【SIHH2018速報まとめ後編】コンプリケーションウオッチの在り方を変える“価値の多様性”

毎年スイス・ジュネーブで開催される国際高級時計展(SIHH)は、各社からハイエンドなタイムピースが発表されるのが恒例でした。それが、今年はかなり現実的に手の届く製品が増えた印象に。後半では、高級時計界でも別格として扱われるトップブランドの新作を取り上げます。【前編

 

ピアジェ

極薄ウオッチの先駆者ピアジェは、またしても薄型の自動巻き時計で世界記録を樹立。裏蓋をメインプレートにする独自設計を生かしたメカニズムは、もはや別次元の領域に突入しました。その技術的成果はケース厚2mmというコンセプトウオッチでも披露されました。

 

【SIHH2018速報】薄型ウオッチ製造の先駆者ピアジェが打ち立てた2つの金字塔

 

 

A.ランゲ&ゾーネ

毎年、ブースの最も目立つ場所にハイライトモデルの巨大オブジェを据えるA.ランゲ&ゾーネ。今年のブースの主役になったのは、秒、分、時間の各積算計のそれぞれにスプリット針を備えた「トリプルスプリット」でした。その他にもバランス良く様々なコレクションから新作が発表されました。

 

【SIHH2018速報】A.ランゲ&ゾーネが時間計測の新境地を開拓!

 

 

オーデマ ピゲ

今年はロイヤル オーク オフショアの誕生25周年アニバーサリー。この記念すべき年にオリジナルモデルの復刻版が登場しました。さらに世界最薄の永久カレンダーや、自社初のフライングトゥールビヨンウオッチなど、複雑機構でも圧巻の技術力を披露しました。

 

【2018SIHH速報】ロイヤル オーク オフショアのアニバーサリーイヤーに意欲作を大量発表

 

 

ヴァシュロン・コンスタンタン

得意の複雑機構を出す一方で、新時代を象徴する新作が登場。ヴァシュロン・コンスタンタンの「フィフティーシックス」は、買い付けにやってきたバイヤー人気の高かった新コレクション。スイスを代表する雲上ブランドの時計(ステンレススチールケース×3針自動巻き)が、なんとアンダー150万円で購入できるというのはかなり魅力的です。

 

【SIHH2018速報】ジュネーブ御三家の一角ヴァシュロン・コンスタンタンの腕時計が今年は買えるかも!?

 

 

ヴァン クリーフ&アーペル

世界のトップジュエラーにして腕時計コレクションも取り揃えるヴァン クリーフ&アーペルも毎年のSIHHに出展しています。ここで発表される新作は、腕時計というキャンバスに描かれるメゾン独自の詩的表現。今年も、美と技で幻想世界を描き出しました。

 

【SIHH2018速報】文字盤を舞台に壮大なる宇宙の美しさを描き出すヴァン クリーフ&アーペルの技術成果

 

 

リシャール・ミル

新興スーパーブランドのリシャール・ミルは、メンズ向けに渾身の1本を発表。トゥールビヨン搭載ムーブメントをワイヤーで支えて耐衝撃性を高めつつ、サファイアクリスタルガラスにラミネート処理を施してガラスの飛散を防ぐ新構造も取り入れたポロ競技用のRM 53-01は、カーボンケースで1億円オーバーという超絶コンプリケーションでした。

 

【SIHH2018速報】ポロ競技の激しい衝撃にも耐えるリシャール・ミル新作は圧巻の1億円越え!

 

 

SIHH発表作は、かなりの高額品が大半を占めるという流れが長年にわたってありました。その流れも時代の移り変わりによって徐々に現実路線へと向き始めているようです。3月にはバーゼルワールドが控えていますが、SIHHのトレンドと重なる部分があるのかどうか。新時代への移行期にある高級時計界の動向から、目が離せません。

 

 

 

白と青で表現された一世紀半という歴史の重み【SIHH2018/IWC編】

2018年の高級時計の新作が披露される国際高級時計展(SIHH)が、今年も1月にジュネーブで開催されました。ここで発表された新作から今年で150周年を迎えたIWCの新作について、ウオッチナビ編集部の水藤が詳細をお伝えします。

 

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クラシックなだけじゃないラインナップに「ギャップ萌え」

IWCのSIHH新作は、毎年のようにひとつのシリーズをリニューアルすることが恒例のようになっています。その流れのなかで、IWCが150周年を迎える2018年に発表したのは、ジュビリーコレクションと銘打った限定モデルでした。合計27本の限定ウオッチはクラシックなデザインのモデルがベースとなっており、それらの文字盤色は暗に「過去」を示すホワイトと、「現代」を示すブルーの2色のラッカーダイアルのみという展開でした。

 

ジュビリーコレクションの文字盤の何層にも重ねられたラッカーは、エナメルにも似た独特の光沢が魅力。1885年発表作をベースにしたデジタル表示式の「パルウェバー」や「ポートフィノ」では、かつてのポケットウオッチのような雰囲気が楽しめます。その一方で、「ダ・ヴィンチ」「ポルトギーゼ」「パイロット・ウォッチ」は、古き良き時代の空気感を残しながらもよりモダンなデザインと言えるでしょう。

 

こうしたジュビリーコレクションに「インヂュニア」「アクアタイマー」が入っていないことは、むしろ高評価。150周年のジュビリーコレクションに、スポーティでパワフルなデザインはあまり相応しくなかったかもしれません。逆に、「うまい!」と唸ったのは、パイロット・ウォッチ。なかでも初のビッグデイトを搭載したビッグ・パイロット・ウォッチのホワイトダイアルは、時計の持つ力強さと上品な光沢文字盤との組み合わせに「ギャップ萌え」しました。

 

 

「IWC トリビュート・トゥ・パルウェバー“150 イヤーズ”」250万円/Ref.IW505003。世界限定500本 手巻き。ステンレススチールケース。アリゲーターストラップ。直径45mm、厚さ12mm。3気圧防水「IWC トリビュート・トゥ・パルウェバー“150 イヤーズ”」250万円/Ref.IW505003。世界限定500本
手巻き。ステンレススチールケース。アリゲーターストラップ。直径45mm、厚さ12mm。3気圧防水

 

 

今年のIWC新作のハイライトは、1884年にIWCが開発したパルウェバー懐中時計の意匠を腕時計に再現したデジタル表示式の一本。ディスクの回転に別の動力源をもたせ、エネルギー消費の大きい機構でも高精度を維持しながら60時間パワーリザーブを実現。SSケースに採用された現代的なブルーラッカーダイアルとの組み合わせが、ポケットウオッチ時代のデザインを新鮮な印象に変えています。

 

「ポルトギーゼ・クロノグラフ “150イヤーズ”」78万5000円/IW371601。世界限定2000本 自動巻き。ステンレススチールケース。アリゲーターストラップ。直径41mm、厚さ12.7mm。3気圧防水「ポルトギーゼ・クロノグラフ “150イヤーズ”」78万5000円/IW371601。世界限定2000本
自動巻き。ステンレススチールケース。アリゲーターストラップ。直径41mm、厚さ12.7mm。3気圧防水

 

 

シャイニーなブルーダイアルは通常モデルにありましたが、ジュビリーコレクションではラッカーブルーでシックな雰囲気に。注目は、ハイコストパフォーマンスな新型の自社製クロノグラフムーブメントCal.69355の搭載。お馴染みの縦配列2インダイアルの完成されたデザインはもちろん、ケースサイズもほぼ変えることなく作り上げられた本機が、人気作「ポルトギーゼ・クロノグラフ」の近い未来を予感させます。

 

「ビッグ・パイロット・ウォッチ・ビッグデイト“150 イヤーズ”」156万円/Ref.IW510504。世界限定100本 手巻き。ステンレススチールケース。アリゲーターストラップ。直径46.2mm、厚さ15.2mm。6気圧防水「ビッグ・パイロット・ウォッチ・ビッグデイト“150 イヤーズ”」156万円/Ref.IW510504。世界限定100本
手巻き。ステンレススチールケース。アリゲーターストラップ。直径46.2mm、厚さ15.2mm。6気圧防水

 

 

力強いパイロット・ウォッチのデザインと艶やかなラッカーダイアルの組み合わせのギャップがユニークな一本。初めてビッグデイト表示を採用したチャレンジングな試みも大きな見どころとなっています。耐磁性軟鉄製インナーケースや夜光処理の採用など、アニバーサリー限定ながらパイロット・ウォッチならではの実用性が追求されている点も好印象。個人的なIWC新作のハイライトです。

 

 

ブランド誕生の背景にも通じる挑戦心こそIWCの真髄

IWCは毎年のSIHHに向けて大きなトピックスを用意していますが、今年の新作は特に驚きの多かったように思います。アメリカ人時計師がシャフハウゼンで創業したというユニークな背景を持つIWCが一世紀半もの歴史を重ねてこられたのは、オリジナリティに溢れ、実用性に優れた製品を開発し続けてきたからに他なりません。

 

今回の150周年のジュビリーコレクションには新型も定番もラインナップしていますが、より「IWCらしさ」を求めるならば、あえて上に挙げたような新たな試みが行われたモデルを手に入れたいところ。デザインこそ目新しいかもしれませんが、そうした挑戦心こそIWCの真髄だと思うのです。

 

IWC https://www.iwc.com/

 

 

 

スタイルに縛られないヘリテージの強み【SIHH2018/オーデマ ピゲ編】

ウオッチシーズンの幕開けとなるSIHH 2018が1月15日から19日にかけ、スイス・ジュネーブで開催されました。国際高級時計見本市と銘打つだけに、その動向は業界の1年を占うに十分。出展数は前年の30ブランドから35ブランドに増え、とくにエルメスがバーゼルワールドから移るなど話題性も盛り沢山なイベントとなりました。そのなかで注目したブランドの新作と方向性について、ライター柴田 充さんがお伝えします。

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世界三大ブランドたらしめる強みを発揮

「ロイヤル オーク オフショア」は今年誕生から25周年を迎えました。クロノグラフと防水性を備え、エクストリームスポーツの世界を思わせる力強いメガサイズのケースは、斬新かつ新たなラグジュアリースポーツの登場を予感させました。アメリカズカップではチーム・アレンギの優勝を支え、先端素材のフォージドカーボンをいち早く採用するなどいまもブランドの革新性を象徴します。

 

新作「ロイヤル オーク オフショア・クロノグラフ」復刻版はその輝かしい軌跡を祝します。初代オリジナルを再現したスタイルはいまなお新鮮で、こうした時代を超越する魅力の理由は、名作「ロイヤル オーク」の高い完成度もさることながら、「オフショア」がそれに対するオルタナティブでありえたからでしょう。そこには偉大なヘリテージを越えるために、あえてそのカウンターカルチャーを目指す気骨が感じてならないのです。

 

それはさらなる進化形である「ロイヤル オーク オフショア・トゥールビヨン・クロノグラフ」からも見て取れます。サファイアクリスタルのオープンベゼルを採用し、シンボルである八角形はビスを残したフォルムのみという大胆さ。そこからはヘリテージにリスペクトするからこそ、その先へと向かう強い意思が伝わってきます。

 

「ロイヤル オーク」は、1972年に高級時計に初めてステンレススチールを採用し、硬質なスポーティテイストと、美しい面取りがされた薄型ケースのエレガンスという、相反する価値観を両立し、ラグジュアリースポーツという新ジャンルを確立しました。新作では初代と同じ超薄型キャリバー2121を搭載した「ロイヤル オーク オフショア・“ジャンボ”・エクストラシン」が登場し、永久カレンダーを搭載しながらもそれよりさらにケース圧を約2mm薄くした「ロイヤル オーク RD#2」も発表されました。

 

ここでも「ロイヤル オーク」に薄さとコンプリケーションを組み合わせ、ヘリテージをさらに後世へとつなぎます。そしてそれこそがオーデマ ピゲを世界三大ブランドたらしめる強みなのです。

「ロイヤル オーク オフショア・クロノグラフ」275万円/26237ST.OO.1000ST.01 自動巻き。42mm径。ステンレススチールケース&ブレスレット。100m防水「ロイヤル オーク オフショア・クロノグラフ」275万円/26237ST.OO.1000ST.01
自動巻き。42mm径。ステンレススチールケース&ブレスレット。100m防水

 

 

初代オリジナルのスタイルを再現し、現行モデルではセラミックになったクロノグラフのプッシュはラバーに、文字盤のタペストリーもより控えめなプチタイプになります。42mm径もいまでは腕に載せても違和感なく、オーバルインデックスやカーブを描いた針は柔らかな印象とともに落ち着いた印象を与えます。大人の休日ウォッチにもお奨め。

「ロイヤル オーク オフショア・トゥールビヨン・クロノグラフ」価格未定/26421OR.OO.A002CA.01 手巻き。45mm径。18KPGケース。ラバーストラップ。100m防水「ロイヤル オーク オフショア・トゥールビヨン・クロノグラフ」価格未定/26421OR.OO.A002CA.01
手巻き。45mm径。18KPGケース。ラバーストラップ。100m防水

 

 

25周年記念モデル。シリーズ初の45mmケースにサファイアケースのオープンベゼルを組み合わせます。エッジィなデザインに目がいきますが、手巻き式トゥールビヨンを搭載し、コンプリケーションの実力も秘めます。歴代の限定モデルには『ターミネーター3』コラボレーションなどもあり、エキセントリックな伝統も健在です。50本限定。

 

「ロイヤル オーク・“ジャンボ”・エクストラシン」345万円/15202IP.OO.1240IP.01 自動巻き。39mm径。チタンケース&ブレスレット。50m防水「ロイヤル オーク・“ジャンボ”・エクストラシン」345万円/15202IP.OO.1240IP.01
自動巻き。39mm径。チタンケース&ブレスレット。50m防水

 

 

「ロイヤルオーク」誕生40周年モデルに、チタンケース&プラチナベゼルが加わりました。搭載するキャリバー2121は超薄型として設計され、「ロイヤルオーク」以外では複雑機構や高級機種にしか使われない稀少性と、秒針を持たない初代のスタイルがマニア心をそそります。ポリッシュベゼルのコントラストも美しく、名作にふさわしいエレガンスが漂います。

「ロイヤル オーク RD#2」価格未定/26586PT.OO.1240PT.01 自動巻き。41mm径。プラチナケース&ブレスレット。20m防水「ロイヤル オーク RD#2」価格未定/26586PT.OO.1240PT.01
自動巻き。41mm径。プラチナケース&ブレスレット。20m防水

 

 

永久カレンダーの新開発キャリバー5133は、従来の三層構造を一層にすることで2.89mmという驚異的な薄さを実現しました。ケース厚も6.3mmに抑え、自動巻きパーペチュアルでは現在最薄を誇ります。手にすれば永久カレンダーであることを一切感じさせず、2針の初代モデル以上という薄さに、技術革新と進化を続ける名門の矜持が伺えます。

 

 

時代を切り拓く感性、そして揺らがぬヘリテージ

「ロイヤル オーク オフショア」の25周年を祝す MVにヒップホップDJとともに登場したのは、アンバサダーを務めるNBAプレーヤーのレブロン・ジェームス。そのテーマも“The future of first(最初の未来)”でした。トレンドの変化が激しく、競合ブランドも多いラグジュアリースポーツで、「ロイヤル オーク オフショア」は四半世紀に渡ってその基本スタイルを変えず、人気も衰えません。支持されるのはカテゴリーの先駆であると同時に、つねに時代を切り拓く感性にあります。そして揺らがぬヘリテージは、いまも創業一族による独立系ブランドであり続ける姿勢にも通じます。

 

オーデマ ピゲ https://www.audemarspiguet.com/