす」で伝えたいのはそこなんです。なんといっても注目は、氷。自家製のロックアイスで提供しているんですよ。

 

中村 え! ロックアイスが自家製? お店で氷を作っているんですか?

 

藤原 そう。製氷機で作った手のひらサイズの氷を、わざわざアイスピックで砕いて使っているんです。

 

中村 ほんとだ! この氷、大きくてゴツゴツしていますね。

 

長谷川 見た目にも特別感があって、おいしそうですよね。

↑大きな氷が作れる製氷機。頻繁に開閉すると温度変化が氷のおいしさに影響するので、ある程度の量を適宜クーラーボックスへ移して使います

 

↑手のひらサイズの大きな氷を、アイスピックで砕いてグラスへ

 

藤原 では、この氷を使ったドリンクで乾杯しましょう。まずは下町定番の焼酎ハイボールで!

 

中村 通称「ボール」ですね。待ってました!

↑「焼酎ハイボール」(400円 ※表記価格はすべて税込・以下同)

 

全員 では……カンパ~イ!

 

中村 あー、このボールもいいキックが入っていて(炭酸がよく効いているという意味)、おいしいですね~!

藤原 お。キックの使い方、慣れてきましたね~。

 

中村 はい、おかげさまで! でも、氷が大きいと何がいいんですか?

 

藤原 ソーダ割りのような爽快感が魅力のお酒は、冷えているのが絶対条件。ぬるい炭酸って、ウマくないでしょ? だから、冷たさをキープするために氷を入れるんですが、氷が大きいと溶けにくいので、味が薄くならないというメリットがあるんです。あ、店主の石田さんが来てくださいましたね。

 

中村 石田さん、今日はよろしくお願いします! 自家製のロックアイスを使っている理由は、やっぱりおいしさのためですか?

↑「ゑびす」の石田健一店主

 

石田店主 そうですね。おいしさのためにはサイズが大事です。市場が豊洲に移転するまでは、築地で氷を買っていて、多いときは数日ぶんを一度に45kgサイズで買い、それを小さく切り出してもらっていました。店に戻ったらそれを割って専用の冷蔵庫に移し、オーダーごとにアイスピックで砕いていたんです。ただ、豊洲移転でひいきにしていた氷店が廃業してしまったんですよ。

 

中村 なるほど、だから氷を自家製にするしかなかったんですね。

 

石田店主 ただ、普通の製氷機では氷が小さいぶん、すぐに溶けてしまうので、その酒の味に納得できなくて。理想的なサイズにするには、大きい氷を作って砕くしかなかったんです。だから、いまの製氷機を買って、以前のようにアイスピックで砕いています。手間はかかりますけど、こうしたほうがおいしいので。

 

長谷川 おいしく飲んでもらいたい一心で、ということですね。これは本当にすごいことです。

 

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名門「ゑびす」のれん会のルーツが明らかに

中村 お酒もおつまみも、ただものじゃないことがわかりました。お店の成り立ちも気になりますね!

 

長谷川 そのあたりも石田店主に聞いてみましょう。確か、ご主人は二代目でしたっけ?

 

石田店主 はい。私は二代目で、父が創業したのが昭和26年。ルーツは父のお兄さんにあります。その(私にとっての)伯父が有名なホテルの元料理人で、独立後に錦糸町北部の太平町で、父と一緒に「錦糸バー」という居酒屋を営んでいました。まだ「ゑびす」ができるより昔、戦前の話です。

 

藤原 わぁ初耳だ! この話は貴重ですよ。

 

石田店主 ほかに蔵前の厩橋(うまやばし)や大塚にも、同じような酒場を出店していたそうで。でも太平洋戦争で父は出征しまして、無事に帰ってきたはいいものの、空襲で店はすべて焼けちゃったんです。やがて父は母と結婚し、なんとか仕事の再起を図ったんですけど、戦後すぐはお酒の取り締まりが厳しかったので、ひとまずは伯父と向島で甘味店を始めたんです。

中村 では、その向島の甘味店が「ゑびす」の1号店ですか?

 

石田店主 いえ、お酒が正規で流通し始めるのを待って、兄弟それぞれが独立して飲み屋を新規出店したんです。昭和26年、父が四ツ木に土地を見つけて開業したのが、移転前の「ゑびす」です。伯父は伯父で「ゑびす」を向島に、僕のいとこにあたる伯父の息子さんは金町で「ゑびす」を開業。ほかに新小岩や大島など、親戚を中心に一時期は8軒の「ゑびす」がありました(※)。

※現在は四ツ木と大島店が営業中

 

長谷川 へえ、これで「ゑびす」のれん会(※)のルーツが明らかになりましたね!

 

藤原 「ゑびす」といえば、下町大衆酒場ののれん会のなかでは五本の指に入るほどの名門。それだけに、貴重なお話ですね。

※のれん会……のれん分けした店のグループのこと。共同組合のような性質を持つこともあります

中村 ちなみに、「ゑびす」という名前の由来はどこから来ているんですか?

 

石田店主 それは父が出征したときに戦友から、いつも笑顔だから「ゑびす」というあだ名をつけられたそうです。それが店名になったと聞いています。

 

中村 へえ、それは面白いです! いまは、おいしいお料理とお酒でお客さんを笑顔にしている、というわけですね(笑)。

 

お茶割りにはコクが豊かな宝焼酎「純」を使用

藤原 そろそろ、おかわりとおつまみも注文しましょうか。2杯目は「玉露お茶ハイ」でどうでしょう。焼酎ハイボールとはベースの焼酎が違っていて、これがまたおいしいんです。

 

中村 焼酎が違う? 何を使っているんですか?

 

石田店主 宝焼酎「純」です。「純」はちょっと高いんですけど、コクが豊かなのに、玉露の風味を邪魔せずマッチするのがいいんですよ。

 

中村 うわあ、色味からしてキレイでおいしそう! いただきます!

↑「玉露お茶ハイ」(550円)

 

長谷川 うん、お茶(玉露)にも焼酎にもこだわる安定の味。癒されるおいしさですね~。

 

中村 緑茶の爽やかさのなかに、焼酎のまろやかさが感じられてすごくおいしいです!

藤原 炭酸とはまた違った魅力がありますよね。あと、お茶割りは、合わせる料理を選ばないのも魅力。例えば、レモンサワーは鶏の唐揚げなど、ジューシーでオイリーなものと相性が抜群ですけど、個人的には、白身魚の刺身や湯豆腐といった繊細な和食にはレモンの酸味が合わない気がします。そこで最適なのが、お茶の滋味深く爽やかな苦みなんです。

 

長谷川 確かに、「ゑびす」みたいに魚料理が充実している店には、お茶割りがあるとうれしいですよね。天ぷらにもお茶割りはすごく合いますし。

 

藤原 お、ちょうどさっき注文した天ぷらが来ましたね。いただきましょう!

 

驚愕のコスパと江戸前の魚が充実しているのが魅力

↑「天ぷら 盛合」(650円)

 

中村 えっ、650円でこんなにたくさん! しかも魚は全部種類が違いますよね。

 

石田店主 ありがとうございます。魚はあじ、穴子、いわし、きす、こち、はぜ。年中仕入れられるようにしてあります。

 

藤原 6種類の魚になす、かぼちゃが入ってこのお値段! この「天ぷら 盛合」は必食ですよ!

 

中村 衣はサクサクで中はふわっふわ! そして「玉露お茶ハイ」がドンピシャだから、すごく進みます。これは幸せ!

 

藤原 ここはお肉も秀逸ですよ。この「カシラ焼」やホルモンも多彩に揃っていてコスパも抜群。串ではなく皿盛りになっているから、数人でつまむにはもってこいです。

↑「カシラ焼」(300円)

 

中村 しっかりした肉質で、弾力があります。塩でうまみが引き立てられていて、「玉露お茶ハイ」ともよく合いますね!

 

長谷川 このボリュームで300円ですからね! 「ゑびす」は安すぎて値段を見るのが逆に怖いというか、本当に頭が下がります。

↑こちらは知る人ぞ知る逸品「新香のふる漬」(350円)。初代から受け継いだ伝統のぬか床で漬け、しょうが、にんにく、醤油などで味付け。持ち帰る常連客も多いとのこと

 

藤原 そして、お待ちかねの刺身。毎朝市場で仕入れているので、全国の新鮮な魚介類が食べられるんです。今日は「ゑびす」で人気が高いかつおを頼んでみました。

↑「宮城産 カツオ刺身」(600円)

 

石田店主 昨日のかつおは勝浦産だったんですけど、今日は宮城産。市場は足立と豊洲の両方を回って仕入れています。築地から移って少し遠くなりましたが、やっぱり豊洲にも行ったほうが、いいネタを仕入れられますから。

 

中村 うん、かつおは脂が乗っていて、身が分厚くカットされているから食べごたえも満点です! これは職人の目利きと包丁の技がなせるおいしさですね。

 

藤原 あと、「ゑびす」では汁物も充実しているんですよ。汁物といえば「シメ」を連想しますが、実は汁物で酒を飲む文化もあるんです。例えば日本の土瓶蒸しや韓国チゲ、ブイヤーベースなどが良い例。今回頼んだ汁物(豚汁、どじょう汁、つみれ汁をチョイス)は、シメにもつまみにもなるんです。中村さんはどれにします?

↑左下から時計回りで「とん汁」(250円)、「つみれ汁」(350円)、「どぜう汁」(450円)

 

中村 じゃあ私は豚汁をいただきます! ……うわぁ、ダシも味噌もしっかりめの味で具だくさん。満足度が高くて、ほっこりする味です。でも、どじょう汁もあるなんて、江戸前らしくて素敵ですね!

 

長谷川 どじょうは意外にあっさりしていておいしいですよ。石田さん、どじょうは生きたまま仕入れていらっしゃるんですよね?

 

石田店主 はい。唐揚げや柳川鍋など、注文が入るたびにザルですくってしめています。

中村 わー! ピチピチしていて、活きがいい!

 

藤原 このどじょうもそうですけど、はぜやこちなど、東京ならではの魚が充実しているのも「ゑびす」の魅力。だから地方の知人を下町酒場に案内するなら、僕は真っ先にここを挙げますね。

 

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大衆酒場のカウンターは劇場である

中村 そうだ、先ほど話が出たカウンターのことを長谷川さんに聞きたかったんです。「ゑびす」はどんな特徴があるんですか?

 

長谷川 お、いい質問来ましたね~。カウンターは店によって形に違いがあって、ここは「L字」。といっても短辺がとても短いL字なのでほぼ「直線」ですね。重要なのが、奥行きです。建築業界では一般的に、縦幅50~65cmが店も客も快適なサイズとされています。(メジャーを取り出して測り始める)……ここは約45cmですけど、奥の段差が10cmぐらい伸びているからちょうどイイですね。

中村 えっ、メジャーを持ち歩いているんですか!

 

藤原 出た! さすがカウンターマニアの長谷川さん!

↑カウンターの内側の段差には、店員さんが下げた皿やドリンクの杯数をカウントしてチョークで記入。会計時に役立ちます

 

長谷川 カウンターの魅力は、長さや形状によって店の人の動きがまったく違うところ。あとは、ひとり飲みに最適というところですね。お品書きや、ほかのお客さんを見ていればひとりでも十分に楽しめます。それぞれの人間模様が垣間見られるから、酒場のカウンターは劇場と同じなんですよ。

 

中村 なるほど! カウンターの魅力、もっと知りたくなってきました。ぜひ今度、おすすめのお店に連れて行ってください!

 

長谷川 もちろんです。では、とっておきのお店を考えておきますね。

 

中村 やったー!

 

おいしいお酒とおつまみで、すっかり“ゑびす顔”になった今回の噺。次回からは、長谷川和之さんをガイドとして、個性的なカウンターがある名店を巡っていきます!

撮影/我妻慶一

 

<取材協力>

ゑびす

住所:東京都葛飾区四ツ木1-28-8

営業時間:16:00~22:30

定休日:火曜

※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2021年7月8日)

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎「純」

https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

 

「東京・大衆酒場の名店」バックナンバーはこちら▼

・第1回 【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

・第2回 【東京・大衆酒場の名店】初心者女子と楽しく学ぶ! 篠崎「大林」の魅力と「下町酒場の成り立ち」の噺

・第3回 【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺

・第4回 【東京・大衆酒場の名店】酎ハイ街道をゆく。八広・亀屋の“ボール” 受け継がれる秘伝レシピの噺

・番外編 大衆酒場の酎ハイに欠かせない「下町炭酸」を飲み比べる噺

・番外編 焼酎ハイボールに合う!「東京・大衆酒場の名店」のおつまみを、約5000円の調理家電で再現する噺

「落語」と「酒」の美味しい関係の噺——お酒大好き! 料理も得意! 実力派・橘家文蔵が選ぶお酒が楽しくなる落語4選

落語を語る上で外せない存在である「酒」。長屋住まいの庶民からお殿様まで、古典落語には酒にまつわる人情噺・滑稽噺がたくさんあります。

登場人物描写を丁寧に描くことで落語ファンからも一目を置かれている三代目・橘家文蔵師匠に落語と酒にまつわる歴史から、普段のお酒の飲み方まで幅広くお伺いしました。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。

 

●橘家文蔵  1962年、東京都江戸川区小岩の生まれ。86年、二代目橘家文蔵に入門。88年「かな文」の名をもらい前座となる。90年、二つ目に昇進して「文吾」と改名。2001年「橘家文左衛門」として真打昇進。2003年からBS笑点大喜利、笑点Jr.のレギュラーメンバーを務める。2004年、彩の国落語大賞殊勲賞受賞。 2016年9月21日三代目「橘家文蔵」を襲名

 

切っても切れない「落語」と「酒」

江戸時代に生まれ、師匠から弟子へと受け継がれてきた落語。『芝浜』『寿限無(じゅげむ)』『まんじゅうこわい』など一度は耳にしたことのある演目もあるでしょう。

古典落語では、間抜けな登場人物たちが珍道中を繰り広げる滑稽噺から、うるっと泣かせる人情噺まで、個性あふれる数百もの演目が現代に語り継がれています。

撮影:武田洋輔

 

そんな落語にはたびたび「酒」が登場します。酒好きな父と息子が禁酒の約束を交わすもついつい一口と飲み始めてしまう『親子酒』、家臣の飲酒が禁じられている藩で、どうしてもお酒を藩士に届けたい酒屋とそれを阻止する(没収して自分で飲んでしまう)役人の攻防がおもしろおかしく描かれる『禁酒番屋』など、今も昔も変わらぬお酒の楽しさを感じさせてくれます。

 

しかし、江戸時代の酒は高価で贅沢な品物でした。そのため、庶民は濁り酒や日本酒を水で薄めて飲んでいたと言われています。現代の私たちがイメージする日本酒を飲めるのは、お祝いの席やお通夜など特別な時だったのだとか。落語の中ではどんなお酒が飲まれているのでしょうか? 文蔵師匠に伺いました。

 

「古典落語の中で“酒”というと、ほとんどが日本酒でしょうね。今のような日本酒が全てというわけではなく、水で薄めた安酒だったり、濁ったどぶろくのような酒、焼酎なんかが出てくる噺もあります。『長屋の花見』という貧乏長屋連中が花見にきたら酒じゃなく番茶を飲まされてガッカリするなんて噺もあるくらいなので、本当の酒好きが多かった時代なんでしょう。

落語にも酒を飲む仕草がたくさんでてきます。盃で酒を飲む殿様に対して、庶民は湯呑みで飲んでいたり、久々の酒だからとチビチビ飲む人もいれば、水のようにゴクゴクと飲み干したり。一言に“酒”といっても落語家たちも演目に合わせて様々な表現をしているので、登場人物たちが、季節や舞台によってどんな酒の飲み方をしているのか注目するのも面白いですよ」

↑お話をしながらお酒を飲む所作をする文蔵師匠。無いはずの湯飲みが見えてきます!

 

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橘家文蔵師匠が選ぶ、お酒を飲むのが楽しくなる落語4選

撮影:武田洋輔

 

落語と酒の関係を伺ったところで、さっそく文蔵師匠にお酒を飲むのが楽しくなる落語を4つ選んでいただきました。

 

「試し酒」

5升飲んでも酔わない酒豪がいると聞かされ、本当に飲めるのか実際に飲み合って確かめようと賭け合いをするお話。飲み交わしていくうちにどんどん酔っ払っていく様子が面白い。

「単調な噺なんですけど、それだけにリズム・押し引き等が難しい噺です。他の登場人物のリアクションを交ぜながら、酒豪の飲みっぷりを演じる噺です。いや~難しい(笑)」(文蔵)

 

「寄合酒」

若い衆が集まって酒を飲もう! 料理を作ろう! と盛り上がるも、失敗続きでなかなか酒に辿り着けないお話。個性豊かな登場人物と酒のつまみが次々と出てきて、どんちゃん騒ぎの賑やかな演目だ。

「この噺は、一文無しの若い連中が色んな工夫で酒の肴を調達して来る、2018年にヒットした映画『万引き家族』みたいな噺です(笑)。伸縮出来る便利な落語なので、よく寄席でも演じています」(文蔵)

 

「青菜」

お屋敷に訪れた植木屋。休憩中にその屋敷の旦那と雑談しているうちに“隠し言葉”を教えてもらう。この言葉に憧れて家でもやってみようとするが……というお話。みりんと焼酎を半々に割った『柳蔭(やなぎかげ)』(上方での呼称、江戸では本直し)というお酒が出てくるのにも注目したい。

「炎天下、屋敷の縁側に腰掛け庭を眺めながら冷酒(柳蔭)を飲んでいる旦那様の優雅な佇まいを職人(植木屋)が『俺もやってみよう』と、女房を巻き込んでのドタバタ劇。静かな始まり→ドタバタコントが演じ甲斐のある噺です」(文蔵)

 

「猫の災難」

お隣に住む猫が病気になりその見舞いにと貰った「鯛」をめぐるお話。鯛の頭と尻尾しか貰っていなかったので、どう言い訳しようかと苦戦する熊さんとそれを責める兄貴とのやりとりが痛快だ。

「『たまの休日なんだから昼間っから酒を飲みたい。ただ飲みたい』ってだけの願望で兄弟分にあれこれ頼み、見事にベロンベロンになっちゃう無責任な野郎の噺。酒飲みのいい加減な所が私に通ずるので大好きな噺です(笑)」(文蔵)

 

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「落語家」と「酒」の美味しい関係

撮影:武田洋輔

 

ここからは普段からお酒が大好き! という文蔵師匠にお酒のお話を伺っていきます。

文蔵師匠のTwitterを覗いてみると美味しそうな料理とお酒が投稿されています。普段はどんな飲み方をされているのでしょうか?

 

「もう朝起きた時から、『今日は何を飲もうかな? どの肴をあてようか?』ってず〜っと考えているんですよ(笑)。飲むところから逆算して1日のスケジュールを考えていますから。

スーパーに行ってその時安いもの、食べたいものを選んでチャチャチャっと適当に酒の肴を作るのが好きなんです。

お酒は、焼酎が多いかな。普段よく飲んでいるのは、焼酎の蕎麦茶割り。蕎麦屋でよく蕎麦湯割りを頼んでいたんですけど、『蕎麦茶も合うよ、健康にいいし』なんて教えてもらって一気に好きになってしまって。家でも蕎麦の実から自分で蕎麦茶を煎じて飲むほどに。

普段は甲類焼酎だけど、麹まで蕎麦でつくった『十割(とわり)』というそば焼酎があるというので、今度、十割(じゅうわり)蕎麦茶割りも試してみたいなあ」

 

取材時も「今夜は日本酒を冷蔵庫で冷やしているから」とうれしそうに語ってくれました。

毎日の晩酌が楽しみという文蔵師匠に修行時代のお酒との関わり方についても伺いました。

 

「落語家って前座修行中は、お酒が基本NGなんですよ。うちの師匠は下戸だったから酒なんてもってのほか! って人でした。ま、隠れて飲んでいましたけど(笑)。なので、うちの弟子たちには『隠れて飲むくらいなら飲んでもいいよ、でも粗相のないように』と言っています。でもね、あいつらは粗相だらけですね(笑)。旅先なんかで弟子たちと飲み始めると無礼講になっちゃうんですよ。今は時代的にそういうのが難しいですけど、『おいおい! 師匠が弟子の酒つくってるぞ〜』って弟子から指差されて笑われたりね、まあ酒の席って楽しいですよね」

 

お酒の思い出話を笑顔で語ってくれた文蔵師匠。いいお酒を飲むだけでなく、旨い肴と気の合う仲間との空間があってこそ、美味しいお酒になるのだと感じました。そんな文蔵師匠の独断で選ぶ、好きなお酒と美味しい肴のペアリングもお伺いしてみました。

 

「初めて『美味しいな〜』と思ったお酒は日本酒ですね。そこから焼酎とかも飲むようになって、今はコレと決めずに、色々な酒をその日の気分で楽しんでいます。

家に帰ってすぐ飲みたい時には缶ビールを買いますし、暑い時期なんかは、甘くない缶チューハイもいいですよね〜。気がついたら3缶くらい空いてて、そのままゴロンですよ。

甲類焼酎だと昔から「純」とかですかね。 この前はブレンド茶で割って、肴には「カツオの豆板醤和え(写真)」を。ほんとうまかったですね〜。ついつい飲みすぎちゃいました」

↑文蔵師匠お手製の「カツオの豆板醤和え」。サクで買ってきたカツオを食べやすい大きさに切り、だし醤油と豆板醤、好きな薬味で和えたもの。鶯谷の寿司屋の大将から教えてもらったレシピなんだとか

 

 

「あと芋焼酎も結構好きですが、全量芋焼酎の『一刻者』は、水で割るのがもったいない。だからストレートで、チェイサーと一緒にチビチビと。これには豚のブロック肉を買って調理する角煮とかぴったりでしょう」

 

好きなお酒を飲みながら落語に耳を傾ける……。江戸時代へタイムスリップした気分で、現代のうまいお酒を味わえば、心地よく酔えること間違いなしです。早速、涼しい夕暮れ時など、好みのお酒を用意して、落語飲みを試してみませんか?

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・宝焼酎 「純」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

・全量芋焼酎 「一刻者(いっこもん)」
https://www.ikkomon.jp/

・そば焼酎「 十割(とわり)」
https://www.takarashuzo.co.jp/kodawarigura/towari/

焼酎ハイボールに合う!「東京・大衆酒場の名店」のおつまみを、約5000円の調理家電で再現する噺

今回は「東京・大衆酒場の名店」シリーズの番外編。約5000円の調理家電を使って、いままで訪れた名店のおつまみと焼酎ハイボールを再現し、家で酒場の雰囲気や味わいを実際に楽しんでみる企画です。

外で飲む機会が減り、酒場を恋しく思う方も多いのではないでしょうか。そこで、いままで訪れた名酒場のおつまみを再現し、家飲みで大衆酒場の雰囲気を楽しもうというのが今回の企画。とはいえ、そこまで手間もお金もかけたくない……というわけで、今回は約5000円で購入できるリーズナブルで便利な調理家電を用意。お酒好きのタレント・中村 優さんが生徒役となり、調理家電に詳しいフードアナリストの中山秀明さんに使い方を教わりながら、おつまみを調理していきます。なお、合わせるのはもちろん、東京・下町の焼酎ハイボールの味を追求したタカラ「焼酎ハイボール」です!

↑マラソンランナーとしても活躍している中村 優さん(左)。フードアナリストの中山秀明さん(右)は調理家電のレビュー記事を多数執筆する調理家電のエキスパート

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

3つのお手軽な調理家電で酒場のおつまみを作る!

中村 中山さん、今日はよろしくお願いします! これが今回の調理家電ですか。コンパクトなタイプが多いんですね。

 

中山 そうですね。小さいぶん機能もシンプルで価格も手ごろです。今回は煮物、揚げ物、焼き物の3種類を作ろうと思い、3タイプを用意しました! プリズメイト「サラダチキンメーカー」と、ライソン「おひとりフライヤー 0.6L」、サンコー「よくばりホットプレート」です。

 

中村 これを使って、私がこれまでに「東京・大衆酒場の名店」の連載で訪れたお店の料理を作ってみるんですよね。どれもおいしかったので、楽しみです!

 

中山 今回は、あくまで同じ料理を作るだけで、レシピも私のオリジナルですが、お店の雰囲気は味わえると思いますよ。ぜひタカラ「焼酎ハイボール」とともに楽しんでみてください!

 

「サラダチキンメーカー」で上州スタイルの「煮込み」を作る

↑煮込みを調理するプリズメイト「サラダチキンメーカー」(4950円・以下価格はすべて税込)

 

中山 まずはプリズメイト「サラダチキンメーカー」で、もつ煮込みを作っていきましょう。「サラダチキンメーカー」はその名の通り、本来は鶏肉をやわらかく煮る調理家電なのですが、ほったらかしで一定の温度をキープしてくれるので、じっくり煮込む料理にはちょうどいいんです。ところで中村さん、‟上州スタイル”って覚えてます?

 

中村 もちろん! こんにゃくが群馬県=上州の名物ということで、もつとこんにゃくをメインにした「煮込み」のことですよね。確か、篠崎「大林」八広「三祐酒場」がこの上州スタイルだったような。

↑八広「三祐酒場」の「煮込み」はもつとこんにゃくを使った上州スタイル

 

中山 その通り! 素材のうまみがシンプルに楽しめておいしいですよね。まずはこんにゃくを切って、もつと一緒に鍋のなかに入れましょう。具材は鍋の8分目ぐらいまで入れて、浸るぐらい水を入れます。

 

中村 はい! 鍋がコンパクトなので、具材が想像以上にぎっしり入りますね。でもそのぶん、味が染み込みやすそうです。味付けはみそベースですか?

 

中山 そうです! みそは大さじ2杯ぐらい。あとはだしとしょうがを加えます。ただ、今回のように短時間で仕上げる場合は肉のうまみが広がりきらず、コクがでにくいことも。そこで大活躍するのがタカラ本みりんです。

↑今回は、すでに湯通しされた市販のもつを使用。味が染み込みやすいようにこんにゃくは気持ち小さめに切ります

 

中村 なるほど。ちょっと甘めにするんですね。

 

中山 本みりんは甘みを加えるほかにも、コクやうまみをプラスして、塩味のカドをとってまろやかにしてくれる効果もあります。味も染み込みやすくなるし、もつのニオイも消してくれるので、いいことずくめなんですよ。

↑みそを溶かし入れ、顆粒の和風だしとチューブのしょうがを適量入れます。仕上げに大さじ2杯の本みりんをプラス

 

中村 へえ、それはいいですね! 具材と調味料を入れたら、あとはスイッチを押すだけですか? カンタンですねー。設定時間はどうします?

 

中山 20分のスピードモードで煮込み、止まったら少し休ませて、さらに20分の追い炊きをして完成です。短時間でも本みりんを使えば想像以上においしくなりますよ!

 

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「おひとりフライヤー 0.6L」で「串かつ」を作る

中山 では、もつを煮込んでいる間に、「串かつ」を作っていきましょう!

 

中村 豚肉のスライスをミルフィーユ状に重ねて揚げた「三祐酒場」の「串かつ」はおいしかったですね! あれを目指して頑張りましょう!

↑八広「三祐酒場」の「串かつ」

 

中山 使う調理家電は、ライソンの「おひとりフライヤー 0.6L」です。コンパクトな卓上フライヤーで、ひとり暮らしにもぴったりのサイズなんです。

 

中村 本当ですね、小さくてカワイイです!

↑串かつを調理するライソン「おひとりフライヤー 0.6L」(2915円)

 

中山 では、調理していきましょう。具材は、薄切りの豚バラ肉と玉ねぎです。肉は豚バラ肉1枚を端からくるくると巻けばOK。

 

中村 串には玉ねぎと肉を交互に刺せばいいんですね。こうですか?

 

中山 お、上手に串打ちできましたね! ではそれに小麦粉、溶き卵、パン粉の順で衣をつけたら、揚げていきましょう。

↑くるくると巻いた豚バラ肉とくし形に切った玉ねぎを串打ち。そこに小麦粉と溶き卵をつけます

 

↑パン粉もしっかりとつけていきます

 

中村 では揚げていきますよ。あ、コンパクトなサイズでもしっかり揚がるんですね!

 

中山 タテ型なので深さがあるし、「串かつ」なら問題ないですね。キツネ色になったら取り出して、あとは余熱で仕上がります。

 

中村 いい香り~。これも食べるのが楽しみです!

↑フライヤーの温度はMAX(190℃)にして揚げていきます

 

「よくばりホットプレート」で「納豆オムレツ」を調理

↑サンコー「よくばりホットプレート」(5980円)

 

中村 では、次の料理に行きましょう! 使うのはホットプレートですね。

 

中山 はい、サンコーの「よくばりホットプレート」を使います。これは深さが違う2面のプレートがあって、それぞれ別の温度に調節できます。つまり、2つの料理が同時に作れるんですね。これで篠崎「大林」で食べた「やりいかトマトバター」や、八広「亀屋」で食べた「納豆オムレツ」を作っていきますよ。

 

中村 いいですね~。どっちもおいしかったです!

↑八広「亀屋」の「納豆オムレツ」

 

中山 まずは「納豆オムレツ」を作りましょう! 具材は、小さく刻んだ豚バラ肉と玉ねぎとピーマン、あとはもちろん納豆です。

 

中村 最初は油をひいて、深いほうのプレートで具材を炒めればいいんですね。味付けはどうしますか? 「亀屋」は、甘辛くて、お酒が進む味だったですよね。

 

中山 あの甘辛さは、中濃ソースの味じゃないかと。というわけで、具材には塩こしょうを軽く振って、仕上げに中濃ソースをひと回しします。それができたら浅いほうのプレートで、卵2個分の薄焼き卵を作りましょう。

 

中村 わかりました。油をひいて、溶き卵を流し込みますね。

↑深いプレートで具材を炒めて中濃ソースで味付け

 

↑浅いプレートで薄焼き卵を作ります

 

中山 お、均一にうまく焼けましたね! 薄焼きとはいえ、この量なら適度に厚みができるのでうまくかぶせられるはず。

 

中村 かぶせますね。よいしょっ……と。

 

中山 おお、イイ感じですねー! これで完成です!

 

空いたプレートで「やりいかトマトバター」を作る

↑篠崎「大林」の「やりいかトマトバター」

 

中山 ではこの調子で「大林」で食べたメニューの「やりいかトマトバター」を作りましょう。まずはいかを切っていきます。いかは、やりいかじゃなくても大丈夫ですし、すでに処理されている板状のいかや冷凍いかでもOKです。

 

中村 こんな感じで大丈夫ですか?

↑いかは水洗いしてワタと足を抜き、フネというプラスチックに似た部位を引っ張って取り出します。上下で2つに分けたら、ワタや目の周辺を取り除いて2cm程度にカット

 

中山 いいですね! では、さきほど卵を焼いた浅いほうのプレートで焼いていきましょう。バターを溶かしたら、まずはにんにくを少し炒めてうまみをプラスします。

 

中村 ああ……いいですね~、いい香りがしてきました!

 

中山 いかに軽く火が通ったら、カットしたトマトを入れて一緒に炒め、塩こしょうとごまを振って完成です。いかの身が硬くならないように、サッと火を入れるのがポイントですね!

 

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亀屋の「ボール」を再現したタカラ「焼酎ハイボール」で乾杯!

中村 これで4品完成ですね! お待ちかねの乾杯といきますか~!

 

中山 このときのために、あらかじめ冷蔵庫でグラスとタカラ「焼酎ハイボール」<ドライ>を冷やしておきました。これ、見てください!

中村 うわー! 缶とグラス多すぎ(笑)! でも、グラスも冷やしているところなんて、「亀屋」を思い出しますよね。

 

中山 お、さすがです。今日はこれで「亀屋」の焼酎ハイボール、通称「ボール」を再現しようかと。

 

中村 いいですね。ぜひお願いします!

↑八広「亀屋」名物の焼酎ハイボール

 

中山 グラスに輪切りのレモンを1枚入れて、あとはキンキンに冷やしたタカラ「焼酎ハイボール」<ドライ>を注ぐだけ。味が薄まらないように、あえて氷は入れません。

中村 そのためにグラスも冷やしたんですよね。そういえば、「亀屋」もグラスと焼酎ハイボールの素(もと)と、炭酸水をしっかり冷やす“3冷(さんれい)”スタイルでしたよね。

 

中山 その通り! 今回は、グラスと焼酎ハイボール缶だから“2冷”ですけど。

 

中村 わあ、見た目は本当に「亀屋」の「ボール」みたいになりました!

中村・中山 では、カンパーイ!

 

中村 ……うん、やっぱり冷えてておいしいっ! ああ、味も「亀屋」の「ボール」みたいにキリっとしていて飲みごたえがあります!

 

中山 ですよね! 料理と合わせるともっとおいしいですよ。というわけで、作ったおつまみと合わせてみましょう!

 

「煮込み」と「串かつ」は感動のおいしさ

中山 まずは「サラダチキンメーカー」で作った「煮込み」からいただきましょう。

 

中村 おいしい! 具材にちゃんと味が染みてます。これは完成度が高い! 「煮込み」がこんなに簡単に作れるってスゴいですね。

 

中山 追い炊きとタカラ本みりんが効きましたね。もつもやわらかく仕上がっていて、これは上出来!

 

中村 処理済のもつを使ったから油っこくないし、全体的にやさしい味わいですね。濃厚なタイプもお酒に合いますけど、このやさしい味も好きです。こんにゃくも入っていてヘルシーですし。

 

中山 そこに、糖質ゼロのタカラ「焼酎ハイボール」は素晴らしい組み合わせですよね。では、次は「おひとりフライヤー 0.6L」で作った「串かつ」を味わいましょう!

中村 わあ! 衣がカリカリに揚がってるし、お肉は薄切りを重ねているからジューシーですごくやわらかい。肉汁がジュワッと出てきて、これも感動的においしいです。大きさは違いますが、「三祐酒場」の「串かつ」を思い出します!

 

中山 ほどよく芯が残った玉ねぎも、ジューシーな肉と相性抜群ですね! 焼酎ハイボールとの相性はどうですか?

 

中村 「串かつ」の濃厚な味をキリッとした焼酎ハイボールがリセットして、また食べたくなるし、飲みたくなる……。やっぱり、揚げ物とタカラ「焼酎ハイボール」の相性は間違いないですね!

 

「やりいかトマトバター」と「納豆オムレツ」は再現度が高い仕上がりに

中山 次は「大林」で食べた「やりいかトマトバター」をどうぞ!

 

中村 これ、すごくいい! 個人的には一番これが再現度が高い気がします!

中山 サッと炒めたのがよかったですね。水分も多すぎず、いかの弾力やトマトのみずみずしさもちょうどいいです。

 

中村 これを食べていると、「大林」さんのコの字型のカウンタ―とか、お店にびっしり貼ってあった短冊のメニューを思い出しますね!

 

中山 では、最後に「亀屋」で食べた「納豆オムレツ」をどうぞ。

 

中村 そうそう、「亀屋」さんは、納豆のほかに豚肉や野菜も入った贅沢なイメージで、こういう甘辛い味でした。やっぱり焼酎ハイボールがスゴく合います!

↑「納豆オムレツ」(手前)は卵の下に甘辛い味付けの具材がぎっしり

 

中山 タカラ「焼酎ハイボール」はどんな料理にも合いますけど、大衆酒場の料理とは相性抜群ですよね。

 

中村 はい、すごく進んでしまいます。それに、こうしてグラスに注いで飲むと、ますますお店で飲んでいるような気分になりますね!

 

中山 今回、調理家電で4つのおつまみを作ってみて、いかがでしたか?

 

中村 どれもおいしくできて、大満足です! さすが、大衆酒場のおつまみだけあって、どれも焼酎ハイボールに合う味でした。おうちで作ると、より自分好みの味にできるのもいいと思います。家電の実力もスゴかったですね!

 

中山 楽しんでいただいたようで、何よりです!

 

中村 ただ、食べて飲んでいるうちに、これまで行った大衆酒場のことを思い出して、恋しくもなりました。

 

中山 和やかな雰囲気や、大将やお客さんとのコミュニケーションも大衆酒場の醍醐味ですからね。

 

中村 はい! 大衆酒場はあの雰囲気もおいしさのひとつですから。いま、飲食店は大変な時期かもしれないですけど、またぜひお店に行きたいですし、これからももっと魅力を伝えるために頑張りたいです。中山さん、今日は酒場の雰囲気を思い出させていただいて、ありがとうございました!

撮影/中田 悟

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・タカラ「焼酎ハイボール」

https://shochu-hiball.jp/

・タカラ本みりん

https://www.takarashuzo.co.jp/cooking/honmirin/

 

「東京・大衆酒場の名店」バックナンバーはこちら▼

・第1回 【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

・第2回 【東京・大衆酒場の名店】初心者女子と楽しく学ぶ! 篠崎「大林」の魅力と「下町酒場の成り立ち」の噺

・第3回 【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺

・第4回 【東京・大衆酒場の名店】酎ハイ街道をゆく。八広・亀屋の“ボール” 受け継がれる秘伝レシピの噺

・番外編 大衆酒場の酎ハイに欠かせない「下町炭酸」を飲み比べる噺

 

【東京・大衆酒場の名店】酎ハイ街道をゆく。八広・亀屋の“ボール” 受け継がれる秘伝レシピの噺

東京にある大衆酒場の名店を巡る企画の第4回。今回は、墨田区の八広駅近くにある「亀屋(かめや)」を訪れ、その魅力を探っていきます。

大衆酒場は、その安さとウマさ、昔ながらの温かい雰囲気で、酒飲みの心をひきつけてやみません。なかでも東京では下町を中心に、根強い人気を誇る大衆酒場の名店が数多く存在します。そんな名店を巡り、お店の魅力と東京ならではの酒文化を深掘りしていくのが本連載。立石「宇ち多゛(うちだ)」篠崎「大林」八広「三祐酒場」に続く第4回は、八広「亀屋」にお邪魔します。

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

「酎ハイ街道」では幅広い飲食店が同じスタイルの酎ハイを提供

今回訪れる「亀屋」は、京成押上線「八広駅」と東武伊勢崎線「鐘ケ淵駅」の中間、鐘ヶ淵通り沿いに佇む焼酎ハイボール(酎ハイ)の名店です。鐘ヶ淵通りは、下町大衆酒場に欠かせない酎ハイの名店が多いことから「酎ハイ街道」と名付けられたストリート。何を隠そう、その名付け親が本連載のナビゲーターである藤原法仁(のりひと)さんなのです。今回も、お酒好きのタレント・中村 優さんが生徒となり、藤原さんに酎ハイ街道の歴史と亀屋の焼酎ハイボール(通称「ボール」)の魅力を教えてもらいます。

↑「酎ハイ街道」の名付け親であり、大衆酒場にまつわる著書を数多く上梓している藤原法仁さん(左)。中村 優さん(右)はタレントおよびマラソンランナーとして活躍しています

 

中村 藤原さん、前回お約束した「酎ハイ街道」のお店にご案内いただきありがとうございます。今回もよろしくお願いします! 「酎ハイ街道」って藤原さんが名付け親なんですよね。どんな経緯で名付けられたんですか?

藤原 正確には思い出せないんですけど、「酎ハイ街道」と言い始めたのは2000年代のなかごろだったかな。この界隈でエキスを入れて作る琥珀色の焼酎ハイボール、いわゆる下町酎ハイを出す店が多いことに気づいたんです。しかも、居酒屋だけじゃなくて、ラーメン屋やスナックなどでも同じスタイルの酎ハイを提供していたんですよ。そこで、何となく自分のウェブサイト「酔わせて下町」などで「酎ハイ街道」を使い始めたら、自然と広まっていったんです。

 

中村 なぜ、同じスタイルの酎ハイを出す店が集まっているんですか?

 

藤原 かつて京成曳舟駅近くで営業していた名酒場「三祐酒場 本店」が焼酎ハイボールの元祖とされているんですが(諸説あり)、そこから広がっていった名残りだと考えられます。今でも「酎ハイ街道」には、昔ながらの焼酎ハイボールを出す店が30店舗ほど残っていますよ。

 

遊郭「玉の井」が酎ハイ街道の発展に貢献した

中村 以前に「三祐酒場 八広店」にお邪魔したときは、「酎ハイ街道」は鐘ヶ淵通りのことで、鐘淵紡績(かねがふちぼうせき・カネボウの前身)やその関連工場で働く労働者で界隈の酒場がにぎわったとおっしゃっていましたよね。

↑現在の鐘ヶ淵通り。都市開発による道路の拡張工事が進行し、移転や建て替えなどを余儀なくされた名酒場も少なくありません

 

藤原 お、さすがです。その通り! もうひとつ、「酎ハイ街道」の発展に欠かせないのが、「玉の井」(たまのい)と呼ばれていた私娼街。いわゆる遊郭です。場所でいうと、現在の東京都墨田区東向島五・六丁目と墨田三丁目あたり。戦前から昭和33(1958)年頃まで存在していて、都内屈指の花街として栄えたそうです。

 

中村 なるほど。「玉の井」があったから、周辺の酒場もさらに発展したわけですね!

 

藤原 「亀屋」の先代に聞いた話によれば、当時の常連さんのなかには、玉の井に行く前に景気づけに「亀屋」で一杯ひっかけて、玉の井で「亀屋」の出前を頼んで、帰りにまた「亀屋」に寄って余韻を楽しむ……なんて客もいたそうですよ。

 

中村 1日に3回も! それほど酒場にニーズがあったということですね。

 

藤原 ちなみに、「玉の井」を象徴する存在が、更正橋(こうせいばし)です。かつて八広駅から玉の井に行く途中の曳舟川(ひきふねがわ)にかかっていた橋ですね。

 

中村 更正橋? どういう意味でしょうか?

 

藤原 「玉の井で遊んだら、更正して帰りなさいよ」という意味です。ちなみに曳舟川は昭和30(1955)年に都市開発の埋め立てで曳舟川通りとなり、更正橋は交差点の名称へと姿を変えました。ただ、更正橋の親柱(おやばしら・橋の四隅にある柱)は交差点の脇にある隅田区立八広小学校の校庭に保存されているんですよ。

↑八広小学校に移設された更正橋の親柱。同校はかつて更正小学校という名称で、平成15(2003)年に近隣校との統合に伴い八広小学校として新装開校

 

↑現在の曳舟川通り。その向こうの歩道橋には「更正橋」の名が残っています

 

中村 街の歴史を残しているとは、何とも粋ですね!

 

藤原 実際に目にすると、感慨深いものがありますよ。さて、ここまでの話の流れをまとめると、この界隈は鐘淵紡績の企業城下町としてにぎわっていた。加えて近くには人の集まる歓楽街・玉の井があった。このほか、隅田川など物流の要である河川が近く、鉄道も整備されていましたから、自然と大衆酒場が増えていったというわけです。そして、現存する酒場のなかでも歴史が古く、名店といえるのが今回の「亀屋」ですね。

 

中村 なるほど! レジェンド級の名店ということですか。楽しみです!

↑「亀屋」の創業は昭和7(1932)年。もともと「鐘ケ淵駅」の隣の停車場「東向島駅」の近くで立ち飲み酒場として始まったそう

 

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「ボール」の決め手は“3冷”スタイルと秘伝のレシピ

藤原 僕が初めて「亀屋」を訪れたのは2000年ごろ。この街の歴史も文化も面白くて、どんどん「酎ハイ街道」のエリアに魅了されていきました。そのなかでも特に焼酎ハイボール、いやここでは皆「ボール」って言いますね。そのボールがおいしくて、店の雰囲気も素晴らしかったのが「亀屋」なんです。前置きが長くなりましたが、乾杯しましょうか!

中村 楽しみです。では「ボール」をふたつお願いしまーす!

 

藤原 「亀屋」は現在、三代目主人の小俣光司さんとそのお母さん、つまり二代目の奥様にあたる小俣美代子さん(現在は療養中)が切り盛りしていて、ボールもおふたりが作ってくれます。

 

中村 「亀屋」さんのボールってどんな特徴があるんですか?

 

藤原 グラス、オリジナルの焼酎ハイボールの素(もと)、炭酸水をあらかじめしっかり冷やす“3冷(さんれい)”スタイルであること。氷は入れません。これこそ氷が希少だった時代のオールドスタイルで、まさに正統派の下町の焼酎ハイボールなんです。

 

中村 あっ、こちらで使っている炭酸は「下町炭酸を飲み比べる噺」で出てきた「アズマ炭酸」ですね。覚えてます!

 

藤原 お、さすがですね! 中村さんが、確実に大衆酒場の知識を吸収してくれていてうれしいです。

↑焼酎ハイボールの作り方は、まず冷やしたグラスにスライスしたレモンを入れ、ビン入りの炭酸水を1本すべて注ぎます

 

↑さきほどの炭酸水にボトルで冷やした黄金色の液体をなみなみ注げば完成! ボトルには、宝焼酎と独自のエキスをブレンドした亀屋特製「焼酎ハイボールの素」が入っています

 

↑完成した「亀屋」名物の「焼酎ハイボール」(300円 ※表記価格はすべて税込み・以下同)

 

中村・藤原 それでは……カンパ~イ!

 

中村 わー、氷が入っていなくても冷たい! のどごしがスムーズで、スイスイ飲めます!

藤原 でしょう? 「亀屋」のボールは、とにかく味のバランスが最高。ほのかな酸味に、キリっとした爽快感とガツンとした飲みごたえがあるので、ついつい進んでしまいますよね!

 

中村 小俣さん、この味を生んだのは初代の店主さんですか?

 

小俣 いえ、今の味を開発したのは私の父、つまり二代目なんです。「亀屋」を創業したのは父の母親にあたる私の祖母で、焼酎ハイボール自体は創業時からあったらしいんですね。そこから父がさらに研究して、新しい「焼酎ハイボールの素」のレシピを作りました。ベースの焼酎を宝焼酎に変えて、その味に合うエキスを開発したんです。

↑2017年から三代目として店に立っている小俣光司さん(右)

 

中村 新しいレシピになったのはいつごろですか?

 

小俣 昭和から平成に変わるころだと思います。いまから30年以上前ですかね。そのレシピを母が覚え、私が受け継いで今に至ります。

 

藤原 やっぱり、「素」のレシピは秘伝なんですよね?

 

小俣 そうですね、こればっかりは……。でもひとつだけ言えるのは、宝焼酎とエキス以外に、当店独自にブレンドしているものがあるということです。

 

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「亀屋」の焼酎ハイボールはどんな料理にも相性抜群

↑「マグロぶつ切」(400円)

 

中村 では、「亀屋」さんで人気のおつまみも頂きましょう! まずは「マグロぶつ切」から。切り身も大きくて食べごたえ抜群。この豪快さで400円は超おトクですね。人気の高さも納得です!

 

藤原 鮮度も抜群で、何より焼酎ハイボールとの相性が格別。刺身って、意外にお酒を選ぶ料理なんですが、「亀屋」のボールは幅広い料理に合う。刺身にもバッチリ合いますよね。

↑「納豆オムレツ」(450円)。具材は納豆のほかに、豚肉、玉ねぎ、ピーマンなど

 

中村 この「納豆オムレツ」は、具材が甘辛く調理されていて、お酒が進む濃いめの味付けが良いですね。

 

藤原 これもボールが進みますね~。じゃあ僕のお気に入りのおつまみもどうぞ。「たらこ」「にこごり」「お新香」です。特に「たらこ」や「にこごり」は、下町大衆酒場の王道といえるおつまみです。ぜひ召し上がってみてください。

↑「お新香」(左)「たらこ」(右)「にこごり」(奥)(各400円)

 

中村 あ、「たらこ」は軽く火が通っていてミディアムレアになってるんですね。絶妙な食感でうまみがギュッと詰まっている感じ。大根おろしのアクセントも素敵です! 「にこごり」は弾力があるけれど、歯切れがよくてさっぱりとした優しい味。からしをつけると味が引き締まってイイですね!

 

藤原 最後のシメに「すいとん」はいかがですか? 小麦粉を練って平べったくした団子のような生地を、つゆで煮た郷土料理です。

↑「すいとん」(450円)

 

中村 団子とも麺とも違う、ニョッキみたいな形なんですね。つゆを吸った、チュルッともちもち食感がいい! 甘辛いおつゆで、ほっこりした気分になります。

 

藤原 野菜がたっぷりで胃にも優しい。こういう気の利いたシメがあるのも下町大衆酒場の醍醐味ですね。小俣さん、こんな素晴らしいお店を守って頂いて、本当にありがとうございます。

 

小俣 いえいえ。こうして藤原さんが「酎ハイ街道」と名付けて盛り上げてくれたおかげです。遠方からお客様がいらっしゃることも増えて、とても感謝しています。再開発で昔の街の面影が失われていくのは寂しいですけど、これからもこの焼酎ハイボールの味を守りながら頑張っていきたいですね。

 

中村 小俣さん、藤原さん、今日はありがとうございました! やっぱり「酎ハイ街道」と「亀屋」に歴史ありですね。また勉強になりました!

撮影/我妻慶一

 

<取材協力>

亀屋

住所:東京都墨田区東向島5-42-11

営業時間:17:00~23:00(L.O.22:30)

定休日:日曜、第2・第4月曜

※新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(現在はゴールデンウィーク明けまで休業中)。

※取材日:2021年4月2日

 

記事に登場したお酒の紹介はこちら▼

・宝焼酎

https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

 

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今キテる「紹興酒」の多彩な飲み方&テイクアウトで楽しむ「家中華」

おうち時間の増加で、中華料理のテイクアウトやデリバリーを自宅で楽しむ方も多いはず。今回は、自宅で中華料理を楽しむシーン=「家中華」に合う紹興酒の飲み方をご提案します。

おかずにもつまみにもなり、バラエティが豊富でコストパフォーマンスも高い中華料理。そんな中華料理に合うお酒といえば、真っ先に思い浮かぶのが紹興酒です。

 

とはいえ、イメージはできるものの、紹興酒は飲み方がよくわからない……という方も多いでしょう。そこで今回は、お酒と中華料理に関わりの深い3人が人気のテイクアウト中華を持ち寄り、紹興酒とのペアリングを提案する試飲&試食会を実施。以前公開した「紹興酒の基本」の記事を参考に、紹興酒の多彩な飲み方に合う料理をご紹介していきます。家で試してみたくなるペアリングばかりなので、ぜひ参考にしてみてください!

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

【今回紹介するペアリングの料理はこちら】

 

3人の酒好きが、紹興酒の多彩な飲み方とペアリングを提案

「家中華」の試飲&試食会に集まったのは3人の酒好きたち。今回は、GetNavi web編集部の小林史於(こばやし・しお)と、フードライターの中山秀明(なかやま・ひであき)さん、中華料理の識者である菊池一弘(きくち・かずひろ)さんが参加します。

↑フードアナリストでもある中山秀明さん(左)は、紹興酒や中華料理関連の取材・執筆も多数。「中華料理もっと向上委員会」で議長を務める菊池一弘さん(中央)は北京への留学経験があるうえ、以降も2019年までは毎年訪中していたそう。紹興酒の故郷・紹興市を訪れたこともあり、紹興酒にも造詣が深いです。小林史於(右)はきき酒師の資格を持ち、紹興酒も大好き

 

試飲&試食会で使うのは、塔のマークと赤いラベルで日本でもおなじみの紹興酒「塔牌(とうはい)」花彫 <陳五年>です。こちらをベースに様々な飲み方を試しつつ、各人が持ち寄ったテイクアウトの中華料理と組み合わせて、自由にディスカッションしていきます。

↑紹興酒「塔牌」花彫 <陳五年>。「塔牌」は伝統製法にこだわり、水質が最も安定する冬季にのみ仕込むため、味わいも香りも豊かなのが特徴です

 

ロックはうまみが凝縮された「腸詰」と合わせて

小林 みなさん、本日はよろしくお願いします! 紹興酒の飲み方といえば、ロックかストレートというイメージですよね。まずはそれに合う料理から知りたいです。中山さん、どんな料理がオススメなんですか?

 

中山 ロックには、羊肉の腸詰なんてどうでしょうか。紹興酒は日本酒よりもアルコール度数がやや高く(16度)、ロックにすることで味がキュッと引き締まるので、うまみを凝縮させた腸詰が合うと思って選びました。冷菜なので温度帯も合うと思いますよ。どうぞ、合わせてみてください!

↑紹興酒のロックには羊肉の腸詰を合わせていきます

 

菊池 うん! 羊独特のコクが紹興酒の旨みとマッチして、いいですね。定番の豚肉の腸詰や、甘めの台湾腸詰も合いそうです。

 

小林 腸詰ってどことなくサラミの味に似ているから、サラミでも合いそうですね! ほかの料理だとどうですか?

 

中山 チャーシューなどの肉系のおつまみが合いますよ。野菜なら千切りじゃがいもの中華サラダ、中華風のたたききゅうりといったラー油を効かせた冷菜にも合うと思います。

 

ストレートは濃厚な「トンポーロー」と相性バツグン

小林 続いて、紹興酒のストレート。「紹興酒の基本」で習った通り、こちらは大ぶりのワイングラスで飲むのがいいんですよね。相性のいい料理として、トンポーロー(豚バラ肉の煮込み)をご用意いただきました。

↑紹興酒のストレートとトンポ―ローを合わせます

 

中山 トンポーローは、紹興酒の故郷、紹興市がある浙江省(せっこうしょう)の郷土料理。沖縄だったら泡盛にラフテー(豚角煮)を合わせるように、同じ地域のものを合わせてみました。あとは、八角を使うのがトンポーローの特徴なんですが、その独特なフレーバーが紹興酒とマッチするはずです。

 

小林 なるほど、いただきます! ……おお、確かにウマイっ! 濃厚な味わいに紹興酒の旨みが絡み合って、まろやかさが増した気がします。ああ、八角の甘い香りがまた、紹興酒と合うんだな……。常温の紹興酒は口当たりがスムーズで、トンポーローとの相性も抜群です!

菊池 そもそもトンポーローは紹興酒を使うレシピが多いので、相性は間違いないですよね。あと、浙江省は醤油や砂糖をよく使う文化圏で、この甘辛い味付けに紹興酒はドンピシャです。

 

中山 その意味では、中華ちまきなども合うと思いますよ。浙江省の嘉興(かこう)市は、ちまきが有名な街ですしね。

 

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燗には「ブロッコリーの塩にんにく炒め」がオススメ

小林 では、続いて菊池さん、「紹興酒の基本」でも紹介した燗にオススメの料理を教えてください!

 

菊池 ブロッコリーの塩にんにく炒めはいかがでしょうか。燗のやさしい口当たりに、野菜本来の甘味と乳化した油のとろみが効いたまろやかな味がすごく合うんです。

↑紹興酒の燗とブロッコリーの塩にんにく炒めのペアリング。紹興酒の温め方は、湯せんでも電子レンジでもOK。40℃ぐらいのぬる燗がオススメ

 

中山 いただきます! おお、すごく合いますよ、これ! いつまでも食べていたくなる……そんな、幸せな組み合わせです。

 

菊池 でしょう? 野菜は豆苗やチンゲンサイのような青菜でもいいですよ。

 

小林 なるほど…それもそうですが、紹興酒の燗ってこんなにウマイんですか!?  前回は「紹興酒は乳酸が多く、乳酸は温めると味わいがふくらむ」と教えてもらいましたが、本当に丸みが出て、香りも立ちますね。激ウマです!

 

菊池 ホントですね! 改めて飲みましたが、こりゃウマイ!

 

中山 確かに。ああ~ウマイ……(一同、しばらく燗の旨さに浸ります)

菊池 ちなみに、中華の甘味と紹興酒の燗を合わせるのもオススメですよ。

 

小林 中華スイーツというと、ごま団子などですか?

 

菊池 はい。ごま団子もそうですが、あんこ系は合いますね。イチオシは月餅(げっぺい)です。月餅はあんにラードを練り込むことが多く、そのこってりした甘さが、燗をした紹興酒とよく合うんですよ。

 

小林 へえ、あんこと紹興酒が合うなんて。今度試してみます!

 

 

紹興酒の炭酸割り「チャイナハイボール」の美味しいレシピとは?

小林 さて、ここからは、紹興酒を割り物で割るライトな飲み方も提案したいと思います。なかでも、これからの季節は爽やかな炭酸割りのニーズが高まるはず。ということで、紹興酒の炭酸割り、通称「チャイナハイボール」のおいしい作り方を事前に中山さんに研究してもらいました。中山さん、お願いします!

 

中山 はい! 色々試したんですが、紹興酒と炭酸水(炭酸)の割合は紹興酒1に対して炭酸2(アルコール度数5%強)というのがベストだとわかりました。1杯の目安は紹興酒が90ml、炭酸が180mlですね。もうひとつのポイントは、甘味を加えること。砂糖はとけにくいので、ガムシロップを入れましょう。冷たくして炭酸で割ると、紹興酒の甘味がおとなしくなるので、そこを補強するイメージですね。

↑紹興酒の量は炭酸の半分が目安

 

↑ガムシロップを投入。量は紹興酒が90mlであれば10~15ml(ポーション1個分)が目安。ガムシロップの代わりにはちみつや黒みつを使ってもOKです

 

小林 なるほど。作り方のポイントはどこですか?

 

中山 氷に紹興酒とガムシロップを注いだら、炭酸を注ぐ前にしっかり混ぜて冷やすことですね。あとは、炭酸を注ぐときも炭酸ガスが飛ばないようにやさしく注ぎ、仕上げのステア(かき混ぜること)もゆっくりと。ちなみに、今回は用意していませんが、レモンスライスを浮かべると、ほど良い酸味が味を引き締めてくれるのでオススメですよ。

↑炭酸を注ぐ前に、しっかり混ぜるのがコツ。マドラーを使って氷を水平方向に動かします

 

↑炭酸は少しずつゆっくり注ぎましょう

 

↑最後に上下の濃さを均一にすることを意識しながら、ゆっくり1~2回混ぜれば完成!

 

小林 では、完成品を単独でいただきます! おっ、グッとのどごしが良くなって、爽やかになりました。飲みやすいし、複雑な旨みと香ばしさも感じられます。うん、絶妙な味加減。さすがは中山さんです!

 

中山 ありがとうございます! ちなみに、僕は紹興酒のトニックウォーター割りもすごく好きです。甘味を足す必要がないですし、トニックウォーターの風味がよく調和しますから。こちらもぜひ試してみてください!

 

酒噺の人気シリーズ「東京・大衆酒場の名店」のバックナンバーはこちら▼

・第1回 【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

・第2回 【東京・大衆酒場の名店】初心者女子と楽しく学ぶ! 篠崎「大林」の魅力と「下町酒場の成り立ち」の噺

・第3回 【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺

・番外編 大衆酒場の酎ハイに欠かせない「下町炭酸」を飲み比べる噺

 

チャイナハイボールには「焼売」と「餃子」がドンピシャ

小林 ではペアリングに戻りましょう。さきほどレクチャーいただいた「チャイナハイボール」に合わせる料理として、定番の焼売(シウマイ)はいかがでしょうか。爽やかな飲み口が、焼売の油っこさを切ってくれると思います。

↑チャイナハイボールと大ぶりの焼売をペアリング

 

菊池 その着眼点はいいですね!  焼売は肉のうまみや玉ねぎの甘味がよりピュアに感じられるから、それが紹興酒の甘さと引き合うはず。…うん、やっぱり合う!

小林 では、続いて菊池さん、もうひとつ炭酸割りとのペアリングを提案して頂いたんですよね。

 

菊池 はい、炭酸割りにはやっぱり餃子。紹興酒がベースなら、肉のうまみが力強い羊肉の餃子がいいと思います。こちらは羊肉料理が有名な、都内で人気の「味坊」グループでテイクアウトしました!

↑チャイナハイボールと羊肉の餃子をペアリング

 

小林 あぁ、ジューシーで独特の風味がある羊肉、皮のサクサク感があいまってパンチ力がスゴイ! これは爽やかなチャイナハイボールがぴったりです!

 

中山 チャイナハイボールは、ウイスキーのハイボールと違って、オリエンタルな香りが絶妙ですよね。この妖艶なフレーバーは、羊だけでなく、パクチー、セロリ、しそなどパンチのある香りには間違いなく合うと思います。

 

ウーロン茶割りには酸味が際立つ「黒酢の酢豚」がマッチ

小林 紹興酒のウーロン茶割りもさっぱり飲めていいですよね。これに合わせるなら、黒酢の酢豚はどうでしょう。なんとなく、ウーロン茶の独特な酸味が、黒酢の酸味にマッチするかなと。

↑ウーロン茶割りと黒酢の酢豚をペアリング

 

菊池 おお、これはいいですね! ウーロン茶は発酵茶葉で独特の渋味があり、発酵食品との相性がいい紹興酒がマッチしています。黒酢はうまみ成分のアミノ酸が豊富ですから、同じくアミノ酸の多い紹興酒と合うんでしょうね。ウーロン茶割りならホイコーローや麻婆豆腐といった、濃くてピリ辛の料理もよく合うと思いますよ。

中山 ウーロン茶自体が濃厚な料理に合いますからね。前菜の点心系には炭酸割りでさっぱりと、中盤のこってり系にはウーロン茶割りですっきりと楽しむのもありだと思います。

 

ジャスミン茶割りと「発酵白菜と豚肉の炒め物」は相性バツグン

菊池 では、私から最後の提案です。ジャスミン茶割りと「酸菜炒肉」(スァンツァイチャーロー)のペアリングはいかがでしょう。この料理は発酵白菜と豚肉の炒め物。発酵白菜はいわゆる漬け物で、酸味のあるさっぱりした味わいですよ。

↑香り豊かなジャスミン茶割りと酸菜炒肉を合わせます

 

小林 この料理、クセになるウマさですね! 発酵白菜の酸っぱさと塩味がやさしく調和して、豚肉の脂とひとつにまとまっている印象。白菜の酸味が、軽やかなジャスミン茶割りとバッチリ合います!

 

中山 ジャスミン茶割りもフルーティでおいしい! 香りのニュアンスが変わって面白いです。

 

菊池 知らない人が飲んだら、「これは何のカクテル?」ってなりそうですよね。女性にもオススメです。この味わいなら、八宝菜のような塩味の野菜料理もマッチするんじゃないでしょうか。

 

「家中華」で紹興酒を多くの人に楽しんでもらいたい

小林 いやー、本当にすべての組み合わせが美味しかったです。これが家で楽しめるってすごいことですね。お二人は今回の試飲&試食会を振り返ってみて、いかがでしたか?

 

中山 紹興酒のおいしさを再認識しました。王道のストレートや燗も抜群にウマイですし、中華料理に合わせると止まらなくなりますね! 炭酸割りをはじめ、いろいろな割り方も研究できて勉強になりました。

 

菊池 僕も面白かったです。紹興酒って中華料理好きや玄人向けのお酒というイメージがあると思いますが、割ればアルコール度数も下がりますし、ライトに楽しめて可能性が広がりますよね。あと、やっぱり中華料理との相性がピカイチ! 僕自身、これからいっそう声を大にして、紹興酒と中華料理との相性のよさを叫んでいきますよ!

 

小林 確かに、「家中華」で紹興酒は間違いのないスタイルですよね。やろうと思えば手軽にできますから、ぜひ多くの人に試して頂きたいところです。お二方、本日はありがとうございました!

撮影/中田 悟

 

記事に登場したお酒はこちら▼

・紹興酒「塔牌(トウハイ)」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/touhai/

 

・紹興酒「塔牌」花彫 <陳五年> 600ml

https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=2275

 

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大衆酒場の酎ハイに欠かせない「下町炭酸」を飲み比べる噺

今回は、「東京・大衆酒場の名店」シリーズの番外編。下町の大衆酒場の名物・焼酎ハイボールには欠かせない「炭酸水」(以降は略して炭酸)について深堀りしていきます。

東京・下町の大衆酒場で生まれ、いまや全国で愛されている「酎ハイ」(※)こと「焼酎ハイボール」。その味を決めるものとして甲類焼酎や風味づけのエキスなどが注目されますが、ここで焦点を当てるのは、東京でつくられている飲食店用の「びん入り炭酸」。大衆酒場文化と炭酸に詳しい藤原法仁(のりひと)さんを講師に迎え、タレントの中村 優さん、GetNavi web編集部の小林史於(しお)を生徒役として、その魅力をレクチャーしてもらいます。今回は、びん入り炭酸が普及した背景から、炭酸の工場見学、代表的な銘柄を使った酎ハイの試飲会まで、盛りだくさんでお届けします!

※“ハイボール”とは、カクテル用語で「ウイスキーやジンなどをソーダ水などで薄めた飲料」(広辞苑)のこと。焼酎をソーダ水(炭酸)などで割ったものが「焼酎ハイボール」と呼ばれ、その略称が“酎ハイ”になりました

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

↑大衆酒場を紹介する書籍にガイドとして出演することも多い藤原法仁さん(右)は、テレビ番組に「炭酸ソムリエ」(自称)として出演した経験あり。編集部員の小林史於(中)はきき酒師の資格を持ち、飲み比べも大好き。タレント・マラソンランナーとして活躍する中村 優さん(左)は、本サイトの「東京・大衆酒場の名店」連載で藤原さんとともに大衆酒場を勉強中

 

炭酸は名優を陰で支える名脇役

中村 藤原さん、今日もよろしくお願いします! 今回のテーマを聞いて、そうだ、炭酸ってつくってるんだなぁ、と改めて思いました。炭酸について深く考えたことがなかったんですけど、思ったより種類があるんですね。

 

藤原 でしょう? 下町の大衆酒場で見られるびん入り炭酸は、私の周りで確認できる限りだと10種類程度。どれも水道水を使っているから、どこでつくっても同じだろ? と思われるけれど、メーカーによって微妙に味の個性が出るんです。一般的な違いはガス圧。舌に残るピリピリ感が一番わかりやすいです。

↑藤原さんが趣味で収集した炭酸の王冠の一部

 

小林 すみません、そもそもの話なんですが、焼酎を炭酸で割るメリットって何ですか?

 

藤原 味わいを長く持続できることですね。例えば、テキーラのショットグラスだとすぐ飲み終わってしまいますが、それを炭酸で割ると量が増えて長く楽しめます。アルコール度数も低くなるので、料理の味を邪魔することもありません。あと、のどごしが良くなって刺激が加わるから、口の中がリセットされてお酒が進みますよね。

 

小林 確かに、ゴクゴク飲めて、のどにバチバチ来る感じがいいですよね! 水割りだとちょっと物足りないけど、炭酸で割ると華やかさが加わります。

 

藤原 ただし、割った炭酸がおいしくないと、全体が残念な印象になってしまいます。その意味で炭酸は、名優を陰で支える名脇役と言えるでしょう。

 

びん入り炭酸には多くのメリットがあった

中村 こういうびん入りの炭酸って、いつごろから出始めたんですか?

 

藤原 戦後からですね。それまでラムネやサイダーは飲まれていましたが、水と炭酸ガスだけのプレーンな炭酸を飲む文化はありませんでした。戦後、進駐軍がウイスキーをソーダ水(炭酸)で割っていたのをヒントに、焼酎を炭酸で割って飲むようになったんです。

中村 あ、そのエピソードは、前回取材した三祐酒場で聞きましたね! でも、どうしてびん入りの炭酸が下町の酒場で広まったんですか。

 

藤原 実は、前回の三祐酒場のように、昔から自家製の炭酸をつくっている酒場もありました。でも、炭酸をつくるボンベは値段が高くて場所を取る。だったら、びん入りを使ったほうが早い、となったわけです。

 

小林 確かに、「焼酎ハイボールを出すにはボンベが必須」となったら、なかなかハードルが高いですね。

 

藤原 それに、このびんはちょうど酎ハイ一杯分に使うから、この空きびんが並んでいるのを見て、この人は何杯飲んだんだな、ということがわかって都合がいいんです。

 

小林 へえ、回転寿司のお皿みたいな感じですか!

 

藤原 その通りです。あと、酎ハイは冷やすと美味しいんですが、前回の三祐酒場のご主人によると、当時の氷は高価で、今のようにグラスに入れて使えるほど手軽なものではなかったそうです。一方、冷蔵庫も炭酸のボンベと同様、高価でスペースを取るから導入できる店が少なかったんです。そうなると、びんをどぶづけして出すしかなかったわけですね。どぶづけというのは、水を入れた容器で冷やすこと。だから、炭酸もびん入りのほうが使い勝手が良かったんです。

↑今回、撮影にご協力いただいた渋谷の「大衆酒場 酒呑気まるこ」では、カウンターの前にどぶづけするスペースがあり、焼酎を割る炭酸などのドリンクがキンキンに冷えた状態で楽しめます

 

炭酸のびんは再利用されるため、サイズが統一されている

中村 このびんもカワイイですね。ちょっとノスタルジーを感じます。

 

藤原 このびんは、洗浄して再利用されるリターナブルびんで、お店にびんだけを持っていくと換金してくれますよ。

 

中村 びんを捨てずに再利用するなんて、エコですね!

 

藤原 びんのサイズはどのメーカーも200mlで、みな同じ大きさになっています。これは、びんを回収する通い箱が共有できるから。ですから、たまにメーカーが取り違えて、びんのボディと王冠でブランド名が一致しないときもあります(笑)。

 

小林 へえ、それは面白い! そんなびんに出会えたらラッキーじゃないですか(笑)。

藤原 ちなみに、配達する側にとっては、炭酸を扱うお店が同じ通り道にあったほうが配りやすいし、空きびんも回収しやすい。ということで、一軒が炭酸を使い始めると、「あの店で人気ですよ」と、近くのお店に営業をかけるんでしょうね。近辺の飲食店に炭酸が広まっていくんです。

 

中村 なるほど。その話を聞くと、前回に聞いた「酎ハイ街道」みたいに、ストリートができる意味がちょっとわかります。

 

藤原 いいところに気がつきましたね。確かに、酎ハイ街道でも同じようなことがあったかもしれません。人気が伝われば、じゃあウチでもやろう! となりますからね。

 

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炭酸工場を見学し、できたての味に感激!

中村 ちなみに、この炭酸ってどうやってつくられているんですか?

 

小林 あ、それ聞いちゃいます? 実はここに来る前、炭酸を手に入れるついでに、藤原さんと一緒に炭酸メーカーの「東京飲料」さんの工場を見学させてもらったんですよ。

 

中村 えっ、それは面白そう!

 

小林 いやぁ、あれはすごかったですよね! 製造工程を簡単に言うと、リターナブルびんを洗浄→ろ過・殺菌した水に二酸化炭素を混ぜる→びんに詰めて殺菌→検査・箱詰め、という流れです。藤原さん、そうですよね?

↑今回は、中野にある1929年創業の東京飲料さんにお邪魔しました

 

↑同社では「トーイン」で知られる炭酸のほか、ラムネやシャンメリーなどを製造しています

 

藤原 そうそう。工場に大きなタンクがあったのを見たでしょう? 二酸化炭素は水に溶けにくいので、あのタンク内で高い圧力をかけて、なかば無理やり二酸化炭素を溶かすんです。水に溶ける気体の量と圧力には「ヘンリーの法則」と呼ばれる関係があって、高い圧力をかけるほど、気体は水によく溶けますから。

 

小林 あのタンク、上ぶたにでっかい鋲がいくつも打ってあって、いかにも頑丈なつくりでしたね! 中では相当強い圧力がかかっているんだろうなぁと思いました。

↑充てん室の内部。手前にあるこのタンクで圧力をかけながら炭酸ガスを水に溶かし、「ブライン」(不凍液)で水を0℃に冷却します

 

↑充てん室奥の洗びん機で内部を洗浄し、炭酸を入れる工程へ。洗浄中の透明のびんは炭酸用で、手前の緑色のびんは果汁入り炭酸用

 

↑「フィラー」(右手奥のシルバーの機器)と呼ばれる充てん機でびん内に炭酸を注入

 

↑炭酸を詰めたら王冠で打栓(写真)。その後は「パストライザー」と呼ばれる機器に送られ、72℃の熱湯シャワーで30分かけて殺菌されます

 

藤原 打栓前の炭酸を飲ませてもらいましたが、ウマかったですよね! しっかり冷えていて、炭酸ガスもきめ細やかでシュワっと勢いもありました。

 

小林 あれは貴重な体験でしたね~。実際に工場を見学すると、1本の炭酸を見る目も変わってきます。特に、最終工程で東京飲料の寺田社長が通い箱に入れる前、真剣な目で1本1本チェックしているのが印象的でした!

↑特別に、できたての炭酸を試飲させてもらえることに。フレッシュな味と爽快なのどごしに、ふたりとも大感動!

 

↑洗い残しは底部にたまりやすいため、びんを逆さにしたうえで照光し中身をチェック。徹底的に検査します

 

↑東京飲料の三代目・寺田 龍社長。プラスチック製の通い箱、通称「P箱」に詰める前に最終チェックを行います

 

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4種の炭酸で酎ハイをつくって比較試飲

小林 というわけで、できたての炭酸が手に入ったところで試飲してみましょうか。今回は、4種類の炭酸で酎ハイをつくって試飲していきます。では藤原さん、基本的な飲み方から教えてください!

 

藤原 最初に焼酎を入れるか、炭酸を入れるかという問題があります。墨田区あたりだと炭酸は先に入れる店が多いですね。最初に入れるほうが、絶対にあふれないですから、こんなふうに。……って、あふれちゃいましたね(笑)。まあ、これはこれで「炭酸かけ流し」といって縁起物みたいなものです。

中村 おおー、すごい泡! その注ぎ方、知ってますよ! 篠崎の「大林」で教えてもらった「ぶっさし」(※)ですよね。

※びんを真下に向けて一気に入れる注ぎ方。「反転注ぎ」や「隅田式」と呼ばれることもあります

 

藤原 下町酒場では普通、これにエキスが入っているんですが、今回は宝焼酎に炭酸を入れただけのシンプルな酎ハイで飲み比べていきましょう。

↑今回用意した4種類の炭酸は、びんの容量はすべて200ml。左から「ドリンクニッポン」「花月」「アズマ炭酸」「トーイン」

 

小林 ではまず、葛飾区は野中食品工業の「ドリンクニッポン」から。これはどういうブランドでしょうか?

 

藤原 こちらは、葛飾区や江戸川区で最もよく目にする下町炭酸の有力ブランドですね。私は「稀代の暴れん坊」と評価しています。

小林 おお、1杯目にふさわしいブランドですね。それでは、カンパーイ!

 

中村 あっ、美味しい! 私、酎ハイって甘くないと飲みづらいと思っていたんですけど、これはすごく美味しいです!

小林 あ、中村さん、ついにそのトビラを開けてしまいましたか! ようこそコチラ側へ(笑)。炭酸の印象はいかがですか?

 

中村 炭酸は強すぎず、弱すぎず、ほどよい刺激です。

 

藤原 飲み飽きないですよね。どんな料理にも合いますよ。

 

小林 まだ1杯目ですから、これを基準に飲み比べていきましょう! 続いて2杯目は同じ野中食品工業の「花月」です。

藤原 この「花月」はもともと別の会社が手掛けていたブランド。経緯は不明ですが、近年になって野中食品工業が生産するようになりました。

 

中村 (注いだ様子を見て)ああー見るからに泡が!

小林 ええ、炭酸の粒がデカい! では、いただきましょう!

 

中村 あれっ、見た目の割にバチバチこないです。ドライな味わいで、少し苦みが出るような。こっちのほうがオトナな味って気がします。

 

小林 確かに、思ったよりおとなしい印象ですね!

 

藤原 花月は口のなかでうまく炭酸が溶けている。さっきのドリンクニッポンは、のどまで炭酸が伸びてくるんですよ。

 

できたてを調達した「トーイン」の味わいは?

小林 いやー、炭酸が変わると印象も変わりますね! 次は下町でつくられたものではないのですが、中野区・東京飲料の「トーイン」を試しましょう。今日、工場で調達してきたものです!

↑工場でできたての「トーイン」を手に入れた小林

 

中村 泡の見た目は普通。花月ほど大きくはないですね。いただきます!

 

藤原 ああ、明らかに刺激がやわらかいですね! これは油っこい料理に合いそう。

 

小林 泡が滑らかで美味しい! 香りも立っています!

中村 なんでだろう、コレが一番濃く感じる。お酒の濃さ違うかな? っていうくらいです。

 

小林 香りが立って、焼酎の風味が強まるのかもしれませんね。さて、最後は墨田区にある興水舎の「アズマ炭酸」です。

 

藤原 こちらは戦前からラムネをつくっていて、一番歴史が古いメーカーですね。アタックは強めですよ。

中村 うん、泡の見た目は粒が大きいですね! それでは、カンパーイ!

 

小林 飲んでみたら、口のなかでデカい泡が弾けて、舌にビリビリきます!

 

中村 最初は泡が大きく感じるけど、あとで細かい刺激が来ますね。初めの勢いがスーっと消えてお酒の甘味が残ります。

 

試飲では「西の横綱」と「東の横綱」が好評

小林 では、4種類すべてを試したところで、お二方の一番のお気に入りを教えてください。ちなみに、私は工場まで行って手に入れた「トーイン」が好きです!

中村 私が好きなのは「ドリンクニッポン」! やさしい甘味を感じて、とても飲みやすく感じました。

 

藤原 僕も中村さんと一緒で「ドリンクニッポン」(笑)。まあ、小林さんが選んだ「トーイン」はいわば東京の西の横綱で、「ドリンクニッポン」は東の横綱。東と西の両雄が選ばれたという形ですね。

 

小林 最後に中村さん、これまでを振り返ってみていかがですか?

 

中村 飲む前は炭酸の違いなんてわかるのか、自信がなかったんですが……試してみたら、明らかに違いがあって面白かったです。炭酸って大事なんですね!  あと、シンプルな酎ハイも美味しいんだ、とわかったのも良かったです。なんでいままで知らなかったんだ…‥と悔しく思うくらい。これからはもっと試していきたいです!

 

奥深い炭酸の世界に触れ、さらなる酎ハイの魅力に目覚めた中村さん。みなさんもぜひ、「下町炭酸」を見かけたら酎ハイで使ってみてください。きっとハマるはずですよ!

撮影/我妻慶一 撮影協力大衆酒場 酒呑気まるこ(東京都渋谷区道玄坂1-18-4 和田ビル102) 取材協力/東京飲料株式会社

 

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・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

 

「東京・大衆酒場の名店」バックナンバーはこちら▼

・第1回 【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

・第2回 【東京・大衆酒場の名店】初心者女子と楽しく学ぶ! 篠崎「大林」の魅力と「下町酒場の成り立ち」の噺

・第3回 【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺

 

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【東京・大衆酒場の名店】伝説の「三祐酒場」で聞く「元祖焼酎ハイボール」発祥の噺

東京にある大衆酒場の名店を巡る企画の第3回。今回は、墨田区の「三祐酒場(さんゆうさかば) 八広(やひろ)店」を訪れ、その魅力を探っていきます。

大衆酒場は、その安さとウマさ、昔ながらの温かい雰囲気で、酒飲みの心をひきつけてやみません。なかでも東京では下町を中心に、根強い人気を誇る大衆酒場の名店が数多く存在します。そんな名店を巡り、お店の魅力と東京ならではの酒文化を深掘りしていくのが本連載。立石「宇ち多゛(うちだ)」篠崎「大林」に続く第3回は、八広「三祐酒場」にお邪魔します。

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

名店の歴史を受け継ぐ貴重なお店を訪問

「三祐酒場 八広店」は、京成曳舟(ひきふね)駅から徒歩7分ほどの場所に立地。かつて京成曳舟駅近くで営業していた名酒場「三祐酒場 本店」からのれん分けを許された数少ない一軒です。また、「焼酎ハイボール」の起源と深いかかわりを持つお店としても知られています。

 

今回も大衆酒場にまつわる著書を数多く上梓している藤原法仁(のりひと)さんを講師に招き、大衆酒場に興味津々の中村 優さんとともにお店を訪問。お店の魅力をはじめ、大衆酒場の歴史や楽しみ方、お酒についての知識などを学んでいきます!

↑藤原法仁さん(左)は、ブログ「居酒屋礼賛」主宰の浜田信郎さんとともに11月11日を「立ち飲みの日」として記念日登録するなど、大衆酒場文化の活性化に尽力。中村 優さん(右)はタレントおよびマラソンランナーとして活躍しています

 

中村 藤原さん、今回もよろしくお願いします! こちらの「三祐酒場 八広店」さんは、どんなお店なんですか?

 

藤原 「三祐酒場」は「酎ハイ(チューハイ)」の語源でもある、「焼酎ハイボール」の元祖として知られています(※諸説あり)。そこからのれん分けされたのがこの八広店。本店は区画整理の影響で既に閉店しているため、現存している三祐酒場は八広店だけなんです。

 

中村 名店の歴史を受け継ぐ貴重なお店というわけですね。でも、酎ハイって今では当たり前のものじゃないですか。その元祖というのはすごいですね!

 

藤原 でしょう? そのあたりは、店主の奥野木晋助さんに聞いてみましょう。大将、今日はよろしくお願いします!

 

奥野木 こちらこそ、よろしくお願いします! 「三祐酒場」の本店は、もともと昭和2(1927)年に創業した酒屋だったんですけど、戦時中は物資の配給所になっていて、その配給所に来ていた酒好きの客がその場で飲むようになったみたいです。

↑奥野木晋助店主。和食料理店などでの修行を経て、2001年より同店の二代目を務めています

 

藤原 角打ち(その場で飲める酒販店)ってことですね。

 

奥野木 はい。角打ちの流れから、最初は掘っ立て小屋みたいな形で居酒屋を併設して酒場になったと聞いています。

↑酒販店で使われていた陶磁器の瓶と甕(かめ)。陶器の一升瓶(写真左奥)には、本店が都電の停留所に近かったことから「京成曳舟電停際」と書かれています。甕(写真右)に書かれた住所が「向島区」となっていることから、1947(昭和22)年に向島区が本所区と合併して墨田区になる以前のものということがわかります

 

中村 この八広店はいつ開店されたんですか?

 

奥野木 ここは昭和41(1966)年、三男坊だった私の親父が開業しました。三祐酒場は親族にしかのれん分けをしなかったので、かつて営業していた本店と小岩店を含めると最大で3店舗あったことになりますね。

 

「元祖焼酎ハイボール」は進駐軍のウイスキーハイボールから着想

中村 では、そろそろ焼酎ハイボールについて教えてください! 看板メニューの「元祖焼酎ハイボール」はどうやってできたんですか?

↑店内には「元祖焼酎ハイボール」と書かれた年代ものの木札がかかっています

 

奥野木 「元祖焼酎ハイボール」を考案したのは、私の伯父である本店の奥野木祐治(長男)です。伯父から聞いた話だと、戦後のある日、アメリカ進駐軍の駐屯地に行って、そこで「ウイスキーハイボール」の味に感銘を受け、焼酎も炭酸で割れば飲みやすくなるのでは? と考え、試行錯誤して作ったのが焼酎ハイボールです。

 

藤原 その頃は、焼酎の精製技術もいまみたいに発達していなかったですからね。

 

奥野木 はい。当時の焼酎の強い香りをなじませるために、伯父は独自のエキスを作って混ぜたわけです。

 

中村 あ、エキス(シロップ)は前回に教えてもらったのでわかります。下町の焼酎ハイボールは、お店独自のエキスを使うのが特徴なんですよね!

 

奥野木 うちのはウイスキーのハイボールを思い浮かべてエキスを作ったから、琥珀色なんですよ。ぜひ飲んでみてください!

↑薄く琥珀色に色づいた「元祖焼酎ハイボール」(330円 ※表記価格はすべて税抜き・以下同)

 

中村・藤原 では……カンパ~イ!

 

中村 ああ~、おいしいっ! いいキック(炭酸がよく効いているという意味)が入った爽やかな味で、スイスイいけちゃいます!

藤原 お! 前回教えたキックの使い方覚えましたね(笑)。しかし、この「元祖焼酎ハイボール」、あいかわらず安定感のあるウマさですね!

 

奥野木 「伯父は、すごい飲み物を考えたな」と思いますよ。甘くしようと思えばできたし、酸味を強くしようと思えばできたと思うんですけど、そのバランスが絶妙なんです。

 

藤原 確かに、飽きのこない味わいです。単独で飲んでもおいしいし、料理によく合うところも素晴らしい!

 

奥野木 「同じ味はほかにはないから」って、これしか飲まない常連さんも多いです。

 

藤原 氷がとけても味が変わらない配合になっていて、ずっとおいしく飲めるってのもすごいですよね。

 

中村 この味って、昔から変わっていないんですか?

 

奥野木 変えていないですね。エキスのレシピは当時と同じです。ちなみに、いまエキスのレシピを知ってるのは、僕とお袋と本店の伯母さんだけですね。うちのかみさんも知らないですから。

 

中村 うわぁ、秘伝のレシピなんですね! なんだか感動です!

↑ボトルに入った秘伝のエキスを手にする奥野木さん

 

↑炭酸はサーバーから注入。昭和30年代にはすでにサーバーを導入し、ガス圧を上げて強炭酸で提供していたそう

 

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海外のホテルでも腕を振るっていた店主の料理に舌鼓

中村 焼酎ハイボールを飲んだら、食欲がわいてきました。そろそろおつまみも頼んでみたいです! 定番はどれですか?

 

奥野木 創業当時から変わってないのが、煮込みと串カツですね。

 

中村 いいですね、ではそれをお願いします! 藤原さんは、いつもどんなものを注文するんですか?

 

藤原 三祐酒場さんの場合は、その日の気分で決めるかな。この焼酎ハイボールはどんな料理にも合うし。

 

中村 あ、煮込みが来ましたね。藤原さん、この煮込みは前回の「大林」さんと同じで、もつとこんにゃくが入った「上州スタイル」ですね!

↑「にこみ」(450円)。具材は数種のもつとこんにゃくに、あしらいの青ねぎのみ

 

藤原 そう、しっかり覚えていて素晴らしい! しかも三祐酒場さんはこんにゃくが白と黒の2種類入っていて手が込んでいますね。

 

中村 もつとこんにゃくの食感が楽しい! 味付けも濃すぎず薄すぎず、バランスが絶妙。焼酎ハイボールとの相性もバッチリですね。

 

奥野木 次はもうひとつの定番、串カツをどうぞ。

↑「串かつ」(500円)

 

中村 えっ、これが串カツ? すごい大きさ! ……あ! 豚バラ肉のスライスをミルフィーユ状に重ねて揚げているんですね。ジューシーだけど重くなくて、玉ねぎの甘味とお肉の脂がマッチしていてすごくおいしい!

藤原 こちらも手が込んでますよね。肉が噛み切りやすくて、ちょっとずつ食べたいおつまみとしても最適。味が濃厚なぶん、すっきりとした焼酎ハイボールがよく合う!

 

中村 お品書きを見ると、旬の料理もありますし、本格的な和食があったり、洋風や中華風もあったりとバラエティ豊富ですよね。こういった料理はどこで覚えられたんですか?

↑「お祭り納豆」(650円)は一般的に「ばくだん」と呼ばれる一品。仕入れによって変わる数種の刺身に納豆と卵黄を混ぜて、のりで巻いて味わいます

 

奥野木 実は以前、板前の修業で外資系のホテルにいたこともあって、そのときに東南アジアとタヒチにも行きましたね。厨房では洋食や中華のコックも一緒だったので、いろんな料理を覚えました。自分がこの店に戻ってからは、魚河岸から仕入れた素材を使った正統派の和食も増やしましたし、食べごたえのある料理は充実したと思います。

 

中村 この焼酎ハイボールはどんな料理にも合うから、これだけメニューがバラエティ豊富だとうれしいですよね!

↑「しめ鯖」(650円)をはじめ、活きのいい魚も魅力です

 

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かつてこの界隈は「日本一の会社」の労働者でにぎわった

中村 ところで藤原さん、前回は「下町に大衆酒場が多いのは、川沿いの工場で働く労働者のニーズを満たすため」とおっしゃってましたけど、この辺りもそうなんですか?

 

藤原 お、いいところに気がつきましたね。その通りです! ここは墨田川と荒川に挟まれていますし、昔この辺には曳舟川も流れていて船による物流に便利だったため、工業が発展したんです。なかでも有名なのは、鐘淵紡績(かねがふちぼうせき)で、関連の工場もたくさんあったはずですよ。この鐘淵紡績は現在のカネボウ化粧品の前身でもあります。

↑古地図を取り出して解説する藤原さんと、興味津々の中村さん

 

中村 あ、 鐘淵紡績の「鐘」と「紡」をとってカネボウになったんですね!

 

藤原 そう。自動車が一般的になる前は紡績が産業の花形で、鐘淵紡績は日本一の会社と呼ばれたぐらい栄えていたんですよ。

 

中村 なるほど~。それで街と酒場もにぎわっていたというわけですね。

奥野木 ええ、小さな町工場も多かったです。昔は路地裏に入ると、工場から機械油のにおいがプンプンしていましたからね。土間がある長屋で夫婦が営む手工業もたくさんありました。小規模だから、その日の仕事が午後2時とか3時とか、早く終わる日もあるんですよね。そうなると、奥さんは自分の時間がほしいから、旦那にお小遣いを渡して外へ追い出すんです。

 

藤原 わかります! 私も町工場が多い立石の出身なので。

 

奥野木 うちも高度経済成長期は特に、仕事終わりの職人さんでにぎわっていたと聞いてます。当時は14時ぐらいから開けて、15時にもなれば満席で。でも、晩酌は家で楽しむから、あくまでひっかけるだけ。銭湯に行って、うちで軽く飲んで帰るみたいな形ですね。

 

中村 銭湯帰りに一杯なんて、それも楽しそう!

 

奥野木 ちなみに、この辺りの銭湯や居酒屋は、いろんな情報が集まる地域の社交場だったんです。隣の人と仲良くなって仕事を紹介してもらう、といったことがよくあったようですよ。そういう文化って、人がたくさん住んでたからこそなんでしょうね。……でも80年代に入って、バブルを境に産業や業界の構造が変わって、街の様子や人の流れも変わっていきました。

 

藤原 寂しいですけど、時代の流れですよね。でも、だからこそ、昔の面影を残す大衆酒場が恋しくなるんです。

 

中村 確かに、懐かしい雰囲気に包まれるとほっとしますよね。それに、「戦後にみんなが飲んでいた焼酎ハイボールを、今自分が飲んでいる」なんて思うと、何だかしみじみしちゃいます。

 

藤原 この近くには、僕が「酎ハイ街道」と名付けた鐘ヶ淵通りがあって、その辺りのお店もまた雰囲気がいいんですよ。

 

中村 「酎ハイ街道」って、酎ハイ(焼酎ハイボール)のおいしいお店がたくさん並んでるってことですよね。今度、行ってみたいです!

 

藤原 いいですね! じゃあ次は「酎ハイ街道」沿いの名店で飲みましょう。

 

中村 やったー! ぜひお願いします!

 

大衆酒場と酎ハイの魅力にどっぷりハマったご様子の中村さん。次回はどんなお店を訪れるのか、ご期待ください!

撮影/我妻慶一

 

<取材協力>

三祐酒場 八広店

住所:東京都墨田区八広2-2-12

営業時間:17:30~翌2:00

定休日:日曜

※新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2020年12月23日)

 

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世界一のバーテンダーが「伝説を作るまで」と「最先端のバーの作り方」を語る噺

大人の社交場である「バー」に焦点を当てる連載。第3弾となる今回も、東京・渋谷にあるバー「The SG Club(エスジー クラブ)」の設立者であり、バーテンダーの世界大会で優勝経験を持つ後閑信吾(ごかん・しんご)さんに、世界一に至る道のりと世界のバーで印象に残ったことをうかがっていきます。

元バーテンダーであるGetNavi編集部の鈴木翔子がバーに詳しい人のもとを訪れて、バーの魅力やバーにまつわるエピソードを聞いていく本企画。第1回は、日本と海外のバーの違い、第2回はバーの楽しみ方を後閑さんに語って頂きましたが、最終回となる第3回は後閑さんご自身のことについて語っていただくのがメイン。なぜバーテンダーの道を志したのか、どうやって世界一になったのか、世界で印象に残ったできごとなどを、たっぷりと語ってもらいました!

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

↑今回お話をうかがう後閑信吾さん。後閑さんは2001年より地元・川崎でバーテンダーとしてのキャリアをスタート。2006年に渡米し、ニューヨークの名門「Angel’s Share」でヘッドバーテンダー兼バーマネージャーとして10年間勤務し、同店在籍中の2012年には「バカルディ レガシー グローバル カクテル コンペティション」の世界大会で総合優勝を果たします。2017年にはバーテンダーの頂点と言われる「テイルズ オブ ザ カクテル」で「インターナショナル バーテンダー オブ ザ イヤー」を受賞し、名実ともに世界最高のバーテンダーとしての地位を確立しました

 

「なんとなく」でバーテンダーを始め、本格的なバーの世界にのめり込む

鈴木 今回はまず、後閑さんがバーテンダーになるきっかけから教えてください。

 

後閑 2001年、18歳のときにアルバイトで始めました。動機は「なんとなく」でしたが、何かを作って技術を得られる仕事がいいと思ったんです。パティシエや料理人も考えていたので、最初はケーキ屋さんに行ったんですよ。でも面接で落ちてしまって、次に受かったのがバーテンダーだったんです。当時は2年ぐらいやったら、また違う仕事をしてみようかなんて考えていました。

 

鈴木 最初に働いたバーはどんなお店だったんですか?

 

後閑 場所は地元の川崎で、居酒屋チェーンが運営するバー業態でした。店で働くのは楽しかったですね。そのうち本格的なバーに連れて行ってもらって、大人な世界観に魅了されていったんです。

 

鈴木 そうしてバーの世界にいっそうのめり込んでいったわけですね。

 

後閑 はい。そして、19歳のときに職場を変えたんですが、すぐにそのバーで店長を任せてもらえることになりました。これを機にバーテンダーの技術をしっかり教わろうと思い、働きながらバーテンダーのスク―ルにも通いました。アメリカに行ったのは2006年、22歳のときです。常連のお客さんから「ニューヨーク(以下NY)に行ったら成功すると思うよ」と背中を押していただいたのがきっかけでした。

 

NY屈指の有名店に入り、半年でマネージャーに

鈴木 そして、アメリカに渡った後閑さんは、NY屈指の有名店「Angel’s Share」で働くことになるわけですよね。そんな有名店にいったいどうやって入ったんですか?

 

後閑 NYに来て最初に働いていた日本食レストランに、「Angel’s Share」のマネージャーがよく来ていて、声をかけてもらったんです。実は、それ以前にも人に「Angel’s Share」を紹介されたんですが、そのときは雇ってもらえませんでした。当時はアメリカでのバー経験はもちろんないし、英語もしゃべれなかったので。

 

鈴木 最初は英語が話せなかったんですね。

後閑 行けば何とかなると思っていまして、まったく勉強しませんでした(笑)。

 

鈴木 まったく勉強しないというのも、すごい話です(笑)。「Angel’s Share」に入ってからはいかがでしたか?

 

後閑 店に入った当時、マネージャーが後任を探しているタイミングで、入って半年でマネージャーを引き継ぐことになったんです。

 

鈴木 すぐに実力が認められたんですね。それはそれで大変だったんじゃないですか?

 

後閑 そのときは、さすがに英語も少しは話せるようになっていましたけど、商談や取材対応などがままならず大変でした。英語の堪能な日本人スタッフに通訳してもらうこともありましたね。前任の売り上げを超える、結果を残す、といったプレッシャーもありました。僕自身がストイックだったからなんですけど、とにかく毎日がハードでした。NYのバーは体力勝負。ましてや「Angel’s Share」は忙しかったですから、一日中体を動かして300杯、400杯くらいのカクテルを作るんですよ。「バーテンダーは一生できる仕事ではないだろうな」と思うぐらい。

 

鈴木 体力が維持できないとやっていけない仕事だったんですね! まるでアスリートみたいです。バーテンダーとして一生やっていく決意も揺らぐほどだったと……?

 

後閑 いえ、当時はバーテンダーとしてやっていこうと決めていたわけではありません。もちろん、NYで結果を残すつもりではいましたし、いつか何かの道で独立したいとは思っていましたが、それがバーテンダーとは決め切れていませんでした。

 

世界大会での優勝で「バーテンダーとして生きていく」と決意を固めた

鈴木 その後、後閑さんは「Angel’s Share」に在籍中の2012年、「バカルディ レガシー グローバル カクテル コンペティション」に出場して総合優勝されました。後閑さんにとって、これはどんな意義がありましたか?

後閑 バーテンダーにおいて、賞を獲っていないといけないわけではありません。ただ、僕としてはこれで人生が変わりました。この優勝がなければ、いまの自分はありえないと思っています。

 

鈴木 バーテンダーとして生きていく決意につながったということですよね。

 

後閑 そうですね。僕の中で「バーテンダーとして生きていく」と決意が固まったのは、この大会からです。

 

鈴木 世界一になって、何が変わりましたか?

 

後閑 多方面から仕事のオファーをいただくなど、チャンスが広がりますよね。僕やお店のことを知っていただくきっかけにもなり、お客さんも増えて非常にありがたかったです。ただ、賞を獲ったといって安心していてはダメで、そこからが本当の勝負。賞に値するパフォーマンスを発揮し続けることが大事になってきます。僕個人としては、世界一のバーテンダーとして見られるわけですから。

 

鈴木 なるほど。受賞後もそれに恥じないための努力が必要ということですね。

 

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「バーテンダーの聖地」で、歴史上唯一のゲストバーテンダーになる

鈴木 その後、世界一のバーテンダーとして、後閑さんは様々な国でゲストバーテンディング(※)やセミナー講師をされたとうかがいました。特に海外で印象的だったエピソードはありますか?

※バーテンディング……バーテンダーを務めること。「ゲストバーテンディング」は、自分が所属していない店に招かれてバーテンダーを務めること

 

後閑 強く印象に残っているのは、やっぱりロンドンのサヴォイ・ホテルでのゲストバーテンディングですね。

 

鈴木 サヴォイ・ホテルのバーといえば、「バーテンダーの聖地」といわれるお店ですよね。130年以上の歴史のなかで唯一、ゲストバーテンダーとしてカウンターに入ったのが後閑さんだけだったという、あの伝説の……。

 

後閑 すごく感慨深いものがありました。当時は29歳で、実はこれが初めてのゲストバーテンディングだったんです。いま考えれば、もっと噛みしめてやればよかったなぁ……とも思います。

 

鈴木 この先、サヴォイ・ホテルにゲストとして入るバーテンダーはいないということなんですよね。

 

後閑 はい。歴史上で僕だけで、この先もゲストバーテンダーが入ることはありえないと聞いています。

 

鈴木 そのときに印象に残ったことはありますか?

 

後閑 バーテンディング前日の昼にカウンターで仕込みをしていたとき、バーテンダーが僕しかいないという時間があったんですね。そしたら、たまたまお客さんが入って来られて。自分の事情は説明したんですけど、「君もバーテンダーでしょ。何か飲ませてよ」とオーダーされて、作ったら「おいしいね!」とすごく喜んでくれたんです。そのあと彼が「ちょっと席を外すよ」と言ってしばらくしたら、サヴォイ・ホテルのギフトショップでロゴ入りの銀のシェイカーを買って戻ってきて、これを僕にプレゼントしてくれたんです。

 

鈴木 うわぁ、粋ですねー!

 

後閑 うれしかったし感動しました。そのシェイカーは、いまでも上海の店に飾っています。

 

【後閑信吾さんインタビュー記事のバックナンバーはこちら】

第1回 「世界一のバーテンダー」が語る「日本と海外のバーの違い」の噺

第2回 「世界一のバーテンダー」が語る! 初心者に伝えたい「バーのキホンと選び方」の噺

 

日本人の感性を活かし、バーの魅力をグローバルに伝えていきたい

鈴木 後閑さんのバーテンダー人生を振り返ってみて、日本というバックグラウンドが役立ったと感じたことはありますか?

 

後閑 それは常々感じています。まずは舌の感覚。よく、世界でも日本人の舌は優れているといわれますけど、これは確かでしょう。あとは日本独自の四季の感覚がありますね。色彩や温度感など、これも武器だと思います。

鈴木 繊細な味覚や四季の感覚は、日本人が世界に誇っていいものなんですね。

 

後閑 ただ、日本人の感覚や文化をそのまま海外に持っていっただけでは難しいでしょう。バーに関しては、その土地に合わせてアジャストすることも必要だと思います。

 

鈴木 この「The SG Club」も、和と洋の感性がうまく調和していると思いますが、改めてお店の特徴を教えてください。

 

後閑 これは「The SG Club」だけでなく、ほかの店舗にも共通していることですが、芯となるコンセプトをしっかり固めていることです。メニュー、ロゴ、音楽、ユニフォーム、サービス、内装、ライティングなど……挙げるとキリがないのですが、コンセプトをしっかりと固めることで、その方向性がまとまっていきますから。

 

鈴木 確かに、後閑さんは現在、東京で2店舗、中国の上海で3店舗プロデュースされていて、どの店もそれぞれ明確なコンセプトが打ち出されていますよね。しかも、店舗ごとにまったく違うコンセプトになっています。

 

後閑 「ほかにあるような店を作りたくない」という思いもありますし、それ以上に誰もやってないことにチャレンジしたくなるんです。効率を考えると、同じような店を作ったほうが楽なのでしょうけど。

 

鈴木 なかでも、2018年にオープンしたこの「The SG Club」は、母国への凱旋ともいえる出店でしたが、日本に出店する店ならではの特徴はありますか?

 

後閑 行燈をモチーフにした照明や格子戸など、日本の伝統的な意匠を様々な部分に落とし込んでいます。この手法は、上海の店には使っていません。というのも、その地で生まれ育ったからこそわかる文化やデザイン、合致するストーリーってあるじゃないですか。

 

鈴木 確かに。「The SG Club」の「江戸時代にアメリカへ渡った侍たちが、帰国してバーを開いたら?」というコンセプトも、世界を見てきた後閑さんによる、日本のお店だから成立するということですね。

 

後閑 はい。デザインの面でもストーリーの面でも、ネイティブならではの要素をうまくちりばめることができて、内容もいっそう濃くなったと思います。

 

鈴木 「The SG Club」は国内のバーシーンをけん引する一軒だと思いますが、これからはどういう存在でありたいと思いますか?

 

後閑 欧米のバーのように開放的な空間でありたいです。バーに慣れていない人でも注文しやすいようメニューリストも用意しているので、気軽に利用してほしいですね。

 

鈴木 1階の「Guzzle」は昼からオープンしていて(※)、テーブルチャージもないのがいいですよね。外から店内の様子が見える造りですし、すごく入りやすいと思います。

※2020年12月11日現在は17:00~翌1:00で短縮営業中

 

後閑 うちみたいに自由な店が増えていけば、バーが日本人にとってもっと日常的になるのかな、と。「The SG Club」にはそういった思いも込めています。

 

鈴木 では、最後に今後の目標を聞かせてください!

 

後閑 自分の店づくりはもちろんですが、商品開発やプロデュースなどにも力を入れていきます。また、日本の文化を世界に発信する一方、海外の面白いバーカルチャーをもっと日本に広めて、バーの魅力をグローバルに伝えていきたいです。

 

鈴木 ありがとうございました! 今後のご活躍も楽しみにしています!

 

「The SG Club」は今年の11月、世界最高のバーアワード「THE WORLD’S 50 BEST BARS」で日本最高位の第10位を受賞。「バーの魅力をグローバルに伝えていきたい」という後閑さんの思いは、確実に実を結びつつあるようです。さらに同店では、自由に海外旅行ができない今、食を通じて旅の気分を味わってもらおうと、世界の様々な街をテーマにしたカクテルペアリングコース「SG Airways」を提供中。みなさんもぜひ「The SG Club」を訪れて、バーの魅力と後閑さんの世界観を堪能してみてはいかがでしょうか。

撮影/我妻慶一

 

<取材協力>

The SG Club

上海に「Speak Low」「Sober Company」をオープンしてきた後閑信吾さんが、世界3店舗目として渋谷にオープンしたのが「The SG Club」です。“1860年、幕府の命でアメリカに派遣された侍たちが、その文化を持ち帰って日本にバーを開いたら?”というのがコンセプト。店内は異なるテイストの3フロアで構成。1階はカジュアルなスタイルでカクテルが楽しめる「Guzzle」(ガズル=英語で“ごくごく飲む”という意味)、地下1階はクラシックな雰囲気の「Sip」(シップ=“ちびちび飲む”という意味)となっており、この頭文字をとって店名を「The SG Club」と命名したそう。2階は会員制のシガーバー「Savor」(セイバー=英語で“味わう”という意味)で、和とキューバの粋が溶けあう空間となっています。

住所:東京都渋谷区神南1-7-8 B1~2F

アクセス:JRほか「渋谷駅」徒歩8分

営業時間:日~木11:30~翌2:00、金土11:30~翌3:00(B1「Sip」は18:00~)

※2020年12月11日現在は17:00~翌1:00で短縮営業中

定休日:不定休

※上記は2020年12月11日時点の情報です。新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、以降の営業時間等に関しましては、店舗にお問合せください

↑1階の「Guzzle」

 

↑地下1階の「Sip」

 

↑2階の「Savor」

 

記事に登場したお酒の紹介はこちら▼

・ブラントン

https://www.takarashuzo.co.jp/products/blanton/blantons/

 

後閑信吾さんインタビュー記事のバックナンバーはこちら▼

・第1回 「世界一のバーテンダー」が語る「日本と海外のバーの違い」の噺

・第2回 「世界一のバーテンダー」が語る! 初心者に伝えたい「バーのキホンと選び方」の噺

 

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【東京・大衆酒場の」名店】初心者女子と楽しく学ぶ! 篠崎「大林」の魅力と「下町酒場の成り立ち」の噺

東京にある大衆酒場の名店を巡る企画の第2回。今回は、江戸川区・篠崎の「大林(おおばやし)」を訪れ、その魅力を探っていきます。

 

大衆酒場は、その安さとウマさ、昔ながらの温かい雰囲気で、酒飲みの心をひきつけてやみません。なかでも東京では下町を中心に、根強い人気を誇る大衆酒場の名店が数多く存在します。そんな名店を巡り、お店の魅力と東京ならではの酒文化を深掘りしていくのが本連載。初回の立石「宇ち多゛(うちだ)」に続く第2回は、篠崎の「大林」にお邪魔します。

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

1967年創業の老舗「大林」で識者から酒場の楽しみ方の極意を学ぶ

篠崎の「大林」は昭和42(1967)年創業。都営新宿線の篠崎駅から徒歩20分ほどと決して好立地ではないものの、地元住民だけでなく大衆酒場ファンもこぞって訪れる繁盛店です。今回は大衆酒場の聖地・葛飾区立石の出身で、大衆酒場にまつわる著書を数多く上梓し、ウェブサイト「酔わせて下町」を主宰している藤原法仁(のりひと)さんを講師に迎え、同店の魅力を明らかにしていきます。なお、今回から本連載にはお酒好きのタレント・中村 優さんがレギュラー出演。生徒役としてお店を体験してもらうほか、大衆酒場の歴史や楽しみ方、お酒についての知識なども学んでいきます!

↑中村 優さん(左)は、タレントおよびマラソンランナーとして活躍。藤原法仁(のりひと)さん(右)は、ブログ「居酒屋礼賛」主宰の浜田信郎さんとともに11月11日を「立ち飲みの日」として記念日登録するなど、大衆酒場文化の活性化にも尽力されています

 

中村 藤原さん、今日はよろしくお願いします! 大衆酒場はあまり行く機会がなかったんですけど、ずっと楽しそうだなーと興味を持っていました。だから、この連載で大衆酒場のことをしっかり学んでいきたいです!

 

藤原 おお、やる気がありますね。こちらこそよろしくお願いします!

 

中村 それにしてもこの「大林」さん、すごく味わいのあるお店ですね。

↑お店の中央にはコの字型のカウンターがあり、その内側を店員さんが移動してサービスする形

 

藤原 このびっしり貼られたメニューを見てください。何となく万華鏡みたいでしょ?

 

中村 確かに、不思議な景色ですね。宝の山みたいで、見ていてワクワクします! それにしても、すごい数!

↑店内にはメニューが書かれた短冊がズラリ。どれもリーズナブルな価格でビックリ。料理メニューは全部で約160もあり、旬の逸品や日替わりもあるため毎日変動するそう

 

藤原 おつまみの豊富さも魅力なんですが、メニューの質に対して価格も安いんです。酒にしてもお手ごろな価格でたっぷり注いでくれるし、正直に商売している。だから、僕は大林のようなお店を「正直酒場」だと提唱しているんです。

 

中村 良心的な酒場ってことですね!

 

藤原 その通り! ウマくて安い酒とつまみがある、こうした「正直酒場」に巡り合えると人生が豊かになりますよ。

 

下町に大衆酒場が多いのは、川沿いの工場で働く労働者のニーズを満たすため

↑ドリンクのメニューでは「タカラ焼酎ハイボール」(350円)が人気

 

藤原 ……と、前置きはこれくらいにして、そろそろ飲みましょうか! まずは定番の「タカラ焼酎ハイボール」の「赤」をお願いします! 宝焼酎だけの「白」に対して、「赤」というのは、シロップ入りで琥珀色に色づいた焼酎でつくる酎ハイ(焼酎ハイボール)のことです。

 

中村 えっ、「とりあえず生ビール」じゃないんですか?

 

藤原 下町大衆酒場では、焼酎ハイボールでスタートすることも多いんですよ。

 

中村 あ、じゃあ私もそれでお願いします! ……あと、すみません、お酒が来るまでにすごく基本的なことを聞きたいんですけど。どうして東京の下町には大衆酒場が多いんでしょうか?

藤原 いい質問ですね。これは東京の地理と密接なつながりがあります。もともと江戸は水路の街で、川を使って船で物流を行っていました。だから川沿いを中心に産業が栄えて人が集まり、街が発展してきたんです。

 

中村 江戸といえば、たしかにそういうイメージはありますね。

 

藤原 時代を経て、川が埋め立てられて道路になったり、電車が開通したりして。人の流れが変わっていきます。一方で、大きな河川のそばにあった古い街のなかには、船が使えるという利点を生かし、工業地帯として発展していったものがあります。工場では多くの労働者が働いていますから、その憩いの場として下町に大衆酒場が栄えたわけですね。

 

中村 つまり、東京で近くに大きな川がある地域は大衆酒場も多いということですか? 大きな川というと、荒川とか隅田川とか……あ、このあたりは下町ですよね。

 

藤原 その通り。墨田川や荒川の周辺も酒場が発展しています。ここ篠崎の近くには江戸川、酒場の聖地と呼ばれる立石のそばには中川が流れていますよ。ちなみに、よく下町で電車の駅から遠い場所に飲み屋街ができているのは、古くからある川沿いの街が残っていて、あとから駅が遠くにできたケースですね。

 

中村 なるほど。目からウロコです! …あ、お酒が来ましたね!

 

焼酎ハイボールは焼酎・炭酸・氷が別の「三点セット」で提供

中村 (店員さんに目の前でお酒を注いでもらう中村さん)うわぁー、なみなみ! お酒と炭酸は別々で提供されるんですね。

 

藤原 そう。しかもここは焼酎と炭酸のほか、アイスペール(氷ボックス)も個別に出してくれる贅沢な三点セット式。ほかには、焼酎と炭酸水を別々で提供するセパレートの二点セット式や、お店の方で完成品を作って出してくれるところもあります。

↑「タカラ焼酎ハイボール(赤)」(350円)。藤原さんによると、焼酎の入ったグラス、炭酸のボトル、アイスペール(および混ぜるためのジョッキ)の三点セットは珍しく、なおかつ焼酎を受け皿付きで提供する店は希少とか

 

中村 これだと自分好みの酎ハイを作れるからいいですね! ちなみに、藤原さんはいつもどうやって作ってるんですか?

 

藤原 じゃあ見ててくださいね。まずは炭酸を全部入れちゃいます。

↑炭酸水のビンを垂直にして一気にドボドボッと豪快にいくのが下町流とか。その勢いに中村さんもビックリ

 

中村 ええっ? スゴイ、ビンを真下に向けて一気に入れるんですね! こうするとどんな効果が……?

 

藤原 おいしくなるなどの効果はないんですが、粋(いき)でしょ。見ていて驚きがありますし(笑)。このやり方を「ぶっさし」っていうんです。「反転注ぎ」とか「隅田式」とかの別名もあるんですけど。次に、ここへシロップの入った焼酎を入れていきます。焼酎はグラスになみなみと入っているので、ひとくち焼酎を飲んで量を調整しつつ、受け皿をうまく使って入れましょう!

 

中村 おっと、一気に入れるとまたあふれちゃいそうですね。焼酎を注ぐ量はお好みですか?

 

藤原 これはアルコールの濃さに応じて人それぞれです。僕は全部入れちゃうかな。あふれたらそれはそれで「炭酸かけ流し」といって、活きがいい証拠ですよ(笑)。

 

中村 温泉の「源泉かけ流し」みたい(笑)。お酒なのに「活きがいい」っていうのも面白いですね! こぼれてもトクした気分になります(笑)。

↑炭酸に焼酎を注いで完成!

 

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定番のクイックメニュー・煮込みはこんにゃく入りの「上州スタイル」

両者 では…カンパーイ!!

 

中村 クゥーっ! 焼酎のコクとシロップの風味、炭酸水の爽快感がマッチして、すごくおいしい!!

 

藤原 ですよね~。焼酎と炭酸水のバランスがいい。この爽快感は、いいキックが入っている証拠です! あ、キックというのは、マニア用語で炭酸がよく効いているという意味ですね。

 

中村 確かに、いいキックですね(笑)。おつまみも食べたいです! 注文はどうしましょう?

 

藤原 ここはお通し(無料)が出てくるので、まずはそれをつまみながらクイックメニューを1、2品頼みましょう。最初は提供に時間がかからず、すぐに出てくる煮込みや冷菜などがいいですね。

 

中村 なるほど! 最初に時間がかかるものを頼んでしまうと、おつまみがない時間ができちゃいますからね。最初はクイックメニューを頼むべし……と。

↑クイックメニューの「にこみ」と「おしんこ盛り合わせ」はともに300円。「にこみ」はしょうゆとみそで味付け

 

藤原 ちなみに、煮込みは大衆酒場の大定番で、大林のものは野菜が入らないスタイルです。僕はもつのうまみが純粋に味わえるから、野菜がないほうが好きかな。さらに言えば、ここの煮込みは具材がもつとこんにゃくがメインという上州スタイル。上州とは、群馬県のことですね。こんにゃくいもの生産量が日本一というのもあって、群馬にはもつとこんにゃくのみの煮込みが多いんです。

 

中村 この上州スタイルの煮込み、シンプルだけどすごくおいしい! ほかにもいろいろなスタイルの煮込みがあるんですよね。これからどんな煮込みに出会えるか、楽しみです!

 

北陸の旬の味とヤミツキの創作メニューが楽しめる

藤原 お、僕が頼んだ白えびの唐揚げが来ましたね。大林は大女将の出身が富山で、北陸の海の幸がよく入るんです。いまの季節なら「富山湾の宝石」といわれる、貴重な白えびがオススメ。こういう旬のメニューは限定品なので、見つけたらぜひ注文してみてください。中村さんもどうぞ召し上がれ!

 

中村 ありがとうございます! ああ、スゴくサクサク! 香ばしさと甘味もあって、止まらないおいしさです。地方の旬の恵みが味わえるのは最高ですね。

↑「白えびからあげ」(400円)

 

↑大林では新鮮な魚介類も自慢です

 

藤原 あと、大将自慢の創作メニュー「やりいかトマトバター」もどうぞ。これ、特に若い人に好評らしいんです。

 

中村 いかとトマトのうまみにバターのコクが加わって。ヤミツキになる味。いかの歯ざわりもイイですね~。これも箸が止まりません!

 

藤原 こういった濃厚な味付けのおつまみでも、焼酎ハイボールが油っこさを爽快に洗い流してくれるから、またお酒が進むんですよね~。……ということでもう一杯! 今度は「タカラ焼酎ハイボール」の「白」を注文してみましょう!

↑「やりいかトマトバター」(400円)

 

↑ボリュームを求めるなら、ライスなしの「かつカレー」(400円)というメニューも

 

焼酎ハイボールにシロップを入れる文化は、庶民の工夫のたまものだった

中村 「白」も気になってました! いただきま~す……あ! こっちはドライでキリッとしていて、大人な味ですね。焼酎のコクがストレートに感じられておいしいです! 比べてみると、「赤」のほうが甘くてすっきりとした味ですね。そういえば、「赤」に使われていたシロップって何ですか?

↑「タカラ焼酎ハイボール(赤)」(左)と違い、「タカラ焼酎ハイボール(白)」(右・350円)はシロップが入っていないので透明です

 

藤原 大林では梅の風味のシロップを使っていますね。シロップはエキスとも呼ばれていて、梅や梅しそ、ぶどうなどの風味がメイン。市販のものを使うお店もあれば、秘伝のレシピを持っているお店もあります。このシロップは下町の焼酎ハイボールの大きな特徴でもあるんですよ。

 

中村 どうして下町ではシロップが使われるようになったんですか?

 

藤原 シロップは戦後の復興期、香りが強かった焼酎を飲みやすくするためによく使われていました。東京は造り酒屋が少ないこともあって、良質なお酒が出回らなかった。だから、庶民が多い下町では、安価な焼酎を何とかおいしくしようと工夫していたんですね。

 

中村 なるほど、シロップを入れる文化は、庶民の知恵から生まれたということですね。そう考えると味わい深いです!

↑「白」と「赤」を楽しく飲み比べる中村さん

 

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大衆酒場では「借景」の違いを楽しむのも醍醐味のひとつ

中村 そういえば、大林さんのカウンターって、形が面白いですよね。なんでこういう形になっているんですか?

 

藤原 ああ、いわゆる「コの字型」のカウンターですね。昔ながらの大衆酒場ではよく見られるタイプです。こういう形になっているのは、カウンターの内側を店員さんが通れるので、効率よく接客や跡片付けができるから。もうひとつ、店の一体感というか、雰囲気作りにも役立っているんです。

 

中村 え? カウンターの形が雰囲気に関係しているんですか!?

 

藤原 ほら、壁に向かって飲むよりも、おいしく飲んでる人の笑顔が視界に入ったほうが、よりお酒がおいしく感じませんか?

 

中村 確かに! ライブ感があるというか、こっちも楽しい気分になりますよね。

↑二代目の大将、青木康徳さんとの会話も自然と弾みます

 

藤原 この客が楽しんでいる光景が、大衆酒場における「借景」(※)だと思うんです。飲んでいる人たちの人間模様をなんとなく眺めるのもいいですし、会話が聞こえてきて、たまにその会話に入れてもらえるのも楽しい。酒場ごとに違った「借景」を味わえるのが、大衆酒場の醍醐味ですね。

※借景(しゃっけい)……外部のものを、背景の一部として取り入れて楽しむこと。もともとは造園の技法のひとつで、庭園外の山や樹木などの風景を、庭の背景の一部として取り入れることを意味します。

 

中村 なるほど……私も、いろんな酒場の「借景」をもっと見てみたくなりました。藤原さん、今日は本当に勉強になりました。ありがとうございました!

 

藤原 それは良かった。でも、大衆酒場の奥深さを知るには、まだまだ学ぶべきことがたくさんありますよ。ぜひまた飲みましょうね!

 

中村 はい、ぜひ! またとっておきのお店、教えてくださいね!

 

大衆酒場の奥深い世界に向け、第一歩を踏み出した中村さん。今回の「大林」では、その世界観を大いに楽しんでいただいた様子です。大衆酒場の基本を学ぶという意味でも、まずは順調なスタートを切ったといえるでしょう。次回も乞うご期待です!

撮影/我妻慶一

 

<取材協力>

大林

住所:東京都江戸川区下篠崎町10-10

営業時間:17:00~23:00(L.O.22:30)

定休日:木曜

 

記事に登場したお酒の紹介はこちら▼

・宝焼酎

https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

 

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・第1回 【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

 

【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

東京の大衆酒場の名店を巡る企画の第1回。今回は、立石のもつ焼きの名店「宇ち多゛(うちだ)」を訪れ、その魅力を探っていきます。

 

大衆酒場は、その安さとウマさ、昔ながらの温かい雰囲気で、酒飲みの心をひきつけてやみません。なかでも東京では下町を中心に、根強い人気を誇る大衆酒場の名店が数多く存在します。そんな名店を巡り、お店の魅力と東京ならではの酒文化を深掘りしていくのが本連載。記念すべき第1回目の舞台は、大衆酒場の聖地・立石を代表するお店「宇ち多゛(うちだ)」です。

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

行列の絶えない立石の名店「宇ち多゛」を、常連の「宇ち中」さんとともに訪問

同店は豚のもつ焼きと煮込みが絶品と評価が高く、「東京五大煮込み」の1軒にも数えられ、行列の絶えないお店となっています。また「うめ割り」なる名物ドリンクが「もつに合う」と大評判。さらに「酔っている人は入店NG」など独自ルールがあり、店内には独特の緊張感が漂っているとのウワサも。これはちょっと、いきなり一人で行くのは気が引ける……。というわけで、GetNavi web編集部の小林史於(こばやし・しお)は、同店のマニアとして有名なブロガー「宇ち中(うちちゅう)」さんに同行をお願いし、「宇ち多゛」を訪問。独自のルールや味わうべきメニューを教わりながら、その奥深いカルチャーを堪能していきます。

↑宇ち中さん(左)と小林史於(右)。宇ち中さんの本業はサラリーマン。ブログ「宇ち多゛中毒のページ」の管理人で、「宇ち多゛」を中心に、立石の大衆酒場の飲み歩き日記をつづっています

 

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行列に並ぶときは、周囲のお店や通行の邪魔にならないように

小林 宇ち中さん、今日はありがとうございます! すごく楽しみです!

 

宇ち中 今日はよろしくお願いします!

撮影日:9月12日

 

小林 うわー、すでにめちゃくちゃ並んでいますね。並んでいる間に、いろいろと教えてください! まずは、宇ち中さんがこちらに通い始めたきっかけは何ですか?

 

宇ち中 最初に来たのは2003年。青砥に住んでいる会社の先輩が連れていってくれたんです。もう、最初から衝撃を受けました。「アブラのタレ」と宝焼酎の「うめ割り」をいただいたとき、「このウマさはなんだろう?」と。当時はもつ2本で170円だったんですけど、「こんなにおいしいものがこの値段でいただけるんだ!」と、目からウロコで。翌週には一人で来てました(笑)。以来、週に3回は来ています。

 

小林 さすが師匠! 宇ち多゛中毒、略して「宇ち中」の名はダテではありませんね。さて、立石は大衆酒場の聖地と呼ばれていますが、その立石で「宇ち多゛」さんはどんな位置付けなんですか?

 

宇ち中 「大人のディ〇ニーランド」と呼ばれる立石のなかでも、ここ目当てで立石に来る方が多くて、宇ち多゛が休みだと、お客さんがほかのお店にはしごに来ないっていうくらい。ですから、立石を代表する有名店といって間違いないですね。

 

小林 なるほど、立石は街全体がアミューズメント施設であり、そのランドマーク的な存在が宇ち多゛であると(笑)。ちなみに、いまもすごい行列ですけど、待ち時間が少ないオススメの時間帯ってありますか?

 

宇ち中 口開け(開店)してから、次のお客に入れ替わる「2巡目以降」が狙い目。平日は17時以降が一番すいていると思います。土曜日なら11時ぐらい。土曜日だと、材料がなくなると12時半ごろには閉店してしまうので、注意が必要ですね。

 

小林 土曜日はそんなに早く閉まっちゃうんですか? それなら並ぶのも仕方ないですね。

 

宇ち中 ちなみに、並ぶときは通行の邪魔をしないように、列がふくらまないように気を付けるのが大事。隣や向かいのお店が営業準備しているときには邪魔にならないように並びましょう。状況に応じて、店員さんが「こうやって並んでね」と指示してくれることもあるので、それにならっていればOKです。

 

酔っている人は入店NG。「宇ち入り」ではカバンを前に抱えるべし

小林 おお、そうこうするうちに、入口に近づいてきましたよ。普通の店と違って、何だか緊張しますね。入店するときは、「どうぞ」と言われるまで待っていればいいんですか?

宇ち中 はい、店員さんから声がかかるまでは、勝手に入らない方がいいですね。あとは、カバンをかけている場合は入店の際に前に抱えるようにしてください。後ろにカバンを掛けていると、テーブルのお皿やほかのお客さんにぶつかることもあるので。

 

小林 なるほど、それはもっともなルールですね。そうそう、聞くところによると、「酔っている人は入店NG」というルールもあるとか。

 

宇ち中 そうなんです。つまり、「宇ち多゛」は、必ず「その日の一軒目」になるということですね。名物のうめ割りは「一人3杯まで」というルールもあります。あとは、しゃべってばかりだと「もういいんじゃない」とか、酔っぱらいそうだと、「これで最後にしようね」と店員さんに強めに言われることも。でも、当たりが強い感じはするんですが、実は、お客さんのことをしっかり見てオペレーションされている。その奥深さにハマる方は多いかもしれません。

↑入口ののれんの「お客様へのお願い」には「既にアルコール類を飲まれた方 ご遠慮ください」などの一文が

 

小林 なるほど。あ、いよいよ入店ですね。そういえば、「宇ち多゛」に入店することを「宇ち入り」っていうんですよね!

 

宇ち中 はい、「宇ち入り」の「宇」は「宇ち多゛」の「宇」で(笑)。

 

小林 忠臣蔵みたいでカッコイイ! ついに「宇ち入り」です! こんにちはー。

 

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宝焼酎をシロップで割る「うめ割り」と「ぶどう割り」がある

小林 やっぱり店内は緊張感がありますね……。空気がピンと張りつめている感じがします。

 

宇ち中 ええ。しゃべる声のトーンにも気を付けてくださいね。ほかのお客さんの注文が通らなくなっちゃうので。声が大きすぎると注意されますよ。

↑席に案内され、緊張のあまり表情が硬くなる小林(左)

 

小林 わかりました! まずは飲み物の注文からでいいんですか?

 

宇ち中 飲み物から注文して、飲み物を出してもらっているときに、一皿目のつまみを頼む感じですね。

 

小林 店内に貼られたメニューには「宝焼酎」とありますが、これがウワサに聞く「うめ割り」でしょうか?

 

宇ち中 そうですね。グラスに注いだ宝焼酎に、梅シロップを足してもらうのが「うめ割り」です。

 

小林 それにしても、宝焼酎がソフトドリンクと同じ200円(税込)とは……これは安い!

 

宇ち中 はい。感謝しかありません! 宝焼酎はほかに「ぶどう割り」も選べますよ。梅のシロップのほうがちょっと甘めで、ぶどうのほうはドライな感じです。最近は私はもっぱらうめ割りですね。エキスを多くしてもらいたいときは「甘め」、少なくするときは「辛め」とカスタムできます。

 

小林 宇ち中さんのお好みは?

 

宇ち中 僕は「辛め」。シロップは一滴とか、気休め程度ですね。でも、このシロップが一滴でも入ると、味がガラッと変わるんですよ。あ、内田専務がいらっしゃいましたね。

↑「宇ち多゛」の三代目・内田朋一郎専務

 

内田 飲み物どうする? うめ割りでいいかな?

 

小林 今日はよろしくお願いします! はい、ぜひうめ割りをお願いします……(うわぁ…内田さん、真顔だし目つきが鋭い。ちょっと怖いな……)

 

内田 どうぞ。

小林 ありがとうございます。うわ、グラスにたっぷり注がれるんですね!

 

宇ち中 量は、これで五勺(約90ml)くらい。あふれるのを入れると7勺(約126ml)くらいですね。口から迎えに行くのがよろしいかと。

↑宝焼酎のうめ割り。シロップによって薄く色づいています

 

小林 わかりました! では、いただきます!  ……ああ~ガツンと来るぅ~これはぶっ飛びますね!  焼酎はコクがあってキレも抜群。ふわっと来るシロップの甘酸っぱさがたまりませんね。これはウマイ!

↑うめ割りを迎えに行く小林(左)。ひと口飲んだ宇ち中さん(右)も目を閉じてその味に浸ります

 

もつ焼きのオーダーの基本は、部位+味付け+焼き方

↑壁に貼られたメニュー。おつまみはもつ焼き、煮込み、お新香。ドリンクは宝焼酎のほかにウイスキーやビール、清酒、ウーロン茶なども用意しています

 

小林 では、お酒が入って一息ついたところで、次はおつまみの注文の仕方を教えてください! 壁のメニュー表には「もつ焼き 二本 二○○」としか書いていないので……。

 

宇ち中 もつ焼きの注文の基本は、部位+味付け+焼き方です。もつ焼きの部位は「レバ(肝臓)」「シロ(大腸)」「ガツ(胃)」「アブラ(頬)」「ハツ(心臓)」「カシラ(頭)」「ナンコツ(軟骨)」と多彩です。味付けは「タレ」「塩」「味噌」「素焼き」があって、素焼きだけ「お酢」と言えば酢を入れてもらえます。酢を多くしたいときは「お酢たっぷり」でOK。あとは「よく焼き」とか「若焼き」といった焼き加減の好みがあれば伝えます。何も言わなければ「普通焼き」が出てきますね。若焼きよりレアな、「うんと若焼き」というのもありますよ。

 

小林 なるほど。例を挙げると、「レバ・タレ・よく焼き」「シロ・塩・若焼き」「ガツ・素焼き・うんと若焼き・お酢」といったオーダーですね。

 

宇ち中 ほかに、ボイルしただけの焼かないメニュー「生(なま)」もあります。そちらはもつ焼きにあったカシラがなくて、そのぶん「タン(舌)」「テッポウ(直腸)」「コブクロ(子宮)」があります。味付けは何も言わなければ「醤油」になり、「塩」にも変更できます。お酢はすべてに入れられますよ。オーダーは「タン生お酢」といった具合ですね。基本的にもつ焼きは同じ部位が2本で一皿。ただ、ボイルしただけの焼かないメニューは、「レバとシロで1本ずつ」と注文することもできます。

↑もつ焼きは2本で一皿が基本

 

小林 一度にオーダーするメニュー数はどれくらいがいいんですか?

 

宇ち中 テーブルがそう広くないので、あまり一度に多く注文しないほうがいいですね。焼きたてがおいしいですから、残り2切れぐらいになったときに次のもつ焼きを頼んで、食べ終わるころに次がちょうど出てくるタイミングがベストです。

 

小林 なるほど、勉強になります! ちなみに、宇ち中さんなら必ず頼む部位ってなんですか?

 

宇ち中 カシラがあれば、カシラを素焼きお酢で。あとはナンコツのタレも好きです。ボイルではレバボイルがオススメですよ。

 

「煮込み」は「白いとこ」か「黒いとこ」をオーダーできる

小林 ちなみに、今日はおつまみはお店のおまかせで出していただきます。さっそく看板メニューのひとつ、「煮込み」が来ましたね! 煮込みもオーダーでカスタムできるんですか?

↑人気メニューの煮込み

 

宇ち中 できますよ。「白いとこ」といえば、シロ(大腸)の周りの部位やハツモト(心臓に近い大動脈)など、色が白い部分を中心に出してくれます。「黒いとこ」といえば、フワ(肺)やレバなどの黒い部位が中心。ありがたいことに、僕の場合は「白いとこ」が好きとわかって頂いているので、自然に「白いとこ」を出してもらっています。

 

小林 さすが常連さんですね!

 

宇ち中 品切れが近いときは、カスタムできない場合もありますが。開店直後ならだれでも部位の指定ができますし、開店時に入店すれば「ホネ(アゴ周辺)」という希少部位にありつけることも。このホネを食べるのはかなりハードルが高くて、土曜日は朝8時ぐらい、平日は12時半ぐらいに並んでいないと売り切れてしまうらしいですよ。

 

小林 うわあ、まさに幻のネタですね! ちなみに今日の煮込みは、「白いとこ」と「黒いとこ」のバランスはどうですか?

 

宇ち中 バランスが取れている感じですね。ハツモトもちゃんと入っていて僕好みです。

 

小林 いただきます! ああ、ウマイ……。コリッとしていたり、フワッとしていたり、部位による食感のメリハリが楽しい! もつにはまったく臭みがなくて、豊かな肉の旨みだけを感じます。煮汁も、何だろうこのまろやかさ……すごく奥深いです!

 

宇ち中 野菜やこんにゃくを一切使わず、もつと味噌だけで煮込んでいるからかな。独特なコクがあるんですよ。ここの初代は終戦後の1946(昭和21)年に「宇ち多゛」を始めたらしいんですが、戦争の前には銀座のレストランで働いていて、その調理法がルーツらしいんですよね。

 

小林 なるほど。この雑味のない味わいには、その技術が活きているのかもしれませんね。くぅ~っ、また味付けもちょっと濃いめだから、うめ割りが進む進む!

↑うめ割りを合わせて恍惚の表情を浮かべる小林

 

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もつ焼きはすべてが食感豊かでみずみずしく、臭みがない!

宇ち中 この煮込みが200円ですからね。本当に頭が下がります。あ、もつ焼きも来ましたよ。ガツの塩からどうぞ。

↑ガツ塩

 

小林 おぉ、なんと豊かな食感。身はみずみずしくコリコリとした食感で、噛むほどに旨みが染み出てきます。シャープな塩味がさらに味を引き立てる! こちらも臭みが一切なく、ただただウマいです!

 

内田 お次はタン生が出るよ。お醤油かけるね。お酢は大丈夫? 嫌いじゃない?

↑タン生お酢

 

小林 ぜひお酢はかけちゃってください。うわ、これもまた独特の食感。サクサクとしていて、肉の旨みが広がります! 醤油とお酢のパンチが効いて絶妙! お次はシロのタレですか……香ばしく焼かれていて、グッグッと弾力があって食べ応えがあります。肉自体にも甘味があって、甘めのタレとすごく合いますね。レバのタレは、プルップルで口いっぱいにコクが広がる! これを焼酎で迎え撃つと…うーん、たまらん!!

↑シロタレ

 

↑レバタレ

 

宇ち中 こんな感じで、気が付くとうめ割り3杯ぐらいスゥッといっちゃうんですよ。で、お次は、アブラの塩。

 

小林 これ、とんでもなくウマイですね! 表面はカリッ、サクッとしていて、中はトロッとしています。 噛むごとに脂の甘味がジュワッっと広がって、またこれがうめ割りに合う……幸せ……。

↑アブラ塩

 

↑もつのほかに「お新香」もあります。生姜の有無や増減がカスタム可能。基本の味付けは醤油ですが、醤油なしにしたりお酢を入れたりすることも可能です

 

独自のルールを決めたのは、お客さんに気持ちよく帰ってもらうため

小林 内田専務、全部おいしかったです! どれもこれも身がプリっとして、臭みもまったくなくてビックリしました。どうしてこんなにおいしいんですか?

 

内田 特別なことは何もしていないね。ほかの店は見たことないけど、処理も同じだと思うよ。オレはここの2階で生まれて、ずっとこの味で育ってきたから、ほかはよく知らないんだけど。

 

小林 いやいや、ご謙遜です。同じことをやっていて、この味が出るワケがない。自分もいろんな店でもつを食べるんですけど、全然違いました! …ところで内田専務、この機会におうかがいしたいんですが、なぜお店の独自のルールを作ったんですか?

内田 多くのお客さんに楽しく飲んでもらって、みんなに気持ちよく帰ってもらうにはどうしたらいいかを考えた結果。そのためにルールを決めて、オレもキャラクターを作り込もうと考えた。オレ、ふだんはこんなおっかねえ顔してないから。飲んできた人はダメ、3杯以上はやめてくれというルールも、飲み過ぎて人に迷惑を掛ける人が出ないようにするため。人に迷惑を掛けるのはダメだよ。隣の人に絡んだり、騒いだりするんじゃなくてさ、真摯にもつと焼酎に向かい合う。そういう時間があったっていいんじゃないか、って。

 

小林 なるほど。独自のルールも当たりの強いキャラも、すべてはより多くのお客さんに、気持ちよく過ごしてもらうため。もつと焼酎を純粋に楽しんでもらうためだったんですね!

 

内田 でも、ウチで飲めるようになっていたら、みんなどこへ行っても気持ちよく楽しめると思うんですよ。あと、ここで抑圧されて飲んでるとさ、「ごちそうさま」ってのれんをくぐったときに「この解放感がたまらない」という気持ちになる。そこまでを計算して、エンターテイメントとして成立させようとしているんだよ。

小林 そこまで考えてらっしゃったんですね。あと、店員さんの気配りもすごいです。煮込みのオーダーもそうですけど、常連さんのご希望にもかなり対応していらっしゃるみたいで。

 

内田 「今日もおいしかったね、また来よう」と思ってもらうためにはどうしたらいいか、考えるとそうなるよね。もちろん希望に添えないこともあるけど。座席もそう。彼(宇ち中さん)にも好きな席があるから、空いたらそこに移動してもらうから。

 

宇ち中 ええ、私はそこ(小林が座っている席)が好きでして。

 

小林 あ、そうなんですね! すみません、何だか光栄です。では、最後に内田さん、「宇ち多゛」初心者の方にアドバイスというか、メッセージはありますか?

内田 こういう雰囲気も大事だと思うけど、だからって偉そうな感じにはならないように気を付けているし、お客さんには愛を持って接したいと思っている。ただ、まあ初心者にはある程度、店のことを調べてから来てほしいね。そういうところから思い入れが出てくるから。まあ、これだけ並んでたら、何も知らずに並ぼうと思わないだろうけど。

 

宇ち中 でも内田さん、初めてのお客さんにも優しいんですよ。

 

小林 やっぱり、そこには「愛」があるんですね。そうじゃなければ、あれだけおいしいもつを、あの値段で出すわけがないですから。

 

内田 あと、立石にはコロッケ、餃子、漬物、寿司など、おいしくて安い持ち帰りフードの店がたくさんあるから。はしご酒もいいけど、ぜひお土産にどうぞ。

 

小林 わかりました! 内田専務、今日はとてもいい経験ができました。本当にありがとうございました!

↑お会計の際は、「お会計」と声をかけて、席で待っていればOK。お皿の数をカウントして会計するので、お皿は重ねておくのがベター。焼酎を飲んだ杯数は自己申告します。退店の際は、カバンを前に抱えるのを忘れずに

 

「共同体を一緒に回している」という意識でいると、気持ちよく楽しめる

小林 ごちそうさまでしたー!(のれんを出ながら)いやーおいしかった。宇ち中さん、最高でしたね!

 

宇ち中 やっぱり、ここで飲む焼酎が一番おいしいですね(しみじみ)。昔ながらの雰囲気もいいですし、背筋を伸ばして焼酎をいただくのがたまりません。また、焼酎が身体にスーッと入ってくると、仕事の疲れが抜けていくような気がして。

 

小林 いいですね~。焼酎とこの独特な雰囲気で、疲れがリセットされるわけですね。しかし、思えば不思議な空間でした。大衆酒場の特徴といえば「気を遣わないこと」だと思うんですが、「宇ち多゛」さんは、逆に緊張感があるという。

 

宇ち中 お店と客が対等な関係で、持ちつ持たれつというか、一体感がある。自分も「宇ち多゛」という共同体を一緒になって回している、という意識でいたほうが、気持ちよく楽しめると思うんですよ。客は「もてなしてもらって当たり前」ではなく、「この値段でこの味をいただける」という感謝が大事。僕は感謝しかないですね。

 

小林 おっしゃる通りです。驚くほどおいしいのに驚くほど安くて、これほど独特の空気を持つお店はないですよね。私もまたぜひ行きたいと思いますし、周りにも胸を張って「宇ち多゛」さんをオススメしようと思います! 宇ち中さん、本日はありがとうございました!

↑のれんをくぐり、緊張から解き放たれた瞬間もまた格別!

 

<取材協力>

宇ち多゛

住所:東京都葛飾区 立石仲見世商店街内

営業時間:月~金 14:00ごろ~19:30ごろ(L.O)ただし売切れ次第終了、土 10:30ごろ~13:30ごろ(L.O)ただし売切れ次第終了

定休日:日曜、祝日

 

記事に登場したお酒の紹介はこちら▼

・宝焼酎

https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

 

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↑監修はもちろん内田専務です!

 

パッケージはベースカラーに「宇ち多゛」の暖簾をイメージした黒エンジを用い、裏面で店舗をイメージしたイラストと同店の説明を掲載することで、その世界観を表現しています。「宇ち多゛」を訪れた人もそうでない人も、本品で同店の雰囲気を楽しんでみてはいかがでしょうか?

 

タカラ「焼酎ハイボール」<立石 宇ち多゛のうめ割り風>の紹介はこちら▼

https://www.takarashuzo.co.jp/news/2020/TS20-041.htm

 

撮影/我妻慶一

 

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気鋭の中華レストランでおいしく学ぶ! 「紹興酒と至福のペアリング」の噺【後編】

中国のお酒・紹興酒(しょうこうしゅ)の基礎を学ぶ企画。今回は、紹興酒に詳しい識者と飲食店のマネージャーにお話をうかがいながら、中華料理と紹興酒のペアリングを堪能します。

おうち時間が増えて中華料理をテイクアウト、あるいはデリバリーすることも増えたはず。そこで、この機に中華料理と相性のいい中国のお酒・紹興酒の楽しみ方を学ぼうというのが本企画です。

 

前編では歴史や製法、おすすめの飲み方などに触れていきましたが、後編となる今回は、都内の中華レストランを実際に訪れ、料理と紹興酒のペアリングを学んでいきます。今回のガイド役は「酒文化研究所」の山田聡昭(やまだ・としあき)さんと、中華レストラン「みこころ 無添加チャイナ935」の吉田正洋マネージャー。聞き手は紹興酒のビギナーであるGetNavi web編集部の小林史於(こばやし・しお)です。

↑酒文化研究所の山田聡昭さん。様々な媒体で連載をもつほか、『酒席に役立つ読む肴 サラリーマン酒白書』(紀伊国屋書店)など編集や執筆に携わった著書も多数

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

気鋭の中華レストランで中華料理と紹興酒のペアリングを学ぶ

今回、取材に協力してくれたお店は、2019年11月にオープンした神保町の「みこころ 無添加チャイナ935」。オーナーシェフの井上貴士さんは、「トゥーランドット游仙境(ゆうせんきょう)」に「銀座 芝蘭(チーラン)」と、上海・四川料理の名店を経たのちに本場四川の成都(チェントゥ)で修業。帰国後は広東料理の技も身に付けた名シェフです。マネージャーは、様々な中華の名店でサービスの極意を会得し、紹興酒への造詣も深い吉田正洋さん。この両者による気鋭のレストランだけあって、中華料理と紹興酒のペアリングの妙も存分に楽しめるはず。

↑JR御茶ノ水駅より徒歩約5分、東京メトロ・神保町駅より徒歩約6分に位置する「みこころ 無添加チャイナ935」。明治大学のはす向かいにあります

 

小林 山田さん、吉田マネージャー、本日はよろしくお願いします! 本場の中華料理と紹興酒がどんなマッチングを見せるか、楽しみで仕方ありません!

 

山田 よろしくお願いします。さて、早速ですが吉田マネージャー、今日はペアリングがテーマということで、どちらの紹興酒を選ばれましたか?

↑吉田正洋マネージャー。初めて店長を務めた中華レストランで、「何かでオンリーワンになりたい」という決意から紹興酒を極めようと思ったそう

 

吉田 紹興酒は、「塔牌」(とうはい)という銘柄を中心に用意しています。「塔牌」は、最も水の状態が良いとされる冬にだけ仕込んでいて、昔ながらの手造りで甕(かめ)仕込み、甕貯蔵にこだわっています。当店では、8年熟成、10年熟成、15年熟成と多彩な商品を用意していて、今回は、当店で最もスタンダードな8年ものの「塔牌」2012年<福(フータオ)>に合わせて料理をお楽しみいただこうかと。ちなみに<福(フータオ)>は、ボトルではなく甕入りのものから汲み出す“甕出し”を使っています。

↑同店で提供している15年の長期熟成を経た特撰紹興酒「塔牌」<陳十五年>(左)。“甕出し”の「塔牌」2012年<福(フータオ)>は、「塔牌 紹興酒」とプリントした専用のデキャンタ(右)に入れて提供しています

 

山田 “甕出し”は、開封してからの味の変化という面でも楽しみがありますよね。

 

吉田 ええ、おっしゃる通りです。その点も考慮して、当店の“甕出し”は、開けたての酸が立った状態でお出しすることはありません。半分ずつ別のボトルに移してあえて空気に触れさせ、一週間ほど置いておくことで、香りを際立たせるようにしています。

 

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手ごろな紹興酒で料理酒・飲用の兼用も

山田 なるほど、手がかかっていますね。ちなみに、ボトルに移すときには、甕の底に沈む澱(おり)も取り除くということですか?

 

吉田 澱も楽しみたいというお客様には、そのままの状態でお出しすることもありますが、基本的に澱は除いた状態で提供します。ただし、澱は旨みの塊でもあるので、当店では料理に活用していますね。

 

小林 それは興味深いです。例えば、どんな料理に使っているんですか?

 

吉田 場合によっては杏仁豆腐にかけることもありますが、基本的には食材を紹興酒漬けにするときに使います。活きたエビを漬けておく「酔っ払いエビ」や上海ガニがイメージしやすいかもしれませんね。

↑紹興酒に漬け込んだエビ

 

小林 なるほど。料理に使ったお酒と同じお酒を合わせると相性がいい、というのは聞いたことがあります! ならば、家庭で手始めに紹興酒を楽しむなら、手ごろな紹興酒を一本買って、料理酒と飲用の兼用で使うのもアリですか?

↑手ごろな1本として知られる「塔牌」花彫 <陳五年>

 

吉田 もちろんです。日本のご家庭でも、料理酒として紹興酒を常備している方はいらっしゃいますよね。まずはそこから気軽にペアリングを楽しんでいただくといいですよ。

 

小林 そうこうしているうちに、何やらおいしそうな香りがただよってきました。シェフの料理が完成したようです!

 

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酸味や辛味などの刺激を、紹興酒がまろやかにしてくれる

吉田 当店の定番である8年ものの「塔牌」<福(フータオ)>は汎用性が高く、前菜、副菜、メインと合わせやすいのが特徴です。本日はその魅力を存分に楽しめるよう、調理時に紹興酒を使った3品を井上シェフと考えてご用意しました。

↑オーナーシェフの井上貴士さん。四川料理を最も得意とし、そのほかの地方の中華や自身の独創性を生かした一皿も提供しています

 

小林 ありがとうございます! それでは、ここからは井上シェフも交えてお話をおうかがいしていきましょう。

 

山田 井上シェフ、さきほどのお話にもありましたが、「料理酒としての紹興酒」と、「お酒として味わうための紹興酒」のペアリング、そこに重点を置いたということでしょうか?

 

井上 そうですね。基本的には仕込みの段階で、紹興酒に食材を漬け込むといった使い方をしています。ただ、一緒に合わせる素材や調味料によって香りや味の広がり方、感じ方が変わってくると思いますよ。まずは、当店のランチや夜のコースなどでもよく提供している「よだれ鶏(蒸し鶏の麻辣ソース)」からお召し上がりください。

↑「よだれ鶏」は、日本でもポピュラーな四川料理の一皿。同店では濃淡2種類のラー油を使い分けて奥行きを演出。ニンニクやカシューナッツをトッピングしてアクセントにしています

 

山田 すごくおいしい!  お肉はしっとり柔らかく、鮮烈な香りとともにピリッとした刺激と絶妙なシビレ感があり、酸味や甘みも感じます。

 

井上 お口に合ってよかったです!「あべどり」という銘柄鶏のモモ肉をゆでて冷ましてから、ゆで汁と紹興酒と花椒(ホアジャオ)などを混ぜた塩水で半日以上漬けています。このマリネが味の決め手ですね。

 

山田 ペアリングのポイントとしては、酸味や辛味などの刺激のある要素を、紹興酒がキャッチしながら緩和させている点ですね。

 

小林 確かに! 紹興酒と合わせると、刺激がまろやかになって旨みがアップする印象です。四川料理のような刺激的な一皿に合わせるのも、ひとつのセオリーというわけですね。勉強になります!

 

山田 味付けとお酒の熟成のニュアンスが同じ方向性なので、その点でも考えられています。非常に心地よいマリアージュですね。

 

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香ばしさと旨みの強い料理が紹興酒と相性バツグン

吉田 では、次はシェフの独創性を生かした魚介の一皿、「巻き海老とホタテと桜海老の香り炒め」をどうぞ。

↑「巻き海老とホタテと桜海老の香り炒め」。エビとホタテは紹興酒で漬け、エビはそのまま、ホタテは片栗粉をまぶして揚げています

 

山田 香ばしい風味に圧倒されます。この香ばしさが紹興酒の熟成香と合いますね。エビにしみ込んだ紹興酒の風味も、口のなかで鮮やかに広がります。

 

小林 エビの紹興酒の風味と、これを迎える紹興酒が絶妙にマッチしています。このハーモニーは素晴らしい!

 

山田 魚介と野菜、それぞれの食感のメリハリも絶妙で、凝縮された旨みが印象的ですね。油とともに熱せられることで素材の魅力が前面に出ています。前編でも話しましたが、紹興酒は旨みの強い料理とも相性がいい。紹興酒の旨みと料理の旨みが重なって、相乗効果が生まれますから。これはその典型です。

 

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紹興酒の乳酸が料理の油っこさを切ってくれる

吉田 ありがとうございます。最後は「水煮牛肉」(スイジュウニュウロウ)をお召し上がりください。

↑濃厚な味わいが魅力の四川伝統の煮込み料理「水煮牛肉」

 

井上 お肉は国産牛のモモで、やはり下味に紹興酒を使っています。花椒は直接入れておらず、自家製の唐辛子粉に入れたものを使っているので、シビレはやや少なめ。ただ唐辛子粉のほかに自家製ラー油もたっぷり使っているので、辛さはしっかり感じられると思います。

 

山田 こちらは濃厚な味付けにとろみと辛味が加わり、極めて豊かな味わいですね。油もたっぷり使われていてこってりしていますが、紹興酒を飲むと口の中が適度にスッキリして、また次のひと口が食べたくなります。紹興酒の乳酸が油っこさを切ってくれている証拠ですね。

 

吉田 そうおっしゃっていただけるとうれしいです。また、この料理はとろみがあって温かいので、お酒を同じ程度に温めると、さらに親和性がアップするのでオススメですよ。一方で真逆のアプローチもあって、暑い季節はオンザロックの紹興酒を合わせてさっぱり楽しんで頂くのもいいと思います。

 

小林 なるほど。真夏は断然そのほうがいいですね!

 

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料理の味わいの濃淡に応じて、熟成期間を選ぶのもオススメ

吉田 あとは、料理の味が濃くなるほど、その旨みに負けないよう、熟成期間が長い紹興酒を合わせるのがオススメ。今回は「水煮牛肉」が最も濃厚に感じられたかと思うのですが、この味わいなら、より長く熟成させた紹興酒を合わせてもいいと思います。

↑店内には「塔牌」の長期熟成酒の華やかな甕が飾られていました

 

山田 中華のコース料理で考えると、前菜からメインに向かうにつれて、紹興酒の熟成年数を増やしていくのも手ですね。

 

吉田 おっしゃる通りです。序盤の軽めの料理には熟成年数が浅いものを、一方でメインの濃厚な一皿には熟成の深いものを選んだ方がマッチするでしょう。

 

小林 なるほど。吉田さん、井上さん、ありがとうございました。大変勉強になりました! 今回のペアリングで学んだことを簡単にまとめると、 紹興酒は、料理酒として紹興酒を使った料理と相性がいいこと、辛い料理やシビレのある料理をまろやかにしてくれること、香ばしい料理や旨みの強い料理に相性がいいこと、紹興酒の酸味が料理の油っこさを切ってくれること、料理の濃淡に応じた熟成年数を選ぶのがオススメ……といったところでしょうか。山田さん、こうしてみると、紹興酒はかなり万能なお酒なんですね。

 

山田 まったく、その通りですね。読者のみなさんも一度お試しいただいたら、その使い勝手の良さがわかるはず。「よく知らないから」と敬遠せずに、自宅でもお店でも、様々な料理に気軽に合わせてほしいです。 いやあ、それにしても、今日はすべておいしかった。ありがとうございました!

 

<取材協力>

みこころ 無添加チャイナ935

住所:東京都千代田区神田小川町3-22 細野ビル 2F

営業時間:11:00~14:00(L.O.)、17:00~23:00(L.O.21:00)

定休日:日曜、祝日

 

記事に登場したお酒の紹介はこちら▼

・紹興酒「塔牌」(とうはい)
https://www.takarashuzo.co.jp/products/touhai/

 

・紹興酒「塔牌」花彫 <陳五年> 600ml

https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=2275

 

・紹興酒「塔牌」 2012年<福(フータオ)>5L甕

https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=3208

 

・紹興酒「塔牌」2012年 <福(フータオ)>9L甕

https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=3209

 

・特撰紹興酒「塔牌」<陳十五年> 500ml壷

https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=2270

 

撮影/我妻慶一

 

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【ラ飲みの名店】これほど使い勝手のいい店があるか? 新宿駅近の老舗「石の家」に街中華の理想を見た

ラーメン店でお酒を楽しむ、通称「ラ飲み」。本稿は、お酒をより深く楽しむための情報サイト「酒噺」(さかばなし)とコラボし、この「ラ飲み」にスポットを当てた企画である。案内人は、GetNavi本誌でラーメン連載を持つミュージシャン、サニーデイ・サービスの田中 貴さん。本稿では「ラ飲み」でオススメの店を行脚しつつ、「ラ飲み」の楽しみ方や珠玉のラーメンを紹介していただく。今回は、全6回となる連載の第4弾をお届け。

「ラ飲みの名店」連載一覧はコチラ

 

【プロフィール】

田中 貴(たなか・たかし)

サニーデイ・サービスのベーシスト。日本全国を食べ歩くラーメン好きとしても知られ、TVや雑誌などでそのマニアぶりを発揮することも多い。2019年にはグルメ誌「食楽」で表紙を飾った。

 

バンドは3月13日に通算13作目となるニューアルバム「いいね!」をリリース。エレキギター・ベース・ドラムという最小限のバンドアンサンブルに立ち帰り、自身たちのルーツたる音楽性を詰め込んだ傑作が誕生した。ライブはドライブイン形式のイベントとして「山中湖交流プラザ きらら」で開催される、「DRIVE IN LIVE “PARKED”」の初日、9月26日に出演が決定。また、カーネーション、岸田繁(くるり)とのライブ音源集「お~い えんけん!ちゃんとやってるよ!2020セッション」が10月21日にCDとLP盤でリリースされる。

 

街中華は何人かで飲みに行くときの有力な選択肢のひとつ

今回訪問したのは、新宿駅の東南口からすぐの場所にある「石の家」(いしのいえ)。昨今注目が集まっている街中華(町中華)カテゴリーのお店だ。田中さんはラーメン専門店だけではなく街中華にも詳しい。そんな田中さんが、数ある名店のなかから「石の家」を選んだ理由は、名物メニューがあり、多くの人が足を運べる立地だからだという。また、「麺や 七彩」の阪田博昭さんをはじめ、田中さんと仲のいい有名ラーメン店主のなかにも「石の家」のファンは多いのだとか。

↑「石の家」の入口。裏路地に入ってすぐの、地下のネオンが目印だ

 

入店して料理を待つ間、田中さんにとって、街中華とはどんな存在なのか、街中華でラ飲みを楽しむ魅力などについて教えてもらった。

 

「街の中華屋さんと聞いて一般的にイメージされるのは、日本風にアレンジされた中華料理を出すお店ですよね。オムライスやカレーなどの洋食からカツ丼などの食堂メニューまで出す、住宅地の駅近くに必ずあるタイプの店。それらとは違うタイプで、中国の方が厨房にいらっしゃる、本場の味を出すお店というのもあります。格式高い本格的な中国料理店とは違い、庶民的なスタイルで古くから続く店が、都心にはまだいくつか残っています。どちらのタイプの店にもいえるのは、安くてボリュームがあるということ。数人で、何品も頼んでワイワイやるのが楽しいですね。もちろん、麺料理も豊富にあるので、一軒でシメのラーメンまでいけちゃいます」(田中さん)

 

「いい街中華」は「おっちゃん世代が集まる店」であることが多い

ただ、最近人気が出てきたとはいえ、街中華は公開されている情報量がラーメン店に比べて多くはない。いい店は、どうやって探せばいいのだろうか。

 

「まず、長く続いている店は間違いないですよ。新宿とか渋谷とか、若者が多くてお店の移り変わりも激しいなかにも、オッチャンがたむろしている古くからの店はあるものです。そういう店は、まあ安くてウマい店ですね。オッチャンたち全てが食にこだわっている人ばかりではないですが、人生経験を積んだ先輩たちが選ぶ店には、何かしら意味があります。あとは、オリジナリティ溢れる名物料理があること。『いい店』と『名店』の違いは、これがあるかないかに尽きます」(田中さん)

↑近所の年配のご夫婦が営む深夜営業の中華の「いい店」が突然閉店し、途方に暮れていると語る田中さん

 

田中さんがお話しした条件の通り、「石の家」もこの界隈屈指の老舗であり、近くの「ウインズ新宿」に通うベテラン勝負師たちが足しげく訪れるお店。ファンであることを公言している著名人も多いのだという。

 

「酔貝」をはじめ、酒が進む「間違いのない前菜」が登場

やがて、一品目の「酔貝(すいがい)」が到着。街中華としてはやや珍しい本格派で、しかも台湾料理である。カンタンに言えばシジミのニンニク醤油老酒漬けで、絶妙な火加減でレアな食感に仕上げたシジミを、自家製のタレで約2時間漬け込んだ人気の前菜だ。

 

「ニンニクと紹興酒が効いた味付け。ガツンときますね! シジミの身が大きめなのは珍しい。肝臓にもいいような気がして酒が進みます(笑)」(田中さん)

↑「酔貝 ハーフ」400円(通常サイズは750円) ※お酒の画像はイメージ。店舗でも取り扱いなし(以下同)

 

ちなみに、ふだん料理をオーダーする流れについて田中さんに聞いてみると、「『石の家』の場合、まず飲み物と一緒に、このシジミとか腸詰といった前菜を頼みますね。台湾系の料理があるのも、ここの魅力です。そのあとは、酒に合う炒め物や揚げ物や、流れにまかせて……といった感じですね」と教えてくれた。そうこうするうちに、「焼餃子」と「腸詰」が到着。

 

「焼餃子が庶民的な料理として一般に普及したのは戦後からですが、ここはそのころから珉珉などと並んで有名だったそうで、古川緑波(ふるかわ・ろっぱ)の随筆にも『石の家』の名が出てきます。ロッパも食べた餃子を、建物は変われど同じ場所で食べていると思うとロマンを感じますね。僕が上京したころは、この新宿駅の南側も闇市の名残ある街並みでしたが、ずいぶん変わりました。さかさクラゲと呼ばれた連れ込み旅館や、生コン工場なんてのも数年前まであって、ゴチャゴチャした感じが魅力的だったんですが……」(田中さん)

↑手前は、「酔貝」と並ぶ人気の台湾料理「腸詰」700円。「焼餃子(6個)」400円は、キャベツ、白菜、ニラを豚ひき肉と合わせ、にんにくとしょうがを効かせた間違いのないおいしさ

 

「石の家」の名は、創業者が採石建材店と懇意にしていたことに由来

ここで、店の由来について二代目オーナーの金井由美子さんに話を聞いてみた。創業は昭和29(1954)年。当初は現在のように地下ではなく、2階に座敷を備えた建物だったそう。店名は、創業者が近隣の採石建材店と懇意にしていたことに由来。その後昭和59(1984)年に改築され、現在は金井さんの娘さんが三代目として同店を営んでいる。

↑二代目オーナーの金井由美子さんと。新宿周辺の昔話に花が咲く

 

いまでこそ新宿駅の東南口は整備されて都会的な雰囲気に変わったが、昭和のころは「新宿西口思い出横丁」のような、ディープな雰囲気だったとか。駅前に並ぶ屋台のなかには台湾料理店があり、その店主が「石の家」の常連だったことからレシピを教わり、同店でも台湾料理を提供するようになったという。

 

おかずにもつまみにもなる炒め物&揚げ物が到着

続いて、ご飯のおかずにもつまみにもなる炒め物と揚げ物をオーダー。街中華の定番である「木須肉(ムースーロー=キクラゲ、卵、豚肉炒め)」は、濃い味付けに仕上げた同店伝統の一皿だ。一方、「イカとセロリ炒め」は、セロリの上品な香りとコリっとした食感が絶妙。豚肉とピーマンの天ぷらを盛り合わせた「肉の天ぷら」は、山椒や八角をほんのり効かせてスパイシーに仕上げているのが特徴だ。

↑「木須肉(ムースーロー)」850円(手前)、「イカとセロリ炒め」900円(左奥)、「肉の天ぷら」850円(右奥)

 

「このムースーローは、ジャズピアニスト・山下洋輔さんのエッセイにちょいちょい出てくるもんだから、上京前から憧れの一品でした(笑)。イカとセロリの炒め物も、こういう中華屋さんの定番ですね。酒にもよく合います。肉天って関西ではポピュラーで、僕も子どものころから好物なんです。東京ではほとんど見かけないので、ここに来たら必ず注文しますね」(田中さん)

 

名物の「やきそば」は、焼きうどんのような太麺が醍醐味

そして、いよいよ麺料理へ。オーナーの金井さんによると、創業時のメニューは餃子と焼きそばとタンメンの3つだけだったそう。これらは、メニューが増えたいまでも同店を代表する人気料理だ。そのなかから、まずは開店当初50円だったという「やきそば」から頼んでみよう。

↑創業当時の味を伝える「やきそば(太麺・しょうゆ味)」550円。細麺ではなく太麺で、ソース味ではなくしょうゆ味だ。しょうゆ、塩、うまみ調味料などで味付け、ゴマ油が効いているのがポイント

 

「この焼きそばが『石の家』の名物なんです。うどんのような太麺が、ブヨンブヨンの食感でたまらない。量も多いので、数人でつまむのにもってこい。この焼きそばは、ファストフード店が普及する前には、安くてウマくて腹一杯になると学生に大人気だったそう。何年か前に、『石の家』で数十年働いてた方とこの近くの飲み屋で出会いまして、当時の話をいろいろうかがいました(笑)」(田中さん)

 

焼きそばの麺の量は、200gとボリューム満点。麺類は昔からずっと同じ製麺所に特注しているという。ちなみに、餃子はかつて皮が自家製だったが、いまはこの製麺所に作ってもらっているとのこと。

↑紹興酒も一緒に飲み始めた田中さん。焼きそばや炒め物をつまみにお酒が進みます

 

タンメンは野菜の旨みがしっかり効いていて深みのある味

そして最後はタンメンを注文。同店には通常のタンメンと、昔ながらの太麺タイプの2種があり、今回はやはり後者をチョイス。味の軸となるのは、鶏と豚のガラを中心に前日から約8時間炊いたスープで、タンメンの場合はこれに野菜などの甘味が加わる。

↑「太麺タンメン」750円。スープが白濁していないあっさり系だが、奥深いふくよかなうまみがあって飲み干したくなるウマさ

 

「中華屋さんでは、ベーシックなラーメンよりもタンメンなどを頼むのがベター。こういうお店のスープは、基本的に全ての料理のベースに使うよう仕込まれています。なので、シンプルなラーメンはラーメン専門店と比べると物足りなく感じることが多い。そして、中華屋さんの醍醐味といえば、豪快に鍋を振って作る炒め物。それぞれの野菜への火の通し加減など、技術にはっきり差が出る調理法。これを堪能できる、タンメンや、もやしそばなどのあんかけ系がおすすめです。その点、『石の家』はさすがですね。ベースのスープもしっかりしつつ、さらに炒め煮した野菜の旨みがしっかり出ていて素晴らしい。ニンニクも強めにきいてて、ん〜こりゃウマい。そして、唯一無二のブヨブヨ麺。たまらんね」(田中さん)

↑つるりとした太麺と野菜の旨みが溶け込んだスープの相性はバツグン!

 

前菜からシメまで、お酒の進む絶品料理が良心的な価格で楽しめる。おまけに立地は抜群で、昼夜通しで営業していて、定休日もないという使い勝手のよさ。多くの人に時代を超えて愛されるというのも納得だ。こうした素晴らしい店が時代に飲み込まれずに残っていること自体、もはや奇跡と言っていいだろう。新宿は数々の老舗や名酒場が存在する街だが、東南口の「石の家」も、必ず覚えておくべき名店といえる。

撮影/黒飛光樹(TK.c)

 

【SHOP DATA】

石の家

住所:東京都新宿区新宿3-35-4 ユーコービル中地下

アクセス:JRほか「新宿駅」東南口徒歩3分

営業時間:月~土11:30~23:50(L.O.23:00)、日祝11:30~22:50(L.O.22:00)

※営業時間は変更の可能性があります

定休日:なし

 

人に話したくなるお酒のお役立ち情報やうんちくを知りたい方は、酒噺へ!

 

撮影/黒飛光樹(TK.c)

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

紹興酒って何? どうやって飲む? いまさら聞けない「紹興酒の基本」の噺

長い歴史を持つ中国のお酒・紹興酒(しょうこうしゅ)。今回は、初心者でも家飲みで気軽に楽しめるよう、識者を招いて紹興酒の魅力と基礎知識を教えてもらいます。

 

餃子に麻婆豆腐、エビチリにチンジャオロースー……中華料理は、すでに我々の食生活には欠かせない存在となっています。特に今はおうち時間が増えて、中華料理のデリバリーや惣菜をつまみにして飲んでいる人も多いでしょう。そこで注目したいのが、「中華料理に合う」と言われる紹興酒。ただし、聞いたことはあるけれど、どんな飲み方をしたらいいかわからない、そもそもどんなお酒か、わからないので手が出せない……という人は少なくないはず。

そこで今回は、興味はあるものの紹興酒についてはあまり知らないGetNavi web編集部の小林史於(こばやし・しお)が、酒文化研究所の山田聡昭(やまだ・としあき)さんをガイドに招き、紹興酒の基礎を教えてもらいます。前編では、紹興酒の定義や製法、飲み方など、いまさら聞けない「きほんのき」を伝授してもらいます。

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

↑今回、紹興酒のガイド役をお願いした山田聡昭さん。様々な媒体で連載をもつほか、『酒席に役立つ読む肴 サラリーマン酒白書』(紀伊国屋書店)など編集や執筆に携わった著書も多数

 

もち米の醸造酒を熟成させた老酒のうち、紹興市で造られたものが「紹興酒」

取材に協力してくれた山田聡昭さんは、「酒文化研究所」の設立メンバーであり、かつては情報誌「さけ通信」の編集長を務めるなど、お酒全般に造詣が深い人物。紹興酒の醸造現場を取材した経験もある、紹興酒の達人でもあります。さっそく、「紹興酒とは何か?」というところから解説していただきましょう。

↑今回は、伝統的な製法で造られる「塔牌(とうはい)」という銘柄を例に挙げてレクチャー

 

小林 本日はよろしくお願いします! 基本的すぎて恐縮ですが、紹興酒って何でしょうか。まずは、定義から教えてください!

 

山田 大きな分類でいえば、紹興酒は醸造酒(※)です。日本酒やワイン、ビールなどと同じ部類ですね。中国では穀物の醸造酒を黄酒(ホワンチュウ)と呼び、なかでも長期熟成させたものを老酒(ラオチュウ)と呼びます。もち米を原料とした老酒の一種が紹興酒。浙江省(せっこうしょう)の紹興市で造られた老酒のみ「紹興酒」と名乗ることができます。

※醸造酒……穀類・果実などの原料を、酵母によりアルコール発酵させて造ったお酒(日本酒・ワインなど)

↑紹興酒のふるさと・紹興市の風景。紹興市は湖沼が多く、水路が発達しています

 

小林 へえ、「紹興」って地名だったんですね。中国のどのあたりにあるんですか?

 

山田 紹興市は、上海から南西にクルマで2~3時間くらいの位置にあります。産地でブランド化している中国のお酒は紹興酒ぐらいでしょうね。スパークリングワインでいえば、シャンパーニュ(同地方で造られたものしかシャンパーニュと名乗れない)のようなものです。ちなみに紹興での酒造りの歴史は古く、2400年以上前の春秋時代には、紹興で盛んに酒造りが行われていたと推測されています。

 

小林 2400年前! 春秋時代といえば、マンガ「キングダム」の時代(戦国時代)のさらに前ですよね。これはロマンがある! でも、それだけ昔から酒造りが続いてきたってことは、紹興はかなり酒造りに適した場所、ということになりませんか?

 

山田 そうですね。紹興は中国屈指の水郷地帯で、紹興酒は名水として知られる鑒湖(かんこ・鑑湖と表記することもある)の水を使うのが絶対条件のひとつです。この水の良さは大きなポイントです。

↑会稽山脈系の伏流水が涌き出る鑒湖

 

↑鑒湖の水は、もち米の洗浄や浸漬(米に水をしみ込ませること)をはじめ、仕込み全般に使われます

 

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原料と製法は? 日本酒との違いに注目して解説

小林 では、続いて紹興酒の原料や製法について教えてください。日本酒と同様、お米を使っているということで、日本酒と比べて解説してもらえるとうれしいです!

山田 日本酒はうるち米を使いますが、紹興酒の原料は、より粘り気のあるもち米ですね。そして、両者とも米のデンプンを糖に変える工程(糖化)を踏まないと、アルコール発酵ができない。だから、日本酒も紹興酒も、米を糖化させる麹(こうじ)というカビの一種を使うのですが、日本酒と紹興酒では麹の種類が違います。日本酒では米に「黄麹」(きこうじ)というカビを繁殖させた米麹を使うことが多いですが、紹興酒の場合は麦にクモノスカビという系統のカビを繁殖させた麦麹を使います

 

小林 なるほど。日本酒と同じで米を糖化させる作業は必要だけど、使う麹の種類が違うんですね。

 

山田 そうなんです。さらに紹興酒は麦麹で米のデンプンを糖化させつつ、酵母などを含んだ酒薬(しゅやく)というものを加えてアルコール発酵させる。これが、紹興酒の仕込みの概要です。仕込みの方法は、糖化とアルコール発酵を一つの容器で同時に行う「並行複発酵(へいこうふくはっこう)」で、その点は日本酒と共通ですね。ちなみに、近年の仕込みではステンレスタンクを使うことも多いですが、「塔牌」のような伝統製法の紹興酒は甕(かめ)で仕込みます。甕で二段階の自然発酵を行い、搾って原酒と酒粕に分けたら、今度は貯蔵用の小さな甕に詰めて長期熟成を行います。

↑伝統製法を守る「塔牌」の仕込み。職人たちは気候やもろみの温度、発酵の進み具合などを見ながら、長い棒を操って甕の中をかくはんします

 

↑貯蔵用の小さな甕にお酒を詰めたら、ハスの葉や油紙、竹の皮などで密閉して外気が浸透しないようにします

 

小林 うわあ、手が込んでいますね。いったいどれぐらい熟成させるんですか?

 

山田 3年や5年といったものから、8年、10年、15年、あるいはそれ以上とじっくり寝かせるものまで多種多様。かつて紹興では、娘が生まれたのを機に、父が紹興酒の甕を地中に埋めて娘が嫁ぐ日に振る舞ったことから、紹興酒は「花彫酒」(はなほりしゅ・かちょうしゅ)という別称で呼ばれることもあります。現在ではこの「花彫酒」が、長期熟成酒の愛称として使われることもありますね。この熟成の長さに応じた味わいの変化が、紹興酒の面白さでもあるわけです。日本酒の場合、3年以上の熟成を行うことはまれですから、そこも大きな違いですね。

↑「塔牌」の貯蔵庫。天井が高く、常に一定の温度に保たれた環境で甕を3~4段に積み重ねて貯蔵。年に一度、場所を入れ替えながら熟成させます

 

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軽快な味わいの5年ものをロックですっきり楽しむ

小林 紹興酒とは何なのか、とてもよくわかりました。 次は飲み方について教えてください!

 

山田 では、日本でもポピュラーな「塔牌」(とうはい)というブランドを使って、飲み方を紹介していきましょう。

小林 この赤いラベルに塔のマークが入った紹興酒は見たことあります! 居酒屋やスーパー、コンビニなどでもよく見かけますね。

 

山田 「塔牌」は日本での流通量が多いですからね。今でも伝統製法にこだわっていて、水質が最も安定する冬季にのみ仕込んでいるからか、紹興酒のなかでもクリアな味わい。初心者にもオススメです。まずは、何も入れずに常温で飲んでみてください。

↑紹興酒「塔牌」花彫 <陳五年>

 

小林 …ああ、これはウマイですね! 甘みや複雑な旨み、酸味が調和していてまろやかです。それでいてしつこさはなく、透明感もある……。熟成のせいなのか、独特の香味もあるんですね。

 

山田 おっしゃる通り、<陳五年>は5年の熟成を経ていて、深みのある味わいです。紹興酒のなかでも特に長期熟成させるものは「陳年」の名称が付けられるのですが、「塔牌」はすべてが「陳年」なんです。ちなみに「陳五年」とは、5年熟成酒をメインに4年ものや6年ものなどをブレンドして、加重平均で5年以上のものに付けられる酒齢のこと。若くて力強い酒や、年数を経て落ち着いた酒を巧みにブレンドすることも、おいしさの秘訣です。では、続いて5年以上の熟成酒だけを使用した<純五年>という銘柄をオン・ザ・ロックで試してみてください。

↑5年以上の陳年原酒のみを詰めた紹興酒「塔牌」<純五年>プレミアムをロックでいただきます

 

小林 ではひと口。あっ! ロックでほどよく冷えたからか、コクがありながらすっきりした味わいになりました! 飲み方のイチオシはロックなんですか?

 

山田 いえ、飲み方は何でもいいんですよ。ただ、熟成の度合いや季節、料理に応じて合わせると、より楽しめると思います。今回の<純五年>はそれ以上の熟成期間の紹興酒よりも軽快な味なので、ロックのように爽やかな飲み方がよく合うと思いまして。

 

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ぬる燗のほか常温をワイングラスで楽しむのもオススメ

小林 なるほど、勉強になります! あれ、日本酒の徳利がありますけど、次は燗ですか?

↑白い甕が特徴の紹興酒「塔牌」2010年<福(フータオ)>を燗でいただきます

 

山田 はい、今回は40℃くらいに温めてみました。日本酒でいうぬる燗くらいですね。お酒は2010年に醸造した陳年原酒のみを使用したヴィンテージ紹興酒の<福(フータオ)>です。

 

小林 ああ、これもウマイ……じんわり染み渡るおいしさです!

 

山田 紹興酒は乳酸が多く、乳酸は温めると味わいがふくらむんです。温め方は、湯せんでも電子レンジでもいいですよ。

 

小林 熟成が深いからか、まろやかさや上品な酸味がより際立っていますね。

 

山田 熟成感が増すことで、カラメルのような心地いい風味がより豊かになり、味のやわらかさや厚みもアップするんです。さあ、次はさらにリッチな「塔牌」の<陳十五年>を飲んでみてください。こちらは飲み口がすぼまった大きめのワイングラスで、香りを逃さず楽しむのがオススメです。

↑15年の長期熟成を経た特撰紹興酒「塔牌」<陳十五年>

 

小林 ああ……なんというエレガントな香りでしょう。確かに、常温でワイングラスだと香りが際立ちます。味は繊細で軽やか、上品で芳醇……舌触りも滑らかで、すいすい飲めます。これはウマイ!

 

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暑い季節は中国茶割りや炭酸割りでゴクゴク飲むのもよし

山田 あとは、暑い季節だとソフトドリンクで割ってゴクゴク飲むのもいいと思います。例えばジャスミン茶やウーロン茶などの中国茶割りはいかがでしょう。

 

小林 紹興酒の甘味や酸味に、自然な香りや渋味が加わって、これもいいですね! アルコール度数が下がってグッと飲みやすくなりますし、さっぱり飲めるので、濃厚な料理によく合いそうです。

↑紹興酒をジャスミン茶で割っても美味しい!

 

山田 あとは炭酸割りも面白いですよ。町中華や居酒屋でも「チャイナハイボール」の名称でよく見かけるようになりました。

 

小林 こうしてみると、紹興酒って常温でも、冷たくしても、温めても、割っても楽しめるスゴいお酒なんですね! ちなみに、氷砂糖やザラメを加えて飲むというやり方もあると聞いたのですが、これはどうなんですか?

 

山田 ああ、それはかつて質の悪いお酒を飲みやすくするためにした方法ですね。これが正しい飲み方だと勘違いされている方が多いかもしれませんが、しっかりした紹興酒なら、本来の味を損なうのでオススメしません。

 

小林 なるほど、そうでしたか! 知らなければ、中華料理店で頼んでしまったかもしれません。

 

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紹興酒は油を使った料理や旨みの強い料理によく合う

小林 では、最後にもうひとつ、紹興酒はどんな料理と合うんでしょうか。

 

山田 中華料理をはじめ、油を使った料理にはよく合いますね。紹興酒の乳酸が油っこさを切ってくれますから。発酵食品や発酵調味料との相性も抜群です。あとは、旨みの強い料理。紹興酒の旨みと料理の旨みが重なって、相乗効果が生まれます。

 

小林 ああ、いいですね! 料理とのペアリングも試してみたい! そういえば、だんだんお腹がすいてきました……。

 

山田 では、紹興酒にこだわった中華料理店があるので、これからそこに行きませんか? 紹興酒を実際に料理と合わせたら、もっと美味しく感じると思いますよ。

 

小林 いいですね! ぜひ行きましょう!

 

……ということで、次回は山田さんとともに中華料理店で実地研修。「紹興酒と料理とのペアリング」について、紹興酒に詳しい飲食店のマネージャーにお話をうかがいながら、料理とのペアリングを堪能します。お楽しみに!

 

記事に登場したお酒はこちら▼

・紹興酒「塔牌」花彫 <陳五年> 600ml

https://www.takarashuzo.co.jp/products/touhai/lineup/index.htm#item_01

 

・紹興酒「塔牌」<純五年>プレミアム 500ml(販売ルート限定)

https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=3140

 

・紹興酒「塔牌」2010年<福(フータオ)> 500ml

https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=3144

 

・特撰紹興酒「塔牌」<陳十五年> 500ml

https://www.takarashuzo.co.jp/products/touhai/lineup/index.htm#item_11

 

撮影/我妻慶一

 

《酒噺のオススメ記事》


「家飲み」が劇的に変わる! 5000円以下の卓上家電でチューハイ晩酌を楽しくする噺
こう家飲みが続くと、「いつものおつまみにはもう飽きた!」と感じる方も多いはず。そんなときは、卓上家電を使っておつまみのバリエーションを広げてみてはいかがでしょうか? …

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達人が伝授!「アウトドア飲み」が劇的に楽しくなる3つの方法の噺

アウトドアやキャンプで楽しむお酒はまた格別。 大自然のなか、火照った身体によく冷えたチューハイなどのお酒を飲む幸せが忘れられない……という方も多いはず。ただ、いざ乾杯となってお酒がぬる~くなっていたら、その幸せも半減してしまいますよね。アウトドアは設備が限られているだけに、家庭で飲むときとは違った工夫が必要になります。そこで今回は、アウトドアの達人・菅井志門さんに協力を依頼し、⼭梨県白州にある菅井さんのプライベートキャンプ場「日向山ベース」を訪ねました。菅井さんに実践を交えて「アウトドアで美味しく飲むための方法」を紹介していただきます!

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です

 

【教えてくれたのはこの人!】

↑菅井志門さん。野遊び好きな父親の影響でアウトドアにハマり、若いころから自転車・バイク旅行・登山などに没頭。いままでは年30泊はキャンプをして過ごしていましたが、現在は山梨県の山林を購入し、プライベートキャンプ場として整備する作業に励んでいます

 

方法その1

クーラーボックスでお酒を“キンキン”に冷やす

お酒を冷やすとき、クーラーボックスの使い方を工夫すると劇的な効果が得られます。なお、2020年の夏は猛暑が予想されていることもあって、お酒は冷えているほうが美味しく感じるはず。というわけで今回は、適度な冷気を長持ちさせるのではなく、クーラーボックスで“キンキン”に冷やす方法を教えてもらいます。

 

「まず第一に、外からの温かい空気を徹底的に遮断することを考えましょう。具体的には、地熱が伝わらないよう、キッチンラックなどを使ってクーラーボックスを地面から浮かせること。もうひとつは、内壁を保冷剤でぐるりと囲むようにして置くことです」(菅井さん)

↑地熱を防ぐために市販のキッチンラックを活用。写真はニトリの「折りたたみ式 キッチンラックNT 積み重ね棚」(Lサイズ・税込523円)を2個使用しています

 

↑クーラーボックスの内壁に沿うように保冷剤を配置。ちなみに、菅井さんオススメの保冷剤は、ロゴスの「倍速凍結 氷点下パック」(写真・税込1078円~)

 

加えて、氷が長持ちするよう、クーラーボックスに水は入れず、氷は袋のまま入れるのがオススメとのこと。また、冷気は下に落ちていくので、氷はドリンクの上を覆うように置くのがポイントです。

 

「あとは、クーラーボックスの中に100円ショップなどで買える銀マットをかぶせておけば完璧。開閉したときに、冷気が逃げるのを防ぐことができます。特に子どもがいる場合、意味なくフタを開けたり閉めたりしますからね(笑)」(菅井さん)

 

小一時間後、クーラーボックスのドリンクを触ってみると、たしかによく冷えている! これなら最高の状態でお酒が楽しめますね。

↑氷は袋のままドリンクの上を覆うように載せましょう

 

↑100円ショップなどで購入した銀マットを、クーラーボックスの大きさに合うようカットしてかぶせれば完璧!

そのほかのクーラーボックスの賢い使い方はコチラ

 

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バーの「かっこいい大人たち」から何を学んだ? ウイスキーの達人が語る「バーの魅力と探し方のコツ」の噺
大人の嗜みとして避けては通れないのが「バー」の世界です。とはいえ、「バーは敷居が高い」と思われている方も多いでしょう。そんな方々のために、バーの楽しみ方をレクチャーするシリーズをお届け。…

ウイスキーの達人が明かす「バーでの敬意ある飲み方」と「バーボンへの思い」の噺
「バーはハードルが高い」と思われている方々のために、バーの魅力や楽しみ方を識者に教えてもらう連載の後編。今回は、有名酒販店「目白田中屋」の栗林幸吉店長に「バーでの飲み方」について聞いていきます!…

 

方法その2

おいしく飲むためのアイテムを選ぶ

せっかくクーラーボックスでお酒を冷やしたのだから、その冷たさをキープしたいもの。また、美味しく飲むにはおつまみが美味しそうに見えるのも重要、ということで、ここでは缶用の保冷グッズと雰囲気を高める食器を紹介していただきます。

 

「1杯目のお酒は、乾杯の雰囲気を楽しむためにもグラスで飲みたいところ。アウトドア用として壊れにくくおしゃれなグラスも発売されているので、チェックしてみてください。一方で、2杯目以降は飲むスピードが落ちて缶がぬるくなり、ぬるいと美味しくないからお酒が進まない……という悪循環に陥りがち。それを防ぐために、断熱性のある素材で缶を覆い、温まるのを防ぐ保冷缶ホルダーや缶クージーといったアイテムが便利です」(菅井さん)

↑アウトドア飲みには割れにくくてオシャレなグラスがぴったり。写真左は「ソフトランスタンブラー(4pcs)」(4個入り・税込2035円)、右は「割れないワイングラス with ポータブルケース」(税込2189円)で、ボウル部と軸の部分を取り外してコンパクトに収納できます(グラスはともにロゴス)。どちらも素材は透明なプラスチックの一種を使用しており、薄くても割れにくいのが特徴です

 

↑真空断熱構造で缶ドリンクの温度を保つサーモスの「保冷缶ホルダー JCB-352」(参考価格 税込1628円)。カラーバリエーションは4色(写真はブラックとライムグリーン)

 

↑写真左~中央はパタゴニアのクージー3種(税込各990円)。右はイケアの「アンフォード 缶ホルダー」(2ピース・税込399円)

 

続いて、おつまみを美味しそうに見せてくれるアイテムを教えてもらいましょう。

 

「ぜひ『食器としても使える調理道具』を使ってみてください。アウトドアならではの豪快さやシズル感が高まりますよ。その点、ニトリのスキレットやイケアのまな板は、価格も手ごろで見栄えも文句なし。荷物を減らし、洗い物を減らして環境を守るという意味でもオススメです」(菅井さん)

↑「ニトスキ」の愛称で知られるニトリの「スキレット鍋」(税込499円~)。蓄熱性が高いのが特徴で、オーブンでも使用できます。写真の料理はプチトマトとオクラのアヒージョ

 

↑卓上に置いても絵になるイケアのまな板。ゴムノキ製「プロップメット まな板」(写真手前・税込1699円)、竹製の「リムフォルサ まな板」(左奥・税込1999円)は、食材を切ったときの肉汁やドリップが溝にたまるので便利。「オストビット サービングプレート」(右奥・税込999円)は取っ手付きで移動がラク

そのほかのオススメアイテムはコチラ

 

《酒噺のオススメ記事》


必ず盛り上がる「話題と歌」を教えて! 夜の社交場「スナック」で使える「鉄板ネタ」の噺
気軽に行けてリーズナブルに楽しめるということで、密かに注目を集めている夜の社交場「スナック」。今回は、会話の仕方や注文、カラオケの選曲など、マナーを守りながら盛り上がるコツを…

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方法その3

美味しいおつまみをほったらかしで作る

大のお酒好きで、アウトドアの料理は「お酒に合うかどうか」で決めるという菅井さん。最後に、アウトドアならではの美味しいおつまみの作り方を教えてもらいましょう!

 

「焼肉なら家でもできますが、せっかくアウトドアを楽しむなら、いつもとちょっと違う料理をやってみたくないですか? とはいえ、手間がかかって遊ぶ時間やくつろぐ時間が無くなるのは考えもの。そこで、本格的に見えるのに、ほったらかしでできるおつまみを2つ紹介します。ひとつは『かんたんローストポーク』。もうひとつはダッチオーブンを使った『かんたん無水ローストチキン』。どちらも基本的に放っておけばOKですし、何よりお酒に合うんです(笑)」(菅井さん)

 

「かんたんローストポーク」は、肩ロースや豚バラなどのかたまり肉の表面をフライパンなどでよく焼き、アルミホイルとラップ、ビニール袋で包んで沸騰させた鍋のお湯に投入。この状態で放っておけば完成します。肉を温める時間は約1時間が目安ですが、しっかり火が通るよう、最初は保温する時間をやや長めにとって様子を見るのがオススメです。

↑肉の表面をよく焼きます。肉には事前に塩こしょう、すりおろしにんにく(チューブで可)をすりこんで最低1~2時間、できれば半日ほど置いて味をなじませておくとうまみがアップします

 

↑アルミホイル、ラップの順で肉を包み、ビニール袋を二重にかぶせて口をしばった状態で、沸騰させて火を止めたお湯に投入。鍋のお湯の量は、あとでこぼれないよう鍋の半分くらいを目安に

 

↑鍋ごと新聞紙で包んで保温。新聞紙の上からシャツや毛布をかければよりベター

 

↑完成! 先述のイケアのまな板の上で切り分けました

 

一方、「かんたん無水ローストチキン」は、ダッチオーブンに半分に切ったじゃがいもとたまねぎ、乱切りのにんじんを投入すれば準備OK。野菜の上に鶏肉(むね肉でも、もも肉でも可)をのせてフタをし、加熱すれば完成です。加熱時間の目安は約1時間ですが、環境にもよるので、最初はそれよりやや長めに加熱して様子を見るのがオススメ。野菜の水分で調理するため、水を入れる必要はありません。

↑今回使用したのはSOTOのステンレスダッチオーブン(8インチ・税込1万9800円~)。鋳鉄製のダッチオーブンと違って使い始めの慣らし作業(シーズニング)や調理後に油を塗る手間が不要です

 

↑味付けは鶏肉に市販のハーブソルトをすりこんだだけ。肉が鍋肌に当たって焦げ付かないよう、ダッチオーブンにオリーブオイルを薄く塗って、たまねぎを鍋の内壁を囲むように配置するのがポイント

 

↑フタの上に石を置くと、圧力が逃げないのでオススメ

 

↑「かんたん無水ローストチキン」が完成!

 

できあがった2つの料理を、キンキンに冷えたお酒とともに頂いてみました。いや~、やっぱり最高です! 「かんたんローストポーク」は、しっとりしていてジューシー。かつ豚肉のうまみとにんにくのパンチ力が相まって、とにかくお酒が進みます!

↑完成した「かんたんローストポーク」はお酒を呼ぶ味。薬味はわさびやゆずこしょうがオススメ

 

「かんたん無水ローストチキン」は、薄味なのに素材の味そのものがしっかりと出ていて、こちらもやみつきになります。今回、鶏のもも肉とむね肉を両方使ってみたのですが、もも肉はとろっとろのぷるっぷるで口のなかでとけていき、むね肉はしっとり柔らかく仕上がっていて、やさしい肉のうまみが感じられます。

 

驚いたのは、野菜のウマさ。にんじん、じゃがいもが鶏の肉汁を吸ってうまみとみずみずしさが増幅され、ひとつの料理として完成されています。そして、すべての食材には燻製に似た香ばしさがついていて、これがまたお酒を呼ぶ! キンキンに冷えたお酒と合わせれば、それだけでもう幸せです!

↑「かんたん無水ローストチキン」は素材のうまみが存分に楽しめます

そのほかのカンタンおつまみはコチラ

 

「太陽の下で、風を感じながらご飯を食べる。星の下、たき火を囲んで酒盛りをする……これは人間の原点。だからこそ、人間を内側から活性化させてくれるんです」と、アウトドアの魅力を語る菅井さん。たしかに、目に沁みるような緑のなか、鳥のさえずりを聞きながらお酒を楽しむ時間は、かけがえのない癒しになります。みなさんもぜひ、大切な人と最高の「アウトドア飲み」を味わってみてください。

 

記事に登場したお酒はこちら▼

・全量芋焼酎「一刻者ハイボール」

https://www.ikkomon.jp/highball.htm

 

・松竹梅白壁蔵「澪」スパークリング清酒

https://shirakabegura-mio.jp/

 

・タカラ「焼酎ハイボール」<ドライ>

https://shochu-hiball.jp/

 

・タカラcanチューハイ<レモン>

https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/regular/

 

・寶「極上レモンサワー」<丸おろしレモン>

https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/gokujo_lemonsour/

 

撮影/和田清志

 

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「まず第一に、外からの温かい空気を徹底的に遮断することを考えましょう。具体的には、地熱が伝わらないよう、キッチンラックなどを使ってクーラーボックスを地面から浮かせること。もうひとつは、内壁を保冷剤でぐるりと囲むようにして置くことです」(菅井さん)

↑地熱を防ぐために市販のキッチンラックを活用。写真はニトリの「折りたたみ式 キッチンラックNT 積み重ね棚」(Lサイズ・税込523円)を2個使用しています

 

↑クーラーボックスの内壁に沿うように保冷剤を配置。ちなみに、菅井さんオススメの保冷剤は、ロゴスの「倍速凍結 氷点下パック」(写真・税込1078円~)

 

加えて、氷が長持ちするよう、クーラーボックスに水は入れず、氷は袋のまま入れるのがオススメとのこと。また、冷気は下に落ちていくので、氷はドリンクの上を覆うように置くのがポイントです。

 

「あとは、クーラーボックスの中に100円ショップなどで買える銀マットをかぶせておけば完璧。開閉したときに、冷気が逃げるのを防ぐことができます。特に子どもがいる場合、意味なくフタを開けたり閉めたりしますからね(笑)」(菅井さん)

 

小一時間後、クーラーボックスのドリンクを触ってみると、たしかによく冷えている! これなら最高の状態でお酒が楽しめますね。

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↑100円ショップなどで購入した銀マットを、クーラーボックスの大きさに合うようカットしてかぶせれば完璧!

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「1杯目のお酒は、乾杯の雰囲気を楽しむためにもグラスで飲みたいところ。アウトドア用として壊れにくくおしゃれなグラスも発売されているので、チェックしてみてください。一方で、2杯目以降は飲むスピードが落ちて缶がぬるくなり、ぬるいと美味しくないからお酒が進まない……という悪循環に陥りがち。それを防ぐために、断熱性のある素材で缶を覆い、温まるのを防ぐ保冷缶ホルダーや缶クージーといったアイテムが便利です」(菅井さん)

↑アウトドア飲みには割れにくくてオシャレなグラスがぴったり。写真左は「ソフトランスタンブラー(4pcs)」(4個入り・税込2035円)、右は「割れないワイングラス with ポータブルケース」(税込2189円)で、ボウル部と軸の部分を取り外してコンパクトに収納できます(グラスはともにロゴス)。どちらも素材は透明なプラスチックの一種を使用しており、薄くても割れにくいのが特徴です

 

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「ぜひ『食器としても使える調理道具』を使ってみてください。アウトドアならではの豪快さやシズル感が高まりますよ。その点、ニトリのスキレットやイケアのまな板は、価格も手ごろで見栄えも文句なし。荷物を減らし、洗い物を減らして環境を守るという意味でもオススメです」(菅井さん)

↑「ニトスキ」の愛称で知られるニトリの「スキレット鍋」(税込499円~)。蓄熱性が高いのが特徴で、オーブンでも使用できます。写真の料理はプチトマトとオクラのアヒージョ

 

↑卓上に置いても絵になるイケアのまな板。ゴムノキ製「プロップメット まな板」(写真手前・税込1699円)、竹製の「リムフォルサ まな板」(左奥・税込1999円)は、食材を切ったときの肉汁やドリップが溝にたまるので便利。「オストビット サービングプレート」(右奥・税込999円)は取っ手付きで移動がラク

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美味しいおつまみをほったらかしで作る

大のお酒好きで、アウトドアの料理は「お酒に合うかどうか」で決めるという菅井さん。最後に、アウトドアならではの美味しいおつまみの作り方を教えてもらいましょう!

 

「焼肉なら家でもできますが、せっかくアウトドアを楽しむなら、いつもとちょっと違う料理をやってみたくないですか? とはいえ、手間がかかって遊ぶ時間やくつろぐ時間が無くなるのは考えもの。そこで、本格的に見えるのに、ほったらかしでできるおつまみを2つ紹介します。ひとつは『かんたんローストポーク』。もうひとつはダッチオーブンを使った『かんたん無水ローストチキン』。どちらも基本的に放っておけばOKですし、何よりお酒に合うんです(笑)」(菅井さん)

 

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↑完成! 先述のイケアのまな板の上で切り分けました

 

一方、「かんたん無水ローストチキン」は、ダッチオーブンに半分に切ったじゃがいもとたまねぎ、乱切りのにんじんを投入すれば準備OK。野菜の上に鶏肉(むね肉でも、もも肉でも可)をのせてフタをし、加熱すれば完成です。加熱時間の目安は約1時間ですが、環境にもよるので、最初はそれよりやや長めに加熱して様子を見るのがオススメ。野菜の水分で調理するため、水を入れる必要はありません。

↑今回使用したのはSOTOのステンレスダッチオーブン(8インチ・税込1万9800円~)。鋳鉄製のダッチオーブンと違って使い始めの慣らし作業(シーズニング)や調理後に油を塗る手間が不要です

 

↑味付けは鶏肉に市販のハーブソルトをすりこんだだけ。肉が鍋肌に当たって焦げ付かないよう、ダッチオーブンにオリーブオイルを薄く塗って、たまねぎを鍋の内壁を囲むように配置するのがポイント

 

↑フタの上に石を置くと、圧力が逃げないのでオススメ

 

↑「かんたん無水ローストチキン」が完成!

 

できあがった2つの料理を、キンキンに冷えたお酒とともに頂いてみました。いや~、やっぱり最高です! 「かんたんローストポーク」は、しっとりしていてジューシー。かつ豚肉のうまみとにんにくのパンチ力が相まって、とにかくお酒が進みます!

↑完成した「かんたんローストポーク」はお酒を呼ぶ味。薬味はわさびやゆずこしょうがオススメ

 

「かんたん無水ローストチキン」は、薄味なのに素材の味そのものがしっかりと出ていて、こちらもやみつきになります。今回、鶏のもも肉とむね肉を両方使ってみたのですが、もも肉はとろっとろのぷるっぷるで口のなかでとけていき、むね肉はしっとり柔らかく仕上がっていて、やさしい肉のうまみが感じられます。

 

驚いたのは、野菜のウマさ。にんじん、じゃがいもが鶏の肉汁を吸ってうまみとみずみずしさが増幅され、ひとつの料理として完成されています。そして、すべての食材には燻製に似た香ばしさがついていて、これがまたお酒を呼ぶ! キンキンに冷えたお酒と合わせれば、それだけでもう幸せです!

↑「かんたん無水ローストチキン」は素材のうまみが存分に楽しめます

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「太陽の下で、風を感じながらご飯を食べる。星の下、たき火を囲んで酒盛りをする……これは人間の原点。だからこそ、人間を内側から活性化させてくれるんです」と、アウトドアの魅力を語る菅井さん。たしかに、目に沁みるような緑のなか、鳥のさえずりを聞きながらお酒を楽しむ時間は、かけがえのない癒しになります。みなさんもぜひ、大切な人と最高の「アウトドア飲み」を味わってみてください。

 

記事に登場したお酒はこちら▼

・全量芋焼酎「一刻者ハイボール」

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・松竹梅白壁蔵「澪」スパークリング清酒

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・タカラcanチューハイ<レモン>

https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/regular/

 

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撮影/和田清志

 

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お酒を冷やすとき、クーラーボックスの使い方を工夫すると劇的な効果が得られます。なお、2020年の夏は猛暑が予想されていることもあって、お酒は冷えているほうが美味しく感じるはず。というわけで今回は、適度な冷気を長持ちさせるのではなく、クーラーボックスで“キンキン”に冷やす方法を教えてもらいます。

 

「まず第一に、外からの温かい空気を徹底的に遮断することを考えましょう。具体的には、地熱が伝わらないよう、キッチンラックなどを使ってクーラーボックスを地面から浮かせること。もうひとつは、内壁を保冷剤でぐるりと囲むようにして置くことです」(菅井さん)

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加えて、氷が長持ちするよう、クーラーボックスに水は入れず、氷は袋のまま入れるのがオススメとのこと。また、冷気は下に落ちていくので、氷はドリンクの上を覆うように置くのがポイントです。

 

「あとは、クーラーボックスの中に100円ショップなどで買える銀マットをかぶせておけば完璧。開閉したときに、冷気が逃げるのを防ぐことができます。特に子どもがいる場合、意味なくフタを開けたり閉めたりしますからね(笑)」(菅井さん)

 

小一時間後、クーラーボックスのドリンクを触ってみると、たしかによく冷えている! これなら最高の状態でお酒が楽しめますね。

↑氷は袋のままドリンクの上を覆うように載せましょう

 

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方法その2

おいしく飲むためのアイテムを選ぶ

せっかくクーラーボックスでお酒を冷やしたのだから、その冷たさをキープしたいもの。また、美味しく飲むにはおつまみが美味しそうに見えるのも重要、ということで、ここでは缶用の保冷グッズと雰囲気を高める食器を紹介していただきます。

 

「1杯目のお酒は、乾杯の雰囲気を楽しむためにもグラスで飲みたいところ。アウトドア用として壊れにくくおしゃれなグラスも発売されているので、チェックしてみてください。一方で、2杯目以降は飲むスピードが落ちて缶がぬるくなり、ぬるいと美味しくないからお酒が進まない……という悪循環に陥りがち。それを防ぐために、断熱性のある素材で缶を覆い、温まるのを防ぐ保冷缶ホルダーや缶クージーといったアイテムが便利です」(菅井さん)

↑アウトドア飲みには割れにくくてオシャレなグラスがぴったり。写真左は「ソフトランスタンブラー(4pcs)」(4個入り・税込2035円)、右は「割れないワイングラス with ポータブルケース」(税込2189円)で、ボウル部と軸の部分を取り外してコンパクトに収納できます(グラスはともにロゴス)。どちらも素材は透明なプラスチックの一種を使用しており、薄くても割れにくいのが特徴です

 

↑真空断熱構造で缶ドリンクの温度を保つサーモスの「保冷缶ホルダー JCB-352」(参考価格 税込1628円)。カラーバリエーションは4色(写真はブラックとライムグリーン)

 

↑写真左~中央はパタゴニアのクージー3種(税込各990円)。右はイケアの「アンフォード 缶ホルダー」(2ピース・税込399円)

 

続いて、おつまみを美味しそうに見せてくれるアイテムを教えてもらいましょう。

 

「ぜひ『食器としても使える調理道具』を使ってみてください。アウトドアならではの豪快さやシズル感が高まりますよ。その点、ニトリのスキレットやイケアのまな板は、価格も手ごろで見栄えも文句なし。荷物を減らし、洗い物を減らして環境を守るという意味でもオススメです」(菅井さん)

↑「ニトスキ」の愛称で知られるニトリの「スキレット鍋」(税込499円~)。蓄熱性が高いのが特徴で、オーブンでも使用できます。写真の料理はプチトマトとオクラのアヒージョ

 

↑卓上に置いても絵になるイケアのまな板。ゴムノキ製「プロップメット まな板」(写真手前・税込1699円)、竹製の「リムフォルサ まな板」(左奥・税込1999円)は、食材を切ったときの肉汁やドリップが溝にたまるので便利。「オストビット サービングプレート」(右奥・税込999円)は取っ手付きで移動がラク

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方法その3

美味しいおつまみをほったらかしで作る

大のお酒好きで、アウトドアの料理は「お酒に合うかどうか」で決めるという菅井さん。最後に、アウトドアならではの美味しいおつまみの作り方を教えてもらいましょう!

 

「焼肉なら家でもできますが、せっかくアウトドアを楽しむなら、いつもとちょっと違う料理をやってみたくないですか? とはいえ、手間がかかって遊ぶ時間やくつろぐ時間が無くなるのは考えもの。そこで、本格的に見えるのに、ほったらかしでできるおつまみを2つ紹介します。ひとつは『かんたんローストポーク』。もうひとつはダッチオーブンを使った『かんたん無水ローストチキン』。どちらも基本的に放っておけばOKですし、何よりお酒に合うんです(笑)」(菅井さん)

 

「かんたんローストポーク」は、肩ロースや豚バラなどのかたまり肉の表面をフライパンなどでよく焼き、アルミホイルとラップ、ビニール袋で包んで沸騰させた鍋のお湯に投入。この状態で放っておけば完成します。肉を温める時間は約1時間が目安ですが、しっかり火が通るよう、最初は保温する時間をやや長めにとって様子を見るのがオススメです。

↑肉の表面をよく焼きます。肉には事前に塩こしょう、すりおろしにんにく(チューブで可)をすりこんで最低1~2時間、できれば半日ほど置いて味をなじませておくとうまみがアップします

 

↑アルミホイル、ラップの順で肉を包み、ビニール袋を二重にかぶせて口をしばった状態で、沸騰させて火を止めたお湯に投入。鍋のお湯の量は、あとでこぼれないよう鍋の半分くらいを目安に

 

↑鍋ごと新聞紙で包んで保温。新聞紙の上からシャツや毛布をかければよりベター

 

↑完成! 先述のイケアのまな板の上で切り分けました

 

一方、「かんたん無水ローストチキン」は、ダッチオーブンに半分に切ったじゃがいもとたまねぎ、乱切りのにんじんを投入すれば準備OK。野菜の上に鶏肉(むね肉でも、もも肉でも可)をのせてフタをし、加熱すれば完成です。加熱時間の目安は約1時間ですが、環境にもよるので、最初はそれよりやや長めに加熱して様子を見るのがオススメ。野菜の水分で調理するため、水を入れる必要はありません。

↑今回使用したのはSOTOのステンレスダッチオーブン(8インチ・税込1万9800円~)。鋳鉄製のダッチオーブンと違って使い始めの慣らし作業(シーズニング)や調理後に油を塗る手間が不要です

 

↑味付けは鶏肉に市販のハーブソルトをすりこんだだけ。肉が鍋肌に当たって焦げ付かないよう、ダッチオーブンにオリーブオイルを薄く塗って、たまねぎを鍋の内壁を囲むように配置するのがポイント

 

↑フタの上に石を置くと、圧力が逃げないのでオススメ

 

↑「かんたん無水ローストチキン」が完成!

 

できあがった2つの料理を、キンキンに冷えたお酒とともに頂いてみました。いや~、やっぱり最高です! 「かんたんローストポーク」は、しっとりしていてジューシー。かつ豚肉のうまみとにんにくのパンチ力が相まって、とにかくお酒が進みます!

↑完成した「かんたんローストポーク」はお酒を呼ぶ味。薬味はわさびやゆずこしょうがオススメ

 

「かんたん無水ローストチキン」は、薄味なのに素材の味そのものがしっかりと出ていて、こちらもやみつきになります。今回、鶏のもも肉とむね肉を両方使ってみたのですが、もも肉はとろっとろのぷるっぷるで口のなかでとけていき、むね肉はしっとり柔らかく仕上がっていて、やさしい肉のうまみが感じられます。

 

驚いたのは、野菜のウマさ。にんじん、じゃがいもが鶏の肉汁を吸ってうまみとみずみずしさが増幅され、ひとつの料理として完成されています。そして、すべての食材には燻製に似た香ばしさがついていて、これがまたお酒を呼ぶ! キンキンに冷えたお酒と合わせれば、それだけでもう幸せです!

↑「かんたん無水ローストチキン」は素材のうまみが存分に楽しめます

そのほかのカンタンおつまみはコチラ

 

「太陽の下で、風を感じながらご飯を食べる。星の下、たき火を囲んで酒盛りをする……これは人間の原点。だからこそ、人間を内側から活性化させてくれるんです」と、アウトドアの魅力を語る菅井さん。たしかに、目に沁みるような緑のなか、鳥のさえずりを聞きながらお酒を楽しむ時間は、かけがえのない癒しになります。みなさんもぜひ、大切な人と最高の「アウトドア飲み」を味わってみてください。

 

記事に登場したお酒はこちら▼

・全量芋焼酎「一刻者ハイボール」

https://www.ikkomon.jp/highball.htm

 

・松竹梅白壁蔵「澪」スパークリング清酒

https://shirakabegura-mio.jp/

 

・タカラ「焼酎ハイボール」<ドライ>

https://shochu-hiball.jp/

 

・タカラcanチューハイ<レモン>

https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/regular/

 

・寶「極上レモンサワー」<丸おろしレモン>

https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/gokujo_lemonsour/

 

撮影/和田清志

 

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