こんなに安くて大丈夫!? 売れ行き好調「格安調理家電」の使い勝手をプロが○×判定!

価格が安い、安すぎてちょっと心配になってしまうくらいの格安アイテムを、プロ・専門家が徹底的にチェック! 独自機能やおすすめポイントなど、良いところも悪いところも含めて惜しみなくレビューをお伝えしていきます。

 

生活家電分野では、近年、多くの有名メーカーから安くてコスパに優れた製品が登場。一方、最新ハイスペック機種も取り揃える大手メーカーでは、成熟した機能が光る中・下位モデルが人気です。第1回のテーマはそんな生活家電のなかでも「調理家電」をピックアップ! 本稿では、オーブントースター、電気圧力鍋、オーブンレンジ、炊飯器、ヨーグルトメーカーをご紹介します。

 

【○×判定した人】

家電ライター・平島憲一郎さん

調理家電から掃除機、美容・健康家電まで、生活家電記事全般を担当。検証企画も多数手掛けています。

 

最新格安家電は機能の成熟と高級機能導入の二極化へ

生活家電分野は、大手各社が最上位機で最先端技術を競い合う一方で、実際に売れ行きがいいのは低価格モデル。人気の理由は単に安いだけでなく、以前の先端機能が定番化し、使いやすい製品へと〝熟成〟したからです。

 

例えば象印のこんがり倶楽部は、オーブントースターながら上は250℃から下は80℃まで幅広い温度調節が可能。前面扉を外して洗えるのも便利です。日立のオーブンレンジMRO-TS7は、3万円を切る価格ながら本格的な過熱水蒸気機能を搭載。1〜2人世帯に便利な少人数調理機能も人気です。

 

一方後発メーカーでは、従来の高級機能を低価格に落とし込む動きが顕著。sirocaは電気圧力鍋に無水調理・スロー調理機能を搭載、アイリスオーヤマもマイコン式炊飯器に銘柄炊き分け機能、1万円台のスティック掃除機にゴミ発見センサーを採用しています。

 

今回は低価格を前提としつつも、多くの製品で十分な実用性を確認できました。ユーザー側で必要な機能と、割り切る機能を線引きできれば、満足度はかなり高いはずです。

 

その1

トーストがモチサクッ、揚げものがカリッとジューシーに温め直せる

ZOJIRUSHI

オーブントースター こんがり倶楽部 ET-WM22

実売価格3670

上下遠赤外線ヒーターによる1000Wの高火力で加熱できます。80℃〜250℃までの温度調節が可能で、温めからこんがり加熱まで対応する。汚れがつきにくいシリコン加工トレーを付属。

SPEC●消費電力:1000W ●タイマー:最大15分 ●庫内寸法:約W270×H110×D220㎜ ●トレー内寸:約W220×D200㎜ ●サイズ/質量:約W400×H235×D280㎜/約3.7㎏

↑焼き網は、食パンが1度に2枚まで置けるオーソドックスなサイズ感。揚げものの温め直しは、アルミホイルを敷いた付属トレーの上へ

 

↑6枚切りの食パンを250℃で2分半焼きました。こんがり焼けたトーストは外が「サクッ」、中は「モッチリ」で耳までおいしかったです!

 

【Check!】

温度調整:○

下が80℃まで温度調節可能

「ダイヤルを使い、加熱温度を80℃〜250℃に調整可能。特に80℃の低温加熱ができるオーブントースターは少ないです」(平島さん)

 

メンテナンス性:○

扉や焼き網を外して洗える!

「前面扉、焼き網、くず受け皿は簡単に取り外して洗える。全部外したあとは庫内の掃除もしやすく、手入れがすごくラクチンです」(平島さん)

 

汎用性:○

フライ温めやお菓子作りにも活躍

「幅広い調理に対応。フライ温めは油がしっかり抜け、衣カリッと中はジューシーに。溶かしチョコやマドレーヌなどのお菓子作りにも活躍します」(平島さん)

 

総評

「機能自体に突出したものはないが、基本の加熱機能、メンテ性などしっかりしています。特に、温度調整の幅の広さは、この価格帯では魅力です」(平島さん)

 

 

その2

圧力調理だけでなくスロー調理にも対応する格安の電気圧力鍋

siroca

電気圧力鍋 SP-D131

実売価格1万5800円

ボタンを押すだけで失敗なく料理が作れる電気鍋。圧力調理のほか無水調理など6種類の調理を行えます。ガス火で3時間はかかる豚の角煮が約35分(※)に時短。スロー調理は約85℃の加熱で食材の煮崩れを防げます。

SPEC●調理容量:1.3ℓ ●消費電力:700W ●使用最高圧力:70kPaゲージ圧 ●プリセットメニュー数:8 ●タイマー:最大12時間(白米・玄米のみ) ●コード長:約1.2m ●サイズ/質量:約W220×H249×D238㎜/約2.7㎏

※:下ゆでなしの場合

 

↑調理後は内なべ、内ふた、ふた本体、パッキン、圧力切替弁を洗います。内ふたは中央の突起をつまんで外します

 

↑スロー調理で作った肉じゃがは、じゃがいもの角を見事に維持。しかも箸を入れるとほろりと崩れ、中はしっかりと出汁が染みていました

 

【Check!】

トレンド機能:○

Before

After

 

旬のスロー調理は文句なしの完成度

「人気のスロー調理機能を搭載。肉じゃがを作りましたが、じゃがいもの角も煮崩れせず、かつ均一にしっかりと火が通っていました」(平島さん)

※肉は事前に加熱が必要

 

操作性:○

プリセットメニューが便利

「プリセットメニュー搭載で、無水カレーなどが簡単操作で作れます。ただし種類は8種。メニューがもう少し多いとなおうれしい」(平島さん)

 

容量:×

容量が小さく大量調理は不可

「調理容量が1.3ℓと小さく、大人数家族や大量に作り置きしたい家庭には不向き。ただ、そのぶん設置面積が小さいのは魅力です」(平島さん)

 

総評

「圧力のかかりは“高圧”までいかず、容量も小さいですが、幅広い調理に対応できるのは魅力。プリセット以外の調理も簡単で、献立の幅が広がります」(平島さん)

 

 

その3

実売3万円以内で本格派の過熱水蒸気機能を搭載

日立

ヘルシーシェフ MRO-TS7

実売価格2万9000円

過熱水蒸気機能によりヘルシーなノンフライ調理ができます。1人分、2人分を自動調理できる「少人数メニュー」も搭載。ヒーターが露出しない構造と庫内側面のシリコン系塗装で、内部の掃除がラクです。

SPEC●総庫内容量:22ℓ(フラット庫内) ●最大消費電力:1450W ●センサー種類:赤外線センサー+温度センサー ●オーブン最高温度:250℃ ●オートメニュー数:90 ●サイズ/質量:W483×H340×D427㎜/約14.0㎏

↑庫内底面はフラットで汚れをサッとひと拭き。汚れが落ちやすいシリコン系塗装を側面に採用するなど、手入れも快適

 

【Check!】

トレンド機能:○

 

過熱水蒸気で焼き魚も柔らか

「ノンフライなどヘルシー調理に最適な過熱水蒸気機能を搭載。加熱時間は手動で調整が必要ですが、ブリの照り焼きもふっくら焼けました」(平島さん)

 

操作性:○

少人数分の調理がワンタッチ

「オートメニューを1人分や2人分で作れる『少人数メニュー』が便利。ただ、重量センサー非搭載なので、食材量はレシピを厳守です」(平島さん)

 

センサー:×

独自の3つの重量センサーがない

「オーブン調理後の庫内でレンジ加熱できる日立独自の『トリプル重量センサー』が非搭載。ただ通常加熱は赤外線センサーで十分です」(平島さん)

 

総評

「この価格帯では珍しく給水タンク付きで本格的な過熱水蒸気調理が可能。庫内22ℓと小さく少人数メニューも豊富なので、1〜2人世帯には最適です」(平島さん)

その4

米の銘柄によって炊き方を変える銘柄炊き分け機能搭載の炊飯器

アイリスオーヤマ

銘柄炊きジャー炊飯器 KRC-MB30

実売価格9698円

米の銘柄によって炊飯プログラムを変える「銘柄炊き」機能を搭載。大型ボタンとわかりやすいディスプレイで操作性も高いです。玄米などの炊飯のほか、煮込み調理や付属の蒸しプレートを使った蒸し調理にも対応。

SPEC●炊飯容量:0.5〜3合 ●炊飯時消費電力:475W ●コード長:約1.0m ●付属品:しゃもじ、計量カップ(白米用、無洗米用)、蒸しプレート ●サイズ/質量:W232×H201×D274㎜/2.8㎏(電源コード含む)

↑検証では富山産コシヒカリを炊飯。モチモチ感は控えめですが、まずまずのふっくら感と甘みが感じられる炊き上がりに

 

【Check!】

トレンド機能:○

全国31銘柄の米を炊き分け

「パネルに表示の6銘柄を含む、全国の31銘柄を炊き分け可能。従来は高級機能だった銘柄炊き分けができるのはおトクですね」(平島さん)

 

内釜:○

厚さ3.1㎜の内釜を採用

「厚さ3.1㎜の内釜で釜内全体に熱を伝え、米の一粒一粒をふっくら炊飯。炊き上げたごはんは弾力控えめのさっぱり食感でした」(平島さん)

 

加熱方式:×

非IH式はモチモチ感が不足

「加熱方式がIH式でないので、火力が足りずにごはんのモチモチ感が出にくいです。ただ、モチモチ感を求めない人には問題ないかも」(平島さん)

 

総評

「銘柄炊き分けができるのは魅力ながら、基本の火力が足りず、感動のおいしさのレベルまでは行かず。それでも普段の食事には十分な味だと思います」(平島さん)

 

 

その5

発酵時間や細かい温度調整を行い好みのヨーグルトが作れる

アイリスオーヤマ

ヨーグルトメーカー プレミアム IYM-012

実売価格4298円

牛乳パックをそのまま使って自家製ヨーグルトが作れます。ヨーグルトの種類に合わせて温度と時間を細かく変更、硬さや酸味の微調整もできる。付属の調理用容器を使って、甘酒や塩麹も作れます。

SPEC●消費電力:30W ●使用環境温度:5〜35℃ ●温度設定:25〜65℃(1℃刻み) ●タイマー:1〜48時間(1時間刻み) ●サイズ/質量:W147×H280×D147㎜/570g

↑設定時間が経過するとランプが消えて調理終了。できたてのヨーグルトは緩めですが、冷蔵庫で落ち着かせると粘度が出ます

 

↑牛乳パック用のふたを付属。ヨーグルトを作る際や冷蔵庫で保存するときに、パックの隙間からの雑菌の流入を防げて衛生的です

 

【Check!】

使いやすさ:○

牛乳パックのまま作れる!

「作り方は市販のヨーグルトをパックの牛乳に混ぜて本体にセットするだけ。容器の煮沸などが不要で、簡単かつ衛生的に作れます」(平島さん)

 

汎用性:○

甘酒や塩麹なども作れる

「カスピ海ヨーグルトやギリシャヨーグルトのほか、甘酒や塩麹、納豆なども作れます。これだけ多機能で5000円切りはスゴい」(平島さん)

 

温度調節:○

細かい温度変更で固さを調整

「発酵温度を1℃刻みで調節できるのは魅力。種のヨーグルトの種類で固まりが緩いとき、温度を1℃上げて硬さの調節ができます」(平島さん)

 

総評

「従来の低価格機にない細かな温度調節機能が魅力。発酵食品をいろいろ作りたい人のほか、ヨーグルトだけ作る人も好みの硬さを追求できます」(平島さん)

 

 

監修/戸井田園子

ブレイク中の窯元は、なぜ大企業を蹴って新参メーカーと組んだのか? 土鍋炊飯器「かまどさん電気」誕生のナゾ

12月8日、かつてない電気炊飯器「かまどさん電気」が発表されました。こちらは三重県伊賀市の窯元(※)「長谷園」(ながたにえん)が開発した炊飯土鍋「かまどさん」を搭載した電気炊飯器。2000年創業の新興電機メーカー「siroca(シロカ)」と長谷園が組んで開発したモデルです。聞けば、この「長谷園」、名だたる大企業の誘いを蹴ってまでシロカと組んだとのこと。

 

プロがこぞって使う伊賀焼の土鍋を家庭用に改良したら大ヒット

20171212-s2 (9)↑今回発表された長谷園×siroca「かまどさん電気 SR-E111」

 

その経緯を、長谷園の7代目、長谷優磁(ながたに・ゆうじ)氏が語ってくれました。まずは、自社ブランドの「かまどさん」について。

 

「『作り手は真の使い手であれ』。これがずっと伝わっている工房訓です。これは、ただ単に自分の興味本位で作るのではなく、いま生活者がどんなものを求めているかを知ること。伝統の上にあぐらをかき、『昔はよかった』という回顧主義に走って昔の模倣を続けていたら、そのモノは廃れていきます。だから、『作り手』が『使い手』になって、その時代に求められるものをキャッチし、形にしていかなければいけない。そんな思いで生まれたのが『かまどさん』です」

※窯元(かまもと)…陶磁器を窯で焼いて作り出す所、あるいは作り出す人

20171212-s2 (15)↑「かまどさん」を手にする長谷優磁氏

 

「かまどさん」は伊賀焼の土鍋を、家庭で使いやすいように改良して生まれたもの。伊賀焼は高い蓄熱性を持つため、鍋全体が発熱して米をムラなく加熱できるうえ、鍋に空いた無数の気孔がご飯の水分を絶妙に調整してくれるのが特徴です。そのため、昔からプロの料理人の間で「伊賀焼の土鍋だとうまいご飯が炊ける」と評判でした。その特性を活かしながら、通常の2倍以上の厚みを持たせて曲線を深くし、独自の2重フタ構造を採用することで、「火加減が不要、吹きこぼれなし」という手軽さを実現したのが「かまどさん」です。

↑発表会では、↑発表会では、長谷園8代目の長谷康弘氏が伊賀焼の特性を説明してくれました。伊賀焼は400万年前の古琵琶湖層の土を使用。ここには微生物や植物由来の有機物が多く含まれていて、その土で土鍋を焼き上げると、有機物が燃え尽きて気孔だらけの状態になるとのこと。これを加熱すると、無数の気孔が熱を蓄える役割を果たすといいます

 

その味と使い勝手の良さが口コミで広がり、「かまどさん」はシリーズ累計80万台の大ヒット商品に。以降、これに注目した大手電機メーカーから、炊飯器の共同開発のオファーが殺到するようになりました。

 

「『うまいごはんができるのはどうしてなんだ? データを取らせてくれ』と何社もいらしたんです。だけど、データを1週間取って、それで守秘なんとかというヤツに判をつけ、とかいう書類だけ置いて帰っていきよる。取ったデータは、請求せな絶対に出しやせん。『そんなヤツとワシは一緒に仕事できるか!』と。工学部を出た博士か何かわかりませんけどね、『効率がどうしたら上がるか』ばかりで、ウマいものを食おうと思うてやっとらん。我々も次の新しいことをやろうとしていて、幼稚な試験をいっぱいやっていましたよ。それを大きなメーカーが来てバカにして帰っていった。そんなところに『電気炊飯器で一緒にやりたい』と、お電話を頂いたのがシロカさんだったんです」(長谷氏)

↑↑発表会の様子

 

シロカ副社長が「IHを捨てよう」と決意し、長谷氏の元へ

長谷園にコンタクトを取ったのは、シロカの現副社長、安尾雄太氏。安尾氏は事実上のシロカの創業社長ですが、現在は福島誠司氏に社長職を譲り、製品の開発に専念しています。安尾氏が長谷園に電話したところ、案の定、2回電話をかけて、2回ともオファーを断られたといいます。これは、長谷氏が電機メーカーへ不信の念を募らせていたというのも理由のひとつですが、安尾副社長がIHヒーター(※)での製品化を望んでいたのも理由だそう。長谷氏は、いままでの試験結果からIHヒーターと「かまどさん」を組み合わせても、決しておいしいご飯が炊けないことがわかっていたのです。そこで安尾副社長はIHヒーターを使うという考えを捨て、「シーズヒーター」という従来の電熱ヒーターの採用を決断したうえで、長谷氏に会いに行きました。

↑安尾雄太副社長。断られたのに何で会いに行ったのか? という問いに対して 「 断られたところに行くのが好きだから(笑)」と答えてくれました↑安尾雄太副社長。断られたのに何で会いに行ったのか? という問いに対して 「 断られたところに行くのが好きだから(笑)」と、独特のお答え

 

「最初はIH炊飯器で市場に殴り込みをかけるぞ、という思いでいました。いま電機業界では、安いモデルがシーズヒーターで、高級なものはIHというイメージ。わざわざシーズに落として使うのはどうなのか、という思いもあったのですが、結局、それは違うなと。そもそも土鍋はIHに反応しない(※)。IHに対応させるために土鍋の中に鉄板を入れてしまうと、呼吸をする土の特性を活かせないんですよね。だから、基本的に土鍋でIHはありえない。だったら、IHじゃなくてもいいじゃん、『かまどさん』が使いたくても使えない人、土鍋ご飯が難しそうだな、と思っている人に向けて出すならそれでいい、と割り切りができて。会長のところへ行って『シーズでやりましょう』と話をさせて頂きました」(安尾副社長)

※IHヒーターは、金属の調理器具に電流を通して、調理器具を自己発熱させるもの。ヒーター自体は発熱しません

20171212-s2 (4)↑鍋を取るとシーズヒーターが露出。中央にある突起が温度センサー

 

挑戦する姿勢に共感し、守るべき技術がなかったのがポイント

発表会のあと、長谷氏に安尾氏に初めて会ったときの印象を聞いてみました。「アイツ(安尾氏)は良かったよ。良かった。考え方が一緒やったし、気が合うたのかなあ。めったにないことやなあ、これ。そうやな、挑戦する姿勢というか。大きいメーカーは自分のとこのそれ(技術が)ありきで、自分のやと思うとるけど。アレ(安尾氏)は『うまいものを食うことが好きや』言うて。酒も好きやしさ」と、うれしそうに語ってくれました。

↑↑安尾副社長(右)との出会いを語る長谷氏(左)

 

長谷園が名だたる大企業ではなく、シロカを選んだ理由は、この長谷氏の言葉に集約されています。長谷氏は、安尾副社長の新しいものごとに挑戦する精神に共感し、お酒を酌み交わして、その人柄にほれこんだ。そして、「うまいものを食うことが好き」という安尾氏の言葉の裏に、データや効率とは別種の情熱を感じたというわけです。

 

もうひとつ、シロカが「炊飯器の未経験者だった」という点もポイントです。大きな電機メーカーの場合は、いままで培ってきた技術があるがゆえ、それを捨て去ることは難しい。さらに、「長谷園」というブランドを前に出すことも難しいでしょう。対照的に、シロカには守るべき技術や歴史がなく、すんなりシーズヒーターと「長谷園×siroca」のダブルブランドを受け入れることができました。その背景には、トップ自らが交渉に臨んだため、柔軟な対応ができたという側面もあるでしょう。どちらがいい、悪いではなく、組織の「違い」が出たというわけですね。

↑鍋底には「長谷園」のロゴが↑鍋底のセンサー部には「長谷園」のロゴが

 

開発期間4年、500個の試作の末に製品を開発

では、こうして開発にこぎつけた「かまどさん電気」の製品を見てみましょう。開発を担当したのは、シロカの社員ながら、頻繁に長谷園を訪れて泊り込みの研究を続けていたことから、長谷氏に「居候(いそうろう)」と呼ばれた佐藤一威(さとう・くにたか)さん。開発期間は実に4年、試作はおよそ500個を数え、試食に使った米は3トンと、驚くべき労力を投入して開発にこぎつけたといいます。

↑↑開発を担当した「居候」こと佐藤一威さん

 

製品の外観は、土鍋を熱源にズボっとはめ込むというそのものズバリの形状。しかしながら、このなかには、あらゆる試行錯誤の成果が詰まっているのです。特に苦労した点は、土鍋を工業製品に適合させること。熱の伝え方には苦心したそうで、当初は本体が溶けてしまったこともあるとか。この熱の問題には、形状や火の入れ方、時間の配分など、様々な部分で工夫を凝らし、これを克服しました。また、土鍋にサイズのバラつきがある課題に対しては、長谷園に新たな土鍋の製法を開発してもらい、克服したといいます。炊飯以外で特筆すべきは、乾燥モードを備える点。土鍋をセットしてスイッチを押すだけでOKなので、乾燥する手間を軽減できます。

↑タッチパネル式の操作部。↑タッチパネル式の操作部。炊飯モードとして白米、玄米、雑穀米を用意。また、かため・ふつう・やわらかの3種類から仕上がりを選べます。予約機能があり、保温機能はなし

 

↑付属品がコチラ。シロカオリジナルデザインのしゃもじ、しゃもじ置き、米カップ、水カップ、手ぬぐい、鍋敷きが付属します。開発の経緯、長谷園の会長の思いをまとめたブランドブックも付属 ↑付属品の一例。シロカオリジナルデザインのしゃもじ、しゃもじ置き、米カップ、水カップ、手ぬぐい、鍋敷きなどが付属します。このほか、78レシピを収録したオリジナルレシピブックや開発の経緯、長谷園の会長の思いをまとめたブランドブックも付属

 

発表会では、実際に「かまどさん電気」で炊いたご飯を試食できました。ご飯は粒の形がしっかり保たれ、粒が大きくてハリがあるので食べ応えは十分。噛むとほどよい甘さを感じ、それぞれの粒が心地よい粘りをまとっていたのが印象的でした。試食会では、炊いてからやや時間がたったご飯を頂きましたが、欲を言えば炊きたても食べてみたかったところ。それはまた、後日の楽しみに取っておきましょう。

20171212-s2 (1)↑発表会ではおかずとともに「かまどさん電気」のご飯が振舞われました

 

20171212-s2 (20)↑ご飯のハリとツヤは十分

 

ギリギリまで粘って100%の味に近づけたい

最後に、本機の開発を主導したシロカの安尾副社長に手ごたえを聞いてみました。

 

「製品の出来には、すごく満足しています。いま、販売先さんのなかで限られた人に製品をお見せしてるんですが、その方たちにはむちゃくちゃ反応がいい。ただ、7万円台の価格はウチやったことないので、そこだけですね」

 

確かに、シロカといえばシンプルでリーズナブルな製品を扱っているイメージで、ほとんどの製品は3万円以内。それが、急に7万9800円(税抜)の炊飯器を出すわけで、これはなかなかシビれる展開です。

 

「実は、まだ味はチューニングしている最中で、フィックスできていないんです。長谷さんにはOKを頂いていますが、僕らのなかでまだ100%になっていないという思いがあって。いまの時点でも『かまどさん』の味とほとんど差はないですが、まだ2か月ほど時間があるので、1%、0.5%というツメの部分をギリギリまで粘りたい。この2か月をやり切って、100%まで持っていきたいです」(安尾副社長)

 

「かまどさん電気」の発売は3月9日。100%にチューニングされた「かまどさん電気」を、いまから楽しみに待つことに致しましょう。

20171212-s2 (23)

長谷園×siroca

かまどさん電気 SR-E111

●発売:3月9日●価格:7万9800円(税抜)●サイズ/質量:約W30×D30×H26.1cm/約7.6kg●炊飯モード:白米(炊飯・おこげ)1〜3合(おかゆ) 0.5〜1合、玄米(炊飯)1〜2合(おかゆ) 0.5〜1合、雑穀米(炊飯)1〜3合(おかゆ) 0.5〜1合●炊き分け:炊飯3種(かため・ふつう・やわらか)、おこげ3種(こいめ・ふつう・うすめ)、おかゆ2種(ふつう・やわらか)●消費電力:1300W●操作方式:タッチパネル●タイマー:炊上り時刻セット方式●付属品:取扱説明書、レシピブック、ブランドブック、しゃもじ、しゃもじ置き、米カップ、水カップ、手ぬぐい、鍋敷き