燃料電池車の未来は?トヨタ「MIRAI」を徹底検証

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、「FCV」こと燃料電池車であるトヨタのMIRAIを取り上げる。永福ランプが提唱する、燃料電池車の未来とは?

※こちらは「GetNavi」 2021年7月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【レビュアーPROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。2018年以降、ペンネームを「MJブロンディ」から「永福ランプ」へ変更している。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。永福ランプを慕い「殿」と呼んでいる。

 

【今月のGODカー】トヨタ/MIRAI

SPEC【Z“エクスクルーシブパッケージ”】●全長×全幅×全高:4975×1885×1470mm●車両重量:1950kg●パワーユニット:永久磁石式同期型モーター●最高出力:182PS(134kW)/6940rpm●最大トルク:300Nm(30.6kg-m)/0-3267rpm●WLTCモード燃費:135km/kg

710万円〜860万円

 

乗用車向きではないが、EVにはない個性を感じるFCV

安ド「殿! 新型MIRAIはいかがでしたか?」

 

永福「安ドはどう思った?」

 

安ド「僕ですか?  そうですねぇ、MIRAIは燃料電池車ですけど、それってEVの一種じゃないですか。最近EVに慣れてきているので、走りに関しては、ものすごく静かだという点以外、特に感想を抱きませんでした。殿も仰ってましたけど、電気モーターにはエンジンみたいに個性がないので、そのせいでしょうか」

 

永福「バッカモーン!」

 

安ド「えっ?」

 

永福「MIRAIは、EVとはまったくフィーリングが違う!」

 

安ド「ち、違いますか?」

 

永福「違う! 私にはV8エンジンを積んだメルセデス・ベンツのように感じたぞ!」

 

安ド「ど、どのあたりがですか?」

 

永福「燃料電池車は、確かにEV同様、電気でモーターを回して走る。がしかし、普通のEVと違うのは、車内で電気を生み出しておる点だ!」

 

安ド「はぁ……」

 

永福「水素タンク内の水素と、大気中の酸素とを反応させて電気を発生させ、それで走るのが燃料電池車。バッテリーも積んでいるが、サポート役に過ぎぬ。よってMIRAIは、他のEVのように、アクセルを踏むと同時にドーンとトルクが出るのではない。我々人間と同じく、息を吸ってからパワーを出すのだ!」

 

安ド「す、吸ってますかね?」

 

永福「吸っておる! だからそこには、微妙なタイムラグが発生する! まるで内燃エンジンのように! 加えてアクセルを深く踏み込むと、心地良い吸気音が聞こえ、ターボエンジンのようなパワーの盛り上がりも感じる!」

 

安ド「殿。その吸気音というのは、アクティブサウンドコントロールによる人工音では?」

 

永福「ガーン! そうだったのか……。しかし私はMIRAIに、人間的なぬくもりを感じた!」

 

安ド「そうなんですね!」

 

永福「普通に街なかを走っているとひたすら静かなクルマだが、アクセル全開ではV8のメルセデス・ベンツに豹変するのだ!」

 

安ド「殿、レクサスじゃなくメルセデスなんですか?」

 

永福「そうだ!」

 

安ド「どのあたりが?」

 

永福「なんとなくだ!」

 

安ド「ではMIRAIは成功しますかね?」

 

永福「いや、MIRAIに未来はないだろう」

 

安ド「ガクッ! ど、どうして?」

 

永福「燃料電池は、乗用車向きのパワーユニットではないからだ。乗用車にはEVのほうが断然有利。しかしFCVは大型トラックやバスには向いている。大型車専用なら、設置費用がかかる水素ステーションも大規模なモノを拠点配置すれば良いわけで、コストを大幅に削減できる!」

 

安ド「なるほど。MIRAIの未来はトラックやバスなんですね!」

 

【GOD PARTS 1】FCスタック

爆発ではなく化学反応でクルマが走る時代

FCVの仕組みを簡単に言うなら、高圧水素タンクに貯蔵した水素を燃料電池へ送り、化学反応で電気と水を発生させ、その電気を使用してモーターを駆動させて走行します。よく勘違いされるようですが、水素を爆発させてはいません。

 

【GOD PARTS 2】ホイール

グルグルと回る異次元的なイメージ

全体的には比較的オーソドックスな印象のボディデザインですが、ホイールはかなり未来的な雰囲気です。数多くの曲線スポークが放射線状に配置されており、ウルトラマンのオープニングを思い出させます。

 

【GOD PARTS 3】パノラミックビューモニター

普段は見ることができない斜め上からの角度も表示

ボディの前後左右に搭載されたカメラで撮った映像を処理することで、真上だけでなく、斜め上空から見たビジュアルを表示することも可能です。車体周辺を注視できて助かるのはもちろん、日ごろ、自分では見ることのできない角度なので、カーマニア的にはちょっとうれしくなります。

 

【GOD PARTS 4】リア席用充電ソケット

分け隔てすることなくすべての乗員に充電を

センターコンソールの後部には、アクセサリーコンセントと充電用のUSB端子が2基搭載されているので、後席の乗員もドライブ中に気兼ねなく充電できます。コンセントはAC100V・1500W対応となっており、家電製品などが使用可能。災害など非常時には電源として利用することもできます。

 

【GOD PARTS 5】水排出機構

したくなったらいつでも車外に排出

FCVは排気ガスが出ないので、マフラーが付いていません。ただし、水素を化学反応させた際に発生する水を車体中央の下部から排出することになります。通常時は貯められていますが、リリーススイッチを押せば、好きなタイミングで排水することが可能です。

 

【GOD PARTS 6】水素充填口

燃料を補給する口は見たことのない形

ガソリン車のような大きな穴もなく、EVのようなソケットもなく、水素充填口はこのような形をしており、ここから70Mpa(大気圧の約700倍)で水素を充填します。1回最大3〜4分程度の充填で、約500km走行できます。

 

【GOD PARTS 7】アクティブサウンドコントロール

意図的な走行音がマニア心を刺激

モーターで走行するため、パワーユニットの走行音はほぼありません。が、若いころからエンジンで育ったカーマニアらを納得させるため、アクセル操作に応じて作られた排気音(のようなもの)が聞こえてくる装置を搭載しています。

 

【GOD PARTS 8】ヘッドライト&グリル

まるで水生生物のような鋭い眼光と垂れた口

水生生物を思わせる「ヌルッ」とした顔です。ヘッドライトはかなり切れ長で、その下には常時点灯されるLEDのデイタイムランニングランプが搭載されています。グリルは山型でバンパー下部まで伸び、ワイド感が演出されています。

 

【GOD PARTS 9】水素ステーション表示

充電施設ほど多くなくても絶対欲しい充填施設情報

10年ほど前にEVが市販され始めたころ、ディスプレイに表示される充電施設の存在がドライバーとしては本当に心強かったものです。現在、FCVにおいても、しっかり水素ステーションが表示されます。ただしその数はまだ少ないです。

 

【これぞ感動の細部だ!】リアシート

長距離走行を実現するためには割り切りも必要

先代モデルは4人乗りでしたが、新型はなんと5人乗りになりました。これはリアシートの定員数が2人から3人になったためですが、実際に後席中央シートに座ってみると、写真のようにオジサンでは頭が天井に付いてしまうため、子ども用という割り切りが必要です。ボディサイズのわりに室内が狭く感じるのは、水素タンク容量が141Lもあって、それにスペースを割いているからです。

燃料電池車の未来は?トヨタ「MIRAI」を徹底検証

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、「FCV」こと燃料電池車であるトヨタのMIRAIを取り上げる。永福ランプが提唱する、燃料電池車の未来とは?

※こちらは「GetNavi」 2021年7月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【レビュアーPROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。2018年以降、ペンネームを「MJブロンディ」から「永福ランプ」へ変更している。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。永福ランプを慕い「殿」と呼んでいる。

 

【今月のGODカー】トヨタ/MIRAI

SPEC【Z“エクスクルーシブパッケージ”】●全長×全幅×全高:4975×1885×1470mm●車両重量:1950kg●パワーユニット:永久磁石式同期型モーター●最高出力:182PS(134kW)/6940rpm●最大トルク:300Nm(30.6kg-m)/0-3267rpm●WLTCモード燃費:135km/kg

710万円〜860万円

 

乗用車向きではないが、EVにはない個性を感じるFCV

安ド「殿! 新型MIRAIはいかがでしたか?」

 

永福「安ドはどう思った?」

 

安ド「僕ですか?  そうですねぇ、MIRAIは燃料電池車ですけど、それってEVの一種じゃないですか。最近EVに慣れてきているので、走りに関しては、ものすごく静かだという点以外、特に感想を抱きませんでした。殿も仰ってましたけど、電気モーターにはエンジンみたいに個性がないので、そのせいでしょうか」

 

永福「バッカモーン!」

 

安ド「えっ?」

 

永福「MIRAIは、EVとはまったくフィーリングが違う!」

 

安ド「ち、違いますか?」

 

永福「違う! 私にはV8エンジンを積んだメルセデス・ベンツのように感じたぞ!」

 

安ド「ど、どのあたりがですか?」

 

永福「燃料電池車は、確かにEV同様、電気でモーターを回して走る。がしかし、普通のEVと違うのは、車内で電気を生み出しておる点だ!」

 

安ド「はぁ……」

 

永福「水素タンク内の水素と、大気中の酸素とを反応させて電気を発生させ、それで走るのが燃料電池車。バッテリーも積んでいるが、サポート役に過ぎぬ。よってMIRAIは、他のEVのように、アクセルを踏むと同時にドーンとトルクが出るのではない。我々人間と同じく、息を吸ってからパワーを出すのだ!」

 

安ド「す、吸ってますかね?」

 

永福「吸っておる! だからそこには、微妙なタイムラグが発生する! まるで内燃エンジンのように! 加えてアクセルを深く踏み込むと、心地良い吸気音が聞こえ、ターボエンジンのようなパワーの盛り上がりも感じる!」

 

安ド「殿。その吸気音というのは、アクティブサウンドコントロールによる人工音では?」

 

永福「ガーン! そうだったのか……。しかし私はMIRAIに、人間的なぬくもりを感じた!」

 

安ド「そうなんですね!」

 

永福「普通に街なかを走っているとひたすら静かなクルマだが、アクセル全開ではV8のメルセデス・ベンツに豹変するのだ!」

 

安ド「殿、レクサスじゃなくメルセデスなんですか?」

 

永福「そうだ!」

 

安ド「どのあたりが?」

 

永福「なんとなくだ!」

 

安ド「ではMIRAIは成功しますかね?」

 

永福「いや、MIRAIに未来はないだろう」

 

安ド「ガクッ! ど、どうして?」

 

永福「燃料電池は、乗用車向きのパワーユニットではないからだ。乗用車にはEVのほうが断然有利。しかしFCVは大型トラックやバスには向いている。大型車専用なら、設置費用がかかる水素ステーションも大規模なモノを拠点配置すれば良いわけで、コストを大幅に削減できる!」

 

安ド「なるほど。MIRAIの未来はトラックやバスなんですね!」

 

【GOD PARTS 1】FCスタック

爆発ではなく化学反応でクルマが走る時代

FCVの仕組みを簡単に言うなら、高圧水素タンクに貯蔵した水素を燃料電池へ送り、化学反応で電気と水を発生させ、その電気を使用してモーターを駆動させて走行します。よく勘違いされるようですが、水素を爆発させてはいません。

 

【GOD PARTS 2】ホイール

グルグルと回る異次元的なイメージ

全体的には比較的オーソドックスな印象のボディデザインですが、ホイールはかなり未来的な雰囲気です。数多くの曲線スポークが放射線状に配置されており、ウルトラマンのオープニングを思い出させます。

 

【GOD PARTS 3】パノラミックビューモニター

普段は見ることができない斜め上からの角度も表示

ボディの前後左右に搭載されたカメラで撮った映像を処理することで、真上だけでなく、斜め上空から見たビジュアルを表示することも可能です。車体周辺を注視できて助かるのはもちろん、日ごろ、自分では見ることのできない角度なので、カーマニア的にはちょっとうれしくなります。

 

【GOD PARTS 4】リア席用充電ソケット

分け隔てすることなくすべての乗員に充電を

センターコンソールの後部には、アクセサリーコンセントと充電用のUSB端子が2基搭載されているので、後席の乗員もドライブ中に気兼ねなく充電できます。コンセントはAC100V・1500W対応となっており、家電製品などが使用可能。災害など非常時には電源として利用することもできます。

 

【GOD PARTS 5】水排出機構

したくなったらいつでも車外に排出

FCVは排気ガスが出ないので、マフラーが付いていません。ただし、水素を化学反応させた際に発生する水を車体中央の下部から排出することになります。通常時は貯められていますが、リリーススイッチを押せば、好きなタイミングで排水することが可能です。

 

【GOD PARTS 6】水素充填口

燃料を補給する口は見たことのない形

ガソリン車のような大きな穴もなく、EVのようなソケットもなく、水素充填口はこのような形をしており、ここから70Mpa(大気圧の約700倍)で水素を充填します。1回最大3〜4分程度の充填で、約500km走行できます。

 

【GOD PARTS 7】アクティブサウンドコントロール

意図的な走行音がマニア心を刺激

モーターで走行するため、パワーユニットの走行音はほぼありません。が、若いころからエンジンで育ったカーマニアらを納得させるため、アクセル操作に応じて作られた排気音(のようなもの)が聞こえてくる装置を搭載しています。

 

【GOD PARTS 8】ヘッドライト&グリル

まるで水生生物のような鋭い眼光と垂れた口

水生生物を思わせる「ヌルッ」とした顔です。ヘッドライトはかなり切れ長で、その下には常時点灯されるLEDのデイタイムランニングランプが搭載されています。グリルは山型でバンパー下部まで伸び、ワイド感が演出されています。

 

【GOD PARTS 9】水素ステーション表示

充電施設ほど多くなくても絶対欲しい充填施設情報

10年ほど前にEVが市販され始めたころ、ディスプレイに表示される充電施設の存在がドライバーとしては本当に心強かったものです。現在、FCVにおいても、しっかり水素ステーションが表示されます。ただしその数はまだ少ないです。

 

【これぞ感動の細部だ!】リアシート

長距離走行を実現するためには割り切りも必要

先代モデルは4人乗りでしたが、新型はなんと5人乗りになりました。これはリアシートの定員数が2人から3人になったためですが、実際に後席中央シートに座ってみると、写真のようにオジサンでは頭が天井に付いてしまうため、子ども用という割り切りが必要です。ボディサイズのわりに室内が狭く感じるのは、水素タンク容量が141Lもあって、それにスペースを割いているからです。

未来に向けて多くの種を蒔いた「五島慶太」の生涯【後編】

〜〜鉄道痛快列伝その3 東急グループ創始者・五島慶太〜〜

 

都会を走る鉄道網は一部の辣腕事業家によって生み出されていった。現在の東急グループの創始者、五島慶太は紛れもなく辣腕事業家を代表する1人であろう。何も持たないところから東急という鉄道会社を生み、まとめていった手腕は類を見ない。そして現代人は、その恩恵を受けて暮らしている。

 

今回は、東急電鉄の路線網を造り上げ、紆余曲折を経て、さらにグループを輝かせていった五島慶太の太平洋戦争後の後半人生を振り返ってみたい。

*絵葉書・路線図、写真は筆者所蔵および撮影

 

【関連記事】
東急の礎を気付いた「五島慶太」‐‐“なあに”の精神を貫いた男の生涯〜

 

“強盗慶太”と揶揄された太平洋戦争前後の動き

閑静な住宅地という趣の東京都世田谷区、上野毛(かみのげ)。二子玉川の街を見下ろす高台に五島美術館が建っている。五島慶太の居を活かして生まれた美術館である。玄関の前には区の「保存樹木」に指定された素晴らしい枝ぶりの大きなケヤキの木が立っている。

 

このケヤキは、慶太がここに自宅を構えるにあたって植えたとされる。幼いころに、学校へ通っていた途中に、立派な門構えの家があった。その家には太いケヤキの木が立っていた。ケヤキは幼い慶太にとって“富の象徴”と心に写ったのであろう。いつか自分も……。そうして上野毛に居を構えるにあたりケヤキを植えたのである。五島慶太が亡くなってすでに60年以上の年月がたつ。この巨木は慶太の生涯を見続け、亡くなった後もまるで慶太の化身のように、大地に根をはりそびえ立っている。

↑東急大井町線が走る真上(左側)に五島慶太の自宅はあった。自ら設けた線路が自宅のすぐそばを走るというのも興味深い

 

↑五島美術館の一角は、樹木が色濃く茂る。門の前には五島慶太が植えたケヤキの木がそびえる。区の保存樹木にも指定された名木に育っている

 

1882(明治15)年4月18日、五島慶太は長野県小県郡青木村(旧・殿戸村)で生まれた。前編で紹介したように、決して恵まれた境遇とは言えなかった。そのため若いころから働き始める。

 

代用教員として働いて得たお金を元に、東京へ出て師範学校へ通う。そして英語教師として勤めるも性に合わなかったのか、一念発起して東京帝国大学へ入り、官僚への道を歩む。

 

官庁へ入省したものの、30歳に近く、すでに出世の道が断たれていた。こうした恵まれない境遇が、逆に五島慶太という類い稀な事業家を生むのだから、人生というのはおもしろいものである。

 

鉄道院を退職した後には、武蔵電気鉄道の常務取締役に就任。この時、すでに慶太は38歳となっていた。実業家としての出発はかなり遅い。

 

この会社で阪急電鉄創始者の小林一三に見出されて、渋沢栄一の田園都市開発株式会社が興した新事業に巻き込まれていく。そこで力を発揮して、東急電鉄の元になる目黒蒲田電鉄の専務となる。不況の嵐にもまれながらも、徐々に会社を拡大させて行き、東京横浜電鉄→東京急行電鉄(以下「東急」と略)と会社も名前を変えていく。

 

太平洋戦争下の時代には、小田急電鉄、京浜電気鉄道、京王電気軌道などを合併し、東京の南西部の私鉄すべての会社を傘下に納めた。

 

↑目黒蒲田電鉄が東京急行電鉄となり他社を合併していった流れを図にしてみた。短期間に大会社となるが戦後まもなく分割してしまう

 

五島慶太は他社の鉄道を金の力で飲みこんだ、と世間的には見ており、 “強盗慶太”と揶揄された。74歳の時に記した「私の履歴書」でも「とにかく『強盗慶太』と異名を頂戴するくらいであったから」と、自ら卑下して記している。しかし、本人はまったく気にしていなかったどころか、勲章に感じていたようである。

 

そして、政治の世界にも身をおき、東条英機内閣の運輸通信大臣に就任する。ところが……。

 

【五島慶太の生涯⑧】公職追放!さらに「大東急」もばらばらに

前述した図を見ると分かるように、玉川電気鉄道の合併は1930年代の終わりだったものの、それ以外の鉄道会社を合併したのは1942(昭和17)年から1945(昭和20)年にかけての太平洋戦争中であった。この時代を、後世では「大東急時代」と呼ぶ。そして終戦となった。

 

何しろ日々の食べるものにも困る時代だった。そうした混乱はしばらく続く。図で見るように、そんな混乱期の1947(昭和22)年〜1949(昭和24)年にかけて、江ノ島電気鉄道、京浜急行電鉄、小田急電鉄、京王帝都電鉄(現・京王電鉄)が分かれていく。

 

1947(昭和22)年3月15日 江ノ島電気鉄道が東急グループから離脱

1947(昭和22)年8月 公職追放

1948(昭和23)年6月 東京急行電鉄が正式に五分割化。小田急電鉄、京王帝都電鉄、京浜急行電鉄が新会社設立

1951(昭和26)年8月6日 公職追放解除 翌年、東京急行電鉄会長に選任される

 

↑戦前から戦後にかけて目蒲線、東横線を走ったモハ1000形。鋼製車両で後にデハ3500形と改称され1980年代まで走った(昭和18年刊『東京横浜電鉄沿革史』)

 

五島慶太の年譜を見ると、太平洋戦争中に大臣を務めたことがマイナスに作用した。大臣を務めた責務を連合軍から問われ、終戦後の1947(昭和22)年に慶太は公職追放される(追放解除は4年後)。その間も密かに会社の運営に関わっていたようではあるが、60代後半の人生をほぼ棒に振っていたわけだ。

 

【五島慶太の生涯⑨】各社が分かれていった裏にあったものは

慶太が公職追放となっている間に、東急には大きな動きがあった。小田急電鉄、京浜急行電鉄、京王帝都電鉄が、東急から分離している。

 

分かれた一つの理由として、戦後の労働運動の高まりが大きな要素だったと伝えられている。戦後は、労働者の権利を声高に求める動きが強まった。そして戦前に買収された鉄道会社の社員の間から、元の形に戻して欲しいという動きが強まった。

 

さらに戦後の混乱期、東急自体の経営も困難な状態に直面していた。大東急として維持していくことが難しくなっていた。そこで経営的にも分けたほうが良いという判断がなされたようである。歴史に“もし”はないが、五島慶太が公職追放とならずに、東急のトップとして君臨していたら、どうなっていたのか興味深いところである。

 

↑太平洋戦争前の渋谷駅の様子。地上ホームに電車が停まる姿が確認できる。右後ろには東横百貨店の建物が確認できる(昭和18年刊『東京横浜電鉄沿革史』)

 

【五島慶太の生涯⑩】元のサヤに収まってのやり直しの時代に

1948(昭和23)年に大東急は解体されて、戦前の1940(昭和15)年の路線網に戻った。10年前の振り出しに戻ったわけである。下の路線図はちょうど玉川電気鉄道を合併した時のもの。渋谷駅の東側に玉川線の路線があったが、この路線部分のみ都電路線となったものの、路線網はほぼこの状態に縮小されてしまった。五島慶太はふたたび、この状態から“やり直し”となったわけだ。

↑1939(昭和14)年発行の東急の路線図。1949(昭和24)年に会社を分割されたことで、ほぼこの時代の路線網に戻された

 

戦後に大混乱に陥った日本経済だが、再び活況の時代が訪れる。1950(昭和25)年に朝鮮戦争が起った影響である。1953(昭和28)年に休戦協定が結ばれるが、この戦争が起ったことにより、日本経済は、戦後の混乱期から抜け出ることになる。朝鮮特需と呼ばれる特需景気だった。戦前にも不況にあえいでいた時代があったが、こちらも日中戦争により不況下から脱している。

 

五島慶太は戦前の不況下に、従業員への支払いにも事欠き金策に走った。そんな時に戦争による特需により、社会は潤いその後の会社成長に結びついた。戦後の混乱も、新たな戦争による特需で救われている。歴史の中で、戦争は社会の混乱を生みだす要素ではあるものの、経済的にはプラスの要素として働くこともある。なんとも皮肉なものである。こうして戦後、苦境にあえいでいた東急もひと息ついたのだった。

 

【五島慶太の生涯⑪】太平洋戦争前後で繰り広げられた「箱根戦争」

経済的に余裕が生まれれば、次にはレジャーへ人々は動くようになる。この機を見逃す慶太ではなかった。

 

1951(昭和26)年8月6日に公職追放解除となったが、その前の4月1日 東京映画配給など3社を合併させ、東映株式会社と改称、再出発させている。この東映を生み出した時にも金策に走った慶太。自宅を担保にして銀行からお金を借りた。

 

この時に「もし失敗したら大変なことになる、悪くすると破産する」と銀行から諭された。だが動じず、東映の設立に動いている。さらに映画製作現場の人たちの取りまとめにかかった。公職追放のさなかであるから、あまり表立っては動けないものの、大人しくはしていられなかったようである。こうして東映は一躍脚光を浴びる映画関連企業となり、その後の映画産業の飛躍に結びついた。

 

余談ながら、プロ野球のチームの運営にも携わる。1947(昭和22)年にはプロ野球・東急フライヤーズを設立、1948(昭和23)年にチーム名は急映フライヤーズとなり、同年冬に、再び東急フライヤーズとなる。1954(昭和29)年から東映フライヤーズとなる。今の北海道日本ハムファイターズの大元となったチームだが、古いプロ野球ファンならば、張本 勲氏、大杉勝男氏ら猛者たちがいた東映フライヤーズを懐かしく思う方も多いのではないだろうか。そんな元になる球団を慶太は立ち上げたのである。

 

一方、沿線の観光地開発にも乗り出していた。そこでは強力なライバルが立ちふさがった。

↑1935(昭和10)年ごろ箱根のバスの絵葉書。屋根の無いオープントップバスを売りにしたよう。左上の沿線案内の表紙にもバスの絵が(左上)

 

立ちふさがったのが西武グループの創始者・堤 康次郎だった。1920(大正9)年に堤 康次郎は箱根土地株式会社を設立。ここから康次郎の実業家としての道が始まる。今でいうデベロッパーだが、国立などの住宅地販売以外に、当時は珍しい別荘地の開発を中心に進めている。特に箱根と、軽井沢の開発を重点的に行っていた。箱根では、別荘地として販売するために、自社で有料道路を造り、その管理まで行っている。今日ですら、そこまでの大規模開発は珍しい。当時としてはかなり異色であり、画期的な別荘地の開発だった。さらに箱根の観光事業にも乗り出している。

 

ここで、小田急電鉄、箱根登山鉄道を傘下におさめた慶太とことごとくぶつかったのである。康次郎は傘下の駿豆鉄道(現・伊豆箱根鉄道)を使い、慶太は箱根登山鉄道を利用して競い合った。康次郎が、箱根の自社の道路の封鎖という強行手段に出れば、慶太は裁判で提訴といった具合にやりあい、政治家まで巻き込む争いにまで発展。また、康次郎は東急との関係が深い小田急電鉄の株の買い占めに走れば、一方で、慶太も同じように西武鉄道の株の買い占めに乗り出す(しかし、当時は西武の株の多くを堤一族が握っていたため失敗に終わる)世の中のひとたちは、この争いを「箱根山戦争」と呼ぶ。太平洋戦争をはさんで、20年以上にわたり、両社による争いは繰り広げられた。

↑西武傘下の駿豆鉄道が大型船を導入したことを伝える芦ノ湖遊覧船のパンフレット。一方、東急とのつながりが強い小田急電鉄も観光船の運航で対抗した

 

「箱根山戦争」は後世から見れば不毛な争いにも思える。とはいえ、こうした商売での競い合いは、西武、そして東急という会社の体力強化につながっていくのだからおもしろい。「箱根山戦争」は箱根だけでなく、南の伊豆半島にまで波及していく。次にくるのは「伊豆戦争」だったのだろうか……。

 

【関連記事】
西武王国を築いた「堤 康次郎」‐‐時代の変化を巧みに利用した男の生涯〜

 

【五島慶太の生涯⑫】最後の仕事となった伊豆急行の開業計画

1956(昭和31)年2月1日、東京急行電鉄が伊東〜下田間の地方鉄道敷設の免許を当時の運輸省に申請した。負けじと西武傘下の駿豆鉄道も1957(昭和32)3月に伊東〜下田間の鉄道建設の免許申請を行っている。駿豆鉄道は同年6月に伊豆箱根鉄道と社名を変更させてまで、伊豆半島を走る鉄道会社というイメージを高めようとした。ここまでくると、争いとしてもなかなか手が込んでいる。

 

事態の収拾を図るべく運輸省で公聴会が開かれ、西武側はこの申請を取り下げる。そして1959(昭和34)年2月9日、東京急行電鉄に免許がおりる。ほっとしたのもつかの間、慶太はこの年の5月に持病の悪化で寝込んでしまった。そして8月14日に五島慶太は亡くなった。77歳だった。最後の仕事として開業を夢見た伊豆急行線のレール造りは長男の昇氏に引き継がれたのだった。

↑伊豆半島の東を走る伊豆急行線。五島慶太が計画に携わり長男の昇の手で開業させた。写真は開業当時に造られた100系。2019年に運用終了

 

慶太が夢見た伊豆急行線の開業は申請してからわずか5年後の1961(昭和36)年12月10日に開業している。伊豆急行線は海沿いを走り、トンネルなどの施設も多い。慶太の事業を引き継いだ二代目の五島 昇の手腕もあったろうが、よほど事前に準備をしていたのであろう。

 

ちなみに慶太の死後も箱根戦争はしばらく続いたが、堤 康次郎の鉄道事業を引き継いだ堤 義明氏と五島 昇氏の仲は、父親の時代とは異なっていたとされる。東急が箱根に道路を敷こうとした時に西武の土地を横切るという問題が起きた。その際、昇氏は義明氏に挨拶に出向き、義明氏はすぐに了解をしている。このあたり、頑固な父親の時代とは異なり、二代目は是々非々で、商売にプラスなれば問題ないととらえたようである。

 

五島慶太が残したもの。それは鉄道路線だけではない。東急百貨店を造り、渋谷の大規模開発の礎となった。鉄道以外に多くの企業経営に手を広げた初代の意思を引き継ぎ、例えば東急ハンズといった、ユニークな店作りも二代目の昇によって始められた。

 

↑渋谷の街を大きく発展させたのは東急百貨店の出店だとされる。駅上にあった元百貨店は建て替え中だが、渋谷本店は今も営業を続けている

 

さらに五島慶太が関わった田園都市株式会社は、戦後には田園都市という名前の、大規模な都市開発につながっていく。戦前に合併した玉川電気鉄道は、路線が地下化されて、田園都市線となり、田園都市地域に住む人たちの通勤・通学に利用され、沿線の60万人以上という人々の暮らしに役立っている。

 

こうした例は五島慶太が残した財産のほんの一部でしかない。

↑田園調布駅の駅前に残る初代駅舎のモニュメント。この駅を中心とした街造りは、その後の田園都市の開発に結びついていく

 

↑玉川電気鉄道として走った区間は、二代目・五島昇のプランにより地下化され田園都市線として生まれ変わった

 

最後に五島慶太が残した鉄道車両面での功績を見ておこう。五島慶太は戦後、東急で使う車両を1948(昭和23)年創設の東急車輌製造株式会社(設立当時は東急横浜製作所、現・総合車両製作所)で造らせた。この会社は慶太の晩年にあたる時期に画期的な車両を次々と生み出していた。

 

【五島慶太の生涯⑬】鉄道車両を見ただけでもその功績は大きい

東急車輌製造で生みだした画期的な車両といえば、まず5000系(初代)があげられる。1954(昭和29)年に開発された電車で、モノコック構造を採用、超軽量構造となっている。さらに日本ではじめて本格的に直角カルダン駆動方式を採用した。それまでの振動が良く伝わる、そして音のうるさい吊り掛け駆動方式から電車の技術を一歩、進歩させたのである。ほかにもそれまでの車両とは異なる機能を多々、採用し、その後の電車造りを大きく変えた車両だった。

 

ライトグリーンで、下膨れのスタイルから“青ガエル”というあまりありがたくない愛称を得たが、当時の先端を行く新性能電車で快適性、乗り心地にも配慮した車両だった。さらに5000系の車体をステンレス化した5200系は、その後の日本の車両のステンレス化に大きく貢献した。

 

高額であっても、より利用者のことを考えた車両だったわけである。このあたりグループを率いた五島慶太、そして引き継いだ長男、昇の考え方が見えて興味深い。

 

ちなみに箱根山戦争で対峙した西武鉄道は、当時とにかく大量輸送のために、古い機器を利用または流用して新車造り(現在は異なる)をしており、両社の方針は対極にあったといえる。

↑東急5000系(初代)は戦後の電車造りを大きく変えた画期的な電車だった。写真は熊本電鉄5000形で2016年まで同電鉄を走り続けた

 

↑東急グループの一員、上田電鉄で保存される5200系。日本初のステンレス車両で、その後のステンレス車両の普及に多大な影響を与えた

 

現在、東急グループの運営には五島家はほぼ関わっていない。五島慶太も五島 昇氏も、東急の株を購入しなかったためとされる。

 

「慶太以来、企業を私物化しないという路線を歩んできている」

(城山三郎「ビッグボーイの生涯」より)

 

これが昇氏のポリシーだった。

 

どうしても比べてしまうが、箱根山戦争の一方の雄であった堤 康次郎は、株を堤一族で持ち、他社の株買い占めに備えた。康次郎以降は、西武鉄道は堤 義明、百貨店などの流通グループ経営は堤 清二が率いた。まさにワンマン経営そのものだった。ところが、バブル崩壊、またリゾートホテル経営が破綻し、西武の業績は悪化してしまった。今は堤一族の経営から完全に離れてしまっている。このあたり、トップが時代の動きを見誤ると業績にすぐに出てしまう同族経営の難しいところであろう。

 

東急グループは創始者が私物化しなかったことにより、紆余曲折はあったとはいえ、それぞれのグループ企業が順調な道筋を歩んでいる。今後はどうなるか分からないものの、創立者の思いが、今も透けて見えるようで興味深い。

 

半世紀以上も前に生きた五島慶太ではあるものの、その生涯を振り返ると、功績だけでなく、現代人にも多くの教訓を残している。

 

まず実業の世界には30歳台の終わりからと遅かった。しかし、スタートが遅かったからといって、ハンデにならないということをしっかりと示している。さらに“機を見る敏”。このビジネスが正しいと思ったらとことん突き進む。そして生涯“なあに”の精神を貫いた。決めたら、あきらめない、めげないということなのであろう。今さらながら、五島慶太という人物が、凄さを見る思いである。

 

〈文中敬称略〉

*参考資料:「東急・五島慶太の生涯」北原遼三郎著/現代書館、「ビッグボーイの生涯」城山三郎著/講談社、「私の履歴書‐昭和の経営者群像〈1〉」日経新聞社、「東京横浜電鉄沿革史」東京急行電鉄株式会社

石垣島内観光の新たな足として注目! レンタル電動スクーター「Gogoro」を試してみた

出かけた先で気軽に移動手段が得られる電動モビリティのシェアリングサービスに注目が集まっている中、「e-SHARE石垣」では一足早く2018年から沖縄県・石垣島で電動スクーターのレンタルサービスをスタートさせています。現在は電動キックボードも含めた電動モビリティのレンタルサービスも提供中。今回はレンタルサービスの中心として展開している電動スクーター「Gogoro(ゴゴロ)」の試乗レポートをお届けします。

 

台湾で人気の電動スクーター「Gogoro」を日本で唯一体感できる

Gogoroとは一体どんな電動スクーターなのでしょうか。この電動バイクは台湾製で、2015年に台湾国内で発売して以降、順調な販売実績を続けています。近年では台湾の新車販売で10%近いシェアを占めるまでになっているほど。人気のポイントは電動車で最大の課題であるバッテリー問題を、バッテリーパックの定額制シェアサービスによって解決したことにあります。

↑台湾国内で2輪シェア10%以上の高い人気を獲得している電動スクーターGogoro(写真提供:Gogoro社)

 

Gogoroは2本のカートリッジ式バッテリーを使って走行しますが、航続距離はフルチャージで100キロ程度。実用距離では70~80キロ程度となりますが、このバッテリーを交換できるステーションを台湾国内の約1200か所以上設置し、定額制シェアサービスとして契約者はここでいつでも交換できるようにしたのです。交換に要する時間は最短6秒! このサービスを活用すればGogoroによる台湾一周も不可能ではありません。そんな気軽さと便利さが台湾で人気を呼んだのです。

↑台湾ではバッテリーを交換できる充電ステーションを1200か所以上準備

 

そのバッテリーのシェアシステムを活かしながらGogoroのレンタルサービス「GO SHARE(ゴーシェア)」を展開しているのが「e-SHARE石垣」です。石垣島内には5か所のバッテリーステーションを用意し、レンタル利用者はいつでも無料でバッテリー交換をできるようにしています。石垣島は「ユーグレナ石垣港離島ターミナル」から島内最北端の「平久保崎灯台」までの距離は片道40キロ強ありますが、このサービスを利用することで途中立ち寄っても航続距離を心配することなく走行できるわけです。

↑石垣島においてGogoroによる電動スクーターのレンタル事業は2017年10月に発表された。現在、日本側の事業者はこの時の住友商事から石垣市の安栄観光に譲渡されている

 

レンタルできるのは原付50ccと二人乗りができる125ccの2タイプ

「e-SHARE石垣」で貸し出ししているGogoroは、一人乗り用50ccタイプ(原付一種)と、二人乗り用125ccタイプ(原付二種)の2種類です。両者とも車体そのものは同じものですが、50ccタイプのモーター出力を0.6kW以下にすることで原付一種の扱いとしています。料金は3時間まで、50ccタイプが3500円、125ccタイプが4500円。4〜24時間で50ccタイプが4500円、125ccタイプが6000円。以後、24時間ごとにそれぞれ2000円、3000円が加算されます。(※いずれもヘルメット・レインコート・電池交換費用・車両保険と免責保証料を除いた「保険料金」含む)

 

貸出場所は「ユーグレナ石垣港離島ターミナル」と「南ぬ島石垣空港近くのレンタカーステーション」の2か所で、石垣島空港ではなんと市街地ホテルまでの荷物配送も無料で行ってくれるとのこと(諸条件あり)。空港に着いた後、スクーターでの移動では荷物の運搬が心配になりますが、これなら安心です。なお、Gogoroは利用当日でも借りられますが、到着時刻に合わせて希望の車両に乗りたいならあらかじめWebサイトで予約しておくことをおすすめしているとのことでした。

↑「e-SHARE石垣」は、「ユーグレナ石垣港離島ターミナル」と「南ぬ島石垣空港近くのレンタカーステーション」の2か所で貸し出している

 

さて、今回は「ユーグレナ石垣港離島ターミナル」で50ccタイプを3時間だけ(3500円)借りることにしました。ターミナル内には離島へ行く乗船券売り場が並びますが、e-SHARE石垣のカウンターは向かって左側の安栄観光の一角にあります。カウンターで免許証を提示して必要事項を記入し、料金を支払えば手続き完了です。島内にあるバッテリーステーションの場所も案内してくれます。使い方については、駐車場でバッテリー交換方法を含めてレクチャーをしてくれるので、初めて使う人でも心配は要らないでしょう。

↑「ユーグレナ石垣港離島ターミナル」近くにあるGogoroのモータープール。この日はここから出発。原付1種と2種の両方が用意されていた

 

貸し出し時はバッテリーがほぼ満タン状態で、メーター内で表示される推定可能走行距離は約97.5kmとなっていました。本当はバッテリーが切れるギリギリまで走ってみたかったのですが、時間の関係で最も近い観光地でステーションもある川平湾(かびらわん)までの往復を体験することにしました。

↑石垣島では観光地での駐車場確保も難しい状況になっていた。2輪車ならそのスペース確保も容易にできるメリットがある

 

想像以上にパワフルな走り。バッテリー交換もアッという間に終了

Gogoroの電源は、まず丸形のワイヤレス式スマートキーで電源をオンにし、次に左ブレーキを握りながら中央インパネ部分にある「Go」ボタンを少し長めに押すと走行モードに切り替わります。右手側がスロットルで左右にはブレーキレバーがあり、ウインカーやハザードなども一般的なスクーターなどと同じです。一方で左のハンドル裏には後退用のスロットレバーがありました。駐車時などバックしたいときに便利です。あとは一般的なスクーターと同じで、右側の回転式スロットルを回すと走り出します。

↑丸形のワイヤレス式スマートキーで電源をオンにし、次に左ブレーキを握りながら中央インパネ部分にある「Go」ボタンを少し長めに押すと走行モードに入る

 

インパネは液晶表示で中央部分に速度が大きく表示され、走行可能の目安となる残距離や2個のバッテリー残量も一目でわかるようになっています。ちなみにサイドスタンドを降ろして駐車すると5分で自動的に電源が切れる仕組みです。便利な機能ではありますが、注意すべきはスマートキーをカバンに入れたままうっかり収納スペースに入れないことです。そのまま5分後にはシートが自動ロックされて、電源も入れられないという悲しい事態を招きかねないからです。スマートキーはカバンに入れずに首からぶら下げて使うようにしましょう。

↑シートの下はバッテリー収納場所と収納スペースになっており、ここはハンドルにあるボタンか、リモコンのボタンを長押しすると開けられます

 

走り出してみるとそのパワフルさは想像以上でした。基本が125ccクラスと同じ車体を使っていることを実感するような力強い走りです。体重が80kgほどある筆者ですが、石垣島の上り坂でも速度を落とすことは一切なく、それどころか、法定速度で走っていてもそれをラクに上回りそうなほどの力強さ。しかもモーターらしい低速のトルクが発進時の加速力をさらに助けます。川平湾までストレスはまったく感じずに走ることができました。また、ウインカーは交差点を曲がれば自動的にオフされますし、低速走行時は周囲に車両の存在を知らせる通報音も発します。街乗りでもかなり使いやすい設計となっているようでした。

 

バッテリーの交換は、Gogoroから2本のバッテリーを順に取り出して充電ステーションの空いている部分にセットします。するとステーションで充電が完了している別のバッテリーを即座にポップアップされるので、それをGogoroにセットします。電動車でありがちな充電時間を気にすることなく、バッテリーパックを交換するだけで満充電になるのです。電動バイクということでガソリン代を気にせず走れ、駐車場の心配もほぼゼロ。この使い勝手を知ったら、電動スクーターってこんなに便利だったの? と誰もが思うことでしょう。

↑バッテリーは10kgほどあるので、女性にとっては少し重いですね

 

↑「e-SHARE石垣」では、太陽光パネルによる電力を使用する充電ステーションを2か所用意して、カーボンフリーによる走行の実現を目指している

 

離島民の生活の足としても根付く電動スクーター「Gogoro」

最後に、Gogoroの石垣島ならではの利用のされ方をe-SHARE石垣のスタッフに聞きしました。それは離島に住んでいる方の利用率がレンタル全体の3割ほど占めているということです。離島では船便によって日用品などの品物が運ばれるために購入価格は高めとなりがちです。そこで離島に住んでいる人は定期的に石垣島を訪れ、その時の足として電動スクーターを利用するのだそうです。ガソリンを入れる必要もなく、用事だけを済まして離島ターミナルへ戻る。その便利さが人気を呼んでいる理由とのことです。

↑石垣島のスーパーには買い物を目的に訪れたと見られる「Gogoro」の姿が数多く見られた

 

↑バッテリー交換のために充電ステーションを訪れたプラティマ・ティワリさん。普段、勤務先のホテルまで購入したGogoroを利用している。話を聞くと、「電動によるゆとりのあるパワー感が心地良い」とのこと

 

ただ、疑問に思ったのは、スクーターでは買い物できる量が限られてしまうのではないかということ。すると石垣島には、それに対応するシステムができていました。スーパーなどでは購入したものを離島ターミナルまで運ぶサービスが提供されているんだそうです。こうして石垣島では、電動スクーターは離島の方々の生活にもしっかりと根付いているんですね。ちなみに少し前までは、石垣島の在住者に対してGogoroの販売を行い、バッテリーの定額利用サービスを提供していたそうです(現在は休止中)。

↑「e-SHARE石垣」では、石垣市の市街地を中心としたエリアと離島での利用向けに電動キックボードのレンタルも行っている

 

南の島の風を身体で感じながら電動スクーターで石垣島の海岸線を走るのは本当に爽快! 125ccタイプなら2人での乗車もできますから、パートナーとの一緒の行動にも最適です。電動スクーターGogoroは島内観光用の新たな足として、多くの方におすすめできるサービス。

 

日本国内では他にも、瀬戸内海に浮かぶ「豊島」にてホンダの電動バイクレンタル事業を展開中です。ガソリンを入れることがない電動モビリティのシェアリングは、利便性と環境面から考えても離島などで確実に広がっていくことでしょう。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

 

公道を走れる日本製eスクーター「Free Mile Plus」が発売、最高時速は45km/h

プラススタイルは6月11日、公道走行が可能な日本メーカー製eスクーター「Free Mile Plus」を発売すると発表。6月15日に発売します。価格は税込みで、バッテリー10Ahモデルが17万3800円、バッテリー13Ahモデルが18万3800円です。なお、6月15日から7月10日までの間は3万4800円オフとなります。

 

Free Mile Plusは、クリエイティブジャパン製のeスクーター。原動機付自転車の保安基準に適合しており、ナンバープレートの取得・取り付け、ヘルメットの着用、走行時の免許証携帯、自賠責保険に加入することで、公道で乗ることができます。なお、クリエイティブジャパンのeスクーターの取り扱いは、他社ECとしてはプラススタイルが初めてとしています。

 

搭載されている10インチタイヤは直径25.4cm/太さ8cmで、オフロードに対応。また、最高時速は45km/hとなっています。

 

さらに、前輪・後輪にそれぞれ2つ、計4つのサスペンションを搭載しており、段差の衝撃を吸収して快適な走行をサポートするほか、ディスクブレーキの採用によりスムーズに速度を落とすことが可能です。

 

最大航続距離は13Ahモデルは40km、10Ahモデルは30kmです。このほか、サドルが付属するため、スタンディングだけでなく、座って乗車することもできます。なお、充電時間は最大6時間です。

 

本体サイズは約幅60×奥行き120×高さ120cmで、重量は約30kg。

見どころ満載!「西武・電車フェスタ」詳細&おもしろ発見レポート

〜〜6月5日開催 西武・電車フェスタ2021 in 武蔵丘車両検修場〜〜

 

鉄道会社が催す恒例のイベントも徐々に開かれるようになってきた。6月5日(土曜日)、西武鉄道の武蔵丘車両検修場(埼玉県)で「西武・電車フェスタ2021 in 武蔵丘車両検修場」が行われた。同フェスタは実に2年ぶりの開催となった。

 

入場者を最大5000人に制限、完全事前申込制で行われたこの催し。主な見どころと、”おもしろ”を中心にレポートしたい。

 

【はじめに】西武鉄道の武蔵丘車両検修場とはどのような施設?

会場となった武蔵丘(むさしがおか)車両検修場はどのような施設なのか、はじめに見ておこう。西武鉄道では長らく「所沢車輌工場」で、車両の製造および検修を行ってきた。筆者は隣接する東村山市で育ったということもあり、所沢駅のすぐそばにあった工場の前を通るたびに、今日は何の電車が工場に入っているのかな、と興味津々で眺めたものだ。この工場が老朽化により、埼玉県日高市に引っ越して2000(平成12)年6月16日に、誕生したのが武蔵丘車両検修場である。

↑検修場の屋内には2000系が並んでいた。仮の台車をはき、座席などは外されていた。塗装し直すためにボディの補修作業が行われていた

 

8万4750平方メートルという広大な敷地では、毎年のように一般公開イベントが開催されてきた。筆者の住まいが遠くなったこともあり、これまで訪れる機会がなく、はじめての訪問となった。現在、西武鉄道では自社での電車製造を行っておらず、この検修場では、主に重要部検査や全般検査などの検査が行われている。西武の電車の安全運転のために欠かせない施設でもある。

 

【フェスタ紹介①】はやる心を抑え会場へ向かった

↑朝鮮半島で見られる魔よけの境界標が立つ高麗駅前。会場は駅から徒歩15分の距離。飯能駅から臨時の無料送迎バスも運行された(左下)

 

武蔵丘車両検修場の最寄り駅は西武池袋線の高麗駅(こまえき)。検修場は駅から徒歩15分ほどの距離にある。フェスタは11時から15時まで開かれた。駅に降り立つとふだんは静かな駅前に人出が。国道299号を飯能駅方面へやや歩き、途中からいつもは開放されていない、検修場への専用歩道を歩く。

 

この日は飯能駅と会場を結ぶ無料送迎バスも運転されていた。入場を最大5000人に制限されてのイベントとはいうものの、少しでも早く会場へ行きたいという人が多く、すでに行列ができていた。とはいえ“密”な状態ではない。訪れる人も適度な間をとっており、やはりこのあたりがコロナ禍ならではのイベントの現状なのだろう。

↑入場口では検温と消毒を実施。さらにレッドアロー号の特製ファイル(右上)が来場者にプレゼントされた

 

入場口へ到着。ここで検温と手の消毒。終わると、西武鉄道から来場者全員にプレゼントがあった。「池袋線レッドアロー号 ラストランプロモーション」と名付けられたクリアファイルが1人1枚配布されたのだった。こちらは2020年11月8日に横瀬車両基地で開かれた「車両基地まつり in 横瀬」で配布されたものと同じだ。なかなかおしゃれなレッドアローのファイルとあってうれしいプレゼントだった。

 

さらに小学生以下の子どもたちには、「Laview電車型ティッシュボックス」(なくなり次第、配布終了)が、また12時30分〜14時30分の間、高麗駅から帰宅する人には「レッドアロークラシックオリジナルマスクケース」がプレゼントされた。今回のイベントは入場無料である。にもかかわらず訪れるだけで、複数のプレゼントがあり、お得感が感じられるイベントとなった。

 

【関連記事】
西武鉄道がコロナ禍の基地まつりで魅せた「新旧の特急&お宝級の車両」たち

 

【フェスタ紹介②】武蔵丘車両検修場の中の様子は?

入場口からすぐに武蔵丘車両検修場の建物の入り口があった。どのような施設が場内にあり、どのような業務が行われているのか、写真で見ていこう。

 

入るとまず、天井が高く、奥行きのあるホールのようなスペースがある。ここには薄緑色の鉄橋のような“もの”がある。これはトラバーサーと呼ばれる電車の移動装置だ。このトラバーサーにより、検修場に入ってきた電車を作業にあわせて、建物内をタテに動かして所定の位置へ移動させる。もしくは台車などの移動が行われる。

↑検修庫の中には車両移動用のトラバーサーが2基、備えられている。同検修場の作業の進め方を解説する案内(左下)も用意されていた

 

入口から入るとトラバーサーの左側には、台車、車輪、電動機のメンテナンス、そして塗装を行う施設がある。台車や車輪のメンテナンス、塗装が行われる施設内は入場できなかったものの、写真付きの案内があり、概要をつかむことができた。また一部は開放され、車輪の「輪軸展示」と、電車を動かすのに重要な役割を持つ「主電動機展示」も行われていた。

↑台車から外された車輪がずらりとならぶ。こちらで研磨や、一部は新しい車輪が組み込まれていく。写真での説明(左下)も行われていた

 

トラバーサーの右側には、検修場に入場してきた電車の台車が置かれ、機器や座席を取り外し、塗装に向けて準備を行うスペースがある。検修が終わり出場するための組立もここで行われる。

 

こうした検修場の作業の工程が写真付きで解説されていた。フェスタでは、訪れた人たちが会場内をせわしなく巡っていたため、こうした案内に関心を持つ人が少なめに感じられたのが残念だった。

↑仮の台車をはいた2000系の中間車。手前には同車両の台車を展示していた。またブレーキ部品の制輪子も紹介していた

 

今回、検修場に入場していた車両は黄色いボディの2000系と、特急レッドアロー号として新宿線を走る10000系だった。これらの電車がここでしっかりメンテナンスされて、出場してまた一頑張りするわけである。

 

【フェスタ紹介③】トラバーサー乗車ほか体験イベントを用意

◆トラバーサー乗車体験

同フェスタでは複数の体験イベントを用意していた。その代表的なイベントがトラバーサー乗車体験だった。

↑検修場内にあるトラバーサーへの乗車体験。入場者を限ったこともあり、密にならずに乗車体験が楽しめた

 

検修場には2基のトラバーサーが設けられている。1基は移動用に固定されていたが、北側の1基は乗車体験として動かされた。ふだんは電車が乗るところに人が乗って動くというのも不思議な体験だった。

 

他にも「非常通報装置取扱い体験」などの体験コーナーが設けられていたが、この内容は後述したい。

 

【フェスタ紹介④】この日の主役はやはりレッドアロークラシック

◇2編成が並ぶ撮影コーナー

今回、最も注目を浴びたイベントがあった。それが「レッドアロークラシックファイナルイベント」。10000系といえば、長年、西武の路線を走り続けてきた特急形電車だ。池袋線の特急は2019年春に登場以来、新型001系Laviewに置き換わり、現在10000系は、新宿線での運転のみとなり、特急「小江戸」として走り続けている。登場してから四半世紀にわたり走り続けてきた10000系だったが、池袋線での特急電車が001系に置き換わり、少しずつ引退する車両が出ている。

 

この10000系の1編成7両のみが、クリーム地に赤ラインという、初代レッドアローの塗装に2011(平成23)年に変更されて「レッドアロークラシック」として走った。一編成限定ということもあり、人気車両だった。

 

この車両が、6月5日に西武新宿駅〜武蔵丘車両検修場間を往復するツアー列車として運転された。そしてツアー列車が、「レッドアロークラッシック」としてまさに現役最後の営業運行となった。

↑検修場の入口に並んだ10000系「レッドアロークラシック」と「西武 旅するレストラン『52席の至福』」(右側)

 

↑ラストランのヘッドマークを付けた「レッドアロークラシック」。西武新宿駅〜西武秩父駅間をかつて走った「おくちちぶ」の名を表示した

 

沿線には、最後の姿をカメラに納めようと多くのファンがつめかけた。武蔵丘車両検修場では、この到着した「レッドアロークラシック」と「西武 旅するレストラン『52席の至福』」の並んだ姿の撮影が楽しめる「撮影コーナー」が設けられた。この撮影コーナーには、撮影待ちの人たちの列ができ、人気の高さがうかがえた。

 

ちなみに「西武 旅するレストラン『52席の至福』」では、デビュー5周年を記念して、体験乗車と、“特別カフェタイム”の営業が行われた(事前予約制、人数限定)。そして、検修場内でおしゃれなカフェタイムを楽しむことができた。

 

【フェスタ紹介⑤】見どころがたっぷりあって時間が足りない

検修場は広く、いろいろな設備を使った見学コーナーが設けられていた。代表的なポイントを見ておこう。

 

◆電車グルグル巡りツアー

↑階段を上がると10000系と2000系の屋根上が見学できた。パンタグラフやクーラー、アースなどの機器の案内も用意されていた

 

ちょうど検修場に入場していた10000系と2000系を利用した「電車グルグル巡りツアー」。床下機器の案内や、ペダルを踏むと汽笛(警笛)を鳴らすことができるコーナーを見て回る。そして通常時は作業用に使われる階段を上がり、屋根上に付くさまざまな機器やパンタグラフを見て回る。いわば電車の構造を知ることができるツアーとなっていた。

 

◇「保線機械展示」コーナー

↑西武鉄道の保線車両マルチプルタイタンパー09-16CSM、車両の中央にある機器で枕木下のバラストの整備を行う

 

通常、保線専用の車両を間近で見る機会はほとんど無い。そんな保線機器の代表でもあるマルチプルタイタンパー(以下「マルタイ」と略)と、軌陸車(詳細後述)が展示されていた。

 

マルタイの役目は次のような作業だ。長い期間、電車が走り続けると、枕木と、その下のバラストとの間にすき間ができてしまう。これにより電車の乗り心地も悪くなる。マルタイは、定期的に出動して、レールを持ち上げ、枕木下のバラストをつき固めて、安定した線路の状態に復元する作業を行う。

 

会場で西武鉄道のマルタイの銘板を見ると「09-16CSM」という形式名で、オーストリア製であることが分かった。海外から輸入されることが多いマルタイが、縁の下の力もちとなり、営業運転終了後の深夜に働いて安全を守っているわけである。

 

◇「鉄道各社物販」コーナー

↑鉄道各社物販のコーナーでは西武グループの近江鉄道、伊豆箱根鉄道はもちろん、大手私鉄各社も参加して賑わった

 

入口に一番近いところに設けられていた「鉄道各社物販」コーナー。入場するとどうしてもこのコーナーに寄り道したくなる。今回は、西武グループの伊豆箱根鉄道や近江鉄道以外も多くブースを設けていた。大手私鉄では、東急電鉄、京王電鉄、京成電鉄、京浜急行電鉄。ほかに流鉄、富士急、江ノ電、秩父鉄道など計14社が出店していた。各ブースにはレアな品物も多く、グッズファンの注目度がかなり高いように見えた。

 

◇お子さま制服撮影会

↑001系Laviewほか3車両の大型写真の前で、西武鉄道の制服を着てポーズを決める子どもたち。お父さんも熱心に撮影を楽しんでいた

 

今回は親子連れの入場者が目立った。鉄道好きの親子に合わせていくつかのコーナーが設けられた。その中で人気は「お子さま制服撮影会」。001系Laviewや、40000系、10000系レッドアロークラシックの大きな写真の前で、西武鉄道の制服と制帽をかぶっての写真撮影が楽しめた。とはいえ、スタッフは、撮影が一回終わるごとに、すぐに制服や帽子の消毒に追われていた。こういう時期のイベントだけに気遣いも大変なように感じた。

 

◇「行先表示器」コーナー

↑LEDの表示器コーナー。レアな駅名が表示されるごとにカメラを向けるファンも多かった

 

LEDの表示器が多く並ぶ「行先表示器」コーナー。中高生ぐらいの若いファンが前列に陣取り、並んだLED表示器の表示が変るごとに、その表示をカメラに納める姿が見受けられた。

 

【フェスタ紹介⑥】時代の先端をいく路線バスも展示された

今回のフェスタで展示されていたのは電車ばかりではなかった。西武バスの新型車両も展示、また乗車することができた。展示されていたのは「自動運転大型バス」と「燃料電池大型バス」の2台。すでに各社で「自動運転大型バス」の実証実験が行われているが、西武バスでも同様の実験を行っている。また将来に備えて「燃料電池大型バス」も実際の路線で活用し始めている。

↑西武バスが所有する「燃料電池大型バス」(手前)と「自動運転大型バス」が展示された。車内への乗車可能で、親子連れが興味津々

 

この数年、急速に実験が進み、そして導入されている2種類のバス。特に燃料電池バスは、大手のバス会社の導入も盛んで、街中でも徐々に見かけるようになってきた。実際のところ、現場ではどのように見ているのだろうか。展示コーナーのスタッフは、

 

「水素ステーションがまだ少なく営業時間が限られているところが課題でしょうか。営業時間の終了に間に合わせるために、早めの運行時間に使わざるを得ないのが現状です。あと燃料費も割高なのです」。

 

将来的には脱炭素社会に向けて燃料電池バスが増えていくことだろう。また高齢化、人材不足ということもあり自動運転の技術も向上していくと思われる。とはいえ、まだまだ課題もあるようだ。こうした新しいバスの導入は大手バス会社だからこそ可能なのだろう。

 

さてここからは、今回のイベントに来て知ることができた、またおもしろかった“発見”を見ていくことにしよう。

 

【おもしろ発見①】踏切の特殊信号発光機の光は左回りだった

◆非常通報装置取扱い体験

↑踏切の非常ボタンを押すとどうなるのか体験できるコーナー。ボタンを押すと特殊信号発光機が点灯、運転士に危険を知らせることができる

 

「非常通報装置取扱い体験」というコーナーでは、緊急時の対応方法を紹介するコーナーで、なかなか興味深かった。電車の車内非常通報装置、ホーム上の列車非常通報装置(非常通報ボタン)、踏切支障通報装置の紹介とともに、どのようにボタンを押して対応すれば良いかが体験できた。中でも筆者が気になったのが踏切支障通報装置。ボタンを押すと、最寄りに立つ特殊信号発光機が赤く光り、運転士に危険を知らせる仕組みとなっている。

 

この特殊信号発光機、鉄道各社で導入している形が異なる。西武鉄道の場合は、5つのライトがぐるぐる回ることにより、緊急事態を運転士に知らせている。この光の回り方なのだが、あえて左回りで光が回る(上記写真を参照)。なぜ、右回りで光が回らないのかといえば、右回りは時計とおなじ回り方で、自然なものとして見てしまいがちだからだそうだ。ふだん見慣れない左回りにすることで、人間の視覚に刺激をあたえて、緊急であることを感覚的に伝えている。なかなか考えられている装置だった。

 

【おもしろ発見②】車両移動機は単独だと意外に速い

◇車両移動機が検修場内を自走

↑車両移動機が自走する姿も公開された。電車を引く時よりは格段に速い。連結器は電車を引くため複雑な構造をしていた(右下)

 

検修場の中では、電車がパンタグラフを上げて自走することがあまりない。中での移動は、車両移動機という専用の車両が牽引して電車を移動させている。この専用機は力が強く、10両編成、約300トンという重さの電車であってもラクに動かせるのだという。

 

今回のイベントでは、この車両移動機が電車を引かずに自走する姿を見ることができた。通常の電車を引く時にはゆっくり進むのだが、自走すると意外に速い。メーカーの同タイプの車両性能では「手動単機運転時には最高時速8kmでの運転も可能」と紹介されているのだが、同基地内で稼動していた車両移動機は、もう少し速いように感じた。

 

【おもしろ発見③】軌陸車にはパンタグラフが付いていたがさて?

◇Laview色をした新型軌陸車

「保線機械展示コーナー」では新型の軌陸車が展示されていた。軌陸車とは、道路を走ることばかりか、鉄輪を持っているため、線路の上を走ることができる事業用車両だ。中型トラックをベースに造られていることが多い。現場では保線要員を乗せて道路上を走り、踏切などで、車輪を出して、線路を走り、現場へ向かう。

↑公開された新型の軌陸車。上下に動く作業台の上にはパンタグラフ(右上)が付いていた。さてこの役割は?

 

↑道路上を走る時はタイヤで、線路上を走る時は鉄輪を出して走行する。意外に車体が上がることにも驚かされた

 

今回のイベントに登場した軌陸車は銀色。実は001系Laviewの車体カラーに合わせてこの色にされたそうである。車のエンジンをかけ、鉄輪を線路に降ろす工程、さらに高所作業用に造られた作業台の上げ下げの実演が行われた。その荷台の上に、パンタグラフが付いている。このパンタグラフはどのような役目があるのだろう。スタッフに聞いてみると、アースの役目があるのだそうだ。

 

保線作業は、電車の運転が終了した夜間に行われることが多い。作業にあたって、架線に流れる電気は止められる。通電したままでは、危険だからだ。タイヤで道路を走る時には、タイヤが絶縁帯となり電気は通さない。ところが、軌陸車が線路を走る時には鉄輪を使って移動するため、鉄輪を使っている時は電気が通ってしまう。もしもの時には、作業員の感電も起こりうる。

 

そこでこのパンタグラフを上げて作業を行うのだそうだ。電気がもし流れたとしてもアースの役目を持ち、作業員を守ることができる。軌陸車のパンタグラフには絶縁の役割があるとは知らなかった。

 

【おもしろ発見④】懐かしのコンプレッサーを見つけた!

◇電動空気圧縮機(コンプレッサー)の展示

↑コンプレッサーがずらりと展示されたコーナーにカメラを向けるファンも。右下が西武鉄道701系に搭載された古いコンプレッサー

 

検修場では、新旧さまざまな電動空気圧縮機(以下「コンプレッサー」と呼ぶ)の展示も行われていた。コンプレッサーとは、空気を圧縮して、その空気圧を利用するための装置だ。電車ではブレーキや、ドアの開閉、空気バネの作動などに使われている。

 

今は横長のボディを持つコンプレッサーが多い。その中で異色の丸いコンプレッサーが展示されていた。AK-3コンプレッサーと案内にある。大正時代に設計され旧鉄道省や国鉄標準型として長い間、各種電車に使われていたもので、西武鉄道では1960年代半ばに新造された701系に搭載された。701系は所沢車両基地で製造された新車だったが、当時の西武鉄道は、古い車両からの流用機器を使うことが多く、701系も外装は新しかったが、古いタイプのコンプレッサーを使っていたのだった。

 

701系が駅のホームに停まっている時に「ツー、ウォン、ウォン、ウォン……」というような甲高い音を奏でる。筆者は幼いころにそれを真似て口ずさむこともあった。そんな特長のあるサウンドを今もかすかに覚えている。以前に同フェスタでは、この音を聞く催しが行われたそうだ。今回は展示のみだったのが、ちょっと残念だった。

 

【おもしろ発見⑤】「流鉄行き」の機器も置かれていた

◇展示コーナーではなかったものの

↑検修庫で見かけた大きな黒い機器は断流機と記されていた。上にチョークで「流鉄へ」と書かれていた

 

展示コーナーではなかったものの、通常時は検修場として稼動しているだけに、興味深いものが多々見られた。ある一角に置かれた黒い大きな機器。よく見ると断流器とあった。断流器とは、電車の主電動機へ流れる電流をON・OFFするための機械だとされる。

 

このボックスの上には白いチョークで「流鉄へ」と書かれていた。流鉄の電車はすべてが元西武鉄道の新101系だ。西武鉄道でも新101系は多摩川線などでわずかに残っているが、多くが引退してしまっている。そんな古い電車の機器は、貴重ということもあり、同検修場で整備された上で譲渡されるのだろう。この断流器以外にも「流鉄へ」と記された機器が複数あった。西武を引退した新101系の機器は取り外されても、こうして今も他社に引き取られていることが良く分かった。

 

【おもしろ発見⑥】ロングシートお持ち帰り! お疲れさまです

◇人気の鉄道部品販売コーナー

↑武蔵丘車両検修場へは西武池袋線の線路沿いに専用歩道が延びている。帰りには鉄道部品を大事そうに持ち帰るファンに出会った(右)

 

鉄道会社の催しでは、使用済みの鉄道部品が多く販売され、鉄道ファンに根強い人気がある。希望者も多いことから、今回はこの鉄道部品を販売する「西武鉄道グッズ販売」コーナーへの入場がかなり制限されていた。事前に西武鉄道のアプリ経由で、入場券が発行され、当日には4回、各回30分限定で販売された。入場開始時間が決められており、各回20人限定、計80名(別途ツアー参加者から抽選で40名)のみが入場できた。いわば“狭き門”だったわけだ。それでもグッズファンは多く、筆者はこの販売コーナーのみ容易に近づけなかった。

 

フェスタの帰り道、ロングシートの座席と運転席用の折り畳みイスを、大事そうに抱えるファンと出会った。さすがにロングシートの座席は長く、身長ぐらいの長さがある。運ぶだけでも休み休みで大変そうだった。とはいえ、聞いてみると希望の品物がゲットできたのか、とてもうれしそう。「どちらも5000円です!」とのことだった。会場には駐車場がなくマイカーでの持ち帰りができないが、覚悟して購入したのだろう。「部屋で使おうかと」……。長イスとして使うのだろうか、用途を考えることが、グッズ好きにとってたまらない至福の時なのかも知れない。

 

いろいろ見てまわると11時から15時というフェスタの時間はあっという間にすぎた。なかなか内容の濃いイベントだったが、10000系のレッドアロークラシックとは最後のお別れとなってしまい、筆者もこの列車が好きだっただけにちょっと寂しく感じる。最後に筆者自ら「ありがとう」の感謝の気持ちを込めて一枚のカードを作ってみた。よろしければご笑覧ください。

↑西武池袋線、西武秩父線を走っていたころのレッドアロークラシック。奥武蔵の山景色や桜や青空が良く似合った電車だった

 

 

プロがオススメするドイツ&フランス車「SUV」3選

世界中の自動車メーカーから新モデルが次々と登場しているが、中でもドイツとフランスのSUVが活況だ。質実剛健のイメージが強いドイツ車、小粋でオシャレなフランス車。それぞれをこよなく愛するプロが、良さをプレゼンする!

※こちらは「GetNavi」 2021年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【フランス車支持派】

モビリティジャーナリスト

森口将之さん

モビリティ全般が守備範囲。現在の愛車はシトロエン・GSとルノー・アヴァンタイム。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。

優れた機能を美しく表現し生活を豊かにしてくれる

フランス車を語るうえでやはりバカンスは外せない。家族全員でリゾートを目指し、何週間も羽根を伸ばす。そのためにはキャビンでゆったり過ごせて、荷物がたくさん積めて、乗り心地が良く、高速道路から山道まで安定して走るクルマが必須だ。

 

多くのフランス車は、そんなユーザーの声に応える存在であり続けてきたが、いまではSUVこそ彼らにとって最適なパートナーだ。

 

フレンチSUVは、オフロード走行のために四駆にしたりということはほとんどない。ドライブモードセレクターを付ける程度だ。年に1〜2回しか使わないメカニズムなら不要というのが彼らの考え方。フランス車のお家芸でもある合理主義が息づいている。

 

その代わりデザインはきっちりオフタイム仕様に。同じクラスのハッチバックとはしっかり差別化している。もちろんガチガチのヘビーデューティを連想させる箱型にはしていない。日々の生活の中で映えるアウトドアファッション、例えばエーグルみたいなテイストを目指している。

 

エーグルはそこにあるだけで、どこかに出かけたくなる。気持ちにアピールしてくるデザインの力はさすがというほかない。

 

だがその形は見かけ倒しでは断じてない。アートの国だからこそ、デザインはアートとは違うことを理解している。優れた機能を美しく表現するという、真のデザイン能力に長けているのだ。

 

その思想はフレンチSUVにも息づいている。キャビンは同クラスのハッチバックより確実に広く、荷物もたくさん積めるうえに、使い勝手を高める生活の知恵的な仕掛けも盛り込んでいて、乗るたびに良い道具だと実感する。

 

ファッションやレストランにも言えることだが、フランスはいつも量より質の豊かさをもたらしてくれる。それはSUVにも当てはまることは間違いない。

 

【森口さんオススメのフランス車「SUV」3傑!】

【No.1】欧州SUVベストセラーに輝いたフレンチSUVの雄

ルノー

キャプチャー

299万円〜319万円

2020年の欧州ベストセラーSUVに輝いたモデル。ボンネットの抑揚など力強いデザインと、新設計の軽量かつ高剛性なプラットフォームにより、スムーズな走りを実現。先進の運転・駐車支援システム「ルノー イージードライブ」も搭載。

 

スタイリッシュかつ乗り心地と走りも合格点

「昨年の欧州SUVベストセラー。スタイリッシュなのにひとクラス上のキャビンの広さと、力強く上質な走りがポイントです」(森口さん)

 

【No.2】随所に曲線美を散りばめた“走るモダンアート”

DS オートモビル

DS3 クロスバック

373万円〜436万円

ボディの随所にあしらわれた彫刻のような陰影と曲線美が印象的なSUV。ダイヤモンド型にレイアウトされたスイッチとエアコン吹き出し口など、インテリアにもフランスの文化が息づく。

 

コンパクトなボディに豪華さをギュッと凝縮

「走るヴェルサイユ宮殿と呼びたくなる豪華なエクステリアとインテリア。これがコンパクトサイズで堪能できるのは貴重です」(森口さん)

 

【No.3】美しく力強いデザインでパワートレインも多彩

プジョー

3008

397万6000円〜565万円

垂直に立ち上がるフレームレスのフロントグリルの美しさと、ボディの力強い造形が印象的なSUV。ガソリン、ディーゼル、プラグインハイブリッドとパワートレインの多彩さも魅力だ。

 

鮮烈な印象のSUVは4WDの設定も選べる

「ボディサイドの上下を走るシルバーのラインが鮮烈な個性を表現。現行フレンチSUVで唯一の4WD設定という点にも注目です」(森口さん)

 

【ドイツ車支持派】

自動車・環境ジャーナリスト

川端由美さん

自動車専門誌の編集記者を経てフリーに。現在では自動車の環境技術や次世代モビリティについても積極的に取材を行う。

質実剛健かつオシャレでパワートレインも豊富!

世界の自動車マーケットのうち30%がSUVという時代であり、欧州でもSUV人気はとどまるところを知らない。それであれば俄然、自動車大国であるドイツに目を向けるべきだ。

 

さらに言えば、世界的に売れているSUVの中でも、広大な大陸のアメリカや中国では大型SUVが売れているが、中世の町並みが残る欧州ではミドルサイズやコンパクトSUVが売れている。それもあって、日本で乗るなら俄然、欧州で支持されるサイズのほうが実用的でもある。加えて、欧州勢で初めてSUVの分野に乗り出したのはBMWである。特筆すべきは、SUVではなくSAV(=スポーツ・アクティビティ・ビークル)と称して、あくまでBMWらしいスポーティな走りを重視して開発している点だ。もちろん、メルセデス・ベンツやアウディ、そしてスポーツカーのポルシェもSUVをラインナップしており、ドイツ車のSUVは百花繚乱だ。

 

技術大国ドイツらしく、パワートレインのラインナップも幅広く備えており、低燃費ディーゼルやハイブリッドモデルも揃い踏みだ。EV走行できる距離も長めになっており、静かな住宅地から朝早く出発するようなときでも、スーッと音もなく走り出せるし、エンジンと電気モーターの相乗効果を発揮して、ドイツのアウトバーンよろしく高速道路を快適に駆け抜けることもできる。

 

カッコや使い勝手も良くて、最新のコネクティッドを搭載となると、お高いんでしょう? と思うかもしれないが、400万円アンダーのエントリーモデルもラインナップ。手が届きやすい価格からプレミアムまで揃うのもうれしい。

 

家族を乗せることも多いSUVゆえに安全機能の充実もドイツ車の得意とするところ。質実剛健でもSUVならオシャレ。しかも安全性能も高い。ゆえに、筆者はドイツ車SUVを推すのだ。

 

【川端さんオススメのドイツ車「SUV」3傑!】

【No.1】大幅な軽量化を実現しスポーティな走りが楽しめる

BMW

X3

675万円〜908万円

BMWのSUVで中核的なモデル。先代よりも車両重量を55kg軽量化し、バネ下重量も削減して走りの質を高めている。ディーゼル、プラグインハイブリッドモデルも追加され、多彩なパワートレインから選択可能だ。

 

良く走りカッコイイ“ちょうど良い”SUV

「数多いBMWのSUVの中で、大きさと走りがちょうど良いモデル。荷物をたくさん積んで家族で出かけるのに最適です」(川端さん)

 

【No.2】アウディ最小のSUVはキレの良い操舵性が魅力

アウディ

Q2

394万円〜430万円

コンパクトながら余裕の居住性と積載性を備えたSUV。プログレッシブステアリングによるキレの良い操舵性は快適なハンドリングを実現する。気筒休止機構による燃費向上性能にも注目。

 

アンダー400万円で手に入るドイツ車SUV

「プレミアムブランドのアウディですが、このQ2はSUVシリーズの末っ子。ゆえに手が届きやすい価格帯なのも魅力です」(川端さん)

 

【No.3】圧倒的な加速力を誇る走りはポルシェそのもの

ポルシェ

マカン

737万円〜1252万円

同社フラッグシップSUVのカイエンの弟分に当たるモデル。インテリアや走りはポルシェそのものだ。最上位のマカン・ターボなら100km/hまでの加速がわずか4.5秒という強力な加速力を誇る。

 

ポルシェの名に恥じないスポーティさは圧巻

「1000万円以下で手に入るうえに人気のSUVともなれば、胸躍る人も多いはず。さすがポルシェと唸る走りも堪能できます」(川端さん)

SUV購入検討時に必ずチェックしておきたい7つの項目

車高が少し高く、荷物もたくさん積めるカッコ良いクルマ——SUVのイメージはほぼ同一だが、運転のしやすさや使い勝手はやはり異なる。SUVの購入検討時に必ずチェックすべき点を、多くのSUVに乗車経験があるプロが伝授する!

※こちらは「GetNavi」 2021年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【私が解説します!】

モータージャーナリスト

岡本幸一郎さん

1968年生まれ。コロナ後に家族で旅するためのSUVの購入を検討中。メカニズム関連にも詳しい。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

【Point.1】エンジン車 or ハイブリッド車

燃費だけでなくドライビングフィールにどんな違いがあるか

いくらハイブリッドが低燃費でも、価格差の元を取るのはまず無理で、むしろ走り味の好みで選ぶべき。最近ではレスポンスが良くトルクフルで走りが気持ち良いハイブリッドが増えているので、そこに価値を見出せるかどうかでどちらを選ぶか決めたほうが賢明だ。

 

<トヨタ・CH-Rの場合>

トヨタのコンパクトSUV。リアのドアノブをCピラーに隠すなどクーペライクなデザインが特徴。1.2Lモデルには6MTも用意され、その走りをアピールする。

 

■エンジン車

価格:238万2000円〜271万5000円

燃費:14.9km/L(WLTCモード)

ターボ搭載の1.2Lエンジンはアクセルの操作に応じて瞬時に反応。滑らかに素早く伸びていく加速フィーリングを楽しめる。

 

■ハイブリッド車

価格:274万5000円〜304万5000円

燃費:25.8km/L(WLTCモード)

モーターが生み出すトルクをフル活用。動き出しの瞬間からアクセルに反応してスムーズに走行できる気持ち良さを実感できる。

 

【Point.2】運転のしやすさ

・乗降がしやすくドライビングポジションを取りやすいか

・前方だけでなく後方や斜め後方の視界も良いか

地上高が高いので、まずは乗降性が大切。最近ではサイドシルの下まで回り込んでドアが開閉するタイプが増えており、乗り降りしやすく服が汚れにくいなどメリットが多い。乗り込んでからは、ドライビングポジションの取りやすさや全方位の視界を確認しよう。

 

↑セダンなどに比べ床の位置が高いSUVは、当然シート位置も高くなる。乗車時の頭上空間と降車時の膝の動く量やグリップなどは要チェックだ

 

↑運転席で最適なポジションを取れるかをチェック。モデルによって異なるがステアリングのチルト&テレスコ、シートの高さ調整も忘れずに確認

 

↑背の高いSUVにとって後方視界は特に重要。ルームミラーの死角をカバーする補助ミラーの見え方や、その位置などはチェックしておきたい

 

【Point.3】フロントシートまわり

・どのような収納スペースがあるか

・いまや必要不可欠なUSBなどの端子類はあるか

運転環境と同じく、利便性も大切。USB端子がどこにあり、スマホがどこに置けて、コードをどのように取り回せるかなどもイメージしてみると良い。さらにスイッチ類の設定がどうなっているか、車種によって様々なタイプがあるので、しっかり確認しておくべきだ。

 

↑インパネまわりの収納力はある程度欲しいもの。またそれらの位置やフタの有無も使い勝手に影響するので、使い方を想定して見ておきたい

 

↑スマホ全盛の時代、充電やインフォテインメントシステムへの接続を考えるとUSBの位置は重要。ケーブルの取り回しも考慮して確認したい

 

↑Qi規格のワイヤレス充電器が装備可能なモデルも増加。ここではその位置や置きやすさ、取り出しやすさも併せて試してみたいところだ

 

【Point.4】リアシート

・乗降性と、着座したときにどれだけの余裕スペースがあるか

・快適にドライブできる装備はあるか

前席と同様、まず乗降性が大切。特に後席はドアの開く角度やドアの内張り、シートの角の形状の影響を受けやすい。さらに着座時の各部のクリアランスを確認。フロア中央部の張り出し具合や、リクライニングできるかどうかも一応調べておいたほうが良い。

 

↑普段3人以上で乗る場合には後席の乗降性は重要。凝ったデザインのモデルだと乗降がしにくいことも。ドアの開く角度も試しておきたい

 

↑座り心地や前席との距離、頭上スペースを確認。またシートのリクライニングやスライドが可能かもチェック。調整可能なクルマは多いのだ

 

↑いまや後席専用のエアコン吹き出し口は高級車だけの装備でなくなりつつある。その風向きや風量、USBや12V電源端子の有無を確認したい

 

【point.5】ラゲッジスペース

・テールゲートの開口形状やフロアの地上高

・リアシートを前倒ししたときの拡張性はどれだけか

テールゲートがどのように開くか、開くとどのような形状になっているか、ゴルフをする人はバッグが積みやすそうかどうか等をチェック。さらにリアシートを前倒しするとどうなるのか、フロア下のアンダーボックスがどのような形状になっているかもチェックしたい。

 

↑テールゲートは使い勝手に大きく影響する。地上高や荷物の載せやすさは必ず確認したい。荷室内部左右の張り出し幅も要確認ポイントだ

 

↑最近ではスペアタイヤを搭載しないモデルが増加し、そのぶん収納スペースを広くするモデルも。その広さや深さ、使い勝手をチェック

 

↑頻繁には使わないかもしれないが、後席を倒した時の段差は確認ポイント。長尺物の積載時に段差が影響するため、しっかりチェックしたい

 

【Point.6】安全運転支援技術

・機能の内容と他社との違いは何か

・高速道路でのACCはスムーズか

どのような機能があるか、他社との違いは何か、どんなセンサーを使っているか、得意/不得意な点をできるだけ詳しく理解しておいたほうが良い。試乗時に高速道路に乗れれば、ACCの追従のスムーズさや、車線維持機能がどのように利くかも確認してみよう。

 

↑衝突被害軽減ブレーキの対象は知っておきたい。メーカーごとに夜間の歩行者検知などに違いがあるからだ。万一の装備こそしっかり把握したい

 

↑死角を補ってくれる後側方車両検知機能もチェック。これもモデルによってその検知範囲に違いがある。後退時の安全支援装置も確認したい

 

↑高速道路走行時の運転をラクにしてくれるACCの範囲は確認事項のひとつ。稼働可能な車速帯、渋滞追従機能の有無なども併せてチェック

 

【Point.7】快適・便利機能

・グレードごとの標準装備と、オプションで必要な費用はどのくらいか

車種によっては他車にない特徴的な装備が設定されているケースもある。同じ車種でもグレードによって設定が異なり、好みのオプションが選べないこともあるので、そのあたりはできるだけ詳しく情報を収集すべし。上級グレードを選んでおけばほぼ間違いはない。

 

○……標準装備 △……メーカーオプション ×……装着不可

 

↑寒い季節に便利なシートヒーター。寒冷地仕様では標準装備が増えてきたが、オプションで設定可能かどうかもチェックしておきたい

東急の礎を築いた「五島慶太」−−“なあに”の精神を貫いた男の生涯【前編】

 〜〜鉄道痛快列伝その3 東急グループ創始者・五島慶太〜〜

 

大都市の私鉄の路線網は大正から昭和にかけて、一握りの辣腕経営者によって生み出された。数多く設けられた路線は次第にまとめられ、使いやすいように整備されていったのだ。そうした鉄道の恩恵を日々、私たちは受けて暮らしている。

 

今回は、東急電鉄の路線網を造り上げた五島慶太の人生を振り返ってみたい。

*絵葉書・路線図、写真は筆者所蔵および撮影

 

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【五島慶太の生涯①】長野県の山村で生まれ紆余曲折の半生をおくる

五島慶太の生涯はドラマに満ちている。なかなか波乱万丈である。77歳で亡くなったが、そのうち鉄道会社の経営に精力をかたむけた期間はちょうど半分でしかない。短い期間で精力的に動き、東急電鉄の路線網を造り上げたのだ。そんな五島慶太の痛快な生き様を見ていきたい。

 

五島慶太は1882(明治15)年4月18日、長野県小県郡青木村(旧・殿都村)で、小林菊右衛門の次男・小林慶太として生まれた。生家は農家で、集落の中では最も資産家だったとされるものの、父親が事業に失敗するなどして、経済的な余裕がなかった。山村で育った慶太は小さいころ、とにかくワンパクで、仲間を引き連れて歩く典型的な“お山の大将”だった。学歴に触れておこう。

 

1889(明治22)年 青木村小学校尋常科へ入学

1893(明治26)年 浦里小学校高等科へ転校

1895(明治28)年 長野県尋常中学校上田支校に入学

1898(明治31)年 長野県尋常中学校松本本校へ移る

1900(明治33)年 長野県尋常中学校松本本校を卒業。青木村小学校の代用教員となる

 

今の年齢でいえば、高校卒業したばかりで代用教員となったわけである。代用教員となった理由は、都会へ出て勉強をしたかったため。そのためにまずは学費を貯めるべく仕事についた。ガキ大将だったものの、頭は良く、まずは将来のために勉強を、と考えていた。

↑五島慶太の故郷、青木村へは上田電鉄の上田原駅(駅は上田市内)が最も近い。駅前から青木村へ路線バスが出ている(左上)

 

お金を貯めて東京へ出た慶太は、その後に次のような過程を経る。

 

1902(明治35)年 東京高等師範学校(現・筑波大学)英文科に入学

1906(明治39)年 東京高等師範学校を卒業。四日市市立商業学校の英語教師として赴任

 

教師を育てるために当時は師範学校が設けられていた。慶太が学んだ時の東京高等師範学校の校長は嘉納治五郎だった。嘉納治五郎といえば柔道家として著名だが、通算25年にわたり東京高等師範学校の校長を務めていた。慶太は嘉納の言葉に感銘を受ける。

 

『人間として何が一番大事か。それは「なあに」という精神である』

(東急・五島慶太の生涯/北原遼三郎著・現代書館)

 

要は、どんなにつらいことがあっても「なあに」このぐらいはと、はねのける、いわば不屈の精神が大切だということを、慶太は学んだのだった。

 

さて、師範学校を卒業し、英語教師として三重県の四日市の学校へ赴任するもすぐに辞めてしまう。教師という仕事が肌に合わないと感じたのだった。早く見切りをつけて次の道へ進む。この転身の早さは慶太の特長だったようだ。そして東京帝国大学を目指して撰科に入学。撰科とは正科に欠員が出た時に補充する、いわば予備校的なクラスだった。その後に超難関だった試験に受かり正科に転学している。

 

1907(明治40)年 東京帝国大学政治学科撰科に入学、後に法科大学本科に転学

1911(明治44)年 東京帝国大学を卒業、農商務省に入る

 

↑上田電鉄の城下駅で公開された元東急5200系。五島慶太最晩年に東急車両製造で造られた日本初のステンレス鋼製電車だった

 

農商務省へ入省したのが29歳の時で、一般の若者に比べ、だいぶ遅れて官僚の仲間入りを果たした。しかも、当初は鉄道に縁のない農商務省だったわけで、ここでもだいぶ“寄り道”をしていたわけだ。

 

本原稿も少し寄り道してみたい。慶太の出身地・青木村の近くを走る上田電鉄の別所線。今では東急グループの一員となっている。

 

さらに保存されている元東急5200系電車は、不定期で展示イベントが開かれる名物車両となっている。この電車は慶太が立ち上げた東急車輌製造(現・総合車両製作所)が新造した車両で、日本初のステンレス鋼製の電車だ。テスト的な意味合いの強い車両で5両しか製造されなかった。

 

東急車輌製造は、その後の日本の電車のステンレス化に大きく貢献した企業で、この会社がなかったら、ここまでステンレス車両化が進まなかったといっても良い。常に人々に役立つことを念頭に事業を展開させた、五島慶太が生み出した会社らしい異色の車両でもあった。

 

上田電鉄に残される5200系電車は東急車輌製造で造られた5両のうちの1両だ。さらに不思議な縁がある。この電車が製造されたのが1958(昭和33)年から1959(昭和34)年にかけてで、実はこの車両の製造が終了した1959(昭和34)年に、五島慶太はちょうど亡くなったのである。つまり五島慶太が亡くなったころに生まれて、今も故郷近くで保存されているというわけだ。

 

【五島慶太の生涯②】阪急の創始者、小林一三に見いだされて

東京帝国大学を卒業した慶太は、まず官僚への道を歩む。ところが、大学を卒業したのが30歳近くとあって、官僚となったものの、周りに比べればかなり遅いスタートとなった。そのため出世の道はほぼ断たれていた。

 

1913(大正2)年 鉄道院へ移る

1918(大正7)年 鉄道院総務課長心得に就任

 

そのためもあってか、農商務省へ入省したものの、2年で鉄道院へ移った。この鉄道院へ移ったことが、その後の人生を決めたといっても良いだろう。プライベートな話題としては、

 

1912(明治45)年 建築家・久米民之助の長女、万千代と結婚

 

同年に五島に改称している。義父から五島の家を継いで欲しいという申し出があったからだという。明治から昭和に至るまで、名家の名前を殘すために夫婦どちらかが養子となり、その姓を名乗るケースがあった。妻となった万千代は10歳年下で、一目ぼれだったらしい。妻との間に2男2女をもうけている。

 

さて、鉄道院に移った慶太は鉄道院総務課長心得として務める。だが“心得”が気にくわないと、書類の心得は消して提出したと言う。堅苦しい役人生活は性に合わなかったのであろう。役人として風変わりな存在でもあった。

↑田園調布駅の復元駅舎。田園調布の住宅地造りには渋沢栄一、小林一三らそうそうたるメンバーがかかわっていた

 

慶太が鉄道院総務課長心得となった年に、その後に大きく関わることになる事業が始められた。

 

今年の大河ドラマの主人公、渋沢栄一が晩年に起こした事業である。それは田園調布を開発し、住宅地化しようという試みだった。そのために1918(大正7)年に田園都市株式会社という開発会社が設けられた。発起人であり相談役として渋沢栄一が就任する。渋沢は田園都市の開発には鉄道が必要として、阪急を生み出した小林一三を引き込もうとした。

 

とはいえ小林一三は、自社の経営で忙しい。さらに今の時代ならば、可能かもしれないが、当時は関西と東京を移動すること自体も大変だった。誰か代わりが務められる人材がいないだろうか、と探していた時に“おもしろい男がいる”ということで引き込まれたのが五島慶太だった。慶太は1920(大正9)年に鉄道院を退官、武蔵電気鉄道の常務取締役に就任していた。

 

1922(大正11)年9月2日に田園都市開発株式会社の傘下の荏原鉄道が、目黒蒲田電鉄と改称した。この日が東急電鉄の創立記念日となっている。そして五島慶太は10月2日に目黒蒲田電鉄の専務取締役に就任した。

 

五島慶太は、まず武蔵電気鉄道という会社に関わっている。この武蔵電気鉄道はその後に東京横浜電鉄の大元になる会社なのだが、当時はほとんどペーパーカンパニーで、内容が伴っていなかった。武蔵電気鉄道に関わったのが30歳代の終わり、そして目黒蒲田電鉄という鉄道会社の専務となったのが、40歳という年齢だった。ここから鉄道事業に携わる慶太の半生が始まった。

 

不幸なことに最愛の妻、万千代を1922(大正11)年に亡くしている。わずか31歳だった。こうした心の痛手を埋めるかのように慶太は事業に没頭し、妻の死後は一生、独り身を通した。

 

【五島慶太の生涯③】無人の荒野を行くかごとくの東京の郊外開発

渋沢栄一が構想を練り、そして小林一三まで巻き込み、五島慶太が実質的な開発責任者となった田園調布の開発計画だったが、そのころの東京城西、城南地区の状況はどのようなものだったのだろうか。

 

一枚の絵葉書がある。これは、大正中ごろの玉川電車沿線の様子だ。玉川電車とは、“玉電”の名前で親しまれ、現在の国道246号上を走った路面電車だ。現在、東急世田谷線として、一部区間が残っている。中央本線の路線の南西部で、最も早く設けられた鉄道路線だった。玉川電気鉄道により1907(明治40)年、渋谷〜玉川間が全通している。

 

玉川電気鉄道は、路線開業前の会社名が玉川砂利電気鉄道だった。要は乗客を運ぶよりも、多摩川の河原の砂利を東京の都市部へ運ぶことを主目的に造られた路線だった。

↑大正中ごろの玉川電気鉄道の路線風景。現在の二子玉川駅近くか、駒沢大学駅付近か、沿線には広大な田畑が広がっていた

 

大正中ごろの玉川電車の絵葉書を見ても、線路の周りは田畑のみで、ここがどこなのか今となっては分からない。まさに隔世の感がある、玉川電気鉄道の路線は、現在の東急田園都市線の渋谷駅〜二子玉川駅間にあたるが、沿線はほとんどが住宅地となり、畑地などほとんどない。

 

城西・城南地区で他の私鉄路線といえば、旧東海道の沿線に路線を設けた京浜電気鉄道の一部区間が1901(明治34)年に開業したぐらいのものだった。

 

五島慶太が電鉄会社を設けたころは、東京の城西・城南は玉川電気鉄道の沿線と同じような状況で、こんなところに鉄道路線を設けること自体、よほどの物好きと考えるのが普通だったわけである。まさに無人の荒野を行くがごとくの郊外開発だった。

 

【五島慶太の生涯④】まずは目蒲線から路線づくりを始めた

何もないところに住宅地を造り、移動手段として鉄道を敷設する。今となれば、最初に考えた渋沢栄一には先見の明があったことが分かる。しかし当時、不毛の台地に鉄道を敷こうなんてことは、破天荒過ぎる考えだった。そんな鉄道路線づくりを、五島慶太は始めたわけである。

 

まずは目蒲線(現・目黒線と東急多摩川線)の路線づくりから手を付け始めた。

 

1923(大正12)年3月11日 目黒蒲田電鉄が目黒線・目黒駅〜丸子駅(現・東急多摩川線沼部駅)間8.3kmが開業

11月1日 丸子駅〜蒲田駅間4.9kmが開業、目蒲線に改称、同線が全通する。当初9月開業予定だったが関東大震災の影響で11月にずれた

 

この年の9月1日に関東大震災が起ったことにより、目蒲線の開業は計画よりも遅くなった。工事現場も被害を受け、慶太自ら現場に出て、作業員らと一緒に復旧作業を行うなど苦闘した。関東大震災の後に下町から山手に住まいを移す人も出てくるようになった。山手線沿線に住む人は増えたものの、城西・城南の郊外へ住まいを移す人はそれほど多くはなかった。

↑目蒲線開業直後に旧丸子駅で写した目黒蒲田電鉄重役一同。左端が五島慶太、右から5人目が小林一三(昭和18年刊『東京横浜電鉄沿革史』)

 

↑現在の東急蒲田駅。右上は大正末期の蒲田駅(昭和18年刊『東京横浜電鉄沿革史』)。駅周辺は閑散としていたことが良く分かる

 

目蒲線が開業してから間もなく、次は東横線の開業を目指した。まずはペーパーカンパニーだった武蔵野電気鉄道の社名を、1924(大正13)年に東京横浜電鉄と変更した。五島慶太が専務に就任、小林一三が監査役となっている。そして、

 

1926(大正15)年2月14日 東京横浜電鉄が神奈川線・丸子多摩川駅(現・多摩川駅)〜神奈川駅間14.8kmを開業、目蒲線からの直通運転を開始

1927(昭和2)年8月28日 渋谷駅〜丸子多摩川駅間9.0kmが開業。路線名を東横線とする

 

渋谷駅と神奈川駅間の全通が遅れたのは、多摩川の架橋工事に手間取ったからだった。この架橋工事でも慶太は陣頭指揮をとったと記録されている。

↑東横線の開業当時、横浜側の終着駅は神奈川駅(廃駅)だった。路線跡は東横フラワー緑道として整備され、線路のモニュメントも設置されている

 

【五島慶太の生涯⑤】東横線の路線を横浜まで延ばしたものの

大正から昭和初期にかけて設けられた目蒲線と東横線だったが、当初は利用者も少なく苦戦続きだったが、徐々に乗客が増えていき、路線延伸が続けられた。

 

1927(昭和2)年7月6日 大井町線、大井町駅〜大岡山駅間4.8kmが開業

1928(昭和3)年5月18日 東横線、神奈川駅〜高島駅間1.2kmが開業

1929(昭和4)年11月1日 二子玉川線、自由ヶ丘駅(現・自由が丘駅)〜二子玉川間4.1kmが開業、12月25日 二子玉川線、大岡山駅〜自由ヶ丘駅間1.5kmが開業。大井町駅〜二子玉川駅間が全通し、大井町線となる。

1932(昭和7)年3月31日 東横線、高島町駅〜桜木町駅間1.3kmが開業

 

現在まで続く、東横線、目蒲線(目黒線と東急多摩川線)、大井町線の路線網が、昭和初期でほぼ造り上げられた。

 

年号や開業日だけを見ると、いかにも路線の開業、延伸が上手く進んだように見えるが、すべて上手くいったわけではなかった。

 

1927(昭和2)年に起きた金融恐慌の影響、さらに世界恐慌。銀行は連鎖倒産、中小企業の倒産、労働争議も各地で起き、工場閉鎖が相次いだ。そして失業者が町にあふれた。現在、コロナ禍とはいえ、大卒の就職内定率は90%近くになる。ところが当時は大卒で就職できたのは30%だった。どん底の不況が日本を襲った。

↑1935(昭和10)年ごろの東京横浜電鉄・目黒蒲田電鉄の路線図。前年に池上線も同社の路線となり拡大路線は順調に進んだ

 

慶太も新線建設のための資金ばかりか、従業員の給料にと、銀行を駆けずり回るが、資金調達が断たれてしまうこともしばしばだった。資金繰りに苦しみ、わずかばかりの借金で保険会社にも頭をさげて回ったと伝わる。

 

「松の枝がみな首つり用に見えて仕方がなかった」

(日本経済新聞社刊『私の履歴書』より)

 

豪毅な五島慶太でさえ、この時ばかりは死を覚悟したようである。とはいえ、こんな絶体絶命な時にも、嘉納治五郎の教え、“なあに”の気持ちで踏ん張った。この時の経験は五島慶太の『予算即決算主義』の経営哲学の確立に役立ったとされる。

 

当時の東横線のチラシには「ガラ空き電車を御利用下さい」の文句すらある。なかば居直りにも感じられるセールストークである。このガラ空き電車の文句には前例があった。事業の師でもあった阪急創始者・小林一三氏も同じ文言を使っていたのである。

 

小林一三は、神戸線開業時に自ら次の広告文を書いている。「綺麗で、早うて、ガラアキで、眺めの素敵によい涼しい電車」とした。小林一三も、五島慶太も、どのように大変な時でも、茶目っ気を忘れなかったようである。

 

金融恐慌、世界恐慌の不景気に震撼した日本経済だったが、転機が訪れた。1931(昭和6)年9月18日に起きた満州事変だった。中国の満州で起きた紛争により、その後、関東軍は満州の占領を進める。この軍需景気により、日本の経済は復活し、湧いたのである。

 

【五島慶太の生涯⑥】吸収合併を繰り返して“強盗慶太”と揶揄された

五島慶太はこの機を活かして拡大政策にうって出る。まずは1934(昭和9)年に東京高速鉄道の常務に就任。地下鉄路線の経営に勝機ありと見てのことだった。

 

さらに10月1日に池上電気鉄道(五反田駅〜蒲田駅間)の吸収合併を行う。現在の池上線は池上電気鉄道という会社が、1922(大正11)年に蒲田駅〜池上駅間1.8kmを開業させたことに始まる。徐々に延伸させていき、1928(昭和3)年に五反田駅まで全通させた。

 

慶太が率いた目黒蒲田電鉄と、ほぼ同じ時期に路線づくりを始めた会社だった。その会社を吸収合併という形で飲み込んだのである。

 

1934(昭和9)年は五島慶太が最初の勝負に乗り出した年だった。だが、好事魔多し。10月18日になんと贈賄容疑で逮捕されてしまったのである。東京市長選の立候補者に対して多額な選挙資金を提供したという疑いがかけられた。約半年後の182日目に釈放されたものの、市ヶ谷刑務所に半年にわたり収容されている。裁判の結果は第一審が有罪、第二審が有罪、大審院では上告棄却され、無罪となっている。

↑1938(昭和13)年、玉川電気鉄道合併後の路線図。同線は渋谷以東にも路線を持っていたが、合併後すぐに東京市電気局の路線となった

 

収監中は読書ざんまいの生活をおくったとされる。「人間として最低の生活」と後に振り返るものの、事業ばかりの自分の半生を冷静に省みることもできた。無罪となった五島慶太はさらに事業の拡大を推し進めていく。

 

1936(昭和11)年 東京横浜電鉄、目黒蒲田電鉄取締役社長に就任

1938(昭和13)年4月1日、玉川電気鉄道を合併する(後の東急玉川線)

 

同年に江ノ島電気鉄道を買収、取締役社長に就任。ほかタクシー会社、運送会社など複数の企業を立ち上げて社長に就任した。

 

1939(昭和14)年10月1日 目黒蒲田電鉄が東京横浜電鉄を吸収合併、名称を東京横浜電鉄に。

1942(昭和17)年5月1日 京浜電気鉄道、小田急電鉄を合併、東京急行電鉄株式会社に商号を変更

 

↑小田原急行鉄道と呼ばれた当時の小田原駅。親会社は鬼怒川水力電気という電力会社だった。1942(昭和17)年に東京急行電鉄に統合された

 

太平洋戦争に突入した1942(昭和17)年に五島慶太は京浜電気鉄道、小田急電鉄を合併し、さらに1944(昭和19)年には京王電気軌道を合併している。この時代は東急最大最長の路線網を誇ったころで、後にこの時代の東急を「大東急」と呼んだ。当時は資金力にものを言わせて、他社の鉄道を飲み込んだと世間的には見られており、五島慶太は“強盗慶太”と揶揄された。

 

ただ、大同団結した時代の背景も見ておかなければいけないだろう。まずは当時の鉄道会社の多くが、電力会社の副業という側面があった。ところが、1938(昭和13)年4月に国が電力管理法を施行したことにより局面が変わる。この法律によって、電力の国家統制が始まった。それまで中小電力会社が乱立していたが、様々な圧力もあり日本発送電にまとめられてしまう。

 

鉄道業務が副業だった電力会社は追いつめられた。小田急電鉄がその一例にあたる。小田急電鉄は鬼怒川水力電気という電力会社の子会社で、その電力業務を国に取り上げられたことで窮地に追い込まれた。そんな時に救いの手を差し伸べたのが五島慶太だ。

 

また1938(昭和13)年に4月2日に陸上交通業調整法が公布、8月1日に施行されたことも大きい。こちらも国家統制で、乱立気味だった交通事業者の整理統合を正当化する法律でもあった。こうした時代背景が生み出した“大東急”だったのである。

 

【五島慶太の生涯⑦】渋谷を大きく繁栄させた東横百貨店の誕生

東急を生み出した五島慶太だったが、鉄道事業以外も精力的に推し進めた。そうした多角化が、その後の東急の文化的な側面のイメージアップにつながったことは間違いない。もちろん電鉄の利用者を増やす目的もあったのだが。

 

最初の動きとしては1929(昭和4)年の7月に慶応義塾大学の日吉台への誘致が挙げられるだろう。大学に無料で7万2000坪の土地を提供している。当時、世界恐慌による不況の影響を受けていたのにも関わらずである。名のある大学を誘致すれば、路線のイメージアップにつながり、もちろん学生に電車に乗ってもらえる。とはいっても会社ができて間もない時期であり、ライバル会社との綱引きもあり、広大な土地の無償提供はかなり思い切った策だった。その後には、

 

1934(昭和9)年11月1日 渋谷駅東口に東横百貨店(東館)が開業

1938(昭和13)年6月に東映映画株式会社を設立、7月に株式会社日吉ゴルフクラブを設立、12月に玉電ビルが完成、東横百貨店西館が開業する

1939(昭和14)年 東横商業女学校を私費で設立

 

デパート、映画興行、さらにゴルフ施設、そして学校の設立も行っている。東横商業女学校は、贈収賄事件で収監された五島慶太へ当時の株主総会で感謝金として出された5万円に、私財をプラスして設立させた。「この金をもらうわけにはいかず」と話したとされるように、お金に執着するわけでなく、将来のための人づくりのために活かしたわけだ。東横商業女学校は、その後に東横学園中学校・高等学校となり、また建学された武蔵工業大学と、東横学園女子短期大学が統合され、現在は東京都市大学と改称している。これらの学校は学校法人五島育英会が運営を行う。五島慶太の思いがこうして花開いていくわけである。

 

五島慶太が生前は“強盗慶太”と称されたものの、没後にその生涯が認められたのは、鉄道事業以外に、多くの社会貢献にあたる事業を進めたことも大きいだろう。

↑東横百貨店の開業は渋谷の町の発展に大きく貢献した。写真の東急百貨店東横店は2020年3月31日で閉店している

 

太平洋戦争中には事業ばかりでなく、政治の世界にも乗り出した。

 

1943(昭和18)年 内閣顧問に就任

1944(昭和19)年2月19日、東條英機内閣の運輸通信大臣に就任

 

大臣に就任したことから東京急行電鉄社長を辞任。この時、61歳。電鉄の誕生に関わり、順調に成長させ、多くの路線網を傘下におさめた。まさに絶頂期だったのかもしれない。

 

ところが、大臣に就任してわずか5か月後の7月18日、東條英機内閣は解散してしまう。五島慶太は運輸通信大臣を辞任後、12月28日に東京急行電鉄会長に就任した。

 

さて五島慶太の今回の紹介はここまで。次回は太平洋戦争後の話を中心に進めたい。戦後は、箱根と伊豆でライバルとなる人物が現れ、壮絶な戦いを繰り広げることになる。

 

東急を率いるにあたって追い込まれることも多くなっていくが、常に〝なあに〟の思いを強め、乗り切っていったのである。

 

*参考資料:「東急・五島慶太の生涯」北原遼三郎著/現代書館、「ビッグボーイの生涯」城山三郎著/講談社、「私の履歴書‐昭和の経営者群像〈1〉」日経新聞社、「東京横浜電鉄沿革史」東京急行電鉄株式会社

 

ジワジワ増殖中の「駐車場シェア」。そのメリット・デメリット

最近よく耳にする駐車場シェアサービスとは、コインパーキングなどの一般的な「時間貸し駐車場」に対し、月極駐車場や、民家隣接のガレージを、一般車が一時的に利用できるサービスです。まだ、一般的な浸透度はこれからですが、これは画期的なビジネスモデル。今後、本格的に浸透すればドライバーの選択肢が広がるだけでなく、特に都心部で上がる一方だったコインパーキングの高騰を止めるカンフル剤になる可能性も秘めています。

 

しかしながら、その利用術や実体、業界規模などはあまり知られていません。そこで今回は、『特P』という駐車場シェアサービスを行うアースカーの営業本部長・渡辺修平さんに、「駐車場シェアの実体と使い方」「メリット・デメリット」について、詳しく話を聞いていきます。

 

駐車場シェア事業への参入メーカーは大きく分けて3つある

――現在、駐車場シェア事業に参入しているメーカーはどれくらいの数があるのでしょうか。

渡辺修平さん(以下、渡辺):大手・中小を含めると、10~15社があります。大手で言うと、コインパーキング事業を行っているタイムズ、三井のリパークが有名ですね。あとは、ソフトバンク、ドコモといった通信事業者も参入しています。

 

その他に、我々のようにカーシェア事業者が、モビリティとの連動性を図って参入しているケースや、それまでは駐車場やモビリティ事業を行っていなかった事業者などがいるので、現在、駐車場シェアサービスを行うメーカーを大別させると「コインパーキング系」「通信事業者系」「独立系」になると思います。

 

実は少なかったアプリを使っての駐車場シェアサービス。でも、なんで?

――それぞれ使い方が違うわけですよね。アプリを使うのか、WEBブラウザを使うのかなど。

渡辺:はい。駐車場シェアのアプリ系で有名なのは「akippa」。先進的で将来性のあるサービスだと思いますが、実は駐車場シェアアプリの大半はWEBブラウザを使うものの方が多いんですよ。

 

――どうしてでしょうか。

渡辺:アプリは、リピートして使う際に一番の利便性を発揮します。例えば、以前行ったエリアで「もう一度駐車場シェアを利用したい」といった場合には、断然アプリの方が良いです。

 

ただ、現状のユーザーの使い方は、いきなりアプリを使うより、まず目指す場所に対し「どんな立地で、どれだけの駐車場があるか」を念頭にグーグル・マップなどで検索することが多いんですね。そこで仮に「駐車場の数が少ない」「駐車料金が高い」となった際には、初めて駐車場シェアサービスを視野に入れていただけることが多い。現状のユーザー数は、業界で200~300万人とも言われていますが、この市場規模では、むしろブラウサのサービスの方が使い勝手が良いのではないかと考えています。

 

ブラウザを使って複数のメーカーのサイトにアクセスし、比較して利用する駐車場を決め、予約、決済する……。現状ではこういった使い方をする人が多いと思います。

↑『特P』のスキームイメージ図。「駐車場を貸したい」オーナーが、『特P』のブラウザサービスを介して、「駐車場を借りたい」ユーザーを結びます

 

駐車場シェアの料金は「1日単位」など広め

――駐車場シェアの今後の浸透は、従来のコインパーキングよりも「便利だ」「安い」といったものにかかってくるように思います。

渡辺:おっしゃる通りです。ただ、コインパーキングが「10~15分刻み」で料金設定をしているのに対し、駐車場シェアの大半は「1日単位」「半日単位」の利用が主流です。繁華街・ビジネス街などで「2~3時間刻み」の駐車場シェアもありますが、これは利用する方の回転が早いエリアに限ってのもの。原則的には「1日単位」「出し入れ自由」というものが多いです。

 

――なぜ、細かく利用時間を刻めないのでしょうか。

渡辺:大きな理由の一つは、駐車場シェアはコインパーキングと違い、課金する機械を設置していないことが挙げられ、細かく刻んだ利用時間を見張る強制力が乏しいからです。分かりやすく言うと「10分の利用」だけの決済だったのに、「間違えて20分停めちゃった」となった場合、当然追加で課金していただく対象になりますが、機械がないため強制力が薄いんです。

 

その点、「1日単位」「2~3時間刻み」であれば刻みが広く、ユーザーの方も間違えにくいメリットがある一方、仮にオーバーされた場合、こちらも追いかけやすいんですね。こういった理由から、多くの駐車場シェアサービスでは、利用時間を細かく刻んでいないことが多く、コインパーキングとは一概に比較できない側面もあります。

 

――ちなみに『特P』では、東京都内でも駐車場料金が高い渋谷での利用料金はどれほどになりますか?

渡辺:あくまでも2021年5月時点での一例ですけど、「深夜0時~朝の6時まで=300円」ですね。あるいはコアタイムで言うと、「朝9時~昼12時まで(3時間)=1000円」といった料金体系のものがあります。

 

――これらの駐車場は、本来は時間貸しなどを行っていなかった空きスペースだからこそ、安値が実現できるということですか。

渡辺:事業者によっても違いますが、『特P』の場合はそうです。

 

『特P』は繁華街・ビジネス街と、住宅街両方を展開していますが、事業者の中には、東京ドームや味の素スタジアムなどの、コロナ禍でなければイベントが頻繁に行われるエリアに特化させた駐車場シェアを行っているところもあります。

↑『特P』が契約する渋谷の駐車場の一例。駐車場シェアを行う事業者ごと、エリアの得意・不得意があるようなので、ユーザーはこの点も意識し見極めて利用する方が良さそうです

オーナーにとって「見知らぬユーザーが、自分の家の駐車場を利用する」違和感は?

――ここで一つ疑問ですが、例えば住宅街だと、オーナーさんの家の敷地内にあることが多そうです。そういった場合、オーナーさんと全く由縁のない人の車で出入りするとなると、オーナーさん側が嫌がることはありませんか?

渡辺:よく聞かれる質問です。まず、我々がオーナーさんと契約し、サービスを提供しているのですが、実際のところ、オーナーさんの方から「このスペースなんとかならないか」とお困りの上で、お問い合わせいただくケースの方が多いんですよ。

 

――そうなんですか。

渡辺:はい。例えば1台しか空きスペースがないのに、不動産店を介して月極として貸し出すのは忍びないし、面倒くさい。結果的にそのまま放置されていて、少しでも有意義に運用したいと考えるオーナーさんからの声が非常に多いんです。

 

なので、もともとご納得いただいた上で契約に至っていますので、ご質問のような「知らない人がオーナーさんの駐車場を利用する」ことに対するご不満は意外と少ないんです。

 

また、『特P』との契約は、オーナーさん側の負担はなく基本的に無料です。利用があった件数分、我々が手数料をいただき、残りをオーナーさんにお支払いするというビジネスモデルですので。オーナーさんにとってみれば、仮に「使われなかった」としても損することはなく、唯一あるとすれば、「契約時の手間」「写真を撮る手間」などです。ですので、皆さん快く契約いただくことが多いです。

↑『特P』が契約している、世田谷区下馬の駐車場シェアスペース。民家の一角だとしても、オーナー側の不満の声やトラブルは少ないとのこと

 

駐車場シェアで起こり得るトラブルと、その対策

――素朴な疑問ですが、各駐車場で事故やトラブルがあった場合はどうなるんでしょうか。例えば、「駐車場の壁に車をぶつけてしまった」「駐車場から出てくれない車がある」など。

渡辺:現状、事故率は極めて少ないですが、仮に「壁にぶつけた」などの事故が起きた場合は、ドライバーの方の任意保険で対応していただけるよう約款上に定めています。

 

ただ、「駐車場から出てくれない車がある」あるいは「予約も何もしていないのに勝手に停めている車がある」といった事例が数少ないものの万一起きてしまった場合は、弊社の方でナンバーを照会して所有者を割り出して相応の対応を講じるようにしています。

 

そうならないために、予約がない際にはコーンを置いて「予約専用のスペースですよ」と表現したり、モラルアップを促すようなことは当然やっています。

 

駐車場シェアは「二酸化炭素削減」にも寄与……どういうこと?

――駐車場シェアは、「空きスペースを有効活用する」というメリットが一番だと思いますが、他にはどんな利点がありますか?

渡辺:これまでのお話の通り、「コインパーキングよりも安く利用できる可能性がある」「駐車場の選択肢が増える」「事前予約・決済のキャッシュレスで利用なので、小銭が必要なくスマートに使える」などもありますが、もう一つ、二酸化炭素を減らすメリットもあります。

 

――駐車場シェアで二酸化炭素削減ですか?

渡辺:はい。通常、駐車場探しをしているとき、「空きがあるか」「もっと安い料金の駐車場がないか」と、グルグル迂回することがありますよね。そういった「駐車場探しの自動車を減らしなさい」ということを、「東京2020オリンピック」の交通渋滞抑制を目的に東京都や国土交通省も言っているのですが、この点も、駐車場シェアサービスによる事前予約で駐車場を選ぶことで抑えられると思っています。

 

――今後駐車場シェアはどれほどの間に浸透していくと思われますか?

渡辺: 業界予測としては2030年までに1100億円規模の市場になると言われています。その大きな理由として、電気自動車の存在があります。各自動車メーカーはもちろん、様々な業種・メーカーが電気自動車の開発を進めていて、やはり2030年にはほとんどの車が電気自動車になると言われています。

 

電気自動車が普及した場合、ガソリン自動車に比べて部品点数も少なく、はるかに安い価格で販売されることが予測されます。ガソリン車よりも、電気自動車が爆発的に売れる時代が来た際に何が起こるかと言うと、圧倒的に駐車場が足りなくなるわけです。

 

弊社では、駐車場シェアの他に、カーシェア事業も行っていますが、こういったモビリティ全体が抱える課題に対して、サービスを提供し続けるのが使命だと思っています。これからも時代を先読みし、多くのニーズに対応することができるようサービスを向上させていきたいと考えています。

 

駐車場シェアの利点は、ユーザー・オーナーにとってだけでなく、二酸化炭素削減など社会全体にもあることがよく分かりました。渡辺さんのお話にあった2030年まで、あと9年。それほど遠くない将来に訪れるモビリティ全体の大変革、今後も注目です。

ホンダ・ヴェゼルと並ぶ実力派! 国内4強SUVの実力をプロがチェック!

フルモデルチェンジしたホンダ・ヴェゼルと同クラスの国内4強SUVの実力をプロがチェック。コンパクトサイズながら使い勝手を向上させた室内や走り、デザインなど、創意工夫が盛り込まれたモデルばかりだ。

※こちらは「GetNavi」 2021年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【私がチェックしました!】

モータージャーナリスト

清水草一さん

フェラーリ、ランボルギーニから軽自動車まで所有経験のある自動車ライター。常にコスパを優先して愛車をチョイスしている。

【エントリーNo.1】コレ1台あればあらゆるニーズを満たせる

トヨタ

ヤリス クロス

179万8000円〜281万5000円

2020年販売台数:15万1766台(※)

※:コンパクトカーのヤリスと合計の販売台数

●出典:一般社団法人 自動車販売協会連合会

大激戦のコンパクトSUV市場。そこにトヨタが投入したモデルがヤリス クロスだ。街なかで使い勝手の良いサイズと、エントリーモデルは180万円を切る価格設定、充実した装備が魅力だ。

SPEC【HYBRID Z・2WD】●全長×全幅×全高:4180×1765×1590mm●車両重量:1190kg●パワーユニット:1490cc直列3気筒+モーター●最高出力:91PS/5500rpm●最大トルク:12.2㎏-m/3800〜4800rpm●WLTCモード燃費:27.8km/L

 

さすがは天下のトヨタ! クルマづくりにスキがない

ヤリス クロスは、良くできたSUVというよりも、弱点のない実用車だ。後席やラゲッジスペースが狭いヤリスの弱点を補いつつ、車高を少し上げ、かつスタイルを万人向けにカッコ良く仕上げたクルマと言えば分かりやすいだろう

 

パワーユニットは、1.5Lのガソリンとハイブリッドの2種類。どちらもFFと4WDが選べる。グレードも合計14種類と豊富だ。価格帯は幅広く、全体的にリーズナブル。もちろん燃費も良い。内装だけは少々チープな感じが否めないが、ほぼすべての点で満足度が高く、誰が乗っても間違いない。さすがトヨタの人気SUVである。

 

【ヤリス クロスのココがスゴイ!】

走り、安全性能、荷室容量とすべてが最高レベルです!

「ヤリスシリーズならではの軽快な走りと先進の安全装備が自慢。コンパクトSUVとしては最大級の荷室容量で、後部座席を倒すことなく大型スーツケース2個を収納可能です」(トヨタ広報PR)

 

↑インパネの基本デザインはヤリスと同様。ヤリス クロスではセンターコンソールからディスプレイにかけて縦の流れを強調する

 

↑ヤリスよりクッション性が高く、高い天井など後席の快適性は◎。4:2:4の分割可倒式を採用するグレードもあり使い勝手も良い

 

【清水’s Check】

デザイン ★★★★

パワーユニット ★★★★★

乗り心地 ★★★★

使い勝手 ★★★★

コスパ ★★★★★

 

【エントリーNo.2】デザイン命のSUVはカッコ良さで選んで良し!

マツダ

CX-30

239万2500円〜371万3600円

2020年販売台数:2万7006台

CX-30はCX-3とCX-5の中間に位置するモデル。流麗なDピラーはクーペライクなデザインで、世界一美しいSUVを目指したというデザイナーの意気込みを感じる仕上がりだ。

SPEC【XD L Package・2WD】●全長×全幅×全高:4395×1795×1540mm●車両重量:1460kg●パワーユニット:1756cc直列4気筒+ターボ●最高出力:130PS/4000rpm●最大トルク:27.5㎏-m/1600〜2600rpm●WLTCモード燃費:19.2km/L

 

そのスタイルは美しくインテリアの上質さも破格

マツダは“デザインはクルマの命”と考えて、デザインを重視したクルマづくりを進めている。そのひとつの集大成がCX-30だ。このクルマのウリは、なによりもスタイルの美しさにある。買う側もデザイン優先で選ぶべきだろう。

 

エンジンは3種類あるが、オススメはマツダ自慢のクリーンディーゼルモデル(1.8L)だ。太いトルクはSUV向きだし、ロングドライブなら燃費性能もハイブリッド並みに良い。

 

サイズはライバルたちよりひと回り大きいが、デザイン優先ゆえ、室内の広さはほぼ互角。ただし、インテリアの上質感は断トツだ。

 

【CX-30のココがスゴイ!】

人が使う際の“ちょうど良さ”を考え抜かれた上品なインテリア

「ファミリーカーとしての”ちょうど良さ”です。サイズや走りの良さは当たり前。“人が使う”を考えたインテリアは上品さを演出。また、ライブ感ある音響が移動の満足感をより高めます」(マツダ広報PR)

 

↑メッキ加飾やソフトパッドを多用した室内。前席、後席とも広く窮屈さは感じない。後席背もたれは6:4の分割可倒式を採用する

 

↑新世代エンジンのSKYACTIV-X。ガソリンエンジンながらも圧縮着火を採用。さらにモーターを組み合わせて高い環境性能を誇る

 

【清水’s Check】

デザイン ★★★★★

パワーユニット ★★★★

乗り心地 ★★★

使い勝手 ★★★

コスパ ★★★

 

【エントリーNo.3】この安さは破壊力抜群! 走りや快適性にも不満ナシ

トヨタ

ライズ

167万9000円〜228万2200円

2020年販売台数:12万6038台

2020年に単一車種としては驚きの12万台超を販売。5ナンバー枠に収まる取り回しの良いボディサイズとSUVらしいデザインが特徴で、走りも軽快だ。SUVながら1tを切る軽さも魅力。

SPEC【Z・2WD】●全長×全幅×全高:3995×1695×1620mm●車両重量:980kg●パワーユニット:996cc直列3気筒+ターボ●最高出力:98PS/6000rpm●最大トルク:14.3kg-m/2400〜4000rpm●WLTCモード燃費:18.6km/L

 

ガソリンエンジンで十分じゃないか!

トヨタ・ライズは、小型車に強みを持つダイハツが開発・生産を担当している。サイズは4モデルのなかで最もコンパクトで、パワーユニットはガソリンエンジンのみ。すべてのニーズを適度に満たしつつ価格が非常に手ごろなので、ヤリス クロスの登場までは、SUV販売台数ナンバーワンだった。

 

3気筒の1Lターボエンジンはトルクがあり、軽量ボディを軽快に走らせる。角張ったデザインはサイズ以上の押し出し感もある。内装のチープ感は価格なりだが、4WDモデルも用意されていて死角はない。気軽に買えて不満のない、良くできたSUVだ。

 

【ライズのココがスゴイ!】

5ナンバーサイズを超える使い勝手と力強さが自慢

「5ナンバーサイズSUVながらクラストップレベルの荷室容量。ワンランク上の大径タイヤでSUVらしい力強いスタイルを叶えながら、小回りの利く優れた取り回しを実現しています」(トヨタ広報PR)

 

↑想像以上に広い後席。前後席の間隔は900mmと普通のセダンよりも余裕がある。またスクエアなボディで頭上スペースも余裕だ

 

↑荷室容量は369Lでアンダーラゲッジも装備する。デッキボードは2段階に高さを調整できて便利。4人ぶんの荷物を楽に収納できる

 

【清水’s Check】

デザイン ★★★★

パワーユニット ★★★★

乗り心地 ★★★★

使い勝手 ★★★★★

コスパ ★★★★★

 

【エントリーNo.4】進化形e-POWERで一点突破を狙う日産の刺客

日産

キックス

275万9900円〜286万9000円

2020年販売台数:1万8326台

2016年より海外で販売されているモデル。日本向けにe-POWERを搭載し、足回りを再チューニングして昨年発売が開始された。軽快な走りと、広く品の良い内装、使い勝手の良さが魅力だ。

SPEC【X】●全長×全幅×全高:4290×1760×1610mm●車両重量:1350kg●パワーユニット:電気モーター+1198cc直列3気筒●最高出力:129(82)PS/4000〜8992rpm●最大トルク:26.5(10.5)㎏-m/500〜3008rpm●WLTCモード燃費:21.6km/L

●( )内は発電用エンジンの数値

 

この静かさはまるで電気自動車だ

爆発的なヒットになったノートe-POWERのパワートレインを大幅に進化させて、SUVに積んでみました——。それがキックスの成り立ちだ。

 

エンジンで発電してモーターで走るハイブリッドだが、エンジン音がとても静かになったので、純粋な電気自動車のようにも感じる。日産自慢の安全運転支援システム「プロパイロット」も標準装備だ。

 

ただ、4WDの設定はなくFFのみ。グレードは事実上ひとつだけと選択肢が狭い。価格もライバルに比べると割高だが、走りは静粛かつ軽快なので、もっと売れて良いモデルだと感じている。

 

【キックスのココがスゴイ!

レスポンスの良い加速はやみつきになること請け合い

「日産独自のe-POWERを採用。100%モーター駆動ならではの力強くレスポンスの良い加速で、これまでにない軽快でやみつきになるドライビング体験をお楽しみいただけます!」(日産広報PR)

 

↑ゴルフバッグは楽に3つも入る荷室。後席を倒すとかなり大きな荷物も積載可能。トノボードも大きく、使い勝手も良い

 

↑室内は肌触りの良いシートなどのほかに、高品質の素材を使用したインパネやドアクロスを採用。ステッチはその質感にもこだわっている

 

【清水’s Check】

デザイン ★★★

パワーユニット ★★★★★

乗り心地 ★★★★★

使い勝手 ★★★★

コスパ ★★★

原付ナンバーを隠して電動バイクを“自転車”に変身! glafitが画期的な機構「モビチェン」のプロトタイプを公開

電動モビリティを手掛けるモビリティベンチャーのglafitは、同社のペダル付き電動バイク「GFR-02」に装着することでバイクと普通自転車の切り替えを可能にする新機構「モビチェン(モビリティカテゴリーチェンジャー)」のプロトタイプを初披露しました。これは5月19日~20日に東京ドームシティ プリズムホールで開催された「バイシクル・シティEXPO2021」に出展した同社ブース内で公開されたものです。

↑glafitがペダル付き電動バイク「GFR-02」向けに開発した「モビチェン」

 

法律の解釈変更による特例措置で誕生した「モビチェン」

glafitが販売したペダル付き電動ハイブリッドバイク「GFRシリーズ」は、法律上は状況を問わず「原付一種」扱いとなり、運転する際は運転免許の資格はもちろん、ヘルメットの着用も義務付けられます。仮に電源を切ってペダルを漕いでいてもこの扱いが変わらず、自転車レーンを走ることも不可。押す時以外、GFRシリーズは車道を走らなければいけませんでした。

↑GFR-02の走行イメージ。基本は原付第一種となる電動バイクでヘルメットの着用は欠かせない

 

↑GFR-02の速度やオドメーターなどの表示部と操作部。車両電源は中央のボタンを操作

 

そんな状況の中、販売済みのGFR-01のユーザーからは、「バッテリーが切れた時はせめて自転車道を走らせて欲しい」といった声が多く寄せられ、glafitでは新型車GFR-02の発売に合わせて国のサンドボックス制度による解釈の変更を要望したのです。その結果、専用の機構でナンバーを隠している時は自転車として扱われる特例を獲得。モビチェンの発売に合わせて全国の都道府県警に通達が出される運びとなっていました。

 

このモビチェンは、昨年11月のGFR-02発表時に試作版が公開されていましたが、その時はあくまでコンセプトの紹介ということで、見た目もかなり無骨な感じの仕上がりでした。今回、公開されたプロトタイプは3Dプリンターによる量産試作とはいうものの、ほぼ販売される状態となっていて、モビチェンの電源ボタンもかなり小さくなって見た目にもスマートです。この日は、実際にモビチェンの機能を試すこともできました。

↑モビチェンについて解説するポスター。下段にはモビチェンの操作方法も記載

 

「モビチェン」でナンバーを隠すには車両電源OFFにしてから

ナンバープレートを隠す操作は、まず車両を停止させて電源をOFFにすることから始めます。ナンバーに向かって左側のボタンを押すとモビチェンの電源が入りますから、次に右側のレバーをロックがかかるまで上げます。これでナンバーがモビチェンで隠され、ここからGFR-02はモーターを使わない自転車として乗ることができるようになるのです。

↑モビチェンの操作手順。上から(1)車両を停止させて電源を切る、(2)向かって左側のボタンを押す、(3)右側のレバーでカバーを上方へ持ち上げる、(4)カバーをロックする位置まで上げて終了

 

なお、このモビチェンを取り付けられるのは、基本的に専用端子を備えたGFR-02シリーズとなっていますが、glafitによれば、販売済みであるGFR-01のユーザーからも取り付けを希望する声も多く、今後は販売店での取り付け改造による対応も想定しているとのことです。ただし、現時点でモビチェンはGFRシリーズのみに与えられた特例措置であって、他の電動バイクでは個別に警察庁に申請して許可を得る必要が生じます。

 

また、自作したカバーでナンバーを隠しても自転車としては認められません。逆にナンバーを隠して走行することで懲役刑や罰金刑に処せられる可能性がありますから注意して下さい。

↑GFR-02単体、19万8000円(税込)。電動バイクとしてだけでなく、自転車としても扱いやすくなった

 

↑クルマに載せたり、家の中にしまっておけるよう折りたたんでコンパクト化できる

 

ペダル付き電動バイクGFR-02は、クラウドファンディング「Makuake」による初回予約が終了。glafitによれば、すでに500台程度の予約が入っているとのことです。初代GFR-01は5000台を超える販売実績を残しており、オートバックスなどのカー用品店での販売が実施されれば相当数の台数が売れることも予想されます。現在はパーツの調達が滞っている関係から生産が遅れているようですが、まずは年内にも予約分をデリバリーしていくとのことです。

↑ペダル付き電動バイクGFR-02のカラーバリエーション

 

GFR-02は走りにしても拡張性にしても電動バイクとして大きく進化しているだけに、早期発売につながることを期待したいと思います。

 

 

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わずかに残る「京王御陵線」の遺構と立派な参道や橋に驚く!

不要不急線を歩く04 〜〜 京王電気軌道 御陵線(東京都) 〜〜

 

生活圏の近くにありながら、知らないことは意外に多い。今回、筆者の身近にあった不要不急線の跡を歩いてみた。90年以上前に造られた立派な参道や橋にも出会い、太平洋戦争を境に日本が大きく変わっていったことを実感できた。

 

【関連記事】
「成宗電気軌道」の廃線跡を歩くと意外な発見の連続だった

 

【京王御陵線①】戦前の京王の案内には終点が御陵前駅とある

すでに本サイトの過去の記事を読まれた方はご存知かと思うが、不要不急線とは何かを簡単に触れておこう。

 

太平洋戦争に突入し、軍艦や戦車など、武器を造るために大量の鉄が必要となった日本は、資源不足に陥り、庶民からありとあらゆる金属資源を供出させた。鉄道も例外ではなく、利用率が低い路線は休止や廃止となり、一部の複線区間は単線化され、線路が持ち出された。そして、軍事利用や幹線の線路に転用された。こうして休止・廃止、単線化した路線を不要不急線と呼ぶ。太平洋戦争中に、不要不急線に指定された路線は全国で90路線以上にもなる。

 

筆者の手元に、戦前の京王電気軌道の沿線案内が2枚ある。こちらの図には下記のように、御陵前駅(後に多摩御陵前駅と変更)という駅が西側の終点駅となっていた。今の京王電鉄の終点は高尾山口駅だ。御陵前という駅はない。さてこの駅は?

↑両図とも京王電気軌道の戦前の沿線図。上は昭和一けた代、下は昭和12年以降のもの。上の地図には武蔵中央電車という路線名も入る(筆者所蔵)

 

この御陵前駅へ行く区間(北野駅〜御陵前駅間)こそ、不要不急線として太平洋戦争中に休止命令が出され、その後に一部が廃止となった御陵線である。今回は、京王電気軌道御陵線(以下「京王御陵線」と略)の今を紹介したい。

 

【京王御陵線②】多摩御陵への参拝路線として生まれた御陵線

最初に京王電鉄の歴史を見ておこう。京王電鉄は1913(大正2)年4月15日に笹塚駅〜調布駅間に路線を開業させたことから歴史が始まる。開業時の社名は京王電気軌道だった。道路上を走る軌道線の区間が多かったこともあり、同社名となった。

 

徐々に西へ路線を延ばしていったが、資金難から別会社の玉南電気鉄道を立ち上げて資金集めを行うなどして、ようやく1925(大正14)年に、東八王子駅(現・京王八王子駅)まで到達している。御陵線の開業はその後になる。京王御陵線の開業時の概要を見ておきたい。

 

路線 京王電気軌道御陵線・北野駅〜御陵前駅(後に多摩御陵前駅と改称)6.3km
路線の開業 1931(昭和6)年3月20日。途中駅は片倉駅(現・京王片倉駅)、山田駅、横山駅(後に武蔵横山駅と改名)の3駅
廃止 不要不急線の指定をうけ1945(昭和20)年1月21日に休止、1964(昭和39)年11月26日、山田駅〜多摩御陵前駅間が正式に廃止となる

 

京王電気軌道だが、太平洋戦争中に京王という名称の会社は一度消滅している。1938(昭和13)年に陸上交通事業調整法が施行され、国の手で交通事業者の整理統合を行った。交通事業が完全に国の統制下に置かれたのである。そして1944(昭和19)年に、京王電気軌道は東京急行電鉄(後の東急電鉄)の一員になっている。そのため不要不急線に指定された時の路線名は東京急行電鉄御陵線だった。

 

余談ながら、京王井の頭線は戦前、帝都電鉄という会社が運営していた。この帝都電鉄は、1940(昭和15)年に小田原急行電鉄(現・小田急電鉄)と合併。その後に、小田急も東京急行電鉄と合併している。戦後に東京急行電鉄から京王と、小田急が分かれるが、井の頭線は京王線とともに、京王帝都電鉄(1948・昭和23年に創立)の路線に組み込まれ、京王井の頭線となった。1998(平成10)年に京王帝都電鉄は、京王電鉄という現在の社名を変更されている。

 

太平洋戦争前後の東京急行電鉄を巡る会社間の移り変わりは非常に複雑だが、歴史に“もし”があれば、井の頭線は小田急電鉄の路線だったのかも知れない。

 

さて、京王御陵線の話に戻そう。御陵線は不要不急線として、終戦の年の1月21日に休止となった。多摩御陵への参拝路線ということもあり、政府も休止を命じるのをためらったのだろうか。終戦まであと7か月という時の決定だった。休止されたものの、その後に復活されることはなく、山田駅〜多摩御陵前駅間が廃止となった。

 

その後に京王線の北野駅と山田駅間は、高尾線の敷設に役立てられ、1967(昭和42)年10月1日に高尾線の北野駅〜高尾山口駅間が開業している。

 

【京王御陵線③】旧線を復活させた山田駅から歩き出した

↑山田駅を発車した高尾山口駅行電車。この山田駅までは以前の京王御陵線の路線を使って高尾線は造られた

 

以前は御陵線の途中駅だった山田駅に降り立った。御陵線の旧路線をたどるために、駅から西へ向かう。しばらくは線路沿いを歩いた。途中から線路沿いの道が途切れるため、線路を離れて西へ向かう。山田地区は低地となっているが、行く手に、やや高台があった。この高台には現在、高尾線のめじろ台駅がある。駅の前に広がる高台の住宅地は「めじろ台」となっている。

 

古い地図を見ると、現在の山田駅とめじろ台駅の間で、路線は北へ向かっていた。下の写真のあたりで進行方向が変わっていたのだ。この写真を見てもわかるように、手前はめじろ台の高台で、山田駅方面は、それよりも一段、標高が低い地形となっている。

↑めじろ台駅側から山田駅側を見ると、写真のように高低差があることが分かる。御陵線はこの手前で向きを変えて北側へ向かって走った

 

京王御陵線は、現在の高尾線の路線から北へ向きを変えて走った。そしてめじろ台の高台へのぼっていく。そんな上り坂が下の写真。以前は、線路が敷かれていたであろう、なだらかなスロープが残っている。植えられた草花がちょうど見ごろを迎えていた。

↑現在の高尾線の路線からめじろ台へは適度な上り坂となっている。古い路線らしき箇所に緩やかなスロープが残っていた

 

【京王御陵線④】元線路跡は山田町並木線となり京王バスが走る

さて、めじろ台へ上ってきた御陵線。現在、線路は残っていないが、同区間を走っていたことが推測できる。線路が通っていたらしき通りは道幅が広い。中央に街路樹が植えられ、北西に向かって延びていた。古い地図で確認しても、この通りが旧路線とぴったりと重なることが分かる。現在の通りの名前は「山田町並木線」となっていた。

↑元御陵線の路線は現在の山田町並木線という通りとなっている。この通りを走るのは京王バス。付近のバス停(左上)の名前はめじろ台一丁目

 

ケヤキ、イチョウといった木々が見事に育った並木道ではあるものの、気になったので、御陵線という名称が通り沿いに残っていないかを探してみた。ところが、何も残っていない。京王御陵線との関連があるとすれば、京王バスが走っていることぐらいのものだった。

↑山田町並木線を北西へ向かう。途中には「関東武士ゆかりの地散歩なる碑」(左下)が設けられていたが、さて……

 

御陵線の元路線跡を示すものはなかったが、「関東武士ゆかりの地散歩」という碑があった。これは「ふだん通る道を歩いて、歴史の痕跡や新しい魅力を発見して欲しい」と、東京都生活文化局が設定したコースの一部ということだった。筆者は歴史好きを自認しているものの、関東武士とはいっても、鎌倉時代や戦国時代に表舞台に立った人物が東京西部に少ないこともあり、資料を読んだものの、ぴんとこなかった。

 

【京王御陵線⑤】中央本線の先にあった横山駅。路面電車も走った

街路樹が茂る山田町並木線をめじろ台から歩く。ゆるやかな坂道を下ると、先にJR中央本線の線路が見えてくる。京王御陵線は、この中央本線を高架で越えていた。現在の、山田町並木線の通りはアンダーパスでJR中央本線の下をくぐる。そんな写真を撮ろうとカメラを構えていたら。あれっ! 見慣れない列車が通過していく。なんと『TRAIN SUITE四季島』ではないか。通るのならば、この近くで構えておくのだったと残念に思った。

↑京王御陵線はJR中央本線の線路を高架で越えていた。現在、道路は下をくぐる。中央本線を通過するのは『TRAIN SUITE四季島』

 

JR中央本線を越えたあたりに横山駅(休止時は武蔵横山駅)があった。現在の甲州街道(国道20号)と山田町並木線が交差する並木町交差点付近である。御陵線は高架化され、駅も橋上駅だった。実は京王御陵線が正式に廃止の手続きが取られたのは1964(昭和39)年11月26日のこと。それまでは、高架施設が残っていたそうだ。この廃止を機に、高架施設は取り除かれ、旧横山駅がどこにあったのかも、今は推測するしかない状態になっている。

↑甲州街道と山田町並木線が交差する並木町交差点。角に交番があるが、このあたりに旧横山駅があったと推測される

 

↑旧路線は甲州街道(左)を横切り北へ向かった。不自然な向きのマンションがあり、この前あたりに路線が通ったことが推測できる

 

旧横山駅から北は、現在の山田町並木線が延びる方向とは、やや異なるところを線路は通っていた。並木町交差点の北側から、旧ルートがどこを通っていたのか判別が難しくなる。ひとつのヒントとしては、並木町交差点の北側にある建物と、マンションが甲州街道に対して、やや斜めに建っていること。土地の所有権が、ここで分かれていたということを示す一つの証だろう。

 

通り抜ける甲州街道で触れておきたいことがある。甲州街道には前述した古い地図にあるように、武蔵中央電車が走っていた。運行していたのは武蔵中央電気鉄道という会社で、路線は東八王子駅前停留場(現・京王八王子駅前付近)と高尾停留場(現・高尾山口駅付近)間を結んでいた。甲州街道を走る路面電車で、京王御陵線の横山駅の最寄りには横山駅前(後の武蔵横山駅前)停留場があった。

 

この路面電車の開業は1929(昭和4)年12月23日のこと。ところが1931(昭和6)年に京王御陵線が開通したことにより、客足が伸び悩む。そこで武蔵中央電気鉄道は京王電気軌道へ路線を売却。1938(昭和13)年6月1日のことだった。翌年の6月30日は運転休止に、そして12月1日は廃止となった。開業してわずか10年で消えた短命な鉄道路線だった。買い取った京王としては、うまみがあったのだろうか。線路が高く売れたことで得た利益を、その後の新車導入に役立てたという逸話が残っている。

 

【京王御陵線⑥】南浅川を渡った先に唯一の御陵線の遺構が残る

ちょっと歩くだけでも古い鉄道の逸話が出てくるものである。さて、甲州街道から旧線路跡をたどって歩く。甲州街道から北側は、路線跡が消えているために、南浅川に沿って平行した道を歩いて行くと、河畔に桜並木が続き、市民の憩いの場となっている。山田町並木線は横山橋で南浅川を越えている。この橋の西側に京王御陵線の高架橋が架かっていたが、今は何もない。

↑横山橋の上からみた南浅川。この先に京王御陵線の高架橋が架かっていた。今はその名残はない

 

横山橋を渡り河畔の道をやや西へ。100mほど先に住宅地へ入る細い道がある。ここに京王御陵線で唯一の遺構として、古びたコンクリートの柱状のものが2本ほど立っている。京王御陵線の高架線の橋脚だったものだ。今は橋脚が民家の塀として活かされている。1960年代に大半の鉄道施設は除去されたが、この橋脚だけは、すでに住宅の一部になっていたようで、取り壊されなかった。鉄道の橋脚が景色に溶け込んでいるようでおもしろい。この場所は某テレビ番組でも紹介されていたので、ご存知の方も多いのではないだろうか。

↑民家の塀の一部に使われている京王御陵線の橋脚。前後の2本のみが残っているというのが興味深い

 

残る橋脚を見つつ、先を目指す。南浅川の河畔に広がる住宅地の北西側には、長房町の高台が広がる。この高台へ抜けるために、京王御陵線は甲州街道と南浅川を高架橋で渡ったのだろう。

 

【京王御陵線⑦】路線は高台へ上り終点の御陵前駅を目指した

南浅川沿いの住宅地から長房町の高台にのぼる石段がある。上ると西へ向かって舗装路が続いていた。高架橋を走ってきた御陵線の電車は、この長房町で西へカーブして終点の御陵前駅へ向けて走った。

↑南浅川河畔に広がる住宅地から、長房町の高台へあがる石段。このあたりを線路が走っていたようだ

 

長房町の高台には都営住宅が立ち並ぶ。すっかり整備されていて、どこを線路が走っていたのか推測が難しかった。ちょうど線路が通っていたあたりの北側に、船田古墳という7世紀に造られた古墳跡があった。南浅川周辺は古代、有力な豪族が治め、地盤としていた証なのだろう。

↑長房町の団地内にある船田古墳跡。団地造成の際に発見された。円墳で、現在は埋め戻され公園となり案内板(右上)も立つ

 

地図で見ると、長房町を御陵甲の原線という道が東西に通り抜けている。この南側を京王御陵線は走っていたようだ。民家の間を抜ける細い道が数本、御陵甲の原線と平行して設けられている。

 

今は何も残っていないが、終点の御陵前駅は、この裏道に設けられていたようだ。古い駅舎の絵葉書を見ると、妻入と呼ぶのだろうか、神社のような立派な造りの建物だった。終戦間際に空襲で焼けてしまい、不要不急線として休止されていたこともあり、戦後に再建されることはなかった。

 

この御陵前駅のすぐ目の前には、ケヤキに包まれた多摩御陵参道が設けられていた。多摩御陵参道は、甲州街道方面と多摩御陵(現・武蔵陵墓地)を結ぶ参拝道路である。現在も立派な道が残っており、きれいに清掃されていてとてもすがすがしく感じる。

↑多摩御陵参道をはさみ向いに御陵前駅があった。立派な造りの駅舎があったが、空襲で焼け落ちたと記録される

 

多摩御陵は大正天皇の陵として1927(昭和2)年に築造された。面積は2500平方メートルにも及ぶ。陵が設けられるにあたり、参道が整備された。その参道が今も多摩御陵参道として残る。陵へ向かう多摩御陵参道には、約160本のケヤキが植えられ、今ではその高さが20mにも及ぶ。

 

旧御陵前駅から多摩御陵の入口まで参道が500mにわたり続く。厳かな気持ちになるような並木道。御陵をお参りする人で、戦前はさぞや賑わったことだろう。

 

【京王御陵線⑧】御陵の造営にあわせ整備された道や橋を歩く

多摩御陵参道を多摩御陵(現・武蔵陵墓地)まで歩き、御陵を参拝した後に道を引き返した。多摩御陵参道は、立派としか形容しようがない素晴らしい道だった。武蔵陵墓地から甲州街道方面へ約1kmの多摩御陵参道が延びる。京王御陵線の御陵前駅の前を通り過ぎ、参道はゆるやかな下りとなり南浅川へ至る。

↑多摩御陵参道は、旧東浅川駅から約1kmの通りだ。両側にケヤキの並木が続き、新緑時期など歩くだけでも厳かな気持ちになる

 

南浅川を渡る橋は、その名も南浅川橋。御陵造成当初の絵葉書を見ると簡素な橋だったが、1936(昭和11)年に写真のように立派なコンクリートアーチ式の橋に架け替えられている。

↑多摩御陵参道が渡る南浅川橋。1936(昭和11)年に架け替えられ、明かりが灯る立派な灯籠が両側に複数設けられる

 

太平洋戦争に突入するまでの昭和10年代は、現代人の冷静な目で振り返るとかなり不思議に感じる。多摩御陵が造営された当時、参道の南浅川橋は、簡素な印象の橋だった。ところが、その後に立派な橋に架け替えられた。多摩御陵参道の起点となる甲州街道を渡ると、中央本線の線路が見えてくる。

 

中央本線のこの付近には東浅川駅が設けられていた。1927(昭和2)2月7日に設けられた駅で、一般の旅客用ではなく、皇族が多摩御陵へ参拝する乗降施設として設けられたのである。

↑東浅川駅へ大正天皇の棺を載せた霊柩車が到着したことを伝える絵葉書。絵葉書は筆者所蔵

 

東浅川駅は社殿造の玄関を持つ立派な駅だった。多摩御陵参道、南浅川橋、東浅川駅といった施設は、かなりのお金をかけて造成された。

↑旧東浅川駅の跡地には、1964年の東京五輪で、自転車競技の会場となったことを記念する碑が立つ

 

東浅川駅は1960(昭和35)年に廃止となり、立派な駅舎はすでにない。旧駅舎跡には石碑が立っていて、五輪マークと1964、そして「オリンピック東京大会 自転車競技この地で行わる」とあった。1964(昭和39)年開催の東京五輪の自転車競技のロードレースがここを拠点に開かれ、平和な国として復興したことを内外に知らせる良いきっかけとなった。

 

昭和から太平洋戦争へ、そして戦後の物不足の時代、1964年の東京五輪と、この京王御陵線の廃線跡をたどるだけでも、世の中が大きく変わったことが良く分かった。

電アシならではの弱点を解決。パナ「ビビ・L」に新搭載された「押し歩き」機能とは?

パナソニック サイクルテックは、国内で初めて押し歩き機能搭載の電動アシスト自転車「ビビ・L・押し歩き」を7月6日から発売することを、5月21日に発表しました。

↑「ビビ・L・押し歩き」12万9000円(税込)。全長1865×全幅580mm、質量24kg、カラーはチョコブラウン

 

電アシならではの悩みを解消してくれる! 便利な押し歩き機能

電動アシスト自転車の市場は年々拡大し、普段の買い物や子どもの送り迎えなど、様々な用途で使用されています。また近年は、高齢者の運転免許自主返納後の移動手段としても選ばれていますね。

 

今回パナソニック サイクルテックは、電動アシスト自転車の押し歩きをアシストする機能を、買い物に便利なショッピングシリーズ「ビビ」の中で、高齢者の使用率が高い軽量モデル「ビビ・L」に搭載しました。走行距離はパワーモード約46km、オートモード約54km、ロングモード約78kmとなります。

↑パナソニック サイクルテックから登場している電動アシスト自転車の分布図。ショッピングモデル「ビビ」は買い物に快適な大型バスケットや、スタンドを立てると同時にハンドルも固定される“スタピタ2”などの機能を搭載したシリーズとなります

 

一般的に電動アシスト自転車はモーターのアシストにより快適に移動ができる反面、その質量により、自転車の押し歩き時に負荷がかかるという課題があります。パナソニック サイクルテックでは4つのセンサー(サドル傾斜センサー、モーター内蔵センサー、トルクセンサー、スピードセンサー)による制御で解決。この機能により歩道橋や駐輪場のスロープ、坂道などで押し歩き時のアシストが可能になるとのこと。

↑押して歩く際にかかる負荷を軽減することで、電動アシスト自転車の利便性向上を図っています

 

スピードセンサーとモーター内蔵センサーにより、モーターを制御し、歩く速さ(時速6km以下)が変わっても人の歩みに合わせてアシストします。上り坂や荷物を運ぶときなどは、押し歩く状況によりアシスト力が変わります。モーター内蔵センサーにより、押し歩く負荷に応じたアシスト力を出力します。

↑「押し歩き専用手元スイッチ」。 押し歩きボタンの高さ(出っ張り)は、他のボタンより0.2mm高い、0.7mmにすることで操作しやすくしています

 

トルクセンサーで、ペダルの負荷を検知して、ペダルに足が乗っていれば押し歩き機能は作動しません。押し歩きアシストを安全に制御します。

↑本製品は、サドルの状態を検知するサドル傾斜センサーを内蔵し、サドルが傾斜状態の時のみ、押し歩き機能が作動する設計。押し歩き時は乗車できない機構にすることで不安全な使用を防止します

 

今後は、子乗せモデルや業務用電動アシスト自転車に押し歩き機能を搭載予定とのこと。坂道、歩道橋や駐輪場のスロープ、荷物がたくさんある時には自転車を押して歩きますが、かなりの体力を消耗します。なので、この機能はユーザーにとっては大変うれしいことです。ビビ・L・押し歩きは、日々の買い物シーン、行動範囲を変える電動アシスト自転車として、活躍してくれそうです。

 

 

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飛び道具はない。が、カロッツェリアの新作ドラレコ「VREC-DH300D」は文句もない総合力

数多くのカーAV機器を世に送り出してきたパイオニアから、最新スペックを盛り込んだドラレコとして、カロッツェリア「VREC-DH300D」が登場しました。本記事では、同機を実際に使ったわかったレビューをお届けします。

 

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【本体概要】デジカメを連想させ、車内に馴染むデザイン

VREC-DH300Dは、フロントカメラとリアカメラがセットになった、いわゆる“前後2カメラ”ドライブレコーダーユニットです。最大のポイントは高画素センサーによる高解像度撮影を実現していること。フロントには約370万画素、リアには約200万画素という高解像度センサーを採用し、加えてフロントにF値1.4、リアにF値1.8という明るいレンズを組み合わせました。しかも、センサーは暗所撮影に優れるソニー製CMOS「STARVIS」を採用しています。これによって、昼夜を問わず鮮明な映像の記録を可能にしているのです。

 

優れたデザイン性も本機の大きな魅力です。本体をマットなブラック塗装とし、随所にピアノブラックを組み合わせることで車内にもしっかり馴染むデザインとしています。また、前後2カメラのドラレコとなると、接続ケーブルが増えるために本体周辺がどうしても乱雑になりがちですが、本機は電源ケーブルがマウント側にあるため、本体にはリアカメラからのケーブルが1本つながるだけ。これによりスッキリとした形で取り付けられるのです。

↑VREC-DH300Dの本体。本体サイズW90.5×H101.9×D36mm、重量125g(ブラケット含む)

 

↑リアカメラは上下方向に角度調整が可能。取り付け後でもアングル調整が行えるのがいい。本体サイズW58.9×H25.1×D31.5mm、重量250g(ケーブル含む)

 

本体の左右幅は90.5mmとコンパクト。それにもかかわらず画面サイズは3インチと十分な大きさを確保しており、撮影した映像のチェックも容易にできます。操作は右サイドにある4つの物理スイッチを使いますが、この操作感がとてもいい。押した感触もしっかりとしていて確実性がとても高いのです。最初のメニュー項目は一画面内ですべてが表示され、ボタンを押すとそこから次のステップへ入っていくわかりやすい設計。

↑右端に操作ボタンに連動する操作ガイド(上から「戻る」「上移動」「下移動」「決定」)が表示されるメニュー画面。ボタンを押すとそこから次のステップへ入っていく

 

↑操作は右サイドにある4つの物理ボタンで行うが、画面に表示されるアイコンとリンクしているのでほとんど迷わず操作できる

 

【画質】フルHDを超える高解像度で記録。フロントとリアの映像は同じフォルダに保存

映像記録モードはフロントで2560×1440P/1920×1080Pの2つから選べますが、デフォルトでは前者が設定されています。少しでも高解像度で記録したい人はこのフルHDを超える設定のままでの記録をおすすめします。フレームレートは27.0fpsとなっており、これはLED信号機の表示と同期して無信号状態で記録されないよう配慮した設定です。また、ドラレコに衝撃が伝わると、その映像が自動的に上書きされない「イベント録画フォルダ」に保存されますが、その衝撃感知の設定はOFFを含め8段階で調整できます。

↑記録時の表示画面。フロントとリアを同時表示させることや、いずれかを全画面で表示することも可能。一定時間で画面OFFにする設定もできる

 

また、「ここぞ!」というシーンに遭遇した時は、本体右上にあるボタンを押すことで手動イベント録画ファイルとして上書きされないフォルダに保存されます。旅の思い出として残しておきたい時もこの機能を活用するといいでしょう。ボタンの位置は、カメラのシャッターに相当する位置にあるので手探りで操作できます。ただ、静止画での記録モードは搭載されていません。それでも、PC上での静止画保存機能を使ってキャプチャーすれば簡単に静止画として残せます。操作としてはとても簡単なのでぜひ覚えておくといいでしょう。

↑イベント録画は右上のボタンを押すことでスタートできる。上下で挟むようにすると押しやすい

 

↑上書きされないイベント録画中の画面。録画中は画面下に赤いバーが右へ伸びていき、左上にはコーションマークが表示される

 

撮影した映像は「Event」と「Video」の2つのフォルダに分けて保存されます。前者は衝撃を受けた時や、任意に手動イベント記録とした映像が保存されるフォルダで、後者は撮影した映像ファイルを順に保存するフォルダ。それぞれフロント/リアの映像が交互に記録されていきます。なお、Eventフォルダは記録するマイクロSDカードの容量に応じて、保存できるファイル数が限られます。大事なデータはその都度、PCなどに移してカードを初期化しておくことをおすすめします。

 

GPS機能を備えたことも見逃せません。この機能はカーナビなどで位置情報を正確に反映するために使われるもので、ドラレコにこの機能を備えることで記録した映像の位置情報が反映できるようになります。残念ながらこれを反映させる専用アプリは用意されていませんが、少なくともファイルには位置情報が含まれているわけで、必要であればそれを活用することは可能です。さらにGPSの正確な時刻情報は常に反映されており、いちいち時刻合わせをする必要がないのもメリットです。これらは保存したドラレコ映像の証拠価値を高めるのに役立つものと言えるでしょう。

↑記録した映像を再生すると画面下には、GPS信号を元に反映させた日時や緯度経度情報、走行速度が表示される

 

【実際の画質レビュー】キリッとした美しい映像。高い解像度は周辺の車両ナンバーも鮮明に記録

では、本機で記録された映像をチェックしてみましょう。その映像は一目見て「きれい!」であることを実感します。映し出される風景や周囲の様子が極めて鮮明で、全体としてキリッとした印象。少し離れた位置を走行するクルマや対向車のナンバー4桁もはっきりと認識できました。もちろん、周囲が捉えられるようにフロントウィンドウのほぼすべてを映し出すような広い画角も持ち合わせています。これなら横から飛び込んできた場合の様子もしっかり把握できそうです。

↑フロントカメラ2560×1440Pで撮影した映像。ナンバーは画像処理しているがこの状態で鮮明に写っている

 

↑リアカメラ1920×1080Pで撮影した映像。画像処理しているが、対向車線をすれ違った車両のナンバーも鮮明に映し出している

 

また、トンネルを出る間際の映像も白飛びが少なく、逆光気味の時でも被写体を黒くつぶすようなことはあまりありません。本機にはドラレコで搭載が一般的なHDR機能が搭載されていないのですが、これだけの実力があれば特にこうした機能はなくても十分と感じたほどです。リアカメラは若干解像度が下がりますが、それでも鮮明さが大きく落ちることはありません。後続車は車内の様子までも鮮明に映し出しており、仮に後方から煽ってくるような状況になれば、ドライバーの表情までもはっきりと認識できると思います。

 

夜間になっても本機の鮮明さは変わることはありません。ライトで照らした部分は若干白飛びする傾向が見られますが、その周辺部の状況もかなり鮮明に映し出すので状況把握には十分な能力を発揮します。この明るさを確保しているにも関わらずノイズも少ないので、映像が見やすいのもポイントです。ただ、シャッター速度が遅くなってしまうせいか、すれ違うクルマのナンバーは、静止画でキャプチャーしてもブレていて読み取ることはちょっと難しいようですね。ただ、リアカメラで捉えた後方から来る車両のナンバーは、ヘッドライトが点灯した状態でもしっかりと読み取れます。夜間のあおり運転対策には十分役立つでしょう。

↑夜間のフロントカメラの映像。ライトが照らされている部分は白飛びしているが、それ以外は鮮明そのもの(※ナンバーは画像処理済み)

 

↑夜間時のリアカメラ映像。スモークフィルム越しでもあるのでノイズは若干増えているが、ナンバー(※画像処理済み)は把握できている

 

【注目機能】SDカードのフォーマット時期をお知らせ。別売の駐車監視ユニットも便利

それと本機は別売の駐車監視ユニット「RD-DR001」(2021年5月発売予定)を組み合わせることで、クルマを離れてからの接触事故や車上荒らしも鮮明に記録してくれます。記録時間やバッテリー状態を踏まえながら連続録画できる(最大12時間)ので、状況に応じた設定を可能としていることも見逃せません。ソニー製CMOS「STARVIS」が持つ高い夜間監視能力を組み合わせることで、駐車中の異常発生もしっかり捕捉してくれることでしょう。

 

ドラレコで撮影したデータはマイクロSDカードに保存されます。VREC-DH300Dには容量が16GBが同梱されますが、このカードは常に記録と消去を繰り返す過酷な状況にさらされます。そのため、使っているうちに記録エラーを起こしやすいのもまた事実なのです。そこで重要となるのがカードのフォーマットです。本機ではこれを適切なタイミングで行うことを事前に教えてくれます。これにより、カードへの記録エラー発生を最小限に抑えてくれるのです。

↑記録時のトラブルを未然に防止するよう、一定時間ごとにフォーマット時期をお知らせしてくれる

 

ただ、それでもメモリーカードには寿命は訪れます。難しいのはその寿命を捉えることです。そこでパイオニアでは一般的なマイクロSDカードより耐久性が高く、カードの寿命からくる交換時期を知らせてくれる「SDカード寿命警告機能」を搭載したSDメモリーカードも別売で用意しています。少し高めではありますが、より確実な記録を行うためにも選んでおく価値は十分あると思います。予算に応じて選ぶといいでしょう。

↑より耐久性が高くエラーが起きにくい上に寿命時期も知らせてくれる別売のマイクロSDカード(128GB/64GB/32GB/16GB)も用意している

 

正直言えば、本機は機能こそ特に飛び道具的なものは備えていません。その意味では地味な存在とも言えます。ただ、パイオニアはこの点について、ドラレコとして必要な機能を徹底的に調査し、ユーザーが満足してもらえるスペックにまで追い込んだと言います。今回、使い込んでみてドラレコとしての質実剛健な造り込みにこそ本機の良心を実感しました。価格も実売で2万6000円前後と前後2カメラ型としては十分リーズナブル。高いデザイン性の中に秘められたカロッツェリアの新しいドライブレコーダーユニットVREC-DH300Dはこの夏商戦で見逃せない存在となることでしょう。

↑VREC-DH300D本体とリアカメラ、取付ブラケット、リアカメラ接続ケーブル(6m)、シガーライター電源ケーブル(4m)、クリーナークロス。マイクロSDカードは16GBをサンプルとして同梱する

人気SUV、ホンダ「ヴェゼル」がフルモデルチェンジ! プロが6項目で徹底チェック!!

SUV年間販売台数で4度トップに輝いたホンダ・ヴェゼルが初のフルモデルチェンジ。2代目もトップに輝く資質は有しているのか……? デザインや居住性、SUVで必須とされる使い勝手の良さなど、全方位でモータージャーナリストが徹底的にチェックした!

※こちらは「GetNavi」 2021年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

ホンダ

ヴェゼル

227万9200円〜329万8900円

ガソリンエンジンモデルと、発電用と走行用モーターを2基搭載するハイブリッドモデル「e:HEV」がラインナップ。先代と同等のコンパクトサイズながらホンダ独自のセンタータンクレイアウトの採用などで、居住性と使い勝手の良さが光る。

SPEC【e:HEV PLaY・2WD】●全長×全幅×全高:4330×1790×1590mm●車両重量:1400kg●パワーユニット:1496cc直列4気筒+2モーター●最高出力:106PS(78kW)/6000〜6400rpm●最大トルク:13.0kg-m(127Nm)/4500〜5000rpm●WLTCモード燃費:24.8km/L

 

【ヴェゼルのココがスゴイ!】

広さや使い勝手はそのままにデザインや安全装備も進化!

「取り回しのしやすいサイズ感や広々とした居住空間はそのままに、水平基調のスリークなデザインに生まれ変わりました。走行性能だけでなく、先進安全装備・コネクティッド機能も進化しています。実車を見ればその良さに納得していただけます!」(ホンダ広報PR)

 

私がチェックしました!

モータージャーナリスト

岡本幸一郎さん

1968年生まれ。コロナ後に家族で旅するためのSUVの購入を検討中。メカニズム関連にも詳しい。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

見た目も中身も成熟して車格も一気に向上した

大ヒットした初代の後を受けて登場した2代目を目の前にした第一印象は、「これがヴェゼル!?」と思うほど成熟していて、車格が一気に上がったように見えた。このクオリティの高さはハンパない。

 

インテリアの質感も驚くほど高く、装備がさらに充実している。吹き出しを工夫したエアコンのように目の付けどころがユニークな独自のアイテムも装備。このサイズのなかに考えられる機能や要素はすべて盛り込んだという印象だ。安全運転支援装備も、このクラスとして申し分ないほど充実している。

 

ハイブリッドがメインとなるが、発電用と走行用の2つのモーターを搭載し、モーター走行を中心にエンジンを含め状況に応じて最適に使い分けるというシステムはホンダ最新仕様。初代とは別モノだ。走りや燃費の良さでは定評があり、ヴェゼルにもそのシステムが搭載されたのは大歓迎だ。

 

過去4回もSUVの年間販売首位に立つほどの人気モデルだったヴェゼルが、再びその座に戻ってくる日は遠くないだろう。

 

【Point1】デザイン

評価 ★★★★★

どの角度から眺めても新鮮なこれまでのホンダ車にない造形

突出したノーズにグリルレスっぽいフロントもなかなかイケメンだし、クーペらしさを強めたサイドビューも絶妙だ。彫りの深い造形も独特。なかでも最上級の「PLaY」は細かな部分にもこだわりが表現されている。

 

↑先代よりもAピラーの角度を立て、直線的なボンネットのデザインとすることで力強さを演出。大径タイヤも功を奏している

 

↑大型フロントグリルを採用しているが、ボディと同色とすることで一体感を増している。「PLaY」グレードでは3色のアクセントも

 

【Point2】走り

評価(予想) ★★★★

リニアなレスポンスで低燃費な従来とは別物のe:HEVを搭載

基本的に同じハイブリッドシステムを搭載する同社のフィットから想像するに、レスポンスが良く力強いスムーズな走りで燃費も良いことが期待できる。おそらく乗り心地も、より快適志向になっているはずだ。

 

↑1.5L4気筒エンジンを搭載。エンジンでの走行とモーター走行を使い分けることにより、走行状況に応じた最適なパワー配分が可能

 

↑e:HEVは発電用と走行用2つのモーターを搭載。強い加速時はエンジンの力で発電したモーターを駆動し、パワフルに走行できる

 

【Point3】居住性

評価 ★★★★

見た目と広さを巧みに両立運転環境の不満もなし

コンパクトSUVという限られたサイズのなかで、スタイリッシュなフォルムを実現しながら車内空間も不満のない広さが確保されていることに感心。ドライビングポジションも調節しやすく、視界が良好で見切りも良い。

 

↑メーターには9インチのカラー液晶を採用し視認性は高い。各種スイッチも分かりやすい位置に配され、ラクに操作できる

 

↑車体下部に燃料タンクを配置する“センタータンクレイアウト”により、リアシートの足下は広々。リクライニングもできるのは◎

 

【Point4】使いやすさ

評価 ★★★★★

持ち前のアドバンテージに加え電動テールゲートまで設定した

従来通りフロントシート下部に燃料タンクを配置するセンタータンクレイアウトを採用。車体後部のフロア高が低いおかげで高さのある荷物も積めるのがヴェゼルの強みだ。このクラスのSUVではまだ珍しい電動テールゲートの設定も重宝する。

 

↑初代の低床設計による荷物の積みやすさは継承。リアシートは6:4の分割可倒式。倒した際も床面がフラットになり使いやすい

 

↑リアシートの座面を跳ね上げれば背の高いモノもラクに積載可能。これもセンタータンクレイアウトがもたらすメリットのひとつだ

 

【Point5】安全運転支援技術

評価 ★★★★

進化した「Honda SENSING」が安全な運転を支援してくれる

さらに進化した「Honda SENSING」を搭載。後方誤発進抑制機能、近距離衝突軽減ブレーキ、渋滞追従機能付アダプティブクルーズコントロール(ACC)などが追加され、より安心・安全な運転をサポートする。

 

↑歩行者事故低減ステアリングを搭載。歩行者側の車線を逸脱し歩行者と衝突の危険を察知すると、音とディスプレイ表示で警告する

 

↑高速道路での渋滞時に設定した車間距離を保持しながら、アクセルやブレーキを操作せずに走行可能。運転者の疲労が軽減される

 

【Point6】快適・便利装備

評価 ★★★★★

クラスの常識を塗り替える装備の充実ぶりに感心した

開口部を極限まで広げたパノラマルーフによる開放感は絶大。コネクティッド機能やUSB端子、タッチ式ルームランプなど時代に即した装備を搭載したり、そよ風アウトレットのような独自のアイデアにも要注目だ。

 

↑フロント左右に配置される“そよ風アウトレット”。直接当たる風とは異なるやさしい風を送り、外気の熱や寒さもカットしてくれる

 

↑「PLaY」グレードに設定される、頭上に開放感をもたらすパノラマルーフ。リアシート側はパネルを着脱する方式を採用している

 

【講評】

ベストセラー返り咲きは確実! 見れば見るほど感心させられた

「もはや現時点でできることはほぼやり尽くした印象で、完成度の高さに本当に感心させられっぱなし。それでいて価格はあくまでヴェゼルの枠に収まっているのもうれしい。あとは実際に走ってみてどうなのか、楽しみですね!」(岡本さん)

新型ヴェゼルの登場で市場はますます活況!「SUV」人気の理由をプロが徹底分析!

人が余裕で乗れて、荷物もたくさん載せられ、走行性能にも大満足のSUV人気が沸騰中だ。今回は、続々と新モデルが登場し、話題のモデルも数多いSUVの最新トレンドや人気の理由をプロが解説。SUVを買うならいまだ!

※こちらは「GetNavi」 2021年6月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【プロが人気の理由を分析!】

何しろカッコ良い! 特筆する機能がなくても十分

モータージャーナリスト

清水草一さん

「機能的なメリットは特にないけれど、ちょっと車高を上げて大径タイヤを履いたSUVは総じてカッコ良い。SUVはとにかく旬。流行りモノにはかなわない!」

 

カッコ良さと使い勝手を両立して受け入れられた

モビリティジャーナリスト

森口将之さん

「カッコ良いのに使い勝手が良い。いままでは両立が難しかった2つの魅力をしっかり兼ね備えている。多くの人にとって願ってもない存在であるはずだ」

 

人気のカテゴリーゆえに魅力ある新型が続々登場

モータージャーナリスト

岡本幸一郎さん

「作れば売れるので、どのメーカーも力を入れて新型車を開発し、より魅力的なクルマが生まれて豊富に選べる。消費者にとってうれしい“旬”の状態が続いている」

 

小型、スタイリッシュで運転のしやすさも要因

自動車・環境ジャーナリスト

川端由美さん

「SUVは大型でノッソリしているイメージだったが、ライフスタイルの多様化に伴って小型でスタイリッシュになり、運転しやすい。いまこそSUVの選びどきだ」

 

【主要自動車メーカーのSUVが占める割合】

●日本メーカーのモデル数は軽自動車を除く登録車(普通乗用車)の数。海外メーカーのモデル数は日本国内で販売されているモデルの数

 

【最近のSUVトレンドはコレ!】

1.SUVながら流麗なスタイルを演出するクーペスタイルが人気!

以前は直線的なシルエットを描くモデルが多かったが、最近ではデザイン性を重視したモデルが増加中。フロントからリアにかけて曲線を描く、クーペスタイルのSUVが人気だ。

 

↑メルセデス・ベンツのCLA。フロントガラス上部から車両後端に向かって曲線を描く。角張ったラインがないクーペスタイルだ

 

2 .フロントグリルの大型化で力強さと本格的な走りを演出

SUVの魅力のひとつに力強さがある。大きめのタイヤはその象徴とも言えるが、最近ではフロントグリルが大型化したモデルが数多く登場。“顔”で力強さを演出する傾向が強い。

 

↑X-DRIVEモードを搭載し、悪路走破性が高いスバル・フォレスター。大型フロントグリルとコの字型ライトで力強さを演出している

戦時下の「不要不急線」—— レールが外された後はどうなったのか?【東日本編】

不要不急線を歩く03 〜〜 東日本の不要不急線のその後 〜〜

 

「不要不急の外出を控えて」という言葉を聞くと、“やれやれ”と思う方が多い今日このごろ。太平洋戦争の最中の「不要不急線」といえば、強制的に路線が休止、または廃止され、線路が外された路線を指した。

 

今回は、戦時下に不要不急線に指定された東日本の路線に注目した。どのような路線が不要不急線となったのか、それぞれの路線は戦後どのようになったのか追ってみた。

 

【不要不急線①】戦争継続のため鉄道の線路が取り外された

まずは、不要不急線とはどのような仕組みだったのかを見ていこう。

↑1900年ごろに海外用に発行された絵葉書。当時の非力な機関車が想定外の貨車を牽いたシーン。合成された写真と思われる

 

太平洋戦争前の日本は、日華事変・日中戦争など大陸での戦火が広がりつつあった。対外的には、かなり背伸びした姿を見せていた様子が分かる。上は1900年ごろの海外用の絵葉書だ。貨物列車を紹介した戦前の絵葉書は珍しいが、途方もない数の貨車を引いている。当時の非力な蒸気機関車が牽引できるわけがなく(現在もここまでの車両数を牽くことはない)、合成写真だということがすぐに分かる。

 

要は対外的に日本の力を誇示するため、こうした絵葉書を使って国力を底上げして見せていた傾向が窺える。そうした国の姿勢は徐々に破綻を迎える。

 

そして、1941(昭和16)年の暮れに、アメリカ合衆国ほか連合国との全面戦争に突入する。鉄などの資源に乏しい日本は資源不足に陥り、まず国民から金属が含まれるありとあらゆる品物を供出させた。

 

鉄道路線には多くの資源が使われている。そこで重要度が低いとされた路線を休止、もしくは廃止、または複線を単線化して、線路を軍事用に転用、重要度が高い幹線用に転用するべく政府から命令が出された。命令の内容は「勅令(改正陸運統制令および金属類回収令)」であり、拒否はできなかった。廃止により運行スタッフの職が奪われようと、政府はそうした現実を見ようともしなかった。

 

そして、全国の国鉄(当時は鉄道省)と私鉄の路線が1943(昭和18)年から1945(昭和20)年にかけて休止もしくは廃止、単線化された。その数は90路線近くにのぼる。

 

【不要不急線②】東京都下や名古屋に不要不急線が多い

不要不急線として指定された路線を、昭和初期に発行された鉄道路線図に入れてみた。北海道ならびに東北地方の不要不急線は、意外に少なく見える。やはり、線路を回収して製鉄工場へ運ぶとなると、運び出すのに手間がかかる。

 

加えて北海道や東北地方には炭鉱や、鉱物資源が豊富だったことも見逃せない。一方で、沿線にそうした資源がない農村部を走る路線、例えば道内の札沼線(さっしょうせん)、興浜(こうひん)北線、興浜南線などは休止となっている。

↑北海道・東北地方の不要不急線。路線は密だったものの、意外に休線が少なかった。元図は東京日日新聞「全国鐵道地図」(昭和三年元旦附録)

 

一方の関東・甲信越・中部地方の路線となると、不要不急線に指定される路線が多かったことが地図を見ても分かる。もちろん、この地域の路線数が多かったことがあるものの、やはり運び出しやすいという理由もあったのだろう。特に東京都下と、中部地方では名古屋鉄道(名鉄)の路線が目立つ。

↑関東から中部に至るまでの不要不急線を抜き出してみた。東京と中部地方、特に名古屋鉄道の路線の休止区間が多かったことが分かる

 

不要不急線と指定された路線はその後どうなったのか? 戦後そのまま廃止となった路線がある一方で、営業再開、また単線が複線に戻された路線もあった。復活したものの、今はない路線もあり、明暗がはっきりと分かれている。とはいえ、沿線に住み、鉄道を利用してきた人にとっては、迷惑な話であることは確かだった。

 

【不要不急線③】取り外された線路は果たして役立ったのだろうか

↑日本軍には鉄道連隊という隊も存在した。占領した外地でいち早く鉄道を敷き、軍を進軍させるという役割を追っていた

 

不要不急線の指定は太平洋戦争の最中であり、どのような人たちがレールを取り外し、どのように運んだのか、記録を探すことができなかった。戦時下ということもあり、戦争に関わる事柄はすべて秘密だったせいもあるのだろう。果たして路線が休止となり、線路を運び出したところで、役立ったのだろうか。また鉄道会社への支払いはどうだったのか?

 

不要不急線の指定と同様に、戦時下に多くの民営鉄道(私鉄)が買収され国鉄(当時は鉄道省)の路線に組み込まれた。この時もほぼ強制的で、反対意見など言ったら、すぐに“非国民”となった。買収といっても戦時公債で支払われ、戦時中にはほぼ現金化できなかった。いわば“寄付”のような状況である。さらに戦後は超インフレとなり、戦時公債が戦後に償還される時には、ほぼ紙切れ同然でタダのような金額となっていた。

 

外された線路にしても、例えば、外地の占領地で鉄道敷設のために輸送船に積まれたものの、目的地へ着く前に敵の潜水艦によって沈められ、目的地に到着できなかったなどの逸話が残っている。

↑戦時下の出征風景を写した絵葉書。「東京○○駅出征 ○○大隊を見送の光景」と説明にある。軍がらみの事柄はすべてが秘密だった

 

要は、戦時下のごたごたした時期であって、不要不急線と指定されて線路が外されたものの、実際にどの程度役立ったのかは未知数である。もちろん、戦後に線路を外した路線の復旧などをする力は敗戦国に残っていなかった。結果を見れば、迷惑きわまりない話であり、とんだ無駄だったことが分かる。それがまた戦争が持つ宿命なのだろうが。

 

国の暴挙に付き合わされ、大変な思いをする、また不便な思いをするのは庶民ということなのかも知れない。

 

【その後の路線①】休止後にそのまま廃線となった路線

ここからは、東日本(中部地方以西はまたの機会に取り上げたい)の不要不急線のその後を追ってみたい。休止された後の路線の動向はいくつかの道筋に分かれる。最初は、休止後に廃線に追いやられた路線から。最も悲しい結末を迎えた路線である。

 

○そのまま廃線となった路線(前述の地図「×」)

■鉄道省(その後の国鉄)の路線

◇北海道

・富内線(とみうちせん):沼ノ端〜豊城(とよしろ)24.1km間、1943(昭和18)年11月1日休止

沼ノ端から現在の日高本線の北側に敷かれた路線。路線が設けられたのは1922(大正11)年で、北海道鉱業鉄道として開業した。日高本線の鵡川(むかわ)から合流する路線が豊城駅まで敷かれていたが、戦時下には沼ノ端〜豊城間が休止となり、そのまま廃線となった。戦後も、鵡川〜豊城〜日高町の区間は存続されたが、1986(昭和61)年に廃止となった。

 

◇東北地方

・橋場線(岩手県):雫石〜橋場7.7km、1944(昭和19)年10月1日休止

橋場線は現在の田沢湖線の雫石と橋場間を結んでいた。開通は1922(大正11)年で、橋場軽便線として開業した。戦後は田沢湖線が雫石と、田沢湖、角館などを結んだが、路線は橋場を通らず、そのまま雫石〜橋場間が廃線となった。

 

・白棚線(はくほうせん/福島県):白河〜磐城棚倉23.3km、1944(昭和19)年12月11日休止

現在の東北本線白河駅と水郡線の磐城棚倉駅を結んだ路線。1916(大正5)年に白棚鉄道として開業した。水郡線の全通開業は1934(昭和9)年のことで、白棚線は水郡線よりも先に路線が開通していた。戦時下に休止となり、その後に復活はしなかった。一方で、元線路はバス専用道路に転用され、現在もジェイアールバスが白河〜磐城棚倉を結んでいる。

 

◇関東地方

・五日市線:立川〜拝島駅間8.1km、1944(昭和19)年10月11日休止

元は五日市鉄道として開業した線区で、現・青梅線よりも南側を走っていた。戦時下の1944(昭和19)年4月1日に、青梅鉄道(現・青梅線)、南武鉄道(現・南武線)とともに国有化され、半年後には不要不急線に指定、休止となった。戦後も復活することなく、廃止となっている。

↑旧五日市鉄道が走っていた大神駅跡には、線路と台車などを飾るモニュメント広場が設けられている

 

【関連記事】
“不要不急”の名のもと戦禍に消えた「旧五日市鉄道」廃線区間を歩く

 

■民営鉄道(私鉄)の廃線路線

不要不急線として休止になった鉄道省(後の国鉄)の路線は、戦後に復活したものが多い。一方、民営鉄道の場合は、休止後そのまま廃線となった路線が目立った。やはり資金力に余裕のない私鉄は復旧までたどり着かなかったのであろう。そんなつらい運命をたどった路線を見ていこう。

 

◇北海道

・江別町江別川線:江別〜江別川堤防0.3km、1945年3月1日廃止

函館本線の江別駅から千歳川沿いの江別橋までの短い路線で、貨車を人間が押すといった“人車軌道”だったという話も伝わる。路線開業は1905(明治38)年。不要不急線として終戦の年に廃止となり、戦後も復活はなかった。

 

・定山渓(じょうざんけい)鉄道:白石〜東札幌間2.7km、1945年3月1日休止

函館本線の白石駅〜定山渓間が1918(大正7)年に開業した。戦時下に千歳線との接続駅である東札幌と白石間の路線が休止となり、そのまま廃止となった。残った東札幌〜定山渓間も1969(昭和44)年11月1日に廃止となっている。定山渓温泉の最寄りまで行く私鉄路線で、今も残っていたら便利だろうにと、少し残念に思う。

 

・大沼電鉄:大沼公園〜鹿部17.2km、1945(昭和20)年1月31日廃止

道南、大沼公園と鹿部を結んでいた軌道路線で、1929(昭和4)年に開業した。1945(昭和20)年に廃線となり、同年の6月1日に平行して敷設された函館本線(砂原支線)が開通、路線としての役割を終えた。戦後には函館本線の新銚子口と鹿部駅間のみ、1948(昭和23)年に営業再開されたが、わずか4年のみの営業で路線廃止となった。

 

◇関東地方

・成田鉄道軌道線(千葉県):成田山門前〜宗吾間5.3km、省線駅前〜本社前0.1km、1944(昭和19)年12月11日廃止

成田山新勝寺と宗吾霊堂を結ぶ路面電車路線として1911(明治44)年に全通、成宗電車(せいそうでんしゃ)として地元の人たちに親しまれた。成田市内にトンネル跡などが残り、線路跡は今も車道として使われる。

↑成田鉄道軌道線のトンネル。戦前に不要不急線となり休止→廃線となったが、トンネルは一般道として使われ路線バスが走る

 

【関連記事】
「成宗電気軌道」の廃線跡を歩くと意外な発見の連続だった

 

・成田鉄道多古線(千葉県):成田〜八日市場間30.2km、1944(昭和19)1月11日休止

1911(明治44)年から徐々に路線が延び1926(大正15)年に全線が開業した。開業当時は千葉県営鉄道で、鉄道の空白区間を埋める役割があった。1927(昭和2)年に成田鉄道となった後に、1944(昭和19)年に不要不急線として休止に、そのまま戦後に廃線となった。

 

・東京急行電鉄御陵線(東京都):北野〜多摩御陵前6.3km、1945(昭和20)年1月21日休止

現在の京王電鉄京王線の北野駅と多摩御陵前を結んだ路線で、1931(昭和6)年に開業した。開業した当時は京王電気軌道で、戦時下に小田急、京浜急行とともに東京急行電鉄(現・東急電鉄)の傘下に組み込まれた。そのため休止時には京王でなく、東京急行電鉄の路線名となる。御陵線は山田〜多摩御陵前間がそのまま廃止されたが、北野〜山田間の路線跡は、現在の京王高尾線に活かされている。

 

◇甲信越地方

・善光寺白馬電鉄:南長野〜裾花口(すそばなぐち)間7.4km、1944(昭和19)年1月11日休止

路線名にあるように、善光寺がある長野市と白馬を結ぼうとした電鉄線で、1936(昭和11)年に南長野から途中まで、戦時中の1942(昭和17)年に裾花口まで開通した。しかし、わずか2年後に休止させられ、そのまま廃止となった。筆者は一度、路線跡を歩いたことがあるが、険しさにたじろいでしまった。

 

今回は、取り上げなかったものの、東京都電車(都電)でも9線区が戦時中に廃止となっている。ほかにも鋼索鉄道(ケーブルカー)でも休止させられ、戦後にそのまま廃止となった路線もあった。

 

【その後の路線②】戦後に復活した路線も明暗が分かれた

ここでは休止となったのち、戦後に営業再開したものの、現在は廃止された路線をあげてみる。

 

○休止後に再開したものの今はない路線(前述の地図「▲」)

■鉄道省(その後の国鉄)の路線

◇北海道

・札沼線:石狩月形〜石狩追分間45.8km、1943(昭和18)年10月1日休止。石狩当別〜石狩月形間20.4km、1944(昭和19)年7月21日休止。石狩追分〜石狩沼田間19.3km、1944(昭和19)年7月21日休止

札沼線は段階的に休止区間が決められていった。戦後すぐの1946(昭和21)年に石狩当別〜浦臼駅間が営業再開。全線の営業再開は1956(昭和31)年と、だいぶ後のことになった。再開されたものの乗車率が低く徐々に区間廃止が進められていく。記憶に新しいところでは2020(令和2)年5月7日に、北海道医療大学〜新十津川間が正式に廃止された。不要不急線として休止された区間で今も残るのは、北海道医療大学〜石狩当別間の3.0kmのみとなっている。

 

・興浜北線:浜頓別〜北見枝幸30.4km、1944(昭和19)年11月1日休止。興浜南線:興部(おこっぺ)〜雄武(おうむ)間19.9km、1944(昭和19)年11月1日休止

オホーツク海を望む道北にあった両線。興浜線として結ばれる予定だったが、戦時下に休止、戦後まもなく営業再開したものの、1985(昭和60)年の7月1日に興浜北線が、同じ年の7月15日に興浜南線が相次いで廃止された。

 

◇東北地方

・川俣線(福島県):松川〜岩代川俣間12.2km、1943(昭和18)年9月1日休止

東北本線の松川から伊達郡川俣町まで走った路線で、1926(大正15)年に開業した。戦時中に休線となったものの、戦後に営業再開した。終点の川俣は織物の生産地であったものの、それ以外に輸送する産物に乏しく、1972(昭和47)年に廃止された。

 

◇関東地方

・中央本線下河原線(東京都):国分寺〜東京競馬場前5.6km、1944(昭和19)年10月1日休止

下河原線は中央本線の支線で、当初、国分寺と下河原を結ぶため東京砂利鉄道によって1910(明治43)年に開業した。その後に国有化され終点駅を東京競馬場前に変更。戦時下に休止、戦後に営業再開した。武蔵野線の開通に合わせて1973(昭和48)年に廃止となる。筆者は通学路の近くに線路があったため、競馬開催日以外の平日は、旧形国電が1両で走っていた姿を覚えている。

 

◇甲信越地方

・魚沼線(新潟県):来迎寺〜西小千谷13.1km、1944(昭和19)年10月16日休止

信越本線の来迎寺と西小千谷を結んだ路線で、1911(明治44)年に魚沼鉄道として開業した。その後に国有化され戦時下に休止したが、1954(昭和29)年に営業再開された。興味深いのは国有化された後も軽便鉄道の線路幅だったこと。線路幅の762mmが在来線の1067mmになったのは1954(昭和29)年のことだった。1984(昭和59)年に廃止となっている。

 

・弥彦線(新潟県):東三条〜越後長沢7.9km、1944(昭和19)年10月16日休止

弥彦線は現在も東三条〜弥彦間の営業が行われている。かつては信越本線を横切り東三条から越後長沢まで路線が延びていた。元は越後鉄道という会社が開業させた路線で、東三条〜越後長沢間は1927(昭和2)年に路線が延ばされている。延伸後すぐに国有化、戦時中に休線となり、戦後まもなく営業再開となったが、1985(昭和60)年に廃止となっている。

↑東三条駅からは南の越後長沢へ走る元弥彦線の線路が右にカーブしていた。同区間は1985(昭和60)年に廃止となった

 

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こうして見ると、営業再開されたものの、盲腸線が大半だったこともあり、昭和後年に大概が廃止されている。廃止に至った原因は、沿線人口の減少、産業構造の変化、貨物輸送が鉄道から自動車への変換などがあったものの、もともと乗車率の低い路線だったことも大きかったと言えるのだろう。

 

【その後の路線③】戦後に再開して今も残る路線は意外に少ない

不要不急線として休止になり、戦後に営業再開した路線で、今も残る路線は少ない。もともと閑散区の路線が選ばれたということもあるだろう。今も残る路線を見ておこう。

 

○休止後に復活して今も残る路線(前述の地図「△」)

■鉄道省(その後の国鉄)の路線

・久留里線(千葉県):久留里〜上総亀山9.6km、1944(昭和19)年12月16日休止

東日本において、元国鉄路線で不要不急線に指定され、今も残るJRの路線は久留里線のみだ。久留里線は1912(大正元)年に千葉県営鉄道として一部区間が開業、国有化後の1936(昭和11)年に上総亀山まで延ばされている。戦時下に路線の途中、久留里から先が休止となったが、戦後の1947(昭和22)年に営業再開となっている。今も久留里の先は閑散区間ではあるもののJR東日本の路線に組み込まれたこともあり、廃止という声は聞かれない。

 

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↑早春には沿線の菜の花が美しい久留里線。通学の足として今も役立てられている

 

■民営鉄道の路線

・東武鉄道越生線(埼玉県):坂戸町〜越生10.9km、1944(昭和19)年12月10日休止

東武東上線の坂戸とJR八高線との接続駅の越生間を結ぶ東武越生線。1934(昭和9)年に越生鉄道が現在の路線を全線開業させ、戦時下に東武鉄道により買収された後に営業休止となった。戦後の1945(昭和20)年11月30日にすぐに営業再開とあり、線路も外されていかなったように推測される。

 

・西武鉄道村山線(東京都):東村山〜狭山公園2.8km、1944(昭和19)年5月10日休止

同区間は現在の西武鉄道の西武園線で、1930(昭和5)年に旧西武鉄道により開業された。村山貯水池への観光用に開業された路線で、開業時は村山貯水池前という駅名だった。戦時中の休止時には狭山公園という駅名だが、近くに狭山公園前という駅があり非常に分かりにくかった。同エリアで、現在の西武鉄道の元になる武蔵野鉄道との激しいライバル争いがあったためである。

 

戦時下に路線休止となったが、戦後すぐに両社は合併し、1948(昭和23)年に営業再開された。再開後に村山貯水池とは別の場所に終点の西武園駅が設けられ、旧村山貯水池駅は廃駅となり現在に至る。

↑西武鉄道西武園線は、東村山〜西武園の1駅区間を走る短い路線。戦前は旧西武鉄道の路線で終点駅は狭山公園だった

 

・武蔵野鉄道山口線(埼玉県):西所沢〜村山4.8km、1944(昭和19)年2月28日休止

武蔵野鉄道とは現在の西武鉄道の前身にあたる鉄道会社で、1929(昭和4)年に山口線が開業した。終点の駅名は戦前だけでも村山公園→村山貯水池際→村山と三転している。近くを走っている旧西武鉄道とのせめぎ合いがあったためである。山口線は戦時下に休止、1951(昭和26)年に営業再開、その時に路線名を狭山線に、終点駅は狭山湖となった。その後の1979(昭和54)年に駅名が狭山湖から西武球場前に変更されている。

 

不要不急線として休止されたものの、営業再開され、今も残る路線の多くは民営鉄道(私鉄)の路線が多い。それにしても西武鉄道の多摩湖線を含めた3本の路線が村山貯水池(多摩湖)周辺に集まる様子は、ライバル争いという背景が過去にありつつも、興味深い。

 

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【その後の路線④】複線→単線になってそのままとなった路線

ここからは不要不急線として複線の路線が単線化された例を見ていこう。単線化され、戦後もそのままだった東日本の路線は、鉄道省(国鉄)の1線のみだ。

 

・御殿場線(神奈川県・静岡県):国府津〜沼津60.2km、1944(昭和19)年7月11日単線化

御殿場線の路線は大半が静岡県内を走るが、神奈川県の国府津が起点駅ということもあり、関東地方の路線ということで触れておきたい。

 

御殿場線は1889(明治22)年の開業と古い。当時の東海道本線の一部区間として開業された。1934(昭和9)年に熱海〜函南(かんなみ)間を結ぶ丹那トンネルが難工事の末に開業したことにより、現在の御殿場線が東海道本線から外れて支線となった。

 

全線が複線化されていたが、列車の本数も減り、無駄とされたのだろう。戦時中に単線化され、その後に複線に戻されることはなかった。

↑戦前の御殿場線の絵葉書。非電化ながら複線で、蒸気機関車が牽引する客車数も長く、利用者も多かったことがうかがえる

 

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【その後の路線⑤】単線化後に戦後に再び複線となった路線

御殿場線が戦時中に単線化された一方で、戦後に複線に戻された路線が東日本に2線ある。どちらも私鉄の路線だった。

 

・東武鉄道日光線(栃木県):合戦場(かっせんば)〜東武日光44.5km、1944(昭和19)年6月21日に単線化

東武日光線の新栃木の北にある合戦場と東武日光の間が戦時中に単線化された。合戦場の手前、新栃木は東武宇都宮線が分岐している。新栃木より北は観光目的が強い路線と判断されたのであろう。複線に戻す工事は、徐々に進められた。距離が長かったせいもあるのか、1973(昭和48)年、約30年後にようやく単線化した区間の複線化が完了している。

↑戦時中に単線となった東武日光線の複線化は時間がかかった。写真は楡木(にれぎ)駅付近で、複線に戻されたのは1973(昭和48)年のこと

 

・東京急行電鉄江ノ島線(神奈川県):藤沢〜片瀬江ノ島間4.5km、1943(昭和18)年11月16日単線化

江ノ島線といえば、現在は小田急電鉄の路線だが、戦時中は東京急行電鉄の傘下となっていた。藤沢〜片瀬江ノ島間は観光目的の利用者が多いことから単線化された。戦後は1948(昭和23)年に小田急電鉄となり、同年に藤沢〜元鵠沼間を、さらに翌年には片瀬江ノ島まで複線に戻されている。

 

こうして東日本の不要不急線を見るだけでも、指定された路線の多くにドラマが隠されている。一方で、軍事的な利用価値が高いとして、不要不急線として指定されることを免れた路線もある。例えば、長野電鉄の屋代線(やしろせん)がその例にあげられるだろう。

 

同線は2012(平成24)年にすでに廃止された24.4kmの路線だが、途中の松代(まつしろ)の近くに大本営が疎開するにあたり、大掛かりな地下壕(松代大本営)を掘削していた。この地下壕を設けるために不要不急線としての指定を免れたとされている。戦争中ということがあったにしろ、軍事優先の勝手な国の方針により、悲喜こもごもがあったわけだ。不要不急線は非常に不可思議な政策であったことは間違いない。

「ETCX」サービスがスタート!クルマに乗ったままで駐車場やドライブスルーでの決済をETCで実現

ゴールデンウィークを前にした4月29日、ETCを駐車場やドライブスルーなど、高速道路以外の施設で利用を可能にした会員登録制サービス「ETCX(イーティーシーエックス)」がスタートしました。これまでETCは通行料金の決済だけが基本でした。それがいよいよ市中での利用が可能となったのです。

↑「ETCX」のロゴマーク。ETCのカラーがパープルであるため、識別しやすいようにオレンジにしたという

 

「ネットワーク型ETC」により、低コストでETC決済を可能にした

この新たなサービスのポイントは、「ETCX」のロゴマークを掲示してある加盟店において、現在利用中のETC車載機を使い、自動車に乗ったままで代金などの支払いができることにあります。ETCを通行料以外でのキャッシュレス決済手段として活用するのは初めての取り組みです。そのETCXの大きな特徴の一つとしてあるのが、システムの導入費用がETCよりもはるかに安いということ。

↑あらかじめクレジットカードと紐付けておけば、ETCカードは従来と同じように車載機に挿入しておけばいい

 

ETCでは走行しながら認証を行なえるよう、高性能なアンテナを装備したために導入コストが高いという課題がありました。ETCXでは利用時の一旦停止を必須とすることでシステムの低価格化を実現したのです。さらに、認証処理などをすべてクラウド上で行なう「ネットワーク型ETC」としたため、必要なシステムは最小限で済みます。これにより、駐車場やガソリンスタンド、高速道路以外の有料道路などでの導入がしやすくなりました。

↑「ネットワーク型ETC」を採用したため、認証処理などをすべてクラウド上で行なうため、必要なシステムは最小限となる

 

ETCXのサービス第1弾として提供されるのは、新名神高速道路の鈴鹿パーキングエリア(上り線)の「ピットストップSUZUKA」のドライブスルーで、ここでは乗車したまま料金支払いが可能になります。また、静岡県内の伊豆中央道と修善寺道路の各料金所において2021年7月1日よりETCXサービスを開始予定となっています。特に伊豆中央道と修善寺道路では、ETCXを使うほどに利用料金がお得になる新しい割引制度も予定しているということです。

↑新名神高速道路の鈴鹿パーキングエリア(上り線)の「ピットストップSUZUKA」のドライブスルー

 

↑静岡県内の伊豆中央道と修善寺道路の各料金所において2021年7月1日よりETCXサービスを開始予定

 

ただ、現時点で利用できるのはこの2か所のみ。ETCXのサービスを提供するETCソリューションズの中村英彦社長は、「当面の目標として3年以内に100か所、会員数10万人を目指す」としていますが、導入コストが安いとは言え、システム設置には土木工事が必要で、POSレジとの連携も必要です。この負担があることから控えめな目標となったようです。

 

利用時はあらかじめETCカードとクレジットカードを紐付けておく

それでも、駐車場やガソリンスタンド、EV向け充電スタンド、ドライブスルーなどへの導入により、現金でのやり取りがなくなることでユーザーの利便性は飛躍的に高まります。中村社長は「これまではシステムが高額でETC対応を見送ってきた地方の有料道路などでも有効性は高く、将来的にはマンションや工場などへの入退管理のほか、混雑する道路状況に応じた道路課金なども可能」と述べ、利用の裾野が広がることへの期待を寄せました。

↑駐車場での料金決済がグンとスムーズになり、出口渋滞の解消にもつながる

 

↑ガソリンスタンドでも給油を終えたら、いちいち精算の作業をせずともそのまま退出できるようになる

 

↑EVスタンドでの認証は一切不要。入庫したらすぐにチャージが開始できる

 

↑ドライブスルーでは注文して受け取るだけという手軽さだ

 

一方、通常のETCサービスとは別サービスであるため、利用者はあらかじめETCカードとクレジットカードを連携させるための登録が必要です。登録を終えるとETCカードは決済のためのIDカードとしての役割を果たすようになり、それ以降の利用方法はETCと同じように乗車したままの決済が可能となります。車載機はETCおよびETC2.0に対応しており、決済は瞬時に行われますが、決済時は車両を一旦停止する必要があります。また、登録してないETCカードでの利用はできないので注意が必要です。

↑ETCX利用の流れ。利用前にあらかじめETCカードと決済するクレジットカードを紐付けておく必要がある

 

↑クレジットカードはメジャーブランドには対応済みだが、一部のプライベートブランドには対応できていない

 

ETCソリューションズでは、本サービスに至るまでに2017年から2020年にかけて試行運用を実施しています。駐車場では2017年に新静岡セノバ駐車場や、名鉄協商パーキング藤が丘effeにおいて、19年にはカーフェリーとして川崎近海フェリーの八戸埠頭(青森県八戸市)でも料金決済を実施。特にカーフェリーでは、ETCに記録されている車両長などの車検情報を活用でき、乗船手続きの簡素化に結びついたそうです。また、ドライブスルーでは20年にケンタッキーフライドチキン相模原中央店で試験運用しています。

 

現時点で利用できるのは2か所のみという淋しいスタートではありますが、ETCが登場してから20年が経ち、ようやく当初の狙い通りの進展が見られるようになりました。今後、ETCでの利用範囲が広がれば、たとえば駐車場での精算はスムーズになり、電子化により駐車場会社のポイントも貯めやすくなるでしょう。ドライブスルーでも、たとえばカーナビの画面上にメニューが表示されて、直接その画面からオーダーできるようになる可能性もあるようです。そんな利用の広がりに期待したいと思います。

 

 

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鉄道各社が発表した2021年度「新車両投入」計画を改めてまとめてみた

〜〜JR&大手私鉄各社の2021年「設備投資計画」から〜〜

 

年度替わりとなる春は、JRと大手私鉄複数各社から2021年度の「設備投資計画」、もしくは「事業計画」が発表される。同プランにはさまざまな分野の計画が盛り込まれるが、本サイトでは「新車両投入」というポイントにしぼり注目してみたい。

 

各社の計画を見ると、なかなか興味深い新車両導入の傾向がうかがえる。具体的にどのような車両が新造されるのか、また新車両の導入により既存の車両はどうなるのか、予測も含め考察していきたい。

 

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【新車投入計画①】まずJR東日本で気になる新車両は?

最初にお断りを。各社の「設備投資計画」だが、プレスリリースとして一般に発表された鉄道会社の計画のみに限定した。発表されたのはJR4社(JR西日本は『中期経営計画2022』の見直し)と大手私鉄6社(※本原稿では昨秋に「設備投資計画」を発表した会社もあわせて8社を紹介する)。各社の「設備投資計画」「事業計画」から新車両の導入計画のみを抜き出してみよう。

 

まずはJR東日本から。4月28日に「変革のスピードアップのための投資計画」と題された、2021年度設備投資計画が発表された。増備される車両数までは発表されていないが概要がうかがえる。

↑増備が進む横須賀線・総武快速線用のE235系1000番台。1994(平成6)年から走ってきたE217系の引退も目立つようになってきた

 

JR東日本では、まず2019年10月の台風19号で被災した、北陸新幹線用のE7系の増備を行うとしている。被災したE7系の代役は、上越新幹線の2階建て車両E4系によりまかなわれてきたが、被災した車両数分の増備が終了する。代役に使われてきたE4系は、この増備により上越新幹線からも姿を消すことになる。

 

さらに、横須賀・総武快速線用のE235系車両が増備される。この増備により「環境負荷低減を目指す」としている。

↑レール運搬用気動車のキヤE195系1000番台・1100番台。こちらは定尺レール運搬用の車両となる

 

さらに、事業用のレール輸送用新型気動車を導入するとしている。このレール輸送用新型気動車の形式名はキヤE195系で、定尺レール運搬用とロングレール運搬用がある。このキヤE195系は、元々JR東海が開発したキヤ97系で、この車両がJR東日本用に改良され導入が始まった。

 

JR東日本のレールの輸送は、これまで国鉄時代に造られた機関車が、レール輸送専用貨車を牽く形で行われてきた。機関車はみな国鉄時代に製造されたもので、老朽化が懸念されていた。

 

このレール輸送用新型気動車の導入とともに、砕石(さいせき)輸送用の新型電気式気動車GV-E197系と、E493系交直流電車も導入され、試運転が始まっている。これらの車両の本格的な運用が始まると、事業用車両として使われてきた電気機関車、ディーゼル機関車も、車両回送用および、客車牽引用の一部の機関車を除き、いよいよ引退となりそうだ。

 

【新車投入計画②】JR旅客他社の新車両導入の動向は?

JR東日本以外のJR各社からの設備投資計画等の発表は、JR西日本とJR北海道、JR貨物(詳細後述)のみとなっている。

 

JR西日本はやや前のものになるが、2020年10月30日の「JR西日本グループ中期経営計画2022」見直しの中で、車両増備に関して触れている。具体的には、山陽新幹線の利便性向上のため、N700S車両の16両×4編成増備を、また北陸新幹線敦賀開業(敦賀延伸は2023年度末の予定)に向けて、北陸新幹線用W7系を12両×11編成を増備するとしている。N700Sは現状、これまでJR東海の増備が中心で、東海道新幹線内での運行がメインとなってきたが、JR西日本所有の車両が増えることにより、山陽新幹線内での運行も行われることになる。

 

ちなみに、JR東海のN700SはJ編成。JR西日本のN700SはH編成と異なる。また、側面の車両形式の頭に付くJRマークがJR東海の車両はオレンジ色、JR西日本の車両はブルーとなっている。JR東海の車両の運行予定は発表されているが、JR西日本の車両の運行予定は、まだ発表されていないなどの違いがある。

↑N700Sの運行予定はJR東海からは発表されている。JR西日本のN700Sも運行を開始しているものの、運行ダイヤは未発表となっている

 

JR北海道からは、4月2日発表の「令和3年度事業計画」に車両計画が盛り込まれている。具体的にはH100形気動車と、261系(キハ261系)特急気動車の新製があげられている。ほかの車両関連では、789系特急電車や、201系気動車の重要機器の取り替えを行うとしている。投資金額も明らかにされており、136億円の予定だ。

 

観光列車に関しても触れている。キハ261系「はまなす編成」「ラベンダー編成」を活用した都市間輸送の販売強化や周遊企画。キハ40系「山紫水明」シリーズを用いた「花たび そうや」号、また昨年も行われた「THE ROYAL EXPRESS」の運行を行うとしている。観光客に人気のある観光列車を走らせて、何とか会社再生への道を探ろうという思いが見えてくる。

↑JR北海道の新型気動車H100形、愛称はDECMO(デクモ)だ。電気式気動車で、JR東日本のGV-E400系と基本設計は同じ

 

ここ数年、JR北海道ではH100形気動車の増備が著しい。国鉄時代に生まれたキハ40系や、キハ141形といった旧型車両は、徐々に減っている。今後はさらに環境に配慮した、また省エネルギー効果の高いH100形の導入が活発になっていきそうだ。

 

【新車投入計画③】東武鉄道では500系リバティの新造が目立つ

ここからは大手私鉄の車両増備の計画を見ていこう。首都圏の複数の大手私鉄から設備計画が発表されている。コロナ禍で、鉄道会社の収益も陰りがちだが、コロナ後の将来に向けての計画が打ち出されている。

 

まずは、首都圏最大の路線網をもつ東武鉄道から。4月30日に発表された「鉄道事業設備投資計画」では、東武スカイツリーライン・アーバンパークライン沿線の高架化計画をさらに進めていくことを中心に打ち出されている。

↑東武鉄道の500系リバティは、今年度6編成が新造される予定だ

 

一方で、車両計画で注目したいのは500系リバティの新造計画。2021年度にはさらに6編成を新造するとしている。すでにリバティは3両×11編成が利用されており、この新造が終了すると、51両の大所帯になる。

 

東武の既存の特急形電車といえば、100系スペーシア、特急「りょうもう」用の200型・250型が中心となっている。100系は54両、200型・250型も60両が在籍している。ほかに350型といった車両も残っていたが、こうした車両も徐々に減っていくことになるのだろうか。

 

ほかには、東武日光線の南栗橋駅以北で運行している20000系リニューアル編成を3編成(計12両)増備するとしている。

 

【新車投入計画④】小田急では新型5000形が増える一方で

続いては小田急電鉄を見てみよう。小田急といえば、この春に海老名駅に「ロマンスカーミュージアム」がオープンして大きな話題になっている。さて、どのような車両の新造があるのだろうか。

 

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↑小田急電鉄の新型通勤電車5000形。着々と増備が進められ、出会うことも多くなってきた

 

小田急電鉄といえば、ロマンスカーが注目されがちだが、4月28日に発表された「鉄道事業設備投資計画」によると、今年度の新造は5000形に限られる。昨年の春に登場した5000形。これまで小田急の通勤型電車といえば、正面が平面という姿の車両がすべてだったが、5000形はオフセット衝突対策を施し、やや正面下部に膨らみを持たせた形状となっている。今季の増備は4編成(40両)で、新たな〝小田急顔〟の新車に出会う機会も増えそうだ。

 

一方で、興味深いのは1000形2編成のリニューアルが発表されたこと。改装により車椅子スペース、車内LCD表示器、自動放送装置などを備える。1000形といえば、運用開始が1988(昭和63)年と、8000形(1983・昭和58年に登場)に次ぐ古豪だ。やや古めながらも、リニューアルし、まだまだ活かそうという方針のようだ。

 

【新車投入計画⑤】東京メトロでは17000系、18000系が増える

次は東京メトロの新型車両の導入計画。東京メトロでは3月25日に発表した「2021年度(第18期)事業計画」で、新型車両の導入に関して触れている。

 

まずは丸ノ内線。新しい2000系を1編成導入する。これにより、2000系は33編成となる。ほかの新型車両の導入は、次の路線の車両に集中して行われている。

 

特に有楽町線・副都心線への新型17000系の新造が目立つ。まずは10両×2編成導入の予定。こちらは今年の2月21日からすでに運用が始まっているが、この増備車両となる。さらに、8両の17000系12編成が導入の予定だ。これにより、17000系に8両と10両編成が混在して運用されることになりそうだ。

 

半蔵門線用の18000系は、すでに実車ができあがり試運転が開始されている。こちらは今年度10両×4編成が導入される予定だ。

↑今年の2月から走り始めた東京メトロ17000系。従来の10両編成に加えて今年度は8両編成という新規車両も登場の予定だ

 

有楽町線・副都心線用の7000系や、半蔵門線用の08系といった、長らく親しまれてきた正面形状をもった車両たちが、この新造により減っていくことになりそうだ。

 

【新車投入計画⑥】京王電鉄ではリクライニング付き新車が登場

京王電鉄では4月30日に「鉄道事業設備投資」を発表した。同社では現在、京王線(笹塚駅〜仙川駅間)の連続立体交差事業に力を注いでいる。

 

そんななか、今期の新造車両は少なめながらも、注目したい車両がある。5000系といえば、現在は「京王ライナー」などの有料座席指定列車に使われている車両。この5000系が1編成(10両)新造される。この新しい5000系の座席の仕組みが興味深い。

↑京王線を走る5000系に新顔が登場する。クロスシート使用時にリクライニングできる日本初の構造となる予定だ

 

5000系の座席といえば通常時はロングシート、有料座席指定列車として走る時にはクロスシートになる「ロング/クロスシート転換座席」、または「デュアルシート」とも呼ばれる構造の座席を備える。

 

新しく造られる5000系ではクロスシートにした時に、リクライニング機能が利用できるというのだ。これは日本初の仕組みとなる予定で、好評となれば他社でも同構造をもつ車両が現れそうだ。

 

この新5000系の新造は、今季の設備投資計画として発表されたが、実際に導入されるのは2022年下期となりそうだ。

 

ほかでは、京王線8000系2編成(計16両)で車両のリニューアルが行われる。改修にあわせて、車いす、ベビーカースペースが拡大される。こうした車いす、ベビーカースペースの拡大は、今後、京王電鉄の全車両に拡大されていく予定とされている。

 

【新車投入計画⑦】相鉄の新車21000系とは果たして?

念願の都心乗り入れを果たした相模鉄道。既存車両の塗装も濃紺のYOKOHAMA NAVYBLUE化が進み、新たなイメージ作りが進められている。

 

相模鉄道からは4月28日に「鉄道・バス設備投資計画」が発表された。この中で、21000系という新形式の車両が登場すると記されている。相鉄では近年、他社へ乗り入れ用の12000系と、20000系という新車両の増備が図られてきた。新型21000系と20000系ではどのような違いがあるのだろう。

 

↑新型21000系は、既存の20000系10両編成(写真)を8両編成化した車両となる

 

まず、12000系はJR東日本への乗り入れ用の車両として生まれた。一方の20000系は、相鉄・東急直通線用に導入が進められた。相鉄・東急直通線は2022年度末に開業する予定だ。開業後は相鉄線と東急線との相互直通運転が開始される。相鉄の電車が乗り入れるのは、東急目黒線、さらに都営三田線、東京メトロ南北線、埼玉高速鉄道線となる予定だ。東急目黒線など4路線では現在、電車が6両編成で走っているが、相鉄の乗り入れに合わせて車両を8両編成化、そのためのホームの延長工事などが行われている。

 

20000系は10両編成で登場したが、21000系は相鉄から発表されたイメージ図では、20000系と外観はほぼ同じで、東急線乗り入れ用に8両編成化された車両となる。そして8両×4編成が導入される予定だ。

 

【新車投入計画⑧】西武と京成も新造車両の増備が進む

首都圏の大手私鉄の中には、昨秋に設備投資計画を発表した会社もある。西武鉄道と京成電鉄である。西武鉄道は2020年9月24日に、京成電鉄は2020年11月10日にそれぞれ発表している。やや前のものながら、新型車両の計画を見ておこう。

 

西武鉄道では40000系を10両×2編成を増備する。40000系は有料座席指定制の「S-TRAIN」運行用で、座席の方向が変わるデュアルシートを装備していた。新造される40000系ではロングシートのみの車両となる。

↑全席ロングシートの40000系。同車両は40000系50番台と車両番号が既存の40000系と異なっている

 

一方、京成電鉄では「成田スカイアクセス」という愛称をもつ成田空港線用の3100形の8両×2編成を導入した、と記されている。同線ではこの増備により、鮮やかなオレンジ色ラインの3100形が徐々に目立つようになってきた。

↑増備が進む京成電鉄の3100形。成田スカイアクセス以外に、都営浅草線、京浜急行にも乗り入れている

 

【新車投入計画⑨】名鉄では正面の赤色が目立つ新車両が増える

関東圏を走る大手私鉄以外では、名古屋鉄道(以下「名鉄」と略)から3月25日に「設備投資計画」が発表されている。

↑名鉄の新型9500系。同タイプの2両編成車両が9100系となる。両車両とも、前面の赤色塗装が鮮やかだ

 

同計画では通勤型電車の増備が記されている。9500系を4両×3編成、さらに9100系を2両×2編成が新造される。

 

名鉄の通勤型電車といえば、鋼製車両のみの時代は赤一色の車両でかなり目立った。名鉄の赤色塗装は名鉄スカーレットとも呼ばれ親しまれてきた。ところが、ステンレス車両の新造車が増備されていくにしたがい、そうしたイメージも薄れつつあった。9100系、9500系は、前面が鮮やかな赤色塗装を施した車両で、名鉄の往年のイメージが復活したような印象が感じられる。

 

【新車投入計画⑩】JR貨物は桃太郎増備の一方で気になる情報が

最後はJR貨物が3月31日に発表した「2021年度事業計画」を見てみよう。この中には鉄道ファンにとっては、ちょっと気になることがあった。

 

JR貨物の「2021年度事業計画」の概要では、具体的な車両数までは触れていないものの、EF210-300形式機関車(愛称「ECO-POWER桃太郎」)、DD200形式機関車の車両新製が行われることが見て取れた。昨年暮れに発表された2021年3月時刻改正時に発表されたプレスリリースでは、具体的な増備数が記されている。

↑新鶴見機関区配置のEF210形式300番台。元は山陽本線での後押し用に造られた機関車だったが活用範囲が広がっている

 

この発表によるとEF210形式機関車が11両、DD200形式機関車が6両、HD300形式機関車が1両の新製の予定となっている。

 

すでに、新型EF210形式300番台は主に首都圏の運用をカバーする新鶴見機関区にも続々と配備が進められている。対して、この春にはEF65形式、EF64形式の活用の減少が目立った。国鉄時代に生まれた機関車もいよいよ淘汰が進んでいきそうだ。

↑日本海縦貫線を走るEF510形式交直流機関車。赤と銀色、青色の機関車が使われる。九州を走るEF510はどのような色になるのだろう

 

さて、気になったのは「事業計画」にあった次のような文言。「車両部門では、故障による輸送障害を未然に防止するため老朽車両の取替を計画的に進め、九州地区については取替後にEF510形式機関車を導入することから、九州用に仕様変更したEF510形式の走行試験を行う」としている。

 

EF510形式は交直両用電気機関車で、現在は日本海縦貫線の運用がメインとなっている。この車両がいよいよ、九州用に改造され、運行試験が行われるというのだ。九州地区では、山口県の幡生操車場〜福岡貨物ターミナル間はEH500形式機関車が使われている。

 

一方、輸送量の少ない路線では、旧来のEF81形式、ED76形式が使われてきた。両機関車とも半世紀前に登場した古参の機関車となる。JR貨物が生まれた後に増備されたEF81形式があるものの、かなりのベテラン揃いとなる。こうした機関車の後継車両の導入も検討され始めたということである。今すぐに入れ換えはないとはいえ、気になるところ。5年先あたりには九州の貨物用機関車の顔ぶれも大きく変わっているのかもしれない。

日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲ったスバル「レヴォーグ」は実際どう? 乗り味とディテールを徹底チェック!

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回取り上げるのは、発売以来大人気で、ステーションワゴンの希望の星となっているスバル・レヴォーグ。2代目はどうだ?

※こちらは「GetNavi」 2021年5月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【レビュアーPROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。2018年以降、ペンネームを「MJブロンディ」から「永福ランプ」へ変更している。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。永福ランプを慕い「殿」と呼んでいる。

 

【今月のGODカー】スバル/レヴォーグ

SPEC【STIスポーツEX】●全長×全幅×全高:4755×1795×1500㎜●車両重量:1580㎏●パワーユニット:1.8ℓ水平対向4気筒直噴ターボエンジン●最高出力:177PS(130kW)/5200〜5600rpm●最大トルク:30.6㎏-m(300Nm)/1600〜3600rpm●WLTCモード燃費:13.6㎞/ℓ

310万2000円〜409万2000円

 

ボディや足まわり、アイサイトXは素晴らしいがエンジンがダメ

永福「安ドよ。レヴォーグの評判が良いな」

 

安ド「日本カー・オブ・ザ・イヤーも獲りましたしね」

 

永福「たしかにこのクルマ、ボディと足まわりが素晴らしい」

 

安ド「つまり骨格ですね」

 

永福「特にこのSTIスポーツは、価格が高いだけに猛烈に素晴らしい。これほどしなやかに揺れを吸収するクルマに乗ったのは初めてかもしれん」

 

安ド「スバル車って、昔から乗り心地は良かったでしたっけ?」

 

永福「いや、そんなに良くはなかった。ガチガチに固い時代もあった。まあ現在でもガチガチのスポーツモデルを作っているが」

 

安ド「スバルは硬派なメーカーですもんね」

 

永福「だな」

 

安ド「僕がこのクルマで一番良いと思ったのは、このクールグレーカーキというボディカラーです」

 

永福「たしかに」

 

安ド「それで先代型よりだいぶカッコよく見えました」

 

永福「いかにもスバルらしい硬派な色だが、それでいてオシャレさんだ。スバルのセンスは垢抜けたな」

 

安ド「昔は垢抜けてなかったですよね?」

 

永福「実用以外一切考えてないようなクルマが多かった」

 

安ド「でも、殿も乗られていたSVXはカッコ良かったじゃないですか」

 

永福「あれは突然変異だ。なにしろジウジアーロデザインなのだから」

 

安ド「でも売れなかったんですよね」

 

永福「まったく売れなかった。スバル車はカッコ良すぎてはダメだな。これくらいがちょうどいい」

 

安ド「アイサイトXはどうですか?」

 

永福「これも素晴らしい。GPS測位とマップを精密に連動させているので、ACC(前車追従型クルーズコントロール)を作動させているときに進路の乱れがまったくない。もちろん安全性も高い」

 

安ド「渋滞中の高速道路では手放し運転もできますしね」

 

永福「実にラクチンだ」

 

安ド「悪いところがないですね」

 

永福「いや、ある。エンジンがダメだ」

 

安ド「ダメですか!」

 

永福「全然パワーがないし、燃費も驚くほど悪い」

 

安ド「僕も、なんだか薄味だなぁとは思いましたが」

 

永福「薄味で元気がないのに燃費が悪い。新型エンジンなのに信じられないほどダメだ」

 

安ド「そんなにダメですか!」

 

永福「普通に走っているときは良いが、アクセルを床まで踏んでもロクに加速しない。燃費はロングドライブで12㎞/ℓ程度。新型エンジンなのだから、最低15㎞/ℓは走ってほしいぞ」

 

安ド「地球温暖化ガスがたくさん出てしまうんですね?」

 

永福「このままではスバルは生き残れないぞ」

 

【GOD PARTS 1】大型ディスプレイ

タッチ式ディスプレイでデジタル感を強調

「デジタルコクピット」と呼ばれるインテリアは未来っぽい雰囲気です。特に、センターディスプレイは非常に大型で11.6インチもあり、このクルマのデジタル感を増幅しています。もうひとまわり大きければテスラといい勝負です。

 

【GOD PARTS 2】ステアリング

スイッチが多すぎてちょっとわかりにくい

様々な操作をステアリング上のスイッチでこなせます。あまりにもスイッチが多すぎてわかりにくいですが、ステアリングフィールは最高です。なお、「STIスポーツ」グレードでは、レッドステッチがスポーティ感を演出しています。

 

【GOD PARTS 3】水平対向エンジン

重厚感は失われたがレギュラーガソリンでOK

1.8ℓの4気筒水平対向ターボエンジンは、先代型より排気量がアップしましたが、最高出力の向上はわずかなのが残念です。ボクサーエンジンらしい重厚感も薄れていますが、レギュラーガソリン仕様とはうれしいかぎりです。

 

【GOD PARTS 4】2本出しマフラー

後ろ姿をスポーティに見せる2本出しマフラー

かつて2本出しマフラーといえば、高性能モデルの象徴のような仕様でした。レヴォーグはステーションワゴンでありながら単なる道具ではなく、スポーティな走りもこなせるということで、2本出しも似合います。

 

【GOD PARTS 5】ドライブモード

まるでスマホをいじるかの感覚

ステアリングの「MODE」ボタンを押すと、ディスプレイ全体にドライブモードの選択画面が表示されます。タッチパネル操作なので、スマホをいじる感覚でエンジンやサスペンションなどの制御具合を変更できます。

 

【GOD PARTS 6】STI

スポーツモデルの象徴が大人な乗り心地を実現

スバルのスポーツモデルに冠された名称が「STI」です。かつては激しい走りを連想させましたが、現在は上質な仕様になりました。このSTIグレードにはZF製電子制御ダンパーが搭載されていて、乗り心地も安定感も最高です。

 

【GOD PARTS 7】エアインテーク

ターボ車らしさをデザインで表現

ボンネット上に開けられた穴は、空気の取り入れ口です。かつてターボ車といえば、必ずボンネット上にこのような穴がありましたが、最近は穴のないターボもあります。新型レヴォーグには穴が残され、ターボ車らしくてうれしいです。

 

【GOD PARTS 8】ヘッドライト

ピストン型でシャープな印象

スタイリングは先代型より質感が高く、ラグジュアリーな雰囲気になりました。なかでもこの“コの字”型のヘッドライトはシャープで大人っぽい印象です。ちなみに、この形状はボクサーエンジンのピストンを表現しているそうです。

 

【GOD PARTS 9】ラゲッジルーム

用途を悩むほど広い床下収納スペース

これぞステーションワゴンという容量492ℓの広いラゲッジルームを備えています。当然、リアシートは前方へ倒して荷室を広げることもできます。さらに床下のボードを持ち上げれば、こんなに大きな床下収納(写真下)が! 何を収納するか悩みます。

 

【これぞ感動の細部だ!】アイサイトX

「ぶつからないクルマ」の進化は続く

いまやスバルの象徴ともいえる先進安全装備「アイサイト」は、さらに進化して、名称も「アイサイトX」へと変更されました。自動車専用道路で60㎞/h以下という条件はありますが、「渋滞時ハンズオフアシスト」機能は、自動運転への第一歩。センターディスプレイ上部にあるカメラはドライバーの居眠りまでチェックしてくれます。より操作がイージーになって「ほぼ絶対ぶつからないクルマ」への進化に期待できます。

 

“移動革命”「MaaS(マース)」とは? モビリティジャーナリストが解説する日本と世界の現状と課題

鉄道、バス、タクシー、飛行機……。私たちの生活は、さまざまな移動手段によって支えられています。2010年頃からは「カーシェア」や「自転車シェア(シェアサイクル)」といった新しいサービスも登場し、さらに移動が便利になりました。

 

そんな中、新たな移動の概念として昨今注目を集めているのが「MaaS(マース)」という考え方です。聞いたことがあるけれど、結局どういうものなのかわからないという人も多いのではないでしょうか。今回は、モビリティジャーナリストの楠田悦子さんに、そもそもMaaSとは何か、日本と海外の事例を交えながら解説していただきました。

 

「MaaS」って一体なに?

「MaaS」とは、Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス) の頭文字をとった略語のこと。「サービスとしての移動」と訳されることが多く、自動車業界を中心に話題を呼んでいるキーワードです。では実際に「MaaS」とはどういったものなのか、楠田さんに解説していただきました。

 

MaaSとは、デジタル技術でいろいろな移動サービスを組み合わせ、一人ひとりのニーズに合った移動サービスを提案しようとする概念のことを言います。

移動をする際、これまではさまざまな交通手段を個別に検索し、予約や決済をしていたと思います。しかし、デジタル技術の発展とともに、バラバラだった移動サービスを一括で検索・予約・決済できるようになったり、サブスクリプションのような料金設定が実現したりと、今まで以上に個人に寄り添うサービスが誕生しているのです」(モビリティジャーナリスト・楠田悦子さん、以下同)

 

SDGsにも密接に関係している!? MaaSが目指すものとは

ところが、このMaaSという概念はとても抽象的で、国や地域によっても定義が異なっているのだそう。共通しているのは、「自分で車を運転できなくても、文化的で持続可能な暮らしと社会を実現することがMaaSの目指すもの」だと楠田さんは話します。

 

「そもそもMaaSは、環境問題への意識が高いヨーロッパ発祥の概念です。車利用の増加による都市部の渋滞や環境汚染などが深刻化する中で、車を所有するライフスタイルから、鉄道や自転車といった環境に優しい移動サービスを利用するライフスタイルに転換していこう、という考え方に基づいています。

日本でも、高齢化の加速により高齢者ドライバーが増え、事故や免許返納などにより移動手段を失ってしまった高齢者が多く見受けられます。

MaaSは、そういった渋滞や環境汚染、高齢化社会による移動困難者の増加など、さまざまな社会課題を解決する手段として期待されているのです。そう考えると、持続可能な暮らしを目指すSDGsとも密接に関わっている、とも言えるのではないでしょうか」

 

柔軟な料金設定が魅力! 海外のMaaSアプリ

実際に、海外で普及が進むMaaSの事例を見ていきましょう。

 

・「MaaS」の代表格、フィンランド生まれのMaaSアプリ「Whim」

「MaaS」が提唱されたのは、北欧の国フィンランド。その中心人物とされているのが、MaaSの生みの親とも呼ばれているMaaS Global社のCEO、サンポ・ヒエタネン氏です。同社は2017年に、世界初の本格的なMaaSプラットフォームである「Whim(ウィム)」というアプリの提供を開始。今ではフィンランドだけでなく、複数の国と都市で利用されています。

 

「『Whim』は、MaaSを語る上では欠かせないアプリのひとつ。日本では、トヨタグループが同社に出資をしたことにより一躍有名になりました。鉄道、バス、トラム、自転車シェアやカーシェアなどのさまざまな移動手段が一括で検索できるのはもちろん、定額制の乗り放題プランを用意していることが特徴です。

4つの料金プランがありますが、象徴的なのは月額499ユーロ『Whim Unlimited』というプランです。月6万円ほどで、指定エリア内の公共交通、自転車シェアやカーシェアが回数無制限、タクシーは最大5kmまでの距離を80回無料で利用できます。移動が便利になるだけでなく、環境に優しい暮らしを目指したサービスとして支持されています」

 

2020年には、不動産大手の三井不動産と連携して、日本でも実証実験が開始されました。この実験は、マンションの住民向けに、バスやタクシーといった交通機関の定額サービスを提供するというもの。通勤や通学など、住まいとモビリティは切っても切れない存在です。MaaSは、不動産、ひいては街づくりの観点からも注目を浴びていることがわかります。

 

・自分の通勤通学に最適な乗り放題プランを! 高雄市の「Men go」

ヨーロッパを中心に広がりを見せているMaaSですが、アジア圏でも続々とサービスが導入されています。中でも、台湾南部の高雄市のMaaSアプリ「Men go(メンゴー)」は、少しユニークな料金設定なのだそう。

 

「『Men go』には、高雄メトロ・高雄ライトレール・バス・公共レンタサイクル・タクシーが乗り放題のプラン、バスの乗り放題プラン、長距離バスの乗り放題プラン、フェリーの乗り放題プランの4つの料金プランが用意されています。

実は、日本のように定期券があって会社が通勤手当を出してくれる国って、すごく少ないんです。その為、自分が通勤・通学時に利用する主な交通手段のプランを選ぶことができるのが、人気の理由かもしれません。利用に逆に言えば、定期券は“日本的なMaaS”と言っても過言ではないかもしれませんね」

 

「日本のMaaSは遅れている」は間違い!

海外の事例を見ていると、「日本のMaaSは遅れているのではないか?」と感じる人もいるかもしれません。しかし、これは間違いだと楠田さんは話します。

↑スウェーデンの研究者が提唱したMaaSレベルの表(編集部作成) 出典:Jana Sochor(2017)

 

「MaaSには、スウェーデンの研究者が提唱したレベル定義があります。この基準に照らし合わせてみると、確かに日本のMaaSは遅れているという印象をうけるかもしれません。しかし、このMaaSレベルはあくまでも欧州の基準。日本とは移動に関するサービスや環境も異なりますので、必ずしも日本が遅れているということではありません。

例えば、私たちが日常的に使っている『Suica』や『PASMO』といった交通系ICカードも、日本的なMaaSです。移動だけでなく、お店での買い物ができますし、クレジットカード機能が付いたり、モバイルに対応したりと、いろいろなサービスとつながっています。海外からも評価が高く、日本独自に進化したサービスの形とも言えるでしょう。

つまり、日本は日本の実情に合わせてサービス水準を高めていくことが大切だと感じています」

 

実はこれもMaaS!? 日本の優秀なMaaSアプリ

特別なサービスのように感じるMaaSですが、実は以前から私たちが使っている経路検索サービスも、MaaSの一部。私たちは、気づかないうちに少しずつMaaSに触れていたのだと、楠田さんは話します。

 

「MaaSという言葉が生まれる前から、経路検索サービスでバスや電車など、移動手段の情報をまとめてみることができていました。MaaSとは、デジタルの力で移動が便利になっていくこと。つまり、経路検索サービスも立派な日本のMaaSであると言っても過言ではありません」

 

そんな日本の優秀なアプリを、楠田さんに紹介していただきました。

 

・検索結果からタクシーの配車も可能な「NAVITIME」

「NAVITIME」
無料(一部有料)
Android  https://products.navitime.co.jp/service/navitime/android_sp.html
iOS https://products.navitime.co.jp/service/navitime/ios_sp.html

ナビタイムジャパンが提供する『NAVITIME』。経路検索サービスだけでなく、音声案内や時刻表の確認、現在地周辺のスポット情報など、私たちの移動を助ける機能が満載のアプリです。

「『トータルナビ』機能では、電車・バス・飛行機・フェリー・車・歩きだけでなく、シェアサイクルといった新しい移動手段を組み合わせたルート検索が可能です。さらに、検索結果から飛行機の予約やタクシー配車も可能となっています。MaaSにつながる、画期的な経路検索アプリです」

 

・日常も旅行も快適に。小田急線沿線の暮らしを支える「EMot」

「EMot」
無料(一部有料)
Android  https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.odakyu.emot&hl=ja
iOS  https://apps.apple.com/jp/app/emot/id1472652885

「小田急電鉄の『EMot』は、日本の代表的なMaaSアプリのひとつです。鉄道・バスに加え、タクシーやシェアサイクルを組み合わせたルート検索が可能なだけでなく、旅行で使えるお得なフリーパスやテーマパークのチケットを購入できるなど、さまざまなサービスが展開されています」

 

最近では、月額7800円で対象店舗のそば・おむすび・パンといった食事を1日何度も楽しめる「EMotパスポート」というサブスクリプションサービスも登場しました。40を超える対象店舗の中には、飲食店だけでなくフラワーショップも含まれており、お得に買い物が楽しめます。

 

小田急線沿線を中心としたアプリではありますが、日常の移動だけでなく旅行や買い物など、より便利で快適な暮らしが実現できそうです。

 

高齢者も障がい者も“誰もが移動を諦めない社会”を目指す「Universal MaaS」

MaaSの新たなキーワードとして、2019年頃から「Universal MaaS」という言葉も生まれています。Universal MaaSとは、高齢者や障がい者、訪日外国人など、外出を躊躇して思うように移動ができない人に向けて、安心して移動ができるようなサービスを提供していこう、という動きです。

 

「例えば、車いす利用者は現在、移動をする際に事前に交通事業者に連絡を取って、介助を依頼しているのが現実です。これが移動を躊躇する要因の1つとなっています。

Universal MaaSは、アプリを活用することで利用者がバリアフリーな乗り継ぎルート情報を得ることができたり、事業者側もリアルタイムに利用者の動きや介助内容を把握できたりと、移動困難者の快適な移動を目指したサービスを展開していこうというもの。

現在は、全日本空輸株式会社(ANA)が旗振り役となり、京浜急行電鉄や横浜国立大学、横須賀市が連携して実証実験が行われています。移動困難者が躊躇することなく、快適に移動できるようになる社会に向けて、挑戦は続いています」

 

MaaSが描く、日本の未来像

『車がなくても、誰もが文化的で持続可能な暮らしができるようになること』。これこそが、MaaSの描く未来像です。

しかし、そもそも公共交通が充実しておらずサービスを組み合わせて考えることができない地域があったり、道路整備や人材不足によりサービスを開始できなかったりと、MaaSを実現するための課題はまだまだ山積みです。海外の基準に囚われるのではなく、日本は日本の現状を見据えて、日本流のサービスを模索していく必要があるのではないかと思います」

 

【プロフィール】

モビリティジャーナリスト / 楠田悦子

兵庫県生まれ。心豊かな暮らしと社会のための移動手段・サービスの高度化や、環境問題といった社会課題の解決を目指し、モビリティジャーナリストとして活動を行っている。モビリティビジネス専門誌「LIGARE」創刊編集長を経て2013年に独立。国内外の取材やプロジェクトのコーディネート、国土交通省のMaaS関連データ検討会、SIP第2期自動運転ピアレビュー委員会などの委員を務めるなど、活動は多岐に渡る。

 


『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

 

デンソーの「新世代運転支援」で今のクルマはどう変わる? LSとMIRAIの場合

デンソーは4月9日、乗員に安心感を与える高度運転支援技術の実現と、車両の安全性能向上に貢献する製品を開発したと発表しました。合わせて、その技術がレクサスの新型「LS」および、トヨタの新型「MIRAI(ミライ)」の高度運転支援技術Advanced Drive(アドバンスドドライブ)に新機能として採用されたことも紹介し、その概要についてオンラインにて説明会を開催しました。

↑デンソーが開発したLiDARやECUを搭載することで、ハンズオフでの走行を実現するAdvanced Driveを搭載したレクサスの新型「LS」(左)とトヨタの新型「ミライ」

 

高精度ロケーター機能を有するLiDARと望遠カメラで前方200m先までを検知

新型LSと新型ミライに搭載された新しいAdvanced Driveで可能となるのは、高速道路や自動車専用道路の本線上でステアリング、アクセル、ブレーキの全てをアシストし、ドライバーはステアリングから手を離して走行することができる(ハンズオフ)というものです。また、車線変更をシステム側から提案も行い、ドライバーが周囲を確認してステアリングを保持すると自動で車線変更することが可能となりました。

↑Advanced Driveで実現する自動追い越し機能。前方に遅い車両がいるとシステムが追い越しを提案。ドライバーが承認すると追い越し行動に入り、終わると元の車線に戻る

 

今回、デンソーが発表したのは、この機能を実現するために開発された製品です。車両や道路の形状を検知する「LiDAR」、2つのカメラで前方を検知する「ロケーター望遠カメラ」に加え、高精度で自車位置を特定する「SIS ECU」、それらの製品などから得られる情報を高速処理する「ADS ECU」「ADX ECU」となります。

↑レクサスの新型「LS」とトヨタの新型「ミライ」のAdvanced Driveを支えるデンソーの製品群(資料提供:デンソー)

 

LiDARとロケーター望遠カメラはこの二つを組み合わせることで、前方200m以上先までを120°もの広範囲で検知できる製品として開発されました。中でもLiDARはデンソーにとって6世代目となる製品で、新型LSや新型ミライではこれをフロント部に装備。レーザー光の高出力化、受光センサーの高感度化により、遠方までの検出能力で世界最高レベルの性能を備えたとしています。

↑世界最高レベルの車両検知距離200mを実現したLiDARはフロントに搭載。ヒーターやウォッシャー機能も備える(資料提供:デンソー)

 

LiDARのスキャン方式はメカニカルな平面ミラーを用いており、物体を検出する水平の角度も広いことも特徴です。照射するレーザービーム間に隙間がない設計としたことで遠距離の小さな物体を見落としにくいメリットも生み出したと言います。また、デンソーとしては初めて、LiDARに汚れを落とすためのヒーターとウォッシャーを装備したことも明らかにされました。

↑フロントバンパーに埋め込められているLiDAR

 

また、ロケーター望遠カメラは、近距離用と遠距離用に2種類のカメラを搭載し、LiDARを超える長い撮像可能距離と高画素数を備えています。特に遠距離用のカメラでは検知角度を狭めることで角度あたりの画素数を向上させており、これがより鮮明な映像の実現に貢献することになったということです。

 

デンソーの先端技術を搭載したECUが高度な運転支援を可能にした

このLiDARと望遠カメラなどによって得られたデータは高精度な自車位置を特定するロケーターとして使われます。その処理の中枢を司るのが「SIS ECU」です。高精度地図データやGNSS(GPSなど全地球測位衛星システム)、6軸ジャイロセンサーから得られる位置情報と組み合わせることで、自車が走行する位置情報を車線レベルで取得。LSやミライが車線ごとに高度に制御できるのもこの技術が活きているからと言えるでしょう。

↑自車位置の高精度測位を実現する中枢が「SIS ECU」。OTA更新に対応し、高精度マップやプログラムデータのアップデートに対応する(資料提供:デンソー)

 

そして、ここで得られた車線レベルの高精度ロケーター情報は、車両を制御する「ADS ECU」と「ADX ECU」に送られます。ADS ECUのADSは「Advanced Driving System」のことで、つまり、このECUが自動運転につながる制御を行うのです。デンソーによれば、このECUは「認識/自車位置推定/運動制御などの自動運転の基本ロジック搭載」「安全性確保のため複数のSoC、MCUで冗長性を確保」する役割を備えているということです。

↑「ADS ECU」「ADX ECU」は「SIS ECU」から受け取った測位データをもとに、自動運転の車両制御を司る。冷却はエアコンの空調を使う(資料提供:デンソー)

 

↑自動追い越しの概念図。ドライバーがステアリングを保持し車線変更先を確認、承認操作を行うことで、自動的に車線変更を行う

 

↑車線が減少する際のAdvanced Driveが動作する流れ

 

↑追い越し時に大型車などが車線いっぱいに走っている際は、車線内で軽く避けて走行するアルゴリズムも備えた

 

一方、ADX ECUは「Advanced Driving Extension」を表すもので、「AIを活用した機能の追加・性能向上」としての役割を担います。加えて、いずれも通信でアップデートするOTA(Over The Air)機能にも対応しているということも見逃せません。これは現時点でこそAdvanced Driveが運転支援であるレベル2にとどまりましたが、近い将来、システムがレベル3に発展する際にはアップデートで対応できることを意味しているのです。

↑Advanced Driveはあくまで運転支援である自動運転レベル2であり、ドライバーが一定時間、前方から視線を外すと警告が出る

 

実は3月にホンダは世界初となるレベル3の型式認定を受けた新型レジェンドを発売しました。そういう状況下においてもAdvanced Driveでは、どうしてレベル2にとどめたのでしょうか。そこには自動運転に対する考え方の違いがあったと言えます。

 

自動運転の次のステップへの可能性を秘めたAdvanced Drive

トヨタ自動車は新型LSと新型ミライの発表記者会見で、「自動運転のレベルを上げることよりもドライバーが運転を安心して任せられるかどうかが重要」と、トヨタ自動車 CTOの前田昌彦氏はコメントしています。また、トヨタ先進技術開発カンパニーの「ウーブン・プラネット・ホールディングス」でCTOを務める鯉渕 健氏も「オーナーカーは自分で運転を楽しみながら、運転したくない場面を任せられるミックスされたシステムが合うのではないか」としています。

 

つまり、システムとして自動運転レベル3に対応できる伸びしろは残しつつも、まずは現時点でユーザーが受容できるシステムを提供したのが、新しいAdvanced Driveなのです。デンソーとしてはサプライヤーとして、OEMが必要とする仕様を粛々と進めていくことが基本です。ただ、そういう中でも「初期段階で先を見据えた方がトータルの面でよりコスト効果が大きい」との提案は行っていくとしました。

↑オンラインでの説明会で製品説明を行ったデンソーAD&ADAS事業部長の渡辺浩二氏と、経営役員の武内裕嗣氏

 

こうして振り返るとAdvanced Driveの開発は、インターフェースで「アイシン精機」などが参画していますが、仕様検討の段階からトヨタとデンソーが一体となって取り組むことで完成されたものと言えます。自動運転の実用化はまさに今スタートしたばかり。デンソーが自動運転の発展に果たす役割はますます大きくなっていくと言えるでしょう。

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

コロナが収束したら巡りたい……全国の三セク鉄道「鉄印」集めの旅!

とにかく旅がしたい……。

 

日常生活の中で「旅」というのはこんなにも大事なイベントだったのかと痛感している今日このごろです。なかなかすぐには難しいですが、「いつか」のために今から計画を立てておこう! そう考えている人も少なくないはず。

 

今回は、新たな鉄道の楽しみ方を予感させてくれる「鉄印帳」について、『鉄印帳でめぐる全国の魅力的な鉄道40』(地球の歩き方編集室・編集/学研プラス・刊)より、その魅力と楽しみ方をご紹介していきます。

 

思った以上に本格的な、鉄道版の御朱印こと「鉄印」

『鉄印帳でめぐる全国の魅力的な鉄道40』を読むまで「鉄印」の存在を知りませんでしたが、私が知らなかっただけでSNSでは結構話題になっていました。

 

鉄印とは、地方公共団体と民間の共同出資によって運営されている“第三セクター鉄道”(以下、三セク鉄道)に加盟している40社が、もっと地域を盛り上げよう! と2020年7月から始めたサービスのこと。

 

寺社でもらえる御朱印は、自分の好きな御朱印帳に集めていきますが、鉄印は決まった「鉄印帳(2200円)」を駅構内で購入し、スタンプラリーのように集めていきます。記帳料も300円〜かかりますが、乗車券を購入しないともらえないというルール付き。まさに鉄道を楽しむための「鉄印」になっているわけです!

 

「スタンプラリーみたいってことは、ただハンコ押すだけじゃないの?」と思ったそこのあなた! クオリティめちゃくちゃ高くて驚くと思いますよ。一体どんな種類の鉄印があるのでしょうか。

 

 

特殊な台紙を使用したもの、プリントや職員がその場でじかに書いてくれるもの、社長直筆などさまざま。直書きの場合や窓口が混雑しているときなどは記帳に時間がかかり、列車の待ち時間内でもらえるとは限らないので時間に余裕をもって計画しましょう。

(『鉄印帳でめぐる全国の魅力的な鉄道40』より引用)

 

ちなみに、40社すべてコンプリートするとシリアルナンバー入りの「鉄印帳マイスターカード(有料)」も発行してもらえるのだとか。これがあると限定グッズや様々な特典が受けられるとのことで、日本全国の三セク鉄道に乗って制覇したくなってきます。実際にどんなものがあるのか、ご紹介していきましょう。

 

都内からもアクセスしやすい「いすみ鉄道」

鉄道ファンには有名な、国鉄時代の車両「キハ52」が現役で走っている千葉県のいすみ鉄道。大原駅から上総中野駅までの14駅をつなぎ、近年では観光列車としても注目集めている路線です。鉄印はたけのこでも有名な「大多喜駅」でゲットできます。

 


いすみ鉄道のInstagramにはこのように「鉄印」の見本がアップされているのですが、なんと社長直筆メッセージ付きバージョンもあるのだとか。ひとつひとつメッセージが違うとか、ちょっとそそられる……!

 

ちなみにいすみ鉄道沿線は、「レストラン列車」が大人気。奇数月は本格イタリアン、偶数月は和風の創作イタリアンが列車の中で楽しめるそうですよ。

【レストラン列車の詳細はこちら

 

自然豊かな車窓からの景色を楽しみながら、レトロな列車に乗ってイタリアンを味わう……もう想像しただけで心が豊かになりますよね。あぁ〜乗りたい! そして社長メッセージ付きの鉄印も欲しい!!

 

東京駅からいすみ鉄道の大多喜駅までは特急列車を使えば2.5時間で行けてしまうので、周辺の観光も楽しみながらの半日旅にもおすすめ。どんどん旅行プランが膨らみます。

 

清流沿いをのんびり走る「ながてつ」の個性強すぎ鉄印

次にご紹介するのは「ながてつ」の愛称で親しまれている美濃太田駅から北濃駅までの38駅を結ぶ長良川鉄道。長良川に沿いながら走る鉄道で、観光列車「ながら」は鉄道ファンだけでなく「一度は乗ってみたいのよ〜」と思っている人も多い列車ではないでしょうか?

 


見所たっぷりな沿線で、途中に温泉もあり、ゆっくりと途中下車しながら散策を楽しめるのも魅力です。鉄印は郡上八幡駅と関駅でもらえるのですが、これが他の路線とは一線を画すデザインで、コレクター心をくすぐります。

 

「鮎食べたし長良川鉄道」と書かれた個性的な鉄印。「ゆるい感じを意識したデザインです」と鉄印作成スタッフ。その言葉通り、鮎の表情や書体にほのぼのとしたあたたかみを感じます。

(『鉄印帳でめぐる全国の魅力的な鉄道40』より引用)

 

どうしても御朱印のような筆文字をイメージしてしまっていましたが、こんなイラスト付きもありですよね。

 

『鉄印帳でめぐる全国の魅力的な鉄道40』には、40社すべての鉄印も紹介されているので、気になるデザインの鉄道から集めることもできます。また、鉄道初心者でも安心して楽しめる路線のめぐり方も、タイムスケジュールと合わせて掲載されています。

 

三セク鉄道の沿線や近所の人は、ギスギスした毎日の息抜きの参考に、遠方の人は自由に旅行が楽しめるようになった時や実家に帰省する際の参考に、ぜひ、ご家庭に一冊「鉄印帳」と『鉄印帳でめぐる全国の魅力的な鉄道40』を揃えておきましょう。

 

読んでいるだけでも旅行の楽しさを思い出せてワクワクしちゃいますよ!

 

【書籍紹介】

鉄印帳でめぐる全国の魅力的な鉄道40

著者:地球の歩き方編集室(編)
発行:学研プラス

北海道から九州まで、全国40の鉄道でもらえる鉄印。鉄道の旅に新しい魅力が加わりました。旅の記念として、思い出として、鉄印を集めながら全国を旅する人が増えています。鉄印はすべてオリジナル。手書きやスタンプ、プリントなど各社工夫を凝らしたこだわりのデザインです。本書では鉄印がもらえるすべての路線を網羅。その路線と周辺の観光スポットなどを紹介しています。

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「成宗電気軌道」の廃線跡を歩くと意外な発見の連続だった

不要不急線を歩く02 〜〜成宗電気軌道(千葉県)〜〜

 

「不要不急」といえば、今ならば「外出を控えて」となる。しかし、太平洋戦争の戦時下では、不要不急の名のもとに、多くの「鉄道路線が休止、廃止」となった。不足する鉄資源を得るため、これらの路線のレールが外されていったのだ。

 

今回は、その「不要不急線」として廃止された成宗電気軌道(せいそうでんききどう)の廃線跡を紹介したい。訪れると予想外に多くの発見があった。

 

【関連記事】
“不要不急”の名のもと戦禍に消えた「旧五日市鉄道」廃線区間を歩く

 

【成宗電気軌道①】廃線歩きは一枚の絵葉書から始まった

筆者の手元に一枚の古い絵葉書がある。そこには「成宗電車宗吾停留場」と印刷されている。さて、成宗電車とは? ほとんど馴染みのない名前の電車だ。どこを走っていたのか調べてみると、現在の千葉県成田市内を走っていた電車であることが分かった。

 

さらに、戦時下の1944(昭和19)年に不要不急線として廃止された路線だった。

↑大正期の成宗電車宗吾停留場の絵葉書。一両の路面電車と屋根付き停留場が写り込んでいた。さて宗吾とはどのような所なのだろう?

 

成宗電気軌道とは、成田と宗吾(そうご)という地区を結ぶ路面電車路線だったとされる。筆者は観光ガイドブックを制作する仕事もしているため、各地のことを少しは知っているつもりだった。ところが、宗吾という地名はお目にかかった記憶がない。宗吾には、果たして電車が結ぶほどの観光名所があったのだろうかと、疑問が膨らんでいった。とにかく歩いてみるべく現地を訪れた。

 

【成宗電気軌道②】成田と宗吾を結んでいた成宗電気軌道

まずは成宗電気軌道の概要を見ておきたい。

会社創立 1908(明治41)年11月、成宗電気軌道株式会社が創立
路線 成田山門前(後の不動尊)〜宗吾間5.3km
路線の開業 1910(明治43)年12月11日、成田駅前(後の本社前)〜成田山門前(後の不動尊)間が開業。1911(明治44)年1月20日、成田駅前〜宗吾間が開業
廃止 不要不急線の指定をうけ1944(昭和19)年12月11日に廃止

 

路線の開業後、1916(大正5)年に会社名は成田電気軌道と改称された。1925(大正14)年には京成電気軌道(現・京成電鉄)が買収、傘下企業となっている。そして、1927(昭和2)年に成田鉄道と改称した。会社名の変転はあったものの、地元の人たちには「成宗電車」(以下、この名前で同路線を呼びたい)の名前で親しまれていた。

 

買収当時の京成電気軌道としては、線路を結び、成田山新勝寺の目の前まで電車を走らせる計画があった。成宗電車の軌間幅は1372mm、京成電鉄の軌間幅は今でこそ1435mmだが、当時は成宗電車と同じ軌間幅だった。つまり乗り入れが可能だったのである。

 

ちなみに、1372mmは馬車鉄道が起源だとされる。馬車鉄道を起源とする軌道路線が多かったこともあり、当時は1372mmという軌道幅は珍しくなかった。現在はこの線路幅を使っている鉄道路線はそう多くない。目立つところでは、軌道鉄道を起源とする京王電鉄京王線や都電荒川線、東急世田谷線が今も1372mmの軌間幅を利用している。

 

少し話がそれたが、当時の京成電気軌道が成宗電車への乗り入れを果たせなかった理由は、地元、新勝寺門前町から反対の声が強くあがったためだとされている。乗り入れが出来ていたならば、成宗電車の歴史も変わったのかも知れない。

 

さらに太平洋戦争に突入すると、戦時下に参詣のための路線はふさわしくないとされ、また京成電気軌道がほぼ平行して走ることから、不要不急線に指定。そして1944(昭和19)年に路線廃止となったのだった。戦時下とはいえ、参詣すら問題視されるほど余裕がない時代だったことが窺える。

 

ちなみに、成田鉄道では多古線(たこせん)という、成田駅〜八日市場駅間(30.2km)の路線も所有していた。この多古線も1944(昭和19)年1月11日に運転休止。戦後の1946(昭和21)年10月9日に廃止となっている。この多古線に関しては機会があれば紹介したい。

 

【成宗電気軌道③】京成成田駅を出発点に歩き出す。すると

↑京成電鉄の京成成田駅の参道口。成宗電車の成田駅前停留場が隣接していて乗換えも便利だ

 

成宗電車の廃線歩きは京成成田駅から始めることにした。京成成田駅の参道口に降り立つ。駅の正面には、屋根付のバス乗り場がある。ちょうどこのあたりに成田駅前の停留場があったのだろう。この付近からは成田鉄道多古線の列車も出発していたようだ。

 

さて、古い地図を参考に、線路が敷かれていた北側へ向かう。現在の京成成田駅から、成田空港方面への高架線の左手にある道路に線路が敷かれていた。この道は、現在の市役所通りを交差して、成田山新勝寺方面へ延びている。この先、写真を中心に元線路跡をなぞって歩いてみたい。

↑京成成田駅の北側に延びる車道。京成電鉄の線路に沿って、成田山新勝寺方面へ向かう。この道だが、地図では「電車道」となっている

 

京成成田駅から成田山新勝寺へ向かう人の多くは、現在は新勝寺門前町が連なる「表参道」を歩いて行き来する。お参りに加えて門前町を“そぞろ歩く”ことも楽しみの一つになっている。一方、京成成田駅から成田山新勝寺へ電車が走っていた“道”は、人通りが少ない。「表参道」と比べると、ほとんど歩行者がいないといって良い。駅付近には表示がなかったが、この通りは「電車道」と呼ばれている。

 

この通りの名前こそ、成宗電車が走っていた証というわけだ。さて、市役所通りを横断して電車道を先へ向かう。すると……。

↑京成成田駅から「電車道」を歩いていくと、先に古いトンネルを見えてくる

 

先に古いトンネルが見えてきた。このトンネルを成宗電車がくぐっていたのであろうか。

 

【成宗電気軌道④】トンネルを通り抜けた千葉交通バス。実は?

電車道に残されるレンガ造りのトンネルは2本ある。トンネルとトンネルの間には、成田市によって設けられた案内板が立つ。案内によると、この2本のトンネルは成宗電車「第一トンネル」「第二トンネル」と呼ばれる。完成は1910(明治43)年で、「煉瓦造(イギリス積)アーチ環6枚巻」の形式・構造とされる。成田山新勝寺側の第一トンネルは12.2m、京成成田駅側の第二トンネルは40.8mの長さがある。

 

電車は複線を走っていたとされ、トンネル幅は広く、現在も片側一車線の道幅でゆったりしている。

↑京成成田駅側の第二トンネル。駅と反対側にトンネルの案内板がある(左上)。こちらの外側がもっとも状態が良く造りがはっきりと分かる

 

案内板には「電車は地域に欠かせない乗り物となりましたが、戦争の激化により、遊覧的色彩が強いこと等を利用として、政府の命令により営業廃止となりました。これにより昭和19年に業務を停止し、35年に渡って成田の街を走り続けた成宗電車は幕を閉じました」とあった。非常に分かりやすい解説だった。

 

欠かせない乗り物だったものが、政府の命令により、問答無用で廃止となっていったわけだ。今だったら大反対運動が起こっていたことだろう。

↑第一トンネルを千葉交通の路線バスが通り抜ける。この千葉交通の路線バスこそ成宗電車の現在の姿でもある

 

さて、第一トンネルの写真を撮っていると路線バスが走ってきた。千葉交通の路線バスだ。成宗電車は廃止時に成田鉄道を名乗っていた。成田鉄道という会社は、その後、路線の廃止により鉄道事業から撤退。鉄道からは手を引いたものの、会社は交通事業者として存続し、戦後すぐに成田バスと改称して、バス会社として存続していた。1956(昭和31)年には千葉交通と会社名を改称している。

 

千葉交通では、成宗電気軌道として起業した年を会社の創立年としており、2008(平成20)年には創立100周年を迎えていた。記念事業として、成田市内でクラシックなボンネットバスを運行させた。電車はバスに変わったものの、同路線を同じ会社の乗り物が走っていたことが分かった。交通事業者としての意地が伝わるようで、うれしく感じた。

 

【成宗電気軌道⑤】“電車道”を歩いて成田山新勝寺の前へ

第一トンネルを抜けると下り道となる。緩やかなカーブ道を下りていくと、沿道に「電車道」の看板もあった。今も成宗電車の名残は「電車道」として生きていた。そして、電車道越しに成田山新勝寺が見えてきた。

 

旧不動尊の停留場跡は道路幅も広く、このあたりに停留場があったことが十分に予測できた。そして道は門前町に入った途端に細くなり、古い町並みとなる。土産物店や、うなぎなどの名物を商う飲食店が軒を連ねる。

 

帰りは電車道を通らず、新勝寺門前町が連なる「表参道」をぶらりと散歩しながら、京成成田駅へ戻った。

↑花形模様をした「電車道」の表示。写真は旧不動尊停留場があった付近。道幅が広く車の通行量も少なめで、歩きやすく感じた

 

↑新勝寺門前町が連なる石畳の「表参道」。木造3階建ての古い宿や飲食店などが連なり趣深い。人も車も通行量が多い通りだ

 

【成宗電気軌道⑥】成田駅の南は線路跡らしい箇所が消滅していた

後半では成宗電車が走っていた宗吾を目指す。古い地図を見ると、京成成田駅からは、ほぼ現在の京成本線に沿って走っていたと思われる。JR成田線の下をくぐり、線路は宗吾を目指していた。

↑公津の杜付近。成宗電車が走っていた宗吾街道(右)が緩やかにカーブを描く。公園では多くの鯉のぼりが風に舞う(右上)

 

京成本線と平行に走っていた成宗電車は、現在の日赤成田病院前交差点から国道464号上を走っていた。この国道464号は今も「宗吾街道」と呼ばれている。宗吾へ向けて走っていた通りということが良く分かる。

 

成宗電車が走っていたことを示す証は、この宗吾街道上にはなかった。宗吾街道の南側に公津の杜と呼ばれる地区があり、京成本線では公津の杜駅が最寄り駅となる。このあたりは、京成電鉄により開発されたニュータウンが広がる。

 

宗吾街道は、公津の杜公園と呼ばれる緑地帯を縁取るようにカーブして宗吾へ向かっていた。

 

【成宗電気軌道⑦】宗吾霊堂があり栄えた宗吾の町なのだが

宗吾街道を公津の杜公園から先へ歩く。ややアップダウンがあるものの、電車が走るのには問題がない勾配に思われる。途中、停留場があった大袋を過ぎ、宗吾地区へさらに向かった。

↑宗吾付近を走る宗吾街道(国道464号)。街道沿いに空き地が残されていた。このあたりに成宗電車が走っていたと思われる

 

住宅が立ち並ぶ地区が宗吾だ。国道464号は直角に曲がる。この角に東勝寺(とうしょうじ)がある。東勝寺は真言宗豊山派のお寺で、開基は坂上田村麻呂とされ、創建は8世紀とある。東勝寺という名前よりも宗吾霊堂という名前の方が良く知られている。

 

宗吾霊堂には義民・佐倉宗吾の霊が祀られている。宗吾は江戸時代の初期、下総佐倉藩を治めた堀田氏の圧政に苦しむ農民のために、将軍へ直訴を行い、そのかどで処刑された人物だ。この宗吾の義挙は人々の支持を得て、その後に歌舞伎、浪花節などの主人公として謳われ名前が広まった。そして、宗吾霊堂として祀られたのだった。

↑国道464号は宗吾霊堂を縁取るように直角に曲がる。右に宗吾霊堂があり、周囲には土産物店や蕎麦店などが商売を続けている

 

調べてみると、民衆に人気のあった宗吾を祀ったとあり、江戸時代から昭和にかけてはお参りする人も多かったようだ。成田と宗吾を結ぶ成宗電車も開業し、参詣客でさぞや賑わったことだろう。

↑東勝寺の入り口。門には厄除け祈願の寺、宗吾霊堂の文字がある。境内には土産物店が連なる

 

宗吾の町は、この宗吾霊堂があることで栄えた。成宗電車の停留場があったころは、きっと賑やかだったのであろう。だが、今は車で参拝に訪れる人が散見されたものの、やや寂しさが感じられた。

 

【成宗電気軌道⑧】地元のお年寄りに声をかけてみるとある発見が

さて、宗吾の停留場はどこにあったのだろう。古い地図を持ちつつ、町を右往左往する。ところが、どこにも停留場跡らしきものが見当たらなかった。

 

なんとか跡が見つからないだろうかと歩いてみたが、何もない。あきらめて帰ろうとしたら、ちょうど高齢の女性が杖をつきゆっくり歩いている。家の前には母親を迎える息子さんらしき姿が。

 

門前の歩道が細いこともあり、女性に道を譲りつつ待つ合間に息子さんに話しかけてみた。

↑宗吾霊堂の近くの細い横道。このあたりに停留場があったと思われる。前を行く高齢の女性と話す機会があって……

 

「宗吾の昔の信号場はどこにあったのでしょう」

「昔の駅ですよね。今はすっかり民家になってしまって、ほとんど残っていないんです」

 

そこへ母親が到着。ちょうど筆者が持参していた古い絵葉書のコピーを手渡した。「あら懐かしい。この電車ね、駅でなくとも、手を上げたら乗せてくれたのよね」と昔のことを思い出しながら話をしてくれた。

 

「宗吾でこの電車が走っていたころを知る人は、たぶんうちの母のみだと思います」と息子さん。「この電車ね、その後に函館市電を走っていると聞いて、若いころに町の人たちと乗りにいったわ」と母親。これは初耳、良い話を聞かせてもらった。

↑函館市内を走る「函館ハイカラ號」。この電車は元成宗電車を走っていた車両でもあった

 

調べてみると、成宗電車の電車は多くが函館市電(現・函館市交通局が運行/当時は函館水電)へ。デハ1形と呼ばれる電車5両が、函館市電に譲渡されていた(車両数が多かったため余剰の車両を譲っていた)。譲渡されたのは1918(大正7)年のこと。その1両は今も生き延びていた。「函館ハイカラ號」として1993(平成5)年に復元されて、今も春から秋まで(現在は新型コロナウイルスの影響により、運転休止の場合あり)は、函館の街を走る復元チンチン電車として走っていた。筆者も函館の街で何度か見かけたが、かつて成宗電車を走った電車だったとは、うかつにも知らなかった。

 

女性はこうも話していた。「戦争の時に電車がなくなったでしょう。働いていた人たちは大変。働き場所がなくなったので、宗吾霊堂で働かせてもらったりしたんですよ。でもね、鉄が足りないといって廃止されたんだけれど、レールはその後も、しばらくはそのままだったわね」。

 

不要不急線として廃止されたものの、レールの供出までは、手が回らなかったということなのだろう。矛盾した話である。

 

さらに「昔はこのあたり、多くの蕎麦屋さんがあって、とっても賑わっていたの」だそうだ。結局のところ、電車の廃止は地域経済への打撃も大きかった。成宗電車がもし走り続けていたら、宗吾霊堂の名前は、今も知られた存在だったのであろう。電車がなくなり、すっかり忘れられてしまったようである。

↑京成電鉄の宗吾参道駅が宗吾霊堂の最寄り駅となる。宗吾霊堂へは徒歩で約12分。途中には立派な門も立っていた(左上)

 

いま、宗吾霊堂の最寄り駅は京成電鉄の宗吾参道駅となる。徒歩で12分ほどだ。とはいうものの、上り坂が途中にあり、高齢者にはつらい行程かと思われる。さらに宗吾霊堂は成田市内だが、宗吾参道駅は酒々井町(しすいまち)の町内の駅となる。自治体が異なると、やはり連携したPR活動もできないのかもしれない。よってPR効果も期待できない。

 

宗吾は時代から取り残された印象があり、寂しく感じられた。鉄道が消えるということは、こういうことなのだろう。

 

ホンダ「シビック TYPE R」を試乗してスポーツカーの魅力について考えてみた

ホンダのスポーツモデルの代名詞的な位置付けになっているのが「シビック TYPE R」。1997年にグレードとして追加され、現行モデルは5代目となります。多くのメーカーが高性能車をテストするニュルブルクリンク北コースにおいて、FF市販車世界最速の記録を残していることを記憶している人も多いでしょう。

 

【今回紹介するクルマ】

ホンダ/シビック TYPE R

価格:475万2000円

 

搭載されるエンジンは2000ccのVTECターボで最高出力320PSと最大トルク400Nmを発生。正直なところ、公道ではフルパワーを発揮するシーンはありません。それでも、このマシン、発売から間をおかずに予定していた販売台数が終了するほどの人気を博しています。実際に最新型に試乗しながら、その理由について考えてみました。

↑ハイパワーなだけでなく、超軽量クランクトレーンや軽量アルミ製ピストンを採用し、俊敏なレスポンスと13km/L(WLTCモード)という好燃費を両立するエンジン

 

熟成の域に達したマイナーチェンジ

2020年10月にマイナーチェンジを果たしたこのモデル、次期型「シビック」の登場が噂されている状況でもあり、現行の“最終バージョン”といえる完成度。生産拠点である英国工場の閉鎖も決まっているため、今後の去就も注目されるところです。

↑歴史ある“TYPE R”のエンブレムが次期型にも受け継がれることが期待される

 

マイナーチェンジによる変更点は、まさに熟成の域に達したものです。押しの強いスタイリングはそのままに、フロントグリルの開口面積を拡大し、冷却性能の向上とダウンフォースレベルを強化。ブレーキには2ピースタイプのフローティングディスクを採用し、ハードブレーキング時のフィーリングを向上させるなど、サーキットを主舞台とするマシンらしい進化を果たしています。

↑前後バンパーの形状を小変更し、冷却性能をアップ。ダウンフォースも向上させている

 

ベースモデルは「シビック」のハッチバックですが、「TYPE R」は遠目で見てもベース車とは異なるオーラを放っています。張り出したブリスターフェンダーや大型のリアスポイラー、タダ者ではない雰囲気の20インチホイールなど、圧倒的な存在感があります。

↑大型のスポイラーだけでなく、小さなエアロスタビライジングフィンが刻まれているのが本気のマシンである証

 

サスペンション性能もブラッシュアップされています。電子制御のアダプティブ・ダンパー・システムやサスペンションブッシュのアップデートによって、ハンドリング性能を向上。スポーツ走行時のダイレクト感を増すとともに、荒れた路面での接地性・制振性も進化させています。

↑熱に強いツーピースディスクを採用することでサーキットでのブレーキフィールを向上

 

↑3本のセンター出しマフラーから響くエキゾーストノートに気分がさらに高まる

イメージカラーの「レッド」で彩られた内装

内装に目を向けてもステアリングの表皮がアルカンターラとなり、シフトノブの形状も従来の丸型からティアドロップへと変更。より操作精度を高めました。

↑ステアリングホイールは握りやすくフィット感の高いアルカンターラに

 

↑ティアドロップ形状となったシフトノブは、触れただけでシフト位置が把握しやすい

 

「TYPE R」のイメージカラーであるレッドに彩られた内装に気分を高ぶらせながら、ホールド性に優れたバケットタイプのシートに体を滑り込ませます。着座位置は低く、これぞスポーツマシンという視界。エンジンをスタートさせると、迫力ある音が耳だけでなくお腹にも響いてくるように感じました。

↑体を包み込むようにホールドするバケットシートにも「TYPE R」のエンブレムが

 

↑本気のスポーツモデルでありながら、後席の居住性も高く、シートを倒せば広大なラゲッジスペースが出現することもこのマシンの魅力

「TYPE R」はクルマを操る“楽しさ”を味わえる

6速MTのシフトを操作してクラッチをつなぐと、外観や排気音からすると拍子抜けするほどスムーズに走り出せます。街中を走らせていても乗り心地はかなり快適。マイナーチェンジ前のモデルよりもサスペンションのゴツゴツ感はやわらいでいる印象で、アダプティブ・ダンパー・システムの制御が緻密になっていることが、低速域での乗り心地にも効いているようです。

 

このマシンにはCOMFORT、SPORT、+Rの3つの走行モードがありますが、特にCOMFORTモードでの快適性が向上している印象でした。とはいえ、COMFORTといえども操作に対するダイレクトなレスポンスはスポーティーなクルマ並み。SPORTモードでは本気のスポーツカーになり、+Rモードではレーシングカーに変貌するという印象です。

↑3つの走行モードを備えるが、+Rモードはほとんどサーキット専用という仕上がり

 

混み合った街中を走っても、一昔前のスポーツカーのようにストレスを感じることがないのは、現代のスポーツマシンらしいところです。とはいえ、このマシン本来の性能の一端が感じられるのは高速道路やワインディングに足を伸ばしてから(“本領”を発揮するには、サーキットに持ち込まなければなりませんが)。とにかく操作に対してダイレクトにクルマが動いてくれるので、操るのが楽しくて仕方ありません。

 

高速道路を制限速度内で走っていても、アクセルやブレーキに対する反応が俊敏なので意のままに車体を動かすことができます。気持ち良く変速できる6MTの操作感もこれに一役買っていて、ついつい必要ない変速をしてしまうほど。コーナーではブレーキングからステアリングを切り込むと、スパッとノーズが入って思い描いたラインに乗ってくれます。そこからアクセルを踏み込んでも、ハイパワーなFF車にありがちなアンダーステアが顔を出すこともなく、むしろイン側に引っ張られるような感覚。荷重をかければかけるほどタイヤがしっかりと路面を掴んでくれるようで、ついついスピードを上げてしまいそうになります。

↑高性能のFFマシンらしく、フロントからグイグイ向きが変わっていく感覚が楽しい

 

公道での試乗だったので、このマシン本来の性能を味わうことはできませんが、その一端を感じるだけでも十分に刺激的でした。ワインディングでの試乗後はうっすらと汗ばんでいたほどで、クルマを操るのがスポーツというか一種のアクティビティであると感じられたほど。マニュアルの変速操作はもちろんですが、ステアリングやアクセル操作に対してクルマがリニアに反応する楽しさ、そしてサスペンションやステアリングから伝わってくる情報が脳を刺激する気持ち良さを味わうことができました。

 

純粋にこのマシンの“速さ”に惹かれる人も多いのでしょうが、こうしたクルマを操る“楽しさ”を味わいたくて「TYPE R」を選んだ人も少なくないのではないでしょうか。実際にステアリングを握っている間は、パソコンやスマホに向かっているときとは違う脳の回路がつながっているような感覚があり、それこそがこの時代にスポーツマシンを選ぶ価値なのではないかと思います。

↑こんなマシンがガレージにあれば、仕事の合間に少し乗るだけでも良い気分転換のアクティビティになりそう

 

SPEC【TYPE R】●全長×全幅×全高:4560×1875×1435mm●車両重量:1390kg●パワーユニット:1995cc直列4気筒DOHC+ターボ●最高出力:235kW[320PS]/6500rpm●最大トルク:400N・m[40.8kgf・m]/2500〜4500rpm●WLTCモード燃費:13.0km/L

 

撮影/松川 忍

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

 

“不要不急”の名のもと戦禍に消えた「旧五日市鉄道」廃線区間を歩く

不要不急線を歩く01 〜〜 旧五日市鉄道立川駅〜拝島駅間 〜〜

 

「不要不急」という言葉を聞くと「不要不急の外出を控えて」と、条件反射のように決まり文句が出てくるご時世。だが、今から80年近く前に生きた人々にとって不要不急といえば、「不要不急線」という言葉が頭に浮かんだのではないだろうか。

 

戦時下に廃止された鉄道路線には、この不要不急線が多い。なぜ廃止されなければならなかったのか、その後にどうなっているのか、明らかにしていきたい。今回は東京都下で気になった不要不急線を歩いてみた。

 

【不要不急線とは】鉄の供出のため強制的に廃止された鉄道路線

戦争というのは罪なもので、平常時ならばありえない政策が何でもまかり通る状態となる。不要不急線も、平和な時代ならばあり得ない“理不尽な政策”の犠牲であった。何しろ、多くの人が利用してきた鉄道路線が突然、廃止および休業させられてしまったのだから。

 

不要不急線という問答無用の路線廃止が行われた背景を簡単に触れておこう。昭和初期、日本は満州事変、日中戦争、そして太平洋戦争へと泥沼の大戦へと突入していく。戦争遂行のためには、鉄などの戦略物資が大量に必要となる。もともと資源の乏しい日本。どこからか捻出しなければならない。まずは国民に、ありとあらゆる鉄が含まれる品物を供出させた。

 

鉄道路線には多くの鉄資源が使われている。そこで、重要度が低いとされた路線を廃止もしくは休止させて、レールなどを軍事用に転用、もしくは重要度が高い幹線用に転用するべく、政府から命令が出された。命令の内容は「勅令(改正陸運統制令および金属類回収令)」であり、拒否はできなかった。廃止により運行スタッフの職が奪われようと、政府は我関せずだったわけだ。

 

そして全国の国鉄(当時は鉄道省)と私鉄の路線が1943(昭和18)年から1945(昭和20)年にかけて廃止されていった。その数は90路線近くにのぼる。多数の鉄路が国を守るという美名のもとに消えていった。一部は戦後に復活した路線もあったが、そのまま消えていった路線も多かった。今回はそんな路線の一つ、五日市鉄道(現在のJR五日市線)の立川駅〜拝島駅間に注目した。

 

【五日市鉄道①】昭和初期発行の五日市鉄道・沿線案内を見ると

↑昭和初期発行の五日市鉄道の沿線案内。立川駅〜拝島駅間には今はない駅名が。右下は運賃表だが途中、多くの駅があったことが分かる

 

筆者の手元に昭和初期に発行された五日市鉄道の秋川渓谷の案内がある。五日市鉄道とは、現在のJR五日市線を運行していた旧鉄道会社名だ。この鳥瞰図を使った沿線案内をよく見ると、立川駅から拝島駅の間に、南中神駅と南拝島駅という現在は存在しない駅名が記されている。さらに裏面の運賃表を見ると、立川駅〜拝島駅間には多くの駅が表示されている。

 

一方、この沿線案内には、青梅線や八高線が拝島駅を通っていない。なぜなのだろう? 不思議になって調べ、図としたのが下記のマップだ。

 

現在の青梅線の南側に、旧五日市鉄道の立川駅〜拝島駅間があった。青梅線の立川駅〜拝島駅間がほぼ直線区間なのに対して、旧五日市鉄道の路線は多摩川側に大きくそれている。途中から多摩川の河原に向けて砂利採取用の貨物支線が敷かれていた。

 

なぜ、この路線が不要不急とされたのか。また、なぜ国鉄路線に組み込まれたのか、その歴史を含めてひも解いていこう。

 

【五日市鉄道②】今も青梅支線として活かされる立川駅側の一部

まずは五日市鉄道の概要を見ておきたい。

 

路線 五日市鉄道(現・JR五日市線)/立川駅〜武蔵岩井駅(現在の五日市線の終点は武蔵五日市駅)
開業 1925(大正14)年4月21日、五日市鉄道により拝島仮停留場〜五日市駅間10.62kmが開業、1930(昭和5)年7月13日、立川駅〜拝島駅間8.1kmが開業
合併と国有化 1940(昭和15)年10月、南武鉄道(現・JR南武線)と合併。1943(昭和18)年9月、青梅電気鉄道、奥多摩電気鉄道(ともに現・JR青梅線となる)と合併契約を結ぶ。1944(昭和19)年4月1日、国有化され五日市線に。
運転休止 不要不急線の指定をうけ1944(昭和19)年10月11日、立川駅〜拝島駅間8.1kmと貨物支線3.0kmが休止、そのまま廃止に。

 

五日市鉄道は五日市地区(現在のあきる野市)で採掘される石灰石の輸送用に計画された。鉄道敷設には浅野セメントが大きく関わっている。当時、すでに青梅鉄道により、奥多摩地区の石灰石の輸送が活発になりつつあった。奥多摩で採掘された石灰石は、セメント工場や輸送設備があった川崎へ向け、南武鉄道経由で運ばれた。中継駅だった立川駅の構内は貨物列車により飽和状態となっており、五日市鉄道の開通により、さらに過密状態となった。

↑中央線から青梅線へ乗り入れる下り電車が青梅短絡線を走る。同路線は1931(昭和6)年に五日市鉄道と南武鉄道により開業した

 

そこで五日市鉄道の拝島駅〜立川駅間が計画され、路線が敷設された(実際の同線の建設には南武鉄道が大きく関わっている)。この路線により、五日市鉄道からは、鉄道省の路線(省線)を通ることなく、南武鉄道と結ばれることになった。当時の青梅電気鉄道の西立川駅からも、この路線への線路が敷かれ、五日市鉄道・青梅電気鉄道←→南武鉄道という石灰石流通ルートができあがった。省線の線路を使うことなく、行き来できるようになったことが3社にとっては大きかった。この“短絡線”の開業により鉄道省へ通過料を支払う必要がなくなったのである。

 

その後、歴史は目まぐるしく動く。特に太平洋戦争中は動きが活発になる。セメントも重要な軍事物資であり、戦争遂行のために欠かせなかった。戦時下に五日市鉄道など3社が合併をし、さらに1944(昭和19)年には国有化された。元々、省線の線路を使わず走ることが大前提として誕生した五日市鉄道の立川駅〜拝島駅間であり、国有化されたからには必要のない路線とされたのだった。国有化からわずかに半年あまり。不要不急線となり休止、そのまま廃止に追いやられた。

 

戦後、旧五日市鉄道などの路線が民間へ戻されることはなかった。五日市鉄道、南武鉄道、青梅電気鉄道の経営には浅野財閥が資本参加していた。戦争への道を突き進んだのは財閥の影響が大きいと見たGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が行った、財閥解体の影響だったとされる。

 

後世の人からは、まるで図ったように国有化され、立川駅〜拝島駅間は廃止されていったように見える。ただし、立川駅から西立川駅間の一部区間は、青梅短絡線として今も残る。中央線から青梅線へ直通運転される下り列車にとって欠かせない路線であり、青梅線〜南武線間を走る貨物列車(在日米軍基地・横田基地への石油輸送がある)が通過する。今も五日市鉄道の開業に関わった青梅短絡線を使って、青梅線と南武線を行き来しているわけだ。五日市鉄道が残した路線跡は、今も一部のみだが生き続けている。

↑拝島駅と横浜市の安善駅を結ぶ石油輸送列車。青梅線を走ってきた列車は西立川駅付近から青梅短絡線を使い南武線へ向かう

 

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【五日市鉄道③】拝島駅近くに遊歩道「五鉄通り」を発見!

五日市鉄道の立川駅から拝島駅間が廃止されてすでに77年の年月が経つ。何か残されていないのだろうか? 航空写真と照らし合わせて見ると……。いかにも鉄道路線らしい、緩やかなカーブ道が拝島駅から南へ向けて延びている。ここが旧路線だったところだな、とすぐに分かった。

↑拝島駅の南口から歩き始める。同南口は昭島市、反対側の北口は昭島市と福生市にまたがる。ちなみに横田基地への引込線は北口駅前を通る

 

拝島駅は現在、多くの路線が接続するターミナル駅となっている。まずJR青梅線、JR五日市線、JR八高線の3路線が接続する。さらに西武鉄道の拝島線の終点駅となっている。ほかに、アメリカ空軍と航空自衛隊の基地、横田基地へ向かう貨物線も、駅構内から敷かれている。この基地へは、国内でここのみの在日米軍に向けた石油の鉄道貨物輸送が行われている。

 

そんな拝島駅へ降り立った。筆者は南口へ向い、戦前の古い地図を手に持ち歩き出した。

 

駅前の道を通りまず江戸街道へ出る。さらに歩道を渡り南に進んで自転車置き場がある遊歩道へ。通り名は何と「五鉄通り(ごてつどおり)」だった。五日市鉄道の名残を示すそのものズバリの通り名ではないか。五鉄とは五日市鉄道の愛称だったのだろう。

↑江戸街道から伸びる五鉄通り。入り口には、道路案内と「五日市鉄道の線路跡」という解説が設けられている

 

五鉄通りの入り口には「五日市鉄道の線路跡」という地元・昭島市により立てられた案内板があった。子どもたちにも読めるように総ルビ付きで、解説も分かりやすい。どのような車両が走っていたかなどの記述もあった。廃止された理由としては「近くを青梅線が走っている事情から立川・拝島駅間は昭和19年10月11日付けで休止路線とされ、そのまま廃止されました」とあった。

 

それとともに「太平洋戦争の影響で青梅線といっしょに国に買収されました」という説明があった。不要不急線というような“小難しい”裏事情はさすがに書かれていなかった。

↑昭島市立林ノ上公園前の五鉄通り。多摩川へ向けて緩やかな下り坂が続く。途中に公園もあり散策に最適な道となっていた

 

分かりやすい解説もあり、廃止線の概要がつかめた。五鉄通りの入り口は遊歩道となっていたが、さらに道に沿って歩くと、車道となり車が通行する。多摩川方面へ歩くにつれて、徐々に下り道となった。昭島市立林ノ上公園が途中にあるが、このあたりの道の名前の表示はないが、地図には五鉄通りとある。五日市鉄道の廃線跡は「五鉄通り」という名前で残り、公道として活かされていた。通り名として鉄道名が残されていたのだった。

 

【五日市鉄道④】路線跡は途中、国道16号となっていた

五鉄通りをどんどん南へ歩いていく。途中から道はなだらかに左へカーブしていく。道幅は広く、途中から車道が遊歩道になり、広い道に付きあたる。さてこの道は?

 

広い道は国道16号だった。国道16号は横浜市高島町交差点を起終点に、首都圏をぐるりと環状に走る国道だ。五鉄通りと国道16号が交わる付近に南拝島駅があったはずだが、その跡は見あたらなかった。たぶん道路の拡張もあり、消えたのだろう。

 

五日市鉄道の路線跡、現在の国道16号は、同地点からしばらく直線路が続く。その先の堂方上交差点で、国道16号は多摩川方面へ右折する。一方、広い道はこの先も続く。堂方上交差点からは都道29号線「新奥多摩街道」となる。

↑国道16号の歩道部分は写真のように非常に広い。旧五日市鉄道の元路線がこのあたりに敷かれていたようだ

 

しばらく新奥多摩街道を歩く。古い地図を見ると、現在の市役所前交差点あたりに武蔵田中駅があったはずだが。

 

【五日市鉄道⑤】旧駅跡には鉄道用の車止めや手動転轍機が

市役所前交差点の先の交差点。少し道が広くなっていて歩道上に突然、鉄道の「車止め」と、ポイント切替え用の「手動転轍機(てんてつき)」が置かれていた。武蔵田中駅であることを示す遺構なのだろう。説明書きなどがないのがちょっと残念だったが、モニュメントの周囲には花が植えられ、きれいに整備されていた。この駅近くから多摩川方面へ引込線が設けられていたが、その引込線跡も公道となっていた。

↑新奥多摩街道沿いにある旧武蔵田中駅の遺構(左)。車止めと転轍機がモニュメントとして設置され駅跡であることが分かる

 

↑旧武蔵田中駅から貨物線が多摩川方面へ延びていた。この左の道が旧路線跡と思われる

 

車止めがあったモニュメントの先に、新奥多摩街道から分かれ東へ延びる道がある。まっすぐ延びる道は通り名も、五鉄通りだった。つまり、拝島駅から、一部は国道16号と新奥多摩街道となっていたものの、ずっと五日市鉄道の路線跡は五鉄通りとなり生き続けていた。

 

【五日市鉄道⑥】旧大神駅にはレール、ホームなどモニュメントが

五鉄通りに入りまっすぐの道を約500m歩く。すると右手に公園があり、信号や踏切などと共に、短いホームと線路などのモニュメントが設けられていた。こちらが五日市鉄道大神駅跡だ。五日市鉄道の廃線区間で、最も整備されたモニュメントとなっている。短いホーム跡には大神駅の駅名案内も立つ。

 

ホームの寄贈者は東日本旅客鉄道と奥多摩工業の名前があった。ちなみに奥多摩工業とは、太平洋戦争前には奥多摩電気鉄道として設立された会社である。青梅線の御嶽駅〜氷川駅(現・奥多摩駅)の鉄道敷設免許を届け出た。青梅線の国有化後の1944(昭和19)年7月に同区間は開業している。奥多摩電気鉄道の手で路線開業できなかったものの、五日市鉄道、南武鉄道、青梅電気鉄道と合併した会社でもあり、この路線跡にも縁がある会社でもあった。

 

さらに昭島市が立てた案内板もあった。やや傷んでいたのが残念だったが、拝島駅近くの五鉄通り入口に立つ案内板に、近い解説があった。

↑旧大神駅のモニュメント。昭島駅や奥多摩駅で使われた信号や踏切施設などと共に、貨車の台車が線路上に設置される

 

旧大神駅前の五鉄通りはここで昭和通りと交差する。この大神駅のモニュメントの横にも、通りの謂われを解説する案内があった。そこには現在の昭島駅の北側に1937(昭和12)年に昭和飛行機が進出し、飛行機生産が始まり、工場や駅へ向かう道は昭和通りとされたとある。太平洋戦争前に、東京都下で戦時体制へ突入する動きが盛んだったことが分かった。

↑旧大神駅の先で八高線と交差していた。現在は、不釣り合いなほど立派な地下をくぐる構造の遊歩道となっている

 

今回の散策は、この旧大神駅前までで終了とした。帰りは昭和通りを昭島駅へ向かった。この昭島駅は旧大神駅にあった解説によると、1938(昭和13)年の開業時には「昭和前」という駅名だった。戦争の影は、都下にも不気味に迫っていたことが分かる。

 

五日市鉄道が走っていた頃の古い地図を見ると、廃止された区間には8つの駅があった。集落があったところに作った駅だそうだ。あとは一面の桑畑や田畑だった。もし路線が残っていたら、沿線に住む多くの人たちの通勤・通学に役立ったことだろう。たらればではあるものの、沿線風景も大きく変わったに違いない。路線が生まれてわずか14年で、戦禍に消えた五日市鉄道の廃線区間を歩き、やはり戦争は罪なものだと深く感じたのだった。

超希少となった国鉄特急形車両。「381系」「485系」などの今。

〜〜国鉄形電車の世界その11 特急形電車+特急形気動車〜〜

 

日本国有鉄道が分割民営化されJRグループとなって、すでに34年という歳月がたった。当時開発された国鉄形車両も、それだけの年数を走り続けてきた。

 

本サイトでは、残る国鉄形電車の全形式を網羅してきたが、最後に、国鉄時代に生まれた特急形電車と特急形気動車を見ていこう。この春、大所帯を誇った185系の定期運用がなくなり、残るのはごく少数の形式と車両のみになりつつある。“最晩年”を迎えつつある車両たちの現状に迫った。

 

【はじめに】列島のすみずみまで走った国鉄特急形電車だが

JR発足当時はもちろん、2000年代中ごろまで国鉄形特急は、主力車両として全国の路線を走り続けてきた。ところが2010年代に入って、急激に車両数を減らしていく。

 

そして今も残る国鉄生まれの特急形電車はとうとう3形式のみとなった。わずか3形式、しかも細々という状態だ。まずは、その概要を見ておこう。

 

残るのは特急形直流電車の185系と381系、特急形交直流電車の485系の3形式である。このうち定期運用が行われているのは381系のみだ。この381系ですら、すでに多くの車両が特急列車の運用を外れ、今や定期運用されているのは特急「やくも」1列車となった。

↑小雪舞う中を走る381系特急「きのさき」。晩年は国鉄色に塗られ京都駅と城崎温泉駅を結んだ 2014年2月5日撮影

 

◆残る185系と485系は団体臨時列車の運用がメインに

特急形直流電車のもう1形式、185系はご存じのように3月12日で定期運用を終えた。残る車両は臨時列車のみでの運用となる。また485系はオリジナルな姿を残した車両はない。大きく改造されたジョイフルトレインのみが残っている。

 

この状態を見ると、まさに終焉近しという印象が強くなる。さらに唯一の定期運用で使われる381系も、近々、後継車両との入換えも始まる予定だとされている。

 

そんな残る3形式がどのような車両だったのか、残り少なくなった車両の現状を見ていこう。今回は加えて特急形気動車も触れていきたい。こちらも残る形式はわずかで貴重になりつつある。

↑オリジナルな姿で走る485系特急「北越」。同特急は2015(平成27)年3月で運行終了となった 2013年5月12日撮影

 

【①残る国鉄形381系】日本初の振子式車両として1973年に誕生

今や、唯一の定期運用が残る国鉄形特急電車の381系。まずはその特徴と歴史に関して触れておこう。

 

◆車両の特徴:カーブを高速で走り抜けるために取り入れた自然振子装置

日本の路線、特に山間部の路線はカーブ区間が多く、列車の高速化にあたり障害となっていた。カーブを少しでも早く走り抜けるために、車体をかたむけて走らせようと生み出されシステムが振子装置だった。

 

振子装置を組み込んだ新車両の誕生にあたって、国鉄では、591系という試験電車まで作ってテストを重ねた。そして1973(昭和48)年に誕生させた電車が381系だった。381系は、まず名古屋〜長野間を走る特急「しなの」に投入、1978(昭和53)年には京阪神と紀伊半島を結ぶ「くろしお」に、1982(昭和57)年に岡山駅と山陰、出雲市駅を結ぶ特急「やくも」に投入された。

↑山陰本線を走る381系特急「やくも」。同列車は全列車が381系での運用となる。背景には山陰地方のシンボル大山がそびえる

 

381系は従来の特急形電車とはやや異なる姿をしている。車体にはアルミニウムを採用、運転台は従来の特急と同じ高運転台のスタイルながら、車体の重心を下げる構造とした。さらに振子装置を導入したこともあり、開発費、また製造費用も高額となっている。さらに地上の架線などの張り方なども、振子装置を備えた車両に合わせ改良しなければいけなかった。そうしたものまで含めると、この車両を導入するために多額の費用がかかっており、当時、財政難に陥っていた国鉄としては、異例の“厚遇車両”だったとことが分かる。381系は1982(昭和57)年まで277両が製造された。

 

381系が備えた振子装置は自然振子装置と呼ばれる。この装置により、カーブでは意図的に、車体を傾けて走る。この装置のおかげで既存のカーブ通過速度を20km上回り走り抜けることができたとされる。

 

しかし、到達時間は早くなったものの、不自然な曲がり方と揺れが生じてしまい、酔う人を多く出した。この酔いに対しての課題もあり、その後に導入された振子装置は、制御付き自然振子式、もしくは空気ばねにより、車体を傾斜してカーブを走る方式を採用する車両が多くなっている。

 

381系は、日本初の振子装置付きという画期的な車両にもかかわらず、酔いを覚える人が多く現れたこともあり、決して人気車両とは言えなかった。ちょっと残念なところでもあった。

 

◆残りの車両: 後藤総合車両所出雲支社に62両が残る

381系はJR東海とJR西日本に引き継がれた。そのうち、JR東海では後継の383系の導入により、引退が早く進み、2008(平成20)年には全車が引退している。

 

一方、JR西日本の残った381系は長年、特急「くろしお」や、北近畿を走る特急「こうのとり」「はしだて」「きのさき」に使われた。この北近畿を走る特急は晩年、クリーム色と赤の国鉄色に塗られ、注目された。残念ながら2015年に「くろしお」と共に北近畿ネットワークを走る特急列車での運用が消滅し、大半の車両が引退となっている。

 

残るのは後藤総合車両所出雲支所に配置された62両のみとなっている(2020年4月1日現在)。この車両も、JR西日本では「約60両を新製車両に置換計画あり(投入予定時期2022〜2023年)」としており、この1〜2年で状況は大きく変わりそうである。

 

◆車両の現状:高運転台の先頭車の他にパノラマグリーン車も走る

残る381系の車両の現状を見ておこう。特急「やくも」は岡山駅と島根県の出雲市駅間を走る。伯備線を通り山陽地方と山陰地方を結ぶ通称、陰陽連絡特急として重要な役割をしている。1日に15往復走るその全列車に381系が使われている。1973年から1982年まで製造された381系。特急「やくも」の381系は、大半が後期に造られた車両が使われている。とはいえ、すでに40年という歳月がたつ。この間に車内の更新が行われ、座席や内装などが新しくされていて古さを感じさせない。

 

↑カーブで車体を傾けて走る381系。2編成のみのパノラマグリーン車が連結される。同車両利用の列車は時刻表にも記載がある

 

残る381系62両の車両形式はクモハ381形、モハ381形、クロ381形など7形式。そのうち珍しいのがクロ380形だ。

 

クロ380形は、特急名がスーパーやくもと呼ばれていた時代に、中間車のサロ381形から改造された形式だ。他の先頭車のように高運転台ではなく、座席から前面展望が楽しめるような構造で、先頭部が傾斜した姿となっている。現在、クロ380-6と、クロ380-7の2両が使われている。ちなみに春のダイヤ改正以降は、岡山発→出雲市行の「やくも」3号、13号、17号、27号と、出雲市発→岡山行の「やくも」2号、12号、16号、26号に、このパノラマグリーン車が連結されている。

 

クロ380形は希少車ということで気になる存在である。ちなみに先頭車は出雲市駅側に連結されている。

 

【②残る国鉄形185系】今後はわずかな臨時列車に使われるのみに

◆車両の現状:大宮総合車両センターに配置されていた137両の運命は?

この春に大きな動きがあった185系。簡単に185系の特徴を見ておこう。

 

185系は1981(昭和56)年3月26日に運転が開始された。従来の特急形電車とは異なり、首都圏を走る特急列車や急行列車、そして通勤通学客の輸送も可能な電車として開発された。汎用性の高い電車であり、最盛期には227両と大所帯を誇った。「踊り子」「草津」「あかぎ」といった在来線特急のほか、快速まで含めた臨時列車、またJR東海までの路線まで乗り入れ可能なことから、「ムーンライトながら」などの長距離列車に利用された。

 

40年にわたり走ってきた185系だったが、特急「踊り子」や「湘南ライナー」などでの運用を2021年3月12日で終えている。最盛期には多くの列車に使われ、ごく最近までそう人気があるとはいえない存在だったが、引退が近づくにつれて人気が高まり、注目度も高まった。

 

185系は2020年4月1日には大宮総合車両センターに137両が配置されていた。まだ2021年の残存数は発表されていないが、発表されるにしても車両数もあくまで暫定的なもので、2022年には全車が引退することが明らかになっている。

↑185系で運用される臨時列車。春まではこうした185系の臨時列車も多く走ったが、今後は、非常に限られた運用となりそうだ

 

◆運用の傾向: 6月20日まで185系臨時列車の予定はあるものの…

3月で定期運用が消滅した185系。すでに廃車のため長野総合車両センターへ回送される姿も確認され始めた。今後、こうした引退する車両が少しずつ増えることになりそうだ。

 

一方で、臨時運転用に一定の車両数も残存することになる。現在の春の臨時列車として走る予定なのが、上野駅〜桐生駅と大船駅〜桐生駅間を走る「あしかが大藤まつり1〜4号」で、4月24日〜5月5日までの土日祝日・GW期間中の運行の予定がある。さらに「鎌倉あじさい号」として青梅駅〜鎌倉駅間を6月5日〜20日の週末に走ることになっている。発表されているのは、この列車のみ。これだけならば、6両×2編成を残せば十分にまかなえるであろう。とすれば120両以上が余剰となる計算になる。

 

さらにコロナ禍ということもあり、臨時列車も運休の可能性がある。臨時列車とともに団体専用列車の運行も少なくなる可能性がある。鉄道ファンにとってはちょっと寂しい状況となりそうだ。

 

【③残る国鉄形485系】全国を走った485系も3編成のみに

◆1000両以上の大所帯も今は16両のみに

485系は国鉄時代の1964(昭和39)年に生まれた交流直流両用の特急形電車である。直流および交流60Hzに対応した481系、直流と交流50Hzに対応した483系、さらに直流と交流50Hzと60Hzに対応した485系。横川〜軽井沢駅間でEF63形電気機関車と協調運転を行うために生まれた489系を含め1979(昭和54)年まで製造が続き、計1453両という大勢力を誇った。

 

電化方式を問わず走ることができた機能を活かし、全国で活躍した電車でもあったが、すでに定期運用は消滅している。またオリジナルな姿を残した485系も消え、今やジョイフルトレインとして改良された3編成16両のみが残る。

 

ジョイフルトレインとは、JR東日本が観光需要の高まりとともに、複数の既存車両を改造して臨時列車や、団体専用列車用に生み出した観光用列車だ。特に485系の場合には、電化区間であればどこでも走れることが活かされ、11のジョイフルトレインが生み出された。残念ながらその多くが引退となり、残るは3列車となっている。それぞれの現状を見ておこう。

 

◆ジョイフルトレイン「リゾートやまどり」

↑首都圏を走る485系ジョイフルトレインとしては最も動きが活発な「リゾートやまどり」

 

まずは「リゾートやまどり」。2011年に運行を開始した列車で、高崎車両センターに配置されている。これまでは群馬県の観光キャンペーンなどに関連する臨時列車として活用されることが多かった。今年の運用はやや異なってきている。4月以降の予定を見ると——。

 

「あしかが大藤まつり5・6号」として、いわき駅〜桐生駅間を5月1日〜4日に走る。さらに「やまどり青梅奥多摩号」になり三鷹駅〜奥多摩駅間を5月8日〜9日に走る。また、5月15日・16日は新習志野駅〜黒磯駅間を、5月29日・30日は「リゾート那須野満喫号」として走る。さらに、6月6日、12日、20日に大宮駅→越後湯沢駅を「谷川岳もぐら」、越後湯沢駅→大宮駅を「谷川岳ループ」として走る。

 

◆ジョイフルトレイン「華(はな)」

↑JR東日本では珍しい和式客席主体のジョイフルトレイン「華」。臨時列車や団体専用列車として首都圏を中心に運行される

 

「華(はな)」は「リゾートやまどり」と同じ高崎車両センターに配置されている。485系を元に1997年に改造された6両編成で、車体は紫色ベースにピンクの帯が入る。掘りごたつ形式のお座敷車両で、主に首都圏を走り続けてきた。

 

この春の臨時列車としては「お座敷 青梅奥多摩号」として、5月3日〜5日に川崎駅〜奥多摩駅間を、5月15日・16日には三鷹駅〜奥多摩駅間を走る予定だ。

 

◆ジョイフルトレイン「ジパング」

「ジパング」は岩手県の観光キャンペーンに合わせ2012(平成24)年に生まれた。岩手県の観光用に改造されたこともあり、盛岡車両センターに4両が配置されている。この春には4月29日・30日に「ジパング北上展勝地桜号」として一ノ関駅〜盛岡駅間を2往復する。また「ジパング平泉号」として盛岡駅〜一ノ関間を5月1日〜5日、6月26日・27日に2往復走る予定となっている。

 

とはいえ、4月に走る予定だった「ジパングさくら☆もち号」がコロナ禍のために運行休止になったこともあり、今後の運行は変更される可能性も出てきている。

↑主に盛岡駅〜一ノ関駅間の観光列車として走るジョイフルトレイン「ジパング」。中間車両の外観は485系の姿を保っている

 

JR東日本にのみに残る485系だが、今後どうなるかが、未知数となりつつある。これまでJR東日本の車両紹介のページでは、「のってたのしい列車」として観光列車の紹介コーナーが設けられていた。ジョイフルトレインも多く掲載されていた。ところが最新のページでは、485系のジョイフルトレインの掲載がなくなっている。

 

こうした現状を見ると、列車の本数も含め徐々に減っていくことになりそうだ。ここ数年で485系ジョイフルトレインが消えていく可能性もでてきている。

 

【④残るキハ183系気動車】スラントノーズ世代は消えたものの……

ここからは、電車ではないが、国鉄時代に生まれた特急形気動車に関して触れておこう。国鉄時代、非電化区間用の特急形気動車は、1960(昭和35)年のキハ80系(キハ81系とキハ82系を指す)の開発により、本格的に始まった。その後にキハ181系が誕生し、非力さなどが解消されていった。キハ181系は、その後の特急形気動車開発にもその技術が活かされている。

 

キハ181系の後に、北海道用に造られたのがキハ183系で、四国地区用に造られたのがキハ185系。ここまでが国鉄形の特急形気動車とされている。

 

◆残るキハ183系は石北本線の特急として活躍

既存のキハ181系の耐寒耐雪機能を高めたのがキハ183系である。当初、1979(昭和54)年に試作車が造られた。実際の運用にも使われた試作900番台で、その後の1981(昭和56)年からは基本番台が製造された。この試作900番台と基本番台の特徴は、高運転台とともに、スラント型(スラントノーズ)と呼ばれる独特な姿をした正面で、北海道を代表する特急形気動車として長年、親しまれた。同基本番台は2018年6月いっぱいで引退となっている。

 

今も残るのは500番台・1500番台と550番台・1550番台で、スラントノーズの正面とは異なり平坦な形をしている。製造は500番台・1500番台が1986(昭和61)年、550番台・1550番台は1988(昭和63)年から1991(平成3)年までと、ちょうどJRに分割民営化した時代をまたいで製造された。

 

↑高床式のキロ182形を組み込んだ特急「オホーツク」の編成。キハ183系の定期運用は特急「オホーツク」のみとなっている

 

◆その後の車両造りにも活かされた高床式キロ182形の技術

キハ183系の配置は苗穂運転所で2020年4月1日現在、55両だ。このなかの5両は改造された観光列車「ノースレインボーエクスプレス」で、また1両は出動することがほとんどないお座敷車ということもあり、実質49両のみと言うことができそうだ。

 

キハ183系で運用される列車は、札幌駅〜網走駅間を走る特急「オホーツク」と、旭川駅〜網走駅間を走る特急「大雪」。後者の「大雪」は現在、曜日限定となっている。毎日走るのは「オホーツク」2往復のみと、希少な存在になりつつある。列車には高床式のキロ182形グリーン車が連結される。この車両はハイデッカー仕様の創始期に生み出した車両だ。

 

余談ながら、大阪と札幌を結んだ寝台特急「トワイライトエクスプレス」の高床式のサロン車(サロン・デュ・ノール)の改造にあたっても、このキロ182形の思想や技術が活かされている。

↑キハ183系のグリーン車として連結されるキロ182形。製造当時には珍しかった高床式で、景色が楽しめる車両として人気となった

 

ちなみにJR九州ではキハ183系1000番台を所有している。特急「あそぼーい!」として走っている車両だ。こちらはキハ183系の基本構造を元に設計されたため同形式とされている。とはいえ展望席などを設けた姿など車両構造も大きく異なっている。JR北海道に残るキハ183系と同じ形式名ながら、異なるJR生まれの車両として扱われることが多い。

 

【⑤残るキハ185系気動車】JR四国とJR九州で今も活躍

国鉄が生み出した特急形気動車の最後の形式がキハ185系だ。経営基盤の弱い四国地区用に生み出された車両で、国鉄最晩年の1986(昭和61)年11月から走り始めている。

 

◆定期運用では特急「剣山」「むろと」が残るのみだが

↑吉野川に沿って走る徳島線唯一の優等列車として走るキハ185系特急「剣山」。週末には「ゆうゆうアンパンマンカー」を連結して走る

 

キハ185系は計52両が国鉄当時からJR化の後まで製造された。その後、JR四国では2000系などの高性能な特急形気動車を導入したこともあり、余剰となった20両がJR九州へ譲られた。JR四国では幹線の運行では2000系や、近年に登場した2600系や、2700系が使われている。一方で、キハ185系は徳島駅〜阿波池田駅間を走る特急「剣山(つるぎさん)」や、徳島駅〜牟岐駅(むぎえき)間を走る特急「むろと」に使い続けている。

 

いずれも閑散路線で、また100kmに満たない短距離区間ということもあり、新しい高性能車両を導入しにくい実情が見えてくるようだ。

 

JR四国のキハ185系は高松運転所に22両が配置されている(2020年4月1日現在)。うち3両が観光列車「四国まんなか千年ものがたり」。またキハ185系の中には「アイランドエクスプレス四国Ⅱ」やトロッコ列車牽引用の改造された車両も多く、既存の姿を残すキハ185系は15両に過ぎない。

 

すでに後継の2000系に引退車両が出てきている。国鉄時代に生まれた車両が後継車両よりも長生きしている不思議な存在ともなっている。

 

◆譲渡されたJR九州では全車両が今も活躍中

JR四国では新型車両の導入で余剰となったキハ185系20両が、1992(平成4)年にJR九州に譲渡された。

 

譲渡されたJR九州では、旧形の急行形キハ58系改造車両などで運用していた「由布」を特急「ゆふ」に格上げし、すぐに利用を始めた。さらに「九州横断特急」などの列車での運用にも使われた。JR九州ではその後に斬新な赤一色の姿に変更させるなど、“変身”させて、イメージアップを図っている。

↑由布岳を背景に走るキハ185系特急「ゆふ」、久大本線では特急「ゆふいんの森」を補完するような役割をこの「ゆふ」に持たせている

 

現在は大分車両センターに18両、熊本車両センターに2両が配置されている。JR四国から譲渡された車両すべてが活かされているわけだ。ちなみに熊本車両センターの2両は特急「A列車で行こう」として改造を受けている。いわばJR九州らしい色付けが行われている。

 

こうした傾向を見ると、国鉄時代に生まれた特急形気動車のうち北海道用に生まれたキハ183系は、今後あやうい立場になりつつあるが、四国と九州に残るキハ185系は、まだまだ一線で活躍しそうである。国鉄形特急車両のうち、最後まで残るのはこのキハ185系なのかも知れない。

欧州で大人気のモデル「ルノー」新型ルーテシアに迫る!

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、欧州で同クラス中、2020年に最も売れたモデルとなった、ルノーの新型ルーテシアを取り上げる!

※こちらは「GetNavi」 2021年4月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【PROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。2018年以降、ペンネームを「MJブロンディ」から「永福ランプ」へ変更している。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。永福ランプを慕い「殿」と呼んでいる。

 

【今月のGODカー】ルノー/ルーテシア

SPEC【インテンス】●全長×全幅×全高:4075×1725×1470mm ●車両重量:1200kg ●パワーユニット:1.3L直列4気筒ターボエンジン ●最高出力:131PS(96kW)/5000rpm ●最大トルク:240Nm(24.5kg-m)/1600rpm ●WLTCモード燃費:17.0km/L

236万9000円〜276万9000円

 

エンジンフィールが最高でゴルフより100万円安い

安ド「殿! フランス車も進歩しましたね! 新型ルーテシアには、衝突被害軽減ブレーキやACC(先行車追従型クルーズコントロール)が付いてました!」

 

永福「プジョー/シトロエンには2〜3年前から付いてたぞ」

 

安ド「そうでしたっけ?」

 

永福「しかし同じフランスのルノーは驚くべきことに、いままでADAS(先進運転支援システム)が何も付いてなかった。日本車なら、いまや軽でも付いててアタリマエなのに、だ」

 

安ド「僕は、フランス車はそういうハイテクが苦手なんだと思っていました!」

 

永福「苦手と言えば苦手だろう」

 

安ド「でも、初めてのACCにしては、加速も減速もスムーズで、精度が高かったですよ!」

 

永福「当然だ。中身は日産のプロパイロットだからな」

 

安ド「そ、そうなんですか! 考えてみればルノーは日産の親会社ですもんね!」

 

永福「なぜいままで親会社が子会社の技術を導入していなかったのか、それが不思議だ」

 

安ド「まったくです!」

 

永福「ルノーと日産の協業は、以前からいまひとつうまくいってなかった気もする」

 

安ド「ゴーン逮捕前からですか?」

 

永福「そういうことになるな。しかしそんなことはどうでも良い。我々はいいクルマに乗れればそれで良いのだから」

 

安ド「そうですね! 新型ルーテシアはこのクラスで欧州人気ナンバー1とのことですが、確かにスイスイとスポーティに走れて楽しかったです!」

 

永福「非常に良くできておる。足まわりも良いが、何よりエンジンフィールが最高だ」

 

安ド「4気筒の1.3Lターボエンジンですね」

 

永福「エンジンに関しては、以前からルノーと日産で共同開発しているが、このエンジンは日産GT-Rの技術によって、エンジン内部の抵抗が抑えられているという」

 

安ド「GT-Rの技術ですか!」

 

永福「そのおかげかどうかわからんが、回転の伸びがスバラシイ。日常走行もトルクフルで気持ちイイ。しかもお買い得だ」

 

安ド「エッと、一番安いグレードは約237万円ですから、国産車と大差ないですね!」

 

永福「ヘタするとフォルクスワーゲンのゴルフより100万円安い」

 

安ド「100万円もですか!」

 

永福「しかし日本ではゴルフのほうが断然売れる。ゴルフにはフォルクスワーゲンというブランド力があるが、ルノーはディーラー数が少ないし、普通の人は名前もよく知らない。ルノー車を買おうなんてあまり考えないだろう」

 

安ド「そうでしょうね……」

 

永福「実は今度、生まれて初めてルノー車を買うことにした。ルーテシアではなく、中古のトゥインゴだが」

 

安ド「殿ですら初めてですか!」

 

永福「生涯51台目にしてな」

 

【GOD PARTS 1】ラゲッジルーム

そうは見えないけどだいぶ大きくて使いやすい

パッと見たところあまり大きくは感じられない荷室ですが、数値を見る限り、先代モデルの330Lから同クラス最大級の391Lへと格段に広くなっています。さらに床面の下にも収納スペースがあり、ボードを外せば天地方向に広く使えます。

 

【GOD PARTS 2】リアドアオープナー

先代モデルから受け継ぐデザイン重視のアイテム

全体的に先代モデルとそっくりですが、リアのドアオープナー(ドアノブ)の窓枠に隠れるようなデザインは、先代から受け継がれたファッショナブルな部分です。欧州ではいまでも2ドアのほうがファッショナブルという価値観があるのです。

 

【GOD PARTS 3】センターディスプレイ

スマホと連携して本来の力を発揮する

インパネ中央に設置される7インチのタッチスクリーンでは、「Apple CarPlay」や「Android Auto」などと連動したスマホアプリを操作したり、運転モードを選択したりできます。日本車のようなカーナビは現状搭載されていません。

 

【GOD PARTS 4】乗り味

このクラスとしては十分に合格レベル

ルノー&日産グループに三菱も加わってから初の共同開発となる新型骨格「CMF-B」が採用されています。スポーティでありながら乗り味はしなやかで、ハンドリングもレスポンスが良く、高速コーナーでの安定性も高くなっています。

 

【GOD PARTS 5】ATシフトノブ

操作しやすく質感も高い

インテリアはドライバー中心のデザインが施されていて、センターコンソールはシフト部分が盛り上がった特殊な形状をしています。サッと手が届くので操作しやすく、周囲に配置された白いソフトパッドが質感を高めています。

 

【GOD PARTS 6】オーディオ操作スイッチ

ここだけのアナログ感が好印象

全体的に先代モデルより質感が上がったインテリアのなかで、ステアリング右奥に設置されているスティック状のスイッチだけ、(良い意味で)アナログ感があります。これはオーディオの操作部で、指先の感覚だけで操作できます。

 

【GOD PARTS 7】ヘッドライト

ルノーブランドの最新トレンドを採用

近年のルノーのトレンドであるCの字型が採用されています。全体的なボディデザインが先代型と非常に似ているので、見分けるにはこのライト形状が重要なポイントになります。LEDのデイタイムランプも搭載されています。

 

【GOD PARTS 8】カードキー置き場

白いカードキーを常に眺められる

ルノーでは特徴的なカード状のキーが採用されていますが、パーキングブレーキの電動化によりスペースに余裕ができたためか、センターコンソールにこのカードキーを置くスペースがあります。白なので見栄えがカッコイイです。

 

【GOD PARTS 9】エンジン

このサイズなら十分パワフルに走れる

1.3ℓの直列4気筒ターボエンジンは131馬力と、ひとクラス上のパワフルさを備えていて、このサイズの車体をスポーティに走らせるには十分過ぎる代物です。スポーツモードに変更すれば、出力特性がより高回転型に変化します。

 

【これぞ感動の細部だ!】先進運転支援システム

フランス車のエントリークラスも日本の常識に追いついた

全車速対応アダプティブクルーズコントロール(ACC)はもちろん、衝突被害軽減ブレーキ、車線逸脱警報機能などが安全装備が満載されています。さらにトップグレードのインテンステックパックでは、車線中央維持支援装置や360度カメラなども追加されます。これまで欧州のエントリークラスの小型車には標準装備されていなかったので、日本のユーザーにとっては待望の安全装備充実が実現しました。

チェーンレス電動アシスト自転車「Honbike(ホンバイク)」のMakuakeオリジナルカラーが登場!!

最新テクノロジーをテーマにハイテク商品を展開しているClick Holdingsは、チェーンレス電動アシスト自転車「HONGJI(ホンジ)」と協業し、日本国内で「Honbike(ホンバイク)」を展開しています。そのホンバイクのオリジナルカラーが4月12日からMakuakeにて先行予約販売をスタート。日本ではまだ販売していないカラーバリエーションで注目度が高いです。

 

電動アシスト自転車ホンバイクは、世界で【白・黒】【赤・白】の2カラーを展開していますが、今回のプロジェクトはホンバイクファンから、シックでかっこいい「黒・黒」と「赤・黒」の展開をしてほしいという多くの要望があったため、Makuakeのみで限定展開することになりました。

↑左から「赤・黒」、「黒・黒」のカラーリング

 

電動アシスト自転車ホンバイクは5段階の電動アシスト付き。ペダリングに合わせて自動出力でコントロールしてくれます。液晶ディスプレイもシステム一体型で、シンプルでスタイリッシュなデザインです。スピードメーターで現在の速度がわかるのも嬉しい機能。

↑エコモード、ノーマルモード、スポーツモードがあり、快適なサイクリングライフを楽しめます

 

ほかに、駆動まわりでは、クローズ式シャフトドライブシステムを採用。モーター・ドライブ設計で動力伝達効率は高いです。スカートなどの巻き込みの心配がなく、メンテナンスもラクラク。また、スマートジャイロセンサーを搭載し、上り坂・下り坂を自動検知し合理的にアシストしてくれます。車体が15度以上傾くとアシストは自動停止。

↑チェーンに比べて耐久性が向上し、静音効果もあります

 

折り畳み手順も2ステップで簡単。2か所のレバーを引くだけで、専用工具も一切いりません。普通乗用車のトランクにも入る大きさに畳めます。クルマに積んでおけば、旅先や行った先々で、さらに行動範囲が大きく広がり、新しい世界が広がること間違いなし!

↑2ステップで折り畳みできます。持ち運びも自由自在

 

↑折り畳み前は長さ1545×幅595×高さ1070mm、折り畳み後が長さ910×幅390×高さ800mmとなります

 

HONGJI社のホンバイクは2020年「GOOD DESIGN AWARD グッドデザイン・ベスト100」に選出され、2021年2月28日には、東京の代々木体育館で行われた「東京ガールズコレクション2021 Spring/Summer」の舞台で初めて披露されました。Click Holdings代表の半沢龍之介氏、アンバサダーのデヴィ夫人と一緒にランウェイに登場し、LIVE配信では約28万人の方に視聴されたとのこと。注目の電動アシスト自転車です。

 

 

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今年も豊作! 「ジャパンキャンピングカーショー2021」レポート!!

新しい生活様式の手段として注目を集めるキャンピングカー。密を避ける旅行手段としてだけでなく、リモートワークの広がりで仕事場としても活用できることで注目度が高まっています。そんなキャンピングカーが集まる日本最大のイベント「ジャパンキャンピングカーショー2021」が4月2日~4日の3日間、幕張メッセにて開催されました。軽自動車ベースのモデルから高級なキャンピングトレーラーまで、筆者が気になったモデルを紹介しましょう。

 

[軽キャンパー編]

軽自動車の規格に収まるサイズで、導入費用だけでなく維持費も安く抑えられるのが魅力です。これまでは軽バンをベースとしたモデルが中心でしたが、今年のショーでは軽トラをベースに、荷台にキャビンなどを設置したモデルも目立ちました。

 

【その1】横開きポップアップルーフで広い空間

「スマイルファクトリー/オフタイムトラベラー2 ポップアップルーフ」

こちらは軽バンのスズキ「エブリイ」がベースですが、横開き式のポップアップルーフを装備しているのが特徴。軽バンベースだと、車内空間が限られるのが欠点ですが、屋根が開いて居室になるポップアップルーフで空間を拡大できるようになっています。これまでは縦開き式のポップアップルーフが主流でしたが、このタイプは足元が狭く、寝ることはできても大人が過ごすには窮屈なものでしたが、横開き式とすることで空間にゆとりを確保。オプションを装備した展示車の価格は413万27円(ポップアップルーフなしは258万7828円)です。※以下、すべて税込。

 

【その2】落ち着けそうな和風の内装

「岡モータース/ミニチュアクルーズ遍路」

同じくスズキ「エブリイ」をベースにユニークな和風の内装に仕上がっている点に注目。リアシートを倒した空間に、畳を表皮に用いたマットを敷き詰め、フラットな空間を作り出しています。サイドの棚部分にも障子を設置し、カーテンも和風の素材を使うなど、細部まで徹底した作り込み。105Ahのサブバッテリーやエアコンも標準装備し、快適性能も忘れていません。価格は259万9300円〜で、ソーラーパネルなどのオプションを装備した展示車の価格は287万8700円。

 

【その3】格安で導入できる軽トラキャンパー

「マックレー/エルミタ LIMITEDパッケージ」

最近、注目度が高まっているのが、軽トラの荷台に設置する“モバイルハウス”とも呼ばれるボックスです。DIYで自作することもできますが、こちらの「エルミタ」シリーズは完成品として購入可能。写真の「LIMITEDパッケージ」は174万9000円ですが、最も安い「SHELLパッケージ」は108万9000円で購入できます。軽トラ自体は別途用意する必要がありますが、モバイルハウスの導入は泊まれる車内空間を導入したいと考えている人にはおすすめです。

 

【その4】個性的なデザインの軽トラベースモデル

「コイズミ/かるキャンなげっと」

スズキの「キャリイ」をベースに、フォード「F-150ラプター」をイメージしたフロントフェイスキット(16万2800円)を組み込み、4インチのリフトアップをするなど大きくイメージを変えたモデル。荷台に設置されるのはキャビンではなく「DEPLOY BOX」(74万8000円)というキャンプ道具などの収納ボックスで、その上にハードシェルタイプのルーフテント(44万8800円)を装備しています。泊まれるだけでなく、アウトドアで遊べるように仕上がったこのモデルは、乗り出し価格240万円で販売されていました。

 

[バンコン編]

トヨタ「ハイエース」、日産「NV350キャラバン」などのワンボックス車をベースにキャンピングカーに仕立てられたのがバンコンと呼ばれるジャンル。近年は商用車っぽい雰囲気を払拭したモデルや、ミニバンをベースとしたモデルが人気です。内装に木材を多用した“バンライフ”系のモデルも台数が増えています。

 

【その5】ディーラーで購入可能なメーカー純正車

「日産ピーズフィールドクラフト/NV350キャラバン マルチベッド」

メーカー自らブースを設け、このジャンルに力を入れていることを感じさせたのが日産ピーズフィールドクラフト。ファミリーユースにも人気が広がっている「NV350キャラバン」に専用のベッドキットを装着したモデルを展示していました。ベッドの表皮にシートと同じものが採用されているのはメーカー純正ならでは。ベッドは左右跳ね上げ式でオプションのテーブルを設置すれば、仕事場としても使えそう。ベッドキットはオグショー製で、跳ね上げた際に後方視界を邪魔しないのもいいところです。価格は340万3400〜で購入できます。

 

【その6】コンパクトで乗りやすく街に馴染む仕様

「日産ピーズフィールドクラフト/NV200バネット マルチベッドワゴン」

同じく日産ピーズフィールドクラフトブースには、よりコンパクトな「NV200バネット」をベースとしたモデルも展示されていました。このサイズであれば、普段の買い物などにも気負わず使えそうです。それでいて、ベッドキットを展開すれば奥行き1720mm、幅1270mmのフラットなスペースを作れるので、大人2人が横になれます。オプションにはテーブルも用意され、写真のような2トーンボディカラーを選べば商用車っぽい雰囲気も払拭できます。262万4600円〜という価格も魅力的ですね。

 

【その7】フランス生まれのバンをキャンパー仕様に

「ホワイトハウス/ベルランゴ キャンパー・ソレイユ」

スペース効率に優れた輸入車として注目されているシトロエンの「ベルランゴ」。そのキャンパー仕様が早くも出展されていました。セカンドシートを倒して実現するフラットなスペースのほか、ポップアップルーフを装備し、車内で4人が就寝可能。就寝スペースの下にはスライド式の収納も備えていて、そこをアウトギャレーとして活用するオプションも用意されています。車内のスペースをアウトドアスペースとして拡大できますよ。価格は449万3500円〜。

 

【その8】キャンピングカーのリアルな使用感がわかる

「TOY-FACTORY/BADEN Casa Homestyle Edition」

スタッフが実際にプライベートや通勤で使っている車体を展示していたのがTOY-FACTORYのブース。ベース車両は「ハイエース」のキャンパー特装車で2.7Lガソリンエンジンの4WDなので、様々なシーンで活用できそう。キャビン部分はベッド展開できるほか、車体後部にもベッドを装備し、5人が就寝可能。車両本体価格は668万円、インバーターや電子レンジ、大型ナビなどのオプションを装着した展示車の価格は885万1100円です。

 

【その9】商用車をオシャレな車中泊仕様に

「GORDON MILLER MOTORS/GMLVAN-C01JSF」

「ハイエース」や日産「NV200」などの商用バンをベースに、ウッド素材で内装をリファイン。GORDON MILLER MOTORS(ゴードン ミラー モータース)は、フロントフェイスなどの外装も変更することで商用車っぽい雰囲気を払拭した車中泊仕様車をリリースしています。今回紹介したいのは、journal standard Furniture(ジャーナルスタンダード ファニチャー)とコラボしたモデル。「NV200」をベースに、車内をフラットにできるようにカスタマイズし、シートにはオリジナル生地を採用することでオシャレな雰囲気に仕立てています。価格は2WDで421万3000円、4WDは465万3000円です。

 

[キャブコン・バスコン・トレーラー編]

トラックなどをベースにキャビンを架装したのがキャブコン。マイクロバスをベースとしたものがバスコンです。バンコンに比べて車体が大きく、車内で立てる空間を確保するなど居住性が高いのがメリットです。クルマで牽引するキャンピングトレーラーも人気が高まっているジャンル。価格を抑えたモデルから超豪華なものまで選べるのが特徴です。

 

【その10】アウトドア派やペットと一緒に旅したい人に

「VANTECH/CORDE RUNDY」

キャブコンのビルダーとして幅広いモデルを展開しているVANTECH(バンテック)が新たにリリースしたのが「CORDE RUNDY(コルドランディ)」。リビングスペースは1860×1390mmの広大なベッドスペースに展開可能なほか、エントランスの床部分には防水加工を施し、汚れたら水洗いが可能です。アウトドアアクティビティを楽しみたい人や、ペット連れで旅をする人にはありがたい装備。運転席上のロフトベッドは左右に振り分けたツインタイプとなっているのも新しい提案です。価格は765万3000円。

 

【その11】運転のしやすさにも配慮したバスコン

「RVグランモービル/トラッド699」

トヨタのマイクロバス「コースター」をベースに、内装をキャンパー仕様としたモデル。キャビンの奥には2つの常設ベッドを備えるほか、リビングスペースもベッド展開が可能で大人3人が就寝できます。それでいて、9人が乗車可能なように前向きの座席も残しており、窓も塞がずに運転もしやすいように配慮。3世代の家族で出掛けて、若い世代は外でキャンプするような使い方を想定しているとのことです。価格は1188万円。

 

【その12】こんなリビング空間を持ち運べる

「ケイワークス/X-cabin 300」

トレーラーには牽引免許が必要なモデルもありますが、「X-cabin 300」は750kg以下の普通自動車免許で引くことができます。キューブ型のシルエットもユニークですが、内装もシンクやトイレなどの水回り装備を廃してシンプルなリビング空間を実現しています。広いソファはベッド展開も可能で、広がりを感じる作りは牽引免許不要なモデルとは思えない完成度。キューブ型の形状を活かした設計です。価格は473万円〜。

 

【その13】ビジネスシーンにも対応できるハイグレードラウンジ

「ニートRV/ウィネベーゴ ボヤージュ フィフスホイール V3436FL」

全長11.95mというサイズに驚く巨大トレーラー。フロントリビング部分などは引き出すように左右のスペースが拡大可能で、内装も移動可能とは思えないほど豪華な作りです。エアコンや温水シャワーはもちろん、ガス式の温水装置やヒーターなども備え、快適な居住が可能。キングサイズのベッド(オプション。標準はクイーンサイズ)や広いキッチンもあり、完全に“住める”装備で、価格も1232万円〜と家並みとなっています。

 

 

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普通免許で気軽に乗れるパーソナル三輪EV「Future mobility “GOGO!”」試乗レポート

次世代パーソナルモビリティ「Future mobility “GOGO!”」を開発・販売するFutureは3月31日、報道関係者を対象とした製品説明会および試乗会を開催しました。GOGO!はいわゆる“電動三輪ミニカー”のスタイルを持つ一人用の乗り物です。最近登場している電動バイクのほとんどが二輪である中で、三輪という新感覚の走りを体験してきました。

↑「Future mobility “GOGO!”」の発表&試乗会が開催された会場

 

原付のような二段階右折は不要で、ヘルメット着用も法律上は求められず

GOGO!を目の前にすると、デザインはどこか愛らしく、レトロな雰囲気が漂います。特にシート付近は手作り感たっぷりの仕上がり。ボディカラーにはピンクや淡いグリーンなどがラインナップされ、若い世代や女性を対象にしていることがわかります。

 

GOGO!は原付スクーターのようにも見えますが、実はその構造はまったく別のものです。車体の構造は前輪がふたつ、後輪がひとつで構成される三輪車となっており、法律上は「普通自動車のミニカー」として取り扱われる車両なのです。これによりGOGO!を運転するには普通自動車免許が必要となります。原付免許では乗れません。ここは注意してください。

↑ベースモデル「Future mobility “GOGO!”S」。ミニカーであるため、ナンバーは水色となる。全長1m×全幅0.6m×全高1m

 

一方で、普通自動車のカテゴリーとなっていることで、原付バイクのように二段階右折をする必要もなければ、ヘルメットの着用も義務付けられません。ここがGOGO!最大のポイントとも言えるでしょう。実はGOGO!はシェアリングでの利用も予定しており、その際にヘルメットが必要となれば利用のハードルはどうしても高くなってしまいます。感染症が治まらない現在の状況ではヘルメットを借りるのも躊躇してしまうでしょう。その点、このカテゴリーならヘルメットなしで乗ることができ、利用者のハードルは一気に低くなるのです。

 

ただ、法律上は義務ではないとはいえ、安全を考慮すればヘルメットの着用はすべきでしょう。自前でヘルメットを用意するなり、身を守る手立てをした上で乗車することをオススメします。

 

ラインナップは全4種類。ハイエンドモデル「F1」は最高速45km/h!

そんなコンセプトで開発されたGOGO!だけに、その使い勝手は誰でも簡単に取り扱える設計となっていました。特に注目なのが車体重量で、三輪車とは思えない22~25kgに抑えられています。この日、説明に登壇した同社の代表取締役CEO・井原慶子氏によれば、「これまでの3輪車は車体が重く、倒してしまった時は戻すのに苦労することが多かった」と言います。この重量なら女性でも簡単に起こせるというわけです。

↑「Future mobility “GOGO!”」について説明するFutureの代表取締役CEO・井原慶子氏

 

GOGO!のラインアップは、装備ごとに「S」と「カーゴ」、「デリバリー」の3種類。バッテリーはステップ下に内蔵され、「標準バッテリー」とオプションの「大容量バッテリー」の2タイプを装着することができます。公表されているスペックによれば標準バッテリーで最高速度は30km/h、フル充電での航続距離は30kmとのことでした。

↑バッテリーはステップ下に内蔵される。「標準バッテリー」(3万9800円)や「大容量バッテリー」(5万9800円)、「標準充電器」(7800円)、「急速充電器」(1万5800円)といった周辺機器がある※すべて税込み

 

↑「Future mobility “GOGO!”カーゴ」。リアに荷物が載せられるカゴが装着される

 

さらにGOGO!にはカーボン製モノコックフレームを用いて重量を18kgにしたハイエンドモデル「Future mobility F1」を用意。こちらはモーターのハイパワー化も果たしており、最高速度は45km/hにもなるということです。

 

さて、ここからがいよいよ試乗です。運転にあたっては、ステアリングバーの左側にあるメインスイッチを右にスライドさせた上で、その右にある「M」ボタンを長押しすれば準備OK。この状態でブレーキを離して右側のアクセルを回せばスタートできます。

↑「Future mobility “GOGO!”S」の操作スイッチ部。上からウインカー、メインスイッチ、ホーンスイッチ。右側の黒いスイッチはモード切り替えボタン

 

↑ステアリング中央に配置される速度やバッテリー残量などを表示するディスプレイ部

 

アクセルを回すとGOGO!は力強く前進し、クルマの流れに遅れることもなくスムーズにスタートできました。走り出しこそ若干左右に振られますが、速度が乗ってくると安定性は高まっていき、ミラーを確認しながら車線変更も余裕でできるようになりました。

↑ステアリングの左右に備えられたウインカー。昼間の走行では点灯していることは気付きにくい

 

↑リアのLED点灯部。中央はテールランプで左右がウインカーとして機能する

 

この日は神宮外苑の道路を周回して試乗しましたが、路面の段差を乗り越えてもしっかりとした剛性が伝わってきました。かといって路面からのショックもボディ全体で和らげてくれているようで、キックバックもそれほど強くなく、乗車中は想像以上に快適でした。

 

マルチリーンサスが生み出す、コーナリングの吸い付き感に感動!

特に感動したのがカーブを曲がった時の前輪の吸い付き感です。これが愛らしい姿からは想像できないアクティブな走りを生み出していたのです。実はGOGO!の前輪には、井原氏がカーレースで体験した技術をフィードバックして完成させたマルチリーンサスペンションが採用されています。これが安定したコーナリングに結びついていたのです。

↑前輪に組み合わせたマルチリーンサスペンション。このリンクによって優れたコーナリングを生み出す

 

ただ、スペックの最高速度30km/hには、全開にしてもなかなか到達できません。試乗中は信号に引っかかったこともあり、速度は25km/h強程度までしか出ませんでした。スタッフによれば「体重50kg程度の人が乗った場合のスペックなので、それより重いと最高速度は低くなる可能性がある」とのこと。私は体重が80kg近くあるのでその影響が出ていたのかもしれません。

↑リア車輪には駆動のためのインホイールモーターが組み込まれる

 

とはいえ、その走りは想像以上にしっかりとしたものです。井原氏によれば、このGOGO!を使い、驚いたことに工場がある三重県鈴鹿市から東京の六本木まで耐久テスト走行を敢行したとのこと。しかもその過程でのトラブルはゼロ! これは相当にすごいことです。レーサー上がりの井原氏ならではの企画が見事成功したというわけですね。

 

現在、GOGO!は三重県鈴鹿市の工場で月産50~100台体制で生産中。2021年4月からは、代理店契約を行った店舗でも購入可能な予定となっています。価格は「Future mobility “GOGO!”S」が26万1800円、「Future mobility “GOGO!”カーゴ」が27万2800円、「Future mobility “GOGO!”デリバリー」が28万3800円、「Future mobility F1」が47万800円。※価格はすべて税込み。

↑東京・神宮外苑の絵画館前に集結した「Future mobility “GOGO!”」のラインナップ。ブラックやミントなどカラーリングも豊富

 

 

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奥が深い!小田急新ミュージアムは車両以外にも見どころいっぱい【後編】

〜〜小田急ロマンスカーミュージアムの見どころ遊びどころ【後編】〜〜

 

海老名駅前に4月19日にオープンする「ロマンスカーミュージアム」。前編では展示収蔵される歴代のロマンスカーの特徴や魅力を中心に紹介した。今回の後編では、ロマンスカー以外にも数多くある見どころ・遊びどころに注目したい。

 

「ロマンスカーミュージアム」には、ロマンスカーギャラリー以外にも、複数の展示ゾーンがそろっている。そこには、こだわりがふんだんに隠されていた。

 

【前編はこちら

 

【展示ゾーン①】小田急の車両史はこのモハ1形から始まった

◆ヒストリーシアター(1階)◆

2階のエントランスからエレベーターを下りると、最初の展示ゾーン「ヒストリーシアター」となる。まず目に入ってくるのが、濃い茶色に塗装された電車が1両。その横には映像シアターがある。

 

シアターでは、約4分30秒のショートムービー「ロマンスカーは走る」が上映されている。ジャズに合わせてステップを踏むタップダンサーとともに、小田急電鉄の歴史が紹介されていく。年代ごとに活躍した電車と、歴代のロマンスカーが映し出される。

↑1階のヒストリーシアターで展示されるモハ1形。手すりが設けられ全景が見えないが、エスカレーター下から見ると正面が確認できる

 

ここで小田急の歴史と、保存される古い車両を簡単に触れておこう。小田急は1923(大正12)年5月1日に小田原急行鉄道株式会社として創立された。1927(昭和2)年4月1日に小田原線が全線開業し、列車が走り始めている。区間延長という形ではなく、一気に全線開業させた路線作りは目を見張るものがある。さらに、当初は単線区間があったものの、10月15日には早くも全線複線化させている。その2年後の1929(昭和4)年4月1日には江ノ島線全線を開業させた。

 

首都圏を走る大手私鉄の中では、創業は決して早いとは言えないものの、歴史を見ると、創立当初から非常に動きが早い会社だったことがうかがえる。車両開発なども、当時から高性能車両を取り入れる傾向があった。

 

このフロアに飾られるモハ1(モハ1形10号車)もそんな高性能電車の一両。路線開業当時に導入した車両だった。形式はモハ1形とされる。数字に1が付くように、小田急の最初の電車形式だった。小田急の車両の歴史はこの1形から始まったと言っていいだろう。

↑ショートムービーでは小田急の歴史とともに、当時走っていた代表的な車両、そしてロマンスカーの紹介などが進められていく

 

モハ1形は1960(昭和35)年までに引退となり、各地の私鉄各社へ譲られた。ここで公開されるモハ1形10号車も、熊本県を走る熊本電気鉄道へ譲られた車両で、熊本では1981(昭和56)年まで走り続けた。小田急では、創業当時の車両を復元して保存したいという意向があり、再び戻されたという経緯がある。

 

車内には入れないものの、開いた扉から車内を見ることができる。当時の木をふんだんに使った内装の様子が良くわかる。

 

◇サボに書かれた稲城登戸駅間とは今の?

約15mの長さがあるモハ1形の側面。その中央にはホーロー製の列車行先札(サボ)が吊り下げられている。文字の表記は今とは異なり右から読むが、列車行先札には新宿〜稲田登戸とある。もともとモハ1形は、この区間用に用意された近郊形電車だったのである。

 

さて、稲田登戸駅とは、今の登戸駅のことなのだろうか。調べてみると南武線(当時は南武鐵道)との接続駅、現・登戸駅はかつて、稲田多摩川駅という駅名だった。一駅隣の現・向ヶ丘遊園駅を稲田登戸駅と呼んだのだった。

 

ちなみに小田急は1940(昭和15)年に現在の京王井の頭線(当時は帝都電鉄)を合併。太平洋戦争下の時代には国策により、東京急行電鉄(大東急)の傘下となった。戦後の1948(昭和23)年に小田急電鉄株式会社として再発足している。また1955(昭和30)年4月1日に、稲田登戸駅は現在の向ヶ丘遊園駅という駅名に改称されている。

↑モハ1形に付けられた列車行先札。モハ1形は新宿駅〜稲田登戸駅を結ぶ電車として使われた。戦前の沿線案内にも稲田登戸駅とある

 

↑整備されたモハ1形の内部。車内は木材が多く使われる。運転室はなく、運転士は客室の先頭にあるパイプで仕切られた部分に立って運転した

 

【展示ゾーン②】クラシックなマスコンハンドルでの運転が可能

◆ジオラマパーク(2階)◆

↑小田急沿線の風景が再現され、その中をNSE(3100形)が走る。背景のパノラマスクリーンには青空に加えて雲などの演出も

 

1階のヒストリーシアターの奥に、このミュージアムのメイン施設、ロマンスカーギャラリーがある。ここには5車種10両のロマンスカーが保存される。こちらの展示内容に関しては前編を参照していただきたい。

 

ロマンスカーギャラリーを見終わった後は、エスカレーターで2階へ。そこにはジオラマパークが広がっている。なんとその大きさは約190平方メートルにもなるとか。坪数でいえば57.48坪という広大なスペースにジオラマが広がる。

↑ジオラマの新宿駅には小田急百貨店と京王百貨店などの建物が並ぶ。後ろには高層ビル群が。実際の駅の姿にそっくりで驚かされる

 

そこには小田急線沿線の景色が再現されている。用意された建物数も800を超え、入口側が新宿、そしてジオラマの終端部分が箱根湯本駅となっている。

 

ジオラマにはHOゲージスケールのロマンスカー新旧10車種と、通勤電車5車種が走る。江ノ電の電車も走っている。Nゲージに比べて一回り大きなHOゲージの車両(箱根登山鉄道にはNゲージも使用)だけに、ロマンスカーの編成走行にも迫力が感じられる。使われる線路の総延長は400m、側線まで含めると500mに及ぶとされる。

 

ジオラマ展示では約36分にわたる「小田急沿線の1日」が。さらに合間には約9分間の「時間と距離のロマンス」と名付けられたジオラマショーが楽しめる。映像+音響+照明を伴った演出で臨場感たっぷりだ。

 

かなり手がかかったジオラマパークだが、制作したスタッフに聞いてみると構想10年、制作には3年以上の歳月をかけてできあがったものだとか。制作者の方たちの苦労が、4月の公開でようやく報われるわけである。

 

◇透明のカバーにより旧式マスコンハンドルの複雑な構造がわかる

↑操作機器を使って運転体験が楽しめる。マスコンハンドルとブレーキハンドルの下部分は透明カバーでおおわれるため、複雑な構造がよくわかる

 

↑箱根湯本駅に到着したVSE(50000形)。情景は夕方に変わった。このあと、模型はぐるりと一周して新宿駅方面へ戻っていく

 

凝ったジオラマパークの造りだが、面白かったのが用意された2つの「ジオラマ運転体験」用のコントロール機器。ツーハンドルと呼ばれる左にマスター・コントローラー(マスコンハンドルとも呼ばれる)と右にブレーキレバーがある作りだ。現在の小田急の新造車両はワンハンドルが主流になっているが、8000形などに残されるツーハンドルが、ここで再現されているのである。

 

右のブレーキハンドルは、使うことができないものの、左のマスコンハンドルを操作しての、ロマンスカーGSE(70000形)と、江ノ電500形の運転体験(3分100円)が楽しめる。

 

面白かったのは、用意されたマスコンハンドルの造り。通常のマスコンハンドルはボディ部分が鉄板に覆われているが、このパークのマスコンハンドルは透明カバーで覆われている。今の電子機器化されたワンハンドルに比べて、機械的な造りのツーハンドルで、ひと時代前のマスコンハンドルがいかに複雑な造りをしているのかがよくわかる。

 

【展示ゾーン③】ロマンスカーの部屋の中で存分に遊べる

◆キッズロマンスカーパーク(2階)◆

↑ロマンスカーの形をした遊具「てんぼうせき」では2階の「うんてんせき」も再現。2階にのぼりヘッドライトの点灯もできる

 

ジオラマパークを見終わり、部屋を出ると、そこには「キッズロマンスカーパーク」が広がる。木で造られた巨大なロマンスカー、7つの車両には子どもたちが遊べる空間が設けられている。

 

こちらには紙で作られたキッズジオラマが用意されている。工作部屋で手づくりしたペーパートレインを、キッズジオラマで走らせることができるのだ。

 

◇GSEカラーやMSEカラーの部屋があるのも楽しい

キッズロマンスカーパークの奥は土足厳禁のスペース。通路を入って行った部屋の外装は、GSE(70000形)や、MSE(60000形)といった車体カラーそのもの。本物のMSEの車体のようにオレンジと白の細いラインが入ったこだわりだ。部屋の中には、ロープで斜面を上り下りする遊具や、おかずの形をした木のおもちゃをロマンスカーの形のお弁当箱に詰める遊具セットなどもある。さらに、鉄道の絵本が読めるコーナーなども用意されていて、親子そろって楽しい時間を過ごすことができそうだ。

↑手づくりのペーパートレインを動かせるキッズジオラマ。白いラインの下には磁石が仕込まれ、載せたペーパートレインが動く仕組み

 

↑多彩な遊び方を用意。上の写真は「はしるきっさしつのおべんとう」と名付けられた遊具。部屋はMSE、GSEのカラーで塗られる

 

【展示ゾーン④】LSEのシミュレーターは臨場感たっぷり

◆ロマンスカーアカデミアⅡ(2階)◆

↑インタラクティブアートでは手をかざすと小田急沿線のさまざまな街の景色が現れる

 

2階のキッズロマンスカーパークの隣には「ロマンスカーアカデミアⅡ」と名付けられたフロアがある。ここにはまず「インタラクティブアート“電車とつくるまち”」というコーナーが。壁に手をかざすと、動きに合わせて線路が敷かれ、駅を中心に家や店、学校が浮かび上がり、街づくりが進む。

 

さらに運転シミュレーターのコーナーがある。「ロマンスカーシミュレーター“LSE(7000形)”」と名付けられたシミュレーター装置が用意されている。この運転シミュレーターもかなり凝っている。まず形は名称のとおりロマンスカーLSE(7000形)の2階にある運転室の部分を再活用したもの。

 

参加費は1回500円。当日抽選制で、券売機で抽選券を発券し、当選者のみ楽しめるシステムとなる。

 

使われる映像はLSEの運転台から撮られたものだ。流される映像は「秦野→本厚木」、「本厚木→町田」、「成城学園前→新宿」の3区間から選べる。レベルは「入門」、「初級」、「上級」と3段階から難易度を選べる仕組み。「入門」レベルは「成城学園前→新宿」の1コースのみだ。

 

◇運行終了日の新宿駅の様子が蘇る。さらにシミュレーター裏には?

↑LSE(7000形)の運転席部分を利用した運転シミュレーター。屋根上の運転室の正面や側面の窓周りがそのまま活かされた

 

↑LSEの2階運転席から見た眺望の良さを実感。この機器の裏側にはブルーリボンと音楽館のプレートが付く

 

今回、実物のLSE(7000形)の運転室がそのまま使われているという。限られた空間に設けられた運転室なので、一般的な大人の身長だと、天井に頭が届いてしまう。ただ、シートに座ると足を前に伸ばす構造になっているので、運転には差し支えない広さになっていることがわかる。

 

この運転シミュレーターには、2018年に運転を終了させた時の映像が使われていた。LSE(7000形)が新宿駅に到着すると、ホームに鈴なりになって待ち受けるファンの姿が見えてくる。2階の運転席から見た風景はより遠くまで望め、運転士はこうした風景を見て運転していることが改めて良くわかった。

 

このシミュレーター、裏側には1981年のブルーリボン賞に輝いた時に付けられたプレートと、その下に「音楽館」という楕円形のプレートが付けられていた。音楽館の鉄プレートは、車両に付けられている製造工場のプレートの形とほぼ同じ形のこだわりぶり。作った人はさぞや、鉄道好きな方なのだろう。音楽館? さて? 同シミュレーターを作ったのは鉄道ファンが良く知るあの方だった。

 

音楽館を率いるのは向谷実氏。フュージョンバンドの「カシオペア」のキーボード奏者であり、鉄道が好きなことを活かして鉄道シミュレーションゲームを生み出し、また駅の発着メロディを作曲するなど活躍の場を広げている。近年、音楽館では鉄道各社へ乗務員訓練用シミュレーターを開発して導入するなど、プロにも使われる本格的なシミュレーターの製作も行っている。

 

今回の報道公開時にも、小田急の現役運転士が操作見本を見せていたが、実車とかわりない本格的なものが、ここにも導入されたわけである。とはいえ、入門編を選べば操作はそれほど難しくはないそうで、たとえ初めてでも心配は無用なようだ。

 

【その他のゾーン①】ここだけの限定品がずらりと揃う

◆ミュージアムショップ「TRAINS」(2階)◆

↑2階に用意されたミュージアムショップ「TRAINS」にずらりと並ぶグッズ類

 

ここからは展示ゾーン以外の様子を見ていこう。この施設のこだわりぶりはまだまだ尽きない。2階のミュージアムショップ「TRAIN」では小田急やロマンスカーにちなむ商品をふんだんにそろえている。

 

◇気になる館内限定商品の数々。開業記念商品

↑館内限定商品のごく一部。お土産にも最適。NSEの車体が描かれた箸や、ロマンスカーのイラスト入りチョコ缶などふんだんにそろう

 

ミュージアムショップは、見るだけでも楽しいコーナーだ。模型や玩具、雑貨、そしてお菓子などがそろう。特にファンにとって気になるのは限定商品だろう。ここでしか買えない限定商品に加えて、開業記念商品も多数用意している。

 

筆者が気になったのはブレーキハンドル型オープナー(1100円/税込)。ツーハンドルのブレーキハンドルを模したオープナーで、このようなグッズでペットボトルのフタや、栓を開けたら……。なかなか鉄道ファンの心をくすぐる商品が多く見ているだけでも楽しくなってくる。

 

【その他のゾーン②】実物が目の前を走る!一工夫の時刻表に注目

◆ステーションビューテラス(屋上)◆

↑屋上に設けられたステーションビューテラス。目の前を通るロマンスカーの克明な時刻が用意されている(別写真を参照)

 

ミュージアムの屋上は「ステーションビューテラス」として整備されている。広々した屋上から海老名駅を見ると、電車の入線してくる姿が手に取るようにわかる。特に厚木駅側から入ってくるロマンスカーが良く見える。さて、この屋上にも同ミュージアムらしいこだわりがある。それは用意されたロマンスカーの時刻表だ。

 

◇ロマンスカーの出庫時間まで記されていた

↑ミュージアムの開館時間帯に通るロマンスカーの時刻がずらり。右上を拡大すると「海老名 出庫」という注釈が

 

屋上に用意された時刻表は、ミュージアムが開館している10時から17時台までのロマンスカーの時刻が網羅されている。そこには使われる車両の情報と、海老名駅に停車するかしないかなどの情報も入る。そして興味深いのは「出庫時間」の時刻も記されていること。海老名駅には海老名電車基地があり、ロマンスカーも配置されており、また検査・修理用の検修施設へ出入りすることもある。

 

同時刻表には平日の16時54分にEXE(30000形)を使った「さがみ78号」の出庫しかないことが記されている。たとえ出庫する列車が1本しかないとしても、克明に調べて、時刻表に表示する試みには、少々驚かされた。

 

【その他のゾーン③】かつてロマンスカーで出された味が楽しめる

◆ミュージアムカフェ「ROMANCECAR MUSEUM CLUBHOUSE」(2階)◆

↑駅側の席からはこのように海老名駅に停車する電車を見ながらカフェタイムが楽しめる。メニューは軽食中心で、スイーツも用意される

 

最後にエントランス部分にあるミュージアムカフェ「ROMANCE MUSEUM CLUBHOUSE」を取り上げておこう。ここのみ、ミュージアムへ入館せずとも利用ができる、一般向けに開放されたスペースなのだ。海老名駅の東西を結ぶペデストリアンデッキに面したカフェで、ガラス戸はフルオープンできる構造に。換気も十分な安心して使える造りとなっている。

 

駅側に面した席の数は少なめなものの、運良く座ることができたら窓の下に停車する電車を見ながらカフェタイムが楽しめる。メニューは「ロマンスカードッグ(750円〜)」と名付けられたホットドック、クラフトビールやスイーツなど。沿線食材を使ったメニューを取りそろえるとしている。

 

かつてロマンスカー車内で楽しめたサービスがここで再現されている。飲み物と軽食を座席まで届けたシートサービス「走る喫茶室」の当時のメニュー「クールケーキと日東紅茶のセット(700円」も再現されているのだ。

 

【その他のゾーン④】館内の通路スペースにも見逃せない機器が

◇ロマンスカーが背景に写り込むプリクラを試してみたい

↑モハ1形の姿をした特製プリクラ機。小田急の車両を絡めたプリクラが楽しめる。左は1階で見かけたカプセルトイの自販機

 

ひと通り館内を紹介してきたが、最後に通路スペースで見つけたものも触れておこう。屋上に出るスペースに置かれていたプリクラ機械。表はヒストリーシアターで出会ったモハ1形の姿で、ロマンスカーを絡めた写真シールが作れる。ロマンスカーだけでなく、通勤電車、モハ1形など古い電車の姿を絡めることもできる。

 

プリクラ機だけではない。1階で見つけたカプセルトイの自販機。ビネットフィギュア(500円/税込)と呼ばれるロマンスカーを絡めた小ジオラマの自販機だった。報道公開の短い時間だったのにも関わらず、「ロマンスカーミュージアム」ではいろいろな発見ができた。

 

じっくり巡れば、館内でまだまだお宝探しが楽しめそうだ。

 

【ロマンスカーミュージアム】

◆営業概要◆

○営業時間:10〜18時(最終入館17時30分)※季節により変動の可能性あり

○料金: 大人(中学生以上)900円、子ども(小学生)400円、幼児(3歳以上)100円
※3歳未満は無料
※一部別途料金のかかるコンテンツがあり

○休館日:第2・第4火曜日
※別途休館日を設ける場合あり

○問い合わせ:TEL046-233-0909(受付時間10〜18時)
※開業前は平日のみ

○予約受付:公式HPで受付
※1か月先まで予約可能

【公式HPはこちら

 

歴代ロマンスカーが揃う小田急新ミュージアムの名車たちに迫る!!【前編】

〜〜4月19日、海老名にロマンスカーミュージアムが開業【前編】〜〜

2021年4月19日、海老名駅前に歴代のロマンスカーを展示保存した「ロマンスカーミュージアム」がオープンする。お披露目となる前に訪れたが、小田急電鉄の“ロマンスカー愛”が強く感じられる施設だった。2回にわたって、こだわりの展示内容と、個々の保存車両について迫っていく。

 

【はじめに】なぜ4月19日(月)にオープンとなったのだろう?

4月19日(月)、小田急電鉄の「ロマンスカーミュージアム」が開業する。場所は神奈川県・海老名駅。駅のほぼ構内にあり、エントランスは東口と西口を結ぶ海老名駅自由通路に面している。小田急電鉄としては初めての鉄道ミュージアムで、構想およそ10年の歳月を経てのオープンとなる。

 

週末ではなく月曜日にオープンするのは、新型コロナウイルスの感染症対策として、入場者が殺到しないようにとの配慮だ。さらに当面の間は、日時指定、完全予約制での入館システムとなる。予約開始は4月1日12時から。予約方法はロマンスカーミュージアムのWEBサイトで紹介されているので、そちらを参照していただきたい。

 

【ロマンスカーミュージアム公式HPはこちら

 

↑海老名駅自由通路に面してエントランス(2階)が。入口にはミュージアムカフェが設けられ電車を見ながら、ひと休みできる

 

さて、4月19日という日程にした理由を担当者に聞いてみたところ、「ビナウォーク(ViNAWALK)の開業記念日に合わせました」とのこと。ビナウォークとは、東口駅前に広がる複合商業施設で、小田急電鉄の関連会社が2002(平成14)年4月19日に開業させた。公園を取り巻くように複数の店舗棟が建ち、多くの人で賑わっている。同施設の開業後に、海老名駅の西口側も大規模開発されるなど、駅前開発の起爆剤になった施設だ。

 

ビナウォークの記念日に合わせて誕生する「ロマンスカーミュージアム」も、新たな海老名の人気スポットとなりそうである。

↑ロマンスカーギャラリー(1階)に並ぶ歴代ロマンスカー。細部まで含め見てまわれば多くの発見があり、見ごたえたっぷりだ(詳細後述)

 

「ロマンスカーミュージアム」はおよそ4つの展示ゾーンに分かれる。1階は「ヒストリーシアター」と「ロマンスカーギャラリー」、2階には「ジオラマパーク」と「キッズロマンスカーパーク」がある。

 

それぞれの展示内容はよく練られていて、非常に奥深い。鉄道好きが訪れたとしたら、もう時間を忘れて、見入ってしまうだろう。それぐらい、中身の濃いミュージアムに仕上げられている。前編では、ミュージアムの骨格となる「ロマンスカーギャラリー」に保存される車両の紹介と、展示の魅力を探ってみたい。

 

【展示車両その①】日本の高速列車の草分けとなった名車両

ロマンスカーミュージアムのメインとなる展示がロマンスカーギャラリーだ。まるで美術館のように趣ある造りで、間接照明により展示された車両が光り輝く。ここには歴代のロマンスカー5車種、10両が展示される。すでに小田急路線を走らない引退車両のみ。かつて、小田急の路線を華やかに彩った名車両に対面でき、しかも至近で見ることができる。

 

大半の車両は、車内へ入ることができる(入れる箇所に一部制限あり)。車両内外を見ると、それぞれのロマンスカーが生まれた背景が透けてくるかのようだ。まさにロマンスカーを通して、時代そのものが見えてくる。保存される1車両ずつ、誕生したころの時代背景と、展示される車両の気になった特徴を見ていこう。まずはSE(3000形)から。

 

◆小田急電鉄SE(3000形)◆

↑SE(3000形)はロマンスカー最初の車両。登場時の姿を殘す正面には「乙女」のヘッドマークが付く。右下は海老名駅構内で保存していた時の姿

 

まずはSE(3000形)。丸みを帯びた正面デザインの車両が3両編成で展示される。こちらのSE(3000形)は、小田急初のロマンスカーとして登場した。ちなみにSEとは「Super Express」を略した愛称だ。

 

生まれたのは1957(昭和32)年のこと。太平洋戦争の痛手も癒え、レジャーにも関心を持つ余裕が生まれてきたころに誕生した。このころから鉄道各社も、観光用の車両作りを本格化し始める。SE車は小田急と国鉄が共同開発して誕生させた特急用車両で、当時としては画期的な技術が盛り込まれていた。

 

国鉄の技術協力を得たこともあり、誕生した1957年には東海道本線で運転試験が行われた。そして、当時の狭軌世界記録・最高時速145kmを達成している。SE(3000形)の誕生は、小田急の電車開発だけではなく、日本の鉄道車両技術を高めることにも結びついた。その後、東京と大阪を結んだ特急「こだま」に使われた特急形電車20系(その後の151系・181系)の製造や、新幹線0系にも、SE(3000形)の技術が活かされている。そのためSE車は「新幹線のルーツ」、または「超高速鉄道のパイオニア」とまで呼ばれた。鉄道友の会が設けたブルーリボン賞の、第1回受賞車両でもある。

 

◇表と裏の顔が違うがさて?

ロマンスカーギャラリーに展示されるSE(3000形)は、表と裏の顔が異なる。表は、なめらかな正面デザインが誕生したころの姿だ(1993年に復元)。一方、反対側の正面には、大きな前照灯があり、連結器用の大きなカバー、そして「あさぎり」というヘッドマークが付けられている。こちらは1968(昭和43)年、国鉄の御殿場線の電化に合わせ、乗り入れ用に改造された姿だ。それまで8両で運行されていたが、改造され5両と短くされた。愛称もSSE(Short Super Express)と小改訂されている。

↑国鉄御殿場線への乗り入れ用に改造された正面デザイン。車体側面には「新宿←→御殿場」というサボ(行先標)が付けられている

 

その一方で、2編成が連結して走れるように連結器がつけられた。形は変わったものの、こちらの正面デザインもなかなか味わいがある。ちなみにSE(3000形)は1992年に引退したが、その後に、海老名駅の構内に設けられた専用保存庫により、30年にわたり保存されていたが、今回、晴れて公開となった。

 

車内の特徴は写真を見ていただきたい。連結器部分などの造りなど、なかなかおもしろい。

↑入場できるのは一部通路のみ。写真は通路からみたSE(3000形)の車内。エンジ色の座席で、窓の造りやカーテンなどに時代を感じさせる

 

↑連結器部分の造り。3000形は連接車のため、この下に台車がある。丸い渡り板部分の構造が面白い。他の小田急連接車とは異なる造りだ

 

【展示車両その②】ロマンスカー初!最前部に展望席を設けた車両

◆小田急電鉄NSE(3100形)◆

↑丸みを帯びたデザインのNSE(3100形)。小田急初の先頭部分に展望席を設けたロマンスカーとして大人気となった

 

ロマンスカーの2世代目として生まれたのがNSE(3100形)だ。NSEとは「New Super Express」という意味を持つ。SE車が非常な人気となり、週末には乗り切れない状態が続いた。そのために、新たに造られたロマンスカーだった。

 

外観から見てもわかるように、この車両から先頭部分に展望席、2階に運転席を設けている。SE車が、軽量化に主眼をおかれて開発されたのに対し、NSE車は、デラックス、快適、安全、高速走行といった要素を重視して開発された。1963(昭和38)年に登場すると、たちまち人気列車となった。展望席を設けた“ロマンスカーらしさ”は、この車両によって生み出された。また、現在では多くの鉄道会社に取り入れられている着席通勤特急の先駆けとして運用されたのも、この車両からだった。

 

その後の展望席を設けたロマンスカーの伝統の礎になった車両であり、現在のVSE(50000形)やGSE(70000形)にもその伝統が活かされている。

 

ちなみに先頭車に展望席を設け、運転台を2階に設置した車両は、名古屋鉄道(以下「名鉄」)の7000系パノラマカーが国内初だった。現在、名鉄ではこうした形状の車両は用意しておらず、先頭車に展望席があり、運転席は2階という形状は、いまや小田急ロマンスカーの定番スタイルともなっている。

 

◇連結器部分の渡り板の違いや、車掌室の造りが興味深い

↑NSE車はより照明の明るさが増している。保存されるSE車は更新した車内のため、違いは明確でないが、SE車誕生時はより暗めだったとされる

 

↑NSE車の連結器部分。SE車と異なり台形の渡り板が使われる。同部分の左には車掌室(左囲み)がある。半透明の扉が時代を感じさせる

 

ロマンスカーミュージアムに保存されるNSE(3100形)は3両。前のヘッドマークは「えのしま」、後ろには「さようなら3100形(NSE)」という、さよなら運転が行われた時のヘッドマークが装着されている。同車両も、SE車と同じく、一部通路に入ることができる。入ると、目の前に車掌室があり、扉は半透明で中がよく見える。

 

今回、展示される車両のほとんどが、現役時の装備そのままで保存されていることが興味深い。車掌室内の機器類も残されていて、思わず見入ってしまう。SE車もNSE車も連接車ながら、SE車は連結器部分に丸い渡り板が使われているのに対して、NSE車は台形の渡り板が使われている。このあたり、使いやすさを考慮した結果の、進化した姿なのだろう。

 

【展示車両その③】ごく最近まで走ったロマンスカー3世代目

◆小田急電鉄LSE(7000形)◆

↑1両のみ保存されるLSE(7000形)。横に並ぶNSE(3100形)に比べるとデザインがより滑らかになったことがわかる

 

ロマンスカーギャラリーではSE(3000形)、NSE(3100形)と並んで展示されるのがLSE(7000形)だ。LSEは「Luxury Super Express」の略。居住性の良さが追求され、デザインも、その愛称のように、より洗練されたイメージとなった。誕生は1980(昭和55)年のこと、SE(3000形)の置き換え用として投入された。ロマンスカーとしては3世代目にあたる。先輩にあたるSE車や、NSE車に比べて勾配の登坂能力が向上し、箱根登山鉄道の急勾配もラクに走れるように改善されている。

 

このLSEは最近まで走っていたこともあり、乗った、また見たという方が多いのではないだろうか。じつはLSE車のあとに、2形式のロマンスカーが生まれている。この2形式に比べて“長生き”したロマンスカーであり、引退したのはごく最近の2018年7月のことだった。

 

◇この車両のみは車内は非公開に

LSE車の保存は先頭1両のみ。展示される5車種のうち、LSE車のみ車両内が非公開とされた。ちょっと残念なところだ。ちなみに同車両は11両編成。計44両が長年にわたり走り続けた、ロマンスカーの中でもご長寿車両である。

 

【展示車両その④】ハイデッカー車らしい景色の良さが魅力だった

◆小田急電鉄HiSE(10000形)◆

↑ワインレッドの塗装で人気だったHiSE(10000形)。人気だったものの、四半世紀で引退となった、ちょっと残念な車両でもあった

 

オレンジベースだったロマンスカーのイメージを大きく変えたのが、このHiSE(10000形)である。新しい時代を走るロマンスカーとして、ワインレッドを基調にしたカラーで登場した。登場したのは1987(昭和62)年のこと。床の高さを上げて景色がよく見えるようにと、ハイデッカー構造とした。

 

登場時には、他社でもハイデッカー構造にした観光列車が多く現れている。当時の観光列車の多くに採用されたスタイルだった。愛称のHiSEは「High Super Express」の略。この愛称のように展望席や、連接構造、運転制御など、車両技術も成熟した構造だったこともあり、その完成度の高さから、運転士にも人気の車両だったとされる。1987(昭和62)年に登場し、11両×4編成が製造された。

 

人気だったのにもかかわらず、引退は早く2012(平成24)年3月のこと。2000(平成12)年に交通バリアフリー法が施行され、車両更新する際にはバリアフリー化が義務化された。HiSE(10000形)は高床構造を採用したため、更新時のバリアフリー化が難しいと判断され、引退を余儀なくされた。その後、一部の車両が長野電鉄に引き取られ、長野電鉄1000系「ゆけむり」となり、今もワインレッドの登場時の姿で信濃路を走り続けている。

 

◇目の前で連接台車が見ることができる展示方法が何とも楽しい

↑HiSEの展望席スペース。赤青異なる座席が配置されていた。上にある運転室の写真も展示。運転室は意外に広かったことがわかる

 

↑通路側に階段がある高床構造だった。この階段があることでバリアフリー化が適わず、早めの引退となってしまったわけだ

 

ミュージアムでHiSEは先頭車1両のみの展示となる。車内には入ることが可能で、着席もできる。2000年当時に取り入れられた交通バリアフリー法は、今ならば、このぐらいの階段は大丈夫なのではと思われるが、厳密に可否が判断されたようだ。今も2階建て車両などが走る路線があるわけで、なぜHiSEが早めの引退を余儀なくされたのか、少し不思議に感じた。

 

今回の展示では、1両のみということもあり、連接車ならではの特徴を見ることができる。連結器部分の下にある台車を覆うものもなく、直に見ることができるのだ。連接台車が、こうやって一般の人の目に触れるということも希少なことであろう。メカニカルな台車でなかなか味わいがある。

↑HiSEの連接台車。住友金属製のFS533Aという台車で、その構造がよくわかる

 

【展示車両その⑤】御殿場線乗り入れ用の車両として生まれた

◆小田急電鉄RSE(20000形)◆

↑RSE(20000形)は先頭車と2階建て車両の2両を保存。先頭車はトップナンバーの20001(右下)が展示保存される

 

展示される5車両目はRSE(20000形)。愛称のRSEは「Resort Super Express」の略である。RSEは御殿場線乗り入れ用として1991(平成3)年に造られた。JR東海では同じ仕様の371系を製造し、相互乗り入れを行う形がとられた。371系と同じ仕様としたこともあり、ロマンスカーとしては初めて、連接構造をやめて通常の台車2つの姿に、また展望席を設けない構造とした。一方で、初の2階建て車両を連結し、テレビ付きシートや、グループ利用を念頭にした個室などの特別席を設けた。富士山の麓を走る列車ということで、愛称にもリゾートという名前を付けた車両だった。

 

このRSE(20000形)も登場当初は人気だったものの、引退は予想外に早く2012(平成24)年3月に最終運転が行われている。走った期間は21年と、鉄道車両としては“短命”だった。その理由としてはHiSE(10000形)とともに、バリアフリー化に不向きだったこと。また、登場当時はバブル期だったため、個室の造りなどが豪華で、その後の利用者増に結びつかなかったためとも言われている。

 

短命に終わったRSE(20000形)だが、引退後に、一部の車両が富士急行に引き継がれ、8000系「フジサン特急」として走り続けている。小田急での現役当時は静岡県側から富士山を見て走ったが、小田急引退後の今は、山梨県側から富士山を眺めて走り続けている。

 

◇サービスコーナーのレンジや冷蔵庫もそのままで

↑広々したRSE(20000形)の運転室。運転室内は入れないが客室からの見学が可能。一番前の座席が展望に優れていたことが分かる

 

RSE(20000形)の展示車両は先頭車に加えて2階建て車両の2両で、この2両は運転室や、2階建て車両の客室などを除き、車内へ入ることができる。1991年の製造ということもあり、それほど古さは感じさせない。先頭車の車内は運転室の後ろまで入ることができ、運転室の中がよく見渡せる。

 

さらに車内には、飲み物などを用意するためサービスコーナーがある。このコーナーは現役時代のままの姿で残されている。そこには電子レンジや、業務用の冷蔵庫も残る。また、カウンターの後ろには「焼酎お湯割り始めました!!」というPR用ポスターが貼ったままだ。ミュージアムの車両というと、こうした運転に関係ない機器類は、外されている場合が多い。ましてやPR用のポスターともなると普通ははがすのではないだろうか。

 

しかし、今回開業する「ロマンスカーミュージアム」では、こうしたロマンスカーが走った時代を感じさせるいろいろな品々まで、そのまま残して見せている。これまでの鉄道ミュージアムにはなかった、時代背景そのものを、ロマンスカーを通して見せようという姿勢に、とても好感が持てた。

↑2階建て車両のグリーン席は横3列の座席配置。豪華さが感じられる。足元の幅、シートピッチも1000mmと格段に広い造りだった

 

↑車内販売のベースだったサービスコーナー。業務用の冷蔵庫やレンジなど現役当時そのまま。PR用のポスターもあり今にも走り出しそう

 

 

※【後編】ではヒストリーシアターなど「ロマンスカーミュージアム」でのその他の見どころ満載でお届けする予定です。お楽しみに。

 

【ロマンスカーミュージアム】

◆営業概要◆

○営業時間:10〜18時(最終入館17時30分)※季節により変動の可能性あり

○料金: 大人(中学生以上)900円、子ども(小学生)400円、幼児(3歳以上)100円
※3歳未満は無料
※一部別途料金のかかるコンテンツがあり

○休館日:第2・第4火曜日
※別途休館日を設ける場合あり

○問い合わせ:TEL046-233-0909(受付時間10〜18時)
※開業前は平日のみ

○予約受付:公式HPで受付
※1か月先まで予約可能

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三菱「デリカD:5」が叶える夢! 家族でアウトドア、みんながやりたいコトは丸ごとおまかせ

悪路も難なくこなす高い走破性は家族揃ってのアウトドアに、運転のしやすさや広い室内は普段の生活に重宝する三菱のデリカD:5。それぞれのやりたいコトに応えてくれる広い懐を持つこのクルマは、家族みんなの夢を叶えてくれる“心強い相棒”だ!

 

【今回紹介するモデル】

三菱

デリカD:5

391万3800円〜448万9100円

独特のフロントマスクが力強さを演出するミニバン。より高い駆動力を後輪に伝えることで強力な直進性と高い走破力を発揮する4WDロックモードを搭載する。高いトルクを発生し、パワフルな走りを実現するクリーンディーゼルエンジンも、デリカD:5の魅力だ。

SPEC【P・8人乗り】●全長×全幅×全高:4800×1795×1875mm ●車両重量:1980kg ●パワーユニット:2267cc4気筒ディーゼルエンジン+ターボ ●最高出力:145PS(107kW)/3500rpm ●最大トルク:38.7kg-m(380Nm)/2000rpm ●WLTCモード燃費:12.6km/L

 

【三菱「デリカD:5」を写真で紹介!(画像をタップすると閲覧できます)】

 

三菱「デリカD:5」の詳細はコチラ!

 

毎日使えて楽しめるから、デリカD:5はフル稼働!

ミニバンは室内が広く多くの人が快適に乗れるクルマだが、ウチのデリカD:5はそれだけじゃない。川の源流近くにある好スポットへ行くためには凸凹の多い山道を通るが、高い走破性を備えた4WDのデリカD:5なら楽勝。息子も大物をゲットすると意気込んでいる。もちろん普段の買い物や送迎時にも大活躍。車高が高く、前の見切りが良いので運転しやすいとママからも好評だ。

 

テレワークが多くなった私も、デリカD:5の広い室内を生かして仕事をすることが増えてきた。2列目のシートに座れば、PC作業もラクに行える。クルマを走らせれば良い気分転換にもなり、仕事もはかどっている。

 

でも週末はバーベキューが何よりも楽しみ。料理に目覚めた娘は、自慢のウデを振るうそうだ。

 

家族みんなのやりたいことを実現できるデリカD:5は毎日フル稼働する心強い相棒。このクルマなしの生活は考えられない!

 

<週末はやっぱりバーベキューがやりたい!>

【パパがやりたい、こんなコト】

気分を変えて車内で仕事、次はキャンプ場でテレワーク

2列目シートは足下も余裕で、ゆったりした姿勢でPC作業ができるのがうれしい。今度はデリカD:5の高い走破性を生かして、山奥のキャンプ場でワーケーションをしてみたい!

 

【ママがやりたい、こんなコト】

買い物や送迎に大活躍! 好きな観葉植物も運べる

普段の買い物や子どもの送迎に便利。3列目シートもしっかりしていて、子どもの友だちも余裕で乗せられる。背の高い観葉植物も、室内高が高いデリカD:5ならラクに載せられ便利!

 

【ワタシがやりたい、こんなコト】

アウトドアに合うメニューで家族みんなを驚かせたい!

用意する食材が多くなりそうだけど、ママがデリカD:5ならたくさんの荷物を載せられるから平気だって。最近覚えたメニューで、アウトドアに合う美味しい料理を作ってみたい!

 

【ボクがやりたい、こんなコト】

みんなが知らない穴場で大物を釣り上げたい!

パパが川の源流に近い場所に絶好のポイントがあると教えてくれた。普通のクルマだと行けないポイントだけど、デリカD:5なら凸凹な道も平気。早く行って大物を釣り上げたい!

 

【プロも太鼓判!】デリカD:5は唯一無二のミニバンだ!

モータージャーナリスト
岡本幸一郎さん

初代デリカと同じ1968年生まれの日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。国内外のあらゆるカテゴリーを網羅する。

 

ミニバンとSUVのイイトコ取り、たっぷり載せてどこでも行ける

ミニバンとSUVを融合した独自のキャラがこれまでも多くの人から熱烈に支持されてきた1台。条件を問わず便利で快適に使えて頼りになる稀有な存在だ。最新版の洗練された走りや充実した装備には感心するほかない。

 

SUVと共通の電子制御4WD、最低地上高185mmを確保

外見はミニバンだが中身はSUVそのもの。本格的な四輪駆動システムを搭載し、最低地上高も185mmを確保しているのでどこでも行ける。

 

「AWC」と呼ぶ三菱独自の車両運動統合制御システム

前後の駆動力配分や4輪の駆動力と制動力を、個別にきめ細かく制御する独自システム。あらゆるシーンで正確に狙ったラインをトレース可能。

 

三菱初の尿素SCRを採用したクリーンディーゼルを搭載

パワフルでスムーズな新開発のディーゼルエンジンと8速のスポーツモードATの相乗効果は絶大。いたって軽やかな加速フィールも心地良い。

 

上質でプレステージ性へのこだわりを感じさせる空間

わかりやすい高級感のあるインテリア。快適装備類やインフォテインメント系も充実している。キルティング柄のシートは着座感も上々だ。

 

イラスト/安谷隆志(YDroom)

 

三菱「デリカD:5」の詳細はコチラ!

部屋には運転席まで!! 乗り物好きは部屋から出ない! 京都タワーホテル「電車の部屋」と「バスの部屋」

〜〜京都タワーホテルが京阪電車&京阪バスとのコラボルームを販売〜〜

 

観光都市・京都。通常なら、ホテルに到着後すぐに観光スポットへ……となりそうだが、乗り物好きが観光そっちのけで部屋にこもってしまうだろう“特別な部屋”が京都タワーホテルに誕生した。

 

用意されているのは、電車好き向けの2部屋と、バス好き向けの1部屋。期間限定のサービスで、先着順ながら非売品の特製プレゼントもあるという。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

 

【はじめに】京都駅中央口の目の前にそのホテルの部屋はある

京都駅の烏丸中央口(からすまちゅうおうぐち)の目の前にある京都タワーホテル。ランドマークでもある京都タワーと同じ建物内にあり、京都駅から徒歩2分という距離が魅力だ。

 

この京都タワーホテルが2020年の11月10日に用意したのが、「京阪電車トレインルーム8011号」。さらに、この3月1日からは「京都バスコンセプトルーム」、3月16日から「叡山電車トレインルーム」の提供を始めた。とにかく乗り物好きが泊まりたくなるような部屋なのだ。もちろん、家族で泊まっても楽しめるサービスも用意されている。それぞれどのような部屋なのか見ていこう。

 

【鉄道好きには①】京阪電車8000系をテーマにした部屋

京都タワーホテルは、京阪電気鉄道株式会社と同じグループである京阪ホテルズ&リゾーツ株式会社が運営するホテルだ。その縁を活かして京阪電気鉄道とコラボしたのが「京阪電車トレインルーム8011号」。京阪電車の特急8000系をテーマにした部屋である。

↑広々としたツインルーム。ベッドスローは京阪電車8000系の車体色を再現した。記念撮影用の8000系イラストパネルが用意される

 

ちなみに京阪電車8000系といえば、大阪と京都を結ぶ「京阪特急」としておなじみ。2階建て車両を連結、さらに有料のPREMIUM CARを連結する特急として人気がある。そんな8000系色が濃厚な特別な部屋を仕立て上げた。さっそく部屋の中を見てみよう。

 

壁には迫力ある8000系車両の写真がいくつも飾られている。さらに、ふだん間近で見ることができない「側面行先字幕」や「側面種別字幕」、また京阪線で使われたレールやバラストなどが展示。京阪電車の大きな路線図も貼り付けられ、さらに鴨東線(おうとうせん)開通&8000系誕生30周年記念のヘッドマークまで! どれも見入ってしまうアイテムばかりだ。

 

ホテルのフロントでは、京阪電車のDVDや書籍、プラレール(京阪電車8000系PREMIUM CAR!)の無料貸し出しといったファン垂涎のサービスもある。

↑窓近くには吊手や折り畳み式の補助イスが設置される。もちろん8000系と同じものだ。眼下には京都駅の烏丸中央口が望める

 

◆部屋番号のプレートは8000系そっくり

先に部屋の解説をしてしまったが、部屋のドアにも注目したい。京阪電車の正面には、下記の写真のように車両番号が記されている。その車両番号のデザインと、部屋の番号札がそっくりなのだ。数字のロゴ、プレートのデザインを見比べても、ほぼそのままだ。

 

この8011号。元の部屋番号は811号室なのだが、8000系にちなんで、4ケタにし、「8011号」としてしまったのである。鉄道ファンにしてみれば、このこだわりぶりがうれしい。

↑京都市内を走る京阪本線の8000系車両。正面の車両番号のデザインそっくりのプレート(左上)が部屋の入口に付けられる

 

この部屋に泊まると、うれしい特典もある。すでに配布は終わったが、先着宿泊50組までは「カットレール文鎮」(非売品)がプレゼント。本物のレールをカットしたぴかぴかの文鎮だった。さらに110組目までは「京阪電車オリジナルノート」(非売品)が1冊プレゼントされた。

 

110組目までに滑り込めなくとも、8011号室に宿泊中にSNSやブログなどに投稿すれば、投稿者全員に京阪電車ノベルティグッズが1点プレゼントされる(なくなり次第終了)。部屋を利用する場合の概要は以下のとおりだ。

 

○期間:2021年11月9日(火)まで。 
○利用:各日限定1室 ツインルーム(1〜3名まで利用可能) 
○宿泊料金:9000円〜/2名1室利用1名様料金(消費税・サービス料込み、宿泊税は別途)
※料金は宿泊日・人数で変動あり

 

【鉄道好きには②】さらに叡山電車とのコラボルームも用意

京都市内、出町柳駅から八瀬比叡山口(やせひえいざんぐち)・鞍馬方面を結ぶ叡山電鉄。鞍馬や比叡山への観光の足として利用されている。

 

この“えいでん”または“叡山電車”として市民から親しまれる叡山電鉄とのコラボ企画が3月16日から始まった。その名もずばり「叡山電車トレインルーム」。「京阪電車トレインルーム8011号」に負けず劣らず、とても鉄道色が濃い部屋なのだ。

↑部屋には、美しい紅葉の中を走る展望列車「きらら」の写真がたっぷり。右にみえるように叡山電車の運転機器も備えている

 

ドアを開けると、まさに“えいでん”一色。叡山電車といえば、紅葉が大人気の路線だが、そうした紅葉に包まれて走る叡山電車900系展望列車「きらら」の名シーンがいっぱい。さらに鮮やかなモミジ色、「EIDEN」の名入りベッドスローが目に入ってくる。

 

反対側の壁には1990年ごろまで多くの車両で使われたホーロー製の行先方向板や、側面に掲示された方向幕が掲げられる。当時の叡山電車の行先方向板は、やや小さめだったことがわかる。方向幕の中には「留置車」や「回送」という表示も。これは鉄道ファンにとって垂涎の品物でしょう、きっと。

↑ベッドの足元側の壁には30年ほど前まで使われていた行先方向板や、側面用の方向幕がふんだんに。まさにお宝級のインテリア!

 

さらに、さらに……。

 

◆触れてみたい!旧車両のマスターコントローラー

実際に使われていたマスターコントローラーとブレーキハンドルが部屋に装備されたのである。通称、「マスコン」または「マスコンハンドル」と呼ばれる機器は、いわずもがな、電車の速度制御に必要な機器だ。

 

同部屋に装備されたマスターコントローラーは、デオ600形という電車の運転台に実際に設置されていたもの。デオ600形は1979(昭和54)年から翌年にかけて6両が製造された形式で、2008年11月に廃車されている。今回、この部屋を飾る重要なアイテムとして10数年ぶりに公開されたわけだ。

↑部屋内に用意されたマスターコントローラーとブレーキレバー。イスも用意されているので、じっくりと感触を確かめたい

 

↑部屋の入口には「盆ラマ」が。名所「もみじのトンネル」をイメージした路線をメイプルオレンジ色の900系「きらら」が走る

 

これはじっくり感触を味わいたい装備だ。それこそ、この部屋に泊ることができた宿泊者の特権でもあるのだから。

 

ほかにも部屋の入口に900系展望列車「きらら」のNゲージ模型の「盆ラマ」が飾られる。ちなみに「盆ラマ」とは、盆栽ふうの小ジオラマのことだ。赤や黄色に色づく木々に包まれて走る「きらら」が絵になる。さらに、八瀬比叡山口駅で使われていたカットレール(本物のレールをカットした)の置物や、鞍馬線で使われたバラスト、また記念撮影用の「きらら」のパネルが用意される。部屋では運転席展望映像DVD「紅葉の叡山電鉄」を楽しむこともできる。

 

さらに、宿泊100組までは叡山電車「きらら」にちなんだオリジナルグッズがプレゼントされるというからうれしい。

↑宿泊50組目までは「きらら」のラバーキーホルダーが、51〜100組目までは「マルマン×きらら」のスケッチブックをプレゼント

 

○期間:2022年3月15日(火)まで
○利用:各日限定1室 ツインルーム(1〜2名まで利用可能)
○宿泊料金:9500円〜/2名1室利用1名様料金(消費税・サービス料込み、宿泊税は別途)
※料金は宿泊日・人数で変動あり

 

ちなみに、叡山電鉄の鞍馬線は2020年7月に起きた豪雨災害による土砂崩れで、市原駅〜鞍馬駅間の運転休止が続いている。ちょうど3月12日には、「2021年秋までを目処に運転を再開する見通し」ということが発表された。この秋には名物の「もみじのトンネル(市原駅〜二ノ瀬駅間)」のもみじが、鮮やかに染まる光景を、展望列車「きらら」の車内から楽しめることができそうである。

 

【バス好きには】京阪バスN1081車両の運転席を再現!

京都タワーホテルではこの3月から「京阪バスコンセプトルーム」の宿泊も受付け始めた。こちらはバス好き向けだ。

 

京阪バスコンセプトルームというように、同じ京阪グループの京阪バス株式会社とコラボして造り上げた部屋である。京阪バスといえば、白地に赤ラインと目立つ装いの路線バス、高速バスを走らせている。ホテルの眼下にある京都駅のバスロータリーでもこのバスの姿をよく見かける。

 

注目したいのは、部屋の中にバスの運転席が再現されていることだ。実際に走っていた京阪バスN1081車両の運転席を利用している。京阪バスN1081は2002年12月から2018年10月まで在籍していた車両だ。

↑京都タワーホテル911号室の室内。バスの運転席のほか、京阪バス方向幕パネルが飾られる。さらにベッドスローは白地に赤ライン

 

↑室内に設けられた運転席は、実際に在籍していた京阪バスの座席や部品が取り付けられた。降車ボタン付きにぎり棒なども装着される

 

◆部屋のプレートはバス停の表示にそっくり

部屋の細部を見ていこう。入口は、京阪バスのバス停表示を再現した丸型。そこに911号室とある。ドアを開けると窓側に設けられた運転席にやはり目が行く。走っていたN1081の運転席で、ハンドル、座席、インストルメントパネル、ミラー、さらにアクセルペダル、ブレーキペダル、サンバイザーまで付く。左上を見れば、運賃表示器まで装着されている。

 

部屋のインテリアも、実際に京阪バスの監修を受けて制作された。路線バスの車両写真に、京都遊覧案内図パネルや、京阪バス方向幕パネル、バス降車ボタン、スターフと呼ばれる運転指令票まで用意される。まさに運転席に座れば、路線バスの運転手になったような気持ちになれるわけだ。

↑911号室の入口には京阪バスのバス停表示にちなんだデザインが。もうこれだけでバス好きは気持ちが盛り上がりそうだ

 

↑天井にはバスに装着された出口パネルが付く。部屋内には京阪バスのミニュチュアカーも展示(左下)

 

◆150組目まで宿泊特典の特製プレゼントあり

さまざまな特典も用意されている。同部屋に宿泊した人には先着順(150組限定)で京阪バスのオリジナルグッズがプレゼントされる。

 

たとえば、10組目まではバス降車ボタン(非売品)がプレゼントされた。さらに11〜30組目までは下敷き(非売品)、31〜70組目まではクリアフォルダー(非売品)が。さらに71〜100組目は実際に使われていた方向幕をカットしたカット方向幕(非売品)、101〜120組目はミニチュアカー「ザ・バスコレクション第12弾」、121〜150組目は「バスたま」(何度ひっくりかえっても自動復帰して走る京阪バスオリジナルのおもちゃ)のプレゼントがある。

 

また同部屋を子ども連れで利用する場合には特別なサービスが。小学生以下で30分限定ながら「京阪バスの子ども用制服」を貸し出し、客室内設置のフォトブースで撮影ができるのだ。

 

バス好きには魅力的なサービス盛りだくさんである。

↑先着順ながらさまざまなプレゼントを用意。10組目まではバス降車ボタンがプレゼントされた。カット方向幕も30組のみにプレゼント

 

○期間:2022年2月28日(月)まで。 
○利用:各日限定1室 ツインルーム(1〜3名まで利用可能)
○宿泊料金1万円〜/2名1室利用1名様料金(消費税・サービス料込み、宿泊税は別途)
※料金は宿泊日・人数で変動あり

 

 

どの部屋も細部までこだわっており、乗り物好きを納得させることは間違いなし。すぐに予約して泊まるしかない!

気分転換&軽い運動にピッタリ! サイクリングを安全&楽しくする方法

関節への負担が少なく、短時間で遠くに行けるサイクリングは、コロナ禍でも気分転換として取り入れやすい。そこで今回は、サイクリングをより楽しむためのアイテムを紹介します。

※こちらは「GetNavi」 2021年3月号に掲載された記事を再編集したものです

 

デジタルギアを駆使してサイクリングを楽しもう

ドライブレコーダーが急速に普及しつつあるが、自転車にもサイクルレコーダーが登場してきた。最近は自転車での交通トラブルも増えているため、万一に備えて映像を記録しておくと安心。もちろん風景の記録用としても楽しめる。

 

また、スマホホルダーがあれば、サイクルナビなどを使用可能。下調べなしで思うままに走り、そこからナビで帰宅できるのは便利だ。

 

トレーニングを意識するなら、速度や走行距離を記録できるサイクルコンピューターがオススメ。どのくらい長く速く走れるようになったかが数値で見えるのが楽しい。心拍数を記録できる製品もある。

 

【No.1】万一の事態に備えて動画で記録を残す

サイクルレコーダー

カイホウジャパン

KH-BDR100

実売価格6980円

水平95度・垂直50度の範囲をフルHD(100万画素)で録画できるビデオカメラ。赤外線ライトで夜間も撮影でき、IPX5の防水性能も備える。バッテリーで約3時間駆動可能。64GBのmicroSDカードが付属する。

 

↑ブラケットを装着することで、ワンタッチで着脱可能。自転車を離れるときは取り外せて盗難防止になる

 

【No.2】スマホを装着すればナビの代わりに使える

スマホホルダー

ROCKBROS

スマホホルダー

実売価格1960円

5.8/6.0インチに対応したスマホホルダー。360度回転するので横位置でも使える。防水性能を備えるほか、遮光フードで斜めからの太陽や街灯などを遮断できる。内側にはポケットがあり、お金やカード、鍵などを収納可能だ。

 

↑前面は高感度のタッチ対応スクリーンを使用。ホルダーに収納した状態のまま、タッチ操作が行える

 

【No.3】ペダルの回転数表示で効果的にトレーニング

サイクルコンピューター

キャットアイ

PADRONE DIGITAL CC-PA400B

実売価格1万630円

自転車に取り付け、速度や走行時間などを表示・記録できる。無理なくトレーニングするために重要なケイデンス(ペダル回転数)も計測可能。スマホにBluetooth接続し、専用アプリでデータの記録と管理ができる。

 

↑大画面に大きな文字で表示。オプションの心拍センサーHR-12(実売価格5873円)で心拍数も計測できる

 

<「位置ゲー」と一緒ならご近所探索がもっと楽しく!>

ついつい長時間歩いてしまう、位置情報ゲーム(位置ゲー)も散歩のお供に最適。楽しく体力づくりができるうえ、近所の未知エリアを発見できる。

 

【その1】Pokémon GO

iOS/Android

ナイアンティック

Pokémon GO

無料(ゲーム内課金あり)

街に点在するポケストップで道具を手に入れ、ポケモンと闘って仲間にできる大ヒットゲーム。仲間にしたポケモンをチームにして、「ジムバトル」に参加できる。歩くことで卵からポケモンを孵化させることも可能だ。

 

【その2】ドラゴンクエスト ウォーク

iOS/Android

スクウェア・エニックス

ドラゴンクエスト ウォーク

無料(ゲーム内課金あり)

指定した目的地まで実際に歩き、クエストをクリアすることで「導きのかけら」を集めていく。バトルはドラクエおなじみのコマンド式。歩行中、自動的に戦闘や収集などをしてくれる「ウォークモード」も備えている。

 

【その3】TSUBASA+

iOS/Android

miraire

TSUBASA+

無料(ゲーム内課金あり)

人気漫画「キャプテン翼」の世界観を取り入れた位置ゲー。街の随所にあるサッカースタジアムに行き、選手とバトル。勝った選手は仲間になり、他のユーザーとの対戦に使えるようになる。Jリーグ所属の選手も登場。

自動運転バスがフードデリバリーもする! 掛け合わせのフェーズに入る「自動運転の実証実験」をレポート

〜〜WILLERが行った自動運転サービスの実験とは〜〜

 

自動運転機能の発展は目覚ましいかぎりだ。そうした技術力の向上に合わせるかのように、各地でさまざまな実証実験が行われるようになっている。今回は東京の東池袋で始まった、自動運転車両を利用した実証実験を見る機会を得た。

 

そこで目にしたのは、自動運転車両をさらに他のサービスに活かすという段階へレベルアップし始めていることだった。どのような実験内容なのか写真を中心に追ってみた。

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

【はじめに】日進月歩で進歩する自動運転。さらに次のステップへ

本サイトでは、2年ほど前に路線バスの自動運転実験の様子をレポートした。そこでは路線バスの車体を使って、一定区間を往復するという実証実験が行われていた。通常に利用されるバスながら、自動運転に対応した機器を搭載し、予定ルートの情報をインプットすれば、そのプランに合わせて自動的に走るというものだった。とはいえ、ドライバーは運転席に座り、ハンドルは触らないものの、いざという時に備えた姿勢を取り続けていた。

 

さらに予期せぬことが起きた場合には自動運転を解除して、手動運転を行うものだった。あくまで自動運転のシステムの確認および、レベルアップを図るための実証実験でもあった。

 

【関連記事】
大型バスにも自動運転の時代が到来!?「相鉄バス」実証実験レポート

 

これまでの自動運転実験は、バスを動かすということにポイントが置かれていた。予定の道路をスムーズに走れるか、動かせるか、停止するかどうか、というための確認という意味が強かった。しかし、ここ数年でその領域は終わり、次のレベルに向上しつつある。自動運転車両をどのように社会や人々の暮らしに活かしていくか、という段階に入ってきている。

↑東池袋で行われた実証実験に使われた小型バス。NAVYA ARMAという自動運転シャトルバスが使われた(詳細後述)

 

今回のWILLERが行う実証実験は、自動運転をさらに社会サービスに活かすことを目指すために行われたもの。同社のプランは東京都の「令和2年度自動運転技術を活用したビジネスモデル構築に関するプロジェクト」に選ばれた。つまり、自動運転車両を次のビジネスモデルへ活かすという領域を目指そうというプロジェクトなわけだ。

 

具体的には3月10日から16日にかけて1週間にわたる実証実験が、東京都豊島区の「としまみどりの防災公園(愛称:IKE・SUNPARK=詳細後述)」周辺の公道で行われた。地域の公共交通やサービスと連携した自動運転システムの構築に向けての実証実験となった。百聞は一見にしかず、具体的な実験の模様をレポートしたい。

 

【実証実験レポート①】実験が行われたIKE・SUNPARKとは?

さて、自動運転の実験が行われる東池袋の「としまみどりの防災公園」。池袋のランドマーク、サンシャインシティの東どなりに広がる公園だ。愛称は「IKE・SUNPARK」で、広々した芝生公園を中心に、デザイナーの水戸岡鋭治氏がプロデュースした「としまキッズパーク」や、カフェ、軽食のテイクアウトショップが点在する。訪れた日は気温が20度まであがり、絶好の公園びより。親子連れも多く見かけた。

 

同公園は、池袋駅から歩いて15分ほど、東京メトロ東池袋駅から徒歩5分ほどだ。ちなみに池袋駅からは「IKEBUS」というおしゃれな小型バスが走っている(乗車運賃:1乗車大人200円)。このIKEBUSを運行するのが、今回、実証実験を行うWILLERだ。IKEBUSは赤いバスで、水戸岡鋭治氏がデザインを担当している。10輪(片側5輪)の風変わりな形の小型バスで、屋根の上にはかわいらしい「イケちゃん」が乗っている。

↑2020年秋に開園した「としまみどりの防災公園」。園内に「としまキッズパーク」(左上)やテイクアウトフードを提供するお店も(右下)

 

WILLERという会社の概要を紹介しておこう。WILLERは「移動」をマーケティングし、テクノロジーを使って「移動」を変えていく会社とされる。実際にサービスとして提供しているのが、全国に高速バス網を展開している「WILLER EXPRESS」や、東京都内では「IKEBUS」という“まちなか交流バス”を、さらに、京都府北部と兵庫県北東部を走る「京都丹後鉄道」で列車の運行も行っている。

 

移動をマーケティングする会社だから、自動運転を走らせるだけでなく、走るエリアのニーズや目的に合わせた新たな移動サービスの提供をすべく、その有効性を検証しようという、今回の実験となった。

↑池袋駅からIKE・SUNPARKへはIKEBUSが便利。公園中央にバス停がある。10輪のかわいい赤いバスで1乗車は大人200円

 

【実証実験レポート②】実験に使われた小型バスNAVYA ARMA

IKE・SUNPARKの公園内に停まる白い小型のバス。今回、実証実験に使われるNAVYA ARMA(ナビヤ・アルマ)と呼ばれる車両だ。NAVYAは2014年創業のフランスの会社で、すでに自動運転シャトルバスや、空港で使う自動運転トーイングトラクターの生産を行っている。自動運転シャトルバスは20か国で使われていて、日本国内でも同社の自動運転車両が、すでに導入され活用されている例もある。

 

どのような車両なのか、車体の外観は、前述の写真を見ていただくとして、ここでは細部を写真で追ってみよう。

↑フロント中央に2D LIDARというセンサーが付く。車両位置の把握や障害物を検知する。フロントパネル右上に電源コンセントがある

 

↑車体上部の前面に付くのは3D LIDARというセンサー。円形部品の一つはGNSSアンテナ(人工衛星からの受信機)で、もう一つは通信用アンテナ

 

↑車両を真横から見る。このように乗降ドアは左右に開く。開口部は広く、乗り降りしやすい造りだ

 

自動運転機能の専門的な説明は、ここでは省略するが、最新のバスらしくおもしろい話しを聞くことができた。

 

天井部に通信用のアンテナがついている。このアンテナでは、随時、情報が取り入れられ、データなどのアップデートが行われているというのだ。シャトルバスなのだが、パソコンと同じで、随時、最新のデータに更新され、走行に活かされているというのである。アンテナは将来的に遠隔操作にも活用できるという。これまでの交通機関とは異なる新しさが、自動運転車両には隠されているわけだ。

 

ちなみに今回の自動運転レベルは、レベル2と言われるもの。レベル1の運転支援(自動ブレーキ、前のクルマに付いて走る、車線からはみ出さない)よりもワンランク上で、ドライバーによる監視が必要なシステムながら、特定条件下での運転機能までは認められている。レベル2の高機能化された運転機能とは、車線を維持しながら前のクルマに付いて走る、遅いクルマがいれば自動で追い越す、高速道路の分合流を自動で行うなどだ。

 

【実証実験レポート③】車内は広い! だがハンドルはない!

さて、乗降ドアが開き中を見せてもらう。ガラス窓が広く明るい。車内では鉄の太い棒・ロールバーが前後左右にあり、いかにも頑丈そうだ。さて車内を見渡すと運転スペースには……。

 

あれーぇ? ハンドルがない。これまで自動運転バスを見たことがあるが、どのバスも“一応は”ハンドルが付いていた。この自動運転車両にはハンドルがないのだ。

 

ハンドルの代わりにコントローラーが用意されていた。筆者はゲームには詳しくはないものの、ゲーム機のコントローラーが使われているそうだ。ハンドルというどのクルマにもある“常識”が自動運転車両には、あてはまらないわけである。

↑ドアの開閉ボタンは大きく丸い造り。両側に開くドアの造りで、床は低く乗り降りしやすい

 

↑通常ならば定員は14人。今回は、コロナ禍もあり少ない乗車人数で公開が行われた。ハンドル代わりにコントローラーが付く(左下)

 

【実証実験レポート④】自動運転のバスに乗車してみると

今回の実験ではIKE・SUNPARK周辺の公道を含む1周半約1.4km(約15分間)のコースと、1周約600m(約8分)のコースを走る。報道陣への公開では1周を走るコースの乗車を体験することができた。最高時速19kmと低速ながら、都内の混みがちな道路であり、また工事箇所もあり、自動運転の実験には逆に役立ちそうだと感じた。

 

最初に外から走る様子を見たところ、2〜3歳児のよちよち歩き的な印象はあった。しかし、実際に乗ってみると、まったく異なりスムーズさが感じられた。時速は19km以下と抑えられていたが、加速感、減速感が感じられる。

↑東池袋の公道を走る自動運転バスNAVYA ARMA。これだけ周りにバスやトラックがいても問題なく自動運転が可能でスムーズに走る

 

↑フロントガラスは広々。安全確認を行うセーフティオペレーターは立ったまま前方をチェックしているが、バスはほぼ自動で走る

 

↑後部座席からみた背景の様子。ガラス窓は広く、障害物が無いため写真のように後ろがよく見える

 

公道をひとまわり、公園に入る段差の前で、運転手(同車両ではセーフティオペレーターと呼ぶのだそう)が、コントローラーを微妙に動かしていた様子がうかがえた。運転終了後に聞いたところ、これは、歩道を歩く歩行者がいたので、一応、自動運転を解除して、手動にして走ったのだそうだ。

 

センサーが歩行者を感知し、急ブレーキがかかることがあると言う。なるほどと思った。とっさの時には通常のバスでも急ブレーキが使われることがある。自動運転バスでもそれは同じで、機械がそれを感じたら急ブレーキがかかる。今回は、報道陣への公開ということで運転手が気をきかして、穏やかな運転で走るように、そうした操作していたのだった。

 

【実証実験レポート⑤】テイクアウトを運ぶツールとして利用を

自動運転車両の実験では、どうしても自動運転のバス自体に目がいきがちになる。だが、今回の実験は、他のサービスに関してのウェイトが高い。その一つは自動運転車両を使っての「デリバリーサービス」だ。どのようなサービスなのか、概要を見せてもらった。

 

まずはアプリを使い店舗に食事をオーダーする。オーダーが店のスタッフのタブレット端末に表示される。その表示に合わせて、テイクアウトメニューを用意する。それがどのようにオーダーした人に渡るのだろうか。

↑まず料理をアプリで店に発注する(右上)。店のスタッフのタブレットに「新しい注文が入りました(右下)」という表示が出る

 

店のスタッフは自動運転のバスが到着するまでにメニューを用意。そのバスが到着したら、そのバス内にあるデリバリー専用ボックスにメニューを積み込む。積まれたバスは自動運転して走り、オーダーした人が指定した受け取り場所まで運び自動停車。オーダーした人は、止ったバスに乗り込み、デリバリー専用ボックス内に載せたメニュー(商品)を受け取る。東池袋ではこうした内容のサービスを想定した実験が行われる。

↑店の人がバスのデリバリー専用ボックスに料理をいれる。自動運転したバスが近づくとアプリで表示(下円内)、発注主が受けとる

 

このシステムならばアプリをインストールしておけば、発注した人が外にいても受け取れる仕組みで便利だ。さらに将来、活用範囲が広がれば、より便利になりそうだシステムと感じた。

 

【実証実験レポート⑥】ルート検索して自動バスから路線バスへ

デリバリーサービス以外に、自動運転車両と公共交通機関の乗り継ぎがスムーズに行えるように実験が行われている。

 

WILLERのアプリを入れて試してみた。IKE・SUNPARKの外れにいたとして、池袋駅まで行く場合。アプリには地図画面があって、持ち主の場所がまず表示される。そして駅を行先としてインプットする。自動運転バスが同地点に向って乗客を乗せて、乗り継ぎ地点へ。ここでIKEBUSに乗換えればゴールの池袋駅へ到着するというわけだ。

 

アプリにはこのルートを利用すれば、○時○分に到着するという情報も検索される。到達時間も出てくるので便利だ。

↑上のアプリ表示のように地図検索すると、乗り継ぎ情報が出る。検索情報の通り自動運転車両からIKEBUSに乗換えれば便利というわけだ

 

公共交通機関の自動運転技術は、ドライバー不足などの理由から研究され、進歩しつつある。将来的には、バスの運行センターなどの施設で、オペレーターが管理運行することにより自動運転の車両が多く走ることになるのだろう。このことにより、都市部のバスはもちろん、利用者が少なくなった路線や、過疎化が進む地方の路線も、廃止されることなく、バスの運行なども持続が可能になっていく。

 

さらに、今回実証実験を行うサービスなどに拡大され導入されていけば、自動運転車両が走る沿道ならば、デリバリーが容易に利用できるようになる。また乗り継ぎ情報も同じことだろう。こうした自動運転システムを使ったサービスは他にも多様な広がりを持ちそうである。どのような世界に広がっていくのか期待が膨らむ。

誕生から半世紀!国鉄交直流電車「415系」などの最新状況を追う

〜〜国鉄形電車の世界その10 交直両用近郊形電車・交流近郊形電車〜〜

 

国鉄形電車の世界ということで、これまで直流電車を中心に見てきた。今回は、国鉄時代に生まれた交直両用および交流電車を見ていきたい。なかなか個性的な電車が今も九州と北陸地方を走っている。

 

残念ながら北陸地方ではこの3月で消えていく車両があるものの、引き続き走らせる第三セクター鉄道がある。今や希少になりつつある車両たちを追った。

 

【はじめに】九州を中心に長らく走った415系にも引退の動きが

今でこそ新幹線の路線をはじめ珍しくなくなった交流電化区間。交流電化は送電ロスが少なく地上設備のコストを低く抑える利点がある。

 

国内の交流電化の起源をたどると、その歴史は意外に浅い。1955(昭和30)年に仙山線がまず電化され、交流電化の試験が始められた。その後に北陸本線で1957(昭和32)年から、東北本線で1959(昭和34)から交流電化が進められ、徐々に全国に広まっていった。

 

ただし、電化は進んだものの対応する車両に関しては試行錯誤が続いていた。地域による商用周波数の違いが課題となった。東日本は50Hzで、西日本は60Hzと周波数が異なる。こうした経緯もあり試行錯誤が続いていたが、そんななか、その後に大きな影響を与える名車両たちが生み出された。

↑交直両用特急形寝台電車583系。直流と交流50/60Hzの3電源区間を走ることができた。2017年に引退 2010年12月18日撮影

 

当初に生まれた交直両用電車は直流電化区間と、交流ならば、50Hzもしくは60Hzどちらかのみに対応する車両だった。その後に直流および、交流50Hzと60Hzの両周波数への対応を可能にした車両が生み出される。まず特急形電車485系が1968(昭和43)年に登場する。同年には特急形寝台電車583系も生まれた。また電気機関車では3電源に対応するEF81形交直流電気機関車が1968年に登場した。さらに1971(昭和46)年に近郊形電車の415系が誕生したのだった。

 

これらの車両は、交直流電車また電気機関車としては、まさに標準タイプとなり、その後、長年にわたり交直両用区間を走る列車に使われ、また後世の車両開発をする上で大きな役割を果たした。

 

◆JR東日本の415系はすでに全車が引退に

交直両用近郊形電車として開発された415系。生まれて今年で50年、ちょうど半世紀になる。製造された期間は非常に長く、国鉄からJRとなった後にも製造が続き、1991(平成3)年まで計488両が製造された。それだけ技術に定評があり使い勝手の良い車両だったのであろう。

 

うち国鉄時代生まれの415系はJR東日本とJR九州に引き継がれ、JRになった後に800番台がJR西日本により造られた。

↑水戸線を走ったステンレス車体の415系1500番台。JR東日本の415系は2016年6月に営業運転が終了した 2013年9月19日撮影

 

JR東日本の415系は常磐線を中心に水戸線などで長らく活躍した。最後に残った415系は軽量ステンレス車体の1500番台だったが、これは国鉄最末期の1986(昭和61)年から造られたもの。現在の211系にも通じる、正面デザインがFRP成形によって造られている。ちょうど30年目の2016年3月のダイヤ改正時に勝田車両センターの車両の定期運用が終了。6月に「ありがとう415系号」が運転され、最後の別れとなった。残る415系は、JR九州とJR西日本のみとなっている。

 

◆関門トンネルと越えるために欠かせないJR九州の415系

JR九州に残る415系は車両数も多くバラエティに富む。配置されている車両基地と細かな違いは後述するが、3か所の車両基地に計160両(2020年4月1日現在/保留車両8両を含む)が配置される。

↑鹿児島本線を走る415系。後ろに正面デザインが異なる415系1500番台を連結して走る

 

ここまで生き延びている大きな理由は、JR九州では唯一の交直両用電車だったからだ。JR九州では、路線の大半(筑肥線・唐津線を除く)が交流電化区間だ。保有する電車は交流電車が大半をしめる。ほかは筑肥線、唐津線を走る直流電車のみだ。JRとなった後には、自社で交直両用電車を新造していない。とはいえ、関門トンネルを越える山陽本線の門司駅〜下関駅間は、交流から直流に電源が変わる区間で、このトンネルを越えるためには交直両用電車が必要となる。関門トンネルを越える旅客列車はすべてJR九州の電車によって運行されている。対応する新型電車を造らない限り、415系を廃車にしてしまうわけにはいかないわけだ。

 

ただ、徐々にだが、415系の初期タイプの車両の引退が報告されている。関門トンネルを抜ける以外の列車には、今後、後継車両に引き継がれていくものと思われる。

 

【415系が残る路線①】南福岡車両区の415系は1500番台のみ

まずは九州の中心、福岡市にある南福岡車両区の現状から見ていこう。

 

◆車両の現状:1500番台のみ48両が配置される

鹿児島本線の南福岡駅に隣接する南福岡車両区。筆者も九州を訪れると、南福岡駅に降りて、車両基地内をチェックすることが多い。5番線のホームからは、停まる電車が手に取るように見える。そこに配置される415系は1500番台。前述したように軽量ステンレス製の車体で、正面の姿は211系と同じくFRP成形で、415系の仲間の中では新しいタイプである。座席はロングシート仕様だ。

 

この415系1500番台が4両×12編成の計48両(2020年4月1日現在)が配置されている。

↑長崎本線を走る415系1500番台。座席はロングシートで、朝夕のラッシュ時に多くが活かされている

 

◆運用の傾向: 関門区間をはじめ鹿児島本線など朝夕の運用が多い

細かい運用は、3月のダイヤ改正で変わる可能性があるので、ここでは避けたい。運用区間と、傾向のみを見ておこう。

 

運用される区間は広い。山陽本線の下関駅〜門司駅間。鹿児島本線の門司港駅〜熊本駅間。日豊本線の小倉駅〜新田原駅(しんでんばるえき)間、長崎本線全線、佐世保線の肥前山口駅〜早岐駅(はいきえき)間を走る。

 

関門区間を除き、南福岡車両基地の415系は、朝夕晩の運用がほとんどだ。JR九州の電車の座席はクロスシートが多いが、415系1500番台はロングシート。その座席配置がラッシュ時に活かされている形だ。

 

【415系が残る路線②】広範囲に走る大分車両センターの415系

◆車両の現状:2扉の3000番台が主力となって走る

日豊本線の牧駅近くにある大分車両センターに配置される415系は88両(2020年4月1日現在/保留車8両を含む)と多い。うち4両×18編成、計72両が100番台と200番台にあたる。415系100番台・200番台は、1978年から製造されたグループで、セミクロスシートの座席配置だが、クロスシートの座席間のシートピッチがやや広げられている。狭いと不評だったそれまでの415系のシートピッチの幅をやや広げたグループというわけだ。

 

100番台・200番台は1984年まで造られたが、最も新しい車両でも約40年に近いわけで、大半の編成が延命工事を受けている。とはいえ、415系の最も車歴の長いグループと言って良いだろう。塗装は白をベースに太めの青い帯が入る。この塗装は1500番台を除きJR九州の415系に共通するカラーだ。

↑大分車両センターの415系は日豊本線の佐伯駅まで走る。415系は日豊本線の列車運用に欠かせない車両といって良いだろう

 

大分車両センターにはロングシート仕様の500番台・600番台の4両1編成が配置されているが、こちらは保留車扱いとなっている。さらに正面の形が異なる415系1500番台も4両×2編成、計8両が配置されている。

 

◆運用の傾向: 遠く長崎本線、佐世保線までも走る

大分車両センターの415系の運用範囲は、非常に広い。まずは山陽本線の下関駅〜門司駅間。鹿児島本線の門司港駅〜八代駅間。日豊本線の小倉駅〜佐伯駅(さいきえき)間、長崎本線(鳥栖駅〜肥前山口駅間)、さらに佐世保線を走る。鹿児島本線では、現在、肥薩おれんじ鉄道の路線となっている区間の北側全区間を走っているなど、南福岡車両基地の415系よりも、広い運用範囲となっている。

 

走る時間帯も、日豊本線を中心に日中も走っている。オリジナルな姿を残す415系に、九州の多くの電化区間で出会えるわけだ。

 

【415系が残る路線③】鹿児島車両センターの415系は500番台

◆車両の現状:ロングシートで鹿児島市近郊の路線で活かされる

JR九州の415系が配置される車両基地、3か所めが鹿児島車両センターだ。鹿児島車両センターは、鹿児島中央駅の南側にある車両基地だ。鹿児島車両センターの415系はすべてが500番台・600番台で、4両×6編成、計24両が配置される。

 

500番台・600番台は1982年からの製造と、オリジナルな姿を残す415系の中では比較的、新しいグループに入る。すべてがロングシートの座席で、元は常磐線用に造られた。国鉄最末期の1986(昭和61)年に南福岡電車区に4編成が転籍し、その後にJR東日本から2編成がJR九州に譲渡された。415系500番台・600番台で残る編成の大半が、今は鹿児島車両センターに配備され、走り続けているわけだ。

↑鹿児島駅を発車した415系。行先に「川内」とあるように鹿児島本線の鹿児島県内区間を通して走る列車だ

 

◆運用の傾向: 鹿児島本線と日豊本線の一部区間を走る

運用の範囲は鹿児島本線の鹿児島駅〜川内駅(せんだいえき)間と、日豊本線の鹿児島駅〜都城駅間となる。川内駅から八代駅間まで、今は肥薩おれんじ鉄道となっている。改めて見ると鹿児島本線は、南の鹿児島県内と、北の門司港駅〜八代駅の区間すべてを415系が走っていることになる。

 

現在の運用区間は前述の通りだが、鹿児島車両センターには2両編成の817系が多く配置されている。両路線に運用を見る限り、2両編成の817系が主力で、4両編成の415系は朝夕のラッシュ時の運用が多いようだ。

 

【415系が残る路線④】JR西日本415系はあと数日でお別れに

◆電化後の七尾線を30年間走り続けた415系800番台

↑七尾線に縁の深い輪島塗にちなみ赤色に塗られた415系800番台。3月13日以降は全車が521系100番台に入れ替わる

 

415系はJR西日本にも残っている。113系を改良した“わけあり”の415系800番台で、形は113系に近い。なお詳しい車両の特徴は2週前の記事を見ていただきたい。

 

【関連記事】
2021年すでに消えた&これから消えていく?気になる車両を追った【前編】

 

こちらが走り始めたのは七尾線が電化された1991(平成3)年のこと。今年でちょうど30年となる。113系からの改造なので、もちろん30年以上の車歴を持つ電車となるが、残念ながら3月12日までの運行となる。

 

【残る交直流電車】JR西日本の413系は消えるものの

七尾線を長く走ってきた415系とともに3月12日で引退となるのが413系である。413系は直流区間と、交流50/60Hzの3電源区間を通して走れる近郊形電車だ。経営状態がひっ迫していた国鉄最末期らしく、新製ではなく、既存の交直両用の急行形電車の部品を使い回して造られた車両だった。

 

415系と正面などの姿はほぼ同じだが、正面上部にある行先案内の部分が埋められ平坦に、また乗降扉が2つというところが415系と異なる。

 

31両が石川県の旧松任工場(現・金沢総合車両所)で改造された。そして長らく改造された同車両所に配置され、北陸地区を走り続けてきた。金沢総合車両所に18両(クハ455の2両を含む)が配置されていたが、3月12日で運用が終了となる。

↑2012年以降、青色単色塗装となった413系。JR西日本に残る413系は赤色単色塗装(右上)に変更された

 

◆あいの風とやま鉄道の413系は残る、そしてうれしいニュースも

JR西日本の413系は3月12日で、すべて定期運行が終了となる。一方で2015年に旧北陸本線を引き継いだあいの風とやま鉄道に、5編成、計15両が譲渡された。こちらの413系は全編成が残る。

 

そのうち2編成は観光列車の「一万三千尺物語」と「とやま絵巻」と改造された。こちらは改造されて間もないだけに、今後、かなりの年数は走り続けることになりそうだ。

↑あいの風とやま鉄道の413系「一万三千尺物語」号。車内で富山の幸が楽しめる観光列車で、週末および祝日に運行される

 

さらに413系を巡ってはうれしいニュースがあった。えちごトキめき鉄道が金沢総合車両所に配置されている413系3両を引き取ることを3月1日に発表した。えちごトキめき鉄道の現在の社長といえば鳥塚 亮氏。以前に勤めていた千葉県のいすみ鉄道では、国鉄形の気動車を引き取り観光列車として仕立てた。地方のローカル線の救世主といっても良い人である。鳥塚氏から近々この引き取る413系に関して、詳しい発表があるということなので、期待したい。

 

【残る交流型電車】わずか8両の713系が宮崎で今もがんばる

ここでは、わずかに残る国鉄時代に生まれた交流型電車を見ておきたい。交直両用の電車は多くの車両数が造られた。一方で新幹線用の電車を除き、国鉄は在来線向けの交流専用の電車をあまり積極的に開発していない。

 

交流専用の近郊形電車として造ったのは、北海道用の711系と九州用の713系のみだった。あとは改造した車両もしくは、旧形車両の機器を流用して製造した車両だった。

 

◆宮崎によく似あう鮮やかな「サンシャイン」号

↑宮崎空港線を走る713系。車両前面に「サンシャイン」のイラストと文字が入る。色は南国宮崎によく似あう鮮やかなレッドだ

 

713系は九州用に造られた交流型電車だ。九州では交流方式による電化が進められていたが、当初、電気機関車が牽引する普通列車が主体だった。国鉄では電車化し、効率化を図りたいこともあり、徐々に電車を導入していく。415系とともに、583系を改造した交流型電車715系などを利用していたが、車両不足が問題となっていた。そんな時に長崎本線用に導入されたのが713系電車だった。1983(昭和58)年のことだった。

 

当時、国鉄は財政ひっ迫に苦しんでいた。本来は量産化する構想もあったようだが、結局のところ713系は試作分の8両(2両×4編成)しか製造されなかった。だが、713系により営業運転を重ねたことから、技術的な成果を得ることができた。713系で培った技術は、その後に九州を走る783系や787系特急形電車や、811系近郊形電車に活かされている。

 

8両と少ない713系だったが、当初、南福岡車両区に配置された。1996(平成8)年に鹿児島車両センターに転籍し、以降、宮崎地区での運用が続けられている。この移動と共に、車体の色は鮮やかな赤色ベースに変更され、また車両の愛称も「サンシャイン」とされた。

 

運用区間は日豊本線の延岡駅〜西都城駅間と、宮崎空港線となっている。宮崎駅のお隣、南宮崎駅の構内に宮崎車両センターがある。気動車が配置される車両基地だが、713系も宮崎地区専属の車両ということもあり、運用がない時間帯にはこの駅構内の側線に停められていることが多い。

 

【記憶に残る交直両用電車】“食パン列車”に急行形交直流電車

◆寝台特急583系を普通電車に改造した419系電車

今回は、最後に記憶に残る交直両用電車を2車両とりあげておきたい。交直両用電車は、国鉄晩年に造られた車両が多いせいか、個性的かつ、悪い言い方をすれば“間に合わせ”的な車両が目立つように感じられる。変動期だった時代ということもあり、さまざまな電車がこの時代に生まれ使われた。今から見ると玉石混合の車両が走った時代で、非常に面白い。

 

419系という国鉄近郊形電車をご存知だろうか。特急形寝台電車583系もしくは581系を改造した近郊形電車だった。特急形寝台電車というユニークな発想で造られた583系は、日中は座席車、夜間は座席を寝台に代えて走らせる電車だった。まさにCMではないが“24時間戦えますか”というような“猛烈”時代の申し子的な電車だった。

 

とはいえ、時代は変っていく。座席は快適とは言えず、また寝台も3段式。座席から寝台へ変更する方法も複雑で、専用スタッフが必要になるなど問題もあった。583系は434両も製造されたのだが、新幹線網が拡大された時代でもあり、1980年代に入ると大量に余剰車両が出てしまった。

 

この寝台電車を改造して生まれたのが交直両用電車の419系であり、また交流専用に改造された715系だった。419系は45両、そして715系は108両も改造されている。いずれも国鉄末期の1984年、85年に改造されている。財政悪化の時代で、低コストで、改造が可能なようにと計画され、2回の全般検査を行う8年程度と短期間の使用を目処に生み出された車両だった。

 

↑天井が高い造りの419系。中間車の改造車両は “食パン列車”とも呼ばれた。右下は先頭車を利用した419系 いずれも2010年7月17日撮影

 

“間に合わせ”的な発想というか、元となった583系にしても新幹線路線の計画を考えれば、場当たり的に大量に造ってしまったように感じられる。振り返ってみると、国鉄の現在のような民間企業でない太っ腹さが裏目に出た車両だったといってもいいかも知れない。改造元の583系としても12両編成と長い編成が多く、それを3両編成と小分けにし、しかも乗降扉を2つ設けるなど大改造をしているわけで、改造費が安く済んだとは言いがたかったろう。

 

そんな583系を改造した419系、715系だったが、JRになった後にも使われ、交流専用機の715系は1998年と引退が早かったものの、419系にいたっては2011年までは北陸本線で使われ続けた。国鉄時代に8年程度もたせられればというプランで造られた419系も、改造後に30年近く走り続けたわけである。

 

それこそ“場当たり”的な改造電車も、583系の丈夫さが活かされ、長く使うのに適した車両だったということなのかも知れない。

 

◆北陸をつい最近まで走った急行形交直流電車475系

最後まで残った419系が北陸地区を走ったように、同地区にはつい最近まで交直両用の急行形電車が残っていた。国鉄の急行列車は、特急の下にランク付けされた優等列車で、急行券を購入して利用した。特急に比べてスピード、快適さは劣るものの、大量輸送時代、鉄道旅のスタイルとして確立されていた。筆者も幼いころに、両親につれられて、よく急行の旅を楽しんだ。

 

そんな急行形電車もJRとなり急行列車自体が、減るにつれて活躍の場がなくなり、その後に全廃された。そのため急行用に造られた電車は、近郊形電車と同じ使われ方をされるようになっていく。

↑敦賀機関区の催しでトワイライトエクスプレスを牽くEF81と475系が並んだ。同地には交流電化発祥之地の碑がある。2014年11月16日撮影

 

475系は交直両用の急行形電車の一形式である。形式名の異なる仲間が多く造られた。まず生まれたのが交流50Hzに対応の451系と、60Hz対応の471系だった。この2タイプは電動機出力が100kWと弱かったこともあり、その後に120kWの電動機に変更した50Hz対応の453系と60Hz対応の473系が生まれている。さらに453系と473系に勾配抑速ブレーキを積んだ455系と475系が生まれている。

 

交直両用の急行形電車は大半が2000年代で消えたが、北陸の金沢総合車両所には長らく配置され、使われ続けていた。電動車はモハ475やクモハ475で、制御車はクハ455、また増結用にはサハ455という、数字の異なる編成でいささか分かりにくかったが、クハ455を含めて475系と見て差し支えないだろう。すでに電動車は2017年で消えている。だが、実は413系と編成を組んでいるクハ455が2両のみ残されていた。

 

すでに電動車が消えているため、形式消滅と思われている475系なのだが、編成を組んでいたクハ455は制御車として目立つことなく走り続けていたのである。このクハ455も3月12日でその長かった役目を終えることになる。ちょっと寂しい春の訪れである。

新快速として輝き放った国鉄近郊形電車「117系」を追う

〜〜国鉄形電車の世界その9 「117系」「211系」「213系」〜〜

 

スピードランナーといった風貌の117系、国鉄最末期に生まれた211系と213系。それぞれ、直流近郊形電車を代表する車両として長らく走り続けてきた。

 

今回は、“新快速”として東海道・山陽本線を走った117系を中心に、今も多くが活躍する211系、車両数は少ないながらもローカル線を走り続ける213系と、国鉄近郊形電車のいまに迫ってみよう。

 

【はじめに】JR西日本の117系にも徐々に引退の動きが

大阪出身の友人いわく「新快速はなあ、新幹線よりも速くて安くて便利なんやでぇ」。30年以上も前に聞いた言葉を、今も鮮明に覚えている。関西の人たちにとって、「新快速」は他所の人たちについ誇りたくなる電車ということだったのだろう。もちろん新大阪駅〜京都駅間のみならば、新幹線のほうが早い。だが、大阪駅〜京都駅間と広げて見れば侮れない速さと手軽さなのである。

 

友人が誇らしげに語った「新快速」の電車といえば、そのものずばり117系直流近郊形電車を指したものだったのであろう。1979(昭和54)年に登場、1986(昭和61)まで216両が製造された。117系が登場するまで、新快速には急行形電車の153系が使われていた。急行形ということで乗り心地は良かったものの、昭和30年台の誕生と古く、ボックスシートなどの車内設備が陳腐化しつつあった。

 

◆平行して走るライバル社との競争が117系を生み出した

東海道本線が走る大阪〜京都間には、阪急電鉄京都線と京阪電気鉄道京阪本線がほぼ平行して走る。古くから競争がし烈で、私鉄の2線ではすでに転換クロスシートを取り入れた車両が走り、好評を得ていた。そうしたライバル路線との競争に負けないようにと国鉄が生み出したのが117系だった。

↑クリーム色のベースにブラウンの細帯が入る117系登場時の原色カラー。現在、同色の車両は走っていない 2015年9月22日撮影

 

117系が誕生するまで、国鉄の通勤形電車、近郊形電車は全国で利用ができる標準的な車両を生み出す傾向が強かった。しかし、関西圏では競争が激しかったこともあり、乗りたくなる魅力を持った電車の開発に乗り出した。そうして生まれたのが117系だった。急行形を上回る乗り心地と、快適な室内設備をかね備え、同じ近郊形電車の113系の最高運転速度が100km/hに対して、117系は110km/h(西日本の117系は115km/h)とより速く走れるような造りだった。

 

登場以降、好評となり1999(平成11)年まで20年にわたり新快速として走り続けた。1982(昭和57)年には東海地区にも117系が導入されている。こちらは「東海ライナー」という愛称で走り始めた。

 

◆117系が残るのはJR西日本のみに

国鉄からJRに変わって以降、117系はJR西日本に144両が、JR東海に72両が引き継がれている。それから30年以上たった117系の現状は……? すでにJR東海では2013(平成25)年3月のダイヤ改正時に定期運用が終了、翌年1月で全車が引退している。

↑東海道本線の稲沢駅付近を走るJR東海の117系。白地にオレンジ色の帯が巻かれていた。左に愛知機関区が見える 2011年5月22日撮影

 

残るのはJR西日本の82両(2020年4月1日現在)となっている。まだ“大所帯”なものの、ここ数年、廃車や移動する車両がやや見られるようになってきた。例えば、2019年まで吹田総合車両所日根野支所・新在家派出所には117系は20両が配置(2019年4月1日現在)され、紀勢本線などを走り続けていた。オーシャンブルーに塗装された華やかな姿の117系だったが、翌年までに同車両基地の117系は、引退および、一部が別の車両基地へ移動となった。

 

今後、JR西日本では経年33年以上たった車両、すなわち国鉄時代に誕生した車両の置換えを行うとしている。そのうち車両置き換えが具体化しているが113系と117系で、約170両を新製車両に置換えるとされる。置換え予定の年度は2022〜2025年度とのことだ。

↑オーシャンブルーの華やかなカラーで紀勢本線などを走り続けてきた和歌山地区の117系。2020年で消滅している 2018年10月13日撮影

 

和歌山地区の117系がわずかな期間で消えたように、置換えが始まると、あっという間に、ということになる。40年にわたり活躍してきた117系も、徐々に消えていきそうな気配だ。最後の“職場”となりそうな2つのエリアの117系の活躍ぶりを見ていくことにしよう。

 

【関連記事】
残るは西日本のみ!国鉄近郊形電車「113系」を追う

 

【117系が残る路線①】渋い濃緑色で走る湖西線・草津線の117系

まずは117系が最も多く走る京都地区に注目してみよう。

 

◆車両の現状:京都地区に残る117系は“実質”52両のみに

京都地区を走る117系はすべて吹田総合車両所京都支所に配置されている。その車両数は56両(2020年4月1日現在)、後に新在家派出所に配置されていた2両が加わり58両になっている。そのうち6両は観光列車「WEST EXPRESS銀河」に改造された車両なので、普通の117系は52両と見て良いだろう。

 

その多くが300番台だ。300番台は福知山線用に改造された車両で、乗降時間をスムーズにするために、扉付近の転換クロスシートの一部をロングシートに変更していた。福知山線での運行が2000年で終了した後に京都地区へ移っている。

 

京都地区を走る117系は、以前はクリーム色にブラウンの細帯の117系の原色カラーに塗られた編成もあったものの、その後に地域色の緑色一色に塗り改められている。京都に宇治という茶の産地があるせいか、鉄道ファンからは“抹茶色”とも言われるカラーだ。

↑緑一色で走る京都地区の117系。同路線を走る113系に比べて重厚な印象に見える

 

◆運用の現状: 6両での運行が多いせいか朝夕の運用がメインに

京都地区を走る117系は湖西線の列車と、草津線の列車に使われている。湖西線の列車は京都駅〜永原駅間、草津線の列車は主に草津駅〜柘植駅(つげえき)間を走る。

 

運用の傾向を見ると、どちらの路線も朝夕の運用が目立つ。これは両区間を走る113系とのかねあいがあるためだ。113系は4両編成で、利用者が少なくなる日中は113系が4両編成で走ることが多い。また113系の場合に朝夕は2編成を連ねた8両で走る運用が多くなる。対して、117系は6両編成がメイン(1編成のみ8両編成)のため、どうしても利用者が多くなる朝夕の運用が増えている。

↑湖西線の近江高島駅〜北小松駅間を走る上り列車。朝8時少し前に通る列車で、このあと30分後にも117系運用の上り列車が1本走る

 

それぞれの路線の運用傾向を詳しく見ると。まず、湖西線は京都駅発の下りが6時台〜9時台まで各一本ずつ、以降は14時台〜17時台まで1〜2本ずつ、あとは20時台に2本が走る。行先は近江舞子駅行、または近江今津駅行が目立つ。上りは下りのほぼ折り返し列車だ。

 

一方の草津線では、113系の運用が多くなっていて、117系はこちらも朝晩の運行が多い。京都駅発(一部は草津駅発)、柘植駅行きは京都駅発16時23分以降のみと極端で、22時台までに計5本が走る。117系で運行される列車は夜の柘植駅行きの戻りは翌朝で、柘植駅を早朝5時40分発と、7時42分発、日中はなく、17時以降、21時まで3本の京都駅行き、草津駅行き列車がある。こう見ると、草津線で陽がある時間帯に走る列車は、柘植駅発7時42分、京都駅9時2分着ぐらいに限られるわけだ。

 

なお、これらの運用は、ダイヤ改正が行われる前日の3月12日までのものなので、ご注意いただきたい。

 

【117系が残る路線②】岡山地区を走る黄色一色の117系

◆車両の現状:2扉の3000番台が主力となって走る

瀬戸内海に面した山陽3県の中でも、岡山は国鉄近郊形電車がまだ主力として使われている。113系、115系、さらに105系、213系(後述)が中心だ。117系もその中では少なめながら岡山電車区に24両が配置されている。

 

岡山電車区の117系は、基本番台が4両×3編成と、100番台が4両×3編成という内訳だ。ちなみに100番台は循環式汚物処理装置付きのトイレを持つタイプだったが、当初に配置された岡山電車区に、同処理装置への対応したシステムが無かった。そのため山口地区へ一度、移動されていた。その後に、トイレの汚物処理装置がカセット式に取り換えられ、岡山へ再び戻ってきている。

 

塗装は「快速サンライナー」に利用されていたことから、2016年まで専用のサンライナー色で塗られていた。現在は全車が中国地域色の濃黄色に塗り替えられている。

↑岡山地区を走る117系は、全車が4両編成。2016年まではサンライナー色の117系も走っていた(右上)が、現在は全車が濃黄色一色だ

 

◆運用の現状: 今も「サンライナー」全列車に117系が使われる

岡山地区の117系の運用を見てみよう。岡山地区の117系は主に山陽本線を走っている。運用範囲は岡山駅〜三原駅が多い。また赤穂線(あこうせん)にも乗り入れる。そのために、赤穂線に分岐する東岡山駅までは山陽本線を走る。すなわち山陽本線の三原駅〜東岡山駅間の運用のみとなるわけだ。赤穂線内は、播州赤穂駅〜東岡山駅間で、その先の相生駅まで赤穂線を通り抜ける列車の運用はない。

 

117系の運用は朝と夕方・晩が多い。早朝から10時台まで下り列車(三原駅方面)が4本、上り列車(岡山駅方面)が4時台から11時台まで7本が走る。日中の運用はない。その後の運用は15時台以降からで、ここでは下り、上りともに快速「サンライナー」の全列車に117系が使われている。岡山地区を走る「サンライナー」は岡山駅〜福山駅間を走る快速列車だ。ここで117系は、普通車自由席の列車ながら、優等列車として走っているわけだ。「サンライナー」は117系が唯一、輝きを見せる列車と言って良いだろう。

 

ちなみに赤穂線での運用は朝晩のみで4往復が走る。東は播州赤穂駅まで走る列車が1往復あるものの、他は長船駅(おさふねえき)もしくは西大寺駅までしか走らない。赤穂線内の運用はごく希少となっている。

 

◆117系の今後はどうなるのだろう

前述したように、国鉄形電車の置換え計画がJR西日本からすでに発表されている。113系、117系の約170両が新製車両に置換えとあり、その期限は2025年度とされている。

 

どちらかに配置された113系、117系が消滅する。まずは京都地区からと見るのが妥当だろう。吹田総合車両所京都支社には113系が64両、117系が58両(うち6両は「WEST EXPRESS銀河」)が配置され、両形式合わせて計122両となる。

↑山陽本線や山陰本線などユニークな運行方法で走る「WEST EXPRESS銀河」。117系改造車両を活かした臨時特別急行列車だ

 

このうち「WEST EXPRESS銀河」に改造された117系だが、この編成は今後、かなりの期間、残ることになるだろう。計画では残り50両強が置き換えられるが、これはやはり岡山地区の113系か117系になるかと思われる。117系で最後まで残るのは観光列車の「WEST EXPRESS銀河」のみとなるのだろうか。

 

【すでに消えた形式】国鉄近郊形電車119系と121系

ここではやや寄り道となるが、国鉄形近郊列車として活躍し、消えていった電車を抑えておきたい。117系よりも数字が上の電車には119系と121系がある。両車両とも、消えたのが近年のことだった。

 

◆特殊な事情を持つ飯田線用に造られた119系

↑険しい飯田線を走っていた119系。飯田線のみならず、中央本線の上諏訪駅へも乗り入れていた 2011年1月30日撮影

 

飯田線は愛知県の豊橋駅と長野県の辰野駅を結び、距離は195.7kmにも及ぶ。険しい中部山岳を縫って越える山岳路線である。一方で、太平洋戦争前に複数の私鉄によって線路の敷設が行われた歴史を持つこともあり、駅間が短くなっている。

 

同線には旧形国電が長く使われてきたが、老朽化が著しかった。飯田線は勾配があり、距離も長く、また駅間が短いという特殊な事情があり、専用の電車が必要とされた。そこで生まれたのが119系だった。1982(昭和57)年から1983年にかけて57両が新造されている。編成は2両もしくは1両と、閑散区向けの構成だった。119系は飯田線導入後に新潟の越後線などへの導入を計画したが、計画は国鉄の財政悪化の影響もあり立ち消えている。

 

正面の姿は中央に貫通扉があり、左右に窓がある105系のデザインを踏襲したもの。3扉で外観も105系に近いものだった。当初は、路線が走る天竜川にちなみ水色ベースに淡い灰色の帯を巻いた。その後にJR東海の標準色のベージュ色にオレンジと緑色の2色の帯に変った。

 

長年、飯田線の顔として走り続けたが、ちょうど生まれて30年後の2012年3月に引退となっている。廃車となった一部は、えちぜん鉄道に譲渡されて、MC7000形として走り続けている。

 

◆国鉄最晩年に登場した四国向け121系

↑瀬戸内海を眺めつつ予讃線を走る121系。将来のJR四国の経営を考え、国鉄が最晩年に開発した近郊形電車だった 2017年7月15日撮影

 

四国は電化工事が最も遅く行われた地域だ。1987(昭和62)年3月23日に予讃線の高松駅〜坂出駅間、多度津駅〜観音寺駅間が直流電化されたのが四国初の電化区間となった。瀬戸大橋が誕生し、橋を利用した瀬戸大橋線(本四備讃線)が1988(昭和63)年春に開業の予定だった。そのタイミングに合わせて、四国の一部地域の電化が行われた。

 

合わせて誕生したのが121系だった。電化された1987年3月23日にデビューした近郊形電車で、わずか数日後の4月1日に四国の路線が国鉄からJR四国へ移管されている。121系は国鉄から、経営的な基盤が弱いと予想されたJR四国への最後の置き土産となったわけである。

 

121系は2両×19編成、計38両が製造された。車体は軽量ステンレス製で、正面は貫通扉を持つものの205系や常磐線用の207系にも近いスタイル。車体側面は3扉で211系(後述)と同様の姿をしている。いわば、国鉄晩年の標準的なスタイルを踏襲している。車体の帯は青色、もしくは赤色だった。

↑121系全車が7200系としてリニューアル改造された。高松近郊区間には欠かせない近郊形電車となっている

 

121系は長年にわたり走り続けてきたが、ちょうど生まれて30年を機会に2016年から大幅にリニューアル工事に着手。台車や客室の設備などを大幅に変更した。

 

このリニューアルを機会に形式名も7200系と変更した。2019年2月にリニューアルが完了、元となった121系という形式名が消滅している。121系が劣化の少ないステンレス車体となり、リニューアル化後も走り続けていることは、国鉄の遺産が、JR四国の礎に多いに役立ったと言えるのではないだろうか。

 

【残る国鉄近郊形電車①】今も大量に残る211系ながら

ここからは残る国鉄時代に生まれた直流近郊形電車2形式を取り上げておこう。両形式とも、廃車された車両も少なめで、今も多くが走り続けている。とはいえ、後継車両が取りざたされる時代となってきた。

 

◆近郊形電車の代表として今も主力の211系

↑東海道本線を走るJR東海の211系。後ろに313系を連結して走る。JR東海の211系は形式を問わず、運行できるように改造されている

 

211系は国鉄の晩年となる1985(昭和60)年に誕生し、翌年の2月から走り始めた。大都市の近郊路線区間には、長年にわたり113系、115系が走り続けてきた。1980年代となり、軽量ステンレス製の車体、ボルタレス台車、界磁添加励磁制御と呼ばれる制御方式が普及してきた。これらのシステムは当初、205系で採用されたシステムだったが、省エネにも結びつき、また使い勝手の良さから、211系という近郊形電車にも同様のシステムを取り入れたのだった。

 

211系が最初に導入されたのが東海道線の首都圏エリアで、1986年3月のダイヤ改正から走り始めている。後に名古屋地区、東北線などを走り出している。国鉄時代からJRになった後も製造が続き、基本番台、1000番台、2000番台、3000番台、5000番台、6000番台を含めて計827両が製造された。

 

そのままJR東日本とJR東海に引き継がれ、今もJR東日本に326両、JR東海に250両の計576両が残っている。今でこそ、首都圏では、東海道線など第一線を退いたものの、中央本線、高崎地区などのローカル線を走り続けている。車両数を見る限りはまだ盛況と言えるだろう。

 

とはいえ、後期に造られた車両ですら、すでに30年たつこともあり、後継車両の導入も取りざたされるようになってきた。JR東海の新型315系がその置換え車両にあたる。今すぐに消えることはなさそうな211系だが、数年後からは徐々に消えていくことになるのだろう。

 

【残る国鉄近郊形電車②】希少車のJR東海とJR西日本の213系

◆国鉄最後の新形式が213系だった

国鉄が最後に設けた形式が近郊形電車の213系だった。導入は国鉄最終年の1987(昭和62)年3月と、それこそ国鉄製造の車両としてぎりぎりの期限に走り始めている。基本となったのは211系で、大きく異なるのは211系が3扉であるのに対して、213系は2扉となっているところである。すなわち、大都市の近郊路線区間で211系が走ったのに対して、ややローカル線区での運用を念頭においている。

 

213系最初の基本番台は岡山地区へ導入された。今も3両×4本と、2両×7本の計26両が岡山電車区に配置され走り続けている。なお他に213系の2両1編成があり、こちらは観光列車「La Malle de Bois(ラ・マル・ド・ボァ)」に改造され人気となっている。

↑伯備線を走る2両編成の213系。ステンレス車体に濃淡青色の帯を巻いて走る。ほか正面が真っ平らな切妻そのままの車両も走る

 

JR西日本の岡山地区以外にも213系を導入されている。導入したのはJR東海で、同社では並走する近鉄名古屋線に対向するために、関西本線の名古屋駅〜四日市駅間などに向けて導入した。こちらは5000番台とされるが、JRに移行後に導入されている。

 

2両×14本の計28両が新造され、当初は関西本線での運用が続けられたが、今は大垣車両区に配置されているものの、やや車両基地から遠い飯田線を走り続けている。

↑飯田線を走る213系。正面は211系とほぼ同じで、側面を見なければ213系と分からない

 

今回で国鉄が作った近郊形電車の現状紹介は終了とする。次回以降は今も残る国鉄が生み出した交直流電車や特急形電車などの紹介に話を移していきたい。

世界最古のオートバイブランド「ロイヤルエンフィールド」が、都内にショールームをオープン。その詳細

創業以来、120年もの歴史を持つ最古参のバイクメーカー「Royal Enfield(ロイヤルエンフィールド)」が、今年3月に東京都杉並区に日本初のブランドショールーム「Royal Enfield Tokyo Show Room」をオープンします。このショールームでは、ロイヤルエンフィールドの各種モーターサイクル、アパレル、アクセサリー、スペアパーツ、サービスなどを展示。今後はここを拠点として日本におけるロイヤルエンフィールドの存在感を高めていく考えです。

↑創業120周年を迎えるロイヤルエンフィールドが東京都杉並区にオープンさせた日本初のブランドショールーム

 

創業は1901年。拠点をイギリスとインドに構え、世界60か国で展開中

ロイヤルエンフィールドは1901年にイギリスのレディッチ市で創業しました。オートバイ業界で100年以上にわたり挑戦を続けており、今や現存する世界最古のモーターサイクルブランドとなっています。ラインナップは中間排気量二輪車(250~750cc)を手掛け、中でも1932年に誕生した『Bullet(バレット)』は歴史上最も長く継続生産しているオートバイとして知られます。二度にわたる世界大戦を経て、その耐久性とクラシカルな英国スタイルが融合した設計思想はイギリスの自動車・オートバイ最盛期に最前線で活躍する原動力となりました。

↑1932年に生まれたロイヤルエンフィールドの原点とも言える「Bullet(バレット)500」

 

しかし、60年代に入って日本メーカーのイギリス進出によって業績は悪化。70年には倒産するという憂き目に遭っています。ただ、ロイヤルエンフィールドのブランドは思いがけない形で復活します。実は55年に同社はインドに現地工場を設立して生産拠点を移していました。これが幸いし、イギリス本社が倒産した後もインド側が独自に生産を継続し続けることができたのです。その後、インドの商用車大手であるアイシャー・モーターズ(Eicher Motors Limited)の一部門として事業を展開するに至り、一世紀を超える伝統のオートバイブランドは守られたのです。

 

現在はイギリスとインドの2か所に研究開発拠点となるテクニカルセンターを設置し、インド国内の工場からアジア、欧州、北米・南米など世界60か国に輸出しています。また、2020年にはアルゼンチンのブエノスアイレスに組立工場を開設、2021年6月にもタイの新工場で生産を開始予定です。取り扱う製品ラインアップは単気筒もしくは2気筒の250~750ccという中排気量~大排気量車が中心です。

↑イギリス/ブランティングソープとインド/チェンナイに2つの技術センターを設置した

 

↑ロイヤルエンフィールドはイギリスとインドに技術拠点を構え、世界60か国に輸出している

 

今回、日本市場で展開するラインナップは、単気筒、ツインシリンダーエンジンを搭載した400ccを超える、『Bullet 500』、『Classic 500』、『HIMALAYAN』、『INT 650』、『Continental GT 650』の5モデルです。ラインナップのすべてがレトロな雰囲気を持っていることが大きな特徴となっており、独特の排気音はまさに“奏でる”といった表現がピッタリなオートバイと言えるでしょう。

↑空冷単気筒500ccがクラシカルなフィールを醸し出す「Classic 500」の2021年モデル

 

↑2016年発表。懐かしさを感じさせるスタイルながら本格的オフロード仕様の「HIMALAYAN」

 

↑日本では2019年6月より発売となったバランサー付き270度ツイン650ccの「INT 650」

 

↑ハリスパフォーマンスがダブルクレードルフレームの設計に関与したカフェレーサー風「Continental GT 650」

 

ただ、すべて空冷式であるだけに環境負荷がやや大きいという側面もあります。1月29日に開かれたオンラインでの記者会見で同社のビノッド・ダサリCEOは、「当社は最新の技術を反映しながらもレトロなデザインにフォーカスするのが基本姿勢。しかし、経営面で採算が取れると判断した段階でEVへ参入する事もあり得ます」と将来の可能性も示唆しました。

 

とはいえ、時代の時代の流れに押されてロイヤルエンフィールドが電動化への道を歩むとしたらその存在意義は後退してしまうとの心配もあります。電動化が進む時代でも内燃機関を使う車両がゼロになることはないし、そうした中で独自の世界観を持ち続けるメーカーとしての役割をロイヤルエンフィールドには果たして欲しいとも思うわけです。

 

愛好家同士が集え、歴史あるオートバイがいつでも見られるショールームに期待

すでに日本国内においてロイヤルエンフィールドは、複数のブランドの輸入に携わっているピーシーアイを経て全国15店舗が展開中です。

↑日本国内では複数のブランドの輸入に携わるピーシーアイを経て全国15店舗が展開中

 

そのロイヤルエンフィールドが東京にショールームを持つということは、それだけ本気で日本市場で攻勢をかけていくという証しでもあるでしょう。ダサリCEOは、「東京に初となるブランドショールームをオープンできることを非常にうれしく思っています。今回、日本という美しい国に進出することに興奮しています」と挨拶した上で、「日本はライディング文化も成熟している。全方位のラインナップを提供して日本の愛好者の要望に応えていく」と日本市場にかける期待を込めました。

↑ロイヤルエンフィールド CEO、ビノッド・ダサリ氏

 

では今春オープンするショールームはどんな場所となるのでしょうか。発表によれば、ロイヤルエンフィールドの各種モーターサイクルをはじめ、関連するアパレル、アクセサリー、スペアパーツ、サービスなどが展示される特別なショールームになるということです。さらにこのショールームではアフターマーケットサポート、試乗会、コミュニティイベントなどを開催する予定で、ショールームにおいて愛好家同士が集えるユニークな場所にしていくとのことでした。

↑ロイヤルエンフィールドがオープンさせるブランドショールーム『Royal Enfield Tokyo Show Room』の内装

 

↑『Royal Enfield Tokyo Show Room』はクラシカルな雰囲気で構成されている

 

↑『Royal Enfield Tokyo Show Room』ではライディングのコーディネイトも対応できる

 

↑防護性の高いライディングギアや、日常でも使えるプロテクションギアなどのアパレル・アクセサリも展示予定

 

日本を含むアジア太平洋地域(APAC)のマーケティングを担当するビマル・サムブリー氏は、「ショールームは我々の120年の歴史を気軽に楽しんでいただける内容となっているので、思いついたらぜひ立ち寄って欲しい。私も新型コロナウイルスの状況が落ち着いたら、ショールームに足を運ぶつもりです」と話していました。本ショールームは歴史あるオートバイがいつでも見られる貴重な場となりそうですね。

↑ロイヤルエンフィールド アジア太平洋地域責任者、ビマル・サムブリー氏

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

新時代の電気シティコミューター、Honda eの実力とは?

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、昨年ホンダが打ち出した新時代の電気シティコミューター、Honda eを取り上げる。絶賛か、はたまた酷評か?

※こちらは「GetNavi」 2021年3月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【PROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。2018年以降、ペンネームを「MJブロンディ」から「永福ランプ」へ変更している。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。永福ランプを慕い「殿」と呼んでいる。

 

【今回のGODカー】Honda/Honda e

SPEC【Advance】●全長×全幅×全高:3895×1750×1510mm ●車両重量:1540kg ●パワーユニット:電気モーター ●最高出力:154PS(113kW)/3497〜10000rpm ●最大トルク:315Nm(32.1kg-m)/0〜2000rpm ●一充電走行距離(WLTCモード):259km

451万円〜495万円

 

価格を高くして、販売台数を絞る理由とは

永福「安ドよ。このクルマ、どうだ」

 

安ド「欲しいと思いました!」

 

永福「そうか……」

 

安ド「過去1年間に乗ったニューモデルのなかで、一番欲しいと思いました。同じEVでも、テスラなんかよりずっとおしゃれじゃないでしょうか!」

 

永福「ワシもそう思う」

 

安ド「殿もですか!」

 

永福「このクルマは貴族だ」

 

安ド「貴族ですか!」

 

永福「シンプルでとても気品がある。本物の貴族はシンプルな服を着ていると聞くが、まさにそれだ」

 

安ド「本物の貴族に会ったことはありませんが、そうなんですね!」

 

永福「わしも会ったことはない」

 

安ド「ガクッ! でもインテリアは、シンプルというより超ハイテクなイメージですね」

 

永福「ドアミラーはデジタル表示だし、インパネの右から左まですべて液晶パネル。助手席前のパネルは何を映すのかと思いきや、ステキな庭園風景の壁紙などで、それはそれで癒されるものだな」

 

安ド「走りも良かったです! 小回りも利きますし」

 

永福「しかし安ドよ。このクルマを買ってはならない」

 

安ド「僕は買いたくても買えませんが、なぜですか?」

 

永福「ホンダさんが、買わないでくれと言っているからだ」

 

安ド「そんなことを言ってるんですか!?」

 

永福「内心はそう思っているに違いない」

 

安ド「確かに価格は高いとは思いますけど」

 

永福「上級グレードのアドバンスだと約500万円。日産リーフと比べて、ぶっちゃけ100万円くらい高い。しかも日本では年間たったの1000台しか売らない。これは『買うな』ということだ」

 

安ド「いったいナゼでしょう!?」

 

永福「近い将来バッテリー革命が起きる。現在のリチウムイオン電池は、全固体電池(※)に取って代わられる。となると性能は大幅に向上し、逆に価格は下がっていく」

※:電流を発生させる電解質を従来の液体から固体にした電池で、発火や液漏れのリスクがなくなり安全性が向上する。過酷な環境で使われることが多いEVの動力として期待されている

 

安ド「Honda eのバッテリーもそれになるんですか?」

 

永福「なるだろう。ひょっとして、最初からそれを前提で設計しているかもしれない。つまり現在のHonda eは仮の姿。航続距離の短さもそれが原因だ」

 

安ド「そうなんですか!」

 

永福「今回はとりあえず、『電動化にも取り組んでいますよ』という企業姿勢を見せることが目的で、本音ではあまり売りたくないのだ。なぜなら、今のHonda eを買うと損するからだ!」

 

安ド「損するんですか!」

 

永福「数年後には、大幅に性能が向上し、価格も安くなった本物のHonda eが登場する。だからいま買うと損をする。ホンダとしてはお客様に損をさせたくない。だからこんなに価格を高くして、販売台数も絞っているのだ!」

 

安ド「さすが殿、慧眼です!」

 

永福「すべて憶測だ」

 

安ド「ガクッ!」

 

【GOD PARTS 1】インパネ

ディスプレイが並んだ未来感溢れる室内風景

インパネの端から端まで複数の大型ディスプレイが並べられています。もうこれだけで圧倒的な未来感が感じられますが、どのディスプレイも高精細で非常に見やすいことにも驚かされます。

 

【GOD PARTS 2】ファブリックシート

特別な素材感を持つソファのようなシート

「メランジ調」と呼ばれる高級感と温かみの感じられる素材感が再現されている特別なシートは、まるで柔らかなソファのようなイメージです。ただし長時間乗ってみると、乗り心地が特別良いというわけではないようですが。

 

【GOD PARTS 3】センターコンソール

温かみのある木目で未来すぎない空間に

インパネやこのセンターコンソールの表面にはウッド調の素材を用いて、未来的で冷たいイメージになりがちな車内に温かみをもたらしてくれています。前方の革ベルトを引くとドリンクホルダーが出てきます。

 

【GOD PARTS 4】前後ドアノブ

まるで何もないように面へ溶け込んだ形状

フロントのドアノブはポップアップして使う仕様になっており、リアのドアノブもリアウィンドウの後端に溶け込んでいます。どちらもボディ全体のつるんとしたスタイリングと一体化しているのです。

 

【GOD PARTS 5】ヘッドライト&リアライト

同形状にまとめられた前後デザイン

フロント

リア

フロントとリアのライトまわりがそっくりです。前後で対になっているデザインというのは珍しくておしゃれですね。価格はあまりかわいくないですが、スタイリングは「おしゃれ」や「かわいい」だらけです。

 

【GOD PARTS 6】スマホ連携

当然のように採用されたイマドキカーのトレンド

最新のEVらしくスマホ連携機能が搭載されていて、ドアロックやエアコン、カーナビなどを車外からでもスマホで操作できます。愛車の位置も表示できるので、広い駐車場などで便利です。

 

【GOD PARTS 7】バッテリー

低い重心を実現してスポーティな走りを実現

車体下部にはリチウムイオンバッテリーが搭載されています。おかげで重心が低くなり、走行フィールも軽快です。後輪駆動なことも含めて、走りの楽しさを忘れないホンダらしいEVと言えます。

 

【GOD PARTS 8】パーソナルアシスタント

話しかけると浮かび上がる謎キャラクター

メルセデス・ベンツの「ハイ、メルセデス!」でかなり一般的になった音声認識システムですが、Honda eでは「オーケー、ホンダ!」と声をかけます。すると、謎のキャラクター(写真)がディスプレイに登場して応対してくれます。

 

【GOD PARTS 9】充電ポート

給油とは違った特別な感覚を演出

充電ポートはボンネットフードの前方中央に設置されています。フタの表面はガラス製になっていて、給電中は内部のLEDが発光するなど、ガソリン車への給油とはひと味違った特別感や未来感が演出されています。

 

【これぞ感動の細部だ!】サイドカメラミラー

見にくそうだが慣れれば実用性はかなり高い

量産車としては初めてカメラミラーシステムが標準搭載されています。車内には6インチのモニターが設置されていますが、画角が広く、画像もかなり鮮明です。バック時の操作感など多少の慣れは必要ですが、従来のアナログサイドミラーと比べても実用性は劣りません。むしろ夜などは風景が明るく表示されて視認性が高いので、使い勝手では勝っているかもしれません。

京王電鉄のMaaS実証実験「TAMa-GO」を解説! 多摩エリアの生活はどう変わる?

近年、ビジネスシーンではよく耳にするフィンランド発祥の移動手段の新概念「MaaS(マース)」。「モビリティ・アズ・ア・サービス」の略称で、あらゆる交通手段を「1つのサービス」に統合させ、シームレスにつなぐ移動手段の概念です。

 

これだけを聞いてもフワッとしていて「よくわからない」となりますが、具体的にはICT(情報通信技術)によって、公共交通、ライドシェア、カーシェア、タクシー、レンタカーなどさまざまな交通手段のメニューを用意し、マイカー以外の移動をつなぐもの。さらには交通以外のサービスまでつなげてしまおうという考え方に発展してきています。たとえば1つのアプリで、あらゆる移動手段の経路検索、経路選択、支払いなども一括して行えるもので「移動サービスの効率化」と言い換えても良いかもしれません。

 

トヨタ自動車や、タクシー会社などクルマのMaaSへの積極的な推進が目立ちますが、都心部では移動の主たる手段となる鉄道会社はどう考えているのでしょうか。今回は東京・多摩エリアにおいて、MaaSの実証実験を行っている京王電鉄・経営企画部の秋山正晴さんにその中身と、近い将来に来たるMaaS社会について話をお聞きしました。

↑京王電鉄・経営企画部企画戦略室の秋山正晴さん。何かと話題のMaaSに対しても冷静に、同社ならではの取り組みを行うべく尽力しています

 

MaaS実現には、若い世代の参加が不可欠

ーー京王電鉄では鉄道会社としてだけではなく、古くから駅に直結するバス、タクシーはもちろん、都市開発から商業施設を運営するなどし、ある意味ではすでにMaaS的な取り組みを行ってきているように思います。

 

秋山正晴さん(以下、秋山) はい。交通の利便性だけでなく多くの人の生活利便を実現してきたと自負しています。そういった背景がある中で、今話題となっているMaaSですが、実は正直ボンヤリした概念かなと思っています。

 

ーーそうなのですか?

 

秋山 MaaSの主だった概念は「スマートフォンなどデジタル技術を使って移動の利便性を高めること」だと思います。しかし、移動の利便性を高める方法はさまざまであり、「これをすればMaaSだ」というものがあるわけでもありません。

 

当社の路線は新宿から東京西部多摩エリアを繋いでいます。このエリアは山坂が多く、さらには「住まれている方の高齢化も進み始めている」など課題を抱えている地域。このエリアの活力を維持発展させるために、弊社としても利便性を高めて、より住みやすく、移動しやすいようにしないといけないと思っています。

↑多摩エリアの様子。山坂が多く、特に高齢者の移動手段には不便もありました

 

秋山 高齢者に対しては、特に移動の利便性を高めていくことが重要と考えています。ただ「スマートフォンを使えない方がまだまだ多くいる」という状況であり、デジタル技術ですべてが解決するわけではありません。また、高齢化の進展を止めるには若い世代の方にも多摩エリアに新たに住んでいただくことが重要なカギとなります。そして、高齢者も若い世代も移動しやすい環境になることで、街に活力が生まれ、さらなる人口流入といったよい循環につなげるのが目指す姿。これを実現するためには、当社だけでは不可能で他企業や自治体との連携は不可欠です。

 

こういったことを当社では課題として考えており、まず多摩エリアにおいて、期間限定の実証実験としてスタートさせたのが『TAMa-GO』というサービス。スマートフォン専用のWebサイトを通じて、交通や各種サービスを提供するものです。当社にとってのMaaSはあくまでもひとつの手段で、沿線で抱える課題の解決につなげたいという思いで始めました。

↑京王電鉄が2021年1月から2月までの期間限定で展開している『TAMa-GO』

 

↑『TAMa-GO』も他企業同様、スマートフォンを使ったあらゆる交通サービスの統合を目指したものでありながらも、京王電鉄ならではの現実的な取り組みが取り入れられています

 

日本の「交通サービスの統合」には足かせも?

ーー『TAMa-GO』には具体的にはどのようなサービスがあるのですか?

 

秋山 大別しますと、以下の4つになります。

 

○交通サービスの統合

○ラストワンマイルの補完

○生活利便性の向上

○エリアの魅力発信

 

まず、1つ目の「交通サービスの統合」は、MaaSの原点だと思いますが、日本で統合させるには様々な課題があります。MaaS発祥のフィンランドではあらゆる交通手段の決済を繋げてサブスクを行うカタチです。もともとフィンランドの鉄道やバスは公営に近く、また信用乗車として改札もありません。もちろん切符は必要なのですが、改札でのチェックはなく、不定期で車内検札が行われ、もし切符がない場合は相応の罰金を払うというシステムです。つまり、もともとが機械システムに依存していないため、MaaSのような新しい概念を導入しやすい訳です。

 

しかし、日本ですと交通に関わる事業者がいくつもあり、合意形成には長い道のりが必要になります。しかもPASMO、Suicaなど交通系ICカードが浸透しており、利便性の高い決済の仕組みはある程度出来上がっています。これとは別に、スマートフォンであらゆる交通やあらゆるサービスを決済までつなげる仕組みを作るのは長期的な課題となりそうです。

 

そこで当社としての「交通サービスの統合」の取り組みは、情報の統合を主眼にすでにインターネットで浸透している「経路検索」の発展からスタートさせようと考えました。JR東日本と連携し、今現在の運行状況……遅延なども含めてお客様に情報を提供できるようにしています。京王線やJR線の遅延情報に加え、京王バスや西東京バスの遅延情報も対象にすることで、多摩エリアを中心に、現時点どの移動手段がお客様にとって最適なのかがわかりやすくなっています。

 

また、移動手段には鉄道・バス以外に「タクシー」・「シェアサイクル」などもあり、これらも検索結果に表示され、一部の交通手段はそのまま予約サイトにつながるようになっています。

 

「ラストワンマイルの補完」での「タクシーの相乗り」実証実験の中身

ーー2つ目の「ラストワンマイルの補完」とはどういったものでしょうか。

 

秋山 できるだけ「ドアtoドア」に近い形での移動サービスの提供です。現在、各所でのMaaSの実証実験ではデマンド交通(予約をし、指定された時間に、指定された場所へ送迎する交通サービス)が取り組まれており、一種のブームのようになっています。しかし、デマンド交通は採算面では難しいと見ています。

 

ーーどうしてですか?

 

秋山 通常の鉄道やバスですと、たくさんの人が利用することで個々の運賃を下げられていますが、デマンド交通は1度に利用できる人数が限られます。そのうえで、リーズナブルな運賃を両立するのは非常に難しい。当社は持続可能性を考えるにあたり、「補助金なしでサービス提供できるモデル」という前提で検討をスタートしました。広告・スポンサーなどの手法も検討しましたが、現時点では常に満員状態でも採算は難しいのではないかという見解になりました。

 

一方、それらの課題を解決してできるだけ「ドアtoドア」に近い形として考えたのが「タクシーの相乗り」。知人・友人同士でする相乗りではなく、目指す方向が近い知らない人同士がシステムを介して繋がり「相乗り」をして運賃負担を下げるというものです。

 

この「タクシーの相乗り」はまだ制度的には解禁されていないので、それに近づけたものを『TAMa-GO』で実施してみました。特に山坂の多い丘陵エリアで実証実験し、乗り始めるスポットを定め、そこから「相乗り」し、聖蹟桜ヶ丘駅や周辺の住宅街を目指すというものです。マッチング率を高めるため、今回はエリアを限定しています。

 

実施してみると、「自分の家の前にスポットがあれば便利ではあるが、知らない人に家を知られるのがイヤだ」「街頭や人影が少ない暗い場所など、安全に乗り降りできない場所はイヤだ」といったご意見もありましたが、事前にミーティングスポットを用意するとともにお客様のご要望に応じてスポットを追加する対応も組み込んでいます。また、スマートフォンが使えないという方に対応するため、京王ストアのカウンターで予約を代行するサービスも行っています。実施にあたっては、多摩市とも意見交換を繰り返してきました。既存交通を少し発展させることで持続可能性を模索しています。

↑『TAMa-GO』を使っての「タクシー車両を利用した相乗り」実証実験の様子。運賃は一律500円

 

「生活利便性の向上」「エリアの魅力発信」では、交通業態以外と連動させるサービスも

ーー3つ目の「生活利便性の向上」は、なんとなくテーマが広いような気もします。

 

秋山 おっしゃる通り、テーマだけだと漠然とした概念に聞こえるかもしれませんが、『TAMa-GO』での取り組みでは、「Webチケットと交通と各種サービスを繋げる」ことを主体にしたものです。例えば、ショッピングセンターの買い物券とタクシーの相乗り券をセットにして販売する。あるいは5000円分の買い物をしたら、移動に関わる運賃は無料にする。これらのサービスは、利用される方にとって移動・買い物をする際の利便性を高めたいという試みです。

↑聖蹟桜ヶ丘にあるショッピングセンター「せいせき」でのお買い物券+京王線往復乗車券のセット販売も

 

また、緊急事態宣言でサービス提供を一部見送っていますが、レジャーとの連携という観点では、マイクロツーリズムが注目を浴びる中、高尾山での施策も準備してました。高尾山に観光に行かれる場合、鉄道運賃、ケーブルカー運賃、入浴施設の利用券などの決済を一体化させるとともに、前述の「交通サービスの統合」とも連動させ、経路検索でのスムーズな移動につなげながら、加えてエリアそのものの魅力的な情報も提供させていただく。

 

今回の実証実験では、既存の高尾山のケーブルカー・リフト往復券のデジタル化のみの提供にとどまってしまいましたが、それでもコロナ禍において非接触でチケットを購入できるという価値は見出せたと思います。

↑緊急事態宣言発出により、サービスは一部見送りとなったものの、高尾山など京王線に連結する観光エリアではレジャーチケットと京王線や多摩モノレール乗車券のセット販売も視野に入れていたそうです

 

一方、新型コロナウイルスによって人々のライフスタイル、特に通勤のスタイルが変わりました。今回の実証実験では、そういった通勤スタイルの変化を受けて、バスのIC定期券をお持ちの方に一定金額をご負担いただくとサテライトオフィス・シェアサイクル・駐車場がオトクに利用できるサービスも行っています。IC定期券ひとつで様々なサービスを受けられるといった利便性を今後も拡大していきたいと考えています。

↑『TAMa-GO』の「生活利便性の向上」「エリアの魅力発信」に伴うWebチケットの告知

 

様々な業態が、MaaSに異なる思惑を描きバラバラになっているのが現状?

ーー『TAMa-GO』の中身と合わせて、京王電鉄の取り組みをお聞きすると、「MaaSの大変革」と言っても、日本ではまだまだ課題が多いように思いました。

 

秋山 おっしゃる通りです。冒頭でもお話した通り、MaaSはボンヤリした概念で業態によっても捉え方が大きく異なるように思います。例えば、自動車メーカーの立場でMaaSを見れば、「自動運転と各種のサービスを繋げること」を主体に考えるでしょう。金融機関の立場で言えば、「キャッシュレスの統合」を考えると思います。つまり様々な業態の企業が、様々な思惑を持ってそれぞれ動いているのが現状だとも思っています。

 

ですので、様々な企業が連携して、それぞれのサービスが1つに融合してくれば、利用者にとって利便性の高い真のMaaSの形が完成するかもしれません。しかし、まだその姿ははっきりせず、各社がそれを模索している段階だと思います。

 

そんな中、京王電鉄の実証実験として始めた『TAMa-GO』はMaaSの取り組みではあるものの、「今の生活を少しでも便利にする方法は何か」という考え方を最優先にスタートさせています。これまでは提供できなかったサービスがデジタル技術の進展で可能になり、我々も積極的に取り込んでいきたいと考えています。

 

一方で、これだけ技術進歩が激しい時代ですと、一足飛びに離れた夢のある社会デザインというものは実は描きにくいのではないでしょうか。それよりも、デジタルを活用しながらを少しずつ進化させて、その積み重ねで、より良い未来に繋げていきたい……それが我々が考えているMaaSへの取り組みです。

↑京王電鉄のMaaS『TAMa-GO』による実証実験は2月いっぱいで終了しますが、今後も新たな取り組みがありそうです

 

ある意味でバズワード的に扱われることも多いMaaSですが、京王電鉄が考える現実的な取り組みと、秋山さんのお話を聞き、まだまだ途上期にあるように思いました。各業態、各事業体によっても解釈や思惑が異なるMaaS、今後も積極的に取材していきたいと思っています。

 

 

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2021年これから消えていく? 気になる車両を追った【後編】

〜〜2021年に消滅が予定されている車両特集その2〜〜

 

前編で紹介したように2021年は多くの車両が消え、また消えていきそうな気配である。

 

残念なことに、鉄道会社は「さよなら運転」はもちろん、騒動を避けるために引退日を発表しない傾向が強まっている。知らないうち、気付かないうちに消えていく車両が多くなってきた。後編では東日本の車両、そして貨物用機関車の中で消えていきそうな車両を追っていきたい。

 

【消える車両その⑥】JR東日本最後の国鉄型気動車になる?

◆JR東日本キハ40系気動車

↑日本海を見ながら走るキハ40系。長年親しまれてきた風景もこの春からは見られなくなりそうだ

 

JR東日本から長年親しまれてきた国鉄形気動車が消えていく。形式名はキハ40系。国鉄が1977(昭和52)年から5年にわたり計888両を製造した、いわば非電化区間の標準車両というべき気動車だった。全国の非電化区間で40年にわたり活躍し続けてきた。JR化後も各社に引き継がれ走ってきたが、すでにJR東海からは全車が消え、この春で、JR東日本からも消滅することとなった。

 

◆東日本最後の活躍の場となった五能線・男鹿線

JR東日本では日本海沿いの路線を中心に、多くのキハ40系を使ってきた。ところが、新型GV-E400系気動車を開発し、まずは新潟地区のキハ40系が引退となった。さらに秋田車両センターに配置されていたJR東日本最後のキハ40系に代わり、GV-E400系と蓄電池電車HB-E301系の増備を進めている。

 

この増備により、五能線、男鹿線、一部奥羽本線を走ってきたキハ40系はこの春で消えることになる。ただ、JR東日本のキハ40系全車が消えるわけではない。JR東日本の観光列車「越乃Shu*Kura」、「リゾートしらかみ(くまげら編成)」としてキハ40系が使われている。こちらはしばらくの間は走り続けそうだ。またJR北海道、JR西日本、JR九州、JR四国(20両と少量)のキハ40系はかなりの車両数が残っており、こちらを含めて完全引退はまだ先となりそうだ。

 

【消える車両その⑦】客車を気動車に改造した珍しい車両

◆JR北海道キハ141系(キハ143形)気動車

↑苫小牧駅構内に停車するキハ143形。50系客車を気動車化したユニークな生い立ち。現在は室蘭本線の普通列車として運行されている

 

国鉄からJRとなるちょうど同じ時期、ローカル線の輸送は、まだ機関車が牽引する客車列車が走っていた。晩年の客車列車用に50系客車という軽量タイプの客車が大量に使われていた。この50系客車に運転席を設け、エンジン、制動機器などを積み、気動車化し、生まれたのがキハ141系だった。1990(平成2)年のことである。北海道の札沼線の輸送力増強のために設けられた形式だった。

 

さらに1994(平成6)年には、キハ150系と同様の駆動システムを搭載して強化したキハ141系の一形式、キハ143形が生まれた。このキハ143系が今も苫小牧運転所に配置され、室蘭本線の普通列車に利用されている。

 

◆この春に消えるのはキハ40系かキハ143形か

長年、走り続けてきたキハ143形だが、この春に室蘭本線に大きな動きがある。新型H100形気動車が導入されるのだ。室蘭本線では苫小牧駅〜室蘭駅間、東室蘭駅〜長万部駅間を走ることが発表されており、時間短縮の効果があるとされる。

 

この導入に合わせて室蘭本線を走る既存車両の置き換えが行われることになる。置き換えされるのがキハ40系なのか、キハ143形なのだろうか。キハ143形はすでに10両まで減っている。苫小牧運転所にはキハ40系が24両(車両数はともに2020年4月1日現在)残るが、どちらの形式に影響が及ぶのか気になるところだ。

 

ちなみにキハ143形とは同形のキハ141系がJR北海道からJR東日本に4両譲渡されている。「SL銀河」用の客車として活かされており、もしJR北海道のキハ143形が引退となったとしても、同形式がわずかだがJR東日本に残ることになる。

 

【消える車両その⑧】高性能すぎて小所帯となった国鉄形気動車

◆JR九州キハ66・67系気動車

↑大村湾に面した千綿駅に到着するキハ66・67系。写真のシーサイドライナー色など3通りの車体色で親しまれてきた

 

山陽新幹線が博多駅まで延伸されるのに合わせて開発された気動車がキハ66・67系。小倉駅や博多駅から筑豊方面への連絡する列車を、より快適化するために開発された。それまでにない意欲的な設計思想が認められ、鉄道友の会からローレル賞を受賞している。とはいえ、車両が生まれた当時、国鉄の財政事情は悪化しつつあり、車両費が高価なこと、また車両自体の自重が過多で、ローカル線での運用が難しいことなど、マイナス面がありわずかに2両×15編成、計30両のみの製造に終わった。

 

筑豊本線、篠栗線で運用された後に、長崎へ移動。長崎駅〜佐世保駅間の大村線、長崎本線の列車に約20年にわたり使われ続けた。

 

◆YC1形の増備に合わせて徐々に消えていくことに

現在、長崎駅〜佐世保駅間の列車、とくに大村線内での運用が多い。JR九州では、大村線のキハ66・67系をYC1系ハイブリッド型気動車へ、徐々に置き換えを進めている。2020年12月末現在で9編成がすでに引退になっている。まだ正式なキハ66・67系の引退はアナウンスされていないが、新車両の増備に従い、順次置き換えということになりそうだ。

 

【消える車両その⑨】ライナーの仕事も消え危うい2階建て電車

◆JR東日本215系電車

↑早朝に湘南ライナーとして東海道貨物線を走る215系。2階建て仕様がずらり連なる迫力ある姿でおなじみとなっている

 

2021年春のダイヤ改正で消える予定の東海道本線を走る「湘南ライナー」。1986(昭和61)年11月1日のダイヤ改正時から走り始めた列車である。座席定員制の有料快速列車で、座って通勤ができることから、登場後たちまち人気の列車となった。その後に湘南新宿ライナー(現在のおはようライナー)、ホームライナーが生み出されるなど好調な運行を続けてきた。誕生当初は185系のみの運用で、なかなかチケットが購入できないまでの人気となっていた。

 

そこで座席定員を増やすために1992(平成4)年に生まれたのが215系だった。東海道本線の普通列車として走っていた211系の2階建てグリーン車をベースに利用し、前後先頭車を除く中間車すべてが2階建てという“画期的”な構造の電車でもあった。

 

◆3月13日のダイヤ改正で運用終了に?

215系は10両×4編成、計40両のみが造られた。2階建てという造りが好評で、一時期は、快速アクティーにも使われた。しかし、2扉のみで乗降時間がかかることから、現在は朝晩のライナーのみの運用となっている。東海道本線の列車以外にはホリデー快速やまなしとして中央本線を走る臨時列車としても活用された。

 

湘南ライナーやおはようライナー、ホームライナーは、すべて3月12日までの運転となる。3月13日からはライナーという列車は消え、特急「湘南」として朝晩に運行される。利用される車両はすべてE257系に変更となる。そのためほぼライナー専門で活用されていた215系は、“職場”がなくなってしまう。3月13日以降、215系の運命は? JR東日本からの発表はないものの、この春で消えることになりそうだ。30年近い車歴をもつものの、稼働率が低かったため、まだまだ老朽化したとはいいがたい。何らかの形で活かせないのだろうか、というのが筆者の切ない思いである。

 

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【消える車両その⑩】いよいよ2階建てMax新幹線が消えていく?

◆JR東日本E4系新幹線電車

↑新幹線最後のオール2階建て車両となりそうなE4系。2編成連ねた姿は迫力そのもの

 

E4系は国内で唯一の2階建て新幹線である。生まれたのは1997(平成9)年10月のこと。当時、新幹線を利用しての通勤需要が高まっていた。JR東日本ではそれまでE1系という2階建て新幹線を走らせていた。このE1系には、高速走行時の騒音などに問題があり、そのためにロングノーズのE4系が生み出された。

 

全車2階建て車両で、8両編成ながら、2編成を連結した16両で走る時の定員数は1634人となる。高速列車で世界一の定員数としても話題となった。列車名に「Max」と付け「Maxたにがわ」「Maxとき」の名前でも親しまれてきた。

 

そんなE4系だが、最高運転速度は240km/hと他の新幹線車両に比べると遅い。高速化を進める時代背景もあり、そのためまずは東北新幹線の運用から外れ、近年は上越新幹線のみの運用となっている。JR東日本としては上越新幹線の高速化を図るためE4系の早期引退を計画していた。上越新幹線向けにE7系の導入も進められていた。

 

◆水害の影響で多少の延命がなったものの、この秋に引退に?

2012年度から順次、E4系を廃車するという計画があり、当初は2016年度で全廃になるとされた。しかし、廃車計画は延びて2020年度末までとなった。

 

ところが、2019年10月に起きた令和元年東日本台風により、長野新幹線車両センターに停めてあったE7系とW7系の12両×10編成が水没してしまう。この計120両全車が廃車となってしまった。

 

減車を余儀なくされたE7系だが、補充は順調に進み北陸新幹線の分はすでにまかなえ、また上越新幹線用のE7系の増備分の製造も順調に進んでいるとされる。E4系の当初の廃車計画はわずかに延びたものの、2021年の秋には本当の引退となりそうである。廃止が、1度ならずとも2度にわたり延びたという、いわばE4系は“幸運”な車両となったようだ。

 

【消える車両その⑪】非電化区間のエースだったディーゼル機関車

◆JR貨物DD51形式ディーゼル機関車

↑関西本線を走るDD51形式ディーゼル機関車857号機。JR貨物に最後まで残った車両のうち唯一100番台のナンバーを持つ車両となった

 

DD51形式ディーゼル機関車の歴史は古い。最初の車両は1962(昭和37)年の製造で今から約60年前のことになる。DD51が誕生するまでに、複数のディーゼル機関車が「無煙化」のため生み出されたが、非力なうえ、整備にも手間がかかった。

 

対してDD51は幹線用主力機として生み出されたディーゼル機関車で、性能面でも問題が少なく走行も安定していた。中央に運転室がある凸形の車体というユニークな姿で、本線での運用、さらに駅での入換えが可能など、非常に使いやすい機関車だった。16年にわたり製造が続き、計649両が造られた。国鉄からJRへ移る時にも259両が引き継がれた。

 

◆愛知機関区の最後のDD51が運用終了に

259両のうちJR貨物に引き継がれたのは137両だった。その後、DF200形式などのディーゼル機関車が新造され、徐々に両数が減っていく。ちょうど10年前の2011年2月末の車両数を見ると56両までになっていた。いま稼動している車両はすべてが愛知機関区への配置される車両で、最新の運用状況を見ると857号機、1028号機、1801号機の3両しか稼動していない。その運用も一部がすでにDF200形式が代行するなど、DD51形式の運用は減りつつある。さらにDD200形式が6両増備される予定で、DD51の仕事はDF200やDD200に引き継がれる。

 

残るDD51はJR東日本とJR西日本のみとなる。無煙化に貢献した名機も終焉が近づいているといって良さそうだ。

 

【消える車両その⑫】鉄道ファンがやきもきEF64形0番台の動き

◆JR東日本EF64形電気機関車

↑レール輸送を行うチキ車両を牽引するEF64形37号機。渋い茶色の塗装で国鉄形らしい重厚な趣を保っている車両として人気がある

 

最後は、引退かまた現役続行かで、情報が錯綜している電気機関車の情報に触れておこう。ある鉄道関連ニュースで2021年2月4日に「EF64形電気機関車37号機」がラストランを迎えたという情報が流れた。追随する形で、複数のニュースサイトで情報が流された。その後に同ニュースがJR東日本の高崎支社に問い合わせをしたところ、まだ引退は決定していないとして訂正記事が配信されている。

 

国鉄形直流電気機関車の代表的な存在でもあるEF64形。後期タイプの1000番台はJR貨物を含めて今も多くが残存している。だが、基本番台と呼ばれる初期タイプはJR東日本に残る37号機のみだ。それだけに注目度が高い。

 

鉄道ファンが特に注目しているのが、EF64形37号機が所属する高崎車両センター高崎支所の機関車たちの動向であろう。ここにはEF65形直流電気機関車の501号機という「P形」と呼ばれる500番台唯一の車両が残っている。希少な機関車が配置される機関区なのである。同機関区の機関車は、旅客列車で使われるのは「ぐんまよこかわ」といった一部の列車のみ。主要な仕事は事業用車両として、レール運搬やバラスト輸送、そして新車を牽引する配給輸送などに限られている。

 

◆新型事業用車の導入で残る機関車たちはどうなる?

注目される高崎車両センター高崎支所の機関車はすべて国鉄時代に生まれた車両ばかりだ。そのためにJR東日本でも後継用の車両の導入を始めている。

 

レール輸送、バラスト輸送などの保線用としてJR東日本では、定尺レール輸送用、ロングレール輸送用それぞれ用のキヤE195系の導入を進めている。

 

さらに砕石輸送用電気式気動車のGV-E197系の導入もこの春に始まった。さらに交直流電化区間に対応したE493系を導入も行う。このE493系は回送列車の牽引用として使われる予定だ。GV-E197系は高崎エリアへの導入される予定で、この導入により、機関車・貨車特有のメンテナンス方法や運転操縦を廃し、効率的なメンテナンスが可能になるとしている。こうした車両は現在、事業用車両として働く国鉄形機関車の入換え用にほかならない。

 

一応、2月の引退はないとされたEF64形37号機ながら、EF65形501号機を含めて、今後の新事業用車両の増備次第では、危ういことは確かなようである。

 

2021年すでに消えた&これから消えていく? 気になる車両を追った【前編】

〜〜2021年に消滅が予定されている車両特集その1〜〜

 

春は別れとともに出会いの季節でもある。鉄道の世界でも同じ。3月のダイヤ改正をきっかけに、古い車両が消えていき、また新しい車両が登場する。今年はJR・私鉄ともに、そうした移り変わりが多くなりそう気配だ。

 

中には時代を彩った車両や、鉄道輸送を大きく変えた車両も含まれる。すでに引退した車両も含め、消えていく、また消えていきそうな車両の姿を追った。

 

【はじめに】混乱を避けるため最終運転日も非公開が多くなった

この1〜2年、複数の車両が引退していった。その大半がセレモニーもなしに表舞台を去っている。

 

やはり2018年秋に行われた東京メトロ千代田線の6000系電車の「さよなら列車」の激しい混雑と混乱が、大きく影響しているようだ。鉄道会社として“さよなら運転”は、長年走ってきた車両の最後のはなむけとして、またファン向けの“大切なイベント”だった。ところが残念なことに、この「さよなら列車」の運転ではマイナス効果に結びついてしまった。

 

昨今、こうした悪しき例が各地で見られるようになり、時に過熱しがちとなっている。ましてコロナ禍であり、無用なファン集中を避けたいということもあり、運行終了日も公開されること無く、静かに消えていく車両が多くなっている。こうした傾向は、筆者も鉄道ファンの一人として非常に残念であり、悲しいことととらえている。

 

そうした傾向が強まるなか、2021年の春に去っていく車両が目立っている。各社のすでに消えた&消えそうな“気になる車両”を見ていこう。

 

◆注目を浴びる「JR東日本185系」だが完全引退はまだ先に

2021年に消えていきそうな車両。まず首都圏ではJR東日本の185系を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。国鉄形特急電車として注目を浴びることも多い。

 

185系は国鉄時代から特急「踊り子」などに使われ、東海道本線を彩ってきた車両である。さらに通勤用快速列車や、臨時列車として活用され、多くの通勤客や旅行客を運んできた。この春に185系は特急「踊り子」、そして湘南ライナー、おはようライナー、ホームライナーなどの役目を終える。

↑富士山を背景に伊豆箱根鉄道駿豆線を走り続けてきた185系特急「踊り子」。3月13日以降は「踊り子」すべてがE257系に変更される

 

これで引退なの? と思われそうだが、今回の動きは定期運用が終了するところまで。しばらくは臨時列車用や団体列車用として働きそうだ。実際の引退は2022年度という情報もあり、この時に本当の引退となりそうだ。

 

ここからは2021年に消えた、もしくは消えていくことが決まっている車両、さらに消えていきそうな車両を見ていこう。

 

【消える車両その①】御召列車としても走った近鉄“鉄路の名優”

◆近畿日本鉄道12200系電車

↑近鉄名古屋線を走る12200系。後ろに22000系を連結する。後継車両は塗装が更新されたが、12200系のみ近鉄伝統の特急色で走った

 

大手私鉄の中で最も長い路線距離を誇る近畿日本鉄道(以下「近鉄」と略)。大阪と名古屋を結ぶ名阪特急を代表に、各路線に多くの特急列車を走らせてきた。最新の80000系「ひのとり」をはじめ、50000系「しまかぜ」など、特急形電車らしい華やかさと共に、機能性を合わせてもつ電車を多く開発し、活用してきた会社である。

 

近鉄の特急形電車は実に多彩で、なじみのない人にはちょっと分かりにくいかも知れない。2021年春に引退していく車両は12200系だ。1967(昭和42)年に登場した12000系の後継増備車として1969(昭和44)年に誕生した。8年にわたり製造され、近鉄の特急電車の中では最大の168両が製造された。

 

初期の車両はスナックコーナーを備えたことから“新スナックカー”という愛称も付けられていた。当初から120km/hの最高速度に対応、4両化、2両化され、さまざまな区間を走る特急列車として活用された。

 

近鉄の特急電車の優れたところは、利用客の増減に合わせて、列車の編成車両数を変えられるところである。多客期には4両、6両、8両といった具合に車両編成を増やす。閑散期には4両、2両と編成車両数を減らす。こうしたフレキシブルな運転が可能なように、新旧や形式にかかわりなく、車両を連結させて走ることができるように造られている。

 

◆すでに定期運用は終了、残るは3月に団体列車用に運行か

この12200系が一番輝いたのは御召列車として使われたことでないだろうか。さらにエリザベス2世が訪日された際に乗車されるなど、私鉄特急として輝かしい歴史を持つ。

 

そんな12200系も平成に入りリニューアルされ使われ続けてきたものの、生まれからすでに半世紀がたつ。すでに定期運用は2月12日(引退日は非公開だった)に終了している。3月23日に団体向けの企画列車が予定されていて、この時がおそらく本当の最後の走行になりそうだ。 “鉄路の名優”が静かに去っていく。

 

【消える車両その②】先頭にパンタグラフを持つ名鉄の「特別車」

◆名古屋鉄道1700系電車

↑先頭車の前にパンタグラフを付けた名鉄1700系。白地に赤のラインと、おしゃれな姿で人気の車両だった

 

名古屋鉄道(以下「名鉄」と略)の特急形電車は他の私鉄特急とは異なった特徴を持つ。空港アクセス特急「ミュースカイ」を除き、特急形電車は、豊橋駅側に「特別車」2両を連結する。この2両の「特別車」のみ有料の指定席料金を払う仕組みだ。もともと全車特別車だったのだが、有効な列車運用を、として2008(平成20)年から取り入れたシステムだった。

 

1700系はこのシステム変更のために、旧1600系を改造した形式だ。4両編成を2両ごとに分割、新造した2300系4両と組み合わせ6両編成とした。よって、豊橋側の2両が1700系、岐阜側の4両が2300系と、異なる形式を組み合わせ走った。

 

外見も異なっていて、特別車側の1700系は前後2扉仕様、側面窓が横に広がる。一方の岐阜側2300系は3扉の普通車という異種の組み合わせで走る。とはいっても、違和感のない組み合わせで、特に新塗装に変更したのちは、白地に赤のライン、先頭の排障器や額の部分に赤というスタイルが目立っていた。

 

先頭車の頭にパンタグラフがあるので、撮影はしづらい車両だったものの、迫力があって筆者としては好きな車両でもあった。

 

◆1月に撮影会を開催。すでに2月で定期運用が終了

1700系は2両×4編成が使われていた。1600系として生まれたのが1999(平成11)年のこと。2008(平成20)年に改造されてからまだ10数年と短い。ところが、車両数の少ない特異な形式ということもあったせいなのか、車両が生まれて20年足らずながら、引退となってしまった。

 

なお、1700系と編成を組んでいた2300系には新たに「特別車」用の2200系30番台が新造され、前後が同じ顔形の2200系6両編成となり走り始めている。

 

1月には最後の撮影会が車両基地で開かれ、運転終了日は発表されることもなく2月10日で運用を終えている。コロナ禍のさなかということもあり、ちょっと悲しいお別れとなった。

 

【消える車両その③】乗降をスムーズに!5扉車の京阪の名物電車

◆京阪電気鉄道5000系

↑5扉というユニークな姿の京阪5000系。日中は3扉のみの開け閉めで運行した。正面もひさしが付く形で個性的な姿をしている

 

京阪電気鉄道(以下「京阪」と略)の5000系は5扉という通勤形電車。ラッシュ時の混雑緩和、そして乗降時間の短縮のために1970(昭和45)登場した。まさに大量輸送時代の申し子でもあった。

 

京阪のホームページにある車両紹介コーナーでは「閑散時間帯は2扉を閉め切り、格納していた座席を復して、座席定員を増やすという離れ業と可能としました」と解説している。こうした扉の数に注目されがちな車両だったが、京阪初のアルミ合金製車体を採用するなど画期的な通勤形電車でもあった。

 

◆5扉での運用は2月で終了。6月ごろに運行終了か

保有車両は7両×4編成、計28両と少なめながら、50年にわたり走り続けてきた。すでに1月末で5扉の利用を終了、他の車両と同じ3扉のみの利用での運行に変更されている。京阪では13000系の導入が増えているが、5000系も新型13000系が増備される6月ごろに運行終了となりそうだ。5000系も現在の状況が続くと、運用終了日が発表されずに静かに消えていくことになるのだろうか。

 

【消える車両その④】113系を交直流電車化した七尾線用赤色電車

◆JR西日本415系電車

↑能登半島名産の輪島塗をイメージした赤色で塗られた415系。車体の姿は元となった113系そのままの姿をほぼ維持している

 

ここからは引退するJRの車両を見ていこう。まずは北陸、石川県を走る七尾線の電車から。七尾線とは言うものの、七尾線の電車は全列車が金沢駅まで乗り入れる。そのため金沢駅〜津幡駅(つばたえき)間は旧北陸本線、現在のIRいしかわ鉄道線を走る。

 

ここを走る普通列車用の電車には赤色の415系と、413系(後述)が長年、使われてきた。415系と413系は共に交直両用の電車だ。七尾線が電化されたのは1991(平成3)年のこと。この七尾線は直流方式で電化された。乗り入れる旧北陸本線は交流電化区間のために、交直流電車が必要とされた。

 

七尾線用に新たな交直流電車を新造することを避けたいJR西日本では、次のような方法で対応する。まずは北陸本線用の交直流特急形電車485系を、北近畿向けの特急に転出させるにあたって不要になった交流用の機器を取り外した。そして近郊形電車の113系に取り付けるという荒療治を行ったのである。こうして415系の800番台の11編成33両が生まれたのだった。

 

◆3月のダイヤ改正で新製の512系と入換えが完了

七尾線を走る415系は113系だったころも含めると40年〜50年といった経歴を持つ車両で老朽化が進んでいた。JR西日本では2020年10月から七尾線用に新造した521系100番台を投入。同車両はワンマン運転時に利用が可能な車載型ICOCA改札機を搭載している。

 

この改札機に交通系ICカードをタッチすれば精算可能で、2021年3月のダイヤ改正から正式に導入される。この新型改札機の導入もあり、旧形の415系、413系は引退となる。改造される前の113系は、今もJR西日本管内では走り続けている。改造された車両の方が早い引退となった。

 

【消える車両その⑤】七尾線には2扉の赤色電車も走っている

◆JR西日本413系電車

↑七尾線を走る413系。415系と正面の形はほぼ同じだが、上部の行先表示が埋められ、扉が2ドアという違いがある

 

七尾線には413系という電車も走っている。車体は415系と同じ赤色、正面は415系とほぼ同じで見分けがつきにくいが、行先表示部分が鉄板で埋められ、また乗降扉が2つということで別形式の413系と分かる。

 

この413系の生い立ちも興味深い。生まれは1986(昭和61)年のこと。当時、財政難に陥っていた国鉄は新造の電車を造ることが難しく、そこで既存の交直両用の急行形電車の部品を多く流用して413系という交直両用の近郊形電車を造った。

 

そうした廃車の部品の流用したこともあって、413系の新製車両数は少なく31両のみ。そして北陸地区に投入された。ちなみに、717系という交流専用の兄弟車両が東北地区と九州向け用に生み出されたが、こちらはすでに全車が引退している。

 

◆あいの風とやま鉄道に同形の車両がわずかに残るのみに

JR西日本の413系は16両とすでに減っていた(2020年4月1日現在/2編成はクハ455形と連結。こちらを含めれば計18両となる)。すべて金沢総合車両所への配置だったが、2021年3月のダイヤ改正で七尾線は521系となり、また北陸本線金沢駅〜小松駅間での運用がわずかに残っていたが、すべてこちらも521系に代わる予定となっている。

 

残りはあいの風とやま鉄道に譲渡された車両のみとなるが、こちらは観光列車に改造された編成もあり、もうしばらくは走り続けることになりそうだ。

 

※まだまだあります2021年に消えそうな車両。ここで紹介した以外の車両は【後編】に続きます。

最近よく目にするタクシーアプリ『GO』仕掛け人に聞いた! 向こう10年で起こる「交通・移動の大変革」

昨年以来、首都圏内を走行しているタクシーのボディに配車アプリ『GO』の広告がデカデカと飾られるのを目にするようになりました。合わせて『Uber Taxi』『DiDi』ほか、配車アプリのプロモーションを目にする機会が増え、タクシー配車サービスの市場の拡大が感じられます。

 

他方、少し前からビジネス・キーワードとして「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」という新概念も耳にするようになりました。これは「サービスとしてのモビリティ(移動性)」「オンデマンドを活用し、マイカー以外の移動をシームレスに繋ぐ」というもの。ヨーロッパではすでに本格的な取り組みが始まっており、日本でも鉄道・バス・タクシーおよび自動車会社などで研究開発が進んでおり、いち早くMaaSの概念をメインとしたサービスや事業展開を打ち出している企業もあります。

 

しかし、前述のタクシー配車アプリ市場の拡大ぶりと、MaaSという新概念に対して、具体的な直結がイマイチ想像ができないのも事実です。そこで今回は『GO』を展開するMobility Technologiesの江川絢也さんに話を聞き、それぞれの中身と未来の移動性について、できるだけわかりやすく話を聞いてみました。

↑Mobility Technologies GO事業本部・本部長の江川絢也さん。あらゆる公共交通のうちタクシーにフォーカスし、『GO』を通して新しい移動サービスを日々研究・展開しています

 

従来のタクシーのメリット・デメリットとは何か

ーーまず、これまでのタクシーを含む公共交通のメリット・デメリットをお聞かください。

 

江川絢也さん(以下、江川) まず、これまでの日本の公共交通は、世界的に見ても成熟していると思っています。特に首都圏での電車・バスという「箱物」の移動は、細かく張り巡らされており、利便性は十分です。さらに、いつでも、どこにでも行けるのがタクシーだと考えています。

 

電車・バスという公共交通は細かく張り巡らされてはいますが、「何度も乗り換えをしなければならない」「最寄り駅に着いてから目指す場所へ歩いていかないといけない」というデメリットもあります。この点はタクシーのほうが便利で、ドアtoドアでの移動ができる上、プライベート空間も確保されるため、安全面も安心です。

 

ただし、個別輸送機関であるがゆえに「料金が高い」「なかなか空車を見つけられない」といったデメリットがあります。私たちは、「移動で幸せに。」というミッションのもと、こういったことをテクノロジーで解決する他、タクシーを起点に移動の未来を作っていこうと取り組んでいます。

 

ーーMobility Technologiesは、具体的にどういった取り組みをされているのでしょうか。

 

江川 まず現在のタクシーを起点として、テクノロジーを活用しながら「より乗りやすくすること」「キャッシュレスで簡単・便利に決済できるようにすること」などを目的としているのが、タクシーアプリ『GO』事業です。

 

それに加え、ドラレコのAIを活用した、わき見運転や一時不停止などの各種のリスク運転行動を「見える化」することで、事故を削減させるシステムのDRIVE CHART事業があり、複数のタクシー会社、物流起業、営業者を抱える製薬会社など多くの企業に活用いただいています。そして、今後広まっていくであろう自動運転やスマートシティに向けた取り組みを行うR&D事業(技術開発)を展開しています。

 

ーー首都圏のタクシーのボディには一時から『GO』の広告が大きく貼り出され、目にする機会が増えました。『GO』はどういったアプリなのでしょうか。

 

江川 『GO』でできることは大まかに書き、下記の4つです。

○近くにいるタクシーを呼ぶことができる
○配車したタクシーの到着時間がわかる
○希望の日時に配車できる
○支払い方法としてアプリ内決済をすることができる

 

江川 以前あったタクシーアプリ『JapanTaxi』と『MOV』を一つに統合したもので、双方の提携タクシー車両を配車することができます。現在エリア拡大中ですが、弊社では全国で約10万台をネットワークしています。他社さんのアプリだと全国で1〜2万前後ですので、圧倒的な数だと思います。

↑特にコロナ禍以降、各社プロモーションの接戦を繰り広げているタクシーの配車アプリ。中でも『GO』は群を抜く提携業者を得ていることから、対象地域・車両とも細やかな手配をすることができます

 

期待される「タクシーの相乗り」の中身とは?

ーーたしかに便利そうです。ただ、実際に利用する際、料金面ではまだまだタクシーは高く、やはり電車・バスにはかなわず利用の頻度は限られるようにも思います。

 

江川 おっしゃる通りです。この料金の問題を軽減させるために「相乗り」という概念が考えられます。

 

ーーいわゆる友達同士で乗り合うものではなく、見知らぬ人同士で乗車できるサービスとしての「相乗り」ですね。

 

江川 実は本年度中に「タクシーでの相乗りを認める」という業法が解禁される話もあったのですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり先送りになり、まだ解禁には至っていません。しかし、もしこの業法が認められれば、もちろん『GO』でも取り組んでいく領域で、このことで料金の問題はだいぶ軽減されるのではないかと思っています。

 

ちなみに、相乗りのことを「ライドシェア」と表現する場合もありますが、いわゆる「白タク」と言われる個人が自家用車で「人を乗せて運ぶ」のも「ライドシェア」です。ただ、日本では原則「人を乗せて運ぶ」ことはプロに任せる方針で、タクシーは二種免許という特別なライセンスが設定されています。なので、タクシー事業は「安全にお客様を乗せて運転する」ことがきちんとプログラムされています。そういった設定がきちんとある日本の中で、突然素人のドライバーが、見知らぬ人を乗せて運転して良いものか……という議論が、様々な立場の方々の間で喧々諤々とやられているのが現状です。

 

海外の一部地域では、Uberの代表的概念がそうであるように一般人によるこういったシェアが根付いているエリアもあります。日本でも一部の過疎地域の、公共交通が破綻しかけているエリアで特例的に、自家用車を使ったライドシェアが許可されている地域はありますが、安心・安全のレベルが高い日本の大部分では解禁されないだろうというのが私の見立てです。ですので、日本全体にとっては、既存のタクシーという交通手段にうまくテクノロジーを融合させていくことで、いかに移動体験を向上させるのかをさらに考えていかなければならないと思っています。

 

将来的に『GO』などのアプリによって、同じ方向を目指す人同士をマッチングし、1台のタクシーを使って移動する「相乗り」の実現は、移動コストの削減になり、多くの人の移動ニーズを満たすことができると考えています。

↑今後解禁されると言われている「タクシーの相乗り」によって、数年以内に、見知らぬ人同士が1台のタクシーに乗り移動する時代が訪れそうです

 

自動運転車両の実現が、新しい移動手段の肝に

ーーまた、「近い将来、マイカーが激減する」といった見立てもあります。主に高額な維持費や環境への問題があることと、今後進化する公共交通の移動のほうが合理的で割安だからという理由です。この点はどうお考えですか?

 

江川 「マイカーの激減」というのはすでに東京の山手線内のエリアで起きていて、人口に対するマイカー所有比率が半分を切っています。このエリアでのマイカーの非保有者の方は、公共交通を使って移動したり、あとバイクシェア(自転車シェア)などで移動したりしています。つまり、「自分で移動をする」から「サービスを使って移動をする」ようになっているんですね。この流れは徐々に広がっていくだろうと見ています。

 

ーー一方、地方部では「移動手段はクルマしかなく、マイカーは必須」というエリアもあります。つまり、都市部と交通インフラに乏しい地方部で、マイカー所有の二極化が進むようにも思いますね。

 

江川 おっしゃる通りです。「移動をサービスでフォローできる地域」と「移動をサービスでフォローできない地域」があります。特に過疎地域だと、電車・バスの利用者が減っていくなかで路線の廃止ということも起きてきているので、マイカーでの移動が際立っているケースもありますよね。ただ、これも一時的な二極化で、自動運転車両が出てきたときには特効薬になるように思っています。

 

ーーなぜ、自動運転車両が特効薬になるのでしょうか。

 

江川 例えば前述のような過疎地域では、「人が運行させることで、人の移動をフォローする」となると、どうしても採算が合わせにくいのが現状で、そのために路線の廃止なども起きています。ただし、自動運転車両が出てきた際、地方自治体がこういった車両をインフラと考えて、費用を負担して公共的な移動サービスを行うといったことは十分あり得ることです。

 

また、人口の多い都心部でも自動運転車両が出てきた際、前述のような「相乗り」によるライドシェアもより盛んになると思います。ですので、将来の移動手段の変革は、自動運転車両の一般化によって大きく進むだろうと考えています。

 

本格的なモビリティ革命「MaaS」はズバリいつ訪れるのか

ーー少し前から移動手段の新概念として「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」というビジネス・キーワードを少しずつ耳にするようになりました。「サービスとしてのモビリティ(移動性)」「オンデマンドを活用してマイカー以外の移動をシームレスに繋ぐ」といった意味ですが、タクシーアプリ『GO』はその取り組みの一つであると考えて良いでしょうか。

 

江川 はい。さきほど言ったような「山手線内でのマイカー激減」はまさにMaaSを象徴する事例ですが、新しいMaaS社会に際して何ができるかを考え提案していくのが『GO』です。今後も様々なサービスを取り組んでいきたいと考えています。

 

ーー余談ですが、MaaS社会が進むと、街の構造も変わっていくように思います。この点はどうお考えですか?

 

江川 「コンパクトシティ」「スマートシティ」といった取り組みは20年前からありますけど、こういった街の変革は、MaaSとは切っても切り離せないものになると思います。特に都市部では、移動に伴う基幹路線は変わらないでしょうし、その主要駅周辺の街も変わらないと思います。ただ、そこから枝分かれしているような細かい駅周辺の街は、MaaSによって、よりサステナブルな公共交通の運営の仕方ができるのではないかと思っています。地域の端から端まで、電車やバスを走らせるのではなく、ユーザーのニーズに合わせて電車、バス、タクシー、自転車などをシームレスに組み合わせられるような仕組みが、都市部だけでなく、いわゆる過疎エリアでも実現可能なのか、今後議論が高まってくるのではと思います。

 

ーーずばり本格的なMaaS時代は、いつ頃訪れるとお考えですか?

 

江川 「アプリサービスを使ってタクシーを利用する」といったことを例に挙げると、5年ほど前までは東京でもキャッシュレスの決済が全体の3分の1にも満たないレベルでした。しかし、今は3分の2くらいまで伸長してきているタクシー事業者もいます。直近5年でもタクシー業界はこれだけ速いスピードでDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいるので、これに加えて、向こう10年の間に自動運転車両が合流すると仮定すると、そのタイミングで日本の移動体験は一気に向上するのではないでしょうか。

↑今後はさらにキャッシュレスが浸透し、これに伴い移動はもちろん社会を司るあらゆるものが変わっていく可能性を秘めています

 

さらなるサービスを視野に入れている『GO』

ーー現在17都道府県で展開中とのことですが、『GO』の今後の目標をお聞かせください。

 

江川 タクシーアプリの利用は世の中で一般化してきたようにも見えますが、全国的なタクシー利用と比べると、アプリ利用の割合は実は2〜3%程度です。つまり、まだまだ「駅でタクシーを拾います」「流しのタクシーに乗ります」という人が圧倒的に多いのです。こういった方々にも広く『GO』を利用していただけるようにすることが目下の目標です。

 

現状の『GO』は「タクシーを呼びやすい」というサービスにのみ特化していますが、マッチング精度の高さによって実現できること……。例えば「どういった車両に乗りたいか」「ドライバーはどんな人が良いか」といった細部のサービスも提供できるようにしたいと思っています。また、前述の自動運転車両が出始めた際には「ドライバー付きのタクシー」「自動運転車両のタクシー」と選択できるような展開も視野に入れています。

 

こういった様々な取り組みとサービスによって「アプリなら、いろいろ選べるから便利だよね」と認識していただければ、さらに『GO』を利用していただける方が増えるでしょうし、また、来たる本格的なMaaS時代に合致するサービスを提供することができるだろうと考えています。

↑『GO』が考える、MaaS時代に呼応したサービスは今後も様々な展開を予定

 

たしかに過去5~10年を振り返ると、社会インフラも人々の考え方も大きく変わりました。さらに、しばらくは続くであろうコロナ禍による「新しい生活様式」を合わせて考えれば、特に「移動」の構造は向こう数年で急速に変わるようにも思います。MaaSやそれに準ずる各社の様々なサービスは、こういった社会インフラの移動変革を先読みした新しい取り組みです。今後も注目し、各方面の識者・実践される方の話を聞いていきたいと考えています。

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

新型ルノー「キャプチャー」は何が進化したの? クルマ視点とモノ視点、2人のプロが語る超濃厚レポート

ルノーのコンパクトSUV「キャプチャー」が2代目へとフルモデルチェンジした。先代は全世界で170万台をセールスし、コンパクトSUVのパイオニアともいえるモデルだ。新型モデルは2019年から本国フランスをはじめヨーロッパで販売されており、こちらも大ヒット中! 2020年のヨーロッパ販売台数では、SUVではナンバーワンを獲得している(※1)。

※1:2020年1~12月 ヨーロッパ27か国におけるSUVモデルの販売台数。JATO Dynamics Ltd 調べ。

 

本記事では、2月25日からスタートする国内販売を前に、エクステリアデザイン、インテリアデザイン、走行&動力性能、使い勝手、先進技術の5方向から同車を解説。本サイト編集長の山田佑樹と、モータージャーナリストの岡本幸一郎さんによるダブルインプレで魅力を掘り下げていく。

 

【今回紹介するモデル】

ルノー

キャプチャー

299万円(インテンス)〜319万円(インテンス テックパック)

SPEC【インテンス テックパック】●全長×全幅×全高:4230×1795×1590mm ●ホイールベース:2640mm ●車両重量:1310kg ●パワーユニット:1.3L直列4気筒直噴ターボエンジン ●最高出力:154PS(113kW)/5500rpm ●最大トルク:270Nm/1800rpm ●WLTCモード燃費:17.0km/L

 

【新型ルノー キャプチャーのディテールをギャラリー形式で紹介!(画像をタップすると詳細が表示されます)】

 

新型ルノー「キャプチャー」の詳細はコチラ

 

【その1:エクステリアデザイン】

「360度全方位、スキがなくなった」(岡本)

「シームレスであり、ニューノーマルな一台」(山田)

新型ルノー キャプチャーでまず触れたいのがエクステリアデザインである。よりSUVらしいダイナミックさを獲得しながらも、洗練された都会的な佇まいはキープ。これについて岡本さんは「初代譲りのやわらかな面と、初代にはなかった鋭い線が織りなすボディパネルの面構成が絶妙。360度全方位、スキがなくなった印象」と解説。

↑ボディサイドは絞り込まれるような複雑な面構成をしていて洗練された印象を醸し出す

 

↑ボンネットにはプレスラインが入り、こちらも躍動感を感じさせる

 

山田もこのデザインは感銘を受けた模様。

「フォーマルもカジュアルもイケるデザイン。高級ホテルのエントランスでもサマになるし、オートキャンプ場でも絵になる。一方で、スーパーの駐車場に止めても溶け込みます。ひとつの要素をやりすぎず、すべてが調和しているから風景と調和。シームレスな存在であり、シームレスはニューノーマルの時代の重要な要素です」(山田)

 

より細かい箇所に関しては山田と岡本さんのミニ対談をご覧いただきたい。

山田「SUVでデザイン的な個性を出そうとすると、エグさというかやりすぎちゃうことありますよね」

岡本「ですね。奇抜なデザインも悪くないですが、キャプチャーはあくまでオーソドックス。わざとらしい感じがしない」

山田「それはどのあたりが肝になっていますか?」

岡本「結局、ひとつひとつの積み上げなんですよね。C型をした前後ランプ類のデザインで統一性を出す/フロントパンパーのダクトでクルマをよりワイド&ローに見せてアクティブさを出す/リアパンパーにもダクトパーツを装着して統一感を出すなど、すべてに意味があります」

↑Cシェイプのライトシグネチャー
↑フロントバンパーのエアディフレクター
↑リアのランプもCシェイプで、リアバンパーにはエアアウトレットの造形を採り入れている

山田「フレンチSUVは1日にしてならず、ですね」

岡本「ええ。しかも、フロントバンパーの機構はフロントホイールハウス部分を整流し燃費を稼ぐ効果もあって、ちゃんと機能も持ち併せています」

山田「機能美もあるということですね。ちなみに、モノ目線で言うと、オン・オフ問わないは最新のキーワードなんです。近年、スポーツブランドが次々とビジネスウェアを出していて、ジャージのような着心地のスーツが流行っています。オン(=ビジネス)なんだけど、オフ(=プライベート)もイケる。キャプチャーもまさにそんな感じ」

岡本「なるほど」

山田「だから、フォーマルな場に連れていっても、カジュアルな場所に連れていっても映える。同時に、年齢もシームレスなんですよね。カップルやファミリー層にも合う、子育て卒業世代にも合う。ベースがエグくないから、使い方の色付けは、その人それぞれ、白紙のキャンバスみたいなクルマです」

↑ホイールの意匠もやりすぎない程度に個性を主張。タイヤサイズは前後とも215/55R18

 

【その2:インテリアデザイン】

「フライングセンターコンソールの素晴らしさ」(岡本)

「廃れることのないハンドスピナー」(山田)

新型ルノーキャプチャーで最も変わったのはインテリアだろう。運転席側に少しだけ向いたコクピット、肌に触れる部分に多用されるソフトパッド、ピアノブラックで引き締まったデザインのディスプレイ、デジタル化したメーターなど、見るべきポイントがたくさんある。

 

↑デジタルメーターは、運転モードや照明をカスタマイズできる「ルノー・マルチセンス」で表示を変えられる。写真は中央を速度計にしたもの

 

↑7インチ マルチメディア イージーリンク。スマホとつなげてApple CarPlayやAndroid Autoを利用できる

 

ただ、これらは、ベース車両となるルーテシアでも同じ手法で進化。新型ルノー キャプチャーではさらに、キャプチャーらしいこだわりが随所に仕込まれている。岡本さんが挙げたのは、シフトがまるで宙に浮いたような造形の「フライングセンターコンソール」だ。

 

「フライングセンターコンソールは見た目にも印象的なうえ、機能面でも実に合理的。SUVらしくアップライトなドライビングポジションにも合っています。ちょうど良い高さにシフトノブがあるので、運転時にわざわざ見なくても操作ができます」(岡本)

↑フライングセンターコンソール。シフト部分が宙に浮いたような造形が特徴的

 

↑シフト下の空間は小物入れになっており、ワイヤレス充電に対応

 

山田の感想はどうだろうか。

キャプチャーは触覚に訴えかける稀有なモデル。ソフトパッドの質感がとにかく気持ちいい。例えるなら、廃れることのないハンドスピナーのよう。ハンドスピナーは一時的なブームで終わってしまったが、こちらはずっと触っていたくなる。肌に触れるところが気持ちいいと空間全体の居心地がよくてずっと居たくなる」(山田)

↑ドアトリムやグローブボックス上部、肘掛け部分など肌が触れる場所に柔らかな手触りのパッドを配置

 

ここでも、より細かい箇所に関しては山田と岡本さんのミニ対談をご覧いただきたい。

岡本「いまやBセグメント(※2)でもアンビエントライト(室内の間接照明)が使われるようになったことに時代を感じます」

※2:プジョー208シリーズ、フォルクスワーゲン ポロ、国産車ではトヨタのヤリスやホンダのフィットが当てはまるコンパクトカーの分類

山田「そこから来ますか! 確かに、Bセグはあくまで実用車であり『演出する』というのは、二の次でした」

岡本「そうなんです。いま、フランスのBセグ車は『良い戦い』をしています。かつてBセグは、小柄なBセグのほうがよい人はもちろんとして、Cセグを買えない人が選ぶ意味合いが大きいクラスでした。ところが最近、大きくなり過ぎたCセグを嫌って、積極的にBセグを選ぶ人が増えています」

山田「なるほど」

岡本「それを受けて、各社がBセグに力を入れるように。際立つのがフランスのブランドです。ドイツ勢はどちらかというとCセグ以上がメインですが、フランス勢はBセグは譲らないとばかりに力を入れて、Cセグのダウンサイザーが購入しても不満に感じないよう、質感や装備を磨き上げてきました。そうして開発されたBセグのニューモデルがいま続々と市場に登場しています。なかでも、もともとSUVのベストセラーであるキャプチャーは、そのポジションを確固たるものとすべく、すべてにおいて進化を果たしたと感じています」

山田「それは走りの面や、使い勝手や居住性でも同じことが言えそうですね」

岡本「まさにそうです」

山田「私は、岡本さんも挙げてくれた『フライングセンターコンソール』が気に入っています。これは、キャプチャーオリジナルでルーテシアにはない。ベース車両があるモデルだと小手先だけのデザイン変更というケースも多いですが、圧倒的に違う。ルノーのこだわりが見て取れます」

 

新型ルノー「キャプチャー」の詳細はコチラ

 

【その3:動力性能&走行性能】

「トルクウエイトレシオが効いている」(岡本)

「セグメントの考え方を置き去りにする」(山田)

新型ルノー キャプチャーはBセグメントのコンパクトSUVというラベルを覆すようなしっかりとした、走らせて楽しい仕上がりになっている。このパートは、モータージャーナリスト視点で岡本さんに徹底的に語っていただこう。

 

キャプチャーのエンジンは1.3Lの直噴ターボエンジン。この排気量帯では3気筒を採用するメーカーも増えていますが、やはり4気筒のほうが好みです。エンジン音に安普請な印象がないし、振動が小さく不快感がありません。

↑最高出力は154PS(113kW)/5500rpm、最大トルクは270Nm/1800rpm。これは、ルーテシアに比べて、23PS、30Nmのアップ

 

1.3Lながら力強く加速し、体感的にも十分な速さを引き出しているのはたいしたもの。レッドゾーンの6500rpmまできっちり回ります。

 

スポーツモードにすると、よりアクセルレスポンスが増して盛り上がりのある加速をします。レスポンスがよく扱いやすいので、常時これを選んでおいてよいのではと感じたくらい。むしろ、アクセルをあまり踏まなくても加速するので、燃費もそれほど悪化しないはず。

↑スポーツモード時にメーター。中央のメーターがタコメーターになり、車両の反応もクイックに

 

ベースのルーテシアよりも100kgほど重くなっているのに、パワー&トルクが引き上げられたことで、それ以上に速くなったように感じます。パワーウエイトレシオ(※3)はもちろんとして、トルクウエイトレシオ(※4)が高いことが効いています。余力のある動力性能のおかげで、高速巡行が主体のロングドライブもよりラクに走れることでしょう。

※3:車両重量を最高出力で割った数値。数値が小さいほど加速力が高いとされる ※4:車両重量を最大トルクで割った数値。数値が小さいほど加速力が高いとされる

 

7速EDC(※5)はつながりをマイルドにして扱いやすくしていて、ダイレクト感をあえて落としている印象。ギクシャク感は小さく、シフトチェンジがおだやかで、機構的な負荷も小さくトラブルも起こりにくくなるはず。

※5:奇数段と偶数段の2つの軸に配されたギアを交互に切り替える仕組みで、瞬時かつシームレスなギアチェンジが可能な機構
↑シフト自体の造形もベースのルーテシアと異なっている

 

足まわりは、ストローク感があるけど適度にダンピングが効いて引き締まっています。ロールが小さく抑えられているので、コーナリング中にいまクルマがどのような状況にあるのか掴みやすく、ちょうどよい味付け。また、ステアリングギア比がクイックになったことで、より俊敏なハンドリングを楽しむことができます。

 

ルノー・日産・三菱のアライアンスで新設計されたプラットフォームは剛性が非常に高いです。サスペンションの取り付け剛性も十分に確保されているおかげで、足まわりが理想的に動いて仕事をこなしている印象。タイヤがしなやかに路面に追従してしっかり接地している感覚があります。

 

ステアリングの中立位置から微妙に切りはじめたところから正確に応答し、切った通りに車両が反応してくれます。このクラスでこの領域の動きがちゃんとできているクルマは少ないです。これにより修正舵が少なくなり、長時間のドライブでも疲労感が小さくなります。

↑任意のギアにするにはステアリング裏にあるパドルシフトを使用する

 

【その4:使い勝手】

「ファミリーカーとしても十分」(岡本)

「Boseがあるおかげで書斎にもなる」(山田)

新型ルノー キャプチャー、室内の広さやラゲッジの広さはどうなのだろうか? 数字から見ていこう。フロントシートの座面長が15mm長くなり、よりサポート性がアップ。一方、シートバックの形状を工夫することで、後席乗員の膝周りスペースは17mm長くなって、221mmになっている。同時に初代から好評だった、リアシートの前後スライドも継続。前後に最大160mmスライドできる。

 

前席、後席とも初代よりも車内空間が広くなっているように感じました。このクラスでこの広さはなかなかありません。ファミリーカーとしても十分に使えます」(岡本)

↑後席にもエアコン送風口とUSB端子を搭載。広さだけでなく、快適に過ごせる装備も充実

 

また、インフォテイメントも充実。ここではデジタルデバイスに造詣の深い山田に語ってもらおう。

 

「Apple CarPlayとAndroid Autoが使えるから、いつもの環境で地図を見たり、音楽を聞いたり、ストリーミングサービスを利用できます。これ自体は他のクルマでもできるので特筆することではないけれど、キャプチャーはここにBoseのサウンドシステムが加わるから、一気に特別な空間になります。イベントやライブがオンライン化していくなかで、より高音質な体験をしたい人は増えているはず。

 

自宅でプレミアムな音響システムを構築しようとすると、金額もうなぎ上りになるし、配線が増えて家族の同意を得ることも必要。だけど、キャプチャーなら標準装備。書斎としても活躍するでしょう」(山田)

↑超小型ながらBoseサウンドを鳴らす「Fresh Air Speaker」を搭載。サブウーファー、4つのウーファー、4つのトゥイターの合計9つのスピーカーから構成される

 

これ以外にも使い勝手の見所は満載。ミニ対談で余すことなくお伝えしよう

岡本「ラゲッジの広さに驚きました。同じくBセグでこの広さにはビックリ。ゲート開口部も広く、使い方に合わせてアレンジできるのも重宝します」

↑ラゲッジは6:4の分割可倒式。536L〜最大1235Lまで拡大する

 

山田「リアシートのスライドが絶妙にいいんですよね。このスペースにアウトドア用のテーブルがちょうど入る。キャンプやBBQは効率よく荷物を積めるかがポイント。隙間なく積めたらドライブも気持ちいいですし、積んだものが動かないので安心度も上がります」

↑リアシートはスライドが可能。上の写真に比べて後席を前にスライドさせている

岡本「アウトドアという側面でいえば、ドアがサイドシル下まで回り込んで開閉するおかげで、下から泥などが侵入しにくくサイドシルが汚れないので、ズボンのスソを汚す可能性が低いのがありがたいです」

 

新型ルノー「キャプチャー」の詳細はコチラ

 

【その5:先進安全技術】

「一気にセグメントのトップランナーになった」(岡本)

「文字通り、死角なし!」(山田)

次は、最近のクルマでは欠かせない先進安全技術面を掘り下げていこう。新型ルノー キャプチャーでは最新装備をカバー。代表的なものでいえば、アダプティブクルーズコントロール、歩行者・自転車対応の衝突被害軽減ブレーキ、360°カメラ、後側方車両検知、車線逸脱防止支援、車線逸脱警報、交通標識認識機能。インテンス テックパックにはさらに、レーンセンタリングアシストを装備し、車線の中央をキープしてくれる。

 

岡本さんの評価としては、「一気にセグメントのトップランナーになった印象です。日産とのアライアンスによる恩恵でしょう。なかでも、レーンセンタリングアシストと、レーンキープアシストといった、高速巡行時に役立つ機能が設定されたのは大歓迎。長距離ドライブでドライバーにかかる負荷を格段に引き下げてくれるでしょう」と高評価。

↑先進運転サポート系はステアリング左側の操作ボタンから行う

 

これは山田も同意見だ。

キャプチャーはエイジレスですが、ダウンサイジングして乗り換えるという面で考えると、50代以上のユーザーも少なからずいるはず。まだまだ元気な年齢ですが、肉体的な衰えも出てくる年代なので、運転サポート機能を満遍なく取り揃えているのは心強いです。アクティブだからこそ、そのアクティブを心置きなく発揮させてくれるクルマ。文字通り死角なしです!」(山田)

 

【まとめ】

「安グルマ」という印象はまったくありません(岡本)

ベースグレードがアンダー300万円の衝撃(山田)

ここまで新型ルノー キャプチャーを5つに分けて解説してきたが、最後に総括していこう。

「7年分の中身の大幅な進化はもちろん、初代でもウケのよかったスタイリングも持ち前のよさを大きく変えることなく、それでいて新鮮味もある、ちょうどよいデザインに仕上がっています。これほど内容が充実しながらも、価格設定も非常に頑張った」(岡本)

 

「インテンスグレードの価格は299万円。ベースグレードとはいえ、安全装備やBoseなどほぼ全部入りでこのプライスは結構衝撃的。実にお得です」(山田)

 

新型ルノー キャプチャーの発売は2月25日。デビューフェアは2月27日〜3月7日。ぜひ、ディーラーまで足を運んで欲しい一台だ。

 

新型ルノー「キャプチャー」の詳細はコチラ

 

撮影/茂呂幸正

クルマのサブスクKINTOが4月より新たな新サービス「モビリティマーケット」を提供。その狙いは?

様々な業種で展開されるサブスクリプションサービス(サブスク)に注目が集まる中、トヨタが展開するクルマのサブスク「KINTO」が高い人気を集めています。発表によればKINTOは昨年6月以降、1か月で1000台を超える契約数を連続して獲得。クルマという高額商品ではこの実績は異例のことです。そんな中でKINTOは、新サービスとしてオンラインプラットフォーム「モビリティマーケット」(モビマ)を2021年4月より立ち上げることを発表しました。その狙いはどこにあるのでしょうか。

↑KINTOが4月より提供するオンラインプラットフォーム「モビリティマーケット」(モビマ)

 

目的は「移動のよろこび」を感じてもらえること

モビマはコロナ禍で移動が制限されている昨今、人間が本来より持っている「どこかに行く」というニーズに応えることを目的として提供されるもの。近い時期にコロナ禍が落ち着き、移動が自由になる時に向けて「移動のよろこび」を感じてもらえるサービスを目指します。

 

利用は日本国内の在住者・滞在者なら誰でも可能ですが、KINTO契約者には特別な特典も用意。契約期間中1台を選ぶ「KINTO ONE」では3万円相当、契約期間中複数台を選ぶ「KINTO FLEX」では6万円相当の優待や様々な特典が予定されているのです。つまり、単に「クルマ」に乗る楽しみ方を与えるだけでなく、出かけた時に感じる「移動のよろこび」までもコミコミで提供するのがモビマ最大の特徴と言えるでしょう。

↑モビマはクルマだけだったサブスクが「移動のよろこび」までもコミコミとなる

 

その実現のために用意したカテゴリは以下の5つ。それぞれ目的にマッチしたアクティビティを用意しています。

↑モビマが用意するカテゴリー

 

【新しい生活の扉を開こう】

キャンピングカーを利用したワーケーションや、シェアサイクルで巡る旅、ドライブインシアターなど、ニューノーマル時代の新たな移動体験を提供。

 

【心踊るスペシャルな体験を】

海外でのKINTOブランドのカーシェアや、モータースポーツの観戦・体験、クルマでしか行けないようなローカルでの食事と体験など、クルマを使った非日常体験を提供。

 

【クルマ時間をとことん楽しもう】

カーコーティングや、レジャー時の駐車場予約、クルマの中で流す音楽やお出かけを楽しくするカメラなど、快適なクルマ時間を演出するサービスを提供。

 

【もっと気持ちよく、軽やかに】

クルマ・電車・バス・船をはじめ複数の移動手段を組合わせたMaaSや、リムジンによる自宅から空港への送迎など、シームレスでストレスフリーな移動サービスを提供。

 

【やさしく移動を応援】

ドライビングレッスンや、移動する日をピンポイントでカバーする保険、クルマの中の除菌など、移動の安心安全をサポートするサービスを提供。

 

これらアクティビティの活用範囲は広く、このサービスを実現するにはトヨタだけで提供することはできません。そこで国内事業者と提携し、現時点で20社が確定。さらに30社前後と協議中だということです。その中にはJTBや近畿日本ツーリストなどの旅行会社も含まれますが、ここで提案されているのは一般的な旅行商品ではなくKINTO向けにクルマ移動を前提とした旅プランです。これを踏まえ、他の提携先ともKINTOに最適化したサービス内容になるよう詰めていくとのことです。

↑4月からスタートするモビマで提携する会社は20社。小寺社長は「今後100社、200社と増やしていきたい」とする

 

加えて、コロナ禍が落ち着いて海外へ出かけられるようになった頃には、トヨタが海外16か国で展開するカーシェアサービス「KINTO SHARE」も利用できるようにする計画とのことでした。海外でもシェアできるようになれば、海外での移動のハードルがいっそう下がることが期待されます。

↑KINTO契約者は、サービスを展開している16の国と地域でカーシェアも受けられる準備も進めている

 

提携サービスを将来は100社、200社と増やしていく

モビマを提供する狙いについてKINTOの小寺信也社長は次のように説明しました。「クルマの利用だけでなく、クルマをもっと楽しんでいただくためにモビマを展開することにした。サービスが点在している中で、モビマを開くことで、ここに来るだけで(それらに)アクセスできるようにしたい」。そのために提携事業者も「現在の20社を、将来は100社、200社と増やしていきたい」(小寺社長)と、今後サービスの拡大に意欲を示しました。

↑新たなサービス「モビリティマーケット」について説明するKINTO小寺信也社長

 

KINTOではこのサービスに先行して2020年末にスタートアップキャンペーンを実施しており、そこではキャンピングカーと車中泊スポットをセットにしたワーケーション体験や、シェアサイクルを組み合わせた旅行プラン、レンタカーとドライブシアターをセットにしたエンタメ体験など“移動の喜び”を感じられるサービスを用意しました。その結果は「参加者の満足度は70%を超えており、サービス展開への手応えを感じた」と小寺社長が話すほど好評だったそうです。

↑移動そのものに対して様々なサービスを提供するため、パートナー作りにも積極的だ

 

また、質問でモビマへの出店料について聞かれた小寺社長は、「パートナー企業からいただく費用は必要最低限としていて、出店料で利益をあげることを目的にしてはいない。あくまでユーザーに対して様々なサービスを提供し、クルマで移動する楽しみを体験できるコンテンツを利用していただくことが第一の目標」と回答。モビマでのサービスをまずは充実させていく考えを示しました。また、4月の正式なオープン前の2月~3月にプレオープンの体験キャンペーンも予定しているとのことでした。

↑4月から本サービスがスタートする前の2月〜3月にはプレオープンのキャンペーンも実施する

 

■資料:提携予定企業一覧

NTTドコモ(kikito)

 

スマートフォンと一緒に利用できるさまざまなデバイスをレンタルして利用可能なサービス
SPDホールディングス(SPDスクール) 関東圏のペーパードライバー講習を専門に出張教習

 

オーシャンブルースマート(PiPPA

 

アプリひとつで自転車の貸し出し・返却・精算までができるシェアサービス。市中にあるポートのどこでも借りて返せるため駐輪代金は不要
CarstayCarstay

 

国内最大のキャンピングカーシェア・車中泊スポットの予約サービスを運営
キャンピングカー(ジャパンキャンピングカーレンタルセンター) キャンピングカーレンタル事業

 

 

KeePer技研(EX KeePerW DIA KeePerDIAMOND KeePerCRYSTAL KeePer カーコーティング・洗車用ケミカルと機器などの開発・製造・販売、カーコーティング技術認定店「キーパープロショップ」の展開、カーコーティング&洗車の専門店「キーパーLABO」の運営
JTB

 

ツーリズム(トラベル・地域交流)、エリアソリューション(地域課題起点)・ビジネスソリューション(法人課題起点)を軸とした交流創造事業
scheme vergeHorai

 

MaaSアプリ「Horai」と地域事業者のDXを通じたデータ駆動型エリアマネジメント
SmartRydeSmartRyde

 

全世界150か国で利用可能な空港送迎サービス「SmartRyde」の企画・開発・運営、時間貸し・周遊観光チャーターサービスの展開
テーブルクロス(byFood.com インバウンド体験グルメメディア「byFood.com」の企画・運営、社会貢献ができるグルメアプリ「テーブルクロス」の運営
近畿日本ツーリスト中部(近畿日本ツーリスト)

 

旅を通じて「感謝の気持ちを伝える」お手伝い。SDGs・ワーケーション・BCP・防災プログラム等を通じて企業及び行政との連携により課題解決をおこなう事業の展開
ハッチ(Do it Theater

 

まだ誰もみたことがないシアター体験のプロデュース、イベントやコミュニケーションのプランニング・制作・運営
富士スピードウェイ(富士スピードウェイ)

 

自動車レースの企画・運営事業・イベント企画・運営事業・レンタル・プランニング事業・サーキットライセンス事業・スポーツ走行運営事業・マーケティング事業
ペーパードライバーサポート愛知(ペーパードライバーサポート愛知) ペーパードライバーを対象とした、交通安全と自動車の運転に関する各種講習

 

トヨタファイナンシャルサービス(my route

 

街のあらゆる移動手段を組み合わせてルート検索。予約からキャッシュレス決済までmy routeで完結。地元のお店や隠れた観光スポットも満載で、お出かけや寄り道もサポート
MellowMellow モビリティを活用した空地活用事業・店舗型モビリティの開業支援およびコンサルティング事業
ライフクリエイション(さなげアドベンチャーフィールド) ライトSUVからクロカン車まで幅広く楽しむことができるオフロードコースを運営

 

R-ISE(ライズペーパードライバーズクラブ) 運転を楽しもう!ペーパードライバー向け講習、目指せ社会復帰!障がい者運転支援講習、運転寿命を延ばそう!高齢ドライバー講習
リンベル(RINGBELL

 

カタログギフト・雑貨・グルメ・デジタルギフトなどギフト全般、宿泊・食事・温泉などの体験型ギフト
海外KINTO SHARE運営会社(KINTO SHARE

 

 

海外16の国と地域(以下)のカーシェア事業

アメリカ(含むハワイ)、プエルトリコ、カナダ、アルゼンチン、ブラジル、アイルランド、イギリス、イタリア、スウェーデン、スペイン、デンマーク、ドイツ、台湾、中国、オーストラリア、ニュージーランド

※()内は提供ブランド名

 

KINTOは契約件数で月間1000件以上を連続して獲得

KINTOは2019年3月にサービスを開始し、発表によれば20年12月までの累計で契約件数は1万2300件に達したということです。特に契約数が増えたのは、車種の拡充や認知度を高めるテレビCMなどを本格化させた20年6月以降で、毎月1000件を超える契約が順調に獲得できるようになりました。KINTOは法人契約もできますが、リース契約とは違って特に個人ユーザーが全体の8割を超えているのも大きな特徴です。ただ、「(経営的には)今は限りなく黒字に近いところまで来たという段階」(小寺社長)であり、KINTOとしてはモビマのようなサブスクらしい独自企画を提案し、認知度を高めていく計画です。

↑取扱車府を増やし、昨年の6月よりTV-CMの放映以降、毎月1000件を超える契約数を獲得し続けている

 

↑新車購入者全体よりもKINTOでは20〜30代の比率が高いことがわかる。保険料を込みとした内容が評価されているとみる

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

 

ユニークな改造車両も活躍!?—国鉄近郊形電車「115系」を追う【西日本編】

〜〜希少な国鉄形電車の世界その8 JR西日本の「115系」〜〜

 

日本国有鉄道の直流近郊形電車を代表する115系。登場してからすでに60年近くになる。残る115系は1980年前後に製造された車両が多くを占めるものの、それでも40年近くとご長寿車両となりつつある。

 

115系が最も多く残るのがJR西日本だ。多くの115系が残存しつつも、後継車両との入換えの波が徐々に迫りつつあるようだ。

 

【はじめに】JR西日本には計590両の115系が引き継がれた

115系は1963(昭和38)年に製造が開始され、合計1921両が製造された。国鉄からJRに移行した1987(昭和62)年当時にも、計1875両がJR東日本、JR東海、JR西日本へ引き継がれている。この3社の中で引き継いだ車両数が多かったのがJR東日本とJR西日本で、JR東日本へ1186両、JR西日本へ590両が引き継がれた。このうちJR東日本ではすでに21両まで減ってしまっている。

 

【関連記事】
残る車両はあとわずか—国鉄近郊形電車「115系」を追う【東日本編】

 

さて一方の西日本に残る115系は、あと何両となっているのだろう。

 

◆岡山と山口を中心に251両が活動中!とはいうものの

車両を長く大事に使う傾向があるJR西日本とあって、今も115系は251両が走り続けている。内訳は次の通りだ。

 

○岡山電車区:165両(4月1日以降に微減しているとの情報もあり)
○下関総合車両所運用検修センター:84両(2020年4月1日現在のJR西日本発表の車両数)
○福知山電車区:2両(2020年4月1日現在のJR西日本発表の車両数)

 

この車両数を見る限り大所帯である。とはいえ安心はできない。JR移行後、中国地方を走る直流電化区間では、多くの115系や113系が使われてきた。特に山陽エリアでは115系の“天下”だった。

 

◆大変動が起った2015年から2016年にかけて

広島地区を走る電車が配置されるのが下関総合車両所広島支所。ここには2014年4月1日まで115系が88両、また113系が68両も配置されていた。この年までは計181両という大所帯だったのである。ところが、2015年春以降にJR西日本では「広島シティネットワーク」の一新に取り組み、新型227系の導入を進めていった。山陽本線はもちろん、呉線、可部線に新造車両が導入され、113系、115系、105系といった車両が徐々に消えていった。配置車両数の推移をみると良く分かる。

↑山陽本線の急勾配区間、通称“セノハチ”を走る115系。すでに広島地区からは113系、115系全車が撤退している 2015年3月27日撮影

 

○下関総合車両所広島支所の113系・115系の車両数

113系 115系
2015年4月1日 68両 88両
2016年4月1日 2両 0両

 

2015年に88両配置されていた115系は翌年には0両になってしまったのである。この車両数の変化には裏があった。下関総合車両所広島支所の115系36両が、下関総合車両所運用検修センターに大移動、同検修センターの115系は180両からこの年に216両に増えていた。つまり、227系を導入、115系との入換えにあたり、引き継ぎをスムーズに進めるためにも、配置箇所を一時的に変更するなどをして対応していたわけだ。

 

大変動があった2015年から2016年にかけてのJR西日本の115系だが、2015年当時の115系の車両数が計443両だったのに対して、2020年には251両まで減少した。この5年の間に半分近くの車両が引退となっていたわけだ。

 

JR西日本として今後は、京都地区を走る113系の入換えを先に進めるとしている。だが、227系を導入したその入換えのスピードを見ると、中国地方の115系に関しての入換え計画はまだ未知数というものの、決して安泰とは言い切れないのである。

 

【115系が残る路線①】岡山地区を走る115系の特徴

ここからはJR西日本に残る115系を注目してみよう。中国地方を走る115系は1000番台、1500番台、3000番台がメインとなっている。岡山地区には1000番台と1500番台、山口地区には3000番台の配置が多い。

 

このうち、中国地方向けに製造されたのが115系1000番台だった。1000番台は1982(昭和57)年7月に伯備線と、山陰本線の伯耆大山駅(ほうきだいせんえき)〜西出雲駅(当時は知井宮駅)間の電化に合わせて投入された電車だ。中国山地を越えることもあり耐雪耐寒設備を備えている。

 

一方、1500番台は編成数を増やすために、1000番台の車両に運転台ユニットを付け先頭車両化、3両など短い編成での運行が可能なように生まれた番台である。

 

さらに、3000番台は観光向けを考慮した車両で、3扉を2扉化、さらにメインの座席を転換クロスシートとした電車だ。こうした大まかな区分けがあるのだが、JR西日本の車両は、体質改善工事と、編成変更をするにあたり、さまざまな形の115系を生み出している。このあたりの車両の形の違いも、鉄道ファンとしては興味深いところである。

 

◆車両の現状1:岡山地区の電化区間を幅広く走る115系

↑オリジナルな姿を残した115系。写真の列車は後ろに張上げ屋根の体質改善工事を施した編成を連結して6両で山陽本線を走る

 

岡山地区を走る115系は、岡山駅を中心に山陽本線の姫路駅〜三原駅間、宇野線、瀬戸大橋線の茶屋町駅〜児島駅間、さらに赤穂線(あこうせん)の東岡山駅〜播州赤穂駅間を走る。また福塩線の福山駅〜府中駅間も列車本数は少ないながらも入線している。さらに耐雪耐寒仕様が生かされ、伯備線の全区間と、山陰本線の伯耆大山駅〜西出雲駅間を走る。

 

車両の多くは中国地域色の黄色塗装だ。そんな中、希少な塗装車両も走り、鉄道ファンから注目を浴びている

 

◆車両の現状2: 黄色に交じり湘南色の115系が2編成走る

岡山地区で注目されているのが湘南色の115系だ。2017年4月のJR西日本のニュースリリースでも、3両2編成は「湘南色と呼ばれるオレンジとグリーンのツートンカラーのデザインで運行しております」と紹介。実は黄色に変更予定だったが、利用者からの要望が多かったことから、湘南色で再塗装されることが、この時に発表されていた。

↑岡山では希少な湘南色の115系。元は中央線を走った115系で国鉄最晩年に岡山へやってきた。オリジナルな姿を良く残している

 

湘南色で再塗装された編成は岡山電車区では珍しい115系の300番台だ。この300番台は国鉄時代最後のダイヤ改正となった1986(昭和61)年11月を期に東京の三鷹電車区から岡山電車区へ移動した車両でもある。

 

移動した当時はクリーム色と紺色の横須賀色だったが、その後に湘南色に塗り替えられた。現在、D26編成とD27編成が湘南色で山陽本線を中心に走り続けている。体質改善工事未施工の車両で、外観はオリジナルの姿を残していて、湘南色が良く似合う。

 

【115系が残る路線②】山口県内の黄色い115系の特徴は?

中国地方の中で広島地区は全車が227系に置き換えられている。この広島地区を飛び、山口県に入ると、再び115系が主役となる。山陽本線の岩国駅〜下関駅間では、宇部線から入線する列車をのぞき大半が115系となる。

 

◆車両の現状1:2扉の3000番台が主力となって走る

↑山口県内を走る115系3000番台。中間車も3000番台で写真の編成は1つを折り畳んでいるもののパンタグラフが2つ付いている

 

現在、下関総合車両所運用検修センターには4両×19編成と、2両×4本の計84両が配置されている。4両編成の115系は3000番台(中間車に3500番台連結の編成もあり)で、すべて2扉車両となっている。

 

3000番台は1982(昭和57)年に広島地区用に造られた115系だ。通勤・通学利用よりも観光利用を重視、乗降扉を前後2つとし、大半の座席を転換クロスシートにした珍しい115系である。中間車のモハ114形には2つのパンタグラフが付いているのが特徴だ。こちらは製造時にパンタグラフ1つとしようとしたところ、乗務員から故障を心配する声があがった。そのため2つにしたという逸話が残る。

 

さて2扉4両編成の車両だが、やや異なる編成も混じる。パンタグラフが1つのみ編成があるのだ。この編成はさて?

 

◆車両の現状2:中間の2両だけ3500番台という編成も走る

中間車2両が3500番台という編成が含まれるのだ。こちらは元117系の中間車を利用した編成で、117系を6両から4両に短縮するにあたって、余剰車を115系編成用に転用した車両だ。改造してモハ115形・モハ114形の3500番台とした。こちらはモハ115形にパンタグラフが1つ付く。このパンタグラフの数の違いで3000番台と3500番台と番台数が異なっている。

↑こちらの115系の中間車は3500番台で、パンタグラフは1つのみ。元は117系だった車両で、改造して115系となった

 

【115系が残る路線③】岡山と山口には大胆な改造先頭車が走る

JR西日本の115系だが、ユニークな改造編成も走っている。3タイプあるが、写真とともに、ユニークなスタイルを見ておこう。全車とも、中間車を改造した車両で、先頭改造車は115系らしい丸みが消え、切妻面をそのまま使った平面的な“顔だち”となっている。まずは岡山地区を走る改造車両から。

 

◆改造車の現状1:非貫通タイプ横一列の正面窓が特徴の改造1000番台

伯備線用に2001(平成13)年度に改造され、岡山電車区に配置された1000番台の車両だ。2両編成で、うち中間電動車だった車両を先頭車として改造した。

 

丸い115系の正面スタイルとは異なる、真っ平らの正面で、非貫通タイプ。運転席のガラス窓が広く横に開けられ、途中に支柱がない。改造された同車はパンタグラフを2つもつ。先頭車がパンタグラフを2つ上げて走る姿が迫力満点だ。この改造車の形式名はクモハ114形で、1098、1102、1117、1118、1173、1178、1194、1196の計8両が在籍している。

↑伯備線を走る2両編成の改造車両。片側は通常の115系の正面(左上)だが、裏側はまったく異なる姿に改造されている

 

◆改造車の現状2:中央に貫通扉、窓が3枚のユニーク顔の1600番台

1000番台改造車と同じ岡山電車区にもう1タイプ、ユニークな改造車が配置されている。2004(平成16)年度に改造された1600番台だ。こちらは岡山地区のローカル線の輸送力増強のために設けられた改造車で、3両編成のうち片側先頭車が改造されている。

 

運転席のガラス窓は3枚で中央に貫通扉が付く。この改造車も丸みのない平面そのまま。いかにも“中間車を改造しました”という姿を持つ。座席も転換クロスシートに改造されている。車両番台は改造に合わせて、1000番台から1600番台に変更、形式はクモハ115形で、1653、1659、1663、1711の4両がその車両番号だ。山陽本線、瀬戸大橋線などの普通列車として利用されている。

↑岡山地区を走る115系1600番台。正面の姿からはとても115系だとは思えない。左右窓が丸い角を持つせいか後述の改造車とは印象が異なる

 

◆改造車の現状3:元は舞鶴線用改造車として生まれた2両編成の115系

もう1タイプの115系改造車が走っている。山口地区を走る2両編成の115系だ。山口地区では2扉3両編成の3000番台が主力車両として走るが、こちらは3扉2両編成なので、見分けがつきやすい。

 

現在は山口地区を走る115系改造車だが、舞鶴線用に生まれた車両だった。1999(平成11)年10月の舞鶴線の電化に合わせて改造が施された。舞鶴線で活躍した後に、下関総合車両所検修センターに移動している。

 

改造車は中央に貫通扉を設け、運転席のガラス窓は3枚となっている。岡山地区を走る1600番台と構成は同じだが、こちらの車両は運転台が高い位置にあり、また正面のガラス窓が、角張っているせいか、より重々しい顔立ちとなっている。

 

実は福知山電車区に同タイプがわずかに2両残っている。ちなみに福知山電車区に残る115系は6000番台の車両番号が付く(クモハ114形6123+クモハ115形6510の編成)。山口地区へ移動した車両も元は6000番台だったのだが、下関総合車両所検修センターへの配置の後に6000番台から元の1000番台に戻された。現在の形式名はクモハ114形で1106、1621、1625、1627の4両が山陽本線を走っている。

↑山陽本線の山口地区を走る115系の改造車両。正面の窓など、岡山地区を走る改造車とは異なる印象となっていて面白い

 

【関連記事】
残るは西日本のみ!国鉄近郊形電車「113系」を追う

 

こうして見てきたように、JR西日本に残る115系は、実にさまざま。こうした残る115系の姿を眺めつつ旅するのもおすすめである。

コンパクトカーの変貌ぶりを徹底ガイド!

コンパクトカーは取り回しの良さや燃費の面で有利なのは当然だが、スポーツカーばりのパワフルな走りを誇るモデルや、快適な装備や先進の安全運転装置を搭載するモデルも多くなってきた。その変貌ぶりは、これまでのコンパクトカーに対する概念を変える大きなインパクトだ。

※こちらは「GetNavi」 2021年2月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

ボディサイズが小さくても装備や使いやすさは向上

ひと昔前はコンパクトカーと言えば営業車という印象や、オシャレなモデルがあるものの実用車というイメージが多かったかもしれない。しかしいまはまったく違う。

 

コンパクトカーの取り回しの良さや使い勝手の良さに磨きがかかり、そこに先進安全装備のアシストも入れば苦手な車庫入れだってラクに完了。室内や荷室も工夫されているため大人4人でも余裕で乗れるし、ドライブを楽しく、ラクにする快適装備も充実している。コンパクトカーほどその進化ぶりに驚くクルマはないのだ。

 

【1】取り回しが良いボディサイズで運転がラク!

クルマのサイズが大きくなっても日本の道路幅はなかなか広がらないのが現状。その点コンパクトカーは小回り性能の基準となる最小回転半径が、ほとんどのモデルで5mを下回っている。狭い路地も、混み合うスーパーの駐車場も、ラクに運転することが可能だ。

横1695mm、縦1500mm
横3940mm

 

5ナンバーサイズで立体駐車場もラク!

コンパクトを謳うクルマでも全幅1700mmを超える3ナンバーサイズが多いが、トヨタ・ヤリスは5ナンバーサイズだ。立体駐車場も難なく利用可能。

 

↑クルマの小回り性能の目安となるのが最小回転半径。一般的には5m以下ならば小回りが利くとされる。ヤリスの最小回転半径は4.8mで取り回しがしやすい(ヤリス X・2WD)

 

【2】コンパクトなボディが生むインパクト大な走り

クルマは軽い方が良いというのは、レーシングカーも市販車も同じ。コンパクトカーは車重が軽く、キビキビした走りを味わえる。そこにパワフルかつレスポンスの良いエンジンを載せれば楽しくないはずがない。クルマが持つパワーを使い切る魅力もそこにはある。

 

価格良し、走り良し、軽くて税金も燃費も良しの優等生

走りの良さで多くの人を魅了するスズキ・スイフトスポーツ。軽量ボディ+ターボエンジンが刺激的なドライビングを実現する。

 

↑スイフトスポーツに搭載されるエンジンは1.4L直噴ターボで140PS/230Nmを誇る。実にリッターあたり100PSの大出力エンジンだ

 

↑スイフトスポーツの走りを支える超高張力鋼板と高張力鋼板を組み合わせたボディ。強靭なボディながら990kgという軽さを実現した

 

【3】燃料にかかるコストもコンパクト

排気量の小さなエンジンは燃費が良い。特にコンパクトカーは車重も軽くでき、同じ排気量の大きなクルマよりも燃費に分がある。ガソリン代ばかりでなく、自動車税などの税制面でも有利だ。また軽自動車よりも車両価格が安いモデルもあり、コストパフォーマンスが高い。

【コンパクトサイズSUV】トヨタ ライズ(ガソリン・2WD) WLTCモード燃費18.6km/L

 

【ミドルサイズSUV】トヨタ RAV4(ガソリン・2WD) WLTCモード燃費15.8km/L

 

【4】コンパクトカーにこそ搭載が進む安全装備

かつては高級車の高価なオプションだった先進安全装備が、コンパクトカーにも続々と標準搭載されている。コンパクトカーを選ぶ運転初心者や、運転に対して不安を感じる人、ミニバンなどからコンパクトカーに乗り換えるシニア層にこそ求められる装備だからだ。

 

マツダのエントリーモデルは安全装備が上級車並みに充実

最適なドライビングポジションやサスペンションにもこだわるマツダ2の安全性能。最新の安全装置も充実している

 

<コンパクトカー「マツダ2」でもこんなに充実!>

マツダ2にはハイ・ビーム・コントロール以外、多くが全モデルに標準装備される。その充実ぶりは高級セダンのマツダ6にも匹敵するものだ。

 

■アドバンスト・スマート・シティ・ブレーキ・サポート

ブレーキを自動制御し衝突回避を支援。対車両だけでなく対歩行者もカメラで検知している。

 

■AT誤発進抑制制御

前後進時にアクセルが一定以上踏み込まれると警告。エンジン出力を制御し加速を抑制する。

 

■リア・クロス・トラフィック・アラート

駐車場や路地などでバックする際、自車に接近する車両をドライバーに音などで警告する。

 

■SRSエアバッグシステム

側面から衝突された場合にも乗員を守るサイドエアバッグ、カーテンエアバッグを標準装備。

 

■車線逸脱警報システム

車線をウィンカーなしに踏み越えようとすると、音とステアリングの振動でドライバーに警告。

 

■ブラインド・スポット・モニタリング

自車に隣接する車線後方約50mを検知。接近車がいる状況でウィンカー操作を行うと警告する。

 

■ハイ・ビーム・コントロール・システム

対向車や先行車、ライトなどを検知して自動でハイビームとロービームを切り替えるシステム。

 

【5】これがコンパクトカー? と、驚く快適装備

ひと昔前のこのクラスの装備は上級モデルに明らかに見劣りし、エアコンひとつ見てもオートエアコンが付いていれば良いほうだった。それがいまや美肌効果も期待できるエアコンやUVカットガラスなど快適装備も充実。ひとクラス上の豪華装備を誇るクルマも多くなった。

 

使い勝手の良い室内空間に快適装備をトッピング

“皆に心地良い室内空間”を目指したホンダ・フィット。室内の広さが好評の同車をさらに快適にする装備が充実している

 

↑フィットでは、いまや必需品のUSBポートをセンタコンソールに用意。急速充電対応タイプの設定もある

 

↑スイッチでパーキングブレーキを操作できる電子制御パーキングブレーキ。フィット全モデルに標準装備

 

↑開口部の大きなフィットの荷室は豊富な後席のシートアレンジと相まって使い勝手◎。床面もほぼフラットに

 

↑イオンを放出して車内の空気を浄化するプラズマクラスター搭載エアコン。フィットではグレード別に設定

 

残る車両はあとわずか—国鉄近郊形電車「115系」を追う【東日本編】

〜〜希少な国鉄形電車の世界その7 東日本の「115系」〜〜

 

113系、115系が誕生してからすでに約60年の月日がたつ。いま残る車両も、すでに40年という歳月を走り続けてきた。国鉄形近郊電車として定番だったこれらの形式も引退の2文字が限りなく近づいてきた。今回は残る115系のうち、東日本に残るわずかな車両の現状に迫ってみよう。

 

【はじめに】115系とはどのような電車だったのか?

◆寒冷地区向け、急勾配区間用に生まれた115系

113系とほぼ同時期に115系は生まれた。1963(昭和38)年に登場し、国鉄末期の1983(昭和58)年まで、合計で1921両が造られている。

 

主電動機は113系と同じく1時間定格出力120kW。113系と大きく異なるのは急勾配区間に対応したところで、上り勾配、下り勾配でそれぞれスムーズに加速、また減速できるように、制御器(上り勾配を一定速度で運転できるようにノッチ戻しの操作を可能にしたなど)、ブレーキ(抑速発電ブレーキ)などが強化されている。また当初、導入が検討された区間に上越線などが含まれていたことから、耐寒耐雪装備を備えた。

↑筆者が少年期に撮影した中央線の115系。登場当時の115系は前照灯が今よりも大きかった 1972年ごろの国分寺駅付近

 

115系は国鉄からJRとなる際にJR東日本、JR東海、JR西日本の3社に引き継がれた。すでにJR東海からは消え、JR東日本の車両もごくわずかとなった。大所帯として残るのは3社のうちJR西日本のみで中国地方で活躍している。国鉄形電車の消えていくペースは予想以上に早い。首都圏近郊で、ごくごく身近に走っていた115系も、ほんの数年のうちに消えてしまった。そんな消えた2つのエリアの115系をまず振り返っておこう。

 

◆中央東線では2015年11月、群馬県内からは2018年3月に消滅

東京都下、山梨県、長野県と、広範囲に走る中央本線。JR東日本の路線区域、中央東線では、約50年にわたり115系が走り続けてきた。2010年台の初めまでは、普通列車のほとんどが115系だった。鉄道車両を撮影する人たちにとって115系は、目標とする特急列車などがやって来るまでの間に、試しでシャッターを切る、というような対象の車両でもあった。

 

ところが、2014年に後継となる211系(こちらも国鉄形近郊電車だが)が走り始めると、あっという間に115系の車両数が減っていった。そして2015年11月には横須賀色の115系が中央東線から姿を消した。いわゆるスカ色(すかしょく)の車体カラーで親しまれていた115系が、JRの路線から消えたのである。

↑中央東線の中長距離電車といえば115系だった。2014年から急速にその数を減らしていき2015年11月で運用終了 2015年3月15日撮影

 

他に関東地方で115系が多く活躍していたエリアと言えば群馬県内(栃木県の一部路線を含む)だった。元々、115系は上越線用に投入されたのが始まりとあって、縁の深い路線でありエリアだった。上越線、両毛線、吾妻線、信越本線(横川駅まで)と、多くの線区で“主役”として走った。こちらは全車がオレンジと緑の湘南色の115系だった。配置されていた高崎車両センターにも後継の211系が2016年ごろから徐々に投入されていく。

 

群馬県内からの115系の引退は、中央東線に比べれば3年ほどあとになったが、2018年3月の春のダイヤ改正とともに消えていっている。2つのエリアでは、新型電車の投入ではなく、別路線を走っていた211系の転用ということもあり、置き換えのペースは予想以上に早かった。振り返ればあっという間の引退劇だった。

↑上越線を走った湘南色の115系。山間に響いた独特のモーター音が今や懐かしく感じられる 2015年6月13日

 

さてJR東日本に残る“最後の115系”たちは、どのような運命が待ち受けているのだろうか? ここからはわずかになったJR東日本の115系と、JRから引き継ぎ、今も多くの115系が走る、しなの鉄道の115系の現状を見ていくことにしよう。しなの鉄道でも徐々に、新型車の導入が進んでいる。

 

【115系が残る路線①】新潟地区を残る七色の115系

JR東日本に残る115系は21両のみとなっている。すべてが新潟車両センターに配置されている。全車3両で編成を組み、現在7編成が日々、新潟エリアを走り続けている。なお、JR東日本の高崎車両センターにクモハ115が1両配置(2020年4月1日現在)されているが、こちらは運用がないので残る115系の車両総数から除外した。

 

◆車両の現状:7編成すべてが違う車体色で注目を浴びている

↑信越本線でも115系の運用がわずか1本残る。写真は夕景の鯨波海岸だが、現在は朝に同地を通過する。同塗装は「三次新潟色」

 

わずかに残る7編成21両の115系。すべての編成が色違いで、まさに七色の115系なのである。車体カラーは次のとおりだ。それぞれのカラーに名前が付いている。

 

(1)N33編成「旧弥彦色」〜白地に黄色と朱赤の帯
(2)N34編成「三次新潟色」〜濃淡のブルー塗装
(3)N35編成「二次新潟色」〜濃淡の緑色の帯
(4)N36編成「弥彦色」〜白地に窓周りが黄色、黄緑の帯という塗り分け
(5)N37編成「一次新潟色」〜窓周りが青、窓下の白地に細い赤の帯
(6)N38編成「湘南色」〜オレンジ色と緑色の塗り分け
(7)N40編成「懐かしの新潟色」〜あずき色と黄色の塗り分け

 

という具合である。2018年にはJR東日本の新潟支社が塗装の参考に、と一般へ好みのデザインを募集したところ、多くの案が集まるなど注目度が高い。利用者にも115系の車体カラーは注目され、七色の電車が人気となっているようだ。

↑関屋分水路を渡る越後線の115系。写真の塗装は「一次新潟色」。後ろに「三次新潟色」の115系を連結して走る

 

↑水田が広がる中を走る越後線115系。同車体カラーは「弥彦色」と呼ばれる

 

◆越後線の吉田駅〜柏崎駅間をメインに今も多くが走る

新潟エリアの115系はどのような運用が行われているのだろうか。現在、115系の運用は新潟駅〜柏崎駅間を走る越後線が中心となっている。特に吉田駅〜柏崎駅間に使われる115系が多い。同区間には上り・下り列車がそれぞれ11本走るが(区間運転の列車も含め)、そのうち上り・下り7本が115系で運用される。とはいえ、日中は上り・下りとも2〜3時間にわたり列車がない時間帯があるかなりの“閑散区”で、115系が走る割合は多くとも、列車本数が少なく乗れない、出会えない現実がある。

 

越後線以外では次のような傾向がある。弥彦線では、吉田駅〜東三条駅間の朝夕の列車に115系が使われる列車が多い。さらに新潟駅17時1分発→新井駅着(えちごトキめき鉄道)19時43分着、新井駅20時13分発→直江津駅20時44分着。さらに翌朝に直江津駅発7時17分発→長岡駅8時20分着、長岡駅発10時29分発→新潟駅11時29分着の列車に115系が使われる。信越本線を往復する115系列車が残っていたわけである。

↑越後線を走る湘南色の115系。越後線の吉田駅〜柏崎駅間はトロリー線1本の直接ちょう架式の架線区間が多い(左上参照)

 

◆えちごトキめき鉄道線へ乗り入れ列車が引退の鍵を握る?

さて、新潟エリアの115系はこの先、どのぐらいまで走るのだろう。2018年4月1日までは40両の115系が新潟車両センターに配置されていた。その翌年には現在の21両までに減っている。白新線などの115系が新型のE129系へ置き換えられたためである。新潟エリアのE129系は2018年4月1日時点で168両となっており、その後に増車はされていない。

 

新潟エリアではここ数年、非電化区間を走るキハ40系をGV-E400系気動車に置き換えることを優先していた。またE129系を製造した新潟市の総合車両製作所新津事業所では、横須賀・総武快速線用の新車E235系や、房総地区用のE131系の新造を進めている。この新造が一段落するまではE129系の新造はなさそうだ。

 

さらに越後線で115系が走る区間は超閑散区で、投資に応じた見返りが見込めないという一面もあるのだろう。架線設備など脆弱な難点もある。また新潟駅からえちごトキめき鉄道の新井駅へ乗り入れる快速普通列車が日に1便走っている。この列車に115系が使われている。E129系が、えちごトキめき鉄道への乗り入れに対応をしていないためとも言われ、この列車が残っていることも115系が残る一つの要因とされる。

 

こうした取り巻く状況を見ると、まだ数年は新潟地区の115系は生き延びそうな気配が見えてくる。鉄道ファンの一人として、この予想が当れば良いのだが。

 

【関連記事】
東日本最後の115系の聖地「越後線」−−新潟を走るローカル線10の秘密

 

【115系が残る路線②】しなの鉄道に残る115系に注目が集まる

JR東日本に残る115系は21両のみとなっているが、JR東日本からの譲渡された115系が多く残るのが、しなの鉄道だ。JR“本家”ではないものの、こちらの115系も興味深い存在で“115系見たさ”に沿線を訪れるファンも多い。

 

今でこそ第三セクター経営のしなの鉄道となっているが、ご存知のように、路線は旧信越本線である。しなの鉄道に移管される前から115系が走っていた。しなの鉄道となった後に譲渡された115系は元々長野・松本地区を走っていた車両である。同線では馴染みの深い電車だったわけだ。

 

◆車両の現状:最盛期には59両の115系が活躍していたが

↑しなの鉄道では「しなの鉄道色」と呼ばれる車体カラーの115系がメインで走る。写真のS27編成は2021年3月をもって引退の予定

 

しなの鉄道では59両の115系が在籍していた。とはいうものの2020年7月4日からは後継となるSR1系が走り始めている。そのため7月初頭にS6編成、S23編成の計5両が廃車となった。さらに新型車両SR1系(一般車)が2021年春から運行開始となる予定で、それに合わせてS25編成とS27編成の計4両が引退となる。

 

これまでに引退、また今後に引退予定の編成を見ると、S6編成は1977(昭和52)年、S23編成とS27編成は1978(昭和53)年、S25編成は1981(昭和56)年にそれぞれ製造された。すでにどの編成も40年以上の車歴を持つ。最古参のS6編成は誕生してから2020年6月末時点までで、528万5195kmを走ったそうだ。これは地球を約132周走ったことと同じ距離になる。ご長寿車両は実に働きものだったわけである。

 

しなの鉄道では、車両を引退させる時期をすべて明らかにし、さらに編成ごとにプロフィールを詳しく紹介している。同社の車両に対する“熱い思い”が窺えて、鉄道好きとしては非常に好感が持てる。それこそ華やかな“花道”を用意しているかのようでもある。

 

◆115系おなじみの「懐かしの車体カラー」が人気に

さて、しなの鉄道で注目の115系といえば、しなの鉄道色の定番車体カラーよりも、希少な「懐かしの車体カラー・ラッピング列車」と名付けられた115系たちであろう。しなの鉄道では、一部の編成を同線に縁が深い車体カラーに塗り替えて走らせている。

↑初代長野色の115系。しなの鉄道は厳冬期ともなると、このように雪が付いた列車も走る。まさに115系の耐寒耐雪構造が活かされている

 

懐かしの車体カラー・ラッピング列車は5種類ある。編成と車体カラーに触れておこう。

 

・湘南色:S3編成・S25編成(S25編成は2021年3月に引退予定)
・初代長野色(白地に黄緑色の配色、スソは茶色):S7編成
・台鉄色(黄色地にオレンジの配色):S9編成
・長野色(白地に水色):S15編成
・横須賀色(スカ色の愛称あり):S16編成・S26編成

 

台鉄色以外は、旧信越本線や長野地区、松本地区と縁が深い車両カラーだ。ちなみ台鉄色は、「台湾鉄路管理局・自強号色」が正式名で、しなの鉄道と台湾鉄路管理局と友好協定を結んだことにちなみ、走り始めた車両カラーだ。

 

しなの鉄道の「懐かしの車体カラー」列車はどのような運用が行われているのだろうか。この発表の仕方こそ、しなの鉄道らしい。

↑しなの鉄道の「懐かしの車体カラー」の代表的な塗装色。台鉄色以外は、古くから115系の塗装として馴染みの色となっている

 

同社のホームページの「お知らせ」には「〈懐かしの車体カラー・ラッピング列車〉車両運用行路表」が発表されている。月々の運転予定が全日発表されていて、これを見れば、好みの電車がどのようなダイヤで走っているのかが良くわかる。各編成の運用予定表に加え、行路表と呼ばれるその日の列車番号、運行予定がPDF化され見ることができる。

 

さらに、しなの鉄道らしいのは行路表の見方まで詳しく解説していることである。もちろんこれは鉄道ファン向けで、鉄道に少しでも親しんで欲しい、知って欲しいという思いが感じられる。こうした鉄道会社からの啓蒙姿勢は、真摯に写る。ファンにとっても歓迎すべき姿勢であろう。

 

◆しなの鉄道の115系の今後は?

しなの鉄道では老朽化しつつある115系に代わる車両をどうするか、かなり苦慮したと伝わる。当初は他社からの譲渡車両で工面するという案も出たものの、新型車両を導入することのメリットを取った。

 

115系などの古い車両に比べて、新型車両はエネルギー効率が高く115系に比べて消費電力量が約40%削減できるとされる。またメンテナンスに必要な人員が少なくなるなどメンテナンスコストを減らせるといった利点があった。ちなみに、しなの鉄道が導入したSR1系は新潟エリアを走るE129系と同形の車両で、製造も総合車両製作所新津事業所と同じだ。

↑115系の置き換え用に造られたJR東日本のE129系と、しなの鉄道SR1系は同形で、同じ工場で造られている

 

しなの鉄道では2020年7月に新型SR1系を2両×3編成、計6両を導入した。このSR1系は、同社初の「有料快速」列車などに使われている。続けて2021年3月13日のダイヤ改正に合わせて、SR1系一般車の導入を行う。2020年に導入したSR1系とは車体カラーや車内設備が異なっているとされる。この春の導入は2両×4編成で計8両となる。これでしなの鉄道のSR1系は14両となり、全列車のうち約3割がSR1系に置き換わるとされる。

 

さらに2022年度中にはSR1系は28両となることがすでに発表されている。最終的には、2027年3月期までは計46両となる予定だ。要はこの2027年春で、しなの鉄道の115系は、多くが引退となりそうだ。ということはあと6年ほど。この時には、懐かしの車体カラーの115系も、115系を利用した観光列車の「ろくもん」も消えて行くことになるのだろうか。または一部が残るのだろうか。ちょっと悲しいものの、これも時代の流れと言えるのかも知れない。

ホンダの新型「アコード」に乗って感じた「オトナがセダン」に乗るべき3つ理由

今の30〜40代の人たちが子どもの頃、クルマと言えばセダンがスタンダードでした。その後、荷室を拡大したステーションワゴンが流行ったり、ミニバンブームもあり、今はSUVが人気。でも、最近はセダンも復権の兆しを見せています。その理由について、ホンダの新型「アコード」に乗りながら考えてみました。

 

【今回紹介するクルマ】

ホンダ/アコード

※試乗車:EX

価格 465万円

↑ボディカラーは全5色。写真はルナシルバー・メタリック

 

【理由その①】クーペのような流麗なスタイリング

アコードといえば、ホンダを代表するセダンモデル。累計販売台数は2000万台にのぼります。初代モデルは1976年に登場し、現行モデルは10代目。ワイド&ローなスタイルをより強調し、リアに向かって流れるようなラインはクーペに近く、かつてのセダンのイメージとは一線を画するものです。

↑クーペのような流麗さと、力強さを両立したリアビュー

 

フロントフェイスも力強さの中に端正さを感じさせるもの。個人的にはキラキラ輝くようなグリルパーツを多用することなく、それでいて迫力あるデザインに仕上がっているところに好感を持ちました。

↑複数のLEDを組み合わせたキレ長のフロントライトが端正さを際立たせる

 

ワイド&ローで艶やかさを感じさせるデザインは、近年流行りのSUVを見慣れた目には新鮮に写ります。乗る人が少なくなっているからこそ、人と違ったクルマに乗りたいなら、セダンを選ぶ価値が出てきたと言ったらひねくれすぎでしょうか。ただ、このスタイルを見ると乗りたいと思わせられる人は少なくなさそうです。

↑インテリアも奇をてらうことなく、上質さを追い求めた仕上がり

 

それでいて、トランク容量は573Lもあり、クラストップの収納力を誇ります。可倒式のリアシートを前に倒せば、さらに容量を拡張できるトランクスルー機構を採用し、使い勝手でもSUVに劣る部分はありません。

↑リアシートを倒してトランク容量を拡張できるので、収納力はちょっとしたSUV以上

 

↑個人的にはこの角度からの見た目が好み。コレで収納力も高いとは!

 

【理由その②】重心が低く、スポーティなハンドリング

ドライバーズシートに腰を下ろすと、着座位置の低さがちょっと新鮮。低く抑えられた重心位置の近くに座っている感覚が伝わってきて、走りの良さを予感させます。アイポイントも低いのですが、視界は非常に広く、窮屈さを感じさせません。

↑見るからに低い着座位置がやる気にさせてくれるドライビングポジション

 

実際に走り出しても、すぐにこのクルマの素性の良さが伝わってきます。このモデルのために開発された新世代プラットフォームは剛性が高く、重心も低く設定されているので、カーブでも挙動変化が少なく、とても落ち着きのあるハンドリングです。重心位置の高いSUVとは異なり、地面にピタッと貼り付いているような挙動が気持ちいい。近年のSUVは低重心を売りにするモデルも増えてきましたが、それとは明らかに違う意のままに動くハンドリングが味わえます。

↑挙動変化が少なく、落ち着いたハンドリングはセダンならではのもの

 

そもそもセダンは、重心高が低いだけでなく、ボディ剛性も高めやすい構造。箱を3つ組み合わせたような作りが、1ボックスや2ボックス構造より剛性が高いことは想像しやすいでしょう。フロントだけでなく、左右のリアタイヤの上を結ぶような形のボディ構造となっているので、いたずらに補強を入れなくても剛性が高められる素性の良さを持っているのです。

↑ガチガチに固められたわけではなく、設計からくる剛性感が心地いい

 

かつてのアコードには「ユーロR」というスポーティさを全面に押し出したグレードが設けられていたこともありましたが、このモデルのハンドリングはそうしたやんちゃな雰囲気とは別種のもの。ハイスピードでコーナーを抜けられる性能は持っていますが、急がされることなく余裕を持って走るのが似合う乗り味でした。

↑走行モードの切り替えにも対応していますが、スポーツモードよりコンフォートモードで走りたくなる

 

【理由その③】静かで乗り心地がいい

走り出してすぐに気づかされたのが車内の上質な静けさ。特にタイヤが路面から拾うはずのロードノイズが耳に入ってきません。セダンはエンジンルームやトランクルームとキャビンが遮断された構造となっているため、静粛性に優れています。タイヤハウスがキャビン内にないことも、ロードノイズを低減するのに有利。ミニバンやSUVなどに比べて、空力的にも優れたボディ形状なので風切り音も低減されます。

↑エンジン音はもちろん、風切り音やロードノイズも少なく、静粛性の高い室内

 

パワートレインがハイブリッドであることも、静かさに一役買っています。搭載されるのはホンダ独自のハイブリッドシステム「e:HEV(イー エイチイーブイ)」。2モーターのシステムで、以前は「i-MMD」と呼ばれていたモノですね。基本的にモーターの力で走行し、エンジンは発電用に動くというシステムで、エンジンの効率が高い高速域だけエンジンを駆動にも用いるという先進的なシステムです。燃費はJC08モードで30km/L。

↑鋭い加速力と高い燃費性能を実現する2モーターのハイブリッドシステム

 

高速道路を使った長距離移動もしてみましたが、静かなうえに車体のロールが少なく、路面の継ぎ目などからのショックも体に伝わりづらいため、移動後の疲労もあまり感じずに済みました。渋滞追従機能付きのアダプティブクルーズコントロールや、車線維持支援システムなど安全運転支援システムも充実しているのも、高速ドライブの快適さに一役買ってくれています。このクルマとなら、いつもより足を伸ばして遠出がしたくなりそう。

↑フロントに装備されたミリ波レーダー部に「Honda SENSING」の文字が刻まれる

 

あらためてセダンに乗ってみて感じたのは、重心位置が低く、静かで剛性も高めやすいなど長らくクルマのスタンダードなカタチとして普及しているのには、それなりの理由があったのだということ。以前は“おじさんの乗るクルマ”というイメージもありましたが、流麗なスタイルは“大人のクルマ”という雰囲気。海外では、SUVの数が増えているため、人とは違ったスタイルを求める若い人にむしろ人気が高まっているという話も聞きます。数が少なくなってきた今だからこそ、あらためて乗りたいカテゴリーになっていると感じました。

↑効率的なボディー設計、および軽量サブフレーム、薄肉燃料タンク、エキゾーストサイレンサー等の採用により前モデルに比べ50kgの軽量化も達成しています

 

SPEC【EX】●全長×全幅×全高:4900×1860×1450mm●車両重量:1560kg●パワーユニット:1993cc水冷直列4気筒DOHC+ターボ●最高出力:107kw[145PS]/6200rpm【モーター135kw[184PS]/5000〜6000rpm】●最大トルク:175N・m[17.8kgf・m]/3500 rpm【モーター315N・m[32.1kgf・m]/0〜2000rpm】●WLTCモード燃費:22.8km/L

 

撮影/松川 忍

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

残るは西日本のみ!国鉄近郊形電車「113系」を追う

〜〜希少な国鉄形電車の世界その5「113系」〜〜

 

日本国有鉄道が直流近郊形電車として製造した113系。都心と郊外を結ぶ近郊形電車を代表する形式として各地を走り続けてきた。そんな113系にも淘汰の波が迫りつつある。

 

今回は近郊形電車を代表する113系を紹介した。JR西日本のみに残る113系の現状を見ていこう。

 

【はじめに】近郊形電車として最大勢力を誇った113系

113系はどのような電車だったのか、まず概要から迫っていきたい。

 

首都圏で近郊形電車が活躍する代表的な路線といえば東海道本線。113系の先代にあたる111系はまずこの路線を念頭に開発された。戦後の混乱期を乗り越え、大量輸送時代が訪れた当時の東海道本線を走っていたのが80系や153系だった。この両形式はデッキ付き2扉スタイルだったが、多くの人が乗り降りすると、どうしても時間がかかる。停車駅で遅延が生じやすかった。

 

4扉の101系はすでに開発されていたが、近郊形には3扉デッキなしが良いだろうと考えられた。そして生まれたのが111系である。正面はいわゆる“東海型”と呼ばれる形で、中央に貫通扉が設けられた。111系はさっそく湘南電車の基地、大船電車区と静岡運転所に配置された。1962(昭和37)年のことである。

 

◆主電動機の出力を強化した113系

デビューして利用者の評判も良かった111系だったが、非力さが問題となった。そこで、主電動機の1時間定格出力を120kW(111系は100kW)にパワーアップした新しい電車が造られた。

 

この新しい電車こそ113系である。先代の111系が製造された期間はごく短期間で、1963(昭和38)年からは113系と115系の製造が主流となっていく。今も制御車に「クハ111」といった車両がある。111という数字は残るものの、現在は「クハ111」を含め113系と呼ばれている。

 

ちなみに115系は113系と主性能は同じで、投入した路線に合わせて急勾配に対応した設備を持ち、耐雪耐寒装備を施した形式を115系とし、区分けしている。115系の詳しい紹介は次回に譲ろう。

↑さまざまな車体色が混在していたJR西日本の113系。今も湖西線を中心に運行されている 2012年9月24日撮影

 

113系は1963(昭和38)年から1982(昭和57)年にかけて製造され、計2977両が造られたとされている。現在、113系はすでにJR各社から姿を消していき、残るのはJR西日本のみとなった。残る車両数は128両(2020年4月1日現在/※吹田総合車両所日根野支所の4両は2020年3月で運用を終了したので除外しました)で、3000両近くの車両が造られたが、今残るのはわずか4%あまりだ。

 

さらに、JR西日本からは「113系、117系 約170両を新製車両に置換計画あり(投入予定時期2022〜2025年)」という発表も行われている。あと数年で状況は大きく変わりそうである。

 

【113系が残る路線①】湖西線・草津線を走る抹茶色の113系

残る113系の現状を路線ごとに見ていこう。多く走るのが湖西線と草津線だ。

 

◆車両の現状:64両が湖西線、草津線の普通列車として走る

↑地域塗装に塗られてはいるもののオリジナルな姿を残した113系。湖西線の電車は京都駅発のため京都駅近郊で目にできる

 

湖西線、草津線を走る普通列車の多くに使われているのが113系だ。吹田総合車両所京都支所に4両×16編成の計64両が配置されている。ベースとなっているのは湖西線向けに用意された耐寒耐雪装備を持つ700番台で、その後に110kmの最高時速に対応できるように高速改造を施した時に、113系の5700番台となった。

 

さらに7700番台の113系が走るが、こちらは草津線が1980(昭和55)年に電化された時に増備された113系で、当初は2700系だったが、高速改造を施したことから、5000をプラスした7700番台となり走っている。

 

ここ数年で塗装変更が完了し、現在は京都地域色の緑単色で塗られていて目立つ。京都に宇治という茶の産地があるせいか、鉄道ファンからは“抹茶色”とも言われるカラーだ。

 

64両の113系を見ると、それぞれの編成ごと姿が微妙に異なる。オリジナルな姿をかなり残した編成がある一方で、体質改善工事が進められ、屋根が張上げタイプ、また側面窓をステンレス枠にした車両、正面の窓周りのステンレス部分が太くなった編成など、細部が編成ごとに異なっていて、なかなか興味深い。

 

◆湖西線での運用:京都駅発の湖西線列車の6割が113系で運用

↑写真の113系は体質改善工事が行われた編成。屋根は雨どいを上に上げた張上げタイプで、側面窓はステンレス枠化されている

 

湖西線は京都駅〜永原駅間を走る区間限定列車の多くに113系が使われている。京都駅〜山科駅間は東海道本線を走行、湖西線では近江今津駅まで走る列車が多い。

 

この区間の普通列車には他に117系と221系も使われているが、同区間の普通列車の約6割が113系で運用される。対して117系は6両編成ということもあり、朝夕を中心に使われている。ちなみに113系も朝夕の運行では2編成つなげた8両で走る姿が見られる。また同線には221系の入線もあるが、本数は少なめで全体の2割程度にとどまっている。

 

◆草津線での運用:5割は113系だが、草津線内のみでの運用が多い

草津線の運用は湖西線と共通運用で、抹茶色の113系が走る。この草津線でも113系の運用が盛んだ。5割は113系での運用で、草津駅〜柘植駅(つげえき)間、もしくは草津駅〜貴生川駅(きぶかわえき)間の運用が目立つ。残りは221系での運用で、117系も朝夕を中心に走る。湖西線に比べて京都への直通列車が少ない。草津線のみでの運用が多いことがちょっと残念なところだ。

 

【113系が残る路線②】山陰本線、舞鶴線、宮福線を走る

湖西線、草津線とは使われる電車が異なるものの、京都府と兵庫県を走る他路線でも、抹茶色の緑単色塗装の113系が走っている。こちらの運行状況も見ておこう。

 

◆車両の現状:2両編成化した113系がローカル輸送に従事

↑福知山地区を走る113系には1両に2つのパンタグラフを付けた編成も走る。写真は湘南色当時のもの 2010年12月30日撮影

 

京都府の北部、福知山駅を起点に113系が残り走っている。配置は福知山電車区で2両×6編成、計12両が残っている。車両は山陰本線の園部駅〜福知山駅間が電化された1996(平成8)年に導入された5300番台だ。この車両に耐雪ブレーキなどを取り付けられている。6編成のうち2編成は1車両にパンタグラフを2基搭載した車両で、先頭車にもかかわらずパンタグラフ2基というユニークな姿で目立つ存在となっている。

 

なお福知山電車区には115系6000番台が2両配置されている。こちらの編成は中間車を先頭車化するにあたり、平坦な顔立ちに改造されている。この115系の先頭車化に関して、なかなか興味深い改造しているので次回に紹介したい。福知山地区では113系と同じ運用に入り、113系と連結して走ることも多いので、ここで一緒に走る路線の状況を見ていこう

 

◆運用の傾向:地域限定ながら朝夕を中心に多くの運用を担う

福知山電車区の113系が走るのは次の3路線だ。

 

○山陰本線:福知山駅〜城崎温泉駅間
○舞鶴線:綾部駅〜東舞鶴駅間
○京都丹後鉄道宮福線:福知山駅〜宮津駅間

 

3路線共通での運用なので、一緒に運用の傾向を追っていこう。113系の運用が多いのは舞鶴線で、列車は福知山駅〜東舞鶴駅間を走る。ダイヤを見ると約7割程度の普通列車が113系で運用されている。残りは223系だ。

 

山陰本線での113系の運用は少なめで、昼から4往復が主に福知山駅〜豊岡駅間を走る(曜日により城崎温泉駅まで走る列車もあり)。京都丹後鉄道の宮福線へも113系が乗り入れている。福知山駅発14時22分と17時26分発で、戻りは宮津駅発15時33分と18時30分発だ。これらの列車は2020年度の一般的な運用のため、例外で変る日もあるのでご注意いただきたい。

 

このように福知山駅周辺では、舞鶴線での運用が目立つ。福知山駅〜綾部駅間では山陰本線も走る。このあたりが、同エリアの113系の注目ポイントと言って良いだろう。

 

【113系が残る路線③】岡山地区を走る113系の運用範囲は

JR西日本の113系が残る路線は、ほか岡山地区のみとなっている。岡山地区の113系はどのような路線を走っているのだろうか。岡山を走る113系の経歴を含めて追ってみたい。

 

◆車両の現状:B編成の計52両が岡山駅を中心に走る

↑山陽本線の姫路駅まで乗り入れる113系。写真のように張上げ屋根の体質改善車が多く見られる

 

岡山地区の113系は全車が岡山電車区に配置されている。4両×13編成、計52両で、0番台および2000番台が使われている。車両の色はすべて中国地域色の濃黄色一色の塗装だ。

 

岡山への113系の導入は早い。宇野線の快速列車として1973(昭和48)年から走り始めている。その後、他の電車区からの借用車などでやりくりした時期が続いたが、現在は下関総合車両所広島支所からやってきた車両のみで構成される。全編成がB編成という編成名で、正面のガラス窓に「B」の文字があれば113系と分かる。

 

◆運用の現状:伯備線の山岳地区を除く区間を幅広く走る

↑伯備線を走る113系。115系と同じ正面デザインのため、B編成の「B」の文字が正面ガラス窓にないと113系と分からない

 

岡山電車区の113系が走る範囲は以下のとおりだ。115系とほぼ共通運用される地区が多いため、走ってきた車両の形式名およびB編成の名前で、ようやく113系と分かることが多い。

 

○山陽本線:姫路駅〜福山駅間
○伯備線:倉敷駅〜新見駅間
○赤穂線:全線
○宇野線:全線

 

運用のメインは山陽本線で、一部の運用は岡山県内だけでなく兵庫県の姫路駅や、広島県の福山駅まで乗り入れている。ほか路線の運用は少なめで、伯備線では、倉敷駅から新見駅までで、備中高梁駅行きを含めて3往復のみしか走らない。新見駅から先の山岳区間を通り抜ける列車は115系で運行されている。また赤穂線では全線を走るものの、路線を通して走る列車が無い。宇部線も朝と夜に2往復があるのみとなっている。

 

岡山地区の113系は、115系とほぼ共通運用される区間が多い。そのために、走ってきた電車の正面のガラス窓に「B」の文字があるかどうかで、判別するしかない。あまり目立たない存在と言って良いだろう。

 

◆ちょっと寄り道、113系のタイフォンに注目してみた

ここでは113系の興味深い改造ポイントに注目してみたい。

 

113系には貫通路の隣に丸い形状の“何か”が付いている。これはタイフォンと呼ばれる。タイフォンとは警笛の一種で、空気笛とも呼ばれる。113系、115系の場合には、改造されていなければ貫通扉の両横にタイフォンがついており、通常時は蓋がしまっている。警笛を鳴らす時に、この蓋が空いて空気笛を鳴らす仕組みだ。ちなみに113系、115系はAW-5形というタイフォンが装着されている。

↑113系のタイフォン(円内)。蓋が空いてタイフォンが鳴らされる。写真の例は左(矢印側)のみが空いて警笛が鳴らしているところ

 

この113系と115系のタイフォン。国鉄時代の車両には特急形を含めて多くに装備されていた。いま走る113系と115系を撮影してみると、タイフォンの部分を改造した車両に出会う。多いのはフタをかぶせたもの、さらにタテ長に空気穴が空いた形状のものもある。フタをかぶせたものは警笛を移設したこともあり、こうした加工が行われたようだ。

 

鉄道に興味のない方には、そんな違いなんて……、と思われるかも知れない。だが、それぞれの改造スタイルにより、微妙に姿が変っていて、なかなか面白い変更ポイントだと思うのだ。

↑JR西日本113系体質改善施工車両。このようなカラーで広島地区を長い間走った。タイフォンはフタや細長い空気穴で覆われていた

 

◆紀勢本線ではこんな113系も2020年春まで走っていた

最後にちょっとユニークな姿の113系に触れておこう。吹田総合車両所日根野支所に4両の113系が配置されていた。紀勢本線の一部区間で定期運用されていた113系2000番台で、2両×2編成(HG201とFG202)が残っていた。車体はオーシャンカラー1色で塗られていた。

 

この113系。筆者も出会ったことがある。見た瞬間、「あれ〜?こんなところに103系が走っていたかな」と疑問が涌いた。形式名を拡大してみると113系だった。前後とも平面な正面に改造されていて、運転席の窓が広く横長に開けられていた。外見からは103系を彷彿させる姿だったのである。

 

2020年3月中旬までは運用されていたが、残念ながら2編成とも4月中旬に廃車回送されてしまった。このように普通列車用の電車は、特に引退を発表されることもなく消えていくことが多い。鉄道ファンにとってつらく悲しい現実でもある。

↑2020年3月まで紀勢本線を走っていた113系2000番台。正面の形は103系と見間違えるようなデザインをしていた 2017年3月20日撮影

まだ大丈夫!? 国鉄形通勤電車「201系」と「205系」の活躍を追う【後編】

〜〜希少な国鉄形電車の世界その4「205系」〜〜

 

まだまだ走っているから大丈夫だろうと思っているうちに、いつしか消えていくことが多い国鉄形電車たち。筆者も、数多く走る国鉄形電車の撮影に飽きてしまい、それこそ走ってくるのにスルーしてしまったこともある。後になって、もう少し撮っておけば良かったな、などと後悔することが多い。今回の後編は、“今はまだ多く走っている”205系に注目しよう。

 

【はじめに】103系の後に登場した通勤電車たちの役回りとは?

前編では201系までの、国鉄形電車の動きに関してとりあげた。さて国鉄初の省エネ電車として登場した201系だったが、製造された車両数こそ多かったものの、4年と製造された期間が短かった。なぜ短期間の製造に終わってしまったのだろうか。そこには省エネ電車201系ならではの問題点が潜んでいた。

 

◆国鉄末期、まずはコストダウンを、と生まれた205系

省エネタイプの電車として登場した201系だったが、コスト高が問題視されたのである。電機子チョッパ制御システムが高価だった。201系の製造が打ち切られて、わずか2年で国鉄が消えJRとなるわけだが、火の車状態の国鉄には、201系の製造が重荷となったわけである。

 

そこで計画されたのが205系だった。205系は103系に使われていた抵抗制御を基本にした界磁添加励磁制御方式という制御システムを使っている。さらに205系から国鉄初のボルスタレス台車という台車を使っている。DT50という形式のボルスタレス台車は、従来の台車に比べて軽量かつシンプルな構造と機構が特徴で、メンテナンスなどにかかるコストが削減できるばかりか、走行性能を著しく向上させた。

↑武蔵野線の205系基本番台。同線の205系は2020年10月にすべてが引退となっている 2020年4月29日撮影

 

さらに205系では国鉄の通勤電車初のステンレス製の車体を採用した。こうしたことでコストダウンを実現、車体が軽量化され、省エネルギー化も実現された。いわば一挙両得の利を得たわけである。

 

205系は国鉄時代の1985(昭和60)年から製造が始まり、JR化されたあとの1994(平成6)年まで製造が続き、計1461両の205系が造られた。国鉄の時代生まれであり、途中からはJR旅客会社が製造を引き継いだのだが、設計されたのが国鉄時代なので国鉄形通勤電車に区分して良いだろう。

 

首都圏では1985(昭和60)年に山手線から運行が始まり、京浜東北線、中央・総武緩行線、京葉線、武蔵野線など、そして関西圏では東海道・山陽本線を走る京阪神緩行線に導入された。1461両と製造された車両数は多く、0番台から始まり、その後に1000番台から6000番台までと、引き継いだJR東日本では多くの改造タイプを生み出している。

↑武蔵野線の205系基本番台には前面デザインを変更した車両も登場。排障器が未装着で目立っていた 2019年3月2日撮影

 

◆ご注意を! 消える時は、それこそあっという間に消えていく

今も205系はJR東日本とJR西日本に残っている。しかし……。JR東日本では武蔵野線の205系が、2020年10月19日で姿を消した。武蔵野線はそれこそ“205系だらけ”の路線で、オリジナルな正面デザインを持つ205系も珍しくなかった。それこそ、筆者はまた205系かと失礼ながら撮らなかったこともあった。そんな武蔵野線に209系、E231系が入線し始め、わずか数年で205系が消えることになってしまった。

↑武蔵野線最後の編成となったM20編成。オリジナルな姿を残していたが2020年10月19日で運行が終了 2020年10月14日撮影

 

武蔵野線は筆者もたびたび訪れているが、205系の運用が徐々に減っていき、最後に残ったM20編成の運用も2020年10月19日に終了した。コロナ禍のさなかということもあり、サヨナラ運転もなく、沿線に集う一部の鉄道ファンに見送られての最終運行となった。こうした例のように国鉄形電車は、消えて行く時は、かなり早いペースで消えていく。残る205系といえども、“安泰”ではないのである。

 

【205系が残る路線①】オリジナルな姿を残す奈良線の205系

205系が残る全路線を見ていこう。まずはJR西日本の奈良線から。奈良線に走る205系は今や貴重な、205系のオリジナルな正面デザインを持つタイプが走る。

 

◆奈良線の205系には2タイプがある

↑京阪神緩行線用に投入された奈良線の205系の基本番台。奈良線を走る205系は2タイプあるが、違いに気付きにくい

 

奈良線の205系は吹田総合車両所奈良支所に配置されていて、4両×9編成の計36両が残る。奈良線を走る205系には2タイプがある。元京阪神緩行線から阪和線を経て奈良線へやってきた基本番台と、阪和線用に投入された205系1000番台の2タイプだ。残る編成数は基本番台が4編成で、1000番台が5編成残る。

 

形やデザインは基本番台と1000番台で異なっている。基本番台は運転台のガラス窓の下部の高さが同じで、2枚のガラス窓を区切る支柱が助手席側にある。一方の1000番台は運転席の部分のみ、正面のガラス窓の下部の高さが、高くなっている。また助手席側のガラス窓が広げられている。

 

ほかに目立たないが運転席の下のスカイブルーの化粧板の下に、細い黄色線が入るのが基本番台だ。1000番台には化粧板の黄色い線が入っていない。筆者もこの原稿を書くまでは、迂闊なことに、この差に気付かなかった。ほかに機器や内装に微妙な違いがあるので、訪れた時はぜひ確認していただきたい。

 

◆普通列車の大半が205系で運用されている

↑阪和線用に導入された205系の1000番台。前の写真と比べると分かるように助手席側のガラス窓が大きく造られている

 

京都駅〜奈良駅を走る奈良線は快速列車の運用と、普通列車の運用で車両が分けられている。普通列車用の運用に入るのが主に205系と103系で、普通列車はほぼ205系がメインと見て良い。同列車の運用は2週前の記事を参照していただきたい。

 

奈良線から国鉄形電車が消えるとしたら、まずは103系からだと思われるが、JR西日本が225系を新造し、その影響で221系が他線区へ移る傾向が強まっている。205系といえども、予断は許さない状況となっている。

 

【関連記事】
そろそろ終焉!?‐‐西日本にわずかに残る国鉄形通勤電車「103系」を追った

 

【205系が残る路線②】宇都宮線を走る湘南色ラインの600番台

ここからはJR東日本の各路線に残る205系の状況を見ていこう。前述したように武蔵野線の205系は引退となり、オリジナルな正面の姿を残した205系が非常に少なくなっている。残る多くの車両は改造、またはJR東日本になって新造された205系となっている。とはいえ各路線の205系はなかなか個性派揃いだ。

 

なお、JR東日本の各路線用に改造されたうち、次の番台はすでに引退している。

 

・1200番台:南武線向け 2016年1月引退

・3000番台:八高線・川越線(八王子駅〜川越駅間)向け 2018年7月引退

 

残る205系のうち、まずは宇都宮線・日光線を走る600番台から。

 

◆宇都宮駅を起点に湘南色ラインの205系600番台が走る

↑宇都宮線を走る205系600番台。大半が改造タイプの正面デザイン(写真)だが、2編成のみオリジナルな形の車両も残る

 

宇都宮線・日光線を走る205系は、京葉線、または埼京線を走った205系で改造後には600番台となっている。600番台の配置は小山車両センターで、4両×12編成、計48両が配置されている。このうち宇都宮線を走る205系は8編成で、湘南カラーの帯でおもに宇都宮駅〜黒磯駅の運用についている。

 

多くが正面を改造されたデザインながら、改造元となった京葉線の車両が足りなかった。そのためY11とY12編成の2編成は元川越車両センターの車両が改造された。この2編成のみ埼京線を走ったオリジナルの正面の形を残している。JR東日本で、オリジナルな正面の姿を残した“最後”の車両となっており、栃木県を訪れた時には、この改造されていない205系を探してみてはいかがだろう。

 

【205系が残る路線③】レトロさが際立つ日光線の600番台

◆日光線用の205系ジョイフルトレインも走る

小山車両センターに配置された205系のうち4両×4編成が日光線用の205系。日光線の205系は湘南色ではなく、独自のレトロ調塗色車となっている。ステンレスの車体に巻く帯の色は、クラシックルビーブラウンとされるこげ茶色と、ゴールド、クリームの3色となっている。また行先を表示する方向幕はレトロ調のフォントが使われている。

↑日光線用の205系600番台。行先を示す方向幕もレトロ調となかなか凝っている

 

2013年から走り始めた600番台だが、2018年には栃木県の観光デスティネーションキャンペーンに合わせてY3編成が観光列車用に改造された。ジョイフルトレイン「いろは」と名付けられた編成で、4扉を2扉に変更。観光列車らしくセミクロスシートの座席配置とされた。検査日を除き、ほぼ毎日、普通列車のダイヤで走っている。日光線を訪れた時には、ぜひ乗車してみたい。

↑宇都宮線(東北本線)を走る205系ジョイフルトレイン「いろは」。4扉のうち、中央の2扉が外され客席スペースに改造された

 

【205系が残る路線④】南武支線用の205系1000番台

◆2両編成の205系が4.1km区間を往復

東京都の立川駅と神奈川県の川崎駅を結ぶ南武線。同線の尻手駅(しってえき)と浜川崎駅を結ぶのが南武支線である。南武支線は旅客案内上の名称で、浜川崎支線という通称名もある。川崎の臨海部の距離4.1km区間を走る路線で、2両編成の205系が行き来している。

↑南武支線を走る205系。帯色はクリーム、緑、黄色の3色が使われる。緑の帯の中には五線譜とカモメが描かれている

 

番台は1000番台にあたる電車で、元は中央・総武緩行線と山手線を走った電動車モハ2両を利用、先頭車に改造して生み出された編成だ。配置は鎌倉車両センター中原支所で、2両×3編成、計6両が走っている。なお、JR西日本にも205系1000番台が走っているが、現在、JR各社で車両形式の数字付けが異なり、JR東日本とJR西日本の205系1000番台は別車両となる。

 

【205系が残る路線⑤】鶴見線を走る205系は1100番台

◆3両編成、計9本が川崎の臨海部を走る

神奈川県横浜市と川崎市の臨海部を走る鶴見線。鶴見駅と扇町駅間を結ぶ本線と、途中の浅野駅〜海芝浦駅間を海芝浦支線と、武蔵白石駅〜大川駅間を結ぶ大川支線がある。この鶴見線を走るのが205系1100番台だ。

 

205系1100番台は、2004年から投入された編成で、元は埼京線と山手線の中間車からの改造で、2M1Tという3両編成で構成される。3両×9編成、計27両が鎌倉車両センター中原支所に配置されている。1100番台とはなっているものの、中間のモハは基本番台(0番台)で、正式には0番台と1100番台の混合編成ということになる。

 

車体に巻かれる帯は黄色とスカイブルーで、このうち黄色は鶴見線のラインカラーでもある。

↑鶴見線を走る3両編成の205系1100番台。中間車のみ0番台となっている

 

【205系が残る路線⑥】東日本大震災の影響をうけた仙石線の電車

◆4両編成、計17本の3100番台が仙石線を走る

東北地方でJR東日本唯一の直流電化区間の仙石線(せんせきせん)。こちらを走るのが205系3100番台だ。元は山手線(一部クハは埼京線用のサハ車)を2M2Tの編成に改造して2002年から投入された。車体に走る帯色はスカイブルーにやや濃いめのブルーの2色となっている。寒冷な東北を走る205系ということで、乗降扉にレールヒーターを、また耐雪用のブレーキを追加で装備している。また車内トイレも設けられた。

 

配置は仙台車両センター。当初4両×19編成が改造されたが、M7編成とM9編成という2編成は10年前の東日本大震災の被害を受けてそれぞれ廃車となっている。そのため現在は、仙台車両センターに配置された4両×17編成、計68両とやや減っている。それでもJR東日本に残る205系のうち、最も車両数が多い大所帯でもある。

↑仙石線の205系3100番台。2011年の東日本大震災で2編成が廃車に。写真の陸前富山駅も津波の被害を受け駅ホームが改修された

 

【205系が残る路線⑦】JRになり新造された205系が走る相模線

◆計52両の500番台が相模線に主力となり走る

これまで見てきたJR東日本の205系は、みな既存の205系を改造されて生まれた車両である。最後に紹介する205系は、JR東日本となって新造された車両だ。相模線が1991(平成3)年3月16日に電化されるのに合わせて誕生した。205系500番台とされた車両で、これまでの205系とは異なる正面デザインを特徴としている。車体に入る帯色は平行して流れる相模川をイメージしたブルーグリーンとライトグリーンとされた。

 

車両数は4両×13編成の計52両で、全車が国府津車両センターに配置されている。一応205系は国鉄形電車に含まれるが、車両の誕生が1991年と、JR化されて数年後であり、しかもデザインが既存の205系とだいぶ異なっている。

↑相模線の205系500番台。他の205系とは大きく異なる正面デザインが特徴となっている

 

国鉄形とは言い切れない微妙な電車ではあるが、国鉄のDNAは受け継いでいると言って良いだろう。JR東日本に残る205系は幹線ではなく、いずれもローカル線での運用となっている。幹線のように素早く新型車との入換えされる路線でないことも救いとなりそうだ。

 

JR東日本では、むしろ早めの置き換えを想定して製造された209系やE217系といった“後輩”の車両の置き換えが、すでに始まりつつある。むしろ頑丈に作られた国鉄形であるがゆえ、残る路線の現状を見る限り、意外に末長く使われることになりそうだ。

最後の活躍!? 国鉄形通勤電車「201系」と「205系」の活躍を追う【前編】

〜〜希少な国鉄形電車の世界その3「201系」〜〜

 

武骨なスタイルで決しておしゃれとは言えないけれど、懐かしさ、愛おしさを感じてしまう国鉄形電車たち。今回は通勤形電車として一世を風靡した201系を【前編】で、205系を【後編】で追ってみたい。

 

201系と205系も今は徐々に減り、すでに201系は近々運行を終えるという情報も出てきている。ここ数年で見納めとなるのだろうか。

 

【はじめに】101系・103系・105系その後の107系は?

まずは、国鉄時代に生まれた通勤形電車の歴史を振り返っておこう。

 

太平洋戦争後しばらくの間に走っていたのが、旧形国電と一括して紹介される車両群である。戦前、戦中、戦後まもなくに造られた通勤電車で、資源の乏しい時代でもあり、また技術的にも、安全面でも問題を抱えていた。

↑筆者が国鉄時代の青梅線御嶽駅で撮影したこげ茶色の旧形国電。1970年代、ローカル線にはかなり多くの旧形国電が残っていた

 

そこで開発されたのが新性能電車と呼ばれる新形電車たちだった。まずは1957(昭和32)年に101系が登場した。1964(昭和39)年に誕生したのが、その後の国電の“顔”となった103系である。さらに後年となるが、1981(昭和56)年に地方の路線向けとして105系が開発される。このうち、103系と105系は今もわずかにだが、JR西日本で使われている。さて105系のあとはどのような通勤形電車が造られたのだろうか。今回はここから話を進めてみよう。形式名の数字順に見ると107系となるわけだが。

 

◆早くも形式消滅してしまった“JR東日本”の107系

実は107系は国鉄形電車には含まれていない。107系は国鉄の技術を引き継ぎ、JRとなった翌年の1988(昭和63)年にJR東日本により造られた。ちょうど境目となる年のすぐあとに生まれた電車だったわけである。

↑信越本線の群馬県内区間を走る107系。115系とともに北関東の路線の主力電車として活躍し続けた 2014年4月27日撮影

 

日光線、両毛線などの北関東の路線向けに造られた電車で54両が造られている。地方用ということで2両編成、“パンダ顔”と呼ばれた105系の正面に近いデザインを持つ。ロングシートで、失礼ながら個性がある電車ではなかったこともあり、あまり注目は浴びなかったように思う。

 

誕生してからちょうど30年を迎えるわずか1年前の2017年10月に運用終了。早過ぎる引退でもあった。この引退で107系という形式は消滅している。とはいえ、群馬県を走る上信電鉄に大量に引き取られ、今は主力電車として活躍をしている。ずっと走り続けてきた北関東の私鉄に引き取られて、“幸運な電車”だったと言えるかも知れない。

↑上信電鉄を走る元107系、現在は700形という形式名となっている。車体色は全編成が異なるが、元107系カラーの電車も走る

 

107系まで電車を紹介したが、109系という形式名はない。これは最後の「9」という数字が、横川〜軽井沢間を走った電車群に付けられた数字だとされるが、209系があるのに、109系がないというのはちょっと不思議でもある。

 

さて100という数字で、次は111系、113系、115系、117系という国鉄形電車としては、大きな存在だった形式があるのだが、こちらは次週以降のお楽しみということで、ひとまず、今回は通勤形電車の流れということで201系、205系という電車たちに触れておきたい。

 

【201系電車の登場】103系の後に登場した通勤電車たち

国鉄では101系の後に登場した103系が3000両以上の大所帯となっていた。103系は1984(昭和59)年までの20年にわたり製造され続けてきた。安定した性能で供給も安定したが、短所も生じてきた。大きな問題としては技術面で沈滞が生じてしまったのである。そうした中で開発が始まったのが201系だった。

 

◆国鉄として初の省エネルギー電車201系の登場

103系と201系の違いは、201系が省エネルギーを念頭に置かれて開発されたことである。時代背景に1973(昭和48)年にオイルショックが起ったことが大きかった。石油に依存していた世界は、石油の供給ひっ迫で原油高騰が巻き起こり、世界経済に大きな影響を及ぼした。

 

このことにより、鉄道にも省エネタイプの電車の開発という大きな流れが生まれる。すでに1970年前後から省エネタイプの電車の開発が始まり、実際に営団地下鉄や大手私鉄の電車が誕生していた。対して国鉄では103系を主力にしていたせいか、動きは遅れがちで、201系の開発から省エネ電車の導入にかじを切っている。1979(昭和54)年に国鉄初の省エネ電車201系の先行試験車が誕生した。

 

201系では国鉄初の電機子チョッパ制御(サイリスタチョッパ制御)方式が採用された。さらに電力回生ブレーキを装備している。

↑関西圏では京阪神緩行線に導入後,大阪環状線などで使われた。大阪環状線の201系は2019年に運行終了 2016年12月10日撮影

 

2年におよぶ試験が続けられ、1981(昭和56)年に量産車が登場した。201系は、首都圏の中央線快速、中央・総武緩行線に加えて、関西圏の京阪神緩行線用に投入された。製造期間は1985(昭和60)年までと短かったが、計1018両(試作車10両を含む)が投入されている。

 

そんな201系も誕生してすでに40年がたった。JR東日本の201系は長らく走った中央線からは2010年10月で、また最後まで残った京葉線201系は2011年6月で運用終了している。残る201系はJR西日本のみとなった。

 

【201系が残る路線①】大和路線の普通列車として活躍中

今や国鉄形電車の聖地となりつつあるJR西日本。多くの国鉄形電車が更新され、大事に使われてきた。しかし、さすがにというか、徐々に新しい電車を入換えが進みつつある。201系が大半を占めていた大阪環状線とゆめ咲線(桜島線)も、3扉車への統一を図るため、後進の323系が増備され2019年に姿を消した。オレンジ一色の姿で長年、大阪で親しまれていた電車もすでに過去のものになっている残る201系はウグイス色の大和路線(関西本線)と、おおさか東線を走るのみとなっている。

 

◆車両の現状:残り201系はあと132両となった

↑大和路線を走る201系は2006年暮れからの運行。ウグイス色一色の車体に、正面のみ白帯(警告帯)が入る。側面はかなり改造されている

 

残る201系はすべて吹田総合車両所奈良支所に配置されている。残存する車両数は132両で最盛期の13%まで減ってしまった。

 

貴重な201系がまず走るのは大和路線のJR難波駅と王寺駅間で、同駅間の主に普通列車に利用されている。頻繁に走っているので、まだまだ大丈夫だろうと思っていたら……。2020年2月19日発表のJR西日本のプレスリリースによると、この残りの201系も「運行を終える」ことが発表された。「中期経営計画2022」と名付けられたプランによると、225系が144両、新規投入されることが発表されている。

 

225系はJR京都線、JR神戸線への投入ながら、両線を走っていた221系が大和路線へ移される。予定では225系の導入が2020年から2023年度にかけてとされる。となると3年以内には置き換えに? すでに大和路線では221系が主に快速列車などに使われているが、3年後には走る電車の大半が221系となりそうだ。

 

◆撮影するならば:緑の多い高井田駅〜三郷駅間がおすすめ!

↑三郷駅近くで大和川を渡る。第三大和川橋りょうは、橋の上の構造物がワーレントラスなど複雑な造りでなかなか面白い

 

筆者は国鉄形電車が好きなこともあり、大和路線を何度か訪れて、乗車している。201系が走る区間には、ちょうど大和川が平行して流れている区間がある。通勤電車が走る路線としては、非常に風光明媚な区間で、乗車していても車窓風景の展開がおもしろい。

 

もし撮影するとしたら、やはり大和川の流れと並行する区間がおすすめだろう。高井田駅から三郷駅(さんごうえき)間まで、途中に一駅・河内堅上駅(かわちかたかみえき)があるのみだが、ぜひともお気に入りのスポットを探していただきたい。

 

【201系が残る路線②】おおさか東線の主力として活躍中だが

◆運用の現状:大和路線と共通運用のため2023年度には消えることに

新大阪駅と久宝寺駅(きゅうほうじえき)を結ぶおおさか東線。2019年3月16日に全線開業した路線だが、この主力として走るのが201系だ。普通列車のすべてに201系が使われている。大和路線へ乗り入れる快速電車(新大阪駅発は日に4本のみ)を除く列車以外はすべて201系なので、同路線で201系が見放題、乗り放題というわけだ。

 

とはいえ大和路線と共通運用で、配置されるのが吹田総合車両所奈良支社。そのため2023年度までには消える運命となりそうだ。

↑新大阪駅近くを走るおおさか東線の201系。同線の久宝寺駅行き普通電車は現在のところすべて201系で運転されている

 

おおさか東線は全線がほぼ高架線が連なり、もし駅間で撮影するとしても好適地があまり無いのが残念なところ。貨物専用線だった淀川橋梁(赤川鉄橋)も今は歩行者が渡れなくなっている。駅間で撮るとしたら新大阪駅近辺や久宝寺駅周辺ぐらいかも知れない。

 

◆車両の特徴:車体側面や行先表示器は大きく変更されている

JR西日本には国鉄形の古い車両が残っている一方で、体質改善工事と称する改造工事を大がかりに行っている。残る201系の変更点をここで確認しておこう。まずはオリジナル車両にくらべて側面が大きくかわっている。雨どいの位置が上げられ、屋根の張上化、乗降扉が入り込む戸袋部分の窓が消された。ガラス窓の周囲などもステンレスにされている。上部にある前照灯もガラス内に収納されている。

 

行先表示器は方向幕からLED表示器にされている。ちなみにLED表示器の撮影を試みたが、きれいに撮影できるシャッター速度をいろいろ試してみて60分の1以下が望ましいことが分かった。なかなか難度の高いLED表示器である。走行時の撮影はかなり難しいように感じた。

↑行先表示器は現在LEDとなっている。このLEDをきれいに撮るのが結構難しい。作例はシャッター速度60分の1で撮影したもの

 

いろいろな変更点がある201系ではあるが、国鉄初の省エネ電車であることは確かだ。歴史にその名を刻んだ“名車”をしっかり目に焼き付けておきたい。

進化したハイブリッドシステムを搭載した日産「キックス e-POWER」の実力は?

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、日産独自のハイブリッドシステム「e-POWER」を搭載した最新モデル、キックスを取り上げる!

※こちらは「GetNavi」 2021年1月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【PROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。2018年以降、ペンネームを「MJブロンディ」から「永福ランプ」へ変更している。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。永福ランプを慕い「殿」と呼んでいる。

 

【今月のGODカー】日産/キックス e-POWER

 

SPEC【X ツートーンインテリアエディション】●全長×全幅×全高:4290×1760×1610mm ● 車両重量:1350kg ●パワーユニット:電気モーター+1.2L直列3気筒エンジン ●モーター最高出力:129PS(95kW)/4000-8992rpm ●最大トルク:260Nm/500〜3008rpm ●WLTCモード燃費:21.6km/l

275万9900円〜286万9900円

 

ノートに比べるとエンジン音がグッと静かになったe-POWER

安ド「殿は日産のe-POWERをどう評価されてますか?」

 

永福「モーターがエンジンをアシストするハイブリッドとはまったく別の道を行き、まったく別の魅力を生み出した、すばらしいハイブリッドシステムだと思うぞ」

 

安ド「なるほど! 確かにこのキックス e-POWERに乗っても、まるでEVみたいで、すごく新鮮です!」

 

永福「基本的にはEV。ただしそのための電気を、ガソリンエンジンを回して生み出しているわけだからな」

 

安ド「最大の特徴は、アクセルを戻すとかなり強力な回生ブレーキがかかって、ブレーキペダルを踏まなくても止まれることですね!」

 

永福「それがウケて、ノート e-POWERは大ヒットになった」

 

安ド「わかる気がします。乗るとビックリしますから!」

 

永福「そのビックリが吉と出るか凶と出るか半信半疑だったが、吉と出てビックリだった」

 

安ド「ビックリですか!」

 

永福「一般のドライバーは、基本的に新しいことに違和感を抱くもの。アクセルを離すだけでグッと減速してしまうことに拒絶感が出るのではと思ったのだが、まったく逆だった」

 

安ド「逆でしたね!」

 

永福「トヨタのハイブリッド技術は絶対的な高みにあるが、それに対抗しうるハイブリッドを作り出した日産の技術も大したものだ」

 

安ド「やはり技術の日産ですね!」

 

永福「しかもキックス e-POWERは、ノートに比べるとエンジン音がグッと静かになったから、ますますEV感が高まった」

 

安ド「もう少しエンジンの気配を消せれば、まるでEVですね!」

 

永福「充電の要らないEVだな」

 

安ド「ただ、発売して数か月経っても、販売台数ランキングの上位に名前がないのはナゼでしょう?」

 

永福「このクルマ、タイで生産して日本まで運んでいるので、そのあたりがうまくいってないらしい」

 

安ド「そうなんですか!」

 

永福「価格も通常のハイブリッドに比べてかなり高い。日産の販売店としては、久しぶりの新型車なのにガックリだろう」

 

安ド「もうひとつ残念なのは、あんまりカッコ良く見えないことなんです」

 

永福「同感だ」

 

安ド「やっぱりですか!」

 

永福「どこが悪いというわけではないが、全体に見た目がサエず、最新のクルマという雰囲気がない。インテリアは悪くないんだが」

 

安ド「内装は、ボディ同色のオレンジが大胆に使われていて、なかなかカッコいいですね!」

 

永福「内装はオレンジか黒の2種類だから、ボディ同色というわけではないぞ」

 

安ド「じゃボディが紫でも、内装はオレンジですか?」

 

永福「オレンジか黒だ」

 

安ド「うーん、迷いますね……」

 

永福「お前、ボディは紫を選ぶつもりなのか……?」

 

【GOD PARTS 1】ステアリングヒーター

手指を温めることは安全運転にも直結

セットオプションで「ステアリングヒーター+前席シートヒーター+寒冷地仕様」が設定されています。真冬になるとステアリングに触れるのも躊躇しがちですから、すぐ暖まる同装備は寒冷地に住んでいなくても重宝します。

 

【GOD PARTS 2】リアコンビランプ

シャープなデザインを強調するブーメラン型

リアコンビランプは、現行型フェアレディZを思わせるブーメラン型です。ブーメランに見えないかもしれませんが。ブーメランを思いきり斜めから見たらこう見えるかも……と思ってください。シャープなイメージが狙いです。

 

【GOD PARTS 3】ドライブモードセレクター

独特な運転感覚はスイッチで調節できる

ドライブモードスイッチを押すと、「ノーマル」から「S」や「ECO」に変わります。「S」はアクセルを離した時の回生ブレーキの利きが強くなり、ワンペダルドライブが楽しめます。「ECO」では加速が穏やかになります。

 

【GOD PARTS 4】SOSコール

有事の際の対策は緊急通報スイッチで

「あおり運転」対策としても期待される緊急通報システムです。スイッチは前席の天井部分に付いていて、事故発生時など緊急事態の際にオペレーターへ直接連絡できます。ちょっと押してみたくなりましたが、大人なのでやめておきました。

 

【GOD PARTS 5】シフトレバー

未来型シフトもレバーで操作しやすい

リーフやノートなど日産のEVやe-POWERモデルのシフトノブはカタツムリ型でしたが、キックスe-POWERでは通常のレバー型が採用されています。ひょっとして「扱いづらい」などのユーザーの声があったのかもしれません。

 

【GOD PARTS 6】ダッシュボード

高級感があって感触もいいオレンジ色の素材

インパネ正面に飾られたオレンジ色の素材が、車内を爽やかな雰囲気に演出。この素材、肌触りもなんだかスベスベしていて気持ちよく、どこか高級感すら漂わせています。これだけ精巧なものが作れるのであれば、高価な本革素材はいらないかもしれませんね。

 

【GOD PARTS 7】インテリジェントルームミラー

アラウンドビューをルームミラーに表示

車両を真上から見たような映像を合成する技術「アラウンドビューモニター」の画面を、デジタルルームミラー内にも映し出すことができます。細部を見るには小さいですが、ハイテク好きなら心躍るに違いありません。

 

【GOD PARTS 8】Vモーショングリル

ヘッドライトも含めて巨大なV字を演出

日産はここ10年ほどで、フロントエンブレムをVの字で挟む形状のファミリーフェイスを数多くの車種で採用してきました。キックス e-POWERでは、ヘッドライトまでデザインに含めて、巨大なVの字を描いています。

 

【GOD PARTS 9】プロパイロット

実用的で運転を快適にしてくれる技術

簡単なスイッチ操作で、先行車に追従しながら車線内をスムーズに走行できる運転支援技術です。スカイラインの「2.0」のように「ハンズオフ(手放し)」まではできませんが、熟成されていて、最新モデルならではの高い完成度を誇ります。

 

【これぞ感動の細部だ!】e-POWERシステム

圧倒的支持を得て進化した日産独自のシステム

ガソリンエンジンは動力として使わず、発電するために動かし、その電気を使ってモーターで走行する日産独自のハイブリッドシステムです。2016年にe-POWERが追加搭載されたノートは、ベース車の発売から4年が過ぎていたにも関わらず爆発的ヒットに。キックスでは、重量が重くなったぶん出力を向上させていて、静粛性も高くなり、上質な走りを味わえます。

もっと安心・快適なドライブのために取り入れたい安全カーグッズ12選

より安全な運転をアシストしてくれるクルマの技術は進化する一方だが、安全な運転の責任を最終的に負うのはドライバー自身。ドライブレコーダーや視界確保、死角解消アイテムを積極的に取り入れて、安心・快適なドライブを盤石なものにするべし!

※こちらは「GetNavi」 2021年1月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【その1】ドライブレコーダー

事故の際の記録やあおり運転対策として欠かすことのできないドライブレコーダー。360度記録タイプや複数カメラ搭載タイプも増え、選択肢はより多くなっている。

 

【No.1】[360度+リアカメラタイプ]全周囲360度記録とリアカメラで死角なし!

       

ユピテル

marumie Q-30R

3万9600円

全周囲360度と後方を同時記録するドライブレコーダー。リアカメラもHDRに対応し、白とびや黒つぶれを低減し鮮明に記録する。SDカードの定期的なフォーマットも不要で、書き込みエラーを防ぐ。

SPEC ●記録解像度:最大360万画素(フロント)、最大200万画素(リア)●最大記録画角:水平360度×垂直240度(フロント)、対角155度(リア)●サイズ・質量/W69×H72×D39mm/約157g(フロント)、W54×φ25mm/約26g(リア)

 

↑フロントカメラの垂直視野角は240度。交差点付近の信号機から車内までをしっかりと記録できる

 

【No.2】[360度タイプ]最高水準の高精細で水平360度全方位録画が可能

ケンウッド

DRV-CW560

実売価格3万9800円

F1.8の明るいレンズを搭載し、業界最高水準となるフルハイビジョンの2倍の高解像度で水平360度記録が可能。録画した映像はそのままスマホに転送でき、専用アプリを使用することでその場で確認できる。

SPEC ●記録解像度:最大2160万×2160万画素(動画最大約466万画素)●最大記録画角:水平360度×垂直210度 ●サイズ・質量/W64×H71×D84mm/137g

 

■ラウンド

■2分割

■4分割

■切り出し

■パノラマ

↑360度カメラで撮影した映像は、専用アプリで再生が可能。5つのビューモードで切り替えて再生できる

 

【No.3】[360度タイプ]1台のカメラで全方位とフロントを同時記録する

カーメイト

ダクション 360 S DC5000

6万5780円

360度レンズを2つ搭載し、水平・垂直の全方位を記録可能。前方もクリアに記録できる日本初のデュアルレック機能を搭載。クルマから取り外してアクションカメラとしても使え、映像はスマホで確認できる。

SPEC ●記録解像度:約410万画素(全天球)、最大200万画素(フロント)●最大記録画角:水平360度×垂直360度 ●サイズ・質量/W69×H72×D39mm/約157g

 

■全天球録画+フロント録画

↑360度全方位録画と同時に車両前方をフロント録画として高解像度で記録できる。ナンバープレートや前方の景色もクリアに映し出すことが可能だ

 

【No.4】[3カメラタイプ]3つの広角カメラで広範囲をしっかり記録

オウルテック

OWL-DR803FG-3C

実売価格3万6080円

車両前方、車内、車両後方をカバーする3カメラタイプ。フロントは2560×1440のWQHD画質、車内とリアもフルHDの鮮明な画質で記録できる。車内カメラは赤外線撮影にも対応し、暗所でも安心だ。

SPEC ●記録解像度:約370万画素(フロント)、約200万画素(車内)、約200万画素(リア)●最大記録画角:対角139度(フロント)、対角148度(車内)対角133度(リア)●サイズ・質量/W108×H108×D44mm/約107g(フロント)、W57×H28×D56mm/約28g(リア)

 

↑フロントは対角139度、車内は対角148度、リアは対角133度をカバー。3つのカメラで広範囲を確実に記録する

 

【No.5】[ナイトビジョンタイプ]夜間や悪天候時でも前方300mまでをはっきりと確認可能

ランモード

ナイトビジョンシステム VAST PRO

5万2800円

独自の暗視モニターシステムで夜間や視界の悪い荒天時でも300m先までをはっきりと確認可能。フルHD画質での記録ができるリアカメラも搭載され、あおり運転などの危険運転から身を守れる。

SPEC ●記録解像度:約200万画素(フロント)約200万画素(リア)●最大記録画角:対角45度(フロント)、対角170度(リア)●サイズ・質量/W217×H85×D65mm/600g

 

↑暗い道でも前方の対象物をしっかりと確認可能。インパネへの設置のほか、吸盤でガラス面にも設置できる

 

【No.6】[1カメラタイプ]わずかな光量でも鮮明に記録できるナイトサイト搭載

パイオニア カロッツェリア

VREC-DZ600C

実売価格2万4280円

高感度で記録できるCMOSセンサーを搭載し、フルHDの高解像度で記録可能。従来のドライブレコーダーと比較して1/100の光量でも明るく鮮明な撮影ができるナイトサイトを搭載する。

SPEC ●記録解像度:約200万画素 ●最大記録画角:水平130度、垂直68度、対角160度 ●サイズ・質量/W78.6×H77.3×D47.4mm/118g

 

■ナイトサイト非搭載モデル/VREC-DZ600C

↑暗所での撮影に適したソニー製高感度CMOSセンサー「STARVIS」を採用。わずかな光量でも周囲の状況を鮮明に記録することが可能だ

 

【その2】視野確保アイテム

運転に必要な情報の多くは目を通して入手している。視界が悪くなる雨の日でもクリアに見えるアイテムや、視界を広げるアイテムを駆使して、安全運転につなげたい。

 

【No.1】スプレーするだけで水滴が広がり視界良好に

カーメイト

エクスクリア 超親水ミラーコート クイック

880円

水溶性ポリマーが薄い水膜を作って水滴をなじませる親水効果により、サイドミラーのクリアな視界を確保。スプレーするだけなので作業も簡単だ。サイドガラスにも効果あり。

 

■施工前

■施工後

 

【No.2】ワイパー作動後わずか5分で撥水被膜が雨をはじく!

PIAA

AEROVOGUE 超強力シリコートワイパー

オープン価格

ガラスが乾いた状態でワイパーを5分間作動させるだけで、フロントウィンドウに撥水被膜を形成し雨をはじく。効果が薄れたら再度ワイパーを作動するだけで、撥水被膜を再形成する。

 

■未使用時

■使用時

↑未使用時は雨粒の影響で光が乱反射する。使用時は撥水被膜がウィンドウガラスを平らにするのでクリアな視界になる

 

【No.3】視界面積を3倍に広げて見えない場所が確認可能

カーメイト

リアビューミラー OCTAGON

1760円〜3080円

半径1400mmの球体から切り出された曲面鏡を用いたルームミラー。一般的なミラーと比較して視界面積が約3倍に広がり、後続車や追い越し車線の様子もラクに確認できる。

 

↑表面をブルーコーティングした防眩タイプもラインナップ。後続車のハイビーム(ハロゲン球)のまぶしさを大幅にカットする

 

【その3】死角解消アイテム

どれだけ注意しているつもりでも、運転席から見えないエリアは必ず存在する。そんな死角を解消するアイテムを積極的に取り入れて、ヒヤッとする場面を少なくしよう。

 

【No.1】曲面ガラスが死角を解消 車内確認用にも使える

ナポレックス

バイザーサブミラー BW-35

実売価格831円

サンバイザーに取り付けるサポートミラー。300mmRの広角ミラーを採用し、既設のルームミラーの死角を解消する。後方だけでなく、リアシートの子どもの様子なども確認できる。

 

↑フレームレスの樹脂製ミラーを採用。スリムで邪魔にならない形状で、取り付け後も角度調整が簡単に行える

 

【No.2】車体斜め後方と下方の安全確認をサポート

LZRYYO

ブラインドスポットミラー

実売価格1580円

サイドミラーだけでは確認しにくい、車体斜め後方と下方の確認をアシストする補助ミラー。車線変更や左折時の巻き込み事故の原因になる死角を解消できる。

 

↑サイドミラーに強粘着テープで取り付け。ミラー面は上下左右を見やすい角度に調整できる

 

【No.3】車体後方下部を映し出し安心してバックが可能

カーメイト

補助ミラー 後方確認用

2074円

ミニバンや車高が高い軽自動車のリアゲート上部に取り付けて、車体後方下部を広範囲で映し出す。見えない部分が直接目視で確認できるため、安心してバックできる。

 

↑ルームミラーだけでは確認しづらい子ども用自転車などもしっかりと映し出す。バック駐車時の距離もつかみやすい

 

【CHECK!】「ペダル踏み間違い」の事故を防止するアイテムも注目!

データシステム

アクセル見守り隊 SAG297

3万800円

 

ペダル踏み間違い時の急発進を防止できる

停車中や低速走行中に急激にアクセルが踏まれた場合、アクセル信号を制御して急発進を防止してくれるのがアクセル見守り隊。幅広い車種に取り付け可能だ。高齢者を対象に、購入・取り付け費用から2万円を補助してくれる、サポカー補助金を受けることができる。

 

★こんな時に効果を発揮!

コンビニエンスストアなどの駐車場で、ブレーキとアクセルを踏み間違えて事故につながるのはよく聞くニュース。万が一踏み間違えた場合でも急発進を防止してくれる。

 

電子制御車なら幅広く対応する(取り付けには別売の車種別ハーネスが必要)。国土交通省のサポカー補助金と併用できる自治体の補助金制度もあるので、確認してみよう。

安全なクルマは好みで選べる!「カテゴリ別」安全+αの最適モデル指南

衝突被害軽減ブレーキをはじめとして安全性能についてはお墨付きのモデルのなかから、より便利に、楽しく使えるモデルをプロがチョイス。スタイルや走り、使いやすさなど自分の好みに合ったモデルを選んで、ワンランク上の快適ドライブを満喫しよう!

※こちらは「GetNavi」 2021年1月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私が選びました

モータージャーナリスト

岡本幸一郎

高級輸入車から軽自動車まで幅広く網羅。各社の予防安全技術の多くを体験済み。日本・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員も務める。

【タイプ1】SUV

多くの新モデルが登場し、安全運転支援技術も最新のモノが搭載されることが多いSUV。走破性能や使いやすさで優れたモデルもあるが、総合性能で選ぶならトヨタ・RAV4だ。

 

【独創性で選ぶなら】クーペ的なシルエットとインテリアの心地良さが秀逸

マツダ

MX-30

242万円〜305万2500円

SUVでありながらクーペ的シルエットとフリースタイルドアが印象的なモデル。インテリアにはコルクやペットボトルなどサステナブルな素材を用いて心地良さを演出する。

 

↑同社のRX-8以来となる観音開きを採用したフリースタイルドア。ピラーがないぶん後席の乗降もしやすい

 

[岡本’sジャッジ]

 

【先進機能で選ぶなら】e-POWERとプロパイロットの先進性を1台で味わえる

日産

キックス e-POWER

275万9900円〜286万9900円

日産独自のハイブリッド方式であるe-POWERと、安心・快適なドライブを実現するプロパイロットという、2つの先進機能が1台で楽しめる。EV走行時の静粛性も特筆モノだ。

 

↑アクセルペダルひとつで加減速が行えるe-POWER Drive。アクセルとブレーキの踏み替え回数も減ってラク

 

[岡本’sジャッジ]

 

【使いやすさで選ぶなら】3列シートを備えたモデルは人も荷物も余裕で乗せられる

メルセデス・ベンツ

GLB

512万円〜696万円

コンパクトなサイズながら、身長168cmまでの人が座れる3列目シートが便利なモデル。3列目シート使用時でも130L、シート格納時では500Lの荷室を活用して積載できる。

 

↑大人数で乗車するときに便利な3列目シート。身長168cmの人までに限られるが、あるとやはり便利だ

 

[岡本’sジャッジ]

 

【走破性能で選ぶなら】ジープ最強モデルが誇る世界最高の悪路走破性能

ジープ

ラングラー

499万円〜621万円

高い最低地上高、大径タイヤなどの見た目から想起するとおりのオフロード性能を誇るモデル。なかでも悪路走破性能を強化したアンリミテッド ルビコンは世界最強と言われる。

 

↑マニュアルで切り替えるパートタイム4×4を搭載。自動で前後輪に駆動力を分配するフルタイム4×4も採用する

 

[岡本’sジャッジ]

 

【デザインで選ぶなら】デザインは軽快ながら操縦安定性の良さが光る

 

フォルクスワーゲン

T-Cross

303万9000円〜339万9000円

若々しいデザインとカラーバリエーションが魅力のコンパクトSUV。一見軽快なモデルだが、ドイツ車ならではの高い操縦安定性もポイント。2WDのみなのが少々残念ではある。

 

↑リアシートは140mmスライドが可能。後席の広さを自在に変え、同時にカーゴスペースの拡大にも役立つ

 

[岡本’sジャッジ]

 

【総合性能で選ぶなら】悪路も難なくこなすオールラウンダーSUV

トヨタ

RAV4

274万3000円〜402万9000円

前後左右のタイヤへのトルク配分を変更する独自のダイナミックトルクベクタリングAWDを採用し、悪路走破性が高い。もちろんオンロードでの快適さもトップクラスを誇る。

 

↑路面の状況に応じて最適なトルク配分を行うダイナミックトルクベクタリングAWD。高い走破性を実現する

 

[岡本’sジャッジ]

 

【タイプ2】コンパクトカー

コンパクトカーでトップを争うトヨタ・ヤリスとホンダ・フィットがモデルチェンジし、走りや使い勝手が一層向上。走りを楽しみたいならスズキ・スイフトスポーツも選択肢のひとつだ。

 

【使いやすさで選ぶなら】広々とした室内空間は使い勝手も良好!

ホンダ

フィット

155万7600円〜253万6600円

広々とした室内空間と快適な乗り味でコンパクトカーらしからぬ心地良さを提供してくれる。後席の座面をはね上げて背の高いモノを積載できるなど、使い勝手も抜群に良い。

 

[岡本’sジャッジ]

 

【走りの良さで選ぶなら】強力ターボと軽量ボディが刺激的な走りを実現

スズキ

スイフトスポーツ

187万4000円〜214万1700円

1.4Lの強力直噴ターボエンジンと970kgの軽量ボディで刺激的な走りが楽しめ、コスパも抜群に良いモデル。クルマを操るのが好きな人にはうれしい6速MTも選べるのは◎。

 

[岡本’sジャッジ]

 

【燃費の良さで選ぶなら】操縦安定性に優れた驚異的低燃費モデル

トヨタ

ヤリス

139万5000円〜249万3000円

新形プラットフォームの採用で高い操縦安定性を実現。36.0km/Lというハイブリッド車の驚異的な燃費に目が行きがちだが、ガソリン車でも最高21.6km/Lと優秀な数値だ。

 

[岡本’sジャッジ]

 

【タイプ3】ミニバン

使い勝手の良い日産・セレナや、走りの良さを楽しめるホンダ・ステップワゴンに注目。独創的な三菱・デリカD:5のクロカン走破性能は他のミニバンにはない優位点だ。

 

【走りの良さで選ぶなら】低床設計が生み出すしっかりとした走りが魅力

ホンダ

ステップワゴン

271万4800円〜409万4200円

ホンダ独自のセンタータンクレイアウトが可能にした低床設計が、低重心のしっかりとしたフットワークを生む。ハイブリッド車の強力な加速と低燃費も大きな魅力だ。

 

[岡本’sジャッジ]

 

【使いやすさで選ぶなら】シートアレンジが多彩で広い室内を自在に使える

日産

セレナ

257万6200円〜419万2100円

広い室内と、乗り方や使い方によって自由にアレンジできる3列シートが特徴。通常の約半分のスペースがあれば開閉できるハーフバックドアを設定するなど、芸が細かいのも◎。

 

[岡本’sジャッジ]

 

【独創性で選ぶなら】個性的なフロントマスクと走破性能は唯一無二の存在

三菱

デリカD:5

391万3800円〜447万2600円

SUVとの融合を図った独創的なミニバン。話題となったコワモテのフロントマスクも印象的だ。走行シーンに応じてドライブモードを選択できるなど、ミニバン唯一無二の存在。

 

[岡本’sジャッジ]

 

【タイプ4】軽自動車

販売台数No.1を誇るホンダ・N-BOXの牙城は揺るがないが、遊び心満点のスズキ・ハスラーとダイハツ・タフトが華々しくデビュー。安全で楽しく使える軽が充実した。

 

【快適性で選ぶなら】独特な愛らしさに快適な乗り心地がプラス

スズキ

ハスラー

128万400円〜179万800円

愛らしい独特のデザインはもちろんだが、軽自動車らしからぬ快適な乗り心地にも驚かされる。丸目のヘッドライトと大きな3連フレームを備えたインパネデザインは個性的だ。

 

[岡本’sジャッジ]

 

【楽しさで選ぶなら】乗員スペースと荷室を分け多彩な使い方が可能

ダイハツ

タフト

135万3000円〜173万2500円

フロントシートをクルースペースとし、リアシートと荷室を荷物の積載スペースと位置付けることで、快適な室内空間を実現。開放的な天井のスカイフィールトップが魅力的だ。

 

[岡本’sジャッジ]

 

【使いやすさで選ぶなら】驚異の室内高が生む自由自在の室内空間

ホンダ

N-BOX

141万1300円〜212万9600円

センタータンクレイアウトによる低床設計で、子どもなら立ったままでも余裕で着替えられる室内高に驚き。両側スライドドアとスライドシートで、小さな子どもも乗せやすい。

 

[岡本’sジャッジ]

安全なクルマ“四天王”の先進技術を徹底診断!

高級車から軽自動車まで多くのクルマに導入が進んでいる予防安全技術。そのなかでも交通事故ゼロを目指して、予防安全にいち早く着目して独自の技術開発を進めてきた「安全なクルマ」四天王の先進技術のスゴさを診断する。

※こちらは「GetNavi」 2021年1月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私たちが解説します

自動車・環境ジャーナリスト

川端由美

工学博士。エンジニアから自動車専門誌の編集部員に転身し、現在はフリーランスのジャーナリスト。テクノロジーとエコロジーを専門とする。

モータージャーナリスト

岡本幸一郎

高級輸入車から軽自動車まで幅広く網羅。各社の予防安全技術の多くを体験済み。日本・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員も務める。

 

【No.1】SUBARU/アイサイト

追突事故発生率はわずか0.06%! 高速道路で活躍する新機能も便利(川端)

SUBARU

レヴォーグ

310万2000円〜409万2000円

高速道路でのステアリング操舵支援や渋滞時ハンズオフ運転機能、自動車線変更などを実現する「アイサイトX」をオプションで設定。大型11.6インチのセンターディスプレイや12.3インチのフル液晶メーターなどが採用されている。

 

1999年から安全ひと筋 事故ゼロを目指し続ける

アイサイトは1999年からスバルがコツコツ開発してきた技術の蓄積から生まれた機能だ。実際の事故データでも驚く数字が出ており、アイサイトVer.3搭載車の追突事故発生率は、なんと0.06%(※)。一般的な事故発生率と比べると、ひとケタ小さい値だ。

 

新型レヴォーグに搭載された新世代のアイサイトはさらに進化。事故防止のためだけでなく、渋滞時のハンズオフ運転や料金所手前での自動減速など、高速道路で日常的に使える機能が充実した。レーダーにより交差点での飛び出しにも自動ブレーキがかかるなど、その性能はさらに向上している。

※:2014〜2018年の間に国内で販売したアイサイトVer.3搭載車の人身事故件数について調査した結果。公益財団法人 交通事故総合分析センターのデータを基にSUBARUが独自算出した

 

↑ステレオカメラの視野を広げ、コーナーレーダーを搭載。デジタルマップと複合させて、目では見えにくい物体まで検知する

 

↑アイサイトXでは、デジタルマップのデータとGPS情報を活用。高速道路のカーブ手前で、自動で減速する

 

↑前側方プリクラッシュセーフティでは、死角から近づく車両を検知。警告に加えて、自動ブレーキまで支援する

 

[川端さんの診断結果]

ブレーキ制御性能 ★★★★★

ステアリング制御性能 ★★★★★

市街地でのアシスト性能 ★★★★

高速道路でのアシスト性能 ★★★★★

 

【No.2】トヨタ/トヨタ セーフティセンス

高級車からコンパクトカーまで幅広く充実させるのはさすが(川端)

トヨタ

ヤリス クロス

179万8000円〜281万5000円

レーダークルーズコントロールをはじめとする高度な駐車支援システムや、もしものときにドライバーやクルマを助けるヘルプネットなど充実した装備を誇る。ハイブリッドモデルで最高30.8km/Lの燃費性能も優秀だ。

 

安全装備を幅広く展開して多くの人の安心につなげる

さすがトヨタ! と思うのは、クラウンのような高級車はもちろん、ヤリスのようなコンパクトカーまで安全装備を充実させている点。なぜなら、この種のエントリーカーの需要は、初心者や高齢者など運転技術に不安を抱くドライバーにこそ高いからだ。ヤリスなどで採用される駐車支援機能は、初心者にうれしい機能だろう。

 

交差点右折時に直進してくるクルマを検知するだけでなく、その先の横断歩道を渡る歩行者も検知してブレーキ操作支援を行うのは、優れたセンシング技術の賜物。これをコンパクトカーにも導入するのは、さすがトヨタ! である。

 

↑注目すべきは街灯のない夜の道でも自動ブレーキが作動する点。視野の悪い状況でのドライバー支援の機能も充実している

 

↑交差点を横断する歩行者を検知して、自動ブレーキをかける機能も搭載。優れたセンシング技術で実現した

 

↑駐車スペースへの誘導を行う機能を搭載。メモリ登録した区画線のない駐車スペースへも誘導してくれる

 

[川端さんの診断結果]

ブレーキ制御性能 ★★★★

ステアリング制御性能 ★★★

市街地でのアシスト性能 ★★★★★

高速道路でのアシスト性能 ★★★★

 

【No.3】ボルボ/インテリセーフ

独自の視点で予防安全を研究し先進技術を実現させる先駆者(岡本)

ボルボ

XC60

639万円〜949万円

車両や歩行者、サイクリスト、大型動物との衝突を回避、または衝突被害を軽減するための警告およびブレーキ作動を行うシティ・セーフティを搭載。全ラインナップが電動化を実現し、48Vマイルドハイブリッドとプラグ・イン・ハイブリッドモデルが揃う。

 

衝突軽減ブレーキの先駆者でいち早く歩行者などにも対応

日本では自動停止する機能が認められていなかったところ、その突破口を開いたのは日本のメーカーではなくボルボだ。完全停止可能なブレーキを日本で初めて導入したのが2009年のこと。以降、先進技術を次々に取り入れるとともに、いち早く歩行者やサイクリスト、大型動物なども検知できるようにした。最新の技術は被害軽減ブレーキの作動を自車線内に入ってきた対向車や右折時の対向車にも対応させたほか、ステアリングを制御して障害物との衝突回避や対向車線へのはみ出しからの復帰なども実現。より多くのシーンに対応できるように進化している。

 

↑様々な対象物を検知可能。交差点での右折時には対向車の動きを監視し、万一の際には被害軽減ブレーキを作動させる機能も

 

↑後方から追突の危険を検知した場合、ブレーキ力を高めて二次被害を予防する。シートベルトの巻き取りも行う

 

[岡本さんの診断結果]

ブレーキ制御性能 ★★★★

ステアリング制御性能 ★★★★★

市街地でのアシスト性能 ★★★★★

高速道路でのアシスト性能 ★★★★

 

【No.4】メルセデス・ベンツ/レーダーセーフティ

事故を検証することで生まれる予防安全技術は最先端をいく(岡本)

メルセデス・ベンツ

Eクラス

769万円〜1144万円

前方約250m、側方約40m、後方約80mを検知するレーダーと、約90mの3D視を含む約500m前方をカバーするステレオカメラを搭載。衝突時の衝撃音の鼓膜への影響を低減する「PRE-SAFEサウンド」技術も採用する。

 

SクラスからAクラスまで同等の機構を惜しみなく搭載

メルセデス車が関わった事故現場に急行してあらゆる形態の事故を検証してきた知見を活かし、安全性の向上に取り組んできたメルセデス・ベンツ。その答えのひとつがレーダーセーフティだ。自然現象の影響を受けにくいミリ波レーダーなどによって、周囲のクルマや状況を認識してドライバーをサポートする安全運転支援システム。これをすべてのモデルで搭載しているのも同社ならではだ。

 

最近では他社に先駆けてARナビも採用。カメラで捉えた前方風景をナビ画面に重ねることで運転に余裕を生む技術は、やはりメルセデスの知見が成せる先進性である。

 

↑移動したい方向へウィンカーを点滅させるだけで自動で車線変更が可能。高速道路などでの運転をラクにする

 

↑衝突時のダメージを最小限に抑える「PRE-SAFE」。わずか数秒の間に乗員の命を守りやすい状態に調整する

 

↑天候や周囲の明るさに影響を受けることなく高度な検知が可能なミリ波レーダー。多目的カメラと複数のセンサーを組み合わせて安全運転支援を行う

 

[岡本さんの診断結果]

ブレーキ制御性能 ★★★★★

ステアリング制御性能 ★★★★★

市街地でのアシスト性能 ★★★★

高速道路でのアシスト性能 ★★★★★

安全なクルマ“四天王”の先進技術を徹底診断!

高級車から軽自動車まで多くのクルマに導入が進んでいる予防安全技術。そのなかでも交通事故ゼロを目指して、予防安全にいち早く着目して独自の技術開発を進めてきた「安全なクルマ」四天王の先進技術のスゴさを診断する。

※こちらは「GetNavi」 2021年1月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私たちが解説します

自動車・環境ジャーナリスト

川端由美

工学博士。エンジニアから自動車専門誌の編集部員に転身し、現在はフリーランスのジャーナリスト。テクノロジーとエコロジーを専門とする。

モータージャーナリスト

岡本幸一郎

高級輸入車から軽自動車まで幅広く網羅。各社の予防安全技術の多くを体験済み。日本・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員も務める。

 

【No.1】SUBARU/アイサイト

追突事故発生率はわずか0.06%! 高速道路で活躍する新機能も便利(川端)

SUBARU

レヴォーグ

310万2000円〜409万2000円

高速道路でのステアリング操舵支援や渋滞時ハンズオフ運転機能、自動車線変更などを実現する「アイサイトX」をオプションで設定。大型11.6インチのセンターディスプレイや12.3インチのフル液晶メーターなどが採用されている。

 

1999年から安全ひと筋 事故ゼロを目指し続ける

アイサイトは1999年からスバルがコツコツ開発してきた技術の蓄積から生まれた機能だ。実際の事故データでも驚く数字が出ており、アイサイトVer.3搭載車の追突事故発生率は、なんと0.06%(※)。一般的な事故発生率と比べると、ひとケタ小さい値だ。

 

新型レヴォーグに搭載された新世代のアイサイトはさらに進化。事故防止のためだけでなく、渋滞時のハンズオフ運転や料金所手前での自動減速など、高速道路で日常的に使える機能が充実した。レーダーにより交差点での飛び出しにも自動ブレーキがかかるなど、その性能はさらに向上している。

※:2014〜2018年の間に国内で販売したアイサイトVer.3搭載車の人身事故件数について調査した結果。公益財団法人 交通事故総合分析センターのデータを基にSUBARUが独自算出した

 

↑ステレオカメラの視野を広げ、コーナーレーダーを搭載。デジタルマップと複合させて、目では見えにくい物体まで検知する

 

↑アイサイトXでは、デジタルマップのデータとGPS情報を活用。高速道路のカーブ手前で、自動で減速する

 

↑前側方プリクラッシュセーフティでは、死角から近づく車両を検知。警告に加えて、自動ブレーキまで支援する

 

[川端さんの診断結果]

ブレーキ制御性能 ★★★★★

ステアリング制御性能 ★★★★★

市街地でのアシスト性能 ★★★★

高速道路でのアシスト性能 ★★★★★

 

【No.2】トヨタ/トヨタ セーフティセンス

高級車からコンパクトカーまで幅広く充実させるのはさすが(川端)

トヨタ

ヤリス クロス

179万8000円〜281万5000円

レーダークルーズコントロールをはじめとする高度な駐車支援システムや、もしものときにドライバーやクルマを助けるヘルプネットなど充実した装備を誇る。ハイブリッドモデルで最高30.8km/Lの燃費性能も優秀だ。

 

安全装備を幅広く展開して多くの人の安心につなげる

さすがトヨタ! と思うのは、クラウンのような高級車はもちろん、ヤリスのようなコンパクトカーまで安全装備を充実させている点。なぜなら、この種のエントリーカーの需要は、初心者や高齢者など運転技術に不安を抱くドライバーにこそ高いからだ。ヤリスなどで採用される駐車支援機能は、初心者にうれしい機能だろう。

 

交差点右折時に直進してくるクルマを検知するだけでなく、その先の横断歩道を渡る歩行者も検知してブレーキ操作支援を行うのは、優れたセンシング技術の賜物。これをコンパクトカーにも導入するのは、さすがトヨタ! である。

 

↑注目すべきは街灯のない夜の道でも自動ブレーキが作動する点。視野の悪い状況でのドライバー支援の機能も充実している

 

↑交差点を横断する歩行者を検知して、自動ブレーキをかける機能も搭載。優れたセンシング技術で実現した

 

↑駐車スペースへの誘導を行う機能を搭載。メモリ登録した区画線のない駐車スペースへも誘導してくれる

 

[川端さんの診断結果]

ブレーキ制御性能 ★★★★

ステアリング制御性能 ★★★

市街地でのアシスト性能 ★★★★★

高速道路でのアシスト性能 ★★★★

 

【No.3】ボルボ/インテリセーフ

独自の視点で予防安全を研究し先進技術を実現させる先駆者(岡本)

ボルボ

XC60

639万円〜949万円

車両や歩行者、サイクリスト、大型動物との衝突を回避、または衝突被害を軽減するための警告およびブレーキ作動を行うシティ・セーフティを搭載。全ラインナップが電動化を実現し、48Vマイルドハイブリッドとプラグ・イン・ハイブリッドモデルが揃う。

 

衝突軽減ブレーキの先駆者でいち早く歩行者などにも対応

日本では自動停止する機能が認められていなかったところ、その突破口を開いたのは日本のメーカーではなくボルボだ。完全停止可能なブレーキを日本で初めて導入したのが2009年のこと。以降、先進技術を次々に取り入れるとともに、いち早く歩行者やサイクリスト、大型動物なども検知できるようにした。最新の技術は被害軽減ブレーキの作動を自車線内に入ってきた対向車や右折時の対向車にも対応させたほか、ステアリングを制御して障害物との衝突回避や対向車線へのはみ出しからの復帰なども実現。より多くのシーンに対応できるように進化している。

 

↑様々な対象物を検知可能。交差点での右折時には対向車の動きを監視し、万一の際には被害軽減ブレーキを作動させる機能も

 

↑後方から追突の危険を検知した場合、ブレーキ力を高めて二次被害を予防する。シートベルトの巻き取りも行う

 

[岡本さんの診断結果]

ブレーキ制御性能 ★★★★

ステアリング制御性能 ★★★★★

市街地でのアシスト性能 ★★★★★

高速道路でのアシスト性能 ★★★★

 

【No.4】メルセデス・ベンツ/レーダーセーフティ

事故を検証することで生まれる予防安全技術は最先端をいく(岡本)

メルセデス・ベンツ

Eクラス

769万円〜1144万円

前方約250m、側方約40m、後方約80mを検知するレーダーと、約90mの3D視を含む約500m前方をカバーするステレオカメラを搭載。衝突時の衝撃音の鼓膜への影響を低減する「PRE-SAFEサウンド」技術も採用する。

 

SクラスからAクラスまで同等の機構を惜しみなく搭載

メルセデス車が関わった事故現場に急行してあらゆる形態の事故を検証してきた知見を活かし、安全性の向上に取り組んできたメルセデス・ベンツ。その答えのひとつがレーダーセーフティだ。自然現象の影響を受けにくいミリ波レーダーなどによって、周囲のクルマや状況を認識してドライバーをサポートする安全運転支援システム。これをすべてのモデルで搭載しているのも同社ならではだ。

 

最近では他社に先駆けてARナビも採用。カメラで捉えた前方風景をナビ画面に重ねることで運転に余裕を生む技術は、やはりメルセデスの知見が成せる先進性である。

 

↑移動したい方向へウィンカーを点滅させるだけで自動で車線変更が可能。高速道路などでの運転をラクにする

 

↑衝突時のダメージを最小限に抑える「PRE-SAFE」。わずか数秒の間に乗員の命を守りやすい状態に調整する

 

↑天候や周囲の明るさに影響を受けることなく高度な検知が可能なミリ波レーダー。多目的カメラと複数のセンサーを組み合わせて安全運転支援を行う

 

[岡本さんの診断結果]

ブレーキ制御性能 ★★★★★

ステアリング制御性能 ★★★★★

市街地でのアシスト性能 ★★★★

高速道路でのアシスト性能 ★★★★★

「安全なクルマ」を支えるのは、8つの技術!

かつては高価なオプションとして設定されていた予防安全技術が、いまは軽自動車やコンパクトカーでも標準装備化している。今回は、ぶつからない、そして安定した走行をキープして安全運転につながる8つの代表的な技術を紹介。先進技術はここまで進化しているのだ。

※こちらは「GetNavi」 2021年1月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私が解説します

カーITジャーナリスト

会田 肇

クルマやカーナビをはじめ、先進交通システムにも造詣が深い。海外のモーターショーにも積極的に足を運ぶ。

自動運転技術の開発過程で進化した予防安全技術

急速に高度化し、普及が進んでいる予防安全技術。背景のひとつとして2021年に衝突被害軽減(プリクラッシュ)ブレーキの搭載が新車に義務付けられることがあるが、自動運転化技術の進化も大きい。完全な自動運転を実現するのは簡単ではないが、その研究・開発の過程で生まれた技術が反映されているのは間違いないのだ。

 

衝突被害軽減ブレーキではミリ波レーダーや赤外線でセンシングする技術が使われ、レーンキープではカメラによるセンシングが活かされる。また、ステアリング制御はこれらの情報をトータルで処理するソフトウェアの技術によって日々向上している。これらはすべて自動運転に向かう過程で生み出されたものなのだ。特に日産・スカイラインなどで実現したハンズオフ(手放し)走行機能はこれらの技術の集大成とも言えるが、現状では運転の責任がドライバーにあることに変わりはない。それでも技術はヒューマンエラーによる事故を防ぎ、安心で快適なドライブを可能にする。予防安全技術の進化は着実に進んでいるのだ。

 

【その1】衝突被害軽減ブレーキ

ドライバーに代わって自動でブレーキをかける

このシステムは、クルマが車両や歩行者などを感知してブレーキをかけてくれる。車両前部のセンサーやカメラ、レーダーが前方を警戒し、衝突の危険が高いときにはメーター内の警告灯や警報音で注意喚起したのち、ブレーキの補助が介入。衝突時の被害を軽減する。もちろん過信は禁物。

 

↑最新の技術では対車両だけでなく歩行者の存在も検知できる。夜間街灯のない道路でもブレーキ動作を補助してくれる

 

【その2】定速走行・車間距離制御装置

ドライバーの疲労軽減に加えて渋滞の抑制にも効果あり

文字通り先行車との車間を一定に保ち、オートクルーズコントロールと組み合わせれることの多いこのシステムは、長距離ドライブの疲労を軽減してくれる。また高速道路の登り坂では車速を一定に保つことで速度低下を防止し、渋滞発生の抑制にもなる。

 

↑カメラやセンサーが先行車を認識し一定の車間を保つ。クルマによっては2台前の加減速を感知するモデルもある

 

【その3】ペダル踏み間違い時速度抑制装置

ヒヤリ・ハットをクルマが制御してくれる

ニュースなどでも報じられることの多いアクセルとブレーキの踏み間違えによる事故。このシステムはそんな誤発進を抑制してくれるものだ。車両に搭載されたセンサーが障害物を認識して、急激なアクセル操作が行われたときなどにエンジンの出力を制限し、急発進を防いでくれる。

 

↑センサーが障害物を感知しているときに急発進を抑制するシステム。前進時はもちろん、後退時にも働く先進安全システムだ

 

【その4】レーンキープアシスト

カーブでもはみ出さず同一車線の走行をアシストする

車線からはみ出すことなく、同一車線の走行をアシストするシステム。アダプティブクルーズコントロールと併用される。電動パワーステアリング作動中に適切なトルクを発生させるなどのステアリング制御を行い、車線維持をアシスト。軽いステアリング操作でレーンキープが可能だ。

 

↑無意識のはみ出しやふらつきにも有効。最近は同一車線を走行するようステアリングアシストが入るモデルが増えている
●メーカーによって名称は異なる場合がある

 

【その5】車線逸脱警報装置

無意識のふらつきを検知しドライバーに注意を促す

センサーやカメラが車線を認識し、車線逸脱を警告するシステム。車線をはみ出しそうになったときにクルマがドライバーに警告音やディスプレイの表示で注意を促す。クルマによっては車線内に戻るようにアシストが入るモデルもある。高速道路だけでなく、車線が認識できる一般道でも有効。

 

↑ウィンカーを出さずに車線を跨いだ時などに警報音などで注意喚起する。最近では制御の入るモデルも多い

 

【その6】車両後方視界情報提供装置

バック時に潜む危険をクルマが見守ってくれる

駐車場などからバックで出庫する際、見えにくい左右後方から接近するクルマを自車のセンサーで認識し、ドライバーにブザー音やインジケーターで知らせるシステム。衝突の危険性が高いときはクルマが自動でブレーキを制御し、衝突を回避する。歩行者などを検知するモデルも増加している。

 

【その7】オートマチックハイビーム

周囲のドライバーを惑わせずに積極的にハイビームを活用できる

いまや軽自動車でも周囲の明るさに応じてライトが自動で点灯するオートライトが増えてきたが、こちらはもう一歩進んだもの。先行車や対向車の存在をセンサーが認識して、自動でハイビームとロービームを切り替えてくれる。自身の視界確保だけでなく、存在のアピールにもつながる。

 

↑ステアリングの操舵に応じて照射範囲を切り替えてくれるモデルも。車線の確認や対象物の早期発見に有効だ

 

【その8】後側方接近車両注意喚起装置

車両左右後方の死角をカバーして安全なレーンチェンジを助ける

ミラーでは映しきれない左右斜め後ろなど、クルマの死角をカバーするシステム。車線変更や右左折時に車両が接近した場合に表示でドライバーに通知し、その際にウィンカーを出すと音で警告してくれる。このセンサーは車両後部にあり、ステッカーなどを貼ると反応しない場合もあるので注意。

 

↑車両斜め後ろの死角をサポートする後側方接近車両注意喚起装置。ドアミラーのインジケーターが点灯する

 

★「安全なクルマ」を実現させる機構はコレだ

【その1】レーダー(ミリ波レーダー)

天候に左右されない検知が可能で最近は歩行者も感知できるように

ミリ波レーダーの強みは自車前方の約200〜250mの長距離検知と天候に左右されない検知性能。最近は性能が向上し、自転車や歩行者もレーダーで感知できるようになった。

 

↑ミリ波レーダーの設置場所は車両前部。フロントグリルのエンブレム後部やバンパー後部が多い

メルセデス・ベンツやトヨタ、日産、ホンダなど国内外多くのメーカーが採用。ミリ波レーダーだけでなく、カメラなどと組み合わされることが多い。

 

【その2】カメラ

車両前方の対象物を的確に捉える最もわかりやすいデバイス

フロントウィンドウのルームミラー付近にある最もわかりやすいデバイス。画像を認識して物体の大きさや距離を算出するために使用。意外にもスマホの顔認識も同じ原理だ。

 

↑写真は2台のカメラで対象物を捉えるステレオ方式。ひとつのカメラで捉える単眼カメラ方式もある

カメラ方式の代名詞といえばスバルのアイサイト。多くのメーカーが他のセンサーなどを組み合わせて豊富なモデルに展開している。

 

【その3】赤外線レーザー

短距離の検知に強い赤外線は暗闇でも頼りになるレーザー

ミリ波レーダー同様に反射波を利用した暗所にも強いセンサー。近距離はかなり正確に測定できるが荒天時などは影響を受けやすい側面もある。カメラと組み合わされることが多い。

 

↑写真はアウディ車に搭載される赤外線レーザー。近距離の検知に強いが、最近では単独のモデルは減少

低コストのため多くのメーカーが採用している。しかし歩行者などを検知する場合はカメラ方式が必要になることもあり、カメラとの併用が増加している。

 

【CHECK!】安全なクルマ選びの参考になる2つのマークに注目せよ!

先進安全装備がついたクルマを選ぶ際に参考になるのが、独立行政法人自動車事故対策機構の自動車アセスメントによるテストを基に発表される結果だ。衝突を軽減する性能を評価する予防安全性能の最上位はASV+++、衝突時の乗員と歩行者保護性能を評価する衝突安全性能の最上位は5つ星となっている。

 

↑写真は予防安全性能テスト。一定のスピードから前方車両への衝突を回避する被害軽減ブレーキのテストだ ●写真提供/(独)自動車事故対策機構(NASVA)

 

■予防安全性能

ASV+++は高い予防安全性能の証

2018年度から予防安全性能評価試験の結果に+++が新設。評価の+が多いほど予防安全性能に優れ、最上位の評価が+++だ。

 

■衝突安全性能

5つ星は万が一の際の安全性能の大きな目安

衝突安全性評価はボディ、乗員、歩行者に対して行われ、項目ごとに点数が定められる。100点満点中82点以上が5つ星に認定される。

アルパインの大画面カーナビ「ビッグX」、2021年モデルは音質も操作方法も、画質も全部よくなっています

アルプスアルパインは、「ALPINE(アルパイン)」ブランドの「ビッグX」2021年モデルを2月より順次発売すると発表しました。注目は新たにApple CarPlay、Android Autoに対応したことで、従来のナビ機能に加えてスマホと連携することで幅広いカーナビライフが楽しめるようになります。

↑三菱デリカD:5に取り付けたフローティング・タイプの11型モデル、フローティングビッグX11「XF11NX2」

 

ラインナップは大画面の11型から10型、9型、8型、7型まで全28機種を揃え、7型以外は全て車種専用のモデルが用意される充実ぶりです。最も大きい画面となる11型はフローティング・タイプも用意されるほか、車種専用取り付けキットも豊富に用意。さらに11型モデルの車種専用キットではドラレコやバックカメラもパッケージにしたラインナップも揃えています。取り付け車種に合わせ、幅広い対応をしたラインナップと言えるでしょう。

↑ドラレコとリアカメラをパッケージにした車種専用「ビッグX」をセレナに取り付けた

 

Apple CarPlayとAndroid Autoに加え、Amazon Alexaも搭載

注目のApple CarPlayとAndroid Autoへの対応は、Amazon Alexaも搭載するもので、音声コマンドによる対話形式で天気予報や音楽再生なども楽しめるのが大きな特徴です。もちろん、両者のカーナビ機能にも対応しており、交通情報を伴ったルートガイドも利用可能になっています。しかもCarPlayならYahoo!カーナビやカーナビタイムも使え、多彩なカーナビアプリが楽しめるようになることも見逃せません。

 

こうなると「カーナビ機能レスのディスプレイオーディオでもいいんじゃないの?」という声が聞こえてきそうですが、内蔵のナビは6軸ジャイロセンサーによる自車位置表示を実現している高精度な案内が自慢。探索ルートを自分好みにチューニングできるルートチューニングも搭載しているほか、好評のカウントダウン案内機能も引き続き搭載。「300m先の信号を?」との一般的な音声案内に加え、「3つ目の角を?」「2つ目の角を?」とカウントダウンするように案内するので、曲がるポイントを把握しやすいんですね。

↑取り付けた車種ごとに専用のオープニング画面を展開できる。写真はジムニー用

 

抜群の使い勝手を発揮する音声コマンド「ボイスタッチ」

筆者としてイチ推ししたいのは、走行中でも声で主要なナビ操作が行える「ボイスタッチ」です。コンビニやファミレス、ガソリンスタンドなどの周辺スポット検索をはじめ、地図の拡大/縮小、二画面表示切替えなどの画面操作も音声で行えるんですね。特筆すべきはその反応の速さです。入力した音声コマンドをローカルで処理しているので、通信回線を使った時のようなラグを感じることなく素早く反応してくれます。音声コマンドで多用されるトリガーも不要なのも便利。対応ワード数は限定されますが、走行中でもステアリングから手を放さずカーナビを操作できるわけで、運転中の大きな安心感につながるのは大きいですね。

 

地図データ更新は2021年から2023年まで3年分の地図更新が無料です。更新するにはスマートフォン用アプリ「BIG X CONNECT(ビッグXコネクト)」を使います。このアプリで地図データをダウンロードし、クルマに乗ってスマホをビッグXとつなげることで手軽に地図更新を行うことができるのです。また、このアプリでは目的地や立ち寄りスポットを検索して、それをカーナビへ転送することもできることもポイントです。

↑地図データの更新や目的地転送に使うスマホ用アプリ「ビッグXコネクト」

 

高音質化のためにイチから回路を見直し。ハイレゾにも対応

今回のモデルチェンジでは高音質設計としたサウンド系も魅力です。基本となる音質設計もイチから見直し、高音質オーディオパーツの採用やパワーアンプのフルデジタル化で透明感あふれるサウンドを導きます。ハイレゾ再生に対応した上で前後席4チャンネル独立のパラメトリック・イコライザーを採用。サウンドの情報量も豊富で、音にこだわる人も十分満足いくスペックを備えたと言っていいでしょう。

 

アルパインならではの多彩な周辺機器も用意しています。後席モニター「リアビジョン」は最大12.8型の大画面や、天井/ヘッドレスト/アームの取付けタイプを用意。前席/後席で別々のAVソースが楽しめるダブルゾーン機能に対応するほか、プラズマクラスター機能装備のモデルもラインアップしています。また、マルチビュー対応のバックビューカメラやフロントカメラが充実していて、ナビに格納される車種専用データによって車種ごとのガイド線を表示するため、安心して駐車や停車を行えます。ドライブレコーダーではカーナビ連携モデル DVR-C320R/DVR-C370Rで録画映像の確認や設定がカーナビから操作可能となります。

↑前席のヘッドレストに取り付ける10.1型モニターの2台セットモデル「SXH10ST」

 

↑後退時のガイド線も出せるリアカメラ。写真はジムニー向け製品

 

↑ドライブレコーダー「DVR-C320R」。前後2カメラで駐車中のコマ撮り録画にも対応

 

アルパインは今から10年前、大画面カーナビ『ビッグX』を先駆けて世に登場させ、カーナビ界をアッと言わせました。今回のラインナップを見れば、その経験は十分活かされており、この分野でライバルにはっきり差を付けていることは明らかです。加えて使い勝手の良いボイスタッチも熟成度が上がり、おすすめできる機能へと成長しました。ビッグX 2021年モデルは、大画面だけでなく、カーナビとしての総合力を一段と高めたことは間違いないでしょう。

↑フローティング・タイプの11型は軽自動車であるN-BOXにも装着可能だ

 

↑車種専用キットでトヨタ・ライズ/ダイハツ・ロッキーに対応した9型モデル

 

↑ノア/ヴォクシー/エスクァイアに取り付けたワイド7型モデル

 

アルパイン「ビッグ X」2021年モデル実売想定価格

■EX11NX2シリーズ(11型画面):32万円前後

■同ドライブレコーダーパッケージ(11型画面):36万円前後

■EX10NX2シリーズ(10型画面):32万円前後

■EX9NX2シリーズ(9型画面)※アルパインストア限定モデル:31万9000円

■フローティングXF11NX2(11型画面):29万円前後

■同ドライブレコーダーパッケージ(11型画面):32万円前後

■X9NX2(9型画面):27万円前後

■X8NX2(8型画面):24万円前後

■7WNX2(200ミリワイド・7型画面):19万円前後

■7DNX2(2DINサイズ・7型画面):19万円前後

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

 

ローカル線用の国鉄形電車「105系」と「123系」の気になる行く末

 〜〜希少な国鉄形電車の世界その2「103系」「123系」〜〜

 

国鉄形電車の中には103系のように大量に製造され、各地の路線で活躍した車両がある一方で、限られた路線用に造られた国鉄形電車がある。例えば105系や123系といった車両があげられるだろう。

 

今回は地方ローカル線用に新造され、また一部は改造され105系と123系となった車両に迫ってみた。それぞれとても味わいのある車両なのである。

 

【はじめに】地方線区に残った旧型国電の置き換え用として登場

前回に紹介した新性能電車101系と、経済性を重視した103系。両車両の大量投入によって、旧形電車(旧型国電とも呼ばれる)の置き換えがかなり進んだ。一方、地方の線区では1980年代まで、旧型国電が多く残っていた。地方の線区に残っていた旧型国電の置き換え用に誕生したのが105系だった。

 

◆3扉か4扉車かで新造車か改造車か分かる

105系が登場したのは1981(昭和56)年のこと。地方ローカル線用の電車ということで、2両編成で運行できるように計画された(当初は4両編成も造られたが、その後に2両化)。国鉄の行く末に暗雲が立ちこめていた時期でもあり、経済性を最も重視している。電動車1両、付随車1両という組み合わせを基本とした。台車や主電動機も103系と共通化してコストを抑えている。

 

105系には2タイプがある。「新規製造車」と、103系を改造して105系とした「改造編入車」である。台車や主電動機は103系と同じにしたこともあり、改造しやすい利点もあった。

↑可部線を走った105系「新規改造車」。3扉が特徴だった。可部線の105系はすでに227系に置き換えられた 2015年3月27日撮影

 

1981(昭和56)年にまず福塩線、宇部線・小野田線に「新規製造車」が導入された。1984(昭和59)年からは、103系を改造した「改造編入車」が奈良線、和歌山線、紀勢本線の一部と、可部線に導入された。「新規製造車」と「改造編入車」の大きな違いは乗降扉の数が違うところ。「新規製造車」は3扉で、「改造編入車」は103系からの改造ということで4扉だった。よって外観を見ればすぐにどちらかが分かる。

↑和歌山線の105系は4扉車の「改造編入車」が使われた。和歌山線の105系は2019系9月末で運用を終えた。2017年3月20日撮影

 

可部線にはかつて同じ105系ながら3扉車、4扉車が混在していた。その後2016年には扉の数を統一するために、先に4扉の105系が姿を消している。新造車と改造車が混在していたころは、利用者にとって、さぞや使いづらかったことだろう。ちなみに新型の227系が導入され、可部線からは3扉車を含め105系のすべてが姿を消している。

 

◆“パンダ顔”の正面と異なる103系のままの姿を持つ105系も

新造した105系の正面中央には貫通扉があり、窓が左右に取り付けられている。左右の窓周りには黒色ジンカート処理と呼ばれる、黒の縁取り塗装が行われている。こうしたデザインから、鉄道ファンは“パンダ顔”とも呼んだ。確かにパンダに見えないこともない。

 

105系の「改造編入車」のうち中間車を改造した車両もそんな“パンダ顔”が取り付けられた。そんな中に異なった形の正面を持つ105系も混じっていた。この車両は元常磐緩行線を走った103系1000番台を改造したものだった。常磐緩行線では後継車両の203系が投入されたことで、103系が使われなくなっていた。この103系を2両化、片側は常磐緩行線の103系の正面のままの姿で、一方の正面は“パンダ顔”が付けられた。要は前後で正面の形が違う105系となったわけである。

↑可部線を2016年まで走った105系。写真は103系改造編入車で常磐緩行線の正面がそのまま活かされていた 2015年3月27日撮影

 

他には仙石線用に4両編成の103系を2両化する改造工事が行われ、こちらの改造車も105系に組み込まれている。こうして新規製造車60両、改造編入車が65両(後に1両補充)の計126両が造られた。一時は大所帯となった105系だったが、すでに生まれて40年近くたち、徐々に減っていき、今はJR西日本の50両を残すのみとなった。路線はわずかに4路線のみになっている。

 

そのうち1路線ではこの春に105系の運用の終了が予定されている。105系が残る4路線の現状を見ていきたい。

 

【105系が残る路線①】この春で消えそうな紀勢本線の105系

近畿地方で今や唯一、105系が残るのが紀勢本線だ。紀勢本線の中でも紀伊半島の最南端にあたる紀伊田辺駅〜新宮駅間の普通列車に使われるのみとなっている。2021年3月のダイヤ改正で、すでに和歌山線に導入されている227系1000番台が、この区間に導入されることが発表されている。代わって105系が引退ということになりそうだ。

 

◆車両の現状:わずか2編成の4扉車が注目を浴びている

↑先頭の車両がクハ105-6で103系1000番台の正面デザインを残した車両だ。紀勢本線の紀伊田辺駅〜新宮駅間を不定期で走る

 

紀勢本線に残る105系は吹田総合車両所日根野支所・新在家派出所の計14両で、このうち5編成が3扉の「新規製造車」。残り2編成が4扉の「改造編入車」が配置されている。ちなみに車両基地、新在家派出所は和歌山線の和歌山駅〜田井ノ瀬駅間にある。

 

4扉の「改造編入車」はあくまで3扉車の予備車の扱いで、3扉車が検査の時などに走る。この4扉車2編成のうちSW009編成のクハ105-6車両が今や貴重となった103系1000番台の正面デザインを持つ。そのために注目度も高くなっている。

 

◆運用の現状:本数の少ない閑散区で狙いたい“下り”列車

紀勢本線の105系の運用では4扉車があくまで予備車両扱いだが、鉄道ファンからはこの予備車両の運行が「紀南代走」として注目が集まっている。とはいえ列車本数の少ない区間のこと。日中は2〜3時間も列車の間隔が空くという閑散区で、それだけ105系を巡りあえる機会が少ない。「紀南代走」は常に行われるものではないので、Twitter等で情報をキャッチした方が賢明だろう。

 

乗車はできるものの撮影となると、かなり難度が高そうだ。紀伊田辺駅発の日中(朝夕を除く)に走る“上り”列車は10時41分と13時10分発のみ、一方、新宮駅発の“下り”列車は9時23分、11時26分発、13時6分発、15時30分発と上りに比べると本数が多くなる。大阪方面からは、特急列車を使って撮影地近くの駅まで出かけ、下りの105系にのんびり乗車、撮影するのがベストと言えそうだ。

 

紀勢本線を最後に近畿地方の105系は3扉車を含めて全車両が引退の予定だ。とはいえこのコロナ禍である。海を背景に走るオーシャンカラーの105系は、ファンに見送られることもなく、静かに引退ということになるのかもしれない。

 

【105系が残る路線②】福塩線向け新造105系が今も健在

105系が残る他の3路線は、いずれも中国地方にある。まずは福塩線(ふくえんせん)の105系から紹介しよう。広島県の福山駅と塩町駅を結ぶ福塩線。この路線の福山駅と府中駅間が直流電化区間で105系が主力車両として活躍している。

 

◆車両の現状:福塩線電化区間の主力は105系

↑福塩線の神辺駅〜湯田村駅間を走る105系。新造された車両で、105系オリジナルの姿を残している

 

車両は福塩線用に造られた3扉の「新規製造車」。当初は山吹色の地色に紺色の帯だったが、2009年からは濃黄色に塗り替えられている。なお、府中駅〜塩町駅間は非電化区間で、キハ120形が使われている。また福山駅〜神辺駅(かんなべえき)間には井原鉄道の気動車も乗り入れている。

 

◆運用の現状:岡山駅まで乗り入れる105系運用の列車も

↑府中駅発7時51分、岡山駅9時53分着の列車には105系が使われていた。山陽本線の福山駅〜岡山駅間ならば105系が撮影可能になる

 

福塩線を走る105系は岡山電車区に配置される。車両数は2両×7編成の計14両で、それほど多くはない。列車の本数は1時間に1〜2本で、福山市の郊外路線として機能している。列車の一部には同じ濃黄色の113系もしくは115系が使われている。福塩線を訪れる際には、105系だけでなく、福塩線を走る113系や115系、さらに井原鉄道の気動車を一緒に撮影したほうが賢明だろう。

 

なお福塩線から岡山駅まで乗り入れる列車も日に2本運行、また岡山駅発、府中駅行の列車も1本が運行されている。つまり福塩線を訪れなくとも、山陽本線の福山駅〜岡山駅間で105系に乗ったり撮ったりすることはできるというわけだ。この乗り入れ列車を有効に活かしてみてはいかだろう。

 

【105系が残る路線③】まだまだ走る宇部線・小野田線の105系

今や貴重な105系が走る区間は山口県内にもある。山口県内を走る宇部線と小野田線だ。2本の路線は105系の共通運用区間なので一緒に紹介したい。この2線のうち特に宇部線は105系が主役として走る。ちなみに小野田線の主力は123系で、この123系も車両数が非常に少ない国鉄形電車だ。この123系の詳細は後述したい。

 

◆車両の現状:105系「新規製造車」が22両も残る

↑小野田線を走る105系。小野田線の主力は123系で、朝などラッシュ時に105系が使われる

 

宇部線、小野田線を走る105系は3扉の「新規製造車」。JR西日本の中国地方を走る電車と同じく濃黄色の車体で走る。配置は下関総合車両所運用検修センターで、2両×11編成、計22両と105系が最も多く配置される車両基地でもある。

 

◆運用の現状:下関駅〜宇部駅間を走る105系も

宇部線の宇部駅〜新山口駅間はほぼ1時間に1本、列車が走っている。また宇部駅〜宇部新川駅間は朝夕の列車本数が増える。このうちほとんどが105系での運行で、一部に123系で運行の列車も混じる。また宇部駅からは、朝は厚狭駅や下関駅行まで山陽本線へ乗り入れる列車も走っている。この乗り入れ列車には105系と123系が連結して走る列車があり、鉄道ファンに注目されている。また朝夕には、厚狭駅、下関駅、また小野田線の小野田駅から宇部線へ乗り入れる列車もあり、変化に富んだ列車運行が行われている。

 

一方の小野田線の主力は123系となる。小野田線は宇部線と接続する居能駅(いのうえき)と小野田駅を結ぶ路線だが、途中の雀田駅(すずめだえき)から長門本山駅までは、本山支線という路線距離2.3kmの支線が延びている。朝に2往復と、夕方に1往復と、列車本数が非常に少ない路線で、しかもホームの有効長が1両分しかない、JRとしては異例な“超ローカル線”だ。走る123系も希少な車両ながら、非常に興味深い路線でもある。

↑宇部線の上嘉川駅〜深溝駅間の岡村第一踏切付近を走る105系。同線では濃黄色3扉の105系新規製造車が今も主力として走る

 

宇部線、小野田線ともなると、なかなか都市圏から遠く訪れる機会が少ないが、宇部線では新山口駅の隣、上嘉川駅(かみかがわえき)近くの岡村第一踏切が筆者のお気に入りの撮影スポットとなっている。水田風景が広がるところで見通し良好。宇部線の列車が途切れる時間は、近くの山陽本線に移動しての撮影ができる。宇部線の列車がやってくる時は、また宇部線に戻っての列車撮影が楽しめる場所で、まさに“一挙両得”といったポイントでもある。お勧めしたい。

 

【123系が残る路線】唯一となった123系が走る宇部線・小野田線

今回は宇部線・小野田線を走る123系の紹介もしておこう。この電車も今となっては貴重であり、レアな国鉄形電車でもある。

 

まずは生い立ちから。123系は1両での単行運転ができるJRグループでは貴重な電車である。国鉄がJRとなる前後の1986(昭和61)年から1988(昭和63)年にかけて誕生した。新造ではなく、当時、すでに使われなくなっていた荷物電車、事業用車を改造して新たに旅客用電車としたものだ。合計13両が造られている。JR東日本とJR東海、JR西日本の3社に引き継がれたが、すでにJR西日本のみにしか残っていない。

 

◆車両の現状:残る5両が小野田線を中心に“最後のご奉公”?

↑クモハ123-3。可部線用に改造されたグループの1両だ。乗降用扉が乗務員用の扉のすぐ近くにあるのが特徴だ

 

JR西日本に残るのはわずかに5両。すべて105系と同じ下関総合車両所運用検修センターに配置されている。残る123系は、クモハ123形の2から6まで。元の車両はクモニ143形という形式名の荷物車で1980(昭和55)年前後に造られた。2〜4車両と、5・6車両は履歴が異なるとともに、外観も異なっていて興味深い。2〜4車両は可部線向けに改造された車両で、後者の5・6車両は阪和線の羽衣支線用に改造された。両車両は側面の窓の形、そして扉の位置が異なっている。

↑クモハ123-6。こちらは阪和線羽衣支線用に改造された車両で乗降扉の位置と形が異なる。荷物車の面影を残すように扉が奥まった位置にある

 

◆運用の現状:小野田線の主力車両としてまた下関へも走る

小野田線では一部の列車を除き、123系が使われる。特に小野田線の本山支線は、ホームの長さの問題があり123系のみでの運行となる。

 

また前述したように宇部線から下関駅へ乗り入れる列車にも123系が連結されている。よって小野田線へ行けば、123系は確実に乗れるし、また撮影も可能と言っていいだろう。また写真で紹介したように、残存する123系の中でも形が異なる車両が含まれ、このあたりは意識的に捉えておきたいところだ。

↑残存する中ではトップナンバーのクモハ123-2。写真の塗装は旧塗装で今は全車濃黄色となっている 2013年9月14日撮影

 

宇部線・小野田線に残る105系や123系は今後、どのぐらいまで使われるのだろうか。JR西日本は車両を長く使う傾向があり、国鉄形電車が多く残る。もし変るとしたら105系は和歌山線や紀勢本線と同じように227系1000番台に、123系はJRグループで唯一1両の単行運転が可能な125系への置き換えとなると見られる。

 

とはいえ、JR西日本には103系や、113系、115系、117系とまだまだ古い国鉄形電車が多く残る。105系や123系よりも古い車両もあり、まずはそちらからの置き換えが優先されることになりそうだ。

 

小野田線の本山支線は、旧型国電最後のクモハ42形が2003(平成15)年3月まで使われた路線でもある。最後のクモハ42-001に至っては70年にわたって鉄路を走り続けた“超ご長寿車両”でもあった。この例から見ても宇部線・小野田線は、国鉄形電車が走る最後の“聖地”となる可能性を秘めている。

走行ノイズも消せる!ボーズのノイキャン機能を載せた“静かなクルマ”が年内登場か

2021年は全面オンラインで実施された世界最大のエレクトロニクスショー「CES」にボーズ・オートモーティブが出展。ヘッドホン・イヤホンの開発により培ってきたアクティブ・ノイズキャンセリング機能を自動車向けに最適化して、静かな車内空間を実現する新技術を紹介していました。

↑静かな車内空間を実現するボーズの自動車向けノイズキャンセリング技術「Bose QuietComfort Road Noise Control」が、CES 2021でもハイライトされました

 

2021年内に発売が計画されている「ボーズのノイキャン技術を搭載する静かなクルマ」の開発状況をレポートしていきます。

 

すべてのクルマにとって魅力的な「静かな車内空間」を実現する技術

新型コロナウィルス感染症の影響が世界中に広がる以前、CESは自動運転車に関連する先進エレクトロニクス技術の話題で大いに盛り上がっていました。2020年1月初旬にリアル開催されたCESの展示会場は、自動運転技術を搭載する自動車と関連する技術が広大な展示スペースを所狭しと言わんばかりに埋め尽くしていたものです。

 

ところが今年のCESは残念ながら自動車産業からの出展が大幅に減っていました。特に公共交通手段として自動運転車両に“相乗り”して活用するシェアカーの未来展望は、疫病の影響を受けて今後大きな軌道修正が必要になりそうです。

↑2020年のCESでソニーが発表したコンセプトカー「VISION-S」が脚光を浴びました

 

↑自動運転に対応するシェアカーもCES 2020では注目の的に

 

自動車関連の出展が減った中で、今年もCESに出展したボーズ・オートモーティブが現在商用化に向けて開発を進めている「Bose QuietComfort Road Noise Control(RNC)」は、ボーズのオーディオ用ヘッドホン・イヤホンに搭載するアクティブ・ノイズキャンセリング機能を応用して、自動車の走行時に発生する不快なノイズを消すという、すべての自動車にとって有益になりそうな先進技術です。その仕組みから解説したいと思います。

 

Bose QuietComfort RNCの仕組みを解説

 

Bose QuietComfort RNCは、ボーズが快適なドライブを実現するための音響技術をパッケージにした「Active Sound Management」に新しく加わる、自動車向けのアクティブノイズキャンセリング技術です。自動車のパワートレイン(動力基幹部)に由来する不快なノイズを、オーディオシステムから発生させた逆位相の波形をぶつけて軽減する「Engine Harmonic Cancellation(EHC)」と、エンジンサウンドの特定音域を増幅して活き活きと聴かせる「Engine Harmonic Enhancement(EHE)」の技術がパッケージに含まれています。EHCは今から10年前、2011年に海外で発売されたキャデラック「Escalade」やインフィニティ(日産の海外ブランド)の「M」に初めて採用され、搭載車種が増え続けています。

 

EHCが普及する中で、運転中に発生するノイズをもっと効果的に消せる技術に対する期待も多くボーズ・オートモーティブに寄せられてきました。特に2000年代以降、ポータブルオーディオではQuietComfortシリーズのヘッドホン・イヤホンが大きな成功を収めていたことから「この技術を自動車にも載せてみてはどうか」という声が高まり、これを受けて2019年のCESでBose QuietComfort RNCが発表されました。

↑ボーズが誇るポータブルヘッドホンのためのノイズキャンセリング技術が自動車に活かせないのか、期待の声が寄せられていました

 

従来自動車内の静音性能を高めるための工夫は吸音材や防音・防振材などをシャーシに追加するアプローチが中心でしたが、伴って車体が大きく・重くなってしまったり、ハンドリング性能や燃費が落ちる等のトレードオフが付きまといました。

 

ボーズのQuietComfort RNCの技術は路面の凹凸やタイヤのコンディション、自動車の振動によって発生するノイズを消すことを第1のターゲットに置いています。4つの車輪に組み込まれる加速度センサーの情報と、車内に配置されるマイクが集音したノイズをデータとして集めて独自のアルゴリズムにより解析。ノイズと逆位相の波形を生成してカーオーディオシステムから発信することで不要なロードノイズを効果的にキャンセルします。

↑4つの車輪に搭載される加速度センサーが路面の凹凸、タイヤのコンディションに関連する情報などを集めます

 

↑車内に配置したマイクでアコースティックのコンディションを測定

 

↑ノイズに対して逆の波形を持つ“アンチノイズ”をぶつけて消去。静かな車内空間を実現します

 

これから5Gの普及が進むと、多くの自動車がモバイルネットワークに接続される“コネクテッドカー”になり、クルマの中で音楽や映画などエンターテインメントコンテンツが快適に楽しめるようになると言われています。QuietComfort RNCのような自動車のためのアクティブ・ノイズキャンセリング技術が普及すれば、5G時代のカーエンターテインメント環境は今よりもっと快適さを増すのでしょう。静かな車内で大声を張り上げることなく会話を交わしたり、AI搭載エンターテインメントシステムの音声操作もスムーズにできるはずです。

 

ボーズのアクティブ・ノイズキャンセリング機能を搭載するヘッドホン「Bose Noise Cancelling Headphones 700」には、ユーザーがアプリを使って消音レベルの強弱を変えられる機能や、ヘッドホンを装着したままリスニング環境周囲の音を聴くための外音取り込み機能が搭載されています。これらの機能は自動車向けのQuietComfort RNCの技術にも組み込まれるのでしょうか。

↑CES 2021のプレゼンテーション動画でテクノロジーを説明したボーズ・オートモーティブのPeter Kosak氏

 

メールによりボーズの担当者に取材したところ、QuietComfort RNCは自動車メーカーとボーズが安全性を考慮しながら各車種ごとに最大の消音効果が得られるように車内の音響空間を設計して組み込まれるため、ノイズキャンセリングの効果をドライバーが選択・変更する機能は設けられない(必要ない)そうです。また走行音以外のクラクションや緊急車両のサイレンなど、安全走行のために必要な音は消音されないアルゴリズムになっていることから、外音取り込みに相当する機能も付いてきません。この辺の使い勝手の良し悪しは実際の車に試乗した時にぜひ評価してみたいポイントです。アメリカと日本とでは交通事情が異なっていたり、ドライブしながら気を配るべき音の種類も違うはず。日本の自動車メーカーと連携した入念なローカライゼーションも必要になるでしょう。

 

搭載車は2021年末までに誕生予定

2019年にボーズがQuietComfort RNCの技術を初めて発表した時点では、2021年末までにQuietComfrot RNCを載せた自動車が発売されるという見通しが語られました。

 

2021年を迎えて、現状開発の進捗状況はどうなっているのかボーズの担当者に訊いてみましたが、今のところはまだ「鋭意開発中」であるという回答が返ってきました。現在Bose Active Sound Managementを採用する日産、マツダの今後のアナウンスにも引き続き注目しましょう。

 

QuietComfort RNCはボーズのカーサウンドシステムを搭載していない車両の場合でも、設計段階から協業して綿密にチューニングを練り上げることによって同等の効果が得られるシステムをインストールできるそうです。

↑ボーズ純正のカーサウンドシステムだけでなくサードパーティのシステムにもQuietComfrot RNCを合わせ込むこともできるそうです

 

ボーズはまた車載サウンドシステムのマネージメントソフトウェア「AudioWeaver」を手がけるDSP Concepts社のようなデベロッパとも連携を図りながら、QuietComfort RNCによるノイズキャンセリング効果を様々な環境で、よりシンプルに実現するソフトウェアソリューションの展開にも力を入れています。

 

2020年のCESでは、ソニーやドイツの老舗オーディオメーカーであるゼンハイザーが車載向けのイマーシブオーディオ技術を発表して脚光を浴びました。この先、自動運転技術の進化に伴って、ドライバーや同乗者が車内でエンターテインメントコンテンツを視聴したり、リモートオフィスのように車中空間を活用しながら自由に過ごせる未来が来るとも言われています。疫病の流行によって未来のモビリティサービスの価値観もいま変容を求められていますが、例えドライブに専念する場合でも心穏やかに過ごせる静かな車中空間には絶対的な魅力があると言えます。実際のクルマに乗りながらQuietComfrot RNCの実力を体験できる日が待ち遠しい限りです。

電動アシスト自転車VOTANI「Q3」のおしゃれさに惹かれる! 街乗りには十分な装備と性能をレビュー

2020年、大きく販売台数を伸ばしたのがe-Bikeと呼ばれるスポーツタイプの電動アシスト自転車。満員電車を避ける通勤手段としての需要が高まったことが伸長の理由ですが、通常の電動アシスト自転車と比べると、高価なのがネックでもあります。

 

「ママチャリっぽくないデザインの電動アシスト自転車がほしいけれど、できれば予算は抑えたい」そんな人にオススメしたいのが、VOTANI(ヴォターニ)というブランド。ミニベロと呼ばれる小径タイヤを採用した街乗りに似合うスタイルですが、通常の電動アシスト自転車に少し足したくらいの予算で購入できるのがメリットです。以前に「H3」というモデルに試乗しましたが、好印象だったため、続いて上陸した「Q3」というモデルにも乗ってみることにしました。

↑フレームが低くまたぎやすい形状で、女性にも乗りやすそうなスタイルのヴォターニ「Q3」。写真のスノーホワイトの他に、カッパーゴールドカラーもある

 

BESVのノウハウを注入された設計

ヴォターニというブランド名を聞き慣れない人も多いと思いますが、アシストシステムや車体設計などを手掛けているのはe-Bike専業メーカーのBESV(ベスビー)。おしゃれなe-Bikeを数多くリリースしているだけに、このQ3にもそのエッセンスが感じられます。以前に紹介したH3との違いは、フレーム形状と後輪にサークル錠を装備していること。バッテリーやモーターなどのアシストユニットは共通です。

↑フレームの形状がU字になっており、低い位置を通っているので乗り降りしやすいのが特徴。車両重量は20.4kg

 

↑モーターは前輪の車軸部分に搭載される形式。タイヤは前後とも20インチです

 

↑バッテリーはシートの後ろ側に搭載されていて、ケースにはVOTANIのロゴが入る

 

↑充電時はケースからバッテリーを取り出して行う。フル充電時間は約3.5時間

 

アシストは3段階に調整が可能で、ベスビーが得意とするペダルを踏む力に合わせて最適なアシストを提供するオートアシストモードも備えています。アシスト可能な走行距離はエコモードで約80km、ノーマルモードで約60km、パワーモードで約45km。日常使いでは十分なバッテリー容量といえるでしょう。

↑アシストの切り替えは左手側のディスプレイで行い、残りのアシスト可能距離なども表示可能

 

利便性を高める装備も多いのが魅力!

街乗りをメインターゲットに開発されているので、利便性を高める装備も多く盛り込まれています。前後タイヤにはフェンダーが装備され、フロントにはサスペンションも装備。ギアはシマノ NEXUS内装3段で、チェーンカバーも付いています。バッテリーから給電されるライトも標準装備されているので夜間の走行も安心です。

↑フロントにはサスペンションを装備し、小径車の欠点である段差を乗り越えた際のショックを吸収

 

↑暗くなると自動で点灯するライトはバッテリーの電力を使うので電池切れの心配がない

 

↑フレーム全部にあるブランドロゴのプレートは、取り外してフロントキャリアなどのオプションを装着可能

 

↑チェーンカバーはスケルトンタイプ。内装式のギアは止まった状態でも変速ができます

 

そして、日常の足として使う際に便利だったのが最初に述べたサークル錠。ちょっとした買い物に立ち寄った際など、ワンタッチでロックできるのはやはり便利です。e-Bikeだとこうした装備があるものは少ないので、ワイヤーロックを持ち歩かなければならないのですが、その必要がないので気軽に出掛けられます。

↑目立ちにくい位置にサークル錠が付いているので、日常の使い勝手は良好

 

想像以上にキビキビ走れる走行性能

適応身長は144cm〜と、小柄な女性でも乗れる設計ですが、175cmの筆者がまたがっても違和感のないライディングポジションを実現しています。これなら、夫婦で共用することもできそう。サドルは柔らかめで座り心地が良く、ハンドルも握りやすい角度になっています。

↑ブラウンカラーでデザイン上のポイントにもなっているサドルはしっかりと骨盤を支える形状

 

↑サドルの後部にはグリップが付いているので、後ろを持ち上げて方向転換などもしやすい

 

↑微妙に手前にベンドした形状のハンドルは握りやすく、乗車姿勢も楽でした

 

実際にペダルを漕ぎ出してみると、ベスビーが手掛けたアシスト機構はさすがの完成度。アシスト感が自然で、ペダルを踏んだ際に車体が進み過ぎて怖い思いをするようなことがありません。ママチャリタイプの電動アシスト自転車とは一線を画するアシストフィーリングで、どちらかというとe-Bikeに近い感覚です。

↑ペダルを回して行くとグイグイ加速する感覚はe-Bikeっぽくて気持ちいい

 

↑グリップもブラウンで、手のひらを支えるエルゴノミック形状なので長時間乗っても疲れにくい

 

U字型のフレームは、車体の剛性が落ちやすいので、強い力でペダルを踏むとフレームがヨレる感覚が伝わってくる自転車も少なくありませんが、Q3はその感覚がありません。乗りやすく、実用性も高い車体ですが、しっかり作られているので乗っていても気持ちが良く楽しい! ブレーキの効きも良く、フロントサスペンションがショックを吸収してくれるので安心して走れました。

↑Vブレーキというクロスバイクなどに使われているタイプのブレーキは安心感も高い

 

↑内装式のギアはグリップを回して変速するので、操作もしやすい

 

筆者の家の近所には坂道が多いので、激坂も登ってみましたが、アシストのおかげでスイスイ登ることができました。前輪にモーターを搭載したタイプは、登り坂でフロントが滑りやすかったりしますが、その不安感もなし。坂の多い街での足には最高ですね。

↑写真のような激坂の登りも難なくこなしてくれました

 

↑試乗車にはオプションのリアキャリア(4400円・税別)が装備されていました。耐荷重は25kg

 

街に似合うデザインとe-Bike並の走行性能、そして日常での使い勝手を両立しながら、価格は13万2000円(税別)。H3に乗った際にも感じましたが、結構お買い得ですし、こういうモデルを待っていたという人は少なくないと思います。前後のキャリアや両足スタンドといった利便性をさらに高めるオプションも用意されていますし、フロントに装着できるバスケットも開発中だとか。夫婦で共用もできますが、1台しかないと取り合いになっちゃいそうな魅力を持ったモデルです。

 

 

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新しいドライブ様式は300万円台から始められる! 価格帯別イチオシEVガイド

排出ガス抑制のための規制強化が進むなか、世界の自動車メーカーはこぞって新たなEVを登場させている。ここではいま日本で購入できるEVを価格帯別に厳選して紹介。さぁ、新たなドライブ様式を始めよう!

※こちらは「GetNavi」 2020年12月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

私が紹介します

GetNavi編集部 クルマ担当

上岡 篤

EVに乗ってみて、その静かさと圧倒的な加速に驚くばかり。本気で欲しいと思うが、集合住宅住まいなので充電の方法に悩んでいる。

《300万円台》

最先端の技術や最新の素材の採用により、まだまだ“高嶺の花”と思われがちなEV。しかし新車で300万円台と比較的リーズナブルなモデルもあるのだ。もちろん実用性も問題ない。

 

【No.1】日本を代表するEVは電源としても活用できる

日産

リーフ

332万6400円〜499万8400円

2017年にモデルチェンジして2代目になったリーフ。40kWhと62kWhの2タイプのバッテリー容量が選べるが、いずれも一充電で300km以上の走行が可能。住宅に電気を供給する電源としても活用できるのが特徴だ。

SPEC【e+G】●全長×全幅×全高:4480×1790×1565mm ●車両重量:1680kg ●最高出力:218PS(160kW)/4600〜5800rpm ●最大トルク:340Nm(34.7kg-m)/500〜4000rpm ●一充電走行距離(WLTCモード):458km

 

★ここがイチオシ!

日本を代表するEVであるリーフは、プロパイロットなど安全運転支援技術も充実。電源として使えるのはいざという時に安心だ。

 

【No.2】タウンユースにぴったりなコンパクトモデル

三菱

i-MiEV

300万3000円

i-MiEVは2018年に衝突時の安全性確保のため全長が8cm拡大し、それまでの軽自動車規格から登録車規格になった。満充電時の最長航続距離は約164km。タウンユースなら気兼ねなく使えるコンパクトさもメリットだ。

SPEC【X】●全長×全幅×全高:3480×1475×1610mm ●車両重量:1100kg ●最高出力:64PS(47kW)●最大トルク:160Nm(16.3kg-m)●一充電走行距離(JC08モード):164km

 

★ここがイチオシ!

ステアリングのパドルで回生ブレーキの強弱を操作すれば、スポーティな気分も味わえる。年内で生産終了のウワサもあるので注意。

 

《400万円台》

この価格帯から欧州のプレミアムブランドのエントリーモデルが選択可能に。満充電時の走行可能距離は350kmを超え、遠距離ドライブ時の充電場所の不安から大きく解放されるのも選択基準のポイントとなる。

 

【No.1】小型SUVながら高いトルクでグイグイ走る

 

プジョー

e-2008

429万円〜468万円

プジョーのEVの歴史は1941年のVLV(航続距離は約80km)から始まる。そんなプジョーが今年の9月に小型SUVタイプのe-2008を導入。ガソリンエンジンで2.6L相当の260Nmのトルクを誇るモーターを搭載する。

SPEC【GT Line】●全長×全幅×全高:4305×1770×1550mm ●車両重量:1600kg ●最高出力:136PS(100kW)/5500rpm ●最大トルク:260Nm(26.5kg-m)/300〜3674rpm ●一充電走行距離(JC08モード):385km

 

★ここがイチオシ!

小型SUVのEVということで話題性は抜群。ボディは大きく見えるが全高を1550mmに抑えており、立体駐車場も安心して駐車できる。

 

【No.2】バッテリー容量がアップし走行距離もアップ

BMW

i3

499万円〜608万円

i3は2014年にデビューしたRRの完全EV。昨年リチウムイオンバッテリー容量が、従来より30%大きくした120Ahに変更された。バッテリーに充電するエンジンを搭載したレンジ・エクステンダーモデルも選べる。

SPEC【i3 Edition Joy+】●全長×全幅×全高:4020×1775×1550mm ●車両重量:1320kg ●最高出力:170PS/(125kW)/5200rpm ●最大トルク:250Nm(25.5kg-m)/100〜4800rpm ●一充電走行距離(WLTCモード):360km

 

★ここがイチオシ!

まずは個性的なデザインが◎。BMWの正確なハンドリングはEVでもしっかりと味わえる。希少となった観音開きのドアも魅力的だ。

 

《500万円台》

EVもこの価格帯になれば最新のインフォテイメントシステム、豪華な内装、力強いパワーユニットなどが魅力のひとつだったり、選ぶ決め手のひとつだったりする。来年発売予定のアリアに注目が集まっている。

 

【No.1】日本のデザイン意匠をふんだんに採用し急速充電性能も向上

日産

アリア

実売予想価格500万円強〜 2021年発売

アリアコンセプトのショーカーがほぼそのまま発売予定になった日産のニューフェイス。駆動方式も2WDと4WDが用意される。バッテリーは水冷式で細かな制御が可能となり、耐久性も向上。来年の発売が待ち遠しい。

SPEC【2WD 90kWhバッテリー搭載車】●全長×全幅×全高:4595×1850×1655mm ●車両重量:1900〜2200kg ●最高出力:242PS(178kW)●最大トルク:300Nm(30.6kg-m)●一充電走行距離(WLTCモード):610km(社内測定値)

 

★ここがイチオシ!

日本のDNAを表現したデザインは秀逸。急速充電への耐久性も向上し、30分の充電で375km走行可能。EVの充電としてはかなり早い。

 

【No.2】洗練されたインテリアに加え静粛性もポイント

DS オートモビル

DS3 CROSSBACK E-TENSE

534万円

PSAグループの高級車ブランド、DS オートモビルから初のEVが登場。DS3 CROSSBACKの上質感プラスEVならではの乗り心地と静粛性が味わえるのは大きな魅力だ。気になる最大航続距離も398kmと申し分ない。

SPEC【Grand Chic】●全長×全幅×全高:4120×1790×1550mm ●車両重量:1280kg ●最高出力:130PS(96kW)/5500rpm ●最大トルク:230Nm(25.4kg-m)/1750rpm ●一充電走行距離(JC08モード):398km

 

★ここがイチオシ!

低重心化と独特のサスペンションで上品な乗り心地が味わえる。ガラスも通常よりも厚いものや音響ガラスを使用するこだわりも◎。

 

《900万円台》

市場が大きく変わって輸入車が安くなったと言われても、この価格帯の輸入車はやはりブランド力を持っている。老舗ブランド初のEV、世界トップシェアが放つベンチャー企業の中核的モデルと好対照だ。

 

【No.1】テスラの中核的モデルは圧倒的な加速性能が自慢

テスラ

テスラ モデルS

989万9000円〜1699万9000円

テスラが最初に日本に導入したクルマがモデルS。駆動方式は4WDを採用。走行距離が610kmのロングレンジモデルでも100km/hに到達するまでにわずか3.8秒という、世界トップレベルの加速性能が自慢だ。

SPEC【ロングレンジ】●全長×全幅×全高:4979×1964×1445mm ●車両重量:2215kg ●最高出力:475PS(350kW)●最大トルク:750Nm(76.4kg-m)●一充電走行距離(WLTPモード):610km

 

★ここがイチオシ!

テスラの代名詞的存在の自動運転支援システムやEVパッケージによる室内の広さがウリ。またリモート駐車など新しい装備は魅力だ。

 

【No.2】スポーツカーに匹敵する加速性能をもちながら走行可能距離も十分

ジャガー

I-PACE

976万円〜1183万円

ジャガー初のEVはSUVスタイルで登場。200PSを誇るモーターを前後に2つ搭載し、スポーツカー顔負けの加速性能を持つ。それだけのパワーを持ちながらも満充電で438kmの走行が可能というスペックを誇る。

SPEC【S コイルサスペンション仕様】●全長×全幅×全高:4695×1895×1565mm ●車両重量:2230kg ●最高出力:400PS(294kW)/4250〜5000rpm ●最大トルク:696Nm(70.9kg-m)/1000〜4000rpm ●一充電走行距離(WLTCモード):438km

 

★ここがイチオシ!

ジャガーの魅力である、キャットウォークと呼ばれる乗り心地とハンドリングは健在。前後重量のバランスも50:50と理想的だ。

 

《1000万円超》

この価格帯はメーカーの提案するEVのイメージリーダーでもある。高機能なデバイス、新しいプラットフォーム、贅を尽くしたインテリアなど、いずれもメーカーの威信をかけたフラッグシップモデルなのだ。

 

【No.1】800Vの電圧システムを採用し効率よく充電可能

ポルシェ

タイカン

1448万1000円〜2454万1000円

ポルシェ初となる完全EVモデル。前後にモーターを配しミドルグレードのターボで最大出力680PSを発生させる。他のEVが400Vなのに対してタイカンは800Vシステムの電圧を採用しており、より効率的に充電が可能だ。

SPEC【4S パフォーマンスバッテリー搭載車】●全長×全幅×全高:4963×1966×1379mm ●車両重量:2140kg ●最高出力:435PS(320kW)●最大トルク:640Nm(65.2kg-m)●一充電走行距離(独自基準値):333〜407km

 

★ここがイチオシ!

800Vシステム採用で、わずか22分で80%の充電量にまで到達。最大走行距離は約450km。十分に実用的なポルシェの哲学が生きている。

 

【No.2】ガルウィングドアを採用したテスラ初のSUV

テスラ

テスラ モデルX

1059万9000円〜1299万9000円

テスラ初のSUVとなるモデルX。ロングレンジモデルでの走行距離は507kmを誇る。後席ドアはガルウィングで、身長の高い人でも乗り降りがラク。もちろん最新自動運転支援システムやインフォテインメントも装備する。

SPEC【ロングレンジ】●全長×全幅×全高:5037×1999×1680mm ●車両重量:2459kg ●最高出力:422PS(311kW)●最大トルク:660Nm(67.3kg-m)●一充電走行距離(WLTPモード):507km

 

★ここがイチオシ!

上方に開く後部座席のガルウィングドアは注目度バツグン。3列シートで大人7人がゆったり乗れる余裕の室内スペースも自慢だ。

 

【No.3】メルセデス初のEVは走行状況を判断する頭脳派モデル

メルセデス・ベンツ

EQC

1080万円

メルセデスブランド初の量産EV。ベースはSUVのGLCで、後席も大人がゆったりくつろげるスペースのヘッドルームを確保している。前後にモーターを搭載する4WDだが、低負荷時はFFにもなり走行距離の延長に寄与する。

SPEC【400 4MATIC】●全長×全幅×全高:4770×1925×1625mm ●車両重量:2500kg ●最高出力:408PS(300kW)/4160rpm ●最大トルク:765Nm(78.0kg-m)/0〜3560rpm ●一充電走行距離(WLTCモード):400km

 

★ここがイチオシ!

ロードノイズが抑えられており、Sクラスを超える静粛性能は秀逸。走行距離400kmも実用的。自動運転支援システムも魅力だ。

 

【COLUMN】名車チンクエチェントがEVになって復活!

↑↓バッテリーはフロントに搭載。5.5kWhと10kWhの2種類が用意されている。走行距離は前者が約40km、後者が80kmとなる

 

チンクエチェント博物館

FIAT 500 ev

506万円〜550万円

1957年に登場し1977年までに400万台以上が販売された2代目フィアット500。このモデルをベースにEVへと仕立て上げたのが、私設自動車博物館である、名古屋のチンクエチェント博物館。後部のエンジン位置に搭載されたモーターは約18PSと、エンジンモデルと変わらない出力にこだわった。名車がEVに変貌を遂げるという、クルマの保全の一端を担うという側面もある。

SPEC【ONE BATTERY】●全長×全幅×全高:2980×1320×1320mm ●車両重量:590kg ●最高出力:17.7PS(13kW)●最大トルク:160Nm(16.3kg-m)●一充電走行距離:約40km

「このEVに乗りたい!」プロが乗りたいモデル4選

コンパクトモデルから大型SUVまでEVが選べるようになったいま、プロが魅力を感じる珠玉の4モデルを紹介。EVならではの加速力はもちろん、バッテリー性能など、それぞれのモデルが有する特徴はEVならではのものだ。

※こちらは「GetNavi」 2020年12月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【Model.1】清水草一さん(モータージャーナリスト)

モータージャーナリスト

清水草一

自動車ライター。フェラーリを愛し、生涯EVは買わないつもりだったが、家庭用蓄電池も兼ねるならアリな選択と思い始めている。

 

家庭用電源として使えて耐久性も高い!

ホンダ

Honda e

451万円〜495万円

ホンダ初の量産EV。EVの大きなボディや航続距離の短さを改善して「街乗り」に特化した。ラインナップは154PSのアドバンスと136PSの標準モデルの2種。いずれも駆動方式はRRで最大航続距離は250km以上を誇る。

SPEC【Advance】●全長×全幅×全高:3895×1750×1510mm ●車両重量:1540kg ●最高出力:154PS(114kW)/3497〜1万rpm ●最大トルク:315Nm(32.1kg-m)/0〜2000rpm ●一充電走行距離(WLTCモード):259km

 

都市型コミューター&家庭用蓄電池にはベスト

私の場合、自宅でソーラー発電をしていて、電力の固定価格買取がそろそろ終わる。なので災害対策も兼ねて蓄電池の導入を考えているのだが、実は蓄電池としてはEVが一番コスパが高い! ただし、V2H(ビークル・ツー・ホーム)ができるのは国産EVのみ。つまりリーフとHonda eのみだが、Honda eのバッテリーは水冷式で、おそらくバッテリーの寿命がずっと長い。だから中古価格も下がりづらい(はず)。航続距離は実質せいぜい200㎞だけど、都市型コミューターとしては十分。しかもいま買える世界中のEVの中で一番シンプルでカッコいいと思う。以上の理由で私はHonda eを選択する!

↑容量は小さめだが、ラジエター方式(水冷)の温度管理システムを搭載している。バッテリーの劣化は気にしなくていいはずだ

 

↑家庭用の蓄電池としても使えるのは、いまのところ国産EVのリーフかHonda eの2択。前述の水冷バッテリーが選択のキモとなった!

 

【Model.2】会田 肇さん(カーITジャーナリスト)

カーITジャーナリスト

会田 肇

クルマやカーナビ、カーオーディオをはじめ先進交通システムにも造詣が深い。海外モーターショーにも積極的に足を運んでいる。

 

高揚感を呼ぶ先進性とトレーシング性の高さは圧巻

アウディ

e-tron Sportback

1327万円〜1346万円

スタイリッシュなクーペ風のシルエットが印象的な、日本初上陸となるアウディのEV。駆動方式はアウディ伝統のクワトロ(4WD)だが、通常は主にリアのモーターのみを駆動させてエネルギー消費を抑える。2.5tを超える車重ながら、0〜100km/h加速は5.7秒という優れたトルク性能を誇る。

SPEC【55 quattro 1st edition】●全長×全幅×全高:4900×1935×1615mm ●車両重量:2560kg ●最高出力:407PS(300kW)●最大トルク:664Nm(67.7kg-m)●一充電走行距離(WLTCモード):405km

 

先進性が高いメカニズムと高い操挓感が魅力のEV

アウディQ3をベースに先進技術を盛り込んだ、日本初導入となるアウディのEV。象徴的な装備が、ドアミラー代わりの「バーチャルエクステリアミラー」で、カメラで捉えた後方映像をインテリア側の有機ELモニターに表示する。解像度が高く、光学ミラーと比べても遜色がない。

 

コックピットのデザインも近未来的で高揚感を昂らせるのに十分。走ればライントレース性が高く、とても2.5t近くの重量車とは思えないほど楽に操れる。充電効率も極めて高く、航続距離もそれほど心配なさそう。この先進性と走りの良さを見事に両立させるe-tronSportsbackで、EVの真価を試したいのだ。

 

↑高解像度な電子ミラーシステムで昼夜を問わず鮮明に後方を映し出す。左右のカメラをボディ外寸内に収めているのも見事だ

 

↑3つの大型ディスプレイに取り囲まれ、左右には後方確認用OLEDモニターが備わる。この先進性がドライバーを高揚感で包み込む

 

【Model.3】川端由美さん(自動車・環境ジャーナリスト)

自動車・環境ジャーナリスト

川端由美

自動車専門誌の編集記者を経てフリーに。現在では自動車の環境技術や次世代モビリティについても取材活動を行っている。

 

電動モビリティの牽引役が誇る凛としたスタイルのEVが日本上陸!

プジョー

e-208

389万9000円〜423万円

208が完全EVをラインナップに加えて8年ぶりにモデルチェンジ。FFホットハッチのイメージ通り、フロントにモーターを配して重量物のバッテリーは床面に置くなど低重心化し、走行性能を高めている。立体的な視覚効果が特徴である「3D i-Cockpit」など印象的な内装も特徴だ。

SPEC【GT Line】●全長×全幅×全高:4095×1745×1465mm ●車両重量:1500kg ●最高出力:136PS(100kW)/5500rpm ●最大トルク:260Nm(26.5kg-m)/300〜3674rpm ●一充電走行距離(JC08モード):403km

 

プジョーらしい凛としたスタイルに目が奪われる

プジョーといえば、“フランス製のおしゃれなクルマ”というイメージが強い。しかしプジョーの親会社であるPSAグループは電動モビリティの牽引役であり、最先端技術を続々と開発している。

 

e-208と出会ったのは、昨年3月のスイス・ジュネーブでのこと。コンパクトなボディサイズながら、凛としたスタイリングに目を奪われた。中身に目を向ければ、新開発の「e-CMP」なる電動プラットフォームを内包する。

 

こんなクルマで郊外に向けてハンドルを切れば、プジョーらしい猫足でひたひたと走り抜けるんだろうなあ、と想像をかき立てられる。早く乗りたい! の一言に尽きるEVである。

 

↑最新世代の車両プラットフォーム CMP(Common Modular Platform)を採用。バッテリー容量は50kWhとこのクラスでは大容量だ

 

↑デジタルヘッドアップインストルメントパネルには「3D i-Cockpit」を採用。ホログラムによる情報投影が行われ、多彩な情報を確認可能

 

【Model.4】岡本幸一郎さん(モータージャーナリスト)

モータージャーナリスト

岡本幸一郎

高級輸入車から軽自動車まで幅広く網羅。続々登場するEVのほとんどの車種をすでに試乗済み。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

最大走行距離560kmと0-100km/h加速3.4秒は驚異的!

テスラ

テスラ モデル3

511万円〜717万3000円

世界中が注視するEVに特化した新興勢力のテスラ。これまでは高価な車種が多かったところ、昨年日本上陸を果たした普及版のモデル3は現実的な価格帯に。日本仕様は標準+αの性能の後輪駆動仕様と、デュアルモーターAWDの高性能版、および走行距離重視仕様の3タイプ。

SPEC【スタンダードレンジ プラス】●全長×全幅×全高:4694×1933×1443mm ●車両重量:1612kg ●最高出力:286PS(211kW)●最大トルク:350Nm(35.6kg-m)●一充電走行距離(WLTPモード):409km

 

現実的な価格帯ながら秘められた実力は驚異的

全幅こそそれなりに大きいものの、テスラに共通する流麗なフォルムを持つボディは、日本でもあまりもて余すことなく使えそうなサイズ感。先進的な装備の数々を搭載した室内は、全面をガラスで覆ったルーフにより極めて開放的なのもうれしい。

 

走りの実力もかなりのもので、最速で0-100km/h加速がわずか3.4秒という瞬発力は、この価格帯のクルマでは類を見ない。最大で約560kmという長い走行距離も強みだ。さらには世界に先駆けて半自動運転を実現したオートパイロットや、定期的にクルマが新しくなるワイヤレスソフトウェアアップデートなど、テスラならではの魅力を凝縮している。

 

↑超シンプルなインパネ。大型ディスプレイにナビや車速等すべての情報が表示され、空調等の機能の操作も行う。運転以外はすべてココで完結

 

↑CHAdeMO(チャデモ)よりもはるかに扱いやすく高速で充電できるテスラ独自規格のスーパーチャージャーが全国の要所に設置されている

ヤマハ最高峰のe-MTB「YPJ-MT Pro」はエキスパート向けバイク! 上りも下りも走ってて楽しい!!

2020年9月25日に発売されたヤマハの最高峰、電動アシストマウンテンバイク「YPJ-MT Pro」。その体感試乗会が神奈川県横浜市にあるアクティビティ施設「トレイルアドベンチャー・よこはま」で行われ、編集部・乗り物担当の野田が参加してきました。

↑「YPJ-MT Pro」の価格は66万円(税込)

 

ヤマハの電動アシストマウンテンバイクのフラッグシップモデル

まずは、ヤマハ発動機のe-MTBの歴史から。電動アシストはこれまでシティサイクルのための技術でしたが、2013年にロードバイクの初期コンセプトモデル「YPJ-01」が登場し、2015年に「YPJ-R」として商品化されました。2016年にはYPJ-Rのコンセプトをベースにバーハンドルで扱いやすい「YPJ-C」を発表。当初はロード系のバイクでしたが、2018年にはYPJ系第2世代ともいえるバッテリーの大幅向上をはかり、手軽に扱えるライトモデルから、オフロードのMTBモデルの「YPJ-XC」などの4車種を登場させました。そして、2019年の東京モーターショーには「YPJ-YZ」を参考出展。

↑YPJ-MT Proのポジショニング。図からもわかる通り、エキスパート向けのハイエンドモデルとなります

 

“楽するため”の電動アシストから、“楽しむため”のアシストへ飛躍した「YPJシリーズ」は、年を追うごとに進化してきました。その進化を経て誕生した新型e-MTB YPJ-MT Proは、山を駆け巡るのにふさわしいアシスト性能とシンプルで機能的なデザインが特徴。上り斜面や下り斜面など地形の変化を走り抜けられる楽しみがあります。車体全長と重量は、フレームサイズ(L)が1980mm・24.2kg、(M)が1935mm・24.1kg、(S)が1885mm・23.8kgです。

↑メインのブルーとシルバーのカラーコンビネーション。ブルーのカラーリングもヤマハレーシングイメージとのリレーションを意識しています

 

↑コンパクトでパワフルな電動モーターユニット「PW-X2」。傾斜角センサを搭載し、状況に応じてECO、STD、HIGHの3モードから自動的にアシストモードを選択

 

前述した通り、シンプルで機能的なデザインはヤマハのこだわりがたっぷり詰まっています。それを象徴するのが「ヤマハデュアルツインフレーム」。トップチューブは、リアショックを挟む形で配置。対してダウンチューブは、バッテリーをフレーム部材で覆い隠さないことで軽快感のあるスタイリングを実現。流麗なデザインを演出するため部材の肉抜きをし、さらに軽量化をはかっています。

↑特徴的なフレーム「ヤマハデュアルツインフレーム」

 

↑ブレーキは前後ともに4ピストン式の油圧ディスクブレーキ。タイヤは「MAXXIS High Roller II」でサイズは27.5×2.8のセミファットタイヤです

 

全集中でYPJ-MT Proに試乗!

トレイルアドベンチャー・よこはまのグリーントレイルコース(初級)とレッドトレイルコース(上級)をYPJ-MT Proにて試乗。攻略性のあるアップダウンヒルがあり、森のなかを駆け抜ける爽快感はMTBならではの楽しさでした。コースのなかには連続するコブやバンクの付いた急カーブも設けられ、腕に自信のある上級者も楽しむことが可能です。

↑トレイルアドベンチャー・よこはまはグリーン、ブルー、レッドと3つのコースが設けてあります

 

まず車重は24kgオーバーなので、車体を持ち上げた時ズッシリとした重さを感じました。しかし試乗ではその車重を感じず、軽快で安定した走行感や旋回性の良さにも驚き、さらに濡れてウェットな路面でもアシストの力でぐいぐい上れます。アシストモードは5段階ですが、急勾配の坂道からフラットトレイルまでは「オートマチックアシストモード」で自動で補正してくれるので利便性を感じました。どんな坂でも力強く上れて、立ち漕ぎなども一切不要。最近、運動不足の筆者でも息切れはしませんでした。

↑「コンパクトマルチファンクションメーター」。走行アシストモード、速度、ケイデンス、ペダリングパワー、消費カロリーなどさまざまな情報を見やすく表示。走行モードはランプの色でも瞬時に目に入るのでわかりやすい

 

フロントサスペンション(フォーク)は「ROCKSHOX YARI RC boost」でストロークは160mm。フロントとリアのサスペンションが常にタイヤを路面に押し付けている感覚が強く、路面をしっかり掴んで走っている感覚があり、一般的な軽いマウンテンバイよりもリアが浮きにくいのでフルブレーキングもとても楽でした。すべてに高性能な分、ブレーキのコントロールやモードセレクトに若干の慣れは必要でしょう。

↑リアのショックは150mmのストロークを持ちます

 

1980年代〜1990年代のマウンテンバイクブームならぬ、電動アシストスポーツバイク人気がヨーロッパにて巻き起こっています。ここ日本でも、各メーカーから電動アシストスポーツバイクが登場し続け、ブレイク夜明け前といった状況。

 

決してリーズナブルな価格ではないですが、YPJ-MT Proは趣味としてMTBを楽しんでいるユーザーにはおすすめの車種。密にならない自然環境下で思いきりライディングを楽しんでください。

 

 

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量産FF車最速記録を更新したルノー「メガーヌ R.S.」を深掘り

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、ドイツのニュルブルクリンク北コースで、量産FF車最速記録を更新したメガーヌR.S.を掘り下げる!

※こちらは「GetNavi」 2020年12月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【PROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。2018年以降、ペンネームを「MJブロンディ」から「永福ランプ」へ変更している。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。永福ランプを慕い「殿」と呼んでいる。

 

【今月のGODカー】ルノー/メガーヌ R.S.

SPEC【トロフィー MT】●全長×全幅×全高:4410×1875×1435mm ●車両重量:1450kg ●パワーユニット:1.8L直列4気筒ターボエンジン ●最高出力:300PS(221kW)/6000rpm ●最大トルク:400Nm/3200rpm ●WLTCモード燃費:13.4km/l

448万1000円〜499万円

 

ルノーのエンジニアが日本の道路事情に合わせてチューニング

安ド「殿! このクルマ、最高ですね!」

 

永福「安ドは速いクルマが好きだな」

 

安ド「300馬力のパワーと、ターボエンジンのぶっといトルクを味わいながら、滑るように走れました!」

 

永福「滑るようにとは、乗り心地のことか?」

 

安ド「そうです! このスポーツ性とコンフォート性のバランスは素晴らしいと思います!」

 

永福「確かに、車名にトロフィーと付くハイパフォーマンス仕様にしては、乗り心地は悪くない」

 

安ド「ですよね!」

 

永福「日本には熱狂的なマニアが多く、メガーヌのR.S.に限っては、世界で何番目かによく売れている国だそうだ」

 

安ド「そうなんですか!」

 

永福「スポーツカー熱は冷め切っているように見えるが、実は日本は、スポーツカーマニアが非常に多い国なのだ」

 

安ド「良かったです!」

 

永福「わざわざルノーのエンジニアが来日し、入念に日本の道路事情を調査して、それに合わせたサスペンションチューニングをしたという」

 

安ド「そうなんですか!」

 

永福「具体的には、首都高のジョイント。ああいうものは欧州にはないので、通過した時の乗り心地に特に配慮したそうだ」

 

安ド「マジですか!」

 

永福「なぜ欧州にああいうものがないかというと、地震が少ないからだ」

 

安ド「あれは地震対策なんですか!」

 

永福「大地震の際、橋げたが分割されていたほうが、力を逃がしやすいのだ」

 

安ド「さすが、殿は首都高研究家ですからね!」

 

永福「話がそれた。私はやはり、こういうクルマはMTに限ると思ったぞ」

 

安ド「やっぱりMTは楽しいですね!」

 

永福「2年前のR.S.日本導入時はATしか設定がなく、なんだかあんまり楽しくなかったのだ」

 

安ド「そうなんですね!」

 

永福「あの時は『MTを出す予定はない』と聞いたが、その後ルノーは考えを変えたらしい」

 

安ド「良かったです!」

 

永福「こういうクルマはラクして速く走りたいわけではない。存在そのものが趣味なのだから、やることは多いほうがいい」

 

安ド「デザインもカッコいいですよね! フォグランプとかフロント中央、ルノーのエンブレム下のトロフィーデカールの位置とか、細かいところまで凝ってます!」

 

永福「神は細部に宿る、だな」

 

安ド「5ドアなので、実用性もあります!」

 

永福「限定車の『トロフィーR』だと、5ドアなのに後席がないぞ」

 

安ド「えっ! なぜっすか!?」

 

永福「軽くするためだ」

 

安ド「僕は後席アリがいいです!」

 

【GOD PARTS 1】スポーツエキゾーストマフラー

切り替えて楽しめる迫力のスポーツサウンド

マフラーには「アクティブバルブ」をR.S.モデル史上初搭載。これはサウンド切り替え機能で、スポーツモードにすれば、エンジンパフォーマンスを向上させながら、迫力のサウンドも楽しめます。パンパン鳴ってちょっとヤンチャですが(笑)。

 

【GOD PARTS 2】R.S.ビジョン

クルマ好きなら気になるチェッカーフラッグ型

フォグランプのデザインはチェッカーフラッグ型で、カーマニアの気持ちを高ぶらせてくれます。ちなみに「R.S.」は「ルノー・スポール」の略で、ルノーがこれまでレース活動で培ってきた知見が注ぎ込まれたモデルであることを示しています。

 

【GOD PARTS 3】インパネ

赤いステッチがドライバーの気持ちを高める

ステアリングやシートなど、各部に赤いステッチが施されているのはR.S.専用で、いかにもスポーティな雰囲気です。さらにカーナビの設定がないところもストイックで、運転に集中したいマニア向けのポイントではないでしょうか。

 

【GOD PARTS 4】5ドアボディ

ドアが左右2枚ずつ増えて使い勝手が良くなった

先代型メガーヌの「R.S.」は、3ドア、つまりボディ左右のドアが1枚ずつでした。しかし今回は5ドアです。この結果、使い勝手や利便性が向上しました。もちろん肝心のスタイルもスポーティ感を損なうことなく、きれいにまとめられています。

 

【GOD PARTS 5】エアアウトレット

空気の排出口が前にも後ろにも存在?

       

前後のフェンダー(タイヤの周囲を取り囲むボディのふくらみ)には、それぞれ後方にエアアウトレット(空気の排出口)が備わっています。ただよく見ると、フロントは穴が開いていますが、リアは穴がふさがっていてハリボテのようです。

 

【GOD PARTS 6】1.8Lターボエンジン

元から強力なエンジンをさらにパワーアップ!

ベースの「R.S.」がすでに279馬力なのに、「トロフィー」は専用チューニングが施され、300馬力にまで向上されています。組み合わせられるトランスミッションに6速MTの設定があることもうれしいですし、フィーリングも優れていて扱いやすいです!

 

【GOD PARTS 7】走行モード

ボタンひとつでよりハードなマシンに

   

ディスプレイ下に設置されている「R.S.ドライブ」ボタンを押せば、スポーツモードやレースモードへと切り替えられます。トランスミッションや車両制御装置、ステアリングなどのプログラムが変更され、走りがよりハードに変わります。

 

【GOD PARTS 8】ハンズフリーカードキー

ビックリするほど軽くてちょっと厚めのカードキー

現代のトレンドでもあるカードキーが採用されていますが、実際に持ってみるとかなり軽くてビックリします。カード型にしては少し厚みがあるので、ポケットに入れているとかさばりそうです。裏側に施錠/解錠ボタンが付いています。

 

【GOD PARTS 9】バケットシート

老舗が作った特製シートは触り心地も良し

バケットシート界の老舗ブランド「RECARO(レカロ)」社の特製シートがトロフィー専用装備として搭載されています。表面生地も、高級素材の代表的な存在であるアルカンタラが使用され、スウェードのような柔らかな感触を味わえます。

 

【これぞ感動の細部だ!】足まわり

硬めでも乗り心地は悪くないベストセッティング

乗ってすぐに感じられる、サスペンション設計の素晴らしさは感涙モノです。スポーツモデルらしく硬めですが、乗り心地は決して悪くありません。きっとカーマニアなら「快適!」と絶賛することでしょう。もちろん、サーキットでは素晴らしいコーナリング性能を引き出してくれます。さらに後輪操舵機能「4コントロール」も搭載されていて、小回り性能と安定性を両立しています。

量産FF車最速記録を更新したルノー「メガーヌ R.S.」を深掘り

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、ドイツのニュルブルクリンク北コースで、量産FF車最速記録を更新したメガーヌR.S.を掘り下げる!

※こちらは「GetNavi」 2020年12月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【PROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。2018年以降、ペンネームを「MJブロンディ」から「永福ランプ」へ変更している。

 

安ド

元GetNavi編集部員で、現在ではフリーエディター。永福ランプを慕い「殿」と呼んでいる。

 

【今月のGODカー】ルノー/メガーヌ R.S.

SPEC【トロフィー MT】●全長×全幅×全高:4410×1875×1435mm ●車両重量:1450kg ●パワーユニット:1.8L直列4気筒ターボエンジン ●最高出力:300PS(221kW)/6000rpm ●最大トルク:400Nm/3200rpm ●WLTCモード燃費:13.4km/l

448万1000円〜499万円

 

ルノーのエンジニアが日本の道路事情に合わせてチューニング

安ド「殿! このクルマ、最高ですね!」

 

永福「安ドは速いクルマが好きだな」

 

安ド「300馬力のパワーと、ターボエンジンのぶっといトルクを味わいながら、滑るように走れました!」

 

永福「滑るようにとは、乗り心地のことか?」

 

安ド「そうです! このスポーツ性とコンフォート性のバランスは素晴らしいと思います!」

 

永福「確かに、車名にトロフィーと付くハイパフォーマンス仕様にしては、乗り心地は悪くない」

 

安ド「ですよね!」

 

永福「日本には熱狂的なマニアが多く、メガーヌのR.S.に限っては、世界で何番目かによく売れている国だそうだ」

 

安ド「そうなんですか!」

 

永福「スポーツカー熱は冷め切っているように見えるが、実は日本は、スポーツカーマニアが非常に多い国なのだ」

 

安ド「良かったです!」

 

永福「わざわざルノーのエンジニアが来日し、入念に日本の道路事情を調査して、それに合わせたサスペンションチューニングをしたという」

 

安ド「そうなんですか!」

 

永福「具体的には、首都高のジョイント。ああいうものは欧州にはないので、通過した時の乗り心地に特に配慮したそうだ」

 

安ド「マジですか!」

 

永福「なぜ欧州にああいうものがないかというと、地震が少ないからだ」

 

安ド「あれは地震対策なんですか!」

 

永福「大地震の際、橋げたが分割されていたほうが、力を逃がしやすいのだ」

 

安ド「さすが、殿は首都高研究家ですからね!」

 

永福「話がそれた。私はやはり、こういうクルマはMTに限ると思ったぞ」

 

安ド「やっぱりMTは楽しいですね!」

 

永福「2年前のR.S.日本導入時はATしか設定がなく、なんだかあんまり楽しくなかったのだ」

 

安ド「そうなんですね!」

 

永福「あの時は『MTを出す予定はない』と聞いたが、その後ルノーは考えを変えたらしい」

 

安ド「良かったです!」

 

永福「こういうクルマはラクして速く走りたいわけではない。存在そのものが趣味なのだから、やることは多いほうがいい」

 

安ド「デザインもカッコいいですよね! フォグランプとかフロント中央、ルノーのエンブレム下のトロフィーデカールの位置とか、細かいところまで凝ってます!」

 

永福「神は細部に宿る、だな」

 

安ド「5ドアなので、実用性もあります!」

 

永福「限定車の『トロフィーR』だと、5ドアなのに後席がないぞ」

 

安ド「えっ! なぜっすか!?」

 

永福「軽くするためだ」

 

安ド「僕は後席アリがいいです!」

 

【GOD PARTS 1】スポーツエキゾーストマフラー

切り替えて楽しめる迫力のスポーツサウンド

マフラーには「アクティブバルブ」をR.S.モデル史上初搭載。これはサウンド切り替え機能で、スポーツモードにすれば、エンジンパフォーマンスを向上させながら、迫力のサウンドも楽しめます。パンパン鳴ってちょっとヤンチャですが(笑)。

 

【GOD PARTS 2】R.S.ビジョン

クルマ好きなら気になるチェッカーフラッグ型

フォグランプのデザインはチェッカーフラッグ型で、カーマニアの気持ちを高ぶらせてくれます。ちなみに「R.S.」は「ルノー・スポール」の略で、ルノーがこれまでレース活動で培ってきた知見が注ぎ込まれたモデルであることを示しています。

 

【GOD PARTS 3】インパネ

赤いステッチがドライバーの気持ちを高める

ステアリングやシートなど、各部に赤いステッチが施されているのはR.S.専用で、いかにもスポーティな雰囲気です。さらにカーナビの設定がないところもストイックで、運転に集中したいマニア向けのポイントではないでしょうか。

 

【GOD PARTS 4】5ドアボディ

ドアが左右2枚ずつ増えて使い勝手が良くなった

先代型メガーヌの「R.S.」は、3ドア、つまりボディ左右のドアが1枚ずつでした。しかし今回は5ドアです。この結果、使い勝手や利便性が向上しました。もちろん肝心のスタイルもスポーティ感を損なうことなく、きれいにまとめられています。

 

【GOD PARTS 5】エアアウトレット

空気の排出口が前にも後ろにも存在?

       

前後のフェンダー(タイヤの周囲を取り囲むボディのふくらみ)には、それぞれ後方にエアアウトレット(空気の排出口)が備わっています。ただよく見ると、フロントは穴が開いていますが、リアは穴がふさがっていてハリボテのようです。

 

【GOD PARTS 6】1.8Lターボエンジン

元から強力なエンジンをさらにパワーアップ!

ベースの「R.S.」がすでに279馬力なのに、「トロフィー」は専用チューニングが施され、300馬力にまで向上されています。組み合わせられるトランスミッションに6速MTの設定があることもうれしいですし、フィーリングも優れていて扱いやすいです!

 

【GOD PARTS 7】走行モード

ボタンひとつでよりハードなマシンに

   

ディスプレイ下に設置されている「R.S.ドライブ」ボタンを押せば、スポーツモードやレースモードへと切り替えられます。トランスミッションや車両制御装置、ステアリングなどのプログラムが変更され、走りがよりハードに変わります。

 

【GOD PARTS 8】ハンズフリーカードキー

ビックリするほど軽くてちょっと厚めのカードキー

現代のトレンドでもあるカードキーが採用されていますが、実際に持ってみるとかなり軽くてビックリします。カード型にしては少し厚みがあるので、ポケットに入れているとかさばりそうです。裏側に施錠/解錠ボタンが付いています。

 

【GOD PARTS 9】バケットシート

老舗が作った特製シートは触り心地も良し

バケットシート界の老舗ブランド「RECARO(レカロ)」社の特製シートがトロフィー専用装備として搭載されています。表面生地も、高級素材の代表的な存在であるアルカンタラが使用され、スウェードのような柔らかな感触を味わえます。

 

【これぞ感動の細部だ!】足まわり

硬めでも乗り心地は悪くないベストセッティング

乗ってすぐに感じられる、サスペンション設計の素晴らしさは感涙モノです。スポーツモデルらしく硬めですが、乗り心地は決して悪くありません。きっとカーマニアなら「快適!」と絶賛することでしょう。もちろん、サーキットでは素晴らしいコーナリング性能を引き出してくれます。さらに後輪操舵機能「4コントロール」も搭載されていて、小回り性能と安定性を両立しています。

そろそろ終焉!?—西日本にわずかに残る国鉄形通勤電車「103系」を追った

〜〜希少な国鉄形電車の世界その1「103系」〜〜

 

日本国有鉄道がJRとなり30数年の年月がたった。国鉄時代に誕生した電車たちも、30年以上にわたり走り続けてきたわけで、老朽化がかなり進む。姿を消す車両も増えてきた。そんななか、今も活躍する車両が少なからずある。

 

今回は国鉄を代表する“国電”として、大量輸送の時代にデビューし、日本経済を影で支えた103系のわずかに残る車両と、走り続ける姿をお届けしよう。

 

【はじめに】“国電”の代表格! 日本一の車両数を誇った103系

まずは103系とはどのような電車だったのか。見ておきたい。

 

太平洋戦争が終わったばかりの昭和20年代、都市部を中心に増大する輸送量に対応していたのは、戦前・戦中・戦後生まれの旧形電車(旧型国電とも呼ばれる)だった。吊りかけ式という古い駆動方式で、車内にモーター音ばかりか、電動機の振動が伝わり、決して乗り心地が良いものでは無かった。中には木造車も混ざり、電車の性能や編成が統一されておらず、安全装備も疎かで、悲惨な鉄道事故が多発した。

 

◆旧型電車に代わる新性能電車として生まれた101系

そんな古い旧型国電を徐々に置き換え、新しい快適な電車の導入を、ということで開発されたのが103系の先輩にあたる101系だった。101系は「新性能電車」と呼ばれる。旧形電車から変わったところは多々あったが、大きなポイントとしては吊りかけ駆動方式から、カルダン駆動方式への変更。さらに当初から編成を組むことを考慮して「ユニット」という考え方を取り入れたことが大きい。さらに扉を4つもうけ、両開きにして乗降時間の短縮を図った。

↑JRから2003年に消えた101系だったが、秩父鉄道では2014年3月まで譲渡車両が走り続けた 2010年5月3日撮影

 

運用開始は1957(昭和32)年12月のことで、1969(昭和44)年までに計1535両が製造され、中央線を始め、首都圏と関西圏の通勤輸送に従事した。ほぼ40年にわたって走り続け、JRからは2003年11月28日をもって消滅している。最後はJR東日本の南武支線を走る101系だった。その後も、譲渡された秩父鉄道では1000系と形式名を変え、2014年まで走り続けた。

 

◆経済性を重視して生まれた103系

101系の次に開発されたのが103系だった。101系が新性能電車としての最初の電車として登場したのに対して、103系はより汎用タイプの通勤形電車として設計された。

 

なぜ、103系という電車が登場したのか。101系はオール電動車編成で、既存の路線の電気設備では、その性能を発揮できなかったことが大きい。性能を活かすためには、地上の設備を増強せざるをえなかった。101系はMM’ユニット方式(動力車2両で組む)だったのに対して、103系はMT比(動力車と付随車の構成比)を1対1としている。要は性能的にオーバースペック気味だった101系に対して、103系は経済性を重要視し、路線を選ばず走らせやすくした電車を造り、“実をとった”形だった。

↑ワンマン運転用に変更された阪和線羽生支線の103系。羽生支線の103系は2018年3月で消滅している 2015年11月7日撮影

 

103系は1963(昭和38)年3月に落成。9か月にわたる試運転を繰り返した後に、1964(昭和39)年5月から山手線での運用が開始された。その後に北海道・四国を除く直流電化区間の通勤電車として投入され、製造期間は1984(昭和59)年まで合計3447両が造られた。20年間にわたり同系列の電車が造り続けられることは稀で、車両数は日本の鉄道車両で最多の車両数を誇った。

 

20年間のうち、大きな変更点は1974年以降に製造された「高運転台」タイプの変更ぐらい(一部の路線用に変更した車両はあり)で、長い間、同タイプの車両が生産されこと自体、非常に珍しい。性能面でも安定し、走らせやすかったこともある。103系は昭和期の大量輸送時代を支え、ひいては日本の高度成長を支えた電車といっても過言ではないだろう。

↑大阪環状線を走った103系の高運転台タイプ。大阪環状線での103系運用は2018年1月をもって終了している 2016年12月10日撮影

 

それほどまで大量に製造された103系だったが、末期に製造された車両ですら約40年に近い年月がたつ。JR各社に引き継がれた103系の多くの車両が、体質改善工事に加えて、冷房装置を付けるなどの改良工事を行い“延命”が図られた。とはいえ、体質改善されたとはいえ、その後に登場したステンレス車体の軽量電車などに設備面や走行面で劣ることもあり、すでにJR東日本と、JR東海の103系は全車が引退している。

 

残っているのはJR西日本とJR九州にわずかに残るのみとなった。JR西日本には48両、JR九州には15両のみ。この車両数も2020年4月1日現在のものなので、厳密にはもう少し減っている可能性もある。最大勢力を誇った103系だったが、残る車両数は全盛時のわずか2%未満となってしまったわけである。

 

そんなわずかに残る103系を見るべく、筆者は新型感染症の蔓延が広まる直前の12月中旬、西日本の各路線を巡ってみた。最新情報を含めて残る103系の姿を追ってみたい。まずは注目の奈良線から。

 

【103系が残る路線①】塗装し直された103系が走る奈良線

京都駅と奈良駅を結ぶJR西日本の奈良線。走るのは吹田総合車両所奈良支所に配置されたウグイス色の103系で、奈良線の普通列車として長く走ってきた。そんな奈良線の103系に大きな動きが出たのは2018年春のこと。阪和線で使われていた205系全車が移動、奈良線を走り始めたのだった。

 

これで奈良線の103系も見納めかと思われたが。JR西日本の205系は車両数がそれほど多くない。現在の奈良支社に配置された36両のみである。4両×9編成では足りなかったせいなのか、103系も2編成が残された。この奈良線の103系に昨秋、気になる動きがあった。

 

◆車両の現状:103系の1編成が台車まできれいに塗り直された

↑台車や排障器まで明るいグレーで塗り直されたNS409編成。いま鉄道ファンの注目を最も浴びている103系といっていい

 

奈良線に残る103系はNS407編成とNS409編成の2本のみ。このNS409編成が検査の時に、車体、そして台車、下回りがきれいに塗り直されたのである。これはもしかして? 鉄道ファンが色めき立つのも当然であろう。205系が投入されて以降、そろそろ奈良線の103系が消えるのでは、と思われてきただけに、この塗り直されたインパクトは大きい。

 

奈良線の最後の103系2編成は、今後どうなるのか。最近の傾向としてファンの集中を避けるためなのか、鉄道会社各社は引退時期などを公表しない傾向が強い。奈良線の103系も例外ではないが、塗り直しされた現状を見る限り2021年3月のダイヤ改正時の引退はなさそうである。

 

◆運用と路線の現状:運用は9通り、京都府内の複線化工事が進む

↑貴重な103系NS407編成。既存の複線化区間でも沿線にネットを張る工事が進められていた。写真は山城多賀駅〜玉水駅間で

 

乗りたい、撮影したいと考えておられる方に向けて103系の動きの調べ方と、路線の現状についてここで触れておこう。奈良線の103系と205系は普通列車として運用されている。運用パターンは42A列車から50A列車まで9通りある。筆者が確認した普通列車の運行パターンをお伝えしておこう。

 

まずは京都発の普通列車は城陽駅行と奈良駅行がある。休日ダイヤの場合ならば、8時台から10時台までに42A〜50Aの運用の大半の列車が京都駅を折り返す(47Aを除く=47Aは京都駅の大阪側留置線に日中、停められている)。運用情報はネット上に流れているので、これらのどの運用に103系が入っているのか、京都駅に朝に行けば確認できる。確認できたら、撮影地へ移動あるのみだ。

 

撮影上、一つ問題がある。駅間撮影では多くの方が撮影スポット情報を元に動かれると思う。だが、京都駅からはすでに複線区間となっている区間を除き、多くの箇所で複線化工事が進められている。そのために、既存の撮影情報があまり役立たない。奈良線に乗車したら車窓から撮影できるかどうかを確認しつつの移動をお勧めしたい。

 

京都駅側の既存の複線区間は京都駅〜藤森駅間で、中でも稲荷駅付近に駆けつける鉄道ファンの姿を多く見かけた。藤森駅以南は玉水駅付近まで各所で工事が進められている。よって背景に住宅地が入らないなど、こだわりたい場合は玉水駅から先へ行くことをお勧めしたい。

 

【103系が残る路線②】朝夕のみ6両編成が走る和田岬線

兵庫駅と和田岬駅間を走る和田岬線。路線名は通称で、山陽本線の支線にあたる。路線距離はわずかに2.7km。和田岬駅付近の工場への通勤路線として利用されている。通勤路線ということもあり、起点の兵庫駅発が平日朝の7時〜9時台と夕方の16時〜21時台のみで日中は走らない。また土曜日は大幅に本数が減り、また日曜日は朝夕にそれぞれ1往復しか走らない。平日の朝夕が最大のチャンスというわけだ。

 

◆車両の現状:スカイブルーの103系が走る。検査時には207系が代行

↑和田岬駅を発車する103系。夕方は17時以降の運行のためどうしても日が長いシーズンに限られる 写真は17時25分発の夕方最初の列車

 

和田岬線も103系が残る貴重な線区である。しかもスカイブルー(国鉄が定めた塗装色・青22号色)という多くの線区を走ったおなじみのカラーだ。しかも和田岬線の103系は、極端な改造はされておらず、103系のオリジナルの姿が色濃く残る。ホームの有効長に限界があり、6両編成という京阪神を走るJR西日本の通勤形電車にはあまりない長さ。そのため103系の検査時にも207系3両編成を2本つなげた運用で代行される。和田岬線用の103系は1編成しかないので、検査時には走らない。訪れる時には事前にネット情報などで確認しておきたい。

 

JR西日本の普通列車用の電車には205系、207系や321系が使われるのが一般的だ。現状、JR西日本の205系は4両編成で奈良線の運用以外に余裕が無い。321系は7両固定編成となっている。代行できるのは207系のみで、6両編成限定という特殊なホームの長さのため、和田岬線の103系は今後もしばらく生き残りそうである。

 

◆運用と路線の現状:朝夕のみ、しかも単線で意外に撮影地が限られる

↑兵庫運河を渡る103系。同運河には旋回式の可動橋・和田旋回橋がかかる。船の運航のための可動橋だったが現在は固定されている

 

運行は朝と夕方から夜までのみなので、乗るのには問題ないが、写真撮影となると光線の加減に悩む。訪れるならば、やはり陽の長い季節がお勧めだろう。

 

筆者も2.7kmなので、全区間を歩いてみた。神戸市内を走る都市部の路線のためもあり、路線はほぼフェンスに覆われている。フェンスが途切れる踏切付近か、フェンスが比較的低めの川崎重工業兵庫工場付近。また視野が開けた兵庫運河での撮影が無難だ。

 

路線は兵庫駅からカーブして、途中から東南にある和田岬駅へ向けて直線的に走る。路線の角度が微妙で、朝に走る列車は順光で撮影できる場所が限られる。撮影には多少の難がある路線だが貴重な姿をやはり納めておきたいものである。

 

【103系が残る路線③】これが103系? 驚きの加古川線の電車

兵庫県の加古川駅と谷川駅を結ぶJR西日本の加古川線。全線単線で直流電化されている郊外路線である。この路線には103系3550番台という、103系としてはかなり異質な姿の電車が走っている。

 

モハ103形、モハ102形の2両がコンビとなっていて、両車両ともに先頭車に改造されている。前面は貫通扉付きの3枚窓という姿になっている。103系の面影はほぼ残っておらず、そのためか、鉄道ファンにはあまり人気が無いのがちょっと残念なところだ。

 

◆車両の現状:元常磐線103系と同色の2両×8編成が走る

↑青緑の車体、正面にブラックの塗装が行われる加古川線用の103系3550番台。昼よりも平日の朝夕の運用に使われるケースが多いようだ

 

前述したように、先頭車改造が行われているだけに、特異な姿となっている。カラーは国鉄では青緑1号と呼ばれた塗装で、以前に走っていた常磐線の103系と同じ青緑色だ。車両は2両×8編成の16両(2020年4月1日現在)で、網干(あぼし)総合車両所明石支所加古川派出所に配置される。車両基地名は長いが基地は加古川線の厄神駅(やくじんえき)に隣接して設けられている。

 

◆運用と路線の現状:日中は125系1両での運用列車が増えている

↑西脇市駅行の103系電車。写真でわかるように、西脇市方面の車両はパンタグラフが2つ装着される。1つは冬期の霜取用だ

 

加古川線の103系は加古川駅〜西脇市駅間の運用が主体で、加古川駅と車両基地がある厄神駅間の列車も多い。加古川線では103系とともに125系が使われている。125系は1両での運行が可能な電車で、加古川線には2004(平成16)年に導入されている。当初、125系は加古川駅〜西脇市駅間で運用されることが少なかったものの、現在は全路線で使われる。加古川駅〜西脇駅間では、日中はむしろ125系の運用が多くなっているように見受けられた。

 

103系との出会いを求めるならば、2両、4両での運用が多い朝夕に訪れることをお勧めしたい。

 

【103系が残る路線④】電化区間はまだ103系の天下の播但線

今回紹介するJR西日本の路線の中で、103系が最も“安泰”なのは播但線(ばんたんせん)と言って良いのかも知れない。播但線は兵庫県の姫路駅と和田山駅を結ぶ65.7kmの路線で、そのうち姫路駅〜寺前駅間が直流電化されている。

 

◆車両の現状:電化区間の大半の列車は103系での運用に

↑播但線の溝口駅付近を走る103系3500番台。正面の窓は支柱の無いタイプに改造されている、ほか改造点が多い車両だ

 

電化されている区間では、特急「はまかぜ」などを除き103系3500番台の電車で運用されている。3500番台は播但線が1998(平成10)年に電化された時に投入された車両で、103系初の2両での運用が可能なように改造された。網干総合車両所に2両×9編成18両が配置されている。車両カラーはワインレッド。体質改善工事とともにワンマン運転が可能なように改良されている。

 

見ると確かに103系の面影は残しているものの、運転席の窓は2本の支柱がない1枚ガラスで、ワイパーが運転席の前と、反対側の上からぶら下がるように設けられている。反対側はワンマン運転用で、ホーム上に設置されたミラーで後ろを確認しやすくするための設備であろう。

 

前照灯や行先表示、列車番号の表示の据え付け部分が、楕円の縁取りではなく、四角い据付け部で、いかにも後付け感がいなめない。

↑溝口駅で上り下り列車が待ち合わせを行う。103系のオリジナルな姿は薄れているものの昭和レトロの趣がたっぷり

 

◆運用と路線の現状:姫路駅〜福崎駅間は30分間隔で103系が撮り放題

ほとんどの列車が103系で、しかも姫路駅〜福崎駅間は20分〜30分間隔で列車が走っている。それこそ撮り放題で103系の姿が楽しめる。

 

とはいえ姫路駅〜野里駅間は高架区間で、さらにその先も、国道312号が平行して走り、民家が多く見通しの良いところがなかなかない。仁豊野駅(にぶのえき)から北側で、ようやく畑地なども多くなる。仁豊野駅〜福崎駅がお勧めの区間と言えるだろう。

 

体質改善をしているとはいえ、乗った印象は103系そのもの。駅では高らかにブレーキ音が響かせて停車する。今の電車のような静けさ、スムーズ感は無いものの、ひと時代前の通勤電車の“強烈さ”が感じられる。これはこれで新鮮そのもの。ぜひとも体験しておきたい“違い”が感じられる。

↑播但線を走る103系3500番台を側面から見る。ドアや窓は体質改善工事により元とはかなり異なるものになっている

 

【103系が残る路線⑤】筑肥線に残る103系はかなり個性的な姿

JR西日本は車両を長く使う傾向があり、国鉄形電車が多く残る。JRグループでほかに103系が残っているのがJR九州だ。JR九州で唯一の直流電化区間となっている筑肥線(ちくひせん)の一部区間を走る。

 

◆車両の現状:国鉄時代に生まれた103系1500番台が15両ほど残る

↑福岡市地下鉄に乗り入れをしていたころの103系。現在は筑前前原駅から西の路線のみに運用が限定されている

 

筑肥線を走る103系は1982(昭和57)年に、筑肥線(列車は唐津線の西唐津駅まで走る)と、福岡市地下鉄1号線が相互乗り入れを開始するに当たって生まれた。当時造られたのは6両編成9本、計54両だった。103系の主力車両とは異なり、地下鉄線内を走ることから、前面に貫通扉を設けているところが異なる。デザインは、同時期に製造された地方電化線区用の105系に近い。中央に貫通扉、3枚窓を備える。

 

登場当初は玄界灘のイメージからスカイブルーの地に、クリームの帯を付けた塗装だったが、JR九州となった後には前面と乗降扉がレッドに、また側面の車体はアルミふうにグレーで塗られている。

 

◆運用と路線の現状:筑前前原駅〜西唐津駅間でワンマン運転を行う

↑一貴山駅(いきさんえき)〜筑前深江駅間を走る103系。同地区は広大な田園が広がり撮影にも向いている区間だ

 

筑肥線には103系の後に303系、305系が登場した。後継車両の運用が増えるにしたがい、地下鉄への乗り入れ列車が減っていった。現在は同線を走る103系は3両×5編成、計15両のみとなっている。車両の配置は唐津車両センターで、筑前前原駅〜西唐津駅間のみの運行に限定されている。福岡市内から直接乗り入れる列車を除き、同区間のみを走る列車は大半が103系で、決して珍しい存在とはなっていない。

 

筑前前原駅〜西唐津駅の間には広大な田園地帯や、玄界灘に沿って走る区間、また虹ノ松原といった景勝地もあり、撮影地には困らないといった印象。赤とグレーという華やかな103系もなかなか写真映えする。乗って撮って楽しい車両となっている。

 

次週からも、希少になりつつある国鉄形電車の現状および紹介を少しずつお届けしたい。お楽しみに。

オーナーが語る! EVで変わったドライブ新様式

近年大きく広がりを見せているEV。次にクルマを買い換えるときはEVを選択したいと考えている人は多いのではないだろうか。そこでいち早く乗り換えたEVオーナーに、ランニングコストの変化、EVへの満足度、さらに生活がどのように変わったか話を聞いた。

※こちらは「GetNavi」 2020年12月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

リーフなら遠出も安心です。次はアリアを狙っています(和弘さん)

近場を頻繁に走るならEV以外は考えられません(郁子さん)

 

藤田郁子さん 藤田和弘さん

9年目となるi-MiEVと、4年目の現行リーフを所有。普段は郁子さんが近所の移動でi-MiEVを使うことが多い。週末は主に和弘さんの運転でリーフに乗っている。

 

街乗りも遠出もEVにしたら乗り方もコストも大きく変化

EVが続々と登場して選択肢になりつつあるなか、いち早くEVライフを満喫しているのが、東京都郊外に住む藤田さん夫妻だ。

 

「8年前、三菱i-MiEVの試乗会で、モーターがダイレクトにつながったEV特有の走りの良さを味わいました」(和弘さん)

 

これからはEVだと確信した和弘さんはi-MiEVを購入。3年後には日産リーフも購入し、完全なEVライフをスタートさせた。

 

それ以来、EVならではの走りを満喫している。ガソリン車と比較してスピードやエアコンのオン/オフなど、走り方や使い方で電費が大きく変わるのも面白い点だ。

 

「リーフで大阪に帰るときは途中で2、3回充電しています。家族は待ち時間に不満があるかもしれませんが、運転手にとってはちょうど良い休憩時間です。さらにバッテリー容量が大きい新しいEVなら1回の充電で大阪まで行けそう。充電にかかる時間をそれほど気にせず走れますよ」(和弘さん)

 

【Q.1】EVに乗るようになって、以前とランニングコストはどのくらい変わりましたか?

A.私は年間で約16万5000円節約できました。いま契約できるプランでも半額以下になると思います。

 

年3、4回の帰省を含めて、年間1万5000kmを走行する藤田家。燃費9.5km/L、ガソリン代を130円/Lで計算すると、1年間に約20万5000円のガソリン代が必要だった。

 

「2台のEV車はおトクな夜間電気代プラン(12.48円/kWh)で充電しています。この電気代と外出先で充電するための充電カードプランの費用が月額2200円。すべて足すと年間のコストは約4万円です。私のプランは現在新規契約できませんが、それでも半額以下になると思います」(和弘さん)

 

 

【Q.2】EVは定期的に充電が必要ですが、その作業は面倒ではないですか?

A.購入当初は充電し忘れたこともありましたが、いまでは習慣化して面倒に感じることもありません

 

「i-MiEVに乗り換えてすぐは、充電を忘れて翌日にバッテリーが少なくて困ったこともありましたが、もう習慣化しました」(郁子さん)

 

「電気代の安い夜間時間帯になると自動的に充電するシステムがあるので、帰宅後にプラグを挿すだけです」(和弘さん)

 

↑自宅での充電ならケーブルをEVの充電コネクタに挿すだけ。藤田さんは2本の充電用ケーブルを所有し、i-MiEVとリーフを同時に充電することが可能だ

 

【Q.3】EVの走りには満足できていますか?

A.振動がない、エンジン熱がない、燃料の臭いもしないし、トルクにも大満足……楽しいコトばかりです

 

「初めてi-MiEVに乗ったときのモーターの走りに感激して購入しました。ゼロからトルクのある走りができるのはEVならでは」(和弘さん)

 

「振動やガソリンの臭いがないのが何より良いですね。車検のときなどに代車でエンジン車に乗りますが、戻れないと痛感します」(郁子さん)

 

↑EVはモーターの回転を直接タイヤに伝える。アクセルを強く踏み込むとモーターの回転数も比例して急激に上がり、エンジン車にはない加速も可能だ

 

【Q.4】長距離ドライブでは出先で充電が必要になります。充電場所探しに困ることはありませんか?

A.充電網が整備されているので安心ですし、充電を考慮したルートが設定できるので困りません

 

リーフはフル充電で実質約200km以上走行可能で、充電できる場所もスマホアプリで簡単に探せる。

 

「9年前と違っていまは充電網が整備されていて困ることはありません。リーフのカーナビでは充電スポットを考慮したルート探索もできますよ」(和弘さん)

 

↑高速道路の主要なSAやPAには急速充電器が設置されている。大きなSAだと複数台の急速充電器が設置されており、順番待ちすることも多くない。

 

【Q.5】EVに変えて良かった! と思うことを教えてください

A.家庭の電源としても使えるのはとても便利ですね。EVを通じて仲間も増えました。加えて電気のありがたみも意識するようになりました

 

i-MiEVの購入と合わせて自宅にソーラーパネルを設置するなど、一気に生活を電化した藤田家。

 

「日中の家の電気はリーフのバッテリーから給電しています。おかげで電気代は月8000円前後。EVを通して仲間も増え、情報交換ができています」(和弘さん)

 

↑リーフへの充電も自宅への電源供給も、専用のEVパワーステーション経由で行っている。アプリやタイマーで管理できるのでコネクタを挿すだけだ

 

【COLUMN】多くの自治体と協定を締結し災害時は電源車として活躍する

リーフは他のデバイスに給電することも可能。そのため日産は多くの自治体と災害時に停電が発生した場合の給電に、リーフを活用する協定を締結している。昨年10月、台風により大規模な停電が発生した千葉県でも活躍した。

“クルマは充電”が新しいドライブ様式になる! EVメーカーの現在地

世界各国でエンジン車への規制が強まるなか、自動車メーカーは近年こぞってEVを開発し世に送り出している。走行可能な距離が短い、充電スポットが少ないという不安は、もはや過去のもの。これからのクルマは“充電”が新たなドライブ様式となる。スポーツカーで有名なポルシェも、誰もが憧れるラグジュアリーカーのロールス・ロイスやアストンマーティンもEVを発表。もはやどのメーカーも避けて通れないクルマの電動化は、いまどうなっているのか。自動車ジャーナリストの川端さんに話を聞くとともに、世界の自動車メーカーの現在地を解説!

※こちらは「GetNavi」 2020年12月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

自動車・環境ジャーナリスト

川端由美さん

工学修士。エンジニアから自動車専門誌の編集部員に転身し、現在は、フリーランスのジャーナリスト。テクノロジーとエコロジーが専門。

 

排出ガス規制と政府の援助で着々と進むクルマの電動化

英語で“Petro Head”と言えばクルマ好きのこと。Petroとは石油のことだから、ひいてはエンジンとクルマは切っても切り離せない……というのはもう過去の話。多くの自動車メーカーがEVを発表する時代が来ている。その背景にあるのが、欧州委員会による「2050年までにカーボンニュートラル(※)を目指す」という発表だ。さらに、2030年までに自動車からの排出ガスによるCO²排出量を半分まで削減(2020年第3四半期比)し、2040年に新型車はほぼCO²を排出しないクルマだけになるというロードマップを描いている。

※ライフサイクルで見たときに、二酸化炭素の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロになる状態のこと。2017年にパリで開かれたワン・プラネット・サミットでカーボンニュートラル宣言が発出された

 

この動きは、中国やアメリカでも加速している。中国では政府が税の優遇などを設けて、電池を含めたEV産業全体を後押ししている。アメリカのカリフォルニア州では、2035年までに州内で販売されるすべてのクルマを排ガスゼロにするという意欲的な目標を打ち出している。世界は電動化に向けて、着々と進んでいるのだ。

 

世界EVメーカーシェアランキング】

テスラが約18%と圧倒的なシェア。これは2016年に発表され手ごろな価格で大人気となったモデル3の影響が大きい。日本メーカーがベスト10に入っていないのは残念。

● ウェブサイト「EV Sales」の2020年1月から8月までの販売台数ランキングデータより引用。

● 販売台数のなかにはPHEV(プラグ・イン・ハイブリッド車)も含まれる

 

《アメリカ》

EVの世界シェアで断トツのトップを走るテスラが市場を牽引。シボレーのボルトEVは2021年に次期モデルが登場する予定だ。

 

【No.1】世界シェアでトップを走る気鋭のEVメーカー

テスラ

起業家イーロン・マスクを中心に「自分たちが乗りたいカッコいいエコカーを作ろう!」と一念発起。スポーツカー、セダン、SUVに続き手ごろなモデル3と、新車を連発中だ。

 

【No.2】転んでもタダでは起きない⁉ GM渾身のEVで巻き返す

シボレー

リーマンショックで倒産の憂き目にあったGMだが、政府から低利の融資を受けて電池とEVのボルトを開発。高級車ブランドのキャデラックでも、2023年にEVを発売予定だ。

 

《アジア》

政府の援助を受けられるなどEVの開発環境が整えられた中国は、多くのメーカーが参入。元々は電池メーカーなど、異業種企業も多い。

 

【No.1】商用EVのトップメーカーから乗用車へも進出

比亜迪汽車(中国)

電池メーカーとして創業し、EVメーカーを買収。いまEV商用車では世界一だ。アウディからデザイナーを招聘し、王朝シリーズで乗用EVにも進出。トヨタとの合弁も開始した。

 

【No.2】洗練されたデザインを武器に欧米市場への進出を目論む

広州汽車(中国)

2025年までに全車種をEV化すると宣言。心臓部には日本電産製モーターを積むeAxleを搭載し、スタイリングは欧州高級車メーカーから引き抜いてきたデザイナーが担当する。

 

【No.3】年内上場を目指す注目のEVスタートアップ

威馬汽車(中国)

コネクテッド・カーや購入後のアフターサービスなどをウリにした“スマートカー”として話題。「中国版Google Map」を提供する百度と手を組んで、自動運転や車載AIも提供する。

 

【No.4】中国版イーロン・マスクが起こしたEVメーカー

上海蔚来汽車(中国)

中国経済界の若手カリスマであるウィリアム・リー氏が創業。大気汚染を解決しようと、「青空の訪れ」を意味する「蔚来」を社名にした。自社工場を持たず、SUVのES8を委託生産。

 

【No.5】自社生産と提携を使い分け世界への販路拡大を続ける

上海汽車(中国)

第一汽車、東風汽車と並び、中国の三大自動車メーカーのひとつ。自社での生産も手掛ける一方、他国の企業と提携を結び拡大。イギリスの名門ブランドMGのEVをフランスで発売した。

 

【No.6】委託生産の依頼や出資と共に自社EVも発売する多様な戦略

長安汽車(中国)

今後10年で27車種ものEVを発売すると意気込む。自社ブランドを拡大すると同時にEVメーカーの蔚来に生産を委託したり、愛馳に出資したりと、多様なEV戦略を目論む。

 

【No.7】ボルボの親会社はEV専用ブランドも立ち上げた

吉利汽車(中国)

中国系大手であり、ボルボの親会社であり、ダイムラーの大株主。EV専用ブランド「ジオメトリ」を設立し、テスラのモデル3をライバルと目論む小型セダン、Aを発表した。

 

【No.8】EVのラインナップを拡充し自動運転技術も磨く

ヒュンダイ(韓国)

コンパクトハッチ・コナのEV版の登場に続き、SUVの45を発売予定。3月にジョイスティックで操作し、自動運転への切り替えも可能なコンセプト「Prophecy」を発表した。

 

《日本》

日産と三菱が日本のEVを牽引してきたが、ホンダとマツダも参入。日産は新型アリアの販売を予定し、やっちゃえシェア獲得となるか。

 

【No.1】ハイブリッド王国ニッポンでピュアEVの道を突っ走る

日産自動車

世界に名だたる“ハイブリッド王国”であるニッポンだが、日産は一貫してEV開発を貫いている。リーフは2017年に2世代目となり、なんと累計50万台(!)を販売している。

 

【No.2】小さいながらもグローバルでEVを展開

三菱自動車

EV開発の歴史は1960年代から。早朝の新聞配達に静かなクルマが欲しいと考えた結果、EVを開発することになったという。コツコツと開発を続け、2009年に世界初の量産EVを発売。

 

【No.3】電気駆動になってもホンダ独自の走りの魅力は健在

本田技研工業

電気の時代においても、ホンダは走って楽しいクルマを作ることを重視している。Honda eでは、走行距離を200㎞と割り切りつつ、コンパクトでキビキビ走るモデルに仕立てている。

 

【No.4】クリーンディーゼルだけじゃない EVにもしっかり着手

マツダ

昨今のマツダはクリーンディーゼルが有名だが、電動化にも着手している。第1弾となるMX-30はヨーロッパで販売開始。日本では2021年にリース形式での販売を開始する予定だ。

 

《ヨーロッパ》

EU各国でCO2排出規制が発出されたことで、続々とEVが登場。目標年度を定めてEVへシフトするメーカーも多く、その動きに注目だ。

 

【No.1】EVでも最善の性能と快適性を提供する

メルセデス・ベンツ(ドイツ)

「最善か無か」を旨とするメルセデス・ベンツだけに、EVでも高性能かつ快適なクルマを開発する姿勢を崩さない。EQCでは、パワフルなモーターと自社製電池を搭載している。

 

【No.2】次世代に向けてイチから刷新したEVを開発

BMW(ドイツ)

バイエルン・エンジン製作所を略した社名のBMW。徹底したエンジン屋のBMWがイチから刷新したEVブランドのiでは、EV特有の気持ち良い走りをBMW流に仕立てている。

 

【No.3】壮大な販売目標を揚げてEV市場の席巻を狙う

フォルクスワーゲン(ドイツ)

2025年までに300万台のEVを販売するという意欲的な目標を掲げるフォルクスワーゲンは、続々とEVモデルを発売している。第1弾となるiD.3に続き、iD.4も発売されている。

 

【No.4】電動化を推し進める国の牽引役となるメーカー

プジョー(フランス)

国を挙げて電動化を推し進めるフランス。プジョーはその牽引役となっている。日本上陸を果たしたe-208では、パワフルなモーターと大容量電池を組み合わせた心臓部を持つ。

 

【No.5】日本にもEVがお目見えしEVの販売比率拡大を目指す

アウディ(ドイツ)

アウディの電動シリーズe-tron Sportbackが待望の日本上陸を果たした。さらにe-tron SUVが続く。2025年までに20車種のEVを発表し、40%のEV販売比率達成を目指している。

 

【No.6】欧州最多のEV販売台数を誇る

ルノー(フランス)

30万台のEV累計販売台数を誇るルノー。一番人気の小型車・ゾエは販売台数を伸ばしており、累計販売台数は10万台を超える。今年はカングーのEV版コンセプトモデルも発表。

 

【No.7】「あのポルシェが!」と世界を驚かせた

ポルシェ(ドイツ)

世界有数のスポーツカーブランドも、量産EVであるタイカンを発売。最高250km/h、0-100km/h加速2.8秒というハイパフォーマンスを誇る。2021年モデルも欧州で発表された。

 

【No.8】レースで鍛えたEVの技術を量産モデルにも投入する

ジャガー(イギリス)

F1のEV版であるフォーミュラーEに参戦しているジャガー。量産EVでもI-PACEを発売した。最大696Nmもの大トルクを発揮するモーターによって、スポーティな走りを実現する。

ブリヂストンの大充実ミュージアム「ブリヂストン イノベーションギャラリー」がオープン!見所を4つにわけて紹介

ブリヂストンが2020年11月21日「Bridgestone Innovation Gallery(ブリヂストン イノベーションギャラリー)」を東京小平市にオープンさせました。この施設はブリヂストン社の歴史をはじめ、タイヤに関する様々な知識や、同社が手がけるタイヤ以外のイノベーション、さらに将来へ向けた取り組みなどを紹介したミュージアムです。

 

ブリヂストンは将来に向け、この地に「Bridgestone Innovation Park(ブリヂストン イノベーション パーク)」の建設を計画しており、本ギャラリーはその最初の施設となるもの。今後は社内外の交流を促進する施設やテストコースなどを備えた総合的な施設へと発展させる計画です。リニューアルオープンは当初、2020年春を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けこの日のオープンとなりました。

↑ブリヂストンが東京・小平市に計画している「ブリヂストン イノベーション パーク」の完成予想図。白いビルに今回リニューアルした「ブリヂストン イノベーションギャラリー」が入っている

 

ブリヂストンの誕生、現在、未来を4つのパーツに分けて展示

ギャラリーの入口に展示されているのは世界最大級のタイヤです。サイズは59/80R63となっていますが、ヨコにある説明によれば、直径:4022mm、幅:1459mmとなっていて、重量はなんと5223kg! とあります。これはダム建設用の巨大ダンプなどに採用されるタイヤなんですね。

↑ブリヂストン イノベーションギャラリーのエントランス。右側にあるタイヤは世界最大級の大きさで、東京工場のシンボルともなっている

 

ギャラリーは2フロアを使用しており、エントランスホールには企画展スペースとして利用することが可能です。たとえば「エコ絵画」の展示や近隣の小中学校の生徒を対象にしたワークショップなどの開催を想定しているとのことです。館内は大きく「WHO WE ARE〜挑戦の歩み」「WHAT WE OFFER〜モビリティ社会を支える」「HOW WE CREATE〜創造と共創」「WHERE WE GO〜新たなチャプターへ」の4つのゾーンに分けて展示されています。それではゾーンごとに一つずつ紹介していきましょう。

 

【その1】WHO WE ARE〜挑戦の歩み

ブリヂストンがこれまで挑戦してきた歴史やグローバル企業として躍進する取り組みなど、その歩みやDNAを感じられるゾーンとして構成されています。同社の創業者である石橋正二郎氏の生い立ちに始まり、ブリヂストンが純国産タイヤメーカーとして創業し、海外やモータースポーツへ進出してグローバル企業として成長するまでの過程が一望できます。創業当時のタイヤ(レプリカ)の他、ブリヂストン初のラジアルタイヤ、広告に使ったブリキ看板など展示物も豊富で、懐かしくもあり、興味深い展示となっています。

↑創業者の石橋正二郎氏を紹介するパネルと、右下にあるのは創業当時のタイヤ(レプリカ)。右上にあるのは当時のブリヂストンの広告

 

↑その昔、幹線道路には2キロごとにブリヂストンの取扱店を用意し、これが顧客の信頼性向上に貢献した

 

↑F1用タイヤを開発するために実際にテストで使用されたF1マシン。これが契機となってブリヂストンのグローバル化へと突き進んだ

 

【その2】WHAT WE OFFER〜モビリティ社会を支える

ここはブリヂストンのを紹介するコーナーです。タイヤの基本原料であるゴムなどの素材そのものからタイヤの構造などを学習でき、幅広い製品群も展示されています。同社が取り扱う自転車や乗用車用、航空機用まで様々なタイヤなどによって社会を支えていることがわかります。参加型の展示も多いのも特徴で、様々なゴム素材を引っ張ってその違いを知るコーナーや、上から落として弾性の違いを体感するコーナーなどを用意しています。空気が抜けても走れるランフラットタイヤの解説や、軽量化技術「ENLITEN(エンライテン)」など、タイヤの最新技術を知ることができるのも見逃せません。

↑ブリヂストンが扱う様々な種類のタイヤを展示し、それらはどんな用途に使われているかを当てるクイズ形式で展示。裏側に答えが表記してある

 

↑タイヤの製造工程をタイヤの素材と共に順を追ってわかりやすく解説されている

 

↑様々な路面を再現したサンプル上で、最適化したタイヤの特徴を知ることができる。驚くのはその路面がホンモノと見紛うほどリアルに再現されていることだ

 

↑タイヤの表面を張り替えて繰り返し使う「リトレッド」について紹介。業務用途ではこの利用が常識となっている。左がすり減ったタイヤで、表面を張り替えて完成させたのが右

 

【その3】HOW WE CREATE〜創造と共創

ここではブリヂストンが手掛けるスポーツ製品や建築ソリューションなど、現在開発中のものも含めた、イノベーションが紹介されています。体験コーナーも多く、NVHソリューションシミュレーターでは騒音、振動、ハーシュネスの発生具合とそれを抑制する効果などを実際に体験。ゴルフのスイングフォームを録画して骨格の動きと体重移動の流れを解析するコーナーも用意されています。また、同社のアスリートやパラアスリートへの支援活動についても紹介されていました。変わったところでは、サイホン原理による新しい排水システム「スマートサイホン」のデモ装置で、同社が建築分野などにも幅広く進出している事業内容を知ることができます。

↑騒音や振動、ハーシュネスを座って体感できるNVHソリューションシミュレーター。NVH効果をON/OFFしてその効果を体感できる

 

↑オリンピック用に開発し、正式採用されたフルカーボン製自転車。車体重量は7kgにも満たないという

 

↑ゴムと樹脂を分子レベルで結びつけた世界初のポリマー「SUSYM(サシム)」を使って試作したタイヤ(コンセプト)

 

↑タイヤ作りで最も重要なパターンの元となる現場を再現した展示。映像と実物で手彫りする様子が解説されていた

 

【その4】WHERE WE GO〜新たなチャプターへ

ここは未来を感じさせてくれるコーナーです。映像が流れる通路を通過するとそこはブリヂストンが描く未来を感じ取れる世界。同社が誇る最新テクノロジーが紹介されていました。なかでも興味深かったのは、JAXAとトヨタが開発中の月面探査車(ローバー)用のタイヤの展示です。注目は金属で織り込んだ特殊な素材が使われていること。月面温度は昼夜の寒暖差が280度もあり、とてもゴム製タイヤでは対応できないとのこと。重量は1本300kgもあるとのことですが、重力は地球の1/6になるため50kg相当になるんだとか。展示からはそんな月面で活躍するローバーの姿が目に浮かんでくるようです。

↑JAXAとトヨタが開発中の月面探査車(ローバー)用のタイヤ。素材はゴムではなく、金属などの特殊な素材でできている。重量は1本で約300kg

 

↑インホイールモーターのEV(電気自動車)向けに開発されたタイヤで、走行中でのワイヤレス給電を可能としている

 

↑2017年のインディ500で優勝した佐藤琢磨選手のマシン(レプリカ)。ブリヂストン傘下のファイアストン・タイヤを履いている

 

ギャラリーを一通り回って感じたのは、クルマやタイヤに少しでも興味があれば訪れてみる価値はあるということ。とにかく資料や展示が豊富で、これらが無料で楽しめることも大きいです。子どもが楽しめるコーナーも用意してあるので、家族で訪れてもいいですね。知らず知らずのうちにタイヤをもっと身近に感じられるようになるでしょう。日曜/祝日はお休みですが、週末の土曜日ならOK。時間つぶし以上の収穫が得られると思いますよ。

 

「ブリヂストン イノベーションギャラリー」へのアクセス

JR山手線・高田馬場駅から西武新宿線に乗って30分ほどの小川駅東口から徒歩で5分程度で着きます。東京都心から少し離れた小平市にありますが、実際に乗り継いでいくとアクセスは比較的良い。入場料は無料。日曜/祝日と年末年始は休館日です。なお、クルマでの出掛けた場合は無料の駐車場が利用できます。

 

 

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アルパインの「ディスプレイオーディオ」は拡張性が超優秀! 大画面だけないその魅力

アルパインは、ディスプレイオーディオ(DA)の新ラインナップ「フローティングBIG DA」シリーズを発表しました。発表されたラインナップはフローティングスタイルの大画面モニターを備えた11型「DAF11V」と9型のモデル「DAF9V」、インダッシュスタイルの7型モデル「DA7」を含む全3タイプです。全モデルが2021年1月上旬よりアルパインストア限定で発売されます。

↑ディスプレイオーディオ(DA)の新ラインナップ「フローティングBIG DA」シリーズ。写真は9型モデル「DAF9V」を日産セレナに装着

 

スマホ連携でナビからエンタメまですべてを大画面で楽しめる

3モデルとも基本機能は共通となっており、予算やスタイルに応じて好みの一台が選べるラインナップとなっています。なかでも注目なのは要であるスマホとの連携が充実していることです。iPhone接続時にはApple CarPlayが、Android接続時にはAndroid Autoが起動して、ナビやオーディオ、メッセージなどスマホにインストールされている対応アプリの機能を利用できるのです。操作はタッチパネルと音声認識によるものとなっています。

↑11型モデル「DAF11V」7万9800円(税込)

 

↑9型モデル「DAF9V」6万9800円(税込)

 

↑インダッシュタイプの7型モデル「DA7」特別価格3万4800円(税込)

 

ナビ機能はスマホアプリを利用します。Apple CarPlayとAndroid Autoそれぞれのナビアプリを使うこととなりますが、いずれも目的地検索やルート案内はナビアプリに依存します。測位について最近はディスプレイオーディオでも車速パルスを反映できる機種が一部で登場していますが、アルパインによれば3モデルとも車速パルスの対応はしていないとのこと。測位は基本的にGPSで行われると考えていいでしょう。

 

ディスプレイオーディオだけに多彩なエンタメ系機能も搭載されました。Apple CarPlayとAndroid Autoによる再生が楽しめるほか、Bluetoothオーディオ再生では手持ちのスマホやデジタルプレーヤーを連携させて楽しめます。USBメモリー再生(音楽/動画)にも対応していますから、あらかじめ楽曲を収録しておいたコンテンツをいつでも好きな時に再生して楽しめます。ただ、ディスプレイの解像度がWVGAだったのは惜しいですね。

↑標準的な6インチスマホに比べて11型は3.4倍、9型でも2.2倍の大画面で楽しめる(オンライン発表会より抜粋)

 

スマホ2台を接続して前席でカーナビ、後席でエンタメを同時に楽しめる

また、11型と9型はHDMI入出力を備えており、別売の地デジチューナーやポータブルDVDプレーヤーを接続して楽しむことも可能です。さらにHDMI出力を後席モニターにつなげば、たとえば後席でYoutubeを楽しんだりもできます。見逃せないのは、スマホとの接続がBluetoothとケーブルの同時接続に対応していることで、これによって運転席ではカーナビを利用し、後席ではスマホの動画コンテンツを別々に楽しむことが可能になるのです。

↑地デジチューナーは全機種とも別売りとなる。ディスプレイオーディオそのものが周波数帯が異なる海外と共通のためと推察できる(オンライン発表会より抜粋)

 

↑後席モニターを追加して2台のスマートフォンを組み合わせれば、前席はナビを、後席は動画を楽しむことも可能(オンライン発表会より抜粋)

 

より迫力あるサウンドとして楽しむために、組み合わせ可能なハイパワーデジタルアンプも用意されました。DA本体にはイコライザーなど音響調整機能が装備されていますが、プリ出力を備えたことで外部アンプをつなぐことができるのです。また、RCAのカメラ入力端子も備え、別売りのバックカメラを組み合わせれば大画面で後方が確認できるようになります。これは安全の観点でも有効な機能と言えます。

 

そしてアルパインならではのカスタマイズ化も大きな魅力です。車種別の壁紙データをインストールすることで、起動時にはオリジナルのアニメーションや壁紙が表示させることができるようになるのです。その数は240車種にも及び、それぞれの車種のヘッドライトとフロントグリルのシルエット写真に車名のタイトルが入ります。ここまでこだわってやり抜くのは今やアルパインだけ。ここにこそアルパインならではの魅力があると言えるでしょう。

↑起動した際にディスプレイに表示される壁紙は240車種を対象に用意。カスタマイズして“専用”感を盛り立てる(オンライン発表会より抜粋)

 

発表会ではそれぞれが「フローティングBIG DA」の魅力を語り尽くす

オンライン発表会では司会進行としてアルパインストアで製品を紹介している実演販売士のボス水野氏が登場し、アルパインマーケティング イノベーション開発グループの中村謙介氏が製品概要を説明。自動車系YouTuberとして活躍する「Motorz」の内原 優氏がデモカーでの使用レポートを行いました。

 

中村氏は上位2モデルの画面が大きいことを訴え、特にDAとして業界最大サイズである11型はスマホの3.4倍、9型でも2.2倍の大画面で楽しめることを強調。システムアップとして、別売りの地デジチューナーユニットは「カーライフシーンにはなくてはならない必需品」として紹介がありました。また、アルパインならではのサウンド重視の設計として、本製品と組み合わせ可能なデジタルアンプによる高音質化についても語ってくれました。

↑製品説明をするアルパインマーケティング イノベーション開発グループの中村謙介氏(オンライン発表会より抜粋)

 

続いて「Motorz」の内原氏が用意されたデモカーから、アルパインのフローティングBIG DAを紹介しました。内原氏がiPhoneを接続して大きな画面でカーナビアプリを表示させて操作し、その表示から「大画面のカーナビに遜色ない操作性と視認性を実現している」と評価しました。

↑デモカーに乗り込んで解説をした自動車系YouTuber「Motorz」の内原 優氏。DA7にはデジタルアンプをスタッキングできることを解説中(オンライン発表会より抜粋)

 

最後は司会進行役であったボス水野氏がアルパインストアでの販売価格を発表。発売記念として、オプションとのセットパッケージで1万円引きされることも実演販売さながらの軽快な口調で紹介しました。さらに「サプライズ」の先行予約キャンペーン(2021年1月31日まで)として、3タイプ各100台については、購入後に5000円(税込)クーポンがプレゼントされることも紹介され、オンライン発表会は終了しました。

↑実演販売士のボス水野氏が進行を務めた発表会。最後に3タイプ各100台について購入後に5000円(税込)クーポンがプレゼントされることが知らされた(オンライン発表会より抜粋)

 

↑11型モデルDAF11VをホンダN-BOXに装着した例

 

↑9型モデルDAF9Vをスズキ・ジムニーに装着した取り付け例

 

 

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EVブランドへと舵を切ったボルボ、「V90クロスカントリー」の実力は本物か? ロングドライブで検証

クルマのキャラクターを「深く」理解する上で一番有効なのは、やはりそのクルマと長く接すること。そこで今回は2020年秋のアップデートで全グレードが電動化されたボルボのクロスオーバーSUV、V90クロスカントリーで北陸を目指してみました。プレミアムにして個性的選択でもあるこのモデル、果たしてどんな一面を見せてくれるのでしょうか?

 

ボルボV90クロスカントリー

744万円~904万円(試乗車:B6 AWD Pro 904万円)

SPEC【B6 AWD Pro】●全長×全幅×全高:4960×1905×1545mm●車両重量:1920kg●パワーユニット:1968cc直列4気筒DOHCターボ+電動スーパーチャージャー+電気モーター●最高出力:300ps/5400rpm●最大トルク:420Nm/2100~4800rpm●WLTCモード燃費:11.3km/L

 

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2020年のボルボは日本仕様の全モデルをハイブリッドとプラグインハイブリッドに!

プレミアムブランドの中では、早々にパワーユニットのフル電動化に向けたビジョンを明確にしたボルボ。2020年も主力モデルが矢継ぎ早にアップデートされ、日本導入モデルはガソリンのハイブリッド、もしくはプラグイン・ハイブリッドにすべて置き換えられました。その結果、本格導入からさほど経っていないクリーンディーゼル仕様はすでに新車販売のラインナップからドロップしています。

 

ディーゼルはガソリンとは別途で整備体制を整えねばならない等、導入に際しては相応のコストが生じているはず。さらに近年、新車販売の主流となっているSUVカテゴリーではディーゼル人気が高いことまで含めると、個人的には初めて日本向けボルボのディーゼル撤退という話を耳にした際に「なんてもったいない!」という印象を抱きました。

 

ディーゼル版ボルボの商品力が決して衰えていなかったことを思えば、それはなおさらの話です。ですが今回、ハイブリッドとなったV90クロスカントリーに接したことで少なからず考え方が変わりました。なぜなら“プレミアム級”SUVのパワーユニットとして、ガソリンのハイブリッドがピッタリといえる仕事ぶりを披露してくれたからです。

↑エクステリアは、2017年の上陸以来初となるデザイン変更を受けました。前後バンパーやフロントグリル、アルミホイールの造形が変更されています

 

V90クロスカントリーのパワーユニットは48V電装を組み合わせたガソリンのハイブリッドに統一

さて、導入以来初の大幅アップデートとなったV90シリーズにおける最大のトピックは、先述の通りパワーユニットが一新されたことです。純内燃機関だったガソリン仕様の「T5」と「T6」、そしてクリーンディーゼルの「D4」に代わり、高効率な48V電装を組み合わせたガソリンハイブリッドの「B5」と、それに電動スーパーチャージャーを組み合わせた「B6」を新採用。また、ステーションワゴンのV90にはプラグインハイブリッドの「リチャージ・プラグイン・ハイブリッドT8」が新設定。導入される全グレードが、電動化モデルとなりました。

 

V90をベースとしたクロスオーバーSUV、V90クロスカントリーが搭載するのは250ps/350Nmを発揮するガソリンターボ+電気モーターのB5と300ps/420NmのB6。ハイブリッド化にあたって、2Lのガソリンターボは実に90%ものパーツが新設計。シリンダー表面処理の改良などで摩擦抵抗の低減を図るなど、高効率化と洗練度が高められたほか、条件に応じて2気筒での走行を可能にする気筒休止システムも組み合わせて経済性を向上させています。

 

また、48V電装の導入によって可能となったB6の電動スーパーチャージャーは絶対的なパフォーマンス向上に加え、従来のT6に採用されていたルーツ式スーパーチャージャー比でエンジン重量の低減や快適性の向上などにも貢献しています。

↑リアのコンビネーションランプも意匠が改められウインカーはシーケンシャルタイプに

 

安全性に定評あるボルボらしい新機軸としては180km/hの最高速度リミッターとケア・キー導入もニュースのひとつ。どちらもボルボ乗車中の死亡事故、重傷者の発生をゼロにすることを目的に採用されたもので、後者は運転経験が浅い、あるいは不慣れなドライバーに貸し出す際などに最高速度をリミッターより低く設定できるもの。人によっては「余計なお世話」と感じるかもしれませんが、古くから独自の事故調査チームを組織して安全性向上に取り組んできた、他ならぬボルボの決定だと思えば納得する人は多いはずです。また、日本の環境で走らせる限り、リミッターやケア・キーで不利益を被るユーザーはいないでしょう。むしろ、ケア・キーについては不測の事態における暴走抑止するという意味でのメリットも期待できるはずです。

 

持ち前の安全性の高さ、という点でも新しいV90シリーズは万全です。ボルボらしい「対向車対応機能」に代表される衝突回避・被害軽減ブレーキの最新版「シティセーフティ」に加え、全車速追従機能付きアダプティブ・クルーズコントロール(ACC)や車線維持支援機能、道路逸脱回避機能などは全車に標準で装備されています。

↑北欧神話にちなんで「トールハンマー」と名付けられたヘッドライトのT字型グラフィック。現代のボルボ・デザインにおける象徴的手法のひとつです

 

↑B6 AWD Proのホイールは、ダイヤモンドカット/マットグラファイトの2トーン仕立てとなる5Vスポーク。サイズは8.0J×20インチで、これに245/45R20サイズのタイヤを組み合わせています。B5ユニット搭載モデルのホイールサイズは18インチと19インチ

 

プレミアムなハイブリッド車に相応しい静粛性と振動の少なさでディーゼルとの違いをアピール!

今回北陸までの試乗に供されたのはV90クロスカントリーのトップグレードとなる「B6 AWD Pro」。名前の通り、搭載するパワーユニットは2Lガソリンターボ+電動スーパーチャージャー+電気モーターという“フルコンボ”状態。これに8速ATを組み合わせて、駆動はSUVモデルらしい4WDとなります。ちなみにB5を搭載するV90クロスカントリーも、トランスミッションと駆動方式はB6と同じ。装備内容がほぼ同じ仕様も選べますから、B5とB6のどちらを選ぶかは絶対性能の要求水準(と予算)次第というところでしょう。

 

試乗の行程に関する指定は特になし。東京を出発したら、あとは夜までに金沢に到着すればOKという、良い意味で緩いものでした。そこで、カメラマン氏の提案により経由地を飛騨市に設定。今回は古典的な日本の風景とV90クロスカントリーの組み合わせで行こう、ということに。

 

まずは、都内から首都高速を経て中央道を目指したのですが、走り出して最初に実感したのは黒子に徹するエンジンの仕事ぶりでした。いまや音や振動が煩わしいディーゼルなど、少なくともプレミアムを自認するブランドのクルマでは皆無。ボルボのディーゼルもその例に漏れませんでしたが、新しいB6はそれに輪をかけて静粛、かつ振動の類がありません。快適性の点においてガソリンとディーゼルに極端な差がないのはいまや常識。とはいえ、たとえばエンジン違いの同じクルマで比較すれば、音にしろ振動にしろガソリンの優位がついぞ揺らがなかったのもまた事実。

 

ディーゼルといえば経済性の高さや持ち前の大トルクを活かした日常域の力強いドライブフィールも魅力ですが、低速でストップ&ゴーを繰り返す使用環境なら洗練度は良質なガソリンエンジンの方が一枚上手。B6は、そんなことを改めて実感させてくれる出来映えです。構造上、EVを彷彿とさせる電気駆動モデルらしさはソコソコといったところですが、エンジン自体が静粛なことに加え、アイドリングストップ&スタート時の振動も上手に抑え込まれているのでプレミアムSUVらしい高級感に不満を抱くことはありませんでした。

↑300psのパワーと42.8kg-mのトルクを発揮するだけに、絶対的な動力性能はパワフルといえる水準。新しいハイブリッドのパワートレインは静粛性の高さも印象的です。また、ロングドライブでは終始快適な乗り心地も魅力のひとつでした

 

そんな好印象は、随所にアップダウンが存在する中央道に入っても変わりません。今回の旅程は担当編集氏と前述のカメラマン氏が同乗するオジサン3名+撮影機材+1泊分の私物×3という状況でしたが、当然ながら動力性能は余裕たっぷり。アクセルを深く踏み込む領域でこそロードノイズをかき分けて室内に進入したエンジン音を意識することになりますが、それとて絶対的なボリュームは最小限。音質も不快な類ではありませんから、積極的に走らせる場面ではほど良いBGMにもなり得ます。

 

また、当日はコロナ渦ながら交通量が多めということでACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を筆頭とする運転支援機能もあれこれと試したのですが、制御の洗練度が高いことも印象的でした。この種の機能は、ドライバーの運転スタイルに合わないと嫌われる傾向があったりもするのですが、V90クロスカントリーのそれはクルマ任せにしてもストレスを感じない水準にあります。寄る年波のせいなのか、もはや自分のペースで走れない環境だと運転することが面倒になってきている筆者のような人種には、ロングドライブの疲労を軽減する上でも間違いなく有効な機能になり得ていました。

↑48V電装の採用したことで(古くから乗用車は12Vが標準)、B6には電動スーパーチャージャーを追加。B5比で50psのパワーと70Nmのトルクが上乗せされています

 

オーディオなどの快適装備もアップグレード! シャシー性能も熟成の域に到達

飛騨に直行する場合、ルートは中央道から上信越道に入り松本ICまで利用するのが普通ですが、今回は諸般の事情から岡谷ICで降りて一般道から上高地をかすめて高山、飛騨に至る国道158号線を目指しました。東京を出発してすでに数時間。雑談のネタも尽きてきたのでオーディオのBGMで気分転換を図りました。

 

試乗車にはオプションのB&Wプレミアムサウンド・オーディオシステムが装備されていたのですが、出てきた音に早速反応したのが音楽好きの担当編集氏。実は今回のマイナーチェンジで、B&Wのシステムもアップデート。ウーファーのコーン素材が変更されたほか、ツィーターも新しいダブルドームに。さらにアンプが強化されDSPのモードも一層充実したものとなっています。その昔、カーオーディオの別冊を作っていた筆者の場合、その変更内容は理解できても従来型と比較して音がどう変わったのかは分かりかねたのですが、とりあえず走行する車内でもクリアな音質で、かつ聞いていて気分を高揚させる音作りであることは確認できました。また、装備面ではワイヤレス・スマートフォン・チャージも標準化されたので、Apple CarPlayなどのリンク機能を活用すれば手持ちのライブラリーを気軽、かつ高音質で楽しめるようになったことも朗報といえそうです。

↑現行ボルボらしい、上質にして清潔感を漂わせるインパネ回り。基本的なレイアウトに大きな変更はありませんが、PM2.5粒子の最大95%を排出できる「クリーン・ゾーン-アドバンスト・エア・クオリティ・システム」を搭載。室内の空調環境がアップグレードされたほか「ワイヤレス・スマートフォン・チャージ」を標準装備するなど、快適性に磨きがかけられました

 

国道158号線は典型的な山越えの国道、ということで、その折々で今回は操縦性も簡単にではありますがチェックしました。クロスカントリーも含めたV90シリーズは、ボルボの主力プラットフォームである「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)」を採用。電動化や自動運転時代に対応するとともに、シャシー性能もそれ以前のボルボ車より大幅に底上げされたのですが、新しいV90クロスカントリーでは洗練度も着実にアップしていることが確認できました。

 

以前、SPAを採用した初期のXC90に試乗した際は十二分な剛性感が確認できる一方、ステアリングに伝わるフィードバックなどに粗さを感じたものですが、それももはや昔の話。いざ乗り手がスポーティに振る舞おうと思えば、それに応えられる能力はしっかりと備わっています。また、ベースとなるV90より大幅に地上高を高めたクロスカントリーですが、ロールを筆頭とする挙動は基本的にナチュラル。B6搭載車のタイヤは45扁平の20インチという好戦的なサイズですが、乗り心地もプレミアムなSUVとして満足できる仕上がりでした。

↑ボタン類が整理されたステアリングのACC回り

 

↑タブレット風インターフェイスとなるセンターディスプレイは、現行ボルボに共通する仕立て

 

↑B5とB6のAWD Proのウッドトリムは、今回のアップデートでラインナップされた「ピッチドオーク」(写真)と「グレーアッシュ」の2タイプ

 

十二分な存在感を発揮しながら、日本の風景にもマッチするフォーマルさも両立

さて、そんなロングドライブのひと区切りとなる飛騨市に到着したのは昼を大幅に過ぎた時間帯。遅めの昼食を済ませ、早速“フォトセッション”に突入したのですが古風な飛騨の町並みとの相性はご覧の通り。ボルボによれば、V60をステーションワゴンの本流とするなら、このクルマのベースとなったV90はスタイリッシュな風情を重視したスペシャルティ系ワゴンとのことですが、そこにSUVテイストをプラスしたV90クロスカントリーは個性派でいながらフォーマル性も兼ね備えた仕上がりといえるでしょうか。

 

ワゴンベースのクロスオーバーとしては異例に高い地上高(本格SUVに匹敵する210mmもあります)と、天地が薄く、そして前後に長いボディの組み合わせは好き嫌いがはっきり分かれるであろう“攻めた”佇まい。ですが、存在感を主張しつつも決して悪目立ちする造形ではないことは飛騨市内に佇む写真からも明らかです。いまやSUVはコンパクトからプレミアム級まで選択肢が豊富ですが、それだけに単にSUVというだけで個性的な選択にはなり得なくなっているのも事実。その意味では、サイズ(とクラス)相応の落ち着きを確保しつつ、普通のSUVとは明らかに違うカタチのV90クロスカントリーは狙い目の1台といえるでしょう。

↑たっぷりとしたサイズのシートは、優れた快適性にひと役買っている出来映え。シート表皮はグレードを問わず本革が標準ですが、上級グレードのProはパーフォレーテッド仕様のファインナッパレザーとなります

 

↑ボルボはステーションワゴンの老舗だけに、荷室は容量、形状ともに優れた使い勝手を実現しています。後席と荷室を隔てる、しっかりした作りのラゲッジネットが備わる点も本格派らしい美点のひとつです

 

残る行程、飛騨から金沢まではせっかくなので後席に居場所を移しました。一般的な乗用車の場合、前席と後席を比較すると純粋な乗り心地は前後のタイヤから距離が取れる前席が勝るというのが普通。そこで、巨大でロープロファイルなタイヤを履いたV90クロスカントリーではどの程度の落差があるのかという、少し意地悪な視点で試してみたのですが結果的には十分に快適でした。

 

大ぶりなサイズ、なおかつワゴン用としてはホールド性にも優れたリアシートは秀逸な座り心地で、心配されたタイヤからの入力も許容範囲内。長いホイールベースの恩恵でフラットなライド感が満喫できました。ファミリー層を筆頭に、この種のモデルは後席の使用頻度が高くなるはずですが、この出来映えなら後席に座る家族から不満が出ることはないでしょう。

↑リアシートもサイズに余裕があり、かつ広大な足元スペースと相まって極上のリラックス空間です

 

……と、後席のツッコミどころをあれこれ探している間に目的地である金沢へは夕食前のタイミングで到着。ほぼ1日中走り続けの状態で、普段の新車試乗会と比較すれば格段に長い時間をクルマと過ごしたわけですが、結果的には定評あるボルボの長所ばかりが目立ったというのが正直な感想です。

 

ちなみに、全行程を通じた燃費は11km/L弱。カタログのWLTCモード燃費が11.3km/Lであることや、なにひとつ燃費を考慮した走らせ方をしなかったことを思えば秀逸な結果です。日本では軽油がガソリンより圧倒的に安いので、純粋な燃料費で依然ディーゼルが優位なのは確か。ですが、おそらくV90クロスカントリーを選ぶユーザーにしてみれば、その差はもはや誤差の範囲内といえるかもしれません。

↑5m近い全長と1.9mを超える全幅とあって、狭い場所だとそのボリュームを意識させられるのは事実。とはいえ、スクエアなボディ形状は見切りに優れるのであまり持て余しません。個性的なSUV仕立てながら、悪目立ちする心配のない佇まいは古風な日本の風景とも不思議とマッチしています

 

ボルボのディーゼルを所有する担当編集がB6に乗って思ったこと

担当編集・尾島の愛車はボルボのディーゼル車です(2019年式)。近い将来ボルボのラインナップからディーゼルが落ちると聞きつけ、「これはなんとしても手に入れておかねば」と清水の舞台から飛び降りる勢いで購入しました。泉のごとく湧き出るトルク、優秀な燃費、ランニングコストの安さからディーゼルにはとても満足していたわけですが、そんな折、ついにボルボのラインナップからディーゼルがなくなる日がやってきました。

これはぜひとも今後ボルボの主役となる48V電装搭載ガソリンハイブリッドを試さねばなるまい、となかば使命感から参加した今回の試乗会(なんなら、やっぱりディーゼル買っておいてよかった~と思いたかったのです)。実際に試乗して何を感じたのかというと、静粛性とそれがもたらす終始高級車然としたふるまいの上品さ。ディーゼルも乗り込むうちに音や振動はあまり気にならなくなりますが、いざ乗り比べればガソリンハイブリッドの圧倒的な静粛性が際立ちます。加えて電動スーパーチャージャーを追加しているB6はパワーもトルクの厚みも充分で、踏み込めばハッキリと速い。その気になればこの大柄で重たいボディを実に機敏に走らせます。

燃費とランニングコストはディーゼルに軍配が上がりますが、この価格帯のプレミアムカーを購入する層はそこまで目くじらを立てないだろうとも思われ、むしろワインディングをがんがん走った今回の試乗でも11km/Lを余裕で上回る燃費をたたき出すのだから経済性だって合格点。これはガソリンハイブリッド、ありだなぁと思った次第です。ボルボを検討中の皆さん、ディーゼルの不在を嘆く必要はなさそうですよ!(尾島信一)

 

撮影/神村 聖

 

2021年、ダイヤ改正や車両情報以外で楽しみな「鉄道関連のトピックス」3ネタ

2020年は、毎日の通勤・通学や旅行など、“人の移動”に関する意識が大きく変わった1年となった。今回は、時代の変化に合わせた移動に関する新トレンドを3つ紹介する。

 

【その1】利用可能エリアが一挙に拡大する「伊豆MaaS」

MaaSとはMobility as a Serviceの略で、IoTにより様々な交通手段を1つのサービスとしてまとめ、ユーザーがシームレスに利用できることを目的としたもの。

 

伊豆半島をスマホひとつで周遊可能にすることを目指して実証実験を重ねてきた「Izuko」は、現在3度目の実証実験を実施中。従来よりも実施エリアがより広がり、利用可能な観光施設も格段に増加。体験型のアトラクションも加わり、1泊2日の伊豆旅行を想定した、充実したプログラムが用意されている。

↑利用可能エリアはこれまで東伊豆・中伊豆のみだったが、Phase3ではほぼ伊豆全域に拡大。駿河湾フェリーも片道1回利用できるデジタルフリーパスも登場。西伊豆の夕日や富士山の眺望が楽しめる

 

東急×JR東日本×伊豆急 Izuko 500円~3800円(デジタルフリーパスの価格)

 

具体的には、伊豆半島のほぼ全域に加えて駿河湾フェリーや静岡市内の一部鉄道・バスもカバー。利用できる観光商品の数は、Phase2の約6倍の125種類に増加した。2021年3月31日まで実施中だ。

 

↑下田の漁港を見学したあと金目鯛料理を味わえるなどの、Izukoオリジナル体験メニューも用意。メニュー数は35にも及ぶ

 

↑新清水-新静岡を結ぶ静岡鉄道も片道1回利用できるパスを用意。富士山静岡空港〜静岡/新静岡間を走るバスも利用できるチケットも

 

折しも働き方の多様化で、伊豆エリアでのワーケーション・テレワークの需要も増えているという。ワーケーション施設と連携して人口の増加にも取り組むなど、地域活性化にも繋げるという、MaaSの目的に寄与することも期待される。

 

【ネクストヒットの理由】

シームレスに交通機関を利用したり観光地を巡ったりすることを目指すMaaSは、より便利に使うために用意されたコンテンツの数が飛躍的に増加。スマホひとつで利用できる施設が増えただけでなく、Izukoオリジナルのメニューも用意されるなど魅力も満載だ。

 

【コチラも注目】東北6県でもMaaSが展開される!

JR東日本が2020年4月から9月まで実証実験を行った「TOHOKUMaaS」。以前の実証実験では仙台エリアが中心だったが、今回は東北6県に拡大。各エリアに合ったデジタルパスなどが販売された。

 

【その2】働き方の変化で定期券よりもおトクな「時差回数券」

満員電車での密集を避けるために、鉄道会社は時差出勤を推奨。またテレワークの普及で働き方も変化し、通勤には定期券という常識が変わることになる。

 

多くの大手私鉄会社が発売する時差回数券は、利用可能時間の多くが平日午前10時~午後4時、または土・休日に設定されており、価格は普通運賃の10枚分で12枚発行されおトクに。土・休日のみ利用可能な土休日回数券は14枚発行される。

↑西部鉄道の時差回数券

 

定期券の割引率は各社で異なるため日数は異なるが、試算では月21日の出社でも時差回数券を活用することで通勤定期券よりもおトクという結果に。回数券は3か月有効が多いので、テレワーク中の出社にも便利に使える。ただし、定期券のように自由に乗り降りできないので注意したい。

↑西武鉄道 池袋~所沢間(大人普通運賃350円)を月21日乗車した場合(出社時は時差回数券 、帰宅時は普通回数券を使用した場合として試算)

 

【ネクストヒットの理由】

働き方改革の波がここにも。時差出勤やテレワークなどの推奨で、これまで時差回数券の存在を知らなかった人の間でも注目が集まる。

 

【その3】懐かしい名車たちに出会える「ロマンスカーミュージアム」

鉄道会社が博物館をオープンするケースが増えている。2021年の注目は小田急電鉄のロマンスカーミュージアム。名車がズラリと並ぶ光景は必見だ。

 

小田急初の常設展示施設

小田急電鉄

ロマンスカーミュージアム

2021年4月中旬オープン予定

小田急電鉄初となる屋内常設展示施設で、海老名駅近くで開発が進む「ViNA GARDENS」に隣接。ロマンスカーの愛称で親しまれている特急車両5形式を展示。小田急沿線をイメージした国内最大級のジオラマも必見だ。

↑1980年にデビューした7000形・LSEの実際の運転台を使用した運転シミュレーター。映像も2階運転席からのものだ

 

【ネクストヒットの理由】

私鉄特急電車でも人気の高いロマンスカーがズラリと並ぶ光景は圧巻。鉄道ファンはもちろん、親子でも存分に楽しめる人気スポットに。

【フォトギャラリー(画像をタップするとご覧いただけます)】

2021年はCAFE方式で生き残る、国産「ネオ・スポーツカー」に注目【3選】

エンジン車への規制が強まるなか、各社の威信を賭けたスポーツカーが生まれている。燃費規制という環境対応を見据えつつ開発されるのが、ネオ・スポーツカーだ。

※こちらは「GetNavi」 2021年2月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

環境に配慮した「ネオ・スポーツカー」

世界各国でエンジンを搭載したクルマへの規制が強まっている。アメリカや欧州で始まった「CAFE」という燃費規制が、日本でも2020年の燃費基準から導入されている。

 

CAFEとは自動車の燃費規制で、車種別ではなくメーカー全体で出荷台数を加味した平均燃費を算出し、規制をかける方式。ある車種では燃費基準を達成できなくても、そのほかの車種の燃費を向上させることでカバーできるというものだ。

 

燃費基準を大きく上回るEVやPHVなどを開発してCAFEの規制値をメーカー全体の出荷台数でクリアすれば良いので、規制値までの余剰分で走りやスタイルを楽しめる新たなスポーツカーが登場する。それが「ネオ・スポーツカー」である。

 

EVやハイブリッド、スタイルではSUVが全盛だが、2021年は注目モデルが続々登場する。メーカーが環境への対応を視野に入れるなかで登場する次世代のスポーツカーが与えてくれる夢に、期待せずにはいられない。

 

【その1】伝統のデザインを継承しパワフルな走りも健在

日産

フェアレディZ

価格・発売日未定

長いノーズと切り立つテールエンドは歴代フェアレディZのデザインそのもの。ヘッドライトは2代目の240ZGに用いられたドーム型レンズを再現するなど、レトロモダンなテイストだ。3.0L V6エンジンのパワーに期待したい。

↑ヘッドライトのティアドロップ形状は初代S30型を、LEDライトの2つの半円のデザインは、2代目240ZGをイメージしている

 

【ちなみに日産のエコカーの代表選手】

リーフ

332万6400円~499万8400円

初代モデルが登場してから10年を迎えた今年、累計販売台数が50万台を突破。2017年には62kWhバッテリーを搭載して航続距離を大きく伸ばしたリーフe+も登場している。

 

【その2】水平対向エンジンを継承し意のままに操れるFRマシン

スバル

BRZ

価格・発売日未定

力強い加速とフィーリングの良さを両立した、2.4L水平対向エンジンを搭載。新プラットフォームを基に生まれたボディは剛性が増し、ステアリング操作への応答性を高めている。アイサイトも初搭載となる。

↑高いホールド性とフィット感をもたらすスポーツシートを採用。疲れにくく、クルマの挙動を正確にドライバーへ伝えてくれる

 

【ちなみにスバルのエコカーの代表選手】

インプレッサ スポーツ

200万2000円~278万3000円

水平対向エンジンと電動技術を組み合わせたパワーユニット「e-BOXER」搭載モデルをグレード設定。スムーズな加速を実現している。

 

【その3】マツダの新たな歴史はこのモデルが作り出す

マツダ

RX-9

価格・発売日未定

2017年の東京モーターショーで世界初公開となったVISIONCOUPE。そのスタイルの流麗さに多くの人が魅了された。RX-9という名称が有力だが、100周年を迎えたマツダの新たな歴史を作る1台として期待したい。

↑インテリアも外観と同様にシンプルかつ流麗なデザイン。多くの人を魅了し、欧州では最も美しいコンセプトカーに選出されたほど

 

【ちなみにマツダのエコカーの代表選手】

マツダ3

222万1389円~368万8463円

ガソリンをディーゼルエンジンのように圧着点火させる「SKYACTIV-X」と、クリーンディーゼルエンジンモデルがラインナップ。環境性能に優れた1台だ。

 

【フォトギャラリー(画像をタップするとご覧いただけます)】

2021年は改めて「EV」に注目したい。なぜなら、EVの弱点がだいぶ改善されてきたから。

航続距離が大幅にアップしたモデルが多く登場し、購入時に受けられる補助金制度も充実。2021年は改めてEVを見直す機会となりそうだ。おさえておきたいトピックを3つほど挙げて解説していこう。

 

【解説してくれた人】

 

カーITジャーナリスト・会田 肇さん

自動車雑誌編集職を経てフリーに。カーナビやドラレコのほか、自動運転やMaaSなど次世代モビリティにも詳しい。

 

【その1】航続可能距離 超アップ

EVで不可欠なのがバッテリーへの充電。だが航続距離が600㎞を超えるモデルも登場予定で、長距離ドライブでは必須だった“充電のための休憩”が不要になる。

 

新型EV「アリア」なら東京〜大阪間も無給電走行

世界中で進む電動化の波は、一気にEV普及を後押ししそうだ。これまでEVは走行中の環境負荷が低いとされる一方で、航続距離が課題となってファーストカーには使いにくいという一面を持っていた。その課題が航続可能距離の延長で解決される見込みとなってきたのだ。

 

なかでも注目なのが2021年夏に日産が発売するEVアリアで、航続可能距離はなんと最大で610㎞! 東京〜大阪間を途中の充電なしで走行可能としている。いままでEVの航続距離の短さゆえにPHEVにするか迷っていた人も、アリアの登場で踏ん切りがつくはずだ。

日産 アリア 実売予想価格(実質)500万円強〜。2021年夏デビュー予定。搭載されるバッテリーは65kWhと90kWhの2タイプが用意される

 

また、海外メーカーのEVも続々とデビューしているが、大容量駆動用バッテリーの搭載などで航続可能距離が増加。アウディのeトロン スポーツバックやメルセデス・ベンツのEQCはいずれも400㎞以上の航続距離を誇る。

 

それでも万が一の“電欠”に不安を抱く人もいると思うが、国内の充電スポットは急速/普通充電を合わせればいまや約3万基と、施設数だけを数えればガソリンスタンドと同等。アリアの航続距離をもってすれば、EVで長距離ドライブする不安はもはや解消されたと言っても良いだろう。“充電のための休憩もドライブのうち”と言い訳をしていたが、2021年はそれも過去の話となるのだ。

 

【ネクストヒットの理由】ハイブリッドも含む現実的な対応を目指す日本の電動化

一気に動き出したクルマの電動化の背景には、2050年までに温室効果排出ガスをゼロにするという政府目標がある。日本はハイブリッド車も含み、欧州とは違って完全な“脱エンジン車”とはしない。EVと共に現実に即して柔軟に電動化するのが日本ならではの考え方だ。

 

【その2】補助金制度が充実

EVの普及を推し進めるべく、国や地方自治体からの補助金制度が充実。上手に活用すれば、EVは高いクルマという認識は払拭される。また、リースモデルも充実しつつあり、法人向けの選択肢も増えそうだ。

 

EVはエコカー減税と補助金で大きなメリットあり!

マイカーをEVにすると「次世代自動車」として、特に金額面で大きなメリットが与えられる。それは補助金とエコカー減税だ。購入時には補助金が国や自治体から支給(原則4年間は売却できない縛りあり)。またエコカー減税は自動車税と重量税、環境性能割に適用されるほか、重量税に限っては初回車検時も免税となる。さらに電気を使うことで、53.8円/Lのガソリン税を支払うこともない。これは長い距離を走るほどメリットに繋がるはずだ。

 

企業などではリースを活用するという手法も!

昨今注目されているSDGsなど企業の社会的責任(CSR)のひとつとして、環境問題への取り組みが重要視されている。EVの導入に際しそのコストの負担軽減を図るべく、リース契約での利用が注目を集めている。

マツダ MX-30 価格未定。2021年1月にデビュー予定。マツダ初のピュアEVとして期待される。航続距離は約200㎞と、法人向けEVとしては適したモデルだ。当初はリースのみとされていたが、販売も行うと発表された

 

【日産 リーフ Sの場合の補助金例/車両本体価格:332万6400円】

■国からの補助金「42万円

「クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金」として補助を受けることが可能。車種によりその金額は異なるが、リーフの現行モデルなら最高額の42万円を支給。

■自治体からの補助金(都道府県など)「30万円

EVなどの次世代環境対応車の普及を積極的に推し進める東京都の場合、最大で30万円を補助。その額は都道府県で異なるので調べてみるのが良い。

■自治体からの補助金(市区町村など)「10万円

都道府県とは別に市区町村で独自に補助金制度を設けている場合もある。東京都江東区や足立区の場合、最高で10万円の補助を受けられる。

【最大82万円補助で、実質車両本体価格250万6400円に】

 

【ネクストヒットの理由】
再生可能エネルギーで充電すれば補助金が倍増!

2050年までの温室効果排出ガス排出ゼロを目指す政府が、EVの一層の普及を目指しその補助金を倍増する方針を固めた。太陽光発電など再生可能エネルギーによるEVへの充電が条件となるが、普及の加速が期待できる施策だ。

 

 

【その3】進化する充電インフラ

EVの普及には欠かせない充電設備。まずは充電のスピードアップ、そして普及への最大のネックと言える集合住宅への充電設備の設置が普及のカギを握る。

 

普及してきたいまこそ充電設備の進化と拡大が必要

EV普及のカギは、航続距離と補助金制度の充実に加え、充電設備の充実にある。EVが増えたいま、高速道路の充電スポットでは“充電待ち”の車列ができることも。そこで期待されるのが、より短時間で充電可能な充電器の普及だ。最近は日本国内で最大の100kwの出力を持つ充電器も登場。充電時間の短縮化が期待される。

デルタ電子 EV/PHEV用 高出力100kW DC充電器 オープン価格。

 

都市部では6割を超える集合住宅での充電設備の設置普及が模索されるなか、充電設備の完備をウリにする新築マンションも増加。既設マンションへの設置を推進するサービスも増加している。

↑ユピ電装 マンションでおウチ充電。集合住宅への充電設備の設置をサポートするサービスを展開中。コネクティッドサービスに対応するEVのユーザーは、充電に要した電気代相当を自動的に記録し支払いを行うシステムだ

 

【ネクストヒットの理由】
充電設備の機能向上と拡大が一層のEV普及を後押しする

EVの充電スポットは2020年8月現在日本全国で約3万100基で、これからも当然増加予定。長距離ドライブ時にはより早く充電可能な充電器の普及と、居住形態に左右されない充電設備の拡充が、EVの普及を一層後押しする。

 

【コレがトレンドの兆し!】
既設の集合住宅での充電器設置も拡大していく

設置費用の負担や運用管理など、集合住宅への充電設備設置のネックを解消するサービスが開始されている。管理組合の承諾や住民の総意が必要で、既設住宅では困難な充電設備の設置が進む契機として期待される。

 

 

 

 

ランドローバーの「新しいディフェンダー」はいいのか? 微妙なのか? その価値を細部から分析

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をするクルマ連載。今回は、英国の伝統的ブランド「ランドローバー」が、1948年以来70年以上も販売してきた、ディフェンダーの新型をチェック!

 

【関連記事】

永福ランプこと清水草一さんの連載記事はコチラ

 

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。2018年以降、ペンネームを「MJブロンディ」から「永福ランプ」へ変更している。

 

安ド

元ゲットナビ編集部員で、現在ではフリーエディター。永福ランプを慕い「殿」と呼んでいる。

 

【今月のクルマ】ランドローバー/ディフェンダー

SPEC【110 SE】●全長×全幅×全高:4945×1995×1970mm●車両重量:2240kg●パワーユニット:2.0L直列4気筒+ターボ●最高出力:300PS(221kW)/5500rpm●最大トルク:400Nm/2000rpm●WLTCモード燃費:8.3km/L

529万円~1124万円

 

【ランドローバー「ディフェンダー」を写真で先見せ(画像をタップすると拡大画像が表示されます)】

 

安ド「殿! ディフェンダーと言えば、キング・オブ・オフローダーですね!」

永福「そうなのか?」

安ド「レンジローバーは砂漠のロールスロイスですけど、オフロードでの走破性なら、ディフェンダーがキングじゃないでしょうか!」

永福「真のキングはランドクルーザーではないか」

安ド「ランドクルーザーの愛称はランクルで、キング・オブ・オフローダーはディフェンダーです!」

永福「そうなのか」

安ド「そのディフェンダーが72年ぶりにフルモデルチェンジしました!」

永福「うむ」

安ド「先代もカッコ良かったですけど、新型も猛烈にカッコ良いですね!」

永福「それは違うだろう」

安ド「違いますか?」

永福「お前は、旧国鉄の旧型車両、たとえばキハ40形を見てカッコ良いと思うか」

安ド「キハ……何ですか?」

永福「あまりにも古臭いがゆえに情緒満点ではあるが、あれをカッコ良いというのは正確には違うはず。新型ディフェンダーは、そのあまりにも古臭くて情緒満点の旧型デザインモチーフを取り入れている。それは、シブいとかステキとかセンスが良いとは言えるが、カッコ良いというのはちょっと違う」

安ド「シブくてステキでカッコ良いです!」

永福「そうか。それにしてもデカいな」

安ド「デカいですか?」

永福「グレードによっては全幅2008mm。全長も5mを超えている。すさまじいデカさだ」

安ド「僕はふだんパジェロに乗っているので、デカさは気になりませんでした」

永福「確かに、走っているときはそれほど大きく感じない。ボディは真四角だし見切りもいい。しかし、駐車の時は大変だ。左右幅が駐車枠パンパンになってしまうし、デカすぎてコインパーキングに停められない」

安ド「停められませんか?」

永福「ほとんどのコインパーキングは、全幅1.9m、全長5mまでなのだ。一応、規約上は」

安ド「実際にはそれよりデカいのも停まってますよね?」

永福「まあな」

安ド「それより僕は、サイドステップがないのが気になりました。しかも前席のピラーに取っ手もない。乗り降りに苦労します」

永福「高齢者はまず乗り降り不可能だな」

安ド「殿は新型ディフェンダーに否定的なんですか?」

永福「いや、スバラシイ!」

安ド「具体的にはどこが」

永福「ソフトに威張りが効いて、ちょいレトロでステキなデザインで、乗り心地が良くて、走りも十分。しかもそのわりに値段が驚くほど安い!」

安ド「最後で一気に来ましたね!」

 

【注目ポイントその1/グラブバーハンドル】悪路での安心感を高める助手席前の“つかむところ”

ダッシュボードには、助手席の人がつかむことができるバー状のデザインが施されています。なぜかといえば、オフロード走行中に車体が揺れるから。絶対必要かどうかはともかく、つかんでいるだけで安心感が増してきます。

 

【注目ポイントその2/ラゲッジルーム】荷室は広くフラットで機能性は抜かりなし

オフロード走行やアウトドア愛好家御用達のモデルだけに、荷室はかなり広く、汚れが付きにくい表面素材が採用されています。さらに、後席は座面を跳ね上げて前方へ倒せる構造で、荷室のフラット化に貢献します。

 

【注目ポイントその3/ボンネット】お茶を濁すような謎の凸凹模様

旧型のデザインを受け継いでいる部分は散見されますが、凹凸ボンネットは流石に再現が難しかったようです。代わりに……なのかわかりませんが、このようなアウトドア感あふれる模様のカザリ板が付いていました。意味はないと思います。

 

【注目ポイントその4/ボルト】オフローダーっぽい内装の剥き出しデザイン

インテリアデザインは、あえてボルトを剥き出しにするなど、いい意味でゴツくて荒々しい雰囲気にまとめられていて、いかにもオフローダーらしいイメージ。もちろん、素材感や角が取れた感じなど、全体的にはモダンなんですけどね。

 

【注目ポイントその5/エアサスペンション】ボタン操作だけで高くも低くもできる

岩場や凹凸路などを走破するため、ボタン操作で自在に車高が変えられるエアサスペンションが搭載されています。なお、舗装路を走っているとびっくりするほど乗り心地が良くて、他のオフロードSUVより快適性が高いです。

 

【注目ポイントその6/3Dサラウンドカメラ】ありえないはずの角度から車体を見ることができる

車庫入れ中、センターディスプレイには3D映像が! 車体各部に取り付けらたカメラから得られた画像をその場で合成して、車両斜め上の角度からの映像を映し出してくれます。なお、車体下の映像を映し出すこともできます。

 

【注目ポイントその7/アルパインウィンドウ】後席の斜め上に設置された明かりとり

後席から天井を見上げると、ポッカリとお空を見られる小窓が設置されています。これは「アルパインウィンドウ」と呼ばれるディフェンダーならではの装備で、やはり旧型から受け継いだもの。車内が明るい雰囲気になりますね。

 

【注目ポイントその8/リアライト】後方に見られる素朴なライト

オフローダーの間ではカリスマ的な存在だった旧型ディフェンダーですが、日本ではあまりその姿が知られていません。リアライトがポコポコと置かれている感じは、旧型をモチーフとしたニューデザインです。旧型では愛らしい小さな丸型でしたが。

 

【注目ポイントその9/エンジン】気になるエンジンラインナップ

日本導入当初は、この2.0L直列4気筒ガソリンターボエンジンのみでしたが、2020年11月に3.0L直列6気筒ディーゼルエンジンが追加設定されました。この2.0Lガソリンでも十分走るのですが、カーマニアとしてはディーゼルが気になります!

 

【これぞ感動の細部だ!/リアの直角デザイン】唯一無二のデザインをオリジナルから受け継ぐ

見てくださいこの絶壁! まるでエベレストかベン・ネビス山かというくらいの直角デザインです。これも旧型から受け継いだデザインモチーフですが、現在流行中のクロスオーバーSUVではこのような形状は見られません。唯一、メルセデスのGクラスは平らに近いですが、それでも若干前方に傾いています。タイヤを背負っているモデルも少数派になりました。

 

撮影/我妻慶一

さあ新しい年! 2021年の「鉄道」注目の10テーマを追う【後編】

〜〜2021年 鉄道のさまざまな話題を網羅〜〜

 

新しい年の訪れで期待が高まる2021年の鉄道。新特急や新型車両が登場する一方で、今年もコロナ禍は鉄道に大きな影響を与え続けそうだ。気になる新特急、新車情報、そして注目される鉄道の話題を追ってみよう。

 

【前編はコチラ

 

【注目! 2021年⑥】長く走り続けてきた国鉄形車両もいよいよ

この春、東日本の鉄道ファンにとっては、ちょっと寂しいシーズンとなるかも知れない。最近はファンが殺到することを恐れて、さよなら運転をせずに静かに消えていく例が増えてきている。さよなら運転どころか鉄道会社からは運転終了日が発表されなくなってきつつある。予想するしかないが、2021年に消えていきそうな車両をここで取り上げておこう。

 

◆JR東日本185系

2020年の特急「スーパ―ビュー踊り子」251系に続き、東海道線から長年親しまれてきた特急形電車が消えていきそうな気配だ。185系である。すでに特急「踊り子」は185系からE257系への置き換えが発表されている。ダイヤ改正の前にはまだ首都圏から伊豆急下田駅への列車の一部と、伊豆箱根鉄道の修善寺駅へ向かう全列車が185系で運行されている。この列車がすべて撤退となる。さらに「湘南ライナー」などのライナーすべてが特急「湘南」になることで、こちらもE257系への切り替えが行われる。

↑相模灘を間近に眺め走る特急「踊り子」185系。東京駅〜熱海駅間では最大15両という長い編成がこの春まで見ることができる

 

185系は1981(昭和56)年に走り始めた。国鉄の最晩年に登場した特急形電車で、東海道線の特急として、また高崎線・上越線を走る「あかぎ」「草津」などの特急として長年、走り続けてきた。万能タイプの電車ということもあり、他線の臨時特急や快速列車としても利用されてきた。

 

2021年でちょうど登場から40年間を迎える。ダイヤ改正後にどのぐらいの車両数が減るか、気になるところ。185系特有の甲高いモーター音が、日常に聞けなくなると思うとちょっと寂しい。ちなみに国鉄形特急電車は、185系がこのまま消えることになれば、JR西日本の特急「やくも」381系を残すのみとなる。

 

◆JR東日本215系

215系はJRが発足して早々の1992(平成4)年に誕生した電車で10両×4編成が造られた。東海道線を走る「湘南ライナー」など着席サービス用の電車として開発、より多くの人が座れるようにと両先頭車を除く8両が2階建て仕様という珍しい構造となっている。

 

「湘南ライナー」などの「ライナー」のほか、一時期は東海道線の快速「アクティー」にも利用されたが、乗降用扉が各車両の前後に2つしかなく、乗り降りに時間がかかり遅延が発生しやすいことから2000年代にはいって、すぐに「アクティー」での運用を取りやめている。「ライナー」以外には中央線を走る「ホリデー快速ビューやまなし」などの運用に使われたが、稼働率が低いちょっと“残念”な電車となりつつあった。

↑「ホリデー快速ビューやまなし」として中央線を走る215系。211系の2階建てグリーン車を元に設計された

 

春のダイヤ改正で「湘南ライナー」が消滅してしまう。215系の定期運用の場がなくなるわけだ。あとは臨時列車としての活路を見いだすかどうかだが、すでに車歴が30年になることもあり、このまま引退となる公算が強そうだ。

 

◆JR東日本E4系

JR東日本の新幹線網では、E1系(2012年10月28日に引退)、そしてE4系と、2階建て新幹線が造られ活かされてきた。2階建てにしたのは定員数を増やすための工夫で、E4系8両×2編成が連結して走る列車は、高速列車では世界一の定員数1634人が乗車できる列車として話題にもなった。

 

定員数を増やせた利点はあったものの、最高時速が240kmと、他の新幹線車両に比べ劣ることから、路線全体のスピードアップができないことが課題となっていた。現在、走る上越新幹線のスピードアップを図るためE4系は2020年度末までに引退予定だった。しかし。

↑東北新幹線も走ったE4系だが、スピードアップ化の流れの中でつらい立場に。やや延命したが秋には最後の運転ということになりそうだ

 

令和元年東日本台風による千曲川の氾濫で長野新幹線車両センターに留置されていたE7系、W7系の10本(計120両)が水没、廃車せざるをえなくなる。このことにより、E4系はやや延命することになった。とはいえ、この春には上越新幹線用にE7系を追加で投入される。この投入でE4系が使われていた列車の計12本が置き換えられる。また秋にはE7系のさらなる増備が予定されている。

 

残ったE4系の中には延命のため新たに全般検査を受けた車両もあるが、秋に行われるE7系の増備で、延びたE4系の寿命も2021年いっぱいということになりそうだ。

 

◆JR東日本キハ40系

JR東日本では非電化区間用にGV-E400系電気式気動車、もしくはEV-E801系蓄電池電車を開発し、積極的に増備を続けている。そんな流れを受けて、国鉄時代に生まれた気動車が次々に消えていっている。

↑五能線を走るキハ40系。すでに2020年12月から五能線をGV-E400系が走り始めている。春には全列車が置き換えられる予定だ

 

キハ40系はJR東日本の非電化区間用に最後まで残った国鉄形気動車である。この数年、JR東日本のキハ40系の淘汰が著しい。2020年のダイヤ改正からその後にかけて、磐越西線、只見線、羽越本線のキハ40系がGV-E400系や、キハ110系、キハE120系に置き換わった。

 

そして2021年の春は、五能線、男鹿線のキハ40系が消えていく。残りは奥羽本線内と、津軽線の一部のみとなりそうだ。この両線も運用は少なく、長年親しまれたキハ40系は、近いうちに消えていきそうな気配だ。

 

JR東日本で残るキハ40系は、「びゅうコースター風っこ」や「越乃Shu*Kura」といった観光列車用に改造された編成のみとなる。

 

【注目! 2021年⑦】阿佐海岸鉄道にDMVが走り始める

さて2021年、これからの地方の公共交通機関が生き残るための一つの方策となりそうな新たな“鉄道”が走り始める。四国の東南、徳島県と高知県の間を走る阿佐海岸鉄道に、DMV(デュアル・モード・ビークル)が投入される。

↑2019年秋に公開された阿佐海岸鉄道のDMV。地方の鉄道の生き残り策として注目されている。左上は鉄輪を出したところ

 

DMVは元々、JR北海道が閑散路線用に開発を進めていた車両で、マイクロバスをベースに収納式の鉄輪をつける。線路を走る時は鉄輪を出して走行、道路に降りる時は鉄輪を収納して、バスとして走る。車両費用も鉄道に比べて割安で済み、乗車率が低い鉄道路線には最適な運行スタイルだ。また駅から道路に降りれば、目的地までバスとして運行ができる。

 

阿佐海岸鉄道では2019年秋に車両を導入すると共に、DMVに対応できるように路線の変更工事も進めていた。2020年8月にはJR牟岐線の阿波海南駅〜海部駅間を阿佐海岸鉄道の路線に編入する認可申請を四国運輸局に提出。2020年12月初頭からは阿佐海岸鉄道の列車の運行を休止、バスの代行輸送を開始し、導入のための最後の工事を進めている。

 

DMVの運行開始は当初、2021年3月の予定だったが、やや予定が延び、夏ごろには阿波海南駅〜甲浦駅(かんのうらえき)のDMVの運転を開始する。DMVは、北は阿波海南文化村(徳島県海陽町)を起点に、鉄道路線を通って、南は海の駅東洋町(高知県東洋町)、さらにすぐ近くの県境を越えて道の駅宍喰温泉(徳島県海陽町)までバスとして走るとされている。

 

新しい可能性を秘めた鉄道輸送システム。どのように羽ばたいていくのか注目したい。

 

【関連記事】
世界初の線路を走るバス・DMV導入へ!「阿佐海岸鉄道」の新車両と取り巻く現状に迫った

 

【注目! 2021年⑧】自然災害を乗り越え復旧される鉄道路線

前回の2020年「ゆく年」の原稿では、自然災害に脅かされる鉄道路線の現状を追った。もはや全国の鉄道路線が、自然災害の影響から逃れることが容易でないことは、ここ数年の結果を見ても良く分かる。そうした中、2021年中に復旧される路線を見ておこう。

 

◆上田電鉄別所線(上田駅〜城下駅間が3月28日に復旧予定)

2019年10月13日、その後に令和元年東日本台風と名付けられた自然災害により、千曲川が増水。上田電鉄の千曲川橋りょうの一部が崩落してしまった。翌月の16日に城下駅(しろしたえき)〜別所温泉駅間の運転が再開したものの、上田駅と城下駅の間は、1年以上にわたり代行バスによる輸送が続いている。

↑千曲川の氾濫により橋の一部が壊されてしまった(2019年11月23日撮影)、左下は護岸工事が進む2020年9月27日の状況

 

国と県の復旧費に加えて地元上田市が全面復旧をサポート、さらに寄付金、ふるさと納税などの支援が集まり、復旧工事が進められている。そして目標としていた2021年3月28日に全線の運行再開が適いそうになっている。予定通り進めば1年5カ月ぶりに全線の運転が再開されることになる。

 

◆JR東日本水郡線(袋田駅〜常陸大子駅間が3月27日に復旧予定)

茨城県の水戸駅と福島県の安積永盛駅(あさかながもりえき)を結ぶJR東日本の水郡線(すいぐんせん)。風光明媚な山あいを走る。茨城県内は久慈川に沿って走る。この久慈川が令和元年東日本台風で氾濫し、沿線に大きな被害をもたらした。水郡線も第六久慈川橋りょうが落橋するなどで、10月13日から列車が不通となった。一部区間は11月までに運行再開したものの、西金駅(さいがねえき)〜常陸大子駅間が不通区間として残っていた。

 

不通していた区間の西金駅〜袋田駅間がまず2020年の7月4日に運転再開。残るは袋田駅〜常陸大子駅間のみとなっている。駅間3.8kmの一駅区間なのだが橋りょうの修復に時間がかかり同区間のみ不通が続いている。この区間の復旧は当初には2021年の夏ごろとしていたが、工事完了の予定が早まり3月27日に運転再開されることが発表された。筆者も運転再開されたら、ぜひ乗りに行きたいと考えている。

 

【注目! 2021年⑨】日高本線の一部区間がいよいよ路線廃止に

災害の痛手を乗り越え、復旧を果たす路線がある一方で、復旧できずに廃止が正式に決まった路線も現れている。残念ながら2021年に正式に廃止となる路線を取り上げておきたい。

 

◆JR北海道日高本線(鵡川駅〜様似駅間2021年4月1日廃止)

北海道の苫小牧駅と様似駅間の146.5kmを走った日高本線。本線と名が付くものの、ローカル色が強い路線だった。2015年1月8日、猛烈に発達した低気圧による高波で厚賀駅〜大狩部駅間の土砂が流失してしまう。この被害により鵡川駅(むかわえき)〜様似駅間116kmが不通となってしまった。悪いことは重なり、2015年9月、2016年に発生した台風により、2年続きで徐々に被害箇所が広まってしまうことになった。

↑厚真川を日高本線塗装のキハ40系優駿浪漫が渡る。同橋りょうも北海道胆振東部地震の被害を受けたが、廃止区間には含まれていない

 

その後、JR北海道と地元沿線7町の協議会の場がたびたび設けられ、復旧費用とその負担の割合などが話しあわれてきた。鵡川駅から先の被害が無い区間の運転再開を求める声があがったものの、折り返し運行のための設備費用の負担などの課題が残り、話し合いは長年にわたりまとまることがなかった。

 

その間にもJR北海道は経営状況が年々、悪化の一途をたどっていった。BRT(バス・ラピッド・トランジット)やDMVといった方式による代換案も出されたが、結局こちらの導入も断念された。そして2020年10月6日に沿線7町の臨時会議が開かれ、その場でJR北海道と沿線7町の間で、2021年4月1日に廃止し、同日から代替バスが運行開始することが正式に決まったのだった。

 

1度の被害ならば、まだ再開の見込みもあったろう。しかし、その後にもたびたび自然災害に襲われ、被害はそのつど広まっていった。何とも残念な結果となってしまったわけである。

 

【注目! 2021年⑩】秋田臨海鉄道がこの春に事業終了に

一般の人たちにはあまり知られていないものの、全国各地の臨海部などには臨海鉄道、または貨物専用鉄道が敷かれている。臨海鉄道や貨物専用線は貨物輸送量が確保されている時には、手堅い輸送業ということが言えるだろう。ところが、大口の荷主が荷物輸送を止めてしまったら、たちまち苦境に陥る。

 

秋田港の臨海部に路線を持つ秋田臨海鉄道。1970(昭和45)年4月21日に会社が設立された。奥羽本線の土崎駅からはJR貨物秋田港線が秋田港駅へ延びている。この秋田港駅から先、秋田臨海鉄道の北線と南線が設けられていた(北線はその後に休線に)。また秋田港駅の構内入換え作業、さらにJR貨物のコンテナ検修業務の委託を受けるなど、順調な経営を続けてきた。ところが。

↑旧雄物川を渡る光景が名物となっていた秋田臨海鉄道。残念ながら今後はこうした光景も見ることができなくなりそうだ

 

2020年6月に残念な発表があった。2021年3月いっぱいで事業を終了させるというのである。理由は南線で続けられてきた日本製紙秋田工場の紙製品の貨物輸送が終了となるためだった。同線の輸送の大半は、同工場の紙製品の輸送に頼っていたのである。

 

全国で紙の輸送は鉄道貨物輸送の中では大きな割合を占めている。ところが、時代はペーパーレス社会となってきた。紙製品の輸送は今後も減っていくことは間違い無い。こうした輸送に頼ってきた秋田臨海鉄道は、つらい状況に陥ることになった。秋田臨海鉄道の事業終了で、日本海側の臨海鉄道線は、すべて消えることとなった。残りは太平洋側の臨海鉄道線のみとなる。

 

【関連記事】
来春廃止の路線も!「臨海鉄道」の貨物輸送と機関車に注目〈東北・北関東版〉

 

新モデル続々登場! 価格帯別「スポーツeバイク」“買い”3選

今冬の家電市場では、例年以上に魅力的な新製品が続々と登場している。ここでは、なかでも注目を集めるジャンルを取り上げて、価格帯別にトレンドと“買い”のポイントを解説。さらに、各価格帯でプロが認めたイチオシのアイテムも紹介していく。今回取り上げるのは、スポーツeバイク。趣味性の高さと気軽に楽しめる走行性能で人気沸騰中のスポーツeバイクは、多くのメーカーから新モデルが続々と登場。楽しさと快適性、エコロジーを融合した新ジャンルの乗り物を手に入れない理由はない!

※こちらは「GetNavi」 2021年1月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

スポーツeバイク、“買い”のポイント

・本格的なロードバイクを手掛けるメーカーのモデルが続々と登場

・デザイン性を重視したフレーム内蔵バッテリーモデルも狙い目

・十分なバッテリー容量で遠距離ツーリングも快適に楽しめる!

 

私たちが解説します!

GetNavi編集部 乗り物担当

上岡 篤

これまで数多くのe-bikeを紹介するにつれ、どうしても欲しくなり最近購入。坂道もスイスイで行動範囲が広がった。

自転車ライター

並木政孝さん

乗り物好きで自転車にも精通するフリーライター。週末はロードバイクやMTBで輪行するが自慢の貧脚は一向に進化せず。

 

どのモデルも性能は高レベル、デザイン重視で選ぶのも◎

環境に優しく健康にも良いパーソナル・モビリティビークルとして注目を集めているeバイク。

 

「最近は、クロスバイクのスタイルを持つスポーツモデルがトレンドの中心。各メーカーがデザインや性能を競い合い、驚くべき速さで進化しています」(並木)

 

価格帯も幅広いが、どんな点に注目して選べば良いだろうか。

 

「ドライブユニットやバッテリーの性能はすでに高いレベルにあるので、デザインを重視してみるのもポイントのひとつ。バッテリーを内蔵したモデルやダウンチューブにバッテリーを装着するモデルなど、スポーツバイクらしいデザインが増えています。そこそこ長く乗るモノですから、見た目も重視したいですね」(並木)

 

メーカーも試乗会などを積極的に開催している。足を運んで、スポーツeバイクの楽しさを肌で感じ、自分の相棒となる1台を選んでみることをオススメする。

 

【《松》クラス】予算額30万円以上

決してお手ごろな価格ではないが最新のテクノロジーを満載したモデルはガジェット好きの好奇心を満たしてくれるはず。先進の電動アシストでワンランク上の満足感を享受するべし!

 

【No.1】ダウンチューブに内蔵されたスマートなバッテリーが秀逸!

トレック

Powerfly 5

53万3500円

アメリカンブランドの雄、トレックのハイエンドe-MTB。コンパクトなボッシュ製ドライブシステムや、アルミフレームに内蔵された脱着式一体型バッテリーなど、最新のテクノロジーが満載だ。2021年モデルには待望のXSサイズを追加。

SPEC【M(29インチホイール)】●全長×全幅:1920×770mm ●適応身長:161〜175cm ●アシスト可能距離:ターボモード99km、EMTBモード124km、ツアーモード127km、エコモード175km

バッテリー容量 625Wh
最大アシスト距離 175km
変速 外装12段
重量 23.0kg

 

↑地形に合わせて変動する脚力に応じてアシスト量を制御する「EMTB」モードを搭載。急勾配や段差の乗り越えも安心だ

 

↑バッテリーの違和感をなくしたフレーム内蔵型を採用。力強さを与える太いダウンチューブを魅力に変えた秀逸デザインだ

 

<クロスレビュー!>

2.30という太めのタイヤで街乗りにも合いそうなMTB

「フロントにサスペンションを搭載した本格的なMTBですが、サイズM以上は2.30という太めのタイヤ。29インチのホイールと相まって乗り心地も良く、街乗りでも快適に乗れそうです」(上岡)

 

秘めた実力は想像を超えるお値段以上……トレック♪

「本格的なトレイルライドにも対応する実力派モデル。ダウンチューブに内蔵したバッテリーと75Nm(XSは85Nm)の最大トルクを発揮するBOSCH Performance Line CXが最大の魅力です」(並木)

 

【No.2】バッテリー切れの心配なくロングライドが楽しめる!

スペシャライズド

Turbo Vado SL 5.0

46万2000円

14.9kgという軽量さを武器に軽やかな走りを披露する人気モデル。また130kmの航続距離はロングライドを実現させ、ドリンクホルダーに収まるレンジエクステンダーを追加することで、さらに65kmの距離を伸ばすことができる。

SPEC【M】●全長×全幅×全高:1791×680×790mm ●適応身長:165〜175cm ●アシスト可能距離:エコモード約130km

バッテリー容量 320Wh
最大アシスト距離 約130km
変速 外装12段
重量 14.9kg

 

↑レンジエクステンションと呼ばれる予備バッテリーを搭載することで航続距離を伸ばすことができる。最長195kmのロングライドが可能だ

 

↑通常のMTBと同等の14.9kgという軽量さは大きな魅力。ステムに内蔵されたフロントサスペンション「Future Shock」も軽量化に貢献する

 

<クロスレビュー!>

14.9kgという軽さに驚き! 軽さが生む軽快さも魅力的

「スポーツeバイクながら約15kgという軽さに驚きで、持ち運びするのも苦になりません。何より車体の軽さがモーターのアシストを、効果的に高めてくれるので、軽快に走れます」(上岡)

 

スマホと連携させることでアシストレベルを自動調整

「スマホと連携したミッションコントロールを採用し、ルート設定に対して適切なアシストを自動調整してバッテリー残量を確保。故障時にはリモートで診断も受けられるのがスゴい!」(並木)

 

【No.3】最大ケイデンス値を向上させた最新のパワーユニットを搭載!

ジャイアント

FASTROAD E+

38万5000円

扱いやすいフラットバーハンドルを採用したロードモデル。軽量なアルミフレームに、ヤマハとの共同開発によるパワーユニット「シンクドライブ・スポーツ」をバージョンアップして搭載した。バッテリーをダウンチューブに内蔵することでスッキリとしたデザインを実現。

SPEC【M】●全長×全幅:1730×660mm ●適応身長:165〜180cm ●アシスト可能距離:スポーツモード89km、アクティブモード100km、ツアーモード137km、エコモード205km

バッテリー容量 13.8Ah
最大アシスト距離 205km
変速 外装10段
重量 19.4kg

 

↑ヤマハと共同開発したシンクドライブ・スポーツモーター。膨大なデータを検知するスピードセンサーを採用し、スムーズかつ緻密なアシストを実現

 

↑ステアリング剛性と軽量さを両立させたe-bike専用のアルミ製フロントフォークOVERDRIVE FORK。快適なライド感を支える要となる

 

<クロスレビュー!>

十分すぎるアシスト距離とキックスタンド標準装備は◎

「ECOモードで最長205km、標準的なTOURモードでも137kmという十分すぎるアシスト距離は魅力的。手軽に街なかで停めることができるキックスタンドが標準装備とはうれしい!」(上岡)

 

ハイケイデンスクライムに対応した新ユニットが魅力!

「最大出力は70Nmのままだが最大ケイデンス(※)値を110から140にバージョンアップしたパワーユニットを搭載。『弱虫ペダル』の小野田坂道クンばりのハイケイデンスクライムを楽しめます」(並木)

※:ケイデンスとは1分間あたりのペダルの回転数のことで、単位はrpm(回転数/分)。個人の漕ぎ方や道の傾斜によって理想のケイデンスは異なるので、自分がラクに漕げる回転数を見つけることが大切となる

 

【《竹》クラス】予算額20万円〜30万円

現実的な価格でありながらハイエンド機に迫る性能が大きな魅力。クロスバイクとして気軽にライドすることができ、アシストの力を借りてのサイクリングは行動範囲を大きく広げてくれる。

 

【No.1】信頼性に優れたシマノ製のドライブユニットを採用!

ミヤタサイクル

Cruise6180

29万5900円

36V/11.6Ahの大容量リチウムイオンバッテリーを採用し、エコモードで105kmのロングライドを実現。ドライブユニットには信頼性の高いシマノSTEPSのE6180を採用し、最大60Nm、250Wの高出力で快適なペダリングをサポートする。

SPEC【フレームサイズ49cm】●全長×全幅×全高:1760×645×1020mm ●適応身長:170〜190cm ●アシスト可能距離:ハイモード70km、ノーマルモード85km、エコモード105km

バッテリー容量 11.6Ah
最大アシスト距離 105km
変速 外装10段
重量 18.4kg(49サイズ)

 

↑シマノ製STEPSのミドルレンジに位置するE6180を搭載。パワフルさよりも軽量かつ軽快なライド感に貢献

 

↑シートステーに固定されたサークルロックを装備。気軽にロックできるのでちょっとした駐輪の際便利だ

 

<クロスレビュー!>

軽量なドライブユニットで漕ぎ心地の軽さを実感できる

「60Nmの高いトルクを生むドライブユニットは軽量で、漕ぎ心地の軽さを実感できます。スポーツeバイクのラクさにスピード感も欲しい人に、このスタイリッシュなモデルはオススメです」(上岡)

 

軽めのギアをクルクル回して気軽にサイクリングを楽しむ

「ケイデンスを高めにライドすることでアシストの恩恵をより強く感じられるセッティングは好感が持てます。油圧式ディスクブレーキが雨天時でも確実な制動力を発揮してくれるのも魅力的」(並木)

 

【No.2】後輪軸にモーターを内蔵した個性的なシステムが際立つ!

FUJI

MOTIVATOR

25万1900円

シティバイク然としたスマートさが魅力の一台。ボトムブラケットではなく後輪のハブ部分にアシストモーターを搭載することで、軽量かつフロントギア周辺をスッキリとデザインした。5段階でアシストモードを切り替えられる。

SPEC【M】●全長×全幅×全高:1730×560×556.3mm ●適応身長:170〜180cm ●アシスト可能距離:モード5 25km、モード3 37.5km、モード1 50km

バッテリー容量 5.0Ah
最大アシスト距離 50km
変速 外装9段
重量 16.5kg

 

<クロスレビュー!>

スポーツeバイクらしからぬスマートなデザインが魅力的

「ペダル部分ではなく後輪にモーターを搭載、そしてバッテリー内蔵型のフレームを採用。スマートなデザインはどこへ行くにも合いそう!」(上岡)

 

軽量さを武器にキビキビと走行できる注目の一台!

「Mサイズでも16.5kgという軽さを誇り、街なかでキビキビとした走りが楽しめます。ディスプレイに備えたUSBポートでスマホの充電も可能」(並木)

 

【No.3】ロードバイクの実力を備えた快速電動アシストクロス!

ヤマハ

YPJ-EC

28万6000円

ロードバイクを日常生活に合わせてフラットバーハンドル化した、人気の電動アシスト付きクロスバイク。ドライブユニットには欧州で好評を得た自社製のPW series SEを搭載し、長距離ツーリングやスポーツライドにも対応する。

SPEC【M】●全長×全幅×全高:1760×590×890〜1000mm ●適応身長:165cm以上 ●アシスト可能距離:ハイモード89km、スタンダードモード109km、エコモード148km、プラスエコモード222km

バッテリー容量 13.3Ah
最大アシスト距離 222km
変速 外装18段
重量 19.8kg(M)

 

<クロスレビュー!>

スタンダードモードでも100kmを誇るアシストは魅力

「スタンダードモードでも100kmを超えるアシストが可能で、ロングライドでも安心。充電の回数も減るので、デイリーユースにもぴったりです」(上岡)

 

電アシのパイオニアらしい高い実用性と信頼性が光る!

「ハイケイデンスに対応したアシストセッティングは秀逸。日常使いだけでなくロングライドでの使いやすさにもヤマハらしい真面目さが垣間見えます」(並木)

 

【《梅》クラス】予算額約20万円以下

20万円以下の予算はファーストeバイクとして狙い目のゾーンとなるが、その実力と信頼性はプライスレス。電動アシストモーターによる快適さは一度味わったら病み付きになるはずだ!

 

【No.1】1充電で最大130kmをアシストする実用性と快適性を持つ毎日の相棒

ブリヂストンサイクル

TB-1e

14万2780円

通勤通学用として人気急上昇中のモデル。シンプルなデザインと、最大130kmを走破する実力を誇る。アシストモーターをフロントホイールのハブに装備し、前輪を電動アシスト、後輪をマンパワーで駆動する両輪駆動仕様。

SPEC ●全長×全幅×全高:1850×575×985mm ●適応身長:151cm以上 ●アシスト可能距離:パワーモード54km、オートモード90km、エコモード130km

バッテリー容量 14.3Ah相当(※)
最大アシスト距離 130km
変速 外装7段
重量 22.3kg

※:一般的な25.2Vに合わせて算出した参考値

 

↑DUAL DRIVEと呼ばれる両輪駆動方式を採用。クルマの四輪駆動のように力強い走りを実現する

 

↑シンプルに仕上げたスマートワンタッチパネルで操作を行う。アシストモードは3モードから選べる

 

<クロスレビュー!>

独自の回生充電で伸びたアシスト距離が最大の魅力

「走行中でもバッテリーに充電できる回生充電により伸びたアシスト距離が最大の魅力。フルサイズの泥除け装備など、毎日の通勤にも使える一台。4色が揃うカラバリも魅力的です」(上岡)

 

ブリヂストンサイクルらしい個性を凝縮した実用モデル!

「両輪駆動、モーターブレーキなど独自の個性が満載。発進時にフロントが引っ張られるような独特のライド感は、上り坂や荷物積載時の漕ぎ出しの軽さにもつながります」(並木)

 

【No.2】近未来感が漂う意匠と秘められた性能に感動!

ベスピー

PSA1

20万3500円

グッドデザイン賞にも輝いた独特のフォルムが目を引くコンパクトな電動アシストモデル。軽量なアルミフレームを採用したミニベロタイプでありながらも、10.5Ahの高性能バッテリーの恩恵により最大90kmの走行が可能だ。

SPEC【M】●全長×全幅×全高:1540×595×1100mm ●適応身長:153cm以上 ●アシスト可能距離:パワーモード60km、ノーマルモード74 km、エコモード90 km

バッテリー容量 10.5Ah
最大アシスト距離 90km
変速 外装7段
重量 19.6kg

 

<クロスレビュー!>

直線的なフォルムが生むほかにない個性が魅力的

「直線的なフォルムが生む独特のスタイルが魅力ですが、そこにムダを感じさせないのもポイント。サイクルコンピューター機能も魅力的です」(上岡)

 

コンパクトなサイズは旅先での足としても活躍

「ミニベロタイプらしいコンパクトサイズが特徴。加えて車両重量は19.6kgなので、クルマに積んで旅先でのサイクリングを楽しめます」(並木)

 

【No.3】爽快感を手軽に味わえるエコなシティコミューター

パナソニック

ジェッター

16万5000円

2020年8月のモデルチェンジによりアルミ製のフレーム内部にワイヤーを通したスッキリデザインへと生まれ変わった人気モデル。ダウンチューブにバッテリーを積載することでスポーティな雰囲気を演出している。

SPEC【BE-ELHC339】●全長×全幅×全高:1855×590×975mm ●適応身長:144cm〜181cm ●アシスト可能距離:ハイモード約45km、オートモード約54km、エコモード約85km

バッテリー容量 12.0Ah
最大アシスト距離 約85km
変速 外装8段
重量 21.1kg

 

<クロスレビュー!>

新設計のバッテリー搭載でよりスポーティなスタイルに

「ダウンチューブに取り付けるバッテリーの採用でスポーティなモデルに進化。幅172mmのワイドサドルで疲れにくく、長距離もラクに走れます」(上岡)

 

何気ない日常に刺激を与えるビギナー向けのクロスバイク

「軽快な走りが日常を楽しくする電動アシストタイプのクロスバイク。外装8段のギアとアシストモーターで自転車本来の爽快感が味わえます」(並木)

 

【Topic】ビジカジにぴったりなヘルメットが増加中!

安全にスポーツeバイクに乗るならヘルメットは必須。最近では尖りすぎないデザインのヘルメットが増え、通勤でも十分使える!

 

【No.1】

ブリヂストンサイクル

クルムス

7150円

安全基準への適合を証明するSGマークを取得。ビジネススタイルにも合わせやすいスタイリッシュなデザインで、カラーは3色から選べる。

 

↑ビジネススタイルはもちろん、カジュアルファッションにもぴったりなデザインだ

 

【No.2】

モカ

クモア

1万450円〜1万1550円

ライナーの外に最高グレードの超高耐衝撃性AES樹脂を使用し、多少雑に扱っても平気な丈夫さと高い耐久性を実現。カラバリも8種類と豊富に揃っている。

 

↑ベースボールキャップ風スタイルで気軽に着用可能。カジュアルなファッションに合う

 

さあ新しい年! 2021年の「鉄道」注目の10テーマを追う【前編】

〜〜2021年 鉄道のさまざまな話題を網羅〜〜

 

新しい年の訪れで期待が高まる2021年の鉄道。新特急や新型車両が登場する一方で、今年もコロナ禍は鉄道に大きな影響を与え続けそうだ。気になる新特急、新車情報、そして注目される鉄道の話題を追ってみよう。

 

【注目! 2021年①】コロナ禍で終電時間繰上げの動きが強まる

2021年、最初に触れておかなければいけないのは、やはり新型感染症の話題だろう。年初ぐらいは明るい話題をと考えたものの、避けることができない現実が伴う。

 

すでにほとんどの方がご存知かと思われるが、全国規模で進められそうなのが終電時間の繰上げ。こうした話題の時に例としてあげられることが多いのが山手線だが、同線の繰上げ時間は16〜19分程度となる。内回りの電車だと、上野駅、東京駅、品川駅では0時30分前後の発車と今とほぼ変わりないが、池袋駅、新宿駅、渋谷駅に到着する時間が20分ほど繰り上がる。

 

山手線はそれなりに遅くまで走っているとはいえ、春のダイヤ改正後には都市部を走る電車は大概が0時から0時30分前後が最終となると考えたほうが良さそうだ。

↑2020年の東京五輪開催に向けて、各社の終電は遅くなる傾向が強まったが、今春は多くの鉄道会社で終電の繰上げを予定する(写真はイメージ)

 

JR東日本のプレスリリースの巻頭には、終電車の繰上げとは明記せずに「ご利用状況に合わせた輸送体系の見直し」となっている。このあたり、鉄道会社の苦悩を表しているかのようだ。次に終電車の繰上げ以外に、3月13日(土曜日)に全国いっせいに行われるJRグループの春のダイヤ改正で、注目されるポイントを見ておこう。

 

【注目! 2020年②】春のダイヤ改正で注目のポイントは?

この春のJRグループのダイヤ改正では、新特急の運転開始も発表されている。

 

◆JR東日本の新特急「湘南」が運転開始! 特急「踊り子」はE257系に

これまで東海道本線の朝夕の通勤用快速列車といえば、「湘南ライナー」「おはようライナー新宿」「ホームライナー」という列車名で運行されていた。この「ライナー」列車が消えて、代わりに同時間帯に特急「湘南」が運転される。平日の朝通勤時間帯に上り列車が10本、夕夜間帯に下り11本という運転本数だ。

 

「着席サービスの導入で“着席ニーズ”にお応えします」とある。とはいえ利用者として気になるのは利用金額が変わることだろう。現在の「ライナー」は快速列車の扱い。料金は520円均一だ。座席は指定席ではないものの座席定員制のため、座ることができる。

↑特急「湘南」に利用されるE257系2000番台・2500番台。特急「踊り子」の185系と同車両との切替えも発表されている

 

新しい特急「湘南」は特急列車。東京駅〜小田原駅間の特急料金を見ると、事前料金は1020円、車内料金は1280円となる。えきねっとチケットレスサービスを利用すれば920円と割安となる。とはいえ現行の520円と比べると、割高となるわけだ。

 

東海道本線では普通列車にもグリーン車が連結されている。このグリーン車に乗車すれば東京駅〜小田原駅間で平日の事前料金は1000円(ホリデー価格は800円)、車内料金は1260円(ホリデー価格は1060円)と似た金額となる。えきねっとチケットレスサービスを利用すれば、より割安になるわけだ。ふだんグリーン車を利用する乗客を意識した新特急ということができそうだ。

 

ちなみに特急「湘南」に使われるのはE257系2000番台・2500番台が使われる。「ライナー」や特急「踊り子」に、これまでは主に185系が使われてきたが、特急「湘南」、特急「踊り子」はすべてE257系に統一されることになる。

 

◆東北・上越新幹線の所要時間が1分短縮! わずか1分短縮ではあるのだが

↑東北新幹線は東京駅〜大宮駅間は大宮駅以北に比べて曲線区間も多く、これまで最高時速110kmに抑えての運転が行われてきた

 

東北新幹線、上越新幹線の列車に乗車したことがある方はご存知のように、東京駅〜大宮駅間は、普通の電車並みのスピードで走っている。この区間は最高時速が110kmに抑えられている。

 

東北新幹線の工事区間でも路線新設にあたって反対運動が高まりをみせた。そのためにルート設定に難航し、通勤新線(現在の埼京線)を平行して開業させるなどの譲歩案を経て工事が始められた。さらに同区間では新幹線の路線としては異例な曲線半径600m〜2000mの急カーブが設けられている。こうした経緯もあり、大宮以北よりも、上野駅〜大宮駅間は3年ほど遅れた1985(昭和60)年に開業している。

 

いわば“新幹線らしくない”ルートがスピードアップを阻んできた。JR東日本では少しでもスピードアップをと、まず設備面ではデジタルATCを導入した。この設備の導入により、より細かい速度制御が可能となった。さらに埼京線と平行して走る区間各所で、吸音板を設置、また一部で防音壁のかさ上げ工事を行った。この工事に2年の歳月をかけている。こうした積み重ねの結果、荒川橋りょう以北の区間で最高時速130kmへの引き上げが可能となった。

 

現在、上野駅〜大宮駅の所要時間約19分、東京駅〜大宮駅間約25分かかる。この所要時間がそれぞれ1分、短縮されることになる。新幹線の所要時間の短縮は、意外に大変なことなのである。たかが1分、されど1分なのだ。

 

◆JR四国の特急「南風」「しまんと」が全列車2700系に

JR四国の2700系は2019年8月に走り始めた特急形気動車である。古くなりつつあった2000系の置き換え用に増産が進められた。JR四国では2700系を新造するまでに2600系を製作し、高徳線を走らせた。しかしカーブの多い四国の路線には合わないことが分かった。そのため制御付き自然振子装置を装着した2700系を新たに開発し、量産化を図ったのだった。

↑2019年に走り出した2700系「南風」。岡山駅と高知駅を結んで走る。カーブが多い土讃線でもその性能をいかんなく発揮している

 

走り始めてまだ1年とちょっとなのだが、優れた性能が改めて確認された。鉄道友の会が選択する第60回のローレル賞も受賞している。技術面で認められたわけである。

 

すでに複数の特急列車に導入されているが、この春のダイヤ改正からは特急「南風」と特急「しまんと」の全列車に2700系が導入されることが発表された。高知駅から先を走る特急「あしずり」にも追加投入される。高知県内の路線は2700系一色で染まりそうである。

 

【注目! 2021年③】北海道では減便傾向が強まるダイヤ改正

この春のダイヤ改正では、新しく登場する特急列車がある一方で、大幅に減便される特急や、廃止される特急が現れている。特急の減便は、特に列島の南北、北海道と九州で目立つ。代表例を2つあげておこう。

 

◆臨時特急に降格するJR北海道の特急「大雪」

訪日外国人の大幅減少に最も苦しんでいるのがJR北海道ではないだろうか。コロナ禍となる前には、北海道内の路線は四季を通して、多くの訪日外国人で賑わっていた。ところが……。

 

ダイヤ改正後にはJR北海道の大半の特急が減便プラス、編成の車両数を減らすなどの対応を行う。その中で特に目立つのが、特急「大雪」の減便だ。現在は旭川駅〜網走駅間を毎日2往復している「大雪」の運行が大きく変わる。

↑キハ183系で運行される特急「大雪」。JR北海道の特急は、多くが減便、または曜日運休される列車が多くなる

 

2往復走る特急「大雪」の全列車が閑散期には、曜日運休となってしまう。具体的には4・5・10・11月の火・水・木曜が運休となる。つまり毎日運行されている定期運行の特急が臨時運行となるわけだ。ちなみに札幌駅〜網走駅間を走る特急「オホーツク」の1日2往復は、これまでと変らず毎日運行される予定だ。

 

◆JR九州の特急「有明」は廃止に

JR九州でも特急の減便が目立つ。JR九州のプレスリリースでは、その減便理由として、コロナ前と現行でどのぐらい利用状況が変化しているかまで明かしている。現行で、各特急の乗車率が20〜57%も減っているというのだから厳しい。今の窮状を何とか知ってもらいたいという思いなのだろう。

 

この春のダイヤ改正では減便でなく、列車自体が廃止される特急も現れた。福岡県内の大牟田駅〜博多駅を結ぶ特急「有明」である。

↑長洲駅発、博多駅(もしくは吉塚駅)行きだった当時の上り特急「有明」。同特急には787系が使われている

 

実は特急「有明」は現在、早朝に走る大牟田駅発、博多駅行きの1本しか残っていない。1本となってしまったのは、2018年春のダイヤ改正からで、その前は夜に下りが3便、朝の上りが2便走っていた。運転区間は下りが博多駅発で大牟田駅の先にある長洲駅(ながすえき)まで走っていた。また朝に走る上りは2本とも長洲駅発で、1本が博多駅行、もう1本が博多駅の一つ先の吉塚駅まで走っていた。

 

平行して九州新幹線が通っているが、新幹線の駅が遠い利用者にとっては、便利な通勤特急だったわけである。3年前に本数が減り、また運転区間を短くなった上に、さらに2021年には列車自体も消滅してしまう。

 

大牟田市街に在住する人の場合は、西鉄大牟田駅が隣接しているので、特に不便さは無いのかも知れない。だが、途中の停車駅で同特急に乗車してきた人たちにとっては痛手となりそうだ。なおダイヤ改正後は、特急「有明」の発車時間と同じ、大牟田駅発、鳥栖駅行き快速列車が運転される予定だ(平日のみ)。JR九州ではこの列車を利用、鳥栖駅で接続する特急「かもめ」への乗換えを呼びかけている。

 

減便される列車が多いJR九州の特急の中で、珍しく増便されるのが特急「海幸山幸」。同列車は週末を中心に宮崎駅〜南郷駅間を1往復走り、日南海岸の素晴らしさが楽しめる列車として人気となっている。多くの利用者が見込まれる日には2往復される予定だ。減便傾向が強まっているだけに、こうした増便の動きは、唯一の光ではあるが歓迎したいところだ。

 

【注目! 2021年④】今年初登場の新車はやや地味め?

2020年は新しい特急形電車など、華やかな新型車両が続々と登場した。東京五輪の開催年に合わせてという動きでもあった。今年は、登場する新車には失礼ながらが、やや地味めとなっている。代表的な車両を見ておこう。

 

◆房総・鹿島エリア向けJR東日本E131系

千葉県内を走る内房線、外房線、成田線・鹿島線といった路線には、長い間、京浜東北線を走った209系0番台を改造、4両、6両編成にした2000番台・2100番台が使われてきた。もともと209系は「重量半分・価格半分・寿命半分」という発想で開発された。房総エリアを走る209系の車歴はすでに25年以上となる。ここまで持たせることは考えて造られてこなかったこともあり、そろそろの置き換えが予想されていた。

↑配置区となる幕張車両センターにはすでに多くのE131系が新造され集結している。春には209系の入換えがかなり進みそうだ

 

代わる新しい車両はE131系で、2両編成が基本となる。総合車両製作所新津事業所で順調に製造が進められていて、すでにその多くが幕張車両センターに運び込まれている。今後は試運転が進められ、ダイヤ改正とともに内房線、外房線、成田・鹿島線の一部区間で運転開始される予定だ。

 

さらに佐原駅〜鹿島神宮駅間ではワンマン運転が実施される。これまで209系では車掌が乗務する形での運行が行われてきたこともあり、今後はワンマン化で一層の省力化が図られることになる。

 

◆東京メトロ有楽町線・副都心線17000系

東京メトロ有楽町線と副都心線では7000系と10000系の2タイプが走っているが、7000系はすでに路線開業以来、約45年以上も走り続けている。この7000系の置き換え用に用意されたのが新型17000系だ。

↑東京メトロの新木場車両基地に停まる17000系。今年度は10両×1編成を導入、2年後に10両×6編成と、8両×15編成の揃う予定だ

 

17000系はこれまでの7000系や10000系が持つ丸いヘッドライトを踏襲、両線のゴールドとブラウンのラインカラーが車体に入る。新しい車両らしく、全車両にフリースペースを設置、車両の床面の高さを低くして、ホームとの段差を低減させるなどの工夫が盛り込まれている。

 

2020年度中には運行開始し、2年後の2022年度までには全21編成、180両が導入される予定となっている。

 

なお半蔵門線にも新型車両18000系が2021年度上半期に導入される。有楽町線・副都心線用の17000系とほぼ同じ形で、車体には半蔵門線のパープルのラインカラーが入る。こちらは8000系の置き換え用で19編成、計190両が導入される見込みだ。

 

【注目! 2021年⑤】JR貨物では新車がどんどんと投入される

トラック輸送から鉄道貨物輸送にシフトする流れが加速している。モーダルシフト、および国の政策として2050年にはカーボンニュートラル化を目指すとされ、鉄道貨物輸送への移行はますます強まりそうだ。

 

春のダイヤ改正でもそうした需要にあわせて、複数の新列車の運行が始まる。新列車は積合せ貨物という形体を取る。複数の荷主の荷物を積み合わせ輸送する新しいタイプの貨物列車で、3往復が新設される。

 

3往復は、大阪府の安治川口駅と岩手県の盛岡貨物ターミナル駅間(20両編成)、名古屋貨物ターミナル駅と福岡貨物ターミナル駅間(24両編成)、東京貨物ターミナル駅と広島県の東福山駅間(20両編成)が運行開始となる。それぞれ1両に12フィートのJRコンテナを5個積むことができる。

 

機関車の新造も活発だ。2021年に予定されている機関車は以下の通り。

↑首都圏も走り始めたEF210形式300番台。桃太郎のイラストが側面に付く(左上)。今後、新鶴見機関区にも増備が進められそうだ

 

EF210形式直流電気機関車が11両、DD200形式ディーゼル機関車が6両、HD300形式ハイブリッド機関車が1両、それぞれ増備される。EF210形式は、現在の増備は300番台が中心となっている。元々、300番台は山陽本線の“セノハチ”と呼ばれる急勾配区間で貨物列車の後押しをする補機用機関車として開発された。現在は、後押しとは無縁の新鶴見機関区にも増備が始まっていて、東海道・山陽線を中心に貨物列車の牽引を目にすることも多くなっている。

↑石巻線を走るDD200形式ディーゼル機関車。本線の列車牽引と、貨物駅での入換えができる万能型として今後、増産が図られる

 

一方、DD200形式は、貨物駅構内の貨車の入換え、さらに本線で列車を牽くことができる万能タイプのディーゼル機関車だ。すでに石巻線ほか貨物専用線を中心に貨物輸送に従事している。

 

新型機関車が装備されるということは、一方で引退となる古い機関車が出てくることに。EF210形式の増備は、EF65もしくはEF66といった国鉄形、もしくはJR初期の車両の引退に、またDD200形式の増備はDE10形式の引退ということにつながりそうだ。世の中の常とはいい、華やかになる反面、そうした話題に触れる機会も多くなりそうで、古い機関車ファンにとっては、ちょっと寂しい2021年となりそうだ。

 

 

今年は208やルーテシアが入ってきたので「欧州コンパクトカー」Best 5を決めてみた

2020年は7月にプジョーの208が、11月にルノーのルーテシアが導入されるなど、ヨーロッパのコンパクトカーの主力モデルが相次いで上陸。都市部の石畳、山岳路、そして高速道路と、ヨーロッパの道はかなりシビアだ。そんな環境で生まれ鍛えられたヨーロッパのコンパクトカーのなかから、気になる3台をそれぞれチョイス。プロたちがナットクした珠玉の5台がコレだ!

※本稿は「GetNavi」 2021年2月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【採点した人】

5人それぞれで1位から3位を選出。1位10点、2位7点、3位5点のポイントとし、獲得ポイントの合計で1位から5位までの順位を決定した。

岡本幸一郎さん(モータージャーナリスト):若いころにはホットハッチを乗り継いだことも。世界のあらゆるカテゴリーのクルマを網羅し豊富な知識を持つ。

清水草一さん(モータージャーナリスト):生涯購入したクルマは合計50台。フェラーリのみならず、使い勝手が良く走りの楽しい小型車も愛する。

安藤修也さん(自動車ライター):モーター誌をはじめ、一般誌、マンガ雑誌などで手広く活動中。数年前に欧州の道路を1000km走破した経験を持つ。

塚田勝弘さん(自動車ライター):フリーランスとして新車、カー用品を中心に執筆・編集に携わって約16年。元・GetNavi本誌のクルマ担当。

上岡 篤(GetNavi本誌クルマ担当):小気味良く走るヨーロッパのコンパクトカーは大好き。最近は乗ることが少なくなったMT車を渇望している。

 

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【第5位】★獲得ポイント:10

 乗った人を必ず魅了するゴーカートフィーリング

MINI MINI 3ドア

267万円〜470万円

意のままに操ることが可能なワイドトレッドやショートオーバーハングが魅力の、MINIの伝統を最も良く受け継いでいる3ドアモデル。アプリを通じて広がるMINI Connectedの採用など、伝統のなかにも革新が宿っている。

SPEC【COOPER S】●全長×全幅×全高:3860×1725×1430mm●車両重量:1270kg●パワーユニット:1998cc直列4気筒●最高出力:192PS/5000rpm●最大トルク:28.5kg-m/1350〜4600rpm●WLTCモード燃費:14.5km/L

【ポイント内訳】安藤修也 3位(5ポイント)/岡本幸一郎 3位(5ポイント)

 

普遍的なアイコンだが一番の魅力は走りにあり

MINIの代名詞にもなっている「ゴーカートフィーリング」という言葉がある。乗車位置が低いため、まるでゴーカートのように路面の状況を克明に感じ取れるリアリティのある乗り味。そして、ボディ四隅にタイヤが配置されていることで、キビキビとした軽快な操舵フィーリングが味わえる。誰もが一度は欲しいと思うクルマだが、支持される理由はキュートなルックスだけではない。実際に運転してみるとそれが間違いだと気づく。そう、このクルマはなにより走りが楽しいのだ。(安藤)

↑COOPER S搭載の1998cc直噴ターボエンジン。余裕あるパワーとトルクでパワフルな走りを実現する

 

【第4位】獲得ポイント:17

まるでレーシングカー!? これぞ羊の皮をかぶった狼

フォルクスワーゲン ポロ GTI

386万円

ラジエーターグリルやブレーキキャリパーの赤色が特徴のポロGTI。力強い走りを生み出す2.0Lの直噴ターボエンジンのパワーを6速DSGトランスミッションが受け止めて最適な駆動力を発揮し、快適な走行を実現する。

SPEC●全長×全幅×全高:4075×1750×1440mm●車両重量:1290kg●パワーユニット:1984cc直列4気筒+ターボ●最高出力:200PS/4400〜6000rpm●最大トルク:32.6kg-m/1500〜4350rpm●JC08モード燃費:16.8km/L

【ポイント内訳】清水草一 1位(10ポイント)/上岡 篤     2位(7ポイント)

 

2リッターターボの気持ち良さにビックリ仰天

ポロGTIには本当に驚いた。2.0Lとそれほど大きな排気量でもないエンジンが、まさかこんなに気持ちイイなんて〜! アクセルを床まで踏み込むと、まるでレーシングカーのようなサウンドがあぁぁ〜〜〜〜! 実際にはそれほど速くありませんけどね、運転の楽しさは天下一品! それでいてボディはポロそのものなので、同社のゴルフよりもコンパクトで取り回しが良くて室内の広さもちょうどいい。まさに欧州コンパクトカーの王道ですな! これに乗っときゃ間違いないぜ。(清水)

↑ノーマルに加えエコ、スポーツ、カスタムの各モードを選択可能。ステアリング、エンジン特性も変更される

 

【第3位】獲得ポイント:19

パワフルさとサウンドはフィアット500とは別モノだ!

ABARTH アバルト

595 300万円〜400万円

フィアット500をベースに、強烈なパワーを生み出す1368cc直列4気筒ターボエンジンを搭載したホットハッチ。しっかりと固められた足周りやホールド感が高い専用のシートにより、スポーツ走行の楽しさを実感できる。

SPEC【コンペティツィオーネ・5MT】●全長×全幅×全高:3660×1625×1505mm●車両重量:1120kg●パワーユニット:1368cc直列4気筒+ターボ●最高出力:180PS/5500rpm●最大トルク:23.5kg-m/2000rpm(スポーツモード時25.5kg-m/3000rpm)●JC08モード燃費:13.1km/L

【ポイント内訳】安藤修也 2位(7ポイント)/塚田勝弘 2位(7ポイント)/上岡 篤 3位(5ポイント)

 

スポーツモードON時の圧倒的なトルクは強烈!

ナリはフィアット500だが、その中身はまったくの別モノであるアバルト。エンジンに火を入れればブロロンッ! とうなる覚醒的なサウンドに心躍らされる。圧巻は、スポーツモードボタンをONにした瞬間。メーターのグラフィックが変化し、過給圧計のSPORTの文字が点灯。数値はノーマル時と比較して2.0kg-mのアップでしかないが、トルクは圧倒的に異なる。街なかで似合うのはフィアット500だが、ワインディングロードを駆け抜けるなら断然アバルトである。(上岡)

↑インパネのSPORTボタン。押すとスポーツモードに切り替わり、数値以上のトルク感アップを実感できる

 

【第2位】獲得ポイント:22

クラスを超えた中身が光る実力派フレンチコンパクト

ルノー ルーテシア

236万9000円〜276万9000円

力強くスポーティで、シャープな印象を与えるフロント部を中心に優美なデザインを実現した新生ルーテシア。手に触れるインテリアの多くにソフトパッドを使用し、上質さと滑らかな触感をもたらしている。

SPEC【インテンス テックパック】●全長×全幅×全高:4075×1725×1470mm●車両重量:1200kg●パワーユニット:1333cc直列4気筒+ターボ●最高出力:131PS/5000rpm●最大トルク:24.5kg-m/1600rpm●WLTCモード燃費:17.0km/L

【ポイント内訳】岡本幸一郎 1位(10ポイント)/清水草一 2位(7ポイント)/塚田勝弘 3位(5ポイント)

 

前作のRSを凌ぐ動力性能で速さはホットハッチ並み

見た目も中身もクラスを超えた1台。内装では本革シートやソフトパッドまで採用し、前後席も十分に広く、391Lを確保する荷室容量など実用性にも優れる。

 

日産や三菱とのアライアンスに基づいた新規プラットフォームによる走りは軽快で快適。それにメルセデスを加えた仲で開発されたエンジンは1.3Lながら相当に速い。静粛性も高く、乗りやすくて快適なうえ、刺激的な走りを楽しめるのだから思わず感心してしまう。日産のプロパイロットにルノー独自の制御を盛り込んだという先進運転支援装備も充実している。 ユニークなデザインに加えて優れた要素を身に付けた、超実力派のフレンチコンパクトだ。(岡本)

↑低回転域から24.5㎏-mの最大トルクを発生させる直噴ターボエンジン。余裕のある走りを実現している

 

↑運転モードが選択できる「ルノー・マルチセンス」。エンジンの出力特性やステアリングフィールも変更可能だ

 

 

【第1位】獲得ポイント:32

街なかでの小気味良さと高速域の安定性を備えた傑作

プジョー 208

239万9000円〜423万円

躍動感のあるフォルムに、3本爪のモチーフを前後ライトに採用したスポーティな外観、新世代の「i-Cockpit」を採用した内装が目を引く。衝突被害軽減ブレーキやアダプティブクルーズコントロールなどの先進装備も充実。

SPEC【208 GT Line】●全長×全幅×全高:4095×1745×1465mm●車両重量:1170kg●パワーユニット:1199cc直列3気筒+ターボ●最高出力:100PS/5500rpm●最大トルク:20.9kg-m/1750rpm●WLTCモード燃費:17.0km/L

【ポイント内訳】塚田勝弘 1位(10ポイント)/上岡 篤 1位(10ポイント)/岡本幸一郎 2位(7ポイント)/清水草一 3位(5ポイント)

 

昔の“猫足”ではなくても木綿豆腐のようなしなやかさ

新型208は、Bセグメントで現在ベストといえる走りを堪能できる。小径ステアリングもあってフットワークは軽快そのもので、高速域の安定性も兼ね備えている。交差点ひとつ曲がっただけで楽しいと思える味付けを濃厚に感じさせながら、ボディはあくまでミシリともいわずしっかりしたものだ。

 

208も含めて最近のプジョーは、“猫足”と表現された昔のしなやかな乗り味一辺倒ではないが、以前のドイツ車へのコンプレックスを感じさせた硬さもない。100PS/20.9kg-mの1.2Lターボは数値以上に力強く感じるし、トルコン付のATはダイレクト感のある変速マナーで、楽しさとスムーズさを兼ね備えている。(塚田)

↑PSAグループ最新の「CMP」を採用。軽量化や、空力性能の向上、駆動系や足周りの転がり抵抗の低減を叶える

 

↑「インターナショナルエンジンオブザイヤー」に5年連続で選出。燃費も改善し、WLTCモードは17.0km/L

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

 

アクアも意外に高評価! 自動車評論家が選ぶ国産コンパクトカー10傑

前回の記事では、ノート、ヤリス、フィットをガチ採点したが、国産コンパクトカーの注目モデルはそれだけにとどまらない。本記事では、自動車評論家の清水草一さんに登場いただき、最新モデルから登場から10年近く経つモデル末期のものまで、現行車種の中から、コンパクトカー十傑をピックアップした。

※こちらは「GetNavi」 2021年2月号に掲載された記事を再編集したものです。

モータージャーナリスト

清水草一さん

編集者を経て自動車ライターに。大乗フェラーリ教開祖を名乗りつつ、道路交通ジャーナリストとしても活動。

 

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ノート、ヤリス、フィットーー「国内3強コンパクトカー」を厳しく採点! 一番よかったのは?

 

 

【ハッチバック編】

サイズに制限のあるコンパクトカーでも後席を倒して多くの荷物を積め、高い実用性を誇る。サイズ感もつかみやすく運転しやすい。

 

【その01】トヨタの定番小型ハッチバックは欧州で人気アリ!

トヨタ

カローラ スポーツ

216万9000円〜284万1000円

ワイド&ローのスポーティなシルエットのボディに用意されたパワーユニットは、ハイブリッドと1.2Lターボの2種。1.2LターボにはiMTと呼ばれるMTも設定。同社のコネクティッドカーとしての顔も持つ。

 

【ココがスゴイ!】バランスは抜群! 基本性能の高さに納得

カローラというと、日本ではツーリングが人気だが、欧州では断然コレ。ガソリン車にMTが用意されているのも欧州風味でイイ!(清水)

 

【その02】ホンダのEVは原点回帰のシンプルデザイン

ホンダ

Honda e

451万円〜495万円

ホンダの新型EVはタウンユースを強く意識し、1充電あたりの走行距離は最長283km。それまでのEVと違い走行距離を伸ばすよりも、短時間の充電で走れる距離を重視。その結果、わずか30分の充電で200kmを走行可能だ。

 

【ココがスゴイ!】後輪駆動ゆえの小回り性能に驚愕

航続距離は短めだが、それはシティコミューターに徹しているから。軽より小回りが利いて感動! デザインはシンプルの極致で美味だ。(清水)

 

【その03】スズキらしい個性が光る隠れた傑作!

スズキ

イグニス

 142万3400円〜203万600円

クロスオーバーSUV風のコンパクトカー。軽自動車並みの3.7mの全長は街なかで扱いやすいサイズだ。今年の仕様変更ではデュアルカメラブレーキサポートや助手席のシートヒーター、オートライトが全車標準装備となった。

 

【ココがスゴイ!】室内の広さよりも走りとデザインを優先

やんちゃな顔つきに大地を踏ん張る台形のフォルムは、いかにも走りそう。インテリアはイタリアの小型車みたいでセンス抜群だぜ!(清水)

 

【その04】クラス唯一のクリーンディーゼル搭載で我が道を行く

マツダ

マツダ 2

 145万9150円〜266万7500円

デミオから改称された同車は、パワーユニットは直噴ガソリンエンジンとディーゼルエンジンをラインナップ。特にディーゼルモデルはクラス唯一の搭載車種で、その静粛性能には定評がある。落ち着いたデザインも好評だ。

 

【ココがスゴイ!】唯一無二を掲げるマツダの真骨頂

ディーゼルエンジンを積んだコンパクトカーは、世界的に貴重になりつつある。豊かなトルクとしっかりした足周りは長距離向きだ。(清水)

 

【その05】痛快! そして便利! 国民車にもなれる万能型ホットハッチ

スズキ

スイフト スポーツ

 187万4400円〜214万1700円

エスクード用のエンジンに専用チューンを施した140PSを誇る1.4L直噴ターボを搭載。MT比率が比較的高いのも特徴のモデル。後席も使える実用性と軽快な走りは多くのユーザーが認めるところ。200万円以下からという価格設定も魅力だ。

 

【ココがスゴイ!】走りが楽しい! それでいて弱点なし

1.4L直噴ターボエンジンの加速は痛快そのもの。6速MTはもちろん、6速トルコンATでも十分楽しめる。広さや燃費にも不満ナシさ。(清水)

 

【その06】モデル末期でも魅力が褪せないハイブリッドカー

トヨタ

アクア

181万8300円〜219万8900円

2011年デビューのハイブリッド専用車。車両価格も手の届きやすいハイブリッドカーとしてロングセラーに。パワートレインは2代目プリウスをベースにし燃費面でも高評価。低重心で、シャープなハンドリングも意外な魅力だ。

 

【ココがスゴイ!】登場から10年でも売れ続けるモンスター

ものすごくフツーのクルマに見えて、実は重心が低く、曲がるのが得意。ハイブリッドバッテリーの重量配分の妙だ。いまだに魅力アリ!(清水)

 

【SUV編】

SUVは魅力的だけれども、大きなボディはちょっと……と考えるユーザーにはピッタリのコンパクトカー。その視界の良さは特筆モノだ。

 

【その07】無敵の小型オフローダーは世界中で大ヒット

スズキ

ジムニー シエラ

 179万3000円〜205万7000円

クロカンモデルらしい武骨なスタイリングやラダーフレームなど多くの“本格”装備を持つクルマ。ミッションは信頼性の高い5MTと4ATを設定する。欧州にも輸出されるモデルなので、高速走行も構えることなく巡行可能。

 

【ココがスゴイ!】無骨なデザインが走破性能とマッチ

“ミニGクラス”ともいえる武骨なデザインが、シンプルで実にカッコイイ。悪路の走破性能は世界の一級品。無敵の小ささも強力な武器だ。(清水)

 

【その08】ゴツい顔した優しいヤツ、地味だけど憎めないね

ダイハツ

ロッキー

 170万5000円〜236万7200円

ダイハツのクルマづくりの新コンセプト、DNGAに基づいたSUV。エンジンは1Lの直3ターボで98PS。組み合わされるミッションはCVTのみで、すべてのモデルに4WDが設定されている。トヨタ・ライズとは兄弟車。

 

【ココがスゴイ!】走りも居住性も満足のコンパクト

目立ったところはゼロだが、走りも乗り心地も居住性も適度に満足。SUVだと構えずに、フツーの小型車として買って間違いなし。(清水)

 

【その09】ヤリスに足りない部分をすべて満足させました

トヨタ

ヤリス クロス

 179万8000円〜281万5000円

ヤリスとメカニカルコンポーネンツを共有するSUV。コンパクトな分類に入るが全幅で1700mmを超えるので3ナンバーサイズだ。パワーユニットは1.5Lガソリンエンジンとハイブリッドの2本立てで先進安全装備も充実。

 

【ココがスゴイ!】コンパクトだけれど押し出し感は十分さ

大ヒット中のヤリスの弱点は、後席の狭さ。でもヤリス クロスならまったく問題ナシ。見た目もカッコイイし、4WDも選べるぜ。(清水)

 

【その10】オシャレな都会派ながらキラリと光るスバルイズム

スバル

SUBARU XV

220万円〜292万6000円

現行モデルは2017年登場。2020年9月に大幅な改良が加えられた。基本メカニズムはスバルの伝統、水平対向エンジンにシンメトリカルAWDを組み合わせたもの。スバルの先進安全装備アイサイトを全モデルに標準装備。

 

【ココがスゴイ!】オシャレSUVだが走りは本物

XVに乗っていると、オシャレでアクティブな遊び上手に見えるから不思議だよね。もちろんスバル車だけに、走りは地味に本物さ。(清水)

 

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ノート、ヤリス、フィットーー「国内3強コンパクトカー」を厳しく採点! 一番よかったのは?

ヴィッツの名を改称したトヨタ・ヤリス、ホンダ・フィット、日産・ノートが揃ってフルモデルチェンジ。販売台数でトップを競う国内3強コンパクトカーがもたらす衝撃度を、プロが厳しい目でジャッジ。採点項目は、デザイン/走り/インテリアの上質さ/コスパ/安全性能の5項目で各20点満点で評価した。

 

※こちらは「GetNavi」 2021年2月号に掲載された記事を再編集したものです。

モータージャーナリスト

岡本幸一郎さん

軽自動車から高級輸入車まで、ユーザー視点をモットーに広く深く網羅。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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【その1】日産ならではの先進技術を満載した未来感あふれる新顔

日産

ノート e-POWER

202万9500円〜218万6800円

モーターは先代ノートに比べ、トルクを10%、出力を6%向上。よりパワフルで気持ちの良い発進加速と、中高速からの追い越しでの力強い加速感を実現する。エンジンの作動頻度低減や、車体の遮音性能向上により静粛性もアップ。

SPEC【X】●全長×全幅×全高:4045×1695×1520mm●車両重量:1220kg●パワーユニット:電気モーター+1198cc直列3気筒DOHC●最高出力:116[82]PS/2900〜10341rpm●最大トルク:28.6[10.5]kg-m/0〜2900rpm●WLTCモード燃費:28.4km/L ※[ ]内は発電用エンジンの数値

 

動力源はe-POWERのみ! プロパイロット搭載も魅力

8年ぶりにモデルチェンジしたばかりのノートは、ガラリと雰囲気が変わった。フラットながら豊かな面の抑揚を持つ斬新な外観とともに、ハイテク感満載のインテリアもかつてない雰囲気。個性的な柄のシートの質感も高い。

 

動力源は、日産お得意のエンジンで発電した電気により100%モーターで走るe-POWERのみという割り切りよう。既存の簡易版ではなく、前後に2基の強力なモーターを搭載して4輪を駆動する本格電動4WDが選べるのも新しい。

 

高速道路での自動制御を行う「プロパイロット」をコンパクトカーとして初搭載。しかもカーナビと連携して急なカーブの手前であらかじめ減速する等の、日産初の機能を備える点にも注目だ!

 

日産独自のVモーションが精悍な顔つきを作り出す

↑薄型のヘッドライトから繋がる日産独自のVモーションフロントグリルが印象的。新しくなったロゴマークを市販車として初採用する

 

直線的なラインが印象的な上質感あふれるインテリア

↑1本の直線がインパネの一体感を生む。ナビゲーションとメーターは1枚の板で繋がったようなつくりで、視線の移動を少なくしている

 

360度に渡り周囲を見回す全方位運転支援システム

↑カメラとレーダーによってクルマの周囲を見回して安全運転を支援する、全方位運転支援システムを搭載。プロパイロットも備える

 

岡本’s ジャッジ
ついにこのクラスにもプロパイロットを搭載! 先進的なインテリアの質感は上々だが、斬新なスタイリングは好みが分かれるかも。e-POWERのみとなり価格が上がったのは否めず。
【衝撃度21】
・デザイン 4
・走り(予想) 4
・インテリアの上質さ 4.5
・安全性能 5
・コスパ 3.5
※各項目5点満点、計25点満点で採点(以下同)

 

【その2】改名とTNGA化で心機一転!キャラの立つデザインも光る

トヨタ

ヤリス

139万5000円〜249万3000円

コンパクトカー向け新プラットフォーム「TNGA」を採用し、軽量かつ高剛性、低重心なボディを実現。軽快なハンドリングを実現するとともに、ハイブリッド車では最高36.0㎞/Lの燃費を誇る。

SPEC【HYBRID X・2WD】●全長×全幅×全高:3940×1695×1500mm●車両重量:1050kg●パワーユニット:1490cc直列3気筒+モーター●最高出力:91[80]PS/5500rpm●最大トルク:12.2[14.4]kg-m/3800〜4800rpm●WLTCモード燃費:36.0km/L  ※[ ]内はモーターの数値

 

どの動力でも驚異の低燃費! ハイブリッドは瞬発力抜群

他の2モデルよりもコンパクトで、内外装とも個性的なデザインが光る。車内は前席重視のつくりで、ファミリー層には不向き。その意味では他の2モデルと市場で競合するものの、ガチンコのライバルではなさそう。ワンタッチで好みのポジションに戻せる運転席シートはアイデア賞モノだ。

 

高いボディ剛性は走りの良さにも寄与している。3種類から選べるパワーソースの燃費はいずれも上々で、ハイブリッドは意外なほど瞬発力にも優れる。3モデルで唯一MTの設定があるのも特徴だ。

 

ボタンを押すだけで駐車操作をアシストする

↑駐車の際ステアリング・アクセル・ブレーキ操作を自動で制御。ドライバーの負担を大きく軽減してくれる

 

ムダをそぎ落として高い操縦安定性を実現

↑コンパクトカーとして初めてTNGAを採用。低重心化することで操縦安定性が高まり、運転もしやすい

 

岡本’s ジャッジ
燃費は驚異的。思い切った内外装デザインや、トヨタのハイブリッドの先入観を打破する瞬発力ある走りにも驚いた。半面、インテリアや走り味がややチープなところが気になる。
【衝撃度18】
・デザイン 4.5
・走り 3
・インテリアの上質さ 3
・安全性能 3.5
・コスパ 4

 

【その3】「心地良さ」をテーマに開発された万能モデル

ホンダ

フィット

155万7600円〜253万6600円

視界の広さや、座りやすさ、運転しやすさといったユーザビリティを追求。特に低床設計が生む使い心地の良さは特筆モノで、多彩なシートアレンジが可能。長いモノから背の高いモノまで余裕で積載できる。異なる5つのタイプから選べるのも◎。

SPEC【e:HEV BASIC・2WD】●全長×全幅×全高:3995×1695×1515mm●車両重量:1180kg●パワーユニット:1496cc直列3気筒+モーター●最高出力:98[109]PS/5600〜6400rpm●最大トルク:13.0[25.8]kg-m/4500〜5000rpm●WLTCモード燃費:29.4km/L ※[ ]内はモーターの数値

 

低いフロアが生む広い室内が優れた使い心地を実現する

独自のセンタータンクレイアウトによる低いフロアを実現。コンパクトながら、広々とした室内空間をより有効に使えるのが特徴だ。後席の居住性には特に優れ、シートを跳ね上げて背の高い荷物を積むこともできる。

 

e:HEVのエンジンは高速クルーズ時など以外はほぼ発電機として機能し、モーターが駆動力を担う仕組み。リニアで効率にも優れている。柴犬をイメージしたという親しみやすい外観が想起させる通り、触れるほどにジワジワと心地良さを実感させるモデルだ。

 

モーター+エンジンでパワフルな走行が可能

↑発電用と走行用2つのモーターとエンジンを搭載。加速時や高速クルーズ時などパワフルな走行が可能だ

 

使い勝手の良い荷室は十分な高さを確保する

↑前席下部に燃料タンクを置くことで実現した低床設計。荷室の高さも十分で、背の高いモノも積載できる

 

岡本’s ジャッジ
プラットフォームは他モデルの流用ながら、完成度の高い快適な走り味を楽しめる。極細ピラーにより視界が極めて良好で、車内は外見から想像するよりも広々としているのも強み。
【衝撃度21.5】
・デザイン 4
・走り 4.5
・インテリアの上質さ 4
・安全性能 4.5
・コスパ 4.5

 

見た目は完全にバイク、でも正体は電アシ! クールすぎるSUPER73「SG1」に試乗レビュー

最近、バイクのような極太のタイヤを履いた乗り物を見かけたことはありませんか? 「バイク!?」と思って振り向くと、音もなく走り去って行くので「あれは何だろう?」と思っている人もいるかもしれません。その正体は電動アシスト付きの自転車。車種はいくつかあるようですが、元祖といえるのがSUPER73というアメリカ生まれのブランド。その日本向けモデルである「SG1」に試乗し、乗り心地などをチェックしてみました。

 

【SUPER73 SG1を写真で先見せ(画像をタップすると拡大画像が表示されます)】

 

バイクのようなルックスを信頼のパーツで構成

太いタイヤのほか、大きめのライト、ガソリンタンクの位置に装備されたバッテリーなど、SUPER73 SG1の見た目は完全にバイクです。それもそのはず、アメリカではSUPER73は“電動バイク”として売られているとのこと。現地仕様のものは、右手側にスロットルがあり、それを回すことでも走行できるようです。しかし、SG1は日本向けに電動アシスト自転車として売られているので、スロットルはなく、時速24kmでアシストが切れるなど、日本の法規に適合した仕様となっています。

 

↑向こうから走ってきたら、バイクに見えてしまう外観。迫力があります。SG1の価格は38万5000円(税込)。カラーラインナップはブラックとホワイトの2色

 

↑20×4インチの極太タイヤはブロックタイプで未舗装路も走れそう

 

↑バイクに装備されているような砲弾型のライトはLEDでかなり明るい

 

↑バッテリーはガソリンタンクのような形状。信頼のパナソニック製

 

SG1のディテールをさらに深堀り!

アシスト用のモーターは後輪の軸(ハブ)に一体化されています。アシストはeco、tour、sportの3段階に切り替え可能で、アシストを使って走れる距離は60〜70km(路面状況や走り方によって異なる)とのこと。バッテリーは車体から取り外して充電することができます。充電時間は3〜4時間。

↑リアホイールのハブ部分にモーターを搭載。出力は250Wで、変速はないシングルスピード

 

↑バイクならエンジンがある部分はスッキリしていて何もありません

 

SG1の重量は32kg。電動アシスト自転車としてはかなりの重量級です。最大積載量は125kgなので、乗り手+荷物くらいの重さは余裕ですが、自転車なので2人乗りはできません。ハンドル幅が63.5cmあるので、厳密には歩道を走れる“普通自転車”の枠は超えています。

↑重量のある車体をしっかり止めるため、制動力の高いディスクブレーキを前後に装備

 

↑ブレーキは油圧式なので、少ない力で止められてコントロール性も高い

 

↑ハンドル形状もバイクを思わせるもので、ライディングポジションはアップライト

 

そのデザインから、バイク乗りの人が近所の足として購入することも多いというSUPER73 SG1ですが、最近はルックスのインパクトに惹かれて購入するアパレル関係者や若い人も増えているとか。電動アシストがあることから、通勤に使っている人も少なくないそうです。電動アシスト自転車というとママチャリ的なモデルのイメージが強いですが、このデザインなら乗ってみたいという人も多そうですね。

↑前後フェンダーやサイドスタンドも装備されているので街中での使い勝手も良さそう

 

街乗りで走行性能を体感

32kgという車体に太めのタイヤで、ちょっと重そうなSUPER73 SG1ですが、走行性能はどうなのか? 実際に街中を中心に走り回ってみました。またがってみると、着座位置は思ったより低く、ハンドルが高めの位置にあるので、バイクでいうとチョッパーというかボバー的なライディングポジションになります。身長175cmの筆者の場合、ペダルを回すときに結構ヒザが曲がる感じ。シートが後ろの方にあるので、ペダルに体重はかけにくい感じでした。

↑バイクに乗ってるようなライディングポジションで街中を流すのが気持ちいい

 

しかし、アシストをONにして走り出すと、ペダルを強く踏まなくてもスイスイ進むので、非常に楽です。アシストモードはecoだとペダルに少し重さを感じますが、tourにすると全く感じなくなり、sportではペダルを回しているだけでグイグイ走って行ってくれます。電動バイクのスロットル代わりにペダルを回しているような感覚ですね。坂道も登ってみましたが、立ち漕ぎの必要もなくスイスイ登れます。

↑坂道がある通勤でもコイツなら何の問題もなく走れそう

 

太いタイヤのおかげでコーナーリングの感覚も独特です。自転車というよりバイクに近い感じ。リアタイヤの上にどっかり腰を降ろして、曲がって行く感覚ですが、タイヤが小径(バイクでいうところの16インチ径)なので、結構クイックに向きが変わります。これは楽しい!

 

↑太いタイヤでグイッと曲がって行く感覚が気持ち良く、ちょっとクセになりそう

 

乗っていてちょっと気になったのはシート。高さ調整ができないので、身長が低い人だとまたがるのが大変な場合もありそうです。逆に身長が180cm以上あるような人だと、ヒザの曲がりがキツくなりすぎるかも。オプションのシートに交換することもできるようですが、高さはそれほど変わらないとのことです。

↑お尻に体重がかかる乗車姿勢なので、やや角張った形状も気になるところです

 

街中を走っていて感じたのは、すごく目立つということ。バイクのような見た目と、太いタイヤの走行音で歩いている人がたいてい振り返ります。なかには2度見する人もいたり、子どもには指差されたりするので、目立ちたい人にはたまらないでしょうが、ちょっと気恥ずかしく感じる場面もありそうです。

 

販売しているのは東京都渋谷区にある「MAD BOLT GARAGE HARAJUKU」。カスタムパーツも充実しているので、自分好みのスタイルに仕上げていく楽しみもありそうです。ただ、人気が高いため、入荷するとすぐに売れてしまって、次回のロットは1月後半になりそうとのこと。ほしいと思った人は早めに予約しておいたほうがいいかもしれません。

↑MAD BOLT GARAGE HARAJUKUのピット。多くのSUPER73が並んでいます。試乗車もあるので、気になる人は一度訪れてみるといいかも

 

MAD BOLT GARAGE HARAJUKU

東京都渋谷区神宮前6-11-1

 

撮影/松川 忍

 

ファットなタイヤと無骨なフレーム、だけど電アシ。「BRONX Buggy20」はストリートに似合う奴

レインボー プロダクツ ジャパン(エムプランニング)は、オリジナルのファットバイクブランド「BRONX(ブロンクス)」から、ニュースタイルの電動アシスト付き自転車「BRONX Buggy20(ブロンクス バギー20)」を、2021年1月8日に発売します。本体価格は15万8000円で、カラーバリエーションはマットブラック、アーミーグリーン、マルーンの3種類。

↑BRONX Buggy20(マットブラック)

 

ファットバイクブランド・BRONXは2012年発足。BRONX Buggy20は、堅牢なフレームに極太タイヤを履かせた同ブランドのアイデンティティはそのままに、電動ユニットを搭載したモデル。クレードル構造のアルミフレームと20インチ×4.0のファットタイヤから醸し出されるインパクト大のデザインが特徴です。

↑BRONX Buggy20(アーミーグリーン)

 

フラットシートにハイライズ ハンドルバーとのコンビネーションによる、前傾にならないアップライトなポジションは、視野も広く楽な姿勢でのんびりゆったり走るのに適しています。

 

駆動系は、欧州で高いシェアを誇るバーファン製36V/350Wの強力モーターを後輪軸(リアハブモーター)に搭載、8段変速ギアと相まって道を選ばずパワフルな走りをサポート。バッテリーは、パナソニック製セル内蔵のグリーンウェイ製バッテリー(容量:約300W 36V/8.7A)を採用し、常に安定した電力を供給します。

↑BRONX Buggy20(マルーン)

 

オプションの特大LEDフロントライト(税抜6800円)を装着すれば、その大光量を活かして車からの視認性もアップします。

新車、引退、コロナ−−2020年「鉄道」の注目10テーマを追う【前編】

 〜〜2020年 鉄道のさまざまな話題を網羅その1〜〜

 

2020年、早くも年が暮れようとしている。新車の登場、そして慣れ親しんだ車両の引退、新駅開業といった鉄道の話題も盛りだくさんの一年だった。

 

一方で世の中を揺るがした新型感染症の流行は、鉄道にも大きな影響を与えた。そんな1年、鉄道をめぐる10のテーマに注目してみた。まずは【前編】の5つの話題から。

 

【注目!2020年①】鉄道も新型感染症で振り回された一年に

まずは一つめ。やはり新型感染症は避けて通れない話題だろう。まさか1年前に、こうした新しいウィルスの出現によって、世の中がここまで一変させてしまうことがあるとは、誰が想像しただろうか。コロナウィルスによって人々の暮らしが大きく変ってしまった。そして鉄道も大きな打撃を受けた。

 

人を運ぶことが、鉄道の大きな使命でもある。人が移動を制限するようになれば、利用者が減る。減れば電車や列車は空くが、減収を免れない。特に一部都道府県に緊急事態宣言が出された4月7日(16日には全都道府県に拡大)から宣言解除された5月25日(一部区域を除き段階的に解除)までの1か月半は、どの電車や列車も“がらあき状態”が続いた。

 

いくら空いていても電車や列車を動かさなければいけないのが、公共交通機関のつらいところ。とはいえそのままの状態で走らせるわけにも行かず、長距離を走る新幹線や特急列車の減便が目立った。さらに大半の観光列車が運行を取りやめた。筆者はちょうど取材もあり、やむを得ず渋谷へ出かけたことがあった。下の写真は緊急事態の前とその後の渋谷駅ハチ公前広場の様子である。緊急事態宣言下の渋谷駅前は、まるでホラー映画のワンシーンを見るかのようにひっそりし、日中でも人がほとんどいない状況となっていた。

↑3月27日の渋谷駅ハチ公前広場にはまだ人がいたが、4月14日には人がいない状況に。ちなみに広場の東急5000系は8月3日に移設された

 

一方で、鉄道貨物輸送は緊急事態宣言の最中も、絶えることなく続けられていた。鉄道貨物やトラック輸送を使った物流が絶えなかったことで、多くの人の暮らしが守られたことを付け加えておきたい。

 

コロナ禍で変ったのは車内の様子だろう。暑い季節はもちろん、外気がひんやりする季節になってからも、窓明けが行われるようになっている。窓が固定されている車両の場合には、必ず、「○分ごとにこの車両は強制的に換気されております」という車内アナウンスを聞くようになった。

↑通勤電車の車内の窓明けが推進された。左上のような「車内窓開けのお願い」という吊り広告も車内で多く見かけるようになった

 

本格的な冬の季節に入った日本列島。Go Toトラベルキャンペーンの一時中断などで、移動の自粛が進みそうだ。そのまま年を越しそうな気配だが、来年こそは、ワクチンの接種や特効薬の開発で、何とか終息を願いたい。

 

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【注目!2020年②】話題となった新型車両の続々とデビュー!

さて、嫌な話題から明るい話題にテーマを切り替えよう。今年は数多くの新型車両がデビューした。話題の車両も多く新型車両という一面では非常に華やかだった一年となった。ここでは2020年に登場した代表的な新型車両をピックアップしたい。

 

◆JR東海N700S(2020年7月1日運用開始)

↑東海道新幹線の新型N700S。先頭部分が個性的な形状をしている。運行時間は発表されておらず現在はTwitter情報などに頼るしかない

 

東海道・山陽新幹線の主力車両のN700系。この改良タイプのN700Aの登場からちょうど7年を迎えた2020年に運行開始したのがN700Sだ。N700系に比べて、先頭の左右部分が、膨らみを増した形が特徴で、「デュアル・スプリーム・ウィング形」と名付けられる。この構造はトンネルに突入する時の騒音を減らし、また走行抵抗も減少させる効果があるとされる。

 

形式名のN700Sの「S」は、“最高の”を示すSupreme(スプリーム)。その頭文字を付けた。今の時代に合わせて、各席に電源コンセントを設けているのも特徴だ。まだ本数は少なめで、乗れたらラッキーといえるだろう。

 

◆近畿日本鉄道80000系 ひのとり(2020年3月14日運用開始)

↑近鉄80000系ひのとり。先頭車はハイデッカー構造のプレミアム車両で、前面車窓や景色が存分に楽しめる

 

近畿日本鉄道(以下「近鉄」と略)の路線には多く特急列車が走っている。中でも近鉄の“看板特急”とも言えるのが、大阪難波駅と近鉄名古屋駅間を結ぶ特急列車で、名阪特急の名前で親しまれてきた。80000系はこの名阪特急用に誕生した車両で、愛称は「ひのとり」と名付けられた。

 

6両編成、もしくは8両編成で途中駅の停車が少ない名阪甲特急、もしくは大阪難波駅〜近鉄奈良駅間を結ぶ阪奈特急として走る。多くの特徴を備えるが、最大の魅力は座席だろう。3列のプレミアム車両の座席はもちろん、4列のレギュラー車両の座席まで、バックシェルを備えた構造となっている。バックシェルとは、座席の背を倒した時に、シェル内のみで座席が動く仕組み。つまり、後ろの席スペースまで座席が侵食するような動きが無い。座席を倒す時に後ろの人に配慮する必要がない造りのわけだ。さらに足元もゆったりとしていているのがこの特急電車の魅力となっている。

 

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◆JR東日本E261系 サフィール踊り子(2020年3月14日運用開始)

↑東海道線を走行するE261系。全車グリーン車の豪華な造りで、特に伊豆急下田駅側の先頭1号車はプレミアムグリーンとなっている

 

3月14日から運行開始したのがE261系特急「サフィール踊り子」で、東京駅(新宿駅)〜伊豆急下田駅間を結ぶ。

 

この特急の大きな特徴は8両全車両がグリーン席という贅沢な編成であること。さらに伊豆急下田駅側に連結される1号車は「プレミアムグリーン」となっていて、横に2席×10列というこれまで車両に無いゆったりした造りとなっている。グリーン車(5号〜8号車)でも3席が横にならぶ形で、こちらも十分にゆったりしている。さらに2・3号車は「グリーン個室」で、よりプライベートな個室空間での旅が楽しめる。

 

さらにユニークなのは4号車の1両すべてがカフェテリア車両ということ。形式名は「サシE261」で、久々に食堂車を示す「シ」の形式称号が使われている。この車両では一流料理人が監修したヌードルメニューが味わえる。

 

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◆JR九州YC1系(2020年3月14日運用開始)

↑大村湾を眺めて走るYC1系気動車。前面がなかなかユニークな形をしている。写真は大村線の岩松駅付近

 

特急列車以外の一般用車両も多くの新型車両が導入された。ここでは、その中で目立つJR九州の新型車両に触れてみたい。

 

JR九州が春に導入した車両の形式名はYC1系。同社初のハイブリッド気動車で、ディーゼルエンジンの駆動で生み出された電気を元に走り、また蓄電池に貯めた電気をアシスト役として利用する。

 

面白いのは数字の前に「YC」という文字が付くこと。さてYCとは? YCとは「やさしくて力持ち」のことだそうで、この言葉をローマ字で書くと「Yasashikute Chikaramochi」となる。この頭文字をとってYCとつけた。正面の形もかなりユニーク。ぐるりとライトで縁取りされ、花柄模様のような形の前照灯が付いている。後ろとなる時は、縁取り部分のライトが赤く光り、かなり目立つ。

 

走るのは長崎県内の長崎駅と佐世保駅の間。この区間の中で大村線を走る頻度が高い。YC1系が走る区間は、国鉄形のキハ66・67形が残っている。YC1系は続々と車両数が増やしつつあり、残念ながらキハ66・67形は近いうちに引退ということになりそうだ。

 

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【注目!2020年③】改造車とはいえ個性的な観光列車が表れる

今年も新しい観光列車が登場してきている。ここでは、これまでの観光列車と趣が異なる2列車を紹介しよう。なかなかユニークな鉄道旅行が楽しめる列車とあって、早くも人気となっている。

 

◆JR西日本WEST EXPRESS 銀河(2020年9月11日運行開始)

↑瑠璃紺色というカラーで塗られた「WEST EXPRESS銀河」。車内に自由に過ごせるフリースペースがある凝った造りとなっている

 

JR西日本といえば豪華な観光用寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(みずかぜ)」が名高い。この瑞風に比べ、もっと「気軽に鉄道の旅が楽しめる列車」として登場したのが「WEST EXPRESS銀河」だ。関西圏を走る新快速列車用に造られた117系を改造して造られた。編成は6両で、外観が瑠璃紺色でまとめられる。

 

ユニークなのは2号車に女性専用の車両とされたこと。また1号車はグリーン車指定席(ファーストシート)、6号車はグリーン個室が付く。他に4号車はまるまる「フリースペース『遊星』」になっている。加えて3号車・6号車にフリースペースがあり、列車内で自由に過ごせる空間が複数設けられているところが面白い。

 

当初は5月8日からの運行予定だったが、コロナ禍のより運行開始を延期。9月11日から、まずは山陰方面へ夜行特急として走った。次いで12月12日から2021年3月11日までは、山陽本線を走る昼行特急として走っている。乗車には運賃の他、特急料金(現行の特急料金と同額)、またはグリーン車を利用の際にはグリ―ン料金、グリーン個室料金が必要となる。特製弁当の販売や、地元産品の車内販売もあり、長時間乗っても飽きることなく楽しめる“珍しい列車”に仕上げられている。

 

なお、同列車が走る区間は期間ごとに変更の予定で、2021年の春からは京都・大阪〜出雲市を夜行列車として走る予定。さらに2021年の夏〜秋は京都駅発、新宮駅行き夜行列車として、帰りは新宮駅発、京都駅行きの昼行列車として走る予定となっている。

 

◆JR九州36ぷらす3(2020年10月16日運行開始)

↑36ぷらす3の月曜日コースは博多駅〜長崎駅間を往復するプラン。途中、肥前浜駅で1時間停車。地元の人たちの歓迎を受けて走る

 

「36ぷらす3」というユニークな列車名。JR九州の観光列車は「D&S(デザイン&ストーリー)列車」と名付けられているが、その第12弾の列車となる。「36ぷらす3」の意味は、列車が走る九州が世界で36番目に大きい島とされていること。さらに列車が走る5行程に九州を楽しむ35のエピソードを詰め込まれ、最後の36番目のエピソードは乗車した人に語ってもらいたいという思いが込められたこと。さらに「お客さま、地域の皆さま、私たち」でひとつになって(+3の)39(サンキュー!)=感謝の輪を広げていきたい、という意味を込めて名付けられたとされる。

 

車両は特急形電車の787系を改造、デザインは水戸岡鋭治さんがてがけた。6両編成で全車がグリーン席、1〜3号車はグリーン個室、5〜6号車はグリーン席、さらに中間の4号車はマルチカーと名付けられたパブリックスペースで、さまざまな体験を楽しむ催しやイベントなどに利用される。

 

運行は曜日によって異なり、木曜日に博多駅を発車、南下して鹿児島中央駅へ。金曜日には宮崎駅へ。土曜日は大分駅・別府駅へ。日曜日は大分駅から博多駅へ。日曜日は博多駅から長崎駅との往復、という九州をほぼ一回りするコースをたどる。コンセプトといい、コースといい、かなりユニーク。ランチ付プラン、グリーン席のみのプランなど、1日単位の利用も可能で、選択肢がふんだんにあり楽しめる列車に仕上げられている。

 

【注目!2020年④】今年も一世を風靡した車両が消えていった

新しい車両や観光列車が登場する一方で、静かに第一線を去っていった車両も目立った。引退していった車両の面影をたどってみよう。

 

◆東海道新幹線700系(2020年3月13日定期運用終了)

↑山陽新幹線を走る700系C編成。16両の700系はほぼ引退となったが8両編成の700系ひかりレールスターは現在も定期運行している

 

東海道新幹線・山陽新幹線の700系が登場したのは1999年3月13日のこと。当時の主力300系が最高時速270kmを出して走ったものの、振動や騒音が問題となり、乗り心地が芳しくなかった。そこで270kmのトップスピードを維持しつつ、居住性や乗り心地の改善が図られ登場したのが700系だった。登場時は、初代の0系や100系が走っていたこともあり、まずは初期の2タイプの置き替え用として造られている。

 

2006年までに1328両が製造され、主力として活躍してきた。新幹線の車両は在来線の車両に比べると、高速で走り続けることもあり、耐用年数が短いとされる。ちょうど20年あまり、2019年の暮れにまずは0番台にあたるC編成が定期運用の終了、続いて3000番台にあたるB編成の定期運用が2020年3月13日に運行を終了している。

 

その後もJR西日本には山陽新幹線を走る団体向け臨時列車用に、B編成16両が2本ほど残された。しかし、コロナ禍で定期便の本数自体が減っている状況もあって、運用されたという情報は流れていない。

 

一方、JR西日本の700系の8両E編成はひかりレールスターとして、主に山陽新幹線の「こだま」として運用されている。デザインが大きく異なるものの、700系の一部は残されたわけだ。

 

◆JR東日本251系(2020年3月13日運用終了)

↑相模灘や伊豆七島を見ながら走った251系「スーパ―ビュー踊り子」。伊豆半島でおなじみだったその姿ももはや過去のものとなった

 

JR東日本の251系特急形電車は、東京の都心と伊豆急行線を結ぶ特急「スーパ―ビュー踊り子」用に造られた。国鉄からJRとなって間も無い1990(平成2)年4月28日から運行を始めている。JRに変ったことを前面に打ち出し、例えば、景色が良く見えるようにと、ハイデッカー構造に、さらに2階建てのダブルデッカー構造の車両も用意するなど、乗って楽しめる造りとされた。

 

走り始めてからちょうど30年。海岸沿いを走る路線を長年、走り続けてきたこともあり、外から見ても塗装含め、傷みが感じられた。伊豆半島へ向かう看板特急として走り続けてきた251系。JRが誕生した当時に生まれた初期の車両も、引退する時代になったこと実感させた。

 

◆東京メトロ03系(2020年2月28日運用終了)

↑東武鉄道内を走る東京メトロ03系。日比谷線のほか東武鉄道伊勢崎線などを30年以上にわたり走り続けた

 

あと一車両、2020年に引退した車両に関して触れておこう。東京メトロ日比谷線用の03系。2020年の2月28日に最後に運用を終えた。

 

03系は1988(昭和63)7月1日に運行を始めた。日比谷線以外にも東武鉄道伊勢崎線などへ乗り入れて走った。より早く乗り降りが完了できるようにと、5扉車まで登場した。全長が18mと短めなのに5扉車というのは、今、改めて見てみるとかなり極端な造りの車両だった。これも時代の要求だったのだろう。首都圏の通勤電車は、30年が引退の一つの目安とされているようで、後任となる13000系が2017年に登場し、次第に置き換えられていき、徐々に車両数が減っていった。

 

首都圏を走る電車の中で長さ18mの車両は珍しく、線路幅も在来線と同じ1067mm、さらにアルミ合金製の車体に傷みが少ないこともあり、引退後には地方私鉄数社へ譲渡されていった。長野電鉄、北陸鉄道、熊本電気鉄道と各地の私鉄で、短い編成となったものの、早くも走り始めている。

 

【関連記事】
今も各地で働き続ける「譲渡車両」に迫る〈元首都圏私鉄電車の場合〉

 

【注目!2020年⑤】変る渋谷駅では2路線が大きく変貌した

東京の中で大きく変貌し続ける街といえば渋谷。常に新しいビルが建ち続け、街は姿を大きく変えている。その変貌とともに2020年は渋谷駅も姿を大きく変えた。

 

まずは東京メトロ銀座線の渋谷駅。これまでホームの狭さ、古さもあり、決して使いやすい駅とは言えなかった。渋谷区が進める渋谷駅街区基盤整備に合わせて2009年から工事が徐々に進められ、新駅への大移動が2019年の12月27日の夜から2020年の1月3日早朝にかけて行われた。この移設のために、銀座線の一部区間を運休させてまで実施した大掛かりなものだった。1月3日に終了とまさに渋谷駅の2020年は銀座線の移動工事で明けた1年の始まりとなった。

 

明治通り上空に誕生した銀座線渋谷駅の新駅はM型アーチ状の屋根が覆う近未来的な造りが特徴。ホーム幅も6mから12mと広々した造りとなり、より快適になっている。

↑従来の駅よりも東側に大きく移動した銀座線の渋谷駅。明治通り沿いには新改札口も設けられた

 

銀座線の渋谷駅とともに大きく変ったのがJR埼京線のホームだ。これまで埼京線の渋谷駅を利用する時には、ホームが大きく恵比寿駅側にずれていたために、かなり歩かなければならず不便だった。この埼京線のホームを、山手線のホームとほぼ平行する位置まで約350m移動させる工事が行われた。こちらは2015年から始まったJR渋谷駅の改良工事の最大の難関の工事でもあった。

 

埼京線のホームの移動は5月29日の夜22時から6月1日の早朝4時にかけて行われた。丸2日、電車をストップさせた大工事となった。その後に工事の模様がドキュメント番組として報道されたが、コロナ禍のさなか、かなりの難工事だったことが、その番組からも読み取ることができた。

 

この数日で、すべての工事が完了したわけでなく、その後も元ホームの撤去などの工事が進められている。渋谷駅はまだ完成途上なのである。

 

【⑥からは後編へ続く】

誕生は必然ーー電動式ハーレーダビッドソン「ライブワイヤー」を写真多めで解説

2019年に本国・アメリカで先行発売された電動ハーレーダビッドソン「ライブワイヤー(LiveWire)」。ハーレーファンはもちろん、多くのバイクファンの間では「まだか、まだか」と日本モデルの登場を心待ちにする声が多かったのですが、2020年12月ついに初お目見えとなりました。

販売がスタートするのは2021年2~3月で、輸入状況次第で前後することもあるようですが、これに先立ちライブワイヤーの実車を見てきました。これまで、高排気量・V型2気筒のガソリンモデルが基本だったハーレーダビッドソン。最新テクノロジーの投影によって誕生した電動モデル・ライブワイヤーがどんなものなのか。その全体像を紹介します。

【ハーレーダビッドソン「ライブワイヤー」を写真で先見せ(画像をタップすると拡大画像が表示されます)】

 

オートマチックモデルで、車検はない

電動の細部に入る前に、まずは外観と概要を見ていきましょう。全長は2135mm、シート高は795mm、重量255kgと、従来の高排気量バイクと大差はないものの見ての通りスポーツスターやH-Dストリートのように軽快でスポーティな走りを感じさせるモデルに仕上がっています。

 

実際に筆者もまたがってみましたが、ライディングポジションが結構前屈み。正直やや恐怖感を抱いたところもありますが、同時にストップ&ゴーが繰り返される街中ではなく、ロングライド時であればこのポジショニングによって体の負担が少なく、軽快に走れそう。デザインはハーレーダビッドソン社のベン・マッギンリーという若手デザイナーが創案しました。2021年からの販売ではオレンジヒューズ、ビビッドブラックの2カラーが展開され、いずれも希望小売価格は349万3600円(税込)となっています。

↑ライブワイヤー・オレンジヒューズ

 

↑ライブワイヤー・ビビッドブラック

 

ライブワイヤーはギアチェンジのないオートマチック車。免許区分は「大型自動二輪車免許」または 「大型自動二輪車免許(AT限定)」 です。また、電動バイクなので車検はありません。しかし、安全・快適に乗るためにはディーラーでのメンテナンスが必要になります。メーカー側では、初回1か月または800km走行のどちらかのタイミングでの初回点検に加え、定期的な点検を推奨しています。

 

スロットルを開けた瞬間、100%のトルクを実現!?

次に完全電動化の細部を見ていきましょう。まず、目を引くのが心臓部に備えられた黒く巨大な高電圧バッテリーです。

↑ボディ中央の黒い部分がライブワイヤーの巨大バッテリー。その下のシルバーの箇所にモーターが配置されています

 

このバッテリーは、これまでのハーレーダビッドソンのシンボルでもあったVツインエンジンの位置に装備されているもので容量は15.5kWh。スロットルを開けていない起動時には、回生充電され、一度の充電で最大235kmの走行が可能。さらに高速道路での連続航続距離は最大152kmとなり、東名高速で言うと、東京インターチェンジから静岡市内までを走りきることができます。

 

保証面も大丈夫。新車購入後から5年間、バッテリーには走行距離無制限の保証が付帯されるとのことで、安心して維持できそうです。

↑ライブワイヤーには2つの充電方式があります。夜間や自宅での普通充電は、ガソリンタンク代わりのトップ部のソケットに繋いで行います。約12.5時間で、0%~100%までのフル充電が可能

 

↑もう1つの充電方法は、外出先などでの急速充電。付属充電ケーブルをシート下のソケットに繋いで行います。約40分で0~80%の高速充電、約60分で0~100%の満充電が可能

 

↑急速充電は、出先のサービスエリア、パーキングエリア、道の駅などでも手軽に行うことができます

 

電動モーターモビリティの一番のワクワクポイント、同時に恐ろしいのが大トルク。内燃機関の乗り物は、いきなり最大トルクに到達することはないわけですが、このライブワイヤーはスロットルをひねった瞬間、一気に100%のトルクを発揮します。

↑スロットルをひねった瞬間にフルパワーの出力に至るライブワイヤー

 

約3秒でいきなり時速100キロに到達することもできるとのことで怖くなった筆者でしたが、安全装置的なロック機能があり、リミット設定もかけられるとのこと。ホッとしました。

 

ところで、ハーレーダビッドソンはもちろん、バイクの醍醐味の一つがエキゾーストノート……つまり排気音なのですが、ライブワイヤーは電動式なので排気ガスが出ません。こうなると、魅力が薄いのでは?と思うかもしれませんが、そこはバイクファンの心情をわかっているハーレーダビッドソン。エキゾーストノート代わりとして、モーター音があえて出るように設計しています。

 

タッチスクリーンで、7つのライドモードを選べる

↑ハンドル中央に装備されたタッチスクリーンにより、乗り味の異なるモードを操作できる仕組み

 

ライブワイヤーは完全電動であるがゆえ、ハンドル中央に装備されたタッチスクリーンによって、個体の全てを把握、操作できるのも特徴です。スピードメーター、バッテリー残量がわかるほか、本モデル特有のライドモードを選ぶことができます。

 

ライドモードには、4つのプログラムモード、3つのカスタムモードがあり、それぞれの特徴は下記になります。

1.スポーツモード
ライブワイヤーの潜在的な性能を、ダイレクトかつ正確に引き出し、 フルパワーと最速のスロットルレスポンスを可能にするモード

2.ロードモード
日常的に使用するための技術をブレンドし、ライダーにとってバランスのとれたパフォーマンスを発揮するモード

3.レインモード
抑制された加速と限定された再生を実現。より高いレベルの電子制御介入を強調するモード

4.レンジモード
スロットル入力に対してスムーズかつ的確なレスポンスを実現するためのセッティングをブレンド。高いレベルでのバッテリー回生を行い、走行距離を最大限に引き出すことができるモード

5.カスタムモード(3種類)
ライブワイヤーをオフにした状態で、タッチスクリー ンにA、B、C と表示されるカスタムモードを最大3つ作成することが可能。パワー、回生、スロットルレスポンス、トラクションコントロールのレベルを特定の範囲内で組み合わせて選択することができます

 

このように自分のライディングスタイルに合わせて、最も相応しいモードに設定すれば、より快適な運転を楽しめるのもライブワイヤーの特徴でもあります。

↑その気になれば、ポテンシャルを最大限発揮できるのも特徴。2020年9月にアメリカ・インディアナポリスで開催されたドラッグレースでは、ライブワイヤーは市販電動バイクの最速記録を樹立しました(200m=7.017秒、400m=11.156秒、時速177.6km)

 

バイク本来の機構も、細部にまでこだわりが!

↑バイク本来が持つ機構も、細部にわたってこだわり抜かれたライブワイヤー

 

ここまで主にライブワイヤーの電動システムの特徴を紹介しましたが、では肝心のバイク本来が持つ機構はどうなっているのでしょうか。まず、フレームには鋳造アルミが採用されており、バイク全体の軽量化に寄与しながら、もちろん強度を高めています。

↑ボディを支える艶消しブラックのフレームは、鋳造アルミによるもの

 

そして、乗り味と確実な制御機能を実現させるためフロントに、SHOWAによるSFF-BP(フルアジャスタブル倒立フロントフォーク)、リアにBFRC-lite(フルアジャスタブルリアショック)が採用されています。さらにフロントブレーキのキャリパーはBremboのMonoblockを採用。300mm径のデュアルローターをしっかりグリップしてくれます。

↑SHOWAのフルアジャスタブルリアショックを搭載したリア付近。もちろん好みの伸び側減衰力に調整することができます

 

↑SHOWAのフルアジャスタブル倒立フロントフォークに付随する足回り。Bremboのキャリパーを採用

 

さらにライブワイヤーのためにミシュランが特別設計したScorcher Sportタイヤが履かれており、コーナリングでのグリップも十分。あらゆるライドでスタビリティーを発揮します。

↑ミシュランによるライブワイヤーのためのタイヤ、Scorcher Sport。フロントが17インチ×120、リアが17インチ×180

 

そして、最後。忘れちゃいけない気になるフロントとリアのルックスです。まず、フロント極めてシンプルなライト周りですが、ウィンカーなどの保安部品の細部がどことなくレーシーな印象を与える一方、ミラーはこれまでのハーレーに多かった段のついたケースのものを採用。このフロントから温故知新を具現化したような印象を受けました。

 

さらにリアはナンバープレートの両サイドにウィンカーを、フェンダーを支えるフレームにストップランプを配置。極力出っぱらさせないよう、細部まで工夫が施されています。これら無駄な装飾をせず、どことなくあえて無骨さを残している点は、ハーレーダビッドソンの流儀のようにも感じた筆者でした。

↑極めてシンプルなフロント周り

 

↑これ以上はありえないことをわからせてくれるほどの、極めてシンプルなリア周り

 

賛否両論というより必然だった電動ハーレー

ここまで、電動ハーレーダビッドソン・ライブワイヤーの全体を見てきましたが、最後にハーレーダビッドソン ジャパン・プロモーションマネージャーの大堀みほさんに、ライブワイヤー開発の背景について話を聞きました。

↑ハーレーダビッドソン ジャパン・大堀みほさん。プライベートではハーレーダビッドソンの「スポーツスター」を愛用されているとのこと

 

ーー言うまでもなくバイクファンにとって、ハーレーダビッドソンは特別なメーカーです。電動バイク・ライブワイヤーの開発には賛否両論があったのではないかと思うのですが。

 

大堀みほさん(以下、大堀) それが、本国では面白い事態が起きているんですよ。ライダー歴が浅い人、バイクには造詣がなかったけど、ガジェット好きでこれを機にバイクやハーレーダビッドソンに興味を持つ人が増えているようです。従来の「ハーレーダビッドソンの空冷エンジンが好きだ」という流れはこれからも続くと思いますが、一方でハーレーの創業時から続く「変革を恐れない」というこだわりは、ライブワイヤーにも現れていると思っています。

一般的に、ハーレーダビッドソンと言うと、「アメリカンでドコドコとゆったり走る」イメージがあるかもしれませんが、実際には様々なモデルがあり、各モデルそれぞれにファンが存在しています。なので、今回のライブワイヤーは賛否両論の末というより「新しいバイクの楽しみを提供する」という意味で必然的に開発されたと思っています。

 

ーーその「変革」には時世的な影響もあったのでしょうか。日本国内の四輪では2000年代から電動自動車が浸透し始め、最近では「2030年にガソリン車の新車を廃止する」という政府の方針も発表されました。

 

大堀 社会的な流れはもちろん意識しています。排出ガスに対する取り組みは四輪が先立って行っていますが、その波は二輪メーカー各社にも来ています。いわゆるSDGsのように持続可能社会を考えていかないことには企業は生き残っていけませんので、そういった意味でライブワイヤーを開発した経緯はあります。

しかし、バイクというのは「乗ってみて面白い」「カッコ良いものに乗りたい」というものでないと淘汰されていってしまうと思うんですね。バイクをただの足として考るのであれば、スクーター、自転車など代替品は他にもあると思いますし。しかし、「ハーレーダビッドソンに乗りたい」と思ってくださるお客さまに対して、前述のような社会的なことを意識しつつ新しい価値の提供をするということで、今回のライブワイヤーの開発に至ったところがあります。ですから、見ていただいた通り機能面だけでなく、デザイン面にもすごくこだわったモデルです。

まだ発表したばかりのライブワイヤーですが、このモデルを通してバイクの新しいライディング体験を提供できるとも思っています。ぜひ機会がありましたら、店頭へのご来店や、今後実施予定の試乗会などにお越しいただき、ライブワイヤーに触れていただければ嬉しいです。

↑2021年の発売より、日本のバイク市場でのライブワイヤーの席巻が始まる予感がしました

 

電動ハーレーダビッドソン、ライブワイヤーは未来を見据えた同社の新しいバイクの提案であり、この試みがバイク市場全体にも連鎖するようにも思いました。環境、機能、ルックスとも三方ヨシのライブワイヤー。ぜひ機会があったら触れてみてください!

 

撮影/我妻慶一

【2020年クリスマスセール】まだ間に合う! 話題の電動モビリティが20%オフで買えるセール

2020年もいよいよクリスマスシーズンに突入しようとしています。クリスマスといえばやはり大切な人へ贈るプレゼントですが、そこで見逃せないのがクリスマスセール。GetNavi webでは、大切な人に対してはもちろん、1年を頑張った自分に対しても贈りたい、そんなギフトの情報をお届けしていきます。

まだ間に合う! 話題の電動モビリティが定価の20%オフで買える

電動モビリティメーカーのKINTONEは、12月20日(日) まで、同社ECサイトで、クリスマスセールを開催中です。最もお得度が大きい期間はすでに終わってしまっていますが、定価の20%オフで購入できる期間が残っています。

セールでは、期間によって割引率が変動し、20日までは、下記のようになっています。
  • 12月17日(木) 〜12月20日(日): 20%オフ

※30%~25%オフの期間は既に終了しています

■セール対象商品

クラシックモデル(写真右)

定価2万9800万(税別)

筋斗雲のように、体重移動だけで動く魔法の乗り物です。最初はちょっと怖いかもしれませんが、慣れてくると魔法のようにスイスイ進みます。進んで、止まって、クルクル回る。体験したことのない不思議な感覚を味わえます。
オフロードモデル(写真左)

定価4万8900万(税別)

従来の1.5倍となったワイドボディ。大きなフォルムと存在感のあるデザインで、道のフィールドをなんなく駆け抜ける未体験の楽しさは、乗る人だけでなく通行人すらも圧倒します。走破性抜群のホイール、近未来のSUVエアレスタイヤを採用したためパンクは一切なし。安定した走りで乗る人をしっかり支えます。

子どもから大人まで「鉄道好き」ならゼッタイに楽しめる「しかけ」が満載!−−『はっけんずかんプラス鉄道』

鉄道好きにお勧めの書籍が12月17日に発行された。対象は幼児〜小学校高学年向けの児童書ながら、大人でも十分に楽しめる内容となっている。タイトルは『はっけんずかんプラス 鉄道』(学研プラス・刊)。サブタイトルに「まどあきしかけ」とある。さて「まどあきしかけ」とは何だろう?

 

 

【本書の特徴①】あければ、おっとの「まどあきしかけ」

まずはこの本、イラストが中心となっている。描いたのはスズキサトルで、乗り物の絵本や児童書、アウトドア雑誌や書籍などを中心に幅広いジャンルを描く新進気鋭のイラストレーターである。同書籍のイラスト点数が並みではない。大きなイラスト64点、小さめのイラスト99点。今回、掲載できなかったものまで含めると計180点近いイラストを新たに書き起こし、それらのイラストを組み合わせて作られている。ちなみに構成や文章、写真などは本原稿の筆者が監修役を務めた。

 

↑「たくさんの人を運ぶ通勤電車」のイラストページの一部。全国を走る10車両の紹介と、「まどあきしかけ」が隠されている

 

前ふりはこのぐらいにしておき、そのポイントを紹介してみよう。上記の写真は4章「たくさんの人を運ぶ通勤電車」というイラスト中心の、しかけページである。この写真を見る限りは、ごく普通のイラスト本とかわりないように見える。さて、この本のポイントは「まどあきしかけ」にある。その一部を見てみよう。

 

【本書の特徴②】あければあけるほど発見や楽しみが倍増!?

「まどあきしかけ」を分かりやすく説明するために、写真で手順を追ってみた。たとえば西武鉄道40000系 S-TRAINの「まどあきしかけ」。この車両の特徴といえば、座席の向きが変更できるところ。通常の列車として走る時は、ロングシートとして、指定席列車として走る時にはクロスシートとなる。このあたりの仕組みが「まどあけしかけ」をめくると分かるのだ。

↑西武鉄道40000系の「まどあきしかけ」は凝っている。1つめをあけるとロングシートが登場、2をあけるとクロスシートとなる

 

例をあげたが、こうした「まどあきしかけ」が本文34ページに、84か所も仕組まれている。かなり凝った仕掛けの車両もあり、あけていく楽しさがこの本の特徴となっている。

 

【本書の特徴③】制作している側にも新たな発見があった

筆者の性分として、つい本づくりや、原稿を書く時に、“凝ってしまう”ところがある。また分からないところがあると、とことん調べてしまう。いろいろ調べていくうちに、複数の発見があった。

 

その一つを紹介しよう。石油類を運ぶ貨車、タンク車。こちらのタンク車は私有貨車といって、石油を輸送する会社が所有している。タンクの中は、どのようになっているのだろう、と疑問がわいた。ところが、調べても資料がほぼない。そこで日本石油輸送株式会社の担当に聞いて、資料を多数出していただいた。

↑「パワー全開!貨物列車」のページの一部。「まどあきしかけ」を全部あけると、こんなに多くの仕掛けが隠されている

 

すると、これまでどこにも紹介されていないと思われる事実が分かった。タンク内には、上部マンホールから降りるはしごがある。さらに下部にある排出口を開閉するシャフトが天井部まで伸びているということが分かった。

 

このことは輸送に関わる鉄道会社に勤める人も初めて知ったというぐらい、新しい情報だった。

 

【本書の特徴④】写真中心ずかんページには多くの「ひみつ」が

本書の構成はイラスト中心の「しかけページ」と、写真中心の「ずかんページ」に分かれている。「しかけページ」の後ろには必ず「ずかんページ」が続く。取り上げたテーマは8項目で次のとおり。

 

①いろいろな新幹線

②特急がいっぱい! 

③乗りたい!観光列車 

④たくさんの人を運ぶ通勤電車 

⑤まだまだいっぱい!いろいろな電車 

⑥電気で動くだけじゃない! ディーゼルカーなど 

⑦パワー全開! 貨物列車 

⑧鉄道の安全を守る! 

 

ずかんページは写真中心の構成で、イラストページでは、紹介できなかったポイントが例えば「新幹線のひみつ」というように、“ひみつ”というキーワードで紹介されている。

↑写真を中心に構成された新幹線のずかんページ。「新幹線のひみつ」として新幹線として走る車両を網羅している

 

このように、ごく一部を見るだけでも、盛りだくさんの情報を詰め込まれていることが分かる。定価は2178円(税込)。クリスマスプレゼントにいかがだろう。

 

【書籍紹介】

 

はっけんずかんプラス鉄道

著者:スズキサトル (イラスト)、星川功一(監)
発行:学研プラス

めくるしかけや豊富な写真で、鉄道の秘密に迫るしかけ図鑑。鉄道が大好きなお子さんが満足する情報を幅広く、深く紹介します。しかけ図鑑ならではのわかりやすさと楽しさで、鉄道のことがもっと好きになる一冊です。

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火入れ式も終わり2機体制に!東武鉄道「SL大樹」の今後に夢が膨らむ

〜〜東武鉄道SLC11形325号機「火入れ式」〜〜

 

東武鉄道が運行する観光列車「SL大樹(たいじゅ)」。日光・鬼怒川温泉地区の活性化を目的に生まれた列車で、同地区の観光客の増加に貢献してきた。そんなSL大樹に、この12月に大きな“動き”があった。

 

新たなC11形への火入れ式が行われたのである。新たな蒸気機関車が加わり2機体制に増強された。さらに3機めの修復が進められている。今回は火入れ式の模様と、車両や列車の生い立ち、今後の運行予定をレポートしよう。

 

【関連記事】
魅力はSL列車だけでない!「東武鬼怒川線」の気になる11の逸話

 

【SL大樹に注目①】火入れ式が行われたC11形325号機とは?

埼玉県久喜市にある南栗橋車両管区。東武鉄道日光線の南栗橋駅近くにある車両基地で、東武鉄道の総合メンテナンスセンターがある。基地の一角にSL検修庫があり、ここで2020年の12月2日に「火入れ式」の神事が催された。

 

すでにSL大樹用にはC11形207号機が使われている。これまで1両のみでの運行を行ってきたが、鉄道車両としては高齢にあたる蒸気機関車なので、過度な負担は禁物となる。大事に扱うことが必要だ。そのため週末など運転日を限定せざるをえなかった。さらに検査日には、ディーゼル機関車が牽引を代行した。鉄道ファンにはディーゼル機関車の牽引も人気があったが、一般利用者にとっては「せっかく訪れたのに」ということになっていた。

 

そこで、SL大樹の運行を強化すべく、蒸気機関車を探していた。そして今回、新たにメンバーに加わったのが、C11形325号機だった。

↑東武鉄道南栗橋車両管区で「火入れ式」が行われ、正式にSL大樹の牽引機となった。きれいに整備された車体が美しい

 

C11形325号機の生い立ちを紹介しておこう。325号機は1946(昭和21)年3月28日、日本車輌製造本店で生まれた。太平洋戦争後、間もなく製造された蒸気機関車で、「戦時設計」「戦時工程」で造られた4次形車両に含まれる。当初は茅ヶ崎機関区に配置された。相模線や南武線などを走った後に、米沢機関区へ。米坂線や左沢線(あてらざわせん)で列車を牽引した。

 

湘南育ちで、その後に山形県内のローカル線を主に走ったわけだ。1972(昭和47)年に引退し、新潟県内で静態保存されていた。1998(平成10)年にJR東日本の大宮工場で復元工事を行い、この時に4次形 C11の特徴だった角形ドームが丸形ドームに変更されている。そして真岡鐵道の「SLもおか」として走り始めた。

↑真岡鐵道を走っていた頃のC11形325号機。下館駅行きの列車は先頭にC11形、後部にC12形といった運転も行われていた

 

真岡鐵道ではC12形とともに2機体制で、SL列車を運行させていた。JR東日本にたびたび貸し出され、「SL会津只見号」ほか多くの観光列車としても利用されていた。長年、走り続けてきたが、高額な検査・整備費用の捻出が難しくなりつつあり、引き取り手を探していた。

 

真岡鐵道では2019年12月にラストランを行った。その後に、325号機は所有権を真岡市から芳賀地区広域行政事務組合に移され、2020年7月30日に東武鉄道に正式に譲受された。それから4か月に渡り東武鉄道によって整備が進められ、今回の「火入れ式」となったのだった。

 

【SL大樹に注目②】女優の門脇 麦さんも駆けつけ祝福した

蒸気機関車に魂をいれ、また今後の安全を祈願する「火入れ式」。神事とあって厳かな雰囲気のなか進行された。神職による祝詞(のりと)の読み上げや、拝礼が執り行われる。その後に、根津嘉澄東武鉄道社長が点火棒を使い、SLの心臓部、ボイラーへの点火が行われた。

 

こうしてC11形325号機は、東武鉄道の蒸気機関車として正式に復活したのである。

↑安全などを祈願して東武鉄道の根津社長が点火棒を使って「火入れ式」を行った 写真提供:東武鉄道株式会社

 

火入れ式当日は女優の門脇 麦(かどわき むぎ)さんがゲストとして招かれた。大河ドラマ「麒麟がくる」のヒロイン役をつとめ注目される門脇さんは「1号機のC11形207号機の運行(開始)日が私の誕生日と同じ8月10日だったので、SL大樹とは何かのご縁があるように思っていました。今日の火入れ式に参加できてとても光栄でした」と話す。

↑東武鉄道の根津社長と並び写真に納まるのはゲストとして招かれた女優の門脇 麦さん  写真提供:東武鉄道株式会社

 

無事に「火入れ式」が終了したC11形325号機。12月26日の土曜日から早くも運行に使われ始め、SL大樹の牽引役をつとめる。

 

【SL大樹に注目③】人気のSL大樹の列車&車両の歩みをたどる

ここからは、せっかくの機会なので、SL大樹の歩みをふりかえっておこう。

 

SL列車の運転計画は今から5年前にさかのぼる。2015年8月10日にJR北海道が保有するC11形207号機を借り、東武鉄道鬼怒川線で運行することを発表された。ちなみに207号機は、かつて走った路線で濃霧に悩まされたことから、その対策として、前照灯を2つ付けている。通称“カニ目”という造りで人気となった。近年はSL函館大沼号などの観光列車の牽引に使われていた。

↑北海道の函館本線を走っていたころのC11形207号機。JR北海道ではSL函館大沼号などの牽引機として活躍した 2013年7月13日撮影

 

まずは、この207号機をJR北海道からかりることができた。もちろんSL列車は蒸気機関車だけでは運行できない。乗客が乗車する客車が必要となる。ちょうどJR四国が14系・12系客車を使わずにいたこともあり、この客車を譲り受けた。蒸気機関車の運行をバックアップする補機用に、JR東日本のDE10形ディーゼル機関車を譲り受けた。さらに安全機器類などを搭載するための車掌車もJR貨物とJR西日本から譲り受けた。

 

起点の下今市駅と、終点の鬼怒川温泉駅に方向転換する転車台がほしい。そこでJR西日本の長門市駅と、三次駅(みよしえき)にあった転車台を譲り受け、輸送して整備した上で設置した。

 

さらに専門のスタッフを育てなければいけない。蒸気機関車運行用の機関士、機関助士、検修員、整備員の育成が必要となる。何しろ、東武鉄道では1966年6月にSLの運行が終了していた。当時を知る人も社内にはいなかった。そこで秩父鉄道、大井川鐵道など、蒸気機関車を動かしている鉄道会社へ、乗務員の研修を依頼した。こうして他の鉄道会社の協力を得て、蒸気機関車の扱い方を学んでいったのである。

 

こうした自社以外の多くの鉄道会社の協力を得て、一つのプロジェクトを成し遂げていくというスタイルは、これまでの鉄道業界では、ほぼなかったことだけに、注目を集めた。

 

そして2016年12月1日、今回、火入れ式が行われた同じ南栗橋SL検修庫で、SL列車の名前が「大樹」と発表された。C11形207号機のお披露目も行われた。4年前を写真で振り返ってみよう。

↑2016年12月1日に列車名は「大樹」と発表された。この日にC11形207号機に初めてヘッドマークが取り付けられた

 

2016年12月1日に列車名「大樹」が発表されるとともに、南栗橋駅構内に設けられたSL用の側線を颯爽と走る姿も報道陣に公開された。

 

この時には、現在使われている車掌車のヨ8000形(8709)とヨ5000形(13785)を連結して走る姿を見ることができた。ヨ8000形はSL大樹にも連結されて、活躍中だが、ヨ5000形はその後の姿を見ていない。ちょっと気になる存在でもあった。

↑列車名の発表とともに南栗橋車両管区内で試運転シーンが公開された。連結しているのは車掌車のヨ5000形とヨ8000形

 

↑C11形207号機の機関車の運転室内。SL列車の運転に向けて、スタッフは長期にわたり他社に出向き研修を積み重ねた

 

【SL大樹に注目④】転車台の作業が人気イベントとなった

2016年12月に列車名が発表された。その後8か月にわたり、試運転などの準備が進められ、2017年の8月10日に正式に運転が始められた。かなり時間をかけて準備されたSL運転だったことが分かる。

↑砥川橋りょうを渡るSL大樹。トラス部分は明治30年に架けられた阿武隈川橋りょうを転用したもので国の登録有形文化財に指定される

 

 

筆者もSL大樹の運転開始後に、たびたび沿線を訪れたが、まずは最初に驚かされたのが転車台の設置場所+公開方法だった。

 

起点となる下今市駅は、北側スペースに扇形庫と転車台が設けられた。見学用の転車台広場が造られ、また隣接してSL展示館が設けられた。転車台を使っての方向転換の作業が、人気のイベントとなった。

↑運転開始当初の下今市駅構内の転車台。後ろの扇形庫は、車両の増強もあり、大きく改修されている

 

下今市駅の転車台は駅構内なので、見学は乗客や入場した人が限られる。鬼怒川温泉駅の場合は、最初に見た時は、びっくりさせられた。

 

駅の玄関前に転車台が設けたのだった。この場所ならば、誰もが気軽に方向転換の風景を楽しむことができる。駅の構内でなく、駅前にわざわざ転線しなければいけないのは、手間かも知れない。だが、転車台でぐるりと回る作業を、一つのエンターテイメントとして売り出したのは、さすがに大手私鉄ならではのアイデアだと感心させられたのだった。

 

SL大樹が運行され始めてすでに4年となる。この鬼怒川温泉駅の駅前での転車台による方向転換は、すでに温泉地を訪ねる観光客にとっても、楽しみなイベントとしてすっかり定着しているかのようだ。

↑鬼怒川温泉駅の駅舎前に設けられた転車台。鬼怒川温泉を訪れた観光客にとって方向転換シーンは注目イベントとなっているようだ

 

【SL大樹に注目⑤】沿線の駅もレトロできれいに模様替え

実は東武鬼怒川線の途中駅は、昭和初期に開設した駅がほとんどで、多くの駅の施設が国の登録有形文化財に指定されている。

 

そうした文化財の状況は、SL大樹の起点駅、下今市駅の旧跨線橋内に解説がある。興味のある方はぜひ見ていただきたい。実は下今市駅の旧跨線橋(東武日光駅側)自体も、国の登録有形文化財に指定されている。

 

東武鉄道ではこうした文化財を生かしつつ、各駅の「昭和レトロ化工事」を進めている。たとえば途中の新高徳駅。最寄りに人気の撮影スポットがあり、鉄道ファンがよく利用する駅だ。この駅に2020年の早春に訪れてびっくりしてしまった。

 

前はごく普通の駅だったが、いつのまにかレトロなおしゃれな姿に変身していたのである。トイレもきれいに整備されていた。駅員もレトロな制服姿に。SL列車が停まらなくとも、鉄道ファンは訪れる。細かいところにまで徹底して整備を始めている。“ここまで東武はやるのか”とビックリさせられた。

↑昭和レトロ化工事によって、リニューアルされた新高徳駅。右上の旧駅舎と比べると、とてもおしゃれに変身したことがよく分かる

 

【SL大樹に注目⑥】次から次へユニークな運行が注目を集めた

2017年8月に運転を開始したSL大樹だが、3年間、同じ形での運行を続けてきたわけではない。形を少しずつ変えて運行させていた。たとえば次の写真は、後ろに補機のディーゼル機関車を付けずに走った時のものだ。

 

補機を付けずに走ると、勾配などの運転で、牽引する機関車の負担も大きくなる。一方で、煙をはく量が多くなる。ちょうどこの補機を付けなかった期間は冬期だったこともあり、白煙が目立って見えた。そうした効果があってか、多くの鉄道ファンが沿線につめかけていた。もちろん列車の乗車率も高まったはずである。

↑補機を付けずに走った時のSL大樹。冬期ということもあったが、白煙が多く立ち上り迫力のあるシーンを見せてくれた

 

また同時期には客車を1両のみだが元JR北海道で活躍していた14系客車オハ14-505、通称ドリームカーに変更した列車も登場した。ドリームカーは、国内最後の夜行急行「はまなす」に連結されていた客車だ。グリーン車と同等で、座席の間が広々していて寛いで乗車できる。またラウンジも設けられていた。札幌駅〜青森駅間を走った「はまなす」に乗車した経験がある人にとって、とても懐かしい客車なのである。

↑補機を付けずに走ったSL大樹。客車3両のうち、中間に元JR北海道の14系ドリームカーを連結して走る日も用意された

 

JR北海道からは同じ「はまなす」の客車として使われていたスハフ14-501も導入されている。これで客車は6両体制となった。さらに補機として使われるDE10形も増強されている。新たにJR東日本の1109号機を秋田総合車両センターで整備した上で譲り受けたのである。

 

この1109号機の塗装には鉄道ファンも驚かされた。青地に金色の帯、さらに運転席下に北斗星のロゴマークが入るこだわりぶりだった。かつて、寝台特急「北斗星」を牽いたDD51形ディーゼル機関車とそっくりな塗装だったのである。この1109号機が2020年10月31日から「DL大樹」を牽引して走り始めた。従来のDE10形がオーソドックスな国鉄塗装だったのに対して、この機関車の色は客車のブルー塗装と似合い、なかなか趣があった。

 

補機を付けない蒸気機関車だけの運行と、さらに新たな車両の導入。常に斬新なスタイルの列車を走らせる試みは、マンネリ化させない工夫そのもので、さすがだと思う。

↑2機目の補機用のディーゼルカーDE10形1109号機。北斗星仕様の塗装が施されていた 写真提供:東武鉄道株式会社

 

【SL大樹に注目⑦】2機体制となりより充実した運行が可能に

SL大樹は、C11形蒸気機関車の1両増やすことで2台体制となる。そして充実した運転が可能となった。整備のためSLが走らない日を無くすことができ、さらにSL列車の本数を増やすことができる。

 

早くも年末年始の運転予定のうち、12月26日と27日、1月1日〜3日、1月9日〜11日の8日間はSL2編成で運転される。SL大樹は1号から8号(上り下り4往復)が運転されるというから、鉄道好き、SL好きにとっては、注目の年末年始となりそうだ。

↑東武鬼怒川線の鬼怒川橋りょうを渡るSL大樹。新高徳駅〜大桑駅間にはこうした名物スポットが多く人気となっている

 

【SL大樹に注目⑧】さらに3機体制で夢が大きく膨らむ

SL大樹の運行は、さらに強化されようとしている。東武鉄道では新たなC11形の復元作業に取り組んでいる。

 

新たなC11が加わる。そしてナンバーは123号機となる。123号機は江若鉄道(こうじゃくてつどう)という現在のJR湖西線の一部区間を走っていた私鉄が、1947(昭和22)年に日本車輌製造に発注した車両だ。同鉄道ではC11 1として走っていた。その後に北海道の雄別炭磺鉄道、そして釧路開発埠頭と巡り、1975(昭和50)年に廃車に。その後は日本鉄道保存協会の所有となり静態保存されていた。この車両が2018年11月に南栗橋車両管区に運ばれ、少しずつ修復が進められていた。復元作業は2021年冬に完了の予定だとされる。

 

ちなみに123号機の「123」は、2020年11月1日に東武鉄道が123周年を向かえたことにちなむ。さらに1→2→3(ホップ、ステップ、ジャンプ)と将来に向かってさらに飛躍を、という思いが込められた。

 

ところで、最初に走り始めた207号機はJR北海道から借用している車両なのだが、こちらはどうなるのだろう。東武鉄道によると、今後も借り続ける予定で、名物のカニ目SLはまだ東武鬼怒川線を走り続けそうだ。

 

3機体制となると、どのような運行になるのだろう。2021年夏以降は、平日を含めた毎日、運転したいと考えているとのこと。

↑真岡鐵道では定期的にSL重連運転が見られたが、東武鉄道でも同じような運転が行われるかどうか注目したい

 

定期運行と、現在、月一回程度、行っている下今市駅〜東武日光駅間の運行のほか、他線区でのイベント運転に乗り出す。加えて事業の目的の一つ、東北復興支援の一助として、会津方面への乗り入れも今後の検討課題だとしている。

 

今回、登場するC11形325号機が走った真岡鐵道で行われたように、C11形2両による重連運転が見られる日も、意外と近い日に訪れるのかも知れない。

グラフィットの電動HVバイクが2世代目になった! 「GFR-02」の実力を隅までレビュー

スロットルをひねれば電動バイク、ペダルを漕げば自転車のような感覚で走れる電動ハイブリッドバイク。その新モデル「ハイブリッドバイク GFR-02(以下GFR-02)」が電動キックスクーターなどを手掛けるモビリティ系ベンチャーのglafit(グラフィット)から登場しました。価格は18万円(税別)。近日発売予定です。

↑近日発売予定の「GFR-02」。ステアリングポストが一体成形となり、クランクの大口径化も図られて、乗り物としての仕上がり感は着実にアップした

 

GFR-02の進化は盛りだくさん!

グラフィットでは2017年にその初代モデルとして「GFR-01」を発売し、Makuakeを通して5000台以上を販売する実績を残しました。GFR-02はその改良モデルとして登場しただけに、その期待は膨らみます。

↑スリムかつコンパクトなボディにより補完性はとても高い。本体サイズ(展開時)は、約全長1250×全幅600×全高950mm

 

では、GFR-02はどのような改良が加えられたのでしょうか。

↑11月25日に発表されたGFR-02は、「FLASH YELLOW(フラッシュイエロー)」「MATTE BEIGE(マットベージュ)」「SHIRAHAMA WHITE(シラハマホワイト)」「TIDE BLUE(タイドブルー)」の4色展開。中央に立つのはグラフィットの代表取締役CEO 鳴海禎造氏

 

改良された中でもっとも魅力的なのがインホイールモーターの出力アップでしょう。パワーは0.25kwと変わらないものの、パワーカーブをより最適化したことでスロットルを回した瞬間から力強さを感じるようになったのです。試乗してみると、加速を続けても速度は確実に上がり続け、GFR-01で感じられたパワーの頭打ち感はほぼ感じられませんでした。上限の30km/hまでスムーズに走り抜けたのは大きな進化と言っていいでしょう。

↑モーターのトルクカーブがより実用的になり、スムーズかつ快適な走行が楽しめました

 

ブレーキのフィーリングもかなり向上しています。前後輪ともディスクブレーキを採用するのはGFR-01と同じですが、軽いタッチでスムーズに制動するようになっていました。今までもしっかり効いてはいたのですが、どちらかといえば効き方はカックンとした感じ。それがGFR-02ではブレーキのかけ方に応じて確実に効いているのがわかり、思った位置にスムーズに停止できます。これは安心感を生む上で大きなプラスポイントになります。

↑ブレーキは前後ともディスクブレーキを採用。ブレーキのかけ方がよりリニアになり、安心かつスムーズな制動が得られるようになっていました

 

ペダルに直結するクランクの口径もGFR-01の42Tから52Tへと大型化した点も大きなポイントです。自転車モードではペダルを漕いで走行できるわけですが、GFR-01ではギア比が低かったために思うように速度が上がりにくいという声が多かったと言います。私がGFR-01で体感した時も、電動バイクモードから自転車モードに切り替えると速度にペダルが追いつかず空回りすることもありました。クランクの大口径化はその改善にしっかりと応えていたのです。

↑クランクをT42からT52へ大口径化したことで、自転車モードでの実用性がグンと高まりました

 

↑EVで走行する「電動バイクモード」と、ペダルを漕いで走る「自転車モード」を切り替えて走行できるが、いずれのモードでも道交法では原付自転車のカテゴリーに入ります

 

グラフィットのハイブリッドバイクは、持ち運びができる小型軽量を実現しているのも大きな特徴です。その特徴をさらに発展させるためにGFR-02では折り畳み機構も刷新されました。GFR-02では新たに右折れ式を採用してハンドルポストを外側に収めるように変更。折り畳み時の作業性は一段とスムーズになり、シートポストの長さも見直して折りたたんだ時でも安定して自立できるようになっています。

↑折り畳みサイズは、約全長650×全幅450×全高600mm

 

↑GFR-02は折りたたんでクルマに載せたり、家やオフィスなどに持ち込むことが可能。ハンドルポストが右折れとなったことで畳んだときの収まりも良くなっています

 

シェアリングでの展開も念頭に置くグラフィットのハイブリッドバイクでは、GFR-01で既に鍵を持たずに自分の指でロック解除できる「YubiLock(ユビロック)」を搭載していました。ただ、GFR-01ではカバーを開けた後、指紋認証するためのスイッチを押す手間がかかりました。GFR-02ではカバーそのものがスイッチの役割を果たし、開けたらすぐに指紋認証ができるようになったのです。これも嬉しい気遣いです。

↑指紋認証するためのスイッチはシート下に設置。カバーを開いたらすぐに認証可能となっている

 

そして、あらためてお伝えしなければならないこと、それはGFR-01もGFR-02も道交法上は“ペダル付き原動機付自転車”であることです。そのため、法規上は「原付第一種」となり、車両には保安部品として定められたライトやウインカー、メーターなど保安部品が装備されています。また乗車するには原付免許が必要でヘルメットの着用も義務付けられます。さらに気を付けるべきは、たとえ自転車モードで走行してもこれは変わらないということです。仮にバッテリーが切れて自転車モードで走っていたとしても、道交法上は原付扱いのままなのです。

↑GFR-02は原付自転車のカテゴリーに入るため、ウインカーやライト、速度計など保安部品を装備。GFR-02ではウインカーのデザインも一新されました

 

↑新意匠のバックミラーは外向きと内向きの2ウェイで使用可能。内向きでは自転車モードで使い、折りたたむときにも使用

 

新機構「モビチェン」に注目!

そのような中でグラフィットは2021年夏頃までに、自転車と電動バイクの完全切り替え利用が可能となる新機構「モビリティカテゴリーチェンジャー」(モビチェン)を発売します。これは原付ナンバープレートを覆うカバーのことで、GFR-01ないしGFR-02にモビチェンを装着してナンバープレートを覆った状態なら道交法上も普通自転車として乗車できるというものです。内閣府のサンドボックス制度を活用してグラフィットのペダル付き電動バイクを対象として認可されており、モビチェンが発売されて以降、全国の警察署に周知されるということです。

 

GFR-02の発表会場ではその試作品が披露されました。プレートを覆うカバーの上には自転車マークが描かれており、そのマークは外国人にもひと目で理解できるピクトグラムとなっています。さらにカバーをするにはメイン電源を切って、完全に電動バイクとしての機能をOFFにすることから始めます。その上で両手を使ってロックボタンを外してナンバープレートにカバーするのです。このモビチェンはオプションとして販売されますが、価格は未定。GFR-01では配線など引き回し等で取り付けに時間を要するとのことです。

↑グラフィットが“ペダル付き電動バイク”向けに開発した「モビチェン」の試作機。電源を切ってナンバープレートを自転車マーク付カバーで覆うことで普通自転車として乗れます

 

それとGFR-02ではもう一つ見逃せないポイントがあります。それはバッテリー管理です。電動で動く以上、メーター内にはバッテリー残量が表示されるようになっていますが、それは4段階のセグメントで表示されるだけ。正確な残量まではわかりません。そこで新た採用されたのがパナソニックのBMU(Battery Management Unit)です。GFR-02で採用したバッテリーにはこのシステムが内蔵されており、スマートフォン上の専用アプリで残量をより高精度に表示できるようになります。

↑GFR-02/GFR-01の速度計にはバッテリー残量が表示されるが、おおまかな4セグメント式で表示されるため、正確な残量は把握しにくい

 

↑パナソニックのBMUを使うと、専用アプリ上で“%”単位での残量チェックができ、将来は地図上に航続可能範囲などが表示することも予定しています

 

↑BMU(Battery Management Unit)について説明するパナソニック テクノロジー本部デジタル・AI技術センター主務 井本淳一氏

 

また、この機能では遠隔モニタリングによる適切なバッテリーオペレーションも実現しています。たとえば劣化したバッテリーの交換時期を適切に案内できるようになるほか、地図データなど外部のデータとの連携により、電池残量から走行できる範囲を推定することもできるようになります。可能性として道路形状や高低差を考慮した最適ルートも案内にも対応でき、その先にはシェアリングサービスの展開なども想定しているそうです。

↑GFR-02では「電動バイクモード」「自転車モード」いずれでも快適な走りが楽しめるようになりました

 

新型コロナウィルスの感染拡大という状況下にあって、パーソナルなモビリティは世界中で人気を集めており、世界的にも関連部材は手に入りにくい状態が続いているといいます。今回のGFR-02もその影響を受けており、当初予定していた発売スケジュールも延期となってしまいました。走りにしても拡張性にしても電動バイクとして魅力的な一台となったことは間違いなく、それだけに早期発売につながることを期待したいと思います。

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

話題沸騰のカロッツェリア「車載用Wi-Fiルーター」を濃厚インプレ! 実際にオン・オフで使ってみたら

カロッツェリアの車載用Wi-Fiルーター「DCT-WR100D」は、月額制で車内で4G(LTE回線)が使い放題になるクルマ用のアクセサリーであり、各所で話題になっている製品だ。

 

「話題になっている」というと、手垢のついた表現だが、本サイトで紹介した記事は2020年のアクセスランキングのトップ3に入るほど閲覧された(10月上旬の記事である)し、事実、発売メーカーであるパイオニアにも「相当数の問い合わせが入っている」というが、ついに発売となった。

 

で、前回の記事では機能面をさらうことしかできなかったが、今回はじっくり試用。その使い勝手と、クルマの中での過ごし方がどんな風に変わったのか? ワーケーションを兼ねた旅先で使ってきたので、オンとオフのシーンに分けてレポートしたい。

 

【今回紹介する製品】

カロッツェリア

車載用Wi-Fiルーター DCT-WR100D

希望小売価格2万7500円(税込)

NTTドコモの4G/LTE通信網を利用可能な車内向けインターネット接続サービス「docomo in Car Connect」に対応した車載用Wi-Fiルーター。2年有効なSIMカードが付属し、別途契約すれば定額でLTE通信を無制限で利用できる。

SPEC●対応通信規格:4G/LTE(NTTドコモ回線)●無線LAN:IEEE 802.11b/g/n(2.4GHzのみ)●最大同時接続台数:5台●動作保証温度:-10°C〜+60°C

 

本題に入る前に、本製品の概要について触れたい。下記にギャラリー形式でまとめさせていただいた。開通手順も設置も簡単で、数分で完了する。このあたりは、契約して端末が届くまで時間がかかるモバイルルーターとの大きな違いだろう。

【機能・概要ギャラリー(画像をタップすると閲覧できます】

※:実際の利用方法に関してはDCT-WR100Dの取扱説明書をご確認ください

 

【車載用Wi-Fiルーターが使える「オフ」のケース1】

高画質な動画に慣れきった我々を満足させてくれる

今年は自宅にいる時間が長かった。自宅はネット回線がつながっているから、気兼ねなくYouTubeの画質をフルHDあるいは4Kにして、これでもかというぐらい自宅のネット回線を酷使した。

 

結果、何が起こったかというと、外出先で動画をみるときに360pや480pでは満足できなくなってしまった。好きな俳優や女優が低解像度で映っていて、セリフを聞くのがメインになるような映像鑑賞では満足できなくなってしまったのだ。とはいえ、スマホの通信を使えばすぐにギガがいっぱいになってしまう。

 

でも、車載用Wi-Fiルーターがあればクルマの中では大丈夫、というのがこのパートで言いたいことだ。DCT-WR100Dは容量無制限で使い放題。エンジンオンかアクセサリーオン状態であれば、駐車後60分間は通信状態が持続する。だから、画質を1080pにしても怖くない。上の写真は、家族で行った旅行でのひとコマ。夕日待ちで周辺をひと通り探索したあと、やることがなくなったので各々生配信を楽しんだり、見逃したドラマを観ているという場面だ。

 

本当に気にいった配信や作品でない限り、映像コンテンツは何度も繰り返しは観ないもの。せっかくの作品を中途半端な映像体験でロスしてしまうことがなくなるはずだ。

 

取材車はレンタカーだったため、リアエンタメデバイスがなかったが、カロッツェリアのプライベートモニターやフリップダウンモニターを導入すれば、後席でも大画面でエンタメを楽しむことができる。同ブランドのプライベートモニターには、HDMI端子が搭載されているため、手持ちのスマホをモニターにつないで後席だけ別の映像を映すこともできる。この拡張性の良さはカロッツェリアならではだろう。

 

さて、クルマで外出すると、意外に待つ時間は多いし長い。典型的なのは、渋滞でやることがないという場面。ほかにも、ランチやディナーでの待ち時間。最近は入店人数を制限している飲食店も多くあり、人気店は待ち時間が長い。

 

さらに、withコロナの時代になって、プライベートな空間で移動できるクルマの価値が見直され、公共交通機関ではなくクルマで遠出する人も増えた。運転頻度が高くない人は、短時間の仮眠を伴う休憩をしたほうがより安心。15〜20分の仮眠中、家族が暇を持て余すというケースも多いはずだ。そんなときDCT-WR100Dがあれば大活躍。同乗者のメリットが大きいのが本機のウリである。

↑翌日行った離島でのひとコマ。離島はクルマごと乗船する場合でも、駐車場に泊める場合でも早めに到着する必要があるため、旅先で待ち時間が多い場面のひとつ。この時も、待ち時間に家族はスマホでエンタメを楽しんでいた

 

 

【車載用Wi-Fiルーターが使える「オフ」のケース2】

撮った先から動画を親や友だちにシェア

クルマのなかでサブスク作品を観たり、YouTubeの投稿を観たりというのは、車載用Wi-Fiルーターがあれば便利というのは理解できるはず。一方で、やってしまいがちなのが、旅先で撮った写真や動画をバンバン友人や親に送るケース。サイズと画質を自動で下げて送信するアプリが一般的なので、個々のデータサイズは大したことはないが、大量に送るとさすがにギガを圧迫する。追加のギガを購入して数千円の出費したのは何度だろう。

 

DCT-WR100Dが採用する「docomo in Car Connect」の利用料は1年プランで1万2000円。月あたり1000円だ。週末だけしか載らない人は1日契約プランもあるので、自分の使い方に応じてプランを決められる。ただ、こちらは500円なので、1年プランを利用したほうが得するパターンが多い。利用料金面でもハードルが少ないという点でも、DCT-WR100Dは持っていて間違いのないアイテムである。

※:上記価格はすべて税抜価格

 

ちなみに、DCT-WR100Dは端末は5台まで同時接続可能。ミニバンで定員近くまで乗らなければ、乗員全員が接続できる。家族や友だちと撮りあいっこしたデータを送り合う光景もよくあると思うが、それも宿泊先に戻らずにその場でできるのだ。

 

【車載用Wi-Fiルーターが使える「オン」のケース1】

ちょっとした書類やデータをチェック

ここからはオンでの活用方法についてレポートしていこう。クルマで移動しながら訪問先を回って、その合間に業務やメール対応している人は多いだろう。パワポやエクセルを開いて緻密な作業をするほどではないが、スマホだけでチェックするには心もとないシーン。

 

筆者の場合は、原稿のチェックや企画の確認などがそれにあたり、1日に10回以上。クルマ移動で業務する日の場合、その都度PCを開いて、スマホとPCをテザリングするか、モバイルルーターにつなぐ生活を送っていた。で、サクッとつながらないと結構イライラする。結果、「あとにしよう」というパターンに陥りがちで、後回しにすると上司や部下からせっつかれてストレスが溜まる。悪循環である。

 

でも、車載用Wi-Fiルーターがあると違う。立ち寄ったコンビニの駐車場や訪問先周辺のパーキングでさっと対応、さっと返信。DCT-WR100Dは走行中はもちろん、駐車後もエンジンオンまたはアクセサリー状態であれば、60分間は通信可能状態が持続するので、ちょっとした作業をするには十分。Wi-Fi環境が途切れないのですぐに作業に移れるのだ。

 

5〜10分の作業も1日10回以上あれば、1〜2時間に積み上がる。仕事効率がアップしたのを実感できるのと、「早く対応しなきゃ」という心理的プレッシャーから解放される。これがかなり大きく、運転中に別のことを考えられるのだ。別のことを考えられるから、クリエイティブな領域にも効果をもたらす。そのあたりは、次の項で紹介していこう。

 

ちなみに、営業車で毎回乗るクルマが違うとか、ファーストカーとセカンドカーの複数台持ちという場合も大丈夫。DCT-WR100Dはシガーソケットに接続するだけで利用できるので、非常に多くのクルマで設置できる。クルマを持っていないという人でもレンタカーやカーシェアのクルマでも使える。クルマの所有に関わらず、一台持っているだけで、活躍してくれるデバイスである。

 

 

【車載用Wi-Fiルーターが使える「オン」のケース2】

ビッグなアイデアを閃いちゃったとき

クルマとトイレと風呂は、「3大アイデアを閃きやすいスポット」だと個人的に思っている。集中している、狭い空間で余計なものが目に入ってこない、他の人に邪魔されないーー人間は制限されている空間では情報整理がしやすい。何かを閃いた場合、多くの人がまずやることはアイデアを書き留めることと、一旦ネットで検索することではないだろうか。

 

トイレや風呂で閃いた場合は、出てすぐに作業に取りかかればいい。スマホやタブレットを持ち込んでいる人も多いだろう。でもクルマの場合は、安全な場所に駐車して、スマホやルーターのデザリングをオンにして、メモアプリを立ち上げて、って、もう半分忘れかけている! 誰も考えたことがなくて画期的で社長賞も確定だったアイデアのタネが忘却の彼方へ行ってしまう。

 

というのは言い過ぎかもしれないが、とりあえずメモを書き留めたい場合、DCT-WR100Dがあると段違い。先ほども述べたが、本機は駐車後もエンジンオンまたはアクセサリーオン状態であれば、60分間は通信可能状態が持続するため、使用したい端末がWi-Fiにつながった状態にできるので、すぐにそのまま調べ物ができる。

 

筆者の場合、タブレットでノートアプリを開いてデジタルペンでアイデアをなぐり書きしたあと、参照したいURLをノートにテキストで貼るのがルーティン。ブラウザで開きっぱなしにしておくと、つい消してしまって「あのサイトどこいったっけ?」と二度手間になることが多かったためだ。

 

この流れ自体は、クルマ移動を伴う業種・職種だけの人に当てはまるものではない。夫婦共働き家庭でともに在宅勤務の場合、クルマで1人で集中するという使い方もできる。エンジン始動時からは30分で通信が切れるが、30分一本勝負で濃度を上げて作業することも可能だ。DCT-WR100Dは単にカーライフを充実させるのではなく、日常生活をも充実させる特徴を持っている。

 

【まとめ】withコロナ時代に合った製品である

DCT-WR100Dは、車内でも自宅やオフィスにいるような感覚で、躊躇いもなく通信ができるデバイスである。個人的には、この「躊躇なく」というのが意外に重要だと考えている。少し抽象的になるが、まとめとして語っていきたい。

 

withコロナの時代になって私たちは大なり小なり様々な制限を受けている。今回は旅ということで外出をしたが、どこかに出かけたり、外食をしたり、リアルなイベントに行ったりという選択肢に何らかの制限が出ている。

 

非常に細かい領域でいえば、マスクをすることで口が動かしにくいという身体的な制限も受けている。そして、これはしばらくは変わらないだろう。だから、自分の生活を縮こめすぎないよう、能動的に制限を取り払う行動をしていかないと、日常が充実していかない。

 

DCT-WR100Dは、ニューノーマルの時代にあって、リスクを下げる生活を送りながらも、クルマの中で自分のやりたいことができる価値を提供してくれているデバイスだと感じている。壮大な話になってしまったが、結論は買いである。

 

なお、今回は取材車両がレンタカーだったため、カロッツェリア製品との連携についてはあまり触れらなかったが、例えば、HDMIケーブルが挿せるナビやディスプレイオーディオがあれば、前席でAmazonのFire TV Stickを挿してAmazonプライム・ビデオの作品を視聴できる。

 

このあたりは、前回記事も参考いただきたい。

【最速インプレ】車内が「Wi-Fi繋ぎ放題」になる「車載用Wi-Fiルーター」がカロッツェリアから登場。使い勝手は? どんな人に向いてる?

 

歴史好きは絶対に行くべし!「近江鉄道本線&多賀線」6つのお宝発見の旅【後編】

おもしろローカル線の旅73 〜〜近江鉄道本線・多賀線(滋賀県)その2〜〜

 

近江鉄道の沿線には隠れた“お宝”がふんだんに隠れている。こうしたお宝が、あまりPRされておらずに残念だな、と思いつつ沿線を旅することになった。今回は近江鉄道本線の八日市駅〜貴生川駅(きぶかわえき)間と、多賀線の高宮駅〜多賀大前駅間の“お宝”に注目してみた。

*取材撮影日:2015年10月25日、2019年12月14日、2020年11月3日ほか

 

【関連記事】
歴史好きは絶対行くべし!「近江鉄道本線」7つのお宝発見の旅【前編】

 

【はじめに】京都に近いだけに歴史的な史跡が数多く残る

近江鉄道は前回に紹介したように、1893(明治26)年に創立された歴史を持つ会社だ。現在は西武グループの一員となっており、元西武鉄道の車両が多く走る。

 

路線は、近江鉄道本線・米原駅〜貴生川駅間47.7kmと、多賀線・高宮駅〜多賀大社前駅2.5km、さらに八日市線・近江八幡駅〜八日市駅間9.3kmの3路線がある。八日市線を除き、経営状況は厳しい。主要駅をのぞき、駅の諸設備などの整備まで行き渡らないといった窮状が、他所から訪れた旅人にも窺えるような状況だ。

とはいえ、沿線には見どころが多い。特に史跡が多く残る。京都という古都に近かったことも、こうした歴史上の名所が多く残る理由と言えるだろう。PRがなかなか行き渡っていないこともあり、そうした隠れた一面に目を向けていただけたら、という思いから近江鉄道本線の紹介を始めた。その後編となる。

 

今回は近江鉄道本線の八日市駅〜貴生川駅間の紹介と、さらに短いながらも、多賀大社という古くから多くの人が訪れた神社がある多賀線にも乗車した。終点の多賀大社前駅から歩くと、予想外の車両にも出会えた。

 

【お宝発見その①】八日市駅に下車したらぜひ訪ねたい近江酒造

↑1998(平成10)年にできた八日市駅の新駅舎。2019年には2階に近江鉄道ミュージアムが開館した

 

八日市駅は八日市線の乗換駅でもあり、近江鉄道本線でも最も賑わいが感じられる駅だ。また東近江市の玄関駅でもある。駅前からは多くのバスが発着、駅近くにはビジネスホテルも建つ。駅舎内には近江鉄道ミュージアム(入場無料)があり、同鉄道の歴史や名物駅の紹介、さらにトイトレイン運転台、運転席BOXなどがあり、電車の待ち時間を過ごすのにもうってつけだ。

↑八日市駅構内に並ぶ800系。同駅では近江鉄道本線から八日市線への乗換え客で賑わう。800系は写真のように広告ラッピング車も多い

 

八日市駅で行くたびに寄りたいと思っているのが近江酒造の本社だ。駅から徒歩14分ほどの距離にある。2019年の12月に1両の電気機関車が運び込まれた。元近江鉄道のED31形ED31 4である。

 

ED31 4は、近江鉄道では彦根駅に隣接したミュージアムで多くの電気機関車とともに静態保存されていた。静態保存といっても、維持費がかかる。経営状態の芳しくない近江鉄道としては、本来は残しておきたい保存機群であったが、背に腹はかえられずという状態になった。

↑彦根駅に隣接する近江鉄道ミュージアムで保存されていた時のED31 4。今は八日市駅に近い近江酒造本社で保存される

 

ED31形は1923(大正12)年に現在の飯田線の前身、伊那電気鉄道が発注し、芝浦製作所(現在の東芝)が電気部分を、石川島造船所が機械部分を製造した電気機関車だ。当時の形式名はデキ1形機関車だった。同路線を国鉄が買収後、国鉄を(一部の車両は西武鉄道)経て、または直接、近江鉄道へ譲渡されている。近江鉄道ミュージアムでは5両が保存展示されていたが、2017年暮れまでにED31 4を除き解体された。

 

日本の電気機関車の草創期の歴史を残す車両ということもあり、ED31 4のみは、地元の大学の有志が中心となりクラウドファンディング活動を行い残す活動を行った。めでたく目標額に到達し、その後に移転され近江酒造の敷地内で保存されることになった。手前味噌ながら、筆者もわずかながら活動に助力させていただいた。

 

日本の国産電機機関車としては、それこそお宝級の電気機関車であり、この保存の意味は大きいと思う。筆者は平日には訪れることがなかなか適わないが、今度はぜひ近江酒造本社が営業している平日の日中に訪れて、ED31 4との対面を果たしたいと思っている。

 

【お宝発見その②】水口石橋駅近くには東海道の宿場町がある

さて八日市駅から近江鉄道本線の旅を進めよう。本線の中でも八日市駅〜貴生川駅間は閑散度合が強まる。そのせいもあり、朝夕を除き9時〜16時台まで1時間1本と列車の本数が減る。長谷野駅(ながたにのえき)、大学前駅、京セラ前駅と南下するに従い、田園風景が目立つようになる。桜川駅、朝日大塚駅、朝日野駅と見渡す限りの水田風景が続き、車窓風景もすがすがしい。

 

日野駅は地元、日野町の玄関口にあたる駅。ここで上り下り列車の行き違いのため、時間調整となる。この日野駅の紹介は最後に行いたい。

 

日野駅を発車すると、しばらく山なかを走る。そして清水山トンネルを徐行しつつ通り抜ける。次の水口松尾駅までは約5kmと、最も駅間が長い区間だ。

↑水口宿の中心部にある鍵の手状の町並み。手前から中央奥に東海道が延びる。からくり時計があり、時を告げる動きに多くの人が見入る

 

水口松尾駅(みなくちまつおえき)から先の駅はみな甲賀市(こうかし)市内の駅となる。特に水口石橋駅と水口城南駅は立ち寄りたい “お宝”がある。近江鉄道本線は八日市駅の北側では中山道に沿って敷かれていたが、この甲賀市では、路線と江戸五街道の一つ、旧東海道が交差している。

 

ということで水口石橋駅を下車して、東海道へ向かってみた。本当に駅のすぐそばに宿場町があった。東海道五十三次の50番目の宿場、水口宿(みなくちじゅく)である。近江鉄道の東海踏切の東側にあった。ちょうど道が三筋に分かれた鉤の手状の町並みが特徴となっていた。

 

道は細いが古い宿場町の面影が色濃く残る。さらに時をつげるからくり時計があり、ちょうど訪れた時には観光客が集まり、からくり時計の動きに見入っていた。この訪れた人たちは、多くが車利用の観光客なのであろう。電車を利用する人がもう少し現れればと残念に思えた。

 

【お宝発見その③】水口城にはどのような歴史が隠れているのか

水口宿の付近は、かつて水口藩が治めていた。小さめながらも水口城という城跡が残る。宿場からは水口城趾へ向けて歩いてみた。水口藩は小藩で、藩の始まりは豊臣政権までさかのぼる。当時は五奉行の1人、長束正家(なつかまさいえ)が5万石で治めていた。その後に幕府領となった後に、賤ケ岳の七本槍の一人とされる加藤嘉明(伊予松山藩の初代藩主)の孫、加藤明友(かとうあきとも)が水口城主となった。城は明友が立藩当時に整備された城である。

 

水口藩はその後に、一時期、鳥居家が藩主となるが、再び加藤家が加増され2万5千石の藩主となり、明治維新を迎えている。城は京都の二条城を小型にしたものとされる。石垣と乾矢倉(いぬいやぐら)が残り、水口城資料館があり公開されている(有料)。ちなみに維新後は、城の部材はほとんどが民間に払下げされ、その一部は近江鉄道本線の建設にも使われた。水口城が意外なところで近江鉄道の開業に関わっていたわけだ。

↑堀と石垣、そして乾矢倉が残る。2万5千石の小藩だけに規模は小さめだが、コンパクトで美しくまとまって見えた

 

水口城からは近江鉄道の駅が徒歩約2分と近い。駅の名前は水口城南駅(みなくちじょうなんえき)。城の南にあり駅名もそのままずばりである。

 

水口城南駅から近江鉄道本線も終点まで、残すはあと1駅のみ。駅間には野洲川(やすがわ)がある。ちなみに下流で琵琶湖に流れ込むが、琵琶湖に流れ込む川としては最長の川にあたる。野洲川を渡り甲賀市の市街が見え、左カーブすれば貴生川駅に到着する。貴生川駅ではJR草津線と信楽高原鐵道線と接続していて、自由通路を上ればすぐに他線の改札口があり乗換えに便利だ。

↑近江鉄道の貴生川駅のホームは北側にあり自由通路でJR線、信楽高原鐵道と結ばれている。駅にはちょうど820系赤電車が停車していた

 

【お宝発見その④】多賀線のお宝といえば多賀大社は外せない

ここからは多賀線を紹介しよう。多賀線は近江鉄道本線の高宮駅と多賀大社前駅を結ぶわずか2.5kmの路線で、1914(大正3)年3月8日に開業した。近江鉄道本線の高宮駅が1898(明治31)年6月11日に開業しているのに対して、16年ほどあとに路線が開業している。

 

とはいえ当時、経営があまり芳しくなかった近江鉄道にとって、多賀線の開業は経営環境を好転させる機会となったとされる。これは多賀大社前駅に近くにある多賀大社のご利益そのものだった。多賀大社に参詣する人により路線は賑わいを見せたのだった。

↑高宮駅3番線が多賀線のホーム。駅構内で急カーブしている。改良前まではカーブに対応するため車体の隅が切り欠け改造された(右上)

 

多賀線の起点となる高宮駅は1、2番線ホームが近江鉄道本線用で、2番線ホームで降りると向かいの3番線ホームに多賀大社前駅行きの電車が停まっている。この3番線は線路が急カーブしていて、この急カーブに合わせてホームが造られている。これでもカーブ自体、緩やかに改造されたそうで、改造前までは、車体の隅を切り欠け改造した電車しか入線できないほどだった。

 

急カーブのホームということもあり、電車とホームの間のすき間が開きがちに。足元に注意してご乗車いただきたい。さて多賀線の電車は、彦根駅方面からの直通電車もあるものの、大半は高宮駅と往復運転する電車となる。わずか2.5kmの短距離路線の多賀線。発車すると間もなくスクリーン駅に到着する。

 

スクリーン駅は、ホーム一つの小さな駅で、企業名がそのままついた駅だ。2008(平成20)年3月15日の開業で、駅名となっているSCREENホールディングスが開設費用を負担したことによって誕生した。目の前に事業所があるため、同社に勤務する人たちの乗降が多い。

↑多賀大社前駅の駅舎(左)のすぐ前には多賀大社の大鳥居がある。駅舎は趣ある造りで、コミュニティハウスが併設される

 

↑3面2線というホームを持つ多賀大社前駅。1998年に多賀駅から多賀大社前駅と改称された。現在はほぼ駅舎側のホームが使われる

 

スクリーン駅からは左右に広々した田園風景を眺め東へ。名神高速道路の高架橋をくぐればすぐに多賀大社前駅だ。高宮駅からはわずか6分の乗車で多賀大社前駅に到着する。鉄道ファンならば、駅構内に何本かの側線があることに気がつくのではないだろうか。現在の乗降客を考えれば、駅構内が大きく、不相応な規模に感じる。

 

この大きさには理由がある。まずはスクリーン駅〜多賀大社前駅間から沿線にあるキリンビール滋賀工場へ引込線があった。また多賀大社前駅から、その先にある住友セメント多賀工場までも引込線があった。こうした工場からの貨物列車は多賀大社前駅を経由して出荷されていった。1983(昭和58)年にキリンビール工場の専用線が廃止されてしまったが、当時の駅構内はさぞや賑わいを見せていたことだろう。

↑多賀大社駅前から多賀大社まで門前町が続く。かつては商店が連なったが現在は神社周辺のみ店が営業している。同門前町の名物は糸切餅

 

↑多賀大社は多賀大社前駅から徒歩10分ほど。県道多賀停車場線に面して鳥居が立つ

 

多賀線の終点駅は多賀大社前駅を名乗るように多賀大社と縁が深い。多賀大社へお参りする人を運ぶために設けられた路線だった。

 

多賀大社の歴史は古い。創建は上古(じょうこ)と記述されるのみで、正式なところは分からない。日本の歴史の最も古い時期に設けられたと伝わるのみである。祭神は伊邪那岐大神(いざなぎのおおかみ)と伊邪那美大神(いざなみのおおかみ)とされ、御子は、伊勢神宮の祭神である天照大神(あまてらすおおかみ)とされる。昔から「お伊勢参らばお多賀に参れ お伊勢お多賀の子でこざる」と謡われた。

 

長寿祈願の神として名高く、豊臣秀吉が、母・大政所(おおまんどころ)の延命を多賀社(1947年以降に多賀大社となった)に祈願したとされる。

 

このように歴史上、名高い神社で、現在も賑わいを見せている。残念なことに、多賀線で訪れる人もちらほらみられるが、圧倒的にクルマで訪れる人が多い。いずれにしても、多賀線にとってはお宝の神社ということが言えるだろう。

 

【お宝発見その⑤】多賀大社の先で残念な光景に出会った

多賀大社の前からさらに歩いて10分あまり、国道307号沿いにある車両が置かれている。こちら現在はお宝と言いにくいが、念のため触れておこう。テンダー式蒸気機関車が、ぽつりと1両。正面にナンバープレートはすでについていないが、D51形蒸気機関車、いわゆるデコイチである。D51の1149号機だ。1944年度に川崎車輌で製造された31両のうちの1両で、今も残っているD51形の中では最も若いグループに入るD51で、太平洋戦争中に生まれたことから戦時型と呼ばれる。

 

さてなぜここに置かれているのだろう。1976年3月まで北海道の岩見沢第一機関区に配置されていた。廃車除籍となったあとに、多賀に設けられた多賀SLパークに引き取られた。同年11月には寝台客車を連結し、SLホテルとして開業した。ところが、SLホテルとして営業していた期間はわずかで、同ホテルが経営するレストランとともに1980年代に入り閉鎖されてしまった。客車はその後に解体されたが、機関車のみ置きっぱなしにされたのだった。

↑国道沿いの荒れ地にそのまま置かれたD51形1149号機。地元で復活が検討されたが、実現は難しそうで放置されたままとなっている

 

導入の時には多賀大社前駅まで近江鉄道の電気機関車によって牽引され、駅からはトレーラーで運ばれた。見物人が多く集まり注目を集めたという。当時は、全国からSLが消えていったちょうどさなか。SLブームだったせいか、ホテルも賑わった。ところが、ブームもさり、場所もそれほど好適地とは言えず、経営がなりたたなくなっていった。そして多賀SLパークは閉鎖された。

 

それこそ、つわものどもが夢の跡となってしまった。保存されているとはいえ、放置されたままの状態。無残な状態で、見ていて痛々しくなってきた。

 

【お宝発見その⑥】最後に日野駅のカフェでほんのり癒された

近江鉄道の旅を終えるにしたがい、筆者の気持ちはどうしても落ち込みがちになっていた。せっかく、さまざまな“お宝”があるのにもかかわらず、週末に乗車する観光客はせいぜい1割以下しか見かけなかった。新型感染症が心配されるなかだったとはいえ、寂しさを感じた。

 

滋賀県に住む知人はこうした現状に関して、「民鉄一社に何もかも背負わせるのは、もう時代遅れで、いかに沿線が力を合わせて活性化させることがキーポイントだと思います」と話すのだった。

 

筆者もその通りだと思う。そんな思いのなか、明るい兆しが感じられた駅があった。近江鉄道本線は1900(明治33)年に貴生川駅まで延伸された。その時に日野駅が開業した。当時はまだ、蒸気機関車が火の粉を出すということで、町の近くに駅を造ることに対して反対意見もあった。そのため町の外れに駅が造られたところも多かった。近江鉄道本線でも例に漏れず、経費節減ということもあり郊外に駅を設けがちだった。ところが日野では、町の中心に駅を、と逆に陳情したのだった。

 

地図を見ても、日野駅付近で、路線が曲がり、東に出張った形になっている。この曲がりは、陳情の成果だった。大正期、駅構内に待避線を設ける時にも、村絡みで援助し、鉄道用地を買収、施設の敷設費の一部を負担している。

↑2017年に駅舎再生工事が行われた日野駅。駅舎は町の宝として取り壊さずに再生させる道をたどった

 

町の将来を考えれば、鉄道を誘致して乗ることが大切と、すでに当時の日野の人たちは考えたのだった。今もこうした心意気が日野町に残っている。現在の駅は2017年に改修されたもの。まったく新しくするわけでなく、古い駅をきれいに改修することで、“わが町の駅”の歴史を大切にする道を選んだ。

 

さらにその改修費はふるさと納税制度や、クラウドファンディングを利用している。さらに駅舎内に観光交流施設を備えたカフェ「なないろ」を設けた。

↑日野駅に併設されたカフェ「なないろ」。町の人たちの交流の場としても活かされている。電車の待ち時間に利用する人も見かけた

 

鉄道がたとえ消えたとしても、路線バスにより公共交通機関は保持されるだろう。ところが○○線が通る○○町という看板が消えてしまう。人口の減少が加速することも予想される。バス路線は乗る人が減り廃止される。こうした積み重ねが、町が消滅していく危機にもなりかねない。

 

各地のローカル線が経営難にあえいでいる。今回、訪ねた近江鉄道も同様だった。さらにコロナ禍で、来年以降、全国の鉄道会社に苦難がのしかかるだろう。近江鉄道の一部の駅は、トイレ整備など、後回しにされ使えない駅もあった。決してきれいとはいえない駅もある。知人が話したように、このことは「民鉄一社では何もかも背負わすのは、もう時代遅れ」なのでは無いだろうか。

 

日野駅の例は、そうした町も一緒になって鉄道を盛り上げていく具体例を示してくれているようだ。ローカル線好きとしてはとてもうれしく感じ、最後に癒されたような気持ちになったのだった。

 

 

販売台数が好調なトヨタ「ハリアー」を探る

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をする「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、発売後1か月で目標販売台数の10倍以上もの受注を獲得した、トヨタのラグジュアリーSUVについて論じる!

※こちらの記事は「GetNavi」 2020年11月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【PROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。2018年以降、ペンネームを「MJブロンディ」から「永福ランプ」へ変更している。

 

安ド

元ゲットナビ編集部員で、現在ではフリーエディター。永福ランプを慕い「殿」と呼んでいる。

 

【今月のGODカー】トヨタ/ハリアー

SPEC【ガソリン・G・2WD】●全長×全幅×全高:4740×1855×1660mm ●車両重量:1570kg ●パワーユニット:2.0L直列4気筒エンジン ●最高出力:171PS(126kW)/6600rpm ●最大トルク:207Nm/4800rpm ●WLTCモード燃費:15.4km/L

299万円〜504万円

 

内装の質感は段違いに高いし、装備も満点

永福「安ドよ。ハリアーが売れているそうだな」

 

安ド「7月は乗用車販売台数第4位だったみたいです!」

 

永福「1位ヤリス、2位ライズ、3位カローラ、そして4位がハリアー。6位にはアルファードもいる。ハリアーとアルファードは、現代のハイソカーだな」

 

安ド「殿の言われるハイソカーとは、かつてのマーク2に代表される、バブル期に大流行した国産高級車のことですね!」

 

永福「うむ。当時ハイソカーは若者の憧れで、女子にも大人気だったから、みんな無理して買ったものだ。いまハリアーを買っているのは、さすがに若者中心とは言えまいが」

 

安ド「トヨタは、『幅広い年齢層からご注文をいただいている』と言ってます!」

 

永福「つまり、高額なクルマにもかかわらず、比較的若い層も購入しているということだろう」

 

安ド「このクルマ、カッコいいし、モテそうですもんね」

 

永福「つまりハリアーは、現代のスペシャルティカーでもある」

 

安ド「現代のソアラですね!」

 

永福「当時のソアラのようにはいかんだろうが、少なくとも女子に喜ばれることは間違いない」

 

安ド「イマドキの女子は、どんなクルマを喜ぶのでしょう」

 

永福「それはもう、ひたすらカイテキであることだ。加えて車高が高く、見下ろし感があること。これは災害に強そうな安心感にも結び付く」

 

安ド「僕の愛車のパジェロがまさにそれですね!」

 

永福「たぶんな。オーナーの腹が出ていなければ」

 

安ド「すいません、出てます」

 

永福「とにかく、カイテキであることが第一だ」

 

安ド「確かにすごく快適ですし、室内もビックリするほど高級感がありました」

 

永福「私も驚いた。これは先代ハリアーとは大違いだ」

 

安ド「先代もゴージャスで人気ありましたよね?」

 

永福「人気はあったが、合成皮革の質感をはじめとして、かなりニセモノぽかった。走りも、特にガソリン車は全体にヌルく、シロート騙しのクルマだった」

 

安ド「キビシイですね!」

 

永福「私は6年前、この連載ではっきりそう言っているから、確認してみなさい」

 

安ド「でも、新型は違うんですね!」

 

永福「うむ。新型はまるで違う。内装の質感は段違いに高いし、装備も満点。そして、ガソリン車でも十分走りに満足できる。乗り心地はしなやかで高級だ。ただ、今日の撮影車には、惜しい点がひとつだけある」

 

安ド「何でしょう?」

 

永福「超カイテキなシートベンチレーションが付いていないグレードなのだ。あれほど女子にウケる装備はないからな」

 

安ド「惜しいですね!」

 

【GOD PARTS 1】リアシート

リクライニング可能でゆったり座れる

快適さが魅力のクルマらしく、リアシートは広く、座り心地も良好です。さらに、若干の角度ながら後方にリクライニングさせることができます。また、前方に背もたれを倒せばラゲッジルームを拡大して使うことも可能です。

 

【GOD PARTS 2】ドライブモードスイッチ

ドライバーの意思に合わせて最適な走りを選べる

高級、ラグジュアリーなどと謳いつつ、ドライブモードを選ぶためのスイッチもこっそり付けられています。燃費優先の走りから、鋭い加速感を味わえるスポーティな走りまで、ドライバーの意思に合わせて走行モードを選ぶことが可能です。

 

【GOD PARTS 3】パワーユニット

ダイレクト感があって好フィーリング

新型ハリアーにラインナップされるのは、2.5Lエンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドと、2.0Lエンジン。特に今回乗らせてもらった2.0Lエンジンはかなりフィーリングが良く、CVTとの相性も抜群でした。

 

【GOD PARTS 4】フロントフェイス

シャープな造形がエレガントさを主張

一体化したライトとグリルが先代型よりシャープになって、よりクールな印象になりました。L字型のデイランプも個性的です。力強いイメージのSUVが多いなかで、ハリアーは知的でエレガントな雰囲気を主張しています。

 

【GOD PARTS 5】エンジンスイッチ

重要なスイッチだから強調されている?

エンジンをスタート/ストップさせるスイッチは、インパネ中央の右下あたりに配置されていますが、この部分だけ上からぶら下がる特異な形で独立しています。それだけこのスイッチはほかのスイッチより重要ということなのかもしれません。

 

【GOD PARTS 6】フロントシート

寒さも暑さもなんのその 快適仕様シートを設定

中央部に色や模様が施され、形状も高級感のある雰囲気にまとめられています。また、グレードにもよりますが、シートヒーター&ベンチレーション(送風)機能が設定されているので、寒い日も暑い日も快適にドライブを楽しめます。

 

【GOD PARTS 7】ドア内張り

上質な空間を演出する内装の素材と加飾

ハリアーを高級SUVたらしめているのが、この内装の質感の高さです。肌触りの良い素材にパイピングオーナメントが飾られ、ドイツ製の高級SUVにも匹敵するほどの上質感を演出しています。内装色はブラウン、グレー、ブラックから選べます。

 

【GOD PARTS 8】デジタルインナーミラー

カメラ画像を表示して記録だってできちゃう

ドライブレコーダー(前後方録画)機能付きのミラーは、デジタルインナーミラーということで、車両後方のカメラが捉えた映像を映し出すことができます。どちらの機能も、きっとこれから主流になっていくのでしょう。

 

【GOD PARTS 9】USBソケット

モバイル機器を車内で使うための必需品

今回の試乗車には前席用に2つ、後席用に2つ、合計4つもUSBソケットがついていました。時代に即した装備です。また、ラゲッジルーム内には、1500W以下の電気製品が使えるコンセントを装着することも可能だそうです。

 

【これぞ感動の細部だ!】リアスタイル

クーペのような美しいボディラインは見事な出来映え

ボディサイドの抑揚ある美しいラインが、Bピラー(前席と後席のウインドウ間の柱部分)からCピラー(後席とリアのウインドウ間の柱部分)にかけて流れるように絞り込まれてくるラインと、リアで見事に結実しています。シャークフィンアンテナやリアスポイラー、薄型のリアライトも流線型を強調していて、とにかくスタイリッシュです。

不思議がいっぱい? えちぜん鉄道「勝山永平寺線」11の謎解きの旅

おもしろローカル線の旅71 〜〜えちぜん鉄道勝山永平寺線(福井県)〜〜

 

乗車したローカル線で、これまで見た事がないもの、知らないものに出会う。「何だろう」と好奇心が膨らむ。一つ一つ謎を解いていく、それが楽しみとなる。さらにプラスαの楽しさが加わっていく。えちぜん鉄道勝山永平寺線は、さまざまな発見が楽しめるローカル線。晩秋の一日、謎解きの旅を楽しんだ。

*取材撮影日:2014年7月23日、2020年11月1日ほか

 

【関連記事】
えちぜん鉄道「三国芦原線」10の魅力発見の旅

 

【謎解きその①】路線名が越前本線から勝山永平寺線となったわけ

初めに、勝山永平寺線(かつやまえいへいじせん)の概要を見ておきたい。

路線と距離 えちぜん鉄道勝山永平寺線/福井駅〜勝山駅間27.8km
*全線単線・600V直流電化
開業 1914(大正3)年2月11日、京都電燈により新福井駅〜市荒川駅(現・越前竹原駅)間が開業、同年3月11日、勝山駅まで延伸開業
駅数 23駅(起終点駅を含む)

 

すでに路線開業から100年以上を経た勝山永平寺線。路線の開業は京都電燈という会社によって進められた。当時、電力会社は今のように寡占化が進んでおらず、電力会社が各地にあった。京都に本社があったのが京都電燈で、関西と北陸地域に電気を供給していた。自前で作った電気を利用し、電車を走らせることにも熱心な会社で、日本初の営業用の電車が走った京都電気鉄道(後に京都市電が買収)のほか、現在の叡山電鉄などの路線を開業させた。

 

福井県内で手がけたのが現在の勝山永平寺線で、当初は越前電気鉄道の名前で電車の運行を行った。経営は順調だったが、太平洋戦争中の1942(昭和17)年の戦時統制下、配電統制令という国が電力を管理する決定が下され、京都電燈は解散してしまう。

 

京都電燈が消えた後に京福電気鉄道が経営を引き継ぎ、京福電気鉄道越前本線となった。当時は永平寺鉄道という会社があり、永平寺線という路線を金津駅(現・芦原温泉駅)〜永平寺駅間で営業していた。同線とは永平寺口駅で接続していた。1944(昭和19)年に京福電気鉄道は永平寺鉄道を合併し、京福電気鉄道永平寺線としている。この年に永平寺口駅は東古市駅と名を改めた。

 

当初は路線名が越前本線だったわけだが、勝山永平寺線となった理由は、その後の経緯がある。答えは、次の章で見ていくことにしよう。

 

【謎解きその②】なぜ2回もいたましい事故が起きたのか?

京福電気鉄道は、戦後間もなくは順調に鉄道経営を続けていたが、モータリゼーションの高まりとともに、次第に経営が悪化していく。1960年代からは赤字経営が常態化していた。まずは永平寺線の一部区間を廃止した(金津駅〜東古市駅間)。新型電車の導入もままならず、施設は古くなりがちで、安全対策もなおざりにされていた。そんな時に事故が起った。

 

現在に「京福電気鉄道越前本線列車衝突事故」という名で伝えられる事故。詳しい解説は避けるが、古い車両のブレーキの劣化による破断が原因だったとされる。2000(平成12)年12月17日のこと。永平寺駅(廃駅)方面から下ってきた東古市駅(現・永平寺口駅)行き電車が、ブレーキが効かずに暴走してしまう。そして駅を通り過ぎ、越前本線を走っていた下り列車と正面衝突してしまったのだった。

↑永平寺口駅の構内に入線する福井駅行の上り列車。右側にカーブするように元永平寺駅へ延びていた線路跡がわずかに残る

 

この事故で運転士が亡くなる。ブレーキが効かなくなったことを気付いた運転士は、少しでもスピードが落ちるように、電車の全窓をあけて空気抵抗を高めようとし、乗客を後ろの方に移動させるなどの処置を行った。本人は最後まで運転席にとどまり、電車をなんとか制御しようとしたとされる。おかげで乗客からは死者を出さずに済んだのだが、本人が亡くなるという大変に痛ましい結果となっている。

 

さらに翌年の6月24日には保田駅〜発坂駅間で上り普通列車と下り急行列車が正面衝突してしまう。こちらは普通列車の運転士が信号機の確認を怠ったための事故だった。とはいえ、ATS(自動列車停止装置)があったら、防げた事故だった。この事故の後に国土交通省から中小事業者に対して補助金が出され、各社の設置が進んだ。2006(平成18)年には国土交通省の省令に、安全設備設置は各鉄道事業者自身の責任で行うことが明記されている。現在は全国の鉄道に当たり前のようにATSが設置されるが、京福電気鉄道をはじめ複数の鉄道会社で起きた痛ましい事故がその後に活かされているわけだ。

 

この2件の正面衝突事故を重く見た国土交通省はすぐに京福電気鉄道の全線の運行停止、バスを代行運転するように命じた。ところが、両線が運行停止したことにより、沿線の道路の渋滞がひどくなり、バス代行も遅延が目立った。とはいえ京福電気鉄道には安全対策を施した上で、運行再開をさせる経済的な余力が無かった。

 

そこで福井県、福井市、勝山市などの沿線自治体が出資した第三セクター経営の、えちぜん鉄道が設立され、運行が引き継がれた。そして2003(平成25)年の2月にまずは永平寺線をそのまま廃線とし、越前本線は勝山永平寺線に路線名を改称した。7月20日に福井駅〜永平寺口駅間を、10月19日に永平寺口駅〜勝山駅間の運行を再開させた。

 

永平寺線自体は消えたが、沿線で名高い永平寺の名前は路線名として残したわけである。

 

【謎解きその③】2両編成の電車は元国鉄119系なのだが……?

ここで勝山永平寺線の主要車両の紹介をしておこう。前回の三国芦原線の紹介記事と重複する部分もあるが、ご了承いただきたい。2タイプの電車がメインで使われる。筆者は三国芦原線では乗れなかった2両編成の電車も、こちら勝山永平寺線で乗車できた。さてそこで不思議に感じたのは……

 

・MC6101形

えちぜん鉄道の主力車両で、基本1両で走る。元は愛知県を走る愛知環状鉄道の100系電車で、愛知環状鉄道が新型車を導入するにあたり、えちぜん鉄道が譲渡を受け、改造を施した上で利用している。車内はセミクロスシート。なお同形車にMC6001形が2両あるが、MC6101形とほぼ同じ形で見分けがつかない。MC6001形は1両での運行も可能だが、2両編成で運行させることが多い。なお、他にMC5001形という形式もあるが、1両のみ在籍で、この車両にはあまりお目にかかることがない。

↑勝山永平寺線を走るMC6101形電車。日中はこの1両編成の車両がメインとなって走る。沿線の風景は三国芦原線に比べて山里の印象が強い

 

・MC7000形
元はJR飯田線を走った119系。えちぜん鉄道では2両編成の運用で、朝夕を中心に運行される。勝山永平寺線では週末の日中にも走ることがある。MC6101形と同じくセミクロスシート仕様だ。

 

さてMC7000形だが、下記の写真を見ていただきたい。飯田線を走っていたころの119系(小写真)、と2両編成で走るMC7000形を対比してみた。まったく顔形が違っていたのである。

↑2両で走るMC7001形。正面の形は119系(左上)とは異なる。MC6101形とは尾灯の形が異なるぐらいで見分けがつきにくい

 

MC7000形は、119系をベースにはしているが、電動機や制御方式を変更している。119系の当時は制御車にトイレが設けられたが、現在は取り外され空きスペースとなっている。また運転台の位置を下げるなどの改造を行い、正面の姿は元も面影を残していない。MC6101形と、ほぼ同じ姿、いわば“えちぜん鉄道顔”になっている。よって、正面窓に2両の表示がない限り、見分けがつきにくい。

 

国鉄形の電車も顔を変えれば印象がだいぶ変わるという典型例で、この変化もおもしろく感じた。

 

【謎解きその④】一部複線区間が今は全線単線となった理由

さてここから勝山永平寺線の旅を始めよう。起点は福井駅。えちぜん鉄道福井駅はJR福井駅の東口にある。福井駅の東口は北陸新幹線の工事の真っ最中で、大きくその姿を変えつつある。新幹線の高架路線に沿って、えちぜん鉄道の高架路線が福井口駅まで延びている。

 

すでにえちぜん鉄道の路線の高架化改良工事は終了している。福井駅〜福井口駅間が地上に線路があったころとはだいぶ異なる。以前には福井駅〜新福井駅間と、福井口駅からその先、一部区間が複線だった。現在は複線だった区間がすべて単線となり、途中駅には下り上り線が設けられ行き違い可能な構造になっている。興味深いことにえちぜん鉄道では、自社の高架路線が完成するまでは北陸新幹線用の高架路線を、“仮利用”していた。2015年から3年ばかりの間は、新幹線の路線となるところをえちぜん鉄道の電車が走り、自社の高架路線が完成するのを待ったのである。

 

自社線ができあがってからは、複線区間が単線となった。要は福井駅〜福井口駅間は新幹線を含めて敷地の幅が拡張されたが、えちぜん鉄道の一部は路線の幅を縮小して単線化された。結果として北陸新幹線の開業に向けて用地を一部提供した形となっている。

↑福井駅東口にあるえちぜん鉄道の福井駅。高架駅でホームは2階にある。勝山行き列車は日中、毎時25分、55分発の2本が発車する

 

福井駅発の勝山永平寺線の列車は朝の7〜8時台が1時間に3本を運転(平日の場合)。また9時台〜20時台は発車時間が毎時25分と55分になっている。途中駅でも、この時間帯の発車時刻はほぼ毎時同タイムで運行される。要はパターンダイヤになっている。利用者が使いやすいように配慮されているわけだ。

 

筆者は福井駅発10時25分発の電車に乗車した。なお、福井駅発の電車は平日のみ運転の7時54分発の電車のみが永平寺口駅どまりで、他はみな勝山駅行となっている。急行はないが一部列車は比島駅(ひしまえき/勝山駅の一つ手前の駅)のみを通過するダイヤとなっている。勝山駅まで通して乗車すれば53〜63分ほど。運賃は福井駅〜勝山駅間が770円となる。三国芦原線の記事でも紹介したとおり、全線を往復することを考えたら1日フリーきっぷ1000円を購入すればかなりおトクになる。

↑福井口駅の北で三国芦原線(右)と分かれる。ちょうど勝山駅行列車が高架上を走る。右の高架線下にえちぜん鉄道本社と車両基地がある

 

福井口駅をすぎると分岐を右に入り、列車は勝山駅方面へ向かう。なお、福井口駅の北側にえちぜん鉄道の車両基地があり、勝山永平寺線の車内からもわずかだが基地内が見える。

↑高架上から車両基地へ降りる回送電車。右は基地内に停まるMC6001形電車。車庫内には同社名物の電気機関車ML521形も配置される

 

【謎解きその⑤】さっそく出ました難読「越前開発駅」の読みは?

↑福井口駅から高架線を走り勝山駅へ向かう下り列車。高架から地上に降りる坂の勾配標には32.0パーミルとある。結構な急勾配だ

 

福井口駅から高架線を降りてきた勝山永平寺線の列車。次の駅は越前開発駅だ。この駅名、早速の難読駅の登場です。通常ならば「えちぜんかいはつえき」と読むところ。だが、「かいはつ」ではない。「えちぜんかいほつえき」と読ませる。

 

越前開発駅の北側に開発(かいほつ)という地域名がある。このあたりは元々原野や湿地帯で、その一帯が開発されたところだとか。「かいほつ」と読ませるのは仏性(仏になることができる性質のこと)を獲得するという仏教用語なのだそう。縁起の良い呼び方がそのまま伝わったということなのだろう。なかなか日本語は奥が深いことを、ここでも思い知った。

↑越前開発駅はホーム一つの小さな駅。以前は福井口駅からこの駅まで複線区間となっていて、今もその敷地跡が残る

 

越前開発駅、越前新保駅(えちぜんしんぼえき)と福井の市街地の中を走るルートが続く。追分口駅付近からは左右の田畑も増えてきて、徐々に郊外の風景が広がるように。越前島橋駅の先で北陸自動車道をくぐる。その先、さらに田園風景が目立つようになる。

 

松岡駅の付近からは右手に山がすぐ近くに望めるようになり、やがて、列車は山のすそ野に沿って走るように。左手に国道416号に見ながら走る。このあたり九頭竜川(くずりゅうがわ)が生み出した河岸段丘の地形が連なる。志比堺駅(しいざかいえき)がちょうど、段丘のトップにあたるのだろうか。駅も路線も一段、高いところに設けられる。

 

勝山永平寺線は地図で見る限り平坦なよう感じたが、乗ってみると河岸段丘もあり、意外にアップダウンがある路線だった。

 

【謎解きの旅⑥】永平寺口駅には駅舎が2つある?さらに……

志比堺駅を発車すると右から迫っていた山地が遠のき平野が開けてくる。そして列車は下り永平寺口駅(えいへいじぐちえき)へ到着する。この駅で下車する人が多い。現在の駅舎は線路の進行方向左手にあり、こちらに永平寺へ向かうバス停もある。一方で、右手にも駅舎らしき建物がある。こちらは何の建物だろう?

↑永平寺口駅の旧駅舎。路線開業時に建てられた駅舎で、映画の男はつらいよのロケ地としても使われた

 

右手の建物は旧駅舎(現・地域交流館)で勝山永平寺線が開業した1914(大正3)年に建てられたもの。開業当初は永平寺の最寄り駅であり、1925(大正14)年には永平寺鉄道(後の永平寺線)も開業したことにより、乗り換え客で賑わった。

 

同路線では終点の勝山駅と共に歴史が古く、風格のあるたたずまいで今もその旧駅舎が残されるわけだ。この建物の入り口には映画「男はつらいよ」のロケ地となったことを示す石碑が立つ。1972(昭和47)年8月に公開された第9作「柴又慕情」編のロケ地となり、主人公の渥美清氏やマドンナ役の吉永小百合さんも訪れたそうだ。

 

さらにこの駅舎は2011(平成23)年には国の登録有形文化財に指定されている。登録後には改修工事も行われ、非常にきれいに管理されている。さて永平寺口駅周辺で気になるのは旧永平寺線の線路跡である。

↑永平寺口駅構内には、旧永平寺駅方面へ右カーブしていたころの線路が一部残る。左手奥が現在の勝山永平寺線の線路

 

永平寺口駅はこれまで4回にわたり駅名を変更している。駅が開業した時は永平寺駅、さらに永平寺鉄道が開業した2年後に永平寺口駅となった。永平寺鉄道と京福電気鉄道が合併した時には東古市駅となった。さらにえちぜん鉄道となった年に、永平寺口駅となった。つまり誕生してから2つめの駅名に戻ったことになる。

 

さて東古市駅と呼ばれたころまで永平寺線があった。当時の旧永平寺線は東古市駅〜永平寺駅間6.2kmの路線だった。現在の永平寺口駅から南側、山間部に入っていった路線で、駅構内にその線路跡の一部が残されている。駅の先も旧路線の大半が遊歩道として整備されている。

 

旧永平寺線はこの6.2km区間のみでは無かった。永平寺鉄道は金津駅(現・芦原温泉駅)と東古市駅間の18.4kmも路線を開業させていた。同路線の途中にある本丸岡駅と現在の三国芦原線の西長田駅(現・西長田ゆりの里駅)間には京福電気鉄道丸岡線という路線もあった。京福電気鉄道は福井県内で大規模な鉄道路線網を持っていたわけである。

 

とはいえクルマの時代に変化していった1960年台。1968(昭和43)年7月には丸岡線が、1969(昭和44)年9月には永平寺線の金津駅〜東古市駅間があいついで廃線となった。この永平寺線の金津駅〜東古市駅間は、東古市駅〜永平寺駅間に比べて廃線となったのが、早かったこともあり、現在は駅の北側にわずかに線路のように道路が緩やかに右カーブしているあたりにしか、その名残を見つけることができなかった。

↑永平寺口駅前に建つ旧京都電燈古市変電所。煉瓦造平屋建で屋根は切妻造桟瓦葺(きりづまづくりさんがわらぶき)といった構造をしている

 

永平寺口駅で見逃せないのが、駅前にあるレンガ建ての建物である。さてこの建物は何だったのだろう。

 

この建物こそ、路線が開業した当時の京都電燈の足跡そのもの。レンガ建ての建物は旧京都電燈古市変電所だったのだ。電気を供給するために路線の開業に合わせて1914(大正3)年に建てられたのがこの変電所だった。和洋折衷のモダンなデザインで、当時の電気会社の財力の一端がかいま見えるようだ。同建物も旧駅舎とともに国の有形文化財に指定されている。

 

最後になったが、永平寺に関してのうんちく。永平寺は曹洞宗の大本山にあたるお寺だ。永平寺は曹洞宗の宗祖である道元が1244年に建立した。道元はそれまでの既存の仏教が、なぜ厳しい修業が必要なのかに対して異をとなえた。旧仏教界と対立した道元は、越前に下向してこの寺を建立したとされる。

 

【謎解きその⑦】2つめの難読「轟駅」は何と読む?

筆者は永平寺口駅でひと休み。古い建物を楽しんだ後は、さらに勝山駅を目指した。しばらく列車は九頭竜川が切り開いた平坦な河畔を走る。永平寺口駅から3つめ。またまた難読な駅に着いた。今度は、漢字もあまり見ない字だ。車が3つ、組み合わさった駅名。さて何と読むのだろう。

 

車が3つ合わさり「どめき」と読む。ワーッ!これはかなりの難読だ。

↑轟駅のホームを発車する勝山駅行き電車。民家風の駅舎には轟駅の案内が掲げられている。この先に同路線特有のシェルターが付く

 

轟と書いて「とどろき」と読ませる地名はある。轟(とどろき)は音が大きく鳴り響くさまを表す言葉を指す。駅の北側を流れる九頭竜川の流れがやはり元になっているのだろうか。

 

「難読・誤読駅名の事典」(浅井建爾・著/東京堂出版・刊)によると、「ガヤガヤ騒ぐことを『どめく』ともいい、それに『轟』の文字を当てたものとみられる。」としている。確かに「どめく」(全国的には「どよめく」という言うことが多い)という言葉がある。当て字で轟を当てたのだろうか。ちなみに「どめく」という表現は、九州や四国地方で多く使われていることも調べていてわかった。なんとも謎は深い。

 

ちなみに地元の町役場にも調べていただいたのだが、答えは「不明」だった。こうした地名を基づく駅名は難しく、明確に分からないことも多い、ということを痛感したのだった。

 

【謎解きその⑧】ドーム型のシェルターは何のため?

轟駅の近くにはこの路線特有の装置も設けられていた。勝山駅側の分岐ポイント上にシェルターが設けられている。これはスノーシェルターと呼ばれる装置で、その名のとおり、分岐ポイントが雪に埋もれないように、また凍結しないように守る装置だ。えちぜん鉄道の勝山永平寺線には轟駅〜勝山駅間で計4か所に設けられている。

↑轟駅近くにあるスノーシェルター。ポイントを雪から守るために設けられる。横から見るとその形状がよく分かる(左上)

 

筆者は福井県内の福井鉄道福武線で同様のシェルターを見たことがある。とはいえポイントのみを覆う短いスノーシェルターは、希少で、全国的には少ないと思われる。青森県を走る津軽鉄道などにも同タイプがあったと覚えているが、津軽鉄道の場合は雪よりも季節風除けの意味合いが強い造りだった。

↑勝山永平寺線は意外に坂の上り下りが多い。小舟渡駅近くでは山が九頭竜川に迫っていることもあり電車は山肌をぬうように走る

 

【謎解きその⑨】小舟渡駅の先から見える美しい山は?

やや広がりを見せていた地形も、越前竹原駅を過ぎると一変する。進行方向右手から山が迫り、山あいを走り始めるようになる。そして左手すぐ下に九頭竜川を見下ろすようになる。

 

小舟渡駅も難読駅名の一つだろう。「こぶなとえき」と読む。駅前にはすぐ下に九頭竜川の流れがある。このあたり九頭竜川は両岸が狭まって流れている。橋が架かっていなかった時代には、多くの小舟を並べてその上に板を渡して、仮設の橋を架けて渡ったとされる。よって小舟で渡ったという地名になったのだろう。こうした橋は舟橋とも呼ばれ、九頭竜川では他にも同タイプの橋が使われていたことが伝えられている。

↑小舟渡駅近くを走る勝山行電車。九頭竜川がすぐ真下に見える。奥には1921(大正10)年に開通した小舟渡橋が架かる

 

さて小舟渡駅から先は進行方向、左手をチェックしたい。このあたりからの九頭竜川と山々の風景が沿線の中で最も美しいとされる。訪れた日はあいにく好天とは言いきれなかったが、先に白山連峰が望めた。冬になると路線のちょうど正面に大きなスキー場が見える。こちらはスキージャム勝山で関西圏から多くのスキーヤーが駆けつける人気のスキー場でもある。

↑小舟渡駅の近くから見た九頭竜川と白山の眺め。路線の一番のビューポイントで、同乗するアテンダントさんからの案内もある

 

【謎解きその⑩】勝山駅の先に線路がやや延びているが

小舟渡駅から九頭竜川を見つつ保田駅(ほたえき)へ。この駅からは勝山市内へ入り平野部が広がり始める。勝山盆地と呼ばれる平野部でもある。九頭竜川は勝山盆地で大きくカーブする。流れは勝山の先では東西に流れるが、勝山から上流は南北に流れを変る。勝山永平寺線の線路は九頭竜川の流れに合わせてカーブ、川の西岸沿いを走る。

 

一方、勝山の市街は九頭竜川の東岸が中心となっている。街の賑やかさは列車に乗っている限り感じられない。終点の勝山駅は街の中心から勝山橋を渡った西の端に位置している。なぜこの位置に駅が造られたのだろう。

↑勝山駅の駅舎は1914(大正3)年築の建物。国の登録有形文化財に指定されている。右上はわずかに延びる大野方面への線路跡

 

勝山駅の先にわずかに残る線路にその理由が隠されている。1914(大正3)年3月11日に勝山駅まで延伸開業した。その1か月後には勝山駅から先の大野口駅(後に京福大野駅まで延伸)まで路線が延ばしている。要は路線が開業して間もなく勝山駅は途中駅となったのである。

 

大野市の中心は九頭竜川の西岸にある。そのため勝山の中心部へ九頭竜川に橋をかけて電車を走らせることはなかった。南にある大野を目指したために、こうした路線の造りになったわけだった。大野には路線開業当初に鉄道線がなく、利用者も多かった。しかし、1960(昭和35)年に国鉄の越美北線(えつみほくせん)が開通する。そのため当時の越前本線の利用者が激減、1974(昭和49)年には勝山駅〜京福大野駅間が廃線となる。勝山駅の南に残る線路は大野まで延びていた旧路線の名残だった。

↑勝山市内には福井県恐竜博物館があり、勝山駅から路線バスが運行されている。駅前広場には恐竜が、またホームには恐竜の足跡も

 

【謎解きその⑪】勝山駅前に保存されている黒い車両は?

終点の勝山駅で鉄道好きが気になるのが駅前広場に保存される車両ではないだろうか。この車両はテキ6形という名前の電気機関車。開業当初に導入した車両はみな非力だったため、京都電燈が1920(大正9)年に新造した車両で、貨車を牽引する電気機関車であり、また貨物輸送車として織物製品や木材を載せて運んだとされる。海外製の主要部品が使われていたとはいえ、その後に誕生した国産電気機関車よりも前の時代の車両で、いわば日本に残る最古級の国産電気機関車といって良いだろう。

 

本線での運用が終了した後も、福井口の車両基地での入換え作業などに使われていた。その後に勝山駅に移され動態保存され、短い距離だが動かすことができるように架線も張られている。走る時にどのような音を奏でるのか一度、見聞きしてみたいものである。

↑屋根付の施設で動態保存されるテキ6形。後ろには貨車ト61形を連結している。建物には同車両の写真付の案内も掲示されている

 

↑福井県はソースカツに越前おろしそばが名物。勝山駅前の「みどり亭」では一緒に味わえる福井名物セット(850円)が人気。昼食に最適だ

 

時間に余裕があれば福井県恐竜博物館は訪れておきたいところ。勝山永平寺線の車内でも同博物館帰りと思われる家族連れの姿が見受けられた。そしてランチには、福井名物のソースカツや越前おろしそばを、ぜひ味わってみていただきたい。

メルセデス・ベンツ/Aクラスを徹底分析! 永福ランプが試したかったこととは?

ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をするクルマ連載「クルマの神は細部に宿る。」。今回は、メルセデス・ベンツのエントリーモデルであるAクラスをピックアップ。永福ランプが久々に試したかったこととは?

※こちらの記事は「GetNavi」 2020年10月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【PROFILE】

永福ランプ(清水草一)

日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、Webなどで、クルマを一刀両断しまくっている。2018年以降、ペンネームを「MJブロンディ」から「永福ランプ」へ変更している。

 

安ド

元ゲットナビ編集部員で、現在ではフリーエディター。永福ランプを慕い「殿」と呼んでいる。

 

【今月のGODカー】メルセデス・ベンツ/Aクラス

SPEC【A180スタイル】●全長×全幅×全高:4420×1800×1420mm ●車両重量:1430kg ●パワーユニット:1.3L直列4気筒+ターボ ●最高出力:136PS(100kW)/5500rpm ●最大トルク:200Nm/1460〜4000rpm ●WLTCモード燃費:15.4km/L

●337万円〜798万円

 

ベンツの中では一番安い部類

安ド「殿! 今回はなぜA180なのですか」

 

永福「ダメか?」

 

安ド「いえ、AクラスならセダンやAMGなど新しいモデルもあるのに、なぜ1年以上前に出たA180ハッチバックを希望されたのかと」

 

永福「それはもちろん、A180が一番お安いからだ」

 

安ド「なぜ一番安いモデルを?」

 

永福「それは言うまでもない。安いほうがサイフにやさしいではないか!」

 

安ド「実際に買うなら安いに越したことはありませんが……」

 

永福「A180は、一応337万円から買える。このA180スタイルだと380万円。オプションのレーダーセーフティパッケージが25万3000円、ナビゲーションパッケージが18万9000円。このふたつの装備を付けない人はおるまい。その他のオプションも含めると、今回の撮影車両は合計515万円にもなっておったが、それでもベンツの中では一番お安い部類なのだ!」

 

安ド「ハハー!」

 

永福「それにな、私は例の『ハ〜イ、メルセデス!』をもう一度やってみたかったのだ」

 

安ド「会話で操作できるMBUX(メルセデス・ベンツ ユーザー エクスペリエンス)ですね。それならほかのメルセデスにも付いていると思いますが……」

 

永福「いや、Aクラスが出たとき、『この機能は学習によって成長するので、子どもを育てる気持ちで』と聞いていたから、1年半後の成長を見てみたかったのだ」

 

安ド「さすが深いお考えです! で、成長してました?」

 

永福「いや、成長しておらなんだ」

 

安ド「ええ〜〜〜っ!」

 

永福「メルセデスではない、私が成長しておらなんだ。相変わらずメルセデス君がちょっと物わかりが悪いと、『ボタンで操作したほうが早いじゃね〜かよ!』などと、すぐキレてしまってのう」

 

安ド「なるほどぉ! 僕は、『意外とすぐ理解してくれるなぁ』と思いましたが」

 

永福「うむむ……」

 

安ド「『ハイ、メルセデス。アンビエントライトを紫にして』と言ったら、一発でやってくれました」

 

永福「それを聞いていたので、同じことを言ってみたが私はダメだった」

 

安ド「ダメでしたか!?」

 

永福「アンビエントライトをアンビエントコントローラーと言い間違えたのだ。そしたらハネられた」

 

安ド「ですか……」

 

永福「クルマとお話するのは、中高年にはハードルが高いな」

 

安ド「ですか……」

 

永福「それと、メルセデスなのに高速道路で3回もアオられた」

 

安ド「えっ!」

 

永福「後姿が控えめで、国産の小型車っぽく見えるからだろうか」

 

安ド「う〜ん、顔はCLSなどと同じなんですけどねぇ」

 

永福「無念だ」

 

【GOD PARTS 1】ヘッドライト

ツリ上がったライトはシャープで都会的な印象

新世代メルセデスの特徴であるツリ目フェイスが採用されています。シャープで都会的な雰囲気ですが、ほかのモデルも造形が似ていて(よく見ると違うけど)、一般の人は見分けがつかないのではないかと心配になります。

 

【GOD PARTS 2】アンビエントライト

室内を艶やかに彩る照明は64色から選べる

間接照明のような淡い光で車内を彩る「アンビエントライト」がオプション装着されています。64色に変えられるそうですが、MBUXで言葉で伝えようとすると(下記参照)、そんなに色の名前を知らないため、結局、「赤」や「紫」になってしまいます。

 

【GOD PARTS 3】AMGホイール

ワルっぽさをプンプン放つ大型のアルミホイール

今回のモデルには、26万円もする「AMGライン」が装着されていました。「AMG」は、ハイパフォーマンスモデルを制作するメルセデスのサブブランドで、このホイールはAMG仕様。大径サイズで黒とシルバーに塗られ、いかにもワルそうです。

【GOD PARTS 4】大型ディスプレイ

シンプルな造形は煩わしくなくて好ましい

ドライバーの目の前には、非常に大きな横長ディスプレイが鎮座しています。インパネのデザインを損なわないシンプルな造形は好感が持てますが、実は表示は左右2面になっていて、メチャクチャ横に長い一枚絵が見られるわけではありません。

 

【GOD PARTS 5】タッチパッド

手元を見ることなくスマホのように操作可能

センターコンソール上にはコントローラーが設置されていて、センターディスプレイ上に表示されるカーナビなどの操作を、手元を見ずに行うことができます。近年のモデルではタッチパッドまで付き、指先だけでポインターを動かせます。

 

【GOD PARTS 6】エンジン

3種類のパワーユニットを設定

メルセデスはひとつのモデルに複数種類のエンジンを設定することが多いのですが、このAクラスも1.3Lターボのガソリンと2.0Lターボのディーゼルに加え、2.0Lターボのガソリン(AMG A35)と3種類をラインナップ。1.3Lでも十分速いです。

 

【GOD PARTS 7】MBUX

呼べば答えてくれる会話できるクルマ

「ハイ、メルセデス!」と呼べば答える、自動対話式音声認識インターフェイス「MBUX」が未来を感じさせます。「天気を教えて」など、フランクに話しても答えてくれますが、「ハイ、ベンツ!」では起動しません。何か気に障ったのでしょうか。

 

【GOD PARTS 8】フロントシート

スポーティさと高級感との両立を狙う

「AMGレザーエクスクルーシブパッケージ」では、本革シートはツートーンカラーです。赤と黒でスポーティさと高級感の両方を求めているようですね。座面の先端は前にせり出させることができるので、太ももが長い人には好都合です。

 

【GOD PARTS 9】リアシート

3分割の可倒式で自由に荷室アレンジ

先代モデルより広くなった後席ですが、もちろん前方に倒すことができます。荷室とつなげることで長尺の荷物を積めるようになり、40:20:40の割合で3分割できるので、載せたい荷物に合わせて、自在にアレンジできるのが便利です。

 

【これぞ感動の細部だ!】リアスタイル

攻撃性がまったく感じられないリアまわり

全体的にシンプルなスタイリングで徹底されていますが、フロントまわりはちょっとキツめな印象です。一方、ボディ後方に回ると、まったく別のクルマかのように柔らかなデザインが採用されていて、凡庸ながらも安心感があり、個人的にはこのお尻に好感が持てます。2019年にはセダンモデルも追加されていますが、こちらもトランクが付いて出っぱっただけで、やはりほんわかしています。

 

 

撮影/我妻慶一

遊べるクルマをもっと楽しく♪ ドライブ“格上げアイテム”セレクション!

最近のクルマは至れり尽くせりで便利なアイテムが付いているが、ドライブをより快適にするアイテムは数多くある。遊べるクルマの“格上げ”を約束するアイテムを用途ごとに紹介しよう!

※こちらの記事は「GetNavi」 2020年10月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【安心ドライブを格上げ】

360度全方位記録可能でまさかのときの録り逃しナシ

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↑360度録画対応で死角なく記録が可能。別売りの電源ケーブルで駐車時も録画でき、愛車の盗難やいたずら防止にも役立つ

 

【車内の空気を格上げ】

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実売価格1万6330円

従来機比でイオン濃度が約20%アップしたプラズマクラスターNEXTにより、カビ臭、汗臭、体臭、食べ物臭、タバコ臭、ペット臭の車内6大付着臭を素早く除去。運転時に集中力を高める環境づくりもサポートする。

SPEC ●プラズマクラスター適用面積:約3.6m2 ●運転モード:ターボプラス、中、静音 ●電源コードの長さ:約1.5m ●サイズ/質量:W78×H165×D76mm(上部)、下部直径65mm/約295g

 

↑カップホルダーに収まるサイズで車内でも置く場所に困らない。USB電源搭載なので車内だけでなく家やオフィスでも使用できる

 

【車内BGMを格上げ】

ハイレゾ音源のネイティブ再生に対応し圧倒的な臨場感を味わえる

ケンウッド

彩速ナビ MDV-M907HDF

実売価格14万2230円

高速レスポンスの彩速テクノロジーを搭載した大画面ナビ。ドライバーに必要なドライブメッセージで安全運転をサポートする。画面はスマホ感覚で操作可能。ハイレゾ音源のネイティブ再生に対応し、臨場感のある音を楽しめる。

SPEC ●画面サイズ:9V型(1280×720)●ハイレゾ対応フォーマット:DSD、WAV、FLAC ●Bluetooth対応コーデック:LDACほか ●サイズ/質量:W178×H100×D155mm/2.3kg

 

↑デジタルデータを音楽信号に変換する心臓部にAKM製32bitプレミアムDAC、AK4490を採用。原音に近い音質を提供する

 

【動画鑑賞を格上げ】

9V型の大画面でYouTubeも存分に楽しめる!

パイオニア

1Dメインユニット DMH-SF700

実売価格9万8380円

9V型の大画面を採用したディスプレイオーディオ。各スマホアプリに対応する。Wi-Fiテザリングによるワイヤレス接続でWEBブラウザへのアクセスができ、車内でYouTubeなどの動画サイトを大画面で楽しめる。

SPEC ●画面サイズ:9V型(1280×720)●対応ビデオフォーマット:H.264、H.263、DviX、MPEG4、MPEG2他 ●サイズ/質量:W178×H50×D165mm(取り付け寸法)/1.4kg

 

↑Amazon Alexaアプリ内の「カロッツェリアスキル」を有効にすれば多彩な音声操作が行える。家庭内のスマートデバイスもコントロール可能だ

 

【後席居住性を格上げ】

車内の段差を解消してリアシートがベッドに変身

液晶王国

車中泊専用エアーマット

4600円

後席足元のスペースを埋め、ベッドとして使用できるエアーマット。セダンやワゴンでも、子どもや小柄な大人なら足を伸ばして寝られるスペースが生まれる。付属の電動ポンプで空気を入れるだけとセットも簡単。

 

↑後席をベッドとして利用できるのは便利。枕も2つ付いており、コスパも抜群。これで車中泊の快適度も格上げできる

 

【食材管理を格上げ】

わずか40分で-18℃にスピード冷却食材の保管もおまかせ

オウルテック

冷凍冷蔵庫 ICECO T12S-WH

実売価格6万280円

わずか40分で庫内を-18℃に冷やすことができる冷凍冷蔵庫。タッチ式の操作パネルで温度調節も簡単に行える。エンジンを止めれば製品の電源も切れ、クルマのバッテリー上がりを防止する機能も備わる。

SPEC ●内容積:12L ●使用電源:DC12V、DC24V、AC100V ●温度設定範囲:-18℃~10℃ ●サイズ/質量W570×H230×D320mm/約8.7kg

 

↑急速冷凍モードは約40分で-18℃になり、エンジンを切らない限り運転は持続する。凍らせた食材などの保管にも重宝する

 

【暑さ対策を格上げ】

常時取り付けのサンシェードで面倒な着脱から解放される!

シンプラス

シンシェード

9900円

炎天下に停める際の必需品でもあるフロントのサンシェードだが、着脱や収納は結構面倒。シンシェードならサンバイザーの金具に常時取り付けた状態で、使用時は引っ張るだけでOK。収納はボタンひと押しで完了する。

 

↑軽自動車からワンボックスまで適合車種が多いのはうれしい。収納は右端のスイッチを押すだけのワンタッチ式だ

 

【収納スペースを格上げ】

飲み物が置けない悩みを解決する“倍増”ドリンクホルダー

槌屋ヤック

Wドリンクイン コンパクト

実売価格1180円

1本ぶんのドリンクホルダーを2本ぶんにできる便利アイテム。ペットボトルとカップのコーヒーなどを同時に入れることが可能だ。後席用のドリンクホルダーが中央部にひとつしかないクルマでも便利に使える。

 

↑純正のドリンクホルダーに差し込むだけでOK。形状が四角、丸形でも対応可能な12枚のサイズ調整クッションを付属し、ほぼすべての車種に装着できる

 

【車内の涼しさを格上げ】

連続9時間冷却可能で暑い車中泊とオサラバ!

ショップジャパン

パーソナルクーラー ここひえ R2

8778円

夏場の車中泊で重宝するパーソナルクーラー。気化熱現象を利用した冷却方法で効率良く冷却できる。風量は3段階で切り替え可能、防カビ抗菌フィルター完備の本格派で、連続9時間の運転を行えるのもポイントだ。

SPEC ●風量切替:3段階(強・中・弱)●タンク容量:約600ml ●消費電力:6W(風量「強」の場合)●サイズ/質量:W176×H181×D173mm/約1.03kg(フィルター含む)

 

↑給電方法はUSB、ACの2つを用意する。本体がコンパクトなうえ、モバイルバッテリーも利用可能。車中泊でも強い味方になる

 

 

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