米テスラ、36万台以上をリコール。自動運転システムが事故を起こす恐れから

米電気自動車メーカーのテスラは、完全自動運転システム(FSD)に事故を引き起こす恐れがあるとして、36万台以上にリコールを行うことが明らかとなりました。

↑テスラ車、36万台以上をリコール

 

米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)は「制限速度を超えたり、違法または予測不能なやり方で交差点を走行すると、衝突の危険性が高まる」 ことを理由として挙げています。

 

テスラの発表によると、リコール対象となるのは「完全自動運転ベータ版(FSDベータ版)ソフトウェアを搭載、または搭載待ち」の車種とのこと。具体的には2016年以降のモデルSとモデルX、2017年以降のモデル3、および2020年以降のモデルとされています。

 

NHTSAはテスラ車が高速道路で死傷者を出したり駐車中の消防車に衝突する事故が相次いだことから、2021年夏に自動運転システムの調査に乗り出していました

 

その調査は当初、予備的なものに留まっていたものの、昨年6月にエンジニアリング分析へと拡大 。それによりテスラにリコールを要求できるようになり、今回の事態に至ったしだいです。

 

米Reuters報道によると、テスラはこの問題を修正するため、ユーザーに無償でOTAアップデートをリリースする予定とのこと。今回の発表を受けて、16日(米現地時間)同社の株価は5.7%も下落しています。イーロン・マスクCEOはTwitterでも悪戦苦闘中ですが、テスラの仕事に集中できるよう、代わりの人材を急いで探す必要があるかもしれません。

 

Source:Tesla,Reuters
via:Engadget

人気の3ドア・トレノではなく“あえて”2ドア・レビンを選択!ドローン芸人「谷+1。」流、AE86の愉しみ方

1980年〜1990年代に登場した国産スポーツカーに注目が集まりつづけている中、とくに人気が高いのがAE86。『頭文字D』の影響で「AE86=スプリンター・トレノ3ドアハッチバック」とイメージする方が多いのですが、今回紹介するドローン芸人「谷+1。(タニプラスワン)」さん(以下、谷さん)の愛車はAE86なのにカローラ・レビンの2ドアクーペ。なぜ2ドアクーペを選択したかなど、愛車にまつわるお話をうかがいました。

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:手束 毅

谷+1(たにぷらすわん)/1981年東京生まれ。ドローン芸人、ドローンパフォーマー

 

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『頭文字D』の影響でAE86に乗ったと思われたくなくて

──これが谷さんのAE86カローラ・レビン2ドアクーペ(以下、レビン)ですね。年式やグレードを教えてください。

 

 昭和60年(1985年)式のカローラ・レビンGTです。

 

──確か、レビンのGTは2ドアクーペにしか設定されていなかったグレードですよね。当時、人気が高かったGTVやGTアペックスとは何が違うのでしょう?

 

 リヤブレーキがディスクではなくドラムなところが大きな違いです。なぜドラムブレーキのGTを選んだかというと、僕はドリフトを楽しみたくてクルマを購入したんです。

その場合、ドラムブレーキのほうが曲がりやすいんでドリフトに向いてるんですね。サイドブレーキが効きやすいですし。

 

──なるほど。でも、ただドリフトを重視してGTや2ドアを選んだわけではないですよね。圧倒的に人気が高い3ドアハッチバックのトレノではなく、レビンの2ドアクーペを選んだ理由を教えてください。

 

 僕が免許を取ったころ、すでに『頭文字D(イニシャル・ディー)』がテレビアニメや漫画で人気になっていてAE86といえば“3ドアハッチバックのスプリンター・トレノ”をイメージする人が多かったんですよ。

僕はちょっと天邪鬼な性格なので『頭文字D』の影響でAE86に乗ったと思われたくなくて逆をいったんです(笑)。

 

──そういう経緯で最初に買ったクルマがレビン2ドアクーペだったと。

 

 元々、AE86を買ったのは当時、熱帯魚屋さんでバイトをしていたのですがそこの店長に「お前、運転が上手くなりたいのならAE86に乗ったほうがいい。FRだからクルマの基本的な動きや基礎的な整備もできるのでクルマに詳しくなれる。しかもAE86はNA(自然吸気エンジン)だからコントロールやアクセルワークが上手くなる」と言われたことが大きな理由です。

運良くそのお店にお客さんとしてきていたのが、いまでもお世話になっている『ガレージシャップル』のオーナーさんで良質なAE86を紹介していただけることになりました。いまではとんでもない値段が付いているAE86ですが、当時は65万円くらいで買った記憶があります。

 

──じゃあ、このレビンがそのクルマなのですね?

 

 いや、最初に購入したレビンと次に購入したレビンはちょっとぶつけてしまいまして(苦笑)。最初のクルマは買って10日くらいで廃車にしてしまいました…。

1台目のレビン

 

──となると、このクルマは3台目のレビンになりますよね。レビン以外のクルマを所有したことはありますか。

 

 2台目をぶつけた後に、いとこの兄さんがRX-7を売ると話を聞いたので、そこでレビンからRX-7に乗り換えた時期がありました。

 

──RX-7はどのモデルを購入したんですか。

 

 FC型(2代目・FC3S型)です。AE86を買う前はロードスターやFD型RX-7が欲しかったんですよ。スポーツカーといえばマツダ車かなとも思っていたんですけど、いろんなご縁で『ガレージシャップル』を紹介してもらい、そこからはAE86にどっぷりと浸った感じです(笑)。

 

──免許を取った18歳から20歳の2年間はそうとう濃いクルマライフだったのですね(笑)。改めてですが、レビンというかAE86に惹かれた理由をもう少し詳しく聞かせてください。

 

 『ガレージシャップル』のお客さんで2ドアのレビンに乗っていた方がいたんですけど、その人が当時、筑波サーキットで最速ラップを叩き出していたんです。

僕もどこかしら『頭文字D』の影響から3ドアハッチバックのほうが速いイメージを持ってたり、そのスタイルがカッコいいなと思っていたのですが、その人のおかげで2ドアクーペも速いしカッコいいんだと感じるようになりました。

2ドアクーペにしようと決めたのはそのことが大きく影響しています。それからレビンの2ドアクーペに惚れ込んだという流れです。

 

──それで複数台のレビンやRX-7に乗ったあと、このレビンを手に入れたわけですが、どういう経緯で購入したのでしょう。

 

 ここだけの話、RX-7もぶつけてしまって……(苦笑)。

そのころ、芸人を本格的に始める時期だったので、クルマから一旦、離れようと思ったんです。ただ、友達がこのレビンに乗っていて、売っちゃうよって言うから、30万円で譲ってもらいました。

当時、このクルマは映画『ワイルドスピード』とかが流行っていたことで、ウーハーを装備したり17インチのホイールをつけたりなど、US仕様なテイストにカスタムされていたんです。

その時お金がなかったので10万円ずつ3か月で返済して、そこからこのクルマのオーナーになりました。

 

──そこから現在に至るまで、このレビンをカスタムし続けてきたのですね。

 

 このクルマを購入してからしばらくはちゃんと乗っていたんですが、当時、僕は20代前半。ライブとか色々やっていたころだったので、芸人として売れるために頑張ろうと努力していたんです。運転することも少なくなり、このレビンを手放すことも考えていました。

 

──その当時は売る可能性もあったんですね。

 

 ひょんなことからザブングル加藤さんにお会いすることになって、レビンを所有していることや手放すことを考えていることを話したんです。

そしたら加藤さんから「いや、この世界って特技や話題を持っていたら、それだけで何か仕事に繋がる可能性がある。だから、レビンは手放さずに持っていたほうがいい」ってアドバイスをいただいたんです。

そこでレビンのナンバーを一度、切って(一時抹消)、所有し続けたんですよ。たまにエンジンをかけてはいたんですが、このレビンは燃料噴射装置をインジェクションからキャブレター(以下、キャブ)に変更していたのでよく調子が悪くなったりしてたんです。

それでも、近年、といってもここ3、4年前からちゃんとナンバーを取ってまた乗り始めました。

 

3Dプリンターでパーツを自作するマニアックなカスタム

──そんな流れで現在もレビンに乗り続けていますが、このクルマをどのようにカスタムしていったのですか? 購入時とはかなり違いますよね。

 

 はい、大きく違ってます。足回りはバネとショックを変更し、車高調ではないですがストラットに車高を調整できる「リヤ調」をつけたり、バネを前後8kg、6kgにしています。(AE)86なので、そんな裏テーマをもたせました(笑)。

足回りの他はまずシートを変えました。いまつけているのはホールド性が良くてドリフトしやすいんです。

 

──車内に張り巡らされているロールバー、あと、いまはリヤシートがありませんがそのあたりも変更したんですか。

 

 ロールバーは付いていましたし、あとインパネのオートメーターも付いてました。

リヤシートも購入時からなく、2シーターで車検を通しています。わざわざ公認を取ったので、この状態で車検を通すことができるんです。

あとは先程も話したようにインジェクションからキャブに変更しました。友達から譲り受けたときはキャブじゃなかったんで、OERの45パイのキャブをつけました。

 

──キャブに変更することでパワフルになるんですよね。その他、まだまだ変更箇所はありそうです。

 

 はい。車内のインナーボディは黒いじゃないですか。これ、もともとは白いボディカラーなんですけど、全部僕がアンダーコート取って黒く塗ったんです。

 

──それってそうとう手間と時間がかかる作業ですよね。ひとりで塗ったんですか?

 

 全部ひとりで塗りました! 自宅の庭でマスキングして耐熱つや消しブラックで仕上げました。元々の白だと錆びてるのが汚らしかったので全部、錆を取って塗ったんです。

それから、オーバーフェンダーを付けました。あとバックミラーを純正に戻しています。

車内から調整できるタイプの減衰力や2層のアルミラジエーター、やっとタコ足(社外品のエキゾーストマニホールド)も入れました。

また、カスタムではないですが最近、エンジンヘッドカバーを自分で塗り直しています。

 

──そのシーンを谷さんのYouTubeチャンネル『谷+1。VIDEO』で拝見し、大変な作業だなと感心しましたが、さっき聞いたインナーボディを塗装することに比べれば大したことなかったですね(笑)。

 

 塗装する面積が違うので、全然楽でした(笑)。あと、ウォッシャータンクを自分で設計し3Dプリンターで製作したんですよ。バイク用のキャッチタンクにモーターを付けて作りました。ウォッシャー液がちゃんと出ますよ。

 

──3Dプリンターでパーツを自作するなんて、かなりマニアックなカスタムだ!(笑)

 

 3Dプリンターを使った造形けっこうやるんで(笑)。あと、インパネの横にある小物入れ、ここも3Dプリンターで作りました。小銭が落ちないよう小細工したのが特徴です。

元々、このスペースが空いていたんですね。ネットオークションでここだけ売ってないかなと探したんですけど全然売ってなくて……。わざわざ中古のインパネを買って、そこだけ取るので、ちょっと損した気分になるじゃないですか。だったら自分で作っちゃおうと思って、空きスペースにうまく入るように製作しました。

 

──このレビンは販売されてからすでに40年近く経っています。足回りなどのカスタムも重要ですが、メンテナンスやレストア的な整備も行う必要があるのではないでしょうか。

 

 このクルマはインジェクションではないので発進する時にアクセルを2〜3回踏んで燃料をキャブに送ってエンジンをかけるんですね。この燃料送りに失敗するとエンジンがかぶる(不完全燃焼)んです。

だから乗るときに気合を入れてスタートする必要があって……。めちゃめちゃアナログなクルマなんですよ(苦笑)。

そこをどうにかしたいと最近改善したのが、バッテリーから直接、セルモーターを動かすことができるハーネスを付けたんです。これを付けてからめちゃくちゃセルモーターがかかるようになったんです。

以前は1か月くらいクルマに乗らないと全然エンジンがかからなくて、クランキング(エンジンを始動)だけしてバッテリーの電力がなくなって、別のクルマをからジャンピングスタートしてエンジンをかける……みたいな状態だったんですけどハーネスを付けてから気兼ねなくレビンに乗れるようになりました。

 

──スムーズにエンジンがかかるか、かからないかはオーナーにとって大問題ですもんね。

 

 これを付けてからやっと都心にドライブへ行くことができるようになりました。前まで駐車場にレビンを停めるのが怖くて……。エンジンがなかったらどうしようかなと。

いまレビンに乗ってるとみんなが注目してくれるので、発進できないと恥ずかしいですからね(苦笑)。信号待ちでレビンを止めただけで見られちゃうんですが、そこまで注目されるクルマになったんだと感慨深いものを感じながら乗っています。

 

──思い切って純正などのインジェクションへ変更するなんて考えはないんですか?

 

 いやぁ、それはちょっと……。一度乗るとわかるんですけどキャブ車の魅力はある意味“魔力”ですよ。やっぱりキャブ独特のサウンドはいいよなって思っちゃうんですよ。

 

──走りを重視するAE86オーナーのなかには、エンジンを変えちゃう方もいますがそういう考えはないんですか。

 

 別のエンジンに載せ替えちゃうと配線からなにから全部やらなきゃいけないんで考えたことないですね。

もし、これ(4A-GE型1.6L直4エンジン)がブローしたら、同じ4A-GE を積んでいるAE92(6代目カローラ・レビン、5代目スプリンター・トレノ)後期型のエンジンを探して乗せると思います。

 

──ついでにAE92が搭載していたスーパーチャージャー付きエンジンを載せ替えるとかはどうですか。

 

 NAがいいですね。アクセルを踏んだぶんだけスピードが出る感じ好きです。

以前、乗ったRX-7はターボ車だったんですけど、ドーピングとは言いませんがターボが付いてたらそりゃあ速いよねって思っちゃって……。

やっぱりアクセルを踏んだ分だけ進んでもらったほうが楽しめるし、パワーがちょっと足りないぐらいが楽しいのかなと思うんですよ。

ターボ車はクルマによってはちょっとアクセルを踏んだだけでも、どこまで行っちゃうんだ!ってクルマがあるじゃないですか。クルマを自分のコントロール下に置けないやつ。あれよりはNAでコントロールできるレビンのようなクルマが好きですね。

 

──いろいろお話を聞いたかぎりではカスタムや整備にけっこうお金がかかっていますよね。ざっくり、どれくらいかけました?

 

 う〜ん、ちゃんと計算したことないですが、200〜300万円くらいはいってるんじゃないですかね。

 

──一見、高く感じますが長くレビンを乗っていることを考えると、それくらいになりますよね。

 

 なんやかんや20年くらい乗っていますからね。

テールパイプはトレノのものだし、スピードメーターも壊れたので購入時とは違うパーツへ交換したりと、ちょっと“ちぐはぐ”なレビンになってしまいましたけど(苦笑)。

自分なりのやり方でいじってきたのでこうなったんですが……でもカスタムした当時はそれが自分の中でカッコイイと思ってやっていたので。まあ、これはこれで、自分流に落とし込んで作ったので気に入ってはいます。

 

すべてが思うままに管理できて、手足のように行き届く

──ここまでおもにカスタムの話をしてきましたが、改めてレビンの魅力を教えてください。

 

 簡単にいうと乗ってて楽しいクルマで、すべてが思うままに管理できて、手足のように行き届く感じってことでしょうか。

1.6Lエンジンを積むライトウェイトスポーツカーってところも魅力を感じます。1tを切るめちゃめちゃ軽い車重なので、スタートできないときなどちょっと困った時、手で動かせるくらいの軽さがいいですね。

 

──逆に、このレビンに乗っていてキツイな、と思うところはありますか。エアコンレスだと夏場は辛いですよね。

 

 ああ、エアコン取ったので夏はあまり乗ってないですね。あとキャブの調整を冬場走るのにちょうどいいようにセッティングしてるので、夏場はその分、エンジンも糞づまるんですよ(苦笑)。

 

──やっぱりキャブの調整は大変なんですね。

 

 でもキャブ車なのにあんまメンテナンスしてないんです。オールシーズン何も触ったり(調整)してないんですよ。普通、キャブ車ならもっと手をかけなきゃいけないのに、それで乗れちゃってるんで不思議なクルマですよね(笑)。

 

──いままで大きなトラブルなどはありませんでしたか?

 

 それがなくて……。先程話したセルモーターがかからないくらいでしょうか。それ以外、古いクルマにありがちなオイル漏れなどはありません。

それは僕が性格的に壊れる前にすべてを交換するタイプだからかもしれません。このクルマを交換したときもすべてのブッシュ(サスペンションに取り付けられるゴムパーツ)を交換しましたし、そういう変えておいたほうがいいなと思うパーツは早めに交換していたので壊れがちなミッションやデフもトラブルが起きたことはないですね。

 

──古いクルマ乗りとして長く乗り続けるには重要なポイントなのかもしれません。

 

 車両自体が大当たりだったこともトラブルがなかった要因かもしれません。ただ、トラブルはないけどぶつけたことはあり、これまで何度か直してますけどね(苦笑)。

 

──いま、1980年代、90年代の国産スポーツが改めて注目されていて、そんなクルマに乗っているオーナーさんに話を聞くと段階的に整備やレストアを進めていく、みたいなことをよく聞きます。谷さんはそんな計画ありますか?

 

 こないだ『ガレージシャップル』のオーナーと配線系が劣化してきたねと話したんですよ。これまでは配線トラブルなかったんだけど、確認してみると銅線とかが劣化したりちぎれたりしてたんです。

エンジンスタートがうまくいかないとき原因をたどっていったら、イグニッションに関わる配線がちぎれていたことがわかりました。1本しかちゃんと繋がってなくて、そりゃあエンジンかかりづらいわ、とか。

電装系の配線がここにきて腐食しだしているので、そこを注意していきたいです。

 

 

塗装など細かい箇所を直してスタイリッシュに仕立てる

──改めてうかがいますが、レビンの2ドアクーペではなく3ドアハッチバックを選んでいたらどうなったのかと思うことないですか?

 

 う〜ん、やっぱり2ドアクーペのフォルムが好きですからね。あと同じ2ドアクーペでもリトラクタブル・ヘッドライトのトレノよりレビンのほうがフロントまわりとボンネットフードやリヤハッチまでの高さが自分の感覚的に合っていると思うんですよ。トレノを選ぶとしたら、その高さに違和感がない3ドアハッチバックでしょう。

まあトレノの3ドアハッチバックには、ないものねだりではないですが乗ってみたいですけどね(笑)。乗りたいけど、『頭文字D』の影響で乗ったんだと後ろ指さされたくないから2ドアクーペに乗ったので、そこは正直な気持ちで3ドアハッチバックに乗ったほうがよかったかなと思ったこともありました(苦笑)。

 

──その気持ちわかります(笑)。

 

 ただ、2ドアクーペに乗ったことでこうやって取材してもらえるとか、いまになると正解だったとは思います(笑)。

あと、2ドアクーペのレビンを選んだことが功を奏して「君、若いのにハッチバックではなくクーペにいくんだ!」と、AE86の先輩オーナーさん達から仲良くしていただいたことは大きかったですね。2ドアクーペに乗っていたことで人の輪が広がりました。

そう考えると、2ドアクーペを選んで大正解だったと思っています。

 

──ここまでお話を聞く限り、これからも末永くこのレビンに乗り続けそうですね。

 

 このクルマのボディカラーは当時の塗装そのままなのですが、今後、ルーフや下回りなどボディに発生してきた錆の対策をするなどのレストアをしていきたいですね。

ちなみにサンバイザーの布が剥がれたので、それはミシンを使って自分で縫いました(笑)。そんな風にちょこちょこ直していきつつ、できるだけ長く乗りたいです。古くなったオイルクーラーとタコ足は新しくして、ホイールもキレイに直したいですね。

 

──今後、さらに外観をカスタムしていきたい箇所ってありますか?

 

 これまでカスタムしてきたレビンのスタイルやデザイン性は、僕が憧れている所ジョージさんを参考にクルマがいかにキレイに見えるかをこだわったものなのです。

走行性能を高めるだけじゃなく、塗装など細かい箇所を直してスタイリッシュに仕立てるというか、まだまだこれからも色々やることはあります。

ただ、いまのレビンが気に入ってるんで、外観に新しいパーツを装着することはないかな。というか変えたくないですね。

 

──カスタムしたこのレビンに愛着があるんですね。

 

 はい。ただ、ロンドンブーツ1号2号の田村亮さんと、とあるロケで一緒になったとき「おまえAE86に乗ってるの!」とレビンを所有していることがきっかけで仲良くさせてもらって、YouTubeもコラボさせてもらえるようになったんです。

ロケ中に会話させてもらったとき、いろいろクルマの話ができたのですが、長年レビンに乗っていることで“にわか”じゃないことがわかってもらえたんでしょうね。

その亮さんと旧車があつまるイベントの取材をご一緒させてもらい、僕がAE86オーナーに話を聞くことができました。いまどきの女のコとか昔からずっと所有しているオーナーなどに巡り会えたんですが、その時、思っちゃったんですよね。カスタムしてない純正のAE86っていいなと(笑)。

その時、レビンをいじりすぎたなと思ってしまい…。いまになって純正ノーマルのAE86に乗りたくなっています(苦笑)。

 

フォルクスワーゲン「ゴルフ R ヴァリアント」は典型的な“羊の皮を被った狼”だった

GT-R然り、タイプRもまた然り、数多く存在する走り志向のクルマにおいて、「R」の称号は、今も特別なものである。では、長年、世界のスタンダードとされてきたフォルクスワーゲン ゴルフではどうか。「R」をどのようなモデルと位置づけ、どれほどスポーティなモデルに仕上げているのだろうか?

 

■今回紹介するクルマ

フォルクスワーゲン/ゴルフ R ヴァリアント

※試乗グレード:R

価格:652万5000円(税込)

 

まだまだ買えるぞゴルフR!

シビックタイプ「R」は、2万台もの注文が殺到して約4年分が売り切れたため、早くも受注停止になったが、ゴルフの「R」ならまだ買える! ゴルフRは、伝統あるゴルフ「GTI」を超えるパフォーマンスを持つ最強のゴルフ。究極のスポーツハッチバック&ワゴンを目指したマシンだ。

 

直列4気筒2.0Lターボエンジンは、最高出力320PS/5350-6500rpm、最大トルク420Nm/2100-5350rpmを誇っている。従来のRに比べても、10PS/20Nm強化されたわけだ。数字的にはわずかだが、この手のスポーツモデルは、進化し続けることが重要だ。

 

300馬力オーバーのパワーを受け止めるべく、ゴルフRは誕生当初から4WDの7速DSG(デュアルクラッチAT)のみの設定となっている。330馬力のシビックタイプRが、FFのMTのみなのに比べると、かなり正反対のキャラクターだ。シビックタイプRはサーキットに狙いを定めた超絶スポーツモデルだが、ゴルフRの主戦場は公道。速度無制限区間のあるアウトバーンでは、4WDの安定性が強く求められるのである。

↑フロントに搭載される2L直4ターボエンジン。トランスミッションは「DSG」と呼ばれる7段のデュアルクラッチ式ATが組み合わされる

 

前述のように、エンジンは320馬力を誇っている。初代ゴルフRは300馬力、2代目は310馬力、そしてこの3代目は320馬力と、台本があるかのように少しずつパワーアップを果たしている。かつて国産4WDスポーツの頂点を争ったランエボやインプレッサWRXが、280馬力だったことを思えば、320馬力という出力の過激さがよくわかるだろう。

 

しかし、実際のゴルフRは、それほどすごいクルマという感覚を抱かせない。ATのみなのでイージードライブであることは言うまでもないが、エンジンのフィーリングも、出力の向上とともに、逆におとなしくなっている。

 

7速DSGは極めて洗練され、もはや通常のトルコンATと区別がつかないほどスムーズだ。エンジンも低速域から使いやすく、フツーに走っているかぎり、そこらのファミリーカーに毛の生えたような程度に感じてしまう。乗り心地も、究極のスポーツモデルとは思えないほど快適だ。これは、オプションの可変ショックアブソーバーの効果だろうか? よく言えばウルトラ洗練、悪く言えばちょっと退屈という印象である。

↑ボディーカラーは、「ラピスブルーメタリック」(写真)に「ピュアホワイト」と「ディープブラックパールエフェクト」を加えた全3色のラインナップ

 

思い起こせば、2010年に登場した初代ゴルフRは、サウンドの演出が凄まじかった。ATがシフトアップするたびに「バウッ!」という中吹かし音(?)が轟いて、まるでランボルギーニを運転しているような錯覚に襲われた。VWグループは、1999年にランボルギーニを傘下に収めており、その知見が生かされたのか? と感じたものだが、2代目はサウンドがややおとなしくなり、この3代目はさらにおとなしくなっている。

 

新型ゴルフRも、ドライブモードを「レース」にすれば、アクセルを戻した時に「ボッ!」とレブシンクロを行なうし、アクセル全開で加速すれば、それなりに勇ましい音がするが、初代Rを知っている者には、物足りなく感じてしまう。

 

サウンドは、速さを体感する上で重要なポイントだ。近年欧州では、騒音規制が非常に厳しくなっており、もはやゴルフがランボルギーニのような音をさせることなど許されない。その影響でゴルフRも、ずいぶん地味になったように感じてしまうのだ。

↑ダイナミックターンインジケーター付きLEDマトリックスヘッドライト「IQ.ライト」。カメラで対向車や先行車を検知し、片側22個のLEDを個別制御する

 

「羊の皮を被った狼」たる理由

試乗したのは、ゴルフ R ヴァリアント(ステーションワゴン)。車両重量は1600kgとかなりの重量級だ。ランエボやインプレッサWRXは1300kg前後だったから、それに比べるとだいぶ重く、加速も相殺される。速いと言えば速いが、「ウルトラバカ速ッ!」ではない。そのぶんゴルフ R ヴァリアントは、広いラゲージやゆったりした室内など、高い実用性を持っている。「R」のエンブレムも非常に地味で目立たない。

↑見やすい大型10.25インチTFT液晶ディスプレイを採用。通常のメーター表示やナビゲーションマップなど、好みに応じて表示を切り替え可能

 

↑ホールド性もR専用ファブリック&マイクロフリースシート。ブルーのRロゴがステキ!

 

↑最大1642Lの大容量ラゲージスペースを持つ。荷物の形状や量に合わせて室内をフレキシブルにアレンジできる

 

ただ、前後バンパーはR専用であり、リアのディフューザーと4本のテールパイプが、タダモノではないことを示している。マニアが見れば、GTIより15mm低い車高や、19インチホイールの間から覗くブルーのブレーキキャリパーで、「うおお、Rだ!」と識別することが可能。このクルマは、典型的な「羊の皮を被った狼」である。

↑クロームの輝きと迫力あるルックスを演出する、クロームデュアルツインエキゾーストパイプ。足元は19インチのアルミホイールと245/35ZR19サイズのタイヤだ

 

↑VWロゴの下でさりげなく光るRエンブレム

 

では、新型ゴルフ R ヴァリアントが、ただの旦那仕様のスポーツモデルかと言えばさにあらず、新型Rのハイライトは、4WDシステムが、従来の4モーションから、「Rパフォーマンスベクタリング」に進化した点にある。4モーションは、前後輪のトルク配分を変えて最良の駆動力を得ていたが、新型Rは後輪に湿式多板クラッチを2個加えることで、後輪左右のトルク配分を変えることができるのだ。つまりコーナリング中は、外側タイヤの駆動力を増すことで、よりグイッと曲がらせることが可能というわけだ。

 

私はかつて、フェラーリ458イタリアを所有していた。458には「Eデフ」という名の左右駆動トルク配分システムが備わっており、恐ろしいほど曲がるクルマだった。コーナーで外に膨らむことはまずありえず、逆に曲がりすぎて内側のガードレールに激突しないように注意する必要があった。

 

では、新型ゴルフRもそんな感じかというと、まるで違う。普通に走っていたら、左右駆動トルク配分をしていることなど体感できない。458はそこらの四つ角を曲がるだけで「うひぃ! 曲がりすぎる!」という感覚だったが、ゴルフRは実に自然だ。セッティングがまるで違う。

 

それはワインディングロードでも同じ。まったく自然によく曲がるだけで、特段意識させるような挙動は起きない。サーキットで限界まで攻めれば違うと思いますが、一般ドライバーが公道で、左右トルク配分を体感するのはまず不可能。それよりも、「ゴルフRは進化を続けている!」という事実(勲章)のほうが重要なのだ。なにしろ「R」なのだから。価格は652万5000円。もちろんゴルフのラインナップ中、最高価格である。

 

SPEC【R】●全長×全幅×全高:4650×1790×1465㎜●車両重量:1600㎏●パワーユニット:1984cc直列4気筒ターボエンジン●最高出力:320PS/5350-6500rpm●最大トルク:420Nm/2100-5350rpm●WLTCモード燃費:12.2㎞/L

 

撮影/茂呂幸正

 

 

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電車も駅も昭和の趣が色濃く残る「小野田線」超レトロ旅

おもしろローカル線の旅106〜〜JR西日本・小野田線(山口県)〜〜

 

かつて小野田セメントという会社があった。誰もが良く知る大企業だったが、会社名の元になった小野田は果たして何県にあるのか、知る人は少なかったのでなかろうか。

 

小野田は山口県の山陽小野田市の合併前の市の名前で、この街と宇部市を走るのが小野田線だ。セメント製造と石炭の採掘で栄えた街は、産業構造の変化の影響を受けて。やや寂しくなってはいるが、小野田線は昭和の趣が色濃く残り鉄道好きにぜひおすすめしたい路線だった。

*2013(平成25)年9月14日〜2023(令和5)年1月20日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

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【小野田線の旅①】セメントと石炭の輸送のため設けられた路線

小野田線は2本の路線区間によって構成される。居能駅(いのうえき)と小野田駅を結ぶのが小野田線(本線)で、途中の雀田駅(すずめだえき)と長門本山駅(ながともとやまえき)を結ぶのが小野田線(本山支線)となる。2本の路線の概要を見ていこう。

 

路線と距離 JR西日本・小野田線(本線):居能駅〜小野田駅間11.6km 、小野田線(本山支線):雀田駅〜長門本山駅間2.3km、全線電化単線
開業 小野田軽便鉄道(後の小野田鉄道)が1915(大正4)年11月25日にセメント町駅(現・南小野田駅)〜小野田駅間を開業。
宇部電気鉄道が1929(昭和4)年5月16日に居能駅〜雀田駅間を開業、1937(昭和12)年1月21日に雀田駅〜長門本山駅が開業。
1947(昭和22)年10月1日、雀田駅〜小野田港駅(当時は南小野田駅)間が延伸され小野田線が全通
駅数  11駅(起点駅を含む)

 

小野田線の歴史は複雑だ。ここでは大まかな路線の成り立ちに触れておこう。まず、小野田駅側から小野田軽便鉄道が路線を造り、居能駅側からは宇部電気鉄道(後に宇部鉄道と合併)が路線を延ばした。それぞれセメントの材料や、石炭を運ぶ貨物輸送が盛んだったこともあり、軍需産業強化を図る国が戦時下に国有化し、戦後に一部区間が延長され現在の小野田線となった。さらに、1987(昭和62)年には国鉄分割民営化に伴いJR西日本の路線となっている。

 

JR西日本が発表した「経営状況に関する情報開示」によると、2021(令和3)年度の輸送密度は1日あたり346人、2019(平成31・令和1)〜2021(令和3)年度の輸送密度は8.5%とかなり厳しい。路線を廃止することなく活かせないかと、地元では接続する宇部線を含めてBRT(バス・ラピッド・トランジット)化構想を掲げるなどしているものの、廃止か存続か結論が出ていない。

 

【小野田線の旅②】今も主力は1両で走る希少なクモハ123形

次に小野田線を走る車両を見ていこう。2形式が走るが、いずれも国鉄形と呼ばれる車両だ。

 

◇クモハ123形

小野田線を走る列車の大半が、クモハ123形1両で運行されている。クモハ123形は国鉄が手荷物・郵便輸送用に造った荷物電車を、1986(昭和61)年〜1988(昭和63)年にかけて改造した電車だ。荷物電車だった時代も含めると40年以上の長い車歴を持つ。JR東日本、JR東海に引き継がれた車両はすでに全車が廃車され、残るのはJR西日本に引き継がれた5両のみとなる。そんな希少な電車が今も小野田線と宇部線、山陽本線の一部を走っている。

 

クモハ123形は左右非対称で、側面窓の形状など車両ごとに異なり鉄道ファンには興味深い車両でもある。

↑国鉄が造った車両らしくごつい姿が特長のクモハ123形。現在5両のみ残存、小野田線の主力車両として活用されている

 

↑妻崎駅を発車するクモハ123形。トイレが増設され側面窓が一部ないなど左右非対称で、車両ごとに窓の形など細部が異なっている

 

◇105系

国鉄が1981(昭和56)年に導入した直流通勤形電車で、国鉄分割民営化後はJR東日本とJR西日本に引き継がれた。すでにJR東日本の105系は消滅し、JR西日本のみに残っている。JR西日本の105系も近年は急速に車両数を減らし、福塩線(ふくえんせん)と山陽本線の一部区間、宇部線、小野田線のみでの運行が続けられている。なお、小野田線での105系の運行は朝の1往復のみと限定されている。

↑朝1往復のみ小野田線を走る105系。写真の濃黄色1色以外に新広島色と呼ばれるクリーム色に赤と青帯の105系も走っている

 

【小野田線の旅③】山陽本線の小野田駅3番線ホームから発車

小野田線の起点は居能駅だが、山陽本線の小野田駅で乗換えて乗車する人が多いので、本稿でも小野田駅から話を始めたい。

 

山陽本線との乗換駅となる小野田駅は駅舎、跨線橋、ホームなどすべてがかなりレトロな造りだ。平屋の駅舎は1951(昭和26)年に改築されたもので、改札口にはかつて駅員が立った旧型のステンレス製のボックスが残されていた。そんな昭和の時代を感じさせた改札口だが、1月に訪れるとICカード対応の改札機の工事が始まるとの掲示が張り出されていた。この春からは小野田駅でも交通系ICカードの利用ができるようになる。

↑昭和中期に立てられた小野田駅の駅舎。改札口はボックス形(左上)だったが、この春から交通系ICカード対応の改札機に変更となる

 

山陽小野田市の表玄関にあたる小野田駅だが、通勤・通学客は多く見られたものの、かつての賑わいは薄れているように感じた。

 

山陽小野田市の人口は1955(昭和30)年の国勢調査で8万2784人とピークを迎えたが、昨年12月末現在で6万209人に減少している。市の看板企業でもあった小野田セメントは太平洋セメントと名を変え、市内にあったセメント工場も1985(昭和60)年に閉鎖された。小野田線の南小野田駅の東側には「セメント町」という町名が残っており、その名がかつての繁栄ぶりを示す証しとなっている。

 

セメントとともに街を潤したのが石炭採掘だった。小野田線・長門本山駅の近くにあった本山炭鉱では、江戸後期に石炭が発見され明治期に採掘が本格化。1963(昭和38)年まで採掘が続けられた。本山炭坑を含む旧・小野田市・宇部市に点在した炭鉱群はみな海底炭田で、出水事故などトラブルが目立った。石炭といえば燃料としての使用が思い浮かぶが、出炭した石炭の品質が劣っていたこともあり、多くがセメント製造の燃料や化学肥料の原材料として利用された。

 

いずれにしてもセメント産業や炭田で地域は栄え、鉄道も両産業の影響もあり延ばされていった。セメント工場は現在、石油基地などに変貌し、マンパワーを必要としない産業構造の変化が、人口減少の一つの要因になっているようだ。

↑小野田駅3番線を発車する小野田線の列車。跨線橋や階段は骨組みがむき出しの構造で時代を感じさせる

 

小野田駅には1番線と2番線はなく、3番線が小野田線専用、4番・6番線が山陽本線のホームとなっている。小野田駅の長いホームにやや無骨な形のクモハ123形が1両ぽつんと停車する様子は何ともユーモラスで旅心をくすぐる。

 

【小野田線の旅④】駅および用地、電車がみな小さめに感じる

小野田駅発着の列車は1日に9往復。小野田駅発の列車の大半が宇部線・宇部新川駅行きで、朝の1本の列車のみが宇部線の新山口駅まで走っている。列車本数は朝夕が1時間に1本の割合だが、昼前後10時16分発、13時54分発、16時14分発と時間が空くので利用の際は注意したい。

 

沿線は、1両および2両編成の電車にあわせたコンパクトな造りの駅や用地、レールの敷設のされ方が目立つ。小野田駅の次の目出駅(めでえき)はその典型だ。急カーブの途中に短いホームが設けられ、駅舎も小さくかわいらしい。

↑目出駅を発車する旧塗装当時のクモハ123形。駅のホームがカーブしていることが分かる。駅舎はシンプルそのもの(左下)

 

小野田線は切符の自動販売機のない駅が大半だが、かつて切符販売が行われていたころには「目出たい」駅ということで多くの入場券が売れたそうだ。

 

次の南中川駅も駅はコンパクトそのもの。その次の南小野田駅もホーム一つの駅だ。南小野田駅は小野田軽便鉄道が開業させた駅。小野田セメントの工場に近かったこともあり当初、駅名は「セメント町駅」と名付けられた。後に小野田港駅、小野田港北口となり、そして現在、南小野田駅と名を改めている。駅周辺には商店や民家が集い小野田線で最も賑わいが感じられる。

 

次の小野田港駅は1947(昭和22)年10月1日に生まれた駅で、西側の小野田港に面して大規模な工場が集まる。小野田線の駅では大きめの駅で、待合室に円柱が立つなどお洒落な駅だった。しかし、残念ながら2021(令和3)年に老朽化のため閉鎖され、現在は旧駅舎の横からホームに入る造りとなっている。

 

【小野田線の旅⑤】本山支線の起点は三角ホームの雀田駅

小野田港駅の次、雀田駅は本山支線の起点駅だ。雀田駅はホームに何番線といった数字がなく、南側ホームが小野田線(本山支線)の長門本山駅方面、北側ホームが小野田線(本線)の小野田駅・居能駅方面行きに使われている。

↑雀田駅に停車する小野田駅行き列車。同ホームがカーブ途中にあることが分かる。写真は新広島色と呼ばれる塗装の105系電車

 

ホームは三角形の形をしていて、不思議なのが小野田線(本線)の側の電車がカーブ途中にあるホームに停まることだ。一方、本山支線用のホームは居能駅側から延びる直線路の上にある。

 

これは本山支線が先に開業し、雀田駅から先は戦後に設けられた〝後付け区間〟だったため、こうした不思議な形になってしまったようである。

↑雀田駅に停まる本山支線の列車。小野田線(本線)のホームがカーブ上にあるのに対して支線のホームがまっすぐな線路上にある

 

【小野田線の旅⑥】1日に3本という本数少なめの本山支線

本山支線を走る列車本数は極端に少ない。朝7時台に2往復、夜18時台に1往復、計3往復しか走らない。

 

本数が少なく朝早いため、旅人がこの本山支線の朝の列車に乗車するためには、山口県内に宿泊しないと難しい。筆者も山口県内に宿泊し、小野田駅発の始発電車で雀田駅へ着いた。そして始発の6時58分に乗車した。

↑雀田駅を発車した宇部新川駅行きの列車。本山支線は起点終点含めて3駅の短い路線で、5〜6分で終点の長門本山駅へ到着する

 

訪れたのは土曜日だったせいか、始発列車の乗客は筆者を含めて3人あまり。1人は地元の人、もう1人は鉄道ファンのようだった。雀田駅から発車して唯一の途中駅・浜河内駅(はまごうちえき)で1人が下車し、終点の長門本山駅に降り立ったのは2人のみだった。

 

【小野田線の旅⑦】寂しさが感じられた終着の長門本山駅

到着した長門本山駅はホーム一つに屋根付き待合スペースがある小さな駅だった。朝2本目の列車の乗降客を見ても旅行者が多く、地元の人たちがどのぐらい利用しているのか推測しづらかった。

↑本山支線の終点、長門本山駅のホームに停車するクモハ123形。屋根付きの待合スペースがあるが、電車を待つ人は1人もいなかった

 

長門本山駅のホームから外に出ると、駅前には広場(空き地といった趣)があって小さな花壇が設けられている。駅前に商店はなく、周囲に民家がちらほらあるぐらいだった。

 

駅の南には1963(昭和38)年まで本山炭鉱があり、今は閉鎖された斜坑坑口が残されている。駅の車止めの先に、かつて引込線が延びていて採炭された石炭が大量に運ばれていたのだろうか。今は海岸沿いにソーラー発電所が広がっているが、この一体が貨車を停める引込線の跡だと思われる。曇天の朝に訪れたこともあり、寂しさが感じられた。

↑空き地が広がる長門本山駅前。写真の手前を県道345号線が通るものの、民家が点在するのみでかなり寂しい

 

長門本山駅のすぐ目の前には路線バスの停留所があり、その時刻表を見るとほぼ1時間おきに小野田駅方面へのバスが出ていた。バス便の多さ見てしまうと、鉄道を利用しない理由が少し理解できた。

 

【小野田線の旅⑧】妻崎駅では駅舎の軒先をかすめるように走る

長門本山駅から雀田駅へ折り返し、次に小野田線の起点となる居能駅を目指した。

 

長門本山駅を発車する列車のうち朝夜の2本はそのまま居能駅、宇部新川駅を目指すので便利だ。小野田線にはホーム一つのシンプルな駅が多いが、雀田駅から2つ目の妻崎駅(つまざきえき)には上り下り交換施設がある。

 

ホームから駅舎へ線路を渡る構内踏切がある地方の典型的な駅の趣で、駅舎のすぐ横を電車が走っていることも気になった。駅や電車がコンパクトにまとまり、鉄道模型のジオラマのように感じられる。

↑妻崎駅に停車する宇部新川駅行き列車。右が駅舎で軒先をかすめるように電車が走る。右下は妻崎駅の入口

 

【小野田線の旅⑨】厚東川の河口側に見える大きな橋は?

妻崎駅を発車した列車は間もなく厚東川(ことうがわ)を渡る。山口県の名勝、秋吉台(あきよしだい)を流れる川で、二級河川ながら川幅が広い。河口部には河原がなく、滔々と流れる様子が車内からよく見える。

↑厚東川を渡る小野田線の105系電車。背後には宇部湾岸道路と、宇部伊佐専用道路の興産大橋が見える。九州の島陰もうっすら見えた

 

上記の写真は上流に架かる橋から小野田線の列車を写したものだ。手前に国道190号、後ろに宇部湾岸道路が並行して架かる。さらに奥に立派なトラス橋が見えているが、こちらは宇部伊佐専用道路(旧・宇部興産専用道路)の興産大橋だ。この専用道路は1982(昭和57)年に造られた31.94kmにおよぶ企業の私道で、美祢市と宇部市を結んでいる。運ぶのは石灰石とセメントの半製品で、専用の大型トレーラー(ダブルストレーラーと呼ぶ)が輸送に使われている。

 

この専用道路ができるまでは、美祢線の美祢駅と宇部線・宇部新川駅近くの宇部港駅(後述)間を貨物列車が走り、1978(昭和53)年度には770万トンの輸送量があったとされる。専用道路完成後には鉄道貨物輸送が激減し、1998(平成10)年に宇部港駅を利用しての貨物輸送は消滅した。

 

【小野田線の旅⑩】起点・居能駅には始発終着する列車がない

興産大橋を進行方向右手に眺め、厚東川を渡った小野田線の電車は、間もなく左手から走ってきた宇部線と合流して居能駅へ到着した。

↑小野田線のクモハ123形は居能駅の手前で右に大きくカーブして宇部線と合流する

 

小野田線の起点は居能駅となっているが、あくまで起点駅というだけで、列車の運転は宇部新川駅を始発終着としている。居能駅で宇部駅方面へ乗り換える客がいるものの、駅で下車する人は見かけなかった。

 

ちなみに、宇部市の市街地は宇部新川駅周辺で、山陽本線の宇部駅に代わり、かつて宇部新川駅が宇部駅を名乗っていた時期があったほど栄えていた。シティホテルも宇部新川駅近くに多く設けられている。

 

宇部新川駅の詳細は宇部線の紹介をするとき(2月25日ごろ公開予定)に詳しく紹介するとして、ここでは小野田線の起点、居能駅を紹介しよう。ホームは小野田駅と同じく1・2番線がなく、跨線橋で連絡する3番線が宇部駅・小野田線方面、駅舎側のホームが4番線で宇部新川駅、新山口駅方面の列車が発車する。

↑小野田線の起点となる居能駅の駅舎。改札口の上には列車の接近をランプで知らせる表示板が吊られていた(右上)

 

列車が発車した後、人気(ひとけ)が絶えた居能駅前に立ってみた。駅舎の建築・改築年の詳しい資料がないが、今建っている駅舎は1938(昭和13)年11月6日に移転した時に建てられたままのようだ。レトロといえば聞こえはいいが、何とも説明しにくい状態の駅だった。

↑居能駅の裏手には側線が残されていた。宇部線、小野田線ともに引込線や側線の遺構は工場近くの駅に多く残されている

 

駅の北にある玉川踏切へ行ってみると駅の裏手が望め、複数の線路やポイントが残されていた。この駅からはかつて近くの工場や、宇部市の港湾部、旧宇部港駅などへの貨物線が分岐していた。居能駅は現在、寂しい姿となっているものの、線路が何本も敷かれ、そこを頻繁に貨物列車が通り過ぎた華やかな時代もあったのである。

 

【小野田線の旅⑪】かつて路線が延びていた沿岸部を訪れる

小野田線の創始期に路線を敷設した宇部電気鉄道は居能駅の先、宇部市の港湾部に向けて路線を延伸させていた(掲載地図を参照)。沖ノ山旧鉱(後の宇部港駅の近くにあった)、さらに港へ線路が延び、沖ノ山新鉱という駅まで線路が延びていた。旧鉱、新鉱と名が付けられたように、海岸部には沖ノ山炭鉱との坑口が設けられ、多くの炭鉱住宅が建ち並んでいた。

 

居能駅から港湾部まで走った路線(古くは宇部西線と呼ばれた)の先にあった宇部港駅は1999(平成11)年に貨物列車の運行が廃止となり、駅自体も2006(平成18)年5月1日に廃止となった。

 

宇部伊佐専用道路の開設により石灰石輸送貨物列車が廃止され、他の工場への貨物列車の輸送も消滅。時代が進み、産業構造そのものが変わっていくことは、街の姿や鉄道、輸送体系も変えてしまうことを痛感した。最後に沖ノ山新鉱駅があった付近を訪れたが、一抹の寂しさを感じた旅となった。

↑かつて沖ノ山新鉱駅があった付近を今、宇部伊佐専用道路が走る。大型トレーラーが走る時は踏切が鳴り一般車が遮断される

 

ホンダ新しいタイプのSUV「ZR-V」試乗。高い静粛性と気持ちの良い走りは感動もの

ホンダが上級SUVとして2023年4月21日に発売を予定してるのが『ZR-V(ゼットアールブイ)』です。「CR-V」が日本市場からなくなった今、その後継車種としてホンダの上級SUVを支える重要な位置付けにあるといえます。今回はそのZR-Vの試乗レポートをお届けします。

 

■今回紹介するクルマ

ホンダ/ZR-V

※試乗グレード:e:HEV Z(4WD)

価格:294万9100円〜411万9500円(税込)

↑ボディカラーはスーパープラチナグレー・メタリック

 

都市型クロスオーバー的な雰囲気の新しいSUV

ZR-Vのコンセプトは“都会的なスタイルとセダンのような走り”。単にSUVとしてだけでなく、セダン的な使い勝手と走りを併せ持つホンダの上級SUVとして登場しました。そのZR-Vを前にすると、SUVらしいボリューム感のあるボディと流れるようなフォルムが、都市型クロスオーバー的な雰囲気に満ちあふれていることを実感します。タテ格子のバーチカル・フロントグリルは斬新で、その存在感は十分に異彩を放っていました。

 

ZR-Vのラインナップは、ホンダ独自のハイブリッド「e:HEV」と、ガソリンエンジンとして1.5Lターボが用意され、駆動系にはいずれも4WDと2WD(FF)を組み合わせることができます。

 

また、グレードは上級の「Z」とベースグレードの「X」がそれぞれ用意され、そのうち「Z」にはアダプティブドライビングビームやETC2.0車載器付きホンダコネクト・ナビゲーション、本革シート、12スピーカーBOSEプレミアムサウンドなどが標準で装着されます。まさにホンダの上級SUVらしい充実した装備といえるでしょう。

↑ZR-Vのラインナップには1.5Lターボエンジンを搭載したガソリン車もラインナップする。写真はXグレード

 

そんなZR-Vで試乗したのは、「e:HEV」の4WD車で、グレードも上位のZ。価格も420万円弱という結構なお値段のクルマです。価格面ではトヨタ「ハリアー」や、日産「エクストレイル」あたりともガチンコでぶつかるグレード。ただ、そうした状況でもZR-Vはこの両車に十分対抗し得る素晴らしいスペックを備えていたのです。

↑プラットフォームはシビックベースだが、足回りはCR-V譲りのパフォーマンスを発揮した

 

上級SUVらしいプレミアム感あふれるインテリア

クルマに乗り込むとインテリアはプレミアム感にあふれていました。試乗車のシートはパワー機構付きの本革製で、マットなグレー色に近い“ブラック”。その素材感は極めて高く、ダッシュボードのソフトパッドも心地よい弾力を伝えてきます。よく見るとソフトパッドは艶やかなガラスパールを散りばめたパール調表皮となっており、外装と同様、光の当たる具合で陰影ができることで、しっとりとした高級感を演出する造りとなっているのです。

↑曲線と直線を上手に交えた躍動感に溢れたデザインのインテリアは、極めて機能的でもある

 

↑後席シートはSUVらしいゆとりのあるスペースを確保している。シートは6:4可倒式を採用する

 

また、センターコンソールは中央を盛り上げるハイデッキタイプとすることで、運転席と助手席の各乗員に適度なパーソナル感を持たせており、さらにコンソール下側の凹みにはUSB端子を備えた収納スペースまで装備。もちろん、ワイヤレス充電にも対応しているので、手軽にスマホを充電することが可能です。

↑左右の席のセパレーターとしての役割も果たすコンソール。e:HEVにはボタン式シフトが採用されている

 

中でも“Z”の装備で見逃せないのが、BOSEプレミアムサウンドシステムの搭載で、車種独自の専用チューニングを施すことでクリアで臨場感あふれるサウンドをもたらしてくれます。しかも、サラウンドサウンドを体験できる「Centerpoint」システムを搭載したフルスペック仕様。限られたスペースで臨場感たっぷりのBOSEサウンドが楽しめるのは大きな魅力といっていいでしょう。

↑Zグレードには12スピーカーを備えたBOSEプレミアムサウンドシステムが標準で装備される

 

↑BOSEの「Centerpoint」は、12スピーカーを活用することで臨場感たっぷりのサラウンドが楽しめる

 

↑BOSEプレミアムサウンドシステムは、サブウーファーとセンタースピーカーを組み合わせた12スピーカーから成る。高性能スピーカーを車室内に最適配置しています

 

エンジンONがほぼわからない驚きの静粛性

ZR-Vは走りも素晴らしいものでした。ZR-Vの「e:HEV」は、2.0L・4気筒エンジンとホンダ独自の2モーターシステムを搭載したハイブリッド車となっています。これはシビックに採用されている「スポーツe:HEV」をZR-V向けに仕様変更したもので、充電用と駆動用のモーター2基を電気式CVT内に搭載。状況に応じてエンジンとモーターそれぞれの駆動を切り替えて使う独自の方式となっています。

↑ZR-Vのe:HEVに搭載された2.0L・4気筒エンジンとホンダ独自の2モーターシステムのハイブリッドシステム

 

具体的には、発進時や市街地での低速走行などではモーターのみのEVモードで走行し、加速時やある程度速度域が上がるとエンジンの動力で発電しながらハイブリッド走行します。さらに高速道路で高い速度で巡航するシーンになるとクラッチでエンジンと直結し、100%エンジンの力で走行するモードに切り替わるのです。いわば、シリーズ式ハイブリッド走行とエンジン走行のいいとこ取りをしたハイブリッドエンジンといえるでしょう。

 

この日の試乗コースは、会場となった羽田空港近くのホテルから首都高速~一般道を経由するルートです。

 

走り出して真っ先に気付いたのが高い静粛性でした。モーターで走行している時が静かなのは当然としても、エンジンがかかってもそれがほとんどわからないほど静かなのです。1.5Lエンジンを組み合わせるe:HEVを搭載した「ヴェゼル」では、アクセルを踏み込んだ際にエンジン音がハッキリと聞こえていましたが、それとは静粛性のレベルがまるで違います。高速道路の合流でもアクセルを踏み込んでもその傾向は変わらず、ロードノイズも十分抑えられていました。

↑市街地走行から都市高速に至る日常使いで優れたパフォーマンスを発揮したZR-V

 

都市高速のきつめのカーブにもしっかりと踏ん張る

足回りはしっかりと踏ん張ってコーナーを曲がっていく印象です。都市高速のきつめのコーナーを曲がった時でも車体がリニアに反応してスムーズに向きを変え、思い通りのラインを確実にトレースしていくのです。シビックを八ヶ岳で走らせた時、そのトレース能力に驚いたものですが、少なくともそれに匹敵する素晴らしさ。

 

ドライブモードは各走行シーンに応じた4つのモードから最適な設定に変えられ、e:HEV車にはパドルシフトを使って、回生ブレーキの強さを4段階で調節することができます。これを上手に使えば、峠道などで減速度を上げながら楽に走行することができるはずです。

 

一方で乗り心地は若干堅めでした。都市高速の継ぎ目などは確実に伝えてくるのです。しかし、不快さは感じないレベル。むしろ道路の状況が伝えられてくるリニア感が好ましく感じたほどです。乗り心地も良好で、後席に座った人からも不満は出ませんでした。

 

試乗を終えて実感したのは、ZR-Vはコンセプトの“都会的なスタイルとセダンのような走り”を確実に達成しているということです。特にe-HEVと組み合わせた走りは感動もののレベルで、「スムーズさ」と「静粛性」、そして「動力性能の高さ」の3本柱をしっかりと発揮していたのには驚きました。ホンダの新しい上級SUVとして、ぜひ試乗してみることをおすすめしたいです。

↑SUVらしく収納スペースも十分な容積を誇る。テールゲートはハンズフリーアクセス機能付パワーゲートが備わる

 

SPEC【e:HEV Z(4WD)】●全長×全幅×全高:4570×1840×1620㎜●車両重量:1630㎏●モーター:1993cc直列4気筒直噴エンジン+デュアルモーター●最高出力:エンジン141PS/6000rpm(モーター184PS/5000〜6000rpm)●最大トルク:エンジン182Nm/4500rpm(モーター315Nm/0〜2000rpm)●WLTCモード燃費:21.5km/L

 

写真/松川 忍

 

 

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車内がWi-Fiスポット! カロッツェリア新型「楽ナビ」は利便性が高く、ドライブも楽しくなる

パイオニアは1月19日、ベルサール秋葉原(東京都千代田区)において「2023春 カロッツェリア新製品発表会」を開催。4年ぶりのモデルチェンジとなった『楽ナビ』と、楽ナビと組み合わせ可能なドライブレコーダーやバックカメラなど、アクセサリー類を発表しました。新しい楽ナビは何が変わったのでしょうか。

↑パイオニアが開催したカロッツェリア・新「楽ナビ」の発表会

 

ドライブ時間を楽しく便利にする「docomo in Car Connect」

一番のポイントは、車載向けインターネット接続サービス「docomo in Car Connect」を活用してネットワークへの接続が可能となったことです。

↑新「楽ナビ」の登場で、パイオニアは主要カテゴリーすべてで“オンライン化”を実現した

 

楽ナビはかつて別売の通信モジュールによるネットワーク接続を実現していました。しかし、2019年モデルでこれをWi-Fiテザリングでのみの対応に変更。これには個人的にも残念な思いが強かったのですが、今回のモデルチェンジではサイバーナビと同様、ネットワークスティック同梱モデルもラインアップし、再び自由にネットワーク接続できるようにしました。これはうれしい!

↑新たに登場した9V型フローティングモデル「AVIC-RF920-DC」。ネットワークスティック同梱モデル、3月発売予定

 

↑最上位のラージモデル「AVIC-RQ920-DC」。9V型ディスプレイを搭載したネットワークスティック同梱モデルだ。3月発売予定

 

新しい楽ナビは「車内Wi-Fiスポット」機能を搭載。NTTドコモとNTTコミュニケーションズが連携して提供する車内向けインターネット接続サービス「docomo in Car Connect」に対応し、同梱もしくは別売のネットワークスティックを接続すれば、エリアを問わず安定したNTTドコモのLTE通信を定額で制限なく利用できます。車室内がWi-Fiスポットになり、通信量を気にせずスマートフォンやタブレットなどでオンラインの動画や音楽、ゲームなどを楽しめます。

 

また、新しい楽ナビとスマートフォンやストリーミングメディアプレイヤーをHDMI接続することで、映像コンテンツをカーナビ本体や後席モニターなどの大画面に表示してオンライン動画を楽しむことができます(一部機種除く)。最近は動画視聴だけでなく、音楽ソースをYouTubeなどストリーミングで楽しむドライバーも増えており、その意味で新しい楽ナビはエンタメ力が一段と高まったといえるでしょう。

 

ネットワーク接続はナビ機能でもメリットをもたらします。目的地検索をクラウドから最新情報を使って行えるほか、カロッツェリアならではの「スマートループ渋滞情報」や「ガススタ価格情報」「駐車場満空情報」にも対応可能となるのです。地図更新にも対応しており、ネットワークスティック同梱モデルが最大3年、レスモデルは最大1年無料となっています。

↑オンライン化により車内Wi-Fi化を実現したほか、オンラインによる目的地検索や地図の自動更新を可能にした

 

なお、通信については有料となりますが、使い方に応じて1日:550円、30日:1650円、365日:1万3200円から選べるのはサイバーナビと同様。ただ、サイバーナビには最初の1年無料期間がありましたが、残念ながらそれはなし。また、利用制限がないサイバーナビに対して、楽ナビでは同梱モデルでも走行中のみの利用を基本としています。

 

そのため、停止中はエンジンを起動させて走行するまでの30分、走行後は60分までに利用が制限されます。もし、車中泊などでの使用を目的にするならサイバーナビの方が使いやすいでしょうね。

 

オンライン化で目的地が簡単に探し出せる!

使い勝手の良さにこだわるのは楽ナビの伝統でもあります。新しい楽ナビでは、「カンタンインターフェース“Doメニュー”」の採用で使い勝手をさらに向上させました。これは本体中央のスタートボタンを押すことで表示されるもので、そこには再生中のAVソースのほかに「お出かけ検索(オンライン)」、「ダイレクト周辺検索」、「ショートカットキー」が表示されます。

↑AV操作からナビ機能まで、ほとんどの操作ができてしまう“Doメニュー”

 

まず「お出かけ検索」とは、いわば目的地の検索機能のこと。“検索窓”に思いついたキーワードを入力することで、簡単に行きたい場所の候補がリストアップされます。一般的にナビでの目的地検索は名称検索、住所検索、電話番号検索等々、メニューから入ってカテゴリー別に探していくのが一般的でした。新しい楽ナビでは、例えば「地名」と「名所」で観光スポット検索、「地域」と「食べ物」でお店検索ができます。また一文字入力するごとに変換候補を表示でき、よりスピーディーな文字入力が可能となり、目的地検索をスマホ並みに使いやすくしているのです。ただし、音声認識での入力には対応していません。これは次モデルの対応を期待したいですね。

↑目的地を思いついたキーワードを入力するだけで候補をリストアップする「お出かけ検索」を搭載

 

そして「ダイレクト周辺検索」では、ドライブ中に立ち寄ることが多い駐車場やガソリンスタンド、コンビニをダイレクトに探せます。ネット接続時はガソリンスタンドの最新価格情報が表示されるのもうれしいですね。また「ショートカットキー」では、よく使う機能を最大4つまで設定しておくことができます。たとえば自宅検索やよく聴く音楽ソースを設定しておくと便利でしょう。

 

2DINで9型大画面を実現するフローティングモデルが登場

新しい楽ナビは、ハード面での進化にも注目です。新たに9型フローティングモデル(AVIC-RF920-DC/-RF720)が追加され、取り付けスペースが2DINしかなくても9型大画面が楽しめるようになるのです。しかもディスプレイ部は装着時に上下と左右に3段階ずつ位置をずらせるので、車両のスイッチ類との干渉を避けられるのもうれしいポイント。

↑2DINスペースに9型大画面を実現する「フローティング型」モデルが登場。業界最多の548機種に対応できる

 

↑「楽ナビ」は全15機種を揃えたラインアップの豊富さも魅力。好みに応じた一台が選べる

 

また、画面のフルフラット化も見逃せないポイントです。取り付けた状態の美しさが際立つだけでなく、全モデルをHDパネルとしたことや視野角が広いIPSの採用とも相まって、車内のどこからでも美しく映像が楽しめるようになっているのです。しかも、操作パネルにはブラインドタッチも可能となる凹凸が用意されたことで、夜間でも簡単に操作できるようになりました。

 

ナビ機能そのものに進化にも注目です。特筆すべきは分岐する交差点のポイントがさらにわかりやすくなったことです。それは、曲がる交差点までの信号の数をカウントダウンで案内してくれる「信号機カウント交差点案内」です。

↑曲がるタイミングを確実に把握できる機能として重宝すること間違いない「信号機カウント交差点案内」

 

目的地までのルートを探索後に表示される「6ルート探索結果画面」では、1つの画面上でルート情報に加えて時間・走行距離・高速料金も表示されるようになりました。今まで以上にルート比較がしやすくなったのです。発表会場で操作した限りでは応答性も格段に向上しているようで、その意味でも使い勝手が向上したとみて間違いありません。

 

オプションのドライブレコーダー「VREC-DS810DC」にも注目です。2カメラタイプで前後同時録画が可能。連動タイプならではのナビ画面上で再生や操作にも対応し、映像はもちろんHD画質です。加えてリバースギアと連動して後方を映し出せ、画面上にはガイドラインの表示も可能としたことでバックカメラとしても利用できます。

↑新「楽ナビ」の発表会では、製品を装着したデモカーを揃えた体験コーナーも用意された

 

「WebLink」に対応したディスプレイオーディオ登場

今回の発表では、ディスプレイオーディオの新作『DMH-SF500』も発表しました。従来のディスプレイオーディオ「DMH-SF700」と「DMH-SZ700」の中間に位置する機種で、フローティングタイプ9V型ディスプレイオーディオとしています。ミラーリングによってスマホの映像を大画面で楽しめるだけでなく、新たに「WebLink」に対応したことでミラーリングで表示した画面上からでも操作できるようになりました。セカンドモデルながら、最新機種らしい新機能の搭載に注目です。

↑ディスプレイオーディオ『DMH-SF500』はフローティングタイプの9V型ディスプレイを備えた

 

↑パイオニアのWi-Fiワールドを実現するラインアップの展示もあった

 

↑パイオニア取締役 兼 常務執行役員 モビリティプロダクトカンパニー CEO 髙島直人氏(左)と、市販事業統括グループ 商品企画部 部長 田原一司氏(右)

 

 

 

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スズキ「スペーシア ベース」使い方は自在の“移動型秘密基地”

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」でピックアップするのは、スズキのスペーシア ベース。軽規格の商用車だが、実用性については見どころが多いモデルだ。

※こちらは「GetNavi」 2023年1月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【軽バン】

スズキ

スペーシア ベース

SPEC【XF(2WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1800mm●車両重量:870kg●総排気量:658cc●パワーユニット:直列3気筒DOHC●最高出力:52PS/6500rpm●最大トルク:6.1kg-m/4000rpm●WLTCモード燃費:21.2km/L

 

大型のマルチボード採用で多彩な用途に対応できる!

最近は車中泊を楽しむ人が増えている。なかでも手軽で人気なのが軽自動車による車中泊、いわゆる“軽キャンパー”だ。特に商用車は広い荷物スペースが確保され、アレンジの自由度も高いと好評だ。

 

そんな車中泊を含めて、多用途に使いこなすためのアイデアを満載して投入されたのが、スペーシアカスタムから派生した軽商用車のスペーシア ベース。注目したいのは、荷物スペースへの設置位置を上中下段、および前後分割の4モードから選択可能な大型のマルチボードを標準装備することだ。

 

例えば、下段モードで前席をフルリクライニングすると、前後に2030mmのスペースを確保。大柄な男性でも余裕で車中泊できる。あるいは、上段モードで後席背もたれを前倒しにして座ればマルチボードがデスクにもなる。

 

走りは実用上の不満はない。ターボの設定がないので、周囲の流れに合わせる場面でアクセルを踏み込む機会が多くなるが、音の大きさを感じさせずに必要な力強さを確保。サスペンションは、最大積載量200kgに対応して硬めに設定されている。ただし乗り心地が犠牲になるほどではない。

 

ひとりで車中泊するなら、楽しむためのツールを満載することも可能。安全装備が充実しているだけに、長距離ドライブでも安心だ。

 

[Point 1]豊富な収納スペースを用意して安全装備も充実!

商用車とはいえ、最新モデルらしく安全装備は充実。インテリアはシンプルなデザインながら収納スペースが豊富に設けられるなど、使い勝手に配慮した作り。

 

[Point 2]荷室をペットのケージ代わりに使用可能

マルチボードを縦にセットすれば、荷室を前後に分割することもできる。荷室長は前側セットで、805mm、写真の後方セットでは545mmを確保。

 

[Point 3]外観は“道具感”を演出

スペーシアカスタムをベースとする外観は、ブラック塗装のトリムやリアクォーターパネルなどにより、良い意味での“道具感”を演出。ボディカラーは全5色を用意する。

 

[Point 4]移動式のワークスペースにも!

上段にセットしたマルチボードと、座椅子としても使える後席の組み合わせでワークスペースも作れる。ボードのセット位置は4パターン用意されている。

 

[ラインナップ](グレード:パワーユニット/ミッション/駆動方式/税込価格)

GF:0.66L/CVT/2WD、4WD/139万4800円(151万8000円)

XF:0.66L/CVT/2WD、4WD/154万7700円(166万7600円)

●( )内は4WDの価格

 

文/萩原秀輝 撮影/宮門秀行

 

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祝開業100周年!珍しい蓄電池駆動電車で巡る「烏山線」深掘りの旅

おもしろローカル線の旅105〜〜JR東日本・烏山線(栃木県)〜〜

 

烏山線は栃木県の宝積寺駅(ほうしゃくじえき)〜烏山駅(からすやまえき)間を結ぶ。今年で開業100周年を迎えるこのローカル線は、日本で初めて蓄電池駆動電車が営業運転に使われた路線でもある。

 

20.4kmの路線はのどかそのもので、田園地帯を走り列車と滝が一緒に撮影できる観光スポットもある。冬の一日、烏山線でのんびり旅を満喫した。

*2011(平成23)年9月8日〜2022(令和4)年12月25日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
【3月3日で消滅】関東地方で最後のキハ40系の聖地「烏山線」−−消える気動車の勇姿と先進的な蓄電池電車を追った

 

【烏山線の旅①】紆余曲折あった開業までの歴史

烏山線は東北本線と接続する高根沢町の宝積寺駅を起点に那須烏山市の烏山駅が終点となる〝盲腸線〟だ。まず路線の概略を見ておこう。

路線と距離 JR東日本・烏山線:宝積寺駅〜烏山駅間20.4km 全線非電化(一部に電化設備あり)単線
開業 鉄道省の官設路線として1923(大正12)年4月15日、宝積寺駅〜烏山駅間が全通
駅数 8駅(起点駅を含む)

 

今年の4月で100周年を迎える烏山線だが、路線を巡る歴史には紆余曲折があった。ポイントを簡単に触れておこう。

 

路線の歴史をたどるにあたっては、まず烏山(現・那須烏山市)の歴史に触れておかなければいけない。烏山は烏山城が15世紀前半に築城されたことから歴史に登場するようになる。城主はたびたび替わったが、江戸時代に烏山藩が設けられ、1725(享保10)年に譜代の大久保常春が3万石に加増され城主となり、その後、幕末まで大久保家の城下町として栄えた。町の東側に那珂川が流れていて、この川が交易に使われたことも大きい。

 

鉄道開業を求める運動は明治時代の終わりから高まりを見せたが、なかなか成就しなかった。地元資本により1921(大正10)年にようやく工事に着手し、その後に鉄道省が引き継ぎ1923(大正12)年4月15日に路線開業となったものの、皇族が亡くなられたこともあり開通式は5月1日と半月ほど引き伸ばされている。

 

その後、国鉄烏山線となり、1987(昭和62)年に国鉄分割民営化によりJR東日本に引き継がれ現在に至る。昨年11月にJR東日本から発表された経営情報によると、2021(令和3)年度の収支データは運輸収入が5900万円に対して営業費用は6億6300万円とマイナス6億300万円の赤字。1kmあたりの平均通過人員は1140人と、1987(昭和62)年度の2559人に比べて55%減少といった具合で状況は厳しい。ただ、JR東日本の路線には烏山線よりも経営状態が悪い路線区間が多いので、今すぐ廃止とはならないように思われる。

 

【烏山線の旅②】実用蓄電池駆動電車EV-301系の導入

次に走る車両に関して見ておこう。現在は下記の車両が走っている。

 

◇EV-E301系

EV-E301系電車は直流用蓄電池駆動電車で「ACCUM(アキュム)」という愛称が付けられている。日本初の営業用の蓄電池駆動電車として2014(平成26)年に導入された。電化区間ではパンタグラフを上げて架線から電気を取り入れて走る一方、非電化区間ではリチウムイオン電池に貯めた電気を使って走行する。

↑蓄電池駆動電車初の営業用車両として誕生したEV-E301系。非電化の烏山線ではパンタグラフを降ろして走行する

 

導入当初、1編成でテスト運転を兼ねての営業運転が行われ、順調な成果をあげたことから2017(平成29)年2月まで3編成が増備されている。烏山線の営業運転以降、JR九州で2016(平成28)年10月19日から交流電化用蓄電池駆動電車BEC819系が筑豊本線(若松線)に、2017(平成29)年3月4日からJR東日本の交流用蓄電池駆動電車EV-E801系が男鹿線(秋田県)に導入されている。

 

画期的なシステムの電車でもあり、環境への負荷が少ないことから車両数の増備が期待されているが、蓄電池の容量が限られていて充電に時間が必要なこともあり、現在は短い路線での運用に限定されている。

↑烏山線を走ったキハ40形はカラーも多彩で人気があった。左上が首都圏色、右上が烏山線カラー、下がキハ40一般色

 

新型蓄電池電車の導入が行われた一方で、それまで走っていたキハ40形1000番台は2017(平成29)年3月3日をもって運用が終了となった。関東地方で最後のキハ40系が運用された区間であっただけに、鉄道ファンの間では惜しむ声が強まったが、山口県を走る錦川鉄道へ1両が譲渡され観光列車として運用され、また3両は「那珂川清流鉄道保存会」(栃木県那須烏山市白久218-1)で保存されている。

 

【関連記事】
岩国市の名所旧跡と美景を探勝。清流沿いを走る「錦川鉄道」のんびり旅

 

【烏丸線の旅③】夕方を除きほとんどの列車が宇都宮駅発に

ここからは烏山線の旅を楽しみたい。烏山線の列車は1日に14往復が走っている。そのうち夕方の3往復を除き、11往復が宇都宮駅の発着となる。宇都宮市と周囲の市町を結ぶ郊外電車という役割も担っているわけだ。

↑宇都宮駅を発車した烏山線用EV-E301系電車。東北本線の電化区間ではパンタグラフを上げて走行する

 

列車の運行間隔は朝夕ほぼ1時間に1本で、日中の10時から14時までは2時間おきとやや時間が空くので注意したい。なお宝積寺駅以外は交通系ICカードが使えない区間で、ワンマン運転のため運転席後ろにある精算機での現金清算となる。

 

宇都宮駅から烏山線の起点となる宝積寺駅までは約11〜14分と近いが、駅前に気になる建物を見つけたので降りてみた。

 

【烏山線の旅④】起点となる宝積寺駅はお洒落そのもの

宝積寺駅(高根沢町)の歴史は古く、1899(明治32)年10月に日本鉄道の駅として開業。駅舎と東西口を結ぶ自由通路は、2008(平成20)年に建て替えられた。隈研吾建築都市設計事務所の設計で、自由通路の外観、内装、特に天井部など、時代の先端を行くデザインのように感じる。ちなみに、この駅のデザインは国際的な鉄道デザインコンペティション「ブルネル賞」で奨励賞を受賞した。

↑宝積寺駅の駅舎と自由通路は隈研吾建築都市設計事務所がデザインしたもの。国際的なデザイン賞も受賞した名建築でもある

 

筆者は駅舎だけでなく東口前の「ちょっ蔵広場」も気になった。こちらも隈研吾氏が「光と風が通り抜けるイメージ」として設計した広場で、壁に大谷石が波状に組み込まれていてる古い米蔵が目を引く。広場にはカフェもあり、元米蔵の「ちょっ蔵ホール」ではライブも開催されている。路面は籾殻(もみがら)を使用して舗装されたそうで、足に優しい感触が伝わってくる。非常に手間をかけて造られた広場ということがよく分かった。

↑宝積寺の東口駅前には古い米蔵を改造した「ちょっ蔵ホール」が建つ。広場の舗装方法も興味を引いた

 

【烏山線の旅⑤】パンタグラフを下げて烏山線へ入線していく

宝積寺という駅名は高根沢町大字宝積寺という字名が元になっているが、木曽義仲の御台所(みだいどころ)だった清子姫が開山した宝積寺に由来するとの説もある。なお宝積寺という寺はすでに現存していないそうだ。

 

宝積寺駅へ到着した烏山線の電車はここで一つの作業を行う。ホームに到着したらパンタグラフを下げるのだ。架線はこの先の烏山線が分岐するポイントまで敷設されているのだが、走行中にパンタグラフの上げ下げはできないため、烏山行き列車は駅でパンタグラフを下げることになる。運転士は下がったことを目視で確認してから列車を出発させる。

↑宝積寺駅に停車する烏山線EV-E301系。ホームに着いた後にパンタグラフの上げ下げの作業が行われる(左上)

 

宝積寺駅を発車した烏山線の列車は、しばらく東北本線の線路を進行方向左手に見ながら走る。右カーブを描き分岐していくが、この先で列車は急な坂を下っていく。左右はのり面(人工的な斜面)となっていて、路線が設けられた際に線路を通すために切り通しにされたことが予測できる。

 

坂を下りると広い平坦な田園風景が目の前に広がっており、この極端な地形の変化が興味深い。調べてみると、宝積寺駅付近は宝積寺段丘という舟状の形をした台地の上にある町ということが分かった。この段丘は現在、宝積寺駅の西側を流れる鬼怒川の流れが造ったと予測されている。太古の鬼怒川は宝積寺段丘の東側を流れていたそうで、烏山線が走る平坦な平野は太古の鬼怒川の流れが造り出したものだったわけだ。

↑東北本線から分岐した烏山線は切り通し部分を走る。この先に下りていくと間もなく平坦な田園地帯が広がる

 

宝積寺駅を発車して5分あまりで下野花岡駅(しもつけはなおかえき)へ着いた。この駅とその先、仁井田駅(にいたえき)の間の広大な空き地が気になった。

 

【烏山線の旅⑥】下野花岡駅〜仁井田駅間の不思議な空間

下野花岡駅を発車するとすぐ右手に見えてくる空き地は、烏山線の南に並行する県道10号線(宇都宮那須烏山線)まで広がっている。古い地図などを見ると大きな建物が何棟も建っていたことが記されているが、この空き地は何なのだろう?

 

ここにはかつてキリンビールの栃木工場があった。31年にわたりビールの生産を続け、今も空き地の西にはキリン運動場という施設が残っている。周囲は木々に囲まれて緑豊かな工場だったようだ。かつて烏山線に沿うように木々が立ち並び、烏山線の車両を撮るのに最適な場所でもあったのだが、1年ほど前に訪れると木々は伐採され、工場の跡地が整地されていた。

↑下野花岡駅のすぐ近くで撮影したEV-E301系。背後の木々は最近、伐採され広大な工場跡地が見渡せるようになった(左下)

 

ビール工場の跡地は長い間そのままになっていたが、この跡地に栃木県に本社を持つ医療機器製造販売メーカーが関連施設の移転を発表している。2024(令和6)年度を目標にしているとされ、烏山線の沿線も大きく変わりそうだ。

 

鉄道ファンとして気になるのは、次の仁井田駅までの区間、右手に残る引込線の跡であろう。これはキリンビール栃木工場の製品出荷用に設けられたもので、工場から仁井田駅近くまで側線が設けられ、1979(昭和54)年から1984(昭和59)年にかけて宝積寺駅〜仁井田駅間の鉄道貨物輸送が行われていた。今は線路も取り外されているが、古い橋梁の跡や車止めなどの施設がわずかに残されている。

↑キリンビール栃木工場の出荷用に設けられた側線の跡。橋の一部や車止め(左下)も烏山線の線路横に残っている

 

【烏山線の旅⑦】北関東の緑に包まれて走る烏山線

朝の列車に乗車すると仁井田駅で驚かされることがある。下車する高校生が非常に多いのだ。駅の北側にある栃木県立高根沢高等学校の生徒たちだ。降り口は先頭のドアのみなので、都会の電車のように効率的な乗降とは言えないが、通学する高校生たちにとって烏山線が欠かせないことがよく分かる。降車にだいぶ時間がかかるが、乗客や運転士にも焦る様子はうかがえない。ローカル線らしい日常の風景に感じた。

 

烏山線はほとんどが平野と丘陵部を走り険しい区間がないものの、仁井田駅を発車すると、この線では数少ない勾配区間にさしかかる。次の鴻野山駅(こうのやまえき)まで最大25パーミルの上り下りがあるのだ。キハ40形が走っていた当時、勾配のピーク区間で列車を待ち受けると、エンジン音を野山に響かせ、スピードを落として坂を上る様子が見うけられた。キハ40形はそれほど非力ではない気動車だったが、やはり勾配は苦手だったようだ。

↑仁井田駅〜鴻野山駅間の勾配区間を走るキハ40形。重厚なエンジン音を奏でて上り坂に挑んだ 2017(平成29)年1月29日撮影

 

現在運行しているEV-E301系の最高時速は65kmだが、速度を落とさずに勾配をあっさりとクリアしていく。蓄電池駆動電車とはいえ、登坂力は強力で電車の強みが遺憾なく発揮されているわけだ。

 

鴻野山駅から大金駅(おおがねえき)まで、田園と木々に囲まれての走りとなる。このあたりは烏丸線の人気撮影地でもあり、訪れる人が多いところだ。

 

到着した大金駅は烏丸線で唯一、上り下り列車の交換施設があるところで、朝夕には列車の行き違いが行われる。金に縁がありそうな駅名のため、以前は乗車券を求めて訪れた人もいたそうだ。今は乗車券の自動販売機がなくなったこともあり、大金駅の名入りの乗車券を購入できない。なお駅の横には、JR東日本宇都宮地区社員が建立し、出雲大社から大黒様をお迎えした大金神社がある。

↑鴻野山駅〜大金駅間を走るEV-E301系。田園風景と森を背景に電車がのんびり走る姿を撮影することができる

 

【信濃路の旅⑧】途中下車するならば滝駅で

烏山線はホーム一つという小さな駅が続く。宝積寺駅、烏山駅以外は駅員不在の無人駅で駅も含めて人気(ひとけ)のない駅が目立つ。滝駅(たきえき)もそんな駅の一つだ。烏山線の6つある途中駅の中で、途中下車するならばこの駅をおすすめしたい。

↑ホーム一つの小さな滝駅。屋根などがきれいに改装されているが、栃木県らしく大谷石を使った古いホームの一部が残る

 

滝駅という駅名のとおりに、駅から徒歩5分、約450mという距離に滝がある。滝の名前は「龍門の滝」。那珂川に流れ込む江川にある滝だ。高さは約20m、幅は約65mという規模を誇る。おもしろいのは、烏山線の列車が滝の上を通る様子が展望台から眺められ、また撮影できること。春には桜、秋には紅葉を入れての写真撮影が楽しめる。

 

この龍門の滝という名前は、大蛇伝説にちなむものとされる。展望台の入口にある太平寺は、作家・川口松太郎の小説「蛇姫(へびひめ)様」のモデルとなった藩主大久保佐渡守の娘、琴姫の墓もある。琴姫を亡きものにしようとした悪い家老から姫を守る黒蛇(琴姫を守り殺された侍女の化身とされる)にまつわる逸話も、地元那須烏山市に残っている。

↑龍門の滝の上部を走る烏山線の列車。展望台には列車が通過する時間の掲示もある(時刻は変わる可能性あるので注意)

 

【烏山線の旅⑨】宝積寺駅から約30分で終着の烏山駅へ到着する

そんな龍門の滝近くを通り過ぎ、列車は大きく左カーブし、烏山の街へ入っていく。起点の宝積寺駅を出発して約30分、終点の烏山駅へ列車は到着した。

 

烏山駅からは路線バス便が市内区間のみと限られていて、他エリアへ足を延ばすことが難しい。そのせいか列車で訪れた観光客は、そのまま折り返し列車を利用して宇都宮方面へ戻る人が多いようだ。列車の折り返し時間はたっぷりとられていて、最短16分から最長で48分という具合だ。筆者は折返し時間を利用して駅周辺を歩いてみた。

↑2014(平成26)年3月に新装された烏山駅。線路は敷かれていないが元線路用地が残されている(左上)

 

今は電気施設が設置されているため、ホームの先20mほどで線路は途切れているが、以前は200m先付近まで線路が延びていた。その線路の跡地らしき空き地が確認できる。昭和中期までは、烏山駅の先を真岡鐵道の茂木駅や水郡線の沿線まで延伸する計画もあったとされる。駅の先に残る跡地は、鉄道最盛期だった時代の夢物語の残照と言ってよいだろう。

 

【烏山線の旅⑩】帰路のための充電をして発車準備を整える

列車の折り返しまで少なくとも16分の時間を設けている烏丸線の列車だが、これには理由がある。蓄電池電車EV-E301系の充電時間なのだ。烏山駅に到着したEV-301系はすぐにパンタグラフを上げて、駅の設備を使って充電を行う。ホームに設けられた充電設備を「充電用剛体架線」と呼ぶ。

 

運転台には「剛体架線」と記された画面がモニターに映し出され、蓄電池にどのぐらいの電気が充電できたか表示される。充電中にモニターには95%という数字が記されていた。この数値は蓄電池への充電の割合を示す値で、発車待ちをする運転士に尋ねると75%以上の値を示せば走行に問題はないそうだ。

↑烏山駅に設けられた充電用剛体架線装置。パンタグラフを上げて、非電化区間を走行するための電気を蓄電池にため込む

 

帰りの非電化区間を走るための充電が完了したEV-E301系。烏山駅のホームに地元のお祭りのお囃子「山あげ祭り」の発車メロディが鳴り終わると、間もなく列車は静かに走り出した。

 

帰りの非電化区間を走るための充電が完了したEV-E301系は、烏山駅のホームに地元のお祭りのお囃子「山あげ祭り」の発車メロディが鳴り終わると、静かに走り出した。

 

ちなみに、烏山線の7駅(宝積寺駅を除く)には、それぞれ縁起のよい「七福神」が割り当てられている。烏山駅は毘沙門天(びしゃもんてん)、滝駅は弁財天という具合で、各駅にはそうした七福神の案内板が掲げられている。この七福神の割り当ては宝積寺、大金という縁起の良い駅名があることから行われた。次に烏山線を訪れたときには大黒天が割り当てられた大金駅に下車して、駅に隣接する大金神社に参拝し、金に縁のある神との良縁を願おうと誓った筆者であった。

↑烏山駅に設けられた毘沙門天の案内看板。烏山線の7駅には縁起のよい七福神の名前が割り当てられ、イラスト入りで紹介される

ほしい装備は”全部入り”! 自転車の枠を超えたビアンキのe-Bike「E-OMNIA」

昨年登場したe-Bikeの中で大きな注目を集めたのがビアンキの「E-OMNIA(イーオムニア)」というモデル。価格が93万5000円と高価なことも話題になりましたが、その価格の理由やほかのe-Bikeと何が違うのかについて、実車を試乗しながら探ってみました。

↑ビアンキの「E-OMNIA」には2つのフレームタイプが存在しますが、今回乗ったのはクロスバイクのT-TYPE。価格は93万5000円(税込)

 

BOSCH製のハイパワーなドライブユニットを採用

e-Bikeの心臓部となるのはドライブユニット(モーター)とバッテリーですが、「E-OMNIA」にはどちらも最高峰のものが採用されています。ドライブユニットはBOSCH製の最高峰グレードとなる「Performance Line CX」を搭載。これはマウンテンバイクタイプのe-MTBにも採用されているもので、85Nmという高トルクを発揮します。バッテリーもBOSCH製では最も容量の大きい625Whのものが搭載されています。

↑クロスバイクタイプにはあまり採用されないハイパワーなBOSCH「Performance Line CX」ドライブユニットを車体中央に搭載

 

↑625Whの大容量バッテリーはフレーム内部に搭載され、スマートなルックスに貢献。最大170kmのアシスト走行が可能になっています

 

アシストモードの切り替えなどを行うコントローラーとディスプレイは、BOSCH製の最新「Kiox」を採用。スピードや残りの走行可能距離だけでなく、アシストの出力なども表示できます。走行履歴なども記録されるので、これまでにどのくらい走ったか、どのモードをよく使ったかなども把握することができ、メンテナンスにも役立ちます。

↑BOSCHの「Kiox」ディスプレイをハンドルの中央部に装備。カラー表示でビジュアル的な見やすい表示パターンも豊富です

 

↑アシストモードの切り替えなどを行うコントローラーは左手側のグリップ近くに装備されていて使いやすい

 

先進的な駆動機構を採用

強力なアシストをホイールに伝える駆動系も先進的です。一般的な自転車に用いられるチェーンではなく、ベルトドライブを採用。チェーンに比べて伸びが少なく、注油などのメンテナンスが必要ないのも利点です。変速機構は内装タイプとなっていて、停止中にも変速操作が可能。こちらもメンテナンス頻度が低いというメリットもあります。

↑駆動系にベルトドライブを採用。チェーンと異なり、注油しなくても伸びたり錆びたりする心配がありません

 

↑変速機構は内装式の5段。変速ショックが少なく精度の高いシマノの「NEXUS」が採用されています

 

フロントにはサスペンション機構を搭載。街乗りでも段差を越えたり、荒れた路面を走る際にはありがたい機構です。しかも、街乗り向けのスペックではなく、ROCK SHOX製の「RECON」というMTBにも採用されている高性能なもの。ブレーキは油圧式のディスクで、パワフルで重量のある車体をしっかりと制動することができます。

↑スプリング式ではなく軽量なエアー式のROCK SHOX「RECON」サスペンションをフロントに採用

 

↑重量のあるe-Bikeでは必須の装備といえる油圧式のディスクブレーキは、信頼性の高いシマノ製でディスク径は180mm

 

バイクに近いような構造を採用

フレームはアルミ製ですが、かなりがっしりした作り。バッテリーを内蔵する部分だけでなく、リアホイールを保持する部分も太くて強力な駆動力をしっかりと受け止める設計となっています。リアキャリアまで一体となった作りで、従来の自転車からエンジン付きのバイクに近づいていっているように感じます。

 

また、バッテリーから給電されるライトもフレームに内蔵。フロントだけでなく、リアのライトも内蔵されていて、夜間の走行での安心感を高めています。

↑太いフレームの前面に大型のライトを内蔵。かなり明るいライトで、デザイン的にも先進的です

 

↑リアのキャリアも一体化した作りで、その部分に赤く光るライトを内蔵。リアタイヤを支えるフレームはバイクを思わせる太さ

 

e-Bikeの中でも先進性を感じさせる乗り味

「E-OMNIA」T-TYPEの重量は約32kg。この種のe-Bikeの中でもかなりの重量級です。いくらパワフルなドライブユニットを搭載しているとはいえ、走りにどう影響するのか? と試乗前は危惧していました。ただ、実際に走ってみると車体の重さは全く感じません。アシストは強力ですが、ガツンと車体が押し出されるような唐突感は皆無。スムーズに速度が乗っていきます。

↑ペダルを回しているだけでスムーズに加速していく感覚はe-Bikeならでは。車体の重量は全く気になりません

 

坂道での登坂能力を確認するため、角度のある登り坂も走ってみました。e-MTBにも採用されるドライブユニットなので、あまり不安は持っていませんでしたが、実際に登ってみて感じたのはアシストのフィーリングが自然なこと。グイグイ登って行くというより、ペダルを回していると勝手に登って行ってくれるような感覚です。

↑結構角度のある坂なのですが、立ち漕ぎはおろか強くペダルを踏み込む必要もないくらいパワフルに登って行きます。自分がパワーアップしたような感覚!

 

もう1つ感じたのはコーナーリングでの安定感。29インチで太めのタイヤを装備していることもありますが、ここでは車体の重さとフレームの剛性が効いているようです。クロスバイクにありがちな細身のタイヤと違い、タイヤがしっかりと路面を掴んでくれているような感覚。重量がある車体であることも関係していますが、バイクでのコーナーリングに近いようなフィーリングです。この辺はほかのe-Bikeではあまり感じたことのないものでした。

↑太めのタイヤがしっかりと路面をグリップしてくれている感じ。フロントフォークもしっかり沈んでいて、バイクに近い感覚です

 

筆者は、それなりに多くの種類のe-Bikeを乗ってきましたが、「E-OMNIA」の走行フィーリングはなかなか似ているものが思いつかないものでした。これまでのe-Bikeは自転車にアシストをプラスしたような感覚のものが多かったのですが、「E-OMNIA」ははじめから重いドライブユニットやバッテリーありきで設計されているように感じます。見るからに剛性の高いフレームも、人力で走る自転車では重すぎるでしょうが、その重みも逆に利用して安定感を高めているような乗り味。e-Bikeのステージをさらに進めるような先進性を感じました。

 

必要な装備が“全部入り”と言えるような装備の充実度と、先進的な乗り味。使い勝手や快適性も高いことを考えると、高価な車両価格も納得できるような完成度でした。購入できる人は限られるかもしれませんが、その乗り味は一度味わっておいて損はないものだと思います。

 

撮影/松川 忍

 

 

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共通点は軽快なフットワーク! ニューバランスとコラボした「NISSAN KICKS 327 EDITION」

電気モーターによる瞬発力のある加速が魅力の「日産キックス e-POWER」。このモデルとニューバランスのコラボレーションが実現し、同ブランドのスニーカー「327」仕様のラッピングを施した世界に1台の「NISSAN KICKS 327 EDITION」が誕生しました。

 

街にもアウトドアにも映えるのが共通項

自動車メーカーとスニーカーブランドのコラボは、あまり聞き慣れませんが「車名の“KIKCS”には英語のスラングでスニーカーという意味があるので、スニーカーブランドとタイアップしたいと考えていました。ニューバランスにはアクティブなイメージがあり、フットワーク軽く毎日を楽しむという『日産キックス e-POWER』のコンセプトと合致すると思い、お声がけさせていただきました」と語るのは日産自動車のチーフマーケティングマネージャーである岡部龍太氏です。

↑NISSAN CROSSINGでのお披露目式で挨拶をする日産自動車の岡部龍太チーフマーケティングマネージャー

 

数あるニューバランス製スニーカーの中で「327」が選ばれた理由については、ニューバランスジャパンのマーケティングディレクターである鈴木 健氏がコメントしてくれました。「『327』は1970年代に販売していた3種類のランニングシューズをオマージュしていますが、その中にはオフロード向けのモデルも含まれています。『日産キックス e-POWER 4WD』はオフロードでも走れますし、街中にも映えるデザイン。そのイメージが『327』にピッタリだと考えました」。

↑ニューバランスジャパンの鈴木 健マーケティングディレクター

 

↑「327」のベースとなった1970年代のスニーカー。ロード用、レース用だけでなく、トレイル用モデルも含まれる

 

↑「320」「355」「Super Comp」の3つのモデルを元に生まれた「327」。オフロードで高いグリップを発揮するソールは、トレイルランニングモデルからインスピレーションを得たもの

 

ニューバランスの「327」は、ソールデザインこそトレイルランニングを思わせるものですが、街中に映えるデザインとされています。そんなことから、ベース車両には緻密な制御が可能な電動の4輪駆動機構を持つ4WDモデルが選ばれました。「日産キックス e-POWER 4WD」は、オフロードでも高い走破性を発揮しますが、遠出だけでなく近場の移動にも気軽に出かけたくなるモデル。両者のコラボは必然だったといえるかもしれません。

↑岡部氏(右)と鈴木氏によって「NISSAN KICKS 327 EDITION」がアンベールされた

 

「327」のディテールをできるだけ忠実に再現!

「NISSAN KICKS 327 EDITION」の特徴は、側面のダイナミックな「N」のロゴだけでなく、「327」のディテールをできるだけ忠実に再現していること。象徴的なソールやスエード生地の質感も再現されており、特にルーフ部分にはシュータンと呼ばれるシューズのアッパー部分が設置されています。

↑大胆な側面のロゴが目立つが、スエード生地の部分はカラーだけでなく質感まで再現されている。「NISSAN KICKS 327 EDITION」の製作期間は約2週間

 

↑最も目を引くのがシュータンを模したルーフ部分の造形。中央部にはNISSANのロゴがあしらわれる

 

最も力を入れた部分について問われた岡部氏は「『327』とどうやって融合させるか、全体のプロポーションと細部の質感」と回答。鈴木氏は完成車を初めて見た際の印象を「感動すらおぼえるほど」だったと答え「ペイントだけでなく、素材感が再現されているので、遠くから見るとスニーカーが走っているよう」と表現しました。

↑多様なカラーが用意される「327」だが、コラボモデルはあえてブランドを象徴するカラーであるグレーでまとめられる

 

このクルマは、2月1日までNISSAN CROSSINGで展示された後、2月4日〜5日は東京都で、2月11日〜12日は大阪府で実際に街を駆け巡る予定。2月14日〜20日はイオンモール土岐(岐阜県)、2月22日〜28日はイオンモール白山(石川県)の日産ブランドアンテナショップで展示されます。

 

その模様を撮影し、日産の公式Twitterアカウントをフォローの上で投稿すると、「日産キックス e-POWR 4WD」が当たる「CATCH THE KICKS」キャンペーンも実施されます。寒い日が続きますが、2月は「NISSAN KICKS 327 EDITION」を探して出かけてみるのもいいかもしれません。

 

「CATCH THE KICKS」キャンペーン概要

【展示日程】

・日産クロッシング(銀座)2023年1月24日〜2023年2月1日

・イオンモール土岐 日産ブランドアンテナショップ:2023年2月14日〜2023年2月20日

・イオンモール白山 日産ブランドアンテナショップ:2023年2月22日〜2023年2月28日

※展示期間は内容を予告なく変更の可能性があります。

 

【走行日程】

・(東京)2023年2月4日〜2023年2月5日 11:00〜16:00

・(大阪)2023年2月11日〜2023年2月12日 11:00〜16:00

※走行時間は変更になる可能性があります。

 

【走行ルート】

1東京エリア:銀座エリア、原宿エリア

2大阪エリア:大阪・梅田エリア、心斎橋エリア

 

【景品】

■A 賞:日産キックス e-POWER 4WD(1 名)

■B 賞:ニューバランス 327・シューチャーム2種・シューレース1種(23名)・シューズボックス

 

【応募方法】

■A賞

1:日産自動車公式 Twitter(@NissanJP)をフォロー

2:「NISSAN KICKS 327 EDITION」の写真を撮影

3:撮影した写真とハッシュタグ「#キックスを捕まえろ」を付け Twitter で投稿

■B賞

1:日産自動車公式 Twitter(@NissanJP)をフォロー

2:1月24日に日産自動車公式 Twitter から投稿されるツイートを、アカウントをフォローした上でリツイートを実施

 

【応募期間】

2023年1月24日〜2023年2月28日

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

【CES2023】ソニー、メルセデス、VWの次世代カーが続々! 海外の魅力的なクルをレポート

世界最大規模のIT家電見本市として知られる「CES2023」が、1月5日~8日の日程で、米国ネバダ州ラスベガスで開催されました。

↑ラスベガス・コンベンションセンターに新たにオープンした巨大なウエストホール

 

そもそも「CES」って何なの?

CESが最初に開催されたのは1967年のこと。以来、北米での最新家電を一手に引き受けて来たこの見本市ですが、90年代頃からPC系が出展するようになり、その後は2012年には北米のカメラ見本市「PMA」と併催。その頃には自動車の電動化が急速に進み始めた自動車メーカーが相次いで出展するようになり、ショーの規模はどんどん巨大化して今に至ります。

 

会場へ出掛けて誰もが驚くのがその規模です。新たにオープンしたウエストホールは驚くほど巨大で、それを含めたラスベガス・コンベンションセンター(LVCC)の端から端まで歩けば確実に15分はかかります。しかも、CESは周辺のホテルを巻き込んで開催されており、2024年には現在工事中となっていたサウスホールが完成すれば、その規模がさらに巨大化することは間違いないでしょう。

↑56年の歴史を持つCES。1995年からはラスベガス・コンベンションセンターで年1回の開催となった

 

【その1】「ソニー・ホンダモビリティ」から生まれた新ブランド名は『AFEELA』

さて、そんなCES2023で日本メディアにとって最大の関心事となったのが「ソニー・ホンダモビリティ(SHM)」の動向です。同社は、昨年、ソニーとホンダが半分ずつ出資し合って設立した合弁会社で、その第一弾が2025年前半にも新型EVとして先行受注されることが発表されていたからです。

↑ソニー・ホンダモビリティが提供するブランド名は『AFEELA』。発表されたそのプロトタイプ第一号

 

発表当日、立ち見席が出るほどの超満員の会場で発表されたのは新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」と、そのプロトタイプ第一号モデルでした。AFEELAには「得られる体験の核心を、『感じる(feel)』に込めた」とし、シンプルなデザインのプロトタイプからは新しいEVメーカーが放つ新型車に多くの期待が込められていたようです。

↑新たにヨーク型ステアリングを採用し、ディスプレイに表現されるコンテンツが見通せるようにした

 

↑周囲にクルマ側の情報を知らせる「Media Bar」。充電状況や天気予報などを知らせることもできる

 

プロトタイプに備えられた最大の特徴は車内外に備えられた45個にも及ぶセンサーです。このセンサーによって高度な運転支援や快適なインターフェースなどを実現し、そのセンサーからの情報を処理するのがクアルコムの「Snapdragon Digital Chassis」です。これによって、かつてない魅力に富んだ高付加価値車を生み出そうというわけです。

↑ソニー・ホンダモビリティのプレスカンファレンスには、クアルコムのクリスティアーノ・アモンCEOが登壇した

 

SHMでは、2025年前半にまず北米で先行受注を開始し、同年末までには発売に踏み切るとしており、日本でも展開を予定。北米での最初のデリバリーは2026年春を予定しているとのことです。

 

【その2】揃い踏みしたドイツの自動車メーカー。シュワルツェネッガーも登場!

それ以外の自動車メーカーの出展も目白押しです。特に力が入っていたのがドイツ勢です。中でも注目を浴びたのはBMWでした。BMWは基調講演で『i Vision Dee』を発表し、スマホ一つで車体の色を変幻自在に変更できる世界初の機能を披露したのです。ボディカラーは32色に変化させられ、240セグメントに分割されたボディ表面のラップと組み合わせれば無限のボディカラーが表現できるということでした。

↑ボディカラーを32色に変えられる『i Vision Dee』。ボディ表面のラップは240セグメントに分割され、スマホから変幻自在に変えられる

 

講演中はハリウッドスターのアーノルド・シュワルツェネッガーが登場し、アナログ世代からデジタルネイティブ世代への橋渡し役を務めるなど、その演出にも注目が集まりました。

↑BMWの基調講演にはハリウッドスターのアーノルド・シュワルツェネッガーも登場した

 

メルセデス・ベンツが出展したのは、次世代EVコンセプト『ヴィジョンEQXX』です。その空気抵抗係数は驚きの0.17!マグネシウムなどを使用して徹底的に軽量化したシャシーは技術の集大成と言えるでしょう。また、Dolby Atmosの没入感でカーエンタテイメントが楽しめる新型EV『EQS』の展示も人気を呼んでいました。

↑メルセデス・ベンツ次世代EVコンセプト『ヴィジョンEQXX』

 

↑メルセデス・ベンツはDolby Atmosの没入感を体感できる新型EV『EQS』も人気を呼んでいた

 

フォルクスワーゲンは次世代EVプラットフォーム「MEB」を採用した、いわゆるパサートクラスの『ID.7』をカモフラージュ仕様で初公開しました。展示車両は特殊な塗装により、最上層の塗装の下に電気を通すことで発光する仕組みで、閉じられた空間で音と光を連動させた効果を演出していました。

↑VWは、MEBをベースにした新型『ID.7』のカモフラージュ仕様を公開した

 

【その3】コンセプトカーで圧倒的な存在感をアピールしたステランティス

一方、CES2023で存在感を発揮していた自動車メーカーがステランティスです。同社は2021年1月に、フランスの自動車メーカーグループPSAとイタリアとアメリカの自動車メーカーフィアット・クライスラー・オートモービルズが合併して誕生しました。

 

そのステランティスのブースで際立っていたのが、コンセプトカー『プジョー・インセプション・コンセプト』です。全長5.0mでありながら全高は1.34mに抑えられ、キャビンのほとんどはガラス張り。モーターはフロントとリアに合計2基備え、その出力は680hp(500kW)となり、静止状態から100km/hまでの加速はなんと3秒未満!まさに外観の迫力に違わないハイパフォーマンスカーと言えるでしょう。

↑ステランティスが公開したコンセプトカー『プジョー・インセプション・コンセプト』

 

↑『プジョー・インセプション・コンセプト』のルーフは全面ガラス張り。そのデザインも先鋭的だ

 

ステランティス傘下の「Ram」が出展したのがピックアップトラックタイプの『Ram 1500 Revolution BEV Concept』です。2つの電動駆動モジュールを搭載して全輪駆動で走行し、ピックアップながら新しいアーキテクチャーにより、より広々とした室内空間と長いキャビン長を実現。バッテリーは最大出力350kWの800V急速充電にも対応し、約10分間で航続距離160kmを充電できます。量産モデルは2024年に市場投入する予定です。

↑ステランティス傘下のRamが出展したピックアップトラックのEVコンセプト『ラム1500BEVコンセプト』

 

↑『ラム1500BEVコンセプト』の車内。ピックアップトラックとは思えないゆったりとした室内を実現した

 

【その4】それぞれの独自技術で個性を発揮したサプライヤーが目白押し

続いては自動車部品メーカー(サプライヤー)で見つけた注目の展示を披露したいと思います。

 

まず世界最大のサプライヤー「ボッシュ」の展示で注目したのは、同社のセンサー技術を活用した新たなモビリティソリューション『RideCare Companion』です。普及が進むライドシェアのドライバー向けに開発されたもので、常に車内の様子を映像で捉え、緊急時には付属するSOSボタンでボッシュのサービスセンターへ緊急通報できるのがポイントです。デバイスを含めて米国で年間120ドル程度のサブスクでの提供を想定しているとのことでした。

↑ボッシュが出展したのはライドシェア向けの新たなモビリティソリューション『RideCare Companion』

 

フランスのサプライヤー「ヴァレオ」が出展したのは、歩行者への利便性やEV用充電器としても活用できる『スマートポール』です。ポール下部に埋め込まれた超音波センサー(ソナー)で歩行者の位置を把握しながらトップに備えられた円形のLED照明が必要な位置を照らします。さらに、光学カメラやサーマルカメラ、レーザースキャナ「SCALA LiDAR」により、歩行者の位置に応じて信号を切り替えたり、歩行者が道路へ飛び出さないような警告を出すこともできるそうです。

↑「ヴァレオ」が出展した『スマートポール』。歩行者への利便性やEV用充電器としても活用できる

 

自動車向けシートを開発するトヨタ紡織は、MaaS社会に向けて、将来の自動運転を想定した二つの車室空間を提案しました。一つはMaaSシェアライド空間コンセプトの『MX221』で、自動運転レベル4を想定した都市部シェアモビリティです。多様な移動ニーズへの対応や、利用シーンに合わせた空間レイアウトや内装アイテムの載せ替えを可能としました。もう一つはMaaSサービス空間コンセプト「MOOX」で、自動運転レベル5の時代における、さまざまなサービスニーズに対応する車室空間コンセプトとしました。

↑トヨタ紡織のブース。右側がMaaSシェアライド空間コンセプトの『MX221』

 

↑トヨタ紡織の『MX221』では、多様な移動ニーズや利用シーンに合わせた空間レイアウトを可能とした

 

↑トヨタ紡織のMaaSサービス空間コンセプト「MOOX」。自動運転レベル5を想定したサービスを提供する

 

【その5】パナソニック、Boseが時代に合わせた音へのこだわりを提案

パナソニックが出展したのは、EV向けに開発した『EVオーディオ』システムです。ドアスピーカーの廃止などスピーカーのサイズと数を減らすことで、最大67%の省エネを実現。スピーカーの設置場所の最適化やサウンドチューニングなどにより、少ないスピーカーでも音響性能を向上させているのがポイントとなります。今までのようにオーディオを楽しみながら、バッテリー消費を少しでも抑えたいEVにとって重要なスペックとなりそうです。

↑パナソニックが出展した『EVオーディオ』システム。スピーカーのサイズと数を減らすことで最大67%の省エネを実現

 

車載オーディオのプレミアムブランド「Bose」が披露したのは、大型SUVのGMC/Yukon Denaliに搭載した『3DX Experience』です。ステレオ音源の3Dアップミックス再生を実現したもので、ハイトスピーカーの活用によって臨場感豊かな3Dサラウンド効果を発揮します。中でもドルビー・アトモスを組み合わせた3D再生では、ハイトスピーカーのあり/なしで切り替えて体験ができ、いずれも高い完成度で満足いくサウンドが楽しめました。

↑Boseが披露した『3DX Experience』を搭載したGMC/Yukon Denali

 

↑『3DX Experience』ではドルビーアトモスのモードも用意し、大型SUVの空間を活かした臨場感豊かなサラウンド効果を発揮した

 

会場内には、他にもワクワクするようなモビリティがありました。

↑予約受付中の空飛ぶクルマ「ASKA」。シリーズ式ハイブリッドエンジンで250マイル(約402.3km)を飛行できる

 

↑ジョン・ディアが公開した横幅が約36mもあるらしい象徴的な大型スプレーヤー(農薬等散布機)。雑草に対して的確に農薬を散布する

 

 

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静かで力強く走行できるシャーシ性能が魅力のメルセデス・ベンツ「EQB」

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」でピックアップするのは、メルセデス・ベンツのEQB。SUVのピュアEVで、実用性について見どころが多いモデルだ。

※こちらは「GetNavi」 2023年1月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【EV】

メルセデス・ベンツ

EQB

SPEC【EQB350 4MATIC】●全長×全幅×全高:4685×1835×1705mm●車両重量:2160kg●パワーユニット:電気モーター×2●バッテリー総電力量:66.5kWh●最高出力:195[98]PS/5800〜7600[4500〜14100]rpm●最大トルク:37.7[15.3]kg-m/0〜3600[0〜4500]rpm●一充電最大航続距離(WLTCモード):468km

●[ ]内はリアモーターの数値

 

電動化によってシャーシの性能強化も魅力に!

Cセグメントというギリギリコンパクトなクラスながら、3列シートを実現。日本の都市部で理想的なパッケージとして大人気のSUV、GLBのEVバージョンといえるEQBだけに、メルセデスの電動車ブランドである“EQ”のなかでも一番人気のモデルだ。

 

リーズナブルな価格でFWD(前輪駆動)のEQB250は一充電走行距離が520km(WLTCモード)、ハイパフォーマンスで4WDのEQB350 4MATICは468kmと航続距離はそれぞれ十分で、プレミアムブランドの電気自動車のなかでも、多くの人が購入の第一候補としているモデルというのにも納得できる。

 

SUVらしいボクシーなスタイルも魅力だが、その背の高さによるデメリットを打ち消してしまうのが電気自動車ならでは。バッテリーを床下に敷き詰めているので、低重心で操縦安定性が高い。環境負荷が低減できるだけではなく、静かで力強く走行できるシャーシ性能でも魅力のモデルだ。

 

[Point 1]随所に専用デザインを採用

アンビエントライトやメーター回りなどが専用デザインとなるが、インパネの作りは基本的にエンジンモデルのGLBと変わらない。最新のメルセデスらしく運転支援関連の装備は充実している。

 

[Point 2]荷室の使い勝手はベース車と同等

3列シートまで使用する状態でも荷室容量は110Lを確保。後席を完全にたためば、容量は最大で1620Lにまで拡大する。SUVとしての実用性はハイレベルだ。

 

[Point 3]ベース車のイメージも踏襲

随所に専用デザインを採用しつつ、外観はベースとなったGLBのイメージを踏襲。日本仕様は、2WDの250と前後にモーターを搭載した4WDの350 4マチックの2グレードが揃う。

 

[Point 4]3列目シートは身長制限アリ

3列目は身長165cm以下という制限付きだが、コンパクト級SUVとしては満足できる広さを確保。2列目には前後スライド機構も備わる。

 

[ラインナップ](グレード:パワーユニット/駆動方式/税込価格)

EQB250:電気モーター/2WD/822万円

EQB350 4MATIC:電気モーター×2/4WD/906万円

 

 

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「しなの鉄道線」沿線の興味深い発見&謎解きの旅〈後編〉

おもしろローカル線の旅104〜〜しなの鉄道・しなの鉄道線(長野県)〜〜

 

東日本で希少になった国鉄近郊形電車の115系が走る「しなの鉄道しなの鉄道線」。沿線には旅情豊かな宿場町や史跡が点在し、興味深い発見や謎に巡りあえる。前回に続き、しなの鉄道線の小諸駅から篠ノ井駅までのんびり旅を楽しみたい。

*2015(平成27)年1月10日〜2023(令和5)年1月2日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
「しなの鉄道線」115系との出会い&歴史探訪の旅〈前編〉

 

【信濃路の旅⑪】眼下に千曲川を眺めつつ鉄道旅を再開

 

小諸は千曲川が長年にわたり造り上げた河岸段丘に広がる町だ。小諸市街と千曲川の流れの高低差は30m〜50mもあるとされる。

 

河岸段丘の上にある小諸駅を発車した列車は、まもなく左右の視界が大きく開ける箇所にさしかかる。左手のはるか眼下には千曲川が流れており、列車から隠れて見通せないが、布引渓谷と呼ばれる美しい渓谷付近にあたる。また、進行方向右手を見れば浅間連峰の烏帽子岳(えぼしだけ)などの峰々を望むことができる。

↑小諸駅近くを走る初代長野色の115系。背景に浅間連峰の山々が連なって見える

 

千曲川の流れに導かれるように、しなの鉄道線は西に向かって走り、その線路に沿って北国街道(現在の旧北国街道)が付かず離れず通っている。北国街道は江戸幕府によって整備された脇街道の一つで、小諸駅の先はやや北を、田中駅からは線路のすぐそばを並走する。

 

【信濃路の旅⑫】宿場町「海野宿」の古い町並みはなぜ残った?

田中駅から徒歩約20分、約1.9km離れたところに、海野宿(うんのじゅく)という北国街道の宿場町がある。細い道沿いに旅籠屋(はたごや)造りや茅葺き屋根の建物、そして蚕(かいこ)を育てた時代の名残である蚕室(さんしつ)造りの建物が連なる。国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されていて、よくこれだけの町並みがきれいに残ったものだと驚かされる。

↑掘割(左下)と細い道筋の両側に古い家が建ち並ぶ海野宿。「海野格子」などの伝統様式を残した家が多い

 

歴史をひも解くと海野宿は1625(寛永2)年に北国街道の宿として開設された。

 

それ以前は、現在の田中駅近くに田中宿という宿場町があったが、大洪水により被害を受けて本陣や多くの宿が海野宿へ移転したそうだ。千曲川は当時からこの地に住む人を苦しめていたわけだ。海野宿へ移った後は伝馬屋敷59軒、旅籠23軒と大いに賑わったそうである。海野宿は今も650mに渡って古い家が連なり、宿や飲食店などもあって訪れる観光客が絶えない。

↑田中駅(右上)から海野宿を目指し西へ。しなの鉄道線に沿って遊歩道が整備されている。同歩道は旧信越本線の廃線跡を利用したもの

 

ところで、しなの鉄道線は海野宿のすぐ北を通り抜けているが、信越本線が開業したときに、最寄りになぜ駅が生まれなかったのだろうか。

 

史料は残っていないが、駅の開業を反対する声が上がったのだろう。当時は、蒸気機関車が排出する煙や煤(すす)、火の粉が好まれず、路線開設にあたり各地で反対運動が起こりがちだった。海野宿では蒸気機関車の煙が蚕の害になるといった声も出たようで、こうした反対運動により駅の建設は中止となった。

 

全国に残された古い町並みの共通点として、大規模な開発が行われなかったことがある。駅が開業すれば開発も進むわけで、駅ができなかったことが、海野宿の町並みを残したとも言えるだろう。

 

なお、海野宿から西にある大屋駅(おおやえき)まで徒歩で約18分、約1.4kmと距離がある。しなの鉄道線を利用して海野宿へ行く場合、田中駅、大屋駅の両駅からもかなり歩かなければいけない。

↑海野宿のすぐ北を走るしなの鉄道線。宿場町は田中駅〜大屋駅間のちょうど中間にあり、観光で訪れるのにはやや不便な立地だ

 

【信濃路の旅⑬】千曲川の濁流がすぐ近くまで押し寄せた

江戸時代に洪水が海野宿という宿場町を生み、繁栄させるきっかけになったというが、今も千曲川の豪雨災害は人々を苦しめている。

 

最近では2019(令和元)年10月12日に長野県を襲った台風19号の被害が大きかった。しなの鉄道線の北側を走る国道18号から海野宿まで、線路を立体交差する海野宿橋が架かっていたが、台風19号による豪雨災害で、橋付近の護岸が約400mに渡って崩れ、海野宿橋と東御市(とうみし)の市道部分が崩落。橋が使えなくなってしまった。この台風による影響で、しなの鉄道線も上田駅〜田中駅間が1か月にわたり運休となった。

↑海野宿橋から望む、しなの鉄道線と千曲川(右側)。ふだんは静かな流れだが、豪雨時には周辺地区が氾濫の脅威にさらされる

 

↑海野宿橋と千曲川護岸の復旧工事が進められた2021(令和3)年1月2日の模様。右上は復旧された海野宿橋の現在

 

その後、海野宿橋の復旧工事は2022(令和4)年3月1日に完了。橋が復旧してから海野宿へ訪れる人も徐々に回復しつつあるようだ。

 

ちなみに、台風19号は海野宿の下流でも大きな被害を出している。しなの鉄道線の沿線では、上田駅と別所温泉駅を結ぶ上田電鉄別所線の千曲川橋梁の橋げたの一部が崩落。そのため長期にわたり不通となり、代行バスが運転された。不通となってから約1年半後、2021(令和3)年3月28日に全線の運行再開を果たしたが、台風19号による千曲川の氾濫被害は深刻なものだった。

 

↑上田電鉄の千曲川橋梁は台風19号による千曲川の増水により橋梁が崩落した。左下は復旧後の千曲川橋梁

 

たび重なる豪雨災害で苦しめられてきた千曲川の流域だが、一方で川の恵みもあったことを忘れてはならない。古代から千曲川は水運に使われてきた。木材の運搬だけでなく、川舟による人の行き来も盛んに行われ、この地の文化や歴史を育んできた。ゆえに、しなの鉄道線の沿線では、古くからの人々の足跡を残す史跡も多い。

 

【信濃路の旅⑭】真田家が造った難攻不落の上田城

大屋駅の一つ先、信濃国分寺駅(上田市)の近くには信濃国分寺がある。現在残る信濃国分寺は室町時代以降に再建されたものだが、しなの鉄道線の線路の南北には奈良時代に建立された僧寺跡と尼寺跡があったことが発掘調査で明らかになった。遺跡が発掘された土地は史跡公園として整備され、園内に信濃国分寺資料館(入館有料)が設けられている。

 

奈良時代に聖武天皇が中心となり、各地に国分寺建立を推し進めたが、中央政権はこの上田を信濃の中心にしようと考えていたのだろう。

↑しなの鉄道線の南北に広がる史跡公園。同地で旧国分寺の遺跡が発掘されている

 

一方、上田で今も市民が誇りにしているのが戦国時代の真田家の活躍である。上田駅の北西に残る上田城は真田信繁(幸村)の父、真田昌幸が築城し、攻防の拠点として役立てた。第二次上田合戦と呼ばれる1600(慶長5)年の戦いでは、兵の数で劣る真田軍が上田周辺の地形を巧みに利用して徳川秀忠(後の徳川2代将軍)軍を翻弄。これにより、秀忠軍は関ヶ原の合戦に間に合わなかったことがよく知られている。

 

その後、真田家は松代(まつしろ・長野市)に領地を移されたが、今でもその活躍ぶりは上田市民の誇りとなっている。

↑上田城址本丸跡の入り口に立つ東虎口櫓門と南櫓(左側)。この櫓門の下には真田石という巨石が今も残る

 

しなの鉄道線の上田駅から上田城の入口までは駅から徒歩で約12分。900mほどの距離だ。この上田城の入口には二の丸橋が架かっており、橋の下には二の丸をかぎの手状に囲んだ二の丸堀跡が残っている。堀の長さは1163mあり、難攻不落の城の守りの要として役立てられた。

 

二の丸堀跡は現在、「けやき並木遊歩道」として整備されているが、この堀をかつて上田温泉電軌(現在の上田電鉄の前身)の真田傍陽線(さなだそえひせん)が走っていた。二の丸橋のアーチ下には、当時に電車が走っていたことを示す碍子(がいし)が残されている。

↑上田城の二の丸堀跡と二の丸橋。ここに1972(昭和47)年まで電車が走っていた。現在は「けやき並木遊歩道」として整備される

 

【信濃路の旅⑮】坂城駅の駅前に止まる湘南色の電車は?

上田駅から先を目指そう。一つ先の駅は西上田駅で、ホームの横に多くの側線があることに気がつく。この駅から先の篠ノ井駅までJR貨物の「第二種鉄道事業」の区間になっており、2011(平成23)年3月まで石油タンク列車が乗入れていたが、今は西上田駅の2つ先の坂城駅(さかきえき)までしか走らない。西上田駅構内にある側線はそうした名残なのだ。

↑石油タンク車が多く停車する坂城駅構内。ホームから入換え作業を見ることができる

 

石油輸送列車が走る坂城駅に隣接してENEOSの北信油槽所がある。この駅まで石油類が輸送され、ここからタンクローリーに積み換えが行われ北信・東信地方各地へガソリンや灯油が運ばれていく。

 

石油輸送列は、神奈川県の根岸駅に隣接する根岸製油所から1日2便(臨時1便もあり)が運行されているが、信越本線の横川駅〜軽井沢駅間が途切れて遠回りせざるをえず、輸送ルートは複雑になっている。根岸駅から根岸線、高島線(貨物専用線)、東海道本線、武蔵野線(南武線)、中央本線、篠ノ井線、しなの鉄道線を通って運ばれてくる。それこそ遠路はるばるというわけだ。

 

ちなみに、坂城駅の北信油槽所と線路を挟んだ反対側には、湘南色の電車が3両保存されている。これは1968(昭和43)年に製造された169系で、信越本線の横川駅〜軽井沢駅間の急勾配区間で、EF62形電気機関車との協調運転が始まったときに導入された。信越本線では急行「信州」「妙高」「志賀」として運行。そのうち「志賀」は現在のしなの鉄道線の屋代駅から先、長野電鉄屋代線(詳細後述)へ乗入れ、湯田中駅まで走っていた列車だ。

↑坂城駅の隣接地で保存される169系S51編成。写真は2018(平成30)年7月14日時のもので塗装もきれいな状態に保たれていた

 

坂城駅の隣接地に静態保存されるのは169系のS51編成で、JR東日本からしなの鉄道に譲渡後に2013(平成25)年4月まで走っていた。ラストラン後に地元の坂城町が譲り受け、ボランティア団体の169系電車保存会会員の手で守られている。3両のうち、「クモハ169-1」と「モハ168-1」は169系のトップナンバーという歴史的な車両でもある。風雨にさらされて保存されているため、車体の状態や塗装が年を追うごとに悪化しがちだが、保存会のメンバーが塗り直しをするなど懸命な保存活動が続けられている。

 

【信濃路の旅⑯】戸倉駅の車両留置線がなぜこんな所に?

坂城駅の一つ先が戸倉駅(とぐらえき)で戸倉上山田温泉の玄関口となる。しなの鉄道線の車両基地がある駅でもあり、鉄道ファンにとっては気になるところだ。

↑しなの鉄道線の車両基地がある戸倉駅。駅前に戸倉上山田温泉の名が入ったアーチが立つ。訪れた日は後ろの山が冠雪して美しかった

 

戸倉駅の車両基地には115系やSR1系が多く留置されていて、周囲を歩くとこうした車両を間近で見ることができる。この車両基地はちょっと不思議な構造になっていて、荒々しい地肌が見える山のすぐ下に電車が留置されているのが興味深い。駅に隣接した留置線から、かなり離れているように見える。

↑戸倉駅構内にある車両基地。周囲を囲む道路から間近に電車が見える。この日は「台鉄自強号」塗装の115系(右側)も停車していた

 

レールの先をたどると車両基地の裏から400mほど2本の線路が延びていて、その先に複数の電車が止められていた。歴史を調べると、この線路は元は駅と戸倉砕石工業の砕石場を結ぶ引込線として使われていたことが分かった。この引込線の跡が今も車両基地の一部として使われていたのだ。

↑旧砕石場への元引込線を利用した線路に115系が停車中。線路のすぐ上の山中では今も砕石事業が続けられている

 

【信濃路の旅⑰】屋代駅に残る長野電鉄屋代線の遺構

戸倉駅の次の駅は千曲駅(ちくまえき)で、この駅はしなの鉄道線となった後に開業した駅だ。しなの鉄道線には西上田駅〜坂城駅にあるテクノさかき駅のように、第三セクター鉄道となってからできた駅が複数ある。なぜ国鉄時代やJR東日本当時に、駅を新たな開設しなかったのか不思議だ。

 

↑屋代駅の年代物の跨線橋。奥までは入れないが、元ホームに向かう跨線橋は台形の形をしていてレトロな趣満点の造りだ(左下)

千曲駅の次が屋代駅(やしろえき)で、地元・千曲市の玄関口でもあり規模の大きな駅舎が建つ。駅舎側1番線ホームと2・3番線ホームの間にかかる跨線橋は、使われていない東側の元ホームまで延びている。

 

この元ホームは2012(平成24)年3月末まで長野電鉄屋代線の電車が発着していた。屋代線は屋代駅と長野電鉄長野線の須坂駅(すざかえき)を結んでいた路線で、スキー列車が多く走った時代には上野駅と志賀高原スキー場の玄関口、湯田中駅を直通運転する急行「志賀」が走った。ちなみに、この列車には坂城駅に保存された169系が使われていた。屋代駅の跨線橋はそんな歴史が刻まれていたわけである。

 

屋代線は屋代駅から先、しなの鉄道線と並行して次の屋代高校前駅方面へ延びていた。今は駅付近のみしか線路が残っていない。なぜ屋代駅構内の屋代線の線路のみが残されているのだろう。

 

これは、屋代駅の隣接地に車両工場があるためだ。長電テクニカルサービスという長野電鉄の別会社の屋代工場があり、屋代線が通っていたときには長野電鉄の車両整備などに使われていた。現在は長野電鉄の路線と離れてしまったために、長野電鉄の車両整備ではなく、線路がつながるしなの鉄道の車両の整備や検査などを主に行っている。そのため、しなの鉄道線との連絡用に元屋代線の線路が生かされていたというわけだ。なお、長野電鉄の車両は、須坂駅に隣接した長電テクニカルサービスの須坂工場で整備が行われている。

 

【信濃路の旅⑱】篠ノ井駅から長野駅までは信越本線となる

屋代駅から北へ向けて走るしなの鉄道線は、次の屋代高校前駅を過ぎると千曲川を渡る。橋の長さは460mあり、列車から千曲川の流れと信州の山々を望むことができる。橋を渡れば間もなく左からJR篠ノ井線の線路が近づいてきて、篠ノ井駅の手前でしなの鉄道線に合流する。

↑篠ノ井駅へ近づくしなの鉄道線の長野駅行き列車。名古屋駅行き特急「しなの」は同位置から分岐して篠ノ井線へ入っていく(右下)

 

しなの鉄道線の下り列車はここから先の長野駅まで走るが、篠ノ井駅〜長野駅間の営業距離9.3kmは今もJR東日本の信越本線のままで、しなの鉄道の電車、JR東日本の電車、JR東海の電車が共用している。長野駅から先の妙高高原駅までは再びしなの鉄道の北しなの線となり、妙高高原駅から先はえちごトキめき鉄道の妙高はねうまラインとなっている。

 

信越本線は高崎駅〜横川駅と、篠ノ井駅〜長野駅、さらに直江津駅〜新潟駅間に3分割されたままの状態で生き続けているわけだ。

 

【信濃路の旅⑲】篠ノ井駅の橋上広場にある〝お立ち台〟

しなの鉄道線の列車は小諸駅から篠ノ井駅まで約40分、長野駅まで約1時間で到着する(快速列車を除く)。

 

しなの鉄道線は篠ノ井駅までということもあり、旅は同駅で終了としたい。改札口から自由通路に出ると、橋上広場のフェンスの前に親子連れの姿があり、手作りの階段に上り、下を通り過ぎる北陸新幹線のE7系、W7系電車を見続けていた。この手作りの階段は、新幹線を楽しむのにはまさに最適な〝お立ち台〟となっている。

↑しなの鉄道線の終点でもある篠ノ井駅。橋上にある広場には新幹線の姿が楽しめる〝お立ち台〟が設けられている。

 

しなの鉄道の路線は長野駅の先にも続いている。また機会があれば長野駅〜妙高高原駅間を走る北しなの線も紹介したい。こちらもしなの鉄道線に負けず劣らず、風光明媚で乗って楽しい路線である。

文句なしのカッコ良さ! ボルボのEV第1弾「C40 リチャージ」の走りはどう?

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、全ラインナップEV化宣言をしたボルボのEV第1弾モデルを取り上げる! カッコは良いが、走りはどうだ?

※こちらは「GetNavi」 2023年1月号に掲載された記事を再編集したものです

 

 

【レビュアーPROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感。クルマを評論する際に重要視するように。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわっている。

 

【今月のGODカー】ボルボ/C40 リチャージ

SPEC【プラス・シングルモーター】●全長×全幅×全高:4440×1875×1595mm●車両重量:2000kg●パワーユニット:電気モーター●総電力量:69kWh●最高出力:231PS/4919〜11000rpm●最大トルク:33.6kg-m(330Nm)/0〜4919rpm●一充電走行距離:502km(WLTCモード)

659万円〜759万円(税込)

 

素晴らしい性能だけに日本のEV充電の利便性が残念

安ド「殿! この連載にボルボが登場するのは久しぶりですね!」

 

永福「うむ」

 

安ド「久しぶりに登場のボルボは、EVの『C40 リチャージ』です!」

 

永福「EVか……」

 

安ド「そんな憂鬱そうな顔をしないでください!」

 

永福「ボルボはディーゼルエンジンの販売をすでにやめ、ガソリン車の販売も近い将来やめると、急激に電動化を進めている。しかし日本で乗ることを考えると、まだEVを買う気にはなれないのだ」

 

安ド「でも、このC40 リチャージ、素晴らしかったですよ!」

 

永福「たしかに素晴らしいな」

 

安ド「デザインは間違いなくカッコ良いですし、走りも2tという車両重量を考えると、あれだけギュンギュン走るのはスゴいです。カーブでも安定してますね!」

 

永福「付け加えると、乗り心地が絶妙だし、内装のセンスも良い」

 

安ド「今回乗ったのはFFの『シングルモーター』でしたけど、4WDの『ツインモーター』も乗ってみたいです!」

 

永福「ツインモーターの加速はこんなもんじゃないぞ」

 

安ド「そうなんですか!」

 

永福「シングルモーターの最高出力231PSに対して、ツインモーターは408PS。停止状態から100km/hまでの加速は、私が以前乗っていたフェラーリ『458イタリア』とほぼ同じだ」

 

安ド「エエッ! そんなに速いんですか!」

 

永福「うむ。実は乗ったことはないのだが、想像はつく。スーパーEVの加速感は、どれも似たようなものだ」

 

安ド「無音でグワーンと加速するんですね!?」

 

永福「うむ。最初は感動するが、飽きてしまう。このシングルモーターで十分だろう」

 

安ド「そう思います! 値段もツインモーターより100万円安いですし」

 

永福「しかし、このクラスのEVは、日産もトヨタもヒョンデも、どれも同じに思えてしまう。ただひとつ違うのは、テスラだ」

 

安ド「えっ、殿はテスラ派ですか?」

 

永福「もちろんだ。テスラが断然優れている」

 

安ド「テスラのどこがそんなに優れているんですか?」

 

永福「独自の充電ネットワーク『テスラ スーパーチャージャー』を持っていることだ。テスラだけが、日本の要所要所で、テスラ専用の充実した超高速充電サービスを受けられる。他のEVは、順番待ちして1回30分ほど急速充電して、それで100kmちょいしか走れない。この差はあまりにも大きい」

 

安ド「そうなんですか!」

 

永福「日本のEV界では、テスラだけが貴族で、あとは庶民なのだ。ボルボだろうとジャガーだろうと、サービスエリアなどで充電の順番待ちをする必要がある。EVはクルマの性能より、充電の利便性が圧倒的に重要なのだ」

 

安ド「勉強になりました!」

 

【GOD PARTS 1】フロントグリル

穴は埋められたが下部に謎の隙間あり

XC40には立派なグリル(空気取り入れ口)がありましたが、このC40はEVなのでエンジン車のように吸気を必要とせず、フタのようなもので埋められています。が、よく見ると下にちょっと隙間があって、微妙な表情を形作っています。

 

【GOD PARTS 2】リアシート脇の小物入れ

何を入れるか悩む収納スペース

リアシートの脇には、コンパクトな小物入れが設置されています。こういった場所に小物入れがあるクルマはなかなか見ませんが、スッと手の届くところにあるので便利といえば便利。使わないといえば使いませんが。

 

【GOD PARTS 3】スターターレス

キーを挿して回すこともボタンも押すこともなし

スターターボタンもキーを挿すキーシリンダーもありません。では、どうやって走り出せばいいのかというと、ただキーを携帯しながら運転席に座るだけ。これだけで勝手にモーターが起動し、シフトを「D」レンジに入れればもう走れます。

 

【GOD PARTS 4】エンブレム

小さな文字で書かれたオシャレネーム

リアには「RECHARGE(リチャージ)」と車名が書かれたエンブレムが貼られています。意味は「充電する」ということで、ボルボのピュアEV第一弾ということを高らかに謳っています。なお、ツインモーターの4WDは、この下に「TWIN(ツイン)」と付きます。

 

【GOD PARTS 5】ボンネット下収納

フタの下のフタの下に厳重に守られたスペース

モーターをフロントの床下に積むこのクルマでは(4WDモデルはリアの床下にもモーター)、ボディ前方に収納スペースが用意されています。ボンネットを開けてみると、さらにもう1枚フタが……。なんだかマトリョーシカみたいでした。

 

【GOD PARTS 6】レザーフリーインテリア

まるで本革のような質感の新素材を採用

その名のとおり内装に革素材が使われていません。自然環境を守るというボルボの強い意思が感じられますが、なんとボルボはまるで革のようなタッチのインテリア素材を開発! 自然な肌触りで、言われるまで気付きませんでした。

 

【GOD PARTS 7】リアコンビランプ

技術の進歩が生み出した複雑にねじられた形状

まるで「S」のような、いや、「L」と「E」を組み合わせたような複雑怪奇な形状をしています。さらに、触ってみるとかなり凸凹していて、カッコ良いかどうかは別にして、昨今のクルマパーツ業界における造形技術の進歩が感じられます。

 

【GOD PARTS 8】ルーフ&テールゲートスポイラー

上でも下でも整流してさらなる効率化を実現

スポイラーというパーツはスポーツカーに装着されるものだと思われがちですが、実は空力を整えることは燃料消費量にも好影響を及ぼします。C40 リチャージは最新のEVということで、これ見よがしに、上下2段のスポイラーを付けています。

 

【GOD PARTS 9】シフトノブ

穴の空いた形状はどこからきたのか?

ボルボのインテリアといえば、以前はセンターコンソールに左右貫通した横穴が象徴的でしたが、この最新モデルではシフトノブに横穴が残されていました。ここに指を通して操作するわけではなく、ただのオシャレデザインなんでしょうね。

 

【これぞ感動の細部だ!】ワンペダルドライブ

強烈なブレーキ感覚に慣れてEV時代に備えよ

日本では日産のe-POWERでお馴染みかもしませんが、アクセルペダルだけで加速も減速も停止もできる「ワンペダルドライブ」機能がこのC40 リチャージにも搭載されています。しかし、アクセルペダルを緩めたときの回生ブレーキはかなり強烈。これをギクシャクしないように運転することがEVとの共存の第一歩と思って、修行に励みましょう。

 

撮影/池之平昌信

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

「しなの鉄道線」115系との出会い&歴史探訪の旅〈前編〉

おもしろローカル線の旅103〜〜しなの鉄道・しなの鉄道線(長野県)〜〜

 

北陸新幹線の開業にあわせ、並行する信越本線は第三セクター鉄道の「しなの鉄道」に変わった。長野県の東信地方、軽井沢駅と篠ノ井駅(しののいえき)を結ぶしなの鉄道線は、中山道(なかせんどう)と北国街道沿いに敷かれた路線だけに残る史跡も多い。

 

のんびり散策してみると、史跡以外にも発見が尽きない路線でもある。そんなしなの鉄道線の旅を2回に分けて楽しんでいきたい。

 

*2015(平成27)年1月10日〜2023(令和5)年1月2日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。写真・絵葉書は筆者撮影および所蔵、禁無断転載

 

【関連記事】
乗って歩けば魅力がいっぱい!「上田電鉄別所線」で見つけた11の発見

 

【信濃路の旅①】開業から135年間!東信地方を支える

しなの鉄道の路線は軽井沢駅〜篠ノ井駅を結ぶ「しなの鉄道線」と、長野駅〜妙高高原駅を結ぶ「北しなの線」の2本がある。今回は「しなの鉄道線」を紹介したい。まずは概要を見ておこう。

↑浅間山を見上げるようにして走るしなの鉄道線。軽井沢駅〜御代田駅(みよたえき)間の車窓の楽しみともなっている

 

路線と距離 しなの鉄道・しなの鉄道線:軽井沢駅〜篠ノ井駅間65.1km 全線電化複線
開業 鉄道局の官設路線として1888(明治21)年8月15日、上田駅〜篠ノ井駅間が開業、同年12月1日、軽井沢駅〜上田駅間が延伸開業し、現在のしなの鉄道線が全通
駅数 19駅(起終点駅を含む)

 

前身となる信越本線は、明治政府の威信をかけて建設した関東と信越地方を結ぶ幹線ルートで、軽井沢駅〜篠ノ井駅の区間(開業当時は長野駅まで開通)は路線開業から今年で135年を迎える。

 

同区間は北陸新幹線(当時は長野新幹線)が開業した1997(平成9)年10月1日に、第三セクター経営のしなの鉄道に移管された。

 

現在、しなの鉄道線にほぼ沿うように北陸新幹線が走っており、軽井沢駅、上田駅で乗換えできる。しなの鉄道線の路線は篠ノ井駅までだが、ほとんどの列車(区間運転列車を除く)が篠ノ井駅の先の長野駅まで乗入れ、長野県内、特に東信地方に住む人々の大切な足として活用されている。

 

【信濃路の旅②】横川〜軽井沢間の輸送の歴史と現状は?

群馬県と長野県の県境部分にあたる信越本線の横川駅〜軽井沢駅間は、長野新幹線開業時に廃線となっている。この区間は、しなの鉄道線でないものの、信越本線の成り立ちを語る上で欠かせない区間でもあり触れておきたい。

 

軽井沢駅が誕生した5年後の1893(明治26)年4月1日に横川駅までの区間が開業している。横川駅の標高は386m、対して軽井沢駅の標高は939mで、標高差は約553m、両駅間の距離は11.2kmある。数字だけを見ると険しさが予想できないものの、かつてないほどの非常に厳しい急勾配区間が路線計画の前に立ちふさがった。

 

この急勾配を克服するために導入されたのがアプト式鉄道だった。最大66.7パーミルという急勾配に列車を走らせるために、線路の中央に凹凸のあるラックレールを敷いて、機関車が持つ歯車とかみ合わせて列車を上り下りさせた。当初は専用の蒸気機関車で運行していたが事故やトラブルが目立ち、1912(明治45)年にEC40形という電気機関車が導入された。

↑軽井沢駅に停車する列車を写した大正期発行の絵葉書。先頭に連結されるのがEC40形電気機関車。当時の駅舎が復元され今も使われる

 

EC40形は国有鉄道初の電気機関車だった。電気機関車に変更したものの、アプト式では運行に時間がかかり過ぎるため、1963(昭和38)年に新ルートに変更し、EF63形電気機関車を導入。横川駅側に連結して運転する方式に変更され、1997(平成9)年9月30日まで使われた。

 

横川駅〜軽井沢駅間の急勾配区間の列車運行に活躍したEC40形とEF63形は、現在しなの鉄道線の軽井沢駅構内で静態保存されている。両機関車とも日本の鉄道史を大きく変えた車両と言ってよいだろう。

↑横川駅〜軽井沢駅間で活躍したEF63形電気機関車。横川側に2両が連結され列車の上り下りに活用された 1997(平成9)年9月14日撮影

 

横川駅〜軽井沢駅間の旧路線のアプト区間のうち、群馬県側は遊歩道として整備され、また旧路線の線路も残されている区間が多く、観光用のトロッコ列車などに活用されている。一方、軽井沢側の旧信越本線の路線は、観光用に生かされることなく、北陸新幹線の保線基地や、駐車場などに使われている。

↑しなの鉄道線の軽井沢駅ホームの先の線路は駐車場などの施設で途切れている

 

【信濃路の旅③】国鉄形の115系も徐々に新型電車と置換え

ここからは、しなの鉄道線を走る車両を紹介しておきたい。同線ではちょうど新旧電車の入換え時期にあたっている。まずは古い国鉄形車両から。

 

◇115系

国鉄が1963(昭和38)年に導入した近郊形電車で、同時代に生まれた113系に比べて勾配区間に強い性能を持つ。JR東日本から路線および車両を引き継いだしなの鉄道線では長年にわたり走り続けてきた。

 

115系が生まれてから60年あまり。車歴が比較的浅い車両にしても40年とかなりの古豪になりつつあった。譲渡した側のJR東日本では全車が引退し、東日本で残るのはしなの鉄道のみとなる。

 

しなの鉄道の115系も後継車両が導入され始めたこともあり、すでに多くが廃車となりつつあり、残るのは車内をリニューアルした車両のみとなった。今後リニューアル車両も、徐々に減っていくことが確実視されている。

↑赤色をベースにしたしなの鉄道標準色の115系。開業時は3両編成のみが譲渡され、その後は2両編成も多く導入された

 

◇SR1系100番台・200番台・300番台

しなの鉄道が2020(令和2)年から導入を始めた新型車両で100番台〜300番台まである。100番台はロイヤルブルーをベースにした車両で、ロングシート、クロスシートに座席の向きが変更できるデュアルシートを採用、有料座席指定制の快速「軽井沢リゾート」「しなのサンセット」といった列車に利用されている。

 

車体はJR東日本の新潟地区を走る総合車両製作所製のE129系電車とほぼ同じで、車両製造も総合車両製作所が行っている。車体カラーや内装設備を除き、ほぼE129系と同じというわけである。

↑快速列車として走るSR1系100番台。この車両は2本のパンタグラフがあるが、前側は「霜取りパンタグラフ」として使われる

 

200番台・300番台は赤色ベースの車両で、座席はロングシート部分とセミクロスシート部分が連なる造りで、一般列車用に導入された。番台の数字は2種類あるが、大きな変更点はなく正面に入る番台の数字が変わるぐらいだ。

 

余談ながらSR1系の写真を撮る場合には注意が必要になる。正面上部に付いたLED表示器が速いシャッター速度で撮ると文字が読めなくなるのだ。シャッター速度を100分の1まで遅くしてようやく文字が読めるようになるので、走行中の車両をLED表示器まできれいに撮る場合は「ズーム流し」といったテクニックが必要となる。

 

一方、115系はLED表示器が搭載されていないこともあり、撮影の時に気を使わずに済むのがうれしい。

↑車体の色が赤ベースのSR1形200番台。写真は125分の1のシャッター速度で撮影したもの。かろうじて表示器の「小諸」の文字が読める

 

【信濃路の旅④】人気の懐かしの車体カラー・ラッピング列車は?

しなの鉄道の車両で見逃せないのが、115系「懐かしの車体カラー・ラッピング列車」だ。数年前までは標準色に加えて、複数の国鉄カラーの115系が走り、沿線を訪れる鉄道ファンを楽しませていた。

 

最新の「懐かしの車体カラー・ラッピング列車」は下記の通りだ。純粋な国鉄カラーは、初代長野色と湘南色のみとなっている。残念ながらしなの鉄道に唯一残っていた青とクリームの「スカ色(横須賀色)」や、白と水色の「新長野色」の車両は引退となってしまった。

 

現在走っている列車も、新型車両の投入の速さを見ると、数年で乗り納め、撮り納めとなるのかもしれない。

↑4色残る「懐かしの車体カラー・ラッピング列車」。同車両の運行はしなの鉄道のホームページで毎月詳しく発表されている

 

標準色以外の115系といえば、観光列車の「ろくもん」も忘れてはいけない。2014(平成26)年7月から運行が開始された観光列車で、その名は沿線の上田に城を構えた真田家の家紋「六文銭」に由来している。デザインは水戸岡鋭治氏だ。しなの鉄道と水戸岡氏の縁は深く、軽井沢駅などの諸施設のプロデュースやデザインなども担当している。

 

「ろくもん」の車体カラーは真田家の「赤備え」とされる濃い赤。金土日祝日を中心に軽井沢駅〜長野駅間を1日1往復し、食事付き、軽食付きといったプランもあり、車窓とともに地元の食が楽しめる列車となっている。

↑真田家の家紋にちなむ六文銭をモチーフとした観光列車「ろくもん」。軽井沢駅〜長野駅間を約2時間かけてゆっくり走る

 

【信濃路の旅⑤】復元された旧軽井沢駅前に保存される車両は?

ここからはしなの鉄道線の旅を楽しもう。始発駅の軽井沢は、古くから避暑地として知られ、現在は南口に「軽井沢・プリンスショッピングプラザ」があり、四季を通して多くの観光客が訪れる。

 

本稿では、旧駅舎と駅舎前に保存された小さな電気機関車にスポットを当てたい。軽井沢駅は北口と南口を結ぶ橋上の自由通路があり、しなの鉄道線の改札も自由通路内に設けられている。一方、北口には古い駅舎が建つ。実はこちらは復元された駅舎であり、現在はしなの鉄道線の改札口としても利用されている。

 

旧軽井沢駅には1910(明治43)年築の古い駅舎が残っていたが、新幹線の開業にあわせて解体されてしまった。その後の2000(平成12)年に「(旧)軽井沢駅舎記念館」として復元。その後、しなの鉄道の軽井沢駅としてリニューアルされた。館内にはイタリア料理店もある。自由通路にある改札口に比べて利用する人が圧倒的に少なく、落ち着ける静かな空間となっている。

↑新幹線開業時に一度解体されたが、隣接地に復元された現・しなの鉄道軽井沢駅。近代化産業遺産にも指定されている

 

この古い駅舎のすぐ目の前に三角屋根に囲われ、黒い小さな電気機関車が保存されている。案内板が立っているが、長年の風雨にさらされ文字が消えかかっていて、一見すると何の機関車か分からないのが至極残念である。

 

この機関車は草軽電気鉄道で使われたデキ12形と呼ばれる車両で、アメリカ・ジェフリー社が1920(大正9)年に製造し、発電所建設工事用に日本へ輸入されたものだとされる。その後に同線が電化される時に譲渡されたものだ。草軽電気鉄道の歴史は古く、1915(大正4)年に一部区間が草津軽便鉄道として開業。1926(大正15)年に新軽井沢駅(軽井沢駅前に設けられた)〜草津温泉間55.5kmが全線開業し、その後に草軽電気鉄道と改名している。

↑軽井沢の駅舎前に保存される草軽電気鉄道の古い電気機関車。L字型のユニークなスタイルで1〜2両の客車や貨車を引いて走った

 

当時の資料を見ると、草軽電気鉄道の路線はスイッチバック区間が多い。残された電気機関車を見ても貧弱さは否めず、新軽井沢〜草津温泉間はなんと3時間半ほど要した。ここまで時間がかかると乗る人も少なく経営に行き詰まった。さらに、1950(昭和25)年前後の台風災害で橋梁が流されるなどで一部区間が廃止され、1962(昭和37)年に全線廃止されている。

 

それこそモータリゼーションの高まる前に廃止されてしまったが、大資本が路線を敷設し、高性能な車両を導入したらどのような結果になっていたのだろうか。草軽電気鉄道は現在、草軽交通というバス会社として残り、軽井沢駅北口〜草津温泉間のバスを運行している。現在、急行バスに乗れば同区間は1時間16分で草津温泉へ行くことができる。

↑戦後間もなく発行された草軽電気鉄道の絵葉書。噴煙をあげる浅間山を眺めつつ走る高原列車だった

 

【信濃路の旅⑥】浅間山を右手に見て旧中山道をたどるルート

しなの鉄道線の軽井沢駅発の列車は30〜40分おきと本数が多いものの、日中は長野駅まで走る直通列車よりも、途中の小諸駅止まりの列車が多くなる。しなの鉄道線内のみのフリー切符はなく、軽井沢駅〜長野駅間で使える「軽井沢・長野フリーきっぷ」が大人2390円で販売されている。ちなみに、軽井沢駅〜篠ノ井駅間は片道1470円、軽井沢駅〜長野駅間は片道1670円で、どちらの区間も往復乗車すれば十分に元が取れる割安なフリー切符である。

 

しなの鉄道線は車窓から見える風景が変化に富む。軽井沢から乗車してすぐに目に入ってくるのは雄大な浅間山の眺めだ。3つ先の御代田駅(みよたえき)付近まで浅間山の姿が進行方向右手に楽しめる。

↑軽井沢駅〜中軽井沢駅間から見た浅間山の眺め。右の峰が標高2568mの浅間山だ。写真の新長野色115系はすでに引退となっている

 

景色とともに沿線は史跡が魅力だ。官設の信越本線として線路が敷かれたエリアが、中山道、北国街道と重なっていたせいもあるのだろう。東と西、また日本海を結ぶ重要な陸路だったこともあり、戦国時代には甲州の武田家、上田の真田家といった武将が群雄割拠する地域でもあった。

 

中軽井沢駅、信濃追分駅と軽井沢町内の駅が続く。軽井沢駅から2つ目の信濃追分駅はぜひとも下車したい駅である。

 

駅の北、約1.5km、徒歩20分ほどのところに中山道と北国街道が分岐する追分宿(おいわけじゅく)がある。追分という地名は、街道の分岐点を指す言葉でもあり、この追分宿から佐久市方面へ中山道が、北国街道が小諸市方面に分かれる。現在の追分宿をたどると国道18号から外れた旧中山道の細い道沿いにそば店や老舗宿が点在し、風情ある宿場町の趣を保っている。

↑旧中山道が通り抜ける追分宿。沿道にはそば店(左上)や飲食店が数軒あり、訪れる観光客も多い

 

【信濃路の旅⑦】かつてスイッチバックがあった御代田駅

追分宿に近い信濃追分駅は標高が955mある。標高939mの軽井沢駅よりも高い位置にあるわけだ。信濃追分駅がしなの鉄道線で最も高い標高にある駅とされていて、駅舎にも「当駅海抜九五五メートル」と記した小さな案内がある。ちなみに信濃追分駅はJRの駅以外では最高地点にある駅でもある。

 

信濃追分駅まで坂を上ってきたしなの鉄道線だが、駅から先は右・左へカーブを描きながら坂を下っていく。

↑信濃追分駅〜御代田駅間は浅間山が最もきれいに見える区間として知られる。列車は右カーブを描きながら坂を下っていく

 

次の御代田駅は標高約820mで、わずか6kmの駅間で135mも下っていく。現代の電車ならば上り下りもスムーズに走るが、蒸気機関車が列車を引いた時代は楽な行程ではなかった。

 

横川駅〜軽井沢駅間はアプト式という特殊な運転方法を採用していたために、明治の終わりに早くも電気機関車が導入されたが、軽井沢駅〜長野駅間の電化はかなり遅れ、導入されたのは1963(昭和38)年6月21日のことだった。それまで蒸気機関車が列車の牽引に活躍したわけだが、信濃追分駅〜御代田駅間の急勾配を少しでも緩和しようと、御代田駅はスイッチバック構造となっていた。

 

上り列車はこの駅へバックで入線、釜に石炭を投入して、ボイラーの圧力を高め、煙をもうもうとはきだしつつ軽井沢を目指した。旧御代田駅の構内にはSLが保存されているが、60年前まではSLが走っていたわけである。

↑御代田駅の東側にはスイッチバック構造の旧駅があった。旧駅内の「御代田町交通記念館」にはD51-787号機が保存されている(右下)

 

【信濃路の旅⑧】駅の入口は車掌車のデッキという平原駅

列車は御代田駅を発車すると、ひたすら下り坂を走っていく。水田風景が広がる土地を走り始めると、不思議な地形が見えてくる。

 

進行方向の両側に高くはないが崖が連なり、その上には平たい台地状の土地が広がり住宅地となっている。この付近を流れる小河川によって河岸段丘が造られていたわけである。

 

そんな崖地の間にあるのが無人駅の平原駅で、駅前に民家が一軒のみの〝秘境駅〟の趣がある駅だ。閑散としているが、駅から北東1kmほどのところに旧北国街道の平原宿がある。

↑平原駅の駅舎兼待合室として使われる旧車掌車(緩急車)。元車内は待合室に整備されベンチが置かれる(左下)

 

平原駅はユニークな造りの駅だ。駅の入口には旧車掌車(緩急車)が駅舎兼待合室として置かれている。車掌車が駅舎の駅は北海道ではよく見かけるが、本州ではここのみと言われている。さらに車掌車の前後にあるデッキ部分がホームへの入口として使われているのも興味深い。

 

使われている車掌車は元ヨ5000形で、コンテナ特急「たから号」にも連結された車両だ。今は駅舎となった車両にも輝かしい過去があったのかもしれない。

 

【信濃路の旅⑨】やや寂しさが感じられる小海線接続の小諸駅

水田が広がっていた平原駅を過ぎると、間もなく左手から線路が近づいてくる。この線路はJR小海線のもので、しなの鉄道線に合流した地点に小海線の乙女駅のホームがある。

↑しなの鉄道線に合流するように小海線の列車が近づいてくる。まもなく列車は乙女駅へ到着する

 

乙女駅から並走する小海線は次の東小諸駅に停車するのに対して、しなの鉄道線はこの2駅は止まらない。左右に民家が増え、しばらく走ると小諸駅へ到着する。

 

筆者はこれまでたびたび小諸駅を訪ねたが、かつての賑わいはやや薄れたように感じる。やはり北陸新幹線の駅が、南隣の佐久市の佐久平駅に設けられたからのかもしれない。

↑小諸駅は小海線(右側列車)との接続駅となる。小諸駅の駅舎にはしなの鉄道の社章が付けられている(左上)

 

軽井沢駅発の列車は日中、小諸駅止まりが多いが、到着したホームの向かい側に長野駅行き列車が停まっていて乗り継ぎしやすい(接続しない列車もあり)。

 

小諸駅の駅前を出ると左手に自由通路があり、この通路を渡れば、名勝小諸城址(懐古園・かいこえん)へ行くことができる。元々、信越本線は小諸城址の一部を利用して線路が敷かれたこともあり、駅の目の前に城址があると言ってもよい。

↑小諸城址(左下)で保存されるC56-144号機は小海線で活躍した蒸気機関車。小諸城址は桜や紅葉の名所としても知られる

 

小諸城の起源は古く、平安時代に最初の城が築かれたとされる。戦国時代は武田氏の城代が支配し、その後の豊臣秀吉の天下統一後は小田原攻めで軍功があった仙石秀久5万石の城下となった。徳川幕府となった後は、仙石家は近くの上田藩へ移り、以来歴代藩主には譜代大名が配置された。

 

現在、小諸城址は公園として整備され、小諸市動物園、児童遊園地などの施設がある。さてこの小諸城址、駅の側でなく、西を流れる千曲川を見下ろす側に回ると驚かされることになる。

 

【信濃路の旅⑩】小諸は険しい河岸段丘の上にある街だった

駅付近は至極平坦だった地形が裏手に回ると断崖絶壁になるのだ。小諸は河岸段丘の険しい地形がよく分かる土地だったのだ。

 

明治の文豪、島崎藤村は『千曲川のスケッチ』で小諸を次のように描いている。

 

「この小諸の町には、平地というものが無い。すこし雨でも降ると、細い川まで砂を押流すくらいの地勢だ。私は本町へ買物に出るにも組合の家の横手からすこし勾配のある道を上らねばならぬ」。

↑藤村も上った御牧ヶ原から市街方面を望む。浅間山、黒班山、高嶺山(右から)がそびえる。御牧ヶ原と市街の間に千曲川が流れる

 

藤村は信越本線がすでに開通していた1899(明治32)年から1905(明治38)年の6年間にわたり小諸で英語教師を勤めた。30歳前後を小諸で暮らしたことが大きな転機になったとされている。そして今も多くの人に記憶される詩を詠んだ。

 

「小諸なる古城のほとり 雲白く遊子(ゆうし)悲しむ……」

 

遊子とは、小諸城址に立った藤村その人だとされる。藤村が詠んだ歌は「濁り酒 濁れる飲みて 草枕しばし慰む」と結ばれている。若い藤村は宿で濁り酒をひとり飲みながら、旅愁を慰めたとされる。藤村にとって小諸はふと寂しさを感じてしまう土地だったのかもしれない。藤村が現在の小諸を見たらどう感じるのだろうか。

 

次回は小諸駅〜篠ノ井駅の沿線模様を紹介していきたい。

パイオニアNP1の新機能「マイカーウォッチ」を体験!リアルな警告音声に感心!

パイオニアは12月22日、“会話するドライビングパートナー”として注目を集めるAI搭載通信型オールインワン車載器「NP1」のアップデートを実施し、新たに遠隔で愛車を見守る新しいセキュリティ監視機能「マイカーウォッチ」を追加しました。

 

NP1のドライブレコーダー機能を強化する「マイカーウォッチ」

NP1はサービスや機能の追加・更新を通信で行うことで、購入後も継続的にユーザーの使い勝手や体験を向上させられるのが特徴となっています。今回の大型アップデートはNP1が3月に発売されて以降、3回目となるもので、NP1がもともと搭載していたドライブレコーダー機能を強化するものとなります。

↑NP1に新たに搭載された「マイカーウォッチ」の操作画面。「警告する」をタップすると警告メッセージが流れる

 

「マイカーウォッチ」機能は、離れた場所からクルマの状況をスマートフォン(スマホ)で遠隔監視できることを最大の特徴とします。車室内や車外のカメラ映像と共に、クルマの位置情報や速度情報などがリアルタイムで確認できるようにもなるのです。その機能の活用シーンは大きく以下の3つを想定しています。

 

①駐停車中のクルマへのいたずらなどトラブル時の被害状況の遠隔確認

②盗難被害時の車両位置追跡

③大きな駐車場などでの駐車位置の確認

 

加えて、不審者を発見した際には、定型ではあるものの、メッセージを発報して警告することができるため、これが、犯罪被害を最小限にとどめられる可能性につながるというわけです。これなら、クルマに戻った時に被害に遭ったことに初めて気付く! なんてことにはならずに済みそうです。

 

スマホで車内の様子を鮮明表示。遠隔で警告も発報!

とはいえ、使ってみなければその効果はなかなかわかりにくいものです。そんな中、12月上旬、「マイカーウォッチ」機能のデモを体験する機会を得ました。場所は東京都内のとある駐車場。そこでNP1を搭載した車両に、準備した“不審者”が車両を襲うという想定です。

 

まず、“不審者”がドアを開閉し、その際に発生した振動をNP1が検知すると10秒間の録画映像をSDカードとクラウドへ自動保存する「駐車中衝撃通知機能」が作動します。すると、登録してあるスマホに異常が発生していることを通知。これを知ったユーザーがアプリから「マイカーウォッチ」機能を起動させてカメラを起動すると、そこには車内に乗り込んでいる“不審者”の様子が映像で映し出されるという流れです。

↑NP1から異常を知らせる通知が届いたら、まず「マイカーウォッチ」のアイコンを選択。次に「開始」をタップしてカメラを起動する

 

アプリを起動して映っていた映像は想像以上に鮮明で、“不審者”の表情までしっかりと読み取れるレベルです。取材したときは昼間でしたが、車内は日陰で少し暗めの状況。それでも不審者の表情までも鮮明に映し出していたのです。これはNP1に搭載された赤外線対応カメラが機能しているからで、これによってたとえ照明がない夜間であっても鮮明に撮影できるのです。

↑接続後はNP1が捉えた車内の様子が映し出される。エンジン停止時の「マイカーウォッチ」の映像は、SDカードやクラウドに保存されない。その映像を記録する場合は、スマートフォンの録画・撮影機能を使う必要がある

 

そして、ここからが「マイカーウォッチ」機能の真骨頂です。アプリ上で黄色で表示されている「警告する」アイコンをタップすると、即座に音声で車内に「カメラ作動中。異常状態を確認し、通報しました。遠隔監視を行っています」と警告。これが最大5分間にわたって繰り返されるのです(利用は1回5分で、月に計60分まで)。

↑1回あたり最大5分間利用でき、月に計60分まで12回利用できる

 

驚くのはその音声がとてもリアルだということ。一般的なドラレコが発するような、か細い甲高い音声ではありません。まるでそばから声を発しているようなリアルさなのです。NP1がもともと実装していた高品質な音声出力機能が、ここでも活かされているんですね。

 

駐車中のトラブルへの不安をNP1「マイカーウォッチ」が解決!

また、アプリ上には車両の現在地も表示されており、仮に車両が盗まれて移動したとしてもその位置はリアルタイムで把握できるようにもなっています。デモ中もこの警報を発しながら車両が移動する様子がしっかりとモニターされていました。

↑仮にNP1を装着した車両が盗難に遭って移動してしまった場合も、その走行中の位置と周囲の状況がリアルタイムで表示できる

 

本音を言えば、定型の警告以外にも、たとえばユーザーからのリアルな声で警告が出せたりするともっと良かったかな、とも思いましたが、それをすると通信契約上の問題も発生する可能性が出てきます。なぜなら、NP1で使える通信契約はデータ通信を基本としているからです。このあたりは今後の展開に期待したいと思います。

 

なお、エンジン停止中に「マイカーウォッチ」を利用するには、別売の駐車監視用電源ケーブル「NP-BD001」が必要となります。

↑不審者から愛車を守るためにもNP1の新機能「マイカーウォッチ」は大きな役割を果たす

 

パイオニアが実施した「ドライブレコーダーの利用状況に関する調査」によると、ドライバーの82.7%がドアパンチに対して不安を、72.2%が車上荒らしに対して不安を感じていることが明らかになりました。また、ドライバーの31.5%がドアパンチ、20.9%が当て逃げの被害を受けたことがあると回答しているそうです。つまり、こうした不安を少しでも和らげてくれるのにNP1の新機能「マイカーウォッチ」は打って付けというわけですね。

 

パイオニアでは今後もNP1の定期的なアップデートを予定しているそうです。これから先、NP1がどんなドライブシーンを生み出してくれるか、とても楽しみですね。

 

 

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VW「ID.4」がついに日本市場に登場!初EVでも違和感ない“普通”な乗り味を実感!

フォルクスワーゲン初となる電気自動車(BEV)がついに日本市場へ上陸しました。ドイツ本国では2020年9月にデビューしていましたが、日本導入はなかなか実現せず、「2022年内に間に合うのか?」といった声も聞かれましたが、11月22日、日本での発売が発表。そして、12月中旬、やっと「ID.4 Pro Launch Edition」に試乗する機会に恵まれました。

 

■今回紹介するクルマ

フォルクスワーゲン/ID.4

※試乗グレード:Pro

価格:514万2000円(税込)〜

↑ボディサイズは全長×全幅×全高=4585×1850×1640mm。プラットフォームにはEV専用の「MEB」を使用し、広いスペースユーティリティが大きな特徴となっている

 

ラインナップは「Lite(ライト)」と「Pro(プロ)」の2グレード

日本に導入されるID.4は、「Lite(ライト)」と「Pro(プロ)」の2グレードの展開で、前者は125kW(170PS)のモーターを52kWhのリチウムイオンバッテリーで駆動し、航続距離は435km。後者のプロはその高出力版で150kWh(204PS)のモーターと77kWhのバッテリーの組み合わせ、航続距離は618km(いずれもWLTCモード)と発表されています。今回試乗できたのは後者のプロで、「ID.4 Pro Launch Edition」は日本で展開するその記念モデルとして導入されました。

↑ボンネット内には150kWh(204PS)のモーターを組み込み、77kWのバッテリーで駆動される

 

ID.4はフォルクスワーゲンの電動化専用プラットフォーム「MEB(モジュラー エレクトリック ドライブ マトリックス)」を採用するだけに、車格を見てもゴルフのような存在にも思いがち。しかし、実際は現行ゴルフよりも遙かに大きいボディを持つ「SUV」としてラインナップされたモデルとなります。ボディサイズは全長4585mm×全幅1850mm×全高1640mmで、ホイールベースは2770mm。ゴルフと比べると全長290mm長く、全幅で60mm広く、全高も165mm高い。さらにホイールベースも150mmも長いのです。

↑伝統のVW流のデザインを伝えながら、クローズドされたBEVらしいフロントグリルを採用する

 

「MEB」の採用により、広い室内スペースとカーゴルームをもたらしました。特に2770mmのホイールベースはそのまま室内スペースの拡大につながっています。室内全体が車体のサイズをそのまま反映するかのように広々としていて、運転席まわりも十分なゆとりがあり、後席に至っては足を組んで余裕があるほど。このあたりはまさにフォルクスワーゲンの空間作りの上手さが活かされていると言えるでしょう。

↑リアビューはSUVスタイルそのものを実感させるデザインだ。Proはフロント235/50 R20 8J×20インチ、リア255/45 R20 9J×20インチを履く

 

圧倒的な広さの室内とカーゴルーム。クリーンなインテリアも好印象

SUVらしくカーゴルームの容量も圧倒的な広さを持っています。数値で表すと、前後席を使った時で543L、後席を倒せば最大1575Lにまで拡大できるのです。まさにSUVとして十分な容量を確保したと言っていいと思います。

↑SUVとして使うのに十分な容量を備えたカーゴルーム。中央にはスルー機能も備えられた

 

インテリアは余計な加飾がないクリーンな印象で、それはまさにシンプルイズベストをそのまま表したような造り込みを感じます。ドライバーの正面には5.3インチのメーターディスプレイが配置され、ダッシュボード中央にはインフォテイメントシステムとして使う12インチディスプレイを用意しています。ただ、ライトは後者が10インチとなり、いずれもナビゲーションの設定はなく、コネクテッド機能も搭載されていません。手持ちのスマートフォンをつなぐことが前提となるディスプレイオーディオと思った方が良いでしょう。

↑ダッシュボードとフロントガラスの間にあるLEDストリップにより、光のアニメーションで各種情報を通知するシステム“ID.LIGHT”を新採用

 

↑Proには「シートマッサージ機能」と「パノラマガラスルーフ」が標準装備される

 

↑空間的には足をゆったり組めるほどの広さがあるが、後席使用時はヘッドレストをリフトアップする必要がある

 

ただ、メーターディスプレイはステアリングコラムに直付けされているため、チルト/テレスコピックしても視認性が大きく変わることはありません。ディスプレイ右にはドライブモードの切替スイッチがあります。最初こそステアリング陰にあって、あちこち探してしまいましたが、一度その位置を憶えてしまえば、これ一つで前進/後退、パーキングへの切替ができ、誰もが使いやすさを実感するでしょう。

↑ドライバーの正面には5.3インチのメーターディスプレイ。ステアリングコラムと一体で上下に稼働する

 

↑メーター横に備えられたドライブモードセレクター。手元で操作でき、しっかりしたクリック感が使いやすい

 

エンジン車からの乗り替えでも違和感なく運転できる!

ガソリン車と大きく違うのは、リモコンでドアを開けて運転席に座ると、その時点でシステムが自動的に起動すること。わざわざスイッチを押すこともなく、そのままドライブモードを切り替えれば走り出すことができるのです。降りる時はその逆で、降車してキーをロックすれば自動的にOFFとなります。撮影にはちょっと困りましたが、普段使いとして考えれば極めて効率の良いインターフェースと言えるでしょう。

↑LEDマトリックスヘッドライト「IQ.LIGHT」。フロントカメラで対向車や先行車を検知し、マトリックスモジュールに搭載された片側18個(両サイドで36個)のLEDを個別に点灯・消灯を制御する

 

走り出してまず感じたのは、強烈な加速というよりもフワッと車体を前へ押し出していく感じ。電動車にありがちなトルクを前面に出すような印象はまったくありません。ひたすらスムーズに、速度域が上がっていく感じです。かといってパワーがないわけじゃありません。アクセルを強めに踏み込めば、そこは電動車、あっという間に思い通りの速度域に達してくれます。カタログ値の0→100km加速が8.5秒というのも頷けますね。

↑「ID.4 Pro Launch Edition」を試乗する筆者

 

ハンドリングの追従性も高く、カーブが連続する峠道でもノーズを自在に向けることができるなど、BEVならではの重さを感じることはほとんどありませんでした。峠道を走る愉しさを実感させてくれるクルマと断言して間違いないでしょう。

 

強いて言えば、回生ブレーキの効き方もマイルドで、Bモードに切り替えてもそれほど減速Gは感じないために、下り坂ではフットブレーキに頼らざるを得ませんでした。裏返せば、ガソリン車からの乗り換えでも違和感なく“普通”に乗れる、その素晴らしさを実感させてくれるのがID.4と言えるのかもしれません。

↑2tを超えるBEVの重量を感じさせない回頭性の良さが、峠道を走る愉しさをもたらしている

 

SPEC【Pro】●全長×全幅×全高:4585×1850×1640㎜●車両重量:2140㎏●モーター:交流同期電動機●最高出力:204PS/4621〜8000rpm●最大トルク:310Nm/0〜4621rpm●一充電走行距離WLTCモード:618㎞

 

撮影/松川 忍

 

 

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BYDのミドルサイズSUV「ATTO 3」は、コスパ面で日米欧勢のEVを上回っている!

1997年に初代プリウスが発売されて以降、日本はハイブリッドカー大国となり、世界を席巻してきた。しかし、クルマの最新進化型がEV(電気自動車)となった現代では、中国がEV大国となっている。そしていよいよ、その中国メーカー製のEVが日本へ上陸を果たす。果たして世界トップクラスのEVメーカーが放つ最新EVの実力はどれほどのものか?

 

■今回紹介するクルマ

BYD/ATTO 3

※試乗グレード:─

価格:440万円〜(税込)

 

EVで最も重要な性能は航続距離

中国は世界最大の自動車市場。昨年の新車販売台数は2627万台と、アメリカの1541万台をはるかに上回った。ちなみに日本は445万台で、なんとか世界第3位を維持したが、インドに追い上げられるなど地盤沈下が激しい。

 

中国はあまりにも巨大だが、中国製乗用車のほとんどは中国国内で消費され、輸出はゼロに近かった。中国製乗用車は、ブランド力不足により、海外ではまったく競争力がない。ところが、モノがEVなら話は違う。すでに中国製の電化製品は大いに世界に進出し、品質を認められつつある。アメリカがファーウェイ(華為)製品を排除しているのは、競争力の高さの表れだ。

 

そして2023年。ついに中国製乗用車の販売が日本で開始される。第一弾はもちろんEV。世界第2位のEVメーカー、BYDの「ATTO 3(アットスリー)」だ。

↑1月31日から販売が開始するATTO 3。写真のPARKOUR REDを含め、ボディカラーは全5色から選べる

 

ATTO 3のボディサイズは、コンパクトSUVに属する。全長は日産「アリア」より140mm短いが、全幅と全高はほぼ同じ。バッテリー容量は58.56kWhで、WLTCモードの航続距離は485kmだ。アリア(B6)は66kWhで470kmだから、それよりバッテリー容量は小さいものの、航続距離ではわずかに上回っている。つまり効率がいい。

↑この複雑な曲面のデザインを実現しているのは、BYDのグループ会社である日本のTatebayashi Moldingが持つ高い金型技術とのこと

 

EVで最も重要な性能は航続距離だ。一度でもEVに乗ったことのある者なら、その切実さを理解しているだろう。夜間、自宅で普通充電し、それでどこまで走れるかで勝負は決まる。外での急速充電は、ガソリンの給油に比べると、ストレスは100倍レベル。なにしろ30分間の急速充電で走れるのは、せいぜい100km強なのだから。

 

現在、世界の多くのEVが、航続距離500km前後になっている。500kmというのはあくまでカタログ値で、実際にはその7掛け程度と考えるべきだが、ともかくカタログ値で500kmの航続距離があれば合格というのが世界の趨勢だ。ATTO 3は、EVとして標準的な航続距離を持っている。

↑インバーター、モーター、コントロールユニットがコンパクトにまとまっている。それらが一体型で低い位置に収納される

 

ATTO 3のルックスは至って「フツー」

では、その他の部分のデキはどうか。まずデザイン。EVの定番は「未来的で高級感のあるスタイリング」だが、ATTO 3のルックスはやや安っぽい。フロントグリルのメッキでEV感を出しているが、かえってオモチャっぽく見える。と言っても落第というわけではなく、「ものすごくフツー」というレベルにある。

 

インテリアも、質感はあまり高くないのだが、こっちには斬新で楽しい仕掛けがいろいろある。インパネセンターの大型ディスプレイは、ボタンひとつで縦にも横にもなる。これはちょっとした衝撃だ。ディスプレイは、通常は横、ナビとして使うなら縦が適しているが、ATTO 3はどちらにも対応できるのだ。ボタンを押してディスプレイが回転すると、それだけで「うーん、やられた!」と感じる。

↑アスレチックジムをモチーフにデザインされた内装。センターディスプレイが回転可能で縦型にも横型になる

 

もうひとつ面白いのは、ドアにギターのようなゴム製の弦が付いていることだ。これは実際にギターをイメージした装飾で、BYDの遊び心を表したもの。ステイタスにこだわらず、楽しいクルマを作ろうとしているのが感じられる。

↑弦を弾くと音を奏でるドアトリムなどユニークなデザインが随所に散りばめられた

 

ちなみにウィンカーレバーは国産車同様、ハンドルの右側に付いている。輸入車としては極めて珍しいが、日本市場に合わせてわざわざ変更したという。

 

乗り味は、EVとしては穏やかな部類に属する。加速は、一部EVのような狂気の爆発力はなく、ガソリン車と比べれば「ダッシュがいいね」くらいのレベル。サスペンションもかなりソフトでゆったりしている。日常的な走りを優先した仕上がりと言える。

↑長距離運転や高速道路の運転をサポートするナビゲーション パイロット機能、万一の衝突時の被害を回避または軽減する予測緊急ブレーキシステムなど、先進的な予防安全機能を装備

 

基本的にEVは、どれに乗っても乗り味にそれほど大きな違いはない。電気で回転するモーターは、ガソリンエンジンのような味わいの違いが出しづらく、主な違いは加速力だけになってしまう。ATTO 3もその例に漏れないが、見た目同様、走りもEVとして「ものすごくフツー」。家電の仲間と考えれば、完全に合格点だ。

 

コスパでいうと、ATTO 3は日米欧勢を上回っている

こうなると、勝負は価格で決まる。1月31日から全国22か所のディーラーで販売が始まるATTO 3の価格は、440万円と発表されている。そのコスパはどうか?

 

主なEVの車両価格1万円あたりの航続距離をランキングすると、このようになる。

1位 ヒョンデ「アイオニック5(ボヤージ)」 1.19km/万円
2位 BYD「ATTO 3」 1.10 km/万円
3位 テスラ「モデル3(スタンダード)」 0.95 km/万円
4位 VW「iD.4(プロローンチエディション)」 0.88 km/万円
5位 日産「アリア(B6)」 0.87 km/万円
6位 トヨタ「bZ4X」 0.86 km/万円
7位 日産「サクラ」 0.84km/万円
<その他>
メルセデス・ベンツ「EQA」 0.69km/万円
BMW「iX3」 0.59km/万円

 

ATTO 3は、日米欧勢を上回っているが、韓国ヒョンデの「アイオニック5」には及んでいない。日本国内では、ヒョンデにもブランド力はないが、中国BYDに比べれば知名度は抜群だし、アイオニック5のデザインは、ATTO 3に比べれば断然イケている。

 

総合的にみると、ATTO 3は、「もうちょっと安ければよかったんだけど」というところだろうか? 400万円を切る価格なら、競争力はあったはずだ。

 

たとえば中国製のタイヤは、日欧米ブランドの4分の1程度と激安で、性能も普通に使う限りあまり差はないため、最近、シェアを伸ばしている。しかしEVの価格は、おおむねバッテリー容量で決まってくる。自動車用バッテリーは超グローバル商品。中国製もそれ以外も、価格に大きな差はない。

 

BYDが自社生産する「ブレードバッテリー」は、独自の技術で作られており、耐久性が高いと言われるが、長く使ってみないと実感できないので、当初はアドバンテージになりにくい。結論としてATTO 3は、今の段階では、「面白い存在だけど、買うかどうかは別」というステップにとどまるだろう。ただ、中国製EVの実力が侮れないことはたしかだ。近い将来、世界を席巻する可能性もある。

 

SPEC●全長×全幅×全高:4455×1875×1615㎜●車両重量:1750㎏●パワーユニット:電気モーター●最高出力:204PS/5000-8000rpm●最大トルク:310Nm/0-4620rpm●一充電航続距離(WLTCモード):485㎞

 

撮影/池之平昌信

 

 

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ちょっとトガった魅力も併せ持つ丸目がイイ! イマドキの軽自動車&コンパクトカー6選

近年、素材整形技術の進化とともに、シャープなデザインを特徴とする“ツリ目”ライトのクルマが増えてきた。一方で、古くから存在し続けているのは“丸目”ライトを持つクルマたち。ファニーな印象を与えがちな丸目ライトだが、その瞳の奥に秘めたトガった魅力を分析していこう。

※こちらは「GetNavi」 2022年12月号に掲載された記事を再編集したものです

 

ワタシが評価しました!

自動車評論家

清水草一さん

これまで50台以上のクルマを愛車としてきたベテラン評論家。専門誌でデザインに関する連載を持っていたほどクルマの見た目にはうるさい。

 

【その1】ルーツのデザインを生かして軽自動車のスタンダードに!

ホンダ

N-ONE

159万9400~202万2900円(税込)

軽自動車販売台数7年連続ナンバーワンのN-BOXの兄弟車で、より低重心な運転感覚が味わえるトールワゴンモデル。デザインは初代モデル同様、ホンダ車の始祖であるN360がモチーフで、2代目となる現行型もレトロな雰囲気を持っている。

SPEC(Premium Tourer・FF)●全長×全幅×全高:3395×1475×1545mm●車両重量:860kg●パワーユニット:658cc直列3気筒ターボエンジン●最高出力:47kW/6000rpm●最大トルク:65N・m/4800rpm●WLTC燃費:23.0km/L

 

[ココはトガっている] 丸にこだわったホイールも選べる

丸目だからといってデザインすべてが丸系ではなく、全体的には四角や台形などとの組み合わせ。ただ、ホイールにはしっかり丸系デザインが用意されている。足元にも丸を配置することで楽しさを演出。

 

↑真正面や真後ろから見ると台形になっていて、安定感を演出している。ファニーな顔と裏腹に、踏ん張り感のある力強い造形だ

 

↑レトロっぽい外観に対して、インテリアはモダンなイメージでまとめられている。心地良く使いやすい空間に仕上がった

 

↑ターボエンジンに6速MTを組み合わせたスポーツグレード「RS」もラインナップ。スポーツモデルが得意なホンダの面目躍如だ

 

子どもが描いたようなたくらみのない愚直さ

N-ONEの丸目は本物の丸目、つまり真円だ。円形のヘッドライトは、照明の基本形。半世紀ほど前に四角いヘッドライト、つまり角目が登場するまで、クルマのヘッドライトは、すべて丸目だった。

 

つまりN-ONEの丸目は、昔のヘッドライトの形そのもの。昔は丸目のクルマしかなかったけれど、現在は丸目はレアだし、真円の丸目はさらに希少。それだけで人の「目」を引き付け、ホンワカした郷愁を感じさせてくれる。

 

加えてN-ONEのデザインは、N360など、半世紀前のホンダ車のデザインをモチーフにしている。当時のクルマのデザインは、今見ると子どもが描いた絵のようで、これまたホンワカした郷愁に浸ってしまう。いや、現代の子どもたちが描くクルマの絵はたいていミニバンらしいので、これまた「昔の子どもが描いた絵」と言うべきかもしれないが……。

 

細かいことはさておき、この、たくらみのない愚直なデザインが、N-ONEをちょっと特別なクルマに見せる。断面が台形で、大地を踏ん張る感やスピード感があるのも、一種のレトロデザインなのである。

 

【その2】オープンカーの楽しみを広げてくれる個性的デザイン

ダイハツ

コペン セロ

194万3700~214万7200円(税込)

2代目となる現行型コペンの、第3のスタイルとして2015年に追加された人気モデル。“親しみやすさと躍動感の融合”をテーマにしたデザインは、丸目のみの意匠で高い評価を得ていた初代コペンを彷彿させ、根強いファンが多い。

SPEC(セロS・5速MT)●全長×全幅×全高:3395×1475×1280mm●車両重量:850kg●パワーユニット:658cc直列3気筒ターボエンジン●最高出力:47kW/6400rpm●最大トルク:92N・m /3200rpm●WLTC燃費:18.6km/L

 

[ココはトガっている] デザインアレンジが自由自在!

現行型コペンは内外装着脱構造を備え、樹脂外板やヘッドランプなどを交換して、別のスタイルへ変更することが可能。クルマのデザインを自由に変更して自分らしさを表現できる。

 

↑リアコンビネーションランプの形状も丸! 前から見ても後ろから見ても、親しみやすさと躍動感を感じられるルックスだ

 

↑なんといってもコペンは軽自動車唯一のオープンスポーツモデル。風を感じながら爽快にドライブを楽しむことができる!

 

↑「アクティブトップ」と呼ばれる電動開閉式トップを採用。屋根を閉めてしまえば快適な室内スペースを確保できる

 

昔のクルマのようなカタチで運転の本来の喜びに浸る

創世記のフェラーリ、たとえば166MMといったクルマを見ると、「カマボコにタイヤを4個付けて、丸い目と四角い大きな口を描いたような形」をしている。NHKのマスコットキャラクター「どーもくん」の顔をつけたイモムシ、と言ってもいい。

 

コペン セロのデザインは、それに非常に近くはないだろうか?

 

目は真円ではなく微妙に楕円だが、真正面から見るとほとんど丸。テールランプも丸。ボディは斜めのエッジを付けたカマボコ型だ。

 

そして2人乗りのオープンカー。いまでこそオープンカーはゼイタク品だが、昔はオープンカーが標準で、雨の日のために幌が用意されていた。つまりコペン セロのデザインは、70年くらい前の標準的な自動車の形、と言えなくもない。

 

すなわち、コペンは特殊なドライビングプレジャーを提供するクルマだが、本質は本来の自動車そのものということ。だからデザインも、70年くらい前の自動車に似ているのである。そしてこのクルマで走れば、70年くらい前の人が感じたのと同じ、原初的なヨロコビに浸ることができるというわけだ。スバラシイじゃないか。

 

【その3】どんな道も力強く駆け抜ける古典的4WD車の最新形

スズキ

ジムニー

155万5400~190万3000円(税込)

約20年間販売された先代型に代わり、2018年にモデルチェンジした軽クロスカントリーSUV。登場するや否や爆発的な人気で1年以上の納車待ち状態に。オフロード向きのラダーフレーム構造と、最新の安全装備を採用している。

SPEC(XG・4速AT)●全長×全幅×全高:3395×1475×1725mm●車両重量:1050kg●パワーユニット:658cc直列3気筒ターボエンジン●最高出力:47kW/6000rpm●最大トルク:96N・m/3500rpm●WLTC燃費:14.3km/L

 

[ココはトガっている] 縦横無尽のオフロード性能!

初代モデルから一貫して採用されているのはパートタイム式の4WD。雪道、荒地、ぬかるみ、登坂路など、様々なシーンに合わせた駆動パターンを選ぶことができて、高い悪路走破性能を発揮する。

 

↑軽自動車ではなく1.5Lエンジンを搭載するワイドボディの「ジムニーシエラ」もラインナップ。よりパワフルな走りを求める人向け

 

↑シンプルにして機能性を徹底追及したインテリアデザイン。骨太なオフロードモデルを欲するユーザーにぴったりだ

 

機能に一極集中したパワフルなデザイン

ジムニーのデザインは、余計な工夫を何もしていない。悪路の走破性の高い、いわゆるジープタイプのカタチのまま作っている。

 

ヘッドライトも当然丸い。繰り返すが、ジムニーは余計な工夫を一切排除している。つまり、80年前のジープとまったく同じなのだ。この機能オンリーのデザインパワーは、すさまじい破壊力を持って、我々の心に食い込んでくる。

 

【その4】アクティブな乗り方に耐える現代仕様のタフデザイン

スズキ

ハスラー

136万5100~181万7200円(税込)

2020年に現行型となる2代目モデルへモデルチェンジした、クロスオーバーSUVタイプの軽自動車。使い勝手のいい軽ハイトワゴンに流行りのSUV風のデザインを施し、高レベルの低燃費性能と安全性能、小回り性能を備えている。

SPEC(HYBRID Xターボ・2WD)●全長×全幅×全高:3395×1475×1680mm●車両重量:840kg●パワーユニット:658cc直列3気筒ターボエンジン●最高出力:47kW/6000rpm●最大トルク:98N・m/3000rpm●●WLTC燃費:22.6km/L

 

[ココはトガっている] インテリアデザインはギア風!

従来の軽自動車では見たことがなかったような自由度の高いデザイン。インパネ正面に3つのサークルを設けるなど、どこかギアっぽさ、おもちゃっぽさを感じる作りになっている。

 

↑ポケットやトレーなどを備えたアウトドア向けのインテリア。買い物袋を提げられるフックやシート座面下の収納も搭載する

 

↑シート脇のラインなど、内装を彩るホワイト/オレンジ/ブルーといったカラーアレンジもグレードによって選ぶことができる

 

印象をガラリと変える目尻の付け足しがニクい

ジムニーは3ドアだが、ハスラーは5ドアなので実用性が高い。ジムニーはボディの角が角ばっているが、ハスラーは適度に丸みを帯びている。そして丸目の外側に目尻を付けたハスラーの顔は、ジムニーに比べるとグッとソフトで、ぬいぐるみっぽく感じられる。

 

つまり「ジムニー的な機能オンリーデザインのソフト&カジュアル版」というわけだ。

 

【その5】世界から愛されて50年超丸目の哲学を今に受け継ぐ

BMW

MINI

298万~516万円(税込)

長年にわたって販売されていたクラシック・ミニが、2001年にBMWによってリボーンさせられてからすでに3代目。独自の乗り味「ゴーカートフィーリング」はそのままに、メカは現代的にアップデートされている。

SPEC(クーパー・5ドア)●全長×全幅×全高:4025×1725×1445mm●車両重量:1260kg●パワーユニット:1498cc直列3気筒ターボエンジン●最高出力:100kW/4500rpm●最大トルク:22oN・m/1480〜4100rpm●WLTC燃費:15.6km/L

 

[ココはトガっている] クセの強い特別仕様車が続々登場!

ブランド力とファッション性の高さもあって、さまざまなカラーリングの特別仕様車が次々に登場している。写真は、英国のストリートアートの聖地の名を冠した「ブリックレーン」

 

↑ボディサイズは拡大されてきたものの、インパネ中央に丸い大型ディスプレイを配置したポップなデザインはいまも健在だ

 

↑伝統の3ドアハッチバックに加え、コンバーチブルやクロスオーバーSUV、ワゴン風のクラブマン、5ドアもあり

 

生まれたのはまだ丸目しかなかった時代

59年に誕生した元祖ミニは、最小のサイズで最大限の居住性を追求した偉大なる大衆車で、極限までシンプルだったから、当然ヘッドライトは丸目だった。

 

現在のミニのデザインは、あくまで元祖ミニを出発点としている。サイズは大幅に大きくなったが、フォルムはあくまで元祖を彷彿とさせる。ミニは元祖ミニっぽくなければ、ミニじゃなくなってしまうのだ。

 

【その6】ファニーフェイスでロングセラーモデルに!

フィアット

500

255万~324万円(税込)

3ドアハッチバックタイプのイタリア製コンパクトカー。かつての名車のリバイバルデザインで2007年に発表されたが、登場から約15年が経ったいまもファンから愛されており、ほぼ変わらぬデザインのまま販売され続けている。

SPEC(TWINAIR・CULT)●全長×全幅×全高:3570×1625×1515mm●車両重量:1010kg●パワーユニット:875cc直列2気筒ターボエンジン●最高出力:63kW/5500rpm(ECOスイッチON時57kW/5500rpm)●最大トルク:145N・m/1900rpm(ECOスイッチON時100N・m/2000rpm)●WLTC燃費:19.2km/L

 

[ココはトガっている] 待望のEVモデルがデビュー!

新型EV(電気自動車)として誕生した「500e」は、500のデザインを受け継いだモデルとして6月に発売された。ヘッドライトは上下に分割されて「眠そうな目」となる。価格は473万円から。

 

↑旧モデル同様、かたまり感のあるプロポーション。エンジンは1.2L直列4気筒に加え、875cc直列2気筒も設定される

 

↑室内空間にも丸をモチーフとしたデザインが散りばめられている。正面パネルのカラーパーツもキュート

 

レトロモチーフを現代に蘇らせた快作

現在のフィアット500は、ミニと同じく、半世紀以上前の大衆車がモチーフ。元祖は機能第一だったが、現在はファンカーで、実用性は二の次になっている。もちろんヘッドライトは丸目だ。

 

こうして見ると、現在の丸目カーは、すべて昔のクルマがモチーフ。丸目にすると激しく昔っぽくすることができる。目が丸いって、スゴいパワーなんですね!

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

岩国市の名所旧跡と美景を探勝。清流沿いを走る「錦川鉄道」のんびり旅

おもしろローカル線の旅102〜〜錦川鉄道・錦川清流線(山口県)〜〜

 

本州最西端、山口県を走る第三セクター鉄道の錦川鉄道(にしきがわてつどう)錦川清流線。澄んだ錦川沿いを走るローカル線である。この錦川は岩国市の名勝、錦帯橋(きんたいきょう)が架かる川でもある。清流を望む路線を往復乗車し、史跡探訪と錦川の美景を存分に楽しんだ。

 

*2014(平成26)年8月31日、2017(平成29)年9月29日、2022(令和4)年11月26日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
想像を絶する秘境! 『砂の器』の舞台「木次線」を巡る旅でローカル線の現実を見た

 

【清流線の旅①】全通して60周年となる錦川清流線

まずは錦川清流線の概要を見ておこう。

路線と距離 錦川鉄道・錦川清流線:川西駅〜錦町駅(にしきちょうえき)間32.7km
全線非電化単線
開業 1960(昭和35)年11月1日、日本国有鉄道・岩日線(がんにちせん)川西駅〜河山駅(かわやまえき)間が開業。
1963(昭和38)年10月1日、錦町駅まで延伸開業し、岩日線(現・錦川清流線)が全通
駅数 13駅(起終点駅を含む)

 

元となった国鉄岩日線は、岩国駅と山口線の日原駅(にちはらえき)を結ぶ陰陽連絡鉄道として計画された。錦町駅までは路線が開業されたものの、錦町駅から先の工事はその後に凍結されている。

↑山陽新幹線・新岩国駅付近を走る錦川清流線。新幹線の駅近くにもこのような里山風景が広がっている

 

その後の国鉄民営化に伴いJR西日本の路線となり、1987(昭和62)年7月25日に第三セクター経営の錦川鉄道へ移管、錦川清流線として開業した。今年は、岩日線の川西駅〜錦町駅が全通開業してから60周年という節目の年にあたる。

全線32.7kmとそれなりの距離のある路線だが、全線が岩国市内を走る路線ということもあり、岩国市が株の半数近くを所有する主要株主となっている。これは全国を走る第三セクター鉄道としては珍しい。それだけ地元の人たちの〝マイレール〟への思いが強い。

 

さらに沿線を路線バスが走らないこともあり、住民の大切な足として活用されている。同社が鉄道事業以外にも市内の公共事業に関わっているという事情もあり、廃止問題とは無縁のローカル線となっている。

 

【清流線の旅②】清流ラッピング車両とキハ40系が走る

次に錦川清流線を走る車両を紹介しよう。2形式の車両が導入されている。

 

◇NT3000形気動車

2007(平成19)年から2008(平成20)年にかけて、新潟トランシス社で4両が新製され導入された。錦川清流線の主力車両で4両ともに色と愛称が異なる。NT3001はブルーの車体「せせらぎ号」、NT3002はピンクの車体「ひだまり号」、NT3003はグリーンの車体「こもれび号」、NT3004はイエローの車体「きらめき号」といった具合だ。4両ともラッピング車両で、錦川にちなんだ草花や、魚や動物たちのイラストが車体に描かれている。

 

車内は転換クロスシートと一部ロングシートの組み合わせで、トイレも付く。運転席の周りには運賃箱と整理券発行機に加えて、消毒液が出る足踏み式の装置が取り付けられていて手が消毒できる。筆者も初めて見る珍しい装置だった。

↑錦川にすむ魚たちの絵が描かれたNT3001「せせらぎ号」。運賃箱の後ろには手が消毒できる装置が付けられている(左下)

 

◇キハ40形

2017(平成29)年に1両のみJR東日本から購入した車両で、元はJR烏山線を走っていた。毎月運行される「清流みはらし列車」といったイベント列車として走ることが多い。ちなみに同社の列車が乗入れる岩徳線(がんとくせん)にはJR西日本のキハ40系が走っているが、こちらは側面窓などの造りが大きく変更されている。錦川鉄道のキハ40形は、国鉄時代のデザインを残すもので、中国地方の鉄道ではレア度が高い車両とも言えるだろう。

↑錦町駅の車庫に停まるキハ40形1009号車。クリーム地にグリーンライン、JRマーク入りと烏山線当時(左上)のままの姿で走る

 

【清流線の旅③】岩国駅0番線ホームから列車は発車する

それでは錦川清流線の旅を始めよう。錦川清流線の路線の起点は川西駅からとなっているが、全列車がJR岩徳線の起点駅、岩国駅に乗入れている。この岩国駅0番線ホームから発車する。

↑2017(平成29)年に新築された岩国駅の駅舎(西口)。駅前から錦帯橋方面への路線バスなども発車している

 

列車の本数は1日に10往復で、全列車が岩国駅から錦川清流線の終点駅、錦町駅間を走る。岩国駅から発車する下り列車は約1時間30分おきに1本の発車だが、11時10分発の次の列車は3時間10分後の14時20分発と、かなり空く。一方、上り列車は錦町駅発が9時54分の次の列車は2時間37分後の12時31分発といった具合だ。日中は本数が少ないダイヤが組まれているので注意して旅を楽しみたい。岩国駅〜錦町駅間の所要時間は1時間5分前後となっている。

 

錦川清流線の川西駅〜錦町駅間の運賃は980円で、岩国駅から乗車すると190円が加算される。錦川清流線内のみ限定ながら、昼の列車の利用時のみ有効な「昼得きっぷ」が往復1200円で、また「錦川清流線1日フリーきっぷ」も2000円で販売されている。「昼得きっぷ」は終点駅の錦町駅で、「錦川清流線1日フリーきっぷ」は車内および錦町駅で購入できる。

↑岩国駅の西口駅舎側にある錦川清流線専用の0番線ホーム。岩国駅の切符自販機でも錦川清流線内行きの切符が購入できる

 

【清流線の旅④】まず因縁ありの岩徳線区間を走る

0番線から発車した錦川清流線の列車は岩徳線の線路へ入っていく。ちなみに岩徳線のホームは1番線なので誤乗車の心配がない。間もなく最初の駅、西岩国駅へ到着する。

 

この西岩国駅は1929(昭和4)年に開設され、当時は岩国駅を名乗った[それまでの岩国駅は麻里布駅(まりふえき)と改名]。西岩国駅は当時の古い駅舎が残っているのだが、筆者が訪れた時はちょうど改修中で、ネットで覆われていたためにその姿を見ることができなかった。改修工事は今年の1月いっぱいで終了するそうだ。ぜひ見ていただきたい味わいのある古い駅舎である。

↑岩国駅を発車後、まもなく岩徳線へ入る。岩徳線のキハ40系が走る同じ線路を錦川鉄道の主力車両NT3000形も走る(左下)

 

岩徳線の歴史がなかなか興味深いので触れておきたい。岩徳線は岩国駅の「岩」と徳山駅の「徳」(路線は櫛ケ浜駅・くしがはまえき まで)を組み合わせた路線名で、山陽本線の短絡線として計画された。距離は岩徳線経由の岩国駅〜徳山駅間の路線距離が47.1kmなのに対して、山陽本線の同区間の路線距離は68.8kmmと21.7kmも長い。

 

麻里布駅(現・岩国駅)〜岩国駅(現・西岩国駅)間の開業が1929(昭和4)年4月5日で、全線開通は1934(昭和9)年12月1日だった。一時は岩徳線を山陽本線にしようとしたために、岩国駅の場所を移し、改名したほどだったが、岩徳線の本線化計画は頓挫する。当時の建設技術では複線化が難しかったのが理由だった。そのため麻里布駅は1942(昭和17)年に岩国駅と再び名を変えている。要は本線になりそこねたわけである。

 

西岩国駅の次が川西駅で、錦川清流線の列車はここまでJR岩徳線を走る。

↑川西駅を発車する岩徳線のキハ40系。同駅は錦川清流線の起点駅であり、また錦帯橋の最寄り駅でもある

 

【清流線の旅⑤】清流線起点の川西駅は錦帯橋の最寄り駅

ホーム一つの小さな川西駅には、ホーム上に錦川清流線の起点を示す「0キロポスト」が立つ。ここが正真正銘の路線の始まりである。

 

錦川清流線の旅を始める前に、すこし寄り道をしておきたい。川西駅は岩国の名勝でもある錦帯橋の最寄り駅だからだ。錦帯橋まで1.3km、徒歩17分で、散策に最適な距離だが、観光客はマイカー利用以外は岩国駅からバス利用が多く川西駅をほぼ利用しない。歩いていたのは筆者ぐらいのものだった。

↑階段を上がった上に川西駅がある。ホーム上には錦川清流線の起点を示す0キロポストが立っている(右下)

 

錦帯橋の歴史と概略を簡単に触れておこう。架けられたのは1673(延宝元)年のことで、今から350年前のことになる。当時の岩国藩主、吉川広嘉(きっかわひろよし)によって現在の橋の原型となる木造橋が架けられた。5連の構造(中央の3連はアーチ橋)で、日本三名橋や、日本三大奇橋とされる名勝だ。何度も改良を重ねた末に、錦川の氾濫に耐えうる構造の橋が築かれた。

 

2代目の橋は276年にわたり流失をまぬがれてきたが、1950(昭和25)年9月14日に襲った台風の影響で橋が流されてしまう。その後の工事で復旧したが、2005(平成17)年9月6日〜7日の台風でも橋が流されている。いずれも複合的な要因が指摘されているが、1950(昭和25)年の流失の原因としては、特に太平洋戦争中に上流域の森林伐採が急速に進み、保水力が落ちたことが指摘されている。

↑岩国藩三代当主・吉川広嘉により原型が造られた錦帯橋。橋を見下ろす山の上に岩国城が立つ

 

山の保水力が落ち、さらに地球温暖化の影響もあるのだろう。錦川清流線は錦川沿いを走っている区間が多いが、この路線もたびたび、錦川の氾濫により影響を受けている。

 

【清流線の旅⑥】山中で岩徳線と分岐して錦川清流線の路線へ

川西駅が錦川清流線の起点駅となっているが、岩徳線としばらく重複して走る。川西駅から眼下に岩国の市街をながめながら山中へ入っていき、道祖峠トンネルを通り抜けて1.9kmあまり、森ヶ原信号場(もりがはらしんごうじょう)で、進行方向右手に分岐していく線路が錦川清流線となる。

↑川西駅から山すそを通り、685mの道祖峠トンネルを過ぎて、岩徳線との分岐ポイント森ヶ原信号場(右上)へ向かう

 

森ヶ原信号場を過ぎると、間もなく一つの橋梁を渡る。こちらは御庄川(みしょうがわ)という錦川の支流にあたる河川だ。このあたりの錦川は岩国城がある山の尾根で流れを阻まれるように北へ大きく蛇行しており、錦川清流線とは離れて走る区間となっている。

 

御庄川橋梁を渡ると、はるか上空に山陽自動車道の高架橋がかかり、まもなく山陽新幹線の高架線も見えてくる。

↑御庄川に架かるガーダー橋を渡る錦川清流線の下り列車。この区間は錦川とかなり離れている

 

【清流線の旅⑦】山陽新幹線の乗換駅ながら質素さに驚く

山陽新幹線の高架線のほぼ下にあるのが清流新岩国駅だ。新岩国駅の最寄り駅となる。JR山陽本線の岩国駅が海岸に近い市街地にあるのに対して、新岩国駅は山の中に開かれ駅だ。今は岩国駅と新岩国駅の両駅が岩国市の玄関口とされているが、駅舎を出るとだいぶ印象が異なる。

 

新岩国駅の駅前には路線バスやタクシーが多くとまり、また近隣の駐車場も入り切れないぐらいの車が駐停車していた。行き交う人も多く、現在は新岩国駅の方がより賑わっているように感じられた。同駅からも前述した錦帯橋行きの路線バスが走っている。

 

新岩国駅から錦川清流線に乗換える人も多いが、最寄り駅とはいえやや離れている。時刻表誌にも「距離300m、徒歩7分」離れているという注釈が入っている。

↑山陽新幹線の新岩国駅駅舎。駅の横に清流新岩国駅へ向かう専用通路がある(左上)。上の案内には200mとあるが実際は300mほどある

 

新岩国駅の駅舎を出ると、山陽新幹線の高架下にそって通路があり、300m進むと清流新岩国駅がある。意外に距離があり、列車に遅れまいと小走りする利用者が多く見うけられた。

 

清流新岩国駅はホーム一つの小さな駅で、待合室は元緩急車の車掌室を改造したものだ。錦川清流線を利用する多くの観光客はこの駅から乗車するが、初めて訪れた人はその質素さに驚かされるに違いない。

 

なお清流新岩国駅は2013(平成25)年までは御庄駅(みしょうえき)という名だった。待合室の上部にはペンキ書きされた古い駅名が残っていて郷愁を誘う。

↑錦川鉄道の清流新岩国駅のホーム。待合室は元緩急車の車掌室を利用、上の高架は山陽新幹線で、新岩国駅はこの左手にある

 

【清流線の旅⑧】路線は錦川に沿ってひたすら走る

清流新岩国駅を発車して間もなく、進行方向右手に錦川が見え始める。岩徳線の西岩国駅〜川西駅間で錦川を渡るが、ここから錦川清流線は錦川沿いを走る区間に入る。守内かさ神駅(しゅうちかさがみ)駅、南河内駅(みなみごうちえき)にかけては、錦川をはさんで対岸に国道2号が走り、南河内駅近くで錦川清流線とクロスする。国道2号をさらに先へ行くと、岩徳線の路線と出会い並行して走り徳山方面へ向かう。

 

国道2号(旧山陽道)がこの地を通るように、錦川清流線および岩徳線が通るルートは、古くから重要な陸路として開かれ活用されてきた。大正昭和期の人たちが岩徳線を山陽本線としようとした理由もここにあった。

 

錦川清流線は行波駅(ゆかばえき)、北河内駅(きたごうちえき)、椋野駅(むくのえき)、南桑駅(なぐわえき)と進むにつれて、蛇行する錦川にぴったりと寄り添うように走る。進行方向の右下は川岸ぎりぎりという区間も多くなる。

↑錦川沿いを走る錦川清流線。写真のように川岸ぎりぎりを走る区間も多い。椋野駅〜南桑駅間で

 

盛土された上や、コンクリートの壁面を作りその上を列車が走るため川面よりもだいぶ上を走る。錦川ははるか下に見下ろす箇所が大半だが、数年ごとに豪雨災害の影響も受けている。

 

錦川清流線は、2018(平成30)年7月にこの地方を襲った「平成30年7月豪雨」により全線不通となり、8月27日に復旧した。昨年の9月18日には台風14号の影響で路線に並走する市道が崩れ落ちたために岩国駅〜北河内駅間が運休、11月14日にようやく復旧を終えたばかりである。

 

【清流線の旅⑨】観光列車でしか行けない錦川沿いの秘境駅

川が近くを流れるということは、列車からの景色が美しいということにもなる。それが錦川清流線の魅力にもなっている。

 

錦川側の風景ばかりではない。北河内駅〜椋野駅間には「錦川みはらしの滝」、椋野駅〜南桑駅間には「かじかの滝」と2本の滝が山から流れ出している。両スポットでは列車がスピードダウンして、それぞれの滝の解説が車内に流れる。観光客が多く乗車することを意識してのことだろう。

↑南桑駅付近を走る上り列車。このように線路のすぐ下を錦川が流れる区間が多い

 

さらに南桑駅〜根笠駅(ねがさえき)間にはとっておきの駅がある。清流みはらし駅と名付けられた臨時駅だ。清流みはらし駅は川沿いにホームのみがある臨時駅で、道は通じていない。錦川のパノラマ風景を楽しむために造られた駅で、キハ40形で運行される観光列車「清流みはらし列車」のみこの駅へ行くことができる。

↑南桑駅を発車する下り列車。次の駅が観光列車しか停らない清流みはらし駅(左上)だ

 

同列車は昨年秋、災害により路線が不通となり運転されなかったが、次回は2月4日(土曜日)に走る予定だ。往復運賃+昼食お弁当を含み5000円で1日30名のみ限定だが、機会があればぜひとも乗ってみたい、そして訪れてみたい川の上の臨時駅である。

 

【清流線の旅⑩】終点・錦川駅の先には未成線の路線が延びる

河山駅(かわやまえき)、柳瀬駅(やなぜえき)と錦川を見下ろす駅を通り、錦川橋梁を越えれば終点の錦川駅に到着、三角屋根の駅舎が旅人を出迎える。

 

錦川鉄道が発行する「鉄印」はこの駅のみの取り扱いで、スタンプ+キャラクター「ニシキー」(岩国市特産品を食べる絵)や書き置き印といったバラエティに富んだ「鉄印」を用意している。

↑錦川鉄道の本社がある錦町駅舎。2階には観光・鉄道資料館があり、古い岩日線の写真などが展示されている

 

錦町駅の構内には車庫があり、乗車したNT3000形以外のカラー車両とキハ40形が停車している姿を見ることができる。戻る列車の発車時間まで余裕がある場合には、ぐるりと駅を一回りするのも良いだろう。車庫や検修庫を裏側から見ることができる。

↑錦町駅隣接の車庫と検修庫。乗車できなかった車両もここで確認することができる

 

錦町駅から先には岩日線の未成線区間を利用した観光用トロッコ遊覧車両が運転されている。「とことこトレイン」と名付けられた列車で錦町駅と、そうづ峡温泉駅間の約6kmを走る。

 

てんとう虫を見立てたデザインの「ゴトくん」、「ガタくん」というかわいらしいネーミングの車両を利用し、路線内には蛍光石で装飾された「きらら夢トンネル」という装飾トンネルを走るなど、親子連れにぴったりな乗り物だ。片道40〜50分で、基本は週末と特定日の運行、往復1200円だが、錦川清流線の利用者は割引となる。そうづ峡温泉には日帰り温泉施設「SOZU温泉」もある。「とことこトレイン」は冬期(12月〜翌3月下旬)運休で、4月以降に運転が再開される予定だ。

↑錦川清流線の線路の先に設けられたとことこトレインの錦町駅。電動の動力車+客車2両で運行される(左上)

 

乗車した錦川清流線では錦川の清涼感が感じられ、錦帯橋を含め爽やかな気持ちになった。次回に訪れた時には、観光列車に乗車しなければ下車できない「清流みはらし駅」や、改修された「西岩国駅」にも訪れてみたいものである。

満足度は間違いない! 三菱「アウトランダーPHEV」は輸入車の高級モデルばりの威厳を放つ!!

2021年12月に発売された新型「アウトランダーPHEV」。すでに発売から1年が経過したが、多くの自動車メディアや評論家が高く評価している。先代モデルは約9年と長きにわたって販売されロングセラーモデルだったが、はたして新型はユーザーが待ち望んだ進化を果たしたのだろうか。現在の三菱自動車のフラッグシップモデルの実力に迫った。

 

■今回紹介するクルマ

三菱/アウトランダーPHEV

※試乗グレード:P

価格:462万1100円~548万5700円(税込)

 

ハイブリッドカーの進化系であるPHEVがある

カーボンニュートラルの波は日本の自動車業界にもひしひしと迫っており、クルマの電動化はもはや避けられない事態となっている。特に政府関係者に望まれているのはピュアEV(電気自動車)だが、日本でまだ流行らない理由は、価格が高いこととインフラに不安があるからだ。

 

前者に関しては、政府から補助金が出ることでガソリン車と変わらないくらいの価格になっているし、普及が進めば徐々に価格も下がってくることが予想される。しかし後者に関してはなかなか深刻な問題だ。給電スポットを探して不安になりながら運転するというのは、一度経験した人なら二度と味わいたくないものに違いない。

 

また、給電時間の問題もある。やっと見つけた充電スポットに先客がいれば、その人と自分とで合わせて1時間近く充電待ちしなくてはならないこともある。とはいえ、インフラが充実するには相当な時間がかかる。現在のガソリンスタンドのように、当たり前のように街中に給電スポットが揃うのはいつになることか。この先、EVの普及台数が増えていけば、追いかけっこのような状態になりかねない。

 

では、インフラが普及するまでEVは買えないのか、EVの走りを味わうことはできないのか、といえば、そんなことはない。ハイブリッドカーの進化系であるPHEV(プラグインハイブリッドカー)がある。PHEVとは充電できるハイブリッドカーのことで、基本的にはEVとしてモーターで走り、電気がなくなったら(充電できなかったら)、ガソリンエンジンを積んでいるから普通のハイブリッドカーとしても走れるし、走行中に充電もされる。

↑アウトランダーPHEVのグレードはP、BLACK Edition、G、Mの4種。今回は最上級グレードのPを試乗

 

2022年末の現在、日本ではトヨタの「プリウス」、「RAV4」、レクサスの「NX」、三菱には「エクリプスクロス」、そしてこのアウトランダーにPHEVの設定がある。しかし、このアウトランダー(先代型)こそが“PHEVの権化”という時代があったのは事実だ。元々はミドルサイズのクロスオーバーSUV「エアトレック」の後継車で、2013年に2代目モデルに世界初の4WD&SUVのPHEVとして先代型が誕生して以降、他メーカーのPHEVは販売が振るわなかったのだ。

↑ボディカラーはPグレード専用色を含めて全12色。スタイリングをさらに引き立ててくれるダイヤモンドカラーシリーズは美しい

 

そして2021年に満を持して3代目アウトランダー(アウトランダーPHEVとしては2代目)が誕生したわけだが、ガソリンエンジン搭載モデルもラインナップされていた先代型と違い、新型はPHEVのみとなっている。これは、PHEVのみでも販売的に失敗しない、そしてそれだけの高い完成度を実現したという三菱の自信の表れでもある。

↑255/45R20 タイヤ+20インチアルミホイール(2トーン切削光輝仕上げ)を履く。※Pの場合

 

↑インテリアにはインストルメントパネルを貫く力強い水平基調のデザインを採用。Pのシート生地はブラック×サドルタンのセミニアンレザーが標準だが、試乗車はライトグレーのレザー生地になっていた

 

乗り心地もフラットで、極めて乗用車ライク!

パワーユニットの構成は、フロントにエンジンを搭載し、フロントとリアにそれぞれモーターを備えた4WDとなっており、前後で異なるモーターで駆動を制御する「ツインモーターAWD」を採用している。従来モデルと同構成ながら、出力が向上されたこのユニットによって非常に優れた加速を実現しており、体感的にもEV(モーター)特有の鋭い加速が感じられた。なお、バッテリー容量は先代型から約50%近く拡大されており、カタログ値で87kmもモーターのみで走行することができる。

 

↑手になじむ大型のダイヤルを回すことで直感的にモードの選択が可能

 

↑左のスイッチはペダルの踏み替えを減らす「イノベーティブペダルオペレーションモード」。右にあるのは4つのモードから、バッテリー残量をコントロールできるスイッチ

 

先代モデルと比べると、もう少し硬かった足まわりがだいぶしなやかになった。乗り心地もフラットで、極めて乗用車ライクなものになっている。また、先代型は車高の高いSUVらしくコーナリングで多少の不安があったが、より安定感の高いフィーリングを感じさせるようになった。

 

ステアリングフィールに関しては従来から重くはなかったが、さらに軽くなった印象を受ける。全体的な操作感覚としては何もかもイージーに生まれ変わったといえる。ボディサイズは全長、全幅とも拡大されているが、最小回転半径は5.5mとなっており、ボディサイズを考えれば非常に小回りが効くクルマに仕上がっている。

↑フロントよりリアのモーターのほうがパワフルなのも三菱PHEVの特徴

 

新型はPHEVのみになったにも関わらず、先代型のガソリンモデルでラインナップされていた7人乗り(3列シート)仕様が設定されている。単純に考えてガソリン車よりPHEVのほうがメカニズム部分の容積が大きくなってしまうはずだが、そこは設計や技術で補った形だ。

 

3列目シート自体は、背もたれ、座面ともに重厚になっていて、立派な印象を受ける。しかし実際に座ってみると筆者のような身体の大きめな男性では高さが足りず、また足を置く部分の床面積にも不満が残る。多くのミニバンと同じように、あくまでも3列目は子ども向けと割り切るべきだろう。

↑3列目シートは子ども専用ともいうべきスペース感

 

↑荷室は、3列目まで使用すると容量は最大284リットル。3列目シートを床下格納すると、最大646リットルまで容量は拡大する

 

最後に、デザインについては、三菱ブランドのフラッグシップ(旗艦)らしく、堂々としたたたずまいに仕上がっていて素晴らしい。何にも似ていない三菱オリジナルテイストのフロントまわりは、同社のデザインアイコンである「ダイナミックシールド」が採用されており、非常に押し出し感が強く、輸入車の高級モデルばりの威厳を放っている。インテリアについてもクラス以上の高級感に満ちていて、クオリティが高い。流行りのフォーマットをなぞっている印象のないクルマながら、クルマの未来を感じたい人にとって、最高の一台になり得るだろう。

↑フロントマスクには最新世代の「ダイナミックシールド」デザインを採用。頰の部分にある四角いユニットがヘッドランプ

 

SPEC【P】●全長×全幅×全高:4710×1860×1745㎜●車両重量:2110㎏●パワーユニット:2359cc直列4気筒エンジン+電気モーター●エンジン最高出力:98kW/5000rpm●フロントモーター最高出力:85kW/リアモーター最高出力:100kW●エンジン最大トルク:195Nm/4300rpm●フロントモーター最大トルク:255Nm/リアモーター最大トルク:195Nm●WLTCモード燃費:16.2㎞/L

 

撮影/木村博道 文/安藤修也

 

 

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フィアット「500」、ファニーフェイスでロングセラーモデルに!

近年、素材整形技術の進化とともに、シャープなデザインを特徴とする“ツリ目”ライトのクルマが増えてきた。一方で、古くから存在し続けているのは“丸目”ライトを持つクルマたち。ファニーな印象を与えがちな丸目ライトだが、その瞳の奥に秘めたトガった魅力を分析していこう。

※こちらは「GetNavi」 2022年12月号に掲載された記事を再編集したものです

 

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自動車評論家

清水草一さん

これまで50台以上のクルマを愛車としてきたベテラン評論家。専門誌でデザインに関する連載を持っていたほどクルマの見た目にはうるさい。

 

フィアット/500

255万~324万円(税込)

3ドアハッチバックタイプのイタリア製コンパクトカー。かつての名車のリバイバルデザインで2007年に発表されたが、登場から約15年が経ったいまもファンから愛されており、ほぼ変わらぬデザインのまま販売され続けている。

SPEC(TWINAIR・CULT)●全長×全幅×全高:3570×1625×1515mm●車両重量:1010kg●パワーユニット:875cc直列2気筒ターボエンジン●最高出力:63kW/5500rpm(ECOスイッチON時57kW/5500rpm)●最大トルク:145N・m/1900rpm(ECOスイッチON時100N・m/2000rpm)●WLTC燃費:19.2km/L

 

レトロモチーフを現代に蘇らせた快作

現在のフィアット500は、ミニと同じく、半世紀以上前の大衆車がモチーフ。元祖は機能第一だったが、現在はファンカーで、実用性は二の次になっている。もちろんヘッドライトは丸目だ。

 

こうして見ると、現在の丸目カーは、すべて昔のクルマがモチーフ。丸目にすると激しく昔っぽくすることができる。目が丸いって、スゴいパワーなんですね!

 

[ココはトガっている] 待望のEVモデルがデビュー!

新型EV(電気自動車)として誕生した「500e」は、500のデザインを受け継いだモデルとして6月に発売された。ヘッドライトは上下に分割されて「眠そうな目」となる。価格は473万円から。

 

↑旧モデル同様、かたまり感のあるプロポーション。エンジンは1.2L直列4気筒に加え、875cc直列2気筒も設定される

 

↑室内空間にも丸をモチーフとしたデザインが散りばめられている。正面パネルのカラーパーツもキュート

 

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世界から愛されて50年超丸目の哲学を今に受け継ぐBMW「MINI」

近年、素材整形技術の進化とともに、シャープなデザインを特徴とする“ツリ目”ライトのクルマが増えてきた。一方で、古くから存在し続けているのは“丸目”ライトを持つクルマたち。ファニーな印象を与えがちな丸目ライトだが、その瞳の奥に秘めたトガった魅力を分析していこう。

※こちらは「GetNavi」 2022年12月号に掲載された記事を再編集したものです

 

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自動車評論家

清水草一さん

これまで50台以上のクルマを愛車としてきたベテラン評論家。専門誌でデザインに関する連載を持っていたほどクルマの見た目にはうるさい。

 

BMW/MINI

298万~516万円(税込)

長年にわたって販売されていたクラシック・ミニが、2001年にBMWによってリボーンさせられてからすでに3代目。独自の乗り味「ゴーカートフィーリング」はそのままに、メカは現代的にアップデートされている。

SPEC(クーパー・5ドア)●全長×全幅×全高:4025×1725×1445mm●車両重量:1260kg●パワーユニット:1498cc直列3気筒ターボエンジン●最高出力:100kW/4500rpmm●最大トルク:22oN・m/1480〜4100rpm●WLTC燃費:15.6km/L

 

生まれたのはまだ丸目しかなかった時代

59年に誕生した元祖ミニは、最小のサイズで最大限の居住性を追求した偉大なる大衆車で、極限までシンプルだったから、当然ヘッドライトは丸目だった。

 

現在のミニのデザインは、あくまで元祖ミニを出発点としている。サイズは大幅に大きくなったが、フォルムはあくまで元祖を彷彿とさせる。ミニは元祖ミニっぽくなければ、ミニじゃなくなってしまうのだ。

 

[ココはトガっている] クセの強い特別仕様車が続々登場!

ブランド力とファッション性の高さもあって、さまざまなカラーリングの特別仕様車が次々に登場している。写真は、英国のストリートアートの聖地の名を冠した「ブリックレーン」

 

↑ボディサイズは拡大されてきたものの、インパネ中央に丸い大型ディスプレイを配置したポップなデザインはいまも健在だ

 

↑伝統の3ドアハッチバックに加え、コンバーチブルやクロスオーバーSUV、ワゴン風のクラブマン、5ドアもあり

 

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スズキ「ハスラー」はアクティブな乗り方に耐える現代仕様のタフデザイン!

近年、素材整形技術の進化とともに、シャープなデザインを特徴とする“ツリ目”ライトのクルマが増えてきた。一方で、古くから存在し続けているのは“丸目”ライトを持つクルマたち。ファニーな印象を与えがちな丸目ライトだが、その瞳の奥に秘めたトガった魅力を分析していこう。

※こちらは「GetNavi」 2022年12月号に掲載された記事を再編集したものです

 

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スズキ/ハスラー

136万5100~181万7200円(税込)

2020年に現行型となる2代目モデルへモデルチェンジした、クロスオーバーSUVタイプの軽自動車。使い勝手のいい軽ハイトワゴンに流行りのSUV風のデザインを施し、高レベルの低燃費性能と安全性能、小回り性能を備えている。

SPEC(HYBRID Xターボ・2WD)●全長×全幅×全高:3395×1475×1680mm●車両重量:840kg●パワーユニット:658cc直列3気筒ターボエンジン●最高出力:47kW/6000rpm●最大トルク:98N・m/3000rpm●WLTC燃費:22.6km/L

 

印象をガラリと変える目尻の付け足しがニクい

ジムニーは3ドアだが、ハスラーは5ドアなので実用性が高い。ジムニーはボディの角が角ばっているが、ハスラーは適度に丸みを帯びている。そして丸目の外側に目尻を付けたハスラーの顔は、ジムニーに比べるとグッとソフトで、ぬいぐるみっぽく感じられる。

 

つまり「ジムニー的な機能オンリーデザインのソフト&カジュアル版」というわけだ。

 

[ココはトガっている] インテリアデザインはギア風!

従来の軽自動車では見たことがなかったような自由度の高いデザイン。インパネ正面に3つのサークルを設けるなど、どこかギアっぽさ、おもちゃっぽさを感じる作りになっている。

 

↑ポケットやトレーなどを備えたアウトドア向けのインテリア。買い物袋を提げられるフックやシート座面下の収納も搭載する

 

↑シート脇のラインなど、内装を彩るホワイト/オレンジ/ブルーといったカラーアレンジもグレードによって選ぶことができる

 

 

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どんな道も力強く駆け抜ける古典的4WD車の最新形スズキ「ジムニー」

近年、素材整形技術の進化とともに、シャープなデザインを特徴とする“ツリ目”ライトのクルマが増えてきた。一方で、古くから存在し続けているのは“丸目”ライトを持つクルマたち。ファニーな印象を与えがちな丸目ライトだが、その瞳の奥に秘めたトガった魅力を分析していこう。

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スズキ/ジムニー

155万5400~190万3000円(税込)

約20年間販売された先代型に代わり、2018年にモデルチェンジした軽クロスカントリーSUV。登場するや否や爆発的な人気で1年以上の納車待ち状態に。オフロード向きのラダーフレーム構造と、最新の安全装備を採用している。

SPEC(XG・4速AT)●全長×全幅×全高:3395×1475×1725mm●車両重量:1050kg●パワーユニット:658cc直列3気筒ターボエンジン●最高出力:47kW/6000rpm●最大トルク:96N・m/3500rpm●WLTC燃費:14.3km/L

 

機能に一極集中したパワフルなデザイン

ジムニーのデザインは、余計な工夫を何もしていない。悪路の走破性の高い、いわゆるジープタイプのカタチのまま作っている。

 

ヘッドライトも当然丸い。繰り返すが、ジムニーは余計な工夫を一切排除している。つまり、80年前のジープとまったく同じなのだ。この機能オンリーのデザインパワーは、すさまじい破壊力を持って、我々の心に食い込んでくる。

 

[ココはトガっている] 縦横無尽のオフロード性能!

初代モデルから一貫して採用されているのはパートタイム式の4WD。雪道、荒地、ぬかるみ、登坂路など、様々なシーンに合わせた駆動パターンを選ぶことができて、高い悪路走破性能を発揮する。

 

↑軽自動車ではなく1.5Lエンジンを搭載するワイドボディの「ジムニーシエラ」もラインナップ。よりパワフルな走りを求める人向け

 

↑シンプルにして機能性を徹底追及したインテリアデザイン。骨太なオフロードモデルを欲するユーザーにぴったりだ

 

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ダイハツ「コペン セロ」はオープンカーの楽しみを広げてくれる個性的デザイン

近年、素材整形技術の進化とともに、シャープなデザインを特徴とする“ツリ目”ライトのクルマが増えてきた。一方で、古くから存在し続けているのは“丸目”ライトを持つクルマたち。ファニーな印象を与えがちな丸目ライトだが、その瞳の奥に秘めたトガった魅力を分析していこう。

※こちらは「GetNavi」 2022年12月号に掲載された記事を再編集したものです

 

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これまで50台以上のクルマを愛車としてきたベテラン評論家。専門誌でデザインに関する連載を持っていたほどクルマの見た目にはうるさい。

 

ダイハツ/コペン セロ

194万3700~214万7200円(税込)

2代目となる現行型コペンの、第3のスタイルとして2015年に追加された人気モデル。“親しみやすさと躍動感の融合”をテーマにしたデザインは、丸目のみの意匠で高い評価を得ていた初代コペンを彷彿させ、根強いファンが多い。

SPEC(セロS・5速MT)●全長×全幅×全高:3395×1475×1280mm●車両重量:850kg●パワーユニット:658cc直列3気筒ターボエンジン●最高出力:47kW/6400rpm●最大トルク:92N・m /3200rpm●WLTC燃費:18.6km/L

 

昔のクルマのようなカタチで運転の本来の喜びに浸る

創世記のフェラーリ、たとえば166MMといったクルマを見ると、「カマボコにタイヤを4個付けて、丸い目と四角い大きな口を描いたような形」をしている。NHKのマスコットキャラクター「どーもくん」の顔をつけたイモムシ、と言ってもいい。

 

コペン セロのデザインは、それに非常に近くはないだろうか?

 

目は真円ではなく微妙に楕円だが、真正面から見るとほとんど丸。テールランプも丸。ボディは斜めのエッジを付けたカマボコ型だ。

 

そして2人乗りのオープンカー。いまでこそオープンカーはゼイタク品だが、昔はオープンカーが標準で、雨の日のために幌が用意されていた。つまりコペン セロのデザインは、70年くらい前の標準的な自動車の形、と言えなくもない。

 

すなわち、コペンは特殊なドライビングプレジャーを提供するクルマだが、本質は本来の自動車そのものということ。だからデザインも、70年くらい前の自動車に似ているのである。そしてこのクルマで走れば、70年くらい前の人が感じたのと同じ、原初的なヨロコビに浸ることができるというわけだ。スバラシイじゃないか。

 

[ココはトガっている] デザインアレンジが自由自在!

現行型コペンは内外装着脱構造を備え、樹脂外板やヘッドランプなどを交換して、別のスタイルへ変更することが可能。クルマのデザインを自由に変更して自分らしさを表現できる。

 

↑リアコンビネーションランプの形状も丸! 前から見ても後ろから見ても、親しみやすさと躍動感を感じられるルックスだ

 

↑なんといってもコペンは軽自動車唯一のオープンスポーツモデル。風を感じながら爽快にドライブを楽しむことができる!

 

↑「アクティブトップ」と呼ばれる電動開閉式トップを採用。屋根を閉めてしまえば快適な室内スペースを確保できる

 

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2023年の鉄道はどうなる? 惜別の路線と車両、話題の新線・新車ほか11大トピックをお届け!

〜〜2023年に予定される鉄道のさまざまな出来事〜〜

 

神奈川県と大阪での新しい路線や駅の開業や大きな災害で傷ついた路線の復旧、おなじみの車両の引退などが予定されている2023(令和5)年。1月から予定されている鉄道をめぐる出来事を追っていきたいと思う。

 

【関連記事】
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【その1】48年間走った東急の名物車両の引退(1月予定)

年始早々、首都圏でおなじみの車両が消えていく予定だ。

 

◇東急電鉄8500系電車

東急電鉄の8500系が1月で運行終了の予定とされている。8500系の特徴でもある甲高いモーター音も1月で聞き納めになりそうだ。

 

東急電鉄の8500系は田園都市線をメインに、東京メトロ半蔵門線、東武スカイツリーラインを長年走り続けてきた。登場したのは1975(昭和50)年と古く、1991(平成3)年までに東急車両製造によって400両と大量の車両が生み出された。

 

製造当初のステンレス車体は米バッド社が提供する技術を元に造られていたが、1981(昭和56)年から東急車両製造が独自に開発したステンレス車体を使い軽量化が図られた。その後にステンレス車体を持つ電車が多く新造されたが、同社の技術が活かされた車両が多い。8500系が鉄道車両史で果たした役割は大きいのである。

↑最後の一編成となった8500系37編成。おなじみだった赤帯でなく、青帯が37編成の目印となっていた

 

最後の一編成となったのは8500系37編成で長年「青帯Bunkamura号」と親しまれてきた。最後の時が近づきつつある現在は「ありがとうハチゴー」のヘッドマークを付けて走っている。

 

◇長野電鉄3500系電車

東急電鉄8500系は本家、東急電鉄でこそ引退となるが、実は国内の多くの鉄道会社に譲渡され、今も主力として活躍し続けている。中でも多くが活躍しているのが長野電鉄だ。

 

長野電鉄では元東急8500系が主力として活躍する一方で、1月19日で消えていく車両がある。それが長野電鉄3500系だ。この車両も元は営団3000系で、日比谷線を走り続けた首都圏で長く活躍した地下鉄電車である。営団3000系の登場は1961(昭和36)年春のこと。当時のセミステンレスの車体らしく、コルゲート板と呼ばれる波板が特徴だった。

↑長野電鉄の最後の3500系となったN8編成。営団地下鉄では1963(昭和38)年度に製造された電車だった

 

1994(平成6)年に営団地下鉄では引退となったが、1992(平成4)年から長野電鉄へ徐々に譲渡が始まりすでに30年。営団地下鉄当時を加えれば半世紀以上運行していたが、徐々に引退していき、ついに、最後のN8編成も運行終了の予定となった。60歳の〝ご長寿〟電車には本当にお疲れさまでしたと声をかけたい。

 

【その2】長年親しまれた特急形車両が消える(3月17日)

2023(令和5)年3月18日、JRグループや、多くの大手私鉄でダイヤ改正が行われる。その前日に運行終了となり、引退となる車両形式が複数ある。

 

◇JR北海道 キハ183系特急形気動車

キハ183系特急形気動車は、国鉄時代の1980(昭和55)年に導入された。北海道用に開発された車両で、国鉄時代に製造された車両に加えてJR北海道に継承以降も新たに増産された。道内の特急列車に長らく使われ続けてきたが、初期のスラントノーズと呼ばれた高運転台の車両はすでに引退となり、後期タイプの車両が残され、特急「オホーツク」と「大雪」として走ってきた。

↑札幌駅と網走駅を結んできたキハ183系運行の特急「オホーツク」。3月18日からはキハ283系に置換えられる

 

3月18日からは、キハ283系特急形気動車に置換えの予定となっている。ちなみにキハ283系は特急「おおぞら」などの列車に使われてきたが、すでに「おおぞら」の運用からは離脱、転用され「オホーツク」「大雪」での運用となる。残るキハ183系は、前後に展望席がある1000番台のみで、こちらは現在、JR九州の特急「あそぼーい!」として活躍している。

 

◇JR東日本651系特急形電車

JR東日本の651系は、常磐線用に1989(平成元)年春に導入された交直流特急形電車で、主に特急「スーパーひたち」として運用された。デビュー当時は「タキシードボディのすごいヤツ」というキャッチコピーがつけられ、高運転台の車両ながら国鉄形特急電車とは異なるユニークな姿で目立った。

↑菜の花が咲くなか上野駅に向けて走る651系特急「スワローあかぎ」。この春はこうした情景を見ることができるのだろうか

 

後継のE657系の導入で、常磐線から高崎線などを走る特急「草津」「あかぎ」「スワローあかぎ」に転用され走り続けてきたが、3月17日が651系の最終運行日になる予定で、翌日からはE257系に置換えられる。同時に「スワローあかぎ」という特急名は消滅し、「草津・四万」「あかぎ」という特急名で運行されることになる。

 

【その3】新横浜線開業で新横浜駅がより身近に(3月18日)

3月18日には、JR全社とともに大手私鉄などの鉄道会社も一斉にダイヤ改正が行われる。それに合わせて東西の新線が開業する。

 

まず、相鉄・東急新横浜線から見ていこう。3月18日に運行が始まるのは東急東横線の日吉駅と羽沢横浜国大駅間の営業距離10kmの区間だ。内訳は相鉄新横浜線の羽沢横浜国大駅〜新横浜駅間(営業キロ4.2km)と、東急新横浜線の新横浜駅〜日吉駅間(営業キロ5.8km)で、新横浜駅を境にして相模鉄道、東急電鉄それぞれの電車の相互乗り入れが行われることになる。

↑すでに新横浜駅への習熟運転が始められている。報道公開日に乗入れて来たのは東急5050系の「Shibuya Hikarie号」だった

 

↑報道陣に公開された相鉄・東急新横浜線の新横浜駅。東海道新幹線・新横浜駅の接続駅として利用する人も多くなりそうだ

 

東京メトロ南北線、都営三田線の両路線の電車も相鉄・東急新横浜線へ相互乗入れ予定で、中でも都営三田線の乗入れ本数が多くなることが発表されている。来春からは都営三田線、相鉄線内で両線の電車と出会う機会も増えそうだ。

 

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開業前の巨大地下駅ってどんな感じ?「人流を変える」と期待大の相鉄・東急直通線「新横浜駅」を探検!

 

【その4】大阪駅(地下ホーム)開業でより便利に(3月18日)

現在、近畿圏を走る特急「はるか」と特急「くろしお」は、大阪駅に停まらず、新大阪駅と大阪環状線の間を行き来して走る。やや不便を強いられてきたが、3月18日に大阪駅に停まるようになり、環境が大きく変わることになる。

↑大阪駅(地下ホーム)は現在の大阪駅とは最短50mの近さ。駅前広場や連絡デッキも2年後に完成予定 2022(令和4)年2月22日撮影

 

特急「はるか」「くろしお」は長い間、大阪駅の西側にある梅田貨物線の路線を走ってきた。この梅田貨物線を東側に移設し、「うめきた」の地下に通して地下ホームを設ける工事が春に完了し、大阪駅(地下ホーム)としてオープンする。

 

新駅開業後には特急2列車だけでなく、これまで新大阪駅〜久宝寺駅(きゅうほうじえき)間で運転されてきた「おおさか東線」の電車が大阪駅(地下ホーム)に乗入れ予定だ。これにより、大阪圏の電車利用がかなり変わることになる。

 

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↑梅田貨物線を走る特急「パンダくろしお」。写真の線路の先に地下新線と大阪駅(地下ホーム)が造られ同特急も新駅停車となる

 

【その5】留萌本線一部区間が廃線に(4月1日)

昨年は赤字ローカル線の廃線論議が高まりをみせた。年々路線の維持が全国規模で厳しくなっていくなかで、今年はまず、北海道内の複数のローカル線の廃止が予定、あるいは予想されている。

 

1本は留萌本線(るもいほんせん)で、石狩沼田駅〜留萌駅間35.7kmが4月1日に廃止となる。留萌本線は2016(平成28)年12月5日に留萌駅〜増毛駅(ましけえき)間16.7kmが廃止されており、徐々に路線自体が短くなっている。残る深川駅〜石狩沼田駅間14.4kmも2026(令和8)年には廃止の予定とされる。留萌本線自体も3年後には全線が廃線となるわけだ。

↑1910(明治43)年に開業した留萌駅。この春に113年にわたる歴史を閉じることになる

 

なお、石狩沼田駅〜留萌駅間の営業終了日は当初の予定が9月だったが、繰り上がり3月31日となった。国土交通省北海道運輸局が急転直下昨年12月1日に発表したもので、「公衆の利便を阻害するおそれがないと認める」ことが廃止予定を早めた理由だった。国土交通省およびJR北海道としては、廃止が近づいてくると起こりがちなトラブルを少しでも避けたいという思いが見え隠れする。消えていく路線を訪れて乗りたい、見たい気持ちも分からないでもないが、トラブルを避けるためにも最後は静かに見送りたいと思う。

 

北海道の鉄道は開拓、および石炭の輸送のために敷設された路線が多い。そうした使命を終えたこともあり、幹線を除いて消えていく路線が多くなっている。さらに最近は自然災害で路線が寸断され、そのまま廃線となるところも出てきている。

 

根室本線の富良野駅〜新得駅(しんとくえき)間81.7kmは、2016(平成28)年8月31日に同地を襲った台風10号による降雨災害で、東鹿越駅(ひがししかごええき)〜新得駅間が不通となり代行バスが運転されてきた。昨年初冬には、富良野駅〜新得駅間のバス転換を地元自治体が容認し、あとは廃止日をいつにするか、決定を待つのみとなっている。いつ廃止になるのか、気になるところだ。

 

↑根室本線の下金山駅(しもかなやまえき)付近を走る下り列車。ルピナスの花に囲まれた走行風景も過去のものとなりそうだ

 

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【その6】人気の観光列車「SL銀河」が運行終了(春の予定)

JR東日本の人気観光列車「SL銀河」は、2014(平成26)年4月12日から岩手県の釜石線の花巻駅〜釜石駅間を土日中心に走り続けてきた。牽引機はC58形蒸気機関車239号機で、客車はキハ141系気動車という組み合わせで、機関車と気動車の協調運転という形で運転されてきた。

 

キハ141系気動車は元JR北海道の車両で、50系客車を気動車に改造した珍しい車両だ。余剰となっていたJR北海道の気動車を購入し、協調運転することで、蒸気機関車の負担をなるべく減らすべく投入された車両だった。

 

最終運転日は明確にされておらず、この春までの運転とされているが、運行終了の理由としてあげられたのは客車の老朽化だった。本家のJR北海道でも新型電車の導入により、室蘭本線などを走るキハ141系の引退が予定されている。キハ141系という形式自体が消滅ということになりそうだ。

↑釜石線の名所ともされる宮守川橋梁(みやもりがわきょうりょう)を渡る「SL銀河」。こうした光景も春かぎりで見納めとなりそうだ

 

【その7】東武特急スペーシアの新型車両が登場!(7月15日)

今年も鉄道各社から新型車両が登場の予定だ。そんな新型車両の中で最も注目されているのが、東武鉄道の新型特急電車だ。

 

「SPACIA X(スペーシア X)」と名付けられた特急形電車で、発表されたイメージパースを見てもその斬新なデザインに驚かされる。特に先頭1号車と6号車が目をひく。運転席周りは丸みを帯びたスタイルで、下部の排障器(スカート)部分は100系スペーシアの形をよりアップデートさせた。さらに窓枠は江戸文化として伝えられてきた組子や竹編み細工を現代流にアレンジしたという。

↑「スペーシア X」の前面照明は39のドットで構成されたLEDライト、側面窓は沿線・鹿沼の伝統工芸・組子をイメージ 写真提供:東武鉄道

 

東武鉄道の特急といえば100系スペーシア、500系リバティのイメージが強い。そこに7月15日に新たな特急電車が加わり、浅草駅〜東武日光駅・鬼怒川温泉駅を走るようになる。ちなみに100系スペーシアが登場したのが1990(平成2)年6月1日のこと。すでに30年以上の年月がたっている。「スペーシア X」の導入が進むにつれて、100系の置換えが進むのだろう。東武特急にも新旧交代の時期が近づいている。

↑先頭車に設けられる「コクピットラウンジ」。ドリンクやスナックを楽しめるスペースとされる 写真提供:東武鉄道

 

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【その8】熊本地震で傷ついた南阿蘇鉄道が全線復旧(夏の予定)

毎年のように列島を襲う自然災害により鉄道路線が傷き、豪雨災害とともに地震による路線の不通も起こる。

 

熊本県の立野駅(たてのえき)〜高森駅(たかもりえき)間17.7kmを走る南阿蘇鉄道高森線は雄大な阿蘇カルデラを走る風光明媚な路線だった。2016(平成28)年4月16日に起きた熊本地震の本震により多大な被害を受け、全線で運休になった。3か月後の7月31日に一部区間の中松駅〜高森駅間で運行再開は果たしたものの、立野駅〜中松駅間が長期にわたり不通となった。

↑不通となった南阿蘇鉄道の路線。右上は被害が大きかった阿蘇下田城ふれあい温泉駅の駅舎 2017(平成29)年5月29日撮影

 

立野駅で接続するJR豊肥本線(ほうひほんせん)は2020(令和2)年8月8日に全線が運転再開したが、南阿蘇鉄道の路線は橋梁などの被害がより深刻で、復旧工事が長期化していた。難工事もようやく目処がつき、夏ごろに全線が復旧予定だ。不通だった一部区間ではすでに確認運転も始まっており、この夏、7年ぶりに南阿蘇の鉄道旅が楽しめることになりそうだ。

↑立野駅の近くにかかる立野橋梁を名物トロッコ列車が渡る。同橋梁も大きな被害をうけた 2015(平成27)年7月23日撮影

 

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【その9】新しいLRT「宇都宮ライトレール」が開業(8月の予定)

8月には新たなLRT((ライト・レール・トランジット/次世代型路面電車システム))の路線が栃木県で開業の予定となっている。運行は宇都宮ライトレール株式会社で、地元自治体や民間企業が出資する第三セクター方式で運営される。開業する路線は、宇都宮市の宇都宮駅東口停留場と芳賀町(はがまち)の芳賀・高根沢工業団地停留場間の14.6kmで、JR宇都宮駅と、宇都宮市東部および隣接する芳賀町にある工業団地などを結ぶ路線となる。

 

全国の路面電車の路線の中で、既存の在来線を活かしてLRT路線とする例はあったものの、すべての区間が新しく建設されるのは初めてのこと。マイカーに頼りがちな地方都市の、新たな移動手段として期待されている。

↑JR宇都宮駅(左側)に隣接して設けられる宇都宮駅東口停留場。すでに線路も敷き終わっている 2022(令和4)年12月25日撮影

 

すでに停留場づくりやレール敷設は終わっていて、試運転も徐々に進められている。昨年11月19日には宇都宮駅東口で試運転電車が脱線するトラブルもあったが、運転開始までには不具合が修正されるだろう。

 

宇都宮ライトレールは将来、宇都宮駅の西側へ延長され、JR宇都宮駅と東武宇都宮駅を結ぶ計画もある。路線バスの利用を余儀なくされてきた市内交通だけに、延長されればより便利になり、利用者も増えていきそうだ。新しいLRT路線がどのように活かされていくか注目したい。

 

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↑平石車両基地に搬入された新車HU300形。オレンジと黒というおしゃれな車両が宇都宮市内を走ることになる

 

【その10】小田急の看板車両「VSE」が消えていく(秋ごろの予定)

小田急電鉄のVSE(50000形)といえば、小田急のフラッグシップモデルとされ、先頭に展望席が付く人気のロマンスカー車両だ。登場は2005(平成17)年3月19日のことで、まだ18年目と、車歴は比較的浅い。鉄道車両は約30年のサイクルを目処に置換えられることが多いが、昨年の3月11日に定期運行が終了となり、その後に臨時の団体列車などで走ってきたが、いよいよ秋には引退となるとされている。

↑独特なフォルムで走り続けてきたVSE(50000形)。車体を微妙に傾けカーブする姿も見納めに 2022(令和4)年11月12日撮影

 

早めの引退となった理由としては、車体に使われたダブルスキン構造の車体の補修や修正が難しいことと、車両と車両の間に台車をはく連接構造や、車体傾斜制御など取り入れた構造の維持、更新が難しいことなどがあったとされる。

 

同じ前面展望席を持つGSE(70000形)では連接構造が採用されなかった。小田急電鉄ではロマンスカーに連接構造を採用した車両が使われてきたが、VSE(50000形)が連接構造を持つ最後のロマンスカーとなったわけである。将来VSE(50000形)は海老名駅前にある「ロマンスカーミュージアム」内で、歴代ロマンスカーと並んで展示保存されることになりそうだ。

 

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【その11】木次線名物「奥出雲おろち号」が運転終了(11月下旬?)

「奥出雲おろち号」は木次線(きすきせん)の名物列車である。DE10形ディーゼル機関車と12系客車の組み合わせで、春から秋まで週末や観光シーズンを中心に走り続けてきた。

↑スイッチバック駅・出雲坂根駅を発車する「奥出雲おろち号」。終点の備後落合駅まで行く数少ない列車としても活かされてきた

 

木次線といえば、出雲坂根駅の3段スイッチバックと、さらに三井野原駅(みいのはらえき)まで至る風景が秀逸で、「奥出雲おろち号」は木次駅〜備後落合駅(びんごおちあいえき)間の片道が下り約2時間30分、上り3時間と長丁場にもかかわらず人気となっていた列車だった。

 

この名物列車も車両の老朽化で2023年度いっぱいでの運行終了が発表されている。年度いっぱいと言っても、木次線は雪深い路線ということもあり、来年3月中の運行はできないと思われる。年内11月下旬までの運行で見納めとなりそうだ。ちなみに、来年春以降には観光列車の快速「あめつち」が木次線の出雲横田駅まで乗入れる予定だ。しかし、終点の備後落合駅までの運転予定はないそうで残念である。

 

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【その12】日本で唯一のスカイレールが消えていく(年末の予定)

最後のトピックも廃線の話題となる。広島市の安芸区(あきく)に「スカイレール」という珍しい乗り物がある。

↑広島市安芸区内を走るスカイレール。車両はゴンドラリフトに近い(右下)。モノレールに近い構造で鉄道の仲間とされている

 

スカイレールが走るのは、山陽本線瀬野駅最寄りの、みどり口駅とみどり中央駅間1.3kmの区間で、路線は「スカイレールサービス広島短距離交通瀬野線」と名付けられている。瀬野駅と駅の北側にある丘陵地の住宅団地を結ぶために1998(平成10)年8月28日に造られた。

 

スカイレールは懸垂式モノレールの構造に近く、車両はロープウェイやゴンドラリフトの乗車する四角い部分(客車と呼ぶ)に似たものが使われている。形が近いロープウエイやゴンドラリフトは、急傾斜の登坂に強いものの、強風が吹くと運行できない弱点があった。その弱点を克服したのがスカイレールだった。最急勾配は263パーミル(1000メートルの距離で263メートル登る)と、ケーブルカーを除き国内で最も険しい斜面を上り下りする鉄道施設でもあった。

 

日本初の乗り物として開発されたスカイレールだったが、導入を追随する企業はなく、同路線のみとなってしまった。維持費や採算面から継続することが難しいと判断され、2023年末での廃止が予定されている。代わって電気バスが導入される予定だ。革新的な技術だったが一般化しなかったわけである。

 

これまで見てきたように、2023年も鉄道に関わるニュースは盛りだくさんとなりそうだ。一方で予測がつかないのが自然災害である。今年こそ穏やかな一年になることを祈りたい。

ソニーとホンダの自動車「AFEELA」正式発表! プロトタイプ画像はこちら

ソニー・ホンダモビリティはラスベガスで開催中の家電見本市「CES 2023」にて、新ブランドの自動車「AFEELA(アフィーラ)」のプロトタイプを発表しました。

↑ソニー・ホンダモビリティより

 

AFEELAのエクステリアには、「知性を持ったモビリティがその意思を光で語りかける」ための「Media Bar」を搭載。インテリアはラウンド基調のデザインを採用し、カラーリングもシンプルなものとなっています。

 

車内外には計45個のカメラ、センサーを搭載。室内のインキャビンカメラやToFセンサーでドライバーの運転状況や走行状態をモニタリングし、不慮の交通事故を防止します。またクラウドサービスと連携して、ユーザーごとにパーソナライズされた車内環境を実現。エンターテイメント機能も充実させ、ゲーム開発会社のEpic Gamesとモビリティサービスやエンタテイメントに関する協業を始めます。さらにセンシング技術を活用した拡張現実(AR)により、直観的なナビゲーションが提供されます。

 

↑ソニー・ホンダモビリティ

 

自動運転に関しては「レベル3」も目指すとともに、市街地等のより広い運転条件下での運転支援機能となる「レベル2+」の開発を実施。最大800TOPSの演算性能を持つECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)、Qualcomm Snapdragon Digital ChassisのSoCを搭載します。

 

AFEELAはこのプロトタイプをベースに開発を進め、2025年前半に先行受注を開始。同年中に発売し、納車は2026年春に北米から開始する予定です。ソニーとホンダが本気で作った自動車、その乗り心地が実に気になります。

 

Source: ソニー・ホンダモビリティ

ホンダ「N-ONE」、ルーツのデザインを生かして軽自動車のスタンダードに!

近年、素材整形技術の進化とともに、シャープなデザインを特徴とする“ツリ目”ライトのクルマが増えてきた。一方で、古くから存在し続けているのは“丸目”ライトを持つクルマたち。ファニーな印象を与えがちな丸目ライトだが、その瞳の奥に秘めたトガった魅力を分析していこう。

※こちらは「GetNavi」 2022年12月号に掲載された記事を再編集したものです

 

ワタシが評価しました!

自動車評論家

清水草一さん

これまで50台以上のクルマを愛車としてきたベテラン評論家。専門誌でデザインに関する連載を持っていたほどクルマの見た目にはうるさい。

 

ホンダ/N-ONE

159万9400~202万2900円(税込)

軽自動車販売台数7年連続ナンバーワンの「N-BOX」の兄弟車で、より低重心な運転感覚が味わえるトールワゴンモデル。デザインは初代モデル同様、ホンダ車の始祖である「N360」がモチーフで、2代目となる現行型もレトロな雰囲気を持っている。

SPEC(Premium Tourer・FF)●全長×全幅×全高:3395×1475×1545mm●車両重量:860kg●パワーユニット:658cc直列3気筒ターボエンジン●最高出力:47kW/6000rpm

 

子どもが描いたようなたくらみのない愚直さ

N-ONEの丸目は本物の丸目、つまり真円だ。円形のヘッドライトは、照明の基本形。半世紀ほど前に四角いヘッドライト、つまり角目が登場するまで、クルマのヘッドライトは、すべて丸目だった。

 

つまりN-ONEの丸目は、昔のヘッドライトの形そのもの。昔は丸目のクルマしかなかったけれど、現在は丸目はレアだし、真円の丸目はさらに希少。それだけで人の「目」を引き付け、ホンワカした郷愁を感じさせてくれる。

 

加えてN-ONEのデザインは、N360など、半世紀前のホンダ車のデザインをモチーフにしている。当時のクルマのデザインは、今見ると子どもが描いた絵のようで、これまたホンワカした郷愁に浸ってしまう。いや、現代の子どもたちが描くクルマの絵はたいていミニバンらしいので、これまた「昔の子どもが描いた絵」と言うべきかもしれないが……。

 

細かいことはさておき、この、たくらみのない愚直なデザインが、N-ONEをちょっと特別なクルマに見せる。断面が台形で、大地を踏ん張る感やスピード感があるのも、一種のレトロデザインなのである。

 

[ココはトガっている] 丸にこだわったホイールも選べる

丸目だからといってデザインすべてが丸系ではなく、全体的には四角や台形などとの組み合わせ。ただ、ホイールにはしっかり丸系デザインが用意されている。足元にも丸を配置することで楽しさを演出。

 

↑真正面や真後ろから見ると台形になっていて、安定感を演出している。ファニーな顔と裏腹に、踏ん張り感のある力強い造形だ

 

↑レトロっぽい外観に対して、インテリアはモダンなイメージでまとめられている。心地良く使いやすい空間に仕上がった

 

↑ターボエンジンに6速MTを組み合わせたスポーツグレード「RS」もラインナップ。スポーツモデルが得意なホンダの面目躍如だ

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

2022年、プロがもう一度乗りたいとウズウズする国産車5選!スポーツカーばかりと思いきや……

新車試乗会以外にも、さまざまなクルマに乗る機会がある自動車評論家やライター。本稿では、さまざまなクルマを見て乗ってきた自動車評論家・岡本幸一郎さんに、今年(2022年)出会ったクルマのなかから、最も「もう一度乗りたくてウズウズする」国産車5台をピックアップしてもらいました。おすすめグレード付でお届けします。

 

【その1】FFなのにアクセルを遠慮なく踏める

ホンダ

シビック タイプR

「シビック タイプR」といえば、FF量販車で世界でも1、2を争う速さを身につけたクルマだけあって、まずエンジンフィールがすばらしいのなんの。アクセルと一体化したかのような俊敏なレスポンスと、踏み込んだときの力強い加速と、トップエンドにかけての痛快な吹け上がりと、控えめな中にも野太く吠えるエキゾーストサウンドに惚れ惚れ。2リッター4気筒エンジンとして世界屈指の仕上がりだ。

 

それを引き出すシフトフィールも、シフトを操ること自体にも喜びを感じられるほどよくできている。330PSのパワーを前輪だけで受け止めるとなると、普通なら空転してしまいそうなところ、トラクション性能も十分すぎるほど確保されているおかげで、遠慮なくアクセルを踏んでいける。

 

ハンドリングはまさしくオン・ザ・レールという言葉がピッタリ。意のままに気持ちよく操ることができて、舵を切った方向にグイグイと進んでいく。さすがは「2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー」でパフォーマンス部門賞に輝いただけのことはある、最高にエキサイティングなクルマだ。

 

【その2】登場7年ですげーグレードが出た!

マツダ

ロードスター

おすすめグレード:990S

「ロードスター」は登場からまもなく7年というタイミングで、持ち前の走りの楽しさをさらに高めるための大きな動きがあった。ひとつはKPC(=キネマティック・ポスチャー・コントロール)という新技術の採用だ。これによりGが強めにかかるようなコーナリングでのロールが抑えられ、旋回姿勢が安定してドライバーとクルマの一体感がより高まった。

 

もうひとつは、軽さにこだわりある走りに特化した特別仕様車「990S」の追加だ。1トン切りを印象づけるモデル名のとおり、車両重量を990kgにとどめるとともに、軽量の鍛造ホイールの装着をはじめシャシーやエンジン、ブレーキなどが専用にセッティングされている。

 

軽量コンパクトなロードスターは、2シーターでホイールベースが短いことも効いて、もともと手の内で操れる感覚が高いが、「990S」はさらに軽やかで気持ちのよい人馬一体感を実現している。既存のロードスターでなんとなく感じられた、ステアリングとタイヤの間に何か挟まっているような感覚が払拭されて、よりダイレクト感のある走り味になっているのだ。グリップ感が高く、フラット感もあり、ロールだけでなくブレーキング時のピッチングも抑えられている。

 

こうした改良と特別仕様車の追加が効いて、売れ行きのほうも発売から時間が経過したスポーツカーではありえないような増え方をしているらしい。中でも件の「990S」の販売比率がかなり高いというのも納得だ。

 

【その3】FFベースでつまらなくなった? 全然そんなことない!

トヨタ

クラウン クロスオーバー

おすすめグレード:RS

ガラリと変わって話題騒然の新型「クラウン」は、それだけでも乗ってみたい気持ちになるのはいうまでもないが、中でも「RS」モデルは走りっぷりも予想を超えていて驚いた。

 

いかにも速そうな名前のとおりエンジンもモーターも強力なデュアルブーストハイブリッドは、272PSの2.4リッターターボエンジンと前後に約80PSのモーターを組み合わせ、システム最高出力で349PSを発揮するというだけあってけっこう速い。モーターならではのレスポンシブでシームレスな加速フィールも気持ちがよい。さらにコーナリングでは、リアモーターで積極的に後輪の左右の駆動力に差をつけるとともに、4輪操舵機構や電子制御デバイスを駆使することで、クイックな回頭性を実現しているのもポイントだ。

 

クロスオーバーの2.5リッター自然吸気エンジンにTHSを組み合わせた他グレードとは別物で、大柄でけっして軽くないクルマでありながら、加減速もハンドリングがとても俊敏に仕上がっている。そのあたり、FFベースになってつまらなくなったとは言わせたくないという開発陣の意地を感じる。スタイリッシュなルックスだけでなく、走りのほうも鮮烈な仕上がりだ。

 

【その4】最新CVTの実力、いい感じ

スバル

WRX S4

おすすめグレード:sport R EX

もとはモータースポーツ由来だった「WRX」が、時代の流れで今では高性能ロードゴーイングカーという位置づけに。本稿執筆時点では3ペダルのMTを積む「WRX STI」の販売が終了し、将来的にもラインアップされるかどうかわからない。しかし、2ペダルの「WRX S4」はしっかり進化している。

 

275PSと375Nmを発揮する2.4リッター直噴ターボのFA24型に、「スバルパフォーマンストランスミッション」と呼ぶ最新のCVTが組み合わされるのだが、これがなかなかのもの。駆動力の伝達にかかるタイムラグが払拭されているほか、従来とは比べものにならないほどダイレクト感があり、マニュアルシフト時のシフトチェンジも驚くほど素早い。エンジン回転が先に上昇して、あとから加速がついてくる感覚もほとんど気にならない。

 

さらにはリアよりに駆動力を配分するVTD-AWDも効いて、小さな舵角のままコーナーをスムーズに立ち上がっていけるのも、WRX S4ならでは。2グレードあるうち、44万円(税込)高い「STI Sport R」は、「GT-H」に対して装備が充実しているのに加えて、走りの面ではZF製の電子制御ダンパーが与えられるほか、SIドライブではなく、より細かく設定できるドライブモードセレクトが搭載されるのが大きな違いとなる。

 

【その5】サーキットのちょい乗りだけでもう惚れてます

日産

フェアレディZ

おすすめグレード:バージョンST

この往年の雄姿を思い出すスタイリングを目にしただけで、乗りたくてたまらない気持ちになる。実のところ本稿執筆時点では筆者はサーキットでちょっとだけ乗った程度なのだが、見た目の魅力はもちろん、400PSオーバーを誇るV6ターボエンジンの刺激的なパフォーマンスや、全面的に見直したという洗練されたシャシーチューニングにより、かなり走りもよさそうな雰囲気がヒシヒシと伝わってきた。だからこそ、もう一度乗りたくてうずうずしているところです……(笑)。

 

 

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スポーツタイプの新型e-Bikeが胸熱だった2022年を振り返る

近年、新しいライフスタイルの広がりとともに世界的に人気が高まっているのが、e-Bikeと呼ばれるスポーツタイプの電動アシスト自転車です。ロードバイクやマウンテンバイク(MTB)など、スポーツタイプの車体に電動アシストユニットを搭載しているだけでなく、ママチャリタイプの電動アシスト自転車に比べるときめ細かいアシストが可能なドライブユニット(モーター)を採用しているのが特徴。100kmを超えるアシスト距離を誇るモデルもあり、新たなアウトドアアクティビティとして世界各国で支持を集めています。

 

そんなe-Bikeですが、2021年はコロナ禍によるパーツの供給不足などの影響で、新型モデルの導入が滞り、生産も思うように進まないなど世界的に品薄の状況が続いていました。2022年はそんな状況から脱する光明が見え、国内外のメーカーからニューモデルが登場。意欲的な新型車も導入されたので、そんなモデルとともに1年を振り返ってみましょう。

 

【その1】パナソニックがe-Bikeの専門ブランドを新設

国内の電動アシスト自転車市場でNO.1のシェアを誇るパナソニックですが、2022年は新たなスポーツタイプのe-Bike専門ブランドを設立しました。新しいブランド名は「XEALT(ゼオルト)」。その第一弾モデルとして、2022年2月にMTBタイプの「XEALT M5」が発表されました。

↑新ブランド名をあしらったフレームが印象的な「XEALT M5」。価格は44万2000円(税込)

 

フロントのみにサスペンション機構を持つハードテイルと呼ばれるタイプのe-MTB(電動アシストマウンテンバイク)で、ホイール系は前後とも27.5インチ。オフロード走行はもちろん、舗装路でも安定した走行が可能です。e-Bikeの魅力が最も体感できるのは、山道を登ったり下ったりするMTBタイプですが、入門用としては適したパッケージと装備。日本人の体格や、日本の里山に合わせた設計となっており、これからMTBデビューしたいと考えている人にはピッタリの作りです。

↑またぎやすいようにフレームのトップチューブを下げた設計。バッテリーはフレームに内蔵されます

 

「GXドライブユニット」と呼ばれる国内では初採用となるドライブユニットを搭載しているのも特徴で、このユニットは90Nmという大トルクを発揮し、欧州市場で高い評価を得ています。

↑国内で販売されているe-Bikeとしてはトップクラスの90Nmというトルクを発揮する「GXドライブユニット」

 

実際に乗ってみると、パワフルながらも漕ぎ出しの違和感のないアシストに調律されており、荒れたオフロードでスポーツ走行を楽しむのに適した乗り味。ママチャリタイプの電動アシスト自転車とは一線を画する緻密な制御を感じる乗り心地です。「XEALT」ブランドのアシストはすべてこの方向で調律されるとのことで、今後のモデル展開が楽しみです。

 

【その2】トレック製の軽量なロードバイクタイプも登場

スポーツタイプの自転車の代名詞的な存在がロードバイクですが、実はe-Bikeとの相性には課題がありました。それは、国内の法規ではアシストできるのが24km/hまでに限られること(欧州でも25km/hまで)。それ以上の速度で巡航する場合、ドライブユニットやバッテリーの重さが、軽快な乗り味を損なってしまうことがあるからです。

 

そんな状況で登場したのがトレックの「Domane+(ドマーネ プラス) AL 5」。アルミフレームのe-Bikeでありながら14.06kg(56サイズ)という軽量な仕上がりで、ロードバイクの軽快な走りを味わうことができます。

↑14.06 kgという軽さを実現し、注目を集めるトレックの「Domane+ AL 5」。価格は54万9890円(税込)

 

この軽さに貢献しているのが、後輪のハブ(車軸)と一体となった「HyDriveペダルアシストシステム」と呼ばれるドライブユニット。車体中央部に搭載するタイプと異なり、ロードバイクならではのスマートなシルエットを崩さないのもメリットです。

↑軽さとスマートなシルエットに貢献する後輪のハブと一体化したドライブユニット

 

実際に乗ってみても、ロードバイクらしい伸びやかな加速が味わえるアシスト感。MTBタイプと違って、踏み出した際のトルク感は大きくありませんが、スピードが乗ってきても急にアシストが落ちる感覚はなく、24km/hを超えても軽量な車体のおかげでさらに加速していくことができました。

↑フレームに内蔵されたバッテリーでアシスト走行が可能な距離は約90km。レンジエクステンダーと呼ばれる外付けバッテリーを追加すれば約177kmまで延長できます

 

同ブランドでは、同じドライブユニットを採用した「FX+ 2」というクロスバイクタイプのe-Bikeも展開しており、そちらも17.69kgという軽さを実現。フラットタイプのハンドルが好みなら、こちらを選ぶという手もあります。

↑クロスバイクタイプの「FX+ 2」は32万4500円(税込)

 

【その3】ビアンキがハイエンドなクロスバイクタイプをリリース

イタリアを拠点とする老舗自転車メーカーとして高名なビアンキからも意欲的なe-Bikeが発売されました。「E-OMNIA」と呼ばれるこのモデルは、TタイプとCタイプという2種類のフレームを用意。どちらも、e-Bike用のドライブユニットでは世界一のシェアを誇るBOSCH製のe-MTB向けユニットを搭載し、パワフルなアシストが持ち味です。

↑「E-OMNIA」のTタイプはクロスバイクのようなフレーム形状。価格は93万5000円(税込)

 

↑女性でもまたぎやすい形状のフレームを採用したCタイプの価格は88万円(税込)

 

搭載される「Performance Line CX」というドライブユニットは、BOSCHのラインナップの中でも最高峰に位置するもの。85Nmという高トルクを発揮し、山の中の激坂も登れるスペックを備えています。バッテリーも最も容量の大きな625Whを採用しており、街乗り向けのe-Bikeとしてはなかなかないほどのハイスペック。アシスト可能な走行距離は参考値ですが約170kmとされています。

↑BOSCHの中でも最高峰に位置するハイスペックなドライブユニットを搭載する

 

変速機構は内装式の5速。動力伝達にはチェーンではなくメンテナンスフリーなベルトを採用するなど、コンポーネントも先進的です。バッテリーから給電されるライトをフレーム内に埋め込み、リアキャリアもフレーム一体式とされていて、装備的にも”全部入り”ともいえる充実度。価格も高値ではありますが、それに見合う装備と期待度を持ったモデルです。

↑LEDのライトをフレームに内蔵。車重はTタイプで約32kg、Cタイプで約30kgと重量級です

 

【番外編】通勤・通学向けの買いやすいベネリのe-Bike

ここまで紹介してきたモデルを見て、値段が高いと感じている人も少なくないでしょう。たしかに昨今の円安などの影響で、e-Bikeも値上がりの傾向にあります。そんな中で、買いやすい価格を実現したモデルも発表されました。ただ、スペックなどは発表されているものの、発売は2023年になるので番外編として紹介しておきます。

 

モデル名はベネリの「MANTUS 27 CITY (マンタス 27 シティー)」。またぎやすい形状のフレームを採用した通勤・通学や買い物などに使いやすいモデルです。価格は17万7210円(予価)とリーズナブルなものですが、フレーム内蔵式のバッテリーや後輪のハブと一体化したモーターなど、近年のトレンドをしっかりと抑えています。

↑普段使いしやすい設計ながら、力強く、レスポンスの良いアシストを実現したe-Bike

 

↑ドライブユニットは後輪のハブと一体となったタイプ。変速は外装の7速です

 

駐めやすいセンタースタンドやリアのキャリアを標準装備し、小柄な人でも乗りやすいフレーム設計で、フロントバスケットなども装着可能。フロントにはサスペンション機構も搭載され、段差なども越えやすい設計となっています。

 

スポーツタイプから街乗りにフォーカスしたモデルまで、多様な選択肢が揃ってきた2022年のe-Bike業界。2023年も、さらに面白いモデルが登場することを期待したいところです。

 

 

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実用的な最新EV! スポーティなBMW 「i4」とフレッシュなテスラ「モデルY」に試乗

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」で試乗したBMWの「i4」とテスラ「モデルY」は、実用的な一充電あたりの航続距離を確保する最新EV。しかしそのキャラクターは、両ブランドならではの持ち味が表れており対象的だ。i4はBMWらしいスポーツ性を、モデルYは新種のクルマらしい新しさを体感できる。

※こちらは「GetNavi」 2022年12月号に掲載された記事を再編集したものです

 

【その1】EVでもBMWらしいスポーティさは健在!

【EV】

BMW

i4

SPEC【i4 eDrive40】●全長×全幅×全高:4785×1850×1455mm●車両重量:2080kg●パワーユニット:電気モーター●バッテリー総電力量:83.9kWh●最高出力:340PS/8000rpm●最大トルク:43.8kg-m/0〜5000rpm●一充電最大航続距離(WLTCモード):604km

 

高性能版のMモデルでは血の気が引く速さも体感

BMWのEVラインナップでは、「iX3」に続いて伝統的なエンジンモデルのイメージを色濃く残しているのが「i4」。ベースは4シリーズ・グランクーペで、遠目から眺める限りでは外観の違いはほとんどない。一方、室内に目を転じるとメーター回りはi4独自のデザインとなっており、EVらしさを実感できる仕上がりだ。床下にバッテリーを搭載する構造ゆえ、乗り込むとガソリン仕様より若干フロアが高くなった印象もあるが、4ドアモデルとしての実用性は上々。前後席は十分な広さを確保しており、荷室容量もガソリン仕様と変わらない。

 

その走りは、静粛にしてスムーズというEVらしさを実感させつつ、BMWに期待されるスポーツ性も兼ね備えている。電気駆動モデルらしいダイレクトなレスポンスは、モーターがリアのみとなるeドライブ40でも満足できるもの。フロントにもモーターが追加されるM50では、血の気が引くような衝撃的な速さも堪能できる。

 

[Point 1]メーター回りは専用デザインに

インパネ回りは、メーターとセンターディスプレイを一体化させたi4独自のデザインを採用して新しさを演出。前後席は、4ドアモデルとして実用的な広さが確保されている。

 

[Point 2]外観はあくまでさりげなく

遠目から見ると、外観は4シリーズ・グランクーペと見分けがつかない仕立て。スポーティな佇まいは、伝統的なBMWらしさが実感できる。写真はeDrive40のMスポーツ。

 

[Point 3]荷室容量はグランクーペと同等

後席を使用する通常時の荷室容量は470Lと4ドアモデルとしての実用性は十分。この数値は4シリーズ・グランクーペと同じだ。

 

[Point 4]M50ではフロントにもモーターを搭載

Eドライブ40のフロント(写真)は補器類のみとなる。最高出力が500PSを超えるM50では、この下にもモーターが収められている。

 

[ラインナップ](グレード:パワーユニット/駆動方式/税込価格)

i4 eDrive40:電気モーター/2WD/750万円

i4 eDrive40 Mスポーツ:電気モーター/2WD/791万円

i4 M50:電気モーター×2/4WD/1081万円

 

 

【その2】圧倒的に新しく、走りは楽しい!

【EV】

テスラ

モデルY

SPEC【RWD】●全長×全幅×全高:4751×1921×1624mm●車両重量:1930kg●パワーユニット:電気モーター●バッテリー総電力量:非公表●最高出力:299PS●最大トルク:35.7kg-m●一充電最大航続距離(WLTCモード):507km

 

EV本来の実力に加えガジェット的な魅力も最強

高性能ゆえに高額なイメージがあったテスラだが、「モデル3」はグッと身近になって大ブレーク。日本でも目にする機会が多くなった。さらにファンを増やしそうなのが「モデルY」だ。モデル3と基本構造を共有しながら、人気のミッドサイズSUVとなれば、引く手数多になるのも当然だろう。

 

リア駆動のスタンダードは643万8000円で、一充電走行距離が507km。4WDは833万3000円で、その走行距離は595km。後者は0〜100km/h加速が3.7秒とスーパースポーツ並みの速さを誇る。

 

試乗したのはスタンダードだったが、それでも0〜100km/hは6.9秒でちょっとしたスポーツカー並みに速く、アクセルを踏み込めばモーター特有の太いトルクでグイグイと、しかも静かにスムーズに走っていく。乗り心地は少しだけ硬めなものの、その代わりに俊敏かつ安定性の高い超ハイレベルなシャーシとなっているので、SUVの背の高さを感じさせない。ハンドリングが楽しいのも、実はモデルYならではの魅力なのだ。

 

スマホ的なユーザーインターフェイスは、ユニークかつストレスフリーで一度使い始めるともう普通のクルマに戻れなくなりそう。ガジェットとしての魅力は、他の追随を許さないほど進んでいる。

 

[Point 1]モデル3同様シンプルで新しい

インパネ回りはモデル3と同様にシンプル。基本的な操作は、タブレットのようなセンター部分のディスプレイですべて行える。独創的なインターフェイスはテスラならではだ。

 

[Point 2]SUVでもシンプル&スポーティ

外観は兄貴分のモデルXをコンパクトにしたような仕立て。ただしリアドアの開き方は標準的な横開きになる。ミドル級SUVという位置付けだが、丸みを帯びた造形はシンプルにしてスポーティだ。

 

[Point 3]ユーティリティはハイレベル

荷室容量は5名乗車時でもトップレベルの広さを実現。モデル3と同じく収納スペースはフロントにも備わり、前後トータルでの容量は実に2100Lと、使い勝手にも優れる。

 

[Point 4]前後空間もSUVらしく広々

前後シートはたっぷりとしたサイズで、座り心地は上々。リアシートにはリクライニング機能も備わっている。内装のカラーは2タイプがラインナップされる。

 

[Point 5]スマホでの遠隔操作も可能

最新のEVらしく、専用アプリを活用すればスマホから各種機能(遠隔操作での車両の前進&後退も可能)をコントロールできるのはテスラならでは。

 

[ラインナップ](グレード:パワーユニット/駆動方式/税込価格)

RWD:電気モーター/2WD/643万8000円

パフォーマンス:電気モーター×2/4WD/833万3000円

 

文/石井昌道、小野泰治 撮影/篠原晃一、郡 大二郎

 

 

クルマ乗りにとって永遠の憧れ! 日産「フェアレディZ」の新型を「Z32」世代が評価

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、かつて2人とも所有したことがある「フェアレディZ」の新型を紹介する。所有経験は新型の評価に影響するか?

※こちらは「GetNavi」 2022年12月号に掲載された記事を再編集したものです

 

 

【レビュアーPROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感。クルマを評論する際に重要視するように。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわっている。

 

【今月のGODカー】日産/フェアレディZ

SPEC【バージョンST・6MT】●全長×全幅×全高:4380×1845×1315mm●車両重量:1590kg●パワーユニット:2997ccV型6気筒ツインターボエンジン●最高出力:405PS(298kW)/6400rpm●最大トルク:48.4kg-m(475Nm)/1600〜5600rpm●WLTC燃費:9.5km/L

524万1500円〜646万2500円(税込)

 

エレガントでカッコ良い外観に加えV6エンジンも最強クラス

安ド「殿! 僕は元Zオーナーとして、新型Zを見てコーフンしました!」

 

永福「私も元Zオーナーとして、新型Zに鼻血ブーだ」

 

安ド「殿はどの世代のZでしたっけ?」

 

永福「4代目のZ32だ」

 

安ド「僕もです!」

 

永福「お前のはド中古だろう。私は発売直後に新車で買ったんだ」

 

安ド「そうでしたか!」

 

永福「まだ27歳の若者だった。ただ、買った後すぐに初めてフェラーリを体験し、Zがサツマイモに思えてしまった」

 

安ド「そうだったんですね! 新型もサツマイモですか?」

 

永福「いや、これは永遠の青い鳥だ。このクルマの後ろ姿を見て、乗ってフル加速すれば、感動で涙が止まらない」

 

安ド「僕も若いころを思い出してグッと来ました! Z32派の自分としては、やはりテールライトが一番カッコ良く見えますが、フロントも悪くないんじゃないかと思います。あえて四角くしたグリルとか、初代をモチーフに現代的にしたヘッドライト形状も良いですね!」

 

永福「あのテールライト、夜に後ろから見ると震えるほどカッコ良いぞ」

 

安ド「最近のスポーツカーは怒り顔が多いですが、新型Zはちょっと眠そうな表情もいいです!」

 

永福「マヌケで可愛いな」

 

安ド「ルーフラインもエレガントです!」

 

永福「震いつきたくなるな」

 

安ド「加速もスゴいですね。高速走行中にアクセルを踏み込むと、そこからさらにグイーンと加速していくのがタマらない!」

 

永福「405馬力のV6ツインターボだからな」

 

安ド「4代目の280馬力にも感動しましたけど、新型ははるかに上回ってますね!」

 

永福「ケタ外れに良いな。このV6ツインターボは、現在地球上に存在するあらゆるエンジンのなかでも、フィーリングの良さではベスト10に入るだろう」

 

安ド「ただ、お値段はかなり高くなってしまいましたね。おいそれとは買えません」

 

永福「お前は何を言っているのだ。もう新型Zは、売り切れてしまって買えんのだ」

 

安ド「エッ!? いつ売り切れたんですか」

 

永福「発売は9月だったが、7月いっぱいで数年先のぶんまで予約殺到で、すでに受注停止だ」

 

安ド「ええ〜〜〜〜〜っ! そんなバカな! じゃあ、欲しい人はどうすれば?」

 

永福「いま、ロレックスを買うためには、お店に足しげく通って、店員に顔を覚えてもらう必要があるらしいが、日産のディーラーに毎日通って顔を覚えてもらえば、ひょっとして数年後、増産ぶんをポロッと売ってもらえたりするかもしれん」

 

安ド「そ、そんな……」

 

【GOD PARTS 1】リアコンビネーションランプ

帰ってきたオマージュデザイン

このリアランプのデザインは、4代目Z32型フェアレディZがモチーフになっているそうです。当時もカッコ良いと話題になりましたが、その後、同じようなデザインのリアランプは登場しませんでした。満を持してまたZで復活したワケです。

 

【GOD PARTS 2】ヘッドライト

名車のくぼみ形状を現代技術でリデザイン

名車と言われる初代S30型フェアレディZをモチーフとした形状になっています。初代モデルはくぼんだ形状の中に丸いヘッドライトが埋め込まれていましたが、新型ではこのくぼんだ部分の形状を元に、モダンにデザインされました。

 

【GOD PARTS 3】マフラー

見た目はスポーティだが排気音はジェントル

両側2本出しマフラーがスポーティです。しかしよく見ると、排出口の周囲に小さい穴がたくさん開いています。この穴の影響かどうかわかりませんが、排気音はとても静かで、見た目ほどスポーティではありません。

 

【GOD PARTS 4】エンブレム

郷愁を誘う筆記体はやはりあの名車から

フェアレディZファンならすぐ気づくと思いますが、新型Zのリアにある車名エンブレムは、初代Zと同じく筆記体になっています。なんだか懐かしくもあり、タイムスリップしたような不思議な感覚に陥ります。

 

【GOD PARTS 5】Sモードスイッチ

回転数を自動で合わせて気持ち良くシフト変更!

シフトノブ左奥のスイッチを押すと「シンクロレブコントロール」が作動します。これは、シフト操作をした際にクルマが自動でエンジン回転数を合わせてくれるというもので、プロが操作したような感覚を味わいながら変速できます。

 

【GOD PARTS 6】フロントグリル

空気取り入れ口はシカクデザイン

ココも初代フェアレディZをモチーフとしたデザイン。いまどきのクルマのデザインでグリルがきっちり四角い長方形という例は少ないですが、フロントまわりに違和感なくまとめられていて素晴らしい仕上げですね。

 

【GOD PARTS 7】6気筒エンジン

現代でも気持ち良さがトップクラスのユニット

初代モデルは軽量スポーツカーのイメージがありますが、実は当時から6気筒エンジンを搭載しています。新型では、現在のスカイライン最強の「400R」に搭載されるV6エンジンを採用。低回転域からトルクフルで気持ち良く加速します。

 

【GOD PARTS 8】3連メーター

中身はなんでも良し! 存在することに価値がある

初代、2代目など過去モデルで継承されてきた3連メーターが、インパネ中央上部に設置されています。ブースト計、ターボ回転計、電圧計ですが、内容はあまり関係なくて(笑)、ここにメーターが3つ付いていることに価値があります!

 

【GOD PARTS 9】ラゲッジルーム

開口部は大きいが深さはそれほどなし

Z伝統の前後に長いリアハッチが採用されています。開口部はかなり広くて大きな面積の物を積み込みやすいのですが、収納部に深さがないのであまり厚みのあるものは入れられません。スポーツカーなのでここは期待しないでください(笑)。

 

【これぞ感動の細部だ!】ルーフライン

栄光のラインは新型でも継承!

Zの歴代モデルでいつの時代も常に継承されてきたのが、この美しいルーフラインです。フロントガラスの上端からキャビンの上を通ってボディ後端までなだらかに弧を描くこのルーフは、世界のスポーツカーと比較してもとてもエレガントです。巨大なガラスを使っているために重量は結構かさむと思いますが、美を追求している「貴婦人」らしい選択だと思います。

 

撮影/我妻慶一

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

鉄道ゆく年くる年…新幹線開業、災害、車両引退ほか2022年の10大トピックをふり返る

〜〜2022年 鉄道のさまざまな話題を追う〜〜

 

2022(令和4)年もあとわずかになった。今年は1872(明治5)年に新橋〜横浜間に鉄道が開業して150周年という節目の年にあたる。西九州新幹線の開業というおめでたい話題があった一方で、毎年のように起こる自然災害により複数の路線が被害を受けた。登場した新車、引退していく車両などの情報も含め、どのようなことが起きた年だったのかをふり返ってみよう。

 

【その1】北海道内の複数の駅が廃止される(3月12日)

今年も各地で新駅が誕生する一方で、廃止される駅が目立った。特に多かったのは北海道内である。3月12日に函館本線の池田園駅、流山温泉駅(ながれやまおんせんえき)、銚子口駅(ちょうしぐちえき)、石谷駅(いしやえき)、本石倉駅、さらに根室本線の糸魚沢駅(いといざわえき)、宗谷本線の歌内駅(うたないえき)と7つの駅が廃止となった。

↑函館本線の砂原支線にあった池田園駅。跨線橋が架かる駅で、周辺の風景が北海道らしく絵になった(左上)

 

筆者が訪れたことのある駅も多く残念に思う。廃止になった池田園駅、流山温泉駅、銚子口駅はいずれも函館本線の通称・砂原支線の駅となる。函館本線は大沼駅と森駅の間で、北海道駒ヶ岳の西側を走る本線と、東側を走る砂原支線に分かれている。砂原支線は戦時下、輸送量を増強するために設けられた迂回路線だった。

 

池田園駅にはかつて大沼電鉄(鹿部駅〜大沼公園駅間)という私鉄路線が走っていたが、砂原支線が開業した同時期に運転終了している。

 

函館本線に並行して、北海道新幹線の札幌への延伸工事が進んでおり、新線は2030(令和12)年度末に開業予定とされている。並行する函館本線の長万部駅〜小樽駅間はほぼ廃止の予定となっており、函館駅〜長万部駅間を第三セクター化するかどうかの目処は立っていない。

 

同区間は北海道内と本州を結ぶ鉄道貨物輸送のメインルートであり、北海道駒ヶ岳の西を通る本線は残されると思われる。だが、砂原支線の沿線は一部に民家が建つものの、乗車する地元の利用者が少ないため存続が難しいように思われる。複数の駅の廃止はその伏線なのかもしれない。

 

【その2】福島県沖地震の影響で東北新幹線が脱線(3月16日

3月16日23時36分、マグニチュード7.4の「福島県沖地震」により、宮城県と福島県で最大震度6強の揺れを記録した。この地震により200名以上の死傷者とともに、5万棟近くの住宅が被害を受けた。鉄道にも大きな被害を出ている。なかでも東北新幹線の被害は深刻で、福島駅〜白石蔵王駅間を走行していた下り「やまびこ223号」が脱線してしまった。負傷者は若干名だったものの、新幹線としては2例目の脱線事故となった。この地震により高架橋の損傷、架線柱の傾きなどの被害が多く見つかり、東北新幹線は不通となった。

 

1か月以上にわたる復旧工事が必要と見られていたが、工事は順調に進み4月14日に全線運転再開を果たした。一部の徐行運転を続けていたが、5月13日には通常ダイヤの運転に戻っている。

 

一方で、脱線したH5系第2編成とE6系Z9編成はいずれも「高速走行に耐えられない」「営業列車への使用には適さない」ということで廃車されることになった。H5系はJR北海道が北海道新幹線、新函館北斗駅開業に合わせて新製した車両で、4編成(計40両)しか配置されていない。希少だった車両が運悪く地震の被害にあってしまったわけだ。後に同編成の一部は北海道へ海上輸送され、今後、函館総合車両基地で教習用に使われることになっている。

↑古川駅〜仙台駅間を走るH5系+E6系の編成。写真のH5系第2編成が運悪く地震の影響を受け廃車となることに

 

在来線への被害も大きかった。なかでも第三セクター・阿武隈急行線では計94か所の被害を受け、3か月以上にもおよぶ復旧作業により6月27日に全線の運転再開を果たしている。ちなみに阿武隈急行線は2019(令和元)年10月12日、「令和元年東日本台風」により大きな被害を受けていて、この時には翌年の10月31日にようやく全線復旧を果たしていた。一部の路線に度重なる自然災害が襲いかかる厳しい現状には、痛ましさを禁じ得ない。

 

【その3】ローカル線の廃止論議がより高まることに(7月25日)

7月25日、国土交通省の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」からいくつかの〝提言〟が発表された。ローカル線の今後に大きな波紋をもたらした同提言をふり返ってみよう。

 

提言ではまず、「JR各社は、大臣指針を遵守し、『国鉄改革の実施後の輸送需要の動向その他の新たな事情の変化を踏まえて現に営業する路線の適切な維持に努める』ことが前提」と〝廃止ありき〟の提言ではないとしている。

 

一方で、ここ数年の利用者減少に対しては「危機的状況にある線区については、鉄道事業者と沿線自治体は相互に協働して、地域住民の移動手段の確保や観光振興等の観点から、鉄道の地域における役割や公共政策的意義を再認識した上で、必要な対策に取り組むことが急務」とする。また「守るものは鉄道そのものではなく、地域の足であるとの認識のもと、廃止ありき、存続ありきという前提を置かずに協議」と地元自治体と鉄道会社間の協議を進めるように提言した。

 

要はなかなか進まないローカル線の廃止に向けて、より協議しやすくなるように道筋が示されたわけだ。

↑芸備線と木次線の接続駅、備前落合駅。両線とも輸入密度が低く、JR西日本でワーストの路線区間となりつつある

 

こうした提言に応えるように、これまで路線ごとの収支を発表してこなかったJR東日本も「ご利用の少ない線区の経営情報を開示します」として、赤字ローカル線の状況を発表した。JR東海をのぞくJR各社がこうした状況を発表しているが、1987(昭和62)年に国鉄が民営化してJRとなった当時と比べても、地方の〝鉄道離れ〟は深刻になっている。コロナ禍の影響を受けてここ数年、状況がさらに悪化したこともあり、国土交通省がローカル線の廃止に向けての道筋をスムーズにすべく乗り出したと見るべきなのだろう。

 

毎年のようにローカル線の廃止という話題が出てきているが、今後はさらに増えることが予想される。

 

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【その4】複数の路線が大雨で大きな被害を受ける(8月3日〜)

地球温暖化のせいなのか、毎年のように起こる自然災害のなかで豪雨災害の影響が深刻になりつつある。一部の地域に降り続く大雨による川の氾濫、地滑りなどで鉄道路線も傷ついていく。

 

「令和4年8月3日からの大雨」と名付けられた大雨災害では、今も東北地方を中心に複数の路線が不通となっている。一部の路線は復旧工事が進み、12月に入ってようやく復旧を遂げた路線もある。

 

12月12日に復旧を果たしたのが秋田内陸縦貫鉄道で、8月12日に不通になって以降、ちょうど4か月後に復旧を果たした。筆者は7月末に現地を訪れ、本サイトで同路線を紹介したすぐ後に不通となっただけに心苦しく感じていた。風光明媚な路線が復旧したことをうれしく思う。

 

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↑針葉樹林帯の中を走る秋田内陸縦貫鉄道の列車。森と渓谷に囲まれて走る美しい路線でもある

 

次に8月の大雨の影響を受けて、今も不通となっている区間を見ていこう。下記はすべてJR東日本の路線だ。

不通区間 復旧予定
津軽線 蟹田駅〜三厩駅(みんまやえき)間 復旧を含め路線の今後を協議する予定
花輪線 鹿角花輪駅(かづのはなわえき)〜大館駅間 2023年4〜5月頃復旧の見込み
米坂線 今泉駅〜坂町駅間 復旧方法検討中
磐越西線 喜多方駅〜山都駅(やまとえき)間 2023年春ごろ復旧見込み

 

被害を受けた路線は河川沿いに線路を敷設したところが多く、増水による影響で路盤の流失、橋梁の被害が目立った。協議予定または検討中の津軽線、米坂線は利用者が少ない路線だけに、そのまま廃線となる可能性も出てきた。

↑米坂線今泉駅に取り残された気動車。路線が不通となり車両基地まで戻ることができず郡山まで11月下旬に陸送された 11月6日撮影

 

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【その5】西九州新幹線開業&新D&S列車が誕生(9月23日)

暗い話題が続くなかで今年の明るい出来事といえば、西九州新幹線の開業であろう。九州新幹線の西九州ルートとして建設が進められていた西九州新幹線の武雄温泉駅〜長崎駅間が、9月23日に開業を果たした。5駅66.0kmと国内で最も短い新幹線路線となったが、福岡市方面からの到達時間の短縮により、長崎県の観光客の増加が期待されている。

↑大村市内を走る西九州新幹線「かもめ」。大村湾を遠望しながら走る。同線内で最も車窓が楽しめる区間だ

 

西九州新幹線の開業に合わせて嬉野温泉駅(うれしのおんせんえき)と新大村駅が新しく誕生した。嬉野温泉駅は嬉野市にとって初の鉄道駅となる。駅名となった嬉野温泉は駅の西側1.5kmと距離があるが、「日本三大美肌の湯」とされる嬉野温泉にとってありがたい新駅誕生となったようだ。また、諌早駅(いさはやえき)、長崎駅も新しい駅舎が設けられ、新幹線の開業に合わせた街造りが進められている。

 

だが、新幹線開業を歓迎する声ばかりではない。九州新幹線の新鳥栖駅から武雄温泉駅間の新設区間は、今も敷設計画がまとまっていない状態で、博多駅〜武雄温泉駅間は特急「リレーかもめ」などの連絡列車の運行で対応する状況となっている。

 

西九州新幹線の建設が進まない理由としては、佐賀県の多くの人たちが新幹線を必要としていないからにほかならない。佐賀市に住む市民の多くが、長崎本線を走る特急列車や高速バスを使う。新幹線の建設では地元自治体が応分の負担を強いられることもあり、この先、建設を進められない状況が続きそうだ。

↑西九州新幹線の開業に合わせて新たに開業した嬉野温泉駅。温泉街までやや距離があるため、路線バスの利用が必要となる

 

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西九州新幹線の開業とともに、新たなD&S(デザイン&ストーリー)列車が登場した。「ふたつ星4047」と名付けられた観光列車で、武雄温泉駅から有明海沿いを走る長崎本線を通り長崎駅へ。長崎駅からは大村湾沿いを走り、ハウステンボス駅を経て武雄温泉へ戻る。海景色がきれいな路線を走るとあって、運転開始以来、観光客に人気の列車となっている。

 

ちなみに「ふたつ星」は、走る佐賀県と長崎県をふたつの「星」にたとえ、「4047」は列車の元になったキハ40形とキハ47形の形式名の数字の組み合わせと、凝った列車名となっている。

↑有明湾を背景に走る「ふたつ星4047」。長崎本線の同区間は電化が取りやめられ非電化区間となっている

 

【その6】只見線が11年ぶりに運転再開(10月1日)

西九州新幹線と並ぶ明るいニュースといえば、只見線の運転再開のニュースであろう。2011(平成23)年7月の豪雨災害の影響で、長年にわたり不通となっていた福島県の会津川口駅〜只見駅間の復旧工事が完了し、10月1日から運転が再開された。

 

不通区間に列車が走ったのは実に11年ぶりのことだった。会津川口駅〜只見駅間は只見川に架かる複数の鉄橋の崩落があって特に被害状況が深刻で、JR東日本も復旧工事を見合わせていた。2017(平成29)年に上下分離方式により只見線を復活させる話し合いがまとまり、ようやく工事が始められたのだった。上下分離方式とは、福島県が第三種鉄道事業者となって線路や施設を保有し、JR東日本が第二種鉄道事業者となって、列車の運行を行うというもの。線路の使用料は福島県に払うものの、赤字にならないように減免される。

↑豪雨被害を受け崩壊した第七只見川橋梁も復旧した。臨時快速「只見線満喫号」が橋上を走る

 

復旧した区間を走る列車は1日に3往復と少ないものの、当初は秋の行楽時期と重なり列車は予想を上回る利用客で賑わった。臨時観光列車を走らせたこともあり、沿線を訪れる観光客が増えた。

 

一方、只見地方は豪雪地帯でもあり、雪に閉ざされる冬期以降もブームが続くか気がかりである。とはいえ只見線の復旧が新たな観光需要を掘り起こし、観光客が絶えることなく訪れるようになれば、廃線が取りざたされる全国のローカル線の維持に一石を投じるかもしれない。只見線の今後に注目したいところである。

 

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↑只見駅9時7分着の下り列車が到着。ホームには多くの人が降り立った 10月15日撮影

 

【その7】鉄道150周年の記念列車も走った(10月14日)

今年は新橋駅〜横浜間に列車が走り始めて150周年にあたる。10月14日の記念日に合わせて記念切手や、記念硬貨、記念の交通系ICカードなどが発売されたのだが、筆者は盛り上がりをあまり感じなかった。鉄道ファン以外は意識しないままに記念日が過ぎ去ったように思う。

 

今から50年前、鉄道100周年だった1972(昭和47)年10月14日を少しふり返ると、まずC57形2号蒸気機関車が牽引する記念列車が汐留駅〜東横浜駅間を走って大きな話題を集めた。テープカットには当時の人気歌手も加わり、催しを盛り上げたほか、記念切手も販売され郵便局前に長蛇の列ができた。他の地域でもこうしたSL列車が運行され、それぞれが注目を浴びた。ちょうどSLが消えつつある時期と重なったことも大きかったのかもしれない。

↑旧新橋停車場の復元駅舎(右下)には、ここから線路が始まったとされる「0哩標識」がある。双頭レール呼ばれる線路も敷かれている

 

実は今年の記念日に、JR東日本の「鉄道開業150周年記念列車」号をはじめ、JRや複数の鉄道会社でこうした記念列車を走らせていたが、多くが注目されなかったようだ。ふだんから観光列車が全国を走っているだけに、鉄道150周年をうたっても、一部の鉄道ファンしか知らなかったということもあるだろう。むしろローカル線廃止問題のほうが注目を浴び、素直に喜べなかったのかもしれない。

 

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↑山手線を12月末まで走る予定の「黒い山手線」は、1号機関車をイメージしたラッピングで、正面に鉄道150周年のヘッドマークが付く

 

【その8】JR東海で目立った新車両の投入

ここからは、今年導入された新型車両、そして引退していった車両を見ていくことにしよう。JRグループが発足してから35年が経つ。国鉄時代に生まれた車両とともに、JR移行直後に導入された車両の引退が多くなり、それに合わせて新型車両の導入も増えている。新車両の導入に積極的なのがJR東海で、今年2タイプの新型車両を導入した。

 

◇JR東海315系電車 

3月5日に登場したのが315系で、中央本線の名古屋駅〜中津川駅間で営業運転が開始された。315系の車体はステンレス鋼製、先頭部分のみ鋼製となっている。カラーはJR東海のコーポレートカラーでもあるオレンジ色を正面と側面に大胆に入れたスタイルで、鮮やかさを印象づける。315系は352両が製造され、JR移行期前後に造られた211系、213系、そして311系の置き換えが図られる予定だ。

↑中央本線を走る315系。導入に合わせて211系0番台の引退と旧ホームライナー用313系が静岡地区へ移動が行われた

 

◇JR東海HC85系気動車

HC85系気動車は、JR東海が初めて導入したハイブリッド式特急形気動車で、既存のキハ85系特急形気動車の置き換え用に開発された。特急「ひだ」として走るキハ85系の一部列車を置き換える形で、7月1日から走り始めている。

 

車両の増備も進み12月1日からは当初の1日に6本から8本に増やされ、高山駅から富山駅まで走る列車にも使用されている。なお高山本線の北側、猪谷駅(いのたにえき)〜富山駅間はJR西日本が管理する区間となっていて、HC85系の初の他社への乗り入れとなった。

 

来年3月18日のダイヤ改正後には、特急「ひだ」の全列車がHC85系で運行されることが発表された。特急「ひだ」の下り25号と、上り36号は大阪駅まで走っており、岐阜駅〜大阪駅間でもHC85系の走行が始まることになる。

 

このようにJR東海は、新車両の導入スピードが迅速である。数年後には特急「南紀」もキハ85系からHC85系へ置換えが行われることになりそうだ。

↑東海道本線を走るHC85系特急「ひだ」。外装は「漆器の持つまろやかさや艶のある質感」をテーマにしている

 

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【その9】公営地下鉄の新車両の投入

今年は公営地下鉄の路線でも新型車両を導入する動きが目立った。まずは東京都交通局の新型車両から。

 

◇東京都交通局6500形電車

東京都交通局が都営三田線用に導入した6500形。既存の6300形以来、22年ぶりに導入される新車両となった。登場は5月14日、8両編成で東急目黒線への乗入れも行われている。

 

車両はアルミニウム合金を使用、ダブルスキン構造で、強度を高めるために「レーザー・MIGハイブリッド溶接」という技術を使って組み立てられている。カラーは正面が黒に路線のラインカラーでもある明るめの青色の縁取り、側面の窓部分にも同色のカラーが施された。

↑東急目黒線を走る6500形。正面が黒に青い縁取りでかなり目立つ。来年3月18日から東急新横浜線にも乗入れる予定だ

 

◇横浜市営地下鉄4000形電車

横浜市営地下鉄ブルーラインに導入された新型電車で、5月2日から走り始めている。ブルーラインを走る電車は4000形以外、みな3000形で、3000A形、3000N形、3000R形、3000S形、3000V形の5種類が使われてきた。このうち3000A形の置き換え用として新造されたのが4000形である。既存の3000形とは外観を大きく変更したこともあり、4000と数字を改めている。来年度までに8編成48両が導入の予定で、3000A形の置き換えが完了する。

↑地下鉄ブルーラインの新車4000形。正面に「4000DEBUT」とラッピングが施されて走り始めた

 

◇京都市交通局20系電車

京都市を南北に走る地下鉄烏丸線(からすません)の新型車両として、3月26日にデビューしたのが20系である。同線が開業した1981(昭和56)年から走り続ける10系初期型9編成の置き換え用として開発された。10系が平面的な正面デザインなのに対して、20系は「前面の造形に曲面を多用」「近未来的なイメージのデザイン」とされた。確かに10系に比べて柔らかい印象となった。

 

烏丸線の竹田駅からは近鉄京都線に乗入れ、京都府内だけでなく、奈良県内でも京都地下鉄の新しい車両を見かけるようになっている。

↑近鉄奈良線を走る烏丸線20系電車。近鉄奈良駅まで走る急行電車にも利用されている

 

【その10】国鉄形車両が徐々に姿を消していく

今年は一時代を彩った名車両の引退が目立った。やはりJRとなって35年という年月がたてば、それ以前に造られた車両の引退も仕方ないことなのだろう。まずは旅客用車両から見ていこう。

 

◇485系「リゾートやまどり」

485系電車といえば交直流特急形電車として一世を風靡した名車両である。走り始めたのは1964(昭和39)年12月25日とかなり古い。当初は東海道本線を走った特急「こだま」と同じくボンネット型の車両として登場し、交流50Hz/60Hz対応の485系以外にも、交流60Hz対応の481系、50Hz対応の483系、信越本線の横川〜軽井沢間でEF63形電気機関車と協調運転が可能な489系も登場し、全国の路線で活躍し続けてきた。

 

近年は485系で運用される特急列車が次々に姿を消し、残るのはジョイフルトレインとして改造されたJR東日本の485系のみとなっていた。今年の10月30日にジョイフルトレインの「華」が運行終了、最後の一編成となっていた「リゾートやまどり」が12月11日で運行が終了し、引退。これで485系は形式自体が消滅することになった。

 

485系の引退で、残る国鉄形特急電車は岡山駅〜出雲市駅を結ぶ381系特急「やくも」のみとなった。同列車も273系という新車両が2024年春以降に導入とのことで、国鉄形特急電車の終焉がいよいよ近づいてきた。

↑2011(平成23)年にジョイフルトレインとして改造された「リゾートやまどり」。群馬地区を中心に走り続けてきたが引退となった

 

◇JR東日本115系電車

国鉄が1963(昭和38)年1月に近郊用電車として投入した115系電車。111系をベースに電動機を強化し、勾配区間などの運転に対応した形式だった。今年引退したのはJR東日本の115系のみで、最近まで群馬地区、中央本線などの主力車両だったが、次々に廃車になり、新潟県内の越後線、弥彦線などでの運用となっていた。新潟地区の115系も今年の3月11日をもって定期運用から離脱した。

↑定期運用最終日まで走った湘南色の115系N38編成。同編成は、信越本線からえちごトキめき鉄道乗入れ列車として運用された

 

ちなみに115系はJR西日本に多く残存していて、岡山県や山口県などを走り続けている。JR西日本では国鉄時代に生まれた近郊形電車がまだ多く残っているが、まず岡山地区に新型車両227系が導入されることが発表された。この流れに合わせて岡山地区に残る115系、そして113系、117系が引退していくことになりそうだ。

 

◇東京地下鉄(東京メトロ)7000系電車

1974(昭和49)年の有楽町線開業に合わせて登場したのが、東京メトロ7000系だった。千代田線用に造られた6000系が、当時の帝都高速度交通営団(東京メトロの前身)の標準車両とされたことから、スタイルや装備も6000系とほぼ同じ仕様で造られた。前面が平面的なスタイルで、前面非常口にガラス窓がない個性的な姿で親しまれてきた。

 

1989(平成元)年までに34編成340両と大量の車両が製造されたが、製造から30年以上の年月がたち、10000系、17000系が新造されたことから、今年の4月で営業運転終了となった。同じスタイルの車両で残るのは半蔵門線の8000系のみとなっている。2018(平成30)年に引退した千代田線6000系の「さよなら列車」が混乱を招いた苦い経験から、運転終了日が公表されず静かに消えていったのが残念なところである。

↑7000系は有楽町線・副都心線のほか西武池袋線や東武東上線、東急東横線と乗入れ路線が多く、首都圏ではなじみの電車だった

 

最後に貨物用機関車で今年引退した車両について触れておこう。

 

◇EF66形式基本番台 直流電気機関車

EF66形式基本番台は、国鉄が1968(昭和43)年から1974(昭和49)年まで製造した直流電気機関車で、貨物列車だけでなく、ブルートレイン寝台列車を牽いた機関車として長年、活躍してきた。高性能に加えて汎用性の高さからJR移行後もJR貨物によって100番台が33両増備されている。今年、消えていったのは基本番台で、製造された55両中の残り1両となっていた。

 

最後の車両はEF66の27号機で、鉄道ファンからは「ニーナ」という愛称で親しまれてきた。製造されたのは1973(昭和48)年、49年間走り続けてきた車両で、地球を約230周分にあたる距離を走ったとされる。最後の本線運用は7月31日で、10月に検査切れとなり正式に引退となった。

↑武蔵野線でコンテナ列車を牽くEF66-27号機。49年にわたり活躍してきた古参だが最後まで力強い姿が見られた 2月17日撮影

 

◇EF67形式電気機関車

EF67形式と聞いても一部の鉄道ファン以外はぴんとこないかもしれない。非常に限られた区間しか走らなかった機関車だった。山陽本線の広島地区には、通称「瀬野八(せのはち)」の22.6パーミルという上り急勾配区間がある。1200トン以上の重量の貨車をつないだ貨物列車にとって、この勾配は1両の機関車のみでの牽引は難しく、古くから後ろに補機を連結し、押してもらって勾配をクリアしてきた。

 

この後押し用の機関車として生まれたのがEF67形式だった。1982(昭和57)年に導入された基本番台と、1990(平成2)年に導入された100番台が使われた。その後にEF210形式300番台が同区間の補機用に開発され、また列車の牽引も可能なことから増備が進み、EF67は徐々に引退となり105号機のみが残っていた。この最後の1両も2月13日で定期運用を離脱し、この形式が消滅となった。国鉄形機関車は毎年のように減り続けている。あと数年で消滅ということになるのかもしれない。

↑「瀬野八」の上り貨物列車の後押しを行ったEF67形式。100番台はEF65形式を改造したもので5両が製造された

中韓EVが日本の道路を席巻する日は来るか? 世界10傑に入るアジアメーカー「ヒョンデ」「BYD」のEV車を本音レビュー

EVを武器に日本市場に再参入する韓国のヒョンデと、日本でもバスやタクシーでEVの実績がある中国のBYD。両社の自信作の出来栄えについて、試乗した自動車ITジャーナリストが本音で語る。

※こちらは「GetNavi」 2022年12月号に掲載された記事を再編集したものです

 

KEY TREND ≪アジアンEV≫

EVへのシフトチェンジが加速するなか、日本でも国産や欧米のEVが続々と登場している。その流れに割って入るのがアジアのEVメーカー。日本の道路を席巻する存在となるのだろうか。

 

私が試乗しました!

自動車ITジャーナリスト

会田 肇さん

自動車雑誌編集者を経てフリーランスに。電動車や自動運転にも詳しい。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

ヒョンデとBYDの参入は日本車にとって大きな刺激に

世界的に「脱炭素」への流れがあるなかで、そのシンボリックな存在となっているのが電気自動車(EV)だ。ロシアのウクライナ侵攻後に発生したエネルギー問題への不安を抱えつつも、全体的なその流れはいまも大きく変わっていない。

 

そのカギを握るのが中国だ。中国はいまや世界最大の自動車大国となり、国の戦略としてその大半をEVで賄おうとしている。これをいち早く追いかけたのが欧州勢で、それが欧州でのEV化の流れを後押しした。さらにアジア勢もこれに続き、韓国・ヒョンデはデジタルテイストにアナログの感性を加えた「パラメトリックピクセル」のデザインが印象的な、「アイオニック 5」を世に送り出した。

 

BYDはアジアやオセアニアですでに実績を積んできたが、車両デザイナーに欧州人を据え、グローバルで戦えるデザインとした。つまり、ヒョンデ、BYDとも、日本人が好む“欧州っぽさ”を備えたことが参入のきっかけとなったとも言えるだろう。

 

アイオニック 5はさすがに手慣れたクルマ作りをしており、走りも内装の仕上がりも日本人にとって十分満足できるレベルにある。一方でBYDはインターフェースなどで作り慣れていない部分が感じられた。とはいえ、両ブランドのEV参入が日本車にとって新たな刺激となるのは間違いない。

 

【その1】インターフェースに難はあるがデザインや個性には満足できる

BYD

ATTO 3

価格未定 2023年1月日本発売予定

BYDの日本導入EV第一弾となるATTO 3(アットスリー)。2022年2月に中国で販売を開始して以降、シンガポールやオーストラリアでも発売。独自開発のEV専用プラットフォーム「e-Platform3.0」を採用し、広い車内空間と440Lの荷室を実現している。

 

↑熱安定性が高く長寿命のリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを採用。エネルギー密度の低さは、細長い電池セル「ブレードバッテリー」を122枚効率良く敷き詰めて対策した

 

↑インテリアはアスレチックジムをモチーフにしたもの。中音域スピーカーを内蔵したドアハンドルや、ベースの弦をイメージしたゴム製ワイヤーもユニークなデザインと言える

 

↑ダッシュボード中央には12.8インチのディスプレイを備える一方、運転席前の液晶パネルは小さめ。操作レバーも含め、アイコンや文字表示が小さくインターフェースに難がある

 

【会田の結論】ハンドリングは軽快でトルクフルな走りも秀逸! 操作系の改善が求められる

アスレチックジムの雰囲気を演出したインテリアは、ギミックに富んでいて楽しい。一方でディスプレイの情報表示は全体に小さく、操作スイッチの視認性も含め、要改善だ。ハンドリングは全体に軽めで、市街地での操作はかなりラク。EVらしいトルクフルな走りも実感できた。

 

【その2】走りもインテリアも欧州車そのもので日本人が満足できる仕上がり

ヒョンデ 

IONIQ 5

479万円〜(税込)

ヒョンデの代表車種であった「ポニー クーペ」をオマージュしたデザインが印象的。EV専用プラットフォームを生かした広い室内が特徴。ベースのIONIQ 5のほかにVoyage、Lounge、Lounge AWDと全4モデルが揃う。

 

↑電動ブラインド付きのガラスルーフは面積が大きく、光が燦々と降り注ぐほど。ただしガラスは固定式なので開くことはできない。「Lounge」以上のグレードに標準装備となる

 

↑V2Lは「Vehicle to Load」の略で、EVから外部機器へ給電できる機能のことを指す。リアリート下にもコンセントを備え、車内外合わせて最大1600Wまでの機器に対応できる

 

↑インフォテインメント系にはコネクテッドカーサービス「Bluelink」を採用。5年間無償提供され、スマホ連携だけでなく、通信によるカーナビ地図データの更新にも対応する

 

【会田の結論】乗り心地はやや硬いが圧倒的な加速と操作性で走りの充実度は高い

運転席に座るとまず気付くのがインテリアの上質さ。手触り感さえも上々だ。コラムから突き出たシフトチェンジレバーのクリック感も精緻さがある。走り出すと若干硬めの乗り心地が気になるが、圧倒的な加速感とハンドリングの正確さがそれを凌駕。満足度の高い走りを楽しめる。

 

■2021年  世界のEV販売台数ランキング

圧倒的に強いのはテスラだが、中韓メーカーが10位以内に4社も入っているのは驚き。特に中国はEVの普及に向けて政府が強力な支援策を展開していることもあり、これまでクルマ作りには無縁だったメーカーもEVに参入している。

 

■日本&欧米EVとのスペック比較

価格はいずれもEV購入補助金適用前のもの。総電力量は60kWh近辺、カタログ値ではあるが一充電最大走行距離は500km近くにまで達する。ATTO 3、IONIQ 5ともにスペック的には日本や欧州のEVと肩を並べていることがわかる。

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

より快適なモビリティライフへ! 自動車業界の「ワクワクする」未来トピックス2022

2022年……コロナ禍が続き、半導体不足へ拍車をかける形となりました。また、巣ごもり需要で電化製品の製造が増加し、半導体の供給先として優先度が低かった自動車業界が大きな影響を受け納期遅れにつながってしまったとも言われています。重ねてウクライナ戦争や中国のロックダウンは部品の供給不足と輸送力の低下を招き、新車納期がなかなか見通せない状況に。

 

しかし、そのような中でも自動車業界の技術は革新を続けています。より快適なモビリティライフへの進化、2022年起こったトッピクスをいくつかまとめてみました。

 

【Topics1】渋滞回避も可能なプローブ情報を加えたVICS、実証実験を全国へ拡大

カーナビに表示されて当たり前と感じている人が多い交通情報ですが、これを提供しているのが道路交通情報通信システムセンター(VICSセンター)です。そのVICSセンターは2022年7月4日、日本道路交通情報センター(JARTIC)と共に、トヨタ、ホンダ、日産の自動車メーカー3社とカーナビメーカーであるパイオニアの協力を得て、プローブ情報活用サービスの実証実験を全国へ拡大したと発表しました。

 

プローブ情報とは、道路を走るクルマからの情報を収集して交通情報として生成したものです。従来の道路上の感知器からの情報にこの情報を加えることで、VICS情報は従来の2倍にまで拡大。一般道でのより高精度な渋滞回避を可能となるのです。

↑従来のVICS(左)と、新たにプローブ情報が加わった場合の比較。右側では道路上に表示されている交通情報が明らかに増えている

 

このプローブ情報で渋滞回避を行うにはVICS-WIDEに対応したカーナビを使います。VICS-WIDEとは伝送容量を従来の約2倍にまで拡大したFM多重放送を利用した情報サービスで、渋滞回避以外にも大雨などの気象・災害情報を画面上に表示することができます。現在、販売されているカーナビであればほとんどが対応していると思って大丈夫です。

↑VICS-WIDEで渋滞箇所をカーナビが検知すると、そこを回避したルートが新たに探索される(青色で記された経路)

 

↑これまでは感知器からの情報を集計して交通情報を提供していたが、自動車&カーナビメーカーからのプローブ情報を追加し、より高精度な渋滞回避が行えるようになった

 

一方、VICS-WIDEに非対応の少し古いカーナビでもメリットはあります。自動的に渋滞回避はしないものの、プローブ情報の表示はできるので地図上の交通情報は同じように2倍まで増えています。つまり、この情報を確認することで渋滞回避をすることに役立つのです。

 

道路交通情報がユーザーの直接の負担なしで利用できるのは、世界でも日本だけ(※VICS利用料金はカーナビの出荷価格に上乗せされている)。そんな中で、渋滞回避の精度を高めたVICSは、今後も“渋滞ゼロ”を目指して情報の充実化を図っていくとのことでした。

 

【Topics2】新型クラウン、ドラレコにADAS用カメラ初めて活用。標準化のきっかけになるか?

2022年7月に登場した16代目「クラウン」、そこには見逃せない新機能が搭載されていました。それがADAS(先進運転支援システム)用カメラのドライブレコーダー活用です。これまでにも純正ドライブレコーダーを搭載する例は「ハリアー」などでありましたが、ADAS用カメラをドライブレコーダーに活用するのは新型クラウンが初めてだったのです。

↑16代目となる新型クラウンは、発売を開始したSUVタイプ(左端)に加え、計4つの車体形態をラインナップする

 

実は以前から「ADAS用カメラをドライブレコーダーに活用できないものか?」との疑問はありました。ドライブレコーダーを後付けすると、電源を別に取らなければならないし、その配線が目立って取り付けた状態は決してスマートではないからです。しかし、そこには理由がありました。

 

ドライブレコーダーは走行中の映像を常時記録するのが役割ですが、そこには様々な個人的な映像も含まれます。そのデータをユーザーがSNSなどで拡散すれば、プライバシーや肖像権侵害として訴訟問題になることを自動車メーカーは恐れていたのです。

↑新型クラウンは、おそらく世界で初めて、ADAS用カメラをドライブレコーダーに活用した

 

↑新型クラウンのインフォテイメントシステムでは、ドライブレコーダーで記録した映像が再生できる

 

一方で、世の中ではドライブレコーダーが認知され、あおり運転対策として推奨される風潮があるのは確かです。某自動車メーカーのADAS開発担当者からは「どこかが露払い的にADASカメラにドライブレコーダー機能を装着してくれると心強いんですが……」と本音も聞こえていたのです。

 

そんな中で世界のトヨタが“露払い”をしてくれました。トヨタはその後も採用車種を「シエンタ」などにも拡大。今後はドライブレコーダーの標準化への道は開け、他メーカーでもドライブレコーダーの搭載は当たり前になってくるとみていいと思います。

 

【Topics3】「農作業用搬送ロボット」その姿はまるでトランスフォーマー!

人手不足が深刻なのは物流業界にとどまらず、農業の現場にも及んでいるそうです。そんな中で「エムスクエア・ラボ」(静岡県牧之原市)は、農業の現場での活躍を想定したユニークな搬送用ロボット『MobileMover Transformer』の試作車を開発し、注目を浴びました。その名称の通り、この試作車は農作業の現場で車体幅を変化させて、たとえば田畑の畝や作業所の出入り口など、幅に制限のある場所でもスムーズに通過できる独自の機構を採用しているのがポイントです。

↑車幅を自在に変更して農業の現場で狭い出入り口でもラクに通行できる搬送用ロボット『MobileMover Transformer』の試作車

 

↑左が車幅を縮めた状態で、右が標準の状態。車幅を縮めると全長が長くなるが、積載能力に変化はない

 

CEATEC 2022の会場では実際にその“変身”ぶりがデモされていました。車幅を変えるのに要する時間は10秒足らず。その動きは驚くほどスムーズで、基本的なパワートレインはスズキ自動車の『セニアカー』の技術を採用しているということでしたが、その見事な変身ぶりに思わず手を叩きたくなるほどでした。将来は駆動方式として、よりぬかるみに強いキャタピラ仕様や、クレーン機構を備えることも想定しているとのこと。

↑MobileMoverの透視図。駆動軸はリンク機構を経由することで車体幅の変更を実現した

 

【Topics4】デンソーがより多くの情報が得られる次世代QRコードを開発

デンソーは日常生活ですっかりお馴染みとなったQRコードの次世代版2つを公開しました。

 

一つは、異なった情報を収録したQRコードを重ねることで、より多くの情報を得られる特徴を持つ次世代QRコードです。これは主として、自動車部品のサプライチェーンで使うことを目的に開発されたもので、材料のリストや調達情報のより詳細なデータを含めることができるそうです。たとえば材料がサプライチェーン内で循環するようになると、その生い立ちに関する正確な情報が必要となりますが、そういった時にもより多くの情報が書き込めるQRコードとして活用できるというわけです。

↑デンソーが新たに開発した次世代QRコード。二つのQRコード情報が入っており、専用アプリでスキャンするとその詳細な情報が読み取れる

 

もう一つは、肉眼では見えないものの、赤外線を当てることで、スマホにインストールされた専用アプリでのみ読み取れるようになる「透明QRコード」です。いわば“隠しQRコード”とも呼ぶべき、新たな使い方を提案できる技術で、デザイン面でQRコードを掲載したくない場合や、セキュリティを重視した活用において役に立つ技術としています。

↑QRコードを使ったトレーサビリティの技術概要

 

デンソーでは「自動車用バッテリー生産における二酸化炭素排出量のトレーサビリティを向上させ、サプライチェーンにおける信頼と信頼性構築の支援に役立つ」としています。

↑バッテリーのカーボン・フットプリンティングにおけるトレーサビリティの紹介。ここには「東名QRコード」も含まれる

 

【番外編】中国・ウーリン、小型EV『Air EV』を海外初展開! 日本にも来るのか?

中国・上汽通用五菱(ウーリン)は2022年8月、中国で大ヒットした小型EV『宏光miniEV』のハイグレード版『Air EV』をインドネシアで発表し、大きな注目を集めました。『宏光miniEV』といえば、なんと言っても45万円前後(2020年8月の発売時、日本円換)という驚異的な低価格が最大の武器。その甲斐あって、今やその販売実績はテスラと肩を並べるまでに急成長しているのです。そして、その海外展開の第一弾がインドネシアで販売された『Air EV』なのです。

↑インドネシア・ジャカルタで開催された「GIIAS 2022」のワールドプレミアで発表されたウーリン「Air EV」

 

実は『宏光miniEV』が日本市場への参入を伺っているとの噂は2022年の春頃からありました。しかし、エアバッグやESC、さらに衝突軽減ブレーキも非搭載など、そのままでは日本の安全基準には合致せず、参入は難しいと考えられていたのです。そんな矢先、宏光miniEVは『AirEV』としてインドネシアで海外初展開を果たしたのです。

↑ウーリンAir EVの上位グレード「ロングレンジ」。バッテリー容量を増やして航続距離は300kmを超える

 

インドネシアでは欠かせないエアコンを装備したのはもちろん、上級グレードのロングには航続距離300kmを実現する大容量バッテリーをはじめ、キーレスエントリーや電子ミラー、電動パーキングブレーキも装備しました。ただ、こうした上級装備を加えた結果、価格はスタンダードレンジで IDR 2億3800万(約215万円)、ロングレンジで IDR 2億9500万(約266万円)と、ベース車の『宏光miniEV』から大幅な価格アップとなってしまいました。

 

とはいえ、日本の軽EVとガチンコで勝負できる価格帯でもあります。果たして日本への展開はあるのか。今後が楽しみです。

↑ウーリンAir EVのインテリア。大型液晶ディスプレイを備え、電動パーキングブレーキも装備した

 

ミニバン2トップ買うならどっち? フルモデルチェンジした「ノア/ヴォクシー」と「ステップワゴン」をプロが“買いたい度”でジャッジ!

1月にトヨタの「ノア/ヴォクシー」、4月にはホンダの「ステップワゴン」がフルモデルチェンジし、絶好調だ。小さい子どもの父親でもあるモータージャーナリストが両車をジャッジ。どちらのモデルに心惹かれるのか?

※こちらは「GetNavi」 2022年12月号に掲載された記事を再編集したものです

 

KEY TREND ≪ミニバン復権≫

家族ドライブ……その象徴であるミニバンの代表的モデルが揃ってモデルチェンジし、いずれも好調だ。世界的にSUV活況のなかでミニバンが依然人気なのは、日本特有の傾向と言える。

 

私がジャッジしました!

モータージャーナリスト

岡本幸一郎さん

幼い子どものためにミニバン購入を検討中のモータージャーナリスト。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

【エントリーNo.1】持ち前の強みを生かしながらすべてをアップデート

■ノア

■ヴォクシー

トヨタ

ノア/ヴォクシー

267万円〜396万円(税込)

トヨタのミドルクラスミニバンが8年ぶりにフルモデルチェンジ。広い室内空間や、より快適・便利に使える装備や進化した安全運転支援技術が人気を集めている。発売後4か月で両車合わせて約15万台を受注するほどの爆売れモデルに。

SPEC●【ノア ハイブリッドS-Z 2WD】●全長×全幅×全高:4695×1730×1895mm●車両重量:1670kg●パワーユニット:1797cc直列4気筒+モーター●最高出力:98PS(72kW)[95PS(70kW)]/5200rpm●最大トルク:14.5kg-m(142Nm)[18.9kg-m(185Nm)]/3600rpm●WLTCモード燃費:23.0km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

【エントリーNo.2】デザインが激変し、見ても乗ってもやさしいクルマに

■ステップワゴン AIR

■ステップワゴン SPADA

ホンダ

ステップワゴン

299万8600円〜384万6700円(税込)

初代ステップワゴンが登場してから26年。4月にデビューした6代目は初代へのオマージュを込め、直線を生かしたクールなデザインに変化。AIRとSPADAの2ラインが用意され、外装をはじめインテリアの装備も異なっている。

SPEC●【e:HEV AIR】●全長×全幅×全高:4800×1750×1840mm●車両重量:1810kg●総排気量:1993cc●パワーユニット:直列4気筒DOHC+電気モーター●最高出力:145[184]PS/6200[5000〜6000]rpm●最大トルク:17.8[32.1]kg-m/3500[0〜2000]rpm●WLTCモード燃費:20.0km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

見た目だけでなく作りもしっかり確認することが重要

人気の高いMクラスミニバンを代表する2台が今年、偶然にもほぼ同時期にモデルチェンジした。さらには日産の「セレナ」も、というウワサもあるが、まずはこの2台、色々と対照的で実に興味深い。

 

デザインテイストがまったく異なるのは見ての通りで、キープコンセプトのノア/ヴォクシーに対し、ステップワゴンはガラリと変わった。コワモテが好まれる時代に一石を投じるやさしい雰囲気に、共感する声も多いようだ。

 

一方の中身は、ステップワゴンがプラットフォームやパワートレーンをキャリーオーバーして大幅に“改良”したのに対し、ノア/ヴォクシーはTNGAの採用による“全面刷新”となる。両車ではハイブリッドの仕組みもまったく異なるが、ドライバビリティや燃費に優れる点では共通している。

 

ミニバンであれば車内の作りの違いも気になるところ。同じ3列シートを有する空間でも細かな装備や使い勝手は当然異なるため、それぞれ得意とする部分をチェックしてみるべきだろう。

 

購入検討の際は、買ってからどう使いたいのかを具体的にイメージしながら選んだほうが良い。

 

【ジャッジ1】デザイン……引き分け!

見た目の印象はまったく別物で好みがはっきり分かれそう

ノアを含めトヨタ勢は従来の路線を踏襲。ヴォクシーは薄めのライトとグリルによる派手な顔となったのに対し、ステップワゴンはシンプルでクリーンなデザインに一変。新設の「AIR」はそれがより顕著だ。引き分け。

 

■ノア/ヴォクシー

↑ヴォクシーは先鋭かつ独創的なスタイルを追求。怪しく光る特徴的な薄いフロントランプによって夜でもその存在感を強調している

 

■ステップワゴン

↑売れ筋のSPADAと比べても、AIRはよりクリーンでシンプルなデザインとされている。細いメッキモールがさりげなく施されている

 

【ジャッジ2】走り……ステップワゴン勝利!

ハイブリッドのメカニズムは異なるがどちらも良くできていて感心!

ノア/ヴォクシーのプラットフォームおよびパワートレーンは従来からの全面刷新。対してステップワゴンは従来のものをベースに大改良したもので、完成度の高さで一歩リードしている印象だ。ステップワゴンの勝ち!

 

■ノア/ヴォクシー

↑独自のシリーズパラレルハイブリッドの進化した最新版を搭載。後輪をモーターで駆動する「E-Four」が設定されたのも特徴だ

 

■ステップワゴン

↑モーター走行を中心に状況に応じ様々なドライブモードを使い分け、効率の良い走りを実現。クルーズ走行時はエンジンを直結する

 

【ジャッジ3】後席の居住性……ステップワゴン勝利!

ノア/ヴォクシーも十分だがステップワゴンが上回る

ノア/ヴォクシーも十分すぎるが、従来よりもサイズアップしたステップワゴンのほうが広さ感で上回る。乗り心地の良さも加味すべきポイントだ。ステップワゴンに軍配。

 

■ノア/ヴォクシー

↑7人乗り仕様の2列目シートがスゴい。横にスライドさせることなく745mmもの超広々とした足元空間を実現したことには驚くばかり

 

■ステップワゴン

↑3列目の着座位置を高くするとともに前方のシート形状を工夫することで開放的な視界を実現。乗り物酔いさせないための配慮も◎

 

【ジャッジ4】使い勝手……引き分け!

3列目シートを使わないときのしまい方は重要なポイント

3列目シートを使わないときに左右に跳ね上げるのか床下に収納するのかで、使い勝手はまったく違う。ただし、どちらも一長一短あるので優劣はつけられず。よって引き分け!

 

■ノア/ヴォクシー

↑両車ともパワーバックドアが設定。ノア/ヴォクシーは任意の角度で保持できる機構や、ボディサイドにもスイッチがあり重宝する

 

■ステップワゴン

↑3列目シートを床下に収納できるので、使わないときでも側面がスッキリとして広く使える。シンプルな操作で簡単にアレンジできる

 

【ジャッジ5】運転支援……ノア/ヴォクシー勝利!

両社の最新の装備を搭載現状ではトヨタがややリード

共に最新の機能は非常に充実していて、不足はない。その上でノア/ヴォクシーが条件付きでハンズオフドライブを可能とした点や、リモート駐車/出庫を可能とした点で優位だ。

 

■ノア/ヴォクシー

↑運転者が前を向いて眼を開いていることをドライバーモニターカメラで確認。ハンズオフが可能かどうか、システムが判断する

 

■ステップワゴン

↑ACCが渋滞追従機能付きへと進化。さらに、低速走行時に前走車に合わせて車間距離を保ちながら車線の中央付近を維持する機能も

 

【総合判定】私が買いたいのは……ステップワゴン

デザインや3列目シートの使い勝手はさておき、僅差だがステップワゴンが優位

どちらも完成度は十分に高く、買って後悔することはない。それを大前提にどちらか一方を選ぶとなると、わずかにステップワゴンに軍配だ。動力性能や燃費は互角だが、静粛性や乗り心地などの快適性や走りの上質な仕上がりには、乗るたび感心せずにいられないからだ。

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

位置情報の革命児「what3words」CEOインタビュー。スバルとのタッグで変わるカーナビのあり方

山中の広大なキャンプ場や、どこまでも砂浜が続くビーチ。もしそんなところで待ち合わせをするとしたら……。もしそこに出前を頼むとしたら……。住所も割り当てられておらず、目印もない場所ならそれは不可能でしょう。しかし、不可能を可能にする“現在地革命”とも呼べる位置情報サービスが、イギリス発の「what3words(ワット・スリー・ワーズ)」です。

 

同名の企業・what3wordsが運営するこのサービスは、全世界を3m×3mの区域に分け、そこに3つの単語を付与。それによって、位置を特定するというものです。例えば、東京駅丸の内駅前広場だったら「めげない。みえる。さすが」、幕張メッセの入口中央なら「みせる。おおきな。きこう」といった形で位置を表示(詳細は本文で紹介していきます)。

 

この12月1日には、来年発売が予定されているスバルの新型「クロストレック」の車載ナビゲーションシステムに、what3wordsが搭載されることが発表されました。自動車メーカーでは世界で初めて日本語音声入力に対応します。今後、what3wordsが日本で定着していくことでどのような変化が起こるのか。そしてwhat3wordsは何を目指しているのか。CEOのクリス・シェルドリックさんに話を伺いました。

↑CEOのクリス・シェルドリックさん

 

what3wordsとは何か?

――GetNavi/GetNavi webはガジェットや家電の新商品を紹介するメディアで、新しいテクノロジーに興味を持つ読者も数多くいます。what3wordsはその最たる例だと思います。まずはwhat3wordsの詳細を教えて下さい。

 

クリス ありがとうございます。今、画面のマップでご覧いただいている3m×3mのグリッドが1つの区域になっています。そこをクリックすると、その区域に割り当てられた3つの単語が出てきます。どの場所でも3つの単語だけで特定できるというのが、what3wordsの根幹です。緯度と経度の情報でも特定できますが、細かい数字の羅列よりも3つの単語で表したほうが、人間が扱いやすい形でアクセスできるのです。日本語の単語がひらがなだけになっているのは、漢字の読み方などで迷わないようにするためです。

↑what3wordsの画面。3m×3mのグリッドで区切られており、それぞれに3つの単語が割り当てられている。単語は海上を含む全世界に割り当てられている。iOS、Androidほかブラウザでもサービスは利用可能

 

――一般的な住所と異なり、具体的にどのようなメリットがあるのでしょう?

 

クリス これまでの住所では場所がはっきりと特定できないような場合です。3m×3mの区域で細かく特定できることがメリットとなります。たとえば私が住んでいるのは農場のような場所なので、住所だけでは私が今どこにいるかは特定できません。これが3つの単語を使うことによって、どの3m×3mの区域にいるのかはっきりとわかります。

 

――この度、スバルの新型クロストレックの車載カーナビにwhat3wordsが採用されると発表されました。すでに海外では他の自動車メーカーでも採用が進んでいるそうですね。

 

クリス 全車の車載カーナビにwhat3wordsを搭載すると決めた最初の自動車メーカーがメルセデス・ベンツでした。ランボルギーニやロータスの車種、三菱自動車も日本以外ではwhat3wordsを搭載しています。スバルもすでにアメリカではwhat3wordsを採用しているのですが、今回日本市場でも使われ、しかも初めて日本語での音声入力が可能になったという点が画期的です。日本の企業としてはソニー、スバル、アルパインが投資をしてくださっています。

 

――what3wordsの日本語での音声入力というのは画期的なことなのでしょうか?

 

クリス おそらく技術革新か否かと言われたらノーですけれども、機能面では革新的だと思います。先ほど申し上げたようにwhat3wordsはひらがなのみを使っているため、音声認識上の曖昧さがかなり排除できているんですね。100パーセントに近い正確さを担保できるという意味で、非常に精度が高くなっている。これは画期的だと思います。

 

――今、カーナビに音声入力を行っている動画を見させていただきましたが、本当に素晴らしいですね。ボタンを押して選んでいく作業が一切なく、とてもスマートに感じました。

 

クリス おっしゃる通りで、音声入力になるとwhat3wordsのスマートさやスッキリさが、さらに際立つというのが一番の売りだと思います。

 

精度の高い位置情報を確立

――これまで現在地というのは緯度・経度だったり、住所の番地であったり、無味乾燥な数字が並ぶものでした。what3wordsはそれを3つの単語に変えました。先ほどと似た質問になりますが、そうしたことでどのような価値が生まれたとお考えでしょうか?

 

クリス 3つの単語ではありますが、そこに意味はないんですね。完全にランダムに生成された単語です。何か意味をもたらすのではなく、むしろ、3m×3mの場所を特定する精度の高い手法を確立できたと考えています。

 

――とはいえ、与えられる単語が場所と関連性はないにしろ、言葉である以上、愛着が湧くと思います。そのあたりはどうでしょうか?

 

クリス 確かに面白い効果はあると思っています。3つの単語によって、場所と関連して連想が進むこともありますよね。この写真は、あるお店が所在地の3ワーズを窓に載せているところです。ランダムな3ワーズに愛着のようなものが確かに生まれている場面だと思います。

↑what3wordsを採用しているお店の例

 

――今回スバルの新型クロストレックに日本語での音声入力が導入され、what3wordsの旅やドライブとの相性の良さがますます発揮されると思います。what3wordsは旅やモビリティをどのように変えてくれるのでしょうか?

 

クリス ドライバーの方たちに関しては、今まで行ったことのない場所に向かうことができるという、冒険心をそそるものになるのではないかと考えています。ですので、特にスバルのブランディングともマッチしていて、アクティブな体験を好む方たちにも使っていただきやすいと思います。また、what3wordsはオフラインでの使用が可能なので、電波が通じない山の頂上のような場所でも使えます。これも特に冒険したいと望んでいる方には利用価値が高いと思います。

 

――なるほど、場所が特定できることで、未知の冒険地図を手に入れたという感じですね。では、スバルのブランドイメージをお聞かせ下さい。どのような点でビジョンが共有できると思われたのでしょうか?

 

クリス スバルはとても冒険志向のある乗り物を作っていると思っていました。私自身が住んでいる場所も田舎で、一般の住所だけをあてにしているとなかなか正確な場所にたどり着けない。スバルのような冒険心と探索心のあるメーカーとチームアップすることをとても楽しみにしていました。

 

――今後はwhat3wordsを多くの車種に広げていくという戦略でしょうか?

 

クリス 日本国内に関しては、一般に公開できる情報としては、まだお伝えできるものはないのですが、実はEV車としては初めてベトナムのビンファストとチームアップすることが決まっております。

 

what3wordsはどこを目指すのか?

――B2Cの領域では、車載カーナビでの導入で私たちドライバーにとってはさらに身近になりそうです。では、B2Bの分野ではいかがでしょうか? 物流や配車サービスの分野でもかなり革新的なサービスにつながると思うのですが。

↑広い敷地で何箇所も入り口がある工場や事業所の場合でもwhat3wordsがあれば正確に到着でき、時間のロスを減らすことができる

 

クリス たとえばイギリス国内では、物流大手のDHLの配達で使っていただいています。世界にも今後展開していきたいと考えていまして、日本もそのひとつです。

 

――what3wordsは2023年で創立10周年を迎えます。「昨年8月から今年8月までの1年間で日本での月間ユーザー数が338%増」という資料をいただきました。日本でも飛躍的な成長を続けていますが、この先の展望や戦略をお聞かせ下さい。

 

クリス はい、現在イギリス国内ではwhat3wordsはクリティカル・マスに到達でき、一般に認知される会社となりました。これを英国内の事象で終わらせるのではなく、地球規模で展開したいと我々は考えています。その上で、日本は私たちが重点的にフォーカスしている市場です。今後ますます、マーケティング活動や、ビジネスパートナーシップを築く活動を強化していきたいですね。

 

――日本にはお花見という文化があって、花見の時にピザを配達してほしいと思ったことが何回もあります(笑)。そんな時に、what3wordsが定着すれば確実に届けてもらえそうですよね。こういった身近なところでの利便性というのが、what3wordsがさらに普及していくカギを握っていると思います。

クリス おっしゃってくださったように、私も食べ物を今いる場所まで配達してほしいと思ったことが過去にありまして(笑)。ちなみにロンドンでは、現在、ちょうどいい場所を特定して食べ物を配達してもらえる状況ができています。ですので、ぜひ日本でも実現したいと考えていて、パートナー提携に向けて動いています。

 

――手ぶらでお花見に行って、料理やお酒は出前してもらう時代も来るかもしれないですね。観光でも、京都の住所はなかなかに複雑ですが、what3wordsが普及することで場所へのアクセスの方法論も変わるかもしれない。今回のカーナビの音声入力の搭載を契機にもっと多くの人に使ってもらえれば面白いなと思います。

 

クリス おっしゃる通りですね! もう、私たちの営業のチームに入っていただきたいぐらい、私も同じビジョンを共有しています。

 

まとめ/卯月 鮎

いまこの仏車にAttention! オシャレで機能も十分なモデルをプロがピックアップ

オシャレで機能的、燃費性能や安全運転支援技術も進化しているフランス車のなかでも、特にオススメのモデルをプロが「エレガントなフレンチ」「小粋なフレンチ」の視点でピックアップ。ピュアスポーツとして名高いアルピーヌも紹介する。

※こちらは「GetNavi」 2022年11月号に掲載された記事を再編集したものです

 

【その1】ルノー

私が選びました!

モビリティジャーナリスト
森口将之さん
これまで所有した愛車の3分の2がフランス車。渡仏経験も多く、クルマ以外のモビリティにも詳しい。

 

エレガントなフレンチを狙うなら!

納得の完成度を誇る欧州ナンバー1SUV

キャプチャー

309万円〜389万円(税込)

キャプチャーは2021年に欧州で一番売れたSUV。躍動感あふれるスタイリング、上質で使いやすいインテリア、ルノーらしく自然で安定した走りが人気の理由だろう。日本の道路事情に合ったコンパクトなサイズもうれしい。

SPEC【E-TECH ハイブリッド】●全長×全幅×全高:4230×1795×1590mm●車両重量:1420kg●パワーユニット:1597cc4気筒DOHC+モーター●最大出力:94PS[49PS]/5600rpm●最大トルク:15.1kg-m[20.9kg-m]/3600rpm●WLTCモード燃費:22.8km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

↑コンパクトSUVながら広いラゲッジスペースを確保。後席使用時でも536L、リアシートを倒せば最大1235Lにまで拡大する

 

↑E-TECH HYBRIDはエンジン側に4速、モーター側に2速のギアを搭載。計12通りの組み合わせでシームレスな変速を実現する

 

↑360度カメラを搭載し、真上から見下ろしたような映像をスクリーンに表示してくれる。ギアをリバースに入れると自動で起動する

 

[ココにAttention!] F1技術を注いだハイブリッドも登場

ハイブリッド仕様が最近追加。F1のノウハウを注入したE-TECH HYBRIDは、輸入車SUVナンバー1の燃費をマークしつつ、ハイブリッドらしからぬダイレクトな走りも魅力。

 

小粋なフレンチを狙うなら!

トゥインゴ

225万円〜254万円(税込)

3代目でリアエンジンに変身したベーシックルノー。5ナンバーに収まるサイズ、驚きの小回り性能、独特のハンドリングなど、国産コンパクトとはひと味違った魅力がいっぱいだ。

 

↑エンジンはリアラゲッジ下に効率良く配置。リアエンジンの採用でタイヤを車両の四隅に配置でき、後席の足元空間にも余裕が生まれる

 

↑シンプルにまとめられた運転席まわり。電子制御6速ATと0.9L3気筒ターボエンジンの組み合わせで、力強い走りを実現している

 

↑インテンス MTには5速マニュアルトランスミッションを採用。1.0Lの自然吸気エンジンとの組み合わせで、小気味良く操ることが可能

 

[ココにAttention!] 往年の名車がモチーフ!

キュートなのに存在感あるスタイリングは、1970〜80年代に活躍したミッドシップのラリーカー、5ターボがモチーフ。それをベーシックカーに反映する発想がまたスゴい。

 

【その2】プジョー

私が選びました!

モータージャーナリスト
飯田裕子さん
自動車メーカー在職中に培ったレースや仕事経験を生かしつつ、カーライフの“質”や“楽しさ”を提案する。

 

エレガントなフレンチを狙うなら!

デザインで選びたくなるプジョープライドを体現

508SW

598万9000円〜704万3000円(税込)

プジョーのフラッグシップ508のステーションワゴン。機能的なワゴンをデザインで選びたくなるようなスタイルに磨きをかけ、上質さや快適性、ドライバビリティが高められた。3タイプのパワーチョイスには新たにPHEVが加わった。

SPEC【GT BlueHDi】●全長×全幅×全高:4790×1860×1420mm●車両重量:1670kg●パワーユニット:1997cc4気筒DOHCディーゼル+ターボ●最大出力:177PS/3750rpm●最大トルク:40.7kg-m/2000rpm●WLTCモード燃費:16.2km/L

 

↑伸びやかなフォルムの前後にはLEDライトを採用し、最新のプジョーらしさを上質さとともに表現。デザインで選ぶ人がいても納得

 

↑期待以上の機能美をプジョーらしく象徴するラゲッジ。スクエアでフラットなスペースは先代を上回る収納量530〜1780Lを誇る

 

[ココにAttention!] 燃費性能に優れるディーゼルは優秀

3種類のパワーソースが揃う。特に快適指数も高く燃費にも優れるディーゼルの力強く扱いやすい動力と、しなやかなドライブフィールが、美しい508SWの行動意欲をかき立てる。

 

小粋なフレンチを狙うなら!

208

284万5000円〜460万2000円(税込)

コンパクトカー作りの名手プジョーが、ブランドの特徴を凝縮し、若々しくスポーティな走りやデザインを体現。独創的かつ最先端の「3D i-Cockpit」の機能性にも注目したい。

 

[ココにAttention!] EVもガソリン車も走りを楽しめる!

208をピュアEVで楽しめる時代に突入。一方、国産コンパクトと競合するピュアガソリン車のプジョーらしい走りも、優れたパッケージやデザインと並んで捨てがたい魅力だ。

 

【その3】シトロエン

私が選びました!

自動車・環境ジャーナリスト
川端由美さん
エンジニアから自動車専門誌の編集記者を経て、フリーのジャーナリストに。エコとテックを専門に追う。

 

エレガントなフレンチを狙うなら!

広大な空間を持つMPVながらエレガントな雰囲気はキープ

ベルランゴ

367万6000円〜404万5000円(税込)

広大な室内空間を持つクルマで家族と一緒に出かけたいけれど、所帯じみて見えるのは避けたい。いや、むしろ、エレガントに乗りこなしたい! という人にオススメ。フランス車らしいエレガントなデザインに目を奪われる。

SPEC【SHINE BlueHDi】●全長×全幅×全高:4405×1850×1850mm●車両重量:1630kg●パワーユニット:1498cc4気筒DOHCディーゼル+ターボ●最大出力:130PS/3750rpm●最大トルク:30.6kg-m/1750rpm●WLTCモード燃費:18.1km/L

 

↑収納スペースが豊富なのがベルランゴの特徴。天井部にも収納スペースが用意され、小物を効率良くまとめて置いておけるのが◎

 

↑コラボ企画で生まれた車中泊用純正アクセサリー。リアシートを倒しエクステンションバーを伸ばすと、フラットなベッドに早変わり

 

[ココにAttention!] 3列シートモデルの登場に期待したい!

小柄なボディながら、オシャレな内外装と、大人5人がくつろげる室内空間と広大な荷室を両立。全長4.4mのコンパクトさは維持しつつ、3列シート7人乗りの「XL」も年内発売予定だ。

 

小粋なフレンチを狙うなら!

C3

265万8000円〜291万3000円(税込)

フランス車のなかでも、特にアヴァンギャルドで、お国柄が色濃いシトロエン。そのエスプリは、末っ子のC3でも存分に味わえる。小型車でも、細部まで妥協がない。

 

[ココにAttention!] 個性的なカラーと扱いやすさがイイ

個性的なボディカラーに、ルーフとドアミラーをツートーンでコーディネートすることもできる。全長4m未満と街なかで扱いやすいボディサイズだが、後席にも十分に大人が座れる。

 

PICK UP!

航続距離70kmでも欧州で爆売れ! 「アミ」はシトロエンのマイクロEV

シトロエンの超小型EV「アミ」。フランスでは普通免許が不要で、原付のような位置付けだ。220Vの電圧で約3時間で充電可能で、航続距離は70km。残念ながら日本未発売だが、パリの街では目立つ存在になりつつある。

 

【その4】ディーエス オートモビル

私が選びました!

モータージャーナリスト
岡本幸一郎さん
1968年生まれ。フランス車ではプジョー205GTIの所有歴がある。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

エレガントなフレンチを狙うなら!

パリで育まれた感性が光るDSのフラッグシップSUV

DS 7 CROSSBACK E-TENSE 4×4

754万1000円(税込)

プレミアムブランドとしてシトロエンから独立したDSが初めてイチから開発したモデル。パリ生まれの優美な内外装デザインに最新のテクノロジーを融合した高級SUVで、E-TENSEはリアを強力なモーターで駆動するプラグインハイブリッド車だ。

SPEC●全長×全幅×全高:4590×1895×1635mm●車両重量:1940kg●パワーユニット:1598cc4気筒DOHC+ターボ+モーター●最大出力:200PS[110(前)112PS(後)]/6000rpm●最大トルク:30.6kg-m[32.6(前)16.9(後)kg-m]/3000rpm●WLTCモード燃費(ハイブリッド燃料消費率):14.0km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

↑エンジンを始動するとエレガントなデザインのB.R.M社製の高級アナログ時計がダッシュボード上に現れる。自動時刻修正機能も搭載

 

↑高級腕時計に用いられる高度な技法“クル・ド・パリ”を採用したセンターコンソール。多数のピラミッドが連なっているように見える

 

[ココにAttention!] 路面状態を認識し足回りを最適化

これから通過する路面の凹凸をフロントカメラで認識して足まわりのダンパーを最適に電子制御する「DSアクティブスキャンサスペンション」を搭載。乗り心地は極めて快適だ。

 

小粋なフレンチを狙うなら!

DS 4 TROCADERO PureTech

398万円〜(税込)

年頭に開催された国際自動車フェスティバルでは、”世界で最も美しいクルマ”を意味する「Most Beautiful Car of the Year」を受賞。最廉価版なら400万円を切る価格にも注目。

 

[ココにAttention!] デザインも良いが走りもスポーティ!

受賞実績でも明らかなとおりデザインが素晴らしいのは言うまでもないが、走りも素晴らしい。新世代プラットフォームによる走りは快適性とスポーティさを見事に両立している。

 

【TOPIC】ピュアスポーツとして名高いフランス車が「アルピーヌ」だ

私が解説します!

モータージャーナリスト
清水草一さん
1962年東京生まれの自動車ライター。これまで50台以上の自家用車を購入している。

軽量ボディと適度なパワーで思い通りに操れるのが魅力

1960年代から70年代にかけて、リアエンジン・リアドライブレイアウトの軽量ボディでラリー界を席巻したのがアルピーヌA110。あの伝説のマシンが、40年の歳月を経て現代によみがえった。それがアルピーヌA110であり、そのパワーアップ版がA110Sだ。

 

現在のアルピーヌは、ルノーブランドのひとつ。新型アルピーヌは、エンジンを車体中央に横置きするミッドシップレイアウトに変更されている。いわゆる「スーパーカーレイアウト」だ。

 

フェラーリやランボルギーニなど、現代のスーパーカーはあまりにも大きく、パワフルになりすぎていて、性能を使い切ることが難しいが、アルピーヌは軽量コンパクトでパワーも適度。純粋に走りを楽しむことができるモデルだ。

 

最適パフォーマンスが光る“手ごろなスーパーカー”!

アルピーヌ

A110 S

897万円(税込)

1100kgしかない軽量ボディに252馬力の1.8L4気筒ターボエンジンを搭載し、2017年、アルピーヌA110の名で40年ぶりの復活を遂げた。A110Sは最高出力が300PSに増強された、よりスポーツ色が強いバージョンだ。

SPEC●全長×全幅×全高:4205×1800×1250mm●車両重量:1110kg●パワーユニット:1798cc4気筒DOHC+ターボ●最大出力:300PS/6300rpm●最大トルク:34.6kg-m/2400rpm●WLTCモード燃費:14.1km/L

 

↑3種類のドライブモードから選択可能。ステアリング右下の赤いボタンを押すと、即座にスポーツモードとなり、走りがスポーティに

 

↑アルピーヌA110は軽さが命。ボディの骨格はオールアルミ製だ。1100kgという車両重量は、コンパクトカー並みの軽さを誇る

 

↑車両底面にフタをしてフラットにすることで、空気をスムーズに流し、高速域ではダウンフォースを発生させている

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

日産「オーラ」“小さな高級車”はダテじゃなかった。走りもインテリアもこだわりの仕上がり

日産『NOTE(ノート)』のハイグレード版として登場したのが『AURA(オーラ)』です。単に装備を豪華にしたのではありません。ボディサイズを3ナンバーにまで拡張し、モーター出力もアップするなど、試乗してみれば見た目以上のその違いを実感できるものとなっていたのです。ここではベース車であるノートと比較しながらレポートします。

 

■今回紹介するクルマ

日産/オーラ

※試乗グレード:G leather edition(4WD)

価格:265万4300円~299万6400円(税込)

↑ノートに比べてボリューム感を増している「オーラ」。フェンダー部の膨らみによって3ナンバー車となった

 

5ナンバーのノートに対して、オーラは3ナンバー

一見すると「ノートとオーラの違いはよくわからない」ほとんどの人がそう思うはずです。両車ともデザイン面で違いがそれほど大きくないからです。しかし、並べてみるとその違いはハッキリとわかりました。最も大きな違いは、ノートはボディが5ナンバー枠に収まっているのに対し、オーラはなんと3ナンバーとなっていることです。

 

で、その寸法をチェックしてみると、オーラの全幅は1735mmと、ノートの1695mmから40mm広がっていました。さらにトレッド幅もノートの1490mmから1510mmへと拡大しています。デザイン上もヘッドライトの薄型化を実施して、それに伴ってフロントグリルをバッテリーEVの「アリア」にも近いデザインとしました。また、前後フェンダーも膨らみを持たせることで、オーラは3ナンバー車らしいボリューム感のある雰囲気を生み出しているのです。

 

クルマに乗り込むとオーラはインテリアにも質感の向上が認められます。インパネの表面にはツイード調のファブリックが施され、その下には木目調パネルが加えられています。メーターディスプレイも、ノートの7インチより大型の12.3インチカラーディスプレイに変更しています。これにより、オーラでは車両の機能情報以外にナビゲーションの表示もメーター内でできるようになっています。これもノートにはない注目の装備と言えるでしょう。

↑ダッシュボードは硬質プラスチックのままだが、木目などを施すことでプレミアム感を高めている。NissanConnectナビゲーションシステムは9インチワイドディスプレイ

 

↑ダッシュボードはノートと共通であるものの、ツイード表皮と木目調パネルを与えることでプレミアムな印象を醸し出している

 

↑メーターディスプレイはノートの7インチから12.3インチへ大型化され、メーター内でナビゲーション表示も可能となっている

 

プロパイロットとBOSEサウンドで快適な高速クルージング

オーラではシートもグレードアップしています。「G leather edition」には座り心地と快適性を両立させた「本革3層構造シート」を装備。標準グレードではシートのメイン部分にインパネのファブリックに合わせた素材を用いるなど、インテリアのコーディネイトにも優れた一面を見せます。また、2022年8月の仕様変更ではリアシート中央にアームレストが標準装備され、これもノートではオプションにはない特別な装備と言えます。さらにシートはノートも含めすべて抗菌仕様にもなりました。

↑オーラの「G leather edition」を選ぶと、写真の明るい内装色の「エアリーグレー」のほか、「ブラック」を選ぶことができる

 

↑オーラのリアシート。標準グレードの「G」でもアームレストは標準装備となっている

 

それとオーラで見逃せないのはサウンドシステムとして「BOSEパーソナルプラスサウンドシステム」がオプションで装着できることです。ヘッドレストにスピーカーを内蔵したことに加え、ドアにはワイドレンジスピーカー、Aピラーにはツィーターを組み込んだ8スピーカー構成とし、これを専用DSP内蔵アンプにより駆動します。耳元に近いヘッドレストでメインの音が出力されるため、音像の輪郭が鮮明でクリア。しかも「PersonalSpace」と呼ばれる機能を使うことで、音場の広がり感も自由に設定できます。その日の気分に合わせたサウンドステージが楽しめるのは使ってみるとなかなかいいものです。

↑ヘッドレストにスピーカーを組み込んだ「BOSEパーソナルプラスサウンドシステム」。演奏者の位置がわかるほどリアルなサウンドと、車室サイズを超えるような音の広がりを実感できる

 

↑「PersonalSpace」では音場を自在に変化させられる。ライブハウスのようなタイトな感覚から、アリーナの最前列で360°包まれるようなサウンドまで自在に設定可能

 

ただ、残念なのはこのシステムはプロパイロットやNissanConnect ナビゲーションシステムなどとのセットオプションとなるため、価格は40万円超えとなってしまうことです。おそらくプロパイロット+ナビを装着する人は多いと思われるので、それを選べば必然的にBOSEのシステムも付いてくるわけですが、車両価格の15%にもなるこの設定はちょっとビビりますよね。しかしオーラは遮音ガラスを採用したこともあって、高速走行時の室内はきわめて静か。音楽を楽しみながらプロパイロットでクルージングすることをオススメします!

↑ステアリングにセットアップされている「プロパイロット」の操作スイッチ

 

↑緊急時にオペレーターへ通報できる「SOSコール」はプロパイロットとのセットオプションとなる。試乗車では機能がOFFとなっていた

 

アクセルを踏んだ瞬間、パワフル感はノートを大きく超える!

ではオーラの走りはどうでしょうか。率直に言って、その走りは現行ノートでも先代とは比較にならないほど安定した走りを見せるようになりました。特に発電用エンジンの音が静かで、作動する時間も先代よりも大幅に少なくなっているので感覚的にも快適そのもの。このフィーリングはオーラにも引き継がれ、その上でフロントモーターの出力が向上しているのです。今回の試乗では4WDを選んだため、リアからのモーターアシストも加わり、アクセルを踏んだ瞬間のパワフル感はまるで違っていました。

↑発電専用の1.5L気筒エンジンを搭載し、その電力によってモーターを駆動して走るシリーズハイブリッド(e-POWER)を採用

 

↑オーラのシフトノブ。電子式のシフトレバーを全グレード標準装備した

 

操舵フィーリングも思ったコースを忠実にトレースしてくれ、e-POWERならではの「eペダル」を組み合わせることで峠道の走行もいっそう愉しさが増します。特にオーラではタイヤをノートの185/60R16から205/50R17へとサイズアップしていることもあって、コーナリングでの踏ん張りはなかなかのもの。つい峠道を選んで走ってみたくなってしまいます。

↑ノートの16インチに対し、オーラはインチアップした205/50R17を履く。これが乗り心地に影響を与えた可能性がある

 

ただ、オーラは路面からの突き上げ感は大きめに出ます。なかでも気になるのは少し荒れた一般道を入っているとき。車体にも振動が伝わってくるため、状況によっては不快に感じることさえあります。ノートの時はそれほど気になることはなかったため、おそらくサイズアップしたタイヤの影響が大きいのではないかと思いますが、一方で操安性の向上にプラスとなっているのは間違いありません。これをどう捉えるかで評価は大きく変わってくると思います。

 

「ノート+60万円」で手に入るプラスアルファの走りと質感

ではオーラとノート、どちらを選ぶのがいいのでしょうか。オーラを外から俯瞰した後でノートを見ると、前後のフェンダーに膨らみを持たせたオーラは豊かなプロポーションを感じさせます。個人的には濃いめのボディカラーを組み合わせたときのリッチな雰囲気が好みでした。ただ、オーラとノートの価格差は装備に違いがあるとは言え60万円ほどあり、そこに価値が見出せるかと言えば、人によって差は出てくるでしょう。

↑オーラ(4WD)。ボディカラーは全14色から選べる

 

↑リアドアの開く角度が大きく、乗り降りに大きくプラスとなっている

 

特にインテリアは硬質プラスチックのままで、ノートとの明らかな違いを感じ取ることはできず、せめてパワーシートぐらいは装着しても良かったのではないかと思うのです。とはいえ、ノートを上回るパワフルさが生み出す走りは楽しいし、ノート以上のグレード感は、オーラならではの大きな魅力と言えます。豊満なボディとプレミアム感、そして走りの良さを求めたいならオーラは間違いなくオススメ。自分にとって何が必要かを選択しながら、ノートと比較してみるのも良いのではないでしょうか。

 

SPEC【G leather edition(4WD)】●全長×全幅×全高:4045×1735×1525㎜●車両重量:1370㎏●パワーユニット:1.2リッター直3DOHC12バルブ+交流同期電動機●最高出力:エンジン82PS/6000rpm (モーターフロント136PS/3183-8500rpm ・リア68PS/4775-10024rpm )●最大トルク:エンジン103Nm/4800rpm(モーターフロント300Nm/0-3183rpm ・リア100Nm/0-4775rpm )●WLTCモード燃費:22.7㎞/L

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

ピュアスポーツとして名高いフランス車が「アルピーヌ」だ!【いまこの仏車にAttention!】

オシャレで機能的、燃費性能や安全運転支援技術も進化しているフランス車のなかでも、特にオススメのモデルをプロが「エレガントなフレンチ」「小粋なフレンチ」の視点でピックアップ。ピュアスポーツとして名高いアルピーヌを紹介する。

※こちらは「GetNavi」 2022年11月号に掲載された記事を再編集したものです

 

ALPINE(アルピーヌ)

私が解説します!

モータージャーナリスト
清水草一さん
1962年東京生まれの自動車ライター。これまで50台以上の自家用車を購入している。

 

軽量ボディと適度なパワーで思い通りに操れるのが魅力

1960年代から70年代にかけて、リアエンジン・リアドライブレイアウトの軽量ボディでラリー界を席巻したのがアルピーヌA110。あの伝説のマシンが、40年の歳月を経て現代によみがえった。それがアルピーヌA110であり、そのパワーアップ版がA110Sだ。

 

現在のアルピーヌは、ルノーブランドのひとつ。新型アルピーヌは、エンジンを車体中央に横置きするミッドシップレイアウトに変更されている。いわゆる「スーパーカーレイアウト」だ。

 

フェラーリやランボルギーニなど、現代のスーパーカーはあまりにも大きく、パワフルになりすぎていて、性能を使い切ることが難しいが、アルピーヌは軽量コンパクトでパワーも適度。純粋に走りを楽しむことができるモデルだ。

 

最適パフォーマンスが光る“手ごろなスーパーカー”!

アルピーヌ

A110 S

897万円(税込)

1100kgしかない軽量ボディに252馬力の1.8L4気筒ターボエンジンを搭載し、2017年、アルピーヌA110の名で40年ぶりの復活を遂げた。A110Sは最高出力が300PSに増強された、よりスポーツ色が強いバージョンだ。

SPEC●全長×全幅×全高:4205×1800×1250mm●車両重量:1110kg●パワーユニット:1798cc4気筒DOHC+ターボ●最大出力:300PS/6300rpm●最大トルク:34.6kg-m/2400rpm●WLTCモード燃費:14.1km/L

 

↑3種類のドライブモードから選択可能。ステアリング右下の赤いボタンを押すと、即座にスポーツモードとなり、走りがスポーティに

 

↑アルピーヌA110は軽さが命。ボディの骨格はオールアルミ製だ。1100kgという車両重量は、コンパクトカー並みの軽さを誇る

 

↑車両底面にフタをしてフラットにすることで、空気をスムーズに流し、高速域ではダウンフォースを発生させている

 

大クラッシュから逆転優勝! 東海大学ソーラーカーチームが世界的な強豪であり続ける理由

オーストラリア北部のダーウィンからアデレードまでの直線移動距離3020キロメートルを、5日間かけ太陽の力だけで縦断する「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ(以下、BWSC)」。東海大学は、この世界最高峰のソーラーカーの大会で、過去に総合優勝2回、準優勝2回、第3位1回と好成績をおさめてきた世界的な強豪チームです。2年ごとに開催されているBWSCですが、2021年は新型コロナウイルスの影響により世界大会が中止に。現在、チームは2023年大会に向け、国内でのレースや試走を重ねながら準備しています。

 

今回は、世界レベルで戦うチームに所属する女子メンバーを中心に、ソーラーカーへの各自の思いを取材。そこから、東海大学ソーラーカーチームが強豪であり続けられる理由が見えてきました。

ソーラーカーは静かに、すべるように走り抜ける。最高時速は時速100kmと、意外と速い!

 

ほとんどが “ソーラーカー初心者” からのスタート

「ソーラーカー」と聞くと、機械・工学系の男性が活躍している様子を想像する人が多いかもしれません。ところが、実のところ女性ドライバーが小柄な体型を活かして活躍しているチームもあるそう。東海大学でも、現在部員60名のうち5名の女性メンバーが活躍しています。

 

チームメンバーの多くは、もともとソーラーカーにまつわる専攻を選んでいたわけではなく、ソーラーカー初心者だったといいます。なぜこの活動に参加しようと思ったのでしょうか? きっかけから聞きました。

 

↑工学部4年生、インドネシアからの留学生のギセラ・ジョアン・ガニさん。「SNSでソーラーカーの投稿をすると映えるんです!」と目をキラキラさせながら魅力を語ってくれました。

 

「再生可能エネルギーの技術に興味があり、将来のステップに繋がると思って参加したのがきっかけです。ソーラーカーについては何も知らないまま参加しましたが、たくさんの学びを得ることができました。もちろん授業が最優先ですが、ソーラーカーが大好きなので、家にいるよりもチームがある『ものつくり館』で過ごす時間の方が長くなることもあります(笑)」(ギセラさん)

 

↑工学部2年生、小平苑子さん。授業以外はギセラさんと同じく、ほとんど『ものつくり館』にいるのだとか。「授業かソーラーカーのほぼ二択。大学生らしい生活ではないかも(笑)」とソーラーカーが大好きな様子が伝わってきました。

 

「入学式の展示でソーラーカーに一目惚れして、参加しました。そもそもソーラーカーチームがあることも知らなかったので、驚きで。この見た目で時速100キロ以上出ると聞いて、興味を持ったのがきっかけでした。世界一を目指せる場所に自分がいるっていうのが不思議な感覚でしたが、今まで感じたことのない期待感を味わえるのも好きなところです」(小平さん)

 

↑工学部1年生、岩瀬美咲妃さん。競技かるた部とかけもちでソーラーカーチームに所属しています。「大学に入ったらいろいろとやりたい気持ちが溢れ出た」と探究心が止まらない様子でした。

 

「入学式でソーラーカーを初めて見て、夢があると思ったのがきっかけです。せっかく工学部に入ったし、授業以外でも勉強できることがあると思って入部しました。今は機械班に所属し、先輩たちから図面起こしなどを教えてもらって取り組んでいます。少しずつでも、できなかったことができるようになってきて、うれしいです」(岩瀬さん)

 

↑建築都市学部1年生の早川千咲子さんは、チーム内で珍しい非工学部で、唯一の建築都市学部学生。「仲間といる時間が楽しいので週4日くらいは部室に足が向かう。もう家族みたいです」と笑顔で語ってくれました。

 

「ソーラーカーチームの存在は入学してから知ったのですが、親がクルマ関係の仕事をしていたので、興味があり入部しました。今は広報班として活動しています。ソーラーカーチームでは、設計・構築以外にも、イベントのチラシを作ったり、車体デザインを考えたりする広報の仕事もあるので、私のような工学部以外でも活動できるんです」(早川さん)

 

↑早川さんは現在チームで、広報の役割をになっている。大会では一眼レフカメラやスマートフォンをかまえ、レンズ越しに仲間たちを見守る。

 

↑工学部1年生、猶木愛子さん。ソーラーカーの車体はもちろん、そこで活動している先輩たちのかっこよさにも惹かれているそう。「さりげなく輪に入れてくれる感じが心地いい」と、和気あいあいとしたエピソードをたくさん教えてくれました。

 

「自分たちで設計したソーラーカーを、学生だけで走らせていると聞いて『マジかっこいい』と心から感動してしまい……。気がついたら先輩たちに導かれるように入部していました(笑)。わからないことも教えてくれるし、どんどんチャレンジさせてもらえます。ソーラーカーも先輩も、この環境も大好きです」(猶木さん)

 

携わる年数に差はあれど、誰もがすっかりソーラーカーの魅力にハマっている様子。活動自体にルールはなく、個人が好きな時に来て、やるべきことをやるのだとか。大学院で学びながら、ソーラーカーチームの学生代表を務める宇都一朗さんも「毎日来る人もいれば、授業やバイトの合間に来る人もいるので、自由度が高いですね」と教えてくれました。

 

「ワールド・グリーン・チャレンジ」2連覇を支えたチーム力

↑クラッシュの痕跡が痛々しい東海大学のソーラーカー。

 

2022年の夏に秋田県で行われた「ワールド・グリーン・チャレンジ」で、見事2連覇を達成した東海大学。国内から高校・大学・社会人ら20近いチームが参加して行われた大会でしたが、当日は太陽光を遮る悪天候や走行を妨げる風など、条件は最悪。しかも、接触事故により車体が激しくクラッシュするというアクシデントに見舞われます。車体を修復するために、1時間もレースを中断。それでもコースに復帰すると粘り強く挽回し、優勝を成し遂げたのです。

 

 

実はここまでの緊急事態は、学生たちにとって初めての経験だったとか。4年生のギセラさんにとっても、この2022年の「ワールド・グリーン・チャレンジ」が在学中で一番の思い出になったと教えてくれました。

 

「クラッシュした時は驚きましたが、それ以上にみんなのチームワークに助けられたと思います。1秒でも早くコースに戻そうと必死に取り組む姿は、今思い出しただけでも鳥肌が立ってしまうほど。優勝できたのでホッとしています」(ギセラさん)

↑緊迫した空気のなかで修理に没頭するギセラさん。

 

1年生は、レースに初めて参加してみて、どのような感想を抱いたのでしょうか?

 

「自分たちのチーム以外にも、いろんなチームがあることに驚きました。私たちよりも年下の高校生、年上の社会人チーム、女性だけのチームもあって規模の大きさを実感できました」(早川さん)

 

「学外で走行する姿を見るのも初めて。素直に『本当に走っている!』と感動したのが一番大きかったですね。今まで他のチームと比較することもなかったので、東海大学ソーラーカーチームの強み・弱みを把握できたと思います」(猶木さん)

 

↑優勝トロフィーを手にするギセラさん、小平さん。

 

みんなでつかみ取った優勝は、東海大学ソーラーカーチームをさらに強くしたようです。

 

国内ではトップクラスの実績を誇る東海大学ですが、目指すは世界一。どんな目標で、2023年のBWSCに挑もうとしているのでしょうか?

 

大切な仲間と一緒に “世界一” をつかみ取る!

BWSCは2年に一度の開催。コロナ禍で2021年大会が延期になった分、現在在籍しているメンバーで世界大会を知るのは2019年大会に参加したメンバーのみ。残念ながら、現在の4年生は世界大会を経験せずに卒業することとなってしまいました。学生代表の宇都さんは、2019年大会も参加したため、やっと参加できる世界大会へ向けて思いも強くあるそう。

 

「2023年は必ず、優勝したい。ライバルとなるヨーロッパ勢は、コロナ禍でも世界大会に参加しペースをつかんでいます。世界レベルを経験できていないからとネガティブになるのではなく、挑戦者の気持ちで挑むしかないと思っています。個人的には、2019年のリベンジもかけているので、しっかり優勝を勝ち取りたいと思っています」(宇都さん)

 

↑右は、学生代表の宇都一朗さん。

 

また、世界大会を経験できないまま卒業を迎える4年生のギセラさんも、後輩に向けてこんなメッセージを送ってくれました。

 

「私は入部してから挫けそうになることが何度もありました。自信もなくしたし、難しいこと、どうにもならないことも、たくさん経験できたと思います。その時は “できない自分” が嫌だったけれど、先輩たちが優しくサポートしてくれたおかげで、チャレンジできる気持ちを忘れずに取り組むことができました。チャレンジはけっして無駄じゃない。世界大会に挑むみんなには、授業では得られない貴重な経験をたくさんして欲しいですね」(ギセラさん)

 

ちなみに東海大学のソーラーカーチームに、 “卒業” はないのだとか。大会前になるとOBやOGが手伝いに来ることもあるとのことで、卒業しても強い絆で結ばれているところにも、強さの秘訣があるのかもしれません。

↑部室に飾られ、耀かしい実績を物語るトロフィーの数々。

 

【関連記事】 大学生が世界最高峰の大会に挑む! 東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密

 

↑ソーラーカーのサイズは全長約5m、幅1.2m。カーボン製の車体重量は140kg程度。車体には部品の提供元のほか、大和リビングといったスポンサーが名を連ねる。

 

↑シート状の太陽電池パネルを258枚搭載。太陽の方向へパネルを向け、充電を行う。

 

【関連記事】 敵は風と気温とカンガルー!? ソーラーカーとソーラーカーレースの驚くべき7つの真実

 

最後に、2023年に向け、そしてこれからソーラーカーチームを知る人たちに向けて、メッセージをもらいました。

 

「初心者も大歓迎! 何も知らなかった私でもたった4年で、制御プログラムが書けるように成長できました。クルマが好きな父とも、ソーラーカーの話題で以前よりも仲良くなることができました。入ってよかったなと思うことがたくさんありますよ」(ギセラさん)

 

「ゼロからのスタートでも、知識や経験を吸収してどんどん成長できるのは、ほかの部活にはないところかもしれません。新しい発見が多くできるので、探究心がある方や世界を舞台に活躍してみたい人にはおすすめです」(小平さん)

 

「クルマのことなんて全然知らないまま入部しましたが、ゼロからでも受け入れてくれる先輩がたがいっぱいいるので、安心してください。ここにいると、目標が明確なので自分のやる気も高まります。何をしようか悩んでいるならおすすめしたいです」(岩瀬さん)

 

「ソーラーカーというと、どうしても機械的な部分だけフィーチャーされてしまいますが、理系じゃなくても関われる部分はたくさんあります。授業とはまったく違うジャンルなので、刺激的で楽しいですよ」(早川さん)

 

「1年生の私が『仲良しです』っていうのはおこがましいかもしれないけれど、先輩後輩関わらず仲良しなんです(笑)。和気あいあいと楽しんでいるので、女の子にもいっぱい入部して欲しいですね」(猶木さん)

 

↑1年生から4年生まで、上下関係を感じさせることなく笑いの絶えない面々。

 

「ソーラーカー」という最先端技術を学び、実践していきながら世界を目指す……さぞストイックな部活と思いきや、仲間を大切にする人たちが揃った和やかな雰囲気を感じる取材となりました。性別も学年も関係なく、一人ひとりが目標を持ち邁進する姿に、東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密がありそうです。

 

学生だけで世界一を目指すのは、そう簡単なことではないはず。しかしこの一人ひとりが束になった時、その夢が叶えられるのかもしれません。2023年夏、オーストラリアの地でどんな走りを見せてくれるのでしょうか。日本から、応援の声を届けていきましょう。

 

プロフィール

東海大学ソーラーカーチーム

大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・院生の約60名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。
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提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

バリで育まれた感性が光るDSのフラッグシップSUV【いまこの仏車にAttention!】

オシャレで機能的、燃費性能や安全運転支援技術も進化しているフランス車のなかでも、特にオススメのモデルをプロが「エレガントなフレンチ」「小粋なフレンチ」の視点でピックアップ。今回はディーエス オートモビルを紹介する。

※こちらは「GetNavi」 2022年11月号に掲載された記事を再編集したものです

 

DS AUTOMOBILES(ディーエス オートモビル)

私が選びました!

モータージャーナリスト
岡本幸一郎さん
1968年生まれ。フランス車ではプジョー205GTIの所有歴がある。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

エレガントなフレンチを狙うなら!

DS 7 CROSSBACK E-TENSE 4×4

754万1000円(税込)

プレミアムブランドとしてシトロエンから独立したDSが初めてイチから開発したモデル。パリ生まれの優美な内外装デザインに最新のテクノロジーを融合した高級SUVで、E-TENSEはリアを強力なモーターで駆動するプラグインハイブリッド車だ。

SPEC●全長×全幅×全高:4590×1895×1635mm●車両重量:1940kg●パワーユニット:1598cc4気筒DOHC+ターボ+モーター●最大出力:200PS[110(前)112PS(後)]/6000rpm●最大トルク:30.6kg-m[32.6(前)16.9(後)kg-m]/3000rpm●WLTCモード燃費(ハイブリッド燃料消費率):14.0km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

↑エンジンを始動するとエレガントなデザインのB.R.M社製の高級アナログ時計がダッシュボード上に現れる。自動時刻修正機能も搭載

 

↑高級腕時計に用いられる高度な技法“クル・ド・パリ”を採用したセンターコンソール。多数のピラミッドが連なっているように見える

 

[ココにAttention!] 路面状態を認識し足回りを最適化

これから通過する路面の凹凸をフロントカメラで認識して足まわりのダンパーを最適に電子制御する「DSアクティブスキャンサスペンション」を搭載。乗り心地は極めて快適だ。

 

小粋なフレンチを狙うなら!

DS 4 TROCADERO PureTech

398万円〜(税込)

年頭に開催された国際自動車フェスティバルでは、”世界で最も美しいクルマ”を意味する「Most Beautiful Car of the Year」を受賞。最廉価版なら400万円を切る価格にも注目。

 

[ココにAttention!] デザインも良いが走りもスポーティ!

受賞実績でも明らかなとおりデザインが素晴らしいのは言うまでもないが、走りも素晴らしい。新世代プラットフォームによる走りは快適性とスポーティさを見事に両立している。

 

 

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「ベルランゴ」は広大な空間を持つMPVながらエレガントな雰囲気はキープ【いまこの仏車にAttention!】

オシャレで機能的、燃費性能や安全運転支援技術も進化しているフランス車のなかでも、特にオススメのモデルをプロが「エレガントなフレンチ」「小粋なフレンチ」の視点でピックアップ。今回はシトロエンを紹介する。

※こちらは「GetNavi」 2022年11月号に掲載された記事を再編集したものです

CITROEN(シトロエン)

私が選びました!

自動車・環境ジャーナリスト
川端由美さん
エンジニアから自動車専門誌の編集記者を経て、フリーのジャーナリストに。エコとテックを専門に追う。

 

エレガントなフレンチを狙うなら!

ベルランゴ

367万6000円〜404万5000円(税込)

広大な室内空間を持つクルマで家族と一緒に出かけたいけれど、所帯じみて見えるのは避けたい。いや、むしろ、エレガントに乗りこなしたい! という人にオススメ。フランス車らしいエレガントなデザインに目を奪われる。

SPEC【SHINE BlueHDi】●全長×全幅×全高:4405×1850×1850mm●車両重量:1630kg●パワーユニット:1498cc4気筒DOHCディーゼル+ターボ●最大出力:130PS/3750rpm●最大トルク:30.6kg-m/1750rpm●WLTCモード燃費:18.1km/L

 

↑収納スペースが豊富なのがベルランゴの特徴。天井部にも収納スペースが用意され、小物を効率良くまとめて置いておけるのが◎

 

↑コラボ企画で生まれた車中泊用純正アクセサリー。リアシートを倒しエクステンションバーを伸ばすと、フラットなベッドに早変わり

 

[ココにAttention!] 3列シートモデルの登場に期待したい!

小柄なボディながら、オシャレな内外装と、大人5人がくつろげる室内空間と広大な荷室を両立。全長4.4mのコンパクトさは維持しつつ、3列シート7人乗りの「XL」も年内発売予定だ。

 

小粋なフレンチを狙うなら!

C3

265万8000円〜291万3000円(税込)

フランス車のなかでも、特にアヴァンギャルドで、お国柄が色濃いシトロエン。そのエスプリは、末っ子のC3でも存分に味わえる。小型車でも、細部まで妥協がない。

 

[ココにAttention!] 個性的なカラーと扱いやすさがイイ

個性的なボディカラーに、ルーフとドアミラーをツートーンでコーディネートすることもできる。全長4m未満と街なかで扱いやすいボディサイズだが、後席にも十分に大人が座れる。

 

PICK UP!

航続距離70kmでも欧州で爆売れ! 「アミ」はシトロエンのマイクロEV

シトロエンの超小型EV「アミ」。フランスでは普通免許が不要で、原付のような位置付けだ。220Vの電圧で約3時間で充電可能で、航続距離は70km。残念ながら日本未発売だが、パリの街では目立つ存在になりつつある。

 

 

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デザインで選びたくなるプジョープライドを体現「508SW」【いまこの仏車にAttention!】

オシャレで機能的、燃費性能や安全運転支援技術も進化しているフランス車のなかでも、特にオススメのモデルをプロが「エレガントなフレンチ」「小粋なフレンチ」の視点でピックアップ。今回はプジョーを紹介する。

※こちらは「GetNavi」 2022年11月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

PEUGEOT(プジョー)

私が選びました!

モータージャーナリスト
飯田裕子さん
自動車メーカー在職中に培ったレースや仕事経験を生かしつつ、カーライフの“質”や“楽しさ”を提案する。

 

エレガントなフレンチを狙うなら!

508SW

598万9000円〜704万3000円(税込)

プジョーのフラッグシップ508のステーションワゴン。機能的なワゴンをデザインで選びたくなるようなスタイルに磨きをかけ、上質さや快適性、ドライバビリティが高められた。3タイプのパワーチョイスには新たにPHEVが加わった。

SPEC【GT BlueHDi】●全長×全幅×全高:4790×1860×1420mm●車両重量:1670kg●パワーユニット:1997cc4気筒DOHCディーゼル+ターボ●最大出力:177PS/3750rpm●最大トルク:40.7kg-m/2000rpm●WLTCモード燃費:16.2km/L

 

↑伸びやかなフォルムの前後にはLEDライトを採用し、最新のプジョーらしさを上質さとともに表現。デザインで選ぶ人がいても納得

 

↑期待以上の機能美をプジョーらしく象徴するラゲッジ。スクエアでフラットなスペースは先代を上回る収納量530〜1780Lを誇る

 

[ココにAttention!] 燃費性能に優れるディーゼルは優秀

3種類のパワーソースが揃う。特に快適指数も高く燃費にも優れるディーゼルの力強く扱いやすい動力と、しなやかなドライブフィールが、美しい508SWの行動意欲をかき立てる。

 

小粋なフレンチを狙うなら!

208

284万5000円〜460万2000円(税込)

コンパクトカー作りの名手プジョーが、ブランドの特徴を凝縮し、若々しくスポーティな走りやデザインを体現。独創的かつ最先端の「3D i-Cockpit」の機能性にも注目したい。

 

[ココにAttention!] EVもガソリン車も走りを楽しめる!

208をピュアEVで楽しめる時代に突入。一方、国産コンパクトと競合するピュアガソリン車のプジョーらしい走りも、優れたパッケージやデザインと並んで捨てがたい魅力だ。

 

 

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想像を絶する秘境!『砂の器』の舞台「木次線」を巡る旅でローカル線の現実を見た

おもしろローカル線の旅101〜〜JR西日本・木次線(島根県・広島県)〜〜

 

作家・松本清張は小説『砂の器』で木次線の亀嵩駅(かめだけえき)を「島根県の奥の方だ。すごい山の中でね」と表現した。実際のところ亀嵩駅はまだ序の口で、先はさらに山深い。

 

風光明媚な中国山地を縦断するJR西日本の木次線(きすきせん)。普通列車で味わった約3時間の道中は、赤字路線ならではの厳しい現実も見えてきた。

*2011(平成23)年8月2日、2022(令和4)年10月28日・29日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
いったいどうなる…!? 赤字「ローカル線」の廃止問題に迫る

 

【ぶらり木次線①】85年前の12月12日に全通した木次線

木次線は山陰本線と接続する島根県の宍道駅(しんじえき)と、広島県の備後落合駅(びんごおちあいえき)を結ぶ。まずは路線の概要を見ておこう。

 

路線と距離 JR西日本・木次線:宍道駅〜備後落合駅間81.9km 全線非電化単線
開業 1916(大正5)年10月11日、簸上鉄道(ひかみてつどう)により宍道駅〜木次駅間が開業。
1932(昭和7)年12月18日、木次駅〜出雲三成駅(いずもみなりえき)間が開業。
1937(昭和12)年12月12日、備後落合駅まで延伸開業し、木次線が全通。
駅数 18駅(起終点駅を含む)

 

簸上鉄道という民間の鉄道会社によって歴史が始まった木次線。1934(昭和9)年に同鉄道が国有化され、路線が広島県へ延伸された。全通したのは今から85年前のことになる。山間部を走る路線で、木材、木炭などの貨物輸送で当初は活況を見せていたが、これらの需要が減り1980年代に貨物輸送が廃止されている。

↑木次線の起点駅・宍道。今は使われていない旧4番線ホームの横に木次線の起点を示す0キロポストが立っている

 

国鉄分割民営化により木次線は1987(昭和62)年4月1日から西日本旅客鉄道(JR西日本)に引き継がれた。2018(平成30)年4月1日に三江線(さんこうせん)が廃止されたことにより、木次線は島根県と広島県を結ぶ唯一の鉄道路線となっている。

 

そんな木次線の存続を危ぶむ声が出始めている。この夏に開かれた国土交通省の有識者会議の提言で、平均乗客数1000人に満たない地方ローカル線は、存続またはバス転換などに向け、鉄道会社と自治体との協議を促すとされたのである。

 

JR西日本が発表した2021(令和3)年の木次線の1日の平均通過人員を見ると宍道駅〜出雲横田駅間は220人、出雲横田駅〜備後落合駅間に至っては35人しかない。収支率は宍道駅〜出雲横田駅間が6.6%、出雲横田駅〜備後落合駅間は1.3%となる。1.3%という数値は、つまり100円の収入を得るのに約7692円かかるということになる。

 

この数字は木次線と備後落合駅で接続する、芸備線(げいびせん)の東城駅(とうじょうえき)〜備後落合駅間に次ぐワースト記録となっている。ちなみに東城駅〜備後落合駅間の平均通過人員は13人、収支率は0.4%となっている。備後落合駅へ走る2路線とも利用者が非常に少ないというわけだ。島根県〜広島県の県境部は冬の降雪量も多く、今年の1月13日〜3月25日には木次線の出雲横田駅〜備後落合駅間が長期運休となったほどで、状況は厳しい。

 

【ぶらり木次線②】観光列車の「奥出雲おろち号」が人気だが……

次に木次線を走る車両を紹介しよう。

 

◇キハ120形

JR西日本のローカル専用の小型気動車で、全長16.3mとやや小ぶりの車体が特徴だ。木次線を走るキハ120形は、後藤総合車両所出雲支所に配置された0番台と200番台で、全車にトイレが設置されワンマン運転に対応している。

↑木次線の主力車両キハ120形。車体塗装は黄色ベースと朱色塗装の2タイプが走っている

 

◇DE10形ディーゼル機関車+12系客車

1998(平成10)年4月25日から運行を開始した観光用トロッコ列車「奥出雲おろち号」用の車両で、DE10形ディーゼル機関車と12系客車2両の組み合わせで運行されている。塗装は白、青、灰色地の星模様という組み合わせで、客車だけでなく、機関車も含めた揃いのカラーで走る。

↑出雲坂根駅を発車する「奥出雲おろち号」。ディーゼル機関車と客車編成で前後におろちをイメージしたヘッドマークを掲げる

 

12系客車の内訳はスハフ12-801とスハフ13-801で、備後落合駅側に連結されたスハフ13はガラス窓のないトロッコ車両で、運転室が付き同客車を先頭にした運転が可能なように改造されている。

 

毎年4月から11月下旬にかけて、木次駅(宍道駅発着もあり)〜備後落合駅間を24年、年間150日にわたり走り続けてきた「奥出雲おろち号」だが、古い車両とあって補修部品が手に入らないなどの問題もあり、2023年度での運行終了と発表された。冬期は運行されないこともあり、年度と発表されたものの、実際は来年の11月で運行終了と見てもよさそうだ。

 

【ぶらり木次線③】備前落合駅へ行くルートがまず大きな難関に

筆者は木次線の旅をするにあたって、どのようなルートをたどるか迷った。木次線を往復するにしても、備後落合駅まで行く列車は1日にわずか3本(奥出雲おろち号を除く)しかない。しかも日中の時間帯に到着する列車は1本である。所要時間は3時間14分もかかる。折返しの列車は2時間56分と、やや短縮されるものの、計6時間の長旅はさすがに飽きそうだ。

 

そこで、米子駅から伯備線(はくびせん)で備中神代駅(びっちゅうこうじろえき)へ向かい、芸備線に乗り換え、備後落合駅を目指した。このルートならば3時間25分で木次線の終点、備後落合駅へ到着できる。JR西日本の路線の中で、もっとも平均通過人員が少ない芸備線の東城駅〜備後落合駅の状況も気になった。

 

次に、山陽本線の主要駅から備後落合駅への到達時間を見ておこう。岡山駅からは伯備線、芸備線経由で3時間13分。広島駅からは芸備線の乗り継ぎで3時間16分かかる。いずれも木次線の列車に乗継げる列車で計算したが、便利とは言いかねる所要時間である。

 

さて、木次線の旅をするにあたって芸備線の起点、備中神代駅へ向かったのだが、この駅に下車して驚いた。乗り換え駅なのだが駅に人が筆者を除き誰一人いない。しかも工事中で、駅舎もなくトイレも閉鎖された状態だった。

↑芸備線の起点でもある伯備線の備中神代駅。ちょうど工事中で簡易的な入口が設けられていた。駅に停まるのは115系

 

備中神代駅で列車を待つこと20分。筆者のみが待つ3番線ホームに新見駅発の芸備線キハ120形1両が入ってきた。芸備線の列車ということで空いているだろうと思ったが、意外に混んでいて座席はほぼ埋まり、立ち客すらいた。

 

乗車した日は金曜日の昼過ぎで、帰宅する中高生らしき姿が目立った。備中神代駅の2つ手前の新見駅(岡山県)近くの学校に通う中高生なのだろう。だが、その混雑も岡山県内の野馳(のち)という駅までで、中高生はこの駅までに全員が降りてしまった。地元の人たちも県を越えた東城駅までで、その後に車内に残ったのはほぼ観光客のみとなった。東城駅周辺までは繁華な町が広がるのだが、その先は山間部に入る。東城駅から備後落合駅まで、途中に4駅あったが、乗降客はおらず、駅周辺もわずかな民家があるのみと寂しい。

 

備中神代駅〜東城駅間までは並行して中国自動車道が通り、民家が連なり賑わいを見せるが、東城駅から先は高速道路とも離れ、人口がより少なくなる地域であることが分かる。

 

やがて、勾配がきつくなり制限時速25kmという低速区間が多くなる。低速で所要時間がかかることも、営業面で厳しくなる要因なのだろう。

 

【ぶらり木次線④】ほんの一時、賑わいを見せる備後落合駅

備後落合駅は四方を山に囲まれた駅で、列車は3番線ホームへ到着した。対向する2番線ホームにはすでに芸備線の三次駅(みよしえき)行き列車が停まっている。構内踏切を渡った1番線には木次線の列車が入線してきた。この1番線に隣接して駅舎がある。芸備線、木次線の列車が入線するときは観光客で賑わうのだが、乗り換え駅とは思えないほど鄙びている。

 

構内には今は使っていない側線が何本か残り、側線の先には転車台跡も確認できた。蒸気機関車が客車や貨車を引いて走った時代には、駅の周辺に国鉄の職員宿舎が建ち並び、民家も多く賑わっていたそうだ。

↑備後落合駅の小さな駅舎。駅舎内には駅の歴史を記した史料などが多く掲示され、小さな博物館のようだ(左上)

 

駅舎の外に出て坂道を下り小鳥原川(ひととばらがわ)に架かる橋を渡ると、国道183号(314号も兼ねる)に突き当たる。この国道沿いも今は民家がまばらに建つぐらいで、往時の賑わいが想像できない。

 

かなり寂しい備後落合駅だが、1日に1回、賑わうときがある。芸備線の新見、三次両方面からと、木次線の列車が集う時間である。木次線の列車は14時33分着(折り返し14時41分発)、芸備線の新見方面からは14時27分着(折返し14時37分発)、三次方面からは14時21分着(折返し14時43分発)と3列車が集う。

 

筆者が訪れた日は、駅に降りたほぼ100%が鉄道の旅が好きな観光客のようだった。10分〜20分という短い滞在時間に、写真撮影に興じる人が多い。

 

駅の入口には記念品を販売するスタッフや、元国鉄機関士という名物ガイドさんが案内にあたっている。とはいえ普通列車利用の停車時間が意外に短いこともあり、のんびりできないのが残念である。なお、週末や観光シーズンに運行する「奥出雲おろち号」の場合には、20分ほどの折返しの休憩時間が設けられているので、ゆっくりできそうだ。

↑備後落合駅構内の様子。手前が木次線の列車で、向かい側に芸備線三次駅行き列車が停る。その先を走るのが新見駅行きの列車

 

【ぶらり木次線⑤】時速25km制限の徐行区間が続く

ようやく備後落合駅から木次線の列車に乗り込む。14時41分発の宍道駅行き上り列車に乗車したのはわずか8人だった。観光客と、鉄道ファンのみで、地元の人の姿はない。木次線に興味があって乗りにきた人たちなのだろう。

 

備後落合駅を発車した上り列車は芸備線の線路から分かれて北へ。小鳥原川、国道183号(314号も兼ねる)をまたぎ、第二梶谷トンネルをはじめ何本かのトンネルを越えて、最初の停車駅、油木駅(ゆきえき)に向かう。スピードは時速25km程度と遅い。線路に並走する国道314号を走る車が列車を追い越していく。路線の左右ともに山が続き、線路が通るわずかな平地に田畑が切り開かれている。

↑油木駅〜備後落合駅間の山あいを「奥出雲おろち号」が渓流に沿って走る。同列車の1両は写真のようにトロッコ客車が使われる

 

油木駅は広島県内最後の駅で、この先の山中で島根県へ入る。県境を越えると景色ががらりと変わり開けた景色が広がるようになる。そして間もなく三井野原駅(みいのはらえき)へ。この駅はJR西日本で最も標高が高い727mにある。戦中戦後に馬鈴薯(ばれいしょ)を植えるため開かれた土地でもある。

↑JR西日本で最も高い位置にある三井野原駅。徒歩で5分のところにスキー場がある。写真の駅舎は最近、きれいに改装された

 

冬は降雪が多く、駅近くに三井野原スキー場がオープンする。2021年度からリフト施設が外され、スキーヤーはロープ塔につかまって坂を登るという小規模のスキー場だ。昨冬は木次線が長期にわたり列車が運行できなかったこともあり、同スキー場にとって痛手となったことだろう。

 

三井野原駅を発車すると、間もなく木次線最大のポイントを迎える。三井野原の高原地帯から徐々に列車は高度を落とし、山の中腹部をゆっくりと下ると、前方に見えるのは国道314号の三井野大橋。赤い鉄橋が列車からもよく見える。さらに眼下には国道が円を描き「奥出雲おろちループ」と名付けられたループ橋があり、下っていく様子が見える。この橋の造りを見ると、いかに三井野原駅と次の出雲坂根駅間で高低差があり険しいのかがよく分かる。

↑三井野原駅〜出雲坂根駅間の山中を走る「奥出雲おろち号」。走る列車の中から国道314号の三井野大橋(右下)が見える

 

【ぶらり木次線⑥】一度は体験したい出雲坂根3段スイッチバック

三井野原駅の標高は727m、次の駅の出雲坂根駅は標高565mで、一気に162mも下る。鉄道には厳しい標高差である。

 

そうした標高差をクリアするため、三井野原駅と出雲坂根駅間には3段スイッチバック区間が設けられている。三井野原駅方面から下ってきた列車は、出雲坂根駅の上部に設けられたスイッチバック線に入っていく。そこで折返し、出雲坂根駅へ下っていきホームへ到着する。このホームでさらに降り返ししてまた急坂を下っていくのだ。

 

普通列車では、折返し区間で運転士が先頭から車内を通り抜けて後ろの運転席へ。進行方向を変えて駅へ降りていく。駅に着いたら、再び運転士は前へ移動して発車となる。普通列車の場合には、駅の停車時間は3分程度だが、「奥出雲おろち号」の場合には下り列車が5分停車。上り列車は18分停車と駅で下車できるようダイヤを組んでいる。「奥出雲おろち号」が運転される日は出雲坂根駅構内に売店なども開かれ賑わいを見せている。

↑出雲坂根駅附近の3段スイッチバックを下り「奥出雲おろち号」を例に追う。①〜④という順で急坂を登っていく

 

出雲坂根駅は国道314号沿いにあり、観光名所にもなっている。車で訪れた人たちが列車の動きを写真に収めようとする姿も。駅構内には「延命水(えんめいすい)」と名付けられた名水が涌き出している。国道の向かい側にも湧水の蛇口が設けられ、この水を汲む観光客も多い。

 

列車は出雲坂根駅からさらに下っていく。次の八川駅(やかえき)付近からは山間部ながら、だいぶ開けてきて田畑も広がるようになる。

 

↑出雲坂根駅の駅舎には「延命水の館」という看板が立つ。駐車場も設けられ立ち寄るドライバーの姿も多い

 

【ぶらり木次線⑦】出雲らしい古風な駅舎の出雲横田駅

八川駅を発車し、次の出雲横田駅が近づくにつれ平野部が広がるようになり、列車も徐々にスピードを上げていく。

 

出雲横田駅の駅舎は入母屋造(いりもやづくり)、壁は校倉造(あぜくらづくり)という神社を模した荘厳な建物で、1934(昭和9)年に木次線開業時の駅舎がそのまま残っている。なぜこうした造りにしたのかは理由があって、駅から徒歩20分ほどのところに稲田神社があるからだという。

 

同神社はヤマタノオロチ退治に登場するスサノオノミコトの妻、稲田姫(イナタヒメ)生誕の地。稲田姫は奇稲田姫(クシナダヒメ)とも呼ばれ、神社の主祭神として祀られている。

↑神社を模した造りの出雲横田駅。駅の入口に出雲大社のような太いはしめ縄も架けられている

 

出雲横田駅より先は列車の本数も増える。中高生、地元の人たちも何人か乗り込んできた。

↑出雲横田駅〜亀嵩駅間を走る上り列車。沿線には田畑を包み込むように山々が広がる

 

【ぶらり木次線⑧】小説の舞台「亀嵩駅」は山の中

出雲横田駅を発車した列車は、宍道湖へ流れ込む斐伊川(ひいがわ)沿いを走り、山を越えて小説の舞台となった亀嵩駅へ向かう。再び松本清張の小説『砂の器』の一節を引用してみよう。

 

「道は絶えず線路に沿っている。両方から谷が迫って、ほとんど田畑というものはなかった」。

 

この表現どおりの山中の風景が続く。亀嵩駅の目の前には国道432号が走り、道沿いに数軒の家が建つものの、中心となる集落は駅からやや離れている。小説『砂の器』にも登場する名産品「亀嵩算盤」の工場も駅から離れた集落内にある。

↑山に囲まれた亀嵩駅。右から書いた古い駅名標が入口にかかげられている

 

亀嵩駅の駅舎には1973(昭和48)年創業のそば屋が営業している。国産そば粉を使い、石臼でそば粉をひき、奥出雲の天然水を利用した手打ちそばで、立ち寄る観光客も多い。

 

乗車した備後落合駅から亀嵩駅までは約1時間20分かかったが、まだ先は長い。松本清張が書いたように「すごい山の中でね」を実感する。亀嵩駅と出雲三成駅(いずもみなりえき)の間で、上り列車の進行方向左手に黄緑色と白色の貨車らしき構造物が見える。今から10年以上前に現地を訪れたときに撮影したのが下記の写真だ。その正体は、ワキ10000形という形式の有蓋貨車で、貨物列車の運行速度を向上させるべく開発された車両だった。

↑亀嵩駅〜出雲三成駅間に停められたワキ10000形。高速化を目指して造られた貨車で、台車まで残る。今は車両の一部が見える状態に

 

この車両は1965(昭和40)年に試作された後に191両が導入され、主に東海道・山陽本線の貨物列車として利用された。その後、コンテナ貨車が増えるにしたがって車両数が減少し、2007(平成19)年に形式が消滅している。以前に訪れたときは、周囲に何もなく無造作に置かれたままだったが、その後、リサイクル企業によりこの地が整備されたことで、今は木次線からは車両の全景が見えなくなっている。その点が少々残念だ。

 

こうした希少な貨車の横を走りつつ出雲三成駅へ。この駅で町の姿がちらっと見えたものの、また山間部に入り出雲八代駅(いずもやしろえき)、さらに2241mと木次線で最も長いの下久野(しもくの)トンネルを通過し下久野駅へ。その先も4本のトンネルを通り抜け、ようやく山中の風景が途切れるのが木次駅の一つ手前、日登駅(ひのぼりえき)付近からだった。

 

【ぶらり木次線⑨】木次駅まで来て、ようやく町の景色が広がる

こうした複雑な地形は木次線の速度にも大きく影響している。駅での停車時間まで含めた平均速度を、平野部が多い宍道駅〜木次駅間と、山間部の木次駅〜備後落合駅間で比べてみた。

 

・宍道駅〜木次駅間:営業距離21.1kmで所要時間34〜35分→平均時速36.171km

・木次駅〜備後落合駅間:営業距離60.8kmで所要時間2時間21分〜33分→平均時速24.986km

 

この数字だけ見ても木次線の平均時速は、木次駅〜備後落合駅間が極端に遅いことが分かる。それだけ地形が険しいわけだ。

↑木次駅の駅舎には「桜とトロッコの町 雲南市」と記される。構内には「奥出雲おろち号」に使われる客車が停まっている(左上)

 

備後落合駅から木次駅まで2時間以上の道のりだった。木次駅は木次線で唯一のJR西日本の直営駅(民間委託駅ではないという意味)であり、みどりの窓口もこの駅にある。構内には木次線鉄道部があり、「奥出雲おろち号」の客車なども停められていた。

 

駅前には大型ショッピングモールがあるなど、ようやく都会に出てきた印象がある木次駅だが、そのまま平野部を走るわけではない。南大東駅(みなみだいとうえき)、出雲大東駅(いずもだいとうえき)、幡屋駅(はたやえき)、加茂中駅(かもなかえき)と平野部に設けられた駅が続くが、再びひと山を越えることになるのだ。中国山地の山の深さは想像を超えるものがある。

 

【ぶらり木次線⑩】最後の急勾配を越えて宍道駅にようやく到着

宍道駅の一つ手前の駅、南宍道駅は駅自体が10パーミルという斜面上にホームがある。駅前に民家が点在するのみで、この駅自体も秘境駅のようだ。南宍道駅の前後には25パーミルの急勾配があり、列車にとって最後の頑張りをする区間でもある。なぜここまで山深い区間に列車を通したのか、簸上鉄道時代の路線計画をひも解かないと分からないが、不思議な路線であることが実感できた。

 

そして、約3時間という長い時間をかけて宍道駅3番線ホームにようやく列車が到着したのだった。

↑南宍道駅前後の急勾配を越えて、ようやく終点の宍道駅に近づく上り列車。このカーブを抜ければ宍道駅が目の前に見えてくる

 

↑終点の宍道駅構内に入る上り列車。左側に山陰本線のホームがあり、跨線橋が南北の入口を結んでいる

 

木次線の旅を終えて実感したことがある。宍道駅〜木次駅、さらに出雲横田駅までは地元の利用者も乗車していたが、それよりも広島県側は、あまりの乗客の少なさに驚いた。利用者が減り列車本数が少なくなる。不便になるからさらに利用者が減っていく。また、線路保守や保線作業などの頻度が減り、制限速度を落として安全を確保せざるを得ない。降雪期は不通になりがちだ。まさに赤字ローカル線の負の連鎖が確認できた。

↑木次線の列車が発着する宍道駅3番線に入線した列車。対向する2番線ホームは出雲市駅方面の列車が発車していて便利だ

 

名物の観光列車「奥出雲おろち号」は来年度で運転終了と発表されている。同列車は途中駅で長時間の停車があり、そうした駅では物品販売もあり人気も高かった。また地元業者にとってはまたとない販売チャンスになっていた。

 

来年以降は「奥出雲おろち号」に代わって、鳥取駅〜出雲市駅間を走る観光列車・快速「あめつち」の運転区間が延び、出雲横田駅まで運転される予定だ。しかし、出雲横田駅から先の運行はないそうだ。木次線の人気はやはり、出雲坂根駅〜三井野原駅間の3段スイッチバックだと思う。しかし、この区間を走るのは普通列車のみとなってしまうわけだ。来年度以降、木次線はどうなっていくのだろうか。さらに利用者が減ると、おのずと一部区間の廃止論議が高まっていくのだろう。

 

各地のローカル線は、木次線と同様の問題を抱えている。地方のローカル線が今後、どのような方法で再生を図り、未来に何を活かしていけばよいのか。単に路線バスを変更するだけで本当に良いのか……?我々に問われているように感じた。

 

納得の完成度を誇る欧州ナンバー1SUV、ルノー「キャプチャー」【いまこの仏車にAttention!】

オシャレで機能的、燃費性能や安全運転支援技術も進化しているフランス車のなかでも、特にオススメのモデルをプロが「エレガントなフレンチ」「小粋なフレンチ」の視点でピックアップ。今回はルノーを紹介する。

※こちらは「GetNavi」 2022年11月号に掲載された記事を再編集したものです

 

RENAULT(ルノー)

私が選びました!

モビリティジャーナリスト
森口将之さん
これまで所有した愛車の3分の2がフランス車。渡仏経験も多く、クルマ以外のモビリティにも詳しい。

 

エレガントなフレンチを狙うなら!

キャプチャー

309万円〜389万円(税込)

キャプチャーは2021年に欧州で一番売れたSUV。躍動感あふれるスタイリング、上質で使いやすいインテリア、ルノーらしく自然で安定した走りが人気の理由だろう。日本の道路事情に合ったコンパクトなサイズもうれしい。

SPEC【E-TECH ハイブリッド】●全長×全幅×全高:4230×1795×1590mm●車両重量:1420kg●パワーユニット:1597cc4気筒DOHC+モーター●最大出力:94PS[49PS]/5600rpm●最大トルク:15.1kg-m[20.9kg-m]/3600rpm●WLTCモード燃費:22.8km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

↑コンパクトSUVながら広いラゲッジスペースを確保。後席使用時でも536L、リアシートを倒せば最大1235Lにまで拡大する

 

↑E-TECH HYBRIDはエンジン側に4速、モーター側に2速のギアを搭載。計12通りの組み合わせでシームレスな変速を実現する

 

↑360度カメラを搭載し、真上から見下ろしたような映像をスクリーンに表示してくれる。ギアをリバースに入れると自動で起動する

 

[ココにAttention!] F1技術を注いだハイブリッドも登場

ハイブリッド仕様が最近追加。F1のノウハウを注入したE-TECH HYBRIDは、輸入車SUVナンバー1の燃費をマークしつつ、ハイブリッドらしからぬダイレクトな走りも魅力。

 

小粋なフレンチを狙うなら!

トゥインゴ

225万円〜254万円(税込)

3代目でリアエンジンに変身したベーシックルノー。5ナンバーに収まるサイズ、驚きの小回り性能、独特のハンドリングなど、国産コンパクトとはひと味違った魅力がいっぱいだ。

 

↑エンジンはリアラゲッジ下に効率良く配置。リアエンジンの採用でタイヤを車両の四隅に配置でき、後席の足元空間にも余裕が生まれる

 

↑シンプルにまとめられた運転席まわり。電子制御6速ATと0.9L3気筒ターボエンジンの組み合わせで、力強い走りを実現している

 

↑インテンス MTには5速マニュアルトランスミッションを採用。1.0Lの自然吸気エンジンとの組み合わせで、小気味良く操ることが可能

 

[ココにAttention!] 往年の名車がモチーフ!

キュートなのに存在感あるスタイリングは、1970〜80年代に活躍したミッドシップのラリーカー、5ターボがモチーフ。それをベーシックカーに反映する発想がまたスゴい。

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

納得の完成度を誇る欧州ナンバー1SUV、ルノー「キャプチャー」【いまこの仏車にAttention!】

オシャレで機能的、燃費性能や安全運転支援技術も進化しているフランス車のなかでも、特にオススメのモデルをプロが「エレガントなフレンチ」「小粋なフレンチ」の視点でピックアップ。今回はルノーを紹介する。

※こちらは「GetNavi」 2022年11月号に掲載された記事を再編集したものです

 

RENAULT(ルノー)

私が選びました!

モビリティジャーナリスト
森口将之さん
これまで所有した愛車の3分の2がフランス車。渡仏経験も多く、クルマ以外のモビリティにも詳しい。

 

エレガントなフレンチを狙うなら!

キャプチャー

309万円〜389万円(税込)

キャプチャーは2021年に欧州で一番売れたSUV。躍動感あふれるスタイリング、上質で使いやすいインテリア、ルノーらしく自然で安定した走りが人気の理由だろう。日本の道路事情に合ったコンパクトなサイズもうれしい。

SPEC【E-TECH ハイブリッド】●全長×全幅×全高:4230×1795×1590mm●車両重量:1420kg●パワーユニット:1597cc4気筒DOHC+モーター●最大出力:94PS[49PS]/5600rpm●最大トルク:15.1kg-m[20.9kg-m]/3600rpm●WLTCモード燃費:22.8km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

↑コンパクトSUVながら広いラゲッジスペースを確保。後席使用時でも536L、リアシートを倒せば最大1235Lにまで拡大する

 

↑E-TECH HYBRIDはエンジン側に4速、モーター側に2速のギアを搭載。計12通りの組み合わせでシームレスな変速を実現する

 

↑360度カメラを搭載し、真上から見下ろしたような映像をスクリーンに表示してくれる。ギアをリバースに入れると自動で起動する

 

[ココにAttention!] F1技術を注いだハイブリッドも登場

ハイブリッド仕様が最近追加。F1のノウハウを注入したE-TECH HYBRIDは、輸入車SUVナンバー1の燃費をマークしつつ、ハイブリッドらしからぬダイレクトな走りも魅力。

 

小粋なフレンチを狙うなら!

トゥインゴ

225万円〜254万円(税込)

3代目でリアエンジンに変身したベーシックルノー。5ナンバーに収まるサイズ、驚きの小回り性能、独特のハンドリングなど、国産コンパクトとはひと味違った魅力がいっぱいだ。

 

↑エンジンはリアラゲッジ下に効率良く配置。リアエンジンの採用でタイヤを車両の四隅に配置でき、後席の足元空間にも余裕が生まれる

 

↑シンプルにまとめられた運転席まわり。電子制御6速ATと0.9L3気筒ターボエンジンの組み合わせで、力強い走りを実現している

 

↑インテンス MTには5速マニュアルトランスミッションを採用。1.0Lの自然吸気エンジンとの組み合わせで、小気味良く操ることが可能

 

[ココにAttention!] 往年の名車がモチーフ!

キュートなのに存在感あるスタイリングは、1970〜80年代に活躍したミッドシップのラリーカー、5ターボがモチーフ。それをベーシックカーに反映する発想がまたスゴい。

 

 

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空飛ぶ車も近いうちに乗れるようになる!? 未来を感じるモビリティ8選

自動車業界では”100年に一度の変革期”と言われ、動力が化石燃料から電気に切り替わるだけでなく、自動運転化やソフトウェアの進化など変革は多岐にわたります。クルマの世界だけでなく、電動キックボードの登場など移動手段(モビリティ)の革新は随所で起こっているので、私たちの移動も変わっていきそうです。そんな中から、近いうちに乗れるようになりそうな未来感のあるマシンをピックアップしてみました。

 

【その1】ソニーの電気自動車も近いうちに走り出す!?

ソニー

VISION-S 02

2020年のCESでお披露目され、大きな注目を集めたのがソニーの電気自動車(EV)が「VISION-S」。同社が得意とするイメージセンサー技術を用い、周辺を3Dで把握する安全技術や、5G通信によるクラウド連携など、ソニーらしさが感じられます。車内にはToF方式距離画像センサーも搭載され、ドライバー認証やジェスチャーコマンドにも対応。クルマと人との関係も進化していきそうです。

 

クルマの変革には、動力源の置き換えのほかにソフトウェアの進化が必須と言われますが、その点でもソニーは強みが発揮できそう。「VISION-S」は既に欧州で公道試験を行っており、2022年にはSUV型の「VISION-S 02」も発表。先日はホンダとの合弁会社、ソニー・ホンダモビリティ株式会社を設立しており、2026年には第一弾モデルを発売されるとのことなので、「VISION-S」が公道を走る日も遠くなさそうです。

 

【その2】ホンダから生まれた電動3輪マイクロモビリティ

ストリーモ

「Striemo」

ホンダは社内でベンチャービジネスを生み出す新事業創出プログラム「IGNITION(イグニッション)」を運営していますが、そこから生まれたのが株式会社 ストリーモ。同社が手掛けるのが電動3輪マイクロモビリティ「Striemo(ストリーモ)」です。電動キックボードに似ていますが、こちらは3輪で独自のバランスアシスト機構により、バランスが取りやすい構造になっているとのこと。ゆっくり歩くようなスピードから自転車程度のスピードまで、転びづらく安定した走行が可能となっています。

 

プロトタイプは最高速度が6km/h、15km/h、25km/hとなる3つの走行モードを搭載。現行法規では原付一種に分類されるので、ナンバーやウィンカーの装備が必要で、ヘルメットの着用が必要となります。日本国内では2022年内、欧州では2023年の発売を予定しており、価格は「Striemo Japan Launch Edition限定モデル」で26万円(税込)となる見込みです。

 

【その3】ヤマハの電動3輪モビリティにも期待

ヤマハ

TRITOWN

電動キックボードのような乗り物はヤマハもリリースしています。「TRITOWN(トリタウン)」という名称で、こちらも電動の3輪。安定感がありますが、車体を傾けて(リーンさせて)曲がることができます。同社ではこうした乗り物を「LMW (Leaning Multi Wheel)」と呼んでおり、エンジン付きのバイクでは既に多くの車種が製品化されています。

 

発表は2017年と少し前のことになりますが、まだ市販化はされておらず、公道を走ることはできません。ただ、最近の電動キックボードの拡大と、新たな法制度がスタートすることで、公道を走れるようになる可能性は高まっていると感じます。実際に乗ったことがありますが、かなり楽しい乗り物なので市販される日を期待して待ちたいところです。

 

【その4】1輪でバランスをとって走るOnewheel

出典:FUTURE MOTION

Onewheel

Pint X

北米などでは既に乗り物として普及し始めているのがOnewheel(ワンウィール)。スケートボードに、電気で動く車輪を1つ付けたような乗り物ですが、バランス機構が組み込まれており、1輪でもスムーズに走ることができます。重量は少しありますが、手に持って移動することができるので、ラストワンマイルの乗り物としては適していると言えるでしょう。

 

出典:FUTURE MOTION

「Pint X」はそんなOnewheelの最新モデル。現地では1400ドルで販売されています。コンパクトで持ち運びしやすいですが、未舗装路の走行も可能で、最高速度は時速18マイル(28.9km)も出るとのこと。航続距離は12〜18マイル(19〜28km)なので、移動手段としては十分な性能を持っています。日本では公道走行できませんが、走れるようになると面白いですね。

 

【その5】スタイリッシュな電動バイクも登場

出典:Bandit9

Bandit9

Nano

クルマに比べると電動化が出遅れている感のあるバイクですが、最近になって電動化への道が示されるようになってきました。東京都は2035年までに都内で新車販売されるバイクについて「脱ガソリン化」することを公表しており、各メーカーもそれに合わせるように電動化の計画を示しています。

 

出典:Bandit9

そこで気になるのが、電動バイクらしいデザインとはどういうものかということ。既存メーカーから発表される電動バイクはガソリン車のデザインを焼き直したようなものがほとんどです。そういう意味で期待できるのが、ベトナムのカスタムビルダーBandit9が手掛ける「Nano」というマシン。現地では既に予約受付が開始されており、最高出力は4kWで航続距離は約96km、価格は4499ドルとなっています。何より、デザインが既存のガソリン車には似ていないデザインが魅力的ですね。こうした独自デザインの電動バイクが増えると、公道の風景も変わってきそうです。

 

【その6】街に馴染むスウェーデン製の電動バイク

CAKE

Makka

バイクから排出されるCO2の削減には、アパレルメーカーも取り組んでいます。バイク向けを中心とするスポーツウェアを手掛けるゴールドウインは、スウェーデンのプレミアム電動バイクメーカーであるCAKE 0 emission AB社との独占的パートナー契約を締結。2023年春頃から同社の電動バイクの予約受付を開始します。

 

CAKE社の電動バイクは、街乗り向けのコミューターからオフロード車、子ども向けや仕事向けなど幅広いマシンをラインナップしています。コミューターの「Makka」は北欧らしいミニマルなデザインで、街の風景に馴染みそう。低いステップの下にリチウムイオンバッテリーを搭載し、54kmの走行が可能となっています。

 

【その7】空飛ぶクルマも近日実現!?

出典:AELO MOBIL

AELO MOBIL

AM4.0

未来の乗り物というと、空飛ぶクルマを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。特に都市部で渋滞にハマることが多いと「空が飛べれば……」と思うことも少なくないはず。そんな夢を実現してくれそうなのがスロヴェニアに本拠を置くAELO MOBIL(エアロモービル)社のクルマです。

 

「AM4.0」は2人乗りで飛行する際は翼が開いた形状にトランスフォーム。分類としてはクルマではなく航空機となります。走行中は160km/h、飛行すると360km/hまで速度を出すことが可能。2024年に市販化を見込んでおり、価格は150万ユーロ程度(約2億円)を想定しているとのことなので、気軽に購入できるものではありませんが、一度は乗ってみたい新世代のモビリティです。

 

【その8】空飛ぶタクシーになる!? 4人乗りのモデル

出典:AELO MOBIL

AELO MOBIL

AM NEXT

同じくAELO MOBILが、「AM4.0」の次に開発しているのが4人乗りの「AM NEXT」。こちらもクルマの形状から飛行機にトランスフォームするのは同様で、変形にかかる時間は約3分とされています。2人乗りタイプは個人向けの販売を想定していますが、こちらはタクシーのような送迎サービスでの利用を想定しているとのこと。陸路と空路を組み合わせることで、より遠距離の送迎も快適にできるようになりそう。市販は2027年頃を想定しているとのことで、移動のかたちを革新してくれそうです。

 

 

動力が変わるだけでなく、移動のスタイルやライフスタイルまで変えてくれそうな乗り物たち。実際に市場に出てくる時期には差がありますが、その日はもう近くまで迫ってきています。

 

 

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テスラがSteamとApple Musicに対応! 車内で『Cyberpunk 2077』が遊べる

テスラが最新アップデート「Holiday Update」の配信を開始しました。車内でSteamのゲームをプレーしたり、Apple Musicを再生したり、いくつかの新機能が追加されています。

↑車内のエンタメがもっと充実(画像提供/Tesla)

 

すでにテスラは『Cuphead』や『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』などのゲームを多数提供していますが、イーロン・マスクCEOは7月にテスラ車とSteamの統合を「進めている」とツイートしていました。それから数か月後、ようやく公約が実現されたのです。

 

テスラ公式アカウントはSteamを「新型」のModel SとXで利用できると述べていますが、公式リリースノートでは「16GBのRAMを搭載した2022年モデル以降のSとX」とあり、条件を明確にしています。

 

テスラはSteamで「数千もの」ゲームを遊ぶことができると述べていますが、どのゲームがプレーできるのかは公開していません。ただしPVでは、最近アニメ版の『サイバーパンク:エッジランナーズ』が注目を集めた『Cyberpunk 2077』が大きく取り上げられています。

 

それに加えて、ついにApple Musicがテスラ車に搭載されました。先月、米ロサンジェルスの自動車博物館に展示されているモデルSで動いているのを発見されていましたが、公式アップデートとして広く展開されることになりました。

 

最新アップデートには他にも複数の機能が含まれており、その中には複数のテスラ車が連携してヘビメタ版『蛍の光』に合わせてトランクやパワーウィンドウ、ドアなど電動パーツを動かして合奏(?)するライトショーモードまであります。日本では、これほど多くのテスラ車が集まるのは大変かもしれませんが……。

 

Source:note a tesla app
via:The Verge

エネチェンジの新サービス「マンションゼロプラン」で、マンションへのEV充電導入のコストが抑えられる!

EV充電サービス事業を展開しているエネチェンジは11月11日、「EV充電エネチェンジ」として、新たにマンション向けEV充電サービスへの新規参入を発表しました。新サービスの設置費用・月額費用をゼロ円とする「マンションゼロプラン」の認知拡大を目指します。また、発表会では、女優・創作あーちすと のんさん本人が登場して新CM発表会も同時開催されました。

↑エネチェンジのマンション向け充電器の発表会に女優・創作あーちすと のんさんが登場

 

「マンションゼロプラン」では利用者が料金を負担するのみ

この日の発表会で明らかにされたのは、エネチェンジがマンション充電サービスへ新規参入すること。これまで、駐車スペースが共同管理となっているのがほとんどのマンションでは、居住者それぞれの立場の違いからEV用充電システムの導入が思うように進まないという事情を抱えていました。そんな中でエネチェンジは、マンションでの導入拡大に向けて、2つのプランを発表したのです。

↑2022年は“EV元年”と言われるようになり、普通充電システムの普及を考えるタイミングにきたと説明

 

↑エネチェンジはまず目的地充電からスタートし、この日の発表はクルマを使わない時間帯での基礎充電に重きを置いた

 

↑日本で充電器を普及させるにあたり「出力kW数が時代遅れ」「マンションでの普及が遅れている」という2つの課題がある

 

一つは共有部分での設置費用を無料にする「マンションゼロプラン」で、もう一つは専有部分となっている駐車場への充電器を設置する「マンションスタンダードプラン」です。

↑エネチェンジでは設置場所に合わせた2つのプランを用意。マンションゼロプランが選べるのは共有部に設置した場合が対象となる

 

↑マンションでの充電スペースを設置するイメージは大きく「共用部への設置」「専有部への設置」の2つの対応がある

 

「マンションゼロプラン」は、共有部に設置する普通充電システムの機器代(工事費含む設置費用含む)をはじめ 、月額費用、電気代負担までも0円にするというもの。代わりに利用する人からは充電料金として10分55円/kWhを徴収します。いわば、共有部に充電器を設置して、不特定多数の利用者が費用負担するものと言えます。

 

このプランには導入条件がありますが.「駐車場の車室が40台以上のマンション」「居住者に加え来訪者などのマンション関係者も利用可能な共用駐車場への設置」「マンション1施設あたり充電器2台設置」の3つの条件をクリアすればOKとのことです。

↑新たに登場した充電器は壁掛け型となっており、マンションの壁面に容易に設置できる省スペース性がポイントとなる

 

「マンションスタンダードプラン」では、専有部への設置ということもあって費用負担が発生します。エネチェンジによれば、設置費は21万6000円(機器代、工事費込)で月額費用は3300円/月と設定。電気代の負担は0円ですが、充電料金は10分35円/kWhと割安に設定しているのが特徴となります。

 

両プランで共通するのは、設置する普通充電器の基本出力を“6kW”としていることにあります。実は、これまで日本国内で普及してきた普通充電設備は大半が“3kW”でした。それを2倍の出力で効率よく充電していこうというわけです。

 

さらに設置する充電設備も、既に発売されていたスタンド型の『チャージ1』『チャージ2』に加え、新たに壁掛けに対応した『チャージ3』を追加してラインナップも拡充しています。エネチェンジによれば、「3製品とも充電機能は同じで、設置場所に応じて最適なものを選んでほしい」とのことでした。

↑マンション向け充電器は3タイプをラインアップする。右側の卵形の製品が新たに発表されたもの。機能面では同じだという

 

2027年までに国内3万台の6kW普通充電の設置が目標

発表会で登壇したエネチェンジ代表取締役CEOの城口洋平氏は、マンションゼロプランが実現できた背景について、「弊社がホテルなどで設置してきた目的地の充電ネットワークがあるからで、そのエコシステムがあればこそ。他社が参入しようと思ってもそう簡単にはできない。それほど考えられた設計になっている」と説明。そうした背景から城口氏は、「今回発表したマンション向けサービスを含めて2027年までに国内3万台のEV充電器の設置を目標にしている」との意気込みを示しました。

↑設置費用0円の「マンションゼロプラン」をアピールするエネチェンジ代表取締役CEOの城口洋平氏

 

城口氏は設置を進める充電器を6kWとしていることにも触れ、「普段生活しているロンドンでは、普通充電器の大半が6kW以上の高出力型となっている」とし、「EV普及期に来ている日本でも6kWの充電器の普及させていきたい」としました。一方で6kWの充電器を普及させても、車両側で3kWに入力を制限している場合もあります。

↑欧米では6kW以上が主流で、3kWは消滅傾向にあるという。データはロンドン中心部での設置状況

 

実は日本のEVに対する充電サービスでは、充電した電力量に応じて従量課金されるのではなく、単純に充電した時間で課金される仕組みとなっています。そのため、入力が3kWの車両にとっては割高な料金が強いられかねないのです。

 

これについて城口氏は、「できるだけ早い時期に3kW車が不利益にならないような課金システムを提供したい」と回答。基本的には半額とするそうで、それも車種によって自動判定できる仕組みになるとので、ユーザーの手間はかからないとのことでした。

↑充電出力を3kWから6kWにすることで、充電時間は単純計算で半分の時間で充電が完了可能になる

 

また、マンションでの充電では、6kW対応が別の側面でも大きな効果を発揮すると城口氏は説明します。それは充電時間が短くなることで、充電の回転率が確実に上がるということです。それに伴い、マンションゼロプランでは、アプリを使い充電が完了した時点でユーザーに通知して移動を促します。もし、それを無視した場合は一定の課金を加えるペナルティも設定できるとのことでした。

↑「EV充電エネチェンジ」は2つのアプリを活用して充電・課金ができるようになっている

 

 

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オールチタンの新モデルに注目! 英国発折りたたみ自転車ブロンプトンのCEOに日本市場の可能性を聞いた

2022年で創刊40周年を迎えた、押しも押されもせぬモノ誌の決定版「モノ・マガジン」と、創刊23年目を迎えたピチピチの“新卒世代”「ゲットナビ」とのコラボ連載。英国の高級折りたたみ自転車ブランド「ブロンプトン」に、このたび日本法人ができた、ということでメディア向け発表会にお邪魔しました。

過去のコラボ記事はこちら

 

二つの目で見ればピントが合う! ゲットナビ×モノ・マガジンの「ヒット」スコープ

– Target 7.ブロンプトン–

↑祝・日本法人設立! 英国式折りたたみ自転車「ブロンプトン」はやっぱりモノがエエ! 自転車ラバーたちに取り囲まれる筆者、雑誌『GetNavi』編集長の川内一史(右から2人目)

 

底辺折りたたみサイクリストの憂鬱

かれこれ6年ほど、某国内大手自転車チェーン店のPB(プライベートブランド)折りたたみ自転車に乗っています。価格は1万7800円。自宅マンションの駐輪場代を惜しみ、「玄関前に置いておけるくらい小さい自転車」というつるセコなコンセプトの下に購入しました。モノ誌の編集長を名乗るのをはばかられる買い物だったと反省しつつも、決定的に壊れていないため、なんだかんだでまだ乗り続けています。

 

当然ながら不満は尽きません。走行エリアは主に筆者の住む東京・世田谷区のなだらかな舗装道路であるにもかかわらず、これまで二度もアスファルトにタイヤを切りつけられてパンクを経験しています。また、サスペンションを搭載し忘れたのかな、というほどダイレクトに段差を感じられ、ロングライドはケツ痛との戦いに。そして何より、折りたたむのが難しいんすよね~。どれくらい難しいかというと、初めて乗ったその日に正しい折りたたみ方がよくわからなくなって諦めてしまい、以来6年間一度も折りたたんでいないほど。そのため自宅マンションの共有スペースにはみ出してしまい、管理会社から何度か警告を受けています。

↑筆者の自宅玄関前に佇む愛車。生涯折りたたまれることはないでしょう

 

ブロンプトンは日本で2ラインを展開中

そんな我が愛車の対極にあるのが、英国の高級ブランド「ブロンプトン」。1975年に創業した同社の自転車は、ロンドンにある自社工場で職人の手によって一台ずつ丁寧に作られています。独自の折りたたみ機構も特筆で、20秒以内にホイールより少し大きいくらいのサイズにまで折りたためるのがウリです。エエやん。

 

現在日本では、オールスチールのクラシカルな「C Line」と、チタンを取り入れた軽量の「P Line」が展開中。C Lineは、街乗りに適した2速の「URBAN」、毎日の通勤が快適になる3速の「UTILITY」、急坂にも耐える6速の「EXPLORE」を用意します。P Lineは4速の「URBAN」のみ。

↑日本では現在C Line(税込22万円~)とP Line(税込39万6000円~)がラインナップされている

 

そして、2023年に日本でのラインナップに加わりそうなのが、オールチタンで7.45kgの超軽量設計を実現した「T Line」。日本での発売日や価格は未定ですが、1速の「ONE」と4速の「URBAN」を用意しています。

↑圧倒的な軽量設計がウリのT Line。23年の日本導入が予定されている

 

「BROMPTON JAPAN」設立発表会に潜入!

同社の製品は、長らく「ミズタニ自転車」が日本の輸入総代理店として販売していましたが、このたび契約が満了。日本法人「BROMPTON JAPAN」が設立されました。去る11月に行われたメディア・ディーラー向けの発表会では、ブランドコンセプトや日本市場での展開などについて紹介。実際に数多くの自転車が展示され、試乗も可能でした。

↑ブロンプトンと同じ英国ブランドで、ワックスジャケットなどでおなじみ「バブアー」とのコラボモデル(税込35万6400円)。C Line EXPLOREをベースとし、独自のアースカラーを採用した。自転車へ手軽に取り付けられるバブアーのバッグとポーチがセットに。2023年1~2月に日本導入予定

 

↑オールチタンの超軽量モデルT Lineもまもなく日本で発売される予定。指1本で持ち上げるパフォーマンスをしているのは、なんと同社のCEOウィル・バトラー・アダムス氏だ。右はアジア・パシフィック・マネージングディレクターのマーク・スメドリー氏

 

↑2段階の折りたたみ機構を備えるのがブロンプトンの特徴。たった20秒でこんなに小さくなっちゃった!

 

↑モノ・マガジンの前田賢紀編集長はブロンプトンオーナー。サマになってます!

 

日本市場へ本格参入した理由

ブロンプトンは日本市場をどのように見ているのでしょうか? ウィルさんとマークさんに話を聞きました。

 

「かれこれ20年以上もミズタニ自転車さんにお世話になり、日本で製品を展開してきました。英国でのブロンプトンファンは、いわゆる“中年のジェントルマン”が多いのですが、日本でもそれに近い傾向が見られます。ただし、ヨーロッパでは都市部を中心に移動手段としてブロンプトンの自転車を利用する人が多いのに対して、日本では余暇に郊外で散策するための乗り物としているケースが多いのが特徴です」(マークさん)

↑淡々とした語り口で市場を分析するマークさん。英国人らしいクールガイですが、時折見せる笑顔がキュートでした

 

「日本は郊外や山間部の道路も整備されていて、どこへでも気軽にブロンプトンの自転車を持ち出してサイクリングを楽しむことができます。一方で、コロナ禍をきっかけに、通勤用の交通手段として利用する人も増えており、若い世代のユーザーも増えてきました。環境配慮への意識の高まりに合わせて、今後はより幅広い世代へと広がっていくと考えていますし、女性のユーザーも増えるでしょう」(ウィルさん)

 

↑真っすぐにこちらの目を見てブランドのビジョンを語るウィルさんは熱い男。筆者も思わず「BOSS」と呼びたくなるほどのオーラを感じました

 

本格的に日本市場へ進出する決め手となったのは、2023年に日本発売が予定されているオールチタンのT Lineだと言います。

 

「T Lineは、技術とデザインを極限まで高めたフラッグシップであり、私がイメージするブロンプトンの最先端モデルです。もちろんすべて英国の自社工場内で製造しています。開発には10年かかりましたが、チタンをこれほど使いこなしている自転車はほかにないと自負しています。このマスターピースを持ち込むことで、日本の皆さんに『ブロンプトンはこんなことができる』と示したいのです。日本はクラフトマンシップを大切にする文化だと思いますので、きっと受け入れていただけると思います」(ウィルさん)

↑フロント部に取り付けられるバッグには専用のアタッチメントを装備。サイズが大きくても安定性は抜群で運転しやすい

 

↑ブレーキ部分にブロンプトンの意匠である折りたたみのアイコン。見えにくい部分にもデザインのこだわりを感じられる

 

「日本市場にはとても可能性を感じていますので、よりユーザーへの理解を深めて、正確にニーズをつかんでいきたい、そして我々も進化していきたいと考えています。そのためにBROMPTON JAPANを設立することになったわけです。まずはグローバルモデルのみのラインナップですが、これから2~3年の間に日本限定のデザインは出てくるでしょう。本格的に日本へ進出することで様々な日本のブランドと近づくことができますから、新しいコラボレーションの芽も生まれるでしょう」(マークさん)

 

ものづくりへのこだわりを大切にする一方で、人々のライフスタイルへ溶け込んでいくことも重要視しているのがブロンプトンの特徴です。

 

「日本の自転車市場は、一部のファンへ向けたものになっていることは否めないでしょう。しかし、本格的なサイクリストは全人口の2~3%に過ぎないため、これでは本当の普及は望めません。ところが『自転車に乗ったことのある人』は90%もいるわけなので、そういった人々にブロンプトンのストーリーをシェアしていく。そして皆さんに“自分ごと化”してもらえるブランドになれば、自然と選んでいただけるはずです。効率的な移動手段である自転車を日本の皆さんに思い出してもらい、ブロンプトンの製品を生活の一部にしてもらえるようなコミュニケーションをしていきたいです」(ウィルさん)

 

これからも日本をご贔屓に――!

って、お2人とも随分と日本を贔屓にしてくれてます。メディア向けのリップサービスはあるかもしれませんが、そこまで日本市場を重視して、文化の深いところにまで目を向けてもらえるのはうれしいですね。お2人ともこれまで幾度となく日本を訪れて、ビジネスだけでなく観光も楽しんでいただけているようで――。

 

「東京のほか、京都、神戸、沖縄などに訪れて、色々な道でサイクリングを楽しみました。19年には妻も来日して一緒にサイクリングしましたよ。サイクリングの魅力のひとつが、思い立ったらふと店に立ち寄って、買い食いなどを楽しめること。10年ほど前に日本で過ごしていたある日、サイクリングしていると小さいお店に行列ができていたのが目に留まりました。何だかわからないけれど、きっとおいしいんだろうと思って私も並んで、一緒に並んでいた日本の方に勧められたものを選んで買いました。これが『おでん』だったのですが、これが驚くほどおいしくて。印象に残っているのは、変わった食感のこんにゃくです。とてもおいしくいただきました」(ウィルさん)

 

「寿司などポピュラーな日本食も好きですが、なかでも抹茶味のアイスクリームは衝撃的においしかったですね。あとはバナナ味のキットカットかな。お菓子のフレーバーのバリエーションが多いので、自宅へお土産に買って帰ると家族に喜ばれるんですよ。日本は、都市部でも郊外でも、自転車でないと入れないような細い道がありますよね。クルマで移動していたら気づけないようなお店を見つけたり、色々な人と出会えたりするのはうれしいものです。こういった体験を多くの人に味わってもらえたらと思います」(マークさん)

 

ブロンプトンの自転車が日本でどのように受け入れられ、広まっていくのか。そして日本のカルチャーを受けて、ブロンプトンが今後どのように進化していくのか。2023年はますます見逃せなくなりそうです!

↑この写真だとわかりにくいですが、長身のウィルさん(右から2番目)と筆者(一番右)は30cmくらい身長差がありました

 

モノ・マガジン前田編集長のレポートはこちら→https://www.monomagazine.com/58082/

 

 

写真/中田 悟

タクシーEV化でCO2排出を年間3万トン削減! 「GO」アプリのMoTが目指すカーボンニュートラル社会とは

タクシーアプリ「GO」などを運営するMobility Technologies(MoT)は、全国のタクシー事業者と各種パートナー企業が参加する「タクシー産業GXプロジェクト」を始動することを発表しました。

 

このプロジェクトは、タクシーのEV(電気自動車)化によって再生エネルギーの活用や二酸化炭素排出量の削減し、タクシー産業の脱炭素化を目指すもの。2025年までに全国で2500台のEVタクシーを運用し、2027年までにCO2排出量を年間3万トン削減することを目標に掲げています。

↑タクシーのEV化を進める「タクシー産業GXプロジェクト」

 

↑2500台のEVタクシー導入により、年間3万トンのCO2排出を削減することを目標としています

 

同社の代表取締役社長を務める中島 宏氏によれば、日本の産業のCO2排出量のうち、運輸産業が占める割合は約17%になるとのこと。現在、タクシー産業におけるEV車の導入率は0.1%と極めて低いものの、タクシー産業がほかに先駆けて脱炭素化を進めることで、カーボンニュートラル社会の早期実現を目指したいとしています。

↑MoTの中島 宏代表取締役社長

 

同社は全国のタクシー事業者を対象に、EV車両のリースや利用システムの提供を行うほか、同社が持つAIテクノロジーやデータを活用した包括的なサービスを提供。例えばタクシー運転手がよく休憩する場所をクラウドデータをもとに割り出して充電スタンドを設置したり、電力供給が過剰になる昼間の時間帯に電力を蓄電池に蓄え、充電に必要な電力コストを抑えたりと、EVタクシーを運用したことがない事業者でも低コストで導入することが可能となります。

 

EVタクシー車両には、パートナー企業であるトヨタや日産のEV車種を使用。トヨタ「bZ4X」や日産「リーフ」「アリア」などを用意するほか、将来的にはラインナップを拡充していきたいとのこと。

↑EVタクシーとして採用されたトヨタ「bZ4X」。クロスオーバーSUV車であるため一般的なタクシー車両のイメージよりもスタイリッシュな印象

 

↑日産は画像の「アリア」のほか、「リーフ」も採用

 

また、スマホアプリ「GO」のアップデートにより、利用したタクシーの走行距離からCO2排出削減量を算出し見える化することで、利用者にEV車種の積極的な利用を促進させる取り組みも実施予定(アップデート時期は未定。法人向けサービス「GO BUSINESS」では実装済み)。将来的にはアプリからEVタクシーを選択して配車するような機能も実装したいとしています。

↑タクシーアプリ「GO」にCO2排出削減量が表示され、利用者の環境への意識を高める試みも

 

本プロジェクトは国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「グリーンイノベーション基金事業/スマートモビリティー社会の構築」採択の支援を受けており、タクシー事業車はEV車両の導入や充電設備の設置などで助成金を受けることができます。

↑関係者やパートナー企業のゲストを交えたフォトセッションの様子。中央がMoTの中島 宏代表取締役社長

 

世界的にカーボンニュートラル化が進むなか、もはや待ったなしの状況ともいえる化石燃料依存からの転換ですが、EV車の導入でCO2排出量の削減を進めるMoTの新プロジェクトは、タクシー産業だけでなく運送業やほかの産業にも影響を与えそうです。

 

【フォトギャラリー(画像をタップするとご覧いただけます)】

レア車両から車両工場までじっくり堪能! 300名限定の「都営フェスタ」大満足レポート

〜〜馬込車両検修場「都営フェスタ2022」(東京都)〜〜

 

ここ数年、鉄道各社の行事がコロナ禍で自粛されてきたなか、最近ようやくイベントも開かれるようになってきた。12月3日(土)には「東京交通局馬込車両検修場」(大田区)で、東京都交通局「都営フェスタ2022」が開催された。3年ぶりに開かれた同イベントでは参加者を300人に絞り、密にならないよう少人数に分けてのツアー方式が取り入れられた。引退間近の車両も並び、鉄道ファンにとって気になる催しとなった。見どころ満載だったイベントに迫ってみよう。

 

【関連記事】
大江戸線と浅草線は全然違う乗り物だった

 

【都営フェスタ2022①】会場となった馬込車両検修場とは?

「都営フェスタ2022」が開かれたのは東京都大田区南馬込にある「東京交通局馬込車両検修場」。都営浅草線の車両の検修施設があり、また都営浅草線と都営大江戸線の車両の重要部検査や全般検査が行われる。車でいえば定期検査や車検にあたる検査が行われる、東京都交通局にとって重要な施設である。

↑西馬込駅から徒歩5分ほどの陸橋から望む馬込車両検修場。入口には「東京都交通局馬込車両基地」と掲示されている

 

場所は都営浅草線の西馬込駅の南側で、西馬込駅から延びる引込線が車両検修場内の線路につながっている。車両基地も兼ねているために、運行を終えた車両が朝夕を中心に入庫、出庫をしている。

 

通常、車両検修場のなかへは入れないが、車両検修場の上に「道々め木橋(どどめきはし)」という名の陸橋が架かり、その上から全景を見ることができ、この陸橋を訪れる鉄道ファンも多い。

 

【都営フェスタ2022②】33倍の難関を突破した300名が見学

今年で誕生111年目を迎えた東京都交通局の成り立ちを簡単に振りかえっておこう。東京都交通局は1911(明治44)年8月1日に東京市(当時)が東京鉄道株式会社を買収し、東京市電気局が創設されたことに始まる。同局により路面電車の運行と電気供給事業が開始され、その後、市電(後の都電)は東京市民の欠かせない足となった。

 

111年の歴史の中には関東大震災や、東京大空襲などの想定を上回る災害があったものの早々に復旧を果たし、増強され戦後の高度経済成長を支えた。高まるモータリゼーションの中で、都電は1線のみとなったが、都営バスの路線網に加えて、1960(昭和35)年12月4日には地下鉄事業を開始、押上駅〜浅草橋駅間が開業し、以降、浅草線の延伸に加えて三田線、新宿線、大江戸線が開業し、東京都民にとって必要不可欠な公共交通機関となっている。

↑今年はツアー1組30名と限定されたため余裕をもって見学できた。左上はホームページで公開されたスペシャルムービー

 

今回の「都営フェスタ2022」は3年ぶりの公開行事となった。密を避けるために参加者は300名に限定され、WEBサイトで応募・抽選する方式で来場者を選んだ。入場無料の人気イベントでもあり、今回も9800名を超える応募があったとされ、33倍の超難関のなか幸運を手にした300名が、30名ごと10組に分けられ、10時から16時にかけて検修場内で60分のツアーを楽しんだ。

 

来場できなかった人向けに「都営フェスタ2022」(12月12日まで公開予定)のホームページ上でスペシャルムービー「馬込車両検修場に潜入!」と題した映像を公開。検修場内の仕事の様子を紹介したり、またPC用の壁紙を提供するなど、オンライン上でのイベントとのハイブリッド開催が行われた。

 

筆者は2017(平成29)年12月9日に馬込車両検修場で開かれた「都営フェスタin浅草線」も訪れたことがあるが、当時の写真は下記のような状態で、入口付近は長蛇の列ができたのだった。

↑2017(平成29)年12月9日に開かれたイベント当日の検修場入口の様子。この日に新型5500形がお披露目された(左下)

 

5年前の都営フェスタの時に公開されたのが、浅草線の現在のエースとして活躍する5500形だった。そして今年の都営フェスタでは、最後の姿になるかもしれない浅草線の旧主役が登場した。両車両の詳細は後述したい。

 

【都営フェスタ2022③】親子連れにはキャラクターが大人気

「都営フェスタ2022」で目立ったのが親子連れの姿だった。2017(平成29)年の時には一般の鉄道ファンの姿が多かったが、将来、鉄道ファンになるであろう世代が保護者に引きつれられて電車に見入る姿がほほ笑ましく感じられた。こうした世代の目を引きつけたのは東京都交通局のキャラクターや、レールが緻密に組まれたプラレールだったことは言うまでもない。

↑東京都交通局のマスコットキャラクター「みんくる」(右)と「とあらん」(左)。記念撮影をと並ぶ親子連れの姿が目立った

 

会場を訪れていた小学3年生の男児と母親の2人連れに話を聞いてみた。抽選に運良く当たったそうだ。以前に父親と検修場が見渡せる陸橋「道々め木橋」に来て検修場内を眺めたことがあるそうで、かなりの鉄道好きのようである。男児は普通の線路幅(1067mm)よりも広い浅草線の線路幅(1435mm)を体感しようと、線路をまたぎ、ようやく足が開いたようでご満悦の様子だった。

 

「車庫基地に入れてうれしい?」と聞いてみると、「うん。本当は地下鉄よりJRの方が好きかな」との答え。さらに「お父さんとよく遠くに行くんだ。この間は青春18きっぷを使って中津川駅(岐阜県)まで行ったよ」と誇らしげに話してくれた。

 

小学校3年生ともなると好みがはっきりしてくるようだが、車庫内に入れたことはきっと良い思い出になったことだろう。

↑プラレールのブースも設けられ、じっと見入る男の子もいた。都営車両のプラレールの販売も行われていた

 

【都営フェスタ2022④】浅草線のエースとして活躍した5300形

ここからは「都営フェスタ2022」に集合した車両を見ていこう。車両撮影用に並べられた車両は7編成で、うち5編成は浅草線の主力車両5500形だった。5500形にはさまれ5300形5320編成が並ぶ。5320編成は5300形最後の8両で、この編成以外はすべて引退となっている。5320編成は今回のフェスタ以降も走っていることが確認されているものの、いつまで運行されるかは発表されておらず、気になるところである。

↑車両撮影コーナーの前にずらりと並ぶ浅草線の車両。大半は5500形だったが5300形(左から4両目)の最後の車両が混じっていた

 

浅草線5300形とはどのような車両なのか見ておこう。

 

1960(昭和35)年に開業した都営浅草線で最初に導入された車両が5000形だった。通勤型電車のサイクルは約30年を目安にしている鉄道会社が多い。浅草線開業からちょうど30年後の1990(平成2)年に5300形の製造が開始され、1991(平成3)年3月31日から走り始めた。正面は当時一般的だった平面ではなく、ガラス窓がなだらかに傾斜した造りで、これは浅草線が走る銀座など都会的なセンスをイメージしたものとされている。浅草線には京成電鉄、京浜急行電鉄、北総鉄道などの車両が乗り入れているが、他社とは一線を画すデザインだったと言っていいだろう。1997(平成9)年まで8両×27編成、計216両が製造された。

↑後輩の5500形に囲まれた5300形最後の5320編成。この日は2年前まで使われた「新逗子」行きの表示が掲げられた

 

浅草線のエースとして活躍してきた5300形だったが、後進となる5500形が2017(平成29)年の「都営フェスタ」で初公開され、翌年の6月30日から走り始めた。その後に5500形の増産は続き、すでに5300形の最盛期の車両数である8両×27編成、計216両まで増備されている。5300形はそれに合わせて徐々に引退となり、最後の5320編成もいつ運用から外れてもおかしくない状況になっているわけである。

 

「都営フェスタ2022」で5300形5320編成の、正面の表示は「快速急行・新逗子」行きとなっていた。すでに2020(令和2)年3月14日から新逗子駅は逗子・葉山駅と駅名が改称されている。今はない駅名を掲げての〝最後の晴れ姿〟となったのかもしれない。

 

この記事が公開される日まで走り続けているかどうかは定かではないものの、もし走っていたら今のうちに乗り納め、撮り納めしておきたい貴重な編成となっている。

↑京浜急行電鉄本線を走る5300形5320編成。この編成が最後の5300形となった。12月7日現在も運行が確認されている

 

【都営フェスタ2022⑤】5500形の洗車シーン&レアな表示も

5300形に代わり、浅草線の主力車両となり「都営フェスタ2022」でも5編成が並んだのが5500形だ。5年前の都営フェスタでは1編成のみだったものが、27編成に増備された。

 

正面デザインは、歌舞伎の隈取りをイメージ。車内各所に東京の伝統工芸品である江戸切子のデザインが施されている。性能面では5300形の設計最高速度が110km/hだったのに対して5500形は130km/hまでスピードアップが図られた。このスピードを生かして、5300形では乗り入れできなかった成田スカイアクセス線での運用が可能になり、成田空港駅まで走るようになっている。

 

「都営フェスタ2022」では車両撮影スペースに5編成が並び壮観だった。さらに。フェスタに合わせた演出ではなく、偶然、検修場に入庫してきた5500形の洗車シーンを見ることもできた。

↑検修場内にある洗車装置を5500形が通る。走り続け汚れた車体もすっかりきれいに

 

今回の「都営フェスタ2022」では事前に公表されていなかったのだが、隠れた演出をいくつか発見することができた。まず、5500形の並び方だ。5300形5320編成の右隣には、最初につくられた5501編成、その右隣には2編成目の5502編成が並んでいた。5500形の1編成目と2編成目が、5300形と並べられて配置されていたのである。

 

さらに、行き先を示すLED表示器にもなかなか粋な演出を見ることができた。5501編成の表示は「急行・東成田」行きとなっていたのである。

 

東成田駅は京成電鉄東成田線の終点駅で、その先は芝山鉄道線の芝山千代田駅まで線路が延びている。現在は京成成田駅〜芝山千代田駅間を走る電車が停まる駅となっている。開業当時は成田空港駅と呼ばれた駅だった。今はこの駅始発、終着する列車はなく、ふだん見ることができない貴重な「東成田」行き表示だったわけである。

↑5500形の最初に導入された5501編成のLED表示は、これからも走ることが無いと思われる「東成田」の駅名が表示されていた

 

5500形の他の車両の表示は「特急・京成上野」、「快特・金沢文庫」といった具合。こちらも5500形の行き先としては、あまり表示されることのないレアな駅名といって良いだろう。こんな細かいところにも来場者を楽しませようという気づかいが見られた。

 

【都営フェスタ2022⑥】一番端の謎の赤い電気機関車は?

今回の「都営フェスタ2022」でずらりと並んだ右端には、大きなパンタグラフの赤い電気機関車が停められていた。都営線沿線ではまず見かけない機関車だ。

 

この車両はE5000形電気機関車で、車両を牽引する役目を担う東京都交通局の事業用車両だ。馬込車両検修場は、都営浅草線以外にも都営大江戸線の車両の重要部検査、全般検査を行っている。しかし、浅草線と大江戸線は線路幅こそ1435mmで同じだが、大江戸線は鉄輪式リニアモーター駆動によって動いており、回転式電気モーター駆動を採用する浅草線とは方式が異なる。ゆえに大江戸線の電車は、浅草線を走ることができず、それを牽引する車両が必要になるというわけだ。

↑「都営フェスタ2022」の車両撮影コーナーでは一番右に停車していたE5000形電気機関車。大江戸線の車両を牽引する役目を持つ

 

浅草線と大江戸線との間には通称「汐留連絡線」と呼ばれる連絡線があり、同路線をE5000形電気機関車が通り、大江戸線の電車と連結し、浅草線の馬込車両検修場まで牽引してくる。

 

E5000形電気機関車は正面から見ると分かりにくいが、JR貨物のEH500形式電気機関車、EH200形式電気機関車などと同じように2車体連結の8軸駆動方式が採用されている。この駆動方式を採用している理由は、汐留連絡線に半径80mといった急カーブがあることや、48パーミルといった通常の鉄道にはない急勾配をクリアするためで、実は外見からは予想もつかない高性能な車両なのだ。日本の地下鉄史上初の地下鉄専用の電気機関車であり、2編成、計4両のみという珍しい車両でもある。

 

【都営フェスタ2022⑦】車両工場の中には台車や幌がずらり並ぶ

来訪者が車両撮影コーナーの次にめぐったのが東隣にある「車両工場」だった。ここでは電車の重要部検査と全般検査が行われる。

↑車両工場の南側入口。都営フェスタの来訪者は約20分にわたり工場内の見学ができた。庫内に停まるのは5500形5509編成(左)

 

庫内には5500形5509編成が入っており、ブレーキなどの重要部検査が行われているようだった。

 

この車両に並んで、複数の車両移動機が停車していた。車両移動機とは重要部検査や全般検査などのため、車両工場へ電車を移動させる際に利用するもの。大小の車両移動機が留め置かれていたが、小型のほうはアント工業製で、編成から切り離された電車の移動などに用いられているようだった。

↑検修場内の電車の移動に使われる車両移動機。小型の車両移動機も展示されていた(右下)

 

車両工場内を進んでいくと天井まで達するようなラックが設けられていた。緑に塗られた鉄柵のラック内にあるのは電車の台車だ。ここには重要部検査や全般検査のために工場内に入ってきた電車の台車を新しいものに取り換えるため、部品類も格納されている。

↑工場内では電車の新旧台車の付け替えが行われる。台車は別工場で整備されトラックで工場に運ばれ、このラック内に収納される

 

「都営フェスタ2022」が行われていた日は工場が稼働していなかったものの、コーナーには解説ボードがあり、このラックからエレベーターで降ろされ、横に動く作動装置に載せられて、台車の付け替えが行われることが推測できた。こうした作業内容はホームページ内のスペシャルムービー「馬込車両検修場に潜入!」で公開されている。

 

車両工場で気になるコーナーを発見した。角が丸いスチールの骨組みをグレーの部材が包み込んでいる。電車の連結部分に使われる幌だった。単体の部品として見ると意外に大きく感じられた。そこには次のような貼り紙が。

 

「補修用の部材として一部切り取り済みです」。

↑電車の連結部の幌がずらりと並んでいた。一部は補修用に使われていることを示す貼り紙があった

 

幌は長い間走ると擦れて劣化するものなのだろう。時には穴が開き、雨漏りも起こるのかもしれない。そうしたときの補修用として使ったようだ。そうした細かい補修作業もここで行われていることがよく分かる。少人数グループで、急かされることなく見ることができ、車両検修場内をじっくりと見学して回れた〝成果〟は大きかった。

 

【都営フェスタ2022⑧】主催者の鉄道愛が伝わる意外な展示物

車両工場を出た先には展示・グッズコーナーが。都営交通の歴史を伝える展示や多彩な写真が貼り付けられており、興味をそそられた。

↑テント内に展示されていた、時代ごとの交通局の路面電車の路線図や地下鉄路線図。右下は交通局開局当時の路面電車路線図

 

特に気になったのは、東京都交通局の昔の路線図だ。最も古い路線図は1911(明治44)年8月1日と記されていた。8月1日は東京都交通局が生まれた日である。シンプルに線が記されているだけで、途中の停留場の案内はないが、ここから始まったということで資料的な価値は高いように感じた。

 

筆者も市電時代の路面電車の路線図を数枚所有しているが、さすがに同資料を見たことはなかった。戦後のものには、今はないトロリーバスの路線が記されたものもあった。今となっては〝お宝〟の資料と言ってもよいだろう。開局111年の歴史がここに詰まっていた。

 

さらに目を引いたのは都営浅草線の5000形から5500形にいたる20枚の写真。車両工場の荷物用エレベーターの扉に貼られていたが、浅草線最初の電車5000形の現役時代から、引退が近づいた5300形導入されたころ、さらに最新の5500形がトレーラーを使って車両基地まで運ばれる写真などがきれいに展示されていた。

↑車両工場の1階と2階を結ぶ荷物用エレベータの扉には、都営浅草線の新旧車両の写真が貼られ、浅草線の車両史を見るかのようだった

 

今回の「都営フェスタ2022」のように、ゆっくりと会場を見て回るイベントは、いろいろな発見ができておもしろい。来訪者も、東京都交通局の担当者の人たちから、興味深い話を聞くことができ、さらに来場記念カードや、電車のイラスト入りクリアファイルなどの土産を手にし、満足した様子で帰って行く姿が見受けられた。

トヨタ「クラウンクロスオーバー」はスポーティなわりにフォルムが膨よかで貫禄がある!

2022年7月、トヨタが世界に向けて発表したのは、フラッグシップモデル「クラウン」の新型モデル。しかし、従来のセダンタイプだけでなく、SUVのエステート、ハッチバックのスポーツ、ワゴンのエステートと新たなボディバリエーションも同時に初公開された。そのうち、まず第一弾としてすでにデリバリーが始まっているのがクロスオーバーだ。これを早くも試乗した自動車評論家の評価とは!?

 

■今回紹介するクルマ

トヨタ/クラウンクロスオーバー

※試乗グレード:RS

価格:435万円~640万円(税込)

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

 

第一印象は「まあまあカッコいいな」

新型クラウンの発表は衝撃的だった。「今度のクラウンはSUV風になるらしい」という噂だけを頭に発表を待っていたら、なんと一気に4つのボディタイプが公開され、しかもどれもが個性的でカッコよかった! 4つのボディタイプは、セダン、エステート、スポーツ、そしてクロスオーバーだが、販売のメインになるのはセダンではなく、SUV風味のクロスオーバーだ(トヨタの目論見通りなら)。

 

トヨタ・クラウンと言えば“おっさんセダン”。昔は「いつかはクラウン」などと言われたが、さすがに誕生から60年以上経てば時代も変わる。クラウンクロスオーバーの初期受注台数を見ると、市場の反応はそれほど熱狂的ではないが、先代型クラウンの売れ行きは、ピーク時(バブル期)の10分の1程度にまで落ちていた。つまりトヨタとすれば、失うものは何もない。思い切ってバクチを打つには最高の環境だったのである。

 

発表会では、クラウンの激変ぶりに度肝を抜かれ、「トヨタ、やるなぁ」と唸らされたが、実物のクラウンクロスオーバーの第一印象は、「まあまあカッコいいな」というところだった。すごくカッコいいではなく「まあまあ」な理由は、スポーティなわりにフォルムが膨よかで貫禄があり、ややおっさんっぽいからだ。もっとスリークにシュッとさせれば、「文句なくカッコいい!」となったような気もするけれど、トヨタはそうはしなかった。

↑セダンだった先代クラウンと比べてクロスオーバーは全高が85mm高くなった。ホイールベースは2850mmと後輪駆動の先代モデル(2920mm)に比べれば短くなっている

 

21インチという大径タイヤを履き、思い切りスタイリッシュに振ってはいるが、クラウンという名前から来るイメージを完全に捨てるわけにはいかなかったのだろう。クラウンとして最大限頑張ったけれど、やっぱりクラウンはクラウン、貫禄も大事! ということなのですね。

↑21インチ アルミホイール(切削光輝+ブラック塗装)&センターオーナメント※RSの場合

 

クラウンクロスオーバーは、クラウンの伝統であるFRレイアウトを捨て、エンジン横置きのFFベース4WDにリボーンしたが、それによってフロントノーズは若干短くなり、ヘッドライトは思い切り薄くなり、今どきのスタイリッシュなファストバック車に生まれ変わった。

 

ただ、テールゲートはハッチバックではなく、独立したトランクを持っている。トランク部の出っ張りはほとんどないので、開口部はやや小さく、荷物の出し入れはあまりしやすいとは言えないが、開口部の大きいハッチバックでは、セダンのような静粛性の確保は難しい。大きく生まれ変わったとは言え、クラウンのウリである静粛性や快適性を捨てるわけにもいかなかったのだ。

↑12.3インチHDDディスプレイやステアリングヒーターを装備。ディスプレイ・メーター・操作機器を水平に集約し、運転中の視線移動や動作を最小化している

 

クラウンクロスオーバー走行した印象は?

では、この「スタイリッシュでまあまあカッコいい」クラウンクロスオーバー、走った印象はどうだったのか。

 

スタンダードな2.5Lハイブリッドモデル(電気式4WD)のパワートレインは、「カムリ」などに搭載されているものと基本的には同じで、わりとフツーだった。特に速いわけではないし、特にスポーティでもなく、トヨタのハイブリッドらしく、静かに淡々と走行する。乗り心地もどことなくカムリに近く、大径タイヤの重さもあって、それほど極上というわけではない。

 

ただ、違うのはコーナリングだ。4WS(四輪操舵)システムの恩恵もあり、ハンドルを切れば切っただけキレイに曲がってくれる。「えっ、こんなに曲がるの!?」というくらいスイスイ曲がる。このコーナリングの良さが、クラウンにとってどれほどアドバンテージになるかは未知数だが、4WSによる小回り性の高さは、確実にメリットだ。

 

というわけでクラウンクロスオーバーのスタンダードグレードは、全体に可もなく不可もなく、デザインとコーナリングが目立つ、穏やかなクルマに仕上がっていた。

 

続いてスポーティクレードである「RS」だ。クラウンのために新開発された2.4Lのデュアルブーストハイブリッドモデル(電気式4WD)を試す。

↑単体で最高出力272PSを発生する2.4リッター直4直噴ターボエンジン

 

こちらは、ハイブリッドのシステム最高出力は349馬力に達する(2.5Lハイブリッドは234馬力)。アクセルを踏めば圧倒的にパワフルで、昔風に言えば大排気量のアメ車のごとく、低い回転からズドーンと加速し、そのまま高い回転域までシュオーンと突き抜ける。エンジンは2.5L同様4気筒だが、振動はしっかり抑え込まれていて、従来のV6並みの滑らかなフィーリングが味わえる。まさにスポーツセダン!

 

だけど燃費はがっくり落ちる。WLTCモード燃費は15.7km/Lとなっているが(2.5Lハイブリッドは22.4km/L)、実燃費は10km/L程度だろうか。山道を元気に走り回った時の燃費は6km/L台。トヨタのハイブリッド車としては、びっくりするほど悪い。

 

しかし、燃費を重視するならスタンダードモデルを選べばいいわけで、RSの狙いは、このスポーティな走りなのだ。RSは加速がいいだけじゃない。コーナリングも素晴らしい。これまた4WSの恩恵で、超オンザレール感覚でシュオーンと曲がってくれる。従来の古典的なクラウンと比べると、「魔法のようなコーナリング」とすら言っていい。

 

先代型クラウンは、FRレイアウトを維持しつつ、BMW3シリーズのようなスポーティな走りを目指したが、そこにはまったく届いていなかった。しかし新型クラウンクロスオーバーには、もうBMW3シリーズやメルセデスCクラスの影はない。これは、まったく別カテゴリーのスポーツセダンなのだ。その狙いは、「RS」に関しては、8割くらいは達成できているのではないだろうか。

 

SPEC【CROSSOVER RS(クロスオーバーRS)】●全長×全幅×全高:4930×1840×1540㎜●車両重量:1900㎏●パワーユニット:2393㏄直列4気筒エンジン+電気モーター●エンジン最高出力:272PS/6000rpm●エンジン最大トルク:460Nm/2000-3000rpm●WLTCモード燃費:15.7㎞/L

 

撮影/池之平昌信

 

 

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「21世紀の傑作デザイン」という高い評価を得ているマツダ「ロードスター」を考察

世界中のスポーツカーは大型化、高級化傾向にあり、マツダ「ロードスター」のように小型軽量で手頃に買えるスポーツカーは珍しくなった。そもそもスポーツカー自体が希少なこの時代にあって、30年以上、4代に渡って販売が続いているのは、ひとえにロードスターが魅力的なクルマであることにほかならない。最新のRSグレードに乗って、そのあたりを考察してみた。

 

■今回紹介するクルマ

マツダ/ロードスター

※試乗グレード:RS・6速MT

価格:268万9500円~342万2100円(税込)

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まるでクルマと身体が一体になったような感覚が味わえる

ロードスターは、日本を代表するスポーツカーだが、トヨタ「スープラ」や「86」、あるいは日産「GT-R」や「フェアレディZ」とは決定的な違いがある。それは、ほかのスポーツカーと違って屋根を開けることができるオープンカーであるということだ。

 

一度でもオープンカーに乗ったことがある人ならわかるかもしれないが、屋根を開けて走ると周囲の風を感じられる。適度に風を浴びながら走ると、まるでクルマと身体が一体になったような感覚が味わえて、運転することの気持ちよさが、より深く感じられる。この感覚は、よく「人馬一体」などとも表現されるが、ロードスターはまさにこの「人馬一体」の権化のようなクルマである。

↑誰もが憧れるガラス製リアウインドー付ソフトトップ。屋根をオープンにすると「クー!! カッコいいっす」

 

「人馬一体」の感覚は、1989年に登場した初代モデルの頃からしっかり味わえた。そしてそこが高く評価されたこともあって、ロードスターは世界的な人気車となり、現在まで販売されるロングセラーモデルとなった。

 

もちろん、屋根が開くことだけで長く支持されてきたわけではない。ステアリングを握ってすこし走っただけで、「すばらしい」とため息がでるクルマはそう多くは存在しないが、このロードスターは、乗った後にそんな気持ちにさせてくれるクルマなのだ。きっと多くの人が、期待以上のものを得られるに違いない。

↑3本スポークのステアリングホイール。直径366mmで細身のグリップで操作もしやすい

 

ステアリングのフィーリングは若干軽めで、足まわりもソフトな味つけになっている。一見イージー過ぎてクルマ好きには物足りないかと思いきや、コーナーを攻めてみるとしっかり踏ん張るので、かなりの速度域でコーナリングが楽しめる。逆にいえば、誰でも操作しやすくて乗りやすい、ピュアなスポーツカーにしつらえられていて、“走りの楽しさ”というものを直球で味わえる。

 

エンジンは自然吸気式の1.5L、一種類のみだが、ボディが約1tと軽いため、加速感が気持ちいい。それに加えて、なんといっても重心が低いので、ノンターボの健やかな加速でもスポーティ感がたっぷり味わえる。走りの味付けとしては全体的に風情があって、ゆっくり走っていても楽しいのだが、これが屋根をあければ、2倍や3倍にも感じられるのだ。

↑直噴1.5Lガソリンエンジン「SKYACTIV-G 1.5」のみを設定

 

なんだかこれで結論のようになってしまったが、現行型ロードスターの美点は走りだけではない。英国の古き良きライトウェイトスポーツカーをモチーフにした初代モデルのデザインは、レトロな趣で現在でも高い評価を獲得している。次の2代目モデルはスポーティさを誇張してワイドになったが、現役時代はさほど評価を得られなかった。そして3代目では原点に立ち返り、初代モデルのような丸みを帯びたノスタルジックな形状になったがボディは大型化していた。

 

こういった流れを受けて、2015年に登場した4代目となる現行型では、まずなによりボディサイズが小型化された。そこに、引き締まったモダンなスポーティデザインがまとめられることになった。昨今の高級スポーツカーにありがちな“無駄”なラインが省かれており、とにかくシンプルで美しい。サイズ感にもピッタリ当てはまる。

 

フロントまわりには無駄なエッジがなく、シャープでありながらどこか彫刻的だ。サイドからリアにかけては微妙なうねりがあって、動物の肢体を想像させる有機的なデザインにまとまっている。つまり、顔は清楚でありながら、お尻はセクシーなのである。

↑ヘッドランプは自動的にロービームとハイビームを切り替える「ハイ・ビーム・コントロールシステム(HBC)」に

 

↑足元は16インチアルミホイール、大径ブレーキを標準装備

 

さらに、幌を閉じた状態で見てもスタイリッシュなのは、このクルマのバランスの良さや完成度の高さを物語っている。早くも「21世紀の傑作デザイン」という高い評価を得ているが、きっと10年経っても、20年経った後でも、高く評価されるに違いない。

↑ドライバーをクルマの中心に置き、すべてを自然な位置にレイアウトすること。徹底的にボディの無駄を削ぎ落として、全長は短く、全高は低く、ホイールベースはショートに

 

↑トランクは機内持込対応サイズのスーツケースを2個積載できる容量を確保。利便性にも配慮された

 

一旦離れても、いつかまた乗りたいクルマです

スポーツカーの延長線上にはスーパーカーがあって、それはカーマニアにとっての夢、最果ての地となっているが、スーパーカーを手に入れるにはとんでもない金額を支払う必要がある。結局は一部の富を持つ人のための嗜好品だ(中古車はのぞく)。しかしロードスターは違う。価格もサイズも、さらには使い勝手も実に合理的にまとめられている。

 

スポーツカーにとって使い勝手の良さや実用性が必要かどうかと言われれば、答えは「ノー」だ。あくまでも走ることを楽しむクルマだから、そのために実用性が犠牲になっている部分はある。だから普通の人はスポーツカーに乗らないというのもすごくわかる。しかしクルマには、家電やデジタルギアと違って、機能だけで語れない部分があるのだ。

 

走ることの楽しさというのは、実際に乗ってみればわかる。そしてそれはオーナーになってみればさらにわかる。実は筆者もかつてこのクルマ(初代モデル)に乗っていた1人だが、筆者を含め、筆者のまわりにいるオーナー経験者たちは、皆一様に「いつかまた乗りたい」というコメントを残してる。

 

かつて世界中のメーカーがこのロードスターを越えようと多くのライトウェイトオープンモデルを登場させたが、結局、ロードスターに匹敵するクルマは出現しなかった。そして、今でもほぼデビュー時のコンセプトのまま残っているのはロードスターだけである。このクルマが日本で生まれたことを誇りに思う。

 

SPEC【RS・6速MT】●全長×全幅×全高:3915×1735×1235㎜●車両重量:1020㎏●パワーユニット:1496㏄直列4気筒エンジン●最高出力:132PS/7000rpm●最大トルク:152Nm/4500rpm●WLTCモード燃費:16.8㎞/L

 

撮影/木村博道 文/安藤修也

 

 

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リージョナル航空「IBEX」の人気グッズや非売品グッズも! 数量限定福袋販売中

アイベックスエアラインズ(IBEX)は、同社が運営するIBEXオンラインショップにて、IBEXオリジナルグッズなどの人気アイテムや非売品グッズを詰め込んだ、5種類の福袋を数量限定で販売中です。

 

「IBEX人気アイテム福袋A」は、「IBEXオリジナル今治タオル(ネイビー)」「IBEXオリジナルアクリルキーホルダー」などが入った福袋。税込価格は2023円です。

↑IBEXオリジナルアクリルキーホルダー

 

「IBEX人気アイテム福袋B」は、「IBEXオリジナル今治タオル(グレー)」「IBEXオリジナルマスキングテープセット」などが入っています。税込価格は2023円。

↑IBEXオリジナル今治タオル(グレー/ネイビー)

 

「IBEX人気アイテム福袋C」は、「IBEXオリジナル今治タオルセット」「IBEXオリジナル扇子」「2023年IBEX卓上カレンダー」「IBEXオリジナルネームタグ」などが入っています。税込価格は5023円。

↑2023年IBEX卓上カレンダー

 

「むすび丸福袋」は、「旧むすび丸ジェットモデルプレーン」「むすび丸甲冑ぬいぐるみ(小)」など、むすび丸グッズも入った福袋。税込価格は1万2023円です。

 

「モデルプレーン福袋」は、「新むすび丸ジェットモデルプレーン」「CRJ700 1/100モデルプレーン」の、モデルプレーン2機が入った福袋。税込価格は1万2023円。

↑新むすび丸ジェットモデルプレーン

テスラの高級電動トラック「Semi」がやっと納車開始! ペプシに100台

電気自動車メーカーのテスラの電動トラック「Semi」の、量産車の納車が開始されました。最初の顧客は飲料メーカーのペプシで、100台の納車が予定されています。

↑テスラより

 

Semiは2017年に初披露された電動トラックで、300マイル(約480km)版が15万ドル(約2000万円)、500マイル版が18万ドル(約2400万円)で販売されます。これはディーゼル燃料のトラックよりもかなり高額ですが、電動化により20%高効率な走行が可能なことから、100万マイル(約160万キロ)の走行で最大25万ドル(約3400万円)の節約が可能だとアピールされています。

 

Semiは1MWの巨大なバッテリーパックを搭載し、最大8万ポンド(約36トン)の荷物を牽引可能。時速60マイル(約時速96km)まで20秒で到達し、0〜80%までわずか30分で充電できます。さらに強化型オートパイロットのほか、ジャックナイフ軽減システム、ブラインドスポットセンサー、車両管理用データロガーが搭載されています。

 

これまで出荷がたびたび延期されてきたものの、とうとう納車を開始したSemi。その省エネ性能がどれだけ市場から評価されるのかに注目です。

 

Source: Engadget

開業前の巨大地下駅ってどんな感じ?「人流を変える」と期待大の相鉄・東急直通線「新横浜駅」を探検!

〜〜相鉄・東急新横浜線「新横浜駅」を報道公開(神奈川県)〜〜

 

来年3月に神奈川東部方面線最後の未開通区間「相鉄・東急新横浜線」が開業する。先日、ほぼ完成した新横浜駅が報道陣に公開された。

 

開業4か月前にもかかわらず、すでに新横浜駅への車両の乗り入れ試験が始められていた。この日に発表された運行の詳細をレポート、さらに期待高まる新横浜駅を探検気分でめぐってみた。

 

【関連記事】
バラエティ満載!? 来春開業予定の「相鉄・東急新横浜線」を走る車両たち

↑来春に開業するのは東急東横線の日吉駅と相鉄・JR直通線の羽沢横浜国大駅間で、神奈川東部方面がより便利になりそうだ

 

【新駅探訪レポート①】神奈川東部方面線のこれまでの経緯

来春3月に開業するのは「相鉄・東急新横浜線」の営業キロ10kmの路線だ。内訳は相鉄新横浜線・羽沢横浜国大駅〜新横浜駅間(営業キロ:4.2km)と、東急新横浜線・新横浜駅〜日吉駅間(営業キロ:5.8km)で、新横浜駅が2社の境界駅となり、列車の相互乗り入れが行われる。

 

この相鉄・東急新横浜線は「神奈川東部方面線」の一部区間として計画された。「神奈川東部方面線」の概要を見ておこう。

 

「神奈川東部方面線」は2000(平成12)年に運輸政策審議会で、相模鉄道の二俣川駅〜新横浜駅〜東急東横線の大倉山駅間の路線計画が発表されたことに始まる。2006(平成18)年6月には国土交通省が「相鉄・JR直通線」を、ついで「相鉄・東急直通線(相鉄・東急新横浜線)」の営業構想を認定する。2010(平成22)年3月25日には神奈川東部方面線の「相鉄・JR直通線」の起工式が行われ、2013(平成25)年2月には「相鉄・東急直通線」の土木工事が着手された。

 

「相鉄・JR直通線」の工事が先に進められたこともあり、2019(令和元)年11月30日に、相鉄の西谷駅とJR東海道貨物線の横浜羽沢駅(貨物駅)附近を結ぶ路線が開業し、JR線と相鉄線との間で相互乗り入れ運転が開始された。

↑2019(令和元)年「相鉄・JR直通線」開業後からJR線への乗り入れが開始された相鉄12000系。写真は恵比寿駅〜渋谷駅間

 

「相鉄・JR直通線」の開通時に、JR貨物の横浜羽沢駅に隣接して羽沢横浜国大駅が開業。同駅の先に分岐ポイントが設けられ、新横浜駅方面へ「相鉄・東急新横浜線」の延伸工事が進められた。

 

ちなみに、「神奈川東部方面線」は都市鉄道の利便性をより高めようと設けられた『都市鉄道等利便増進法』に基づく整備路線として計画された。『都市鉄道等利便増進法』では「受益活用型上下分離方式」というシステムが取り入れられ、鉄道事業者のみに大きな負担がかかることのないように考慮されている。

 

今回の新路線建設では、国と地方自治体がそれぞれ総事業費の3分の1を補助、残り3分の1を整備主体(「神奈川東部方面線」の場合は『鉄道建設・運輸施設整備支援機構』)が資金調達して鉄道施設の整備を行った。完成後に列車運行を行う鉄道事業者は、整備主体(『鉄道建設・運輸施設整備支援機構』)に、受益相当額の施設使用料を支払うシステムで、都市鉄道をより造りやすくし、また利便性を高めるため取り入れられた制度だ。

 

一見すると難しく感じるシステムだが、要は鉄道を建設し設備を所有する持ち主と、運行する鉄道事業者が異なるということ。鉄道事業者は、持ち主に施設使用料を払って列車を運行するわけである。

↑羽沢横浜国大駅(左上)の北東側で、相鉄・JR直通線と相鉄・東急新横浜線の線路が分岐する。中央の2線が相鉄・東急新横浜線の路線だ

 

上の写真は羽沢横浜国大駅が開業する前の2019(令和元)年3月28日の報道陣に公開された時のもの。現在は同位置に施設が建ち撮影できないが、分岐ポイントがよく分かる。4本の線路のうち、「相鉄・JR直通線」は左右両端の線路で、分岐して中央のトンネルへ入る2本の線路が、来春に開業する「相鉄・東急新横浜線」の線路だ。

 

新線の工事は、2021(令和3)年4月にまず土木構造物がつながり、今年の7月に新横浜駅でレール締結式が行われた。さらに工事は進められ、工事の着手からちょうど10年となる来春3月(開業日は未発表)に相鉄・東急新横浜線が開業することになる。

 

【新駅探訪レポート②】西口の円形歩道橋下に開業する新横浜駅

11月24日に報道公開されたのは相鉄・東急新横浜線の新横浜駅だ。地下駅のため地上からは新しい駅がどこに設けられているか分かりづらい。

 

筆者は何度か工事中に新横浜駅前に足を運んだが、道路上で工事が行われていたものの、どのあたりが駅になるのか見当がつかなかった。今回の公開でそうした道路下の駅の姿が明らかになった。

↑JR新横浜駅の北西側にあたる環状2号線と宮内新横浜線が交差する(円形歩道橋の下)地下に新駅が設けられる

 

駅が設けられるのは、新横浜駅の西側に並行して走る環状2号線(主要地方道)と宮内新横浜線(都市計画道路)が交差する「新横浜駅交差点」附近。JR新横浜駅の新幹線側駅前広場の2階部分につながる歩行者デッキ(ペデストリアンデッキ)の「円形歩道橋」が目印となる。「円形歩道橋」を下りると、新横浜駅への入り口がいくつか設けられていた。今回は交差点の北西側にある7番出口から地下へ入る。エレベーター、エスカレーターの稼働前ということもあり、地下駅へ階段をひたすら降りて行くことになった。

↑今回の報道公開では、地上部から地下駅へは7番出口から入ることに。すでにエスカレーターなどの設置工事が終了していた

 

「相鉄・東急新横浜線」の新横浜駅は地下4層構造になっている。ちょうど横浜市営地下鉄ブルーラインの新横浜駅ホームが地下2階にあるため、新しい駅のホームはさらに2階ほど掘り下げた深さ35mの地下4階部分に設けられた。

 

環状2号線の中央部などから掘り進め、地上を走る車などの走行に影響のないように、徐々に地下4層の新駅造りが行われていたわけである。

 

【新駅探訪レポート③】新幹線・横浜線の乗換えは南改札から

地上から入ると地下1階に改札口がある。新駅の改札口は北と南にあり、北改札が東急、南改札が相鉄の管理運営スペースに分けられている。報道陣はまず東急側の北改札から入ることになった。案内板などを含めてほとんどの内装工事が終了していたが、自動改札機の設置はこれからとなる。

↑羽沢横浜国大側の南改札口。こちらが東海道新幹線、横浜線との乗り換え改札口となる。左手前に自動改札機を設置の予定

 

新横浜駅で東海道新幹線やJR横浜線に乗り換える時は、相鉄線側の南改札口の利用が便利で、地上部に出て歩行者デッキを上がって行き来することになる。また、横浜市営地下鉄との乗り換え用に新しい改札口も設けられた。

 

ちなみに、南改札と北改札では内装が異なる。羽沢横浜国大側の南改札は「レンガ+ダークグレー」。日吉側の改札口、北改札は「ライン照明+白色基調のデザイン」で表現されていて、それぞれお洒落な造りとなっている。

↑日吉側に設けられる北改札は東急が管理運営する。構内の案内は相鉄が青で、東急が紫色での表示となる

 

【新駅探訪レポート④】相鉄・東急の直通運転ルートが発表される

報道陣はまず北改札から地下2階に降りた。ここには機械室や配電室、空調室等が設けられていて、エスカレーター、エレベーターで通り抜けるフロアだ。

 

さらに地下3階へ。やや広い空間となっていて、このフロアで新線、新駅の工事概要、および開業後の運転計画などが発表された。

↑新横浜駅構内で行われた報道公開の際には、相鉄「そうにゃん」、東急「のるるん」と各社のキャラクターも合流した

 

発表された新線の運行ポイントをあげておこう。

 

◇1時間あたりの最多本数

・相鉄11本(各線の本数:相鉄本線4本、いずみ野線7本)
・東急16本(各線の本数:東横線4本、目黒線12本)

 

相鉄ではいずみ野線、東急では目黒線からの新線乗り入れが多くなることが明らかになった。相鉄線からは新横浜駅行き、新横浜駅発の相鉄線行きの列車も設定される。また東急目黒線へ直通する12本のうち最大5本が新横浜駅始発と発表された。

 

◇相鉄・東急間の乗り入れパターン

相互乗り入れは相鉄本線と東急目黒線、相鉄いずみ野線と東急東横線を基本とする。ただし、このパターンは朝の通勤時間帯の一部列車は除くとされた。

↑相鉄と東急直通列車の運転系統は相鉄本線〜東急目黒線、相鉄いずみ野線〜東急東横線間の相互乗り入れが基本となる

 

◇西谷駅始発列車を設定

相鉄本線と新線が分岐する西谷駅での接続をスムーズにするため、西谷駅始発の横浜駅行き、また横浜駅発の西谷駅行き列車を設定する。

 

相鉄本線、相鉄いずみ野線では、これまで横浜駅との間を走る列車がメインだったものの、横浜駅方面へ行く場合には、西谷駅で乗り換えが必要な列車が多くなることに。どのぐらいの本数になるか発表はなかったが、ふだん横浜駅を通勤・通学で利用する人にとって気になるポイントになりそうだ。

 

◇主な駅間の所要時間(最速列車の場合)

・相鉄線内から新線方面:二俣川駅〜新横浜駅11分、海老名駅〜目黒駅53分、湘南台駅〜渋谷駅51分。
・新線〜東急方面:新横浜駅〜目黒駅23分、新横浜駅〜渋谷駅25分、新横浜駅〜自由が丘駅15分

 

新線を使えば、相鉄線から新横浜駅への行き来がかなり便利になる。また山手線沿線、東急沿線から新横浜駅へ行きやすくなる。東海道新幹線の新横浜駅の乗降客は今でも多いが、さらに増えることになるのだろう。

 

◇他社からの乗り入れ列車

相鉄・東急間はこのように乗り入れに関して基本方針がまとまったが、東急東横線、東急目黒線には他社からの乗り入れる列車が多く走っている。この他社の車両の乗り入れ列車がどのくらいになるのかは最終調整中だそうだ。

 

【新駅探訪レポート⑤】ホーム2面に線路3本という駅の構成

さて、新線の運行形態などが発表された後に、新駅で最も気になるエリア、地下4階のホーム階へ降りてきた。ホーム延長は205m、幅は最大約30mと巨大な駅空間が広がる。

↑新横浜駅のホームは2面で線路は3線。中央の線路は2番線、3番線の両ホームで乗降できる。ちょうど4番線に相鉄20000系が停車中

 

ホームは島式で2面3線構造だ。つまり中央の1線は左右にホームがある構造となっている。2番・3番線の間の線路は、折返しおよび始発列車用なのであろう。ホームの長さは205mということなので、最長10両編成の列車の着発が可能となっている。相鉄および東急の車両の最長編成10両に対応しているわけだ。ちなみに相鉄の車両は20000系が10両で、21000系が8両。東急の車両は東横線が8両か10両、目黒線の車両は6両か8両となっている。

↑ホーム上の案内表示もすでにでき上がっていた。取材班はヘルメット着用、床を傷つけないようフットカバーを装着して新駅を巡った

 

↑1番線、4番線は大きくカーブしている新横浜駅。ホーム上に設けられたモニター3面で前から後ろまで良く確認できる仕組みだ

 

【新駅探訪レポート⑥】トンネルの先の光とポイントが気になる

日吉駅側と羽沢横浜国大駅側の両方のトンネルがどのように延びているのか気になるので、ホーム先端部まで行ってみた。

 

新横浜駅から先、東急電鉄の路線となる日吉駅側はポイントが複雑に交差しており、中央の線路から左右の路線へ切り替わるポイントでは信号機が青、赤、黄色に光っていた。線路は次の新綱島駅へ向けて、坂をあがっていく。

 

一方の相鉄、羽沢横浜国大駅方面は駅の先で大きくカーブしており、トンネル内には均等に照明が設置されているが、こちらには信号機がないせいかモノトーンな世界だった。

 

↑ホーム先端から見た東急側のトンネルとポイント。信号機およびトンネル内の照明が均等に並び、〝映え〟空間に

 

↑相鉄側のトンネルは右に大きくカーブしていることが分かる。ちょうど相鉄の20000系電車が近づいてきた

 

ちなみに、「相鉄・東急新横浜線」の工事では新技術が用いられている。新横浜駅〜羽沢横浜国大駅間の羽沢トンネルで用いられた手法と、新横浜駅の工事で使われた道路・地下鉄直下での施工方法が土木学会技術賞に輝いたそうだ。それだけの最新技術が用いられて新線と新駅が造られているわけだ。

 

羽沢横浜国大駅側のトンネルを望遠撮影していたところ、暗い中、ヨコハマネイビーブルーのお洒落な相鉄20000系が近づいてきた。20000系は10両編成で東急東横線への乗り入れが可能な車両である。

 

【新駅探訪レポート⑦】この日入線した東急・相鉄線の車両は?

↑新横浜駅の2・3番線ホームに入線した相鉄20000系。来春からは東急沿線で日常的に見ることができる車両となりそうだ

 

筆者は知らなかったが、すでに新横浜駅への車両の入線が始まっていた。最初の駅への入線は10月10日の深夜のことだったそうだ。11月3日からは乗務員訓練などのために「習熟運転」が始められていた。

 

地上駅、地上路線ならば、鉄道ファンがSNS等でアップして、一般の人たちにも広く知られることになるのだが、立ち入ることが出来ない未公開の地下の路線、地下の駅ともなるとそうした情報も流れない。試運転の開始から営業開始に至る5か月間、長い期間をかけてさまざまな運転確認が行われている。新線の開業まで地道な作業が続けられているというわけである。

 

報道公開があった日、報道陣の前に姿を現した車両を見ておこう。1時間ほどの間に3編成の入線があった。まずは相鉄20000系。

 

さらに東急の5050系4000番台。5050系は東急東横線用の車両で、10両編成の場合には4000番台となり4000〜という数字が正面に記される。この日に入線してきたのは5050系4000番台の中の4110編成「Shibuya Hikarie号」。渋谷ヒカリエの開業に合わせた1編成のみのラッピング車両で、ゴールドカラーが特長の編成だ。レアな車両で鉄道ファンの人気も高いが、報道公開にあわせて東急電鉄が車両選択をしたような粋な計らいだったように思う。

↑東急5050系でもレアな「Shibuya Hikarie号」4110編成が1番線に入線した。報道公開に合わせたかのような車両選択だった

 

↑ホームドアに車両の号車番号とドアの番号の案内が付けられる。6両、8両、10両と多様な車両が使われるため表示もこのように

 

【新駅探訪レポート⑧】それぞれ新線入線に向け準備が進む

「Shibuya Hikarie号」が東急線側に戻った後に入ってきたのは東急3000系。東急目黒線から東京メトロ南北線や都営三田線へ乗り入れ用の車両だ。入線してきた3000系はこれまでの車両とやや異なる編成だった。

↑東急3000系が新横浜駅の1番線に入線した。正面に「8cars」とあるように8両編成の3000系も登場し始めた

 

東急目黒線を走る東急車両は3000系、3020系、5080系の3タイプがある。このうち3020系、5080系(すべて8両化済み)は新線開業に向けて6両から8両化する工事が順調に進められてきた。3000系の8両化は他の2タイプに比べてやや遅れ気味だったが、この日に入線してきた3109編成をはじめ徐々に8両化が進められようとしている。

 

8両化にあたり4号車と5号車が新製されたのだが、在来車は座席がえんじ色、新しい車両は座席が明るい緑色に変更され、床も木目調の2色とお洒落な姿に変更されている。

↑報道公開では車両内への立入は禁止。ドア外から3000系の新旧車両を撮影した。新車両は座席が緑色、従来の車両はえんじ色だ(左下)

 

【新駅探訪レポート⑨】新線開業日は3月のいつになるのか?

さて、新しい新横浜駅を訪れて気になったことが2つある。

 

1つは3月開業予定とは言われているものの、正式な開業日が発表されなかった。4か月前とすぐ先のように感じるのだが、改めて広報担当者に聞いてみると「詳細が決まりましたら改めて」という話だった。

 

これはJRグループの春のダイヤ改正日と同じ日にしているためと考えてよいのだろう。例年12月中旬(第3金曜日が多い)にダイヤ改正日が発表される。その前には各社間の〝協定〟によって発表ができない。例年3月の第2・第3土曜日が通例のため、来年の3月11日(土曜日)もしくは3月18日(土曜日)ということになりそうだ。

 

もう1つは、相鉄、東急車両以外の会社の車両がどのぐらい新線に乗り入れるかであろう。今年の3月31日に東急電鉄の元住吉運転区で「鉄道7社局の車両撮影会」が報道陣に向けて行われたが、そこにずらりと並んだ車両が、乗り入れる車両のヒントになりそうだ。

↑今年3月に元住吉運転区で行われた「鉄道7社局の車両撮影会」で新線に乗り入れると思われる車両がずらり並んだ

 

この日に集まったのは埼玉高速鉄道2000系、都営三田線6500形、東京メトロ9000系(上記写真の左から)。そして東急電鉄3020系、相模鉄道20000系、東武鉄道50070型と西武鉄道40000系が並んだ。このうち西武鉄道の車両はこの時点で乗り入れはないと発表されており、となると相鉄、東急以外の4社局の車両が、少なくとも新横浜駅までは乗り入れることになりそうだ。

 

ちなみに新横浜駅の報道公開の時、撮影時間終了後に東京メトロ南北線の9000系が入線してきた。車内では機器の調整などをする様子がうかがえた。この東京メトロ南北線の車両も間違いなく新線に入線してきそうである。

 

いずれにしても、「相鉄・東急新横浜線」の開業は、東京、神奈川東部の人の流れを大きく変えそうだ。東海道新幹線の新横浜駅を利用する時にも非常に便利になる。さらに相鉄と東急両沿線で目新しい車両が走り出しそうで、鉄道好きにとっては楽しみな春3月となりそうだ。

スバル「クロストレック」試乗。軽快な走りを示す新ラインナップ「FFモデル」に注目!

より身近なSUVとして根強い人気を獲得していた「SUBARU XV」が、2023年以降、装いも新たに『クロストレック』として生まれ変わることになりました。その魅力はどこにあるのか。今回は発表を前に、クローズドコースで行われた先行試乗会でプロトタイプの走りをレポートします。

↑標準グレード「ツーリング」AWD(4WD)。ボディカラーは新色の「オフショアブルー・メタリック」

 

車名は「XV」から「クロストレック」へ

「クロストレック」という名前、少しスバルに詳しい人ならもしかしたら聞いたことがあるかもしれません。実はクロストレックという名前が使われるのは今回が初めてではないのです。すでにアメリカなど北米では、日本で展開していた「XV」をクロストレックとしていました。今回のフルモデルチェンジを機にXV名ではなく、グローバルでクロストレック名が使われることになったのです。

↑タイヤは17インチホイールに225/60R17。リアフォグランプは右下が点灯する

 

ラインナップは4WDに加えて、シティユースが多い人向きにFFを用意したのもポイントです。その分だけより身近な価格でクロストレックが手に入れられるのです。ただ、代わりに従来の1.6リッターモデルはラインナップから外れ、日本仕様のパワーユニットは2リッターの「eボクサー」のみとなりました。

↑リアハッチゲートに記された「CROSSTREK」と「e-BOXER」のバッジ

 

価格も全体的にアップしてるようで、販売店からの情報によれば、価格はFFのツーリングが266万2000円、同リミテッドが306万9000円。4WDのツーリングが288万2000円、同リミテッドが328万9000円とのこと。やはり身近な価格帯のグレードがなくなったのは少し残念ですね。(※すべて税込価格)

 

とはいえ、車名をクロストレックとした新型は、基本的なボディデザインをXVの流れをしっかりと受け継ぎつつも、“彫りが深い”フロントフェイスやグラマラスなフロントフェンダーなど、よりSUVっぽくなった印象です。その一方で、サイズはXV比でせいぜい1cm前後の違いしかなく、ホイールベースに至ってはまったくの同寸。この辺りはXVから乗り換えても違和感なく扱えると思っていいでしょう。

↑ボディカラーは全7色が用意された

 

クラス最高レベルの上質なインテリア

インテリアはダッシュボードのセンターに、11.6インチの大型ディスプレイを備えた新世代インフォテイメントが装備されました。すでにレヴォーグなどにも搭載され、その使い勝手には高い評価が与えられているものです。ただ、「STRALINK」によるコネクテッド機能は備えていますが、ボイスコントロールはローカルで認識するもので、スマホで使うような認識率の高さは備えていません。この辺りは早急に改善してほしいところです。

↑使い勝手のよさと居心地のよさを重視したインテリア。中央のインフォテイメントシステムは11.6インチディスプレイを採用する

 

しかし、内装の質感はこのクラスとして最高レベルの上質さを感じさせてくれました。シンプルなデザインながらマルチマテリアルの異なる素材を上手に組み合わせ、手で触れた感触もなかなか良さげです。ちなみに、内装トリムは上級グレードがシルバーステッチのファブリックで、標準グレードがシルバーステッチのトリコットとなります。メーカーオプションではパワー機構付きの本革シートも選べます。

 

エアコンの吹き出し口がディスプレイの左右に配置され、その操作系もオートエアコン使用時の温度調整やオーディオのボリュームなどが、物理スイッチで操作できるあたりも、使い勝手を重視した開発者のこだわりが感じられます。少なくともクルマは、運転中での操作はより確実な操作が求められるわけで、その意味でもこうした対応は高く評価したいですね。

 

そうした中でスバルがクロストレックで強調していたのが「動的質感」です。そのために医学的見地から開発したというシートは、骨(腰の中央、背骨の一番下に在る三角形の形をした部分)を押さえながら骨盤を支える構造を採用したものとなっています。そのため、走行中に生まれる左右の揺れに対して身体をしっかりサポートでき、それは優れた乗り心地にもつながりました。これが長距離走行でも疲れにくい環境を提供するというわけです。

↑標準グレード「ツーリング」の運転席周り。上位グレードの「リミテッド」のシートはメモリー付パワーシートとなる

 

↑「ツーリング」のリアシート。標準グレードでも中央にはアームレストも備えられる

 

また、走行中の快適性向上のためとして、ルーフパネルとブレースの間には、振動の吸収性が高く、耐震性に優れた高減衰マスチック(弾性接着剤)を採用しています。これが走行時に発生した、細かな振動を上手に丸め込む効果を発揮し、振動に対する高い収束性を発揮することとなったのです。この日は路面状態が良好なサーキットでの走行でしたので、公道でのロングドライブでその効果を早く体験してみたいですね。

 

安定感のある4WD、軽快感のあるFF

さて、いよいよ試乗です。コースは静岡県伊豆の国市にある「サイクルスポーツセンター」で、一周約5キロのコースをショートカットしての試乗となりました。この日はあいにくの雨模様でしたが、それはむしろFFと4WDの違いを感じるのに最適な場を与えられたようにも思いました。そこでまず感じたのは4WDの落ち着いた走りでした。路面がそこそこ濡れているにもかかわらず、ハイスピードでコーナーに入っても挙動は安定しており、楽にコントロールができたのです。これは剛性を高くしたステアリングフィールもポイントになるでしょう。

↑静岡県伊豆の国市にあるサイクルスポーツセンターで試乗中のスバル・クロストレックプロトタイプ

 

↑水平対向4気筒DOHC 2.0リッター直噴エンジンとモーターを組み合わせた「e-BOXER」仕様。1.6リッターエンジンはラインアップから外された

 

ではFFはどうか。実はこちらも挙動変化の少ない走りを見せてくれました。それどころか旋回中の軽快さは4WDよりも高く、トランスミッション(CVT)との相性も良好。フル加速した際もダイレクト感があり、多少ラグを感じる4WDとの違いを感じたのです。特に2.0リッターエンジンにモーターアシストを加えたことも走りにプラス効果を与えたのは間違いないでしょう。ステアリングの剛性も4WD同様に高いものがあり、操作して安心感がありました。

↑試乗中の天候はあいにくの雨模様だったが、挙動変化の少ない安定した走りが印象的だった。写真はクロストレック「リミテッド」FWD(FF)モデル

 

↑トランスミッションはチェーン式CVT「リニアトロニック」で、CVT特有のラバーフィールを最小限に抑えた

 

こうした体験を通して感じたのは、軽快な運転を楽しみたいならFFの方がオススメで、どっしりとした安定感のある走りを味わいたいなら4WDということです。特に積雪がある地域の方にとっては頼りがいのある4WDモデル一択となりそうですが、日常生活で積雪がない地域の人にとってはFFモデルをむしろ選ぶべき。そう思ったほどFFの仕上がりは良かったように思いました。

↑クロストレック「リミテッド」AWD(4WD) モデル。ドッシリとした安定感のある走りを見せた

 

最新アイサイトの進化にも注目!

最後にお伝えしておきたいのは、最新の運転支援システム「アイサイト」の搭載です。残念ながら今回の試乗で体験することはできなかったため、あくまでスペック上での話となりますが、その進化は目を見張るものがあります。新設計のステレオカメラに加えて、前側方に対するレーダーも組み合わせ、これにより認識範囲を従来型の約2倍にまで拡大。両側の周辺にいる二輪車や歩行者の識別精度も向上させているのです。

↑スバル初となる広角の単眼カメラを組み合わせた新「アイサイト」を搭載。ガラス面との隙間もなくなった

 

さらに、低速走行時に二輪車や歩行者を認識する広角単眼カメラを国内スバル車で初めて採用したことで、プリクラッシュブレーキの精度向上につながりました。スバルによれば、これはアイサイトとして最高の性能になるということです。こうしたアシストに助けられないのが一番ですが、そうした状況下に万が一陥った時の安心度は大きく違います。

 

新型クロストレックは走りだけでなく、そんな万が一の安心感をもたらしてくれる一台へと進化したと言えるでしょう。公道で試乗できる日が楽しみです。

↑SUVカテゴリーにふさわしいカーゴルーム。リアシートをたたんだ際もフラットになるので使いやすい

 

 

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テスラ車の完全自動運転(FSD)、一般向け利用が可能に

電気自動車メーカーのテスラを率いるイーロン・マスク氏は、自動運転機能「FSD(Full Self Driving Beta)」を北米向けに一般提供すると明かしました。

↑Jose Gil / Shutterstock.comより

 

テスラの電気自動車には、標準機能として搭載されている運転支援機能の「オートパイロット(Autopilot)」と、より高度なFSDがあります。FSDでは都市部での自動操縦や自動駐車、スマート車両召喚、信号・停止標識の認識といった「より積極的なガイダンスと自動運転を提供するようデザインされた、さらに高度なドライビング アシスト機能」が利用可能です。

 

これまでFSDのベータ版は、安全運転の実績がある一部のドライバー向けに、1万5000ドル(約210万円)にて提供されてきました。しかし今後は、FSDのオプションを購入すれば車両のディスプレイから誰でも利用可能になったのです。

 

マスク氏は以前からテスラ車両における手放しでの完全な自動運転の実現を約束していましたが、現時点ではそのような機能は提供されていません。また米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)はテスラ車両における自動運転関連の事故について調査をすすめており、FSDの名前が示すような完全自動運転の実現は、まだまだ先となりそうです。

 

Source: Elon Musk / Twitter via Engadget

日本にようこそ! フランスを代表するMPV、新「カングー」が待望のフルモデルチェンジ

本国での発売から1年半が経過した3代目のルノー「カングー」。その日本での発売時期が迫ってきている。フランスを代表するMPVはどんな変化を遂げたのか解説する。

※こちらは「GetNavi」 2022年11月号に掲載された記事を再編集したものです

 

プラットフォームが一新してロングランもさらに快適!

ルノー

カングー

価格未定 近日発売予定

フルゴネットと呼ばれる小型貨客両用車の進化形としてカングーが登場したのは1997年。2代目ではボディが大型化されたが、日本では個性的かつ孤高の存在であり、輸入車としては割安だったこともあって大人気モデルになった。

SPEC【Equilibre TCe 100 BVM(欧州仕様)】●全長×全幅×全高:4486×1860×1838mm●車両重量:非公表●パワーユニット:1333cc4気筒DOHC+ターボ●最大出力:102PS(75Kw)●最大トルク:20.4kg-m(200Nm)●WLTP(新欧州複合基準)モード燃費:18.9km/L

 

3代目は直線基調となりメカニズムも進化した!

日本におけるルノーの代表モデルとして親しまれているカングーが、まもなく3代目となる新型に切り替わる。

 

やさしい丸みで描かれたボディが特徴の先代とは対照的に、新型は直線基調の機能的なフォルムとなることがわかっている。これは先代モデルの登場後、ルノー・デザインのチーフが現在のローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏に代わったことが大きいだろう。同社の「ルーテシア」や「キャプチャー」などとトーン&マナーの統一を図りたいという気持ちはあったはずだ。

 

それ以上に注目したいのは、先進運転支援システムやパワーユニットがバージョンアップされること。どちらもルーテシアやキャプチャーと同じものになりそうで、ロングランはさらに快適になっているだろう。元々定評のある走りもさらに磨かれており、裏切らない1台になることは間違いない。

↑現行のカングーと比較してボディサイズは全長+206mm、全幅+30mm、全高+28mmと拡大。ホイールベースも+16mm長くなっている

 

↑後席部分は当然のごとくスライドドアを採用。開口部は最大で615mmと広く、2列目シートへの乗降性や荷物の積載性が向上している

 

↑ウッド張りのダッシュボードが目を引くフロントシートまわり。スマホとの連携機能を備えた8インチのタッチスクリーンも備える

 

↑荷室は2列目シートの使用時でも775L、収納時は最大で約3500Lまで拡大する。リアハッチゲートは観音開きから跳ね上げ式に変更された

 

【Column】3年ぶりにカングー ジャンボリーが開催!

日本じゅうのカングーファンが一堂に集う「カングー・ジャンボリー」が10月16日(日)に山梨県の「山中湖交流プラザ きらら」で開催。駐車には駐車券(1000円)が必要で、最大収容台数は2100台となる。

 

 

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路線は「鉄道文化財」だらけ!「区間は町のみ」で頑張る「若桜鉄道」にローカル線の光明を見た

おもしろローカル線の旅100〜〜若桜鉄道若桜線(鳥取県)〜〜

 

鳥取県の東部を走る若桜鉄道(わかさてつどう)。走る区間は2つの町のみという地方ローカル線だが、筆者が訪れた日は多くの来訪者で賑わっていた。人気イベントが開かれた日に重なったこともあったが、路線を応援しようという沿線の熱意が感じられた。そんな山陰の〝元気印〟の路線をめぐった。

 

*2014(平成26)年9月1日、2016(平成28)年4月16日、2018(平成30)年4月20日、2022(令和4)年10月30日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

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【若桜の鉄旅①】市は通らずとも〝頑張っている〟という印象

第三セクター方式で経営される若桜鉄道若桜線は、八頭町(やずちょう)と若桜町の2つの町のみを走る。鳥取市などの市は通っていない。走るのが町村のみの第三セクター鉄道はほかに四国を走る阿佐海岸鉄道、熊本県を走る南阿蘇鉄道などあるが非常に稀だ。人口が少ない地域を走る路線はそれだけ存続が難しいわけである。若桜鉄道若桜線の概要を見ておこう。

路線と距離 若桜鉄道若桜線:郡家駅(こおげえき)〜若桜駅間19.2km 全線非電化単線
開業 1930(昭和5)年1月20日、郡家駅〜隼駅(はやぶさえき)間が開業、12月1日、若桜駅まで延伸開業
駅数 9駅(起終点駅を含む)

 

若桜線はちょうど今から100年前の1922(大正11)年に「鳥取県郡家ヨリ若桜ヲ経テ兵庫県八鹿(ようか)附近ニ至ル鉄道」として計画された。八鹿は山陰本線の豊岡駅〜和田山駅の中間部にある駅で、鳥取県、兵庫県の山間部を越えて両県を結ぶ路線として計画されたわけである。

 

この若桜線が造られた当時は、戦時色が強まる中で山陰本線が敵から攻撃を受けた時に備えて計画されたバイパス線の一部だった。しかし、若桜駅までの路線は開業したものの、路線は延ばされず典型的な行き止まりの〝盲腸線〟となった。

 

1981(昭和56)年に第一次廃止対象特定地方交通線として廃止が承認されたが、地元の熱心な存続運動が実り、1987(昭和62)年に第三セクター鉄道の若桜鉄道への転換が行われた。2009(平成21)年には上下分離方式による運営に変更され、現在は若桜町、八頭町の2つの町が若桜線を所有する第三種鉄道事業者となり、若桜鉄道は列車の維持、運行を行う第二種鉄道事業者となる。要は鉄道会社の負担をなるべく減らすように工夫されたわけである。

↑若桜駅で配布されていた印刷物。鉄道文化財、マップ、さらに隼車両の紹介などと豊富。下は「1日フリー切符(760円)」など

 

こうした仕組みのせいか、他の第三セクター鉄道に比べると〝自分たちの鉄道〟という意識、地元の熱意がより感じられる。例えば上記の写真のように、さまざまなPR用の印刷物などが駅で提供されている。ローカル線は、こうしたPR用の印刷物まではなかなか手が回らないところも多いが、少しでも鉄道のことを知ってもらうために、こうした活動は大切だと思う。

 

【若桜の鉄旅②】車両はリニューアルされ新しい印象だが

次に走る車両に関して紹介しよう。筆者は若桜鉄道に4度訪れているが、そのつど車両が新しくなったと感じる。同社の積極性が感じられる一面だ。

 

◇WT3000形

若桜鉄道の車両形式は頭に「WT」が付いている。「W」は若桜、「T」は鳥取を意味している。4両の車両が在籍しているが、うち3両はWT3000形となる。

↑郡家駅を発車するWT3000形。写真の車両はWT3004「若桜」で、車内は木を多用したお洒落な造りに改造されている(右上)

 

このWT3000形は若桜鉄道が開業した当時に導入したWT2500形のエンジン、変速機、台車など主要部品を変更した車両だ。WT2500形が導入されたのが1987(昭和62)年のことで、WT3000形への改造は2002(平成14)年から翌年にかけて行われた。

 

さらに、WT3000形は2018(平成30)年から2020(令和2)年にかけて、3両すべてが観光列車にリニューアル工事が行われた。デザインは水戸岡鋭治氏で、車内には木を多用、座席も赤青緑とカラフルなシートに変更され、お洒落な車両となった。WT3001は「八頭(やず)、WT3003は「昭和」、WT3004「若桜」と沿線の町名などが付けられている。なお、改造されたWT2500形のうち2502号車はすでに引退し、その車両番号を引き継ぐWT3002は欠番となっている。

↑WT3000形はそれぞれ色変更、名前の違う観光列車として改造された。左はWT3001「八頭」、右はWT3003「昭和」

 

第三セクターの鉄道において、路線が誕生したころの車両が2度も改造され、今も活躍しているというのは珍しい。新車両を導入するのではなく、改造により経費を浮かしているわけだ。

 

◇WT3300形

2001(平成13)年にWT2500形の予備車両として導入された車両で、イベント対応のためカラオケ設備などが取り付けられている。一部座席は回転式で、車内に会議スペースが設けられるように工夫もされている。

 

現在はスズキの大型バイク「隼(ハヤブサ)」のラッピングが施されており、隼ファンに人気となっている。

↑郡家駅に停車するWT3300形、車両全体に大型バイク「隼」のラッピングが施されている

 

【若桜の鉄旅③】さまざまな会社の車両が走る起点の郡家駅

若桜線の起点となる郡家駅(こおげえき)から沿線模様を見ていこう。「郡家」はかなりの難読駅名だ。どのような理由からこのような名前が付いたのだろう。2005年(平成17)年に周辺町村と合併したことで、現在は八頭町となっているが、それ以前には郡家町(こおげちょう)だったことからこの駅名が付けられた。郡家は元々、高下(こおげ)と書いたそうだ。律令制の時代に郡司が政務を行う郡家(ぐんけ)が置かれていたため、高下がいつしか郡家(こおげ)となったと考えられている。

↑三角屋根のJR郡家駅。駅前には「神ウサギ」の石像が立つ。地元に伝わる神話時代の恋のキューピット「白兎伝説」にちなむ(右上)

 

郡家駅を通るのはJR因美線(いんびせん)だ。旅行者にとって読みにくい郡家駅だが、因美線もなかなか読みにくい路線名である。しかも運転体系が分かりづらいので簡単に触れておこう。

 

因美線は鳥取駅を起点に、岡山県の東津山駅まで走る70.8kmの路線である。近畿地方や岡山から鳥取へのメインルートとして使われる路線だが、幹線として機能しているのは鳥取駅〜智頭駅(ちずえき)間31.9kmのみ。残りの路線は、列車本数が非常に少ない超閑散路線となる。その理由は智頭駅から先、山陽本線の上郡駅(かみごおりえき)までの間を智頭急行智頭線が走るため。この路線が1994(平成6)年12月3日に開業したことにより、鳥取方面行きの特急列車の大半が同線を通るようになり、幹線として機能するようになった。

 

よって、因美線を走る車両も鳥取駅〜智頭駅間と、智頭駅〜東津山駅間では大きく異なる。鳥取駅と智頭駅間では複数の会社の車両が走り華やかだ。鳥取駅〜智頭駅のちょうど中間にある郡家駅も例外ではない。

 

まず、JR西日本の車両はキハ187系・特急「スーパーいなば」、普通列車にはキハ47形やキハ121形・キハ126形が使われる。JR西日本の車両を利用した列車は非常に少なく、郡家駅では第三セクター鉄道の智頭急行の車両を良く見かける。特急「スーパーはくと」として走るHOT7000系、普通列車として走るHOT3500形だ。普通列車はみな鳥取駅まで、特急列車はその先の倉吉駅(鳥取県)まで走っている。

↑郡家駅始発の若桜線の列車は1番線から発車。3番線はキハ121形・126形で因美線では1往復のみの運用と希少な存在だ

 

若桜鉄道の列車は1日に14往復の列車が郡家駅〜若桜駅間を走っている(土曜・休日は13往復)。そのうち6往復がJR因美線を走り、鳥取駅まで乗り入れをしている。つまり、若桜線は鳥取市の郊外ネットワークに組み込まれている路線というわけだ。沿線の2つの町だけでなく、鳥取県と鳥取市が出資を行う若桜鉄道だからこそ、可能な運用ということもできるだろう。

↑智頭急行のHOT3500形が郡家駅に入線する。同じ線路を若桜鉄道のWT3000形も利用、鳥取駅まで乗り入れる(右上)

 

【若桜の鉄旅④】鉄道文化財が盛りだくさんの若桜鉄道沿線

筆者は朝6時54分に郡家駅を発車する始発列車で、まず若桜駅へ向かった。ちなみに郡家駅舎内にあるコミュニティ施設「ぷらっとぴあ・やず」の観光案内所(9時15分〜18時)で「1日フリー切符(760円)の購入が可能だ。営業時間外は終点の若桜駅まで行っての購入が必要となる。

 

若桜鉄道の見どころの中でまず注目したいところは、若桜鉄道に多く残る「鉄道文化財」であろう。若桜鉄道では2008(平成20)年7月に沿線の23関連施設が一括して国の登録有形文化財に登録されている。一括登録という形は珍しく全国初だったそうだ。開業時に設置されたものが大事に使われてきたものも多い。「若桜鉄道の鉄道文化財」というパンフレットが駅などで配付されているので、それを見ながら列車に乗車するのも楽しい。

 

郡家駅の一番線を発車した若桜駅行きの列車は、JR因美線の線路から別れ、左にカーブして最初の駅、八頭高校前駅(やずこうこうまええき)に停車する。この日は休日、しかも始発ということで学生の乗車はなかったものの、駅のすぐ上に校舎があり通学に便利なことがよく分かる。同駅は1996(平成8)年10月1日の開業で、国鉄時代にはなかった駅だった。

↑第一八東川橋梁を渡る下り列車。撮影スポットとして人気の橋だ。写真は「さくら1号」と呼ばれていた頃のWT3001号車

 

八頭高校前駅を発車すると左右に水田や畑が見られるようになる。そして最初の鉄橋、第一八東川(はっとうがわ)橋梁を渡る。この橋梁は若桜鉄道では最長(139m)の鉄橋で、路線開業の1929(昭和4)年に架けられたものだ。橋げたはシンプルなプレートガーダー橋だ。この橋も国の登録有形文化財に登録されている。ちなみに八東川は鳥取南東部を流れる千代川(せんだいがわ)水系の最大の支流で、若桜鉄道はほぼこの川に沿って走り、第一から第三まで3つの橋梁が架けられ、いずれも国の登録有形文化財となっている。

 

【若桜の鉄旅⑤】早朝から隼駅には時ならぬカメラの放列が……

川を渡ると間もなく因幡船岡駅(いなばふなおかえき)へ。ホーム一つの小さな駅だ。因幡船岡駅を過ぎると線路の左右には水田や畑が連なる。

 

隼駅のホームが近づく。列車が7時2分到着と早朝にもかかわらず、ホームにはカメラの放列が。鉄道ファンではなく、ライダースーツを着た一団だった。

↑木造駅舎の隼駅も本屋とプラットホームが国の有形登録文化財に登録されている。バイクライダーに人気の高い駅でもある

 

隼駅はスズキの大型バイク「隼」と名前が同じということもあり全国からライダーが集う駅でもある。いわば〝聖地巡礼〟の地。訪れた日は朝早くからホームは賑わっていた。筆者が乗車していた隼ラッピングの車両と、隼駅を一緒に撮ろうとしていたようである。筆者はこの隼駅には降りず、終点の若桜駅を目指した。

 

こも隼駅に加え、安部駅、八東駅(はっとうえき)は平屋の木造駅舎が残っており本屋とプラットホームがいずれも国の登録有形文化財だ。

↑質素な造りの安部駅の本屋。同駅には2つ集落に対応するように2つの出入り口が設けられている

 

3駅の中では安部駅の名前の由来と本屋の構造が興味深い。本屋には2つの玄関口がある。これは「安井宿」と「日下部」という駅近くの2つの集落に配慮したものだという。「安井宿」は駅の北、八東川を渡った国道29号沿いにある宿場町の名であり、「日下部」は駅近くの国道482号沿いにある集落の名だ。駅名の安部も「安井宿」の「安」と「日下部」の「部」を合わせたもの。集落に均等に対応しようという配慮が駅の開業当時にあったわけだ。

 

【若桜の鉄旅⑥】いくつかの鉄橋をわたって終点の若桜駅へ

安部駅の次の八東駅は同路線内で唯一の上り下り列車の交換機能を持つ駅となっている。列車増発のために2020(令和2)年3月14日にホームを2面に、線路も2本に拡張された。加えて同駅の1番線ホームに隣接して古い貨車が置かれ、今では非常に珍しくなった貨物用ホームがある。この貨物用ホームは若桜線SL遺産保存会が再整備、復活した施設である。引込線のレールも新たに敷設され、ワフ35000形有蓋緩急車(列車のブレーキ装置を備えた車両)が停められている。

 

八東駅では今年の11月13日に動態保存されている排雪モーターカーのTMC100BS形と緩急車を連結して走らせるという試みが行われた。TMC100BS形は兵庫県の加悦(かや)SL広場で保存されていたもので、同SL広場が2020(令和2)年に閉園した時に無償譲渡されていたものだった。今後、八東駅構内では排雪モーターカーと緩急車の運行を定期的に行っていきたいとのことだ。

↑八東駅の貨物用引込線と貨物用ホーム。車掌車としても使われた有蓋緩急車が保存されている。案内板も設置されている

 

八東駅を発車すると間もなく長さ128mの第二八東川橋梁を渡る。この橋も国の登録有形文化財に登録されている鉄橋で、第一八東川橋梁と構造はほぼ同じだが、当時の標準設計だった「達540号型」だそうだ。ちなみに同橋梁の下流には「徳丸どんど」という名前の小さな滝がある。川の流れの途中に自然にできた滝(規模的には段差に近い)で非常に珍しいものだ。

↑徳丸駅近くの第二八東川橋梁を渡るのはWT3300形+WT3000形連結の下り列車。WT3300形の隼ラッピングは旧デザインのもの

 

徳丸駅の次が丹比駅(たんぴえき)で、この駅も本屋とプラットホームが国の有形登録文化財に登録されている。屋根の支柱にはアメリカの鉄鋼王カーネギーが創始したカーネギー社の輸入レールが今も残っている。

 

平野部をゆったり走ってきた若桜線だが、丹比駅を過ぎると南から山がせりだし、その山肌に合わせるかのように若桜線、国道29号、八東川が揃って右カーブを描いていく。そして列車は八頭町から若桜町へ入る。若桜町は山あいの町ながら、工場も建ち繁華な趣だ。間もなく町並みが見え始め、郡家駅から所要35分で終点、若桜駅へ到着した。

 

【若桜の鉄旅⑦】給水塔や転車台&SLと見どころ満載の若桜駅

木造平屋建ての若桜駅も本屋とプラットホームが国の登録有形文化財に登録されている。筆者は4年ぶりに訪れたが、外観は変わらないものの待合室などがすっかりきれいになっていた。WT3000形と同じ水戸岡鋭治氏のデザインで改修されたことが分かる。

↑若桜鉄道の終点・若桜駅。木造平屋建ての本屋の外観は変わりないものの、待合室(右上)に加えてカフェも設けられた

 

若桜駅の構内にはC12形蒸気機関車やDD16形ディーゼル機関車が動態保存され、古い給水塔、転車台、複数の倉庫がならぶ。これらの施設のほか、保線用車両の諸車庫、線路隅に設けられた流雪溝なども国の登録有形文化財に登録されている。このスペースの見学には入場券300円が必要となるが、若桜駅へ訪れた時には立ち寄って見学しておきたい。

 

このように若桜駅にある施設のほとんどが国の登録文化財であり〝お宝〟というわけ。博物館でしか見ることができないような鉄道施設が、今も大事に残されている。

↑若桜駅構内で保存されるC12形蒸気機関車とDD16形ディーゼル機関車。この右側に転車台(左上)や倉庫、諸車庫などがある

 

【若桜の鉄旅⑧】若桜を散策すると気になる光景に出合った

若桜駅に到着したのが朝の7時29分のこと。8時25分発の上り列車で戻ろうと計画していたこともあり、列車の待ち時間を有効活用し、転車台や、給水塔などを見て回る。さらに駅周辺を探索してみた。

 

若桜町は古い街道町でもある。若桜鉄道に並行して走るのが国道29号で、鳥取と姫路を結ぶ主要国道でもある。明治時代の初期に整備された陰陽連絡国道の1本でもあり、鳥取県側では若桜街道、播州街道とも呼ばれてきた。国道29号を若桜町の先へ向かうと、戸倉峠の下、新戸倉トンネルを越えて兵庫県宍粟市(しそうし)へ至る。若桜町は県境の町でもあるのだ。古い町並みとともに木材輸送の拠点でもあり、切り出された木材の集積場なども街中にある。

↑若桜駅の近くには木材の集積基地が点在している。駅の南側には蔵通り、陣屋跡、昭和おもちゃ館(右上)などがある

 

若桜駅の先に伸びる線路がどうなっているか、気になって歩いてみた。線路は「道の駅若桜 桜ん坊」の裏手で途切れていたが、ここに気になる車両が停められていた。

 

国鉄12系客車と呼ばれる3両の客車で、若桜鉄道へはJR四国から2011(平成23)年に4両が譲渡されたのだが、そのうちの3両が停められていた。若桜駅構内でC12形が保存されているが、この車両は圧縮空気を動力にして走らせることができる。この機関車と12系客車を連結して2015(平成27)年に「走行社会実験」が行われていた。筆者はその翌年に同客車を若桜駅で見かけたが、当時は塗り直されたばかりで今にもSLにひかれ走り出しそうな装いとなっていた。しかし、SLを本線で運転させる計画は実現せず、当時の客車が塗装状態も悪くなりつつも、線路の奥で保存されていたわけだ。全国でSL列車の運行が活発になり、若桜線SL遺産保存会といった団体を中心に復活運動を続けてきたが、SLの運行はなかなか難しかったようである。

↑若桜駅の先、線路の終端部に停められている12系客車3両。ほか1両の12系客車は隼駅構内に停められている

 

【若桜の鉄旅⑨】帰路は隼駅でイベント風景を見学する

若桜駅から8時25分発の上り列車で隼駅へ戻る。9時ごろ駅に到着したのだが、駅前は非常に賑わっていた。

 

2008(平成20)年、あるバイク専門誌が「8月8日ハヤブサの日」に隼駅に集まろうと呼びかけた。徐々に全国の「隼」愛好家たちが集まるようになり、2018(平成30)年8月8日には2000台もの「隼」が終結したという。その後、コロナ禍でイベントを開催できないようになっていたが、ようやく制限も解除されて今年は10月30日に「ハヤブサの日」が開催されたのだった。この日に集まったのは約1200台。ナンバーを見ると近畿地方、中国地方はもちろん、遠く九州、東北地方のナンバーを付けた隼が終結していた。

↑朝早くから隼駅前で記念撮影をしようと並ぶライダーたち。駅前には「ようこそ!隼駅へ!」という案内もあり人気だった(右下)

 

鉄道ファンも熱心だと思うが、バイク好きの人たちの熱意もすごいと感じる。取材しようと訪れたメディアも多かった。また、駅前には記念品販売のブースも設けられ、元駅の事務室にも「若桜鉄道隼駅を守る会」の売店(土日祝日のみ営業)がある。こちらでも土産品や、隼駅のみで販売している鉄道グッズなどがあり多くの人が立ち寄っていた。

↑隼駅の元事務室を利用した「隼駅を守る会」の売店。入口には古い秤などが置かれ趣がある

 

↑隼駅構内には元北陸鉄道のED301電気機関車と元JR四国で夜行列車に利用されていた12系客車が保存されている

 

【若桜の鉄旅⑩】鉄道好きには「隼駅鐵道展示館」がおすすめ

隼駅の構内にはかつての備品倉庫を利用した「隼駅鐵道展示館」もある。同展示館の開館は4〜11月の第三日曜日の10〜16時のみだが、この日は催しに合わせて開いていた。

 

「隼駅鐵道展示館」には大きな鉄道ジオラマが設けられ、また古い鉄道用品などが保存展示されている。筆者はこの日の催しを撮り終えた後、「隼駅鐵道展示館」で古い若桜線をよく知る地元の方との鉄道談義を楽しんだ。

↑隼駅の駅舎に隣接した「隼駅鐵道展示館」。大型ジオラマ(左下)を設置、ほか多くの貴重な鉄道資料などが展示保存されている

 

その方によると「若桜駅に保存されるC12よりもC11がよく走っていた」とのこと。季節によっては「客車と貨車を連結した混合列車が多く走った」そうだ。「隼駅でも米俵の積み込み作業をしていた」と懐かしい話をふんだんに話していただいた。転車台を利用せずに、C11がバック運転で引いた列車もあったそうだ。貨物輸送が行われた当時はさぞや若桜線も賑わっていたことだろう。「その賑わいが今は消えてしまって……」と、その方もやや悲しげな表情に。外国からの木材輸入が増えて、若桜の木材の需要も減ったことに伴い、若桜線の貨物輸送も消滅してしまった。

 

さらに木材の輸送は鉄道からトラックへ移行していく。そんな時代の流れが若桜線を飲み込んだわけだが、一方で、若桜線沿線に住む人たちの鉄道存続への熱意は消えていなかったと言えるだろう。隼イベントなどの多くの催しを開くことにより、沿線の活気は一時とはいえ蘇っているのである。こうした催し物は、地元の人たちの協力と熱意があってこそ成り立っているように思える。

 

若桜線の乗客増加にはすぐには結びつかないかも知れないが、認知度は確実にあがるだろう。ローカル線の廃線が全国で続き、存続が危ぶまれる路線も多いなか、現在の若桜線の姿にはローカル線の一筋の光明を見るようだった。

↑隼駅に到着する隼ラッピングのWT3300形。ライダーたちに大人気の車両だ。若桜線内だけでなく鳥取駅にも乗り入れている

 

オシャレさと力強さを兼ね備えた仏車をフィーチャー!! いま注目の“トレビアン”な4社の真実に迫る

いまフランス車の評価が高まっている。美しく、エッジの効いたデザインはもちろん、フランス人の合理主義が生み出す使い勝手の良さも魅力のひとつ。ハイブリッドやEVだって豊富に揃う。世界で最もトレビアンなクルマなのだ!

※こちらは「GetNavi」 2022年11月号に掲載された記事を再編集したものです

 

 

アナタの知らない仏車

世界的にも評価が高まる同国車の真実に迫る!

オシャレなイメージが先行しているフランス車は、それぞれのメーカーの魅力が語られないことも多い。意外と知られていない真実を解明すべく、フランス車が大好きで、フランス車に精通するモビリティジャーナリストが解説する。

 

私が解説します!

モビリティジャーナリスト
森口将之さん
これまで所有した愛車の3分の2がフランス車。渡仏経験も多く、クルマ以外のモビリティにも詳しい。

 

【その1】フランス車にはどんなメーカーがある?

RENAULT/ルノー

センスの良さが光る生活のパートナー

1898年にパリ近郊で創業したルノーは、第二次世界大戦後しばらく国営企業だった。いまもフランス政府が日産とともに筆頭株主。それもあって生活に根付いた実用車が中心だ。しかしデザインは洗練されていて、センスの良いデザイン雑貨を思わせる。F1に熱心なのも特徴。

 

PEUGEOT/プジョー

ライオンの強さと切れ味良い走り

プジョーは1889年にクルマ作りを始める前から金属製品を手掛けていた。エンブレムのライオンは強さや切れ味を表現すべく、そのころから使われている。本拠地はドイツ国境に近いアルザス地方。そのためかフレンチ風味は濃厚ではなく、切れ味良い走りがウリだ。

 

CITROEN/シトロエン

独創と快適へのこだわりはピカイチ

1919年にクルマ作りを始めたシトロエンは、欧州でいち早く大量生産を実現し、前輪駆動の量産車を送り出すなど、昔から革新的。ハイドロニューマチックに象徴される乗り心地へのこだわりも特徴で、個性的なデザインと併せて、フランス車の象徴と言われることが多い。

 

DS AUTOMOBILES/DS オートモビル

パリの先鋭と洗練が息づくプレミアム

最初はシトロエンのなかのプレミアムラインという位置づけだったが、人気の高まりによって2015年に独立。パリの先鋭と洗練、匠の技をクルマに織り込んだプレミアムブランドで、モータースポーツではブランド設立直後からフォーミュラEに参戦している。

 

【その2】個性あふれるデザインにインテリアも独創的

いわゆる「沈没船ジョーク」で、船長が日本人には「皆さんはもう飛び込みましたよ」と言うが、フランス人には「決して飛び込まないでください」と言えば逆に飛び込むといわれる。フランス車のデザインが個性的なのは、ここに理由がある。つまり人と違う発想を評価するのだ。でも結果としてのデザインは使いやすく心地良い。それを知ってさらに好きになっていく。

↑スタイリッシュなモデルが多いDS オートモビル。なかでもDS 4はオートモービル国際審査委員会主催の第37回フェスティバルにおいて、最も美しいクルマに選出された

 

↑DS 9はDS オートモビルのフラッグシップモデル。シートには最上級の一枚革を巧みな技法で仕上げた、ウォッチストラップデザインのナッパレザーが使われている

 

【その3】ミニバンではなく「MPV(マルチパーパスビークル)」と呼ぶ理由は?

ミニバンという言葉はアメリカ発祥。実際、日本はもちろんフランスでも「ミニ」ではないし「バン」でもない。なのでマルチパーパスビークルという呼び名はむしろしっくりくる。背は高いものの2列シートが多いので、多用途に使えるという部分を強調しているのかもしれない。人生は楽しむものという彼らの考え方が、クルマの呼び方にも反映されている気もする。

↑プジョーのMPVであるリフター。1.5LBlueHDiディーゼルエンジンは130PS/3750rpmの高いパフォーマンスを発揮する。大容量の荷物を積載してもパワフルな走りを実現

 

↑リフターのラゲッジルームは5人乗車時で約597L。ラゲッジトレイを外してリアシートを折りたためば、最大で約2126Lに拡大する。荷室開口部は低く、荷物も載せやすい

 

【その4】使い勝手は抜群! 最新車は操作性も向上

世界で初めてハッチバックを発表し、欧州でいち早く3列シートの乗用車を送り出すなど、フランス車は昔から使い勝手へのこだわりは強かった。フランスならではの独創性から生まれた装備も多く、プジョー、シトロエン、DSに使われているスライド式ATセレクターレバーは代表例だ。加えて最近は日本車などを研究して、運転席まわりの小物入れが充実している。

↑ルノー・ルーテシアはコンパクトハッチバックながら荷室容量は391L(E-TECH HYBRIDは300L)と十分なサイズ。後席シート背面は6:4分割可倒式で長尺物の積載も可能

 

↑プジョー・208のガソリンモデルには、指先だけでシフト操作ができるトグルタイプのオートマチックセレクターを採用。よりストレスフリーなドライビングを実現している

 

【その5】長距離ドライブ時こそわかる乗り心地の良さ

フランスはバカンスの国として知られる。夏になれば家族みんなで遠くに出かけてゆったり過ごすシーンが思い浮かぶ。だからなのか、ロングランを快適に過ごすことができる乗り心地には、並々ならぬこだわりがある。いまでもシトロエンやDSでは、シートやサスペンションに独自の技術を投入。「魔法の絨毯」と言われる移動の快感を、現代に受け継いでいる。

↑シトロエンのC4。ショックアブソーバー内にセカンダリーダンパーを組み込むことで、従来のシステムでは吸収しきれなかったショックを抑制し、フラットライドを実現する

 

↑C4に備わるシトロエン独自のアドバンストコンフォートシート。表面には15mmの厚さがある特別なフォームを採用する。身体を柔らかく包み込み、ホールド性も両立している

 

【その6】燃費性能も向上してEVモデルにも積極的

フランス車は昔から小型車が多く、エンジンも小さめで経済志向だった。現在日本で販売されている量産フランス車の排気量は最大でも2Lだ。最近は電動化が進み、プジョー、シトロエン、DSでは電気自動車やプラグインハイブリッド、ルノーではフルハイブリッドが登場。経済的な車格のおかげもあって、輸入車でトップレベルの環境性能をマークしている。

↑ルノー・ルーテシアに加わったE-TECH HYBRIDは、輸入車で唯一のフルハイブリッドモデル。ハイブリッド燃料消費率は、輸入車でNo.1となる25.2km/Lを誇る

 

↑プジョーはフランス車のなかでも特にEVに積極的なメーカー。現在日本で購入できる9モデルのうち、7モデルでガソリン、ディーゼル車とともにEVをラインナップしている

 

【その7】安全運転支援技術も国産車並みのレベルに

少し前までは「安全性」がフランス車のウィークポイントだったが、いまは多くのモデルがアダプティブクルーズコントロールや衝突被害軽減ブレーキ、360度カメラなどを標準装備。国産車と比較検討できるレベルになった。それ以前から備えていた高水準の直進安定性や乗り心地などを含めて考えれば、長距離を安全快適に乗れるクルマへアップデートされたと言えるだろう。

↑最近のプジョー車で採用されているのが「3D i-Cockpit」。ドライブ中の情報を3Dで表示する3Dデジタルヘッドアップインストルメントパネルは、表示形式のカスタマイズも可能

 

↑ルノーは日産、三菱とのアライアンスを生かした先進装備が特徴。360度カメラのほか、駐車可能なスペースを検出して自動でステアリングを操作するパーキングアシストも搭載

 

 

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「ブリザックVRX3」がSUV向けサイズを拡充。氷上での高い能力と一般路での扱いやすさを実感

ブリヂストンのスタットレスタイヤと言えば『BLIZZAK(ブリザック)』。雪国での装着率No.1という超有名ブランドです。特に2021年に発売された「VRX3」は、ブリヂストン曰く『新次元のブリザック、史上最高、史上最強のブリザック』として誕生しました。そして、今シーズンはそのラインナップにSUV専用サイズを新たに追加したのです。今回はその試乗レポートをお伝えします。

↑ブリヂストン「BLIZZAK(ブリザック)VRX3」。スケートリンクでのコーナーリングもしっかりとグリップ感があり安心して走行できた

 

街乗り中心の使い方に最適なスタッドレスタイヤ「ブリザックVRX3」

いまやSUVの人気は世界的に高まっていて、日本も例外ではありません。街には多くのSUVが走るようになり、普通のセダンと同じような使い方をする人も増えています。しかし、SUVは車高が高く車体も重いため、カーブなどではどうしてもタイヤに負荷がかかりやすくなるのも確かです。特に冬用として使うスタッドレスタイヤは、低温下でもしなやかさを保てるよう、トレッド面が気泡を含んだ柔らかい発泡ゴムで作られているため、この影響が受けやすくなります。

 

そこでSUVならではの特性に合わせたスタッドレスタイヤが必要になるわけです。

↑ダントツの氷上性能をSUVユーザーへサイズを拡大したブリザックVRX3

 

実はブリヂストンには、すでにSUV向けスタッドレスタイヤとして『DM-V3』が用意されていて、今回、BLIZZAKがSUV向けタイヤを発売することで、下は225/60R17~上は235/55R20まで12サイズがかぶることになります。もし、このサイズに該当するとしたら、どちらを選べばいいのでしょうか。

 

ブリヂストンによれば、「雪深い山岳路など、スキーをはじめとするレジャーへ出掛ける際はDM-V3をおすすめしたい」とのこと。つまり、DM-V3は積雪を噛み込みながら走破していくのが得意であって、そのためにトレッド面の溝を大きめに割いています。ただ、これによって路面への接地面積は自ずと小さくなるため、これが凍った路面はやや苦手となります。さらに乾いた路面を走れば、ロードノイズが少し大きめに出がちです。

 

そこで、普段使いとして雪深い道路を走ることはあまりなく、「積雪があまりない街乗りでも快適に走れるスタッドレスタイヤが欲しい」という声が多く聞かれるようになりました。SUV向けVRX3が登場した背景にはそんな理由があったのです。

 

発泡ゴムの改良と排水性能向上でブラックアイスバーンにも強い

ただ、これはスタッドレスタイヤとして、グリップ力を抑えたということではありません。実は街乗りでは交差点付近に多いブラックアイスバーン対策が欠かせないのです。ブラックアイスバーンとは昼間は気温が高くなって雪が溶け、夜になると気温が下がって凍結し、この上を信号待ちなどで発進/停止が繰り返することで鏡面状態となった路面を指します。ここは特にスリップしやすい危険な箇所として知られることから、街乗りで使うスタッドレスタイヤにはそんな場所でもしっかりグリップすることが求められるのです。

 

VRX3はそうした状況下に特に注力して開発されました。それだけに氷上での性能は極めて高い! そして、ドライ路面ではスタッドレスタイヤ特有のパターンノイズも抑えて快適なドライブが楽しめる! 加えて、重量の重いSUVに対してもしっかりとした剛性で足元を支える。そんなスタッドレスタイヤがSUV向けのVRX3というわけです。

 

ではVRX3はそれをどうやって実現したのでしょうか。そのポイントは、ブリヂストンが得意としてきた発泡ゴムを進化させたことにあります。前モデル「VRX2」では発泡ゴムの気泡を円形としていましたが、それをVRX3では楕円とする「フレキシブル発泡ゴム」としたのです。これによって、氷にしぶとく食らいつく能力を高めることに成功したのです。

 

その上でトレッドパターンの形状にも変更を加えました。たとえば氷上で滑る原因ともなる氷とタイヤの隙間に生まれる水を徹底して排出するために、サイプの形状を工夫して水の逆流を抑えています。さらにトレッドパターンも溝の幅を狭くすることで接地面積も拡大し、これがパターンノイズの低減にもつながりました。

 

つまり、フレキシブル発泡ゴムとトレッドパターンのデザイン変更による排水能力の向上が、氷上でのグリップ力を高めることの決め手になっているということなのです。

 

氷上でのしっかりとした手応えと一般路での扱いやすさを実感

だけど実際のところはどうなのか。今回の試乗会はそんな疑問に答えるため開催されたのです。試乗は氷上での能力を試すためにスケートリンクと、ドライ路面でのフィーリングを体験するために一般公道に分けて行われました。

↑氷上での試乗体験をするために特設で用意された東京郊外のアイススケート場

 

まずスケートリンクの特設コースで走らせると、そのグリップ力にしっかりとした手応えを感じました。さらにフルブレーキングによる制動能力も試しましたが、車重があるSUVでも不安なく停まることができたのです。ならば、旋回ではどうか。少し意地悪をして速度を上げ気味に走ってみると、前モデルVRX2よりも外側に膨らむ速度域が明らかに高かったのです。

↑ブリザックVRX3は、氷上を旋回しても優れたグリップ力を発揮した

 

VRX3がデビューした際に開かれたセダン系モデルを使った試乗会で、同じようなコースでの体験をしていますが、車重のあるSUVでも明らかな進化を見つけることができました。まさに“史上最高”“史上最強”を謳うVRX3の実力、ここにあり! そんな印象を抱いた次第です。

↑セダン系の試乗も体験。直線コースでのフルブレーキングする体験でもグリップ力の確かさを実感できた

 

次は一般公道での試乗です。走り出してすぐにわかったのが、スタッドレスタイヤにありがちな曖昧さがないということです。スタッドレスタイヤは溝を大きく取っているため、ブロックごとの剛性が一定を超えるとヨレた感じになり、これがハンドルを操舵したときに曖昧さが伝わってくることが多いのです。その感覚がVRX3ではほとんど感じさせなかったのです。

↑ドライ路面での試乗は一般道のほか、「ブリヂストン イノベーション パーク」のテストコース「B-Mobility」でも行われた

 

しかも走行中のパターンノイズはほとんど伝わってきません。乗り心地の収束性も高く、路面の継ぎ目からの振動もきれいにいなしてくれます。もちろん、クルマ側の能力にも依存してる部分も小さくないと思いますが、それでもここまでノーマルとの差を小さくできているのには正直言って驚かずにはいられませんでした。この状態なら同乗者がスタッドレスタイヤであることをまず気付かないでしょうね。

↑スタッドレスタイヤにもかかわらずVRX3は、ドライ路面でのターンノイズも最小限に抑えられていた

 

↑ブリヂストン イノベーション パーク「B-Mobility」では、路面の継ぎ目を走行する体験もできた

 

今まで、冬場になってスタッドレスタイヤに履き替えて走ると、否応なしに“スタッドレスタイヤ”を実感することが常でした。実際は走っているウチにそれも諦めにも変わっていくのですが、VRX3ならそんな諦めは不要なのです。しかもスタッドレスタイヤとしての能力も高く、アイスバーンにも圧倒的な強さを発揮します。まさにスノードライブはシーズン数回程度という都市部在住者にとって、VRX3は最適なスタッドレスタイヤとなるのではないでしょうか。

↑試乗した日は、ブリヂストン イノベーション パークの見学会が実施された。ブリヂストンのコア技術や製品を実際に見て触れることができる

 

 

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サッカーW杯を支えるカタール初の鉄道路線「ドーハメトロ」に大注目!

4年に一度の祭典、サッカーW杯2022が11月20日に開幕しました。今年はカタールが開催国となり、史上初の中東開催として注目を集めています。カタールの首都ドーハは以前日本代表が1994年W杯本大会への出場を逃した「ドーハの悲劇」の場所でもありますが、今大会は無事に予選を通過して本大会に出場。前回ロシア大会で惜しくもベスト8入りを果たせなかった日本代表ですが、今回はどうなるか注目です。

↑レッド・ライン最北端のルサイル駅を最寄りとするルサイル・アイコニック・スタジアム。12月18日のW杯決勝試合がここで開催されます。訪問時の2022年4月時点ではまだ工事中の部分がありました

 

試合に使用される8つのスタジアムのうち7つがドーハ市内かその近郊に位置し、コンパクトなW杯開催となりますが、市内での公共交通の要となるのが2019年に開通したドーハの地下鉄こと「ドーハメトロ」です。今回のW杯で観戦客の重要な足となるであろうドーハメトロを解説していきます。

↑メトロの車内から眺めるドーハ郊外の様子。建設中のビルが多くあり、経済成長が感じられます

 

カタール初の鉄道路線開業への道

ペルシャ湾に囲まれ、サウジアラビアと隣接するカタールは人口260万人と小さい国ですが、20世紀半ばに石油の輸出が始まってから急速な経済成長を遂げました。首都ドーハでは人口の過半数が在住し、バスはあるものの基本的には車社会を前提としていました。しかしながら増加する人口と慢性化する渋滞に対応するため、2000年代後半から都市鉄道整備の構想が立ち上がりました。そして何より2010年12月に発表されたカタールの2022年W杯開催決定が公共交通機関として必要性が確固たるものとなり、プロジェクトが積極的に進められました。

 

2012年10月には地下鉄ネットワークの中核となるムシュレイブ駅が着工され、ドーハメトロの建設が始まりました。メトロの建設は2つのプロジェクトに分かれており、現在完了している第1部ではレッド・ライン、グリーン・ライン、そしてゴールド・ラインの3路線が2019年に開業しています。旅行者に一番馴染みがあるのはカタールの空の玄関口であるハマド国際空港と都心のアクセスを担っているレッド・ラインかもしれませんが、3路線とも沿線にスタジアムがあります。建設プロジェクトの第2部は4つ目の路線となるブルー・ラインの建設を視野に入れており、2027年に開業予定となっています。

↑レッド・ラインの一番南側の終点であるアル・ワクラ駅。駅舎の全体が船をイメージしています

 

メイド・イン・ジャパン:近畿車両製の地下鉄車両

あまり日本には馴染みのないカタールの地下鉄ですが、使用されている車両は三菱商事と近畿車両が共同製造したものになります。合計で3両編成の車両が75本発注され、2017年8月に最初の4本が納品されました(後に35本が追加発注されて合計110本に増備されています)。車両のデザインは近畿車両デザイン室とドイツのデザイン企業であるトリコンデザインAGが共同で設計しており、アラビアの馬をモチーフとした流線形が採用されています。ちなみに近畿車両は同じアラビア首長国連邦のドバイメトロ向け車両も製造しており、中東の都市鉄道システムでは2回目の受注となりました。

↑日本の近畿車両製のドーハメトロ向け車両。3両編成となっており、最大2本繋げて6両編成で運転されます

 

3両編成はA・B・C号車と振り分けられており、A号車が半室ゴールドクラブ、半室ファミリークラス、そしてB・C号車がスタンダードクラスとなっています。A号車の先頭寄り半室のゴールドクラスはいわゆる一等車の扱いで、普通運賃と比較して値段が高く設定されています。ひじ掛け付きの個別座席がロングシート風に並べられており、後ろのファミリークラスとの仕切りがあります。特徴的なのは一番先頭に配置されているクロスシート部分です。ドーハメトロは全線自動運転で運転席もないため、ここで前方(または後方)の景色が「被りつき」で楽しむことができます。

↑無人運転を行うドーハメトロに運転席はなく、乗客が最前列で景色を楽しめます。写真はゴールドクラブの座席ですが、反対側のスタンダードクラスでも同様の座席があります

 

↑ゴールドクラブの車内。孤立してゆったりとした座席が特徴。スタンダードクラスと比べて3倍の値段がかかりますが、W杯開催期間中は一般開放されます

 

ファミリークラスのほうはその名の通り家族連れや女性専用車両となっており、男性が一人で乗車することはできません。イスラム国では公共の場で男性と女性の場を分ける国もあり、それを反映したルールとなっています。ファミリークラスの内装はセミクロスシートになっていて、子供用座席など家族連れに優しい仕様になっています。

↑ファミリークラスは家族連れと女性向けの車両。半室には少し高さが低い子供用座席も備わっています

 

B・C号車のスタンダードクラスは日本でもよく見られるようなロングシート形式になっており、先頭車側にはゴールドクラブと同様に「被りつき」用の座席があります。車内にトイレの設備はないですが、充電用のUSBポートがあったり、荷物置き場、車いす・ベビーカー向けのスペースや車内Wi-fiなど充実しています。

↑スタンダードクラスのロングシートの様子

 

ドーハメトロは駅舎にも拘りがあり、カタールの伝統的な文化と近未来感を融合したデザインとなっています。伝統的なイスラム建築で使用されるヴォールト天井のデザインを元にモダンデザインを取り込み、駅舎内を牡蠣の貝の中にいるような居心地を目指して作られました(ヴォールト天井は聞きなれない言葉ですが、小田急ロマンスカーのVSEの略称にもなり、アーチを平行に押し出した形状を特徴とする建築様式です)。

↑メトロの駅にはヴォールト様式が積極的に取り入れられ、開放的な空間となっています

 

ドーハメトロを利用してみよう

ドーハメトロを利用するにあたって気になるのが運賃設定ですが、スタンダード・ファミリークラスは1乗車で2リヤル(2022年11月の為替では1カタールリヤル≒40円、約80円)、一日料金は6リヤル(約240円)となっています。一方でゴールドクラブのほうは1乗車10リヤル(約400円)、一日料金は30リヤル(約1200円)とスタンダードと比較して5倍です。為替の影響を受けることもありますが、基本的にはかなり良心的な値段設定となっています。

↑ ICカードを購入できる各駅に備わっている券売機

 

現在、紙の切符の発売は中止されており、SuicaやPASMOと同様のICカードの購入が必要となってきます。スタンダード用のカードは本体が10リヤル(約400円)で、駅の券売機や街中の店舗で販売されており、残額のチャージは券売機、またはオンライン・アプリで行うことができます。こちらのカードはドーハメトロと後述のルサイルトラム共通で使用できます。ゴールドクラブカード本体は100リヤル(約4000円)で購入はメトロ駅に併設されているゴールドクラブ専用オフィスのみで購入でき、特別感が増しています。

 

ICカード使用時に自動改札機でタッチする必要がありますが、自動的に各座席クラス分の運賃が差し引かれるような仕組みになっているので、乗車したいクラスのICカードを事前に購入しておく必要があります(例えばスタンダードのカードを持っている中、一回だけアップグレードしてゴールドクラブに乗車することはできません)。また、一回の乗車での制限時間が設けられており、最大90分となっています。入場と出場との間の時間が90分を超える場合、再度一回乗車分の運賃が引き落とされるので気をつけてください。最後に一日乗車料金に関してですが、別途そのような切符があるわけではなく、一日での請求額が一日料金に達するとそれ以降は自動で運賃が請求されなくなる便利なシステムとなっていますので、何回も気軽に乗ることができます。

 

通常のメトロの営業時間は土曜日~水曜日で午前6時~午後11時、木曜日には終電が午前0時までと営業時間が延び、金曜日の午前は運休となっており、午後2時~午前0時まで運行されています。イスラム教では金曜日の正午に「ジュマ」という特別な礼拝を行うことが義務付けられいて、金曜日の一見変則的な営業時間はこれを反映しています。

 

ワールドカップ中の利用に関して

今までドーハメトロの概要を説明してきましたが、カタール、そしてドーハに世界中から人が集まるW杯期間中は特別ルールが適用されるので、使用される際は注意が必要です。まず車内のクラス設定に関してですが、11月11日から12月22日の間は全ての列車でクラス分けがなくなり、全車スタンダードクラス扱いとなります。ですので、わざわざゴールドクラブ用カードを購入する意味はなくなります。恐らく混雑でそれどころではないかもしれませんが、スタンダードクラスの料金でゴールドクラブを体験できるいい機会かもしれません。

 

また、営業時間も変更となり、土曜日~木曜日は午前6時~午前3時まで、金曜日に関しても午前9時~午前3時と大幅に営業運転時間が拡大され、サッカーの試合が終わった後の遅い時間帯でも人が移動できるようになりました。W杯開催中は一日70万人の利用が見込まれており、通常時の6倍もの利用客が予想されています。

 

ルサイルトラム

ドーハの都市交通システムとしてもう一つ整備されているのがルサイルトラムです。こちらはドーハの北部のルサイル地区を中心に整備されており、2022年11月現在では同年1月に先行開業したオレンジ・ラインのレグタイフィヤ~エナジー・シティ・サウス間のみが営業運転しています。今後はオレンジ・ラインの全線開業、そしてピンク・ライン、ターコイズ・ライン、パープル・ラインと続けてトラムの路線網が増えていく予定です(現在開業しているオレンジ・ラインの区間は全て地下区間です)。ルサイルトラムの運賃体系や営業時間はドーハメトロと一緒で、同じICカードで使用できます。

↑ルサイル駅付近でパープル・ラインの試運転を行っているルサイルトラム。この区間はアルストムのAPS技術を使用していて、架線ではなく地面に埋め込まれた第三軌条の線路から集電します

 

ルサイルトラムの使用車両は仏アルストムの「シタディス」モデルを導入しており、35編成が配備されています。通常は電気を上空に張られた架線からパンタグラフを使用して集電しますが、一部区間ではアルストム独自のAPSという技術を使用して、地上に設置された第三軌条のレールから集電する区間もあります。こちらの特徴としては車両が給電レールを覆っているところしか通電しておらず、路面で使用しても安全なところが特徴となっています。

↑ルサイルトラムが使用している「シタディス」モデル車両の車内

 

今回はドーハの新しい都市鉄道であるドーハメトロを紹介させていただきました。筆者は開業前の2014年にドーハに訪れたことがありましたが、その時と比べて格段に空港からドーハ市内へのアクセス、そして市内での移動が便利になったと感じました。今回のW杯でも大活躍することでしょう。

サッカーW杯を支えるカタール初の鉄道路線「ドーハメトロ」に大注目!

4年に一度の祭典、サッカーW杯2022が11月20日に開幕しました。今年はカタールが開催国となり、史上初の中東開催として注目を集めています。カタールの首都ドーハは以前日本代表が1994年W杯本大会への出場を逃した「ドーハの悲劇」の場所でもありますが、今大会は無事に予選を通過して本大会に出場。前回ロシア大会で惜しくもベスト8入りを果たせなかった日本代表ですが、今回はどうなるか注目です。

↑レッド・ライン最北端のルサイル駅を最寄りとするルサイル・アイコニック・スタジアム。12月18日のW杯決勝試合がここで開催されます。訪問時の2022年4月時点ではまだ工事中の部分がありました

 

試合に使用される8つのスタジアムのうち7つがドーハ市内かその近郊に位置し、コンパクトなW杯開催となりますが、市内での公共交通の要となるのが2019年に開通したドーハの地下鉄こと「ドーハメトロ」です。今回のW杯で観戦客の重要な足となるであろうドーハメトロを解説していきます。

↑メトロの車内から眺めるドーハ郊外の様子。建設中のビルが多くあり、経済成長が感じられます

 

カタール初の鉄道路線開業への道

ペルシャ湾に囲まれ、サウジアラビアと隣接するカタールは人口260万人と小さい国ですが、20世紀半ばに石油の輸出が始まってから急速な経済成長を遂げました。首都ドーハでは人口の過半数が在住し、バスはあるものの基本的には車社会を前提としていました。しかしながら増加する人口と慢性化する渋滞に対応するため、2000年代後半から都市鉄道整備の構想が立ち上がりました。そして何より2010年12月に発表されたカタールの2022年W杯開催決定が公共交通機関として必要性が確固たるものとなり、プロジェクトが積極的に進められました。

 

2012年10月には地下鉄ネットワークの中核となるムシュレイブ駅が着工され、ドーハメトロの建設が始まりました。メトロの建設は2つのプロジェクトに分かれており、現在完了している第1部ではレッド・ライン、グリーン・ライン、そしてゴールド・ラインの3路線が2019年に開業しています。旅行者に一番馴染みがあるのはカタールの空の玄関口であるハマド国際空港と都心のアクセスを担っているレッド・ラインかもしれませんが、3路線とも沿線にスタジアムがあります。建設プロジェクトの第2部は4つ目の路線となるブルー・ラインの建設を視野に入れており、2027年に開業予定となっています。

↑レッド・ラインの一番南側の終点であるアル・ワクラ駅。駅舎の全体が船をイメージしています

 

メイド・イン・ジャパン:近畿車両製の地下鉄車両

あまり日本には馴染みのないカタールの地下鉄ですが、使用されている車両は三菱商事と近畿車両が共同製造したものになります。合計で3両編成の車両が75本発注され、2017年8月に最初の4本が納品されました(後に35本が追加発注されて合計110本に増備されています)。車両のデザインは近畿車両デザイン室とドイツのデザイン企業であるトリコンデザインAGが共同で設計しており、アラビアの馬をモチーフとした流線形が採用されています。ちなみに近畿車両は同じアラビア首長国連邦のドバイメトロ向け車両も製造しており、中東の都市鉄道システムでは2回目の受注となりました。

↑日本の近畿車両製のドーハメトロ向け車両。3両編成となっており、最大2本繋げて6両編成で運転されます

 

3両編成はA・B・C号車と振り分けられており、A号車が半室ゴールドクラブ、半室ファミリークラス、そしてB・C号車がスタンダードクラスとなっています。A号車の先頭寄り半室のゴールドクラスはいわゆる一等車の扱いで、普通運賃と比較して値段が高く設定されています。ひじ掛け付きの個別座席がロングシート風に並べられており、後ろのファミリークラスとの仕切りがあります。特徴的なのは一番先頭に配置されているクロスシート部分です。ドーハメトロは全線自動運転で運転席もないため、ここで前方(または後方)の景色が「被りつき」で楽しむことができます。

↑無人運転を行うドーハメトロに運転席はなく、乗客が最前列で景色を楽しめます。写真はゴールドクラブの座席ですが、反対側のスタンダードクラスでも同様の座席があります

 

↑ゴールドクラブの車内。孤立してゆったりとした座席が特徴。スタンダードクラスと比べて3倍の値段がかかりますが、W杯開催期間中は一般開放されます

 

ファミリークラスのほうはその名の通り家族連れや女性専用車両となっており、男性が一人で乗車することはできません。イスラム国では公共の場で男性と女性の場を分ける国もあり、それを反映したルールとなっています。ファミリークラスの内装はセミクロスシートになっていて、子供用座席など家族連れに優しい仕様になっています。

↑ファミリークラスは家族連れと女性向けの車両。半室には少し高さが低い子供用座席も備わっています

 

B・C号車のスタンダードクラスは日本でもよく見られるようなロングシート形式になっており、先頭車側にはゴールドクラブと同様に「被りつき」用の座席があります。車内にトイレの設備はないですが、充電用のUSBポートがあったり、荷物置き場、車いす・ベビーカー向けのスペースや車内Wi-fiなど充実しています。

↑スタンダードクラスのロングシートの様子

 

ドーハメトロは駅舎にも拘りがあり、カタールの伝統的な文化と近未来感を融合したデザインとなっています。伝統的なイスラム建築で使用されるヴォールト天井のデザインを元にモダンデザインを取り込み、駅舎内を牡蠣の貝の中にいるような居心地を目指して作られました(ヴォールト天井は聞きなれない言葉ですが、小田急ロマンスカーのVSEの略称にもなり、アーチを平行に押し出した形状を特徴とする建築様式です)。

↑メトロの駅にはヴォールト様式が積極的に取り入れられ、開放的な空間となっています

 

ドーハメトロを利用してみよう

ドーハメトロを利用するにあたって気になるのが運賃設定ですが、スタンダード・ファミリークラスは1乗車で2リヤル(2022年11月の為替では1カタールリヤル≒40円、約80円)、一日料金は6リヤル(約240円)となっています。一方でゴールドクラブのほうは1乗車10リヤル(約400円)、一日料金は30リヤル(約1200円)とスタンダードと比較して5倍です。為替の影響を受けることもありますが、基本的にはかなり良心的な値段設定となっています。

↑ ICカードを購入できる各駅に備わっている券売機

 

現在、紙の切符の発売は中止されており、SuicaやPASMOと同様のICカードの購入が必要となってきます。スタンダード用のカードは本体が10リヤル(約400円)で、駅の券売機や街中の店舗で販売されており、残額のチャージは券売機、またはオンライン・アプリで行うことができます。こちらのカードはドーハメトロと後述のルサイルトラム共通で使用できます。ゴールドクラブカード本体は100リヤル(約4000円)で購入はメトロ駅に併設されているゴールドクラブ専用オフィスのみで購入でき、特別感が増しています。

 

ICカード使用時に自動改札機でタッチする必要がありますが、自動的に各座席クラス分の運賃が差し引かれるような仕組みになっているので、乗車したいクラスのICカードを事前に購入しておく必要があります(例えばスタンダードのカードを持っている中、一回だけアップグレードしてゴールドクラブに乗車することはできません)。また、一回の乗車での制限時間が設けられており、最大90分となっています。入場と出場との間の時間が90分を超える場合、再度一回乗車分の運賃が引き落とされるので気をつけてください。最後に一日乗車料金に関してですが、別途そのような切符があるわけではなく、一日での請求額が一日料金に達するとそれ以降は自動で運賃が請求されなくなる便利なシステムとなっていますので、何回も気軽に乗ることができます。

 

通常のメトロの営業時間は土曜日~水曜日で午前6時~午後11時、木曜日には終電が午前0時までと営業時間が延び、金曜日の午前は運休となっており、午後2時~午前0時まで運行されています。イスラム教では金曜日の正午に「ジュマ」という特別な礼拝を行うことが義務付けられいて、金曜日の一見変則的な営業時間はこれを反映しています。

 

ワールドカップ中の利用に関して

今までドーハメトロの概要を説明してきましたが、カタール、そしてドーハに世界中から人が集まるW杯期間中は特別ルールが適用されるので、使用される際は注意が必要です。まず車内のクラス設定に関してですが、11月11日から12月22日の間は全ての列車でクラス分けがなくなり、全車スタンダードクラス扱いとなります。ですので、わざわざゴールドクラブ用カードを購入する意味はなくなります。恐らく混雑でそれどころではないかもしれませんが、スタンダードクラスの料金でゴールドクラブを体験できるいい機会かもしれません。

 

また、営業時間も変更となり、土曜日~木曜日は午前6時~午前3時まで、金曜日に関しても午前9時~午前3時と大幅に営業運転時間が拡大され、サッカーの試合が終わった後の遅い時間帯でも人が移動できるようになりました。W杯開催中は一日70万人の利用が見込まれており、通常時の6倍もの利用客が予想されています。

 

ルサイルトラム

ドーハの都市交通システムとしてもう一つ整備されているのがルサイルトラムです。こちらはドーハの北部のルサイル地区を中心に整備されており、2022年11月現在では同年1月に先行開業したオレンジ・ラインのレグタイフィヤ~エナジー・シティ・サウス間のみが営業運転しています。今後はオレンジ・ラインの全線開業、そしてピンク・ライン、ターコイズ・ライン、パープル・ラインと続けてトラムの路線網が増えていく予定です(現在開業しているオレンジ・ラインの区間は全て地下区間です)。ルサイルトラムの運賃体系や営業時間はドーハメトロと一緒で、同じICカードで使用できます。

↑ルサイル駅付近でパープル・ラインの試運転を行っているルサイルトラム。この区間はアルストムのAPS技術を使用していて、架線ではなく地面に埋め込まれた第三軌条の線路から集電します

 

ルサイルトラムの使用車両は仏アルストムの「シタディス」モデルを導入しており、35編成が配備されています。通常は電気を上空に張られた架線からパンタグラフを使用して集電しますが、一部区間ではアルストム独自のAPSという技術を使用して、地上に設置された第三軌条のレールから集電する区間もあります。こちらの特徴としては車両が給電レールを覆っているところしか通電しておらず、路面で使用しても安全なところが特徴となっています。

↑ルサイルトラムが使用している「シタディス」モデル車両の車内

 

今回はドーハの新しい都市鉄道であるドーハメトロを紹介させていただきました。筆者は開業前の2014年にドーハに訪れたことがありましたが、その時と比べて格段に空港からドーハ市内へのアクセス、そして市内での移動が便利になったと感じました。今回のW杯でも大活躍することでしょう。

連なる鳥居に宍道湖の眺め、そして出雲大社−−“映える”「ばたでん」歴史&美景散歩

おもしろローカル線の旅99〜〜一畑電車(島根県)〜〜

 

連なる赤い鳥居の先を横切る電車、背景には低山と青空が写り込む。ばたでんこと島根県を走る一畑電車らしい光景である。こうした〝映える〟光景が点在する一畑電車の沿線。今回は北松江線の一畑口駅から終点の松江しんじ湖温泉駅までの区間と、大社線の川跡駅(かわとえき)から出雲大社前駅間の注目ポイントをめぐってみたい。

*2011(平成23)年8月1日、2015(平成27)年8月23日、2017(平成29)年10月2日、2022(令和4)年10月29日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
この時代に増便?平地なのにスイッチバック?ナゾ多き出雲の私鉄「ばたでん」こと一畑電車の背景を探る

 

【ばたでん旅が続く①】斬新な券売機に悪戦苦闘!

一畑口駅は前回紹介したように、平地なのにスイッチバックする珍しい駅である。この駅から松江しんじ湖温泉方面への電車に乗ろうと駅舎へ。筆者は「1日フリー乗車券」を購入したので、切符を新たに買う必要がなかったが、高齢の女性が券売機の前で困り果てていたので手助けすることに。

 

一畑電車の主要駅には最新型の券売機が取り付けられている。筆者も初めて目にした券売機だったが、手助けしようとしてスムーズいかずにまごついてしまった。一畑口駅へやってくる前にも、電鉄出雲市駅でも切符が購入できず駅員に聞いている女性を見かけたのだが、なぜだろう。

 

考えられるのは、切符を買うまでの選択が多いことだ。まずは片道か往復かのボタン選択。次に行先の駅にタッチすると何枚必要か画面に表示されるので、1人ならば「1」を押す。筆者もここまではできたのだが、今度はコイン投入口にお金が入らない。この後に現金かカードかの選択ボタンを押す必要があったのだ。

 

さらに、この券売機は指で画面に触れずとも近づけるだけで感知する。これもとまどう理由だろう。慣れればそう難しくなさそうだが、この券売機が初めての人や高齢者はややてこずる可能性があると思った。

↑趣ある木造駅舎の一畑口駅。一畑薬師の最寄り駅でもある。駅舎内には最新式の券売機が設置されていた(左)

 

さて、無事に切符購入の手伝いも終えて松江しんじ湖温泉駅の電車に乗り込む。電鉄出雲市駅方面からやってきた電車は前後が変わり、この駅からは後ろが先頭になって走り始める。駅からは左に大きくカーブしてまずは宍道湖を進行方向右手に見ながら、次の伊野灘駅(いのなだえき)に向かった。

↑一畑口駅(手前)を発車すると左カーブして松江しんじ湖温泉駅方面へ向かう。民家の間から宍道湖のきらめく湖面が見通せた

 

【ばたでん旅が続く②】映画の舞台になった趣満点の伊野灘駅

ホームが一つの伊野灘駅は映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(以下『RAILWAYS』と略)で主要な舞台として登場した駅だった。駅の入口は国道431号とは逆側にあり、細い道をたどりレトロな石段を上がる。小さな待合室の手前には桜の木が1本あって、春先はさぞや絵になるだろう。

 

映画『RAILWAYS』の主人公の故郷の駅という設定で、映画の舞台としてもぴったりの駅だ。国道側から見ると草が生い茂りホームが良く見えないが、裏に回ってみるとこの駅の魅力が分かるはずである。

↑伊野灘駅に近づく3000系(すでに引退)。写真の左下から駅ホームに入る。右側には国道431号が並行して走っている

 

【ばたでん旅が続く③】北松江線のハイライト!宍道湖の美景

一畑口駅から伊野灘駅を過ぎてしばらくは、右手に宍道湖を横に見ての行程となる。あくまで国道431号越しだが、国道よりも線路が高い位置を通っている区間からは、湖の眺望がよりきれいに見える。

 

周囲約45kmの宍道湖は全国で7番目に大きな湖とされる。淡水湖ではなく、わずかに塩分を含む汽水湖で、他では見られない魚介類が生息している。収穫されるのはスズキ、シラウオ、コイ、ウナギ、モロゲエビ、アマサギ、シジミ。この7つの魚介類は「宍道湖七珍(しんじこしっちん)」と呼ばれ、珍重されている。

 

一畑電車の車内からも、小船が係留されている港が見える。見る場所によって宍道湖の景色が微妙に異なり、湖ならではの穏やかな風景が続く。

↑宍道湖の風景は場所ごとに趣が異なる。写真は津ノ森駅〜高ノ宮駅間で、湖畔に小船が一隻のみ引き上げられていた

 

北松江線は伊野灘駅〜津ノ森駅間で出雲市から松江市へ入る。津ノ森駅近くには「ワカサギふ化場」もあり、小船が何艘も係留されている様子が車内から見えた。

 

宍道湖を見ながら進むと、松江フォーゲルパーク駅に到着した。駅の向かいに「松江フォーゲルパーク」の入口があり、駅前が同パークの駐車場になっている。“湖畔に広がる花と鳥の楽園”がPR文句で、国内最大級の大温室には一年を通して花が満開で、約90種類の世界中の鳥たちともふれあうことができる。入園料は大人1500円で、開園は9時〜17時(4/1〜9/30は17時30分まで)、年中無休で営業している。何より駅前というのがうれしい。

 

松江フォーゲルパーク駅、秋鹿町駅(あいかまちえき)、長江駅と、宍道湖の眺めを楽しみながらの旅が続くが、長江駅を過ぎると車窓風景が変わっていく。

↑秋鹿町を発車して長江駅へ向かう5000系。宍道湖側から国道431号、一畑電車、そして民家が並ぶ風景がしばらく続く

 

長江駅を過ぎると北松江線は湖畔から離れ、朝日ヶ丘駅へ到着する。駅の北側には新興住宅地が連なり、南には家庭菜園が楽しめる湖北ファミリー農園という施設も広がる。

 

【ばたでん旅が続く④】最後の一駅間に沿線の魅力が凝縮される

朝日ヶ丘駅の次は松江イングリッシュガーデン駅という、観光施設の駅名となっている。当初、庭園美術館が設けられたが、後に日本有数のイングリッシュガーデンに模様替えされた。だが、現在は同ガーデンが休園となり再開の目処はたっていない。同沿線では「松江フォーゲルパーク」があり、なかなか営業面での難しさがあったのかもしれない。なおガーデンに隣接するカフェレストランなどは営業している。

 

松江イングリッシュガーデン駅から、終点の松江しんじ湖温泉駅まで4.3kmとやや距離がある。松江イングリッシュガーデン駅付近に建ち並んでいた民家は途切れ、再び国道431号と並行して北松江線が走るようになる。宍道湖が南西側に位置し、天気の良い日中は光が順光になるため、湖面と湖を挟んだ対岸が良く見渡せる区間となる。この駅間は変化に富み、北松江線の魅力が凝縮されているようだ。

↑松江イングリッシュガーデン駅〜松江しんじ湖温泉駅間を走る2100系(色変更前のもの)。宍道湖の風景もこのあたりが見納めとなる

 

再び住宅地が見え始めると、間もなく湖側に大型の温泉ホテルが建ち並び始め、電車は終点の松江しんじ湖温泉駅のホームに滑り込んだ。始発の電鉄出雲市駅からは約1時間、一畑口駅からは約30分だった。

 

【ばたでん旅が続く⑤】駅前に足湯がある松江しんじ湖温泉駅

松江しんじ湖温泉駅はJR山陰本線の松江駅に比べて、市内の主な観光スポットに近い。まずは松江しんじ湖温泉街がすぐそばだ。加えて宍道湖畔の千鳥南公園までは徒歩3分あまり。同公園内には「耳なし芳一」像や、松江と縁が深い小泉八雲文学碑などが立つ。

 

松江のシンボルでもある、現存天守が残る国宝「松江城」には駅から市営バスの利用で約5分(徒歩で17分ほど)、松江城を囲う堀をめぐる「堀川遊覧船」の大手前広場乗船場までは徒歩で約15分ほどだ。

↑北松江線の終点、松江しんじ湖温泉駅。駅前に足湯も設けられている。適温の程よい温泉が楽しめる(右上)

 

観光よりも鉄道に乗る旅を中心に楽しみたいという方には、次の電車が折り返すまでの約15〜30分の時間を利用して、松江しんじ湖温泉駅のすぐ目の前にある無料足湯を利用してはいかがだろう。「お湯かけ地蔵足湯」と名付けられた湯で、泉質は低張性弱アルカリ性高温泉で浴後には肌がすべすべになるだろう。毎週、月・火・木・土曜の朝6〜8時までが清掃時間の足湯で、清掃日であっても朝10時ごろには湯が満ちて使えるようになる。

↑松江しんじ湖温泉駅から徒歩約3分の千鳥南公園から眺めた宍道湖。同公園への途中に温泉ホテルが建ち並ぶ(右上)

 

↑松江しんじ湖温泉駅からは堀川遊覧船や松江城(左上)といった観光スポットも近い。松江城天守は1611年に築城され国宝に指定される

 

【ばたでん旅が続く⑥】大社線高浜駅近くで見つけた赤い鳥居群

ここからは川跡駅に戻って大社線の沿線模様を見ていこう。大社線を走る電車は土日祝日と平日でかなり異なるので注意が必要になる。土日祝日の日中は、松江しんじ湖温泉駅と電鉄出雲市駅から出雲大社前駅行きの直通電車が多くなる。一方、電鉄出雲市駅から松江しんじ湖温泉駅へ、また松江しんじ湖温泉駅から電鉄出雲市駅へ向かう場合には、川跡駅での乗換えが必要になる。平日は川跡駅〜出雲大社前駅間を往復する電車が大半となる。

↑川跡駅を出発、出雲大社前駅方面へ向かう7000系。観光シーズンを除く平日の日中は一両で運転される電車が多くなる

 

川跡駅を発車した大社線の電車は、北松江線と分かれ西へ向かうと、広がる水田と点在する集落が連なる。次の駅は高浜駅だ。電車好きは高浜駅に到着する前、進行方向左手に注目したい。ここに一畑電車の往年の名車、デハニ50形2両が停まっている。保育園内で静態保存されているもので、一両はオレンジ色に白帯、もう一両はクリーム色に水色帯という、それぞれ出雲路を飾ったデハニ50形カラーで残されている。

 

高浜駅を発車したら進行方向左手に注目したい。小さめの赤い鳥居が並ぶ一角がある。筆者も気になり帰りに訪ねてみた。最寄りの高浜駅から徒歩10分、距離で800mほどある粟津稲生神社(あわづいなりじんじゃ)の赤い鳥居だった。

↑粟津稲生神社の赤鳥居と7000系を写してみた。鳥居の先の踏切は警報器がないが、最寄りの踏切の警報音で電車の接近が分かる

 

参道には赤い鳥居が20数本連なっている。その先に警報器・遮断器のない踏切があり、踏切を渡って社殿へ向かう。この赤い鳥居越しの写真が“映える”と話題になり、筆者が訪れた時にも写真を撮りに来た人たちが見受けられた。ちなみに、粟津稲生神社は京都にある伏見稲荷神社の分社として建立されたと伝えられる。伏見稲荷神社も境内に多くの赤い鳥居が立つことで知られるが、こちらもそうした歴史が息づいているわけだ。稲荷神社は全国に多く設けられるが、稲生と書いて「いなり」と読ませる神社は全国で約20社しかないそうである。

 

なお、粟津稲生神社の赤い鳥居は今年の6月15日に建て直された。本数も増え赤さが増し、より“映える”と思う。

 

【ばたでん旅が続く⑦】出雲大社前駅近く背景の山地が気になる

赤い鳥居が見えた次の駅が遙堪駅(ようかんえき)だ。難読駅名で、語源はどこにあるのか調べてみた。このあたりは、進行方向右側に山地が連なって見えてくるようになる。北山山地と呼ばれる低山帯で、そこにかつて菱根池という大きな池があった。“遙かに水を湛(たた)える”が変化して遥堪となったそう。駅名はこの地名に由来する。ちなみに駅は現在、出雲市常松町にある。

 

遥堪駅の次は浜山公園北口駅で、駅名どおり南側に競技場、野球場などが設けられた浜山公園がある。遥堪駅の駅名の元になった北山山地が北側に連なっている。この山地の特長として麓まで平地が広がり、すそ野から急に盛り上がるように急斜面の山々がそびえ立っているところである。

 

この独特な地形はどこかで見た記憶があると思ったのだが、新潟県を走る越後線でも同じような地形を見ることができた。山の麓には彌彦神社(やひこじんじゃ)という古社があった。一畑電車大社線でも同じようにこの先、出雲大社という古社がある。

↑出雲大社前駅の手前に流れる堀川を渡る1000系。この橋梁の先に弥山(みせん)標高506mが見えている

 

神が造りあげたような神々しい山の造形美があり、その麓には古社が設けられているのである。ご神体との絡みもあり、後ほど山と古社の関係を明かしてみたい。

 

連なる北山山地のなかで大社線からも良く見える山が、弥山(みせん)だ。出雲大社の東側に弥山登山口がありハイキングに訪れる人も多い。

 

【ばたでん旅が続く⑧】登録有形文化財でもある出雲大社前駅

川跡駅から11分で出雲大社前駅に到着する。1930(昭和5)年2月2日に開業した駅で、当時の名前は大社神門駅(たいしゃしんもんえき)だった。駅舎は当時のままの洋風な造りで、待合室は上部の明かり取り用のステンドグラスが取り付けられている。こうした姿が歴史的・文化的にも貴重とされ、1996(平成8)年12月20日には国の登録有形文化財に登録された。

↑大社線の終点駅・出雲大社前駅。趣ある建物を記念撮影する人も多い。登録有形文化財を示すプレートが入口右側に付けられている

 

出雲大社前という駅名どおり、出雲大社の最寄り駅だ。神門通りに面していて、この通りを北に徒歩で5分ほどのところに、出雲大社の正門にあたる「勢溜の大鳥居(せいだまりのおおとりい)」が立つ。

↑出雲大社前駅の駅舎内。ドーム形の屋根がおもしろい。ステンドグラス越しに明かりが差し込むお洒落な造りだ

 

【ばたでん旅が続く⑨】旅の定番といえば出雲大社に出雲そば

出雲大社は「神々の国」ともいわれる出雲の象徴である神社だ。「古事記」「日本書紀」などでも触れられ、大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)を祀る。まるで大社を守るように周囲は北山山地の緑におおわれている。

 

背景を山に囲まれた古社は、他にも新潟県の彌彦神社、広島県の宮島・厳島神社などが挙げられる。厳島神社は弥山(みせん)、彌彦神社は弥彦山である。出雲大社の北東側にも弥山という山がある。

 

みな「弥」が付く山に守られ鎮座していた。神社は神が降臨して宿る物が「ご神体」とされ、欠かすことができない大切なものとされる。彌彦神社のご神体は弥彦山(神体山とも呼ばれる)、厳島神社は宮島自体、とりわけ弥山がご神体とされる。すると、出雲大社のご神体は弥山かと思いきや、こちらはご神体は明らかにされていない。

 

古くから偉人英傑たちが出雲大社を訪れ、ご神体を見せて欲しいと願ったが、これまで明らかにされなかった。出雲大社のご神体は剣やアワビ、蛇、鏡という説が伝わる一方で、山や木といった森羅万象自体がご神体とも言われている。神社の裏手には八雲山という名の山がそびえ、ここは神職すら入ることができない禁足地となっていて、こちらがご神体なのではとも言われている。いずれにしても、古社を取り囲む山との関係はより緊密であることは間違いない。

 

そしてご神体が明らかにされないことも出雲大社を神秘的にさせている一つの要素なのかもしれない。

↑神門通りの突き当たりにある勢溜の大鳥居。この大鳥居から拝殿までは約500mの距離がある

 

出雲大社の門前町にあたる神門通りは700mほどの通り沿いに老舗宿や食事処が建ち並ぶ。食事処で人気なのはやはり出雲そばだろう。出雲大社の門前町のみに限らず、出雲地方で親しまれる郷土料理で、日本三大そばの一つとされる。

 

出雲でそばが広まった理由としては、松江藩の初代藩主の松平直政(まつだいらなおまさ)が、三代将軍家光の時代に国替えされたことに起因するとされる。直政はもと信州松本藩の藩主だったこともあり、蕎麦好きが高じて信濃からそば職人を連れてきた。もともと奥出雲(出雲の南側一帯)は痩せた土地が多かったことも、そば栽培を盛んにさせた理由だとされる。

 

出雲そばでは割子そば、釜揚げそばといった独特な食べ方が広まり、もみじおろしや、辛味大根の大根おろしを薬味にして楽しまれる。

↑出雲そばは割子そばという食べ方が一般的。いろいろな薬味をのせ、つゆをかけてそれぞれ食べる 写真は一例

【ばたでん旅が続く⑩】鉄道好きならば寄りたい旧大社駅だが……

今回の出雲への旅で、どうしても訪ねてみたいところがあった。旧国鉄大社線の終点、旧大社駅である。大社駅は1912(明治45)年6月1日、大社線の開通とともに開業した。その後1924(大正13)年2月13日に2代目駅舎が竣工した。現在残るのは98年前に建築された2代目駅舎で、出雲大社を模した寺社づくりとされる。賓客をもてなすために荘厳な造りの2代目が建てられたように思われる。1990(平成2)年4月1日に路線が廃線となった後に、駅はJR西日本から旧大社町に無償貸与された。2004(平成16)年には重要文化財に指定、また2009(平成21)年には近代化産業遺産に認定された。

 

2021(令和3)年2月1日からは保存修理(仮設・解体)工事を開始したと聞いていた。筆者は修理以前に訪れたことがあり、現在どのようになっているのか確かめておきかった。

 

旧大社駅は出雲大社前駅から神門通りを南へ約11分900mの距離にある。駅舎は全体がすっぽりとカバーに覆われていて、残念ながら中をみることができなかった。前回撮影した写真があるので掲載しておきたい。左右対称の寺社建築で、駅舎内も素晴らしい出来だった。保存修理工事は2025(令和7)年12月20日までかかるとされる。

↑重要文化財の指定を受けた駅舎は東京駅丸の内駅舎と門司港駅舎、そして旧大社駅のみ。現在は工事中で全体が覆われている(左上)

 

なお、駅舎部分のみ覆われているが裏の一部残されているホームと線路へは、裏手から立ち入ることができる。駅舎側のホームは工事が行われおり、見学の際には工事関係者の指示に従って欲しいとのことである。構内にはD51形774号機も保存されていた。このD51形も出雲市では駅の保存修理に合わせて大規模修繕を進める予定と発表している。

 

保存修理にはだいぶ時間を要するようだが、修理が終わったらぜひまた訪ねたいと思う。

↑旧大社駅駅舎は高い天井で漆喰壁、乗車券売り場など、大正期の駅の様子が残っている 2011(平成23)年8月1日撮影

 

この旧大社駅から出雲大社の勢溜の大鳥居まで16分、約1.2kmと距離がある。一畑電車の出雲大社前駅のように近いところになぜ駅を造らなかったのか疑問に感じるところだ。出雲大社からの遠さも大社線がいち早く廃止になった一因だったように思う。

 

最後に出雲路からの帰路の鉄道利用に関して、注意したいことがあるので触れておきたい。

 

電鉄出雲市駅に接続するJR山陰本線の出雲市駅だが、同駅では「みどりの窓口」が廃止された。近距離区間の券売機と新幹線・在来線特急・乗車券券売機と、みどりの窓口に代わり「みどりの券売機プラス」が設置されている。複雑な経路の乗車券の購入や券売機を扱い慣れない場合には「みどりの券売機プラス」を利用してのオペレーターとの会話が必要になる。(営業時間4時〜23時・オペレータ対応時間5時30分〜23時)。

 

「みどりの券売機プラス」を利用してスムーズに購入できれば良いが、混みあう時間帯は待たされることも多い。出雲市駅は特急「やくも」や特急「サンライズ出雲」といった長距離旅客列車の始発駅だけに「みどりの窓口」が必須と思われ、残念に思う。

 

筆者は出雲市駅から、やや複雑な行程をたどって東京へと考えていたので、旅程を変更して松江駅へ立ち寄り、こちらの「みどりの窓口」で購入をしたが、手間がかかった。事前に他の駅で購入しておくか、あらかじめJR西日本ネット予約「e5489」等で列車の予約しておき、受取だけを出雲市駅の券売機で済ませるなど、事前に対策をしておいたほうが良さそうに感じた。

 

最大95%オフ! スポーツ自転車専門店「ワイズロード」のブラックフライデーは5万点以上のアイテムを用意

ワイ・インターナショナルは、「年に1度のもっともお得な10日間 BLACK FRIDAY SALE」を、スポーツ自転車専門の「ワイズロードオンライン」で11月18日20時~11月28日10時まで、全国の「ワイズロード」直営店舗で11月19日~11月27日まで実施します。

 

同セールは、対象アイテムが昨年の合計約4万点から5万点以上に増加。国内外の一流ブランドの完成車・フレームや、ウェア、アクセサリーなど各種アイテムを最大95%オフで提供します。

 

期間中は、今年から開始したワイズロードオンラインでのチャット接客に対応するスタッフを増員し、お客様のお買い物をサポート。「Y’s Club」会員限定で、ワイズロードオンラインおよびワイズロード各店舗で購入した人の中から、抽選で331名に最大10万ポイントをプレゼントします。

東武の福袋&ブラックフライデーは、新型特急「スペーシア X」初日のプレミアム乗車体験!

東武鉄道は、2023年7月15日に運行を開始する新型特急「スペーシア X」の運行初日に乗車できるプレミアムな旅行商品を、東武トップツアーズの企画・実施のもと、「東武百貨店 池袋店」と「東武ストア」で抽選販売を行ないます。

↑新型特急「スペーシア X」

 

東武百貨店 池袋店では12月1日~2023年1月3日までの期間に福袋として、東武ストアでは11月25日までの期間にブラックフライデーの商品として販売。いずれも抽選で当選者を決定します。

↑スペーシア X「コックピットスイート」

 

「東武百貨店 池袋店の福袋」は、スペーシア Xの運行初日に、一番列車に乗車できるだけでなく、一番列車の中に一つしかない最高級個室「コックピットスイート」に乗車できるという福袋で、2泊3日「ザ・リッツ・カールトン日光」の中禅寺湖ビュースイートルーム宿泊付きプランです。価格は1組2名分で80万円。同プランには東武百貨店の商品券5万円分のほか、日光旅行を贅沢に堪能できるプレミアム特典も予定しているとのこと。

↑「ザ・リッツ・カールトン日光」中禅寺湖ビュースイートルーム

 

「東武ストアのブラックフライデー商品」は、「スペーシア Xの運行初日に乗車できる」というプレミアムな商品。個室の「コンパートメント」に乗車し、「日光金谷ホテル」などに宿泊できる2泊3日のプランで、価格は1名あたり18万円です。

↑スペーシア X「コンパートメント」

スバル「BRZ」は走ることを趣味とする大人のおもちゃとして最高の一台!

「若い人が買える国産スポーツカー」というカテゴリーも今はあってないようなもので、スポーツクーペが各メーカーから雨後のタケノコのようにうじゃうじゃと発売されていた80年代を懐かしむ中年世代は多い。しかしそんな時代だからこそ輝くのが、貴重なコンパクトサイズのスポーツクーペ、スバル「BRZ」だ。初代型のみで消えることなく、昨年、見事なフルモデルチェンジを遂げた同車の魅力を探る!

 

■今回紹介するクルマ

スバル/BRZ

※試乗グレード:R・6速MT

価格:308万円~343万2000円(税込)

 

BRZの乗り味は安定性の高いセッティング

国産スポーツカーファンにとって待望のクルマとして、初代モデルが誕生したのは2012年。BRZは、スポーツカーにとって冬の時代に現れた救世主的存在だった。メーカー側の「若い人に乗って欲しい」という意図に反して価格はそれほどこなれていなかったが、それでもクルマ好きにとっては貴重な存在、通好みの一台としてもてはやされてきた。その流れを受けて、2021年夏、満を持して登場したのが2代目たる、この新型BRZである。

 

先代型同様トヨタとの共同開発モデルだが、クルマの心臓部たるエンジンはスバルの水平対向型が採用されており、メカニズム的にはスバルの存在感が大きい。トヨタ版は「GR86」で、車両のベースは同じ。バンパーの造形などデザインが異なる程度で、エンブレムを見なければ一般の人に見分けはつかないかも。乗り味についても、BRZは安定性の高いセッティング、GR86は回頭性が高いセッティングとされているが、一般人が一般道を走って判別できるほどの違いはない。

↑「R」は17インチアルミホイール(スーパーブラックハイラスター)を履く。空力性能を考えてデザインされたフロントフェンダーダクトがIt’s a cool!

 

↑エクステリアデザインにおけるトヨタGR86との違いを見つけるならばバッジが早いです! オプションで上部に装着するトランクスポイラーも用意されています

 

スポーツカーということで走りがいいのは当たり前だが、なんといってもコントローラブルなところが美点である。先代型から軽量化を進め、ボディ剛性も高めるなどして、ドライバーが意のままに操れる、クルマとしての素性の良さを向上させており、運転することの喜びをしっかり味わえる。これは運転のプロなどでなくても感じられる部分なので、試乗できる機会があればぜひ試してみてほしい。

 

ボディバランスが良く、走りはとにかく軽快!

フロントにエンジンを搭載し、リアタイヤで駆動するFR方式を採用することで、ボディバランスが良く、走りはとにかく軽快だ。乗り心地も悪くないし、それどころか慣れてくると快適にさえ感じられる。高速走行中の安定性も高めで、今回は一般道と高速道路のみの試乗となったが、不快感を感じるようなシーンはほぼなかった。同クラスの従来のスポーツカーと比べると、プレミアムな雰囲気さえ感じられるほど完成度の高い足まわりである。

 

水平対向4気筒の「フラットフォー」エンジンは、先代型の2.0Lから2.4Lへボリュームアップしたことで、全領域でトルクが厚くなった。先代型では若干感じられた出足のパワー不足感が解消されている。ターボではなくなったことで出力のメリハリが減り、そのぶん低回転域から滑らかに吹け上がっていく、エンジンを回した時の気持ちよさをしっかり味わえるようになった。さらに高回転域でも加速の伸びがよく、エンジン回転の上昇に合わせてデジタルサウンドを再生するサウンドジェネレーターによる演出音も聞くことができる。

↑エンジンは全グレード共通で、排気量2.4Lの水平対向4気筒自然吸気となる

 

トランスミッションは6速ATと6速MTがラインナップされている。当代、免許証取得者の70%以上がAT限定で、新車販売の約98%がAT車だと言われているが、スポーツカーにMTがなくてはやはり寂しい。選ぶか選ばないかは別の問題として、やはりMTが希少なこの時代になっても、ラインナップされていることに価値がある。ATの仕上がりも素晴らしく、MTを選ばずとも十分走りは楽しいのだが、同車の操作フィールをさらに深く味わえるのはMTということで間違いない。

↑燃費はMTが11.8~12.0km/L、ATが11.7~11.9km/Lとなっている。(WLTCモード)

 

インテリアはスポーツカーらしく無骨で愛想のないデザインだが、包まれ感に満ちている。これをよく捉えるか悪く捉えるかはドライバー次第で、純粋に運転を楽しみたいドライバーにとっては最高に違いない。愛想のないシンプル系デザインといえば、エクステリアもそういった方向性なのだが、全体的なフォルムは塊感があって、いかにもよく走りそうな雰囲気が漂っている。

↑インストルメントパネルは、景色が見やすく、路面に対する車両の傾きも直感的に把握しやすいよう、水平基調にデザイン。デジタル表示によりグラフィカルに整理された多機能型メーターを装備しています

 

↑ブラックを基調にシートやドアトリムのレッドステッチによるアクセントで高揚感を演出

 

BRZは(GR86も同様に)カスタマイズ性もウリにしている。個性が尊重されるこの時代、買ってプレーンな状態のまま楽しむのもありだが、自分だけのカスタマイズを施して、“オレだけ仕様”にするのもまた楽しい。当然、さまざまなカスタマイズパーツが市販されているし、交換もしやすいよう設計されている。

↑トランクルームはVDA法(ドイツの自動車工業会が規定するトランクルーム内の容量測定方法のこと)で237Lの容量を確保。フロア下には工具や小物の収納に便利なサブトランクも装備しています

 

現在の国産スポーツカーはあまりにも選択肢がすくない。「GT-R」や「スープラ」は乗り出し500万円を超えてしまうし、「フェアレディZ」や「シビックタイプR」に関しては発売後にすぐ売り切れてしまった(2022年10月現在)。300万円前後で新車が買える普通車のスポーツモデルといえば、このBRZとGR86の兄弟モデルとマツダのロードスターくらいだ(あるいは軽のコペンなら200万円前後だが)。300万円と言っても若者が捻出するには大きな金額だが、同クラスとなるポルシェのスポーツクーペ「ケイマン」は乗り出し800万円である。そう思えば、クルマで走ることを趣味とする大人のおもちゃとして最高の一台ではないだろうか。

 

SPEC【R・6速MT】●全長×全幅×全高:4265×1775×1310㎜●車両重量:1260㎏●パワーユニット:2387㏄水平対向4気筒エンジン●最高出力:235PS/7000rpm●最大トルク:250Nm/3700rpm●WLTCモード燃費:12.0㎞/L

 

文/安藤修也 撮影/木村博道

 

 

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静かでなめらかな走りに力強さもあり! 三菱「ek クロス EV」は軽EVのトップクラスの充実ぶり

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」でピックアップするのは、軽自動車のEV作りで豊富なノウハウを持つ三菱の最新作となるekクロスEV。堅実なクルマ作りで、時代を反映するモデルの出来映えに期待大!

※こちらは「GetNavi」 2022年11月号に掲載された記事を再編集したものです

 

モビリティ新時代の到来を予感させる

【EV】

三菱

eK クロス EV

SPEC【P】●全長×全幅×全高:3395×1475×1655mm●車両重量:1080kg●パワーユニット:電気モーター●バッテリー総電力量:20kWh●最高出力:64PS/2302〜10455rpm●最大トルク:19.9kg-m/0〜2302rpm●一充電最大航続距離(WLTCモード):180km

 

静粛だが力強い走りはEVに対する期待値通り

三菱と日産の共同開発で生まれた軽自動車規格のピュアEVが、揃って登場した。三菱版の位置づけとしてはeKシリーズの一員となり、内外装デザインは若干の差別化のみ。エクステリアはeKクロスならではのSUVらしくたくましいデザインが、EVになっても踏襲されている。

 

その走りは、非常に静かで滑らかだ。車両重量はガソリン車に対して200kgほど重くなったが、最大トルクがほぼ倍増しているので十分に力強く、レスポンスも俊敏でダイレクト感がある。また、バッテリーを車体の中央寄りの低い位置に搭載するため、重心が低く操縦安定性にも優れる。先進運転支援装備も、軽自動車としてはトップクラスの充実ぶりだ。

 

一充電あたりの最大航続距離は180km。大型のEVと比較すれば控えめだが、週末のドライブではなく日常の足として使うなら問題はない。実際、使ってみると軽自動車とEVというのは、実はかなり相性が良いものだと思えてくる。軽自動車の使用環境まで考慮すると、今後のモビリティとして注目すべき存在と言える。また、一見すると車両価格は安くないが、補助金を活用すれば実質的負担は売れ筋の軽自動車と大差ないことも、要注目ポイントとして念を押してお伝えしておく。

 

[Point 1]随所に電気駆動モデルらしさが見られる

正面のメーターには、7インチの液晶ディスプレイを採用。バイワイヤーのシフトセレクターやタッチパネルの操作系など、随所に電気駆動モデルらしさが散りばめられる。

 

[Point 2]SUVテイストをガソリン仕様から継承

外観はSUVテイストをeKクロスから受け継ぐ仕立て。ボディカラーがモノトーン5色、2トーン5色の全10色。駆動は2WDのみで、グレードは2タイプとシンプル。

 

[Point 3]広さはトップレベル!

前後スライド機構を持つ分割可倒式の後席をアレンジすれば、サイズ以上の使い勝手を実感できる荷室。容量もトップレベルだ。

 

[Point 4]充電環境にはフル対応

充電口は1か所にまとめられる。200Vの普通充電では約8時間で満充電に、急速(30kW以上)では約40分で80%までの充電が可能。

 

[Point 5]室内空間はほぼ同等

シート地はファブリックが標準だが、明るい色合いの合皮+ファブリックのコンビも選択可能。EV版でも室内空間はガソリン仕様と比較して遜色のない広さだ。

 

[ラインナップ](グレード:パワーユニット/駆動方式/税込価格)

G:電気モーター/2WD/239万8000円

P:電気モーター/2WD/293万2600円

 

文/小野泰治、岡本幸一郎 撮影/郡 大二郎、市 健治

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トヨタ新型「シエンタ」は買って絶対に間違いのない、完全無欠のファミリーカー

2022年8月、トヨタのコンパクトミニバン「シエンタ」がフルモデルチェンジして、3代目になった。そして、なにを隠そう自動車評論家の私、清水草一は2代目シエンタの元オーナー。その元オーナーから見て、新型シエンタの進化の度合いはどうなのか? 試乗レビューした。

 

【今回紹介するクルマ】

トヨタ/シエンタ

※試乗グレード:ハイブリッド・X(7人乗り)・2WD

価格:195万円~310万8000円(税込)

 

清水的に新型のデザインはかなりストライク!

全方位的に正常進化しております! 私が先代型のシエンタを買ったのは、なによりもスタイリングが気に入ったからだった。先代シエンタは、明らかにシトロエンのデザインの影響を受けていた。シトロエンっぽいアバンギャルド感のある、かなり尖ったデザインで、当時のトヨタとしては画期的だったのである。ボディカラーも、蛍光イエローをはじめとして攻めたラインナップが揃い、しかも2トーンが主役だった。私は迷わず蛍光イエローと黒の2トーンを選びました。

 

新型のデザインはどうかというと、シトロエンというよりもフィアットやルノーっぽく、アバンギャルドというよりもポップでお洒落さんである。デザインの方向性は微妙に変わっているが、ラテン系(イタリアやフランス)の方向性はそのままで、高級感よりもセンスの良さや親しみやすさでアピールしている。個人的には、かなりストライクだ。

↑ヘッドライトは、1灯の光源でロービームとハイビームの切り換えが行えるBi-Beam(バイ ビーム)を採用

 

↑ライン状に発光するテールランプとドット柄ストップランプが印象的なリアのコンビネーションランプ。蜂の巣みたい

 

先代シエンタのルックスは、ちょっと頑張って背伸びした感がなきにしもあらずだったが、新型は、ラテン系のデザインを完全に着こなしている。ボディカラーも、カーキなど渋いアースカラーが中心で、日本の風土に馴染んでいるような気がする。

 

先代シエンタが登場してからの7年間で、トヨタのデザイン力は目を見張るほど向上し、明らかに自信を付けている。絶好調時の打者はボールが止まって見えると言うが、そういう状態ではないだろうか?

 

5ナンバー枠を守ったボディサイズや、室内のパッケージングは、先代型からあまり変わっていない。トヨタによれば、「ボディサイズを変えることなく2列目スペースを大幅に拡大。1列目~2列目席間距離が80mm、ヘッドクリアランスが25mm広くなり、ノアやヴォクシーと同等サイズのスペースを確保できました」とのことだが、先代型オーナーにも、その点はあまり実感できなかった。

↑ステアリングヒーターを装備。一方、直射日光を遮る「後席サンシェード/セラミックドット(スライドドアガラス)」(Zに標準装備)は、後席の人に快適なひとときを与えてくれる

 

シエンタは、先代型ですでに究極とも言えるパッケージングを実現しており、全長わずか4200mm台のボディの中に3列シートを飲み込ませ、しかも3列目でもギリギリ大人が座れる程度の広さを確保していた。そこからさらに大幅に改良するなど、物理的に不可能なのだ。

↑シートのアレンジ次第で収納スペースもしっかり確保できる。ベビーカーや自転車なども収納できるぞ

 

このクラスのミニバンの3列目シートは、基本的に緊急用。いざというときだけ使うもので、普段は収納し、そのぶんをラゲージスペースとして使うのが合理的だ。

↑7人乗りの場合のラゲージスペース。開口部が広くて低床のラゲージで、荷物の積み込みがラクラク! 荷室高1105mm、荷室フロア高505mm、荷室長1525mm(セカンドシートクッションからの長さ)、荷室長990mm(シートスライド最前端時)

 

シエンタの3列目シートは、先代モデルから2列目の下に「ダイブイン」させることが可能だったが、新型もそれを踏襲している。この機能は、改善の余地がないほど素晴らしい。ライバルのホンダ・フリードは、3列目シートを跳ね上げて収納するタイプなので、そのぶんラゲージの天井や左右寸法が制限される。3列目ダイブイン収納は、シエンタ伝統の美点なのである。

↑「天井サーキュレーター」(オプション)は、車内の空気を効率的に循環させ、室内を均一に快適にしてくれる

 

走りが気持ち良いし、アクセルを軽く踏み込んだ時の加速感も力強い

では、走りはどうか。試乗したのは、ハイブリッドモデル。3気筒1.5Lエンジンとモーターを組み合わせた、トヨタ伝統のTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)である。先代シエンタのハイブリッドは4気筒の1.5Lだったが、今回は3気筒。より効率が高められている。

 

ヤリスから採用されたこの3気筒ハイブリッドシステムは、実に恐るべきパワーユニットである。3気筒と言ってもフィーリングに安っぽさは微塵もなく、逆にコロコロと適度なビートを奏で、回転フィールが心地よい。4気筒時代と比べても、断然走りが気持ち良くなっているし、アクセルを軽く踏み込んだ時の加速感も力強くなった。

↑試乗車は1.5Lハイブリッドシステム。走りの良さと優れた燃費性能を両立している

 

シエンタハイブリッド(7人乗り・X)の車両重量は、1350kg(FFモデル)。同じパワーユニットを積む「ヤリスハイブリッド」に比べると約300kg重い。そのぶん加速が遅いわけだが、日常使用で遅さを感じることは皆無だ。さすがにアクセルを床まで踏み込んだ時の加速感は、「あれ、こんなもん?」とはなるが、それは車両重量を考えれば仕方ない。とにかく普通に使うかぎり、「加速が快感です!」とすら言える。

 

足まわりは、やや引き締まっていてスポーティ。低速域では、路面からの突き上げがそれなりにある。このクルマの用途を考えれば、もうちょっとソフトでもよかった気はするが、このサスペンションのしっかり感が、高速道路では安心感に変わる。ある程度速度を上げると、乗り心地の固さはまったく気にならなくなり、安定感が増していく印象だ。

↑地上から330mm「低床&フラットフロア」(Zに標準装備)を採用。高さはもちろん、段差もなくフラットでお子さんやお年寄りの方にも優しく、安心して乗り降りすることができる。最小回転半径は5.0mだ

 

新型シエンタは、トヨタの新世代ボディ骨格であるTNGAが採用されている。TNGA採用車は、どれもこれも走りの質が見違えるほどよくなっているが、シエンタも例外ではない。先代型も悪くはなかったが、新型はさらに一、二段向上している。

 

燃費は、ハイブリッドのFF(2WD)モデルで、 WLTCモード28.5km/L。ヤリスハイブリッドの36.0km/Lに比べると大幅に見劣りするが、実燃費で20km/L程度は楽勝で、ちょっとエコランに徹すれば30km/Lくらいまで伸びる。これ以上燃費が良くても、あまり意味はないかも……と言うほどの低燃費だ。

 

大人が7人乗れて、これだけ燃費がよければ、ヘタなEVよりはるかにエコ。新型シエンタは、買って絶対に間違いのない、完全無欠のファミリーカーではないだろうか。

 

SPEC【ハイブリッド・X(7人乗り)・2WD】●全長×全幅×全高:4260×1695×1695㎜●車両重量:1350㎏●パワーユニット:1490㏄直列3気筒エンジン●エンジン最高出力:91PS/5500rpm●エンジン最大トルク:120Nm/3800-4800rpm●フロントモーター最高出力:80PS●WLTCモード燃費:28.5㎞/L

 

撮影/池之平昌信

 

 

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この時代に増便?平地なのにスイッチバック? ナゾ多き出雲の私鉄「ばたでん」こと一畑電車の背景を探る

おもしろローカル線の旅98〜〜一畑電車(島根県)〜〜

 

全国の鉄道会社が3年間にわたるコロナ禍で苦しみ、列車本数を減らすなか、逆に増発を行った地方鉄道がある。それは島根県の一畑電車(いちばたでんしゃ)だ。

 

ハロウィン期間中にはヒゲ付き電車を走らせるなど、ウィットに富んだ元気印の鉄道でもある。そんな一畑電車の歴史や車両、路線にこだわってめぐってみた。

*2011(平成23)年8月21日、2015(平成27)年8月23日、2017(平成29)年10月2日、2022(令和4)年10月29日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
今も各地を走り続ける東急「譲渡車両」9選〈東海・中部・西日本版〉

 

【一畑電車の旅①】ユーモラスな出雲の電車「ばたでん」

全国旅行支援の効果もあるかも知れないが、一畑電車は毎週末、かなりの賑わいをみせている。一畑電車の会社の愛称は「ばたでん」。会社ホームページにも「ばたでん」の名前がトップに入り、地元の人たちも「ばたでん」と親しげに呼ぶ。そんな一畑電車の概要をまず見ておこう。

 

路線と距離 一畑電車・北松江線:電鉄出雲市駅〜松江しんじ湖温泉駅間33.9km
大社線:川跡駅(かわとえき)〜出雲大社前駅間8.3km 全線電化単線
開業 1914(大正3)年4月29日、出雲今市駅(現・電鉄出雲市駅)〜雲州平田駅(うんしゅうひらたえき)間が開業。
1928(昭和3)年4月5日、小境灘駅(現・一畑口駅)〜北松江駅(現・松江しんじ湖温泉駅)の開業で北松江線が全通。
1930(昭和5)年2月2日、川跡駅〜大社神門駅(現・出雲大社前駅)が開業、大社線が全通
駅数 北松江線22駅、大社線5駅(起終点駅を含む)

 

一畑電車は電鉄出雲市駅〜松江しんじ湖温泉駅間を結ぶ北松江線と、川跡駅〜出雲大社前駅間を結ぶ大社線の2本の路線で構成されている。2本の路線は以前、ほぼ路線別に電車の運転が行われていたのだが、現在は北松江線から大社線への乗り入れが多く行われている。曜日によってその運用が大きく変わるので、利用の際は注意したい(詳細後述)。

 

【一畑電車の旅②】中国地方で唯一! 老舗の私鉄鉄道会社

一畑電車は、路面電車の岡山電気軌道や広島電鉄、第三セクター鉄道の路線を除けば中国地方で唯一の私鉄の鉄道路線である。その歴史は古く、今から108年前に一部路線が開業している。会社の創設は1912(明治45)年4月6日のことで、その時の会社の名前が一畑軽便鉄道株式会社だった。1925(大正14)年7月10日には一畑電気鉄道株式会社と会社名を改称している。

↑1928(昭和3)年、一畑電気鉄道発行の路線図。横長に広がる鳥瞰図で出雲大社、一畑薬師が大きく描かれている 筆者所蔵

 

2006(平成18)年4月1日に鉄道部門を分社化して一畑電車株式会社となったが、今も一畑電気鉄道という会社名は残り、一畑グループを統括する事業持株会社となっている。

 

掲載した古い路線図は昭和初頭のもので、当時人気があった金子常光という絵師の鳥瞰図が使われている。当時からPR活動にも熱心だった。鳥瞰図には出雲大社と共に一畑薬師(一畑寺)がかなりデフォルメされて大きく掲載されており、出雲大社とともに一畑薬師を訪れる人が多かったことをうかがわせる。

 

【一畑電車の旅③】なぜ“一畑”なのか? 会社名の謎に迫る

一畑電車はなぜ“一畑”を名乗るのだろうか。松江、出雲という都市があり、また出雲大社という観光地がありながら、あえて一畑を名乗った。これにはいくつかの理由があった。

 

かつて、北松江線の路線に一畑薬師(一畑寺)参詣用に設けられた一畑駅という駅があった。場所は現在の一畑口駅の北側、3.3kmの位置。ちなみに、以前は一畑口駅(当時は小境灘駅)から一畑駅まで電車が乗り入れており、一畑口駅が平地にもかかわらず進行方向が変わるスイッチバック駅となっているのはその時の名残である。

 

一畑口駅〜一畑駅間の路線は時代に翻弄される。戦時下、鉄資源に困った政府が乗車率の低い路線、時世にあわないと思われる全国の多くの路線を「不要不急線」として強制的に休止させ、線路の供出が行った。一畑口駅〜一畑駅も不要不急線の指定を受けて1944(昭和19)年12月10日に休止。路線が復活することはなく、1960(昭和35)年4月26日に正式に廃止となった。会社名が一畑となった理由のひとつには、この一畑駅があったことがあげられる。

↑昭和初期に発行された一畑駅の古い絵葉書。すでにこの一畑駅はない。停車する電車は今も残るデハニ50形だと思われる 筆者所蔵

 

しかし、調べてみると他にも理由があった。

 

一畑電車(一畑電気鉄道)の前身となる一畑軽便鉄道は、創設当時の大口出資者が経営する会社が破綻し、路線の開業計画が頓挫しかけた。そこで当時、鉄道敷設により参拝客を増やしたいと考えていた一畑薬師(一畑寺)が会社創設の資本金25%を負担して手助けした。また、出雲大社へ伸びる路線計画を国に提出した際、一度は官設の大社線が敷設されていたことから、競合路線として許可がおりなかった。しかし、一畑薬師に行くことを目的とした鉄道だということを強調したことで申請が通ったとされる。つまり一畑薬師(一畑寺)に、たびたび助けられていたわけである。 こうした要因が会社名に大きく影響したのだった。

 

一畑駅は廃止されたものの、会社創設期の縁もあり、長年親しまれてきた会社名は一畑のままになったわけである。

【一畑電車の旅④】86年ぶりの新車導入。古参車両も保存される

次に一畑電車を走る車両を紹介しておこう。一畑電車の車両はここ10年で刷新され快適になってきている。86年ぶりに自社発注の新車も導入された。4タイプが走っているが、まずは数字順にあげていこう。

↑一畑電車を走る4タイプの電車。2100系はヒゲらしき模様が付いているが、これはハロウィン期間中だったため

 

◇1000系

1000系はオレンジに白帯のカラーで2両×3編成が走る。このカラーはデハニ50形という古い車両のカラーがベースになっている。1000系は元東急電鉄の1000系で、東横線、乗り入れる東京メトロ日比谷線で活躍した車両だ。正面の形が当時と異なっているが、それは中間車を改造したため。中間車を先頭車とするため新たに運転席が取り付けられ、ワンマン化されて2014(平成26)年に入線した。

 

◇2100系

元京王5000系(初代)で、京王電鉄では初の冷房車両だった。一畑へはワンマン改造や台車の履き替えなどを行い、1994(平成6)年に導入された。現在はオレンジ一色に白帯を巻いた姿で走る。元京王5000系の導入車両のうち、一部の電車はリニューアルされ5000系となっている。

 

◇5000系

元京王5000系だが、正面のデザインや乗降扉を3つから2つに変更、また座席をクロスシートに変更している。車体のカラーは青色ベースの車両と、オレンジ色に白帯塗装の「しまねの木」という愛称の車両が走る。「しまねの木」は1席+2席のクロスシートが横に並び、対面する座席ごとに他のスペースと仕切るウッド柄のボックスで囲まれる構造となっていて、カップルやグループ客に人気が高い。

 

◇7000系

一畑電車としてデハニ50形以来、86年ぶりとなる新車で2016(平成28)年から導入された。1両の単行運転ができるほか、貫通扉を利用して2両連結で走ることができる。ベースはJR四国7000系で、電気機器はJR西日本225系のものを流用し、コスト削減が図られている。車体の色は白がベース、「出雲の風景」をデザインテーマにしたフルラッピング車両となっている。

 

ほかに静態保存および動態保存の車両について触れておこう。

 

◇デハニ50形

1928(昭和3)年〜1930(昭和5)年に導入された車両で、荷物室を持つために「ニ」が形式名に付いている。当時の新製車両で、2009(平成21)年3月まで現役車両として働いた。

 

今は一畑電車で2両が保存されている。1両は出雲大社前駅構内に保存されたデハニ52。デハニ50形の2号車で、駅に隣接した出雲大社前駅縁結びスクエアから保存スペースへ入ることができる。もう1両は雲州平田駅構内に動態保存されているデハニ53で、体験運転用の車両として活用されている。また大社線の高浜駅近くの保育園にはデハニ50形が2両保存されていて、子どもたちに囲まれ静かに余生を送っている。

 

デハニ50形は映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(以下『RAILWAYS』と略)にも”出演”したこともあり、今も人気の高い車両となっている。

↑出雲大社前駅で静態保存されるデハニ52。隣接する縁結びスクエアから入ることができる。車内も乗車可能だ

 

ちなみに、遠く離れたところながら一畑軽便鉄道時代の車両も残されているので触れておこう。

 

静岡県の大井川鐵道の新金谷駅に隣接した「プラザロコ」で保存される蒸気機関車は元一畑軽便鉄道時代に活躍した車両だ。ドイツのコッペル社製のCタンク機で、一畑へは1922(大正11)年に4号機として導入された。その後に複数の工場の入れ換え機として使われ、大井川鐵道へわたり「いずも」と名付けられ大切にされている。

 

一畑電車の古い車両は場所が異なるものの、複数の車両が残っていること自体が奇跡のように思う。デハニも多く残っているように、車両を大切にしてきた同社の思いが、今も伝わってくるようだ。

↑大井川鐵道の施設で保存されている元一畑軽便鉄道のドイツ製蒸気機関車。一畑導入当時は4号機で、大井川鐵道では「いずも」と改称

 

【一畑電車の旅⑤】この時代に増便?画期的なダイヤ改正を行う

一畑電車を利用にあたって注意したいのは電車の時刻だ。土日祝日と平日ダイヤが大きく異なり、行先も異なる。土日祝日のダイヤは昨年の10月1日に改正されたものだが、平日のダイヤは今年の10月3日に大きく変更された。

 

改正された平日ダイヤでは、乗客を乗せずに動かしていた回送列車4本を急行列車に変更、さらに電鉄出雲市駅〜松江宍道湖温泉間の昼間帯普通列車3往復を急行列車に変更した。一方で、急行列車前後の普通列車のダイヤを調整し、急行通過駅の利用客の利便性に配慮した。

 

回送列車を旅客列車に変更する増便方法は画期的な方策のように思う。今の時代に増便すること自体が珍しく、加えて急行を走らせ時間短縮を図るなど積極姿勢が感じられ、同社のダイヤ改正が新聞紙上やネットニュースにも取り上げられたほどだった。

 

ここで一畑電車の土日祝日と平日の列車の傾向を見ておこう。

↑出雲科学館パークタウン前駅付近を走る7000系。土日祝日は出雲大社前駅から電鉄出雲市駅行き直通特急が運行される(右下はその表示)

 

〔土日祝日のダイヤ〕

朝夕は電鉄出雲市駅〜松江しんじ湖温泉駅間を往復する普通列車がすべてだが、日中はがらりと変わり、電鉄出雲市駅発と松江しんじ湖温泉駅発の電車すべてが出雲大社前駅行きとなる。電鉄出雲市駅〜出雲大社前駅間は複数の途中駅を通過する特急も数本ある。

 

日中は、電鉄出雲市駅から松江しんじ湖温泉駅へ、また松江しんじ湖温泉駅から電鉄出雲市駅へ行きたい時には、途中の川跡駅での乗換えが必要になる。

 

〔平日のダイヤ〕

大半の列車は電鉄出雲市駅〜松江しんじ湖温泉駅間を走る。そのうち日中は急行列車が4往復、また朝には電鉄出雲市駅発、松江しんじ湖温泉駅行きの「スーパーライナー」という列車が設けられている。この列車は同駅間45分(各駅停車利用時は約60分)と最短時間で着けるようにダイヤが設定されている。

 

一方、出雲大社駅行きの直通電車は電鉄出雲市駅発が2本、雲州平田駅発の電車は朝6時台の1本のみと少ない。

 

ここまで平日と土日祝日で運転の傾向が変わる鉄道会社も少ないのではないのだろうか。一畑電車の利用客は半分以上、観光客が占めているという。さらに、平日日中の主要駅以外での乗降は0.4%しかいないそうだ。平日の日中は観光客とビジネス客が主体となる利用状況を考えて、少しでも早く目的駅に着けるように急行列車を新たに走らせ、より便利になるように増便したのだとされる。とにかく思い切ったダイヤの組み方をしているわけだ。

 

だが、一般利用者にそのことが周知されているわけではないようで、週末に筆者が乗車した電車では、乗換えるべき川跡駅で降りずにそのまま乗ってしまい、数駅いったところで慌てて降りるという乗客を数人、見かけることになった。土日祝日は、出雲大社前へ行きやすくなったものの、誤乗車する人も現れているので注意したい。

【一畑電車の旅⑥】電鉄出雲市駅はJR駅と近いようなのだが

前置きが長くなったが、ここから一畑電車の旅を始めたい。北松江線の起点となる電鉄出雲市駅からスタートとなる。JR山陰本線の出雲市駅からの乗換えとなるが、筆者はここで最初から失敗しかけてしまった。

 

JRの特急列車から降りて駅の北口を出る。電鉄出雲市駅が目の前だから5分もあれば十分だろうと思っていた。まず荷物をコインロッカーに預けた。だが、コインロッカーは電鉄出雲市駅からだいぶ離れた場所にあった。電鉄出雲市駅はJR出雲市駅の北口を出て右手に見えていて分かりやすいのだが、150メートルほど離れていたのだった。結局、小走りで移動することに。改札でフリー乗車券を購入、階段を駆けのぼり、発車にぎりぎり間に合ったのだった。一畑電車は何度か来て乗っていたのだが、預ける荷物がある場合には、余裕を見て乗換えした方が良いことが分かった。

 

↑JR山陰本線の高架橋に並ぶように設けられた電鉄出雲市駅。ホームは高架上にある(左下)。窓口でフリー乗車券が販売される(左上)

 

一畑電車全線を乗り降りする場合には「一畑電車フリー乗車券」(1600円)が得だ。各路線の起点終点駅と川跡駅、雲州平田駅で販売している。また65歳以上のシルバー世代には「一畑電車シルバーきっぷ」(1500円)も用意されている。

 

【一畑電車の旅⑦】映画『RAILWAYS』にも登場した大津町駅

電鉄出雲市駅のホームに止まっていたのは5000系「しまねの木」号だった。2席、4席が囲われたボックス席がユニークな電車だ。ちょうど乗り合わせた女子高校生らしきグループは初めて乗車したようで「この電車いい! ここで宿題ができそう」と話していた。落ち着くボックス席には、窓側に折畳みテーブルが付けられていて、確かに勉強にはぴったりかも知れない。

↑5000系「しまねの木」号は座席がボックス構造だ(右上)。出雲科学館パークタウン前駅付近ではJR山陰本線の線路と並行して走る

 

そんな楽しそうなおしゃべりを聞きながら、松江しんじ湖温泉行きが出発した。高架ホームを発車した電車はJR山陰本線の高架路線と並走し、次の出雲科学館パークタウン前駅を発車後も、進行方向右にJR山陰本線を見ながら走る。途中で左へカーブして、次の大津町駅へ向かう。出雲市の町並みを見ながら到着した大津町駅は、どこかで見た駅だと思ったのだが、実は映画『RAILWAYS』のワンシーンの撮影に使われていた駅だと知り、なるほどと思った。沿線には同映画の舞台として登場した駅も多い。

 

大津町駅の西側にはかつて、山陰道の28番目の宿場「今市宿」が設けられていた。大津町駅の西側、出雲市駅の北側にかけての通り沿いで、今も情緒ある町並みが高瀬川沿いにわずかに残っている。ちなみに、出雲市駅はかつて出雲今市駅という駅名で、この今市宿の名前を元にしている。出雲今市駅は1957(昭和32)年に出雲市駅と改称された。

↑電鉄出雲市駅から2つ目の大津町駅。1914(大正3)年に開業した駅だが、2003(平成15)年に現駅舎となった

 

【一畑電車の旅⑧】川跡駅での乗換えには要注意

今市宿にも近い大津町駅を発車して国道184号、続いて国道9号の立体交差をくぐる。国道が連なることでも、このあたりが山陰道の要衝であったことが分かる。国道9号を越えると沿線には徐々に水田風景が広がるようになる。

↑川跡駅に近づく北松江線2100系電車。この2104+2114の編成は3年前まで「ご縁電車しまねっこ号」(写真)として走った

 

次の武志駅(たけしえき)を過ぎると右カーブをえがき大社線の乗換駅、川跡駅に到着する。川跡駅の先の松江しんじ湖温泉駅方面へ行く時には、平日はほぼそのままの乗車で良いのだが、土日祝日は朝夕を除き、川跡駅での乗換えが必要になる。

 

川跡駅ではほとんどの北松江線、大社線の電車が待ち時間もなく接続していて便利だ。ただし乗換えによっては西側に設けられた構内踏切を渡っての移動が必要になる。駅舎側の1番線、2番線、3番線と並び、出雲大社前行き、電鉄出雲市行き、松江しんじ湖温泉行きの電車がそれぞれホームに到着する。

 

何番線が○○行きといった傾向が曜日、時間帯で異なるため、乗換えの際には、川跡駅に着く前に行われる車内案内とともに、駅のスタッフのアナウンスによる行先案内と、電車の正面に掲げた行先案内表示をしっかり確認して、間違えないようにしたい。

↑駅舎側(左)から4番線(通常は使用しない)と1番線、構内踏切で渡ったホームが2番線、3番線とならぶ。乗換え時は注意が必要

 

【一畑電車の旅⑨】余裕があればぜひ立ち寄りたい雲州平田駅

筆者は土曜日の朝の電車に乗車したこともあり、川跡駅で乗り換えずにそのまま乗車して松江しんじ湖温泉駅を目指した。

 

川跡駅を発車すると左右に水田が広がり、進行方向右手には斐伊川(ひいがわ)の堤防が見えてくる。斐伊川が流れ込むのが宍道湖(しんじこ)だ。なお宍道湖自体も一級河川の斐伊川の一部に含まれている。

 

途中、大寺駅(おおてらえき)、美談駅(みだみえき)、旅伏駅(たぶしえき)とホーム一つの小さな駅が続く。そして雲州平田駅に到着した。同駅は一畑電車の本社がある駅で、同鉄道会社の中心駅でもある。単線区間が続く北松江線では、この駅で対向列車との行き違いもあり、時間待ちすることが多い。

 

時間に余裕があれば下車して駅の周囲を回りたい。車庫に停まる電車もホーム上から、また周囲からも良く見える。筆者も訪れた際には、どのような車両が停まっているかと確認するようにしている。

↑雲州平田駅に近い寺町踏切から臨む車庫。検修庫内に3000系(廃車)、2100系や5000系が見える 2015年8月23日撮影

 

以前に訪れた時には、車庫の裏手に設けられた150メートルの専用線路でちょうど体験運転(有料)が行われていた。デハニ53形を使っての運転体験で、毎週金・土・日曜祝日に開催されている(年末年始および祭事日を除く)。運転体験は本格的で、まず電車の仕組みと操作方法を講習で学び、ベテラン運転士の手本を見学し、最終的には実際に運転席に座っての体験運転が可能だ。終了後には体験運転修了証や、フリー乗車券がもらえるなどの特典もある。

 

鉄道好きならば、一度は体験したい催しといっていいだろう。筆者は羨ましい思いを抱きながら写真を撮るのみだった。

↑専用線路を使っての「デハニ50形体験運転」。今年の6月8日から制限がなくなり全国の利用者が楽しめるシステムに戻った

 

【一畑電車の旅⑩】田園風景が広がる雲州平田駅〜園駅間

雲州平田駅を出発すると美田が続く一帯が広がる。筆者は車庫周りを巡るとともに、この沿線では車両の撮影によく訪れる。

 

次の布崎駅付近までは、きれいな単線区間が続く。北側に架線柱が立ち邪魔になるものが少なく車両がきれいに撮影できる。背景には宍道湖の西側にそびえる北山山地の東端にある旅伏山があり絵になる。

↑雲州平田駅〜布崎駅間を走る1000系。周りは水田、後ろには北山山地が見える。同線で見られる架線柱もなかなかレトロなものだ

 

平田船川を渡り布崎駅に到着、そして次は「湖遊館新駅」駅へ。「駅」という文字が最初から入る全国的にも珍しい駅名で、「駅」を駅名表示の後に付ける本原稿のような場合には、駅が重複することになる。

 

同駅は1995(平成7)年10月1日に開業した請願駅で、駅から徒で10分ほどの宍道湖湖畔に「湖遊館」が開設され、新しい駅だったことから今の駅名が付けられた。ちなみに湖遊館には現在、「島根県立宍道湖自然館ゴビウス」という名の水族館がある。ゴビウスとはラテン語でハゼなど小さな魚を表す言葉だそうで、同館では宍道湖で暮らす汽水域の魚たちを中心に展示紹介している。

↑小さなホームと駅舎の「湖遊館新駅」駅に到着した7000系。島根県立宍道湖自然館ゴビウスが同駅の南側にある

 

【一畑電車の旅⑪】一畑口駅での電車の発着にこだわって見ると

湖遊館新駅駅を発車して園駅(そのえき)へ、この駅を過ぎると、右手に宍道湖が国道431号越しに見えてくる。とはいえ園駅〜一畑口駅間で見える宍道湖の風景はまだ序章に過ぎない。

 

北松江線のちょうど中間駅でもある一畑口駅へ到着した。この駅は前述したように、平地なのにもかかわらずスイッチバックを行う駅で、すべての電車が折り返す。運転士も前から後ろへ移動して進行方向が変わる。この駅での電車の動きを一枚の写真にまとめてみたので、見ていただきたい。2本の構内線にそれぞれの電車が入場し、そして折り返していく。

↑一畑口駅9時42分発の出雲大社前行きが入線、9時43分発の松江しんじ湖温泉行きが入線、それぞれ出発までの様子をまとめた

 

土日祝日のダイヤでは一畑口駅で両方向へ向かう電車が並ぶのは1日に2回のみというレアケースであることが後で分かった(平日には7回ある)。こんな偶然の出会いというのも、旅のおもしろさだと感じた。

 

ところで一畑口駅の線路の先、旧一畑駅方面は今、どうなっているのだろうか。

 

一畑口駅の先には200メートルほどの線路が伸びているが、その先は行き止まりで、車止めの先には一般道が直線となって延びている。実はこの道路にも逸話があった。旧路線跡には一畑口駅〜一畑駅間が正式に廃止された後の1961(昭和36)8月に「一畑自動車道」という有料道路が一畑電気鉄道により開設されていたのである。この道路は一畑に設けられた遊園地「一畑パーク」のために開設されたものだった。一畑パークはピーク時には年間12万人もの来園者があった遊園地だったが、人気は長続きせずに1979(昭和54)年に閉園、有料道路は1975(昭和50)年に廃止された。この後に一畑薬師(一畑寺)が同有料道路を買収、出雲市に無償譲渡していた。

↑一畑口駅の先には200mほど線路が残る。車止めの先に戦前までは線路が一畑口駅まで延びていた。現在は一般道となっている(左上)

 

一畑をレジャータウン化する計画は10余年で頓挫し、会社創設時のように再び一畑薬師により助けられた形になったわけである。ちなみに一畑薬師へは一畑口駅からバスまたはタクシーの利用で約10分と案内されている。

 

一畑口駅から先の美しい沿線模様と、大社線の興味深い路線案内はまた次週に紹介することにしたい。

↑一畑口駅から松江しんじ湖温泉駅かけては、宍道湖の風景が進行方向、右手に続く

 

乗って体感! プジョー新型「308」はフランス車特有の実用性はそのままで走りも高満足度

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」でピックアップするのは、幅広いパワートレインを用意するプジョーの新型308。堅実なクルマ作りに定評があり、時代を反映するモデルの出来映えに期待大!

※こちらは「GetNavi」 2022年11月号に掲載された記事を再編集したものです

 

「定番」では物足りない欲張り派に最適

【ハッチバック】

プジョー

308

SPEC【GT ブルーHDi】●全長×全幅×全高:4420×1850×1475mm●車両重量:1420kg●総排気量:1498cc●パワーユニット:直列4気筒DOHCディーゼル+ターボ●最高出力:130PS/3750rpm●最大トルク:30.6kg-m/1750rpm●WLTCモード燃費:21.6km/L

 

最新のプジョーらしく内外装は個性的な仕立てに

欧州のハッチバックとしては、フォルクスワーゲン・ゴルフのライバルにあたるプジョー308。新型ではガソリン、ディーゼル、PHVという3種のパワートレインを用意して、幅広いユーザーのニーズに対応している。また、最新のプジョーらしく内外装も個性的で、特に小径ステアリングをはじめとするインパネ回りはエンタテインメント性にも優れる。その一方、フランス車らしく室内や荷室の広さといった実用性に関する作りの出来映えも申し分ない。

 

今回の試乗車は1.5Lのディーゼルターボだったが、その走りも満足度は高い。動力性能は必要にして十分で日常域では扱いやすく、同時にディーゼル特有の音や振動を意識させない。また、それを受け止めるボディや足回りも堅牢でスポーティな味付け。このクラスの定番である、ゴルフとも正面から渡り合える実力を持つだけに、実用性と独自性を両立したいという欲張りなユーザーには狙い目なモデルと言えそうだ。

 

[Point 1]個性的にして先進性も十分!

小径ステアリングとデザイン性の高いインパネ回りは最新プジョーならでは。運転支援装備も充実している。前後席の空間を筆頭に実用性に富んだ作りもハイレベルだ。

 

[Point 2]外観はスタイリッシュな装い

先代と比較すると、ボディサイズは前後方向に拡大。最新のプジョーデザインに倣い、実用的なハッチバックながらエクステリアはスタイリッシュな風情も漂わせている。

 

[Point 3]使い勝手の良さはフランス車の伝統!

フランス車というと荷室が広いことでも定評があり、新型308は通常時で412Lを確保。容量的にもライバルのゴルフを凌いでいる。

 

[Point 4]パワートレインはニーズに応じて3タイプ

パワートレインは1.2Lガソリンターボと1.5Lディーゼルターボ、そして最大64kmのEV走行が可能なPHVの3タイプが用意される。

 

[ラインナップ](グレード:パワーユニット/駆動方式/ミッション/税込価格)

アリュール:1.2Lガソリン+ターボ/2WD/8速AT/320万6000円

アリュール・ブルーHDi:1.5Lディーゼル+ターボ/2WD/8速AT/344万1000円

GTブルーHDi:1.5Lディーゼル+ターボ/2WD/8速AT/416万7000円

GTハイブリッド:1.6Lガソリン+ターボ+電気モーター/2WD/8速AT/515万1000円

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

新型「エクストレイル」試乗。“技術の日産”をいかんなく発揮した傑出の走り!

日産がシリーズハイブリッドである「e-POWER」を世に登場させて6年。4代目となる新型「エクストレイル」に搭載された新エンジンは、その集大成とも言える素晴らしい実力を発揮してくれました。運転して楽しく、外部からの給電も不要で使い勝手は抜群! それは、久しぶりに「技術の日産」の実力を見せつけられたと言っていいでしょう。

 

【今回紹介するクルマ】

日産/エクストレイル

※試乗グレード:G e-4ORCE(4WD)

価格:319万8800円~504万6800円(税込)

↑日産「エクストレイル」G e-4ORCE(4WD)※オプション装着車

 

新開発「VCターボ」エンジンをe-POWERに初採用

実は、4代目の新型エクストレイルは、北米で「ローグ」として1年以上も前にデビューを果たしていました。パワーユニットは新型エクストレイルと同じ1.5リットル直列3気筒ガソリン「VCターボ」エンジンを搭載しましたが、ローグではこれをそのまま駆動用として使っています。それに対して日本はこのエンジンをe-POWERの発電専用としました。つまり、日本でのデビューが遅れたのは、このe-POWER化に時間がかかっていたというわけです。

 

このエンジンについて少し説明すると、その仕様は新開発のKR15DDT型1.5リッター3気筒直噴ターボエンジンで、ターボ機構にVC(Variable Compression)と呼ばれる可変圧縮比機構を採用したのが最大の特徴となっています。その仕組みは、ピストンとクランクシャフト間に特殊なリンク機構を備えることで圧縮比を変化させ、出力を回転数に応じて変化させるというものです。このエンジンは日産が長年かけて開発してきた、いわば「技術の日産」が誇る自慢のユニットであり、これを新型エクストレイルでは発電専用エンジンとして搭載したのです。

 

さらに驚くのは、 4WDである「e-4ORCE(イーフォース)」に組み合わせたモーターのスペックです。フロントには最高出力204PS(150kW)と最大トルク330N・m、リアには136PS(100kW)と195N・mを発生するモーターを搭載し、これで4輪を駆動します。このスペックからして、もはやハイブリッドの領域を超えていることがわかります。それどころか、フロントモーターだけでもバッテリーEVである日産「アリア」のフロントモーターと同じレベルなのです。これを聞いただけでも、このシステムがいかにスゴイかが伝わってきますよね。

 

ボディサイズは全長4660mm×全幅1840mm×全高1720mmで、ホイールベースは2705mmとなります。ライバルと比較すると、トヨタ「ハリアー」(全長4740mm)やマツダの「CX-60」(全長4740mm)よりは小ぶりで、「RAV4」(4600-4610mm)よりは少しだけ長い。SUVとしては使い勝手の上でもバランスがとれたサイズと言えるでしょう。また、シートは前後2列5名乗車が標準で、「X」グレードにのみ3列7名乗車が用意されました。特に3列シート仕様はライバル車にはないだけに、ミニバンからの乗り換えユーザーにもおすすめできるラインナップ。

↑G e-4ORCEは、前後とも235/55R19 101サイズのタイヤを履く

 

にわかに1.5リッター3気筒ハイブリッドエンジンとは信じられず

試乗したのはその中から2列シートの最上級グレード「G」の「e-4ORCE」でした。グレードと駆動方式を含め、もっとも高価なグレードとなります。

↑SUVらしく高い視認性とインターフェースの扱いやすさが印象的だった

 

走り出してまず驚くのがその静かさと振動の少なさです。さらにアクセルを踏み込んでもその静かさとスムーズさはほとんど変わりません。メーターではエンジンがONとなっていることを伝えているので、思わず「これって1.5リッター3気筒だったよね?」と同乗者に確認してしまったほどです。

 

しかもエンジンは駆動輪と直接つながっていないはずなのに、アクセルの踏み込みに合わせてリニアに車速が上がっていき、重さが1.8t近くあるボディをアッという間に高速域まで引っ張り上げてくれたのです。その加速感は、踏み込んだアクセルに応じてエンジンがどんどんモーターにパワーを与えていっている感じ。これはまさに従来のシリーズ型ハイブリッドとは次元が違うパフォーマンスを感じます。その完成度はもはや脱帽という他はない! そう実感したほどでした。

 

ここまでのフィーリングを実現したことについて開発担当者は、「欧州のアウトバーンでも十分なパワーが出せることを目標に、VCターボとの組み合わせを練り上げました」と話していました。つまり、速度制限がない高速域でも通用する実力を持たせて完成させたのが新型エクストレイルのe-POWERだったのです。

↑カーナビで目的地を設定しているときは、メーター内やヘッドアップディスプレイにも案内が表示される

 

加えてe-4ORCEの搭載に伴ってプラットフォームは刷新されており、電子制御ステアリングも気持ちよく曲がることを念頭に置いて設定しているということです。実際、峠道を走行しても狙ったコースをたどってくれるし、その結果、まるで運転がうまくなったような感覚にとらわれました。乗り心地もフラットで、19インチのタイヤを組み合わせながら路面の凹凸にもしっかりと対応してくれていました。従来のエクストレイルでは“タフギア感”をアピールポイントとしていましたが、新型ではそこに上質感を加えたのです。まさに走りにおいては傑作の領域にあると断言して間違いないでしょう。

↑ボディカラーは2トーンカラー含め、12色から選択可能

 

インテリアは上質だが、“500万円カー”としての物足りなさも

インテリアの上質さも見事なものでした。運転席周りの手に触れる部分はすべてがソフトパッドで覆われ、デザインとしてもラグジュアリー感あふれる造りとなっています。シートサイズもSUVらしくたっぷりとしたもので、表皮に使われた新開発の人工皮革「テーラーフィット」のタッチ感もしっとりとした心地良さを感じさせてくれました。また、個人的には色味が少し濃いめに感じましたが、オプションのタンカラーのナッパレザーシートにするとプレミア感はさらに上がります。e-POWER初の1500W対応コンセント装備も見逃せません。

↑インテリアはソフトパッドが多用され、見た目にも触感的にも上質感が伝わる

 

↑シート表皮に使われた人工皮革「テーラーフィット」はしっとりとした心地良さ

 

↑日産車のEVやe-POWER車すべてを通して、初めて100VAC電源(1500W)コンセントが装備された

 

ただし、この仕様をフル装備で諸経費まで入れると500万円を楽に超えてしまいます。「エクストレイルもここまで来たか」と感慨深さとため息も出たりしますが、一方でデイライト機能が装備されず、グローブボックス内の照明や運転席側のシートバックポケットもないなど、“500万円カー”として不釣り合いな仕様も散見されるのも事実です。さらに「NissanConnect」の費用に無料期間はありません。このプランを契約することで、地図データ更新費用が3年分無料になりますが、せめて最初の1年間は無料にしてほしかったと思いました。

↑助手席グローブボックスは外から見たよりもかなりスペースが狭く、照明の装備もない

 

↑NissanConnectはSOSコールを含め、利用料として年間7920円(税込)の費用がかかる

 

とはいえ、新型エクストレイルの魅力は電動車並みの動力性能を持ちながら、充電する必要が一切ないのが最大の魅力です。「別に充電したいわけじゃない。電動車としてのトルクフルでスムーズなフィーリングに魅力を感じている」人にとって新型エクストレイルは、まさに最適な選択となることは間違いないでしょう。正直言って、最近まれに見る魅力的な走りを見せてくれ、これだけでも絶対に買いとなるクルマといって間違いないでしょう。

↑インフォテイメントシステムは12.3インチの大型ディスプレイを使用。再生中の楽曲のタイトルを表示するなど細かな演出も見事だ

 

↑後席用としてエアコンの独立操作ができ、シートヒーターやUSB端子(type-C/A)を装備

 

↑オプションの「BOSE Premium Sound Sytem 9スピーカー」とパノラミックガラスルーフはセットオプション

 

SPEC【G e-4ORCE(4WD)】●全長×全幅×全高:4660×1840×1720㎜●車両重量:1880㎏●パワーユニット:1497㏄水冷直列3気筒DOHCターボエンジン+交流同期電動機●最高出力:エンジン144PS/4400〜5000rpm[フロントモーター204PS/4501〜7422rpm・リヤモーター136PS/4897〜9504rpm]●最大トルク:エンジン250Nm/2400〜4000rpm[フロントモーター330Nm/0〜3505rpm・リヤモーター195Nm/0〜4897rpm]●WLTCモード燃費:18.4㎞/L

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

全国に「EV充電拠点」が大量出現するか!? パナソニックが始めるEV普及の新たな試み

日本では、電気自動車(EV)の普及率が2021年時点で1%前後。ほかの先進国と比べて、普及が遅れています。その大きなハードルのひとつとなっているのが、充電インフラの不足です。ガソリンスタンドは日本の至るところにありますが、EVの充電拠点の数は明らかに少なく、バッテリー低下時のドライバーの不安は大きいものがあります。

 

その課題を解決すべく、EVチャージャー(充電器)を開発するパナソニックが、EVチャージャーシェアリングサービス「everiwa」を発表しました。

 

全国の法人・個人が、EVの充電拠点に

everiwaは、EV充電器を保有するオーナー(ホスト)と、EVのドライバーを繋ぐEV充電器のシェアリングサービスです。100V200Vの普通充電器であればメーカーや機種を問わずeveriwaに登録可能で、サービス開始後は、全国の個人・法人が、EV充電器をeveriwaの有料充電スポットとして開放できるようになります。

 

EVのドライバーは充電時間に応じた料金を支払うことで、そのEV充電器を利用可能。充電器を設置したオーナーは、ユーザーが支払った料金からプラットフォーム利用料を除いた金額を、売上として得られるというビジネスモデルになっています。

↑everiwaに対応した充電器(写真奥)から、EVに給電する様子

 

↑everiwaのビジネスモデル

 

everiwaが想定する主な導入対象は、広い駐車スペースを持つ店舗やマンションのほか、戸建住宅のコンセントにもおよびます。つまり、自動車を駐車できるスペースさえあれば、法人のみならず個人もオーナーになることが可能なのです。EV充電器の利用料金はオーナーが自由に設定できるので、たとえば、レストランが利用料金の安いEV充電器を駐車場に設置して誘客に活用する、という利用方法もあり得ます。

 

everiwaに対応するEV充電器は、最安のもので数千円程度から購入できるため、導入コストも抑制可能。また、everiwaの利用料金の支払い・受け取りの決済はアプリ上で完結するので、利用時の手間も削減されています。

↑everiwaのアプリに表示されるマップから、利用可能な充電器の場所を知ることができる

 

みずほグループ、損保ジャパンも、everiwaの普及に協力

脱炭素化に熱心なみずほグループも、エバンジェリストとして、everiwaコミュニティに参画。決済システムのeveriwa walletを開発するほか、自社店舗の駐車場をEV充電器の設置スペースとして提供します。また、みずほグループは現時点で国内上場企業の7割との取引実績があり、各自治体とも全国規模で取引を行っています。この顧客基盤を活かし、everiwaに参画する企業を増やすための活動も行っていくということです。

 

さらに、利用者がクルマの操作を誤ってEV充電器を破損してしまうケースなどに備え、パナソニックが損保ジャパンと保険契約を締結。オーナーがEV充電器の稼働時間に対して支払うプラットフォーム利用料のなかにその保険料も入っているので、万が一、ドライバーのミスで充電器具にぶつけてしまうなどのトラブルが発生し、ドライバーの自動車保険で対応できない場合にもシェアリング保険が用意されています。

↑発表会で行われたフォトセッション。中央が、パナソニック エレクトリックワークス社の大瀧社長

 

everiwa対応の充電器を設置するオーナーの募集は、2022年11月29日からスタート。サービスの開始は2023年春を見込んでいます。EV登場当初から問題になっている充電拠点の不足。それを解決するソリューションとなれるか。everiwaの今後に注目です。

ありがとうキハ28形!別れを噛みしめる「いすみ鉄道」乗り納めの旅

おもしろローカル線の旅97〜〜いすみ鉄道いすみ線(千葉県)〜〜

 

千葉県のあるローカル線がこの秋、大変な賑わいを見せている。その路線とは、いすみ鉄道いすみ線。名物だったキハ28形が11月27日で定期運行を終了するため、今のうちに〝乗り納め〟をしようと、多くの人たちが訪れているのだ。

 

今回は、古参車両の歴史もふり返りつつ、いすみ鉄道の旅を始めていきたい。

*2010(平成22)3月12日から2022(令和4)年10月23日に撮影取材した現地材料を中心にまとめました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
懐かしの気動車に乗りたい!旅したい!「小湊鐵道」「いすみ鉄道」

 

【いすみ鉄道の旅①】人気のキハ28形とはどんな車両なのか?

11月で定期運行が終わるいすみ鉄道のキハ28形とはどのような車両なのか、歴史やバリエーションを含めて触れておこう。

 

年齢によってこの車両への思いは違ってくるだろう。50代以上にとっては小さいころから青春時代まで急行用車両として利用したリアルな体験があり、それ以降の世代は観光列車や地方ローカル線で乗車した経験があるかと思う。また、若い世代の中には、いすみ鉄道で初めて出会った、乗ったという人もいるのではないだろうか。

 

いずれにしても国鉄形と言われる代表的な車両であり、多くのファンを惹き付けてきた車両のように思う。筆者もその1人であり、いろいろな記憶が蘇る。

↑中央本線の国分寺付近を走る急行「アルプス」。長大編成の気動車急行が全国を走っていた 1968(昭和43)年ごろ筆者撮影

 

キハ28形は急行形気動車のキハ58系がベースとなる。非電化路線の無煙化を進める国鉄が1961(昭和36)年から積極的に導入を進めた車両で、1969(昭和44)年までに1823両と大量の車両が製造された。寒冷地仕様のキハ56系まで含めれば2000両を越える。

 

バリエーションは豊富だが、ここでの解説はキハ28形のみに留めておく。キハ28形は片運転台、本州以南向けにつくられた一般形2等車両(現・普通車)で、キハ58形がエンジンを2基積むのに対して、キハ28形は1基だった。

 

1800両以上も造られたキハ58系は、国鉄民営化後もJR北海道を除く全国のJR旅客会社に引き継がれ使われ続けた。そんな多くのキハ58系車両も、すでに製造されてから60年近くとなり、次々に引退となっていった。そして、いすみ鉄道のキハ28 2346号車がキハ58系最後の1両となったのである。

↑キハ28 2346号車は2000(平成12)〜2003(平成15)年に小浜線を走った。そしてキハ58系と編成を組み走った 小浜駅近くで筆者撮影

 

このキハ28 2346号車の経歴を見ておこう。まずは1964(昭和39)年4月15日に鳥取県の米子機関区(現・後藤総合車両所)に配置された。その後に各地を転々とする。新潟機関区(現・新潟車両センター)、千葉気動車区を経て米子機関区に戻り、さらに石川県の七尾機関区、富山運転所、高岡鉄道部、福井県の小浜鉄道部から再び高岡鉄道部へ戻る。JR西日本では高山本線での運用が最後になった。その後、廃車が検討され保留車になったが、越前大野鉄道部へ移り災害復旧に役立てられた。

 

要は非常に〝転勤〟が多かった車両なのだが、千葉気動車区では急行「房総」、急行「京葉」といった列車に使われていた。キハ28 2346号車にとって、外房線の大原駅はかつて日常的に通っていた路線であり駅だったのである。その後、金沢総合車両所で整備された上でいすみ鉄道へ譲渡され、2012(平成24)年10月11日に搬入、再整備した上で、翌年の3月9日から運用が開始された。生まれてから58年、いすみ鉄道へやってきてから10年たった。そんな古参車両も、ついに11月27日(日)で定期運用が終了となる。

 

引退の理由としては、キハ58系の最後の一両で、走行用エンジンや冷房エンジンなどの部品調達が困難となり、また車両維持に多額の資金が必要になるためとのこと。引退後の車両の処遇は検討中で、来年2月ごろまではイベント列車としての運行計画も検討されているようだ。

 

【いすみ鉄道の旅②】国鉄木原線として誕生したいすみ線

キハ28形が走るいすみ線の概要を見ておこう。

路線と距離 いすみ鉄道いすみ線:大原駅〜上総中野駅(かずさなかのえき)間26.8km 全線非電化単線
開業 1930(昭和5)年4月1日、木原線の大原駅〜大多喜駅間が開業、
1934(昭和9)年8月26日、総元駅(ふさもとえき)〜上総中野駅間が開業、現在の路線が全通
駅数 14駅(起終点駅を含む)

 

いすみ線の歴史は官設の木原線により始まる。木原の「木」は木更津のことで、当初は木更津と大原を結ぶ路線として計画された。これより以前に大原〜大多喜間には県営人車軌道、さらに夷隅軌道が走っていたが、赤字続きで経営が成り立たなくなり、木原線の開業前に会社が解散してしまった。地元の人々の陳情が実り、代わりに木原線が開業したのだった。

 

戦後は国鉄木原線として運行され、1987(昭和62)年にJR東日本に継承されたものの、1988(昭和63)年3月24日に第三セクター鉄道のいすみ鉄道に引き継がれ、現在に至る。

 

【いすみ鉄道の旅③】車両は国鉄形の新車などユニーク

いすみ線を走る車両の紹介をしておこう。現在、車両は5タイプが走る。

 

◇キハ28 2346号車

↑大多喜駅を出発する急行運用のキハ28 2346号車。後ろはキハ52。キハ28は国鉄時代の一般色、急行形気動車色で塗られている

 

前述したようにキハ58系のエンジン1基タイプで、いすみ鉄道ではキハ52と連結して運行されている。急行列車、レストラン車両としても運用されてきた。座席はボックス+ロングで計32席。定員は77人となっている。塗装は急行形気動車色とも呼ばれ、地色はベージュ「クリーム4号」(国鉄時代に決められた塗装色および呼び名=以下同)で、窓周りはややオレンジがかった「赤11号」で塗られる。

 

ほか4車両は製造された順番に紹介していこう。

◇キハ52形

キハ28形と同じように国鉄時代生まれで、JR西日本経由で入線した。ベースはキハ20系と呼ばれる一般形気動車で、各地の非電化区間の普通列車に利用された。キハ52形は、キハ20系の勾配線区向けの形式で、エンジンが2基搭載されている。座席はボックス+ロングシートで61席、127人が乗車可能人数となる。

 

いすみ鉄道で走るキハ52 125号車は、かつてJR大糸線を走っていた車両で、当時は黄褐色がベースで青3号と呼ばれるブルーで塗られていた。2010(平成22)年にいすみ鉄道へ譲渡され、国鉄一般色と呼ばれるクリーム4号+朱色4号に塗り替えられ、翌年の4月29日から走り始めている。ちなみに、2014(平成26)年3月〜2019(令和元年)6月の間は首都圏色と呼ばれるオレンジ色一色に塗り替えられたが、現在は国鉄一般色に戻されている。

 

このキハ52とキハ28がコンビを組んで走り続けている。最新のキハ52形+キハ28形列車のダイヤを見ておこう。運行は土日祝のみで下記のダイヤで走っている。

 

下り101D:大多喜駅11時18分発 → 上総中野駅11時42分着

上り102D:上総中野駅11時52分発 → 大多喜駅12時16分

上り102D急行:大多喜駅12時20分発 → 大原駅12時53分着

下り103D急行:大原駅13時20分発 → 大多喜駅13時52分着

 

なお、下り列車はキハ52形を先頭に、上り列車はキハ28形を先頭にして走る。急行列車の乗車の際には乗車券の他に急行券(大人300円)が必要だ。

 

◇いすみ300形

いすみ300形は、いすみ鉄道創設当時から走り続けた「いすみ200形」の代わりに2012(平成24)年から2両が導入された。製造は新潟トランシスで、座席はボックス席43席、乗車可能人数は113人だ。

 

◇いすみ350形

2013(平成25)年に2両が導入された車両で、基本的な造りや、カラーはいすみ300形と同じだが、正面の形が国鉄のキハ20系気動車の形を彷彿させる姿となっている。こちらの座席はロングシートで44席、乗車可能人数は125人と、いすみ300形に比べて多くなっている。

 

◇キハ20

2015(平成27)年6月に導入された車両で、いすみ350形と同様にキハ20系気動車を似せた形となっている。一方で、塗装はキハ52形と同じ国鉄一般色で塗り分けられた。座席はボックス席でいすみ300形と同じ座席数、乗車可能人数となっている。

 

↑キハ28形を除く現在のいすみ鉄道の車両。こうして見るといすみ鉄道の気動車はかつての国鉄形デザインの車両が多いことが分かる

 

ほかには、国吉駅構内に保存車両も停められている。一両は国鉄形通勤用気動車のキハ30 62号車で、動態保存され、運転体験を楽しむことができる。もう一車両は、いつみ鉄道創業当時に導入されたいすみ200形で、こちらは静態保存されている。

↑国吉駅構内に停められるキハ30 62号車(右)は元久留里線や国鉄木原線を走った。左はいすみ200形206号車

 

【いすみ鉄道の旅④】大原駅の売店はキハ28グッズ形がいっぱい

今回のローカル線の旅は、路線の紹介も行いつつ、キハ28形にまつわる話、撮影場所などにも触れていきたい。

 

起点となる駅は外房線の大原駅。JRの駅舎につながるように、いすみ鉄道の駅舎がある。玄関口はJRのほうが大きいが、北側にいすみ鉄道の入口も設けられている。

↑JR外房線の大原駅に並び、左手の自販機の横にいすみ鉄道の入口がある。駅内の売店ではキハ28形グッズが大集合していた(左上)

 

いすみ鉄道の駅舎内には切符の券売機があり、1日フリー乗車券は、平日(大人1200円)、土休日用(大人1500円)で販売される。自社線内だけでなく、上総中野駅から小湊鐵道を利用して五井駅まで乗車可能な「房総横断乗車券」(大人1730円)も販売している。なお、同横断乗車券は途中下車・片道乗車のみ有効となっている。

 

大原駅の構内には売店があり、お弁当、菓子類のほか、いすみ鉄道のグッズも多数取り扱っている。ここ最近ではキハ28形関連グッズの人気が上々のようで、多数販売されていた。

↑大原駅の2番線に到着のキハ28形急行列車。1番線にはキハ20が停車。風景だけを見るとまるで昭和の駅に迷いこんだよう

 

切符を購入して構内へ。ホームは1面で、通常は1番線に列車が停車しているが、急行列車運行の際には2番線も利用されている。駅に停まっている発車待ちしていた列車内に、駅のスタッフが乗り込み、次のような呼びかけをしていた。

 

「『特急わかしお』が到着しますと混みあうと思われます。途中駅で下車される方はなるべく前に乗車することをおすすめします」とのことだった。つまり、キハ28形引退発表後には混みあうことが多くなり、車内の移動が難しくなる。「後のり前おり」のワンマン運転で、おりる時に運転席後ろにある料金箱に料金を入れるシステムのため、途中下車する場合には前に乗ったほうがいいですよ、というアドバイスだったのだ。

 

筆者が乗車したのは朝9時1分発の55D列車で車両はいすみ350形だったが、キハ28形の引退人気は予想をはるかに上回るものだった。

 

【いすみ鉄道の旅⑤】西大原駅付近の草刈りに頭が下る思い

発車時間が近づき、立って乗車する利用者も多い。観光客に加えて三脚、脚立などを持った鉄道ファンが多く見受けられた。列車は外房線の線路を離れ、左カーブをきって走っていく。大原の街中から次第に郊外の風景となり次の停車駅、西大原駅へ到着する。この西大原駅から上総東駅(かずさあずまえき)までは左右に水田が広がる。

 

いすみ鉄道の路線は専門スタッフや、地元の農家の方々が線路沿いの雑草を除去しているところが多く、車両を撮る立場として非常にありがたい。10月末に乗車した時に、意識的に窓の下の雑草の伸び具合をチェックしたのだが、雑草が生い茂る場所は、あまり見かけなかった。

↑上総東駅〜西大原駅間を走るキハ28+キハ52列車。同区間では草刈りされる風景に出会ったことも(右上)

 

上の写真は7年前に撮影した模様だ。この西大原駅〜上総東駅間は、朝8時台に通過するキハ28形の撮影に向いていた区間だったのだが、ダイヤが変更となり上り列車の通過が12時台となってしまった。そのために西大原駅近くでは正面に光が当たらなくなったのがちょっと残念だ。逆に下り列車のキハ52形を先頭にして撮るのには、うってつけの光線状態となっている。

 

【いすみ鉄道の旅⑥】順光にひかれて新田野駅付近は大賑わい

いすみ鉄道は地図を見ると分かるように、意外に線路がカーブしている。そのため天気の良い日ほど、撮影場所の選択は難しくなる。特にキハ28形を先頭にして走る上り列車の人気が高い。現在は上総中野駅11時52分発、大多喜駅12時20分発、大原駅12時53分着の列車に限られている。

 

いま、この列車を狙おうと多くの人が集まるのが新田野駅(にったのえき)周辺である。この新田野駅からしばらくの間、列車は南東に向いて走る。昼過ぎにこの地区を走るキハ28形を撮るのに最適の区間なのだ。

 

筆者も何度かこの区間を訪れたが、背景は水田で、やや盛り上がった直線路を走ってくるため、誰が撮っても間違いなくキハ28+キハ52(以下、「キハ28列車」と略)をきれいに写せるだろう。そのために、この地区は大変な人気となっていて、国道465号から線路へ入るわき道沿いには三脚がひな壇状に並び壮観だ。駐車違反となりそうな車も多いので、なるべく列車利用で訪問したいところ。11月中は駐車の取り締まりも厳しくなると思われる。

 

こだわるタイプの鉄道ファンがいすみ鉄道を訪れる理由の一つに、ヘッドマークが挙げられる。今年の1月中旬〜3月下旬にはかつて四国を走った「うわじま」「いよ」というヘッドマークを、所蔵する松山運転所からわざわざ借り受けて装着し、さらに正面に通称「赤ひげ」と呼ばれる赤帯のアクセントを入れて走らせた。まるで、かつて四国を走っていたような姿だったため、多くの撮影者で沿線が賑わったのはいうまでもない。

↑新田野駅〜上総東駅間の定番スポットで。この時は四国の急行「うわじま」のヘッドマークと「赤ひげ」塗装で走行した。左上は新田野駅

 

【いすみ鉄道の旅⑦】名物となった国吉駅のたこめし駅弁

話がキハ28形に寄り過ぎたが、沿線の観光要素にも触れておきたい。新田野駅の次は国吉駅となる。ここでは週末ともなると、「たこめし弁当」(1000円)の販売が、ホームだけでなく車内にもスタッフが乗車して行われている。最近はキハ車両のかぶりものをするなど〝のり〟が非常にいい。この名物弁当を購入する人も多いようだ。

↑国吉駅名物のたこめし弁当。立ち売り以外にも駅構内でも販売。最近はかぶりものをしたスタッフも頑張っている(右下)

 

同駅での停車時間は列車により1分から5分とまちまち。短い停車時間の列車は残念にも感じる。ちなみに、駅弁販売を行うスタッフは「いすみ鉄道応援団」というボランティア団体。いすみ鉄道は、地元の多くの人たちに支えられて走っているわけである。

 

国吉駅付近も水田が広がり好適地だが、キハ28列車の発車が12時37分発とやや遅くなり、正面の光がやや陰ってくる。

 

国吉駅構内に停まるキハ30は9月まで有料での運転体験が行われていた。たこめし弁当付きで、机上講習を受けたうえで、1人4回、実車講習・運転体験が楽しめたそうだ。

 

↑国吉駅を発車したキハ28列車。駅構内にはキハ30(右)が動態保存されている

 

国吉駅から上総中川駅の前後までは国道465号が平行して通っている。途中、菜の花スポットなどの人気ポイントがあり、また光の状態が良い南東方向へ向けて走る区間もあり撮影者も多い。さらに城見ヶ丘駅(しろみがおかえき)から大多喜駅の間は桜並木が続き、第三夷隅川橋梁などの人気スポットが続く。

 

10月末に訪れた時には人気ポイントに三脚を立てた撮影者たちの姿が多く見受けられた。この付近をキハ28列車が通過するのが12時半ごろなので、約3時間も気長に待つ予定なのだろう。

↑大多喜駅〜城見ヶ丘駅間の第三夷隅川橋梁で。網棚などキハ28形の車内設備はみな郷愁を誘うものばかり(右下・詳細は本文参照)

 

【いすみ鉄道の旅⑧】大多喜駅ではキハ28列車を待つ行列も

筆者が乗車した列車は大多喜駅に10時56分に到着した。ホームにはなぜか多くの人たちがいる。これまで何度か訪れた大多喜駅だが、この人の多さは何だろう? 駅スタッフが「キハ28に乗車する方は、こちらへ並んでください」と声がけをしているので、このあと11時18分発の上総中野駅行きキハ28列車を待つ人たちだと分かった。筆者も慌ててその列に並んだが、11月に入ったらもっと大変な行列になるだろうと思った。

↑いすみ鉄道の中心駅となっている大多喜駅。同駅で鉄印が販売されている。鉄印帖入れに便利な「キハ52ポーチ」(1530円)も用意

 

大多喜駅にはいすみ鉄道の車庫もあり、車両の出入りが駅の内外から見ることができる。10時56分着の大多喜駅止まりの列車が1番線から離れると、代わって車庫からキハ28の列車が入線してくる。この列車は11時18分発の上総中野駅行きとなる。

↑大多喜駅の車庫を出庫するキハ52+キハ28(右)。ちょうど下り列車キハ20(左)と並んだ。キハ20は新車だが、まるで同世代の車両のようだった

 

大多喜は江戸時代には大多喜藩があったところで、現在も「房総の小江戸」と呼ばれている。駅の西側に大多喜城が建ち、東側には城下町も残っている。「県立中央博物館大多喜城分館」(現在施設改修のため休館)や、商い資料館等の施設もあり、時間に余裕がある時には散策にうってつけの町なのだ。ただ、キハ28形が走っている間は、そちらに注目が集まりそうだが……。

 

ちなみに、鉄道好きには「房総中央鉄道館」(日曜のみ開館/有料)もあり、館内には多くの鉄道部品が展示され、広大なNゲージやHOゲージのジオラマも用意されている。

 

 

↑19世紀中ごろに建った大多喜町の渡邊家住宅。渡邊家は大多喜藩御用達を務めた商家だった。列車内から大多喜城も見える(右上)

 

【いすみ鉄道の旅⑨】名物の桜や菜の花とも永遠のお別れに

大多喜駅でキハ28列車の乗車の行列に並び、無事に乗車することができた。キハ52形との編成ながら、やはり引退するキハ28形のほうに乗車する人が圧倒的に多かった。筆者にとって、沿線で撮影することが多いキハ28列車だったが、いすみ鉄道のキハ28形に実際に乗車するのは初めて。キハ58系の列車に乗車するのは、いつ以来のことになるのだろう。

 

自由席のサボが付いた乗降口から乗り、まずは年季の入った車内を眺める。床は長年、多くの人が歩いて使い込んだ古さが感じられる。

 

青い座面の下に貼られたヒーターの暖気が吹き出る小さな穴が開いた金属板。グレーの肘当ての角の丸み。窓上には座席指定の1A・1Bなどを示した小さなプレート、その横にある上着をかける金属の無骨なフック。網棚は太い緑の糸を網状に編んだ、それこそ本来の言葉そのものの「網棚」。天井には蛍光灯むき出しの照明、角張った大きなクーラーのふきだし口……見るものすべてが懐かしい。

 

乗り心地は新しい車両のようにはいかず揺れる。継ぎ目の多い線路を走るジョイント音が聞こえてくる。一基ながらエンジン音も独特の音を奏でている。これは最新車両ではなかなか体験できない味わいだろう。

 

大多喜駅を出たキハ28+キハ52の組み合わせは、上総中野駅までキハ52が先頭となり走っていく。第四夷隅川橋梁では、右に大多喜城を眺め、第五夷隅川橋梁を渡り小谷松駅(こやまつえき)へ。さらに東総元駅(ひがしふさもとえき)と、桜や菜の花がきれいな区間が続く。とはいえ今は秋。名物の桜や菜の花が咲くころには、もうキハ28形とのコラボを見ることができないのが残念である。

↑東総元駅付近は、春先の桜と菜の花畑が名物だ。写真は引退してしまったいすみ200形

 

ホーム一つの小さな久我原駅(くがはらえき)を発車すると、列車は第六夷隅川橋梁、第七夷隅川橋梁を渡って、総元駅(ふさもとえき)へ。こうして見ると蛇行する夷隅川を、いすみ線の列車は多数の橋梁で渡っていることが分かる。総元駅を過ぎれば夷隅川に架かる最後の第八夷隅川橋梁を渡る。

 

【いすみ鉄道の旅⑩】上総中野駅近くで最後の撮影を行う

西畑駅からは山中を抜けてやや登っていく。大多喜駅からわずか24分の道のり。駅が近づいてくると、終点の上総中野駅が近づいたというアナウンスとともにBGMにはオルゴール音が流される。かなりテンポが遅くぎくしゃく感があるオルゴール音が妙に懐かしく郷愁を誘う。これぞキハ28形の極め付けの音だと思った。

 

キハ28列車は上総中野駅に到着した。この列車を待ち受けるようにホームには折返し列車に乗ろうとする人であふれていた。また、到着した列車の乗客のなかには、再び大多喜駅を、さらに大原駅までを目指す人が多いようだ。折返し列車に乗車するのは不可とのことなので、一度ホームに出て並ぶ人たちも多い。

↑上総中野駅でいすみ300形と小湊鐵道のキハ200形が並ぶ。キハ28列車の到着後にはホーム上は人であふれた(上写真)

 

乗車していた人の年代はさまざま。男性だけでなく若い女性が意外に多い。老若男女にキハ28形は絶大な支持を得ていたのだった。

 

筆者はキハ28の乗車は大多喜駅〜上総中野駅のみとして、終点駅近くの堀切興津踏切で折返し列車を待った。そして通過、思わず「お疲れさまキハ28!」と心の中でつぶやいていた。これが現役キハ28形との最後の別れとなりそうだ。

↑上総中野駅で折返したキハ28列車が大原駅を目指す。この日には「くまがわ」というヘッドマークを装着して走った

 

【いすみ鉄道の旅⑪】〝名優キハ28形〟のこんなシーンも!

キハ28形と長年、名コンビを組んでいたキハ52形は、今後は1両で走ることになるのだろうか。キハ28形を導入した当時のいすみ鉄道の社長は、国吉駅で保存されるキハ30形は、キハ52形との組みあわせを考えて導入したと鉄道趣味誌の誌上で述べていた。今後どのようなコンビが組まれるのか興味深いところである。

 

最後は筆者が出合った過去のキハ28列車の勇姿を掲載させていただき、キハ28形への感謝の気持ちを伝えたい。キハ28形という素晴らしい被写体があったからこそ、下手ながら少しは映える写真が撮れたように思う。

 

ありがとうキハ28形!

↑新田野駅付近で撮影した菜の花とキハ28形。この時には朝8時台に上り列車が走っていたため同撮影が可能だった 2014年3月29日撮影

 

↑この日は日通カラーのマツダオート三輪が走った日に偶然に出合うことができた。沿線に昭和の風景がよみがえった 2015年10月3日撮影

「LUUP」電動キックボードって実際、バスや電車より早い? お得? 六本木〜渋谷で試乗しつつ、性能も確かめた

最近、街中でもニュースでも見かける機会が増えている電動キックボード。特に、LUUP(ループ)が有名ですね。都内では実証実験事業としてシェアリングサービスも開始されています。事故などの報道もあり、不安を抱いている人もいるかと思いますが、実際に乗ってみてフィーリングや注意点、お得感などを探ってみました。

 

シェアリングサービスはヘルメット「不要」

電動キックボードが注目されているのは、2022年4月に可決された道路交通法の改正案によって「特定小型原動機付自転車」という新たなカテゴリーに分類されることが決まったから。これによって、16歳以上であれば運転免許不要で、ヘルメットの着用も任意で乗れることになりました。(その代わり、最高速度は20km/hに制限されます)

 

ただ、この改正道交法はまだ施行されていないので、現状の電動キックボードは原動機付自転車のカテゴリーになり、免許やヘルメットが必要。シェアリングサービスは実証実験としてエリアと事業者を限定して行われているものなので、こちらは法の施行に先んじてヘルメット不要で乗ることができますが、運転免許の携帯は必要とされています。

↑今回、利用してみたのは都内で多くのスポットで提供されているLUUP。駅の近くに設置されていることが多い

 

LUUPの利用には、事前にスマホアプリをダウンロードし、登録を済ませておく必要があります。登録には、決済用のクレジットカード情報のほか運転免許証の登録(原付免許不可)も必須。そして、電動キックボードに関わる道路交通法のテストにもアプリ上で答えて全問正解しておかなければなりません。

↑免許証を撮影して登録。そして左側通行や歩道走行はNGなどの交通ルールを理解しておく必要がある

 

登録やテストにはそこそこ時間がかかるので、借りようとする現場ではなく事前に済ませておいたほうが良さそう。そして、アプリからレンタルするポート(専用駐車場)と車両、そして返却するポートを設定すれば予約完了です。返却ポートを登録する必要があるので、目的地を決めずにブラブラするような使い方は想定していないのでしょう。

↑レンタルした電動キックボード。都内では見かける機会も増えてきています

 

↑駆動モーターは後輪に組み込まれています

 

↑特定小型原動機付自転車に分類されるのでナンバーやテールランプ、ウィンカーなどを装備

 

↑フロントにはサスペンションが装備されていますが、タイヤ径が小さいので段差には注意が必要

 

↑アクセルはハンドルの右手側にあって、親指で押し下げるように操作します

 

↑ハンドルの左手側にはウィンカーとホーンを鳴らすためのボタンがあります

 

電動キックボードで公道を走る上での注意点

ここからは、実際にLUUPの電動キックボードに乗りながら、公道を走る上での注意点を紹介していきましょう。まず、現状では特定小型原動機付自転車は歩道を走ることができません(改正道交法が施行されれば6km/h以下での走行が可能となる)。歩道(横断歩道も)は押して通行する必要があります。走行できるのは、車道の左側。自転車歩行者道(自歩道)や普通自転車専用通行帯(自転車レーン)は走ることができます。また、交通量の多い特定の道路は走行禁止となっており、そのエリアはアプリ上に赤い枠で表示されます。

↑予約した電動キックボードを借りるには、ハンドル部に貼られているQRコードを読み込みます

 

↑歩道部分の走行は禁止されているので、押して通行する必要があります

 

↑走り出す際は、足で地面を蹴って進みはじめてからアクセルレバーで加速する

 

LUUPの最高時速は約15km/h。ママチャリで走っているのと同程度の速度です。個人的には、バイクに乗るときはもちろん、自転車に乗るときもヘルメットをかぶるようにしているので、ノーヘルで車道を走るのはやや不安でした。速度的には、それほど危なくはありませんが、速度差のあるクルマと接触してしまった場合、ヘルメットがあったほうがリスクが抑えられそうです。また、道路の左側は自転車やバイクも走るので、その点も注意が必要だと感じました。

 

個人的に、最も気をつける必要があるなと感じたのは右折。原付の場合、2車線以上ある道路では2段階右折をする必要がありますが、特定小型原動機付自転車の場合は2段階右折は禁止です。右折レーンがあるような交差点では、クルマと同様に右折レーンから曲がる必要がありますが、15km/hしか出ない乗り物では少なからず危険を感じます。LUUPでも、そうしたシーンでは、キックボードから降りて横断歩道を押して渡り、車列に並ぶ方法を推奨していますが、この走り方が危険が少ないでしょう。

↑LUUPの推奨する右折方法。青い矢印の部分は降車して押し歩きます

 

↑降車していれば歩行者扱いになるので、横断歩道を通行することができる

 

↑横断歩道を渡ってから、行きたかった方向に向かう車列に並べば不安なく右折できます

 

LUUPはバスに比べて早いのか? お得なのか??

今回は東京・渋谷から六本木に向かう約3kmの道のりを走りました。時間的には15分程度。担当編集者には、ほぼ同時刻に渋谷駅前からバスの乗って六本木駅前に向かってもらったのですが、担当編集者のほうが少し早く六本木に到着していました。筆者は気づいていませんでしたが、途中は抜きつ抜かれつのデッドヒートだったとのこと。道路の渋滞具合にもよりますが、時間的にはだいたい同じくらいと考えて良さそうです。

↑走行時は車道の左側を走ります。普通自転車専用通行帯も走行可能

 

料金的にはどうでしょうか? LUUP電動キックボードはライド基本料金50円(税込)、時間料金1分あたり15円(税込)となります。LUUPやバス、電車、タクシーで渋谷から六本木までの移動料金を比較してみた結果は以下のとおり。

・LUUP電動キックボード:渋谷から六本木 275円(約15分)

・都営バス:渋谷駅前から六本木駅前 210円(約15分)

・電車:渋谷駅→青山一丁目駅→六本木駅 276円(13〜18分・乗り換え時間含む)

・タクシー:渋谷から六本木 日中予想料金1380円(約10分)

※編集部調べ

 

移動時間はほぼ変わらなかったけど、料金で言うとわずかにバスに軍配が上がりました(タクシーは言わずもがなですね……)。あえて、バスのデメリットを述べると乗車までの待ち時間が多少発生してしまうし、時間帯によっては満員バスで不快を感じる時もあります。そういう時は、予約して気軽に乗れる電動キックボードの方が移動としては快適かもしれませんね。

↑返却予約したポートに電動キックボードを駐めたらアプリで写真を撮って記録したら返却完了です

 

近年は電動アシスト自転車のシェアリングサービスも拡大していますが、電動キックボードはそれよりは気軽に乗れて、近距離の移動に向いている印象でした。こうした電動のモビリティでは、よく”ラスト・ワン・マイル”という言葉が使われますが、まさに電車などの公共交通機関を降りて目的地までの1マイル(約1.6km)の移動に適していると言えそうです。

 

撮影/松川 忍

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

SUV志向を極めた新しいタント「ファンクロス」。走りも使い勝手の高い満足度!

今や軽自動車販売台数の約半数を占めるまでになったと言われるスーパーハイトワゴン。その元祖とも言えるダイハツ「タント」がこのほどフロントマスクを刷新するマイナーチェンジを図り、それに合わせてSUV風の新キャラクター「ファンクロス」を追加しました。今回はこの両車に試乗し、取材を通してわかった点などもご報告したいと思います。

 

【今回紹介するクルマ】

ダイハツ/タント ファンクロス

※試乗グレード:ターボ(2WD)

価格:172万1500円~193万500円(税込)

 

ダイハツ/タント

※試乗グレード:カスタムRS(2WD)

価格:138万6000円~199万1000円(税込)

↑タントをベースにアウトドア志向を極めた「ファンクロス」だが、デザインのバランスはとても良い

 

使い勝手抜群の「ミラクルオープンドア」を継続採用

ダイハツ「タント」の初代が登場したのは2003年のこと。当時は少しルーフが高いハイト系ワゴンが主流でしたが、ダイハツはここに箱形スタイルのタントを初投入しました。この時は空間の広さがポイントとなる程度でしたが、大ヒットを果たしたのが2007年に登場した2代目となってからです。そのヒットの理由は、センターピラーレスとスライドドアを組み合わせた「ミラクルオープンドア」を助手席側に採用したことでした。

 

センターピラーがなく、リアドアがスライドで後ろに下がると、そこには広大な空間が広がり、乗降性の向上はもちろん、シートのアレンジ次第でかさばるものも楽に入るというかつてない使い勝手を生み出したのです。以来、ミラクルオープンドアはタントの定番の装備となり、それは現行タントだけでなく、新キャラクター「ファンクロス」でもその魅力を引き継ぐこととなったのです。

 

では、新キャラクター「ファンクロス」はどのようなクルマなのでしょうか。

 

冒頭でも述べたように、ファンクロスはSUV風を取り入れることで「キャンプ場などでの“映え”を意識したデザイン」(ダイハツ)となっています。それを具体的に表現しているのが、ボディの四隅に施された変形六角形の樹脂ガードです。前後それぞれでこの樹脂ガードが左右を結んでそれがSUVらしい力強さを生み出しているのです。ルーフレールを装備したことで、タントよりも全高が5cm高くなっていることもポイントです。イメージカラーはサンドベージュメタリックで、他にもレイクブルーメタリックやフォレストカーキメタリックなど、自然に回帰したカラーリングが似合うデザインともなっています。

↑タント「ファンクロス」。リアエンドの処理がアウトドア志向を際立たせている。写真はサンドベージュメタリックカラー

 

SUVらしい使い方を実現するため、リアシートにこだわり

インテリアは、基本をタントと共通としたものの、各所にあしらわれたオレンジのアクセントに加え、シート表皮はカムフラージュ柄を織り込むなど、アウトドア指向のユーザーにマッチするデザインが施されています。これらは、少しクロカンチックな印象を受ける同社のタフトに近いデザインイメージと言っていいかもしれません。

↑インテリアは随所にオレンジの配色を施し、アウトドア志向を高めるデザインとなっている

 

ファンクロスで本気度を感じさせたのがリアシートです。実はこのシート、基本はベース車のタントと共通の機構を採用していますが、マイナーチェンジ前はリアシートの座面をフォールダウンして、たたむ機構を採用していました。そのため、たたんだ状態でもフロアが若干斜めに浮いた状態となっていました。それをファンクロスと新型タントでは座面は固定のまま単純に折りたたむ機構としました。そして、二段調節式となっている荷室のデッキボードと組み合わせることで、シートバックをたたんだときにフラットになるように工夫を加えたのです。ただ、この機構により、スペースの高さは5cmほど狭くなっているとのことでした。

↑カムフラージュ柄のシート。ピラーがない「ミラクルオープンドア」はアウトドア利用に大いに活用できそうだ

 

アウトドア用途に適するため、シートバックの平面は撥水加工を施した点もポイントです。荷室側からスライド調整ができる機構も新採用したことで、持ち込む荷物に応じた荷室サイズ変更にも対応できるようになりました。シートを単純に折りたためるようにしたことで、すべての操作が荷室側からできるようになったわけです。ただ、シートを前にスライドさせると隙間ができ、物が落ちやすいことには注意が必要ですね。

↑撥水加工を施したリアシートの背面。スライドドア用レバーには砂などが入り込むとやっかいかもしれない

 

一方でシートバックは垂直の状態で固定することもでき、これは箱物を積載するときに重宝するでしょう。他にもファンクロス専用装備として、後席に1か所USB端子を装備し、荷室内の照明も天井と側面に設置するなど、通常のタントにはない便利さも用意しました。

↑後席右側に装備されたUSB端子。ファンクロスだけの特別装備だ

 

↑ファンクロスの特別装備として、荷室の天井と側面には2つの照明が備えられている

 

ターボとD-CVTの組み合わせが静かでスムーズな走りを実現

試乗したのはインタークーラー付ターボエンジンにD-CVTを組み合わせた「ファンクロスターボ」(2WD)。D-CVTとは、CVTに「ベルト+ギア駆動」を組み合わせたトランスミッションで、なめらかな走りだけでなく、モード走行中のエンジン回転数を自由に変化させられるので燃費向上にもメリットがあります。ファンクロスではこのトランスミッションを標準化して、ドライバビリティ向上と経済性を両立させているのです。

↑ファンクロスターボには、インタークーラー付658ccターボエンジンを搭載。最大出力は47kW(64PS)、最大トルク100N・mを発揮する

 

走り出すと車体が軽々と前へと進みます。エンジン回転だけが先に上がって、速度が後から付いてくるようなCVTにありがちなラグはほとんど感じません。撮影のために大人3人が乗車したときも、そういった印象はなく、ひたすらスムーズに加速していく感じでした。CVT変速機は静かで、少し踏み込めば十分に力強いパワーが得られます。また、スーパーハイトワゴンは重心が高いため、本来ならカーブが苦手のはずですが、中速コーナーもしっかりとロールを抑えてくれていたのには感心しました。

↑タント「ファンクロスターボ」。D-CVTとの組み合わせによりスムーズな加速が体感できた

 

乗り心地の良さもファンクロスの特筆すべき点です。一般道の少し荒れた路面でもシートには不快な振動はほとんど伝わらず、路面にあるスリップ防止用舗装を通過したときの段差もきれいにいなしてくれます。この日は一般道だけの試乗でしたが、車内に届くロードノイズも許容範囲で、静粛性はタントと比べても十分なレベルに仕上がっていることを実感した次第です。

↑ファンクロス ターボのタイヤは、165/55R15を履く。ブランドはダンロップのエナセーブだった

 

一方でダイハツの予防安全機能「スマアシ」は、基本的にステレオカメラを使った従来からのシステムが踏襲されました。急アクセル抑制機能は搭載されていません。ただ、開発者によれば「ACC(アダプティブクルーズコントロール)の設定を、初期のタントよりもリニアに反応するタイプに変更した」ということです。従来のタントは料金所で一旦減速し、レジュームを押してからの立ち上がりがきわめて遅かった印象がありましたが、「タフトと同レベル」にまで立ち上がりを改良したと言うことでした。次回は高速道路で試してみたいと思っています。

 

新しい「タント カスタム」はより押し出し感を強めた

一方のタント。試乗車はターボエンジンを搭載した「カスタムRS」の2WDでした。フロント周りをより押し出しの強いイメージとし、ボンネットや前後バンパーのデザインに変更を加えました。アウタードアハンドルをクロームメッキ化したのも小さなことではありますが、印象深さがさらに増したのは見逃せません。インテリアはカスタム仕様にふさわしいブラックの人工皮革とブルー配色を織り込んだシートを採用しました。リアシートの機構はファンクロスと同様で、二段式デッキボードの採用も同じです。

↑フロントグリルの開口部を大型化し、より迫力を増したタント「カスタムRS」

 

乗り味はファンクロスと基本的に同じでした。アクセルを軽く踏むだけで気持ちよく速度が上がっていき、市街地の走行は実にスムーズ。路面の段差が生まれるショックも十分に吸収しており、乗用車としての満足度はとても高いと思いました。

↑ブラックの合皮とブルーのパイピングを組み合わせたカスタム専用のシート

 

SPEC【ファンクロスターボ(2WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1785㎜●車両重量:940㎏●パワーユニット:658㏄水冷直列3気筒12バルブDOHCインタークーラターボ横置●最高出力:64PS/6400rpm●最大トルク:100Nm/3600rpm●WLTCモード燃費:24.3㎞/L

 

SPEC【カスタムRS(2WD)】●全長×全幅×全高:3395×1475×1755㎜●車両重量:930㎏●パワーユニット:658㏄水冷直列3気筒12バルブDOHCインタークーラターボ横置●最高出力:64PS/6400rpm●最大トルク:100Nm/3600rpm●WLTCモード燃費:21.2㎞/L

 

撮影/松川 忍

 

 

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軽EVらしい高級な走り! EV時代を彩る日産「サクラ」を細かい意匠までチェック

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、軽自動車のEV(電気自動車)として華々しいデビューを飾った日産のサクラを取り上げる!

※こちらは「GetNavi」 2022年11月号に掲載された記事を再編集したものです

 

 

【レビュアーPROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感。クルマを評論する際に重要視するように。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわっている。

 

【今月のGODカー】日産/サクラ

SPEC【G・2WD】●全長×全幅×全高:3395×1475×1655mm●車両重量:1080kg●パワーユニット:交流同期モーター●最高出力:47kW/2302〜10455rpm●最大トルク:195Nm/0〜2302rpm●一充電走行距離:180km

239万9100円〜294万300円(税込)

 

局所的にはガソリン車の利便性を超える

安ド「殿! 今回は日産の軽EV、サクラを借りてきました!」

 

永福「うむ。これまで姉妹車の三菱eK クロス EVには何度か乗ったが、サクラは初めてだ」

 

安ド「違いはありましたか?」

 

永福「なにしろ2台は姉妹車。メカはまったく同じだから、走りも同じ。違いは見た目と内装だけだ」

 

安ド「サクラのほうが一般ウケしそうなデザインですね」

 

永福「ベースはガソリン車の『デイズ』だが、見た目はしっかり未来っぽく仕上げているな。デイズよりずっと高級なクルマに見える」

 

安ド「僕が買うならeK クロス EVにしますけど」

 

永福「それはなぜだ?」

 

安ド「いやぁ、軽に乗るなら押し出しの強い、個性的な顔が良いなと思って」

 

永福「そういう考えもあるだろう。美人は3日で飽きると言うし」

 

安ド「走りはどうでしょう?」

 

永福「EVらしく、実に高級だ。EVというモノは、概して加速が良く、重心が低くてハンドリングが良く、静かで振動がなく快適なものだが、サクラもまさにその通り。サクラのような軽自動車の場合は特に、EV化によってすべてが圧倒的に高級になったように感じる」

 

安ド「まぁ確かに、『ああ、EVだな』って感じはしました」

 

永福「EVが嫌いなのか?」

 

安ド「嫌いというわけじゃないですが、欲しくないですし、興味がありません!」

 

永福「私もまだ欲しくはないが、とても興味はある。EVはいつか、ガソリン車を超える魅力を持つ日がやってくる。その日がいつなのか、興味津々だ」

 

安ド「その日は……まだ来ていませんよね?」

 

永福「全体としてはまだ来ていないが、このサクラは、たとえばガソリンスタンドが減少している過疎地などでは、ガソリン車の利便性を超えているだろう」

 

安ド「満充電で150kmくらいは走れそうですし、通勤や買い物用としては良いんじゃないかと思います。ただこれ1台だけというのはツライですし、ウチのように借家住まいだと、自宅で充電できませんから、いちいち外で充電するのが大変です!」

 

永福「そうだな。これは地方や郊外の、一戸建てに住んでいる人のセカンドカーに向いている。補助金が出るから、値段もガソリンの軽自動車と同じくらいだ」

 

安ド「現状、それがベストなEVの使い方でしょうか」

 

永福「日本ではそうだな。日産アリアやトヨタのbz4Xのような、600万円もするEVを買って、ファーストカーとして使うのはハードルが高い。しかし、200万円でご近所用のセカンドカーを買うのは、地方では当たり前のこと。サクラはその需要にハマる」

 

安ド「日本でもEVが当たり前になって、僕がEVを買う日はいつ来ますか?」

 

永福「15年後だな」

 

【GOD PARTS 1】インパネ素材

高級感が高いうえに使い勝手も良い

インパネには一部にファブリック素材が採用されていて、なんだか軽自動車クラスのクルマとは思えない高級感が味わえます。また、助手席前のこの部分は凹んだ形状になっていて、ちょっとした小物を置くことができて便利です。

 

【GOD PARTS 2】ホイールデザイン

伝統模様を織り交ぜたほかにはない独創性

日本の伝統的モチーフ「水引」を用いたデザインになっています。祝儀袋や贈答品の包み紙などに見られるアレですね。なんだかおめでたい感じで素敵ですが、同様のデザインはドアの内側やバンパー下部にも見られます。

 

【GOD PARTS 3】ステアリング

スポークが下側になくてスッキリスポーティ!

スポークが左右にしかない独特な形状をしています。エコカーでありながらスポーティな雰囲気が感じられて良いですね。スポークの右サイドには運転支援装備「プロパイロット」の操作ボタンが配置されています。

 

【GOD PARTS 4】充電ポート

普通用と急速用充電ポートは2つあり!

ボディ右横後方には給油口ならぬ、充電ポートが設置されています。普通充電用と急速充電用の2つがあるため、普通の軽自動車の給油口と比べてデカいです。カバーを開くとライトが点灯するようになっています。

 

【GOD PARTS 5】e-Pedal

アクセルでブレーキ!? 日産得意のワンペダル

このボタンを押すと、アクセルペダルだけで車速をコントロールできる「ワンペダル運転」ができるようになります。ノートe-POWERと比べると味付けはマイルドで、アクセルを離したときのブレーキの効きは弱めです。

 

【GOD PARTS 6】バッテリー

大きくて重い物体はフロア下に搭載

自在に高さを変えられるユニバーサルスタック構造を採用したリチウムイオンバッテリーがフロア下、つまり床下に設置されています。これによりほかのトールワゴン軽自動車と同等の室内スペースを確保しました。

 

【GOD PARTS 7】フロントグリル

未来的でクールな表情を演出!

電気自動車なので空気を取り入れるための穴の開いたグリルは不要ですが、大きめの黒いグリル風パーツを採用して、フロントデザインをクールにまとめています。ヘッドライトは薄型ながら、プロジェクタータイプの3眼式になっています。

 

【GOD PARTS 8】ルーフサイドステッカー

色鮮やかなラインがボディサイドを彩る

サイドウインドウの上辺に沿って、スタイリングを彩るラインが見えます。これは春夏秋冬をイメージした4色の「シーズンズカラー」にのみ設定される専用ステッカー。オプションで購入することも可能だそうです。

 

【GOD PARTS 9】シート

見た目も良し! 触っても座っても良し!

少々高級なソファのような質感の高い表皮素材が採用されています。肌触りも良く、前席左右シートが繋がったようなデザインもモダンな雰囲気で、ドライブ中になんだかオシャレな部屋のなかに佇んでいるような感覚が味わえます。

 

【これぞ感動の細部だ!】花びらモチーフ

車名のイメージが車内を彩る

社内公募でつけられたという車名には、「日本の電気自動車の時代を彩り、代表するクルマになってほしい」という願いが込められていて、当然、日本を象徴する花である桜に由来しています。引き出し式のドリンクホルダーやセンターコンソールの収納などには、さり気なく桜の花びらをモチーフにした刻印があって、乗る人の目を楽しませてくれます。

 

撮影/我妻慶一

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11年ぶり全区間で運転再開!「只見線」各駅の「喜びの声」と「興味深い変化」をレポート

〜〜JR只見線 各駅と沿線スポット情報(福島県)〜〜

 

2011(平成23)年7月の豪雨災害の影響で、福島県の一部区間が不通となっていたJR只見線。復旧工事が完了し、10月1日に運転再開を果たした。

 

本サイトでは前回、被害を受けた橋梁の工事中と運転再開後の姿を中心に紹介したが、今回は再開を祝う駅を中心にレポートしたい。やはり線路が結ばれることによる効果は大きかったようだ。

*取材は2019(令和元)5月31日、6月1日、2022(令和4)10月15日に行いました。

 

【関連記事】
人気路線が11年ぶりに全区間の運転再開!「只見線」復旧区間を再訪し、工事前後を比較してみた

【再開後の駅めぐり①】お祝いムード一色の只見駅と只見町

只見町は福島県の南会津郡の南西部に位置し、北および西は新潟県に接する。日本有数の豪雪地帯とされ、年間降雪量は平均で1233cm(1991〜2020年の平均)にも達する。町内には田子倉ダム、只見ダムという水力発電用の大きなダムがあり、発電した電気は、東北や首都圏へ供給されている。人口は3854人(2022年9月1日現在)で、産業別就業者の割合は建設業、製造業、農業を主体にしている。

 

豊かな自然に囲まれる只見地域は2014(平成26)年6月にユネスコエコパークに指定された。ユネスコエコパークとは、自然保護と地域の人々の生活とが両立し持続的な発展を目指しているモデル地域で、日本国内では10か所が指定されている。只見地域のブナの天然林は国内最大規模とされ、豪雪地帯が育んだ自然と文化が共存する地域として、世界的にも貴重と評価された。

 

そうした只見町は町の名前が付いた只見線への思い入れが強い。運転再開後に訪れてみると、一部区間が不通だった頃とは様子がだいぶ変わり、活気が感じられた。

↑駅前通りには大きな横断幕がかかる。朝の会津若松駅始発列車が到着するころには駅前駐車場も満杯に

 

駅前通りには「祝 JR只見線全線運転再開!」の横断幕がかかる。只見駅周辺には「全線運転再開」の幟(のぼり)が数多く立ち、華やかな印象に変わっていた。

 

福島県の会津川口駅、さらに会津若松駅からの直通列車の再開が大きいのだろう。列車の到着時間が近づくと駅前の駐車場も満車になっていた。以前は、駅舎内に只見町の観光問い合わせ窓口「只見町インフォメーションセンター」があり観光客に対応していたのだが、全線運転再開に合わせて移転していた。

↑只見駅前には「おかえり10.1」の案内や幟が立つ。再開日まであと何日と表示したデジタルは再開から何日目かに切り替えられた(右上)

 

「只見町インフォメーションセンター」は、10月1日の運転再開日から、駅のすぐ目の前へ移っていた。前は駅舎内ということで、やや手狭な印象だったが、全面ガラス張りの明るい建物となり広くなっていた。ちなみに只見町ではすでに観光協会が解散しており、その業務は只見町インフォメーションセンターに引き継がれている。

 

「只見町インフォメーションセンター」の菅家(かんけ)智則さんは、「運転再開後はそれまでとは大違い。いらっしゃる方が増えて只見も変わりました」と明るい表情で話す。話をうかがう間にも、問い合わせ電話が鳴りやまず、多くの観光客が入館する。只見の観光案内だけでなく、センター内では地場産品や、新鮮な採れたて野菜なども販売しているので、かなり忙しそうだった。

 

「鉄道ファンの方には只見線グッスが人気ですよ」とのこと。只見線グッズのコーナーが設けられ、そこには只見線キャラクターの「キハちゃん」のイラストが掲げられている。ポストカードやカレンダー、気動車のイラスト入り菓子などの商品が置かれ、鉄道好きならばつい手に取りたくなるようなものも多かった。

↑移転した「只見町インフォメーションセンター」。センターには一休みできるコーナーや駐車場もある。右下は只見線グッズコーナー

 

会津若松駅発の始発列車は朝9時7分着で、この時間は同センターが混みがちだ。この列車が9時30分に小出駅へ向けて出てしまうと少し落ち着くのだが、週末の臨時列車(不定期)が走る日は同センターに立ち寄る人も多く、只見駅の周辺は賑わいを見せる(臨時列車は只見駅12時36分・もしくは40分着、折返し会津若松駅行きは13時40分発)。

 

開通したばかりに加えて紅葉時期ということもあり、列車で訪れる人に加え、車を利用する観光客も増えていて、只見の町はかなり賑わっていた。

 

【再開後の駅めぐり②】会津蒲生駅では黄色いハンカチで歓迎

只見駅の賑わいをあとに、復旧した区間の各駅をまわってみた。只見駅と会津川口駅の間には6つの駅があり、只見町内の駅が2駅、東隣の金山町内の駅が残り4駅となる。各駅では住民の熱い思いが伝わるような飾り付けが見られた。本稿では駅近くのおすすめ施設や、只見線の撮影スポットにも注目した。

 

まずは只見駅の隣りの駅、会津蒲生駅(あいづがもうえき)から。

↑会津蒲生駅前には黄色いハンカチがはためく。住民の思いが伝わるようだ。なお同駅周辺は道が狭く車進入禁止なので注意

 

写真を見るとおり、駅前広場には黄色いハンカチの飾り付けが行われ、穏やかな風にハンカチが揺れていた。ここで念のため黄色いハンカチのいわれを少し。黄色いハンカチは、山田洋次監督の映画『幸福の黄色いハンカチ』にちなんだものだろう。映画は1977(昭和52)年10月公開で、「自分を待っていてくれるなら、家の前に黄色いハンカチを揚げておいて欲しい」という主人公の思いに応え、妻が家の前に黄色いハンカチを揚げるというあらすじ。映画では何十枚もの黄色いハンカチが風にたなびくシーンが感動的だった。

 

会津蒲生駅の駅前で風にたなびく黄色いハンカチ。ようやく再開された列車でやってきた人たちを祝福する住民の熱い思いが感じられた。

 

会津蒲生駅と次の会津塩沢駅の間の撮影ポイント情報を一つ。両駅間には第八只見川橋梁がかかる。国道252号の寄岩橋から遠望できて美しいのだが、橋上での駐車はもちろん禁止、また橋の上は横幅が狭く歩道もなく、さらに大型車も頻繁に通行するので、長居の撮影はおすすめできない。

 

【再開後の駅めぐり③】感謝の言葉が目立った会津塩沢駅

国道252号の寄岩橋の近くに次の会津塩沢駅がある。会津蒲生駅と同じくホーム一つの小さな駅だが、ホームの目の前には、幟が多く立っていた。そこには赤い丸の中に白い文字で「感謝」そして「只見線全線再開通 塩沢老人会」とある。地元の老人会の会長を中心に、開通する前の工事の期間から長い間、只見線に関わってきた思いと、路線復旧に携わってきたあらゆる人々(鉄道ファンを含め)へ感謝の気持ちに込めたそうだ。

↑会津塩沢駅の前には数多くの幟が立つ。近くの河井継之助記念館紹介の幟の他に「感謝」という文字が入る幟が立つ(左上)

 

駅前の農機具を入れる倉庫の壁には「祝 おかえり只見線 万歳」とあり、下に「塩沢十島住民一同」と大きく掲げられていた。「感謝」「万歳」と、長年この地に住んできた方々のあふれる思いが伝わってくるようだった。

↑会津塩沢駅の目の前の農家の倉庫には「祝 おかえり只見線 万歳」とあった

 

【再開後の駅めぐり④】只見町で注目の観光施設といえば

この会津塩沢駅から徒歩10分ほどの場所に「只見町河井継之助記念館」があり、只見町で最もおすすめの観光施設としてPRしている。

 

河井継之助(かわいつぐのすけ)と言われても、ぴんとこない方も多いと思うので、紹介しておきたい。河井継之助は幕末の越後長岡藩の家老を務めていた人物である。卓越した先見性があり、他藩に先駆け西欧の軍備を積極的に導入した。中でも注目された銃器にガトリング砲が挙げられる。ガトリング砲とは今の機関銃に近い装備で、戊辰戦争のさなか奥羽越列藩同盟に加わった越後長岡藩に相対した官軍を大いに苦しめた。

 

とはいえ、圧倒的な物量を誇る官軍には太刀打ちできず、長岡城は落城し、継之助ほか残る藩兵は会津に落ち延びようとした。しかし、継之助は戦闘中の傷を負い、長岡から峠の八十里越(詳細後述)はしたものの、只見川沿いの集落で治療にあたる。傷の治療むなしく、破傷風のため42歳で、塩沢地区の民家で亡くなった(同民家はダム湖下に水没、今は「河井継之助記念館」内に移築)。

↑只見線の線路のそばに建つ「只見町河井継之助記念館」。継之助の人となりや、この地で亡くなるに至るまでを紹介している。入館料350円

 

河井継之助の一生は小説や映画でも描かれている。筆者は継之助に以前から興味があり、展示内容をじっくり見た。すると、そこに従者の藩士・外山脩造(とやましゅうぞう)に関しての紹介が。この外山脩造は後に衆議院議員、実業家になった人物で、阪神電鉄の初代社長でもあった。幼名は寅太で阪神タイガースの愛称はこの名にあやかったという説がある。継之助は只見で亡くなったが、偉才は後に生きる人々に引き継がれ、新たな時代を創造していったわけである。

↑只見町河井継之助記念館の駐車場前に只見川が流れる。ダムで水位が上がったが、以前はこの川の下に塩沢集落があった

 

【再開後の駅めぐり⑤】会津大塩駅は再開前のほうがきれいだった

会津塩沢駅までは只見町内の駅で、次の会津大塩駅からは金山町へ入る。会津大塩駅でもなかなか興味深い変化があった。下記は列車が不通だったころと、運転再開した後の会津大塩駅の様子だ。待合室はきれいに作り直されていて、ホーム上の白線も引き直されていた。しかし線路内は列車が不通だった時のほうが、雑草が刈り取られてきれいだった。

 

地元には「会津大塩駅をきれいにしたい会」というグループがあり、ボランティアで列車が不通だった時にも、駅の掃除を続けていた。筆者も不通だった時に訪れると、線路端の雑草取りに励む方を見かけたのだが、こうした地元の人たちが駅をきれいに守り続けていたのだろう。

 

しかし、さすがに列車が動き出すと線路内に立ち入って雑草を取るわけにはいかない。そのためこうして、逆に雑草が目立つことになったようだ。

↑会津大塩駅の3年前(左上)と復旧後(右下)。復旧後の待合室はきれいに整備された一方で、不通だったころの方が線路上の雑草が無くきれいに見えた

 

この会津大塩駅の近くには「滝沢天然炭酸水」と「大塩天然炭酸場」と2か所の炭酸泉が涌き出し、井戸も設けられている。近くの住民だけでなく、他県から汲みに訪れる人もいるそうだ。駅近くには滝沢温泉、大塩温泉の宿や共同浴場もあり、「天然サイダー温泉」が楽しめる湯として親しまれている。

 

鉄道ファンには会津大塩駅から約1kmの第七只見川橋梁がおすすめだ。

 

この第七只見川橋梁に平行して四季彩橋が架かっていて、その橋上から鉄橋の撮影ができる。この四季彩橋の下流側に第七只見川橋梁が架かり、また反対の上流方面の眺めも良く、紅葉の名所ともなっている。橋を通る車も少ない。

↑四季彩橋から望む只見線第七只見川橋梁。ちょうど臨時列車が走る。同写真の右側奥の道路上も撮影スポットとして人気

 

【再開後の駅めぐり⑥】会津横田駅も黄色いハンカチの飾り付け

第七只見川橋梁が望める四季彩橋から約1.5kmで会津横田駅へ着く。この駅も他の中間駅と同じホーム一つで、ホーム上に待合室がある造りだ。

↑会津横田駅近くにはかつて鉱山があり貨物輸送に使われた側線が残る。ホーム前には再開を祝した手作りの立て看板が立つ(左上)

 

まずはホームの前に手製の「祝 只見線」「おかえりなさい只見線全線再開通」の立て看板が立つ。さらに集落内には国旗を掲げる柱に、黄色いハンカチが結ばれていた。柱の元には「祝おかえり10.1」の看板と、幟が立ち並ぶ。駅からはコスモスと黄色いハンカチ、背景に青い屋根の家が見える。映画のような風景がそこに再現されていたのだった。

↑会津横田駅近くに建てられた黄色いハンカチ。ちょうどコスモスの花が咲いていた

 

会津横田駅は1963(昭和38)年8月20日に開業した。この開業は只見線の会津川口駅〜只見駅間の延伸開業に合わせたものだった。ところが次の会津越川駅(あいづこすがわえき)の開業は1965(昭和40)年2月1日だった。この時、他に本名駅、会津大塩駅、会津塩沢駅も、合わせて開業している。

 

会津越川駅の入口にはそうした経緯が記された案内板が立てられている。そこには「当時の国鉄に陳情を重ね、昭和40(1965)年2月に新設された請願駅です。会津越川駅の建設費は越川区と金山町で負担して造られました」とあった。住民の願いと資金を出しあって造られた駅だったのだ。

 

会津越川駅のホームの前には全線再開を祝う幟が立てられていた。掃除が行きとどいたホーム上には植物のプランターが並ぶ。越川地区の人たちが、会津越川駅を自分たちの駅と捉えている思いが伝わるようだった。

↑会津越川駅のホームと待合室。駅の入口には只見線と会津越川駅の誕生の経緯を記した案内板が立っている(右上)

 

【只見線を再訪した⑦】迫力の第六只見川橋梁近くの本名駅

会津越川駅周辺までは集落が連なるエリアだが、この先、民家がない地区が続き、只見川沿いを只見線と国道252号が寄り添うように走っていく。第六只見川橋梁を渡れば本名駅(ほんなえき)だ。本名駅では運転再開を祝う幟がホーム前に立てられ、植木がきれいに整えられていた。他の駅に比べればささやかなお祝いに感じられたが、それでも再開を祝す人々の気持ちが十分に感じられた。

↑10月1日に再開した駅のなかで、最も会津川口駅側にある本名駅。ホーム前の植木がきれいに整えられ開通を祝う幟が立てられていた

 

本名駅の近くには第六只見川橋梁が架かる。ここは撮影スポットとしても人気だ。ダムの下とダムの上、両方から撮影ができる。

 

まずダムの下へは駅から徒歩450mほどで、国道252号を渡り川への道を下りて行く。一方、本名ダムのダム上へは徒歩10分ほどだ。ダムの上を旧国道が通るが、やや道幅が狭く車の往来もあるので注意が必要となる。一方、下から見上げる側の道は工事車両と農作業の車が通るぐらいで、道にも余裕があり安心してカメラを構えやすい。とはいえ好天日は午後になると逆光になりがちなので注意したい。

 

 

↑本名ダムの前に架けられた第六只見川橋梁を渡る下り列車。同写真はダム下から撮影したもの、ダム上から撮る人も多い

 

【再開後の駅めぐり⑧】会津川口駅にも立ち寄る人が増加傾向に

10月1日に再開した区間の中で、最も会津若松側の駅となる会津川口駅。こちらは駅舎に「再開!只見線」の幟などがささやかに掲げられるなど、お祝いの様子も静かなものだった。

↑金山町の玄関口でもある会津川口駅。駅前の飾りは再開を祝した幟や垂れ幕(左楕円)を含めて控えめな様子だった

 

とはいえ、駅前の駐車場スペースは満杯だった。駅には公共トイレもあり、全線運転が再開されたことと紅葉時期が重なったこともあって、立ち寄る観光客が多く見かけられた。駅内には金山町観光情報センターもある。週末ということもあり、問い合わせの電話が途切れることなくかかってきていた。

 

【再開後の駅めぐり⑨】この秋、盛況だった臨時列車の運行

運転再開後、只見線には毎週末のように臨時列車が運転されている。この臨時列車の運行は只見線を活気づける一つの要因になっているように見えた。只見線をこれまで走った臨時列車と今後の予定を見ておこう。

 

まず運転再開日の10月1日(土)、2日(日)に企画されたのが団体臨時列車「再会、只見線号」で、DE10形ディーゼル機関車+旧型客車3両で運行された。

 

10月8日(土)〜10日(月祝)、15日(土)・16日(日)、22日(土)・23日(日)にはキハ110系の快速「只見線満喫号」が運行された。また29日(土)・30日(日)にトロッコタイプ(只見線運転時は窓閉め予定)の「風っこ只見線紅葉号」が、キハ48形観光車両「びゅうコースター風っこ」により運転が予定されている。

 

さらに、会津鉄道の観光列車「お座トロ展望列車」も走る。ガラス窓がオープンするトロッコ車両と、展望車両が連結され、通常は週末を中心に会津若松駅〜会津田島駅間を定期的に走っている。この列車が10月7日(金)、14日(金)、21日(金)、28日(金)、11月4日(金)、11日(金)、18日(金)、26日(土)に団体ツアー列車「お座トロ展望列車で行く!只見線秋の旅」として運行されている。会津鉄道は福島県の資本も入る第三セクター経営の鉄道会社で、只見線も上下分離方式(福島県が線路を保有し、JR東日本が車両を走らせる)で再建されたこともあり、福島県のバックアップの色あいが強くなっている。

↑11月26日まで只見線に乗り入れ予定の会津鉄道「お座トロ展望列車」。写真は会津鉄道内を走っている時に撮影したもの

 

ちなみに「只見Shu*Kura」という列車名で、観光列車のキハ40系の「越乃Shu*Kura」が10月22日(土)・23日(日)に小出駅経由で、新潟駅〜只見駅間を走っている。

 

こうした臨時列車は、雪が降り観光のオフシーズンとなる前、ほぼ毎週のように運転されている。定期列車は1日に3往復しか走らない線区なだけに、日中はダイヤに余裕がある。地元としても来春以降は臨時列車に期待したいところだろう。

 

今のところは他社の車両、他エリアを走る車両が〝出張〟してきて走るだけに、将来は定期的に走り、名物となるような観光列車が造れないものだろうか。例えば、2010年代まで走っていた「SL会津只見号」を復活させることができないのだろうか、そのあたりも気になるところだ。

 

【再開後の駅めぐり⑩】車利用の観光客を惹き付けるためには

今は開通景気と紅葉時期のため賑わいをみせる只見線だが、先々どのようにすれば、継続的な誘客が可能となるのか、筆者なりに考えてみた。只見線は〝乗り鉄〟にとっては魅力的な路線であることに違いない。とはいえ、全線を巡るとなると1日必要になる。途中下車して過ごすとなれば、なおさら時間がかかる。臨時列車はどれも賑わっていたが、今後の定期運行が決まっていないだけに、これからが大切なように思われた。

 

只見線沿線を訪れる観光客、撮影に訪れる人はクルマの利用が圧倒的に多いように思われる。とすれば誘客に加えて、現地で物品を購入してもらうことが肝心になるだろう。一つの好例がある。

 

それは只見線の絶景の代表としてPRされることが多いのが第一只見川橋梁である。只見川に架かる橋をゆっくり走る気動車。風がなければ川面が水面鏡となり、列車が写り込んで絵になる。四季折々、晴天日だけでなく、霧の立つ日なども訪れる人が多い。

 

こうした絶景が写せるビューポイント(JRで紹介された絶景ポイント)と遊歩道が整備されており、そこに行く観光客が多い。すぐ近くには「道の駅 尾瀬街道みしま宿」(福島県三島町)があり、週末ともなると駐車場スペースも満杯で物販も好調のようである。

↑第一只見川橋梁の一番低い位置の撮影スポットB地点から撮影したもの。さらに上がったC地点、D地点まで遊歩道が整備される

 

ちなみに第一只見川橋梁のビューポイントはB・C・Dの3カ所ある(Aは遊歩道の入口でビューポイントではない)。道の駅から最短のビューポイントB地点までは徒歩で5分もかからない。Bの上にあるC地点、さらに奥のD地点まで行けば、広大な景色が楽しめる。また、各地点には列車が橋を渡る時間が掲示されていてありがたい。ただし行きは上り坂、帰りは下り坂となるので注意して歩きたい。

 

↑国道252号沿いの「道の駅 尾瀬街道みしま宿」(三島町)。第一只見川橋梁のビューポイントは右奥の山の傾斜部にある

 

↑道の駅にある只見川ビューポイント遊歩道の案内図。Aから入りB、C、Dの順にポイントがある。各場所から写真も掲載される

 

筆者が訪れた時はビューポイントへ向かう人も絶え間なかった。訪れる人は、こうした只見線の絶景を一度はカメラやスマホで撮っておきたいという人ばかり。ただし道の駅のPRサイトなどの記事はあまり分かりやすいとは言えず、少し残念に感じている。

 

只見線には他にも絶景ポイントがあるので、そちらも第一只見川橋梁のように、撮影ポイントを整備すればよいのではないかと思った。

 

少し先になるが2026(令和8)年には只見への新ルートが開通する予定だ。新潟県の三条市と只見町を結ぶ国道289号の県境部が全通する予定になっている。この国道が八十里越(前述の河井継之助が越えた道)とも呼ばれる峠道で、このルートを使うと三条市〜只見町が79分で結ばれる。冬期も通行が可能との情報もあり、新たなルート誕生にも期待したい。

 

【再開後の駅めぐり⑪】実は豪雨災害の後に廃止された駅があった

「平成23年7月新潟・福島豪雨」後、只見線で唯一、営業休止のままとなり、10月1日の全線開通時にも再開しなかった駅がある。田子倉(たごくら)という駅だ。

 

田子倉駅は只見駅〜大白川駅間の駅で、県境となる六十里越の福島県側、只見町内の田子倉湖畔にあった。1971(昭和46)年8月29日に只見駅〜大白川駅間の開通に伴い開業した。

 

利用者が1日に0〜3人だったこともあり、2001(平成13)年12月1日からは3月まで冬期休業となり、普通列車が停まらない臨時駅となっていた。2011年(平成23)年7月30日、豪雨災害の影響を受けたその日に営業休止、後に只見駅〜大白川駅間が復旧したものの、2013(平成25)年3月16日に正式に廃駅となった。

 

旧田子倉駅の入口棟は国道252号に面していたものの、駅のホームは入口を下りた湖畔のスノーシェッドの中にあり、今は入口も閉鎖されホームの様子を見ることはできない。なお、駅の周辺に民家は一軒もない。近くに田子倉無料休憩所があり、ここをベースに奥只見の山々へ登る人も見られるほか、釣り客も訪れる。

↑旧田子倉駅の入口棟の様子。国道252号沿いにあり、この建物から下のホームへ下りていった

 

↑入口を塞ぐネットから中をのぞくと階段などがきれいに残されていた。右にわずかに見える階段から下に降りたようだ

 

もし「平成23年7月新潟・福島豪雨」により路線が不通になることがなかったら、駅はどのような運命をたどっていただろうか。〝秘境駅〟を訪れる人は今も意外に多いし、ユネスコエコパークのベースとしても利用されていたかも知れず、少し残念なところである。

合弁会社「ソニー・ホンダモビリティ」がスタート。第一弾はエンタメ重視の高付加価値車

ソニーとホンダによる合弁会社「ソニー・ホンダモビリティ」が10月13日、新会社設立記者会見を開催し、新会社として今後の方向性や商品計画が明らかになりました。そこでは新会社として今後の方向性や商品計画などが説明され、両社による新たなモビリティがいよいよ動き出すことになったのです。

 

すべては2020年1月に登場した『VISION-S』がきっかけ

↑ソニーがEVコンセプトとして発表しているSUVの「VISION-S02」(左)と、「VISION-S01」(右)

 

振り返れば、ソニーがEVコンセプト『VISION-S』を発表して世間を驚かせたのが、2020年1月に米国ラスベガスで開催されたCES2020でのことでした。この時は予告なしで公開されたことに加え、そのあまりに高い完成度から「ソニーがEV(電気自動車)を発売するのか?」「日本版テスラになるのか」などと、騒然としたのを思い出します。

 

その後、ソニーはコロナ禍でオンライン開催となったCES2021で、欧州を舞台にテスト走行する映像を公開。VISION-Sが単なるモックアップでないことを映像を通して訴え、“ソニー製EV”の誕生への期待はますます高まったのでした。

 

そして、2022年1月、事態は大きく動きます。ソニーはその第二弾「VISION-S02」を発表し、その席上でソニーの吉田憲一郎CEOが2022年中にもEVの販売を検討する新会社「ソニーモビリティ」を設立すると宣言したのです。

↑2022年1月に開催されたCES2022では、ソニーの吉田憲一郎CEOが2台のEVコンセプト「VISION-S」を前に、ソニーとしてEVの市場投入計画を宣言した

 

そして3月、新たな発表が再び世間を騒がせました。なんとソニーとホンダが新たな合弁会社を2022年中に設立し、電気自動車(EV)の共同開発と販売、モビリティ向けサービスの提供について共同で事業化することを発表したのです。この瞬間、それまで噂ばかりが先行していた“ソニー発のEV”がいよいよ現実味を帯びることとなったのでした。

 

2025年前半にオンラインにて受注開始。デリバリーは翌2026年から

↑新会社設立の目的について、そのコンセプトについて説明したソニー・ホンダモビリティ代表取締役 会長 兼 CEOの水野泰秀氏

 

では、10月13日の新会社設立記者会見で明らかにされたのはどんな内容でしょうか。まず明らかにされたのは今後の行動計画です。それによると、ソニー・ホンダモビリティが第一弾車両を発表するのは2025年前半で、同時にオンラインでの受注を開始します。そして2026年春に北米でデリバリーを開始し、日本国内向けには2026年後半を予定。その先には欧州での展開も視野に入れているとのことでした。

 

生産はまず北米で行い、状況次第では日本での生産もあり得るとのことです。ただ、ソニー・ホンダモビリティはいわゆる企画会社であって、生産はすべて本田技研工業に委託する形となるため、本田技研工業の生産計画に左右されるとのことでした。

 

気になるのは発売される車両の概要でしょう。会見に登壇したソニー・ホンダモビリティの代表取締役会長兼CEOの水野泰秀氏は、「ソニーが培ってきたネットワーク技術やエンターテイメント性を備えたかつてない高付加価値のクルマ」であると説明しました。個人的には、ソニーでいえば“ウォークマン”的な、ホンダで言えば“HONDA e”的な、よりカジュアルなモビリティの誕生を期待していましたが、そうではないようです。

 

むしろ、エンターテイメント性に高付加価値を求めるのであれば、それこそソニーが提案してきた『VISION-S』シリーズがそれに近い形なのかもしれません。VISION-Sにはダッシュボードの左右いっぱいにビルトインされたディスプレイ、360リアリティオーディオを組み込んだシートが組み込まれていました。それはまさに“動くAVルーム”そのものです。

 

走行中でもエンタメが楽しめる自動運転レベル3に対応

↑第一弾は「ソニーのエンターテイメント性を加えた高付加価値のモビリティになる」と説明するソニー・ホンダモビリティ代表取締役 社長 兼 COOの川西泉氏

 

一方、ホンダには世界で初めて自動運転レベル3の認証を受けた技術があります。レベル3を実現していれば、渋滞中などの一定条件内の利用にはなりますが、運転中にディスプレイを凝視しても構わなくなります。つまり、この組み合わせこそがソニー・ホンダモビリティが目指す“高付加価値なモビリティ”の一つの形と言えるのではないでしょうか。

 

ソニー・ホンダモビリティの代表取締役社長兼COOの川西泉氏は、自動運転のレベル3やレベル2+についても言及し、その実現のために「800TOPS以上(1秒当たり800兆回以上)の演算性能を発揮する高性能SoC(System on Chip)を採用する」と説明していました。このスペックから自動運転の性能を推察するのは困難ですが、少なくとも言及する以上は相応の高性能を発揮する状態でリリースされるのは間違いないでしょう。

 

会見が終わり、あとは記念写真かと思った時、ステージ上のスクリーンに浮かび上がったのは「January 4, 2023 in Las Vegas」の文字。これは年が明けた1月4日より米国ラスベガスで開催される「CES 2023」を指していることは明らかです。これまでソニーはこのCESでVISION-S関連の重要な発表を行ってきただけに、おそらくソニー・ホンダモビリティによる第一弾が披露されるのかもしれません。そんな期待を抱かせ、この日の会見は終了しました。

 

「ソニーモビリティ」としての別の展開はあるのか?

↑会見終了後、改めて握手を交わして記念写真に応じた川西COO(左)と水野CEO(右)

 

ただ、会見で明らかにされていない件が残っています。それは2022年1月にソニーの吉田CEOが発表した「ソニーモビリティ」の具体的な行動計画に対する言及は一切なかったこと。実は3月に行われたホンダとの合弁会社設立発表の際、吉田CEOは「ソニーが提供するサービスのプラットフォームをホンダ車以外の自動車メーカーにも使ってもらうこと」と発言していました。これはもしかしたら、別ブランドでの展開も視野に入れているということなのでしょうか。

 

ただ、それでもソニーが独自に展開することはないでしょう。生産を委託するにせよ、家電メーカーが自動車の販売を独自に進めることはリスクが大き過ぎるからです。あくまでエンターテイメント性を極めたプラットフォームの提供だけにとどめ、いわゆる“Sony inside”みたいな展開が インフォテイメントシステムなどを通して発展していくのではないかと考えます。

 

このあたりを担当者に尋ねてみましたが、「現状では発表できるものは何もない」とのこと。もし、ソニーのプラットフォームがホンダ車以外で展開されるのであれば、個人的にはここでこそウォークマン的なモビリティを期待したいところです。いずれにしろ、まずは来年のCES2023での展開に注目していきたいと思います。

 

 

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京セラ、夜間走行時のセンシングに大きな効果をもたらす「車載ナイトビジョンシステム」を技術発表

京セラは10月11日、世界で初めて白色光と近赤外光の光軸一致・一体化した「車載ナイトビジョンシステム」の開発をしたと発表。同日、都内で記者説明会を開き、その効果についてデモを通した説明会を実施しました。なお、この車載ナイトビジョンシステムは、10月18日~10月21日に幕張メッセ(千葉県)で開催された「CEATEC 2022」にも出展していました。

↑クルマのフロント部分を使ったデモ機。ヘッドライト内にはWhite-IR照明が埋め込まれ、フロントグリル中央(エンブレム下)に備えられたのがRGB-IRセンサ。下の照明はヘッドライトをジオラマ用に設定したもの

 

車載ナイトビジョンシステムの実装は2027年ごろを予定

車載ナイトビジョンシステムは、照射された物体をRGB-IRセンサ(可視光と近赤外光センサ)で撮影し、その画像データから独自のフュージョン認識AI技術により高精度な物体検出を可能としたものです。白色光と近赤外光の光軸を一致させたレーザーヘッドライトは世界で初めてで、京セラでは、安全性の向上や自動運転車のセンシングデバイスとしての実用化も見込んでいます。

 

この白色光と近赤外光の光軸一致・一体化した車載ナイトビジョンシステムは、京セラの米国子会社で自動車用ヘッドライトを手がける米国のKYOCERA SLD Laser,Inc.独自開発した高輝度、高効率、小型パッケージを実現するGaN(窒化ガリウム)製白色光レーザーを採用することにより実現したものです。

↑一体型ヘッドライトを採用したことで、より高精度な認識結果を獲得。車両デザインにも影響は与えなくて済むメリットもある

 

その効果としては夜間、雨、霧など視界が悪い環境下でも危険要因になる可能性のある物体を高精度に認識し、安全運転を支援できるのが最大のポイントです。また、独自の学習データ生成AI技術によって学習を効率化しており、これによりコストと性能の両立を実現しているのも見逃せません。

↑独自のフュージョン認識AI技術による高精度検出を実現。可視光画像と近赤外光画像の両方の強みを併せ持つ

 

↑近赤外光画像は「学習データ生成AI技術」によりデータ収集が不要。AI学習コストを大幅に削減できる

 

ヘッドライト内の白色光をロービーム、近赤外光をハイビームなどとし、人や物に応じて配光を変化させることができることから、眩しさを抑えながらセンシングできる特徴も持ちます。また、白色光と近赤外光の一体型によりヘッドライトの省スペース化と車のデザインに自由度を提供することも可能に。京セラでは、2025年には量産技術を確立し、2027年にも実用化していく計画です。

White-IR照明技術は、1つの発光素子に照明となる白色光に、近赤外光を生み出すダイオードも一体化した

 

↑検知した結果からどちらかを選ぶのではなく、2つの結果をフュージョンさせることでより良い結果をもたらしている

 

↑可視光画像から近赤外光の学習データ画像を自動生成する「生成AI技術」を開発

 

京セラ 研究開発本部 先進技術研究所の所長・小林正弘氏は、車載ナイトビジョンシステムの開発意図について、「弊社研究所ではさまざまな社会課題の解決に向けて、要素研究およびシステム研究を行なってきました。今回の発表は(そこから生まれた)要素研究の成果を具現化し、ADAS(先進運転支援システム)車載向けに発表したものです。運転中の危険因子をどんなシーンでも検知できるシステムを開発し、社会に提供することで、京セラは交通事故の撲滅に貢献していきたいと考えています」と述べました。

↑冒頭の挨拶に立った京セラ 研究開発本部 先進技術研究所の小林正弘所長

 

同社研究開発本部 先進技術研究所 自動走行システムラボの大島健夫氏は、「近年のADAS技術普及によって交通事故は減少傾向となっているが、夜間や霧発生の死亡事故は大幅に増えています。そうした様々な危険要因を検知するため、用途に合わせてカメラやミリ波レーダー、LiDARなどの各種センサを採用してきましたが、それぞれが対応する条件は制限されており、悪条件下での危険検知性能は十分ではありませんでした。そこで危険検知性能のさらなる高度化を図る一方で、搭載するセンサ数の削減を両立させなければなりません。こうした課題を解決するために京セラが開発したのが車載ナイトビジョンなのです」と語りました。

↑記者からの質問に答える研究開発本部 先進技術研究所 自動走行システムラボの大島健夫氏

 

夜間ドライブに大きな安心感として効果を発揮してくれそう

説明会終了後は、模型を使ったデモンストレーションが行われました。大型モックアップのヘッドライト内にはWhite-IR照明が埋め込まれ、フロントグリル中央にRGB-IRを組み合わせて車載ナイトビジョンシステムとしています。車載ナイトビジョンシステムによってセンシングされた映像はモニターを通して確認できるようになっていました。

↑デモに使われた模型とそのディスプレイ部を備えたジオラマ

 

部屋が明るい状態でも被写体をセンシングした枠がモニター上で反映されていましたが、この状態では暗い場所での効果がわかりません。そこで照明を落とすと、モニター上には車載ナイトビジョンシステムによるセンシング状態が浮かび上がりました。驚いたのはそのセンシングがかなり広い範囲まで届いていることです。一方の白色光だけの照射では、照射した光が当たった中央部以外はセンシングされないままとなっており、その差は歴然としていました。

↑車載ナイトビジョンシステムで照射した結果。近赤外光も併用するため、両サイドの暗闇に配置された駐車車両や黒いクルマ、さらには端にいる歩行者までしっかりと検知している

 

特に見分けがつきにくい黒い車両でも鮮明に捉えていたほか、左右の生け垣の奥にいる歩行者の存在も見事にセンシングしていたのには驚きました。これなら夜間走行時に歩行者を捉えるのも容易ですし、何よりも横断歩道を渡ろうとしている歩行者をセンシングしてくれることことへの期待値も上がります。これを使えば、視認性が下がる夜間の雨天時でも安心度が高まるのえはないかと感じました。

↑画面内に白色光だけの画像で危険要因を検知させた映像(左)と、近赤外光の画像も併用する車載ナイトビジョンシステムの検知映像(右)の比較。検知範囲が大きく違う

 

また、レーザーを使っていることで、人間の目に対する影響を心配する声も上がりましたが、それについて担当者は「レーザー光の出力を分散させることで、同じ場所にレーザーが集まらないような設計としています。今回のデモでは近赤外線の方を幅広く照射し、白色光を狭めて照射し、さらに反射板を併用することで人の目に直接入らないようにも工夫しています」とのことでした。

 

この車載ナイトビジョンシステムを車載で展開する場合は、基本的にセンシングした結果をインフォテイメントシステムに反映させることとなります。たとえばメーター内とか、ヘッドアップディスプレイ上に展開することも考えられるとのこと。発表された車載ナイトビジョンシステム、実装されれば夜間ドライブで大きな安心感を生んでくれそうだと思いました。

 

 

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11年ぶりに運転再開!「只見線」の復旧区間を再訪してみた〈前編〉

〜〜JR只見線 復旧工事前後を比較レポート(福島県)〜〜

 

福島県の会津若松駅と新潟県の小出駅を結ぶJR只見線。2011(平成23)年7月の豪雨災害の影響で、福島県の一部区間が不通となっていたが、復旧工事がようやく完了し、10月1日に11年ぶりの運転再開を果たした。

 

複数の鉄橋が崩落するなど、大規模な復旧工事が必要となった只見線。工事着工1年後と、運転再開後に再訪し、変わった只見線を比べてみた。観光客の来訪の様子も含め、復旧の悲願を達成した沿線を2回にわたりレポートしたい。

*取材は2019(令和元)5月31日、6月1日、2022(令和4)10月15日に行いました。

 

【関連記事】
夏こそ乗りたい! 秘境を走る「只見線」じっくり探訪記〈その2〉

 

【只見線を再訪した①】満員の列車到着で賑わっていた只見駅

只見線の起点は会津若松市の玄関口、会津若松駅。会津若松市は福島県会津地方の中心都市であり、旧会津藩の城下町としても良く知られている。起点の会津若松駅から終点の小出駅まで、全線135.2kmとその距離は長い。所要時間も4時間半ほどだ。全線を走る列車は1日にわずか3往復といった具合だ。それにもかかわらず只見線は鉄道雑誌などのローカル線の人気投票で、常にベスト3位に入る人気路線となっている。

 

そんな只見線を悲劇が襲った。2011(平成23)年、全線開通40周年のお祝いが行われたわずか数日後の7月26日から30日にかけて「平成23年7月新潟・福島豪雨」により、大きな被害を受けた。一部区間の復旧は果たしたものの、会津川口駅〜只見駅27.6km(営業キロ)間では複数の橋梁が流されるなど被害が大きく、長期間の不通を余儀なくされる。4年にわたる復旧工事が進められ、この10月1日に運行再開となった。

↑会津若松駅発、只見駅9時7分着の〝始発列車〟が到着した。駅のそばの水田ではかかしたちが「お帰り只見線」とお出迎え(上)

 

筆者は復旧してから2週間後の只見駅を訪れた。そして9時7分着、会津若松発〝始発列車〟の到着を待った。この列車は会津若松駅6時8分発だ。

 

1両編成のキハ110系、小出駅行きがホームに入ってくる。見ると車内は立って乗車する人が多いことが分かる。只見駅に到着すると、多くの人たちが下車してきた。乗客は老若男女、先生が付き添う小学生の一団も見られた。運転再開して2週間がたつのに、その乗車率の高さに驚いた。

 

この小出駅行き列車は、只見駅で23分間の休憩時間を取る。この駅で乗務員が交代、乗客たちもホームで、また駅舎の外へ出て一休みしている。このあたりローカル線ならでは、のんびりぶりである。

 

乗客のうち只見駅で下車する人は1割ぐらいだったろうか。次の小出駅行きが16時31分発までなく(まれに臨時列車が走る日も)、また会津若松方面に戻るにしても、次の列車は14時35分(臨時列車運行日は13時40分)といった具合なので、日中に只見の町で過ごそうという人は見かけなかった。

 

出発時間が近づくと列車に戻り、また只見駅から乗車する人も加わり、多くの人たちがそのまま終点の小出駅を目指して行ったのだった。

 

【只見線を再訪した②】只見線の宝物といえば渓谷美と鉄橋

復旧後に全線を通して走る列車3往復の時刻を見ておこう。

 

〈下り〉会津若松駅→小出駅

423D列車:会津若松6時8分発→只見9時7分着・9時30分発→小出10時41分着

427D列車:会津若松13時5分発→只見16時21分着・16時31分発→小出17時47分着

431D列車:会津若松17時00分発→只見19時52分着・20時2分発→小出21時26分着

 

〈上り〉小出駅→会津若松駅

426D列車:小出5時36分発→只見7時1分着・7時11分発→会津若松10時32分着

430D列車:小出13時12分発→只見14時25分着・14時35分発→会津若松17時24分着

434D列車:小出16時12分発→只見17時30分着・18時00分発→会津若松20時55分着

 

ほかに区間限定で運転される列車と、ごく一部の週末に運転される臨時列車が走る。ダイヤを見ると夜間に運転される列車を除き、日中に走る列車は2往復のみで、なかなか利用しづらいというのが現実だ。ちなみに、不通となる前も全線を走る列車は1日に3往復しか走っていなかった。

↑第一只見川橋梁を渡る下り427D列車。会津桧原駅〜会津西方駅間にある橋梁を望む展望台は紅葉期ともなれば大変な人出に

 

あらためて只見線の魅力はと問えば、列車の本数が少なく貴重な体験が楽しめること。また第一只見川橋梁のように、只見川に架かった橋と、周囲の山々が織りなす景観の素晴らしさが挙げられるだろう。第一只見川橋梁は国道252号沿いに展望台が設けられていて、近くにある「道の駅 尾瀬街道みしま宿」から徒歩で5分程度と近い。ただし展望台へは若干、山の上り下りが必要となる。

↑本MAPは只見線の不通区間だった会津川口駅〜只見駅間を中心に紹介。人気の第一只見川橋梁と、第五〜第八橋梁の位置を図示した

 

【只見線を再訪した③】希少車やラッピング車両に注目したい!

ここで只見線を走る車両を紹介しておこう。只見線といえば長年キハ40系が走っていたが、残念ながら2020(令和2)年7月に運用終了となっている。現在走っている車両は以下の2タイプだ。

 

◇キハ110系

↑紅葉期に合わせて10月の連休や週末に運転された「只見線満喫号」。150年前の客車をイメージしたレトロラッピング車両が走った

 

JR東日本を代表する気動車で、只見線を走る車両は新津運輸区に配置される。筆者が訪れた日には、臨時列車(快速「只見線満喫号))の増結用として、「東北デスティネーションキャンペーン」にあわせ「東北のまつり」のレトロラッピングを施した「キハ110系リクライニングシート車」も走っていた。こうした臨時列車の運行時は増結車両に注目したい。

 

◇キハE120形

↑越後須原駅〜魚沼田中駅間を走るキハE120系。同車両は前後2扉が特長となっている。全線復旧後は小出駅まで乗り入れている

 

キハE120形は新津運輸区に配置されていた車両で、郡山総合車両センター会津若松派出所属に配置替え、2020(令和2)年3月14日から只見線で運用を開始した。

 

関東地方の久留里線や水郡線を走るキハE130系と形は似ているが、キハE130系の乗降扉が3扉あるのに対して、キハE120系は2扉で、両側に運転台を持ち、1両での運行も可能となっている。またキハ110系との併結運転も可能だ。製造されたのが8両という希少車両でもある。

 

只見線の全線運転再開に合わせて10月1日から1両のみ(キハE120-2)が「旧国鉄カラー」色のクリーム色と朱色の組み合わせラッピングで走り始めたが、運転開始日の始発列車で運用された時に、只見線内で車両故障のトラブルが起き、立ち往生してしまった。筆者が訪れた日にも残念ながらお目にかかることができなかった。

 

【只見線を再訪した④】只見川はふだん穏やかな川だが

ここからは、只見線と関係が深い只見川の話に触れておきたい。只見川は日本海へ流れ込む阿賀野川(福島県内では阿賀川)の支流にあたる。只見線は会津若松駅から会津坂下までは会津若松の郊外線の趣だが、会津坂本駅からほぼ只見川に沿って走る。只見駅の先、六十里越トンネルへ入るまで8つの橋梁を渡る。

 

戦前に会津宮下駅まで延伸開業していた只見線(当時はまだ「会津線」と呼ばれた)だが、戦後はまず、1956(昭和31)年9月20日に会津川口駅まで延伸。会津川口駅〜只見駅間は、当初は只見川に設けたダム建設用の資材を運ぶための路線として設けられ、1961(昭和36)年までは電源開発株式会社の専用線として貨物輸送が行われた。その後、1963(昭和38)年8月20日に同区間は旅客路線として延伸開業している。全通したのはその8年後で、1971(昭和46)年8月29日、只見駅と新潟県側の大白川駅間が開業し、全線を只見線と呼ぶようになった。

↑只見ダムによってせき止められた只見湖の上流には田子倉ダムがそびえる。このダムの先には巨大な人造湖・田子倉湖が広がる

 

只見線の車窓からも見えるが、只見川は上流にかけて計10のダムが連なっている。上流部のダムはひときわ大きく、田子倉ダム、さらに上流の奥只見ダムは全国屈指の規模とされている。水力発電により生み出された電気は、東北県内、また只見幹線と呼ばれる送電線により首都圏方面へ送られている。つまり、只見川でつくられた電気が広域の電気需給に役立っているわけだ。

 

ダムにより治水も行われ、ふだんは穏やかな只見川を暴れ川にしたのが、2011(平成23)年7月26日から30日にかけて降り続いた「平成23年7月新潟・福島豪雨」だった。その降り方は尋常ではなかった。筆者の従兄弟が、この地方の学校にちょうど赴任していたのだが、当時のことを聞くと、それこそ「バケツをひっくり返した」という表現がふさわしい降り方だったと話している。この時は本当に「降る雨が怖かった」そうだ。1時間に100ミリ前後の雨が降り続き、只見町では72時間の間に最大700mmの降雨を記録している。要は大人の腰近くまで浸かるぐらいの雨が、短時間に降ったのだから、その降り方は想像が付かない。只見川に多く設けられたダムも、この予想外の雨には無力だった。ダムの崩壊を防ぐためにやむなく緊急放水を行うことになる。

 

降水および放水により、急激に水かさを増した只見川の濁流が住宅や水田、そして橋を襲う。只見線では只見川にかかる第五、第六、第七、第八只見川橋梁が崩落し、また冠水して復旧工事が必要となった。

 

今、ふり返れば、雨が降る前から少しずつ放流していればと思うのだが、最近の豪雨災害は予想がまったくつかない。裁判も開かれたが、今の豪雨災害はダム管理者にとっても管理が非常に難しいというのが現実なのだろう。

 

【只見線を再訪した⑤】2018年に復旧工事が始まった

被害を受けてからその後の鉄道会社と自治体の対応は、詳細は省くとして、結論としては復旧した後は福島県が線路を保有し、JR東日本が車両を走らせ上下分離方式で運用されることが決定。復旧費用は約90億円とされ、そのうち3分の2は福島県と会津地方の17市町村、3分の1をJR東日本が負担する。線路の保有・管理費用は毎年約3億円とされ、これらは自治体の負担となる。

 

そうした負担や、今後の管理運営方針がはっきりしたところで、2018(平成30)年6月15日から復旧工事が開始された。

↑被害の軽微なところでは写真のように線路上も走れる油圧ショベルを使っての作業が行われた

 

復旧工事が始まって約1年後に現地を巡ったが、第六只見川橋梁の工事が特に大規模な工事に見受けられた。

 

第六只見川橋梁は、東北電力の本名(ほんな)ダムの下流部に架かっていた。この橋を復旧させるために、ダムの下に強靭な足場を造り、そこに大型クローラークレーンを入れ込んだ。新しい橋脚を造り上げるためだった。川の流れのすぐそばに持ち込まれた重機が動く様子を見ただけでも、難工事になることが容易に想像できたのだった。

↑第六只見川橋梁の復旧工事現場には、写真のような大型クローラークレーンが据え置かれて、橋脚の新設に使われていた

 

【只見線を再訪した⑥】それぞれの橋梁の復旧前後を見比べると

ここからは被害を受けた鉄橋が架かる箇所の、復旧前後の変化を見ていきたい。橋が濁流に飲まれたところでは、なぜ流されたのかが想像できないところもある。それほどまでに水かさが増し、流れが激しかったということなのだろう。

 

ちなみに、2021(令和3)年に只見線の橋梁や諸施設は「只見線鉄道施設群」として土木学会選奨土木遺産に認定されている。日本の土木技術を高めたとして、土木工学の世界でも大切とされているわけだ。

 

まずは第五只見川橋梁(橋長193.28m)から。この橋梁は中央部が曲弦ワーレントラスという構造になっていて、前後はシンプルな形のプレートガーダーで結ばれている。この第五只見川橋梁が架かるところは、川がちょうどカーブしているところで、流れがそのカーブに集中したようで、下流側のプレートガーダー部分が流されてしまった。第五只見川橋梁の復旧費用は約3億円とされているが、被害を受けた4本の橋梁のうち、もっとも少ない費用で復旧することができたとされる。

↑国道252号から望む第五只見川橋梁。穏やかな川面には橋を写しこむ水面鏡が見られた。会津川口駅側の一部分が被害を受けた(右上)

 

【只見線を再訪した⑦】水面上昇を考慮した新第六・七只見川橋梁

本名駅(ほんなえき)〜会津越川駅(あいづこすがわえき)間に架かるのが第六只見川橋梁(橋長169.821m)で、会津横田駅〜会津大塩駅間に架かるのが第七橋梁(橋長164.75m)となる。どちらの橋も迫力があり、渡る列車の車窓からの眺めも素晴らしい。

 

このうち第六只見川橋梁は本名ダムに平行するようにかかり、放流の際にも影響を受けないように、離れて設置され、水面からの高さも確保されていたのだが、それでも被害を受けてしまった。

 

構造は第六、第七只見川橋梁ともに橋げたはプレートガーダーだったが、ボルチモアトラスという構造物(上路式トラス橋とも呼ばれる)が下に付く形をしていた。橋を強化するための構造だったが、水面が上昇した際に流木などが引っ掛かり、さらに当時はより橋脚も川の流れに近かったことも災いした。

↑第六只見川橋梁の架橋工事が進む。正面が本名ダムで手前の高い位置に橋が架かっていたが流されてしまった

 

↑復旧した第六只見川橋梁。川の流れに影響されないように橋脚は両岸の高い位置に設けられた。ちょうど下り列車が通過中

 

第六、第七只見川橋梁ともに流れの影響を受けないように、橋台・橋脚が強化され、また流れが届かない位置に設けられた。橋げたも長く延ばされている。また以前は線路部分の下に構造物が付いたボルチモアトラス(上路式トラス橋)だったが、上部に構造物がある下路式トラス橋に変更されていて、水面上昇に被害を受けにくい構造が採用されている。

 

第六只見川橋梁の工事は、地質条件が想定よりも悪かったなどの悪条件が重なり、工法を再検討するなど困難を極めた。工事の進捗にも影響し、復旧見込みの日程もずれることになった。復旧費用は第六只見川橋梁が約16億円とされる。

↑第七只見川橋梁の復旧工事の模様。橋脚・橋げたを含めすべて除去した後に、新たな橋脚工事から進められた

 

↑第七只見川橋梁を渡る快速「只見線満喫号」。水面が上昇しても影響を受けない下路式トラス橋という構造が使われる

 

この2本の橋梁の再建方法を見ると、水面が上昇し、水圧を受けたとしても、被害が受けにくいような構造および技術が採用されている。素人目に見てもタフな構造に強化されているように感じた。

↑磐越西線の開業当時の古い絵葉書。中央部がボルチモアトラス(上路式トラス橋)で今では国内4箇所のみに残る珍しい構造だ

 

【只見線を再訪した⑧】道路が平行しない場所の復旧工事では

被害を受けた4本の橋の中で予想を上回る復旧費用がかかったのが第八只見川橋梁(橋長371.10m)だった。この区間のみで約25億円がかかったとされている。この橋梁前後は盛り土が崩壊し、また橋梁が冠水した。上部にトラス構造が付く橋だったせいか、橋自体の流出は免れているが、さらなる被害をふせぐために、一部のレールの高さが最大5mにまで引き上げられた。

↑ダム湖の左岸にある第八只見川橋梁の復旧工事の模様。湖面上に重機を積んだ船が浮かぶ様子が見える(左)

 

↑復旧した第八只見川橋梁を遠望する。その先、路盤のかさ上げ工事が行われたようで、その部分が白く見えている

 

被害を受けた橋梁前後の路線距離があり、さらに国道252号の対岸で、線路に平行する道もない。そのため重機の持ち込みが難しく、対岸に船着き場を設けて、そこから船を使って重機を復旧現場に運び込む様子も窺えた。

 

もちろん重機を運ぶような船が当初からあるわけでなく、他所から運んできて組み立てたものだ。川岸での作業、またダム湖の水を放流しての河畔で作業を行うことが必要な時もあり、雨天の作業の際には慎重にならざるをえないような場所だった。ここが最も費用がかかったことも推測できる。

 

【只見線を再訪した⑨】列車が走ってこその駅だと痛感する

今回のレポートは最後に一駅のみ復旧前、運転再開後の姿を見ておこう。田んぼの中にある小さな駅、会津大塩駅の、〝ビフォーアフター〟である。3年前に訪れた時にはホーム一つに小さな待合室らしき建物があったが、中には入れないように板が打ち付けてあった。雑草が生い茂り寂寥感が漂った。運転再開後は、ホーム上の白線がきれいに引かれ、待合室も開放感あふれるきれいな造りになっていた。

 

訪れた時は人がいなかったものの、駅は列車が発着してこそ、駅として成り立つことを物語っていた。

↑列車が走っていない時の会津大塩駅。右は待合室の建物だが、板が打ち付けられて入室できない状態に

 

↑運転再開後の会津大塩駅。塗装し直されたばかりで小さいながらも清潔な装いに。近所の人たちが育てた植物のプランターも見られた

 

復旧した会津川口駅〜只見駅間では全駅を巡ってみた。そこには列車再開を祝う手作りの飾りが多く見られた。地元の人たちの心待ちにしていた思いが込められているようだった。変わる駅の様子、人々の歓迎ぶりや、今後への思いは次週にまたレポートしたい。

 

マツダ新型「CX-60」に試乗! 期待のラージアーキテクチャー第一弾の実力はいかに?

マツダはかねてよりラージ商品群の登場を示唆していましたが、ついにその第一弾が姿を現しました。それが縦置きエンジン+後輪駆動の新プラットフォームを採用した「CX-60」です。今回はその主力となる3.3L直6ディーゼルターボに48Vマイルドハイブリッドを組み合わせた「XDハイブリッド」の試乗レポートをお届けします。

 

【今回紹介するクルマ】

マツダ/CX-60

※試乗グレード:XD-HYBRID Premium Modern

価格:299万2000円~626万4500円(税込)

↑マツダが「ラージ商品群」と呼ぶSUVの第1弾モデル「CX-60」

 

全4タイプのパワーユニットから3.3L直6ディーゼルターボが登場

CX-60は新開発された、マツダのラージアーキテクチャーを採用する新世代プラットフォームです。そのラインナップはとても幅広く、パワーユニットは全4タイプ、グレードは8タイプを用意し、すべてが組み合わせ可能ではないものの、多彩なニーズに応えられるラインナップになっています。

↑直6ディーゼルターボを搭載した「CX-60」の「プレミアムモダン」。リアバンパーコーナーパーツのボディおよびその下のエグゾーストガーニッシュに採用しているメタルの質感がスポーティさを感じさせる

 

中でもパワーユニットは、48Vマイルドハイブリッド機構を組み合わせた3.3L直6ディーゼルターボ核として、よりカジュアルな2.5L直4ガソリン、3.3L直6ディーゼルを用意。さらに2.5L直4ガソリンにプラグインハイブリッドを組み合わせたものも遅れて登場します。そのため、価格も299万円から626万円と倍以上の価格差を生まれるラインナップとなりました。

↑新開発3.3L直6ディーゼルターボを縦置きにし、駆動方式はFR。48Vマイルドハイブリッドを組み合わせた

 

つまり、CX-60は、これまでのCX-5から乗り換える人にも対応するだけでなく、新たにプレミアなユーザー層も取り込んでいく。そんなラインナップ構成となりました。

 

そんな中で試乗した3.3L直6ディーゼルターボの「XDハイブリッド」のグレードは、「エクスクルーシブスポーツ」と「エクスクルーシブモダン」、「プレミアムスポーツ」と「プレミアムモダン」の4タイプ。価格はエクスクルーシブスポーツとエクスクルーシブモダンが505万4500円(税込)、プレミアムスポーツとプレミアムモダンが547万2500円(税込)です。

 

試乗したプレミアムスポーツとプレミアムモダンの違いは、前者は全体に黒を基調としたスポーティな雰囲気を演出したものに対し、後者がメッキ類を多用し内装もホワイトを基本としたラグジュアリーな雰囲気にしたもので、あくまでデザインコンセプトの違いとなっています。

 

スタイリッシュなプロポーションに高品質なインテリア

CX-60を前にして感じた印象は、とてもスタイリッシュであることです。フロントは極端に短いオーバーハングを持ったロングノーズとなっていて、ボディサイドも波打つような筋肉質を感じさせる見事なプロポーション。全長4740mm×全幅1890mm×全高1685mmの大きめのボディサイズだからこそ実現できたデザインと言えるかもしれません。

 

インテリアの仕上がりにも相当こだわったようです。マツダによれば“マツダ車史上最上”としており、それだけCX-60がかつてないプレミアムゾーンを狙っていることは容易に推察できます。手に触れられるすべてがソフトパッドに覆われ、見た目にも触れた印象でも欧州車のハイグレードモデルと比べてまったく引けをとりません。個人的には、もはやそれを超えたといっても差し支えないと思っています。

↑プレミアムモダンのインテリア。欧州車のハイグレードモデルを超える高品質ぶりは満足度が高い

 

↑プレミアムスポーツのタン仕様はオプションとして用意されている

 

↑プレミアムモダンの前席。前席にはヒーターとベンチレーター機能が備わる

 

↑プレミアムモダンの後席。ピュアホワイトのナッパレザーにチタン色のアクセントラインが入る

 

中でも印象的なのが左右のシートに挟まれた中央のコンソールです。全体に高い位置にあり、それが否応なくCX-60がFR車であることを訴えています。しかも幅が広くその存在感は抜群です。左右両開きのコンソールボックスも深さこそないものの、幅が広い分だけ少しかさばるモノも対応できるでしょう。内部にはUSB-C端子が2つ備わっており、スマホの映像を映し出すのに使うHDMI端子もここにありました。

↑シフトノブ操作は一見スタンダードに見えるが、パーキングだけは右にシフトして使う

 

↑後席用に用意されたUSB-C端子とAC100W/150Wのコンセント

 

↑12.3インチのディスプレイを採用したマツダコネクト採用。スマホで設定した目的地の転送もできる。地図データは3年間無料更新付き

 

↑カウルサイドのウーファーボックス容量を4.8Lに拡大。プレミアムモダン、プレミアムスポーツはボーズ仕様が標準となる

 

一般道では突き上げ感を感じるも、高速での安定性は抜群

試乗は御殿場を起点に東名高速と、乙女峠を抜けた箱根界隈の峠道で試してみました。まず試乗会場から東名高速へと進むと、8速ATが小気味よくステップアップして速度を上げていきます。このトランスミッションは、スタート用クラッチに湿式多板ユニットを組み合わせたトルコンレスという特徴的な構造を採用していますが、従来のATと比べても違和感はまったくありません。その上、低負荷領域をモーターでアシストしているため、発進時の動きはとても身軽で、とても2t近いボディを動かしているとは思えないほどです。

 

高速での走行は車重の重さも手伝ってか、どっしりとした安定感があります。ICからICまでの一区間でしかありませんでしたが、走り始めに感じたコツコツとした突き上げ感も速度が上がるにつれて収まっていき、ステアリングの直進性の良さとも相まって気持ちの良いクルージングを楽しむことができました。

 

ただ、乙女峠方面に進むと再び突き上げの大きさが気になるようになりました。一般道にありがちな路面の凹凸をそのまま伝え、時にそれが大きめに感じるときがあったのです。一方でコーナリングのトレース性は極めて高く、狙った方向へ確実にハンドリングしてくれます。車体のブレも最小限に抑えられているようで、安定したポジションで峠道を右から左へとハンドルを切ることができたのです。ブレーキのタッチも良好で、少しハイスピードでコーナーに入っても不安感はほとんどなく通過できました。

 

試乗したグレードの価格帯は500万円を超えており、一般的に言っても十分にプレミアムカーの領域にあると思います。クルマとしての造りこそ、それに見合うものを持っていました。高速での走りはともかく、一般道での突き上げ感はもう少しいなしてくれる気遣いが欲しかったようにも思います。とはいえ、パワーユニットが多岐にわたるCX-60では、組み合わせによってまた違った印象を与えてくれるかもしれません。

↑CX-60には「ドライバー異常時対応システム(DEA)」を採用。このSOSボタンを押すか、エアバッグの作動で自動対応できる

 

直6ディーゼル+FRを気軽に楽しみたいなら「XD」もオススメ

そこで別のグレードを選んだ場合を考えてみました。その結果、直6ディーゼルを搭載したもっとも身近なグレードが「XD」であることがわかりました。2WDの価格は323万9500円(税込)。アダプティブヘッドランプやパワーシートといったプレミアムな装備はないものの、18インチアルミホイールは装備されます。写真で見る限り、見た目にもそれほど見劣り感がないのもいいと思います。手軽に直6ディーゼル+FRの基本スペックを楽しむのに「XD」はピッタリのグレードかもしれません。

 

SPEC【XD-HYBRID Premium Modern】●全長×全幅×全高:4740×1890×1685㎜●車両重量:1940㎏●パワーユニット:3283㏄水冷直列6気筒DOHCターボエンジン●最高出力:エンジン254PS/3750rpm[モーター16.3PS/900rpm]●最大トルク:エンジン550Nm/1500〜2400rpm[モーター15.3PS/200rpm]●WLTCモード燃費:21.1㎞/L

 

 

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イーロン・マスクCEO、テスラの株式総額はアップルを超えられる! と豪語

電気自動車(EV)大手テスラのイーロン・マスクCEOは、自社の時価総額がいずれアップルを超えられるとの見通しを豪語しました。

↑テスラ

 

10月19日(米現地時間)、テスラは2022年第3四半期決算を発表。その売上高は過去最高を記録したものの、市場予想を下回っています。同社はここ数か月、株価が苦戦を強いられており、今回の決算もその助けにはならなかったようです。

 

そのためか決算発表後、マスクCEOはアナリスト向け電話会見で自らマイクを握り、投資家を安心させようとする姿勢を鮮明にしました。そこでは取締役会で議論した結果、50~100億ドルの自社株買いを進めることで意見が一致したと発表されたしだいです。

 

自社株買いプログラムは、企業が市場価格で自社株を購入すること。一般的には「自社株が割安だ」と考えていることを示すポーズであり、株価を押し上げるために行われます。まだ計画は決まっていないと述べられているものの、近々に自社株買いを始めるようです。

 

その発表後に飛び出したのが、「テスラの価値がアップルを超えられる」発言です。自社の時価総額につきマスク氏は「少し前の決算説明会で、私は『テスラが当時約7000億ドルの価値があったアップルよりも時価総額が高くなるかもしれないと思う』と述べました」とコメント。

 

さらに「私は今、アップルの現在の時価総額をはるかに超えることができると思っています。テスラがアップルとサウジアラムコを合わせた以上の価値を持つようになる道筋を考えているのです」と述べた格好です。

 

ちなみに10月21日時点でのテスラ時価総額は約6500億ドル。そしてアップルは2兆3000億ドル、サウジアラムコは2兆ドル程度の価値があり、合計で4兆3000億ドルといったところ。ざっとテスラを7倍ほど成長させる必要がありそうです。

 

さてマスクCEOの発言に戻ると、たとえ不況のもとでも、テスラは来年も「相当なキャッシュ」を生み出せると強調しています。それゆえ自社株買いプログラムを始めるのは理に叶っている――というのがマスク理論です。

 

テスラには人型ロボット「オプティマス」という切り札もあります。何年後にマネタイズできるのかは不明ですが、いつの日かiPhone以上にテスラロボを街で見かけるようになるのかもしれません。

 

Source:Electrek

次世代型シニアカー「WHILL Model S」に試乗!運転免許返納後の近距離型モビリティとしては最適だ

次世代型電動車椅子を手掛けるWHILLは9月13日、“歩道を走れるスクーター”と銘打った「WHILL Model S」を発表し、同日より先行受注を開始しました。価格は21万8000円(非課税、送料調整費別)から。デリバリーされる時期を店舗に問い合わせたところ、2022年12月頃を予定しているとのこと。

↑「WHILL Model S」。カラーはオプションのガーネットレッド

 

自由に出かけたくなる伸びやかなデザインを採用

高齢化社会が急速に進む中で、自動車運転免許を返納する人の割合も高まっています。WHILLによれば、ここ数年は返納率は収まっているものの、それでも年間60万人前後が返納しているとのこと。返納するとその後の“足”をどう確保するかが課題となります。

 

これまでは電動アシスト自転車やシニアカーなどが候補となってきましたが、前者はバランスの取り方に不安が残り、後者は介護用としての印象が強いのが正直なところです。そうした概念を打ち破るべく登場した近距離モビリティが「WHILL Model S(以下Model S)」なのです。

↑サイズは全長119㎝×全幅55.3㎝×全高92㎝。カラーはオプションのラピスブルー

 

Model Sが持つ最大のポイントは、電動車椅子としてはかつてない優れたデザインを実現していることにあります。従来よりも全長を長めにし、それに伴ってホイールベースを延長しています。加えて車体重量を従来のWHILL製品よりも重い63kg(バッテリーあり)とし、これがロングホイールベースとも相まって、クルマのような感覚で乗れる高い走行安定性をもたらしたのです。

 

これまでシニアカーといえば、あくまで足腰が不自由な人の乗り物という印象が強く、そのため車輪を小さくして乗降性を重視したデザインとなっていました。しかし、それが却って乗り物として軽快感に欠けるデザインとなり、運転免許を返納した人が直後に乗るには抵抗を感じる人も少なからずいたようです。

 

その点でModel Sは車輪を大きめにし、ハンドルとつながるカウル部分も自転車のような細めのデザインとすることで、電動アシスト付き自転車を4輪にしたようなデザインとしました。そんなスタイリッシュな乗り物で、いつでも思いついたところへ自由に出かけられる、Model Sからはそんな開発意図が伝わってくるのです。

↑「WHILL Model S」は、免許なしで誰でも乗れる

 

特に違いを実感させるのが操作系です。WHILL社プロダクト・サービス企画室の赤間 礼さんは「長年クルマを運転して来た人にも違和感なく乗れるよう、操作系には徹底してこだわった」と話します。そのこだわりとはクルマやスクーターのハンドルをイメージした横に長い楕円状のステアリングです。これにより、電動車椅子のイメージを一新しようというわけです。

 

切れ角が大きいハンドル操作は狭いところで楽に扱える

実際に試乗してそのフィーリングを試してみましたが、違和感なく運転できる扱いやすさには驚きました。曲がるときはクルマやスクーターと同じように、このステアリングを少し傾けて前輪を操舵します。また、ステアリングの切り角はとても大きく、最小回転半径は148cmとなっていて、これなら狭い通路でも簡単に方向を変えられそうです。

↑ハンドルをイメージした横に長い楕円状のステアリングを採用

 

前進と後進はステアリングの中央にあるシーソー式レバーを使って行い、右側の「D」を手前に引けば前進、左側の「R」を手前に引けば後進となります。注目なのはこのシーソー式レバーの「D」と「R」が1本のシャフトでつながっていること。つまり、いずれかを手前に引くともう一方は必ず奥側に傾きますから万一の誤操作も防止できるというわけです。

 

しかも、このレバーは引きしろに余裕があって、微調整も簡単。ゆっくりとした速度で走るのもできますし、大きくレバーを引けば速度は上がっていきます。一方で、レバーを離せばすぐにブレーキがかかり、操作パネル上にあるダイヤルを設定しておけば不用意に速度が出てしまうこともありません。この安心感は大きいですね。ちなみに最高速度は前進が6km/hで、後進が2km/hとなっています。

 

走破能力もWHILL全モデル中、ナンバーワンの実力で、最大登坂能力は10°、路面の段差は最大7.5cmまで対応できるとのこと。車体重量が63kgもあるModel Sにとって、この対応は頼もしい限りです。歩道といっても様々なシーンが想定されますし、一度でもスタックを体験すると、次はどうしても億劫になってしまいますからね。このあたりは電動車椅子で経験が深いWHILL社ならではの配慮だと思いました。

↑最大7.5cmの段差も乗り越えられる高い走破性を持つ。カラーはオプションのシルキーブロンズ

 

↑ヘッドライトやテールライトを装備し、夜間でも走行できる

 

電源はクルマのエンジンをかけるように鍵を挿して回せばすぐに起動します。走行可能距離は33km(満充電)と長めの設定ですが、キーホールの下には充電口もあり、万一、電欠となった場合もすぐに対応できます。また、バッテリーは脱着可能なので、自宅に持ち込んで充電できるのも便利だと思いました。ただ、鉛バッテリーを採用したことで重量は15kgもあります。この重さを運ぶのは高齢者にとって少々キツイかもしれませんね。

↑ステアリング下に用意された電源キーと充電用端子

 

↑バッテリーは着脱式だが、重量は15kgと高齢者には少々きつい

 

Model S専用プランとして「WHILL Premium Care」を用意

ボディカラーは、ステアリングシャフトとなる部分に計4色を用意しています。基本カラーのアイコニックホワイトに加え、オプションカラー(1万5000円・非課税)のシルキーブロンズ、ガーネットレッド、ラピスブルーの3色を揃えます。ちなみに、これまでWHILLではボディカラーをホワイト、レッドというふうに呼んでいましたが、この呼び方はまさにクルマ風。ここにもクルマを長く乗ってきた人をターゲットにしたことが伝わってきますね。

↑ボディカラーは4色。手前からアイコニックホワイトに加え、オプションカラーのシルキーブロンズ、ガーネットレッド、ラピスブルー

 

そして、Model Sだけのサービスとして「WHILL Premium Care」が用意されました。これは保険やロードサービス、メディカルアシストがセットになった「WHILL Smart Care」と、本人と家族がスマホアプリ上で車体の居場所や状態、お出かけ記録などの外出情報を共有できる「WHILL Family App」をパッケージ化したものです。これによって本人と家族が常につながるようになり、大きな安心感につながることを狙っているそうです。

↑Model Sだけのサービス「WHILL Premium Care」が用意された

 

この料金は2万6400円(税込)【月あたり2200円(税込)】でサービスインは2023年1月を予定。なお、このサービスを利用するにはIoTモジュール「WHILL Premium Chip」【別売2万5000円(非課税)】を装備した車体をあらかじめ選んでおく必要があります。

 

 

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特徴的な走りのハイブリッド車に試乗! ルノー「アルカナ E-TECH」とホンダ「シビック e:HEV」独自の魅力に迫る

気になる新車を一気乗り! ハイブリッド車は高い燃費性能など経済性のメリットに注目が集まるが、今回の「NEW VEHICLE REPORT」で紹介するルノー・アルカナ E-TECHとホンダ・シビック e:HEVは、走りのキャラクターも特徴的。かつてはF1でしのぎを削っていた両ブランド最新作の、その独自の魅力は何か?

※こちらは「GetNavi」 2022年10月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【その1】F1譲りのハイブリッド技術で独自の走りが楽しめる!

【ハイブリッド】

ルノー

アルカナ E-TECHハイブリッド

SPEC●全長×全幅×全高:4570×1820×1580mm●車両重量:1470kg●総排気量:1597cc●パワーユニット:直列4気筒DOHC+電気モーター●最高出力:94[49/20]PS/5600rpm●最大トルク:15.1[20.9/5.1]kg-m/3600rpm●WLTCモード燃費:22.8km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

ドグミッションの採用でダイレクトな走りを実現

F1では速さ、市販車では燃費が追求されるハイブリッド技術だが、高度なエネルギー制御が要求される点は同じ。ルノーによれば、E-TECHにはF1で得られたノウハウが惜しみなく投入されている。また、機構面で要注目なのは、トランスミッションに同じくモータースポーツではお馴染みの、ドグミッション(※)を組み合わせていること。軽量&コンパクトで高効率化にも有効な反面、快適性に難があるため市販車では敬遠されてきた構造だが、E-TECHでは電気モーターを駆使してシフトショックなどを排除。ATらしい洗練された変速を実現した。

※:通常のマニュアルミッション(シンクロミッション)と違ってクラッチを切らずにシフトアップ&ダウンが可能になるシステム。シフトチェンジの速さが魅力で、モータースポーツではよく使われている。デメリットには、シフトショックが大きい、音が大きいなどがある

 

その走りはアクセル操作に対するダイレクトな反応が印象的で、スポーティと評しても差し支えない軽快な身のこなしだ。カタログ上では若干控えめな燃費も、実際には市街地で20km/L近く、高速では23km/L以上をマーク。国産勢とはひと味違う個性派ハイブリッド車として、魅力的な選択肢であることは間違いない。

 

[Point 1]最新モデルらしいインターフェイス

画像化されたメーターや、7インチタッチスクリーンが備わるセンター部など、インパネ回りはハイブリッドらしい作り。運転支援系の装備も充実している。

 

[Point 2]SUVらしい使い勝手

室内は前後席ともに十分な広さ。前席にはシートヒーターも装備される。荷室容量もフランス車らしく、通常時で480Lと余裕たっぷりだ。

 

[Point 3]E-TECHは選択肢が拡大中

走りは意外なほどスポーティな味付け。アルカナはE-TECH仕様(429万円)のみだが、日本向けルノー車ではすでにルーテシアにも設定済み。

 

[Point 4]E-TECHは軽量&コンパクト

E-TECHは、1.6Lガソリン+2モーターにドグミッションを組み合わせ、本格派ハイブリッドながら軽量&コンパクト化を実現。幅広い車種に対応している。

 

 

【その2】実感するのは“デジタル時代のスポーティ”!

【ハイブリッド】

ホンダ

シビック e:HEV

SPEC●全長×全幅×全高:4550×1800×1415mm●車両重量:1460kg●総排気量:1993cc●パワーユニット:直列4気筒DOHC+電気モーター●最高出力:141[184]PS/6000[5000〜6000]rpm●最大トルク:18.6[32.1]kg-m/4500[0〜2000]rpm●WLTCモード燃費:24.2km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

センスの良さを感じさせる「音」と「視覚」のチューニング

昨年、先行発売されたガソリン仕様もスポーティな味付けで話題を呼んだシビックだが、新たに追加されたe:HEVも乗る人を楽しませるハイブリッド車に仕上げられている。その構成は、2Lガソリンエンジン+2モーター内蔵電気式CVTという組み合わせで、カタログ上の燃費は24.2km/L。その大柄なボディサイズを思えば、最新エコカーに相応しい“少食”ぶりを実現している。

 

だが、その真価は積極的に操った際のほうが実感しやすい。まず、効率最優先のハイブリッド車ではエンジンの情緒など二の次というのが相場だが、2L直噴ユニットは回そうという気にさせる仕上がり。これには車内のスピーカーから軽快感などを演出する音を付加するASC(アクティブサウンドコントロール)、加減速時の見え方まで吟味したパワーメーターの貢献度も高い。お見事なのは、それらの演出が単なる“ガソリン車風”ではなく、適度なデジタルテイストに調律されていること。

 

それを受け止めるシャーシも、積極的な走りに応える仕上がりだ。入力に対して正確に反応する操縦性、堅牢なボディはスポーティなセダンとして通用する水準にある。その点では、経済性と趣味性を両立したいオトナのクルマ好きにも狙い目な1台と言えそうだ。

 

[Point 1]電動車らしさは視覚面で演出

インパネ回りは、ガソリン車のタコメーター風にも動くパワーメーター、センターディスプレイのパワーフロー表示。ハイブリッドらしさを演出する。

 

[Point 2]スポーティにして実用的な仕立て

室内の使い勝手は、ハイブリッド版でもガソリン仕様と同等。前後席は、ミドル級セダンとして十分に実用的な広さ。荷室容量は後席を使用する通常時でも404Lを確保する。

 

[Point 3]e:HEVの主張は最小限

まもなく発売されるスポーツ仕様、タイプRは専用ボディを採用するが、e:HEVの外観は基本的にガソリン仕様と同じ。モノグレードで価格は394万200円。

 

[Point 4]高効率ぶりは最強レベル

2L直噴エンジンは、新長期規制に対応する環境性能の高さと一層の高効率化、静粛性の向上など、全方位的に進化している。最大熱効率は41%に達する。

 

文/小野泰治 撮影/市 健治、宮越孝政

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ホンダ「シビック e:HEV」で“デジタル時代のスポーティ”を実感する!

気になる新車を一気乗り! ハイブリッド車は高い燃費性能など経済性のメリットに注目が集まる。今回の「NEW VEHICLE REPORT」ではホンダ・シビック e:HEVを紹介。走りのキャラクターも特徴的な魅力に迫る。

※こちらは「GetNavi」 2022年10月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

実感するのは“デジタル時代のスポーティ”!

【ハイブリッド】

ホンダ

シビック e:HEV

SPEC●全長×全幅×全高:4550×1800×1415mm●車両重量:1460kg●総排気量:1993cc●パワーユニット:直列4気筒DOHC+電気モーター●最高出力:141[184]PS/6000[5000〜6000]rpm●最大トルク:18.6[32.1]kg-m/4500[0〜2000]rpm●WLTCモード燃費:24.2km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

センスの良さを感じさせる「音」と「視覚」のチューニング

昨年、先行発売されたガソリン仕様もスポーティな味付けで話題を呼んだシビックだが、新たに追加されたe:HEVも乗る人を楽しませるハイブリッド車に仕上げられている。その構成は、2Lガソリンエンジン+2モーター内蔵電気式CVTという組み合わせで、カタログ上の燃費は24.2km/L。その大柄なボディサイズを思えば、最新エコカーに相応しい“少食”ぶりを実現している。

 

だが、その真価は積極的に操った際のほうが実感しやすい。まず、効率最優先のハイブリッド車ではエンジンの情緒など二の次というのが相場だが、2L直噴ユニットは回そうという気にさせる仕上がり。これには車内のスピーカーから軽快感などを演出する音を付加するASC(アクティブサウンドコントロール)、加減速時の見え方まで吟味したパワーメーターの貢献度も高い。お見事なのは、それらの演出が単なる“ガソリン車風”ではなく、適度なデジタルテイストに調律されていること。

 

それを受け止めるシャーシも、積極的な走りに応える仕上がりだ。入力に対して正確に反応する操縦性、堅牢なボディはスポーティなセダンとして通用する水準にある。その点では、経済性と趣味性を両立したいオトナのクルマ好きにも狙い目な1台と言えそうだ。

 

[Point 1]電動車らしさは視覚面で演出

インパネ回りは、ガソリン車のタコメーター風にも動くパワーメーター、センターディスプレイのパワーフロー表示。ハイブリッドらしさを演出する。

 

[Point 2]スポーティにして実用的な仕立て

室内の使い勝手は、ハイブリッド版でもガソリン仕様と同等。前後席は、ミドル級セダンとして十分に実用的な広さ。荷室容量は後席を使用する通常時でも404Lを確保する。

 

[Point 3]e:HEVの主張は最小限

まもなく発売されるスポーツ仕様、タイプRは専用ボディを採用するが、e:HEVの外観は基本的にガソリン仕様と同じ。モノグレードで価格は394万200円。

 

[Point 4]高効率ぶりは最強レベル

2L直噴エンジンは、新長期規制に対応する環境性能の高さと一層の高効率化、静粛性の向上など、全方位的に進化している。最大熱効率は41%に達する。

 

文/小野泰治 撮影/市 健治、宮越孝政

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ルノー「アルカナ E-TECH」はF1譲りのハイブリッド技術で独自の走りを実現!

気になる新車を一気乗り! ハイブリッド車は高い燃費性能など経済性のメリットに注目が集まる。今回の「NEW VEHICLE REPORT」ではルノー・アルカナ E-TECHを紹介。その独自の魅力は何か?

※こちらは「GetNavi」 2022年10月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

F1譲りのハイブリッド技術で独自の走りが楽しめる!

【ハイブリッド】

ルノー

アルカナ E-TECHハイブリッド

SPEC●全長×全幅×全高:4570×1820×1580mm●車両重量:1470kg●総排気量:1597cc●パワーユニット:直列4気筒DOHC+電気モーター●最高出力:94[49/20]PS/5600rpm●最大トルク:15.1[20.9/5.1]kg-m/3600rpm●WLTCモード燃費:22.8km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

ドグミッションの採用でダイレクトな走りを実現

F1では速さ、市販車では燃費が追求されるハイブリッド技術だが、高度なエネルギー制御が要求される点は同じ。ルノーによれば、E-TECHにはF1で得られたノウハウが惜しみなく投入されている。また、機構面で要注目なのは、トランスミッションに同じくモータースポーツではお馴染みの、ドグミッション(※)を組み合わせていること。軽量&コンパクトで高効率化にも有効な反面、快適性に難があるため市販車では敬遠されてきた構造だが、E-TECHでは電気モーターを駆使してシフトショックなどを排除。ATらしい洗練された変速を実現した。

※:通常のマニュアルミッション(シンクロミッション)と違ってクラッチを切らずにシフトアップ&ダウンが可能になるシステム。シフトチェンジの速さが魅力で、モータースポーツではよく使われている。デメリットには、シフトショックが大きい、音が大きいなどがある

 

その走りはアクセル操作に対するダイレクトな反応が印象的で、スポーティと評しても差し支えない軽快な身のこなしだ。カタログ上では若干控えめな燃費も、実際には市街地で20km/L近く、高速では23km/L以上をマーク。国産勢とはひと味違う個性派ハイブリッド車として、魅力的な選択肢であることは間違いない。

 

[Point 1]最新モデルらしいインターフェイス

画像化されたメーターや、7インチタッチスクリーンが備わるセンター部など、インパネ回りはハイブリッドらしい作り。運転支援系の装備も充実している。

 

[Point 2]SUVらしい使い勝手

室内は前後席ともに十分な広さ。前席にはシートヒーターも装備される。荷室容量もフランス車らしく、通常時で480Lと余裕たっぷりだ。

 

[Point 3]E-TECHは選択肢が拡大中

走りは意外なほどスポーティな味付け。アルカナはE-TECH仕様(429万円)のみだが、日本向けルノー車ではすでにルーテシアにも設定済み。

 

[Point 4]E-TECHは軽量&コンパクト

E-TECHは、1.6Lガソリン+2モーターにドグミッションを組み合わせ、本格派ハイブリッドながら軽量&コンパクト化を実現。幅広い車種に対応している。

 

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鉄道開業150年! 古色豊かな絵葉書でよみがえる明治の鉄道〜鉄道草創期の幹線の開業史を追う〜

明治5(1872)年10月14日に新橋(旧・汐留駅)〜横浜(現・桜木町駅)間の開業により始まった日本の鉄道史。今年でちょうど150年になることから、各地で多くの記念行事が催されている。

 

本稿では鉄道草創期の歴史を古い絵葉書を中心にふり返ってみた。鉄道開業からほぼ20年で、日本の骨格をなす幹線ルートが設けられていった。同時代の人たちの近代化にかける熱い思いが改めて感じられる。

*絵葉書はすべて筆者所蔵。禁無断転載

 

【関連記事】
今は珍しい「鉄道絵葉書」で蘇る明治〜昭和初期の東京の姿

 

〔はじめに〕

明治政府は維新からほんの数年の間に近代化に向けて数多くの改革を行った。その一つが鉄道事業であり、郵政事業だった。

 

明治4(1871)年には鉄道事業よりも1年早く郵便事業が始まり、東京と京都・大阪間の郵便の取り扱いが始められた。翌年には全国規模まで広げられている。さらに明治6(1873)年には郵便葉書(官製)の発行を開始、明治10(1877)年には万国郵便連合に加盟して海外への郵便物の発送や授受ができるようになった。

 

近代化にどん欲に取り組んだ成果といえるだろう。しかし、官製葉書、普通切手のみの発行が長く続いた。最初の記念切手が売り出されたのは明治27(1894)年のことであり、絵葉書にあたる私製葉書の使用に許可が出たのは明治33(1900)年のことだった。以降、多くの絵葉書も発行され、人々に利用されるようになっていった。

↑明治35(1902)年11月とサインされた絵葉書。訪日外国人がお土産にしたもので、裏面の上部には「萬国郵便総合端書」とある

 

特に明治38(1905)年、日露戦争を題材にした絵葉書が多数発行されたことが大きかった。絵葉書収集熱が高まり多くの人が熱中し、ブームとなっていく。

 

今回の記事では、鉄道開業のころは私製葉書がまだ発行されなかったこともあり、新橋駅〜横浜駅間の開業当初のものは錦絵とともに紹介する。後に開業したころの駅の様子や列車の姿を写した絵葉書が多く発行されていく。各地の鉄道が開業したその後を追うように発行された絵葉書は、古い車両の姿を知ることができるとともに、街の移り変わりや当時の暮らしぶりを克明に伝えていて、とても興味深い。

 

〈1〉明治5年 新橋〜横浜開業日は9月12日だった!?

今からちょうど150年前の明治5(1872)年10月14日に新橋(旧・汐留駅)〜横浜(現・桜木町駅)間が開業によって、日本の鉄道は産声を上げた。

↑新橋停車場を描いた錦絵。列車とともに洋和装の人々が多く描かれている(東京汐留鉄道舘汽車待合之図・立斎広重画/明治6年発行)

 

当時、日本は太陰暦を利用しており、10月14日は太陰暦では9月12日にあたる。太陽暦を採用したのはこの年の12月からで、鉄道開業日は、まだ旧暦を使っていた。よって当時は9月12日の出来事として伝えられていた。

 

列車の仮営業運転は、6月12日に始まっていた。要は試運転期間があったことになる。この時の運転区間は品川〜横浜(現・桜木町駅)で、1日に2往復、所要時間は35分、途中駅は停車しなかった。

 

10月14日の正式開業後には1日9往復の列車が運転され、品川、川崎、鶴見、神奈川の途中駅が設けられた。全線の所要時間は仮運転の時よりも路線が延びたこともあり、53分だった。

↑新橋停車場(後の汐留駅)の古い絵葉書。駅舎の横には「キリンビール」と記された大きな看板が立てられていた

 

上記の絵葉書は鉄道が最初に走った新橋停車場(旧・汐留駅)の駅舎だ。この新橋停車場の駅舎は再現されて「鉄道歴史展示室」として公開されている。

 

ちなみに絵葉書は色つきだが、明治期には写真のカラー印刷技術はまだ一般化されておらず、モノクロ絵葉書への色付けが行われた。その色付けは主に家庭の主婦が行った内職仕事で、一枚ごとに筆で色付けしていた。手彩色絵葉書(てさいしきえはがき)と呼ばれ、訪日外国人たちに大人気だった。お土産として購入し、切手を貼って海外へ送付した人も多かった。

 

しかし、手彩色は技術差があり、しかも現場を実際に見て作業をしたわけではない。また同じ絵葉書なのに、彩色する人によって色が異なった。写真のカラー印刷が行われる時代まで、こうした手作業が続けられたのであった。

↑開業当時の横浜停車場の手彩色絵葉書。すでに駅前に照明も付き、人力車が客待ちをしている様子が写されている

 

〈2〉明治6年 翌年には貨物列車も新橋〜横浜間を走り始めた

鉄道開業後、間もなく鉄道貨物輸送も始まる。明治6(1873)年9月15日から新橋〜横浜間を鉄道貨物輸送が行われた。貨物列車の本数は1日、定期・不定期列車合わせて2往復だった。1列車が連結する貨車は有蓋車7両、無蓋車8両で、計15両で走ったと伝わる。

 

これは貨車を利用した鉄道貨物輸送だが、手荷物輸送という少量かつ軽量な荷物を運ぶサービスは、開業した年の6月12日、品川〜横浜間を走った仮営業列車から始められている。さらに、郵便輸送を7月18日に同区間で開始。つまり、旅客用列車の正式運行日よりも前に、すでに手荷物輸送や郵便輸送が行われていたのである。

↑明治期の貨物列車。有蓋車、無蓋車が蒸気機関車の後ろに連結されている。写真の23号機は明治初期に英国から輸入された車両

 

ちなみに古い絵葉書に写り込む明治時代の貨物列車の牽引機だが、当時の機関車は輸入された順に番号が付けられていた。明確な記録が残されていないものの、23号機は明治7(1874)年に英国から輸入されたシャープスチュアート製のB形タンク機だと思われる。同社の蒸気機関車は優秀だったとされ、重い貨物列車の牽引にぴったりだったのかもしれない。

 

〈3〉明治7年 2番目の開業は大阪〜神戸間だった

東京とともに、鉄道の敷設工事が早く行われたのが京阪神だった。特に大阪〜神戸間の鉄道は明治3(1870)年11月に着工され、明治7(1874)年5月11日に完成した。開業時の中間駅は、三ノ宮、西ノ宮、また翌年に住吉、神崎が開業したことにより、4駅が設けられた。明治8(1875)年の5月1日には大阪から安治川口まで支線が開業し、貨物輸送が行われている。

↑テンダー式蒸気機関車が牽引する旅客列車が神戸三ノ宮を走る。線路端には商店が連なり、洋服店や綿屋の看板が写り込む

 

大阪と京都間の鉄道開業は、政府の財政が厳しかったこともあり、着工が遅れ、開業は明治10(1877)年2月5日となった。とはいえ京都〜神戸間の鉄道は明治初頭には完成していたわけだ。ちなみに首都圏の鉄道は、新橋〜横浜間以降は、なかなか進まず、横浜以西の路線開業は、京阪神から遅れること10年後になる。それだけ当時の京都〜神戸間は人口も多く都会だったということなのだろう。

 

京阪神と同時期に生まれた「その他の鉄道」もここで見ておこう。新橋〜横浜、京都〜神戸の開業後、国内3番目に誕生した鉄道は意外な所の鉄道だった。岩手県釜石市内の釜石桟橋〜大橋間に造られた「釜石鉄道」がそれで、明治13(1880)年2月に試運転が始められている。当初は鉱石運搬のみだったが、2年後からは旅客輸送も行われた。

 

〈4〉明治13年 開発と防備のため進められた北海道の鉄道事業

「釜石鉄道」の開業と同じ年に北海道内の鉄道も開業している。明治13(1880)年11月28日に開業した手宮(廃駅)〜札幌間の路線で、官営幌内鉄道が敷設を行った。

↑小樽港に面して設けられた手宮駅構内を望む。港には海上桟橋が延びていた。絵葉書の桟橋は高架桟橋(本文参照)と思われる

 

当時の政府は北海道内の開発にも力を入れており、北方防衛の要とすべく開発を急いだ。開拓民の移住が進められ、寒冷地の農業・酪農の発展が進められた。さらに、道内で石炭が採炭されたこともあり、その輸送が課題となっていた。そんな中、進められた鉄道開発だった。

 

手宮は小樽港に面しており、駅には石炭船積み込み用の海上桟橋450mも同じ年に設けられ、桟橋への引込線も敷設された。同路線は貨物輸送列車が主流だったとされる。桟橋は、その後に強化されて明治44(1911)年には長さ391mの高架桟橋になり、道内の石炭の積み出しに活かされた。

↑小樽市内・花園橋付近を走る貨物列車。南小樽駅から先は明治30年台から延伸が始まり小樽駅は明治36(1903)年に開業した

 

道内の路線延伸は急ピッチで進められ明治15(1882)年には札幌駅〜岩見沢駅間が開業、さらに炭鉱に近い幌内(廃駅)まで延伸された。この時に敷かれた小樽南駅(手宮駅の一つ手前の駅)〜岩見沢駅間はその後の函館本線の元となる。とはいえ函館駅〜旭川駅間の開業は明治38(1905)年8月1日とかなり後のことになった。

 

当時は同路線の運営が北海道官設鉄道、北海道炭鉱鉄道、北海道鉄道と細かく分かれていた。3つの鉄道会社間を通して運行が行われておらず不便だったが、全通後には連絡輸送も開始された。その後、間もなく全線が国有化、一部区間の複線化が進められ、輸送力の強化が図られた。

 

〈5〉明治15年 長浜から敦賀まで北陸線の路線が延びる

西日本では京阪神を走った幹線の次に整備されたのが、現在の北陸本線にあたるルートだった。明治15(1882)年3月10日に、当時の起点となった長浜駅〜金ヶ崎駅(後の敦賀港駅)間が開業している。

 

現在、北陸本線の起点は米原駅となるが、当時は現在の東海道本線の路線である大津駅〜米原駅間が開業しておらず、鉄道の代わりに、大津〜長浜間は琵琶湖を渡る鉄道連絡船が利用された。そのため長浜駅が当時の起点とされたのだった。

 

京阪神地方から初めて北陸地方へ入る鉄道だったが、険しい県境越えは当時の鉄道敷設技術では難しく、現在のルートとは異なり、木ノ本駅と鳩原(はつはら)信号場(敦賀駅〜新疋田駅間にあった)間を、別ルート(旧線・柳ヶ瀬線/廃線)でたどった。しかも県境にあった旧柳ヶ瀬駅と旧洞道口駅(きゅうどうどうぐちえき)の間は徒歩連絡という状態だった。この徒歩連絡区間は明治17(1884)年4月16日に柳ヶ瀬トンネルが開通により解消されたが、それほど開業を急いだ理由は、やはり日本海の物資を京阪神にいち早く届けたいという意図だったのだろう。

 

北陸本線の最初の開業区間を記録した古い絵葉書は入手できなかったため、ここは当時の起点終点駅の写真を掲載した。旧長浜駅舎(現・長浜鉄道スクエア)も、旧敦賀港駅舎(現・敦賀鉄道資料館)も古い駅舎を偲ぶ施設が残されている。

 

敦賀まで早々に通じた北陸本線だったが、敦賀以北の工事は非常に時間がかかった。大正2(1913)年に青海駅〜糸魚川駅間が開業し、ようやく米原駅〜直江津駅間が全通した。最初の区間が開業してから実に31年の年月がたっていた。

↑起点・終点とも開業当初の駅舎が残されている。旧長浜駅は長浜鉄道スクエアとして、旧敦賀駅は敦賀鉄道資料館として開館している

 

↑敦賀まで通じた北陸本線は徐々に延ばされていた。絵葉書は富山県の石動駅(いするぎえき)で明治31(1898)年11月1日に開業した

 

北陸本線が一部開業した同じ年、東京では「東京馬車鉄道」が開業している。客車を馬で牽かせて線路上を走った鉄道交通で、明治15(1882)年6月25日に新橋〜日本橋間が開業し、10月1日には日本橋〜上野〜浅草〜日本橋という環状路線も開業している。営業は至極好調で、当初の馬の頭数47頭から後に226頭まで増やしている。とはいえ、糞尿問題は避けられず社会問題化。すでに他市では電車導入が始まり、明治36(1903)年には東京でも電車運行が始まった。「東京馬車鉄道」は「東京電車鉄道」と社名変更、その後に東京市電、都電として整備され、都内の大事な公共交通機関として発展していった。

 

〈6〉明治16年 日本鉄道により造られた東北本線・高崎線

明治政府はいろいろな改革を一気にすすめたこともあり、資金不足に陥っていた。本来は鉄道建設も自らの力でやりたかったところだが、路線延伸が思うようにはいかず、全国にいち早く広げるためには民間の力を借りなければならなかった。

 

そのため、明治14年(1881)年にまず日本鉄道会社の設立を許可する。日本鉄道会社は日本初の私鉄にあたる。当時、建設・運営は政府に委託する形で、今でいうところの上下分離方式で路線が延ばされていった。国としても建設・運営費が懐に入るわけで、有効と考えたのだろう。

 

日本鉄道が誕生した後、山陽鉄道、九州鉄道と私設鉄道会社が誕生していき、次々に各地へ路線が延ばされていった。いわば官設のみの鉄道路線から私鉄まで巻き込み、幹線網の延伸、拡大を急いだわけだ。後の明治39(1906)年3月31日に「鉄道国有法」が公布され、この年から翌年にかけて、私設路線は国有化されていく。国として民間資本を上手く使った形になり、また幹線の延伸も官設のみだった時に比べて非常にスムーズに進んでいった(詳細後述)。

↑上野駅の初代駅舎。ターミナル駅として開設されたものの現在の駅舎よりだいぶ小さめ。和装の家族が急ぎ足で歩く様子が写る

 

最初に生まれた私鉄・日本鉄道が手がけたのは、東京以北の路線だった。明治16(1883)年7月28日に、上野駅〜熊谷駅間が開通。上野駅〜大宮駅間は現在の東北本線、さらに高崎線の熊谷駅までの路線が創設された。

 

路線開業のスピードは早く、高崎線は翌年には前橋まで延伸される。一方、大宮駅から先は利根川橋梁の工事に時間がかかったものの、明治19(1886)年6月17日には上野駅〜宇都宮駅間が全通した。さらにその年に黒磯駅まで延伸、翌年には塩竈駅(宮城県)まで路線をのばした。

 

最後となった盛岡駅〜青森駅間は明治24(1891)年9月1日に開業し、東北本線が全通した。上野駅〜大宮駅が開業してわずかに8年後のことで、猛烈なスピードで路線の延伸を進めていった。当時の路線開設は、現代の技術をもってしてでも考えられない早さで、突貫工事が進められたことは容易に想像できる。

↑水戸偕楽園のすぐそばを走る常磐線の列車。日本鉄道が当時の水戸鉄道を買収し、後に常磐線の延伸工事が進められていった

 

日本鉄道の勢いは止まらず、他の私鉄も積極的に買収を進める。例えば、東北本線の小山駅と水戸駅を結んでいた水戸鉄道を明治25(1892)年に買収した。当時は水戸に通じる唯一の鉄道路線で、東京から北側の主な路線は日本鉄道が傘下に収めることになる。

 

水戸につながった路線は、その後に常磐線の元となっていく。明治28(1895)年からは常磐線の延伸を始め、明治31(1898)年には田端駅〜岩沼駅(宮城県)間の全線を開業させてしまった。そんな日本鉄道も明治39(1906)11月1日に国に買収され、すべての路線が官営路線となったのだった。

 

〈7〉明治21年 山陽鉄道が神戸〜下関間の開業を目指す

一方、近畿地方から中国地方へ至る瀬戸内海沿いは、山陽鉄道が路線の新設を進めた。山陽鉄道は、まず兵庫駅〜明石駅間の路線を明治21(1888)年11月1日に開業させる。同年には姫路駅へ路線を延伸させた。神戸駅までは官営の路線が早くに通じていたが、翌年に神戸駅〜兵庫駅間を開業させ、官営鉄道との接続が完了した。

 

その後、年を追って路線が延伸されていき、明治24(1891)年3月18日には岡山駅まで、明治27(1894)年6月10日には広島駅まで、明治34(1901)年5月27日には馬関駅(ばかんえき/現・下関駅)まで延伸、現在の山陽本線が全通したのである。

 

東北本線の全通まで8年という早さには敵わないが、それでも13年で全線を開業させている。いかに当時の私鉄の路線延伸のスピードが早いかが分かる。

↑山陽本線の景勝地として知られる須磨海岸付近を写した絵葉書は数多く残る。同区間は列車からも美しい海岸線がよく見えた

 

 

〈8〉明治22年(1)甲武鉄道が中央本線の一部区間を開業

東京の中心から東海・近畿地方へ向かう路線の開設は意外に手間取った。中央本線も東海道本線も、同じ明治22(1889)年に一部路線の開設が始まった。中央本線の一部となる路線は甲武鉄道という私鉄会社によって造られていく。明治22(1889)年4月11日に新宿駅〜立川駅の路線が開業。当時の武蔵野台地は住む人も少なかったのか、同区間は定規で引いたように直線ルートが続く。今では考えられないルート選定である。同年の8月11日には八王子駅まで延伸される。

 

新宿駅から東京の中心部へ向かう線路の開設は郊外路線よりも遅れ、まず1894(明治27)年に新宿駅と牛込駅間に路線が敷かれた。牛込駅とは現在の飯田橋駅のやや西側にあった駅だ。この東南側に飯田町駅(現在は廃駅)という駅が翌年に生まれ、同線の終点駅となる。

↑現在の四谷見附から見た中央本線を走るSL列車。明治中期に新宿駅から東に路線が徐々に延伸されていった

 

飯田町駅がしばらく終点駅となっていたが、明治37(1904)年に飯田町駅〜御茶ノ水駅間が開業する。甲武鉄道としての活動は明治30年代までで、明治39(1906)年10月1日に国有化された。

 

中央本線は名古屋駅側からの官設路線の工事も進められ、明治33(1900)年7月25日に名古屋駅〜多治見駅間が開業。翌年には工事を進めていた八王子駅〜上野原駅間が開業、明治39(1906)年6月11日には塩尻駅まで路線が延び、いわゆる中央東線が開業した。塩尻駅から先の中央西線部分は、明治44(1911)年5月1日の宮ノ越駅〜木曽福島駅間の開業で、中央本線が全通となった。高低差があり、また険しい列島の中央部を貫く路線だけに、工事にも時間がかかったのだった。

 

〈9〉明治22年(2)横浜〜熱田間の延伸で東海道本線が全通

日本で最初に路線が開設された新橋〜横浜間、そして2番目に設けられた大阪〜神戸間も、後の東海道本線の一部となる区間である。その後の日本の鉄道交通・物流の大動脈ともなる東海道本線の開業は意外に手間取った。

↑東海道本線の由比付近を走る列車。線路沿いには幼子をおんぶした姉妹らしき姿も。機関車は英国ダブス社が製作した6270形

 

近畿地方の路線の延伸は関東と比べれば早く、明治13(1880)年7月15日に琵琶湖畔の大津駅まで延伸、神戸駅〜大津駅が全通した。その後、東海・中部地方での路線の敷設工事が活発化していく。明治17(1884)年5月25日に岐阜県内の関ヶ原駅〜大垣駅間が開業、明治19(1886)年3月1日に建設資材を運ぶために武豊駅〜熱田駅間(一部は現・武豊線)を開業させて、東海道本線の延伸工事が活発化。同年には熱田駅〜木曽川駅間が開業した。この時に現在の名古屋駅(当時は名護屋駅)も開業している。明治20(1887)年4月25日には武豊駅〜長浜駅間が全通し、愛知県・岐阜県の主要区間の路線開業が完了している。

 

一方で、横浜駅からの延伸工事は進まず、明治20(1887)年7月11日にようやく横浜駅(初代)〜国府津駅間が開業している。また翌年には愛知県の大府駅〜浜松駅間が延伸開業。国府津駅からは現在の御殿場線を経由して静岡駅、浜松駅に至るルートが明治22(1889)年4月16日に開業した。

 

4月16日の時点では、長浜駅〜大津駅間は琵琶湖を渡る鉄道連絡船が使われていたが、7月1日に湖東を通る路線が開業して、正式に新橋駅〜神戸駅間が全通した。新橋〜横浜の路線開業から実に17年の歳月をかけて、東海道本線がようやくつながったのだった。

↑浜名湖の弁天島を渡る東海道本線の旅客列車。同区間は明治21(1888)年に路線が延伸された。牽引の機関車は6250形

 

〈10〉明治22年(3) 九州鉄道により開設された鹿児島本線

明治22(1889)年という年は列島の各地でいくつかの新線の開業があった年だった。九州でもその後に幹線となる新線が開業していた。

 

九州の鉄道開設は九州鉄道という私鉄会社により行われた。まず明治22(1889)年12月11日に博多駅〜千歳川仮停車場間に線路が敷かれる。千歳川仮停車場は今の肥前旭駅と久留米駅間にあった仮の停車場で、翌年に筑後川(千歳川)に橋梁が架けられ、路線は久留米駅まで延ばされている。博多駅から北も、明治24(1891)年中に遠賀川駅(おんががわえき)まで延ばされ、翌年には門司駅(現・門司港駅)、南は熊本駅まで延長され、門司駅と熊本駅が一本の線路で結びついた。

↑福岡市内を流れる多々良川を渡る列車。同橋梁は現在、横を西鉄貝塚線や貨物線が平行する。景色も大きく変わってしまった

 

今の鹿児島本線にあたる路線だ。新線建設の準備は前もってされていたのだろうが、最初に誕生した区間からわずか2年後に門司駅〜熊本駅間が結ばれたのだから、工事の進捗具合はかなり早い。

↑現在の小倉駅〜門司駅間にある赤坂海岸を走る石炭列車。海岸部分は埋め立てられ、現在は路線から海を見渡すことができない

 

明治29(1896)年11月21日には八代駅(後の球磨川駅・廃駅、現在の八代駅と場所が異なる)まで延伸された。その後の明治40(1907)年に九州鉄道の路線は国有化され、鹿児島本線は現在の肥薩線経由で延伸され、鹿児島駅まで延伸されたのは明治42(1909)11月21日のことだった。

 

さらに現在の鹿児島本線(一部は肥薩おれんじ鉄道線)となるが八代駅〜鹿児島駅間が開業したのは昭和2(1927)年10月17日のことだった。

 

肥薩線周りルートをたどり、その後に東シナ海側の路線とルートが変わったものの、最初の区間の開業から実に38年の年月がかかった。

 

鹿児島本線が九州鉄道によって一部区間が開業した同じ年、他にも私鉄により開設された後に幹線になったルートがある。四国の予讃線・土讃線の元になった一部区間で、明治22(1889)年5月23日、讃岐鉄道という私鉄により丸亀駅〜琴平駅間が開業した。明治30(1897)年には高松駅〜丸亀駅間が開業し、高松駅〜琴平駅間の運行が行われる。

 

讃岐鉄道はその後に山陽鉄道に買収され、またその山陽鉄道も1906(明治39)年に国有化される。以降予讃線は官営鉄道の手で整備、延伸されていくが、松山駅まで路線が延びたのは昭和2(1927)年のことだった。現在の予讃線の終点となる宇和島駅までの延伸は昭和20(1945)年6月20日だった。

 

政府の官営鉄道の路線造りを見ると、どこもかなり時間がかかっている。明治初頭に政府が財政難に陥り、私鉄に路線造りを任せたのが草創期の幹線整備を進める上で大正解だったのかも知れない。

 

※参考資料:「日本国有鉄道百年写真史」、「写真でみる貨物鉄道百三十年」ほか

見た目のインパクト最大級! 日本ではレアなピックアップトラックのジープ「グラディエーター」はどう?

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は日本に導入されること自体が珍しい、アメリカン・ピックアップトラックのグラディエーターの実力を探る!

※こちらは「GetNavi」 2022年10月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

 

【レビュアーPROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感、クルマを評論する際に重要視するように。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわる。

 

【今月のGODカー】ジープ/グラディエーター

SPEC【ルビコン】●全長×全幅×全高:5600×1930×1850mm●車両重量:2280kg●パワーユニット:3.6LV型6気筒エンジン●最高出力:284PS(209kW)/6400rpm●最大トルク:35.4kg-m(347Nm)/4100rpm●WLTCモード燃費:非公表

920万円(税込)

 

無敵のデカさに快適な走りを兼備

安ド「殿! このクルマ、ものすごくデカいですね!」

 

永福「うむ。デカいな」

 

安ド「全長5.6m! コレって世界最大ですか?」

 

永福「世界最大ではないが、日本で普通に買える乗用車のなかでは、2番目くらいに長い」

 

安ド「最も長いのは!?」

 

永福「ロールスロイスの旗艦、ファントムが約6m。それに次ぐ長さだ」

 

安ド「トヨタの新型ランドクルーザーよりかなり長いですよね」

 

永福「ランドクルーザーは約5m。レクサスLXでも5.1m。グラディエーターの圧勝だ」

 

安ド「敵はロールスロイスだけですね!」

 

永福「全高はこちらのほうが20cm高いから、ロールスも見下ろせる。グラディエーターは無敵だ」

 

安ド「無敵なんですね! しかも実際に運転すると、意外と長さは気になりませんでした!」

 

永福「同感だ。住宅街ではもっと苦労するかと思ったが」

 

安ド「ただ駐車すると、前が枠からはみ出しまくってビックリしました!」

 

永福「一般的なコインパーキングは、全長5mまでの設定。60cm飛び出すからな」

 

安ド「このクルマ、ベースはジープ・ラングラーですよね?」

 

永福「ラングラーの4ドアバージョン、アンリミテッドをベースに、ピックアップトラックに仕立ててある」

 

安ド「このキャラクターはすごく好きですが、顔が完全にラングラーなのに、胴体が長すぎて、ちょっとバランスが悪くないですか?」

 

永福「そこが良いのだ。一見ラングラーだが、横から見ると異様に長くて、誰もが『何だコレ!?』とビックリする。アメリカン・ピックアップトラックにはもっとデカいモデルもあるが、グラディエーターはバランスが悪いから、見た目のインパクトは最大級だ」

 

安ド「なるほど! さすが深い考察です」

 

永福「それより驚いたのは、走りが実に快適なことだ」

 

安ド「快適ですか!」

 

永福「ラングラーは本格的なオフロード4WD。乗り心地は固く、高速道路では直進性が悪くてアタリマエだが、現行型はそこが大幅に改善された。このグラディエーターは、ボディが長いぶん、さらに乗り心地も直進性も良い」

 

安ド「重いわりには加速も良いですね!」

 

永福「燃費も7km/Lくらい走るし、価格は920万円。決してそれほど高くない。周囲へのインパクトを考えたら、ものすごくお買い得なクルマだ」

 

安ド「僕にはオーナー像が想像できないんですが、サーフィンやオフロードバイクをやるお金持ち層なんでしょうか? 船を乗せられるほど荷台は大きくないですし」

 

永福「荷台は必ずしも使う必要はない。そんなことより目立つことが重要なのだ!」

 

【GOD PARTS 1】パワーユニット

悪路を乗り越えるパワフルなエンジン

搭載エンジンのラインナップは3.6LV型6気筒DOHCのみ。284馬力、347Nmで、様々な悪路で力を発揮してくれます。オーナーが必要とするかどうかはともかくアイドリングストップ機能まで備えていて、エコ時代にも対応しています。

 

【GOD PARTS 2】各種オフロードスイッチ

あらゆる悪路に対応するオフロード機能を多数装備

インパネの下部にはオフロード車ならではのボタンが集約されています。あらゆる悪路に合わせてそれぞれを上手に走り切るためのシステムが搭載されていますが、素人では使い切れません。オフロードの世界は深い沼なのです。

 

【GOD PARTS 3】ディスプレイ

愛車の走行状況が目に見えて安心!

ボディの傾きやサスストロークなど、オフロードを走るうえで便利なパフォーマンスデータは、すべてディスプレイで確認できます。昔はこういった情報は追加メーターに表示していたんですが、デジタル時代ですね。

 

【GOD PARTS 4】マッド&テレインタイヤ

固くて頑丈な仕様で凸凹道も乗り切れる

17インチのシブいツヤ消しホイールには、ブロックパターンがサイドにまで配置された、剛性が高く丈夫な構造のタイヤが装着されています。なお、スペアタイヤについてはラングラーのようにボディ後方には付いていません。

 

【GOD PARTS 5】シフトセレクター

とにかく太いたくましさの権化!

ATは8速で、基本的にはラングラーの最強グレード「ルビコン」と同じですが、とにかく握りが太くて男らしいです。横に並ぶトランスファー(副変速機)レバーは、4WDを2WDにしたりロックしたりするためのもので、こっちもぶっとい!

 

【GOD PARTS 6】グリル&ヘッドライト

真正面から見たら見分けがつかない!?

ラングラーと同じ顔です。世界的にもお馴染みの好感度の高いデザインです。7本のグリル(セブンスロットグリル)と丸いヘッドライトはジープブランドの象徴となっていて、機能的にはゴツいクルマなのにほっこりします。

 

【GOD PARTS 7】バンパー

前にも後ろにも大きく突き出て衝撃を吸収

左右のフェンダー(タイヤ上方の囲み)はもとより、前後のバンパーもかなり突き出ています。実際に運転してみると、これが運転席からほとんど見えず(笑)、前方を何かに寄せる際は注意が必要です。リアには牽引用のフックが飛び出しています。

 

【GOD PARTS 8】外ヒンジ

ラフなつくりがカッコ良さをアップする!

ラングラーをはじめ、オフロード車ではこのようにヒンジ(可動部位の接続部)が外側に付いていることが多いです。機械としてシンプルな構造にした結果ではありますが、無骨な雰囲気が出て非常にカッコ良くなります。

 

【GOD PARTS 9】リアシート

長くはなったけど4人が快適に乗れる構造に!

ピックアップトラックは古来より2シーターが主流でしたが、現代では後席を追加した4人乗りモデルも増えています。その影響で全長は長くなりますが、内部の後席スペースは十分広く、後席の下には収納まで備えています。

 

【これぞ感動の細部だ!】荷台

何を載せるか? 使い方はオーナー次第!

日本では希少なピックアップトラックですが、北米では各ブランドでラインナップされるほど人気があります。ジープとしては26年ぶりの展開となりましたが、ベースとなっているのは新型ラングラーです。荷台のサイズは奥行きが1531mm、幅は最長部で1442mmで、高さもしっかり取られていて大容量。日本人オーナーたちがこの荷台をどう使うのか興味深いところです。

 

撮影/我妻慶一

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シトロエン「C5 X」はステキなフランス車。しかし走りには“シトロエンらしさ”を感じられなかった

これまで世界を驚愕させるようなデザインやサスペンションシステムを生み出してきたフランスのシトロエン。同ブランドの新たなフラッグシップモデルは、流行りのクロスオーバーSUV風デザインで登場した。今年ついに日本へ上陸してきたこのアバンギャルドなニューモデルの魅力とは?

 

【今回紹介するクルマ】

シトロエン/C5 X

※試乗グレード:SHINE PACK

価格:484万円~636万円(税込)

 

C5 X初対面の感想は「げえっ、カッコいい!」

シトロエンの新たなフラッグシップ、「C5 X」。私は、2015年に生産を終了したシトロエン「C5」のオーナーだっただけに、その後継とも言うべきモデルの復活には、ひとかたならぬ思いがある。しかも私はつい最近、C5 Xの兄弟車にあたるプジョー「508」(現行型の中古車)を買ったばかりだ。つまりC5 Xは、ダブルで注目せざるをえない新型車だったのだ!

 

まずそのスタイルを見て、「げえっ、カッコいい!」と思った。「げえっ」というのは、プジョー508を買ったばかりの自分にとって、「げえっ」だったということ。

 

C5 Xのデザインは、5ドアハッチバックとSUVの融合ともいうべきクロスオーバースタイル。スポーティでエレガントな5ドアハッチバックの車高を少しだけ持ち上げ、フェンダーガードで武装してSUV風味を加えると、伝統的なヨーロピアンなカッコよさに、今どきっぽいイケイケ感が付け加えられる。われら中高年は基本的に保守的だが、微妙に今どき感を漂わせたいという思いもある。C5 Xのエクステリアは、そこにドンピシャだ。

↑10月1日に登場したばかりのC5 X。フロントフェイスには、新世代シトロエンを象徴するV字型シグネチャーライトを採用

 

この手法は、新型「クラウン クロスオーバー」でも用いられている。いま話題のクラウン クロスオーバーは、C5 Xにかなりソックリ。ちなみにC5 Xは約1年前に本国で発表されているので、クラウン クロスオーバーより少しだけ先に出ている。

 

対する我がプジョー508は、完全なる5ドアハッチバック。完全に伝統的な、ある意味昔っぽいスカし感に満ちていて、中高年の美意識のど真ん中を突いているが、今どき感はあまりない。じゃ、C5 Xと508のデザイン対決、どっちが勝ちなのか? と問われれば、客観的にはC5 Xの僅差勝ち、主観的には508の僅差勝ちだ。とにかくどっちもカッコいいし、正体不明の高級感がある。

 

本邦ではフランス車は絶対的に少数派。車種を認識できる人が限られるぶん、レア感やツウ感のある正体不明感を満喫できるのだ。これは、国産車やドイツ車では味わえない感覚で、クセになる。フランス車を買う人は、なによりもスタイリングを優先する。国産車を買う人は信頼性を、ドイツ車を買う人はメカニズムを優先するが、フランス車の購入層にとって最も重要なのはスタイリングだ。正直、メカなんかどうでもいいというくらい、スタイリングを重視する。C5 Xのデザインは、いかにもシトロエンらしいオシャレさやアバンギャルドさが漂っていて、それだけで「買い」だ。

↑4色のボディカラーをラインナップ。写真のカラーは大人の渋さ漂う「グリ アマゾニトゥ」

 

フランス車を買う人は、インテリアも重視する。シートに座っているだけでオシャレ感を味わえなければ、フランス車を買った意味が薄くなる。ただし、高級感にはこだわらない。TシャツにGパンでひと味違うオシャレさを演出するパリジャンの世界を好むのだ(?)。

 

その伝で言うと、C5 Xのインテリアは実にちょうどいい。シブい色調の車内は、それほど質感の高くないオシャレ感に満ちている。かつてシトロエンと言えば、1本スポークステアリングなど奇抜な演出が定番だったが、近年のシトロエンは奇抜さよりも、親しみやすさを重視している。シトロエンファンとしては、まずまず納得の仕上がりだ。

↑木目調デコラティブパネルを採用した水平基調のコックピット。センターコンソール上部にはそのデザインと鮮やかなコントラストをなす12インチデジタルタッチスクリーンを配置。Apple CarPlay/Google Android Autoに対応するスマホと連携し、スマホアプリやコンテンツをシームレスに楽しむこともできる

 

↑ラゲッジルームの積載容量は通常時で545L。リアバックレストを倒せば、最大1640Lの広大なスペースが生まれる

 

エンジンは常に脇役で、ある意味、普通に走ればそれでいい

試乗したのは、ガソリンエンジンの1.6Lターボ仕様。もはやPSAグループの超定番エンジンで、可もなく不可もなく加速する。私が乗っていたC5と基本的には同じエンジンで、パワーは156psから180psに強化されているものの、加速感にほとんど差はなく、「ごく普通に走る」と言うしかない。シトロエンにとってエンジンは常に脇役で、ある意味、普通に走ればそれでいいのである。

 

それより重要なのは乗り心地だ。シトロエンと言えば、オイルとガスを使って魔法のじゅうたんのような乗り心地を実現していた「ハイドロニューマチックサスペンション」の伝統がある。先代型C5は、その最後のハイドロシトロエンだったが、コストが合わなくなり絶滅。このC5 Xには、その伝統を受け継ぐ形で「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)」なるダンパーシステムが搭載されている。

 

その乗り心地はというと、まだ新車で機械的なアタリが付いていないのか、あまりフンワリ感はなく、ごく普通のサスペンションという印象だった。どちらかというとスポーティで引き締まった印象で、コーナリングが得意。シトロエンらしさは感じられない。むしろ私のプジョー508のほうが、フワッと当たりがソフトなくらいだ。

↑リアコンビネーションランプはサイドまで回り込むような大胆なV字型デザインで、その存在を鮮烈に印象づける。SHINE PACKには、スライディングガラスサンルーフを装備

 

↑車速やナビゲーションのルート、ドライバーアシスト機能の作動状況など、運転に必要な情報をメーター上部のフロントウィンドウに投影する

 

ちなみにだが、C5 Xのリアサスはトーションビーム方式なのに対して、508はより高価なマルチリンク方式+電子制御ダンパーを採用している。兄弟車とはいっても、サスペンション的には微妙に508のほうが上位なのだ(軽い勝利感)。

 

ただ、同じPHCを積んだSUVのシトロエン「C5エアクロスSUV」は、フワッフワの綿アメのような乗り心地だったので、C5 Xも、車体の走行距離が延びれば、もうちょっとフワフワしてくる可能性もあるだろう。それに期待したい。

 

クラウン クロスオーバーが話題の今、そのソックリさんとも言うべきシトロエンC5 Xは、「似てるけど違うんだぜ」と主張できる、実にステキなフランス車だ。これに乗れば、周囲のクルマ好きから一目置かれることは間違いない。

 

SPEC【SHINE PACK】●全長×全幅×全高:4805×1865×1490㎜●車両重量:1520㎏●パワーユニット:1598㏄直列4気筒ターボエンジン●最高出力:180PS/5500rpm●最大トルク:250Nm/1650rpm●WLTCモード燃費:─㎞/L

 

 

撮影/池之平昌信

 

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マツダ「CX-5」クリーンディーゼルは、プレミアムブランドのラグジュアリーモデルに乗った時のような万能感

発売から5年が経過した現行型CX-5だが、今も刷新され続け、商品力を高めている。今回は同車のクリーンディーゼルエンジン搭載モデルに試乗して、このクルマの存在意義と価値について改めて考えてみた。

 

【今回紹介するクルマ】

マツダ/CX-5

※試乗グレード:XD Sports Appearance

価格:290万9500円~407万5500円(税込)

 

クロスオーバーSUVとしてカテゴリー全体を成熟

昨今、クラウンにもフェラーリにもSUV(のような)モデルが誕生し、いつの頃からかSUVは、ブームからスタンダードな存在となった。そもそもトラックから派生した悪路を走れるクロスカントリーモデルが、乗り心地が乗用車並みに改善されてSUVと呼ばれるようになり、街の風景にも似合うスタイリングをまとって、2000年代以降に世界的なブームとなったのである。

 

日本でのターニングポイントは90年代だ。1994年のトヨタ「RAV4」のヒットでシティSUV人気に火がつき、1997年のトヨタ「ハリアー」がアウトドアをしない一般層にも好評を得たことなどが、SUVカテゴリーの過渡期を担った。そして、高級感と都会的な雰囲気を高めたクロスオーバーSUVとしてカテゴリー全体を成熟させたのが、2012年に発売されたマツダの初代「CX-5」だ。

 

初代モデルは、当時話題になった「SKYACTIVE(スカイアクティブ)」技術の全面的採用車ということで、燃費性能や走行性能の良さに注目が集まった。実際、クリーンディーゼルエンジン搭載車でリッター15km(実燃費)程度の数値は出せたし、同時期のSUVと比べてコーナリング時の挙動も高速道路走行時も安定感が高かったものだ。

 

そんなCX-5が2代目へモデルチェンジしたのが2017年2月。この頃になると日本でもSUVの販売台数は急増していたが、現行型となる2代目CX-5は、キープコンセプトながら全方向で進化を果たした。その後、毎年のように商品改良されて性能や魅力を高めてきたが、登場後約5年が経過した2021年11月、さらに大幅改良がなされている。

 

まず目につくのはデザインだ。CX-5は今やマツダのグローバル販売台数の約三分の一を占める基幹車種ということで、同ブランドを象徴するようなデザインでなくてはならない。そもそも2代目モデルになった時点で、海外のプレミアムブランドに勝るとも劣らない独自のプレミアム感を備えていた“魂動”デザインが、さらに進化している。

↑ドライバーとクルマの関係を、まるで愛馬と心を通わせるかのように、エモーショナルなもの。そのための造形を追い求めつづけるのが、マツダの「魂動デザイン」

 

フロントバンパー、およびグリルまわりの形状はスッキリして、より上質で凛とした雰囲気が感じられる。まるでギリシャ彫刻のような、美しさと躍動感に満ちた表現に仕上げられている。今回の改良ではなく、現行型になった時からそうだが、CX-5のデザインは国産SUV市場においてもう一歩足りなかったファッション性のようなものを獲得しており、そういった部分ではジャガーやBMWなど欧州プレミアムブランドのSUVに肩を並べるものがある。

↑またボディカラーは全8色。試乗車はソウルレッドクリスタルメタリックだった

 

今回、インテリアに変更点はなかったようだが、もとから洗練されているデザインが好印象だ。シンプルながら大人っぽい雰囲気で、運転姿勢のまま各操作部までしっかり手が届いて操作性が高い。このクルマは外から見ると大きく見えるが、実際にシートに座ってみるとそれほど車体が大きいと感じられず、このあたりは運転のしやすさにも繋がっている。さらに、サスペンションの改良もあってか比較的長い時間運転しても疲れは少なかった。

↑ダッシュボードの低い位置に水平基調のラインを作る最新流行を取り入れ、手が触れる部分の素材に柔らかいものを使用

 

↑座面には人間が不快に感じる振動だけをカットする性質を持ったウレタンを採用し、より快適な座り心地を実現

 

運動性能はシャープな印象で、その操作感は自然!

今回、新たなドライブモード「Mi-DRIVE(ミードライブ)」の採用で対応できる走行シーンを広げているが、ベースの運動性能はシャープな印象で、その操作感は自然である。こんな風に曲がりたいと思ってステアリングを操作すれば、思い通りに曲がってくれる感じだ。乗り心地に関しては、高速域でも低速域でも快適で、現行型登場時と比べて向上しているようだった。これらの感覚はあらゆる部分が作り込まれている証拠であり、まるでプレミアムブランドのラグジュアリーモデルに乗った時のような、万能感さえ感じられる。

 

また、今回試乗したのは2.2Lのクリーンディーゼルエンジン搭載車で、パワーユニットに関して改良点はなかったようだが、相変わらずスムーズでパワフルな加速感が魅力的だ。それでいて燃料代が安いという恩恵にもあずかれるのだからありがたいかぎりである。また、エンジンではなくボディ側の改良によるものだと思われるが、静粛性も向上している。つまり、目をギラギラさせて運転しなくても、ちょっと乗っただけでその良さが感じられるところが、このクルマの走りの魅力でもある。

↑CX-5はクリーンディーゼルエンジンとガソリンエンジンから選べる

 

そして現代のクルマにとって欠かせないのが安全性能だ。搭載される先進安全技術「i-ACTIVESENSE(アイアクティブセンス)」では、ミリ派レーダーとカメラを用いて衝突回避のサポートや被害軽減を図っている。当然のようにクルーズコントロールは全車速対応だし、歩行者や交通標識の検知、認識機能も備えている。そして今回、アダプティブ・LED・ヘッドライト(ALH)が改良され、LEDを20分割化したことで、夜間の視認性を高めていることも紹介しておこう。

↑225/55R19 99Vタイヤ&19×7Jインチアルミホイール(ブラックメタリック塗装)を履く

 

今回はクリーンディーゼルモデルに乗ったが、以前乗らせてもらったガソリンモデルも決して悪くなかった印象がある。このエンジンの違いで価格が約30万円ほど違ってくるので、どちらを選ぶかは各家庭の財務担当者とよく相談してほしい。ミドルサイズのSUVを買おうと思っていて、輸入車のような洗練されたデザインのクルマに乗りたいけど予算的に不安な人にとっては、今も最注目のモデルである。さらに、国産車の信頼性の高さというおまけも付いてくる。

↑定員乗車時もゴルフバッグ4つが入る大容量を確保。フロアボードは上下段にセットが可能です。荷室高:フロアボード上段セット時約750mm /フロアボード下段セット時約790mm×荷室幅:約1450mm×荷室長:約950mm

 

SPEC【XD Sports Appearance】●全長×全幅×全高:4575×1845×1690㎜●車両重量:1650㎏●パワーユニット:2188㏄直列4気筒ディーゼルターボエンジン●最高出力:200PS/4000rpm●最大トルク:450Nm/2000rpm●WLTCモード燃費:17.4㎞/L

 

撮影/木村博道 文/安藤修也

 

 

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祝開業「西九州新幹線」! 新風が吹き込む沿線模様を追う

〜〜日本一短い新幹線「西九州新幹線」最新レポート〜〜

 

武雄温泉駅(佐賀県)と長崎駅を結ぶ西九州新幹線が9月23日に開業した。新しい路線の誕生に地元の期待は高まる。開業した1週間後に実際に駅を訪ね、列車に乗車してみると、現状がより見えてきた。新幹線開業でどのように変わったのか、また在来線を含め沿線はどのように変わろうとしているのか迫ってみたい。

*取材は2022(令和4)7月1日と、9月30日・10月1日に行いました。

 

【関連記事】
百聞は一見にしかず!?「西九州新幹線」開業で沿線はどう変わるのか?

↑従来の長崎本線が有明海に沿って走ったのに対して、西九州新幹線は多良岳の西側、大村湾に沿って走っている

 

【変貌する西九州①】建設予定からこれまでを整理してみる

まずは西九州新幹線が計画された当初から、現在に至るまでを見ておこう。

 

西九州新幹線が計画されたのは今から50年前の1972(昭和47)年12月12日にさかのぼる。全国新幹線鉄道整備法の中で「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」に告示され、翌年に九州新幹線(西九州ルート)として整備計画が決定された。さらにその35年後にあたる2008(平成20)年に武雄温泉〜諌早間の工事が着工、2022(令和4)年9月23日に武雄温泉駅と長崎駅間66.0kn(営業キロ69.6km)が完成し、暫定開業に至った。

 

今回、新幹線の未開業区間となっている武雄温泉駅〜新鳥栖駅間は、当初フリーゲージトレイン(軌間可変電車)が導入される計画だった。しかし、技術的な問題が解決できず、新幹線の一般車両に比べて割高かつ維持経費がかかることが予想され、また高速化が不向きといった諸問題が重なり導入が断念された。その後に全線フル規格での建設を求める方針が国から示された。こちらのフル規格での新線建設も、佐賀県の建設費負担や、ルート選定などの問題で、佐賀県の同意が得られない状況となっている。

↑終着駅の長崎を目指す西九州新幹線。長崎市内は写真のように山が多い地形で、トンネルを出たらまたトンネルという区間が続く

 

さらに、莫大な建設費に対しての貸付料(=施設使用料)のバランスが取れていない課題も明らかになった。武雄温泉駅〜長崎駅の建設費は総額6197億円に及んだ。対してJR九州から施設の使用料が支払われるが、一年間で5億1000万円になることが明らかになった。開業してから30年間で総額153億円になると試算されている。

 

当初に予想していた貸付料(=施設使用料)は年間約20億円と算出されていたのだが、九州新幹線と結ばれていないなど、収入増とはなりにくい要素も見込まれ、想定を大幅に下回ることになった。支払われる建設費のうち3分の2は国が、3分の1は自治体の負担になると報道されている。

 

西九州新幹線の66.0km区間も着工してから14年という長い年月がかかった。残り武雄温泉駅〜新鳥栖駅間(現在の営業キロは50.4km)の着工は目処がたっていない状況で、いつになったら全線が結ばれるのか、現状では次世代に夢を託すしかなさそうだ。

 

【変貌する西九州②】新幹線で平均26分の所要時間短縮に

9月23日の西九州新幹線の暫定開業では、博多駅〜武雄温泉駅間を走る特急「リレーかもめ」と、西九州新幹線「かもめ」が佐世保線の武雄温泉駅で乗継ぎ可能な形で運転される。両列車は同じホームで対面して停車し、スムーズに乗り継げるように調整された。

 

西九州新幹線が開業する前と開業後の所要時間、運賃+特急料金などの変化を見ておこう。まずは博多駅〜長崎駅間の所要時間がどのぐらい短縮されたかを見ていこう。

 

◇長崎本線・下り特急「かもめ」を利用の場合(9月22日まで)
所要時間:1時間50分〜2時間11分(平均2時間2分)/列車本数22本

 

◇長崎本線/佐世保線・下り特急「リレーかもめ」+西九州新幹線「かもめ」を利用の場合(9月23日以降)
所要時間1時間20分〜1時間50分(平均1時間36分)/列車本数26本(臨時列車も含む+乗り継ぎ時間3分を含む)

 

全列車の所要時間の平均を計算してみると在来線利用の特急「かもめ」は博多駅から長崎駅まで平均2時間2分で走った。一方、「リレーかもめ」+西九州新幹線「かもめ」を利用すると平均1時間36分で、新幹線の利用効果は26分早く着くと算出できた。

↑諌早駅近くを走る武雄温泉駅行き「かもめ」。指定券を購入すると「かもめ」と「リレーかもめ」の特急券が1枚で発券される(左下)

 

ちなみに、新幹線利用時の最速列車の所要時間と、時間がかかる列車の所要時間には30分の差が出た。この差に関しては、まず新幹線の途中駅を何駅停まるかによる。最速の列車は途中の嬉野温泉駅と新大村駅の2駅を通過する。一方、所要時間がかかる列車は途中3駅すべてを停車して走る。

 

加えて時間がかかる列車の場合は、佐世保線の単線区間の影響も受けている。佐世保線の江北駅〜武雄温泉駅間には単線区間があり、途中駅で行き違う列車との待ち合わせが必要となる。これらの要素により、列車の所要時間に差が出てしまうわけだ。

 

さて、特急料金の変化に目を転じてみよう。ここでは、博多駅〜長崎駅に加えて、一つ手前の諌早駅までの金額も記した。( )内は新幹線開業前の特急料金だ。両駅間とも運賃の変更はなかった。

 

博多駅〜諌早駅:運賃2530円、特急料金2740円(1780円)

博多駅〜長崎駅:運賃2860円、特急料金3190円(1940円)

 

特急料金は博多駅〜諌早駅間の場合に960円、博多駅〜長崎駅間の特急料金は1250円高くなった。ちなみに自由席の場合は530円引き(嬉野温泉駅のみ880円引き)となる。

 

【変貌する西九州③】最短1時間20分で走る列車は?

ここからは西九州新幹線「かもめ」の車両と列車の概要を見ていこう。

↑大村市内を走る西九州新幹線。奥に大村市街と大村湾が広がる。このあたりの車窓風景が最も美しい

 

西九州新幹線で使用される車両は東海道・山陽新幹線用に導入されたN700Sの西九州新幹線用8000番台。西九州新幹線開業時に6両×4編成が導入された。デザインはJR九州の車両制作に大きく関わってきた水戸岡鋭治氏が担当した。車体カラーは白を基調にJR九州のコーポレートカラーの赤が配色された。

 

編成は長崎駅側3両が指定席で2席×2席の座席配置、武雄温泉駅側3両が自由席で、2席×3席の座席配置となっている。なお、グリーン車は連結されていない。新型車両らしく全席ともにひじ掛け部分にコンセントが付いている。最高時速は260kmだ。

 

列車本数は下り(長崎方面への列車)が計28本で、26本が武雄温泉駅〜長崎駅間を走る列車となる。そのうち4本は金・土曜・休日に運転される臨時列車だ。朝に走る2本のみ新大村駅→長崎駅間の列車で、新大村駅近くにある車両基地から出庫し、長崎駅へ向かう。対して上り(武雄温泉駅方面への列車)は計27本で、1本のみ深夜に長崎駅→新大村駅間を走る列車がある。金・土曜・休日に走る臨時列車は下りと同じく4本だ。なお武雄温泉駅〜長崎駅を走る下り・上り全列車が武雄温泉駅で特急「リレーかもめ」と連絡する。

 

西九州新幹線のみの所要時間は、各駅に停車する列車が30分もしくは31分、途中駅の嬉野温泉駅や新大村駅を通過する列車は23分〜28分となっている。

 

ちなみに、博多駅〜長崎駅間を最も早い所要時間1時間20分で走る下り列車は、博多駅10時4分の「リレーかもめ」17号で、武雄温泉駅で「かもめ」17号に乗り継げば長崎駅へは11時24分に到着する。また最速の上り列車は長崎駅9時50分発の「かもめ」16号で、武雄温泉駅で「リレーかもめ」16号に乗り継ぐことで博多駅には11時10分に到着する。こちらの所要時間も1時間20分となる。

 

【変貌する西九州④】3形式の「リレーかもめ」が使われる

ここで「リレーかもめ」の車両も触れておこう。

 

博多駅(一部は門司港駅発)発の特急「リレーかもめ」に使われる車両の多くが885系で、武雄温泉駅側の1号車は半分がグリーン車と指定席、2・3号車が指定席で、博多駅側3両が自由席となっている。

↑「リレーかもめ」885系。側面の表示では下りは武雄温泉駅での接続の注意書き付き(左側)、博多行きも「リレーかもめ」の名が入る

 

車体がグレーの787系も「リレーかもめ」として走っていて、こちらは8両編成。武雄温泉駅側の1号車はグリーン車でDXグリーンも付く。2〜4号車が指定席、5〜8号車が自由席だ。

 

一部の博多駅〜佐世保駅間を走る885系、もしくは783系使用の特急「みどり」の一部も、新幹線開業後は特急「みどり(リレーかもめ)」を名乗り接続列車として走る。885系「みどり」は6両編成で「リレーかもめ」と同編成、783系での運行の「みどり(リレーかもめ)」は4両(特急「ハウステンボス」車両を連結しない場合)、もしくは8両で運転される。

 

乗り継ぐ武雄温泉駅では、対面するホームに西九州新幹線N700S「かもめ」が停車し、武雄温泉駅側3両が指定席、長崎駅側3両が自由席となる。885系が「リレーかもめ」ならば同じ6両で、同じ号車がほぼ目の前(やや1号車側はずれる)に停まっているので、同じ号車の指定席を購入すれば、スムーズに乗継げるようになっている。

↑博多駅〜武雄温泉駅間は783系の特急「みどり(リレーかもめ)」、787系の特急「リレーかもめ」も走っている

 

【変貌する西九州⑤】3分という乗り継ぎ時間は短い&長い?

ここからは西九州新幹線のそれぞれの駅の様子を見ていこう。

 

駅は計5駅で、武雄温泉駅が起点となる。各駅停車の列車ならば嬉野温泉駅、新大村駅、諌早駅の順に停まり、終点は長崎駅となる。そのうち、嬉野温泉駅と新大村駅が、新幹線の開業に合わせて誕生した新駅となる。

 

筆者が訪れた日は開業してまだ1週間ということもあり、乗客以外にも新幹線を見学しようとする地元の人たちの姿が多く見受けられた。関心度は高いようだ。ちなみに入場券は各駅とも大人170円となっている。

 

まずは武雄温泉駅。これまでは佐世保線の途中駅だったが、この駅が「リレーかもめ」と「かもめ」の乗継ぎ駅となり利用者も増え、注目度も高まっている。

↑武雄温泉の御船山口(南口)。温泉最寄り駅とあって、駅前には湯煙が立ちのぼる噴水も。10番・11番線で乗り継ぎを行う(右上)

 

武雄温泉駅は従来の正面玄関だった楼門口(北口)と、再開発された御船山口(南口)がある。それぞれの名前は地元、武雄市の名所にちなむもので、楼門口は武雄温泉街にある朱塗りの楼門にちなむ。楼門は東京駅を設計したことで知られる辰野金吾の設計により1915(大正4)年に完成した。また御船山口は、佐賀藩の武雄領主が造営した御船山楽園にちなむ。

 

ホームは4面で、北側の1・2番線は在来線ホーム、また中間部に10・11番線ホームがある。そのうち10番線が特急「リレーかもめ」が発着するホームで、目の前の11番線が西九州新幹線「かもめ」の発着ホームとなる。1・2番線と10・11番線の改札口は異なっていて、10・11番線へ入るには新幹線および特急用の乗車券+特急券(入場券でも可)の購入が必要となる。

 

この武雄温泉駅では特急「リレーかもめ」が到着すると、乗り継ぐ新幹線「かもめ」が3分後に発車する。実際に見て、また自分も乗り継ぎを体験してみた。博多方面から「リレーかもめ」が到着すると、物珍しさもあり、まずはホームで写真を撮ろうとする観光客の姿が多い。特に先頭部1号車側で、乗換え前に写真を撮っておこうという人の姿が目についた。写真撮影を楽しんでいたのは鉄道ファンよりも、ごく普通の利用者が多い。とはいえ3分間は短く、撮影していた人たちもあわてて乗り込む姿が目立った。

 

一方、新幹線「かもめ」から特急「リレーかもめ」への乗り継ぎ時間も同じく3分。筆者が実際に体験した時には、のんびり乗り降りする人もいて、下車するまでに1〜2分かかってしまう。リレーかもめが885系ならば乗ってきた号車の、ほぼ目の前に同一号車が停車しているので迷わずに済むが、意外に慌ただしいようにも感じた。

 

「リレーかもめ」「かもめ」の自由席は、観光シーズンならば着席するのも大変そうに感じた。高齢の利用者や、親子連れはなるべく指定席の利用をおすすめしたい。

 

【変貌する西九州⑥】地元の観光関連産業はまだ様子見?

武雄温泉駅の次の駅は嬉野温泉駅となる。嬉野温泉駅は嬉野市内にできた初めての鉄道駅だ。嬉野温泉は「日本三大美肌の湯・嬉野温泉」と商標登録されている温泉で、美肌の湯に定評がある。

 

嬉野温泉駅から温泉街の中心にある公衆浴場「シーボルトの湯」までは西へ約1.8kmの距離があり、駅からはバスやタクシーの利用が賢明だ。これまで嬉野温泉へのアクセスは、武雄温泉駅からバス利用、もしくは高速バスを利用して、長崎自動車道の嬉野インターチェンジバス停からタクシー利用者が多かっただけに、新駅開業でどのように人の流れが変わるか注目される。

↑新駅の嬉野温泉駅の塩田川口(東口)。逆が温泉口(西口)となる。新幹線全駅の中で唯一、駅前駐車場の料金が無料だった

 

嬉野温泉駅を訪れたのは平日の日中だっただけに人もまばら。駅構内に売店等はまだなく、温泉口(西口)の野外に臨時の出店(弁当などを販売)が1軒あるのみで、駅前広場の整備工事は完了していない状態だった。

 

武雄温泉駅から嬉野温泉駅までは10.9kmで、新幹線の場合、出発したらあっという間についてしまう。上り列車ならば、嬉野温泉駅を出発したら、すぐに武雄温泉駅到着のアナウンスが流れるほどだった。一方、嬉野温泉駅から次の新大村駅間は21.3km(諌早駅〜長崎駅間も同じ21.3km=実キロ)とやや離れている。それだけにこの駅間は列車も加速した様子がうかがえた。

 

新大村駅も新駅となるが、大村線の線路上に設けられたこともあり、大村線の新大村駅も同時に開業した。場所は大村市の中心街がある大村駅から北へ2駅めで、距離は約2.7kmと離れている。観光案内所が設けられているものの、駅周辺の開発はまだこれからといったところだ。

↑新大村駅で大村線(左上)と接続する。在来線の駅も新設され乗換えに便利だ。写真は海側に設けられたさざなみ口(西口)

 

ちなみに、筆者は今回の行程では一部レンタカーを利用した。多くの観光客が到着する長崎空港は大村市内にある。空港は大村湾の海上に埋め立て地に設けられている。大手レンタカー会社の事務所は、みな空港内にデスクを設け、大村市街に営業所が設けられているのだが、新大村駅までの送り迎えを始めたかどうか尋ねてみた。しかし、送迎はないと回答。話を聞くと今後は利用状況を見ながら送迎を始めるかどうか検討中とのことだった。

 

バス事業者も新大村駅の駅開業に合わせて立ち寄る路線バス便を設けたもののまだ本数は少なめ。新大村駅への地元の公共交通機関の本格的なアクセスは、まだ先のことになりそうだ。

 

【変貌する西九州⑦】大きく変わった諌早駅。乗換えも便利に

↑諌早駅の東口。西口との間には自由通路が設けられている。駅に隣接するホテルなども新たに設けられた

 

西九州新幹線の開業で大きくリニューアルしたのが諌早駅だ。諌早駅は在来線の長崎本線、大村線と接続、さらに島原半島へ向かう島原鉄道の起点駅でもある。ホームは1〜4番線がJRの在来線、11・12番線が新幹線ホームとなった。改札を出ると東西自由通路があり、そこにはスターバックスコーヒーやコンビニエンスストアが設けられ、利用者も多く賑わいを見せていた。

 

東口には駅前ホテルが新設され、高層マンションも建てられた。駅前のバスロータリーが大きく整備され、拠点駅として機能していることを窺わせる。諌早市は長崎県内のほぼ中央部にあり、もともと交通の要衝として栄えてきたが、今回の新幹線開通での駅リニューアルにより、より活気が増したように見えた。

 

【変貌する西九州⑧】長崎駅の150m移動で流れが変わるか?

最後は終点の長崎駅だ。長崎市内は周囲を山に囲まれたところが多く、平地が少なめだ。長崎駅周辺も例外ではない。西九州新幹線は市街の東側で新長崎トンネル7460mを出ると、すぐに長崎駅へ到着する。

 

長崎駅はここ数年で大きく変わった。元は駅前に国道202号が通り繁華な印象が強かった。一方で、在来線の長崎本線は地上部を走るため、市内の踏切が混雑しがちで、高架化が必要とされていた。そこで旧駅の西側にあった車両センターの場所へ駅自体を移動し、まず2020(令和2)年3月28日に在来線用の新しい長崎駅が設けられた。西九州新幹線の長崎駅はこの東側に平行して造られた。

 

在来線は1〜5番線、新幹線ホームは11〜14番線ホームとなる。駅下には総合観光案内所や「長崎街道かもめ市場」という大きな土産売り場が設けられた。

↑駅近くの高台から望む新しい長崎駅。手前が新幹線の高架、奥が在来線の高架駅だ。駅の奥には長崎港が遠望できる

 

150mほど駅の位置を西へ移動したことにより新たな問題も出てきている。踏切対策のため移動、高架化した長崎駅だが、市内の公共交通機関は、長崎電気軌道が運行する路面電車と路線バスの利用者が多い。だが路面電車と路線バスの駅前にある停留所は、移動工事は行われていない。なぜだったのだろう?

 

【変貌する西九州⑨】電停の移動を断念した長崎の路面電車

長崎駅周辺の地形は特殊だ。長崎駅の西側は浦上川が迫り、東側は国道202号が南北に通り抜ける。国道の東側はすぐに傾斜地が迫っている。平地が限られていて国道202号以外に広い通りがない。この国道の中央部を路面電車が走り、長崎駅前電停がある。さらに多くの路線バスも路面電車の左右を走っている。長崎駅前にある交差点では国道202号から桜町通りという幹線道路が分岐している。他に道がないだけに国道202号は車で混みあっている。

↑新しい長崎駅のかもめ口(東口)から延々続くプレハブの仮通路が設けられている。路線バスの駅前バス停はやや北側に移動した

 

路面電車を新駅の側に移動するプランも検討されたのだが断念。そこには長崎ならではの事情があった。

 

長崎電気軌道の路面電車の利用者は、市内の南北の移動に電車を利用する人が多い。長崎駅前電停の乗降客はそれほど多くないそうだ。つまり駅前電停をスルーしてしまう利用者が多い。そういった事情もあり、150mほどずらした新駅へ迂回するルートを設けてしまうと、より時間がかかることになり逆に不便になるという。渋滞しやすい国道202号を横切るのも、さらなる渋滞を招く。路線バスも同様の事情がある。

 

さらに、これまで路面電車を利用する場合には国道をわたる歩道がないため、国道202号上に設けられた高架広場へいったん階段を上がり、さらに電停への階段を下る必要があった。この上り下りは40段以上にもなっていた。今回の駅前再開発で多少は改善され、駅前電停の専用エレベーターが9月20日に設置された。だが、駅側から高架広場に上るエレベーターの位置が分かりにくく、新駅から仮通路を歩き、面倒とばかり高架広場の階段を上り下りする人が目についた。

↑国道202号の中間部にある長崎電気軌道の長崎駅前電停。高架広場への階段の上り下りが必要だったがエレベーターが新設された

 

将来的には旧駅前に多目的広場と、新駅からの通路がつくられ、エスカレーターも設けられるという。ただし、どう改良されても150m歩くことに変わりはない。西九州新幹線から路面電車に乗継ぐ場合、最低でも10分以上の余裕は見ておくことが必要なようだ。

 

【変貌する西九州⑩】新長崎駅ビルが誕生すればさらに賑やかに

長崎駅の周辺の再開発も進みつつある。かもめ口(東口)に加えて、いなさ口(西口)が整備された。いなさ口の駅前にはバス・タクシーの乗り場も設けられたが、人の姿もまばらで、これからといった印象だった。

↑長崎駅の西側、いなさ口側の状況。高架駅に沿ってバス停、タクシー乗り場などが整備されたが、利用者はまだ少なめだった

 

新駅と以前の駅があった、その中間部の開発も急ピッチで進む。駅の東隣には「新長崎駅ビル」が建てられている。こちらは2023年秋に開業予定で、1〜3階は商業施設が入居、さらに上部は高級ホテルやオフィスが入居する予定となっている。

 

連なるように既存の駅ビル「アミュプラザ長崎」が建っている。こちらには1階から5階まで全国の有名店などの商業施設や、映画施設が入っている。新駅ビルの誕生で、ますます駅周辺は華やかになっていきそうだ。

↑駅ビル「アミュプラザ長崎」。この北側に旧長崎駅があった。西隣では新駅ビル建設が行われている

 

【変貌する西九州の⑪】長崎本線の肥前浜〜諌早間が非電化に

西九州新幹線の開業にあわせて、取り巻く在来線もかなり変わりつつある。

 

まず長崎本線と佐世保線が分岐していた肥前山口駅(ひぜんやまぐちえき)が江北駅(こうほくえき)と名を改めた。地元・江北町(こうほくまち)の要望による変更で、駅名改名の関連費用も町のお金でまかなわれた。

 

佐世保線は「リレーかもめ」が走ることにより、より幹線として列車本数が増えることになった。一方で、従来の長崎本線の江北駅〜長崎駅間が大きく変わることになった。

 

これまで全線が電化されていたが(喜々津駅〜浦上間の長与支線を除く)、肥前浜駅〜長崎駅間は非電化となり、走る車両が電車から気動車へ変更された。江北駅〜肥前浜駅間のみ電化区間として残され、博多駅(一部は門司港駅発)〜肥前鹿島駅間を結ぶ特急「かささぎ」が1日7往復することになった。肥前鹿島駅はこれまで30分〜1時間間隔で走る特急「かもめ」の停車駅として便利だっただけに、新幹線の開業でやや不便になった。

↑肥前鹿島駅に入線するキハ47形気動車。塗装変更された気動車が長崎本線の一部区間を走り始めている

 

西九州新幹線開業後の大村線の変更点も触れておこう。新大村駅が誕生したことにより、大村線沿線は大きく変わりつつある。大村市内には、新大村駅の先、2つめに大村車両基地駅という新駅が誕生した。駅名通り、西九州新幹線の大村車両基地に併設された在来線の新駅だ。

 

大村線は長崎市と長崎県第二の都市・佐世保市を結ぶ路線として機能してきた。ローカル線ながら、乗車率も高い。その路線が西九州新幹線と接続したことで、新たな利用者も増えていきそうだ。さらに観光要素も見逃せない。新大村駅から4つめの千綿駅(ちわたえき)は、ホームの目の前に大村湾が迫る駅で、〝映える駅〟として知られてきた。その駅へのアクセスが便利になった。この千綿駅に停車する観光列車も新たに誕生した。

↑9月23日に新たに開業した大村車両基地駅。新幹線の車両基地に隣接した駅だが、残念ながら基地の中を望むことはできない

 

【変貌する西九州⑫】早くも人気に!沿線を走る新たなD&S列車

西九州新幹線の開業と合わせて9月23日から走り始めた新たな観光列車が、「ふたつ星4047(ふたつぼしよんまるよんなな)」である。

↑有明海を背景に走る「ふたつ星4047」。長崎本線の同区間は架線柱が残るものの、非電化区間に変更された

 

「ふたつ星4047」はキハ40形、キハ140形を改造したJR九州のD&S(デザイン&ストーリー)列車の1本として誕生したもので、デザインは西九州新幹線N700Sも制作した水戸岡鋭治氏が担当した。外装は光るパールメタリックで、ゴールドのロゴとラインがあしらわれる。1号車と3号車は普通車指定席で、中間車はビュッフェ・ラウンジ車。こちらは物販用のカウンターなどが設けられた。

 

運行ルートは、西九州新幹線の周囲を走る長崎本線と大村線、佐世保線をぐるりとめぐる行程で、主に金曜日〜月曜日と祝日などに運行される。午前便と午後便があり、午前便は武雄温泉駅から江北駅へ、さらに長崎本線の肥前浜駅、多良駅、諌早駅を巡り長崎駅へ至る。

 

午後便は、長崎駅から諌早駅へ。そこから大村線へ入り、新大村駅、千綿駅、ハウステンボス駅、早岐駅(はいきえき)と走り、武雄温泉駅へ至る。長崎本線、大村線とも海景色が楽しめる路線で人気列車となりそうだ。

↑大村湾に面した千綿駅に停車する「ふたつ星4047」。同駅で10分間停車するためホームに出て記念撮影する乗客が目立った

 

西九州新幹線の開業でその途中駅だけでなく、街や沿線も変わりつつある姿が見て取れた。また新しい観光列車の運行により、新たな魅力も加わった。あくまで暫定開業という一面もあるが、せっかくの新線開業で変わる沿線の魅力を満喫したいものである。

 

ヴァレオ発、「シトロエン・アミ」のチューンナップ版に試乗したら想像以上に楽しかった!

フランスの自動車部品サプライヤー「Valeo(ヴァレオ)」が、48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載した電動小型モビリティの試作車『48Vライト eシティーカー』を開発。この度、この試作車に試乗する機会を得ました。その試乗レポートをお届けします。

 

最高速度は100km/h! その実力はベース車を遙かに超える

ヴァレオが48Vライト eシティーカーを日本初公開したのは、今年5月に開催された「人とくるまのテクノロジー展2022」でのことでした。ベースとなっているのは、フランスで量産されているステランティスの低速モビリティ「シトロエン・アミ」で、そこに搭載されていた駆動システムに変更を加えたものとなっています。

 

この駆動システムに採用されているのは、48VのBSG(ベルト駆動式スターター&発電機)をベースに開発されたもの。そのため、電気自動車(EV)のスタイルを採るとはいえ、本格的な走りを発揮するのではなく、あくまで最高速度を45km/hに抑えて、14歳以上であれば免許なしでも運転できる欧州の「L6/L7」カテゴリーに収まる車両向けに開発されたと言えます。

↑『48Vライト eシティーカー』に搭載されたヴァレオ製「48V eAccess」

 

しかし、シトロエン・アミに搭載されたeAccessの能力は、まだ十分に発揮されたものではありませんでした。ヴァレオはこのシステムをそのままチューンナップすることで、最高出力をベース車の6kWから10.5kWに引き上げ、最高速度は45km/hから100km/hへと大幅にアップさせることに成功したのです。この日は、このパワーを体験できる状態での試乗となりました。

 

一方、ボディそのものはシトロエン・アミそのまま。全長2410×全幅1390×全高1520mmで、前後左右のボディパネルはまったく同じ部品を使ったシンメトリーデザインを採用して車体の低コスト化を実現。その割にタイヤ径は155/65R14と大きめで、ここから受ける印象はどこか玩具のようでもあります。それがアクセルを踏み込むと一変! 想像を超える力強い走りを見せてくれたのです。

↑ボディはステランティスの低速モビリティ「シトロエン・アミ」そのもの。前後左右共通のデザインがユニーク。ちなみにホワイト塗装の方が前

 

↑48Vライト eシティーカーの運転席周り。動作状態を把握するためのスマートフォンが追加されている。それ以外の仕様はオリジナルのままだ

 

軽量なボディゆえにパワーアシストがなくても操作は楽々

最高出力が10.5kWといえば14馬力程度に相当します。これが仮にガソリンエンジンだったとしたら、トルクが出るまでに一定回転数までの上昇が必要となります。しかし、そこは電動車、低速域から力強いパワーを発揮。このパワー感はノンターボの軽自動車をはるかに超えていると感じたほどでした。しかもまったくパワーアシストがない状態で走るものだから、路面からの反応もリニアに伝わってきます。これがまた走りに面白さを加えてくれたのです。

↑想像以上に楽しい走りを見せてくれた48Vライト eシティーカー

 

パワーアシストがない? これだけを聞けば市街地では使いにくそうにも思えますが、駆動ユニットがeAccessだけなので車体はきわめて軽く、それだけにアシストなしで操舵しても特に負担が大きくなることはないのです。ブレーキに関しても市街地走行レベルなら特に問題はないレベルにあったと言えるでしょう。また、遮音が一切ないことからロードノイズはダイレクトに入ってきますが、電動車であるがゆえにエンジン音はなし。電子音が若干入ってきますが、それほど気になるものではありませんでした。

 

ただ、空調がデフロスタぐらいしか備わっていないのは、日本で扱うにはかなり厳しそうです。日本の夏は高温多湿で、冬になれば気温が低くなってきます。夏は窓を開けて走行すれば何とかなるかもしれませんが、冬はおそらくしんしんと冷えてくると思います。しかも窓を閉めきっていれば窓は曇ってきます。だからこそデフロスタが付いているのですが、仮にこの車両が販売するとなれば空調ぐらいは欲しいところでしょう。

 

とはいえ、このクルマが目指すのはそこではありません。あくまで48Vシステムを採用することで超小型モビリティとしての可能性を模索したモデルなのです。

↑48V eAccessは、48VのBSG(ベルト駆動式スターター&発電機)をベースに開発された

 

48Vシステムなら、軽トラのEV化にもメリット大

この日はもう一台の実験車両にも試乗することができました。それはスズキの軽トラック「キャリィ」をベースに、群馬大学「次世代モビリティ社会実装研究センター(CRANTS)」とヴァレオの日本チームがコンバージョンEVとして共同制作した『EV軽トラック』です。こちらはヴァレオの48V電動アクスル「48V eDrive」を、前後の車軸上に1機ずつ配置した4WDとなっており、それぞれの最高出力は15kW(20PS相当)となっています。

↑軽トラのコンバージョンEV『EV軽トラック』(左)と『48Vライト eシティーカー』(右)

 

この「48V eDrive」はすでに48Vマイルドハイブリッドで採用されたもので、ヴァレオによればシステムとしての信頼性も高く、量産にも向いているとしています。また、ベース車の電動パワーステアリングをそのまま踏襲し、ブレーキのサーボアシストも搭載するなど、こちらは市販を意識した仕様となっているのも注目点です。

↑EV軽トラックのインテリア。ヴァレオカラーで統一されていた

 

試乗してみると意外にも走行音はきわめて静か。加速感は48Vライト eシティーカー以上の力強さがあり、この走りを踏まえ、ヴァレオでは軽トラックの電動化を提案できることが確認できたとしています。特に軽トラックであれば航続距離の長さを気にする必要もないわけで、それでいて駆動システムを一体化できることで軽量化や低価格化も期待できることになります。そうした面で需要は確実にあるとみているわけです。

↑背後から押し出されるような4WDならではの力強い走りを見せたEV軽トラック

 

一時は一世を風靡した48Vマイルドハイブリッドは、完全EVの流れを受けてすっかり影を潜めていた感がありました。ところがどっこい、今回の試乗を通して低速限定のより身近なモビリティとしての用途があることをヴァレオは改めて世に示したというわけです。日本でも超小型モビリティとして導入されれば、電動車の普及により拍車がかかるのではないでしょうか。

↑EV軽トラックは、48Vシステムで作動するラストワンマイルを意識して開発された

 

 

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従来のハイブリッド車の概念を超えた!ホンダ11代目「シビック」の爽快な走りを体験

シビックが誕生して50年。6MTをラインナップに揃えるなど、スポーティな走りが改めて注目されるホンダ『シビック』に、ハイブリッドシステム「e:HEV」が追加されました。コンセプトは“爽快スポーツe:HEV”。進化したシビックの新時代の走りを体験してきました。

 

【今回紹介するクルマ】

ホンダ/シビック

※試乗グレード:e:HEV

価格:319万円~394万200円(税込)

↑“爽快スポーツe:HEV”としてデビューした11代目シビック。新開発2リッター4気筒直噴エンジンを踏み合わせたe:HEVとした

 

環境にも優しく、走りにも優れた新世代「e:HEV」

シビックが誕生したのは1972年、ホンダの4輪車の中で最も長い歴史を持ちます。この年は世界的に大気汚染が重要課題となった時期とも重なり、自動車メーカーはその対応が求められていました。特に米国で施行された排出ガス規制(いわゆる)「マスキー法」への対応は世界でもっとも厳しく、それに対応できないメーカーが続出したのです。

 

そんな中でホンダはこれをクリアするCVCCエンジンを開発。環境に取り組むメーカーとして一躍注目を浴びるようになりました。その上で人を中心に考えたパッケージングや走り、省エネルギーを高次元で両立させたことでビジネスとしても成功を収めることになります。以来、シビックはその意味で「市民」に広く浸透し、歴代のシリーズ販売台数は2700万台にも及びます。これは名実ともに日本を代表する自動車の一つといっても過言ではないでしょう。

 

11代目となる現行シビックは2021年9月に登場しました。日本市場にはハッチバックのみの投入となりましたが、フロントからリアエンドまで流れるようなデザインは、走りを一段と意識させるアグレッシブさに富んだものとなっていました。特に最初に投入されたターボ付き1.5リッター・ガソリン車は、そのデザインから受ける期待を裏切らないスポーティな走りを見せ、シビック本来の姿を取り戻したことを強く印象づけるものでした。

 

そして2022年6月、その走りに環境性能も高めたホンダ独自の「e:HEV」がラインナップに追加されたのです。このシステムに組み合わされるエンジンは新開発の2リッター直4直噴ユニットで、ここには燃料をシリンダー内に直接噴射する直噴システムを新たに採用。燃料を無駄なく燃焼させることが可能となり、従来型e:HEV用2.0Lエンジンを上回る高トルク化と、エンジンモードでの走行可能領域拡大を実現したのです。

↑シリーズパラレス型ハイブリッドとした新型シビック「e:HEV」

 

↑日本市場にはハッチバック型のみが展開される

 

このエンジンは、燃焼の高効率化も図られ、その数値は世界トップレベルの約41%もの熱効率を実現。同時に燃料の直噴化によってトルクと燃費性能を向上させています。

 

ハイブリッド方式は、発電用、駆動用の2つのモーターを備えるものです。街中などの低速域ではエンジンが発電用モーターの原動力としてその役割を果たし、高速域になるとエンジンと車輪が直結して駆動するよう切り替わります。つまり、ハイブリッド方式を状況に応じて最適な切り替えを行うシリーズパラレス式としたのです。

 

ここまでのスペックから推察して、最初は「結局、新型シビックは燃費重視の環境車なの?」と想像しました。しかし、それは走って的外れだったことがすぐにわかりました。試乗コースとして設定されたのは八ヶ岳周辺のワインでイングロード。新型シビックはそこで想像以上に爽快で楽しい走りを見せてくれたのです。

 

小気味よいステップ感で従来のHEVとは明らかな違いを実感

アクセルを軽く踏むと、それだけで力強いトルクを伴いながらスムーズにクルマを前へ走らせます。そしてアクセルをグッと踏み込むと動きは一変。エンジンの回転が先行するハイブリッド車らしさはまったく感じられず、まるで変速機でもあるかのような小気味よいステップ感を伝えながらグイグイ加速していったのです。特に興味深いのはこのステップ感で、実はこの効果はエンジン制御によって生み出されていました。

 

ホンダはこれまでもe:HEVでハイブリッド特有の、エンジンの回転が先行する違和感を抑えてきました。シビックに搭載した新エンジンでは、高回転までエンジンを回した際、燃料と点火を一旦カットし、回転が落ちたところで再びエンジンを回し始める新機構を採用。この制御をすることで、むしろターボ付き1.5リッター・ガソリン車よりもメリハリのある動作を実現することになったのです。ここにシビック本来のスポーティさを“復権”しようとする開発陣の意気込みが伝わってきますね。

↑パワーユニットは新開発の2リッター直4直噴エンジンを組み合わせた「e:HEV」とした

 

半端ない静粛レベルにも驚きました。実はフロントスピーカーからはノイズと逆位相の音を出すノイズキャンセラーが組み込まれており、これが走行中のノイズを聞こえにくくしているのです。しかも、スポーツモードにするとアクティブサウンドコントロールが作動して、パワーの高まりと共に電子音を発生させます。その効果も自然で嫌みがない。このあたりのチューニングもスポーティさを志すシビックらしい仕掛けとも言えるでしょう。

 

ステアリング制御は電動パワーステアリング(EPS)によるもので、適度な重さを伴いながら切っただけ曲がっていく感じ。これも自然で扱いやすいものです。ステアリングにはパドルレバーが装着され、マイナス側を操作することで回生ブレーキも段階的に高まり、その減速Gもわかりやすく表現されていました。この機能は特にワインディングではメリットを実感すると思います。

↑シビック「e:HEV」にはハイブリッド車系に採用する電気式無段変速機が組み合わされる

 

試乗当日は雨にたたられましたが、ほどよく固められた足回りとの相性も良く、ワインディングを気持ち良く駆け抜けることができました。若干、段差を乗り越えたときのバタツキ感が気になりましたが、それでもハイブリッド化による重量増が効いているのか、ガソリン車よりも突き上げ感はしっかり抑えられているように思いました。

 

広々とした視界と安全性にも寄与するHMIが使いやすい

インテリアは、低いフロントフードとあいまって広々とした視界を生み、爽快な気分にさせてくれる仕様です。聞けば、Aピラーの位置を50mmほど後ろへ下げたことで水平視界がグッと広がったんだそうです。近年はADASとしても交差点で歩行者を含むセンシングが重視されていますが、こうした車体設計から安全性が高める姿勢は評価したいと思います。

 

ダッシュボードには広がり感を強調するパンチングメタルのエアコンアウトレットを採用しています。これはクリーンな見え方と優れた配風性能を両立させた新開発のフィン構造を内蔵したもので、空調の最適化も同時に図っているとのこと。車内は長時間にわたって過ごすことも少なからずあるわけで、こうした配慮も新型シビックの爽快さを実感できるポイントの一つと言えるでしょう。

↑低いダッシュボードと後ろへ50mmずらしたAピラーとも相まって広々とした視界を実現した

 

また、ホンダのHMIの考え方である「直感操作・瞬間認知」を追求し、10.2インチのフルグラフィックメーターを採用しました。メーターの左半分にオーディオなどのインフォテインメントの情報を、右半分にはHonda SENSINGやナビなどの運転支援情報などをそれぞれ表示します。ステアリングスイッチの位置と同様の左右配置とすることで、直観的な操作を可能としているのが特徴です。

↑運転席シートは余裕のあるサイズで長時間座っていても疲れにくそうだ

 

↑ニースペースに余裕があり、後席も大人がゆっくり座れる。運転席シートにシートバックポケットがないのは残念

 

↑後席はシートバックの高さにも余裕があり、大人二人がゆったりとくつろげる

 

さらに新世代コネクテッド技術を搭載した車載通信モジュール「Honda CONNECT(ホンダコネクト)」も搭載します。スマホでドアロック解除やエンジン始動を含む「ホンダ・デジタルキー」などが利用できるコネクテッドサービス「ホンダ トータルケア プレミアム」にも対応しました。ガソリン車のEXとe:HEVには「BOSEプレミアムサウンドシステム」が搭載されているのも見逃せません。

↑サブウーファーを含む全12スピーカーを組み合わせるBOSEプレミアムサウンドシステム

 

試乗したシビックe:HEVは、従来のハイブリッド車の概念を根底から覆すクルマとして仕上がりました。その手法は少し人工的ではありますが、乗ってみればそのコンセプトを裏切らない爽快さを実感させてくれるはず。11代目シビックはスペック以上に、期待を裏切らないクルマに仕上がっていたと断言できます。ぜひ、試乗してみることをおすすめします。

 

SPEC【e:HEV】●全長×全幅×全高:4550×1800×1415mm●車両重量:1460kg●パワーユニット:2.0L直4 DOHC 16バルブ●最高出力:104kW[141PS]/6000rpm(135kW[184PS]/5000〜6000rpm)●最大トルク:182N・m[18.6kgf・m]/4500rpm(315N・m[32.1kgf・m]/0〜2000rpm)●WLTCモード燃費:24.2km/L

※()内は電動機(モーター)の数値。

 

 

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ドイツのカーシェアリングは「乗り捨て型」が75%! もはや都会暮らしには不可欠の存在に

カーシェアリングがクルマ大国のドイツで普及しています。同国の都市部の至る所でカーシェアが見られるようになり、2022年には過去最高のユーザー登録数を記録。いまやカーシェアリングはドイツの都市生活に不可欠と言えるほど広がっていますが、なぜこのような現象が起きているのでしょうか? その背景には「乗り捨て型システム」があるようです。

 

乗り捨てが75%

↑ドイツのカーシェアの主流は乗り捨て型

 

 日本のカーシェアリングでは、インターネットでクルマを予約し、サービス提供会社によって決められたステーションに行って乗り始め、利用後は出発したステーションに返却するのが一般的。いわゆる「乗り捨て」は原則できません。しかし、ドイツには主に「乗り捨て」を提供する業者が複数あります。このシステムは「フリーフローティング・カーシェアリング」と呼ばれており、ベルリンやミュンヘン、デュッセルドルフなどの大都市を含めて34都市で展開されています。

 

ドイツのカーシェリング市場には「ShareNow」「Miles」「Sixtshare」「WeShare」という主要プロバイダーがおり、この4社が国内市場の上位を占めていますが、今回はその中からShareNowを取り上げて、フリーフローティングカーシェアリングのサービス内容と利用方法を見てみましょう(以下)。

 

・24時間年中無休で利用可能

・月額料金はなく、利用代金は1分あたり0.09ユーロ(約12.4円※)から(※1ユーロ=約138円で換算)

・利用は数分でも数日でもOK

・事前に予約すれば指定の場所までお届け
・パソコンやスマートフォンのアプリを使用して好きな車種やクラスを選択

・アプリで希望の場所や現在位置から近くにあるクルマを探して乗車

(前の使用者が乗り捨てた場所に取りに行って使用することもあり)

・ガソリン代、保険料、メンテナンスは一切不要

・利用後は同じ市内であれば路上など駐車エリアに乗り捨て可能

(駐車禁止の標識がある場所以外は基本的に路上駐車が可能なうえ無料駐車スペースもあり)

・公営駐車場やデパート、空港の専用駐車場にも乗り捨て可能

・駐車料金は無料

 

ユーザーが駐車料金を支払わずに有料駐車場に停められるシステムが実現した理由は、プロバイダーが各自治体と直接連携したから。かつてはユーザーやプロバイダーが駐車料金を支払う必要があったのですが、環境や交通量の面から少しでも自家用車の保有を減らしたいと考えた自治体がカーシェアリングを推奨するようになったのです。その取り組みは、多くのユーザーを獲得することにつながりました。

 

2012年に導入されたフリーフローティングシステムは、当初こそ“乗り捨て不可”のステーションベースシステムの割合には及ばなかったものの、2014年頃から人気が急上昇。2021年にはカーシェアリング市場全体の約75%を占めるようになりました。

 

新たな通勤手段

↑クルマの所有は少なくなる

 

コロナ禍の影響について言えば、少なくとも最初の数か月はカーシェアリングプロバイダーも打撃を受けました。特に国を挙げて大規模なロックダウンを実施した時期は、外出自体に規制がかかり、ドイツカーシェアリング連邦協会の統計によると予約数と車両使用率が大幅に減少したそう。

 

しかし、規制が緩和されるのに伴って需要は回復し、2021年からカーシェリング市場は急速に伸びるようになりました。マスク着用規制や感染の可能性がある電車やバスの利用は現在でもやはり敬遠されがち。そのような状況もあって、乗り捨てできる便利なカーシェアリングが通勤手段として選ばれ、ユーザー急増につながったと見られています。

 

カーシェアリング連邦協会のデータによれば、2022年1月時点で前年比18%増の約340万人がカーシェアのサービスに登録しており、車両台数も同15.2%増とのこと。カーシェアが新たな交通手段になりつつあります。

 

エコなゼロミッションカーの導入も人気の理由

↑電気自動車に乗るならカーシェア

 

 ドイツのカーシェアリングプロバイダーは、CO2などを排出しないゼロエミッションカーの導入に積極的です。次世代エコカーと呼ばれるバッテリー式電気自動車とプラグインハイブリッド車は、2022年1月時点のカーリング市場において23.3%を占めました。その中でも、バッテリー式電気自動車がほぼ中心的に利用されています。

 

エコ意識が高いドイツでは、CO2を排出するという観点からクルマを運転すること自体に抵抗感を持つ人もいるほど。電気自動車は高額なので簡単に手が届きませんが、カーシェアリングならばゼロミッションカーを気軽に借りることが可能。この意味で、ドイツでカーシェアリングの人気が上昇していることは納得できます。

 

このように、乗り捨て型カーシェリングには、ユーザーの利便性だけでなく、環境負荷を低減できるという大きなメリットがあります。今後多くの国や地域でさらに普及していくことで、エネルギー不足や地球温暖化など世界が抱える重要な課題の改善につながる糸口になるかもしれません。

 

執筆者/ドレーゼン 志穂

人情味あふれる南秋田!ほのぼの「由利高原鉄道」の旅

おもしろローカル線の旅96〜〜由利高原鉄道・鳥海山ろく線(秋田県)〜〜

 

秋田県の県南、由利本荘市内を走る「由利高原鉄道」。鳥海山ろく線を名乗るように、沿線から鳥海山を望める風光明媚な路線である。この鳥海山ろく線に乗ったところ、他の路線にはないいくつかの出会いがあった。人情味あふれるほのぼの路線だったのである。

*取材は2014(平成26)9月、2015(平成27)9月、2022(令和4)年7月31日に行いました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
田んぼ&歴史+景勝地「秋田内陸縦貫鉄道」の魅力にとことん迫る

 

【鳥海山ろく線の旅①】横手と路線を結ぼうとした横荘鉄道

鳥海山ろく線の概要をまず見ておこう。

 

路線と距離 由利高原鉄道・鳥海山ろく線:羽後本荘駅(うごほんじょうえき)〜矢島駅間23.0km 全線非電化単線
開業 1922(大正11)年8月1日、横荘鉄道(おうしょうてつどう)により羽後本荘駅〜前郷駅(まえごうえき)間11.7kmが開業、1938(昭和13)年10月21日、羽後矢島駅(現・矢島駅)まで延伸
駅数 12駅(起終点駅を含む)

 

始点駅となる羽後本荘駅と前郷駅の間の路線は誕生して今年でちょうど100周年になる。当時、横荘鉄道という民間の鉄道会社により路線が開設された。

↑鳥海山ろく線の終点駅の・矢島駅。過去には横手と路線を結ぶ計画があった

 

横荘鉄道という鉄道会社は、今ふりかえると少し不思議な鉄道会社だった。横荘の「荘」は由利本荘市(当時は「本荘町」)を元にしていると分かるが、「横」はどこだったのだろう。この「横」は由利本荘市の東側に隣接する横手のことだった。つまり今から100年以上前の人々が、奥羽本線が通る横手と本荘を鉄道で結ぼうと計画した路線だったのである。横荘鉄道は、本荘側の一部区間を1922(大正11)年に開業させたが、横手側では、これよりも早く1918(大正7)年に横手駅〜沼館駅(ぬまだてえき)間を開業させている。

 

その後、本荘側と横手側の路線は違う歴史をたどる。横手側は1930(昭和5)年に老方駅(おいかたえき)まで延伸させた。本荘側では、横荘鉄道が延伸工事を進めていたが、1937(昭和12)年9月1日に国有化され国鉄矢島線となり、1938(昭和13)に矢島駅まで延伸され、現在の鳥海山ろく線にあたる路線が全通している。

 

一方の横手側は戦時中の1944(昭和19)年に羽後鉄道横荘線となり、1952(昭和27)年に羽後交通横荘線に名称変更したが、1971(昭和46)年7月20日に全線が廃線となった。横荘鉄道が企画した路線の夢はついえたわけだ。地図を見ると矢島駅から、羽後交通の老方駅へは山間部が続き、路線が開業できたかどうか疑問に感じるようなところだ。

 

ただ興味深いことに、羽後交通横荘線の終点、老方駅は現在の由利本荘市東由利(旧東由利町)にあった。旧老方駅は由利本荘市と横手市をストレートに東西に結ぶ現在の国道107号上にあった。対して、現在の鳥海山ろく線は、羽後本荘駅から南東に走る国道108号にほぼ沿って走っている。このあたりどのようなルートを夢見たのか、当時の人たちに話を聞いてみたいところだ。

 

現在の鳥海山ろく線は、国鉄矢島線として長い間走ってきたが、1981(昭和56)年9月11日に第1次廃止対象特定地方交通線として廃止が承認された。その後、同線は当時の本荘市を中心とした地方自治体が出資する第三セクター経営の由利高原鉄道に転換し、1985(昭和60)年10月1日からは鳥海山ろく線として走り始めたのである。2005(平成17)年3月22日に本荘市と周辺の由利郡の7つの町が合併し、鳥海山ろく線は現在、全線が由利本荘市内を走る路線となっている。

 

【鳥海山ろく線の旅②】由利高原の名が付くものの標高は低い

鉄道会社の名前は由利高原鉄道となっている。乗車して分かるのだが、山の中を上り下りするのは子吉駅〜鮎川駅間ぐらいのものだ。始発駅の羽後本荘駅は標高7m弱、終点駅の矢島駅も標高53mぐらいとそれほど高くない(国土地理院標高地図で計測)。

 

第三セクターの路線では、他に滋賀県の信楽高原鐵道(しがらきこうげんてつどう)という路線があるが、こちらも高原は走っていないが、山間部は走っている。このあたりは、鉄道会社名を命名するにあたっての〝イメージ戦略〟ということもあるのだろう。

 

ちなみに路線の南西部、鳥海山麓には由利原高原と呼ばれる高原エリアがあって、そちらにはゆり高原ふれあい農場など「由利(または『ゆり』)高原」を名乗る施設が複数ある。

↑曲沢駅(左上)付近から見た鳥海山。鳥海山山麓の北側の高原地帯の一部が由利原高原、または由利高原と呼ばれている

 

由利高原と鳥海山麓が出てきたので、この高原地帯の頂点にある鳥海山の解説をしておきたい。鳥海山は山形県と秋田県のまたがる標高2236mの活火山で、日本百名山の一つとして上げられている。

 

独立峰ということもあり、四方から美しい山容が楽しめる。秋田県側には一番古い歴史を持つ登山道として「矢島口(祓川・はらいがわ)ルート」があり、矢島駅から鳥海山5合目であり山への登り口にあたる「祓川」まで、夏山シーズンにはシャトルバスも運行されている。

 

【鳥海山ろく線の旅③】おもちゃ列車という観光列車も走る

ここで鳥海山ろく線を走る車両の紹介をしておこう。現在、車両は2タイプが走る。

 

◇YR-2000形

↑「おもちゃ列車」として走るYR-2001。車内にはキッズスペース(右上)があり、木のおもちゃなども用意されている

 

2000(平成12)年と2003(平成15)年に2両が製造された。新潟鐵工所(現・新潟トランシス社)製の地方交通線用のNDCタイプの気動車で、由利高原鉄道としては初の全長18m車両の導入となった。

 

2両のうちYR-2001は、沿線に「鳥海山 木のおもちゃ美術館」が2018(平成30)年7月に開設されたことに合わせてリニューアルされた。車両の名前は「鳥海おもちゃ列車『なかよしこよし』」で、アテンダントが乗車する「まごころ列車・おもちゃ列車」などとして運行されている。客室内には木材を多用、キッズスペース、サロン席などが設けられた楽しい車両だ。

 

◇YR-3000形

↑YR-3000形の最初の車両YR-3001。車体横に車両の愛称「おばこ」と鳥海山が描かれている。「おばこ」とは方言で娘さんの意味

 

YR-3000形は2012(平成24)年から2014(平成26)年にかけて3両が製造された。製造は日本車輌製造で、長崎県を走る松浦鉄道のMR-600形をベースにしている。3両とも車体色が異なり、1両目のYR-3001は緑色、2両目のYR3002は赤色、3両目のYR-3003は青色をベースにした塗り分けが行われている。

 

YR-3000形は1両編成で走ることが多いが、イベント開催時などには3両編成といった姿も見ることができる。ただし、YR-2000形との併結運転はできない。この車両の導入により由利高原鉄道が開業した時に導入したYR-1500形(旧YR-1000形)がすべて廃車となっている。

 

【鳥海山ろく線の旅④】始発駅は、由利本荘市の羽後本荘駅

鳥海山ろく線の始発駅、羽後本荘駅から旅を始めよう。由利本荘市の玄関口だ。由利本荘市なのに、駅の名前は羽後本荘駅なので注意したい。

 

鉄道省の陸羽西線(当時)の駅として羽後本荘駅が誕生したのは1922(大正11)年6月30日のことだった。現在の鳥海山ろく線の羽後本荘駅はその1か月ちょっと後の開設で、両線の駅が同じ年に生まれたことになる。ちょうど100年前と、幹線の駅としてはそれほど古くない。これには理由がある。

 

当初、日本海沿いを走る羽越本線の工事が手間取り、南と北から徐々に路線が延ばされていった。最後の区間として残ったのが新潟県の村上駅と山形県の鼠ケ関駅(ねずがせきえき)間で、この駅間の開業が1924(大正13)年7月31日のことだった。これで、日本海沿いに新潟県と秋田県を結ぶ羽越本線がようやく全通したのだった。

 

東北地方を南北に貫く路線の中で、羽越本線よりも前に開通していたのが、奥羽本線だった。1905(明治38)年に湯沢駅〜横手駅間の開業で、福島駅〜青森駅間が全通している。奥羽本線が20年近くも前に全通していた経緯もあり、横荘鉄道が横手駅から羽後本荘駅への鉄道路線を計画したようだ。

↑昨年8月に橋上駅舎が完成した羽後本荘駅。写真は東口で、橋上にある自由通路から鳥海山が遠望できる(左上)

 

羽越本線の羽後本荘駅は秋田駅から特急「いなほ」を利用すれば30分、普通列車ならば約50分で到着する。1番線〜3番線が羽越本線のホームで、3番線と同じホームの4番線が鳥海山ろく線の始発ホームとなる。鳥海山ろく線の羽後本荘駅発の列車は朝6時50分が始発で、以降、ほぼ1時間に1本の割合で列車が走っている。

 

【鳥海山ろく線の旅⑤】乗務員の気配りにびっくり!

鳥海山ろく線を土日祝日に旅する場合には「楽楽遊遊(らくらくゆうゆう)」乗車券1100円を購入するとおトクだ。羽後本荘駅〜矢島駅間の運賃が610円なので、往復するだけで十分に元が取れる。しかし、筆者は一つミスをしてしまった。羽後本荘駅の窓口が開き、その乗車券が購入できるのは7時30分以降のこと。その前の列車に乗ろうとすると、有人駅の前郷駅、矢島駅まで行って乗車券を買わなければいけない。

↑羽後本荘駅の4番線に停車する矢島駅行き列車。週末の利用には「楽楽遊遊」乗車券(右上)がおトクになる

 

ワンマン運転を行う乗務員からは購入できないのである。筆者は朝一番の列車に乗って、鳥海山が良く見える曲沢駅で降りて撮影をと考えていた。

 

そのことを乗務員に伝えると、「前郷駅で行き違う上り列車の運転士に『楽楽遊遊(らくらくゆうゆう)』乗車券を託しますから曲沢駅で受け取ってください」とのこと。

 

さすがにそこまでやっていただくのは申し訳ないと思い、手配してもらうことは遠慮し、有人駅の前郷駅を目指すことにした。こうした手配は、乗車した乗務員個人の配慮だとは思われるが、1人の旅人に向けての気遣いがとてもうれしかった。実はこの乗務員とは、帰りにも出会い、再び細かい心配りをしていただいたのである。

 

こうした乗客のことを考えた姿勢は、由利高原鉄道全体の社風なのかもしれない。前郷駅で「楽楽遊遊」乗車券を購入したら、2023(令和5)年3月31日まで有効の「楽楽遊遊」乗車券をもう1枚プレゼントされたのである。同乗車券は沿線の食堂や公共施設などの割引優待券も兼ねており、旅する時に便利だ。

 

同社の思いきった施策は定期券の販売にも見られる。2021年度と2022年度の一時期、通学定期券の金額を半額程度まで引き下げたのである。さらに定期券を購入すると、カレーや中華そばといった同社のオリジナル商品もプレゼントされた(時期限定)。そのことで前年に比べて利用者が約2倍に増えたそうだ。割引をしたとはいえ、隠れた需要の掘り起こしに結びついたわけで、何とも思いきったことをする会社でもある。これも乗客への心配りの一環と言えるだろう。

 

さて、前置きが長くなったが鳥海山ろく線の旅を始めよう。羽後本荘駅の次の駅は薬師堂駅。この駅までは羽越本線に平行して走る。複線の羽越本線の東側に平行して鳥海山ろく線の線路が延びている。薬師堂駅から左にカーブ、進行方向右手に鳥海山や山々が見えるようになる。

↑羽後本荘駅から薬師堂駅(左上)までは羽越本線と平行して走る。訪れた日には珍しいYR3000形が3両で走るシーンが目撃できた

 

このあたり、進行方向左手に国道108号が並走する。左右に水田が広がるが、南側に鉄の柵が線路に連なるように立てられている。この柵は防雪柵といって、冬に発生しがちな吹雪から列車を守る装置だ。春から秋までは柵となる鉄板は外されているため、車窓の眺めに影響はない。

 

ちなみに、同社ホームページには「各駅・駅周辺みどころ案内」として駅の案内がアップされている。駅周辺を見渡す「全画面パノラマ」といった試みも行われる。こうした例は他社では見たことがない。これも同社の心配りのように思う。旅する前に一度、見ておくことをおすすめしたい。

 

薬師堂駅の次は子吉駅。ホーム前に水田が広がるものの、駅舎は郵便局も兼ねている。子吉駅を過ぎると国道108号から離れ山の中を走る。15パーミルの坂を下りて鮎川を渡れば鮎川駅へ到着する。この鮎川を渡る手前、右手にあゆの森公園があり、沿線で一番の人気スポット「鳥海山 木のおもちゃ美術館」が隣接している。

 

【鳥海山ろく線の旅⑥】鮎川駅前のかわいらしい待合室は?

↑鮎川駅の駅舎。ホーム上にはかわいらしい「世界一小さな待合室」(左下)が設けられている

 

鮎川駅のホーム上には「世界一小さな待合室」がある。中に入ろうとすると、大人では頭がつかえてしまう高さの待合室だ。この駅からは前述した「鳥海山 木のおもちゃ美術館」行きシャトルバスが出ている。駅舎を出ると左にふしぎな建物が。こちらは「あゆかわこどもハウス」と呼ばれるこども待合室で、室内にはバスや列車を待つ間に遊べるように、木のおもちゃなどが置かれている。

 

興味深いのはこの待合室がクラウドファンディングによるプロジェクトにより建てられたこと。528万5000円の支援が集まったそうだ。

↑鮎川駅前に設けられたこども向け待合室。室内には木の椅子や、木のおもちゃ(右上)なども置かれて時間待ちに最適だ

 

なお、鮎川駅から「鳥海山 木のおもちゃ美術館」までは直線距離にすれば近いのだが、鮎川を渡る橋がないため、国道108号を経由しなければならずに、歩くと大人の足で22分ほど、約1.7kmの距離がある。

 

【鳥海山ろく線の旅⑦】子吉川を渡り、川に沿って南下する

鳥海山ろく線の各駅はみな個性的で、地元の方たちが掃除したり、花を植えたり手間をかけているのできれいだ。地元の方々に「自分たちの鉄道を守る」という思いが強いのであろう。

 

次の黒沢駅からは広がる水田の中、カーブを描いて駅に近づいてくる列車が絵になる。同社パンフレットにも「撮り鉄に大人気」とあった。筆者は7年前に花々と列車を撮影したいと、黒沢駅を訪れたことがある。ちょうどホーム上にキバナコスモスが咲き乱れ、停車する列車と駅が美しく撮影できた。

 

そんな黒沢駅で新発見。ホームの集落側に階段が設けられていた。ホームの柵も強化されていた。これまでホームには中央部の階段からしか入れない構造だったが、階段の新設は利用者の使いやすさを考えたものなのだろう。残念ながら花壇は小さめのプランターとなっていたが、安全性を高めるためにこれらの配慮をしているように感じた

↑2015(平成27)年9月初頭の黒沢駅。左上は今年の夏の黒沢駅。ホームが整備され、手前に階段が設けられていた

 

黒沢駅を出発すると、すぐに川を渡る。子吉川と呼ばれる一級河川だ。鳥海山麓を源流にして日本海へ流れ込む。秋田県内では雄物川、米代川に次ぐ第三の流域面積を持つ。

↑黒沢駅〜曲沢駅間で子吉川を渡る。橋の名前は滝沢川橋梁となっている。上流部では路線と並走して流れる区間もある

 

鳥海山ろく線は黒沢駅〜曲沢駅間に架けられた滝沢川橋梁で子吉川を渡った後に、子吉川とほぼ並走するようになる。西滝沢駅〜吉沢駅間で再び子吉川を渡るが、こちらは子吉川橋梁と名付けられている。

 

【鳥海山ろく線の旅⑧】前郷駅で今も行われるタブレット交換

鳥海山が望める駅・曲沢駅を過ぎたら次は前郷駅だ。鳥海山ろく線の場合には、前郷駅のみで上り下り列車の行き違いが行われる。この駅では、全国でも珍しい「タブレット・スタフ交換」作業が今も続けられている。専門用語では「閉塞」と呼ばれる信号保安システムの一種類で、この前郷駅で「タブレット・スタフ交換」をすることにより、羽後本荘駅〜前郷駅間と、前郷駅〜矢島駅間のそれぞれの駅間で2本の列車が同時に走らないように制御しているわけだ。

 

羽後本荘駅〜前郷駅間が小さめのスタフで、前郷駅〜矢島駅間では大きめのタブレットが使われる。それぞれには、金属製の円盤が通行証として入っている。こうしたタブレットとスタフの2種類の交換で運用されている鉄道会社は、全国の路線でもここのみだ。各地で残るこの交換作業は、大きめのタブレットのみか、小さめのスタフのみが使われていることが多い。安全運転を行う上でなかなか興味深いルールだと思った。

↑前郷駅で上り下り列車が行き違う。その際に、大きなタブレットと、小さめのスタフの交換作業が行われている(左上)

 

なお前郷駅での交換作業は、上り下りの列車行き違いが行われる時のみ。全列車ではないので時刻表を確認してから訪ねることをおすすめしたい。

 

前郷駅前には集落が広がっていたものの、その先は水田風景が広がる。前郷駅の一つ先、久保田駅は青いトタン屋根の小さな家が駅舎として使われている。この久保田駅から先はほぼ子吉川沿いに列車は走る。

↑青いトタン屋根の久保田駅の駅舎。ホーム一本で、下に駅舎があるのだが、民家のような造りが楽しい

 

次の西滝沢駅の先、子吉川橋梁で子吉川を渡る。ややカーブした橋でやや高い位置を列車が走ることもあり左右の眺望が開けて爽快だ。次の吉沢駅は、田んぼの中にぽつんと設けられた無人駅だ。最寄りの集落は国道108号を渡った先にあり、駅から最短で300mほど歩かなければならない。なかなかの〝秘境駅〟である。

 

吉沢駅と川辺駅の間は、進行方向左手に注目したい。この駅間で、もっとも子吉川の流れが良く見える。川とともに周囲の山々が美しく、撮影したくなるような区間だ。

↑川辺駅〜矢島駅間にある鳥海山ろく線唯一のトンネル・前杉沢トンネル。トンネルを抜けると終着駅の矢島駅も近い

 

↑水田と集落に囲まれて走る「おもちゃ列車」。この堤を駆け上がれば終点の矢島駅に到着となる

 

川辺駅を発車したらあと一駅。国道108号を立体交差で越えて、鳥海山ろく線で唯一のトンネル・前杉沢トンネル520mへ入る。トンネルを抜けたら間もなく目の前に広がるのは、由利本荘市矢島地区の町並みだ。

 

【鳥海山ろく線の旅⑨】矢島駅では手書き鉄印が名物に

羽後本荘駅から約40分で終点の矢島駅へ到着した。駅前に出ると、建物の間から鳥海山を望むことができる。沿線の各所で鳥海山は眺望できたが、矢島まで来ると、鳥海山がくっきり見えるようになる。

↑鳥海山ろく線の終点・矢島駅。開設当時は羽後矢島駅という駅名だったが、由利高原鉄道に転換時に矢島駅に改名された

 

↑矢島駅の構内には車庫があり、給油や車両の整備などが行われる。転てつ機などの古い機器が検修庫の横に置かれていた

 

訪れた日はちょうど自転車のロードレース大会が矢島を起点に開かれていて、全国から多くの人が訪れていた。どのような大会なのかと見て回る。このぶらぶら散策したことが小さな失敗に。

 

全国の第三セクター鉄道を乗り歩く際に記念となる「鉄印」だが、由利高原鉄道の鉄印は「由利鉄社員」の直筆鉄印(300円)と、「売店のまつ子さん」直筆の鉄印(500円)など複数の鉄印を用意している(9時〜17時の営業時間内)。そのうち名物となっているのが「売店のまつ子さん」の鉄印だ。だが、駅に戻ってきたのが列車の発車5分前と時間がない。筆者はどうも行き当たりばったりで旅することが多くよく失敗する。書いていただく時間を計算していなかったのである。

 

受付の人は渋い顔だったが、まつ子さんは快く「大丈夫よ!」と言い、時間が無いなかさらさらと書いていただけたのである。

 

「売店のまつ子さん」の店で書いてもらうと、しおりや、200円分の菓子が鉄印代に含まれる恩恵もある。まつ子さんはメディアなどでも紹介されているが、まさに心配りの人だった。

↑「売店のまつ子さん」が記帳した鉄印。にじみを防ぐために右下のしおりまで付けてくれた。右上のように、目の前で書いてもらえる

 

慌ただしい一時ながら無事に鉄印も書いていただき、帰りの列車に乗り込む。乗車したのは「おもちゃ列車」だった。かすりを着た「秋田おばこ」姿の列車アテンダントも同乗している。

 

矢島駅を出発する時にホームを見ると、列車の見送りに「売店のまつ子さん」が出ていらっしゃったではないか。「愛知からありがとう、伏見からありがとう……皆様ありがとう」の墨書きを持ちつつ、手を振るのであった。まつ子さんとの再会を願いつつ手を振り返し、矢島駅を後にしたのであった。

 

【鳥海山ろく線の旅⑩】帰りの列車の降車時にも小さなドラマが

筆者は「楽楽遊遊」乗車券を購入したこともあり、途中下車して、列車や景色を撮影しながら帰ることにした。まずは曲沢駅で下車しようと、乗務員に乗車券を見せて降りようとすると、朝に細かい心配りをしていただいた乗務員だった。「朝は、心配りありがとうございます」と告げると、覚えていたようで、「こちらこそ、いい写真が撮れましたか?」と話す。

 

そして思い出したように、筆者を呼び止め、「今日は特別にYR3000形の3両編成が走るんですよ」とひとこと。矢島で行われたイベントの参加者向けに3両編成という特別列車が運行されることを教えてくれたのだった。

 

わずかな時間の交流だが、それだけで十分だった。教えてもらえなければ、3両編成の運行は知らずにそのまま帰っていたところだった。

↑黒沢駅を発車して子吉川の堤防にさしかかる「おもちゃ列車」。軽く警笛を鳴らして、通り過ぎていった

 

曲沢駅で降りた後に、子吉川の堤防上で、羽後本荘駅で折り返す列車を待ち受けた。親切に対応していただいた乗務員が運転する列車だった。撮影にあたり、こちらは〝いろいろとありがとう〟という気持ちを込めて列車に片手をあげて合図を送った。すると列車も軽く警笛を鳴らして通り過ぎた。筆者が撮影していたことを確認しての警笛の〝返礼〟だったように思う。

 

子吉川の堤防の上に爽やかな風が吹き抜けたように感じたのである。