プロが選んだ「ヒット確定モノ」はコレ! 2022年下半期NEXTトレンド予報「乗り物・レジャー」11選

Withコロナがすっかり定着し、新しいライフスタイルが生まれゆくなか、さて、2022年下半期はどうなっていく……? これから流行る「ヒット確定モノ」を、「乗り物」「レジャー」のプロたちに断言してもらった。

※こちらは「GetNavi」2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

その1【SAKURA】先進技術を搭載しつつ、日常使いも重視した注目の軽EV

 

モノ知りインフルエンサー

本誌乗り物担当

上岡 篤

クルマだけでなく鉄道や飛行機(旅客機)好き。久しぶりに運航するANAのホノルル線、A380に乗りたい!

 

セカンドカーのニーズを取り込み早くも2万台の受注を突破(上岡)

【軽EV】

2022年6月発売

日産

SAKURA

239万9100円~294万300円

日産が開発し三菱が生産する同車は先進的な内外装を備え、最新世代のEVであることを強調。180kmという航続距離は、軽ユーザーの半数以上の走行距離が1日30km以下という調査も含めて決定したという。ガソリン車からの買い替えに加えて“2台目需要”にも応える。

 

↑先進安全装備も充実。自動的に車間を維持し、ハンドル操作も支援する「プロパイロット」を「G」に標準装備する

 

↑内外装には和モダンといえる要素も採用。日本伝統の水引からインスピレーションを受けたアルミホイールの意匠もそのひとつだ

 

↑9インチのナビモニター、7インチのメーターディスプレイを水平配置することで、先進性を強調。「G」にはカッパー加飾を備える

 

ヒットアナリティクス

期待が高い軽への導入で受注数は想定以上に

EVはこれまで航続距離アップが各社の狙いだったが、SAKURAは軽自動車規格ならではの航続距離に割り切ったことがプラスに。補助金を加味すれば「EVってこんな価格で買えるの?」という割安感も大きな魅力だ。都市部だけではなく地方でも普及する要素は大!

 

その2【ダックス125】レトロモダンスタイルが時代にマッチ

 

モノ知りインフルエンサー

トラベルライター

中島 亮さん

旅にまつわるエトセトラについて各種メディアに寄稿。ホンダの単気筒ばかり10台ほど乗り継いできた単車好き。

 

世界で愛された名車が時を経て令和に復活(中島)

【レジャーバイク】

2022年9月発売予定

ホンダ

ダックス125

44万円

1969年にデビューして一世を風靡した、ホンダ ダックスを現代風にアレンジ。モンキー125、スーパーカブC125、CT125・ハンターカブと、立て続けにヒットを連発している原付二種レジャーバイクの真打として注目されている。タンデムOKというのもポイント。

 

↑空冷単気筒エンジンに、4速トランスミッションを組み合わせる。クラッチ操作は不要で初心者も安心

 

↑視認性に優れた液晶タイプのメーター。ヘッドライトと同じ、クロムメッキのモールでデザインの統一感を出している

 

ヒットアナリティクス

オヤジには懐かしく若者には新鮮なデザイン

維持費が安く、原付(50cc以下)のような法的制限を受けず、取り回しがラクで、パワーは必要十分。125ccの原付二種は最強のシティコミューターだ。デザイン面の評価はもちろん、再構築するにあたって最新技術を駆使。発売開始後は、納車まで数か月待ちとなるだろう。

 

その3【ストリーモ】“安心感”を追求した電動マイクロモビリティの新機軸

 

モノ知りインフルエンサー

本誌乗り物担当

上岡 篤

 

乗り物の大前提となる“安心感”に真正面から取り組んだ意欲作(上岡)

【電動マイクロモビリティ】

2022年6月発売(一次抽選販売受付開始)

ストリーモ

Striemo Japan Launch Edition限定モデル

26万円

独自開発した「バランスアシストシステム」の搭載により、極低速から快適な速度までいずれの速度域でも安定した走行を実現。“安心感”を追求することで乗り物としての楽しさを感じられる次世代型電動モビリティだ。

 

↑前輪1輪+後輪2輪の3輪構成も安定感を支える要因。段差や傾斜のある路面でもふらつかず、バランスを崩す不安がないのが魅力だ

 

↑重量は約20kg、W480×H1180×L1090mmで持ち運びできる折りたたみ式。約3時間30分のフル充電で30km(郊外実測値)走行できる(※スペックはプロトタイプのため製品版では変更になる可能性あり)

 

ヒットアナリティクス

ホンダ発のベンチャーで信頼度はとても高い

電動キックボードは都市部で利用する人が増えましたが、これまで“このメーカーって大丈夫?”という場合もチラホラ。ストリーモはホンダの社内起業制度「IGNITION」からスタートアップした企業の製品で、製品の信頼度は高い。3輪にしたのも安全面から見て正解。

 

その4【富士モータースポーツミュージアム】情熱に彩られたモータースポーツの歴史を辿る

 

モノ知りインフルエンサー

トラベルライター

吉原 徹さん

ライター/編集者として、国内外の旅とアウトドアを主なテーマに活動。そろそろ海外取材にも行きたい!

 

世界のラリーや耐久レースで活躍した憧れのレーシングカーが揃い踏み(吉原)

【ミュージアム】

2022年10月オープン

富士モータースポーツミュージアム

同時開業のホテルと融合した空間に、世界のメーカーが手がけた歴代のレーシングカー約40台を展示。各時代を象徴する名車を鑑賞しながら、約130年にわたるモータースポーツの歴史に触れられる。

(住)静岡県駿東郡小山町大御神645

 

↑サーキットに隣接する「富士スピードウェイホテル」も同時開業。一部の客室からはレース観戦もできる

 

↑レーシングカーのほか、技術展示も予定。3階のカフェからは富士スピードウェイの最終コーナーを見られる

 

ヒットアナリティクス

クルマ好きの聖地となる一大リゾートへと進化中!

10月7日開業予定のミュージアムやホテルは、国際サーキット場の富士スピードウェイを中核とする「富士モータースポーツフォレスト」プロジェクトの一環。来年以降もレーシングチームガレージ、レストラン等の商業施設がオープン予定で、さらに注目が集まるだろう。

 

その5【どこかにマイル】国内旅行に脚光が集まるいまこそ積極利用したい!

 

モノ知りインフルエンサー

トラベルライター

中島 亮さん

 

まだ見ぬ日本の魅力を発見するチャンスがある(中島)

【特典航空券】

2016年12月スタート

JAL

どこかにマイル

JALのマイルを国内線の特典航空券に交換するには、往復12000マイル以上が必要だが、これは半分の6000マイルでOK。行先はJALが提案する4つの候補地から決まり、旅先がわからないワクワク感も醍醐味だ。

 

(C) 日本航空

 

↑友人同士で同時に申込可能。出発・到着日時は4~6つの時間帯から選択でき、申込から3日以内に行先決定の通知がくる。HPに観光情報も掲載

 

ヒットアナリティクス

思いがけない場所へ新たな出会いに期待!!

実は、このサービスは5年以上前から実施されている。ただ、コロナ禍を経た現在、円安や燃油サーチャージの高騰などで国内旅行が見直されている現在こそ注目を集めている。まだ出会ったことのない風景や文化に触れるチャンスでもあり、利用者が増えると予想。

 

その6【星野リゾート】2022年の新規開業は10施設!

 

モノ知りインフルエンサー

トラベルライター

加藤 愛さん

旅の編集・ライター歴19年。地酒や温泉を求め全国各地を訪れる。テーマパーク取材後は万歩計チェックが毎度の楽しみ。

 

季節とともに移り変わる棚田の風景と温泉に癒やされる(加藤)

【宿泊施設】

2022年8月開業

界 由布院

1泊2食3万5000円~(1室2名利用時の1名ぶん)

星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」の20施設目として、由布院温泉にオープン。“棚田暦で憩う宿”をコンセプトとし、宿の中心には棚田を一望できる「棚田テラス」を設ける。由布岳に面した開放的な露天風呂も魅力。

 

↑「蛍かご」から着想を得た照明を全室に設置。ヘッドボードやソファには大分名産の竹を取り入れている

 

こちらもCHECK!

↑11月に開業予定の「界 雲仙」。ステンドグラスを施した大浴場など意匠にもこだわる

 

ヒットアナリティクス

多様なニーズに応えるブランド展開が見事

星野リゾートは国内外に62施設を展開。「界」ブランドは今年、由布院に加えて1月にポロト、11月に雲仙と出雲が開業。同社が手がけるホテル「OMO」は4月に大阪、5月に金沢、そして7月には沖縄に「BEB」とオープンが相次ぎ、旅行需要の高まりとともに注目を集めそう。

 

その7【BEACHTOWN 日比谷公園】新しいカタチの都市型スポーツコミュニティ

 

モノ知りインフルエンサー

トラベルライター

中島 亮さん

 

自然と調和し心身が健やかになるサービスが充実(中島)

【フィットネス施設】

2022年6月オープン

BEACHTOWN 日比谷公園

プログラム利用3300円~

日比谷公園内にある建物のフロアをリノベーション。公園の緑を眺めながら取り組むヨガを中心としたスタジオプログラムを軸に、屋外でのランやウォーキング、郊外でのアウトドアプログラムなど月間150レッスン以上を提供する。

(問)050-3177-5403
(住)東京都千代田区日比谷公園1-5 緑と水の市民カレッジ2F

 

↑公園の森に囲まれたヨガスタジオ。風や鳥のさえずりなど自然を感じることができる。平日は7時~営業

 

↑スタンドアップパドルボードで水面を進むSUPなどアウトドアツアーも人気。プロガイド付きで初心者も安心

 

ヒットアナリティクス

人と自然にふれあい楽しく健康になれる

コロナ禍により人と人の関わり方が変容。テレワークなどで仕事上の人間関係が希薄になった反面、休日は同好の士で集まり過ごすことを求める人が増えている。そのニーズに、さらに「健康」「自然」という多くの人が求めるキーワードをかけ合わせことでヒットにつながりそう。

 

その8【FUJIYAMAスライダー】全長120m、高低差55mを一気に滑降! 速すぎる&怖すぎるすべり台が爆誕

 

モノ知りインフルエンサー

本誌レジャー担当

金子麻衣子

旅行ガイドブックの編集・執筆をしていたこともあり、旅行好き。子どもが大きくなったら、趣味のひとり旅を再開したい!

 

絶景の感動から絶叫の滑降へ日本最長で最恐のすべり台(金子)

【アトラクション】

2022年7月オープン

富士急ハイランド

FUJIYAMAスライダー

利用料800円~(シーズンにより異なる)

富士山を望む地上55mの展望デッキから全長120mのコースを急降下する日本最長のチューブ型スライダー(※同社調べ)。先が見えない真っ暗なスライダーを専用のスライディングマットに乗って滑降する20秒間には、絶叫コースターとは異なるスリルが。

(問)0555-23-2111
(住)山梨県富士吉田市新西原5-6-1

 

↑昨年夏に誕生した「FUJIYAMAタワー」の最上部に位置する展望デッキから真っ暗なコースを一気に滑降する

 

ヒットアナリティクス

“絶叫の殿堂”に現れた新感覚のアクティビティ

「FUJIYAMA」や「高飛車」からホラーハウス「戦慄迷宮」まで、絶叫アトラクションの多彩なバリエーションこそが富士急ハイランドの魅力。そこに「FUJIYAMAスライダー」という新感覚のすべり台が加わったことは、全国の“絶叫ファン”を呼び込むきっかけになるはず!

 

その9【東急歌舞伎町タワー】歌舞伎町の新たなランドマークとなる超高層エンタメビル

 

モノ知りインフルエンサー

トラベルライター

吉原 徹さん

 

東京カルチャーの新たな発信地として大ブレイクの予感!(吉岡)

【複合施設】

2023年1月竣工予定

東急歌舞伎町タワー

歌舞伎町の新宿ミラノ座跡地に高さ225m、噴水をモチーフとした新たなシンボルが誕生。地上48階・地下5階建ての超高層複合施設には、17~47階に開業する2つのホテルのほか、9・10階の映画館、6~8階の劇場、地下1~4階のライブホールといった施設が揃う。国内最大級となるホテル&エンタメ複合施設として注目を集めること間違いなし!

(住)東京都新宿区歌舞伎町1-29-1・3

 

↑新宿ミラノ座の名を継承する総席数900席規模の劇場「THEATER MILANO-Za」

 

↑39~47階にはラグジュアリーホテル「BELLUSTAR TOKYO」が開業。45~47階には都内を一望できるレストランもオープン

 

ヒットアナリティクス

インバウンドの再開もヒットを後押しする要因に

東急歌舞伎町タワーの開業に合わせて隣接するシネシティ広場周辺の再開発も進行しており、空港連絡バスの乗降場なども整備される予定。“アジア最大級の歓楽街”として世界的にも人気が高い歌舞伎町の新たなシンボルとして、多くの外国人旅行者が訪れることも予想される。

 

その10【横浜マリンタワー】横浜のシンボルが今秋リニューアルオープン!

 

モノ知りインフルエンサー

本誌レジャー担当

金子麻衣子

 

歴史あるシンボルタワーが現代風にアップデート(金子)

【タワー】

2022年9月リニューアルオープン

横浜マリンタワー

入場料平日1000円、土日祝1200円(展望フロア)

1961年の竣工以来、横浜のシンボルとして愛されてきた横浜マリンタワーが約3年間の大規模な改修工事を経て、この秋リニューアルオープンする。外壁をグリーンで彩った施設内には、散策途中に立ち寄りたいレストランやバー、旅のライブラリー、展望フロアなどが入る。

(住)神奈川県横浜市中区山下町14-1

 

↑全長106mを誇る横浜マリンタワー。地上約100m、30階にある展望フロアは、アートと街が映像で融合するメディアアートギャラリーに

 

ヒットアナリティクス

横浜ベイエリアに注目施設が続々開業!

昨年は桜木町からみなとみらいを結ぶロープウェイが開通。2022年は3月に「横濱ゲートタワー」、5月に「ウェスティンホテル横浜」が開業し、6月には「横浜みなと博物館」がリニューアルするなど、横浜ベイエリアは新規開業ラッシュ。これらの相乗効果で訪れる人が増えそうだ。

 

その11【新九頭竜橋】新幹線の横をクルマが走る!? 日本初の道路&新幹線併用橋が開通

 

モノ知りインフルエンサー

鉄道写真家

久保田 敦さん

鉄道雑誌をはじめ、旅行誌などで幅広く活躍中。鉄道の躍動感にこだわった作品に定評があり、写真展も開催する。

 

ほかに類を見ない構造で今から試運転が楽しみです(久保田)

【橋梁】

2022年10月開通予定

新九頭竜橋

福井県福井市北部の九頭竜川に開通する全長約415mの橋は、新幹線と道路が橋脚を共有する日本初の橋梁。中央に設けられた新幹線の路線の両サイドに片側2車線の県道と歩道を設け、鉄道ファンを中心に注目を集める。10月22日は開通を記念したランニングイベントを開催。

 

↑橋の中央に2024年春に延伸開業予定の北陸新幹線の線路が設けられている。橋の開通により交通量分散が見込まれ、渋滞の緩和にも期待がかかる

 

ヒットアナリティクス

これまで見たことのない新幹線の姿を楽しめるかも

防音壁が高いため乗用車から新幹線が見えるかは不明だが、バスなどの高い目線なら見える可能性も。福井駅に近い場所で停車する列車は速度が遅く、“見る”には適しているかも。近くには無料の展望台を備えた森田配水塔もあり、鑑賞スポットとして人気になりそうだ。

軽トラ×荷台ボックスをセットでレンタルできるダイハツ「Nibako」に期待するもの

ダイハツは同社の軽トラックと荷台に設置可能な荷箱をセットで、移動販売事業者などにレンタルする「Nibako(ニバコ)」のサービスを開始しました。開始当初の対象地域は東京・埼玉・千葉・京都の4都府県で、対象も事業者に限られますが、将来的にはワーケーションなどへの対応も視野に入れているとのことで期待が高まります。

 

手軽に移動販売が始められる

レンタルの料金は車両(軽トラック)込みで、1日プランが1万3200円〜、1か月プランは6万6000円〜(ともに税込)。購入すると250〜500万円程度が必要とされる移動販売車なので、この料金はかなりリーズナブル。新しいライフスタイルの広がりとともに、店舗を持たず移動販売などを行いたいというニーズも増えているようですが、初期費用を抑えて開業できそうです。

↑同社の「ハイゼット トラック」に荷台のボックスがセットされた状態で貸し出される

 

「Nibako」のボックスは左右と後方の3方向が開ける構造となっており、小物類や食器類の物販から、衣料品、生花、野菜、お菓子など、さまざまな業種での利用が可能。ただし、キッチンカーとしての利用はできないので、調理しての営業販売には対応していません。貸し出しは同社の販売会社を通して行われ、販売会社の店舗にて毎回整備した上で貸し出されるという安心感も大きなメリットです。

↑左右のほか、後方の3面が開く構造を採用。ボックスのサイズは長さ1710×高さ1190×幅1300mm

 

↑側面はガルウィングのように開く形状で様々な業種での利用に対応する

 

「Nibako」には専用のWebサイトも用意され、出店に適した場所などの情報提供や、事業者同士がつながるコミュニケーションサービスなどが利用可能です。出店情報もWebサイトに掲載されるので、消費者に通知する機能も備えています。Webサイトは利用料無料で登録できるのもうれしいところ。

↑「Nibako」サービスの利用イメージ

 

↑単なるレンタルサービスではなく、事業者と消費者など人と人のつながりを作り出すのが「Nibako」の狙い

 

ワーケーションや車中泊などへの活用も広がる!?

今年度は事業導入のトライアル期として、150台を用意する予定とのことですが、来年度は1000台、2025年度には3500台の導入を目指します。当初は軽トラックとのセットになりますが、今後は「Nibako」単体での貸し出しや、移動販売タイプにとどまらない多様なタイプを導入予定とか。将来的にはワーケーションに対応したタイプなども導入したいとのことで、期待が高まります。

↑今後のサービスの展開スケジュール。多様なタイプの導入も検討されている

 

個人的に期待したいのは、ワーケーションだけでなく車中泊などにも利用可能になること。軽トラックの荷台に、車中泊できるタイプのボックスを搭載した「軽トラハウス」や「モバイルハウス」と呼ばれる車両は、実は車中泊ユーザーの中でも人気が高く、自作するユーザーもかなりの数存在します。キャンピングカーの中でも軽自動車をベースとする軽キャンパーは人気が高いですが、さらに導入費用が安く、ボックスを降ろせば普通の軽トラックとして車検にも対応できるのが魅力です。

↑筆者が過去に取材した「軽トラハウス」。ユーザーが自作することが多く、費用が抑えられる上、自分好みの仕様にできるのが人気の理由

 

車中泊仕様については、軽トラックの350kgという積載重量の関係から、どこまでの装備を備えることができるかなど検討課題としながらも、ダイハツでも検討はしているとのことで期待が高まります。個人的にはボックスのみのシンプル仕様のほうが、キャンプ用品などを活用して自分仕様にできるのではないかと思います。

 

モビリティを利用して暮らしを豊かにする「コトづくり」を目指してスタートしたという「Nibako」のサービス。今後の展開に期待したいところです。

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

【保存版】20周年を迎えた「コペン」歴代25台を振り返ったら分かったこと

2022年6月、ダイハツのコペンが生誕20周年を迎えた。「軽自動車+オープンカー」という極めて強い個性が与えられ、最も身近なオープンモデルとして高い人気を獲得。6月に発表した20周年アニバーサリーモデル(限定1000台)はわずか5日で完売するなど、多くのファンに愛される一台だ。

 

本記事ではコペンの歴代主要モデル&グレード25台を紹介。コンセプトカーや派生モデルも数多くピックアップ。ちなみに、コンセプトカーや派生モデルは20周年記念公式サイトでもあまり紹介していないので、本記事オリジナル。モータージャーナリストとしてコペンを長年追いかけてきた岡本幸一郎さんの振り返りインプレとともにお届けしていこう。

 

【その1/最新コペン】COPEN 20th Anniversary Edition(2022年6月)

まずは直近のコペンに触れてから、過去に遡っていこう。本車は20周年を迎えて直営拠点「Copen Local Base Kamakura」でお披露目となった限定1000台のアニバーサリーモデル。人気モデル「セロ」をベースにMOMO製の本革巻ステアリングや本革巻シフトノブ、ロゴ入りの本革シート、自発光式の3眼メーターなどが与えられ、スポーティさと贅沢さを融合した仕上がりとなる。先述の通り、発表からわずか5日で受注分の受付を終了。価格は224万4000円〜(税込)となっていた。

 

↑ヘッドレストにはエンボス加工でCopenのロゴが刻まれている。上質な本革を使用。ファクトリーで丁寧に縫製され、ホールド性に優れたスポーツシートは圧巻だ

 

↑随所に配される記念プレートは匠の手により炭や砥石で磨き上げた金型から生まれており、芸術品といっても良い作り込みだ

【モータージャーナリストの目線】

「セロをベースに激シブ路線で来ました! お約束のBBSも履いているし、各部がアイボリーでコーディネートされたコクピットも魅力的な雰囲気があります。フロントのエンブレムがコペンの『C』ではなくダイハツの『D』となっているほか、リアにも初代を復刻した『Copen』ロゴを配するなどの演出も心憎い」(岡本さん)

 

【COPEN20周年スペシャルサイトはこちら

 

【初代コンセプトモデル~初代モデル編】

コペンは1999年にコンセプトモデルが初出展され、2002年に販売を開始。初代モデルは2012年まで生産が続けられ、10年にわたり愛され続けた。初代を象徴するのはやはり、ヘッドライト。まん丸ライトにコンパクトなボディで、単なるクルマを超えた存在感を醸していた。初代モデルは周年タイミングで特別仕様車が登場するというパターンが多く、プレミアムな装備が毎回与えられた。

 

【その2】第33回東京モーターショー参考出品「KOPEN」(1999年10月)

↑写真は「ル・ボラン」1999年12月号より

コンセプトモデルとして初めて登場したコペン。本段階では名称は「COPEN」ではなく、「KOPEN」と名付けられており、以降もコペンはコンセプトモデル段階では「K」が使われている。本モデルでは前後ダブルウィシュボーンが採用されていた。

 

【その3】第35回東京モーターショー参考出品「COPEN」(2001年10月)

↑写真は「ル・ボラン」2001年12月号より

市販化を前提とした参考出品モデル。電動格納式のアルミ製ハードトップを装備した、キャビンフォワードのボリューム感溢れる2シーターデザインが大きな特徴だ。パワーユニットにはレスポンス重視のターボチャージャー付きツインカム4気筒エンジンを採用。

 

【2002〜2012/初代モデル】

【その4】COPEN(初代/2002年6月)

初代コペンはコンセプトモデルとほぼ同じデザインで登場。電動開閉式ルーフの「アクティブトップ」と、脱着できる軽量な樹脂ルーフの「ディタッチャブルトップ」の2タイプを設定。専用チューニングを施したツインカム4気筒16バルブターボエンジンを採用することでパワフルかつスポーティな走りを披露する。

【モータージャーナリストの目線】

初代モデルの第一印象はデザインの良さに尽きる。軽自動車という制約が厳しい枠のなかでもバランスが良くオープンにしてもクローズにしても絵になるデザインは秀逸であり、唯一無二の存在感をアピールしていた。「小さく、軽く、速い」コペンは閉塞感に満ちていた当時の自動車業界にとって、一筋の光明であったことは間違いない。(岡本さん)

【その5】COPEN 1ST ANNIVERSARY EDITION(2003年7月)

コペンの発売1周年を記念した初の特別仕様車。アクティブトップを採用したモデルをベースに、上品なタンカラーのレザーシート(シートヒーター付)やドアトリム、MOMO製のウッド&レザーステアリングを採用。プレミアムな雰囲気が漂う。

 

【その6】COPEN 2nd ANNIVERSARY EDITION(2004年6月)

発売2周年を記念した特別仕様車。アクティブトップ仕様をベースにレカロシートやMOMO製の本革巻ステアリングを装備するほか、室内はモダンなレッドとブラックへと変更。ヘッドライトはディスチャージ式となった。ボディ色には既存の7色に加え、スチールグレーメタリックとシャンパンメタリックオパールの2色を追加。

 

【その7】COPEN ULTIMATE EDITION(2006年6月)

アクティブトップをベースにビルシュタイン製のショックアブソーバーやBBS製の15インチアルミホイールを採用。アルカンターラ素材を使用したオレンジとブラックのレカロシート、MOMO製のステアリングなど走る喜び、操る喜びを磨き上げている。

 

【その8】COPEN ULTIMATE EDITION II MEMORIAL(2007年9月)

ダイハツの創業100周年を記念した特別仕様車。人気のアクティブトップをベースにブラックメッキフロントグリルやクリアクリスタルリアコンビランプ、専用エンブレム、ホワイトメーターを装備。そのほかにも、BBS製の15インチアルミホイール、レカロシート、MOMO製ステアリングを装備するなど盛りだくさんの内容が特徴だ。

 

【その9】COPEN ULTIMATE EDITION S(2010年8月)

ユーザーがアルカンターラ素材のレカロシート(キャメル)または本革製スポーツシート(ブラック)、MOMO製の本革ステアリングまたはウッドステアリングから自由にチョイスすることができ、選ぶ悦びまで味わうことができる一台。そのほかの装備はアルティメットに準じる。

 

【その10】COPEN 10TH ANNIVERSARY EDITION(2012年4月)

2012年8月末の生産終了に伴い登場した記念モデル。アクティブトップをベースに10周年を記念したロゴとシリアルナンバーを刻んだアルミスカッフプレートカバーを装備。ほかにもブラックメッキフロントグリルや本革製スポーツシートを採用するなどプレミアムな仕様となる。

 

【モータージャーナリストの目線】

特徴的なフロントグリルとBBS製のホイールの相性が良く、インテリアは小さな高級オープンカーの風情が漂う。走りに関しては高性能な「S」系でなくてもハードな印象を受けたが、10年という歳月により熟成が進むことで角が取れたしなやかさを身に付けていた。より快適にオープンエアドライブが楽しめるようになっていたのを今でも覚えている。(岡本さん)

 

【COPEN20周年スペシャルサイトはこちら

【2代目コンセプトモデル~2代目モデル編】

2011年の東京モーターショーに出展され、大きな話題を呼んだコペンの次世代モデル「D-X」。2013年の東京モーターショーでは3台のコンセプトモデルを披露し、手応えを掴んだダイハツ陣営は2014年の6月、2世代目コペンを世に送り出す。COPENに込められた意味は「Community of OPEN car life」となり、その第一弾モデルとしてローブが発売され、同年にエクスプレイ、翌2015年にはセロを追加している。

 

【その11/12】KOPEN Future included Rmz/Xmz(2013年11月)

↑KOPEN Future included Rmz
↑KOPEN Future included Xmz

外装パネルをカバーケースのように自由に着せ替えられる、新たな発想をデザインした2台のコンセプトモデル。Rmzはエモーショナルな独創性を前面に押し出し、Xmzは異素材感覚で組み合わせたボディがタフさを強調。この発想が後の「ドレスフォーメーション」へとつながり、コペンの可能性を広げることとなる。

 

【その13/14/15】KOPEN FUTURE INCLUDED 「RM1」「RM2」「XM1」(2014年1月)

↑KOPEN future included Rm1
↑KOPEN future included Rm2
↑KOPEN future included Xm1

ダイハツは2014年の東京オートサロンに3台のコンセプトモデルを出展。量産型に近い「Rm1」、レーシングスタイルへとモディファイされた「Rm2」、そしてカーキ色のボディに異素材を思わせる質感を表現した「Xm1」は次世代を担う実験的な車両であった。また、コンセプトモデルである「Xmz」の名称を一般から募集するなど、大きな話題を提供した。

 

【2014‐2022/2世代目モデル】

【その16】COPEN Robe(2014年6月)

2世代目へと進化を遂げたコペンで初めて登場したのが「ローブ」。【その17】で紹介する「エクスプレイ」とともに内外装脱着構造の「ドレスフォーメーション」を採用する。また2代目モデルからは、生産ラインが見学できる工場として大阪府池田市にあるダイハツ本社の工場内に「コペンファクトリー」を新設。乗って楽しむだけでなく、見て楽しむ環境を構築した。

【モータージャーナリストの目線】

初代モデルとはデザインが大きく変わったが、後にセロが加わったことで新旧コペンファンが共存できるようになった。エクスプレイを含めて3つの個性が揃ったことで、コペンの存在感がより際立ったことは間違いない。時代のニーズで3気筒になったエンジンのパワフルさは格段に向上。ハンドリングの良さも好感が持てる。(岡本さん)

【その17】COPEN XPLAY(2014年11月)

一般公募によってネーミングされたエクスプレイ。2世代目コペンを飾る2つ目の意匠として登場したモデルは、ローブと骨格、足回りが同一ながらダイナミックな外観デザインを採用。内装は大胆なクロスフレームとなり、開発コンセプトであるタフ&アグレッシブを表現する。

 

【その18】COPEN Robe S(2014年12月)

初代モデルの「アルティメットエディション」と同様の位置づけとなるローブS。ローブをベースとしながらもビルシュタイン製のショックアブソーバーやレカロシート、MOMO製の革巻ステアリングなどを与えることでスポーツ性を高めたモデルに仕上がっている。

 

【その19】COPEN Cero(2015年6月)

2世代目コペンの3つ目の意匠となるセロ。初代コペンのイメージを踏襲したスタイルは流れるような雫を思わせる一体感のあるデザインとなり、親しみやすさと躍動感が融合する。内装は水平基調のストレートフレームのインパネを採用。同じタイミングで、エクスプレイの高性能版「COPEN XPLAY S」も登場した。

 

【その20】COPEN Cero S(2015年12月)

セロをベースに高い操縦安定性とフラットな乗り心地を追求した特別な一台。ビルシュタイン製のショックアブソーバー、スエード調レカロシート、MOMO製の本革巻ステアリング、マニュアル感覚のシフト操作を可能としたパドルシフトを標準装備。

 

【その21】COPEN Robe SHOOTING BRAKE CONCEPT(2016年1月)

東京オートサロン2016に出展されたコンセプトカーの中で注目を集めたのが、ローブをベースに製作されたシューティングブレーク。クール&ジェントルをデザインテーマにラゲッジを拡大し、伸びやかなキャビンデザインが大きな特徴となる。このタイミングでは【その23】で紹介するクーペ版のコンセプト「COPEN Cero COUPE CONCEPT」も出展。

 

【その22】COPEN Robe typeA(2016年4月)

ドレスフォーメーションの新たな提案として樹脂外板パーツの塗り分けにより個性的な外観をまとった特別仕様をローブ、ローブSにオプションとして設定。また、インテリアカラーの選択肢を広げることで選べる楽しさを拡充した。

 

【その23】COPEN Coupe(2019年1月)

東京オートサロン2016に出展されたコンセプトカーを商品化したモデル。セロをベースにCFRP製のハードルーフを装着したクーペスタイルはルーフからトランク、リアエンドまでが一体となった流麗なデザインが大きな特徴となる。

 

【その24】COPEN GR SPORT(2019年10月)

第4のモデルとして登場したGRスポーツは東京オートサロン2019に出展されたコンセプトカーを市販化したもので、TOYOTA GAZOO Racingの理念を基に開発。ボディ剛性の向上や足回りのチューニング、個性的なフロントバンパー、レカロシートなどを装備する。

【モータージャーナリストの目線】

クルマに乗って“楽しい”と感じる要素には、大きく分けて2つある。ひとつは“速さ”。絶対的な動力性能は、それだけで“楽しい”と感じさせてくれる。もうひとつが“意のまま”に動いてくれること。そのためにはクルマが小さくて軽いほうが有利。そしてコペンはその両面をもともと無理することなく身につけているクルマだ。本モデルは軽自動車で最強クラスの、64PSで92Nmのターボエンジンを搭載し、車両重量は800kg台半ばなので瞬発力も加速の伸びもあり、7000rpm付近までよく回る。足まわりの味付けも、スパルタンな雰囲気のS系とは異質の、しなやかさを極めることで、より意のままの走りを深く味わえるようにチューニングされている。

さらにGR SPORTは、BBS、レカロ、MOMOらメジャーなブランドのアイテムをふんだんに装備。カーボン柄のパネルを配した内外装など、所有する満足感とともに、乗るたびにコンプリートカーらしい特別感を味わうことができるだろう。

【その25】COPEN スパイダーVer.(2021年1月)

バーチャルオートサロン 2021で出展された一台。フロントウインドウが短く、古き佳きイタリアンピュアスポーツを連想されるデザインが特徴だ。オープン機構をなくすことで、ベースモデルより約100kgも軽量化されている。

 

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【まとめ】

本企画では車両の変遷をメインに迫ったが、コペンの魅力は車両だけにとどまらない。2014年にはコペン専用の工場である「コペンファクトリー(※)」を設立。ラインでの製造工程や検査過程など、コペンが生まれる姿を間近で見学できるようになった。

※:現在は新型コロナウイルス感染拡大防止のため見学は休止中

 

同年にはオーナー、非オーナーに関わらず利用できる直営拠点「Copen Local Base Kamakura」をオープン。2022年6月に惜しまれながらも閉店となったが「クルマがそばにある日常」を提案し、多くのファンから愛されたスポットになっていた。

 

またコペンのオーナーイベントである「LOVE SKY PROJECT」は複数回開催され、星空の鑑賞会やサーキットを使ったスポーツ走行など、盛りだくさんの内容で参加者を楽しませてくれた。実際に編集部でも愛知県蒲郡市のスパ西浦モーターパークで開催されたイベントを取材。181台のコペンとオーナーたちが集まり、その熱量は真夏のサーキットを越えるアツさであった。

 

コペンというクルマを介して人と人が繋がることで、コペンの楽しさは倍増する。コペンを中心に開催されるイベントや施設に共通していることはメーカーとファンの距離、ファン同士の距離、オーナーとコペンの距離のいずれもが近くて密接だと言うこと。コペンの周りにはコミュニケーションが発生し、刺激が生まれる。ありふれた言葉になってしまうが、「コペンは人生を豊かにしてくれる相棒」であり、新しい場所、新しい出逢いを届けてくれるナビゲーターでもあるのだ。

 

こんな感じでまとめてしまうと2世代目モデルも生産が終わってしまうようなニュアンスになってしまうが、それは杞憂である。ダイハツはコペン生誕20周年を機にこれからもコペンを作り続けて行くと力強く宣言をしてくれた。これからもコペンが提示してくれる世界をGetNavi webでは追いかけて行く。

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ASEANの新たな自動車王国を目指し、インドネシアがEVの拠点化を狙う……

2022年11月にインドネシア・バリ島で開催される20か国・地域首脳会議(G20サミット)をきっかけにして、インドネシア政府が電気自動車(BEV)の普及策を積極的に進めています。同年8月11日~21日まで開催されたガイキンド・インドネシア国際モーターショー2022(GIIAS 2022)では、それに合わせた出展が数多く見ることができました。

↑11月開催の「G20」サミットで活躍することが決まった『Air EV』

 

G20サミット開催を契機としてBEV振興策を策定

インドネシアはこれまでASEAN市場最大の自動車市場を持ちながら、輸出となるとタイの後塵を拝してきました。つまり、内需と輸出を合わせた自動車生産でインドネシアは、タイを超えることができずにおり、それはインドネシアにとって悲願でもあったのです。

 

そこで、それを達成するために白羽の矢が立てられたのがBEVです。タイもBEV普及策を進めていますが、もちろん現状では本格的な動きには至っていません。そこでインドネシア政府は、G20をきっかけにBEV振興策を進め、一気にその立場を優位に進めようと考えたのです。

 

これまでインドネシアはBEVを輸入に頼ってきましたが、政府としてはこれを国産化してASEAN各国へ輸出することで、BEVにおける自動車王国の座を獲得しようと考えたわけです。インドネシア工業省が発表したロードマップでその構想は明らかにされました。2035年に四輪車全体の生産台数を400万台とする一方で、BEVはなんと100万台とする目標を掲げたのです。

 

日本車の牙城を突き崩すべく中韓勢がBEVで一気に攻勢

こうした動きをいち早くキャッチアップしたのが中韓勢でした。中国のウーリン(上海通用五菱)は今回のGIIAS 2022で、中国で大ヒットした小型BEV『宏光miniEV』のハイグレード版『Air EV』をインドネシア国内で生産し、今後ASEAN各国へ輸出していくことを発表しました。

↑中国国内で大ヒットした小型EV『宏光miniEV』をベースに、国際基準に合わせたエアバッグやESCなど安全性を高めたハイグレード版『Air EV』がワールドプレミア

 

↑上位グレードの“ロングレンジ”では、リアバンパーにパーキングセンサーとカメラを装備。イモビライザーや防犯用アラームも標準装備した

 

↑『Air EV』の上位グレード“ロングレンジ”のインテリア。10.25インチのディスプレイを備え、電子ミラーや、リモート式エアコン、電動パーキングブレーキも装備する

 

韓国ヒュンダイも、日本でも発売して話題を呼んでいる『IONIQ(アイオニック) 5』をインドネシア国内で生産することを発表しています。

↑インドネシア国内で生産されるヒュンダイのBEV『IONIQ 5』。ボンネット上のサインはインドネシア大統領ジョコ・ウィドド氏のもの。この車両はG20サミットで使われることが決まっている

 

↑『IONIQ 5』のパワートレーンとバッテリー。ヒュンダイはLGエナジーと協業して2024年からインドネシア国内でバッテリーを生産する計画

 

まさに両社ともインドネシア政府が目指す構想にいち早く乗り、「今こそインドネシアの市場シェア95%を超える日本車の牙城を打ち崩すチャンス到来」と、一気に攻勢をかけてきたのです。

↑ヒュンダイ傘下のKIAが出展したコンパクトハッチのBEVが『ニーロEV』。最大出力203PS/最大トルク255Nmを発揮する

 

↑KIAのBEVのグローバルEVプラットフォーム「E-GMP」を組み込んだ最初のモデル。58kWhと77.4kWhの2種類のバッテリーが選べる

 

↑中国DFSKが発表した『MINI-EV』。中国で大ヒットしたウーリンの『宏光miniEV』と瓜二つのデザインで、スペックもほぼ同等。左ハンドルのまま参考展示していた

 

↑商用車EVとしてDFSKが出展した『GELORA-E』。多人数乗車のタクシーサービスなどの利用を想定する

 

↑中国MGが発表した1トン・ピックアップのBEV『EXTENDER』。上海汽車集団(SIAC)の『Mazus』をベースにEV化した

 

こうした動きに対し、日本メーカーの動きは鈍いようです。その理由はインドネシアにおけるBEVに対する実需はまだ低いと見ているからです。昨年、インドネシアで販売されたBEVは700台足らず。しかも、急速充電器はインドネシア国内全体で267台のみ(22年2月現在、PLN調べ)。220Vの家庭用電源も大半が契約容量が少なく普通充電すらままならない状況です。

 

そうした状況を鑑みれば、充電を必要としないハイブリッド車(HEV)を普及させて、低炭素社会に向けてアプローチした方が理に適っているとみているのです。これはインドネシア政府が低炭素化に対してHEVを含めた電動車一般も含めていることも背景にあります。

 

ただ、インドネシアの自動車事情通によれば「こうした日本メーカーの考え方にインドネシア政府は快く思っていない。HEV車の生産基地はライバルのタイが大半で、結局、インドネシアでHEVを販売するのは敵に塩を送るようなもの。自国のプラスにはならないと考えている」ようなのです。

ダイハツがインドネシアに最適化したBEVを独自開発

では、この状況に日本メーカーはどう立ち向かうのでしょうか。現状では前述したように、BEVもHEVもタイからの輸入で対応する考えですが、こうした中でインドネシア政府の要請に応じて立ち上がったのがダイハツです。

 

ダイハツはGIIAS 2022において、BEVのコンセプトカー『AYLA(アイラ) BEV』を発表したのです。現地のアストラ・ダイハツ・モーター(ADM)のR&Dセンターが独自に開発したもので、詳細なスペックは明かされていないものの、バッテリー容量や価格についてインドネシア国内の事情を踏まえた開発が進められているとのこと。

↑現地のアストラ・ダイハツ・モーター(ADM)のR&Dセンターが独自に開発したBEVコンセプト『AYLA EV』。バンパーから下をBEVらしいグリルレスとした

 

ADMの原田雅人マーケティングディレクターは、AYLA BEVの開発について、「日本のダイハツのサポートを受けながら、インドネシアに適したBEVは何なのかを考えつつ研究開発した」と述べ、パーツの現調達率を現地化8~9割とすることで、インドネシア政府のLCEV(Low Carbon Emission Vehicle)に合わせて開発を進めていくとしました。

↑AYLA EVは、インドネシア政府が要望するLCEV(Low Carbon Emission Vehicle)に合わせた仕様で開発される

 

↑ドアミラーも電子式として、近未来感を演出していた

 

原田氏は「BEVを(インドネシア国内で)普及させるには、インフラの整備はもちろん、急速充電の規格についても大きな課題がある」としながらも、「中韓勢がBEVをフックに環境貢献を旗印にしたシェア拡大を目指す動きはとても脅威に感じている。日系メーカーが一丸となって対抗していく」とも話しました。

↑日本以外で初公開されたシリーズ方式HEV『ロッキー e-SMART』。スペックは日本仕様と基本的に共通だという

 

レクサスとトヨタのBEVは!?

レクサスは新型『RX』、トヨタは『bZ4X』をメインに『プリウスPHV』や『カローラクロスHEV』を紹介していました。

↑レクサスのプレスカンファレンスで発表された5世代目となるレクサスのミディアムラグジュアリーSUV『RX』。2021年は49%のシェアを獲得した

 

↑5世代目となるレクサスのミディアムラグジュアリーSUV『RX』。電動化技術を活かした4WDシステム「DIRECT4」を採用する

 

↑会場で最も目を惹いたのがEVコンセプト『LF-Zエレクトリファイド』。“次世代のレクサス”として進むべき将来のイメージと進化の方向性を示した

 

↑G20 サミットの主要車両の一台として選ばれたレクサスのSUV『UX300e』。インドネシア国内でHEV『UX250h』を発売することも決定した

 

↑BEV『bZ4X』をインドネシア国内でも発売を予定。具体的な時期は未定だ

 

↑日本ではお馴染みの『プリウスPHV』もインドネシアで初めて発売。当初は配車サービス会社向けとなる予定

 

↑G20サミットに採用される超小型モビリティ『C+pod』。北スマトラ州トバ湖では観光客向けに貸し出す実証実験も進めている

 

BEVをフックに中韓勢がこのまま勢いを増していくのか、あるいは日本勢が実績のあるHEVで今のシェアを維持して“日本車王国”を維持していくのか。その動向には今後しばらくは目が離せそうにありません

↑ちなみに欧州勢BEVの中で人気が一際高かったのがポルシェ『Taycan(タイカン)』。現地価格は28億5000万インドネシアルピア(日本円:2625万円相当)

 

 

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繰り返される甚大な「自然災害」−−不通になった鉄道を総チェック

〜〜「8月3日からの大雨災害」+全国の「鉄道不通区間」〜〜

 

地球規模の温暖化が取りざたされ、毎年のように豪雨が各地を襲う。先週末も台風14号が列島を縦断し、各地にその爪痕を残した。この台風14号とともに鉄道に深刻な影響をもたらしたのが、今年の「8月3日からの大雨災害」だった。今も複数の鉄道路線が影響を受け不通となっている。

 

豪雨により不通が続く路線(9月22日現在)を見るとともに、過去に起きた自然災害と台風14号により、不通となっている路線の現状を見ていこう。

 

【関連記事】
鉄道ゆく年くる年…開業、運転再開、新車導入ほか2022年はこんな年になる

 

【8月の大雨災害①】大雨が東北地方に甚大な被害をもたらした

この夏、8月3日から断続的に降り続けた大雨が多大な被害を各地にもたらした。まずは降り続いた日々をふり返っておこう。なお、情報は主に今年の9月2日に国土交通省から発表された「災害情報」を元にした。まずは、雨の経緯から。数日のみで終わらなかったことが、災害の拡大につながった。

 

8月3日〜5日:低気圧が8月3日に東北地方を通過、低気圧に伴う前線が4日にかけて停滞。5日にかけて東北地方と北陸地方を中心に断続的に猛烈な雨が降り、記録的な大雨となった。

 

8月8日〜13日:6日〜7日の局地的な大雨に続くように、再び前線が北日本にのびて停滞し、13日にかけて北海道地方や東北北部で大雨となり、北海道地方や青森県では記録的な大雨となった。

↑奥羽本線、花輪線にほぼ沿って流れる一級河川の米代川(よねしろがわ)。4か所で氾濫が起こり、浸水被害を生み出した

 

8月15日〜22日:前線や低気圧の影響により、北日本から西日本で大雨となった。その後の24日〜26日にも東日本、西日本で局地的に大雨となった。

 

このように数日で終わらず、複数回にわたり、北海道・東北地方で大雨が降り続いた。当時のテレビ報道などで、当地に住む人々から「こんなひどい大雨、浸水被害は初めて」という声が多数聞かれた。今まで氾濫被害などがほとんど起きなかった地区に、猛烈な雨が降り続き多くの河川で氾濫が起きた。国土交通省の調べでは51水系132河川が氾濫したというから尋常ではない。

↑8月3日からの大雨災害により不通になった鉄道路線を地図にまとめた。北東北と新潟県と山形県、福島県に被害が集中した

 

8月3日からの大雨災害により、公共交通機関にも大きな被害をもたらした。降り続いた豪雨は、短期間で終わらなかったことが、さらに被害を悪化させる要因となっていく。道路は国道5路線6区間、道道・県道も10道県32区間が通行止めとなった。そして鉄道は、2事業者7路線が被害を受け、今も不通となっている。7路線は東北地方を走る路線が大半で、一部、新潟県にまたがる路線も影響を受けた。9月16日現在も続く、不通区間とその被害状況を確認しておこう。

 

【8月の大雨災害②】青森県内では2本のローカル線が被害に

まずは青森県の北側から。

 

◇津軽線・蟹田駅(かにたえき)〜三厩駅(みんまやえき)間が不通

津軽半島を走るJR津軽線。大平駅(おおだいえき)〜津軽二股駅間で路盤が流出、復旧工事が進められている。この影響で非電化区間の蟹田駅〜三厩駅間の列車がストップしている。ちなみに津軽二股駅は、北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅の接続駅だ。同駅の駅舎の浸水被害はあったものの、北海道新幹線は高架を走っている区間が多く、被害は出なかった。

↑津軽線の三厩駅。通常時の列車は1日に5本のみで蟹田駅まで所要36分ほど、ひなびた雰囲気がただよう終着駅だ

 

◇五能線・岩館駅(いわだてえき)〜鯵ケ沢駅(あじがさわえき)間が不通

五能線は青森県の川部駅と秋田県の東能代駅(ひがしのしろえき)を結ぶ。この五能線では青森県内の複数箇所で被害が出てしまった。各区間の被害状況を記しておこう。

 

・大間越駅(おおまごしえき)〜白神岳登山口駅間、橋梁被害→復旧工事中

・千畳敷駅(せんじょうじきえき)〜北金ケ沢駅(きたかねがさわえき)間、土砂流入→復旧工事中

・風合瀬駅(かそせえき)〜大戸瀬駅(おおどせえき)間、路盤流出→復旧工事中

・陸奥赤石駅〜鯵ケ沢駅間、橋梁傾斜→詳細調査中

↑五能線を走る観光列車「リゾートしらかみ」の橅(ぶな)編成。同観光列車は現在、一部区間のみの運行となっている

 

五能線は日本海の海景色と白神山地の山景色が美しい路線。特に千畳敷駅付近は、駅前に日本海が広がる風光明媚な場所で、被害の様子が気になる。通年、人気の観光列車「リゾートしらかみ」が走っているが、路線不通の影響で鯵ケ沢駅〜青森駅間(川部駅〜青森駅間は奥羽本線を走行)のみの運転となっている。詳細調査中の区間があり、また複数箇所が被害にあっていることもあり、路線復旧まではかなりの日数がかかると思われる。

 

【8月の大雨災害③】秋田県内の被害で貨物輸送に影響も

次は秋田県の不通区間に目を移そう。県北で不通になった区間が目立つ。

 

◇奥羽本線・鷹ノ巣駅(たかのすえき)〜大館駅(おおだてえき)間が不通

↑大館駅は奥羽本線と花輪線の接続駅。秋田県北の主要駅で奥羽本線の鷹ノ巣駅間が不通となっている。2022年7月30日撮影

 

東北4県を南北に結ぶ奥羽本線は、秋田県北で不通となっている。被害が出たのは糠沢駅(ぬかざわえき)〜早口駅(はやぐちえき)間で、路盤流出が確認され、復旧工事が進められている。被害が出た同区間はちょうど米代川沿いに奥羽本線と国道7号が平行して走る区間で、JR東日本では「運転再開には時間を要する見通し」としている。

 

今回、不通となった鉄道路線のうち、奥羽本線は唯一、鉄道貨物輸送が行われる区間で、JR貨物の列車が1日に臨時列車を含めて9往復している。

↑奥羽本線を含めた路線は日本海縦貫線と呼ばれる貨物ルート。不通の大館駅(貨物駅/左上)へはトラックによる代行輸送が行われる

 

日本海側を通る羽越本線、奥羽本線などの路線は日本海縦貫線と呼ばれる貨物輸送の重要なルートで、日本一長い区間を走る福岡貨物ターミナル駅と札幌貨物ターミナル駅間を結ぶ貨物列車も運行されている。奥羽本線の一部区間の不通により、8月6日から東北本線・東海道本線を迂回しての輸送を行う。さらに秋田貨物駅〜東青森駅間のトラックによる代行輸送を実施している。こうした重要な輸送ルートの不通により、貨物列車の運行遅延も多く発生している。

 

◇花輪線・鹿角花輪駅(かづのはなわえき)〜大館駅間が不通

秋田県北では花輪線の一部区間も不通となっている。被害が出たのは十和田南駅(とわだみなみえき)〜土深井駅(どぶかいえき)間で、路盤が流出した。ちょうど同区間も米代川に沿って走っているため、川の氾濫などによる影響が深刻だったようで、詳細調査中とされる。

↑大館駅に停車する花輪線の列車。大館駅と鹿角花輪駅間が不通となっている。被害は十和田南駅(左下)〜土深井駅間が深刻だった

 

ちなみに花輪線の鹿角花輪駅〜大館駅間の利用率の指標となる平均通過人員は2020年度の場合に524人だった。花輪線内では鹿角花輪駅〜荒屋新町駅間の岩手県境の区間の60人に比べれば良好だが、被害状況によっては今後の路線維持に関して問題視される可能性もありそうだ。

 

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【8月の大雨災害④】秋田の第三セクター路線にも被害が

8月3日からの大雨災害で被害が出た線区はほとんどがJR東日本の路線だったが、第三セクター鉄道の1線のみ不通区間が出ている。

 

◇秋田内陸縦貫鉄道秋田内陸線・鷹巣駅(たかのすえき)〜阿仁合駅(あにあいえき)間が不通

秋田内陸縦貫鉄道は秋田県の鷹巣駅(たかのすえき)と角館駅を結ぶ。この路線では米内沢駅(よないざわえき)〜前田南駅間で土砂流入等があり、復旧工事が行われている。同区間は、米代川の支流、阿仁川沿いに走る区間で、この川沿いの区間に被害が出てしまった。そのために鷹巣駅〜阿仁合駅(あにあいえき)間が不通となっている。

↑米内沢駅〜前田南駅間は阿仁川に沿って列車は走る。現在、阿仁合駅から北側の路線区間が運休となっている(左上)

 

秋田内陸縦貫鉄道はその路線の名前のとおり、秋田の内陸部を走る。筆者は仕事柄、各地の鉄道路線を乗り歩くことが多い。秋田内陸縦貫鉄道には大雨災害が起こる直前の7月30日に訪れた。当日は天気が良く快適な旅を楽しんだが、そのちょうど2週間後の8月13日の大雨災害による被害が出てしまった。さらに記事を紹介した直後だっただけに心苦しい思い出となった。少しでも早い同線の復旧を願うばかりである。

 

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【8月の大雨災害⑤】山形・新潟を走る米坂線の被害が目立つ

◇米坂線・坂町駅〜今泉駅間が不通

「8月3日からの大雨災害」は北東北だけでなく、新潟県・山形県の山間部と、福島県の会津地方にも被害をもたらした。大きな被害を受けたのが米坂線(よねさかせん)だった。

↑朝日岳などの山々を望み走る米坂線。写真は今泉駅近郊の白川橋梁で、同橋梁も米坂線の不通区間となってしまった

 

米坂線は山形県の米沢駅と新潟県の坂町駅の間を結ぶ。そのうち、かなりの区間に被害にあってしまった。

 

・山形県内、羽前椿駅〜手ノ子駅(てのこえき)間で橋梁倒壊

・今泉駅〜坂町駅間の複数個所で路盤流出・土砂流入等

 

現在、不通となっているのは山形県の今泉駅と坂町駅の間で90.7kmの路線のうち、3分の2の区間67.7km間となる。この3分の2にあたる今泉駅〜坂町駅間の複数個所で路盤流出・土砂流入等があった。被害箇所の把握に関してはすでに終了しているが、その後の被害程度に関しては詳細調査を実施中とされる。

 

2020年度の平均通過人員は米坂線の米沢駅〜今泉駅間は641人と多めながら、その先の今泉駅〜小国駅間は248人、小国駅〜坂町駅間は山形、新潟の県境区間で、121人と乗車率が低めとなっている。

 

山中の路線で、利用するのは地元高校生が多く、今後の路線維持を危ぶむ声が早くも出てきている。

 

ちなみに今泉駅〜萩生駅(はぎゅうえき)間は、山形鉄道フラワー長井線の路線と共用しているが、同区間には被害が出ておらず、山形鉄道は通常通りの運行が行われている。

 

【8月の大雨災害⑥】磐越西線も長期の不通を余儀なくされる

◇磐越西線・喜多方駅(きたかたえき)〜山都駅(やまとえき)間が不通

磐越西線は福島県の郡山駅と、新潟県の新津駅を結ぶ175.6kmの長大な路線。そのうち、喜多方駅と新津駅間が非電化区間となっている。不通となっているのは喜多方駅〜山都駅間といずれの駅も喜多方市内で、この一駅区間のみが被害を受け、喜多方駅〜野沢駅間で代行バスの運行が行われている。

 

大雨により喜多方駅〜山都駅間の阿賀川の支流・濁川橋梁が倒壊してしまった。詳細調査中で当分の間は運転見合わせすることが発表されている。

↑不通となった喜多方駅〜山都駅間を走る「SLばんえつ物語」。この線路の先に倒壊した濁川橋梁が架かる

 

磐越西線といえば、「SLばんえつ物語」といった観光列車や、豪華寝台クルーズ列車「TRAIN SUITE四季島」の定番ルートにもなっている。11年前のことながら東日本大震災の際には、不通になった東北本線の石油タンク輸送の迂回ルートにも活用された。いわば準幹線にもあたるような路線でもある。

 

福島県〜新潟県の県境区間の野沢駅〜津川駅間の平均通過人員は69人と少なめながら、被害を受けた橋梁が1か所ということもあって、時間がかかっても復旧されると思われる。

↑不通になった喜多方駅〜山都駅間を走るJR東日本の「TRAIN SUITE四季島」。早朝に同区間を通過して喜多方駅到着となる

 

この夏の大雨の被害のため不通になった区間を見てきた。いかに長雨が被害を大きくするかがよく分かる。

 

ここからは過去に自然災害にあい、不通となっていた区間のその後を見ていこう。災害が路線廃止のきっかけになりそうな路線もあれば、さまざまな延命方法を探ったことにより、路線復旧が適った路線もある。

 

【今も不通が続く①】廃止が決定した路線と運行再開される路線

◇JR北海道 根室線・富良野駅〜東鹿越駅間 災害により不通→廃線へ

廃止がほぼ決まったのがJR北海道の根室線、富良野駅〜東鹿越駅(ひがししかごええき)間。2016(平成28)年8月31日の台風10号による豪雨災害の影響で、幾寅駅前後で斜面崩壊、土砂流入などの被害を受け東鹿越駅〜新得駅が不通となっている。

 

列車の運行が続く富良野駅〜東鹿越駅間は2021年の輸送密度が50人といった状態で、JR北海道内ではワーストを記録していた。同じ北海道内では、日高線の鵡川駅(むかわえき)〜様似駅(さまにえき)間が、災害の被害を受け2021(令和3)年4月1日に廃止となったが、それに続いての廃止の予定がほぼ決定していて、あとは廃止日の発表が行われるだけの状態になっている。

↑富良野駅〜東鹿越駅間は、原生林に包まれて走る区間が多い。風景は素晴らしいが、乗車数の低さが路線存続を阻んだ形となった

 

◇JR東日本 只見線・会津川口駅〜只見駅間 不通→10月1日路線再開

一方で、路線の存続が危ぶまれたものの運転再開に向けて試運転が進むのが只見線の会津川口駅〜只見駅間だ。

 

被害にあったのは11年前の2011(平成23)年7月30日のこと。「平成23年7月新潟・福島豪雨」と名付けられた豪雨により、阿賀川の支流、只見川にかかる複数の橋梁が流失してしまった。以来、代行バスの運行が続いていたが、2018(平成30)年から復旧工事が始められ、4年の歳月を経て、この10月1日から運行が再開される。

 

この路線では運転再開に向けて上下分離方式が採用された。上下分離方式とは鉄道路線の線路保有と、列車運行を異なる事業者が行う。会津川口駅〜只見駅間は福島県が第三種鉄道事業者となり、今後の鉄道路線を整備・保有する。JR東日本が第二種鉄道事業者となり、列車の運行および営業を行う。

 

この上下分離方式により、復旧費用および列車を運行するJR東日本の負担を減らして、路線復活を図った。とはいえ、復旧する会津川口駅〜只見駅間で予定される列車の本数は1日に3往復ほどと少ない。どのような成果を生み出すのか興味深いところだ。

↑路線再開に向けて復旧工事が進む只見線。只見川沿いの山深い区間だけに、復旧費用もかかり福島県が3分の2を負担したとされる

 

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夏こそ乗りたい!秘境を走る「只見線」じっくり探訪記〈その2〉

 

【今も不通が続く②】BRT化工事が進む日田彦山線

北海道・東北に目立つ自然災害による路線の不通。残りの不通路線が集中するのが九州である。九州地方には線状降水帯の予報が出ることが多い。台風14号のように九州を縦断するような台風も表れる。年ごとに被害の度合いは異なるものの、不通区間も出がちで、列車運行の難しさが感じられる地域となっている。ここからは九州の不通区間とその後を見ていこう。

 

◇日田彦山線・添田駅〜夜明駅(よあけえき)間 不通→BRT化へ

↑日田彦山線の名物だったアーチ橋。写真は栗木野橋梁で長さ71mあり絵になったが 2013年7月21日撮影

 

今から5年前の2017(平成29)年7月5日に「平成29年7月九州北部豪雨」により、不通となった区間の被害は深刻で63か所の線路被災が確認された。その後にバス代行輸送が始まり、現在にいたる。

 

数年にわたる地元自治体との話し合いにより、路線復旧を諦め、一部の路線跡を専用道路として利用するBRT(バス・ラピッド・トランジット)による復旧が進められている。

 

ちなみにJR九州はすでにJR九州バスの分社化を2001(平成13)年にしており、今回の日田彦山線はJR九州バスに任せずに、自らバス事業者としてバスの運行をすることになっている。実に22年ぶりにバス事業者に復帰することになる。

 

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【今も不通が続く③】今後の方針が定まらない肥薩線の現状

◇肥薩線・八代駅〜吉松駅間が不通

↑球磨川を眺めつつ走った「SL人吉」。同列車をはじめ多くの人気観光列車が走った路線は今後、復活するのだろうか

 

明治の終わりに鹿児島本線として開業、1927(昭和2)年に肥薩線に名を改めた。当時の鉄道遺産も多く残している。

 

路線は八代駅〜隼人駅(はやとえき)間124.2kmで、そのうち八代駅〜人吉駅間は、球磨川沿いを走り通称〝川線〟と呼ばれる。人吉駅〜吉松駅間には複数のスイッチバック駅、ループ線が連なる〝山線〟で、それぞれ特長のある風光明媚な路線で、訪れる人も多かった。

 

そんな名物路線を2020(令和2)年7月4日、「令和2年7月豪雨」が襲う。球磨川の氾濫により球磨川第一、第二橋梁が流失、また路盤も多数箇所で冠水するなどで、肥薩線124.2kmの区間中の約7割にあたる86.8kmの区間が不通となってしまった。

 

複数の橋梁が流されてしまったこともあり、復旧には膨大な費用がかかることが見込まれ、試算によって異なるものの235億円規模の復旧費用が見込まれている。復旧したとしても、毎年、慢性的な赤字が見込まれていて、営業収支は年間約9億円の赤字が出るとされる。

 

現在、国、県、地元自治体とJR九州の間で復興に関しての話し合いが持たれているが、国は只見線のように上下分離方式も視野に入れているようだ。肥薩線が通る人吉市などでは再開された後の観光需要増が見込めるとあって期待しているが、復旧への道筋はまだ明確に描けていない。

 

【今も不通が続く④】九州の第三セクター2線は復旧工事が進む

民間企業となったJRグループに対して自治体が経営主体となっている第三セクター鉄道に関しては、不通区間の復旧工事も進み、あとは工事完了を待つのみとなっている。いずれも九州内の路線だが、現状を見ておこう。

 

◇南阿蘇鉄道・立野駅〜中松駅間が不通

立野駅〜高森駅間を走る高森線を運行していた南阿蘇鉄道。2016(平成28)年4月に発生した熊本地震による被害で、不通となり、その後に中松駅〜高森駅間は復旧した。トレッスル橋として貴重な立野橋梁や、高さ約60mと完成当時は日本一の高さを誇った第一白河橋梁など、構造物としても貴重な橋梁などの復旧工事が進み、2023年夏には路線が復旧する見込みだ。路線復旧後にはJR九州の豊肥本線の肥後大津駅まで列車乗り入れを計画するなど、新たな南阿蘇鉄道づくりを目指している。

↑立野駅〜長陽駅間にかかる立野橋梁を渡るトロッコ列車。昭和初期に建造されたトレッスル橋として国内最大規模を誇っている

 

◇くま川鉄道湯前線(ゆのまえせん)・人吉温泉駅〜肥後西村駅(ひごにしのむらえき)間が不通

くま川鉄道も、肥薩線と同じく「令和2年7月豪雨」で被害を受けた。人吉温泉駅(JR九州・人吉駅に隣接)の車庫が水没。所有する5両が潅水被害を受け、さらに川村駅〜肥後西村駅間に架かる球磨川第四橋梁が流出してしまった。その後に肥後西村駅〜湯前駅間の運転は再開された。

 

現在、不通区間の復旧工事を進めており2025年度には全線運転再開が見込まれている。

 

一方の人吉駅が通る肥薩線の復旧は現在のところ、見込みは立っておらず、復旧しても接続する鉄道がない路線になる可能性も考えられる。

↑現在は列車が不通となっている川村駅〜肥後西村駅間を走るくま川鉄道の列車。この先に球磨川第四橋梁が架かっていた

 

この夏に不通となった路線区間と、今も不通になっている区間の現状を見てきた。こうして見ると地域差がはっきりしていることが分かる。最近の豪雨災害の傾向は、地域差が偏る傾向が多く見られる。豪雨災害が出たものの、鉄道路線に大きな影響が出ない地方もあった。自然相手だけに運・不運がつきまとう。

 

最後に9月18日から20日にかけて列島を縦断した台風14号により被害を受けた路線区間を見ておこう。台風14号は勢力を弱めずに9月18日に鹿児島に上陸し、九州を南から北へ通り抜けた。そして複数の路線が被害を受けた。不通となっているのは下記の通りだ(9月21日、22時50分時点のもの)。

 

◇久大本線・豊後森駅(ぶんごもりえき)〜由布院間が不通
野矢駅〜由布院駅間で道床流出等が発生→10月上旬に運転再開を目指して復旧工事を進める。

◇指宿枕崎線・指宿駅〜枕崎駅間が不通
複数個所で倒木等が発生→9月下旬の運転再開を目指して復旧工事を進める。

◇肥薩線・吉松駅〜隼人駅が不通(肥薩線全線が不通となる)
吉松駅〜栗野駅(くりのえき)間で築堤崩壊等が発生、9月下旬の運転再開を目指して復旧工事を進める。

◇吉都線(きっとせん)・都城駅〜吉松駅間が不通
西小林駅〜えびの飯野駅間で築堤崩壊等が発生、10月上旬の運転再開を目指して復旧工事を進める。

◇日南線・南郷駅〜志布志駅(しぶしえき)間が不通
大隅夏井駅〜志布志駅間で大規模な築堤崩壊が発生、復旧には時間を要する見込み。

 

このうち、より大きな被害が出たのは日南線である。実は昨年の9月16日、接近した台風14号の影響による大雨被害により日南線の青島駅〜志布志駅間が不通となった。復旧したのは12月11日のことだった。昨年も「台風14号」で、さらに被害を受けたのが9月中旬と同時期のこと。2年続きで路線が不通となっているから深刻だ。

 

自然災害は一筋縄ではいかない問題をはらむ。今後、さらなる被害が出ないことを願うばかりである。

ハーレー一筋30年!自分流を磨き続ける三木聡のカスタム・バイクライフ

シュールな作風でカルト的な人気を誇る、映画監督・三木聡さん。小さいころから、プラモデルも設計図を無視して自分の好きなようにパーツくっつけていた、カスタム好きの三木さんにバイクへの愛とカスタムのこだわりについて伺いました。

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:背戸馬)

三木 聡●みき・さとし…1961年8月9日生まれ。神奈川県出身。大学在学中から放送作家として活動し、『タモリ倶楽部』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など数多くの人気番組に携わる。1989年から2000年まではシティボーイズのライブの作・演出を務め、2005年の『イン・ザ・プール』で長編映画監督デビュー。以降、シュールな持ち味を活かして『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』(2018)、『大怪獣のあとしまつ』(2022)などの映画作品で一貫して監督と脚本を兼任。『時効警察』シリーズや『熱海の捜査官』などのテレビドラマも手掛けている。

 

【三木聡の1999年式ソフテイルカスタムの画像はコチラ】

ソフテイルカスタムのこだわりポイント

――先ほど撮影で走ってる姿を見たときV-RODかなと思いましたが、拝見したら全然違いました。こちらの車種は?

 

三木聡(以下、三木)「1999年式ソフテイルカスタムです。エボリューションエンジンの最終モデルですね」

 

――確かにソフテイルです。さっそくカスタムポイントを教えていただきたいんですが、まずは個性的なルックスのタンクから。

 

三木「このコブラタンクは、前に乗っていたファットボーイにつけていたものを移植しました。オイルタンクもですね。キャップカバーは型取りしてレザーで自作しました。金属のキャップが熱を持つので、ふとももに触れると熱いんですよ」

 

――いいアクセントになっています。マフラーもかなりいい音してます。

 

三木「BOSSのマフラーです。バンテージテープは自分で巻いたんですよ。放射熱で足が焼けそうになりますから」

 

――フロントフォークは?

 

三木「サンダンス・トラックテックです。ソフテイルのリアショックも変更してます。前後のサスペンションとパフォーマンスマシン製のブレーキで制動力をアップしてます」

 

――他にも吸気はFCR、チェーンドライブ化、前後ホイール……と内容は書ききれないほどですが、カスタムはどちらのショップで?

 

三木「サンダンスです。代表の柴崎(武彦)さんにお任せでカスタムしてもらいました」

 

――サンダンスは、ハーレー・ダビッドソンのカスタムショップの国内第一人者ですね。

 

三木「サンダンスには1991年にファットボーイを買ったときからお世話になっています。このソフテイルカスタムは、チョッパーにしてあった車体をベースに作ってもらいました。チョッパーのころの名残はフレームのカラーだけですけど、そのカラーを活かしてあるのもポイントですね」

 

――なんと前はチョッパーだったんですか。ここまでガラッと車体構成が変えられるってハーレーならではです。

 

三木「ソフテイルカスタムの前のオーナーさんも、自分のハーレーがそのまま乗られているのは嫌かなと思いますしね」

ハーレー一筋30年以上

――1991年からファットボーイに乗られていたとなると、30年以上前ですね。ずっとハーレー一筋なんですか?

 

三木「そうですね、ファットボーイから2018年にこのソフテイルカスタムに乗り換えて2台目です」

 

――ファットボーイは27年乗られてたんですか! 1台のバイクの所有歴としてはかなり長いと思います。ファットボーイはどういった経緯で乗られたんですか?

 

三木「ヤマハのビラーゴ250に乗っていて、カスタムもいろいろしてたんですけど、一緒に『タモリ倶楽部』をやっていたディレクターに『だったらハーレーにすれば?』と促されてサンダンスを紹介してもらいました。まだ、お店が高輪にあるころでしたね。そのディレクターはサンダンスでゴリゴリにカスタムしたショベルに乗ってました」

 

――それで限定解除をしたと?

 

三木「当時は府中の免許センターで一発試験のみでしたから、八王子の河原にあった練習場で練習をして試験を受けましたね。番組が暇なタイミングって1月なんですけど、極寒の中央高速をビラーゴで八王子まで通ってました(笑)。ハーレーに乗るんだという熱意があったし、当時27歳くらいだったかな、年齢的なものもあったかもしれませんね」

 

――ファットボーイはサンダンスで購入したんですか?

 

三木「そうです。僕は1991年型をたしか新古車で買ったのかな。型落ち寸前に。どうせカスタムしちゃうんだからファットボーイでもなんでもいいよね、みたいな話だったと思うんです。そのまま乗るんじゃなくてカスタム前提だったから車体はリーズナブルなやつでいいよねと」

 

――ショベルヘッドなど他のエンジンじゃなく、エボリューションが搭載された車体にしようというのは決めてたんですか?

 

三木「『ショベルはエンジン精度の問題がいろいろあって、最初に乗るならエボ(エボリューションエンジン)のほうがいいよ』って話になったと思うんですよ。『ハーレーの三拍子も出るし』と。それを断るほどこだわりもなかったし、ナックルヘッドだパンヘッドだというのもその時はまだそれほど詳しくなかったですから」

ファットボーイのカスタムポイント

――でも「最初に乗るならエボ」は的確なアドバイスな気がしますね。先ほど、コブラタンクはファットボーイからの移植だと仰ってましたが、ファットボーイもカスタムされていたんですね

 

三木「そのころはクラシカルな嗜好があったので、スプリンガーフォークを組んで、クリーム色っぽい茶色と焦げ茶色のツートンカラーでした。AMF時代の純正色のイメージで」

 

――1970年代風の渋いカラーリングですね。

 

三木「柴崎さんにおまかせでカスタムを依頼したんですけど、サンダンスにあったカスタム車をサンプルにして割りとベタなカスタムにしてほしいと伝えたんです。ところが出来上がったらぜんぜん違うものになっていた」

 

――な、なんと!

 

三木「スプリンガーを組むならこういうほうがいいよ、っていう柴崎さんのセンスが全面的に押し出された結果ですね。当初の想定とは違うけど、そのカスタムの意味が『なるほど、そういうことか』とだんだんわかってくるんですよね」

 

――乗り始めて、ハーレーのエンジンや歴史のことを知っていくことで……。

 

三木「理解できるっていう。絵画や映画とかでもそうじゃないですか。わかりやすい一般的な作品と違って、特殊な映画って最初はとっつきにくいものですからね。ポピュラリティーってそういうことですから。アルバムの1 曲目はすぐに飽きちゃうんだけど、2曲目がずーっと気にいって聞いてるみたいな」

 

――そういう深みのあるカスタムをするサンダンスに出会ったことも、長くハーレーに乗り続ける理由かもしれませんね。

 

三木「だからサンダンスは長く付き合えるショップなんだと思います。お客さんがとっつきやすいような汎用パーツをつけて仕上げるということはやってなかったですからね。カスタムしてもらったバイクをずっと見ていると、いろんな発見があるんですよ。映画もそうじゃないですか。そのうち映画以外の他の情報も入ってきて、たとえば僕の好きなデビッド・リンチやコーエン兄弟の作品って、ニューカラー派の写真家ウィリアム・エグルストンの影響が映像にあったりとか、絵画的な影響があったりとか、そういうのがあとからわかってくるというのがありますよね」

 

――それがハーレーにおいても同様だと。

 

三木「はい。乗っててそれを実感するオートバイですね。日本や、他の国のオートバイとどちらが偉いとかじゃなく、僕がそういうのに興味があるってことなんですけど、なかなか他にないんだろうなと思ったりしますよね」

乗り換えは事故がきっかけ

――監督の作品『熱海の捜査官』(2010年、テレビ朝日)で、アメリカンな雰囲気の“南熱海警察署”が登場しましたが、たしか署の前にハーレーが停められていました。あれってもしかして……。

 

三木「それ、僕のファットボーイです。撮影用にパトランプをつけて」

 

――画面越しで、ちょこっと見えただけでしたけどしっかりビンテージハーレーの風格でした。なるほど、たしかに通好みの渋いカスタムです

 

三木「警察署のセットが三浦にあったんですけど、毎朝、撮影のために乗って行ってましたよ。しかし、よく覚えてましたね。うれしいなあ」

 

――そんなに気に入ってたファットボーイを乗り換えるきっかけというのは?

 

三木「ファットボーイで走っていたときに、中央分離帯みたいなところから突然、女の人が車道を突っ切ってきて、かろうじて避けたんですがブレーキかけたら車体が流れちゃってコケたんです。鎖骨を折りましたよ」

 

――うわあ、それはつらい……。

 

三木「これを機に、50歳も過ぎたし、ファットボーイを修理しないでちゃんと制動が効くにバイク替えたら? という話になったんです。僕も『じゃあそうします』と。ファットボーイのほうは、フレームがいったとか大きな損傷はなかったので下取りに出して」

 

――それで1999年式のソフテイルカスタムを入手されたと。柴崎さんへのオーダーで、監督の要望通りのカスタム内容になっているというわけですね。

 

三木「そうですね。バイクの場合は制動がうまく行かなくて事故を起こすということがありますから、サスペンションとブレーキが重要だろうと。ファットボーイも冷静な状態で止まるのは制動面に問題はなかったけど、やっぱり緊急時ですよね。その点、トラックテックのサスは制動時にしっかり沈んで、急ブレーキかけてもリアが流れたりしにくい。今のバイクは走ることも優秀ですけど、止まることに関しても優秀だと思います。タイヤも制動力重視で選んでます」

 

――そこまでしっかり考えてカスタムされているということは、今後このソフテイルカスタムを乗り換えるということは……。

 

三木「サブのオートバイで何か買うってことはあるかもしれませんけど、今のソフテイルカスタムを乗り換えることはないでしょうね」

米軍がいる横浜が原風景

――ところで、三木監督のバイク歴を教えていただけますか。

 

三木「最初は中古で1万か2万で買った原付き、ホンダ・スカイにしばらく乗ってました。車の免許を取ったら原付き免許がくっついてくるじゃないですか」

 

――じゃあ車の免許が先なんですね。

 

三木「20代前半は旧車に乗ってたんですよ、車のほうの。ヘッドライトが縦に並んだ日産グロリア、いわゆる“タテグロ”に。それを全塗装かけるのに工場に入れたら、1年か2年かかることになった。移動する足がなくなっちゃうってことで、バイクの免許を取ったんです。仕事でいろんなテレビ局に行ってたんですけど、乗り始めたら移動するのはバイクのほうが便利だってことに気づいて。それでビラーゴ250に乗り始めました」

 

――ビラーゴ、そしてハーレーと、アメリカンスタイルのバイクがお好きなんですね。

 

三木「中学生のころかな、『イージー・ライダー』が直撃したんですよね。映画の公開は1969年で僕は小学生なので、後追いだったのかな。部屋にでっかいポスターも張ってましたし」

 

――『イージー・ライダー』に影響された少年は多かったでしょうね。

 

三木「サイドカーつきのBMWのプラモデルを買って、ランナーを炙って伸ばしてチョッパーに改造したり(笑)、友達の兄貴は、ビーチクルーザーみたいな自転車のフロントフォークを、単管パイプを加工してチョッパーみたいにしてましたよ」

 

――魔改造!

 

三木「うちの近所は坂が多いもんだから、坂を上がっていくと後ろにひっくり返っちゃって(笑)」

 

――(笑)。三木監督は横浜出身とのことですが、世代的に暴走族カルチャーは通過してるんですか?

 

三木「僕は暴走族にはいかなかったですね。暴走族全盛期の1972~3年は中学生くらいだったんですけど、信じられない台数のバイクが第二京浜を湘南に向かって走ってるのは見てましたよ」

 

――暴走族よりも、監督の場合はアメリカンカルチャーにハマっていたと。

 

三木「そうですね。米軍基地もあったし、本牧とかには米軍の居留地もあって、すごいアメ車が街を走っている時代でしたからね。土地柄なんですよね。たとえば中華街に食事に行ときは山下の居留地の間をバスで走っていくんですけど、芝生にスプリンクラーがあって犬がいるという感じでしたし」

 

――もう映画の中の世界ですよ。小さころからそういうアメリカンな景色を日常的に見てたわけですか?

 

三木「あとはまぁ僕らの世代って、アメリカのテレビドラマがすごく多かった世代なんですよね。あれは占領軍の政策で、共産主義にならないようにアメリカの文化の素晴らしさをテレビでいっぱい流してたらしいです。だから影響は少なからずあったんでしょうね」

カスタムせずにはいられない!

――ハーレー一筋とのことでしたが、ハーレー以外のバイクはお持ちじゃないんですか?

 

三木「ヤマハのYD125ですね。これは、ファットボーイからソフテイルカスタムに乗り換えるとき、カスタムに1年間くらいかかったんですけど、その間の足として乗ってました。もともとは、僕の映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』のときに、劇中で使用するサイドカーを作ろうと思って買ったんです」

 

――吉岡里帆さんと阿部サダヲさんが乗って突っ込むやつですね。

 

三木「YD125にサイドカーを取り付ける予定だったんですけど、サイドカーってバランスを取るのがすごく難しいみたいなんです。そんな相談をしてたら、ちょうどネットオークションでサイドカー付きのスズキK50が出品されて、これいいじゃんってことで購入しました」

 

――ということはYD125 を使う予定がなくなった。

 

三木「そうです。それで僕が乗ることにしたんです」

 

――当然カスタムをするわけですね(笑)

 

三木「鉄道のカンテラってあるじゃないですか。あれを買って中のライトを変えて取り付けたり、ハンドルやグリップを変えて、ウインカーとテールランプも変えて、カフェレーサーっぽい感じにしてます」

 

――鉄道のカンテラ? 個性あふれるカフェレーサースタイルですね。

 

三木「まぁクラシカルロッカーという感じですね。溶接機も買いましたよ(笑)、マフラーステーとかウインカーバーつくったりしました」

 

――カスタムが本当に好きなんですね。手を入れないと自分のものという感覚がしないって感じなんですか?

 

三木「小さいころから自転車少年だったんですけど、自転車をペンキで塗ってカスタムしたりしてましたね。プラモデルもそのまま組むのが気に入らないから、設計図とか無視して自分の好きなようにパーツくっつけるとか。このパーツはこっちについてたほうがいいだろうとか(笑)」

 

――根っからなんですね~。

 

三木「1人っ子だったから、強制されるのが気に入らなかったんだと思いますね(笑)」

「自分流」を磨く

「でも手先が器用じゃないんで、溶接にするにしろ、塗るにしろ、うまくはないんですよ。あと、人に教わるのが下手くそなんですよね。だから、教わって習得して上手くなるっていうのがない。苦手なんですよね、きっと」

 

――自分で手を動かして上手くなっていくという。

 

三木「映画とかもそうなんですけど、自分流のやり方でしかできない。映像的なことを教わったり、見たりして勉強するというよりは、とにかく無手勝流でやってるみたいなところはありますよね」

 

――仕事でもバイクでも、三木監督の“らしさ”が生まれる原点ってそこな気がします。

 

三木「オリジナルのものがあって、それを人が模していくうちにちょっとずつ解釈の仕方がずれていくことで違う形になっていく。その繰り返しですよね。自分もそういうことなのかなと。教わり方が下手だから、その分解釈がずれてオリジナルからは遠くなっていくというね」

 

――それがやがて個性となっていく、ということなんですね。

 

三木「たぶんそういうことだと思うんですよね」

 

――最後になりますが、三木監督にとってバイクとは?

 

三木「基本的には移動する楽しみ、ということですね。バイクって目の前にあるじゃないですか。それを常に見ているわけだから、自分が気にったものである必要はありますね」

 

――たしかに。何でもいいってわけではないと思います。

 

三木「なおかつ、走れないといけない。僕の場合は仕事にも使うので、たとえば撮影現場に乗っていくときに止まった、エンジンかからないというわけにはいかない。何十人もスタッフが撮影所で待っているわけですから」

 

――今のソフテイルカスタムはサンダンスの柴崎さんによって、監督のこだわりが形になったということがよくわかりました。ありがとうございました!

電動キックボードは免許・ヘルメットなしでOK?「小型電動モビリティ」の法改正によるルールと可能性

コロナ禍を経て国内旅行に再脚光……まだ見ぬ日本の魅力を発見できそうな「どこかにマイル」

Withコロナがすっかり定着し、新しいライフスタイルが生まれゆくなか、さて、2022年下半期はどうなっていく……? これから流行る「ヒット確定モノ」を、各ジャンルのプロたちに断言してもらった。今回は、旅先がわからないワクワク感を味わえる!? JALの特典航空券「どこかにマイル」を紹介する。

※こちらは「GetNavi」2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【どこかにマイル】国内旅行に脚光が集まるいまこそ積極利用したい!

 

モノ知りインフルエンサー

トラベルライター

中島 亮さん

旅にまつわるエトセトラについて各種メディアに寄稿。ホンダの単気筒ばかり10台ほど乗り継いできた単車好き。

 

まだ見ぬ日本の魅力を発見するチャンスがある(中島)

【特典航空券】

2016年12月スタート

JAL

どこかにマイル

JALのマイルを国内線の特典航空券に交換するには、往復12000マイル以上が必要だが、これは半分の6000マイルでOK。行先はJALが提案する4つの候補地から決まり、旅先がわからないワクワク感も醍醐味だ。

 

(C) 日本航空

 

↑友人同士で同時に申込可能。出発・到着日時は4~6つの時間帯から選択でき、申込から3日以内に行先決定の通知がくる。HPに観光情報も掲載

 

ヒットアナリティクス

思いがけない場所へ新たな出会いに期待!!

実は、このサービスは5年以上前から実施されている。ただ、コロナ禍を経た現在、円安や燃油サーチャージの高騰などで国内旅行が見直されている現在こそ注目を集めている。まだ出会ったことのない風景や文化に触れるチャンスでもあり、利用者が増えると予想。

モータースポーツの歴史を彩った、懐かしの名車に会える! ホテルと融合した「富士モータースポーツミュージアム」

Withコロナがすっかり定着し、新しいライフスタイルが生まれゆくなか、さて、2022年下半期はどうなっていく……? これから流行る「ヒット確定モノ」を、各ジャンルのプロたちに断言してもらった。今回は憧れのレーシングカー約40台を展示するミュージアム「富士モータースポーツミュージアム」を紹介。

※こちらは「GetNavi」2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【富士モータースポーツミュージアム】情熱に彩られたモータースポーツの歴史を辿る

 

モノ知りインフルエンサー

トラベルライター

吉原 徹さん

ライター/編集者として、国内外の旅とアウトドアを主なテーマに活動。そろそろ海外取材にも行きたい!

 

世界のラリーや耐久レースで活躍した憧れのレーシングカーが揃い踏み(吉原)

【ミュージアム】

2022年10月オープン

富士モータースポーツミュージアム

同時開業のホテルと融合した空間に、世界のメーカーが手がけた歴代のレーシングカー約40台を展示。各時代を象徴する名車を鑑賞しながら、約130年にわたるモータースポーツの歴史に触れられる。

(住)静岡県駿東郡小山町大御神645

 

↑サーキットに隣接する「富士スピードウェイホテル」も同時開業。一部の客室からはレース観戦もできる

 

↑レーシングカーのほか、技術展示も予定。3階のカフェからは富士スピードウェイの最終コーナーを見られる

 

ヒットアナリティクス

クルマ好きの聖地となる一大リゾートへと進化中!

10月7日開業予定のミュージアムやホテルは、国際サーキット場の富士スピードウェイを中核とする「富士モータースポーツフォレスト」プロジェクトの一環。来年以降もレーシングチームガレージ、レストラン等の商業施設がオープン予定で、さらに注目が集まるだろう。

パイオニアの車載デバイス「NP1」の新機能「コエ替え」をいち早く体験!

パイオニアが今年3月発売したドライビングパートナー『NP1』の進化が止まりません。今年5月に実施された最初のアップデートではAmazonの音声アシスタント「Alexa」に対応して機能を大幅にアップし、それ以降も定期的にアップデートを繰り返しており、今後の進化にはいっそう期待がかかります。

 

そんな中、5月に続く大型アップデートとして、9月29日に好みの音声でアナウンスするようになる「コエ替え」を実現することが発表されました。コエ替えとは一体どんな機能なのか。提供される前に、テストバージョンを体験してきました。

↑パイオニアのドライビングパートナー『NP1』

 

声優「悠木碧」の生声によるサプライズメッセージも予定

NP1は、常に通信でつながることで、クラウド型ドライブレコーダーやスマート音声ナビ、Wi-Fiスポット機能といった多彩な機能を実現するAI搭載通信型のオールインワン車載器として登場しました。通信によるアップデート(OTA)が定期的に行えるようになり、使い勝手やサービスといった様々な領域で進化し続けられることが最大のポイントとなっています。

 

9月29日に実施されるアップデートでは、NP1のインターフェースである音声を好みで着せ替えられる「コエ替え」が可能となります。これはコエステーション(コエステ)と呼ばれるプラットフォームを採用することで実現可能となったもので、音声をAIが学習し、それをもとに電子合成音として生成することができます。その音声は高品質で自然なイントネーションを特徴としており、まさにNP1ならではのメリットを活かしたアップデートとなっているのです。

 

そのNP1が発する音声の選択肢として新たに追加されるのは、女性の「明るい声」と男性の「落ち着いた声」の2種類で、それ以外にアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』の鹿目まどか役などで知られる声優 悠木碧さんのコエ「かわいらしい声」「やさしい声」の全2種も追加されます。これにより9月29日以降からは、既存の音声にプラスして全6種類から好みのコエを選べるようになるのです。

↑9月29日にアップデートで「コエ」に採用された声優 悠木碧さん。アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』では鹿目まどか役

 

こうした機能を追加する理由についてパイオニアは、「スマホの画面を着せ替えるのと同じ感覚で音声を切り替えて使うというもので、アニメキャラ人気に伴って声優への関心が高まっていることを受けて実施することにした」とのこと。音声がインターフェースの基軸となっているNP1だけに、コエ替えで使い勝手にどんなメリットをもたらすかは大いに気になるところです。

 

さて、ここからは実際にコエ替えを体験してみます。NP1を活用するためのアプリ「My NP1」のアイコンをタップしてメインメニューを開くと、そこにはアップデートによって追加された「コエ替え」のアイコンがあるのでそこをタップ。次の画面では「コエ替え」に関する様々なメッセージや、設定中の声が表示されています。

↑「My NP1」のメインメニュー。左上に「コエ替え」のアイコンが新たに追加されている

 

設定できる音声は「いつものコエ」と「安心サポートのコエ」の2種類。今回は「いつものコエ」をデフォルトの音声から、新たに追加された音声を変更することにします。

↑「コエ替え」のメインメニュー。ここでは過去に配信された音声メッセージをチェックできる

 

「いつものコエ」として設定できる音声の一覧には、女性の「明るい声」と男性の「落ち着いた声」の2種類のほか、悠木碧さんのコエ「かわいらしい声」「やさしい声」の全2種も追加されています。各アイコンの“▶”ボタンを押すと、音声を確認することも可能です。そして、気に入った音声を選んだらこれで設定は終了です。NP1を動作させると設定し直した音声に切り替わってました。

↑“いつものコエ”として選択できるリスト画面。今後、この種類は増えていく予定になっている

 

この音声はドライブの途中で切り替えることも可能で、その時に気分に合わせて違った音声でNP1を楽しむのもいいですね。パイオニアでは今後もこの音声を追加していくとしており、その中には俳優など別のカテゴリーの著名人を起用することも検討しているそうです。また、個人的にお付き合いしている人とか、子どもの声とかに切り替えることはできないかパイオニアに訊ねてみたところ、「技術的には可能なので、今後の検討課題にしたい」と話していました。

 

ドライブはどうしても単調になりがちです。それが長く続けば飽きてしまうどころか、場合によっては眠気が襲ってくることさえあります。“コエ替え”という、ちょっと違いを演出することで、それが刺激となってくれるはず。コエ替えには、そんないつもと違うドライブが楽しめるようになる非日常が体験できるのです。

↑今までの「コエ」に、より自然な「コエ」が追加され、好みに合わせて6種類から選べるようになります

 

↑「コエ替え」は、スマホを介して車外の人とリアルタイムで情報共有ができる「ドライブコール」にも反映される

 

今回のアップデートでは、これとは別に9月29日から2023年1月1日までの期間で、悠木碧さんのコエを選んでいるときは本人からのメッセージが週1回、生声を録音したサプライズメッセージが3回届けられる予定。こうしたサプライズを随時楽しめるのもNP1ならではの世界です。そんなNP1が今後どう進化していくのか、とても楽しみになりました。

↑ドライブ中でも「コエ替え」は簡単に行えるので、気分に応じた音声で楽しめるのも良い点

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

 

“安心感”を追求した「バランスアシストシステム」搭載! 電動マイクロモビリティ「ストリーモ」

Withコロナがすっかり定着し、新しいライフスタイルが生まれゆくなか、さて、2022年下半期はどうなっていく……? これから流行る「ヒット確定モノ」を、各ジャンルのプロたちに断言してもらった。今回はホンダ発ベンチャーから誕生した、電動マイクロモビリティ「ストリーモ」を紹介。

※こちらは「GetNavi」2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【ストリーモ】“安心感”を追求した電動マイクロモビリティの新機軸

 

モノ知りインフルエンサー

本誌乗り物担当

上岡 篤

クルマだけでなく鉄道や飛行機(旅客機)好き。久しぶりに運航するANAのホノルル線、A380に乗りたい!

 

乗り物の大前提となる“安心感”に真正面から取り組んだ意欲作(上岡)

【電動マイクロモビリティ】

2022年6月発売(一次抽選販売受付開始)

ストリーモ

Striemo Japan Launch Edition限定モデル

26万円

独自開発した「バランスアシストシステム」の搭載により、極低速から快適な速度までいずれの速度域でも安定した走行を実現。“安心感”を追求することで乗り物としての楽しさを感じられる次世代型電動モビリティだ。

 

↑前輪1輪+後輪2輪の3輪構成も安定感を支える要因。段差や傾斜のある路面でもふらつかず、バランスを崩す不安がないのが魅力だ

 

↑重量は約20kg、W480×H1180×L1090mmで持ち運びできる折りたたみ式。約3時間30分のフル充電で30km(郊外実測値)走行できる(※スペックはプロトタイプのため製品版では変更になる可能性あり)

 

ヒットアナリティクス

ホンダ発のベンチャーで信頼度はとても高い

電動キックボードは都市部で利用する人が増えましたが、これまで“このメーカーって大丈夫?”という場合もチラホラ。ストリーモはホンダの社内起業制度「IGNITION」からスタートアップした企業の製品で、製品の信頼度は高い。3輪にしたのも安全面から見て正解。

懐かしい? 新鮮? 世界で愛された名車を現代風にアレンジ……ホンダ「ダックス125」

Withコロナがすっかり定着し、新しいライフスタイルが生まれゆくなか、さて、2022年下半期はどうなっていく……? これから流行る「ヒット確定モノ」を、各ジャンルのプロたちに断言してもらった。今回は、9月22日に発売予定のレジャーバイク「ダックス125」を紹介。

※こちらは「GetNavi」2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【ダックス125】レトロモダンスタイルが時代にマッチ

 

モノ知りインフルエンサー

トラベルライター

中島 亮さん

旅にまつわるエトセトラについて各種メディアに寄稿。ホンダの単気筒ばかり10台ほど乗り継いできた単車好き。

 

世界で愛された名車が時を経て令和に復活(中島)

【レジャーバイク】

2022年9月発売予定

ホンダ

ダックス125

44万円

1969年にデビューして一世を風靡した、ホンダ ダックスを現代風にアレンジ。モンキー125、スーパーカブC125、CT125・ハンターカブと、立て続けにヒットを連発している原付二種レジャーバイクの真打として注目されている。タンデムOKというのもポイント。

 

↑空冷単気筒エンジンに、4速トランスミッションを組み合わせる。クラッチ操作は不要で初心者も安心

 

↑視認性に優れた液晶タイプのメーター。ヘッドライトと同じ、クロムメッキのモールでデザインの統一感を出している

 

ヒットアナリティクス

オヤジには懐かしく若者には新鮮なデザイン

維持費が安く、原付(50cc以下)のような法的制限を受けず、取り回しがラクで、パワーは必要十分。125ccの原付二種は最強のシティコミューターだ。デザイン面の評価はもちろん、再構築するにあたって最新技術を駆使。発売開始後は、納車まで数か月待ちとなるだろう。

映画やアニメの登場人物になった気分で名シーンを堪能できる世界観再現テーマパーク

2022年下半期に開業する話題必至のテーマパークや、注目度の高いアトラクションをまとめて紹介。いずれも多彩な空間演出により、いつまでも色褪せない名作の世界を体感できる。心に残る名シーンが蘇るはず!

※こちらは「GetNavi」 2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

モノ知りインフルエンサー

トラベルライター

加藤 愛さん

旅の編集・ライター歴19年。地酒や温泉を求め全国各地を訪れる。テーマパーク取材後は万歩計チェックが毎度の楽しみ。

 

誰もが知る作品を再現したアトラクションが続々誕生

人気の映画やアニメの世界を再現した施設が、今秋から2023年にかけて続々とオープンする。ジブリパークや東京ディズニーシー「ファンタジースプリングス」は長年開業を待ちわびているファンも多く、最新情報が出るたび話題の的に。どの施設も、作品世界への没入感が注目ポイントだ。

「物語に登場する建物や街並みの忠実な再現だったり、代表的なシーンを圧倒的なスケールの映像演出で体感できるアトラクションだったり、表現方法はそれぞれ異なりますが、どの施設にも妥協を許さないこだわりを感じます。ファンはもちろん作品を観ていない人でも楽しめるはず!」(加藤さん)

日常から離れた別世界を体験できる場所として、幅広い層の人気を集めることになりそうだ。

 

ヒットアナリティックス

数年に一度の大規模なプロジェクトで話題性十分

ジブリパーク、東京ディズニーシー「ファンタジースプリングス」はプロジェクトの規模が大きく、開業時には多くのメディアに取り上げられる。作品の根強いファンに加え、トレンドに敏感な層やファミリー層など、老若男女の注目を浴びてヒットすること間違いなし。

 

【その1】 史上に残る名作が現実世界に!第1期は3エリアが開園

(C) Studio Ghibli

【公園施設】

2022年11月オープン

ジブリパーク

入場料平日2000円、土日祝2500円(ジブリの大倉庫)、1000円(青春の丘、どんどこ森)

「愛・地球博記念公園」内に誕生する、スタジオジブリの世界を表現した公園施設。全5エリアで構成され、11月1日には「ジブリの大倉庫」をはじめとした3エリアがオープン。大きなアトラクションや乗り物はなく、自分の足で歩きながら作品の世界観を体験できるのが特徴だ。日時指定かつエリアごとに予約が必要なので要注意。

(住) 愛知県長久手市茨ケ廻間乙1533-1 愛・地球博記念公園内

 

【2022年オープンエリア】

ジブリの大倉庫

常設・映像展示室をはじめ、ジブリの秘密が詰まった大倉庫。イラストの「ネコバスルーム」では、子どもたちが「となりのトトロ」の世界に入って遊べる。

 

青春の丘

平成初期の住宅街をイメージ。丘の上には「耳をすませば」に登場する「地球屋」が。「猫の恩返し」の「猫の事務所」も“猫サイズ”で再現。

 

どんどこ森

「サツキとメイの家」に入って「となりのトトロ」の世界へ。裏山には散策路が整備され、キャラクターを模した木製遊具「どんどこ堂」もある(子どものみ利用可)。

 

【ココに没入!】 作品の世界を表現した建物の数々に圧倒される!

宮崎吾朗さんが制作現場を指揮した、スタジオジブリの最新作ともいえる公園施設。作品の世界を大切にしながら表現された建物は、ジブリファンなら必ず圧倒される!

 

 

【その2】 模型など制作資料の展示でジブリパークの秘密を公開

【展覧会】

開催中〜2023年9月24日

ジブリパークの全容がわかる!!

ジブリパークとジブリ展

観覧料1500円

ジブリパークがどのように生み出されたのか、宮崎吾朗さんによる数々の制作資料を公開し、展示内容の一部を紹介する特別展。長野県からスタートし、愛知・熊本・兵庫・山口県の会場を巡回する。大人も乗れる特別な「ネコバス」をくぐり抜けて会場へ。

 

↑ジブリパーク「ジブリの大倉庫」に登場する「にせの館長室」の制作イメージ図
(C) Studio Ghibli

 

【その3】 3つのディズニー映画を再現し新開発のアトラクションも期待大!

(C) Disney

【テーマポート】

2023年度開業予定

東京ディズニーシー(R)

ファンタジースプリングス

1デーパスポート7900〜9400円

「アナと雪の女王」「塔の上のラプンツェル」「ピーター・パン」を題材とした3つのエリアとディズニーホテルで構成される、東京ディズニーシー8番目のテーマポート。アナとエルサのアレンデール王国や、ラプンツェルの塔やネバーランドの海賊船などが表現され、各エリアのアトラクションやレストランも含めてゲストを物語の世界へと誘う。

 

↑総開発面積は東京ディズニーシーのなかで最大となる約14万m2

 

↑入口でゲストを迎える泉。日中の眺めはもちろん、幻想的な夜の風景にも期待が高まる

 

↑ネバーランドを冒険できる「ピーター・パン」エリア。レストランと2つのアトラクションを用意する

 

【ココに没入!】 日本オリジナルのアトラクションで映画の世界を再現

“魔法の泉が導くディズニーファンタジーの世界”をテーマに、4つのアトラクションやホテルなどを新たに開発。「塔の上のラプンツェル」エリアでは、映画のクライマックスシーンが圧倒的なスケールで展開される。

 

【その4】 “呪力”を全身で体感!人気アニメの世界に浸る

画像提供:ユニバーサル・スタジオ・ジャパン (C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

【アトラクション】

2022年9月〜期間限定

テレビアニメ「呪術廻戦」×ユニバーサル・スタジオ・ジャパン

1デイ・スタジオ・パス8400円〜

大人気TVアニメ「呪術廻戦」がユニバーサル・スタジオ・ジャパンに初登場。人間の負の感情が呪いとなってはびこる世界で呪霊に立ち向かう主人公・虎杖悠仁たちの戦いを、卓越したスケールとクオリティで新アトラクションとして再現する。子どもから大人まで楽しめる多彩なプログラムも登場し、作品の奥深い世界を体感できる。

 

【ココに没入!】 段違いの臨場感とクオリティで作品の魅力を体感

TVアニメ「呪術廻戦」と初コラボ。目前で繰り広げられる虎杖たちと呪霊の壮絶な戦いの世界を、圧倒的な臨場感で再現。人気キャラクターのみなぎる“呪力”を全身で感じながら「呪術廻戦」の世界に入り込める。

先進技術を搭載しつつ日常使いも重視! 日産の軽EV「SAKURA」

Withコロナがすっかり定着し、新しいライフスタイルが生まれゆくなか、さて、2022年下半期はどうなっていく……? これから流行る「ヒット確定モノ」を、各ジャンルのプロたちに断言してもらった。今回は6月に発売した日産の軽EV「SAKURA」を紹介する。

※こちらは「GetNavi」2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【SAKURA】先進技術を搭載しつつ、日常使いも重視した注目の軽EV

 

モノ知りインフルエンサー

本誌乗り物担当

上岡 篤

クルマだけでなく鉄道や飛行機(旅客機)好き。久しぶりに運航するANAのホノルル線、A380に乗りたい!

 

セカンドカーのニーズを取り込み早くも2万台の受注を突破(上岡)

【軽EV】

2022年6月発売

日産

SAKURA

239万9100円~294万300円

日産が開発し三菱が生産する同車は先進的な内外装を備え、最新世代のEVであることを強調。180kmという航続距離は、軽ユーザーの半数以上の走行距離が1日30km以下という調査も含めて決定したという。ガソリン車からの買い替えに加えて“2台目需要”にも応える。

 

↑先進安全装備も充実。自動的に車間を維持し、ハンドル操作も支援する「プロパイロット」を「G」に標準装備する

 

↑内外装には和モダンといえる要素も採用。日本伝統の水引からインスピレーションを受けたアルミホイールの意匠もそのひとつだ

 

↑9インチのナビモニター、7インチのメーターディスプレイを水平配置することで、先進性を強調。「G」にはカッパー加飾を備える

 

ヒットアナリティクス

期待が高い軽への導入で受注数は想定以上に

EVはこれまで航続距離アップが各社の狙いだったが、SAKURAは軽自動車規格ならではの航続距離に割り切ったことがプラスに。補助金を加味すれば「EVってこんな価格で買えるの?」という割安感も大きな魅力だ。都市部だけではなく地方でも普及する要素は大!

「呪術廻戦」の世界をユニバーサル・スタジオ・ジャパンで期間限定で体験

2022年下半期に開業する話題必至のテーマパークや、注目度の高いアトラクションをまとめて紹介。いずれも多彩な空間演出により、いつまでも色褪せない名作の世界を体感できる。心に残る名シーンが蘇るはず!

※こちらは「GetNavi」 2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

“呪力”を全身で体感!人気アニメの世界に浸る

画像提供:ユニバーサル・スタジオ・ジャパン (C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

【アトラクション】

2022年9月〜期間限定

テレビアニメ「呪術廻戦」×ユニバーサル・スタジオ・ジャパン

1デイ・スタジオ・パス8400円〜

大人気TVアニメ「呪術廻戦」がユニバーサル・スタジオ・ジャパンに初登場。人間の負の感情が呪いとなってはびこる世界で呪霊に立ち向かう主人公・虎杖悠仁たちの戦いを、卓越したスケールとクオリティで新アトラクションとして再現する。子どもから大人まで楽しめる多彩なプログラムも登場し、作品の奥深い世界を体感できる。

 

【ココに没入!】 段違いの臨場感とクオリティで作品の魅力を体感

TVアニメ「呪術廻戦」と初コラボ。目前で繰り広げられる虎杖たちと呪霊の壮絶な戦いの世界を、圧倒的な臨場感で再現。人気キャラクターのみなぎる“呪力”を全身で感じながら「呪術廻戦」の世界に入り込める。

 

モノ知りインフルエンサー

トラベルライター

加藤 愛さん

旅の編集・ライター歴19年。地酒や温泉を求め全国各地を訪れる。テーマパーク取材後は万歩計チェックが毎度の楽しみ。

輸入車としてはお得ですこと! ルノー「ルーテシア E-TECH ハイブリッド」

ルノーがハイブリッドに本気だ。ハイブリッド王国ともいえる日本でこれまで輸入車がフルハイブリッドを販売してこなかったなか、2022年になると、アルカナを市場投入し、続けてルーテシア、キャプチャーと発売。提携関係にある日産の「e-POWER」とも異なる、独自のハイブリッドシステム「E-TECH(Eテック)」とはどんなシステムか、ルノーの勝算とは?

 

【今回紹介するクルマ】

ルノー/ルーテシア

※試乗グレード:E-TECH ハイブリッド

価格:266万9000円~344万円(税込)

 

ハイブリッド王国日本への挑戦!?

ガソリン価格が高騰している。執筆時点ではピーク時よりやや下がっているが、政府は石油元売り各社に、リッターあたり40円もの補助金を出して価格を抑えている。つまり補助金がなければ、レギュラーでリッター200円を超えているのだ!

 

ここまでガソリンが高くなると、やっぱり燃費のいいクルマに乗りたくなりませんか? EVならガソリンとは無縁だけど、値段が高いし、補助金の予算が尽きそうだし、充電が心配だし、まだちょっと早い気がする。結局、大本命はハイブリッドってことになる。

 

日本はハイブリッド王国だ。国産各メーカーは、こぞってハイブリッド技術を競っている。これほどまでにハイブリッドカーが普及している国はない。実際のところ、ハイブリッドカーの燃費は感動的だ。「ヤリスハイブリッド」なんて、ヘタすりゃ40km/Lを叩き出す。ほとんどスーパーカブじゃないか!

 

対する海外メーカーは、ハイブリッドを飛ばしてEV化を進めている。ハイブリッド技術では日本車に勝てっこないと踏んでの、政治的な思惑もあるだろう。これまで登場した輸入ハイブリッドカーは、どれもこれも中途半端なマイルドハイブリッドで、値段が高いわりに、燃費の向上をほとんど実感できなかった。ハイブリッドカーを買うなら日本車に限る! それはもうクルマ業界における絶対前提。輸入車で低燃費を狙うなら、ディーゼルターボ一択だった。

 

そんななかルノーは、今頃になって、輸入車初のガソリンフルハイブリッドを開発したのだから驚くじゃないか。正直、半信半疑だった。EV化に突き進んでいる欧州のメーカーが、なぜいまさらフルハイブリッドを出したのか? 日本のハイブリッドに敵うとでも思ってるのか? ルノーは狂ったのか!?

 

乗り味では日本製ハイブリッドを上回っている部分もある

ルノーは狂ってなかった。それどころか本気だった。ルノーが「いまさら」開発した「E-TECHハイブリッド」は、燃費で日本製ハイブリッドに迫りつつ、乗り味では日本製ハイブリッドを上回っている部分もあったのだ! これには本当に驚いた。

 

ルノーのハイブリッドは、まずSUVの「アルカナ」に搭載されて登場し、続いて「ルーテシア」にも採用された。アルカナはどこか不思議なプロポーションをしたSUVで、ルックスにはあまり惹かれなかったけれど、ルーテシアはいかにもフランス車的な、スタイリッシュなコンパクトハッチバック。価格も手頃で、ガソリンモデルも十分魅力的だったけれど、ハイブリッドはもっとよかった!

 

ルーテシアのサイズは、トヨタ「アクア」や日産「ノート」とほぼ同じ。つまりルーテシアハイブリッドは、国産ハイブリッド勢の本丸とガチでぶつかるわけで、比較のし甲斐がある。では、ルーテシアハイブリッドの何がいいのか? 一言でいえば、走りのダイレクト感があるってことだ。

↑クーペのようなフォルムを実現

 

たとえばトヨタのハイブリッドシステムは、究極の効率を目指した結果、エンジンとモーターが混然一体となり、無段変速でヌエ的に加減速するので、ダイレクト感が全然ない。ところがルノーのEテックハイブリッドは、エンジン側に4段のギア、モーター側に2段のギアを持ち、それらを組み合わせて変速しつつ走る。ギアチェンジは、100%ダイレクトな「ドッグクラッチ」を使っているので、アクセルと車輪は常に直結されており、トヨタのハイブリッドのような「モワ~」と滑るフィーリングがない。

↑シフトをBモードに入れると強力な回生ブレーキが発生し、クリーピング速度まで事実上のワンペダルドライブが可能となる

 

効率では、さすがにトヨタのハイブリッドシステムには及ばない。アクアが30km/L近く走るところを、ルーテシアハイブリッドは20km/L強というところだ。加えてルーテシアハイブリッドは、輸入車なのでハイオク指定。純粋にガソリン代を比べれば、アクア対ルーテシアハイブリッドの勝負は、アクアの完勝である。

 

ただ、高速道路の巡航に関しては、この勝負、きわめて僅差になる。高速道路を一定速度で走る場合、通常のガソリンエンジンやディーゼルエンジンでもかなりの低燃費で走れるので、ハイブリッドのアドバンテージは小さくなり、逆にダイレクト感のなさが「運転していてつまらない」と思わせる。

 

ところがE-TECH ハイブリッドは、常に直結なので、普通のガソリン車のようにダイレクトに走ってくれる。そこからアクセルを踏み込むと、パワフルなモーターが加速を強力にアシスト。結果、ガソリン車よりも燃費がいいのはもちろん、アクアにも肉薄。ノートを上回るのだ!

↑メインモーターであるE-モーターとHSG(ハイボルテージスターター&ジェネレーター)という2基のエレクトリックモーターと、1.6L 4気筒自然吸気エンジンで構成

 

ノートに積まれる日産のハイブリッドシステム「e-POWER」は、エンジンを発電機役に専念させ、モーターの加速のみで走るから、ダイレクト感は100%。つまり一般道での加減速に関しては、「E-TECH ハイブリッド」よりもさらにダイレクトで楽しいのだが、これまた高速巡行を苦手としている。モーターにギアがないため、高速域ではモーターが過回転気味になり、摩擦抵抗が増大。徐々に元気がなくなり、燃費も悪化してしまう。

 

つまりE-TECH ハイブリッドは、ハイスピードでの高速巡行が多いヨーロッパ向けに開発された、地消地産型ハイブリッドシステムだったのだ!

 

ルーテシアハイブリッドは、一般道では国産ハイブリッドとそれほど遜色ない低燃費で走りつつ、ダイレクト感はトヨタ製ハイブリッドより上。高速巡行では完全にリードする。日本でも、ロングドライブの多いユーザーにはうってつけだ。

 

加えて、見た目もインテリアも、さすがおフランス車。サイズがデカくなる一方の輸入車ながら、ルーテシアの全幅は1725mmで、アクアよりは広いけどノートオーラよりちょっと狭く、取り回しがラクチン。室内の広さもごく普通に実用的だ。これで329万円からというお値段は、国産車よりは高いけど、輸入車としてはかなりお安いのではないだろうか!

↑フランス人が日常使いの心地良さを大切にして作ったという室内空間。いたってシンプルだ

 

↑前席には寒い冬に体を温めてくれるシートヒーター機能付き。ヘッドレストは、後方からの視界に配慮した薄型のデザインを採用

 

SPEC【E-TECH ハイブリッド】●全長×全幅×全高:4075×1725×1470㎜●車両重量:1310㎏●パワーユニット:1597㏄直列4気筒エンジン+電気モーター●エンジン最高出力:91PS/5600rpm●エンジン最大トルク:144Nm/3200rpm●メインモーター最高出力:49PS/1677-6000rpm●メインモーター最大トルク:205N・m/200-1677rpm●サブモーター最高出力:20PS/2865-1万rpm●サブモーター最大トルク:50N・m/200-2865rpm●WLTCモード燃費:25.2㎞/L

 

撮影/茂呂幸正

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

3つのディズニー映画を再現! 「東京ディズニーシー(R)」新アトラクションにも期待大!

2022年下半期に開業する話題必至のテーマパークや、注目度の高いアトラクションをまとめて紹介。いずれも多彩な空間演出により、いつまでも色褪せない名作の世界を体感できる。心に残る名シーンが蘇るはず!

※こちらは「GetNavi」 2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

3つのディズニー映画を再現し新開発のアトラクションも期待大!

(C) Disney

【テーマポート】

2023年度開業予定

東京ディズニーシー(R)

ファンタジースプリングス

1デーパスポート7900〜9400円

「アナと雪の女王」「塔の上のラプンツェル」「ピーター・パン」を題材とした3つのエリアとディズニーホテルで構成される、東京ディズニーシー8番目のテーマポート。アナとエルサのアレンデール王国や、ラプンツェルの塔やネバーランドの海賊船などが表現され、各エリアのアトラクションやレストランも含めてゲストを物語の世界へと誘う。

 

↑総開発面積は東京ディズニーシーのなかで最大となる約14万m2

 

↑入口でゲストを迎える泉。日中の眺めはもちろん、幻想的な夜の風景にも期待が高まる

 

↑ネバーランドを冒険できる「ピーター・パン」エリア。レストランと2つのアトラクションを用意する

 

【ココに没入!】 日本オリジナルのアトラクションで映画の世界を再現

“魔法の泉が導くディズニーファンタジーの世界”をテーマに、4つのアトラクションやホテルなどを新たに開発。「塔の上のラプンツェル」エリアでは、映画のクライマックスシーンが圧倒的なスケールで展開される。

 

モノ知りインフルエンサー

トラベルライター

加藤 愛さん

旅の編集・ライター歴19年。地酒や温泉を求め全国各地を訪れる。テーマパーク取材後は万歩計チェックが毎度の楽しみ。

史上に残る名作が現実世界に!「ジブリパーク」第1期は3エリアが開園

2022年下半期に開業する話題必至のテーマパークや、注目度の高いアトラクションをまとめて紹介。いずれも多彩な空間演出により、いつまでも色褪せない名作の世界を体感できる。心に残る名シーンが蘇るはず!

※こちらは「GetNavi」 2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

史上に残る名作が現実世界に!第1期は3エリアが開園

(C) Studio Ghibli

【公園施設】

2022年11月オープン

ジブリパーク

入場料平日2000円、土日祝2500円(ジブリの大倉庫)、1000円(青春の丘、どんどこ森)

「愛・地球博記念公園」内に誕生する、スタジオジブリの世界を表現した公園施設。全5エリアで構成され、11月1日には「ジブリの大倉庫」をはじめとした3エリアがオープン。大きなアトラクションや乗り物はなく、自分の足で歩きながら作品の世界観を体験できるのが特徴だ。日時指定かつエリアごとに予約が必要なので要注意。

(住) 愛知県長久手市茨ケ廻間乙1533-1 愛・地球博記念公園内

 

【2022年オープンエリア】

ジブリの大倉庫

常設・映像展示室をはじめ、ジブリの秘密が詰まった大倉庫。イラストの「ネコバスルーム」では、子どもたちが「となりのトトロ」の世界に入って遊べる。

 

青春の丘

平成初期の住宅街をイメージ。丘の上には「耳をすませば」に登場する「地球屋」が。「猫の恩返し」の「猫の事務所」も“猫サイズ”で再現。

 

どんどこ森

「サツキとメイの家」に入って「となりのトトロ」の世界へ。裏山には散策路が整備され、キャラクターを模した木製遊具「どんどこ堂」もある(子どものみ利用可)。

 

【ココに没入!】 作品の世界を表現した建物の数々に圧倒される!

宮崎吾朗さんが制作現場を指揮した、スタジオジブリの最新作ともいえる公園施設。作品の世界を大切にしながら表現された建物は、ジブリファンなら必ず圧倒される!

 

 

ジブリパークの全容がわかる!!

模型など制作資料の展示でジブリパークの秘密を公開

【展覧会】

開催中〜2023年9月24日

ジブリパークとジブリ展

観覧料1500円

ジブリパークがどのように生み出されたのか、宮崎吾朗さんによる数々の制作資料を公開し、展示内容の一部を紹介する特別展。長野県からスタートし、愛知・熊本・兵庫・山口県の会場を巡回する。大人も乗れる特別な「ネコバス」をくぐり抜けて会場へ。

 

↑ジブリパーク「ジブリの大倉庫」に登場する「にせの館長室」の制作イメージ図
(C) Studio Ghibli

 

モノ知りインフルエンサー

トラベルライター

加藤 愛さん

旅の編集・ライター歴19年。地酒や温泉を求め全国各地を訪れる。テーマパーク取材後は万歩計チェックが毎度の楽しみ

ホンダ新型「ステップワゴン」、最大の魅力は時代に異を唱えるシンプルデザイン

ミニバンブームが終焉したといわれるなか、2Lクラスのミドルサイズミニバンの間では、いまだに熾烈な争いが続いている。かつてのようなカクカク系シンプルデザインを取り戻した新型「ステップワゴン」のクルマとしての実力はどれだけ向上しているのか、ハイブリッドモデルについてレポートしていこう。

 

【今回紹介するクルマ】

ホンダ/ステップワゴン

※試乗グレード:e:HEV スパーダ プレミアムライン

価格:299万8600円~384万6700円(税込)

 

ユーザーの心を掴んだ新型ステップワゴン

ステップワゴンといえば、新型で6代目となる、日本における老舗的存在のミニバンだ。1996年に初代モデルがヒットして以来、ミニバンブームを牽引する存在だったが、ここ10年ほどは、トヨタ「ノア/ヴォクシー」や日産「セレナ」に対して、販売面で苦戦していた。

 

「フリード」や「シエンタ」などのコンパクトライン、「アルファード」や「オデッセイ」などのプレミアムラインの間に挟まる形で、2Lクラスのミドルラインは、日本のミニバンの王道ともいえる。そして、このカテゴリーの覇権を握るべく、日本を代表する3大メーカーが、それぞれ製品の実力を磨き続け、切磋琢磨してきたわけだ。

 

そんな状況下で、2021年末から早めにスタイリングを(ティザー広告で)公開して、ユーザーの心を掴んだのが新型ステップワゴンである。2022年5月に発売されると、発売から約1ヶ月での初期受注台数は2万7000台。これは、先代型(2015年)の約1万5000台、先々代型(2009年)の約1万8000台を超える数字となった。

 

まず新型のスタイリングが公開されて、最初に目についたのは、初代、2代目モデルのような角張ったデザインへの回帰であった。現在、流行りのツリ目でもなく、ギラギラ光る大型グリルのオラオラ顔でもない。まるで白物家電のような、シンプルで飽きのこないルックスは、見た人にクリーンな印象を与える、現在のミニバンにおいて白眉の出来だ。

↑先代ではボディ全長が4690mmだったのに対し、4800~4830mmにまで拡大。全幅も拡大しており、全車が3ナンバーになった

 

リアもコンビランプを細く縦型にするなど、このあたりも初代モデルへの回帰といえる。シンプルで親しみやすいという意味でいえば、コンパクトカーの「フィット」にも通じる雰囲気もあり、デザインの捉え方は人によって様々だが、筆者は心地よささえ感じられた。

 

また、このシンプル系デザインも、グレードによって二種類のスタイルに分類される。まずは新グレード「AIR(エアー)」。よりシンプルさが強調されていて、無印良品のようなデザインが好きな人におすすめだ。一方、「SPADA(スパーダ)」は、2代目モデルから受け継ぐ、ある意味、ステップワゴンにとっては伝統になりつつあるグレード。メッキパーツなどを施したチョイ悪な雰囲気と豪華な装備を特徴としている。

↑スパーダのフロントフェイス。ダーククロームに仕上げたシャープなメッキパーツによって、上質でありながら品格ある佇まいだ

 

インテリアもクリーンな印象のデザインにまとめられているが、ダッシュボード上にファブリック素材が使われている。ただそれがしつこくない程度にうまく配置され、スッキリした印象。ドライブ中、視界のなかにこの素材が見えているとなんだか心地いいから不思議である。スッキリ派の人にとっては、最近の他のホンダ車と同じくドライブスイッチが採用されて、シフトノブが存在しないことも好ましいに違いない。

↑室内はブラックを基調に仕上げられている。リビングのような柔らかく落ち着いた雰囲気

 

↑「P」「R」「N」「D」と独立した押しボタン式のシフトセレクター。マットな質感の樹脂パーツも室内に落ち着きをもたらしている

 

↑ダッシュボード上にスエード調の表皮。ココも落ち着いた雰囲気を演出するポイントなのでしょう

 

なんてったって燃費がいいことが嬉しい!

パワーユニットは、2Lエンジンベースのハイブリッドと1.5Lガソリンターボモデルの2種類から選ぶことができる。今回試乗させてもらったのはハイブリッドモデルで、ホンダ独自の2モーターを用いた「e:HEV」ハイブリッドシステムが搭載されている。ガソリンにモーターのアシストが加わるので、低回転域から力強く加速してくれて不足感がない。重心が高いミニバンにしてはコーナーでも安定しているし、なんと言っても燃費がいいことが嬉しい。

 

↑パワーユニットは最高出力145PSの2リッター直4エンジンに同184PSの駆動用モーターを組み合わせた「e:HEV」

 

ミニバンならではのポイントである3列目シートはどうかというと、従来型より着座位置が高く設定されているため、視界がよく、3列目着座時の閉塞感があまり感じられない。シート自体も厚めのクッションで座り心地も悪くない。とはいえ、3列目シートは常時使用しないユーザーがほとんどであるため、収納方法が重要となるが、これもまた優秀。背もたれを前方に倒せばそのまま2アクションで床下収納できる容易さを備えている。

↑3列目シート格納時荷室幅、約1195mm

 

前述のように「3列目シートは1年に数回しか使わない」ユーザーが多くなっていることから、重要視されるのが2列目シート。新型では、780mmの前後ロングスライドに加えて、左右にもスライドできるキャンプテンシートをラインナップ。2列目に座る家族の快適性が高まるというのは、ミニバンを選ぶファミリー志向のユーザーにとって嬉しいことである。

↑座面などメイン部に「ファブテクト」、サイド部に「プライムスムース」を用いたコンビシートを採用。このプライムムースは、しっとりとした質感を持つ合皮で、汚れやシワに強い機能性の高さが魅力だ

 

なお、先代型で目玉装備だった「わくわくゲート(左右上下2方向開きのバックドア)」は残念ながら廃止されてしまった。これがあるから先代型ステップワゴンを選んだという人もいるだろうが、コストなどさまざまな問題があったのだろう。その分、というわけではないが、パワーテールゲートはメモリー機能付きで、開度(開く角度)を任意に調節できるようになった。開けた時に指定した位置で止めることができるので、自宅駐車場のサイズや形状に合わせた開け方できる。

↑パワーテールゲート。開閉操作はスマートキーまたはテールゲートのスイッチから

 

ミニバンとしての使い勝手や広さに関してはどのクルマも横並びになり、ミニバンとしての強烈な魅力は発揮しにくくなったなか、新型ステップワゴン最大の魅力は時代に異を唱えるシンプルデザインだった。ステップワゴン発売の数か月前に新型ノア/ヴォクシーが発売され、今年度内には新型セレナの登場も噂される。自分のライフスタイルに最も合うデザインはどれか、競合車と比較して選び出したい。

 

SPEC【e:HEV スパーダ プレミアムライン】●全長×全幅×全高:4830×1750×1845㎜●車両重量:1840㎏●パワーユニット:1993㏄直列4気筒エンジン●最高出力:145PS/6200rpm●最大トルク:175Nm/3500rpm●WLTCモード燃費:19.5㎞/L

 

撮影/茂呂幸正 文/安藤修也

 

 

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アドベンチャー気分を満喫!「青梅線」ワイルドな旅〈後編〉

おもしろローカル線の旅95〜〜JR東日本・青梅線(東京都)その2〜〜

 

先週に引き続き青梅線の旅をご紹介。今回は青梅駅から終点の奥多摩駅を目指して旅を続けたい。「東京アドベンチャーライン」という愛称を持つ青梅駅〜奥多摩駅間は、全線が多摩川沿いで、自然に囲まれて走る。山景色、渓谷美とともにアウトドアレジャーも楽しめるワイルドな路線だ。

*取材は2019(令和元)9月〜2022(令和4)年7月10日に行いました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
意外に知らない「青梅線」10の謎解きの旅〈前編〉

 

【青梅線はワイルド①】レトロな青梅駅の雰囲気を楽しみつつ

路線距離37.2kmの青梅線のちょうど中間にあるのが青梅駅。今週は残り18.7kmの青梅駅〜奥多摩駅間を中心に紹介したい。

 

青梅線を敷設した青梅鉄道(後に青梅電気鉄道と改称)の元本社ビルがある青梅駅。同駅は17年前に「レトロステーション」としてリニューアルした。駅の案内や待合室など、レトロな造りがアクセントとなっている。

 

この青梅駅までは、立川駅もしくは中央線からの乗り入れ電車があるが、奥多摩駅方面へは青梅駅での乗換えが一般的となる。なお平日朝は立川駅〜奥多摩駅間を、また週末には東京駅や新宿駅と奥多摩駅を結ぶ上り下り「ホリデー快速おくたま」が本数は少なめながらも運行されている。

 

青梅駅は1・2番線ホームがあり、立川駅方面から到着する電車のちょうど向かい側ホームから奥多摩駅行きの電車が発車する(2番線ホームからの発車が多い)。奥多摩駅行き電車の発車まで時間があるようならば、駅地下道の映画看板をじっくり見て、レトロな待合室で時間を過ごすのもいいだろう。

↑98年前に建てられた青梅駅の駅舎。ホームの待合室は「待合室」の文字が右から書かれレトロな雰囲気(右上)

 

青梅駅から奥多摩駅方面行き電車の時刻は平日と週末でかなり異なっている。平日は1時間に1〜2本の列車本数。一方、週末は本数が増え、朝6〜8時台は1時間に3〜4本で、日中は約30分おきに発車する。その一方で15時以降は列車の間隔がやや空くようになる。ハイキング客やレジャー客に合わせたダイヤ設定なのである。

 

ちなみに、奥多摩駅発の電車は平日が1時間に1〜2本で、週末は6時台と15・16時台が1時間に3本と列車の運行が増える。増える列車の一部が快速電車で、そのうち「ホリデー快速おくたま」は奥多摩駅〜青梅駅間の停車駅が、御嶽駅のみになるので注意したい。

 

【青梅線はワイルド②】青梅丘陵の自然林を見ながら宮ノ平駅へ

青梅駅から青梅線の旅を始めよう。青梅駅を発車すると間もなく北側、進行方向右手に丘陵地帯が連なり、電車は樹林を眺めて走るようになる。この丘陵は青梅丘陵と呼ばれ、先週取り上げた青梅鉄道公園から先、尾根をたどるようにハイキングロード(栗平林道)が続いている。ちょうど青梅線に平行した丘の上部には、複数の休憩所やトイレも設けられ、青梅線の軍畑駅(いくさばたえき)に降りるコースが設けられている。

↑青梅駅を発車、次の宮ノ平駅(右下)を目指す奥多摩駅行き電車。線路の北側は自然林が連なっている

 

そして次の駅、宮ノ平駅へ。北側は丘陵が続くが、南側は青梅街道、そして蛇行して流れる多摩川沿いまで民家が広がっている。

 

宮ノ平駅の次は日向和田駅(ひなたわだえき)で、ここは吉野梅郷(よしのばいごう)の最寄り駅だ。駅の南、多摩川を渡った徒歩15分ほどのところに梅の公園がある。残念ながら2014(平成26)年に公園内の梅がウィルスに感染、園内の梅が全部伐採された。その後にNPO法人が立ち上げられ梅の再生を目指す活動が行われている。見ごろは東京都内の梅よりは遅く2月下旬〜3月中旬とされている。

 

【青梅線はワイルド③】誰が利用するの?不思議な石神沢踏切

日向和田駅の次は石神前駅(いしがみまええき)だ。この駅、名前がこれまで3回変わっている。駅が開業した1928(昭和3)年10月13日の名前は楽々園停留場だった。楽々園とは青梅鉄道が設けた遊園地で、東京の西多摩唯一の遊園地だったとされる。現在、遊園地跡は大手企業の保養施設となっている。

↑石神前駅のすぐそばにある石神社。境内の大銀杏(右手に立つ)が知られる。石神駅前のモミジの葉は晩秋に色づく(左上)

 

1944(昭和19)年に青梅鉄道から国鉄の路線となった時に三田村駅となり、さらに3年後の1947(昭和22)年3月1日に、現在の石神前駅と名が変更された。

 

現在の石神前駅は、駅の東側100mにある石神社(いしがみしゃ)の名前にちなむ。創建時期は不明という古社で、境内に立つ大銀杏は幹周りが6.6mもあり、乳信仰の対象になっている。樹皮を煎じて飲むと母乳がよく出るようになると言い伝えられる。

 

この石神社の目の前を青梅街道が通る。この街道沿いを青梅側に行くこと数分。ちょっと不思議な踏切がある。踏切の名前は「石神沢踏切」。森に包まれていて、この踏切を通る人はほぼいない。踏切を渡った山の入口には「通行禁止・青梅市森林組合」とあり鎖錠(さじょう)されている。林業関係者の車しか走ることのできない踏切なのである。

↑森の中の石神沢踏切。青梅街道から石神入林道へ入る入口にある。林道の先には「通行禁止」の立て札があり鎖錠されている(右上)

 

青梅線沿線には警報器の付かない第四種踏切がある。対して石神沢踏切には警報器+遮断器が付いている。森林組合の関係者もあまり使っていないようで、ちょっと過分な設備に感じた。ちなみに、踏切があるのは石神入林道と呼ばれる林道で、先に進むと前述した青梅丘陵ハイキングコースにつながっている。そのためハイカーなどの利用がごくわずかにあるようだ。

 

【青梅線はワイルド④】軍畑はやはり古戦場との縁が深かった

石神沢踏切付近では青梅丘陵がせり出し、青梅線は多摩川のすぐ間近を走るが、次の二俣尾駅付近は平地となり住宅地が広がる。多摩川の両岸に住宅が建つのはこの二俣尾駅付近まで。この先、急に山深くなっていく。

 

次の駅が軍畑駅だ。「いくさばた」という名前は、やはり戦いに関係が深いのだろうか。駅名案内にそのヒントがあった。

↑軍畑駅の駅舎と駅名案内(左上)。駅舎に記された駅名の上にはこの地を治めた三田氏の家紋が付けられている

 

駅名案内には駅の名前とともに、兜のイラストの下に「辛垣(からかい)の合戦」の文字。調べてみると、戦国時代の合戦であることが分かった。簡単に触れておこう。戦国時代初頭に青梅から現在の飯能にかけて治めていたのが三田氏だった。当初は小田原の北条氏の傘下に入っていたが、その後に上杉謙信の側につく。二俣尾駅と軍畑駅間の北側に築かれた山城「辛垣城」で北条軍を迎え撃った。

 

その時に戦場となったのが軍畑駅付近だったという。北条軍は多摩川を渡り攻め入り辛垣城は落城、三田氏は滅んだとされる。軍畑駅の駅名の上に丸い「三つ巴(みつどもえ)」のデザインが描かれるが、このデザインこそ、戦国の世に青梅を治めた三田氏の家紋だったのである。

↑軍畑駅の近くには茅葺きの民家も残る。奥に見える山付近に三田氏の居城、辛垣城があったと思われる

 

軍畑駅付近では、ぜひとも見ておきたい構造物がある。軍畑駅の東側を流れる平溝川にかかる鉄橋で、奥澤橋梁と呼ばれる。橋脚が末広がりで組まれ、鉄骨で強化されている。この構造の橋はトレッスル橋と呼ばれる。アメリカから導入された技術で、国内では山陰本線の余部橋梁(あまるべきょうりょう)が代表的な橋だったが、老朽化などへの対応のため余部橋梁は2010(平成22)年に新しい橋に架け替えられている。

↑日本では数少ないトレッスル橋の奥澤橋梁。青空を背景にした赤い鉄橋が絵になる

 

国内のトレッスル橋は現在、道路橋を含め11か所しかなく貴重になりつつある。多くが大正末期から昭和初期にかけて造られた橋で使用部材量が少なくて済むことが長所だとされる。青梅線ではこの奥澤橋梁がトレッスル橋だが、御嶽駅から先、戦時中に造られた橋とは構造が大きく異なるところがおもしろい(詳細後述)。

 

【青梅線はワイルド⑤】駅から徒歩3分でカヌーが楽しめる

軍畑駅の一つ先が沢井駅。こちらはお酒好きにお勧めの駅だ。駅の南側を多摩川方面に降りて行くと、小澤酒造という蔵元がある。創業300年以上の歴史がある酒蔵で、生酛造りという伝統的な製法で日本酒を製造している。代表的な銘柄「澤乃井」は東京の地酒としても良く知られている。「澤乃井園」という多摩川を見下ろす軽食・売店コーナー、きき酒処もあり、土産購入にも最適な施設だ。

 

沢井駅の次の駅が御嶽駅(みたけえき)だ。この駅で下車する観光客やハイカーも多い。御岳山へ登るケーブルカー・御岳登山鉄道の山麓駅近く、ケーブル下行のバスが発車するほか、駅近くに玉堂(ぎょくどう)美術館などの観光施設がある。

↑唐破風(からはふ)の玄関屋根が特長の御嶽駅。ホームの屋根の骨組みには1900年代初頭の古いレールが使われる(左下)

 

御嶽駅をおりて、駅前を散歩してみる。ちょうど駅を降りた下の交差点がT字路になっていて、青梅街道と都道201号線が合流する。この都道側を行くとすぐのところに多摩川が流れ、御岳橋が架かる。

 

橋の上から川面を見下ろすと、カヌーを楽しむ人たちが複数人いた。駅のすぐそばにカヌー、カヤック、ラフティング、SUP(ハワイ生まれのStand Up Paddle boardの略)が楽しめる「コンセプト・リバーハウス」という施設があり、そちらで楽しんでいる人たちだった。駅から徒歩3分で、アウトドアスポーツが楽しめるというのだから、東京都内とは思えない。橋の上から見るだけだったが、すっかり涼味をいただいた。

↑御嶽駅から徒歩3分の多摩川のポイントでカヌーに興じる人たち。スクール指導も行われ、安全に楽しむことができる

 

御嶽駅で忘れてはいけないのは御岳山であろう。駅前を通る青梅街道沿いに西東京バスの御岳駅バス停があり、そこから10分でケーブル下停留所へ。そこから徒歩で5分ほど歩けば山麓駅にあたる御岳登山鉄道の滝本駅がある。ケーブルカーに乗車して6分で御岳山駅に到着する。

 

御岳山は山岳信仰の対象となっている山で標高は929m。山上には武蔵御嶽神社がある。御岳登山鉄道の終点、御岳山駅から神社までは徒歩で25分ほどかかる。御岳山を起点にして、周りの大岳山などを巡るハイカーも多い。ちなみに御岳山の中を都道201号線が通っているが、こちらの道は許可を受けた人のみしか通行ができない。

 

東京都内では高尾山とならぶ山岳信仰の霊場とされ、中心となる武蔵御嶽神社の創建は紀元前とされる。ちなみに、御岳登山鉄道も高尾山でケーブルカーやリフトを運行する高尾登山電鉄も京王グループの一員である。都内でケーブルカーはこの2社のみだが、両社とも京王の関連会社というところも興味深い。

↑青梅街道沿いにある西東京バスの御岳駅バス停(左上)。バスが着くケーブル下から御岳登山鉄道の滝本駅まで5分ほど歩く

 

多くのスポットがある御嶽駅だが、筆者が訪れた時には、駅近くで地元の農家が山葵(わさび)の販売をしていた。御岳付近は山葵栽培が盛んな地域。筆者が訪れたのは7月だったが、1本100円から大きさいろいろの山葵を何本か購入できた。

 

清流で育てられた風味豊かな御岳の山葵。御嶽駅のそばで収穫体験もできるスポットもある。旬は初夏だが、山の中での山葵収穫も楽しそうだ。

 

【青梅線はワイルド⑥】川井駅近くのワイルドなアーチ橋

御嶽駅からさらに奥を目指そう。御嶽駅から先の開業は1944(昭和19)年7月1日と戦時中のことだった。物資が乏しい時代に開業となったわけは、前回に触れたように、沿線で産出される石灰石の輸送を早急に進めたかったからである。こうした時期に開業した路線だけに、施設にも資源の節約傾向が見て取れる。

 

例えば、御嶽駅の次の駅の川井駅(かわいえき)。駅のすぐそばに青梅線のアーチ橋が架かる。アーチ橋は、橋梁の建設方法として古くから用いられてきた構造の一つで、アーチ構造により荷重を上手く支えることができるとされる。昭和10年代になると鋼材を節約するために、全国でコンクリートアーチ橋(鉄筋コンクリート構造)が普及した。

↑川井駅(中上)近くの大丹波川橋梁。左上はその西側に架かる川井沢橋と呼ばれるアーチ橋。こちらは補強工事が完了していた

 

青梅線でも御嶽駅から先に架かる橋の大半がコンクリートアーチ構造の橋が用いられている。中でも川井駅の西側に架かる大丹波川(おおたばがわ)橋梁75.4mは並走する青梅街道(国道411号)から見上げると迫力がある。橋の構造は電車の中から見ることができないため、興味のある方はぜひ降りて上空を眺めていただきたい。それこそワイルドな姿を拝むことができる。

 

大丹波川橋梁は、開業したころの姿を残しているが、その西隣の川井沢橋(または川井沢ガード)と呼ばれるアーチ橋を見上げると、橋の下部の曲線部分の補修工事が行われていることが見て取れた。竣工(1941年)してから81年たち、こうした補強も徐々に進められているのだろう。

 

川井駅から先、古里駅(こりえき)〜鳩ノ巣駅(はとのすえき)間には入川橋梁が架かる。さらに鳩ノ巣駅〜白丸駅(しろまるえき)間には西川橋梁がかかる。大半がアーチ一つ(一連)で下から見ると美しく感じる構造物である。

 

下からはアーチ橋の構造が見て取れるが、上空高い位置に架けられたアーチ橋を渡る電車の車窓からは、多摩川の景観が楽しめる。特にアーチ橋が連続する川井駅付近では、並行して走る青梅街道よりもかなり上を走るため多摩川の渓谷のパノラマがしっかりと楽しめる。これが青梅線「東京アドベンチャーライン」最大の魅力と言っても良いだろう。

 

【青梅線はワイルド⑦】都内で最も標高が高い駅・奥多摩駅

白丸駅の先には青梅線最長の氷川トンネル1270mがあり、抜けると終点の奥多摩駅がもうすぐだ。

↑ロッジ風山小屋がシンボルの奥多摩駅。駅前から奥多摩湖方面などへ路線バスが多く発車する。写真はコロナ禍前の賑わっていたころ

 

青梅駅から約35分で、終点の奥多摩駅に到着した。この駅は都内で最西端の鉄道駅で、標高は都内の鉄道駅でトップだ。といっても海抜343mで、東京タワー(海抜高351m)よりも低いのだが。

 

奥多摩駅は開業当時、氷川駅と呼ばれた。当時は駅があったのが氷川町だったからである。その後に1955(昭和30)年に氷川町はじめ3町村が合併して奥多摩町となった。駅名の変更はそれから遅れること16年、1971(昭和46)年に現在の奥多摩駅に改称している。駅舎は「ロッジ風の山小屋駅」で、この駅舎が「自然ゆたかな奥多摩に似合っている」として関東の駅百選にも選ばれている。

 

駅舎の1階には奥多摩観光協会が運営する売店、そして2階にはカフェがある。また駅前には飲食店が数軒あり、山中の終点駅ながら開けたイメージだ。奥多摩駅のおもしろいのはトイレに登山靴やトレッキングシューズを洗うためのシャワーが設置されているところ。ここで靴を洗ってからお帰りくださいということなのだ。ハイカーの利用者が多いことをうかがわせる施設である。

 

駅のすぐ近くには奥多摩工業氷川工場がある。この奥多摩工業こそ、実は御嶽駅〜氷川駅(現・奥多摩駅)の鉄道敷設免許を出願し、工事を進めていた「奥多摩電気鉄道」の今の会社名である。結局、自社での鉄道開業は適わず、鉄道敷設免許および建設中の路線は1944(昭和19)年4月に国有化され、この年の12月に会社名を奥多摩工業と変更した。当時、同社の社員は悔しくやるせない思いをしたに違いない。

↑奥多摩駅の北隣りにある奥多摩工業氷川工場。コンクリートの粉体を積んだ大型バルク車の出入りが見られた

 

【青梅線はワイルド⑧】かつては奥多摩湖まで線路が伸びていた

ここで青梅線の旅は終了とならない。かつて線路が奥多摩駅の先まで延びていたのである。線路は奥多摩駅の北隣の奥多摩工業氷川工場内に延び、石灰石の輸送が行われた。

 

さらにその先、6.7kmの貨物専用線が敷かれていた。この貨物専用線は「東京都水道局小河内線(おごうちせん)」と呼ばれる路線で、多摩川の上流に小河内ダム(奥多摩湖)を建設するために造られた。玉川上水や江戸川からの水だけでは将来、都内の水不足は深刻になると予想されたために〝東京の水がめ〟が必要と考えられた。この路線はダム造りのために設けられた専用線だった。

 

当時、トラック輸送の能力は心もとなく、ダム造りといった大型プロジェクトには、こうした専用線が欠かせなかったわけである。

↑東京都水道局小河内線の休線跡。今も一部に線路が敷かれたままになっている。その横をハイキング道が通る

 

そして旧氷川駅から水根駅(みずねえき)に至る専用線が1952(昭和27)年に造られた。多摩川上流部の険しい山を切り開いて造られた路線とあって、橋梁23か所・計1.121km、トンネル25か所・計2.285kmにも達した。非電化でSLが牽引に使われたが、勾配も最大30パーミル(1000m走る間に30mのぼる)あり、非力なSLでの輸送は、かなり手間がかかったと伝えられる。

 

さらに、青梅線の路線もこの貨車輸送を進めるために強化費用が出されて路線改良を行っている。こうした大変な手間をかけて路線を造ったことにより、1957(昭和32)11月26日に小河内ダムは竣工した。一方で、東京都水道局小河内線は同年の5月10日に資材輸送が完了、お役ごめんとなった。同線にはまだ後日談がある。

↑奥多摩駅から徒歩6分ほどの「奥多摩むかしみち」の入口(右下)。そこから登った先に小河内線の休線がある。トンネル跡も望める

 

資材輸送は完了して路線は休止となったが、正式な廃線にはなっていない。路線はまず1963(昭和38)年9月21日に西武鉄道へ譲渡された。西武鉄道では奥多摩湖を観光地化し、拝島線から青梅線への乗り入れ列車を走らせようと計画した。ところがさまざまな理由から整備計画は頓挫する。15年にわたり、西武鉄道が保有していたが、1978(昭和53)年3月31日に奥多摩工業に譲渡された。

 

そして今も奥多摩工業が保有する鉄道用地となり「水根貨物線」という名前も持つ。奥多摩電気鉄道として創始した同社が計画し、工事を始めた路線は青梅線として国有化されたが、そこにつながる路線の用地を今も保有しているというわけである。何とも不思議な縁である。

 

「奥多摩むかしみち」と名付けられたハイキングコースは、この休線を横切り(休線内は立入禁止)、国道411号に平行する橋なども見ることができる。残る線路を一部利用して、トロッコを走らせようというプランも持ち込まれたが、成就していない。

 

筆者は奥多摩駅を訪れるたびに気になってこの休線を訪れているが、年々、覆う緑が深まっているように感じる。そして何度か訪ねているにもかかわらず、見落とした箇所がまだあった。

↑奥多摩工業氷川工場の下を流れる日原川。上流は木々に覆われて見えないが、「水根貨物線」の巨大なアーチ橋が残されている

 

奥多摩駅のすぐ近くを流れる多摩川の支流・日原川(にっぱらがわ)。この日原川を渡るアーチ橋が残っていることに地図を見ていて気がついたのである。カーブしつつ川を渡った日原川橋梁と呼ばれるアーチ橋で、列車が運行していたころに撮影した絵葉書や写真を見て、その大きさ、ダイナミックな路線造りに驚かされた。この橋がまだ残っているとは知らなかった。次に訪れる時はぜひ日原川橋梁の姿を確認したいと思った。

中国発のEV、BYD「ATTO 3 」その実力を正式販売を前に一足早く体験した

国を挙げて電気自動車(EV)を推進する中国。その中国を代表するEVメーカーがBYDです。元々はバッテリー専業メーカーでしたが、その電池事業で培ったノウハウを活かして2008年からは量産型プラグインハイブリッド車を発売。その後、大型バスやタクシーなどの商用車両でもEVを発売し、今や世界屈指のEVメーカーに成長しました。

 

そして今回、ついに3台の乗用車EV「ATTO 3(アットスリー)」、「SEAL(シール)」、「DOLPHIN(ドルフィン)」を日本国内で発売すると発表。第一弾となるのが2023年1月に投入予定のe-SUV、ATTO 3です。すでに豪州、シンガポールでは発表済みで、それに続いて日本で発売が決まりました。今回は一足早く、すでに発表済みの豪州仕様に試乗。そのレポートをお届けします。

↑中国のEVメーカーBYDの日本法人であるBYDジャパンが7月21日に日本乗用車市場への参入を発表。左から上級セダンの「SEAL」、「ATTO 3」、コンパクトの「DOLPHIN」

 

2025年までに、日本国内に100店舗のディーラー網を予定

ATTO 3が中国でデビューしたのは2022年2月と最近のことです。EV専用プラットフォーム「e-Platform3.0」を独自開発し、バッテリーには安全で耐久性が高いとされるリン酸鉄バッテリーを採用。高い安全性を保ちながら、フラットな床面がもたらす広い車内空間と、440Lもの荷室容量を実現しています。BYDジャパンによれば、バッテリー容量は58.56kWhで、航続距離は485km (WLTC 値)を達成。日本仕様ではもちろん急速充電「CHAdeMO(チャデモ)」にも対応するとのことです。

↑BYDジャパンが日本市場第一弾として、2023年1月に発売予定のe-SUV、ATTO 3。写真は豪州仕様

 

驚いたのが日本における販売網です。BYDジャパンは、なんと2025年までに100店舗を日本全国に展開するというのです。先日、日本への再参入を果たした韓国のヒョンデは、ネット販売を基本としましたが、それとは真逆の戦略を取ったのです。一方で、価格は仕様が決まっていないことから未定とのことでした。ただ、BYDジャパンでは「様々なボディタイプのEVを手に届きやすい価格で展開する」方針とのことで、その価格設定には大いに期待して待ちたいところです。

 

さて、実車を前にすると、写真で見た印象よりも斬新さにあふれているのがわかります。サイドビューは波打つような膨らみを持たせ、それが面で抑揚のある変化を伝えてくるデザインです。このプレスラインの巧みさに感心していると、この金型を製作しているのは2020年にBYDが傘下に収めた群馬県にあるタテバヤシモールディングということでした。つまり、このプレスラインの実現には“メイド・イン・ジャパン”の技術力が背景にあったわけです。

↑ボディサイズは、全長4455mm×全幅1875mm×全高1615mmとやや幅は広め。しかし、SUVらしい程良いサイズ感で日本の道路事情にもマッチしそうな印象

 

遊び心にあふれた車内に心がつい躍ってしまいそうになる

車内に入ると今まで見てきたクルマとは違う斬新さにあふれていました。エアコン吹き出し口まわりやシフトレバーなど、いたるところにトレーニング器具のようなデザインが見られ、斬新かつユニークな造形。コンソール上のシフトノブはダンベルをモチーフにしたもので、ベンチレーターのリング上のデザインもフィットネスジムの雰囲気をそのまま再現しているかのようです。

↑内装はフィットネスジムをイメージしたとのことで、爽やかな色使いが印象的

 

↑たっぷりとしたサイズのパワー機構付き前席シート

 

↑フラットなフロアにより後席スペースも余裕がある

 

個人的に惹かれたのはオーディオ用スピーカーでした。ドア上部にはドアノブを一体化したミッドレンジスピーカーを組み込み、ドア下部のウーファーユニットから収納スペースにはベースの弦をイメージしたゴム製ワイヤーも張られていたのです。しかも、この弦を弾くと、なんと“ボロロン”と音が鳴るではありませんか。この遊び心いっぱいの雰囲気にはつい誰もが心躍ってしまうはずです。

↑上にあるのがドアハンドルと一体化されたミッドレンジスピーカー、下のウーファーから張られた3本のゴム製バンドが個性的。メーカー側の遊び心があふれています

 

↑SUVとして充分スペースを確保したカーゴルーム。フロアの高さは2段階

 

そんな思いを抱きながら公道へと走らせました。アクセルを踏み込むと、電動車らしい力強い加速で車体を軽々とスタートさせました。しかも、その加速力はどこまでもエンドレスでつながっていくようで、急激なトルクの立ち上がりもなく自然なフィールが好印象です。

 

道路の段差もキレイにいなし、ショックをしっかりと吸収しているのがわかります。これはe-Platform3.0による高い剛性が貢献しているものと推察され、速度を上げていってもフラットな乗り心地が変わることはありませんでした。特にEVらしい静粛性は素晴らしく、明らかにこの高剛性がメリットをもたらしているのだと実感。

↑ATTO 3に試乗中の筆者。東京・お台場界隈の一般道で試乗した

 

全体に小さめなインターフェースは要改善

ステアリングはやや緩慢な印象でしたが、それも少し走っているうちに慣れてしまう程度のものです。操舵感は全体に軽めで、ボディの見切りの良さとも相まって、駐車を含む市街地での運転は楽に行えるのではないかと思いました。一方で、EVならではの回生ブレーキも備えていますが、レベルを強弱で切り替えても効果の違いはあまり感じられず。ドライブモードもエコ、ノーマル、スポーツと3種類ありましたが、これもスポーツで若干ペダルの反応が良くなったか?と思う程度でした。

↑ダンベルをモチーフにデザインしたシフトノブ。右ハンドル車なのに、ハザードスイッチが左側にあるのが残念

 

そして、全体として小さめなものが多いインターフェースも気になるところ。速度やバッテリー状態を示すメーターはステアリングの奥に見えるレイアウトで、しかもセンターにある12.8インチのディスプレイに比べるとかなりコンパクトです。操作スイッチの位置もわかりにくく、運転中に視認しにくさを感じさせました。また、センターにあるディスプレイは、タテに回転する機構が付いていましたが、これもほぼタブレットが鎮座している印象で、決して見やすいとはいえないものでした。

↑ステアリング奥に配置されるメーターディスプレイ。サイズはやや小さめだ

 

↑タテ表示も可能な12.8インチのセンターディスプレイ。表示文字が小さめで、指の置き場所もないことから操作性は今ひとつ

 

とはいえ、EVとしての仕上がりの良さは、「さすが手慣れているな」と実感できるものでした。立ち上がりから力強い走りと静粛性は、EVへの期待を充分に満足させるものです。デザインも洗練されていて、一昔前の中国車のイメージはまったくないと断言していいでしょう。今回はインフォテイメント系のローカライズが間に合っていなかったとのことですが、こうした部分も含め、日本仕様として登場する日を期待したいと思います。

 

 

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百CAR繚乱のEV市場で桜咲く!「日産サクラ」は大人が本気で欲しくなる軽EVだった

2022年で創刊40周年を迎えた、押しも押されぬモノ誌の決定版「モノ・マガジン」と、創刊23年目を迎えたピチピチの“新卒世代”「ゲットナビ」とのコラボ連載。今回は、話題の軽EV・日産のサクラに試乗してきました!

↑サクラの車内で仲良くパチリ。(右がモノ・マガジン編集長の前田賢紀さん、左が筆者・GetNavi編集長の川内一史)

過去のコラボ記事はこちら

 

二つの目で見ればピントが合う! ゲットナビ×モノ・マガジンの「ヒット」スコープ

– Target 6.日産「サクラ」–

↑日産「SAKURA(サクラ)」

 

いま、日産が元気なんです

日産自動車は、2021年度決算で3年ぶりに営業利益が黒字化(2473億円)。22年度も話題の新車を続々とリリースしており、いま元気のある自動車メーカーです。行っちゃえNISSANってことで、神奈川県横浜市にある日産自動車本社へ。筆者は初めて同社を訪問したのですが、巨大ショールームというか、もはや日産ミュージアム。夏休み真っただ中だったため、家族連れで訪れている人たちが多く見られました。

↑大人気のSUVエクストレイルは7月にフルモデルチェンジして4代目が登場。発売から約1か月で受注1万7000台と大ヒット中です(筆者撮影)

 

↑憧れのスポーツカーGT-Rの2022年モデル。1083万円~という憧れ価格ですが、とにかくカッコイイ!(筆者撮影)

 

↑広い室内が魅力で、社用車としてだけでなくキャンパーからも人気のキャラバン。21年のマイナーチェンジで「NV350」の型番はなくなりました(筆者撮影)

 

と、思わずテンションが上がってしまいましたが、今回の取材対象はコチラ! 軽EVのSAKURA(サクラ)です。6月に販売がスタートし、8月7日時点で受注台数は累計2万5000台と好調な滑り出しとなっています。

日産本社の周辺は浜風&ビル風がスゴい。頭皮ごと持っていかれるかと思いました

 

EV市場でも「技術の日産」は健在!

日産好調の“原動力”のひとつとして、EV(電気自動車)が挙げられるでしょう。同社は元々電気モーター技術に優れているメーカーで、2010年に初の量産型ピュアEVとなるリーフを発売すると、今年に入ってアリア、サクラを立て続けにリリース。国産EV市場をけん引しています。また、ガソリンを燃料にして電気モーターを駆動させる独自のパワートレイン「e-POWER」も好評。世界的にCO2排出削減が推進される現在のクルマ市場においても、「技術の日産」は健在なのです。

↑取材に協力していただいた、日産の日本マーケティング本部のサクラ担当、近藤啓子さん(右から2番目)と中島有紀さん(左から2番目)

 

試乗させてもらう前に、まずはサクラの“ガワ”をチェック。車体は同社の軽ハイトワゴンデイズをベースにしており、コンパクトながらもボリュームを感じられます。また、四季をイメージした2トーンの4色を含む全15色をラインナップし、選ぶ楽しみがあるのもうれしいところ。動力は20kWhのバッテリーで、最高出力47kW、最大トルク195Nmと余裕の走りを実現。航続距離は最大180km(WLTCモード)と安心感があります。価格は233万3100円~294万300円で、クリーンエネルギー自動車導入促進補助金を活用した場合の実質購入価格は約178万円となります*1(すべて税込)。

↑日産の中島さんイチオシのシーズンズカラー。手前から、ホワイトパール/チタニウムグレー(冬)、ブロッサムピンク/ブラック(春)、ソルベブルー/チタニウムグレー(夏)、暁-アカツキ-サンライズカッパー/ブラック(秋)。今回は「秋」カラーに試乗させてもらいました(写真提供/日産)

 

↑軽のコンパクトなボディに、こんなにも大きいバッテリーが床下に積んであるなんて! レイアウト技術の高さも日産のウリです

 

↑充電ポートは、一般的なガソリン車の給油口と同じく右後部に。約8時間*2で満充電となる普通充電と、約40分*3で80%まで充電できる急速充電の2口を備えています。フタを開けるとライトが点灯し、夜間でも快適に充電可能

 

↑コンパクトですが背が高いので、室内は思っていた以上に余裕アリ。必要以上にオジサンがひしめき合わずに済みます

 

↑恒例(?)のWオジサンによる荷室チェック。車中泊は厳しいかもしれませんが、後席を倒せば軽く横になれそうです

 

↑インパネまわりはシンプルで表示は見やすいです。筆者はシフトレバーの操作感に少し戸惑ったものの、すぐに慣れました

 

↑インテリアは和の意匠を取り入れた落ち着いたデザイン。インテリアの随所に桜をあしらう遊び心もあります

 

筆者のEV初体験。怖いほど滑らかで静かでした

実は筆者、EV初体験。なんか……緊張する! おっかなびっくりアクセルを踏んでスタートします。予想はしていましたが、ガソリン車と比べてとにかく静か。そして、予想以上に軽い! 思ったよりもスーッと伸びていくので、最初はちょっと怖かったです。

 

発進・加減速・停車をアクセルペダルだけで行える日産の独自システム「e-Pedal Step」も初体験。これがめちゃめちゃ楽チンで、特にストップ&ゴーの多い市街地での走行と相性バツグンでした。アクセル/ブレーキの踏み間違えによる事故も起こりにくくなるはずですし、これは本当にイイですね。

 

試乗のハイライトは、おむすびを落としたらいつまでも転がっていきそうな急勾配の上り坂。アクセルを思い切り踏んでもまったく苦しそうな感じを見せず、スイスイと登れます。軽とは思えないほど余裕たっぷりの走りを楽しめました。

↑緊張のEVデビュー。もしいま事故ったらやっぱり日産出禁になるかなーとか考えながら走っていたので、横浜の美しい街並みを覚えていません

 

続いてハイウェイへ。ここでは、高速道路単一車線での運転支援技術「プロパイロット」を体験します。ハンドル右のボタンを押すと、プロパイロットモードに突入。ハンドルから手を離すことはできませんが、車線や前車の位置をリアルタイムで検知しながら、ハンドル操作を支援してくれます。これも楽チンな機能です。

↑ハンドルを握ったままでプロパイロットボタンをスイッチオン。運転状況がグラフィックで表示されるのでわかりやすいです。試しにハンドルから手を離そうとすると、激しく警告されますから、これは安心!

 

試乗のフィナーレを飾るのは、「プロパイロット パーキング」。これは、駐車時にステアリング、アクセル、ブレーキ、シフトチェンジ、パーキングブレーキのすべてを自動で制御するシステムで、軽自動車としては初めての搭載となりました。駐車場に入ってからボタンを押すと、カメラで空きスペースを検知。駐車位置が決まったら、画面に表示された「駐車開始」をタップし、ボタンを押し続けるだけで、自動で駐車してくれるという、まさに未来の機能なんです。

 

空きスペースの検知は地面の白線などを参照しているとのことで、疑い深いオジサンとしてはこの精度をどこまで信用して良いのかというのが少し引っ掛かっておりますが、何にせよスゴい技術であることは間違いないですね。

↑駐車場に来たらまずボタンを押して、空きスペースをセンシング。「駐車開始」をタップすれば自動で駐車が始まります。このステアリングの躍動感を見よ!

 

まずはカーシェアリングでお試しできちゃう

当初は、EVは正直まだ買う時期じゃないかな、と思っていました。基本性能も使い勝手も、もう少し成熟したらようやく選択肢に入ってくる。そんなイメージだったんですが、実際に乗ってみたら全然そんなことなかったです。バッテリー性能や充電環境の整備についてはのびしろが大きいと思いますが、このサクラに関していえば、乗用車としてのクオリティは抜群。実質200万円以下で買えるなら、普通に欲しいです。

 

とはいえ、さすがに衝動買いできるほど金銭的な余裕も家庭内で地位もない……という私のような人に朗報! 日産が手掛ける、EV、e-POWERの車両を中心としたカーシェアリングサービス「e-シェアモビ」で、早くもサクラが導入されたとのこと。サクラを利用できるステーションはまだ限られていますが、奇跡的に筆者の近所で導入されていたので、今度行ってみることにします!

 

*1補助金には申請期限があります。申請額が予算額に達した場合は受付終了となりますのでご注意ください。
*2 バッテリー温度約25℃、バッテリー残量警告灯が点灯した時点から満充電までの目安時間となります。
*3 バッテリー温度が約25℃、バッテリー残量警告灯が点灯した時点から、充電量80%までのおおよその時間。特に急速充電の場合、夏季・冬季には充電時間が長くなる場合があります。

 

モノ・マガジン前田編集長のレポートはこちら→https://www.monomagazine.com/52196/

 

 

写真/青木健格(WPP)

ロシアのタクシー配車アプリ、ハッキングされて大渋滞! ウクライナ侵攻に反対するハッカーのしわざか

ロシアの配車アプリ「Yandex Taxi」がハッキングされ、数十台のタクシーが同じ場所に呼び出されて大渋滞を引き起こす事態となりました。この攻撃は9月1日に発生し、ふだんから交通量が多い大通りで立ち往生する車の列が世界の注目を集めました。

↑ロシアのタクシー

 

モスクワは道路が混んでいることで知られており、昨年は世界で最も渋滞する都市として第2位にランクインしていました。しかし、今回の渋滞はそんな日常のパターンとは関係なく、何者かが意図的に起こしたものです。

 

南西からモスクワ中心部に向かう大通りクトゥゾフスキー・プロスペクトは普段から混雑していますが、1日の朝には同じ目的地に向かおうとするタクシーが列をなすことに。その様子は大手掲示板Reddit等でも拡散され、動画を共有するツイートは記事執筆時点で7300件以上もリツイートされています。

 

ロシアのインターネット大手でもあるYandexは、テックメディア Vergeに対して声明を出しています。それによれば、この妨害は1時間未満で終わっており「こうした攻撃を検知・防止するアルゴリズムは、今後同様の事故を防ぐためにすでに改善されている」と付け加えています。

 

Yandex側は攻撃した犯人に言及していませんが、ハクティビスト集団のアノニマスはツイッターで「ウクライナのIT軍と協力して実行した」と主張しています

 

ハクティビストとは社会的・政治的な主張のためにハッキング活動を行う人たちのこと。そしてアノニマスはロシアによるウクライナ侵攻が始まった直後に、報道規制が敷かれるロシアの国営放送などをハッキングして、ウクライナでの戦闘の映像を流したと発表していました。

 

Yandexは「ロシアのグーグル」ともいわれるハイテク大手であり、実際に現地のモバイル検索エンジン市場ではグーグルを超えています。非常に技術力も高いはずであり、それだけの企業のアプリがハッキングされたとなれば、国内の配車やその他のアプリも守りを固めた方がよさそうです。

 

Source:vice
via:The Verge

意外に知らない「青梅線」10の謎解きの旅〈前編〉

おもしろローカル線の旅94〜〜JR東日本・青梅線(東京都)その1〜〜

 

東京の郊外を走る青梅線。立川駅から青梅駅までは住宅地や畑が連なり、その先、奥多摩駅まで「東京アドベンチャーライン」の愛称で親しまれている。130年近い歴史を持つ青梅線には、不思議な短絡線や、謎の引き込み線もある。意外に知られていない一面を持つ青梅線の謎解きの旅を楽しんでみた。

*取材は2019(令和元)9月〜2022(令和4)年7月10日に行いました。一部写真は現在と異なっています。

 

 

【青梅線の謎を解く①】戦前発行の路線ガイドに隠された秘密

青梅線の概要をまず見ておこう。

路線と距離 JR東日本・青梅線:立川駅〜奥多摩駅間37.2km 全線電化、
立川駅〜西立川駅間は三線、西立川駅〜東青梅駅は複線、ほか単線
開業 1894(明治27)年11月19日、青梅鉄道により立川駅〜青梅駅間18.5kmが開業
1944(昭和19)年7月1日、氷川駅(現・奥多摩駅)まで延伸
駅数 25駅(起終点駅を含む)

 

今から128年前に誕生した青梅線は、青梅鉄道により路線が造られた。開業当時は軽便鉄道で線路幅は762mmだった。拝島駅から分岐する五日市線がそうだったように、東京郊外で産出される石灰石やセメントの貨物輸送を主な目的に造られた。青梅駅から先は多摩川沿いに延ばされていった。

 

1895(明治28)年12月28日には日向和田駅(ひなたわだえき)まで、1920(大正9)年1月1日に二俣尾駅(ふたまたおえき)まで路線が伸びている。軌間は1908(明治41)年に1067mmに改軌され、また1923(大正12)年に全線が電化されている。

 

そんな時につくられたのが下記の青梅鉄道の路線ガイドである。当時の人気絵師であり、鳥瞰図作りの作家でもあった吉田初三郎が制作したもので、当時の沿線の様子が非常に分かりやすく描かれている。

↑開くと横に76cmほどの「青梅鉄道名所図絵」。大正末期のもので、沿線の様子が克明に記されていて非常に分かりやすい。筆者所蔵

 

今も人気の吉野梅郷(よしのばいごう)が大きく描かれるとともに、終点の二俣尾駅周辺にあった浅野セメントの石灰石採掘所が詳しく描かれている。吉田初三郎は、鳥瞰図を作る場合に、必ず現地を訪れて書いたとされる(本人が行けない場合は弟子が訪れた)。小型カメラなどがなかった時代、大変だったと思われるが、鳥瞰図により当時の様子が再現され、今見てもおもしろい。

 

青梅鉄道は1929(昭和4)年5月3日に青梅鉄道から青梅電気鉄道と社名を変更。さらに、その年の9月1日に御嶽駅(みたけえき)まで路線を延伸している。そんな青梅電気鉄道時代の春用、秋用のパンフレットが下記のものだ。

↑上が春のもの、下が秋のもの。秋のパンフレットの方が、制作が古いと思われ、お洒落な雰囲気が感じられる。筆者所蔵

 

吉田初三郎作のパンフレットほど豪華さはないが、それぞれ広げると横幅30cmほどで持ちやすいサイズに作られている。細かさは初三郎の鳥瞰図には劣るものの、秋の紅葉や春の新緑などの表現がしっかり描かれている。

 

おもしろいのは時代背景が感じられること。秋のパンフレットは表紙が背広姿の男性と和装の女性の2人が川沿いを散策する姿。対して春のパンフレットは景色のみのシンプルなものになっている。秋のパンフレットは、昭和5年〜10年ぐらいのもの、春のパンフレットは昭和10年代以降のものだと思われる。昭和初期の作のほうがデザインもお洒落で、まだ余裕があった時代らしい作りだ。青梅鉄道のパンフレットは、本稿で以前に取り上げた五日市鉄道(現・五日市線)に比べて多く残されている。それだけ観光路線としても、人気が高かったのだろう。

 

その後、太平洋戦争に突入すると、青梅電気鉄道も軍国主義の荒波にのまれていく。御嶽駅から先は奥多摩電気鉄道という会社が鉄道路線の延伸工事を進めていたが、青梅電気鉄道とこの奥多摩電気鉄道が1944(昭和19)年4月1日に国有化され青梅線になる。当時の国有化は半ば強制で、支払いは戦時国債で行われた。戦時国債の現金化は難しく、戦後は超インフレで紙切れ同然となっている。太平洋戦争後も元の会社に戻されることはなかった。

 

青梅線の延伸は1944(昭和19)年7月1日に氷川駅までの工事が完了し、全通している。戦時下の物資乏しい中にもかかわらず、軍部がセメントを重要視していたこともあり、路線はいち早く延ばされた。多摩川の上流部に石灰石が多く眠っていたためである。

 

【青梅線の謎を解く②】50年前に青梅線を走った電車は謎だらけ

戦後、落ち着きを取り戻した昭和30年代となると、青梅線は東京から気軽に行くことができる行楽地として脚光を浴びる。週末は御岳山などに登るハイキング客で賑わった。筆者の父もハイキングが好きで、やや無理やりに連れていかれたが、そんな時には、沿線で電車や機関車を撮ることを楽しみにしていた。そんな写真が下記のものだ。

↑1970(昭和45)年ごろの青梅線で撮影した写真。旧型国電とともに電気機関車や蒸気機関車の姿も見ることができた

 

今から半世紀前のものになるが、青梅線にはまだオレンジの101系などは走っておらず、こげ茶色の「旧型国電」と呼ばれる電車だった。当時の青梅線は、古い電車の宝庫だったわけである。

 

この旧型電車は、今調べると非常に分かりにくい。現在のように、体系化されておらず、昭和一桁から戦後間もなくの物資がない時代に、車両数を増やすことを主眼に製造された。整理してみると青梅駅〜立川駅では20m車両の72系(73系と呼ばれることも)や40系が多く走り、それより先は17m車の50系が多く見られたように記憶している。何しろ、異なる形の車両が〝ごちゃまぜ〟で走っていることもあり、車両形式をメモするなどしていないこともあり、筆者の記憶もやや怪しい。

 

青梅線ではこれらの旧型国電が1978(昭和53)年まで走り続けた。他線に比べてもかなり長く生き続けたわけである。旧型国電の姿とともに、青梅線全線で見られたのはED16形電気機関車が牽引する鉱石運搬列車、さらに拝島駅では八高線にSLが走っていたこともありD51やC58の姿を見ることができた。

 

現在、青梅線を走る電車も見ておこう。主力はE233系基本番台で、区間ごとに6両(一部は4両)、10両の電車が走る。2024年度末以降にはグリーン車付き電車も運行予定で、立川駅〜青梅駅のホーム延伸工事も進められている。

 

ほか定期列車として走るのがE353系特急形電車で、平日の朝と夜に特急「おうめ」として東京駅〜青梅駅間が運転されている。

↑通常の電車はE233系0番台だが、一編成のみ「東京アドベンチャーラインラッピング」車両も青梅線内を走る(左上)

 

青梅線には貨物列車が今も走っている(詳細後述)。石油タンク車はEF210形式直流電気機関車が牽引する。これまではEF65形式直流電気機関車で運転されていたが、最近の運用を見るとEF210に引き継がれたようだ。

 

また、拝島駅の入れ替えや引き込み線での牽引はDD200形式ディーゼル機関車が使われている。青梅駅までさまざまな臨時列車が入線することもあり、画一化されがちな通勤路線に比べるとバラエティに富んでいて、それが青梅線ならではの楽しみの一つになっている。

↑石油タンク車を牽引するDD200形式。2022(令和4)年3月のダイヤ改正以降、同車両が入線するようになった

 

【青梅線の謎を解く③】立川駅から分岐する謎の単線は?

前置きが長くなったが、青梅線の謎をひも解いていこう。起点の立川駅から早くも謎の路線を走る。通常の青梅線の発着は立川駅の北側にある1・2番ホームとなる。このホームに停まる電車は主に青梅線(一部は五日市線)の折返し電車だ。

 

中央線から青梅線に直接乗り入れる電車は、どのように走っているのだろう。乗り入れる電車は5・6番線からの発車となる。青梅線の折り返し電車とは異なるホームだ。ここから発車する電車は「青梅短絡線」と呼ばれるルートをたどる。

 

「青梅短絡線」は中央線から分岐し、立体交差で越えて西立川駅まで走る単線ルートで、民家の裏手、垣根に囲まれて走るような、ちょっと不思議な路線だ。

↑緑に包まれるように走る青梅短絡線。西立川駅の手前で青梅線の本線に合流する(左下)

 

この短絡線は青梅電気鉄道と南武鉄道(現・南武線)との間で、国鉄の路線を通過せずに、貨物列車などを通すために設けた路線だった(国鉄の路線を通すと通過料が必要となるため)。その後に国鉄路線となったため、本来の役割は消滅したが、今は青梅線への直通電車の運行に役立っているわけである。さらに拝島駅と、鶴見線の安善駅とを結ぶ石油タンク輸送列車の運行にも役立てられている。

 

青梅短絡線は1.9kmの距離がある。元々の立川駅〜西立川駅間の青梅線の距離は1.7kmで、青梅短絡線を回ると0.2km長く走ることになる。青梅短絡線は実は少し長く走る〝迂回線〟だったというのがおもしろい。ちなみに、長く走るがその分の運賃の加算はない。

 

【青梅線の謎を解く④】アウトドアヴィレッジのかつての姿は?

立川駅から拝島駅の間にはレジャー施設が多くある。たとえば、西立川駅の北側には国営昭和記念公園がある。広大な公共公園で、「花・自然」「遊ぶ・スポーツ」など四季を通じて楽しめるエリアに分かれている。西立川駅の次の駅、東中神駅の南側には昭島市民球場や陸上競技場、テニスコートなどがある。

 

拝島駅の一つ手前、昭島駅近くには大規模ショッピングセンターに加えて、商業施設「モリパークアウトドアヴィレッジ」がある。テナントはアウトドア関連のショップのみで、さらにパーク内に、クライミングジムやヨガスタジオ、ミニトレッキングコースなどがあり、多彩なアウトドアイベントも開かれる。まさにアウトドア好きにぴったりの施設だ。

 

このアウトドアヴィレッジ、かつては何だったのかご存じだろうか?

↑昭島駅から徒歩3分にある「モリパークアウトドアヴィレッジ」。アウトドアショップやレストランなどがある

 

ここには、かつて昭和飛行機工業という飛行機を造る工場があった。戦前にはプロペラ機のダグラスDC-3のライセンス生産を開始、終戦までDC-3/零式輸送機の大量生産を続けていた。戦時下には紫電改などの戦闘機もライセンス生産していたとされる。終戦後には国産旅客機のYS-11、輸送機C-1の分担生産を行ったほか、特殊車両の製造などを続けた。飛行機工場のため、飛行場を併設するなど広大な敷地を備えていたこともあり、敷地を活かしてアウトドアヴィレッジが生まれたわけである。

 

ちなみに、昭島駅(開業時は「昭和前駅」)も、昭和飛行機工業が駅舎用地を提供、建設費も一部負担したとされる。同工場との縁が深いわけである。

 

前述した国営昭和記念公園は旧立川飛行場の跡地が利用された。この沿線は、広大な武蔵野台地を利用して造られた飛行場や飛行機工場など、飛行機に縁が深い土地である。飛行機との縁は拝島駅ではさらに濃くなる。

 

【青梅線の謎を解く⑤】拝島駅の東口を通る謎の線路はどこへ?

青梅線は拝島駅で八高線と五日市線、そして西武拝島線と接続している。拝島駅の東口駅前には、引き込み線が設けられている。

 

この引き込み線は横田基地線と呼ばれる。伸びる先には現在、在日米軍が所有・使用する横田基地がある。元は1940(昭和15)年に当時の大日本帝国陸軍の航空部隊の基地として開設され、太平洋戦争末期には首都圏防衛の戦闘基地になっている。

↑空になった石油タンク貨車を牽き拝島駅へ向けて走るDD200牽引の貨物列車。線路端には「防衛」という境界杭が立つ

 

飛行場は終戦後には米軍に接収された。その後、長く米軍の燃料輸送が行われている。石油タンク車を利用した燃料輸送は鶴見線の安善駅との間を走り、拝島駅でディーゼル機関車に付け替えられる。そして拝島駅の東口駅前を通り、横田基地の入り口フェンスまで約500m走り、そして基地内へ運び込まれている。

 

なお、青梅線の線路から拝島駅東口に向かう際に、西武拝島線を平面交差して横切っている。そのため、西武鉄道の電車も、このタンク輸送に合わせて、電車のダイヤ調整が行われている。

↑横田基地の入口から外へ出てきた石油タンク列車。ウクライナ侵攻が始まった時には輸送機の離発着が目立った(左上)

 

↑拝島駅からは青梅線などを経由して鶴見線の安善駅まで走る専用列車。以前はEF65の牽引だったが今はEF210が牽引する日が多い

 

日本には在日米軍の基地が多くあるが、鉄道による石油輸送が行われているのは、横田基地のみとなっている。輸送は主に火曜日および木曜日に行われている(臨時列車のため確実ではない)。珍しい米軍向けのタンク車輸送ということもあり、鉄道愛好家の間では〝米タン輸送〟の愛称で呼ばれている。

 

横田基地線の線路には日本語と英語で書かれた「立入禁止区域」の立て札が各所に立てられ、ものものしい雰囲気だ。基地内は日本の中のアメリカで、世界で戦争や紛争などが起こっている時は、張りつめた緊張感が感じられる。ロシアのウクライナ侵攻が始まったころには、通常時に比べて輸送機が数多く離発着していた。

 

【青梅線の謎を解く⑥】福生駅から伸びる廃線、その開業の謎

↑拝島駅〜牛浜駅間を流れる玉川上水。民家が迫り、玉川上水らしさは薄れる箇所だが、上水沿いの多くの区間で散歩道が整備されている

 

現在は、拝島駅〜立川駅間の貨物輸送しか行われていないが、かつては、全線で貨物輸送が行われ、複数の引き込み線が設けられていた。

 

福生駅から福生河原まで1.8kmに渡り伸びていた貨物支線もその一つである。この路線が造られた経緯も興味深い。福生河原での多摩川の砂利採取のために1927(昭和2)年2月9日、路線が造られた。この砂利は八王子市に計画された大正天皇陵所の造営に必要な多摩川の石を運搬するために造られたものだった。廃線跡を歩いてみると、貨物支線の痕跡が残されている

 

江戸時代に設けられた玉川上水には加美上水橋が架かる。今は歩道橋として使われるが、以前は貨物支線用につくられた橋だった。橋の入口には歴史を記した碑があり、そこには「日に二回電気機関車が四、五両の貨車を引いて通り、また地域の人々は枕木を渡り利用していた」とあった。

↑玉川上水(右上)に架かる加美上水橋は、かつての貨物支線の橋梁を使ったもの。橋の幅が狭く車の利用はできない

 

この橋をさらに多摩川方面に歩くと、堤がカーブして河原へ続いている。サイクリングに最適な川沿いの道だが、かつて貨物列車が走っていたとは、利用者の大半が知らないだろう。

 

この貨物支線は1959(昭和34)年12月に砂利運搬停止、路線を廃止、さらに1961(昭和36)年3月に線路や架線が撤去された、と碑にはあった。

↑多摩川沿いを堤防のように伸びる旧貨物支線跡。今は歩道およびサイクリングロードとして利用されている

 

【青梅線の謎を解く⑦】青梅駅の手前で急に単線になる謎

青梅線の運行形態は立川駅〜青梅駅間と、青梅駅〜奥多摩駅間では大きく異なる。青梅駅までは東京の郊外幹線の趣があるが、青梅駅から先は、途端に閑散路線となる。ところが、線路の造りを見ると、こうした運転形態とは、少し異なる。青梅駅の一つ手前、東青梅駅までは複線区間で、郊外線そのものだが、その先で単線となり、そのまま青梅駅へ電車は入っていく。電車の本数が青梅駅までは多いのにかかわらずである。

↑東青梅駅〜青梅駅間を走る立川駅行き電車。写真のように同区間で急に山景色が広がり単線区間となる

 

東青梅駅までは平野が広がる地形で、その先で、急に進行方向右手に山並みが迫ってくる。青梅駅が近づく進行方向左手にも丘陵があり、電車は窪地をなぞるように走り青梅駅へ入っていく。

 

東青梅駅までは1962(昭和37)年5月7日に複線化された。ところが、その先は複線化工事が行われなかった。山が急に迫る地形が、複線化を拒んだということなのかもしれない。

 

【青梅線の謎を解く⑧】青梅駅の風格ある駅舎の起源は?

青梅駅へ到着して駅を降りる。駅の地下道には、昔の映画館で良く見かけた映画看板が左右に掲げられいる。改札口までの通路には青梅線の古い写真などの掲示もある。駅の案内表示はレトロ風と、昭和の装いがそこかしこにある。ちょっと不思議な駅の装いだが、青梅駅は2005(平成17)年に「レトロステーション」としてリニューアルしている。映画看板もそうしたイメージ戦略による。

↑旧青梅鉄道の本社だった青梅駅の駅舎。郊外の駅としては他に無い重厚な趣だ

 

青梅駅の駅舎は1924(大正13)年に青梅鉄道の本社として建てられた。青梅鉄道が開業30周年を迎えたことに伴い改築されたもので、すでに改築してから100年近い歴史を持つ。そうした経緯の建物のせいか、重厚感が感じられる。建物の1階部分のみしか見ることができないが、地上3階、地下1階建てだそうだ。

 

こうしたレトロステーションにあわせて、青梅市内には〝昭和レトロ〟の趣があちこちに。今年の4月末からは駅の隣に「まちの駅 青梅」という青梅市の地場産品を販売する店舗も誕生した。外装には昔のホーロー看板(メーカーそのものの看板ではなく似せてある)が飾られ、昭和期の町の商店のよう。青梅わさびや、地酒、スイーツも販売され、楽しめる店舗となっている。

↑青梅駅に隣接する「まちの駅 青梅」。懐かしいホーロー看板が数多く付けられた外装で、思わず見入ってしまう

 

青梅市街にはほかに映画看板が飾られた施設や店も多く昭和レトロ好きにはたまらない町となっている。

 

【青梅線の謎を解く⑨】西武鉄道沿線まで走る路線バスの謎

青梅駅からバス好きの人たちには良く知られた名物都営バスが発車している。西武新宿線の小平駅や花小金井駅へ向けて走る路線バスだ。青梅駅と花小金井駅間の走行距離は約30kmもある。この都営バスは「梅70」系統とよぶ路線バスで、都営バスが走る路線の中では最長距離路線とされる。所要時間100分前後で、道が混めば2時間かかることも。

 

走行する区間は青梅駅近くの、青梅車庫と花小金井駅北口間で、停留所数81もある。ほぼ青梅街道に沿って走り、青梅線の河辺駅(かべえき)、八高線の箱根ヶ崎駅、西武拝島線の東大和市駅、武蔵野線の新小平駅、西武多摩湖線の青梅街道駅を経由して、花小金井駅へ走る。

 

電車が走らない武蔵村山市や、公共交通機関の乏しい青梅街道沿いを走るとあって、意外に利用者が多い路線である。

↑青梅駅を発車する「梅70」系統の都営バス。写真のバスは小平駅行きだが、花小金井駅行きも走っている。

 

この「梅70」系統、1949(昭和24)年に301系統として生まれ、その時には荻窪駅〜青梅(現・青梅車庫)間を走っていた。1960(昭和35)年には阿佐ケ谷駅まで延伸されている。当時は約39.1kmで今よりも長い距離を走った。その後に荻窪駅まで、2015(平成27)年に、現在の花小金井駅北口まで短縮された。

 

全線乗車するには、かなり忍耐強くなければ難しい路線だが、次回は途中まででも良いので、試してみようかと思った。

 

【青梅線の謎を解く⑩】青梅鉄道公園に残る悲劇の機関車とは?

鉄道好きならば、青梅駅を訪れたら、ぜひとも寄っておきたい施設がある。鉄道好きご用達「青梅鉄道公園」だ。国鉄が鉄道90周年記念事業として開設した鉄道公園で、明治時代から昭和期まで活躍した10車両が保存展示されている。鉄道好きの子どもたちが安心して遊べる遊具や、古い車両に出合え、鉄道模型などもあり親子揃って楽しめる施設となっている。

↑青梅駅の北側、徒歩15分ほどの青梅鉄道公園。珍しいE10形蒸気機関車(右上)も展示保存される

 

鉄道公園だから駅や線路近くかと思うと、これが意外にも青梅駅の北側、永山公園という山の一角にある。駅からは徒歩で15分ほどだ。ハイキング気分で訪れるのに最適と言えるだろう。

 

展示保存される中で最も珍しいのは動輪5軸というE10形蒸気機関車ではないだろうか。国鉄が最後に新製した蒸気機関車で、奥羽本線の板谷峠越え用に造られた。1948(昭和23)年に5両が造られた機関車で、青梅鉄道公園に残る車両はその2号機が保存される。このE10、高性能だったのだが、技術的な問題が多々あり、製造翌年には、板谷峠が電化され、肥薩線や北陸本線へ転用された。他の路線でも性能は活かされずに1962(昭和37)年には全車が廃車となっている。稼働14年と短く〝悲劇の機関車〟とも呼ばれる。

 

そのほか青梅線で走った車両も見ておこう。まずはED16形電気機関車1号機。こちらは1931(昭和6)年に鉄道省(その後の国鉄)が製造した電気機関車で、中央本線や上越線用に開発された。青梅線との縁も深く、西立川にあった機関区に数両が配置された。博物館に保存される1号機も、西立川や八王子の機関区に配置されていた期間が長い。同1号機は、国産電気機関車が生まれた当時の歴史的な車両ということもあり重要文化財に指定されている。

 

こげ茶色の旧型国電クモハ40054という車両も保存されている。この電車の形式名はクモハ40形電車で、車体長20m、国鉄40系のひと形式に含まれている。同車両は青梅駅にあった青梅電車区に一時期、配置され、その後は日光線などで活躍した後に、記念イベントで青梅線を走行した経歴を持つ。

 

旧型国電は、青梅線などの全国のローカル線を走り、さらに全国の私鉄に払い下げられ長い間、走り続けた。戦中・戦後の日本を支え、さらに昭和期の輸送に役立てられた。このこげ茶色の角張った車両を見ると、お疲れ様と言いたくなるような愛おしさが感じられるのである。

やっぱり安心感ある! 「スイフトスポーツ」は欧州車に近い走りのコンパクトハッチバック

スズキの「スイフトスポーツ」といえば、国産車では希少となったMT(マニュアル・トランスミッション)車を設定するコンパクトハッチバック。すでに登場から5年が経過しようとしている同車だが、今改めて乗ってみて感じた魅力を綴る。

 

【今回紹介するクルマ】

スズキ/スイフトスポーツ

※試乗グレード:6MT(全方位モニター用カメラパッケージ装着車)

価格:187万4400円~214万1700円(税込)

 

とりあえずこいつを選んどきゃ間違いない!

さまざまな国産コンパクトスポーツが存在するなか、評論家筋でいつの時代も評価が高いのがスイフトスポーツだ。ライバルはトヨタ「ヤリス(ヴィッツ)」や日産「ノート」、ホンダ「フィット」、マツダ「デミオ」などのスポーツグレードになるが、クルマ選びに悩んだ際、スイフトスポーツには「とりあえずこいつを選んどきゃ間違いない!」という安心感がある。

 

それは、グローバルで販売されて高い評価を得ていること、4モデルが約20年に渡って販売されてきた歴史と伝統があること、モータースポーツに参戦していたことなどからも容易にわかるが、やはり一番の理由は、「運転が楽しい」ことに尽きる。世界中のさまざまなクルマに試乗してきた評論家陣から話を聞けば、最も欧州車に近い走りを味わえるのがスイフトスポーツなのである。

 

デザインはどうか。基本的にはスイフトをベースに、おしゃれにというよりは迫力ある雰囲気に仕立てられている。フロントまわりでは、大口径のグリルやバンパーまわりのラインが強調されていて躍動感を感じさせる。サイドからリアにかけてはブラックのアンダースポイラーが精悍さを表現し、リアディフューザーとデュアルエキゾーストパイプは、リアまわりの存在感を高めている。

↑スイフトの美点であった、Cピラー(サイドウインドウとリアウインドウの間の柱)のブラックパーツのデザイン処理はしっかりと活かされている

 

↑切削加工とブラック塗装を施した新意匠アルミホイール、シルバー塗装の新意匠アルミホイールがそれぞれ対象グレードに採用

 

今回の試乗車のボディカラーは「チャンピオンイエロー4」だったが、イエローは歴代モデルでも中心となってきた同車のイメージカラーだ。「夏は虫が寄ってきて困る」というオーナーの話も聞いたことはあるが(笑)、やはりポルシェやフェラーリにしても、RX-7にしても、イエローはスポーティなクルマによく似合う。街を走るイエローのスイフトスポーツを見たら、クルマに興味のある人ならきっと見入ってしまうはずだ。

↑レッドからブラックへとグラデーションのカラーリングがまさにエキゾチックジャパン!

 

↑荷室容量は5名乗車時で265L

 

まるでスポーツクーペのような感覚で曲がれる!

搭載されるエンジンは、1.4L直噴ターボの「ブースタージェットエンジン」。名称だけでもカッコいいが(笑)、実力もしっかりともなっている。低回転域からターボエンジンらしからぬ高トルク(力強さ)を発揮し、2000~3000回転くらいまでエンジンを回せば、1.4Lとは思えないほどパワフルで余裕のある走りを味わえる。アクセルを踏み込めばリニアに反応して鋭い加速をみせ、1t以下という軽量なボディを、まるで後方から蹴っ飛ばしたかのように押し出してくれる。

↑1.4L直列4気筒ターボエンジン。最高出力140ps、最大トルク23.4kgmで先代のNAエンジンからターボ化とハイオク化で大幅なトルクアップを果たしている

 

このクルマの一番の特徴でもあり、賞賛に値する部分といえば、やはり走りがいいこと。まずコーナーでは、全高が高めのコンパクトカーとは思えないほど路面にビシッと張り付き、まるでスポーツクーペのような感覚で曲がれる。また、「HEARTECT(ハーテクト)」と呼ばれるプラットフォーム、つまりクルマの骨格は、剛性が高く、非常にしっかりしている。ベースのスイフトと比較すると、やはりサスペンションは硬めだが、決して乗り心地は悪くない。

↑スイフトスポーツはやっぱり走っていて楽しい!

 

さらに、MTの操作感がしっかりしていて、スコッスコッと気持ちよく変速できる。このあたりも欧州車らしい味付けだ。フロントシートは、スイフトスポーツ専用デザインになっていて、速い速度でコーナーなどに侵入した際にGで身体が持っていかれそうになっても、しっかり支えてくれる構造になっている。

↑セミバケット形状のフロントシート。背中が当たる部分には“Sport”というロゴが刻まれています。シートスライドは前後に10mmずつ24段階の240mm、運転席シートリフターは上下に60mm調整でき、ドライバーの体格や好みに合わせたきめ細かい設定が可能

 

なお、2020年5月には改良が施され、後退時ブレーキサポート、後方誤発進抑制機能、リアパーキングセンサーなど、車庫入れなどちょっとした動作の際にやってしまいがちなうっかりミスを助けてくれる機能が追加された(5速MT車を除く)。また、アダプティブクルーズコントロール(全車速追従機能付き)やブラインドスポットモニター(車線変更サポート付き)なども全グレードに標準搭載されるなど、安全性能も高められている。これなら、中年になってキビキビ走るスポーツカーに対して不安を抱いているような人であっても安心だ。

 

グレードを選ぶにあたって一番好ましいのはMTモデルだが、家族も運転するとなると、MTはNG……という人も多いだろう。しかし6速ATモデルも(MTの操作感を抜きにすれば)十分気持ちよさを味わえて、街中をストレスなく走ることができる。見た目がちょっとスポーティ過ぎる感もあるが、5ドアハッチバックなので実用性は十分だ。残念ながら3ナンバーでハイオク仕様となっていてランニングコストはすこしかかるが、それほど燃費が悪いわけでもない。幼児などを抱えていて実用性がないと困るが、時には本格的なスポーティ性能を味わいたい。そんなユーザーにベストな選択となる。

↑左側にタコメーター、右側にはスピードメーター。中央にはマルチインフォメーションディスプレイを搭載

 

↑ずっと握っていたくなる6速MTのシフトノブ

 

SPEC【2WD・6MT】●全長×全幅×全高:3890×1735×1500㎜●車両重量:970㎏●パワーユニット:1371㏄直列4気筒直噴ターボ●最高出力:140PS/5500rpm●最大トルク:230Nm/2500-3500rpm●WLTCモード燃費:17.6㎞/L

 

撮影/茂呂幸正 文/安藤修也

 

 

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防災の日をきっかけに「アウトランダーPHEV」で備える災害対策、6つの観点。

 

9月1日は防災の日。GetNavi webでも日ごろから防災に役立つグッズを紹介していますが、今回はもう少し広い視野に立った対策を提案。たとえばクルマ。移動手段として欠かせない存在であるのに加え、近年では被災した際の備えとしても注目されています。

 

特に、プラグインハイブリッド車(PHEV)は外部から充電できることに加えて、ガソリンエンジンで発電することもでき、被災時でも大容量の電力を確保することが可能。避難生活を変えてくれる可能性があります。本記事では、その最有力候補である三菱自動車の「アウトランダーPHEV」にフォーカス。同車の「防災力」を紐解いていきましょう。

 

【今回紹介する車両】

2021年度PHEV販売台数ナンバーワン&オンリーワンモデル

↑Pグレード(7人乗り)、Gグレード(5/7人乗り)、Mグレード(5人乗り)の4タイプを用意。写真はPグレード

三菱自動車

アウトランダーPHEV

2013年に登場したクロスオーバーSUV「アウトランダーPHEV」は、昨年12月にフルモデルチェンジ。2021年度の販売台数は6267台となり、PHEVの車名別販売台数で1位を獲得しています(※1)。また、「P」と「G」グレードは3列シート7人乗りが設定され、パッケージングでも国産PHEVでオンリーワンの仕様が特徴。

※1:2021年4月~2022年3月 一般社団法人日本自動車販売協会連合会調べ

 

同車は20kWh駆動用バッテリーを搭載。燃料満タンからのエンジン発電で合計約100kWhの電力を外部機器に 最大1500W(100V AC電源)まで給電できます。これがどれだけ大容量なのかというと、近年、大人気のポータブル電源のバッテリー容量が2kWh前後(AC出力1500Wの機種の場合)で、100kWh÷2kWhで50個分に相当。なお、ポータブル電源の売れ筋である500Whモデル(最大同時出力600〜800W前後)と比較した場合は、なんと約200個分に相当します。

 

また、スマホアプリ「MITSUBISHI CONNECT」と連携してエアコンの遠隔操作ができるなど、IoTデバイスとしての性格も持ち併せています。

 

【アウトランダーPHEVの公式サイトでは本記事では

あまり紹介していない実写の画像が沢山! 詳細はコチラ

 

被災時の負担・ストレスを低減させる6つの能力

それでは、アウトランダーPHEVのバッテリーがどれだけ被災時の生活の支えになるか、6項目をチェックしていきましょう。

 

【その1】暑さ(寒さ)対策

まずは暑さ(寒さ)対策。被災したのが夏だった場合、停電時でも車内エアコンがエンジンをかけずに使える(※2)ので、身近な避難スペースになります。アウトランダーPHEVは3列シート7人乗りグレードが設定されるだけあり、人がゆったりと寝られるスペースを後席&荷室に確保。車内で過ごすことで昼夜の熱中症を防げます。

 

もちろん、バッテリーに貯めた電力で自宅の家電を動かすことも可能です。エアコンは最大約172時間(※3/消費電力目安は下部に記載)、扇風機は24時間回し続けても最大約160日以上動く計算です。エンジンをかけて発電せずとも給電できる仕組みなのも便利。さらに、アウトランダーPHEVの場合、そもそもバッテリー容量自体が大きいので給電できる時間が長い、という点もメリットになります。

 

また、冬の災害時にもエアコンで部屋を暖めて暖がとれることは大地震後の火災対策に有効ですし、余震の恐れがなければ石油ファンヒーターを動かせることもメリットです。さらに就寝時のスポット暖房として電気毛布を活用できるのも電気が使えればこそ。

 

特にファンヒーターやー電気毛布は暖房家電としては消費電力が少なく、灯油の備蓄があれば石油ファンヒーターなら24時間稼働し続けても最大約80日以上、電気毛布なら最大約120日ほど使え、寒さにこごえるリスクを減らせます。

※2:エンジン始動をしない暖房はヒートポンプ式エアコン装着車のみ
※3:【各家電の消費電力目安】●エアコン:580W(立ち上がり時に1400W前後の電力を消費するうえ、運転状態により消費電力が変動するためあくまで目安)●扇風機:25W●石油ファンヒーター:50〜200W(点火初期に400W前後の電力を使用するためあくまで目安)●電気毛布:35W

 

【その2】スマホの充電対策

スマホをメインにしたデバイスの充電を担保してくれるのもアウトランダーPHEVの頼もしいところ。平均的なスマホのバッテリー容量を約3000mAh(≒11.1Wh)、変換ロスを考慮して満充電に5000mAh(18.5Wh)必要だと考慮しても、単純に計算で最大約5400回以上の充電が可能です。

 

インパネには USB端子が搭載されているほか、フロアコンソール背面、ラゲッジルーム運転席側に電源コンセントを設置。ノートPCやタブレットのようなバッテリー容量が大きめなデバイスはAC式電源器を使って充電すると素早く充電ができます。上記イラストでは、スマホはインパネから給電、タブレットはフロアコンソール背面からAC式充電器で給電する使用方法を想定してみました。

 

被災時の情報収集や安否確認以外にも、夜間のライトとして使用したり、気分が沈まないようにBGMを流したりと、スマホは用途多彩なため充電を気にせず使えると安心感が違います。

 

なお、アウトランダーPHEVのバッテリーは、エンジン発電による充電時間は停車中チャージモードで約95分(満充電付近/非常時ということでアイドリングによる充電を想定)。夜間にエンジンをかけて稼働すると、不用心かつ近隣迷惑になることもあるので、夕方までに車両に貯めた電気で夜を過ごすのがいいでしょう。

 

【その3】最新情報収集対策

ラジオは災害時のライフラインのひとつ。スマホアプリでラジオを聞く場合はインターネットが通じていなければならず、長期停電などが生じ携帯基地局がダウンしているとラジオも聞けなくなります。アウトランダーPHEVにはAM/FMラジオと地上デジタルTVチューナーを標準装備しており、報道機関の情報を取得できます

 

夜間など自宅で過ごす際は充電式のラジオやランタンを室内で使い、日中など活動している時間帯は車両のラジオから情報を得るといった使い分けも可能です。

 

【その1】で紹介したように、自宅に電気を引き込めば停電時でも自宅でテレビが見られます(アンテナが故障していないことが前提)。二次災害や余震が危惧される際には、すぐに情報を確認できますし、テレビ自体が明かりの役割も果たしてくれます

 

広域の災害情報などはテレビで取得するのが分かりやすいですし、あるいは自宅のDVD・BDプレイヤーで映像コンテンツを楽しんだり、ゲーム機で遊んだりすることも可能になります。非常時でも平時と変わらないコンテンツに触れることで、心の安定を保つ心理的効果もあるとされています。災害時は周りで何が起こっているのか把握できず、孤独になりがち。情報が不安感を取り除いてくれるのです。

 

【コラムその1】自治体との災害時協力協定

三菱自動車では災害時にPHEVを貸し出す、災害時協力協定「DENDOコミュニティサポートプログラム」を全国200以上の自治体と締結。地域ディーラーが災害が起きたエリアにPHEVを貸し出す体制を整えています。災害時にPHEVを自治体へ貸与し活用した例もあり、人々の生活を支える存在になっています。

 

【三菱自動車では「災害にも強い三菱のPHEV」と題したサイトコンテンツを

公開しています。詳細はコチラ

 

【その4】食事・調理対策

被災時にアウトランダーPHEVが活躍するのは、「住」関連だけではありません。「食」でも力を発揮します。停電時でも電子レンジや炊飯器、電気ケトルといった消費電力の大きい調理家電が使えるのがメリット。電子レンジなら最大約67時間、炊飯器なら最大約70回、電気ケトルは最大約80時間使用可能になります(※4)。カセットコンロでお湯を沸かせば、レトルトやインスタント食品を食べることはできますが、アウトランダーPHEVがあればより安全に温かい食事をとれて、心を落ち着かせることができます。

 

「ホームベーカリー」を使うというのもひとつのアイデア。コロナ禍で大ヒットした家電で、自宅に持っているという人も多いと思います。災害時でも焼きたてのパンを食べられるのは、他の家電以上に喜びや安心感を与えてくれるでしょう。バターや牛乳なしで作れるレシピもあります。

 

また、自宅の冷蔵庫をそのまま稼働させ続けることも可能ですし、十分に冷やされた冷蔵庫は真夏であっても数時間程度停止しても冷気を保ちますので、電子レンジや炊飯器など消費電力の大きな家電を使う際は冷蔵庫を止めても大丈夫です。さらに人気上昇中のポータブル式の冷蔵庫なら、消費電力を気にせずに食材や飲み物を冷やしておくことができます。消費電力45Wのポータブル冷蔵庫なら使用可能時間は最大約2200時間(※4)となっています。

 

電気は災害による停電が発生しても、比較的復旧の早いインフラと見込まれています。しかし災害の規模が大きい場合や、局地的に復旧が遅れる場合は停電が長期化することも想定されるため、家庭における防災対策においては、最大で7日間程度の停電を見込んだ準備が必要となります。カセットコンロなどを準備するのもひとつの方法ですが、電気そのものを準備することができるならば、それが一番手軽かつ便利な対策となります。

 

アウトランダーPHEVは、AC1500W給電で平均的な家庭が1日で使う用電力(約10kWh)をまるごと最大約10日間賄うことができます(※5)。といっても災害が起こるタイミングによっては、発電するためのガソリンが足りないという状況に陥ることも……。家族の安全と健康を第一にしながら、どこに電力を使って生活するか、普段から頭のなかでシミュレーションしておくのがいいでしょう。

※4:【各家電の消費電力目安】●電子レンジ:1500W(30Lクラス)●炊飯器(5.5合炊飯時):1300W(1回の使用を1時間と想定)●電気ケトル:1250W ●ポータブル冷蔵庫:45W
※5:供給可能電力量は三菱自動車試算による

 

【その5】衛生&消毒対策

アウトランダーPHEVがあれば洗濯機も最大約500時間と十分に使うことができます(洗濯時/※6)。しかし、断水してしまうと家庭用洗濯機で洗濯するのは困難になります。こういった場合は、市販のポータブル洗濯機を用意しておけば少量の水でタオルやシャツが洗え、汗をかく夏場の衛生対策にもなります。

 

水を消費する家電でいうと、外付けの食洗機も優秀。少量の水で食器類をきれいにできるため、断水などで使用できる水が限られているケースで活躍します。(最大約130時間使用可能/※6)

 

また、地震で自宅内の食器や棚のモノが割れて散乱してしまった場合、掃除機で吸い込めば安全に生活できる状態に戻せますし、床の衛生状態もきれいに保てます。最近主流のコードレス式スティック掃除機の場合、30分程度でバッテリーが切れてしまうため、アウトランダーPHEVがあることで何度も使用することが可能です。

 

加えて、衛生面でいうと「消毒」も電気があると安心して行えます。消毒用の熱湯は電気ケトルで手軽に作れますし、乳児がいる家庭では電子レンジに哺乳瓶ケースと水を入れての熱湯消毒が可能。これは一般的ではないかもしれないですが、近年は深型のホットプレートが人気を博しており、電子レンジが故障した場合でもホットプレートで熱湯を作っての消毒も選択肢として考えられます。

※6:【各家電の消費電力目安】●洗濯機(ドラム式):200W(洗濯時)。なお、乾燥は1300W程度の電力を消費するため最大約71時間程度●ポータブル洗濯機:10W●食器洗い乾燥機:770Wh●ホットプレート:650W(小型・深底タイプ)●掃除機:1000W(強モード時)

 

【その6】自宅避難対策全般

最後は、バッテリーによる直接的な電気の恩恵ではないものの、災害時に想定されるケースをもとにアウトランダーPHEVの幅広い災害対策用途を紹介。

 

まず、大地震による津波や地震火災、台風や大雨による水害や土砂災害、火山の噴火など、自宅に留まると命に危険が生じる恐れのある場合は、迷わず「避難場所」へ逃げることが重要です。早期避難であれば自動車を使って移動しても構いません。一方、命を守った後に最寄りの「避難所」へ移動するかどうかは各家庭の判断にゆだねられます。

 

避難所はホテルや宿泊施設ではないため、基本的に環境はよくありません。物資は潤沢ではなく、夏の暑さと冬の寒さ、床の硬さ、集団生活による感染症リスクの増大や盗難を含むトラブルの発生、プライバシー確保の困難さなど、様々な問題を秘めています。

 

特に、家族に乳幼児や子ども、妊婦、高齢者、要介護者、障がい者、そしてペットなどがいる場合、避難所での共同生活は困難です。さらに近年の災害では、高齢者が避難生活により体調を崩し、最悪の場合は命を落とす「災害関連死」による被害も急増しています。避難所へ行かずに生活をできる準備があることは安心につながります。

 

そのため近年においては、車中泊などを実施したり、自宅が無事であり二次災害の恐れもない場合は、できるだけ自宅に留まる「在宅避難」という選択肢もあります。

 

アウトランダーPHEVなら、大人2人が横になる十分なスペースがあり、小さなお子さんであれば親子3人が同時に横になれます。また、自宅の照明への電源供給も容易なため、自宅が真っ暗で怖がってしまうこともありません。自分自身はもちろん、家族の精神的な不安を和らげてくれる選択肢を提供してくれます。

 

【コラムその2】「V2H」でさらにアウトランダーPHEVの力を引き出せる

アウトランダーPHEVはAC電源コンセントから最大1500Wを給電できますが、これ以上に大きな電力を家庭に一度に供給する方法も。それが「Vehicle to Home」を略した「V2H」。V2H機器を利用した場合は電力変換ロスが少なくなるため、最大で一般家庭12日分の電力を供給可能。より長期の災害対策を施すことができます。

*7:供給可能電力量は三菱自動車試算による(一般家庭での一日当たりの使用電力量を約10kWh / 日として算出、V2H機器等の変換効率は含みません)。住宅との接続にはV2H機器が必要です。V2H機器に接続している場合、エンジン始動による発電はできません。エンジンでの発電を行う場合は、V2H機器との接続を終了してください。V2H機器については、営業スタッフまたは各V2H機器取扱メーカーにおたずねください。

 

【まとめ】

ここまでは給電を中心とした利点に着目してきましたが、クルマとしての性能にも簡単に触れてまとめに入っていきます。

 

アウトランダーPHEVはツインモーター4WDに加えて、4輪の駆動力・制動力を最適に制御するS-AWC(Super All Wheel Control)を採用。走っては快適、路面状態の悪い場所でも安心して走行できるのが特徴です。

 

安心という意味では、先進支援機能も充実。衝突軽減ブレーキシステムや高速道路 同一車線運転支援機能マイパイロットなど、今の時代に必須のサポート機能を全グレードに標準装備しています。

 

ちなみにアウトランダーPHEVではなく、クロスオーバーSUV「エクリプス クロス」という選択肢もあります。スタイリッシュなクーペフォルムと機動力を融合させたクロスオーバーで、アウトランダーPHEV同様S-AWC やAC1500Wコンセントを装備し、V2Hにも対応。

 

ここまでで、アウトランダーPHEVの多岐にわたる活用術を通して、個々のグッズを揃える「点」の災害対策ではなく、体系的に災害に備える「面」の対策が施せることがお伝えできたかと思います。

 

防災の日をきっかけに、一度ライフラインが止まったときの生活を試してみてはいかがでしょうか。自宅の電気が使えなくなったら、生活にどのような支障が出るのか……。それを知っておくだけでも災害に対する心構えになります。そして、電気がないことで起きる支障の多くの部分はアウトランダーPHEVによって対策可能。大変心強い存在といえるでしょう。

 

【三菱自動車の公式サイトでは三菱のPHEVの歴史や詳細が

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まとめ/卯月 鮎、イラスト/tomoya、監修/高荷 智也(合同会社ソナエルワークス/備え・防災・BCP策定アドバイザー)

人気のMPV市場に中韓勢が挑む。インドネシアの最新自動車事情

インドネシア最大のモーターショー「ガイキンド・インドネシア国際オートショー2022(GIIAS 2022)」が8月11日より21日まで、ジャカルタ市郊外のインドネシア・コンベンションセンター(ICE)で開催されました。

 

これまでインドネシアで圧倒的シェアを誇ってきた日本車。その中心が3列シートのMPV(マルチ・パーパス・ビークル)です。そのMPVを通して感じたインドネシアの自動車市場をレポートします。

↑GIIAS 2022は、ジャカルタ郊外のICE(Indonesia Convention Exhibition)で開催された

 

 

中国「ウーリン」、韓国「ヒョンデ」が相次いで新型MPVを投入

インドネシアは東南アジア屈指の人口2.7億人を抱え、急速な経済成長と共に将来への期待はきわめて大きい国の一つです。そうした状況に日本の自動車メーカーはいち早く着目し、工場建設などの投資も積極的に行ってきました。その結果、インドネシアにおける日本車のシェアは9割を大きく超え、インドネシアは世界で最も多くの日本車が走る国となったのです。

↑GIIAS 2022の会場内風景。プレスデーの8月11日撮影。最も大きなスペースはトヨタだったが、ヒュンダイもそれに匹敵するスペースを確保していた

 

しかし、その状況はここ数年、大きく変化し始めています。中国と韓国勢による進出が影響を及ぼし、ジリジリと日本車のシェアが下がり始めているのです。数年前まで日本車のシェアは95%を超えていましたが、昨年は94%台に下がっています。

 

特にその存在が目立っているのが中国車で、中でもウーリン(五菱)は2021年で前年比3.9倍もの販売実績を上げ、シェアを単独で2.9%にまで高めています。これは3列シートのMPVをリーズナブルな価格で発売したことがインドネシアで受け入れられたとみられています。

↑多彩な車種展開で多くの来場者を集めていたウーリンのブース

 

 

日本勢は先行して新型車を相次いで投入して中韓勢を迎え撃つ

そうした流れに今回のGIIAS 2022では、新たな動きが加わりました。韓国ヒュンダイ(現地読み/日本では「ヒョンデ」)がこのMPV市場に新型車「スターゲイザー」を投入してきたのです。しかも、すべての部品を輸入するノックダウン生産ではなく、現地部品を調達して現地工場で生産する方法に変更し、“インドネシア国産車”としてアセアン各国に輸出する計画を示したのです。

↑ブース内を横断する超巨大なスクリーンで圧倒的存在感を見せたヒュンダイのブース

 

もちろん、迎え撃つ日本メーカーも黙ってはいません。両社合わせて5割を超えるシェアを握るトヨタとダイハツは、昨年11月、FF(前輪駆動)化したMPVとしてトヨタ「アバンザ」/ダイハツ「セニア」を発表。三菱も久しぶりの大ヒットとなった「エクスパンダー」をマイナーチェンジするなど、迎撃態勢はすっかり整ったようにも見えます。

↑マイナーチェンジした「エクスパンダー」「エクスパンダー クロス」のプレスカンファレンス

 

しかし、ヒュンダイの動きはインドネシア国内では好意的に見られているのは確かなようで、インドネシアの自動車事情通によれば「今までとは勢いがまるで違います。中国車を見ても以前と比べて品質は格段に向上していますし、何よりカッコ良いクルマに憧れるインドネシアの人たちにとって、スターゲイザーはかなり脅威になるでしょう」と話していました。

 

1990年代に一度MPV市場に参入して撤退した苦い経験を持つヒュンダイにとって、「今度こそ!」という思いが強いのは間違いないでしょう。インドネシアにおけるMPVは中国勢や日本勢を巻き込み、今後しばらくは熾烈な戦いが繰り広げられそうです。

 

 

ヒュンダイ「スターゲイザー」

ヒュンダイのスターゲイザーは、「スリーク・ワン・ボックス」と名付けられたワンモーションフォルムのスタイリッシュなデザインがポイント。ボディサイズはインドネシアで人気が高い三菱エクスパンダーとほぼ拮抗します。特に横一文字のデイライトを配したワイド感たっぷりのフロントフェイスは近未来感たっぷりのデザインで、MPVとしての存在感をさらに高めていました。

↑横一文字のデイライトを配したワイド感たっぷりのフロントフェイスは近未来を感じさせるデザインとなった

 

パワートレインは1.5L直列4気筒ガソリンエンジンを搭載し、最高出力115PS/6300rpm、最大トルク143.8Nm/4500rpmを発揮。トランスミッションは無段変速式CVTの「IVT」と6速MTが選択できます。

↑左右にまたがるLEDと個性的なリアコンビランプの組み合わせで、“H”をイメージ

 

インテリアは使い勝手の良さを感じさせる水平基調のインストルメントパネルで、インフォテイメント系としてはコネクティッドサービス「ヒョンデ・ブルーリンク」に対応した8インチディスプレイオーディオを設定。これを使うことで、スマートフォンからドアロックの解錠・施錠、エンジンスタート/ストップなどが可能となります。

↑二つの大型液晶ディスプレイを中心に斬新なデザインで構成されるインテリア

 

ウーリン(上海通用五菱汽車)「コンフェロS」

コンフェロSは2017年のGIIASで発表された3列シートのMPVで、ウーリンがインドネシア国内でシェアを伸ばす原動力となりました。全長4530×全幅1691×全高1730mmという手頃なサイズのボディで、2720mmのホイールベースによって3列シートを成立させています。

↑インドネシアでウーリンのシェアを2.9%まで拡大する原動力となったコンフェロS

 

搭載エンジンは直列4気筒1.5LのデュアルVVT付DOHCで、最大出力107PS/最大トルク142Nmの動力性能を発生。トランスミッションは5速MTと組み合わせます。注目は駆動方式がFR方式を採用し、車体をフレームボディとしたことです。これは商用車ベースで設計されていることが背景にあります

↑駆動方式がFRということもあり、車高は高めとなっているコンフェロS

 

インフォテイメントシステムはBluetoothやミラーリンク機能に対応した8インチディスプレイを備え、サンルーフ、リアカメラ、電動パーキングブレーキを備えるなど、仕様的に不満が出ないよう設計されています。これが手頃な価格で買えることが人気を呼ぶ大きな理由になっているようです。

↑コンフェロSのインテリア。オーソドックスながら使いやすい環境を実現した

 

 

三菱「エクスパンダー クロス」

エクスパンダーは2017年のGIIASで公開された3列シートのMPV。「エクスパンダー クロス」は、その最上位モデルとして2019年にデビューしました。今回のマイナーチェンジでは車体前後を一新してSUVらしい力強さをアピール。さらに電動パーキングブレーキを標準装備し、前左右輪の制動力を調整して旋回性を高めるアクティブ・ヨー・コントロール(AYC)などの採用で走行時の安心感や乗り心地の向上をもたらしました。

↑車体前後のデザインを一新してSUVらしい力強さをアピールしたエクスパンダー クロス

 

リア周りはテールゲートをより立体的な形状とし、LED化した水平基調のリアコンビランプによってワイドで安定感のあるデザインとしています。アルミホイールには2トーン切削光輝仕上げの17インチを採用し、前後のスキッドプレートおよびドアガーニッシュのグレー塗装とのコーディネートと相まって、立体感あるスポーティさの表現に貢献しています。

↑より上質なイメージに変貌した新型エクスパンダー クロス

 

インテリアでは、水平基調の「ホリゾンタルアクシス」コンセプトのインストルメントパネルに、大径の4本スポークステアリングを新採用。メーターを8インチのカラー液晶として視認性の向上を図り、ステアリングホイールの操作スイッチから平均燃費や瞬間燃費などの運転情報や、AYCの作動状態などをメーター内で確認できるとのことです。

↑ステアリングから多彩なコントロールを可能西、電動パーキングブレーキも新採用

 

 

トヨタ「アバンザ」/ダイハツ「セニア」

「アバンザ」と「セニア」は、トヨタ自動車とダイハツ工業が共同開発した7人乗り小型ミニバンです。インドネシアで生産が行われてきた3列シートのMPVで、2021年11月に3代目が発表されました。インドネシアにおけるDNGA採用の第2弾に位置付けられ、アバンザにとって歴代初のFFとなったのも大きなトピックです。トヨタ・アバンザは、インドネシアで大ヒットを遂げている三菱・エクスパンダーを意識した造りとなっており、フロントにはシャープなLEDヘッドライトと大きく開口されたグリルを採用することで存在感をアピール。

↑昨年11月、歴代初のFF化を実現した3代目として登場したトヨタ・アバンザ

 

↑ダイハツが参考出品した「セニア・スポーツ」。トヨタ・アバンザと兄弟車の関係にある

 

リアはスクエアな形状にリアコンビランプとリフレクターを隅に配置することで、ワイド感あふれるデザインを印象付けています。

↑搭載エンジンは先代に引き続き、1.3Lと1.5Lガソリンをラインナップした

 

ボディサイズは全長4395mm×全幅1730mm×全高1665mmと先代よりも少し大きく、それに伴って室内長は160mm拡大することとなりました。パワートレインは1.3L直列4気筒ガソリンと1.5L直列4気筒ガソリンをラインナップ。トランスミッションには5MTに加えて「D-CVT」を組み合わせます。

↑実用性を重視したインテリア。トランスミッションは5MT以外にD-CVTも追加した

 

 

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スバル「レヴォーグ」。これだけ速くて快適で気持ちいい実用車など、他にあるのか?

2021年11月、スバル「レヴォーグ」にハイパフォーマンスモデル“STI Sport R”が追加された。新開発の2.4L直噴ターボエンジンを搭載する同モデルは、スバルのフラッグシップスポーツ「WRX STI」と共通点があるのか? 同ブランド内での立ち位置と走行性能の真価を探る。

 

【今回紹介するクルマ】

スバル/レヴォーグ

※試乗グレード:STI Sport R

価格:310万2000円~477万4000円(税込)

 

まずはスポーツモデルWRX STIについて語ろう

スバルのスポーツモデルの頂点に君臨するのは、WRX STI(インプレッサWRX STIを含む)である。伝統の水平対向ターボエンジンに6速マニュアルトランスミッションを組み合わせ、サスペンション、ブレーキ、空力など、あらゆる面で究極の走りを目指したモデルだ。内外のマニアの間では絶対的な人気を誇ってきた。

 

ところが、2021年に登場した新型WRXには、その「STI」がなく、今後も出ないらしい。世界中のスバルファンが、「なんてこった!」と頭を抱えている。WRX STIは世界的に人気があるだけに、マニアックなスポーツモデルにもかかわらず、かなり台数が出る。そのわりに燃費が非常に悪く、世界中の燃費規制に引っかかる。エンジン(EJ20型)の基本設計も古く、排ガス規制もキビシイ。これ以上の延命は不可能だったようだ。

 

その代わりと言っては何だが、以前からあったWRXのAT(正確にはCVT=無段変速)バージョンであるS4には、これまでの2.0Lターボエンジンに代わって2.4Lターボエンジンが搭載され、CVTもスポーティな新型に更新された。

 

ただ、スペックを見ると、この2.4Lターボエンジン、以前の2.0Lターボエンジンより、馬力もトルクも低い。旧S4が300馬力/400Nmだったのに対して、新型は275馬力/375Nm。常に最高の走りを目指してきたWRXが、スペックダウンするってどういうことだ? 排気量を拡大したっていうのに信じられない! 堕落だ!

 

そのように思っていたが、実際に乗ってみて仰天した。この新型S4、めちゃめちゃパワルフなのである! どう考えても旧型より速い! いや、少なくとも速く感じる! 加えて、新開発されたCVT「スバルパフォーマンストランスミッション」が物凄くイイ! 普通に流していてもCVT特有の空回り感はまったくなく、ダイレクトな加速が楽しめるが、ひとたびスポーツ+モードに入れれば、自動的に8速ステップ変速に切り替わり、他のあらゆる変速機もかなわないほど、恐ろしく素早いシフトチェンジを行う。

 

実はこのシフトチェンジ、疑似的なもので、実際にはCVTのレシオを瞬間的に切り替えているにすぎないが、乗ったイメージはまるでF1マシン! 「クワーン、クワーン、クワーン」と快音を奏でながら、ウルトラ超速シフトアップを繰り返し、切れ目のない超絶加速をブチかましてくれる(ように感じる)。エンジンスペックは旧型より落ちているのに不思議だが、とにかく新型S4は、素晴らしく気持ちいいスポーツセダンだ。MTにこだわるマニアには物足りないかもしれないが、私は気持ちよければそれでいい。新型S4、最高だぜ!

 

が、新型S4にも欠点がある。それは、中高年にはサスペンションがハードすぎることだ。サスペンションのモード切替を「コンフォート」にしておけば問題ないが、「ノーマル」や「スポーツ」はあまりにも固すぎてツライ。つまりサスペンションだけ「コンフォート」に切り替えれば済む話だが、おっさんになると、それが面倒くさくなってくる。

 

スバルパフォーマンストランスミッションの超絶レスポンス

ところが! 同じエンジン/ミッションを積む、2代目レヴォーグ「STI Sport R」は、サスペンションが断然ソフトだという。レヴォーグのノーマルモデルは、1.8Lターボの177馬力。この「STI Sport R」は、新型S4と同じ2.4Lターボを積むが、サスペンションは基本的にノーマルモデルと同じらしい。気持ちよければそれでいいおっさんには、そっちのほうがいいかもしれない……。

 

実際乗って見ると、予想通りだった。エンジン/ミッションは超絶パワフル/超絶レスポンスのままだが、サスペンションはぐっとふんわりソフトなのだ。「うおおおお、これはイイ!」

 

今やWRX S4は、スバルのスポーツモデルの頂点。サスペンションをハードに固めて、サーキットでしっかりタイムが出るようにセッティングする必要がある。公道での快適性は二の次でも仕方ない。

 

しかしレヴォーグは違う。ステーションワゴンであるレヴォーグは、あくまで公道を快適に速く走るための実用車。サスペンションをむやみに固める必要はないから、あらゆるモードで快適な乗り心地を確保しつつ、2.4Lターボのスーパーパワーと、スバルパフォーマンストランスミッションの超絶レスポンスが味わえるのだ!

↑275PS、375Nmの圧倒的なパフォーマンスを発揮する新開発の2.4L直噴ターボエンジン。さらに、2.4Lエンジンに合わせて開発したスバルパフォーマンストランスミッションを搭載

 

欠点は、燃費が悪いことである。高速道路をゆっくり流しても、10km/Lを超えるのは難しい。日常使いで7km/Lくらい。しかもガソリンはハイオク指定。お財布には決して優しくない。しかし、それがなんだと言うのだ! これだけ速くて快適で気持ちいい実用車など、他にあるだろうか? お値段477万円。高いと言えば高いが、中身を考えればむしろ安いっ! コイツに乗っていれば、BMWの「M」やメルセデスの「AMG」に挑まれても怖くないぜ。

↑張り出しが強調された前後フェンダーが特徴。足回りはZF製の電子制御ダンパーを装備し、路面の状態や車体の動きをセンシングして、リアルタイムで減衰力を可変制御する

 

↑C字型のランプの意匠や六角形の“ヘキサゴングリル”

 

↑C字型のテールランプが目を引くリア

 

↑内装色はブラックとボルドーのツートン。そして思わずデカっと言ってしまいそうな11.6インチ大面積の縦型センターディスプレイ。ここではエアコンやナビの操作、車両の細かな設定などを行える

 

↑ドライブモードセレクトの操作画面。これは「STI Sport」系のグレードに備わる。「GT」「GT-H」系のグレードには、パワートレインの制御のみを切り替えられる「SI-DRIVE」が装備される

 

↑従来モデルより足元スペースが広くなったリアシート。座面長も18mm拡大し、USB電源は2口設けられている

 

SPEC【STI Sport R】●全長×全幅×全高:4755×1795×1500㎜●車両重量:1630㎏●パワーユニット:2387㏄水平対向4気筒直噴ターボ●最高出力:275PS/5600rpm●最大トルク:375Nm/2000-4800rpm●WLTCモード燃費:11.0㎞/L

 

撮影/阿部昌也

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

“鉄分”豊富なイベントが各地で催される!鉄道開業150年日本全国 鉄イベMAP

明治5(1872)年に日本初の鉄道が新橋〜横浜間に開業して今年で150年。そのアニバーサリーイヤーに合わせてJR各社が様々なイベントを企画している。鉄道ファン以外も必見だ!

※こちらは「GetNavi」 2022年10月号に掲載された記事を再編集したものです。

モノ知りインフルエンサー

鉄道写真家

久保田 敦さん

鉄道雑誌をはじめ、旅行誌などで幅広く活躍中。鉄道の躍動感にこだわった作品に定評があり、写真展も開催する。

 

開催・開業・開通と注目トピックが盛りだくさん

鉄道ファンなら身体がいくつあっても足りない。今年はそんな年になっている。鉄道開業150年を記念してJR各社が趣向を凝らしたイベントを企画。記念ツアーの実施や、貴重な資料の展示など、矢継ぎ早にイベントを開催中だ。

同じく、各新幹線も周年イヤーラッシュで盛り上がっている。

「まずは、初代東北新幹線の車両である200系を模したカラーで運行するE2系に注目を。外観はもちろん、駅ごとに異なる車内のチャイムも懐かしく、見ても乗っても楽しめます。また、西九州新幹線は東海道新幹線のN700Sと同じ車両とは思えない雰囲気ある車内が見どころ。異国情緒あふれる長崎への旅を盛り上げます。同時に開通する観光列車『ふたつ星4047』も期待大!」(久保田さん)

 

画像提供:JRグループ

 

【キャンペーン】

実施中〜2023年3月31日

鉄道開業150年キャンペーン

JRグループの総力を結集したキャンペーンが開催中。JR各社のシンボルカラー6色のラインが印象的なポスターが各所に掲出されているので、ご存じの方も多いだろう。150年記念旅行商品の販売、特定の18駅でだけ聴ける音声コンテンツの配信など、内容盛りだくさんなので特設サイトをチェック!

 

↑対象となる駅にデジタル版スタンプを用意。歴史を感じられるJR各社の駅舎や観光地などをモチーフにしており、季節ごとに新スタンプが追加される

 

秋田新幹線 25周年

 

東北新幹線 40周年

 

山形新幹線 30周年

 

上越新幹線 40周年

 

北陸新幹線 25周年

 

東海道新幹線のぞみ号 30周年

 

山陽新幹線 50周年

 

特急しぽかぜ・南風 50周年

 

 

ヒットアナリティックス

新型車両の導入ラッシュで鉄道熱は引き続き上昇傾向

ここで挙げたトピック以外にも話題が目白押し。7月1日には高山本線に新型特急のHC85系が登場。また10月1日に只見線が全線復旧するのは今秋一番のニュースだ。全線を通して乗って、車窓いっぱいに紅葉を楽しもうと計画している人も多いのでは。

 

【その1】 北の大地における鉄道の過去現在未来がひと目で分かる

 

【イベント】

開催中〜2022年10月31日(予定)

JR札幌駅 「鉄道開業150年のあゆみ」パネル展

鉄道開業150年の歩みを、当時の社会情勢と合わせて紹介するパネル展。札幌駅西コンコースに会場を設け、貴重な鉄道備品や資料映像を見られる。2030年度末に予定されている北海道新幹線札幌延伸(※1)時の予想図も興味深い。

※1:2015年1月14日開催 政府・与党整備新幹線検討委員会より

 

【その2】 3日間乗り放題で秋の小旅行にピッタリ!

【フリーきっぷ】

2022年9月発売開始

鉄道開業150年記念 JR東日本パス

2万2150円

JR東日本全線と、その他の鉄道路線7社の列車が3日間乗り放題で2万2150円というおトクなきっぷをえきねっと限定で販売。新幹線の普通車指定席も乗れて、レンタカーの利用特典もあるのがうれしい。

 

【その3】 日本人の琴線に触れる鉄道旅の追憶を関係資料で辿る

画像提供:鉄道博物館

【イベント】

開催中〜2023年1月30日

鉄道博物館

鉄道の作った日本の旅150年

入館料1330円(※2)

長距離移動を“旅”ととらえ、日本人の旅と鉄道との関わり、その変遷を振り返る。10月24日までの前期は鉄道開業前〜1940年代、10月29日からの後期は1950年代〜現在までの旅の姿を貴重な資料ともに紹介。写真は明治時代に新橋〜下関を走った特別急行列車。

※2:指定のコンビニエンスストアで事前購入制

 

【その4】 現役E2系をアレンジし緑と白の名車が蘇る!

 

【鉄道】

2022年6月運行開始

200系新幹線カラーが復活

1982年にデビューし、2013年まで運用された上越・東北新幹線200系車両のカラーリングが期間限定で復刻。鉄道ファンからいまなお高く評価される懐かしの名車の雰囲気を楽しみたい。

 

【その5】 JR系ホテルだからこそ実現できるホテル客室での運転体験

画像提供:JR東日本

【体験プラン】

実施中〜2022年9月30日

JR東日本

トレインシミュレータルーム

宿泊料は施設により異なる

池袋、丸の内、川崎、さいたま新都心のメトロポリタンホテルズに、1日1室限定のトレインシミュレータを設置。本物を忠実に再現したマスコンユニットで京浜東北線と八高線の運転体験ができる。

 

【その6】 アテンダントの案内とともに贅沢な観光列車の旅へ

 

【鉄道】

2022年7月運行開始

SAKU美SAKU楽

5200〜6000円(岡山〜津山)

岡山県北エリアを巡る観光列車。沿線に点在する桜の名所をイメージしたピンクの車体が緑豊かな街に“花”を添える。沿線案内をしてくれる車内アテンダントが同乗。地元食材を使った特製弁当やスイーツ付きなのもうれしい。

 

↑国鉄時代のキハ40系を改装し、レトロな雰囲気は残しつつ、内装を一新。グリーン×ブラウンの車内は岡山の自然をイメージ

 

【その7】 親子で楽しめるワークショップも充実

 

【イベント】

開催中〜2022年12月26日

リニア・鉄道館

鉄道開業150年特別展 〜日本の鉄道誕生と東海道本線の高速化〜

入館料1000円

特別展では、東海道新幹線に至るまでの高速化の歴史を紹介。また、技術展示ではベアリングのしくみや歴史を解説するほか、夏の間は超電導リニアの模型制作などを体験できるワークショップ、鉄道模型での運転操作体験など子ども向けの催しも。

 

【その8】 新幹線「かもめ」の登場で長崎観光がグッと身近に

 

【鉄道】

2022年9月開業

西九州新幹線

5520円(博多〜長崎)※自由席

武雄温泉〜長崎間の約66kmが新幹線でつながり、長崎〜博多の所要時間が約30分短縮。車両は東海道新幹線と同じ最新型のN700Sだが、インテリアは和洋折衷のオリジナルデザイン。開業に合わせて整備が進む新しい長崎駅も注目だ。

 

↑指定席は2+2シートのゆったり設計。車両ごとに菊大柄、獅子柄、唐草とファブリックデザインが異なっている。6両編成で1〜3号車が指定席

 

【その9】 食、景色、インテリア……オール愛媛の観光列車

 

【鉄道】

2022年4月リニューアル

伊予灘ものがたり

3670円〜(松山〜伊予大洲・八幡浜)

JR四国初の本格観光列車として2014年から運行する同列車が、新車両となって生まれ変わった。レトロモダンな車両で風光明媚な伊予灘の景色を眺めながら豪華食事を楽しめる。砥部焼の洗面台など車内設備もこだわり満載。

 

↑キロ185系車両の3両編成。客室デザインは車両ごとに異なり、海向き展望のペアシートも用意される

フランス政府、電気自動車を月額1万4000円でリースできる制度を準備中!

フランス政府が月額100ユーロ(約1万4000円)で電気自動車(以下、EV)をリースできる、新たなEV補助金制度の準備をしていることが明らかとなりました。

↑EVを月額100ユーロでリースできる予定

 

米Bloombergによると、ガブリエル・アタル行動・公会計大臣は、週末に現地のLCIニュースチャンネルでこの計画を発表したそうです。アタル氏は「多くのフランス人にとって(EVは)非常に高価であることは承知している」と述べ、政府がこの施策をどれだけ早く実行できるかを考えていると付け加えたとのことです。

 

8月末現在、フランスでは4万7000ユーロ以下のEVであれば、最大6,000ユーロの補助金を受けられます。また政府の下取り制度を使えば、古いガソリン車も買い取ってもらえる手厚さ。これほど優遇されているものの、2022年1~7月にフランスで売れた新車のうち、EVの割合は12%に過ぎませんでした。

 

その点では北欧諸国がはるかに先を行っており、たとえば昨年のノルウェーでは、バッテリーだけで走るEVとハイブリッド車が新車販売の3分の2近くを占めていました。北欧ではガソリン車にかかる数々の税金がEVでは免除される制度(車両購入税や付加価値税、道路使用税など)が、この普及を後押ししているといわれます。

 

今回の発言に先立ち、仏マクロン大統領は「補助金があってもEVは多くの人にとって手が届かない」との批判を受けて、低所得者向けの国営リース制度を約束していたとのこと。ようやく、その公約が実現されるメドが立ったようです。

 

このリース政策は、ルノーSAやフォルクスワーゲンAGなど、欧州自動車メーカーを後押しすることも意識されているようです。日本でも国内のEVメーカーを育てつつ、より多くの人々がEVを利用できる制度の整備が求められるのかもしれません。

 

Source:BNN Bloomberg
via:Engadget

ピュアEVとミニバンそれぞれの魅力を実感できる! ヒョンデ「アイオニック5」とホンダの新型ステップワゴンに試乗

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」でピックアップするのは、「ヒュンダイ」改め「ヒョンデ」のピュアEVとなるアイオニック5と、いよいよ発売が開始されたホンダの新型ステップワゴン。続々と登場する本格EVと、日本の主軸ファミリーカーでもあるミニバンの最新作だ。その実力やいかに?

※こちらは「GetNavi」 2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【その1】ピュアEVの魅力がダイレクトに実感できる!

EV

ヒョンデ

アイオニック5

SPEC【ラウンジ】●全長×全幅×全高:4635×1890×1645mm●車両重量:1990kg●パワーユニット:電気モーター●バッテリー総電力量:72.6kWh●最高出力:217PS/4400〜9000rpm●最大トルク:35.7kg-m/0〜4200rpm●一充電最大航続距離(WLTCモード):618km

 

見た目でも中身でも「電気」の魅力をアピール

乗用車市場では12年ぶりの復活となるヒョンデが日本向けに用意したモデルは、このアイオニック5とFCV(燃料電池車)のネッソ。いずれも環境性能が高いモデルで、販売もオンラインのみという導入手法に注目が集まっている。主力は当然ながら前者だ。

 

その内外装は、SUV風の仕立てが主流となるEVのなかでも実に個性的。大柄なハッチバック的な外観は電動モデルらしさがダイレクトに表現され、内装もクルマというより最新家電のような風情だ。その一方、室内の広さを筆頭とする使い勝手も申し分ない。

 

今回は2WDに試乗したが、走りでも最新のEVらしさが実感できる。アクセル操作に対する鋭いレスポンスや日常域での力強さ、静粛性の高さは電気モーターならではの魅力で、それを受け止めるシャーシもフラットな乗り心地を筆頭として良好。最大で600kmオーバーの航続距離まで考慮すれば、有力な最新EVの選択肢のひとつであることは間違いない。

 

[Point 1]室内と荷室は広々

大柄のボディとあって前後席の空間は余裕たっぷり。前席にはオットマンも備わる。荷室容量はリアだけで527Lを確保し、フロントにも57Lの荷室を用意する。

 

[Point 2]テーマは「パラメトリックピクセル」

ハッチバックのボディ形態ながら、まるでコンセプトカーのような大胆なデザインで独自性を強調。2WDの電気モーターはリアに搭載し、駆動方式はRRとなる。

 

[Point 3]プレーンでワイド感を強調する作り

インパネ回りはシンプルなデザインで、家電的な親しみやすさも感じさせる。シフト操作はステアリングコラムに付けられたダイヤルで行う。

 

[Point 4]電源供給機能も充実

後席下の中央には、AC100Vコンセントを装備。給電機能はこれだけではなく、普通充電のソケットにアダプターを装着すれば外でも電気製品が使用できる。

 

[ラインナップ](グレード:パワーユニット/駆動方式/税込価格)

アイオニック5: 電気モーター/2WD/479万円

アイオニック5 ボヤージュ:電気モーター/2WD/519万円

アイオニック5 ラウンジ:電気モーター/2WD/549万円

アイオニック5 ラウンジAWD: 電気モーター×2/4WD/589万円

 

 

【その2】その持ち味はミニバンの本質を突いた作り

ミニバン

ホンダ

ステップワゴン

SPEC【エア(e:HEV)】●全長×全幅×全高:4800×1750×1840mm●車両重量:1810kg●総排気量:1993cc●パワーユニット:直列4気筒DOHC+電気モーター●最高出力:145[184]PS/6200[5000〜6000]rpm●最大トルク:17.8[32.1]kg-m/3500[0〜2000]rpm●WLTCモード燃費:20.0km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

2、3列目シートの快適性が大幅に進化!

6代目ステップワゴンは、先代から全長と全幅を拡大。これまで「5ナンバー級」と呼ばれてきたミドルサイズの国産ミニバンのなかでは大柄になったが、その効果は室内に入ると誰でも実感できる。キャプテンシート版の2列目は、実に780mmというロングスライド機構を搭載。ライバル車を凌ぐ広さを実現している。

 

また、使わない際は簡単操作で床下に収まる3列目も、居住性の高さは現実のサイズ以上。新型では先代より遮音性が高められたこともあって、居心地の良さは予想以上だ。さらに付け加えると、2、3列目は着座位置を前席より高めて、クルマ酔いしにくい良好な視界を実現。つまり、すべての座席で快適性を高めるべく入念なアップデートが施されているわけだ。

 

パワーユニットは、1.5Lのガソリンターボと、2Lガソリン+2モーターによるハイブリッドという2本立て。前者で4WDが選べることも含め、構成そのものは先代と変わらないが、当然中身は進化している。1.5Lターボでは必要にして十分な速さと自然なレスポンスを、ハイブリッドでは電気駆動らしい静粛性を実感できる。また、操縦性も背の高いミニバンらしからぬ水準なので、走りも相応に楽しみたいというお父さんにも積極的にオススメできる。

 

[Point 1]キーワードは“視界の良さ”

運転支援系の装備が充実したフロントシートまわりは、こちらも視界の良さを追求。2人掛けとなる2列目のキャプテンシートは前後だけでなく左右にもスライド。スパーダではオットマンも装備する(2列目は3人掛けのベンチシートも選択可能)。

 

[Point 2]グレードは3タイプとシンプル

グレードは先代からの続投となるスパーダ(写真)と、それをベースとして高級感を演出するプレミアムライン。そして内外装をシンプルに仕立てたエアの3タイプが用意される。

 

[Point 3]見た目同様に走りもナチュラル

1.5Lターボは、CVTミッション特有の悪癖を抑え込みつつ必要十分な動力性能を実現。ハイブリッドは、電気駆動モデルらしい静粛性の高さが魅力だ。

 

[Point 4]荷室の使い勝手は依然ライバルを上回る

片手でも行える簡単操作で床下に格納できる3列目の「マジックシート」は先代から踏襲。3列目使用時は、左写真のようにシート後方に実用的な空間が出現する。

 

[ラインナップ](グレード:パワーユニット/駆動方式/ミッション/税込価格)

エア:1.5L+ターボ、2.0L+電気モーター/2WD、4WD(※)/CVT、電気式無段変速/299万8600円(324万600円)[338万2500円]

スパーダ:1.5L+ターボ、2.0L+電気モーター/2WD、4WD(※)/CVT、電気式無段変速/325万7100円(347万7100円)[364万1000円]

スパーダプレミアムライン:1.5L+ターボ、2.0L+電気モーター/2WD、4WD(※)/CVT、電気式無段変速/346万2800円(365万3100円)[384万6700円]

※:e-HEVは2WDのみ ●( )内は4WD、[ ]内はe-HEVの価格

 

文/小野泰治 撮影/神村 聖、宮門秀行

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ホンダの新型ステップワゴンはミニバンの本質をさらに追及した快適さ

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」でピックアップするのは、いよいよ発売が開始されたホンダの新型ステップワゴン。その実力やいかに?

※こちらは「GetNavi」 2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

その持ち味はミニバンの本質を突いた作り

ミニバン

ホンダ

ステップワゴン

SPEC【エア(e:HEV)】●全長×全幅×全高:4800×1750×1840mm●車両重量:1810kg●総排気量:1993cc●パワーユニット:直列4気筒DOHC+電気モーター●最高出力:145[184]PS/6200[5000〜6000]rpm●最大トルク:17.8[32.1]kg-m/3500[0〜2000]rpm●WLTCモード燃費:20.0km/L

●[ ]内はモーターの数値

 

2、3列目シートの快適性が大幅に進化!

6代目ステップワゴンは、先代から全長と全幅を拡大。これまで「5ナンバー級」と呼ばれてきたミドルサイズの国産ミニバンのなかでは大柄になったが、その効果は室内に入ると誰でも実感できる。キャプテンシート版の2列目は、実に780mmというロングスライド機構を搭載。ライバル車を凌ぐ広さを実現している。

 

また、使わない際は簡単操作で床下に収まる3列目も、居住性の高さは現実のサイズ以上。新型では先代より遮音性が高められたこともあって、居心地の良さは予想以上だ。さらに付け加えると、2、3列目は着座位置を前席より高めて、クルマ酔いしにくい良好な視界を実現。つまり、すべての座席で快適性を高めるべく入念なアップデートが施されているわけだ。

 

パワーユニットは、1.5Lのガソリンターボと、2Lガソリン+2モーターによるハイブリッドという2本立て。前者で4WDが選べることも含め、構成そのものは先代と変わらないが、当然中身は進化している。1.5Lターボでは必要にして十分な速さと自然なレスポンスを、ハイブリッドでは電気駆動らしい静粛性を実感できる。また、操縦性も背の高いミニバンらしからぬ水準なので、走りも相応に楽しみたいというお父さんにも積極的にオススメできる。

 

[Point 1]キーワードは“視界の良さ”

運転支援系の装備が充実したフロントシートまわりは、こちらも視界の良さを追求。2人掛けとなる2列目のキャプテンシートは前後だけでなく左右にもスライド。スパーダではオットマンも装備する(2列目は3人掛けのベンチシートも選択可能)。

 

[Point 2]グレードは3タイプとシンプル

グレードは先代からの続投となるスパーダ(写真)と、それをベースとして高級感を演出するプレミアムライン。そして内外装をシンプルに仕立てたエアの3タイプが用意される。

 

[Point 3]見た目同様に走りもナチュラル

1.5Lターボは、CVTミッション特有の悪癖を抑え込みつつ必要十分な動力性能を実現。ハイブリッドは、電気駆動モデルらしい静粛性の高さが魅力だ。

 

[Point 4]荷室の使い勝手は依然ライバルを上回る

片手でも行える簡単操作で床下に格納できる3列目の「マジックシート」は先代から踏襲。3列目使用時は、左写真のようにシート後方に実用的な空間が出現する。

 

[ラインナップ](グレード:パワーユニット/駆動方式/ミッション/税込価格)

エア:1.5L+ターボ、2.0L+電気モーター/2WD、4WD(※)/CVT、電気式無段変速/299万8600円(324万600円)[338万2500円]

スパーダ:1.5L+ターボ、2.0L+電気モーター/2WD、4WD(※)/CVT、電気式無段変速/325万7100円(347万7100円)[364万1000円]

スパーダプレミアムライン:1.5L+ターボ、2.0L+電気モーター/2WD、4WD(※)/CVT、電気式無段変速/346万2800円(365万3100円)[384万6700円]

※:e-HEVは2WDのみ ●( )内は4WD、[ ]内はe-HEVの価格

 

文/小野泰治 撮影/神村 聖、宮門秀行

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風光明媚な能登路を走る「のと鉄道」とっておき10の逸話

おもしろローカル線の旅93〜〜のと鉄道・七尾線(石川県)〜〜

 

石川県の能登地方を走る「のと鉄道」。車窓からは青く輝く能登の海が楽しめる。「のと里山里海号」という人気の観光列車も走っている。そんな、のと鉄道の気になる10の逸話に迫ってみた。

*取材は2015(平成27)4月、2022(令和4)年6月19日に行いました。一部写真は現在と異なっています。

 

【のと鉄道の逸話①】2000年代初頭に80km区間を廃止へ

のと鉄道の路線の概要をまず見ておこう。

 

路線と距離 のと鉄道・七尾線:七尾駅(ななおえき)〜穴水駅(あなみずえき)間33.1km
七尾駅〜和倉温泉駅間は直流電化ほか非電化、全線単線
開業 1928(昭和3)年10月31日、七尾駅〜能登中島駅間16.3kmが開業、
1932(昭和7)年8月27日、穴水駅まで延伸開業
駅数 8駅(起終点駅を含む)

 

1932(昭和7)年まで現在の終点、穴水駅まで延びた国鉄七尾線。路線はさらに延伸され、北は1935(昭和10)年7月30日に穴水駅から輪島駅間20.4km、さらに東は国鉄能登線として1964(昭和39)年9月21日に蛸島駅(たこじまえき)まで61.0kmが延ばされた。

↑のと鉄道の旧路線図。七尾線は輪島駅まで、能登線は蛸島駅まで走っていた。当時に走ったNT800形が今も穴水駅で保存される(右下)

 

国鉄がJR化された時にはJR西日本に継承されたが、1988(昭和63)年3月25日に能登線が第三セクター経営の「のと鉄道」に引き継がれた。さらに1991(平成3)年9月1日に、のと鉄道七尾線の七尾〜輪島間が開業している。

 

七尾線、能登線は昭和中期まですでに輪島へ、蛸島へそれぞれ延ばされていたものの、所要時間がかかり不便だった。

 

石川県内では日本海に突き出た能登半島の地域格差が特に著しく、県庁のある金沢市まで出るのも1日がかりだった。そうした格差解消のため道路網の整備が進められていった。中でも大きかったのが、県庁のある金沢市から、穴水町を結ぶ能登有料道路(現・のと里山海道)の開通だった。1982(昭和57)年に全通し、この道路につながる県道の整備が続いた。現在、のと里山海道の穴水ICから輪島市内へは50分、また珠洲市内まで1時間ほどでアクセス可能になっている。

 

こうした道路整備の影響もあり、七尾線、能登線の利用者は急激に減少していった。将来の乗客減少を見越して、のと鉄道七尾線の穴水駅〜輪島駅間は2001(平成13)年4月1日に、能登線の穴水駅〜蛸島駅間は2005(平成17)年4月1日に廃止となった。JRおよび国鉄から移管された第三セクター鉄道の中では、廃止が非常に早かった例と言えるだろう。

 

【のと鉄道の秘話②】のと鉄道は路線を保有していない……?

第三セクター経営の鉄道路線は、鉄道会社自体が路線を所有し、列車を運行する形態が大半である。ところが、のと鉄道は異なる。現在、列車は七尾駅〜穴水駅間を走っているが、のと鉄道は「第二種鉄道事業者」として車両を保有し、線路を借用して列車の運行を行う。路線は保有していない。

 

七尾駅〜穴水駅間の路線を保有しているのはJR西日本である。まず七尾駅〜和倉温泉駅間はJR西日本が第一種鉄道事業者となっている。第一種鉄道事業者とは、鉄道施設・車両一式を保有し、列車の運行を行う事業者のことだ。

 

その先の和倉温泉駅〜穴水駅間は形態が異なりJR西日本は第三種鉄道事業者となる。第三種鉄道事業者とは線路を敷設、保有するだけで、列車の保有、運行は行わない事業者を指す。

 

なぜ、こうした複雑な運行スタイルを取っているのだろう。これには裏がある。

 

かつて七尾線は、津幡駅〜輪島駅間全線が非電化だった。沿線では和倉温泉が人気観光地として集客に熱心で、電化して特急電車を走らせて欲しいという願いが強かった。そこで国鉄を引き継いだJR西日本では、電化する見返りに、和倉温泉駅から先の区間の営業を石川県に引き継いでもらいたい、という条件を出した。そして1991(平成3)年9月1日に津幡駅〜和倉温泉駅間での電化が完了し、さらに、のと鉄道七尾線が生まれたわけである。

 

のと鉄道が生まれるまで、第三セクター鉄道に移管された路線はすべて特定地方交通線の指定を受けた路線で、経営が成り立たず、地方自治体が経営を引き継いだ形だった。

 

ところが、七尾線は特定地方交通線には指定されていない路線だった。特定地方交通線の場合には、国から転換時に交付金等の支援が得られるが、七尾線を受け継ぐにあたり、買い上げよりも借用の方が有利と判断された。こうして、のと鉄道が第二種鉄道事業者になったのである。七尾線は特定地方交通線以外で初の第三セクター路線として生まれたのだった。

 

やや複雑だが、鉄道路線の経営もいろいろな思惑が交錯していたわけである。

 

【のと鉄道の逸話③】七尾駅〜和倉温泉駅はJRの車両も走る

次に七尾線を走る車両を見てみよう。まずは七尾駅〜和倉温泉駅間から。

↑七尾駅〜和倉温泉駅間を走る観光列車「のと里山里海」。同区間のみJR西日本の特急「能登かがり火」などの列車も走る(左上)

 

同区間はJR西日本が第一種鉄道事業者となっていることもあり、JR西日本の車両も走る。とはいえJR西日本の列車は特急のみで、JR西日本の普通列車は入線しない。七尾駅から先を走る普通列車は、のと鉄道の列車だけになる。

 

◆681系・683系 特急「サンダーバード」「能登かがり火」

現在、金沢駅〜和倉温泉駅間を特急「能登かがり火」が4往復、大阪駅〜和倉温泉駅間を特急「サンダーバード」が1往復走っている。使われる車両は681系・683系交直両用特急形電車だ。

 

◆キハ48形 特急「花嫁のれん」

金沢駅〜和倉温泉駅間を走る観光特急列車で、金土日を中心に走る。キハ48形気動車を改造した車両を利用、北陸の和と美が満喫できることを売りにしている。

↑キハ48形を改造した特急「花嫁のれん」。外観は北陸の伝統工芸・輪島塗や加賀友禅をイメージした華やかな造り

 

次にのと鉄道の車両を見ていこう。

 

◆のと鉄道NT200形

のと鉄道の普通列車用気動車NT200形。新潟トランシス製で、2005(平成17)年に7両が造られた。座席はセミクロスシートで、車体の色は能登の海をイメージした明るい青色をベースにしている。車両番号は3月導入の車両がNT201〜204まで、2次車の10月に製造されたNT211〜213と2パターン用意されている。人気アニメのラッピング車両も走る。

↑のと里山里海号を後部に連結して走るNT203。NT204は「花咲くいろは」ラッピング車両として走る(左下)

 

◆のと鉄道NT300形

北陸新幹線が金沢駅へ延伸した2015(平成27)年3月に合わせて導入されたのがNT300形で、観光列車「のと里山里海号」用に2両が製造された。外観は能登の海をイメージした青色「日本海ブルー」で鏡面仕上げされている。内装も凝っていて、沿線の伝統工芸品を車内各所で使用、また七尾寄りの座席は海側に向き、ひな壇状としたこともあり、後ろ側の席でも能登の海が見える造りとなっている。

↑NT300形2両で運転される「のと里山里海号」。日本海ブルーと呼ばれる青い塗装が能登半島の緑にも似合う

 

運行は七尾駅〜穴水駅間で土日祝日(当面の間)を中心に上り2本、下り3本を運行、運賃に加えて500円の乗車整理券が必要となる(一部列車は普通運賃で利用可能な車両も増結)。和倉温泉駅で特急「花嫁のれん」と接続して運転している列車もあり、金沢駅から2社の異なる観光列車に乗車することも可能だ。

 

一部の便では飲食付きプランも用意している。アテンダントの沿線案内もあり、ビュースポットでは徐行運転が行われ、車窓風景が楽しめる。

↑七尾寄りの座席は海側が見える仕様となっている。乗車するとポストカードや鉄道グッズなど乗車記念のプレゼントも(左上)

 

【のと鉄道の逸話④】七尾駅の「のとホーム」から列車が発車

ここからは、のと鉄道七尾線の旅を始めよう。

 

列車は各駅停車の普通列車と、臨時列車扱いの観光列車「のと里山里海号」が走る。普通列車は朝7時〜8時台と夕方19時台が1時間に2本、その他の時間帯は1時間〜1時間半に1本の割合でローカル線としては多めで使いやすい。七尾駅から穴水駅まで所要時間が約40分、運賃は850円となる。

 

ちなみに「つこうてくだしフリーきっぷ」が土日祝日のみ有効で大人1000円で販売されている。販売は穴水駅、能登中島駅、田鶴浜駅、七尾駅(のと鉄道ホーム改札前に係員がいる時間帯のみ)と、車内でも購入できる。「つこうてくだし」とは能登の方言で「使ってください」という意味だそうだ。

 

沿線の観光施設の特別優待券も兼ねているので、お得。ぜひ利用したい。

 

筆者はJR七尾線の列車に乗車し、JR七尾駅に降り立った。七尾駅周辺は駅前に大型ディスカウントストアがあるなど、非常に賑やかだ。七尾は能登半島の中心都市であることが良く分かる。JRの改札口に並ぶように、のと鉄道の改札が設けられていて、その奥にある「のとホーム」に1両編成の穴水行きNT200形普通列車が停車していた。

↑のと鉄道七尾線の起点となる七尾駅。駅の北側にのと鉄道の専用ホームが設けられている(右上)

 

筆者が乗車したのは10時33分発の穴水行き列車NT211、客席が5割ぐらい埋まって発車した。七尾駅を出てすぐにJR線と合流し、単線区間を北へ走る。七尾駅から次の和倉温泉駅間まで5kmほどと、やや離れており、続く直線区間を快適に走る。

 

和倉温泉駅へ到着した。金沢方面から特急列車が到着する時には、おそろいの法被を着た宿のスタッフの〝お迎え〟でホーム上は賑わうが、普通列車となるとお迎えもなく静かだった。

↑和倉温泉駅はJR西日本と、のと鉄道の共用駅。特急「花嫁のれん」と「のと里山里海号」が並ぶのもこの駅のみ(右上)

 

やや寂しさを感じた和倉温泉駅のホームを眺めつつ、のと鉄道の列車のみが走る区間へ入っていく。駅を過ぎて間もなく電化区間が終了して非電化区間へ入った。

 

【のと鉄道の逸話⑤】田鶴浜駅の先で右手に見えてくる海は?

和倉温泉を発車して間もなく左カーブ、列車は西へ向けて走り始める。進行方向右手には水田風景が広がる。そして次の駅、田鶴浜駅(たつるはまえき)へ到着した。このあたりは、まだ七尾市の郊外という印象が強い。この駅を発車すると、国道249号と並走するようになる。

↑大津川が流れ込む大津潟。このあたりはカキの養殖が盛んな地域だ。この大津潟を越えると間もなく笠師保駅(左上)に到着する

 

海と山に包まれた能登らしい風景が車窓から見えるようになる。水田越しに海が見えてくる。こちらは七尾西湾と呼ばれる内海だ。さらに走ると大津川を越える鉄橋を渡る。この左右に見えるのが大津潟と呼ばれる湖沼で、長年かけて埋め立てられていき、潟になったとのこと。弘法の霊泉が流れ込む潟で、今は天然うなぎの漁やカキの養殖も行われている。

 

【のと鉄道の逸話⑥】能登中島駅に停まる青い車両は?

海や入り江の風景を見ながら列車は笠師保駅から先、北へ向けて走る。丘陵を越えて、水田が広がる能登中島駅へ到着した。

↑能登中島駅に保存される鉄道郵便車「オユ10」。のと里山里海号の運転時には車内の見学も可能だ(左上)

 

同駅では上り下り列車の交換をすることが多い。対向列車を待つため、やや停車時間が長くなることもある。例えば穴水駅14時15分発の列車は「のと里山里海号」を連結しているが、能登中島駅で10余分の停車時間を用意している。この駅には駅マルシェ「わんだらぁず」があり、地元産品の販売も行う(臨時休業あり注意)。購入にちょうど良い停車時間だ。

 

駅構内に青い車両が停められていた。この車両は鉄道郵便車のオユ10で、昭和の中期に計72両が製造された。全国の客車列車に連結され、郵便物の配送が行われた。鉄道郵便が終了した1986(昭和61)年に全車が廃車となったが、少しでも誘客に役立てようと、のと鉄道発足時に譲り受けたそうだ。雨風で傷んでいたが、有志の人たちにより整備され、この能登中島駅で保存されている。

 

車内は「のと里山里海号」の停車に合わせて公開されている。中で郵便物を仕分けした様子を再現するために、封書類が棚に置かれていたが、中には良く知られた有名人宛の手紙もあったりして楽しい。車内にはポストもあり、手紙を投函することもできる。

↑能登中島駅(左下)の前後はカーブしていて、駅で行き違った車両が走る姿を乗車した列車から遠望することができる

 

 

【のと鉄道の逸話⑦】能登にはなぜ黒瓦の家が多いのか?

能登中島駅を出るとしばらく山中へ入っていく。そんな山中で、やや視界が開ける箇所があり、眼下に漁港と集落が見える。ここは七尾市の深浦漁港だ。小さな漁港だが、家の前に漁船が係留できるような造りとなっている。ここで気がつくのは、ほとんどの民家が黒い瓦屋根であること。なぜ黒い瓦なのだろう。

↑眼下に見える深浦漁港。港は整備され民家の前に漁船が係留されている。黒い瓦屋根の民家が多い

 

当初、この地方の瓦は赤だったそう。金沢の家の瓦や漆喰に使われることが多いベンガラ色といわれる色だった。ところが明治に入ってマンガンの釉薬を使った瓦が開発された。それが黒だった。黒い瓦は屋根に積もった雪を早く溶かす特長もあり、能登の家に使われることが多くなったそうだ。瓦一つにしても、その土地の気候風土に影響されることが分かりおもしろい。

 

【のと鉄道の逸話⑧】西岸駅にある「ゆのさぎ」という駅名標の謎

深浦漁港を見下ろす山中から平地へ降りて行くと、間もなく西岸駅(にしぎしえき)へ到着する。この駅から穴水駅までが、のと鉄道の車窓のハイライト区間だ。

 

西岸駅で不思議な駅名標を発見した。西岸駅なのに「ゆのさぎ(湯乃鷺)」駅という駅名標が立てられていたのである。さてこの駅名標は何だろう。

↑西岸駅に到着するラッピング車両「花咲くいろは」。ホームには「ゆのさぎ」駅という架空の駅名標が立つ

 

実はこの「ゆのさぎ」駅という駅名標は架空のもの。2011(平成23)年に放送されたアニメ「花咲くいろは」と関係がある。同アニメは西岸駅近くの温泉街の宿を舞台にして描かれた物語で、放送開始まもなく、西岸駅に「ゆのさぎ」という駅名標が立てられた。この駅名標、凝っていて、わざわざ赤錆が浮き出るような造りにされているそうだ。

 

西岸駅の駅舎には〝聖地巡礼(舞台探訪)〟を行うファンの訪問も多いようで、アニメのパネルや、ファン向けのノートが常備されていた。こうした舞台設定に合わせた駅づくりも楽しい。

 

【のと鉄道の逸話⑨】列車からも見える海岸に立つ櫓は何?

西岸駅を過ぎたら、進行方向右手に注目したい。山中を抜けると右手に海景色が広がるようになる。ここは七浦北湾で、列車は高台を走ることもあり、海の景色が堪能できる。

↑西岸駅を発車したら進行右手に注目。眼下に黒瓦の民家、そして国道249号、その先が能登北湾と呼ばれる海が広がる

 

黒瓦の民家と海岸線、さらに能登島が遠望できる。能登島と能登半島との間に架かるのが「ツインブリッジのと」と呼ばれる現代風な釣り橋で、こうした光景が絵になる。

 

観光列車の「のと里山里海号」に乗車すると、この付近では徐行運転が行われ、ゆっくり景色が楽しめる。

↑右前方に見えるのが「ツインブリッジのと」で、線路端にはこうした風景の案内板も立つ。通常列車はスピードを落とさず通過する

 

次の能登鹿島駅(のとかしまえき)は春に訪れたい駅だ。のと鉄道のすべての駅には、愛称が付けられているが、能登鹿島駅は「能登さくら駅」。春は上り下り両ホームの桜が満開となり「桜のトンネル」とも呼ばれている。

 

夜にはライトアップが行われ、また4月上旬には駅前で「さくら祭り」も行われる。筆者も春に訪れたことがあるが、それは見事なものだった。

↑上り下りホームの数十本の桜が満開となった能登鹿島駅。「能登さくら駅」という駅の看板も立つ(左上)。2015年4月15日撮影

 

能登鹿島駅の次は終点の穴水駅。この駅間に、車内から気になる櫓が見える。三角形の櫓が立つのだが、こちらは何だろう。

 

この櫓は「ボラ待ちやぐら(または『ぼら待ちやぐら』)」とよばれる櫓で、櫓の上からボラの群れを見張って、仕掛けた網をたぐる〝原始的な漁法〟とされる。最盛期には穴水町で40基を越える櫓が立ったが、継ぐ人が居なくなり、一時期は途絶えていた。2012(平成24)年から再開され、同地方の秋の風物詩となっている。波穏やかな内海だからできる漁なのだろう。

↑国道249号から見た「ぼら待ちやぐら」。日本最古の漁法とあるように、ボラの群れを見張る櫓で秋のボラ漁に使われている

 

終点の穴水駅の近くまで、気が抜けない〟。ボラ待ちやぐらが立つ海を眺め、さらに志ヶ浦という小さな湾を右手に眺めた後に、最後の山越えの区間に入る。

 

この山の中で2本のトンネルをくぐる。志ヶ浦隧道194mと乙ヶ崎隧道105mの2本だ。2本目のトンネルに注目したい。トンネルイルミネーションが楽しめるのである。なかなか速く通過してしまうので、見逃してしまうのだが、電飾で絵や文字が書かれている。

↑穴水駅側に近い乙ヶ崎隧道ではトンネルイルミネーションが楽しめる。トンネル全体を染める電飾に加えて、多彩な絵が彩られる

 

よく見るとさまざまな絵とともに「ようこそ のとへ」という文字が光っていた。33.1kmという短めの路線ながら、訪れた人を飽きさせない工夫があちこちにある。頑張っている印象が強く感じられるローカル線だった。

 

【のと鉄道の逸話⑩】穴水駅の愛称「まいもんの里駅」とは?

海景色、人々の暮らしぶりなど、この鉄道ならではの工夫を楽しみつつ終点の穴水駅が近づいてくる。進行方向右手に穴水の町が見え始め、穴水駅の1番線ホームに列車は到着した。

 

穴水駅の愛称は「まいもんの里駅」。まいもんとは、能登の方言で美味しいものを指すそうだ。町では「まいもんまつり」が四季それぞれ行われている。春の陣(3月中旬〜4月中旬)は「いさざまつり」、夏の陣(6月中旬〜7月中旬)は「さざえまつり」、秋の陣(10月)は「牛まつり」、冬の陣(1月〜5月)は「カキまつり」といった具合だ。

 

駅に隣接して穴水町物産館「四季彩々」があり、土産や伝統工芸品、鉄道グッズなどが販売されている。お弁当や寿司もあり、寿司はテイクアウトと思えないほど、ネタが新鮮で美味だった。やはり海に面した能登ならではの魅力と言って良いだろう。

↑終点の穴水駅の駅舎。並んで穴水町物産館「四季彩々」があり、能登の土産や、弁当も用意され充実している

 

鉄道好きとしては穴水駅の周辺の様子も気になり、ぶらぶらしてみた。線路が穴水駅構内だけでなく、先に300mほど伸びている。この終端部の車止めから先の線路はすでに外されているが、この先、七尾線の輪島や、能登線の蛸島へ延びていたわけである。

 

この300mの余白区間には保線用の事業用車がおかれている。駅の西側にある側線や、検修庫へ入る車両が、ここで引き返す形で走っていた。

↑穴水駅の先に延びる終端部。ここで気動車が折返して(右上)側線や検修庫に入っていく *県道50号線大町踏切から撮影

 

のと鉄道をじっくり旅する前は、ここまで濃密な路線だとは知らなかった。実際に乗車してみて、旅をして、また帰ってきて調べ直してみると、なんとも楽しい逸話がふんだんな路線だった。

 

帰ってきてまだ間もないが、また乗りに行きたくなる、そんな魅力が詰まった路線だった。

ピュアEVの魅力がダイレクトに実感! ヒョンデ「アイオニック5」

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」でピックアップするのは、「ヒュンダイ」改め「ヒョンデ」のピュアEVとなるアイオニック5。続々と登場する本格EVの最新作だ。その実力やいかに?

※こちらは「GetNavi」 2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

ピュアEVの魅力がダイレクトに実感できる!

EV

ヒョンデ

アイオニック5

SPEC【ラウンジ】●全長×全幅×全高:4635×1890×1645mm●車両重量:1990kg●パワーユニット:電気モーター●バッテリー総電力量:72.6kWh●最高出力:217PS/4400〜9000rpm●最大トルク:35.7kg-m/0〜4200rpm●一充電最大航続距離(WLTCモード):618km

 

見た目でも中身でも「電気」の魅力をアピール

乗用車市場では12年ぶりの復活となるヒョンデが日本向けに用意したモデルは、このアイオニック5とFCV(燃料電池車)のネッソ。いずれも環境性能が高いモデルで、販売もオンラインのみという導入手法に注目が集まっている。主力は当然ながら前者だ。

 

その内外装は、SUV風の仕立てが主流となるEVのなかでも実に個性的。大柄なハッチバック的な外観は電動モデルらしさがダイレクトに表現され、内装もクルマというより最新家電のような風情だ。その一方、室内の広さを筆頭とする使い勝手も申し分ない。

 

今回は2WDに試乗したが、走りでも最新のEVらしさが実感できる。アクセル操作に対する鋭いレスポンスや日常域での力強さ、静粛性の高さは電気モーターならではの魅力で、それを受け止めるシャーシもフラットな乗り心地を筆頭として良好。最大で600kmオーバーの航続距離まで考慮すれば、有力な最新EVの選択肢のひとつであることは間違いない。

 

[Point 1]室内と荷室は広々

大柄のボディとあって前後席の空間は余裕たっぷり。前席にはオットマンも備わる。荷室容量はリアだけで527Lを確保し、フロントにも57Lの荷室を用意する。

 

[Point 2]テーマは「パラメトリックピクセル」

ハッチバックのボディ形態ながら、まるでコンセプトカーのような大胆なデザインで独自性を強調。2WDの電気モーターはリアに搭載し、駆動方式はRRとなる。

 

[Point 3]プレーンでワイド感を強調する作り

インパネ回りはシンプルなデザインで、家電的な親しみやすさも感じさせる。シフト操作はステアリングコラムに付けられたダイヤルで行う。

 

[Point 4]電源供給機能も充実

後席下の中央には、AC100Vコンセントを装備。給電機能はこれだけではなく、普通充電のソケットにアダプターを装着すれば外でも電気製品が使用できる。

 

[ラインナップ](グレード:パワーユニット/駆動方式/税込価格)

アイオニック5: 電気モーター/2WD/479万円

アイオニック5 ボヤージュ:電気モーター/2WD/519万円

アイオニック5 ラウンジ:電気モーター/2WD/549万円

アイオニック5 ラウンジAWD: 電気モーター×2/4WD/589万円

 

文/小野泰治 撮影/神村 聖、宮門秀行

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“神は細部に宿る”を体現! レクサス「IS」の現行型は最高峰の走りを味わえる

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回はGetNavi本誌連載200回目を記念して、この企画のタイトルに忠実な、懐かしのモデル(の現行型)をピックアップする!

※こちらは「GetNavi」 2022年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

 

【レビュアーPROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感、クルマを評論する際に重要視するように。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわる。

 

【今月のGODカー】レクサス/IS

SPEC【IS300“F SPORT”】●全長×全幅×全高:4710×1840×1435mm●車両重量:1570kg●パワーユニット:2.0L直列4気筒ターボエンジン●最高出力:245PS(180kW)/5200〜5800rpm●最大トルク:35.7kg-m(350Nm)/1650〜4400rpm●WLTCモード燃費:12.2km

480万〜650万円(税込)

 

ドイツ御三家にも勝る走りの質感を実現

安ド「殿! 今回は記念すべき、連載第200回です!」

 

永福「なんと第200回とな」

 

安ド「月刊誌で200回ということは、16年以上ってことです!」

 

永福「そんなに続けさせていただけるとは、感謝しかないのう」

 

安ド「連載第1回のクルマは何だったか覚えてますか?」

 

永福「まったく覚えておらぬ」

 

安ド「ホンダのシビックハイブリッドでした!」

 

永福「そうか。ちょうどいまのシビックにもハイブリッドが出たな」

 

安ド「はい。せっかくなので第200回を新型シビックハイブリッドでやりたかったんですが、ちょっと間に合わなくて(笑)。第3回で取り上げたレクサスISの現行型を借りてきました!」

 

永福「第3回か……。若干中途半端な気もするが、まあいい」

 

安ド「現行型のレクサスISが発表されたのは、もう9年も前ですが、2年前に大きなマイナーチェンジを受けてます!」

 

永福「うむ。新型と言っても良いくらいの、大掛かりなマイナーチェンジだった」

 

安ド「16年半前、殿は初代ISを、『目立たない細部の作りや仕上げにこだわりまくった、謙譲精神の高級車。つまり“神は細部に宿る”を地で行った、この連載のために作られたようなクルマだ』と書かれていますが、現行型もまさにそんな気がします!」

 

永福「謙譲精神がついに花開き、素晴らしいクルマになったぞ」

 

安ド「レクサスISのライバルはBMWの3シリーズやメルセデス・ベンツのCクラスですが、それらと比べても、なんだかデザインがワイド&ローに見えます!」

 

永福「2年前のビッグマイナーチェンジで、ボディが幅広く見えるデザインを採用したからな」

 

安ド「スピンドルグリルはともかくとして、全体のプロポーションでスポーティさを演出しててカッコ良いです!」

 

永福「スピンドルグリルもカッコ良いではないか」

 

安ド「僕はちょっと苦手でして……」

 

永福「ブランド統一デザインであるスピンドルグリルの採用によって、レクサスのイメージはグッと強力になった。アイコンとして大成功しておる」

 

安ド「走りもとても良くなっていてビックリしました!」

 

永福「とにかくシャーシが素晴らしい。走りの質感は、BMWやメルセデスにも勝っている」

 

安ド「ええっ! BMWオーナーの殿がそこまで評価するとは!」

 

永福「ついにレクサスがドイツ御三家に勝ったのだ! 日本人として誇らしいぞ」

 

安ド「第200回が日本人としておめでたい内容になって良かったです! しかしマイチェンとは思えない変更点の多さのなかで、内装のエアコン吹き出し口の形まで変えていたのは驚きました」

 

永福「まさに“神は細部に宿る”だな」

 

【GOD PARTS 1】リアスポイラー

薄くて小さくても空気をコントロール

今回の取材車両には、ISでは珍しいリアスポイラーが付いていましたが、とても薄くて小さくてかわいかったです。なお、トランク部分の厚みのある弧の形状を実現するために、“寄絞り工法”という世界初の技術が使われているそうです。

 

【GOD PARTS 2】エアコン

指を上下させて感覚的に温度を調節

エアコンまわりのデザインは現行型が登場したころから特に変化はありませんが、左右のバーに指を触れて上下させることで温度設定を変更します。この感覚的な操作方法はいまでも新鮮で、他社に普及しないのが不思議なくらいです。

 

【GOD PARTS 3】ディスプレイ

細かな変更点もレクサス流のおもてなし

インパネのディスプレイは大型化がトレンドですが、ISもマイチェンで大型化……と思いきや、従来と同じサイズ(10.3インチ)なんだとか。ただしタッチパネル化にともない、取り付け位置を手前側に移動させていると。芸が細かい!

 

【GOD PARTS 4】サイドミラー

大人しいイメージを払拭する色使い

ミラーは黒/シルバー/赤の3色に彩られていてイエメンの国旗みたいです。黒とシルバーは基本で、下側が車体色という設定になっているようですが、地味になりがちなセダンタイプでも、ちょっとした色使いで華やかになる好例です。

 

【GOD PARTS 5】プレミアムサラウンドシステム

静かな室内で映える高級オーディオ

その筋では有名な「マークレビンソン」社のオーディオシステムが搭載されています。元々レクサス車は車内が静かなので、音の素晴らしさもより深く体感できます。あとリアシート後方のスピーカーがデカくてビックリしました。

 

【GOD PARTS 6】サイドライン

ボディラインもしっかり強調

マイチェンとは思えないくらい、ボディ全体に変化が見られる最新型ISですが、リアタイヤ前方の斜めのラインも強調されています。初期モデルではちょこんと申し訳なさそうだった持ち上がりが、ビシッとリアドアにまで踏み込んでいます。

 

【GOD PARTS 7】スピンドルグリル

顔を埋め尽くしそうなほどの大きさ

グリルとは車体前面の黒い部分の空気吸入口のことで、レクサス車では糸巻き型をしているのが特徴になっています。2020年のマイナーチェンジでISのグリルの面積は拡大されていて、もはや地面とつながりそうな勢いです。

 

【GOD PARTS 8】パワーユニット

心臓部を好みで選べるという贅沢

さほど台数が出なくなったいまでも、パワーユニットは3種類ラインナップされています。今回のIS300は2.0L直4ターボ、IS350は3.5LV6のブルジョア仕様。IS300hは2.5L直4エンジン+モーターのハイブリッドで、時代に合わせた仕様です。

 

【GOD PARTS 9】フロント&リアランプ

ナイフみたいに尖った形状

左がフロント、右がリアのランプですが、どちらも非常に鋭利な形状です。手で持ったらナイフのように武器として使えそうなほど鋭いです。内部のLEDランプは、しっかりレクサスの「L」字型になっていて、アピール力がスゴイですね。

 

【これぞ感動の細部だ!】足まわり

数々の改良で高められた走りの質感

実際に乗ってみるとため息が出るほど素晴らしい走りを味わえますが、それを実現するために細かな改良が加えられています。たとえばアルミホイールは、ボルト締め方式のハブを使うことで集結力強化&質量低減を実現していますし、サスペンションは微小な動きに対しても減衰力を発揮する「スウィングバルブショックアブソーバー」を搭載。ブレーキフィーリングまで見直されています。

撮影/我妻慶一

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

ターボも加わり、走りの魅力を増したダイハツ新型「ムーヴ キャンバス」試乗

ダイハツの「ムーヴ キャンバス」といえば、ポップなツートンカラーとスライド式の両側ドアを備え、親子での共用を視野に開発されたモデル。どちらかというと女性ユーザーの多い車種でしたが、今回のモデルチェンジでは従来のイメージを踏襲する「ストライプス」に加えて、単色の「セオリー」が追加に。新たにターボエンジンも選べるようになり、ドライブを楽しむクルマ好きの目線で見ても魅力的なクルマに仕上がっています。

 

【今回紹介するクルマ】

ダイハツ/ムーヴ キャンバス

※試乗車:セオリーGターボ(2WD)/ストライプスG(2WD)

価格:149万6000円〜179万3000円(税込)

↑ソリッドカラーの「セオリー」はシックな見た目となり、選択の幅が広がった。全7色

 

ツートンカラーとモノトーンボディの2本立てに

2代目となる新型ムーヴ キャンバスが大きく変わったのはモノトーンカラーでシックな外装の「セオリー」が追加されたこと。従来のイメージを踏襲するツートンカラーは「ストライプス」と名付けられ、イメージの異なる2種類がラインナップされることになりました。

↑ツートンカラーの「ストライプス」は従来のイメージを踏襲。丸みを帯びたデザインもそのままだ。全8色

 

↑リアのナンバープレート装着位置がバンパーまで下げられたことでスッキリした見た目に

 

両者のイメージは、外観だけでなく内装にも反映されています。「セオリー」のほうは、シートもストライプ以外はモノトーンでまとめられ、ダッシュボードもシックなカラーリング。フルファブリックのシートは、ソファのような座り心地を実現しています。

↑「セオリー」のシートはモノトーンで、おとなしめのカラー

 

↑「セオリー」のダッシュボードはツートンカラーだが、シックなイメージになっている

 

↑「ストライプス」のシートは明るめのツートンカラーで、ダッシュボードもイメージは共通

 

ドライブを快適にする装備も充実しています。近年、軽自動車でも増えている大画面のナビは9インチのものをメーカーオプションとして用意。ホットドリンクを良い温度でキープしてくれる保温機能付きの「ホッとカップホルダー」も軽自動車としては初採用しています。電動パーキングブレーキや、オートブレーキホールド機能も採用されました。

↑メーカーオプションの9インチスマホ連携ディスプレイオーディオ。10インチのメモリーナビも選べる

 

↑寒い季節に飲み物の温度を約42℃に保ってくれる「ホッとカップホルダー」を装備

 

↑電動パーキングブレーキを採用し、シートヒーターも装備している

 

ユーティリティの高さも魅力の1つ。両側パワースライドドアにはウェルカムオープン機能が新設定され、降⾞時にインパネのスイッチで予約しておけば、乗⾞時に電⼦カードキーを持ってクルマに近づくだけで、パワースライドドアが⾃動で解錠しオープン。両⼿がふさがっている時でも、キーを取り出すことなくスムーズに乗り込むことができます。後席に乗り込む際だけでなく、買い物の荷物を積み込むときに両手がふさがっている際にも重宝します。

 

従来から好評の後席の「置きラクボックス」も踏襲。シートアレンジやラゲッジの拡張機能も豊富で、コンパクトながら使い勝手は抜群です。さらに、運転席と助⼿席の背⾯についた「シートバックユーティリティフック」にリュックなどの荷物を、サッと掛けられます。ユーザーへのちょっとした心遣いが満載ですね。

↑後席の下に配置され、荷物を気軽に置ける「置きラクボックス」は、荷物を固定しやすいバスケットモードも備える

 

↑開口部の大きなスライドドアから望む車室内は、シートアレンジも豊富でリラックス空間に仕立てられる

 

↑リアシートを倒せばラゲッジスペースを拡大可能。車体から想像するよりはるかに広い

 

↑「ラゲージアンダーボックス」も備えていて、高さのある荷物や傘などを入れるのに便利

 

クルマ好きも満足できる動力性能

パワートレインにターボが追加されたのも、今回の注目点。車体にもDNGA(Daihatsu New Global Architecture)が展開され、約50kgの軽量化も果たしており、走りにも期待が高まります。

↑「Gターボ」グレードに搭載されるインタークーラー付きターボエンジンは64PS/6400rpmを発揮

 

「セオリー」に採用される本革巻のステアリングを握り、少し大きめにアクセルを踏み込むとかなり元気のいい加速感が味わえます。大きめの2眼メーターのタコメーターが俊敏に動き、気分も高揚。車体や足回りも剛性感があって、昔の軽自動車しか知らない人は驚くことでしょう。クルマ好きが乗っても、十分に満足できる走りを実現しています。

↑ステアリングだけでなくシフトノブも本革。足回りも頼りないところはなく、走りを楽しめる

 

↑ターボエンジンの動力性能は十分以上。登り坂や高速道路でもパワー不足を感じることはないはず

 

もちろん、衝突回避支援や駐車支援などの予防安全機能「スマートアシスト」も装備していて、ドライブの安心感や快適性を高めています。免許を取ったばかりの初心者が運転しても不安を覚えることはないはず。親子での共用だけでなく、クルマ好きが選んでも不満を感じることはないだろうと思えます。シックで落ち着いた印象を与えるセオリー、初代の持つかわいらしさを継承しているセオリー。どちらを選びますか?

 

【SPEC(Gターボ(2WD)[G(2WD)]】●全長×全幅×全高:3395×1475×1655mm●車両重量:900kg[880kg]●パワーユニット:658cc水冷直列3気筒12バルブDOHCインタークーラーターボ●最高出力:64PS/6400rpm[52PS/6900rpm]●最大トルク:100N・m/3600rpm[60N・m/3600rpm]●燃料消費率(WLTCモード):22.4km/L[22.9km/L]

 

撮影/松川 忍

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

「テスラの自動運転技術は人をはねない」ことを自分の子どもでテストした動画、YouTubeに削除される

今月初め、テスラのEV(電気自動車)「Model 3」で自動運転技術のFSD(Full Self-Driving)を使い、路上に置いた子どもの背丈のマネキンにぶつかるかどうか試したところ、3回のテストで3回とも衝突した上に、そのまま加速した動画が衝撃を呼んでいました。ほか、子どもを模したダミーを紐で引っ張り道路を横断するシチュエーションを再現したところ、こちらも減速も回避もせずはね飛ばす結果となっています

↑自動運転は危険? 安全?

 

これらの検証結果に対して、テスラ車のFSDは安全だと主張する人物が、自分の子どもをクルマの前に立たせてテストした動画を公開したところ、YouTubeが削除することになったと報じられています。

 

テスラに投資しているタッド・パーク氏(資産管理会社Volt EquityのCEO)は、自分の子どもをクルマの前に立たせてFSDベータ版による自動運転をテストした「テスラのFDSベータは本当に子どもを轢くのか?」と題された動画をYouTubeに公開しました。どれだけFDSが素晴らしいか、それを鮮やかに示す方法と思われたようです。

 

しかしYouTubeは「未成年が危険な活動に参加する様子を映したコンテンツや、未成年に危険な活動を促すコンテンツ」「危険なスタント、挑戦、イタズラなど、怪我につながる可能性がある有害な状況に未成年を置く」ことを許可しないと強調し、動画を取り下げたしだいです。

 

米CNBCの取材に対して、パーク氏はモデル3を時速8マイル(約13km)で走らせて「クルマが子どもを認識した」と述べています。さらにWhole Mars CatalogのYouTubeチャンネルでは、「だから子どもを検知してくれる自信はあるし、ハンドルも握っているからいつでもブレーキをかけられる」とも語っています。

 

8月14日に投稿されたパーク氏の動画は、削除される前に6万回も再生されることになりました。またツイッターへの投稿は一部残っており、まだ見ることができます。

 

 

この件に関しては、米国家道路交通安全局(NHTSA)もクルマのテストに子どもを巻き込まないように警告を発しています。「誰も自分や他人の命を危険にさらして、自動車技術の性能を試してはいけません」「消費者は独自のテストシナリオを作ろうとしたり、実際の人間、特に子供を自動車技術の性能テストに使ったりしてはならない」とも付け加えています

 

テスラの自動運転技術は危険すぎるとして反対運動が起きており、子どもサイズのダミーを轢くという広告も出ていることから、テスラ車を愛する人やテスラに投資している人々がそれにブレーキを掛けようとしている面もあるようです。そうした大人の利害のために、子どもの命を危険に晒さないよう願いたいところです。

 

 

Source:CNBC

のどかな東京郊外を走る「JR五日市線」の10の秘密

おもしろローカル線の旅92〜〜JR東日本・五日市線(東京都)〜〜

 

東京の郊外を走るJR五日市線(いつかいちせん)。わずか11.1kmと短い路線ながら、路線の歴史、車窓の変化、廃線巡り、レジャーなど多彩な楽しみ方ができる路線だ。そんな路線に潜む10の秘密に迫ってみた。

 

*取材は2020(令和2)1月、12月、2022(令和4)年7月24日に行いました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
始まりは砂利鉄道だった!今や活況路線「南武線」10の意外すぎる歴史と謎に迫る

【五日市線の秘密①】五日市鉄道という会社が開業させた路線

五日市線の概要をまずは見ておこう。

路線と距離 JR東日本・五日市線:拝島駅(はいじまえき)〜武蔵五日市駅間11.1km
全線直流電化単線
開業 1925(大正14)年4月21日、五日市鉄道が拝島仮停車場〜五日市駅(現・武蔵五日市駅)間10.62kmが開業、同年5月15日に青梅電気鉄道・拝島駅へ路線を延伸、6月1日に五日市駅を武蔵五日市駅と改称、9月20日、武蔵五日市駅〜武蔵岩井駅間が延伸開業
駅数 7駅(起終点駅を含む)

 

今から97年前に五日市鉄道という鉄道会社により開業した五日市線は、終点の武蔵岩井駅の最寄りに石灰石の採掘場とセメント工場があり、貨物輸送を念頭に路線が敷かれた。開業してわずか1か月半で五日市駅を武蔵五日市駅と改称しているが、これは山陽本線にすでに五日市駅(広島県広島市)があり、同じ駅名の重複を避けたからである。

 

拝島駅〜武蔵五日市駅間の開業で始まった五日市鉄道の歴史だが、1930(昭和5)年7月13日には立川駅まで延伸開業している(詳細後述)。下記は昭和10年前後の五日市鉄道の路線図だが、当時は立川駅〜武蔵岩井駅間の路線だったことが分かる。

↑昭和10年前後に発行された五日市鉄道の路線図。秋川渓谷の景勝地を紹介するパンフとしてつくられたもの。筆者所蔵:禁無断転載

 

五日市鉄道が立川駅まで延伸した当時、東京郊外の鉄道は、私鉄の路線が多かった。立川駅を走る路線の中では、中央本線こそ官営だったが、青梅線は青梅電気鉄道、南武線は南武鉄道の路線だった。五日市鉄道を含めこれらの路線は旅客営業も行っていたが、採掘される石灰石やセメント、砂利などの貨物輸送が非常に多い路線でもあった。

 

日中戦争、太平洋戦争と戦禍が続く中、国は軍需産業の強化に乗り出す。セメント需要も高まっていき、輸送を行う路線の国営化が徐々に進められていった。五日市鉄道を巡る状況も慌ただしく変化していく。まず、1940(昭和15)年10月3日、南武鉄道と合併する。さらに1943(昭和18)年9月には南武鉄道、青梅電気鉄道、奥多摩電気鉄道との合併の仮調印が進められた。さらに1944(昭和19)年4月1日には、買収、国有化されて五日市線となった。

 

これらはほぼ国の指導で進められた。当時の国有化は半ば強制であり、支払いも戦時国債で行われた。戦時国債の現金化は難しく、戦後は超インフレで紙切れ同然となっている。戦時下とはいえ、無謀な形で〝買収〟されたが、戦後にこれらの路線が元の所有者に戻されることはなかった。鉄道会社の経営に関わっていたセメント会社が、大手財閥と関係が深い会社だったからだとされる。こちらはGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の指示だったと今に伝わる。

 

【五日市線の秘密②】電化されたのは昭和30年代と遅かった

国有化された五日市線は、終戦前の1944(昭和19)年10月11日にまず立川駅〜拝島駅間の路線が〝不要不急路線〟に指定され、レールの供出などのため廃線となる。そして1949(昭和24)年6月1日に日本国有鉄道が発足し、国鉄五日市線となった。

↑戦前発行の五日市鉄道の絵葉書。旅客列車を牽き多摩川橋梁を渡るのはドイツ・コッペル社製1号蒸気機関車。筆者所蔵:禁無断転載

 

その後、大きな変化はなかったが、1961(昭和36)年4月17日に直流1500Vでの全線電化を果たす。青梅線(開業時は青梅鉄道)が昭和初期に電化されたのに対して、五日市鉄道は長年、非電化で、蒸気機関車が客車および貨車を牽く形での運行が続いていた。東京都内の路線としては、電化されるのが遅かった。

 

五日市線は長い間、拝島駅〜武蔵岩井駅間の営業が行われていたが、1971(昭和46)年に大久野駅(おおぐのえき)〜武蔵岩井駅間が廃止され、武蔵五日市駅〜大久野駅間の旅客営業は終了、貨物列車のみの運行区間となった。この貨物列車の運行も1982(昭和57)年には終了となり、武蔵五日市駅〜大久野駅間が廃止された。

 

11.1kmと短い路線ながら、歴史の荒波に揉まれた逸話が残る路線なのである。

 

【五日市線の秘密③】意外? 市の名前が付いた駅名が一つもない

現在、五日市線は昭島市、福生市、あきる野市の3つの市をまたいで走る。大概の鉄道路線では一駅ぐらい、地元の市町村名が付いている駅があるものだが、五日市線にはそうした駅名がない。複数の駅がありながら、こうした路線も珍しい。

 

始発駅の拝島は昭島市と福生市の境界上にある駅で、多摩川までは福生市を、多摩川の先であきる野市へ入る。実は前は町名と同じ名の駅があった。それは秋川駅で、以前は秋川市内の駅だった。ところが、隣の五日市町と1995(平成7)年に合併、秋川市の名前が消え、あきる野市となった。

 

一方で、拝島駅で接続する青梅線には市の名前がそのまま付いた駅が多い。福生市にある福生駅、昭島市にある昭島駅、青梅市にある青梅駅といった具合である。

↑拝島駅(右下)北の分岐点。右から八高線、中央が青梅線、一番奥が五日市線となっている。五日市線はこの分岐の先ですぐ単線となる

 

ここからは五日市線11.1kmの旅を始めよう。

 

五日市線の電車は、朝夕は立川駅まで直通運転し、日中は拝島駅〜武蔵五日市駅間を往復する電車が多い。使われる電車は豊田車両センターに配置されるE233系0番台で、6両編成で運転される。ちなみに2022(令和4)年3月12日のダイヤ改正以前は、中央線へ乗り入れる電車があったが、今は消滅している。青梅線には中央線の快速電車が直通運転しているのに対して、五日市線は立川駅または拝島駅での乗り換えが必要となる。

 

拝島駅を発車した電車は、駅の北側で平行して走る青梅線、八高線と分かれ、左に分岐する。線路はすぐに単線となり、住宅街の中を次の熊川駅へ走る。

 

次の熊川駅は左カーブする線路上にあるホーム一つの小さな無人駅だ。ここまでが福生市内の駅となる。駅を過ぎると間もなく前面に多摩川が見えてくる。

 

【五日市線の秘密④】5階建てビルの高さがある多摩川の河岸段丘

多摩川はこのあたりでは河岸段丘の地形を造り流れている。特に熊川駅側は段丘の地形がより良く分かる。五日市線は熊川駅の先から多摩川橋梁まで、築堤を走る。熊川駅の標高は119.6m、河岸段丘の下部は104.5m(国土地理院標高地図により計測)と15mほどの標高差がある。ビルにして約5階分の高低差がある。段丘の上に立ってみると、もっと高いように感じるのだが。

↑多摩川の河岸段丘を築堤で越える五日市線。その高低差は約15mあり線路のすぐそばに階段も設けられている(左下)

 

この巨大な築堤が生まれた逸話がある。実は五日市鉄道は建設当初、熊川駅付近は鉄道と歩行者共用のトンネルを掘り、河岸段丘の下まで通す予定だった。ところが資金難となり、現在の築堤の構造となる。約束を反故にしたこともあり、五日市鉄道は当時の地元・熊川村へ補償金を支払ったそうである。

 

今は立派な築堤が目立つ五日市線。車窓から見る風景も素晴らしく奥多摩などの山々が一望できる。春先は多摩川の堤防の桜並木も美しい。

↑五日市線の多摩川橋梁459.78m。前掲した戦前の絵葉書に比べると河原は草木に覆われている

 

【五日市線の秘密⑤】武蔵引田駅の乗降客が多い理由は?

多摩川を渡りあきる野市へ入る。沿線は工場や民家が次の東秋留駅(ひがしあきるえき)まで続く。この東秋留駅を過ぎると急に郊外の趣が強まり、進行方向右手には、畑地が広がるようになる。この付近は秋留台地と呼ばれる地域で、古くから畑作が盛んだった。

 

名産品としては初夏に収穫されるとうもろこしが良く知られている。あきる野市のとうもろこしは「秋川とうもろこし」と呼ばれ、甘味が強く一つ一つの粒が大きいのが特長だそうだ。東秋留駅から徒歩8分にはこうした地場産品を扱う「秋川ファーマーズセンター」もある。

 

東秋留駅から畑の風景を見ながら進むと、再び民家が多くなり秋川駅へ到着する。この駅は五日市線の中で最も賑やかな駅で、シティホテルなども駅前に建つ。この秋川駅を発車して間もなく、進行方向左右ともに畑地が広がる風景が続く。

 

ホームの前に畑が広がるのが次の武蔵引田駅(むさしひきだえき)だ。駅から農作業を行う様子が見えるのどかな駅だが、乗降客の多さが目立つ。多くが駅の北、徒歩10分ほどにある「イオンモール日の出」の利用者で、近くには大学のキャンパスもある。

↑畑の中にある武蔵引田駅。やや離れるものの南側を秋川が流れ、バーベキュー場もある(左上)

 

南には秋川が流れ、河畔にはバーベキュー場「リバーサイドパーク 一の谷」(徒歩18分)もある。秋川の対岸には「東京サマーランド」もあり、東京郊外を走る路線らしく、沿線にレジャー施設が多い。

 

武蔵引田駅の近くは畑地と五日市線の電車を絡めて撮影するのに最適なところだ。東京都内の鉄道路線で、これほど障害物がなく畑と電車が撮影できる場所は希少といって良いだろう。

↑ネギ畑の先を五日市線が走る。武蔵引田駅付近では、そば、のらぼう菜など多彩な作物が育てられている

 

農業体験が楽しめる畑地など一般の人たちにも畑が開放されているところもある。ちなみに、この武蔵引田駅から武蔵五日市駅にかけては、前述したとうもろこし以外に、「のらぼう菜」というこの地で江戸時代から栽培されてきた野菜も育てられている。胡麻和えやおひたしとして食べられるほか、そばやうどんに混ぜた商品も販売されている。

 

【五日市線の秘密⑥】武蔵五日市駅の手前にある信号場跡は何?

武蔵引田駅から先に進むと、正面に見えていた山が次第に近くに迫ってくる。風景が変わるなか、武蔵増戸駅(むさしますこえき)に到着する。平地が続くのはこの駅までで、ここまでほぼ直線で伸びてきた路線も、武蔵増戸駅から先は、近づく山の形に合わせて、右へ左へカーブしつつ走る。山景色が迫ってくるといつしか、電車は台地の縁部分を走り、眼下に五日市の町と秋川の流れが見えるようになる。

 

終点の武蔵五日市駅が近づき、到着の車内アナウンスが聞こえるころに、左に側線が分岐する地点にさしかかる。この場所が三内(さんない)信号扱所と呼ばれるポイントで、ここから武蔵五日市駅への路線と、武蔵岩井駅へ向かう路線(通称・岩井支線)が分かれていた。

↑かつて三内信号扱所と呼ばれたポイント。今は側線が1本あり、保線用の車両などが止められている。右は現在の武蔵五日市駅行き電車の路線

 

現在、三内信号扱所には側線が残り、保線用の車両が停められている。岩井支線が通っていた時代は、旅客列車は複雑な運転が行われていた。拝島駅を発車した列車は信号場を通過して武蔵五日市駅へ向かい、駅から三内信号扱所へスイッチバックで戻り、ここから大久野駅や武蔵岩井駅へ走った。貨物列車は武蔵五日市駅には立ち寄らず、直接、この信号扱所から大久野駅、武蔵岩井駅へ走っていた。

↑旧三内信号扱所から勾配をあがり、秋川街道の上空を高架橋で渡る電車。終点の武蔵五日市駅はこの橋を渡った先にある

 

武蔵岩井駅方面への分岐があった当時は、地上部を走り、武蔵五日市駅へ入っていた電車だが、1996(平成8)年7月6日に高架化され、同区間にある都道31号線・通称「秋川街道」をまたいで終点の武蔵五日市駅へ到着する。

 

【五日市線の秘密⑦】終点・武蔵五日市駅の高架構造も気になる

背後は山、前面には秋川が流れる武蔵五日市駅へ電車が到着した。拝島駅から所要17〜20分ほどと乗車時間は短い。山と川がすぐ近くにあるものの、高架上にホームがある近代的な造りとなっている。

 

階段を降りると駅の玄関があり、駅前には大きなロータリーが設けられ、秋川渓谷上流の檜原村(ひのはらむら)や、北隣の日の出町方面へ行くバスなどのターミナルとして利用されている。

↑五日市線の終点、武蔵五日市駅の駅舎。駅構内にはコンビニエンスストアや観光案内所などのほか、テラス席付きカフェもある

 

この武蔵五日市駅だが、ちょっと気になる構造をしている。終点の駅なのだが、ホーム端から線路がやや先に延びている。ホーム内に行き止まりの車止めがある構造を専門的には「頭端駅構造」と呼ぶ。この駅は先に路線を延ばすことができる「中間駅構造」として造られている。

 

秋川上流部にある檜原村から線路を延ばして欲しいという要望がかつてあったとされる。その後、延伸計画は具体化していないが、一応、延伸にも対応できる構造にしたようだ。

↑武蔵五日市駅の高架は電車ぎりぎりの駅の長さではなく、先に線路が延びた中間駅構造で造られている

 

【五日市線の秘密⑧】不思議なトレーラーバスと出会う!

五日市線の終点、武蔵五日市駅で興味深い乗物に出会った。SLの形をしたバスが駅のロータリーを発着、秋川街道方面へ走っていったのである。

 

小改造したバスは国内観光地で良く目にするが、ここまで姿を変えたバスも珍しい。このバス、日本で唯一の貨物用のトレーラーを改造して造られた「トレーラーバス」と呼ばれる車両で、武蔵五日市駅と日の出町にある日帰り温泉施設「つるつる温泉」を結ぶ。武蔵五日市駅が高架化された1996(平成8)年に導入されたバスで、愛称は「青春号」。日の出町が西東京バスに運行を委託している路線バスだ。

↑武蔵五日市駅を発車したトレーラーバス青春号。日の出町大久野にある「生涯青春の湯 つるつる温泉」へ約20分かけて走る

 

車内はレトロな造りで凝っている。トレーラー部分の客車には乗務員が乗り、マイクで行先案内が行われる。このバス乗りたさに、日の出町の観光施設をわざわざ訪れる人もいるそうだ。

 

【五日市線の秘密⑨】旧大久野駅へ向かう廃線跡で意外な発見!

トレーラーバス青春号が走る日の出町の秋川街道。ここにはかつて、武蔵五日市駅からも電車が走っていた。せっかく武蔵五日市駅までやってきたこともあり、廃線跡を少し歩いてみようと思った。

 

実は筆者は学生時代にロードレース用の自転車を乗っていたことがあり、トレーニングがてらに、アップダウンが続く秋川街道を好んで走った。当時、坂道の横をこげ茶色の電気機関車と黒い貨車が行き来していた様子を覚えている。そんな路線跡は今、どうなっているのだろう。

 

武蔵五日市駅から秋川街道沿いに歩くことわずかに500m、早くも廃線跡を示す遺構を見つけた。

↑秋川街道沿いに残る五日市線岩井支線の「鉄道柵」と頭が赤く塗られた「境界杭」、右上遠くに五日市線の路線が見える

 

道路と鉄道線路を仕切る古いコンクリート製の「鉄道柵」が200mほど連なっていた。その柵の下には、小さなコンクリート製の「境界杭」と呼ばれる杭が打たれていた。鉄道用地と、道路用地の境界を示す杭だ。頭の部分にわずかに赤い塗装が残っている。今は雑草が生え、新たにフェンスも建ち、柵の内側を見ることができないが、ここを岩井支線の列車が走っていたことが分かる。

↑遊具などが備えられた「語らいとふれあい公園」が旧大久野駅の跡地だ

 

秋川街道をさらに北上していく。老人介護施設や太平洋マテリアルの工場が街道筋にあり、途中、あきる野市から日の出町へ入る。日の出町の最初の集落が「大久野(おおぐの)」だ。この西側に岩井支線の大久野駅があったはずで、地図を見つつ進むと「語らいとふれあい公園」という名前の公園があり、幼児向けの遊具とともに、屋根付きのゲートボール場があった。

 

公園の看板を確認したが、ここが旧大久野駅であることを示す案内はなかった。40年前に廃駅となり、旅客駅だったのはすでに半世紀以上前のことであり、住む人の多くが駅があった当時を知らない世代にかわっていると思われる。廃駅のすぐ裏手には「たばこ」の古めかしい看板が残る廃屋や、レトロな建物の美容院もあり、このあたりが駅前であったことが確認できた。

 

旧駅跡の北側にはかつて線路が敷かれていた細い未舗装の道が、平井川という小さな川沿いに伸びていた。この先は私有地で無断立入禁止の立て札があり、先に進むのを諦めた。平井川の上流には太平洋セメントの日の出工場があり、武蔵岩井駅跡は現在、工場の駐車場として利用されている。

 

廃線跡を歩くと寂寥感におそわれる。特にこの岩井支線は山間部の路線のせいか、徐々にその跡が森に包まれて消えていくように感じられた。

↑旧大久野駅の北側から太平洋セメント工場内の武蔵岩井駅へと線路が延びていた。入口には「無断立入禁止」の立て札が建つ(左上)

 

【五日市線の秘密⑩】五日市鉄道が走った拝島〜立川間の路線跡

五日市線には岩井支線と同じように廃線となった区間がある。それは拝島駅〜立川駅間の路線である。

 

こちらは岩井支線よりも前、今から78年前の戦時中に姿を消している。下記の地図を見ていただくと分かるように、拝島駅〜立川駅間は青梅線の路線がすでにあり、南を迂回するようにして走っていた。戦時下の当時は、とにかく鉄資源が不足していて、不用と判断された鉄道路線は〝不要不急線〟とされ次々に廃止されていった。五日市線のこの区間は青梅線もあり、不用と判断されたのだった。直ちに線路は剥がされ軍事物資の生産へ転用されていった。

↑拝島駅〜立川駅間の廃線地図。途中駅から多摩川の砂利採取用の貨物支線も延びていた

 

↑拝島駅近くの旧五日市線が走っていた線路跡は「五鉄通り」として整備されている。五日市鉄道がここを走っていた案内板も立つ

 

この旧五日市線の廃線跡をたどると、そこに鉄道が走っていたことがあちこちで確認できる。例えば、拝島駅から徒歩3分ほど。「江戸街道」を渡った先から「五鉄通り」と呼ぶ遊歩道が延びている。五鉄とは、五日市鉄道の略称で、廃線跡にこうした通り名がつけられていた。さらに「五日市鉄道の線路跡」という案内板も道路の入り口に立てられている。

 

この地に鉄道の路線があったことを伝える車止めや転てつ機、さらに旧大神駅には鉄道関係の機器を使ったモニュメントが設けられている。また、この路線を造った五日市鉄道のDNAを受け継ぐ会社が実は今も存在している。この地に多くのバス路線を持つ立川バスこそ、五日市鉄道の歴史を受け継ぐバス会社なのである。今は小田急グループの一員となっているものの、五日市鉄道が走った当時よりも、そのバス路線は拡大され、地元の大切な足となっている。

↑旧大神駅には貨車の台車や信号機などのモニュメントが設けられている。近くを立川バスも走る(左上)

 

40年前に消えた岩井支線は廃線をたどってみても、駅や廃線跡に鉄道が走ったことを示す証がほぼなかった。一方で、拝島駅〜立川駅間の廃線跡は、通り名やモニュメントに、かつて鉄道が走っていたことを示す証が多く残されていた。この差は何なのだろう。戦時中、日常的に使っていた鉄道が半ば強制的に廃止された。しかし当時は国の政策に文句を言うことができなかった。だが、沿線には廃線を惜しむ人がそれだけ多くいたということを示しているのかも知れない。実際に旧沿線には住宅が建ち並び、もしこの路線が残っていたら今も利用する人が多かったことが予測できる。

 

とはいえ、元五日市鉄道の伝統を受け継ぐ、立川バスの路線網がこのエリアに広がっている。路線が残っていれば良かったのか、また廃止されて良かったのかは判断がつかないが、なかなか興味深い歴史の移り変わりである。

 

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〝不要不急〟の名のもと戦禍に消えた「旧五日市鉄道」廃線区間を歩く

自転車・クルマ・バイクの空気入れをこれ1台で! スマート空気入れ「KUKiiRE」

自転車、バイク、クルマなどタイヤの付いている乗り物で、重要なのはタイヤの空気圧です。タイヤの性能を発揮させるためには適切な空気圧を維持することが大切。自転車の場合は、空気圧が落ちるとパンクの原因になり、クルマやバイクの場合も燃費悪化の原因になるほか、ブレーキ性能など安全性にも影響します。

 

ただ、タイヤの空気圧を適正に保つのは、結構手間がかかるもの。手動のポンプで空気を入れるのは体力を使いますし、暑くなってきたこの季節は特に気の進まない作業でもあります。そんな作業を自動でやってくれるのが、“スマート空気入れ”とも呼ばれる電動で空気を入れるポンプ。そんなスマート空気入れの1つであるTrade FK Japanが販売する、その名も「KUKiiRE(クウキイレ)」を試してみました。

 

ロードバイクの高圧タイヤにも対応

筆者の家には自転車が家族の分も含めると7台、バイクが3台、クルマが1台あります。空気を入れておかなければならないタイヤが合計24本あることになるので、すべての空気圧を適正に保つのは至難の技。その点で、スマート空気入れは、指定の空気圧を入力してバルブに接続すれば、自動で空気を入れてくれるのでめちゃくちゃ便利です。

 

特にKUKiiREは本体サイズもコンパクトで、デザインもスマート。ドイツの国際的なデザイン賞であるレッド・ドットデザイン賞を受賞しています。バッテリーにはリチウムイオンを採用し、コンパクトながら4000mAhの容量を実現。ママチャリのタイヤなら約20本、高圧になるロードバイクのタイヤでも約10本、クルマのタイヤは約6本分の空気注入が可能とのことなので、かなり期待ができそう。

↑本体サイズはW60×H153×D39mmで重量は433g。バックパックのポケットにも収納できるサイズ。価格は7980円(税込)で販売されています

 

↑空気入れのホースは本体に内蔵。スマートなシルエットに一役買っています

 

↑液晶に表示される数値は大きくて見やすく、タッチパネルボタンで操作もしやすい

 

ホースの口は、クルマやバイク、一部の自転車に使われている米式と呼ばれるバルブに対応した形状。自転車のタイヤには、ママチャリなどは英式、ロードバイクなどは仏式と呼ばれるバルブが使われていますが、こうした形状違いのバルブには変換アダプターで対応できます。

↑様々な形状のアダプターが同梱されているので、クルマからボールまで様々なものに空気を入れることが可能

 

自転車のパンクを防ぐ効果も

自転車の空気圧に気を配っている人は少ないかもしれませんが、実はとても重要な要素で、空気圧が低くなっているとパンクの原因になります。空気が抜けた状態で段差などを乗り越えると、段になっている部分とリムの間にチューブが挟まれて「リム打ちパンク」を引き起こします。また、空気圧が低い状態では、タイヤの中でチューブが動いてしまうため、表面が擦れて摩耗してしまうことも。自転車のプロショップでは「パンクの9割は空気を入れておけば防げる」と言われるほどです。

 

タイヤの細いロードバイクなどスポーツタイプの自転車では、走行毎に空気を入れることが推奨されていますが、ママチャリのタイヤよりもかなり高圧にしなければならないので、夏場の走行前は気の進まない作業です。まさしくスマート空気入れの出番なのですが、以前に試したことのあるモデルでは、規定の最大圧力まで空気圧を高めることができませんでした。KUKiiREでは、必要な空気圧を確保できるかも気になるところです。

↑バルブにKUKiiREを接続し、空気圧を80PSIに設定。空気を入れる前は30PSIまで空気圧が落ちていました

 

接続すれば、あとは空気圧を設定してボタンを押すだけ。コンプレッサーの音がやや大きいですが、何もせずに空気が入っていくのはかなりありがたい。設定の空気圧に達すると自動でポンプは止まります。

↑ロードバイクのタイヤは、やや空気圧が落ちていたので4分11秒で完了

 

80PSIはロードバイクとしては高い空気圧ではありませんが(100PSI以上のものもある)、問題なく入れることができました。カタログスペックでは150PSIまで対応しているとのことなので、ロードバイク乗りにもありがたいところでしょう。ちなみに、タイヤの適正空気圧はタイヤの太さや銘柄によって異なり、タイヤのサイドに記載されています。

 

クルマの燃費向上にも有効

続いては、クルマのタイヤにも空気を入れてみました。空気圧を日常的にチェックしている人は少ないかもしれませんが、ゴムは少しずつですが空気を通すので、1か月で5%程度空気圧が下がると言われています。空気圧が10%程度落ちると、燃費にも悪影響があるので、1〜2か月に1回は空気圧の調整をしておきたいところです。

 

ちなみにKUKiiREはPSI以外にBAR、KPA、Kg/cm2の表示単位に対応。また、クルマ・バイク・自転車・ボールの4つのモードがあり、それぞれに空気圧を登録しておけるので、1回ずつ空気圧を指定する必要がありません。

↑「クルマ」のモードを選択。空気圧は325KPAに設定されていました

 

↑筆者のクルマは350KPAが指定空気圧だったので、数値を調整してスイッチON

 

↑クルマのタイヤはそれほど空気圧が落ちていなかったので、約2分で完了

 

バイクのタイヤでもテスト

最後にバイクのタイヤでも試してみました。普段、乗る機会が少ないので、乗る前には毎回空気圧を調整する必要があるのですが、今回もやはり既定値をだいぶ下回っていました。バイクの場合、燃費だけでなくハンドリングやブレーキの効きにも影響するので、空気圧の調整は大切です。

↑1.6Kg/cm2から指定した空気圧まで3分11秒で入れることができました

 

ロードバイク1台、クルマ1台、バイク1台の合計10本のタイヤに空気を入れたところでバッテリー切れ。どのくらい落ちているところから入れるのかにもよりますが、これだけ持ってくれれば十分という印象です。夏の炎天下に、これだけの本数のタイヤに手動のポンプで空気を入れていたら、確実に熱中症で倒れていたでしょう(クルマのタイヤに手動のポンプで空気を入れる人はあまりいないと思いますが……)。

 

コンパクトで持ち運びもしやすいので、旅先に持って行ったり、クルマのグローブボックスなどに入れておくこともできます。それでいて、高圧のロードバイクにもきちんと空気を入れられる性能を持っているので、筆者のように複数台の乗り物を持っている人や、家族全員のタイヤに空気を入れたい人などは、1つ持っているとありがたい存在になるでしょう。

 

 

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トヨタ製BEVの先陣を切る「bZ4X」。試乗でわかった高い完成度

トヨタは2021年12月、東京・お台場で合計16モデルものBEV(電気自動車)を一気に公開して大きな注目を浴びました。それまで“BEVには消極的”と言われていたトヨタがここで反転攻勢に転じたのです。bZ4Xはそんな中で、まさにトヨタの歴史にも残るエポックメイキングカーとして登場しました。

 

ただ、発売を発表して間もなく、ハブボルトの不具合によって、リコールと出荷停止という誰もが予想していなかった事態に陥ってしまいました。今のところ、販売再開の見通しは立っておらず、発表したばかりの16代目クラウンが販売延期となったのも同じハブを使っていることではないかと言われています。

 

しかし、bZ4Xを公道試乗すると、初のBEVとは思えない高い完成度にはビックリ!トヨタの電動技術がハイレベルな領域にあることを実感させられたのです。今回はそんなbZ4Xの試乗レポートをお届けしたいと思います。

 

【今回紹介するクルマ】

トヨタ/bZ4X

※試乗車:Z(4WD)

KINTO月額利用料合計:869万7480円(税込)※CEV補助金飲み適用の場合、申込金77万円は含まれておりません

 

安定したデザインと広い車内をもたらしたロングホイールベース

試乗したルートは、軽井沢から東京都内までの約200kmの道のり。一般道と高速道を交えて走行し、途中、充電スタンドでの急速充電も行い、その際の使い勝手も検証しました。bZ4Xはラインナップを「Z」のワングレードとしており、今回試乗したのはその4WDです。なお、bZ4Xはトヨタのサブスク「KINTO」での提供のみとなっています。

 

bZ4Xのデザインテイストは最近のトヨタ車に共通するものですが、それでも冷却のための空気取り入れが必要ないBEVらしく、フロントグリルの高さを最小限にとどめるなど、独自の雰囲気を醸し出しています。ボディ寸法は全長4690mm×全幅1860mm×全高1650mmで、ホイールベースは2850mm。トヨタのSUVである「RAV4」よりもかなり大きいサイズとなりました。

 

特にホイールベースを長くしてタイヤを可能な限り四隅に配置したデザインは、接地性・走破性の高さを表現しつつもスタイリッシュなプロポーションを表現。これがゆったりとした安定感のあるデザインも生み出したと言えるでしょう。

↑フロントグリルを最小化した独特のデザインを持ち、電動車らしいロングホイールベースで安定感のあるデザインを生み出した(写真はいずれも2WD)

 

パワートレーン系は、FWDモデルがフロントに150kWの出力を誇るモーターを搭載するのに対し、4WDモデルはフロント/リア共に80kWのツインモーターを搭載します。搭載したバッテリー(リチウムイオン)は71.4kW/hとし、航続距離はWLTCモードでFWDが500km前後、4WDが460km前後としています。特にこの駆動用バッテリーについては10年後も90%の電池容量維持率を目指したロングライフ設計となっているのも大きな特徴です。

↑試乗した4WDのフル充電時での航続距離は、カタログスペックで460km前後

 

低いダッシュボードとパノラマルーフが開放的な空間を生み出す

車内に入ると、全体に低くしたダッシュボードと、大開口部を持つパノラマルーフが開放的な空間をもたらしていることを実感できます。メーターは視認性を重視するために、ステアリングの上側越しの奥にレイアウトする「トップマウントメーター」をトヨタで初めて採用。これは運転中の視線移動を可能な限り減らせる効果があります。

↑低いダッシュボードにより、広い室内空間を実現している。インパネの運転席側吹き出し口から室内へ放出され、車室内を快適な空気環境に導く「ナノイー X」を搭載(写真はFWD)

 

↑ステアリングの上側越しにメータを配置して、ヘッドアップディスプレイに匹敵する視認しやすさを実現した(写真はFWD)

 

↑12.3インチディスプレイを備えたナビゲーション&オーディオシステム。T-Connectのオプションサービス「コネクティッドナビ」に対応

 

一方で、センターコンソールは中央部に左右を分けるコンソールが配置された一般的なデザインとなっています。最上段には大型ディスプレイを配置し、そこからエアコンの操作パネル、ベンチレーターの吹き出し口、シフトノブがレイアウトされます。ダッシュボードには落ち着いた室内を演出するようにファブリック貼りとなっていました。

↑センターコンソールには、今どきの装備らしく、USB type-Cが装備されていた。一方、音楽再生用としてのUSB端子はスマホの充電スペースに配置された

 

↑オーディオはサブウーファーを含む9つのスピーカー「JBLプレミアムサウンドシステム」

 

室内はとにかく広い! の一言です。特に後席は前席とのレッグスペースがゆったりとしていて、脚を組んで乗車するのも楽々。若干、フロアが高めにはなっており、後席ヒップポイントとの段差が少なめであるのが気になりますが、レッグスペースの余裕がこれを充分カバーしてくれています。ラゲッジスペースもフロアが高めであることはあっても、かさばるものも問題なく収納できる十分な容量がありました。

↑広々とした室内空間を持ちながら、ガソリン車から乗り換えても違和感がない実用性。後席は脚を組めるほどの広いレッグスペースを確保した(写真はいずれもFWD)

 

↑ラゲージスペースはフロアが少し高めだが、かさばるものも収められる十分な容積を確保。幅最小967/最大1288×長さ985×高さ757mm(写真はFWD)

 

ストレスなくスーッと加速するジェントルかつ強力な加速

↑FFモデルはフロントに150kWの出力を誇るモーターを搭載。4WDモデルはフロント/リア共に80kWのツインモーターを搭載する

 

いよいよ試乗のスタートです。起動スイッチを押してシステムを立ち上げると、メーター上に「READY」のマークが表れ走行可能となりました。ここで戸惑ったのがダイヤル式のシフトノブです。ただ、それは最初だけでした。「P」から「D」に切り替えるときは、ブレーキを踏んで右回し、「R」にするときはその逆、左に回転させます。「P」にするときはダイヤル上にある「P」を押せばOK。とてもシンプルで使い始めるとすぐに慣れました。

 

走り始めるととてもスムーズかつ静かであることが伝わってきました。よくBEVではモーターによる低速トルクの強さが強調されますが、bZ4Xはそういった感覚とは異なり、ストレスなくスーッと速度を上げていく感じです。しかもBEVらしい加速が欲しいときはアクセルを強めに踏めば強大なトルクが一気に放たれ、鋭い加速フィールとなって現れます。ただ、これもひたすらジェントルな中で行われ、そこが他のBEVとの大きな違いと言えるでしょう。

 

4WDモデルには、スバルが開発した「Xモード」と言われるドライビングモードが装備されていました。これは主に雪道やぬかるんだ道でのコンディションに適合させたもので、時速40km/h以下でしか作動しません。一般道での利用というより、オフロードを走行するときに使うべきモードと思って良いと思います。

 

ガソリン車から乗り換えても違和感なく使える「回生ブースト」

↑高い完成度に驚かされたトヨタの第一弾となるBEV「bZ4X」

 

ハンドリング操作に対するクルマの動きはとてもスムーズに感じました。低重心と高剛性のシャーシとも相まって、意のままにコントロールできたのです。しかも快適。フロアの剛性が高いこともあって、路面からの遮音もしっかりとしていて、ざらついたコンクリート路面を走ってもその感じがほとんど伝わってこないです。この快適度はBEVの中でもトップクラスにあり、それはレクサスの高級セダンをも凌駕していると言っても過言ではないでしょう。

 

ブレーキング時もどんなタイミングで踏んでも、安定して確実に止まる感じで安心感がありました。万一の急減速に対してもスムーズに反応するし、「回生ブースト」と呼ばれる回生ブレーキも適度な減速Gで、これならガソリン車から乗り換えても違和感はないのではないかと思います。

 

ただ、ペダル一つでコントロールしようとすると物足りなさを感じるかもしれません。「回生ブースト」をONしても効果はそれほど高いものではなかったからです。スバル「ソルテラ」に装備されていて、より細かく回生Gを制御できるパドルシフトがないのも残念に思いましたね。

 

とはいえ、bZ4XはBEVとしてもきわめて高い完成度を発揮しているのは間違いありません。それでいてデザイン性や使い勝手においてもガソリン車から乗り換えても違和感なく使えるのが、いかにもトヨタらしい造り込みをしていると言えます。

 

その昔、トヨタはクルマ作りにおいて決して外さない完成度の高さを誇ってきましたが、このBEVの第一弾となるbZ4Xにもその精神は脈々と引き継がれていることが実感できます。トヨタのBEV戦略の先陣として、その完成度の高さをまずは評価したいと思います。

 

SPEC【Z(4WD)】●全長×全幅×全高:4690×1860×1650mm●車両重量:2010kg●モーター:フロント・リヤ交流同期電動機●最大出力:フロント・リヤ80+80kW/109+109PS●最大トルク:フロント・リヤ169+169N・m/17.2+17.2kgf・m●WLTCモード一充電走行距離:540km[487km]●WLTCモード交流電力量消費率:134Wh/km[148Wh/km]

※[]内は235/50R20タイヤ&20×7.5Jアルミホイールを装着した場合の数値

 

 

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輸入クーペらしい2台! BMW「2シリーズ・クーペ」とボルボ「C40リチャージ」を試乗レポート

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」はBMWの新型2シリーズ・クーペとボルボのピュアEVクーペとなるC40リチャージを取り上げる。前者はBMWの伝統を守るコンパクト、後者はSUVとのクロスオーバーという違いはあるが、いずれも輸入車のクーペらしさを感じられるモデルだ。

※こちらは「GetNavi」 2022年8月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【その1】4WDでも後輪駆動のBMWらしさを満喫!

クーペ

BMW

2シリーズ・クーペ

SPEC【M240i xDriveクーペ】●全長×全幅×全高:4560×1825×1405mm●車両重量:1710kg●総排気量:2997cc●パワーユニット:直列6気筒DOHC+ターボ●最高出力:387PS/5800rpm●最大トルク:51.0kg-m/1800〜5000rpm●WLTCモード燃費:10.9km/L

 

パワフルかつ爽快な伝統の操縦性は健在!

他の2シリーズとは異なり、引き続き伝統の後輪駆動レイアウトをベースとする2ドアクーペが登場。先代と比較すればボディは特に前後方向が拡大されているが、それでも現行BMWのなかでは最もコンパクトな後輪駆動モデルというポジションを保持している。

 

日本向けのパワーユニットは、4気筒2Lガソリンターボと3L直列6気筒ガソリンターボの2タイプ。トランスミッションはいずれも8速ATとなるが、駆動方式は2Lが後輪駆動なのに対し、3Lは4WDを組み合わせているのが先代モデルとの大きな違いだ。

 

今回はその最上級グレードとなるM240iに試乗したが、4WDとはいえ後輪駆動的なハンドリングを披露する点はいかにもBMW。現状先代モデルに用意されたMTの設定はないが、単にパワフルなだけではなく、吹け上がりに爽快さを感じられる6気筒ともども、伝統的なBMWらしい操縦性を味わうには、まさにうってつけの1台に仕上げられている。

 

[Point 1]伝統的なクーペのスタイルを継承

他の2シリーズはFF駆動を基本とした骨格を採用するが、この2ドアクーペのみエンジンを縦置きにするFRベースの骨格を採用。結果としてスタイリングはよりクーペらしさが強調されることに。

 

[Point 2]室内は兄貴ぶんの4シリーズ譲り

FRベースの基本骨格を採用するため、室内の作りも他の2シリーズとは別物。兄貴ぶんにあたる4シリーズに近い仕立てとなる。乗車定員は後席が2人掛けとなる4名だ。

 

[Point 3]クーペとしての実用性は上々

荷室容量はグレードを問わず通常時で390Lを確保。ドイツメーカーのクーペらしく、コンパクト級といえども実用性はハイレベルだ。

 

[Point 4]パワーユニットは2タイプ

日本仕様のエンジンは、これもBMWらしい直列6気筒の3Lターボ(写真)と4気筒2Lターボの2本立て。ミッションは、いずれも8速ATを組み合わせている。

 

[ラインナップ](グレード:エンジン/駆動方式/ミッション/税込価格)

220iクーペ・スタンダード: 2.0L+ターボ/2WD/8速AT/508万円

220iクーペ・スポーツ:2.0L+ターボ/2WD/8速AT/550万円

M240i xDriveクーペ:3.0L+ターボ/4WD/8速AT/758万円

 

 

【その2】ピュアEVでも走りはスポーティなクーペ級!

BEV

ボルボ

C40リチャージ

SPEC【ツインモーター】●全長×全幅×全高:4440×1875×1595mm●車両重量:2160kg●パワーユニット:電気モーター(交流同期電動機)×2●バッテリー総電力量:78kWh●最高出力:408PS/4350〜13900rpm●最大トルク:67.3kg-m/0〜4350rpm●一充電走行距離(WLTCモード):485km

 

EVらしい刺激も味わえる初の日本向けボルボEV

C40リチャージは、日本向けのボルボでは初となるピュアEV。ベースはコンパクトSUVのXC40だが、その外観はグラスエリアをコンパクトにまとめ、クーペとSUVのクロスオーバーモデルに仕立てられている。とはいえ室内や荷室回りの空間はSUVとしても十分に通用する広さを確保。車内を明るく演出するサンルーフが装備されることもあって、大人が後席に座る場合でも狭いと感じるようなことはない。

 

また、最新のボルボらしく室内はレザーフリーとして再生素材を積極採用するなど、環境にも配慮した作り。プレミアムなモデルらしい高級感を演出しつつ、高い社会性も兼ね備えている。

 

ピュアEVのパワートレインは、前輪を駆動するシングルモーター仕様と、後輪にもモーターを配したツインモーターの2種。今回の試乗車は後者だったが、その走りはスポーティなクーペ風の見た目に違わない刺激に満ちていた。最新のEVでは、エンジン車から乗り換えた際の違和感を排除する狙いからアクセル操作に対する反応を穏やかにしたものもあるが、C40リチャージは電気モーターの力強さをダイレクトに表現。EVが退屈なクルマではない、ということを実感するにはピッタリな1台に仕上げられている。

 

[Point 1]クーペボディはEV専用

クロスオーバーモデルとなるC40は、グラスエリアをタイトに仕上げてクーペらしさを演出。搭載するパワーユニットはEVのみ。7月にはXC40(コンパクトSUV)のピュアEV版もオンライン購入サイトがオープン。

 

[Point 2]室内はサステナブルな作り

Androidベースのインフォテインメントを標準搭載。サンルーフを装備して、開放感ある室内を実現した。レザーフリーで、再生素材のカーペットを採用するなど、環境にも配慮。

 

[Point 3]使い勝手はSUV級

荷室容量は通常時でも413L。最大で1205Lに拡大するなど、使い勝手はSUVとして満足できる水準。またフロントフード下にも収納スペースが備わる。

 

[Point 4]充電プラグは2か所

急速充電(写真)、普通充電プラグはボディ左側の2か所。パワートレインは前輪を駆動するシングルモーターと後輪にもモーターが備わるツインの2種類を用意。

 

 [ラインナップ](グレード:エンジン/駆動方式/税込価格)

プラス・シングルモーター:電気モーター/2WD/599万円

アルティメート・ツインモーター:電気モーター×2/4WD/699万円

 

文/小野泰治 撮影/郡 大二郎

 

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田んぼ&歴史+景勝地「秋田内陸縦貫鉄道」の魅力にとことん迫る

おもしろローカル線の旅91〜〜秋田内陸縦貫鉄道(秋田県)〜〜

 

秋田県の内陸を南北に縦断する「秋田内陸縦貫鉄道」。車窓からは秋田らしいのどかな田園風景と田んぼアート、美林、景勝地が楽しめて飽きさせない。94kmの路線距離を2時間〜2時間半ほどで、乗り甲斐たっぷりの路線だ。そんな秋田内陸縦貫鉄道の魅力に迫ってみたい。

 

※取材は2014(平成26)9月、2016(平成28)年9月、2022(令和4)年7月30日に行いました。一部写真は現在と異なっています。
8月15日現在、豪雨災害の影響で鷹巣駅〜阿仁合駅間が不通となっています。運行状況をご確認のうえ、お訪ねください。

 

【関連記事】
山形盆地を快走!最上川と縁が深い「左沢線」10の秘密

 

【内陸線の旅①】国鉄阿仁合線として始まった路線の歴史

東北地方の中央部を南北に貫く奥羽山脈、その西側を秋田内陸縦貫鉄道が走る。その概要を見ておこう。

 

路線と距離 秋田内陸縦貫鉄道・秋田内陸線:鷹巣駅〜角館駅間94.2km
全線非電化単線
開業 1934(昭和9)年12月10日、阿仁合線(あにあいせん)鷹ノ巣駅〜米内沢駅(よないざわえき)間が開業、1989(平成元)年4月1日、比立内駅(ひたちないえき)〜松葉駅間が延伸開業し、秋田内陸線が全通
駅数 29駅(起終点駅を含む)

 

今から88年前に鷹ノ巣(現・鷹巣)駅から米内沢駅まで開業した阿仁合線は、その後に延伸されていき、1936(昭和11)年9月25日に阿仁合駅(あにあいえき)まで開業する。太平洋戦争の後に、再び延伸工事が続けられ1963(昭和38)年10月15日には比立内駅まで路線が延びた。

 

一方の角館駅側の路線の歴史は浅く、国鉄角館線として1970(昭和45)年11月1日に角館駅〜松葉駅間が開通した。

↑阿仁合駅前に建つ「内陸線資料館」。秋田内陸線の歴史紹介だけでなく、阿仁鉱山や林業に関しても紹介する。入館無料

 

阿仁合線は沿線で産出された木材の運搬と、旧阿仁町内(現・北秋田市)にあった日本の代表的な銅山・阿仁鉱山からの鉱石輸送を行うために路線が建設された。しかし、比立内駅まで延伸された時代には、すでに鉱山の操業も、林業も衰退しつつあり、貨物営業は1980年代初頭で廃止されてしまう。後から造られた角館線も、当初から旅客営業のみの路線だったこともあり、角館線は1981(昭和56)年に、阿仁合線は1984(昭和59)年と次々に路線の廃止承認された。

 

すでに日本鉄道建設公団では、比立内駅〜松葉駅間の鷹角線(ようかくせん)の建設を進めており、廃止承認された阿仁合線と、角館線と、未成線だった鷹角線を引き継いだのが第三セクター経営の秋田内陸縦貫鉄道だった。1986(昭和61)年に阿仁合線と、角館線を暫定的に開業、1989(平成元)年4月1日に完成した鷹角線を結んだ秋田内陸線(以降「内陸線」と略)の営業が始められたのだった。

 

【内陸線の旅②】車両はすべて色違い!特別車両も用意される

秋田内陸縦貫鉄道は3タイプ、計11両の気動車が使われる。みな色違いということもありバラエティに富んで見える。車両形式をここで見ておこう。

↑秋田内陸線のAN-8800形は現在9両が在籍。そのうち6両をならべてみた。写真のようにみな車体の色が異なる

 

◆AN-8800形

↑AN-8808の愛称は「秋田マタギ号」。内装などかなり凝った造りになっている。訪れたこの日も急行「もりよし号」として走る

 

1988(昭和63)年、秋田内陸縦貫鉄道の全線開業時に9両導入されたのがAN-8800形で、新潟鐵工所が開発したローカル線用の軽快気動車NDCシリーズの車両が採用された。他社の軽快気動車とほぼ同様ながら、寒冷地向けに乗降扉が引き戸式とされている。

 

導入された当時は白地にエンジ色の帯という塗装だったが、その後に全車両が異なる塗装に変更された。車内はヒマワリのイラストや、かわいい秋田犬の写真がラッピングされた内装で、楽しめるように工夫されている。またAN-8808のみは「秋田マタギ号」としてレトロな木の内装に変更され、有料急行列車の「もりよし号」に使われることが多い。

 

◆AN-8900形

↑AN-8900形はAN-8905の1両のみ残り「笑EMI」として走る。側面の窓が大きいのが特長となっている

 

秋田内陸線の全通にあわせて設けられた急行列車用に用意された車両で、5両が新潟鐵工所で造られた。そのうち4両は前面が非貫通の造りで、一時期は奥羽本線に乗り入れる臨時列車にも使われた。非貫通の車両は、片側にしか運転席がなく、2両での運行が必要だったために、非効率ということもあり、4両すべてが廃車に。AN-8905のみ両運転台だっため、その後も活かされ、2020(令和2)年に2月にリニューアルされ、愛称も「笑EMI(えみ)」に。主に急行列車用車両として使われている。

 

◆AN-2000形

↑前面に展望席があるAN-2000形。「秋田縄文号」のヘッドマークも付く。側面の窓も広く眺望に優れている

 

1両のみ2000(平成12)年に導入された非貫通タイプの車両で、当初は団体専用車として使われた。2021(令和3)年12月には「秋田縄文号」に改造され、主に急行列車の増結用に利用されている。

 

秋田内陸線の沿線には縄文遺跡、伊勢堂岱(いせどうたい)がある。遺跡をイメージした縄文土器や土偶などのイラストが室内を飾る。先頭部の展望席からは前面展望が、また側面の窓も大きく風景を楽しむのに最適な造りとなっている。

 

なお、特別仕様の車両は運行日が決められている。それぞれの運行は次のとおりだ。

 

AN-8808「秋田マタギ号」:第1・2・4・5土曜日

AN-8905「笑EMI」:第1・2・4・5日曜日

AN-2000「秋田縄文号」(普通車両と2両編成):第3土・日曜日に運行されている。

*検査などで変更されることがあり注意。
↑秋田犬の模様付きのクロスシートを使った車両も(左上)。小さなテーブルには、イラストの路線図がつけられ便利だ

 

【内陸線の旅③】旧町名を残す起点の鷹巣駅

内陸線の旅をする時、首都圏や仙台方面から便利な角館駅から乗車する人が多いかと思う。だが、本稿では路線の起点でもある鷹巣駅から旅を楽しみたい。鷹巣側のほうが路線の歴史も古く、エピソードも事欠かない。

 

起点の鷹巣駅は、JR奥羽本線の鷹ノ巣駅と接続している。JR東日本と内陸線の駅舎は別々になっているが、ホームはつながっていて、駅舎を出なくとも、内陸線の列車に乗車することができる。

 

余談ながらJR奥羽本線の鷹ノ巣駅の1番ホームにはレンガ建築の「ランプ小屋」がある。明治32年築と建物に「建物財産標」のプレートが付けられてあり、同駅が1900(明治33)年に開業していることから開業前に建ったようだ。ランプ小屋は、当時の客車の照明用ランプに、補充する灯油を保管していた。歴史ある鉄道遺産が今も残されていたのである。そんな駅舎を出て、右手に回ると、内陸線の鷹巣駅舎がある。

↑JR奥羽本線の鷹ノ巣駅の駅舎。この駅舎裏に明治期建築のランプ小屋(右上)が残る。ランプ小屋が残る駅は非常に希少だ

 

JR東日本の駅は鷹ノ巣駅、内陸線の駅は鷹巣駅となっている。なぜ駅の表記が異なるのだろうか。

 

国鉄阿仁合線と呼ばれていたころは、国鉄の同一駅だったので鷹ノ巣駅という表記だった。当時、駅があったのは鷹巣町(たかのすまち)で、1989(平成元)年4月1日の秋田内陸縦貫鉄道の全線開通に合わせて、同線の駅は町名に合わせて鷹巣駅と改称された。後の2005(平成17)年に鷹巣町は北秋田市となった。そのため鷹巣の名前は、旧鷹巣町を示す地元の大字名と駅名に残るのみになっている。

 

北秋田市は4つの町が合併したこともあり、その面積は広く、内陸線の路線も、鷹巣駅から18駅先の阿仁マタギ駅まで北秋田市に含まれる。その南側は仙北市(せんぼくし)となる。29の駅が北秋田市と仙北市の2つの市内に、すべてあるというのもおもしろい。

↑ロッジ風の駅舎の秋田内陸縦貫鉄道の鷹巣駅。この日、駅に入線してきた車両はAN-8801だった(右上)

 

JR東日本の秋田方面行き1番線ホームの西側に内陸線のホームがある。ホームに停車していたのはAN-8801黄色の車両だった。「秋田内陸ワンデーパス全線タイプ(有料急行も乗車可能)」2500円を購入したかったのだが、朝6時59分発の始発列車に乗車しようとしたこともあり、鷹巣駅の窓口は閉まっていた(窓口は7時20分から営業開始)。なお、車内ではこのワンデーパスは発売していない。

 

週末、しかも朝一番の列車ということで乗客も6人ほどと少なめだった。ディーゼル音を響かせつつ、鷹巣駅を発車する。しばらくは奥羽本線と平行して走り、間もなく左カーブを描く。広々した田園風景に包まれるように走り、西鷹巣駅を過ぎたら大きな川を渡る。こちらは米代川(よねしろがわ)だ。

 

【内陸線の旅④】早速、名物「田んぼアート」が乗客を歓迎!

川を越えて間もなく、テープの車内アナウンスではなく、運転士によるアナウンスがある。何かと思って耳を傾けると、次の縄文小ヶ田駅(じょうもんおがたえき)で、「田んぼアート」が楽しめることを伝えるものだった。

 

田んぼアートとは、田んぼをキャンバス代わりに色の異なる稲を植え、巨大な絵や文字を作るアートで、全国で行われているが、特に北東北各県で盛んだ。

 

多くが道の駅や観光施設などに隣接した田んぼで披露される。内陸線では鉄道車両からこの田んぼアートが楽しめる。しかも5か所で。こうした試みは珍しい。内陸線では沿線の有志が協力し、列車の乗車率を高めようと田んぼアートで協力しているわけである。

↑この夏の内陸線の4か所の田んぼアートを紹介したい。鷹巣駅から2つめの縄文小ヶ田駅の田んぼアートは左上のもの

 

縄文小ヶ田駅から見えたのは「秋田犬といせどうくんと笑う岩偶」と名付けられた作品だ。内陸線沿線は秋田犬の故郷らしく、秋田犬が登場するアートが多かった。

 

ちなみにいせどうくんとは、縄文小ヶ田駅近くの伊勢堂岱遺跡から出た土偶をモチーフにしたキャラクター。岩偶(がんぐう)は縄文時代後期の石製の人形のことだ。田に描かれたどの作品も、植えられた色違いの稲が作り出したとは思えないほど、見事なものだった。内陸線の田んぼアートは6月上旬から9月上旬まで楽しむことができる。

 

【内陸線の旅⑤】路線そばに縄文遺跡さらに防風雪林にも注目!

縄文小ヶ田駅付近から少しずつ上り始めるが、このあたりは米代川の河岸段丘の地形にあたる。駅を過ぎるとすぐに木々が生い茂った森林の中へ列車は入っていく。

 

このあたり、古い歴史を持つエリアだ。路線の進行左手すぐのところに田んぼアートでもテーマになった伊勢堂岱遺跡がある。内陸線(当時は阿仁合線)の新設工事でも縄文時代の土器などが出土したそうだ。ここは縄文時代の葬祭場だったと推測される遺跡で、国内でも珍しいそうだ。

 

次の大野台駅まで秋田杉やブナの林が続く。こちらも古い歴史を持つ森林だ。この付近は秋田藩の御留山(おとめやま)と呼ばれる場所で、秋田杉を計画生産していた地域だった。藩の重要な財源でもあった秋田杉は大事に育てられ、御留山ではみだりに伐採できないとされた。そうした藩政時代の歴史が残る森林なのである。

 

大野台駅もホームが森林に面している。背の高い秋田杉を中心にした森林で、前述したエリアと同じように古い時代に防風雪林として植えられたもののようだ。

↑大野台駅の周辺は写真のように木々が生い茂る一帯が続く。この付近には秋田藩の藩政時代に植えられた秋田杉やブナ林が残る

 

そんな樹林帯が大野台駅から合川駅(あいかわえき)付近まで続く。合川駅から先、上杉駅、米内沢駅と列車の進行方向左手に森林、路線に平行して集落とケヤキ並木、阿仁街道(現在の県道3号線)が続く。そして右手に田園が続く。

 

調べると、この地域の北側に大野台台地があり、台地の南縁に総延長4〜5kmにわたる防風雪林が設けられていた。街道筋に連なる集落は「並木集落保存地区」、田園は「農地保存地区」として保存地区とすることが市により検討されていることも分かった。要は古くに植えられた防風雪林により、長い間、集落と街道、農地が守られてきた一帯だったのである。

 

並木集落保存地区の南端にあたる米内沢駅は、阿仁合線が誕生した最初の終端駅で、この駅から路線が徐々に延ばされていった。

↑旧阿仁合線は最初に鷹ノ巣駅から米内沢駅まで線路が敷かれた。今は使われていない屋根付きホームがぽつんと残る(右上)

 

【内陸線の旅⑥】鉄道&歴史好きならば阿仁合駅での下車は必須

米内沢駅を過ぎると、左右の山が急にせまり始める。狭隘な土地を阿仁川(あにがわ)が蛇行して流れ、狭い土地に田が広がる。そんな一帯を、路線は川に沿って走り続ける。米内沢駅までは駅と駅の間があまり離れていなかったが、以降の桂瀬駅、阿仁前田温泉駅は駅間が5km以上あり、それだけ沿線に民家が少なくなったことがわかる。前田南駅、小渕駅とさらに阿仁川が迫って走るようになり、ややスピードを落としつつ列車は上り坂を進んでいく。

 

そして内陸線の中心駅でもある阿仁合駅へ到着する。鷹巣発の列車は阿仁合止まりが多い。急行列車や夕方以降の列車を除き、この駅で10分程度の〝小休止〟を取る列車や、燃料の給油のため、車両交換になる列車も目立つ。逆に角館発の上り列車は、この〝小休止〟の時間が短いので注意が必要だ。

 

この阿仁合駅には前述した内陸線資料館や車庫がある。さらに「鉄印」もこの駅で扱っている。売店や休憩スペース、レストランなどもあるので、小休止にぴったりの駅である。ちなみに、筆者は途中の大野台駅で下車、次の列車に乗車して9時10分、阿仁合駅に到着した。9時15分発の急行列車に乗り継げたのだが、同駅でぶらぶらしたいこともあり、その後の列車を待つことにした。

↑三角屋根の阿仁合駅駅舎。1階にはトレインビューカウンターや洋食レストラン、お土産売り場などが設けられ、小休止にも最適

 

とは言っても次は11時30分発と、2時間以上の時間をつぶすことが必要となる。駅周辺をぶらつくものの、時間が余ってしまう。そこで駅舎内2階にある「北秋田森吉山ウェルカムステーション」へ。そこには駅ホームと車庫が見渡せる休憩スペースがあった。

 

この休憩スペースからは車庫で入れ替えを行う車両が一望できて飽きない。

↑阿仁合駅の2階の休憩室から望む内陸線の車庫。次の列車の準備のため、間断なく車両の出入りが行われていた

 

歴史好きには、町歩きもお勧めだ。阿仁合の駅周辺は市が「鉱山街保存地区」の指定を検討しているエリア。駅から徒歩5分のところには1879(明治12)年築の煉瓦造り平屋建ての「阿仁異人館・伝承館」がある。阿仁鉱山の近代化のために来山した鉱山技師メツゲルの居宅として建築された建物で、県と国の重要文化財に指定されている。筆者も本稿を書くために調べていて、この情報に触れたのだが、次回は訪れてみたいと思う。開館時間は9時〜17時までで入館料400円、毎週月曜日休館(祝祭日の場合は翌日休)となる。

 

阿仁合駅に降りてたっぷりの休憩時間を過ごし、11時30分発の列車に乗車する。とはいっても、次は2つ先の萱草駅(かやくさえき)で降りる予定。路線に平行して走るバス便もほぼなく移動に苦労する。

 

【内陸線の旅⑦】萱草駅近くの名物鉄橋の撮影はスリル満点!

阿仁合駅を発車し、荒瀬駅、萱草駅とホーム一つの小さな駅が続く。萱草駅で下車すると、徒歩12分ほどのところに景勝地、大又川橋梁がある。駅に掲げられた貼り紙やポスターには日本語以外の橋のガイドもあり、訪日外国人も、多く訪れていたことがわかる。猛暑となったこの日はさすがに降りる人がいなかった。

 

内陸線を代表する風景として阿仁川に架かる大又川橋梁の写真がPRに使われることが多い。多くが平行して架かる国道105号の萱草大橋の歩道から撮影したものだ。筆者も川の流れが見える定番の位置を目指したのだが、国道に平行して架かる電線が垂れ下ってきていて断念。やや駅側の位置で列車を待つ。

↑大又川橋梁156mを渡るAN-8808「秋田またぎ号」。列車も同橋梁を渡る時はスピードを落としてゆっくりと渡る

 

大又川橋梁と同じように国道の萱草大橋は川底からかなり高い位置に架かる。手すりなどもしっかりしているものの、見下ろすとスリル満点。極度の高所恐怖症の筆者は、1本の列車を撮影しただけで腰が引けてしまい、早々と引き上げるのだった。ちなみに国道の萱草大橋の下に旧道の橋が架かるのだが、そちらへ向かう道は閉鎖となっていた。下から見上げるアングルならば、高所恐怖症を感じることなく、撮影できただろうにと思うと残念である。

 

【内陸線の旅⑧】笑内の読みは「おかしない」。その語源は?

萱草駅でまた2時間ほど次の列車を待つ。内陸線は朝夕がおよそ1時間に1本の列車本数だが、日中は次の列車が1時間半から2時間、空いてしまう時間帯が多く途中下車がつらい。もし途中下車する場合には、綿密なスケジュールをたててからの行動をおすすめしたい。さて萱草駅の次は笑内駅だ。笑内と書いて、「おかしない」と読む。

 

アイヌ語の「オ・カシ・ナイ」が語源とされ、意味は「川下に小屋のある川」という意味だそうだ。この駅の近くに流れる阿仁川にちなんだ言葉だったわけだ。オ・カシ・ナイにどうして「笑」と「内」をあてたのか、昔の人が当て字を考えたのだろうがなかなかのセンスと思う。

↑笑内駅(左上)のすぐ目の前には「ひまわり迷路」が設けられている。「どこでもドア」風にピンクの出入り口があった

 

ちなみに笑内駅には8月中旬までの限定で「ひまわり迷路」が設けられている。今年、楽しめるのはあとわずかな期間だが、お好きな方はチャレンジしてみてはいかがだろう。

 

【内陸線の旅⑨】比立内駅の近くには転車台の跡があった

筆者は行程の最後の下車駅に比立内駅を選んだ。この駅は阿仁合線だった当時、終点だった駅で何か残っているのでは、と思ったからである。比立内駅ができたのは1963(昭和38)年10月15日のこと。当時はSLで列車牽引が行われていた。阿仁合線ではC11形蒸気機関車が走っていて、タンク機関車のため帰りはバックのままの運転も可能だったが、距離が鷹ノ巣駅まで46kmあったため、この駅に転車台が設けられた。

↑比立内駅の近くに設けられた転車台の跡地。左手奥の道の先に比立内駅がある。右下は比立内駅の駅舎

 

その転車台の跡が比立内駅の近くに残されていた。転車台そのものは残って無いが、跡地は空き地となり全面アスファルト舗装されていた。何も使われていない、ただの空き地だが、SLの運転のためにこうして敷地を用意して機械を導入して、と大変だったことが分かる。

 

阿仁合線のSLは1974(昭和49)年3月に運転が終了している。わずか10年しか使われずに転車台は不用になったわけで、何とももったいない話である。転車台跡を見た後は、多少の時間があったので、近くの「道の駅あに・マタギの里」で小休止、上り列車を撮影して駅へ戻る。

 

道の駅の名前になっているように、北秋田のこの付近は「マタギの里」である。マタギとは、伝統的な方法を使い集団で狩猟を行う人たちを指す。現在、猟を行う人たちは減っているものの、この北秋田の阿仁地方では、マタギ文化が今も伝承され、また地域おこしとして活かす取り組みが行われている。

↑「道の駅あに・マタギの里」近く、ヒメジョオンが咲く畑を横に見ながら上り列車が走る

 

【内陸線の旅⑩】トンネルを抜けると快適にスピードアップ

比立内駅から先の旅を続けよう。乗車したのは急行「もりよし3号」で車両は「秋田マタギ号」だった。急行列車にはアテンダントが同乗していて、沿線の案内が行われる。比立内駅から先は新しく造られた路線区間ということもあり、直線路が続き、また道路との立体交差か所も多い。直線区間にはロングレールが敷かれていて、列車も快適に走る。とはいえ、奥阿仁駅、阿仁マタギ駅と走っていくにつれ、上り坂となり列車のスピードも落ちる。

 

阿仁マタギ駅を発車して阿仁川を渡るとすぐに、同路線で最長のトンネルに入る。十二段トンネルと名付けられた5697mのトンネルで、途中までは勾配区間で、そこまで列車は重厚なエンジン音を響かせながら走っていく。

↑十二段トンネルを抜け、次のトンネルへ。この区間は直線区間でロングレールが使われていることもあり快適に走る

 

トンネル内のピークを越えると列車はスピードを上げて走る。直線路で、レールも継ぎ目が無いためにスムーズだ。トンネル内で、仙北市へ入る。仙北市内最初の駅は戸沢駅だが、急行列車は同駅を通過、次に上桧木内駅(かみひのきないえき)に停車する。このあたりの駅はホーム一つの小さな駅が多い。

 

戸沢駅から先は、渓流の桧木内川が路線と平行して流れるが、新しく造られた路線ということもあり、蛇行する川には複数の鉄橋が架けられ、スピードを落とさずに走っていく。車窓から渓流釣りを楽しむ人たちを眺めつつ、松葉駅(まつばえき)に到着した。

↑角館駅へ向かう急行列車。この先で、秋田新幹線(田沢湖線)の線路に合流する。左上は角館線の終点駅だった松葉駅

 

松葉駅は角館線の終点として1970(昭和45)年11月1日に誕生した。駅周辺には田園風景が広がり、ホーム一面で、短い側線があるぐらいの駅だ。田沢湖西岸まで最短で10km弱とそう遠くないが、今は公共交通機関がない。

 

【内陸線の旅⑪】秋田新幹線の線路が近づき並走、終点の角館へ

松葉駅付近でも桧木内川が流れるが、徐々に平野部が広がりを見せていく。

 

羽後長戸呂駅(うごながとろえき)〜八津駅間はこの路線の最後のトンネルと橋が連続する区間だが、ここを越えると田園風景が広がる区間に入る、民家が多く建ち並ぶ西明寺駅に停車したのち、羽後太田駅を通り過ぎれば、間もなく左手から1本の線路が近づいてくる。秋田新幹線(田沢湖線)の線路で、しばらく並走の後、終点の角館駅へ到着する。

↑角館駅を発車した普通列車の上り「秋田マタギ号」。この先、しばらく秋田新幹線の線路と並走して走る

 

仙北市角館は小京都とも呼ばれる町並みが残るところ。内陸線の駅もレトロな趣で造られている。JR東日本の駅舎とは別棟になるが、目の前に隣接しているので、乗換えに支障は無い。

 

時間に余裕がある時には、駅から1.5kmほどの武家屋敷通りを訪ねてみたい。徒歩で約20分の道のりながら、現在は、角館オンデマンド交通「よぶのる角館」(8時30分〜17時30分まで利用可能/運賃は300円)と呼ばれる交通サービスがある。

 

内陸線は列車本数が少ないだけに、どこで時間を過ごすか、事前に決めて乗ることをお勧めしたい。鉄道好きならば阿仁合駅へ。歴史好きの方は縄文遺跡の伊勢堂岱遺跡、もしくは角館の武家屋敷通りを訪れてみてはいかが。のんびり旅にぴったりの内陸線の旅となるだろう。

↑秋田内陸縦貫鉄道の角館駅。秋田内陸線の列車は専用の行きどまりホームに止まる(右下)。JR角館駅は、写真の右側に設けられている

EVらしい刺激も味わえる初の日本向けボルボEV「C40リチャージ」

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」はBMWの新型2シリーズ・クーペとボルボのピュアEVクーペとなるC40リチャージを取り上げる。前者はBMWの伝統を守るコンパクト、後者はSUVとのクロスオーバーという違いはあるが、いずれも輸入車のクーペらしさを感じられるモデルだ。

※こちらは「GetNavi」 2022年8月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

ピュアEVでも走りはスポーティなクーペ級!

BEV

ボルボ

C40リチャージ

SPEC【ツインモーター】●全長×全幅×全高:4440×1875×1595mm●車両重量:2160kg●パワーユニット:電気モーター(交流同期電動機)×2●バッテリー総電力量:78kWh●最高出力:408PS/4350〜13900rpm●最大トルク:67.3kg-m/0〜4350rpm●一充電走行距離(WLTCモード):485km

 

EVらしい刺激も味わえる初の日本向けボルボEV

C40リチャージは、日本向けのボルボでは初となるピュアEV。ベースはコンパクトSUVのXC40だが、その外観はグラスエリアをコンパクトにまとめ、クーペとSUVのクロスオーバーモデルに仕立てられている。とはいえ室内や荷室回りの空間はSUVとしても十分に通用する広さを確保。車内を明るく演出するサンルーフが装備されることもあって、大人が後席に座る場合でも狭いと感じるようなことはない。

 

また、最新のボルボらしく室内はレザーフリーとして再生素材を積極採用するなど、環境にも配慮した作り。プレミアムなモデルらしい高級感を演出しつつ、高い社会性も兼ね備えている。

 

ピュアEVのパワートレインは、前輪を駆動するシングルモーター仕様と、後輪にもモーターを配したツインモーターの2種。今回の試乗車は後者だったが、その走りはスポーティなクーペ風の見た目に違わない刺激に満ちていた。最新のEVでは、エンジン車から乗り換えた際の違和感を排除する狙いからアクセル操作に対する反応を穏やかにしたものもあるが、C40リチャージは電気モーターの力強さをダイレクトに表現。EVが退屈なクルマではない、ということを実感するにはピッタリな1台に仕上げられている。

 

[Point 1]クーペボディはEV専用

クロスオーバーモデルとなるC40は、グラスエリアをタイトに仕上げてクーペらしさを演出。搭載するパワーユニットはEVのみ。7月にはXC40(コンパクトSUV)のピュアEV版もオンライン購入サイトがオープン。

 

[Point 2]室内はサステナブルな作り

Androidベースのインフォテインメントを標準搭載。サンルーフを装備して、開放感ある室内を実現した。レザーフリーで、再生素材のカーペットを採用するなど、環境にも配慮。

 

[Point 3]使い勝手はSUV級

荷室容量は通常時でも413L。最大で1205Lに拡大するなど、使い勝手はSUVとして満足できる水準。またフロントフード下にも収納スペースが備わる。

 

[Point 4]充電プラグは2か所

急速充電(写真)、普通充電プラグはボディ左側の2か所。パワートレインは前輪を駆動するシングルモーターと後輪にもモーターが備わるツインの2種類を用意。

 

 [ラインナップ](グレード:エンジン/駆動方式/税込価格)

プラス・シングルモーター:電気モーター/2WD/599万円

アルティメート・ツインモーター:電気モーター×2/4WD/699万円

 

文/小野泰治 撮影/郡 大二郎

 

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売れたモノSELECTION 2022年上半期 【レジャー・乗り物】「運転シミュレータールーム」

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「運転シミュレータールーム」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

鉄道好きなら感涙必至。運転士目線で出発進行~!

【宿泊施設】

2021年11月誕生

浅草東武ホテル
東武鉄道運転シミュレータールーム

1泊1室4万円(2名利用時)

東武鉄道で実際に使用されていた運転シミュレーターを配した客室が、昨年11月から本格稼働。リアルなCG風景や操作に応じて動く計器類、実物を再現したハンドルなど、本物さながらの運転体験を楽しめる空間として鉄道ファンを魅了する。
(問) 03-3843-0111 (住) 東京都台東区浅草1-1-15

 

↑運転シミュレーターのほか、駅名標やヘッドマークに彩られている。シミュレーターは本格仕様のため、小学生以上がオススメ

 

【ヒットの裏付け】 宿泊プラン発売当初は予約開始1分で即完売!

発売開始当初は1週間ごとの予約が即完売するほどの人気ぶり。現在も順調な予約状況が続いている。同室の宿泊プランを利用するとオリジナルTシャツをもらえるサービスも好評。

パワフルかつ爽快な伝統の操縦性は健在! BMW「2シリーズ・クーペ」

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」はBMWの新型2シリーズ・クーペとボルボのピュアEVクーペとなるC40リチャージを取り上げる。前者はBMWの伝統を守るコンパクト、後者はSUVとのクロスオーバーという違いはあるが、いずれも輸入車のクーペらしさを感じられるモデルだ。

※こちらは「GetNavi」 2022年8月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

4WDでも後輪駆動のBMWらしさを満喫!

クーペ

BMW

2シリーズ・クーペ

SPEC【M240i xDriveクーペ】●全長×全幅×全高:4560×1825×1405mm●車両重量:1710kg●総排気量:2997cc●パワーユニット:直列6気筒DOHC+ターボ●最高出力:387PS/5800rpm●最大トルク:51.0kg-m/1800〜5000rpm●WLTCモード燃費:10.9km/L

 

パワフルかつ爽快な伝統の操縦性は健在!

他の2シリーズとは異なり、引き続き伝統の後輪駆動レイアウトをベースとする2ドアクーペが登場。先代と比較すればボディは特に前後方向が拡大されているが、それでも現行BMWのなかでは最もコンパクトな後輪駆動モデルというポジションを保持している。

 

日本向けのパワーユニットは、4気筒2Lガソリンターボと3L直列6気筒ガソリンターボの2タイプ。トランスミッションはいずれも8速ATとなるが、駆動方式は2Lが後輪駆動なのに対し、3Lは4WDを組み合わせているのが先代モデルとの大きな違いだ。

 

今回はその最上級グレードとなるM240iに試乗したが、4WDとはいえ後輪駆動的なハンドリングを披露する点はいかにもBMW。現状先代モデルに用意されたMTの設定はないが、単にパワフルなだけではなく、吹け上がりに爽快さを感じられる6気筒ともども、伝統的なBMWらしい操縦性を味わうには、まさにうってつけの1台に仕上げられている。

 

[Point 1]伝統的なクーペのスタイルを継承

他の2シリーズはFF駆動を基本とした骨格を採用するが、この2ドアクーペのみエンジンを縦置きにするFRベースの骨格を採用。結果としてスタイリングはよりクーペらしさが強調されることに。

 

[Point 2]室内は兄貴ぶんの4シリーズ譲り

FRベースの基本骨格を採用するため、室内の作りも他の2シリーズとは別物。兄貴ぶんにあたる4シリーズに近い仕立てとなる。乗車定員は後席が2人掛けとなる4名だ。

 

[Point 3]クーペとしての実用性は上々

荷室容量はグレードを問わず通常時で390Lを確保。ドイツメーカーのクーペらしく、コンパクト級といえども実用性はハイレベルだ。

 

[Point 4]パワーユニットは2タイプ

日本仕様のエンジンは、これもBMWらしい直列6気筒の3Lターボ(写真)と4気筒2Lターボの2本立て。ミッションは、いずれも8速ATを組み合わせている。

 

[ラインナップ](グレード:エンジン/駆動方式/ミッション/税込価格)

220iクーペ・スタンダード: 2.0L+ターボ/2WD/8速AT/508万円

220iクーペ・スポーツ:2.0L+ターボ/2WD/8速AT/550万円

M240i xDriveクーペ:3.0L+ターボ/4WD/8速AT/758万円

 

文/小野泰治 撮影/郡 大二郎

 

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売れたモノSELECTION 2022年上半期 【レジャー・乗り物】「小倉工場鉄道ランド」

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「小倉工場鉄道ランド」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

歴史ある車両整備工場に鉄道テーマパークが開業

【テーマパーク】

2022年4月オープン

JR九州
小倉工場鉄道ランド

博多駅発着特別ツアー9000円(7~9月設定分)

1世紀以上の歴史がある「小倉総合車両センター」に開業したテーマパーク。観光列車「ななつ星」をはじめ数多くの車体デザインを手掛ける水戸岡鋭治氏の作品を集めたミュージアムや限定アイテムを扱うショップなどが注目を集める。

(問) JR九州トラベルデスク092-482-1489

 

↑かつて体育館だった約2000・の館内にはミニトレインや茶室、新幹線の座席などを展示。現役の社員食堂「つばめ食堂」も利用できる

 

 

【ヒットの裏付け】 4~6月のツアーはすべて満員御礼!

HPより申し込んだツアー参加者だけが入館できる。4~6月には計8回のツアーがあったが、いずれも予約開始後まもなく完売。7~9月は計6回のツアーが企画されている。

売れたモノSELECTION 2022年上半期 【レジャー・乗り物】「MATE. BIKE」

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「MATE. BIKE」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

エコでおしゃれで快適な新世代のeバイクに熱視線

デンマーク発のe-BIKEブランド「MATE. BIKE」のシグネチャーモデル。電動アシストやフルサスペンションによる快適性、折りたたみ機能などのディテールに加えて、ヨーロッパブランドらしいデザイン性の高さも魅力だ。

 

【e-BIKE】

2021年3月日本発売

パイオニア

NP1

6万5780円~

地図のない音声ナビと前後2カメラ式ドライブレコーダーの一体モデル。クラウド保存で“もしも”の時の録り逃しもない。SIMカード搭載で通信機能が使えるほか、オプションでWi-Fiに対応。動画視聴なども楽しめる。

 

↑リチウムイオンバッテリーをダウンチューブに埋め込むことでシンプルなデザインを実現。最大80~120kmの電動アシスト走行が可能だ

 

↑幅約10cmの20インチファットタイヤを採用。悪路も乗りこなすオールテレインタイヤは快適な乗り心地で、耐パンク性にも優れている

 

【ヒットの裏付け】 旅先にも持ち出せるクールな移動手段

従来の電動自転車とは一線を画すクールなデザインのe-BIKEが都市部を中心に急増中。限定カラーやコラボモデルも注目を集める。折りたたみ可能なタイプは携行性の良さも魅力。

 

売れたモノSELECTION 2022年上半期 【レジャー・乗り物】「パイオニアNP1」

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「パイオニアNP1」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

音声カーナビと前後2カメラ式ドラレコが一体に

【オールインワン車載器】

2022年3月発売

パイオニア
NP1

6万5780円~

地図のない音声ナビと前後2カメラ式ドライブレコーダーの一体モデル。クラウド保存で“もしも”の時の録り逃しもない。SIMカード搭載で通信機能が使えるほか、オプションでWi-Fiに対応。動画視聴なども楽しめる。

 

↑対話型音声ナビを搭載。行き先の設定や施設検索などは話かけるだけ。曖昧な表現でもスムーズに目的地を設定してくれる

 

↑音声操作のみで目的地検索から案内、ルートの確認が可能。地図が必要なときは無料のスマホアプリ「My NP1」で表示できる

 

【ヒットの裏付け】 通信型ドラレコとして高い評価を集める

装着車種を選ばないため、純正一体型ナビや輸入車のユーザーを中心に支持されている。売り場を2倍にしたり、ナビとドラレコの両売り場で販売したりする店舗もあるほど人気だ。

 

独自開発のハイブリットシステムが驚異的! ルノーの新型SUV「アルカナ」を分析

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、ルノーの新型SUVを取り上げる。欧州では珍しいフルハイブリッドカー完成度の高さにオドロキ!?

※こちらは「GetNavi」 2022年8月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

 

【レビュアーPROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感し、クルマを評論する際に重要視するように。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわる。

 

【今月のGODカー】ルノー/アルカナ

SPEC【R.S.ライン E-TECH HYBRID】●全長×全幅×全高:4570×1820×1580mm●車両重量:1470kg●パワーユニット:1.6L直列4気筒エンジン+2モーター●エンジン最高出力:94PS(69kW)/5600rpm●エンジン最大トルク:20.9kg-m(148Nm)/3600rpm●WLTCモード燃費:22.8km/L

429万円(税込)

 

グイグイ力強い走りと低燃費を兼備した“神秘的”な1台

安ド「殿! 今回はルノーの『アルカナ』というクルマです!」

 

永福「不思議な名前だな」

 

安ド「ホントに“あるのかな”って感じですね!」

 

永福「ラテン語で“神秘”という意味だそうだ」

 

安ド「どうりで神秘的なデザインだと思いました! クーペ風のSUVですが、これってカッコ良いんでしょうか?」

 

永福「欧州では、このテのデザインがいま人気らしい」

 

安ド「そうなんですね! しかもアルカナは、ヨーロッパ初のフルハイブリッド『Eテックハイブリッド』を採用しているんですね!」

 

永福「てっきり日産eパワーのルノー版かと思ったら、ルノーの独自開発と聞いて驚いた」

 

安ド「そ、そうなんですか!?」

 

永福「ルノーは日産eパワーの採用も検討してテストしたが、欧州で当たり前の130km/hでの高速巡行時ではパワーも燃費も物足りないということで、あえて独自開発したそうだ」

 

安ド「そうなんですか! 確かにフルハイブリッドなのに、エンジンでグイグイ走る感じでした!」

 

永福「エンジン側には4段のギアがあり、アクセルを踏み込むと自動的にシフトダウンするからな。しかしグイグイ走る感じは、そこに加わるモーターのトルクだろう」

 

安ド「そうなんですか? これはあまり燃費を気にしないセッティングなんでしょうか」

 

永福「とんでもない。WLTC燃費は日産のキックスeパワーをやや上回っている。実際、テキトーに走って19km/Lくらいはいくぞ」

 

安ド「日本製ハイブリッドより上なんてビックリですね! トランスミッションが複雑な構造らしいですが、そのおかげですか?」

 

永福「たぶんそれもあるな。ドッグクラッチを使っているから、滑りロスはゼロ。ドッグクラッチは通常レーシングカーに使うもので、ギアをつなぐ際には『ガツン!』というショックがあるが、回転を自動的に完全に同調させているので、実にスムーズだ」

 

安ド「これまた神秘的ですね!」

 

永福「説明を聞かなければ、なにをどうしているかサッパリわからんが、とにかく驚くほど良く走る」

 

安ド「それにしても、なぜルノーはいまになって、ハイブリッドを作ったんでしょう」

 

永福「ルノーはディーゼルエンジンの新規開発をやめたので、当面はその代わりだそうだ。たしかにアルカナはディーゼルターボに引けを取らない加速だし、燃費も驚くほど良い」

 

安ド「でもヨーロッパは、近いうち全部EVになるんですよね?」

 

永福「その予定だが、バッテリーの供給不足などで、それが予定通りに進まなかった場合の保険の意味合いもあるだろう」

 

安ド「ますます神秘的ですね!」

 

永福「EV化は政治的な決定。つまりこのクルマは、宮廷政治の副産物だな」

 

安ド「良い副産物ですね!」

 

【GOD PARTS 1】カーボンパネル

スポーティさと質感の高さが同居

スポーティなイメージの強いカーボンパネルがインパネ横一面に採用されていて、走りの雰囲気を高めてくれます。さらに同パネルの上段には赤いラインが、下段には光るラインが引かれていて、質感の高さも強調されています。

 

【GOD PARTS 2】トランスミッション

マニアックな技術は世界最高峰のF1譲り

ルノー独自のフルハイブリッド車には専用システムが必要ということで、F1でも使用される軽量&コンパクトな「ドッグクラッチ」が採用されています。これにより唯一無二のトランスミッションに仕上げられました。

 

【GOD PARTS 3】フロントブレード

フロントのイメージはフォーミュラカー!

40年以上もの長きにわたってF1に参戦してきたメーカーだけに(現在は「アルピーヌ」ブランドで参戦中)、アルカナにもF1のイメージが受け継がれています。下部グリル内のブレード板はまるでF1のフロントウイングです。

 

【GOD PARTS 4】ステアリング

スポーツモデルの証を小さくアピール

日本車だと右側が多いですが、運転支援装置のスイッチ類はステアリング左側にゴソッとまとめられています。下部にある黄色い2つの菱形は、ルノーのスポーティモデルの証で「R.S.(ルノー・スポール)」のロゴマークです。

 

【GOD PARTS 5】シートベルト

気持ちを高めてくれる赤いライン入り

日本仕様はまだワングレードしか設定のないアルカナですが、内装の各所に赤いラインが入っていてスポーティムードは抜群です。シートはもちろん、シートベルトにまで赤いラインが入っているのは珍しく、カッコ良いですね。

 

【GOD PARTS 6】インパネ

運転席を中心に考えられたスポーティな作り

コンパクトカーを主力とするルノーですが、クルマの味付けはスポーティなことが多いです。アルカナのインパネも、全体を引いて見てみるとちょっとだけ右傾化していて、しっかりとドライバー中心の設計がなされています。

 

【GOD PARTS 7】バックドア

開口部が広くて大きな荷物も積みやすい

荷室はトランクではなく、室内スペースと繋がっているハッチバック構造ですが、ルーフ部分が長いため、バックドアもかなり長くなっています。開口部が広いので、大きな荷物を積み込みやすいという利点があります。

 

【GOD PARTS 8】ルーフライン

トレンドを意識しつつ独自性もあり

弧を描くようになだらかなルーフラインはいまやSUVのトレンドですが、アルカナは後端がストンと下へ落ちるデザインになっていてオリジナリティに溢れています。左右に張り出したフェンダーはSUVらしい力強さを感じさせます。

 

【GOD PARTS 9】デジタルメーター

美しくも神秘的なビジュアル

ドライバーの目の前に備え付けられた10.2インチのメーターは、近年のトレンド通りフルデジタル式になっています。走行中の各種情報とともに、中央には地平線に向かって走る自車の美しいグラフィックが表示されています。

 

【これぞ感動の細部だ!】ハイブリッドシステム

まさかの独自設計で優れた燃費と走りを両立!

2030年までに販売車の9割を電動化すると発表済みのルノーによるフルハイブリッドシステム「E-TECH HYBRID」です。日産を傘下に収める同社ですから「e-POWER」を使うのかと思いきや、独自でシステムを開発しました。1.6Lの自然吸気エンジンに2つのモーターが組み合わされ、巧みな動力の使い分けで力強い走りと低燃費を共存させています。

 

撮影/我妻慶一

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

甲子園球場100周年を記念して世代を超えた野球マンガのラッピング列車が登場! あなたはどのくらいわかる?

2024年12月に100周年を迎える阪神甲子園球場。それを記念して、運営する阪神電気鉄道が「100周年記念事業」を開始した。「KOSHIEN CLASSIC ~感謝を、伝統を、次の100年へ~」をコンセプトにキービジュアルとなったのが、甲子園にゆかりのある野球マンガ9作品だ。

 

すでに野球ファンやマンガファン、そして鉄道ファンに話題となっているのが「阪神甲子園球場100周年記念ラッピングトレイン」。各作品のキャラクターを描いた列車が、8月1日から運行を開始した。

 

 

100周年を幅広い世代のファンと共有していこうと、各年代で愛された作品の主人公たちを通じて、思い出の中にある甲子園を呼び起こしてもらいたいという思いから、「記憶のどこかに、その聖地はある。」というフレーズも書かれている。

 

気になる作品は、「ドカベン」(水島新司)、「巨人の星」(梶原一騎、川崎のぼる)、「タッチ」「H2」「MIX」(あだち充)、「ダイヤのA」「ダイヤのA actII」(寺嶋裕二)、「プレイボール」(ちばあきお)、「ROOKIES」(森田まさのり)の全9作品。車内も、マンガコラボ企画をポスターにした特別なギャラリー仕様となっている。

 

 

1編成(6両・8000系車両)だけの特別仕様で、ダイヤは非公開。運行区間は阪神本線(大阪梅田~元町)、神戸高速線(元町~西代)と相互直通運転により山陽電鉄線(西代~山陽姫路)でも運行する予定で、期間は100周年となる2024年12月頃まで。

 

目にするだけでもラッキーだが、いざ乗車するとなるとどの車両に乗るか迷ってしまいそうだ。あなたならどの車両を選ぶ?

売れたモノSELECTION 2022年上半期 【レジャー・乗り物】「アウトランダーPHEV」

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「アウトランダーPHEV」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

一充電で87km走行でき日常はEVとしてまかなえる

【PHEV】

2021年12月発売

三菱
アウトランダーPHEV

462万1100円~532万700円

日本向けはPHEVのみで、新型では3列シート化を実現した。一充電あたり最大87kmのEV走行が可能。ツインモーター4WDとラリー譲りの4輪制御で高い悪路走破性を誇る。給電機能は家電に利用でき、アウトドアでも使用可能。

 

↑キャンプや災害時も最大1500Wまでの家電などが使えるほか、デバイスの充電も可能だ。コンセントは計2か所

 

↑走行モード切り替えダイヤルを設置。未舗装路や濡れた路面向きの「GRAVEL」など7つの走行モードが選べる

 

【ヒットの裏付け】 2021年度のPHEV販売台数で首位に輝く

21年10月の発表以降、8か月で目標の約2倍となる約1.6万台を受注。補助金などの利点もあり、エクリプスクロスPHEVと併せて2021年度のPHEV随一のヒット作になった。

 

売れたモノSELECTION 2022年上半期 【レジャー・乗り物】電動キックボード

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「WOW RIDE」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

アーバンライフにもはや欠かせないマイクロモビリティ

【電動キックスクーター】

2022年5月発売

セグウェイジャパン
シェアリング事業用電動キックスクーター Max Plus 公道仕様版

23万1000円(販売は法人のみ)

電動キックボードは都心の新しい移動手段として定着しつつある。ここ7年で全世界累計1000万台を出荷しているセグウェイ社も、時速20km未満の原動機付自転車として取り扱い可能な本モデルを日本市場に投入した。

 

↑デュアルブレーキを搭載。ハンドルバー先端に配置された方向指示器はクラシカルなデザインと高い視認性を両立する

 

↑「Max Plus」はIoT対応。ユーザーアプリ、管理アプリ、管理ダッシュボードといったソフトウェアも一緒に利用できる

 

【ヒットの裏付け】 さらなるポート拡大で“どこでも駅前”を実現

電動キックボードシェアリングサービスのLuupが好調。ポート数は2021年4月の約300か所から1年で約1300か所に増えている。エリアも東京、大阪、京都、横浜、仙台と拡大中。

売れたモノSELECTION 2022年上半期 【レジャー・乗り物】「プライベートサウナ」

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「プライベートサウナ」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

密を避けて“ととのう”。サウナ愛好家の隠れ家へ

【サウナ専門店】

2022年4月オープン

ONEPERSON 梅田

60分3600円~

フィンランドから輸入したサウナストーブ&ストーンを備える完全個室型サウナ。好きなタイミングでセルフロウリュしたり、広いサウナ室で寝転んだり……。至福の“ととのう”時間を叶える空間だ。

(問) 080-5227-0035
(住) 大阪府大阪市北区梅田1-12-6 5F

 

↑ラグジュアリーホテルのような洗練された雰囲気が好評。7月には横浜に新店がオープンする

 

【宿泊施設】

2021年11月オープン

amane

1泊1室2食付き7万7000円~(2名利用時)

南房総のラグジュアリーリゾートに、サウナー垂涎のプライベートサウナが誕生。エストニア製バレルサウナと海を見渡すウッドデッキでの外気浴で、極上のサウナ体験を楽しめる。

(問) 0470-55-1000
(住) 千葉県安房郡鋸南町元名1016

 

↑プライベートサウナ付きのプレミアムフラットルーム。ウッドデッキには水風呂と“整い場”を併設する

 

【ヒットの裏付け】 時代の風を受けてサウナの“個室化”が加速!

全国各地で個室サウナの出店が相次いでいる。各客室にサウナが付いた宿泊施設や24時間利用できるサウナ専門店など、プライベートを重視したサウナ空間が増えている。

いったいどうなる…!? 赤字「ローカル線」の廃止問題に迫る

〜〜JR各社の輸送密度ワースト5路線をリストアップ〜〜

 

新橋〜横浜の間に鉄道が通じて今年でちょうど150周年を迎えた。記念行事もいろいろと企画されている。そんな記念の年に、鉄道の将来をゆるがすような問題が浮かんできた。

 

JR各社の赤字路線を今後どうしたら良いのか、国土交通省で有識者による検討会が開かれ、さまざまな提言が行われた。赤字路線の廃止をよりスムーズにする今回の提言内容は、コロナ禍で急激な利用者減少に悩む鉄道各社にとって一助となる可能性がある。

 

その一方で、公共財でもある鉄道路線を簡単に廃止してしまっていいの、という声も根強い。JR東日本から初めて赤字路線の報告も出された。各社どの路線が赤字なのか、どのように問題を捉えたら良いのかも含めて考えてみたい。

 

【はじめに】国土交通省の有識者会議が問題を提起

今年の2月から国土交通省で「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」が開かれた。そして7月25日にいくつかの〝提言〟がまとめられた。「今後の方向性」として挙げられたポイントを見てみよう。

 

まず前提として、「JR各社は、大臣指針を遵守し、『国鉄改革の実施後の輸送需要の動向その他の新たな事情の変化を踏まえて現に営業する路線の適切な維持に努める』ことが前提」であるとしている。

 

一方で、ここ数年の利用者減少に対しては「危機的状況にある線区については、鉄道事業者と沿線自治体は相互に協働して、地域住民の移動手段の確保や観光振興等の観点から、鉄道の地域における役割や公共政策的意義を再認識した上で、必要な対策に取り組むことが急務」とする。

 

また「守るものは鉄道そのものではなく、地域の足であるとの認識のもと、廃止ありき、存続ありきという前提を置かずに協議」と、〝廃止ありき〟の提言ではないとしている。とはいうものの廃止に向けての道筋が示された形だ。

↑廃止が予定されている根室本線の富良野駅〜新得駅間。災害で一部区間が不通となりその後に廃線という例が増えている

 

今後の具体的な策としては

 

・国は、より厳しい状況にあり、広域的調整が必要な線区については、鉄道事業者・沿線自治体間の協議が円滑に進むよう、新たな協議の場を設置

・鉄道を維持する場合は、運賃・経費の適正化を行いつつ、必要な投資を行って鉄道の徹底的な活用と競争力の回復に努め、BRTやバスへ転換する場合には、鉄道と同等又はそれ以上の利便性と持続可能性を確保するなど、人口減少時代に相応しい、コンパクトでしなやかな地域公共交通に再構築

・関係者間の合意に基づき、JR各社はその実現に最大限協力。自治体も必要な関与を強め、国も頑張る地域を支援

 

とある。あくまで有識者による提言ということもあり、実効性はなく、具体的な道筋を示したものではない。とはいえ、これまでよりも一歩踏み込んでいる。鉄道はここまで追い込まれ、待ったなしの状況なのだということを示し、進みにくかった鉄道会社と路線が通る自治体との話し合いの場を国が設け、「特定線区再構築協議会(仮称)」を設置する。この協議開始から3年以内に結論を出したいとしている。

↑東日本大震災の後に路線復旧をあきらめBRT路線となった気仙沼線。BRT化される路線は今後増えていくのだろうか

 

この提言では、代替策であるBRT(バス・ラピッド・トランジット)やバスへの転換を挙げた一方で、自治体の関与を求め、国は前述した「新たな協議の場を設置」「頑張る地域を支援」と、一歩引いた立ち位置を示した。また、「必要な投資を行って」とあるが、国が維持のための費用を出すとは明言していない。いったい、誰が投資を行うのだろうか。

 

結論としては国が補助して延命を図るよりも、第三者的な立場に立って、あとは自治体と鉄道会社の間で取り決めを、という〝お任せ〟姿勢が見えてくるのである。

 

本コーナーでは、少しでも全国の赤字ローカル線に乗車していただこうと、4年にわたり「おもしろローカル線の旅」という企画を続けてきた。筆者としても現状の赤字路線を憂う気持ちが強い。

 

今回は、まずJR各社から出された輸送密度が低い路線、いわば赤字ワースト路線を紹介し、何らかの道筋を模索していきたい。

 

本稿では路線ごとの営業損益ではなく、どのぐらいの利用者があるのかの目安になる「輸送密度」で各路線の差を見ていきたい。ちなみに「輸送密度」とは、旅客営業キロ1km当たりの1日平均旅客輸送人員を指す。会社により「平均通過人数」とする場合もあるが、基本的な計算式は変わらない。

 

まずはJR各社の輸送密度の低い路線のランキングを見ていこう。人数は各社が発表した輸送密度もしくは平均通過人数だ。まずはJR北海道から。

 

【JR北海道】幹線でさえ収益性が低い北海道の路線

JR北海道では、すでに根室線の富良野駅〜新得駅間と、留萠線の深川駅〜留萌駅間は廃止が決まっているので、この2区間は除きたい。その他の路線では輸送密度がワースト5位までの路線は以下の通りだ。数字は2021年度のもの。

 

1.宗谷線・名寄駅〜稚内駅間 174人

2.根室線・釧路駅〜根室駅間 174人

3.根室線・滝川駅〜富良野駅間 201人

4.釧網線・東釧路駅〜網走駅間 245人

5.室蘭線・沼ノ端駅(ぬまのはたえき)〜岩見沢駅間 300人

 

JR北海道内の路線の中で輸送密度が低かったのは、宗谷線と根室線でともに174人という数値だった。営業損益では、宗谷線が年間27億7500万円の赤字、根室線が11億6000万円の赤字のため宗谷線がよりワーストとなった。いずれも最北端、最東端へ行く路線で、末端への路線の維持をどうしていくか、国も含めて熟考しなければいけない時期なのかもしれない。

↑根室線の最東端区間の釧路駅〜根室駅間の輸送密度は174。最果ての路線に乗車しようという人も多いが、輸送密度は少なめだ

 

ちなみに、根室線は2020年度と比べると赤字額は3300万円圧縮されている。先日、筆者が根室駅を訪れた時にも意外に観光客が多くいた。〝花咲線〟という通称名が付けられ、最果ての路線として訪れる人が増えていることは歓迎すべきことなのだろう。

 

一方で、根室線の滝川駅〜富良野駅間の輸送密度がワースト3位の201人となっている。札幌駅から臨時特急「フラノラベンダーエクスプレス」が運行され、富良野線では人気観光列車「富良野・美瑛ノロッコ号」が走っているものの、富良野・美瑛といった観光地へいかに鉄道に乗ってもらうか、また観光シーズン以外の利用者をいかに誘致するか、難しい問題といえそうだ。

↑根室線の富良野駅近郊の様子。富良野市内でもこうした緑が広がる。鉄道運行には難しい地区であることが容易に想像できた

 

JR北海道ではすべての線区別の収支と利用状況を発表しているが、その中では利用者が比較的多いと思われる札幌市周辺の路線や、北海道新幹線ですら赤字となっている。冬期には降雪への対応もあり、鉄道維持も容易でないエリアであることがうかがえる。

 

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鉄路が大自然に還っていく!?「根室本線」廃線予定区間を旅する

 

【JR東日本】県を越える路線と盲腸線の難しさが現れる

JR東日本からは7月28日、「ご利用の少ない線区の経営状況を開示します」として、平均通過人員が2000人/日未満の線区の経営情報の開示が行われた。発表された数字は2019年度と2020年度のもの。ほぼすべての路線が1年で悪化している。その理由としては新型コロナウィルス感染症の蔓延が2020年の春から急速に広まったためで、外出を控える動きの高まりが影響している。とはいえ、赤字額が大きい路線の目安にはなるので、他社と同じようにワースト線区を見ていきたい。数字は2020年度のもの。

↑正面に「奥の細道」と記された陸羽東線の列車。陸羽東線の鳴子温泉駅〜最上駅間の平均通過人員は41人とJR東日本一少なめ

 

1.陸羽東線・鳴子温泉駅〜最上駅間 41人

2.久留里線・久留里駅〜上総亀山駅間 62人

3.花輪線・荒屋新町駅〜鹿角花輪駅(かづのはなわえき)間 60人

4.磐越西線・野沢駅〜津川駅間 69人

5.北上線・ほっとゆだ駅〜横手駅間 72人

 

JR東日本の発表では、JR北海道に比べると1つの路線をより細かく区切った線区別の数値を発表している。そのため、JR北海道の輸送密度よりも、より悪い数字が出ている。ワースト1位となった陸羽東線の鳴子温泉駅〜最上駅間では2019年度の79人という数値が、2020年度には41人と極端に減っている。コロナ禍の影響が深刻だったことがうかがえる。

↑久留里線の終点駅、上総亀山駅(かずさかめやまえき)。君津市内の駅だが、民家も少なく年々、乗車人員が減少傾向に

 

ワースト5位までの路線中、久留里線を除きすべてが県境をまたいだ線区となっている。陸羽東線の鳴子温泉駅と最上駅間は、宮城県と山形県の県境があり、花輪線の荒屋新町駅〜鹿角花輪駅間には、岩手県と秋田県の県境がある。つまり県境をまたいでの移動は、明確に少ないわけだ。その理由は全国のローカル線の利用者の多くは地元の学校に通う高校生たちだからだ。県を越えて通学する高校生は非常に少ない。

 

久留里線は千葉県内を走る盲腸線だが、ここでも同じような傾向がみられる。木更津駅〜久留里駅は平均通過人員が1023人と多めだが、これは木更津駅〜久留里駅間の高校生の利用が多いため。一方で、久留里駅から先の上総亀山駅までの3駅区間は、久留里駅と同じく君津市内にあるものの駅周辺の民家が少なくなり乗車する人も減る。このあたりが差となってはっきり現れている。

↑大館駅に停車する花輪線の列車。花輪線は岩手県の好摩駅(こうまえき)と秋田県の大館駅を結ぶ。県を越えての利用者が少なめだ

 

JR東日本の発表では、国鉄からJRに移行した年の数字とも比較している。例えば陸羽東線の鳴子温泉駅〜最上駅間は1987年度が456人、2020年度が41人だった。リストアップされた他の線区でも 10分の1近くになっているところもある。JRとなってから30数年の間に、鉄道を利用する人がそれだけ減ってしまったことがよくわかった。

 

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【JR西日本】中国地方の山間部を走る路線の難しさ

JR東日本と同様に広域な沿線網を持つJR西日本。同線が管轄する中国地方の山あいを走る路線は、かなり輸送密度が悪化している。ワースト5位は以下の通りだ。数字はJR東日本と同じく2020年度のものである。

 

1.芸備線(げいびせん)・東城駅(とうじょうえき)〜備後落合駅(びんごおちあいえき)間 9人

2.木次線(きすきせん)・出雲横田駅〜備後落合駅間 18人

3.大糸線・南小谷駅(みなみおたりえき)〜糸魚川駅間 50人

4.芸備線・備後落合駅〜備後庄原駅間 63人

5.芸備線・備中神代駅(びっちゅうこうじろえき)〜東城駅間 80人

 

JR西日本の輸送密度が低い路線5本を見ていくと、芸備線の3区間が含まれていることがわかる。芸備線は広島駅と岡山県の備中神代駅を結ぶ159.1kmの路線で駅の数は44駅と多い。

↑芸備線と木次線の接続駅・備後落合駅。かつて機関車庫があり、鉄道職員も多く栄えていた。今は日に数本の列車が発着するのみに

 

そのうち広島駅〜下深川駅(しもふかわえき)間は、広島と往復する列車もあり、広島市の近郊路線として機能している。その先、三次駅(みよしえき)から先の乗客がぐっと減ってしまう。ちなみに、三次駅からは日本海側、山陰本線の江津駅(ごうつえき)まで三江線(さんこうせん)という路線が走っていたが、2018(平成30)年4月1日に廃止されている。

 

芸備線で一番のワースト区間である東城駅〜備後落合駅間はわずか9人。他社でもこのような数字はない。この区間を走る列車の本数は1日に3往復のみだ。ちなみに2019年度の同区間の輸送密度は11人だった。この区間だけで年間2.2億円の赤字が出ている。

↑木次線・出雲坂根駅(いずもさかねえき)のスイッチバック区間を走る「奥出雲おろち号」。急斜面(左上)を上り広島県を目指す

 

芸備線の備後落合駅は、現在、山陰本線の宍道駅(しんじえき)まで走る木次線が接続しているが、この木次線も苦境にあえいでいるのが実情だ。

 

木次線を走る人気の観光列車「奥出雲おろち号」も2023年度で運転終了となることが発表されている。こうした中国地方の赤字路線は、今後どうなってしまうのか。廃止以外に道はないのだろか。

↑糸魚川駅に到着した大糸線の列車。気動車が1両で走る。右下の南小谷駅でJR東日本の列車と接続している

 

中国地方の芸備線、木次線に続き輸送密度が低いのが大糸線の南小谷駅〜糸魚川駅間。南小谷駅から以南は電化され、運行もJR東日本が行っている。一方の南小谷駅から北側は非電化区間でJR西日本の運行区間となっている。同路線も国鉄からJRに移管される1987年度の輸送密度が出されているが、当時は987人、そして2020年度が50人と5%に落ち込んでいる。2020年度の営業損益は6.1億円の赤字とされる。

 

筆者も最近、全線を通して乗車したが、その地形の険しさには驚かされた。そびえ立つ山と深い谷が連なるフォッサマグナ地帯そのものの地形をぬって走る。姫川に沿って走る車窓風景が素晴らしい。この区間の北陸新幹線の開業で、北陸本線はJR西日本から、第三セクター経営に移管された。それに伴い大糸線は、JR西日本の他の路線から遠く離れた〝孤立〟路線となっている。同社としては運行そのものが不効率になっていることもあり、廃止やむなしの意向が強くなっている。地元の糸魚川市は反対を唱えるが、今回の国土交通省の提言もあり、なかなか難しい状況になってきた。

 

【JR四国】観光列車の運行で健闘が目立つものの

JR四国はJR旅客6社の中で路線の総距離数が最も少ない。高速道路網が発達している四国4県だが、他社に比べると、意外な健闘ぶりが目立つ。ワースト5路線を上げてみる。

↑阿波海南駅に近づく牟岐線の列車。終点の阿波海南駅では阿佐海岸鉄道のDMV列車と接続する

 

1.牟岐線(むぎせん)・牟岐駅〜阿波海南駅間 146人

2.予土線(よどせん)・北宇和島駅〜若井駅間 195人

3.予讃線・向井原駅(むかいばらえき)〜伊予大洲駅(いよおおずえき)間 274人

4.牟岐線・阿南駅〜牟岐駅間 423人

5.土讃線・須崎駅(すざきえき)〜窪川駅間 786人

 

徳島県内を走る牟岐線は徳島駅と阿波海南駅間を結ぶ。徳島駅と阿南駅(あなんえき)の間は輸送密度3574人と、徳島市の近郊路線として機能している。阿南駅から南へ行くにしたがい地形が険しくなり乗客も減っていく。

 

終着駅はこれまで海部駅(かいふえき)だったが、接続する阿佐海岸鉄道にDMV(デュアル・モード・ビークル)が導入されたことにあわせて1つ手前の阿波海南駅に牟岐線の路線が短縮された。牟岐駅〜阿波海南駅間がワースト路線となったが、徳島県の主導により接続する阿佐海岸鉄道に新たな乗物DMVが導入され、赤字ローカル線の1つの延命策を示した形となっている。

↑蛇行する四万十川を渡る予土線の普通列車。下に沈下橋も見える。こうした風景の良さも予土線の魅力となっている

 

ワースト2位は予土線が入った。この予土線には普通列車以外に〝予土線3兄弟〟の「しまんトロッコ」「鉄道ホビートレイン」「海洋堂ホビートレイン」という3種類の観光列車が走っている。これらの列車を乗りに訪れる観光客も多い。こうした観光路線化はローカル線の生き残り策と言えるだろう。

 

ランクインしている予土線の向井原駅〜伊予大洲駅間は内子線という予土線のバイパス線があり、特急はこの内子線を通る。一方、迂回した海沿いの路線が向井原駅〜伊予大洲駅間で、こちらには観光特急「伊予灘ものがたり」が走っている。途中に〝海の見える駅〟として人気の下灘駅(しもなだえき)があり、観光列車の運行とともに、こうした人気駅にわざわざ足を運ぶ観光客も多い。

↑瀬戸内海を眺めて走る予土線の観光列車「伊予灘ものがたり」。この先で、海の見える駅として人気の下灘駅に停車する

 

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【JR九州】盲腸線の先端区間の苦闘が目立つ

JR九州では平均通過人員2000人以下の「線区別収支」を発表している。ワースト5路線は次の通りだ。

 

1.日南線・油津駅(あぶらつえき)〜志布志駅(しぶしえき)間 171人

2.筑肥線(ちくひせん)・伊万里駅〜唐津駅間 180人

3.指宿枕崎線・指宿駅〜枕崎駅間 255人

4.筑豊本線・桂川駅〜原田駅(はるだえき)間 297人

5.日豊本線・佐伯駅(さいきえき)〜延岡駅間 353人

↑ワースト1位となった日南線の油津駅〜志布志駅間。写真は細田川を渡る特急「海幸山幸」。橋梁から海が望める絶景区間だ

 

JR九州の路線の中では盲腸線の先端部区間の輸送密度が低いことがわかる。ワーストとなった日南線の油津駅〜志布志駅間は、宮崎県日南市と、鹿児島県志布志市を結ぶ県をまたぐ弱点を持つ区間でもある。

 

ワースト2位は筑肥線の伊万里駅〜唐津駅間。筑肥線は唐津駅までは福岡市と結ぶ電車が走るものの、唐津駅でスイッチバックするように伊万里へ向かう路線は非電化区間で、途中の山本駅までは唐津線を走り、その先、また筑肥線になるという複雑な路線形態をとる。

↑伊万里駅(写真)に停車する筑肥線の列車。筑肥線といえば福岡近郊路線の印象が強いが、唐津駅〜伊万里駅間は主に山間部を走る

 

ワースト3位となったのが指宿枕崎線の指宿駅〜枕崎駅間。開聞岳を望む景色の美しい路線で、JR最南端の駅、西大山駅がある。同線の鹿児島中央駅〜指宿駅間は、人気の温泉地・指宿があるため利用者が多いものの、指宿駅より先となると極端に利用者が減る。西大山駅や、終点の枕崎へは、高速バスや、マイカーの利用者が多いこともあり、圧倒的に鉄道利用者が少なめとなっている。

↑開聞岳を望み走る指宿枕崎線。写真はJR最南端の駅・西大山駅の近くでの撮影。同駅に訪れる人は多いが大半が車利用者だ

 

JR九州管内は、毎年のように自然災害による路線被害を受けている。被害が甚大だったのは肥薩線で、2020(令和2)年7月豪雨の影響で、球磨川(くまがわ)にかかる橋梁などが流されるなどの被害を受け、八代駅〜吉松駅間の列車運行がストップしている。回復には235億円が必要とする試算もある。また復旧させ、不通区間に列車を運行させたとしても、年間の赤字額は9億円が出るとされる。

 

JR九州では日田彦山線が災害により不通となったが、すでに鉄道による復旧を諦め、一部区間のBRT路線化が進められている。毎年のように災害の影響を受け、復旧にあたることの多い九州の鉄道路線。JR九州一社に責任を押し付けるのは酷になっているようだ。

 

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【JR東海】発表はないがこれらの路線運行が難しい

JR旅客6社の中で唯一、赤字路線の発表を行っていないのがJR東海だ。現在のところ、ドル箱の東海道新幹線を運営していることもあり、赤字路線も安泰といえるのかもしれない。とはいえ、JR東海もコロナ禍で利用者は減少、さらにリニア中央新幹線の工事では静岡県との話し合いが上手く進んでおらず、開業は遅れそうだ。リニア中央新幹線の建設経費は難工事や人手不足などもあり予想よりも増えつつあり、JR東海自らの債務も今後、増えていきそうな気配だ。

 

今のところ、同社から赤字路線を廃線にしたい等の話は聞こえてこないものの、さらに債務が増えていけば、しわ寄せが出ないとは言い切れないだろう。

↑三重県内を走る名松線。2009(平成21)年から2016(平成28)年にかけて台風災害により一部区間の列車運行を休止していた

 

JR東海の中で、赤字が想定される線区は、三重県を走る名松線(めいしょうせん)で、松阪駅〜伊勢奥津駅間の43.5kmを走る盲腸線だ。さらに愛知県と長野県を走る飯田線も路線距離が195.7kmと長く特急列車は一部区間のみの運行となる。自然災害の影響を受けやすい路線だけに、営業はなかなか厳しそうだ。山間部の路線など経費のかかる路線も多い。これまで赤字線区の発表を行ってこなかったJR東海ではあるものの、今後は経営環境も厳しくなっていきそうに感じられる。

 

【ローカル線問題1】こんな形で赤字路線が役立った過去も

ここからは一部のローカル線の歴史および、実情を見ながら、赤字線区を今後どうしていったら良いのか、考えてみたい。

 

筆者は、すべての赤字路線の廃止反対を唱える気持ちはない。やはり輸送密度が1ケタ、2ケタともなると、JRが民間企業である以上は、営利追求のため、他線区の利益による補完、維持は難しいように思う。それぞれの路線の実情があり是々非々ではないだろうか。またバス代行という転換方法もあるかと思う。ただバス転換も長所短所があり、今の時代ならではの問題もある(詳細後述)。

 

ここではまず、赤字路線で輸送密度が低いからと言って、一律廃止にしないほうが良いのではという例を見ていきたい。例として挙げたいのはJR東日本の磐越西線である。

 

磐越西線は福島県の郡山駅から会津若松駅を経て、新潟県の新津駅へ向かう175.6kmの路線だ。郡山駅〜喜多方駅間は電化され、会津若松市、喜多方市という地方都市もあり、東北新幹線の郡山駅を利用する人も多く輸送密度も高めだ。問題になるのが、喜多方駅〜五泉駅(ごせんえき)間の山間部の路線だ。中でも野沢駅〜津川駅間は県境区間で輸送密度も69人と低い。これはJR東日本のワースト4位の数字でもある。

↑輸送密度が低い磐越西線の福島県と新潟県の県境区間。飯豊山を背景に「SLばんえつ物語」が走る

 

実はこの区間、筆者の母の郷里である県境の町を通ることもあり、幼いころから何度も訪ねた。半世紀にわたる変化を見ていて寂しい思いが募る。母の実家は住む人もいない。親戚にあたる人たちも、少なくなっている。他の家も似たり寄ったりの状況だ。過疎化が激しい。県をまたいで列車通勤する人もあったが、今は県をまたいだ移動をする人は大概がマイカーの利用者だ。

 

観光列車の「SLばんえつ物語」が走るぐらいが〝売り物〟の路線となっている。では廃止すれば良いのでは、という声も聞こえて来そうだ。

 

この磐越西線が非常に役立った時があった。今から11年前の東日本大震災の時である。磐越西線も2011(平成23)年3月11日から26日にかけて不通となったが、早めの復旧を遂げている。この時に大きく貢献したのが、臨時石油輸送だった。東北本線が長期にわたり不通になるなか、首都圏から郡山へ向けて磐越西線を利用しての迂回輸送が行われた。3月25日から4月16日までの短い期間だったが、臨時石油輸送により、どれだけ震災復興に役立ち人々を勇気づけたか計り知れない。

 

東日本大震災のような大きな災害は今後、ないかも知れない。だが、その時の磐越西線のように役立つこともあるのだ。現在、貨物列車の定期運行はないものの、磐越西線はJR貨物が第二種鉄道事業者として名を連ねている。こうした、もしもの時に役立つ可能性がある路線は、国の力で何とか保つべきだと思う。

 

このような原稿を書いているさなかの8月4日に、喜多方駅〜山都駅(やまとえき)間の濁川橋梁が豪雨により大きな被害を受けた。落ち着いた後に、今後の磐越西線の復旧に向けての方針が示されると思う。また同じように被害を受けた米坂線(よねさかせん)がどのようになるのか、注目したい。

 

*8月4日未明の豪雨による橋梁崩落により磐越西線は一部区間が不通となっています。ご注意ください。

 

【ローカル線問題2】上下分離方式で再開を果たす只見線

磐越西線と同じ福島県内で、長い間、災害により不通になっていたものの、この秋に復旧を果たすローカル線がある。JR東日本の只見線だ。只見線は福島県の会津若松駅と新潟県の小出駅を結ぶ135.2kmの路線。山深い只見川にそって走り、福島県と新潟県の県境を六十里越(ろくじゅうりごえ)トンネルで越える。

↑第八只見川橋梁では只見川上に作業船が浮かび路線のかさ上げ工事が行われた。このように険しい区間が多いのが只見線の特長

 

2011(平成23)年7月30日にこの地方を襲った豪雨により、複数の橋が流失、路盤も影響を受け、路線不通となった。その後に一部区間は復旧したものの、長年にわたり福島県内の会津川口駅〜只見駅間が不通となり代行バスが運行されてきた。

 

その後に復旧に向けて福島県とJR東日本の間で交渉が行われ、2018(平成30)年から復旧工事に着手、今年の10月1日には全線が復旧する。

 

同線の復旧区間の場合には上下分離方式を採用、線路の保有管理は福島県が行い、列車の運行はJR東日本が受け持つ。只見地区は福島県の会津地方でも雪深さが際立つところで、新潟県へ越える国道252号は冬期閉鎖となる。福島県内の交通は冬でも何とか国道の通行は維持されているが、大雪が続くと心もとない。地方の中心都市、会津若松への公共交通機関を何とか確保しておきたいという県の思いがあった。

 

只見線での線路保有は福島県が第三種鉄道事業者、運行者となるJR東日本は第二種鉄道事業者となる。鉄道の場合、こうした免許制度の名前が付きややこしいが、要は道路を走るバスを考えれば良い。国道や県道は国や自治体が管理運営、補修を行う。バスはその上を走っているわけだ。上下分離方式とはそれの鉄道版というわけだ。近年、他線でもこの上下分離方式を採用するところが出てきている。自治体の負担は増えるものの、どうしても赤字路線を維持させていきたい場合には、こうした方式がベターということが言えそうだ。

 

【関連記事】
爽快感抜群!「只見線」じっくり探訪記〈その1〉

 

【ローカル線問題3】BRT路線化も長短ありなかなか難しい

7月に行われた国土交通省の赤字路線に関する提言には、鉄道路線のバス路線化、BRT化に関しても触れている。バス路線化、BRT路線化に関してどのようなところが長所で、どのようなところが短所なのか、そして立ちふさがる問題に関しても触れておきたい。

 

東日本大震災の後には三陸沿岸の一部路線はBRT路線となった。気仙沼線の柳津駅〜気仙沼駅間と、大船渡線の気仙沼駅〜盛駅(さかりえき)間である。

↑三陸鉄道の盛駅付近を走る大船渡線BRT。この区間はかつての大船渡線の線路跡を専用道路に変更、その道路をBRTバスが走る

 

両BRT路線は、旧線路跡をバス専用道路に変更して利用し、復旧が敵わなかった区間は、一般道路を利用してバスが走る。

 

BRTの長所は「運行本数が増やしやすいこと」「運行経費が鉄道に比べて抑えられること」「旧駅以外に停留所が設けやすいこと」「専用道路区間は渋滞に巻き込まれず時間通りに走れること」などが挙げられる。

 

一方、短所は「鉄道に比べて定員数が少なめ」「一般道では渋滞に巻き込まれる」といったことがあげられる。

 

実際にこれらの路線では、役場や病院、ショッピングセンターに立ち寄るルートになり、地元の人たちにとって便利なルート設定が可能になっている。その一方でバスの乗車人員には限界があり、朝夕の混雑する時間帯や、観光シーズンともなると満員で乗れないといったこともある。鉄道に比べると遅延も起こりやすい。増便が容易という長所もあるものの、現実にはそう簡単ではないようだ。

 

昨今は、バス運転手の人出不足も深刻になっている。燃料費も高騰が見られる。これらの事柄を見ると、バス化、BRT化が絶対とは言い切れない。

 

【ローカル線問題4】少なくとも鉄道好きの人は乗って欲しい

いろいろな問題をはらむ鉄道の廃止論議ではある。主要路線以外の赤字路線の将来は、その路線が走る自治体がどう考え、どう対応するかが、大きな鍵となってくる。では、鉄道の旅が好きな人、鉄道を愛する人はこの状況下で、何かできることはないのだろうか。

↑千葉県の房総半島を走るいすみ鉄道。希少な車両を走らせていることもあり人気路線となっている。写真のように利用する人も多い

 

一つ方法がある。それはとにかく鉄道に乗ることである。

 

雑誌編集者でもある筆者は寝台列車の本を作っていた時には、早朝深夜の撮影取材が多いこともあり車利用にせざるをえなかった。その後の取材撮影はよほどの閑散路線を除き、なるべく車利用を控え、鉄道に乗って最寄り駅まで行きそこから撮影地へ歩くことにしている。日常はデスクワークが多いだけに、歩くことは健康面でもプラスのように思う。カメラバックを抱えて歩くため、極力機材を減らしている。

 

先日、首都圏近郊のローカル線でのことだ。珍しいヘッドマークと、塗装を一部変更した希少車両が走る機会があった。筆者はいつもどおりに、列車で最寄り駅に行って歩いてポイントへ向かった。そしてカメラを構えていたら、車利用の撮影者グループが撮影地へどどっとやってきた。そのため付近の道路や空き地は駐車する車でいっぱいに。先に構えていた鉄道利用の人たちは、あまり愉快ではなかったのは言うまでもない。

 

車利用は荷物の持ち運びもラクで便利である。列車の〝追っかけ〟もしやすい。だが、列車を走らせる鉄道会社にとっては利点がない。地元に住む人たちにも無断駐車などで迷惑がかかる。車利用で撮影のためのみに訪れるファンを批難する鉄道会社も出てきている。

 

少なくとも鉄道好きを自認し、なるべく路線廃止をしないで、と願うのであれば、列車に乗って鉄道会社へ少しでも運賃を還元して欲しいと思うのだが、いかがだろうか。そうした1人1人の行為は、路線維持のために決して無駄にならないように思う。

売れたモノSELECTION 2022年上半期 【レジャー・乗り物】「Snow Peak スパ」

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「Snow Peak スパ」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

豊かな自然の中で浴・食・泊を楽しむ複合型リゾートが開業!

【複合型リゾート】

2022年4月オープン

Snow Peak FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS

温浴施設利用1600円

国内の人気アウトドアブランド、スノーピークが手がけるリゾート施設。広大な丘陵地帯に隈 研吾氏設計のヴィラ、大きな窓を配した開放的な大浴場やサウナ、地元食材を楽しめるレストランなどが揃う。

(問) 0256-46-5650
(住) 新潟県三条市中野原456-1

 

↑隈 研吾氏とスノーピークが共同開発したモバイルハウス「住箱」。四季の移り変わりを感じられる設計になっている

 

↑敷地内のキャンプフィールドでは、焚き火などのアウトドア体験ができる。手ぶらキャンププランもあり、初心者でも安心

 

【ヒットの裏付け】 瞬く間に新潟サウナランキング上位に!

国内最大級のサウナ検索サイト「サウナイキタイ」の新潟の部で4位に(6月14日現在)。同ランキングは累積の「イキタイ」数でカウントされているため、開業間もない施設としては快挙だ。

軽自動車の領域を超えた走りと居心地の良さに脱帽!三菱「eKクロス EV」試乗レポート

電気自動車(BEV)が相次いで市場に登場するなか、より身近な存在となる軽BEVが日産と三菱によって共同開発されました。それが日産「サクラ」と三菱「eKクロス EV」です。サクラは日産の新モデルとして、eKクロス EVはそれまでのeKクロスの派生モデルとしての位置付けです。ここでは、そのeKクロス EVの試乗ポートをお届けします。

 

【今回紹介するクルマ】

三菱/eKクロス EV

※試乗車:P

価格:239万8000円〜293万2600円(税込)

↑三菱「eKクロス EV」の最上位グレード「P」。外観はガソリン車のeKクロスとほぼ同一だが、よく見るとフロントグリルがガソリン車と違って網目になっていない

 

新型軽EVは「eKクロス」の派生モデルとしてラインナップ

今回、試乗したのは最上位グレードの「P」です。その実車を前にして感じるのは、フロントグリルやエンブレムに多少の違いはあるものの、外観はガソリンエンジン車とほぼ同一であるということです。サクラがウインドウやアウターミラー以外をすべて新設計にしたのに対し、eKクロス EVはちょっと見ただけではEVとは気付かないほどです。

 

これについて三菱の開発担当者は、「これはSUVをメインにラインアップしている三菱らしいアイデンティティで臨んだ結果」と話します。アウトランダーやデリカなどで培った三菱らしいデザインが好まれている今、そのデザインをあえて主張することでファンの心をつかもうというわけです。その意味で、新たなEVとして位置付けたサクラとはそもそものコンセプトが基本的に違っています。

 

ところで、eKクロス EVとガソリン車はどう見分ければいいのでしょう。最も簡単なのは運転席側のリアフェンダーにある充電用ソケットの有無です。すれ違うときにこの切れ込みがあればeKクロス EV、なければガソリン車です。これなら簡単に見分けられますね。

↑運転席側リアフェンダーにある充電ソケット。上が普通充電用、下がチャデモ方式の急速充電用

 

そんなeKクロス EVですが、その人気は急速が高まっています。三菱自動車によれば、7月3日までになんと4559台を受注。三菱の販売店は全国に550店舗(21年3月現在)ありますが、なんと1店舗当たり8.3台もの受注を獲得しているのです。しかも千葉県内の某販売店を取材すると「受注の半数は他社ユーザー」と話しており、まさにeKクロス EVは三菱のシェア拡大に大きく貢献していると言って間違いないでしょう。

 

ekクロス EVは2つのグレードがラインアップされました。標準グレードが「G」で、価格は239万8000円。フル装備の上級グレードが「P」で、価格は293万2600円。なかでも注目なのが標準グレードの「G」で、補助金55万円を差し引いて考えれば、実質1848000円となります。補助金は登録(軽の場合は届け出)してからの支払いとなりますが、これによって軽自動車の枠内でEVが買えるようになったとも言えるわけです。

 

セカンドカーとして位置付け、バッテリー容量は20kWhに

では、この価格はどうやって実現したのでしょうか。そのポイントは搭載バッテリーの容量にあります。BEVの航続距離はバッテリーの容量で大きく左右されますが、このバッテリーは高価で、容量を増やせば自ずと車両価格は高くなってしまいます。そこでサクラとeKクロス EVのような新型軽EVでは、この容量を20kWhとしました。これはBEVで先駆けた日産「リーフ」標準仕様が40kWhですから、そのちょうど半分に相当します。

 

リーフはこの容量で322kmの航続距離を実現していますが、対する新型軽EVは180kmにとどまりました。単純に半分になっていないのは車体重量が軽いことが幸いしているのだと思います。とはいえ、エアコンを使って走行すれば実質120~30km程度となってしまうでしょう。はたしてこの航続距離で不足はないのでしょうか。

 

確かにファーストカーとして使うには、この航続距離ではどう見ても役不足であるのは確かです。しかもBEVは充電するのに時間を要します。ガソリン車のように数分で満タンにできるわけではないのです。

↑普通充電中のeKクロス EV

 

そこで、新型軽EVはいずれもファーストカーではなく、セカンドカーとして割り切った使い方を提案しています。バッテリー容量を20kWhとしたことで航続距離は短くなりましたが、三菱によれば、軽自動車やコンパクトカーユーザーの約8割は1日あたりの走行距離が50km以下とのことで、大半のユーザーは2日間以上充電せずに走行できる計算になります。

 

しかもバッテリーの容量が小さければ、それは満充電までの所要時間が短くて済むということもあります。たとえば、セカンドカーとして近所での買い物や送迎を50km程度こなし、夜間は自宅で充電するという使い方を想定すれば、むしろこの少ない容量がメリットをもたらすというわけ。通勤先に充電スポットが用意されていれば、出社している間に充電をしておくという手もあるでしょう。ただ、昨今の電力供給ひっ迫を考えると夜間での充電が望ましいのかもしれません。

 

軽自動車の領域をはるかに超える上質さとトルクフルな走り

そんな使い方を思い描きつつ、eKクロス EVに乗り込みました。運転席に座って真っ先に感心したのは、フロアにバッテリーを搭載している感じが一切なかったことです。乗降性も自然で、ガソリン車のeKクロスと比べてもほとんど違いはありません。さらに後席も十分なスペースを確保しており、大人4人が乗車しても楽に過ごせそうです。

↑オプションの「プレミアムインテリアパッケージ」。インパネはEV専用のフル液晶。9インチ大画面のスマートフォン連携ナビゲーションが装備される

 

これを実現した背景として三菱の開発担当者は、「eKクロスの開発時に、バッテリーを搭載することも想定していた」ことを明かしてくれました。なるほど、だからこそ、BEVとしても優れたパッケージングを実現できていたんですね。

↑プレミアムインテリアパッケージのシートは、ダブルステッチで高級感たっぷりの仕様となる

 

↑「プレミアムインテリアパッケージ」のリアシート。ダブルステッチが施されるのはフロントと同様。大人二人がゆったり過ごせるスペースがある

 

内装はダッシュボードにソフトパッドが貼られ、スイッチ一つひとつにまで質感があります。軽自動車特有の室内幅の狭さを除けば、もはや軽自動車とは思えない上質さを感じるほどです。車載ナビも「アウトランダー」などと基本機能が同様なもので、スマホ連携やSOSコールにも対応した先進性に富んだシステムとなっています(“G”ではオプション)。

↑プレミアムインテリアパッケージでは、ダッシュボードの表面にタッチが心地よいソフトパッドが奢られる

 

↑シフトノブの右側真ん中には、回生ブレーキを利用してワンペダルでアクセルワークがコントロールできる「イノベーティブ・オペレーションモード」が備わる

 

いよいよ公道へと繰り出します。踏み込んだ瞬間、その力強さが半端ないことに気付きました。それもそのはず、最高出力こそ軽自動車の自主規制に合わせて47kW(64PS)にとどまっていますが、規制がない最大トルクはなんと195Nm(19.9kg-m)! これは軽自動車ならターボ付エンジン車の約2倍に相当します。しかも、これがスタート当初から発揮されるのです。この力強い走りは、もはや軽自動車の領域を遙かに超えているとみて間違いありません。実力としていえば2.5L車ぐらいのレベルはあるのではないでしょうか。

↑モーター系のユニットはボンネット内に収まる。モーターには「アウトランダーPHEV」のリアモーターと同一のものが使われている

 

フロアに搭載したバッテリーの効果もあり、乗り心地は常に上質です。BEVだから静粛性も極めて高く、オーディオを楽しむ人にとってもうれしい空間となることでしょう。カーブでは若干ロールがきつめに出ますが、シートがたっぷりとしたサイズで背もたれが包み込む形状なので、コーナリング中もしっかり身体を支えてくれて不安はありません。これなら、たとえ長く乗っても疲れにくいのではないかとも思いました。

↑フロア下に納められた20kWhのリチウムイオン電池(奥の白いユニット)。スペック上の航続距離は180kmを実現した

 

路面からの突き上げ感は低速域で少し強めに出ますが、それも不快な印象はまったくありません。とにかく、軽自動車でここまで仕上がったことにBEVならではのメリットを感じないではいられませんでした。

↑カーゴルーム下には付属の充電ケーブルを収納できる

 

おすすめグレードは「G」。これに適宜オプションを加えるのがベスト

最後に購入することを前提に、標準グレードの「G」と上級グレードの「P」、どちらが良いのかを考えてみたいと思います。

 

「P」は前述したように。スマホ連携カーナビやSOSコール、ステアリングヒーターなどを装備したフル装備モデルです。そのため、価格は293万2600円と300万円に迫る金額となります。ただ、これでも先行車に自動的に追従して走行するアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)である「マイパイロット」は“先進安全快適パッケージ(PKG3)”としてオプションになります。走りの良さや車内の居心地の良さを考えると、ちょっと贅沢してみたくなりますが、考えてみるとそれを享受できるほどバッテリーの容量はないのも事実です。

↑ドライバーの運転操作を支援するためのシステム「マイパイロット」は、ステアリング右側のスイッチで設定する

 

↑マイパイロット設定中のインパネ内の表示。車線も認識してステアリングの制御も行う

 

これを踏まえると、あえて「P」よりも下位グレードの「G」を選び、そこに“寒冷地パッケージ(PKG6)”を装備して、ステアリングヒーターや前席シートヒーター(座面)、電動格納式ヒーテッドドアミラー、リアヒーターダクトを追加。さらにカーナビが欲しければ、ディーラーオプションの手軽な機種を組み合わせることで価格も抑えられます。この組み合わせで補助金を考慮すれば200万円前後に収まるはずです。これなら軽自動車の予算ギリギリで収まり、この「G」こそがeKクロス EVのコンセプトに叶った最良の選択になるのではないかと思いました。

↑「P」に標準装備される「スマートフォン連携ナビゲーション(9インチ)」。「G」でも“先進快適ナビパッケージ(PKG2)”のセットオプションとして装着できる

 

↑デジタルルームミラーは「P」、「G」ともにオプションとなる

 

↑「SOSコール」は、「P」に標準装備。「G」ではマイパイロットを含めたセットオプション“先進快適ナビパッケージ(PKG2)”として用意された

 

↑「マイパイロット パーキング」はACCと組み合わせたセットオプション“先進安全快適パッケージ(PKG3)”で装着できる

 

SPEC【P】●全長×全幅×全高:3395×1475×1655mm●車両重量:1080kg●パワーユニット:電気モーター●バッテリー総電力量:20kWh●最高出力:47PS/2302〜10455rpm●最大トルク:195N・m/0〜2302rpm●一充電最大航続距離(WLTCモード):180km

 

 

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売れたモノSELECTION 2022年上半期 【レジャー・乗り物】「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

アフターコロナの海外旅行3種の神器

海外出張や旅行の際に便利とDL数をのばしているのが「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」。JAL便チェックイン時の手間を大幅に軽減できる「VeriFLY」、帰国時の空港検疫の一部を事前に済ませられる「MySOS」もオススメだ。

 

【アプリ】

2021年12月公開

新型コロナワクチン接種証明書アプリ

マイナンバーカードの活用により、政府公式の新型コロナワクチン接種証明書を取得できるアプリ。渡航前に役所に行き、紙の証明書を発行してもらう手間を省ける。海外旅行に必要な証明書も発行可能。

 

↑利用にはマイナンバーカードと券面事項入力補助用暗証番号(4ケタ)が必要。海外用証明書発行の場合はパスポートも用意する

 

渡航前に登録すれば搭乗手続きがスムーズ

↑「VeriFLY」では、入国検疫書類が渡航する各国の入国条件に合致しているかどうかを事前に判定できる

 

 

売れたモノSELECTION 2022年上半期 【レジャー・乗り物】「次世代ポイントアプリ」

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「次世代ポイントアプリ」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

移動がポイントに!2022年は新時代ポイ活元年

日々ポイ活に勤しんでいる人にとって、2022年は革命的な年として記憶されるはずだ。ポイ活とは、クレジットカードやその他のキャッシュレス決済、店舗の会員カードなどの利用条件に応じて付与されるポイントを貯め、それを何らかの形に交換しておトクに生活すること。

 

ポイントを貯めるには、消費行動が必要。新規カードの入会やキャンペーンへのエントリーなどでポイントをもらえる場合もあるが、基本的にはクレジットカードでの支払いに対する「還元」として付与される。ところが、昨年から今年にかけて、移動ポイントアプリが数多くリリース。通勤や通学、ウォーキング時に発生する「移動」に対してポイントが付与されるというのだ。

 

使い方はいたって簡単。スマホにアプリをインストールして、後はそれを持ち歩くだけ。アプリが「どんな手段で」「どれだけ移動」したかを判定してくれる。移動手段は、飛行機、自動車、電車、自転車、徒歩など、何でも構わない。面白いのが、二酸化酸素排出量が少ない移動手段になるほどポイント付与率が高くなっているという点だ。高ポイントと一緒に健康までゲットできて、環境保護にも貢献できる!

 

【アプリ】

2021年10月公開

Miles

2019年にアメリカで生まれ、2021年10月に日本上陸。1マイル(約1.6km)の移動に対してオリジナルポイントの「マイル」が付与される。貯め方はスマホの位置情報をオンにした状態で移動するだけ。アプリを起動する必要がない使いやすさも魅力。

 

↑船やスキーなども移動手段として登録されているのがユニーク。移動手段はAIが自動で判別してくれる

 

対応OS iOS10.1以上、Android5.0以上
ポイントの貯め方 徒歩・ランニング10倍(10マイル)、自転車5倍(5マイル)、バス・電車・船・スキー3倍(3マイル)、車の相乗り2倍(2マイル)、車1倍(1マイル)、飛行機0.1倍(0.1マイル)
●いずれも1マイル(1.609km)あたり
ポイントの使い方 商品やサービスがおトクになる特典、ギフトカード、抽選、寄付に交換可能

 

【アプリ】

2021年12月公開

ANA Pocket

日常の移動や「チャレンジ」で貯めたポイントでガチャを引いて特典を受け取るシステム。無料の「ANA Pocket Lite」「ANA Pocket」と月額550円の「ANA Pocket Pro」の3プランがあり、有料プランではANAマイルが必ず当たるガチャを引ける。

 

↑移動の手段、距離、時間を“見える化”。ポイ活だけでなく、健康を意識した生活サポートにも役立てられる

 

対応OS iOS14.0以上、Androidは2022年夏リリース予定
ポイントの貯め方 徒歩または自転車や電車などの乗り物で移動した際に獲得できるポイントと、チャレンジを達成した際に報酬として獲得できるポイントがある(プランによりポイント獲得率が異なる)
ポイントの使い方 1回500ポイントでガチャを回すと、デジタルギフト券、ANA SKY コイン(ANAマイレージクラブ会員の場合)、ANAマイル(「ANA Pocket Pro」会員の場合)が必ず当たる

 

【ヒットの裏付け】 もはやポイ活の主流!爆発的に利用者増加中

公開後より「ANA Pocket」では、約1500万回ガチャが回されている。「Miles」は昨秋のローンチ後1週間で100万DLを達成し、新規受付をストップ。現在は再開してユーザー数は250万人を越えている。

 

売れたモノSELECTION 2022年上半期 【レジャー・乗り物】「チェアリング」

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「チェアリング」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

イス持参で野外に座るだけの最も手軽なアウトドア

【アウトドア専門店】

2022年4月オープン

Alpen Outdoors FLAGSHIP STORE 新宿店

今年4月、新宿駅前にアルペングループの旗艦店「Alpen TOKYO」がオープン。全10フロアの3~5階が「アルペンアウトドアーズ」で、キャンプギアから登山ウエアまで多彩な品揃えが魅力だ。チェアリングに適したアウトドアチェアも充実。

(問) 03-5312-7682
(住) 東京都新宿区新宿3-23-7

 

↑軽量タイプからハイバックチェアまで360品番以上が揃う。座り心地を重視する傾向でハイバック系の需要が高い

 

↑同店での一番人気はコールマンの「インフィニティチェア」。好みの角度にリクライニングできるので座り心地は抜群だ

 

【ヒットの裏付け】 空前のキャンプブームがチェアリングの追い風に

自然のなかでくつろぐチェアリングは手軽なレジャーとして注目され、各地でイベントも開催されている。アルペンでは専用Webマガジンで特集記事を公開し、売上は好調に推移している。

 

国産タイヤの約1/3で安っ!生活費増の救いになるコスパ最強タイヤ「ミネルバ」は買って&乗って安心な一品

ベルギー生まれのタイヤブランド『MINERVA(ミネルバ)』。日本ではあまり馴染みがありませんが、実はヨーロッパやアジアを中心に50か国以上で展開されるグローバルなブランドです。今回はそのなかからスタンダードなタイヤ「F205(エフニーマルゴ)」を選び、試乗レポートをお届けしたいと思います。ミネルバは物価上昇中の日本において、クルマ好きの生活費増の救世主となるのでしょうか。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

 

 

スタンダードタイヤ・ミネルバ「F205」ってどんなタイヤ?

タイヤを選ぶとき、グリップの高さを重視したスポーツタイヤにするか、乗り心地を優先したコンフォートタイヤにするかは結構迷います。というのも、ハンドル操作のキレを求めてスポーツタイヤを選ぶと、逆に乗り心地はあまり期待できそうにありません。一方でコンフォートタイヤを選ぶと乗り心地は良くてもハンドリングに甘さが出るのではないか。そんな不安がどうしても付きまとうからです。

 

そんななかでF205は、スタンダードタイヤとしながらも、左右非対称のトレッドパターンを採用したことによる高い排水性と静粛性を発揮するタイヤとして開発されました。スポーツ性とコンフォート性のどちらにも究極なまで高い性能を発揮するわけではありませんが、日常使いでは納得いくパフォーマンスを発揮してくれるタイヤというわけです。

↑ミネルバ「F205」。サイズは16インチ〜20インチまでラインナップ

 

↑F205は独自の左右非対称トレッドパターンを採用したことで高い排水性と静粛性を発揮する

 

しかも、その価格が驚くほど安い! なんと国産タイヤと比べるとおよそ1/3! 原油高騰が続くなかでタイヤの価格は上昇し続けており、そんななかでのこの価格は大きな魅力です。

↑ハンドルの応答も良好で、峠道でも俊敏なハンドリングで一体感のある走りが楽しめたF205

 

ミネルバは世界中で、年間300万本以上も売れている

ミネルバは元々、ベルギーの自動車メーカーとしてスタートした歴史を持っています。1902年から1938年にかけて、著名な俳優や政治家向けの高級車を製造し、その品質はロールスロイスに匹敵するとまで言われていたようです。また、価格がリーズナブルだったこともあり、多くの一般ユーザーからの支持を集めたとも言われています。現在では年間300万本以上を販売する世界的ブランドへ成長しています。

 

それでは、どれだけコスパが良いのか代表的な国産車で比べてみましょう。比較してみたのはトヨタ「ヤリス」、トヨタ「プリウス」、ホンダ「ヴェゼル」。そして、筆者の愛車トヨタ「CH-R」の国産タイヤでです。下記の表を見比べてみると、一目瞭然でミネルバのタイヤシリーズの方がお得です。

 

これまでCH-Rが履いていたのは、純正で装着されていたタイヤでした。ハイグリップタイヤということで、当初から若干乗り心地は硬めで、走行ノイズも若干大きめでしたが、グリップ力は頼もしさを感じるほどでした。ただ、使っているうちに摩耗が進み、乗り心地に粗さを感じるようになってきていました。

 

そんななかでミネルバF205へ交換したのです。装着した見た目の印象は、トレッド面にしても両者とも大きく変わりはない印象です。とはいえ、国産タイヤとの圧倒的な価格差は、それを超える魅力がミネルバにはあると考えていいでしょう。

 

実際に乗ってわかったミネルバの実力をレポート

CH-RにミネルバF205を装着後、走り出すと当たりが出てなかったためか、いきなりゴロゴロとしたノイズが車内に伝わってきました。ただ、それは1kmほど走るとすぐに消え、その後は乗り心地の良さと静粛性に高さにビックリしました。特に実感したのは応答性の良さです。ハンドルを切ったときのトレース性はとても高く、「スタンダード」なタイヤとは思えないハイレベルな感触が得られたのです。

↑交差点を曲がるときでもミネルバF205は、高いトレース性で思い通りのコースを走らせてくれた

 

↑雨の中での走行も体験したが、ウェット面でのグリップ力も充分に高く安心して走行できた

 

乗り心地も想像以上に良かったと思いました。以前履いていたのが純正のハイグリップタイヤで、若干摩耗が進んでいたこともありましたが、それをはるかに超える快適な乗り心地だったのです。しかも静か。高速道路に入ってもノイズレベルは充分に抑えられていて、継ぎ目でのショックもかなり小さめ。これならロングドライブでも疲れはかなり低減されそうだと実感しました。

↑高速道路では静粛性が光った。速度域を上げていっても変化が少なく、継ぎ目への処理も巧みに対応

 

常識を覆す、しっかりとした実力を備えている

ミネルバF205が驚くほど安いタイヤであると聞き、せっかくのハイグリップタイヤをスタンダードなグレードに替えてもいいんだろうか? との不安もありました。

 

しかし、装着後は予想を超える乗り心地の良さと静粛性が快適な走行フィールをもたらしてくれたのです。特に感心しているのが道路の継ぎ目の処理。継ぎ目が多い首都高速も走ってみましたが、小気味よく振動をいなしてくれます。これには驚きました。グリップ力も充分に高い様子で、ウェット路面でも不安なく走行できたのは高く評価していいと思います。

 

純正タイヤはハイグリップタイプだったこともあり、ワインディングのみならず、ドライブでちょっとでもスポーティな走行フィールを楽しむのに好都合でした。ミネルバは普段のクルマの使用用途が街乗り主体、子どもの送り迎えや買い物がメインで、家計費を少しでも抑えたいというマインドが強まっている人には選択肢として十分な存在です。

 

そして、この実力が国産タイヤの約1/3の価格で手に入るのですからビックリですよね。よく「価格相応」という言葉がありますが、少なくともミネルバF205はそんな常識を覆すしっかりとした実力を備えていると思って間違いありません。タイヤサイズがマッチすれば、ぜひ検討してみることをオススメします。

 

 

撮影/松川 忍

売れたモノSELECTION 2022年上半期 【レジャー・乗り物編】「旅ガチャ」

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「旅ガチャ」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

どこに飛ぶかは運まかせ!ガチャで旅する時代が到来

LCCのPeachが販売する“行き先を選べない”旅ガチャは、昨年8月の開始以来、累計2万3000個以上を売り上げるヒット企画。5000円で6000円ぶん以上のポイントを得られるおトクさと、行き先はどこ?ミッションは何?というワクワク感が人気の要因だ。

【カプセル型自販機】
2021年8月発売

Peach Aviation
旅くじ

5000円

 

↑行き先とミッションが書かれたカード、ピーチポイント、オリジナルバッジ入り。6000円ぶん以上のピーチポイントが得られる交換コードは指定された旅先の航空券購入時に利用

 

↑ピーチ就航路線のなかで、どこに行くかはガチャ次第。大阪に設置される旅くじの場合、札幌、釧路、東京、福岡奄美、石垣など全13就航地が行き先の候補だ

 

【ヒットの裏付け】 発売日には長蛇の列も「旅ガチャ」ブーム拡大中

渋谷での「旅くじ」販売開始時にはオープン前から長蛇の列ができ、1800個のガチャが約3日で完売。この人気に続けと、ツアー会社などでも旅ガチャ企画が続々と登場している。

売れたモノSELECTION 2022年上半期 【レジャー・乗り物編】ペット同行サービス

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「ペット同行サービス」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

わんこと一緒にバスツアーへGO!

ペット用のシートベルトやドライブボックスを備えたバスで行くツアー。旅の目的地はテーマパークやフルーツ狩り、温泉旅館など多彩で、もちろんいずれもペット同伴可。愛犬家同士の交流を楽しめることも魅力だ。

【バスツアー】

2019年12月開始

平成エンタープライズ
vipワンツアー

1万7000円~(ツアーにより異なる)

 

【フライトサービス】

2022年3月開始

スターフライヤー
FLY WITH PET!

1区間あたり5万円(航空券別途)

指定サイズのケージ(W40×H40 ×D50cm)に入れた小型犬や猫と横並びの座席でフライトを楽しめるサービス。現在は1日4便(各1匹)が就航しているが、人気のため便数や路線の拡大も計画されている。

 

 

【ヒットの裏付け】 宿も交通も観光も進化するペットツーリズム

ペットと旅をしたい人は多く、サービスも多様化している。初便販売直後から大反響となった「FLY WITH PET!」のほか、ペット同伴OKの宿や施設も増加中。今春にはペット専用新幹線を利用した「わん!ケーション」の実証実験も行われた。

 

売れたモノSELECTION 2022年上半期 【レジャー・乗り物編】WOW RIDE

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「WOW RIDE」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

都市を疾走するバスが時間と空間を旅するVR空間に

透過有機ELディスプレイを採用した車窓に現れるのは、リアルな風景とVR、ARが織りなす映像コンテンツ。車窓を眺め、座席に座っているだけで大迫力の仮想空間を体験できる新感覚の東京観光バスツアーだ。

※:「車窓と透明ディスプレイが一体となった観光バス」ESP総研調べ(2021年7月29日現在)
(C) TOHO CO., LTD. Licensed by TOKYO TOWER 協力:松竹株式会社

 

【バスツアー】
2022年2~3月運行

クオラス/クラブツーリズム/日の丸自動車興業
新感覚バスツアー「WOW RIDE」東京タイムトリップ

2500円

 

↑江戸時代にタイムスリップしたり、水中に潜ったり……。映像と町並みが連動しており、多彩なコンテンツが次々と車窓に投影されていく

 

↑乗車時間は約1時間で、銀座を起点に東京駅や東京タワー、お台場などを巡る。バスツアーの総合演出は映画監督の堤 幸彦氏が手掛ける

 

【ヒットの裏付け】 実証実験ではチケットが即完売

2~3月に実証実験として運行した同ツアーはSNSやメディアでの注目度も高く、用意した席が瞬く間に完売するほどの人気ぶり。今夏にはさらに進化したツアーが企画されているという。

売れたモノSELECTION 2022年上半期・アートな香川県

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「香川県」!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

四国の地方都市で世界的アート作品を鑑賞

香川は“うどん県”だけでなく“アート県”としても知られている。2月には丹下健三設計の香川県庁舎東館が、戦後築の庁舎として初めて国の重要文化財に登録された。また、今年は瀬戸内国際芸術祭の3年に一度の開催年で、旅行先として注目を集めている。

↑イギリスの美術家ジュリアン・オピー作「銀行家、看護師、探偵、弁護士」。それぞれ白大理石、庵治石、石灰岩、黒御影石を用いている

 

↑香川県庁舎東館は初期丹下作品の傑作。社寺建築でよく見られるむき出しの垂木のような梁を、コンクリートで表現している。1階ロビーでは、地元出身の洋画家・猪熊弦一郎の巨大壁画を展示

 

 

売れたモノSELECTION 2022年上半期 「シン・沖縄ブーム」

2022年上半期にレジャー・乗り物ジャンルで、売れたモノ、話題になったコトを大紹介! 今回は「シン・沖縄ブーム!

 

※こちらは「GetNavi 20228月号に掲載された記事を再編集したものです。

コロナで沈んだ気分を南国・沖縄で吹き飛ばせ!

 

ようやく長いトンネルの出口が見えてきた。コロナ禍の収束が現実味を帯びてきた昨今、これまでの鬱屈した気分の反発で旅行熱が高まりつつある。特に、夏の旅行先として例年以上の注目を浴びているのが沖縄だ。暑い日差しを浴びて白砂のビーチで開放的な気分を味わいたい、密を避けられる離島でのんびりとした沖縄タイムを楽しみたい……。ここ数年の淀んだ雰囲気を吹き飛ばし、暗く縮こまった気分を発散させるのに、沖縄は相応しい場所といえる。本土復帰50周年というアニバーサリーも追い風となり、本格的な夏の到来前から沖縄来訪者は順調に増えている。

 

3年ぶりに行動制限のないゴールデンウィークとなった4~5月の観光者数を見ても、それは明らかだ。今年4月に沖縄を訪れた観光客は40万9000人。前年同月に比べると155.8%の伸びとなった。5・6月の見通しは36万6000人、38万2000人と、それぞれ前年比210.3%、263.9%の伸びとなる見通し(※1)。今後GoToトラベルキャンペーンが再開し、夏休みの7・8月となれば、この数字が大幅に伸びてくるのは確実だろう。

 

また、昨年には「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が世界自然遺産として世界遺産に登録された。これにより、今後は外国人観光客がコロナ禍前以上に沖縄を訪れることが予想される。もしかすると、のんびり沖縄観光できる夏は今年が最後かもしれない。

※1:2022年5月の入域観光客統計概況は6月8日時点で未発表。沖縄県文化観光スポーツ部 観光政策課発表の見通しを記載

 

【ヒットの裏付け】 旅行ムードが高まり観光客増!連続テレビ小説も話題に

1月より観光客が増加しており、GWは空港やバス乗り場に長蛇の列ができたことがニュースに。本土復帰50年の節目に放送中のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」ではやんばる出身のヒロインが活躍。沖縄が注目される一年となっている。

 

【宿泊施設】

2019年7月オープン

ハレクラニ沖縄

1泊1室朝食付き
7万5823円~(サービス料込み)

一流のホスピタリティを格付けする世界有数の「フォーブス・トラベルガイド」2022年のホテル部門で、日本のリゾートとして初となる5つ星を獲得。オーシャンビューの絶景と非日常のホスピタリティを味わえる。
(問) 098-953-8600
(住) 沖縄県国頭郡恩納村名嘉真1967-1

 

 

【メタバース】

2022年4月公開

バーチャルOKINAWA首里城エリア

沖縄発のメタバース「バーチャルOKINAWA」に世界遺産の首里城を再現したエリアが登場。海外からのアクセスも増え、SNSには多くの記念写真がアップされている。今後は城郭ライトアップや花火大会などを順次アップデート予定。

 

 

 

日産「アリア」、リーフに続く日産の本格ピュアEVは新しさも満点!

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」で取り上げるのはピュアEV。リーフに続く待望の本格派となる日産「アリア」だ。早くからピュアEV市場に進出していたメーカーの最新作だけに、その完成度の高さが光る。

※こちらは「GetNavi」 2022年7月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

洗練されたモーター制御にはリーフのノウハウが生きる

EV

日産

アリア

SPEC【B6】●全長×全幅×全高:4595×1850×1655mm●車両重量:1920kg●パワーユニット:電気モーター●バッテリー総電力量:66kWh●最高出力:218PS/5950〜13000rpm●最大トルク:30.6kg-m/0〜4392rpm●一充電最大航続距離(WLTCモード):470km

 

 

2020年7月の発表から発売されるまで2年近くかかったので、ずいぶんと待たされた感がある。だがそのデザイン、特にインテリアの仕立ての良さやタッチ式パネルの使い勝手&先進感に触れると、待った甲斐があったと実感できた。世界に先駆けて発売した量産EVの「リーフ」は、雰囲気としてはエンジン車の延長線上を抜け切らなかった。しかし10年以上の経験を経て生まれてきた日産EV第2弾の「アリア」は、テスラ的なガジェット感、新しさが感じられるモデルとなっている。

 

実際に走行すると、量販EVの経験が色濃く反映されている。電気モーターが静かで滑らかで、トルクが太いことはすべてのEVに共通するところだが、アリアのそれは洗練度が抜きん出ている。アクセルを踏み込んで加速していくときに、力強いが粗っぽくガツンとした加速を感じることはなく、常に滑らかさが伴っている。制御技術が優れている証だ。

 

その一方、乗り心地はスムーズさに欠けるきらいがある。サスペンションの動きがぎこちなく、少々フワフワしているのだ。プラットフォームは新世代でポテンシャルは高いはずなので、これが本来の実力とは信じがたい。初期モデル特有の現象だけに、今後改善されていくことを期待したい。

 

[Point 1] エクステリアはクーペSUV風

リアピラーを大きく傾斜させ、SUVとクーペのクロスオーバー的な風情を演出する外観。発表から発売まで時間を要したが、新鮮味は少しも薄れていない。

 

[Point 2] 最新トレンドにもマッチした仕立て

シンプルにしてハイテクなイメージを演出するインテリアは、最新のピュアEVに相応しい完成度。もちろん、メーターはすべてデジタル化され、スイッチ類もタッチパネルが主体となっている。

 

[Point 3] 室内は和のテイストを採用

クーペ的な外観ながら、室内は前後席ともに十分な広さを確保。日本の和のテイストを採り入れた仕立てで、ピュアEVらしい静けさも強調される。

 

[Point 4] ユーティリティもハイレベル

SUVとのクロスオーバーモデルらしく、ラゲッジスペースも実用的な広さが確保されている。細部に至る使い勝手もハイレベルだ。

 

[Point 5] より航続距離が長い仕様も

ベーシックなB6グレードは総電力量66kWhのバッテリーを搭載。より航続距離の長い91kWh仕様も間もなくリリースされる予定だ。

 

[ラインナップ](グレード:パワーユニット/駆動方式/税込価格)

B6:電気モーター/2WD/539万円

B6リミテッド:電気モーター/2WD/660万円

B9リミテッド:電気モーター/2WD/740万800円

B6 e-4ORCEリミテッド:電気モーター×2/4WD/720万600円

B9 e-4ORCEリミテッド:電気モーター×2/4WD/790万200円

 

文/石井昌道 撮影/望月浩彦

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

筑豊をのんびり走る「田川線・糸田線」の意外な発見づくしの旅

おもしろローカル線の旅90〜〜平成筑豊鉄道・田川線・糸田線(福岡県)〜〜

 

平成筑豊鉄道には、先週紹介した伊田線(いたせん)のほか、田川線(たがわせん)と糸田線(いとだせん)という2本の路線がある。全線複線の伊田線とは対照的に、全線単線の田川線と糸田線。両線の旅では予想外の発見もあった。かつて炭鉱が点在した筑豊を走るローカル線の旅を楽しんでみたい。

*取材は2013(平成25)年7月、2022(令和4)年4月3日と7月2日に行いました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
栄華の跡が色濃く残る「へいちく伊田線」非電化複線の旅を楽しむ

 

【田川・糸田線の旅①】豊州鉄道という会社が造った2本の路線

まずは2線のうち、田川線の概要を見ておこう。

路線と距離 平成筑豊鉄道・田川線:行橋駅(ゆくはしえき)〜田川伊田駅(たがわいたえき)間26.3km 全線非電化単線
開業 1895(明治28)年8月15日、豊州鉄道(ほうしゅう)により行橋駅〜伊田駅(1982年に田川伊田に駅名改称)間が開業
駅数 17駅(起終点駅を含む)

 

2本目の糸田線の概要は次の通りだ。

路線と距離 平成筑豊鉄道・糸田線:金田駅(かなだえき)〜田川後藤寺駅(たがわごとうじえき)間6.8km 全線非電化単線
開業 1897(明治30)年10月20日、豊州鉄道(ほうしゅう)により後藤寺駅(1982年に田川後藤寺に駅名改称)〜宮床駅(現在の糸田駅)〜豊国駅(貨物駅)間が開業。
1929(昭和4)年2月1日、金宮鉄道(きんぐうてつどう)により糸田〜金田駅間が開業
駅数 6駅(起終点駅を含む)

 

平成筑豊鉄道の伊田線は今から129年前の1893(明治26)年に部分開業した。その2年後に田川線が、さらにその2年後に糸田線の一部が開業している。当時は筑豊の炭鉱数、出炭量も急速に増え、増大する輸送量にあわせるかのように次々と新たな路線が設けられていった。

 

【田川・糸田線の旅②】豊州鉄道を創立した人となりに注目したい

田川線、糸田線ともに、路線を敷いたのは豊州鉄道(初代)という鉄道会社だった。この会社が開業させた複数の路線が、今もJR九州の路線として活かされている。

 

豊州鉄道が開業させたのは平成筑豊鉄道の田川線、糸田線のほかに、現在の日豊本線となった行橋駅〜柳ケ浦駅(やなぎがうらえき)間、日田彦山線の田川伊田駅〜川崎駅(現・豊前川崎駅)間と多い。同社が開業した路線の総延長は85.2kmに及ぶ。ところが現・田川線を開業させた後、わずか6年で九州鉄道と合併し、豊州鉄道の名前は消滅した。短期間に積極的な路線敷設を行い、さらに九州最古の鉄道トンネル(詳細は後述)を設けるといった当時としては新しい試みも行っていた。

 

豊州鉄道の創設者は村野山人(むらの さんじん)と呼ばれる人物だ。なかなか豪快な人生を送っているので触れておきたい。村野が生まれたのは現在の鹿児島県鹿児島市城山町で、父は島津斉彬(しまづなりあきら)の奥小姓役だったが、お由羅騒動(おゆらそうどう)と呼ばれたお家騒動に連座、遠島となる。のちに赦免されたものの帰藩する船の中で亡くなってしまった。そのため村野家は家財を没収され、山人は悲惨な幼少時代を送ったとされる。その後に嫌疑が晴れ、村野家の家督を相続する。

 

明治維新後の動きがすごい。教師、志願兵として台湾出兵に従軍、警部、兵庫県職員などを務めた後、鉄道実業家となる。鉄道との関わりもかなりのものだ。まずは山陽鉄道の副社長を勤める。その後、豊州鉄道の総支配人、阪鶴鉄道(はんかくてつどう/現・福知山線、舞鶴線)の発起人、ほか門司鉄道、九州鉄道、南海鉄道、豊川鉄道、京阪電気鉄道、神戸電気鉄道などの鉄道経営に参画。衆議院議員を2期つとめ、最初の鉄道会議議員となり、さらに私財を投じて、工業高等学校まで創立している。

 

この足跡をたどるだけでも実にバイタリティをあふれる人物に見える。こうした草創期の鉄道路線網の整備に功績をあげた人物により田川線、糸田線は造られたのである。

↑日田彦山線の彦山駅(ひこさんえき)。田川線の駅として1942(昭和17)年に誕生した。豪雨により路線休止となり同駅舎も解体された

 

田川線は現在、行橋駅〜田川伊田駅間となっているが、古くは田川伊田駅から先、現在の日田彦山線にあたる一部区間も田川線として造られた路線だった。田川線は次のように延伸された。九州鉄道との合併も含め見ていこう。

1895(明治28)年8月15日 行橋駅〜伊田駅(現・田川伊田駅)間を開業
1896(明治29)年2月5日 伊田駅〜後藤寺駅(現・田川後藤寺駅)間を開業
1899(明治32)年7月10日 後藤寺駅〜川崎駅(現・豊前川崎駅)間を開業
1901(明治34)年 豊州鉄道が九州鉄道と合併
1903(明治36)年12月21日 川崎駅〜添田駅(現・西添田駅)間を開業
1907(明治40)年7月1日 九州鉄道が官設鉄道に買収される
1942(昭和17)年8月25日 西添田駅〜彦山駅間を開業

 

ここで記したのは旅客営業を行った路線のみで、貨物支線まで含めると膨大な路線が田川線として開設された。その後、田川線は1960(昭和35)年に行橋駅〜田川伊田駅(当時の駅名は伊田駅)間の区間のみとなり、田川伊田駅から南は日田彦山線となった。日田彦山線は2017(平成29)年7月に同路線を襲った「平成29年7月九州北部豪雨」により多大な被害を受けて添田駅〜夜明駅(日田駅)間の列車運行が休止されてしまう。鉄道路線としての復旧は困難と判断され、JR九州と地元自治体との話し合いを経てBRT化することに合意。2023(令和5)年度のBRT転換を目指して工事が進められる。かつて田川線だった彦山駅もこの不通区間に含まれ、モダンな駅舎もすでに解体されている。

 

一方の平成筑豊鉄道・田川線も2012(平成24)年の豪雨など度重なる災害で多大な被害を受け、長期間不通となってきたが、そのつど復旧工事が行われ運転再開を果たしている。私企業となったJR九州と、第三セクター経営の平成筑豊鉄道との違いがこうした差に出ているようにも感じる。

 

【関連記事】
もう二度と列車が走らない−−「日田彦山線」の名物めがね橋を振り返る

 

【田川・糸田線の旅③】一駅区間はJRと共用区間を走る

歴史の話が少し長くなったがここからは路線の紹介に話を進めたい。田川線の起点は行橋駅だが、前回に伊田線の紹介をしたこともあり、田川伊田駅から話を進めよう。田川伊田駅ではJR九州の日田彦山線と接続している。

 

日田彦山線の一部区間が、かつて田川線として開業されたこともあり、今も両線は縁が深い。

↑田川市の玄関口・田川伊田駅。田川線は1・2番線ホームから、日田彦山線の列車は3・4番線ホームから発車する(右上)

 

実は平成筑豊鉄道・田川線の田川伊田駅と次の上伊田駅(かみいたえき)間は単線区間で、日田彦山線と線路を共用しているのである。このあたり、路線紹介を行うガイドや、Webにも解説がないこともあり、筆者も現地で実際に列車に乗ってみてはじめて気が付いた。

 

ちなみに、国土交通省鉄道局が監修している「鉄道要覧」にも田川伊田駅〜上伊田駅間はJR九州・日田彦山線と平成筑豊鉄道・田川線2社のどちらの路線か明記されていない。

 

さて、田川伊田駅から平成筑豊鉄道の列車は田川線へ入っていく。伊田線の直方駅(のおがたえき)から走ってきた列車の大半は、列車番号が変わるものの、そのまま田川線を走り終点の行橋駅を目指す。そうした列車の中で一部が、田川伊田駅で時間調整をして次の上伊田駅へ向かうのだが、路線を共用する日田彦山線の列車とかち合うため時間調整をしていたのだ。

↑彦山川橋梁を渡る田川線の列車。JR九州の日田彦山線の列車も同橋梁を共用している(右上)。複線分の橋脚が設けられている

 

田川伊田駅の東側で田川線の線路と日田彦山線の線路が合流し、彦山川(ひこさんがわ)橋梁を渡る。この彦山川は遠賀川(おんががわ)の支流となる。

 

この橋梁、現在は単線が通るのみだが、興味深いのは橋脚部分に線路1本を通せる余分なスペースがあること。かつては複線だったのを橋げたを外したのか、複線にするために橋脚をひろげたのか、資料がなくはっきりしないが、推測するに太平洋戦争前後に橋げたを外す、もしくは複線化を図ろうとしたのかも知れない。

 

田川伊田駅を発車する田川線の列車は朝の6時、8時、18時に1時間に2本で、あとは1時間に1本の列車本数。日田彦山線もほぼ同様と列車本数は少なめなので、前述したように一部の列車に時間調整が必要なものの、複線にしなくとも運転に支障はないようだ。

 

【田川・糸田線の旅④】上伊田駅前後の線路配置がおもしろい

田川伊田駅から彦山川橋梁を渡り約1.4km、上伊田駅の手前にある分岐ポイントで、両線の線路が分かれる。田川線の列車は右手へ、そして上伊田駅のホームへ到着する。一方、日田彦山線の列車は上伊田駅手前の分岐ポイントを左へ入る。上伊田駅では両線の線路がほぼ並行しているのだが、日田彦山線の上伊田駅のホームは設けられていないので、列車は上伊田駅を横目に見て走り抜けていく。

↑「神田商店上伊田駅」と駅名が記される田川線・上伊田駅。駅のすぐ西に日田彦山線との分岐ポイントがある(左上)

 

上伊田駅の手前で分岐した田川線と日田彦山線の線路は、上伊田駅の東側にある猫迫1踏切を通り抜けてすぐに、線路が離れていく。田川線は直線で次の勾金駅(まがりかねえき)へ向かい、日田彦山線は、左に大きくカーブして一本松駅へ向かう。このあたりの線路の分岐、合流の様子が興味深い。

 

上伊田駅付近には、かつてもう一本の線路が通っていた。添田線と呼ばれ、現在の駅名と同じ上伊田駅があった。日田彦山線の一本松駅付近から現在の上伊田駅へ至る途中に分岐があり、田川線とクロスして日田彦山線の添田駅へ向かっていた。添田線は田川伊田駅を通らない日田彦山線のバイパス的な路線で、貨物列車の走行には便利だったが、田川伊田駅を通らないことで旅客路線としては営業的に芳しくなく1985(昭和60)年4月1日に廃止されている。ちなみに上伊田駅は場所を移し、田川線の新駅として2001(平成13)年3月3日に開業した。

↑上伊田駅へ近づく田川線(右)と日田彦山線(左)。本写真は合成したもので、実際には同時間にこうして走ることはない

 

田川伊田駅周辺は、調べてみると多くの路線が走っていたことに驚かされる。だが、石炭輸送がなくなり、いわば〝無用の長物〟になってしまったのだ。

 

【田川・糸田線の旅⑤】油須原駅など途中駅もなかなか興味深い

上伊田駅を発車すると列車は田川市から香春町(かわらまち)へ入る。間もなく着くのが勾金駅。同駅から北に設けられた旧・夏吉駅まで貨物線が設けられ、セメント列車が走っていたが、すでに廃線となっている。かつての路線は、道路となり廃線跡として偲ぶことができる。

 

勾金駅の次の駅が柿下温泉口駅。その名前の温泉が近いのかと思ったら、肝心の柿下温泉は徒歩15分と遠めで、しかも長期休業中となっていた。高濃度の天然ラドン泉で泉質は人気があっただけに残念だ。柿下温泉口駅から先は、山景色が間近に見えるようになる。次の内田駅からは赤村へ入る。

 

内田駅の次は赤村の村名そのものを付けた赤駅に到着する。この赤駅には、「赤村トロッコ油須原線(ゆすばるせん)」という観光トロッコが走っていたのだが、コロナ禍もあり、現在運転休止となっている。

 

赤駅の次は、油須原駅となる。この駅の読み方は「ゆすばる」。九州には「原」を「はる」または「ばる」と読ませる地名が多い。油須原駅は鉄道ファンとしては必見の駅である。まずは築127年という九州一古いと言われる木造駅舎が今年の2月に復元改装され、きれいに整備されている。駅舎内には「鉄道作業体験室」や「ギャラリー」が設けられた。将来的には出札口の復元も目指すそうだ。

↑復元改装された油須原駅の駅舎は内外装もきれいに。ホームには古い腕木式信号機(左上)やタブレットの受け器(左下)もある

 

ホームには古い腕木式信号機や、タブレットの受け器も保存されている。油須原駅はさながら鉄道資料館のようになっていた。

 

この油須原駅で触れておかなければいけないことがある。かつてこの駅に至る「油須原線」という路線計画があったのだ。1950年代半ばから工事が始まり、油須原線のうち、漆生駅(うるしおえき/現・嘉麻市 かまし)と、日田彦山線の豊前川崎駅までの路線は1966(昭和41)年3月10日に開業した。豊前川崎駅と油須原駅間の工事も着工したが、その後に、工事中断、再開が繰り返された末に1980(昭和55)年、正式に工事が凍結。開通した漆生駅〜豊前川崎駅間も1986(昭和61)年4月1日に廃止されてしまった。

 

開通からわずか20年で廃線となった油須原線。さらに工事が完了した区間もあったが、放棄されてしまった。石炭輸送のためにこうした計画が立てられ、エネルギー源が著しく変わり、輸送目的が消滅することが見えていたのにもかかわらず、工事が続けられ、無駄になったわけである。こうした歴史をたどるたびに、進められた公共工事の見通しの甘さを痛感する。時代が変わろうとも、進められる公共工事が本当に将来に必要なものかどうか、見極める術と、止める決断も大事なのだろうと思う。

 

【田川・糸田線の旅⑥】源じいの森で気がついた意外なこと

田川伊田駅から乗車20分で源じいの森駅へ到着した。「源じいの森」とは珍しい駅名だが、これは駅に隣接する自然公園「源じいの森」に由来する。源じいという、おじいさんが住んでいたのかなと、勝手に想像していたのだが、まったく違った。「源」はこの付近に生息する源氏蛍の「源」で、「じい」は赤村の村の花・春蘭の方言名である「じいばば」の「じい」、そして赤村の7割以上を占めている森林の「森」を組み合わせたものだそうだ。

↑源じいの森駅に停車する金田行き上り列車。駅の近くには源氏蛍が生息する渓流・今川が流れ、自然公園「源じいの森」がある

 

駅のすぐそばに「源じいの森」の受付がある建物があり、その周囲にキャンプ場などのレクリエーション施設が広がる。ちなみに、平成筑豊鉄道の1日フリー乗車券「ちくまるキップ」(大人1000円)を購入すると源じいの森温泉の入湯料が無料となる。

↑源じいの森の受付や宿泊施設などがある建物。この目の前に車掌車が保存されていた(右上)

 

受付や宿泊施設が入る建物の道路をはさんだ向かいに、塗装がやや薄まっていたが、青い車掌車が保存されていた。ヨ9001という形式名の車両で、時速100km運転を目指して国鉄が開発した試験車両だった。実際には100kmでの運転は不可能ということが分かり、2両しか製造されなかった。その後に筑豊地方を走る貨物列車に連結して使われたとされる。筑豊がらみということで、この地に保存されているのであろう。

 

車掌車の横には田川線に関わる案内が建てられていた。源じいの森の下をくぐるように走る田川線。その先にある「石坂トンネル」に関する案内だった。

↑第二石坂トンネルを出て源じいの森駅を目指す列車。トンネルは複線用のサイズで造られていた

 

源じいの森駅の先には「第二石坂トンネル(延長74.2m)」と「第一石坂トンネル(延長33.2m)」の2本の「石坂トンネル」が連なる。このトンネルは1895(明治28)年に完成したもので、九州最古の鉄道トンネルとされている。レンガ構造で、外から見た入口はやや楕円形で、現在は単線の線路となっているが、将来的に複線化も可能な造りとなっている。複線化はかなわなかったが、当時の鉄道会社の資金力を見る思いだ。

 

この石坂トンネルは、九州最古であるとともに、ドイツ人技師・ヘルマン・ルムシュッテルの指導を受けた工学博士・野辺地久記(のべちひさき)が設計したトンネルとしても歴史的な価値が高く、国の登録有形文化財に指定されている。

 

田川線では今回、駅から遠く立ち寄ることができなかったが、内田駅〜赤駅間にある内田三連橋梁も当時の貴重な橋梁技術を後世に伝えるものとして国の登録有形文化財の指定を受けている。127年前に開業した田川線には、こうした貴重な鉄道史跡が残されているのである。

 

【田川・糸田線の旅⑦】古さが目立つ崎山駅などに停車しつつ

森に包まれた源じいの森駅を発車して2本の石坂トンネルを越え、赤村からみやこ町へ入る。車窓からは田畑が広がる景色が見えてくる。この風景の移り変わりを見ていると、源じいの森駅が、田川線の最も標高の高い駅だったことが分かる。車窓からは田園風景とともに源氏蛍が生息するとされる今川が眼下に見えてくる。

 

列車は崎山駅へ到着。この駅は1954(昭和29)年4月20日に信号場として造られ、2年後に駅として開業した。この崎山駅には10年ほど前にも一度訪れたことがあるのだが、駅施設は以前のままだった。手付かず、整備が行き届かずといった様子で、形容しづらい状況だ。

↑崎山駅の駅舎。駅が造られた当時に信号所だったこともあり、駅務員用に建物が設けられた。建物自体は昭和中盤の建築とされる

 

今、駅の屋根の一部には青いビニールシートがかかる。屋根瓦の落下が予測されることもあり、建物とその周囲が立ち入り禁止となっている。

 

崎山駅から犀川駅(さいがわえき)、東犀川三四郎駅、新豊津駅と進むにしたがい水田風景が広がっていく。豊津駅からは行橋市(ゆくはしし)に入り、沿線に民家も点在するようになる。そして今川河童駅(いまがわかっぱえき)へ。風変わりな駅名だが、地元の今川に伝わるかっぱ伝説にちなむとされる。駅に河童の銅像も立っている。

 

平成時代に生まれた美夜古泉駅(みやこいずみえき)、令和時代に生まれた令和コスタ行橋駅と停車し、今回の田川線の旅の終点駅・行橋駅に到着する。田川伊田駅から乗車約55分、源じいの森駅など、豊かな自然に包まれた車窓風景が記憶に残った。

↑日豊本線と連絡する行橋駅。田川線の乗り場は3・4番線ホームの南端、5番線(右上)にある。乗換え用の専用口も設けられる

 

【田川・糸田線の旅⑧】金田駅近郊で伊田線と別れる糸田線

ここからは、もう一本の糸田線の路線紹介に移ろう。糸田線は金田駅と田川後藤寺駅を結ぶ路線で、伊田線の支線の趣が強い。列車の運行は朝夕の糸田線内のみを往復する列車に加えて、9時〜16時台の列車は直方駅から伊田線内を走り、金田駅から糸田線へ乗り入れる列車が多くなる。列車の本数は上り下りともに1時間に1本。路線距離が6.8kmと短いこともあり、所要14分と乗車時間も短い。

↑田川後藤寺行きの下り列車。写真のように水田と民家が点在する風景が連なる

 

金田駅の先、伊田線の複線に加え糸田線用の線路が進行方向右手に延びている。1kmほど3本の線路が並んで走った後、東金田踏切の先で、糸田線は進行方向右手に分岐、次の豊前大熊駅を目指す。この駅は、前回紹介した田川伊田駅と同じく「MrMax」というディスカウントストアがネーミングライツを取得していて、その名が駅名標に記されている。糸田線の駅は単線ということもあり、ホーム1つの小さな駅が大半だ。

 

糸田線ではこの豊前大熊駅から松山駅、糸田駅が糸田町内の駅となる。路線名は、この土地名に由来しているわけだ。車窓風景に変化は少なく、豊前大熊駅から糸田駅の先までは県道420号線と遠賀川の支流、中元寺川を進行方向右に見て列車は進む。

↑全線複線の伊田線(左)に並ぶ糸田線の線路(一番右)。東金田踏切の先で、糸田線の線路が右に分岐している

 

糸田町の玄関口でもある糸田駅。1897(明治30)年10月20日の路線の開業時は宮床駅(みやとこえき)という名前だった。この糸田線、短いながら路線の開業から、紆余曲折の歴史が隠されている。開業させた豊州鉄道は後藤寺駅(現・田川後藤寺駅)と宮床駅間を結ぶ路線に加えて、宮床駅の0.5km先に豊国駅(ほうこくえき)という貨物駅を造った。この豊国駅は石炭を積むための駅だった。

 

糸田駅(旧・宮床駅)の北側は豊州鉄道とは異なる会社が線路を敷設した。金田と宮床を結んだ路線で金宮鉄道と名付けられた鉄道会社だった。この会社は後に産業セメント鉄道という名の会社になる。そして現在の糸田駅から北0.7km地点に糸田駅(後に廃駅)を設けた。この産業セメント鉄道は1943(昭和18)年に買収され国有化された。

 

要は6.8kmの短い路線にも関わらず、開業には2つの会社が関わり、太平洋戦争中に国鉄の糸田線に。産業セメント鉄道が造った糸田駅は、国有化された時に宮床駅に吸収され、旧宮床駅が糸田駅となった。

 

【田川・糸田線の旅⑨】田川後藤寺駅では古い跨線橋が気になる

糸田駅の南で糸田町から田川市へ入る。列車は中元寺川から離れ大薮駅(おおやぶえき)へ。同駅は路線開業時、貨物駅として誕生したが、一度廃止された後の1990(平成2)年に現在の駅が再開している。糸田線にはこのようにいろいろな経緯を持つ駅が多い。こちらも「MrMax大藪」というネーミングライツされた駅名が付く。

 

大薮駅を過ぎると緑が多くなり、左手から線路が近づいてくる。JR日田彦山線の線路で、田川伊田駅方面からの列車がこの線路を走る。さらに右手からJR後藤寺線の線路が近づいてきて、田川後藤寺駅の構内に入る。

↑田川後藤寺駅の駅舎。西側のみに駅入口がある。駅構内は広くJR九州のキハ40系などの気動車が多く留置されている

 

糸田線の列車は田川後藤寺駅の2番線に到着する。同駅のホームは4番線まで並んでいるが、後藤寺線は0番線と1番線を利用。一方、日田彦山線は1番、3・4番線のホームを利用する。2番線は糸田線単独のホームで、跨線橋を渡って他線への乗換えが必要となる。

↑日田彦山線の列車が停る1番線ホーム。糸田線(左)は2番線ホームからの発着となる

 

駅舎の改札はJR九州の管理となっているが、糸田線の乗車券の購入もできる。駅舎は1997(平成9)年に建てかえられたが、駅構内には骨組みにレールを使用した木製の跨線橋が残る。使われたレールは最も古いもので1900(明治33)年、新しいもので1911(明治44)年という刻印がある。記録では1916(大正5)年に駅舎改築とあることから、この時か、また昭和初期にかけて架けられた跨線橋が残っていることになる(糸田線の階段部分は後に付け加えられたもの)。

 

田川後藤寺駅を訪れ、田川線、糸田線が設けられた同時代の資材が、こうして跨線橋として残されていることが分かった。

↑田川後藤寺駅のレトロな跨線橋。骨組みのレールには1900年代の序盤に造られたアメリカ製のものなども含まれる

 

【田川・糸田線の旅⑩】もう1本、忘れてはいけない路線がある

平成筑豊鉄道の紹介で、もう1本、忘れてはいけない路線がある。それは福岡県北九州市を走る門司港レトロ観光線である。

 

JR門司港駅に隣接する九州鉄道記念館駅と関門海峡めかり駅間2.1kmを結ぶ観光路線で、かわいらしいトロッコ列車が走る。運営方式は上下分離方式で、北九州市が第三種鉄道事業者で路線を所有管理、平成筑豊鉄道は第二種鉄道事業者として、車両を保有し、運行を行っている。

↑平成筑豊鉄道が運行する「潮風号」。終点の関門海峡めかり駅では、海峡を行き来する大型船が間近に見え楽しめる

 

同路線は元々、鹿児島本線の貨物支線であり、後に田野浦公共臨港鉄道の路線として貨物列車が走っていた。そこをディーゼル機関車2両にトロッコ客車2両を連結した観光列車「潮風号」が時速15kmというのんびりしたスピードで走る(冬期は運休)。

 

同列車の名称は「北九州銀行レトロライン潮風号」。こちらの路線もネーミングライツによる企業の名前を付けている。厳しさが増す鉄道事業、平成筑豊鉄道は駅名だけでなく、こうした路線名にまで企業の名前を入れるなど、涙ぐましい営業努力を続けているわけである。

 

静粛性と力強さは究極の域に達したBMW「iX」

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」で取り上げるピュアEV。新世代BMWを象徴する「iX」。早くからピュアEV市場に進出していたメーカーの最新作だけに、いずれもその完成度の高さが光る。

※こちらは「GetNavi」 2022年7月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

早くからEVを手掛けてきたBMWの真骨頂的モデル

EV

BMW

iX

SPEC【xDrive50】●全長×全幅×全高:4955×1965×1695mm●車両重量:2530kg●パワーユニット:電気モーター×2●バッテリー総電力量:111.5kWh●最高出力(システムトータル):523PS●最大トルク(システムトータル):64.2kg-m●一充電最大航続距離(WLTCモード):650km

 

 

欧州の自動車メーカーは日本以上に電動化に注力しているが、なかでも早くから本格的に取り組んできたのがBMWだ。スポーティなイメージが強いブランドながら、2014年にはF1から撤退してまで、電動車ブランドの“i”を立ち上げ「i3」を発売。EVであってもBMWらしさを大切にするべく、量産車として初めて車体の大部分にカーボンファイバーを採用するなど、軽量化に取り組んだ。

 

その経験を踏まえてEV専用車の第2弾として送り出されたのが「iX」。フラッグシップでもあり、これ以上ないほどに気合いが入った開発を経て生まれたモデルだ。静かで滑らか、そして力強いのがEVの特徴だが、iXではそれが究極まで磨き上げられている。外界と切り離されているかのような静けさには、ショックを受けるほど。早くからEVを送り出してきたメーカーが本気を出すとここまでのレベルになるのか驚く。ライバルにとっては高いハードルになることは間違いない。

 

[Point 1] 静粛性と航続距離はピカイチ

プレミアムブランドのBMWらしく静粛性の高い走りが自慢。日本仕様はベーシックな40と最大航続距離650kmを実現する50(写真)に加え、まもなくスポーツ性を高めたM仕様もリリース予定だ。

 

[Point 2] ラグジュアリーかつ先進的!

ステアリングが自動運転時代を見据えた形状となるなど、随所で新しさをアピールするインテリア。BMW独自の操作系、iDriveも従来とは別モノ。もちろん高級感の演出にも余念はない。

 

[Point 3] SUV的な用途にも対応する広さを実現

荷室容量は、後席を使用する通常時でも500Lを確保。クロスオーバーモデルながら、SUVの用途としても十分な使い勝手を誇る。

 

[Point 4] 日本の充電規格にも完全適合する

普通充電と高速充電用のポートは1か所にまとめられる。一充電あたりの航続距離は、上級グレードではトップクラスだ。

 

[ラインナップ](グレード:パワーユニット/駆動方式/税込価格)

xDrive40:電気モーター×2/4WD/1070万円

xDrive50:電気モーター×2/4WD/1280万円

M60:電気モーター×2/4WD/未定

 

文/石井昌道 撮影/岡村昌宏(CROSSOVER)

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

2022年上半期メガヒット! 使い勝手がとことん進化したミニバンの絶対王者「ノア/ヴォクシー」

早いもので、2022年ももう折り返し!!ここでは、上半期に売れたモノ・話題になったコトを大きく「家電・デジタル」「レジャー・乗り物」「日用品」「フード」「エンタメ」にカテゴリ分けして総ざらいしていこう。……さて、アナタは全部ご存知ですか!?

※こちらは「GetNavi」 2022年8月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

ノア/ヴォクシー

 

発売から4か月で約15万台を受注!使い勝手がとことん進化したミニバンの絶対王者

日本の狭い駐車場や道路事情にマッチするミニバンの新型ノア/ヴォクシーが売れている。発売後約4か月で約15万台という驚異的な数の受注を獲得したワケを探る。

 

トヨタ

ノア

267万円〜389万円

ノアは2つのフロントマスクを設定する。「エアロモデル」(上写真)は、メッキグリルがサイドまで続く大開口により押し出し感を強調したのが特徴。「ノーマルモデル」は、メッキグリルを抑えたスマートな顔つきになるのが違いだ。

SPEC【ハイブリッドS-Z 2WD】●全長×全幅×全高:4695×1730×1895mm●車両重量:1670kg●パワーユニット:1797cc直列4気筒+モーター●最高出力:98PS(72kW)[95PS(70kW)]/5200rpm●最大トルク:14.5kg-m(142Nm)[18.9kg-m(185Nm)]/3600rpm●WLTCモード燃費:23.0km/ℓ
●[ ]内は電気モーターの数値

 

トヨタ

ヴォクシー

309万円〜396万円

開発責任者によれば、ヴォクシーは先進・独走をテーマに新しいミニバンのスタイルにチャレンジしたという。新型はカスタム系らしく派手な顔つきを好むニーズに応え、迫力ある大開口グリルが特徴だ。

 

↑クリアレンズと左右のテールランプをつなぐ2本のメッキラインを配置。赤いテールランプのノアと異なる印象だ

 

狭い場所でも出し入れが可能

自動駐車機能にアプリから遠隔操作できるリモート機能も搭載。並列、縦列駐車に対応する。操作できるのは免許を持っている人のみ。

 

 

「ハイテク+からくり」でかゆいところに手が届く

最新のハイブリッドシステムに加えて、“歩行者の横断”“飛び出してくるかもしれない”などのリスクを先読みする「プロアクティブドライビングアシスト」を搭載し、満を持して登場。従来、先進技術や装備は高級車から採用されてきたが、レクサスに続きトヨタブランド初の機能を満載している。とはいえシビアな普及価格帯だけに、コストがあまりかからない“からくり”を使った装備を用意。電動パワースライドドアに連動する「ユニバーサルステップ」や、リアゲートを任意の位置に手で停止できる「フリーストップバックドア」もからくり仕掛けになっている。

最新デジタルとアナログ技術の融合は、日本のモノ通リを象徴している。価格と使い勝手の高さのユーザーメリットは絶大だ。

 

【ヒットの裏付け】 値引きなしでも爆売れし納期待ちは最短でも半年

両モデル併せて発売1か月で約7万台を受注というスタートダッシュを決めた。月間販売目標台数はノアが8100台、ヴォクシーが5400台なので、5倍強の受注を獲得したことに。なお、某販売店で聞いたところノアのハイブリッド仕様が特に人気で、納車は1年近くになりそうとのこと。

3月: 1万4737台

4月: 1万404台

5月: 4877台

データ出典:日本自動車販売協会連合会

 

便利・快適・安心をより向上させる装備がファミリー層を中心に好評を博す

≪座り心地が快適でウォークスルーも可能な7人乗りが圧倒的に人気≫

2列目がキャプテンシートとなる7人乗りが人気。座り心地が良く、3列目へのウォークスルーも可能で乗降性に優れている。

 

≪2列目シートはワンアクションで745mmものスライドを実現≫

先代はロングスライドさせる際、一度横スライドで中央に寄せる必要があった。新型は中央に寄せなくても745mmのスライドを実現。

 

≪ボディ両サイドにスイッチを搭載し任意の位置で停止させられる≫

開閉スイッチをボディ両サイドに移動したことで、開ける際にぶつからないよう注意する必要がなくなった。任意の位置で停止も可能。

 

 

トヨタ担当者に聞いたノア/ヴォクシーの“深イイ”話

トヨタ車体株式会社開発本部領域長

黒柳輝治さん

1989年入社。以来ミニバンの設計に携わる。新型ノア/ヴォクシーでは製品企画を担当している。

 

──発売以来絶好調と聞いていますが、率直な感想は?

 

黒柳 ありがとうございます。先代の良さを継承しつつ、お客様の声を聞きミニバンの便利さを大幅に進化させたことが支持されてうれしいです。

 

──前モデルも人気でしたが、新型で最も重視した点は?

 

黒柳 新型モデルは使い勝手、快適性の進化に加え、ミニバン初のGA-Cプラットフォーム採用による走りや、最新の先進装備など、ファミリー向けミニバンに求められる便利・快適・安心を重視。徹底的に追求しました。

 

──パワーバックドアの開閉スイッチやフリーストップバックドアが好評です。これらは使い勝手の良さを高めるのにどのくらい寄与している?

 

黒柳 ミニバンのバックドアは開口が大きく利便性が高い一方で、狭い場所では開けられないなど使い勝手の悪さがありました。任意で開口位置を設定できる機能を採用することで、その点を大きく改善しています。

 

──先進装備の「プロアクティブドライビングアシスト」やリモート機能付の「アドバンスパーク」を採用した意味とは?

 

黒柳 先進の安全性能技術をファミリー向けのミニバンで採用することにより、多くのご家族が走行時や駐車の際に安心してお乗りいただくことができます。このような機能をぜひ使用していただきたいと思っております。

 

──新型はどんな方の感性に響いてほしい? またこんな風に使ってもらいたいというオススメは?

 

黒柳 家族や仲間との時間を大切にする方に乗っていただけたらと思います。ショッピングやキャンプなどのレジャーだけでなく、その過程のドライブもイベントとして楽しんで、乗る皆さんが笑顔になってほしいですね。

 

 

【ミニバンの絶対王者「ノア」HISTORY】

2001

セミキャブオーバーでFRだったタウンエース時代からFF化された初代。乗降性と快適性が大幅に向上した。

 

2007

ワンタッチで折りたたみ、跳ね上げまでできる3列目のワンタッチスペースアップシートを世界で初採用した。

 

2014

クラス初のフルハイブリッドを設定。高級志向の兄弟車エスクァイアも追加され、3モデルで絶大な人気を誇った。

 

<このミニバンもヒット確実!>

ホンダ

STEP WGN

299万8600円〜384万6700円

初代、2代目をオマージュしたシンプルかつスクエアな外観が目を惹く。後方に行くほどシートの位置が高くなるシアターレイアウトで前方視界が広く、どの席に座っても快適だ。

栄華の跡が色濃く残る「へいちく伊田線」非電化複線の旅を楽しむ

おもしろローカル線の旅89〜〜平成筑豊鉄道・伊田線(福岡県)〜〜

 

1950年代から1960年代にかけて起こった「エネルギー革命」。国内のエネルギー源が石炭から石油へ短期間で変わった。日本一の出炭量を誇り、栄華を極めた福岡県の筑豊地方はその大きな影響を受けたのだった。

 

筑豊を走る平成筑豊鉄道の伊田線(いたせん)。現在も華やかだった時代の残り香が味わえる沿線である。過去の栄光を感じつつ鉄道旅を楽しんだ。

 

*取材は2013(平成25)年7月、2017(平成29)年5月、2022(令和4)年4月3日と7月2日に行いました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
もう二度と列車が走らない−−「日田彦山線」の名物めがね橋を振り返る

↑直方駅近くを走る伊田線の列車。伊田線の複線と、筑豊本線の複線が並んで走る区間だ。右上に直方市石炭記念館が見える

 

【伊田線の旅①】129年前に設けられた石炭運搬路線

30年以上前に筆者は筑豊の直方市(のおがたし)を訪れ、複々線の線路が連なる様子と、華やかで大きなアーチが出迎える商店街に驚かされた。その記憶が今も頭の片隅に残っている。訪れた当時はとうに炭田は閉鎖されていたはずだが、賑わった時代の余韻のような華やかさが感じられたのである。

 

あの華やかな町の面影は今も残っているのだろうか、そんな疑問から今回の旅は始まった。地元の人たちから〝へいちく〟の名で親しまれる平成筑豊鉄道。その伊田線の概略をまず見ておこう。

路線と距離 平成筑豊鉄道・伊田線:直方駅〜田川伊田駅(たがわいたえき)間16.1km 全線非電化複線
開業 1893(明治26)年2月11日、筑豊興業鉄道により直方駅〜金田駅(かなだえき)間が開業。
1899(明治32)年3月25日、金田駅〜伊田駅(1982年に田川伊田に駅名改称)間が延伸開業
駅数 15駅(起終点駅を含む)

 

今から129年前に部分開業した伊田線は、1897(明治30)年に鹿児島本線などを運行する九州鉄道と合併。さらに1907(明治40)年には国が九州鉄道を買収し、官設鉄道の路線となる。終戦前の1943(昭和18)年に印刷された地図が下記だ。この地図を見ると筑豊地方の鉄道網は実に多くの路線があり、支線も多く伸びていたことが分かる。

↑「鐵道路線地図」1943(昭和18)年5月改正版。当時、鉄道職員に配られた地図で伊田線は2本線=複線として描かれている

 

伊田線は直方駅で筑豊本線に接続する。筑豊本線の終点は北九州の若松駅だ。この若松駅の目の前には若松港があり、この港から筑豊炭田で産出された石炭が各地へ輸送された。さらに富国強兵策を進める明治政府が官営八幡製鐵所を北九州・八幡に造り1901(明治34)年に操業を始めた。

 

この製鐵所では大量の石炭が必要となった。伊田線の輸送力を確保したい思惑もあり1911(明治44)年には全線が複線化されている。

 

筑豊炭田は福岡県の北九州市、中間市(なかまし)、直方市、田川市、など6市4郡にまたがって広がっていた。日本一の石炭産出量を誇った筑豊炭田。その採炭量が全国の産出量の半分を占めた時期もあったとされる。そのピーク時は太平洋戦争前後で、筑豊には最盛期、265鉱(1951年度)があった。

 

【伊田線の旅②】全線が非電化複線という路線が今も残る

ところがエネルギー革命が急速に進む。1960年代になると大手企業が採炭から撤退していき、筑豊炭田は1976(昭和51)年の宮田町にある貝島炭礦の閉山により姿を消した。

伊田線の沿線の中で直方市と、田川市が大きな街だが、その人口にもそうした影響が明確に現れている。直方市の人口は1955(昭和30)年には6万3319人で、6万4479人(1985年)まで膨らんだが、2022(令和4年)年6月には5万5735人に減っている。田川市の人口の推移は顕著で、1955(昭和30)年には10万71人を記録したが、2022(令和4年)年7月1日現在で4万5881人と半分以下になっている。

 

炭坑が閉山されたことで、伊田線も大きな影響を受けた。まずは沿線の途中駅から炭田に向けて多くの貨物支線が分岐していたが、1960年から1970年代にかけて貨物支線が次々に廃止され、支線の先にあった貨物駅も閉鎖された。

 

伊田線を走る貨物列車は減少どころか運転すらなくなり、さらに急激な人口減少で利用者も減っていった。1987(昭和62)年4月1日に国鉄分割民営化により路線は九州旅客鉄道(JR九州)に引き継がれ、2年後の1989(平成元)年10月1日には第三セクター経営の平成筑豊鉄道に転換されて現在に至る。

↑伊田線は全線が複線のまま残されている。そこをほとんどの列車が1両で走っている

 

平成筑豊鉄道には今回紹介の伊田線と、田川線(行橋駅・ゆくはしえき〜田川伊田駅間)と糸田線(いとだせん/金田駅〜田川後藤寺駅間)の3路線が移管された。

 

平成筑豊鉄道の田川線、糸田線は全線単線だが、伊田線のみ全線が複線のままで引き継がれ、今も残されている。60年以上も前に多くの炭坑は消えてしまったが、栄華の跡を沿線各地で確認することができ、筑豊炭田が生み出した〝財力〟を偲ぶことができて興味深い。

 

【伊田線の旅③】走る気動車は400形と500形の2タイプ

ここで平成筑豊鉄道を走る車両を見ておこう。平成筑豊鉄道を走る車両は2タイプある。

 

◆400形

↑平成筑豊鉄道の400形。写真は標準タイプで多くがこの塗装が施されている。ベース色の黄色は菜の花をイメージしている

 

平成筑豊鉄道が2007(平成19)年から導入した気動車で、製造は新潟トランシスが担当した。車両は地方鉄道向けの軽快気動車NDCと呼ばれる。全国の多くの路線で見ることができるタイプだ。平成筑豊鉄道の400形は大半が菜の花を意味する黄色ベースに青色、緑色、空色の斜めのストライプが入る。

 

400形には黄色ベースの車両以外に企業の広告ラッピング車両、マスコットキャラクター「ちくまる」をテーマにしたラッピング車などのほかに、「ことこと列車」という名前の観光列車2両が走っている(詳細後述)。

 

◆500形

↑1両のみの500形。外装はレトロ調で、車内も通常の400形とは異なる転換クロスシートが導入された

 

1両のみ2008(平成20)年に製造された車両で、基本構造は400形と同じだが、内外装をレトロ調にした。愛称は「へいちく浪漫号」で、通常の列車に利用されるほか、貸し切り列車として走ることもある。

 

【伊田線の旅④】休日には人気のレストラン列車が走る

400形の401号車と402号車は「ことこと列車」という名前の観光列車に改造されている。同社では「レストラン列車 ゆっくり・おいしい・楽しい列車」としてPRしている。デザインはJR九州などの多くの車両を手がけた水戸岡鋭治氏で、木を多用した内装に変更、外観もお洒落な深紅のメタリック塗装となっている。

 

「ことこと列車」の運転は土日・祝日で、今年は11月27日までの運転の予定だ。1日1便の運行で、直方駅を11時32分に発車、田川伊田駅で折返し、直方駅へ12時35分に戻る。これで終了ではなく、再び直方駅12時57分発、田川線へ乗り入れ、行橋駅14時52分で運転終了となる。

↑今年は4月2日から運転が開始された「ことこと列車」。写真は今年の4月3日に撮影したもので、車内から花見が楽しめた

 

車内では筑豊、京築(けいちく)地方の素材を贅沢に使ったフレンチコース料理6品が提供される。福岡市の「La Maison de la Nature Goh」を展開する料理人・福山剛氏が料理を監修した。旅行代金は1万7800円とちょっと贅沢な観光列車に仕上がっている。

↑水戸岡鋭治氏デザインの「ことこと列車」。内装は木を多用した造り(左上)で、2019(平成31)年3月から運行が始まった

 

【伊田線の旅⑤】直方駅近く複々線の上にかかる跨線橋だがさて?

ここからは伊田線の旅をはじめたい。その前に、30年以上前の脳裏に刻まれた風景をまず確認しておきたい。筑豊本線と伊田線の2本の路線が並び、複々線で走る区間だ。

 

筑豊本線と伊田線の2線が並んで走るのだから複々線でも不思議ではないのだが、30年以上前に訪れたときは線路がなぜ複々線なのか良くわからず、その規模に圧倒されたのだった。当時は4線すべてが非電化で、それも驚かされる要因の1つだったのだろう。筑豊本線(折尾〜桂川間)の電化は2001年(平成13)年のことだった。

 

直方駅から線路に沿って500mほど、石の鳥居が立つ跨線橋の入り口へ到着する。線路を挟んだ高台に多賀神社があり、その参道として設けられた跨線橋が2本ある。この跨線橋は参道跨線橋の2本めにあたり(正式名は「多賀第3跨線人道橋」)、ここで新たな発見をしたのだった。

↑直方駅の東口には力士の銅像が立つ。これは地元出身の魁皇の銅像だ。伊田線の乗り場はこの駅舎の南側に設けられる(左下)

 

跨線橋からは眼下に伊田線の複線と、並んで筑豊本線の複線が見える。複々線だから、列車が頻繁に走ると思うのだが、本数はそれほど多くない。現状の列車本数を考えれば過分にも感じる線路の数である。

 

この跨線橋を越えると「直方市石炭記念館」がある。外には石炭列車の牽引で活躍した複数のSLと、炭坑で使われた小さな電気機関車、さらに「救助訓練坑道」が残されていた。

 

「救助訓練坑道」は救護隊員の養成訓練用に設けられたものだとされる。幼いころに炭坑事故の痛ましいニュースをたびたび見た記憶があるが、こうした事故が起きた時のために救護隊員がいて、さらに養成訓練用の坑道まで設けられたとは、当時の炭鉱の資金力を改めて知ることになった。

↑多賀神社の南側の跨線橋の入り口。跨線橋からは筑豊本線と伊田線を行き来する列車が見える(左上)。架かる橋は不思議な形をしている

 

「直方市石炭記念館」の開館時間は9〜17時(月休)で、掘削、採炭、運搬などの炭鉱に関する貴重な資料が納められている(入館料は100円)。筆者の世代でも知らないことが多い石炭採掘の歴史に触れることができて勉強になる。

 

帰りは複々線を眼下に見て、跨線橋を越えて階段を降りた。振り返ると跨線橋が風変わりな形をしている。下から見上げると跨線橋自体が山形をしていて、中央部が盛り上がっているのが分かった。

 

実はこの跨線橋、転車台の台部分を転用したものだそうだ。上下逆にしてこの跨線橋として使ったそうである。どこの駅の転車台を転用したかは資料がなく定かでないが、中央部がどうりで山形をしていたわけである。ちなみにかつて直方駅構内にも転車台があったそうだ。

↑直方市石炭記念館の正面には貝島大之浦炭坑で半世紀にわたり働き続けたコペル32号が飾られる。右下は救護訓練坑道と使われた機関車

 

複々線区間と石炭記念館、アーケードを通り直方駅に戻る。そして2番線に停車していた田川伊田駅行き下り列車に乗車したのだった。

 

【伊田線の旅⑥】構内が非常に広い途中駅が目立つ

直方駅を発車する列車は1時間に2本が基本で、朝の7時台は3本出ている。列車の半分は伊田線の終点・田川伊田駅まで走り、田川線に乗り入れて行橋駅まで走る。また一部列車は金田駅から糸田線へ乗り入れる。第三セクター経営の路線としては本数が多いといって良いだろう。複線であることが活かされているわけである。ただし、大概の列車は1両編成なのだが。

 

列車はみなワンマン運転で、交通系ICカードは使えない。乗車する駅で整理券を受け取り、下車駅で現金での支払いとなる。1日全線が乗り放題の「ちくまるキップ」は大人1000円、沿線の日帰り湯の入湯料が無料になるなどの特典が付く。車内で販売されているが、有効日を運転士が書き込む手間がかかるために、下車時よりも直方駅(平成筑豊鉄道の改札は無人)などの始発駅で、乗車時にあらかじめ購入しておくことをお勧めしたい。

 

沿線の様子を見ていこう。

 

直方駅を出発した列車は次の南直方御殿口駅(みなみのおがたごてんぐちえき)までは筑豊本線と並行して走る。直方駅から南直方御殿口駅の先まで筑豊本線との並走区間が約1.7kmあり、つまり複々線区間がそれだけ続いていることになる。そして筑豊本線と離れて、左にカーブする。カーブするとすぐに遠賀川(おんががわ)を渡る。

↑直方駅から4つ目の駅、中泉駅は上下線の間が非常に開いていることが分かる。遠賀川を渡る伊田線の橋梁(右上)。

 

遠賀川とボタ山は、筑豊地方のシンボルとして五木寛之氏の小説「青春の門」やリリー・フランキー氏の小説「東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜」で描かれている。そんな遠賀川だが、明治20年代までは嘉麻川(かまがわ)と地図に記されていた。伊田線は1893(明治26)年2月11日開業ということもあり、遠賀川に架かる鉄橋の名前は「嘉麻川橋梁」と名付けられ今に至る。架けられた後に遠賀川という名前が定着していき、一般にもその名で呼ばれたそうである。

 

南直方御殿口駅、あかぢ駅、藤棚駅、市場駅、ふれいあい正力駅、人見駅と、みな平成筑豊鉄道になって設けられた駅である。直方駅〜金田駅間で、古くからある駅は中泉駅と赤池駅のみだ。国鉄もしくはJRから第三セクター鉄道へ移行した後にできた駅は各地に多いが、なぜ国鉄時代に、利用者を考えた駅を設けなかったのか、いつも疑問である。

 

伊田線の古くからある駅は、構内の大きさが目立つ駅が多い。例えば中泉駅。上り下り線用のホームがそれぞれあり、上り下り線の線路の間がとてもあいている。明らかにこの間に線路が昔あり、使われていたと推測できる。調べると中泉駅の近辺には大城(だいじょう)第一駅・第二駅という貨物駅があり、そちらへ向けての支線も設けられていた。中泉駅が集約駅だったようだ。ひと昔前にはこの駅構内は貨車がいっぱい停まっていたのだろう。

 

【伊田線の旅⑦】早春ならば桜がきれいな人見駅がおすすめ

中泉駅と共に古い赤池駅は、かつて近くに赤池炭坑駅があり、赤池駅のすぐ近くには信号場が設けられ、貨物支線がのびていた。このように伊田線には複数の信号場があり、貨物支線が設けられていたが、今はそれらの貨物支線は廃線となり、一方で多くの新駅が設けられていたのである。

 

金田駅の1つ手前の人見駅は開業が1990(平成2)年と、平成筑豊鉄道になって間もなく設けられたが、筆者が好む駅である。春先に訪れたがホームの裏手に桜並木があり、列車と駅と桜の組み合わせが美しかった。

 

美しい桜を目当てに撮影者が複数人訪れていたが、平成筑豊鉄道は、こうした絵になる駅が複数あることも魅力の1つといって良いだろう。

↑4月初旬に桜が満開となった人見駅。番線名は付いていないが、下りホームの裏手に桜が連なっていた

 

【伊田線の旅⑧】車庫がある金田駅で驚いたこと

伊田線の金田駅は平成筑豊鉄道の中心駅と言って良い。同駅構内に本社や車庫がある。運行している列車がみな気動車ということもあり、給油のためこの駅止まりとなる列車もある。平成筑豊鉄道を訪れるたびに途中下車する駅だが、この春に訪れて驚いた。

 

窓口は平日のみの営業となっていて、休日は無人駅となっていた。同社の「鉄印」は、この金田駅のみでの販売となっているのだが、無人の窓口の前になんと、鉄印の販売機が設置されていたのである。鉄印は全国の第三セクター鉄道を中心に40社が、御朱印を集めるように乗りまわろうと始めた企画だ。大半が有人駅で窓口販売となっているが、平成筑豊鉄道の場合、有人駅は平日を除きない。そこで苦肉の策として販売機での配布を始めたわけである。こうした鉄印の配り方ははじめてだった。ここまで省力化が徹底しているとむしろ気持ちが良いぐらいである。

↑平成筑豊鉄道の本社と車庫がある金田駅。休日には窓口に人が不在となるため「鉄印」も販売機での扱いとなる(右上)

 

無事に鉄印を手に入れ、駅の周辺を回ってみる。車庫に停車している車両が良く見えるが、そこに気になる車両が停車している。

 

キハ2004形という形式名の車両だ。この車両は、茨城県のひたちなか海浜鉄道を走っていた車両で、クリーム地に赤帯に塗装されている。これは、かつて九州で走っていたキハ55系の「準急色」であり、形式は違えど、準急「ひかり」のイメージに近かった。ということで有志が平成筑豊鉄道の路線を走らせようとクラウドファンディングで資金を募り、金田駅へ運ばれた車両なのである。

 

2016(平成28)年10月に運ばれた後に、有志の団体「キハ2004号を守る会」が中心となり、きれいに塗装し直して、動態保存されている。守る会により年に数回、運転体験が実施されている。

↑金田駅の車庫で保存されるキハ2004形(今年4月の状態)。左上は搬入され塗装し直した頃の2017(平成29)年5月27日の姿

 

今年の4月に訪れた際には薄い色のせいもあったのか、塗装状態が悪化していて心配したのだが、7月初旬には塗装の一部補修が進められたことが確認できた。

 

車両の保存活動というのは何かと困難がつきまとうと思われるが、なんとか成就していただきたいと願うばかりである。

 

この金田駅からもかつて貨物支線が設けられていた。車庫の西南側、今は立体交差する道路がある付近から三井鉱山セメント(現・麻生セメント)の専用線があった。2004(平成16)年3月25日に同線は廃止されている。ほかの貨物支線よりも長く保たれたが、この廃線により、平成筑豊鉄道での貨物列車の運行が終了している。

↑金田駅の車庫の奥にある検修庫と洗車機。その奥には2010(平成22)年に引退した300形304も保存されている(右下)

 

【伊田線の旅⑨】田川伊田駅の裏手に残る名物二本煙突

金田駅から先の旅を続けよう。金田駅からは1kmほど3本の線路が並行して走る。

 

進行方向左手の2本は伊田線の線路、右の1本は糸田線の線路で、田川後藤寺駅まで向かう。この糸田線の線路が金田駅の南にある東金田踏切の先で、進行方向右手に分岐していく。

↑左2本が伊田線の線路、右にカーブするのが糸田線の線路となる。ちょうど「スーパーハッピー号」403号車が通過した

 

こうした造りを見ると、かつて整備された線路網がそのまま活かされていることが良く分かる。ここまで過分な線路配置は必要ないようにも思えるのだが、大都市に比べて土地に余裕があることも大きいのだろう。

 

金田駅と田川伊田駅の間に、上金田駅、糒駅(ほしいえき)、田川市立病院駅、下伊田駅がある。糒駅を除き平成筑豊鉄道が生まれた後に造られた新しい駅だ。糒駅は前に紹介した中泉駅のように、上り下りの線路の間が離れている。かつてこの駅でも石炭貨物列車の運行が盛んで、引き込み線もあり、貨車の入れ換え作業が頻繁に行われた。

 

糒駅を過ぎると進行方向左手に彦山川が見えてくる。彦山川は前述した遠賀川の支流だ。筑豊本線、伊田線が開業する前は、これらの河川で石炭が運ばれていたそうだ。こうした船運に代わって、鉄道路線が設けられ、徐々に広げられていったわけである。

 

この彦山川が見えてきたら左カーブして終点の田川伊田駅へ入っていく。田川伊田駅止まりの列車は朝夕のみで、大半の列車は平成筑豊鉄道の田川線へ乗り入れて、行橋駅まで走る。

↑お洒落に改装された田川伊田駅。駅内にはホテルなどが設けられる。JRの通路などに一部、古い造りが残される(右上)

 

直方駅から田川伊田駅まで乗車時間が40分弱と短いが、全線複線非電化の旅は終わる。田川伊田駅ではJR九州の日田彦山線と接続し、田川伊田駅の先でなかなか興味深い運転体系が見られるが、今週はここまで。最後に田川伊田駅の話を締めくくろう。

 

田川伊田駅が近づくと「MrMax田川伊田駅」と車内アナウンスが流される。駅名標にもこの名前が記されている。これはネーミングライツの一環によるもので、MrMaxというディスカウントストアが田川伊田駅の権利を購入したことにより、この駅名が案内されている。平成筑豊鉄道では、ほとんどの駅に冠となる施設名がつけられている。その駅名は大企業のみならず、中小企業も名を連ねる。ネーミングライツにより、少しでも営業収益が上げられればという、それこそ涙ぐましい努力がうかがえる。

↑田川伊田駅ではJR九州の日田彦山線と接続する。入線する列車の後ろには2本の煙突が見えているが、この施設は?

 

田川伊田駅の駅舎はここ数年で装いを新たにしていた。3階建ての駅ビルが1990(平成2)年に建てられ、2016(平成28)年に田川市がJR九州から駅舎を購入し、きれいに改装され2019(令和元)年に駅舎ホテルなどがグランドオープンしていた。駅の1階には手作りのパン屋や、うどん屋があり、それぞれ賑わっていた。

 

1950年から1960年代、日本のエネルギーの劇的な変化があった。その変化の大きな影響を受けたのが筑豊だった。炭鉱は消滅したものの、鉄道路線は残され、多くの人々が今も暮らしている。かつての栄華の跡は、そこかしこに残され確認できるものの寂れた印象が感じられた。一方で田川伊田駅の駅名や駅舎などで見られるように、町の玄関口を少しでも活気を持たせようという取り組みも垣間見えてきて、頼もしくも感じたのだった。

↑田川伊田駅の裏手には三井田川鉱業の炭鉱があった。現在は「田川市石炭・歴史博物館」となっている。二本煙突が名物に

 

新時代を感じさせるホイールアーチ! SUVっぽさもあるスポーツモデルSUBARU「WRX S4」を検証

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、SUBARUの象徴的なスポーツモデル「WRX S4」に装着されたホイールアーチについて語った。

※こちらは「GetNavi」 2022年7月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

 

【レビュアーPROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感、クルマを評論する際に重要視するように。

 

安ド

元ゲットナビ編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわる。

 

【今月のGODカー】スバル/WRX S4

SPEC【STI Sport R EX】●全長×全幅×全高:4670×1825×1465mm●車両重量:1600kg●パワーユニット:2.4L水平対向4気筒直噴ターボ●最高出力:275PS(202kW)/5600rpm●最大トルク:38.2kg-m(375Nm)/2000〜4800rpm●WLTCモード燃費:10.8km/L

400万4000円〜477万4000円(税込)

 

ドライブモードの変更で猛烈に刺激的な走りに激変!

安ド「殿! 殿はスポーツセダンがお好きですよね」

 

永福「オッサンだからな」

 

安ド「この新型WRX S4は、スポーツセダンなのにSUV風のホイールアーチがあしらわれていて、なんだか新しいです!」

 

永福「これは新しいのだろうか」

 

安ド「新しいと思います!」

 

永福「このような樹脂製のホイールアーチは、最低地上高の高い、悪路走破性に優れるクルマ用という固定観念があるのだが、このクルマは違う」

 

安ド「高くないんですか?」

 

永福「135mmしかない。BMW3シリーズより5mm低いぞ」

 

安ド「そうだったんですか! コレが付いているから、少し高いのかなと思ってました!」

 

永福「私にはナンチャッテSUVに見える」

 

安ド「個人的にはイケてると思ったんですが……。フロントからサイド、リアまで黒い樹脂パーツで囲ってあって、それがエアロパーツっぽい形状をしているので」

 

永福「SUBARUらしいと言えばらしいのだが」

 

安ド「走りはどうでしたか。ノーマルモードだとなんだかもっさりした印象でしたが……」

 

永福「このクルマは、同社得意のドライブモードセレクトが可能で、走りを5種類から選べる。コンフォートやノーマルだと落ち着いた高級セダンの趣だが、スポーツやスポーツ+にすると、これぞスポーツセダンという走りに激変する。特にスポーツ+は猛烈に刺激的だ」

 

安ド「フェラーリやランボルギーニを乗り継いでいる殿にとっても、猛烈に刺激的ですか!」

 

永福「うむ。アクセルレスポンスが凄まじくシャープになり、ちょっとアクセルを踏むだけで背中を蹴飛ばされたように加速する。しかもCVTが自動的にステップ変速になって、エンジンの回転変化を存分に楽しめるのだ」

 

安ド「そんなに刺激的だったんですか!」

 

永福「ただ、同時にサスペンションも非常にハードになって、オッサンには乗り心地がツラい」

 

安ド「それは残念ですね……」

 

永福「だが心配はいらない。そのためにインディビデュアルモードが用意されている」

 

安ド「そ、それは?」

 

永福「エンジンやサスペンションなど6項目を個別に設定して、好みの走りをアレンジできるのだ。私はスポーツ+をベースに、サスペンションだけコンフォートにしてみたが、これぞ理想のスポーツセダン! という走りになった」

 

安ド「そうだったんですね!」

 

永福「エンジンが2.4Lターボになり、低速からトルクたっぷりなのもオッサン好みだ」

 

安ド「ただ、燃費はイマイチですね。いまどきWLTCモード10.8km/Lというのは……」

 

永福「オッサンもガソリンエンジンも、余命は長くない。いまのうちに乗っておきたいクルマだぞ」

 

【GOD PARTS 1】空力テクスチャー

六角形模様で空気の流れを整える

フロントバンパーからボディサイド、リアバンパーまで、黒い樹脂パーツが車体下部を囲むように取り付けられていますが、よく見ると「ヘキサゴン(六角形)」模様になっていて、これが車体表面の空気の流れを整えてくれるそうです。

 

【GOD PARTS 2】エアインテーク

キャラを強調する空気取り入れ口

ボンネット上にはエンジンルームへ空気を取り入れるための穴が空いています。これが、鋭い目つきのヘッドライトやSUBARU特有の「ヘキサゴングリル」などと相まって、スポーティでアグレッシブなキャラクターを際立たせています。

 

【GOD PARTS 3】インフォメーションディスプレイ

大型タッチパネルで設定をまとめて操作

インパネデザインは車体を共有化する「レヴォーグ」と基本的に同形状で、11.6インチの大型センターディスプレイが採用されています。カーナビ、車両情報、エンタメ、エアコンなど各種設定を、タブレットのようにタッチして操作できます。

 

【GOD PARTS 4】トランスミッション

MTのような感覚で操作できるCVT

これまでの「スポーツリニアトロニック」から名称が変更され、「スバルパフォーマンストランスミッション」となりました。スポーツ+モードでは、CVTながらまるで8速MTのようなスポーティな変速レスポンスを味わうことができます。

 

【GOD PARTS 5】水平対向エンジン

全領域でパワフルかつ加速感が気持ち良い

先代型より排気量が0.4L拡大されて2.4Lになったことで、低い回転域から力強いトルクが発揮されます。さらにターボということで伸びやかな加速感も得られるので、幅広い回転領域でエンジンの魅力を楽しむことができます。

 

【GOD PARTS 6】トランク

日常を犠牲にしない高い実用性を確保

走りのパフォーマンスに優れたモデルながら、4ドアセダンということで日常生活での使い勝手にもしっかりこだわっています。トランクはベビーカーやゴルフバッグが入るよう、幅も奥行きもスペースがたっぷり確保されています。

 

【GOD PARTS 7】レカロシート

高品質な設計と素材で身体をサポート

撮影車両には、上位グレードにオプション設定される「RECARO(レカロ)」社製シートが搭載されていました。RECAROのシートは人間工学に基づいて開発されており、ホールド性、安全性、快適性が高い評価を受けています。表面素材にはウルトラスエードが採用されていて、肌触りも抜群でした。

 

【GOD PARTS 8】アイサイトX

さらに強力になった運転支援システム

SUBARUといえば運転支援システム「アイサイト」ですが、WRX S4の上位グレードには、新世代の「アイサイトX」が搭載されています。新型ステレオカメラは認識力を高め、衝突回避のサポート領域を拡大、運転支援を高度化しています。

 

【GOD PARTS 9】リアスポイラー

印象をガラリと変えた後方の羽の有無

歴代WRXといえば巨大なリアウイングを想像しがちですが、新型ではトランクの後端がニュイっと持ち上がっているだけ。本当にこれだけでダウンフォースが発生するのかどうかは、超高速域で走らせたドライバーのみぞ知ることです。

 

【これぞ感動の細部だ!】ホイールアーチ

SUVのような黒いフチはスポーツモデルにマッチする?

黒い樹脂製のホイールアーチはSUVっぽいアイテムですが、新型WRXはスポーツセダンでも採用されて、新時代のスポーツモデル像を演出しています。SUBARUはラリーイメージの強いブランドなので似合っているかもしれません。形状はカクカクしていて塊感みたいものも感じられます。なお、フロントの空気排出口は穴が空いていますが、リアはダミーでした。

 

撮影/我妻慶一

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

サイバートラック開発で忙しいテスラ、保有ビットコインを75%も売却

米テスラを率いるイーロン・マスク氏は、開発をすすめる電動ピックアップ「サイバートラック(Cybertruck)」が2023年半ばにも納車できるとの見通しを明かしました。一方、同社は保有していたビットコインの75%の売却も明かしています。

 

サイバートラックはまるで屋根のような傾斜したルーフが特徴の、電動ピックアップです。2019年に正式発表されたものの、その納車時期は度々延期されてきました。またマスク氏は以前、その巨大なワイパーのデザインに関する懸念に触れたこともあります。

 

同氏によれば、現時点ではサイバートラックの量産時期は未定だとしています。

 

一方でテスラは昨年、15億ドル(約2000億円)分のビットコインを購入。さらに、支払い方法としてもビットコインを受け付けると発表しました。しかしビットコイン支払いは、その直後に撤回されています。

 

そしてテスラは今回のビットコインの売却により、9億3600万ドル(約1300億円)の現金を調達。これにより、今期は22億6000万ドル(約3100億円)の利益を計上できるとしています。また同社は、現在の残りの「デジタル資産」は2億1800万ドル(約300億円)だと表明しています。

 

以前には「(ビットコインの取り扱いについて)ポンピングはするかもしれないが、ダンピングはしない」と語ったマスク氏。今後も継続的に仮想通貨への関わりを続けるのか、注目が集まります。

 

Source: The Verge 1, 2

もうすぐテスラ車でSteamゲームが遊べる? イーロン・マスクがTwitterで予告

最近ではツイッター社の買収(と撤退希望)でおなじみのイーロン・マスク氏ですが、本来は米EV(電気自動車)メーカー・テスラのCEOです。そのテスラ車につき、マスク氏がSteamゲームがもうすぐ遊べるようになると示唆しています。

↑もうすぐテスラ車でSteamゲームが遊べる?

 

マスク氏はツイートへの返信で「(テスラ車と)Steamの統合を進めている」と述べ、おそらく来月にはデモを見せられるとの趣旨を述べています。

すでにテスラ車では内蔵の「テスラアーケード」を通じて「Cuphead」などが提供され、昨年末にはシリーズ第1作目の「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」がプレイ可能となっています。また「Beach Buggy Racing 2」など、テスラ車のハンドルとアクセル/ブレーキペダルでプレイできるレーシングゲームもあったりします。

今のところSteamのデジタルショップで提供されるのか、より統合が進んでユーザーは車に座ったままゲームを買ったり遊んだりできるのか、サポートされないSteamタイトルがあるかどうかは不明です。

 

マスク氏は、新型のModel SとXのゲーム性能は「PS5レベルと同等」と述べていました。さらに、それらで「Cyberpunk 2077」等が遊べると約束していました が、未だに実行に移されていません。しかし、Steamと統合を進めていくなかで、いずれ約束が守られる可能性もありそうです。

 

今年2月にマスク氏は、「Steamゲームをテスラ車で動かす一般的なケースと特定のタイトルを比べながら作業している」とツイートしていました。つまりマスク氏はAAAタイトルを1つずつ移植するのではなく、Steamを通じて遊べることを目指していると思われます。

 

テスラ社は昨年、運転中にも遊べるゲームがあることが判明して非難が殺到していました。さらにNHTSA(米国運輸省道路交通安全局)からの批判を受けてこの機能を封印していましたが、Steamゲームについても厳しく監視されることになりそうです。

 

Source:Elon Musk(Twitter)
via:The Verge

アウトドアでの便利さに“惚れ”るクルマを深“掘り”! キャンプの相棒5選

クルマはキャンプの相棒として欠かせない存在であり、より個性的なアウトドアライフを楽しみたいならキャンプギアだけでなく“クルマ選び”も重要なポイントになる。ここでは専門家を魅了する5台のモデルを解説する。

※こちらは「GetNavi」 2022年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私が選びました!

自動車ライター

並木政孝さん

元輸入車雑誌編集長である希代の自由人。アウトドアにも精通し、キャンプやカヌー、バス釣りにも傾倒する。

 

選ぶならアウトドアで活躍する機能性と個性を重視

猛威を振るうコロナ禍の影響もあり、野外で楽しめる開放的なキャンプが爆発的なブームを迎えている。週末のキャンプ場が満員御礼の状態になっているいま、ほかのキャンパーとはひと味違うクルマを選ぶことで個性を主張するのもオススメだ。

 

しかし、形ばかりのクルマでは意味を成さず、スタイルに伴う性能を備えていなければならない。オートキャンプや車中泊での利便性、遊び道具を満載できる積載性能、悪路の走破力などアウトドアならではの使い勝手は欠かせない。そして、キャンプという非日常だけでなく、日々の暮らしで使える快適性を合わせ持った二面性を備えたクルマを選ぶことも重要なポイントだ。

 

尖り過ぎない実用性と快適性、そしてキャンプ使用で威力を発揮してくれる個性的なクルマ選びこそが、快適なキャンプには大切だ。それに適した5モデルを紹介しよう。

 

 

「現代アウトドアにピッタリなパワーソース」に“ホレ”る

【その1】家電も使える未来のクルマ電気の力でキャンプを満喫

三菱

アウトランダー PHEV

462万1100円〜532万700円

存在感を示すアウトランダー PHEVは、その名の通り、プラグインハイブリッドのメリットを生かした1台だ。バッテリーからは最大1500Wの電気がアウトップットでき、家庭用の電気調理器や暖房器具の使用を可能とする。

SPEC【P】●全長×全幅×全高:4710×1860×1745mm●車両重量:2110kg●パワーユニット:2359cc直列4気筒+ツインモーター●最高出力:133[116/136]PS/5000rpm●最大トルク:19.9[26.0/19.9]kg-m/4300rpm●WLTCモード燃費:16.2km/L●EV走行換算距離:83km

●[ ]内は電気モーター(前/後)の数値

 

↑フロアコンソールとラゲッジルームの2か所にACコンセントを備え、最大1500Wの電力を供給。ホットプレートや暖房器具も使える

 

↑4輪の駆動力、制動力を最適にコントロールするS-AWC。ツインモーターをと呼ばれる4WD機能が快適かつ安全な走行性能を提供

 

↑開口部の段差をなくした広大なラゲッジスペース。多彩なシートアレンジを可能とし、フラットにすることで荷物を満載できる

 

[ココに“ホレ”た!] 自然にもやさしいPHEVは万一の災害時でも実力発揮

災害時にも威力を発揮するのが大きな魅力。ガソリンが満タン状態なら通常の家庭で、エンジンで発電しながらV2H機器を介して約12日間分の電気を供給可能です!(並木さん)

 

 

「走破性と醸し出す雰囲気」に“ホレ”る

【その2】質実剛健な新型ラングラーでアウトドアの王道を突き進め

ジープ

ラングラー アンリミテッド

704万円〜743万円

2018年にJKからJLへと進化を遂げたものの、ラングラーとしての基本スタイルは踏襲。操縦性、安定性、質感を向上させることで先代モデルの不満を解消している。日常と非日常の楽しさを両立できる憧れの存在だ。

SPEC【RUBICON】●全長×全幅×全高:4870×1895×1850mm●パワーユニット:3604ccV型6気筒●最高出力:284PS(209kw)/6400rpm●最大トルク:35.4kg-m(347Nm)/4100rpm●WLTCモード燃費:8.0km/L

 

↑約800mmの奥行きを持つスクエアなラゲッジは荷物を積みやすい。セカンドシートを倒せば2000Lへと容量を拡大できる

 

↑独立したラダーフレームは負荷にも強く、悪路を走行するジープらしい設計。ボディ自体の耐久性も高くなりライフスパンが長くなる

 

[ココに“ホレ”た!] 年式を経ても味が出て一生付き合える良き相棒

ジープのイメージを踏襲し、時代や年式に左右されることなく乗り続けることができるロングライフは大きな魅力。4WDの走破性能が安心感を提供してくれます。(並木さん)

 

 

「フランス車らしい優雅さ」に“ホレ”る

【その3】キャンプをバカンスに変えるフランス生まれの人気モデル

シトロエン

ベルランゴ

335万8000円〜374万9000円

キュートなスタイルと実用的な室内アレンジを融合させた、フランスのエスプリが漂う一台。「マルチアクティビティビークル」をコンセプトに誕生したモデルだけに、アウトドアでの使い勝手はパーフェクトと言える。

SPEC【SHINE XTR PACK】●全長×全幅×全高:4405×1850×1850mm●パワーユニット:1498cc直列4気筒ディーゼル+ターボ●最高出力:130PS(96kw)/3750rpm●最大トルク:30.5kg-m(300Nm)/1750rpm●WLTCモード燃費:18.0km/L

 

↑約90cmの奥行きを誇るラゲッジ。床下にリヤシートを収納すれば1.7mの長尺モノも収納でき、容量は最大2126Lまで拡大する

 

↑エアチュープ構造のフレームを付属のポンプで膨らませる純正タープを用意。完成サイズはW2500×H1800×D2500mmとなる

 

[ココに“ホレ”た!] フランスは商用車もシャレオツであります!

フルゴネットという商用車をベースに開発され使い勝手は良好。「モジェット」と呼ばれるパノラミックガラスルーフとストレージを一体化した開放的なルーフは絶品です。(並木さん)

 

 

「カスタマイズ性の高さ」に“ホレ”る

【その4】商用車ながらも快適性は抜群でカスタムベースとしても最適!

トヨタ

プロボックス

149万1000円〜201万4000円

アウトドアフリークの間でただいま人気急上昇中なのが、商用ベースの本車。リフトアップキットやキャリアなどのカスタムパーツが続々とリリースされ、手を加えることで精悍なアウトドア仕様へとモディファイ可能だ。

SPEC【F・ハイブリッド】●全長×全幅×全高:4245×1690×1525mm●車両重量:1160kg●パワーユニット:1496cc直列4気筒+モーター●最高出力:74[61]PS/4800rpm●最大トルク:11.3[17.2]kg-m/3600〜4400rpm●WLTCモード燃費:22.6km/L

 

↑商用車として生産されたモデルだけに開口部も広く積載能力は高い。シンプルなラゲッジルームはフラットで、DIYにも最適な設計

 

↑カスタムのトレンドはアウトドアに似合う武骨なスタイル。バンパーガードや大型のパイプ製キャリア、リフトアップに加えマットな塗装を施すことも

 

[ココに“ホレ”た!] 商用バンを大変身させる絶妙なカスタムセンス!

キャンプでの実用性を考えれば商用車の選択もアリ。乗り心地の悪さは新型モデルでは解消されました。カスタマイズすれば快適なアウトドア仕様へ変身します!(並木さん)

 

 

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【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

百聞は一見にしかず!?「西九州新幹線」開業で沿線はどう変わるのか?

〜〜JR九州・西九州新幹線9月23日開業(佐賀県・長崎県)〜〜

 

佐賀県の武雄温泉駅と長崎県の長崎駅を結ぶ西九州新幹線の開業が、9月23日とほぼ2か月後に迫った。すでに試運転列車も走るようになり、新駅の工事も最終段階を迎えている。西九州新幹線の開業で沿線はどのように変わるのか、百聞は一見にしかず、写真を中心に西九州新幹線の今を見ていきたい。

 

*取材は2022(令和4)年7月1日に行いました。2017(平成29)年5月〜2020(令和2)年12月に取材撮影したものも加えています。

 

【関連記事】
進む全国の「鉄道新線計画」−−新幹線をはじめ初のLRT新線計画も

 

【西九州新幹線開業①】武雄温泉駅〜長崎駅間を最速23分で走る

まずはJR九州が発表した西九州新幹線の概要を見ておこう。

 

路線と営業キロ JR九州 西九州新幹線・武雄温泉駅〜長崎駅間69.6km
開業 2022(令和4)年9月23日開業を予定
駅数 5駅(起終点駅を含む)
運転本数 上下47本(武雄温泉駅〜長崎駅間は44本、新大村駅〜長崎駅間が3本)。
朝夕の通勤時間帯は1時間あたり2本、日中の時間帯は1本
所要時間 武雄温泉駅〜長崎駅間は最速で23分

 

路線は上記の地図を見ていただくと分かるように、これまで佐賀〜長崎間を結ぶ長崎本線が有明海沿いに走っていたのに対して、西九州新幹線の路線は、武雄温泉駅から直線的に南西にある大村を目指していることが分かる。そして大村湾に沿うように、諌早駅、長崎駅を目指す。

 

【西九州新幹線開業②】JR九州らしさ満開のN700Sかもめ

走る車両はN700S8000番台で、車両の内外装のデザインはJR九州の多くの車両のデザインを手かけてきた水戸岡鋭治氏が担当した。

 

N700Sのベースとなった車両は、東海道・山陽新幹線用にJR東海が開発した車両で、2018(平成30)年に先行試作車が造られ、長期にわたる試運転を重ねた上に2020(令和2)年に量産車が完成。以降、車両の増備が進められている。

↑西九州新幹線を試験走行するN700S8000番台。白と赤のコントラストが鮮やかな印象で、車体に「かもめ」などの文字も入る

 

西九州新幹線を走る車両は、「九州らしいオンリーワンの車両」をデザインコンセプトとし、東海道・山陽新幹線用が16両編成であるのに対して、短い6両編成となっている。外観のデザインおよび座席などの内装も東海道・山陽新幹線を走るN700Sとはだいぶ異なった印象に仕上げられている。

↑東海道・山陽新幹線を走るN700S。西九州新幹線を走るN700Sと見比べるとかなり異なることが分かる

 

今回の開業に合わせて6両×4編成、計24両が導入された。ベースとなる白い車体に、下部にはJR九州のコーポレートカラーである「赤」を配色。6両のうち長崎駅側が1号車、武雄温泉駅側が6号車となる。1〜3号車が指定席で2席×2席の配置、各車両、唐草(ベージュ)、獅子柄(グリーン)、菊大柄(グレー)と異なった仕様の座席色となる。4〜6号車は2席×3席の配置で、基本の座席カラーはイエローだ。

 

東海道・山陽新幹線を走るN700Sと見比べても、西九州新幹線用の車両は運転席の窓周りが大きくアクセントになっている。また正面にエンブレムが配置されている。帯はJR九州らしく細く赤いラインが入る。最高運転速度は路線の規格に合わせて260km/hと、従来のN700Sの東海道新幹線285km/h、山陽新幹線300km/hの最高運転速度よりも抑え目ながら、水戸岡流の味付けがなされ、乗車時にどのような印象を受けるか楽しみな車両に仕上がっている。

 

【西九州新幹線開業③】武雄温泉駅で「リレーかもめ」から乗換え

ここからは西九州新幹線の新しい駅の姿を見ていこう。撮影は7月初頭のもので、駅の内外観はほぼ完成し、主に駅前の整備工事などが進められていた。まずは西九州新幹線の起点駅となる武雄温泉駅から。

↑博多駅〜武雄温泉駅間は従来の特急「かもめ」に使われた885系が「リレーかもめ」などの特急で運行される予定だ

 

武雄温泉駅は2008(平成20)年にすでに高架化されていて、南側に西九州新幹線の線路が設けられ、さらに駅前の整備工事が進められた。新幹線開業後には博多発の特急と新幹線の乗換えが便利なように、「対面乗換方式」を導入。在来線のホームに「リレーかもめ」などの特急列車が到着、同じホームの向かい側から西九州新幹線の「かもめ」が発着する形となる。

 

訪れた時に、この対面ホームへの入場はかなわなかったが、駅舎入口には「在来線」と、「西九州新幹線」と「リレー特急」は異なる改札口が設けられていた。新幹線と対面乗換え方式で運転される特急は、「リレーかもめ」「みどり(リレーかもめ)」「ハウステンボス(リレーかもめ)」を名乗る予定で、車両は885系6両編成、783系8両編成(もしくは4両編成)が使われる。

↑新幹線側の駅舎・御船山口(南口)の駅前整備工事が進められていた。駅舎内には西九州新幹線・リレー特急のりばもある(右上)

 

駅名どおり、武雄温泉の玄関口にあたる。そこで武雄温泉の観光案内もしておこう。

 

武雄温泉の歴史は古く約1300年の歴史を誇る。温泉街の中心となるのが「武雄温泉楼門」で、ここまで駅から徒歩950m、約12分だ。竜宮城を思わせる朱塗りの楼門が名物で、東京駅のデザインで知られる辰野金吾により設計され、1915(大正4)年に落成した。現在、楼門は国の重要文化財に指定されている。同楼門に隣接して共同浴場があるほか、多くの温泉宿もあり保温性に富んだ弱アルカリ性の湯が楽しめる。

↑楼門口と呼ばれる北口の駅舎。在来線はこの駅舎側の高架上にある。武雄温泉の中心までは1km弱ほど

 

武雄温泉駅の南口は御船山口とも呼ばれる。駅から車で5分ほどの距離にある御船山楽園(みふねやまらくえん)にちなむ。御船山楽園は佐賀藩の領主によって造られた庭園で、ツツジやモミジの名所としてよく知られている。

 

【西九州新幹線開業④】嬉野温泉に初の鉄道駅が誕生する

武雄温泉駅から10.9km、列車は武雄トンネル(1380m)、三坂トンネル(1400m)などのトンネルを抜けて次の駅の嬉野温泉駅(うれしのおんせんえき/住所:佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿甲)へ到着する。

 

新しい駅は嬉野温泉の北東にあたる場所に設けられ、嬉野市初の鉄道駅になる。

↑嬉野温泉駅の駅舎は駅前ロータリーの整備が進む。嬉野温泉の中心部からは約1.7kmの距離があり歩くのはちょっと厳しそうだ

 

嬉野温泉は日本三大美肌の湯にも上げられ、佐賀県内では武雄温泉とともに県を代表する温泉地として人気が高い。これまで武雄温泉駅からバスで約30分と、鉄道+バスの乗り継ぎが必要だったが、鉄道駅の新設で晴れて嬉野温泉の玄関口が誕生する。とはいえ、新駅から温泉の中心地にある「シーボルトの湯」までは徒歩で22分、約1.7kmと、やはりバスかタクシーの利用が一般的になりそうだ。

 

【西九州新幹線開業⑤】最も展望が楽しめる新大村駅付近

嬉野温泉駅から次の新大村駅の間で列車は佐賀県から長崎県へ入る。両駅の間で山越えをすることもあり、新設されたトンネルも多い。

 

俵坂トンネル(5705m)、彼杵(そのぎ)トンネル(2075m)、千綿(ちわた)トンネル(1632m)、江ノ串トンネル(1351m)といった具合にトンネルが連なる。最後のトンネルを抜ければ、眼下に青い大村湾が進行方向右手に見えてくる。新幹線はしばらく大村市内の平野部を走る。右手に大村車両基地を見たら間もなく新大村駅へ到着となる。

↑眼下に大村湾が見えるエリア。同路線で最も眺望の良いポイントとなりそうだ。大村湾上には長崎空港を離発着する飛行機も望める

 

新大村駅(住所:長崎県大村市植松3丁目)の開業とともに、並走する大村線にも新駅が設けられる。新大村駅は既存の大村線の諏訪駅の北側1.2kmほどの距離に生まれる。新幹線開業後は新大村駅と、その北に造られた新幹線の大村車両基地付近にも「大村車両基地駅」が設けられる予定で、大村線の諏訪駅〜松原駅の間に既存の竹松駅以外に新駅が2駅できてより便利になる。

 

ちなみに、従来の大村駅は新大村駅から南へ約3kmの距離にあり、また大村湾上にある長崎空港も、約5kmの距離となる。どちらへも新大村駅前から路線バスが走ることになるのだろう。

↑国道444号沿いにできる新大村駅。同駅舎は東側を向いているが、西側を大村線が並走、ホームも設けられる

 

新大村駅で連絡する大村線は大村湾沿いに走る風光明媚な路線だ。新大村駅から北へ4つめの駅は千綿駅(ちわたえき)で、ホームの目の前が大村湾という風景が素晴らしい駅だ。新幹線開業後にはより便利になりそうで、同駅を訪れる観光客も増えそうだ。

↑大村線の新大村駅から4つめの駅・千綿駅。夕暮れ時は、大村湾越しに夕日が見え美しい

 

【関連記事】
波穏やかな大村湾を眺めて走るローカル線「JR大村線」10の秘密

 

【西九州新幹線開業⑥】駅ホテルの開業で大きく変わる諌早駅

新幹線は新大村駅を発車すると左にカーブ、木場トンネル(2885m)、鈴田トンネル(1756m)を越え右カーブして諌早駅へ入っていく。

 

諌早駅では在来線の大村線、長崎本線と連絡する。さらに島原半島へ向かう島原鉄道の起点駅でもある。新幹線の開業に向けて諌早駅は、橋上駅舎となり、新幹線口にもなる西口に新たな駅舎が設けられ、さらに諌早市の玄関口となる東口の造りも大きく変わった。東口には駅舎とならびホテル、マンションが建ち並び、賑やかに。駅前ロータリーも整備されて、長崎駅とならぶ県内交通の拠点となる。

↑諌早駅の東口。駅の入口は写真の左下となる。駅舎と並び新しいホテルや、マンションが建てられた

 

一方、接続する長崎本線は同駅の区間では非電化となる予定で、ちょっと寂しい一面も(詳細は後述)。新幹線開業という華やかな話題ばかりとはいかない難しさも垣間見える。

 

諌早駅の先で、新幹線と長崎本線とわずかな区間ながら並走する。このあたりは、西九州新幹線も国道207号から良く見える。現在は885系特急形電車で特急「かもめ」が運行されているが、その姿も、新幹線開業日前日の9月22日が見納めとなる。以降、同区間は、非電化区間となりディーゼルカーが走る予定だ。

↑諌早駅の0番線行き止まりホームから発車する島原鉄道線。路線を開設して111年という老舗の鉄道会社でもある

 

↑長崎駅〜諌早駅間を走る試運転列車。諌早駅近くでは長崎本線が高架下を走る(※同写真は分かりやすくするため合成しました)

 

【西九州新幹線開業⑦】西へ大きく移動した新しい長崎駅

諌早駅〜長崎駅間は西九州新幹線の中で最も険しい区間となる。そのため長いトンネルが続く。諌早駅側から久山トンネル(4990m)、経ヶ岳トンネル(1930m)、新長崎トンネル(7460m)といった具合で、新長崎トンネルを抜ければ、間もなく長崎駅へ到着となる。

↑高架化された長崎駅。西口側に在来線の長崎本線の線路がある。長崎本線、大村線を走るYC1系が並ぶ様子が見えた

 

長崎駅へ5年ぶりに訪れて驚いた。これまでの長崎駅は地上駅で、駅前を出ると、長崎電気軌道の長崎駅前電停があったのだが、新たな駅は2020(令和2)年3月28日に西へ150mほど移動し、在来線も高架となっていた。この高架化により在来線の長崎本線の4か所の踏切も閉鎖された。

↑2020年3月まで使われた旧長崎駅。駅の改札口は地上部にあった(左上)。併設のショッピングモールなども再整備が進められていた

 

すでに高架化された駅の下には在来線と新幹線の改札口が用意され、さらに「長崎街道かもめ市場」という名称の大きな土産物街が営業を始めていた。

 

博多駅から長崎駅へはリレー列車+西九州新幹線で、最速1時間20分(武雄温泉駅での乗換え時間も含め)で到着する。現在よりも30分短縮となる。また新大阪〜長崎駅間は3時間59分と30分短くなる。途中の新大村駅や諌早駅、長崎駅と長崎県内の主要駅は新幹線開業の恩恵を受けることになりそうだ。

↑整備が進められる長崎駅東口。これまで駅があった付近の再開発が進められている。路面電車の駅前電停からは右の仮設通路を利用する

 

【西九州新幹線開業⑧】並行する在来線も大きく変わる

西九州新幹線の開業により変わる在来線の変更点もチェックしておきたい。変わるのは長崎本線で、路線の中でも大きく変わるのが肥前浜駅(ひぜんはまえき)〜長崎駅間67.7kmだ。同区間は非電化区間となる。同区間は現在、特急「かもめ」が走っているが、同列車は廃止となる。一方で、肥前浜駅の隣駅、肥前鹿島駅と博多駅を結ぶ特急「かささぎ」が運転される。

 

佐賀と長崎を結ぶ鉄道路線は当初、大村経由で設けられた。開業は1905(明治38)年4月5日までさかのぼる。肥前山口駅〜長崎駅の現在の長崎本線が開業したのは1934(昭和9)年12月1日と、かなり後のことだった。

 

地図を見ると分かるが、沿線には有明海に面した鹿島市以外に大きな町はない。よってJR九州としては、長崎へのメインルートの役目を終わらせ、同区間の路線を非電化にし、気動車を走らせるという選択をした。

↑2018(平成30)年にリニューアルされた肥前浜駅。新幹線開業後は電化・非電化の境界駅になる

 

博多〜佐賀・肥前鹿島間を走る特急「かささぎ」は上り9本、下り8本を運転の予定で、一部の「かささぎ」は門司港・小倉まで走る。また電化・非電化の境界駅となる肥前浜駅では、同一ホームでの電車と気動車列車の対面乗換えが行われるとしている。

 

さらに、佐世保線を走る特急列車の変更も行われる。現在、783系で運行している特急「みどり」は上下32本中、10本が885系で運行となり、時間も短縮され博多〜佐世保間を最速1時間34分で結ばれるようになる。

 

【西九州新幹線開業⑨】沿線からN700S「かもめ」を撮った印象

訪れた7月1日は試運転電車が1時間に1本の割合で運転されていた(日により異なるので注意)。

 

ここではN700S「かもめ」の写真撮影のポイントに関しても触れておきたい。筆者は駆け足で巡ったため、ベストポイントで抑えられたかは疑問である。開業後に再び訪れ、落ち着いて撮影できたらと思う。一応、駆け足ながらと前置きをしつつ、撮影地の印象に関して触れておきたい。

↑武雄温泉駅〜嬉野温泉駅間で。俯瞰するポイントでは、写真のように架線が車体を遮る場所も多く、なかなか撮影が難しい路線と感じた

 

巡った感想としては、同じ九州を走る九州新幹線の印象に近いように感じた。九州新幹線では、線路よりも高い位置に立って見下ろす俯瞰(ふかん)するポイントが多い。西九州新幹線も同様で、撮影可能な場所は、トンネルの出入り口の左右が大半となる。西九州新幹線でトンネルの外に出る高架部分は地上よりもかなり高い位置を走る区間が多い。トンネルの出入り口付近は傾斜地が大半で、近づける場所が限られる。私有地にはもちろん入るわけにはいかず、大概が公道からの撮影となる。

 

他の区間と比べて平坦な地形で、地上を走る区間が長い大村市内には撮影できる場所がいくつかあった。しかし、一部は民家に近い場所があり、そのようなポイントでは同線を造った「鉄道・運輸機構」の名で「この場所で撮影禁止」といった貼り紙もされていた。

 

北海道新幹線のように、民家も少なく観光スポットとして新幹線が見える展望台を造っている例もあるが、西九州新幹線の沿線は人里離れた場所がないだけに、撮影する難しさも感じた。

 

【西九州新幹線開業⑩】帰りは特急「みどり」に乗車してみた

長崎本線の特急「かもめ」は廃止されるものの、博多駅から同じ長崎県内の佐世保駅まで走る特急「みどり」は、新幹線開業後も「みどり(リレーかもめ)」および、博多駅〜早岐駅(はいきえき)間は特急「ハウステンボス(リレーかもめ)」と連結して走る。

 

西九州新幹線の取材ルポの帰り道、佐世保駅から特急「みどり」を利用した。乗車したのは17時42分発の博多駅行き。平日の金曜日夕方発ということもあり、どの駅からどのぐらい乗降客があるか気になった。一部は西九州新幹線の開業後の新幹線「かもめ」や「リレーかもめ」の乗客とかぶると思う。

 

783系は西九州新幹線開業後も走るとされている。車両中央に乗降口がある独特のデザインもなかなかユニークだ。さて、佐世保駅から筆者は指定席の確保を目指したものの、窓側はとれず、通路側の席に座った。ちなみに783系特急「みどり」は4両編成で、7・8号車の2両が自由席、6号車が指定席、5号車が半室グリーン席、半室が指定席となる。自由席は佐世保駅から混みあっていて、ほぼ満席となった。一方、佐世保駅からの指定席の乗車率は3割ぐらいだった。

 

早岐駅では特急「ハウステンボス」の連結作業はなかったものの、進行方向を変えて折り返すこともあり8分間停車する。以降、磁器の町・有田に近い有田駅、武雄温泉駅と停車するが、指定席の乗客は1〜2割増えた程度。乗客の増減よりも気になったのは、佐世保線は単線区間が多く、特急列車でも途中駅で行き違い列車の待ち合わせのために、たびたび停車することだ。

↑博多駅〜佐世保駅間を走る特急「みどり」。「ハウステンボス」と連結せず、「みどり」単独で走る列車も多い

 

特急「リレーかもめ」が走る佐世保線の区間は肥前山口駅(新幹線開業後は「江北駅」と改名予定)〜武雄温泉駅間の5駅(起終点駅を含む)区間のみだが、本数の増加に合わせて途中の大町駅〜高橋駅間の複線化工事が進められ、2月27日から複線の利用が始まった。だが、同5駅区間すべて、複線化されていない。肥前山口駅から先は長崎本線と合流、複線区間となり列車もスピードアップした。

 

乗降客の増減だが、肥前山口駅まで特急「みどり」の指定席は5割埋まるぐらいだったが、佐賀駅に到着して、乗客が急に増えた。筆者が座った席の窓側も佐賀駅で着席がある。この日に乗車した「みどり」の佐賀駅発車は18時56分、博多駅には19時34分に到着する。佐賀駅から特急に乗れば40分かからず博多に着いてしまう。要は佐賀県の県庁所在地である佐賀市は、福岡方面からの通勤・通学圏でもあったのだ。

↑佐賀市の玄関口、佐賀駅。福岡の博多駅までは特急で40分弱の距離で、通勤・通学で長崎本線を利用する人も多い

 

九州新幹線と長崎本線は新鳥栖駅(しんとすえき)で連絡する。西九州新幹線は、車輪の幅が調整できるフリーゲージトレイン(軌間可変電車/FGT)を、狭軌の長崎本線と標準軌の西九州新幹線を通して走らせる計画で始まった。ところが試作車で、技術的な問題点が見つかり、頓挫してしまった。

 

武雄温泉駅〜長崎駅は西九州新幹線としてフル規格の新幹線が走る。新鳥栖駅〜武雄温泉駅間はどのような規格で新幹線を走らせるか、結論は出ておらず工事も進められていない。佐賀県は元々、フリーゲージトレインを走らせることで肥前山口駅〜武雄温泉駅間全線の複線化を希望していた。ところが計画が頓挫し、将来が見通せないこともあり、一部区間の複線化工事のみで工事が停止してしまっている。

 

国としては西九州新幹線の全線フル規格化という思惑がある。一方の佐賀県としては現状の特急で十分で、フル規格化により県内の在来線を不便にしたくない、という思いもあるのだろう。応分の費用負担を求められていることもあり、佐賀県は賛成する気配を見せていない。

 

西九州新幹線の沿線を訪ね、帰りに特急「みどり」に乗車してみて、難しい問題が山積し、結論が出しにくいように感じたのだった。

100万円以上の節電効果も。「複数台EV」の効率充電を可能にする「Charge-ment」とは?

日本政府は2030年までに温室効果をもたらす二酸化炭素(CO2)排出量を46%削減する目標を掲げている。そのためには、化石燃料の使用抑制が不可欠だ。

 

身近な脱化石燃料ツールとして挙げられるのが電気自動車(EV)。だが、EVの普及に向けての課題は多く、そのひとつが充電問題だ。この記事で紹介するのは、その課題を解決すべく開発されたソリューション「Charge-ment(チャージメント)」。EVの充電を効率化し、ピーク時の電気使用量抑制などの効果をもたらすという。

 

EVを多数運用する拠点の電力コストを抑える方法

パナソニック エレクトリックワークス社(以下、EW社)が開発した「Charge-ment」は、複数台のEVを同時運用する施設向けの充電インフラソリューションだ。EVを営業車・公用車として利用する企業・公的機関や、カーシェア施設などを、主な導入先として想定している。

↑Charge-mentのロゴ。地球をやさしく包むような輪を模している

 

複数台のEVを充電する施設では、ピーク時の電力使用量が多くなるため、それに従って電気料金、つまり充電コストが大きくなってしまう。ピーク時の電力使用量が大きくなってしまうと、電力契約の基本料金が大きく跳ね上がってしまうからだ。それをどのようにして防ぐのか。Charge-mentの仕組みを紹介しよう。

 

↑一時帰社、帰社のタイミングでは充電台数が増え、使用する電力が増えてしまう

たとえば、10台のEVを運用している拠点があるとする。この拠点での電力使用量がピークに達するのは、無論、10台のEVを駐車し、それらに最大出力で充電を行なっているときである。しかし、10台同時に最大出力での充電を行いさえしなければ、つまり、多数のEV停車時に限って、1台ごとの充電速度を抑制すれば、ピーク時の電力使用量を下げられるのだ。

 

Charge-mentは、多回路エネルギーモニターと連携したクラウドを通して、そのコントロールを自動で行う。どの程度出力を抑えるかは、利用者がオンライン・リアルタイムで調整できるほか、EW社側でも効率化のためのコンサルティングをしてくれるので、EVの運用に支障がでないようにしながら、電力コストを極力抑えられるという仕組みだ。

 

↑Charge-mentを活用して、ピーク時の消費電力を抑制するイメージグラフ。消費電力を、夜間に配分することで、ピーク電力を抑制している

 

EVを10台運用する拠点では、年間で120万円のコスト削減に

Charge-mentによるコスト削減率は大きい。たとえば10台のEVを運用し、それぞれが1日100kmの走行を行う拠点(低圧電力契約)の場合、年間コストはCharge-ment未導入時と比べて、年間約25%、金額にして120万円も節約できるという。(金額の計算は、2022年5月の電気料金をもとに試算)しかも、拠点のEV運用台数が増えれば、そのコスト削減率はさらに大きくなるそうだ。

 

なおCharge-mentは、クラウドと通信するゲートウェイ1つあたり、EV32台までの充電管理に対応している。33台以上のEVを運用する拠点の場合、ゲートウェイを増やして対応することになる。

 

現状では営業車や公用車を運用する拠点への導入が主であるため、一般消費者への恩恵は薄いと思われるかもしれない。だが、企業や自治体の業績は、最終的には消費者に影響してくる。また、カーシェア施設にこれが普及すれば、EVカーシェアの利用料抑制にも一役買うだろう。ましてや、この夏ではピーク電力消費量抑制が社会的なテーマとなっている。その点でも、Charge-mentは社会的意義のあるソリューションといえるだろう。

↑Charge-mentのデモンストレーションが行われている充電ステーション。ステーション上部に、充電中であることを示すChargeのランプが点っている

 

↑使用電源の上限に達している場合、電源に接続しても充電が抑制される。手前の白い車は、電源につながっているものの、全体の使用電源の上限に達しているために充電が行われていない。そのため、Chargeのランプも未点灯だ

 

コスト削減効果を見える化し、運用状況の変化にもスピード対応

Charge-mentには、コスト削減以外の効果もある。それが、EW社による導入後の運用管理によるさらなる効率化アシストと、充電状態やコスト、CO2の削減率の見える化だ。

↑Charge-mentの運用画面。充電状況が一目でわかる

 

Charge-ment導入前にもEW社による運用やコスト削減効果のシミュレーションは行われるが、実際に運用を始めたあとにも、EVの利用状況に応じてさらなる効率化を提案してくれる。そのため導入後に、クルマの利用が増える、減る、という事態が起きてもすぐ対応できるというわけだ。EW社は全国に拠点があるので、運用に問題が起きた場合でもスピード対応をしてもらえる点でも安心感が大きい。

 

Charge-mentのサービス開始は2022年10月と発表されている。また、2030年度までに売上規模を14倍に拡大する目標を掲げているそうだ。

 

EVの普及だけでは、地球温暖化抑止への力は限られている。それでも、毎年のように暑さの記録が更新されるような強烈な猛暑が、少しでも緩和されてほしいと祈ってやまない。Charge-mentは、そのための、小さいながらも確かな、希望の光といえよう。

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クルマはキャンプの相棒として欠かせない存在であり、より個性的なアウトドアライフを楽しみたいならキャンプギアだけでなく“クルマ選び”も重要なポイントになる。本稿では専門家を魅了するホンダ「N-VAN」を解説する。

※こちらは「GetNavi」 2022年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

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自動車ライター

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商用車ながらも快適性は抜群でカスタムベースとしても最適!

クルマはキャンプの相棒として欠かせない存在であり、より個性的なアウトドアライフを楽しみたいならキャンプギアだけでなく“クルマ選び”も重要なポイントになる。本稿では専門家を魅了するトヨタ「プロボックス」を解説する。

※こちらは「GetNavi」 2022年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

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トヨタ

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↑商用車として生産されたモデルだけに開口部も広く積載能力は高い。シンプルなラゲッジルームはフラットで、DIYにも最適な設計

 

↑カスタムのトレンドはアウトドアに似合う武骨なスタイル。バンパーガードや大型のパイプ製キャリア、リフトアップに加えマットな塗装を施すことも

 

[ココに“ホレ”た!] 商用バンを大変身させる絶妙なカスタムセンス!

キャンプでの実用性を考えれば商用車の選択もアリ。乗り心地の悪さは新型モデルでは解消されました。カスタマイズすれば快適なアウトドア仕様へ変身します!(並木さん)

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

 

スバルならではの走りへのこだわりを実感!スバル「ソルテラ」試乗記

スバル初の電気自動車(BEV)スバル「ソルテラ」がいよいよ市場に登場しました。トヨタの「bZ4X」と同じe-TNGA思想をベースにしながらも、生粋のスバルファンを念頭に置いて開発されただけあって、試乗してみるとソルテラからは意外なほどbZ4Xとの違いを実感できました。走りにこだわりを見せたソルテラの試乗レポートをお届けします。

 

【今回紹介するクルマ】

スバル/ソルテラ

※試乗車:ET-SS(AWD)

価格:594万円〜682万円(税込)

 

魅惑的なスタイリッシュなデザイン

ソルテラを前にすると、エクステリアからして姉妹車であるbZ4Xとの違いを明確に示していることがわかります。ソルテラのボディサイズは全長4690mm×全幅1860mm×全高1650mmで、SUVとしては低めのクーペ風の流麗なルーフラインをもっています。Aピラーやリヤウインドウはまるでスポーツカーのような傾斜があり、そのスタイリッシュなデザインにはつい惹かれてしまうほどです。

↑写真はET-HS(AWD)。ボディカラーはツートンを含め、全10色から選べる

 

ソルテラならではのデザインも随所に見ることができます。フロントマスクをスバルの基本モチーフに倣った六角形とし、ヘッドランプもデイライト部分をC字型形状として違いを強調。リアコンビランプもC字型意匠とすることでスバルならではのデザインの統一性を図っています。細かなところでは、充電ポートがあるフタを、bZ4Xが「ELECTRIC」としたのに対し、ソルテラは「EV」として違いを見せています。

↑スバルのアイデンティを示すC字型デイライト

 

↑EV用充電ポートのフタには「EV」のロゴマーク。急速充電と普通充電に対応する

 

インテリアはデザインも含め、基本的にbZ4Xと共通の部分が多くなっています。ダッシュボードは独特の風合いを伝えるファブリック製であることや、航空機のコックピットを彷彿させる12.3インチの液晶パネルによるメーターもほぼ同じデザインです。それでも、オーディオのブランドをbZ4Xが「JBL」としたのに対し、ソルテラは他のスバル車と同様に「ハーマンカードン」を採用しています。シートヒーターの作動範囲に若干変更を加えるなど、このあたりからもスバルらしいアイデンティティを感じさせます。

↑12.3インチディスプレイを備えたナビゲーション&オーディオシステム

 

↑リヤシートバックを前に倒せば広々とした空間。カーゴルームは最大441L(ET-SSは最大452L)と、SUVらしく広々としたスペースを確保している

 

↑他のスバル車と同様にオーディオブランドには「ハーマンカードン」が採用された。写真はカーゴルームに設置されたサブウーファー

 

また、ソルテラにはbZ4Xにはないパドルシフトも備えられました。さらにソルテラは最低地上高が210mmと高めとしています。これは、BEVであってもスバルらしい悪路走破性を確保することが重視されたからなのです。これは後述する雪上での試乗で実感することができました。

↑ 運転機周り。ステアリングには回生ブレーキを細かく調整できるパドルシフトが備わる

 

そして、ソルテラとbZ4Xの最も大きな違い、それは販売方法です。実はbZ4Xはトヨタが運営するサブスクリプションサービス「KINTO」でのみしか買えませんが、ソルテラは他のスバル車と同様、普通にクルマとして購入できます。残価設定ローンを組むことはもちろん、現金でスパッと支払うことも可能です。これは想定する販売台数の違いもあるでしょうが、BEVの販売で慎重を期するトヨタの姿勢がここに現れたのではないでしょうか。
 

雪道、公道で試乗した感想

ソルテラのプロトタイプに最初に試乗したのは、正式な発表を前にした2月のことでした。場所は一面の積雪で覆われた群馬サイクルスポーツセンターで、この時は除雪もままならない雪深い中での試乗会となったのです。本来なら寒さに弱いBEV向けとしてこの場所は適切ではないはずです。それにも関わらずこの悪環境が選ばれたのは、BEVであってもしっかり対応できるソルテラの走りを体験して欲しかったという思惑があったのに他なりません。

↑ ET-HS(AWD)。駆動用リチウムイオン電池の総電力量は71.4kWh

 

ソルテラはEV専用プラットフォームが採用されています。フロア下には71.4kWhの大容量リチウムイオンバッテリーが搭載され、そこから生み出される航続距離はFFで530km前後、AWDで460km前後となっています。そして、雪の中で試乗したのはソルテラのAWDでした。前後に80kW/168.5Nmの出力するモーターを配置し、計160kW/337Nmを発揮します。参考までにFF車は150kW/266Nmのモーターが前輪側に配置されます。

 

スペックからすると、さぞかし強力な加速フィールが体感できるかと想像しましたが、意外にも穏やかです。FF車があることから前輪駆動をメインにしているのかと思いきやそうではなく、後輪駆動をメインとした走りとなっていました。アクセルを踏むと後ろから押し出される感覚が伝わってきます。しかし、穏やかな加速ゆえに雪上でも不安感はまるでなし。むしろ、滑りやすい状況下でもコントロールしやすく安定感があり、「これぞスバルのEVなのか!」と思わせるに充分でした。

↑AWDシステムとして、前輪/後輪をそれぞれ80kWのモーターを個別に駆動する新システムを採用した

 

さらにソルテラにはbZ4Xにはないパドルシフトがあります。これはブレーキ回生の強さを変えるためのものとして搭載されましたが、特にデリケートな雪上路では、下り坂でもフットブレーキを使わずに回生を使って減速できるメリットがあります。bZ4Xにも「Sペダルドライブ」が装備されていますが、きめ細かなコントロールとなればソルテラのパドルシフトに軍配が上がると言っていいでしょう。

↑シフトスイッチは押して回すタイプ。操作スイッチの右上には回生ブレーキとして使うSペダルドライブのスイッチがある

 

次にソルテラに試乗したのはそれから4か月が経った6月。今度は一般道と高速道を含めた公道で試乗しました。

↑埼玉県長瀞から都心に向けて少し長めの試乗

 

シートに改めて座ってみると、その着座位置が若干高めであることに気付きます。これはフロアにバッテリーを搭載したことによるものですが、SUVとして考えればこのアイポイントの高さが前方視界の広さをもたらし、これが走行中の安心感も生み出してくれています。メーターはステアリング越しの奥に見通せる仕掛けで、最小限の視線移動で走行情報が得られるというもの。これはこれで近未来的ではありますが、一方で表示内容は意外にも普通で、もう少しハイテク感を伝えて欲しかったようにも思いました。

↑ET-HS(AWD)。ブルーステッチのタン本革シートが標準で備わる

 

↑リアシートにもシートヒーターが備わる。後席の足元には、足を伸ばしてくつろげるほどのスペースが広がっている

 

↑リアシートのヒートスイッチは3段階で調整が可能。スマホなどの充電はUSB-Cタイプ

 

スタート直後にステアリングを切ると軽過ぎず、程良い重さの操舵力が伝わってきました。235/50R20(ET-HS(AWD)の場合)サイズのタイヤを履き、ショックオブソーバーの減衰力を強めにセッティングしているにもかかわらず、低速走行中の道路の段差も上手に丸められており、乗り心地は十分に納得できるレベルです。また、遮音性の高さも優れ、高速道路に入るとその静けさはいっそう際立つことになりました。

 

一方で、加速はBEVにありがちな強烈な加速感はありません。しかし、一般道から高速道までどの領域でも俊敏に反応するのはまさにBEVならではの魅力です。ガソリンエンジン車と比較するのも変な話ですが、トルク感からすればあきらかに3Lを超える大排気量車に匹敵するレベルにあると思いました。重心の低さはコーナリングでも高い接地性を発揮し、しかもステアリングを切ったときの回頭性も良好。パドルシフトによるきめ細かな回生は峠道で程良い減速を発揮し、コントロールがとてもしやすいのが印象的でした。

 

もう少し電動車らしさが欲しかった

ソルテラを試乗して実感したのは、これまでのBEVと比べて走りが電動車然としていないことです。強力な加速感もなければ、回生による強い減速Gもなく、ひたすらマイルドに抑えられていたのです。これならガソリン車から乗り換えても違和感はほとんど感じないで済むでしょう。

 

ただ、モーターの制御次第でもっと電動車らしさを発揮できたはずです。開発陣の話では「ガソリン車からの乗り換えユーザーを想定すると、より自然に体感できる制御の方が適切」と考えたということでした。つまり、ソルテラは意識して電動車らしさを打ち消して開発が行われていたのです。

 

たしかにクルマとしての特性が急激に変化すれば、ユーザーは違和感を感じるかも知れません。ただ、個人的にはスバル初のBEVであるわけで、それならばもっと電動車ならではの特徴を活かしたセッティングでも良かったのではないかとも思いました。クルマとしての仕上がりが素晴らしかっただけに、その辺りは残念に思いました。今後、第二弾、第三弾と次期モデルが登場するに従い、そうした特徴がより前面に出てくるのかもしれません。今後の進化に期待したいですね。

 

SPEC【ET-HS(AWD)】●全長×全幅×全高:4690×1860×1650mm●車両重量:2030kg●モーター:フロント・リヤ交流同期電動機●最大出力:フロント・リヤ80kW/4535-12500rpm●最大トルク:フロント・リヤ169N・m/0-4535rpm●WLTCモード一充電走行距離:487km●WLTCモード交流電力量消費率:148Wh/km

 

 

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鉄路が大自然に還っていく!?「根室本線」廃線予定区間を旅する

おもしろローカル線の旅88〈特別編〉〜〜JR北海道・根室本線(北海道)〜〜

 

言い古された言葉ながら「でっかいどお。北海道」地平線まで原野が広がり、サイロがある農家がぽつんと1軒建つ……そんな光景を朝日や夕日が染めていく。北海道のだいご味である素晴らしい景色に出会い感動し、癒される。雄大な北海道のほぼ中央を走る根室本線の一部区間が、いま消えていこうとしている。どのような場所を列車が走っているのか訪れてみた。

 

*取材は2004(平成16)年8月、2009(平成21)年5月、2014(平成26)年7月、2022(令和4)年6月25日に行いました。一部写真は現在と異なっています。

 

【関連記事】
【保存版】2019年春に消える夕張支線の旅は、まさにびっくりの連続だった

 

【根室本線の旅①】明治期、路線開業は大自然との戦いだった

JR北海道が2022(令和4)年4月1日に発表した「令和4年度事業計画」の中で次のような一文があった。

 

「持続可能な交通体系の構築については、留萌線(深川〜留萌間)、根室線(富良野〜新得間)の早期の鉄道事業廃止及びバス転換を目指す」とあった。根室本線は「利用が少なく鉄道を持続的に維持する仕組みの構築が必要な線区」としている。

 

根室本線は現在、東鹿越駅(ひがししかごええき)〜新得駅(しんとくえき)41.5kmの間で列車運行が行われておらず、代行バスでの運行が行われている。JR北海道では、不通区間をさらに延長し、富良野駅〜新得駅(路線は上落合信号場まで)81.7km区間の廃止を目指している。富良野駅〜新得駅間はどのような区間なのか、写真を中心に追ってみたい。

 

まずは、根室本線の歴史をひも解いてみよう。廃止が予定されている区間は、大変な苦労の末に先人たちが築いた路線だった。

 

根室本線の起点は函館本線と接続する滝川駅、そして終点は北海道の東端、根室駅へ至る443.8kmの路線である。北海道の鉄道開発は開拓の進行とともに進んでいった。根室本線は道央と道東を結ぶメインルートとして計画され、道東エリアを開発する上で欠かせないルートとされた。同線の計画でネックとなったのが北海道の中央部にそびえる狩勝峠(かりかちとうげ)だった。当時はこの地域は、まさに人跡未踏で探検ルートにされるようなエリアだった。ヒグマやオオカミが多く生息する危険と隣り合わせの場所で、路線造りは困難を極めたとされる。

 

当初の根室本線は、十勝線の名前で旭川駅から路線敷設が進められた。まず富良野駅(当初は下富良野駅)へ到達したのが1900(明治33)8月1日のこと。同年の12月2日まで鹿越駅(しかごええき/廃駅)まで到達。その後に徐々に延ばされ、落合駅まで通じたのが1901(明治34)年9月3日のことだった。この落合駅の東に狩勝峠がある。この狩勝峠の下を通るトンネル工事が岩盤の硬さゆえに困難を極める。苦労の末に狩勝トンネルが開通し、新得駅まで路線が通じたのは1907(明治40)年9月8日のことだった。

↑旧狩勝峠を越える9600形蒸気機関車牽引の貨物列車。長大な編成が根室本線を行き交った(昭和初期の絵葉書/筆者所蔵)

 

さらに滝川駅〜下富良野駅間が1913(大正2)年11月10日に開業した。東端にあたる根室駅まで線路が伸びたのは1921(大正10)年8月5日のこととなる。明治から大正にかけての鉄道工事は、危険をいとわない突貫作業で進められたが、それでも滝川駅〜根室駅間の開業には、20年以上の年月を要したことが分かる。難工事の末に完成した、いわば先人たちの苦労が実った一大路線だったわけである。

 

【根室本線の旅②】ルート変更と石勝線開業で変化が現れる

400kmを越える長大な根室本線を少しでも便利に快適に、また到達時間を短くする工事がその後も進められた。そのひとつが狩勝峠を越える新ルートの建設だった。地図を見ると、旧線は今の国道38号に沿って走っていた。このルートは勾配もきつく、最小180mという半径のカーブが連続する難しい線形で、列車で越えるのは一苦労だった。列車のブレーキが利かなくなり暴走するなどの事故も起きたとされる。

 

この路線を少しでもなだらかに、カーブも緩くした新ルートが1966(昭和41)年10月1日に造られている。峠は新狩勝トンネルで越えた。

 

この新ルートにより列車の運行がスムーズになった。旧狩勝峠の路線は廃線後に、そのカーブや勾配を活かし、狩勝実験線として利用され、その後の車両開発に役立てられている。

 

狩勝峠の新ルートに加えて根室本線を大きく変えたのが1981(昭和56)年10月1日に開業した石勝線(せきしょうせん)だった。石勝線は千歳線の南千歳駅と根室本線の新得駅を結ぶ132.4kmのルートで、北海道の中央部をほぼストレートに通り抜ける。

 

石勝線の開業までは富良野経由で大回りしなければいけなかったが、石勝線に完成により43.4kmものショートカットが可能となった。道央の札幌と、道東の釧路間の特急の到達時間も約1時間短縮された。特急列車の運行だけでなく、貨物列車も石勝線経由の運行に変更されている。

↑旧狩勝峠のルートの途中駅だった新内駅(にいないえき)は、路線廃止後、駅構内には9600形蒸気機関車などが保存されている

 

石勝線が一躍、幹線ルートとなる一方で、富良野を経由した優等列車は一部を除き消滅し、富良野駅〜新得駅間を利用する人は徐々に減っていく。さらに追い討ちをかけるような大きな災害が路線を襲ったのである。

 

【根室本線の旅③】台風により南富良野町内の路線が運転休止に

2016(平成28)年8月31日に列島に上陸した台風10号による豪雨災害は甚大なものとなった。根室本線では富良野駅〜新得駅〜音別駅(おんべつえき)間が不通となった。その年の暮れまでに石勝線トマム駅〜根室本線の音別駅との間は復旧工事が進み、特急の運転が可能となった。ところが、東鹿越駅〜上落合信号場(新狩勝トンネル内の信号場)間では多数の被害箇所が生じてしまい、とてもJR北海道一社では復旧できないと判断され、工事は手付かずの状態になった。そして列車の運行が休止した東鹿越駅〜新得駅の間には2017(平成29)年3月28日から代行バスが運行されるようになった。

↑落合駅〜上落合信号場間の線路の状況。列車が走らなくなり、線路が隠れるほど草木が生え放題に。2022年6月25日撮影

 

JR北海道では「線区別の収支状況」を毎年発表しているが、運行休止後の状況悪化が目立つ。富良野駅〜新得駅間の輸送密度(旅客営業キロ1kmあたりの1日の平均旅客輸送人員)を見ると、運行休止前の2015(平成27)年度の輸送密度が152だったのに対して、2019(令和元)年度が82、最も新しい発表の2021(令和3)年度になると50まで落ち込んでいる。2021(令和3)年度の同区間の営業損益は6億6100万円の赤字と発表された。

 

東鹿越駅〜新得駅間の復旧に関しては、地元自治体との話し合いの場がたびたび持たれた。廃止が予定されている富良野駅〜新得駅(上落合信号場)間の路線と駅は、ほぼ富良野市と南富良野町の2市町の中にある。

 

富良野市、南富良野町の両市町とも、人口減少にあえでいる。富良野市の場合、2000(平成12)年には2万6112人だったのに対して、今年の4月末の人口は2万397人と2万人を割り込みそうだ。一方、南富良野町は2000(平成12)年が3236人だった人口が今年4月には2337人と大幅に減ってきている。過疎化が進み自治体の財政状況も厳しさを増している。昨年11月にJR北海道は、地元自治体に対して鉄道を残す場合には、維持管理費として年間11億円の負担を要請したものの、自治体からは今年の1月に「負担は困難」と回答、鉄道存続が断念されることになった。

 

富良野市、南富良野町ともに、住む人たちの移動はマイカーが基本で、鉄道・バスを利用するのは、中・高校生ら学生がメインとなる。人口減少が著しいこともあり、学生数の増加は見込めない。地方鉄道の難しさが凝縮されたような根室本線の一部廃線化の道筋であった。

 

【根室本線の旅④】たびたび訪れた映画の舞台・幾寅駅はいま?

すでに列車が走らなくなった駅で筆者が良く立ち寄る駅がある。それは幾寅駅(いくとらえき)だ。この幾寅駅は幌舞駅(ほろまいえき)の〝別名〟でも知られている。

 

幾寅駅は1999(平成11)年6月に公開された映画「鉄道員(ぽっぽや)」の舞台として使われた。監督は降旗康男氏、主演は高倉健である。仕事一筋で無骨な鉄道員・佐藤乙松を高倉健が好演した。

 

映画の中で幾寅駅は幌舞駅とされ、行き止まり式のホーム(実際の駅は行き止まりではない)にキハ40形が到着する姿が描かれた。懐中時計を見つつ遅れを気にする健さん演じる幌舞駅長。列車が駅へ到着すると「ほろまい、ほろまい」と駅名を連呼する姿が筆者の記憶にも残っている。

↑幾寅駅の駅舎には幌舞駅という駅名標がかかる。駅舎内には映画「鉄道員(ぽっぽや)」の記念パネルなどが展示されている(右上)

 

↑幾寅駅前には撮影で使われた「だるま食堂」とキハ40形が保存されている。20年以上月日が経ち食堂はだいぶくたびれた趣に

 

幾寅駅は、すでに列車が走らない。今年6月、10年以上ぶりに訪れたが、走らないことにより周囲の自然が駅を飲み込んでいくような印象があった。ちょうど地元の方が草刈りをしていたものの、駅のホームなどの施設も劣化が進んでいた。代行バスが通り、映画ファンたちが多く訪れ、駅は末長く〝幌舞駅〟として残るであろう。だが、幾寅駅としての姿は徐々に消えていき、ホームの案内板などは、見る人もなく風化していくことになりそうだ。

↑2009年に訪れたときと同じ場所で今年撮影、対比してみる。名所案内(左)の表示はすでに文字が消え線路端まで草が忍び寄る

 

【根室本線の旅⑤】富良野駅は観光拠点として活気があるものの

ここからは、現在列車が走るものの、廃線となる予定の区間の沿線や駅を訪ねてみたい。まずは富良野駅から。北海道のほぼ中央にある富良野は、〝北海道のへそ〟とも呼ばれている。富良野、そして北にある美瑛(びえい)にかけては、道内でもトップを争うほどの人気観光地となっていて、6月から7月にかけて、名物のラベンダーが咲くエリアは観光客で賑わう。

 

根室本線の滝川駅〜富良野駅間では、札幌駅から直通で運転される特急「フラノラベンダーエクスプレス」が今年の8月28日まで走る(詳細は後述)。運転にはラベンダーのイメージにあわせたキハ261系5000番台ラベンダー編成が使われている。

↑富良野市の表玄関、富良野駅。根室本線と富良野線の連絡駅でもあり、夏期と冬期の観光時期にはかなりの賑わいを見せる

 

↑ラベンダーの花の色に合わせラベンダー塗装が施されたキハ261系5000番台。夏期は札幌駅〜富良野駅間を1日1往復走っている

 

↑富良野駅で「フラノラベンダーエクスプレス」と「富良野・美瑛ノロッコ号」が並ぶ。列車が到着するとホーム上は観光客で賑わう

 

特急「フラノラベンダーエクスプレス」の運転に合わせて、富良野駅と美瑛駅、旭川駅間を走る「富良野・美瑛ノロッコ号」も8月28日までほぼ毎日に運転されている。詳細は後述するとして、北海道の宝物はやはり観光資源ということがよく分かる両列車である。

 

さて、富良野駅からは根室本線の下り列車が東鹿越駅まで走っている。現在の列車本数は少ない。下り東鹿越駅行きが1日に4本、東鹿越駅発の上り列車は1日に5本だ。すべての列車が東鹿越駅〜新得駅の間で代行バスに連絡している。走るのは朝と、学生たちの帰宅時間に合わせるかのように14時台〜19時台という運転体系となっている。ちなみに同列車は富良野駅〜東鹿越駅間を約45分で走る。

 

【根室本線の旅⑥】人気ドラマの最初の舞台となった布部駅

↑富良野駅の隣の駅、布部駅。駅前の一本松の前に倉本聰さんの「北の国 此処に始る」の案内がかかる

 

富良野駅〜東鹿越駅間を走る列車は、JR北海道のキハ40形で、ほぼ1両で往復している。途中駅の様子を見ていこう。なかなか魅力的な駅が連なる。

 

富良野駅を発車した東鹿越駅行きの列車は、富良野盆地の水田を左右に見て進む。走り始めて約7分、最初の駅、布部駅(ぬのべえき)に到着する。ホーム一面、線路2本の小さな駅だ。駅前に立つ1本の松、その前に木の看板がある。そこには「北の国 此処に始まる」倉本聡とあった。

 

連続ドラマ『北の国から』の主人公らがこの駅に降り立つことから、このドラマが始まった。初回放送は1981(昭和58)年10月9日のことになる。41年前に放送された『北の国から』のドラマが始まった駅がここだったとは、すっかり忘れていた。現地を訪れて改めて駅前に立つと、さだまさしさんが作られた「あ〜ぁ、あぁ……」という歌詞のないドラマの主題歌をつい口ずさんでしまうのだった。

 

ドラマの舞台となった、麓郷(ろくごう)に向けて、かつて東京帝国大学(現・東京大学)の北海道演習林用の森林軌道線が走っていたとされる。1927(昭和2)年から1947(昭和22)年まで走ったそうだが、今はその面影はない。だが、地元を走る道道544号線が「麓郷山部停車場線」の通称名があるように、この道が森林軌道線の走っていた跡と思われる。

 

【根室本線の旅⑦】ルピナスの群生に大感動の新金山駅

布部駅の先、国道237号がより近づいて走るようになる。国道が根室本線をまたいだら、まもなく山部駅(やまべえき)だ。富良野駅〜東鹿越駅の間では駅周辺に最も民家がある駅だ。それでも駅前通りに商店はなく閑散としている。北海道では都市部の主要駅を除いて駅前商店のない駅が目立つ。やはり列車で通勤する人がほぼいないせいなのであろう。

 

さて、山部駅から南下した根室本線の車窓から川の流れが見えてくる。こちらは空知川(そらちがわ)で、この川と国道に沿って山間部を抜ければ南富良野町へ入る。そして最初の駅が下金山駅(しもかなやまえき)だ。この駅、初夏は花の名所になっている。

↑線路沿いに咲くルピナス。7月上旬までが見ごろだとされる。ルピナスの群生地が道内各所にあるが線路端に咲く所は珍しい

 

下金山には誰が植えたのかルピナスが群生していて、6月下旬から7月上旬にかけてピンクや紫色の花を咲かせる。廃線になったら、二度と見ることができなくなる列車とルピナスの花を見て、良い思い出ができたように感じた。

 

下金山駅にも布部駅と同じように、1952(昭和27)まで東京大学農学部北海道演習林用の森林鉄道が設けられていた。駅の北側には貯木場があったそうである。予想以上に駅構内が広いのはそうした森林鉄道があった名残なのだろう。ただし駅構内が広いだけで、森林鉄道の痕跡は何も残っていない。

 

撮影に訪れた日の17時11分着の下り列車から降りた乗客は学生1人。森林鉄道が原野の中に消えていったように、根室本線の思い出も、廃線になって時がたてば、風化していってしまうものかもしれない。

↑ルピナスの花畑の中を走る根室本線の下り列車。こうした美しい光景も近いうちに見られなくなりそうだ

 

【根室本線の旅⑧】金山駅はすでに駅名標が無かったものの

下金山駅を発車した列車は国道237号沿いに走り、空知川を2本の橋梁で渡る。2本の橋梁とも赤く塗られたガーダー橋で、渡る列車が絵になる。このあたりになると建ち並ぶ民家も減っていき、山の中に入ってきたことが強く感じられる。

 

国道沿いにある金山の集落を過ぎたところに金山駅がある。こちらにも他にない〝お宝〟があった。まず駅舎の入口にあるはずの金山駅という駅名標がもうなかった。ホーム側には付いているのだが、駅名標を掲げていないのは、駅名を知っている人しかふだんは乗降しないからなのだろう。

↑表に駅名標がない金山駅。駅舎横にはレンガ造りの「ランプ小屋」が残される。廃駅となった後、このランプ小屋はどうなるのだろう

 

駅舎の近くにレンガ建ての古い「ランプ小屋」が残されていた。ランプ小屋とは灯油などを保管した危険物収納倉庫のこと。電気照明がなかった客車には室内灯としてランプが天井からつるされていた。1900(明治33)年12月2日と富良野駅(開設当時の「下富良野駅」)と並び根室本線の中で最も古い時代に開設された金山駅には、ランプ用の灯油などを保管する施設が必要だったということが分かる。

 

こちらにも1958(昭和33)年まで金山森林鉄道という森林鉄道が走っていたそうだ。場内に上り下り交換設備などもある広い金山駅だが、まったく人の気配がない駅で、かつての栄光の時代を考えると、かなり寂しく感じられた。

↑現在の終着駅、東鹿越駅は民家もない静かな湖畔の駅。ここから先は、新得駅まで代行バス(右)が運行されている

 

金山駅を過ぎると路線は山中へ入る。今、運転される金山駅〜東鹿越駅間は、路線の開設当初とは異なっている。路線と並行して流れる空知川に金山ダムという多目的ダムが造られたためで、現在は「かなやま湖」の湖底に沈んだところに鹿越駅(しかごええき)という駅があった。ダムが造られたことによる水没した地区には261世帯700人が住んでいたというから、現在の「かなやま湖」の湖底には、大規模な集落が広がっていたわけだ。

 

かなやま湖を見下ろす高台に路線は移され、現在の終着駅である東鹿越駅が設けられた。今、駅を取り巻く施設は木材関係のプラント工場のみで民家はない。終着駅というにはあまりに寂しい駅である。

 

かなやま湖畔のレジャー施設は、駅の対岸エリアにあり、駅からはかなり遠い。この1つ先の駅が前述した幾寅駅で、こちらのほうが南富良野町の中心部にあたる。2016(平成28)年8月末の台風災害により大規模な土砂崩れが起こり、路線は寸断されてしまった。幾寅駅まで通じていれば、まだ救いがあったのかも知れない。現在の東鹿越駅の静けさを思うと、残念でしかたがない。

 

【根室本線の旅⑨】末端の〝花咲線〟は乗車客も多めだった

根室本線の富良野駅〜新得駅間は一部が代行バスによって運行され、かろうじて存続されている。しかし、近いうちに廃止される。ところで、根室本線の他の線区の存続は大丈夫なのだろうか。

 

石勝線を含め、新得駅〜釧路駅間は特急列車が走る幹線として機能している。釧路駅〜根室駅間はどうなのだろう。筆者は最東端区間への興味もあり、別名・花咲線とも呼ばれる釧路駅〜根室駅間を訪れてみた。

 

釧路駅〜根室駅間は135.4kmある。特急列車は走っていない。現在は釧路駅発列車が1日に8本、うち夜に走る列車2本は、途中の厚岸駅(あっけしえき)止まり。上りは同じく8本で、朝と夜の2本は厚岸駅〜釧路駅間を走る。要は釧路駅〜根室駅間を走る列車は1日に6往復ということになる。往復6往復のうち一部駅を通過する快速列車「はまさき」と「ノサップ」(下りのみ)が走る。釧路駅〜根室駅間は約2時間半弱とかなりかかる。

 

この路線には、列島の最東端にあたる鉄道の駅・東根室駅と、最東端の有人駅である終着駅の根室駅がある。ともに最果ての駅である。この花咲線の列車はどのような具合なのだろうか。

 

訪れてみると、意外に週末の列車の乗車率が高めだった。例えば、釧路駅始発の下り列車の乗車率は7割ぐらい、さらに根室駅折返し8時24分発の発車時間が近づくと、改札口には30人近くの乗客の列ができていた。とはいえ、1両のみの運行が主なので、乗る人が多いとはいっても延べ乗客数ともなると限りがあるのだが。

↑日本最東端の駅・東根室駅付近を走る花咲線の列車。キハ54形が一両で運行されている。写真は朝一番に走る「快速はなさき」

 

終点の根室駅の駅スタッフに聞いてみると、「週末はいつもこんな感じです」とのことだった。多くが鉄道ファンらしき様子。ただし、釧路駅から始発列車でやってきて、そのままの折返し列車に乗って戻る人の姿が多かった。

 

花咲線の〝盛況〟ぶりは、鉄道ファン効果が大きいように思えた。でも、せっかく根室駅まで乗ってきているのだから、根室駅から東端の納沙布岬をバスで目指すなり、根室市の観光をしても良いのではないだろうかと思った。乗車するのは路線存続のために良いことだと思うのだが、どうも鉄道ファン(筆者も含めてだが)は、一般の観光に興味を示さない人が多いようである。

↑日本列島の最東端にあたる根室本線の東根室駅。住宅地が周囲に建ち並び、最果て感はあまり感じない駅だった

 

前述したJR北海道が発表した2021(令和3)年度の「線区別の収支状況」を見ると花咲線の輸送密度は174で、富良野駅〜新得駅間に比べると3倍の数字が出ている。とはいえ路線距離が長いためか、営業損益は11億6000万円の赤字となる。

 

赤字にはなっているものの、根室という東端の町まで通じる路線ということで、国防という意味合いでも路線を存続させる意味は大きいのであろう。富良野駅〜新得駅間とはちょっと状況が異なるようにも感じた

 

【根室本線の旅⑩】北海道の宝物を見事に生かす2本の観光列車

根室本線の富良野駅〜新得駅の現地を訪れてみて、乗客も少なく、また住む人も徐々に減ってきていて、廃止は致し方ないように感じた。国や道が支援をしない限り、JR北海道一社や地元自治体の力ではどうにもならないように思う。こうした北海道の閑散地区の鉄道はどう残していけば良いのだろうか。好例を、富良野および釧路で見ることができた。

 

富良野や釧路では人気の観光列車が走っている。まずは、富良野線の旭川駅〜美瑛駅〜富良野駅を走る「富良野・美瑛ノロッコ号」。今年は6月11日(土)から走り始め、6月18日(土)〜8月14日(日)までは毎日、8月20日(土)〜8月28日までの土日に走る。運賃プラス840円の指定席料金で利用できる(乗車証明書付き)。列車は旭川駅〜富良野駅間が1往復、美瑛駅〜富良野駅間を2往復走る。運行中にはラベンダー畑で有名な「ファーム富田」の最寄りに「ラベンダー畑」という臨時駅も開設される。

 

ラベンダー畑駅で乗車する利用者の様子を見ていたところ、個人客よりも団体客の乗車が目立った。ラベンダー畑駅から美瑛駅までの乗車時間は約30分、富良野駅までは約25分。美瑛駅や富良野駅へ観光バスが先回りし、団体客を乗せてパッチワークの丘等の人気スポットを巡るのであろう。

↑人気の観光農園のラベンダー畑越しに「富良野・美瑛ノロッコ号」(右下は先頭機関車)と十勝岳を望む

 

一方の釧路では釧網本線の釧路駅〜塘路駅(とうろえき)間を「くしろ湿原ノロッコ号」が走っている。こちらの今年の運行は4月29日から始まり、5月のGW期間中、さらに5月28日(土)からはほぼ毎日、10月10日(祝日)に1往復、夏休みなどは2往復が運転される。一部の日は川湯温泉駅まで延長しての運転もある。この列車も運賃プラス指定席券840円が必要となる。

 

釧路駅から塘路駅までは約45分で、クルマでは入ることができない釧路湿原の魅力が観光列車の車内から楽しむことができる。運転日に塘路駅に訪れると、駅前で観光バスが数台、観光列車の到着を待っていた。これから先の道東観光の続きを、観光バスで楽しもうということなのだろう。

↑根室本線の釧路川橋梁を渡る「くしろ湿原ノロッコ号」。列車はDE10形(左上)と510系客車との組み合わせで走る

 

両列車の運行で良く分かったのは、観光バスとのコラボがより効率的で好まれているということ。さらに一般の利用者は長時間の乗車ではなく、最大45分ぐらいまでの乗車が飽きずに手軽ということなのだろう。さすがに花咲線のように2時間半の乗車となると、かなりの鉄道好きでないとつらいということなのかもしれない。

 

これらの観光列車は、北海道の最大のお宝である観光資源を上手く生かしている列車のように感じた。コロナ禍前に「富良野・美瑛ノロッコ号」は訪日外国人たちでかなりの賑わいをみせていた。今後、どのような人気観光列車を造り、活かしていくかが北海道の路線存続にとって大きいと思われた。

 

JR北海道では近年、廃止路線が毎年のように出てきている。2019(平成31)年4月1日には夕張支線が、2020(令和2)年4月には札沼線(さっしょうせん)の北海道医療大学駅〜新十津川駅間が廃止となった。2021(令和3)年4月1日には、日高本線の鵡川駅(むかわえき)〜様似駅(さまにえき)間が、根室本線と同じように災害による土砂流出による路線不通のまま、復旧することなく廃止に追いやられた。

↑キハ40形で運行される富良野駅発、東鹿越駅行き列車。北海道の自然に包まれ静かに走り去る。寂寥感に身が包まれる思いだった

 

さて根室本線の廃止はいつになるのだろう。札沼線廃止の時に、コロナ禍もあり、残念なことに混乱が起きてしまった。沿線は消えて行く列車に乗ろうとファンが殺到した。こうした前例があるせいなのか、今回巡った根室本線の富良野駅〜新得駅は廃止が決まっているものの、JR北海道からは運行終了日が発表されていない。

 

とはいえ、それほど先のことではないようだ。廃線となると札沼線であったように、最後の乗車をしよう、と訪れる人が極端に増える。札沼線の場合には、混乱を避けるために最終運転日を切り上げることになり、予定通りの最終日までの運行が敵わなかった。コロナ禍も引き続いているため、鉄道会社としては密を避けたいという思いが強いであろう。

 

鉄道ファンが集中すると、日ごろ乗車してきた利用者に迷惑がかかることになる。同じファンとして乗りたい気持ちも分からないわけではないが、長年の列車運行を感謝するとともに、静かに見守ることこそ、鉄道好きの〝使命〟なのではないだろうか。

 

120年以上前に先人たちによって作られた鉄路は、北海道の大自然のなかに静かにのみ込まれ、深い緑の中に再び還っていくことになる。

走るだけで悪路をデータ化! テスラ車両に道路のスキャン機能が配信される

↑Mike Mareen/Shutterstock.com

 

米テスラの電気自動車に、道路をスキャンし穴などを見つける機能の配信が開始されたと、海外テックメディアのElectrekが報じています。

 

もともと、テスラを率いるイーロン・マスク氏は「将来、テスラのオートパイロット機能は道路の穴を発見し、それを記録して回避するミニマップを作成できるようになる」と語ったことがあります。今回の新機能は、それが部分的に実現したことになります。

 

新しいソフトウェアアップデートに含まれる新機能「Tesla Adaptive Suspension」では、テスラの車両が道路の穴をスキャンし、それにあわせてサスペンションを調整することで、車両へのダメージを回避することができます。機能は新型の「モデルS」や「モデルX」のような、アダプティブ・サスペンションを搭載した車種で利用可能です。

 

さらにリリースノートによれば、「テスラ車両が生成した大まかな道路地図データを車両がダウンロードし、利用状況に応じてさまざまな場所で利用する可能性がある」としています。つまり悪路の情報は、テスラ車両が道路を走行すればするほど、より洗練されていくことが期待されるのです。

 

現時点ではこの悪路のスキャン機能はサスペンションの動作にしか反映されませんが、将来的にはオートパイロットや完全自動運転(FSD)にて、穴などを回避できるようになるかもしれません。ネットワークの力でますます賢くなる、テスラ車の今後の発展に期待です。

 

Source: Electrek

キャンプをバカンスに変えるフランス生まれの人気モデル

クルマはキャンプの相棒として欠かせない存在であり、より個性的なアウトドアライフを楽しみたいならキャンプギアだけでなく“クルマ選び”も重要なポイントになる。本稿では専門家を魅了するシトロエン「ベルランゴ」を解説する。

※こちらは「GetNavi」 2022年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私が選びました!

自動車ライター

並木政孝さん

元輸入車雑誌編集長である希代の自由人。アウトドアにも精通し、キャンプやカヌー、バス釣りにも傾倒する。

 

「フランス車らしい優雅さ」に“ホレ”る

シトロエン

ベルランゴ

335万8000円〜374万9000円

キュートなスタイルと実用的な室内アレンジを融合させた、フランスのエスプリが漂う一台。「マルチアクティビティビークル」をコンセプトに誕生したモデルだけに、アウトドアでの使い勝手はパーフェクトと言える。

SPEC【SHINE XTR PACK】●全長×全幅×全高:4405×1850×1850mm●パワーユニット:1498cc直列4気筒ディーゼル+ターボ●最高出力:130PS(96kw)/3750rpm●最大トルク:30.5kg-m(300Nm)/1750rpm●WLTCモード燃費:18.0km/L

 

↑約90cmの奥行きを誇るラゲッジ。床下にリヤシートを収納すれば1.7mの長尺モノも収納でき、容量は最大2126Lまで拡大する

 

↑エアチュープ構造のフレームを付属のポンプで膨らませる純正タープを用意。完成サイズはW2500×H1800×D2500mmとなる

 

[ココに“ホレ”た!] フランスは商用車もシャレオツであります!

フルゴネットという商用車をベースに開発され使い勝手は良好。「モジェット」と呼ばれるパノラミックガラスルーフとストレージを一体化した開放的なルーフは絶品です。(並木さん)

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

プロが認めるドラレコ&電動アシスト自転車の2022年版ベストバイはコレだ!

昨今のライフスタイルに適した生活家電や、トレンドのデジタルガジェット・AV機器など注目のアイテムを、各ジャンルに精通するプロがレコメンド。いま何を買うべきか、迷った際の指針にしてほしい!

※こちらは「GetNavi」 2022年4月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

その1. 360度ドラレコの弱点を克服し映像収集能力で比肩するものなし

カーメイト

ダクション 360D DC4000R

実売価格5万5550円

全天周360度カメラを含む3カメラを搭載したドライブレコーダー。フロントにはオンセミ製、リアカメラにはソニー製の高性能センサーを採用し、夜間撮影も鮮明だ。別売りのオプションと接続すれば駐車中も最大48時間監視でき、トラブル時も安心。

SPEC●モニターサイズ:2.7インチ●撮影画角(フロント/360/リア):水平96×垂直50度、対角119度/水平360×垂直190度/水平131×垂直75度、対角155度●STARVIS:搭載
(リア)●サイズ/質量:W122×H92×D47mm/206g(メイン)

 

私が激推しします!

カーITジャーナリスト

会田 肇さん

自動車雑誌の編集を経てフリーに。カーナビやドライブレコーダーのほか、自動運転技術などにも詳しい。

 

煽り運転トラブルがメディアで取りざたされて以来、関心が高まっているのがドラレコ。会田さんは、従来の360度タイプの弱点を克服した本機に注目している。

 

「高画質な360度ドラレコとして誕生した同シリーズの、第3世代モデル。従来の360度カメラでは解像度不足がネックでしたが、本機は全天周カメラに加え、画角を狭めたフロントカメラが先行車のナンバー読み取り精度を補強します。360度ドラレコの弱点を徹底的に排除して完成させており、信頼性は抜群。映像データの収集能力では、コレの右に出るものはない、とさえ思えます。画質も素晴らしく、走行中の状況を漏れなく捉えます。もしものときの安心につながる各種機能も充実。GPSの位置情報記録機能を備え、データの信頼性を担保します。後から明るさ調整やぼかし処理が行えるPCビューワーも、正確な状況把握を助けます」(会田さん)

 

↑必要十分な2.7インチの液晶を搭載。操作ボタンを4つに絞り、幅広い年代が直感的に操作できるよう配慮した

 

↑役割の異なる3つのカメラが全域をカバー。車両の前後はナンバープレートまでも高画質で記録し、車内や側面は全天周カメラが切れ目なく録画する

 

その2.自転車になかった力強いデザインはバイク好き垂涎!

DINER

WO BIKES M2X-1

25万3000円

東京・西麻布発祥のオリジナルブランドが手掛ける、ストリート仕様のe-bike。パーツ単位で販売する同社のこだわりが細部まで反映されたデザインは出色だ。速度やバッテリー残量は手元のモニターに表示され、機能性も十分。

SPEC●全長×全幅:1750×660mm●重量:38kg●適応身長:160cm以上●バッテリー容量:13Ah●最大アシスト距離:50km●変速段数:外装7段●ブレーキ:機械式ディスクブレーキ●タイヤ:20インチ 4.0ファットタイヤ

 

私が激推しします!

自転車ライター

並木政孝さん

輸入車雑誌の編集長を経てフリーに。釣りやキャンプ、サイクリングと、アウトドアカテゴリ全般をカバーする。

 

精悍な風貌に男心をガッチリ掴まれたと言う並木さんが、本機の魅力を語ってくれた。

 

「バイク乗り垂涎のデザインにビビッときました。モーターサイクル感があるフレームワークや、ダブルクラウンのフロントサスペンションが武骨で素敵。一見“電動バイク”と思わせるインパクトが男心を刺激します。シートと呼びたくなるサドルのシャープさ、トレイルバイクのようなフレームの巧みさなど、微に入り細を穿った斬新なデザインです。ファットバイク的な20インチのタイヤも、自転車の“か細さ”を払拭し、本車の顔として重厚な存在感を放っています。かっこいいeーbikeは100万円もざらの市場で、この価格でこれだけの個性が楽しめ、ライフスタイルを演出してくれるモデルはほかにない。ドラマで木村拓哉さんが乗っていた、カスタムしたヤマハTWが懐かしく感じる同志に刺さるのでは!」(並木さん)

 

↑ハンドルに操作ボタンを装備。ライトの点灯やクラクション、ウインカー、アシストの切り替えがワンタッチで行える

 

↑4.0インチの無骨なファットタイヤが印象的。段差や悪路でも安定感があり、抜群の走破性を誇る

 

質実剛健な新型ラングラーでアウトドアの王道を突き進め

クルマはキャンプの相棒として欠かせない存在であり、より個性的なアウトドアライフを楽しみたいならキャンプギアだけでなく“クルマ選び”も重要なポイントになる。本稿では専門家を魅了するジープ「ラングラー アンリミテッド」を解説する。

※こちらは「GetNavi」 2022年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私が選びました!

自動車ライター

並木政孝さん

元輸入車雑誌編集長である希代の自由人。アウトドアにも精通し、キャンプやカヌー、バス釣りにも傾倒する。

 

「走破性と醸し出す雰囲気」に“ホレ”る

ジープ

ラングラー アンリミテッド

704万円〜743万円

2018年にJKからJLへと進化を遂げたものの、ラングラーとしての基本スタイルは踏襲。操縦性、安定性、質感を向上させることで先代モデルの不満を解消している。日常と非日常の楽しさを両立できる憧れの存在だ。

SPEC【RUBICON】●全長×全幅×全高:4870×1895×1850mm●パワーユニット:3604ccV型6気筒●最高出力:284PS(209kw)/6400rpm●最大トルク:35.4kg-m(347Nm)/4100rpm●WLTCモード燃費:8.0km/L

 

↑約800mmの奥行きを持つスクエアなラゲッジは荷物を積みやすい。セカンドシートを倒せば2000Lへと容量を拡大できる

 

↑独立したラダーフレームは負荷にも強く、悪路を走行するジープらしい設計。ボディ自体の耐久性も高くなりライフスパンが長くなる

 

[ココに“ホレ”た!] 年式を経ても味が出て一生付き合える良き相棒

ジープのイメージを踏襲し、時代や年式に左右されることなく乗り続けることができるロングライフは大きな魅力。4WDの走破性能が安心感を提供してくれます。(並木さん)

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

これが電動自転車? バイク好きに刺さる斬新なデザインの「WO BIKES M2X-1」

昨今のライフスタイルに適した生活家電や、トレンドのデジタルガジェット・AV機器など注目のアイテムを、各ジャンルに精通するプロがレコメンド。いま何を買うべきか、迷った際の指針にしてほしい!

※こちらは「GetNavi」 2022年4月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

電動自転車の常識を覆すデザインは必見

これまで電動アシスト自転車といえば、ファミリーユースを意識した“ママチャリ”スタイルか、スポーティーに楽しめる“スポーツバイク”スタイルの2択だった。そんななか、これまでの電動アシスト自転車の常識を覆すストリートデザインのモデルが登場。その精悍な風貌に男心をガッチリ掴まれたという自転車ライターの並木さんが、本機の魅力を語ってくれた。

 

自転車になかった力強いデザインはバイク好き垂涎!

DINER

WO BIKES M2X-1

25万3000円

東京・西麻布発祥のオリジナルブランドが手掛ける、ストリート仕様のe-bike。パーツ単位で販売する同社のこだわりが細部まで反映されたデザインは出色だ。速度やバッテリー残量は手元のモニターに表示され、機能性も十分。

SPEC●全長×全幅:1750×660mm●重量:38kg●適応身長:160cm以上●バッテリー容量:13Ah●最大アシスト距離:50km●変速段数:外装7段●ブレーキ:機械式ディスクブレーキ●タイヤ:20インチ 4.0ファットタイヤ

 

私が激推しします!

自転車ライター

並木政孝さん

輸入車雑誌の編集長を経てフリーに。釣りやキャンプ、サイクリングと、アウトドアカテゴリ全般をカバーする。

「バイク乗り垂涎のデザインにビビッときました。モーターサイクル感があるフレームワークや、ダブルクラウンのフロントサスペンションが武骨で素敵。一見“電動バイク”と思わせるインパクトが男心を刺激します。シートと呼びたくなるサドルのシャープさ、トレイルバイクのようなフレームの巧みさなど、微に入り細を穿った斬新なデザインです。ファットバイク的な20インチのタイヤも、自転車の“か細さ”を払拭し、本車の顔として重厚な存在感を放っています。かっこいいeーbikeは100万円もざらの市場で、この価格でこれだけの個性が楽しめ、ライフスタイルを演出してくれるモデルはほかにない。ドラマで木村拓哉さんが乗っていた、カスタムしたヤマハTWが懐かしく感じる同志に刺さるのでは!」(並木さん)

 

↑ハンドルに操作ボタンを装備。ライトの点灯やクラクション、ウインカー、アシストの切り替えがワンタッチで行える

 

↑4.0インチの無骨なファットタイヤが印象的。段差や悪路でも安定感があり、抜群の走破性を誇る

 

家電も使える未来のクルマ電気の力でキャンプを満喫

クルマはキャンプの相棒として欠かせない存在であり、より個性的なアウトドアライフを楽しみたいならキャンプギアだけでなく“クルマ選び”も重要なポイントになる。本稿では専門家を魅了する三菱「アウトランダーPHEV」を解説する。

※こちらは「GetNavi」 2022年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私が選びました!

自動車ライター

並木政孝さん

元輸入車雑誌編集長である希代の自由人。アウトドアにも精通し、キャンプやカヌー、バス釣りにも傾倒する。

 

選ぶならアウトドアで活躍する機能性と個性を重視

猛威を振るうコロナ禍の影響もあり、野外で楽しめる開放的なキャンプが爆発的なブームを迎えている。週末のキャンプ場が満員御礼の状態になっているいま、ほかのキャンパーとはひと味違うクルマを選ぶことで個性を主張するのもオススメだ。

 

しかし、形ばかりのクルマでは意味を成さず、スタイルに伴う性能を備えていなければならない。オートキャンプや車中泊での利便性、遊び道具を満載できる積載性能、悪路の走破力などアウトドアならではの使い勝手は欠かせない。そして、キャンプという非日常だけでなく、日々の暮らしで使える快適性を合わせ持った二面性を備えたクルマを選ぶことも重要なポイントだ。

 

尖り過ぎない実用性と快適性、そしてキャンプ使用で威力を発揮してくれる個性的なクルマ選びこそが、快適なキャンプには大切だ。それに適したモデルを紹介しよう。

 

「現代アウトドアにピッタリなパワーソース」に“ホレ”る

三菱

アウトランダー PHEV

462万1100円〜532万700円

存在感を示すアウトランダー PHEVは、その名の通り、プラグインハイブリッドのメリットを生かした1台だ。バッテリーからは最大1500Wの電気がアウトップットでき、家庭用の電気調理器や暖房器具の使用を可能とする。

SPEC【P】●全長×全幅×全高:4710×1860×1745mm●車両重量:2110kg●パワーユニット:2359cc直列4気筒+ツインモーター●最高出力:133[116/136]PS/5000rpm●最大トルク:19.9[26.0/19.9]kg-m/4300rpm●WLTCモード燃費:16.2km/L●EV走行換算距離:83km

●[ ]内は電気モーター(前/後)の数値

 

↑フロアコンソールとラゲッジルームの2か所にACコンセントを備え、最大1500Wの電力を供給。ホットプレートや暖房器具も使える

 

↑4輪の駆動力、制動力を最適にコントロールするS-AWC。ツインモーターをと呼ばれる4WD機能が快適かつ安全な走行性能を提供

 

↑開口部の段差をなくした広大なラゲッジスペース。多彩なシートアレンジを可能とし、フラットにすることで荷物を満載できる

 

[ココに“ホレ”た!] 自然にもやさしいPHEVは万一の災害時でも実力発揮

災害時にも威力を発揮するのが大きな魅力。ガソリンが満タン状態なら通常の家庭で、エンジンで発電しながらV2H機器を介して約12日間分の電気を供給可能です!(並木さん)

 

 

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SL列車だけではない!「真岡鐵道」貴重なお宝発見の旅

おもしろローカル線の旅87〜〜真岡鐵道真岡線(茨城県・栃木県)〜〜

 

茨城県の下館(しもだて)駅と栃木県の茂木(もてぎ)駅を結ぶ真岡(もおか)鐵道真岡線。28年にわたりSL列車が走り、沿線に陶器の町、益子(ましこ)があり訪れる観光客も多い。

 

これまで真岡線に乗った経験があり、良く知っているという方も多いのではないだろうか。筆者も似たような思いを持っていた。だが、細かく乗り歩いて見聞きすると、多くのお宝が眠っていたことが良く分かったのだった。

 

【関連記事】
〝新車両〟導入で活気づく「北条鉄道」で未知との遭遇

 

【真岡線に乗る①】開業したころの真岡線の絵葉書を見ると

最初に真岡線の概要を見ておこう。

路線と距離 真岡鐵道・真岡線/下館駅〜茂木駅間41.9km
開業 1912(明治45)4月1日、官営鉄道の真岡軽便線として下館駅〜真岡(もうか/1988年「もおか」に読み変更)駅間が開業。
1920(大正9)年12月15日、茂木駅まで延伸開業。
駅数 17駅(起終点駅を含む)

 

現在の真岡鐵道の元となった真岡線の歴史は古い。明治の終わりには一部区間ではあるものの下館駅〜真岡駅間が開業している。筆者の手元に古い絵葉書がある。真岡線の七井駅の絵葉書で、古い機関車と駅舎が写り込んでいる。

↑七井駅の大正時代の絵葉書。ホームに停車するのは600形蒸気機関車。絵葉書は筆者所蔵(禁無断転載)

 

七井駅が開業したのは1913(大正2)年7月11日のことなので、絵葉書はそれ以降ののものだと思われる。目を凝らしてみると駅舎の手前に撮影を見守る鈴なりの子どもたちの姿が写り込んでいる。汽車が珍しいのか、写真撮影が珍しいのだろうか。絵葉書に写る汽車や駅舎の形も気になるものの、むしろこの時代の子どもたちが何を見物に来ていたのか興味深い。

 

ちなみに、写っているのは600形機関車と呼ばれる車両で、その612号機。導入したのは東北本線などを建設した日本鉄道で、1890(明治23)年にイギリスのナスミス・ウィルソンという会社が製造したものだった。612号機は真岡線などを走った後、現在の湖西線の前身である江若鉄道(こうじゃくてつどう)に引き取られたとされる。

 

【真岡線に乗る②】2県をまたがる路線ゆえの難しい問題も

真岡軽便線は1922(大正11)9月2日に真岡線と改称される。最盛期は1960年代前半で、上野駅から真岡線へ直通で走る準急「つくばね」が運転された。その後に急行に格上げされたが、1968(昭和43)年に乗り入れが終了となっている。国鉄の路線だった当時から「地域の流動に合わない線形」が問題視された。

通勤や通学は、住んでいる県内で動く傾向が強い。真岡線は下館駅からひぐち駅は茨城県内、久下田駅(くげたえき)から終点の茂木駅までは栃木県内に駅がある。沿線では真岡市が最大の都市となるが、市の調査でも栃木県内での通勤・通学が多く、県をまたいで下館へ出る人は少ない。

 

要は県内での移動が主流で、県をまたいで移動する人は多くないということだ。そのため国鉄当時には、県庁のある宇都宮市との路線新設も計画されたこともあったが実ることはなかった。

 

この線形の問題が国鉄時代に収益悪化にもつながる。真岡線は国鉄時代に特定地方交通線に指定され、JR民営化でJR東日本・真岡線になった1年後の1988(昭和63)年4月11日に真岡鐵道に転換された。

 

現在、真岡鐵道は栃木県と真岡市、茨城県筑西市(ちくせいし)などが主要株主となり第三セクター経営の鉄道会社として運営が続けられている。

 

【真岡線に乗る③】モオカ14形とC12形に加えて

真岡鐵道の車両をここで見ておこう。ここならではのお宝もある。まずはSLもおかの牽引機が欠かせないだろう。

 

◆C12形蒸気機関車66号機

C12形は後ろに石炭や水を積んだテンダーを連結しないタンク式蒸気機関車で、主にローカル線で使われた。真岡鐵道を走るC12形の66号機は1933(昭和8)年11月29日、日立製作所笠戸工場(山口県)で製造された。当初は指宿線(現・指宿枕崎線)で走った後に、東北の小牛田、宮古、釜石、弘前機関区と移る。その後、信州、東北の会津若松と移った引っ越しの多い機関車であった。最後は福島県の川俣線(廃線)の岩代川俣駅(廃駅)まで走り、近隣の団地内で保存された。

↑タンク式蒸気機関車C12形が牽引する「SLもおか」。国内で唯一のC12形の動態保存車両でもある

 

その後に真岡鐵道がSL観光列車の運転を企画していたことから1993(平成5)年から動態復元工事が行われ、翌年の3月27日から「SLもおか」の牽引機として走り始めた。いま、実際にボイラーが生きていて、列車を牽引することができるC12形蒸気機関車は真岡鐵道の66号機のみとなっている。

 

◆50系客車

SLもおかの運行に使われる50系客車はJR東日本から譲りうけたもので、形式名オハ50形2両、オハフ50形1両が使われる。

 

50系は旧型客車と呼ばれた戦前戦後から残る古いタイプの客車を、安全性や居住性という面から刷新した車両で、1977(昭和52)年から1982(昭和57)年にかけて900両以上が製造された。その後に客車列車が淘汰されたことと、一部残った車両は観光列車用に、大幅に改造されて使われたものが多かったこともあり、50系の原形をとどめた車両は今や貴重となっている。つまり、SLもおかに使われる蒸気機関車と客車は、すでに〝お宝〟級の珍しい車両なのだ。

↑SLもおかの客車は国鉄形50系。こげ茶色の塗装で、赤い帯を巻いている。50系の原形をとどめた車両で今や貴重になっている

 

◆モオカ14形

2002(平成14)年から導入が始められた気動車で、現在の列車はこの車両が1両、もしくは2両での運行が行われている。

 

製造は当初は富士重工業だったものの、同社が鉄道車両事業から撤退したことから3号車以降は日本車輌製造が行っている。ちなみに14形の「14」は平成14年から導入されたことによる。座席はロングシート仕様が多いが、一部の車輌はセミクロスシート仕様となっている。

↑モオカ14形は9両が製造された。富士重工業社製は前照灯が中央上部に(左上)。日本車輌製造製は前照灯が上部左右に付く

 

◆DE10形ディーゼル機関車

SLもおかの運転時に、車庫がある真岡駅から下館駅へ客車と蒸気機関車を牽引。またSLもおかの運転終了時に下館駅から真岡駅へ戻る列車(通常列車として営業運行)の牽引を行う。このDE10形1535号機はJR東日本から2004(平成16)年8月に譲り受けたもの。JR貨物やJR旅客各社で今も使われているDE10形だが、急激に車両数が減ってきている。真岡鐵道のDE10も近いうち、希少車両となっていきそうだ。

↑SLもおかの運転終了後、真岡駅の基地へ戻る列車を牽引するDE10形1535号機。国鉄の原色塗装が保たれている

 

他に触れておかなければいけないのは蒸気機関車C11形325号機のことだろう。1998(平成10)年9月に動態復元工事が行われ、その年から真岡鐵道をSLもおかとして走っただけでなく、JR東日本にも貸し出された。SL列車の利用者の減少などの理由から、真岡鐵道での維持が難しくなり、2020(令和2)年に東武鉄道へ譲渡された。東武鉄道では鬼怒川線を走るSL大樹の牽引機となり、早速、2機体制で走り始めている。

 

C11形とC12形の2両で列車を牽引する姿は人気だっただけに、手放さざるを得なかった同社の苦悩を思うとつらいところである。

↑真岡鐵道の所有機だった当時のC11形325号機。C12形との重連運転が行われる日はかなりの賑わいを見せた

 

【真岡線に乗る④】起点の下館駅は水戸線と関東鉄道の連絡駅

さて、ここからは真岡線の旅を始めてみたい。真岡線の起点は下館駅となる。下館駅は茨城県の筑西市の表玄関で、JR水戸線と、関東鉄道常総線との連絡駅となる。

 

列車は朝と夕方を除き1時間に1本の割合で、ほとんどが終点の茂木駅行き。所要時間は下館駅から真岡駅まで約30分、茂木駅までは約1時間15分ほどかかる。なお、SLもおかの運転日は土日祝日が中心で、2022年は12月25日まで運転の予定だ。SLもおかの乗車には運賃に加えて整理券(大人500円、小人250円)が必要となる。

 

真岡線の旅で注意したいことがある。ランチをどこで食べるか、また弁当などをどこで購入するかである。特に親子づれなどでは切実な問題となりそうだ。

↑下館駅の北口。JR水戸線の改札がある。同改札から入り西側にある1番線が真岡線の乗り場となる(右下)

 

駅前にコンビニなどの売店がある駅は限られる。起点となる下館駅も例外ではない。駅のコンビニは平日の朝方のみ、土日・祝日は休業となる。北口駅前には大規模商業施設の建物があるのだが、10年ほど前にショッピングセンターが退店してしまい、現在は筑西市役所となっている。日中に営業の飲食店もほぼない。駅近くに飲食店があるのは真岡駅と茂木駅ぐらいなので注意したい。

 

下館駅を発車する真岡線のみならず、水戸線を含め鉄道の利用者が減少していることを痛感してしまうのである。

 

真岡線の乗車券は、下館駅の窓口でも購入可能だが、SLもおかが走る日には真岡線が発車する1番ホームに真岡鐵道のスタッフが配置されているので、こちらでの購入も可能だ。ただ、益子などでのイベント開催日は、混みあうことがあり、事前に乗車券を購入しておいた方が賢明だ。また、土・日曜、祝日、年末年始などに有効な関東鉄道と真岡鐵道(下館駅〜益子駅間のみ)の共通1日自由きっぷ(大人2300円)が用意されている。関東鉄道と真岡線を通して利用する場合に便利だ。

 

行き止まりの1番線ホームに停車しているのはモオカ14形。訪れた日は益子でイベントの開催があり、早朝から立ち客が出るほどの盛況ぶりだった。ディーゼルカーらしいエンジン音を奏でつつ出発する。水戸線と並行して西へ。そして右へカーブして、水戸線から離れて行く。

↑ひぐち駅へ進入する普通列車モオカ14形。この駅の北側でまもなく栃木県へと入る

 

しばらくは筑西市の住宅街を見ての走行となる。水田風景が見えてきたら、下館二高前駅へ。こちらは真岡鐵道に転換された日にできた駅だ。駅のすぐ近くに中学校と高等学校がある。通学での利用者が予測できたのに、なぜ国鉄の時代に駅を造らなかったのか疑問である。こうした事実を知ると、国鉄時代にもっと利用者のことを考えた細かな鉄道営業をしておけば、まったく違った道が描けたのではないのだろうかと思ってしまう。

 

下館二高前駅を発車すると左手に大きな通りが見えてくる。こちらは国道294号で、真岡鐵道とほぼ並行して走る通りで、付かず離れず茂木近くまでほぼ並行して走る。国道294号は千葉県柏市から福島県の会津若松を結ぶ主要国道だ。この国道沿いに町が発達してきた。

 

次の折本駅も国道の横にあり、その次のひぐち駅も国道にほど近い。このひぐち駅だが、こちらも真岡鐵道となった後の1992(平成4)年開業と比較的新しい駅だ。駅開設時に秩父鉄道の樋口駅と混同を避けるためにひらがな表記とされた。

 

【真岡線に乗る⑤】茨城と栃木の県境にある久下田駅

ひぐち駅の次は久下田駅で、ここから栃木県内の駅となる。真岡線の茨城県の駅は4駅のみで、残り13駅は栃木県内の駅となる。国鉄時代に宇都宮と結びつけるプランも提案されたというから、こうした2県をまたがる路線の難しさというのは、当時から頭が痛い問題だったのだろう。

↑久下田駅から栃木県内の駅となる。1996(平成8)年に現在の立派な造りの駅に建替えられたが、現在は無人駅となっている

 

地図で見ると、久下田駅から栃木県に入るのだが、路線が県境上にあることがわかる。西側の駅出口は栃木県真岡市、線路の東側は茨城県筑西市樋口で、駅舎は西口にあたる栃木県側にある。駅の東側・茨城県側に入口はない。そのために筑西市に住む人たちは、真岡線利用の際にはぐるりと北に回って踏切を渡り、栃木県に入って列車に乗車することなる。茨城県内に住む人たちにとっては厄介な駅の造りとなっているわけだ。

 

【真岡線に乗る⑥】路線で最も賑わう真岡駅とSLキューロク館

真岡市内へ入った真岡線。寺内駅を過ぎれば民家も徐々に増えていき、沿線で一番大きな町の真岡市の玄関駅でもある真岡駅へ到着する。この駅は初めて降りるとややビックリする。駅舎は大きなSLの姿で、入口付近は車輪のデザイン、屋上には前照灯まで付けられる凝りようだ。

↑真岡駅の駅舎。SLの姿が再現されている。真岡鐵道の本社も同駅舎内にある

 

駅の構内に真岡線の車庫があり、モオカ14形が多く停車していたり、SL列車が走らない平日は、蒸気機関車が休息していたりする。車庫には検修庫があり、転車台もあって車両の方向転換が可能になっている。

 

駅舎の南側に隣接して設けられているのが「SLキューロク館」で2013(平成25)年に〝SLが走る町の拠点施設〟として開設された。

 

〝キューロク〟とは大正時代に造られた9600形の愛称で、同館にもその1両である49671号機とD51形蒸気機関車146号機の2両が保存されていて、両機とも圧縮空気により自走できるように整備されている。ほかにも、ここにはお宝車両が多く保存されている。

↑真岡駅(左)と「SLキューロク館」を並べて撮ると、巨大なSLが並ぶように見える。中央に見えるのがD51形146号機

 

圧縮空気により動く9600形とD51形、9600形は車掌車ヨ8000形貨車と連結して運行し、この車掌車への乗車体験や、またD51形は運転体験会も行われる(現在、運転体験会は休止中)。こうした〝イベント〟やグッズなどを除き、無料で入場できるのもうれしい。そのせいもあるのか、週末は多くの親子連れで賑わっている。

 

鉄道好きには、屋内外に珍しい車両が保存されているところも見逃せない。まずは館内に青い客車。こちらは「スハフ44形」で、急行「ニセコ」などの客車として活躍したもの。屋外には無蓋車や木造の有蓋貨物車などが保存される。中でも「ワ11形木造有蓋貨物車」が珍しい。戦前に地方私鉄向けに造られた有蓋の木造貨車で、現存する最も古い車両の1両となっている。車掌が乗り貨物も積めた「ワフ15形貨物緩急車」も他で見ることができない車両である。

↑車掌車ヨ8000形貨車(左端)と連結した9600形蒸気機関車。車掌車との連結走行への乗車も楽しめる(有料)

 

貴重な車両が多く保存されるキューロク館だが、同じ真岡駅構内で気になったことがあった。線路を挟んで、西側にディーゼル機関車や気動車、貨車など何台か留置されている。そこに今やあまり見かけることのない車掌車が3両おかれている。こちらは長らく、屋外に置かれているせいか、一部は天井が抜け落ちていた。こうした車両の保存というのは、非常にお金がかかるし、手間がかかるもの。キューロク館に保存されている車両で精いっぱいというところなのかもしれない。

 

【真岡線に乗る⑦】のどかさが半端ない西田井駅周辺

真岡駅で、つい時間をかけすぎてしまった。先を急ごう。この先、益子駅までは15分、終点の茂木駅までは約40分かかる。ただし、つい立ち寄りたくなる駅も多い。

 

真岡駅の1つ先が北真岡駅。こちらは春先には菜の花と桜が一緒に撮影できるポイントがあり賑わう。数年前に地元の人たちが丹精込めて植えた菜の花が踏みつけられ、無断駐車も問題視された。地元の観光PRの一環であるのに、トラブルが出てしまうところが、非常に残念である。2022年にはコロナ禍で桜の時期に開かれる「一万本さくら祭り」も中止になった。2023年以降の動向が気になるところだ。

 

さて北真岡駅を過ぎると、一面の田園風景が広がる。次の西田井駅(にしだいえき)まで絵になる所が多い。

↑北真岡駅〜西田井駅間は田園風景のなか線路がまっすぐに延びていて絵になる

 

次の西田井駅は筆者がよく途中下車する駅である。とにかくのどかだ。北真岡駅方面へ徒歩5分あまり歩いたエリアには、広々した田園地帯が広がり、路線の両側を細い道が並行するため撮影もしやすい。田園地帯まで行く途中に気になる古い鉄橋を見つけた。その話は後ほどということで、駅に戻る。

↑西田井駅のホームそばに広がる西田井駅前公園。大きな池ではないが、釣り人も複数人訪れている姿が見られた

 

写真撮影を済ませ駅で次の列車を待つ。ホーム横に西田井駅前公園という池のある公園が広がり、つい気になってしまう。釣り糸をたれている人がちらほら。イヌとのんびり散歩する人も見かける。とてものどかで、癒される風景が広がっているのである。

 

【真岡線に乗る⑧】焼き物の町ながら駅から離れるのが難点

西田井駅を過ぎたら益子駅ももうすぐだ。陶器市などのイベントがある日には、この駅まで乗車する人が非常に多くなる。

 

残念なのは駅から陶器専門店が多くある城内坂(じょうないざか)まで約1.5kmの距離があること。筆者はいつもこの距離でめげてしまうのだった。ちなみに、陶器市は春と秋に開催されている。春はGW前後で、秋の陶器市は2022(令和4)年の場合11月3日〜7日の予定となっている。同期間、手ごろな価格で陶器が販売されるので、お好きな方は訪ねてみてはいかがだろう。

↑益子駅を発車する茂木駅行き列車。駅舎はツインタワーが建つ造り(右上)。関東の駅百選にも選ばれた

 

【真岡線に乗る⑨】茂木駅の先の未成線跡が整備されていた

益子駅を発車した列車は、左手に広がる田畑風景を見ながら北上する。七井駅、多田羅駅(たたらえき)と進むうちに、徐々に車窓風景がかわっていき屋敷林や丘陵が見えるようになる。市塙駅(いちはなえき)の先で、路線は大きく右カーブを描く。左右に丘陵が連なり、はさまれるように水田が広がる。進行方向、右側の丘の麓を真岡線がたどり、左の丘の麓を県道宇都宮茂木線がたどる。

 

笹原田駅(ささはらだえき)、天矢場駅(てんやばえき)といずれも1992(平成4)年3月14日に誕生したホーム1つの小さな駅で、駅周辺に民家はあまりない静かな駅である。天矢場駅からは国道123号が真岡線と並行して走るようになる。国道を陸橋で越えると右に見えてくるのが「道の駅もてぎ」。ここは週末になると駐車場がほぼいっぱいになる人気の道の駅で、この近くで、SLもおかの姿を撮影しようとカメラを構える人も多い。

↑道の駅もてぎの緑を背景に走るSLもおか。ここを通過すれば、終点の茂木駅も近い

 

余談ながら、栃木県の自動車の普及率は例年97%前後をしめし、この数字は全国トップクラスとなる。茨城県も同県と似た数字が出ている。世帯当たりの台数は茨城県が全国2位の1.565台、栃木県が全国3位の1.581台となる(2021年、自動車検査登録情報協会調べ)。ちなみに1位は群馬県だ。北関東3県では通勤・通学でマイカーを使う世帯が多いことを物語る。

 

マイカーに慣れてしまうと、あえて鉄道に……とはなりにくいのであろう。さらに県の中心の宇都宮市方面に真岡線の路線は通じていない。このあたりの路線営業の難しさが感じられてしまう。せめて首都圏から真岡線を楽しみに訪れる方は真岡線に少しでも乗っていただけるようお勧めしたい。道の駅の駐車場の混雑ぶりを見ながら、そんなことをふと思うのだった。

↑茂木駅の駅構内にはSLが方向転換するための転車台(左下)がある。駅前からは本数は少ないが宇都宮方面行きバスも出ている

 

列車は終点の茂木駅へ到着。この茂木は、明治期にたばこ産業の発展した町で、最盛期には7つの葉たばこの委託工場があり4000人に上る従業員が勤めたとされる。当時に造られた土蔵造りの商家も残る。駅の近辺には飲食店もありランチ時に便利だ。

 

さて、茂木駅で気になるパンフレットを見つけた。「未成線の旅へようこそ!」というタイトルが付けられたパンフレットで、地元の茂木町役場商工観光課と茂木町観光協会が制作していた。茂木駅の先には、蒸気機関車が転車台で方向転換するために、わずかだが線路が延びている。その先は今どうなっているのだろう。足を向けてみた。

↑茂木駅の北側に延びた線路の先は未成線跡として一部、整備されていた。「未成線へようこそ」という案内も立つ(右上)

 

真岡線の線路の車止めの先に、元線路跡らしき敷地がきれいに整備されていた。真岡線の先は路線計画が戦前に立てられていた。国によって1922(大正11)年4月11日に公布・施行された「鉄道敷設法」には、第38号として茂木駅と水戸を結ぶ路線計画が立てられていた。この路線は長倉線という名前で呼ばれ、実際に1937(昭和12)年3月に着工されていた。1940(昭和15)年にはレール敷設も始められていたとされる。ところが太平洋戦争が始まり工事は中断、敷設されたレールも外されてしまったのである。

 

前述したパンフレットでは、那珂川に近い下野中川駅(しもつけなかがわえき/栃木県茂木町河井)まで建設された5.7km区間が〝未成線ハイキングコース〟として紹介されていた。茂木駅に近いところは、あくまで出発地点にあたるポイントだが、一部が整備されていたというわけである。茂木駅からは、JR烏山線の終点、烏山駅まで線路を延ばす計画もあったとされる。たらればながら、これらの未成線ができていたら、真岡線も異なる姿になっていたかもしれない。

 

【真岡線に乗る⑩】花と絡めて列車を撮影しておきたい

さて、ここからは真岡線沿線のお宝を改めて確認しておきたい。前述したようにまずはC12形蒸気機関車と50系客車が挙げられるであろう。真岡駅の「SLキューロク館」で保存される車両群は希少なものが多い。また西田井駅近くなどの田園風景などもお宝に加えて良いかも知れない。

 

さらに筆者があげておきたいのは、花景色だ。本原稿では写真に含めなかったが、早春の北真岡駅近くの桜と菜の花は人気が高い。ほかにも規模は小さいものの花々を絡めて写真撮影できるところが多々ある。早秋ならば沿線の秋桜が見事だ。みな地元の方が丹精込めて植えたものが多いので、大事にして撮影したいと思う。

↑多田羅駅近くの秋桜畑は人気のスポット。写真は9月末撮影のもの。こうした花々は年によって様子が変わることがあり注意したい

 

↑西田井駅のそばで線路端の草花と絡めてみた。緑豊かな真岡線はこうした構図づくりに困らない路線でもある

 

【真岡線に乗る⑪】鉄橋など古い施設こそ真岡鐵道のお宝

真岡線のお宝という視点で欠かせないのは、古い橋梁であろう。真岡線には鉄橋が46橋梁かかるとされる。さらに明治末期から大正時代にかけて架けられた鉄橋が手付かずのまま残っているところが多い。

 

例えば、益子駅に近い小貝川(こかいがわ)橋梁がある。この橋梁は鋼ワーレントラス(またはポニーワーレントラス)と呼ばれる構造で、日本の鉄道技術の普及に大きな役割を果たしたイギリス人技師のC.A.W.ポーナルの影響が強く見られる。ワーレントラスのなかでも、技師の名前を付けたポーナル型ピントラスと呼ばれ、鉄道草創期の姿を今に残している。

 

小貝川橋梁の骨格をなす橋げた部分は1894(明治27)年製のイギリス、パテントシャフト&アクスルトゥリー社(「Patent Shaft & Axletree」と刻印/現在、同社は消滅)製のものだった。かつて本原稿で樽見鉄道を紹介した時に旧東海道本線の鉄橋を紹介したが、この鉄橋もパテントシャフト&アクスルトゥリー社製のものだった。土木学会選奨土木遺産に2011(平成23)年に認定されている。この小貝川橋梁とともに、真岡線の北真岡駅〜西田井駅間にかかる五行川(ごぎょうがわ)橋梁も同じ会社で橋梁部が製造されたものだった。

 

テーム川の源流にあるイギリス・ウェンズベリーという町で製造された橋梁の鉄骨材料が、海を越えて運ばれ各地で使われていたことが分かった。

 

【関連記事】
郷愁をさそう鉄道風景!?桜も見事な「樽見鉄道」11の面白ポイント

↑益子駅に近い小貝川橋梁を渡る列車。右手の橋の構造がポニーワーレントラスと呼ばれ現役最古の同構造の橋と言われている

 

小貝川橋梁や五行川橋梁だけでなく、小さな橋も実は見逃せないものがあった。例えば、西田井駅近くの赤堀川に架かる小さな橋梁。線路端の道からもレンガ積みの橋脚が良く見える。鉄道草創期の技術を残すもので、緻密さが感じられる。さらに橋げたのガーダー橋梁が気になった。刻印はさびつき見づらかったものの……。

↑西田井駅の近く、赤堀川にかかるガーダー橋。鉄橋の刻印(右上)には、小貝川橋梁と同じくイギリス製であることが分かった

 

枕木の下にちょうど刻印があり、それを拡大して見ると小貝川の橋げたを造った会社と同じ「Patent Shaft & Axletree」とあった。さらに製造年は1900(明治33)年だった。赤堀川を渡る路線区間は1913(大正2)年の開業なので、製造され13年後に使われたこと分かる。どこかの路線で使われた後に、真岡線に転用されたのか不明なものの、一世紀以上前にイギリス・ウェンズベリーで製造された鉄橋が今もこうして役立ち、使われていることが良く分かった。

 

こうした橋梁は真岡線のお宝であり、大事にされてきた鉄橋にはるか昔の刻印を発見できた。真岡線の歴史の奥深さを感じたのである。

ファミリーキャンプで快適に遊べるクルマはどっちだ!? ミニバン両雄徹底解剖

4〜5人が多いファミリーキャンプは当然荷物も多くなる。そんなとき便利なのはやはりミニバンだ。今年モデルチェンジしたミニバンの代表的モデルを、父親モータージャーナリストがキャンプ目線でチェックした。

※こちらは「GetNavi」 2022年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私がチェックします!

モータージャーナリスト

岡本幸一郎さん

幼い男女二児の父。あらゆるカテゴリーの新型車を幅広く網羅する気鋭の日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

【エントリーNo.1】シンプルなデザインに回帰! 進化したe:HEVにも期待

ホンダ

ステップワゴン

299万8600円〜384万6700円(税込)

誕生から25周年を迎えた今年フルモデルチェンジ。初代のデザインをオマージュした直線的でシンプルなデザインが印象的だ。ホンダ独自のセンタータンクレイアウトから生まれる車内高は圧倒的で、大きな荷物も載せやすい。

●スペックは未発表(4月13日現在)

 

乗り物酔いを起こしにくいインテリアに要注目

ステップワゴンは新型も先代までの「スパーダ」は継続。新たに「エアー」というモデルも加わった。

 

質感が高められたインテリアは、水平基調でノイズレスなデザインとすることで視野を安定させ、乗り物酔いを起こしにくくするという新しい着眼点で設計されている。実は我が家も4歳の娘が乗り物酔いしやすいので、どれぐらい効果があるのか大いに気になるところ。より心おきなく遠出できるようになるなら願ってもないことだ。

 

使い勝手では、出先で広い車内を自在にアレンジできるのがありがたい。従来型で話題となった独自の「わくわくゲート」の採用は見送られたが、床下格納式の3列目シートは踏襲している。このほうが格納したとき側面がスッキリするので、大きくて背の高い荷物を積みやすいというメリットもある。

 

走りについても、進化したe:HEVが遠出でも真価を発揮してくれることに期待したい。

 

[Point 1] 乗員が自由に居場所を選べるシートアレンジ

1列目から3列目まで、それぞれに求められる機能に対応する柔軟なアレンジが可能。広くフラットなスペースを作り出すこともできる。

 

[Point 2] 3列目の乗員にもより快適な居住性を提供

着座位置を高めるとともに、目障りにならないよう前方のシートやヘッドレストの形状を工夫。後席からの開放的な視界を実現している。

 

[Point 3] 床下格納式ならではの便利な使い方ができる

3列目シートを分割して床下に格納可能。格納すると床下は使えなくなるが、側面が空くので背の高い荷物を端に寄せて積むことができる。

 

[Point 4] 右席75mm、左席115mmの中寄せスライドが可能に

2列目シートは左右にもスライド可能。内側と外側で前後スライド量を変えたことで、どの位置でもロングスライドできるようになっている。

 

岡本’s CHECK!

素直になったデザインはより多くの人に受けそう

従来型も完成度は高かったが、クセのあるデザインが賛否両論だった。新型はより多くの人に受け入れられそうなデザインになったので、販売も伸びるはず。本誌発売直後に予定されている試乗の機会が楽しみだ。

※:未試乗なので予想値

 

 

【エントリーNo.2】コンセプトをキープしながら中身を全面的に刷新

トヨタ

ノア

267万円〜389万円(税込)

7人乗り、8人乗りを設定する人気のミニバン。モーターとバッテリーの高効率化を実現した新世代ハイブリッドの設定をはじめ、スマホアプリで駐車を遠隔操作できる機能や、車内Wi-Fiなどの先進装備を満載している。

SPEC【S-Z(ハイブリッド・2WD)】●全長×全幅×全高:4695×1730×1895mm●車両重量:1670kg●パワーユニット:1797cc直列4気筒+電気モーター●最高出力:98PS/5200rpm●最大トルク:14.5kg-m /3600rpm●WLTCモード燃費:23.0km/L

 

最先端技術を積極的に導入し誰にでも使いやすく配慮

新型ノアは全面的に刷新。プラットフォームにTNGAが採用され、ハイブリッドシステムも新しくなり、走行性能が大きく向上した。待望のE-Fourを選べるのも、未舗装路を走る機会のあるハイブリッド派にとって朗報だ。

 

さらに先進運転支援装備もこれ以上ないほど充実した。一定条件下でのハンズオフ走行を可能とした「アドバンスドドライブ」もノアの目玉だ。遠出する際にもドライバーの負荷を軽減してくれる。

 

使い勝手においても、よくぞここまで配慮したものだと感心する。3列目シートはワンタッチで跳ね上げられるようになったほか、バックドアには任意の角度で保持できるよう進化。パワーバックドア装着車ではスイッチをドアではなく車体両側の後端に設置したおかげで、より使いやすくなった。キャンプに出かけて大きな道具を積み下ろしする際などに、ありがたみを実感できるはずだ。

 

[Point 1] ボディ骨格の最適化で広い室内空間を実現

左右のCピラー間距離が従来に比べて75mmも拡大した。1400mmを超える室内高と相まって、室内空間は広々としており開放感バツグンだ。

 

[Point 2] 運転席からの視界は良好でストレスフリー

ピラーやダッシュボードまわりの形状の工夫で運転席からの視界は非常に良好。インテリアの質感や各部の使い勝手も大きく向上している。

 

[Point 3] 2列目シートのために快適装備をクラス初採用

2WDの7人乗りの2列目キャプテンシートにオットマン機構とシートヒーターを採用。超ロングスライド機構はより使いやすく進化。

 

[Point 4] インフォテインメント系やハイテク装備も大幅進化

スマホ操作で駐車および出庫できるリモート機能をハイブリッド車に設定。狭い枠に駐車したいときでも車外から操作できる。

 

岡本’s CHECK!

人が乗降しやすく荷物の積載もラクラク

パワースライドドア設定車は助手席側のユニバーサルステップを搭載。子どもや高齢者でも乗降しやすい。室内高は最大1405mmを実現し、背の高い荷物も積みやすく、キャンプなどで多くなる荷物にも十分対応する。

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】

360度ドラレコの“あの弱点”を克服! 3カメラ搭載の高解像度ドラレコ「DC4000R」

昨今のライフスタイルに適した生活家電や、トレンドのデジタルガジェット・AV機器など注目のアイテムを、各ジャンルに精通するプロがレコメンド。いま何を買うべきか、迷った際の指針にしてほしい!

※こちらは「GetNavi」 2022年4月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

ドラレコは360度+αがオススメ

煽り運転トラブルがメディアで取りざたされて以来、関心が高まっているのがドライブレコーダー(以下、ドラレコ)。カーITジャーナリストの会田さんは、従来の360度タイプの弱点を克服したモデルに注目している。

 

360度ドラレコの弱点を克服し映像収集能力で比肩するものなし

カーメイト

ダクション 360D DC4000R

実売価格5万5550円

全天周360度カメラを含む3カメラを搭載したドライブレコーダー。フロントにはオンセミ製、リアカメラにはソニー製の高性能センサーを採用し、夜間撮影も鮮明だ。別売りのオプションと接続すれば駐車中も最大48時間監視でき、トラブル時も安心。

SPEC●モニターサイズ:2.7インチ●撮影画角(フロント/360/リア):水平96×垂直50度、対角119度/水平360×垂直190度/水平131×垂直75度、対角155度●STARVIS:搭載
(リア)●サイズ/質量:W122×H92×D47mm/206g(メイン)

 

私が激推しします!

カーITジャーナリスト

会田 肇さん

自動車雑誌の編集を経てフリーに。カーナビやドライブレコーダーのほか、自動運転技術などにも詳しい。

「高画質な360度ドラレコとして誕生した同シリーズの、第3世代モデル。従来の360度カメラでは解像度不足がネックでしたが、本機は全天周カメラに加え、画角を狭めたフロントカメラが先行車のナンバー読み取り精度を補強します。360度ドラレコの弱点を徹底的に排除して完成させており、信頼性は抜群。映像データの収集能力では、コレの右に出るものはない、とさえ思えます。画質も素晴らしく、走行中の状況を漏れなく捉えます。もしものときの安心につながる各種機能も充実。GPSの位置情報記録機能を備え、データの信頼性を担保します。後から明るさ調整やぼかし処理が行えるPCビューワーも、正確な状況把握を助けます」(会田さん)

 

↑必要十分な2.7インチの液晶を搭載。操作ボタンを4つに絞り、幅広い年代が直感的に操作できるよう配慮した

 

↑役割の異なる3つのカメラが全域をカバー。車両の前後はナンバープレートまでも高画質で記録し、車内や側面は全天周カメラが切れ目なく録画する

 

”欲しい要素”が詰め込まれてる! 折り畳みカーボン製電動アシスト自転車「カーボン エイジ」に乗ってみた

おしゃれな小径の電動アシスト自転車がほしいと思ったとき、いくつか問題があります。1つは、電動アシスト付きだと、モーターやバッテリーなどを搭載しているため、せっかくのデザインが損なわれてしまう場合が少なくないこと。もう1つは、モーターやバッテリーのおかげで重量が重くなってしまうこと。そして、どうしても価格が高くなってしまうことです。

 

そうした課題を、ほぼ解決してくれているのが、ENDRAGWAY(エンドラグウェー)というブランドがリリースする電動アシスト自転車「Carbon Age(カーボン エイジ)」というモデルです。フレームを軽量なカーボン製とすることで、重量を15.5kgに抑え、一見すると電動アシストとはわからないデザイン。しかも価格は16万9800円(税込)と、アシストのない小径自転車と大きく変わらない金額で購入することができます。

 

かなり理想的なモデルに見える「カーボン エイジ」の完成度はどうなのか? 実際に乗り回して検証してみました。

↑「カーボン エイジ」通常時:全長約161×高さ約98×幅約59cm。ボディカラーは5色展開で、写真のモデルはグレー(マット)

 

スタイリッシュなデザインを実現

電動アシスト自転車というと、モーターやバッテリーが目立つデザインを思い浮かべる人が多いと思いますが、「カーボン エイジ」はスマートなシルエットに仕上がっています。モーターは後輪のハブ(軸)部分に一体となったタイプ。バッテリーはシートポストに内蔵されているので、どちらも目立たないスタイルを実現しています。

↑後輪のハブと一体となっているタイプなので、自転車のスタイルに影響を与えないモーターを搭載

 

↑バッテリーはどこかと思ったら、シートポストに内蔵されています。装着した状態でも取り外した状態でも充電が可能

 

↑走行前にはバッテリーと車体の配線を接続する必要があります

 

フレームはカーボン製で、電動アシストでは多くなってしまう配線を極力内装式としているのもスマートなシルエットを実現している理由です。バッテリーの容量は7000mAhで、アシスト走行の可能な距離は約60km(フル充電時)。別売のボトル式のバッテリー(5200mAh)を追加することで、走行距離を約110km(フル充電時)まで伸ばすことができます。

↑配線をできるだけフレームの内部に通すことで、スッキリしたシルエットに

 

ホイールは20インチでやや太めのタイヤを装着。路面からのショックの吸収性が高いので、街乗りに向いた装備です。前後ともフェンダーが装着されているので、服への泥はねも防止できます。

↑太めの20インチタイヤは街乗りとの相性が良い。フェンダーも通勤などにはうれしい装備

 

↑リアにもフェンダーを装備し、衝撃を吸収するショックアブソーバーも搭載

 

↑ブレーキは前後ともに機械式のディスクブレーキを採用する

 

街乗りに便利な機能も搭載

バッテリーから給電されるライトも標準で装備されているので、通勤で帰りが夜になってしまったようなときも安心。スポーツタイプの自転車は、ライトが装備されていないものが多いので、この点も選びやすいポイントです。やはりスポーツ自転車では装着されていないことが多いスタンドも備えています。

↑バッテリーの電力を利用するので、発電のためにペダルが重くなったりすることもない

 

↑装備されていないと駐められない場所もあるスタンドも標準装備されている

 

もう1つ便利なのは、折り畳み機構が搭載されていること。15.5kgの重量は持ち上げて運ぶにはやや重さを感じるだろうが、クルマや電車に持ち込むにはギリギリ何とかなる重さ。また、コンパクトに畳めることで自宅に持ち込んで室内保管するにもありがたい機構です。

↑手順としては、まずハンドルのロックを外して折り畳む

 

↑続いてサドルを下げ、フレーム中央のヒンジ部分から折り畳むとコンパクトになる

 

↑折り畳んだ際のサイズは全長約90×高さ約67×幅約50cm。ペダルも畳めるので出っ張ることがない

 

アシストフィーリングも良好

走行性能に目を向けても15.5kgという車体の軽さは有利。車体が軽ければ、バッテリーの消費を抑えることもできます。変速ギアはリアのみの7速と段数は多くありませんが、アシストがあるので多くの変速段数は必要ないと考えることもできます。

↑変速ギアはシマノ製「ターニー」グレードの7速

 

モーターは中国製でアシストは5段階に切り替えが可能。ハブモータータイプはアシストがダイレクトに効く分、漕ぎ出しで唐突に車体が押し出されるような感覚をおぼえることも多いのですが、「カーボン エイジ」はあまり唐突さを感じません。最もパワフルな5段階を選択すると、グイグイ坂を登って行けるパワフルさがあるので、パワー不足ではありませんが、よく調律されたアシストフィーリングです。

↑選択しているアシストモードはハンドル中央のディスプレイで確認できます

 

↑アシストモードの3段階目くらいまでは唐突なアシスト感はなく、よくできたアシストフィーリング

 

↑坂道も登ってみましたが、最もパワフルなアシストモードではグイグイ登坂できるパワーを感じました

 

軽量なカーボンフレームにアシスト機構を搭載し、コンパクトに折り畳みも可能と、多くの”欲しいもの”を詰め込んだ「カーボン エイジ」。車体やアシストフィーリングなどの完成度もかなりのもので、16万9800円(税込)という価格はかなりお買い得に感じるものです。リーズナブルな折り畳み自転車にありがちなヒンジ部分の不安も特に感じませんでした。今、この価格で購入できる小径の電動アシスト自転車としては、かなりコストパフォーマンスが高いモデルといえます。

 

撮影/松川 忍

 

 

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コンセプトをキープしながら中身を全面的に刷新したトヨタ新型「ノア」

4〜5人が多いファミリーキャンプは当然荷物も多くなる。そんなとき便利なのはやはりミニバンだ。今年モデルチェンジしたミニバンの代表的モデルのひとつトヨタ「ノア」を、父親モータージャーナリストがキャンプ目線でチェックした。

※こちらは「GetNavi」 2022年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私がチェックします!

モータージャーナリスト

岡本幸一郎さん

幼い男女二児の父。あらゆるカテゴリーの新型車を幅広く網羅する気鋭の日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

最先端技術を積極的に導入し誰にでも使いやすく配慮

トヨタ

ノア

267万円〜389万円(税込)

7人乗り、8人乗りを設定する人気のミニバン。モーターとバッテリーの高効率化を実現した新世代ハイブリッドの設定をはじめ、スマホアプリで駐車を遠隔操作できる機能や、車内Wi-Fiなどの先進装備を満載している。

SPEC【S-Z(ハイブリッド・2WD)】●全長×全幅×全高:4695×1730×1895mm●車両重量:1670kg●パワーユニット:1797cc直列4気筒+電気モーター●最高出力:98PS/5200rpm●最大トルク:14.5kg-m/3600rpm●WLTCモード燃費:23.0km/L

 

新型ノアは全面的に刷新。プラットフォームにTNGAが採用され、ハイブリッドシステムも新しくなり、走行性能が大きく向上した。待望のE-Fourを選べるのも、未舗装路を走る機会のあるハイブリッド派にとって朗報だ。

 

さらに先進運転支援装備もこれ以上ないほど充実した。一定条件下でのハンズオフ走行を可能とした「アドバンスドドライブ」もノアの目玉だ。遠出する際にもドライバーの負荷を軽減してくれる。

 

使い勝手においても、よくぞここまで配慮したものだと感心する。3列目シートはワンタッチで跳ね上げられるようになったほか、バックドアには任意の角度で保持できるよう進化。パワーバックドア装着車ではスイッチをドアではなく車体両側の後端に設置したおかげで、より使いやすくなった。キャンプに出かけて大きな道具を積み下ろしする際などに、ありがたみを実感できるはずだ。

 

[Point 1] ボディ骨格の最適化で広い室内空間を実現

左右のCピラー間距離が従来に比べて75mmも拡大した。1400mmを超える室内高と相まって、室内空間は広々としており開放感バツグンだ。

 

[Point 2] 運転席からの視界は良好でストレスフリー

ピラーやダッシュボードまわりの形状の工夫で運転席からの視界は非常に良好。インテリアの質感や各部の使い勝手も大きく向上している。

 

[Point 3] 2列目シートのために快適装備をクラス初採用

2WDの7人乗りの2列目キャプテンシートにオットマン機構とシートヒーターを採用。超ロングスライド機構はより使いやすく進化。

 

[Point 4] インフォテインメント系やハイテク装備も大幅進化

スマホ操作で駐車および出庫できるリモート機能をハイブリッド車に設定。狭い枠に駐車したいときでも車外から操作できる。

 

岡本’s CHECK!

人が乗降しやすく荷物の積載もラクラク

パワースライドドア設定車は助手席側のユニバーサルステップを搭載。子どもや高齢者でも乗降しやすい。室内高は最大1405mmを実現し、背の高い荷物も積みやすく、キャンプなどで多くなる荷物にも十分対応する。

 

 

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ホンダ「ステップ ワゴン」はシンプルなデザインに回帰! 進化したe:HEVにも期待

4〜5人が多いファミリーキャンプは当然荷物も多くなる。そんなとき便利なのはやはりミニバンだ。今年モデルチェンジしたミニバンの代表的モデルのひとつホンダ「ステップ ワゴン」を、父親モータージャーナリストがキャンプ目線でチェックした。

※こちらは「GetNavi」 2022年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私がチェックします!

モータージャーナリスト

岡本幸一郎さん

幼い男女二児の父。あらゆるカテゴリーの新型車を幅広く網羅する気鋭の日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

乗り物酔いを起こしにくいインテリアに要注目

ホンダ

ステップ ワゴン

299万8600円〜384万6700円(税込)

誕生から25周年を迎えた今年フルモデルチェンジ。初代のデザインをオマージュした直線的でシンプルなデザインが印象的だ。ホンダ独自のセンタータンクレイアウトから生まれる車内高は圧倒的で、大きな荷物も載せやすい。

●スペックは未発表(4月13日現在)

 

ステップ ワゴンは新型も先代までの「スパーダ」を継続。新たに「エアー」というモデルも加わった。

 

質感が高められたインテリアは、水平基調でノイズレスなデザインとすることで視野を安定させ、乗り物酔いを起こしにくくするという新しい着眼点で設計されている。実は我が家も4歳の娘が乗り物酔いしやすいので、どれぐらい効果があるのか大いに気になるところ。より心おきなく遠出できるようになるなら願ってもないことだ。

 

使い勝手では、出先で広い車内を自在にアレンジできるのがありがたい。従来型で話題となった独自の「わくわくゲート」の採用は見送られたが、床下格納式の3列目シートは踏襲している。このほうが格納したとき側面がスッキリするので、大きくて背の高い荷物を積みやすいというメリットもある。

 

走りについても、進化したe:HEVが遠出でも真価を発揮してくれることに期待したい。

 

[Point 1] 乗員が自由に居場所を選べるシートアレンジ

1列目から3列目まで、それぞれに求められる機能に対応する柔軟なアレンジが可能。広くフラットなスペースを作り出すこともできる。

 

[Point 2] 3列目の乗員にもより快適な居住性を提供

着座位置を高めるとともに、目障りにならないよう前方のシートやヘッドレストの形状を工夫。後席からの開放的な視界を実現している。

 

[Point 3] 床下格納式ならではの便利な使い方ができる

3列目シートを分割して床下に格納可能。格納すると床下は使えなくなるが、側面が空くので背の高い荷物を端に寄せて積むことができる。

 

[Point 4] 右席75mm、左席115mmの中寄せスライドが可能に

2列目シートは左右にもスライド可能。内側と外側で前後スライド量を変えたことで、どの位置でもロングスライドできるようになっている。

 

岡本’s CHECK!

素直になったデザインはより多くの人に受けそう

従来型も完成度は高かったが、クセのあるデザインが賛否両論だった。新型はより多くの人に受け入れられそうなデザインになったので、販売も伸びるはず。本誌発売直後に予定されている試乗の機会が楽しみだ。

※:未試乗なので予想値

 

 

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高知の山中を巡った「森林鉄道」その栄光の足跡を追う

〜〜魚梁瀬森林鉄道 魚梁瀬線・奈半利川線(高知県)〜〜

 

木材の切り出しに使われた森林鉄道。かつて国内には1000以上もの森林鉄道網が設けられていた。昭和中期にほぼ淘汰されてしまったが、その橋やトンネルといった施設が道路整備に活かされ、多くが今も使われている。

 

高知県内の中芸地域を走った魚梁瀬(やなせ)森林鉄道。現在も橋やトンネルの跡が数多く残り、林業基地として栄えた魚梁瀬には動態保存された機関車などが残る。美しい景色の中に残る森林鉄道の足跡を追ってみた。

 

【関連記事】
いよいよ運転開始!レールと道路を走る世界初のDMV路線「阿佐海岸鉄道」を探訪した【前編】

 

【森林鉄道を追う①】日本三大杉の生産地を巡った森林鉄道線

高知県中芸地域で切り出された杉は「魚梁瀬杉」と呼ばれ、秋田杉、奈良県の吉野杉とならび日本三大杉の1つ(諸説あり)にあげられ尊ばれてきた。中芸地域には、安田川と奈半利川(なはりがわ)が流れている。森林鉄道は、この2本の川沿いに設けられ、最盛期にはその距離が250kmにも達した。

 

魚梁瀬森林鉄道の歴史を見ておこう。森林鉄道が誕生する前、切られた杉材はいかだに組まれ、安田川と奈半利川の流れを利用して運ばれた。両河川とも急流域があり、危険な作業だったことは容易に想像できる。木材搬入に川の流れを利用するとともに、川沿いには牛馬道が設けられ物資が上流部に運ばれていた。

↑安田川に架かる旧魚梁瀬森林鉄道の明神口橋。現在も軽車両のみ渡ることができる。入口には日本遺産の構成文化財の案内が立つ(左下)

 

中芸地域に森林鉄道が設けられたのは明治末期の1911(明治44)年。まずは田野(田野町)と馬路(馬路村)間に当初、安田川林道本線の名前で線路が敷かれ、トロリー運搬が始められた。トロリー運搬とは、木材を載せたトロッコを使った運搬方法で、トロッコに人が同乗・操作して山を下った。ブレーキにあたる制御器が付くとはいえ、危険と隣り合わせの運搬だった。

 

その後に安田川沿いの路線は徐々に奥へ延びていく。馬路〜魚梁瀬(馬路村)間が1915(大正4)年に、さらに魚梁瀬の上部にある石仙(こくせん)まで延びる。後に魚梁瀬森林鉄道本線の安田川線と名付けられた路線で、田野〜石仙間は41.598kmに及んだ。同年には牽引用にシェー式と呼ばれる蒸気機関車も導入されている。

 

1923(大正12)年にはアメリカH.K.ポーター社製の2両の蒸気機関車が導入され、台車をはいたボギー式貨車も使われ、本格的な森林鉄道の体裁を整えていった。同時期に新たな制御器も導入され、事故が減ったと伝わるが、そのことがわざわざ記されるほどに、当時の森林鉄道は危険と隣り合わせだったようである。

↑魚梁瀬森林鉄道の路線図。点線部が本線にあたり、支線はさらに多く巡っていた。写真で紹介の旧施設は数字番号で紹介した

 

【森林鉄道を追う②】昭和期には奈半利川沿いの路線も開業

昭和期に入りますます林業は盛況となり、安田川沿いの木材の運搬に加えて奈半利川沿いにも路線が敷設される。まずは奈半利川線の田野(田野町)と二股(現在の二股橋付近/北川村)間24.3kmの工事が完了。また、海岸部の路線も土佐湾に面した奈半利貯木場まで延びる。さらに、二股〜釈迦ヶ生(しゃかがうえ/北川村)の路線が延び、既存の安田川線と釈迦ヶ生付近で連絡した。この路線延長で、上流部の魚梁瀬や石仙からは、安田川線および、奈半利川線の両線での運び出しが可能となった。

 

大正期に開業した安田川線と、昭和初期に開業した奈半利川線では、橋やトンネルの造作がだいぶ異なる。今、訪れてもその違いが良く分かる。たとえば、奈半利川線の二股橋は、典型的なコンクリート製のアーチ橋で、当時の流行および、資源不足を補うべく配慮されたことがうかがえる(詳細は後述)。

↑奈半利川に架かる二股橋。2連のコンクリート製のアーチ橋で、現在は道路橋として使われている

 

魚梁瀬森林鉄道は木材の搬出だけでなく客車も連結した。最初の客車は馬路村営連絡車と名付けられ1936(昭和11)年に導入され、田野〜馬路間を有料で乗車できた。当時の魚梁瀬森林鉄道は規模が大きく、かつ資金力もあり自前の機関車修理工場や、枕木を製造するための製材所を持つほどだった。

 

しかし、その繁栄は長く続かなかった。1957(昭和32)年に魚梁瀬ダムの建設が行われることになり森林鉄道の廃止が決定する。1958(昭和33)年には奈半利川線の線路の撤去がはじまり、1963(昭和38)年には安田川線が廃止、約半世紀にわたる魚梁瀬森林鉄道の歴史に幕を閉じたのだった。

 

現在、文化庁が選定した日本遺産に、中芸地域の魚梁瀬森林鉄道跡が「森林鉄道から日本一のゆずロードへ」として2017(平成29)年4月28日に認定されている。半世紀にわたって魚梁瀬杉の輸送を続けた森林鉄道の存在が今も伝えられ、線路跡は「ゆずロード」に変貌し、ゆずの出荷と関連商品の輸送に活かされている。日本遺産の1つのストーリーとして、その歴史を語り継ぐ活動が精力的に行われている。

 

【森林鉄道を追う③】安田駅を起点に安田川を上流へ

ここから安田川沿いと奈半利川沿いに設けられた魚梁瀬森林鉄道の元施設のうち、日本遺産に認定された施設を中心に巡ってみたい。多くの施設が国の重要文化財にも指定されている。

 

旧森林鉄道跡はかなり長い距離で、さらに路線バスの本数が非常に少なく、レンタカーを使って巡るのが賢明だ。高知駅や高知空港、最寄りでは土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の安芸駅にも駅レンタカーがある。旧森林鉄道の遺構ばかりでなく、森林鉄道をテーマにした観光施設もあり、遺構巡りにプラスして立ち寄っても楽しい。なお、山道はカーブの連続で、道幅も狭いところが目立つ。運転に慣れた人にお勧めのルートで、慣れていても十分に注意して走行したい。

 

ここでは、土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の安田駅を起点にして、安田町から旧魚梁瀬森林鉄道の安田川線沿いに馬路村へ向かう旅を進めたい。

↑土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の安田駅。同線にはデッキ付き車両も運行されていて、潮風を感じながらの鉄道旅が楽しめる

 

まず、安田駅からスタートし、県道12号線・安田東洋線(別名:馬路道)を北へ向かう。ほんの数分で右手に安田川が見えてくる。旧森林鉄道は、安田川の東側を走っていたが、県道は川の西岸をたどる。中の川橋という小さな橋を渡ったT字路右に「旧魚梁瀬森林鉄道施設『エヤ隧道』」という立て札があるので、その案内に従い右折する。すると細い道沿いに古めかしい小さな「エヤ隧道」があった。

 

日本遺産の構成文化財に認定された施設は、同じデザインの案内が道の分岐などに立つので見つけやすい。施設近くに解説板が立つのもありがたい。

 

本原稿では、魚梁瀬森林鉄道関連の施設に番号をつけ、地図でも見つけやすいようにした。まず起点の安田駅から「(1)エヤ隧道」までは6.3km、車で約10分の距離だ。エヤ隧道の先は隧道がある細い道を進んでも良いが、途中から軽自動車のみの進入禁止の道となる。この道が森林鉄道が走った線路の跡でもあるのだ。

 

安田川を囲む左右の山々が迫ってきたところに、赤い鉄橋が印象的な「(2)明神口橋」「(3)オオムカエ隧道」「バンダ島隧道」が連なる。そして旧森林鉄道の線路跡が、明神口橋付近で県道12号線と合流する。なお県道は上記3か所の最寄り区間で、トンネルで抜ける新道の工事が進められている。森林鉄道の遺構は旧道沿いにあるので注意したい。

↑安田川沿いに下流から上流に至る主要な森林鉄道の遺構。(2)と(3)の区間は軽自動車のみ通行可能となっている

 

「(2)明神口橋」と「(3)オオムカエ隧道」の近くにはキャンプ場もあった。かつての杉の産地は、最近はキャンプ場などの施設も多くなり、アウトドア好きにはうってつけのエリアとなりつつある。キャンプを楽しみながら旧路線跡を巡るのも楽しそうだ。

 

【森林鉄道を追う④】馬路村内に観光用の森林鉄道を再現

安田川沿いを上流へ向かって県道を走ると、安田町から馬路村(うまじむら)へ入る。この馬路村はかつて林業で栄えた村でもある。馬路村の中心にあたる馬路地区は、安田川の両岸に民家が建つ。ここは森林鉄道の拠点でもあり、この地区内に遺構も多い。

 

まずは集落の入口、馬路橋のすぐそば、渓流沿いにトンネルの出入口がある。こちらは「(5)五味隧道」で、1911(明治44)年開業時に造られたもの。石組みのトンネルが古さを物語る。渓流沿いに線路も敷かれているがこちらは復元されたものだ。線路端に下りることはできないが、上を通る村道から見ることができる。

↑馬路村に残る森林鉄道開業時に造られた五味隧道。線路も復元されている。写真は12月末の撮影したもので、寒い冬は雪も舞う

 

馬路村の中心部では森林鉄道は安田川の西側に沿って通っていた。今は「ゆずの森 加工場」や、馬路村農業協同組合(旧・馬路営林署)が建つ。このあたりには、森林鉄道の操車施設もあり、支線から本線に集まった貨車などの編成替えなどが行われたようだ。

 

さらに、安田川の西岸を通る村道(線路跡)の先には「(6)馬路森林鉄道」や「(7)インクライン」がある。こちらは森林鉄道時代の線路や施設を再現した観光施設で、気軽にレトロな森林鉄道の趣が体験できる。

 

観光施設といっても侮ってはいけない。渓流沿いをぐるりと1周する観光列車を引くのは、大正時代に魚梁瀬森林鉄道に導入されたポーター社製の蒸気機関車を精密にスケールダウンしたディーゼル機関車だった。

↑安田川の支流を森林鉄道のように一周する馬路森林鉄道。使われる機関車(左上)は大正時代に輸入された米国製を再現した

 

馬路森林鉄道の隣には「(7)インクライン」がある。インクラインとは水の重みを動力として利用し、木材を高いところから低いところへ降ろした仕組みだ。今は観光客が乗車できるケーブルカーとして再現されている。ちなみに「(6)馬路森林鉄道」や「(7)インクライン」は8月を除き日曜・祝日のみの有料営業となる。

↑観光用のケーブルカーとして再現されたインクライン。この装置で山上に集められた木材を下へ降ろした

 

【森林鉄道を追う⑤】安田川最上流で進められる鉄橋の補修作業

民家が建ち並ぶ馬路地区内の「(4)落合橋」は1925(大正14)年に架けられた鋼製の橋梁で、現在は村道に使われている。この橋で安田川とお別れ、旧森林鉄道の線路跡を利用した村道は県道12号線に合流し、支流の東川に沿って進む。民家はほぼ途絶えるが、まだ先に旧森林鉄道安田川線が延びていた。東川に沿って、取り巻く山々も徐々に険しさを増していく。県道は右に左に渓流に沿ってカーブする。旧森林鉄道もこうしてカーブを描き設けられていた。

 

馬路村から北川村へ入ると、村境を越えた県道脇で重機を使った大掛かりな工事が行われていた。

↑犬吠橋の現況。谷に架けられていた鉄橋は損壊してしまい現在、保存工事が進む。県道は迂回しているが将来は新しい橋が架かる予定だ

 

工事現場の先に朱色の橋の鉄骨部のみが残っている。1924(大正13)年に造られた「(8)犬吠橋」だ。国の重要文化財に指定され、また日本遺産の構成文化財となっている。橋の長さは41m、幅は4.4mで、構造は鋼単純上路式トラス橋とされ、上を森林鉄道が走っていた。鉄道廃止後は道路橋として使われていた。2016(平成28)年の点検で、鋼材の破断、および変形が著しいことが確認された。現在は鉄骨部のみとなっているが、損壊が進み橋の中央部が落ち込んでいた。点検後に大きく迂回する仮設路を設け、犬吠橋自体の補修を進める作業が行われている。並行して新しい橋を設ける工事も進められている。

 

この犬吠橋からさらに奥へ向かうと魚梁瀬なのだが、こちらの紹介は後述したい。本原稿での紹介は、海岸部にもどり、奈半利川に沿って造られた魚梁瀬森林鉄道奈半利川線の線路跡を見ていきたい。こちらは林業の最盛期だった昭和初期から戦前にかけて造られた施設が多いせいか、安田川沿いの施設とは異なる姿を目にすることができる。

 

【森林鉄道を追う⑥】奈半利の街中にあるモダンな跨線橋

奈半利川沿いの施設は平野部にも一部が残され、山間部まで入らなくとも、気軽に立ち寄れる遺構もある。現在、土佐湾に面した奈半利町には土佐くろしお鉄道のごめん・なはり線の終点駅・奈半利駅がある。駅のほど近くに、モダンな造りの跨線橋が残されていた。

↑土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の終点、奈半利駅。この先、室戸市方面へは鉄道路線は無く、バスでの移動が必要になる

 

かつての森林鉄道の奈半利川線は奈半利の街中を通り、土佐湾に面した奈半利貯木場まで線路がつながっていた。現在の奈半利駅から距離にして1.3km、細い路地に古い跨線橋がある。橋の片側は急斜面で、上には現在、三光院 観音堂がある。丘の麓に線路が沿って走っていたために、線路をまたぐように跨線橋が設けられた。跨線橋の名前は「(9)法恩寺(ほうおんじ)跨線橋」。法恩寺という寺が路線建設当時にあったことから、この名になった(現在は廃寺)。森林鉄道がなくなった今も通行はできるが、階段部分はかなりの急傾斜で、足を踏み外しそうな造り。上り下りしたもののかなり危うく感じた。

↑きれいに石組みされた法恩寺跨線橋。右手の町中の道から、鉄道線を越えて左側の丘の上へ行き来できるように設けられた

 

【森林鉄道を追う⑦】水田を通る近代的なコンクリート橋の跡

奈半利の貯木場から法恩寺跨線橋の下をくぐり、北川村や馬路村を目指した魚梁瀬森林鉄道の奈半利川線。奈半利の街中の旧路線跡のほとんどが舗装され車道として使われている。

 

この道をたどると奈半利川に突き当たるが、かつては鉄橋があった。すでに鉄橋は取り外され橋脚のみが残されていて「旧鉄橋跡」の看板が掲げられている。この奈半利川を越えた西側に奈半利川線の最も大規模な施設が姿を残している。

 

それが「(10)立岡二号桟道」だ。石積みの高架線跡に連なりコンクリート製のガーダー橋が延びる。コンクリート製の橋脚の上に橋けたがカーブして連なっている。橋の幅は狭いが、この上を木材を満載した貨物列車が走っていたわけだ。

↑水田をの中に立つ立岡二号桟橋。コンクリートの橋脚の上に橋けたがかかる。橋自体がカーブしていて面白い

 

奈半利川の西側に渡った路線はこのガーダー橋から川の上流部を目指して進んだ。奈半利川の中流部はかなり蛇行している。田野町から先は森林鉄道の路盤跡がほぼ国道493号に転用されている。途中、1932(昭和7)年に架けられた鉄橋「(11)小島橋(こしまはし)」で国道493号から分かれ、川の東岸を走るものの、再び旧森林鉄道路線は国道493号に合流するように上流を目指して進んでいた。

 

奈半利川の支流の小川川に架けられた「(12)二股橋」から線路は北を目指した。ここから国道493号に分かれ県道12号線へ入る。この県道12号線は「安田東洋線(馬路道)」の名もついているが、安田川沿いを走った県道が、釈迦ヶ生付近を通り、この二股橋へ通じていたわけである。

 

【森林鉄道を追う⑧】無筋のコンクリート製のアーチ橋は珍しい

1940(昭和15)年に建設された二股橋。資材が乏しくなっていた時期の建設だけに鉄筋などを使わない無筋コンクリート造りの橋となっている。形はアーチ構造で、各地の鉄道橋には、今も無筋コンクリートアーチ橋が残る(一部は竹を使った)。戦前戦中の資材不足が著しい時代、鉄筋などは使わず、アーチ形の橋の構造によって耐久性を保持しようとしたのだ。

↑架けられた時代で構造が異なる奈半利川沿いの旧森林鉄道の橋梁。みな道路橋に転用されている。元線路の利用なので、道幅は狭い(右下)

 

当時、技師はどのような思いでこの橋を設計したのだろうか。無筋のアーチ橋は鉄道の幹線ではなく支線や廃線区間に残るのみなので、その耐久性のほどはさだかではないが、崩壊などの例はないようなので、アーチという構造で一定の強さは保たれていたのかもしれない。

 

二股橋と上流部にある堀ヶ生橋(ほりがをばし)は、どちらも無筋コンクリート製のアーチ橋だった。上流部の堀ヶ生橋は1941(昭和16)年に建設されたもので、「近代に建造された充複式単アーチ橋で我が国最大級を誇る」と資料にある。こちらも国の重要文化財に指定されているように、土木建築の分野では珍しいのだろう。充複式のアーチ橋は、今も架橋に使われる技法で、管理の手間が省ける素晴らしい技術のようだ。

 

ちなみに、堀ヶ生橋は橋の途中に退避コーナーが設けられているが、デザインも凝っていてモダンに感じた。材料が乏しい時代なのにさまざまな工夫を施した様子がうかがえる。

↑奈半利川に架かる堀ヶ生橋。途中に退避場所らしきコーナー(左上)がせり出す。眼下に見える奈半利川が澄んでいて美しかった

 

両橋とも今は県道に転用されているが、道幅が狭く普通車でも渡るのに心細く感じた。構造的には素晴らしくとも、車の通行は考えて造っていなかっただろう。木材を積んだ大型トラックが今も通行しているが、ドライバーはかなり気を使って通っているのだろうと思われた。

 

【森林鉄道を追う⑨】動態保存された機関車牽引の列車が走る

本原稿では馬路村の奥にある魚梁瀬の地をゴールとしたい。魚梁瀬は魚梁瀬ダム湖のほとりにある集落で、かつては林業基地として栄えた。最盛期は1500人ほどの人が住んでいたが、現在は200人ほどに減少しているとされる。現在のダム湖に沈んだ場所に集落があったが、50年ほど前に現在の地に移っている。

 

魚梁瀬へは安田駅から車の利用ならば、県道12号、県道54号を利用して約33.9km、46分の道のりとなる。奈半利駅からは二股橋経由の場合には、国道493号、県道12号、県道54号を利用して約44.1km、57分かかる。

 

所要時間はそれほどかからないようにも思えるのだが、前述したように山道で、道幅は細くカーブが連なるために気を使う。往復にゆとりを見て最低3時間はかかると考えたい。

 

到着したのは魚梁瀬の「(14)魚梁瀬森林鉄道 森の駅やなせ」。ここには森林鉄道時代の最晩年に使われた機関車類などが動態保存されている。日曜日・祝日の営業のみだが、公園内を一周する列車も運行されている(有料)。列車の運行時間は特に決まっているわけでなく、営業時間内に利用者が訪れたら運行するといったのんびり具合だ。

↑魚梁瀬集落の入口にある「森の駅やなせ」。公園を一周する列車に乗車できる。古い写真なども展示され往時の様子が良く分かる

 

「(14)魚梁瀬森林鉄道 森の駅やなせ」には現在、機関車に加えてトロッコ客車、木造客車が備えられている。機関車のうち野村式(L-69型チェーン式)と呼ばれるディーゼル機関車は、奈半利の工場で製造されたもので、実際に森林鉄道で貨車を牽引して走ったもの。日本遺産の構成文化財にも指定されている。

 

そのほかにも、谷村式(3tサイドロッド式)ディーゼル機関車、酒井工作所製(C-16型3.5t)ガソリン機関車、岩手富士製 特殊軽量機関車の計4両が動態保存されている。50年も前に消滅した森林鉄道を走った機関車を動態保存する取組みには敬意を評したい。山の中の施設のため、行く機会がなかなかないものの、もう一度、余裕を持って楽しみたいと思った。なお同施設に隣接してレストランもある。

↑訪れた日には谷村式のディーゼル機関車が客車を牽いて走った。トロッコ客車の後ろには木製の客車(右上)も連結されていた

 

↑木造車庫の中に納まる野村式(右)と酒井工作所製のそれぞれディーゼル機関車。どちらも動くように整備されている

 

帰りには奈半利川沿いを走り奈半利へ向けて走る。途中にどうしても寄ってみたい施設があったのだ。

 

【森林鉄道を追う⑩】中岡慎太郎も推奨した〝ゆず〟の地に変貌

寄ってみたかった施設とは中岡慎太郎の宅跡と、中岡慎太郎遺髪埋葬墓地。ともに現在の北川村の国道493号からやや入った柏木地区にある。

↑北川村の山景色の中に立つ「中岡慎太郎像」。この下に中岡慎太郎宅跡(左下)がある。近くには遺髪を埋葬した墓もある

 

中岡慎太郎は江戸末期に生まれ、同じ土佐藩出身で盟友の坂本龍馬とともに、江戸幕府討幕に向けて大きく世の中を動かした1人である。土佐藩と薩摩藩、長州藩との間で盟約を結ぶために奔走し、討幕への道筋を作った。明治維新のを見ることなしに1967(慶応3)年11月に龍馬とともに京都で倒れたことは良く知られている。享年わずかに29歳だった。

 

北川村の柏木には生家を復元した「中岡慎太郎宅跡」とともに、裏手にある松林寺(廃寺)の境内には妻の墓と並び遺髪墓地が設けられている。

↑中岡慎太郎宅跡のそばには柚子の木があり黄色い果実が多く実っていた。中岡慎太郎はこのゆず栽培を奨励したとされる

 

中岡慎太郎が活動したのは20代のみと短かったが、活動範囲は広く農業にも通じていた。ゆず栽培も奨励し、広めたとされる。討幕のみならず、将来を見据えたその視野の広さには驚かされる。

 

「森林鉄道から日本一のゆずロードへ」と日本遺産に認定された高知県の中芸地域。森林鉄道の旧路線跡は道路となり、ゆずの出荷やゆず商品の輸送に活かされていた。林業は衰退しても、中岡慎太郎が生きた時代からゆず栽培への思いが綿々と受け継がれ、今も活かされる土地だったのである。

 

「アウトドアでもインドアライフ」を実現!? 移動も宿泊も自由自在なキャンピングカーの魅力をオーナーに聞いた

キャンピングカーが活況だ。思い立ったときに、どこにでも出かけられる。そして好きな場所で車中泊できるのが大きな魅力だ。キャンピングカーを購入し、アウトドアライフを満喫しているオーナーに話を聞いた。

※こちらは「GetNavi」 2022年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

Owner’s Profile

高山健司さん

会社勤務のかたわら、犬の足が空中に浮いている状態を撮影する「飛行犬写真家」として活動。関東地方を中心に飛行犬の撮影会を実施している。焦点距離300mm、f2.8が愛用レンズ。

 

↑愛犬がイキイキと走り、空中に浮いている写真を撮影する飛行犬撮影会を実施中。開催予定は公式HPに掲載されているのでぜひご参加を! http://www.hikoken-tochigi.com/

 

すぐに出かけられてアウトドアでも“インドアライフ”を楽しめる!

日本特種ボディー

Be-Cam 1.5tモデル SAKURA

いすゞエルフをベース車両として、居住空間を積載したキャンピングカー。高山さんが購入当時は積載量1.5tだったが、現在では積載量2tのモデルのみになっている。購入時の価格は約1000万円。「愛犬たち(れあちゃん、11か月、写真左/レイちゃん、5か月、写真右)もキャンピングカーがお気に入りです」(高山さん)

 

↑「運転もしやすいですよ!」(高山さん)

 

外でBBQを楽しんだあとはクルマに戻りインドアライフ

学生時代にバイクでツーリングをしていたときから、キャンピングカーに憧れていた高山さんがキャンピングカーを購入したきっかけは、犬を飼い始めたこと。愛犬と色々な場所へ旅をしたかったという。

 

「この時期(3月下旬に取材)でもクルマに犬を置いていくとなると窓を開けておかなくちゃならない。購入した理由としては、人も犬も快適に過ごせる移動空間が欲しかったからです」(高山さん)

 

キャンピングカー、さらにトラックをベースとして居住空間を積載する“キャブコン”タイプにグレードアップ。普段と変わらない生活が送りたいと考えたためだ。

 

「以前はトヨタ・ハイエースの後部にベッドを設置して旅をしていたのですが、やはり自由度はキャブコンタイプのほうが上。いまでは外でBBQを楽しんだあと、このクルマに戻って普通にインドアライフを送れる。人も犬もゆっくり過ごせます」(高山さん)

 

キャンピングカーの魅力を聞いた。

 

「思い立ったときに出かけて、好きな場所に行ける。途中で行き先変更も自由。停められるスペースさえあれば、車中泊だってできます。GWや夏休みには北海道や九州にも行きます。犬と一緒に安心して長旅に出かけられるのもキャンピングカーがあるから。もっと旅を楽しみたいですね」(高山さん)

 

 

高山さんこだわりのポイントはココ!

[Point 1] 家庭用エアコン装備で夏も冬も快適空間!

入口上に取り付けられたエアコンは家庭用のもの。人も犬も車内で快適に過ごすためには欠かせない存在だという。電子レンジやテレビも備え、自宅と変わらない生活が送れる。

 

[Point 2] バッテリーは鉛からリチウムイオンに換装

高山さんが特にこだわったのが使用電力を賄うバッテリー。リチウムイオンに交換したことで、丸2日エンジンをかけなくてもエアコンが運転できるそうだ。費用は50万円弱。

 

[Point 3] 敷いたまま収納できるバンクベッドは特注品

もうひとつのこだわりがベッド。通常は運転する際に敷いていた布団を片付けてベッドを収納しなければならないが、オーダーして布団を敷いたままでも跳ね上げればOKな仕様に。

 

[Point 4] 荷物が多いとき活躍するリアキャリアを用意

飛行犬撮影会実施時や、長期のドライブの際に取り付けるリアキャリア。夫婦と愛犬2頭なので車内に余裕はあるが、それでも収まらなければ雨に濡れても平気なアイテムを積載する。

 

 

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同じSUVでも性能は対照的! ジープ「グランドチェロキー L」、トヨタ「bZ4X」の乗り味を検証

気になる新車を一気乗り! 今回の「NEW VEHICLE REPORT」でピックアップするのは、プレミアムSUVの草分け的存在であるジープ「グランドチェロキー」の新型と、トヨタ初の本格ピュアEVとなる「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」のプロトタイプ。どちらもカテゴリー的にはSUVに分類できるが、その中身はパワーユニットと同じく対照的だ。

※こちらは「GetNavi」 2022年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【その1】3列シート採用で一層“使える”高級SUVに!

SUV

ジープ

グランドチェロキー L

SPEC【サミットリザーブ】●全長×全幅×全高:5200×1980×1795mm●車両重量:2250kg●パワーユニット:3604ccV型6気筒DOHC●最高出力:286PS/6400rpm●最大トルク:35.1kg-m/4000rpm●WLTCモード燃費:非公表

 

注目の3列目シートは大人でも十分の広さを確保

日本でのジープ販売は、このところずっと右肩上がり。その旗艦であるグランドチェロキーが、10年ぶりにモデルチェンジした。導入されたのは、新設定となる3列シート仕様の「L」だ。その外観は、存在感があり堂々たるもの。また、上質な素材や数々の豪華装備が投入された室内も高級SUVとしてひと際目を引く出来栄えだ。

 

気になるサードシートは、広いとは言えないまでも成人男性でも座れるスペースを確保。高めに設定された着座位置もあって見晴らしも良い。さらに大柄な車体の恩恵で、3列目使用時でも結構な量の荷物が積める点も助かる点だ。

 

いまや貴重な自然吸気の3.6LV6ガソリンエンジンは扱いやすく、上質な吹け上がりを披露。ジープらしく悪路走行をアシストする装備も満載している。これまでが安かったためか、新型は価格がグッと高くなった印象を受けるが、中身はそれ以上に充実。なおかつ高級SUVとして洗練されたことは強調しておきたい。

 

[Point 1]ATセレクターにはジープ初の機構を採用

ATセレクターには、ジープ初となるダイヤル式のロータリーセレクトを採用。上質な仕立てとなる室内は、新しさの演出も十分だ。セカンドシートは写真の2人掛けのほか(サミットリザーブ)、3人掛けも選べる(リミテッド)。

 

[Point 2]走りは扱いやすく、なおかつ上質

日本仕様のパワーユニットは、いまのとろ3.6LのV6ガソリンのみ。全長が5mを超える堂々たるボディとの組み合わせながら、必要十分な動力性能を発揮し、上質感を披露してくれる。

 

[Point 3]サイズに相応しい大容量を確保

荷室は、3列目シート使用時でも実用的な広さを確保。写真は3列目をたたんだ状態だが、2列目までたためば容量は最大で2400Lまで拡大する。

 

[ラインナップ](グレード:エンジン/駆動方式/ミッション/税込価格)

リミテッド:3.6L/4WD/8速AT/788万円

サミットリザーブ:3.6L/4WD/8速AT/999万円

 

 

【その2】その性能は、すでにピュアEVの最前線!

プロトタイプ

トヨタ

bZ4X

SPEC【4WD】●全長×全幅×全高:4690×1860×1650mm●車両重量:2005kg〜●パワーユニット:電気モーター(交流同期電動機)×2●バッテリー総電力量:71.4kWh●最高出力:218㎰(システムトータル)●一充電最大航続距離:460km前後

 

4WDモデルでは緻密な駆動制御も実感できる!

bZ4Xは、間もなく日本でもリリースが始まる(※)トヨタ初の本格ピュアEVだ。ボディはRAV4より全長が長く、若干ながら幅広く、そして背が低いという適度なボリューム。ご覧のように、外観はSUVらしさとクーペ的な風情がミックスされたスタイリッシュな仕上がりとなっている。

 

EVとしてのパワートレインは、フロントモーターのみの2WDと、リアにもコンパクトなモーターを追加した4WDの2種。組み合わせるリチウムイオンバッテリーは、総電力量71.4kWhで1充電当たりの最大航続距離は460km前後。つまり、最新のピュアEVらしく実用性は十分というわけだ。

 

今回はサーキット限定の試乗だったが、走りはナチュラル志向の味付けであることが確認できた。もちろん、静粛性の高さや加速の滑らかさ、そして強固なボディの剛性感といったEVらしい美点はしっかり実感できるが、それ以上に印象的だったのはアクセル操作に対する反応が自然に仕上げられていること。加えて、前後の駆動配分を緻密に制御する4WDモデルでは、車重を意識させない操舵性の良さも好印象だった。製品としての完成度はすでにハイレベルだ。新作が相次ぐEV界にあって、リリースが楽しみなモデルであることは間違いない。

※:5月12日より申込受付を開始した。法人の場合は法人専用リースでの提供、個人契約の場合はサブスク(フルサービスリース)の「KINTO」での提供となる

 

[Point 1]「ステアバイワイヤ」を採用

ステアリングとタイヤが機械的に繋がらない、完全電子制御の「ステアバイワイヤ」はステアリング形状(下写真)にも注目。日本でも、発売以降に追加設定の予定とか(当初は中国向けのみ)。

 

[Point 2]すべての座席で平等な居心地を実現?

バッテリーを床下に収める関係上、着座位置に対して床面が高い感もあるが広さ自体は前後席ともに十分以上。全席に同じ価値を等しく提供する空間に仕上げた、とはトヨタの弁。

 

[Point 3]外観はSUVらしさとクーペテイストが融合

外観はSUVの力強さとクーペのスポーティなテイストが融合した仕立て。兄弟車となるスバル・ソルテラとは、フロントマスクを中心とした細部のデザインで差別化が図られる。

 

[Point 4]SUVに期待される実用性も確保する

グラスエリアをコンパクトにまとめたボディ形状ながら、ラゲッジスペースは床面の広さがそれをフォロー。SUVとして満足できる使い勝手が実現している。

 

[Point 5]システム出力は2WDと4WDでほぼ同等

システム出力は、フロントモーターのみの2WDが204PS。リアにもモーターを積む4WDは218PSと極端な差はないが、車重は後者が85kg重いのが特徴だ。

 

文/岡本幸一郎、小野泰治 撮影/郡 大二郎、宮越隆政

 

 

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おめでとう「コペン」! 上質がキーワードの20周年記念特別仕様車を発表!!

ダイハツの軽オープンスポーツカー「COPEN(コペン)」は、2022年6月で2002年の初代「コペン」発売から20年を迎えました。それを記念して「コペン20周年記念特別仕様車」が登場。2022年9月に発売予定です。

↑コペン20周年記念特別仕様車(COPEN 20th Anniversary Edition)

 

みんなに愛されて20周年!

初代「コペン」は、誰もが気軽に楽しめる本格的オープン・スポーツカーとして開発され、ユニークな外観デザインや電動開閉式ルーフ(アクティブトップ)などの高い商品性と「持つ悦び、操る楽しさ」という新しい価値観が好評で、今もなお幅広いユーザーに愛されています。

 

2014年に発売した2代目では、コペンの象徴ともいえる電動式開閉ルーフは継承しつつ、新骨格構造 「D-Frame」、内外装着脱構造「DRESS―FORMATION」の採用により「感動の走行性能」と「自分らしさを表現できるクルマ」を実現しました。「Robe(ローブ)」、「XPLAY(エクスプレイ)」に加え、2015年に「Cero(セロ)」、2019年には第4のモデルとして「GR SPORT(ジーアール スポーツ)」を発売してきました。

 

コペン20周年記念特別仕様車は、丸目のヘッドランプが初代を想起させる「セロ」をベースに、全8色のボディカラーを用意。トランスミッションは5MTとCVTが選べます。

↑写真の「ブリティッシュグリーンマイカ」はヨーロッパ車を思わせるカラーリング

 

1台1台職人が手作りでつくりあげるコペンの上質さを際立たせる特別装備として、本革製のスポーツシートを採用。自然の中で美しく映える、アイボリーの内装色とシートのコーディネートに加え、20周年の記念エンブレムとシリアルナンバー入りのスカッフプレートで特別感を演出しています

↑アイボリーホワイトの上質な本革シート

 

このほかにも、MOMO製本革巻きステアリング、本革巻きシフトノブ、アイボリーインパネガーニッシュ、3眼メーターなどの専用内装や、外装にもブラック加飾のヘッドランプ、メッキアウターハンドルなど、特別感を高める装備を採用。気になる実車は6月26日まで「コペンローカルベース鎌倉」にて展示中。

↑スポーティな味付けをプラスするMOMO製本革巻きステアリング

 

↑初代コペンのロゴマークを使用

 

今回、20周年を記念して2代目として初となるTVCMの放映を開始するとともに、スペシャルサイトにて、これまでのコペンの歩みと特別仕様車の情報を公開します。この20周年記念特別仕様車は、1000台限定生産で、2022年6月20日より全国一斉に先行受注を開始。

 

 

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BIGBOSSが180万円超えのロードバイク「SPECIALIZED」で疾走!

6月15日の札幌ドーム、北海道日本ハムファイターズが全体練習を行っているグラウンドに、BIGBOSSがロードバイクに乗って登場。選手を横目に颯爽と駆け抜けた。

 

キャンプでは、スーパーカーやド派手なバイクで球場入りするなど、話題が尽きないBIGBOSS。3月の本拠地開幕戦ではドローンに乗っての浮遊も披露した。

 

 

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そして今回はロードバイクだが、実はこのロードバイクは、5月23日に自身のインスタグラムで「これからの時期球場にロードバイクで行くと気持ちいいよね!! 何かおすすめのロードバイクあるかな!?!?!?」と投稿したことをきっかけに、「ぜひ乗ってください」とメーカーから提供があったという。

 

 

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その投稿を目にしたのが、1974年創業、アメリカの人気スポーツ自転車ブランド「SPECIALIZED(スペシャライズド)」で、提供したバイクは同社のホームページを見るとフレームだけで51万7000円。そこにフレームやタイヤ、サドルなどを合わせるとその価格は180万円を超える。

 

15日のインスタグラムでは、屋外でロードバイクを走らせたあと、軽さをアピールするため片手で持ち上げてみたり、ドーム内の外野を軽やかに走る動画を投稿。

 

 

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「早速用意していただき有難うございます 乗り心地 デザイン 軽量 最高です 健康を維持する為に楽しんで乗らせてもらいます 本当に有難う御座います!!」(原文ママ)と感謝のメッセージとともに、ハッシュタグでは「#180万円は高価すぎる自転車」「#贅沢すぎる自転車」「#これは流行るわ」などと記した。

 

「何十年ぶりに自転車に乗っただろう」と記者の質問に答えていたBIGBOSS。今度はどのようなSNSの投稿でサプライズな乗り物を見せてくれるのか、試合での采配も気になるが、SNSからもまだまだ目が離せない。

トヨタ「bZ4X」の性能は、すでにピュアEVの最前線!

今回は、トヨタ初の本格ピュアEVとなる「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」のプロトタイプ。ミドルサイズのSUV型BEVの中身はどうなのでしょうか。

※こちらは「GetNavi」 2022年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

4WDモデルでは緻密な駆動制御も実感できる!

プロトタイプ

トヨタ

bZ4X

SPEC【4WD】●全長×全幅×全高:4690×1860×1650mm●車両重量:2005kg〜●パワーユニット:電気モーター(交流同期電動機)×2●バッテリー総電力量:71.4kWh●最高出力:218㎰(システムトータル)●一充電最大航続距離:460km前後

 

bZ4Xは、間もなく日本でもリリースが始まる(※)トヨタ初の本格ピュアEVだ。ボディはRAV4より全長が長く、若干ながら幅広く、そして背が低いという適度なボリューム。ご覧のように、外観はSUVらしさとクーペ的な風情がミックスされたスタイリッシュな仕上がりとなっている。

 

EVとしてのパワートレインは、フロントモーターのみの2WDと、リアにもコンパクトなモーターを追加した4WDの2種。組み合わせるリチウムイオンバッテリーは、総電力量71.4kWhで1充電当たりの最大航続距離は460km前後。つまり、最新のピュアEVらしく実用性は十分というわけだ。

 

今回はサーキット限定の試乗だったが、走りはナチュラル志向の味付けであることが確認できた。もちろん、静粛性の高さや加速の滑らかさ、そして強固なボディの剛性感といったEVらしい美点はしっかり実感できるが、それ以上に印象的だったのはアクセル操作に対する反応が自然に仕上げられていること。加えて、前後の駆動配分を緻密に制御する4WDモデルでは、車重を意識させない操舵性の良さも好印象だった。製品としての完成度はすでにハイレベルだ。新作が相次ぐEV界にあって、リリースが楽しみなモデルであることは間違いない。

※:5月12日より申込受付を開始した。法人の場合は法人専用リースでの提供、個人契約の場合はサブスク(フルサービスリース)の「KINTO」での提供となる

 

[Point 1]「ステアバイワイヤ」を採用

ステアリングとタイヤが機械的に繋がらない、完全電子制御の「ステアバイワイヤ」はステアリング形状(下写真)にも注目。日本でも、発売以降に追加設定の予定とか(当初は中国向けのみ)。

 

[Point 2]すべての座席で平等な居心地を実現?

バッテリーを床下に収める関係上、着座位置に対して床面が高い感もあるが広さ自体は前後席ともに十分以上。全席に同じ価値を等しく提供する空間に仕上げた、とはトヨタの弁。

 

[Point 3]外観はSUVらしさとクーペテイストが融合

外観はSUVの力強さとクーペのスポーティなテイストが融合した仕立て。兄弟車となるスバル・ソルテラとは、フロントマスクを中心とした細部のデザインで差別化が図られる。

 

[Point 4]SUVに期待される実用性も確保する

グラスエリアをコンパクトにまとめたボディ形状ながら、ラゲッジスペースは床面の広さがそれをフォロー。SUVとして満足できる使い勝手が実現している。

 

[Point 5]システム出力は2WDと4WDでほぼ同等

システム出力は、フロントモーターのみの2WDが204PS。リアにもモーターを積む4WDは218PSと極端な差はないが、車重は後者が85kg重いのが特徴だ。

 

文/小野泰治 撮影/宮越隆政

 

 

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路面電車なのに地下鉄!? 不思議「京阪京津線」満喫の旅

おもしろローカル線の旅86〜〜京阪電気鉄道・京津線(京都府・滋賀県)〜〜

 

京都市の御陵駅(みささぎえき)と滋賀県大津市のびわ湖浜大津駅を結ぶ京阪電気鉄道・京津線(けいしんせん)。滋賀県内では道路上を走る路面電車として、京都市内では地下鉄として走る。さらに、路線は登山電車並みの上り下り、急カーブが続く路線を走り抜ける。途中駅での発見も多く、とにかく楽しい路線なのだ。

 

【関連記事】
古都の人気観光電車「叡山電鉄」を深掘りする

 

【京津線に乗る①】開業時は京都の三条と大津の札ノ辻を結ぶ

最初に京津線の概要を見ておこう。

路線と距離 京阪電気鉄道・京津線/御陵駅〜びわ湖浜大津駅間7.5km
開業 京津電気軌道により1912(大正元)年8月15日、三条大橋〜札ノ辻(ふだのつじ/現在は廃駅)間が開業。
1997(平成9)年10月12日に御陵駅〜浜大津駅(現・びわ湖浜大津駅)間の運転に変更。
駅数 7駅(起終点駅を含む)

 

京津線は京阪電気鉄道が運営する軌道線である。びわ湖浜大津駅で接続する石山坂本線(いしやまさかもとせん)と共に、大津線(おおつせん)と総称されている。総称で大津線と呼ばれているものの、石山坂本線とは走る電車が異なり、まったく違う路線といった印象が強い。

↑県道558号線を走る京津線の電車。左上に「京町一丁目」とある交差点付近に、路線開業時は札の辻駅があり終点となっていた

 

路線自体が変化に富む京津線だが、路線の歴史には紆余曲折あり興味深い。次にそんな京津線の歴史を見ていこう。

 

【京津線に乗る②】御陵駅〜三条駅間は昭和期まで軌道路線だった

京津線は、110年前の1912(大正元)年8月15日に、京津電気軌道という会社によって路線が開設された。この日に三条大橋と札の辻との間で路線が開業したが、全通したわけではなかった。京津線と交差している東海道線を越える路線の工事が終わらず、大谷駅側の仮停留所(名前はない)と上関寺(かみせきでら)間の140mは徒歩連絡区間だった。

 

その後、同年の12月14日に晴れて全通となる。当時の終点駅は札ノ辻駅だった。札ノ辻は旧東海道の大津宿があったところで、この札ノ辻で旧東海道がカギ型に折れ、西近江路(にしおおみじ/旧国道161号)の起点にもなった。

 

大津の中心地として賑わっていたこともあり、京津線の終点駅とされたが、この札ノ辻から400mほど下ったところに1913(大正2)年3月1日に大津電車軌道(現・石山坂本線)の大津駅が開設された。大津駅は同年に浜大津駅と名を改め、また京津線の路線も1925(大正14)年5月5日に浜大津駅まで延伸されたが、長い間、別の駅としての営業が続いていた。

↑京阪本線の四条駅付近の戦前の絵葉書。隣の三条駅で京津線と連絡していた。当時は路面電車タイプの電車が走っていた

 

運営する会社も二転三転する。路線開業当時は京津電気軌道だったが、1925(大正14)年2月1日に京阪電気鉄道と合併し、京阪電気鉄道の京津線となる。京阪電気鉄道は現在もある鉄道会社ながら、太平洋戦争の前後に会社名が消滅した時代があり、戦前の京阪電気鉄道は「初代」もしくは「旧」を付けて呼ばれることが多い。1943(昭和18)年10月1日には京阪神急行電鉄の京津線となった。この京阪神急行電鉄は、現在の阪急電鉄にあたる会社だが、要は戦時統合が盛んに行われた時代で、日本の鉄道の多くが国鉄もしくは一部の私鉄に集約された時代だった。

 

戦後の混乱も収まりつつあった1949(昭和24)年12月1日に、現在の京阪電気鉄道の京津線に戻る。さらに、1981(昭和56)4月12日に浜大津駅が石山坂本線と統合され、現在の駅となった。ちなみに、現在の駅名であるびわ湖浜大津駅になったのは、2018(平成30)年3月17日とごく最近のことである。

↑昭和初期の京阪電気鉄道(初代)の路線図。三條〜濱大津が京津線にあたる。この図では石山坂本線は「琵琶湖鉄道」と記述される

 

京津線の変化はまだまだあった。開業時には三条大橋が起点だったが、その後に京阪電気鉄道(初代)の京阪本線の三条駅が1915(大正4)年10月27日に開業し、同社とのつながりを深めていく。上記は昭和初期の京阪電気鉄道(初代)の路線図だ。京阪本線と京津線の同じ三條駅(現・三条駅)として描かれている。この当時、すでに両線の線路を結ぶ連絡線もつながり、1934(昭和9)年には直通運転用の「びわこ号」も登場し、両線の直通運転が行われた。直通運転は1960年代初頭まで続く。

 

この三条駅付近が大きく変わったのが1987(昭和62)年のこと。同年の5月24日に京阪本線の三条駅が地下化され、京津線との線路が分断された。そこで京津線の三条駅は京津三条駅と名前を改める。さらに1997(平成9)年10月12日に、京都市営東西線が開業し、京津線の京津三条駅〜御陵駅間が廃止となった。よって最長11.4kmあった京津線の路線距離は、現在の7.5kmに短縮。東西線開業後には、京津線の電車は御陵駅から地下鉄線への乗り入れを開始、多くの電車は東西線の、京都市役所前駅や太秦天神川駅(うずまさてんじんがわ)駅まで走るようになっている。

 

【京津線に乗る③】走るのは高性能な800系4両編成

京阪京津線は路面電車であり、地下鉄としても走る。さらに路線には61パーミル(1000m走る間に61m登る)の勾配や半径40mという急カーブがある。ある意味、かなり特殊な路線である。この条件をクリアするために、高性能な電車が導入されている。それが京阪800系だ。

↑当初800系はパステルブルーに白、京津線のラインカラー苅安色(かりやすいろ)ラインが入れられた。現在は全車塗り替え

 

京阪800系は1997(平成9)年に京津線の地下鉄乗り入れに合わせて開発された。まずは乗り入れに合わせて架線電圧1500Vに対応。併用軌道区間があることから、自動車との接触があっても修復が容易なように鋼製車体が採用された。さらに急勾配に対応するために、4両固定編成の2ユニット全動力車で、もし1ユニットが故障しても、残り1ユニットで走ることができる。地下鉄乗り入れるためにATO(自動列車運転装置)+京阪形のATS(自動列車停止装置)も装備している。また、制御を容易かつ確実にするために急勾配や天候変化に強い鋳鉄製のブレーキシューを利用している。

 

車体は全長16.5m、全幅は2.38mで、大津線の石山坂本線を走る700形よりも全長は1.5mほど長め、全幅は同じながら、4両が連結して走ることで、路面電車としては、かなり〝異彩〟を放っている。国が定める軌道運転規則では路面電車の列車の長さが30m以下と決められているが、京津線の4両編成の電車は全長70m近くなるものの、特例として認められている。4両のうち中間車2両はロングシートで、前後の車両は狭い車幅に対応し、クロスシート横1列+2列の3列シートを採用している。ちなみに、線路幅は1435mmと京阪本線と同じ標準軌幅だ。

 

開発時には「1mあたりの値段は日本で一番高い」という京阪電気鉄道の開発担当の言葉があったように、非常に高価な造りの電車となっている。

 

【京津線に乗る④】びわ湖浜大津駅付近は電車撮影の聖地

ここからは京津線の路線の紹介をしていこう。京津線の現在の起点は御陵駅となっているが、本原稿では、石山坂本線との接続駅であるびわ湖浜大津駅から旅を楽しみたい。

 

大津市は日本最大の湖、琵琶湖に面して街が広がっている。びわ湖浜大津駅は琵琶湖の観光船などが発着している大津港の近くにある。この琵琶湖畔に沿うように路線が敷かれるのが石山坂本線で、京津線はこの石山坂本線から、ほぼ直角に分岐して京都方面へ向かう。

 

びわ湖浜大津駅は1面2線の構造で、ホームは1番線が坂本比叡山口方面、三条京阪・太秦天神川方面、2番線が京都膳所(きょうとぜぜ)、石山寺方面となっている。京津線と石山坂本線の電車が1つのホームを共用しているわけだ。駅の東側、上り下り線の中央に留置線があり、2番線に到着した京津線の電車は、この留置線を利用して折り返し、1番線に入線して、同駅始発電車として三条京阪・太秦天神川方面へ向かう。

↑びわ湖浜大津駅を発車した太秦天神川駅行電車。ほぼ直角に曲がり併用軌道区間の県道558号線へ入る

 

さて、びわ湖浜大津駅の造りだが、東側は石山坂本線の専用軌道区間となるが、一方の西側は、駅の目の前からすぐに併用軌道区間に入る。駅前には大きなT字路交差点があり、多くの車が通行している。京津線、石山坂本線の電車とも、このT字路の信号に従い出発する。この交差点は併用軌道区間を走る両線の電車を撮影するのにうってつけで、電車にカメラを向ける人の姿を多く目にするポイントでもある。

 

京津線と石山坂本線とも現在は上部が濃緑色、下部が白色、中間に黄緑色の帯を巻いて走る。こうした〝京阪カラー〟に混じって石山坂本線には特別色、またはラッピング車が走っていて、この貴重なカラー塗装の車両を、びわ湖浜大津駅前で撮影しようと集まる鉄道ファンも多い。

↑石山坂本線の標準色で塗られた700系。同線では上部が濃緑色、下部が白色という標準カラーの車両が多くなっている

 

↑石山坂本線には1934(昭和9)年に天満橋〜浜大津間を直通運転した「びわこ号色塗装」の600系といった特別色の電車も走る

 

【京津線に乗る⑤】通りの真ん中を4両編成の電車が走る

びわ湖浜大津駅前を発車し、駅前で左急カーブを曲がる京津線の800系。平行して走る車に注意しながらやや坂となった県道588号線を上がって行く。

 

併用軌道区間の距離は600mほどで、その間に京町1丁目という交差点があり、この交差点の左手にかつての終点、札ノ辻駅があった。旧東海道はこの京町1丁目でカギ型に曲がっていた。京津線の併用軌道はこの先、旧東海道を進んでいく。

↑びわ湖浜大津駅を発車した京津線の電車はすぐに併用軌道区間へ入る。その距離600mほど

 

旧東海道筋を走る京津線の電車。このあたりは旧大津宿があったところで、街道筋には大塚本陣跡もあった。現在、大塚本陣跡には明治天皇が休憩されたとする碑が残るのみとなっている。

↑旧東海道の大津宿があった付近を走る800系。車体下に注意を促すリフレクターが装着されていることが分かる

 

【京津線に乗る⑥】上栄町駅の手前で専用軌道へ入っていく

併用軌道区間を登りきったところには、信号が取り付けられている。この信号が赤になり車が停止するのに合わせて、京津線の電車は道路を抜け専用軌道へ入っていく。間もなく上栄町駅に(かみさかえまちえき)に到着する。

↑信号に合わせて京津線の電車は道路を通過する。加えて踏切(写真左)設備もあり警報灯で電車の通過をドライバーへ伝えている

 

↑専用軌道を走るびわ湖浜大津駅行き電車。左に見えるのが上栄町駅の上り線用ホーム

 

上栄町駅付近から路面電車の趣は消え、郊外線の趣が強まる。左右には民家が建ち並び、先に小高い山が見えるようになる。こちらが逢坂山(おうさかやま)だ。かつてこの山は、京都と大津の往来を困難にした難所でもあった。

 

【京津線に乗る⑦】大谷駅まで急勾配&急カーブが続く難路を走る

↑上栄町駅〜大谷駅間ではカーブ区間にスプリンクラー(左上)が設置されている

 

上栄町駅を過ぎると、京津線の路線は険しさを増し、急カーブも続く。そんなカーブ区間でスプリンクラーを使って散水ししている光景を見かけた。この散水装置は何のためにあるのだろう。

 

急カーブ区間を電車が走ると、キッ、キッといった金属同士が擦れて音が出ることがある。これは車輪の外周の出っ張ったフランジと呼ばれる部分と線路がこすれて生まれる音で、通称〝フランジ音〟と呼ばれる。散水することにより、フランジ音を減らす効果があるとされる。民家が多い区間なので、騒音防止という役目もあるのだろう。

↑上栄町駅付近ですれ違う800系。専用軌道区間ではスピードアップして走る。とはいっても800系の最高速度は75km/hと抑えられている

 

多少寄り道になるが京都と大津の間の明治以降の鉄道建設に関して触れておこう。

 

今でこそ、京都〜大津間を走る東海道本線は複数のトンネルにより、スムーズに行き来することができる。しかし、トンネル掘りの技術が未熟な時代の路線造りは難航を極めた。当時、神戸〜京都間は1877(明治10)年に開業させたものの、東側の路線造りは遅々として進まなかった。

 

京都は四方を山に囲まれている。まずは東山を避けるべく明治政府は、大きく迂回するルートを選択した。京都駅から南へ向かい現在の奈良線の稲荷駅を経て、山科を通り大谷に向かった。だが、大谷と大津の間には逢坂山があり行く手を阻んだ。

 

この逢坂山はトンネルで貫かざるをえず、1878(明治11)年に掘削を開始。1880(明治13)年7月15日に開通したのが逢坂山隧道(664.76m)だった。同トンネルは日本初の山岳トンネルであり、日本人技師のみで着工された最初のトンネルだった。この逢坂山隧道は40年後の新線開通で役目を負えたが、東口が今も遺構として残されている。

↑京津線の下を抜ける東海道本線。写真の上関寺トンネルの先に新逢坂山トンネルがありスムーズな通り抜けが可能となっている

 

東海道本線の逢坂山隧道よりも、短めながら京津線も逢坂山を250mのトンネルで越えている。当時の旧東海道本線が迂回していて不便だったことに加えて、開設された京都駅が繁華街の三条、四条から遠かったことも京津線が計画された理由だった。トンネル掘りで官営路線造りに苦しんだことが、結果として京津線の開業にも結びついていたわけだ。

 

【京津線に乗る⑧】大谷駅は40パーミルの勾配区間にある

京津線の逢坂山トンネル付近には京津線最大の61パーミルという急勾配がある。このあたりは国道1号と平行して走る区間となる。大谷駅はその駅名通り、大きな谷にある駅だ。

 

大谷駅はなかなかユニークな駅だ。開業当時には旧東海道本線の大谷駅が近くにあり、乗換駅となっていたが、今はそちらの大谷駅はない。現在は乗降客も少ない静かな駅だが、じつは軌道法に準じた路線の急勾配日本一の駅でもある。「軌道法に準じた」としたのは、普通、鉄道は鉄道事業法という法律で管理されており、そちらの最急勾配駅は明知鉄道の飯沼駅だからだ。管理される法律は違うものの、飯沼駅の勾配は33.3パーミルであり、京津線の大谷駅は日本一の急勾配駅と断言してしまって良いだろう。

↑急勾配にある大谷駅。ホームに置かれるベンチ(左上)の足は拡大して見ると左右で長さが異なる、ホームは右肩あがりとなっている

 

ちなみに、軌道法の線路建設には規程があり、駅(軌道法の場合には停留場)は10パーミル以下であることが必要とされる。大谷駅の場合は当時の内務大臣の許可を得て特例として設けられた。急勾配の途中にある駅だけに不思議なことも。下り線上り線ともホームに木製のベンチが置かれているのだが、足の長さが左右で異なるのだ。計ってみると傾斜が低い側は40cm、高い側は30cmと10cmの違いがあった。

 

三条方面行きのホームから下り線ホームを見ると、ホームの右側が明らかに上がっていることが分かる。昨年、大リーグの大谷翔平選手がMVPに輝いた時に、京阪電気鉄道ではTwitterで大谷駅のホームとベンチの写真を掲載してお祝いしたそうだ。右肩上がりの意味を込めたそうで、なかなか粋なお祝いだったように思う。ちなみに同Twitterでは、大谷選手の二刀流に対して、「京津線は地下鉄・登山電車・路面電車の三刀流です」とPRしている。

↑大谷駅を発車する太秦天神川駅行き電車。京津線と並行するのは国道1号。四宮駅(しのみやえき)まで長い下り坂が続く

【京津線に乗る⑨】山科付近では東海道本線と並走して走る

高性能な電車800系とはいえ、大谷駅までの登りは乗車してみるとやや頑張って走っているように感じた。一方、大谷駅から次の追分駅、四宮駅と、軽快に下り坂を走り並走して走る国道1号の車もどんどん追い抜いて行く。四宮駅には車庫もあり、事業用車も停車している。この駅あたりから、右手に東海道本線が平行するようになり、新快速電車や特急サンダーバードなどが通過していくのが見える。

↑京津線の京阪山科駅の北出口。目の前にJR山科駅(右上)があり乗り換え客で賑わう。地下には東西線山科駅もある

 

そして京阪山科駅へ到着した。京阪山科駅の目の前にJR山科駅があり、乗換に便利だ。ちなみに京都市営地下鉄東西線の山科駅もある。京津線はこの先の御陵駅で合流するのだが、東西線と京津線の山科駅は別の駅となる。

 

【京津線に乗る⑩】御陵駅はなぜ「みささぎ」なのか

京阪山科駅の先で東海道本線の下をくぐる京津線の線路は、東海道本線と並走した後に地下へ入っていく。しばらく走ると京津線の現在の起点駅・御陵駅に到着する。京津線の大半の電車は、この先、東西線に乗り入れて、太秦天神川駅などへ向かう。

↑府道143号線(三条通り)にある御陵駅の出口。京阪山科駅との間に京津線の地下入り口がある(左上)

 

さて、京津線の御陵駅。御陵は「みささぎ」と読む。「ごりょう」ではない。地域名が御陵(みささぎ)であることから駅名が付けられたのだが、不思議なことが多い。まず地名の元になっているのは、駅の近くに38代・天智天皇(てんぢてんのう)の山科陵(御廟野古墳)があることからだ。7世紀中期、飛鳥時代に奈良を拠点にした当時の権力者のうち、京都の山科に御陵があるのは天智天皇のみだそうだ。

 

京都市内には西京区に御陵を「ごりょう」と読ませる地名もあり、なぜこちらは「みささぎ」なのか謎である。「陵」一文字を「みささぎ」と読むこともあり、そこからの「みささぎ」なのでは、ということも言われるがはっきりした理由は分かっていない。

 

【京津線に乗る⑪】地下鉄東西線沿線にも見どころがふんだんに

京津線の旅はここで終了となるのだが、御陵駅の入口に気になる碑があった。そこには琵琶湖疎水煉瓦工場跡とある。琵琶湖疎水は、御陵駅の1つ先、蹴上駅(けあげえき)の近くで一部を見ることができる。蹴上駅は旧京津線が走っていたところでもあり、時間に余裕があればぜひとも立ち寄りたい。

 

地下駅から外に出ると目の前に府道143号(三条通り)が通る。この通りをかつて京津線が走っていた。このあたりの勾配はきつく、当時の京津線には66.7パーミルという最急勾配があったそうだ。

↑琵琶湖疎水は水運にも利用された。水力を利用して坂を上下するインクラインという装置が今も残る。台車に乗せられ船が上下した(右上)

 

駅を出て京都市街方面へ向かうと右手に堤があり、この下を琵琶湖疎水が通っている。その先、蹴上交差点があり、直進すると、右手の琵琶湖疎水がさらに良く見えてくるようになる。レールが敷かれた坂があり、鋼鉄製の台車の上に三十石船が載せられている。このあたりは、「蹴上インクライン」と名付けられ、春先になると桜が見事で観光名所になっている。

↑現役当時のインクライン。船を台車に載せて坂を登る姿が見える。こうした絵葉書が今も残されている(絵葉書は筆者所蔵/禁無断転載)

 

琵琶湖疎水は京都の発展に大きく貢献した公共施設だ。第1疎水は1890(明治23)年に、第2疎水は1912(明治45)年に完成している。琵琶湖の水を京都市内に引き入れた用水で、水道用水、工業用水、灌漑に使われたほか水力発電にも使われ、生み出した電気は市電などの運行にも使われた。

 

さらに、インクラインというケーブルカーに近い装置を造り、水運にも利用した。非常に利用価値の高い公共工事であったことが分かる。

↑南禅寺の奥にある水路閣。レンガ造りの水道橋で今も使われている。蹴上駅近くには、ねじりまんぽと呼ばれるレンガの通路も見られる

 

蹴上地区にある南禅寺の奥には水路閣と名付けられたレンガ造りの水道橋が架かる。今でも実際に使われている水道設備だ。レンガで組んだ見事なアーチ橋だ。このレンガが御陵駅の出口に碑が立っていた煉瓦工場で造られ、橋造りに生かされていた。明治期に生きた技術者と職人たちの熱い思いが伝わってくるようで、まさに圧倒される。

 

京津線も明治期の終わりから大正にかけて、トンネルを掘り、急勾配を上り下りする路線を敷設して、多くの人の行き来に役立ってきた。今もこうしたインフラ施設が生かされ、大事に使われている。どちらの施設も明治・大正期に生きた人々の気概が伝わってくる。先人たちの頼もしく素晴らしい熱意とともに、長い年月の流れが見えてきたように感じた。

3列シート採用で一層“使える”高級SUV、ジープ「グランドチェロキー L」!

今回は、プレミアムSUVの草分け的存在であるジープ・グランドチェロキーの新型に試乗。10年ぶりにモデルチェンジし、最大のポイントの3列シートSUVはいかに!?

※こちらは「GetNavi」 2022年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

注目の3列目シートは大人でも十分の広さを確保

SUV

ジープ

グランドチェロキー L

SPEC【サミットリザーブ】●全長×全幅×全高:5200×1980×1795mm●車両重量:2250kg●パワーユニット:3604ccV型6気筒DOHC●最高出力:286PS/6400rpm●最大トルク:35.1kg-m/4000rpm●WLTCモード燃費:非公表

 

日本でのジープ販売は、このところずっと右肩上がり。その旗艦であるグランドチェロキーが、10年ぶりにモデルチェンジした。導入されたのは、新設定となる3列シート仕様の「L」だ。その外観は、存在感があり堂々たるもの。また、上質な素材や数々の豪華装備が投入された室内も高級SUVとしてひと際目を引く出来栄えだ。

 

気になるサードシートは、広いとは言えないまでも成人男性でも座れるスペースを確保。高めに設定された着座位置もあって見晴らしも良い。さらに大柄な車体の恩恵で、3列目使用時でも結構な量の荷物が積める点も助かる点だ。

 

いまや貴重な自然吸気の3.6LV6ガソリンエンジンは扱いやすく、上質な吹け上がりを披露。ジープらしく悪路走行をアシストする装備も満載している。これまでが安かったためか、新型は価格がグッと高くなった印象を受けるが、中身はそれ以上に充実。なおかつ高級SUVとして洗練されたことは強調しておきたい。

 

[Point 1]ATセレクターにはジープ初の機構を採用

ATセレクターには、ジープ初となるダイヤル式のロータリーセレクトを採用。上質な仕立てとなる室内は、新しさの演出も十分だ。セカンドシートは写真の2人掛けのほか(サミットリザーブ)、3人掛けも選べる(リミテッド)。

 

[Point 2]走りは扱いやすく、なおかつ上質

日本仕様のパワーユニットは、いまのとろ3.6LのV6ガソリンのみ。全長が5mを超える堂々たるボディとの組み合わせながら、必要十分な動力性能を発揮し、上質感を披露してくれる。

 

[Point 3]サイズに相応しい大容量を確保

荷室は、3列目シート使用時でも実用的な広さを確保。写真は3列目をたたんだ状態だが、2列目までたためば容量は最大で2400Lまで拡大する。

 

[ラインナップ](グレード:エンジン/駆動方式/ミッション/税込価格)

リミテッド:3.6L/4WD/8速AT/788万円

サミットリザーブ:3.6L/4WD/8速AT/999万円

 

文/岡本幸一郎 撮影/郡 大二郎

 

 

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