昨今の洗濯機はテクノロジーの進化によって、どんどん高性能かつ省エネになり、さらに節水もできるようになってきています。しかしその原理上、どうしてもたくさんの水と熱、洗剤が必要。ホテルなどで大量の洗濯を行う場合、コストも環境負荷も非常に大きくなってしまいます。
そんな問題を解決するため、数年前からヒルトンやハイアットなど海外の有名ホテルを中心に少しずつ広まりつつある新しいタイプの業務用洗濯機があります。それは少量の水と洗剤、そして再利用可能な大量のポリマービーズを使って洗濯をするというもの。その代表的なメーカーがイギリスの「Xeros」で、ポリマービーズ式洗濯機の製造・販売・リース契約を展開しています。
同社による下記の紹介ビデオでは、「100万の手」というタイトルがつけられています。大量の細かいビーズが手で揉み洗うかのように汚れを取ってくれるという意味のようです。
このビーズの働きは3段階に渡ります。ビーズはナイロン素材でできており、ドラム内を動き回ることで衣服についた汚れを浮かすことを助けてくれます。また、極性を持ったビーズの正の帯電と負の帯電が様々な種類の汚れを引きつけるとのこと。そして素材の性質上、水に濡れると低い温度でも多孔性(細かい穴の空いた性質)が高まるため、衣服から汚れをビーズの構造内に取り込むことができ、高温の水を必要としないそうです。
細かい大量のビーズで洗濯と聞くと、服やシーツの中にビーズがたくさん隠れて残ってしまうのではないかと不安になってしまいそうです。が、ビーズは専用の引き出しからドラムの中に投入され、また引き出しの中へ戻る設計になっているとのこと。同じビーズは数百回洗濯に再利用できるそうです。
洗顔料や歯磨き粉に含まれるマイクロビーズが自然界に流れ出て環境汚染を起こしているというニュースも最近よく聞くようになりました。Xerosのポリマービーズは毎回すべて回収されるので、そのような点でも安心ですね。
ホテルのマネージャーたちは、節水や省エネだけでなく「(従来の洗濯機よりも)洗濯されたリネンがフレッシュで、綺麗で香りが良く、しかもソフトだ」と絶賛しています。特に洗濯物の手触りが全然違うと顧客から感想が届いているようです。
世界最大級の家電見本市であるCESでは今年、Xerosが「一般家庭向けの商品にも取り組む」と発表されました。同社の業務用の洗濯機を小型化して販売するのではなく、ドラム部分を一般の洗濯機メーカーに導入してもらうように計画中とのことで、2年以内に一般家庭への提供が予定されています。もしかしたら日本の大手ブランドからポリマービーズ式の洗濯機が発売されたりするかもしれませんね。
Xerosのもうひとつの技術――25万のマイクロ繊維による環境汚染を防ぐ「XFiltra」
ポリマービーズは交換が必要ですので、一般家庭に普及するためには課題がいくつかあるでしょう。しかしXerosは今年のCESでもう1つ新しいテクノロジーを披露しています。それが「XFiltra」。これは洗濯機の排水に含まれる微小の合成繊維をキャッチする仕組みです。
Xerosのプレスリリースによると、ヨガパンツやフリース、シャツといった私たちが日常着る衣服の60%は合成繊維を含んでいるそうです。見た目や手触りといった点で品質を向上させてくれる合成繊維ですが、その一方で環境への負荷が指摘されています。フリースのジャケットを1回洗うたびに25万のマイクロ繊維が取り除かれ、とても小さい物質のため、その繊維は浄水施設も通過し、川や湖、海へ流れてしまっているという研究結果が2016年に出ています。XFiltraはこの繊維を排水として流さないための技術となっているのです。
XerosはXFiltraの一般家庭向けの洗濯機への導入も計画しているとのこと。環境に優しい、このようなテクノロジーはどんどん普及してほしいものです。