コンコルドの二の舞を回避する! 3Dプリンターを使ってコストを抑えた超音速旅客機を開発する「Boom Technology」

先日、スペースXがファルコン・ベビーの打ち上げに成功しました。スペースXはロケット打ち上げのコストを大幅に抑え、ロケットは高いものだという業界常識を打破した点が画期的です。

 

ジャンルは異なりますが、「超音速機は商業的に成功しない」という航空業界の常識を打破しそうな会社が、今回ご紹介するBoomTechnologyです(以下Boom)。驚くべきは、社員数が55人(2018年1月)というスタートアップ企業である点。設計技術の進化が航空業界への参入を容易にしている側面がありそうです。

 

同社には日本航空(JAL)が既に1000万ドルを投資しており、20機も予約注文していることから、かなり有望視されていることが伺えます。

 

米国ロサンゼルスで2月4~7日に開催されたSOLIDWORKS WORLD 2018では、BoomのCEO、Blake Scholl氏(写真下)が登壇しました。

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超音速旅客機のコンコルドの失敗は記憶に新しいです。巡航速度時速2146キロメートルのコンコルドは燃費効率の悪さ、高額な整備費で運航コストがかさみ、全席の料金は約2万ドルとファーストクラス以上の料金設定になってしまいました。そのため、搭乗できる乗客は富裕層に限られていました。

 

また、超音速で飛行する際のソニックブームという衝撃音があまりにもうるさいと問題視されていました。さらに、2000年に起きた墜落事故で不人気に拍車がかかり、2003年についに運航停止に。

 

コンコルドの失敗もあって航空業界では「超音速旅客機はコストがかさむし、商業的に成功しない」という考えが常識となりました。

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しかし、異業種出身の起業家Blake氏が航空業界に参入したことで、この常識が打破されそうなのです。Blake氏は高校時代より航空機を操縦してきた経験はあったそうですが、元々航空業界で働いていたわけではありません。

 

Blake氏はコンピューターサイエンスを大学で終了後、Amazonのマーケティングオートメーションシステムを開発したり、モバイルEコマースのスタートアップKima Labsを創業したりしてきました。

 

Blake氏はグルーポンにKima Labsを売却した後、次の起業計画を検討。そこで、旧態依然として変化のない航空業界と、コンコルド失敗後に目立ったプレイヤーがあまり存在しなかった超音速機の可能性に目を付け、新たに企業を立ち上げたのです。

 

元々コンコルドは50年前に設計されたのと同じ設計のままでした。この間、超音速飛行のための航空技術は進歩していましたが、それはコンコルドに導入されていなかったのです。

 

そこでBoomは最新の航空技術と設計技術を導入し、超音速旅客機を再設計したのです。

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同社は炭素繊維を使って機体を軽量化することで、燃費効率をコンコルドと比較して75%改善しました。

 

また、翼の形状もコンコルドと比べてシャープで、ソニックブームの発生を抑えるように設計されています。コンコルドはソニックブームによる騒音に悩まされましたが、Boomの場合は騒音を30分の1以下に抑えることができるそうです。

 

さらに、同社 は3Ⅾ‐CADソフトの「SolidWorks」を使って、すべての部品の設計を行い、3Ⅾプリンターで部品のプロトタイプを制作しています。最新の設計技術を導入することで、開発コストも抑えることができたのです。

 

Boomの超音速旅客機は座席55席を擁し、巡航速度はマッハ2.2(時速2335km)に達します。これによって、これまで11時間かかった東京―サンフランシスコ間のフライトが5時間半に短縮される見込み。運賃は5000ドルほどとビジネスクラスの料金設定になる見通しです。

 

Boomの3分の1スケールの試作機「XB-1」は2016年11月に公開されており、2018年以降の飛行を予定しています。フルスケールのBoomは2020年に飛行予定。最新技術を駆使して困難に挑むBoomが超音速旅客機の歴史を変えられるかどうか、世界が注目しています。

 

 

 

大幅に価格安! HPが「メーカー」の鍵を握る業務用3Dプリンター「HP Jet Fusion 300/500シリーズ」を発表

米国で話題となった書籍「MAKERS」において、著者のクリス・アンダーソンは、「アイデアがあれば、製造に関する専門知識や大がかりな設備がなくても誰もが1人メーカーになれる」時代がやって来ていると述べています。これがいわゆる「パーソナルファブリケーション(個人が自宅の机やガレージでものづくりを行うこと)」という考え方です。

 

その「1人メーカー」にとって重要な役割を果たすのが3Dプリンターです。この機器によって、デジタルデータを基にして立体物を簡単に造形することができるようになりました。この技術革新が、家内制手工業(生産者が道具や原材料を自ら調達し、家において手作業で生産し、販売する生産形式の一形態)ならぬ「家内制“機械”工業」の実現を後押ししています。

 

そんな3Dプリンターを開発しているのがアメリカのHP(ヒューレット・パッカード)です。ロサンゼルスで開催された「SOLIDWORKS World 2018」で同社は業務用3Dプリンターシステム「HP Jet Fusion」を新発表しました。

20180223_kubo14↑ HP 3Dプリンティング部門プレジデントStephen Nigro氏

 

HPは既に3Dプリンターをリリースしていますが、現行モデルでは価格は数千万円台と個人やベンチャー企業には手が届かないものでした。

 

今回発表された「HP Jet Fusion 300/500シリーズ」の価格は5万ドル(日本円換算約543万円)からとなっており、個人で購入するのは厳しいかもしれませんが、中小規模の企業には手の届く価格帯となりました。

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「HP Jet Fusion 300/500シリーズ」には造形色が白黒の「HP Jet Fusion 340/540」と、フルカラーの「HP Jet Fusion 380/580」が存在します。

 

従来、新製品のプロトタイプを作るには金型から作成する必要がありました。当然ながらそれには時間とコストがかかります。しかし、「HP Jet Fusion 300/500シリーズ」のような3Dプリンターを利用することで、金型を作ることなしにプロトタイプを簡単に作ることができるわけです。

 

プロトタイプが作れると、ユーザーテストを実施することもでき、市場に受け入れられそうかどうか高い精度で判断することも可能となります。

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HPのプレスリリースによると「HP Jet Fusion 300/500シリーズ」は同価格帯の競合他社の3Dプリンターと比べてもだいたい数倍速いとのこと。プロダクト設計→プロトタイプ製作→ユーザテスト→改良→製造のプロセスをグッと短縮できそうです。中小企業に重宝されそうですね。

 

「HP Jet Fusion 300/500シリーズ」はすでに受注を開始しており、2018年後半に出荷を始める計画とのことです。

 

(取材協力:ダッソー・システムズ)

「21世紀の産業革命」はすぐそこに! 世界中の”モノづくりギーク”が熱狂する「SOLIDWORKS World 2018」レポート

「SOLIDWORKS World」というイベントをご存知でしょうか?

 

世界最大の家電見本市「CES」ほど有名ではありませんが、SOLIDWORKS Worldは、世界中のメイカーが製作した最新プロダクトを並べ、3Dプリンターなど製造業における最先端テクノロジーを紹介する大規模なイベントです。20回目となる今年は2月4~7日まで米国ロサンゼルスで開催。今回、筆者も初めて取材してきました。

 

SOLIDWORKSはダッソー・システムズが開催

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SOLIDWORKS  Worldは、過去に紹介した「バーチャル・シンガポール」プロジェクトを運営するフランスのダッソー・システムズが開催しています。同社はバーチャル世界に特化しており、製品設計用「3Dモデリング(スマート製品などの分野で使われるシステムエンジニアリングの1つ)」というコンセプトをもとに様々なソフトウェアを開発し、航空宇宙、防衛、ハイテク、建築、エネルギー、自動車など幅広い産業に提供しています。顧客は140か国に22万社以上いるとのこと。

 

同社が展開する様々なブランドのなかに、3D設計やデータ管理、シミュレーションなどの機能を提供する3D-CADソフトの「SOLIDWORKS」があります。同製品は直感的に製品設計でき、部品同士の干渉や強度検討なども可能。世界中に数百万人のユーザーがいます。SOLIDWORKS  Worldは主にそのユーザーイベントとなっており、世界各国から5000人以上の人たちが集まり、新開発または開発中のテクノロジーやアイデアに触れ、刺激を受けていきます。このイベントは一言で言えば、「モノづくりのエンタメパーク」です。

 

SOLIDWORKS World 2018では、その「SOLIDWORKS」を利用して少人数でプロダクトを設計し、短期間でプロトタイプを製作して改良を重ね、精度の高いプロダクトをリリースしている企業を数多く見かけました。それらのプロダクトが世の中に送り出されるプロセスは、数年前に読んだ元Wired編集長クリス・アンダーソン氏の著書「MAKERS」の内容を彷彿させるものでした。

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同書では、CADなどのデジタル設計ツールの性能向上や3Dプリンターの登場によってプロトタイプの製造が容易になったこと。Webの製造受託サービスが普及したことで製造のインフラが容易に利用できるようになり、それによって製造業が大企業から個人の手に渡る世界がより現実味を帯びてきていると述べられていました。

 

クリス氏はこれを「メイカーズ革命」と呼びましたが、SOLIDWORKS  Worldはそれが強く実感できる場でもありました。

 

イベントではその3D-CADソフト「SOLIDWORKS」を活用してデザインしたプロダクトが数多く紹介されました。以下に紹介します。

20180216_kubo03↑ プロダクトのジャンルは幅広く、バットマンが乗る「バットモービル」をプレゼンする会社も

 

20180216_kubo04↑ 歩行アシストロボット

 

20180216_kubo02↑ エンジン付きのサーフボード

 

20180216_kubo08↑ 東京とサンフランシスコ間を5時間半で飛行する超音速旅客機(既に設計済みで近々テスト飛行予定)

 

すべてのプロダクト設計に共通していたのが、SOLIDWORKSを活用することでプロダクト設計が容易になったという点。このソフトウェアは強度不足な部分や熱がたまりやすい部分、振動に弱い部分を自動でシミュレーションし、条件に耐えうる設計へ変更することができます。

 

また、3Dでプロダクトを分かりやすく表現できるため、設計者と生産現場との情報共有を捗らせます。これが迅速で精度の高いプロダクト製造につながっているのです。

 

このような機能がベンチャー企業や個人の製造業への参入を容易にしているとも言えそうですが、幅広いジャンルのプロダクトの設計や製造を、インターネットにつながったコンピューター上のデジタルツールでシームレスに行えるようになったというのは驚くべきことではないでしょうか。

20180216_kubo07↑ 会場に走って駆け込んでいくイベント参加者たち

 

「SOLIDWORKS World」には世界中からまさに「モノづくりギーク」ともいえる人たちが集結しており、会場は熱気で溢れ、さらに一種のモノづくり仲間意識のような不思議な空気さえ漂っていました。

 

次回以降よりSOLIDWORKS Worldで取材した世界中のメイカーたちのプロダクトについて順次ご紹介していきます。

 

(取材協力:ダッソー・システムズ)