3月15日まで世界大会開催中の「スペシャルオリンピックス」って? 今大会の見どころとこの活動がめざす未来

2025年3月8日から15日までの8日間、イタリア・トリノにて「スペシャルオリンピックス冬季世界大会」が開催されいています。これは、知的障害のある人たちに、日常的なスポーツトレーニングと競技の場を提供しているスペシャルオリンピックスが、4年に一度開催する世界大会。世界各国のアスリートたちが集い、日々のトレーニングの成果を披露します。

 

今回は、スペシャルオリンピックスの国内活動を推進する、スペシャルオリンピックス日本(SON:Special Olympics Nippon)を取材。常務理事を務める渡邊浩美さんに、活動の意義やめざす未来像についてうかがいます。

 

知的障害のある人にも平等にスポーツの機会を
スペシャルオリンピックスの歩み

写真提供:スペシャルオリンピックス日本

 

スペシャルオリンピックスは、知的障害のある人たちに、様々なスポーツトレーニングとその成果の発表の場である競技会を、年間を通じ提供している国際的なスポーツ組織です。スペシャルオリンピックスでは、活動に参加する知的障害のある人をアスリートと呼んでいます。

 

スペシャルオリンピックスの名称が複数形で表されているのは、この名称が大会名のみではなく地域・日本・世界と年間を通してプログラムが行われていることを意味しており、スポーツを通じてアスリートの健康を増進するだけでなく、家族や他のアスリート、地域の人々と才能や技能、友情を分かち合う機会を継続的に提供しています。

 

スペシャルオリンピックスの活動が始まったのは、1960年代のこと。アメリカのジョン・F・ケネディ元大統領の妹であるユニス・ケネディ・シュライバーが、知的障害のある人たちのスポーツを通じた社会参加を支援するために設立しました。

 

「当時は障害のある人々に対する差別や偏見や固定観念が根強く、知的障害のある人たちがスポーツを楽しむ機会が少ない現状がありました。
ユニスには、知的障害のある姉・ローズマリー・ケネディがいて、彼女と育ったことで、知的障害のある人たちがもつ可能性を社会に知ってもらいたいと考えるようになったそうです。彼女はその強い信念のもと、この取り組みを始めました」(スペシャルオリンピックス日本 常務理事・渡邊浩美さん、以下同)

 

ユニスは1962年に、アメリカ・メリーランド州にあるケネディ家の敷地で、知的障害のある人たちを集めたデイキャンプを実施。この活動が前身となり、1968年7月にはシカゴで第1回夏季国際大会を開催し、同年12月に非営利組織「スペシャルオリンピックス」の国際本部がワシントンD.C.に誕生しました。

 

現在、スペシャルオリンピックスの活動は全世界207の国と地域にまで広がっています(2025年3月1日時点)。

(写真提供:スペシャルオリンピックス日本)

 

スペシャルオリンピックス国際本部から認証を受け、日本国内で活動しているのが、「スペシャルオリンピックス日本(SON)」です。SONはスペシャルオリンピックスの普及・促進を図るとともに、ナショナルゲーム(全国大会)の開催、世界大会への日本選手団の派遣、コーチ育成などを通じて、アスリートのさまざまなチャレンジを支援しています。

 

また、全国47都道府県でスペシャルオリンピックス活動を実施、推進する組織として、都道府県ごとに地区組織を認証しています。地区組織では日常的なスポーツトレーニングプログラムの提供や地区競技会・大会の開催、ナショナルゲームへの地区選手団の派遣など、多様な取り組みを行っています。

 

「スペシャルオリンピックスでは、大会の開催だけではなく、継続的なスポーツプログラムも重視しています。そのためには、アスリートが日々の練習やトレーニングを通じて成長できる環境を提供する必要があるので、コーチや地域コミュニティと深く関わり、ともにスポーツ活動を行う仕組みを大切にしています」

 

すべてのアスリートが輝く!
スペシャルオリンピックス(SO)のオリジナリティ

スペシャルオリンピックスの特徴は、「性別、年齢、スポーツのレベルを問わず、ともに成長し、ともに楽しみ、その経験を分かち合う」ということ。そのため、競技会にも独自のルールを導入しています。

 

・能力を充分に発揮できるようクラスを分ける「ディビジョニング」を実施

スペシャルオリンピックスの競技会では、一般的なトーナメント方式とは異なり、年齢・性別・競技能力などを考慮したクラス分け(ディビジョン)を行い、そのなかで競い合う形式を採用しています。

 

「能力差があまりに大きいと、モチベーションを維持しにくくなる場合があります。その一方、ディビジョニングによって、競技能力が同等のアスリート同士で競うようにすると、『次は勝てるかもしれない』『もう少し頑張れば表彰台に届くかもしれない』といった、挑戦する意欲が生まれます。
ディビジョニングによって競技の枠組みを柔軟にすることで、幅広いアスリートが能力を十分に発揮できる環境を実現しています」

 

・すべてのアスリートを称える「全員表彰」

競技会に出場したアスリート全員を表彰するのも、スペシャルオリンピックスの大きな特徴です。

↑最後まで競技をやり終えたアスリートを称え、一人ひとりにメダルやリボンが授与されます。(写真提供:スペシャルオリンピックス日本)

 

「各クラスは最大8名までと少人数のため、競技に参加したアスリートは、基本的に全員が決勝に進みます。
1位から3位に金・銀・銅のメダルが授与されるのは一般的な競技会と同様ですが、スペシャルオリンピックスでは、すべてのアスリートが、努力の成果を認められる機会を持つことを大切にしているので、4位以降のアスリートにもリボンがかけられます

 

2025年冬季世界大会の舞台はトリノ!
今大会の見どころは?

スペシャルオリンピックスでは4年に一度、夏季と冬季に「スペシャルオリンピックス世界大会」が開催されています。そしてちょうど今年は、3月8日からイタリア・トリノで冬季世界大会が開催され、世界各国から約1500名のアスリートとパートナーが集まり、8競技で熱戦を繰り広げています。

↑2023年夏季世界大会はドイツ・ベルリンで開催。次の夏季世界大会は2027年にチリのサンディエゴで行われます。(写真提供:スペシャルオリンピックス日本)

 

日本では、4年に一度行われるナショナルゲームが世界大会の選考会を兼ねており、今回の世界大会には2024年に長野と北海道で行われたナショナルゲームを経て選ばれた32名のアスリートとパートナー(知的障害のない競技者)が派遣されます。

 

今大会は冬季大会なので、雪上や氷上での競技が中心。日本選手団が参加する競技は以下の7競技です。

 

・アルペンスキー
・クロスカントリースキー
・フィギュアスケート
・ショートトラックスピードスケート
・スノーボード
・スノーシューイング
・フロアボール

 

今大会でとくに注目したいのが「フロアボール」という競技です。北欧発祥の室内ホッケー競技で、プラスチック製のスティックを使ってボールを操作し、相手のゴールに入れて得点を競い合います。フロアボールは冬季大会で唯一のチーム競技で、冬季大会では初めてユニファイド形式(ユニファイドスポーツ®)のチームとして派遣します。

 

ユニファイドスポーツ®は、スペシャルオリンピックスが独自に推進する、知的障害のあるアスリートと、知的障害のないパートナーが一緒にスポーツをする取り組みです。
大きな特徴は、パートナーがアスリートをサポートするために参加するのではなく、同じチームメイトとなって対等にプレーすることにあります。障害のあるなしに関わらず、スポーツを通じて相手の個性を理解し、支え合う関係を築いていくことをめざしています」

↑2024年冬季ナショナルゲームで行われたフロアボール競技の様子。(写真提供:スペシャルオリンピックス日本)

 

スポーツと密接に関わる「健康」
アスリートのヘルスケアを支える取り組み

現地では競技会に加え、付帯イベントとして「ヘルシー・アスリート・プログラム(HAP/ハップ)」という健康チェックも実施されます

 

これは、医療従事者による視力や聴力、栄養・生活習慣などの健康チェックを行うプログラムで、ナショナルゲームや世界大会においても開催されます。病院に対して苦手意識を持つアスリートも少なくないため、このイベントは楽しい雰囲気のなかでリラックスしながら行われるそうです。

 

「スペシャルオリンピックスは、スポーツの場を提供するだけでなく、健康維持を通じて日常生活の質を向上させるためのサポートにも力を入れています
知的障害のある人は、自身の体調不良を周囲に伝えられないことも多いため、健康問題が見逃されやすいという課題があります。スポーツをより安全に楽しめる健康な体をめざし、健康チェックに加えて、栄養指導や歯磨き指導など、日常生活に役立つヘルスケアの知識を学ぶ機会も提供しています」

 

アスリートたちを支援するために
私たちができること

スペシャルオリンピックスの活動はすべて非営利で運営されており、運営はボランティアと善意の寄付によって行われています。では、私たちにできる支援にはどのような方法があるのでしょうか。

 

・ボランティアとして参加する

スペシャルオリンピックスのボランティアには、大きく分けて2つの役割があります。1つは、スポーツの現場でコーチとしてアスリートの指導やサポートをするボランティア、もう1つは、組織運営を支えるボランティアです。

 

「とくに、全国47都道府県にある地区組織は、事務局の運営から大会やイベントの企画・運営まで、多くのボランティアの協力によって支えられています。各地域でさまざまな活動が行われていますので、興味をお持ちの方はぜひ、SON公式サイトに掲載されている各地区組織の連絡先へお問い合わせください」

 

また、ナショナルゲーム開催時のボランティア募集は、SONの公式ホームページで告知されるほか、スポーツボランティア団体を通じて周知されることもあります。公式サイトなどで最新情報を確認することをおすすめします。

(写真提供:スペシャルオリンピックス日本)

 

・寄付で支援する

ボランティアとして現場での活動が難しい場合は、寄付という形で支援することも可能です。個人での寄付も受け付けており、その支援が活動の継続に大きく貢献します。寄付金は、競技会の運営や世界大会への日本選手団の派遣、コーチの育成、啓発活動など、スペシャルオリンピックス事業全般の資金として活用されます。

 

・SNSで応援

「まずはスペシャルオリンピックスの活動を知りたい」という方は、公式SNSをフォローして情報をチェックすることから始めてみるのもよいでしょう。

 

SONでは、各種SNSで積極的に情報発信をしています。冬季世界大会期間中も、XInstagramなどの公式SNSでアスリートの活躍や現地の様子を発信。

 

また、Podcastのオリジナル配信番組「スペシャルオリンピックスって何?」では、スペシャルオリンピックスの魅力や取り組みについて、全8回にわたって配信されていて、大会だけでなく、活動の背景や意義についても知ることができる貴重なコンテンツとなっています。

 

直接の参加が難しくても、情報を知り、広めることも大きな支援になります。自分に合った方法で、スペシャルオリンピックスを応援してみてはいかがでしょうか。

↑「SNSをフォローして、スペシャルオリンピックスの活動を知っていただくだけでも、応援につながります」と渡邊さん。ぜひ、公式SNSでチェックしてみてください

 

「Be with all」に込めた想い
スペシャルオリンピックスがめざす未来

近年SONでは、共生意識の醸成を目的に、学校教育の場での認知向上とユニファイドスポーツ®の体験機会の拡大に力を入れています。

 

「スペシャルオリンピックスでは、ディビジョニングをはじめ、誰もが輝ける仕組みが多く取り入れられています。これらは、体育が苦手な子どもたちを含め、障害のない人にとっても大きな気づきがあります。
こうした仕組みを子どものころから知り、スポーツを通じて共生社会のあり方を意識的に学んでもらうことで、将来的にスペシャルオリンピックスの参加者やボランティアの増加につながっていくと嬉しいですね」

(写真提供:スペシャルオリンピックス日本)

 

最後に、スペシャルオリンピックスがめざす未来について、渡邊さんはこう語ります。

 

「SONでは、2020年から『Be with all』というスローガンを掲げ、さまざまな事業に取り組んできました。このスローガンには、知的障害のある人々を支援するという一方的な関係ではなく、彼らと“ともに”、多様な人々が活きる社会を築いていきたいという願いが込められています
スポーツを通じて知的障害への理解を深めることで、多様な価値観を尊重し合い、真の共生社会を実現することを目指しています。
スポーツは、競技の場にとどまらず、仲間とともに楽しみながら成長できる場でもあります。知的障害のある人々がスポーツを通じて喜びを感じ、多様な人たちとのつながりを築き、社会の一員として自信を持って参画できる環境を作ることが、私たちの使命です。これからも、その実現に向けて尽力していきます」

 

Profile

公益財団法人スペシャルオリンビックス日本

国際的なスポーツ組織「スペシャルオリンピックス」の国内本部組織として、知的障害のある人々にスポーツの機会を提供し、社会参加を促進することを目的に活動。年間を通じたトレーニングや競技会の運営を通じて、アスリート一人ひとりの可能性を引き出し、共生社会の実現を目指した多様な取り組みを推進している。
HP
X
Instagram

 

教科書で紹介&JISの案内用図記号にも採用!「ヘルプマーク」を身に着けている人を見かけたときに取るべき行動

交通機関や街中で、見かける機会が増えている「ヘルプマーク」。東京都を中心に各自治体や企業が普及啓発活動を進めているマークで、小学校の教科書でも紹介されています。

 

とはいえ、実際に身に着けている人を見かけた際に、どういったアクションを取ればよいのか、わからないという人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、東京都福祉局の志村正彦さん、金野友紀さん、山崎眞生さんにヘルプマークについておうかがいしました。

 

日常生活で目にする
「ヘルプマーク」とは?

交通機関や街中で、「ヘルプマーク」を身に着けた人を見かける機会が増えています。たとえば、乗車している人のカバンに付けられていたり、電車内のステッカーとして掲出されていたりしますが、このマークにはどのような意味があるのでしょうか。

 

「義足や人工関節を使用している方、体の内部に障害のある方や難病の方、または、妊娠初期の方など、援助や配慮を必要としていることが外見からはわからない方がいますそうした方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助が得やすくなるよう、作成したマークです。
外見からはわからない障害等のある方への理解を促進するべきではないかということが東京都議会で取り上げられました。そこで、東京都が作成したのが、『ヘルプマーク』です」(東京都福祉局・志村正彦さん)

 

「ヘルプマーク」の誕生は、都議会議員の山加朱美さんの発案がきっかけとのこと。人工関節を使用している山加さんご自身の実体験をふまえて2012年に東京都議会で提案され、同年、東京都が「ヘルプマーク」を作成。現在まで配布と普及啓発に取り組んでいます。

 

「ヘルプマーク」の配色は、赤と白。そして記号には+とハートマークが使われています。これには、どのような意味が込められているのでしょうか。

↑東京都が無償で配布している「ヘルプマーク」

 

赤は“ヘルプ=普通の状態ではない”ということを発信しており、ハートマークは“相手にヘルプする気持ちを持っていただく”という意味を含んでいます」(東京都福祉局・金野友紀さん)

 

「ヘルプマーク」
どのようにして全国に広まった?

2012年に東京都で作成された「ヘルプマーク」は徐々に広がりを見せ、2021年10月時点で、全都道府県に導入されています

 

「東京都は、ヘルプマークを作成した当初、都道府県の大都市が集まる主管課長会議の場において、社会に広めていきたいという趣旨で『ヘルプマーク』を紹介しています。
これが、『ヘルプマーク』が東京都だけでなく、全国の各自治体でも進められるようになった一つのきっかけかもしれません」(志村さん)

 

さらに、多くの外国人観光客の来日が予想された2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を見据え、JIS(日本工業規格)の案内用図記号に「ヘルプマーク」が採用されたことも、「ヘルプマーク」が全国に広く浸透したきっかけになりました。

 

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、『ヘルプマーク』を外国人観光客にもよりわかりやすい案内用図記号(ピクトグラム)にしたほうがよいのではないかという意見が挙がりました。実際に、2017年7月の案内用図記号(JIS Z8210)の改正時に、『ヘルプマーク』が新たに採用されました」(志村さん)

案内用図記号とは、「お手洗い」「エスカレーター」など、言葉がわからなくても案内が可能な図形のこと。JIS規格(日本工業規格)で標準化されており、多くの人々が利用する公共施設や交通機関、観光施設などで使われています。

 

「これにより『ヘルプマーク』は全国共通のマークとして、さまざまな場所で活用・啓発できるようになったため、広く普及しましたし、今後の認知度の向上も期待されています」(志村さん)

加えて、民間企業でも「ヘルプマーク」の啓発活動が進められており、「小学校の道徳の教科書で『ヘルプマーク』が紹介されるなど、社会への浸透が進んでいると感じます」と志村さんは話します。

 

東京都が作成し配布した「ヘルプマーク」は、2024年3月末の時点で62万1000個とのこと。

 

また、令和5年度(2023年度)第5回インターネット都政モニターアンケート「障害者への情報保障等について」によると、「ヘルプマーク」について「意味も含めて知っていた」と答えた人の割合は66.5%、「見たことや聞いたことはあるが、詳しい意味は知らなかった」と答えた人の割合は25.8%となっており、92.3%*の人が「ヘルプマーク」を認知していることがうかがえます。
*回答者数478人中の割合

 

東京都が発案し、社会への浸透を進めている「ヘルプマーク」は、障害者等の理解促進に関する地方自治体等の取り組みとして、厚生労働省のウェブサイトでも紹介されています。

 

「ヘルプマーク」を身に着けている人に
どのような援助をすればいい?

「『ヘルプマーク』を身に着けている方が明らかに困っていたり、緊急事態が発生していたりするようであれば、相手の様子をよく見て、可能な限り声をかけて援助していただきたいです」(志村さん)

 

東京都福祉局では、公式ウェブサイトやチラシ等で下記の3つをお願いしています。

 

1.電車・バスの中で、席をお譲りください。

「健康に見えても、実は疲れやすかったり、つり革につかまり続けるなどの同じ姿勢を保つことが困難な方がいます。 また、外見からはわからないため、優先席に座っていると不審な目で見られ、ストレスを受けることがあります」

 

なお都営交通では、すべての優先席に「ヘルプマーク」のステッカーを掲示。実際に「ヘルプマーク」を身に着けた人が優先席に座りやすくなるよう、取り組みを実施しているそうです。

 

2.駅や商業施設等で、声をかけるなどの配慮をお願いします。

「交通機関の事故等、突発的なできごとに対して臨機応変に対応することが困難な方や、立ち上がる、歩く、階段の昇降などの動作が困難な方がいます」

3.災害時は、安全に避難するための支援をお願いします。

「視覚障害者や聴覚障害者などの状況把握が難しい方、肢体不自由者等の自力での迅速な避難が困難な方がいます」

「ヘルプマーク」に
助けられていると実感する声

「ヘルプマーク」を身に着けている人は、実際にどのようなことを感じているのでしょうか。

 

東京都の公式ウェブサイト「2022年度のヘルプマークのエピソード大募集」のなかで紹介されている利用者、ご家族のエピソードを抜粋してお伝えします。

 

“起立性調節障害の影響で長時間立っていると倒れてしまったり疲れやすかったりするのでなるべく席に座りたいのですが、優先席に座るのは周りの目が気になって座れませんでした (あんな若い子が…と思われそうで…)。 ヘルプマークのおかげで周りに事情を知ってもらうことができるようになり、優先席に座ることへの抵抗感が少なくなりました。”(10代・高校生・本人)

 

“中途失聴で、買い物先で聞こえないことを伝えるのにとても辛い思いをしていたが、ヘルプマークを身に着けてから、相手の方がジェスチャーや筆談をしてくれるようになった。”(50代・公務員・ご家族)

 

内部障害で駅のホームで胸が苦しくなってうずくまっていたときに声をかけてくれた人がいました。体調がよいときは私よりも援助が必要な人のためにマークを隠していますが、発作的に出てくるときは鞄から取り出しています。” (30代・会社員・本人)

 

「ヘルプマーク」は、
どこでもらえる?

「ヘルプマーク」を入手したい場合は、どのような手続きを取ればいいのでしょうか。

 

「東京都では、対象の方や代理人(家族や支援者など)からの口頭による申し出により、お一人様に一つ、無償で配布しています。その際は、申請書の作成や書類の提示は必要ありません
そもそも『ヘルプマーク』は、外見からは障害があるとわからない方のために作られたマークですので、配慮や援助が必要だと思っている方からお申し出があればお渡ししています。
なお、代理人の方が受け取る場合は、対象の方に同行いただく必要はありません」(志村さん)

 

東京都にお住まいの方は、都営地下鉄各駅や都営バス各営業所、都立病院などでヘルプマークを受け取ることが可能です。詳しい情報は、東京都福祉局の公式ウェブサイトで確認できます。

 

また、都内の一部区市町村では独自に作成、配布している自治体もありますので、お住まいの自治体のホームページ等でご確認ください。 なお、「ヘルプマーク」は2021年10月時点で、全都道府県で導入されており、無償で配布されています。
東京都以外の道府県にお住まいの方は、お住まいの自治体のホームページで配布場所等をご確認ください。

 

誰もが自然に声をかけて
助け合える共生社会を目指して

金野さんによると、東京都では「ヘルプマーク」のさらなる普及啓発のために、啓発動画をホームページで公開したり、地域のイベントやJリーグの試合、障害理解を深めるためのイベントで来場者への周知を図ったり、公共交通機関や各自治体に啓発ポスターを送付したりといった地道な活動を続けているそうです。

 

「『ヘルプマーク』の理解や浸透を通して、援助や配慮を本当に必要としている方に、誰もが自然に声をかけて、支え合い、助け合えるような共生社会を実現できたらと思います
そのためにも、入手方法を知りたいという声や、援助方法がわからないという声に対応できるよう、今後も普及啓発活動に力を入れ、『ヘルプマーク』の意味まで理解している人の割合を向上させていきたいと考えています」(志村さん)

 

Profile

東京都福祉局

東京都民が地域の中で安心して暮らせるよう、出産・子育てから高齢期まで、ライフステージ全般にわたる様々なニーズに対応し、誰一人取り残さない社会の実現を目指している。子供と子育て家庭への支援、障害者や高齢者への支援、生活保護やホームレス対策、福祉のまちづくりの推進などの施策を実施しているほか、社会福祉施設等に対する指導検査にも取り組む。
HP
ヘルプマークPR動画(15秒版)
※音声が流れるのでご注意ください

 

5人に1人が75歳以上に! 「2025年問題」で若者世代が備えるべきこと

2025年、日本の高度経済成長期を支えてきた団塊の世代が、75歳以上の後期高齢者になります。高齢者人口の増加により、社会保険料の負担の増加、医療や介護業界の人材不足、ビジネスケアラーの増加など、さまざまな問題が出てくると言われています。

 

この「2025年問題」の概要や問題の本質、備えておくべきことについて、経済学者の松谷明彦さんにお話をうかがいました。

 

日本経済に大きな影響を与える「2025年問題」とは?

メディアでも取り上げられる機会が増えている「2025年問題」。いったい、どのような問題なのでしょうか?

 

「戦後の第一次ベビーブーム(1947年~1949年)に生まれた団塊の世代の人たち全員が、2025年に75歳以上の後期高齢者になります。これにより日本人の後期高齢者の割合が5人に1人に。この後期高齢者の急増によって起こる、『医療や介護などの社会保障費の負担が増加』、『医療や介護人材の不足』などの問題を総称して『2025年問題』と呼んでいます。

センセーショナルに『2025年問題』と言われていますが、2025年になって急に世の中が変わるわけではありません。そもそも日本では2005年に戦後初の人口減少が起きていましたし、高齢化はそれ以前から進行していました。つまり現在叫ばれている問題はいまに始まったことではないのです。

それよりも問題の本質は、今後、日本が経済や財政、社会保障の面で次第に窮地に立たされていくということです」(経済学者・松谷明彦さん、以下同)

 

一番の問題は、労働の質が低下し国際競争力が衰えること

松谷さんは、「今後、元気に働ける現役世代が減少することで、たしかに日本が置かれている状況はますます厳しくなりますが、一番の問題は労働者の数が減少することではない」と言います。

 

「現在、日本では6000万人以上の日本人が働いていますが、その数は人口よりもさらに早いスピードで減っています。とはいえこれは、日本人労働者の数が、いきなり半分になるといったものではなく、何十年もかけて25%程度減少するという程度の話です。
現在はAIの時代なので人手の代替手段はたくさんありますし、また産業構造の改善により、人手がかからないように産業を変えていくこともできるでしょう」

 

実際に政府も「2025年問題」を見据えて、企業のDXを促進しています。たとえば経済産業省では、2024年9月に「デジタルガバナンス・コード3.0」を策定していて、DX経営で企業価値を向上させるために、企業の経営者が実践すべき事柄や方向性が示されています。

 

松谷さんが指摘するとおり、企業に今以上にDXが浸透すると、ゆくゆくは労働者不足も緩和されていくのかもしれません。それでは、私たちが今後直面する最大の問題は何なのでしょう。

 

何よりも問題なのは、労働の質が低下することです。かつての日本はベビーブームのおかげで若い労働者が多く、労働能率(一定の時間に投下した労働に対する成果)が非常に高かった。これが、戦後に高度経済成長期を迎えられた大きな要因です。

しかし現在、超高齢社会を迎える日本と、欧米の労働能率は逆転しています。2000年頃までは、日本の労働力の能率性は50%弱と、提供した労働力がまだ効率的に成果を生み出せている状態でした。その後、日本の能率性はアメリカやイギリス、フランス、ドイツなどの主要先進国より大きく下落しており、今後も低迷が続くと予測されます」

 

さらに松谷さんは、「日本の生産年齢人口比率(15歳から64歳までの人口比率)は、主要先進国と比べて、今後急激な低下が予測されている」と続けます。

 

「生産年齢人口とは、経済活動の担い手として期待される年齢層の人口のこと。とりわけ20~30代は体力があり、ものごとを考えるスピードも速く、労働能率が高いと言われますが、その20~30代の割合も、主要先進国と比べて低いのが現在の日本です。日本の労働能率が低下する状況は、諸外国との競争力に影響をおよぼすでしょう」

 

人件費が高くなり価格競争で負けてしまう

たとえば、現在の日本で新製品を開発する場合、他の先進国や発展途上国で製品を開発する場合と比較すると、どのような状況が生まれやすいのでしょうか?

 

「欧米は、途上国では作ることができない独自の製品を開発し、高い利益を得ています。一方、途上国は欧米で開発されたものを参考に、特許料などを支払いながら製品を作っています。途上国は賃金が安くコストを抑えられるため、低価格で製品の提供が可能です。おかげでそれらはよく売れます。

日本も、欧米で開発されたものを参考に製品を作りますが、他の先進国と比較して労働能率が低いので人件費が高くなり、コスト増となります。それにより価格も引き上げられ、日本の製品は売れにくくなります。

それであれば製造過程の人件費を抑えようと、今度は途上国からの移民を増やし、彼らを雇い、より安く製造しようとするとします。しかしそれでも日本のほうが途上国より賃金が高いため、途上国で作られた製品との価格競争には勝てません。

つまり、先進国や途上国と比べて、日本製が売れにくくなる状況こそが問題なのです。これを解決するために日本は、自国のアイデアを活用した製品を開発する必要があるでしょう

 

3割の人が65歳を過ぎても働き続けなければならな

「加えて、日本は主要先進国と比べて労働生産性が低いことも問題です」と松谷さんは言います。労働生産性とは、労働者1人あたりが生み出す成果のことです。

 

日本の労働生産性は、アメリカやドイツ、フランスの労働生産性の70%程度しかありません。彼らと同じ時間働いても70%程度の成果しか生み出せないということは、作り出したものを売っても70%程度の売上しか得られないということ。クリエイティブにものを生み出す習慣がない日本人が多いことがその一因でしょう。今後、日本人に必要となるのは、新しいものを生み出して、さらに成果を上げることです」

 

さらに労働生産性の低さは、賃金の低さにもつながります。松谷さんは、「ここが重要な点になるのですが」と前置きをして「労働生産性の低さが、日本の高齢者の労働力率(15歳以上の人口に占める、労働力人口の比率)にも影響をおよぼしているんです」と続けます。

 

「たとえばフランスでは、65歳を過ぎると人口の2%程度しか働いていませんが、日本では約30%もの人が働いているんです。65歳以上の日本の労働力率を主要先進国と比較すると、日本人ははるかに高い割合で働いている。その一番の理由は『働かないと食べていけないから』。この状況を改善するためにも、日本人は若い頃から労働生産性を高めて、賃金を上げていくことを心がけなければなりません

 

これらの問題が私たちにどのような影響をおよぼす?

「2025年問題」は、今後の暮らしにも広範囲にわたって影響をおよぼすでしょう。ここからは、私たちがとりわけ身近に感じられる問題について、松谷さんに解説していただきます。

 

社会保障の負担が増大する

2023年度の医療費は概算で47兆円あまりと、3年連続で過去最高を更新しました。1989年度の国民医療費は約19.7兆円。この三十数年で、その費用は2倍以上も増加しています。高齢化に伴って、今後、医療や福祉に使われる社会保障費はますます増加する見込みです。

 

「2000年頃の日本は、高齢者1人を約3.4人の現役世代が支えていました。しかし2025年現在、高齢者1人を約2人の現役世代が支えています。そして2070年には高齢者1人を約1.3人の現役世代が支える状態になる見込みです。これは、アメリカやイギリスなどの先進国に比べてはるかに高い負担率。

また私の試算では、2060年には現役世代の租税負担率や社会保障負担率が国民所得の9割に達すると考えられ、危機的な状況です。
高齢者はどれほど現役世代に負担してもらっても、生活を維持するのに足りる年金給付を受けられない時代がやってくるでしょう」

 

医療人材の不足

厚生労働省は、2025年に必要な看護職員数を約188万~202万人と推計。しかし看護職員数は著しく不足しており、6万~27万人の看護師が不足すると試算しています。

 

「後期高齢者で病気になる人の割合は増加しており、ここ5~10年の間で、一時的に医療が逼迫する可能性は出てくるでしょう。

しかし私は、中長期的にみた場合、この問題はさほど心配しなくてもよいと思っています。なぜなら、医療分野にビジネスチャンスがあり、しかも収益性が高いという話が広まることで、多角化を目指し、医療分野に進出する企業が増える可能性があるからです」

 

介護人材の不足

厚生労働省は、都道府県が推計した介護職員の必要数を集計すると、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人となると公表しています。

 

また、仕事をしながら家族等の介護を担うビジネスケアラーも増加していて、経済産業省によると、介護離職者は毎年約10万人であり、2030年には家族介護者のうち約4割(約318万人)がビジネスケアラーになると推計されています。その経済損失の推計額は、約9.1兆円となる見込みです。

 

これらの問題を受け、政府は、介護職員の処遇改善や多彩な人材の確保育成、離職防止、外国人材の受け入れ環境整備などに取り組むとしています。

 

介護人材の不足は、介護職員の賃金が低いことにも一因があると思います。介護施設の経営サイドばかりに多くの利益が集まる構造になっていることも問題です。

日本には約200万人もの失業者がいるので、たとえば、介護職員の時給を現在の倍に上げるなどすれば、介護人材不足は解消すると思います」

 

問題を乗り越えてよりよく生きるには?

これらの社会問題を乗り越えて、一人ひとりがよりよい人生を歩んでいくには、どのようなことを心がけるとよいのでしょうか。松谷さんにアドバイスをしていただきました。

 

新しいことを積極的に受け入れ、考え、生み出す

今後、日本にとって最も必要なのは、クリエイティブにものを生み出す力だと思います。日本にしか作れないものを作って売れば、生産性も賃金も上がります。そうすれば、今の社会保障制度を維持する力が出てきますし、高齢になったときに働く必要もなくなるでしょう。

そのためにも、自ら学び知的水準を高め、同じような志を持っている人たちと議論をすることが大切です。仕事においては、既存のシステムのなかでどう泳ぐかではなく、新しい取引モデルや技術開発の方法を模索すること

現在、職業に就いている場合は、仕事の改善点を考えたり、新しい製品やサービスのアイデアを提案したりするのもいいですね。もしそれらの提案を受け入れてもらえない環境にいるのであれば、転職なども視野に入れてもいいでしょう。

“会社を変える、仕事を変える、自分自身を変える”スタンスが大切です」

 

地方移住も、選択肢の一つと考える

今後は、地方で活躍することも視野に入れてみてください。というのも、現在、急速に高齢化が進んでいるのは東京圏だからです。東京圏では、若い労働者が急激に減少して生産性が落ちていくため、ビジネス環境が悪化します。

その点、地方にはすでに高齢化が落ち着いている地域もあるため、今後、東京圏ほどビジネス環境に大きな変化は生じない可能性が高いです。また東京は、多くの成功実績が積み重なっているぶん、ビジネスを新たに発展させにくいと感じる場面も多いでしょう。そのため、地方のほうが活躍できる場を作りやすい場合もあります。

今後どの地域に住んでも、税や社会保障の負担は現在より上がります。しかしながら、地方は東京圏より負担の上昇率が抑えられる見込みです。

地方に移住する場合は、自然に親しみながらラクな生活を送ろうと考えるよりも、自分のクリエイティブな能力を生かせるような仕事を探す、もしくは生み出すという視点をもつことをおすすめします。特に人生のやり直しをしやすい20代、30代のうちに移住するのもひとつの選択肢だと思います」

 

お金のかからない幸せも味わっておく

超高齢社会の出現は、人の寿命が延びていることに起因しています。寿命が延びるということは、人生のなかで高齢者と呼ばれる期間の割合が増えるということ。一般的には、高齢になるといまのようには働けなくなるため、収入がない期間が増えます。したがって長寿になればなるほど、その人は経済的に貧しくなるのです。

そのため、お金で買える幸せだけを追求していると、その人の人生は貧しくなってしまいます。反対に、お金では買えない幸せを追求していれば、経済面でも心の面でもより豊かになれるでしょう。

たとえば、子どもがいる場合、子どもとテーマパークに3回遊びに行くところを、テーマパークに出かけるのは1回に減らし、あとの2回は自然の中へ出かけてみてください。テーマパークで遊ぶのももちろん楽しいことですが、自然で遊ぶことのほうがお金がかかりませんし、子どもにとって予期せぬ出来事が起きるなど、人生の幅を広げる経験ができるかもしれません。

若いころにどのような生活を送ってきたか。それが退職後、60〜70代になったときの楽しみに影響を与えます。お金のかからない幸せを、20~30代のうちから作っておくことを意識してみてください」

 

Profile

経済学者 / 松谷明彦

政策研究大学院大学 名誉教授。東京大学経済学部経済学科、経営学科卒。東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻論文博士号取得。大蔵省主計局調査課長、主計局主計官、横浜税関長、大臣官房審議官等を歴任後、経済学者となる。専門はマクロ経済学、社会基盤学、財政学。人口減少研究における日本の第一人者。著書に「東京劣化」などがある。
政策研究大学院大学

「コーヒー2050年問題」とは? 我々に及ぶ影響と“サステナブルな一杯”の選び方を専門誌編集長が解説

日々の息抜きであり、活力にもなる香り高いコーヒー。その原料となるコーヒー豆の栽培地が、近い将来に激減する懸念があることをご存知でしょうか? 今回は、近年話題になっているコーヒー2050年問題を通して、身近な飲料であるコーヒーのサステナビリティについて考えます。

 

おいしいコーヒーを飲める生活を持続していくために、私たちがいま知るべきこと、できることはなんなのか? スペシャルティコーヒー(高品質であることを前提に、トレーサビリティが明確でサステナビリティにも配慮したコーヒー)のカルチャーを伝えるインディペンデントマガジン『Standart』の日本語版編集長であり、国内外のコーヒー事情に精通する室本寿和さんにうかがいました。

 

私たちは、史上類を見ない
コーヒー大消費時代に生きている

コーヒー2050年問題。この気になるキーワードを紐解く前に、あなたはいま世界でどのくらいの量のコーヒーが日々消費されているか、イメージできるでしょうか?

 

「世界全体のコーヒー消費量は戦前からずっと右肩上がり。特にここ10数年くらいは、毎年約2%ずつ消費量が増え続けています。わかりやすく言うと、この世界ではいま、毎日22億杯くらいのコーヒーが飲まれていることになるんです」(『Standart』日本語版編集長・室本寿和さん、以下同)

 

毎日、22億杯! ちょっとイメージしにくい規模感です。

 

「人口増加にともなって、コーヒーが消費される場所が世界中に増え続けていることが大きいと思います。近年、中国やインドなど、これまでコーヒーがあまり飲まれてこなかった地域での消費が増えてきているのはもちろんのこと、中東を中心としたイスラム圏でも盛り上がっています。宗教的にお酒が飲めないぶん、とくに若者層での消費が増えていて、かつ、経済的にも豊かなので大きなコーヒーチェーンが続々と進出したり、中東ならではの荘厳な店構えのカフェができたりしているそうです。
あとこれは僕個人の考えですが、SNSなどを通して、それまでコーヒーの文化を知らなかった人々が情報を得られる社会になったことも、その後押しになっていると思います」

 

 

ちなみに国際コーヒー機関(ICO)が発表している国別の消費量を見ると、日本は世界第4位のコーヒー消費国(2020年時点)。私たちは世界的に見てもコーヒー好きな国民と言えそうです。

 

「仕事柄、海外の人と話をするなかでも、日本のコーヒーカルチャーは特殊だと言われます。第一に、豆を買って自宅でコーヒーを淹れる文化が根付いている。これは他国のコーヒー関係者からはうらやましがられるポイントです。海外の場合、カフェなどお店で飲むだけの人が多いんですね。
第二に、コーヒーの選択肢がとても多い。コンビニコーヒーや缶コーヒー、『スターバックスコーヒー』のようなスペシャルティコーヒーショップもあれば、独自の喫茶店カルチャーもある。コーヒーに対する成熟度はかなり高い国だと思います」

 

すぐそこまで来ている、
畑も生産者も激減する未来

そんな私たちだからこそ気になる、コーヒー2050年問題。具体的にどのような問題なのでしょうか?

 

「ごく簡単に言ってしまうと、地球温暖化による気候変動の影響で、2050年にはアラビカ種のコーヒー栽培地が50%くらいまで減ると懸念されている問題です」

 

アラビカ種とは、世界全体のコーヒー生産量の約7割を占める品種。私たちがカフェなどで飲んでいるおいしいコーヒーの豆は、大半がこのアラビカ種です。

 

「赤道を挟んで南北25度くらいの間にある、コーヒーの栽培に適したエリアのことを“コーヒーベルト”と言います。このエリアがいま南北へ広がっているんです。
『広がるならいいじゃないか……?』と考えたくもなるけれど、アラビカ種は比較的標高が高いところで栽培される品種。この標高が、いま温暖化によってどんどん上に上がっているんです。高地になればなるほど面積は狭くなりますから、このままだと豆が栽培できる場所が減っていき、世界の増える需要に供給が追いつかなくなり、2050年ごろにはおいしいコーヒーを気軽に飲めなくなってしまうかもしれない、というわけです。
また、アラビカ種だけではなく、インスタントコーヒーや缶コーヒーなどの原料に多く使用されているロブスタ(カネフォラ)種も同様に、生産可能地域の多くが失われてしまうという報告もあります」

 

 

たったの25年で半減とは、おそろしいスピードです。

 

「栽培地の減少は、生産者の問題にも直結します。そもそもコーヒー豆は価格が安い作物のひとつ。小規模農家のおよそ6割がすでに貧困状態にあると言われています。
標高の低い畑でも育つ新しい品種の開発などもしていますが、それを試そうにも植えてから収穫までには3〜5年を要します。また、栽培地の標高が上がれば畑の面積が狭くなるので収穫量が減り、さらに斜面が多くなることで機械が入れられなくなるので人件費もかさみます。
従来からある市場の変動による販売価格の不安定さに加えて、こういった状況に多くの小規模農家は耐えきれず、2050年ごろまでに生産者が激減するとも言われているんです」

 

コーヒーの未来を守るために
いま行われていること

この問題に対して、業界ではどんな取り組みが行われているのでしょうか?

 

「いちばん大きなところでいうと、『WORLD COFFEE RESEARCH』という非営利団体の活動ですね。彼らは、各地のコーヒー農家がきちんと生計を立てられるように、低地で育つとか、熱に強いといった新しい品種づくりに取り組んでいます。
いわばコーヒー農業の研究開発で、その費用は『スターバックス』や『キーコーヒー』のような大会社によってスポンサードされています。日本にもつい最近支部が設立されたばかりです」

 

生産国から世界各地に輸出されるコーヒー豆ですが、その流通方法などにも新たな動きが生まれているとか。

 

「フランスのコーヒー豆輸入会社である『Belco(ベルコ)』では、2030年までにコーヒー豆の輸入に使用する船をすべて帆船(ヨット)に変える取り組みをしています。動力は風。つまり海を汚さないクリーンエネルギーで、すでに90%は達成しているそうです」

 

 

そして室本さんは、コーヒー好きな日本にも国内外から注目を集めているスタートアップ企業があると言います。

 

「2019年に創業したTYPICA(ティピカ)は、世界中のコーヒー生産者とロースターをオンラインでダイレクトにつなぐプラットフォーム。従来の不透明かつ複雑な流通過程を省いて、コーヒー産地と各地のショップ、ロースターが直接取引できる仕組みをつくった会社です。
彼らの革新的だったところは、DXを進めてこの仕組みをシンプルに構築したことです。農家の人は自分たちで適正な価格を提示でき、それをロースターは麻袋一袋からでも購入できます。現場のフィードバックをすぐにプラットフォームへ反映していくスピード感が素晴らしいですね」

 

TYPICAのプラットフォームを使えば、街の小さなコーヒーショップでも、お気に入りの農家さんから少量ずつ豆を直接購入することができるそう。

 

適正価格で豆を販売することで、農家のふところや栽培地の村に正しくお金が落ちる。このお金で新たな設備投資ができたり、子供たちに教育を与えたりすることができます。いわゆるSDGsの話にもつながってくるんです」

 

その一杯の“役割”を意識する。
サステナブルなコーヒー選び

 

では、コーヒーのサステナビリティをふまえて、私たちがいち消費者としてできることは何なのでしょうか? 大量消費をやめること、あるいは、低価格なコーヒーを買わないこと……?

 

「大前提として、そういった罪悪感は抜きにして、とにかくいろんなコーヒーをたくさん飲む、楽しむことが大事なのかなと思っています。たとえば僕は、100円で買えるコンビニのコーヒーにも“役割”があると考えています。手軽に飲めるからこそ、コーヒー好きの裾野を広げてくれていると思いますしね。
スーパーで販売している、大手メーカーの安価なインスタントコーヒーだってそうです。その売り上げが、先ほども話したような新品種の研究開発に活かされたりするわけですから。もちろん、企業が何にお金を使っているのかを意識するのは重要ですが」

 

 

その“役割”を意識して商品を選ぶという行動なら、私たちにもできるのかもしれません。

 

「コーヒーを取り巻く問題は、根本的には農家の人に利益を還元していくことでしか解決できないと思っています。そのためにいち消費者ができる第一歩としては、適正価格で豆を取引していたり、同じ生産者との付き合いを長期的に継続しているようなお店を見つけて、そこから豆を買ったり、その豆を使ったコーヒーを飲みに行ったりする、というのがよいのではないでしょうか」

 

サプライチェーンが透明化されていて、農家に利益を還元できるコーヒー豆には、ほかにどんなものがあるでしょうか?

 

オーガニック認証や、レインフォレスト・アライアンス認証などがついている商品なら、環境保全にも貢献ができます。たとえば広島瀬戸田に焙煎所を持ち、いま東京の日本橋や千葉の一宮に店舗があるOVERVIEW COFFEEは、地球温暖化の抑制に効果的といわれるリジェネラティブ・オーガニック農法(環境再生型有機農法)、または同農法に切り替えを検討しているオーガニック認証を取得した生産された、コーヒー豆だけを扱っているコーヒーロースター。
売上の1%を環境保護団体に寄付する活動もおこなっています。ただ単に“⚫⚫︎認証”の肩書きだけで選ぶのではなくて、こんなふうに具体的な活動をしているお店に投資するというのも、問題を意識するきっかけになると思います」

 

「OVERVIEW COFFEE」は、土壌の再生と気候変動問題の解決へ寄与することをミッションにアメリカ・ポートランドで発足したコーヒーロースター。2021年日本に上陸した。

 

最近では、このコーヒー2050年問題から名前をとったお店まで誕生しているとか。

 

「京都でスペシャルティコーヒー事業をしているKurasuが2024年2月にオープンした、2050 COFFEEというコーヒーショップは、ぜひ行ってみていただきたいですね。
適正価格で買い付けた豆を使用しているのはもちろんですが、店内にはドリップコーヒーが10秒で注げるタップマシーンが設置されているんです。さらに、スペシャルティコーヒーをメインに提供するお店ではとても珍しいのですが、エスプレッソマシンを設置するのではなく、全自動のマシンでエスプレッソドリンクを提供しています。
これらは、コーヒー業界が直面しうる課題に対するいわば実験のような試み。2050年問題を声高にアピールするのではなく、新しいテクノロジーを駆使したユニークな試みと高いデザイン性、コンセプト力でお客さんにコーヒーの未来を意識してもらうという取り組みが、海外からも注目を集めています」

 

スペシャルティコーヒーを手軽に楽しめる体験を提供し、よりよいコーヒーの未来の実現を目指す「2050 COFFEE」。写真は10秒で高品質なコーヒーを注ぐ専用タップ。

 

2050年問題を知ることで
コーヒー文化を守る

「ヨーロッパでコーヒーが広がった17〜18世紀ごろ、コーヒーショップにはアーティストや政治家や芸術家などさまざまな人が集まったそうです。たった1ペンス払えば、そんな面白い人たちと平等に会話をしたり、つながったりできる。僕はコーヒーを取り巻くそういったカルチャーの部分に、昔からすごく惹かれていました」

 

2015年にスロバキア人のマイケル・モルカン氏が創刊し、2017年に室本氏がその日本版を手がけることになった『Standart』。スペシャルティコーヒーやコーヒーショップを取り巻く、その空気感を伝える紙面作りが高い評価を得ています。

 

「コーヒーショップで、人はコーヒーの話ばかりしているわけではありません。僕たちが『Standart』で扱っているトピックも同じで、コーヒーを飲みながら人々が繰り広げている会話の内容とか、そこから生まれる行動とか、そういうものを含めた全部をコーヒーのカルチャーだととらえています」

 

スペシャルティコーヒーの文化を伝える季刊誌『Standart』。年間定期購読のみの販売で、毎回、厳選されたコーヒー豆とともに届く。定期購読者限定のオンラインコミュニティも用意。

 

その大切な場所が、これからもよりよい形で持続していくために、コーヒー2050年問題を知ることには意味があります。

 

2050年というのは、コーヒーに限らず地球上の様々な環境問題を紐づけるひとつのアンカーポイント(基準点)にすぎません。そして、問題自体は現在進行形ですでに起こっていることでもあります。
より多くの人が、一杯のコーヒーからいま現在の消費行動を見直したり、自分が働いている業界や会社から何か貢献できることはないかと考えてみることができるなら、未来は少しずつ変わっていくのではないでしょうか」

 

Profile

Standart Japan 編集長 / 室本寿和

福岡県北九州市出身。高校卒業後にオーストラリアへ留学。帰国後は翻訳・印刷会社に就職し、2012年にオランダ・アムステルダムへ転勤。スペシャルティコーヒーの文化を伝えるインディペンデントマガジン『Standart』に出会い、2017年3月、日本語版編集長に就任。現在は、Standartのグローバル・パートナーシップディレクターも務める。 2021年4月には福岡でコーヒーショップ『BASKING COFFEE kasugabaru』をオープンした。
Standart Japan HP
BASKING COFFEE kasugabaru Instagram

途上国が抱える“トイレ問題”と災害用携帯トイレの選び方

毎年11月19日は「世界トイレの日」。世界ではいまだ多くの人が安全に管理されたトイレを利用できない環境にあり、そのことを世界の国々で考え、改善していくために国連が定めました。トイレの問題は、日本に暮らす私たちには遠い国の話のように思えますが、いざ断水や停電などが起きれば、日本でもトイレを使えなくなる可能性は十分にあります。

 

そこで今回は、NPO法人日本トイレ研究所の代表理事・加藤篤さんに、開発途上国におけるトイレ事情と、日本でトイレが使えなくなるケースや携帯トイレの選び方について解説していただきました。

 

トイレがないことで生まれる負の連鎖

ユニセフの調査によると、世界人口の約4割にものぼる約34億人が、安全に管理されたトイレを利用できていません。野外排泄さえ強いられる環境では、どのような問題が生じるのでしょうか?

 

「まず、健康面と衛生面へのリスクがあげられます。排泄物が適切に処理されないと、排泄物に含まれるコレラ菌・赤痢菌等の病原菌やウイルスなどで周辺環境を汚染するのです。

 

わかりやすい例が、飲み水です。井戸や水源が排泄物を媒介にし病原菌に汚染されれば、水を飲んだ人たちの間で感染症が発生するわけです。特に深刻な健康被害を受けるのは子どもや高齢者で、毎日1,000人を超える5歳未満児が安全でない飲み水や不衛生な環境に起因する疾患で命を落としています」(NPO法人日本トイレ研究所代表理事・加藤篤さん、以下同)

 

小川の上に作られた野外トイレ、ベトナム。

 

さらに、安全やプライバシーが確保されていないトイレの問題について、加藤さんは次のように語ります。

 

「世界には、鍵のついたドアがないどころか、壁で覆われてさえいないトイレも多く、そこでは、排泄時に誰かに見られる可能性があるわけですから、そのストレス・恥ずかしさは計り知れません。また、性的暴行を受けたり、地域によってはヘビやサソリなどの野生動物から襲われたりする危険もあります。
あとは、教育への影響も見逃せませんね。トイレが不足している学校では特に、月経中の女性が出席を避ける傾向にあり、学業に支障をきたしています。安全で衛生的なトイレの整備は、すべての人が人間らしい生活を送るうえで欠かせない、基本的人権に関わるグローバルな課題なのです」

 

なぜ普及が進まない? SDGs達成に向けた2つの課題

安全に管理されたトイレの重要性は認識されつつあり、改善も少しずつ進んでいます。ただ、SDGsを2030年までに達成するには、現状の改善スピードでは不十分のようです。普及を妨げている要因は何なのでしょうか?

 

「経済的に困窮した地域で、トイレだけを立派にしても、どこかチグハグですよね? 普及のためには、各地域のインフラや経済状況に合った“段階的な改善”が必要になります。
支援者は、地域の人たちに段階的にどう改善していくかを見える化し、それにより得られるメリットが何か、わかりやすく説明する必要があります。そして、改善が一段階進んだら次の段階の取り組みを行うというような、ステップアップ式の支援が求められます。ただ、これにかける時間が不足しているのが現状です」

 

ユニセフにより寄付されたトイレ、ケニヤ。

 

もう1つ、普及を妨げている要因に「声の上げづらさ」があると、加藤さんは指摘します。

 

「トイレの問題は、往々にして話題にしづらく、タブー視される傾向にあります。加えて、この問題は、女性や子ども、障がい者、マイノリティの方々など、社会的に声を上げづらい立場にある人々に、より重くのしかかっています。声が上がらないということは“問題なし”ということになり、改善もされません。これが改善・普及が進まない根本原因の1つでしょう」

 

開発途上国をサポートする日本企業 LIXILと管清工業の取り組み

世界のトイレ問題を改善しようと、国連やユニセフはもちろん、NGO・NPOも現地に入り、地域をサポートしています。ここでは、積極的な活動をみせる日本企業の取り組みをご紹介します。

 

■ 株式会社LIXIL
開発途上国向け簡易式 トイレシステム「SATO」
「現地の状況にフィットした解決策として高く評価されているのが、LIXILの『SATOトイレ』。これは下水道の整備が進んでいない地域の人々に、安価で壊れにくく、設置が容易で、少量の水があれば洗浄も可能なトイレ環境を提供するシステムです。改善の第一歩目の成果を、非常にわかりやすく提示していると例だと思います」

 

© JDP/GOOD DESIGN AWARD
排泄物を流すときに開く開閉弁が、ハエなどの虫による病原菌の媒介や悪臭を抑えてくれる。

 

© JDP/GOOD DESIGN AWARD
2024年3月末時点で、45カ国へ約860万台を出荷している。

 

■ 管清工業株式会社
東ティモールでの自立的な水環境整備に向けた多面的サポート
「トイレというのは、設置後の維持管理が重要です。トイレ自体を支援として届けても、現地の人たちが運用できなければサステナブルではないんです。また、自分たちで運用するということは、トイレの維持管理を事業として成立させるということ。

 

つまり、その仕事で現地の人が収入を得られ、市場が広がるということでもあります。この産業化のプロセスをサポートしているのが、日本で下水道の維持・管理を行う管清工業です。管清工業は、東南アジアに位置する東ティモールにおける水環境の改善と人材育成を行なっています」

 

トイレ大国の日本は災害大国

ここからは日本のトイレ事情にもスポットを当てたいと思います。水洗トイレの普及率が90%を超える日本では、「トイレが使えなくなる」ことを意識して生活している人はあまりいないかもしれません。それは水洗トイレの仕組みを理解している人が少ないからではないかと、加藤さんは言います。

 

「水洗トイレというのは、給水・排水・処理という機能で成り立つ“システム”です。どれか1つでも失われれば、水洗トイレというシステムは使用できなくなります。まずは、この点をしっかり理解してほしいと思います」

 

トイレが使用不能になった過去の事例を振り返ってみましょう。

 

■ 排水機能が失われた事例:新潟県中越大震災により下水道が損傷
2004年10月に発生した新潟県中越地震により、一部の地域で下水道管が損傷。トイレの使用が制限され、仮設トイレの設置が急務に。

 

■ 処理機能が失われた事例:西日本豪雨により処理施設が停止
2018年7月、西日本で記録的な豪雨が発生し、停電・断水に加え、し尿処理施設が浸水したことで機能が停止。河川の氾濫や土砂崩れにより周囲から孤立した地域では、トイレの備えと衛生対策が課題に。

 

■ 給水が失われた事例:能登半島地震による長期断水
2024年1月に発生した能登半島地震では、長期間にわたる断水のためトイレが使用できない事態に。多くの集落が孤立したことで、非常用トイレの支給も困難となった。

 

これらの事例から、大震災に限らず、毎年発生する台風や雷雨でもトイレが利用できなくなる可能性があることがわかります。

 

震災時のトイレパニックは約30年でどのくらい改善した?

大地震が発生すると、水洗トイレの機能は破綻し、被災地に深刻な被害をもたらします。

 

「2016年に発生した熊本地震で、『地震発生後どれくらいでトイレに行きたくなったか』という調査を行いました。その結果、3時間以内に約4割、6時間以内に約7割の人がトイレに行きたくなることがわかりました。つまり、外部からの支援では間に合わないのです。
被災地では水洗トイレとしての機能を失ったトイレを多くの人が使用してしまうため、便器は排泄物で満杯になって溢れ出し、不衛生な状態になります。最悪の場合、集団感染などを引き起こすこともあります。
加えて、不衛生なトイレで用を足したくないために水分摂取を控えたり、トイレを我慢したりするようにもなります。これがエコノミークラス症候群を引き起こし、災害関連死につながることもあります。
また、ストレスがたまることで集団生活における秩序が乱れ、治安が悪化することも。このように、トイレが利用できないことで生じる一連の問題を『トイレパニック』と呼ぶこともあります」

 

1995年の阪神・淡路大震災から2024年の能登半島地震まで、その間、約30年。被災地でのトイレパニックはどれくらい改善されたのでしょうか?

 

「残念ながらほとんど改善はみられていません。大きな地震が起きれば必ずといっていいほどトイレパニックとなり、トイレが安心して使えないといった状態をくり返しています。
能登半島地震で21カ所の避難所を調査したところ、うち19カ所に携帯トイレが備えてあり、実際に使われたことがわかりました。しかし、初動対応としてまかなえるだけの数を備えていなかったり、そもそも使い方がわからなかったりと、課題は山積しています」

 

災害発生時の初動対応のポイントと携帯トイレの選び方

災害が発生したら、トイレパニックが起きる可能性が大きい。この事実を理解したうえで、もしトイレが使えなくなったら、初動対応として何をすべきでしょうか?

 

■まず、“安心して排泄できる空間”を整える

「有効活用すべきなのは、自宅のトイレのように普段から使い慣れているトイレです。排泄は強く習慣化されており、かつ自律神経が担う生理現象ですから、いつもと違う方法で行おうとすると、うまく行えないこともあります。そのため、たとえ給水や排水が機能していないとしても、使い慣れた空間、座り慣れた便座で、鍵もかかり、家族もしくは自分しかいない家の中で用を足せるというだけで排泄しやすくなります。このときに必要になるのが携帯トイレ(後述)です。」

 

■携帯トイレを使い、排泄物を生活空間から排除する

「水洗トイレが機能しないとき、排泄物を生活空間から排除するための応急対応として使えるのが携帯トイレです。携帯トイレとは、便器に取り付けて使う袋式のトイレで、中に吸収シートか凝固剤のいずれかが入っているタイプが多いです。この袋をトイレの便器に取り付けて、いつものように排泄したら袋を縛り、ゴミ置き場や庭などで保管しておきます。ストック量の目安としては、『1日でトイレに行く回数×最低3日分(推奨7日分)』を常備しておくと良いでしょう」

 

携帯トイレを選ぶときのポイントは3つあります。

 

・家族全員が使いやすい製品を選ぶ
「例えば、手先が器用ではない高齢の方などがいる場合は、袋が破りやすい、縛りやすい、取り扱いが特殊ではないなどの製品がいいですね」

 

・排泄物をしっかり吸収する製品である
「あまりに安価なものだと、十分に吸収してくれない可能性があります。ご自身の1回の排尿量を目安に、吸収量がしっかりしているものを選んでください」

 

・消臭・防臭対策が備わった製品である
「災害時は、使用した後すぐに処分できない場合が多々あるので、消臭・防臭機能が付いているかをチェックしてください。最近は臭いを抑えるような成分が入っていたり、臭い漏れを防ぐ高機能素材の袋を採用していたりと種類も豊富です」

 

 

「日本では、11月10日は『いいトイレの日』。日本トイレ研究所では、11月10日~11月19日の期間をトイレweekとして、みなさんにトイレや排泄について意識しようと呼びかけています。この機会に、災害時のトイレの備え方について見直してみましょう。そして、生きるためには食べることと同様に欠かせない、トイレ・排泄について一緒に考えてみましょう」

 

Profile


NPO法人日本トイレ研究所 代表理事 / 加藤篤

まちづくりのシンクタンクを経て、2009年NPO法人日本トイレ研究所代表理事就任。災害時のトイレ調査や防災トイレワークショップの実施、小学校のトイレ空間改善、トイレ美術館など様々な取り組みを展開。『トイレからはじめる防災ハンドブック』ほか著書多数。
https://www.toilet.or.jp/

世界首位奪還はどうなる?日本トップチーム「東海大学ソーラーカーチーム」の次戦に向けた戦い

全世界20カ国以上が参加した2023年の「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ(以下、BWSC)」から1年が経ちました。この世界最高峰に位置付けられる大会で、“総合5位”と“デイビット・ヒューチャック賞”を受賞した東海大学ソーラーカーチームは、すでに2025年のBWSCに向けて準備を進めています。

 

2024年8月に秋田県で行われた「World Green Challenge (以下、WGC)」では、首位を守りきり見事、総合優勝を果たしました。振り返って「学生たちだけで次に何をすべきか、どう動くべきか役割を意識して自律的に動けていた」と評価するのは、佐川耕平総監督。今回は、新車の設計まっただ中にある東海大学ソーラーカーチームのみなさんに、残り1年を切ったBWSCへ懸ける思いを伺います。

 

BWSCから1年。本当にあっという間だった

オーストラリアを縦断するBWSCの2023年大会にて。

 

オーストラリアの大地を約5日間かけて太陽の力だけで走り切るBWSCは、2年に一度開催されている世界最大級のソーラーカーレースです。4年ぶりに開催された23年大会では、気象変化やトラブルを乗り越え見事総合5位で完走しています。

 

BWSC(ブリヂストンワールドソーラーチャレンジ)2023で東海大学が得た“日本トップで完走”以上の戦果とは?

 

この大会にも出場し、2024年度の学生代表を務める工学部機械工学科3年の熊林楽(がく)さんは次のように振り返ってくれました。

 

「本当にあっという間で、もう1年か……というのが率直な感想。この1年は国内大会に向けての調整をしながら、新車作りにも取り組んできました。学生代表になったことで責任感は増しましたが、自分の中ではまだまだ。来年に向けて、チームを率ながら今できることを進めていきたいです」(学生代表・熊林さん)

 

前回大会終了後の取材で「実は意外と時間がないんです」と語った佐川総監督。その実感に変化はあるのでしょうか?

 

「正直、さらに追い込まれている感覚があります。前回大会終了後、25年大会の新しいレギュレーションが発表され、これまで通りでは難しい部分も多く出てきたんです。また開催日程も10月末から8月末へ。2ヶ月早く開催される分、学生たちも夏休みに最後の追い込みができなくなり、負担も大きくなるでしょう。大人たちがチームビルディング含め環境を整えていかなければなりませんね」(佐川総監督)

 

チームワーク良く和気藹々とした雰囲気の中、WGCで総合優勝

8月に秋田県大潟市で開催された2024 World Green Challengeでは、ソーラーカーチャレンジ チャレンジャー・クラスで優勝、さらにソーラーカーチャレンジのグランドチャンピオンに輝いた。

 

新車の設計に忙しい最中ですが、8月に秋田県大潟村で開催されたWGCに参加。2019年にBWSCで準優勝した車体で挑み、周回数計34周(総走行距離875km)を走破! トラブルを乗り越えながら2位と50kmもの大差をつけ見事、総合優勝を獲得しています。

 

今回優勝したのは、2019年にBWSCで準優勝を獲得したマシン。ポテンシャルを最大限に活かし、よりチームの絆を強めた大会になった。

 

今年はたくさんの新入生が興味を持って、チームに参加してきたという東海大学。メインで活躍している新入生10名の半数が女子学生だといいます。WGCに初参加した工学部機械システム工学科1年の種田花音(おいだかのん)さんは、初めての大会で感じたことを次のように教えてくれました。

 

「プレッシャーもありましたが素直に『楽しい!』と思えることがたくさんありました。同級生も多く参加していたので、女子同士で夜遅くまで話し込んでしまいました(笑)」(種田さん)

 

トップでゴールしたマシンと、コース脇でマシンとドライバーを迎えるチームメンバーたち。

 

種田さんの言葉からも楽しそうなチームの雰囲気が伝わってきます。入学式でソーラーカーに一目惚れしてチームに参加した、という工学部4年の小平苑子(そのこ)さんは、女子学生が増えたことに「うれしい!」と目を輝かせます。

 

大クラッシュから逆転優勝! 東海大学ソーラーカーチームが世界的な強豪であり続ける理由

 

「新入生たちはとても元気なんです。女子学生が増えたことも影響しているのか、広報活動も積極的に行ってくれていて、とても和気藹々とした雰囲気。私は4年生なので、後輩に気を遣わせてしまうかな? と心配していたのですが、すごく仲良くしてもらっています」

 

WGCの会場でも、さまざまなシーンで女子学生の姿が目立った。

 

「そんな状況で、WGCを優勝できたことはチームの自信にもつながったと感じています。ただどうしてもBWSCを経験している人・していない人で経験の差が出てしまうのが正直なところ。25年の大会に向けて、後輩たちの育成など強化していきたいです」(小平さん)

 

ちなみに、この大会期間中に還暦を迎えられた木村英樹教授。1996年からチームを率いてきた中で、今年のメンバーたちをどのように見ていたのでしょうか?

 

「実は、大会期間中に体調を崩してしまいまして……戦力になれなかったと反省もあるのですが、学生たちが中心となって優勝を手にできたのはとてもうれしい結果でした。レース後には、胴上げもしてもらいましたよ(笑)
女子メンバーが増えているのは、理系学生全体にも言えることかもしれません。もちろん彼女たちが和気藹々と楽しんで参加してくれているのもチームの雰囲気に影響していますが、今年の新入生たちはコロナ禍の大学生活を知らない子がほとんど。やっと通常通りの大学生活が送れるようになったのも影響しているかもしれませんね」(木村教授)

 

チームを統括する木村教授は、大会期間中に節目となる誕生日を迎えた。学生たちとの絆を窺わせる一コマ。

 

秋田の夜空に広がる満点の星。雑音なく真剣に取り組める環境も、チームの絆を強める。

 

2025年BWSCは約2ヶ月前倒しに……課題と対策は?

大学のチームは常に学生たちの入れ替わりがあるため、来年大会に出場予定のBWSC経験者は半数ほどになってしまいます。さらに例年の10月末開催が8月末に前倒し。チームを率いる工学部の福田紘大教授は、これからの1年をどう過ごしていくかが勝負になると話します。

 

「開催時期が前倒しになることは、毎年メンバーが入れ替わる大学チームにとっては大きな影響があります。ただし、学生たちが責任感を持ってくれるようになり、自主的に動いてくれるようにもなったのは良い成果ではないでしょうか。新車体の設計についても、学生主体でアイデアを出してくれて、活発な議論ができています。私たちが『〇〇をしなさい』と指示を出さずとも、自分たちでやるべきことを見つけてくれているのはいい成長を感じられていますね」(福田教授)

 

2024 WGCでの1シーン。

 

工学部機械工学科2年の木村遥翔(はると)さんは、昨年との心境の変化を次のように話してくれました。

 

「1年生の頃はすべてが受け身の状態。大会についても先輩に教わることばかりでした。2年生になって、後輩ができてからは『受け身のままではいけない』と感じるようになり、責任感が伴うようになったと思います。2025年のBWSCはもちろんのこと2027年大会も見据えながら、この1年取り組んでいきたいです」

 

リベンジを果たし、目指せ世界一!

 

2024 WGCでの1シーン。

 

では、学生のみなさんに2025年の大会に向けた意気込みを伺っていきましょう。

 

「まだ実感がわかないのが正直なところですが、楽しみな気持ちが強いです。まだまだ私たちができることはたくさんあると思っているので、残り1年しかありませんが、できる限りのことを尽くして頑張ります」(種田さん)

 

「個人的には、焦っています(笑)。まだまだ成長できるところはたくさんあると思うので、自分自身を成長させていきながら準備していきたい。WGCでの課題をBWSCへと繋げられるよう、メンバーとのコミュニケーションを密にとりながら進めていきたいです」(木村さん)

 

「来年は大学院に進む予定なので、BWSCにも出場予定です。2021年の大会が新型コロナウイルスの影響により中止され、出場できなかった経験を踏まえて挑んだ23年の大会。そして来年が私にとっては最後のBWSCになります。いろんな思いがありますが、目標は優勝。前回大会で得た海外チームの技術も参考にしつつ、東海大学の実力を100%発揮できる大会にしたいと思います」(小平さん)

 

「8月に前倒しになったことで焦る気持ちもありますが、来年こそは優勝を目指したい。反省を活かして、リベンジですね。大会をゴールとするとまだ20%くらいの完成度だと思っています。まだまだやれることはある、そう信じて進んでいきます」(学生代表・熊林さん)

 

下が第1号車「Tokai 50TP」(1992年・Dream Cupソーラーカーレース鈴鹿大会)。2人乗り4輪の構造で、上の近年の車体とは形状がまったく異なることがわかる。

 

最後に、先生方からも学生たちに期待していることを伺いました。

 

「限られた中で、最高のパフォーマンスを出し切れるように頑張ってほしい。BWSCに出場するチームは、全チームが優勝を狙っています。技術の向上はもちろんのこと、チームで戦える力を身につけてもらえるといいですよね。今年の夏に行われたWGCでは、学業と地域イベントと新車体の設計と同時進行で進めることが多かった中で優勝することができた。チーム全体を見ながら、やるべきことに取り組める学生が増えてきたのは素晴らしいこと。期待しています!」(佐川監督)

 

「25年の大会は、開催時期が早まりレギュレーションも変わりましたが、見方を変えれば勝負できる大会ともいえます。仲間たちと勝利を勝ち取って、喜びをわかちあいたいですね。1年後にはもう大会が終わっているわけですから、どんな結果になるか私自身も楽しみです」(福田教授)

 

「毎年のことではありますが、学生チームは入れ替わりが発生する分、毎年フレッシュな気持ちで挑めるのがいい部分でもある。新しいメンバーにどんどん新しい発想を出してもらって来年のBWSCに挑みたい。学生にとっては、オーストラリアの大自然を存分に感じられるまたとない機会。世界中の仲間とふれあい、5日間過酷な条件で戦うことは人間としても成長できる大会なので、出場してよかったと心から思えるよう頑張ってもらいたいです」(木村教授)

 

 

東海大学は、この世界的なソーラーカーレースで過去に総合優勝2回、準優勝2回、第3位1回の輝かしい戦績を残しています。新たなメンバーでたくさんの人の期待を背負って挑む、2025年大会が楽しみですね。

 

 

Profile


東海大学ソーラーカーチーム

大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・大学院生、約50名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。
X(Twitter)
Instagram
Facebook

1億個が時速2万5千キロで浮遊…宇宙ゴミ(スペースデブリ)の脅威と地球規模の対策とは?

旧ソビエト連邦が1957年10月4日に人類初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げてからおよそ70年。人工衛星のおかげで日々の暮らしは便利で豊かになり、今では私たちの経済活動に欠かせない存在となっています。ところが今、人工衛星の打ち上げによる“宇宙ゴミ”(スペースデブリ)の数が増加していることが、世界的に問題になっています。

 

この問題について、長年スペースデブリを回収する研究に取り組み、技術開発も務める東京理科大学 創域理工学部 電気電子情報工学科 教授で、東京理科大学 スペースシステム創造研究センター センター長の木村真一さんに、現状や課題、解決方法などを教えていただきました。

 

小さな破片も衛星に穴を開けるほどの威力!
宇宙ゴミ(スペースデブリ)とは?

「スペースデブリとは、役目を終えた衛星や故障した衛星、衛星を打ち上げるために使われたロケットやその部品、破片など、コントロールされずに地球の周りを周回し続けている、不要になった人工物を指します。数mm程度の小さな破片から大型バスほどの大きなものまであります」(木村真一教授、以下同)

 

(イメージ)

 

スペースデブリはいったいどれくらいの数、浮遊しているのでしょうか?

 

「スペースデブリの数は、10cm以上のもので約2万個、1cm以上10cm未満は50〜70万個、1mm以上1cm未満は1億個を超えると言われ、宇宙空間を飛翔している人工物の約94%が、デブリです」

 

多くは1cm以下と微小ですが、その破壊力は凄まじいものです。

 

「広い宇宙、小さなデブリであれば問題ないだろうと思われるかもしれません。しかし、小さな破片でも致命的な打撃になる場合があります。
地球を周回するデブリは、秒速7〜8kmで飛翔しています。その速さは、ピストルの銃弾の約10倍。猛スピードで飛行する硬い塊が、もし稼働している衛星にぶつかってしまえば、太陽電池などの破損や、燃料タンクの爆発など、深刻な事態を引き起こす可能性があります。どんなに小さなデブリであっても、壊滅的なダメージをもたらす要因となってしまうのです」

 

地球を取り巻くスペースデブリのシミュレーション。デブリの分布を示している。©️NASA

 

衛星との衝突が原因?
スペースデブリが発生する原因

そもそもなぜ、デブリが発生するのでしょうか? その原因は主に2つあるといいます。

 

・衛星を打ち上げる一連の流れで発生するデブリ

衛星を打ち上げるためのロケットが宇宙空間で分離されたものや、ミッション遂行中に捨てられた部品、また、燃料が切れたり故障したなどの理由で役目を終えた本体も含みます。
近年は、民間が人工衛星を打ち上げるなど、宇宙開発が以前よりも身近なものになり、スターリンクを代表とする多数の衛星を活用した“コンステレーション”と呼ばれるサービスのように、人工衛星の利用の仕方が多様になることで、打ち上げられる衛星の数も増えています
衛星の寿命は、衛星の軌道や用途、設計などにより異なりますが、2年から10年ほどです。この寿命を終えた衛星は、近年では大気圏に突入させて軌道から取り除くように運用されていますが、不具合などで地球からのコントロールを失い、そのまま放置されるとスペースデブリと化します」

 

・衛星とスペースデブリの衝突

(イメージ)

 

「この衝突によって新たにできるデブリの発生は、広い範囲で軌道環境を汚染するという意味で深刻です。衛星同士がぶつかり合い爆発すると、破片が勢い良く飛び散ります。初速が加わることで、発生したデブリが元の衛星の軌道から大きく広がることになります。破片が広がれば新たな衝突を生み、さらに破片が増えるという悪循環に陥ります
2009年に、アメリカのイリジウム社の通信衛星イリジウム33号と、すでに使用されていなかったロシアの軍事用通信衛星コスモス2251号が衝突し問題になりました。この衝突によって、少なくとも数百個以上のスペースデブリが発生しました。
一方で、その衝突を故意に行う衛星破壊実験を中国が2007年に行い、飛躍的にデブリが増えた事例もあります」

 

もう衛星が打ち上げられない? 宇宙旅行も危険に?
スペースデブリが及ぼす影響

2021年には、実業家の前澤友作氏が日本の民間人で初めてISSに滞在するなど、一般人の“宇宙旅行”も夢ではなくなってきました。このままスペースデブリを放置するとどうなるでしょうか?

 

「スペースデブリが飛んでいる主な2つの軌道があります。『低軌道』と『静止軌道』です」

 

・低軌道

「地上から200kmから1000kmの範囲の軌道で、ISS(国際宇宙ステーション)や、インターネットを通信するための衛星コンステレーション、地球をさまざまな角度で観測する地球観測衛星などが打ち上げられる、もっとも多く使われている軌道です。
先ほど説明したように、低軌道には1億個以上ものデブリが周回しています。衛星とデブリが1km以内に接近するニアミスは、一日に数百回起きており、デブリを避けるための衛星の軌道修正も日に何度も行われている状態です。放置すれば猛スピードで周回するデブリの衝突により、さらにデブリが増え、地球を覆い、衛星の打ち上げもままならなくなるでしょう。持続的に宇宙開発を続けることが難しくなります」

 

・静止軌道

「これは地球から36,000km付近の軌道で、気象衛星や放送衛星などに使われています。地球の自転と同じ周期で公転する軌道です。同じスピードで動いているため衛星が止まっているように見えることから静止軌道と呼ばれます。広範囲で地球を定点観測でき、常に通信や放送を提供できることから、極めて有用性の高い軌道ですが、原理的静止軌道はたった1本しか存在しないので、このたった1本の“紐”を世界中で分け合って使っており、専門家の間ではすでにこの静止軌道の混雑も懸念されています。この静止軌道の近くで事故が起きると非常に深刻な事態が懸念されます。

 

また、低軌道であれば、デブリを大気圏に再突入させることで消滅させられますが、静止軌道から大気圏まで衛星を落下させるためには非常に大量の燃料が必要になるので、実際は困難です。そのため、役目を終えた衛星は、活動している衛星の邪魔にならないように静止軌道の外のいわゆる“墓場軌道”に移動させます。移動するだけなので処分されることなく、どんどんデブリが溜まっていきます。問題を先送りにしている状態のため、いずれは除去が必要になるでしょう」

 

宇宙旅行が現実化すれば、デブリ被害も増加?

最近ではアメリカの民家にデブリが直撃し、あと少しで人命に関わる事故になるところだった、というニュースが話題になりました。

 

「一般的に知られていないだけで、実はかなりの数のスペースデブリが落下しています。スペースデブリのほとんどは、大気圏に落ち燃え尽きるように設計されています。また近年では、運用されている衛星は、太平洋の真ん中など危険性の少ない場所に、軌道を制御することで落下させています
ただ、衛星によっては、一部燃えにくい部品を使用している場合もあり、また衛星が不具合などで制御を失うと、このように安全な場所に落下させることができなくなります。このように安全・確実に落下させることも、衛星の利用が盛んになるにつれて重要になってきます。これまでも、燃え残った衛星の残骸等が落下して損害を与えたという事故も発生しています」

 

(提供=東京理科大学スペースシステム創造研究センター)

 

宇宙旅行が実現する未来で、その影響に変化はあるでしょうか?

 

「人が搭乗する有人の宇宙船に対しても、デブリは人命に関わる深刻な問題です。すでにISSには小さなデブリが日々衝突し、機体にはでこぼこと穴が開いています。ISSは防護板で何重にも守られているため多少の穴は影響ありませんし、大きなデブリは追跡しているので事前に避けることもできます。しかし、数が増え制御できないほどになってしまえば、ISSで働く方々の命に関わってくるのです」

 

衛星の破壊によってインターネット通信が遮断?

(イメージ)

 

デブリによって衛星が破壊されると、どんな影響があるでしょうか?

 

「今や世界の経済は衛星によって支えられていると言っても過言ではありません。世界の大規模災害の予測や状況の把握にも衛星が使われています。通信や放送にも衛星が活用されています。それらの衛星がデブリによって次々と壊れることがあったらどうでしょうか。通信や気象、災害の監視など、さまざまな面で日常生活に関わっている宇宙技術が使用できなくなる可能性もあります
最近では、静止軌道に設置されている衛星の太陽電池パネルの出力が突然落ちたという事例も報告されています。詳細はわかっていませんが、恐らくデブリが衝突することによる影響ではないかと考えられています」

 

デブリを増やさず減らすために
世界と日本の取り組みとは?

 

地球環境の課題がなかなか解決しないように、国によってさまざまな考え方があるので、国際的な共通ルールを作ることは長い間、難しいと考えられていたといいます。

 

「しかし、2007年には、国際機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)の提案に基づき、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)スペースデブリ低減のガイドラインが作成されました。運用中に放出されるデブリの制限や意図的破壊活動の回避、ミッション終了後に低軌道域に長期的に留まることの制限など、SDGsの目標のひとつである『つくる責任、つかう責任』が宇宙にも適用され、自主的に取り組むことが望ましい対策について制定されました。
また、2023年に広島で開催されたG7では、宇宙空間の安全で持続可能な利用を促進することについて首脳レベルでのコミットメントが表明されました。
スペースデブリの問題が世界共通の重要課題であると取り上げられることが増え、課題への意識が高まり、宇宙環境を改善する国際ルールが徐々に整いつつあります」

 

デブリを増やさない活動とは、具体的にどんなものなのでしょうか?

 

「デブリ対策には、これ以上数を増やさない取り組みと、現在あるデブリを減らす取り組みの2つの取り組みがあります」

 

・これ以上増やさない取り組み

「衛星打ち上げによるデブリ発生を減らすこと、また役目を終えた衛星をコントロールし、能動的に大気圏に落下させ消滅させる方法があります。
さらに、今ある衛星の寿命を伸ばしリユースする方法もあります。例えば、燃料が尽きデブリ化する衛星は、燃料がないだけで機体自体は問題なく使えることが多いです。ここで燃料をあらためて給油できるとしたらどうでしょう? 衛星の寿命を伸ばせます。打ち上げっぱなしだった衛星をメンテナンスし、再生できれば廃棄になる衛星の数も減ります」

 

・今あるデブリを除去する取り組み

(提供=アストロスケール)

 

「低軌道であれば、除去する方法は、デブリを大気圏で消滅させる方法でしょう。2021年に、日本の民間企業であるアストロスケールのデブリ除去技術実証衛星『ELSA-d』が、世界で初めて、デブリ除去の技術実証に成功しました。除去の際に必要となる高度な技術を実際に使って、デモンストレーションを行うもので、これまで世界に前例はありませんでした。

 

現在、同社は、商業デブリ除去実証衛星『ADRAS-J』のミッションを実施しており、デブリへの接近や周回観測等に成功しています」

 

もっと知っておくべき
スペースデブリのこと

ちなみに、私たち一般人でもスペースデブリ対策にできることはあるのでしょうか?

 

「ぜひ興味関心を持っていただきたいです。私がスペースデブリの研究を始めた20数年前は、まさか19時台のニュースで、スペースデブリ問題が取り上げられるとは思ってもいませんでした。しかし現在では宇宙の技術発展とともに、一般の方々の関心も高まりつつあります。
アストロスケール社を創業した岡田光信さんは、宇宙のホットトピックを調べているときにスペースデブリ問題を知り、軌道環境を保全していくことを決意し、現在の会社を立ち上げられました。そのとき、宇宙に関する知識も人脈もほとんどない状態だったそうです。今では、世界初の実証に成功し、除去分野での第一人者となっています。」

 

 

最初は自分には関係ないと考えていたスペースデブリのことも、何かのきっかけで急に関心が高まるかもしれません。皆さんが興味を持つことで、スペースデブリ問題を考えるきっかけになれば、同じように解決しようと思う方が増えるかもしれませんし、除去する支援をしてくださるかもしれません。ぜひみなさんには、宇宙をよりよい環境にしていくためにも興味関心を持って話題にしていただきたいと思います」

 

 

取材では、木村真一教授を初め、同席の関係者から口々に「スペースデブリについて興味を持っていただきありがとうございます」と、挨拶いただいたことが印象的でした。多くの人々に興味関心を持っていただくことが、将来の宇宙環境改善につながると話してくださった木村教授。わたしたちも、夜空の星を見上げながら「地球の外にはどんな世界が広がっているのかな?」を想像し、宇宙に考えをめぐらせてみませんか?

 

 

Profile

東京理科大学教授・東京理科大学 スペースシステム創造研究センター センター長 / 木村真一

1993 年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、博士(薬学)。旧郵政省通信総合研究所(国立研究開発法人情報通信研究機構)をへて、2007 年から東京理科大学に勤務。スペースデブリの除去を実現する技術の研究にも従事し、技術試験衛星 VII 型や Manipulator Flight Demonstrationなどの多くの宇宙ロボット・小型衛星ミッションに参加するとともに、「IKAROS」や「はやぶさ 2」の監視カメラシステムなど様々な宇宙機器を開発。現在、宇宙居住について、地上技術と連携して進める、地上−宇宙 Dual 開発というコンセプトのもと、研究を展開している。
東京理科大学 スペースシステム創造研究センター

 

日焼け止めが海と地球を脅かす!肌と環境にやさしい日焼け止めの選び方とおすすめブランド

日焼けをはじめとする紫外線の肌への影響を気にして、日常的に使われるようになった日焼け止め。ジェルやスプレーなど、テクスチャや形状もさまざまあり、シーンに合わせて使い分けが可能ですが、やはり夏の海や川を訪れる際には、いつも以上にUVカット効果が高い日焼け止めを使うはず。

 

ところが近年、この日焼け止めが海に悪影響を与えていると言われるようになりました。いったいなぜ? どんな日焼け止めならセーフ? サンゴ礁保全と観光産業の持続可能な発展を目的とした、国際的なダイビング・シュノーケリングのガイドライン「Green Fins」の日本導入を担当する積田彗加さんにうかがいました。

 

海遊びに必須な日焼け止めが
サンゴを弱らせている?

 

日焼け止めから、年間約6000〜1万4000トンもの化学成分が海に流れ込んでいるそう。スタンフォード大学の論文「Conversion of oxybenzone sunscreen to phototoxic glucoside conjugates by sea anemones and corals(イソギンチャクとサンゴによって日焼け止めに含まれるオキシベンゾンが光毒性のあるグルコシド結合体へ変換される)」によると、この日焼け止めに含まれる化学物質が、海洋生態系に致命的な影響を与えることが証明されています。

 

研究グループの実験によると、サンゴと似た生態のイソギンチャクや、サンゴの仲間であるクサビライシを使って、多くの日焼け止め成分に含まれる「オキシベンゾン」と疑似太陽光の影響について調査を実施。オキシベンゾンを取り入れ、疑似太陽光を当てた条件では、17日以内に全滅するという結果が出たのです。

 

「米国ハワイ州では、2021年1月より紫外線吸収剤の「オキシベンゾン」や「オクチノキサート」を含んだ日焼け止めの販売を禁止する法案が施行されました。さらに西大西洋に浮かぶパラオ諸島では、紫外線吸収剤に加え、「フェノキシエタノール」をはじめとする10種類の化学物質が含まれる日焼け止めもサンゴへの悪影響があるとみなし、2020年1月より、国内での販売および持ち込みを禁止する徹底ぶりをみせています。それだけ、日焼け止めによるサンゴへの悪影響を重んじているといえます」(「Green Fins」導入担当・積田彗加さん、以下同)

 

さらに、多くの日焼け止め成分に含まれている「酸化亜鉛」と「酸化チタン」ですが、近年ナノ粒子化された商品が多く出ています。成分が非常に小さいとサンゴが吸収してしまい、正常に成長することができなくなってしまうのだとか。禁止されていない成分でも、ナノ粒子化されることでマイクロプラスチックのように目には見えない影響が出てきていると言えるでしょう。

 

サンゴへ悪影響を及ぼす原因は、日焼け止めのほかにも、温暖化による気候変動、沿岸開発、レジャー時の踏む、蹴るなどによる人的被害など、さまざま考えられます。すべて私たちでコントロールすることはできませんが、日焼け止めに関しては、自分たちの意思と知識さえあれば、環境にやさしいものを積極的に選択できるはず。日焼け止めを購入する前に、どんな成分が含まれているか確認することから始めてみましょう。

 

なぜサンゴ礁を守らないといけないの?

 

そもそもなぜサンゴ礁を守る必要があるのでしょうか? 人間たちを魅了するような観光資源だけでなく、サンゴ礁は、海の生態系を支え、私たちの生活に不可欠な役割を担っていると、積田さんは話します。

 

「サンゴ礁は赤道近くに分布しています。地球の表面積のうちわずか0.1〜0.2%程度にしかなりませんが、地球上の海洋生物の約25%の種類が生息する場所でもあります。つまりサンゴ礁がなくなってしまうことは、海洋生物にも大きな影響を与えてしまうのです」

 

サンゴ礁の役割

・生き物の棲家(生物多様性を支える)
・温暖化の抑制
・防波堤
・観光および漁業資源

 

サンゴ礁が減少するとどうなる?

・海洋生物の25%の種類が生息する重要な生態系が破壊される
・食料が減る可能性がある
・防波堤の役割を果たせなくなる
・観光業への経済的な打撃も大きくなる

 

「私が駐在する沖縄県恩納村にも、さまざまなサンゴが生息しています。この村は、もずくやあおさ、海ぶどう養殖が盛んです。実は村のサンゴが大規模白化した年に、養殖物の漁獲量が一気に下がってしまったことがあったそうです。地元の漁師さんの中には、サンゴの状態と漁獲高の関係性を意識してサンゴの養殖を始めた人がいます。サンゴを守ることで、漁師さんの暮らしを守り、きれいなサンゴを見たいと観光客がやってくる。サンゴ保全の意識を高めることは、そこに住まう人だけでなく、観光で訪れる人にも大切な営みです」

 

普段使いできる
海の生き物たちにやさしい日焼け止め

私たちがサンゴを守るための一番身近な手段のひとつに、日焼け止めがあります。積田さんは、海遊びの時だけでなく日常的に使う日焼け止めやUVカットの化粧下地の成分もチェックしてほしいと言います。

 

「日焼け止めは、体や顔を洗った後に下水へ排出され、最後は海に流れていきます。食器や洗濯洗剤の成分、洗濯時に繊維から落ちるマイクロプラスチックが海に流れていくことと同じですね。海で遊ぶ際に使う日焼け止めだけでなく、日常的に使用するものも、地球環境にやさしい成分を選べると良いでしょう」

 

日焼け止めを選ぶ際には、この2つのキーワードが入っているかチェックしましょう。

 

【選ぶ際にチェックしたい表示】

・紫外線吸収剤不使用
・ノンナノ(酸化チタンや酸化亜鉛をナノ粒子化していないもの)

「表示を見てもわからないという人は、パラオで販売されている日焼け止めを購入するのがおすすめです。パラオはサンゴ保全国最先端の一つで、10種類の成分を規制しています。規制されている成分が入った日焼け止めを、パラオ国内に持ち込むことすらできません。つまりパラオで売っている日焼け止めは、すべて環境にやさしいものであると言えます」

 

ここからは積田さんおすすめの海の生き物たちにやさしい日焼け止めを4つ紹介します。

 

・「Protect Land + Sea(海や山を守る)認証」を取得!海にも川にもやさしい


BADGER「Adventure Mineral Sunscreen Cream – SPF 50」
$17.99(USD)=2609円($1 USD = 145円で換算・ 8月29日時点)
紫外線予防効果:SPF50

サンゴやウミガメ、その他の水生生物に無害な製品にしか与えられない「Protect Land + Sea(海や山を守る)認証※」の日焼け止め。肌の新陳代謝を促すビタミンE配合で美肌効果もあり。石けんでオフ可能。

※サンゴや環境に有害な日焼け止めの法規制を高めた論文の一つを発表した「米国バージニア州のハエレティクス環境研究所では、海洋および淡水の小川や川も含めた生態系に悪影響を及ぼす有害物質のリストを発表。このリストにある有害物質をすべて排除した製品に与えられるのが、「Protect Land + Sea(海や山を守る)認証」です。

 

環境にやさしいノンナノの酸化亜鉛を使用しているがゆえに白浮きしやすいですが、そのおかげで水をはじき、約80分の耐水時間を誇ります。

 

・海とサンゴを思う気持ちが名前にも込められた日焼け止め


ジーエルイー「サンゴに優しい日焼け止め ホワイト40g」
3273円(税込)
紫外線予防効果:SPF50+、UVA★★★★

100パーセント自然由来成分でできた日焼け止め。自社ブレンドのラベンダーやユーカリ等4種の精油が保湿効果とリラックス効果をもたらします。ウォータープルーフ仕様ですが、石鹸とぬるま湯でオフすることができます。容器は再資源化が容易なスチール缶です。

 

「沖縄出身の金城由希乃さんによって開発された日焼け止め。ビーチでシュノーケリングをしようとしていた時に、『日焼け止めを塗ると、サンゴが死んじゃうんだよ』と近くにいたダイバーに教えてもらったのが開発のきっかけだそうで、商品名からも思いが込められていることが伝わってきますね」

 

・ハワイ産の良質な天然成分だけで生まれたカバー力抜群の日焼け止め

リトルハンズハワイ「【ベージュ】スティックタイプLittle Hands Hawaii(リトルハンズハワイ)」
4400円(税込)
紫外線予防効果:SPF35~40

ハワイの豊かな自然環境に育まれた、100%天然素材のみを使用した日焼け止め。紫外線予防効果で未来のシミ、しわも防ぎます。ウォータープルーフなのに石けんでするっとオフできる使いやすさも魅力です。パッケージは、プラスチックフリーで環境負荷を最小限に抑えています。

 

「ノンナノ成分の日焼け止めは、環境にはやさしい一方で、伸びにくかったり、白浮きしやすかったりと使用感がネックになることも。でも、この商品は自然に色がつくので使いやすいです。私はベージュカラーを日焼け止め兼ファンデーションとして使っています。手が汚れないスティックタイプは、ササッと塗れて忙しい朝や、アウトドア時にも便利」

 

・国内最高レベルのUV指数なのに肌にも自然環境にもやさしい


モアニオーガニクス「DAILY ESSENTIAL SUNSCREEN」
3960円(税込)
紫外線予防効果:SPF50+、PA++++

国際的な有機認定機関「ECOCERT」による厳しいオーガニック基準に合格した日焼け止め。100%天然由来成分でできていながら、紫外線B波(UVB)、A波(UVA)ともに高い予防効果があり、紫外線が強い野外にも安心です。汗や水にも強いのに、石けんで簡単に落とすことができます。

 

「ミルクタイプのテクスチャーで、肌によく伸びて使用感もいいです。べたつかずさらっとしていて着け心地も抜群ですよ」

 

サンゴや環境に配慮した日焼け止めを使うことは大切ですが、そもそも肌をださない様にするのも対策のひとつ。「シュノーケリングや海遊びをするときには、長袖のラッシュガードを着るようにすれば、日焼け止めを塗る面積もセーブできて、肌にも海にも優しいですよ」と、積田さん。少しの工夫を楽しみながら、環境にも自分にも優しくいられるといいですね。

 

Profile

「Green Fins」 / 積田彗加

神奈川県出身。早稲田大学卒業。新卒でIT企業に入社するものの、ダイビング好きが高じ、ダイビングの楽しみ方を広げたいという思いで海とダイビングのウェブメディア「ocean+α」に2018年に転職。2020年6月より地域おこし企業人として沖縄県・恩納村役場へ駐在。「Green Fins」の導入推進を担当している。同団体の日本窓口でアセッサー。

パリ2024パラリンピック開幕!“水上のF1”パラカヌーとはどんな競技?24年目に念願叶った初出場選手にインタビュー

今回もさまざまなドラマが生まれたパリ2024オリンピック。その興奮も冷めやまぬなか、8月28日にはパラリンピックが開幕します。

 

編集部が注目しているのは、パラカヌーの日本代表。「水上のF1」とも形容されるスプリントは、一度間近で観たら忘れられない迫力があります。今回はそのルールや見どころ、そして本大会でパラリンピック初出場を果たす宮嶋志帆選手のインタビューなど、盛りだくさんの内容でパラカヌーの世界を紹介します。

 

応援するために押さえておきたい
パラカヌーの基礎知識

2023年8月の世界選手権に出場した日本パラカヌー連盟所属の選手たち。

 

オリンピック競技でもおなじみのカヌーですが、パラカヌーにはオリンピックとは違う独自の種目があり、障がいのレベルによってクラス分けもされています。競技を120%楽しむために、まずはその概要を押さえましょう。

 

「パリ2024パラリンピック」の日程と競技について

2024年8月28日から9月8日まで開催。競技は大会ごとに少しずつ増え続けており、前回の東京2020から全22種目(夏季)となりました。日本は陸上競技、水泳、柔道など多くの競技で金メダルの期待もかかっています。

注目のカヌー競技は、9月6日・7日・8日に実施予定。会場はヴェール・シュル・マルヌ・ノーティカル・スタジアムで、同スタジアムは今大会でカヌーのほかにローイング(ボート)の競技にも使用されています。

 

パラカヌーってどんな競技?

パラカヌーはリオ2016パラリンピックから正式採用されました。下肢に障がいのある選手が参加し、競技人口も年々増えている注目の競技です。200mの直線コースでタイムを競うスプリントで、「カヤック」と「ヴァー」という、形が異なる2種類の競技専用カヌーが使用されます。

・カヤック

パラカヌーでは、スプリント専用の競技用カヤックを用います。選手は主にコクピットに装備されたシートで下肢を支え、両端にブレードが付いたダブルブレードパドルで水をかいて漕ぎ進みます。

船体は直進性能に特化した研ぎ澄まされたフォルムが特徴的。そのぶん安定性能は低く、普通のカヌーの経験者でも水上で浮けるようになるのに数ヶ月かかるといわれるほどです。トップレベルの選手は200mコースを40秒の速さで漕ぐことができ、ゆえに「水上のF1」とも称されます。

 

・ヴァー

片側にアウトリガー(浮力体)がついたスプリント専用の競技用ヴァーを使用。カヤックと同様にコクピットに装備されたシートで下肢を支え、片側だけに水かきがついたシングルブレードパドルを使うことから、漕ぎ方やバランスの取り方に高い技術が必要とされます。

ヴァーは古くから海洋民族が海で使用してきたカヌーの構造なので、落水の危険が少なく安全性能が高い一方、シングルパドルで片方を漕いで艇をまっすぐに進ませる高度な技術が必要になります。

 

オリンピックのカヌーとの違いは?

オリンピックのカヌーは1936年のベルリン大会で正式種目となり、現在は流れのないスプリントコースと、激流を下るスラロームコースの2種類を使用する種目があります。一方のパラカヌーは、2010年に初の世界選手権が行われた新しい競技。日本には1991年に初めて導入され、少しずつ競技人口を増やしてきました。

 

カヌーでスピードを競うスプリントという点ではオリンピックと同様ですが、パラカヌーで使用するのは200mのスプリントコースのみ。また、「ヴァー」に関しては、パラカヌーだけの種目になります。選手は障がいの程度によって、カヌーのシートやコクピットの内部をルールの範囲内で改造することができます。

 

クラスは3種、実施種目は10種目

パラカヌーでは、障がいの程度によってL1〜L3までのクラス分けがなされます。

・L1……胴体が動かせず腕と肩の力だけで漕ぐ
・L2……胴体と腕を使って漕ぐことができる
・L3……腰・胴体・腕を使うことができ、力を入れて踏ん張ることができる

これに「男子(M)」と「女子(W)」、「カヤック(K)」と「ヴァー(V)」の振り分けが加わって、例えば「女子カヤックのL1クラス」なら「WKL1」といった表記で表されます。

ヴァーは2と3の2クラスのみ。今回は男女合わせて計10種目の開催となる。

 

パリ2024パラリンピックでは、カヤックが男女それぞれ3クラスずつ、ヴァーが男女それぞれ2クラスずつの計10種目が実施される予定です。

注目の日本代表は、リオ大会から3大会目の出場となる瀬立モニカ選手をはじめ、男女4人の選手が出場します。なかでも、今回初めてパラリンピック出場を果たすのが、女子の宮嶋志帆選手です。

 

2018年にパラカヌーを始め、それからわずか6年にして夢の切符を手にした宮嶋選手。しかしその背景には、幼少期からパラリンピックの舞台に憧れ続けてきた20年以上もの道のりがありました。そんな彼女に、パラカヌーとの出会いから、大会を目前に控えた今の思いを伺います。

 

水泳で挫折を経験。
東京2020パラリンピックの開催決定に思いを強くした

宮嶋志帆選手。1991年長崎県生まれ。株式会社コーエーテクモクオリティアシュアランス所属。

 

生まれつき左右の脚の長さが違う、先天性の左下肢形成不全。宮嶋選手は、物心つく前から左脚に義足を着けています。パラカヌーの種目・クラスはWKL2とWVL3。日本の女子選手のなかで唯一、カヤックとヴァーの2種目に取り組む選手ですが、実は社会人になるまではパラ水泳の選手でした。

 

「3歳でスイミングスクールに通い始めたのが最初のきっかけです。25mをなんとか泳げるくらいになったころ、9歳のときにシドニーオリンピックが開催されて、パラリンピックを知りました。それから中学に入って練習量を増やしたらタイムが伸びていき、高3でアジアユース(東京2009アジアユースパラゲームス)にも出させていただいて。10代のころは、もしかしたら水泳でパラリンピックを目指せるかもと思っていたんです」

 

ストックを使い颯爽と歩く宮嶋選手。物心つく前から義足のある生活を送ってきた。

 

同じパラカヌー選手でも、障がいの重さや運動能力は選手それぞれに全く異なる。

 

大学でも水泳を続けた宮嶋選手。しかし、その後は思うようにタイムが伸びません。そして2013年、大学卒業と就職を控えていた彼女に転機が訪れました。

 

「2020年の東京オリンピックが決まったんです。やはり出てみたいという思いがあり、社会人になってからも水泳は続けていました。それからしばらくして、あらためてパラリンピックにどんな種目があるのかを見直してみたんです。そのとき目についたのが、ボート競技のパラローイング。まったく経験がありませんでしたが、まだ選手の数が少なかったことと、練習場が偶然にも家から近かったのがその理由です。水泳をやめ、2015年の年明けごろからボートに乗り始めて、3ヶ月後にはすでに日本国内の大会に出ていました」

 

なんという大胆な決断力と行動力。しかしそのわずか3年後、宮嶋選手はまたしても挫折を経験します。

 

「パラローイングは脚の力を使うスポーツで、練習後は痛みで歩けなくなったりしていました。もうパラリンピックは諦めようかと考え始めたとき、パラカヌーをやっていた友人から連絡をもらったんです。競技としてはもちろん気になっていたんですが、どこで練習できるのかがわからなくて二の足を踏んでいたんですよね。そこで思い切って、日本障害者カヌー協会(現在の日本パラカヌー連盟)にメールをしてみました。『日本中どこにでも行くので、練習をさせてください』と。これが2018年の年明けのことです」

 

2ヶ月後の春、香川県の府中湖で初めてパラカヌーを体験。同年夏には、すでに自前のカヌーまで購入していたそう。

 

興味を持ったらまず動いてみるタイプ。その行動力がパリにつながった。

 

すべての経験がプラスに。
そしてカヌーならではの魅力に気づけた

パラローイング時代は、男女のペアで漕いでいた宮嶋さん。たったひとりで水の上に立ち、スピードを追求するパラカヌーを始めた当初は少し戸惑いもあったとか。

 

「大きな湖にひとり漕ぎ出すと、最初はどこに行けばいいのかもよくわかりません(笑)。でも、ボートと違ってカヌーは小回りが効くから、行ってみたいと思った方向にスイスイ行ける楽しさがある。すべて自分の責任で決められるというのも、ある意味で気楽です。これがカヌーの面白さなんだなと思いました」

 

水泳をやってきたお陰か、落水の恐怖心もほとんどなかったそう。むしろボートの経験もあったせいか、6年間でまだ6回しか落ちていないとか。

 

「すべて、今までの経験がプラスになっていると思います。これはボートもカヌーも同じですが、水泳との違いは周りの景色を楽しめること。パラカヌーを始めて何度かヨーロッパへ行っていますが、コースにも個性があって面白いんです。ドイツのあるコースでは、川沿いに民家がありました。私たちが練習している目と鼻の先で、子供や犬が水遊びをしている光景には驚きましたね(笑)」

 

パリ2024パラリンピックの公式ユニフォーム。

 

東京パラリンピック出場は叶わなかったものの、2021年から強化選手になり、2023年の世界選手権で準決勝へ進出。そして2024年5月にハンガリーで行われた世界選手権でパリ行きの切符を掴みました。

 

「5月の世界選手権は自分的にミスが多かったので、帰国して(パリ行きが)決まったときはホッとした気持ちが大きかったです。決定から本番まで約3ヶ月半ですから、もっと時間が欲しいという焦るような気持ちも湧いてきました」

 

そんな彼女の現在の課題と、パリ2024パラリンピックで目指すところを聞いてみました。

 

「日本国内の大会だと比較的落ち着いて競技できるのですが、海外に行くと強豪揃いですし、遠くまで来たからには、頑張ってより良い結果を持って帰りたいという気持ちがあり、どうしてもまだ緊張してしまいます。今回もそこでいかに落ち着いてコントロールできるかが課題ですね。もちろん大会では決勝まで残りたいと思っていますが、そこをあまり考えすぎないようにして、自分の全力を出せるようにしたい。日本代表チームとしては、鹿児島と石川で何度か合同練習をしてきました。それぞれに個人練習も積み重ねています」

 

今回は日本の女子選手としては初となるカヤックとヴァーの2種目で出場予定。

 

「通常はどちらかの種目に集中する選手が多いのですが、私は条件的にエントリーできる枠があったので挑戦してみようと。カヤックとヴァーでは漕ぎ方も使う筋肉も違いますから、そこのバランスを取りながら練習をする必要があります」

 

シドニーパラリンピックでパラアスリートに憧れ、足掛け24年。夢を叶えるために行動してきた。

 

パラカヌーの強豪国といえば、ハンガリーやイギリスといった本場ヨーロッパの国々。パラリンピック本番では各国の戦いぶりも見どころです。これに加えて、宮嶋選手が考える、パラカヌーの楽しみ方も教えていただきました。

 

「パラカヌーは足腰が不自由な選手が参加しているので、通常のカヌーと違って上半身の力を中心にコントロールしなければならない難しさがあります。私たち女子もそうですが、特に男子選手ともなると筋肉量が本当にすごい。ほかの競技ではちょっと見られないくらいの鍛え方をしているんです。タイムや結果だけでなく、そういったアスリートの肉体美や、躍動している姿もぜひ観ていただけたらと思います」

 

普段の素顔は、アニメやゲーム、舞台鑑賞などを愛する会社員。貴重な休日を利用して、電車でひとり練習場へ通い練習を積み重ねてきたという宮嶋選手。でも、そんな地道なプロセスさえ乗り越えてこられたのは、「スポーツを楽しみたい」という純粋な思いがあったからこそ。その思いの強さに、取材班も勇気をもらったような気持ちになりました。

 

パラカヌー日本代表選手から
パリ2024に向けてのメッセージ

宮嶋選手とともに日本代表としてパリ2024パラリンピックを戦う3選手に、本番直前の今の思いを聞きました。

Q1. パリ2024パラリンピックの開会まであとわずか。いまどのような気持ちですか?

Q2. ご自身にとって、パラカヌーの面白さ・魅力はどこにあると思いますか?

Q3. 応援するみなさんから、どこに注目してほしいですか? メッセージをお願いします。

 

小松沙季(こまつさき)選手
ヴァー/L2

A1.
今回はプレッシャーよりも楽しみな気持ちの方が大きいです。東京パラの時は自分の置かれた環境に心が追いつかず、楽しみよりもプレッシャーや苦しさの方が大きかったので、そういう意味では東京パラ以降の経験や時間とともに自信がついてきたのかなと思います。あとはこのパラリンピックイヤーという大きな節目で社会がどう変化するのか楽しみです。

 

A2.
パラカヌーが他のパラスポーツと比べて大きく違うのは、パラリンピックは別として、国内大会や国際大会が健常者の大会と同時に同会場で行われるというところです。さらに、カヌーに乗ってしまうと障がい者も健常者も何も見た目は変わりません。そういったところは、共生社会を体現しているように感じるのですごく魅力的です。

 

A3.
もちろんパラリンピックでのレースにも注目してほしいですが、選手1人1人のこれまでの背景や、これからやろうとしていることなどについても注目していただきたいです。それによって今回のパラリンピックの大会をより楽しめると思います。またこのパラリンピックをきっかけに、自分事として社会をよりよくするために行動する人が増えてくれることが私の1番の願いです!応援よろしくお願いします!

 

瀬立モニカ(せりゅうもにか)選手
カヤック/L1

A1.
現在はオリンピックでの日本選手の活躍に刺激をもらいつつ、粛々と日々やるべきことをこなしている状況です。ここから何かを上げるというより、怪我や体調に留意し、コンディショニングを維持することを大切にしています。

 

A2.
やはり健常者と同じレベルで出来るのが魅力です。競技としては自然を相手にその時折で変化する外的要因に対応しながら最速でパドルを回していくところに面白さを感じます。

 

A3.
純粋に競泳や陸上の短距離を観戦するような感覚で観ていただけたら・・またパラリンピックでは各国の選手が大会に合わせて自分のオリジナル艇を用意してきます。そのデザインは国をイメージしたものが多く、艇のデザインも合わせてみると選手の個性や国の文化が分かるかもしれません。

 

高木裕太(たかぎゆうた)選手
ヴァー/L1、カヤック/L1

A1.
楽しみという気持ちが1番大きいです。東京パラリンピックでは無観客での開催だったので観客が入り、歓声などが聞こえる状態でのレースにワクワクしています。

 

A2.
パラカヌーの魅力は自然を感じながら競技ができるところです。色んな場所で自然を感じることができ水面を艇で切っていく、この感覚がすごく楽しいです。1番のおすすめはフラットな水面に鏡面反射している時がすごく綺麗です。

 

A3.
スタートからの力強さを見ていただきたいです!スタートからゴールまで全力で漕ぎ切りますので応援よろしくお願いいたします!

 

人それぞれ、さまざまな人生を生きてきた個性豊かなアスリートたちが集うパラリンピック。その中でもまだまだマイナーなスポーツといえるパラカヌーですが、選手たちの美しくも豪快なパドル捌き、0.1秒を争うゴール前の接戦など、見どころはいくつもあります。まずは決勝進出に向けて、日本から世界に漕ぎ出す4選手。白熱のレースは見逃せません。

 

取材・文=小堀真子 撮影=真名子

環境に配慮したサステナブル素材を使用! レイメイ藤井、少し大人の新シリーズ「Kept Standard Label」を展開

レイメイ藤井は、“シンプルだけどなんかいい。”をコンセブトに、環境配慮の素材を使用した文房具ブランド「Kept Standard Label」を、8月中旬に発売します。

↑Kept Standard Label

 

Kept Standard Labelは、ハイブリッドワークやエシカル消費など人々の考え方や暮らし方が変化しているなかで、今の暮らしに合った新しいスタンダードアイテムを提案。ステーショナリーブランド「Kept」は1989年に誕生し、ペンケースやバインダー、ブックバンドなどを展開しており、Keptという名前には「いつの時代も、自分の正直な気持ちを持ち続けてほしい」という気持ちが込められています。

↑ミニマルペンケース

 

今回発売となるのは、「ミニマルペンケース」「フラグメントケース」「ガジェットケースM」「ガジェットケースL」「マウスパッドバインダー」「スマホショルダー」の6種類。

↑フラグメントケース

 

製品の素材として、裏地にはペットボトルを原料とする再生ポリエステルを使用。REACH SVHC 第31次241物質に対応した合成皮革や、塩素を含んでおらず、ダイオキシンなどの有害物質が発生しないEVA樹脂も採用されています。製品の梱包材(紙タグ・ロックス)には、環境に配慮した素材を使用しています。

↑ガジェットケースL

 

【ギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

 

ミニマルペンケース

■カラー:クリスピースカイ/ローズミスト/サンドベージュ/ムーングレー

■価格:1400円(税別)

 

フラグメントケース

■カラー:クリスピースカイ/ローズミスト/サンドベージュ/ムーングレー

■価格:2400円(税別)

 

ガジェットケースM

■カラー:クリスピースカイ/ローズミスト/サンドベージュ/ムーングレー

■価格:2200円(税別)

 

ガジェットケースL

■カラー:クリスピースカイ/サンドベージュ

■サイズ:W310×H215×D20mmまで(13インチ対応)

■価格:4000円(税別)

 

マウスパッドバインダー

■カラー:クリスピースカイ/サンドベージュ

■サイズ:A5サイズ対応

■価格:1800円(税別)

 

スマホショルダー

■カラー:クリスピースカイ/サンドベージュ

■価格:3200円(税別)

扇子もトランプも右利き用に作られていた!左利きにも優しいユニバーサルデザインの日用品

8月13日は左利きの日。1992年にイギリスで、”誰もが安全に使える道具の製造”をメーカーに唱えたのが始まりとされています。逆説的に考えれば、これまでのほとんどの文房具や調理器具などの日用品は、右利きを前提として作られていたということになります。しかし、最近では左利き用はもちろん、力の弱い人など誰でも快適に使えるよう配慮された「ユニバーサルデザイン」の道具が増え始めています。

 

そんな中、2018年の”左利きの日”から、左利き用、ユニバーサルデザイン双方の道具を専門的に取り扱っているウェブショップが「左ききの道具店」です。同店の店長である加藤礼さんに、使いやすくてデザインも素敵なおすすめアイテムを教えていただきました。

 

右利きと同じように
デザインもカラーも、使い勝手も選べたら

店長を務める加藤さんは、左利き。もっと正確にいうと、左利き寄りの“クロスドミナンス”です。クロスドミナンスとは、用途によって左右の手を使い分ける人のこと。加藤さんの場合は、お箸とハサミを扱う際だけ右手だそう。

 

そんな加藤さんには、店舗を始めるきっかけにもなった、”ずっと感じていた思い”がありました。それは、左利き用の商品が”珍しいものや面白いものとして扱われていることへの違和感”でした。

 

「品質やデザイン性が考えられたたくさんの道具がある中で、これまでは左利きというと、途端に面白グッズのように扱われてしまい、使い心地がよくなかったり、実用性があまりないようなデザインになっていたりすることがときにあったように思います。そんな道具を見つけてしまうと、ちょっぴり残念な気持ちといいますか、モヤモヤすることがありました。
左ききの道具店では、本当に使いたくなるような商品を提供したいと思っています。道具として優れた品質かつ長く愛用したくなるデザイン、という軸を持って商品をセレクトしています」(左ききの道具店店長・加藤 礼さん、以下同)。

 

左きき用を中心に、ユニバーサルデザインのアイテムも積極的に取り揃えているという加藤さん。

 

「お付き合いのあるメーカーさまとお打ち合わせしている際にも、年々、ユニバーサルデザインへの意識は高まっていると感じます。これといったエピソードはありませんが、むしろ話の端々に自然と感じられ、価値観が浸透していると言えるのではないでしょうか」

 

おしゃれで使いやすい!
左利き用のアイテム

手帳にはじまり、ペンやハサミ、パン切りナイフ、トランプまで、左利きの人にとって使いやすく、おしゃれなデザインのアイテムをセレクトしていただきました。あると毎日がちょっとうれしくなる、そんなラインナップです。

 

・左手で書く人のためにつくった手帳

HIDARI「左ききの手帳2024」
3300 円(税込)

左ききの道具店オリジナルブランドの「HIDARI」から登場。日付が右上に表示されたり、開き方が逆になっていたり、左利きの人に使いやすいよう工夫されています。この手帳は、加藤さんの「左ききの手帳を作りたい」というTwitterでの投稿をきっかけに生まれました。カラーバリエーションも豊富で、毎年人気の色が変わります。※2025年版は2024年9月発売予定

 

「手帳メーカーさんと打合せを重ねながら、左利きの人が使いやすいように工夫を凝らしました。おかげさまで好評いただき、今年で販売してから5年目となります。なかでもネイビーは、お仕事で使われるお客さまを中心に不動の人気です。左利きのアイテムはカラーバリエーションが少ない……そんな悲しい思いをしてほしくなくて、5色展開にしています」

 

・もうペン先を引っ掛けない、さらさら書ける万年筆

Schneider「万年筆〈Base〉左手用」
2640円(税込)

左利きでも気持ちよく書ける万年筆。「普段使いの文具」をモットーとする創業80年を超えるドイツの筆記具ブランド「Schneider」(シュナイダー)のもの。高級すぎず、カジュアル過ぎない見た目で毎日使えます。ペン先の太さは中字。ちょっとしたメモやノートを取る際に重宝します。シーズンカラー 全3色。

 

「左利きの人って持ち方が個性的なことが多いので、ペン先がちょっと引っかかりやすいと悩まれる人はけっこういらっしゃいます。そういった場合でも問題ないようにペン先に加工がされているのでスラスラ書けますよ。ペン先には耐久性に優れたイリジウムという金属を使用しているので、左利き特有の“押し書き”にも耐えられます」

 

・分解して洗えるから衛生的!左利き用キッチンバサミ

サンクラフト「分解して洗える左手用キッチンバサミ」
3300 円 (税込)

「紙や紐などを切る普通のハサミなら右手用ので間に合わせてしまう」という人も、分厚いお肉やビニールのパッケージとなると、上手に切れないことも多いはず。そんなときに重宝するのが、左手用キッチンバサミ。しかも分解して洗えるので衛生的です。

 

「左利き用のキッチンバサミはこれまでにもあったアイテムなのですが、分解して洗えるタイプというのがかなり少ないんです。オンラインショップを中心に運営している私たちですが、実店舗が岐阜県各務原市にあり、隣には関市という日本刀などの刃物製造で大変有名な地域があるんですが、そこでキッチン用品を手がけるメーカー・サンクラフトさんと共同開発した自信作です」

 

・3種類の刃でどんなパンもスッと切れるパン切り包丁

サンクラフト「パン切りナイフ〈せせらぎ〉/左手用」
5500円(税込)

左手用に刃つけされたパン切りナイフ。パン切り包丁の波刃は、出刃包丁と同じ片刃なので、右手用を左手で使うと斜めにそれてしまうことがあります。このナイフならまっすぐに切れます。

 

「キッチンバサミと同じメーカーさんのアイテムです。刃付けが左という特徴のほか、なんといっても、3種類の刃であることが美点。持ち手に近い方から小波(細かい刃)、大波(荒い刃)、ストレート刃(先端)と分かれているので、ふわふわ系からハード系まで用途に合わせて使い分けることできれいにカットできます」

 

・無理なく気持ちよくあおげる、左利き用の扇子

HIDARI「左ききの扇子(BUTTERFLY)/左手用」
3600円(税込)

骨の重なりが一般的な右利き用の扇子と逆になっていることで、左手で開きやすいのはもちろん、だんだん閉じてくることなく楽にあおげます。グレーと黄色のカジュアルなチェック柄はオリジナル。普段着にも合わせやすいので、扇子デビューにもぴったりです。

 

「扇子って本当によくできているなと思うのが、持ったときに開いた状態を自然にキープできるような作りになっているところです。ただほとんどの扇子が右利き用に作られているので、左利きが使うとあおいでいるうちにだんだん閉じてきてしまうんですね。これは構造上の問題であってけっして自分が不器用なわけではない、と気づくきっかけになるアイテムのひとつです」

 

左右兼用で誰とでもシェア!
ユニバーサルデザインのアイテム

左利き、右利き関係なく使える、誰にでも優しい設計なのがユニバーサルデザイン。つづいて、自分で、恋人や友達、家族とみんなでシェアして楽しい、見た目もすてきなアイテムをセレクトしてもらいました。

 

・左利きのお悩みNo.1! 一度使ったら手放せないレードル

一菱金属「すくいやすく注ぎやすいレードル/左右兼用」
2090円(税込)

一般的な横口のしずく型スープレードルは、右手で使うことだけが想定された形なので、左手で使うときわめて使いづらいのが難点。このアイテムは、注ぎ口が両側にあるのでどちらの手でも注ぎやすいのが魅力です。ステンレス製でさびにくく、食洗器OKでお手入れも簡単。

 

「左利きさんのお悩み選手権があったとしたら、おそらく1位に登場するであろうアイテムなのがレードル。このアイテムは、イチョウの葉のような左右均等の形。どちらでもっても、汁がこぼれにくく、なおかつ尖った葉先で具をしっかりキャッチしてくれる優れもの。左利きのシェフが監修されたようですよ」

 

・あるようでなかった理想の定規

HIDARI「HIDARI 15cm定規/左右兼用」
330円(税込)

左利き用と右利き用双方の目盛りが定規の表面に設置されているのが特徴の定規。さらに目盛りの0(ゼロ)は定規の端から始まるようにデザインしたことで、使い勝手をよくしています。長さは15cm。ペンケースにもちょうどいいサイズです。全4色。

 

「左右両用の定規というのは、実はめずらしくないのですが、左利き用だけ目盛りが小さかったり、裏面に配置されていたりする場合が多いのも事実。左利きとして理想の定規を作ってみたくて出来上がったのがこのアイテムです。目盛りの0が端から始まっていると、深さなどを計る時にも何気に便利なんですよ」

 

・レトロポップなカラーがかわいい左右兼用巻き取りメジャー

HIDARI「ユニバーサルメジャー/左右兼用」
1430円(税込)

表は「左利き用」、裏は「右利き用」の目盛りがプリントされている巻き取りメジャー。どちらの手で引いても目盛りが見える快適設計です。カラーは、ブラック・ターコイズブルー・ピンク・オレンジ・イエローの5色展開で、選べる楽しみがあるところも魅力です。

 

「基本的には一般的なメジャーは右手で本体を持って使うというような設計になっているので、左手で持って使おうとすると、数字が逆さになってしまうので使いづらいんです。このアイテムは、両面に目盛りを印刷しました。テープの色も、左利きは白、右利きは黄色と、一目でわかるようにしています」

 

・狙った量のバターが取れる! 左右兼用のバターナイフ

燕振興工業「ステンレス バターナイフ/左右兼用」
770 円 (税込)

ハンドル部分にほどよい角度が付いたバターナイフ。ナイフの形も左右対称なので、どちらからでも切ったり塗ったりしやすいのが利点です。先端が鋭角なので、固いバターを切り出すときもスムーズ。食洗機も使えます。

 

「そういうものだと思って使っていらっしゃる左利きの方も多いかもしれませんが、一般的なバターナイフの形は右手用にできていることが多いです。こちらは左右対称なのでどちらの手でも気持ちよくバターを塗っていただけますよ」

 

・使いやすくてかわいい! 葉っぱ型のトランプ

KIKKERLAND「どちらの手でも見やすい 葉っぱのトランプ/左右兼用」
1650 円 (税込)

実は知られていないのが、トランプが右利き用に作られているということ。一般的には、左上隅と右下隅にマークと数字が入っていることが多いので、左手で扇形に広げて持つと隠れてしまいがち。葉っぱ型のこのトランプは葉先にマークと数字が配置されているので、どちらの手で持っても見やすくなっています。

 

「使いやすいのはもちろんのこと、子どもが持っている姿がとてもかわいい! 男性にも人気です」

 

今後は、オリジナル商品の拡充や海外展開にも力を入れていきたいという加藤さん。岐阜県各務原市にある実店舗には、遠方から来店されるお客さまもいらっしゃるとのこと。日を重ねるごとに増えていく魅力的なアイテムに目が離せません。

 

Profile

「左ききの道具店」店長 / 加藤礼

ショップの発案者で自身も左利き寄りのクロスドミナンス。左利き用の道具をメインに、ユニバーサルデザインの道具も扱うほか、品質・デザインにすぐれた道具をセレクトしています。文房具好きを生かした「左ききの手帳」をはじめとしたオリジナルアイテムも開発しています。
左ききの道具店オンラインショップ

おろし金が花瓶に?ミニブーケを最後まで楽しみきる!フラワーロスを出さない選び方と飾り方

春になると街やお店のいたるところに花があふれ、自宅でも玄関やリビングに花を飾りたくなります。ただし、自分で花を選んでコーディネートするとなると、センスに自信がない……そんなニーズから、あらかじめミニブーケに仕立てて店頭で販売されるのが、いまでは当たり前になりました。1000円前後の手ごろな価格で販売されているミニブーケは、季節の花が取り入れられ、彩りもバランスよくまとまっているので、花やカラーコーディネートに詳しくなくても手軽に取り入れられるアイテム。

 

では、このミニブーケをどう選び、家でどう飾ればいい? さらに長持ちさせるには? 「ロスフラワー」を提唱する株式会社RIN代表取締役の河島春佳さんに教えていただきました。

 

花一輪で部屋は変わる! 花と花器の選び方と飾り方をフローリストが解説

 

 

花も“サステナブル”がトレンドの時代

 

サステナブルを重視する考え方が広がり、花を扱うお店やオンラインストアでも「いまある花を、ある分だけ」売り切るスタイルがトレンド。買う側が一本ずつ選ぶのではなく、生花店が仕入れ状況によって売りたい花をアレンジし、ミニブーケにして販売するなど、サステナブルにつながる販売方法も注目されています。

 

「ほかにも、最近は売れ残った花をドライフラワーにして販売するお花屋さんを見かけるようになりました。また従来、花は生産者から農協、仲卸を通してお花屋さんで販売するのが一般的でしたが、コロナ禍で一時的に花の流通が少なくなる問題が起こったことを発端に、生産者自らがインターネットを通して販売する形態も最近目立っています」(株式会社RIN代表取締役 河島春佳さん、以下同)

 

生産者がインターネットで販売することで産地直送のフレッシュな花が届くので、消費者としてもうれしい変化です。一方、消費者側の変化については、サステナブルに意識を向ける人が増えたそう。これにより、「ロスフラワー」についての認知度も上がっているようです。

 

「ロスフラワーとは、さまざまな事情で捨てられてしまう花のことです。以前は花好きの人たちにしか知られていない言葉でしたが、コロナ禍を経た2023年に日本人1000人にアンケート調査を行ったところ、認知度は50%に上ったという調査結果もあります」

 

ロスフラワーについて語る河島さん。

 

河島さんたちは、ロスフラワーを回収し、「フラワーサイクルマルシェ」という名前で、オフラインとECサイトを通してロスフラワーを販売する取り組みをされています。

 

「茎が曲がってしまうなど生産段階で流通できない花や、仲卸で売れ残ってしまった花、イベントで1度しか使われずに捨てられてしまう花などを回収し、ロスフラワーとして販売しています。
実は身近なところでロスフラワーは手に入るんです。例えば、スーパーに売られている見切り品になってしまった花など、売れ残りの花を見かけることがあると思います。また、閉店間際のお花屋さんにもロスフラワーに近い、入荷から時間が経った廃棄間際の花があります。お花屋さんで見切り品を販売していたり、店舗の片隅でひっそりと置かれた花を見つけたりした時は、その背景を聞き、花の状態を理解した上で購入することも一つの方法ですね。お店のブランディングなどで見切り品を売りづらいお花屋さんも多いと思うので、すごく喜んでくれるはずです」

 

廃棄花“ロスフラワー”は無くせる!フラワーサイクリストが教えるドライフラワーの作り方

 

長く楽しむための、
花選びのポイントとは?

 

長く花を楽しむために、選ぶ時点からポイントはあるのでしょうか? 2段階で教えていただきました。

 

1.素直に“飾りたい”花を選ぶ

「まずは率直に、ご自身が好きな花やピンときた花、かわいいなと思った花を選んでみてください。花は本当に“癒し”だと思うので、自分が癒されるものやときめくものを選ぶことが大切です」

 

2.長持ちする種類を選ぶ

「さらに『長く楽しむ』という観点で加えるのであれば、花の種類に着目してみてください。春の花なら、カーネーションは比較的長持ちします。ドライフラワーにする場合も、カーネーションであれば花が開ききるまで楽しんで、それから吊るして乾燥させることで、美しいドライフラワーに仕上がりますよ」

 

カーネーションのほかに、長く楽しめる春の花は?

 

カスミソウは長持ちしてくれます。あとは、バラシャクヤクも花が開ききるまで生花として飾り、そのあとドライフラワーにすることで長く楽しめますね」

 

河島さんがパリのマルシェを訪れた時の一枚。

 

種類によって差はあるものの、大体の花は日持ちが1週間程度だそう。この1週間のサイクルを活用して、ヨーロッパでは毎週末に花を買う習慣が根付いているそうです。

 

「ヨーロッパでは、毎週末マルシェに行き、チーズとパン、肉、野菜を買うついでに花を買う文化があります。買い物リストの中に花がある、という感じですね。自宅に持ち帰ると、部屋ごとに花を飾ります。『リビングには季節感のある花を飾って、寝室には落ち着いた色の花、子ども部屋には明るい色の花を飾ろう』という具合です。ヨーロッパだけでなく、アメリカでも花を飾る家は多いですね。違いは、マルシェではなくスーパーで花を買う点でしょうか。アメリカは車社会の国なので、車で大型スーパーに行って食材といっしょに花も買う、というイメージです。アメリカを訪れた際、スーパーの入り口に比較的広いスペースで花が売られているのを見て、アメリカでも花を飾ることが日常なのだなと実感しました」

 

花を長持ちさせるためには心がけたい
日々のお手入れ

 

買った花を長く大切にするために、こまめにお世話することもロスフラワーへの取り組みの一つです。河島さんに、花を長持ちさせるポイントをうかがいました。

 

・毎日水替えをする

「毎日水を変えてあげるだけで、日持ちがとてもよくなります。これだけで全然違いますよ。あとは、水換えをする時に茎も一緒に洗ってあげてください。花を水につけていると、茎にぬめりが出てきてしまうことがありますが、これはバクテリアが付着しているからなんです。長ねぎを洗う要領で、ぬめりがなくなるまでしっかりと洗うことがポイントです。洗った後に、茎の先を1~2cm切る『切り戻し』を行うことで、再び水を吸い上げてくれます

 

・水替えの際に花瓶も洗う

花を挿す花瓶も清潔に保つことが大切だそう。

 

「花瓶にもバクテリアが付いてしまうので、水換えの時に花瓶も洗うとさらによいですね。ポイントとしては、食器用洗剤で泡立てながらゴシゴシと洗うこと。洗剤が殺菌してくれるのできれいな状態が保てるんです。一輪挿しなど口が細いものは、水筒を洗うようなブラシを使うとよいと思います」

 

・部屋の涼しい場所に置く

「花は野菜と一緒で、涼しい方が喜びます。ですが、冷蔵庫に入れるわけにはいかないので、部屋のなるべく涼しい場所に置いてあげてください。暖房の下に置いたり、暖房の風を当てたりしないように気を付けましょう。あとは、直射日光が当たらない、明るい場所に置いてみてください。光の加減で花びらが透き通って見え、花の美しさがよりわかって楽しめますよ」

 

・枯れ始めてきたらお手入れする

「たとえばバラのような花びらが層になっている花であれば、茶色くなってしまった外側の花びらを1枚取り除いてあげることで、きれいな見た目に戻ります。これを私たちは『お掃除する』と呼んでいるんです。葉っぱも茶色い部分だけハサミで切ってきれいにしてあげるといいですね。花1本1本を大切にしてあげることで、思っていた以上に美しい状態が長く続きますよ」

 

ドライフラワー作りのコツと意外なNGとは? ハンギング法で「ナチュラルドライフラワー」を作る方法

 

小さなブーケを
もっと楽しむための飾り方

ミニブーケはそのまま花瓶に飾るだけでも美しいですが、いつもと違った飾り方で楽しみたい時のアレンジ方法をうかがいました。

 

・空き瓶を活用してみる

「花の色や形に合わせて花瓶を変えるのも、花の楽しみ方の一つです。アンティークショップで販売している空き瓶は、ミニブーケの花の背丈にぴったりのものが多くておすすめです」

 

ブーケから一輪取り、アンティークの空き瓶に入れるおしゃれなアレンジ。

 

「ほかにも、自宅にあるものを使って素敵に飾ることができます。たとえば、ラベルがかわいいワインボトルやビール瓶の空き瓶を取っておき、一輪挿しにするとおしゃれに見えます。ワインボトルの場合、ミニブーケの花だと背丈が足りないかもしれませんが、背の高い花を一輪購入した際に活用すると格好よく飾れます。シックなインテリアのお部屋にも合いますよ」

 

RINで取り扱っているロスフラワーのチューリップをワインボトルに。

 

・自宅にある“意外なもの”で生けてみる

「ちょっと変わったものですと、プラスチックのおろし器も活用できます。おろし器の穴の中に一輪ずつ挿して生けてみると、面白いアレンジに仕上がります」

 

水を入れたおろし器の穴の中に一輪ずつ挿していくと……。

 

おろし器を使っているとは思えない、素敵なアレンジに!

 

「ほかにもお子さんがいらっしゃるご家庭であれば、サイズアップしてしまった小さな長靴を花瓶にしてもかわいいと思います。長靴には生花だけでなく、ドライフラワーを飾っても素敵なインテリアになります」

 

・小さくなった花をお皿に入れてみる

「切り戻しをしていくことで、花もだんだん小さくなっていくと思います。そんな時に使えるのが小さめの器です。花瓶に挿せないほど小さくなってしまっても、捨てずに小皿に浮かべたりして、最後まで楽しんでみてください」

 

小さめの器に入れ替えた花。テーブルにちょこんと置いておくだけで癒されます。

 

ボタニカルデザイナーに教わる、初心者がセンスある「ハーバリウム」を手作りする方法

 

フラワーサイクルアートで、
花を最後まで楽しみきる

 

花を最後まで楽しみ切る方法として河島さんが提唱されている「フラワーサイクルアート」についても教えていただきました。

 

「『フラワーサイクルアート』のコンセプトは、生花として楽しんだあと、ドライフラワーや押し花を作り、最後はアートにして楽しむこと。最後の最後まで花を楽しみ切るための方法です。ドライフラワーも、生花をそのまま乾燥させてドライにしてもよいですが、しばらくすると退色してしまいます。そこで、退色防止効果のある染色剤を使うのがおすすめです。
水の代わりに染色剤を花瓶に入れ、そのまま花を生けると、茎から染色剤を吸い上げて花びらが少しずつ着色されていきます。花を着色することでドライにした時の色抜けが遅くなるため、より長く楽しむことができるのです。染色剤には赤や青、黄色などさまざまな色があるので、自分好みの色のドライフラワーに仕上がります」

 

染色剤を切り花に吸わせることで、徐々に色が付いていきます。

 

小さなブーケを自宅に迎えたら大切にお手入れし、自分らしいアレンジを加えながら、花との暮らしを楽しんでみてください。

 

 

Profile


フラワーサイクリスト / 河島春佳

株式会社RIN代表取締役。生花店で短期アルバイトをしていた時、廃棄になる花の多さにショックを受けたことから、フラワーサイクリストとしての活動を始める。2019年に創業した株式会社RINでは、ロスフラワーを回収し、ECサイト及び出張販売を行う「フラワーサイクルマルシェ」で花を販売するほか、空間装飾、スクール事業などを展開。農林水産省との取り組み「花いっぱいプロジェクト」にも掲載され、生産者と消費者の架け橋にもなる。ロスフラワーを活用するとともに、ロスフラワーへの認知を広める活動を行っている。

 

※「フラワーサイクリスト」「ロスフラワー」は株式会社RINの登録商標です。

 

 

河島さんの著書『おうちでフラワーサイクルアート』(光文社)には、生花からドライフラワー、押し花まで、花を長く楽しむためのノウハウがぎっしり。ドライフラワーを作ってみたい人は、新著の『染色ドライフラワー図鑑』(X-Knowledge)を参考に。

3月8日の“国際女性デー”に知りたい、世界の女性を取り巻く現実と日本のジェンダーギャップ指数が低い理由

毎年3月8日は「国際女性デー」。日本では数年前からメディアでも取り上げられたり、イベントが行われたりするようになりました。この日にミモザを贈るイタリアの風習にならい、ミモザをシンボルにして国際女性デーが紹介されることも。とはいっても、その名称から「女性のための日」というのは何となくわかるものの、実際はどのような意味を持ち、何をする日なのかを理解している人はまだまだ少ないかもしれません。

 

国際女性デーとはどんな日なのでしょうか? UN Women(国連女性機関)の日本事務所に、その歴史やこの日が持つ意義についてうかがいました。

 

先人たちが積み上げた
国際女性デーの歴史とは?

 

国際女性デーとは、いつ誕生し、どんな歴史を持つ日なのでしょうか?

 

「国際女性デーとは、女性が達成してきた成果を認識する日です。歴史を辿ると、20世紀初頭に北米とヨーロッパで行われ始めた労働者運動が発端とされています。労働者運動の流れを受け、1909年にアメリカ・ニューヨークで女性縫製労働者よる労働条件の改善や賃上げを訴えるストライキが起こりました。女性たちが主体となって声を上げたことが称えられ、同年の2月28日を『全米女性の日』とし、初めて記念行事が行われました。1910年には国際組織である『社会主義インターナショナル』が女性の権利を求める運動に敬意を表し、デンマークで行われた会合で『女性の日』を制定。翌年1911年3月19日に初めて『国際女性デー』の記念行事が行われたのです」(UN Women 日本事務所広報、以下同)

 

100年以上も前から女性たちによる抗議や改革のための運動が起こり、その勇気ある行動が称えられ、次第に認められるようになっていきました。ではいつから、国際女性デーは3月8日となったのでしょうか?

 

「1913年~1914年の第一次世界大戦中、ロシアの女性が戦争に反対する平和運動の一環として、国際女性デーの記念行事を行いました。開催されたのは2月の最終日曜日。現在多くの国で採用されているグレゴリオ暦でいうと3月8日にあたります。ロシアの女性は1917年2月の最終日曜日に、再び抗議とストライキを決行。ロシア革命で知られる『パンと平和』を求めた行動でした」

 

それから年月を経て、国際婦人年にあたる1975年に国連が3月8日を『国際女性デー』と定めたのです。

 

「歴史としてまとめると端的ではありますが、私たちの大先輩である女性たちが勇気を持って行動を起こしてきたからこそ、今の私たちがあります。国際女性デーは、女性の権利を獲得してきた先人たちを称える日として設けられたのです」

 

日本における
国際女性デーの存在感

 

日本においても、明治・大正時代に起こった「女性解放運動」をはじめとする女性による改革運動が行われてきました。現在私たちが社会的権利や参政権を持ち、社会参画できるようになったのも、先人たちが行動を起こしてきたおかげです。ですが、日本で国際女性デーを耳にするようになったのは比較的近年のように感じます。日本が国際女性デーを意識するようになったのはいつ頃からなのでしょうか?

 

「日本で大々的にイベントなどが実施されるようになったのは比較的最近のこと。国連のイベントで言うと、1995年に中国・北京で『第4回世界女性会議』が開かれ、この会議から15周年目にあたる2010年に、日本の国連諸機関が『国際女性の日2010 国連公開シンポジウム』を開催しました。日本社会の男女格差の課題や、企業等の取り組みをシンポジウムで紹介し、日本社会でのジェンダー平等に向け、これまでの進展とこれからの課題を議論した大きなイベントとなりました」

 

この頃から次第にメディアを通し、少しずつ国際女性デーが世間に伝えられるようになったそう。

 

「最近は国際女性デーのためのイベントも各地で行われていますよね。日本でジェンダー平等に向けた取り組みが増えてきていることと連動して、国際女性デーの認知度も高まってきているのではないでしょうか」

 

世界各地で行われる
国際女性デーのイベントは?

今では国際女性デーのイベントが世界中で行われています。世界各国ではこの日をどのように過ごしているのでしょうか?

 

「UN Womenの各国事務所が主催したイベント事例をあげると、メキシコではジェンダー平等のためのマラソン大会が開かれており、2023年に開催した際は参加者が3万6000人におよぶ大規模なイベントになったと聞いています」

 

2023年(左)に、メキシコで開かれたマラソン大会の参加者たち。コロナ禍前の2019年(右)にも大規模に開催されました。

 

「コロンビアでは2023年に、UN Women事務所がドキュメンタリー映画を作りました。女性たちによる権利向上を求める運動がどのように行われてきたのかについて、当時の葛藤や課題などが彼女たちの言葉で力強く語られている内容です。国際女性デー当日には映画の上映会が行われました。
こうしたイベントが行われることで、『ジェンダー平等を前進させよう』という結束力も生まれますし、意思を表明する場にもなりますよね。女性だけでなく、男性やほかのジェンダーの方にも参加してもらうことで、より大きなメッセージ性が生まれると思っています」

 

女性と少女たちを守るために
UN Womenが取り組んでいること

世界では男女格差による問題がまだまだ存在しています。現在どのようなことが問題視されているのかを、UN Womenの活動とともに紹介します。

 

「UN Womenは、『ジェンダー平等と女性のエンパワーメント(=力を引き出すこと)』を推進していくための機関です。女性や少女が必要とする支援は、男性とはまた違ったニーズがあり、どうしても見落とされがちです。私たちはそうしたニーズがしっかりと満たされるための取り組みや支援を行っています」

 

支援については、次の4つの優先的な柱が定められています。

1.公共スペースにおけるガバナンスと参画

「政治や経済をはじめとする多くの分野や場面において、女性リーダーや女性の参画が少ない現状を好転させ、女性がリーダーシップに参画できるよう取り組んでいます。例えば、女性が選挙に立候補するために必要なスキルを身につけることを目的としたプログラムなどを行っています」

 

2.女性の経済的エンパワーメント

「女性は経営者として、従業員として、家庭での無償ケア労働の担い手として、経済に大きく貢献しています。しかし、ジェンダー不平等により、不安定な、あるいは低賃金な仕事に就かざるを得ない状況や、リーダー的役割のポジションに就くことができないといった状況も生まれています。こうした現状から、働き甲斐のある仕事で経済的な自立を実現すること(=ディーセントワーク)をサポートしています」

 

3.女性と少女に対する暴力の撤廃

「暴力について、私たちは特に大きな問題として捉えています。親密なパートナーから受ける暴力などは、開発途上国だけでなく日本でも問題になっていることです。
毎年11月25日(女性に対する暴力撤廃の国際デー)~12月10日(人権デー)までをジェンダーに基づく暴力に反対する16日間とし、各市民団体などとともに暴力撤廃に向けた活動を行っています」

 

4.持続可能な平和とレジリエンスの構築に、女性と少女が関与・貢献する

「レジリエンスとは、『ショックがあったときに耐えうる強靭性を身に付けていくこと』を指します。自然災害の復興や紛争の予防、人道的活動といった平和構築の場において、女性が主体者として入っていくことで、女性の視点が反映された形で平和や安全保障が実現できるようサポートしています。
自然災害時の女性特有の課題である、生理時の対応や性被害については、日本でも話題に上ることです。そこには、災害時やその直後の避難時において、意思決定や取りまとめを行う場に女性が入っていないことが想像されます。意思決定の場に女性が入っていくことで、女性ならではの考えや悩み、課題が反映されていくはずです。これは女性だけでなく、障がいを持つ方、LGBTQの方、多様な人たちの参画が必要だと考えています」

 

被災した女性や少女に向けてディグニティキットを届ける支援も。キットの中には、生理用品や下着のほか、石けん、歯ブラシ、歯磨き粉、懐中電灯などが入っています。(C)UN Women

 

ジェンダー平等において話題になる
ジェンダーギャップ指数とは?

ジェンダー平等とは、国連で定められた「持続可能な開発目標:SDGs」の5つ目の目標です。ジェンダー平等を語るとき、世界経済フォーラムが発表している「ジェンダーギャップ指数」が話題になります。これは、各国の政治、経済、教育、健康の4つのカテゴリーから見た、男女格差の現状を評価した指数です。2023年の日本の指数は146カ国中125位とかなり低いものに。ここにはどんな原因があるのでしょうか?

 

「UN Womenとしてデータを集めたものではありませんが、客観的に評価を見てみると、教育と健康に関して日本はとても優秀なんです。義務教育をはじめ、教育にはそこまで男女差がないですし、健康寿命も男女ともに高いですよね。問題は政治と経済。政治においては、女性が首相を務めたことはまだないですし、大臣含め、議員における女性の数が少ないという点が問題としてあがってきます。経済もしかりで、CEOの数も管理職の数も女性はまだまだ少ないことが要因です」

 

ただ、日本の企業も変わろうとしている真っ只中にあります。

 

「男性が育児休業を取れるようにしたり、産休・育休明けの女性が職場復帰しやすくしたりと、女性が継続してキャリアを積めるようなシステムや制度が整えられてきているんです。ですが、変えていくにはどうしても時間はかかりますし、周りの理解も必要。今から何ができるかを各企業が考え、取り組み続けることが大切だと思います」

 

女性リーダーの育成と促進のために、UN Womenでは若い女性リーダー向けにワークショップも開催しています。

 

「女性の政治参画が低いという問題は私たちも重大なこととして捉えています。2023年8月、UN Women 日本事務所では『未来女性リーダー育成ワークショップ』を開催しました。15歳~24歳までの参加者30名に向けて、政治経済に関わらず、意思決定の場にどのようにして女性が参画していけるのか、逆にその足かせとなっている要因は何かを考えるという内容です。参加された方からは、『リーダーシップについて自分の意見を語ったり共有し合えたりする場があることがうれしかった』というお声をいただきました。2024年もまた開催できたらと考えています」

 

ワークショップでの様子。大学生や社会人だけでなく、高校生の参加もありました。

 

古くからある習慣を断ち
意識から改革していくために

一昔前の日本では、「男性は一家の大黒柱として働き、女性は家で家事や子育てをする」という考え方が主流でした。ジェンダー平等を達成するためにはこうした伝統的な考え方や構造を変えていく必要があります。

 

「時間も必要ですし、変わろうとする意識も必要ですよね。女性においても『男性のほうができる気がする』ではなく、『自分にもできるんだ』と意識改革することが大切だと考えています」

 

 

アジアだけを見ても、日本以外にも古くからの伝統によってジェンダー平等が進みにくい国は多いのだそう。例えば近年経済成長が著しいインドには、現在も根強い男女格差のしがらみがあると言います。

 

「インドでは、男女の役割がきっちりと決まっていることが多くあります。街中で車を運転している人は大半が男性ですし、家事を手伝ってくれるメイドさんはほぼ女性。貧困のために路上でお花を売っていたり、小さい子どもと外で暮らしていたりする人も見かけますが、女性がとても多い傾向にあります。経済は発展しているけれど、同時に経済格差はどんどん広がっています」

 

そういった現状は、もしかしたらインド国内にいる人にとっては、いまだ “普通のこと” なのかもしれません。

 

「結婚も妊娠も自分で決められず、職業も未来も自由に選べない女性たちもいる。現状で幸せだと感じている一方で、彼女たちも心のどこかで無力さを感じているように思います。そうした彼女たちにこそ、ほかにも選択肢があると気付いてもらうよう支援をすることが、自尊心を持って一歩踏み出すことにつながるのではないかと。まさにエンパワーメントが役立つのです」

 

国際女性デーに
私たちができること

国連が発表した2024年の国際女性デーのテーマは、「女性に投資を。さらに進展させよう。」です。ジェンダー平等を達成させるための重要な課題として、支援するための資金不足があげられています。

 

「新型コロナウイルス感染症の流行、世界各地での紛争、気候変動による災害などの影響、そして二極化する社会など、今まで以上に女性の平等な権利のために行動を起こすことが重要になっています。2017年と比べ、紛争下に身を置く女性は50%も増加。特に紛争下では、女性や少女は影響を受けやすく、性暴力も発生しやすくなります。彼女たちが必要とする支援は、生理・妊娠・授乳に不可欠なヘルスケア、水、衛生施設など多数。ですが現在、年間3600億米ドル、日本円で約51兆円の資金不足という危機的な状況で、早急な対応が必要です。今年の国際女性デーは、この現状をまずは世間に伝えるために呼びかけていく日にしていきます」

 

国際女性デーに向けて、私たちができることはあるのでしょうか?

 

「何かアクションを起こそうと気負わなくても、一日ふと立ち止まり、国際女性デーに思いを馳せるだけでもいいと思います。今どんなことが日本や世界で課題になっているのかを考えてみるだけでも十分なのです」

 

 

国際女性デーに思いを馳せ、世界の課題について考えてみるための方法をいくつか教えていただきました。

 

・国際女性デーの歴史を振り返り、女性がこれまでに歩いてきた道のりを振り返ってみる
国際連合広報センター」のサイトでは、国際女性デーの歴史を紹介しています。

 

・UN Women日本事務所のSNSから、世界各国でどんな問題が起こっているか情報を得てみる
世界の問題をわかりやすく伝えています。「女性の政治家や学者、宇宙飛行士など著名人の言葉も紹介されているので、それらを読んで勇気をもらうのもいいですね」
UN Women 日本事務所公式X
UN Women 日本事務所公式Instagram

 

・各地で開かれている国際女性デーのイベントに参加してみる
UN Women日本事務所では、以下のイベントを予定しています。
国際女性デーシンポジウム
ジェンダー平等の現在とこれから~みんなでデザインする自分色の未来~
「2024年3月8日に、UN Women 日本事務所と事務所がある文京区との共催イベントが行われます。当機関日本事務所長による講演やパネルディスカッション、各団体の活動発表などが行われます。オフラインのみですが、どなたでもご参加いただけるイベントです」

 

「ほかには企業広報やマーケティング担当者に向けて、メディアと広告から有害なステレオタイプ(固定概念)を撤廃することをテーマにしたイベントも予定しております。当機関のイベントだけでなく、各団体がさまざまなイベントを行っていますので、興味を持たれたものがあればぜひ足を運んでみてください」

 

チャリティランやふるさと納税…私たちにもできる慈善活動まとめ

 

一人でも多くの人が国際女性デーの背景を知り、少しでも意識してみることが大切だと感じます。今年の3月8日は、自分にできること、興味を持ったことから目を向けてみませんか。

 

 

Profile

UN Women (国連女性機関)日本事務所
ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための活動を行う、国連機関の一つ。国連加盟国がジェンダー平等を達成することを目指し、国際基準を策定する支援に取り組んでいる。また、世界全域で女性と少女を支援するための法律や政策、プログラム、サービスなどの企画立案を政府や市民社会と協力して行っている。
UN Women Japan 公式サイト

 

チョコやコーヒー、サッカーボールも!フェアトレードの仕組みと生産地で起きていること

コンビニやスーパーなど、身近な店で手軽に購入できる「フェアトレード」商品が増えてきています。とはいえ、その仕組みや基準まで理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。

 

2月14日のバレンタイン・デーでも、フェアトレードによって商品化されたチョコレートが多数店頭に並ぶはず。そこで、国際フェアトレード認証ラベルのライセンス事業などを日本国内で行う「フェアトレード・ラベル・ジャパン」の北戸香那さんに、フェアトレードの基本や現状、私たちはどのように関わればいいのかなどをうかがいました。

 

今年のバレンタインデーにはフェアトレードのチョコレートを!贅沢チョコからスーパーで買えるお手頃チョコまで厳選

 

「フェアトレード」の意味、
認証の基準とは?

まず「フェアトレード」の仕組みや基準から、解説していただきました。

 

「『フェアトレード』とは、直訳すると『公平・公正な取引』という意味です。途上国で生産される原料や製品を輸入者が適正な価格で継続的に買い取ることで、途上国の生産者の生活改善と自立を目指す貿易の仕組みのことを言います」

 

消費者側も公正に取引された商品を認識できるよう、認証ラベルも存在します。

 

「フェアトレードには、途上国の原料や製品が公平な条件で取引されていることを認証する制度『国際フェアトレード認証』があり、認証製品には『国際フェアトレード認証ラベル』がつけられます」(フェアトレード・ラベル・ジャパン 北戸香那さん、以下同)

 

途上国の原料や製品が公平な条件で取引されていることが認められた商品には、「国際フェアトレード認証ラベル」がつけられる。

 

認証を受けるには、国際的に定められた『国際フェアトレード基準』を満たす必要があります。これには3つの側面があるといいます。

1.『環境的基準』

「具体的には、農薬の使用削減と適正使用、土壌・水源・生物多様性の保全などがあります」

2.『社会的基準』

「児童労働や強制労働の禁止、差別の禁止、安全な労働環境が守られているか、などが基準として設けられています」

3.『経済的基準』

「フェアトレードのユニークな点といえるでしょう。これには以下のような基準が設けられています」

 

・最低価格の保証

「買う側が強い立場にあるので、途上国の生産者には輸入業者などの買い取りを行っている業者に対して価格を交渉する力がなく、安く売らざるを得ない状況があります。
そうすると、生産者は低賃金で働かざるを得なくなり、生活水準が低下したり、コストを削減するためにやむを得ず子どもを学校に行かせず児童労働をさせてしまったり、過剰な農薬の使用による環境破壊や、生産者の健康被害が発生してしまうことがあります。このようなことをなくすために、最低価格の保証をし、一定の価格以上で買い取ることを基準に設けています」

また、市場価格の変動にも対応しています。

「製品の市場価格は常に変動するため、市場価格が暴落すると、その分生産者が安く売らざるを得ない状況になってしまいます。そこで製品ごとに最低価格を定めることで、生産者の生活が担保できるようにしています。最低価格は、私たちフェアトレード・ラベル・ジャパンの母体団体であるフェアトレード・インターナショナルで、常に状況を見ながら設定しています」

フェアトレード・プレミアム

これは品物の代金とは別に輸入業者から支払われる資金のことで、日本語では『奨励金』といいます。フェアトレード認証に参加する生産者は協同組合をつくっており、プレミアムはその組合に支払われます。支払われたお金の使い道は、組合の中で民主的に決められ、例えば原料や製品の質を向上させるための設備や機器の購入、地域の開発などに使われています」

 

フェアトレードの認証・ライセンス事業を行うフェアトレード・ラベル・ジャパンでは、こうした『国際フェアトレード基準』にしたがい、国内での認証を行っているそう。

 

チャリティランやふるさと納税…私たちにもできる慈善活動まとめ

 

チョコレートのほかにワインや花も!
フェアトレードの対象品とは?

フェアトレードでは、認証の対象となる産品や、対象国・地域も定められています。チョコレートやコーヒーのイメージが強いフェアトレードですが、ほかにどのような産品があるのでしょうか?

 

「国際フェアトレード認証の対象となっている産品には、下記のようなものがあります。大きな割合を占めるのはコーヒーですが、カカオやコットン製品も増えており、産品の種類は多岐にわたります」

 

【食品】
・コーヒー
・紅茶
・カカオ
・スパイス・ハーブ
・生鮮果物(バナナ、りんご、アボカド、ココナッツ、レモンなど)
・加工果物(ドライフルーツ、フルーツジュースなど)
・ワイン
・オイルシード・油脂果物
など

【食品以外】
・コットン
・花(バラ、カーネーションなど)
・サッカーボール
など

 

「またフェアトレード認証の対象となる国や地域は、国民一人当たりの収入レベルや経済格差などを考慮した上で定められています。主な地域はラテンアメリカ・カリブ海地域、アフリカ・中近東地域、アジア・太平洋地域。フェアトレードに参加する生産者は2021年時点で200万人以上となっており、年々増加しています」

途上国の生産者は
なぜ弱い立場に置かれてきたのか?

国際的な基準にもとづいて認証されるフェアトレードですが、そもそもなぜこのような仕組みが必要なのでしょうか? その背景についてもうかがいました。

 

「お伝えしたように、フェアトレードは世界の貿易構造の中で弱い立場にある生産者が、公平な取引をできるようにするためにあるものです。その背景には、途上国の生産者は、価格交渉の場面で立場が弱く、安い価格で売らざるを得なかったり、正当な対価が支払われなかったりすることがあります。
そして元をたどれば、私たち消費者が安いものを求めすぎていることも要因の一つです。皆さんもスーパーに行った時に高いよりは安い方が良いと思って商品を選ぶことがあると思いますが、実はその行動が、回り回って途上国の生産者を苦しめている可能性があるのです」

何が変わる?
フェアトレードのメリットと可能性

「認証の基準には、先述のとおり環境・社会・経済の3つの側面があります。そのためフェアトレードは、開発途上国の社会課題や環境課題といったサプライチェーン上のさまざまな課題の解決にもつながります。例えば、課題の一つとして挙げられるのが児童労働です。原料や製品を安く売らざるを得ない生産者は、人を雇うことができず、子どもを働かせるしかありません。今現在も、世界の子どもの10人に1人は学校に通えず、働かざるを得ない状況にあると言われています。
また生産性を上げたり安く作ったりするために農薬を使用することは、環境破壊にもつながってしまいます。さらに近年は気候変動の影響も深刻で、例えばアラビカ種のコーヒー豆の栽培地の面積は2050年には50%減少するとも言われています」

 

逆に、フェアトレードがなければ今後、どんなデメリットが?

 

「私たちが今当たり前に手に取っている商品が将来なくなってしまう可能性もゼロではありません。フェアトレードは、生産者が搾取されない仕組みであることに加え、サプライチェーン上の課題に取り組むための手段の一つとなっています」

 

エシカルファッションとは? ファッション業界で進むサステナブルな取り組みと私たちができること

 

市場規模が過去最大の伸び率!
日本の現状と問題点は?

続いて、日本国内におけるフェアトレードの現状に目を向けてみましょう。現在、国内のフェアトレード市場は大きく伸びていますが、その理由や今後の課題について教えていただきました。

 

「2022年のフェアトレード認証製品の推計市場規模は、およそ196億円です。これは前年の2021年と比べると24%も増加していて、過去10年で最大の伸び率となっています。私たちフェアトレード・ラベル・ジャパンが設立された1993年当初の市場規模は1億円未満だったことを考えると、この30年間で大きく拡大したと言えます」

資料提供=認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン

 

「その理由はさまざまですが、ここ最近で急拡大した要因は、『SDGs』の考えが広まったことや人権に関する注目度が上がっていることが大きいと思います。今や企業がSDGsに取り組むことは当たり前になり、フェアトレード商品を生産したり取引したりする企業も増えました。その結果、消費者がフェアトレード商品を手に取る機会も以前と比べて増えています。

またフェアトレードは、学校で学ぶ機会が多くあることから世代別では、10代における知名度がもっとも高いことも特徴です。最近は、経済、歴史、地理、英語といったさまざまな教科でフェアトレードが取り上げられています。フェアトレードを知る若い世代が商品を買ってくれていることも、市場拡大の理由の一つになっていると考えられます」

 

国内の市場は拡大し、認知度も上がっているフェアトレード。しかし海外と比べるとまだまだ差があるのが現状だと北戸さんは言います。

 

「例えば、ドイツのフェアトレードの推計市場規模は日本の17倍も大きいというデータや、フェアトレード商品の一人当たり年間購入額が、スイスは12,765円であるのに対し日本は126円と、100倍以上の差があるというデータもあります。どちらも2021年のデータではありますが、とくに欧州とは大きな差があると言えます。

フェアトレードに限りませんが、日本と欧州ではやはり、社会問題や環境問題への意識に差があると感じます」

資料提供=認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン

 

また、意識の差以前に、欧州と比べてフェアトレードを知るきっかけがまだ少ないことも、課題の一つだといいます。

 

「実は日本は、G20諸国の中で2番目に奴隷労働品(児童労働や強制労働によってつくられた商品)を輸入しているというデータもあります。しかし私たちの中に、『奴隷労働品を買いたい』と思って買っている人はおそらくいないはず。自分たちが普段手に取っている商品が生産される背景を想像したり、知ったりする機会を増やすことで、こうした状況も改善されると考えています」

 

欧州では、市場に出回っているフェアトレード商品の数がそもそも多く、フェアトレード商品を集めた棚を設けているスーパーも多くあります。フェアトレードを知るきっかけをつくるには、このように商品の数自体を増やしていくこと、手に取りやすい仕組みを作っていくことも必要でしょう。

 

「現在、国内の企業でもフェアトレード商品を作るところが増えていますが、その一方で『フェアトレード商品は価格が高いので、消費者になかなか買ってもらえない』いう声もよく聞きます。これはとても難しい問題ではあるのですが、フェアトレード商品が増えるほど市場の価格も下がっていくため、企業も消費者もともに意識を変え、行動を起こしていくことが求められると思います」

 

そういった現状に対し、フェアトレード・ラベル・ジャパンではどのように取り組んでいるのでしょうか?

 

「今後もさまざまなイベントやキャンペーンを通してフェアトレードを知ってもらうための活動を行っていくつもりです。また、フェアトレードの成果も積極的に伝えていきたいと考えています。例えば過去に、コートジボワールの農家がフェアトレードに参加したことで、収入が4年で85%増加したというデータがあります。この仕組みによって生活が豊かになった人々がいるということを具体的に伝えていくことで、よりフェアトレードに興味を持ってもらえたり参加してもらえたりする人を増やしていきたいです」

フェアトレードに参加している生産者たち。(c)Christian Nusch (C)Professional

 

フェアトレードに関する取り組みで、
私たちにできること

フェアトレードに関する取り組みで、私たち消費者にできることは何でしょうか? 最後に、北戸さんにアドバイスをいただきました。

 

「生産者にもっとも還元できるアクションは、やはりフェアトレードの認証ラベルがついた商品を買うこと。毎回購入するのが難しい場合は、例えば10回に1回でも良いので選んでいただけたらと思います。なかでも、チョコレートやコーヒーは商品の種類も多く、最初に手に取る商品としておすすめです。

また、買いたくても近くのスーパーに置いていないという時には、『フェアトレードの商品を置いてほしい』と、お店にある意見箱などを通じて声をあげていただきたいです。商品を購入せずともこのアクションはお店にとって大きなインパクトになります。

フェアトレードに関するアクションは『生産者のために』という正義感だけで続けられるものではありません。もちろん、その気持ちが一つのきっかけになることはとても大切です。しかし、手に取ったフェアトレードの商品がおいしかったり、ハッピーな気持ちになれたりと、消費者にとってのメリットも必要だと感じています。今、国内でもフェアトレードの商品は増えていて、素敵な商品がたくさんあります。バレンタインデーを機に、ぜひフェアトレード商品を手に取ってもらえたらと思います」

 

今年のバレンタインデーにはフェアトレードのチョコレートを!贅沢チョコからスーパーで買えるお手頃チョコまで厳選

 

Profile

特定非営利活動法人 フェアトレード・ラベル・ジャパン

国際フェアトレードラベル機構(Fairtrade International)の構成メンバーとして、日本国内で、国際フェアトレード認証ラベルのライセンス事業と製品認証事業、国際フェアトレード認証ラベルの普及推進活動、フェアトレードの教育啓発活動、国際フェアトレードラベル機構事業への参加などを行う。

今年のバレンタインデーにはフェアトレードのチョコレートを!贅沢チョコからスーパーで買えるお手頃チョコまで厳選

日本国内で国際フェアトレード認証ラベルのライセンス事業などを行う「フェアトレード・ラベル・ジャパン」。スタッフの北戸香那さんに、フェアトレードの仕組みやメリット、世界と日本の現状を教えていただきました

 

それらをふまえ、アットリビング編集部がフェアトレードによるチョコレートブランドや商品をピックアップ。今年のバレンタインの参考にしてみてください。

 

チョコやコーヒー、サッカーボールも!フェアトレードの仕組みと生産地で起きていること

 

途上国の原料や製品が公平な条件で取引されていることが認められた商品には、「国際フェアトレード認証ラベル」がつけられる。

 

・華やかなパッケージと上品な味わいが魅力

FRAN’S CHOCOLATES(フランズチョコレート)
「ハートBOXアソートメント 11個入」
7,668円(税込)

 

1982年にアメリカのシアトルで創業した「フランズチョコレート」は、オバマ元米大統領も御用達というチョコレートブランド。厳選された良質なカカオを原料にしており、上品な味わいが楽しめます。バレンタイン限定の商品をはじめ、ギフトにぴったりな商品も多数揃います。

 

・ベルギーの有名ブランドによる“一口サイズ”のチョコバー

Galler(ガレー)
「ナノバー 30個入」
1,944円(税込)

 

1976年に創業した「ガレー」は、ベルギー王室御用達のブランドとしても知られています。バータイプやタブレットタイプのチョコレートのほか、クッキーやアイスクリームといったチョコレート以外の商品も豊富。大容量の個包装タイプのチョコレートは、“ばらまき”にもおすすめです。

 

・ベルギーのチョコブランドとPEANUTSがコラボレーション

Dolfin (ドルファン)
「スヌーピー PEANUTS ナチュラルスタイル ベルジャン スクエア チョコレート缶」
1,296円(税込)

 

ベルギーで1989年から続く「ドルファン」も、ベルギー王室御用達。なかでもバレンタインのおすすめは、PLAZAで購入できるドルファン製のスクエアチョコレートとPEANUTSがコラボした商品。缶の中には、スヌーピーがデザインされた個包装のミルクチョコレートとソルトキャラメルチョコレートが3枚ずつ入っています。

© 2024 Peanuts Worldwide LLC

 

・イオンで買えてカジュアルなギフトにぴったり

イオン
「トップバリュ フェアトレード カカオトリュフ カプチーノ」
298円(税別)

 

トップバリュのフェアトレードチョコレートは、身近なところで手に入れられるのが魅力。中でもイチオシの「フェアトレード カカオトリュフ カプチーノ」は、くちどけが良く、コーヒーのビターな味わいを楽しむことができます。気軽に買えるので、カジュアルなプレゼントとして渡すのはもちろん、家族や自分用にもおすすめです。

 

 

ちょっと贅沢なものから、スーパーや雑貨店で買えるものまで、さまざまな種類があるフェアトレードチョコレート。ぜひお気に入りの商品を探してみてください。

貧困率とフードロスが深刻な日本で「フードバンク」が果たす役割とは?日本と世界の食糧事情と今からできるアクション

日本の相対的貧困率は現在15%を超えており、先進国の中でも高い数字となっています。そうした貧困で栄養が十分に摂取できていない人もいる一方で、食品ロス(フードロス)も深刻な問題。こうした課題を解消する策の一つとして注目されているのが、「フードバンク」です。

 

そこで今回は、食品サプライチェーンや食品ロスを研究している日本女子大学家政学部家政経済学科の小林富雄教授に、日本と世界の食料事情やフードバンクの仕組みと現状、私たちにできることなどをうかがいました。

 

※相対的貧困率とは……その国や地域の水準の中で比較した時に、大多数の人と比べて収入などが少なく、生活が厳しい状態のこと。

 

 

“国内の格差”が深刻になっている

フードバンクについて知る前に、まずは世界や日本の食糧問題の現状について教えていただきましょう。

 

「まず世界の食糧問題を考える上で知っておきたいのが、先進国と途上国の格差から生まれる“南北問題”です。途上国には、自国で消費する作物よりも、商品作物(市場で販売されるために作られる農作物)を作って輸出することで、経済を成り立たせている国が多くあります。そのため、ひとたび干ばつや戦争などが起こると、途端に国内が飢餓状態に陥ってしまうことが問題となっていました。 しかしここ最近、中国や韓国、タイ、マレーシア、インドといったアジアの国々が著しく発展してきたことで、世界を俯瞰して見てみると、南北問題は少しずつ解消する方向へむかっています。とはいえ、アフリカや南米ではまだまだ厳しい状況が続いているのが現状です」(日本女子大学家政学部家政経済学科教授・小林富雄さん、以下同)

 

 

アジアの発展により世界的に是正されつつある南北問題の傍らで、今大きな問題になっているのが“国内の格差”だと小林さんは言います。

 

「“国内の格差”は2000年代中盤から顕著になっており、その要因の一つは世界でIT化が進んだことだと考えられます。GAFA(Google・Apple・Facebook現Meta・Amazonの頭文字をとり、巨大IT企業4社を示す)のような“プラットフォーマー”と呼ばれる企業に多くの利益が集中するようになり、国内の経済格差が世界で広がり始めました。現在の食糧問題の背景には、こうした経済格差の影響が大きいと考えられます。

 

なかでも国内格差が深刻なのが、日本だといいます。 「日本の格差拡大のスピードは、ナンバーワンと言っていいと思います。日本は先進国にも関わらず相対的貧困率が高く、ひとり親世帯の貧困が深刻です。ここまで格差が広がった要因の一つには、日本の産業自体が立ち遅れてきていることがあります。日本では今、世界で戦える企業がそこまで多くありません。そもそも日本は人口が1.2億人いるため、国内でナンバーワンになるとそこそこ大きな規模の企業になってしまうのですが、何十億もの人を相手に戦うグローバル企業と比べると、売り上げは1桁も2桁も変わってきます。また、最近は大企業を中心に従業員の賃金は上昇傾向にありますが、中小企業ではなかなか賃上げがされていないのが現状です。その上、円安や戦争の影響による物価の上昇などもあり、今後は金利上昇による資産を持たない世帯の貧困化も懸念されています」

 

 

さらに少子高齢化が進むことで、食糧問題にもさまざまな影響が及ぶそう。 「たとえば地方のスーパーが廃業したり商店街が衰退したりしていて、高齢者を中心に食料品などを買いに行くのが難しくなる“食品アクセス”の問題があります。さらに農業の担い手が減っていることや高齢化が進んでいることも深刻な課題です。先行きが不透明ではありますが、今後も厳しい状況が続くことには変わりありません。そのため食糧問題を解消していくために、社会の基本的なシステムそのものを作り替えていくことが、待ったなしで求められています」

 

食糧問題を解消する手段の一つ
「フードバンク」とは?

 

国内の格差が広がる中、食糧問題を解消する手段の一つとして注目を集めているのがフードバンクです。ここ最近、耳にする機会が増えた方も多いのではないでしょうか? フードバンクの仕組みや、取り組みの現状について教えていただきました。

 

フードバンク活動とは、企業などから寄付された食品を集めて、必要な施設や団体に提供する取り組みのことです。1967年にアメリカでスタートした活動で、日本では2000年頃から始まりました。 国内の提供先として多いのは、こども食堂や福祉団体。寄付されるのは、箱がつぶれたり印字ミスがあったりするものや、在庫の入れ替えで不要になったものなど、『まだ食べられるのに本来は捨てられてしまう食品』が中心です。当時の日本はゴミの増加が社会問題になっていたことに加え、今ほど国内の格差が深刻でなかったこともあり、どちらかというと『もったいない』という観点で注目されていました。そして、メディアで取り上げられたことなどをきっかけに、人々へ少しずつ認知されるようになりました」

 

日本におけるフードバンク活動には、その後、2度のターニングポイントがあったそう。

 

「その後、国内でフードバンク活動がさらに注目されるターニングポイントになったのが、2011年の東日本大震災です。日本で最初にフードバンク活動を始めたセカンドハーベスト・ジャパンが、被災地での炊き出しや食料支援などをいち早く行いました。これにより食品の寄付が増えただけでなく、お金の寄付やボランティアをする人たちも増加し、さらなる普及が進みました。

 

そして2019年に食品ロス削減推進法が成立したことで、国としてフードバンク活動をもっと推進していこうという動きが出てきました。今まさに、その法律に基づいた政策パッケージにより仕組みづくりが行われているところです。現在、農林水産省のサイトに掲載されているフードバンクの活動団体数は252にものぼり、全国各地で活動が行われています」

 

日本のフードバンク活動が直面する課題

 

国としても力を入れ始めているフードバンク活動ですが、小林さんによると、まだまだ課題はあるそう。

 

「まずは食品の十分な量の寄付が集まっていないことが課題の一つ。海外と比べると、日本は食品ロス対策が中心であることから、寄付に対しては受け身である企業がまだまだ多いと感じます。そして昨今の物価高で、食品の余剰が減っている状況も要因の一つです。一般に価格が上がると食品ロスは出にくくなるため、寄付は集まりづらくなってしまいます」

 

また、集まる食品にも偏りがあるとか。

 

「食品の中でもお菓子やジュース、インスタント食品は比較的集まりやすいのですが、米、野菜、肉、魚、卵などといった食品は不足しがちです。嗜好品だけになると栄養が偏ってしまうため、フランスなどでは寄付されたお金で食品を買って提供するケースも多くあります。日本にも、市場で流通しなかった規格外の生鮮品を提供したり、それを調理して食堂で提供したりするフードバンク団体もありますが、数はそこまで多くありません。生鮮食品は足が速いため、扱うには素早く荷捌きしたり運んだりするロジスティクス(物流を一元管理し、最適化を図る仕組み・システムのこと)を整備する必要があります。

 

ほかに生鮮食品を提供するときのアイデアとして、イギリスでは、スーパーで売れ残った肉を冷凍して賞味期限が延長されたシールに張り替えてフードバンクに寄付することが認められています。こうしたことが日本で理解を得られれば、生鮮食品を寄付するハードルはグッと下がるのではないでしょうか」

 

アジアのフードバンク活動先進国は韓国

海外のフードバンク活動を視察する機会も多い小林さんが、フードバンク活動が進んでいる国として挙げたのが韓国です。どのようなところが日本と異なるのでしょうか?

 

「韓国では1990年代からフードバンク活動の検討が始まりましたが、当初は食品廃棄物を減らすための施策として考えられていました。しかし1997年のアジア通貨危機をきっかけに、社会福祉政策に転換して本格的に普及が進みました。国の政策として取り組まれているため、設備が整っていたり、『どこに貧困層がいるのか』などの情報が一元化されていたりと、しっかりとした仕組みづくりがなされています。そのかいあって、一時期深刻だった高齢者の貧困も今ではかなり改善されています。韓国のほか、ヨーロッパなどもEUの法律でフードバンク活動は福祉活動の一つとして位置付けられています。この点は、いまだ食品ロス削減の取り組みの一つとして捉えられている日本とは異なるところです」

 

とはいえ日本では今、福祉政策の予算をフードバンク活動に回すことはなかなか難しいのが現状だといいます。

 

「そのため私は、フードバンク活動をより普及・促進するには、災害や社会的な困難が起こった時の危機対策としての側面も強化していくことが重要だと考えています。そもそも、日本でフードバンク活動が普及したのは東日本大震災が大きなきっかけでした。海外でも、災害などの危機に直面したときに普及してきた背景があります。フードバンク団体が危機対策の体制も整えていくことは、国の安全保障上も重要な取り組みにもつながり、財政支援を伴ってでも、フードバンク活動を強化すべきではないかと考えています」

 

私たちにできる、食糧問題の解消につながるアクション 3

 

最後に、フードバンク活動や、食糧問題の解消のために、私たち生活者にできることは何かを教えていただきました。

 

1.「フードドライブ」で食品を寄付する

「『フードドライブ』とは、個人が家庭で余った食品などを寄付する活動のことです。買いすぎてしまったものや、買ったのに食べる人がいなかったものなど、賞味期限に余裕がある食品を、行政の施設などに設置されている専用ボックスに入れたりするだけで簡単に寄付ができます。集まった食品はフードバンクの団体などに一度集められてから、施設などに提供されます。 近年ボックスの設置場所は増えており、コンビニやスーパー、学校といった身近な場所にもあるはずなので、ぜひ探してみてください。またフードドライブでは、家庭で余った食品だけではなく、スーパーで買った食品などを寄付するのもOKです。例えばお気に入りの『ぜひ食べてほしい!』と思う食品を買って寄付するのも良いと思います」

 

2.ボランティアに参加する

「フードバンクの団体やパントリー(寄付された食品などを無償で提供する場所)、提供先として多いこども食堂などでボランティアを募集している場合があるので、参加してみるのもおすすめ。フードバンク団体は慢性的な人手不足であり、加えて参加者は食品の受け渡しなどを通じてさまざまな学びが得られるはずです。

 

私も過去にニュージーランドでボランティアに参加し、寄付を受け取りに来た方に規格外のリンゴを直接手渡したことがあります。『こんなに多くの食べ物が本来は捨てられてしまうのか』という気づきがありましたし、感謝されると『人の役に立てている』という実感が沸いてきました。お子さんがいる方は、親子で参加してみるのもとても良いと思います。また、一つのフードバンク団体にコミットして、食品やお金の寄付、ボランティアをすべてやってみるのもマネジメントを学ぶきっかけになります。フードバンク団体は、農林水産省のサイトなどにも掲載されているので、お住いの地域にある団体を探してみてください」

 

3.寄付つき商品を購入する

商品を買うことでその売り上げが寄付される『寄付つき商品』を購入するのも気軽にできるアクションの一つ。例えば、フードバンク団体が設置する寄付つき商品の自動販売機などがあります。日本は海外と比べて寄付文化が深く根付いているわけではなく、ハードルが高いと感じる方もいるかもしれませんが、これはカジュアルに寄付できる方法の一つではないでしょうか」

 

さらに小林さんは、「寄付に対する考え方をすぐに変えることは難しくても、食糧問題の解消や貧困問題の解決に向けて何かしたいと思っている人は絶対にいるはず」と話します。 「今後は、どういう形であれば寄付をしやすくなるのか、アクションを起こしやすくなるのか、といった方法も考えていく必要があると思います。例えば、良いコンテンツを作ってそれに対してスポンサーを集めるなど、寄付集めは営利団体のマーケティングと共通する点が多くあります。こうしたことを広い視野で考え実践していくことで、フードバンク活動の明るい展望につなげていけるといいですよね」

 

私たちが生きていく上で、誰もが考えなければならない食糧問題。まずは現状を知り、自分にできることからアクションを起こしていきましょう。

 

 

Profile

日本女子大学 家政学部家政経済学科 教授 / 小林富雄

生鮮農産物商社、民間シンクタンクを経て、2022年から同大教授として、食品サプライチェーンや食品ロスを専門に研究。ドギーバッグ普及委員会委員長、日本非常食推進機構顧問、2019年からは内閣府の食品ロス削減推進会議委員なども務めている。

農業生産者のコンサルにこども園での生ごみ回収まで! ヤンマーグループが取り組む「食の幸せな循環」

↑「ホワイト卵とトリュフのリゾット」と「お米のティラミス」

 

↑レストラン「ASTERISCO」の店内

 

“お米と楽しむイタリアンレストラン”で話題を集めている東京・八重洲の商業施設「YANMAR TOKYO」のレストラン「ASTERISCO(アステリスコ)」。こちらの魅力は、料理の美味しさはもちろん、生物多様性に配慮した農法によるお米など、“サステナブルな農業”による食材が使われている点にあります。実はこのレストランを手がけているのが、農業機械で知られるヤンマーのグループ会社、ヤンマーマルシェ。

 

同社は、他にも生産者を支援し、持続可能な農業の実現に向けたさまざまな取り組みを行っています。また、同じくグループ会社のヤンマーeスターでは、食品廃棄物を有効活用するソリューションを提供するなど、“人と自然の豊かさが両立する未来”の実現に向けて、グループが一丸となって社会課題の解決に取り組んでいます。

 

生産者と伴走し持続可能な農業を目指す

 

↑米契約栽培に関して、契約生産者数は現在、25都道府県で190件に及ぶ(2023年度データ)

 

ヤンマーマルシェが行っている“持続可能な農業を支援”するための取り組みの1つが販路マッチング。農業生産者と実需者である食品メーカー・流通業者などの間に同社が立ち、両者をつなげることで、生産者には販路拡大や経営の安定化、農作物の収量と品質の向上を支援。実需者には安定的な農産物(食材)の調達などを行っています。

 

「生産者様と事前に価格を決めることで、相場に左右されない適正な価格で農産物を取り引き。安定した栽培や出荷のソリューションを提供するなど、生産者の皆さまに伴走して事業を行っています」と話すのは、米契約栽培を担当する井口有紗さん。北陸から島根までの約60件の米生産者を受け持ち、栽培技術をはじめ、営農計画から出荷、販売までをサポートしています。

↑ヤンマーマルシェ株式会社 フードソリューション部 農産グループ・井口有紗さん(※ヤンマーホールディングス株式会社から出向)

 

「農業機械メーカーという立場もあって、営業担当者は、昔から生産者の方たちから販路や経営に関する相談を受けていました。しかし本業とは異なるため、なかなか対応しきれないジレンマがあったそうです。そんな背景もあり、創業100周年を迎えた2012年に、次の100年を見据えた方針を打ち出した際、現場の課題解決に取り組むことが決まりました」(井口さん)

 

計画的な経営ができるという声も多い

もちろん、事前に取引価格が決められることに対して、当初は生産者になかなか受け入れられなかったそうです。

 

「その年ごとの損益はありますが、相場は毎年変動するため、実は長い目で見ると差はあまり出ません。生産者様のご理解をいただくのに時間は要しましたが、今では、価格を明確にすることで計画的な経営ができるという喜びの声を多く聞きます。また良質な米づくりと収量の安定を共に目指す取り組みにも力を入れています。例えば、気候に合った品種や市場で求められている品種を作付けすることで、安定した栽培が可能になります。今年は猛暑の影響でコシヒカリが不作だったのですが、暑さに強く、収穫量も多い『にじのきらめき』という品種を一部の生産者様と一緒にトライアルしました。単なる仲介者ではなく、伴走することで、生産者様が持続可能な安定経営ができることを目指しています」(井口さん)

↑「中干し」期間中の水田の様子

 

「にじのきらめき」の栽培では、夏の間に田んぼの水を抜いて稲の成長を調整する「中干し」期間を延長することにより、メタンガスの排出量削減やJ-クレジット創出の取り組みも行っています。こうした同社の取り組みに注目する企業が増えているのはもちろん、農林水産省が公表する「米に関するマンスリーレポート(5月号)」でも販路マッチングは推奨されるなど、持続可能な農場の実現は多方面から注目されています。

 

食品廃棄物の処理課題解決に挑む

そしてもう1つ紹介するのが、バイオコンポスター事業を展開するヤンマーeスターの取り組み。食料生産・消費の過程で発生する食品廃棄物を利用する資源循環ソリューションです。食品廃棄物は世界中で年間約13億トンといわれ、焼却時に発生するCO2やコストも問題視されています。こうした課題に対して、微生物を利用し、食品廃棄物を土壌改良剤や堆肥のもとにリサイクルするYC100というバイオコンポスターを開発。食品加工工場や飲食店、スーパーが主な対象ですが、それ以外でも活用の場が広がっています。2022年からは教育施設でYC100を活用し、収集した生ごみを堆肥化し周辺地域で活用するモデルの実証実験がスタートしました。

↑バイオコンポスター「YC100」

 

「子どもたちと一緒に新しい資源循環モデルをつくろうとしています」と、ヤンマーeスターでの業務を兼任する、ヤンマーホールディングスの中山法和さん。滋賀県犬上郡多賀町の「大滝たきのみやこども園」と一緒に、YC100を活用した「こどもやさいプロジェクト」に取り組んでいます。

↑ヤンマーホールディングス株式会社 技術本部 イノベーションセンター プロトタイプ開発部 コンポスタグループ グループリーダーの中山法和さん

 

毎日の登園が環境活動に!?

「実は日本の生ごみの半分ぐらいは家庭からと言われていて、業務用に開発されたYC100を家庭からの生ごみ問題の解決に活かせないかと以前から考えていました。家庭に大きな機械を置くのは現実的ではないし、別の場所に設置しても回収がネックになる――。そんな時、子どもたちの通学風景を見ていて、『学校など地域に身近な場所にYC100を設置し、子どもたちが通学時に生ごみを持っていく』アイデアが閃いたのです」(中山さん)

 

当初は小学校を想定したそうですが、保護者も一緒に通学する幼稚園や保育園がベストと考え、ヤンマーeスターがある滋賀県の自治体に相談。滋賀県では、自然保育に取り組む団体を認定する「しが自然保育認定制度」という制度があり、それに認定されている「大滝たきのみやこども園」を紹介されたそうです。

 

「自然保育に関心を持つ保護者の方や先生方が多いので、食品廃棄物のリサイクルに対しても理解を得やすいと考えました。安全面を考慮し、園内ではなく隣接する駐車場にYC100を設置。蓋には鍵をかけ、投入口には柵もはめ込みました。蓋をすると液漏れも臭いもしない専用バケツ“エコバケ”も用意し、2022年10月からスタート。自宅で出る生ごみがバケツいっぱいになったら、通園時にバケツを持ってきてもらいます。子どもたちが楽しくごみを持って来られるように、スタンプシールを集められる仕組みも設けました。

↑50家族約70人の園児が参加。家庭や先生の負担を減らすために、バケツの洗浄はシルバー人材に依頼している

 

↑プロジェクトの開始がハロウィン時期だったこともあり、生ごみを食べる“エコなオバケ”で「エコバケ」と園長先生が名付けた

 

生ごみが堆肥になるまでの変化を実際に見ることで、子どもたちは自然の成り行きを感じることができます。そして分別など、ごみに対する意識の芽生えや、環境を守る大切さも学んでくれていると思います。また、子どもが変わることで保護者をはじめ、周囲の大人たちの意識も変わったと感じています」(中山さん)

 

プロジェクトをスタートする際、園の近所にもエコバケを配布し、住民が24時間自由に生ごみを捨てられるように。一般的にごみの集積所は汚れやすいのですが、子どもたちの目があることもあり、綺麗に利用されているそうです。

 

自治体が抱えるごみ回収の課題解決にも

「10月から5カ月間で処理した生ごみの総重量は約2.3t、出来た完熟堆肥は約150Kgでした。堆肥の一部は園内の畑や花壇に蒔くほか、園児のご家庭や近所、他の園などに無料で配布しました。

↑堆肥をふるいにかけ、小分けする作業は子どもたちも参加する

 

見学に来る自治体や議員もいらっしゃるなど、生ごみの回収方法、子どもたちの環境教育という視点から興味を持たれる方は少なくありません。また、今回のプロジェクトで『生ごみがなくなったので、普通ごみを捨てるのが週2回から1回に減った』という保護者からの声もありました。もしかしたら、自治体のごみ回収の回数を減らすことにつながるかもしれません。

↑大滝たきのみやこども園

 

生ごみの回収は習慣化できるかどうかがカギ。『こどもやさいプロジェクト』では子どもたちの登園時に回収することで、うまく習慣化できましたが、他の回収方法もあるのではないかと摸索しています。それ次第では、家庭からの生ごみ処理の課題に一石を投じられるのではないでしょうか」(中山さん)

 

なお、ヤンマーeスターとヤンマーマルシェが連携した新たな取り組みも進んでいます。飲食チェーン「梅の花」では、セントラルキッチンで出た食品廃棄物をYC100で堆肥化し、ヤンマーマルシェのパートナー生産者で活用。生産された農作物を加工し、梅の花グループの飲食店で提供する資源循環モデルの構築に取り組んでいます。このようにヤンマーマルシェとヤンマーの取り組みは、一見、異なるように見えますが、ソリューションを共有するなどの連携が見られます。ヤンマーグループ全体が一丸となって目指す“人と自然の豊かさが両立する新しい未来”には、大きな可能性が期待できそうです。

パリ2024パラリンピックの注目競技「パラカヌー」とは? 瀬立モニカ選手と支える人々が目指すもの

“パラカヌー”とは、2016年のリオ大会からパラリンピックの正式種目に採用された、おもに下肢に障がいのある人が対象になる競技です。

 

“水上のバリアフリー”と形容され、年々競技人口が増えているというパラカヌーで活躍するアスリートたち。またその周囲には、活動をサポートするさまざまな人々が存在します。彼らはどのような思いで、競技、そしてパラリンピックの大舞台を見据えているのでしょうか?

 

脊髄損傷による両下肢麻痺という重い障がいを負いながら、パラカヌー選手として大活躍している日本代表・瀬立(せりゅう)モニカ選手と、サポートを務める日本障害者カヌー協会・上岡央子(うえおかひさこ)さんに、パラカヌーとその魅力について伺いました。

 

水上スポーツが盛んな
江東区生まれのカヌー選手

きたる2024年はオリンピック・パラリンピックイヤー。とくに回を重ねるごとに注目を集めているのが、近年面白い競技が増え続けているパラリンピックでしょう。今回紹介するパラカヌーは、そのなかでも2016年リオ五輪で正式採用されたばかりの比較的新しい競技。

 

一方で、カヌーはオリンピックでは古くから正式種目として採用されてきたスポーツです。とくに2016年のリオ大会で“カヌー・スラローム”の羽根田卓也選手が日本人初のメダルを獲得したこともあり、競技として知った人も多いでしょう。

 

まずは上岡さんに、パラカヌーの競技としての特徴を教えていただきました。

 

「オリンピックのカヌー競技には『スプリント』と『スラローム』の異なる2種類の競技があり、パラカヌーと同じ『スプリント』では、シングル(1人乗り)、ペア(2人乗り)、フォア(4人乗り)とありますが、障がい者が参加するパラカヌーは、『スプリント』競技だけです。『カヤック』と『ヴァー』の2種目でシングル(1人乗り)だけで、両者は艇の形と漕ぎ方が違うのですが、いずれも流れのない200mの直線コースで着順を競います。さらに、障がいの程度によって3つのクラスに分かれています」(上岡央子さん)

 

パラカヌーの種目

・カヤック……長さ5m×幅が艇底から10cmのところが50cm以上という規定がある1人乗りの競技艇に乗り、両端にブレードがついたパドルで漕いで進むスタイル。2016年のリオパラリンピックから正式種目となった。

 

・ヴァー……長さ7m30cm以内の競技艇の片側に浮力体がついており、片方だけにブレードがついたパドルで漕ぐスタイル。2021年に開催された東京パラリンピックから取り入れられた。

 

パラカヌーのクラス分類

・L1……胴体をまったく動かせず、肩と腕の力だけで漕ぐクラス。
・L2……胴体と腕の力だけで漕ぐクラス。
・L3……腰と胴体・腕の力だけで漕ぐクラス。

 

そのうち瀬立選手は、カヤック・L1クラスの日本代表として活躍しています。日本人で唯一、リオ・東京大会ともに出場を果たしたパラカヌー日本代表選手なのです。

 

東京・江東区生まれの瀬立選手は、実は怪我を負う以前の中学2年のときにカヌーを始めました。東京湾に面し、河川が発達している江東区は、まさに東京五輪の会場となった海の森水上競技場を有する街。五輪に向けて水路を使ったスポーツの振興と選手育成に力を入れてきた歴史があります。

 

「カヌーってそもそも道具を用意したり、カヌーを保管したり乗り降りできる場所を管理したり、始めるハードルが高いスポーツです。でも私が育った江東区は、区内の中学生なら誰でもカヌーを始められる環境を区が提供してくれていました。私もスポーツは小さい頃から得意でしたし、水泳もやっていたので、体育の先生から誘われていたんです。ただ、当時はカヌーに特別惹かれていたわけではなかったかもしれません。というのも、ちょうど中学のときは学校のバスケ部に入っていて、その練習に集中していたので」(瀬立モニカさん)

 

瀬立モニカ選手。

 

始めてみれば、持ち前の運動神経の良さからすぐに国体を目指せるほどの実力をつけた瀬立選手。しかし高校に入って間もなく、両下肢麻痺という重い障がいを負ってしまいます。

 

「競技としてのカヌーがどれだけ難しいかをよく知っていたからこそ、怪我をした直後は、もう一生カヌーに乗ることはないだろうと思っていました。なぜなら腹筋と背筋が使えず、自分の力で座っていることすらできなくなったからです」(瀬立さん)

 

諦めかけた心に火をつけた
水上のバリアフリー

 

ともすれば諦めてしまいそうな状況に打ち勝ち、再び水の上へ挑んだのはなぜなのでしょうか? ここからはお二人の対談によって、パラカヌーにかける思いや、競技環境などの実情を明らかにしていきます。

 

上岡央子さん(以下、上岡):カヌーの競技艇って、レクリエーションで使うカヌーとは違って水の抵抗を小さくするために細く作られています。健常者のアスリートがただ乗って浮くだけでも、実はかなりの練習が必要ですよね。

 

瀬立モニカさん(以下、瀬立):そうですね。誰でも最初は、何回も沈(チン=転覆)しながら5m進むのがやっと。普通の人が安定して水の上で乗っていられる状態になるまでには、3ヶ月くらいかかるかもしれません。

 

上岡:瀬立選手の場合は、胸から下を自分の力で動かすことができません。つまり、障がいの状態がもっとも重いL1クラスでパラリンピック出場を果たしているんですよ。しかも、2014年にパラカヌーを始めて2016年のリオ大会に出場していますから、練習期間としてはたったの2年間! これは並大抵のことではなかったでしょう?

 

瀬立:始めたのは、怪我をして1年くらい経ったころでした。お世話になったカヌー関係者から根気よく勧めていただいたことが最初のきっかけです。でも断るつもりで乗るだけ乗ってみたら、考えがガラリと変わりました。

 

その時に感じたことが、パラカヌーの魅力であるの“水上のバリアフリー”ということ。車椅子で生活していると、段差があるたびに先へ進めなくなったり、友達と移動していても私だけ別のルートになったりすることがたくさんあります。でも、水上に出てしまえば私もみんなと同じように前へ進めました。それに、水の上には速度制限もなければ一時停止もない。障がいを負った私でも自由に動き回れるということに大きな感動を覚えたんです。

 

上岡:カヌーって一度乗ってみるとわかるんですが、今までとまったく違う世界が見えるスポーツなんですよね。なかでもパラカヌーに親しむ方がよくおっしゃるのは、自分が車椅子に乗っていることを忘れてしまうって。実際私たちって、車椅子の方と接する時はどうしても目線の高さが違うので、コミュニケーションにある種のぎこちなさが出てしまうことってあると思うんです。でも一緒にカヌーに乗って水の上へ出てしまえば、健常者も障がい者も目線は同じ。何だかお互いの心までバリアフリーになって、コミュニケーションがスムーズになったりもするんです。

 

上岡央子さん。

 

瀬立:みなさんプールで泳いだり陸を走ったり、水中や陸上の感覚を知っている人は多いですが、水上の感覚を知っている人は案外少ない。水上ってそれだけ特殊な環境です。それに私が競技を始めた2014年当時、L1クラスでリオ出場を目指す女性選手は日本にほとんどいませんでした。だからやると決めれば、すぐ日本代表になれるような環境は整っていたんです。ただ、当時の監督から言われて今でも覚えているのは、「周りにいわれて始めるパターンだと絶対にうまくいかない。やるなら覚悟を持ってから取り組みなさい」という言葉でした。

 

上岡:たしか、当時はパラカヌー用の競技艇すらまだ日本になかったですよね?

 

瀬立:そうでしたね。

 

上岡:パラカヌーは、まず競技艇に乗れるようになるまでにも時間がかかりますし、乗れるようになったとしても、継続するにはサポートするスタッフや環境、そしてお金が必ず必要になってくるスポーツです。

 

瀬立:はい。ひとりではけっしてできないからこそ、覚悟を決めなければ絶対に続けられなくなると思っていました。結果的に私の場合は江東区生まれということで、区が選手の育成に力を入れてくれて。とても恵まれた環境ではあったと思います。

 

上岡:国内でライバルがずっといないというのも、世界を目指すアスリートとしては厳しい環境じゃないですか?

 

瀬立:常に自分との戦いでしかないですからね。国内で同じクラスのライバルって未だにいないんですよね(笑)。

 

上岡:そう! 瀬立選手の活躍もあってパラカヌーの認知度は少しずつ上がっているはずなのですが、女性の競技者がなかなか増えないんです。なぜだろうって私なりに考えてきたんですけど、やっぱり女性の場合はとくに着替える場所が必要だったり、沈して濡れたらシャワーも浴びたいじゃないですか。でもそういった設備が整っている練習場や競技場がほとんどないのが現状で。そういうものは「ない」と割り切れる人でないと、続けていけないのかなって。

 

瀬立:はい。私もトイレで着替えるのが日常です(笑)。それでも、日本のトイレはまだ綺麗だから使いやすいんですけれど。

 

瀬立選手と競技艇。背景は東京湾。

 

パラリンピックを見るなら、
“メカニック”にも注目を!

選手の海外遠征や合宿のサポートをするほか、パラカヌー競技者が競技に集中できる環境を整えることも仕事のうちだという上岡さん。カヌー競技の本場であるヨーロッパに比べると、日本の練習環境はまだまだ乏しい部分も多いようです。

 

上岡:江東区のようにカヌーやボートを気軽に練習できる環境が整っている地域というのは、まだ日本国内にはほとんどありません。ヨーロッパの場合、カヌーを日常的な移動手段として使っているという環境があるところも多いので、おそらくそれもあってあちらの選手は強いんです。ただ、河川が発達しているという意味では、日本も自然環境的には負けてはいないんですよね。

 

一方で、近年は日本でも子どもたちを対象にした自然教育がすごく注目されていると思うんですが、水辺の遊びに対しては“危険なもの”というイメージがつきすぎているところもあるような気がしていて。私たち日本障害者カヌー協会の第一の活動目的は障がい者を対象としたパラカヌーの普及なのですが、パラに限らず、カヌーというスポーツ自体の普及が、これからの未来を左右するカギになると思っています。

 

日本障害者カヌー協会では、オンシーズンを中心に、頻繁に体験会を開催している。写真は江東区の新左近川親水公園カヌー場で行われた「ユニバーサルカヌー体験会」の様子。

 

体験会は競技と異なり、視覚障がいや発達障がいなど、すべての障がいを対象としている。

 

瀬立:日本の選手も遅れをとっているばかりではありませんよ。パラカヌーの選手は自分の障がいに合わせた特殊なシートに座って競技をするので、シートのフィット感もタイムに大きく影響します。そこで私はリオ大会を目指していたときから、『川村義肢』というメーカーに特注したシートを使っていました。たとえば車椅子バスケットボール用の競技用車椅子や陸上競技用の義足など、パラ選手が用いるさまざまな用具を作る人たちのことを『メカニック』と呼ぶのですが、日本のメカニックの職人技は本当にレベルが高いんです。これは世界で一番なんじゃないかな。

 

上岡:瀬立さんのシートはカーボン製。ヨーロッパなど他国の選手のシートは意外とツギハギだったり、発泡スチロールのようなものが使われていたりしますよね。

 

瀬立:そうなんです。2015年の世界選手権に出たとき、私のようなカーボンのシートで競技している選手はひとりもいなくて、みんなに「写真を撮らせてほしい」といわれました。そうしたら、翌年のリオ大会ではみんな私のものと同じようなシートに座っていて(笑)。

 

上岡:パラカヌーの場合、厳密なルールとして決まっているのは競技艇のサイズと重さだけなので、シートのカスタマイズは自由にできるんです。

 

瀬立:私のカーボン製のシートも、私の身体のサイズにぴったり合わせて作っているから、絶対に太れないんですよ(笑)。船は軽ければ軽いほど、細ければ細いほどスピードが出ますし、そういったメカニックの技術の差で0.1秒を争っているのもパラカヌーの面白さだったりします。サポートしてくださるみんなの努力を、私の体重ひとつで台無しにはできないというプレッシャーは常にあるんです。

 

2023年8月に開催された世界選手権で競技会場となった、ドイツ・デュースブルクにて。

 

障がいのあるすべての子どもたちに
「未来は明るい」と伝えたい

東京大会に引き続き、来年のパリパラリンピック出場も目指している瀬立選手。この冬も厳しいトレーニングに取り組む一方で、現在は学生などを対象とした講演活動にも力を入れているそう。

 

瀬立:実は、今日の取材前にも中学校で講演をしてきました。

 

上岡:学生さんたちからすれば興味しんしんですよね。いろいろな質問を受けるんじゃないですか?

 

瀬立:やっぱり中学生なので、「好きな人のことで頭がいっぱいです、どうしたらいいですか」なんて可愛い質問もあったりして(笑)。

 

上岡:それは面白いですね! どんな回答をしたんですか?

 

瀬立:隙間がないくらいに、いっぱい考えなさいと(笑)。

 

上岡:さすが、瀬立さんらしいアドバイスですね(笑)。

 

瀬立:一方でグサッときたのが、やはり身体に障がいを持っている生徒さんからの、「未来は明るいですか?」という質問でした。私たちのようにある日突然障がい者になってしまうと、今後社会生活を送るうえで車椅子生活がどれだけ大きなハンデになるのか、わからないことだらけでとても不安になるんです。たとえば私自身もスポーツが大好きでしたし、運動能力が人より秀でていたからこそ、怪我をした瞬間にそれが苦手なことになってしまったショックはとても大きいものでした。学校の体育の授業すら見学することしかできなくなって、自分の個性を発揮できる場所がどんどんなくなっていったんです。そのように、生きることに自信をなくしていく人も本当に多いのが現状で。

 

上岡:たしかに、私たち日本障害者カヌー協会としても、障がいのある方にいかにして新しいことにチャレンジしてもらうか、その最初のハードルを乗り越えていただくときのサポートの難しさは日々感じています。

 

瀬立:そのハードルの高さが、一種の社会問題でもあると思うんですね。でも障がいによって一度自信をなくしたとしても、パラカヌーのようなスポーツを通じてなら、再びセルフコンフィデンスを高めることができるんです。これは2023年の秋にアジア大会に出場したとき、同じ種目で優勝した中国の選手も言っていたこと。パラカヌー競技者としてこのメッセージを発信していくことが、私の使命だと思っています。

 

上岡:そうですね。私も協会に関わるまで障害福祉に関わる仕事してきましたが、水上のバリアフリーと呼ばれるパラカヌーには、障がいのある人、ない人がより良い形で共生できる社会を作るヒントがたくさんあるような気がしています。

 

瀬立:パラカヌーって、ひとりじゃ絶対にできない競技なんですよね。私も怪我をした当初は日常で誰かに助けてもらうたびに“申し訳ない”とか、“すみません”といった気持ちを抱いていたのですが、ある人に「その『すみません』を『ありがとう』にかえてごらん」と言われてから、自分の障がいとの向き合い方が変わりました。助けてもらって幸せをもらえたその気持ちを、“ありがとうございます”って笑顔で伝えられると、相手も幸せになって、それがまた自分に返ってくる。サポートしてもらうことを引け目のように感じなくていいと気づけた瞬間があったんです。

 

瀬立選手が感じるように、家族や友人をはじめさまざまな人・団体が競技者をサポートしている。パラスポーツを起点に誰もが活躍できる共生社会の実現を目指す日本障害者カヌー協会の指針に、大和ハウスグループで賃貸住宅「D-ROOM」を管理・運営する大和リビングも共感、2023年より協賛している。

 

上岡:それで、「未来は明るいですか?」という質問には、どう答えたのですか?

 

瀬立:もちろん、「未来は明るいから大丈夫だよ」と答えました。私たちのメカニックさんがそうであるように、車椅子ひとつでも立ったまま移動できる車椅子ができたりとか、障がい者を取り巻く技術ってどんどん発展してきているんです。

 

上岡:たしかに、技術の発展とともにパラリンピックもどんどん面白くなっていますしね。

 

瀬立:はい。パラ選手の活躍をきっかけに、障がいを負っても、自分に自信を取り戻していける人たちが増えていったらうれしい。そのために私もまだまだ挑戦を続けます。

 

 

Profile

パラカヌー日本代表 / 瀬立モニカ(せりゅうもにか)

中学1年でカヌーを始め、高校1年のときに脊髄損傷の障がいを負う。リハビリを経て高校2年でパラカヌー選手としてパラリンピックを目指すことを決意。リオ2016パラリンピック競技大会では8位入賞、’19年の世界選手権で5位入賞と驚異的な成績を納め、念願叶って2021年東京パラリンピック出場を果たした。
オフィシャルサイト
Instagram

 

一般社団法人 日本障害者カヌー協会 / 上岡央子(うえおかひさこ)

介護福祉士、福祉住環境コーディネーター、ユニバーサルコーディネーター。幼少時から障害を持つ方々と日常的なかかわりを持つ経験から30年以上にわたり障害福祉分野に携わってきた。2017年の発足時より日本障害者カヌー協会に所属。強化選手のサポートや、より良い競技環境の整備、カヌーの普及活動やサポート講習活動などを幅広く担っている。
日本障害者カヌー協会

BWSC(ブリヂストンワールドソーラーチャレンジ)2023で東海大学が得た“日本トップで完走”以上の戦果とは?

2023年10月下旬、オーストラリアで「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」(以下、BWSC)が開催されました。通常隔年で開催されている大会ですが、コロナ禍による大会中止もあり、今大会は4年ぶり。全世界20以上の国から大会を待ちわびていた約40チームが参戦する大会となりました。

 

過去に総合優勝2回、準優勝2回、第3位1回の輝かしい戦績を獲得してきた東海大学は、大きなアクシデントを乗り越え総合5位で完走。さらに公正かつ紳士的な姿勢が評価されデイビット・ヒューチャック賞を受賞するという、大きな成果を残しました。

 

「優勝を目指していたので悔しさは残ります。でも攻めた結果、無事ゴールできたのはうれしい」と語ってくれたのは、学生代表の宇都一朗さん。今回は、2023年の大会を終えた東海大学のソーラーカーチームに大会の感想と今後の目標、そして決意を伺います。

 

気象変化や大きなトラブルを乗り越え、
無事完走できたことがなによりの喜び

 

BWSCは、オーストラリア北部のダーウィンからアデレードまでの直線距離3020kmを、太陽の力だけで5日間走り続ける大会です。世界最高峰のソーラーカーレースと言われており、世界各国の大学や企業など多くの団体が集結します。

 

これまで数々の試練を乗り越えてきた東海大学のソーラーカーチーム。優勝も期待されるなかで迎えた4年ぶりの大会でした。ところが、ゴール目前でリタイアを検討するほどの大きなトラブルが発生。それを決死のチーム力で乗り越え、無事総合5位という好成績でゴールを切りました。

 

今大会はコロナ禍で2021年大会が中心になったことも影響し、初参加となった学生が大半を占めていたといいます。工学部3年生の小平苑子(そのこ)さんは、初めてのBWSCを次のように振り返ります。

 

車体の点検を入念に行う小平さん。

 

「国内の大会には参加していましたが、世界大会は初めて。初めて見る車体や技術に触れて、素直に、世界は広いんだなと実感しました。オーストラリアをたった5日で縦断するので、環境の違いにも驚きました。いろいろなトラブルもありましたが、無事ゴールできたことが本当にうれしかったです」(小平さん)

 

大クラッシュから逆転優勝! 東海大学ソーラーカーチームが世界的な強豪であり続ける理由

 

大会時に司令車から学生たちの活躍を見守っていたのは、チームを統括する木村英樹教授。大会全体を通じて、まず気象面での変化を実感したそう。

 

東海大学ソーラーカーチームを、1996年から率いて指導する木村英樹教授。

 

「今大会は、前半戦の日照量が少なく全体的に記録が悪くなったチームが多かったですね。完走できなかったチームも少なくありません。ソーラーカーレースは、気象条件に左右される大会ですが、今年は気象の他にもブッシュファイヤー(森林火災)の影響もありました。天気予測のために衛星映像を確認するのですが、火災による煙で黒い雲が発生していたんです。煙によって太陽光が遮られるため発電量は減りますし、道路に迫るほどの距離に炎が届く場所もあったほど。地球温暖化の影響を肌で感じる、そんな大会でもありました」(木村教授)

 

そう今大会の“難しさ”を総括してくれました。では今大会でチームが目にしたものとは?

 

敵は風と気温とカンガルー!? ソーラーカーとソーラーカーレースの驚くべき7つの真実

 

BWSCを象徴する
“リスペクト文化”

 

BWSCでは、意外にも参加チーム間の交流が盛ん。大会後には、ユニフォーム交換まで行われるそう。とくに東海大学のユニフォームは各国の学生から「交換してほしい」と大人気になるほど。ライバル同士であるはずの学生たちを結びつけるのは、お互いを尊重する「リスペクト文化」だといいます。

 

「コミュニケーションが盛んなことも、BWSCの魅力だと感じます。大会中はピットで作業することが多かったのですが、それでも5〜6チームと交流して、個人のSNSのアカウントを交換することもできました。初めての大会でしたが、世界中にソーラーカーが好きで、一緒に頑張っている仲間がいるのは素敵なことだなと感じています」

 

そう語るのは、チームの機械班リーダーを務める、工学部4年の小田侑斗さん 。また、今大会のチームを率いた工学部の福田紘大教授は過去の傾向と比較しながら教えてくれました。

 

「最先端の技術が集まる大会なので、正直、過去にはペナルティ合戦になっていた部分もありました。東海大学では、一貫して『フェアにいこう、技術もオープンにしていこう』、そんな精神で取り組み続けていたので、それがデイビット・ヒューチャック賞受賞にも繋がったのだと思っています。コロナ禍で大会が中止になったことで世代が一新されたこともあり、『もうそういうのはやめようよ』と、大会全体がポジティブな雰囲気に変わっていったのもあるかもしれませんね」(福田教授)

 

お互いの良いところを認め合い、仲間とともに切磋琢磨する。BWSCはこれまで以上に未来をつくり、技術と心を育む大会へ発展しているのかもしれません。

 

機械班リーダー、小田侑斗さん。

 

進化はまだ終わらない?
ソーラーカーは最先端技術の結晶

 

また、BWSCでは、優勝チームが技術を惜しみなく公開するという文化も根付いているそう。今回2連覇を達成したベルギーのInnoptus Solar Teamが優勝した要因はどこにあったのでしょうか? 佐川耕平総監督(工学部講師)に伺いました。

 

「BWSCは、技術力を競うだけでなく情報戦も行われています。大会ごとに高い技術力を発揮するだけでなく、ソーラーパネルやバッテリーに関わる最新情報やトレンドをどこまで取り入れるかも、重要な戦略になります。今回優勝したInnoptus Solar Teamは、技術だけでなく情報面、資金面でも優れていると痛感しました。もはや軍事レベルと言っていいほどの高い技術が集約されていたので、その情報を知ることができたのは大きな収穫と言っていいでしょう。
彼らの勝因をどう活かすか、また私たちがどこまで反映できるのか、そこに今後がかかってくると思います。次の大会まで2年、というと長そうですが、実は意外と時間がないのです。一度すべてを疑って、改善すべきところは改善し、いいところもより高めるためにはどうしたらいいか検討し、さらなる高みを目指していきたいです」(佐川総監督)

 

 

1996年の大会から参加してきた木村教授は、ソーラーカーの魅力を次のように語ります。

 

「20年以上ソーラーカーの進化の過程を見ていますが、『これが限界かな?』と思えば新しい技術が出てきて、面白いほどに進化が止まる気配がありません。ソーラーカーの技術ってなかなか限界が来ないんですよ。アスリートが次々と新記録を塗り替えていくように、ソーラーカーの進化も日々限界突破していく、そんな部分に魅力を感じます」(木村教授)

 

向かうは2025年!
かけがえのない経験を次の世代へ

 

大きな収穫があっただけに、2025年に行われる次回大会に向けての意気込みは強いものがある様子。最後に、これからの目標を聞きました。

 

「2019年に次いで2回目となる大会でしたが、今回はゴール地点に家族や友人が待っていてくれて、とてもうれしかったです。またともにレースを戦った仲間、日本からレースを支えてくれていた仲間たちにも感謝したいですし、帰国後もたくさんの励ましや応援の言葉をもらえて、一生の思い出に残る大会にできたと思います。うれしいことだけでなく、レースの過酷さは経験してみないとわからないこと。今回、写真や動画でたくさんの記録を残してきたので、次の世代にも『何もかもが過酷だぞ! でも楽しいぞ!』ってことを伝えていきたいですね」(宇都さん)

 

 

「自分たちが作ったソーラーカーで3000kmを走り切る……そこに携われただけでも大きな意義のある大会でした。次の世代へは、経験することでしか得られない緊張感や雰囲気を、言葉にして伝えていきたいです。僕はレース前の車検を担当したのですが、ここを通さなければレースに出られないという、今まで経験したことのない緊張感を味わいました。身をもって経験したことを次の世代へ受け継いで、知識として役立ててもらいたいです。そして次の大会では、どっしりとかまえられる自分でいたいと思います(笑)」(小田さん)

 

 

「太陽の力だけで走るってあらためて凄いことだと実感した大会でした。ソーラーカーは、SDGsなど未来を支える技術にも関わってきます。BWSCに参加して、私も社会貢献できる一員になれるかもしれない、そんな気持ちを抱くことができました。レースにおいては『自分たちが作る車体が一番だ』と自信を持つことも大切ですし、勝つ経験を積み重ねていくことの大切さを得ることができました。経験値を高めて、2年後の大会でリベンジを果たしたいです」(小平さん)

 

「ソーラーカーの大会に参加している人の多くが、学生などの若者です。新しい技術に若者たちが挑戦している、そしてリードしていると思うとワクワクしますし、あらためて素晴らしい大会でした。東海大学ソーラーカーチームを卒業して社会人になった若者の多くが、ここでの経験を活かして空飛ぶ車や電気自動車など、“未来をつくる仕事”に就いています。ソーラーカーの技術はきっと学生たちの未来を育む武器になる。挑戦であり大変な戦いであるBWSCに、今後も学生たちとともに挑み続けていきたいですね」(福田教授)

 

大学生が世界最高峰の大会に挑む! 東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密

 

宇都さんの言葉にもあった“日本からレースを支えてくれていた仲間たち”には、チームメイトだけでなく、車体を共同開発した東レやブリヂストンをはじめ、資金面や現地の宿泊等でサポートした大和リビングなど、“サポーター”の存在も不可欠。

 

[関連記事] 3000kmのデスロードを太陽光だけで疾走! 世界最高峰のソーラーカー耐久レースで世界一奪還を誓うチームの秘策とは?(GetNavi web)

 

 

次の大会は2025年! 残り2年で、東海大学のソーラーカーチームはいったいどんな進化を遂げるのでしょうか? 技術の進歩や環境変化にも対応しながら、どんな未来を描いていくのか、今から楽しみになる取材でした。@Livingでは引き続き、その活躍を追っていきます。

 

 

Profile

東海大学ソーラーカーチーム

大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・大学院生、約60名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。
Facebook
X(Twitter)
Instagram

ヘラルボニーが挑む“福祉”を越えた先…知的障害のある人がアートで活躍する世界へ

都市の建設現場に設置される仮囲いを彩るアートや、電車やバスのラッピング、有名企業やファッションブランドとのコラボレーション。多くの人が日常的に接している幅広いフィールドで、いま強い存在感を放っているアーティストたちがいます。

 

彼らを見つけるヒントは、「ヘラルボニー」という合言葉。それは、主に知的障害のある作家との信頼関係を通じて、福祉を起点としたまったく新しいカルチャーの創造に挑んでいる、ちょっとユニークな会社の名前です。

 

※ヘラルボニーの表現に対するモットーを尊重し、この記事では「障がい」を「障害」と表記します。

 

本当の“障害”はどこにあるのか?

「ヘラルボニー」の設立は2018年。岩手県出身で、重度知的障害のある4歳年上の兄を持つ双子の兄弟、松田文登氏と崇弥氏が同地でスタートしました。彼らは全国の福祉施設にアート活動をしている150名以上の主に知的障害のある作家とアートライセンス契約を結び、その作品データのライセンス事業を軸に、ファッションや有名企業のプロダクトに“デザイン”として落とし込んだり、街の建物や公共の乗り物などをラッピングする地域活性型のアート・プロジェクトを幅広く展開しています。

 

両代表は2019年に世界を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」も受賞。従来の“福祉”業界の外側に生まれた福祉実験カンパニーとして、国内外から注目を集める存在です。

 

「ヘラルボニーは、世間一般からすると“アートの会社”として見られている側面が強いかもしれませんが、アートは僕たちにとってあくまでひとつの手段です。ヘラルボニーが本当に目指しているのは、世の中の“障害”に対するイメージを変えていくこと。知的障害のある人が“障害があって可哀想”とか、“何かが欠落している”といったバイアスをかけられずに生きられる社会。それがヘラルボニーの目指すところです」

 

そう語るのは、これまで『仮囲いアートプロジェクト』など数々の企画を推進してきたヘラルボニー アカウント事業部の泉雄太さん。

 

東京支社のアカウント事業部でさまざまな企業とのプロジェクトを進める泉雄太さん。

 

写真で着けているネクタイも、ヘラルボニーのアートを織りで表現した商品。

 

「最初にアートの手段を選んだのは、知的障害のある方々を“議論の土俵に上げること”が目的だったからです。従来の日本社会には、彼らが健常者と対等な立場で何らかの議論の場に出てこられる機会がほとんどありませんでした。彼らが入所する福祉施設ってどんなところにあるかというと、大半は都市から離れた郊外ですとか、人がほとんどこないような山奥だったりするんです。
僕たちは知的障害を文字で表す際に、“障がい”ではなくあえて“障害”と書くスタンスを貫いていますが、それは“障害”という言葉を個人の心身の機能障害の観点ではなく、社会的障壁という観点から捉えているから。つまり本当の障害は、社会の側にあるのではないか? あえて“害”という強い漢字を用いることで、そういった問題提起をしています」(泉さん)

 

建設現場や商業施設などの“仮囲い”をヘラルボニーのアート装飾。街の一角に期間限定のミュージアムを生み出す本企画は同社の中でも創業時から続けてきたプロジェクト。住宅メーカー勤務を経て同社へ入社したという泉さんが主導しています。

 

そんな彼らのスタンスを尊重し、本記事内でも“障害”という漢字を使用することにしました。といっても、彼らの“問題提起”としてのアウトプットは常にカラフルで、見る者をわくわくさせるようなプロジェクトばかり。“害”という言葉から想像されるネガティブなムードはまったく感じられないのです。

 

「2018年に『障害者文化芸術活動推進法』という障害者の芸術活動を後押しする法律が施行されるなど、時代の流れも少しずつ変わりつつあります。この機運を活かして、知的障害のある方々が世に出ていくために何ができるか。そう考えたときに弊社が着目したのは、街頭演説で声高に社会を批判することではなく、当事者である彼らの作品を世に出すという手段でした」(泉さん)

 

岩手県出身の八重樫季良さん(故人)の作品。一見すると抽象的な幾何学パターンですが、これは独自のアレンジで描いた建築物の図面なのだそう。

 

岩手県にあるJR花巻駅の駅舎や、JR東京駅の切符売り場などで見ることができます。

 

泉さんと、同じく取材に対応してくれた丹野さんが着るジャケットの裏地になっている鮮やかなパターンは、岩手県の作家・高橋南さんが描いた作品。クーピーやクレヨンをゆっくりと、何度も丁寧に塗り重ねるというとても美しい作風です。

 

2022年、ひとりのキャビンアテンダントがヘラルボニーのファンだったことをきっかけに始まったという、日本航空(JAL)とのコラボ事例。2023年夏からは国際線の機内食スリーブをアートで彩っています。

 

大和ハウスグループで賃貸住宅「D-ROOM」を管理・運営する大和リビングが毎年、賃貸住宅オーナーなど取引先に配布しているカレンダーの2024年版に採用。作品ひとつひとつにしっかりとした背景がある多様なアートという素材は、プロダクトに限らずさまざまなフォーマットに溶け込んでいける強みも。

 

価値の高いアートが、そこにあった

ただ作品を売るのではなく、作家とアートライセンス契約を結び、絵画等のデータをデザインとして活用する。このような手法から生まれたヘラルボニーの商品はファッションアイテムに始まり、今や街の建造物や食べ物のパッケージまで、さまざまなコラボレーション事例にも波及しています。設立からわずか5年余りでこれだけの“ブランド価値”を築けた理由とは? 作家の作品をデザインに落とし込む役割を担う同社デザイナー・丹野晋太郎さんに伺いました。

 

「原画作品を売るだけでは限られた人にしか届かないかもしれないけれど、ファッションブランドという形ならもっと幅広く、一般の人たちにも興味を持っていただけるのではないか。それが、ネクタイなどのファッションプロダクトからスタートした理由です。
いまは全国の福祉施設を通して、150名以上の作家と契約していますが、契約にあたっては、金沢にある金沢21世紀美術館のキュレーター・黒澤浩美さんを企画アドバイザーとして迎え、専門家の審査を通った作家のみと締結する形をとらせていただくことで、商品価値を高める工夫もしています」(丹野さん)

 

大学時代、広告関係の仕事に興味を持っていたことから松田兄弟と知り合ったという丹野晋太郎さん。岩手本社のアカウント部門でライセンス業務とデザイナーを兼任しています。

 

知的障害のある作家の絵に共通して見られる傾向として、同じモチーフを毎日繰り返し描いたり作ったり、途方もない集中力で緻密に描きこんでいくといった独特の作風があるそう。

 

「それをどのような形で世に出すかは、作品によります。洋服の柄に落とし込みやすい絵もあれば、そうでない作品もあるので、アウトプットの仕方は私たちヘラルボニーの社員たちにとってもっとも重要な仕事です。例えば三重県の希望の園に在籍する作家・早川拓馬さんは、電車とアイドルがひたすらに大好きな人。彼の作品は柄としてグッズに落とし込んでしまうよりも、一枚の絵画として展覧会などで見せた方が作品の良さが伝わりやすいんです」(丹野さん)

 

電車とアイドルが大好きという三重県の作家・早川拓馬さん。びっしりと隙間なく書き込まれた電車の絵をよく見ると、人の顔が浮かび上がってくる圧倒的な作品。アートで得た収入は、大半を大好きな「推し活」に注ぎ込んでいるそうです。

 

「それと、これはつい忘れられがちなことですが、彼らは人に評価されるためにアートを作っているわけではなく、なんとなく繰り返して描いていたり、好きでたまらないモノやコトを描いたりしています。弊社の代表は、そういった作品から感じた“とんでもない何か”に純粋に衝撃を受け、彼らの“異彩”を世に放つべく、このヘラルボニーという会社を始めました。
1枚の絵でそれだけ人の心を動かすことができたなら、それってもう障害があろうとなかろうと、アーティストとして“勝ち”ですよね。でもこれまでは、彼らの作品や自分の名前を世に出し、ビジネスとしてお金に紐づけていく場所やきっかけがなかったんです。彼らのアートには、常に“障害者が描いた”というラベルが貼られていて、ある意味“福祉”という枠が彼らの可能性を狭めているような現状がありました。だから私たちは、ヘラルボニーの作家さんたちにもっともっと世に出て、お金をたくさん稼いでほしいと思っているんです」(丹野さん)

 

ヘラルボニーと契約している作家は、一般企業への就労が難しい重度知的障害のある人もいます。厚生労働省の調査によると、障害や難病のある人が利用できる就労継続支援B型事業所で働く人は全国に約26.9万人。その平均賃金は1ヶ月で1万6000円程度なのだとか。(令和2年3月時点。厚生労働省資料「障害者の就労支援対策の状況」より)

 

「契約作家さんの中には、まだ少数ではありますが確定申告をする人も出てきました。彼らを取り巻く現実的な課題として、将来親が亡くなった後の生活や収入源をどうするかがあります。作家がライセンス契約を通して自力で収入を得るモデルケースが作れたことで、こういった課題に対してもある意味、副次的にアプローチできているのかもしれません」(泉さん)

 

2023年1月、「息子が扶養の基準を超え、確定申告をすることになった」という契約アーティストの両親からメッセージが届いたリアルエピソードを基に企業広告を制作。日本最大級のクリエイティブアワード「2023 63rd ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」にて、PR部門の総務大臣賞/ACCグランプリを受賞しました。

 

大事なのは福祉の理解ではなく
ひとりの個人を知っていくこと

ヘラルボニーの大きな特徴として、彼らはそもそも福祉のスペシャリストではないという点があります。

 

「最近は会社の知名度が上がってきたので福祉を勉強してきた社員の採用も増えていますが、当初は障害のある家族がいるが福祉は専門としていない社員が大半でした。最初の1年くらいは施設の方々に話を聞き、障害福祉者のことを学びながら仕事をしていたというのが正直なところなんです」(泉さん)

 

「作家さんと接していると、言葉では会話が難しい時や思っていることがわからなかったり、素人の私たちからすればどうしたらいいかわからなくなることなんて日常茶飯事。でも私たちはそれを、障害のある方だから仕方ないと、“わかったふり”をすることだけはしないようにしています」(丹野さん)

 

例えばある作家さんは、おしゃべりをしている間、ずっと宙に何かを書き続けていたそう。

 

「彼のお父さんも最初は何をしているのかわからなかったそうですが、あるとき後ろからよく観察してみたら、どうやら文字を書いているようだと。人から聞いたことを頭ですぐに理解することが難しいから、指先で文字を書いて意味を理解しようとしているのではないかということでした」(丹野さん)

 

宙にひたすら文字を書いていた彼の名は小林覚さん。文字や数字を独特の絵として表現する、まるでグラフィティアートのような作風が魅力の作家です。

 

「つまり、私たちから見たら変わった行動でも、本人にとっては何か重要な意味があったりする。そういうことが、何度もやりとりしているとだんだんわかってくるんです。もちろん同じ障害があっても、人柄はみんな違います。結局は個人としてやりとりを積み重ねて、その人を知っていくしかない。でも、本当はそれでいいのではないかと思っていて」(丹野さん)

 

言語のコミュニケーションが苦手で、意思の疎通が難しい作家でも、出来上がった商品のサンプルは保護者や施設の管理者ではなく、できる限り本人に確認してもらう。それがヘラルボニーのやり方だそう。

 

「言葉はわからなくても、自分の作品がプリントされた商品を見せるとぎゅっとうれしそうに抱えて返してくれなくなる作家さんがいたり(笑)、他の作家さんの作品がデザインされた商品を身に着けてお会いすると『カッコ悪いぞ! 俺の柄を付けろ!』と言ってくる方がいたりしました」(丹野さん)

 

「そうそう(笑)。ある意味僕たちは、作家さんたちと“障害者”として関わっていない可能性すらあるかもしれませんね」(泉さん)

 

僕たちは障害のある方に
支援“されている”側の存在

「ヘラルボニーでは百貨店にお店を出店したり、有名ホテルとコラボして客室の内装をヘラルボニーのアートでデザインするといった企画も実施していますが、実際に作家さんをその場所にお招きすると、『初めて家族でホテルに泊まりました』『ヘラルボニーがやっているから、百貨店に行っていいんだと思えるようになりました』といったお声を頂戴するんです。障害がある子どもがそういう場所に行ったら、周りに迷惑をかけるかもしれない。そんな風に自らを制限して生きてきた方々が、生活の選択肢を増やしていくことにも、わずかながらではありますが、寄与できているのかもしれません」(泉さん)

 

「そういう意味で大きかった仕事のひとつが、電車のアートラッピングです。2023年10月から約2年間、岩手のJR釜石線で陸前高田市出身の作家さんのアートをラッピングした車両が走ることになりました」(丹野さん)

 

2023年10月よりJR釜石線でラッピング車両が走りはじめました。描いているのは陸前高田市在住の田﨑飛鳥さん。彼は東日本大震災で自宅や今まで描いてきた絵を一瞬にして失い、数年間筆を置いていたところから力強く再起した経験を持つ作家です。

 

岩手県の盛岡バスセンター開業1周年を機に、岩手県北バス、みちのりHDと創り上げたヘラルボニーバス。盛岡市内循環バスを、異彩作家の作品がにぎやかに彩っています。

 

「地方でこういった目立つコラボ事例を作ると、地元の新聞に載せていただけたりするんですよ。すると当人のご家族や彼らを取り巻くさまざまなところで、喜びの声が上がるんです。「どこの家の誰々君が新聞に載ったよ!」って、すごくわかりやすいコミュニケーションのひとつなんですよね。そんな話題や歓喜の輪を日本の各地で作れることが、この仕事の醍醐味でもあると思っています」(泉さん)

 

ヘラルボニーの社員たちは、障害のある人を支援しているのではなく、むしろ彼らに支援されてる。泉さんはそう繰り返していました。

 

「彼らを障害者というラベリングをして接するのではなく、もっと個人として目を向けてみる。そういう考え方が社会に当たり前に広がったら、日本社会における“障害”の捉え方も、障害のある方の生き方や暮らしも、きっと変わっていくのではないでしょうか。何だか大きな話になってしまいましたが、それでも彼らの作品を見ていただければ、僕らの想いは多くの人に伝わるのではないかと思っています」(泉さん)

 

Profile

ヘラルボニー リードアカウント / 泉 雄太

2019年秋に入社。前職で住宅メーカーの営業職をしていた経験を活かし、入社後は『仮囲いアートプロジェクト』などの建設系の案件でプロジェクトを牽引している。ヘラルボニーの本拠地である岩手県で前職時代を過ごし、松田文登氏と出会った。

ヘラルボニー デザイナー / 丹野晋太郎

2019年春に入社したヘラルボニーの1人目の社員。大学時代にアルバイトをしていた居酒屋で代表取締役副社長の松田文登氏と知り合ったことを機に、知的障害のある人々のアートに興味を持つ。大学卒業後、広告代理店を経てヘラルボニーに参画。

ヘラルボニー HP

「ジェットストリーム」にカリモク家具コラボ多機能ペンが新登場! 家具の端材をグリップに再生利用した「JETSTREAM × karimoku 4&1」

三菱鉛筆は、油性ボールペン「ジェットストリーム」シリーズから、カリモク家具とコラボレーションした多機能ペン「JETSTREAM × karimoku 4&1」を11月28日に新発売します。価格は3000円(税別)で、軸色はサンセットオレンジとスチールブルーの全2色。

 

今回発売するのは、国内生産の木製家具メーカーのカリモク家具とコラボレーションし、「暮らしに、木の温もりと彩りを。自分らしさを飾る、道具選びを。」をコンセプトとした、木製家具の製造工程で生まれる木の端材をグリップに再生利用した多機能ペン。

 

木製家具製造の過程で生まれた端材の中から、サンセットオレンジにはナラ材、スチールブルーにはウォールナット材をグリップとして採用。家具と同様のウレタン塗装を施し、手に優しくなじむ仕上がりとなっています。木目や色合いに天然木ならではの違いがあり、それぞれの個性が楽しむことができ、端材と端材との継ぎ目が模様として現れるグリップもあります。グリップの側面には、「karimoku」ロゴを刻印し、カリモク家具とのコラボレーションを象徴しています。

 

カリモク家具のラインナップなどから着想を得た、深みのあるトーンのカラーを取り入れ、トレンドを感じながらも日常的に使えるデザインに仕上げています。カラー塗装部分には、ファブリック家具のように、しっとりと柔らかな手触りが印象的なソフトフィール調の塗装を採用。

 

パッケージには、本体と色を合わせたデザインが印象的な、古紙を再生利用した紙製パッケージを採用しています。

 

ボールペン4色とシャープが1本に搭載されている多機能ペンで、日常的に使いやすく、ノートや手帳、書類、資料への色分けしての書き込みに最適です。ボールペンのインク色は黒、赤、青、緑。

茶殻をアップサイクルした「茶殻紙」を使用! 伊藤園×キングジム、エコな「紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)」を共同開発

キングジムと伊藤園は、伊藤園が展開する「茶殻リサイクルシステム」により開発された「茶殻紙」を活用した「紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)」を共同開発。12月8日に発売します。

 

同製品は、伊藤園の「お~いお茶」などの日本茶飲料の製造過程で排出される“茶殻”をアップサイクルした茶殻紙を活用して開発した、A4サイズの紙製ホルダーです。茶殻紙は茶殻と紙パルプを混合して生産されており、通常の紙を使用するよりも紙原料の使用量を削減できます。

 

清涼でほのかなお茶の香りがあり、封を開けた瞬間から香りを楽しめるのも特徴です。今回はホルダー本体だけではなく、パッケージにも茶殻紙を使用しています。

 

ラインナップは紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)と「二つ折り紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)」の2種類で、いずれも内側に茶葉のデザインをプリントしており、茶殻紙ならではの地模様により、ホルダーに収納した書類が外から見えにくくなっています。二つ折り紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)はフルート加工により表面が波状で折れ曲がりにくい仕様で、内側に名刺を差し込めるスリットが付いています。

 

紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)は10枚入りで、10枚あたりお~いお茶600mlペットボトル約3本分の茶殻を配合しています。二つ折り紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)は2枚入りで、2枚あたりお~いお茶600mlペットボトル約2本分の茶殻を配合し、紙原料の使用量を削減しています。

 

価格は、紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)が920円(税別)、二つ折り紙製ホルダー(茶殻紙タイプ)が830円(税別)です。

欲しいものを必要な分だけ。話題の業態「バルクショップ」の賢い活用法と注目店

「バルクショップ」という単語を聞いたことがあるでしょうか? 一言で言えば、量り売りの店のこと。食料品や日用品を、欲しい分だけパッケージフリーで買えるのです。このスタイルは古くから存在しますが、それが昨今注目を浴びています。

 

バルクショップが注目される理由と、メリットとは? また日本、そして地域社会で果たす役割にいたるまで、北海道ニセコエリアでバルクショップ『Pyram Organics & Plants(ピラムオーガニクスアンドプランツ:以下ピラム)』を営む小長井真樹さんに解説いただきました。

 

必要なものを、必要なときに、必要な分だけ買う。バルクショップの魅力

オーストラリア・メルボルンのオーガニックストア「テラマドレ」の店内。

 

「バルク」とは、直訳すると大きさ・容量を意味する言葉。流通や小売の分野で、「バラ売り」を指します。バルク品の対義語は「パッケージ品」。つまり「バルクショップ」とは、バラ売りを行う店、店舗が仕入れた商品を消費者が持参した容器に必要な分だけ詰めて購入できる、量り売り専門店のことをいいます。これにはどのようなメリットがあるのでしょうか?

 

「この買い方は、一般的なパッケージ商品と比較すると、梱包材を用意する必要がないのでコストカットにもつながる、というメリットがあります。また使い捨てられるビニール袋や包装紙などのごみが出ないため、環境への負荷を大幅に減らせるのです。近年バルクショップが増えている一因に、2015年国連サミットで持続可能な開発目標SDGsが採択され、サステナブルな暮らしに国際的関心が高まったことがあると言われています」(『ピラム』店主・小長井真樹さん、以下同)

 

バルクショップは、環境先進国と言われるドイツや北欧諸国はもちろん、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどでもすでに一般化。小長井さんも、長い海外生活のなかで日常的にバルクショップを利用していたそう。

 

「アメリカの大学を卒業したあと、カナダやオーストラリアでも暮らしていた期間が長いのですが、どこでも身近なところに、オーガニック食材が売られているバルクショップがあったんです。大きなスーパーでも、店の一角にオーガニック食材が量り売りスタイルで売られているのは普通のこと。都市部に限らず、田舎でもそういうお店が1軒はありました。海外では、選択肢のひとつとしてオーガニック食材の量り売りが身近に存在しているんです」

 

ニセコに移住したとき、海外の移住者が多い地域でありながらバルクショップがないことを残念に思っていた小長井さん。ないなら自分で始めようと思いたち、2019年にピラムをスタートさせました。

 

食料品から日用品までバルクショップで手に入る商品

 

ピラムでは、さまざまな商品を量り売りのスタイルで購入することができます。オーガニックのナッツやドライフルーツ、オリーブオイルや菜種油、醤油や酢などの調味料、スパイス、小麦粉、北海道産のお米やそばの実、生はちみつ、生分解性100%の洗濯洗剤や食器洗剤など、種類も多彩。現在、国内にあるバルクショップではどのようなものが売られているのでしょうか?

 

「やはりオーガニックの食料品を取り扱っているお店は増えていますね。また、お米や野菜、調味料などはもちろんですが、洗剤の量り売りを専門にしているお店、小麦粉やシロップ、チョコレートなどの製菓材料を専門に取り揃えているお店も。日本でもバルクショップの需要は伸びているのではないでしょうか」

 

小長井さんは、バルクショップを運営するにあたり、販売する商品をどのように選んでいるのでしょうか?

 

「大切にしているのは、地域の方が必要とする日用品を揃えていくこと、そしていま自分が暮らしている北海道の生産者さんとつながりながら、地元の商品を取り扱うことです。“地産地消”を目指すことで、無駄な梱包も輸送コストも削減され、環境へのインパクトを大幅に減らすことにつながります量り売りのお店が地域の需要に応えることで、消費者が必要なものを必要なときに、浪費や無駄のないスタイルで購入できることは、とてもすぐれた買い物のスタイルだと考えています」

 

容器持参でお店へ。バルクショップでの買い物方法

 

バルクショップでは、どのように買い物をするのでしょうか?

 

「まず、商品を入れる容器を持参してお店に行くのが基本スタイルです。当店では、什器に入っている穀類やグラノーラ、調味料や洗剤なども、持参していただいた容器に自分で詰め、風袋を引いた中身の重さだけで購入いただけます。また、地元の人から使用済みのガラス瓶を回収して消毒し、ドネーションボックスに置いて無料提供も。万が一容器を忘れた場合でも、自由にこちらの容器を利用していただけます。ガラス瓶を提供してくれた方は自宅のゴミを削減できるし、買い物に来た方もゴミを出さずに買い物ができるという、環境保全のためにも効果的な方法ではないでしょうか」

 

バルクショップ愛用者の活用方法

ピラムのリピーターは普段、量り売りで購入した商品をどのように暮らしの中で活用しているのでしょうか?

 

「ニセコエリアは外国出身の方も多いので、量り売りのスタイルに慣れた常連さんが多いですね。オートミールやシリアルなど、主食となるものをキロ単位でまとめ買いされていきます。ほかには、スパイスやハーブなど、日々のお料理に使用する食材をリピート購入される方が多いです。基本的には暮らしで日常的に食べるもの、使うものをご購入いただいています」

 

とはいえ、日本ではまだ、入店してからどうしたらいいのか、戸惑う人は多いそう。

 

「日用品を買うというより、ナッツやドライフルーツをお菓子感覚でちょっとずつ購入する感じの方も多いですね。海外と日本の、量り売りに対する感覚の違いをよく感じています」

 

小長井さんがおすすめするバルクショップの活用方法は?

 

「僕は、『日常的に必要なものを必要な分量だけ買う』ということ自体が当たり前になれば、と思っています。そのために、容器を持参し、量り売り専門店で普段使いのお米や調味料や洗剤を購入するというスタイルが浸透していけばいいと思うんです。とはいえ、いろいろな価値観や考え方があるので、量り売り専門店が普段使いの選択肢のひとつになるまでには、それなりに時間がかかるのでは、とも感じています」

 

注目のバルクショップ 5

全国に広がるバルクショップ。ここでは環境保全への取り組みも注目されているバルクショップを紹介します。

 

■ 斗々屋京都本店

「地球一個分の暮らしを全国に」日本初のゼロウェイストスーパー
斗々屋の京都店は、2021年に誕生しました。鴨川に程近い、京都本店の広々とした店内では、「オーガニック」「フェアトレード」「ゼロウェイスト」の基準で選ばれた生鮮食品、野菜、調味料、乾物、洗剤など700品目を販売。国内最先端の量り売り機械システムを導入し、初めての人でもスムーズに容器持参での買い物ができます。「地球一個分の暮らし」をコンセプトに、サステナブルな消費や生活のあり方を全国に広めることを目指しています。

 

【Shop Info】

所在地=京都府京都市上京区河原町通丸太町上ル出水町252番地 大澤事務所ビル1F
営業時間=スーパーマーケット11:00〜19:00、カフェ11:00〜14:00、イートイン11:30〜18:00、ワインお料理&夜カフェ「pas mal」18:00〜23:00
HP
Instagram

 

■ ビオセボン麻布十番店

バルクフーズをもっと楽しく!「地球環境に優しいお店」
「オーガニックを日常に」をテーマに品揃えした、パリ発のオーガニックスーパーマーケット「ビオセボン」。2016年の日本上陸1号店「麻布十番店」をはじめ、全店とオンラインストアで量り売りを導入。無漂白・砂糖添加なしのドライフルーツやチョコレートなどが90種も並びます。その中身は本格的で、世界一基準が厳しいと言われるオーガニック認証「デメター」取得のトルコ産イチジク、自家発電で工場機器の運転をまかなうDixon Ridges Farms社の生クルミなど、環境保全を理念とする企業の商品のみを販売。専用の紙袋を使用し、プラスチック包装資材削減に貢献。自由が丘店、旗の台店では持ち込み容器にも対応しています。

 

【Shop Info】

所在地=東京都港区麻布十番2-9-2
営業時間=9:00〜22:00
定休日=年中無休
HP
Instagram

 

■ オリエンステラ横浜元町店

環境と社会に配慮した美の追求
東洋人に合うオーガニック成分を厳選し、生分解性の高いシャンプーやコンディショナーを販売するオリエンステラ。ポンプを別売りとして再利用を推進し、ボトルにも燃やすときの二酸化炭素を軽減するバイオマスプラスチックボトルを使用することで環境負荷を低減。横浜元町店ではシャンプーとコンディショナーを量り売りで購入することができます。安心安全な成分のシャンプーを、必要な分量だけ購入し、容器も再利用する。美の追求と同時に、エシカルな消費の形を実現しています。

 

【Shop Info】

所在地=横浜市中区元町1-18-5 レフィナード元町3F
営業時間=10:00〜18:00
定休日=不定休
HP

 

■ ecostore アトレ恵比寿店

自然由来の原料にこだわるニュージーランド生まれのエコブランド
ecostoreは、ニュージーランド発祥の地球にやさしいホームケアブランド。植物・ミネラル由来の原材料を厳選して調達し、家庭用洗剤にも食べ物と同等の安全性を約束しています。サトウキビ原料の外容器「カーボンキャプチャーパック」を採用し、環境への配慮を徹底。ecostoreアトレ恵比寿店は世界に2拠点しかないエコストアのスペシャリティショップで、プラスチックごみ削減を目的とするキッチン、ランドリーなどのリフィルステーション(量り売り)が設置されています。

 

【Shop Info】

写真はニュージーランドの店舗。

所在地=東京都渋谷区恵比寿南1−6 アトレ恵比寿西館2F
営業時間=10:00〜21:00
定休日=年中無休
HP
Instagram

 

■ にじのおもちゃ屋レーゲンボーゲン

子どもにやさしいおもちゃ店の量り売り
北欧を中心とした自然素材のおもちゃを取り扱う、にじのおもちゃ屋レーゲンボーゲン。店主の小池さんは、木の実や落ち葉、トンボやトカゲなど、子どもたちと一緒に身近な自然に触れ合いながら遊ぶうちに、自然環境を守る大切さについて考えるようになったと言います。主業はおもちゃの販売ですが、自然を子どもたちに残したいという思いと同時に、今ある環境課題への気づきにつながればと考え量り売りコーナーを設置。お腹がすいたときに、必要な分だけ購入できる量り売りのお菓子は、オーガニックのナッツやドライフルーツなど、素材そのもののおいしさを感じられるラインナップ。やさしい味に満たされながら、親子で環境保全を考えるきっかけになっています。

 

【Shop Info】

所在地=千葉県千葉市若葉区大草町535
営業時間=月曜・火曜10:00〜16:00、金曜10:00〜20:00、土曜9:30〜13:00
定休日=水曜、木曜、日曜、祝日
Instagram

 

バルクショップで買うことが環境保護につながる

「僕は、バルクショップで買い物をすることが環境問題への関心を深めるきっかけになれば、と考えています。ピラムにはお客様が容器を持参してくれたら、商品購入額から1%割引するという容器持参割引システムがあります。容器を持参したお客様の数とその割引額を算出し、割引額と同額を環境保護団体1% for the planetに寄付します。実際賛同者も増えていて、このスタイルがきっかけになって容器を持参される方もどんどん増えているんです」

 

容器を持参することで商品が割引になる上に、ただ使い捨てられるだけの梱包材のゴミも出さず、いま必要なものを必要な分だけ購入することで無駄もなくなる……バルクショップでの買い物が環境保護につながっていくという好循環。お財布にも地球にもやさしい、理想的な買い物のスタイルがここにあります。

 

「バルクショップでの買い物が、お店にも、お客様にも、社会にも、地球環境にも良い、“四方良し”の形になっていく。これがオーガニック食材や量り売りがもっと身近に感じられるきっかけになればと思っています。表向きだけではない、真の意味でサステナブルな社会を作っていくために大切なことではないでしょうか」

 

 

各企業の真摯な環境保全への取り組みを理解すると、バルクショップで買い物をする意義をより実感することができます。ゴミを減らす以外にも、量り売りは少量から買えるので、気になる商品を気軽に試せる楽しみもあります。また、必要量を見極めたりじっくり商品を選んだりすることで、無駄買いを減らせるというメリットも。本当に必要なもの、好きなものに囲まれた暮らしは心地良いもの。まずは空き瓶を片手に、気になるバルクショップへ出かけてみませんか?

 

Profile

バルクショップ『ピラムオーガニック』店主 / 小長井真樹

アメリカの大学卒業後、ワーキングホリデーを利用し、カナダ、オーストラリアで海外生活を送る。メルボルン在住期間に、現地のオーガニックストア「テラ・マドレ」に大きな影響を受け、身近に環境負荷を減らすオーガニックストアがあることの大切さを感じるようになる。ニセコエリアに移住後、地元でオーガニックストアの必要性があることを感じ、オーガニックストア「ピラムオーガニクス&プランツ」をスタート。梱包費や輸送コストも大幅に削減できる地産地消を大切にし、ニセコエリアの人たちが本当に必要としているものを、環境負荷を減らすスタイルで提供している。

 

Store Info

Pyram organics & Plants

所在地=北海道虻田郡倶知安町3丁目北1条西11
営業時間=10:00〜19:00
定休日=木曜
HP
Instagram

日本ではわずか3%…「臓器移植」の現状は?レシピエントコーディネーターに聞く基礎知識と私たちがとるべきアクションとは

毎年10月16日は「グリーンリボンデー」。家族や大切な人と「移植」や「いのち」について考える日です。この日をきっかけに、「臓器移植」について考えてみましょう。臓器移植と聞くと縁遠く感じるかもしれませんが、「臓器を提供する」「移植を受ける」だけではなく「提供しない」「受けない」ことも、大事な選択肢のひとつ。臓器を提供する意思がない人も含め、誰もが当事者なのです。

 

とはいっても、臓器移植がどういったものか理解できておらず、自分の気持ちもわからないという人も多いでしょう。そこでレシピエント移植コーディネーターとして長年臓器移植に携わってきた添田英津子さんに、臓器移植の仕組みや向き合い方について教えていただきました。

 

臓器移植における死の定義とは
「脳死」と「心臓死」

臓器移植とは、病気や事故で臓器の機能が弱まってしまった人に、他の人の臓器を移植する医療のこと。臓器を提供する人をドナー、移植を受ける人をレシピエントと呼びます。また、移植には、家族など生きている健康な人から臓器を分けてもらう「生体移植」と、亡くなった人の臓器を移植する「死体移植」がありますが、今回は死体移植について考えていきます。

 

臓器移植においての『死』とは、脳死後あるいは心臓が停止した死後を指します。

 

心臓が停止した死後は心臓や呼吸が止まった状態のことで、血が流れなくなるため身体はどんどん冷たくなっていきます。一度血流が止まっているので提供できるのは腎臓膵臓(すいぞう)眼球だけです。一方脳死は、脳の機能が失われた状態で、首から下はまだ血が流れています。そのため心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球の7つの臓器を提供することができます。

 

臓器移植法が制定された1997年10月から約13年間は、本人が『臓器提供したい』という意思を書面に残していないと脳死下での臓器提供はできませんでした。しかし、2010年7月に法律が改正され、今は脳死後あるいは心臓が停止した死後でも本人の意思が不明な場合は、家族の判断だけで臓器提供できるようになりました(※)。

 

ただ、脳死だと身体はまだあたたかい状態。あたたかい身体に触れると臓器提供をためらう家族も多く、心臓が止まるまで待ってほしいとおっしゃるケースも多くあります」(添田英津子さん、以下同)

※本人が臓器提供を拒否する意思を示している場合を除く。

 

臓器移植の流れ

臓器移植コーディネーターは、ドナー側につくドナーコーディネーターとレシピエント側につくレシピエントコーディネーターの2種類。立場が明確に分かれているのは、「このレシピエントには少しでも早く移植してあげたい」といったどちらかに偏った気持ちが入り、正しい判断ができなかったり、サポートがおろそかになってしまったりする事態を避けるためです。

 

ではコーディネーターのサポートのもと、一体どのような流れで臓器移植が行われていくのでしょうか? ここでは脳死下での臓器移植の流れをご紹介します。

 

【脳死下での臓器移植の流れ】

1.救命治療をしても回復の可能性がない場合、つまり脳死とされうる状態と判断されたら終末期医療のひとつとして臓器提供という選択肢が挙がります。臓器提供についての説明を希望する家族はドナーコーディネーターから話を聞き、臓器提供をするか考えます。

 

2.家族の承諾後、レシピエント選定基準にのっとり日本臓器移植ネットワークが移植を受ける方を決定します。移植を受ける患者さんがいる病院にはこのタイミングで情報が届きます。病院は移植を受ける候補となった患者さんに確認の連絡をして、移植を受けるか否か返事をしなくてはなりません。

 

3.脳死の場合、一定時間後に改めて脳死判定を行い、状態に変化がないことを確認します。そのため第2回脳死判定が法的な死亡時刻となります。第2回脳死判定がなされると摘出手術の準備がはじまり、準備が整うまでの間ドナーと家族は最後の時間を過ごすこととなります。

 

「移植に関する情報はいつ届くかわからないので、コーディネーターたちはつねに連絡が繋がるようにしなくてはなりません。私もかつてレシピエントコーディネーターとして働いていたときは、枕もとに携帯を置いて寝ているときでもすぐに対応できるようにしていました」

 

医療技術が進歩してもなお、
臓器提供が必要な理由

どんどんと医療技術が進歩し、人工心臓やECMO(エクモ=extracorporeal membrane oxygenationの略で、人工肺とポンプを用いた体外循環による治療をいう)など、人工的なものでカバーできる病気も増えています。しかし添田さんは「それでも臓器移植の必要性は変わっていない」と話します。

 

「人工的なものは身体にも心にも大きな負担が掛かります。例えば慢性腎臓病の方は人工透析という治療を受けます。週に2、3回施設に通い、数時間かけて血液をきれいにするのですが、続けるうちに血管がもろくなって心筋梗塞などの別の病気を引き起こしたり、妊娠し出産を希望する女性はそれが難しくなったりします。それから自分で老廃物を外に出せない状態が根底にあるので、徹夜明けのようなすっきりしない状態が慢性的に続きます。

 

以前、ずっと人工透析をしてきた50代男性の腎臓移植を担当したことがありました。とてもまじめで誠実な方で、週3回駅前にある人工透析施設に通いながら仕事をして、家庭を守っていたそうです。移植手術が終わったあと、その男性の息子さんが『お父さんたまにイライラしていたよね。移植したら人が変わったみたいだ』とおっしゃったらしく、私は裏ではそんな苦労があったのかと驚きました。

 

医療の進歩によって普通に生活ができているように見えても、きっとどこかに不自由があるんです。この出来事をとおして、あらためて臓器移植は人生を変える力がある素晴らしいものだなと感じました」

 

移植を受けられるのはわずか3%
日本と海外の臓器移植の今

現在、日本で臓器移植を希望している人は約1万6000人いるのに対し、1年間で臓器移植を受けられたのは約400人。わずか3%の人しか移植を受けられていません。一方、アメリカでは年間約1万4000人が死後に臓器提供していて、ドイツや韓国、イギリス、スペイン、フランスなどでもアメリカに次ぐ勢いで臓器移植が行われています。

 

世界の臓器提供数(100万人当たりのドナー数)

人口100万人あたりの臓器提供者数を世界の国々と比較すると、日本の提供件数が少ないことがわかります。(提供=(公社)日本臓器移植ネットワーク)

海外で臓器提供がさかんに行われている背景には、終末期医療のひとつとして確立していることも考えられます。医療関係者だけではなく、一般の方々も移植を死にともなう事柄として当たり前のようにとらえているのです。

 

また、日本でははじめに搬送された病院が臓器提供に対応した病院でないとドナーになれないですが、海外には提供するために転院できる国もあります。他にも死の定義(脳死を人の死とするか否か)や意思表示制度のちがい、脳死患者の連絡義務など、各国の臓器提供体制制度が提供件数に影響をおよぼすとされています。

 

「とはいえ私は海外のレベルまで提供数や移植数を増やすことが、日本の臓器移植の目指すべきところだとは思いません。単に数を増やそうとすれば、家族の看取りたい気持ちとズレが起きたり、一人ひとりのドナーやレシピエントに寄り添いきれなかったりするからです。ですので、皆さんも『提供します』に丸をつけることだけが、臓器移植の未来のためになると思う必要はありません

 

大事なのは自分の気持ちに正直になること
私たちができる4つのアクション

最後に、私たちは臓器移植のためにどんなアクションを起こすべきか、添田さんに教えていただきました。

1.最期の迎え方を考える

「まずは自分がどんな最期を迎えたいかを考えるとよいでしょう。特に日本人は自分の死とじっくり向き合う機会が少ないと思います。臓器提供をしたいかどうかはもちろん、延命治療をしてほしいのか、どんな延命治療がよいのかなど、広く死について考えてみてください」

 

2.自分の気持ちを形にする

「臓器提供はまず本人の意思が尊重されます。そのためにも自分の気持ちを形として残しておきましょう。健康保険証、運転免許証、マイナンバーカードといった身分証に書くほか、役所や病院などに置いてある意思表示カードに書いたり、日本臓器移植ネットワークのサイトで臓器提供意思登録をする方法もあります。

 

じっくり自分の気持ちと向き合ったうえで『いやだ』『怖い』という気持ちであれば、無理をする必要はありません。『提供しない』という意思を残しておけば、いざというときに家族が悩む必要もないので、それもひとつのやさしさと言えます。

 

また、気持ちは毎日変わるもの。何度書き直しても大丈夫ですので、揺れる気持ちに正直になってください。カードによって意思がちがう場合は、一番新しい日付の意思が尊重されます」

 

意思表示カードは日本臓器移植ネットワークのサイトで送付申請できます。(提供=(公社)日本臓器移植ネットワーク)

 

3.家族と話す

「最終的に治療や臓器提供を判断するのは家族なので、話し合ってお互いの意思を共有しておくことも欠かせません。気軽に話せるような話題ではないと思うので、運転免許証を更新したときやマイナンバーカードをつくったとき、結婚したとき、誰かが病気になったときなど、きっかけになるような出来事を利用するとよいかもしれません」

 

4.無理をしない

「家族に何かあって臓器提供するか否か判断しなくてはならないとき、忘れてほしくないのは無理をしないということです。自分の気持ちを押し殺して、提供する必要はありません。

 

もしどうしても悩んでしまったら、亡くなったご本人の思いを想像しみてはいかがでしょうか。先日、救命医の方が『レシピエントのためを思ってやっているわけではない。突然、痛ましい事故に遭った患者さん、そしてご家族と向き合っているとき“この方をこのまま死なせて良いのか”と考えているのです。何かできることがあればしてさしあげたい。そのひとつが臓器提供という選択肢であるだけなのです』とお話されていました。臓器提供は終末期医療の選択肢のひとつと捉えてみると、少し見え方が変わるかもしれません」

 

臓器提供について、
より気軽に考えられる社会へ

「日本は臓器提供や死についてもっと気軽に考えられる社会になっていくべきです。例えば運転免許証の裏の意思を書く欄がありますが、とても地味で事務的な感じですよね。臓器提供を希望する方はグリーンリボンのマークをつけるとか、より多くの人の気を引く工夫ができるのではないかと思います。

また、レシピエントコーディネーターとして活動していた身としては、今後はレシピエントの数を減らす努力もしていかなくてはならないと感じています。その一環としてアルコール依存症や生活習慣病などの臓器移植につながる病気の予防啓発をすることがまず大切です。移植を受けた子どもたちが元気に成長・発達を遂げられ、いつまでも健康に暮らせるよう患者会やキャンプを行い支援したりしています。

私たち一人ひとりが心穏やかに生命の大切さ、臓器移植や臓器提供について考えていける世の中になるとよいですね」

 

Profile

慶應義塾大学看護医療学部 准教授 / 添田英津子

1988年、慶應義塾大学医学部付属厚生女子学院を卒業。同病院の小児外科病棟に勤務する。1995年に米国・ピッツバーグ大学看護学部の学士過程を卒業すると、米国・マギー病院の老年病棟主任、米国・小児在宅訪問看護師などを経験。2003年に慶應義塾大学病院のレシピエントコーディネーターとなり、2009年まで従事した。現在は、慶應義塾大学看護医療学部の准教授として小児看護学を教える傍ら、日本臓器移植ネットワーク 理事、日本移植・再生医療看護学会 理事長、日本移植学会 評議員なども務めている。

 

3000kmのデスロードを太陽光だけで疾走! 世界最高峰のソーラーカー耐久レースで世界一奪還を誓うチームの秘策とは?

ブリヂストンがタイトルスポンサーを務める「2023 Bridgestone World Solar Challenge(以下、BWSC)」は、オーストラリアのダーウィンからアデレードまでの約3000キロの道のりを、太陽光のみで走行する世界最高峰のソーラーカーレース。

 

2021年は新型コロナウイルスの流行により中止されましたが、今年4年ぶりに復活します。2023年10月22日から5日間をかけて競われるBWSCは、全世界20以上の国と地域から43チームが参加し、日本からも大学や高校など複数がエントリーしています。とくに2009、2011年と連覇経験のある東海大学は、人気・実力ともにトップクラス! 世界一を期待されているチームのひとつです。

【関連記事】大クラッシュから逆転優勝! 東海大学ソーラーカーチームが世界的な強豪であり続ける理由 |@Living

 

今回は、レースを前に先日、東京都小平市にあるBridgestone Innovation Parkで開催された「Bridgestone Solar Car Summit 2023」の様子を紹介。東海大学の新型マシン「2023年型Tokai Challenger」のお披露目と試走会の様子から、チームやサポートするブリヂストンが4年ぶりのBWSCへかける意気込みまでをレポートします。

 

ソーラーカーの進化は「タイヤ」にあり!?

↑ブリヂストンは新技術によって生まれた再生資源・再生可能資源比率63%の新タイヤをモータースポーツに初めて供給する

 

BWSCは、1987年に第1回大会が開催された世界で最も歴史があるソーラーカーレース。2013年からブリヂストンがタイトルスポンサーを務めています。大会期間中は、毎朝8時~夕方17時までオーストラリアの公道を太陽の力だけで走行。砂漠の中を走るため、風や激しい気温変化に対応しながら、チーム一丸となってゴールを目指します。

 

1996年から東海大学ソーラーカーチームに所属する東海大学 木村英樹教授によると「ソーラーカーレースは、ブレインスポーツ。常にベストなコンディションで走行するためには、気象条件の把握やドライバーとのコミュニケーションが必須。チームで戦わないと勝てません。BWSCは、若手エンジニアの育成だけでなく、テクノロジーの共創といった観点からも大変重要な大会です」といいます。

↑東海大学ソーラーカーチームを率いる、同大学工学部機械システム工学科・木村英樹教授

 

またレーシングカーや飛行機などに用いられるカーボンコンポジット技術を開発する東レ・カーボンマジック株式会社の奥明栄氏も「ソーラーカーは、走る実験室。これらの経験や実験が、ものづくりに貢献する」と語り、未来のモビリティ開発との関係性を強く訴えていました。

↑東レ・カーボンマジック株式会社の奥明栄代表取締役社長

 

さらに株式会社ブリヂストン モータースポーツ部門長である堀尾直孝氏は「BWSCは、世界中のハイレベルな技術と人が集結する大会。サステナブルなモータースポーツとして価値あるプラットフォームにしていきたい」と、大会の意義について語ります。

↑株式会社ブリヂストン モータースポーツ部門長の堀尾直孝氏

 

そんなソーラーカーレースの歴史の中で、大きく進化しているのはどこなのでしょうか?

 

木村教授によると、一番の進化はタイヤにあるとのこと。というのも大会の初期には、自転車のタイヤが代用されており、ソーラーカー専用のタイヤは開発されていませんでした。ソーラーカーレースでは、なるべく少ない電力で効率よく走行することが求められます。タイヤが大きく重たいと、タイヤを動かすために必要以上の電力が使われてしまうため、非効率に。しかし軽さにこだわりすぎるとパンクしてしまうリスクが上がります。軽くて摩耗しにくい、そんなタイヤが求められていました。

 

このような背景を踏まえ、タイトルスポンサーであるブリヂストンでは、2013年大会からソーラーカー専用のタイヤ供給を開始。2023年大会では、35チームにタイヤを提供する予定です。

 

↑メディアに初公開された、東海大学ソーラーカーチームの新車「Tokai Challenger」。採用するタイヤには、ブリヂストンの商品設計基盤技術「ENLITEN」を搭載している。左端は工学院大学の濱根洋人教授

 

今大会から使用されているブリヂストンのタイヤは、カスタマイズが可能な「ENLITEN」技術を採用。ソーラーカーで重視される「低転がり抵抗」「耐摩耗性能」「軽量化」に特化したタイヤになりました。さらに再生資源・再生可能資源使用率(MCN比率)も向上し、より環境にやさしいタイヤを実現しています。

 

リサイクル可能な再生材料を利用し、よりサステナブルなソーラーカーを実現

↑「Tokai Challenger」を前に勢ぞろいした東海大学ソーラーカーチームのメンバーたち

 

大きく変わった点は、3つ。まず、四輪から三輪への変更です。こちらはルール変更により、これまで四輪のみ走行可能だったものから、三輪も選択できるようになったとのこと。東海大学では、初の試みとなる三輪(前2輪、後1輪)を選択しました。

 

東海大学の佐川耕平総監督は「最後まで悩んだ部分でしたが、さまざまなシミュレーションを行い、経験値も踏まえつつ空気の絞りが利く三輪を選択しました。大きなチャレンジではありますが、正しい選択だったかはこれからわかること。楽しみですね」と話します。

↑新車で東海大学が採用したのは、新レギュレーションの三輪。後輪が1本で、軽快さが増した

 

2つ目は、軽量化。2023年型は強度・剛性を保ちながら、車体全体重量を24.6kgにまで軽減! これは前回大会の車体から約50%の軽減に値します。軽くなった分、バッテリーやモーターなど駆動に関わる部分の向上にも貢献することができました。

↑軽量化が進んだコンポジットパネル

 

最後は、環境への配慮。これまでリサイクルが難しいとされていた炭素繊維をリサイクル可能な再生材料へと変更しています。

↑リサイクル材からなる炭素繊維

 

走行時、二酸化炭素を排出しないソーラーカーですが、使う素材にまでこだわるのは、BWSCが持続可能なソーラーカーレースに変化しているとも言えますね。

 

コロナ禍の悔しさと走れる喜びを胸に、目指すは世界一奪還!

↑2023年型「Tokai Challenger」

 

今回は新型マシンが披露されただけでなく、実際に走行する様子も見ることができました。快晴の中、滑るように走り抜けるソーラーカーは、太陽の力だけで走行しているとは思えないほどの力強さがありました。

 

BWSCでは、5日間ドライバーを交代しながら時速約90キロで走行し続けます。砂漠の中を走ると聞くと気持ちよさそうに感じてしまいますが、車内にクーラーは搭載されていないため、ドライバーは体力勝負になることも。またコース付近にはホテルがないため、参加者は自分たちでキャンプ地を決め、料理など身の回りのことも全てチーム内で行います。非常に過酷な大会のため、いくら技術があったとしてもチーム力がなくてはゴールを目指せません。

 

今大会でチームリーダーを務める東海大学大学院2年生の宇都一朗さんは、2019年のBWSC経験者。今大会に向けて以下のように話してくれました。

↑東海大学ソーラーカーチームのリーダー、宇都一朗さん。右は佐川耕平総監督

 

「2019年大会は、1位と僅差で負けてしまいました。残念ながらすぐにリベンジとはいかず、悔しさを晴らせないまま卒業していった仲間も多くいます。その仲間のためにも、2011年以来となる首位奪還を目指したいです。この4年間でいろんな経験ができました。たくさんのスポンサーさまにも支えていただきやっと大会に参加できるという嬉しさと、リベンジしたい気持ちを胸に頑張ります」

↑この日は、スポンサーの東レ株式会社、東レ・カーボンマジック株式会社、大和リビング株式会社、株式会社ブリヂストンが参加

 

大学生は4年間という限られた時間の中で、BWSCに挑戦しています。2021年大会が中止になったことで、BWSCに参加できないまま卒業してしまった学生も多くいます。悔しい時期を乗り越え、さらにパワーアップした学生たちを応援しましょう。大会はこの週末から来週にかけて、現地での静的・動的車検などを経て、いよいよ10月22日に北端のダーウィンでレース初日を迎えます。10月29日に南端のゴール地点アデレードで予定されている表彰式では、一番高いところに上れるか? 期待が高まります。

 

手話の基礎知識と聴者が知っておくべきこと…日本手話と日本語対応手話の違いや、聴覚障がい者が日常で抱える悩みとは?

聴覚障がい者と聴者の恋愛を描いたテレビドラマ『silent』(フジテレビ)や『星降る夜に』(テレビ朝日)などの影響もあり、ここ数年で「手話」への関心がいっそう高まっています。ところが、実際に手話を学んでみたいと思っても、何から学べばいいのかわからないという人がほとんどではないでしょうか?

 

そこで、手話に触れてみたいという人に向けて、「手話とは何か」という基礎知識や、知っておきたい手話表現、聴覚障がい者のみなさんが抱える思いなどについて、テンダー手話教室代表の鈴木隆子さんに伺いました。手話について正しく理解し、聴覚障がい者と聴者がともに安心して暮らしていくために大切なことは何か、一緒に考えてみませんか?

 

使用禁止の時代もあった、日本語と同じひとつの言語「手話」

はじめに、「手話とは何か」という基本的な部分を、鈴木さんに聞いてみました。

 

「手話とは、聞こえない人(ろう者・中途失聴者)や難聴者の間、もしくは聴者との間で使われる、非音声で手指の動きを中心とした言語のこと。『手の動き』を中心としたという言葉からわかる通り、指や手の動きだけでなく、頭の動きや表情なども活用する、音声言語である日本語と対等なひとつの言語なのです」(手話通訳士・鈴木隆子さん、以下同)

↑お話を伺った、テンダー手話教室代表の手話通訳士・日本語教師の鈴木隆子さん

 

しかし、 “言語” として認められたのは2006年と最近のこと。それまで手話は、使用を厳しく禁止されていた時代もあったのだといいます。

 

「1878年、京都に『京都盲唖院(きょうともうあいん)』という、耳の聞こえない子と、目の見えない子が一緒に学ぶ教育機関ができました。その初代校長であり、ろう教育の創始者と呼ばれる古河太四郎が考案したものが、資料上で確認できるもっとも古い手話単語といわれています。そこから手話を使った教育が行われてきました。
ところが、1933年に当時の文部大臣から『各ろう学校は、口語教育に奮闘努力せよ』という方針が示されます。『口話』とは、口の形を読み取って相手の言葉を理解し、自分の声が聞こえない状態で厳しい発音の訓練をして音声でコミュニケーションをとる手段のこと。つまり、それまで使われていた手話を禁止し、口話での教育が全国のろう学校で採用されることとなったのです」

 

そこから長い年月がすぎ、ターニングポイントとなったのが2006年12月。

 

国連の『障碍者の権利に関する条約』のなかで、はじめて『手話は言語である』との定義が全会一致で採択。日本でも2011年の『障害者基本法』の改正により、手話は言語であるということがはじめて法律でも明記されました。現在関心が高まっている手話には、こうした歴史があったという事実も知ってほしいと思います」

 

日本で使われる2つの手話、「日本手話」と「日本語対応手話」の違い

手話は世界共通語ではなく、国によって違うもの。国際会議の場などで用いるために作られた「国際手話」もありますが、基本的には各国の文化で育まれたそれぞれの手話を使って対話をしています。さらに、「日本国内にも、『日本手話』と『日本語対応手話』の2つの手話がある」と鈴木さん。それぞれの手話について教えていただきました。

■ 日本手話
・主に、ろう者(生まれつき、または言語獲得期の3〜4歳以前に失聴した人)が使用
・母語が日本語ではない人が使う
・文法体系、語順、語彙は日本語とは異なる
・視覚的な表現も重要(表情、指差し、うなづきで表すなど)

 

「日本手話には、日本語の語順とは異なる独自の文法があります。『私はリンゴが好きです』と伝える際は、『私+好き+何かというと+リンゴ+私』となります。『何かというと』はなくてもよいのですが、相手の関心を引き寄せることができるので、こう表現することが多いです。また、文末の『です』がなく、主題の『私』をもう一度指をさして表します」

 

■ 日本語対応手話
・主に、中途失聴者(病気等の理由で失聴した人)、難聴者(片耳が聞こえない、高い音/低い音が聞こえないなど)が使用
・日本語を母語とする人が使う
・日本語に準じているので、文法体系、語順、語彙は日本語と同じ
・ろう学校などでは、助詞(て・に・を・は)を指文字で表すが、普段は省く

 

「一方日本語対応手話は、主に頭の中に日本語がベースとして入っている中途失聴者、難聴者の方々が使うため、日本語の語順通りに手話で表します。普段は省略されることが多いですが、ろう学校では日本語を書くときには助詞が必要であることを知ってもらうために、私『は』、リンゴ『が』という助詞を指文字で示すこともあります。日本手話と異なり、文末の『です』も手話で表現します」

 

テレビドラマ『silent』に出てくる手話も、登場人物のバックグラウンドによって使用している手話が違うのだそう。そうした違いに注目してみると、また新しい発見があるかもしれません。

 

2つの手話、どちらを学べばいい?

では、これから手話を学ぼうと考えている人はどちらの手話を学べばいいのでしょうか?

 

「私は、どちらの手話も大事だと思っています。しかし、日本語対応手話ができても、『日本手話しか認めない』として、日本手話ができない人が地域の手話通訳者登録試験に落ちるような地域もあるんです。でも聴覚障がい者のなかには、日本手話のみを使う人がいれば、日本語対応手話しかわからない人もいます。ですので、どちらか一方だけを認めるというのは、問題があると私は感じています。

 

人間に上下ないのと同じく、言語にも上下はないはず。だからこそ私の教室では、対象者に合わせてコミュニケーションできるよう、両方の手話を教えています。それぞれの手話を尊重することが何より大事だと思います」

↑手話通訳士の登録証。合格率は約10%と狭き門ではあるが、裁判や政見放送等の手話通訳を行うためには必須の資格だ

 

次からは、覚えておきたい簡単な手話表現や、実際の聴覚障がい者の声を紹介します。

 

コロナ禍特有の困りごとも……聴覚障がい者の抱える悩みや思いとは

「耳が聞こえない」という障がいは、外見上ではわかりにくいもの。また、聞こえることが当たり前の聴者にとって、聴覚障がい者の方々がどのような思いを抱えているのか知る機会も、あまり多くはありません。そこで今回は、鈴木さんのお知り合いの方や教室に通う方に、普段感じている悩みや聴者に知ってほしいことなどを伺いました。

 

鈴木さんも、「ろうの方はもちろん、中途失聴者、中途難聴者の方、難聴者の方、それぞれに抱えている想いや悩みはさまざまです。ぜひ、みなさんの思いを知っていただきたいです」と語ります。みなさんの率直な思いを一部、ここに紹介します。

 

■ 街中での困りごと・悩み

・大阪府/ろう者/男性
「音声放送や声掛けが文字化されていないこと。例えば病院だと、名前を呼ばれてもわからないので後回しにされやすいです」

 

・東京都/ろう者/男性
救急車が近づいてくるのに気付かなかったため、びっくりしたこともありました。もし、交差点や信号機についている文字掲示板に、救急車が近づいているとのメッセージが出ていたら、我々にとっても助かるし、安心して横断できるはずです」

 

・新潟県/ろう者/女性
スーパーやコンビニで何かを聞かれるとき、マスク越しだとわからない。また、飲食店でメニューが手元になく口頭で注文をしないといけないときや、出された料理の説明をされるときなども困ります」

 

・東京都/難聴者/女性
「知らない人が突然声をかけてくれた時に、『聴覚障がい者です』と答えると、筆談ならお手伝いできるのに、尋ねた人が『結構です!』と避けるケースがあってガクッとします。また、補聴器なら音は聞こえるが会話の内容まではわからない、と以前説明したにも関わらず、声を出せば話がわかると思っている知り合いもいます。そういうケースは誤解を招くので嫌になりますし、筆談すればよいのにと思います」

 

■ 道に迷った時など、困っているときの対処法

・東京都/中途難聴者/女性
「私は聞こえにくいことを伝えて、筆談をお願いします。今はスマートフォンに文字を打ち込んで見せる方法もあるので、筆談ボードがなくてもスマートフォンさえあれば何とかなります」

 

・新潟県/ろう者/女性
「スマートフォンに打ち込んで窓口や道行く人に尋ねる、音声認識ソフトを使って話してもらう、あらかじめ事態を予測して、できるだけその場面にならないように回避する」

 

■ 聴者へのメッセージ

・東京都/ろう者/夫婦
「健常者の方には、手話を覚えて街中で手話による会話ができるようにしてほしい

 

・東京都/中途難聴者/女性
「私も大人になるまで聴者だったので、聞こえる方の気持ちもわかります。ですが、もし『silent』や『星降る夜に』を見て何か感じていただけたのであれば、これは決してドラマの中だけの話ではなく、実は聞こえに困っている人が身近なところにいるのだと想像してほしいです。(中略)そして、難聴者は『補聴器を付けているから大丈夫だよね?』という誤解も多いです。聴覚障がいといっても、人によって聞こえがちがうこと、補聴器は聴者に戻れる魔法の道具ではないことを知ってほしいです。難聴者はその場の環境、相手の声質によっても聞こえ方が左右されることなどを、頭の片隅にいれておいてほしいと思います」

 

・新潟県/ろう者/女性
手話を覚えると、聴者にとってもメリットがあると思います(風邪をひいて声を出せなくなった時や、何かあった時に音声以外のコミュニケーションツールがあるといい)。また、『相手も私も、周りの情報がわかる環境』をお互いにつくり上げる意識を持ってほしいと思います」

 

・大阪府・ろう者・男性
「今はスマートフォンやパソコンの普及により便利になりましたが、まだ不便な部分もあります。それは『コミュニケーション』です。職場で聴覚障がい者と接し、慣れてきたとしてもうまくいかないこともよくあります。手話が必要なのに、筆談が必要なのに、仕事中だと聴者は戸惑い、うっとうしく感じることもあるでしょう。しかし、自分と違う人間だから相手にしなかったり、逆に利用したりいじめたり。そうやって孤立してしまい、生きる気力がなくなってしまう人もいます。もし、あなたが逆の立場ならどうしますか?

 

ふとした場面で役立つ、覚えておきたい手話

最後に、街中で聴覚障がい者の方に話しかける際に役立つ手話を、日本手話と日本語対応手話の違いも含めて2つ教えていただきました。手話を覚えることで、きっとコミュニケーションの輪も広がるはずです。※左右どちらの手で表現してもOKです。

 

■ 大丈夫ですか?

1.右手の親指以外の指先をそろえて軽く曲げ、胸の左側に当てる。

 

2.そこから手を移動し、胸の右側に当てる。

「ここまでの動作で『大丈夫』という意味になります」

 

★日本語対応手話 「ですか」と手を差し伸べるような動作を入れる。

「日本語対応手話は、『大丈夫』に『ですか』という動作を入れます」

 

★日本手話 手を右に移動させるのと同時に首をかしげて「疑問形」にする。

「日本手話を使うろう者は、疑問文の種類によって顎の位置を変えて表現します。『はい / いいえ』で答えるYES / NO疑問文の場合は、文の最後に相手を指差し、顎を引く動作をするのですが、聞こえる人、特に初心者の方にとってこの首の動きはかなり難しいものです。
そのため、手を右側に移動させるのと同時に首をかしげて表現します。顎の位置を変える代わりに、最後に首をかしげるだけでも疑問文として通じると思います」

 

■ 筆談でお願いします

1.片方の手を広げて紙、もう片方でペンを持つような形をつくる。

 

2.そのまま、手を前後にスライドさせるように動かす。

「これで、『筆談』という単語になります」

 

3.右手を顔の前に立て、 頭を軽く下げながら斜め下に移動させる。

「最後に、『お願いします』という手話を行います。これは、日本手話も日本語対応手話も同じです。手話で話しかけると、手話での会話が始まると思います。でも、手話でいっぱい話されても、そこまでわからなくて困るという場合は『筆談でお願いします』と伝えてみてくださいね」

 

「外国の方に日本語で話しかけてもらえた時にうれしいのと同じように、聴覚障がい者の方も、手話で話しかけてくれると、自分たちに近づいてくれたという思いがしてうれしいのだそうです。間違っていても大丈夫。手話の正しい知識に触れて、ぜひ手話でのコミュニケーションに挑戦してみてくださいね」

 

プロフィール

テンダー手話&日本語教室 代表 / 鈴木隆子

手話通訳士。日本語教師(日本語教育能力検定試験合格)。手話通訳士として政見放送や各種イベントの手話通訳を担当する傍ら、テンダー手話&日本語教室の代表として活躍。また、日本語教師としての知識を活かし、2008年より日本で唯一の「聴覚障がい者のための手話でおこなう日本語講座」を開講。独自の教授法で、日本語の文法や敬語の使い方、ビジネス文書の書き方などを教授している。「ろう者と聴者の懸け橋に」という想いを胸に、活動を続けている。
テンダー手話&日本語教室 HP

 

関連書籍
『ろう者と聴者の懸け橋に』鈴木隆子(大月書店)
『ろう者の祈り』中島隆(朝日新聞出版)

実は知らずに使っているかも!? 循環型素材「RENU」が凄いことになっている

今年4月に公開した記事で紹介をした布製ランドセル「NuLAND(ニューランド)」でも使われている、循環型リサイクルポリエステル生地「RENU(レニュー)」。総合商社の伊藤忠商事が2018年に立ち上げた「RENUプロジェクト」の核となる素材で、現在までに国内だけでも100以上のブランドでRENUは採用されています。

※「NuLAND」は合同会社RANAOSの登録商標です。「RENU」は伊藤忠商事株式会社の登録商標です

 

衣料業界が抱える課題の解決策「RENUプロジェクト」

「祖業である繊維部門において、私たちの部署では繊維原材料の輸出入という昔ながらの事業を行う一方、市場のニーズを汲み取ったうえで、環境に配慮した素材の開発、販売も行っています」と話すのは、伊藤忠商事で「RENUプロジェクト」に携わる林進平さんと鎌形勇輝さん。

↑左:伊藤忠商事株式会社 繊維カンパニー ファッションアパレル第三部 繊維原料課 課長代行・林進平さん/右:鎌形勇輝さん

 

「世界中で生産される衣料品の数は年間約1000億着とも言われていますが、実はその陰で、大量の繊維ゴミや廃棄衣類が発生しています。その大半が焼却や埋め立てによって処理され、地球環境への影響が懸念されてきました。繊維業界が抱える衣料廃棄問題のソリューションを、繊維が祖業である商社として提案するのが『RENUプロジェクト』。

 

これまで廃棄されてきた衣類や生産時の繊維ごみをリサイクルやリユースするサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現が目的です。そのための手段として現在進行しているのが、ポリエステルのケミカルリサイクルです」(林さん)

 

RENUプロジェクトでは、化学メーカーの帝人が持つ「DMT法」と呼ばれるポリエステルのリサイクル技術が活用されています。古着や繊維ごみのポリエステルを最小単位に分解してから再重合し、再生ポリエステルの糸を作り、そこから新たな製品が生み出されるのです。

 

再生ポリエステルというと、一般的には使用済みのペットボトルを原料にしますが、ペットボトルの場合、原料の色素を完全に取り除くのが難しいそう。その点RENUは、衣類の元々の色や雑物を除去し、石油由来のポリエステルと同等のクオリティを実現可能だと言います。

↑「RENUプロジェクト」は繊維業界の廃棄問題の解決ができないかという純粋な思いから生まれた。https://renu-project.com/

 

RENUとして生まれ変わるのは約10

古着の回収作業は、パートナー企業のecommitが担っています。

 

「実は日本では、毎年約50万トン、1日に換算すると大型トラック130台分の衣類が廃棄されていると言われています。

 

そこで、一般のお客様から衣類を集め、リユースやリサイクルに繋げる『Wear to Fashion』という取り組みを2022年からスタート。北海道以外、全国に回収ネットワークをお持ちのecommit様の回収拠点は現在1000か所以上に及びます。衣料だけでなく、靴や鞄、小物も含まれ、現在、年間6000トンの回収を目指しています。

 

各地で回収された古着や繊維ごみは集積センターで選別されますが、古着を処理する時にいちばん環境に負荷がかからないのはリユースです。リユースできないものは、リサイクルやアップサイクル、サーマルリカバリーとして活用します。RENUの場合、現在の技術ではポリエステル100%でないとケミカルリサイクルができません。

 

衣類のタグを見ていただくとわかると思いますが、ポリエステル100%の衣類は意外と少なく、回収衣料の中でポリエステルにリサイクルできるのは10%程度だと思います。ですので、複合素材の衣類をどうやってリサイクルするかが課題としてあります」(林さん)

↑衣類廃棄問題を解消し、サーキュラーエコノミーの実現を目指す

 

反響は大きくパートナーは100を超える

2018年のRENUプロジェクト発足から約5年が経ち、賛同するパートナー企業(ブランド)は増え続けているそうです。DESCENTE、THE NORTH FACE、アシックス、ニューバランス、ユナイテッドアローズ、無印良品、ワコール、アオキ……ほか、身近な企業やブランドが多数。もしかしたら、気付かないうちにRENUが使われた衣類を着ているかもしれません。

↑例えばファミリーマートで販売中の商品(インナーTシャツ)でもRENUが使用されている

 

「『従来のポリエステルと比較しても品質に大きな差がないので使いやすい』『サステナブルな取り組みとして展開しやすい』という声を多くの企業様からいただいて、現在国内だけでも100を超えるブランド様にRENUを採用いただいています。

 

また、サステナブル・コレクションを展開するH&M様にRENUが採用されたことで注目を集め、これが海外での採用にブーストがかかるきっかけになりました。欧州、アメリカ、中国、韓国などのブランドにも広がっています。

 

日本では、『サステナブルだから買う』という消費者の方はまだまだ少ないと思います。しかしRENUは、従来のポリエステルと同じ物を作れるというのが大前提にあるため、『ほしいと思って手に取った商品がRENUでできていた』というのが当たり前になる世界観を目指しています。ですから、RENUを使っていることをうたわないブランド様もいらっしゃいますが、それは構わなくて、採用していただければいいというスタンスを取っています」(林さん)

 

年間でTシャツ1億5000枚が廃棄されずにすむ

我々消費者も気づかないうちに環境課題の解決に一役買っているかもしれないわけですが、実際、RENUを採用することで、どの程度の環境負荷の軽減ができるのでしょうか。

 

「本来なら廃棄されるはずのものが原材料になるわけですから、1年間RENUのパートナー工場でリサイクルポリエステルを生産することで、Tシャツ換算で約1億5000万枚を廃棄せずにすみます。それによりCo2の削減量は自動車の走行距離に例えて地球約1670周分、水の削減量も500mlペットボトル約6500万本分になります」(鎌形さん)

 

新事業会社RePEaT設立で繊維to繊維の地産地消を

環境問題はもちろん世界中の課題です。ただ、RENUプロジェクトを世界中で展開していきたいものの、バーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関する条約)があるため、原材料となるごみ(繊維廃棄物)を輸出入することは相応のハードルがあるそうです。そのため、ポリエステルのケミカルリサイクル技術をライセンスする合弁事業会社として、RePEaT(リピート)を昨年12月に設立。

 

「RENUプロジェクトを世界中に広げたいと考えていましたが、自社で各国に工場を作っていくのは現実的ではありませんでした。想いばかりが募るなか、DMT法の技術を持つ帝人様から『ケミカルリサイクルの技術をライセンスとして提供する事業を一緒にやりませんか』とお声がけいただいたのです。もちろん二つ返事でお受けしました。

 

その際、国際的なベアリング企業である日揮様のノウハウや技術があれば、エネルギー効率を上げ、環境インパクトを軽減できるのではないかと考えました。繊維業界では珍しいタッグと言われますが、3社による合弁事業会社を設立したのです。

↑RePEaTのホームページ。https://repeat-inc.com/

 

RePEaTでは、ポリエステル製品をケミカルリサイクルする技術、廃棄衣料品や繊維ごみなどの回収システム、生産設備の設計や稼働に関するノウハウなどをライセンス提供し、コンサルティング的な部分も補っています。各国ごとの規制に沿って、使用済みポリエステルのリサイクルから流通までのエコシステムを構築し、地産地消による地球規模でのサーキュラーエコノミーを実現することが目的です」(林さん)

 

3月には中国の企業と契約。現在も、アメリカ、ドイツ、フランス、中東、インド、ベトナム、台湾、トルコなど、世界中の多くの企業が興味を示しているそうです。

 

サステナブルを意識しない世界を目指す

ライセンス契約を結び、世界各国にRePEaTの工場を増やしていきたいと話す一方で、RENUプロジェクトの今後についても言及してくれました。

 

「RENUの採用企業は増えていますが、まだ圧倒的に日本企業が多いので、今後は海外企業との取り引きを増やしていきたいです。また現在、回収・選別の部分は基本的には人海戦術なので、回収物が増えることを前提に、ecommitではオートメーション化も考えています。

 

さらに、課題である複合素材のリサイクル技術も確立できれば、サーキュラーエコノミーの実現に近づくと思います。先にも述べましたが、RENUプロジェクトのゴールは『ほしいと思って手に取ったら商品がRENUでできていた』です。消費者がサステナブルを意識しなくても、いつのまにか地球に優しい商品を手にしている世界を目指しています」(林さん)

 

伊藤忠商事には、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という創業者の言葉から生まれた企業理念“三方よし”があります。RENUプロジェクトはまさに、それを具現化する事業と言えるでしょう。

 

 

実は知らずに使っているかも!? 循環型素材「RENU」が凄いことになっている

今年4月に公開した記事で紹介をした布製ランドセル「NuLAND(ニューランド)」でも使われている、循環型リサイクルポリエステル生地「RENU(レニュー)」。総合商社の伊藤忠商事が2018年に立ち上げた「RENUプロジェクト」の核となる素材で、現在までに国内だけでも100以上のブランドでRENUは採用されています。

※「NuLAND」は合同会社RANAOSの登録商標です。「RENU」は伊藤忠商事株式会社の登録商標です

 

衣料業界が抱える課題の解決策「RENUプロジェクト」

「祖業である繊維部門において、私たちの部署では繊維原材料の輸出入という昔ながらの事業を行う一方、市場のニーズを汲み取ったうえで、環境に配慮した素材の開発、販売も行っています」と話すのは、伊藤忠商事で「RENUプロジェクト」に携わる林進平さんと鎌形勇輝さん。

↑左:伊藤忠商事株式会社 繊維カンパニー ファッションアパレル第三部 繊維原料課 課長代行・林進平さん/右:鎌形勇輝さん

 

「世界中で生産される衣料品の数は年間約1000億着とも言われていますが、実はその陰で、大量の繊維ゴミや廃棄衣類が発生しています。その大半が焼却や埋め立てによって処理され、地球環境への影響が懸念されてきました。繊維業界が抱える衣料廃棄問題のソリューションを、繊維が祖業である商社として提案するのが『RENUプロジェクト』。

 

これまで廃棄されてきた衣類や生産時の繊維ごみをリサイクルやリユースするサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現が目的です。そのための手段として現在進行しているのが、ポリエステルのケミカルリサイクルです」(林さん)

 

RENUプロジェクトでは、化学メーカーの帝人が持つ「DMT法」と呼ばれるポリエステルのリサイクル技術が活用されています。古着や繊維ごみのポリエステルを最小単位に分解してから再重合し、再生ポリエステルの糸を作り、そこから新たな製品が生み出されるのです。

 

再生ポリエステルというと、一般的には使用済みのペットボトルを原料にしますが、ペットボトルの場合、原料の色素を完全に取り除くのが難しいそう。その点RENUは、衣類の元々の色や雑物を除去し、石油由来のポリエステルと同等のクオリティを実現可能だと言います。

↑「RENUプロジェクト」は繊維業界の廃棄問題の解決ができないかという純粋な思いから生まれた。https://renu-project.com/

 

RENUとして生まれ変わるのは約10

古着の回収作業は、パートナー企業のecommitが担っています。

 

「実は日本では、毎年約50万トン、1日に換算すると大型トラック130台分の衣類が廃棄されていると言われています。

 

そこで、一般のお客様から衣類を集め、リユースやリサイクルに繋げる『Wear to Fashion』という取り組みを2022年からスタート。北海道以外、全国に回収ネットワークをお持ちのecommit様の回収拠点は現在1000か所以上に及びます。衣料だけでなく、靴や鞄、小物も含まれ、現在、年間6000トンの回収を目指しています。

 

各地で回収された古着や繊維ごみは集積センターで選別されますが、古着を処理する時にいちばん環境に負荷がかからないのはリユースです。リユースできないものは、リサイクルやアップサイクル、サーマルリカバリーとして活用します。RENUの場合、現在の技術ではポリエステル100%でないとケミカルリサイクルができません。

 

衣類のタグを見ていただくとわかると思いますが、ポリエステル100%の衣類は意外と少なく、回収衣料の中でポリエステルにリサイクルできるのは10%程度だと思います。ですので、複合素材の衣類をどうやってリサイクルするかが課題としてあります」(林さん)

↑衣類廃棄問題を解消し、サーキュラーエコノミーの実現を目指す

 

反響は大きくパートナーは100を超える

2018年のRENUプロジェクト発足から約5年が経ち、賛同するパートナー企業(ブランド)は増え続けているそうです。DESCENTE、THE NORTH FACE、アシックス、ニューバランス、ユナイテッドアローズ、無印良品、ワコール、アオキ……ほか、身近な企業やブランドが多数。もしかしたら、気付かないうちにRENUが使われた衣類を着ているかもしれません。

↑例えばファミリーマートで販売中の商品(インナーTシャツ)でもRENUが使用されている

 

「『従来のポリエステルと比較しても品質に大きな差がないので使いやすい』『サステナブルな取り組みとして展開しやすい』という声を多くの企業様からいただいて、現在国内だけでも100を超えるブランド様にRENUを採用いただいています。

 

また、サステナブル・コレクションを展開するH&M様にRENUが採用されたことで注目を集め、これが海外での採用にブーストがかかるきっかけになりました。欧州、アメリカ、中国、韓国などのブランドにも広がっています。

 

日本では、『サステナブルだから買う』という消費者の方はまだまだ少ないと思います。しかしRENUは、従来のポリエステルと同じ物を作れるというのが大前提にあるため、『ほしいと思って手に取った商品がRENUでできていた』というのが当たり前になる世界観を目指しています。ですから、RENUを使っていることをうたわないブランド様もいらっしゃいますが、それは構わなくて、採用していただければいいというスタンスを取っています」(林さん)

 

年間でTシャツ1億5000枚が廃棄されずにすむ

我々消費者も気づかないうちに環境課題の解決に一役買っているかもしれないわけですが、実際、RENUを採用することで、どの程度の環境負荷の軽減ができるのでしょうか。

 

「本来なら廃棄されるはずのものが原材料になるわけですから、1年間RENUのパートナー工場でリサイクルポリエステルを生産することで、Tシャツ換算で約1億5000万枚を廃棄せずにすみます。それによりCo2の削減量は自動車の走行距離に例えて地球約1670周分、水の削減量も500mlペットボトル約6500万本分になります」(鎌形さん)

 

新事業会社RePEaT設立で繊維to繊維の地産地消を

環境問題はもちろん世界中の課題です。ただ、RENUプロジェクトを世界中で展開していきたいものの、バーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関する条約)があるため、原材料となるごみ(繊維廃棄物)を輸出入することは相応のハードルがあるそうです。そのため、ポリエステルのケミカルリサイクル技術をライセンスする合弁事業会社として、RePEaT(リピート)を昨年12月に設立。

 

「RENUプロジェクトを世界中に広げたいと考えていましたが、自社で各国に工場を作っていくのは現実的ではありませんでした。想いばかりが募るなか、DMT法の技術を持つ帝人様から『ケミカルリサイクルの技術をライセンスとして提供する事業を一緒にやりませんか』とお声がけいただいたのです。もちろん二つ返事でお受けしました。

 

その際、国際的なベアリング企業である日揮様のノウハウや技術があれば、エネルギー効率を上げ、環境インパクトを軽減できるのではないかと考えました。繊維業界では珍しいタッグと言われますが、3社による合弁事業会社を設立したのです。

↑RePEaTのホームページ。https://repeat-inc.com/

 

RePEaTでは、ポリエステル製品をケミカルリサイクルする技術、廃棄衣料品や繊維ごみなどの回収システム、生産設備の設計や稼働に関するノウハウなどをライセンス提供し、コンサルティング的な部分も補っています。各国ごとの規制に沿って、使用済みポリエステルのリサイクルから流通までのエコシステムを構築し、地産地消による地球規模でのサーキュラーエコノミーを実現することが目的です」(林さん)

 

3月には中国の企業と契約。現在も、アメリカ、ドイツ、フランス、中東、インド、ベトナム、台湾、トルコなど、世界中の多くの企業が興味を示しているそうです。

 

サステナブルを意識しない世界を目指す

ライセンス契約を結び、世界各国にRePEaTの工場を増やしていきたいと話す一方で、RENUプロジェクトの今後についても言及してくれました。

 

「RENUの採用企業は増えていますが、まだ圧倒的に日本企業が多いので、今後は海外企業との取り引きを増やしていきたいです。また現在、回収・選別の部分は基本的には人海戦術なので、回収物が増えることを前提に、ecommitではオートメーション化も考えています。

 

さらに、課題である複合素材のリサイクル技術も確立できれば、サーキュラーエコノミーの実現に近づくと思います。先にも述べましたが、RENUプロジェクトのゴールは『ほしいと思って手に取ったら商品がRENUでできていた』です。消費者がサステナブルを意識しなくても、いつのまにか地球に優しい商品を手にしている世界を目指しています」(林さん)

 

伊藤忠商事には、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という創業者の言葉から生まれた企業理念“三方よし”があります。RENUプロジェクトはまさに、それを具現化する事業と言えるでしょう。

 

 

害獣の駆除肉を “ジビエ” として楽しむ!日本の農業が抱える問題と消費者にできること

高たんぱく低カロリーで、女性の間でも人気が高まっているジビエ。野生の鳥獣を精肉にして食べるおしゃれなグルメ……というイメージですが、なかには駆除対象の肉を使ったジビエもあることを知っていますか? 現在、日本各地で自然環境や農家を守るために、イノシシやシカを狩る害獣駆除が実施されています。しかし、食べ手不足でそのまま廃棄されてしまうことも。

 

消費者にできることは一体何なのか? 狩猟を通じてのSDGsや地域活性化、女性や若手ハンターの活躍の場を提供している「一般社団法人Japan Hunter Girls(以下、JHG)」代表の高野恵理子さんに教えていただきました。

 

美容成分豊富でヘルシー。 “グルメ” としてのジビエの魅力

ジビエ(gibier)とはフランス語で「狩猟により手に入れた野生鳥獣の肉」の意味。最近では、フレンチやイタリアンレストランを中心に取り扱いが増え、専門店も生まれています。テレビや雑誌、SNSでもおしゃれなジビエ料理が紹介され、女性たちの関心も高まっています。

 

何と言っても、野山を駆けまわったシカやイノシシの肉は、ヘルシーで女性にうれしい成分が豊富。シカ肉は、牛肉と比べると脂質が1/6でカロリーが半分以下。イノシシ肉は豚肉と比べると鉄分が約4倍、ビタミンB12が約3倍もあるといわれています(100gあたり)。

 

「ジビエの一番の魅力は、お肉の味が濃くて、野生の力強さを感じられるところです。私たちが普段食べている牛や豚、鳥といった畜産食品は、品質管理が徹底されているはずなので、十分なエサを与えられています。場合によっては病気にならないようにワクチンを摂取するかもしれません。一方、野生で生きるシカやイノシシは、手厚い管理は受けられない過酷な環境で生きています。そんななかで生き延びた個体がもつ “生きる力” は強いものです。この力が、お肉の味にしっかり出ていると感じます」(一般社団法人Japan Hunter Girls 代表・高野恵理子さん、以下同)

 

ジビエを楽しむなら知っておきたい3つの現実

1. ジビエ=狩猟肉ではない!?  駆除肉を使ったジビエが存在している

グルメ食材としてジビエが知られていく一方で、SDGsの観点でジビエを普及させようという取り組みも行われています。

 

「ジビエとなる肉には、大きく分けると2種類のルートがあります。一つは、最初からジビエ料理の食材として狩られるルート。もう一つは、野山に増えすぎてしまったシカやイノシシの生息頭数を管理するために狩られるルートで、いわゆる “害獣” と呼ばれる鳥獣たちを対象にした駆除肉です」

 

そもそも野生鳥獣が駆除されるのはなぜなのでしょうか? その背景には、自然や農業への深刻な被害があるといいます。

 

「増えすぎたシカやイノシシによって、生態系や生物多様性の破壊が進み、農家への被害が発生しているのです。
豊かな自然に恵まれた地域は、それだけ野生鳥獣も住みやすい場所です。また、農家の担い手不足、農業従事者の高齢化にともない耕作放棄地も増え、生息頭数の増加に拍車をかけているという側面もあります。そんな中で、農家の人が育てた作物を食い荒らす被害が多発。
農林水産省によれば、令和3年度の野生鳥獣による全国の農作物被害は約155億円と前年度に比べると約5.9憶円減ったものの、いまだ多い状況です。なかでも、シカの被害は4.6億円分増加しています。多くのシカが樹皮をエサにすることで樹木が枯れ、さらに樹木の生育を助ける下草を食べつくすことで、山のバランスが失われている地域もあります」

 

2. 有効に消費される駆除肉はたった17%

地域の問題を解決するべく駆除された動物は、ジビエ肉としてどのように消費者の元へ届くのか、気になるところ。高野さんは、流通にのるまでには、さまざまな課題や手間が発生していると語ります。

 

「私たちJHGの活動は、有害駆除や管理捕獲で得た動物の利活用を目的としています。無機質に聞こえるかもしれませんが、有害駆除で捕獲された命を山の恵みとして、流通させたいというメンバーの思いがあってこその取り組みです。
捕獲後、食品の安全基準を満たしたお肉は、食肉処理場で生肉に変えてスーパーやレストランなどに卸しています。一方で、駆除の過程で鉄砲で撃たれたり猟犬に噛まれたりしているうちに、基準が満たないお肉になる場合も。そういったお肉はメンバー同士で自家消費したり、JHGのジビエイベントで試食として振る舞ったりして活用中です」

 

こう聞くと、上手く利活用できているように感じますが、ジビエ利活用は全体のおよそ17%程度といわれており、課題は山ほどあるのだとか。

 

「まず、スーパーやレストランへ卸す場合。消費者へ安定的に供給するためには、同じ品質と同じ部位であることが要求されます。しかし、有害駆除はグルメ肉を調達するための狩りではないため、個体を選ぶことはできません。同じハンターが撃つとも限らないので、銃弾の当たり方もまちまちです。そんな事情を分かったうえで発注するレストランやスーパーは多くはありません。そうなると、流通ルートも限られ、結果的に消費者の元に届きにくい状況になっています。

 

また、生肉になるまでのコストがかかりすぎて、販売価格が高額になってしまう問題もあります。捕獲した個体を肉にする過程で出た皮や骨、内蔵などの部位は、利活用しなければ産業廃棄物として費用をかけて処理しなければなりません。これでは、生肉を一生懸命売っても、売り上げがマイナスになってしまいます。肉以外の部分も余すことなく活用するのが課題です。

 

次に、基準が満たないお肉は、食べ手不足で廃棄されてしまうことも。駆除肉の認知を高めていく必要があります。

 

最後に、ハンターの高齢化が進んでいることも無視できません。平均年齢が60歳越えの地域も多く、有害駆除をした後の個体を運び出せずに野山に埋めざるを得ない場合もあります。JHGでは、獲った命を生かすためにも、若手ハンターの育成に力を入れています。狩猟者が増えれば、里山の保全にも繋がり、豊かな森林を未来へ残すことも可能でしょう」

 

3. 駆除肉を食べることで、環境保護に貢献できる

ジビエには、魅力的なグルメとしての側面がある一方、駆除肉を活用することで、地域の課題を解決するコンテンツとしての役割もあることが分かりました。では、わたしたちが駆除肉の利活用に協力したいと思ったら、どのような手段があるのでしょうか?

 

「一番簡単な方法は、駆除肉を活用したレストランに食べに行くことです。駆除肉を扱っているレストランを探し出すには、ネットの力を借りるのが有効。「駆除肉 ジビエ レストラン」などの検索ワードで調べてみてください。

 

次に、駆除肉を使ったジビエを振る舞ってくれるイベントに参加すること。JHGでも、一般の方が参加できるジビエバーベキューなどのイベントを定期的に開催しています。

 

最後に、駆除肉を使った加工品を購入すること。道の駅や農協で販売されていることも。私たちもシカの水煮缶を神奈川県の足柄市内の温泉施設や飲食店に卸しています。加工品なら、調理も簡単で取り入れやすいはずなのでおすすめです。駆除肉を購入して、自宅でジビエを楽しむのもいいでしょう。駆除肉はインターネットで購入が可能です。

 

駆除肉を選んで消費するということは、命の再利用だけでなく、生物の多様性の損失を阻止しつつ、鳥獣被害から農家を守ることにも貢献します。SDGsでいうところの目標15『陸の豊かさも守ろう』に当たります」

 

駆除肉を手に入れられたら、自身で調理してみましょう。最後におすすめのレシピを紹介します。

 

現役ハンターがおすすめする、自宅で作れるジビエレシピ

JHGでは「ジビエをもっと日常の食卓へ」をモットーに、女性ならではの視点で考えられた簡単でおいしいジビエレシピを提案。どれも肉としての臭みは抑えながら野生味と旨みを生かしたレシピです。

 

■ 鹿肉そぼろうどん

高タンパク、低脂肪の鹿肉ひき肉で。さっぱりとしてとってもおいしい和風レシピ。

 

「コツは特になしの簡単な調理工程で気軽に挑戦。ショウガが臭み消しになって、クセなく食べられます。夏バテ時の食欲増進メニューとしても!」

 

【材料(2人分)】

・鹿肉ひき肉……100g
・うどん……2束
・めんつゆ(つけつゆ)……120cc
・ショウガチューブ……2cm
・酒……小さじ1
・砂糖……小さじ1
・醤油……小さじ1
・青ネギ……一本
・サラダ油……適量

 

【作り方】

1.フライパンに油を入れてショウガを入れ、香りが出たら挽肉を炒める。

 

2.肉に火が通ったら調味料を加えて水分がなくなるまで炒める。

 

3.茹でた麺につゆを絡め、炒めたひき肉とネギを盛り付けて完成。

「混ぜてから召し上がってください」

 

■ プルド鹿肉サンド

アメリカでは、バーベキュー料理の定番といえばプルドポーク。豚の塊肉をホロホロになるまで火を通してから、細かくほぐした料理です。バーベキューソースを絡めていただきましょう。

 

「豚肉よりカロリー半分の鹿肉を代用することでヘルシーなサンドを目指します。通常、ホロホロにするまでに長時間かかりますが、当レシピでは鹿肉水煮缶を活用。時短でプルド肉を作れちゃいます。スパイスをたっぷり使った本格的な味わいです」

 

【材料(2人分)】

・鹿肉水煮缶……1缶
・サラダ油……大さじ1
・にんにくみじん……1かけ
・玉ねぎみじん……大さじ3/2

〈スパイス〉
・クミンパウダー……小さじ1\4
・ナツメグパウダー……小さじ1/4
・チリパウダー……小さじ1/4
・塩……小さじ1/2
・胡椒……少々

・お好みのBBQソース……スプーン一杯
・レタス……適量
・レッドオニオン……適量
・マスタード……大さじ1
・バター……少々
・バゲット……食べる分

 

【作り方】

1.フライパンに油、玉ねぎ、にんにくを入れて炒め、香りを出す。

 

2.鹿肉水煮缶の肉を加え、肉に味がつくようにスパイスすべてをまぶして炒める。

 

3.肉にスパイスを絡めるように炒める。

 

4.水煮缶の煮汁も加えて少し水分を飛ばすように煮詰める。

 

5.肉をほぐして、残った煮汁に絡める。

 

6.バゲットにバターとマスタードをぬり、レタスやオニオンなど好みの野菜とプルド鹿肉、BBQソースを挟む。

「BBQソースはケチャップとウスターソースを混ぜるだけでもOK。煮詰めた肉汁がおいしいソースになっているので、それだけでも十分味わい深いですよ」

 

プロフィール

Japan Hunter Girls 代表理事 / 高野 恵理子

飼っていた犬の健康面で鹿肉が良いことを知り、愛する犬と共にできる狩猟の道を選び、その奥深さに惹かれ南足柄に移住。持ち前のバイタリティーと狩猟への意欲的な取り組みから、若くして猟隊の役員と、多数の猟犬を操り勢子を勤めている。狩猟の現状を見つめる中で、女性や若い世代の狩猟者の呼び込みと育成が必須だと感じ、2018年に神奈川県の女性狩猟者のグループを結成。2023年6月にジビエ処理加工施設KIWOSUKUの稼働を始める。2022年に設立した一般社団法人 木救(林業)と狩猟による一貫した森林保全を目指した取り組みを行いながら狩猟見学ツアーや林業体験などの活動も行っている。第一種銃猟免許、第一種狩猟免状所持。狩猟歴は2014年から。使用銃はミロクMS2000-D フィールド銃(スラッグ銃身)。

アジア最高位に選ばれたメルシャン「椀子ワイナリー」がワイン醸造同様に力を入れていること

近年、国内外で注目を集めており、人気が高まっている日本ワイン。長野県上田市にある「シャトー・メルシャン 椀子(まりこ)ワイナリー」は、その年の世界最高のワイナリーを選出するアワード「ワールド ベスト ヴィンヤード」で、2023年のアジアNo.1に選ばれました。

 

名実ともに日本のワイン文化をけん引する存在となったメルシャンと椀子ワイナリーでは、より革新的なワイン造りを実践・発信するべく、サステナブルに焦点をおいたワイナリーツアーの開催を発表。現地に赴き、その取り組みを取材しました。

↑「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」。2003年に開園した椀子ヴィンヤード内に2019年開業し、2023年7月「ワールド ベスト ヴィンヤード2023」に日本のワイナリーで唯一、2020年から4年連続選出。同時にザ・ベスト・ヴィンヤード・イン・アジアにも選ばれました。ちなみにヴィンヤードとはぶどう畑のこと

 

一部の国のワインばかりが消費される日本を変えたい

なぜ、メルシャンがサステナブルなワイン造りに注力するのか。それはSDGsが世界的な目標であることはもちろん、ワイン造りが農業と密接な関係があり、地域社会や自然との共生が欠かせないと確信しているから。

↑地域や先人、自然への感謝を話す、メルシャンの長林道生社長

 

しかし、日本のワイン業界の現状は、海外と比較すると後れをとっているのだとか。この実情については、日本で唯一の「Master of Wine」(マスター・オブ・ワイン。ワイン業界において最も名声が高いとされる資格)で、名前の後に「MW」を付記することが許されている大橋健一さんが教えてくれました。

 

今夏、世界中のマスター・オブ・ワインが集うシンポジウムがドイツで開催されました。そこで大橋さんが驚いたのは、すべての講演でサステナビリティについて触れられていたこと。つまり、海外のワイン業界ではサステナビリティがきわめて重要視されているのです。

↑大橋健一MW。自らの立場も踏まえたうえで、国内メーカーと一丸になってワイン業界の意識を変えていかないといけない、世界からリスペクトされるための課題はたくさんあると力説します

 

大橋MWの考える、日本人の意識改革のひとつがワインの立ち位置。日本人1人あたりのワイン消費量は1年間で4本にすぎないそうで、ほかのお酒と比べると“日常酒”となっておらず、価格も高め。極端にいえば“ハレの日に飲む高級品”となっており、「ワインはたまにしか飲まない贅沢品だからサステナブルでなくてもいいんじゃないか、サステナブルな見地からは外れてもいいんじゃないかとか。日本ではそういう傾向が見受けられます」と警鐘を鳴らします。

 

つまり、国内におけるワインはラグジュアリーグッズとしての側面ももっており、サステナブルな観点としてはけっして歓迎できるものではないということ。

 

「ラグジュアリーグッズであるがゆえに、日本では圧倒的に偏った国のワインばかり消費される傾向が否めません。加えて公共性の面においては、まったくサステナブルではないのです」と大橋MW。こうした現状を、椀子ワイナリーを中心にシャトー・メルシャンが変えていこうと試みていることを教えてくれました。

 

見学や試飲で楽しむ新設のSDGsツアーを体験

椀子ヴィンヤードの開園は2003年。かつて桑畑であったものの生糸業の衰退とともに放棄され、荒廃農地となっていた土地をぶどう畑に転換して誕生しました。高品質なワインを造るために下草を刈るなどの丁寧な農作業を行い、雄大な草原環境を生み出し、現在では希少種を含む様々な生きものが生息する豊かな自然環境に回復させています。つまり、椀子ヴィンヤードはもともとサステナブルに意欲的なヴィンヤードなのです。

↑椀子ヴィンヤードの広さは約30ヘクタールと、東京ドーム約6個分。標高約600~650mに位置し、メルローやシャルドネ、シラーやソーヴィニヨン・ブランなど、白黒約8種類のブドウを垣根式で栽培しています

 

そんな同ワイナリーによる新たな取り組みが、見学体験や試飲を交えて楽しみながらヴィンヤードの価値を伝えていく「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー SDGsツアー」。2023年は9月2日と11月11日(ともに土曜)の2回開催し、今後も季節ごとに年間5回程度実施予定とのことで、その一部をいち早く体験させてもらいました。

↑この日案内してくれたのは、シャトー・メルシャンの小林弘憲ゼネラルマネジャー。SDGsツアーのスタート地点である一本木公園にて

 

椀子ヴィンヤードは10年以上前から地元・塩川小学校の学びの場にもなっているそう。3年生になるとじゃがいもを栽培・収穫。4年生になるとぶどう収穫、そして5年生はその植樹を体験する特別授業が盛り込まれるのだとか。これは郷土愛を育む体験として、また食育の観点からも素敵な取り組みだと感じました。

↑ヴィンヤード内の畑。毎年7月下旬が収穫期で、そのじゃがいもは児童の学校給食に使われるとか。その後は地元の委員会が蕎麦を植え、秋冬にかけて収穫するサイクルです

 

SDGsツアーではもちろん、ぶどうの木や果実も見学できます。取材時は夏だったため果実は青々としていましたが、秋には熟して収穫となり、9月のSDGsツアーはやや酸味が強いものの試食できるとのこと(11月は収穫後の時季ですが、残っていれば試食可)。

↑椀子ヴィンヤードの代表品種のひとつ、メルロー。お盆ごろに黒くなり、あえて食べごろがあるとすれば(生食用品種ではなく加工用品種であるため)収穫時期の9月下旬とのこと

 

SDGsの取り組みは、収穫後のぶどうにも。例えば、醸造時にぶどうの実を搾ったあとの皮や種、茎などを活用するための堆肥場が圃場の端にあり、ここで約2年間微生物にゆっくりと発酵させて肥料にします。ぶどうのカスは焼却炉で燃やすようなことはせず、また外部から持ち込む肥料を少なくすることで、運搬時に発生するCO2の排出を最小限に抑えているのです。

↑堆肥場で発酵させた、ぶどうの皮や種など。年間15~18トン出るカスが、約2年でサラサラの状態に。土地が広く、近隣に民家がないからできることと、小林マネジャーは言います

 

良好な草原環境へと整備された椀子ヴィンヤードには在来種や希少種などの多様な植物が生育しており、2014年から実施している生態系調査では、絶命危惧種を含む昆虫168種、植物289種が確認されているそう。その一例が、絶命危惧種の蝶「オオルリシジミ」の幼虫唯一の食草である「クララ」です。

↑オオルリシジミの幼虫が唯一食べる草、クララ。根を食べるとクラクラするほど苦いことが名称の由来とか。オオルリシジミが飛んでくることを願って、クララを増やす活動をしています

 

施設にもサステナブルな取り組みがあまた

また、椀子ワイナリーは施設自体がSDGsに配慮した設計になっています。それは「グラヴィティ・フロー」という、高低差を利用した設備や、動線により自然にかかる重力で果実や果汁を移すシステム。余計な動力が不要であるとともに、ぶどうの繊細な個性が損なわれず、エレガントで特色のあるワインが造れるというメリットがあります

↑ワイナリーは斜面を利用した設計。なお、圃場が近いため収穫後にすぐ運べるというメリットもあります

 

椀子ワイナリーは山の高台にあるため、冷涼であることも特徴。これはワイン樽熟成庫の空調面で大きな効果があり、冷房が必要なのは初夏〜盛夏ぐらいだそう。SDGsツアーでは、そんな熟成庫への入室もできます。木を通して呼吸をするワイン樽はかすかに優美な香りを放ち、心地いい気分に浸れることでしょう。

↑熟成庫では年間を通じて15℃以下、湿度70%以上をキープ。なお樽はフランスの10数社から購入し、材質はほぼフレンチオークです

 

ラストはお待ちかねのテイスティング。椀子の気候風土を表現する定番ワインのほか、オススメの限定品を含む計6種が味わえます。そのなかには高級銘柄の「シャトー・メルシャン 椀子オムニス」も。SDGsツアーの参加費はひとり税込1万円ですが、決して高くないといえるでしょう。

↑写真は一例で、右端が椀子オムニス。発売当初は海外の高級ワインで採用されるような重厚な輸入ボトルでしたが、いまやその価値観は一変。現在は環境に配慮し、国産の軽量なボトルを採用しています

 

残暑はまだまだ続きますが、今年もあっという間に実りと収穫の秋が訪れるでしょう。つまり、ぶどう狩りやワインの季節でもあります。椀子ワイナリーでは今回紹介したSDGsツアー以外にも様々なイベントが開催されているので、行楽シーズンでもある秋に、旅行も兼ねて訪ねてみませんか。

 

【SHOP DATA】

シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー

住所:長野県上田市長瀬146-2
営業時間:10:00~16:30(テイスティングカウンター ※L.O.16:00)

※営業日は公式サイトのカレンダーを要確認

■アクセス

<電車の場合>
しなの鉄道「大屋駅」からタクシーにて約10分、JR北陸新幹線「上田駅」からタクシーで約25分

<車の場合>
上信越自動車道「東部湯の丸」ICより約10分

https://www.chateaumercian.com/winery/mariko/

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

アジア最高位に選ばれたメルシャン「椀子ワイナリー」がワイン醸造同様に力を入れていること

近年、国内外で注目を集めており、人気が高まっている日本ワイン。長野県上田市にある「シャトー・メルシャン 椀子(まりこ)ワイナリー」は、その年の世界最高のワイナリーを選出するアワード「ワールド ベスト ヴィンヤード」で、2023年のアジアNo.1に選ばれました。

 

名実ともに日本のワイン文化をけん引する存在となったメルシャンと椀子ワイナリーでは、より革新的なワイン造りを実践・発信するべく、サステナブルに焦点をおいたワイナリーツアーの開催を発表。現地に赴き、その取り組みを取材しました。

↑「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」。2003年に開園した椀子ヴィンヤード内に2019年開業し、2023年7月「ワールド ベスト ヴィンヤード2023」に日本のワイナリーで唯一、2020年から4年連続選出。同時にザ・ベスト・ヴィンヤード・イン・アジアにも選ばれました。ちなみにヴィンヤードとはぶどう畑のこと

 

一部の国のワインばかりが消費される日本を変えたい

なぜ、メルシャンがサステナブルなワイン造りに注力するのか。それはSDGsが世界的な目標であることはもちろん、ワイン造りが農業と密接な関係があり、地域社会や自然との共生が欠かせないと確信しているから。

↑地域や先人、自然への感謝を話す、メルシャンの長林道生社長

 

しかし、日本のワイン業界の現状は、海外と比較すると後れをとっているのだとか。この実情については、日本で唯一の「Master of Wine」(マスター・オブ・ワイン。ワイン業界において最も名声が高いとされる資格)で、名前の後に「MW」を付記することが許されている大橋健一さんが教えてくれました。

 

今夏、世界中のマスター・オブ・ワインが集うシンポジウムがドイツで開催されました。そこで大橋さんが驚いたのは、すべての講演でサステナビリティについて触れられていたこと。つまり、海外のワイン業界ではサステナビリティがきわめて重要視されているのです。

↑大橋健一MW。自らの立場も踏まえたうえで、国内メーカーと一丸になってワイン業界の意識を変えていかないといけない、世界からリスペクトされるための課題はたくさんあると力説します

 

大橋MWの考える、日本人の意識改革のひとつがワインの立ち位置。日本人1人あたりのワイン消費量は1年間で4本にすぎないそうで、ほかのお酒と比べると“日常酒”となっておらず、価格も高め。極端にいえば“ハレの日に飲む高級品”となっており、「ワインはたまにしか飲まない贅沢品だからサステナブルでなくてもいいんじゃないか、サステナブルな見地からは外れてもいいんじゃないかとか。日本ではそういう傾向が見受けられます」と警鐘を鳴らします。

 

つまり、国内におけるワインはラグジュアリーグッズとしての側面ももっており、サステナブルな観点としてはけっして歓迎できるものではないということ。

 

「ラグジュアリーグッズであるがゆえに、日本では圧倒的に偏った国のワインばかり消費される傾向が否めません。加えて公共性の面においては、まったくサステナブルではないのです」と大橋MW。こうした現状を、椀子ワイナリーを中心にシャトー・メルシャンが変えていこうと試みていることを教えてくれました。

 

見学や試飲で楽しむ新設のSDGsツアーを体験

椀子ヴィンヤードの開園は2003年。かつて桑畑であったものの生糸業の衰退とともに放棄され、荒廃農地となっていた土地をぶどう畑に転換して誕生しました。高品質なワインを造るために下草を刈るなどの丁寧な農作業を行い、雄大な草原環境を生み出し、現在では希少種を含む様々な生きものが生息する豊かな自然環境に回復させています。つまり、椀子ヴィンヤードはもともとサステナブルに意欲的なヴィンヤードなのです。

↑椀子ヴィンヤードの広さは約30ヘクタールと、東京ドーム約6個分。標高約600~650mに位置し、メルローやシャルドネ、シラーやソーヴィニヨン・ブランなど、白黒約8種類のブドウを垣根式で栽培しています

 

そんな同ワイナリーによる新たな取り組みが、見学体験や試飲を交えて楽しみながらヴィンヤードの価値を伝えていく「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー SDGsツアー」。2023年は9月2日と11月11日(ともに土曜)の2回開催し、今後も季節ごとに年間5回程度実施予定とのことで、その一部をいち早く体験させてもらいました。

↑この日案内してくれたのは、シャトー・メルシャンの小林弘憲ゼネラルマネジャー。SDGsツアーのスタート地点である一本木公園にて

 

椀子ヴィンヤードは10年以上前から地元・塩川小学校の学びの場にもなっているそう。3年生になるとじゃがいもを栽培・収穫。4年生になるとぶどう収穫、そして5年生はその植樹を体験する特別授業が盛り込まれるのだとか。これは郷土愛を育む体験として、また食育の観点からも素敵な取り組みだと感じました。

↑ヴィンヤード内の畑。毎年7月下旬が収穫期で、そのじゃがいもは児童の学校給食に使われるとか。その後は地元の委員会が蕎麦を植え、秋冬にかけて収穫するサイクルです

 

SDGsツアーではもちろん、ぶどうの木や果実も見学できます。取材時は夏だったため果実は青々としていましたが、秋には熟して収穫となり、9月のSDGsツアーはやや酸味が強いものの試食できるとのこと(11月は収穫後の時季ですが、残っていれば試食可)。

↑椀子ヴィンヤードの代表品種のひとつ、メルロー。お盆ごろに黒くなり、あえて食べごろがあるとすれば(生食用品種ではなく加工用品種であるため)収穫時期の9月下旬とのこと

 

SDGsの取り組みは、収穫後のぶどうにも。例えば、醸造時にぶどうの実を搾ったあとの皮や種、茎などを活用するための堆肥場が圃場の端にあり、ここで約2年間微生物にゆっくりと発酵させて肥料にします。ぶどうのカスは焼却炉で燃やすようなことはせず、また外部から持ち込む肥料を少なくすることで、運搬時に発生するCO2の排出を最小限に抑えているのです。

↑堆肥場で発酵させた、ぶどうの皮や種など。年間15~18トン出るカスが、約2年でサラサラの状態に。土地が広く、近隣に民家がないからできることと、小林マネジャーは言います

 

良好な草原環境へと整備された椀子ヴィンヤードには在来種や希少種などの多様な植物が生育しており、2014年から実施している生態系調査では、絶命危惧種を含む昆虫168種、植物289種が確認されているそう。その一例が、絶命危惧種の蝶「オオルリシジミ」の幼虫唯一の食草である「クララ」です。

↑オオルリシジミの幼虫が唯一食べる草、クララ。根を食べるとクラクラするほど苦いことが名称の由来とか。オオルリシジミが飛んでくることを願って、クララを増やす活動をしています

 

施設にもサステナブルな取り組みがあまた

また、椀子ワイナリーは施設自体がSDGsに配慮した設計になっています。それは「グラヴィティ・フロー」という、高低差を利用した設備や、動線により自然にかかる重力で果実や果汁を移すシステム。余計な動力が不要であるとともに、ぶどうの繊細な個性が損なわれず、エレガントで特色のあるワインが造れるというメリットがあります

↑ワイナリーは斜面を利用した設計。なお、圃場が近いため収穫後にすぐ運べるというメリットもあります

 

椀子ワイナリーは山の高台にあるため、冷涼であることも特徴。これはワイン樽熟成庫の空調面で大きな効果があり、冷房が必要なのは初夏〜盛夏ぐらいだそう。SDGsツアーでは、そんな熟成庫への入室もできます。木を通して呼吸をするワイン樽はかすかに優美な香りを放ち、心地いい気分に浸れることでしょう。

↑熟成庫では年間を通じて15℃以下、湿度70%以上をキープ。なお樽はフランスの10数社から購入し、材質はほぼフレンチオークです

 

ラストはお待ちかねのテイスティング。椀子の気候風土を表現する定番ワインのほか、オススメの限定品を含む計6種が味わえます。そのなかには高級銘柄の「シャトー・メルシャン 椀子オムニス」も。SDGsツアーの参加費はひとり税込1万円ですが、決して高くないといえるでしょう。

↑写真は一例で、右端が椀子オムニス。発売当初は海外の高級ワインで採用されるような重厚な輸入ボトルでしたが、いまやその価値観は一変。現在は環境に配慮し、国産の軽量なボトルを採用しています

 

残暑はまだまだ続きますが、今年もあっという間に実りと収穫の秋が訪れるでしょう。つまり、ぶどう狩りやワインの季節でもあります。椀子ワイナリーでは今回紹介したSDGsツアー以外にも様々なイベントが開催されているので、行楽シーズンでもある秋に、旅行も兼ねて訪ねてみませんか。

 

【SHOP DATA】

シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー

住所:長野県上田市長瀬146-2
営業時間:10:00~16:30(テイスティングカウンター ※L.O.16:00)

※営業日は公式サイトのカレンダーを要確認

■アクセス

<電車の場合>
しなの鉄道「大屋駅」からタクシーにて約10分、JR北陸新幹線「上田駅」からタクシーで約25分

<車の場合>
上信越自動車道「東部湯の丸」ICより約10分

https://www.chateaumercian.com/winery/mariko/

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

“地球の色”のマイボトルを持ち歩こう! タイガーの真空断熱ボトルに「海のクレヨン」コラボモデルが限定登場

タイガー魔法瓶は、スカパーJSATが企画・制作した「海のクレヨン」とのコラボレーションボトル「真空断熱ボトル(保冷専用) MCS-A50J」を、8月21日にタイガーオンラインストアにて、数量限定で発売します。価格は5000円(税込)。

 

今回発売となるのは、海のクレヨン全12色のうち、「エルーセラ島西部(バハマ)」「グレートバリアリーフ(オーストラリア)」「カントン島(キリバス共和国)」「奄美大島(日本)」「陰陽海(台湾)」の、5か所の海の色を採用したボトル。海のクレヨンのデザインを踏襲し、色を抽出した海の座標(緯度・経度)が書かれているシンプルなデザインが特徴です。

 

8月3日~10月21日11時までの期間中に、同製品を予約・購入すると、抽選で100名に海のクレヨンをプレゼントします。キャンペーンの詳細は、タイガー魔法瓶公式サイトの当該ページをご覧ください。

沖縄発、離島8島の黒糖をブレンドしたジャパニーズラム! サステナブルな「ダンダー仕込み」で作られた「THE OKINAWA ISLANDS RUM」

瑞穂酒造が主宰する、泡盛づくりの技術を再構築し、沖縄のさとうきびを主原料としたラムをつくるプロジェクトチーム「ONERUM(ワンラム)」は、新シリーズのBlended Islands Seriesより、「THE OKINAWA ISLANDS RUM」を発売しました。価格は2920円(税込)。

 

プロジェクトでは、2021年7月~2023年3月にかけ、Single Island Series(シングルアイランドシリーズ)として、離島8島(粟国島、伊江島、伊平屋島、西表島、小浜島、多良間島、波照間島、与那国島)で作られている黒糖を使用し、各島の風土や生産方法の違いから生まれる黒糖の個性を引き出したラムを開発し発売してきました。これまで、各島のテロワールに基づいた黒糖を研究し、それぞれの個性を見極め、その魅力を詰め込んだ、8種のラムを発表しています。

 

2023年は沖縄に黒糖の製糖技術が伝来して400年の節目の年で、今回発売された同商品は、ひと島ずつ個性が異なる沖縄県の離島8島で作られた黒糖の風味と島の風土に丁寧に向き合い、各島の黒糖からできる個性豊かなラムの原酒をブレンドして仕上げています。

 

8島の黒糖テイスティングし、風味のタイプ別に「ライト、ミドル、リッチ」のカテゴリーに分類。3タイプの原酒を製造し、ブレンドしています。蒸溜後に、通常は廃液として処分が必要なダンダー(Dunder)を次の発酵工程に再利用する「ダンダー仕込み製法」を行ない、黒糖の風味にダンダーが加わり、自社のさとうきび畑から分離に成功した酵母「ONERUM YEAST」による発酵後、2回の蒸溜工程を経た原酒をブレンドすることで、豊かな風味を生んでいます。

 

味わいは、爽やかで清涼感のある香りに、トロピカルでクリーミーな印象と、甘く香ばしい風味が特徴的。豊かな香味に対して、後味はすっきりとしているとのこと。カクテルやソーダ割りのほか、和洋問わずスイーツ作りにも利用できます。

 

ラベルは、約1年半にわたり発表したSingle Islands Seriesのラベルの色をすべて落とし込み、前シリーズからの物語を紡ぐデザインとなっています。

母の日のカーネーションなど“ロスフラワー”から生まれたエシカルジン! 「LOSS IS MORE GIN」“花の日”から発売開始

エシカル・スピリッツは、アップサイクルコレクティブ「LOSSISMORE」を展開するLOSS IS MOREの第1弾プロダクトとして、毎年5月の「母の日」後に多く廃棄されてしまう「カーネーション」を中心とした生花をボタニカルとして使用したクラフトジン「LOSS IS MORE GIN」(ロスイズモアジン)の蒸留を担当。「花の日」である8月7日より、順次販売を開始します。実売価格は3850円(税込)。

 

フラワーライフ振興協議会によると、日本国内でのロスフラワーによる経済損失は、年間1500億円にのぼるともいわれています。小売店が仕入れた量の約30~40%は廃棄されているとのことです。

 

同商品は、ロスフラワー(廃棄されてしまう花の呼称)の「香り」を生かした、消費期限のない蒸留酒 (クラフトジン)。母の日が終わると大量に捨てられてしまうカーネーションを主役に、恒常的にロスが発生しているバラやユリなどのロスフラワーをブレンドしています。

 

大量に廃棄される生花を有効利用したいという問題意識を持った岩手県内の生花店「田村フローリスト」提供のロスフラワーから複数の香りを織り込んだ、植物園や花屋にいるような香りが特徴。

 

酒粕を再利用した原酒、菊の司の粕取り焼酎のしっかりとした甘さの上に、バラやラベンダー、甘夏の花など、全16種のボタニカルにより協奏される重層的な味わいが楽しめます。おすすめの飲み方はソーダ割です。

ハバネロの仲間「京の黄真珠」を使用! 世界的なジンの品評会でブロンズ賞を受賞した実験的クラフトジンが数量限定発売

エシカル・スピリッツは、クラフトジン「KYOTO PEPPER ETHIQUE」を、数量限定で販売開始しました。実売価格は3000円(税込)。

 

同商品は、「OIDEYASU DESTROYER」として、“素材の可能性を実験する”蒸留酒シリーズ「ENIGMA」より少量生産。ジンの品評会「IWSC 2023」でのブロンズ賞受賞や、ユーザーからの商品化希望の声を受け、今回「KYOTO PEPPER ETHIQUE」として製品化されました。

 

キーボタニカルには、京都市が京都大学や京都先端科学大学などの学術機関や、生産者と連携して開発・導入を進めている「新京野菜」のひとつである「京の黄真珠」を使用。ハバネロの仲間で、非常に辛い唐辛子ですが、豊かな香りを持つ品種でもあり、素材の持つ味わいを最大限に引き出すべく、未成熟の緑色の京の黄真珠と、ジュニパーベリーのみで、シンプルなジンに仕上げています。

 

原酒には、天吹酒造の新鮮な酒粕を絞った吟醸粕取焼酎を使用。吟醸酒特有のメロン、白桃、青リンゴのような華やかな香りが凝縮されています。おすすめの飲み方はトニック割。

 

ETHIQUEの1つ目のEは、アキュートアクセント付きが正式な表記です

エコ&コンパクトになって登場! 液状のり「アラビックヤマト」に、小型でかわいい「補充用パック」が仲間入り

ヤマトは、コンパクトサイズの補充用液状のり「アラビックヤマト 補充用パック」を、8月8日から発売します。価格は450円(税別)。

 

液状のり「アラビックヤマト」は1975年に発売し、これまで様々なバリエーションを販売しています。「補充用」は、容器を捨てることがもったいないという利用者の声から生まれ、現在も発売中。近年は働き方の変化や、SDGs教育の広がりによる環境意識の高まりから、家庭での補充として、従来の大容量タイプのほかに、より少量でコンパクトな補充用を求める声があったそうです。

 

今回新たに発売となる補充用パックは、内容量130mlで、自立するマチつきのパックタイプの容器を採用。既存の補充用(NA-960)と比較し、容器のプラスチック使用量約77%削減と、環境に配慮しています。

↑右側2つが補充用(NA-960)

 

アラビックヤマト容器口部分と補充用パックの注ぎ口がぴったりサイズなので、安定した補充が可能。「スタンダード」「エル」「ジャンボ」「ツイン」「さかだち」に補充できます。

“人口爆発”が何を引き起こす? 80億人が人と地球に与えるインパクトとは

国連は、2022年11月に世界人口が80億人を突破したと発表。増え続ける世界人口は、私たちの暮らしにどのような影響を及ぼすのでしょうか? 『やるべきことがすぐわかる今さら聞けないSDGsの超基本』(朝日新聞出版)の著者であり、子どもの環境・経済教育研究室代表の泉美智子さんに話を伺いました。

 

世界人口デーに考えること

毎年7月11日は国連の定める「世界人口デー」です。1987年のこの日、旧ユーゴスラビアで50億人目となる男の子が誕生しました。世界人口が50億人に達したことを祝い、当時のデクエヤル国連事務総長が「彼と同じ世代の人びとが平等に暮らせるように」と祝福の言葉を贈りました。そして、世界人口が50億人になったことをきっかけに、「世界人口デー」が国連デーの一つとして定められました。

 

かつては喜ばれていた人口増加。それが “人口爆発” として憂うようになったのはなぜでしょうか。この世界人口デーをきっかけに、一見すると私たちに関係なさそうなこの問題に目を向けてみましょう。

 

増え続ける世界人口と減り続ける日本の人口

世界人口推計(WWP)によると、現在80億人の世界人口は、2030年に85億人、2050年には97億人に増加する見通しです。一方で、人口が減少する国もあります。

 

「2050年までの間に、ヨーロッパのほとんどの国と日本で人口が減少し、南アジアやアフリカの国では増加していきます。現在、日本の人口はおよそ1億2330万人であり、内閣府の発表では2065年には8808万人にまで減少すると言われ、少子高齢化が進んでいるのは周知の通りです。お隣の中国では、人口増加による食糧不足の懸念から、1990年頃に導入された人口抑制策である『一人っ子政策』は2015年に廃止されましたが、そこからすぐに人口が増えるわけではありません。中国でもまた、少子高齢化が問題となっています。

 

これら先進国や一部の新興国での人口減少は、男女ともに高学歴化し、それに伴って晩婚化、未婚化したことが要因の一つです。また、近年の日本では、若者の経済的自立の不安からくる未婚化が顕著です。

 

世界人口は2055年には100億人を超えると予測されています。人口増加が著しいのは途上国ですが、その理由のひとつに、子どもが成人まで生きられない環境があります。劣悪な衛生環境や食糧不足によって多くの子どもが命を落としている一方で、各家庭では貧困を補うための労働力として家族を増やす必要があります。貧困問題と人口増加はこうした悪循環から生まれます」(子どもの環境・経済教育研究室代表の泉美智子さん、以下同)

 

人口爆発が起こる原因とは?

イギリスの経済学者トマス・マルサスは1798年、著書『人口論』のなかで、人口が毎年定率で増え続ければ、食糧生産を上回り、食糧の奪い合いが起こり、その結果貧困や犯罪に発展する可能性があると記述しました。事実、18世期から現在まで人口は増え続け、資源不足や貧困増加が問題となっています。

 

「人口爆発の原因は単純なものではありません。さまざまな要因が絡み合って起きています。大枠として捉えるのであれば以下のようなことが挙げられます」

 

1.途上国の出生率の高さ

「先述の通り、途上国の貧困層は労働力として一家庭の中で子どもを多く持つ必要があります。しかしながら、子どもが健康に成長し労働力となる確率が低い(幼児死亡率が高い)ため、より多くの子どもを産んで労働力を確保しようとします」

 

2.医療技術の進歩による死亡率の低下

「2000年以降、質の高い保健サービスへのアクセスが向上したことにより、乳幼児の死亡率は半減。妊産婦の死亡数は3分の1以上減少しています。医療の進歩はよろこばしい一方で、人口爆発のリスクを抱えることとなりました」

 

3.技術革新による作物生産の向上

「農業の技術革新によって農作物を安定的に作れるようになり、低コストでの大量生産が可能となりました。規模が大きくなるにつれて生産の担い手が不足していくと、労働者たちは安い賃金で働かされるようになりました。そして労働力確保のための手段として出産を増やしていきました」

 

過去に人口爆発が起こった歴史はあるのでしょうか?

 

「たとえば、産業革命以降の200年間で、ヨーロッパの人口は約5倍に、アメリカの人口は約10倍に増加しました。また、日本では江戸時代の人口は3000万人前後と安定していましたが、開国後の100年間で約4倍にまで増えました。これら急激に人口の増えた歴史を見ていくと、国が発展を遂げる段階で人口爆発が起きているのがわかります。先進国では技術革新や所得の増加を伴いながら人口が増えたため、食糧不足や紛争を免れたのです」

 

人口爆発による問題とその打開策となるSDGsの目標

このまま人口が増え続けると、私たちの生活にどのような問題が出てくるのでしょうか? また、その解決の糸口とはなんでしょう? 人口爆発への課題と密接な関係があるSDGsの目標にも触れながら解説していただきました。

 

人口が増え続けることで懸念される問題

1.食糧不足

「人口が急激に増えることにより、食糧の生産・供給量以上に需要量が増えていきます。限りある食糧を取り合わなければならなくなり、食糧の物価高騰は免れません。その結果、途上国を中心に飢餓が広がることが懸念されます。SDGs目標2でも掲げられている『飢餓をゼロに』の実現には、持続可能な農耕・畜産により、食糧供給網を安定させることが重要です。持続可能な農業を実現するためには、水源の保全や森林伐採を回避すること、農薬をなるべく使わないことなどが重要になってきます。また、期待される新技術にフードテックがあります。代表的なものでは、大豆を原料とした代替肉が有名です。牛や豚の飼育が減少すると、動物たちの排出するメタンガスの削減にもつながり、温暖化の緩和が期待されます」

 

2.エネルギー資源の枯渇

「不安定な世界情勢のなか、現在もエネルギー問題が懸念されていますが、人口増で、深刻化の恐れがあります。資源を巡っての戦争も起こりやすくなるでしょう。これらの解決に向け、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを活用していくことは国連で重要視している課題です。SDGs目標7の『エネルギーをみんなにそしてクリーンに』と重なりますね。この目標の実現のためには、できるだけCO2排出量の少ない電源を主役にすることが重要です。未来のエネルギー戦争を食い止める鍵を握るのも、気候変動対策の鍵を握るのも、再生可能エネルギーだと言えます」

 

3.貧困や環境問題の悪化

「人口が増えれば、資源の消費が増え多くの生産力が追いつかなくなるのは明白です。資源の取り合いが大きくなれば、さらなる貧困や経済格差が生まれます。SDGsの目標の一番目に『貧困をなくそう』が掲げられているように、人口爆発に対策する上でも、あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせることが急務です。また、不足する資源を供給するために、森林伐採や耕地を拡大していけば、地球温暖化が加速します。SDGs目標13の『気候変動に具体的な対策を』がここに当たります。気候変動への緩和策としては、白熱灯をLEDに切り替えたり、移動は公共交通機関を使ったり、エアコンの設定温度を冬は20℃、夏は28℃に見直したりするなど、日常生活でもできることはたくさんあります」

 

【関連記事】日本で起きている「子どもの貧困」の意外な現実と私たちにできること

 

SDGs17の目標

「人口増加への対策と密接な関係のあるSDGsは2015年に国連で採択されました。全世界が協力しながら2030年までに目標達成することを目指しています。まだまだ課題は多いものの、地球全体の指針として多くの人びとが意識することが大切です」

 

目標1 貧困をなくそう
目標2 飢餓をゼロに
目標3 すべての人に健康と福祉を
目標4 質の高い教育をみんなに
目標5 ジェンダー平等を実現しよう
目標6 安全な水とトイレを世界中に
目標7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
目標8 働きがいも経済成長も
目標9 産業と技術革新の基盤をつくろう
目標10 人や国の不平等をなくそう
目標11 住み続けられるまちづくりを
目標12 つくる責任つかう責任
目標13 気候変動に具体的な対策を
目標14 海の豊かさを守ろう
目標15 陸の豊かさも守ろう
目標16 平和と公正をすべての人に
目標17 パートナーシップで目標を達成しよう
(出典=国連広報センター)

 

【関連記事】池上彰さんが解説する、誰でも理解できる「SDGs」

 

人口爆発を鎮めるために

人びとにとっても地球環境においても、さまざまな問題が懸念される人口増加の加速を抑えるために必要なことはなんでしょうか?「先進国としてできることとして、途上国への医療と教育の支援があります」

 

1.乳幼児死亡率を減らす

「一人の子どもがしっかりと成長できる環境を整えることが大切です。そのためには途上国での、医療をはじめ保健衛生の向上が必要です。先進国は途上国に対し医師、助産師を派遣するなどの支援をすることが乳幼児死亡率の減少につながります」

 

2.女性の識字率を向上させる

「女性が教育を受け、文字の読み書きができるようになれば、さまざまな情報を手に入れることができるようになり、女性の就業機会が増えます。女性が働けるようになれば婚姻年齢が上がります。先進国の事例が示す通り、これが結果的に乳幼児死亡率を下げ、子どもの数の適正化につながっていきます。途上国の女性の低い識字率を上げるためには、教室の数を増やす、学校に女性用トイレを建設する、教員に研修を行うなどの支援で、すべての子どもたちが教育を受けられる環境を整備していくことが大切です」

 

私たちができることとは

地球全体の人口問題を考えたとき、私たち一人ひとりができる行動はあるのでしょうか?

 

「人口問題は、世界そして国として取り組むべき課題であり。実際のところ一人ひとりができることは限られています。しかしながら、他人事では状況は好転していきません。人口増加で地球環境の悪化が懸念される今、すぐにできる環境保全対策を日常的に行うことが大切です。できることから始めていきましょう」

 

1.“消費者” としての意識を高める

「多くの利益をあげている企業の中には、途上国の劣悪で安価な生産環境のもとで成り立っている場合があります。価格の安い商品は、なぜ安いのかを考える必要があります。そこには、低コストで販売できる理由があるわけです。ヨーロッパでは児童労働をはじめ劣悪な環境下で作られた衣類を買わない不買運動が盛んに行われています。私たち消費者がそのような衣類を買わなければ、労働者が劣悪な環境下で働くこともなくなります。このように、私たちは対価に見合わない労働を強いられている人びとのことを考える必要があります。近年、経済的弱者である途上国の労働者と、先進国の消費者が対等な立場で取引をするようにフェアトレード(公正な貿易)の概念が広がりつつあります。
私たちはものを買うときに、その企業へ投票するのだ、という意識を持つことが大切です。これが途上国の貧困の撲滅への第一歩です」

 

2.当たり前のことに疑問を持つ

「たとえば捨てたゴミはどこにいくのでしょうか? 流した水はどこに向かうのでしょうか? 暮らしの中の当たり前にできていることに疑問を持つことが必要です。今手にしているものが、どこからきてどこにいくのかを知れば、簡単に捨てる行為もできなくなります。なんでも欲しいものが簡単に手に入る環境の中では、そのサイクルも早い。豊かになったが故の状況を今一度見直してみましょう。少し値が張っても、本当に気に入ったものを長く使うことは環境保全にもつながります」

 

【関連記事】チャリティランやふるさと納税…私たちにもできる慈善活動まとめ

 

私たちが日常生活の中で人口増加を実感する場面はほとんどありませんが、人口増加が途上国の貧困の拡大や、地球環境の悪化につながるとわかりました。そしてそれは必ず、巡り巡って私たちの暮らしにも影を落とします。すべてはつながって成り立っており、けっして他人事ではありません。出生動向と死亡動向は比較的予測しやすい統計であり、事前に対策をすることが可能。世界人口デーをきっかけに、人口問題に目を向け、暮らしの中でできることを探してみませんか。

 

プロフィール

子どもの環境・経済教育研究室代表 / 泉美智子

株式会社六次元(子どもの環境・経済教育研究室代表)。京都大学経済研究所東京分室、公立鳥取環境大学経営学部准教授を経て現職。環境・経済・絵本・児童書関連書籍を多数執筆している。
HP

 


『やるべきことがすぐわかる今さら聞けないSDGsの超基本』(朝日新聞出版)

「海の日」に発売! 海に思いをはせたくなるエコマーク認定ボールペン「ジェットストリーム 海洋プラスチック」

三菱鉛筆は、油性ボールペン「ジェットストリーム」シリーズから、日本国内で回収された海洋プラスチックごみと使い捨てコンタクトレンズの空ケースをリサイクルした「ポストコンシューマープラスチック」を ボールペン軸に採用した「ジェットストリーム 海洋プラスチック」単色タイプを、7月17日の「海の日」に一部数量限定で発売します。価格は220円(税別)。

 

同製品は環境に配慮したノベルティ専用製品として、2022年7月に受注開始。多くの要望が寄せられたことから、継続色1色に限定色2色を追加した全3色の一般販売を、全国の店頭で開始します。

 

本体の軸材は、海洋プラスチックごみからなる再生樹脂とコンタクトレンズの空ケースを用いた再生樹脂からできており、ほぼ100%ポストコンシューマー材で構成しています。ポストコンシューマープラスチックと当社独自配合技術を採用することで、“単一の部材のみで”同社既存の製品と同等の品質を保持することができる仕様となっています。

 

軸色は「変わっていく海の情景」をイメージしたワントーンカラーを採用した全3色。ライトブルーは穏やかな海をイメージしており、新色のコーラルとターコイズは、刻々と少しずつ表情が変わっていく海の情景をイメージ。表面に海洋プラスチックごみの一部が点や模様として表出するものもあり、自然由来の素材が感じられる風合いも特徴です。

 

マットな風合いが日常生活にもなじむミニマルな軸デザインで、「メビウスの輪」をイメージしたクリップ形状は、循環や再生を表現しております。

 

また、ライトブルーはエコマーク商品類型No.164「海洋プラスチックごみを再生利用した製品」の認定を取得。手に取った人が環境配慮に関心を持つきっかけになってほしいという思いも込められています。

日本に“持続可能な観光”を! 観光庁主催「サステナブルな旅AWARD」創設……今秋受賞発表

観光庁主催の、「サステナブルな旅AWARD」が創設されました。

 

同アワードは、実施結果を広くツーリスト(インバウンド含む)に周知することにより、日本での持続可能な観光の意識醸成を図ることや、評価の高い旅行商品を優良事例として発信し、サステナブルな旅行商品造成に向けた取組を促進させ、業界内でのサステナビリティの機運を高めることを目的としています。

 

国内旅行事業者からサステナブルな旅行商品の企画を8月31日まで募集。持続可能な観光に精通した有識者により、持続可能な観光の国際基準であるGSTC-Iなどに基づいて、総合的に評価を行ないます。

 

10月に大阪で行われる「ツーリズムEXPOジャパン」で受賞式を開催(仮)し、受賞旅行商品を表彰、結果は観光庁Webサイト内特集サイトでの配信を予定しています。賞はグランプリ、入選、その他特別賞を想定しているとのことです。

350台もの社用車をEVに切り替える! そうぶち上げた企業が味わった苦労とは

世界的に推進されるカーボンニュートラルなどの観点から、日本政府は2035年以降、新車販売を電動車のみとする方針を示しています。そこで企業として一早く動いたのが、賃貸住宅「D-ROOM」の管理運営を手がける大和ハウスグループの大和リビング。すでに全国で70台ものEVを社用車として稼働させている同社に、これからの未来を見据えた取り組みについて聞きました。

 

2026年までに、約350台すべての社用車をEVにする

 

大和リビングは、大和ハウスが建設した全国約63万戸の賃貸住宅「D-ROOM」の管理会社。入居募集から家賃の回収・管理まで、主に物件オーナーの経営をきめ細かくサポートしています。事業所は全国に138箇所(2023年4月時点)あり、同社はそこで使用する約350台の社用車を、2026年までにすべてEVへと切り替える、と宣言。早くも、一部の営業所で切り替えが実現しています。

 

グループ内でも先陣を切って社用車のEV化に踏み切った背景について、同社・事業本部エネルギー事業推進部次長の柴田孝史さんに聞きました。

 

「大和ハウスグループでは、環境長期ビジョン『Challenge ZERO 2055』に基づき、創業100周年を迎える2055年までにカーボンニュートラルの実現を目指しています。その中期的な行動計画となる『エンドレスグリーンプログラム2026』を推進するなかで、各事業所が使用している電力、社用車のガソリンといったエネルギー消費をいかに削減するかという課題がありました。このうち電力は、2023年度中に大和ハウスグループの再エネ発電所由来の再生可能エネルギーによる『RE100』を達成する見込みです。

一方の社用車は、2026年度までに約350台のリース車をすべてEV化していく目標を掲げています。今回はその初年度の目標として、『RE100』達成済みの事業所から36箇所を選出し、2022年度(2023年3月)中に、70台の社用車を再エネで充電できるEVへと切り替えました」(柴田さん)

 

↑大和リビングの社用車として採用された「SAKURA」

 

約350台のうち、2割にあたる70台をEVに切り替える初年度計画が具体化したのは、2022年6月。それは今回導入された日産のBEV(バッテリー式電気自動車)「SAKURA」の発売と同時期であり、まさに急ピッチでの導入でした。

 

「まずは走り出すことを優先した結果。賃貸住宅の管理業務を行う弊社では、他のグループ会社と比べても多くの車両を使用します。我々が率先してEV導入に踏み切ることに意義があると考え、初年度目標の達成に重点を置きました」(柴田さん)

 

グリーンをキーカラーに使用したグラフィカルなラッピングが目を引く「SAKURA」。取引先や街中でも人々の関心を惹きつけているそう。

 

「各営業所で顧客対応に使用する社用車は、従来から狭い住宅地で走りやすい軽自動車を使用してきました。その使用感や利便性を損なわず、なおかつ年度内に70台という目標を達成できる車種が、日産の『SAKURA』でした」(柴田さん)

 

↑ボディには「We Build ECO」といったグループ挙げてのメッセージなどが描かれています

 

「もちろん、今後は車種の選択肢も増えていくと思います。そもそも、350台の社用車は業務に使用される車両のほんの一部に過ぎません。このほか社員が業務に使用している約1250台の自家用車についても、今後EVに切り替えていくことを見据えて、社内のマイカー手当等の制度を整えていく予定です」(柴田さん)

 

↑大和リビング株式会社 エネルギー事業推進部 次長 柴田孝史さん。大和リビングが推進する『エンドレスグリーンプログラム2026』の達成を目指し、今回の社用車EV化を主導

 

充電スタンド設置へのハードルは営業所によってさまざま

 

今回、取材班が訪れたのは、東京・足立区にある大和リビング足立営業所。敷地内の駐車場には6つの充電スタンドが備えられ、「SAKURA」が6台停まります。同営業所所長の森永友章さんによると、営業所でのEV導入においては、この充電スタンドをいかにスムーズに設置できるかが大きなポイントになったのだとか。

 

「今回選ばれた36の拠点は、大和リビングが管理している賃貸物件に我々がテナントとして入っている営業所のみになります。つまり、建物のオーナー様との信頼関係がすでにできていることが前提条件でした。特に足立営業所は1階にあり、建物前面の駐車場はすべて弊社で借りているため、オーナー様にも説明をしやすい環境が整っていたといえます」(森永さん)

 

↑大和リビング足立営業所所長の森永友章さん。足立営業所では、初年度における最多となる社用車6台をEV化。エネルギー事業推進部へのフィードバックも担っています

 

賃貸物件のオーナーから理解を得るために、具体的にどんなハードルがあるのでしょうか?

 

「主に施工の段取り的な部分ですね。EVの充電スタンドに使用する電気は、建物の中から分岐させて供給するか、それとも目の前の電線から直接引き込んで使用するかの2択なんです。やはり今後の拡張性などを考えると後者になりますが、電線を充電スタンドまで引き込むには、舗装されたアスファルトを剥がすといった工事が必要になります。また、駐車スペースのうちどの部分に導入するかは、各駐車場の状況によってオーナー様の考えもまったく違いますし、その後の運用を含めて検討していく必要があります」(柴田さん)

 

「EVが普及していない今の段階で、オーナー様が設備の劣化や今後の管理について不安を抱かれるのは当然のことだと思います。そういった現状も踏まえ、こちらで想定しうる限りのアンサーをご用意して対話に臨みました。なおかつ今回は、導入にあたっての施工費もすべて大和リビングが負担しています」(森永さん)

 

「自社負担に関しては、コストより導入までの時間を最優先したかった事情もあります。EV導入に対しては手厚い助成金も使えますが、今回はこちらが施工したいタイミングと、都の許認可が降りるタイミングを一致させることが制度上、難しかったんです。ですから、70台という初年度の目標達成を重視する一方で、肝心の充電器にかかるコストはできるだけ最小化する必要がありました」(柴田さん)

 

DIYで大幅なコスト減!? 足立営業所独自の充電スタンド

 

「日々の業務で使用する社用車ですから、駐車場への充電スタンド設置は必須でした」(柴田さん)

 

EVの充電設備にはいくつかの種類がありますが、共用に多く導入されているのが、駐車スペースに設置した充電器側に制御回路を内蔵し、大きな充電ケーブルが備え付けられている『モード3』タイプ。ところが、足立営業所の充電スタンドには充電ケーブルが見当たらず、非常にシンプルな見た目をしていました。

 

EV用充電設備の種類

モード1……コンセント型の普通充電器を用い、車載ケーブルで充電を行って電力供給を行う。普通充電器は家庭用電源を使うため、導入時のハードルが低いのがメリット。

モード2……コンセント型の普通充電器を用い、車載ケーブルで充電を行う。ケーブル間に設置されたコントロールボックスで制御を行いながら電力を供給する。

モード3……充電ケーブル付きの普通充電器から充電。充電器に制御回路を搭載し、充電制御を行う。

モード4……高圧の直流電源を用いた急速充電器で充電。短時間で充電できるのがメリットだが、導入コストは高い。

 

「一般によく用いられる『モード3』のタイプは、スタンドとコントローラーだけで数十万円。これに電線引き込み工事費をプラスすると、1営業所で数百万レベルのコストがかかってきます。そのようなタイプを導入した営業所もありますが、足立営業所が今回導入したのは『モード2』タイプの3kWの充電コンセントでした。駐車スペースに設置するスタンドにはコンセントのみがあり、取り外し可能な充電ケーブルの方に制御回路が内蔵されています。汎用品のポールに、パナソニック製のコンセントが入った既成のBOXを取り付けたいわば『DIY充電器』。『モード3』に比べるとかなり割安で設置できました」(柴田さん)

 

このDIY充電器の制作は、『D-ROOM』のインターネット設備工事を手掛けているグループ会社『D.U-NET』が手がけたのだそう。

 

「そもそも『モード3』の充電器は、たった1台の社用車のために設置するにはオーバースペックなのではないかという見方もあります。充電ケーブルが据え置きなので、かえって管理しにくい側面もあるかもしれません。一方の『モード2』なら充電ケーブルは車に置いておけますし、作りがシンプルなので、今後6kWの普通充電へのアップデートも容易だと考えています」(柴田さん)

 

運用のカギは安定した夜間充電。創意工夫から見つけたベストな形

 

コスト削減のための創意工夫が、結果的に利便性へとつながった形。一方で、肝心のEVの乗り心地や使い勝手はどうなのか、誰もが気になるところです。

 

「社用車は車両ごとに使用者を決めており、今のところ運用に問題はありません。実は、ガソリン車の軽よりも今の『SAKURA』の方が乗りやすいという声が圧倒的に多いんです。最新のクルマなので標準装備でも従来の軽自動車よりハイスペックですし、EVならではの安全装置も充実しています。弊社では公共交通機関で出勤する若い世代の社員が社用車を使用するケースが多いのですが、若い世代ほどEVの乗り味をスムーズに受け入れられているのかもしれませんね。足立営業所の場合、1日の走行距離は30km程度。航続距離はカタログで180kmとありますが、エアコンをフルで使用していると、安心して走れるのは100kmくらいかなという体感です」(森永さん)

 

↑ “日本の美を感じさせるデザイン” がコンセプトのひとつとなっているSAKURA。良い意味で社用車らしからぬ遊び心も盛り込まれています

 

導入は2023年の2月から。電力消費が多い暖房を特に多用する時期だったこともあり、バッテリーの持ちを不安視する声もあったそう。

 

「EVはとにかく充電に時間がかかります。そこで、夜間充電をどうするかは当初の大きな課題でした。夜間充電をしておかないと営業に間に合わないので許可自体は出していましたが、『モード2』の場合、充電ケーブルが取り外し可能なので簡単に抜けてしまうんですね。いたずらでケーブルそのものが盗まれたりする懸念もありました」(森永さん)

 

「街の急速充電スタンドで使えるEモビリティカードも支給していますが、急速充電とはいえ30分はかかります。業務に影響を与えないためにも、夜間の基礎充電は非常に大事。そこで、独自の鍵を設置するなど安心して夜間充電をしてもらうための対策も進めています」(柴田さん)

 

EVの草創期だからこそ、導入の形に正解はなく、さまざまな試行錯誤をすることにこそ価値がある。それが大和リビングの考え方。

 

「今回の取り組みから得た知見は、やはり大きかったです。設備にしても高機能なものをつければいいというわけではないですし、どんな形がベストかはケース・バイ・ケース。それがEVを導入していく難しさでもあり、同時に可能性でもあると思っています。今後はEVのカーシェアなども増えていくでしょうし、弊社が手がける賃貸住宅『D-ROOM』にも、そういったサービスと連携することで新たな付加価値が生まれていくはずです。いずれにしても、大和リビングはこれからもEVに対して前向きな取り組みを継続していきます」(柴田さん)

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

全社用車をEVに切り替え! 大和リビングの次世代を見据えた取り組みの実態

世界的に推進されるカーボンニュートラルなどの観点から、日本政府は2035年以降、新車販売を電動車のみとする方針を示しています。そこで企業として一早く動いたのが、賃貸住宅「D-ROOM」の管理運営を手がける大和ハウスグループの大和リビング。すでに全国で70台ものEVを社用車として稼働させている同社に、これからの未来を見据えた取り組みについて聞きました。

 

2026年までに、約350台すべての社用車をEVにする

 

大和リビングは、大和ハウスが建設した全国約63万戸の賃貸住宅「D-ROOM」の管理会社。入居募集から家賃の回収・管理まで、主に物件オーナーの経営をきめ細かくサポートしています。事業所は全国に138箇所(2023年4月時点)あり、同社はそこで使用する約350台の社用車を、2026年までにすべてEVへと切り替える、と宣言。早くも、一部の営業所で切り替えが実現しています。

 

グループ内でも先陣を切って社用車のEV化に踏み切った背景について、同社・事業本部エネルギー事業推進部次長の柴田孝史さんに聞きました。

 

「大和ハウスグループでは、環境長期ビジョン『Challenge ZERO 2055』に基づき、創業100周年を迎える2055年までにカーボンニュートラルの実現を目指しています。その中期的な行動計画となる『エンドレスグリーンプログラム2026』を推進するなかで、各事業所が使用している電力、社用車のガソリンといったエネルギー消費をいかに削減するかという課題がありました。このうち電力は、2023年度中に大和ハウスグループの再エネ発電所由来の再生可能エネルギーによる『RE100』を達成する見込みです。

一方の社用車は、2026年度までに約350台のリース車をすべてEV化していく目標を掲げています。今回はその初年度の目標として、『RE100』達成済みの事業所から36箇所を選出し、2022年度(2023年3月)中に、70台の社用車を再エネで充電できるEVへと切り替えました」(柴田さん)

 

↑大和リビングの社用車として採用された「SAKURA」

 

約350台のうち、2割にあたる70台をEVに切り替える初年度計画が具体化したのは、2022年6月。それは今回導入された日産のBEV(バッテリー式電気自動車)「SAKURA」の発売と同時期であり、まさに急ピッチでの導入でした。

 

「まずは走り出すことを優先した結果。賃貸住宅の管理業務を行う弊社では、他のグループ会社と比べても多くの車両を使用します。我々が率先してEV導入に踏み切ることに意義があると考え、初年度目標の達成に重点を置きました」(柴田さん)

 

グリーンをキーカラーに使用したグラフィカルなラッピングが目を引く「SAKURA」。取引先や街中でも人々の関心を惹きつけているそう。

 

「各営業所で顧客対応に使用する社用車は、従来から狭い住宅地で走りやすい軽自動車を使用してきました。その使用感や利便性を損なわず、なおかつ年度内に70台という目標を達成できる車種が、日産の『SAKURA』でした」(柴田さん)

 

↑ボディには「We Build ECO」といったグループ挙げてのメッセージなどが描かれています

 

「もちろん、今後は車種の選択肢も増えていくと思います。そもそも、350台の社用車は業務に使用される車両のほんの一部に過ぎません。このほか社員が業務に使用している約1250台の自家用車についても、今後EVに切り替えていくことを見据えて、社内のマイカー手当等の制度を整えていく予定です」(柴田さん)

 

↑大和リビング株式会社 エネルギー事業推進部 次長 柴田孝史さん。大和リビングが推進する『エンドレスグリーンプログラム2026』の達成を目指し、今回の社用車EV化を主導

 

充電スタンド設置へのハードルは営業所によってさまざま

 

今回、取材班が訪れたのは、東京・足立区にある大和リビング足立営業所。敷地内の駐車場には6つの充電スタンドが備えられ、「SAKURA」が6台停まります。同営業所所長の森永友章さんによると、営業所でのEV導入においては、この充電スタンドをいかにスムーズに設置できるかが大きなポイントになったのだとか。

 

「今回選ばれた36の拠点は、大和リビングが管理している賃貸物件に我々がテナントとして入っている営業所のみになります。つまり、建物のオーナー様との信頼関係がすでにできていることが前提条件でした。特に足立営業所は1階にあり、建物前面の駐車場はすべて弊社で借りているため、オーナー様にも説明をしやすい環境が整っていたといえます」(森永さん)

 

↑大和リビング足立営業所所長の森永友章さん。足立営業所では、初年度における最多となる社用車6台をEV化。エネルギー事業推進部へのフィードバックも担っています

 

賃貸物件のオーナーから理解を得るために、具体的にどんなハードルがあるのでしょうか?

 

「主に施工の段取り的な部分ですね。EVの充電スタンドに使用する電気は、建物の中から分岐させて供給するか、それとも目の前の電線から直接引き込んで使用するかの2択なんです。やはり今後の拡張性などを考えると後者になりますが、電線を充電スタンドまで引き込むには、舗装されたアスファルトを剥がすといった工事が必要になります。また、駐車スペースのうちどの部分に導入するかは、各駐車場の状況によってオーナー様の考えもまったく違いますし、その後の運用を含めて検討していく必要があります」(柴田さん)

 

「EVが普及していない今の段階で、オーナー様が設備の劣化や今後の管理について不安を抱かれるのは当然のことだと思います。そういった現状も踏まえ、こちらで想定しうる限りのアンサーをご用意して対話に臨みました。なおかつ今回は、導入にあたっての施工費もすべて大和リビングが負担しています」(森永さん)

 

「自社負担に関しては、コストより導入までの時間を最優先したかった事情もあります。EV導入に対しては手厚い助成金も使えますが、今回はこちらが施工したいタイミングと、都の許認可が降りるタイミングを一致させることが制度上、難しかったんです。ですから、70台という初年度の目標達成を重視する一方で、肝心の充電器にかかるコストはできるだけ最小化する必要がありました」(柴田さん)

 

DIYで大幅なコスト減!? 足立営業所独自の充電スタンド

 

「日々の業務で使用する社用車ですから、駐車場への充電スタンド設置は必須でした」(柴田さん)

 

EVの充電設備にはいくつかの種類がありますが、共用に多く導入されているのが、駐車スペースに設置した充電器側に制御回路を内蔵し、大きな充電ケーブルが備え付けられている『モード3』タイプ。ところが、足立営業所の充電スタンドには充電ケーブルが見当たらず、非常にシンプルな見た目をしていました。

 

EV用充電設備の種類

モード1……コンセント型の普通充電器を用い、車載ケーブルで充電を行って電力供給を行う。普通充電器は家庭用電源を使うため、導入時のハードルが低いのがメリット。

モード2……コンセント型の普通充電器を用い、車載ケーブルで充電を行う。ケーブル間に設置されたコントロールボックスで制御を行いながら電力を供給する。

モード3……充電ケーブル付きの普通充電器から充電。充電器に制御回路を搭載し、充電制御を行う。

モード4……高圧の直流電源を用いた急速充電器で充電。短時間で充電できるのがメリットだが、導入コストは高い。

 

「一般によく用いられる『モード3』のタイプは、スタンドとコントローラーだけで数十万円。これに電線引き込み工事費をプラスすると、1営業所で数百万レベルのコストがかかってきます。そのようなタイプを導入した営業所もありますが、足立営業所が今回導入したのは『モード2』タイプの3kWの充電コンセントでした。駐車スペースに設置するスタンドにはコンセントのみがあり、取り外し可能な充電ケーブルの方に制御回路が内蔵されています。汎用品のポールに、パナソニック製のコンセントが入った既成のBOXを取り付けたいわば『DIY充電器』。『モード3』に比べるとかなり割安で設置できました」(柴田さん)

 

このDIY充電器の制作は、『D-ROOM』のインターネット設備工事を手掛けているグループ会社『D.U-NET』が手がけたのだそう。

 

「そもそも『モード3』の充電器は、たった1台の社用車のために設置するにはオーバースペックなのではないかという見方もあります。充電ケーブルが据え置きなので、かえって管理しにくい側面もあるかもしれません。一方の『モード2』なら充電ケーブルは車に置いておけますし、作りがシンプルなので、今後6kWの普通充電へのアップデートも容易だと考えています」(柴田さん)

 

運用のカギは安定した夜間充電。創意工夫から見つけたベストな形

 

コスト削減のための創意工夫が、結果的に利便性へとつながった形。一方で、肝心のEVの乗り心地や使い勝手はどうなのか、誰もが気になるところです。

 

「社用車は車両ごとに使用者を決めており、今のところ運用に問題はありません。実は、ガソリン車の軽よりも今の『SAKURA』の方が乗りやすいという声が圧倒的に多いんです。最新のクルマなので標準装備でも従来の軽自動車よりハイスペックですし、EVならではの安全装置も充実しています。弊社では公共交通機関で出勤する若い世代の社員が社用車を使用するケースが多いのですが、若い世代ほどEVの乗り味をスムーズに受け入れられているのかもしれませんね。足立営業所の場合、1日の走行距離は30km程度。航続距離はカタログで180kmとありますが、エアコンをフルで使用していると、安心して走れるのは100kmくらいかなという体感です」(森永さん)

 

↑ “日本の美を感じさせるデザイン” がコンセプトのひとつとなっているSAKURA。良い意味で社用車らしからぬ遊び心も盛り込まれています

 

導入は2023年の2月から。電力消費が多い暖房を特に多用する時期だったこともあり、バッテリーの持ちを不安視する声もあったそう。

 

「EVはとにかく充電に時間がかかります。そこで、夜間充電をどうするかは当初の大きな課題でした。夜間充電をしておかないと営業に間に合わないので許可自体は出していましたが、『モード2』の場合、充電ケーブルが取り外し可能なので簡単に抜けてしまうんですね。いたずらでケーブルそのものが盗まれたりする懸念もありました」(森永さん)

 

「街の急速充電スタンドで使えるEモビリティカードも支給していますが、急速充電とはいえ30分はかかります。業務に影響を与えないためにも、夜間の基礎充電は非常に大事。そこで、独自の鍵を設置するなど安心して夜間充電をしてもらうための対策も進めています」(柴田さん)

 

EVの草創期だからこそ、導入の形に正解はなく、さまざまな試行錯誤をすることにこそ価値がある。それが大和リビングの考え方。

 

「今回の取り組みから得た知見は、やはり大きかったです。設備にしても高機能なものをつければいいというわけではないですし、どんな形がベストかはケース・バイ・ケース。それがEVを導入していく難しさでもあり、同時に可能性でもあると思っています。今後はEVのカーシェアなども増えていくでしょうし、弊社が手がける賃貸住宅『D-ROOM』にも、そういったサービスと連携することで新たな付加価値が生まれていくはずです。いずれにしても、大和リビングはこれからもEVに対して前向きな取り組みを継続していきます」(柴田さん)

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

気象予報士が解説する日本の天気予報の最先端と「世界気象デー」に学ぶ世界の気候変動

酷暑にゲリラ豪雨、相次ぐ超大型台風による被害……。日本における近年の不安定な天気は、地球規模の気候変動と切っても切れない関係があるようです。そこで@Livingが注目したのは、毎年3月にある「世界気象デー」という記念日。これをヒントに、日本気象協会の気象予報士・齊藤愛子さんが、気候変動と日本の天気の現状を教えてくれました。

 

『世界気象デー』のテーマが気候変動を知るヒントに

『世界気象デー』とは、いったいどんな日なのでしょうか?

 

「以前は、世界各国の気象業務はいまと違って国ごとの連携がなく閉鎖的なものでした。これを世界で標準化し、各国間の気象情報を効果的にシェアするために発足したのが、世界気象機関(WMO)という国連の専門機関です。『世界気象デー』とは、そのWMOが1950年の3月23日に世界気象機関条約が発効したことを記念して、1960年に制定されました。。WMOは気象業務や地球における気候変動について、人々の理解促進を目的としたキャンペーンを行っています」(気象予報士・齊藤愛子さん、以下同)

 

世界気象デーには毎年、異なるテーマを設けてキャンペーンを展開。2023年のテーマは『世代を超えた気象、気候、水の未来』となりました。そもそもこのテーマは、どのように決めているのでしょうか?

 

「気象庁の方にお聞きしたところ、毎年6月頃に会議によって翌年度のテーマが決まるそうです。今年はWMOの前身である国際気象機関(IMO)の創立から150周年のアニバーサリーイヤーで、これまでの気象業務の歴史と将来の発展を見据えたテーマになっているようですね。
なかでも重要とされる気候変動のひとつが、みなさんもご存知の地球温暖化。地球全体で海水温が上昇することで水蒸気の量が増え、長期にわたる雨や豪雨が世界的にも増えていることから、『水の未来』というキーワードもテーマに掲げられています」

WMOの公式サイトより

 

つまり、毎年変わる『世界気象デー』のテーマには、地球の気候変動にまつわる最新のトピックスが盛り込まれている、ということになります。

 

「たとえば2022年のテーマは『早めの警戒、早めの行動』でしたが、その背景として国連は2022年3月に早期警戒イニシアチブを発表しています。日本では、災害につながるおそれのある大雨などが見込まれるとき、早期に警戒アラートが出て情報が発信されますよね。でも世界の全人口のうち約3分の1の人々は、そういったシステムがまだ十分に普及していない地域で暮らしているのです」

 

アラートの有無は、人の命に関わること。近年の地球温暖化に起因する気候変動の大きさは、やはりそれだけ警戒を強めなければならないレベルにあるようです。

 

「日本に暮らす私たちも、ゲリラ豪雨の発生や連日の熱帯夜など、天気を通じて何か異変が起きている、と痛感することが、年々増えているのではないでしょうか? ここで、地球温暖化が確実に進行していることを示すある報告書をご紹介しましょう」

 

地球の気温は、過去2000年間で前例のない速度で上昇している!

「次のグラフをご覧ください。これは2021年の8月に、『IPCC』という国連気候変動に関する政府間パネルが公開した『第6次評価報告書(AR6)』に掲載されたグラフの日本語訳です」

 

世界気温変化と直近の温暖化要因(IPCC AR6 WG!Figure SPMI Panel b) 出典=IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約 暫定訳(文部科学省及び気象庁)

 

「このグラフは、世界の平均気温上昇の変化を、太陽活動の変化や火山の噴火といった『自然起源』のみの場合と、温室効果ガスの増加や森林伐採、土地利用の変化といった『人間活動による影響=人為起源』を加えた場合とで、わかりやすく比較しています。

 

2011年〜2020年までの直近10年で、世界各地での地表面温度は、産業革命前(1850〜1900年)に比べて1.09度上昇しているんです。その主たる原因が、人間活動にあるということが明確になってきたわけですね」

 

ここ10年の気温上昇は、人間活動による影響が大きいことが一目瞭然です。

 

「この報告書でもっとも注目すべきは、『地球温暖化の原因は人間の活動によるものだ』と断定したことでした。そして昨今の地球の気温は、少なくとも過去2000年間で前例のない速度で上昇していると報告されています。実際に産業革命前と比べて大雨は1.3倍、干ばつは1.7倍増えているというデータもあります。気温上昇も1.09度……というとあまり大きな数字には思えないかもしれませんが、仮にこれが1.5度まで上昇すると、50年に1度あるような暑い日が、いまの約2倍も発生すると予想できます。そうなると海水温はさらに上昇し、世界的にもっと雨が増えることになるでしょう」

 

世界人口が未だ増え続けている背景をふまえると、気温は今後も上昇していきそうです。一方、日本に限定すると、気候変動の現状はどうなっているのでしょうか?

 

「日本の気候変動は、気象庁が公表している『日本の気候変動2020−大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書−』に詳しく掲載されています。大気中の温室効果ガスは年々増加傾向にありますし(図2)、21世紀末には年平均気温が約1.4〜約4.5度まで上昇、激しい雨や台風もますます増えていくことが予想されています」

 

日本国内における待機中の二酸化炭素濃度『日本の気候変動2020ー大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書ー』 出典=文部科学省及び気象庁「日本の気候変動2020」

 

もはや、冷夏なんて過去のものになってしまうのでしょうか?

 

「実は、そうともいえないのが気候の難しいところです。というのも、日本の夏が猛暑の年には、地球のどこかが冷夏に見舞われるといったように、天気は地球全体でバランスをとっているのです。これは温暖化や気候変動においても同じことがいえます。たとえば日本でいくら人口が減って環境負荷が抑えられたとしても、世界規模で人口が増え続けて温暖化が進行すれば、その影響はゲリラ豪雨のような異常気象となって世界各地に及びます。とはいえもちろん、環境に配慮した取り組みは、これからも我々が推進していかなければならないことです」

 

日本の夏は今年も暑い!? “平年並み” はもはや安心できない

ちなみに、今年の夏もやっぱり “暑い” のでしょうか?

 

「今年の夏も暑くなりそうです。日本気象協会の「梅雨入り予想」では、梅雨前線の北上は平年と同様か早い傾向で、今年の梅雨入りは、沖縄や九州から東北にかけて平年並みか平年より早い見込みです。そして、6月から7月の太平洋高気圧の北への張り出しは順調で、今年の梅雨明けは平年並みか平年より早い傾向と見込まれます。平均気温は6月と7月は平年並みか高く、蒸し暑い日が多くなる予想です。
また、夏に発生が予想されるエルニーニョ現象の影響で、盛夏に「梅雨の戻り」のような天気となる可能性が考えられます。梅雨明け後も、局地的な大雨や日照不足などに注意が必要となりそうです」

 

この気象予報における “平年” とはどういう意味なのでしょう? たとえば「平年並みの気温」なら、それほど暑くならないと捉えていいのか、というとーーー

 

「平年値とは過去30年間の平均なのですが、実は10年ごとに更新されるのです。期間は西暦年の1の位が1の年から10年後まで。ですから2023年現在の予報でいう『平年値』は2021年に更新されています。つまり1991〜2020年の平均ということ。そこには近年の酷暑、ゲリラ豪雨が多い夏の気候などもカウントされているので、雨量が『平年並み』だからといって大雨が降らないわけではないし、気温が『平年並み』でも、危険な暑さになる可能性はあるということになります」

 

いわゆる “酷暑日” も、珍しくなくなっていきそうです。

 

「そうかもしれません。そもそも『酷暑日』は、われわれ日本気象協会が2022年の夏に提唱した用語なんです。気象庁では最高気温35℃以上のことを『猛暑日』と呼称していますが、2022年の夏は全国で観測史上初めて6月に40℃を観測しました。また、近年は夜間の最低気温が30℃以上となる日もあります。もはや『猛暑日』や『熱帯夜』という用語では足らないのではないかということで、日本気象協会の気象予報士が検討して独自に使い始めたのが、最高気温40℃以上の『酷暑日』と、最低気温30℃以上の『超熱帯夜』という用語なんです」

 

今までよりも、ひとつ上の暑さのランクが必要になってきているのだそう。

 

「日本の気象観測において40度の気温は何回か記録がありますが、そのうちの9割を直近の20年間が占めているんですよ」

 

※「酷暑日」「超熱帯夜」は日本気象協会が独自でつけた名称であり、気象庁が定義しているものではありません。

 

進化する天気予報を使って危険やリスクから身を守る

つまり、気候変動に合わせて、天気予報も進化していくというわけです。

 

「最近だと天気予報で『観測史上初』といった言葉を聞く機会が増えつつあると思うのですが、われわれはこういった事情も情報に反映しています。最近よくある大雨の予報においては、日本気象協会独自の情報である『既往最大比(過去最大値との比)』というデータを活用するようになりました」

 

「既往最大比」とは……

たとえば雨量でいうなら、いま降っている雨がこれまでの観測史上で最大かどうかを、ひとめでわかるようにしたデータのこと。

「大雨がよく降る地域と、雨自体があまり降らない地域においては、同じ雨量でも災害につながるリスクも変わってきます。それを知っているかどうかで、いざというときの行動にも変化が生まれます。実際に過去最大雨量の150%を超えた場合、犠牲者の発生数が急増する可能性があり、災害発生危険度が極めて高くなることが研究で分かっているんですよ」

 

※既往最大比とは、解析雨量が1kmメッシュ化された2006年5月以降に観測された雨量の最大値との比のこと
※研究とは、日本気象協会と静岡大学牛山素行教授との共同研究の結果。(本間基寛,牛山素行:豪雨災害における犠牲者数の推定方法に関する研究,自然災害科学,Vol. 40,特別号,pp. 157-174,2021.

 

気象予報の精度自体も、年々進化しているそうです。

 

「われわれ気象会社は、気象庁が発信する情報を受けて、各社が用いる独自の予測モデルを駆使して天気予報を発表しています。とくに日本気象協会では、最近になって統合予測モデルというものに切り替えたのですが、これは国内外のさまざまな予測モデルの情報を統合し、精度の向上を目指したモデルです。というのも、予測モデルには「予測の癖」があるんですよ。「予測の癖」は、季節や地域によって日々変化するので、この変化に対応し精度の良い予測になるよう補正しているんですよ。様々な予測モデルの「予測の癖」を補正しつつ、いいとこ取りをしたのが、日本気象協会の『JWA統合気象予測』になります」

 

↑「JWA統合気象予測」の成り立ち

 

気象庁、あるいは民間の会社によって予報の内容に差があるのは、予測モデルの差でもあるわけです。となると、ユーザーとしてはどれを信頼すればいいか迷うところ。

 

「各社の予報をインプットしておいて、総合的に考えるというのが正解に近いのかなと思います。天気予報にも “セカンドオピニオン” があると安心というか、どの予報もしょせんは予報であって絶対ではありません。1社だけが雨の予報を出しているなら、雨の可能性もあるなとインプットしておけば、行動の対策も立てられるということですね」

 

天気リテラシーの向上は “環境にいいこと” につながる

日本気象協会のtenki.jpでは、ユニークな指数情報も豊富。

 

「ユニクロさんとのコラボで実現している『エアリズム予報』や、『ヒートテック指数』は、SNSなどでも話題となり、ご好評をいただいているようです。これらは気温に適した機能性インナーを活用するうえで、参考にしていただける独自の指数なのですが、こういった情報も冷暖房器具の省エネなど、回り回って環境に配慮した行動につながっていくのではと期待しています」

↑日本気象協会がユニクロに働きかけて実現した「エアリズム予報」

 

↑そしてこちらはと「ヒートテック指数」。より暮らしに密着した実感をともなう予報といえます

 

天気予報から正しい情報を収集することは、災害から身を守るだけではなく、地球環境の保護という側面から考えても、今後ますます重要な行動になっていきそうです。

 

「私もプライベートでは3歳と5歳の子どもを育てていますが、仕事柄、彼らが大人になるころ日本の気候は、そして世界は果たしてどうなっているのか、考えてしまうことがよくあります。そこで、子どものうちからお天気リテラシーを高めるような、日々の会話を大事にしていますね。たとえば空を見たときに飛行機雲がなかなか消えなかったら、湿度が高いから天気が降り坂になることが多い。『飛行機雲が残っているから、雨がくるかもしれないね』って、一緒に空を見ながら、そんな会話をするだけでもいいと思いますよ」

 

 

プロフィール

日本気象協会 気象予報士 / 齊藤愛子

一般財団法人 日本気象協会で、放送局やデジタルサイネージ等の企画・開発に従事。tenki.jpのプロモーションをはじめ、フジテレビ『AI天気』、日本テレビ『じぶんごと天気』などのコンテンツ企画なども手がける。出身は特別豪雪地帯である長野県信濃町。
日本気象協会 HP


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

SDGsを先取り! チャールズ英国王が半世紀前から陰口を叩かれても地球環境保護を訴えた理由

2015年9月、ニューヨークの国連本部で行われた国連持続可能な開発サミットで制定された17の目標『SDGs』は、「このままでは地球はもたない」あるいは「地球に人類が生きられなくなる」ことを周知させ、世界中の多くの人が意識や暮らしを見直すきっかけとなりました。ところが、そこからはるか半世紀以上も前から地球環境の危機的状況を憂慮し、環境保全のための活動を続けてきた人物がいます。

 

それが、2023年5月6日に戴冠式が迫る、イギリス国王のチャールズ3世です。日本ではあまり知られていないことに筋金入りの環境活動家であるチャールズ国王のサステナブルな姿勢から、学べることとは?

 

半世紀前……当初は孤独な戦いだった

チャールズ国王が地球環境の保全に関心を持ったのは1960年代後半頃だと話すのは、イギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史を専門とする関東学院大学の君塚直隆教授です。

 

「国王がケンブリッジ大学の学生だった20歳の頃には、地球環境についての考えをお持ちでした。国王は夏になると、2022年9月にエリザベス女王が亡くなったスコットランド北部のバルモラル城で過ごし、クリスマスから年初にかけてのホリデーシーズンにはイギリスのノーフォーク州にあるサンドリンガムで過ごしていました。いずれも大自然に囲まれた環境です。こうした場所で幼少期を送られたことが、のちに地球環境の保全について考えるきっかけになっているのではないでしょうか。また、国王のお父様である亡きエディンバラ公も世界自然保護基金の総裁を長年務めていたこともあり、徐々に関心を深めていかれたのではないかと思います」(関東学院大学教授・君塚直隆先生、以下同)

 

英国の皇太子といえば、いずれは世界15か国の英連邦をはじめとする多数の領土に君臨する存在。その影響力をもって地球環境の保全を声高に叫べば、一大ムーブメントになりそうですが……。

 

「SDGsが広まった今でこそ、世界中に賛同者がいますが、55年も前のことです。当時、チャールズ国王が森林破壊や大西洋の汚染、魚の乱獲について訴えても、多くの人びとにとって、それは身近な話題ではありませんでした。彼の環境保全への情熱を、“変わり者”だと揶揄する人は少なくなかったのです」

 

そして、ようやく時代が追いついてきた

↑2015年12月1日、COP21でスピーチするチャールズ皇太子(当時)

 

チャールズ国王は1976年に海軍将校から退役すると、「皇太子財団(The Prince`s Trust)」を設立。経済的に恵まれない青少年のための職業訓練の場を設けました。

 

「皇太子財団設立以降は、子どもたちの絵画教育や青少年の芸術教育、国際的な実業家の育成、医療健康の推進など、さまざまな支援団体を立ち上げました。それらの団体は統轄され、今では年間150億円以上もの事業運営に貢献する、イギリス最大級の事業団体に成長しています。しばらくは皇太子財団の活動に忙しくしていた国王でしたが、1980年代に入って国連が地球温暖化に警鐘を鳴らすようになり、1992年に国連気候変動枠組条約が採択され、地球温暖化対策に世界全体で取り組んでいくことに合意してからは、再び地球環境の保全にコミットしていきました。近年では、国連気候変動枠組条約に基づき毎年開催される国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)に可能な限り参加し、スピーチを行ってきました」

 

チャールズ国王は、皇太子財団のほかに、どのような活動を続けてきたのでしょうか?

 

「気候変動に対する取り組みをする財団をいくつも立ち上げてきました。なかでも主たるものが、熱帯雨林の保全を行う財団です。多くの企業から賛同を得たり、銀行から資金調達をしたりして、各国の首脳に呼びかけてきました。また、思いを同じくするハリソン・フォードやメリル・ストリープ、ロッド・スチュワートなど世界的スターの力も借りてプロモーションのための映像を作るなど、若い人たちに関心を持ってもらうための活動を続けました。さらに、熱帯雨林の減少を食い止めるには熱帯雨林が分布する中南米やアフリカ、南太平洋など途上国への支援が欠かせないとし、それらの国々の貧困の克服と自立をサポートする重要性についても言及しました」

 

SDGsが誕生し、「サステナブル」という言葉がようやく定着した今、チャールズ国王には先見の明があったことが立証されたわけです。

 

「今では世界中の首脳たちが、チャールズ国王が環境問題のエキスパートであることを認識しています。スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんも、チャールズ国王には畏敬の念を抱いています」

 

まるで桃源郷!?
国王の庭「ハイグローヴ・ガーデン」

チャールズ国王による地球環境保全のための活動は、自身の暮らしにも根付いています。チャールズ国王が有機農法による植物の栽培や動物の飼育を行うハイグローヴは、生物多様性が息づき、持続可能性が確保された場所となっています。

 

「ハイグローヴはイギリスの南西部、グロースター州にあり、チャールズ国王が若い頃に友人から買い取ったお屋敷と庭を整備・拡張し、広大な庭園と農場にしました。ハイグローヴでは、化学肥料や殺虫剤、除草剤には頼らず、有機農法に基づく農業を行い、有機農法による安全な餌を食べる鶏や牛、豚などを飼育しています。また、邸内の電気には再生可能エネルギーや太陽光パネルを用いています。邸宅やレストランなどの暖房設備は敷地内で採れる薪を使っていますし、農場やトイレ用の水は、雨水を使っています。そしてゴミになるような木材や金属は一切使いません。環境負荷がなく、できるだけ自然に近い状態であることを大切にしているのです」

 

このハイグローヴには、レストランや売店があるそう。

 

「売店では、農場に放し飼いにされている鶏が産んだ新鮮で安全な卵をはじめ、野菜や果物、肉類、ハーブティーなどが売られています。そして、こうした販売収益もまた、国王の慈善団体に寄付されています」

 

英国王室による十人十色のSDGs

チャールズ国王の精神。家族でもある英国王室に、どのように受け継がれているのでしょうか?

 

「国王の精神を直接的に受け継いでいるのはウィリアム皇太子でしょう。祖父であるエディンバラ公の影響もあると思いますが、動物の保護活動に力を入れています。アフリカ野生動物保護組織タスク・トラストのパトロンを務め、10年以上にわたり、野生動物の違法取引や密猟への対策を訴えてきました。また、地球の危機的状況の解決に向けて、革新的な開発をした団体を称え、その活動を支えるためのアースショット賞の設立も、非常に有意義な活動です。一方、弟のハリー王子は、負傷兵のためのパラリンピックとも言える『インビクタス・ゲーム』を創立し、退役兵士らの支援をしてきました」

 

ウィリアム皇太子の妻、キャサリン妃は、ドレスからアクセサリーにいたるまで、以前着用したことのある服を公式行事で何度も着回していることが環境に配慮していると話題になりました。

 

「モノを大切に使うことは、英国王室では伝統的に行われてきました。エリザベス女王もそうしてきました。でもやはり、一番有名なのはチャールズ国王ですね。ジャケットは継ぎ接ぎしながら、靴も修理しながら、何十年も愛用します。こうした庶民的な感覚が、21世紀の今日においても、君主制がしっかりと続いているゆえんなのではないでしょうか?」

 

チャールズ国王の“ノブレス・オブリージュ”

チャールズ国王の地球環境保全への情熱は、どこから湧き出るものなのでしょうか?

 

「1つ目に、根底に“ノブレス・オブリージュ(Noblesse oblige)”という、高貴な身分の人には果たさなければならない義務と社会的責任があるという、欧米社会における基本的な精神がしっかりと根付いていることがあると思います。チャールズ国王はイギリスを含め15の国家からなる英連邦の国家元首でもあります。チャールズ国王は、国民の幸福のためにも、このままではもたなくなっている地球をなんとしてでも救わねばならない、行動しなければならない……このことを、ひたすらに体現しているのです」

 

SDGsの17の目標の中には、2030年の目標期限までに達成できないものもすでにあると言われています。チャールズ国王はどんな思いでおられるのでしょうか?

 

「何とかしたいと思っているでしょうね。イギリス帝国時代の旧領土である56の加盟国からなるコモンウェルスは、陸地面積でいうと世界の20%、人口でいえば世界の30%を占める共同体です。コモンウェルスの人びとがまず率先して行えば、コモンウェルス以外の国々も賛同してくれるだろうと、一歩ずつやっていけば地球環境問題も大きく変えられるだろうと感じているのではないでしょうか。チャールズ国王は、50年前は孤独だったわけですからね。誰も賛同する人がいない歴史があったからこそ、望みは捨てていないと思います」

「チャールズ国王が地球環境問題について孤独に戦っていた時代と比べて、現代は情報も賛同者も容易に得ることができます。そういった機会を活用しながら、人類のために、地球のために何ができるかを考えていけば、私たちは精神的な王侯貴族になれるはずです」。君塚先生は、最後にこのようなメッセージをくださいました。

 

「自分たちさえよければいい」では、もはや未来の地球は立ち行かない状態だからこそ、「全人類の幸福」という視点を持つことが、いま強く求められています。

 

プロフィール

関東学院大学国際文化学部教授 / 君塚直隆

1967年東京都生まれ。立教大学文学部史学科卒業。イギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史が専門。1993年からオックスフォード大学に留学。上智大学文学研究科博士課程を修了。『立憲君主制の現在』(新潮選書)、『悪党たちの大英帝国』(新潮選書)、『エリザベス女王』(中公新書)、『王室外交物語』(光文社新書)、『イギリスの歴史』(河出書房新社)、『貴族とは何か』(新潮選書)ほか著書多数。


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

マッチングサービスで食品ロス削減! 注目の“フードシェア事業”サービス4選

余剰や訳アリ品を売りたい作り手とおトクに買いたい消費者をつなぐ
マッチングサービスが食品ロスを解決 ~フード 編~

※こちらは「GetNavi」 2023年4月号に掲載された記事を再編集したものです

tabete-photo

 

私がガイドします!

フードライター
中山秀明さん
フードアナリストでもあり、業界のトレンドに詳しい。食品ロスには敏感で、試食は残さず食べるか持ち帰るのがモットー。

 

フードシェア事業が多様化 利用者増が市場のカギを握る

 

SDGsには「飢餓をゼロに」「つくる責任、つかう責任」「海(陸)の豊かさを守ろう」など、食に関連する目標が多い。この考えに賛同してフードシェア事業を始めるスタートアップも増えている。

 

「余剰や訳アリ品を売りたい作り手と、おトクに購入したい買い手を結ぶマッチングサービスが多いですね。中食店や外食店と消費者を結ぶプラットフォーム、TABETEが有名です」(中山さん)

 

同社はパンや惣菜などの料理が中心だが、野菜や肉、魚、加工品などをメインとするサービスも。

 

「訳アリ食品の売買サービスLet、売り手が生産者やメーカーであるtabeloop、無人販売機でCO2削減にも取り組むfuuboなど、業態は実に多様。今後も注目です」(中山さん)

 

これらのサービスはまだ開始5年以内。利用者が増えれば、より市場は活性化していくはずだ。

 

 

【その1】食品ロス削減アプリ「TABETE(タベテ)」

作り手の「食べて」の想いを 「食べ手」がムダなくおいしく受け取る

tabete-photo2

 

TABETEは、店頭で売り切るのが難しくなった食品を、アプリを通じてユーザーがおトクに購入できるサービス。

 

「お店側としては作ったぶんだけを売り切るのが理想。しかし品物が売れていけば商品棚には空きが出て売れ残りのように見えてしまい、消費者が手に取りにくい。そうならないよう、あらかじめ廃棄を見越してでも多く作るという商習慣が業界には存在します。このジレンマを解決する救世主が、TABETEだと言っていいでしょう」(中山さん)

 

お店側は、廃棄せざるを得なかった商品の販売機会を得られ、消費者側は店頭よりリーズナブルな価格で購入可能と、Win-Winの関係が成立する。

 

「食品ロス削減にもつながり、環境面でもやさしい仕組みとなっています。個人的にはもっと広がってほしいですね!」(中山さん)

 

2023年2月現在で2483店舗と提携し、累計約54.3万食をレスキュー(※TABETEでは食品ロス商品の購入を「レスキュー」と表現する)。パンや惣菜、スイーツのほか試作品、まかない品など検索できるカテゴリを75種類以上揃える。好みのお店はもちろん、いままで食べたことがないお店の商品とも出会える。

 

■サービス開始年月 2018年4月
■会員数 約69万人(2023年2月現在)
■サービス展開エリア 全国(首都圏、金沢市、大阪市、福岡市、名古屋市など)
■利用料金 商品代金のみ(登録料・月額料金なし)

 

 

tabete-photo3
↑クレジットカードで決済可能。購入したい商品を見つけたら、その場から数タップでスマホ決済して、受け取りに行くだけと簡単だ

 

\もっとおトクワザ!/

レスキュー数に応じて 値引きできるパスが付与される

tabete-photo4

 

\試してみた!/

残りもの感はまったくなしで 本格的なフードをおトクに食べられる!

tabete-photo5

今回は、自宅付近のお店で検索してハンバーガー店に決定。本格的なハンバーガーとポテトのセットが1785円01400円で食べられるなんておトクすぎ! “廃棄感”もなく、また利用したくなった。

tabete-photo6tabete-photo7tabete-photo8
↑レスキューするとミッションや経験値、レベルなどをもらえる。ゲーム要素があって楽しく、ついつい活用したくなる♪

 

 

【その2】食品ロス削減アプリ「Let」

訳アリ品を処分したい人と 安く購入したい人をマッチング

let-photo

 

規格外品や余った在庫など、訳アリ品を売買できるアプリ。アプリをダウンロードして審査を通過すれば、最短1分で販売できる手軽さだ。訳アリ品を処分したい人と、安く購入したい人をマッチングする新しいマーケットとして注目を集めている。

 

■サービス開始年月 2020年5月
■会員数 約500万人 (2023年1月現在)
■サービス展開エリア 全国
■利用料金
【購入者】商品代金+送料のみ(プレミアム会員は月額290円/年間2800円)
【出品者】売れたときのみ商品代金の10%の手数料

let-photo2
↑販売実績がある出品者の商品には、過去の取引についての評価が口コミで掲載。初めての取引でも、安全に比較検討して購入できる

 

\もっとおトクワザ!/

let-photo3

プレミアム会員には 様々な優待を用意する

有料のプレミアム会員(月額290円)は様々な優待を利用可能。一般会員よりポイント付与が多く、さらに送料のポイントバックは1か月あたり上限1000ポイントもらえる。保証付き。

 

 

【その3】食品ロス削減サービス「tabeloop」

市場に流通しなかった 生産者の食品をおトクに購入

tabeloop-photo2

 

味は問題ないが形が不揃い、傷があるなどの理由で市場に流通されない野菜や果物、賞味期限が近い訳アリの加工品などを低価格で購入できるサービス。商品への想いや苦労など販売者の記事も掲載する。産地直送で届けてくれる姉妹サイト「産直tabeloop」も展開。

 

■サービス開始年月 2018年6月
■会員数 約2万人
■サービス展開エリア 全国(店舗は東京都世田谷区三宿)
■利用料金
【購入者】商品代金+送料のみ
【出品者】取引成約時のみ15%の手数料

tabeloop-photo
↑2022年6月には、三宿(最寄り駅は池尻大橋)に実店舗「たべるーぷショップ」をオープン。営業時間は13〜19時で、日・月・祝日が定休日となる

 

\もっとおトクワザ!/

tabeloop-photo3

対象商品を実店舗で受け取れば 通常価格よりも安く購入できる

複数購入すると送料が割引になる商品も掲載。さらに、東京にオープンした対面型販売の実店舗「たべるーぷショップ」で受け取れる場合は、通常より割安で購入できる商品も。

 

 

【その4】フードロス削減ボックス「fuubo」

fuubo-photo

 

フードロス品を無人機で販売し フードロスとCO2削減に貢献 賞味期限の近い食品や季節限定品など、市場に流通できなくなった商品を定価の3〜9割引きで販売。無人販売機を活用することで、食品ロスの削減に加えてCO2排出の削減にも貢献する。非接触で手軽かつ安心なのもポイントだ。

 

■サービス開始年月 2021年6月
■会員数 約3万人 (2023年2月現在)
■サービス展開エリア 全国34か所
■利用料金 商品代金のみ

fuubo-photo2
↑設置場所によって、飲料など様々な商品を展開。例えば原宿ではネスレの「ネスカフェ」製品を販売している

 

\もっとおトクワザ!/

fuubo-photo3

購入ごとにもらえる ポイントで安く商品をゲット

アプリから商品検索してキャッシュレス決済後に、販売機にあるQRコードを携帯で読み取り届いた番号を入力するだけ。場所によるが、購入ごとにポイントが付与され、1ポイント=1円として利用できる。

フードロス問題へ一石を投じるOisixとチョーヤ梅酒とのコラボ商品とは!?

廃棄物や副産物などに新たな付加価値を付け、商品として販売するアップサイクル。これまでアパレル関係などで注目されてきましたが、食品業界でもその動きが活発になっています。食品のサブスクリプションサービスを展開するオイシックス・ラ・大地株式会社は、チョーヤ梅酒株式会社とのコラボで、商品化されなかった梅酒の梅果実をドライフルーツに生まれ変わらせました。

 

食に関する社会課題をビジネスの力で解決

まだ食べられるのに捨てられてしまう食品、いわゆる「フードロス」の量は、令和2年度で年間522トン。うち53%の275トンが事業系フードロスです(農林水産省・環境省推計)。この課題に対して、「“これからの食卓、これからの畑”という企業理念を明示し、食に関する社会課題をビジネスの力で解決することに取り組んできました」と話すのは、オイシックス・ラ・大地の三輪千晴さん。同社は2020年11月に「グリーンシフト施策」を定め、食に関わる社会課題に向き合っています。

 

「そもそも当社のビジネスモデルは、お客様からの注文を受けてから商品をお届けするサブスクリプションのため、一般的な小売業と比較してもフードロスは少なく、食品廃棄率は約0.2%です。主力商品のミールキット『Kit Oisix』も、使用分だけ食材をカットしてお客様にお届けしているので、ご家庭でのフードロス削減にもつながっています。また、コロナ禍で学校が休校になった時、給食の停止にともない余剰となった牛乳が問題視されましたが、その際は、キャンペーンを組むなど生産者支援に積極的に取り組みました。こうした土壌がある中で、社会やお客様のサステナビリティへの意識の高まりを受け、経営戦略に落とし込んだのが『グリーンシフト施策』です」

↑オイシックス・ラ・大地株式会社 経営企画本部 グリーン戦略室 Upcycle by Oisix ブランドマネージャー 三輪千晴さん

 

「本施策は、農業生産でのグリーン化の推進、配送車のグリーンエネルギー実証実験の開始、商品パッケージのさらなるグリーン化、フードロス削減の取り組みの強化、そしてフードロスを価値に変えるという5本柱から成り立っています。その中でとくに力を入れているのがフードロス削減です」

 

フードロス解決型ブランド「Upcycle by Oisix」を展開

同社が注力しているというフードロス削減。その一環として、これまで製造過程で廃棄されてきた原料をアップサイクル商品として販売する、フードロス解決型ブランド「Upcycle by Oisix」を、2021年7月に立ち上げました。例えば、冷凍ブロッコリーのカット工場で出る茎を活用した商品「ここもおいしく ブロッコリーの茎チップス」や、大根の漬物工場で廃棄されていた大根の皮を使用した商品「ここもおいしく だいこんの皮チップス」など、畑や加工工場から出た廃棄食材を活用し、アップサイクル商品を開発、販売しています。

↑アップサイクル商品を展開する「Upcycle by Oisix」。ネット販売のほか、ナチュラルローソンなど一部店舗でも販売している

 

「やむを得ず出てしまう未活用の食材を目の当たりにし、フードロスは自社だけでなく、食品業界全体の社会課題だと強く認識していました。フードロス削減のためには、産地や加工メーカーの方たちと手を取り合いながら新しい商品を生む必要があり、強いてはそれがお客様の意識変容にもつながると考えたのです。そこで、環境負荷が低く、新しい価値を加えたアップサイクル商品事業をスタートしました。立ち上げ時は、当社と取り引きのある方たちと展開していたのですが、食のアップサイクルの世界観を広げられることへの期待感と、お客様へ与えるインパクトを考え、今年の1月、チョーヤ梅酒様と共同開発し、アップサイクル商品『梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ』を開発したのです」

↑チョーヤ梅酒との共同開発による商品「梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ」。香料、酸味料未使用で、梅本来の味を楽しめる

 

「チョーヤ梅酒様は、梅酒に漬けた梅を製品に入れたり、実だけを販売をしていますが、製品化できなかった余剰の梅は、家畜の飼料や農業の肥料として使用していました。その余剰の梅を当社が買い取り、梅の産地で生産者が自らドライフルーツに加工することを提案。今回、他社との協業ははじめてでしたが、事業化することで、産地での新たな雇用の創出と、フードロス削減を同時に叶えることができました」

 

廃棄食材だからこその商品化の難しさも

本来は食品として使用し(でき)ないものも多いため、商品化には苦労も多いそうです。

 

「共同開発する企業様の協力は不可欠です。例えば、これまでは廃棄物なので衛生面を気にする必要はありませんでしたが、食材となると話は別。衛生面をケアした上で輸送していただかなければなりません。また今回の場合、梅の実に染み込んでいるアルコールをどう飛ばすか、種をどうやって取るか、どんな加工を施せば美味しい商品になるのか、乾燥させるための温度や時間をどうするかなど、いろいろ試しながら商品化しています。その間、チョーヤ梅酒様にもサポートいただきました。『梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ』に限らずアップサイクル商品は、廃棄されていた食材を活用するため、味や食感の面など、通常の食材を加工するよりも難しさがあります。食材ごとに課題があり、それを1つずつ解決しながら、どうすれば美味しくなるか、企画開発しているのです」

 

2月には早くも共同開発第2弾として、飲食チェーン「PRONTO」を展開する株式会社プロントコーポレーションとコラボレーション。「PRONTO」の店舗で出る抽出後のコーヒー豆かす(コーヒーグラウンズ)を活用し、「コーヒーから生まれた 黒糖あられ」「コーヒーから生まれた チョコあられ」を販売しました。

↑「コーヒーから生まれた 黒糖あられ」(左)と、「コーヒーから生まれた チョコあられ」。コーヒーグラウンズには食物繊維が含まれていて、健康志向の人にも好評だとか

 

「アップサイクル商品は、未活用食材が原料ということで、お客様に受け入れられるかどうか、正直、不安もありました。しかし、『梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ』にしても、『コーヒーから生まれた チョコあられ』にしても、お客様に味を評価され、反響も上々。通常の商品と比べて全ての面で遜色なく、それどころか“地球に優しい”“サステナブル”というプラスアルファの要素があるため、リピーターも増えています。

 

確かに、当社の商品を食べることで削減できるフードロスの量は大したことないかもしれません。ですが、アップサイクル商品の存在を知ったり、食べたりすることで、普段の生活でもなるべくフードロスを出さなくするなど、お客様の意識の変化こそが重要だと考えます。アンケートを見ても、お客様の意識の高まりを実感できますし、それだけでも意義のある取り組みだと思います」

 

80トンのフードロス削減を達成

現在、「Upcycle by Oisix」で誰でもご購入できるようにオンライン販売しているのは12~13商品ですが、2021年7月の立ち上げからこれまでに66商品が開発されました(2023年3月末現在)。それにより、約80トンのフードロス削減を達成したそうです。

 

「次の協業はまだ検討中ですが、多くの企業や自治体から、相談や問い合わせが来ています。今後も、自社だけでなく、製造業や小売業とのコラボにより、新しい食の楽しみや、気付きを与えられる商品を展開していく予定です。その際は、例えばチョーヤ梅酒様なら梅酒、プロント様ならコーヒーというように、協業先企業様の強みと当社の商品開発力・販売発信力を活かしてこそ、協業する意味があると考えています。強みをどう活かすかという難しさはありますが、この輪を広げ、少しでも社会課題解決につなげたい――。そしてお客様についても、アップサイクルという言葉が珍しくない世界を作っていきたいです」

 

見栄えや食感の悪さなどの理由で捨てられていた食材に、新たな価値を加えたアップサイクル商品。同社の取り組みは、フードロスへの意識変容のきっかけになることはもちろん、次にどんな商品が登場するのか、そんな楽しみも感じさせてくれます。

 

2021年創業のランドセルメーカーが半年でSDGsなランドセルを完成できたワケ

4月になると、ピカピカの大きなランドセルを背負って登校する小学生の姿が見られます。ランドセルといえば、昔は黒か赤の革製が主流でしたが、最近はカラーバリエーションが豊富で素材もさまざま。そんな中で注目されているのが、起業したばかりの合同会社RANAOS(ラナオス)が2021年から展開している布製のランドセル「NuLAND®(ニューランド)」です。実はこのランドセル、子どもへの愛情あふれるママたちの想いから生まれました。

 

小学1年生だった息子の様子を見て奮起

RANAOS代表の岡本直子さんには、現在小学の息子がいます。彼が小学1年生だった時の、ある出来事がNuLAND®誕生のきっかけだったそうです。

 

「2020年は新型コロナの影響で、本格的に登校し始めたのは夏でした。当時小学1年生だった息子は、猛暑の中、重いランドセルを背負って帰宅すると、顔を真っ赤にしてもう汗だく。またある時は、大雨なのに傘を差さずに全身ずぶ濡れになって帰宅。ランドセルに入りきらない荷物で両手がふさがっていて傘が持てなかったのです。腑に落ちないでいたところ、近所に住む帰国子女のお子さんがリュックで登校しているのを見かけて。“なんだ、別にランドセルでなくてもいいんだ”と固定観念が覆る思いでした。

 

そこで“ランドセルの機能を踏襲したリュック”を探したのですが、サイズや形、デザイン、機能性など、すべてにおいてしっくりくるモノが見つかりません。同じ思いをしているママたちもいるはずだから、それなら自分で作ろうと思ったのです」

 

↑「NuLAND®」誕生のきっかけ/NuLAND®のHPより by ぴよよとなつき

 

理想的なランドセルを作るためにわずか半年で起業

岡本さんは新卒で広告代理店に入社後、地方や海外のテレビ局勤務(両社とも勤務地は東京)を経て、『mamatas(ママタス)』という育児を応援するママ向け動画マガジンの事業部代表を務めていました。ランドセル製作を考えた際は、まずは現状を把握するために、延べ8000人以上の保護者や小学生から、ランドセルについてヒアリングをしたそうです。

↑合同会社RANAOS代表の岡本直子さん

「『mamatas』を活用して計3回の緊急アンケートを行ったところ、“小学生のランドセルが重すぎる”と答えた方は8割以上。調査を進めていくと、“軽さ”“大容量”“中身の出しやすさ”“丈夫さ”など、多くのキーワードが見えてきました。理想とするランドセルの姿が見えてきて、それを形にすれば、多くの保護者と子どもが望む新しいランドセルが生まれるのに違いないと実感したのです」

 

2020年8月~10月ぐらいでリサーチとコンセプト固めを行い、素材探しなどを同時進行、秋には試作品製作に着手しました。翌2021年1月に『mamatas』を辞めてRANAOSを設立し、3月には早くもNuLAND®の第1号を完成させたといいます。その間、わずか半年というスピードに驚かされますが、「外資系企業にいたせいか、私にとっては特別ではありません」と岡本さんは笑顔で答えます。

 

「NuLAND®には保護者と子どもたちの多くの意見が反映されています。例えば、大きな特徴であるフルオープン機能。これは、ある保護者からの『今のランドセルの形状だと、中がブラックホールすぎる。奥から何が出てくるかわからない(笑)』というユニークな意見から生まれた機能です。

 

しかし当初の設計では、フルオープンになるものの、従来のランドセルのように上部だけを開けてモノを出し入れすることができませんでした。それに対して子どもたちの意見を聞くと、『チャイムが鳴ったら教科書をすぐにしまって少しでも早く教室を出たい。急いでいる時はチャックを開けなくても、モノが取り出せた方がいい』と。そこで両方の意見を取り入れて作ったのが現在の形です。

 

また、曜日によって荷物の量が違うことから、拡張機能を付けたり、重い荷物が背中側に固定されるようにブックバンドを採用するなど、随所に保護者と子どもたちの意見を取り入れています。何よりも私自身が当事者なので共感できる意見も多くありました」

↑簡単にフルオープンになる
↑荷物の量に合わせてマチを広げられる

 

環境問題について親子で話すきっかけに

固定観念にとらわれない自由な発想で生まれたNuLAND®には、「環境」「軽さ」「機能性とデザイン」の3つのポイントがあるそうです。

 

「子どもたちの未来のために、環境に配慮した素材を採用することは最初から決めていました。生地を探していたところ、伊藤忠商事が展開する『RENU®(レニュー)』という循環型リサイクルポリエステル生地を知り、お話を聞いてコンセプトに共感。一般的なリサイクルポリエステルがペットボトルを原料にしているのに対して、RENU®は古着や工場での残反など、100%繊維廃棄物が材料なのです。このRENU®との出会いが、具体的な製品化に動き出すきっかけにもなりました」

 

NuLAND®では、素材の約36.5%にRENU®を使用しています。残りはファスナーや留め具、かぶせ芯、肩パット芯ほかの部材。環境にどのくらい配慮しているかというと、例えば、NuLAND®を100万個製作した場合、150万枚の廃棄Tシャツを使用します。自動車走行距離に換算すると地球20周分のCO2の削減となり、500ミリリットルのペットボトル72万本の水を削減できるそうです。しかし岡本さんの環境へのこだわりは、それだけではありません。

 

「SDGsを保護者の目線でとらえた時、結局、子どもたちの未来に関わることなので、何ができるかといえば子どもに伝えることだと思います。日本と比べて、欧米の子どもたちはすごく小さい頃から環境課題について両親から話を聞いています。そういうのが大切な教育だと思っていて、“NuLAND®がどんな生地を使用し、それは君たちの未来を思ってのことなんだよ”という部分、未来につながる製品であることを両親から子どもへ伝えてほしいのです。

 

環境や社会にどう影響するかも大事ですが、ある意味、製品作りにおいて環境に配慮するのは当たり前の時代。それよりも、ランドセルを選ぶ時に親子で環境について話をしたり、意識をするきっかけになってくれたらいいなと思います」

 

子どもの視点で軽さと機能性、デザインを追求

環境にこだわったのは子どもたちの未来のため。軽さを追求したのは、子どもたちの身体のため。機能性を追求したのも子どもたちの使い勝手を考えて、すべてが子ども主体です。

 

「ポイント2つ目の“軽さ”ですが、ランドセルが重たすぎると答えた方は8割以上でした。中には、3日で背負うのを嫌がった子どもの事例も。一般的なランドセルの重量は、人工皮革1210g、牛革1500g、コードバン(馬のお尻部分の革)1450g。それに対してNuLAND®は約930g(フラップなしで約700g)です。実際に使った子どもたちに話を聞くと“軽い”“締め付ける感じがない”と喜んでくれました」

↑一般的なランドセルとNuLAND®の重さの比較

 

そして3つ目のポイントが「機能性とデザイン」。機能性については、タブレット専用ポケット、鍵や交通パスケースを付けられる隠しリング、成長に合わせて対応できる調整テープ、体操服や水筒、リコーダーまで入る容量の大きさなど、挙げたらキリがありません。現役小学生ママたちの願いを取り入れた結果なのです。

↑2023年に東京・代官山に完全予約制のショールームもオープン

 

一方、デザインディレクションについては、広告、アート、絵本など様々な分野で活躍中のアートディレクター、えぐちりかさんが担当しています。

 

「最初はキービジュアルのご相談だけのつもりでしたが、えぐちさんも3人のお子さんのママであったこと、お話をしたら子どもの目線で活動している面を感じ取ることができたので、デザインディレクションから世界観の構築、ネーミング、ロゴ制作まで、すべてをお願いしました。話を進める中で、当初は少し攻めたデザインも考えたのですが、ランドセルへの憧れは日本の文化として根付いているので、そこは大事にしたいと。両親やおじいちゃん、おばあちゃん、子どものドキドキ感やワクワク感を大切にするために、伝統的な丸みのあるフォルムにもこだわりました」

↑従来のランドセルのような丸みあるフォルム

 

ユーザーとともに進化し続けたい

2023年の春で3年目を迎えたNuLAND®。新色2色が新たに加わり、全7色12ラインナップを展開しています。攻めの姿勢を感じますが、岡本さんの思いは別のところに。

↑2024年4月入学児童向けの新作は4月8日12:00から予約販売開始(7色、全12ラインナップ。オリーブ・グレープは新色・数量限定販売)https://nuland.jp/

 

「カラーバリエーションを増やしているのは、子どもたちが自分の好きな色を選べるようにするため。そもそも、従来のランドセルを否定する気は一切ありません。革のランドセルにはその良さがありますし、比較対象とするのではなく、あくまで選択肢が増えただけ。保護者の方の価値観や、子どもたちの素直な気持ちで選んでいただければと思っています。そして、子どもたちにとって小学校は、これから進んでいく社会への最初の入り口。NuLAND®を通して、“固定観念に縛られないで”“選択肢は1つではないよ”“多様性を認め合おうね”というメッセージが伝われば嬉しいです」

 

まだ3シーズン目ということもあり、耐久性などのデータ量が少ないのが課題と話す岡本さん。ですが、その間もユーザーの声を反映させ、少しずつ改良を続けているそうです。 “その時のベストな製品”を提供しながら、柔軟かつスピーディーに進化している同社。その取り組みには、子どもと未来へのさまざまな想いが詰まってるのです。

産地にこだわった「UCC ORIGIN BLACK」第5弾! ザンビア&エチオピアのコーヒー豆を贅沢に使ったプレミアムなブラック

UCC上島珈琲は、無糖タイプで産地にこだわったプレミアムライン「UCC ORIGIN BLACK」第5弾として、「UCC ORIGIN BLACK ザンビア & エチオピア リキャップ缶275g」を、4月3日から10月までの期間限定で新発売します。税別価格は198円。

 

UCC ORIGIN BLACKは、産地(ORIGIN)、焙煎、ブレンド、抽出、製品ができるまでのストーリーにもこだわって開発した、プレミアムラインのリキャップ缶飲料製品。

 

シリーズ第5弾となるUCC ORIGIN BLACK ザンビア & エチオピア リキャップ缶275gは、華やかな香りと爽やかな味わいをテーマに、アフリカ産の個性豊かなコーヒー豆、ザンビア50%とエチオピア50%の2種類を、通常品の1.2倍使用しています。

 

ザンビアは、干ばつの影響でコーヒー豆の生産量が減少していましたが、2015年からはザンビア政府の支援のもと生産が徐々に復活。同社は積極的にザンビアのコーヒー豆を購入し、今回発売となる同商品にもUCCグループの「サステナブルなコーヒー調達」基準を満たしたコーヒー豆を使用しています。マスカットのようなフルーティーさ、爽やかさを感じる味わいが特徴です。

 

エチオピアは「アラビカ種」の発祥の地として知られ、古くからあった積み出し港にちなんで、「モカ」として親しまれているアフリカ産コーヒーの代表的な存在。ジャスミンのような華やかな味わいが特徴です。

 

焙煎・抽出は、各々のコーヒー豆を産地や銘柄ごとに最適な焙煎度で「単品焙煎」してからブレンドし、挽きたてのコーヒーを天然水100%で、2温度帯抽出しています。

 

パッケージは、アフリカンプリントとして現地で日常的に使われている「チテンゲ」をモチーフにデザイン。華やかなピンクをメインカラーに設定して、高級感と独自性のあるパッケージに仕上げています。

大容量インクタンク搭載、低ランニングコストで使える! HP「HP Smart Tank 5105/5106」発売

日本HPは、A4インクタンク搭載プリンター「HP Smart Tank(エイチピースマートタンク)5105/5106」を3月9日に発売しました。グレーとダークサーフブルーの2色展開で、税込価格は3万400円。

 

同製品は、プリンター本体に黒インクボトル2本とカラーインクボトル各色1本が同梱。黒インク1本でA4モノクロ約6000枚(合計約1万2000枚)、カラーインク各色1本でカラー約6000枚の印刷が可能です。インクコストはA4モノクロ文書1ページあたり約0.33円、A4カラー文書1ページあたり約0.93円と、低ランニングコストで利用できます。

 

製品本体に使われているプラスチックの約45%以上にリサイクル素材を使用したサステナブルな設計で、梱包材を含め廃棄物を削減し、環境への負荷を低減しています。

 

また、上位モデルの「HP Smart Tank 6005/6006」「HP Smart Tank 7005」「HP Smart Tank 7305/7306」も同時発売。A4でモノクロ約1万2000枚、カラー約8000枚が印刷可能なインクを同梱しています。税込価格はHP Smart Tank 6005/6006が3万7280円、HP Smart Tank 7005が3万9700円、HP Smart Tank 7305/7306が4万7000円です。

「未利用材」が美しいテーブルに。オフィス家具大手「オカムラ」が取り組む森林整備の社会課題

製品などの材料として使えない間伐材や、枝、葉、樹皮などの不要部分を「未利用材」と言います。森林整備の際に発生する未利用材が残されたままだと、木材搬出の妨げになったり、土砂災害で大きな被害をもたらしたりする危険性があり、実は社会課題にもなっています。その解決にひと役買おうとしているのが、オフィス家具メーカーの株式会社オカムラ。未利用材を使用した製品の発売を2022年11月からスタートしました。

 

未利用材を活用してテーブルの天板に

「きっかけは、当社のお客様でもあるエースジャパン株式会社様からのご提案でした」と話すのは、マーケティング本部の白井秀幸さん。

 

「エースジャパン様は京都にある物流の会社で、京都府森林組合連合会および各森林組合と連携し、CSRの一環として未利用材を活用した輸送用パレットを製造していました。商談の際、“学校の机など、未利用材を活用した製品を何か一緒に展開できないでしょうか”とご提案いただいたのです。当社は元々『オカムラグループ 木材利用方針』をかかげ、生物多様性の保全、木材の合法性の確保、森林認証材や国産材、地域材の利用など、森林資源の持続可能な利用を推進していました。すでに流通経路は確立されていましたし、社会的な意義とビジネスの可能性を感じ興味を持ったのです」(白井さん)

 

府域の75%を森林が占める京都府は、府民みんなで京都の森を守り育むための取り組みとして「京都モデルフォレスト運動」を展開しています。モデルフォレストとは、1992年の世界地球サミットでカナダが提唱した持続可能な地球づくりの実践活動のこと。京都発祥の企業や団体、大学、行政が協力し、エースジャパンも参加していました。

↑マーケティング本部 パブリック製品部 部長の北川博一さん(左)と、マーケティング本部 企画部 部長の白井秀幸さん

 

「最初にお話をいただいたのは2021年9月ごろ。翌月には契約に至り、協議の結果、まずはテーブルの天板から始めることに決まりました。強度や重量はもちろん、反ったり割れたりしないためにどう成型するか、喧々諤々しながら進め、製品化したのは2022年11月。クリエイティブファニチュア『SPRINT』シリーズの1つとして、未利用材天板を使用したテーブルをラインアップに追加したのです」(北川さん)

 

↑未利用材天板を使用したクリエイティブファニチュア『SPRINT』のテーブル

 

環境問題と向き合い、資材として有効活用を

先述したように、「未利用材」という言葉は定義付けられていて、森林整備の際に発生した不要な樹木や切り捨て材のうち、未使用の材のことを指します。今回同社では、低質材や根元部、曲がり材、枝や葉なども積極的に活用。回収した材を粉砕機でチップ化し、乾燥させた後に成型することで製品に使用しています。

 

↑未利用材の例と活用の流れ

 

「このお話をいただくまで私どもも知らなかったのですが、放置された未利用材が雨などで川に流れ込み、ダム湖の水面を覆うように溜まることに電力会社は頭を痛めていたそうです。今回、ダム湖を見学したのですが、遠くから見て陸地だと思っていた部分が、実は流木だと知って衝撃を受けました。電力会社は定期的にすくい上げて破棄していたのですが、森林からの未利用材だけでなく、そちらも回収して使用しています。

↑写真の左側はすべてダム湖に流れ着いた流木。まるで陸地のように見える

 

材の回収はエースジャパン様が行っているので、現在回収を行っているのは京都府内だけですが、未利用材の適切な処理はどの自治体も課題として捉えています。昨年11月に開催した当社の製品発表会の際も、多くの自治体や電力会社、企業が、未利用材の活用について関心を寄せていました。未利用材の活用は、森林整備に寄与すると同時に、災害時の被害の防止など、社会課題の解決にもつながります。すでに複数の自治体や企業から具体的な相談も受けていますし、今後は他の都道府県での展開も進めていきたいです」(北川さん)

 

のしかかる責任と多くの課題

現時点では『SPRINT』のテーブルだけですが、回収エリアの拡大と共に、今後は学校の机などいろいろな製品に未利用材を使用していきたいそうです。ただし課題もあります。

 

「未利用材の回収には森林組合や自治体の協力が不可欠ですが、当社の取り組みに興味を持つ自治体が多い反面、一企業が正面から未利用材の回収と活用を提案しても、簡単にはいかないのが現実です。仮に合意したとしても、加工できる工場の確保をどうするか、現在の工場へ輸送するとしても、コストや輸送によるCO2排出の問題があります。

↑朽ち果てた木々がチップ化され天板に成形される

 

また家具メーカーとして最も重要なのは製品の品質。チップ化すると強度を高めるために凝縮する分、重たくなります。例えば天板1枚にしても、大きくすればするほど反る確率が高くなるのでそれをどう対処するか、小学校1年生の机が重たくていいのかなど、クリアしなければならない課題は尽きません。また、どんなに“未利用材を回収します、使用します”と言っても、当社が売らなければ社会貢献が持続できない。そのあたりの責任も強く感じています」(北川さん)

 

目指すは47都道府県での地産地消

まだスタートしたばかりの取り組みですが、今後の展開についてはどう考えているのでしょうか。

 

「最終的には47都道府県での地産地消を実現したいと考えています。それが実現できれば、輸送に関する課題が解決するだけでなく、新しい雇用も生みだせます。そして何よりも、自分たちの住む地域の課題解決につながりますし、学校などで子どもたちにとっては木育の一環にもなります。例えば、道の駅で地元の野菜を販売していたりしますが、商品棚や箱、商品を袋に詰め込むためのカウンターなどに未利用材を使用することも考えています」(北川さん)

 

「自治体をはじめ、一般のお客様の中にも、国産材にこだわる方は一定数いらっしゃいます。未利用材の家具は、正真正銘100%国産材ですし、これまでの国産材の家具よりも安価なので需要は見込めると思います。また、SDGsをはじめ社会貢献が当たり前となった昨今、未利用材を活用した製品ということで、企業にとっても導入しやすいのではないでしょうか。今回の取り組みは、社会貢献活動に寄与できることはもちろん、ビジネスとしての可能性にも期待しています」(白井さん)

 

実は同社では、環境課題の解決に向けた取り組みとして、「サーキュラーデザイン」思考による製品開発をしています。未利用材を使用した製品についてもそれは当てはまるそうです。

↑オカムラの製品開発におけるサーキュラーデザイン思考

 

「限りある資源をより長く有効に使用し、廃棄物の発生を最小化するものづくりを当社は目指しています。未利用材を使用した天板は接着剤を使用しているため、すぐには再利用とはなりませんが、ゆくゆくは廃棄される製品を材に戻し、製品に再生することも考えています」(北川さん)

 

国土の約7割を森林が占める日本だけに、同社の取り組みは、社会的にも大いに注目されそうです。

食料危機と気候変動対策に「きび」が急浮上! その理由は?

「2023年は国際雑穀(ミレット)年」。国連が2023年をそう定めているのをご存知でしょうか? ミレットとは、きび、あわ、ひえなどの雑穀類の総称で、米・ニューヨークにある国連本部では先日、雑穀をテーマにした展示会が開催されました。きびなどの雑穀に国連がそれほど熱い視線を注いでいるのは一体なぜなのでしょうか?

きびはいかが?

 

きびなどの雑穀が注目されている背景には、世界人口の増加と食料不足への懸念があります。国連の「世界人口推計2022年版」によると、世界人口は2022年に80億人を突破し、2030年に約85億人、2050年には約97億人になる見込み。それに伴い食料が不足していくことが以前から危惧されています。

 

そこで注目されているのが、きびなどの雑穀。きびはイネ科キビ属に分類される作物で、推測されている原産地は中央アジアや東アジアの温帯地域。今日の日本ではほとんど栽培されなくなりましたが、アジアやアフリカ諸国の中にはきびを主食として食べてきた所があります。特にインドでは、きび、ひえ、あわなどの雑穀それぞれの品種に現地語名があり、人々に長いこと親しまれてきました。

 

栄養面については、たんぱく質や食物繊維を多く含むほか、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラルも豊富。栄養価がとても高いのに安価なことが大きな特徴です。

 

今日の世界情勢を見てみると、パンデミックに加えて、ロシアのウクライナ侵攻で、日本を含め多くの国々がインフレに見舞われています。特に食料のインフレが激しいのが、ジンバブエ、ベネズエラ、レバノンといった国。ジンバブエでは、食料の価格が例年に比べて285%も上昇し、日常生活に大きな打撃を与えているのです。きびなどの雑穀に待望論が持ち上がっても不思議ではないでしょう。

 

また、きびなどの雑穀のメリットとして、厳しい環境でも栽培しやすいことが挙げられます。年々深刻化している気候変動により、世界では水不足で干ばつが起きたり、逆に暴風雨に見舞われたりする地域が増えているのが現状。そこで多くの作物が被害を受けていますが、きびなどの雑穀類は、痩せた土壌や干ばつが起きるような環境でも、肥料や農薬などに頼らず育てることができるとされているのです。

 

桃太郎の精神

このように、栄養価が高く栽培しやすいきびなどの雑穀は、世界中の農民や人々を救う光になりつつありますが、普及を考えるうえで問題になるのは味。

 

きびはくせがなく、味は淡泊です。米に混ぜて食べる以外に、ピザ、パスタ、クッキー、ケーキなどの小麦粉を使った食べ物に加えたり、シリアルやスムージーに混ぜたり、さまざまな使い方が可能。そのため、多様な食文化や人々の好みに合わせて柔軟に取り入れることができると言われています。

 

SDGsの目標2の「飢餓をゼロに」や、目標13の「気候変動に具体的な対策を」など、SDGsの数多くの目標達成にも役立つと考えられる雑穀。アミーナ・J・モハメッド 国連副事務総長は「雑穀は豊かな歴史と可能性に満ちている」と述べています。きびは現代の日本でマイナーな存在かもしれませんが、昔話の『桃太郎』できびだんごが出てくるのを誰もが知っているように、私たちにとって必ずしも遠い存在ではありません。しかも、この物語に登場する鬼は人々に「飢餓をもたらす気象現象の主」であったかもしれないという見方があり(日本大百科全書)、現代社会に通じる部分があるでしょう。きびの力に目を向けるときが再びやって来ているようです。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

早い成長、低いコスト、高いCO2吸収量。「竹」の可能性に世界が注目

2021年に起きたウッドショック。コロナ禍で伐採労働者が減少した影響もあり、住宅建設に必要な木材が不足し、木材の価格が高騰しました。このような現象が起きた後で、建築材料として俄然注目を集めているのが竹です。現在、世界中で約44億人が都市部に住んでおり、その数は2050年に2倍になると見られていますが、それに伴い増えることが予想される住宅需要を満たすためには、竹の活用が不可欠と言われています。日本人が昔から馴染んできた竹には、一体どのような可能性が秘められているのでしょうか?

世界を救う可能性を持つ竹

 

まず、竹の特徴として成長がとても早いことが挙げられます。一般的な木材の場合、苗木を植えてから木材として使用できるまでに40~50年かかるのに対して、竹は多くの品種で根本を切っても再び芽が伸び、わずか3年で収穫できるほど早く成長するのです。

 

また、竹は成長するときに大気中の二酸化炭素を吸収することも特徴。1ヘクタールの竹林は1年間で約17トンの炭素を吸収するうえ、竹は建物や家具などになった後でも大気中の炭素を吸収して蓄えることが可能。そのため、竹は深刻化する地球温暖化の対策にもなり得るのです。

 

さらに、竹は耐久性があって安価、しかも軽量なので運搬しやすいと言われているほか、水分を多く含んでいるため耐火性があり、加工すれば400℃の高温にも耐えられるようになるそうです。このような理由で、竹はとても魅力的な建築資材であり、気候変動に対応した住宅の建築に役立つ可能性を秘めているのです。

 

世界経済フォーラムや世界資源研究所などの共同イニシアチブによる「気候スマート・フォレスト・エコノミー・プログラム(CSFEP)」は、持続可能な建築資材として竹を活用した住宅建築の取り組みを進めています。その一例が、グアテマラの竹製住宅。2022年10月に熱帯低気圧ジュリアに襲われた際、この住宅は強い風に耐え、しかも高床式の住居だったため浸水も防ぎ、被害を受けずに済んだ建物が多かったのです。

 

他国もこのような竹のポテンシャルに注目し、竹の産業化を推進しています。中国は2012年に竹産業を国家的な優先課題と決定した一方、ケニアは竹の商業化を促進するべく、2020年には竹を植物ではなく「作物」に分類しています。また、エチオピアでは、2030年までにアフリカで主要な竹生産国になることを目指し、竹の植林を進めていると同時に、人工竹材に関する実験も行っている模様。さらに、インドの建築業界でも竹を活用することで建築資材を多角化する動きが見られるなど、竹を利用した試みは世界各国に広がっているのです。

 

日本も負けられない

日本人にとって竹は昔から身近にある植物で、縄文時代から建築素材として使われてきたとされています。しかし、家具やインテリアなどには竹が使われているものの、より安価な資材が生まれたことなどから、日本では竹の消費量自体が減り、管理されないまま放置された竹林が増えているのが現状。

 

それでも、国産の竹100%を原料とした「竹紙」を製造したり、竹から「セルロースナノファイバー」と呼ばれる極小繊維を作る技術を開発したり、日本でも竹を資源として活用する研究が進められています。これらは建築資材ではありませんが、他国と同様に日本でも竹を再評価する機運が高まっているのかもしれません。世界各国がサステナブルな竹を巡り競い合っている中、日本の奮起が期待されます。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

環境に配慮した“エモい”文房具シリーズ「COE365」第2弾! 紙ケース入り修正テープなど4製品が新登場

プラスは、Z世代の学生をターゲットにしたエコ文具ブランド「COE365(コエサンロクゴ)」シリーズ第2弾を、2月22日に発売します。

 

COE365はZ世代をターゲットとしたエコ文具企画として2022年2月にシリーズ第1弾を発売。テーマは「エモロジー」で、感情が揺り動かされるエモーショナルな瞬間を意味する「エモい」と「エコロジー」の両方を表しています。プラスチック使用量の削減や再生プラスチック・再生紙の使用、繰り返し使えるつめ替え式の採用、古紙の採用など、いずれもエコにこだわった仕様です。

 

第2弾では、QRコードから「自然」を感じられるオリジナル楽曲が流れる「エモ音」を導入。製品本体やパッケージのイラストには、イラストレーターのこまやま明さんを起用。「月明りで宿題」「朝の通学自転車」「休日の勉強会」「放課後の階段」という、自然とリンクした学生生活のワンシーンを、どこか懐かしいPOPなイラストで描いています。

 

今回発売となるのは、エコ対応紙ケース入り修正テープをはじめ、3色ボールペン、消しゴム、携帯はさみの4製品。

 

紙ケース入り修正テープ「ホワイパー」は、プラスチック使用量を機能・強度に必要な最低限のレベルまで削減しており、同社「ホワイパープチ」(6m使い切りコンパクトタイプ)と比較し、プラスチック使用量を約40%削減したエコな修正テープです。

 

本体の紙にはサトウキビ(非木材資源)からつくられた、バガスパルプ配合の環境対応紙を使用し、プラスチック部分には再生プラスチックを使用しています。紙とプラスチックを分別して廃棄できるのでリサイクル可能。廃棄ゴミを削減するパッケージレス仕様です。イラストは4パターンで、税込価格は275円です。

 

ゲルインキ3色ボールペン「アイプラス」は、本体に再生樹脂を一部使用。パッケージレス仕様で廃棄ゴミを削減しています。リフィルタイプで、お気に入りの一本を長く使用可能です。

 

イラストは3パターンで、それぞれのイラストに合わせたカラーインキを装着。インキ色は、「月明りで宿題」がコーラルピンク×ブルー×パープル、「朝の通学自転車」がゴールデンオレンジ×ライムグリーン×グリーン、「休日の勉強会」がキャロットオレンジ×ベビーピンク×ミルクブルー。税込価格は715円です。

↑ピンクやオレンジのカラーは暗記シートで隠すことができる

 

ケース消しゴム「くるっと」は、パッケージにプラスチックを使わない紙箱仕様で、一部に古紙を使用。消しゴムケースにはリサイクルしたプラスチックを87%使用しています。詰め替え式で、ケースは繰り返し長く使用することができ、消しゴムは繰り出し式なので持ちやすく、小さくなっても最後まで無駄なく使えます。4パターンのイラストで、税込価格は264円。

 

携帯はさみ「ツイッギーフッ素コート」は、本体に再生プラスチックを93%使用。パッケージはプラスチックを使わない紙箱仕様で、一部に古紙を使用しています。3パターンのイラストで、税込価格は990円です。

 

発売日の2月22日は、プラス ステーショナリー公式Instagramアカウントにて、「エモロジーでキュン」キャンペーンを開催。対象の投稿に「いいね」やコメントした人の中から抽選で合計30名に「COE365 第2弾」をセットでプレゼントします。詳細は、キャンペーン開始日に同アカウントより配信される投稿をご確認ください。

バレンタインギフトに! 紙モノを再利用するサステナブルなラッピングアイデア5

贈り物をするときに欠かせないラッピング。素敵にラッピングされたギフトは、もらったほうも渡すほうも心がときめきます。ところが最近では、プラスチックごみや過剰包装といった環境問題とも向き合わなければならないのが現状です。

 

そこで今回は、家にある紙モノでできるギフトラッピングを紹介しましょう。身近な素材を使ったラッピングを考案されている “包装作家” の正林恵理子さんに、バレンタインに実践したい、サステナブルなラッピングを教えていただきました。

 

バレンタインにおすすめ! サステナブルなラッピング5選

家にある紙モノや使い切れずに余ってしまった素材を使って簡単にできるギフトラッピングをご紹介していきます。ラッピングをより美しく仕上げるためのポイントやアレンジについても、それぞれ教えていただきました。

 

封筒1枚でいい! 折るだけでできる舟型の袋

「封筒1枚あればできるので、初心者の方におすすめです」と正林さんが教えてくれたのが、封筒を折って作る舟型の袋。底にマチを作ることで袋の幅が広がり、形が安定します。個包装のチョコレートやパウンドケーキといったお菓子はもちろん、ちょっとした小物を入れたいときにも便利です。

【材料】

・封筒1枚(今回は洋形2号を使用)

 

【使用する道具】

両面テープ、ハサミ

 

【作り方】

1.封筒の下を折る

封筒の下から2センチくらいのところに折り目を付けます。折り幅の2倍の長さがマチになるため(2センチ幅で折るとマチは4センチ)、入れたいものの大きさによって好みで調整を。ただし封筒の下半分の範囲で折るようにしましょう。また、折り目は爪でしごくようにしながら両面に付けるときれいに仕上がります。

 

2.折り線に沿って組み立てる

折り目を付けたら底を広げ、折り線に沿って組み立てていきます。両端の三角の部分を両面テープで底に貼り付けたら、完成!

 

 

【アレンジ例】

海外の古い印刷物をコピーして作ったオリジナルのラベルを貼りました。ラベルを両面テープで貼り付けるときに、上の部分だけ貼らずにあけておくと、メッセージカードなどが入るポケットに!

 

「蚤の市のほか、雑貨屋やフリー素材で手に入る海外の古い領収書や絵葉書、手紙などの一部をコピーし、切って貼るだけで、オリジナルのラベルがすぐに作れます。そのほか、袋の口の部分に穴あけパンチで穴をあけてリボンや紐を通してもかわいく仕上がりますよ!」

 

好みの大きさにアレンジしやすい、紙袋で作るふた付きボックス

続いてご紹介する紙袋2枚を使って作るボックスは、パウンドケーキ、マドレーヌ、フィナンシェなどのお菓子を入れるのにぴったり。使う袋のサイズや袋を折り込む回数を変えることで、ボックスの大きさや高さを変えることができます。

 

【材料】

・紙袋2枚
・底板用の段ボールや厚紙(あれば強度が増しますが、なくてもOK)

 

【使用する道具】

(底板を敷く場合)定規、カッター

 

【作り方】

1.紙袋を折る

紙袋を半分より3ミリ程度端から離して折ります。折り目は爪でしごくようにして、両面にしっかりと付けましょう。

 

2.上の部分を内側に折り込む

折り線に沿って袋の上半分を内側に折り込みます。紙がぐしゃっとなっても気にせず、思い切って折り込んでしまってOKです。

 

3.1・2の工程を繰り返す

1・2の工程を繰り返し、さらに折り込み、半分の高さの箱を作ります。四隅もきちっと折り目を付けて形を整えましょう。入れるものに合わせて、もう一度折っても!(折り込む回数が増えると側面の強度が増します)

 

4.もう1枚の袋も同じように作る

もう1枚の袋も1~3の工程で同じように作ります。底板を敷く場合は、箱の底の縦横の長さよりそれぞれ5ミリくらい小さくなるようにカットして、底に敷きましょう。2つの箱をふたと箱で組み合わせたら完成です!

 

【アレンジ例】

絵本の一部を印刷して切り取り、ラベルに。紙袋の底に入っていたサイズ表記などの文字も上手に隠すことができました。

 

「絵本、ポストカード、布、地図、パッケージの一部分などを印刷して切り取れば、オリジナルのラベルや包装紙になります。『これは使えそう!』と思ったものは、ぜひデコレーション素材として取っておいてください!」

 

ホームパーティーでも大活躍! 紙皿で作る丸い箱

続いては、使い切れずに余ってしまいがちな紙皿を使ったラッピングをご紹介。タルトやキッシュなどの円形のものはもちろん、おすそ分けやランチを入れるのにもおすすめです。

 

「紙皿はそのままお皿として使ったり、持ち帰り用の容器として使ったりできるので、プレゼントだけでなく、ホームパーティーやピクニックでも活用できるラッピングです」

 

【材料】

・紙皿2枚(コーティングなどがされていない、薄めのもの)
・お好みのワックスペーパーやレースペーパー、折り紙など

 

【使用する道具】

(ワックスペーパー、折り紙を使用する場合)鉛筆、ハサミ、両面テープ

 

【作り方】

1.紙皿のフチを内側に押す

まずは紙皿のフチを餃子の皮のように折り、ヒダをつけていきます。折り幅は、親指の第一関節(約3センチ)くらいが目安。一周ぐるっと折り目を付けたら、指の腹と爪を使ってもう一度しっかりと折り目を付けます。

 

2.もう一枚の紙皿も同じように作る

もう一枚の紙皿も1と同じように作ります。写真のような形になっていればOK。

 

3.箱になる紙皿のフチを立たせる

2枚の紙皿のうち1枚(箱になる方)は、1で立たせた根元の部分を3ミリくらい内側へ押し付けるようにしてさらに折り目を付けます。(箱のサイズを少しだけ小さくすると、ふたがしやすくなります)2枚の紙皿を組み合わせたら完成!

 

4.ワックスペーパーなどをカットし、紙皿の表面に貼る

仕上げに、紙皿のサイズに合わせてワックスペーパーなどお好みのペーパーをカットし、上にかぶせる紙皿の表面に貼り付けます。さらに、贈り物を入れた後は、上下の紙皿が離れないよう輪ゴムや紐でとめておくと安心です。

 

【アレンジの例】

上下の紙皿はリボンで結ぶだけでも十分素敵ですが、もうひと工夫すればより洗練された雰囲気に。正林さんとっておきの、空き缶のプルトップを使ったベルト風のアレンジをご紹介します。

 

まずはプルトップを缶から外し、切り口がある方の穴(缶を開けるときに指をかけない方)にリボンを通し、ギザギザした切り口を覆い、リボンの端を両面テープで留めます。

 

リボンを箱に掛けたら、先ほどの穴に下からリボンを通し、もう一つの穴に上から通してベルトのように整えたら完成!

 

「このアレンジをするときには、1~1.3センチ幅のリボンを使うのがおすすめです。また今回、リボンとワックスペーパーの色を赤で合わせたのもポイント。アレンジに使う素材の色を揃えると全体がまとまって見えます」

フラワーアレンジメントにも使える、牛乳パックバッグ

次に紹介するのは、牛乳パックと紙袋の持ち手で作るバッグ。お菓子や小物を入れるのはもちろん、水に強いので小さめのフラワーアレンジメントにも使えるラッピングです。

 

【材料】

・牛乳パック(上部分はカットするため、容量は気にしなくてOK)
・紙袋の持ち手2枚

 

【使用する道具】

カッター(またはハサミ)、両面テープ、油性ペンなど(牛乳パックに線を引けるものであればOK)

 

【作り方】

1.牛乳パックに線を引く

牛乳パックの下部分に紙袋の持ち手を合わせて、持ち手の上部分に沿って線を引いていきます。

 

2.線に沿って牛乳パックをカットする

全面に線を引いたら、カッターやハサミで線に沿ってカットしていきます。

 

3.紙袋の持ち手に両面テープを貼る

紙袋の持ち手の片面に両面テープを貼ります。両面テープは、牛乳パックに貼るときにはがれないよう全面に貼るのがポイント。もう一つの持ち手も同じように貼りましょう。

 

4.牛乳パックに紙袋の持ち手を貼る

牛乳パックの中央に紙袋の持ち手の中央が重なるように貼り、余った持ち手の端はそのまま側面に沿わせて貼り付けます。向かい側も同じように貼ったら完成!

 

 

【アレンジの例】

黒い画用紙をカットして貼り付けると、黒板のようなメッセージボードに。白いペンやチョークを使って文字を書くとおしゃれに仕上がります。

 

さらに、持ち手部分に小さなリボンを結び、アクセントをプラスしました。

 

「黒い画用紙の代わりに、駐車券やチケットの裏などを使っても良さそうです。自宅で余っているもの、いつもは捨ててしまうものを、何か使えないかな? と考える時間も楽しいので、ぜひ家の中をちょこっと見回してみてください!」

 

キッチンペーパーの芯で作る、ピローボックス

最後は、タブレットタイプのチョコレートやアクセサリーなどの小物を入れるときにおすすめの、ピローボックスの作り方をご紹介。少し手間はかかりますが、キッチンペーパーの芯でできているとは思えない、本格的なボックスに仕上がるのでぜひチャレンジしてみてください。

 

【材料】

・キッチンペーパーの芯 1本
・お好みのペーパー(今回は15センチ角の折り紙1枚を使用)

 

【使用する道具】

定規、カッター、丸い小皿、鉛筆、ハサミ、両面テープ、スティックのり

 

【作り方】

1.芯をつぶして平らにする

キッチンペーパーの芯をつぶして平らにします。定規などを使ってしっかりと折り目を付けましょう。

 

2.芯をカットする

入れるものの大きさに合わせて芯をカットします。今回のように15センチの折り紙を外側に巻き付ける場合は14センチにカットしましょう。

 

3.丸い小皿を使って線を引く

写真のような丸い形の小皿を使って、芯の端に弧を描くように線を引きます。

 

4.線に沿ってカットする

両端に線を引いたら、ハサミでカットしていきます。

 

5.カッターで筋を入れる

両端を丸くカットしたら、先ほどの小皿を3とは逆の向きで端に合わせ、切らないように注意しながら、両端・両面の計4カ所にカッターで筋を入れていきます。

 

6.芯に折り紙を巻き付ける

芯の下に折り紙を置き、5で入れた筋の少し内側に両面テープを貼ります。両面テープを写真のように2カ所に貼ったら、芯の端に片方を貼り、引っ張りながらぐるっと巻いて貼り付けましょう。

 

7.両端の折り紙をカットする

折り紙を巻き付けたら芯のカーブに沿って両端の折り紙をカットします。

 

8.両端の折り紙を芯に貼り付ける

両端の折り紙を芯に貼り付けたら完成! スティックのりを使うと作業がしやすく、見た目もきれいに仕上がります。

 

【アレンジの例】

パッケージの一部を切り取った、オリジナルのラベルを貼ってアレンジしました。ラッピングがコンパクトなので小さめのラベルでも十分なワンポイントに!

 

さらに、手芸用のゴムで輪を作って斜め掛けにしました。

 

「黄色と反対色の青系をプラスし、ボックスの形とドット柄の曲線にゴムの直線を加えました。異なる色とデザインを少し足し、変化をつけることでおしゃれ感が増します。手芸ゴムの代わりにリボンや麻紐を使ったり、紐にタグを通したりしても!」

 

おしゃれにラッピングするコツは?

今回ご紹介したラッピングは家にあるもので気軽に始められますが、材料選びやアレンジが難しそう……と感じる方もいるはず。そこで正林さんに、初心者でもラッピングを素敵に仕上げるためのコツを教えてもらいました。

 

「ラッピングの材料やアレンジに使う素材は、ラッピング全体のテイストをイメージしながら選んでいくのが良いと思います。例えば、大人っぽい雰囲気にしたいなら、クラフト素材や落ち着いたトーンの色を選んでみる。そうすると、少し派手なデザインや柄を入れたとしても、イメージに近いものに仕上げることができるはずです。

 

色の組み合わせに悩むときは、単色や同系色、反対色を組み合わせて1~3色でまとめたり、封筒や袋の地の色をラベルや紐などのアレンジの一部に入れたりすると、統一感が生まれ、洗練された印象に見せることができます」

↑例えばこちらのラッピングは、地の色が赤の封筒に、赤いラインの入ったラベルを貼ることで色に共通点を持たせ、統一感を出しています。

 

「また、ラベルやリボンなどのアレンジは2~3個を目安に入れるのがおすすめ。ボックスの大きさなどにもよるかもしれませんが、あまり入れすぎると野暮ったくなってしまうので、『足しすぎない』ことも意識するといいと思います」

 

「こういうラッピングもアリなんだ!」と気軽にチャレンジしてほしい

 

そもそも正林さんがサステナブルなラッピングに関心をもったきっかけを聞きました。

 

「私が『エコ』を意識したラッピングを始めたのは、自分で作ったお菓子を、お金をかけずにかわいくラッピングしたいと思ったことがきっかけでした。でも最近は、それだけではエコとは言えないんじゃないかと考えるようになって……。例えば、安価だからと言ってラッピングの材料を大量に購入したり、プラスチック素材のものばかりを使ったりすることは、本当にエコなのかとか、疑問に思うことが増えてきたんですよね。そこから、自宅で余っている紙モノなど、身近なものを上手に活用したラッピングを考えるようになりました」

 

では、サステナブルなラッピングの魅力はどこにあるのでしょうか?

 

「私がこのラッピングにハマった大きな理由は、エコ・ラッピングでプレゼントをすると、中身を見る前から、ラッピングだけでとっても喜んでもらえるから。身近にあるけど、普通はラッピングに使わないようなもので包んであることに驚いてくれて、お金もかからず気軽にできそうだから『私もやってみよう!』という気持ちになるみたいです。そして、その人なりの個性あふれるラッピングで、お返ししてくれたりするんですよね。リユース素材や余ったものなどを活用したラッピングは、自分の手でアップサイクルをするということでもあります。エコ・ラッピングでプレゼントすることは、無理なく、楽しみながら、サステナブルな包装を広めていくことができるのも魅力だと思います」

 

ぜひ、多くの人にやってみてほしい、と話す正林さん。

 

「今回ご紹介したラッピングは、環境のために皆がやらないといけないものではなくて、ラッピングの一つの選択肢として考えてもらえたらうれしいです。『家に余った紙モノがあるからちょっとやってみようかな』『こういうラッピングもアリなんだ!』という気軽な気持ちで、ぜひ楽しくチャレンジしてみてほしいなと思います」

 

バレンタインデーだけでなく、日頃のちょっとした贈り物や手土産にも、活用していきたいですね。

 

プロフィール

包装作家 / 正林恵理子

お菓子作りを学ぶため、パリに1年留学する。その時に出会った暮らしの中にあるかわいらしい包みに感動し、帰国後、身近な素材を使って新しい包み方を考案するようになる。現在は、ワークショップなどでエコ・ラッピングを広める活動を行っている。 著書に『エコ・ラッピング』『もっとエコ・ラッピング〜思わず誰かにプレゼントしたくなる』(大和書房)ほか。
Instagram

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

壊れた物を美しく直す「金継ぎ」(きんつぎ)の魅力とプロ直伝の実践方法

陶磁器の修復技法「金継ぎ」は、日本が誇る伝統技術の一つ。コロナ禍で在宅時間が増えたこともあり、チャレンジする人が増えているといいます。そこで今回は、漫画家でありながら、漆職人として金継ぎ教室も開催されている堀道広さんに、金継ぎの魅力や自宅でもできる金継ぎの方法を教えていただきました。

 

日本に古くからある修復技法、「金継ぎ」とは

そもそも金継ぎとはどのような技術で、どのようなものを直せるのか。堀さんに教えていただきました。

 

「金継ぎは、割れたり欠けたりした陶磁器を『漆』で繕い、金粉や銀粉などの装飾を施すことで、傷跡をきれいに見せる修復技法です。日本に古くからある伝統的な技術で、室町時代ごろにお茶の世界で始まったと言われています。
金継ぎは、割れたところを継ぎ合せたり、欠けたところを埋めたり、ひびが入ったところを補強したりと、器の破損状態によって修復方法が異なります。陶磁器であれば基本的になんでも直すことができますが、木の樹液である漆は完璧な素材ではないので、不向きな器もあります。例えば、素焼きに近いザラッとした手触りの器は漆を吸いやすく、きれいに仕上げるには難易度が高め。逆に、釉薬(陶磁器の表面をコーティングするガラス質)がかかった、ツルッとしている器は、初心者の方にもおすすめです」(堀道広さん、以下同)

 

15年ほど前から金継ぎの教室「金継ぎ部」を主宰している堀さん。昨今のブームの背景や金継ぎの魅力についてもお聞きしました。

 

「金継ぎ教室の生徒さんが特に増えたと感じるのは、東日本大震災の後くらいから。震災で壊れたものを直そうとする方も多くいましたが、大きな要因としては、陶芸作家や大量生産ではない手づくりのものが増えてきたからではないかと考えています。このくらいの時期から金継ぎ自体の知名度も徐々に上がり、最近はコロナ禍で、自宅で過ごす時間が増えたことをきっかけに、金継ぎを始める人も増えてきていると感じます。
金継ぎの役割は、『壊れたものを直して、また使えるようにする』こと。とても実用的なところがいいなと思いますし、そもそも壊れたものを直すという行為には、『やさしい気持ち』があると思うんですよね。そこが、金継ぎの魅力の一つだと考えています」

 

金継ぎに必要な道具は?

 

金継ぎをこれから始めてみたいという方は、まずは道具をそろえるところから。金継ぎには、漆だけでなく合成樹脂や接着剤を使って行う方法もありますが、今回は漆のみを使う場合の基本の道具を紹介します。修復方法や工程によって用意する道具はさまざまですが、ポイントになる道具をいくつかピックアップしました。

 

・漆
生漆(きうるし)、黒呂色漆(くろろいろうるし)、弁柄漆(べんがらうるし)などを、工程によって使い分けます。漆自体は一種類ですが、塗りやすいように精製されたものなどさまざまな種類があり、最近では陶磁器だけでなくガラスに使える漆も。専門店はもちろん、ホームセンターなどでも購入できます。

 

細筆
漆を塗るときに使用する筆は、粗が目立ちにくい細い線を引ける筆がおすすめ。堀さんは蒔絵筆を使っているそうですが、画材屋などで手に入る0号の細い丸筆でもOKです。

 

・ペンカッター
漆を削るときに使用します。堀さんはペンカッターの軸に市販の刃を付け替えたものを愛用中。ペンカッターの軸は100円ショップ、刃はホームセンターなどでも手に入れることができます。

 

・金粉
金粉は高価なため、堀さんの金継ぎ教室では真鍮粉(銅と亜鉛の合金)を使うこともあるそう。そのほか、銀粉、錫粉などを使っても装飾できます。

↑左から、金粉、真鍮粉、銀粉、錫粉を使ったときの仕上がりイメージ。それぞれに違った味わいがあります。

 

鯛牙
鯛牙は漢字の通り、鯛の牙でつくられた金工道具。金を蒔いたあとに継ぎ目を磨く工程で使用します。(メノウ棒でも代用できます)

 

そのほかに必要なのは、作業台として使用するガラス板ゴム手袋(ピタッとフィットする薄手のもの)、砥之粉強力粉(自宅にある小麦粉でOK)、サンドペーパーマスキングテープ木粉(「欠け」を修復するときに使用)、プラスチックのヘラ竹ベラなたね油テレピン油真綿磨き粉(砥石粉)、綿棒ウエス(ティッシュでも可)など。これらの使い方については、後ほどご紹介します。

 

忘れてはならないのが、なたね油(サラダ油、オリーブ油などの不乾性の植物油)と、テレピン油です。漆は水で落ちないため、筆は必ずなたね油などの不乾性の植物油、ヘラやガラス板はなたね油やテレピン油(または灯油などの溶剤でも可)を使って、落としましょう。

 

「必要な道具はホームセンターや画材屋でだいたい手に入れることができますが、キットなどを購入して一気に揃えてもいいと思います。インターネットの口コミなども参考にしながら、探してみてください」

 

いよいよ金継ぎにチャレンジ!

道具をそろえたら、いよいよ実践。今回は「割れ」を修復するときの金継ぎの工程を紹介します。

1.前処理をする

まずは前処理からスタート。漆職人の堀さんは普段、素手で作業されるそうですが、漆はかぶれる可能性もあるため、漆を扱うときはこれ以降の工程でも必ず手袋をするようにしてください。

 

ガラス板の上に「生漆」を出し、綿棒を使って継ぎ目に塗っていきます。漆はすぐに染み込むため、塗った後はウエスなどで余分な漆を拭きとり、一晩乾かしましょう。残った生漆はこの後の工程で使用するので取っておいてください。

 

2.接着用の「麦漆」をつくる

一晩寝かせた後は、破片を接着するときに使用する「麦漆」をつくります。まずガラス板の上に水と強力粉を出して、プラスチックのヘラで練ります。ヨーグルトくらいのものができたら、前処理のときに残った「生漆」を少しずつ混ぜ合わせましょう。生漆の量は、水と強力粉を混ぜたものの2倍くらいが目安です。

 

しばらく混ぜ合わせ、粘着性が出てよく粘る状態(写真のように10センチ伸びるくらい)になったら「麦漆」の完成です。生漆の量は、粘り気を見ながら調整してください。

 

3.破片同士をくっつける

次に、竹ベラを使って麦漆を破片の片面に薄く塗っていきます。初心者の方は漆をつい分厚く塗ってしまいがちですが、最低限の量を薄く塗ることがきれいに仕上げるコツです。

 

破片が複数あるときは、小さい破片同士からくっつけていくのもポイント。大きな破片から始めると、後で小さな破片をくっつけるときにうまく入らなくなることもあるためです。

 

破片に漆を塗ったらすぐにくっつけて、継ぎ目にマスキングテープを貼っていきます。マスキングテープは、写真のようなつぎはぎ状に、なるべく等間隔で貼りましょう。そうすることで、ほどよく空気に触れるので、漆が乾きやすくなります。

 

全ての破片をくっつけたら、マスキングテープを全体に巻いて、両手でギュッと接着します。すきまができないように力を入れて接着するのがポイント。その後、一週間ほど寝かせます。

 

4.余分な漆を削り、細かな欠けや溝があれば埋める

↑写真は、一週間寝かせた後の器。破片がしっかりと接着しています。

 

一週間寝かせて接着させた後は、継ぎ目からはみ出した麦漆をペンカッターで削っていきます。このとき、刃で手を切らないように注意。削った後、継ぎ目に細かな欠けや溝があるときは『さび漆』(※)で埋めましょう。

 

※水と砥之粉をからしほどの固さに練り、生漆を混ぜ合わせたもの。(練った砥之粉と生漆は10対6くらいの割合)これを竹ベラで継ぎ目全体に塗って一日寝かせ、サンドペーパーで削ると、細かな欠けや溝を埋めることができます。

 

5.「中塗り」と「研ぎ」を2~3回繰り返す

続いて行うのが、中塗り。ガラス板に「黒呂色漆」を出し、細筆で継ぎ目に塗っていきます。できるだけ細く塗ると仕上がりもきれいに。終わったら一晩寝かせます。

 

一晩寝かせた後、中塗りしたところをサンドペーパーで研いでいきます。その後、中塗り→一晩寝かせる→研ぐ、という工程をもう一度繰り返しましょう。余裕があれば3回目も。手間はかかりますが、繰り返すことで線がよりなめらかになり、強度も高まります。

 

6.金粉を蒔く

中塗りと研ぎを繰り返したら、いよいよ仕上げの工程。金粉を蒔く前に、継ぎ目に細筆で「弁柄漆」を薄く塗り(「地塗り」と言います)、15分くらい乾かします。塗ったところは触らないように注意しましょう。

 

また、この工程はなるべく失敗したくないところ。中塗りを3回繰り返すのをすすめているのは、継ぎ目に沿って漆をきれいに塗る練習をしてもらうためでもあります。とはいえ、もし漆がはみ出してしまっても、乾いた後に削れば大丈夫。慌てて綿棒などで拭ったりしないようにしてください。

 

漆が乾いたら、真綿に金粉を付けて、継ぎ目にくるくると円を描くように付着させていきます。金粉を蒔いたら一晩寝かせましょう。

 

寝かせた後は、鯛牙(またはメノウ棒)を使って小さな丸を描きながら撫でるように継ぎ目を磨き、光らせていきます。光沢が出たら完成!

 

金粉は「これ以上は光らない」という限度があるため、ある程度光ればOKです。

 

「金継ぎをした器は、通常のものと同じように扱っても問題ありませんが、電子レンジや食洗器の使用は避けてください。手間暇かけて直した器なので、大切に扱って、長く使ってくださいね」

 

“器の声” を聞きながら、いろいろな金継ぎにチャレンジしてほしい

今回は金粉で装飾する「割れ」の工程を紹介しましたが、金継ぎの楽しみ方はまだまだたくさんあります。最後に堀さんから、これから金継ぎを始める人へのアドバイスや、金継ぎをもっと楽しむための方法を教えていただきました。

 

「私は普段、金継ぎの教室で、『最初の金継ぎをいかにきれいに仕上げてもらえるか』ということを考えながら、皆さんのお手伝いをしています。それは、初めて金継ぎを体験した方に『こんなにきれいにできるんだ!』という感動を味わってもらい、その後も続けてもらいたいから。そのためには、ツヤのある器など、まずは失敗しにくいものから始めるのが良いと思います。その後、『割れ』の修復ができたら、『欠け』の修復もやってみたり、金粉だけでなく銀粉を使ってみたりと、いろいろな金継ぎにチャレンジしてみるのがいいのではないでしょうか」

↑写真は銀粉で装飾したもの。金粉とはまた違った雰囲気に仕上がります。

 

「また、自分が大事にしている器を直したいと思ったとき、『この器はどういうふうに直されたいだろう?』と、 “器の声” に耳を傾けてみてほしいです。考え方はさまざまですが、私自身は、陶磁器は土でつくられたものなので、直すときも自然の素材である漆を使って、丁寧に直したいと考えています。漆で行う金継ぎは、手間暇かけるほど仕上がりも美しくなるので、ますます愛着もわくはず。ぜひ気軽に楽しくチャレンジしてみてください!」

 

プロフィール

うるし漫画家 / 堀道広

うるし漫画家。国立高岡短期大学(現・富山大学芸術文化学部)漆工芸専攻卒。石川県立輪島漆芸技術研修所卒。文化財修復会社を経て、漆屋で職人として働きながら2003年漫画家デビュー。 以降、漆と漫画の分野で活動。著書に「青春うるはし! うるし部」(青林工藝舎)、「おうちでできるおおらか金継ぎ」(実業之日本社)など。都内近郊で金継ぎのワークショップ「金継ぎ部」主催。おおらか金継ぎの普及に努める。現在、アンドプレミアム(マガジンハウス)のウェブサイトにて、漫画「金継ぎおじさん」を連載中。
HP

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

毎週5分で完売する「陶器の街のクッキー」が地域課題解決の理想形であるワケ

わずか1日足らずで100個を完売した、ふるさと納税の返礼品があります。それは、長崎県のほぼ中央に位置する波佐見町の「HASAMI TOBAKO COOKIE」。波佐見産の米粉が原料のクッキーを、名産品である波佐見焼の陶器箱に入れた商品で、実は、波佐見焼の廃石膏型を再利用した地域内循環モデルとしても注目されています。

 

年間約700tもの廃石膏型の処分が町の課題に

有田焼で有名な佐賀県有田町と隣接する長崎県波佐見町は、江戸時代から陶磁器の生産地として知られ、現在も日用食器の生産が非常に盛ん。全国シェア約17%ともいわれ、陶磁器の醤油差しや、「セーフティわん」に代表される強化陶磁器が一世を風靡しました。そんな陶磁器の町で以前から問題になっているのが、波佐見焼を作る際に使用される石膏型の処分です。

↑「くわらんか碗」として江戸時代に普及し、現在も日用陶器として知られる波佐見焼。デザイン性にも優れ、「G型しょうゆ」はグッドデザイン賞を受賞した

 

「日用陶磁器の生産が多い波佐見焼は、大量生産する関係もあり、石膏型が多く使われます。石膏型は100回ぐらい使うと劣化し、廃棄されるのですが、年間推定約700tもの廃石膏型が排出されてきました。これまでは町が設置した産業廃棄物処理施設内の専用廃棄場に埋めていたものの、1999年に廃棄場が満杯に。新たな処理場を作るか、中間処理してリサイクルするか検討され、多額の費用が必要なことと、環境に対する時代背景などもあり、リサイクルを選択しました。ところが、リサイクルを始めて半年後、埋め立てを専門とする業者が進出してきたことでリサイクルの機運はいったんしぼんでしまったのです。しばらくは業者による処理が行われましたが、5~6年前、県内の埋め立て処理場から波佐見の石膏の受け取りが拒否されて利用できなくなり、廃石膏型の処理問題が再浮上。専門家を招き、本格的にリサイクルに取り組むことになったのです」と語るのは波佐見町役場の澤田健一さん。

↑波佐見町役場 商工振興課  課長 澤田健一さん

 

「まずコンプライアンスについて話し合いを行い、その後どういう形でリサイクルするのが賢明か専門家を交えて議論しました。他県ではコンクリートの材料に使われているケースもあり、土木や建築資材への活用も検討しましたが、調査研究を経て、波佐見町は県内有数の米の産地であること、農地活用が全国各地で実証されていて有効性が確認できたこと、そして廃石膏型を砕くだけなので生産コストも抑えられるという理由から、田畑への土壌改良剤としての再利用が決定しました」

 

地域内循環モデルを確立しコラボ商品を開発

しかし、土壌改良剤への再利用だけでは終わらなかったのが波佐見町。

 

「波佐見町は農業もかなり盛んで、半農半陶の町とも言われています。観光イベントの時も、農業と陶器を併せた企画を行うほどで、この2つの結びつきが重要だという強い想いが町にはありました。そこで、廃石膏型から作られた土壌改良剤を使用し、米粉専用米のミズホチカラという品種を生産。その米粉を材料とした食品と波佐見焼とのコラボ商品を開発すれば、“波佐見の食の地域内循環モデル”ができるのではないかと考えたのです」

↑波佐見町の食の地域内循環のモデル。地域の中で資源を循環させることで新たな特産品が生まれた

 

2019年から30アールの田んぼを使って実証実験を開始。専門家による長年にわたる石膏型の再利用研究から、石膏に含まれる硫酸カリウムに、根の張りをよくしたり、初期生育をサポートする効果があることがわかっていました。こうして育った米を米粉にして、町内にある鬼木加工センターで、地元のお母さんたちの手によるクッキーを製作。波佐見焼の陶箱に入れて「HASAMI TOBAKO COOKIE」として販売しました。

↑「HASAMI TOBAKO COOKIE」。クッキーを食べた後、容器は食器やアクセサリー入れとして使用可能

 

「観光協会のオンラインサイト『STORES』で毎週土曜日に48個限定で販売しました。すると今年度はじめには、開始5分で完売するほどの大人気商品に。その後、ふるさと納税の返礼品にしたところ、こちらも100個が1日で完売。すぐに完売するので生産量を増やしたかったのですが、陶器の生産が追いつかず……。結婚式の引き出物に使いたいと依頼があっても、残念ながら対応できませんでした。そこで、生産力がある窯元とタイアップしてクッキーの新シリーズを追加。来年度のふるさと納税分も含め、少しずつ販売数を増やしていく予定です」

 

環境への意識や作る責任を根付かせる

かくして、波佐見町のチャレンジは、予想以上の好結果となりましたが、当初は、廃石膏型の排出元である窯元は「面倒くさい」と非協力的。農家からも「焼き物のゴミを田んぼにまくなんてどういうつもりだ」と反発も多かったそうです。

 

「今でこそ廃石膏型や商品として売れないB級品、陶器の欠片などの廃棄処分を問題視し、個人でリサイクル活動をする方もいますが、当時は窯元や農家の方たちの理解を得られず、2~3歩進んでも5歩後退するような感じでした。でも地道に環境に対する意識やコンプライアンス、そして作る責任について説き、納得していただいたのです。最も強く反発していた農家の方も、実証実験に協力的となり、今では多くの田んぼを使わせていただいています。その方の分も含め、2022年は、ミズホチカラの栽培に1ヘクタール、食用米用に1ヘクタールと、合計2ヘクタールの田んぼで実証実験を行っています。

↑米粉に加工するのに適したミズホチカラ

 

↑廃石膏型から作った土壌改良剤

 

↑土壌改良剤の散布風景

 

実は石膏型に含まれる硫酸カルシウムは、稲よりもジャガイモの育成に効果的だそうで、2021年から、長崎県の農業技術開発センターとジャガイモでの実証実験もスタートするなど、いろいろな可能性を探っているところです」

 

地域内循環モデルの第2弾も登場

土壌改良剤を使った実証実験は順調で、陶箱入りクッキーの生産体制も整ってきた今、次のステップをどう考えているのでしょうか。

 

「現在、肥料登録の申請を行っています。2021年12月に肥料取締法が改正され、産業廃棄物をベースとした肥料を登録できるようになりました。農作物の生産者は、育成の段階で、使用した肥料を細かく記録しなければなりません。販売ルートの確保という課題はありますが、波佐見町の土壌改良剤が正式に登録されれば、肥料として全国に販売できます。価格についても、元々、お金を払って廃棄していたものですので、安価で提供できるのではないかと思います。また併行して、建築素材への再利用も進めています。こちらはJIS規格が取れるように準備をしている段階です」

 

さらに町では、クッキーに続く地域内循環モデル第2弾の販売を11月から開始。土壌改良剤でオリジナルブランド米『八三三(はさみ)米』を育て収穫した米と、波佐見焼のご飯茶碗をセットにした『八三三米くらわんかセット』です。茶碗は、プロジェクトに賛同した14の窯元がデザイン。“どろんこ”“内外十草”“波佐見ドット”など、個性溢れるデザインになっていると言います。

↑14の窯元が賛同。八三三米2合、ご飯茶碗、箸置き、波佐見町の郷土料理のレシピがセットになっている

 

「今でこそSDGsという言葉をよく耳にしますが、これまで町の人たちに“廃石膏型”“SDGs”と言っても、あまりピンときていませんでした。しかし今回、窯元や農家、そして町を挙げて取り組んだことで、多くの人たちに “作る責任をしっかり果たすクリーンな産地”という意識づけができたと実感しています。以前から、波佐見町には“もったいない”という精神が根付いていました。これはSDGsに通じる部分が多々あります。これからも、そうした意識を持って取り組みたいと思います」

 

課題解決に地元の特性を活かし、地域内循環を成功させた波佐見町のモデルケースは、多くの自治体にとっても参考になるのではないでしょうか。

 

触れば驚く!世界の名画を立体プリントした「アートペン」が今までにない感覚!

美術館に併設されたミュージアムショップが人気を集めている。近年は気の利いたグッズ展開に工夫を凝らす展覧会も増え、ユニークなオリジナル文房具がゲットできることも多いのだ。

 

例えば、いまミュージアムショップで買える大注目のボールペンとして「タッチミー! アートペン」の存在を知っているだろうか。これはペン軸に立体的な特殊印刷を施したもので、まさに名前の通り、“触れるアート”という感じ。その印刷精度の高さと美しさは、チェックしておいて絶対に損のないレベルなのである。

 

ミュージアムショップで人気の「触れる名画」ボールペン

ペノンの「タッチミー! アートペン ゴッホ」シリーズは、お馴染みの「ひまわり」や「星月夜」といったゴッホの名画を、六角の木軸にプリントしたボールペン。

ペノン
タッチミー! アートペン ゴッホ(全10本)
各1500円(税込)

 

↑ダンボールを重ねて組んだ、プラスチックや接着剤不使用のサステナブルなパッケージ

 

所沢の角川武蔵野ミュージアムで11月まで開催されていた「ファン・ゴッホ ー僕には世界がこう見えるー」展でお目見え。現在も同ブランドのECサイトなどで販売されている。

 

そもそもミュージアムショップの売り上げ1位といえば、どの展覧会でもポストカードと相場は決まっている。そんななか、このゴッホ展において「タッチミー! アートペン」は、ポストカードに次ぐ売り上げを、それ以下を引き離して記録したという。

 

やや言い方は悪いが、1500円もするボールペンがそこまで売れるとは、ちょっとした事件に近い。

↑筆者がチェックしたタイミングでは、人気の絵柄がすでに複数売り切れていた

 

なぜそこまで人気を集めたのか、これは実際に見てもらうほうが話が早いだろう。

 

ペノンのアートペンはいったいどこが凄いのか?

木軸に施された立体印刷は、ゴッホのあの鮮烈なタッチを再現したかのようで、印刷や写真ではなく、本物の油彩の質感そのものだ。正直、ペン軸に名画が印刷されたものは従来、ミュージアムグッズとしてさまざま発売されてきたが、この立体印刷は迫力のケタが違う。

↑ゴッホ「自画像」も、本物の油彩を間近で見るようなリアル感

 

↑ペンを握ると、ゴッホの力強いタッチが指先から感じられる

 

↑「星月夜」と、ペン軸(右)の比較

 

このアートペンにいったいどのように印刷を施しているかというと、六角形の木軸の1面ずつにまず立体感のある特殊印刷を施し、次いで上からまた1面ずつ彩色印刷を施していく。つまり計12回の印刷によって、ようやくペン1本ができあがるという、壮絶に大変な作業だ。

 

その上、面と面の境での印刷ズレの誤差は0.2mm以下という驚異的な精度である。当然ながら木軸は1本ごとに微妙な差があるし、湿度で歪みも発生する。それを0.2mmの精度で12回印刷するのがどれほどのものか、想像できるだろうか。(しかも次の印刷面を出すために軸を回転させるのは、手作業!)

↑立体印刷ができる特殊なインクジェットプリンターで、1面ずつ印刷を重ねていく

 

もはや、ペンの製造行程自体がアートなのでは? という気分である。

 

ボールペンとしての機能性も特筆もの

このペノン、そもそもペンとしての性能が優秀なのもポイントのひとつ。ゲルインクを搭載したニードルポイントのペン先は、たっぷりとしてフローがあり、書き味なめらか。正直、サラサラした気持ちよい書き味だけでも、このペンを選ぶ価値があると思うほどだ。

【関連記事】欲張りすぎでは…書き味滑らかでオシャレでエコなボールペン「Penon(ぺノン)」は時代が求める条件を全クリア

 

↑馴染むとクセになる、サラサラ感強めな書き味

 

ラインナップは、このゴッホシリーズに加えて、印象派シリーズ(モネ「睡蓮」、ルノアール「春のブーケ」など10本)もそろう。さらには浮世絵(北斎・国芳など)シリーズなども展開予定とのこと。今後は全国で開催される美術展・展覧会にあわせるように増えていくようだ。

 

↑アートペン第2弾となる印象派シリーズの10種

 

展覧会を見た後にポストカードや図録を買って帰るのもいいが、これからは「触れるペン型名画」も選択肢のひとつに入ってくるかもしれない。お気に入りのアートに直接触れながら書く楽しみ、ぜひ体験してみて欲しい。

 

大クラッシュから逆転優勝! 東海大学ソーラーカーチームが世界的な強豪であり続ける理由

オーストラリア北部のダーウィンからアデレードまでの直線移動距離3020キロメートルを、5日間かけ太陽の力だけで縦断する「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ(以下、BWSC)」。東海大学は、この世界最高峰のソーラーカーの大会で、過去に総合優勝2回、準優勝2回、第3位1回と好成績をおさめてきた世界的な強豪チームです。2年ごとに開催されているBWSCですが、2021年は新型コロナウイルスの影響により世界大会が中止に。現在、チームは2023年大会に向け、国内でのレースや試走を重ねながら準備しています。

 

今回は、世界レベルで戦うチームに所属する女子メンバーを中心に、ソーラーカーへの各自の思いを取材。そこから、東海大学ソーラーカーチームが強豪であり続けられる理由が見えてきました。

ソーラーカーは静かに、すべるように走り抜ける。最高時速は時速100kmと、意外と速い!

 

ほとんどが “ソーラーカー初心者” からのスタート

「ソーラーカー」と聞くと、機械・工学系の男性が活躍している様子を想像する人が多いかもしれません。ところが、実のところ女性ドライバーが小柄な体型を活かして活躍しているチームもあるそう。東海大学でも、現在部員60名のうち5名の女性メンバーが活躍しています。

 

チームメンバーの多くは、もともとソーラーカーにまつわる専攻を選んでいたわけではなく、ソーラーカー初心者だったといいます。なぜこの活動に参加しようと思ったのでしょうか? きっかけから聞きました。

 

↑工学部4年生、インドネシアからの留学生のギセラ・ジョアン・ガニさん。「SNSでソーラーカーの投稿をすると映えるんです!」と目をキラキラさせながら魅力を語ってくれました。

 

「再生可能エネルギーの技術に興味があり、将来のステップに繋がると思って参加したのがきっかけです。ソーラーカーについては何も知らないまま参加しましたが、たくさんの学びを得ることができました。もちろん授業が最優先ですが、ソーラーカーが大好きなので、家にいるよりもチームがある『ものつくり館』で過ごす時間の方が長くなることもあります(笑)」(ギセラさん)

 

↑工学部2年生、小平苑子さん。授業以外はギセラさんと同じく、ほとんど『ものつくり館』にいるのだとか。「授業かソーラーカーのほぼ二択。大学生らしい生活ではないかも(笑)」とソーラーカーが大好きな様子が伝わってきました。

 

「入学式の展示でソーラーカーに一目惚れして、参加しました。そもそもソーラーカーチームがあることも知らなかったので、驚きで。この見た目で時速100キロ以上出ると聞いて、興味を持ったのがきっかけでした。世界一を目指せる場所に自分がいるっていうのが不思議な感覚でしたが、今まで感じたことのない期待感を味わえるのも好きなところです」(小平さん)

 

↑工学部1年生、岩瀬美咲妃さん。競技かるた部とかけもちでソーラーカーチームに所属しています。「大学に入ったらいろいろとやりたい気持ちが溢れ出た」と探究心が止まらない様子でした。

 

「入学式でソーラーカーを初めて見て、夢があると思ったのがきっかけです。せっかく工学部に入ったし、授業以外でも勉強できることがあると思って入部しました。今は機械班に所属し、先輩たちから図面起こしなどを教えてもらって取り組んでいます。少しずつでも、できなかったことができるようになってきて、うれしいです」(岩瀬さん)

 

↑建築都市学部1年生の早川千咲子さんは、チーム内で珍しい非工学部で、唯一の建築都市学部学生。「仲間といる時間が楽しいので週4日くらいは部室に足が向かう。もう家族みたいです」と笑顔で語ってくれました。

 

「ソーラーカーチームの存在は入学してから知ったのですが、親がクルマ関係の仕事をしていたので、興味があり入部しました。今は広報班として活動しています。ソーラーカーチームでは、設計・構築以外にも、イベントのチラシを作ったり、車体デザインを考えたりする広報の仕事もあるので、私のような工学部以外でも活動できるんです」(早川さん)

 

↑早川さんは現在チームで、広報の役割をになっている。大会では一眼レフカメラやスマートフォンをかまえ、レンズ越しに仲間たちを見守る。

 

↑工学部1年生、猶木愛子さん。ソーラーカーの車体はもちろん、そこで活動している先輩たちのかっこよさにも惹かれているそう。「さりげなく輪に入れてくれる感じが心地いい」と、和気あいあいとしたエピソードをたくさん教えてくれました。

 

「自分たちで設計したソーラーカーを、学生だけで走らせていると聞いて『マジかっこいい』と心から感動してしまい……。気がついたら先輩たちに導かれるように入部していました(笑)。わからないことも教えてくれるし、どんどんチャレンジさせてもらえます。ソーラーカーも先輩も、この環境も大好きです」(猶木さん)

 

携わる年数に差はあれど、誰もがすっかりソーラーカーの魅力にハマっている様子。活動自体にルールはなく、個人が好きな時に来て、やるべきことをやるのだとか。大学院で学びながら、ソーラーカーチームの学生代表を務める宇都一朗さんも「毎日来る人もいれば、授業やバイトの合間に来る人もいるので、自由度が高いですね」と教えてくれました。

 

「ワールド・グリーン・チャレンジ」2連覇を支えたチーム力

↑クラッシュの痕跡が痛々しい東海大学のソーラーカー。

 

2022年の夏に秋田県で行われた「ワールド・グリーン・チャレンジ」で、見事2連覇を達成した東海大学。国内から高校・大学・社会人ら20近いチームが参加して行われた大会でしたが、当日は太陽光を遮る悪天候や走行を妨げる風など、条件は最悪。しかも、接触事故により車体が激しくクラッシュするというアクシデントに見舞われます。車体を修復するために、1時間もレースを中断。それでもコースに復帰すると粘り強く挽回し、優勝を成し遂げたのです。

 

 

実はここまでの緊急事態は、学生たちにとって初めての経験だったとか。4年生のギセラさんにとっても、この2022年の「ワールド・グリーン・チャレンジ」が在学中で一番の思い出になったと教えてくれました。

 

「クラッシュした時は驚きましたが、それ以上にみんなのチームワークに助けられたと思います。1秒でも早くコースに戻そうと必死に取り組む姿は、今思い出しただけでも鳥肌が立ってしまうほど。優勝できたのでホッとしています」(ギセラさん)

↑緊迫した空気のなかで修理に没頭するギセラさん。

 

1年生は、レースに初めて参加してみて、どのような感想を抱いたのでしょうか?

 

「自分たちのチーム以外にも、いろんなチームがあることに驚きました。私たちよりも年下の高校生、年上の社会人チーム、女性だけのチームもあって規模の大きさを実感できました」(早川さん)

 

「学外で走行する姿を見るのも初めて。素直に『本当に走っている!』と感動したのが一番大きかったですね。今まで他のチームと比較することもなかったので、東海大学ソーラーカーチームの強み・弱みを把握できたと思います」(猶木さん)

 

↑優勝トロフィーを手にするギセラさん、小平さん。

 

みんなでつかみ取った優勝は、東海大学ソーラーカーチームをさらに強くしたようです。

 

国内ではトップクラスの実績を誇る東海大学ですが、目指すは世界一。どんな目標で、2023年のBWSCに挑もうとしているのでしょうか?

 

大切な仲間と一緒に “世界一” をつかみ取る!

BWSCは2年に一度の開催。コロナ禍で2021年大会が延期になった分、現在在籍しているメンバーで世界大会を知るのは2019年大会に参加したメンバーのみ。残念ながら、現在の4年生は世界大会を経験せずに卒業することとなってしまいました。学生代表の宇都さんは、2019年大会も参加したため、やっと参加できる世界大会へ向けて思いも強くあるそう。

 

「2023年は必ず、優勝したい。ライバルとなるヨーロッパ勢は、コロナ禍でも世界大会に参加しペースをつかんでいます。世界レベルを経験できていないからとネガティブになるのではなく、挑戦者の気持ちで挑むしかないと思っています。個人的には、2019年のリベンジもかけているので、しっかり優勝を勝ち取りたいと思っています」(宇都さん)

 

↑右は、学生代表の宇都一朗さん。

 

また、世界大会を経験できないまま卒業を迎える4年生のギセラさんも、後輩に向けてこんなメッセージを送ってくれました。

 

「私は入部してから挫けそうになることが何度もありました。自信もなくしたし、難しいこと、どうにもならないことも、たくさん経験できたと思います。その時は “できない自分” が嫌だったけれど、先輩たちが優しくサポートしてくれたおかげで、チャレンジできる気持ちを忘れずに取り組むことができました。チャレンジはけっして無駄じゃない。世界大会に挑むみんなには、授業では得られない貴重な経験をたくさんして欲しいですね」(ギセラさん)

 

ちなみに東海大学のソーラーカーチームに、 “卒業” はないのだとか。大会前になるとOBやOGが手伝いに来ることもあるとのことで、卒業しても強い絆で結ばれているところにも、強さの秘訣があるのかもしれません。

↑部室に飾られ、耀かしい実績を物語るトロフィーの数々。

 

【関連記事】 大学生が世界最高峰の大会に挑む! 東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密

 

↑ソーラーカーのサイズは全長約5m、幅1.2m。カーボン製の車体重量は140kg程度。車体には部品の提供元のほか、大和リビングといったスポンサーが名を連ねる。

 

↑シート状の太陽電池パネルを258枚搭載。太陽の方向へパネルを向け、充電を行う。

 

【関連記事】 敵は風と気温とカンガルー!? ソーラーカーとソーラーカーレースの驚くべき7つの真実

 

最後に、2023年に向け、そしてこれからソーラーカーチームを知る人たちに向けて、メッセージをもらいました。

 

「初心者も大歓迎! 何も知らなかった私でもたった4年で、制御プログラムが書けるように成長できました。クルマが好きな父とも、ソーラーカーの話題で以前よりも仲良くなることができました。入ってよかったなと思うことがたくさんありますよ」(ギセラさん)

 

「ゼロからのスタートでも、知識や経験を吸収してどんどん成長できるのは、ほかの部活にはないところかもしれません。新しい発見が多くできるので、探究心がある方や世界を舞台に活躍してみたい人にはおすすめです」(小平さん)

 

「クルマのことなんて全然知らないまま入部しましたが、ゼロからでも受け入れてくれる先輩がたがいっぱいいるので、安心してください。ここにいると、目標が明確なので自分のやる気も高まります。何をしようか悩んでいるならおすすめしたいです」(岩瀬さん)

 

「ソーラーカーというと、どうしても機械的な部分だけフィーチャーされてしまいますが、理系じゃなくても関われる部分はたくさんあります。授業とはまったく違うジャンルなので、刺激的で楽しいですよ」(早川さん)

 

「1年生の私が『仲良しです』っていうのはおこがましいかもしれないけれど、先輩後輩関わらず仲良しなんです(笑)。和気あいあいと楽しんでいるので、女の子にもいっぱい入部して欲しいですね」(猶木さん)

 

↑1年生から4年生まで、上下関係を感じさせることなく笑いの絶えない面々。

 

「ソーラーカー」という最先端技術を学び、実践していきながら世界を目指す……さぞストイックな部活と思いきや、仲間を大切にする人たちが揃った和やかな雰囲気を感じる取材となりました。性別も学年も関係なく、一人ひとりが目標を持ち邁進する姿に、東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密がありそうです。

 

学生だけで世界一を目指すのは、そう簡単なことではないはず。しかしこの一人ひとりが束になった時、その夢が叶えられるのかもしれません。2023年夏、オーストラリアの地でどんな走りを見せてくれるのでしょうか。日本から、応援の声を届けていきましょう。

 

プロフィール

東海大学ソーラーカーチーム

大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・院生の約60名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。
HP
Facebook

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

2023年は岡山コラボ! サンマルクの福袋は国産ジーンズメーカー「JOHNBULL」とコラボしたサステナブルなトートバッグなど全5種類

サンマルクカフェは、12月26日より福袋の販売を開始します。

 

2023年の福袋は全5種類。同社と同じく岡山県を本拠地とする、国産ジーンズメーカーのジョンブルとコラボレーションしたオリジナルバッグ付き福袋を2種類、同社オリジナル福袋3種を販売します。

 

コラボ福袋のひとつ「JOHNBULL × サンマルクカフェ オリジナルトートバッグセット THE NEW DENIM PROJECT」は、焼却処分されてしまうデニムや工場から出る切れ端、落ち綿を回収して再度つむぎ、繊維を糸の状態にして新しい生地や雑貨を作成するプロジェクト「THE NEW DENIM PROJECT」とコラボした、サステナブルなオリジナルトートバッグが付いています。

↑JOHNBULL × サンマルクカフェ オリジナルトートバッグセット THE NEW DENIM PROJECT

 

もうひとつのコラボ福袋「JOHNBULL × サンマルクカフェ オリジナルミニバッグセット」は、サンマルクカフェのペーパーバッグと同サイズ・同デザインでJOHNBULLのデニム生地を使用したオリジナルミニバッグ付き。価格は3000円。

↑JOHNBULL × サンマルクカフェ オリジナルミニバッグセット

 

同社オリジナル福袋は、「一番人気!チョコクロBOXの福袋」「たっぷり大容量!ドリップコーヒーの福袋」「アレンジレシピ豊富!ゆず茶の福袋」の3種類。価格はいずれも2000円です。

 

全5種類共通のドリンクチケットは、綴りになっているので、家族や友人とシェアできます。

環境にも人・動物の健康にも配慮した「ヴィーガンネイル」とおすすめブランド

マニキュアとも呼ばれる「ネイルポリッシュ」。最近では、ビューティ業界でも「サステナビリティ」を重視しようという考え方がトレンドとなっており、このネイルポリッシュなどネイルケア製品を扱う企業やブランドでも、環境や人権に配慮した取り組みが進みつつあります。そのひとつが「ヴィーガンネイル」です。

 

環境問題やSDGsに関心を持ち続け、サステナブルな暮らしなどをテーマに活動しているエコライター・エディターの曽我美穂さんに、サステナビリティの観点からネイルを中心としたビューティ業界を取り巻く現状と、ヴィーガンネイルの特徴、いま買えるヴィーガンネイルブランドについて、教えていただきました。

 

サステナビリティに配慮した化粧品とは?

 

2015年、サステナブルな(持続可能な)社会の実現に向け、国連のサミットで、2030年までに世界各国が取り組むべき17の目標「SDGs(持続可能な開発目標)」が掲げられました。この中には、環境問題や貧困、経済など幅広いジャンルの目標が含まれており、ビューティ業界においても無視することのできない課題がたくさんあります。

 

では、化粧品ではSDGsにどのようなアプローチをしているのでしょうか? 曽我さんは、「製造段階から環境に配慮することが大切」と話します。

 

「化粧品は、製造段階から動物実験や工場から排出される有害な物質の処理などの課題を抱えています。また、深刻化している海洋プラスチック問題のことを考えると、容器に使用するプラスチックの使用削減への取り組みも重要です。」(曽我美穂さん、以下同)

 

この問題に対して、企業はどのような取り組みを行なっているのでしょうか?

 

「動物実験を行わないことを『クルエルティフリー』と呼びますが、今これを掲げている企業が増えていて、認証マークを製品に表記しています。また、プラスチック容器の不使用や、自然エネルギーの活用、量り売りなどの取り組みをしている企業もあります」

 

取り組みの実例を、曽我さんに教えていただきました。

 

【AVEDA(アヴェダ)】
・プラスチックボトルのリサイクル使用
・製造過程で動物実験を行わない
・すべての製品をヴィーガン素材のみで製造

 

【NEAL’S YARD REMEDIES(ニールズヤードレメディーズ)】
・絶滅の危機に瀕している、ボスウェリアサクラ種のフランキンセンス精油について、種の存続を図るべく、植樹から栽培、精油抽出に至るまでの全工程を管理する独自の取り組み「プロジェクトフランキンセンス」を実施
・店舗の運営において自然エネルギーを活用
・表参道の店舗は100%自然エネルギーのみで運営

 

【LUSH(ラッシュ)】
・空容器回収率100%を目指したプログラム「BRING IT BACK」を実施

 

LUSHのプログラムでは、空の容器を店舗に持っていくと、対象容器1つにつき30円を買い物に使う事ができ、5つでフレッシュフェイスマスクと交換できるそう。もちろん、「返却」した容器は新たなLUSHの製品に生まれ変わるというわけです。

 

一方、消費者の環境意識も少しずつ高まってきているようです。2022年8月10日~15日に、化粧品や美容フードなどを中心とした美容コンサルティングを提供する株式会社EcoVia Intelが実施した「サステナブル化粧品に関する実態調査」では、「サステナビリティという言葉をよく聞く」と回答した消費者が22%と昨年度の18%より4ポイントアップ。また「環境配慮に対する具体的な策については「なかなか実行できていない」と回答した人が昨年度は全体の74%だったのに対して、今年は55%と低下し、意識の変化を着実に感じられる結果となっています。

 

自分の体も守るために。知っておきたいネイル成分の有害物質

このように企業も消費者もサステナブルな化粧品への意識を高めているなか、消費者として私たちが知っておくべきこととは何でしょうか? 曽我さんは、「ネイルの有害物質」をそのひとつに挙げます。ネイルの成分に有害物質が含まれているということは、近年ニュースでも取り上げられたことがあるので知っている人も多いでしょう。では、具体的にどのような物質が「有害」なのでしょうか?

 

曽我さんによると、「とくにリスクが高いのは、トルエン、フタル酸ジプチル、ホルムアルデヒド」だそう。購入前にネイルの成分表を見て、確認してみましょう。

 

【ホルムアルデヒド】
・発がんリスクがもっとも高い化学物質として、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)により、「グループ1(人に対する発がん性が認められる)」に指定されている。
・日本では「化粧品」への配合が禁止されている。

 

【トルエン】
・ラッカーなどの塗料を薄める有機溶剤である「シンナー(うすめ液)」として使用される。
・過剰に摂取すると、腎臓や肝臓に損傷を与えるリスクがある。
・生殖能又は胎児への悪影響のおそれがある。

 

【フタル酸ジプチル】
・アレルギー性皮膚反応を起こすおそれや呼吸器への刺激のおそれがある。
・生殖能や胎児への悪影響の危険性も指摘されている。
・欧州を中心に規制が高まっている。

 

自然由来の爪にも環境にも配慮した、「ヴィーガンネイル」とは?

こうした懸念を払拭し人体にも環境にも配慮する取り組みのひとつに「ヴィーガンネイル」があります。 ヴィーガンネイルとは、上記の有害物質のほか、動物由来の成分を使用せず、動物実験を行っていないクルエルティフリーのネイルのこと。その中身も容器も、できるかぎり製造、廃棄の際に自然に戻っていく素材を使う事を目指しています。

 

「ヴィーガンネイルはSGDsの17目標のうち3つの目標にかかわりがあると思っています」と曽我さんは言います。その目標とは以下の3つ。

 

【ヴィーガンネイルとかかわりの深いSDGs目標】

目標12 つくる責任つかう責任
目標14 海のゆたかさを守ろう
目標15 陸のゆたかさも守ろう

↑SDGsの17目標 外務省「持続可能な開発目標(SGDs)と日本の取り組み」より

 

「とくに、目標12は大切なことだと思います。製造過程においてできるかぎり自然由来の成分を使うこと、そして動物実験を行わないことを目指しているヴィーガンネイルは、まさに目標12で掲げる『つくる責任』を大切にしているといえるでしょう。
『つかう責任』は、私たち消費者が意識すべき点です。次々にネイルを買って結局最後まで使い切れなかった、なんてこともあるかもしれませんが、廃棄の際に環境への負担を少なくするためには、そうしたことは避けた方がいいですね。瓶も各自治体の分別方法を守って、しかるべきかたちでリサイクルされるように廃棄することが大切です」

 

ヴィーガンネイルを選び、さらに責任を持って使い、廃棄することが求められています。

 

日本で手に入る注目のヴィーガンネイル3選

オシャレを楽しみながらサステナブル社会の実現へアプローチするヴィーガンネイル。曽我さんが今注目しているヴィーガンネイルブランドのなかから、比較的日本でも手に入りやすいブランドをピックアップしていただきました。

 

・10フリーのヴィーガンネイルで豊富なカラバリが楽しめる「ZAO」

「じゃがいもやとうもろこしなど野菜由来の成分を74%~84%使用したZAOのヴィーガンネイルは、体に悪影響を与える可能性のある10の成分(パラベン、フタル酸ジブチル、トルエン、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド樹脂、キシレン、ロジン、カンファー、スチレン、ベンゾフェノン)を含まないことを明記しています。豊富なカラーバリエーションも魅力のひとつで、絶妙な色合いのネイルを楽しめます」

 

・フランス発の美しい輝きと仕上がり「Nailmatic」

「地産地消のために工場近くのビジネスパートナーとともに生産を進めていること、動物実験をおこなっていないこと、そして安心・安全な素材を使っていることなどを公約としているブランドです。ネイルは、植物由来の成分を最大84%まで配合していて、環境負荷が低い処方でありながら、伸びの良いテクスチャーや発色の良さなど従来のネイルの特性にもこだわっています」

 

・圧巻!400色以上のラインナップ展開が魅力の「ZOYA」

「米国発のネイルブランドで、1992年の発売以来トルエン、ホルマリン、フタル酸ジブチルなど人体に害があるとされている成分を極力使わないヴィーガンネイルを作っています。何と400色以上ものラインナップが展開されているので、眺めているだけでも楽しくなりますね。日本では東急ハンズやロフトなどで購入できます」

 

もうひとつ、「ヴィーガン素材ではないかもしれませんが……」と紹介していただいたのは、ホタテの貝殻を再利用したという「サステナブルネイル」です。

 

・ホタテの貝殻からできた水性ネイル「CYAN」

「青森県にある山神という会社が展開している、ホタテの貝殻を使用して作られた、自然素材成分を含むネイルを展開しているブランドです。青森県陸奥湾で養殖されているホタテから排出される、約5万トンもの貝殻を再利用するという試みからスタートしたそうです。環境に配慮した7フリー(トルエン、フタル酸ジブチル、カンファー、キシレン、ホルムアルデヒド、スチレン、パラベン)を掲げています。また、爪が弱くて従来のマニキュアやジェルネイルを付けることが難しい人でも使えることを目指して、作られているそうです」

 

身近なちょっとしたことから意識して、アクションを起こしてみる。そのきっかけは、 “我慢” ではなく積極的に取り組める気持ちをもてることがおすすめです。第一歩として、ヴィーガンネイルを使って、おしゃれをしながら地球環境を意識してみてはいかがでしょうか。

 

【プロフィール】

エコライター・エディター / 曽我美穂

子どもの頃から環境問題に関心を持ち続け、英語学校の広報を勤めながらライター活動を開始。2008年にエコライター・エディターとして独立し、現在は雑誌やウェブサイトの編集、撮影、執筆や、企業のCSR支援をおこなっている。主なテーマはサステナブルな暮らしやSDGs、環境問題。

 


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

フェンシングの剣を包丁やメダルにリサイクル! 現役オリンピアンが主導する「折れ剣再生プロジェクト」

穴が開いたサッカーボールや折れた野球のバットなど、壊れたスポーツ用具がどう処分されるのか、考えたことはありませんか? 東京2020オリンピック・フェンシング男子エペ団体で金メダルを獲得した見延和靖選手は、フェンシングを始めた高校時代から「折れたフェンシングの剣を捨てるのは心が痛む」と考えていたそうです。そんな想いが募り、今年1月、「折れ剣再生プロジェクト」を発足させました。

 

スポーツが持つ力でSDGsを目指す

「折れ剣再生プロジェクト」とは、試合や練習で折れたフェンシングの剣を回収し、包丁やメダルなど別のモノに再生するアップサイクルな活動です。

 

「フェンシングの剣は使えば使うほど、体や動きにフィットしていくので、試合用と区別することなく毎日の練習でも使います。選手は4~5本の剣を所持していますが、練習で酷使するため、早くて1カ月、もって半年ぐらいで折れたり亀裂が入ったりします。使えなくなった剣は、そのまま産業廃棄物として処理されてきました。しかし、フェンシングの剣は1本3~5万円と高価なうえ、剣への愛着も湧くため、廃棄するのは忍びない。そんな想いをずっと心の片隅に抱きながら競技を続けてきました。

 

東京2020オリンピックで金メダルを取った1週間後、マネジメント事務所に結果報告にうかがったところ、日本スポーツSDGs協会の鈴木朋彦さんと折れた剣についてお話をする機会を得、長年抱いていた想いを伝えたのです」(見延選手)

↑一般社団法人日本スポーツSDGs協会の代表理事を務める鈴木朋彦さん(左)と見延和靖選手

 

一般社団法人日本スポーツSDGs協会とは、スポーツを通してSDGs活動を推進することを目的とし、2021年6月に発足された機関。代表理事である鈴木さんは、設立の意義についてこう語ります。

 

「新型コロナウイルス感染症により、さまざまなスポーツイベントが無観客で開催されました。本来スポーツは、多くの観客が会場に集い、選手の一挙手一投足に一喜一憂し、興奮や感動を共有するものです。しかしその価値が揺らいでしまったのです。そこで、スポーツの新しい価値を考えた時、国境も人種も宗教も関係なく、平等に楽しめるスポーツは、SDGs活動のツールのひとつになり得るのではないかと感じました。

 

憧れの選手たちが率先してSDGsの活動に関われば、“自分たちもやってみよう”“自分たちもできるかもしれない”と行動心理を切り替えられるかもしれません。その連鎖が起こることで、世の中を変えていく力がスポーツにはある。それを実践していくためにスポーツSDGs協会が設立されました。

 

また選手たちの多くは、『自分の競技を次の世代につなげたい』、『子どもの時から自分を育ててくれた故郷に恩返しをしたい』という想いを持っています。そんな選手の想いを成就させる1つの手段として、SDGsを活用できるのでないかと。今回、競技や故郷に恩返ししたいという見延選手の想いと、協会の目指すべきところが合致し、プロジェクトが始動したのです」(鈴木さん)

 

あえて鋳造せずに「剣」の名残りを残す

その後、日本フェンシング協会の協力のもと、選手の練習拠点である味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)のフェンシング場に、折れた剣の回収BOXを設置。発足から9ヵ月で約100本の折れた剣が集まったそうです。奇しくも、見延選手は“越前打刃物”で有名な福井県越前市の出身。折れた剣の再生には、地元企業の武生特殊鋼材と高村刃物製作所全面協力してくれました。

 

「フェンシングの剣は、マルエージング鋼という素材でできています。これは、ゴルフのドライバーヘッドでも使用されている特殊な鋼材です。今回は、包丁やメダルなどへリサイクルするにあたり、厚みがある剣の根本部分を熱してから、ハンマーで叩いて薄くしながら整形する製法(熱間鍛造)を採用しました。フェンシングは剣に電流を流し、剣先が相手に当たったかどうかを判定します。そのため剣には電線を通す溝があります。メダルも包丁も、その溝をそのまま残すことで付加価値を付けたかったのです。

↑折れた剣。先の細い部分が比較的折れやすい
↑折れた剣の電線を焼き、根元の太い部分を再利用品に合わせて切断する。それ以外の部分は溶解利用へ(武生特殊鋼材)
↑熱間鍛造により刃物の形にしていく
↑よく見ると刃の表面に導線を通す溝の跡があり、フェンシングの名残を感じ取れる

 

刃物については、著名な一流料理人たちが愛用している包丁やナイフの製造元である、高村刃物製作所の高村さんにお願いをして試作品を作ってもらったのですが、完成度のすばらしさに衝撃を受けました。高村さんは、切れ味に満足をしていませんでしたが、これまで記念にとっておいた折れた剣も包丁にしてほしいと思ったぐらいです(笑)」(見延選手)

 

地元フェンシング大会でのメダルにも活用

試作品した刃物は、硬度や切れ味も使用可能な水準に仕上がったと話す見延選手。今後、ナイフや包丁は市場での流通の可能性を探っていく予定で、同時にメダルやタグプレートへの加工も進めていくそうです。

 

「8月に越前市で小中学生のフェンシング大会がありました。大会では3位までの選手に再生されたメダルを、それ以外の選手には参加賞として折れた剣で作られたタグプレートを贈呈。メダルを渡した瞬間、子どもたちの目が輝いたのがわかりましたし、本当に嬉しそうな表情が印象的でした。試合前にメダルのことを話したのですが、子どもたちはいつも以上に試合に集中していたようですし、オリンピックや世界を少しでも意識できるいい機会になったと思います」(見延選手)

↑折れた剣から作られたメダルにも溝の跡が残っている
↑「オリンピック選手の剣がメダルになった」と子どもたちも興奮気味だったとか

 

再生した刃物をふるさと納税の返礼品に

同プロジェクトへの関心は高く、再生された包丁やナイフが欲しいという問い合わせも多いそう。しかし現時点では多くの課題があると言います。

 

「現在は、味の素ナショナルトレーニングセンターでの回収だけですが、フェンシングクラブは全国にあります。回収方法をどうするか、全国から集めたとして、折れた剣を再生する生産体制をどうするか、賛同を得るためにこの活動をどう周知していけばいいのかなど、考えていかなければなりません。

↑武生特殊鋼材を訪問した際に河野社長と
↑高村刃物製作所を見学する見延選手。練習の合間を縫って、プロジェクトのために率先して動いている

 

こうした課題はあるものの、見延選手本人がプロジェクトのために率先して動いてくれているのは大きいです。例えば、武生特殊鋼材さんや高村さんも、見延選手でなかったら、ここまでスムーズに話が進んでいたかどうか。彼は、実際に工場に行って試作品を手に取り、意見を言ったりもしてくれています」(鈴木さん)

 

今後は流通を視野に入れつつも、まずは越前市のふるさと納税の返礼品にできないかと、市と話し合った結果、市と協定を結び、ガバメントクラウドファンディングとして1118日よりスタートすることになりました。(https://www.furusato-tax.jp/gcf/2158)

 

フェンシングの剣への再生が目標

競技と故郷への恩返しを胸に、プロジェクトに取り組む見延選手。プロジェクトの最終的な目標は、折れた剣をフェンシングの剣へ再生することだと言います。

 

「実はフェンシングの剣の生産は、フランスとウクライナが主で、日本では生産されていません。そのため、質の高い剣は海外の選手が手に入れてしまい、売れ残った剣が日本に送られてくるのが現状。日本も刀鍛冶など技術を持った職人は多いはずなので、折れた剣を使った日本製の剣ができれば素晴らしいですね。

↑試合中の見延選手

 

また、ヨーロッパでは、フェンシングは生涯スポーツの1つです。試合での駆け引きが面白いため、60代以上のシニア層も真剣に試合をしています。この活動を機にフェンシングのことをもっと知ってもらい、ヨーロッパのような文化を日本でも根付かせたいです」(見延選手)

 

国際大会で使用できる剣の認証取得のハードルの高さや、フェンシグ自体が競技人口約6000人とまだまだマイナーなことなどから、ビジネスとして成立させるのが難しいといった課題もありますが、折れた剣から新たな剣を製造できれば、価格も抑えられ、子どもたちはもちろん、多くの人たちが手に取りやすくなります。ひいてはそれが競技人口の増加にもつながる……。見延選手の夢はまだ始まったばかりです。

 

見延和靖さん●東京2020オリンピック フェンシング男子エペ団体金メダリスト。父親の勧めで高校時代からフェンシングを始め、大学時代からエペ(フェンシングの競技の1種)の選手として多くの大会で優勝。NEXUSホールディングス入社後、日本男子エペ個人では初のワールドカップ優勝をはじめ、さまざまな大会で活躍。2019年には日本人選手として初めて年間ランキング世界1位を獲得した。

 

©日本スポーツSDGs協会 ©日本スポーツSDGs協会/山本拓未 Ⓒ日本フェンシング協会:Augusto Bizzi/FIE

 

 

 

製品情報がわかりやすくなった! 紙製パッケージで環境に配慮した「ジェットストリーム 多色多機能用リフィル」

三菱鉛筆は、「ジェットストリーム」シリーズから、「ジェットストリーム 多色多機能用リフィル」の「1本入」「5本入」を、リニューアル発売しました。

 

税別価格は、1本入りが100円、5本入りが500円です。また、数量限定で5本入と同価格の「6本入」も同時発売。インク色は、1本入が黒、赤、青、緑の4種類で、5本入と6本入は黒のみです。

 

同製品は、パッケージを環境面に配慮した紙製にすることで、年間約25tのプラスチック使用量を削減(同社概算による)。購入時に製品を見つけやすくするため、パッケージ表面のデザインを変更しています。ボール径やインク色など購入時に重要視する情報を中心部に大きく表示し、表面のQRコードを読み取ることで、ボールペン本体との互換性を確認することもできます。

 

リフィルを購入時に、使用済みのリフィルと見比べながら探すユーザーが多いことから、リフィル本体の印字の視認性を改良。印字はインクの入った状態、インクがない状態のどちらでも、はっきりと確認できます。リフィルは従来と比較し、インク量を10%増量。1本のリフィルを、より長く使用できます。

排泄物まで徹底的にリサイクル! 究極のサステナブル社会「江戸時代」に学ぶ現代日本で実践すべきSDGsとは?

年々加速するSDGsの目標達成に向けた取り組み。しかしその一方では、Z世代を中心に「サステナブル疲れ」という言葉が広がるなど、過度にサステナブルな行動を求める風潮にどこか違和感や疲労感を抱く人も出てきています。

 

SDGsへの向き合い方が問いただされるなか、昨今あらためて見直されているのがなんと「江戸時代」! 高度な「循環型社会」で、人々は極めてサステナブルな暮らしを送っていました。それも社会的な義務感や倫理観の下ではなかったため、誰一人 “無理” をしていなかったといいます。

 

江戸時代が循環型社会だった理由や、現代に活かすべきポイントについて、法政大学名誉教授・前総長の田中優子さんにお話を伺いました。

 

循環型社会とは?

そもそも循環型社会とは「できるだけゴミの発生をおさえ、もし出てしまったら別の形で再利用する社会」を言います。江戸時代に循環させていた物のうち、もっとも代表的なものが木材です。

 

「一度木を切ると、再び生えてくるまでに長い時間がかかります。また、木を切りすぎると、雨が降った時に雨粒が直接地面に落ちるため、洪水が起こりやすくなります。そこで江戸時代には、過剰伐採を防ぐために『川の両側の木を切ってはいけない』『この山の木は切ってはいけない』『根から掘り返さない』などのさまざまな制限令が出されていました。ただ、建築には木材が必要不可欠なため、制限令の範囲内で木材の量が足りなくなると、今度は『切ったら植えましょう』という植林政策が行われるように。

また、過剰伐採を防ぐ策としては『天守閣の再建をしない』という幕府の方針も挙げられます。江戸城天守閣は1657年に火事で焼失してしまいましたが、建築をしなければ木を切ることもないため、再建の必要はないと判断されたのです。この考えは江戸以外にも広まっていき、当時、他のいくつかの城も天守閣の再建をしませんでした。

そして、過剰伐採の防止と合わせて行われていたのが、木材の再利用です。取り壊した建物の木材は、そのまま新築の建物に使い回されていました。老朽化して建築に使用できなくなった場合は小さく切って燃料にするなど、小さな破片さえも再利用されていたんです」(田中優子さん、以下同)

 

紙や着物、わらなど、木材以外のものも形を変えて使い回され、最後には必ず肥料として土に戻っていきました。江戸時代の日本には、一つとして無駄になるものはなかったのです。

 

江戸のリサイクル文化が成功した秘訣は “経済的メリット”

手間を掛けて物を使い続けていた江戸時代。令和の感覚では「手間をかけて使い回すなんて大変だ」と感じる人もいるはずです。一体なぜ、当時の人々は循環型社会に抵抗感を抱かなかったのでしょうか?

 

「循環型社会が実現した一番の要因は、“倫理観ではなく経済の仕組みの一部としてリサイクルが行われていた”ということです。

排泄物を例に考えてみましょう。江戸には厠(かわや)という、川の上に設置されるトイレがありました。参勤交代で江戸に人が集まると厠を使う人も増え、次第に排泄物によって川が汚れていき、1649年に厠の取り壊し令が出されます。すると今度は町中に厠が設置されたのですが、溜まった排泄物を川に捨てる人が現れ、1655年には川へ排泄物・ゴミを投棄することを禁じる御触れが出されました。

町に排泄物が溜まっていくなか、自分たちの排泄物を肥料として再利用していた農民たちが『江戸にある排泄物も持って帰ってきて、肥料として使えばよいのではないか』と気が付きます。そこで江戸まで排泄物を回収にいくと、より良いものを食べている武士たちの排泄物は、肥料としての質も高いことが分かり、江戸で排泄物を買って余剰分を周りの農民に売り始めました。

するとこの商売がとても上手くいったため、本格的に排泄物の売買を生業としようと考える人が増加。江戸まで向かう船の船頭や排泄物の回収を行う汲み取り屋を雇い、江戸の排泄物を売り買いする『下肥問屋』が誕生しました。江戸時代には他にも、紙くず買い、灰買い、蝋燭の流れ買い、鋳掛屋など、さまざまな商人が生まれ、使い古したものの修理・買取が盛んに行われていました。

つまり、幕府や藩主による命令や、『もったいないから、リサイクルしましょう』といった社会倫理から再利用をしていたのではなく、禁止令を逆手に取り、町人や農民が『自分たちの生活が上手く回る』ように、能動的に再利用をしていたわけです。持続的なリサイクルは、お金の動きと連動させることで実現するのです」

 

循環型社会を実現させた4つの価値観

もちろん江戸時代の循環型社会を支えたのは、社会の仕組みだけではありません。江戸の人々に根付いていたさまざまな価値観も、循環型社会の成立に大きく影響していました。

 

・廃りをやめる

「廃り(すたり)とは『捨てる』からきた言葉で“無駄”を意味します。つまり廃りをしない=無駄をしないということ。江戸時代の人々には質素倹約の価値観が根付いていました。また、『もったいない』という言葉も、“ものの本来の存在価値(もったい)が失われる”という意味でした」

 

・経済=人を救うこと

「現代では、経済=金銭のやりくりといった意味で使われていますが、江戸時代は違います。経済とは経世済民の略で『世の中を営むことによって人々を救うこと』を言います。つまり、経済活動の目的は、儲けることではなく人々を救うことだったんです。そのため、江戸時代の豪商たちは橋を作るなど、自分たちのお金で公共事業を担っていました。

また、現代の企業は儲けて会社の規模を大きくしようとしますが、江戸時代は儲けすぎずに現状を継続することが良しとされていました。儲けすぎていない証明として、商人たちはあえて汚れた暖簾を使っていたんですよ」

 

・1年サイクルで循環する時間感覚

「現代の人の多くが、時間を未来に向かって一直線に伸びていくようなイメージで捉えていると思います。しかし江戸時代の人々は、時間は1年で一周すると考えていました。そのため、秋に何かを収穫すると同時に、来年の秋にも収穫するにはどうすればよいのかを考えていました。木を切りすぎない、漁をしすぎない、山で狩りをしたらその場で解体して動物が食べる分の肉を残していく、それらが未来の自分たちのためになることを理解していたのです」

 

・限りある資源に合わせた暮らし

「現代の価値観で捉えると、江戸時代は決して暮らしやすくはありませんでした。例えば、江戸時代の夜はとても暗く、行燈(江戸の人々が日常的に使っていた、綿花の油を用いた照明)は60w電球の1/100ほどの明るさだったと言われています。しかし江戸時代の絵には行燈の明かりで読書や裁縫をしている様子が描かれており、不思議に思った私は行燈の明るさを再現して読書ができるか実験をしてみたんです。

すると現代の本はまったく読めないのですが、和紙に墨で印刷された江戸時代の書物はハッキリと読めました。また、画集の浮世絵は部分的に光って見えなくなる一方で、江戸時代と同じ印刷技術で刷られた浮世絵は色や立体感が素晴らしく美しかったのです。つまり必要以上にエネルギーを消費するのではなく、少ないエネルギー(行燈)に暮らしを合わせていた(わずかな光で読める本や浮世絵を作っていた)ということです」

 

当時の暮らしを真似することは難しくとも、「無駄をしない」「必要以上に欲に走らない」「常に1年後のことを考える」「限りある資源に暮らしを合わせる」といった考え方は、十分今に活かせます。一度自分の生活に置き換えて、考えてみてはいかがでしょうか。

 

現代の暮らしにおける3つの問題点

最後に、江戸時代の暮らしを踏まえ、現代の暮らしにおける3つの問題点を教えていただきました。

 

問題点1.自給率の低さ

「一番の問題点は自給率の低さです。鉱物資源が少なくなり輸入を控えるようになった江戸時代は、食糧はもちろんのこと、木綿や絹織物、時計などは自分たちで作っていました。一方現代では、食料品も日用品も輸入に頼っています。中でも食料自給率が低いため、一刻も早く農村の復興をすべきではないでしょうか。島国だからこそ、いつ輸入できない状態に陥るか分かりません。自分たちの食べ物は自分たちで確保できるように、これからは生産技術の向上に注力していかねばなりません

 

問題点2.リサイクルに要するコスト・エネルギー量の増加

「江戸時代は、大抵のモノが燃やして灰にするだけで肥料となり、太陽や土の中にいる微生物によって分解されていました。しかし今は化学物質を使った製品が多いため、単に土に返すわけにはいかず、電力などを利用した処理が必要となりました。地球に優しいはずのリサイクルにも、膨大なコストとエネルギーがかかるようになったのです。よりエコにリサイクルを行うために、自然エネルギーの開発が必要なのではないでしょうか

 

問題点3.より楽な方法で済ませること

「江戸時代は手間を掛けてでも長く使うことを大切にしていました。着物がその良い例です。江戸の人々にとってはとても高価なものだったため、夏は裏地を取り、冬は裏地と表地の間に綿を入れることで一年中着ていました。また、ほつれたら自分で縫い直すなどして、長く着続けていました。

しかし高度経済成長期以降、労働時間ばかりが増え、身の回りのことに費やす時間は徐々に減っていきました。そして時短家電などが次々と誕生するなど、身の回りのことは楽できればできるほど良いという傾向に陥っています。その結果、手間をかけてモノを使い続けるという意識が薄れてきているのではないでしょうか。

今後は働く時間を減らし、身の回りのことに使える時間を増やしていくべきです。最近はこの重要性に気付き、仕事をやめて地方に移住する人も現れ始めています。江戸時代に下肥問屋が生まれたように、サステナブルな社会に則した新しい仕事を見つけていく時代に入っていると思います」

 

「しきりにSDGsが叫ばれる昨今ですが、今までと同じ働き方をしながら社会的な倫理だけで状況を変えることは困難です。繰り返しにはなりますが、江戸時代の人々も倫理観で循環型社会を実現していたわけではありません。サステナブルな行動に経済が絡み、全員にメリットをもたらしたから、実現できていたのです。これからはSDGsを意識したアクションと同時に、新しい生き方についても考えてみてください。

また、SDGsには17項目ありますが、日本だけで見るとすでに達成目前の目標もあると思います。今後、日本は一体どの項目に向き合うべきだと思いますか。意味のあるアクションを起こすためにも、日本に必要な項目を整理した『ジャパニーズSDGs』について考えてみてはいかがでしょうか」

 

【プロフィール】

法政大学名誉教授・前総長 江戸東京研究センター特任教授 / 田中優子

法政大学社会学部教授、国際日本学インスティテュート(大学院)運営委員長、社会学部長、総長を歴任。専門は日本近世文化・アジア比較文化。研究領域は、江戸時代の文学、美術、生活文化。『江戸の想像力』で芸術選奨文部大臣新人賞、『江戸百夢』で芸術選奨文部科学大臣賞・サントリー学芸賞。その他多数の著書がある。江戸時代の価値観、視点、持続可能社会のシステムから、現代の問題に言及することも多い。2005年度紫綬褒章。現在、東京都男女平等参画審議会会長、一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会副理事長、人間文化研究機構教育研究評議会評議員、サントリー芸術財団理事、『週刊金曜日』編集委員、TBS「サンデーモーニング」のコメンテーターもつとめる。

 

【1周年特別企画】2022年最注目の「SDGs×ビジネス」人気記事ベスト5!

10/29でNEXT BUISINESS INSIGHTSは、サイトローンチから1周年を迎えます。「ポストSDGs時代を見据えた途上国ビジネスサイト」として様々な途上国の情報を発信し続けたこの一年、どんな記事に注目が集まったのか? ランキングの形で振り返りたいと思います。

 

【トピック&ニュース】世界での日本の影響力がわかる記事がランクイン!

トピック&ニュースのカテゴリーでは、途上国で動きのあったビジネスの最新情報から、新型コロナウイルス、ウクライナ情勢などの世界的トレンド情報まで幅広い情報を発信してきました。ランキングでは、世界における日本の存在感がわかる記事がランクイン。日本からは見えにくい世界や途上国の情報はもちろん、そういった遠く離れた国で日本がどんな影響を持っているのか。そういった視点での興味関心が高いことがわかりました。

 

(1位)5年連続で世界1位!「日本のパスポート」が世界最強であることの意味

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

 

IATA(国際航空運送協会)のデータをもとに作成されている、世界パスポートランキングの2022年3Q版の発表によると、日本は史上最高の193点を獲得し、5年連続で1位に。日本のパスポートがなぜそれほどまでに高順位なのか? また、高順位であることの意味について記事で解説しています。

テーマ:観光

 

(2位)中国とインドが激突! 熾烈な覇権争いが繰り広げられる「中央アジア」とは?

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5か国からなる一帯を指す「中央アジア」。近年では、現代版のシルクロードとも言える「一帯一路」構想を立てている中国や、インド、ロシア、そして日本を中心に世界各国がその市場の成長性に注目している地域です。本記事ではその概要と近年の動きをまとめました。

テーマ:アジア、地域解説

 

(3位)インドネシア初の「高速鉄道」9割完成ーーその背景には、日本と中国の熾烈な対決が…。

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

インドネシア初となる高速鉄道の建設がついに完成へ。その背景には、2位の記事でも存在感が垣間見える中国とインドの影響が強く見られます。建設に向けて中国、インド、そして日本はどう関係していったのか? 高速鉄道建設による影響と、各国の関係を記事では紹介しました。

テーマ:インフラ、モビリティ

 

(4位)コロナ禍でも日本は世界3位! 日本が20兆を注ぐ「FDI」、アジア向けは過去最高額に到達

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

2022年6月、UNCTAD(国際連合貿易開発会議)が、世界の投資に関する動向を調べた「World Investment Report 2022」を公開。海外で経営参加や技術提携を目的に行う海外直接投資(FDI)の途上国への実績が、2021年より緩やかに増加しています。特にアジアへの投資が増加しているその背景を分析しました。

テーマ:アジア、投資、M&A

 

(5位)憧れの日本のライフスタイルを体現! 「日本式コンドミニアム」がフィリピン・マニラに誕生

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

フィリピンの首都マニラで発展著しい地域「BGC」(ボニファシオ・グローバル・シティ)。同地域で誕生した、日本の技術と文化を取り入れた複合開発タワーコンドミニアムの「ザ・シーズンズ・レジデンス」の詳細についてまとめた記事です。

テーマ:建設

 

【国で知るSDGs×ビジネス】途上国での流行病体験記事がトップに。医療関連の記事も人気!

「国で知るSDGs×ビジネス」カテゴリーは、その名の通り各国のトレンドや概要を知ることでSDGs×ビジネスの視点を学べるカテゴリーです。この一年では、アフリカからインド、タイ、ミャンマー、トルコなどの途上国のトレンドにアプローチしつつ、ヨーロッパで盛り上がるヘルステックなど世界的に注目されている情報も注目を集めました。

 

(1位)途上国で新型コロナウイルスに感染したら? 現地スタッフの体験から見える渡航の際の留意点

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

2019年末より世界で猛威を振るう新型コロナウイルス。本記事では、海外で事業に従事するアイ・シー・ネット社員のうち、現地で新型コロナウイルスに感染した社員3名にインタビューを行いました。バングラデシュ、カンボジア、セネガルの3か国それぞれの、現地でのリアルな体験談をお届けしています。

テーマ:新型コロナウイルス

 

(2位)日本とミャンマーを繋ぐ「食」の可能性! 発酵食品や食品加工技術などミャンマーの特性と現状を探る

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

ミャンマーの「食」に着目した記事。2011年以降、政治や経済の改革によって国が大きく発展し「アジア最後のフロンティア」とも呼ばれているミャンマーの概要と暮らしを「食」にフォーカスして、アイ・シー・ネットの小山氏にインタビューを行いました。サイト全体でも食品や食品加工のトピックは強い人気を持つテーマです。

テーマ:食、食品加工

 

(3位)アフリカ女性のエンパワーメントを加速させる“フェムテック”の可能性を探る

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

現在、アフリカ諸国では、女性の生理用品でさえ満足に普及していない状況と言います。エチオピアの事情に詳しくジェンダー支援にも関わる、アイ・シー・ネットの太田みなみ氏のインタビューを通じて、世界的に注目される「フェムテック」のアフリカ市場での可能性について追いました。

テーマ:ジェンダー、フェムテック

 

(4位)日本とは違うバングラデシュの「薬局」。ヘルスケア市場の課題解決の一手「リスクアセスメントシステム」について

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

南アジアの親日国としても知られているバングラデシュ。ますます注目が高まる開発途上国の一つですが、医療体制や保険制度については未整備な部分もあるそうです。本記事では、ICTを活用した疾患の早期発見システムを開発し、バングラデシュの薬局への導入を目指す医療系スタートアップの取り組みを紹介しています。

テーマ;医療、e-Health

 

(5位)ヨーロッパで急成長中の医療×IoT「e-Health」、日本も注目すべき最先端を追う

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

IoTを通じて個々の健康を増進する「e-Health」の取り組みが、世界各地で行われています。2022年5月にパリで開催された展示会「SANTEXPO 2022」では、最先端の取り組みを行う企業、研究・教育機関、NGOがヨーロッパ各地、さらにはそれ以外の地域からも出展。この記事では、ヘルスケア・介護×IoTの最新トレンドを通じて、e-Healthの最新事情をお届けしています。

テーマ;医療、e-Health

 

【人で知るSDGs×ビジネス】リユースビジネス、中古車輸出、遺品整理…日本から途上国へ多彩なアプローチを行う企業を紹介

「人で知るSDGs×ビジネス」カテゴリーでは、日本から途上国へ途上国ビジネスを展開する企業や、アイ・シー・ネットの現地スタッフが行っている活動・施策を通して、途上国ビジネスの可能性を探る記事を展開。ランキングでも、多彩なビジネスアプローチをする企業の記事が数多くランクインする結果となりました。人材開発、教育関連の記事が上位に入ったのも特徴です。

 

(1位)「海外と日本をつなぐ仕事がしたい」夢を追いかけタイへ! 経済成長が加速する国でリユースビジネスと海外進出支援業

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

現在、日本の中古リサイクル品が、タイをはじめ東南アジアで人気になっています。本記事では、自社でもリサイクルショップを運営し、かつ、現地の店にも商品を卸すリユースビジネスを展開するほか、企業の海外進出支援もするASE GROUPのCEOである出口皓太さんにインタビューをしました。

テーマ:リサイクル

 

(2位)アフリカでもっとも有名な日本企業ビィ・フォア―ド社長が語る、アフリカビジネスの最前線

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

2004年に設立された株式会社ビィ・フォアードは、越境ECサイトによる中古車輸出事業をアフリカで広く行い、2020年度の業績は売上高562億円、中古車輸出台数約12万5759台を達成し、業績を伸ばし続けています。アフリカでもっとも有名な日本企業ともいわれるビィ・フォアードの代表取締役社長・山川博功氏に、アフリカに注目した経緯や、現在の事業、途上国ビジネスの魅力などについてお聞きしました。

テーマ:アフリカビジネス、モビリティ

 

(3位)アフリカビジネスの大きなきっかけに!「ABEイニシアティブ」卒業生がこれからの日本企業に欠かせない理由とは?

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

日本の大学での修士号取得と日本企業でのインターンシップの機会を提供するプログラム「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(African Business Education Initiative for Youth)」、通称:ABEイニシアティブ。2014年から現在までで、ABEイニシアティブを通じて1286人ものアフリカ出身の留学生が来日。留学生のなかには、プログラム終了後の進路として、日本企業へ就職する人がいます。本記事では、2019年より仙台を拠点とするラネックス社で活躍するセネガル出身のABEイニシアティブ卒業生、ブバカール ソウさんにABEイニシアティブでどのようなことが学んだのか、また日本企業で3年以上働いてみてどんな感想を抱いているのかを聞きました。

テーマ:教育

 

(4位)これからの子どもたちの学びに必要な「Playful Learning」と「6Cs」スキルーー「遊びを通した学び」で、社会で成功するスキルを身に付ける

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

多様化するこれからの社会で、世界共通の重要なトピックである「教育」。新たな教育システムなどが模索される中、世界各地で実施されているのが、米国テンプル大学心理学部教授のキャシー・ハーシュ=パセック教授らが推進する「Playful Learning(遊びを通した学び)」です。キャシー教授に、“遊び”の重要性や「Playful Learning」、これからの社会で欠かせないスキル「6Cs」などについて、さまざまな事例を交えながら教えてもらいました。

テーマ:教育

 

(5位)「遺品整理サービス」に活路! 遺品整理品のリユースビジネスを開拓する「リリーフ」インタビュー

本サイトでは画像をクリックすると記事に遷移します

少子高齢化社会が進むいま、終活にまつわるサービスを展開する企業が増えています。そのなかでも参入企業が増えているのが、「遺品整理サービス」です。そんな数ある片付けサービスを扱う企業のなかでも、存在感を強めている「株式会社リリーフ」の赤澤氏に、海外における中古品の海外輸出事業や、これからの片付けサービスの課題について聞いてみました。

テーマ:遺品整理、リサイクル

 

以上が、ローンチ1年間における各カテゴリーでの人気記事ランキングでした。途上国ビジネスと言っても数えきれないほどの課題やトピックが存在します。その数だけビジネスチャンスは存在するわけで、編集部では2年目も読者の皆様が取り組む事業のヒントになる情報や、皆様ひとりひとりが途上国と日本を含む世界全体の社会課題解決を考える一助になるコンテンツをお届けしていきます。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

家族に、地元に、地球にも優しい小野伸二。サスティナビリティ活動の提案が話題に

現在、J1北海道コンサドーレ札幌でプレーする元日本代表MF小野伸二が自身のSNSを更新。サスティナビリティ活動の提案に、ファンは素直に反応している。

 

 

この投稿をInstagramで見る

 

小野伸二 / shinji ono(@shinjiono7)がシェアした投稿

黒コーデのファッションに身を包み、愛犬Lauweと一緒に「持続可能性」を意味するサスティナビリティ活動をアピール。

 

リサイクル素材で作られたグリーンのエコバッグを手に、「ASICSのエコバッグ リサイクル素材100%で作られているそうです。日頃からサスティナビリティ活動への意識を高めて少しでも貢献出来れば。グリーンバッグはアシックスの直営店で購入できるみたいなので是非」とコメントもつけて自身のインスタグラムに投稿。

 

するとファンからは「是非購入させていただきます」や「ブラックコーデもかっこいい」といった称賛メッセージが寄せられ、足元にいる愛犬、バーニーズマウンテンドッグのLauweの成長ぶりも話題に。

 

 

この投稿をInstagramで見る

 

小野伸二 / shinji ono(@shinjiono7)がシェアした投稿

9月27日に43歳の誕生日を迎えた小野は、SNSで家族とともに写した画像を、「43歳になりました。今まで通り「楽しむ」事と「感謝の気持ち」を忘れずに精一杯やっていきます。こんなおじさんをよろしくお願いします」とのコメントともに投稿。

 

同日にはJリーグも公式ツイッターで小野の誕生日を祝い、若かりし日の画像も投稿され、注目を集めた。

 

43歳となったいまでも現役を続ける小野は、地元にも優しかった。小野と同じく静岡県出身の、神奈川社会人1部・はやぶさイレブンに所属する元日本代表の水野晃樹がSNSを更新。「SNS載せなくていいよって言ってましたが、載せちゃいました」と投稿。

 

ファンからは「伸二男前!」や「最高のアスリートです」とコメントも。誰からも愛され、地球にも優しい小野の現役生活はまだまだ終わることなく、ファンに元気を与え続けてくれそうだ。

新入社員は78歳! 社員の約30%が70歳以上の「横引シャッター」は未来の企業のあり方の一つだ

↑駅のキオスクなどで見かける横開きのシャッター

 

2年半前に入社した“新入社員”はなんと御年80歳。キオスクで見かけるシャッターなど、特殊シャッター技術で定評のある株式会社横引シャッターには、実質的に定年がありません。社員の年齢、性別、国籍は一切不問。まさにSDGsと合致した経営を地で行っています。

 

過去3年間で中途入社した社員6名が60歳以上

パソコンの画面を見ながらCADソフトでシャッターの設置場所に応じた設計を行う一級建築士の金井伸治さんは、44年間勤務していた大手電力会社を2017年に退職後、奥様ががんを患ったことを機に再就職を決め、2020年6月に78歳で同社に入社しました。

↑一級建築士の金井伸治さん。自動車好きで、ポルシェ・カレラ911に乗るのが夢だった

 

「また働きたいと思ってハローワークに行きましたが、年齢制限に引っかかってどこもダメ。高齢者の就業を支援する区役所の部署でも厳しい現実を突きつけられました。そんな折に、90歳を超えても現役で働く社員を紹介するテレビ番組をたまたま観て、この会社を知ったのです。さっそく面接を受けたら、人柄を買われたのか、驚いたことにその場で採用が決定。社長からは『職場での和を大切にしてほしい』とだけ言われました」(金井さん)

 

入社のきっかけとなったテレビ番組で紹介された方は、正社員としてシャッターの金具を作る仕事をしていました。残念ながら、在職中の今年2月に94歳で亡くなったそうで、今は80歳の金井さんが最高齢。33人の社員のうち、10名が70歳以上で、この3年間で60歳以上の方が6名も中途入社していると言います。社員の平均年齢は58.7歳と高い一方で、最近26歳の若者も入社しました。これだけ幅広い年代の社員が働く職場において、世代間ギャップなどが業務に支障をきたすことはないのでしょうか。

 

仕事仲間なので年齢は関係ないと思います。20代、30代の人たちに対して孫のような感覚になることも、ジェネレーションギャップも感じません。以前は親睦を深めるために飲み会や芸人を呼んだイベントなど、会社での集まりもよくあったそうですが、今はコロナの影響で交流する機会が減っていて……。それでも社内の雰囲気は悪くなく、私にとってすごく居心地がいい職場です」(金井さん)

 

社長からの「信頼」が仕事のモチベーションに

前職では原子力施設の設計を行っていましたが、今はシャッターの設置環境や顧客の要望に応じて設計するのが金井さんの仕事。「規模は違っても同じ設計なので何も問題はない」と笑います。1つの案件にかける日数は2~3日だそうです。

↑営業担当者からの説明を受けて図面をおこすことが多いため、営業や職人たちとの関係性も重要となる

 

「当社ではJWCADという無料のCADソフトを使っていたのですが、大手ゼネコンなどはAutoCADという有料ソフトを使うことが多いんです。そこで社長に『大手を相手に仕事をするならAutoCADを導入した方がいい』と提案したところ、その案をすぐに採用していただけました。社長は私を信頼して任せてくれているんだと考えると、仕事へのモチベーションも高くなります。現在は、JWCADとAutoCADを併用しつつ、仕事の合間にAutoCADへの移行作業を行っているところで、それにもやりがいを感じています。

 

一般的な会社は採用に年齢制限を設けていますが、年齢に関係なく、才能のある人はたくさんいます。社長の考え方は意義のあることだと思いますし、私にとっては本当にありがたく、感謝しています。今後は健康が許す限りこの会社で働き続けたいし、AutoCADでの設計は非常に奥が深いので、日々勉強して少しでも極めたいと考えています」(金井さん)

 

能力があれば年齢なんて関係ない

80歳になっても生き生きと働く金井さんですが、「あえて高齢者を採用しているわけではなく、面接をして、わが社に来てほしいと思った人にたまたま高齢者が多かっただけです」と話すのは市川慎次郎社長。創業者である父親の急逝にともない、2012年12月に同社の社長に就任しました。

↑代表取締役 市川慎次郎さん

 

「子どもの頃、『お前たちが生活できるのも社員のおかげ』と父からよく言われていました。ゼロからこの会社を築いた父は、苦労も多く、社員のありがたみが身に染みていたんです。そんな父の背中を見て育った私ですから、社員を大切にする気持ちは自然と身についたんだと思います。年齢や国籍などの条件にとらわれず採用や昇給をしますし、定年もなし。福利厚生はもちろん、パソコン教室や資格取得推進など、社員にさまざまな学習の機会も設けています。雇用に関してよく取材を受けますが、私としては特別なことをしている意識はありません。

 

そもそも、年齢や性別、障害の有無、国籍で差をつける理由がわかりません。逆にもったいない。59歳から60歳になっても急に能力が落ちるわけではないのに、60歳になったからと定年退職したり、会社に残っても給料を減額されるのはおかしな話です。高齢者でも能力が高い人は少なくないし、現役でバリバリ働ける人も多い。もちろん会社なので、来るものは拒まずではありません。採用の際は、経歴よりも、和を重んじる当社の社風に合うかどうかを重視しています。金井さんの場合は、建築士としての経歴は申し分ありませんでしたし、面接で話した印象が当社に合うと感じたので採用を決めました。

 

また、制限を設けない雇用によるメリットは多々あります。例えば、腕のいい職人の場合、同じ作業工程であっても仕事のクオリティに差が出ます。一般的な職人は、自分が習得した技術をなかなか教えたがらないのですが、定年がないと生涯働き続けられるので、会社のことを自分事としてとらえ、後継者の育成にも協力的になります。彼らの経験から得た技術や知識を若い人たちに教えてもらえることは何よりの財産。さらに、若い人たちは、目上の人を大切にする機会が増え、人間性を育むことができると考えています」(市川さん)

 

過去の苦い経験がきっかけに

何よりも、社員同士の“和”を重んじる市川社長ですが、それには大きな理由がありました。

 

「実は会社が経営難に陥ったことがこれまで2度あり、とくに父が亡くなる前後はどん底でした。いくら“社員が大切”と掲げていても、社員の会社に対する不信感が強まり、離職する人も多かったです。また、事業継承の際も、会社を倒産させる考えの兄と、社員のために続けたいと主張した私との間に確執が生じ、社内の雰囲気が最悪に。社員のモチベーションが低下し、生産性にも影響しました。だから私は、社員から信頼される会社にしたいと強く思いました」(市川さん)

↑工場での作業風景

 

倒産の危機、そして社員の会社に対する不信感……。社長に就任した市川さんは、立て直しのために手腕を発揮しますが、同時に、社員の信頼を得ることにも力を入れました。経営上開示できない資料以外の情報をすべてオープンにし、社員にとってプラスになることはすぐに取り入れました。社員の声に耳を傾け、いつも真剣に向き合うことも意識したそうです。

 

「今でこそ笑顔で話せますが、会社立て直し当時は社員からの風当たりも強く、悲惨そのもの。でも、社長になって10年になりますが、今は本当に会社の雰囲気がいいと感じています。社員同士も仲が良く、不安がないから仕事に集中できています。雇用に関してもそうですが、有言実行してきた1つずつの小さな積み重ねの結果だと思います。こちらから襟を開かないと相手は殻に閉じこもったままなので、話しかけたり、困っていたら手を差しのべたりするなどの意識も持ち続けました。

↑社員の皆さん。年齢も国籍もバラバラだが、仕事中でもお互いに尊重し合っている様子が伝わってくる

 

また、社員には“お互いさま精神”を持つようにと常々言っています。表面的な付き合いや、会社のために手伝うのではなく、和を重んじ、誰かが困っていたら仲間として積極的に助け合えと。会社で起きている全てのことは、自分たちに影響するのだからと。そのため、頻繁に部署の配置転換を行い、他部署が忙しかったり、困ったりしていたら、“応援”ではなく“戦力”になるよう多能工化も進めています。例えば新型コロナに複数の社員が感染した時も、ほかの社員がフォローしてくれたおかげで、業務が停滞したり、お客さまにご迷惑をかけたりすることはありませんでした」(市川さん)

 

会社は社員あってのものだから、社員を信頼し大切にする――。こういう考えを持つに至ったからこそ、社員の年齢や性別、国籍などは問わない雇用を行うことができているのでしょう。

 

撮影/神田正人

エシカルファッションとは? ファッション業界で進むサステナブルな取り組みと私たちができること

大量生産・大量廃棄による環境への負荷や、作り手が置かれた劣悪な労働環境と人権侵害など、多くの課題を抱えてきたファッション業界。それを改善すべく今注目されているのが、「サステナブルファッション」あるいは「エシカルファッション」の考え方です。

 

今回は、エシカルファッションデザイナーとして活動する小森優美さんに、ファッション産業の実態、同業界におけるサステナブルな取り組みについてうかがうと同時に、私たち各自ができるアクションについてもアドバイスいただきました。

 

「サステナブルファッション」、「エシカルファッション」とは?

まずは「サステナブルファッション」について、言葉の意味と、注目されるようになった背景について、小森さんに教えていただきました。

 

「ひとことで言うと、ファッションを持続可能なものにするための、環境や人に配慮した取り組みのこと。例えば、環境への負荷が少ない素材やリサイクルできる素材で服をつくること、古着を着たりリペアやリメイクをしたりすることによって服の寿命をできるだけ長くすること、作り手の労働環境や人権を守るための仕組みをつくることなど、多種多様な方法があります」

 

また、サステナブルファッションと同じように「エシカルファッション」という言葉もよく使われます。どう違うのでしょうか?

 

「『エシカル』は直訳すると『倫理的な』という意味で、私個人としては、エシカルファッションはどちらかというと情緒的・共感的なニュアンスが強いような気がしています。サステナブルファッションは機械的な循環のイメージもありますが、エシカルファッションはより個人的な心の在りようを重視する、というイメージで考えてもらうとわかりやすいと思います」(エシカルファッションデザイナー・小森優美さん、以下同)

 

「サステナブルファッション」が注目される理由

「サステナブルファッションが近年注目されるようになった背景には、さまざまな情報にアクセスできるようになったことがあると考えられます。そもそも私たちが“サステナブルではない”服を選んでしまうのは、その服がつくられる背景を知らないことが大きな原因です。もし自分の着ている服が、環境や人を傷つけながらつくられたものだと知ったら、あまり着たいとは思わないですよね」

 

そこには、複雑な生産工程の陰に実態が見えにくくなってしまう現実がありました。

 

「ファッション産業は、もともと生産から消費までの過程が非常に長く、消費者に近い人ほど服がつくられる背景は知られていませんでした。しかし、あらゆる情報にアクセスできるようになった今、『自分が着ている服は環境や作り手の人権に配慮されているのか』ということを、以前よりは簡単に調べられる時代になりました。そのため、服の生産過程などに対して敏感になる消費者が少しずつ増え、それに伴って業界全体の意識も変わり始めたのではないかと考えています」

 

完璧な解決策はない!? ファッション産業が抱える課題

これまでのファッションのあり方が見直され、課題解決のための取り組みが進んでいるファッション産業。しかし、小森さんは「課題はまだまだ山積み」だと話します。

 

「ファッション産業では、原材料の調達、生地や服の製造、輸送、廃棄など、一つ一つの過程で環境への負荷がかかります。そのため、ひとことでは言い表せないほどたくさんの課題があり、一筋縄ではいかないのです。

例えば『環境に配慮した原材料』を考えようとしても、これを選べば解決するという答えがありません。再生ポリエステルなどの合成繊維は仕組みとしてまだまだ不安定ですし、コットンなどの天然繊維も、栽培時に水や農薬を大量に使用します。さらに、無農薬のコットンでさえ、大量に生産すれば水を大量に消費するため、完璧な解決策とは言い切れません。環境も人もまったく傷つけることなく、完璧なものをつくることはとても難しいことなのです。このような状況で、ファッション産業に関わるさまざまな人たちが、課題解決のために試行錯誤しながら取り組んでいる、というのが現状だと思います」

 

そして小森さんも、作り手として実際に課題解決に挑んでいます。

 

「私自身は現在、草木染めのランジェリーブランド『Liv:ra(リブラ)』を運営し、商品のデザインを手掛けています。リブラの商品の特徴は、京都の職人による新万葉染めという草木染めの技術を用いていること。無農薬の植物を使って、1点ずつ手染めしています。また、生地には天然素材のシルクを使用しています。さらに商品は受注生産しているため、廃棄率は0%です。

しかし、このようにさまざまな工夫をしていても、環境への配慮が完璧にできているわけではありません。例えば、ランジェリーには一部、合成繊維であるナイロンでつくられたレースを使用しています。もちろんこれにはいくつか理由があるのですが、一つは、ナイロンを組み合わせることで、シルクの製品の寿命をのばすことができるから。そしてもう一つは、レースをつけたほうがデザイン的にかわいいと考えているからです」

↑小森さんが立ち上げたブランド「Liv:ra」(リブラ)」。小森さんはここで販売している商品のデザインも手掛けています。

 

ただ環境にいいだけでは、環境を救えない!?

「私はリブラの商品をデザインするときに、『環境にいいものをつくらなければ』と意識しすぎないようにしています。極端な話ですが、本当に環境に配慮したものを新しくつくろうと思うと、何の飾りもない生成りの服にするのが一番いいはずです。ですが、全部がそうなるとつまらないですよね。

自分が『かわいい!』『素敵!』と思う服を着ることで、気分が上がったり楽しくなったりする。このようにファッションの中心には、ワクワクする気持ちがあるべきですその気持ちを忘れず、環境に配慮したものづくりをすることが大切だと考えています。今後も、両者のバランスを考えながら、妥協せずものづくりをしていきたいです」

 

たしかに、素直に可愛い! 欲しい! と思えるものでなくては、長く使い続けることは難しいですよね。デザインの力は、サステナブルの視点においても侮れません。

 

丁寧にものづくりをするブランドを増やしていくことが大切

今後、サステナブルファッションの実現に向けた動きをさらに加速させていくためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか? 引き続き小森さんに伺いました。

 

「私はこれからのファッション産業で、丁寧なものづくりをする小規模なブランドが増えていくことが大切だと考えています。環境や人に配慮したものづくりをするためには、自分たちのつくるもの一つ一つにきちんと目を行き届かせ、一緒にものづくりをする取引先の人たちと密にコミュニケーションを取っていくことがとても重要です。それを実践しようと思うと、自然と小規模なものづくりが増えてくると思うのですよね。実際、最近はそうしたサステナブルファッションブランドが増加傾向にあると感じています。

しかし今はまだ、新しいサステナブルファッションブランドが生まれては消えていくという過渡期の状態です。ブランド自体を“持続可能”にしていくためには、考え得るあらゆる工夫が必要だと思います。環境も人もなるべく傷つけない仕組みのなかで質の良いものをつくることはもちろん、お客さんに知ってもらうためにきちんと情報発信していくことも重要です。小さなブランドでものづくりを続けていくためにはさまざまな戦略やスキルが必要ですが、ブランド同士が横のつながりで協力しあいながら切磋琢磨していくことが、一つ一つのブランドの成長にもつながると考えています」

 

さらに、小森さんが重要だと考えていることがあるそう。

 

「それは日本の文化を見直すこと。私が運営するリブラで行っている草木染めも、およそ2000年前から続くともいわれる日本の伝統技術です。もちろん当時の日本でサステナブルが意識されていたわけではありませんが、日本では昔から環境への負荷が少ない方法で、ごく自然にものづくりが行われてきました。

例えば食の分野で言うと、食材の保存性を高め、無駄なくおいしく食べることができる“発酵食品”の文化もその一つです。このようにファッション分野以外でも、日本には持続可能な仕組みの中で長く続いてきたものがたくさんあります。そのため『サステナブル』を語るとき、日本の文化はとても重要な要素の一つだと考えているんです」

 

ファッションを持続可能なものにするために、私たちができること

ファッションを持続可能なものにしていくためには、個人がアクションを起こしていくことも必要です。最後に小森さんから、私たち一人一人ができることについてアドバイスをいただきました。

 

「まずは“サステナブルな服”を手に取ってみてほしいです。そのときに大切なのは、自分の好きなファッションを第一に考え、その中でサステナブルな服を選ぶということ。現在、服がつくられる背景を知るための情報は、たしかに手に入りやすくなりました。その一方で、たくさんの情報があると何が正しいのかわからなくなってしまうこともあると思います。しかしサステナブルファッションに完璧な答えはないので、『正しいもの』を選ぼうとするよりも、自分の『好き』を考え、選ぶことが大切ではないでしょうか。

私自身は、これまでたくさんの服を見たり着たりして選択を積み重ねてきた結果、自分の『好き』がわかるようになりました。私のように特別ファッションが好きな人でなくても、自分の好きなファッションを知ることは、とても楽しいことだと思います。『流行っているから』という理由だけで、どこにでもある服をなんとなく選ぶより、本当に自分に似合う一着、つくられた背景に深く共感できる一着を選ぶ。そのほうが自分らしく、ハッピーでいられますよね。

そして、好きな服を選ぶことができれば自然と長く大切に着ることができますし、手放すときにもフリマアプリや古着屋で貰い手が見つかりやすくなります。自分の好きな服を選べば、特別なことをしなくても、自然と『サステナブルファッション』につながるのではないでしょうか」

 

でも、サステナブルな服を買う、それだけで終わってほしくないとも、小森さんはいいます。

 

「これはファッションに限らず言えることですが、サステナブルな製品を買う人がただ増えるだけでは、世界を変えることはできません。これからは、日常生活において、環境を守るためのさまざまなアクションを自ら起こす人を増やしていくことが重要なんです」

「例えばリブラでは、草木染めの色が落ちてきたランジェリーを自分で染め直すことができる『染め直しキット』を販売しています。このように自分が持っている服をお直ししたりアップサイクルしたりすることも、個人でできることの一つです。少し手間のかかることかもしれませんが、それ以上に楽しさを実感できると思います。

“消費者”から“実践者”となり、自分の手で創り出していくこと。これが本当の『サステナブルなアクション』の第一歩ではないでしょうか」

 

プロフィール

社会起業家・エシカルファッションデザイナー / 小森優美

株式会社HighLogic代表取締役、一般社団法人TSUNAGU代表理事。
草木染めシルクランジェリーブランド「“Liv:ra」(リブラ)”のデザイナーとして自身の自己表現を探求すると同時に、一般社団法人TSUNAGUでは「心の変容から起こる社会変革」をコンセプトに、個人の心の変容から起こっていく本質的な社会変革を目指す実践的なラボを運営中。幸せな感覚から生まれる直感的なインスピレーションに従って、プロダクトデザイン、システムデザイン、講義・講演など、エシカルファッションを軸に多分野で活動する。

 

脱プラは紙に置き換えれば解決? 日本と世界の森林が抱える問題と「森林認証制度」

プラスチックの代替素材として、注目を浴びている紙。ストローや商品パッケージなど、さまざまなものが紙へと置き換わっているなか、「紙への安易な切り替えは、森林破壊につながるのではないか?」と疑問を抱く人も多いのではないでしょうか。

 

そこで今回は、紙とプラスチックの違いや紙が選ばれる理由、森林保護の取り組みである「森林認証制度」などについて、「紙で環境対策」というスローガンのもと、環境問題へのアプローチに力を入れている大昭和紙工産業の西嶋裕之さんに、話を伺いました。

 

プラスチックの代用品として、紙が選ばれる2つの理由

海洋プラスチックごみ問題や気候変動問題といった課題に対応するべく、使い捨てプラスチック削減に向けた取り組みが、今、世界中で推進されています。日本も例外ではなく、2019年に政府は「プラスチック資源循環戦略」を策定。2030年までに、使い捨てプラスチックを25%排出抑制することを目標としています。

 

地球環境における諸問題以外に、日本がこれまで廃プラスチックを輸出していた諸外国が、輸入の規制強化に乗り出したことも背景にあります。なかでも、主な輸出国であった中国は、2017年末に生活由来の廃プラスチックの輸入禁止を宣言。行き場を失った廃プラスチックの処理についてもあらためて考えなければならない今、政府は「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」に加え、再生可能資源への適切な切り替えを意味する「Renewable(リニューアブル)」を基本原則として政策を推進しています。

 

そしてこの「Renewable」を促進するためにと、注目されているのが紙素材。食品、化粧品、アパレルなど、さまざまな業界で包装をプラスチックから紙へと切り替える動きが加速しています。では、なぜ紙が選ばれているのでしょうか? その理由を西嶋さんに伺いました。

 

1.紙は持続可能な資源である、木からできている

「理由の一つとして、やはりプラスチックと紙の原材料の違いが大きいと思います。プラスチックは、基本的に枯渇資源である石油から作られています。限りある資源である石油に比べて、紙の原材料である木は、植樹や適切な森林管理を行うことで再生可能な資源。さらに、木はCO2を吸収するため、焼却されたとしてもカーボンニュートラルなサイクルを生み出すことができる素材です。そうした理由から、よりサステナブルな素材として紙が選ばれているのだと思います」(大昭和紙工産業 紙で環境対策室 主任・西嶋裕之さん、以下同)

 

2.自然由来で、生分解性の性質がある

「もう一つは、生分解性があるということ。プラスチックは海に流れ出しても分解しきれず、マイクロプラスチックとなって恒久的に海に漂います。一方で紙は、自然由来の素材で作られているので、自然の条件下で分解されるという性質があります。ごみが意図せず土壌や海洋に流出してしまう可能性を考えると、『紙に置き換えられるものは紙に置き換える』という選択をする企業が増えています」

 

木を切る=森林破壊?森林資源をとりまく国内諸事情

紙を選択するメリットは理解できても、やはり「紙製品を作るために木を切りすぎると森林破壊につながるのでは?」と懸念を示す人も多いはず。もちろん、伐採をし続けていたら森林は失われてしまいます。そうした状況に対し、西嶋さんは「大切なのは、適切に森林を管理すること」と話します。

 

「たしかに、『木を切る=森林破壊』というイメージを抱いている人は多いと思います。過剰な伐採は控えるべきではありますが、同時に森林を管理し、有効活用していくことも大切なんです。
たとえば、日本国内の問題として挙げられるのが、森林の活用不足。日本は戦後、不足していた木材資源調達のために、国策として各地に木を植えてきました。木はおよそ40~50年で成長し、現在では当時植えた木材がいつでも収穫できる状況になっています。にもかかわらず、手付かずのまま放置されている森林が多く存在しているのです。

森林を放置すると、木が密集しすぎて本来成長すべき若木が育たなかったり、管理が行き届かず土砂崩れの原因につながったりと、さまざまな問題を引き起こしてしまいます。
さらに、木は成長しきると光合成の作用が緩やかになり、二酸化炭素の吸収率も下がると言われています。つまり、計画的に木材を収穫・植樹していくことは、健全な森林の保全のみならず、CO2削減による地球温暖化防止にもつながっているという視点もあるのです」

 

持続的な森林資源を守るための「森林認証制度」

それでも、世界に目を向けてみると森林破壊は深刻な問題となっています。

 

「森林破壊の原因は、違法伐採やプランテーション・農地への転換、森林火災などさまざまありますが、現在、『1秒間にテニスコート約15面分の面積の森林が消失している』と言われています。森林破壊が進むと、野生動物や森に住む人々のすみかを奪うだけでなく、気候変動の要因にもなりかねません。私たちが地球上で暮らしていくために、木材は欠かすことの出来ないもの。だからこそ『仕方ないこと』で済ませずに、森林を適切に管理し、次世代に残していくことが大切だと考えています」

そうした背景から誕生したのが「森林認証制度」です。森林認証制度とは一体、どのようなものなのでしょうか?

 

「森林認証制度とは、適正に管理されていると認証を受けた森林から取れる木材を、生産から流通、加工の全工程に認証ラベルを付けることで、持続可能な森林の活用を図る制度です。つまり、私たち消費者が認証製品を積極的に選択していくことで、森林保護に間接的に貢献できる仕組みとなっています」

 

世界には多数の森林認証制度が存在しており、なかでも国際的な認証制度として有名なのが、WWF(世界自然保護基金)を中心として発足した「FSC認証(森林管理協議会)」と欧州生まれの「PEFC認証(PEFC森林認証プログラム)」。今回は、大昭和紙工産業が全国に展開する営業所と工場で認証を受けている「FSC認証」を例に、詳しい仕組みを解説していただきます。

森林認証制度における、2つの認証「FM認証」と「CoC認証」

↑出典=FSCジャパン ビジネス向けパンフレットより

 

「森林認証制度の仕組みとしてまず知っておきたいのが、認証にも2種類あるということです。

一つは、森林の管理に関する「FM認証」。これは、厳しい基準をもとにチェックを行い、適切に管理されていると認定された森林自体に付与されるものです。もう一つが、加工・流通過程の管理を認証する「CoC認証」です。FM認証を受けた森林から産出された木材を、適切に管理・加工しているかをチェックするもので、製材所や製紙会社、印刷会社、卸売業者などが受ける認証です。

たとえば紙製品は、木を切ってから消費者の手に届くまでに多くの企業が関わるのですが、生産、加工、流通に関わるすべての組織が認証を受けなくては、製品やサービスにFSC認証マークを付けることができません。非常に厳しい条件ではあるのですが、そうすることで『この製品がどのような工程を経て作られた紙製品なのか』という、トレーサビリティを担保することができるのです。

さらにこの認証は、独立した第三者機関によって中立的に審査が行われているのも特徴です。補足ではありますが、2つの認証制度でチェックする仕組みはPEFCも同様です」

 

森林保護はもちろん、SDGsの達成にも貢献する10の審査基準

↑出典=FSCジャパン FSC原則と基準(第5版)紹介冊子より

 

FSC認証を受けるためには、厳しい審査基準をクリアしなくてなりません。とくに「FM認証」では、世界共通の10の原則と70の基準に基づいて審査が行われています。その特徴についても教えていただきました。

 

「『FM認証』の原則は、環境に関する項目だけでなく、社会や経済といった多角的な視点から成り立っています。たとえば、森林の計画的な管理ができているか? といった内容はもちろんのこと、そこで働く労働者の権利がきちんと守られているか、先住民の権利を侵害していないかなどさまざまです。これらのすべての基準について問題がないと判断された場合にのみ、認証が与えられています。

FSCの10の原則を見てみると、貧困や男女平等など、SDGsが掲げる17の目標に関係するものばかりです。さらに、2017年のSDGs進捗報告では、目標15『陸の豊かさも守ろう』の進捗を測る指標として『自主的な森林認証を取得している森林の面積の増加』が挙げられました。つまり、FSC認証マークがついた製品を選ぶことは、環境問題に加え、人権といった面でもSDGsの達成に貢献できると考えています」

 

森林資源を利用する、私たちが意識すべきこと

日常生活で毎日のように使用する紙製品。森林資源を利用する私たちが意識すべきこととは、一体何でしょうか?

 

「紙袋やコンビニで買うお菓子の箱などを見ると、『環境ラベル』と呼ばれるマークが印刷されていると思います。『環境ラベル』とは、環境負荷低減につながる製品やサービスに付けられるマークです。

今回紹介した、FSCやPEFCなどの森林認証制度マークもその一種です。他にも古紙を使っていることを示す再生紙マークや、環境に配慮した植物油を印刷インクに使っていることを示す植物油インキマークなど、さまざまなマークがあるので、まずは見つけてみてください。さらに、そのマークはどういう目的で付けられて、この紙製品はどういう風に作られたのか、というところも意識していただけたらうれしいですね」

今回インタビューを行った大昭和紙工産業も、FSC(CoC認証)を取得しているだけでなく、オリジナルの環境マークを作成しています。西嶋さんは、「製造した紙製品にマークを付与することで、環境問題を考えるきっかけにしてほしい」と話します。

 

↑大昭和紙工産業オリジナルの「木を植えるマーク」と「海を植えるマーク」。同社が製造する製品に付与することで、植林によるCO2排出削減や海洋プラスチックゴミゼロ活動といった取り組みへの間接的な支援に貢献できる。

 

「今、プラスチックの代替品として紙製品の需要は確実に高まっています。ですが、ただ安易に紙製品に切り替えるのではなく、やはり一歩踏み込んで考えて欲しいという思いがあります。大昭和紙工産業オリジナルの環境マークをご利用いただくことで、企業のみなさんにも、一般消費者のみなさんにも環境課題を意識してほしいと考えています。
弊社は、持続可能な資源である紙の加工製品を取り扱う会社です。しかし、紙だからといってなにもかもOKというわけではありませんし、ものを作る上ではどうしてもCO2を排出したり、エネルギーを使ったりします。だからこそ、メーカーが果たすべき責任として、環境課題に貢献していきたいという思いで活動しています。
現在は、環境配慮型の製品開発や『カンキョーダイナリー(環境>)』というサイトを通じて、環境問題に関する情報発信をするなど、さまざまな取り組みを行っています。これからも『紙で環境対策』のスローガンのもと、みなさんと一緒にサステナブルで地球に優しい社会の実現を目指していきたいです」

 

木は、管理された森林を適切に利用することで、将来的にも利用できる持続可能な資源。大切な森林を守るためにも、森林認証を受けた森から作られた紙製品を選ぶなど、意識的な選択で環境課題に目を向けてみませんか。

 

プロフィール

大昭和紙工産業 マーケティング室・紙で環境対策室 主任 / 西嶋 裕之

美術大学卒業後、デザイン事務所勤務を経て入社。紙を通して環境に関する新しい取り組みにチャレンジする「紙で環境対策室」に所属。ソーシャルグッドな情報コンテンツを発信する「カンキョーダイナリー(環境>)」の運営や、環境配慮型の商品開発などに携わっている。

 

蚊に刺される=感染…途上国への「虫ケア」でアース製薬が示すSDGsのカタチ

アジア、中南米、アフリカなどで流行している、デング熱やマラリアといった「蚊媒介感染症」(病原体を持つ蚊に刺されることで発生する感染症)。重症型のデング熱は、アジアやラテンアメリカの一部で子どもの死亡の主原因に挙げられるほど深刻な問題となっています。

吸血中のヒトスジシマカ

 

こうした蚊媒介感染症についてグローバルな取り組みを行っているのがアース製薬です。そのひとつが、蚊媒介感染症の発生率を低減する「ワールド・モスキート・プログラム(WMP)」でのベトナムにおける活動支援。2021年に新設された同社の「CSR(Corporate Social Responsibility )/サステナビリティ推進室」の皆さんに、推進室新設の経緯やASEAN諸国における感染症対策ソリューションなどについてお話をお聞きしました。

 

アース製薬だからできるユニークなCSR/サステナビリティ活動

同社では、事業を通じて社会課題の解決を目指す「CSV(Creative Shared Value)経営」を推進。「CSR/サステナビリティ推進室」では、室長の桜井克明さんを筆頭に、都市害虫学の専門家である角野智紀さん、国際NGO団体職員としてミャンマー国境にある移民・難民のための診療所で働いていた田畑彩生さん、グローバルでマーケティング企業に従事していたライアン・グィン・フィンさんという多様性あふれるメンバーが、アース製薬ならではのサステナビリティを日々追求しています。

右から、桜井克明さん、角野智紀さん、田畑彩生さん、ライアン・グィン・フィンさん、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集長・井上

 

特にユニークな取り組みが、以下の3点です。

 

ASEANでは民間企業初となる虫媒介感染症への取り組み:ワールド・モスキート・プログラム(WMP)

オーストラリアの研究者らが立ち上げたWMPは、世界の人々を蚊媒介感染症から守るための非営利型イニシアティブ。主な活動は、蚊に共生細菌ボルバキアを感染させることで、デング熱媒介能の著しく低い蚊を作り、デング熱感染症率を低下させる取り組み。生態系を崩さずにデング熱などの感染を防げるとあって、大きな注目を集めています。同社では、2021年からベトナムにおけるWMPの支援活動をスタート。民間企業によるWMP参画は、ASEANでは初の試みです。

 

事業を通じた社会課題への取り組み:感染症トータルケアに役立つ先端的テクノロジーの活用

革新的な酸化制御技術「MA-Tシステム」を活用した製品開発・販売を推進。「MA-T」は、亜塩素酸イオンから必要な時に必要な量の活性種(水性ラジカル)を生成させることで、ウイルスの不活化や除菌を可能にするシステムです。既存の除菌剤より安全性が高く、長期保存できるため、避難所などで使用する除菌・消臭剤、感染症予防に役立つマウスウォッシュにも活用されています。さらに、農薬・医薬品、牛の糞尿から出るメタンガスからメタノールを製造する技術などへの応用も見込まれています。

「MA-Tシステム」を採用した肌用ミスト

 

自然環境を持続させる取り組み:環境・生物多様性の保全

自然環境を保全するため、外来生物対策、動植物の分布に関する調査・モニタリングなどを実施。例えば、兵庫県赤穂市生島では、国指定天然記念物の照葉樹林を保護すべく、つる植物ムベの伐採を実施。兵庫県姫路市「自然観察の森」では土壌動物の調査、小笠原諸島ではツヤオオズアリの防除を行うなど、自治体と連携しながら生物多様性の保全に取り組んでいます。

赤穂市生島での活動風景

 

グローバルで経験豊富、エッジの効いたメンバーが集結

井上 アース製薬は、2021年に「CSR/サステナビリティ推進室」を新設し、ユニークな取り組みを進めています。なぜこのタイミングで推進室を立ち上げたのでしょう。

 

桜井 一つは昨今のめまぐるしい社会情勢の変化です。また、当社はプライム市場へ移行することとなりました。それに伴い、私たちは「感染症トータルケアカンパニー」として世界の人々の安全で快適な暮らしを実現するするとともに、社会の持続可能性や価値向上の取り組みをさらに推進する必要があると考えました。

「CSR/サステナビリティ推進室」発足の経緯を語る桜井室長

 

井上 なるほど。とはいえ、アース製薬では創業以来、虫ケア用品を提供し続けてきましたよね。専門部署こそありませんでしたが、事業を通じて社会貢献をしてきたのではないでしょうか。

 

桜井 おっしゃる通り、虫ケア用品は、販売すること自体が感染症対策になります。事業と社会課題の解決がここまで直結した企業は、珍しいのではないかと思います。

 

井上 私が勤めるアイ・シー・ネット株式会社もODA事業に関わっていますが、当たり前にSDGsに取り組んでいたからこそ、ことさら「SDGsへの取り組み」をアピールすることには少しためらいがありました。貴社も、これまではあえてアピールする必要がなかったのかもしれませんね。

 

田畑 そうですね。確かに「SDGsに取り組んでいる」自覚は薄いかもしれませんが、どの社員も「自分たちはお客様のお困りごとを解決する製品を販売している」という認識を強く持っています。

 

井上 推進室の皆さんは、昆虫学や公衆衛生、マーケティングなどそれぞれの専門領域を極めた方々です。バックグラウンドも多様で、ユニークな顔ぶれですね。

 

桜井 ここまで経験値が高くてエッジの効いたメンバーは、珍しいと思います。例えば田畑さんは、公衆衛生を海外で学び、タイで感染症対策に取り組んできた経験があります。WHOや国連ならこうした経歴のスタッフもいるかもしれませんが、事業会社では希少。角野さんは、虫防除に関する国家資格の講師を務める害虫のスペシャリストです。

 

井上 ライアンさんは、どのような事業に携わっているのでしょう。

 

ライアン ベトナムの貧困地域に家を建てたり、衛生環境を改善したりといった海外事業を担当しています。ESG関連のデータ分析、英語によるレポートの作成なども行っています。

ライアン・グィン・フィンさんは、グローバルマーケティング企業や海外営業に携わっていた

 

井上 これだけエッジの効いた方々が揃っていると、面白い活動が生まれそうです。

 

生態系を崩さず、蚊媒介感染症を防ぐ

井上 さまざまな取り組みの中でも、ASEANなどの途上国に向けた蚊媒介感染症対策はアース製薬ならではだと感じました。蚊を駆除するのではなく、ボルバキアという共生細菌に感染させることで、蚊の個体数を下げることなく蚊媒介感染症罹患率を下げるという手法がユニークです。

井上自身も途上国での活動経験がある

 

田畑 蚊に接種したボルバキアは親から子へ受け継がれます。そのため、ボルバキアに感染した蚊の卵を公園などの木に吊るし、蚊媒介感染症を引き起こさない蚊を増やすという地道な活動を行っています。熱帯医学研究を行う、ホーチミン・パスツール研究所とも協働し、蚊の卵や幼虫を育てる設備も設けました。こうした活動により、生態系を崩さず、蚊媒介感染症の発生率を抑えることができる体制が整ってきました。

 

井上 感染症と言えば、近年では新型コロナウイルス感染症がまず頭に浮かびますが、ASEAN諸国では新型コロナよりもデング熱が喫緊の課題なのでしょうか。

 

田畑 デング熱などの感染症は、アフリカやアジアの途上国で大きな問題になっていますが、なかなか注目されることがありません。そのため、こうした病気は「顧みられない熱帯病」と呼ばれています。新型コロナウイルス感染症のワクチンはすぐに完成しましたが、デング熱のワクチンがなかなか開発されなかったのは、こうした理由もあります。もちろん創薬の難しさの違いもあると思いますが、根深い問題が横たわっているのも事実です。

 

「蚊に刺される=感染」という、日本にはない危機意識

井上 蚊媒介感染症対策を行う上で、現在もっとも注力している国はベトナムですか?

 

桜井 現在はベトナム、タイが中心ですが、今後はフィリピン、マレーシアなど現地法人がある国を起点に取り組みを拡大していきたい考えです。

 

田畑 世界では、この6カ月で約10万人ものデング熱患者が発生しています。アース製薬がWMPを通じて支援しているのは、当社工場があり、なおかつデング熱の罹患率が高い地域です。

アースコーポレーションベトナムの工場

 

ライアン 今後取り組みを拡大する際には、先ほど挙げた4カ国の現地法人が同じビジョンを持ち、同じアクションを起こしていくことが必要です。そのため、CSR報告書の英語版も作成しています。

 

井上 私はパプアニューギニアでマラリアに罹ったことがあるので、蚊には強い恐怖を感じます。日本と海外では、蚊に対する意識も大きく違いますよね。

 

田畑  タイなどでは「蚊に刺される=感染」という認識です。以前は、デング熱が蚊媒介感染症であるという認識が地方では低かったのですが、啓発活動を進めれば、意識が高まっていきます。

 

井上 そういえば、先ごろアース製薬のタイ現地法人が販売する蚊とり線香を、「アース虫よけ線香モンスーン」として日本でも販売開始されたそうですね。今後も、途上国向けの製品を日本に“逆輸入”することはあり得るのでしょうか。

タイの現地工場での生産風景

 

角野 あり得ます。海外のヒット商品を日本仕様に変更して発売することもありますし、「アース虫よけ線香モンスーン」のように販売するケースも増えるのではないでしょうか。グローバルの研究部と日本国内の研究部が互いに刺激し合い、切磋琢磨しながらより良い商品を開発できたらと考えています。

 

井上 近年、アース製薬では虫よけ線香や液体蚊とりを「殺虫剤」ではなく「虫ケア用品」と称していますね。

 

桜井 やはり“殺”という言葉には、ネガティブなイメージが付きまといます。私たちが目指すのは、虫を殺すことではなく人間を虫から守ること。人間と虫の住空間を分け、人間の生活をケアするという意味合いで、「虫ケア用品」と呼ぶようになりました。

 

角野 生態系を構成している生物は、必ず何かしらの役割を担っています。例えばボウフラは、汚泥を餌にしているので水を浄化してくれますし、他の生物の餌になります。オスの蚊は花の蜜を吸うため、受粉の手助けもしています。人間から見れば蚊は鬱陶しいだけの生き物かもしれませんが、ウイルスからすれば自分たちを拡散してくれるありがたい存在。そういった視点を忘れてはならないと思います。

角野さんの虫に対する造詣の深さに、推進室のメンバーも驚かされることがしばしば

 

海外でのSDGsビジネスは時間がかかる。大切なのは、長期的な視野を持つこと

井上 ASEANにおける虫媒介感染症対策は、現地の政府やNGOなどと連携して取り組みを行うケースも多いのでしょうか。

 

田畑 そうですね。現地大学と帝人フロンティアとの3者共同プロジェクト、JICAのSDGsビジネス支援事業など、さまざまな形で現地機関と連携しています。また、日本の技術を紹介すると、現地の方から「ぜひ一緒に製品開発を」とお声がけされることも多々あります。そういう時には、ローカルの方々との協働がポイント。開発する製品も現地に根づいたものになり、事業が継続的に広がっていきますから。

JICAの支援事業で活動する田畑さん(写真右)

 

角野 逆に、日本の技術をそのまま持ち出し、「これを使ってくれ」と言ってもまったく広まりません。日本とは習慣や文化が違うので、現地にアジャストさせる必要があるんです。手っ取り早いのは、現地の方々と一緒に取り組むことですね。

 

井上 国内にとどまらず、現地の人も巻き込んだグローバルなオープンイノベーションを促進しているんですね。

 

田畑 以前、国際協力、人道支援を行っていた時に学んだことですが、主役は現地の方々。彼らに「自国の人々の役に立ちたい」という思いがあると、現地に根差したものが生まれると思います。

 

井上 その考え方は、人道支援に限らずビジネスでも有効なんですね。

 

田畑 そう信じています。長年ODAに携わっていると、支援がどのように始まり、どのように終わるのか見えてきます。長く継続するのは、現地の方々が主体になって推進するプロジェクト。ビジネスにおいても、確実に同じことが言えます。モノや技術だけポンと渡すだけではダメ。丁寧にキャパシティ・ビルディング(目標を達成するために、その組織が必要な能力を構築・向上させること)を進めることが重要です。

 

角野 プロジェクトが終わってからも、定期的にモニタリングし、フォローする。それくらいやらなければ継続は難しいと思います。

 

井上 そうなると、事業化までかなりの時間がかかるケースも多くなると思います。最初から長期スパンで事業計画を立てるべきということでしょうか。

 

田畑 確かに時間はかかるので、企業が新規事業として継続するのはなかなか難しいかもしれません。本当にその国の社会課題を解決したいのであれば、長いスパンで考えるべき。と言っても、余裕のある企業でなければできないわけではありません。大切なのは、長期的な視野を持つことだと思います。

 

井上 プロジェクトを長く続ける熱意も必要。推進室には、情熱と突破力を併せ持つメンバーが揃っているんですね。現地でプロジェクトを進めるうえで、障壁になること、課題を感じていることはありますか?

 

田畑 文化や感覚の違いは、大きな課題です。例えば、日本では手を洗うことが当たり前ですが、「清潔」に対する意識が違うと、手洗いの習慣もなかなか根づきません。こうした単純な違いのほかに、宗教に基づく思想、長年にわたって培われてきた価値観、心情なども障壁となることがあります。

 

角野 現地でプロジェクトを進める際には、まず我々の常識を取り払うところから始まります。わからないことは現地の人に聞く。製品開発においても、現地でのモニタリングやアンケートは非常に重要。例えば、虫ケア用品には香りをつけることが多いのですが、「絶対にこの香りが好きだろう」と日本人が満場一致で選んでも、現地でリサーチすると全然違う結果になることも。日本の常識は持ち込まないというのが、大前提です。

 

井上 それだけ価値観が違うと、「手を洗いましょう」と啓発しても根づかせるのは難しそうです。

 

角野 そうなんです。ですから、「なぜ手を洗う必要があるのか」という前提から説明する必要があります。大人は今までに身についた習慣があるので、なかなか浸透しません。そこで、幼稚園や学校など小さなお子さんに指導し、自宅でも実践してもらうようにしています。そのうえで「だから石鹸が必要なんだ」と理解してもらう。こうした啓発活動が重要です。

 

田畑 大事なのは、衛生状況をいかに改善し、感染症の発生率をいかに抑えるか。理由がわかれば納得し、行動変容につながる。もちろんその結果、当社の商品が売れればWin-Winですが、人道支援的な立場から言えば、感染症が抑えられるなら、どこの製品を使っていただいてもいい。ちなみに私自身がNGO団体からタイに派遣された時は、アース製薬の製品を国境地域で使っていました。当社の製品は、現地のラストワンマイル(顧客に製品が届く物流における最後の接点)で、消費者の方々に選んでもらえる商品力があると思います。

NGO団体での活動経験を現職にも活かしているという田畑さん

 

井上 長年培ってきた土台があるのは強みですよね。ローカルでも戦える商品力、価格競争力があるからこそ、現地の方々に選ばれる。その土台があるから、今求められる社会課題の解決にも貢献できているのでしょう。

 

地球との共生を考える、アース製薬の未来像

井上 最後に、皆さんの今後の展望や、推進室で挑戦したい事業についてお聞かせください。

 

ライアン どの国でサステナビリティ活動を展開するにしても、まず優先すべきはその地域の方々です。現地の方々とともに成長し、次のステップとして、ともに経済的に発展していく。これまでは製品を売ることが最優先でしたが、推進室では現地の方々の思いを大切にしています。そこに魅力を感じますし、今後もその地域の方々のことを第一に考え、事業を展開していきたいと思っています。

ベトナムで活動するライアンさん

 

田畑 今回は虫媒介感染症の話をさせていただきましたが、私個人としては「MA-T」の事業展開に注目しています。「MA-T」は、感染症予防だけでなくメタンからメタノールを製造するなど、気候変動、地球温暖化の問題にもリーチできる可能性を秘めています。「MA-T」の除菌剤が国連調達品となり、難民キャンプや紛争地、災害発生地で活用されることが私の願い。地球規模の課題を解決する際には、経済、教育などの格差が障壁となりますが、「MA-T」はこうした格差を埋める一助にもなると確信しています。

 

角野 まずは、当社のサステナビリティ活動の基盤づくりをしっかり進めていきたいと思っています。また、ESG評価機関などへの情報開示も推進室の重要な使命。個人的な展望としては、生物を殺すのではなく生かす取り組みに、さらに力を入れたいと思っています。昨今は気候変動、資源循環、生物多様性といった地球環境問題への対応が求められていますし、アース製薬もその流れに乗り遅れるわけにいきません。実はアース製薬は、飼育昆虫の数や種類が日本一。その経験や技術を生かし、希少な在来種の保護・保全に貢献できたらと思っています。

 

【取材を終えて~井上編集長の編集後記】

どんな会社でも創業時には熱い想いをもって事業を展開していると思いますが、時間がたつとその想いが薄れるケースも多いと思います。アース製薬は創業から130年たった今でも、全ての社員が「お客様のお困りごとを解決する製品を販売する」という認識をもっているそうですが、これは並大抵のことではなく、ビジョンをしっかり社内に浸透させ続けてきた、これまでの会社の努力があったのだと思います。明確なビジョンを持ち、そして魅力的な人材が集まっているアース製薬が、どういう活動を展開されていくのか、今後が非常に楽しみです。

 

【この記事の写真】

 

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

 

取材・文/野本由起   撮影/干川 修

過剰な節水は逆効果!? 日本人が知らない「水」という資源をめぐる現状と未来

水道の蛇口から出てくる水が、どこから来ているか知っていますか? また、使った水がどこへ流れていくか知っていますか? おそらく、ほとんどの人が答えることができないのではないでしょうか。

 

毎日のように使っていながら、滅多に考える機会のない「水」のこと。今、世界ではこの「水」が、大きな問題となっています。国連ニューヨーク本部 経済社会局 環境審議官を経て、現在はグローバルウォータ・ジャパンの代表を務める吉村和就さんに、今知っておくべき「水資源の現状と課題」について教えていただきました。

 

水の問題に目を向ける意味とは?

年々、関心の高まるSDGs。その中には、水に関するものとして目標6.「安全な水とトイレを世界中に」も含まれています。しかし吉村さんによれば、水資源とSDGsの関係はそれだけではないのだとか。

 

「水資源の賢い活用が17項目すべての達成につながると、私は考えています。なぜなら、かつて四大文明が川の近くから発展したように、水が人間生活の基本財源と言えるからです。貧困、飢餓、健康は、安全に飲める水や農業に使える水があれば、解消していくことができます。また、教育とジェンダーの平等には、不平等を強いられている子どもや女性の多くが、一日の大半を水汲みに費やしていることが問題のひとつです。そのため、近くに共同水栓ができれば、子供や女性の負担が減り、教育・雇用の機会が得られるのではないでしょうか」

「しかしSDGsに対する興味・関心が高まる一方で、水資源について深く考える人はそう多くありません。海に囲まれ、列島の真ん中に山が連なる日本は、水資源が潤沢です。そのため、日本人にとっては水の存在が当たり前になっているのです」(吉村和就さん、以下同)

 

地球上の水資源のうち、
生活に使える水はたったの0.8%

あまり深く考える機会のない水資源ですが、実は世界規模で考えるとさまざまな問題が起こっています。なかでもとくに問題視されているのが「水不足」。一体何が起こっているのでしょうか?

 

「正確に言うと、水の量は減っていません。地球上には14億立方キロメートルの水資源があり、それらは気体(水蒸気)、液体(海水と淡水)、個体(氷山)の3つに分けられます。それが、地球温暖化の影響で個体(氷山)が溶け、液体(海水と淡水)が蒸発し、気体(水蒸気)の割合が増加しているのです」

「水の状態は一定ではなく、地球の温度や自転によって変化します。これまでは気体(水蒸気)が雨や雪に変わり、液体(海水と淡水)と個体(氷山)へと戻っていました。そして私たちは、液体(淡水)を生活に使ってきました。しかし気体(水蒸気)が増えると、雨や雪ではなく局地的な大雨や台風などの異常気象による自然災害を引き起こします。その上、その水は生活に使うことができません。

 

その結果、いま地球上にある水資源のうち、生活に使える水はたったの0.8%しかなくなっています。地表面にあり、安全ですぐに飲むことができる水に限ると、0.01%しかありません。つまり水不足=私たちが生活に使うことができる水の量が減ってしまうということなのです」

 

水不足になって困ることは、
飲み水の不足ではない

2022年7月11日、国連人口基金は「2022年11月に地球人口が80億人を突破する」と発表しました。さらに「そのうち32億人(約40%)が水不足に直面する」と予想しています。日本に住んでいると少し縁遠い話のようにも感じますが、水不足になると具体的にどういったことが起こるのでしょうか?

「水と聞くと飲料水や生活用水を思い浮かべる方が多いと思いますが、実は世界における水需要の割合は、農業用水が70%、工業用水が20%、生活用水が10%です。そのため、水不足に陥った際、農業にもっとも大きな影響が出てきます。2番目に多い工業用水とは産業活動に使われる水のことで、なかでも電気などのエネルギーをつくる際は、蒸気や冷却水が欠かせません。さらに地球温暖化の影響で冷却水の温度が上がっているため、これまでよりも多くの水が必要になっています。このように、水不足が深刻化するとエネルギーの供給にも影響が出てきます」

 

日本も安泰じゃない!
水道事業が直面する3つの問題

水資源を取り巻く諸問題。それは日本も例外ではありません。実は、安全な飲み水が確保されている日本ならではの問題が、まさに今起こっているのです。

 

「日本の水道普及率は98%と、世界でもトップレベルを誇ります。しかし現在、日本の水道事業には『ヒトなし・モノなし・カネなし』という3つの問題が渦巻いています」

 

ヒトなし
高齢化によりベテランの水道技術者が退職。技術を継承する若手も不足している。

モノなし
日本の水道設備は、戦後の高度経済成長期にあたる1955~1973年に一気に普及。約40年が過ぎると老朽化していくため、交換が必要な設備が年々増えている。

カネなし
人口減少に伴い、水道料金の収入がここ10年で約2千億円減少。老朽化した設備を交換することができない。また、地球温暖化の影響で水道原水に微生物が増え、今まで以上にろ過に費用がかかっている。

 

「非常に厳しい状況が続く水道事業。追い打ちをかけているのが、節水機能のついた電化製品の普及です。実は水問題の観点から言うと、節水はあまり推奨することができません。というのも、使用する水の量が減ると、おのずと水道事業体に入るお金も減ってしまいます。水道には国費が使われておらず、すべてを水道料金でまかなっているため、水道料金による収入が減れば減るほど、設備の改修などに使えるお金も減ってしまうという側面があるのです」

 

未来の水資源のために
「水・食料・エネルギー」を三位一体で考えよう

これまで私たちは当たり前のように水を使ってきましたが、今後も同じ使い方をしていけば暮らしに影響が出てくる可能性も否めません。日本の水資源の未来のために、何をすべきなのでしょうか?

 

「水資源の未来を考える上で大切なのは“水と食料とエネルギーを三位一体で考えること”です。再生利用可能な資源をうまく循環させ、効率的に使うことが最高のSDGsと言えるのではないでしょうか。

例えば、国土交通省は2013年から『BISTRO下水道』を推進しています。これは再生水、汚泥肥料、二酸化炭素などの下水道資源を農作物の栽培に利用する取り組みです。『食べ物に下水を使って大丈夫なの?』と心配になる方もいるかもしれないですが、下水道資源には窒素やリンなどの農業に有用な物質がたくさん入っています。むしろ最高の肥料とも言えるのです。

また、私は水を地域で循環させることも、日本の水資源の未来を守る上で有効な策だと考えています。というのも、水は浄水場から管を通って各家庭へと運ばれていきます。当然、水を運ぶにはエネルギーが必要であり、エネルギーを使えば使うほど水資源も消費してしまいます。各地域で水をつくり、使い、処理することで、最低限のエネルギー消費に抑えられるのではないでしょうか。

実はこれをうまく行っていたのが、江戸時代なのです。当時は山や川を境目に地域が分けられており、雨が降ると、山の高低差や川の流れなどの自然の力で地域内を循環していました。エネルギーを使わずにきれいな水を使える、まさに地産地消として理想的な水循環の形です」

 

「そして、皆さん一人ひとりにも、水と食料とエネルギーを三位一体で考えていただきたいと思います。たとえ節水をしても、エアコンでエネルギーを消費すれば、結局たくさんの水を使ったことになりますよね。“点”ではなく“線”で物事を考えて、水を賢く使っていきましょう」

 

【プロフィール】

グローバルウォータ・ジャパン代表 / 吉村 和就(よしむら かずなり)

大手エンジニアリング会社で営業、開発、市場調査、経営企画に携わり、1998年より国の要請で国連ニューヨーク本部に勤務。環境審議官として発展途上国の水インフラの指導を行った。その後、グローバルウォータ・ジャパンを設立し、各種メディアや講演を通じて水問題について判りやすく解説している。著書に『世界と日本の水事情』(水道産業新聞社)、『最新水ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本』(秀和システム)、『水に流せない水の話~常識がひっくり返る60の不思議~』(角川文庫)など。
グローバルウォータ・ジャパン HP

ニードルチップの書き味も超優秀! 最強のSDGsボールペン「ペノン」が背負うメッセージとは?

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第23回となる今回は?

 

第23話

ペノン
PENON フラッグペン S ウクライナ
1400円(税込)

フラッグペンはロングとショートの2タイプあり、パッケージを組み立てると専用のペン立てが完成する。6月には「フラッグペン L アニマル」シリーズにシマエナガ・キツネ・クマの新柄が登場。8月より名入れサービスも開始予定だ。

 

アクチュアルなメッセージ性を持つボールペンに平和を祈念

クラウドファンディングで話題となったゲルインクボールペン「ペノン」は、2021年9月から一般販売が始まりました。

 

ノックパーツに小さな刺繍の旗が付いた「フラッグ」シリーズや、ネクタイやメガネをモチーフにしたモデルなど、どれもまず雑貨としてかわいい。それでいてニードルチップの書き味も優秀で実用性も十分(某国内メーカーの協力を受けているそう)。さらに本体には森林認証された木材を用い、パッケージも脱プラ仕様。また、替え芯のリサイクルシステムを独自に構築するなど、SDGs的な配慮とその実践が素晴らしく、まさにいまの時代に相応しい優等生的なプロダクトと言えるでしょう。

 

加えて今回、どうしても皆さんに知ってほしいことがあります。それは、全34か国ある「国旗」シリーズを買うと、売上の一部が国連の難民支援機関に寄付される仕組みになっていること。この試みは2021年暮れに始めたものだそうですが、最近になってウクライナ国旗の注文が増えたため、公式サイトでも目立つ位置に置くようにしたそうです。

 

私も長年文房具について書いてきましたが、このようなアクチュアルなメッセージ性を背負ったボールペンってちょっと記憶にありません。「Tシャツはメディアである」なんて言い方がありますが、ボールペンもまた然り。実はこの原稿もウクライナ国旗のペノンで書きました。しばらく使い続けようと思います。平和を祈って。

 

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】バックナンバー

【第1話~第21話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第22話】緩急自在! ペンの気軽さで万年筆の情感を込められるぺんてる「プラマン」で、美文字の窮屈さから逃避せよ https://getnavi.jp/stationery/752272/

SDGsの遥か昔から取り組むキーコーヒーの「再生事業」

本記事は、2022年2月21日にGetNavi webで掲載された記事を再編集したものです

 

目覚めの時やちょっとした休息の際など、コーヒーは欠かせない飲み物のひとつ。いまやスペシャルティコーヒーをはじめ、さまざまな個性豊かなコーヒー豆が日本でも楽しめますが、そんななか、フローラルな香りと柑橘系の果実のような酸味で高い評価を受け続けているコーヒーが、キーコーヒー株式会社の「トアルコ トラジャ」です。そのトラジャコーヒーですが、かつては絶滅の危機に陥ったこともあるそう。それを救ったのが同社の再生事業でした。

 

“幻のコーヒー”を見事に再生

トラジャコーヒーとは、インドネシア・スラウェシ島のトラジャ地方で栽培されるアラビカ種のコーヒーのことです。18世紀には希少性と上品な風味がヨーロッパの王侯貴族の間で珍重され、「セレベス(スラウェシ)の名品」と謳われていました。しかし第二次世界大戦の混乱で農園は荒れ果て、トラジャコーヒーも市場から姿を消すことに。そんな幻のコーヒーに着目し、サステナブルな要素を踏まえた取り組みにより、約40年の時を経て復活させたのがキーコーヒーでした。

 

「トラジャコーヒーは、スラウェシ島のトラジャ県で栽培されるアラビカコーヒーを指します。その中から独自の基準により、品質の高い豆として認定したものが『トアルコ トラジャ』という当社のブランドです」と話すのは、2015年~2019年まで現地で『トアルコ トラジャ』の生産に携わっていた同社広域営業本部の吉原聡さんです。

広域営業本部 販売推進部 担当課長 吉原聡さん

 

「トラジャコーヒー再生の発端は、1973年に当社(旧・木村コーヒー店)の役員がスラウェシ島に現地調査に行ったことでした。トラジャ地区(県)の産地は島中部の標高1000~1800mの山岳地帯にあり、当時はジープと馬を乗り継ぎ、さらに徒歩でようやくたどりつけるような難所だったそうです。たどり着いた先で彼が目にしたものは、無残に荒れ果てたコーヒー農園。しかしそんな中でも生産者(農民)たちは細々とコーヒーの木を育て続けていました。そこで当社は再生を決断したのですが、そこには“この事業の目的は一企業の利益にとどまらず、地元生産者の生活向上、地域社会の経済発展に寄与し、さらにはトラジャコーヒーをインドネシアの貴重な農産物資源として国際舞台によみがえらせることが重要”という強い意志があったと聞きます」

 

さっそく同社は、翌1974年にトラジャコーヒー再生プロジェクトの事業会社を設立。1976年にはインドネシア現地法人「トアルコ・ジャヤ社」を設立し、“トラジャ事業”を展開していきました。さらに1978年には日本で『トアルコ トラジャ』として全国一斉発売。そして1983年には直営のパダマラン農園での本格的な運営も始まったのです。

「トアルコ トラジャ」を使用した商品。簡易抽出型や缶などいろいろなタイプで販売されている

 

地域一体型事業における“3つのP

「トラジャコーヒーの再生は、トラジャの人たちと共に築き上げてきた地域一体型事業そのものです。それを踏まえた上で、「Production」「People」「Partnership」という3の“P”を事業の根幹に据え、取り組んできました。

 

まずProduction」は、自然との共生と循環農法です。環境保護に努めることがコーヒーの品質維持や現地の人たちの生活の保護にも寄与します。自然との共生という部分では、農園の約40%を森林に戻したり、水洗時の排水のチェックを徹底したりしています。また土壌を守るため、コーヒーの木の周りにマメ科やイネ科の植物を植え(カバークロップ:土壌侵食防止目的に作付けされる)、さらに直射日光を遮るための樹木も植えています。そして脱肉後の果肉を堆肥として利用したり、脱殻後のパーチメント(種子を包んでいる周りのベージュ色の薄皮)を乾燥機の燃料にするなど循環農法を実施。持続可能な農業を地道に行っています。直営パダマラン農園は、これらの取り組みを認められ、熱帯雨林を保護する目的の「レインフォレスト・アライアンス認証」を受けています。

直営パダマラン農園

 

「People」は言葉通り、人を意味します。生産者、仲買人、そして現地社員の協力の元でトラジャ事業は成り立っています。『トアルコ トラジャ』で使用するコーヒー豆の全生産量のうち、直営のパダマラン農園で作られるのは約20%で、残り80%は周辺の生産者や仲買人から購入しています。生産者には当社からコーヒーの苗木や脱肉機を無償提供し、オフシーズンには生産者講習会を開き、剪定や肥料のやり方、脱肉機の操作方法を指導。年に1回、『KEY COFFEE AWARD』を開催し、その年に優良なコーヒー豆を育てた生産者を表彰して労うことも行っています。また、現地の人たちの負担を軽減させるために、片道2時間ぐらいかけて標高の高い地域まで出向き、その場で豆の品質をチェックし買い付けする出張集買を行っています。現地の人たちとの二人三脚、協力体制を大切にし続けているのです。

出張集買は日時を決めて数カ所で開催される

 

そしてPartnership」は地元政府や地域との連携です。道路のインフラ整備や架橋への協力、生産者の子どもたちが通う学校へのパソコンの寄附も行っています。またインドネシアでは、コーヒーの粉を直接カップに入れて上澄みをすすったり、砂糖をたっぷり入れたりして飲むのが一般的です。そこで『トアルコ トラジャ』の美味しさをこの島の人たちにも伝えたいと、コーヒーショップのオープンをはじめ、ドリップコーヒーの普及にも努めています」

スラウェシ島の中心都市マカッサルにあるキーコーヒーのコーヒーショップ

 

同社の取り組みは、幻のコーヒーを再生しただけにとどまりません。

 

「トアルコで働くことで4人の子どもを大学に進学させることができた」「トアルコ社に良質なコーヒー豆を買ってもらい、ワンシーズン働いただけでバイクが買えた」など、現地の人たちの生活向上にも大きく貢献していると言います。

 

コーヒー豆の生産量が半減する!?「2050年問題」

このように順調とも思える同事業ですが、一方で近年、コーヒーの生産について世界規模での懸念があるそうです。

 

「2050年問題といいますが、地球温暖化によりコーヒーの優良品質といわれるアラビカ種の栽培適地が、将来的に現在の半分に減少すると予測されています。このまま何も対策を取らないと、コーヒー豆の生産量の減少や品質の低下、そして生産者の生活を奪うことになります。そこで、アメリカに本部を置く“World Coffee Research(WCR)”という機関と協業で、病害虫や気候変動に負けない品種開発の実験(IMLVT:国際品種栽培試験)を直営パダマラン農園で行っています。Partnershipともリンクしますが、世界的なトライアルに参画し、共にこの問題を解決していきたいと考えています。このほかにも、当社は様々な研究を行っており、生産国や品質の多様性を守る活動にも力を入れています」

2017年のIMLVT開始時の様子

 

SDGsを念頭に入れた事業展開

社会貢献に対する意識は、創業当時から高かったという同社。例えば、環境保護や生産者の支援につながる「サステナブルコーヒー」という考えを元に、「レインフォレスト・アライアンス認証」を受けたコーヒー農園の商品の取り扱いや、国際フェアトレード認証制度に基づき、経済的、社会的に立場の弱い発展途上国の生産者や労働者の生活改善、自立を支援する取り組みなども早くから行っています。また、環境に配慮したパッケージの切り替え、食品ロスの削減にも取り組んできました。

 

「東日本大震災以降は、10月1日のコーヒーの日にチャリティブレンドを販売。日本赤十字社を通して売上金の一部と基金を被災地や世界の貧しいコーヒー生産国の子どもたちへ寄付し続けています。また100周年の創業記念日(2020年8月24日)には、コーヒーの未来と持続可能な社会の実現に貢献していくために、従業員からの募金を主とする『キーコーヒー クレルージュ基金』を設立しました。募金を通じて、コーヒー生産国の社会福祉や自然環境の保護をはじめ、災害支援についても機動的な支援を行っています。

「キーコーヒー クレルージュ基金」でコーヒー生産国を支援

 

近年SDGsという言葉がよく使われるようになりましたが、最近はお客様の意識はもちろん、取引先様がSDGsを踏まえての事業を展開することが増えています。我々としてももう一度様々な事業を整理し、当社として何をどう提案でき、どんな課題にどう対応できるのか、改めて考えていきたいと思っています」

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

 

SDGsの「目標4:教育」に警鐘! 活路はアフリカへの「オンライン教育」の技術提供か

9月19日、米国・ニューヨークの国連本部で「トランスフォーミング・エデュケーション・サミット(TES)」が開催されます。このサミットは、「質の高い教育をみんなに」という目標を掲げる持続可能な開発目標(SDG)4の実現に向けて、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が国際社会の協力を強化するために構築した「グローバル・エデュケーション・コーポレーション・メカニズム」の一環。SDG4は2030年までに「教育への普遍的なアクセス」の実現を目指していますが、実はいま、この計画が危機的な状況に陥っているのです。

どうすれば世界は結束するのか?

 

TESに先行して、ユネスコは7月に『2022 SETTING COMMITMENTS』というレポートを発表しました。SDG4には、退学率やジェンダーギャップなど7つの指標があり、それぞれの目標が達成されるために、世界各国がどれだけ貢献するかを決めています。ユネスコは各国の取り組み状況を調べ、以前よりも多くの国がSDG4の実現に向けて取り組むことを約束した、と同レポートで述べています。しかし、前向きな材料はそれ以外にほとんどなかった模様。

 

現状は厳しいようです。同レポートの主な論点は、2030年までにSDG4を達成するのが難しいということ。たとえ各国の取り組みが順調に進んだとしても、未就学の児童や青少年の数は2030年までに約8400万人に上る見込みと言われています。また、同年までに初等教育(日本では小学校に当たる)を修了することができる子どもの数は世界中で3分の2以下とされる一方、ほぼ全ての子どもが中等教育(中学校と高校)を終えることができそうな国の割合は、6か国中わずか1つ。「普遍的なアクセス」と呼ぶには程遠い状況です。

 

これを受けて、国連は警鐘を鳴らし始めました。ECOSOC(国際連合経済社会理事会)のコレン・ヴィクセン・ケラピ議長は、途上国と先進国の間で教育格差が拡大しており、その中でもアフリカの教育環境が最も脆弱であると述べています。新型コロナウイルスのパンデミックがこの傾向に拍車をかけていることは明白ですが、「仮にいまアフリカ諸国がオンライン教育に舵を切っても、オンライン教育を行うための技術的な方法がない」とケラピ議長は指摘。持てる国が持たざる国と技術や方法を共有する必要があると論じています。

 

SDG4を達成するためには、先進国と途上国の結束が重要。これからも国連の機関は従来の指標を使って各国の取り組みを測定します。危機的な状況下にある国を支援するためには先進国の指導的役割が不可欠ですが、オンライン教育や回線接続環境などにおいては、民間企業を含めた国際協調体制の構築が強く求められるでしょう。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

「カルディ」「コストコ」だけじゃない! 独自の激ウマフードで注目度上昇中のショップ4選

国内外のウマいものが集まる人気店の代表格といえば「カルディコーヒーファーム」や「コストコ」がある。しかし、そこでしか買えない美食が豊富に集まる人気店はほかにも多数。ここで紹介する4店はそれぞれ、フランス発、スイーツ店、アジア専門、AmazonPBと、ジャンル別に注目度が上昇中のNEXT殿堂ショップだ。

※こちらは「GetNavi」2022年7月号に掲載された記事を再編集したものです。

私が選びました!

フードアナリスト

中山秀明さん

食のトレンドに詳しいライター兼フードアナリスト。最近はインパクト大な自家製惣菜を販売するご当地スーパーの躍進に注目している。

 

<Shop No.1>ビオセボン

オーガニックと環境に配慮した食材が多彩に揃う

東京と神奈川に28店舗(2022年5月現在)展開する、仏国・パリ発のオーガニックスーパー。サステナブルにも配慮し、バルクフーズの商品が豊富なのも特徴だ。

 

【オススメ1】ひまわりの種がベースの個性豊かな有機ペースト

MUST BUY!

ズヴェルゲンヴィーゼ

ヴィーガンスプレッド

各322円

有機ひまわりの種をベースに、野菜や果物、ハーブ、スパイスなどを入れて作られた塗りやすいペースト。バジルやマンゴーカレーなど全7種の味があり、パンに塗るほか、ドレッシングや、パスタソースなど幅広く楽しめる。

 

【オススメ2】ローチョコの名門から世界に先駆けて販売

カカオクルード

オーツミルクローチョコレート

430円

原材料を非加熱、または低温で加工したローチョコレートをイタリアで初めて製造したブランドから、世界に先駆けてビオセボンが輸入調達。クリーミーでなめらかなローチョコの味は新感覚のおいしさだ。

 

【広報さんの推し!】

コンヴィーヴィア

オーガニックベジタブルソース(トラパネーゼ)

754円

「トラパネーゼ」は、イタリア・シチリア西海岸の伝統的料理ペースト。トマト、アーモンド、にんにく、バジルとワインビネガーで仕上げられている。

 

<Shop No.2>シャトレーゼ

絶品のお菓子やケーキがリーズナブルに揃う人気店

山梨で1954年に創業し、国内に約640店舗を展開。和洋菓子、アイス、パンなどを販売し、契約農家と自社工場を連携させた、おいしく低価格な商品が人気だ。

 

【オススメ1】カカオの奥深いコクとなめらかな食感が美味

MUST BUY!

ベルギー産クーベルチュール使用ショコラバー

1本75円

ベルギー産クーベルチョコレートをアイス部に100%使用し、その周りは口溶けの良いスイートチョコでコーティング。シンプルな仕立てだからこそ、カカオの風味豊かな素材の味と、なめらかな食感を存分に味わえる。

 

【オススメ2】チョコ好き垂涎の贅沢ショコラケーキ

生チョコ大福バトン

1296円

シリアル入りホワイトチョコを入れたクリームをココアスポンジでサンドし、チョコクリームをたっぷり重ねたケーキ。トッピングにはチョコソース、生チョコレート、生チョコ大福と、チョコレート尽くしの人気商品だ。

 

【広報さんの推し!】

チョコバッキー

1本64円~

アイスの中に、軽快な食感のスイートチョコがランダムかつどっさり。パリッとバキッとしたメリハリが心地良く、累計販売数は2億本を突破した。定番のバニラほか全4種がある。

 

<Shop No.3>亜州太陽市場

まだ見ぬアジアの美食がズラリと並ぶ個性派店

ラオックスの新業態として、2021年11月に1号店が吉祥寺に開業。中国やインドなどアジア各国の食品を1400種以上揃え、個性的なセレクトに注目が集まっている。

 

【オススメ1】本場の味を現地の老舗が絶妙なスパイス感で表現

MUST BUY!

ギッツ

パラックパニールカレー

419円

インド北西のパンジャブ地方を中心に愛される味を再現したレトルト食品。クリーミーなほうれん草のカレーに、硬い豆腐のような歯応えのカッテージチーズが入っている。現地の老舗ブランドが手掛けた本格スパイス感で絶品。

 

【オススメ2】多彩なスパイスの刺激が甘やかな味わいと一体に

キッチン88

プーパッポンカレー

378円

かにのほぐし身と鶏卵を、ココナッツミルクをベースにまとめたレトルトカレー。香り高くクリーミーで甘やかなテイストの奥に、多彩なスパイスの刺激が華やぐおいしさだ。食べ進むうちに感じる、唐辛子のエッジも心地良い。

 

【広報さんの推し!】

海底撈

自煮火鍋(マーラー牛肉)

1283円

中国・四川の有名チェーンが手掛ける即席鍋。マーラースープで牛肉、春雨、野菜などを味わう火鍋だ。蒸気と発熱剤の熱の相乗効果を活用し、水だけで調理できる。

 

<Shop No.4>Happy Belly

Amazonが手掛ける食のプライベートブランド

1995年に米国で創業、2000年にオープンしたAmazonが、2016年より日本でスタートした食品・飲料PB。日常食であるドリンク、米、パスタ、カレーなどが揃う。

 

【オススメ1】清流の里から届けられるきわめて軟らかな天然水

MUST BUY!

Happy Belly 天然水 岐阜・養老 500ml×24本

1473円

名水の産地として知られる、養老山地の伏流水を起源とする地下100mの井戸から採水。硬度は15と、国内屈指の軟らかさも魅力だ。出荷前にすべての水で品質検査と微生物検査を毎日行い、さらに専用の箱入りで届けてくれる。

 

【オススメ2】特別なコシヒカリ本来の甘みやねばりが味わえる

パックご飯 新潟県産こしひかり 200g×20個(白米) 特別栽培米

2624円

原材料は新潟県産の特別栽培米コシヒカリと自然豊かな新潟県魚沼地域の水のみ。酸味料や保存料を一切使用していないため、異臭や雑味のないコシヒカリ本来の甘みやねばりが楽しめる。

 

【広報さんの推し!】

黒烏龍茶 350ml×24本

2096円

BMIが高めの人の体脂肪を減らす機能が報告されている、「ローズヒップ由来ティリロサイド」を配合した機能性表示食品。中国福建省産茶葉のすっきりとした後味で、食事とも好相性だ。

 

※「Happy Belly」の価格は2022年5月11日時点のもの。各商品は価格変動の可能性と在庫に限りがあります

SDGsが悪用されている!?「グリーンウォッシュ」の問題と私たちができること

サステナブル、エコ、地球にやさしい……。あらゆるモノやサービスに添えられる環境保護のうたい文句ですが、何を根拠にその言葉を信じるか、自分なりに考えてみたことはありますか? いま世界中で起こっている見せかけだけのエコ=「グリーンウォッシュ」の問題と、賢い消費者になるために今日からできることについて考えます。

 

「グリーンウォッシュ」「SDGsウォッシュ」とは?

「グリーンウォッシュ」とは、英語でごまかし・粉飾といった意味をもつ「ホワイトウォッシュ」という言葉に、環境やエコといった意味をもつ「グリーン」の単語を組み合わせた造語です。主に企業のサービスや製品において、環境に配慮しているような取り組みをアピールしているにも関わらず、その実態がともなっていないことを指します。簡単にいえば、見せかけのエコということです。

 

「グリーンウォッシュは、アメリカの環境活動家が1986年に書いたエッセイで作り出した造語です。その後、環境に対する意識が世界的に高まるにつれてこの言葉がクローズアップされるようになり、’90年代の後半にはイギリスのオックスフォードという辞書に単語が掲載されるようになりました」

 

そう教えてくれたのは、国内外のサーキュラーエコノミー=循環型経済に関する情報発信や企業・自治体支援などを行っているプラットフォーム「Circular Economy Hub」で編集長を務める那須清和さんです。近年では「グリーン」の部分に「SDGs」という言葉を当てはめた「SDGsウォッシュ」「サーキュラーウォッシュ」という造語まで派生するなど、企業の広告コミュニケーションにおける「グリーンウォッシュ」はますます見逃せない問題になっているそう。

 

「サステナビリティやサーキュラーエコノミーへの取り組みは、今や企業にとって欠かせない戦略です。つまり、より環境に配慮した製品やサービスを提供している企業に、消費者(購入を通じて)、投資家(投資を通じて)からお金が集まる時代になったことが、この問題の背景にあると言えるでしょう。一方で私たち消費者は、企業の製品が作られる本当のプロセスや原料などに関して、まだまだ限られた情報しか得られないケースが大半です。企業と消費者の間にあるこのパワーバランスが、グリーンウォッシュを生むひとつの大きな要因になっていると言えます」(「Circular Economy Hub」編集長・那須清和さん、以下同)

 

何が問われる? グリーンウォッシュの「7つの罪」

企業におけるグリーンウォッシュ問題が顕在化してきたのは、2000年代以降だといわれています。特に環境意識の高いヨーロッパでは、誰もが知る世界的なファストフード・チェーンから自動車メーカー、アパレルブランド、航空会社まで、過去に少なからぬ大企業がグリーンウォッシュを非難されてきました。

 

では、具体的にどんな問題が起こっているのでしょうか? グリーンウォッシュには、以下に挙げる「7つの罪」があるとされています。

 

1.トレードオフ隠蔽の罪

一部の良い属性だけをアピールして、その製品やサービスに関わるすべてのプロセスが環境に配慮しているかのようにうたうこと。

 

2.証拠がないことの罪

その製品やサービスがどのように環境に配慮しているか、具体的に証明していないこと。

 

3.あいまいさの罪

「環境にやさしい」「サステナブル」といった曖昧な表現で消費者の誤解を招くこと。

 

4.誤ったラベル表示の罪

実際には存在しない第三者機関の認証ラベルなどを貼って、安心や安全を偽装すること。

 

5.無関係の罪

真実ではあっても、その製品やサービスを通して消費者が求めている環境配慮とはズレた的外れな部分で、エコをアピールすること。

 

6.「かろうじて良い」罪

その製品カテゴリーの中では「良い」とされる部分をアピールし、より大きな環境負荷、問題から消費者の注意をそらすリスクがあること(たとえば『有機タバコ』はこれにあたる可能性がある)

 

7.うそをつく罪

うそをついて、消費者をだますこと。

 

出典:UL「Sins of Greenwashing」https://www.ul.com/insights/sins-greenwashing

 

どれも消費者を裏切る悲しい行為ですが、那須編集長はこの中でもとくに気をつけるべき罪があるといいます。

 

「いま日本を含め世界中で起こっている問題の多くは、『1.トレードオフ隠蔽の罪』ではないでしょうか。例としてよくあるのは、原料だけ見れば環境に良さそうな製品だけれど、製造工程や物流といったライフサイクル全体で見ると多くのエネルギーを消費していて、エコと言いづらい……といったケースです」

 

一方で、これらの罪や『2.証拠がないことの罪』に関しては、今後の企業の取り組み次第で改善の余地もあるといいます。

 

「グリーンウォッシュへの問題意識がとくに高いヨーロッパでは、QRコードからその製品に関するサスティナビリティ情報を閲覧できる『デジタルプロダクトパスポート(DPP)』という仕組みが生まれようとしています。これによって、消費者がより詳しい情報を得て、信頼できる製品を選べる機会が増え、結果的に循環型経済を推し進めることにつながると期待されているんです。まだ検討段階ではありますが、EUでの導入が始まったなら、その流れはいつか日本にも波及するかもしれません」

 

それって本当に地球にやさしい? だまされない消費者になるために

街のお店やSNSの広告など、日々あらゆるところで「エコ」「サステナブル」といった言葉やイメージを目にする時代。グリーンウォッシュにだまされない賢い消費者になるため、私たちにできることとは?

 

「まずはそういった言葉や表現に出会ったら鵜呑みにせず、注意して製品やサービスの情報を調べてみること。また、情報が多く表示されている製品を購入することなども考えられます。エコマークや有機JASマークのような認証ラベルの有無は、ひとつの判断材料にはなると思います。あとは、聞いたことのない名前の企業なら、検索して公式サイトで情報収集する心がけも大切ですね。また、SDGsやグリーンウォッシュについて基本的なことを知りたかったら、電通が公開している『『サステナビリティ・コミュニケーション』ガイド』という資料がわかりやすくておすすめです」

 

また、見逃されがちだけれど意外と有効な判断材料になるのが、「産地」についての情報だそう。

 

国内にも存在する場合は、できるだけ自分の暮らす場所から近い産地で作られたモノを買うという判断軸を持つといいですよね。たとえば外国で大量生産された木製品よりも、日本の職人が国産の木材を使って作ったモノの方が、製品に関する情報の透明性は高くなるはずです」

 

「地球にやさしいこと」や「効率の良いこと」をしているつもりで、実はそうではなかった…というパターンは、近年どんどん身近になっているあのサービスにも潜んでいるかもしれません。

 

「意外に思われるかもしれませんが、環境負荷として注意が必要なのは、便利な『サブスク』サービスです。サブスクでモノを所有せずに利用するアイデアは良いことも多いといえます。しかしここで新たに発生する物流や梱包資材が、どれほどのCO2を排出するか? もしかすると、日々の洗浄やクリーニングで大量の水を汚しているのではないか? そういった視点を持ってサービス全体をチェックすると、全く違う側面が見えてきたりします。実際、ライフサイクル全体での環境負荷を抑えるため、再利用できる梱包資材を導入したり、既存の物流ラインを生かしてコストを抑えたりといった努力をしている企業も出てきていますから、できるだけそういったサービスを選びたいですよね」

 

ひとことにグリーンウォッシュといっても、その問題は複雑多岐。とくに日本はヨーロッパに比べると、問題に対する消費者の認識もまだまだ低いのが現状です。そんななかで企業によるウォッシングを少しでも減らすためには、消費者自らがリテラシーを高めていくことが不可欠だと那須さんは言います。

 

モノを買うときに、“ライフサイクル”という視点で製品を選ぶことがその第一歩になると思います。長く使えるか、メンテナンスはしやすいか、壊れたときに修理が頼めるのか、ライフスタイルが変化したときに対応できるか、リサイクルできるのか。すべての情報を得ることは難しかったとしても、買った後のことを自分なりに考えてイメージしてみることはできるはず。目先のエコ、サスティナブルといった言葉に踊らされず、モノの本質的な価値をちゃんと見ようとする意識が大切なのではないでしょうか」

 

【プロフィール】

Circular Economy Hub 編集長 / 那須清和

大学(紛争学専攻)卒業後、教育関連企業・経営支援団体を経て、Circular Economy Hubに参画。また、サークルデザイン株式会社を設立する。サステナビリティ、特にサーキュラーエコノミーに特化して、共創・調査・研修などを行う。2004年に実施したエクアドルでの鉱山開発を巡る紛争のフィールドワークをきっかけに、サステナビリティに関心を持ち、後にサーキュラーエコノミーを追求・推進するようになる。
Site=https://cehub.jp/

 

ベトナムで挑戦するミズノのSDGs―― 子どもの肥満率40%の国に「ミズノヘキサスロン」と笑顔を

【掲載日】2022年7月5日

 

本記事は、2020年9月9日にGetNavi webで掲載された記事を再編集したものです

 

「なんてつまらなそうに体育をしているのだろう」。総合スポーツメーカーであるミズノ株式会社の一社員が6年前に抱いたこの違和感が、ベトナム社会主義共和国の教育訓練省とともに同社が進めている「対ベトナム社会主義共和国『初等義務教育・ミズノヘキサスロン運動プログラム導入普及促進事業』」のきっかけでした。

 

ベトナムでは子どもの肥満率が40%以上

同事業は、ミズノが開発した子ども向け運動遊びプログラム「ミズノヘキサスロン」を、ベトナムの初等義務教育に採用・導入する取り組みです。ミズノヘキサスロンとは、ミズノ独自に開発した安全性に配慮した用具を使用し、運動発達に必要な36の基本動作を楽しみながら身につけることのできる“運動遊びプログラム”のこと。スポーツを経験したことがなく、運動が苦手な子どもでも、楽しく遊び感覚で走る、跳ぶ、投げるなどの運動発達に必要な基本動作を身につけられます。日本国内向けに2012年1月から開始、これまで多くの小学校や幼稚園、スポーツ教室、スポーツイベントなどで導入され、運動量や運動強度の改善といった効果も示されています。

「ミズノヘキサスロン」のホームページ

 

そもそもベトナムでは、子どもの肥満率が社会課題となっていました。同社の法務部 法務・CSR課 課長補佐 SDGs推進担当(2020年取材当時)の柴田智香さんによると、「ベトナムの義務教育は小学校が6歳から始まり5年間、中学校が4年間。授業は1コマ30分と短く、国語や算数に力が入れられていて、体育はあまり重きを置かれていない状態です。また体育といっても、日本のように球技や陸上があるわけではありません。校庭も狭く、体操レベルの授業しか行われていないそうです。子ども時代に運動をする習慣が少ないためか、生涯で運動する時間が先進国の10分の1ほど。WHOによると、ベトナムの子どもの肥満率は40%を超え、同国教育訓練省も社会課題として認識していました」ということです。

法務部 法務・CSR課 課長補佐 SDGs推進担当(2020年取材当時) 柴田智香さん

 

ベトナム教育訓練省公認のもと約200校で活用

ベトナムの抱える課題を目の当たりにした担当者は、「ミズノヘキサスロンというプログラムなら、ビジネスとして成立し、校庭が狭くても効果を発揮できるのではないだろうか」と思いつき、2015年にベトナムに提案を開始しました。しかし話は簡単には進みませんでした。

 

「ベトナムの学習指導要領に関係するので、一企業のセールスマンが政府にプレゼンをしても相手にされません。ちょうどタイミングよく、文部科学省が日本型教育を海外に輸出するための『日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)』というプログラムを行っていたのですが、弊社もそのスキームに応募し、2016年に採択されたのです。日本政府のお墨付きをいただいての交渉とはいえ、ビジネスの進め方も慣習も異なるため、一進一退の攻防が繰り広げられたようです。そこでまず、約2年間かけて子どもたちの身体機能の変化に関するデータを収集しました。その結果、運動量は4倍、運動強度は1.2倍だったことを同国教育行政に報告しました。その後、在ベトナム・日本大使館やジェトロ(日本貿易振興機構)様などの協力を得ながら、2018年9月に、『ベトナム初等義務教育への導入と定着』に関する協力覚書締結に向けた式典が行われ(場所:ハノイ 教育訓練省)、翌10月に覚書締結に(場所:日本 首相官邸)まで至ったのです」(柴田さん)

 

ミズノヘキサスロン導入普及促進活動は、ベトナム全63省を対象に行われました。農村部など経済的に厳しい家庭の子どもたちなども分け隔てなく実施しています。また、小学校の教師を対象とした、指導員養成のためのワークショップには、現在までに約1700人の教師が参加。ワークショップに参加した教師が自身の担当する小学校で指導に当たり、多くの小学生がミズノヘキサスロンを活用した体育授業を受けています(2020年6月現在)。

ワークショップに参加した小学校の教師たち。ベトナムは女性教師が約70%を占めている

 

「ミズノヘキサスロン」で子どもたちに笑顔を

「本事業は、“誰ひとり取り残さない”というSDGsの理念に立っており、ベトナムの小学生全720万人全員が対象です。現在、ベトナムの学習指導要領附則ガイドラインにミズノヘキサスロンを採用いただき、教育訓練省公認のもと、モデル校に導入されていますが、学習指導要領の本格的な運用には時間がかかっています。しかしながら、ベトナムの関係各所からは『狭い場所でやるのにも適している』『安全に配慮しているし、いいプログラムだ』と評価いただいていますし、何よりも、子どもたち自身が楽しそうに体育の授業を受けていることが写真から伝わってきます。

楽しそうに体育の授業を受けるベトナムの子どもたち

 

子どもの時に運動をする習慣ができると、大人になってからも運動を続けると思います。ミズノヘキサスロンによって運動の楽しさを知り、習慣づけられることで、将来的にも健康を保てるのではないかという期待が持てます。また、弊社の用具を使ってもらうことで、今後、ミズノという会社に興味をもっていただけたり、子どもたちがプロサッカーやオリンピックの選手になるなど、そんな未来につなげられたら素敵ですね」(柴田さん)

エアロケットを使って「投動作」を学ぶプログラム

 

今後の展開について、「現時点ではベトナムに注力しているという状態ですが、例えば、ミャンマーやカンボジアなど、他のアジア諸国でもビジネスチャンスはあると思います。ですが、まずはベトナムで事業として成功しないことには、他の国にアプローチするのはやや難しいと感じています。逆にベトナムでモデルケースができれば、他の国にも売り込みやすくなるのではないでしょうか」と柴田さん。ベトナム初等義務教育への本格的な導入が待たれるところです。

 

さまざまな課題への重点的な取り組み

来年で創業115年の節目を迎える同社。今回の対ベトナム事業もそうですが、さまざまな取り組みのベースとなっているのが、「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」という経営理念です。その理念のもと、社会、経済、環境への影響について把握し、効果的な活動につなげるため、自社に関するサステナビリティ課題の整理をし、重要課題の特定を2015年度に行いました。

 

「CSR・サステナビリティ上の重要課題として“スポーツの振興”“CSR調達”“環境”“公正な事業慣行”“製品責任”“雇用・人材活用”という6つの柱を掲げています。そのなかでも“環境”については1991年から地球環境保全活動『Crew21プロジェクト』に取り組み、資源の有効活用や環境負荷低減に向けた活動を行っています。また、CSR調達に関しては、他社様から参考にしたいというお話をよくいただいております。

サプライヤー先でのCSR監査の様子

 

商品が安全・安心で高品質であることはもちろんですが、“良いモノづくり”を実現するために生産工程において、人権、労働、環境面などが国際的な基準からみて適切であることが重要と考え、CSR調達に取り組んでいます。そのため本社だけでなく、海外支店や子会社、ライセンス契約をしている販売代理店の調達先までを対象範囲とし、取引開始前は、『ミズノCSR調達規程』に基づき、人権、労働慣行、環境面から評価。取引後は3年に1度、現場を訪問し、調査項目と照らし合わせながらCSR監査を実施しています」(柴田さん)

 

また、総合スポーツメーカーらしい取り組みも多くあります。その1つが、「ミズノビクトリークリニック」です。これは、同社と契約をしている現役のトップアスリートや、かつて活躍をしたOB・OG選手による実技指導や講演会。全国各地で開催し、スポーツの楽しさを伝えると共に、地域スポーツの振興に貢献しています。

水泳の寺川綾さんを招き、熊本市で開催されたミズノビクトリークリニック

 

「2007年からスタートしたのですが、昨年度は全国で89回開催しました。“誰ひとり取り残さない”という部分では、気軽にスポーツをする場、楽しさを伝える場所に。選手の方たちにとっては、これまでの経験で得た技術や精神を子どもたちに伝える場になっています。技術や経験は選手にとっていわば財産。それを伝えることに使命感を持っている方も多く、有意義な活動となっています」(柴田さん)

 

スポーツによる社会イノベーションの創出

また、SDGsの理解と促進を深めるために、社員向けの啓発活動も実施。2019年度には3回勉強会が実施され、子会社を含め、のべ約7700人が受講したそうです。

 

「社員一人ひとりが取り組んでいくことは、企業価値の創造でもあると思います。SDGsを起点に物を考え、長期的、継続的かつ計画的に様々な課題に取り組んでいく。これからも引き続き、持続可能な社会の実現に貢献し、地球や子孫のことを思い、ミズノの強みを持って、新しいビジネスにも挑戦していきます。それにより企業価値やブランド価値の向上を目指していきたいと思います。CSRは責任や義務というイメージがありますが、SDGsは未来に向けて行動を変えるというか、アクションを起こすということ。2030年の未来に向けて、今まで弊社が行ってきたことにプラスして、全社員が一丸となって取り組んでいきます」(柴田さん)

 

さらに2022年度中に、スポーツの価値を活用した製品やサービスを開発するための新研究開発拠点が、大阪本社の敷地内に完成予定です。

新研究開発拠点のイメージ ※実際の建物とは異なることがあります

 

「スポーツ分野で培ってきた開発力と高い品質のモノづくりを実現する技術力。そんなミズノの強みを生かし、SDGsに貢献できるような新しい製品であったり、人であったり、どんどんつくっていけたらと思います。競技シーンだけでなく、日常生活における身体活動にも注力し、スポーツの力で社会課題を解決する社会イノベーション創出を目指します。新しい開発の拠点となる施設。SDGsの取り組みとともに、弊社にとって新しい幹になると考えています」(柴田さん)

 

創業者である水野利八さんは、「利益の利より道理の理」という言葉を残しました。スポーツの振興に力を尽くし、その結果としてスポーツの市場が育ち、それがめぐり巡って、事業収益につながるという考え方です。その想いは、創業から今に至るまで変わらず、ミズノグループの全社員に受け継がれているそうです。スポーツの持つ力を活かして世界全体の持続可能な社会の実現にさらに貢献していくに違いありません。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

重厚なレトロ木工家具が「リノベーション家具」として生まれ変わる! 通販サイト「MARUNI FURNISHING」

マルニファニシングは、「リノベーション家具」の通販サイト「MARUNI FURNISHING」をリリースしました。

 

同社のグループ企業で、家具製造を90年以上行なっているマルニ木工の豊富なアーカイブを生かし、中古家具市場で需要の高い1960~70年代の家具を中心に、現代の感覚を添えてリメイク。レトロなだけではない新鮮な姿で現代に蘇らせ、同サイト限定で販売します。

 

リリース第一弾として、1952年から1976年製の証である孔雀マークの付いたデルタチェア、ソファ、テーブルなど10点を販売しており、今後も様々なアイテムを販売していく予定です。

 

中古家具市場で人気の、今の時代には見られないレトロさや重厚さが顕著な1960年代のモデル。それらをただ元通りに直すのではなく、特徴的なデザインを生かしながら塗装直しや張り替える座面のチョイスなどで現代のエッセンスを取り入れ、独特の雰囲気を醸し出す家具を新たに生み出します。新品ともヴィンテージ家具とも異なるこれらは「リノベーション家具」と名付けられ、修理による新たな価値を付加して販売。いずれも同サイト限定です。

 

レザーや木工パーツなどの補修・張り替えのほか、mina perhonen(ミナ ペルホネン)や。デンマークのKvadrat(クヴァドラ)などのファブリックを使用したリノベーション家具も登場します。

 

※minaaは、ウムラウト付きが正式な表記です

フランス発NEXT殿堂ショップ! オーガニックと環境に配慮した食材が揃うスーパー「ビオセボン」

国内外のウマいものが集まる人気店の代表格といえば「カルディコーヒーファーム」や「コストコ」がある。しかし、そこでしか買えない美食が豊富に集まる人気店はほかにも多数。今回紹介するNEXT殿堂ショップは、フランス・パリ発のオーガニックスーパー「ビオセボン」だ。

※こちらは「GetNavi」2022年7月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

ビオセボン

オーガニックと環境に配慮した食材が多彩に揃う

東京と神奈川に28店舗(2022年5月現在)展開する、仏国・パリ発のオーガニックスーパー。サステナブルにも配慮し、バルクフーズの商品が豊富なのも特徴だ。

 

【オススメ1】ひまわりの種がベースの個性豊かな有機ペースト

MUST BUY!

ズヴェルゲンヴィーゼ

ヴィーガンスプレッド

各322円

有機ひまわりの種をベースに、野菜や果物、ハーブ、スパイスなどを入れて作られた塗りやすいペースト。バジルやマンゴーカレーなど全7種の味があり、パンに塗るほか、ドレッシングや、パスタソースなど幅広く楽しめる。

 

【オススメ2】ローチョコの名門から世界に先駆けて販売

カカオクルード

オーツミルクローチョコレート

430円

原材料を非加熱、または低温で加工したローチョコレートをイタリアで初めて製造したブランドから、世界に先駆けてビオセボンが輸入調達。クリーミーでなめらかなローチョコの味は新感覚のおいしさだ。

 

【広報さんの推し!】

コンヴィーヴィア

オーガニックベジタブルソース(トラパネーゼ)

754円

「トラパネーゼ」は、イタリア・シチリア西海岸の伝統的料理ペースト。トマト、アーモンド、にんにく、バジルとワインビネガーで仕上げられている。

 

フードアナリスト

中山秀明さん

食のトレンドに詳しいライター兼フードアナリスト。最近はインパクト大な自家製惣菜を販売するご当地スーパーの躍進に注目している。

 

※各商品は価格変動の可能性と在庫に限りがあります

節電には待機電力からチェック! プロが教える電気代節約術10

2021年の秋から、電気料金が継続的に値上がりしています。今、手元に来ている明細は、エアコン使用前のもの。梅雨が明けて本格的な夏日を迎えている中、さらに請求金額が上がることは必至です。とはいえ、熱中症対策やペットのためにも涼しい環境の確保は欠かせません。そこで、無理なく今日から行える消費電力抑制テクを、住生活ジャーナリストの藤原千秋さんに教えていただきました。

 

まずすべきこと。節電マインドを育むために
家計簿には使用電力量もメモする!

具体的な節約術に入る前に、光熱費の変動に対する感度を上げておくことが大切だという藤原さん。

 

「電気代やガス代などの光熱費は、契約している会社や地域によって、請求月の間隔にばらつきがあります。ちなみにわが家の場合は、電気とガスを東京ガスの契約で一括にまとめているのですが、使用月から請求月の間には3ヵ月のズレがあります。つまり、真夏を迎えた今の時期に支払う電気代は、エアコンを全く使用しなかった春のもの。8月の猛暑日に使った電気代の請求がくるのは、11月くらい。忘れた頃に請求書が来るので、電気代の節約意識にスイッチが入りにくいのが盲点になります。

そこで、今後のためにおすすめしたいのが、ガスや電気の明細が届いたら、使用期間と使用量(kWh)と金額を家計簿にメモすること。これをしておくと、どの月にどれくらいの使用量だったのか、また、単価の変動にも意識が向くようになります。家計簿にメモしなくても、ガスや電気の使用量に関する明細をファイルにまとめて、前年比を比較するのもいいでしょう」(住生活ジャーナリスト・藤原千秋さん、以下同)

 

必要ないものはカット!
なんとなく使っている待機電力をチェック

出典:エネマネX(スマートブルー株式会社)「経済産業省および電力会社各社資料より作成」

 

電力の効率的な利用による省エネに関する取り組みを発信している「エネマネ」の調査によると、燃料費調整単価は、2021年3月から急激に上昇していることがわかっています。

「わが家は5人家族なのですが、この1年で使用電力量は少し下がっているにもかかわらず、請求金額は年間で3万円以上、増えています。この電気代、今後も高止まりする可能性が高いと言われているので、節電対策は真剣に取り組んでいきたいところです」

 

必要ないものや優先度の低いものは?
待機電力の減らし方

※資源エネルギー庁 平成24年度待機時消費電力調査より ※ガス温水器はガス給湯付きふろがまを含む

 

資源エネルギー庁が公開している資料によると、待機電力量の高いTOP10は上記の通り。

 

「ガス温水器って意外ですよね。キッチンや浴室など、使用場所が多い上にコンセントから抜けるものではないので、ここは仕方がないところ。見直せるのは、テレビやレコーダー、温水洗浄便座あたりでしょうか。電子レンジやオーブンレンジも節電エコタップに繋げて、こまめにスイッチをオフにすれば、待機電力が節電できます」

 

ゲーム感覚で取り組みたい!
電気代節約術10

ここからは、藤原さんおすすめの具体的な電気代節約テクを10個、紹介していきましょう。

 

1.契約アンペアの見直し

契約アンペアは電気代の基本料金を左右します。まずはここをチェックしてみましょう。

 

「契約アンペア(略称A)とは、同時に使える電力の上限です。10〜60Aの中で7段階に分かれていますが、アンペア数が倍になると基本料金も倍になります。ひとり暮らしや夫婦世帯ならば30〜40Aが平均ですが、低めに設定し、電子レンジとドライヤーは一緒に使わないなどの工夫をすれば、電気代の節約が可能です。なんとなく契約している方は、本当にそのアンペアが必要なのかどうか、一度、チェックしてみましょう」

 

2.エアコンの同時使用台数を決める

この時期、欠かせない存在のエアコン。少しでも電気代の節約になる使い方になる心がけとは?

 

「真夏の間は、ペットがいる家庭では留守にする時間帯でもエアコンをつけっぱなしにする必要があると思います。そこは必要経費ですよね。とはいえ、いくつか節電ポイントはあります。その一つが、同時に付ける台数を決めること。お子さんが2人いるからといって、それぞれの部屋でひとり1台のエアコンを付けるのではなく、日中はリビングに集う、寝るときはどこか1台のエアコンを付けて、サーキュレーターで冷風を広範囲に循環させる、という方法もあります。真夏の間は、寝る部屋を1カ所にまとめられる家庭もありそうですね。電気代を節約するという目的を主にするならば、生活スタイルを多少変えることも検討してみるといいでしょう」

 

【関連記事】節約アドバイザーが解説する、エアコン(冷房)のお得な使い方

 

3.エアコン+サーキュレーターのセットで使う

エアコンの設定温度は電気代に大きく影響します。

 

「エアコンの温度を1度上げると約10%の節電になると言われています。温度を上げて強風にするだけでも、涼しさは上がりますし、サーキュレーターを併用すれば、冷気を部屋中に効果的に広げることができます。エアコンの設定温度をいつもより2度上げて強風設定にする。そして、サーキュレーターを併用するのはいかがでしょうか」

 

【関連記事】一年中快適空間に。エアコンの上手な使いこなし方

 

4.テレビの主電源を切る

最近はほとんどテレビを見ていないにもかかわらず、なんとなく主電源をつけっぱなしにしている方は少なくないはず。

 

「テレビ離れをしているのであれば、主電源は消しましょう。もし、朝や夜など、一定のテレビを見る習慣があるのであれば、電源タップをかませて、そのスイッチを切ることで待機電力が発生しないようにするのもポイントです。HDDレコーダーで週間録画をしている場合でも、レコーダーのみの電源を入れておけばOK!」

 

5.温水洗浄便座をオフにする

テレビと同様、温水洗浄便座もなんとなくつけっぱなしにしている家電のひとつ。

 

「エアコン使用で電気代の上がる季節にコストカットするという意味では、ここはオフにしたいところ。便座がひんやりするのは嫌ならば、貼り付けるタイプのシートを取り入れてもいいですね。どうしても温水洗浄をしないと気が済まないという家族がいる場合は、使うときのみ電源を入れてもらうというのも手です。生活する上で優先順位の低い家電といえるので、節約のためにオフするというのは一つの選択肢ではないでしょうか」

 

6.朝の5時〜8時は換気タイムに

部屋の換気は、快適な住環境を保つために大切なこと。

 

「夏場は起きてすぐにエアコンを付けている方もいるかもしれませんが、比較的涼しい早朝から数時間は、しっかりと換気をする時間と決めてしまうといいでしょう。ちょっと大胆な方法にはなりますが、自宅にいる中でどうしても暑さが気になる場合は、着ている服の上から霧吹きで水をかけるといいですよ。

お風呂掃除をしているときに、まちがってシャワーの水をかぶってしまったことがあるのですが、夏だしすぐ乾くと思って、そのまましばらく過ごしていたら、寒いくらいに涼しさを感じました(笑)。その体験をヒントにしたテクニックです。ペットにも水の霧吹きなどで体を少し濡らしてあげながら、体感温度を下げて朝の数時間を過ごしてみませんか」

 

【関連記事】“空調のプロ”ダイキンに聞く、「換気」の正解

7.洗濯乾燥機の使用を減らす

家事の時短アイテムとして洗濯乾燥機を使用している方は、エアコン使用分の節電対策として、洗濯物を干すようにしてもいいかもしれませんね、という藤原さん。

 

「洗濯乾燥機は時短に貢献してくれる便利家電ですが、電気代がかかる存在でもあります。夏は数時間で洗濯物が乾くので、ここは節電ポイントにしたいところです。干す作業をカットして乾燥機に頼ってきた方ならば、最初はバスタオルだけでも干してみると、乾燥機の負担をグンと減らせます。厚手のバスタオルは特に乾きにくいので、これだけでも節電効果は大きいはず。また、例えば7分あれば4人家族分くらいの洗濯物は干せるので、好きな曲2 曲分とか、音声メディアを聞きながらなどの工夫をしながら、節電のために乾燥機の使用を減らしてみることをおすすめします」

 

8.日中はカーテンを閉める

暑い時期だからこそ意識したいのが、カーテンによる断熱。

 

「日中はカーテンを開けて明るくしておくのが常識だと考えてしまいがちですが、夏場は日の光が差し込むほどに部屋の温度が上がってしまうので、断熱のためには日中もカーテンを閉めておくことをおすすめします。自宅でお仕事をする方でも、遮光カーテンでない限りは暗電気をつけなくても十分に過ごせると思います。もともと日中は不在にする方ならば、明るさを気にする必要はありませんね」

 

9.つけっぱなし電源を総点検する

ムダな待機電力は思わぬところにあるもの。

 

「充電が満たされているのに電源につなぎっぱなしのパソコン、スマホ、タブレット。ほとんど使っていないスマートスピーカー。ほかにも、なんとなく電源につなぎっぱなしのものは意外とあります。一度、自宅の中のコンセントを総点検してみましょう。節電タップを取り入れることで、ほんのひと手間でスイッチをオフできるものが見つかるはずです。電気使用量のかさむ夏場の節電のために、しばらくは使用を控えられる家電もありそうです。電気代が上がっている今、優先順位の低いものを思いきってやめるという選択肢も検討してみましょう」

 

10.オフシーズンはエアコンのブレーカーを切る

エアコン専用のブレーカーを切れば、待機電力カットに。「エアコンは夏と冬しか使わないもの。使用季節以外はコンセントを外しておくようにすると待機電力がカットできますが、もう一つ、心がけたいのがエアコン専用のブレーカーをオフにすること。使わない電源は元から切ることを習慣にすると、節電につながります」

 

この季節の電気代節約といえば、やはり、エアコンの消費電力が一番のポイント。冷却ジェルマットで首や手首を冷やしたり、こまめに水風呂に入ったり、冷却インナーを着たり、スイカなどの体を冷やす食べ物を摂ったりすることも節電効果につながります。なんとなく付けっぱなしにしていた待機電力の見直しとともに、暑さ対策の工夫ができるといいですね。

 

【関連記事】リバウンド知らず! 節約はルール次第で気づいたら貯まる&貯まり続ける

 

【プロフィール】

住生活ジャーナリスト / 藤原千秋

住宅メーカーで勤務の後、2001年から、オールアバウト「住まいを考える」サイトガイドに就任、住宅関係専業のライターとして活動。プライベートでは三児の母。自身も子どもも花粉症やアレルギーに悩まされ、花粉対策の試行錯誤を続けてきた経験あり。ラジオや新聞、雑誌などで活躍するほか、『忙しい人の人生が整う 家事の習慣』(西東社)の共同監修、『人生をピカピカに 夢をかなえる掃除の習慣』(朝日新聞出版)の監修を務める。

世界で大注目! 海を航行するだけで「マイクロプラスチックごみ」を回収するスズキの船外機の仕組みが素晴らしすぎた

海洋プラスチックごみ問題――。中でも直径5mm以下のマイクロプラスチックは、海流に乗って世界中に拡散し、海の生態系に甚大な影響を及ぼすと懸念されています。この問題に対してスズキ株式会社が開発するのが、世界初の船外機用マイクロプラスチック回収装置。海を航行するだけでマイクロプラスチックを回収できることで、いま世界中から注目を集めています。

 

戻り水の通り道にフィルターを設置

自動車やバイクメーカーという印象が強いスズキですが、実は船外機(ボート用のエンジン)を取り扱うなど、陸から海まで事業を展開する世界でも珍しい企業です。そんな同社が開発したマイクロプラスチック回収装置とはいかなるものなのか? マリン営業部の小川陽平係長に説明していただきました。

 

「小型船舶に搭載する船外機には、自動車のようなラジエーターはなく、ウォーターポンプで汲み上げた大量の海水でエンジンを冷却しています。冷却に使った海水(戻り水)は、そのまま海中へ戻すため、戻り水の通り道にフィルターを付け、マイクロプラスチックを回収する構造を考えました。

↑マイクロプラスチック回収装置(右)を取り付けた船外機

 

戻り水の通り道にフィルターを付けただけと仕組みは至ってシンプル。しかもエンジンの性能には影響しません。また、フィルターにマイクロプラスチックが詰まった場合も、別の通り道に水が流れる仕組みなので、冷却水路が詰まってしまう心配も無用。溜まったゴミはフィルターを取り外して処分するだけです。当社では、航行100時間ごとにエンジンの定期点検を推奨していますが、その時にフィルターのゴミも処分するので、ゴミ処理をお客様自身が行うケースはほとんどありません。もちろん穴など開いていなければ、フィルターは長く使用できます」(小川さん)

↑マイクロプラスチック回収装置の仕組み。万が一フィルターが詰まった際に備えて、バイパスルート(赤丸で囲んだ部分)も想定されている

 

既存もモデルにも搭載可能

至極、シンプルな構造ながら、今までどの企業も思い付かなかったというから、まさに目からウロコ。アイデアの勝利と言えるでしょう。ただ実用化に至るまでには、やはり試行錯誤を繰り返したそうです。

 

「まず、マイクロプラスチックの定義を確認したり、実態調査を行ったりする作業からスタートしました。当初は、漁網のような装置や、浄水器のようにエンジン冷却水の出口にフィルターを付ける案も出ましたが、それでは走行スピードに影響が出ます。開発にあたり、お客様には普段通りご利用いただけるということを大前提としていたので、エンジン性能や走行性能に影響しないシステムを考え出すのに苦労しました。そして装置の開発後、国内をはじめアジア各国でモニタリングテストを実施。世界中の代理店から問い合わせが多数寄せられるなど、その反響の大きさに手ごたえを感じました。

↑新型船外機「DF140B」をはじめ5機種に標準装備される

 

こちらの装置は、「DF140B」をはじめ、今年7月の生産分以降、5機種の船外機に標準搭載予定です。装置自体は、冷却水が通るホースをフィルター付きのホースに交換するだけなので、構造的には既存モデルの船外機にも設置可能です。つまり、船外機を買い替える必要はありません。ちなみに、現時点での対象機種は100~140馬力の船外機。より大型の船外機にも対応してほしいという要望は多いのですが、設置スペースや他の装置への干渉など、馬力の大きい船外機の場合、まだいくつか課題があるのが現状です。今後はできるだけ早く、より高馬力の船外機にも対応できるようにしていきたいです。

↑海上を航行しているだけでマイクロプラスチックを自動的に回収する

 

もちろん、この装置によってすべてのマイクロプラスチックを回収できるわけではありませんが、お客様自身が環境問題に興味を持っていただくきっかけになったり、知らず知らずのうちに社会貢献活動に参加していることになったりするのではと考えています。世界中のお客様と一緒になってマイクロプラスチックを回収できる今回の装置は、環境保全の観点からもすごく意義があると自負しております」(小川さん)

 

事実、この装置の発表後、10社以上の国内メディア、100社以上の海外メディアから問い合わせを受けているそう。マイクロプラスチック回収装置への関心度の高さや期待の大きさが窺えます。

 

海への感謝を示す「スズキクリーンオーシャンプロジェクト」

「マイクロプラスチック回収装置が誕生した背景には、“海への感謝を忘れない”という当社の想いがあります」と話すのはマリン営業部の原木理恵さんです。同社はその想いを具現化するために、2010年より、海や河川、湖を中心に清掃活動を行ってきました。さらに近年の社会課題の変化を踏まえ、活動のあり方を見直し、2020年に新たな取り組みとして「スズキクリーンオーシャンプロジェクト」を立ち上げました。

 

「このプロジェクトは、①水辺の清掃活動 ②製造及び補給部品梱包におけるプラスチックの削減 ③海洋マイクロプラスチックの回収 という3つの活動から成り立っています。原点であるについては、いまや全世界に活動が広がっていて、2021年12月までの参加者数は延べ約1万人に達しました。近年は社員だけでなく、一般のお客様にもご参加いただいています。

↑清掃活動は本社のある静岡県浜松市から始まり、今では世界27代理店で実施

 

②の製品及び補給部品梱包におけるプラスチックの削減に関しては、2020年10月より補給部品梱包、2021年9月より製品梱包に、環境に配慮した梱包材を採用するなど、プラスチックの削減に積極的に取り組んでおり、これまでに11.2トンのプラスチックを削減しました。そしてマイクロプラスチック回収装置の開発が③に該当します」(原木さん)

 

このように「スズキクリーンオーシャンプロジェクト」のもと、実現に向けて着実に歩みを進める同社。最後に、SDGsが同社に与えた影響について、コーポレート戦略部サステナビリティ推進グループの渋谷俊介さんにうかがいました。

 

スズキらしいアイデアをカタチに

「一般的にCSR活動という言葉が使われ始めた2000年代の社会貢献活動は、ボランティアや寄付が主体でしたが、SDGsが登場すると、企業は“本業を通じて社会課題に貢献していかなければならない”という考え方に変化していきました。これを機に、当社のこれまでの事業を振り返りますと、環境に配慮した小型車を開発・普及させてきたことや、当社のシェアが高い新興国で製造活動を行って雇用を創出していることなど、事業自体を通じてSDGsの目標に貢献できていると認識できたのです。“お客様の立場になって価値ある製品を作ろう”という創業時からの企業理念に沿って続けてきた事業活動に間違いはなかったと改めて自信を持つことができました」(渋谷さん)

↑写真左から、マリン事業本部 マリン営業部 米州・大洋州・企画グループ 係長・小川陽平さん、同グループ・原木理恵さん、コーポレート戦略部 サステナビリティ推進グループグループ長・渋谷俊介さん

 

「現在は、四輪、二輪、マリンなど、あらゆる事業を通じて私たちがどう社会に貢献できるのかを、改めて見つめ直しながら取り組んでいるところですが、マイクロプラスチック回収装置のように、スズキらしい課題解決の仕方やアイデアを活かすことができればと思います。“当社の船外機を使っていただければ、どんどん海が綺麗になる――”。こうした製品やサービスをこれからもどんどん創出していけるよう、全社一丸となって努力していきたいです」(渋谷さん)

約300円から「再エネ発電所オーナー」になれるサービスが爆売れ中。 即日完売も続出の「ワットストア」とは?

資源エネルギー庁によると、日本のエネルギー自給率は12.1%(2019年)で、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも下から2番目と高くありません。この課題解決のため、政府も太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーへの転換を推進しています。

 

今回紹介するのは、民間レベルで再生可能エネルギーの普及を目指す、株式会社チェンジ・ザ・ワールドの取り組みです。わずか約300円で再生可能エネルギー発電所のオーナーになれることが話題となり、現在の登録ユーザー数は2万名を突破するという人気ぶり。新たに発売したサービスに関しては、即日完売が続出するという、ユニークかつ注目のサービスとは!?

 

福島原発事故がきっかけで再生可能エネルギー事業をスタート

山形県酒田市に本社がある同社。「創業のきっかけは2011年の東日本大震災でした」と話すのは、代表取締役の池田友喜さんです。

 

「福島の原発事故をテレビで観て、現実に起こっていることに衝撃を受けました。当時は東京でITソフトウエアの会社を経営していましたが、地球の環境やエネルギーについて深く考えるようになり、次の世代の子どもたちのためにITを活用して何かできないかと思ったのです。そこで2014年に会社を設立し、再生可能エネルギーの事業を始めました」

↑「子どもや孫たちに誇れる仕事がしたい」と話す代表取締役の池田友喜さん

 

核となる事業の1つが、スマホで買える再生可能エネルギー発電所「ワットストア」というサービス。太陽光発電所をはじめとする、再生可能エネルギー発電所の個人向け小口販売です。

 

社会貢献参加への敷居を下げるサービス

「ワットストア」は、いつでもどこでも、スマホやパソコンで簡単に好きな場所の再生可能エネルギー発電所を1ワット単位で購入できます。1ワットの価格は発電所によって異なりますが、1ワット約300円から。購入後は月に1度、売電収入が分配されます。ざっくり言うと“再エネ投資”ですが、単なる金融商品ではないと池田さん。

 

「売電した収益はお金で戻すのではなく、投資したワット数に応じて新たに発電所を付与していきます。購入後はそのまま放置していても、所有する発電所が少しずつ増えていきます。苗木を植えたら木が自然に育っていくようなイメージです。もちろん、好きなタイミングで発電所を売却することも可能です。

↑「ワットストア」のアプリトップ画面。スマホがあれば簡単に再生可能エネルギー発電所が買える

 

本サービスは「社会貢献」が目的ではありますが、一般の人々に訴求するには、まず経済的なリターンが必要だと考えました。参加する動機はどんな形であろうと、環境に対する貢献の仕組みが提供できれば、結果的には再生可能エネルギー発電所が増えていくことに変わりはないと考えています。大きな資金を用意できなくても約300円ぐらいから購入できますし、スマホやパソコンがあれば24時間、どこにいても取引ができ、発電所の発電状況なども簡単に確認できます。災害用の保険も加入しているのでリスクも少ない。できるだけ敷居を下げて、多くの人が参加できるようにしているのです。

↑アプリ上から、発電所の購入や発電量の確認などが簡単に行える

 

購入すると自分が買った発電所の発電量が気になりますよね。それがきっかけで、環境に対する意識がより高まるのではないかと期待しています。当初の目的は経済的リターンだったとしても、知らずしらずのうちに環境課題が気になり始める……。それが大切だと考えました」

 

「耕作放棄地」問題にも貢献

要となる太陽光発電所は毎月5~6基ずつ増えています。2021年1月からは、新たに風力発電所の販売もスタートしました。現在、「ワットストア」での発電所販売数は111基(2022年5月末現在)。これにより、約1870世帯分の電力をまかなえるそうです。

 

「太陽光発電所のうち、約6割がソーラーシェアリングです。これは、農地の上に太陽光パネルを設置して、農業と太陽光発電事業を同時に行う仕組みのこと。営農型太陽光発電ともいいますが、2013年に農林水産省が農地の一時転用を許可したことで可能になりました。日本には、農業が放棄された耕作放棄地が約42万ヘクタールもあります(2015年調査)。放置された土地は害虫の住処になるほか、農地として再利用できなくなる可能性も。ソーラーシェアリングは、日本が抱えるこれらの問題にも効果的です。

↑ソーラーシェアリング。太陽光パネルの下では農作物を育てている

 

農作業は、弊社の子会社である株式会社ララキノコが実施。これまで100種類ほどの農作物を試験的に栽培してきました。現在は、さつまいも、みょうがなどを主に栽培。収穫した作物は道の駅で販売したり、『ワットストア』のユーザーにプレゼントしたりしています。また最近では、CO2吸収能力の高い新品種のあしたばに注目し、東京大学と共同研究を行っています」

↑ソーラーシェアリングによって栽培された野菜

 

ただ、ソーラーシェアリングには課題も多いと池田さん。最大の課題は土地の確保だそうで、ソーラーシェアリングに対する世の中の認知・理解がまだまだ進まないのが実情だそう。

 

「ただ、近年は国や自治体がソーラーシェアリングを推奨していますし、農地法など法的な部分が今後是正されれば、この課題は改善されていくと思います」

 

経済的リターンゼロの「グリーンワット」も大反響

同社は「ワットストア」内で「グリーンワット」という商品の販売を昨年から開始。これが予想以上の結果になっているそうです。

 

「『グリーンワット』は1口500円で太陽光発電所を購入できますが、経済的リターンはゼロ。自分の持っている発電所がどのくらいCO2削減しているかなど、環境に対しての貢献度を『リーフ』という名称のポイントで可視化します。昨年7月に約2000口限定販売したところ、約14時間で完売。その後、不定期で計4回限定販売していますが、現在は全て完売しています。予想を上回る反響でした。

 

このサービスはさまざまな可能性があると考えています。例えば、製造や輸送時のCO2排出が課題と言われているアパレル業界なら、服を『グリーンワット』込みの料金で販売すれば、お客さんは自動的に『環境に配慮したお客さん』になります。一方、アパレルメーカーは、客が購入したグリーンワットにより、『環境価値(CO2削減量)』を活用してカーボンオフセットが実現できるというわけです。

 

実際、サッカーJ2のモンテディオ山形の試合で、法人(サッカーチーム)のカーボンオフセットを実現しました。“カーボンオフセットマッチ”という企画を掲げ、グリーンワット付きのチケットや選手の限定ポストカードを販売したのです。結果、1000人以上のサポーターの方が購入。選手を応援したいという気持ちと環境保護を結びつけることができたこの取り組みは、とても意義があったと感じています」

↑2022年5月8日に開催された「カーボンオフセットマッチ」。サポーターはさまざまな環境アクションに参加できた。年内にあと3試合開催予定。画像提供:モンテディオ山形

 

「カーボンオフセットマッチを通して、発電所を購入するという行為にハードルの高さを感じる人でも、もっと身近な部分であれば、気軽に環境アクションに参加してもらえることが分かりました。今後、さらに多くの人が環境アクションに参加できるように、さまざまな企業とコラボレーションをするなど面白い企画を展開していきたい。私たち一人ひとりの力は小さいかもしれませんが、多くの人たちが集まることで世界をも変えることができます。それを可能にするビジネスモデルを創り出し、美しい地球を子どもたちに残していきたいです」

 

“グリーンエネルギーの発展にみんなが参加できる社会を創る”その目的を達成するために、同社のチャレンジは続きます。

海外版ならではのスタイリッシュなカラー展開も! サステナブルな手帳「マークス・ダイアリー2023海外版」

マークスは、マークス・ダイアリー2023海外版を、海外の取扱店では5月から、日本国内ではマークス公式オンラインストア「オンライン・マークス」にて、6月16日より販売を開始しています。

 

マークス・ダイアリー海外版は、2008年版からヨーロッパを中心に販売を開始し、2023年版で16シーズン目。現在は、ヨーロッパを中心に世界20か国以上で販売しています。

 

今回発売される同製品は、スライドジッパー付きポケット仕様のダイアリー2サイズ(ウィークリー・バーチカル/A5・A6/9月始まり)52種と、「ノートブックカレンダー」(Sサイズ・Mサイズ/1月始まり)2サイズ12種を展開し、全64種をラインナップ。税込価格は、ウィークリー・バーチカルのA5サイズが2420~2530円、A6サイズが1540~1650円(ノートブックカレンダー海外版は国内販売なし)。

 

スライドジッパー付きポケット仕様のダイアリーは、表紙カバーにリサイクルPVCを60%使用し、FSC認証紙(責任ある森林管理のマーク FSC N003458)の、マークスオリジナル手帳本文用紙「NEO AGENDA(ネオ・アジェンダ)」を採用。NEO AGENDAは、ゲルインクや油性ボールペンなどの筆記具との相性も良く、なめらかな書き心地が特徴。

 

27の国と地域の祝日がアイコン表記されており、表紙は、スライドジッパー付きポケット仕様で全カバーをラインナップ。「storage.it」や、海外版オリジナルデザインとして、ポップなポルカドット柄のタイポグラフィー、スタイリッシュなジオメトリックパターン、ジャングルモチーフやフラワー柄のナチュラルなパターンなど、様々なデザインが揃っています。

 

ノートブックカレンダーは、表紙カバーにリサイクルPPを使用しており、海外版オリジナルカラーを含む6色を展開。日本版と同じ中面フォーマットを使用し、10の国と地域の祝日がアイコン表記されています。

6億人に「きれいな水」を! ーーノウハウと総合力でスピーディーに成し得たケニア・水供給プロジェクト

アフリカ・ケニアで学校の子どもたちに水を届けるプロジェクトがスタート~株式会社荏原製作所

 

国連の「世界人口予測」で、2100年の人口が43~44億人になると言われているアフリカは、魅力あるマーケットとして世界中から注目されています。ポンプやコンプレッサ・タービンなどの機械製造を軸に、さまざまな事業を展開する荏原製作所も、アフリカ・ケニアで自社の製品と技術を活かし、水の供給支援を実施。

 

開発途上国でインフラを構築するという点では決して珍しいものではありませんが、そこには、技術力はもちろん、海外企業との連携力、現地の人々のコミュニケーション力、これまでの経験値、そしてスタッフの熱き思いなど、総合力があったからこそ、スムーズに実現し得た事業だと言います。

 

あるドイツ企業からの提案

「きっかけは、再生可能エネルギーを利用した水処理設備のソリューション提供を専門とするBoreal Light GmbH(ドイツ)というスタートアップ企業からの提案でした」と話すのは、同プロジェクトを担当する乗富大輔さん。ケニアの事業に立ち上げから携わってきた1人です。

 

「当社は、2020年に『E-Vision2030』という長期ビジョンを策定しました。その重要課題の一つとして『持続可能な社会づくりへの貢献』を掲げ、具体的な成果として『6億人に水を届ける』ことを目指しています。サブサハラアフリカでは、水道など基礎的な給水サービスを利用できない人が人口の4割ほどいます。

 

ポンプメーカーとしては、一歩踏み込んだビジネスモデルを創出し、課題解決に取り組まなければいけないという認識を持っていました。そんな背景があり、イタリアのEBARA Pumps Europe S.p.A.(EPE社)の顧客でもあるBoreal Light GmbHから提案を受け、2021年4月にスポンサーシップ契約を締結しました」(乗富さん)

↑右から3人目がEbara Pumps East Africa ケニアプロジェクトジェネラルマネジャーの乗富大輔さん

 

学校の子どもたちに飲料水を無償提供

プロジェクトの舞台はマチャコスという街。ケニア南部に位置し、首都ナイロビから車で約2時間の場所にあります。

 

「マチャコスの水道供給は限られており、住民は井戸水を利用したり、タンクに詰めた水を販売する業者から購入したりしていました。安全性の高い水の入手が難しい当地にて、当社は、特別支援学校の敷地内に4台のポンプを含む浄化装置を設置。

 

これにより、深井戸から水を汲み上げ、1時間に2000リットルの清潔な飲料水を製造することが可能となりました。それを学校の生徒たち約160人に無償で提供。余った飲料水は日本の駅のキオスクのようなスタンド『Waterkiosk』で地域コミュニティーの方たちに販売し、収益をWaterkioskの運営費用に充てています。

 

浄水装置に必要な電力はソーラーパネルで発電されたクリーンエネルギーを活用しており、また、浄水装置から出る排水は、施設内の農場や魚の養殖池で有効活用するなど、持続可能なモデルとして運営できる点も重要であると考えています。

↑飲料水の販売スタンド「Waterkiosk」

 

このWaterkioskの運営は2021年7月中旬から始まりました。今回のケースでは、EPE社のポンプを含むBoreal Light GmbHの標準化された浄化装置を活用したため、着工から完成まで約3か月という短期間で実現することが出来たのです。

 

その間に、学校関係者や保護者をはじめ、水を利用する方たちに集まっていただき、プロジェクトの概要や運営システム、水の販売価格をいくらに設定するかなど議論し、現地のニーズを収集しました。

 

また、学校には寮もあるため、飲料水だけでなく、シャワーや手洗いなどの生活用水も供給しています。最初に学校を訪問した際は、不純物のせいか、寮のシャワーが詰まっていて水が出ませんでした。

 

当初の計画にはなかったのですが、寮で暮らす子どもたちの生活全体を改善したいという想いも強かったので、限られた予算の中で調整し、安全な水を生活用水としても提供できるようにしました。結果として、子どもたちの更なるQOL向上に貢献できたと思います。また、このような取り組みを評価頂き、「荏原グループが目指す『6億人に水を届ける』に関わる途上国向け浄水・給水ビジネスモデルの創出」として、第5回ジャパンSDGsアワード特別賞を受賞することが出来ました」(乗富さん)

↑Waterkiosk設立の式典。子どもたちを前にスピーチをする乗富さん

 

 

6億人に水を届けることで生活の改善を目指す

ケニアでの水供給のビジネスモデルは 、あくまで“6億人に水を届ける”という目標に向けての取り組みの1つです。「6億人の対象者はアフリカに限らず世界中すべて」と話すのは、マーケティング統括部の崎濱大さん。

 

「世界の人口は、現在の78億人から2030年には85億人に増加するといわれており、増加分のほとんどが新興国です。当社は、世界シェアを現在よりも5%拡大させることによって、6億人の人に水を供給することを目標としています。

 

ケニアでの新規事業プロジェクトに限らず、既存事業も含めた長期的なビジョンですので、ケニアのビジネスモデルをそのまま他の国や地域で展開するのではなく、それぞれの課題やニーズに応じて柔軟にアプローチをしていきたいと考えています。

↑荏原製作所 マーケティング統括部 マーケティング推進部 第一課・崎濱 大さん

 

新興国の中には、所得や水道事業の運営そのものに課題があったり、そもそも水にお金を払うという認識すらない地域もあります。さまざまな課題に対応し、衛生的で安全、そして安定的な供給をするためには、単にポンプや浄水装置を販売するだけではなく、その国の社会や生活環境への理解を深めることが大切。

 

そのためにも、今回のように現地パートナーと組んで、ニーズに応じた持続可能なシステムを構築、創出していく必要があると考えています」(崎濱さん)

 

水が変われば、生活全体が次々と変わる

“水”というと飲料水だけをイメージしがちですが、もちろんそれだけではありません。

 

「アフリカでは人口増加に伴い、農業生産性の向上と食料の安定供給が大きな課題です。小規模農家向けに当社の技術を活かした灌漑設備を提供し、農業分野においても貢献していきたいと考えています。顧客農家の生産量と所得が増えることで、生活の質向上にも繋げられたらと思います」(乗富さん)

↑マチャコスの学校内では浄水装置の排水を利用して野菜を育てている

 

「食料問題以外にも、水汲み労働による子どもの教育問題、衛生環境問題など、課題は多岐にわたります。こうした安心安全な水にアクセスできる仕組みを作ることにより、課題を解決し、生活基盤の改善が期待できると考えています。

 

今後も飲料水の供給に限らず、当社の技術的な強みと知見を活かせる領域を見定め、現地のニーズに合わせた商品やサービスを創出することで、アフリカをはじめとする新興国の人たちの生活が、社会的かつ経済的に改善されていくように取り組んでいきたいと思います」(崎濱さん)

 

SDGsという言葉が生まれる遥か昔から実施

今回紹介した事例以外にも、荏原製作所では、新興国を対象に、その国や地域の社会基盤の整備や改善に役立てるよう、社員や技術者によるセミナーやワークショップを1989年から開催。2019年までにアジアを中心に20か国で279回実施しています。

 

社会課題に向き合う同社の姿勢について、経営企画部 IR・広報課の粒良ゆかりさんは「創業当時から社会の役に立ちたいという想いを持って事業を継続してきました」と話します。

↑荏原製作所 グループ経営戦略・経理財務統括部 経営企画部 IR・広報課 粒良ゆかりさん

 

「現在は、『E-Vision2030』(前出)で掲げた5つのマテリアリティの解決を目指した、新規事業の開拓、創出を行っています。例えば世界的な食糧不足、たんぱく質不足という課題解決のために、陸上養殖システムの開発を行ったり、水素社会に向けて極低温の液体水素を運ぶための技術実証も予定しています。今後も、当社の技術や知見を活かし、持続可能な社会、豊かな社会づくりに貢献できればと思います」(粒良さん)

食や飲料、サービスの外せないキーワードは? 2022年の「グルメ」トレンド8

グルメの話題には事欠きませんが、まだ知られていないポスト・トレンドグルメはほかにもたくさん控えています。「ビリヤニ」「香港グルメ」「ノンアルレモンサワー」といった料理&ドリンクから、「次世代型自販機」「プラントベースフード」「ハラール料理」「シン完全栄養食」「ゼロ・ウェイスト」など世相を反映するカテゴリーまで。フードアナリストの中山秀明さんに、キーワード別に教えていただきました。

 

1.スパイス料理界期待の星「ビリヤニ」

スパイスカレーが一定の認知を得てきました。スパイスカレーとは、明確な定義はないものの、スパイスを印象的に操る、小麦粉を使わない、和ダシを用いる、ワンプレートで美しく盛り付けるなどの自由度の高さが特徴とされています。そんなスパイス料理界でのネクストブレイク候補といえば、ビリヤニ。

 

「ビリヤニとは、肉や野菜などの具をスパイスと一緒に炊き込んだご飯のこと。南アジア地域におけるムスリム(イスラム教徒)文化圏メニューであり、つまりビリヤニ=インド料理ではありません。スパイスマニアの間ではおなじみでしたが、東京都内ではここ1~2年で専門店が増え始め、また高級スーパーではレトルトのビリヤニを見かけることも多くなってきました」(フードアナリスト・中山秀明さん、以下同)

 

日本におけるビリヤニ普及の立役者的存在、南インド料理店の「エリックサウス」がお取り寄せで販売している「チキンビリヤニ」。

 

「国ごとに味わいも異なります。南インド式、パキスタン式、バングラデシュ式などバラエティ豊か。なかでもパキスタン式は、見た目の華やかさが特徴のひとつで、人気急上昇中です。また、冷凍通販を始めるお店が増えたことも、ビリヤニ人気の理由のひとつでしょう」

 

また、ビリヤニとともに注目してほしいメニューもあるとか。

 

「インドやパキスタンレストランには『プラオ』というメニューを提供する店があり、こちらは“ビリヤニの原型”“ピラフの仲間”ともいわれる米料理。ビリヤニを好きになったら、ぜひプラオもお試しあれ」

 

2.台湾の次に来るのは「香港グルメ」

タピオカミルクティー、ジーパイ(台湾風唐揚げ)、ルーローハン、シェンドウジャン(定番朝食の豆乳料理)など、台湾グルメがブームから定番になりつつありますが、2022年に盛り上がりが注目されている上陸グルメは香港だとか。

 

「2021年の9月には、人気中国料理グループ『味坊集団』が香港スタイルの点心店『宝味八萬』を代々木八幡に出店して話題となりましたが、2022年に入って香港グルメの勢いは加速。2月には、江戸川橋と白山でそれぞれ人気の『フジ コミュニケーション』『also』の姉妹店、香港ストリートフードを提供する『香記豚記(ホンキートンキー)』が新中野に、3月には香港発クラフトブルワリーの直営店『Carbon Brews Tokyo』が赤坂にオープンしました」

 

「譚仔三哥米線」の麺線メニューの一例。

 

「そして香港グルメのトレンドを決定づけたのが『譚仔三哥米線(タムジャイ サムゴー ミーシェン)』の日本上陸です。3月31日に日本1号店が開業となり、4月には吉祥寺と恵比寿にもオープンしました。

同店はライスヌードル『麺線』の一大チェーンで、もちもちの麺とコク深いスープ、140万通りにカスタムできる自由さが特徴です。手掛けているのが『丸亀製麺』を手掛ける企業であることもポイント。2024年の3月までに日本国内25店舗を計画しているとのことで、目が離せません」

 

3.ふたつのトレンドが組み合わさった「ノンアルレモンサワー」

お酒のカテゴリーで人気のレモンサワー。

 

「2022年になってノンアルコールタイプの新商品が立て続けにデビューしました。『ノンアルレモンサワー』としての存在感が、いっそう増しています。

ニューカマーのひとつは、レモンサワーブームを語るうえで欠かせないヒットブランド『檸檬堂』から2月に発売された『よわない檸檬堂』。もうひとつは、クエン酸の働きで疲労感を軽減する機能性表示食品として、3月に登場した『サッポロ LEMON’S FREE』です」

 

左から、「よわない檸檬堂」「サッポロ LEMON’S FREE」「のんある晩酌 レモンサワー ノンアルコール」。

 

「これまで、同カテゴリーはサントリーの『のんある晩酌 レモンサワー ノンアルコール』だけだったところ、一気に3ブランドがしのぎを削る状況に。以前『進化する“お酒”、「ノンアルコール」の世界』で『ソバーキュリアス』(積極的にシラフになりたいマインド)カルチャーに触れましたが、ノンアルトレンドにはますます注目です」

 

4.できたて本格ラーメンが最旬な「次世代自販機」

コロナ過によって非接触の販売手法が礼賛されるなか、自動販売機にもスポットが当たっています。

 

「話題の中心となっているのは冷凍食品で、餃子、ラーメン、カレー、牛丼などさまざまな料理が登場。一方、テクノロジーを駆使した最新型としては、レジ会計のないサラダストア『CRISP STATION』(QRコードからスマホで決済する無人販売店)が話題に。

そしてもっとも旬な次世代自販機といえるのが、『Yo-Kai Express(ヨーカイエクスプレス)』です。生麺タイプのできたてラーメンを提供するのが特徴で、羽田空港と首都高芝浦パーキングエリアで3月末から稼働がスタートしました」

 

「Yo-Kai Express」。お店のようなクオリティのラーメンが食べられ、今後は「一風堂」グループの監修でより本格的なおいしさを目指すそう。

 

「日本には昭和の時代から、ドライブインなどを中心にうどん、そば、ラーメンの自販機が設置されていますが、『Yo-Kai Express』はより細かくレシピを設定できるのが大きな特徴。醤油、塩、味噌、博多豚骨など、細分化されているラーメンの味をしっかり再現できるのです。

『Yo-Kai Express』のベースとなるラーメンは冷凍ですが、90秒でできたてアツアツを提供できる高度な調理技術もポイント。応用すればラーメン以外の料理も提供できるそうで、今後の拡大にも期待が集まります」

 

5.卵料理の登場で一層注目の「プラントベースフード」

世界中でSDGsが叫ばれるなか、食の業界では環境にやさしい「プラントベースフード」が存在感を増しています。昨年「『代替肉』の最新事情」でも紹介しました。

 

「プラントベースフードとは、植物由来原料から作られた食品のこと。例えば、肉であれば牛や豚を育てるため大量の飼料が必要となりますが、代替肉であれば一時原料をそのまま加工して肉に近しい味を作れます。また、屠殺(とさつ)しないので倫理的であるともいえるでしょう。

ベジタリアンやヴィーガン(卵や乳製品を含む動物性食品を一切口にしない、完全菜食主義者のこと)が多い海外は、日本よりプラントベースフードが浸透していますが、SDGsの流れも影響して日本でも徐々に普及。食品ジャンルとしてはプラントベースミート、プラントベースミルクが先行していましたが、新たに広がっているのがプラントベースエッグです」

 

「2foods プラントベースオムライス」は、プラントベースだと言われなければ気付かないほどの完成度。冷凍タイプは「マクアケ」で数量限定発売され、正式な商品化が期待されています。

 

「なかでも勢いを増しているのが、プラントベースフードのスタートアップ『2foods』が今春新発売した『Ever Egg(エバーエッグ)』。カゴメとの協業によりオムライスとしてメニュー化&商品化し、自社店舗や応援購入サイト『マクアケ』で販売を開始しました

また、キユーピーは『HOBOTAMA 加熱用液卵風』と『HOBOTAMA スクランブルエッグ風』をこの3月からオンラインで新発売。スーパーでプラントベースエッグを見かける日も、そう遠くないはずです」

 

6.グローバル化で浸透中の「ハラール料理」

「ビリヤニ」や「プラントベースフード」に関係するフードトレンドが、「ハラール料理」。

 

「ムスリムは教義において食にも戒律があり、合法なものをハラール、非合法なものをハラームといいます。

食材の非合法を挙げれば、豚肉が代表的。一方で、基本的に野菜はすべて合法です。とはいえ料理にアルコール入り調味料が使われていると非合法になるなど、細かな規定があるため、ムスリムの方にとっては、食品を買ったりレストランで食べたりするときに“ハラール認証”であるか否かが大切なのです」

 

日本でも国際化が進むにつれ、年々ハラールの注目度が高まっています。

 

「パキスタンなどムスリム文化圏レストランの多くがハラール認証店であることはもちろん、ハラール認証であることをうたうハンバーガーショップやラーメン店も増えています。

また、イスラム教の国が多い中東発祥のフードで昨今人気なのが、『ファラフェル』という豆のコロッケです」

【関連記事】中東のソウルフード「ファラフェル」の正体とレシピ

 

7.カレーや味噌汁など惣菜系が面白い「シン完全栄養食」

コロナ禍によって免疫力が注目を集めるなど、食への健康意識は年々高まっているといえるでしょう。これに伴い市場規模が拡大しているのが、完全栄養食です。これは、一般的に厚生労働省が提示した基準に基づき、1食あたりの必要な栄養素をすべて摂取できることを目標に開発された食品のこと。

 

「当初はオンラインなど販路が限られていましたが、いまやコンビニでも発売されるほどメジャーになりました。また、商品のバリエーションが広がりを見せており、パウダー状のものや麺類、パン、グミといった食品のほか、味噌汁の『MISOVATION』、カレーの『KOREDE(コレデ)カレー』といった『シン完全栄養食』といえるタイプも登場しています。

なかでも『KOREDE(コレデ)カレー」はユニーク。水で溶かせるパウダー状のカレーになっていて、従来のカレーに比べて低脂質かつ高たんぱく質のプロテインカレーでもあるのです」

 

「KOREDE(コレデ)カレー」。レシピなども付いています。

 

「飲むカレーとして味わったり、ご飯にかけたりカレーうどんの材料にしてもよし。アウトドアシーンや非常食としても活用してくれることでしょう。今後、どんな『シン完全栄養食』が出てくるのかにも注目です」

 

8.容器持参で量り売りを楽しむ「ゼロ・ウェイスト」な食品店

プラントベースフードのところでSDGsに触れましたが、環境問題の面でいえば脱プラスチックも課題のひとつです。2020年の7月にはレジ袋が有料化したことで、エコバッグが身近になった人も少なくないでしょう。

 

「こういった流れのなかで、プラスチックだけでなくさまざまな梱包物を極力なくしていこうと取り組む企業が増え、量り売りを採用する『ゼロ・ウェイスト』(ゴミゼロのこと)型の食品店も増加中。有名なのは、イオンが日本で展開するフランスのオーガニックスーパー『ビオセボン』の量り売りコーナーで、さらに『ゼロ・ウェイスト』を徹底しているのが京都発の『斗々屋』です」

 

「斗々屋」系列店の「ニュ・バイ・トトヤ」。容器を忘れても、デポジットで対応可能です。

 

「『斗々屋』は全食品が量り売りで、2021年には東京に進出。国分寺のオーガニックカフェ『カフェスロー』内に『ニュ・バイ・トトヤ』をオープンしました。販売している食品もオーガニックのものが多く、また地元生産者によるこだわりのフードも多数。量り売りでスタッフとコミュニケーションを取るという、ユニークな買い物体験も新鮮です」

【関連記事】必要なモノを必要な分だけ。「無印良品 東京有明」でしか体験できない5つのこと

 

以上8つのキーワードを解説していただきました。まだまだ2022年後半も新しいトレンドが生まれることでしょう。目が離せません。

 

【プロフィール】

フードアナリスト / 中山秀明

フードアナリスト・ライター。なかでもビールに関する執筆が多く、大手メーカー、マイクロブリュワリー、ブリューパブ、クラフトビアレストランなど、小売り、外食問わず全国各地へ取材に赴いている。


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

大画面&大容量バッテリー&4眼カメラを備えた“Awesome”な一台! 「Galaxy A53 5G」ドコモ、au、UQで発売

サムスン電子のモバイル製品ブランドであるGalaxyは、スタンダードモデルのスマートフォン「Galaxy A53 5G」を、NTTドコモ、au、UQ mobile向けに、5月27日に発売しました。税込価格は、ドコモ版が5万9400円、au、UQ mobile版が5万9835円です。

 

 

同製品は4眼カメラを搭載し、幅広いシーンに対応。精細な約6400万画素のメインカメラ、細かなディテールも鮮明に捉える接写専用マクロカメラ、人間の視野角と同等の約123度の風景をおさめる超広角カメラ、被写体との距離を把握し背景をぼかす深度測位カメラを備えており、シーンに合わせレンズを切り替え、自由な撮影が可能です。

 

スタンダードモデルながら、光学式手振れ補正対応カメラを搭載し、うす暗い環境など手振れしやすいシチュエーションでも、クリアな写真や動画をとることができます。

 

屋外の直射日光下でも、見やすく鮮明な画面を表示できる800nitの高輝度ディスプレイを搭載。約6.5インチで狭額縁ベゼル「Infinity-O Display」を採用したディスプレイは、リフレッシュレート120Hz対応で指に吸い付くような滑らかな操作性を味わえます。環境に合わせブルーライトを自動調整する機能で、目の疲れを軽減。ステレオスピーカーは、映画館などにも導入されている立体音響技術DolbyAtmosに対応しています。

 

容量5000mAhのバッテリーを搭載し、バッテリー寿命は最大2日間。短時間で充電が可能な25Wの急速充電にも対応します。RAM6GBとROM128GB搭載に加え、5G対応の高速通信で、スムーズな動画視聴が可能です。指や顔での生体認証機能や、防水・防塵機能も搭載しています。

 

GalaxyのSDGsへの取り組みのひとつとして、パッケージに再生紙を利用しているほか、サイドボタンとSIMカードトレイにもポストコンシューマー素材を使用しており、環境に配慮しています。

 

カラーはオーサム ブルー、オーサム ホワイト、オーサム ブラックの3色展開(※ドコモ版は半角スペースなし)。カメラ部分までシームレスに覆われたデザインで、背面に特殊な加工を施した、指紋の目立ちにくい滑らかな質感が特徴です。

↑スペック詳細(ドコモ版はカラー名に半角スペースなし)

虎のステーキにシマウマ寿司!? フードテックが作る「近未来の肉料理」

昨今、代替肉として培養肉の開発が進んでいます。そんななかイギリスから飛び込んできたのが、「虎肉のステーキ」や「シマウマ寿司」に関するニュース。嘘のようなメニュー名ですが、これらは実際にロンドンのフードテックが開発しているもの。一体どんな肉なのでしょうか?

 

もっとおいしい肉があるのでは?

↑シマウマ寿司。パッケージに「謹賀新年」とあり、おめでたさ満点?(画像提供/Primeval Foods)

 

虎肉やシマウマ肉の培養について発表したのは、ロンドンを拠点にするフードテック企業「プライメーバル・フーズ(Primeval Foods。以下、PF)」。この企業が開発しているのは、ライオン、虎、シマウマなど、ギョッとするような動物のお肉ばかりです。

 

彼らは、これらの動物からとった、わずかな組織のサンプルをビールの醸造に使われるようなステンレス製のタンクで培養。

 

PFは「私たちが牛、豚、鶏の肉を食べているのは、その肉が一番美味しくて栄養価が高いという理由ではなく、単に家畜として飼育しやすかったから」と考えています。つまり、世の中には、それらよりおいしい肉があるかもしれないということ。技術が発達すれば、飼育が難しい動物でも細胞を培養し、肉を作って食べることができるようになるかもしれません。

 

例えば、同社によると、ゾウは長距離を移動する草食動物のため、筋肉組織の脂肪分が旨味を引き出すとのこと。

 

培養肉は「従来食べられていた肉の代替となるもの」と捉えられることが多いかもしれません。しかしPFは、代替品というより、現在の肉をさらにアップグレードするものと考えているようです。

 

サステナブルな「味わい」

↑虎のステーキ。魅力はおいしさだけではない(画像提供/Primeval Foods)

 

培養肉には、味以外でも 多くのメリットがあります。その1つが食の安全性。細胞培養で添加されるのは、アミノ酸、炭水化物、脂質などの必須栄養素やビタミン、ミネラルなど。成長ホルモンや抗生物質は使用されておらず、遺伝子組み換えの心配もありません。

 

そもそも、培養肉は環境にも優しいのがメリット。オックスフォード大学の試算によると、従来の家畜肉と比べて、温室効果ガスの排出量は最大96%、消費エネルギーは45%、使用する土地は99%、使用する水の量は最大96%も抑えられるそうです。しかも骨や臓器がないため、廃棄物もあまり出ないとのこと。

 

イギリスやアメリカ当局の認可が下りれば、PFは同社のお肉料理の試食会をロンドンとNYのミシュラン星つきレストランで開催する計画とか。いつか「ライオン肉のバーガー」や「虎肉のハンバーグ」が私たちの食卓に並ぶ日が来るのでしょうか?

リサイクル素材を活用! サステナブルなマルチモードPC「Lenovo Yoga 670」5月20日発売

レノボ・ジャパンは、13.3型マルチモードPC「Lenovo Yoga 670」を、5月20日に発売します。税込価格は14万円~。

 

同製品は、天板のファブリック素材やクッション材などにリサイクルプラスチックを活用し、環境への負荷を低減。天板のファブリックカバーには50%、電源アダプターには30%、バッテリーには25%、クッション材には90%のリサイクルプラスチックを用いており、梱包材にはFSC認証を受けた資材を使用しています。

 

13.3型ディスプレイはアスペクト比16:10で縦に作業領域が広く、解像度はWUXGA(1920×1200)、広色域sRGBカバー率100%。ペン入力にも対応し、Lenovoデジタルペンを同梱しています。

 

エッジ部分は丸みを帯びたデザインで、手にフィットして持ち運びやすい設計。USB Type-C×2、USB Type-A×2、HDMI、microSDカードスロットを備えています。

 

CPUには最新のAMD Ryzenモバイル・プロセッサーを搭載。Dolby Vision、Dolby Atmosに対応。「Fn+Q」キーでファンの回転数を切り替えられるSmart Power機能により、製品のパフォーマンスを制御することが可能です。

手軽なバッグ型・段ボール型が登場!「コンポスト」で生ごみを資源に変えるサステナブルな暮らし

昨今、注目されている「コンポスト」。生ごみや落ち葉を活用して堆肥をつくることをいい、もともと家庭菜園を楽しんでいる人にはお馴染みでしたが、マンションのベランダでもできるバッグ型など手軽なタイプの登場によって、身近になってきています。

 

生ごみや落ち葉を、ゴミとして廃棄せずに活用する……そんなサステナブルな仕組みと、メリット・デメリット、活用法などについて、バッグ型のコンポストを手がけている、LFCコンポスト代表のたいら由以子さんに教えていただきました。

 

忙しい日々に癒しをもたらす!? 都会のベランダにも取り入れたい「コンポスト」

たいらさんが都会のベランダで始められるコンポストの開発と普及に力を注ぐきっかけとなったのは、約28年前の、お父様のガン宣告だったそう。

 

「食養生のための無農薬野菜が必要になり、いざ探してみると、近くのスーパーではほぼ手に入らない。おまけに高価で、家計への負担も大きい。安全な野菜を手に入れるのが困難な社会に憤りを感じつつも、この状態に反対運動をするよりも改善策を考え、行動することが大切だと感じました。

現代人の多くは、日々の忙しさに追われ、コンビニやスーパーで安易に手に入る無農薬とはほど遠い食材に頼り、食べ残しや調理くずは可燃ごみとして処分しています。これは自然界の循環を止めてしまっている行為なのです。わたしたちは自然の中の一部。食べ物で栄養をいただいたら、生きている間は排泄物でお返しし、死ぬときは自分自身が栄養素として土に戻っていくようにできています。人間も例外ではありません。

実際に、コンポストを始めたお客さまの中には、イライラや不安の解消効果が得られたという声も少なくありません。これは、自然循環を取り戻すアクションが、人間の心にも好循環の働きをもたらしてくれたと言えます。土や自然に触れる生活からかけ離れている方にこそ、コンポストを体験してもらいたいです」(LFCコンポスト代表・たいら由以子さん、以下同)

たいら由以子さん。

 

生ごみが分解されるまでは臭う? 土にどんな影響がある?

家庭から出る生ごみを資源として有効に活用する「コンポスト」。でもコンポストを使うことで、生ごみ臭や虫がわくトラブルはないのでしょうか?

「水気を含んだ生ごみをビニール袋に入れて保管すると、嫌な臭いが発生しますが、コンポストは微生物が分解していく上に、水分を含んだ生ごみが腐敗していくわけではないので、悪臭に悩まされることはありません。また、密封しておけば、ハエが飛び回るような状況も起こりません」

 

ちなみに、生ごみの臭いを防ぐものでは「乾燥式」の生ごみ処理機があります。温風で生ゴミの水分を蒸発させて乾燥させることで、腐敗の進行を防ぎ、臭いにくくするもの。ただしこれは、燃えるゴミとして廃棄する前提。生ごみをごみとせず、土壌に循環させて有効活用できるのが、「バイオ式」の生ごみ処理機で、これを「コンポスト」と呼びます

【関連記事】夏は虫がわいたり臭ったり……生ゴミをエコに処理する「生ゴミ処理機」を取り入れるには?

 

では、コンポストで作られた堆肥は、土にどのようなメリットをもたらすでしょうか?

「コンポストで作られた堆肥は、土壌の肥沃度を保つ働きをします。化学肥料を使う必要がなくなるので、結果的に、安心安全の野菜が育てられる上に、味が濃く、栄養価の高い収穫物が実ります。

家庭から出る燃えるゴミの約4割は、生ごみが占めています。これを家庭で堆肥に変えることができれば、ゴミの量が減らせる上に、自給率が上がり、化学肥料の使用量も減らすことができるのです」

 

コンポストを使う手順とは?

1.生ごみを集める

調理などで出た生ごみ。一口大よりも大きいものは、細かく切っておきましょう。ちなみに、コンポストに入れない方がいいものもあります。

・余分な水分
・分解しにくいもの…とうもろこしの芯、カニの殻、貝がら

 

2.コンポストの中に生ごみを入れ、よく混ぜ合わせる

コンポストの中に生ごみを入れて、よく混ぜます。生ごみは1日300g~500g程度に。これを1.5〜2か月間続けます。投入する生ごみの量は規定内にしましょう。生ごみの量が多すぎると分解や発酵が進みづらく、悪臭や虫がわく原因にもつながります。

 

3.約3週間、熟成させれば完成

週に1~2回、500mlほどの水を入れ、週に2~3回全体をよく混ぜれば完成。熟成しきらずに残った卵の殻も、そのまま堆肥として使用可能です。

 

初心者にはバッグ型がおすすめ! 取り入れやすい主なコンポスト

コンポストにはさまざまな種類があります。

 

「初心者におすすめなのは、ベランダで手軽に始められるLFCコンポストかダンボール型コンポストですね。お子さんのいるご家庭なら、ミミズコンポストも楽しめそうですね。ただ、ミミズコンポストは、ミミズが嫌いな柑橘系を入れるのはNGなのと、虫の出入りもあるので、初心者にはややハードルが高いかもしれません。電気式の生ごみ処理機は、床に直接置けて室内に設置できるのが便利です。ただし、本体が高額で継続的に電気代がかかります。電気式の生ごみ処理機に関しては、助成金のある自治体もあるので確認するといいでしょう」

 

コンポストの設置には、どのような点に注意したらいいでしょうか?

 

「どんなコンポストにも共通していますが、雨が当たらず、風通しのよい場所に置きます。コンポストの底面や床が湿らないように、床に直接置かず、網カゴの上などに置いてください」

 

・バッグ型コンポスト

LFCコンポスト「LFCコンポストセット」
定期便初回=3278円、2回目以降1848円(税込)

https://lfc-compost.jp/product

「専用バッグに基材(生ごみと混ぜ合わせる材料)を入れ、1日300g~500gの生ごみを1.5~2か月の間、毎日投入してよくかき混ぜるだけ。微生物が生ごみを分解し続けてくれるので、バッグからあふれるようなことはありません。虫が入りにくいファスナー仕様。たんぱく質類はたまにアンモニア臭が発生することもありますが、酸素がよく行き渡るようにしっかり混ぜていれば、臭いは自然と収まっていきます。生ごみ臭や虫の発生で近所に迷惑をかけることなく、都会のベランダでも手軽に始められます」※再利用可能

 

・ダンボール型コンポスト

たのしい循環生活「ダンボールコンポストセットプラス」
3940円(税込)/ NPO法人循環生活研究所提供

https://jun-namaken.shop-pro.jp/?pid=72901230

「ダンボール箱に専用基材を入れ、生ごみを投入してよくかき混ぜればOK。ダンボールコンポストの使い方をわかりやすく解説した冊子『堆肥づくりのススメ』や温度計、ファスナータイプの虫よけカバーも付いているので、初心者でも使いやすいタイプです。毎日500gの生ごみを約3ヵ月間投入でき、仕上げに3週間ほど熟成させると堆肥ができあがります」

 

暮らしも気持ちも満たされる!? コンポストがもたらす多大な恩恵

ベランダの一角で始められるコンポストが、暮らしの中に与える好循環は計り知れないというたいらさん。

 

「まず、ご飯や麺などの残飯、肉や魚の骨、野菜の皮やクズ、コーヒーのがらや茶がらなど、今までは家庭ごみとして捨てていた生ごみが堆肥となり、貴重な資源に生まれ変わります。作業は1日1回混ぜるだけ。コンポストを覗けば、微生物が野菜クズを分解し、土へと変えてくれている様子が見られます。毎日、コンポストのお世話をしているような気分や、地球にやさしい活動をしている感覚が得られてうれしいというお声もよく聞きます。

 

出典=ローカルフードサイクリング公式HPより

 

コンポストを始めて約3か月で堆肥ができますが、家庭菜園や観葉植物などで使いきれないときは、お友達やご実家にプレゼントをするのはいかがでしょうか? LFCコンポストでは、農家さんに堆肥を提供し、野菜と交換する機会も設けています。また、学校や施設、自治体で堆肥を回収しているところもあります。お近くの自治体に問い合わせてみるといいでしょう。堆肥と野菜の物々交換が当たり前にできる循環型の血の通ったやりとりが増えるといいですね」

 

不名誉な現状を変えられるか?
日本は、ごみ焼却量で世界No.1という現実

コンポストを都会で普及させ、家庭ごみを減らしたい。たいらさんの思いは、日本の不名誉な現状を打破することと、日本人本来の暮らしを取り戻したいという切なる願いも込められています。

 

「国際機関OECD(経済協力開発機構)の2013年発表のデータによると、日本は世界のごみ焼却率No.1。1位の日本が77%に対し、2位のノルウェーは57%、3位のデンマークは54%という数値から見ても、ダントツトップという結果に。

日本がごみ大国になってしまったのは、戦後の高度経済成長以降です。昭和初期までの日本は、80%以上の人が農業に携わり、生ごみは畑の土に埋め、肥沃な土を作り出すための大切な資源でした。戦後、一気に都市化や欧米化する暮らしの中で、いつしか生ごみを焼却するライフスタイルが定着していき、自然と暮らしが分断されてしまいました。そして、元々清潔好きだった国民性に、このごみを焼却するシステムが合ったこともあるでしょう。国内にはごみ焼却炉がどんどん増えていき、現在に至ります。

ベランダでできるコンポストが都会の暮らしにも普及すれば、生ごみの焼却量を大幅にカットし、環境にも体にもやさしい脱炭素社会に大きく貢献できるのです」

 

コンポストに挑戦した方からは、「もっと早く始めればよかった!」という感想が多く届くというたいらさん。まずは、コンポストを始めることで家庭ゴミを減らして、サステナブルなアクションに参加しませんか。

 

【プロフィール】

LFCコンポスト代表 / たいら由以子

大学で栄養学を学び、証券会社に勤務。大好きな父とのお別れをきっかけに、土の改善と暮らしをつなげるための、半径2kmでの資源循環を目指し活動開始。青年団の仲間と循生研を立ち上げ、子どもから高齢者、外国人までコンポストでつながる美味しい食の輪をつくるのが生きがい。メンバーとのお茶の時間を一番大切にしている。行動を最良の学習手段とし、活動をスパイラルアップさせるが信条。趣味はイラストコミュニケーション、レコード・映画鑑賞、愛犬と遊ぶこと。

 

99%の人は不健康な空気を吸っている! WHOが発表

自然が豊かな場所では、都会に比べて空気がおいしく感じるもの。しかし、それは錯覚かもしれません。先日、WHO(世界保健機関)が「世界の人口の99%は不健康な空気を吸っている」と発表したのです。一体どういうことでしょうか?

↑きれいな空気を吸っていると思っていたけど、勘違いだった?

 

WHOは2011年から、日本を含む世界117か国6000以上の都市で、二酸化窒素(NO2)、PM10(直径10マイクロメートル以下の粒子状物質)、PM2.5(直径2.5マイクロメートル以下の微粒子状物質)の年平均濃度を観測し、大気の質に関するデータベース(『Air Quality Database』)を3年ごとに発表しています。最近、その2022年版が公開されました。

 

まず、二酸化窒素から見てみましょう。二酸化窒素とは、空気中の酸素と反応してオゾンを生成する物質で、PM10やPM2.5と同じように都市部で多く観測されている大気汚染物質。約4000の都市や地域がこのデータを収集していますが、WHOの大気質ガイドラインの数値(air quality guideline levels)を達成している国は全体のわずか23%しかありませんでした。国の所得によって大きな差は見られなかったとのこと。

 

次に、PM10とPM2.5に関しては、WHOの基準を下回る国が、特に所得の低い国で多数あることがわかりました。低・中所得国で基準を満たすのは全体のわずか1%未満。それに対して、日本、アメリカ、ヨーロッパなどの高所得の国では、83%が基準を満たしていました。低・中所得国のPM10とPM2.5の量は、高所得国の約3倍にもなります。

 

これらの結果から、WHOは世界の人口の約99%が「汚染された不健康な空気を吸っている」と警鐘を鳴らしたのです。「約99%」の算出方法は不明ですが、2020年の世界の人口を約77.6億人(出典:世界銀行)とすると、約76.8億人が該当。特に所得の低い国の人々は、大気汚染によりさらされているのが現状のようです。

 

WHOは、大気汚染によって亡くなる人が毎年世界で700万人にのぼると報告しています。大気汚染がさらに進むと、これまで以上に多くの人々が病気で苦しむことになりかねません。コロナ禍で世界中の人々が自宅にとどまった期間、クルマの排気ガスなどの量が減ったことで、空気がきれいになったことが複数の都市で報告されました。再び空気が汚れてしまわないように、各国が大気汚染のガイドラインを刷新し、それに合わせた対策を講じるべきだ、とWHOは述べています。

ベランダ菜園がNGの賃貸マンションでも! コップ1つの「再生栽培」で家の中で野菜を収穫する方法

在宅時間が増えたことで、あらためて注目されている家庭菜園。貸し農園を利用したり、庭の一角に野菜を植えたり、さまざまな方法で楽しむ人が増えています。なかでも人気なのが、自宅のベランダやテラスでの“プランター菜園”。ところが賃貸マンションの場合、ベランダは共用スペースなので、ルール上はプランターを置いて菜園化するのはNGとされています。ならば家の中を活用して、野菜を育ててみませんか?

 

そこで今回は、初心者でもトライしやすい“再生栽培”を解説。農業コンサルタントとして活躍する宮崎大輔さんに、おすすめの野菜や育て方のポイントを教えていただきました。

 

家庭菜園の魅力は
“育てる楽しみ”だけでなく“食べる楽しみ”も味わえること!

家庭菜園は、「家で過ごす時間が増えた今、趣味として楽しむのにもぴったりです」と宮崎さん。コロナ禍で、農園を借りて本格的にチャレンジする人も、ベランダやキッチンなどの室内で気軽に楽しむ人も、両方増えていると言います。そもそも自分の手で野菜を育てる家庭菜園には、どのような魅力があるのでしょうか?

 

「どんな植物にも“育てる楽しみ”があると思うのですが、家庭菜園はそこに“食べる楽しみ”もプラスされるところが、魅力のひとつだと思います。収穫してすぐに食べられるので新鮮さや安心感がありますし、何より自分の手で育てた野菜には愛着がわきますよね。

家庭菜園の中でもトライしやすく、初心者におすすめなのが“再生栽培”です。野菜のヘタや切れ端などを使って育てる再生栽培は、『リボべジ(リボーンベジタブル)』とも呼ばれ、エコや節約にもつながります。ホームセンターに行って種や苗をわざわざ購入する必要はなく、土やプランターなしで育てられる野菜もあるので、コップ1つあれば始められます」(宮崎大輔さん、以下同)

 

家にあるものでチャレンジ!
再生栽培におすすめの野菜は?

「家庭菜園をやってみたいけれど難しそう」とハードルを感じている人にもおすすめしたい再生栽培。再生栽培の中でもチャレンジしやすい、土を使わず室内で育てられる野菜を教えていただきました。

 

1. 捨ててしまいがちなヘタを活用!「ニンジンの葉」

「ニンジンのヘタは普段捨ててしまう人も多いと思いますが、このヘタからニンジンの葉を育てることができます。葉は育ちすぎると固くなってしまいますが、再生栽培では固すぎずほどよい柔らかさに育つので、おいしく食べられますよ。スープに入れたり炒飯に入れたりして食べるのがおすすめです」

 

「栽培の方法はとても簡単。浅めのトレーやお皿にヘタを置いて水に浸しておくだけで葉が伸びていきます」

「水は、葉が出てくる部分に浸からない程度まで入れましょう。2週間ほどで育つので、食べる際にハサミでカットして収穫します。収穫できるのはだいたい1回です。ニンジンの葉は成長がとても早く、にょきにょきと伸びていく様子が目に見えてわかるのでとても面白いですよ!」

水は、とくに気温が高くなるこれからの時期は毎日替えるようにしてください。また水を替えるときには、トレーも一緒に洗うことを忘れずに! トレーに雑菌がついているとせっかく水を替えてもヘタが腐ってしまうことがあります。

置いておく場所は、そこまで日当たりが良い場所でなくても大丈夫です。しかし気温が高い時期は、直射日光が当たる場所は避けるようにしましょう。逆に冬はエアコンが効いている暖かい部屋など、寒すぎない場所に置くのが良いと思います。ちなみに、ダイコンの葉もまったく同じ手順で育てることができますよ」

 

2. 使いたい分だけ収穫できて、再生栽培にぴったり!「小ネギ」

「普段は捨ててしまう根の部分から育てられる小ネギ。最初から根が付いているので失敗しづらく、害虫もつきにくいので、初心者にもぴったりです。また、小ネギは料理のトッピングとして使うことが多いと思いますが、使いたいときに使いたい分だけ収穫できるので、再生栽培に適した野菜と言えると思います」

 

「栽培方法は、切り落とした根の部分を、水の入ったコップやプラスチックのカップに入れるだけ」

根の部分がしっかりと浸かっていれば、水の量はそこまで気にする必要はありません。約1週間で育つので、使いたい分だけハサミでカットして収穫しましょう。2~3回は収穫することができますよ」

置き場所は、日当たりの良さをそこまで考える必要はありません。リビングのテーブルや出窓などのちょっとしたスペースに置いても良いと思います。

また小ネギは、水に浸けずに土に植えて育てることも可能です。土で育てる場合は、まず小さめのプランターを用意して鉢底石を敷き、その上に野菜用の培養土を入れます。根が埋まるくらいまで穴を掘って植えたら、最初は水をたっぷりと与えましょう。その後は土の表面が乾いたら水やりをするようにしてください。土に植えれば、何か月、何年ももつので、長期間育てたいときや元気に大きく育てたいときには、ぜひ挑戦してみてください!」

 

3. 丈夫で育てやすいのが魅力!「ミント」

「残った茎から育てることができるミント。生命力が強くて丈夫なので、初心者でも育てやすいと思います。自分で育てれば、いつでも摘みたてのミントを使ったミントティーなどをつくることができます」

 

「栽培方法は、ミントの茎の部分を水が入ったコップやプラスチックのカップに浸けておくだけ」

葉を食べた後の茎を使うか、下の方の葉はあらかじめ取っておき、葉が水に浸からないようにしましょう。収穫するときは、ハサミでカットしても手で摘んでもどちらでもOKです」

「ミントは日当たりが良い場所に置いておくと、早く元気に育ちます。たまに水を替えてあげるだけで肥料などを与えなくても半年~1年間くらい育てることができますよ。

また、ミントも土で育てることが可能です。土に植える前に、根が5cmくらい伸びるまで茎を水に浸けておくようにしてください。植えるときにはまず、プランターに鉢底石を敷き、その上に野菜用の培養土を入れます。土に根が埋まるくらいまで穴を掘って植え、最初はたっぷりと水を与えましょう。その後は土の表面が乾いたら水を与えるようにしてください。約1か月で収穫できるくらいまで育ちますが、ミントは土に植えると育ちすぎてしまうため注意が必要です。植え替える場合は小さめサイズのプランターを使うことをおすすめします」

 

4. 今注目されている野菜の一つ!「ニンニクスプラウト」

「ニンニクスプラウトとは、発芽直後の新芽があるニンニクのこと。品揃えが良いスーパーなどでは販売されていることもありますが、まだ値段が高く、比較的珍しい野菜です。においがきつくなく、まるごと食べられて栄養価も高いので、最近少しずつ人気が高まっています。そのままソテーにしたり、素揚げや天ぷらにしたりして食べるのがおすすめです」

 

「再生栽培では、皮をむいたニンニクのかけらをそのまま使います。少し時間が経って芽が出てしまったものがあれば、ぜひそれを活用しましょう」

「卵のパックや製氷皿などにひとかけずつ入れて立たせ、根が浸かるくらいまで水を入れます。少し面倒ですがニンニクを全て取り出して、毎日水を取り換えるようにしてください。収穫までは約2週間。5cmほど根が伸びたら収穫できます」

「置き場所は、出窓などできるだけ日当たりの良い場所がおすすめです。3~4個だけ育てたいときには、小さなカップに入れても良いと思います。また僕自身、実験的にいくつかのニンニクを使って育ててみたのですが、品種によってはまったく芽が出ないものもありました。もっとも良く育ったのは、スーパーで手に入る普通サイズのニンニク。まずはこれで試してみるのがいいかもしれません」

 

再生栽培をもっと楽しむためには?

特別な道具がなくてもすぐに始められる再生栽培。最後に宮崎さんから、「他の野菜も育ててみたい」「もう少しレベルアップしたい」という人へ、再生栽培をさらに楽しむためのヒントを教えていただきました。

 

「今回紹介した野菜以外にも、肉料理の付け合わせにぴったりなクレソンや、暑い時期でも育てやすいクウシンサイなど、初心者の方もトライしやすい野菜はまだまだあります。

さらに難易度を上げて再生栽培をやってみたいという方には、プランターを使って土で育てたり、水耕栽培を本格的にやってみたりするのがいいと思います。例えば水耕栽培では、水に溶かすタイプの液体肥料や、水槽用のエアーポンプ、太陽光代わりのLEDライトなどを使って育てれば、ゴーヤやキュウリなどの野菜も育てることができますよ。個人的には、イチゴの再生栽培もおすすめ! 難易度は高めですが、ぜひチャレンジしてほしいです。

そのほか、一つの野菜をいくつかの方法で育ててみるのも楽しいと思います。例えば『豆苗』は根を水に浸しておけば、また豆苗が育てられますが、土に植えるとエンドウマメを育てることもできるんです。実験的にいくつかの品種を育ててみたり、育て方を変えてみたりすると発見があって面白いかもしれません」

 

さまざまな楽しみ方ができる再生栽培。ぜひ自分の好きな野菜でチャレンジしてみてください。

 

【プロフィール】

農業コンサルタント / 宮崎大輔

1988年生まれ、長野県出身。実家は果樹園を経営。信州大学大学院農学研究科修士課程修了。青年海外協力隊として中米パナマ共和国で農業支援に従事。2019年に農業コンサルティング企業「イチゴテック」を創業し、日本、アジア、中南米、アフリカで農業ビジネスの支援を行う。2021年10月には「キッチンからはじめる!日本一カンタンな家庭菜園の入門本 おうち野菜づくり」(KADOKAWA)を出版。自身のYouTubeチャンネルで「趣味の園芸からガチ農業まで」をテーマに、幅広い分野の植物に関する情報も発信している。
Twitter
Instagram
YouTube

 

『キッチンからはじめる!日本一カンタンな家庭菜園の入門本 おうち野菜づくり』(KADOKAWA)

 

既に再エネ自給率56%! 長崎県五島市で進む「脱炭素社会」の仕掛けたち

目指すは再生可能エネルギー自給率約80%&ゼロカーボンシティ~長崎県五島市

 

2018年にユネスコ世界文化遺産に登録。最近では、NHKの連続テレビ小説「舞いあがれ!」(2022年後期放送予定)の舞台の一つとして注目を浴びている長崎県の五島列島。東シナ海に浮かぶ自然豊かなこの島は、再生可能エネルギー事業に積極的に取り組み、脱炭素の先駆者的存在として期待が寄せられています。

 

日本初の浮体式洋上風力発電機を設置

太陽光や風力、潮流、地熱など、温室効果ガスを排出しない自然の力を利用する再生可能エネルギー。五島市では、海に浮かぶ発電所ともいえる「浮体式洋上風力発電設備」が日本で初めて設置され、2016年3月からすでに実用化されています。

 

「きっかけは、再生可能エネルギーの導入を促進する環境省の実証事業への参加です。2012年に五島列島の椛島(かばしま)沖に100kw小規模実証機設置を経て、2013年に2000kw実証機1基が設置されたのですが、この辺りは波が穏やかで、かつ年平均風速が毎秒7.45mと風が強く、風速の変動も少ないため、風車を設置するには非常に適した環境でした。その後、野口市太郎現市長が就任した2012年に、4大プロジェクトが策定され、そのうちの1つに再生可能エネルギーの推進が掲げられました」(五島市 総務企画部 未来創造課 ゼロカーボンシティ推進班 佐々野一成さん)

↑現在は福江島の崎山沖に位置する浮体式洋上風力発電設備「はえんかぜ」

 

フル出力で2000kW、一般家庭の約1800世帯分を送電

水深約50mまでの浅い海域には着床式の洋上風力発電が適していますが、洋上の風が強く、効果的な発電ができる水深の深い海域では浮体式でなければなりません。浮体式は世界でも実用化がそれほど多くありませんが、排他的経済水域の面積が世界第6位の日本の場合、こうした地の利を生かした浮体式洋上風力発電に大きな期待が寄せられています。

 

「実証事業は2015年度に終了。2016年3月から福江島の崎山沖に設備を移設し、現在は実際に商用運転されています。浮体式洋上風力発電は船舶扱いで船舶名は“はえんかぜ”(方言で「南東の風」という意味。幸せを運ぶという伝えがある)。海中部分を含め全長172mで、40mの回転翼が3枚付いています。椛島での実証事業の時は海底ケーブルが細く、約600kWしか送電することができませんでしたが、福江島の崎山沖へ移設後は海底ケーブルを新たに敷設し、発電量はフル出力で2000kW、一般家庭の約1800世帯分の電力を送ることが可能となっています。2024年までにさらに8基を増設し、計9基で商用稼働させることを目指しています」

↑未来創造課の佐々野一成さん。「五島産の再エネ電気を五島のPRに活かしていきたい」と話す

 

再生可能エネルギー自給率約80%に

五島市の再生可能エネルギーの取り組みは浮体式洋上風力発電だけではありません。

 

「陸上の風力発電機は現在大型が11基、小型が18基、水力発電が1基。太陽光パネルにいたっては、家庭用も含めると1600基ほど設置されています。また、奈留瀬戸で潮の満ち引きを利用した潮流発電の実証事業がスタート。昨年までは500kWの発電機でしたが、今後は1000kW程度と規模を拡大し、4年後の実用化を目指しています。五島市の再生可能エネルギー自給率は、2020年時点の推計値で約56%ですが、こうした取り組みにより、浮体式洋上風力発電を増設した2024年には自給率約80%になる見込みです。

↑福江島にある太陽光パネル。個人宅の屋根にも多く設置されている

 

再生可能エネルギー事業は、商用化しても電気料金が安くならないなど、市民が直接的な恩恵を感じられにくい部分があります。ですが、広報誌や勉強会などで啓発活動を積極的に行っていることもあり、市民アンケートではポジティブな意見を多くいただいていますし、意義のあることだと捉えている方は少なくありません。また、浮体式洋上風力発電設備の海中部分に藻やサンゴが付着し、そこを隠れ家とした小魚を狙う魚が集まるなどの好影響も。これまでは魚が少なかったため、漁が盛んでない海域でしたが、今後の検証次第では、漁獲量の向上につながるのではないかと期待されています」

 

ゼロカーボンシティを宣言

再生可能エネルギー事業に積極的な五島市は、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを目指す「ゼロカーボンシティ」を2020年12月に宣言しました。具体的には、「再生可能エネルギーの地産地消の推進」「電気自動車の推進」「市役所における省エネルギーの取り組み」「一般廃棄物焼却量減少に関する取り組み」です。

 

「実はゼロカーボンシティを宣言する前から、電気自動車に関しても2011年に国の実証事業により、五島市と新上五島町に合わせて100台が導入されました。充電設備も整備したため、その後も普及が続き、現在は島内に155台の電気自動車が走っています。うち43台はレンタカー、残りは企業や市民が利用していますが、今後も増え続けるようにさらなる推進を行っています。

↑島内で利用されている、三菱自動車の「i-MiEV」。急速充電器など島内における設備も充実している

 

地球温暖化の影響が深刻化されている近年、ふるさと五島を守り、持続可能な島にするためにゼロカーボンシティへの取り組みは必要です。その実現には、再生可能エネルギーの地産地消はもちろん、電気自動車普及の推進など市民の皆様のご理解とご協力が欠かせません。そこで、『サステナブルな暮らし10の習慣』という誰にでもできる身近な取り組みを提案したり、環境学習の題材として子どもたちに風力発電を見学してもらったり、省エネや節電を学ぶためのシンポジウムを開催したりと、いろいろなアプローチを展開しています」

 

再生可能エネルギー活用の先駆者に

ただ、現実的にはまだやれることが多いと佐々野さん。

 

「例えば余った電力を水素化して燃料電池船に利用したり、水素を運びやすくするために気体から液体に変えて貯蔵し、船で本土へ運ぶなどの実証事業も行いました。今後もさまざまな構想が練られていますが、こうした取り組みは、次世代産業の創出にもつながりますし、人にも環境にもやさしい島であり続けたいという想いも込められています」

 

経済産業省の資料によると、2019年度の日本のエネルギーの自給率は12.1%。先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)36カ国中35位と非常に低い水準です。安定したエネルギー源の確保は大きな課題。それだけに、いち早く再生可能エネルギー事業に取り組んだ五島市へと寄せられる期待はとても大きいと言えるでしょう。

 

貨物コンテナの活用で都市を変える! ロンドンで拡大する「垂直農園」

2021年秋にスコットランドで開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)を経て、気候変動問題への関心や環境意識がより一層高まっている英国。その首都ロンドンでは、フードマイレージ(食料が生活者に届くまでの輸送距離)をとことんカットした都会育ちの野菜がグルメ界の注目を集めています。

↑ロンドンで話題の「CRATE TO PLATE」

 

英国ではプラスチック包装を使わない量り売りの店が急増し、スーパーやパブ、ファストフード店などあらゆるところでビーガンメニューが見られるようになりました。それと同時に、果物と野菜の7割を輸入に頼っている英国では、フードマイレージをカットすることも大きな課題です。輸入の通関手続きを省くことは、ブレグジット(英国のEU離脱)とパンデミックやウクライナ情勢による急激な物価上昇の抑制にもつながります。そのため、最近では国産の食材に注目が集まっています。

 

2020年の長期ロックダウン中に誕生したスタートアップ企業の「クレート・トゥ・プレート(CRATE TO PLATE)」は、ロンドン市内で貨物コンテナを使った垂直農園を展開しています。都会の隙間を使ったコンテナ農園を各地に設置することで、限られた土地を有効活用でき、地元産の新鮮な野菜を消費者に提供することができるようになります。

 

最初のコンテナ垂直農園ができたエレファント&キャッスル駅前は、現在再開発が進むロンドン南部の中心地。さらに最近では金融街アイルオブドッグズに3か所、そして北部ケンティッシュタウンに2か所と合計6農園に拡大しています。分散型にすることでフードマイレージ「ほぼゼロ」のデリバリー体制を実現しており、2022年はロンドンから飛び出してストラットフォードやマンチェスターといった地方都市へ拡大する計画が進んでいます。

 

最小限の資源で栽培

英語で「Vertical farming(バーティカル・ファーミング)」と呼ばれる垂直農園は、未来の食料供給法としても注目を浴びています。その名前の通り垂直に積み上げた階層構造の室内で、AIによって光・温度・養分などを細かくコントロールされた環境下で農産物を育てることが特徴。

 

従来の農業とは異なり、天候に左右されず、限られたスペースで、農薬を使わずに1年中効率よく栽培できるのが大きなメリットです。水の使用量も非常に少なく、照明などの電源も太陽光や風力といった自然エネルギーで賄うことができ、栽培にかかる資源を最小限に抑えることが可能。

 

このような垂直農園は狭い土地でも作れるため、都市部での食糧生産に向いています。クレート・トゥ・プレートのコンテナ農園も、駅前やビルの間のちょっとした空きスペースに設置されています。人口集中エリアに効率よく農園を設置することで、食品輸送によって発生する排気ガスを大幅にカットできるのです。

↑ロンドンのグルメ界でも注目を集める食材に

 

米国でも2022年1月に、チェーンストア最大手のウォルマートが国内スタートアップ企業と提携し、この手法で生産された野菜を広く取り扱うと発表しています。

 

クレート・トゥ・プレート社の野菜はレタスやバジルなどの葉野菜やハーブが中心で、収穫後24時間以内にEV車や自転車によって注文先に届けられます。

 

すでに老舗ラグジュアリー百貨店の「フォートナム&メイソン」やミシュラン星レストランの「ハイド」、チェルシーの高級八百屋「アンドレアス」など、多くの高感度ショップへの卸売りが行われています。新鮮かつサステナブル、そして配達方法もエコな無農薬野菜というアイデアは、パンデミック規制解除で活気を得たロンドン市民の関心を集めているようです。

 

大手スーパーマーケットからの問い合わせも相次いでおり、宅配サービスを利用する個人のサブスクリプション契約も人気です。

 

エコフード都市へ 

もともと英国ではスローライフを楽しむためのレンタル菜園や、室内でフレッシュなハーブが育てられる家庭用の水耕ハーブガーデンが人気でした。そこにクレート・トゥ・プレートのような商業用・マス向けのローカル農園が増えることで、自然エネルギーはもちろんのこと、都市部で生じる排熱や雨水、食料廃棄物を分解した肥料などを活用し循環させる「エコフード都市」の実現も夢ではないでしょう。

 

現在の英国では貨物コンテナを店舗やオフィス、研究所として利用することがトレンドになっていて、オフィス賃貸価格が高いロンドンでスモールビジネスが成長する足がかりとしての役割も担っています。将来的にはそこに住む人たち全体の食料を生産できる、垂直農園付きの集合住宅も登場してくるかもしれません。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ

圧倒的に少ないCO2排出量! 国産「切り花」の逆襲を狙うイギリス

イギリスでは、花屋やスーパーマーケットで販売されている切り花のほとんどが輸入品です。しかし近年、同国内のスーパーマーケットが国産の切り花の取り扱いを増やしていくと宣言。イギリス王室でも国産が使われるなど、そのシェアが徐々に増えています。イギリスの取り組みは日本にとって参考になるかもしれません。

↑イギリスの花屋などで売られる花の多くが輸入品

 

イギリスでは、年間約8億6500万ポンド(約1430億円※)の売り上げがある切り花のほとんどが輸入品で、そのうち70%を占めるのがオランダ産。オランダは、国内にサッカー場規模の温室スペースを約500か所抱えています。

※1ポンド=約165円で換算(2022年4月15日現在)

 

それらの温室には栽培から販売、出荷まで自動化システムが導入されていますが、エネルギー集約型の加熱温室で栽培された切り花は、多くの二酸化炭素を排出します。

 

また、イギリスの切り花の約6%はケニア、約4%がコロンビアから輸入されていますが、このような暖かい国々での栽培は温室ほどエネルギーを使わないないものの、イギリスへの輸送の際に大量の二酸化炭素を排出します。さらに、どの国でも栽培から輸送の過程でプラスチックを使用するため、環境に負荷を与えているのです。

 

さらに、規制が比較的軽い国では、化学肥料や農薬を使う花農家も少なくありません。残留農薬は栽培から梱包、販売などに関わるすべての人に悪影響を及ぼし、土壌を汚染すると言われています。

 

イギリスも、こうした輸入花を取り巻く状況を無視しているわけではありません。労働環境や生物多様性保護などを考慮して作られたり、フェアトレード取引されたりした花束にはラベルが貼られ、購入する際にわかるような取り組みがされています。

 

気候変動を阻止するなら……

イギリスのランカスター大学では、イギリスをはじめオランダやケニアでさまざまな条件(屋外または温室)で栽培された7種類の切り花について、栽培と輸送に関連する二酸化炭素排出量を比較しました。その結果、茎あたりの排出量はオランダのユリが最も高く、ケニアのカスミソウバエ、オランダのバラ、ケニアのバラと続きました。

 

一方、イギリスの花の生産者が栽培したユリ、キンギョソウ、アルストロメリアの3種類は、二酸化炭素排出量がとても低いことが判明。輸送距離が短いという優位性もあるでしょうが、国内産の花束の二酸化炭素排出量は輸入花で作られた花束の10分の1となっています。

 

30年前、イギリス国内で栽培された花のシェアは45%でしたが、その後は大きく減少。しかし2016年には12%、2019年には14%と徐々に回復の傾向にあります。その背景には、国を挙げた環境への取り組みや国民のサステナブル意識の向上がありますが、最近ではコスト面での影響もある模様。

 

例えば、20224月からイギリスにはプラスチック包装税が導入されました。エネルギーや輸送コストの上昇もあり、輸入を取り巻く環境は日々厳しくなっていることも、輸入花の減少要因と考えられるでしょう。

↑ミツバチも国産の花や植物が大好きみたい

 

また、イギリスではスーパーマーケットで切り花を購入する人が多く、国内における全売上高の半分強を占めています。そこでは国内産切り花を奨励する動きが見られ始め、購入者も増えている様子。

スーパーマーケットの「コープ」と「アルディ」を例として挙げると、国内産の植物や花の割合を増やすことを目的とした国立農民組合の「植物と花の誓約」にそれぞれ署名し、消費者に国産の花をアピール。国産の花束にはユニオンジャックのラベルが貼られているため、店内ですぐに見つけることができます。

 

また、別のスーパーである「ウェイトローズ」によると、イギリス産のピオニー(牡丹)の2019年の売り上げが前年に比べて48%上昇したとのこと。国産ピオニーは近年、王室の結婚式で使われており、それが人気の原動力になっているようです。

 

イギリスの教訓

サステナビリティや生態系の維持、花農家へのサポートなど、国産の切り花の生産量が増えることには、さまざまなメリットがありますが、日本に目を転じれば、切り花の輸入の割合は2010年以降、数量ベースで20%台を推移(農林水産省「花きの現状について」令和元年12月)。国産に比べて燃料費や光熱費、人件費などのコストを抑制できるため、コロンビアなどからの輸入が増えています。イギリスの経験から学ぶとすれば、輸入花が増加傾向にあるときだからこそ、日本も国産の美点を忘れるべきではないでしょう。

デルで最も多く生産されているPCがサステナブル仕様に! 100%リサイクル可能な新梱包材も

デル・テクノロジーズは、増え続ける廃棄物や資源の制約といった問題に対処するため、同社史上最もサステナブルなノートPCとなるNew Latitude 5000シリーズと、サステナブルな新素材を使った梱包材を発表しました。

 

Latitude 5000シリーズは、デルで最も多く生産されているPC。最新の同シリーズでは、リサイクル素材や再生可能素材の使用を増やすために、様々な設計が行われています。

 

ノートPCの天板は、製紙業界からアップサイクルされた樹木由来のバイオプラスチック、再生炭素繊維や、使用済みプラスチックなど、71%がリサイクル可能で再生可能な素材により作られています。同社はPCパーツのうち、2番目に重い天板に着目し、CO2排出量や水、消費電力を削減す。システムのベース部分には、再生炭素繊維とヒマシ油から作られた、バイオベースのゴム足を使用し、石油系素材への依存を低減します。

 

海洋プラスチックの使用の対象を、梱包材から製品へと拡大し、ファンのケースにも使用しています。保護するための梱包材は100%リサイクル、もしくは再生可能な素材で作られています。

 

また、同社は2017年に、水路に流れ込む前に廃棄物を回収して資源に変えることを目的として、海洋プラスチックを使用した商用の梱包材を作る業界初のプロジェクトを立ち上げ。以来、同素材を使用した梱包材の取扱量を拡大し、22万7000ポンドを超える同素材を消費し、510万個以上のリサイクル可能な梱包用トレイとエンドキャップに同素材を使用しています。

 

海洋プラスチックは、Precision 3000シリーズ モバイルワークステーションのファンのケースや、OptiPlex 5000 マイクロ デスクトップ、Precisionワークステーションのファンとそのケースにも使用。EcoLoop Proシリーズのバックパックやスリーブ、ブリーフケースの外側のメインファブリックにも100%海洋プラスチックを使用しており、ヒマシ豆に由来するバイオベース ゴムは、Latitude 7430、7530や、Precision 3000シリーズ モバイルワークステーションの底面バンパーにも使用しています。

 

100%リサイクル可能な再生可能素材を使用した、サステナブルな梱包材は、電源コードや書類などの梱包材を、従来のビニール袋から紙製に変更。紙製テープを採用し、ビニールテープの使用により発生する可能性のある廃棄物汚染を低減しました。配送用リサイクル段ボール箱は、サステナブルな方法で調達された竹とサトウキビ繊維パルプから作られた、インナートレイを備えています。

 

同梱包材は、Latitudeシリーズ ノートPC、Precision モバイルワークステーション、XPSシリーズのデバイスの新製品すべてに展開されます。

フルーティーでプレミアムな味わい! 「UCC ORIGIN BLACK ルワンダ & ブラジル リキャップ缶275g」4月4日発売

UCC上島珈琲は、無糖タイプのリキャップ缶製品の、産地にこだわったプレミアムライン「UCC ORIGIN BLACK」の第3弾、「UCC ORIGIN BLACK ルワンダ & ブラジル リキャップ缶275g」を、4月4日に発売しました。税別価格は178円。

 

UCC ORIGIN BLACKは、コーヒーを通じてより良い世界を実現するためのこだわりが込められたブランド。産地(ORIGIN)からサステナビリティ活動に関わり調達した原料を、こだわりの焙煎、ブレンド、抽出により仕上げた缶コーヒーで、製品ができるまでのストーリーにもこだわって開発が行なわれているとのこと。

 

今回発売となった同商品は、同社がコーヒーの品質向上を目指し関わってきた産地「ルワンダ フイエマウンテン」と「ブラジル エスピリトサント」の、こだわりの詰まった希少性が高い原料を選定し、使用、ブレンドしています。

 

ルワンダ フイエマウンテンは、グリーンアップルのような明るい酸味が特徴で、ルワンダ輸出規格における最高等級豆(ルワンダA1)を使用しています。同社は2012年に、コーヒーが主要産業のルワンダ・フイエ郡ソブ村でのJICAの一村一品運動に参画して以降、10年以上継続して農園の開拓から品質向上まで、生産支援や農事指導を行なっています。

 

ブラジル エスピリトサントは、バランスの取れた味わいが特徴。ブラジルのエスピリトサント州で、コーヒーの品質向上や生産者の生産意欲向上を目的に2001年から始まった「UCC品質コンテスト」の2019/20コンテスト入賞ロットを一部使用しています。

 

この2種類の豆の個性を最大限に引き出すため、焙煎は、各々のコーヒー豆を産地や銘柄ごとに最適な焙煎度で「単品焙煎」してからブレンド。挽きたてのコーヒーを天然水100%で2温度帯抽出することで、コーヒー感やコクは残しつつ、グリーンアップルのような明るい酸味を持つルワンダの特徴を生かした、フルーティーな味わいです。

 

パッケージは、ルワンダの伝統工芸品の「ルワンダバスケット」を意識したデザインをベースに、「千の丘の国」とも呼ばれる、爽やかなルワンダをイメージした水色をメインカラーに設定。缶の銀地を活かしつつ、上下部分にマット加工のデザインを施し、シンプルかつ高級感のあるデザインに仕上げています。

「アサヒグループ」がサステナビリティ専業会社を立ち上げて「森のタンブラー」を作ったワケ

サステナブル商品で地域と連携した社会課題解決を目指す~アサヒユウアス株式会社

 

2022年元日にある企業が誕生しました。社名は「アサヒユウアス株式会社」。アサヒビールやアサヒ飲料、アサヒグループ食品などでお馴染みのアサヒグループが、サステナビリティ事業を専門に展開するために新設した会社です。

 

企業がサステナブルな事業を行うのは当たり前の時代ですが、社内の一部署を中心に展開するのが一般的。アサヒグループが、どうして新会社を設立してサステナビリティ事業に取り組もうとしたのか、アサヒユウアス株式会社の染谷真央さんにうかがいました。

↑アサヒユウアス株式会社 たのしさユニット 染谷真央さん

 

「サステナビリティの中でも、環境、人、コミュニティ、健康、責任ある飲酒という5つがグループ共通の重要課題です。グループの強みや技術を生かし5つの重要課題に取り組むためには、サステナビリティと経営の統合が大事。一部署でサステナビリティを特別なものとして扱うのではなく、事業活動そのものとして取り組むことが重要と考えました。経営の根幹にサステナビリティを置き、ステークホルダーの皆様と共創して社会課題解決に取り組む。同時に利益も両立できるビジネスモデルを構築しなければ、持続可能な解決にはならないのではと。

 

さらにここ数年はサステナビリティに関する流れが特に速くなりました。会社を立ち上げた原点は社会課題解決ですが、スピーディーさが求められる時代のため、柔軟性を持ち、クイックに動ける組織の必要性もあったのです」

 

地域と共創して課題解決を目指す

同社の誕生によって、フットワークの軽さとより具体的な視点でのSDGsへの取り組みが実現可能となったといえるわけです。

 

「アサヒユウアスとして大切にしていることが2つあります。1つは、地域の課題解決(ローカルSDGs)に私たちの取り組みがつながること。2つ目は、個社の取り組みや誰か単独の利益ではなく、共創関係を築くということです。

↑地域の人たちと一緒に課題解決を考えることを軸に展開

 

なぜ『地域課題解決』と『共創』を重要視するのか。これは新型コロナウイルス感染症も影響しているのですが、人々の生活が一変し、社会が不安定な状況になって、“アサヒという会社は人々にとってどういう存在なのか”と考えたとき、“地域の中で信頼していただけるような会社でありたい”という想いが強くなりました。もともとローカルSDGsへの取り組みは行ってきましたが、さらにその部分を強化できればと。

 

そして共創について。これまでは当たり前のように自社で全てを賄ってきましたが、地域課題の解決を念頭に置くと、自社だけで取り組もうとしても独りよがりな活動となり、持続可能ではなくなる可能性があります。地域はもちろん、複数のパートナーと手を組んで活動することで、私たちと一緒に始めたことが地域の方たちの意識変革につながり、ゆくゆくは地域の事業として持続していけばと。単にモノを売りますではなく、一緒に考え、参加してもらうことを大切にしていきたいと考えたのです」

 

使い捨てカップ削減エコカップ

同社の具体的な取り組みの1つに「森のタンブラー」というエコカップがあります。これは、同社設立以前からパナソニックとの共創により生まれた商品。同社の社員である古原 徹さんの「イベントなどで出る使い捨てプラカップのごみを減らしたい」という想いがきっかけで誕生しました。原料の55%以上をパナソニックが開発した高濃度セルロースファイバーや地域の間伐材、ビールなどに使用する麦芽の製造工程で発生するロス原料焙煎麦芽粉砕物など植物繊維を活用。植物性の繊維質であればどんなものでも原料にできるそうです。

↑セルロースファイバーが原料の「森のタンブラー」。他にヒノキ間伐材、麦芽副産物を原料とした商品もある。

 

「和歌山県のアドベンチャーワールド様から、パンダが食べない竹の硬い部分を活用できないかと相談を受け、350Kgの廃棄竹を使用し、5000個の竹素材の『森のタンブラー』も作りました。また、広島県庄原市、愛知県豊田市、神奈川県秦野市などでは、その地域の間伐材を使用してカップを作っていますし、4月からは埼玉県の狭山茶の製造工程で発生する未活用茶葉を原料にもしたカップも販売しています。地域の廃材を活用することで、その土地の方にも自分事として捉えていただけます。

↑アドベンチャーワールドの「森のタンブラー」。パンダの表情がすべて違うのがポイント

 

地域素材の活用だけでなく、さらに行政とも連携。例えば熊本県熊本市は、スポーツの試合会場やイベント会場で『森のタンブラー』を使用するとドリンク代が50円割引になるシステムを作りました。割引分は市の助成金を利用して飲食店に支払われます。こうした取り組みは、全国の自治体からも問い合わせをいただいていますし、今後はこのタンブラーが、身近なサステナビリティを体感するきっかけになればと考えています」

 

B to Bでの相談や問い合わせが殺到

森のタンブラーをきっかけに、2月には「森のマイボトル」も誕生しました。

↑「森のマイボトル」は同社のECサイト「アサヒユウアスモール」で購入可能

 

「渋谷ストリームエクセルホテル東急様で全客室に『森のマイボトル』を順次導入していただいています。これまでは無料のペットボトルを客室に置いていたのですが、プラスチック廃棄物の削減を目的として、各フロアにウォーターサーバーを設置。客室に水を持ち運ぶための容器として、『森のマイボトル』が導入されたのです。

 

ホテルなどの施設だけでなく、マグカップ、マイボトル、ともにイベントでの利用も積極的に進めていく予定です。また、企業様のSDGsへの関心が高まっているからだと思いますが、文字やデザインを自由に入れられるため、ノベルティグッズとして使いたいなど、予想以上にB to Bでの問い合わせをいただいています。近々、サステナブルファッションブランド「ECOALF」さんとの連携で9色の『森のタンブラー』をお披露目予定。こうした遊び心も大切にしつつ、今後もいろいろな展開をしていきたいと思います」」

↑9色のカラーバリエーションが揃った「森のタンブラー」

 

地域との連携で誕生したサステナブルクラフトビール

「森のタンブラー」も地域とのつながりは強いのですが、個人店の「もったいない」という気持ちを拾いあげ、生まれたサステナブル商品もあります。それが廃棄コーヒー豆を使用した「蔵前BLACK」と、活用しきれないパンの耳をアップサイクルした「蔵前WHITE」というクラフトビール(酒税法上は発泡酒)です。

↑廃棄されるはずの食べ物をアップサイクルしたクラフトビール

 

「担当者の古原が蔵前(東京都台東区)にあるコーヒー焙煎店の方とSNSでつながったのがきっかけです。一緒に蔵前の立ち飲み屋で飲みながら情報交換をしている折に、『地元のサンドイッチ店から出てやむなく捨てられるパンの耳や、まだ飲めるのに売り物にはできないコーヒー豆が廃棄されているが、そのまま捨てるのはもったいない』という地域課題を知り、どうにかできないかと考えたそうです。地域社会課題などを知るには、ちょっとしたつながりが大切なため、社員たちが地道に足で情報を探しています。

↑サステナブルクラフトビールはアサヒユウアスのおいしさユニットのメンバーが製造している

 

現在、クラフトビールに関しては、パンの耳と廃棄コーヒー豆、茶葉を使った3種類ですが、世の中にはやむなく廃棄されてしまう“もったいない食材”がたくさんあります。今後もさまざまな食材を使ったクラフトビールをお届けしたいと試作中です」

 

社会課題解決を考えるきっかけになれれば

 

↑同社の高森志文代表取締役社長(左)と古原 徹さん

 

実はアサヒグループでは、4月から新たに「ローカルSDGs専任リーダー」という役職を全国に順次配置していく予定だと言います。

 

「アサヒユウアスとは別部隊ですが、地域の自治体や団体と連絡を取り合い、地域課題解決を専門とする部隊ができます。東京にいても小さな課題を拾える可能性も出てくるので、私たちも期待しています。連携していろいろな地域課題解決のお役に立ちたいですね。

 

当社としては、今後、スチール製のエコカップや、『森のタンブラー』と合わせて使えるような食器など、さまざまな展開を予定しています。確かに1つの商品を使ったからといって、プラスチックごみを大量に減らすことは難しいと思います。しかし私たちの事業がサステナブルに対する意識の変革、行動変容を起こすきっかけになってくれれば。そして地域の活性化にもつながるように、これからも柔軟かつスピーディーに歩み続けたいと思います」

地球環境に配慮したサステナブル仕様! スライドジッパー付きノート「ストレージイット」

マークスは、スライドジッパー付き仕様のステーショナリーブランド「ストレージイット」のノート、収納ケース、ポーチを発売しました。

 

今回発売されるコレクションの「ノート」は、スライドジッパーのポケット付きノートカバーで、ペンや付せんなど、ノートと一緒に持ち歩きたい文房具を入れておくことができる「ペンをstorageするノート」です。A5サイズ128ページで、カラーバリエーションは全10色。

 

ノート用紙には、「FSC認証」を取得した、同社オリジナル手帳本文用紙「NEO AGENDA(ネオ・アジェンダ)」を採用。NEO AGENDAは、ゲルインクや油性ボールペンなどの筆記具との相性も良く、なめらかな書き心地が特徴。ノートPCやタブレットなどのデジタルデバイスと一緒に持つノートとして、通常のノート用紙に比べて、薄く、軽い用紙で作られています。

 

中面は左右異なるフォーマットを採用し、左ページはドット罫で、ガイド機能のある5mmドット方眼。右ページは6mmの横罫線となっており、自由に書き込めるドット方眼ページと、情報を整理できる横罫ページをひと見開きに並べ俯瞰することができるレイアウトです。180度水平に開き、書きやすい構造となっています。

 

同コレクションは、適切に管理された森林の木材から生産されたFSC認証を取得した紙を、ノートの用紙に使用ししているほか、ノートのカバー、ケースやポーチには、製品の製造工程で出るPVCを丁寧に回収し、再び製品の素材として再生した再生率90%のリサイクルPVCを使用。地球環境に配慮したサステナブルなステーショナリーです。

 

税込価格は、ノートが1210円、ノートリフィル・A5が495円、ケース・A4(全5色)が1210円、ケース・A5(全5色)が880円、ポーチ(全5色)が715円です。

マイコップ・マイテイクアウト容器・マイストロー——効率よくプラスチックを減らす方法

少しでも地球を汚さないために、多くの企業や個人がプラスチック製品を使わないように努力しています。脱プラスチックに向けてゴミ袋やストローがかなり減らされていますが、この他に私たちができる効率のいい方法を探してみました。

食品ゴミが激減

筆者はプラスチックごみが半減した経験があります。それは一時的にベジタリアンになった時でした。まず、肉と魚を食べなくなるので、食品トレイなどのパッケージが激減しました。また、地元農家の販売所を利用するようになったので、野菜用のプラスチック袋も激減したのです。

 

さらに卵も食べなくなったので、卵ケースも減りましたし、ソーセージの袋などの加工食品の類もなくなってしまったのです。2年ほどの経験でしたが、こんなにゴミが減るなんて! と驚きました。今でもできるだけ過剰パッケージされていない品物を選択するようにしています。

 

プラスチックと環境汚染

プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命』(シャンタル・プラモンドン、ジェイ・シンハ・著/NHK出版・刊)は、そのタイトル通り、プラスチックのない生活を実践するためのアイデアに満ちた本です。この本を読めば、今よりもさらにプラスチックを日常生活から減らすことができるのではないでしょうか。

 

そもそも、なぜここまでプラスチックごみが問題視されているのでしょうか。土に還らないため地球環境を汚染することや、それを口にした魚や鳥がプラスチックを胃袋に詰まらせて命を落とすということが頭に浮かぶ人は多いでしょう。

 

本書ではそれに加えて、プラスチックに含まれる化学物質を口にすることについての心配も書かれています。できるだけ自然に暮らしたいと考えているのであれば、人工的なプラスチックは少しずつでも減らしていくほうが安心でしょう。

 

レジ袋やストローだけじゃない

本書には、今日からすぐに実践できるプラスチックごみの減らしかたが伝授されていています。欧米での脱プラスチックの動きは日本よりもずっと進んでいて、著者のおふたりはカナダ在住ということもあり、先を行く人からのアドバイスがとても参考になるのです。

 

日本ではようやくマイバッグやマイボトルやマイ箸が浸透してきた感がありますが、本書では、マイコップやマイテイクアウト容器、そしてマイストローの紹介まであります。マイストローにはステンレス製やガラス製、それから竹や藁を使うものも紹介されていて、特に竹は洗えば繰り返し使えるのだとか。

 

ベストなマイバッグとは

個人的に常々気になっているのは、マイバッグの素材です。繰り返し使えて便利ですが、実はこれもポリエステル製を使ったら化学的な素材であるわけで、果たしてエコと言えるだろうかという疑問があります。本ではそのことにもしっかり言及していて、木綿とジュートと麻が土に還るのでおすすめだということです。

 

なかでもベストはコットンのキャンバス地のマイバッグで、これを定期的に洗って使えば清潔さは保てるとのこと。2011年にはマイバッグを洗って使っている人はわずか3%しかいないというアンケート調査も出たそうですが、そうすると雑菌も繁殖しやすくなってしまうので、繰り返し洗える丈夫な素材であることが大切になるでしょう。

 

本書には、コットンのメッシュ袋を持参すれば、スーパーでのビニール袋を使う回数も減らせるというアイデアもありました。こうして眺めてみるとやはり日頃の食事や食材を見直すだけでもかなりの削減になりそうです。より簡易な包装をするお店を探してみるのも大事な一歩かもしれません。

 

【書籍紹介】

プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命

著者:シャンタル・プラモンドン, ジェイ・シンハ
発行:NHK出版

これを知っても、まだペットボトルを買いますか? 今、世界的に注目を集めているプラスチックごみ問題。じつは環境だけでなく、私たちの健康にも知らぬ間に害を及ぼしている。使用中に漏れ出す化学物質の作用とは? 使い続けても大丈夫? その危険性の徹底解説から、代替品を使った暮らし方のヒントまで網羅した“プラスチック・フリー”入門ガイド。簡単な6つのステップで、今すぐ8割減らせる!

楽天koboで詳しく見る
楽天ブックスで詳しく見る
Amazonで詳しく見る

相次ぐ自然災害から地球を守るのは……なんと人工衛星!? 中米グアテマラに見た「宇宙開発」と「防災」の最前線!

「宇宙開発」「防災」。一見まったく関係なさそうに見える両者が、実は非常に深い関係にあることをご存知でしょうか?

前澤友作氏の国際宇宙ステーションへの“宇宙旅行”も記憶に新しいですが、現在、民間企業による宇宙開発事業が大きな注目を集めています。イーロン・マスク氏のスペースXやジェフ・ベゾス氏のブルーオリジンといった宇宙企業の名前は、皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。

宇宙は旅行するだけのものではなく、今や地球のさまざまな課題を解決する場所になっています。今回ご紹介するのは、夜間でも悪天候でも地表の変化を観測できる「SAR衛星」(※1)を開発する、日本のベンチャー企業Synspecitiveの取り組み。

気候変動の影響もあり、地球全体の課題となっている近年の自然災害に対し、人工衛星が一体どんな風に活躍するのか?

本記事では、Synspectiveの白坂成功氏と、災害に強い社会を実現するためにさまざまな研究に取り組む防災科学技術研究所・理事長の林春男氏、開発途上国への国際協力を行うJICA中南米部長・吉田憲氏の3人が、それぞれの視点から「衛星による災害リスクマネージメント」について考えてみました。

※1:SAR……Synthetic Aperture Radar=合成開口レーダーのこと。SAR衛星は、主流である“光学式”の地球観測衛星とは異なり、たとえ夜間でも、雲が出ていても地上の様子を捉えることができる。特に、SARを使って複数回地表を観測し、それぞれの「位相差」から変化を捉える技術をInterferometric SAR(干渉SAR、またはInSAR)と呼ぶ。

<この方々にお話をうかがいました!>

白坂成功(しらさか・せいこう)さん
株式会社Synspectiveファウンダー。慶應義塾⼤学⼤学院 SDM 研究科教授。東京大学大学院で航空宇宙工学修士課程を修了後、一貫して宇宙開発の道を歩む。2015~2019年、内閣府革新的研究開発プログラム「ImPACT」のプログラムマネージャーとしてオンデマンド型小型合成開口レーダー(SAR)衛星開発に従事。

 


林 春男(はやし・はるお)さん
国立研究開発法人防災科学技術研究所理事長。京都大学防災研究所名誉教授。1983年カリフォルニア大学ロスアンジェルス校Ph.D.。専門は社会心理学、危機管理。2013年、防災功労者内閣総理大臣表彰受賞。日本学術会議連携会員、内閣府・防災教育チャレンジプラン実行委員長、宇宙政策委員会・基本政策部会委員、外務省・科学技術外交推進会議委員等。「いのちを守る地震防災学」「しなやかな社会の挑戦」など著書多数。

 


吉田 憲(よしだ・さとし)さん
独立行政法人国際協力機構(JICA)中南米部部長。銀行員から青年海外協力隊員となり、中米のドミニカ共和国で2年活動したのち、帰国して1994年からJICA職員に。初の海外赴任となったブラジルで、不毛の大地だった熱帯サバンナ地帯セラードを南半球最大の農地に変えたプロジェクトなど、さまざまな国際協力に関わる。

 

「宇宙データ」がなぜ防災に役立つの? 国際協力×防災×宇宙の最前線!

JICA・吉田 憲さん(以下敬称略、吉田):防災と宇宙がどう結びつくのか、不思議に思われる人も多いと思いますが、実は今、世界中で人工衛星による“宇宙データ”の活用が盛んになっていて、中でも防災分野における人工衛星の活用が大変注目されています。

その一例がこのたび、白坂さんのSynspectiveと私たちJICAがグアテマラ共和国で行った、人工衛星で地表変化を分析し、災害対応に役立てるというプロジェクトです。

Synspective・白坂成功さん(以下敬称略、白坂):Synspectiveは「SAR衛星」を用いた課題解決ソリューションを提供する会社です。後ほどお話しますが、「人工衛星と防災」は、確かに一般的には結びつきにくいかと思いますが、これは私の長年取り組んできたテーマで、Synspectiveを作った理由でもあるんです。

吉田:JICAによる国際協力も、昔は途上国で井戸を掘るみたいなイメージもありましたが、今は「防災協力」が非常に増えています。中でもグアテマラを含む中米・カリブ地域は、洪水、地震、地滑り、干ばつなどの災害で、多くの被害が出ています。私はかつて青年海外協力隊の一員としてドミニカ共和国にいましたが、当時よりも明らかに災害の規模や頻度が増しているんですね。

中米コスタリカで起きた地滑りの様子。

防災科研・林 春男さん(以下敬称略、林):防災という言葉の意味も時代によって変遷していますが、私たち防災科学技術研究所(以下、防災科研)では「SICENCE FOR RESILIENCE(サイエンス・フォー・レジリエンス)」、日本語では「生きる、を支える科学技術」というテーマを掲げています。このレジリエンス(※2)という言葉は、最近いろんなところで聞くようになりましたね。

※2:レジリエンス=「予防力」に加え、「回復力」「弾力性」「しなやかさ」といった意味を持つ英単語。困難に際した人や組織、集団が苦難を乗りこえる力として捉えられ、近年さまざまな領域でキーワードになっている。

吉田:最近は災害が起こった後の「より良い復興(Build Back Better)」という概念が注目を集めていますね。

:まさに、そこなんですね。「防災」とは、被害を出さないことにフォーカスした言葉ですが、現実にそれは難しい。世界の災害発生件数はうなぎのぼりで、そのほとんどは風水害です。一生懸命、防災の研究をしているのに、気候変動や人口増といった複合的な理由により、災害による被害は増えている。

そんな時代にあって、防災分野では「災害リスクの低減」が世界共通のテーマです。防災科研では「自然災害の被害を抑止する」「被害の拡大を防止する」「速やかな復旧・復興を実現する」、この三つに関わる科学技術を研究しています。

災害リスクの低減には、何がいつ、どこで、どのように起こるのかを予測する「予測力」と、被害が起こらないようにする「予防力」、そして現代ではレジリエンスの観点から「対応力」、つまり起こってしまった災害をどう乗り越えていくのかが重視されているわけです。

白坂:さて、今回のグアテマラでのプロジェクトを説明する前に、Synspectiveが開発している衛星を紹介させてください。SARとは、Synthetic Aperture Radarの略で、日本語で言うと「合成開口レーダー」というものです。仕組みのことは置いておいて、SAR衛星の最大の特徴を一言でいえば、「夜間でも悪天候でも、常に地表の変化を観測できる」ということですね。

時間、天候を問わず撮像できる小型SAR衛星。通常の地球観測衛星に搭載されるカメラでは撮像できない地表の様子を観測できるのが特長。

観測衛星にもいろいろありますが、圧倒的に数が多いのが光学衛星、つまりカメラを載せた衛星です。しかし、カメラだとどうしても昼間しか見えないし、昼間でも雲があると見えないという弱点がある。これに対して、カメラではなくレーダーを使うのがSAR衛星です。衛星に搭載したアンテナから地球に向けて電波(マイクロ波)を放射し、反射して戻ってきた電波を測定します。電波なら雲も透過できますし、太陽光も必要ない。

:衛星やドローンを使って、「触れずに調べる技術」はリモートセンシングといって、防災の世界ではもはや欠かせない概念ですね。それに加えて夜間でも、雲の多い悪天候でも地表を観測できるSAR衛星の特性は、防災活用において非常に有効性があります。

白坂:はい。私はいわゆる“宇宙村 ”にずっといた人間です。それで宇宙開発って長年、国のお金でやってきたんですね。災害に対応するためという名目で技術開発をしてきた。ところが、2011年の東日本大震災のとき、日本の宇宙開発で作ったものの多くが使えなかったんです。

「災害対応のため」といってお金を使ってきたのに、いざ大きな災害が起きたときに活用しきれなかった。そのことに対して、私たち宇宙開発に携わる人間は大変強い課題感を持ちました。そこで2014年にImPACT(※3)が始まったとき、「災害時に本当に使えるもの」を作ろうという強い意志を持って始めたのが、私がプログラムマネージャーをつとめた合成開口レーダー、つまりSARの技術開発です。

※3:ImPACT=正式名称は「革新的研究開発推進プログラム ImPACT」。実現すれば産業や社会のあり方に大きな変革をもたらす科学技術イノベーションの創出を目指し、内閣府によって創設された。

吉田:震災がきっかけで、ImPACTの研究開発対象にSAR衛星を選ばれたのですね。震災時に「活用しきれなかった」というのは、どういった理由なのでしょうか。

白坂:東日本大震災のような広域災害では、飛行機やドローンでは観測できるエリアが限定的になるため、やはり人工衛星が必要です。ところが光学式だと、衛星がそのとき日本の上空にいないと日本の様子を写せないので、災害に対応する方たちが「見たいタイミング」で確認できなかったのです。

技術者の言葉で「分解能」といって、衛星がどの程度細かく地球上のある地点を観測できるか、という度合いですね。観測する物理的な範囲をどのくらい細かく見られるかということを「空間分解能」、どれくらいの頻度、サイクルで見られるかということを「時間分解能」といいます。

人工衛星で得た地上の情報を、いかに早く必要な人たちに届けるか。この「即応性」をターゲットに研究したのが、ImPACTでのSAR衛星のプログラムです。

:白坂さんの「災害時に本当に使えるもの」への強い思い、大変共感しました。防災に関わる現場の人間が求めるのは、災害規模や被災状況の把握です。被災状況の全容が把握できなければ的確な対応はできませんが、一方で迅速な対応が求められる。そこで早期に広域の被災状況把握に衛星を活用しようということですね。

白坂:そうなんです。その後、ImPACTでの研究成果を社会実装しようというときに、国でやるのは何事も時間がかかるから民間企業の方がよいだろうということで、Synspectiveを作りました。社名は「Synthetic Data for Perspective on Sustainable Development」の略で、持続可能な未来のために合成データを活用する、という意味を込めました。

ちなみにSARが何を「合成」しているのかというと、レーダーはアンテナの開口面が大きいほど空間分解能が高くなります。しかし、ロケット打ち上げのコスト等を考えると、衛星はできる限り小型軽量化したい。そこでSARでは、衛星が移動しながら電波を送受信し、得られた測定結果を「合成」することで、仮想的に大きな開口面を構成します。これにより、小型衛星の小さなアンテナでも高い空間分解能を得られます。

深刻な災害に見舞われるグアテマラ。SAR衛星で「地滑りが起きる場所」を察知!

吉田:中米・カリブの国々はサイクロン、台風で毎年大きな被害を受けています。さらに、地震や地滑りもあります。グアテマラのかつての首都アンティグアは、大昔に大地震に見舞われて壊滅してしまい、その街並みが残っていることから世界遺産になっている、昔からそういう災害があるんですね。

しかも入り組んだ山がちな国土で、地域ごとが分断されています。災害時のコミュニケーションに課題があり、どこに何を届ければいいのかも分からない。そこで今回、Synspectiveと一緒に、SAR衛星でさまざまな情報を取得する実証事業を実施しました。白坂さん、ここで改めて防災にSAR衛星を使うメリットを整理できますでしょうか。

グアテマラシティでは地盤変動により、塀や道路にひび割れが見られる。

白坂:光学衛星も含め、人工衛星で地表をモニターするメリットは4つあります。

【人工衛星でモニターする四つの利点】
1.人が見に行けないところを見に行ける
2.広域で見ることができる
3.点ではなく面で見ることができる
4.継続的にモニターできる

特に定点観測、つまり継続的にモニターできること。これについては、複数の衛星を連携させて一つのシステムを構築する「コンステレーション(衛星群)」というやり方で、モニターの分解能を高めることができます。

今回のプロジェクトでは、Synspectiveの提供する地盤変動モニターソリューション「LDM(Land Displacement Monitoring)」で、地盤沈下、地滑りなどの“地盤変動”を観測しました。ここでは「干渉SAR」というテクノロジーを使っています。

*対象地域(背景地図:OpenStreetMap (and) contributors, CC-BY-SA)
SynspectiveとJICAが連携して実施したグアテマラシティおよび郊外での実証実験の対象地域(上)。観測により、局所的に深刻な地盤沈下現象の全体傾向と、陥没・地すべりリスクを示す箇所を確認することができた(下)
©Synspective inc.

干渉SARでは、衛星から時間差で2回、地表に向けて電波を放射します。このとき、地盤変動があると波長が少しズレます。1回目と2回目のズレを見ることで、地表のミリ単位の変動も測定できるというものです。今回はグアテマラの街中で沈下しているところがないか、あるいは山間で地滑りが起こりそうなところはないのかなどを見ていきました。

吉田:干渉SAR自体は既存の技術ですが、Synspectiveのユニークな点に「縦の動き」「横の動き」を分割できるということがありますよね。

白坂:簡単に言うと地面に穴が開くとき、縦に沈む動きをしますが、このとき横から見ると、中心部に向かって地盤が内側に寄っていっているんですね。つまり縦と横を両方見ることで、どの辺りが沈下しそうかを予測できるんです。逆に、山になるときも、山が盛り上がる縦の動きと、周囲から地盤が集まってくる横の動きを合わせて見ることで予測できます。

そしてLDMですが、SAR衛星で得られたデータを、防災の担当者が読み取れる画面で提供するものです。いわゆるSaaS(※4)の形式で提供し、一般的なパソコンなどネット端末からアクセスできます。

※4:SaaS=Software as a Service、つまり買い切り型ではなく、利用した分だけ料金が発生するタイプのプロダクト。

 

衛星データを用いて広域の地盤変動を解析し、その結果を提供するソリューションサービス「Land Displacement monitoring(LDM)」を実証導入。継続して利用することにより、測量業務の効率化と潜在的な地盤変動リスクの早期発見が期待される。

吉田:今回のプロジェクトでは、SAR衛星により広域でデータを収集することで、グアテマラの機関が把握していなかった危険個所を3か所特定することができましたね。地表面の変動量を含めた定量的な情報に基づいて、ハザードマップを更新できるようになり、さらに従来行っていた、人による測量などの負担も、LDMの導入で大きく軽減できる見込みが立ちました。

白坂:今回行った「予測」「予防」に加え、さらに今後は災害後の「対応」にもSAR衛星が役立てばと思います。林さんには、ImPACTでまだ衛星が何もできていない頃から防災の専門家の視点でアドバイスをいただいてきましたが、現時点でのSAR衛星の評価と課題を教えていただけますか?

:今世界的に増えているのは風水害です。衛星から地表を見ようとしても雲がいっぱいあるので、光学カメラでは見えない。雲を透過して、地表の人間社会で何が起こっているのかを見ようと思うと、やはりSAR衛星が必要です。SynspectiveはSAR衛星に取り組みつつ、さらに小型衛星のコンステレーションを企画しているという意味でも大きな成果を挙げています。

そしてSynspectiveのプロダクトはとにかくわかりやすい。LDMは、衛星の専門家じゃなくても、ヒートマップなどの形で、地盤がどう動いたのか、差分がわかるように見せてくれている。やっぱり上手だなと思います。

ただ、まだまだ衛星の数は足りていないですね。SAR衛星も1基では時間分解能が低くて、災害対応では使えません。コンステレーションを組んで時間分解能を高めることが、防災分野での活用につながると思います。

吉田:実は私たちJICAでも人工衛星に注目しており、2008年から、ブラジルのアマゾン地帯における違法伐採を衛星で監視するというプロジェクトを行っています。

アマゾンは川と言ってもほぼ海みたいなもので、常に蒸気が出て、雲に覆われています。そのため日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)が開発した「ALOS」(エイロス)というSAR衛星を使いました。ブラジル環境省傘下の団体とデータ共有し、連邦警察に伝えて違法伐採者を取り締まる仕組みをつくり、一定の成果を得ています。

今回のプロジェクトで一定の手応えを得ましたので、今後の国際協力事業でも、継続的な衛星データの活用が期待できますね。

衛星ビジネスも国際協力も、点でなく「面」で捉えると大きく育つ!

白坂:我々は防災の専門家ではないので、例えば地震があったとして、どこを撮ればいいか判断がつかないんですね。そこはやはり専門性に応じた役割分担が必要なんです。そこで現在、防災科研との連携を進めています。

:僕らが衛星の専門家からデータをもらうと、いつも肝心なところが映っていない(笑)。災害を撮るなら、撮るべきタイミングで撮るべき場所を撮らなければ意味がないんですね。この「撮るべきタイミング」「撮るべき場所」をトリガリング情報と言い、それを提供できることが、防災科研が貢献できるところだと思います。

今後はコンステレーション(衛星群)の拡充で、発災時の素早い応急対応にもSAR衛星が使えるとなれば、これは非常に役立つと思いますね。

白坂:30基の衛星でコンステレーションを実現できれば、世界中どこでも2時間以内、日本国内なら平均1時間以内で撮像できます。目標はダウンロードも含めて2時間以内に、情報処理をした状態で、現場の方にお渡しすることです。

吉田:民間企業としては持続性も必要ですが、ビジネスとしてのSAR衛星事業の戦略をお聞かせいただけますか?

白坂:今はとにかくフィードバックが欲しいです。現場で使ってもらううちに、だんだんプロダクトが良くなり、他の場所で使う人たちにとっても使いやすいものになります。当社では衛星開発のチームのほかに、サービスのチームを置いています。

災害って、普通は「国」というレベル感で扱うもので、民間企業が直接売り込むのは難しい。そこで、防災科研やJICAといった公的機関に入ってもらうのですが、世界中で防災協力をしているJICAは心強いパートナーですね。

SynspectiveとJICAによるグアテマラでの実証実験の様子。

:ビジネスとしての継続性で言うと、アメリカだとこういうベンチャーのプロダクトを国がたくさん発注して買い上げるんですよ。すると企業は安心してどんどん作る。そういう循環を作ることで、アメリカでは民間企業が育ちながら、衛星技術を高度化しています。

例えばですが、日本で言うとJICA、ひいては外務省が、リアルかつ定期的にアップデートされる衛星情報を自前で持つことのメリットは大きいですよね。そういう形ができれば、日本の小型衛星コンステレーションのビジネスはグッと安定して、大きくなっていくのではないでしょうか。

吉田:ちなみに林さんに伺いたいのですが、JICAが国際協力をしているような国々は必ずしも予算が潤沢にあるわけではなく、自前の衛星を持っていない国も多いです。そうした国が予測力、予防力、対応力を強化するには、どうしたら良いと思われますか?

:実は地方自治体レベルでは、日本でも全く同じ状態なんですよ。それでも日本が防災で世界一だと言われているのは、地方自治体よりももっと大きな国や都道府県というユニットで情報を集めて、みんなに提供する仕組みがあるから。

そういう意味では日本の技術や知見を日本のためだけに行使するのではなくて、世界全体という大きな枠の中に日本の未来も位置付けるような、そんな視点が必要だと思いますね。

吉田:たしかに仰る通りですね。JICAでも、個別の課題は点としてやっていきつつ、面として俯瞰的に捉える方向にシフトしつつあります。ある国が困っているから何とかしなきゃいけないだけだと広がらず、ある意味マニアックになってしまうんですね。

白坂:ところでビジネスの話でもう一つ。今後、小型で軽量な人工衛星が増えて、安く衛星データを入手できるようになると、ユーザーのすそ野が広がり、みんながいろんな利用方法を考え付くようになります。

昔コンピュータが大きくて、スパコン(スーパーコンピュータ)しかない時代に、スパコンで家計簿をつけようと思った人はいなかったでしょう。でも、パソコンやスマホが安く入手できるようになると、家計簿に使う人たちが出てきた。衛星データが安くなれば、同じ現象が起こると思います。だからもっともっと世界中の人たちに衛星を打ち上げてほしいですね。

ビジネス的には自分たちの衛星データを独占的に使う方が良さそうですが、それって今のやり方ではない。みんながデータを使えるようにして市場を大きくしつつ、その中の一部のシェアを取る。その方が結果的に利益も増えて、自分たちのビジネスが回りやすくなるし、宇宙業界の発展にもつながると思っています。

吉田:お二人の「独占しないことで、結果的にいろいろ広がっていく」という話を聞いて、まさに我が意を得たりという気がします。

例えばチリで津波や地震があると、日本にも津波や地震が来るように、世界は全てつながっています。JICAではチリを中心に「防災人材」を2000人以上育てて、もっと増やそうと計画していますが、これはチリのためでもあり、日本のためでもあり、世界のためでもあります。点ではなく、グローバルアジェンダとして、面的に課題を解決する、あるいは多くの人に関心を持ってもらえる形にする。それが最終的にはJICAの目標である、「信頼で世界をつなぐ」ことになるのかなと思っています。

今回の、防災と宇宙という取り組みでは、特にこの考え方がしっくりきていて、今後もぜひこういった協力をやっていければと思っています。今日はありがとうございました!

 

株式会社Synspective
https://synspective.com/jp

防災科研(国立研究開発法人防災科学技術研究所)
https://www.bosai.go.jp/

JICA(独立行政法人国際協力機構)
https://www.jica.go.jp/index.html

サハラ砂漠で降雪! 驚くことではないのはなぜ?

アフリカ大陸北部にまたがる「サハラ砂漠」で2022年1月、降雪が観測されました。世界最大の砂漠であるこの地域で一体何が起きているのでしょうか?

 

サハラ砂漠で雪が降る仕組み

↑近年、サハラ砂漠では雪が降っている

 

アルジェリア、エジプト、モロッコなど、アフリカ北部の11の国にまたがるサハラ砂漠。面積はおよそ860万km2で、水が少なく乾燥した気候のうえ、地表面からの熱放射があるため、日中の気温は50℃以上に達します。そんな場所で2022年1月、雪が降り、世界各地で報道されました。

 

サハラ砂漠で雪が観測されたのは今回が初めてではありません。サハラ砂漠の気候や地形を考えると、実は雪が降る条件が整っているのです。まず、気候について見てみると、確かにサハラ砂漠は世界で最も気温が高い地域の1つですが、雲が少なく、夜間の放射冷却が激しいため、夜には厳しく冷え込みます。1日の寒暖差が20~30℃以上になり、2005年にはアルジェリアで最低気温-14℃を記録したことも。

 

地形については、アフリカ北西部には、標高4165mと富士山より高いアトラス山脈がそびえ立ち、冬になると大西洋や地中海からサハラに向かって冷たく湿った空気が流れこみます。そして、この空気が上昇して冷えると、空気中にあった水分が凍って雪に変化。つまり、気候と地形条件をみると、サハラ砂漠で雪が降ることは珍しいものの、降雪の条件は満たされているのです。

 

実際、「サハラ砂漠の入口」と呼ばれる、アルジェリアのアインセフラという町では、1979年、2016年、2017年、2018年、2021年に雪が観測されています。そして2022年1月に発生した降雪も、同じアインセフラでした。

 

気候変動との関係は?

サハラ砂漠で雪が降ったのが過去5~6年に集中していることから、地球全体で起きている異常気象や気候変動との関連を指摘する見方もあります。サハラ砂漠の中心部では今後さらに気温が高くなると予測されており、それによって砂漠化する地帯が拡大すると見られています。しかし、これからサハラ砂漠で降雪が頻繁に起きるようになるかどうかは、まだわかっていません。

「脱炭素」「カーボンニュートラル」って何? 地球温暖化の専門家に聞く、日本と世界と私たちのゼロカーボンアクション

気候変動の問題は、私たち一人ひとりが真剣に取り組まなければならない、もはや待ったなしの課題となっています。とはいえ、「気候変動の現状や、実際に行われている対策がよくわからない」「私たち個人の行動が、本当に課題の解決につながるの?」といった疑問を感じている人も多いのではないでしょうか。

 

そこで今回は、地球温暖化の専門家である、国立環境研究所の江守正多先生に、気候変動問題の現状や日本での新たな取り組み、私たちが具体的にできるアクションなどを教えていただきました。

 

「カーボンニュートラル」とは?

まずは気候変動問題を語る上で欠かせない、「カーボンニュートラル」という単語が意味することを知っておきましょう。江守先生にあらためて解説していただきました。

 

『カーボンニュートラル』あるいは『ゼロカーボン』とは、人間活動による温室効果ガスの排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすることを言います。

そもそも私たちが排出している、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの多くは、石油、石炭、天然ガスといった化石燃料を燃やしたときに発生するもの。もちろんこれをゼロにできればいいのですが、完全にゼロにすることは難しいのが実情です。そのため、どうしても排出してしまう分を、植林や森林管理などによって吸収することで、排出量を“実質ゼロ”にする。これがカーボンニュートラルの考え方です。

2020年10月に日本政府は『2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指す』と宣言しました。現在は日本を含めた120以上の国と地域がこの目標を掲げていて、各国で取り組みが進められています」(国立環境研究所 地球システム領域副領域長・江守正多さん、以下同)

 

2050年までに日本は、カーボンニュートラルを実現できる?

世界各地でカーボンニュートラルへの取り組みが加速する中、日本は現在、目標をどのくらいまで達成できているのでしょうか?

 

「日本では2013年以降、温室効果ガスの排出量は減少しています。減らすことができている要因の一つは、太陽光発電や風力発電などによる再生可能エネルギーが普及し始めたこと。そのほか、2011年の東日本大震災を機にストップしていた原子力発電所の稼働がいくつか再開したことや自動車の燃費がよくなったことなども減少している要因と考えられています。

しかし、2050年にカーボンニュートラルを実現させるためには、もう少しペースアップしていく必要があります。また、排出量が少なくなればなるほど、さらに減らすことは難しくなっていくため、今後をそれほど楽観的に考えることはできません」

温室効果ガスを減少させることができている一方で、課題も抱えている現在の日本。2021年に開催された「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)」では、温暖化対策に後ろ向きな国に贈られる「化石賞」を受賞してしまいました。他の国と比べると、日本は取り組みが遅れているのでしょうか? 化石賞に選ばれてしまった理由も含めて、江守先生に聞きました。

 

「そもそも化石賞はCOPの期間中、毎日選ばれるものなので、日本以外にも受賞した国は多くあります。もちろん、だからと言って安心できるわけではなく、日本が批判された理由をよく理解すべきです。

今回日本が化石賞を受賞した理由は、日本政府が『火力発電を使い続ける』という方針を示したからです。ただし、日本政府が考えている火力発電は、化石燃料を燃やすのではなく、温室効果ガスを出さずにつくった水素やアンモニアを使って発電するというもの。将来的にはこの技術をアジアの他の国にも広めていきたいと考えています。しかしこれが本当にうまくいくのかまだ不確かであり、もしうまくいかなければ化石燃料を使い続けることになってしまうのでは? と批判を受けたことが、今回の化石賞受賞の理由です。

日本政府が今回の方針を示した背景には、日本は再生可能エネルギーを普及させるための地理的条件があまり恵まれていないという認識があります。例えば日本では、太陽光パネルを設置するのに最適な、砂漠のようにだだっ広い土地は少ないですよね。また、再生可能エネルギーには、自然状況によって発電量が大きく左右されるという特徴があります。ヨーロッパなどでは周辺の国との間に送電網があるため、電力を輸出入して電力量を調整することが可能ですが、島国の日本ではそれができません。こうした理由から日本政府は、安定的に供給できる火力発電も使っていきたいと考えているのだと思います。

日本政府が開発を目指している『クリーンな火力発電』では、温室効果ガスを出さないことはもちろん、低コストで大量に燃料を調達することが必要です。これらの実現に向けた研究が今まさに進められていますが、まだ楽観視はできないのです」

 

さらに加速する、再生可能エネルギーの導入

温室効果ガスを出さない火力発電の開発が進む一方で、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた取り組みも進んでいます。日本が今後、さらに再生可能エネルギーの導入を加速させていくためには、どうすればいいのでしょうか?

 

太陽光パネルを設置できる場所はまだまだあるはずです。屋根の上や荒れ地はもちろん、最近では、農地の上に支柱を立てて太陽光発電と農業を同時に行う『ソーラーシェアリング』なども増えてきています。

しかし、同時に課題もあります。現在増えているのが、都会の業者が地方の土地を安く購入し、山を切り開いて木を切ったりして、太陽光パネルを設置するケースです。自然破壊や景観の悪化、土砂崩れの危険性など、さまざまな懸念点がある上に、太陽光発電で得た利益はすべて業者のもの。これでは、その地域の住民たちにとってまったくメリットがありません。

現在ドイツなどでは、地域の人々が主体となって再生可能エネルギーを開発している例があります。この方法だと、その土地をよく知る人たちが納得する場所に太陽光パネルを設置できて、雇用も発生する。さらに利益はその地域のものになります。日本でも今後、このような地域主体の再生可能エネルギーの開発がもっと普及していくべきだと考えています」

 

一般市民が気候変動の対策を考案!? 日本で進む新たな取り組み

最近では2050年のカーボンニュートラルに向けた、新たな取り組みも始まっています。江守先生はその一例として、無作為に選ばれた市民が温暖化対策の提案をつくる「気候市民会議」を挙げました。

 

「気候市民会議は、イギリスやフランスなどでは、国の政府や議会が主導して非常に本格的に行われている取り組みです。フランスではこの会議での提案をきっかけに、短距離の国内線の飛行機が廃止になりました。

気候市民会議のポイントは、“無作為に”参加者が選ばれるということ。気候変動の問題に関心がある人ばかりが集まるわけではありません。また、男女比や年齢層、都市に住む人や地方に住む人など、その国の社会の縮図となるように参加者を集めるため、さまざまな立場の人と議論をすることになります。

この取り組みは日本でも行われていて、一昨年には私も参加する研究グループが札幌市で実施しました。オンラインだったこともあり、話し合いは難しいところもありましたが、参加した人からは『初めて気候変動の問題に関心を持った』『いろいろな人と議論できて良かった』という声が聞かれました。ここでまとめられた対策案を、市がすべて実行できるわけではありませんが、今後の対策を考える上で大いに参考になると思うので、やって良かったと感じています。現在、他の地域から『うちでもやりたい』という相談が少しずつ増えているので、今後もぜひ注目してほしいと思います」

 

カーボンニュートラル実現のために、私たちにできること

地球規模で取り組まなければならない、気候変動の問題。しかし私たち個人の力ではどうすることもできないのでは? と考えてしまう人も多いはずです。カーボンニュートラルを実現させるために、私たち一人ひとりにできることは何か。最後に、江守先生に聞きました。

 

「カーボンニュートラルを実現させるためには、社会、経済、産業など、世の中のあらゆるシステムや仕組みを大きく変えなければなりません。しかしそれを『どこかの偉い人がやってくれるから自分にできることはない』とあきらめるのではなく、世の中を大きく変えるために、自分が後押しできることや応援できることはないかを考えてほしいと思います。

そのためにまず大切なのが、知ること。気候変動の現状や今後の影響を知ることで、『気候変動を止めなければならない』という危機意識が芽生えるはずです。よく私がおすすめしている方法は、ニュースアプリなどでトピックやテーマをフォローできる機能。『気候変動』などのキーワードをフォローしておけば、関連した情報を日々チェックすることができます。そして、自分が得た情報の中で興味深く思ったものは、ぜひSNSでシェアをしたり、周りの人と話したりしてほしいです。

次のステップは、自分のアクションをきっかけに『周りの人にもアクションを起こさせること』です。難しいことのようにも思えますが、例えばコンビニで『レジ袋はいりません』と言うときに、後ろの人にも聞こえるように大きな声で言ってみることも一つの方法だと思います。とても些細なことですが、温室効果ガスを減らすための行動が、意識せずとも人々の“当たり前”になるよう、働きかけていくことが大切です。

そのほか、気候変動対策をしている企業や人を応援することも、私たちにできることの一つ。私自身がたまにやっているのは、保険の契約を見直すときなどに『ここの保険会社では火力発電所に投資していますか?』などと質問することです。企業に対してメッセージを出せるタイミングがあれば、このような働きかけをしてみるのもいいと思います。ほかにも、再生可能エネルギー100%のプランがある電力会社に変える、気候変動に熱心に取り組む政治家に投票するなど、個人にもできることはたくさんあるはずです」

 

江守先生も作成に協力した「気候変動アクションガイド」。「KNOW」「THINK」「CHOOSE」「ACT」の4段階で、できることがまとめられています。出典=気候変動アクションガイド「個人でできる対策を選ぼう」

 

気候変動は、地球に住む私たちにとって避けられない課題。個人にできることはないとあきらめる必要はありません。気候変動対策に取り組むことは、「私たちの生活をよくすること」だとポジティブに考え、できることから行動していきましょう!

 

【プロフィール】

国立環境研究所 地球システム領域副領域長 / 江守正多

東京大学大学院総合文化研究科博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。2021年より地球システム領域副領域長。連携推進部社会対話・協働推進室長を兼務。東京大学総合文化研究科客員教授。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書の主執筆者。

水野敬也・長沼直樹・江守正多『最近、地球が暑くてクマってます。』(文響社)